やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第三部(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている ) (50)


前々々スレ
『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』>>30
やはり雪ノ下雪乃にはかなわない - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387361731/30-)

前々スレ
八幡「陽乃無双?」陽乃「誕生日記念よ」
八幡「陽乃無双?」陽乃「誕生日記念よ」 - SSまとめ速報
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前スレ
『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部』>>1>>195
やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている ) - SSまとめ速報
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「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」
『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』シリーズ



『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』

『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』>>30
やはり雪ノ下雪乃にはかなわない - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1387361731/30-)
レス30からお読みください。1~29を読みやすいように書きなおしたのが30~です。




『陽乃無双編』

高校3年夏の夜。
俺と陽乃さんの、あったかもしれない陽乃さん誕生日の記憶。
プロローグに繋がる物語。
この物語を記憶しておくもしないも、それは自由だ。
でも、あってもなくても陽乃さんは陽乃さんなのだろう。

八幡「陽乃無双?」陽乃「誕生日記念よ」
八幡「陽乃無双?」陽乃「誕生日記念よ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1436429565/)





『プロローグ』

恋人ができても比企谷八幡は高校生の時の八幡であった。
そんな八幡であっても、恋人の存在が彼を変えてゆく。
やはり雪ノ下雪乃にはかなわない。

『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部』>>1>>195
やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている ) - SSまとめ速報
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『はるのん狂想曲編』

雪ノ下陽乃。
雪ノ下家長女にて後継者。
企業経営も似合いそうだが親父さんの地盤を引き継いで議員なんかも似合いそうだ。
彼女がその気になれば総理大臣にもなれそうなところが本気で怖い。
俺からすれば極上の笑みを浮かべながらトラブルを投げ込んでくるはた迷惑な姉ちゃんだが、
周りからの評価はすこぶる高かった。
それは陽乃さんが周りから望まれている役割を演じているからに他ならないだろう。
両親からの要求。
同級生からの羨望。
下級生からの憧れ。
それらの期待をおまけまで付けて演じていれば、その輝かしいカリスマ性も当然と言える。
だけど俺はここで立ち止まる。
では、雪ノ下陽乃自身が望むものとはいったい何か? 
雪ノ下陽乃が指揮する狂想曲。
彼女の振るうタクトに皆魅了される。

『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部』>>201>>500
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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441227484




『愛の悲しみ編』

愛? 
雪ノ下陽乃にとって愛には価値がない。
百歩譲って愛があるとしても、愛なんて刹那的な衝動であり、移りゆくものである。
つまり愛なんて幻想にすぎない。
夫婦も打算と妥協によって維持成立するとさえ思っている。
そもそも自分の結婚でさえ親の要求の一部にすぎないのだから期待さえしたことがなかった。
諦めと言われればそうかもしれないが。
そんな愛を知らない雪ノ下陽乃が愛を知ったらどうなるか? 
生まれたころから愛を知らない彼女は、愛を知っても戸惑う事ばかり。
雪ノ下陽乃が奏でる愛の悲しみ。
彼女のピアノの音色に皆涙する。

『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部』>>551
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『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第三部(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている )』>>1








番外編・短編


インターミッション
『その瞳に映る光景~雪乃の場合』


『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部』>>507>>517
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クリスマス特別短編
『パーティー×パーティー』


『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない第二部』>>521>>545
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番外編
「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」
『比企谷小町からの贈り物』

比企谷小町。俺の妹なのだが、出来すぎた妹である。
ほんとに俺の妹かと疑う事さえあるほどだ。
偽妹かと疑い、まじで妹ではないという結論が出て、
それなら結婚できるなと思うあたりで馬鹿な夢想から覚めることが少々……。
そんな小町が俺に誕生日プレゼントをくれるらしい。
何をくれようと全力で喜ぶ予定なのだが、どうも小町の様子がおかしいのが気がかりだ。
比企谷八幡の誕生日当日。大学受験をひかえた夏休みだというのに、
俺は朝から惰眠に精を出していた。
誕生日に何をくれるかはわからないが、出来すぎた小町がくれるものなのだから、
きっと俺には必要なものなのだろう。

八幡「誕生日プレゼント?」小町「これが小町からの誕生日プレゼントだよ」
八幡「誕生日プレゼント?」小町「これが小町からの誕生日プレゼントだよ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1438849053/)







来週前スレを使いきった後に、そのままこのスレに移行する予定です。

更新は、毎週木曜日です。



立て乙です



『高校卒業から三年後編』

比企谷八幡はカリフォルニア州の大学に通う普通の大学生。
ある日、ルームメイトのビールィクが出場するアメリカンフットボールの試合を見に行った八幡は、ビールィクが狙撃され殺されるところを目撃してしまう。
傷心旅行でビールィクの故郷であるウクライナ・キエフを訪れた八幡はそこで恩師である平塚静とかつての奉仕部の仲間、雪ノ下雪乃と出会う。
日本政府に新設された
諜報機関『NINJA』の職員となっていた平塚は、
八幡にビールィクは旧ソビエトからの亡命二世であり、彼の父親が旧西側諸国の機密情報をある人物に流したことにより殺されたことを告げる。
驚愕する八幡を尻目に、平塚は元奉仕部である彼にある問題の解決を依頼する。
彼に告げられたのは『流れた情報の回収』と『情報を受け取った者の確保』という予想を上回る内容の依頼だった。



『由比ヶ浜奪還編』

雪ノ下雪乃によるCIA襲撃事件から4年。先の活躍が認められアメリカ国籍を取得した比企谷八幡はオレゴン州で妻の結衣と共に平穏な日々を過ごしていた。
年の瀬の迫った12月のとある日。ポートランド市主催のクリスマスパーティーに妻と共に出席した八幡は、そこでテロリストに襲撃され妻を誘拐されてしまう。
テロリストは自らを゛ニューワールドオーダー゛と名乗り八幡の前から姿を消した。
それからおよそ二ヶ月後、日本国諜報機関『NINJA』に所属する平塚静から、 ゛ニューワールドオーダー゛の指導者を名乗る男が出頭したと連絡を受けた八幡は、
平塚の活動拠点であるロサンゼルスに向かう。
テロ指導者の正体は、17年前にアフガニスタンで死んだとされていた元アメリカ陸軍の大佐、ベイリーであった。
ベイリーは自らの目的を資本主義のリブートによる新世界秩序の構築であると語る。
取り調べの末、ロウアー・マンハッタン地下金塊保管庫の爆破計画を知った八幡は計画を阻止すべくニューヨークへ向かう。
しかしそれはベイリーの恐るべき罠だった。



陽乃「八幡?」

 この部屋の主たる橘教授の机に堂々と座り、
自作の弁当を食べていたのは、俺が探していた雪ノ下陽乃。その人だった。
 俺を見た陽乃さんは驚き共に、全てを納得した顔を見せる。
 まあ、俺が昼休みのこの時間にこの部屋にやってきたのだから、
陽乃さんにはその裏事情なんてものは全てわかってしまうだろう。
 陽乃さんが一瞬でも驚きを見せてくれたことから、
橘教授は今日俺がここにやってくる事は内緒にしてくれたようだ。
 もし俺が橘教授の立場で一緒に陽乃さんといたとしたら、
陽乃さんに秘密を隠し通せるかは怪しい。そう考えると、
やはり橘教授は陽乃さんとうまくやっていけるしたたかさも持ち合わせているようだ。

八幡「俺がここに来た理由はわかっていますよね?」

陽乃「わたしがここにいる理由もわかっているのでしょう?」

 俺の奇襲作戦も、一瞬陽乃さんを驚かせただけで終わってしまう。
 すでに陽乃さんは戦闘態勢を立て直し、ふてぶてしく俺を迎え撃ってくる。

八幡「院のほうが忙しいようですね」

陽乃「わかっているじゃない」

八幡「じゃあ、俺がきた理由もわかっていますよね?」

陽乃「わからないわ。だって私は比企谷君ではないもの」

八幡「それでも俺がきた理由に心当たりくらいはあるのでしょう?」

陽乃「予想くらいなら、あるかもしれないわね」

八幡「まあいいです。こんな無意味なやりとりをしにきたんじゃないんですよ」

陽乃「あら、心外だわ。わたしは結構比企谷君とのこういったやり取りが好きなんだけどな」

八幡「俺も嫌いではないですよ」

陽乃「そう……。だったらもう少し付き合ってくれると嬉しいのだけれど」

 やはり陽乃さんの表情は崩れない。
俺の言葉を軽くあしらい、ひょうひょうとする姿はいたって完全で、完璧すぎる。
 この完璧すぎる姿を見ては、俺の予想は確信へと変わってしまう。わずかながらの希望も、
全てプラスからマイナスへと記号がひっくり返っていく。
 高校時代に初めて陽乃さんを見たときよりも暗い笑顔は、俺は突き離そうと必死だった。
俺が近づこうとするたびに、表情を繕いながら逃げていく。
 けれど長年の鍛錬のおかげとも言うのか、それとも雪ノ下家長女の呪いとも言うのか。
 こういった切羽詰まった状況でさえも鉄の表情をかぶってしまうところに、
俺は身勝手な悲しみを抱いてしまう。

八幡「アメリカに行くって、本当ですか?」








第62章 終劇

第63章に続く










第62章 あとがき


もう9月ですか。一年は早いですね。
来週も木曜日にアップできると思いますので
また読んでくださると大変嬉しく思います。


黒猫 with かずさ派



第63章


 俺は陽乃さんから視線をそらさずに陽乃さんからの返答を静かに待つ。
どのくらい待ったのだろうか。室内はエアコンが適切に働いているはずなのに、
俺の体からはじわじわと生ぬるい汗が染み出てきていた。
 一方俺を見つめる陽乃さんと言えば、その見つめる瞳は揺らぎを見せず、時折瞬きをする
程度だ。そして顔色一つ変えず、適切な温度に冷えた室内を満喫しているようでもあった。
 沈黙は嫌いではない。むしろ好きだといいたところだ。
 由比ヶ浜からすると、俺と雪乃は部屋にいるかさえ疑いたくなるほど静かだとか。
ときおり聞こえてくる本のページをめくる音が唯一人がいる事をわかるらしい。
 しかし、今俺達の間を遮っている沈黙は重苦しい。
時計の秒針を刻む音すら俺を不安に陥れようとする。
 別に睨みあっているわけでもないので視線をそらしてもいいわけだ。
しかし、一瞬でも目を離したら、この人がどこかに行ってしまうのではないかと、
俺にさらなるプレッシャーをかけてきてしまい、現在に至る。

陽乃「仁から聞いたの?」

 ふいに放たれた陽乃さんの言葉はいたって普通で、いつもの陽乃さんの声ではあった。
そのいつもすぎる声に、俺はやや緊張がとけた。

八幡「橘教授に会いに行ったときに教えてもらいました」

陽乃「そっかぁ……。まあ比企谷君と雪乃ちゃんがくることは予想していたけどね。
   それで雪乃ちゃんは?」

八幡「今回は俺一人です」

陽乃「そう……。ここに比企谷君がやってきたってことは、
   仁から色々と話を聞いたって事なんでしょうね」

八幡「否定はしませんよ」

 といっても、橘教授からたいしたことを聞き出せたわけでもない。そもそも陽乃さんは
橘教授から俺達に流れるだろう情報を想定して橘教授と話をしているはずだ。
 それに、あの橘教授ならば、陽乃さんが秘密にしてほしいと願い出れば、
きっと俺達には教えてくれないはずだ。
 陽乃さんも橘教授もその辺のお互いのスタンスはわかっているはずだから、
ある意味俺たち以上に信頼を築けた関係とも言えた。

陽乃「わたしは別になにも隠してはないわよ」

八幡「でも、俺達に言ってはないですよね?」

陽乃「言ったわよ」

八幡「いつ、ですか?」

 あまりにもひょうひょうとしすぎて、俺の口調は強まってしまう。
 これでは陽乃さんのペースになってしまうってわかっているのに、俺は自分の感情を制御
できなくなってしまっている。いつもの陽乃さんで、いつもの陽乃さんとの会話で、いつもの
負け確定の結末だとわかっているのに、俺は陽乃さんとの関係を壊せないでいた。

陽乃「たしか……、ストーカー騒動の時にはっきりといったと思うわよ。雪乃ちゃんに
   怒られた時だと思うわ。比企谷君も覚えているのではないかしら?」

八幡「……それは、覚えています。雪乃が雪乃らしくもないふるまいをしたのでよく覚えています」

陽乃「でしょう? あのときはっきりと言ったのわ。比企谷君も覚えているじゃない」

八幡「たしかにあのとき留学することを教えてもらいましたけど、ストーカー騒動が終わった後、
   お義母さんに好きにしていいって許しが出たじゃないですか。だから留学しなくても
   よくなったし、お見合いもしなくてよくなったじゃないですか。そもそもアメリカに
   行くのだって結婚するのを延期する為のものでしたよね?」

陽乃「そうよ。留学しようと思い立ったのは結婚したくなかったから。……でも、いくら
   逃げたって結婚することには変わりがなかったのだから、無駄な抵抗ともいえるわね」

八幡「違いますよ」

陽乃「違うって?」

八幡「全然違いますよ。だって陽乃さんが留学しようとしなければ、無駄な抵抗だと思われようと
   時間稼ぎをしなかったら、お義母さんにお見合いの話を進められてしまっていて、
   すでに結婚していたかもしれないじゃないですか」

陽乃「そう考える事もできるかもしれないわね」

 やはり陽乃さんの心は揺さぶれない。もしかしたら揺さぶれているかもしれないが、
俺にはそれがわかりようがなかった。
 なにせ陽乃さんの笑顔は決してぶれなかったから。


八幡「違いますよっ!」

陽乃「あら? いつも憎たらしいほど冷静で、
   可愛いほど後ろ向きの比企谷君が感情的になっているわよ」

八幡「ちゃかさないでくださいよ。いつもいつもいつも、
   陽乃さんの前ではいっぱいいっぱいでしたよ」

陽乃「まあそうかもね。いつ騙されるかわかったものではないし、雪乃ちゃんにも色々と
   プレッシャーかけてもいたらか、側にいる比企谷君にも苦労をかけていたかもしれないわね」

八幡「そうじゃないんですよ。そうじゃない」

陽乃「どう違うのかしら?」

 あくまで挑戦的な笑顔を俺に向ける陽乃さんに、
俺は感情をぶちまけるしかできなくなってきていた。
 なにが理性の化け物だ。自分の感情なんて制御できたことなんてない。
 そもそも感情なんてもものが理解できない。他人の感情はもちろん、自分の感情さえ
よくわからないのに、どうやって自分の感情を制御すればいいって言うんだ。

八幡「俺は……、俺は、俺は陽乃さんと一緒にいると楽しかったです。色々とちょっかい
   掛けてくるのも一つのコミュニケーションだと思っていますよ。中には対処しきれない
   ような事をしかけてくるものだから困ってしまう事もありましたよ。でも、嫌じゃ
   なかった。嫌だと思ったことなんてなくて、むしろ嬉しかったんです。自分でも
   わかっているし、周りの奴らなんて俺以上にわかっている事でしょうけど、俺は面倒な
   奴だですよ。そんな面倒な奴に、面倒すぎる陽乃さんが面倒を見てくれて、俺は
   とても嬉しかった。普通の奴だったら俺から離れていくか、
   そもそも近寄ってさえきませんからね」

陽乃「……比企谷君」

 俺の言葉は止まらない。もしかしたら泣いていたのかもしれない。
泣くよりも恥ずかしい大演説をかましているのだから、涙くらいは大したことはないんだが、
一番の問題は、俺でさえ俺が何を言っているのかをわからないことだ。
 まあ、陽乃さんだったら俺の事を俺以上に理解してくれるのだろうけど。
 …………陽乃さんを説得しにきているのに、最後は陽乃さんまかせって
、俺ってここぞってときに弱すぎるだろ。

八幡「つまりは、つまりは……、なにを言いたいのかって言うと……」

陽乃「もう……、落ち着きなさい。わたしは逃げないわ。八幡の言いたい事をちゃんと
   聞いてあげる。だから、頭をからっぽにして、言いたい事を言えばいいわ。そこから
   八幡が何をいいたいか拾ってあげる。だから、存分にわたしを口説いて」

八幡「え……、まあ、その」

 陽乃さんの背後から降り注ぐ真夏の日差しは、神々しいほど陽乃さんを輝かせる。
夏の雲は太陽の日差しを盛り立て、エアコンがなければたちまちに俺を蒸し焼くだろう。
 しかし、太陽よりも強く輝く陽乃さんにとっては、
太陽の光など春の柔らかな温もりへと変換してしまう。
 目の前で柔らかく微笑むその笑みに、俺の中で渦巻いていた焦りは消えていこうとしてた。

八幡「はぁ……」

陽乃「落ち着いた?」

八幡「もう大丈夫です」

陽乃「そう? それで、比企谷君はわたしに何を言いたいのかしら?」

八幡「もういいです」

陽乃「あら? わたしふられちゃったのかしら?」

八幡「ちょっと待ってくださいよ。俺は別に口説いてなんていません」

陽乃「そうかしら?」

八幡「そうなんです」

綺麗に口角をあげたその笑顔は、俺は何をしにここに来たかさえ忘れさせようとしてしまう。
 そうでもないか。きっと俺が言いたい事は、言葉にできていない部分も含めて陽乃さんに
届いてしまっている気がしてしまう。
 そんな身勝手な妄想が現実に起こしてしまう人が陽乃さんなのだし。
 ただ、それでもこれだけは言葉にしておきたかった。

八幡「俺は陽乃さんと一緒にいたいです。都合がいい事を言っている事はわかっています。
   陽乃さんの気持ちも……、自惚れているだけかもしれませんけど、
   陽乃さんが俺にかまってくれる事に感謝もしています」

陽乃「そう……」


八幡「まあ、俺が勝手に思っている事なんですけど」

陽乃「間違ってはいないと思うわよ」

八幡「そうですか」

陽乃「ええそうよ。もちろん比企谷君の雪乃ちゃんへの気持ちと、
   その事に対する比企谷君の方針というべき基本的スタンスもわかっているわ」

八幡「……陽乃さん」

陽乃「別に雪乃ちゃんから比企谷君を奪い取ろうだなんて思っていないわ。……そうね。
   ちょっとは思った事もあるかしらね。だってわたしも女だから。でも、わたしは
   女である事と同時に雪乃ちゃんのお姉ちゃんなのよね。しかも重度のシスコンの」

八幡「陽乃さんも自分が重度のシスコンだって認めるんですね」

陽乃「そうね。わたしのシスコン具合は、比企谷君の小町ちゃんへの愛情くらい重いわよ」

八幡「それは雪乃も大変ですね」

陽乃「そうよ」

八幡「こればっかりは妹に我慢してもらうしかないでしょうね」

陽乃「まっ、そんなわけで、わたしはお姉ちゃんだから雪乃ちゃんと仲良くしたいの。
   もちろん比企谷君とも仲良くしたいわよ。義理の弟として」

八幡「義理の弟として、俺も陽乃さんに懐いていいんでしょうかね?」

陽乃「あら? 義理の弟ってところは否定しないのね。昔だったらすぐさま否定してきたのに」

八幡「若かったですから」

陽乃「つい最近のことよ?」

八幡「若かったんですよ」

陽乃「その理論からすると、比企谷君よりも年上のわたしは、
   おばさんってことになるのよね? わたしってもうおばさんかしら?」

手鏡なんて持ってやしないのに、鏡をみるそぶりはそこらへんの女優以上の演技力を見せつける。
 たしかに雪乃と陽乃さんの母親も化け物じみた若さを発揮しているのだから、
その遺伝子を持つ陽乃さんも若々すぎるほど美しい。
 でも、今俺が言っている若いって意味が違うだろ。
 …………その辺もわかっていながらも俺をからかっているのだろうけど。

八幡「すみません。陽乃さんは若いです。若いだけじゃなくて綺麗すぎるほど綺麗ですから、
   これ以上俺の心を抉る言葉を連発しないで下さると助かります」

陽乃「あら? どうして比企谷君は謝っているのかしら?
   わたしはまだ何も言っていないわよ。これから言うかもしれないけど」

八幡「自分でもこれから言うかもしれないって言ってますよね。だから俺は先回りして
   謝ったんですよ。だって陽乃さん。俺を容赦なくえぐってきますよね?」

陽乃「よくわかってるじゃない」

八幡「なんだかんだいって、陽乃さんの側にいる時間が長くなってきましたからね」

陽乃「……そばにいる時間が長くなってきたか。そうね。長くなりすぎたのかもしれないわね」

八幡「長くなりすぎたことなんてないです。これからも俺と雪乃の側にいてください」

 ようやく崩れたその笑顔も、苦笑いを浮かべはしているが美しい。
悲しみも、戸惑いも、その全ての感情を覆い隠すその笑顔は、俺の揺さぶりをなおも跳ね返続ける。

陽乃「酷な事を要求するのね」

八幡「すみません」

陽乃「一応もう一度確認するけど、わたしの気持ち、わかっているのよね?」

 今まで一度も言葉にはしていないが、俺も陽乃さんも、そして雪乃もわかっている事実。
言葉にしてしまうとなんだか取り返しのつかない事になりそうで、
だれも口にはできないできていた。言葉を口にして発すると事実となってしまう。
 どこかでそんな伝承まがいのことを読んだ気がする。まあ、俺が主に読んでいるのが
ラノベなのだから、どっかのうすっぺらい登場人物が
その場のノリで重々しく言っただけなのだろうが。
 それでもこの言葉が、今の俺達の間では真実に近い現象としてたたずんでいる。
 一度声として世に出てしまえば、もう後戻りができないその現実に、俺達は恐れていた。

八幡「はい」

陽乃「それでもわたしにあなたたちの側にいろと? 楽しそうに頬笑みあっているあなたたち
   の隣で、悲しみも嫉妬も、あらゆる負の感情をすべて正の感情にすり替えて
   わたしも頬笑みに参加しろって言うのかしら?」

八幡「……それは」

陽乃「いくら親の期待通りに動いてきたわたしであったも無理よ。感情をコントロール
   することなんてできやしないわ。そうね、理性の化け物だったあなただったらできた
   のかしらね? たとえば、雪乃ちゃんにお母さんが押し付けてきた婚約者でもいた
   として、それでも比企谷君は雪乃ちゃんのそばにいなければならない。雪乃ちゃんの
   屈折した感情を受け止められるのが比企谷君しかいなくて、結婚したくもない相手と
   結婚してしまう雪乃ちゃんの心を平穏を保つ為だけに比企谷君が必要だとする。
   それでもあなたは雪乃ちゃんの側にいられる? もちろん比企谷君は結婚なんて
   できないわよ。だってそんなの雪乃ちゃんが許すわけないもの。口では比企谷君も
   結婚していいって言うかもしれないけど、比企谷君が結婚なんかしたら、雪乃ちゃん
   壊れちゃうわよ? だから、雪乃ちゃんの為だけに、あなたは自分の幸せを全て
   雪乃ちゃんに捧げられる? 雪乃ちゃんに触れることさえ許されずに、ね」

八幡「ようは、今の陽乃さんの立場って事ですよね」

 陽乃さんは応えない。首を縦に振る事さえせずに俺を見つめ続ける。

八幡「おそらく、高校時代の俺だったら、できたかもしれません」

陽乃「本当にできたのかしら?」

八幡「どうでしょうね? 仮定の話ですから確証はないですけど、
   当時の俺ならできたと思いますよ」

陽乃「その根拠は?」

八幡「そうですね。自分に期待していなかったから、とでもいうんでしょうね」

陽乃「期待?」

八幡「期待です。俺は他人のことなんてどうでもよかった。自分をどう見ているのかさえ
   どうでもよかった。もちろん気にはしますよ。何か危害が降りかかってきたら
   逃げないといけませんからね」

陽乃「それって、他人の目を気にしているって事じゃない」

八幡「違いますよ。諦めていたんですよ。俺がどうこうできる事ではない事には諦めて
   いたんです。人の心なんて動かすことなんてできないですからね。
   だから俺は他人に期待しない」

陽乃「それがどうして雪乃ちゃんのそばにいられる根拠になるのかしら?」

八幡「俺がやるのが一番いいからですよ。俺が雪乃のそばにいることで雪乃の精神が
   安定するのなら、雪乃が他の男と結婚してもいいって割り切ってしまうだけです」

陽乃「いつもの自己犠牲ってやつかしら?」

八幡「あれは自己犠牲なんかじゃないってわかってて言ってますよね」

陽乃「どうかしら?」

八幡「自己犠牲じゃなくて効率の問題です。一番効率的で効果がある方法を選んだだけです。
   それに、俺は言いましたよね。他人にどう思われようとかまわないって。
   自分に期待していないって」

陽乃「言ったわね」

八幡「つまり、俺の願望なんて叶わないって割り切ってしまうんですよ。そうすれば自分に
   期待する事はなくなる。理想ばかり追いかけたり、へたな期待なんかするよりは、
   目の前の現実を受け入れて、その中で生きる方が楽だと思っただけです」

陽乃「それは今でもできるのかしら?」

 小さく囁いたその弱々しい声を、俺の耳ははっきりと捉える。
そもそも聞き洩らす心配なんてなかった。
 俺は陽乃さんのかすかな変化さえも逃しまいと神経をとがらせていたのだから。

八幡「さすがに今は無理です。俺は雪乃を知ってしまいましたからね。雪乃の隣にいる喜びを
   知ってしまったからもう無理です。あの笑顔を他の男になんて譲れはしませんよ」

陽乃「それもそうね」

八幡「当たり前ですよ」

陽乃「そうね。当たり前なのよ。
   ……………………これでわたしがアメリカに行く理由、わかったかしら?」

 静かに俺を見つめる瞳に、俺はもうなにも言いだせなかった。
まっすぐと俺に向ける瞳を受け取る資格が俺にはない。俺はとうに資格を失っている。
 それは今まで言い訳にさえなっていない理由で享受していたにすぎない。



 何せ俺は、自分で陽乃さんがアメリカに行く理由を導き出してしまったから。
理屈を積み上げ、反論できないような理屈を自分で作りだしてしまった。
 自分で自分の首を絞めるような行為に誘導されてしまった事に気がついたのは、
俺の息が途絶える間際であった。
 酷い人だ。俺がこれ以上足掻かないように縄で締めつけてくる。
俺に気がつかれないように慎重に縄を巻きつけ、
俺が気がついたときには縄はしっかりと緩まないように締めたらた後である。
 これではもう動けない。陽乃さんの優しさを無様に受け取るしかなかった。

陽乃「大丈夫よ」

八幡「……え?」

陽乃「大丈夫だって言ってるのよ」

八幡「それは聞こえているんですけど……。なにが大丈夫なのでしょうか?」

陽乃「あぁそうね。それをいわなければ理解できないか」

八幡「えぇ、まあその。そうですね」

陽乃「大丈夫だっていうのは、アメリカでの留学を無事終了させたら日本に帰ってくるってことよ」

八幡「帰ってくるんですか?」

陽乃「ひっどい言いようね。しかも驚いているし」

八幡「そりゃあ驚きますよ」

陽乃「どうして?」

 きょとんと見つめるその姿に、ほんとうにわかってないんですかと叫びたくなる。
 しかし、俺はぐっと手を握りしめ陽乃さんを見つめかえした。
 すると、陽乃さんは本当にわかっていないという目を俺に投げ返してくる。
これが演技だとすればお手上げなのだが、俺の勘が演技ではないと伝えてきた。
 確証なんてないし、そもそも勘なのだからしょうがないが、
いわば陽乃さんのそばにいすぎた為に身についた感覚とでもいえようか。

八幡「俺と雪乃から離れる為にアメリカに行くんですから、ずっとアメリカに行ってるわけ
   にはいかないでしょうけど、それでも活動拠点をアメリカにするものかと。
   もしくは、しばらくはアメリカにいるものだと思っていました」

陽乃「なるほどね。そう思われても仕方がないか」

八幡「ええ、まあそうです」

陽乃「でも、日本に帰ってくるわよ。だってわたしは雪ノ下家の長女だもの。いくらお母さん
   に自由にしていいって許されていても、わたしは雪ノ下家を捨てる事はできない。
   だから日本に帰ってくるの」

八幡「それって……」

陽乃「何かな?」

 俺はその先の言葉を紡ぐ事はできなかった。
 なにせこれから陽乃さんがしようとしていることは、まるでさっき陽乃さんが例に出した
雪乃に婚約者がいても俺が雪乃のそばにいられるかっていうたとえそのものだったから。
いくら今陽乃さんがアメリカに行こうと、今俺と雪乃の側にいるという拷問を延期するにすぎない。
 何年後になるかわからないが、陽乃さんが日本に戻ってきた時、俺と雪乃の側にいられる
ように準備しようとしていることを、俺はこの手で邪魔なんてできやしなかった。
 どのような準備かはわからない。他に好きな人を作るっていうのが妥当な線だが、
陽乃さんを全て受け入れられる人が見つけられるかは運だ。
 仮に見つけられなくても、俺への気持ちを薄めることくらいはできるだろうか。
 理想を言えば、俺への愛情を家族の愛情へ昇華できれば最高だが、
こればっかりは絶対に身勝手な期待はよしておこう。
 ……なんかすっげえナルシストっていうか、
自分もてて困ってます感が出ているのが自分でも気にいらないが、この際忘れるとしよう。

八幡「それって何年くらい先のことですかって聞こうとしたんですよ。あのお義母様を俺と
   雪乃の二人で相手するのは荷が重いっていうか、ちょっと無理目かなと思って」

陽乃「ふふっ、そうね。あのお母さんを相手にするのは無理かもね。でも、わたしでも無理なのよ」

八幡「わかっていますよ。でも、俺達よりは大丈夫ですよね?」

陽乃「そうだけど、あまり期待しないでよね。でも、時ができたら日本に戻ってくるわ」

八幡「助かります」

陽乃「そろそろ時間じゃないかしら? 次の講義あるのでしょう?」



 陽乃さんの視線につられて壁に掛けられている時計を見る。
いかにも学校の備品ですっていう時計は、昼休みがあと少しで終わると告げていた。

八幡「はい。邪魔して済みませんでした」

陽乃「いいのよ。気分転換にもなったからよかったわ」

八幡「時間ができたらでいいですけど、陽乃さんも昼一緒に弁当くらいは食べてくださいよ」

陽乃「わかったわ」

八幡「ええ、お願いします。じゃあ、俺行きます」

陽乃「午後の講義頑張ってね」

八幡「はい」

俺は無表情の笑顔を作り、部屋を後にする。陽乃さんの笑顔も年季が入った笑顔だったようだ。
 俺も陽乃さんも、俺が何を言おうとしたか、何を言いかえたかなんてわかっていた。
 俺が聞きたかった事は、何年くらいで帰ってくるかではなく、
高校時代の俺と同じ事を陽乃さんがしようとしていることについてなのだから。




第63章 終劇
第64章に続く









第63章 あとがき


読書の秋がやってきます。一年中本を読んでいるわけですが……。
来週も木曜日にアップできると思いますので
また読んでくださると大変嬉しく思います。


黒猫 with かずさ派



乙です

乙です


第64章



 聞こえてくるのはエアコンの音と申し訳程度に聞こえてくる時計の秒針のみであった。
八幡がかき鳴らす廊下の足音はとうに聞こえなくなってしまっている。
 しかも耳を澄ませてかすかに聞く事が出来た階段を下りていく音さえも
とだえてしまったのだから、八幡がもうここにはいないとわかってはいた。
 しかしわたしは八幡が出ていった扉を目元に力をこめながら見つめていた。
 だからもう八幡のことを警戒する必要なんてないのに、
でもわたしは顔を表情を崩す事が出来ないでいた。
 それも仕方がないのかもしれない。だって心と表情とが一致していないもの。
 わたしはいつだって雪ノ下陽乃を完璧なまでに演じてきってはいたけど、
今日ほど辛いと思った事はないのよね。
 八幡の言葉を借りるのならば、これこそが諦めなのだと思う。自分に期待しない。
他人にも期待しない。だから得られる結果は人が与えてくるもののみ。
その代償が今のこの表情だっていうのなら泣けてくるわね。涙なんてでてくるわけないけれど。
 ほんといっそのこと、八幡の目の前で泣きわめく事ができたらすっきりできたのに、
と思わずにはいられない。
 いまだに表情どころか視線さえも八幡が去っていった扉にとどめながらわたしは自戒する。
 さすがに未練がましいと、わたしでさえ思ってしまう。
 八幡の事を面倒な性格だっておちょくることがあっても、本当に面倒な性格だなんて
思った事はない。むしろ面白い性格であると思うし、愛おしいとさえ思ってしまう。
今ではできる事なら自分の手で支えたいとさえ思っている。
 本当に難儀な性格なのは、わたし。
 年季がありすぎて修正不可能だし、しがらみもありすぎるせいで手をつける事さえ難しい。
 そんなわたしのことを心配して手を伸ばしてきた相手にさえ、今突き放してしまった。
 本当は、今すぐにでも動く事が出来ない脚を引きずってでも八幡の元に駆けだして、
八幡に胸に飛び込みたい。
 なにもかもを投げ出し、後のことなんて彼に全て任せてることができるんなら、
どんなに幸せか。
 きっと世界中で一番の幸せ者に違いない。
 きっと彼ならわたしの不自由を退けてくれる。
 困った顔を見せながらも、面倒だって文句を言いながらも、
彼ならわたしを助けてくれるかもしれない。
 だけど、それは同時に最愛の妹たる雪乃ちゃんを苦しめてしまうのよね。
 まあ、今の状況であってもそうとうプレッシャーをかけているに違いないかな。
 だからわたしは雪ノ下雪乃の姉をやめることができない。
 雪ノ下家の雪ノ下陽乃をやめることはできるようになっても、
雪ノ下雪乃の姉だけはやめるわけにはいかないのよね。
 どれだけ時間がたったのだろうか。おそらく昼休みは終わってしまったようだ。
外から聞こえてきていた学生たちの話声がほとんど聞こえなくなったことからすると、
もうすでに午後の講義が始まったのだろう。
さすがに午後二つ目の講義まで考え事をしていたとは思えないし、せいぜい20分くらいかしらね。
 ようやく弛緩してきた顔の筋肉を使役して壁にかかった時計を見ようとすると、
控え目なノックが部屋の扉から生じられた。
 体がピクリと反応してしまう。八幡ではないとわかっていても期待してしまう自分がいた。

陽乃「どうぞ」

 反射的に返事をしてしまった。
雪ノ下陽乃であるべき表情がまだくずれていなかったことも起因していたのかもしれない。
 わたしが返事をしてから10秒くらいたっただろうか。
向こうからの返事がないことに、ある種の納得をしだしたころようやく扉が開かれた。
 わたしの予想はあたっていた。むしろこの答えしか思い浮かばなかった。

雪乃「姉さん」

陽乃「雪乃ちゃん。どうしたのかな?」

雪乃「用があるから会いに来たのだけれど」

陽乃「そうじゃなくって、今は授業中じゃないかな。雪乃ちゃんは授業にでなくてもいいのかしら?」

 わたしの指摘に怪訝そうな顔をみせるが、
間違っている事を指摘したわけでもないのでひとまず納得したという顔をみせる。
 でも、わかっている。
 わたしが無駄なあがきすぎる一言をいったことなんてわかってはいる。
 わたしにようがあるから会いに来た。
しかも、授業よりも今話す意味があるからこそ雪乃ちゃんはここにきた。
 そんなことわかりきってる。
わかりきってはいるけど、どうしてもわたしは逃げ腰になってしまっていた。

雪乃「そうね。できることなら遅刻であっても講義には出ておきたいわね」

陽乃「だったら早く戻ったほうがいいんじゃない?」

雪乃「それは姉さん次第よ」

陽乃「そう? それはお姉ちゃん責任重大だなぁ」

雪乃「えぇ、責任重大よ。私と八幡の前から勝手にいなくなろうとするだなんて、無責任すぎわる」


陽乃「あら? 比企谷君から話を聞いたの?」

雪乃「いいえ」

陽乃「じゃあ、盗み聞きでもしていたのかな?」

雪乃「廊下からでは部屋の中で話している声は聞こえても、
   何を話しているかなんて正確には聞こえないわ」

陽乃「ということは、わたしと比企谷君が話をしている間廊下にいたということかしら?」

雪乃「そうよ」

 隠さないのね。それとも比企谷君と打ち合わせでもしてあったのかしら?

陽乃「比企谷君が駄目だったから、次は雪乃ちゃんってわけか」

雪乃「それは、違うと思うわ」

陽乃「違う?」

雪乃「八幡とは話をしていないもの。
   おそらく八幡は私に気がつくことなくここから出ていったはずよ」

陽乃「どうやって隠れていたの? 廊下には隠れられるような場所はなかったと思うけれど?」

雪乃「八幡が向かう方向とは逆方向の柱の陰に隠れていたわ」

陽乃「それでも、よく見つからなかったわね」

雪乃「そう、かしら?」

 わたしが心底感心したという表情を見せると、雪乃ちゃんはそれが意外だったらしく、
雪乃ちゃんの肩の力が抜けていってしまう。
ただ、その抜けた力も、わたしの次の一言で別のところに力が入ってしまったようではあるけれど。

陽乃「だってわたしだったら大きすぎる胸が柱からはみ出てしまって、八幡に見つかっていた
   と思うもの。これは雪乃ちゃんの胸がかわいそうなほど小さいからこそ見つからな
   かったというべきかしらね? というよりも、
   雪乃ちゃんの胸自体見つけられないとでもいうべきかしら?」

 とまあ、ちゃかしたわけでもないんだけど、
感情の制御さえできていない今のわたしは、苦し紛れの発言ばかりしてしまっていた。

雪乃「姉さんっ」

陽乃「でも事実よね?」

雪乃「たとえ事実であってもなんだっていうのよ」

陽乃「事実なだけよ。雪乃ちゃんの胸が小さい。ただそれだけよ。あとはそうね。
   わたしの胸が大きいって事くらいかしら? あとはほかになにかあるかしらね?」

雪乃「はぁ……。もういいわ」

陽乃「そう?」

雪乃「ええ、もう姉さんのこういったごまかしはいいっていうことよ」

陽乃「べつにごまかしているわけではないと思うんだけどな」

雪乃「姉さんがそう言うのならばそれでもかまわないわ」

陽乃「ありがとね、雪乃ちゃん」

 せっかくにっこりとわらってあげたというのに、雪乃ちゃんったらつれないんだから。
 唖然とした顔なんて可愛くないわよ?

雪乃「アメリカに行くのよ?」

陽乃「そうよ」

雪乃「それを取りやめにする事はできるのかしら?
   いえ、留学の話はどこまですすんでいるのか教えて欲しいわ」

陽乃「そうねぇ……、まだ留学先も決まってはいないというのが実情かな。仁から色々と話は
   聞いてはいるし、紹介もしてくれると言ってくれているから、
   留学先さえ定まれば一気に決まっちゃうかな? うん、そんなかんじ」

雪乃「そう……。お母さんはなんて?」

陽乃「お母さん? とくになにも。好きなようにしてもいいけど、
   しっかりと勉強してきなさいってことくらいかしら」


雪乃「姉さんが留学する必要はあるのかしら?」

陽乃「勉強することはたくさんあるし、うちのことを考えれば留学しておいて損はないわよ。
   むしろ勉強だけに集中できる環境に身を置いて、残り少ない学生生活を有効活用すべき
   だと思うわ。さすがのお母さんもこれ以上わたしを
   学生にしたままにしておいてはくれないでしょうから」

雪乃「姉さんが本気で勉強するつもりなら、べつに留学する必要さえないのではないかしら?」

陽乃「わたしを高く評価してくれるのはうれしいけど、わたしも天才ってわけでもない
   のよね。わかるでしょ? 仁を見ていれば天才ってものがどれほどのものかを、ね」

雪乃「それは……」

陽乃「たしかに……、わたしも、そして雪乃ちゃんも、世間の目から見れば優秀だとは思う
   わよ。学校の成績はいいし、覚えるのも早いしね。だけどね、わたしたちって、
   ただ優秀なだけじゃないかな? たしかにテストで満点に近い点数はとれるけど、
   そこからさきの領域っていうのかしらね? ずばぬけて高い能力を持っている人の領域
   まではいけてはいないと感じているわ」

雪乃「姉さんのいう通り私たちの能力の限界は見えてはいるわ。だけど、それがなんだと
   いうのかしら? そこまで高い能力が必要だとでも?
   お母さんがそれを求めているとでも?」

陽乃「いいえ、求めてはいないわ。だってわたしたちにはないもの。いくらお母さんでも、
   ないものは求めないわ。求めたとしても得ることができないものを
   無駄に求めてなんの意味があるのよ」

雪乃「……それは」

陽乃「わたしはね、自分の限界がわかってる。だから留学してわたしの限界の先を見ていると
   人たちに会ってみたいのよ。だって面白いと思わない? しかも世界中からそんな人
   たちが集まってくるのよ?
    もちろんわたしたちみたいな凡才もたくさんいるでしょうけどね」

雪乃「それが姉さんが留学する理由なのかしら?」

陽乃「ええそうよ」

雪乃「だとしたら、どのくらいの期間留学するつもりなのかしら?」

陽乃「比企谷君と同じ事を聞くのね」

雪乃「八幡と?」

陽乃「ええそうよ。だってあなたたちってわたしが日本に戻ってこないと思っているのでしょう?」

雪乃「そういうわけでは……」

陽乃「だったらわたしがいないとお母さんが大変?」

 あら、ここまで同じなのね。ほんと似たもの夫婦とでもいうべきかしら。

陽乃「大丈夫よ。規定の年数を終えたら戻ってくるわ」

雪乃「……そう」

陽乃「あら、嬉しくないみたいね」

雪乃「そういうわけでもないわ」

 どうしたのかしら? 雪乃ちゃん、変に元気がないわよね。
 心がここにはないとでもいうべきか、わたしのほうを直視しないというべきか。
 こういう場面の雪乃ちゃんだったら真っ直ぐとわたしを射抜く視線を向けてくるわよね? 
それなのにどうして?

陽乃「まっ、どうでもいいか。ちゃんと日本にも帰ってくるし、
   うちの仕事もしっかりとやるわ。だってわたしは雪ノ下陽乃だから」

雪乃「わかったわ。私からはなにもいわないわ」

陽乃「そうしてくれると助かるわ」

雪乃「じゃあ私は行くわね。今から行けば半分くらいは講義が聞けると思うし」

陽乃「頑張ってね」

雪乃「……ええ」

 ひんやりとした返事がわたしの頬をすり抜けていく。
 あれだけ熱がこもっていた言葉が嘘のように静かにわたしをすり抜ける。
エアコンの音がうるさいくらいに鳴り響き、耳障りだとさえ思えてしまう。
 ほんとうはもっと言いたい事がありますっていう顔をしてはいるのに、
雪乃ちゃんは宣言通りこれ以上は何も言ってはこなかった。


 もしかしたら、これ以上わたしになにを言っても無駄だと思ってくれたのかしらね。
だから用が済んだこの部屋から雪乃ちゃんは出て講義に行こうとした。
しかし、部屋から出る直前。ドアノブに手をかける直前になって、わたしに話しかけてきた。
 雪乃ちゃんが振り返ってこないためにどんな顔をして言ってきたのかはわからない。
その顔を知っているのは、雪乃ちゃんが見つめる先のドアノブくらいかしら。

雪乃「…………姉さん」

 若干熱が込められた言葉にわたしは期待してしまう。
 なにに期待したのかって問われてもこたえることはできないのだけれど、
わたしの心が揺れた事だけは確信できた。

陽乃「ん?」

雪乃「姉さんは笑顔を作っていたようだったけれど、どれも悲しそうな顔をしていたわ」

陽乃「……そうかしら?」

雪乃「私がこの部屋に入ってきたときからずっと悲しそうな顔をしていたわ。途中何度か
   笑顔を作るべきところで笑顔を作ろうとしていたみたいだけれど、全部崩れていたわ」

陽乃「……そう」

雪乃「素直に泣いてくれた方が、よっぽど安心して送り出せたわ」

 そう言い残すと、今度こそドアノブを静かに回し部屋を後にした。
 わたしは返事さえできなかった。返事をしてしまえば泣いてしまうとわかっていたから。
 もしかしたら既に泣いていたのかもしれない。
だから雪乃ちゃんは振りかえらなかった。そうも考えられる。
 心優しい雪乃ちゃんのことだから、わたしが泣けるようにわざと背中を見せてくれていた
とも考える事ができるけど、そんなこと今さら考えてもね。
 あぁあ……。雪乃ちゃんが言う通り最初から泣いてしまえばよかった。
 八幡の前で泣ければどんなに救われたものか、考えずにはいられなかった。






 翌日。
 昨日の帰りもそうだが、今朝の登校時も陽乃さんは実家のハイヤーを使っていた。
もちろん事前に雪乃に連絡はあった。
 メールではなく電話であったことは、せめてもの誠意だろうか。陽乃さんだから誠意と
いうよりも見栄? それよりも強がりってところがあっているのかもしれない。
 俺達に強がってもしょうがないのにって言ってあげたい。
せめて俺に陽乃さんくらいの強がりができたら言えただろうに……。
 そして、もう一つ昨日まではとは大きく違う点があるとしたら、
それは昼の食事の時には陽乃さんも一緒に食事をしたことだろう。
 まずはじめに、ここ数日一緒に食事ができなかったことを謝り、
その理由も説明する姿はいつもの陽乃さんに見える。
 誰の目からしてもいつもの雪ノ下陽乃であり、
完璧すぎるまでの雪ノ下陽乃であることが俺と雪乃を苦しめた。
 俺達がよく知っているはずの雪ノ下陽乃を見てしまうと、どうしても高校時代の仮面を
かぶった陽乃さんを想いだしてしまう。母親からの期待を満足させる為にかぶっていた仮面
を、今度は俺と雪乃の期待を応える為に仮面をかぶっていると思えてしまう。
 この陽乃さんの強がりには意味があるのだろうか?
 こんなことを俺は望んでいたのかと叫びたかった。
 そしてもなによりも、何もできない自分が、どうしようもなくみじめで嫌だった。
 食後、由比ヶ浜は俺に何も言ってはこなかった。
場の雰囲気に敏感な彼女の事だから、きっとなにかに勘づいてはいたはずだ。
 いつもと同じ食事の場面であるはずなのに、
どうしようもなく居心地がよすぎて違和感を感じてしまう。
 だけど、俺が発する雰囲気というか、雪乃の雰囲気ともいうのか、
心優しい由比ヶ浜は俺達を静観してくれているようである。
 そして、今日の帰りも陽乃さんはいない。
 雪乃に陽乃さんから電話があったとさっき聞いたばかりだ。
いや、聞く前からわかってはいた。雪乃が一人で来るのを見る前からわかっていた。
 きっと陽乃さんは必要以上に俺達には接近してこないだろう。
 俺にはこれ以上なにもいえないし、陽乃さんも何も求めようとはしないはずだ。
雪乃は……、昨日陽乃さんに会ってきたとは聞いたが、具体的に何を話したかは
聞いてはいない。でも、俺に何も言ってはこないって事はそういうことなのだろう。
 つまり、これ以上の手はない。そういうことなのだと、俺は無理やり納得した。
 それにしても、3人でいた時は静かになってほしいと思ってばかりいたのに、
いざ2人での静かな下校になってしまうと寂しく思ってしまう。
 身勝手なのもだ。
 なくなってから初めて気がつくなんて、使い古された小説の一場面じゃないかよ。
 昔に戻っただけなのに、雪乃と2人でいたときに戻っただけなのに、
どうしても物足りなさを感じてしまう。

雪乃「元気がないわね」

 俺のことを誰よりも見ている雪乃が隣にいれば気がついてしまうのに、
俺は無様な姿を雪乃にさらしてしまう。
いまさら格好つけてもしょうがないか。雪乃ほど俺の情けない姿を知っている人間はいないしな。


八幡「いつもこんな感じだと思うぞ」

雪乃「そうかしら?」

 姉さんがいないからじゃないかしらと言いたげな瞳に俺は戸惑いを覚える事はなかった。
 なにせ俺も雪乃と同じ意見だったから。
雪乃もなんだかんだいって陽乃さんとの時間を楽しんでいた。
 そもそも嫌いだったら話にさえあげないはずだ。

八幡「陽乃さんがいないからそう思うだけだと思うぞ」

雪乃「そんなこと言っていないわ」

 声を荒げる雪乃に対して、俺はどこまでも冷静だった。いわば諦めているとも言われそう
だけど、雪乃と陽乃さんのことを相談できる事が俺の心を落ち着かせてくれた。

八幡「まあ、落ち着けって」

雪乃「私は落ち着いているわ」

八幡「はぁ……、まあいいか。えっとな、俺が言いたかったのはな、陽乃さんがいたから
   振り回されて、必然的にテンションが上がっているように見えていただけだって
   言いたかったんだよ。普段の俺はあそこまでテンションは高くない。
   むしろ今くらいのほうが精神衛生上にはありがたい」

雪乃「それも、そうね。姉さんといつも一緒にいるようになる前は静かだったわね」

八幡「だろ? 普段俺達が二人でいるときなんてあまり会話がなくても、それはそれで普通
   だっただろ? 俺はそれが心地よかったし、とても大切な時間だと思っている。
   心が落ち着くっていうのか、無駄に騒ぐ必要もないし、沈黙も苦痛ではなかった」

雪乃「八幡と二人でいるの、嫌いじゃないわ。ううん、掛け替えのない時間だったわ。
   とても大切な時間で、とても大好きな時間だわ」

八幡「雪乃もそう思っていてくれてうれしいよ。だから今こうして平凡だけど
   落ち着いている時間は大切なんだよ」

雪乃「……八幡」

八幡「雪乃が元気がないって思ってしまっているのも、陽乃さんと一緒の時と比べているのに
   すぎないんだろうよ。だから、今の俺が元気がないと思ってしまっても
   不思議ではない。むしろ慣れってこぇえなって思うところだな」

雪乃「八幡」

 嘘は言ってはいない。事実は言っている。
 それが俺の本心かは別なんだが…………、やっぱ駄目なんだろうなぁ。
 だって雪乃が怒っているから、な。

雪乃「八幡」

八幡「はひ?」

雪乃「この後付き合ってもらいたいところがあるのだけれど」

八幡「それはかまわないけど、どこにいくんだよ?」

雪乃「大丈夫よ。ちょっとしたものを買いに行くだけよ」

八幡「雪乃のちょっとしたものっていうのがちょっとしたもので終わる気がしないのは、
   俺の気のせいだよな? むしろ勘違いだと思いたい。いや、今すぐ逃げてもいい?」

雪乃「どうかしらね? でも、私から逃げられると思っているのかしら」

 怒っているよりはいいんだけど、笑っているからいいのか?
 でもなぁ、これだけは本人達には言っちゃ駄目なんだろうなぁ……。
 だって、なにせ、今の雪乃の顔が、
なにかを仕出かそうとしている時の陽乃さんの顔にそっくりなんだもんな。
 やっぱ姉妹なんだとつくづく思ってしまう。
 悪い傾向ではない。むしろこういう時の陽乃さんについていけばきっと事態を
ひっくり返してくれると確信している。どんなに絶望的な状況であっても、
この人ならやってくれると期待してしまう。
 もちろん雪乃と陽乃さんはいくら姉妹であったとしても別人格だし、同じ人間ではない。
むしろ、ただ陽乃さんに似ているからといって過大な期待をしてしまうのは
雪乃に失礼というべきだろう。
 だけど、今の雪乃を見ていると、楽しそうで心を引き付けられるなにかがあって、
俺の心を軽くしてくれる。
 陽乃さんとは違うなにか。雪ノ下雪乃だけが秘めているなにかが俺を奮い立たせてくれた。
 だから俺はこうつぶやけた。

八幡「どこまでも付き合うよ」

 こうして俺は重い腰をあげる事をようやくできるに至る。
 ………………まあ、雪乃に後ろからおもいきり蹴りあげられてだけれど。






第64章 終劇
第65章に続く






第64章 あとがき


『愛の悲しみ編』もようやく終盤ですね。長かったにつきます。
来週も木曜日にアップできると思いますので
また読んでくださると大変嬉しく思います。


黒猫 with かずさ派



乙です


第65章



 夏の太陽は残業が大好きなようで、いまだに明るさを俺達に提供してくれている。
そのおかげか、もうすぐ夜という時間にさしかかっても、
ささやかながらの明かりを提供してくれていた。
 といっても、のしをつけてお返しをしたけだるい熱気が居座っているんだが。
 ただ、出番待ちの月がちらほらと見え隠れするようになってはきているので、
太陽も月に追い出されてしまう時間にはなってはきてはいる。
 車の外もいくぶん風でも吹いているようで、道行く人々の顔には昼間降り注ぐ炎天下の中で
歩いている時の様相は見受けられない。
 これが8月になれば夜になっても暑さがまったく消し去れなくなり、いくら夜になっても
体力を奪い取る風しか得られず、早く秋よこいと嘆く者たちが増えてくるのだろう。
 今の俺はといえば、エアコンが効いた車の中でいるわけで、暑さなんか関係ないんだけど。
 それでも放課後雪乃にせかせられながら歩きわたったショッピングの疲れが脚と腕に蓄積
され、まだまだ十分には疲れは癒されてはいないせいで、けだるさが全身を駆け巡っていた。
 
八幡「もうすぐ来るんだよな?」

雪乃「ええ、家の運転手には今の時間帯に大学に迎えに来てほしいと伝えられてたわ。
   だから、姉さんがなにかに勘づいて電車で帰らない限りここで待っていれば
   大丈夫だと思うわ」

八幡「いくら陽乃さんでも気がつかないだろ?」

雪乃「そう願いたいわね。わざわざ実家まで行って姉さんが使うはずの車を使えるように
   したのだから、うまくいってくれないと困るわ」

八幡「あの運転手にも感謝だな」

雪乃「あとで私たちの車を持ってきてもらって乗りかえるときにお礼をいなければいけないわね」

八幡「わざわざここまで連れて来てもらって、今は俺達の車に乗っていて
   もらっているんだから、サラリーマンは大変だよな」

雪乃「あら? そのいいかただと、私がブラック企業の上司だと言っているように
   聞こえるのだけれど」

八幡「言ってない、言ってないからな」

雪乃「そんなに真剣に否定されてしまうと、かえって真剣に心配になってしまうわ」

 少々大げさだっただろうか? 雪乃の意地が悪くも温かくもあった瞳に影がはいる。
いくら親しい間柄であり、なおかつ相手の事がわかっていると思っている相手であっても、
時として自分の想定とは真逆の方向に行ってしまうことがある。
 雪乃に対してもそうであるように、最近相手の事を知ったつもりになってしまっている
相手であるのなら、しかも心の内を簡単には見せてはくれない陽乃さんであるのなら、
親しみを込めた言動でされ陽乃さんを傷つけてしうことがあってしまう。

八幡「俺に対しては気にする事はないぞ?」

雪乃「どういう意味かしら?」

八幡「雪乃がいくらブラック企業の上司並みに俺をこきつかおうが、
   俺は構わないって言ってるんだよ」

雪乃「やはり私の事をそういう風に思っていたのね。たまにやりすぎてしまったかもと
   反省することもあるのよね。そうね、そうよね……」

 えっとなんだ。本人も自覚あるんだな、とは言わないけどさ。
俺もたまにはやりすぎだろと思う事はあったような……。
 どうも俺に期待しすぎているというか、期待してくれているのは光栄だし、やり遂げたいと
は思うのだが、なんだか雪乃基準の成果を求めてくる事があるんだよなぁ……。
 一応俺がやり遂げられる水準を考えてくれてはいるようだ。
 ただ、雪乃の求める水準って高すぎるんだよな。
そもそも雪乃がやってのけるレベルが高すぎるのが原因なんだろうけど。

八幡「そんなに思い詰めるような事を考えるなよ。俺はただ、雪乃が求める事ならなんだって
   叶えてあげたいと思っているだけだ。まあ、それでもできない事が多すぎるのが
   難点ではあるけどな」

雪乃「そんな事はないわ。八幡は私ができないことをいつもやってのけてくれているわ。
   それをどれだけ私が感謝しているかわかっていないようね」

八幡「俺も雪乃に感謝してるって。今日だって雪乃が動かなければ俺は何もできない
   ままだったからな」

雪乃「そうかしら? 八幡のことだから今日はできなくても、いつか動いていたと思うわよ」

八幡「それこそ俺を買い被りすぎた」

雪乃「そんなことはないわ。いつだってわたしは……」


 ひんやりとした汗が俺の首筋を撫でていく。冷房がほどよく効いた車内であっても雪乃が
俺に向ける熱が俺の体温を上昇させていってしまう。
 いつだって俺の隣にいて、いつだって俺を支えてくれる頼もしすぎる彼女は、
俺をとらえて離さない。
 ふたりの熱い吐息が混じり合うほどまで近寄った俺達の距離は、
思考をたやすく停止させてしまう。俺の瞳は雪乃の瞳に酔い、雪乃の瞳は俺の瞳を慈しむ。
 あと少し。後もうちょっと近寄れば……。

陽乃「なにをやっているのかしら?」

 いつも俺達をいじくり倒す声色で、いつものように憎たらしいほど嫌味な笑顔を携えて、
陽乃さんは車の後部座席に座っていた。
その陽乃さんの一言は、俺達を現実世界に引き戻すには十分すぎるほどの威力を秘めたいた。
 首筋だけとはいわず、背中や太ももから噴き出す汗は容赦なく俺の体温を急上昇させ、
思考を妨げてくる。
 それは雪乃も同じようで、俺の座席へと乗り出していた体をあせくせと自分の座席へと
引き戻し、スカートにしわがよらないようにと必要以上にスカートのすそを直していた。

八幡「陽乃さんっ。どうしてここに?」

雪乃「そうよ、姉さん。どうしたのよ?」

陽乃「二人とも声が裏返っているわよ?」

雪乃「そんな事はないと思うわ」

八幡「そ、そうですよ。これがいつもの俺の話声ですよ」

陽乃「そうかなぁ……?」

 なおも攻める続ける陽乃さんは、俺の座席の後ろから迫りくる。
首から絡めてきた指先は胸のあたりで両手が合流し。俺を座席ごと誘惑してくる。
 冷房が効いているはずなのに、いまやそのハイテク装置は機能していないらしい。
雪乃によって上昇させられた体温は、陽乃さんによって体の機能停止まで体温を押し上げられた。
 そして一通り慌て尽くした俺は、陽乃さんが家に帰る為に家から派遣されたハイヤーに
乗り込んできた事を思い出す。陽乃さんの手が暖かいのも、今夏の暑い外から冷房が効いた
車内に滑り込んできた証拠でもあるはずだ。
 そして、この俺達へのからみ。しかも、俺への過剰なまでもスキンシップは、
ちょっと前までの陽乃さんの行動に一致している。
 陽乃さんが提供してくれる温もりが、俺にここ数日の違和感を忘れさせてしまうには
十分であった。

雪乃「姉さん、八幡をたぶらかすのはやめてちょうだいっていつも言ってるわよね。
   いつも姉さんのからみは過剰すぎるわ。そのうちセクハラで訴えられるわよ」

 そして、この雪乃の嫉妬ともとれる普通の恋人の対応は、
やはり数日前を連想させるには十分であった。
 きっと雪乃も俺と同じ印象を抱いていたはずだ。
 陽乃さんならしれっとした顔で、「八幡がそんなことするわけないじゃない? 
むしろ喜んでいるわよ」なんて言ってくる気がする。

陽乃「ごめんなさい」

 しかし、陽乃さんは違っていた。
 雪乃の拒絶を言葉通りに受け取ってしまう。いつもの俺達であったはずなのに、
俺達はいつもの俺達には戻れなかった。
 陽乃さんがいつものように接してくれたものだから、どこか期待していたのだろう。それを
打ち砕かれた俺は、変わり果ててしまった陽乃さんにどう接していいかわからなくなってしまう。

雪乃「はぁ……、怒ってないわ。少しヤキモチを妬いただけよ。だらか姉さんも脅えないで」

陽乃「そう? それならいいわ」

 温かかったはずの両手を凍えているみたいにさする陽乃さんを見て、
どう安心すればいいのだろうか。きっと雪乃の言葉も届いていないのだろう。

陽乃「それはそうと、どうしてこの車に雪乃ちゃんたちが乗っているのよ?」

 陽乃さんは落ち着かなかったのだろう。せわしなくさする両手が、自分で話題を変え、
気分を落ち着かせようとしているのが丸わかりであった。

雪乃「姉さんにようがあってお願いしたのよ。こうしないと姉さんを捕まえられないでしょ?」

陽乃「……ごめん」

雪乃「はぁ……。今日はうちで夕食を食べていってほしいわ」

陽乃「それは」

雪乃「今日だけだからお願い」

陽乃「…………わかったわ。せっかく雪乃ちゃんが招待してくれるのだから、
   しっかりともてなされてあげるわ」


雪乃「きっと姉さんも気にいってくれると思うわ」

陽乃「………………どうかしらね」

 小さく呟いたその言葉は、声に出すつもりではなかったのだろう。
だから俺も雪乃も聞こえないふりをして車から降りる準備を始める。

雪乃「向こうに私たちが乗ってきた車があるから、そっちに移るわ」

陽乃「ええ、わかったわ」

 西の空を見上げると、あれだけ照らし続けていた太陽が隠れようとしていた。
熱く人の体力を容赦なく奪っていく太陽も、姿を消してしまえばその威力はなくなってしまう。
わずかに残った残照が俺たちに太陽の存在を思い出させるにすぎない。
 しかもその残照は時間がたてば忘れ去られ、人々は新たに現れた星々に意識を向かわせる。
俺もいつか陽乃さんのことを過去のこととして思い出にしてしまうのだろうか。そしていつの
日か思いでさえも上書きされ、新たな日常が当たり前になってしまうのだろうか。
 たぶん程度の差こそあれど、人は同じような事を繰り返して生きているのだろう。
印象深い出来事は思い出としてしばらくは心の表面に顔を出してはくれるが、
時間が思い出を心の底へとしずませてゆく。
 できることなら俺は陽乃さんを思い出にはしたくない。雪乃もそうであるはずだ。
 だからこそ俺達は、陽乃さんを俺達の家に招待したのだ。






 マンションにやってくるまでの間、何を話していたかよく覚えていない。おそらくとりとめ
のない話をしていたのだとは思うが、必要がない緊張が俺達の口を重くする。
 お互い相手を思いやって、傷つけてしまうかもしれない話題は避けていた。人はなにに
傷つくなんてわかったものではないので、結局はまったく意味もない話題へと集約してしまう。
 その意味のない話題さえもお互いの心を削っていくとわかっていて、
だんだんと口数が減っていってしまうことは当然の結末ではある。
 しかしマンションの室内に入ると、雪乃は小さく一つ息を吐くと顔を引き締め、
車内でのよそよそしさを外に追い出したようだ。
 その覚悟というか、凛々しすぎる彼女を見たからには、彼氏としては情けない姿を
見せるわけにもいかないわけで、自然に俺の背筋も伸びていく。

雪乃「姉さん。悪いけど食事の準備を手伝ってくれないかしら?」

陽乃「いいわよ? 問答無用で拉致されたわけだし、料理くらいいくらでも手伝ってあげるわ」

八幡「拉致というと、どちらかといえばいつも陽乃さんがしているんじゃないですかね……」

陽乃「そうだったかしら?」

八幡「ええ、まあ。この間も早朝からやって来て俺を一日中連れ回したじゃないですか」

陽乃「あれはデートっていうのよ?」

八幡「そうともいえますけど……、まあいいですよ。俺も楽しかったですから」

雪乃「おしゃべりはそのくらいにして、八幡はさっき買ってきた荷物の包装を片付けて
   くれないかしら?」

八幡「あいよ。その後洗っておけばいいのか?」

雪乃「それはこっちでやっておくわ。さすがにキッチンを三人で使うには狭すぎるわ。
   その代わり、テーブルを綺麗にしておいてほしいわ。あとは……、そうねえ。
   お風呂とトイレの掃除をしておいてくれないかしら? あと時間があれば玄関の
   掃除? その前に寝室の掃除の方を優先にしておいた方がいいかしら?」

 小首を傾げ、人差し指で頬を撫でながら考えるふりをするのは可愛らしいとは思う。
できる事なら今すぐスマホで写真を撮りたいほどでもある。
…………まあ、似たような写真が何枚もあるから、どうしてもほしいというわけではないが。
 なんてほのぼの惚気話ではなくてだな、料理している間に掃除をしておけって事だろ? 
いつもの事だからいいし、家事は分担だから文句はない。

八幡「そのわざとらしい頼み方はなんなんだよ? 媚を売っているとは思わんけど、
   どうも雪乃らしくはないというか」

雪乃「以前由比ヶ浜さんが教えてくれたのを実践しただけよ。
   それに八幡も鼻の下の伸ばしながら掃除をしてくれているじゃない?」

八幡「だんじて鼻の下なんかのばしてない」

雪乃「そうかしら? いつも子供が見たら通報されてしまいそうなにやけ顔で
   掃除をしているじゃない」

八幡「それは食事のことを考えていただけだ」

雪乃「わかったわ。そういう事にしておいてあげるわ」



八幡「…………掃除してくるわ」

 これ以上ここにいたらやばい。本能が囁く…………わけではなく、どういうわけか
マンションに帰ってきてから緊張が緩和された雪乃と、さらに陽乃さんまでいつもの雰囲気を
醸し出しているものだから、これ以上ここにいても事態が悪化するだけだと誰だってわかるものだ。
 この二人を同時に相手をできる人間がいるとしたら、それは雪乃と陽乃さんの
母親くらいだろうし、そもそも一人であっても俺には荷が重すぎるものだ。
 だから俺は、心地よい敗北感を背負いながら足取り軽く風呂場へと撤退していった。



 風呂場の掃除から始まり、トイレ、寝室の掃除が終わったところで掃除タイム終了の
ようだ。もう少し時間があれば玄関の掃除もと思ってはいたが、
キッチンからの臭いに誘われて様子を見に行くと、そろそろ食事の時間らしい。
 雪乃も鬼畜ではないので、いや、女神だということで(雪乃談)、
食事の時間を遅らせてまで玄関の掃除をする必要はないとのこと。
 手を洗ってから席に着くと、今日買ってきた新たな茶碗が陽乃さんの前にならんであった。

陽乃「さっきは聞かないでおいたけど、さすがにもう聞いてもいいわよね? こうして
   あなたたちの要求通りあなたたちのマンションにまできて、
   しかも夕食まで一緒に作って食べようとしてるのだからね」

雪乃「私が考えたのよ」

陽乃「雪乃ちゃんの作戦だとは思ってはいたけど、どういう意味かしら?」

雪乃「姉さんの食器を買っただけよ」

陽乃「それは見ればわかるわよ」

 たしかにテーブルの上を見ればわかるっていうものだ。今までは陽乃さんは来客用の食器を
使っていたが、今日いきなり自分用の食器を用意されていれば気がつかないわけがない。
 …………由比ヶ浜も来客用の食器を使ってはいるが、由比ヶ浜なら違う食器を出されても、
そういうものかなって思って終わりだよなぁ。それどころか、気がつかないんじゃないか、
あいつの場合。
いや、空気を読む事には長けているあいつの事だ、きっと気がつくはず…………かなぁ、どうだろ?

雪乃「ならその通りよ」

陽乃「でもどうして急に? この前あなた達の食器を買った時はこの食器、買ってないわよね?」

雪乃「ええ、そうよ。だって今日買ったものだもの」

陽乃「それもそうよね。じゃあ、どうして今日買ったのかしら?」

雪乃「そうね。私からの宣戦布告というところかしらね」

 いつも通り凛とした姿勢の雪乃は、その決意表明ともとれる発言をすると、
静かにその場の存在感を増していく。
 睨みつけているわけでもないのに、研ぎ澄まされた眼光は陽乃さんを射抜く。
きっと雪乃にとってはいつも通りなのだろう。そのいつも通りの雪乃だからこそ周りにいる
人間が受けるプレッシャーは作られたプレッシャーの比ではない。
 雪乃の隣にいる俺でさえビビりまくりなのだから、プレッシャーを直接受けている
陽乃さんの心の揺れは想像できない。
 まあ、陽乃さんだし、涼しい顔で受け流してたり…………してるとか?

陽乃「意味がわからないわ」

雪乃「本当かしら? この食器を見てその意味を理解できないとでもいうのかしら?」

陽乃「だからわからないと言っているじゃない」

雪乃「……そう。じゃあまず、今日この食器を買った意味を教えてあげるわ」

 予想は裏切られる。あの陽乃さんが雪乃から目をそらしてしまった。
 いままでこんな光景はなかったはずだ。少なくとも俺は見た事がない。
 いつも堂々としていて、普通の人間にとっては難題であってもどこ吹く風といった感じで
ひょうひょうと成し遂げてしまうあの雪ノ下陽乃が、逃げた。
 そう、逃げた。俺は陽乃さんが逃げるなんて想像したことがない。
 あのお義母さま相手であっても、勝てないまでもやり過ごしている。
 その陽乃さんが、逃げ………………………………た?
 そうじゃない。陽乃さんは強いっていうイメージが強いから逃げるというイメージが
もてなかっただけだ。
 俺や周りの人間は陽乃さんに強い人間というイメージを持ってしまっていたんだ。
 でも違う。陽乃さんは、いつも逃げていたんだ。そう、逃げていた。
そして、雪乃だけが、妹も雪乃だけが陽乃さんが弱いと、陽乃さんが逃げていると知っていた。
 陽乃さんは母親から政略結婚させられそうになったときは、結婚を遅らせる為だけに
大学院に進学している。しかも、大学院卒業後も逃げまくる為に、
海外留学まで考えていた人じゃないか。
 そして現在、政略結婚がなくなって消えたと思っていた海外留学を、俺と雪乃の前から
逃げる為に再度海外留学を画策しているじゃないか。今、全力で逃げようとしているじゃないか。


しかも、あの母親の要求と雪ノ下家の長女としても義務の為にかぶっていた雪ノ下陽乃という
仮面を、今は俺と雪乃の期待にこたえる為に雪乃の姉としての仮面をかぶっているじゃないか。
 今日だってほんとうは辛いはずなのに昼食を俺達と一緒に食べてくれたじゃないか。
 きっと今日一緒に食事をした連中ならば気が付いていたはずだ。
 陽乃さんと親しい人間なら、いつもの陽乃さんではないと気が付いていたはずだ。

陽乃「お願いするわ」

雪乃「私たちが実家で使う食器をこの前姉さんと一緒に買ったわよね」

陽乃「そうね。一緒に選んだわ。まあ、ほとんど雪乃ちゃんが決めてはいたけどね」

雪乃「今日の食器も悪いけど私が選んだわ」

陽乃「そうだと思っていたわ。比企谷君が選んだとは思えないもの」

 悪いが、俺も陽乃さんの意見に同意だ。まず、高級食器にうとい。
こればっかりは庶民の出の俺に期待してもらっても正直困るってものだ。
 まあ、ない知識の事を嘆いても意味ないか。 
 それよりも、これらの食器を買う事の意味が一番の難題なんだろうな。
たぶん俺は思い付いても買う事はできないはずだ。どうしても雪乃を一番に考えてしまうからな。
 だからこれらの食器は、雪乃にしか買えない。

雪乃「私は、八幡が選んで買ってほしくはなかったのよ。これは私のエゴね」

陽乃「別にいいんじゃない?」

雪乃「そうかしら。………………話を戻すわね。この前私たちが実家で使う食器を買ったわ。
   だから、今度は姉さんがこのマンションで使う食器を買ったの。姉さんが使う為に」

陽乃「それはありがたいけど……、雪乃ちゃんはいいの? 
   別に私の食器をそろえてくれるのはありがたいけど、この食器でいいのかしら?」

雪乃「ええ、いいわ。言ったでしょ? 宣戦布告だって」

陽乃「…………それもそうね」

 陽乃さんから邪気が抜けていく。……邪気って表現するのはあってないか。
重荷っていうのが適当だな。
 けど、なんていうか、重荷という表現だけでは表現できないその重さが見えてしまう。
一種の呪いとでもいうべきか。
 きっと姉妹の間にしかわからないものがあるのだろう。
 ちなみに、俺は全く理解できていない。
 そもそもこの食器。どういう意味合いで雪乃が買ったのかさえわかっていないのだ。
雪乃は教えてくれないし、俺も雪乃に理由を聞くタイミングがなかったしな。
 だってさ、食器を選んでいる時の雪乃って、近づくなオーラ全開だったし。
 でも、店で買っているときは気が付けなかったが、こうしてテーブルに並べられれば、
俺にも気がつける部分がある。
 まあ、小学生でも気がつけるレベルだから、今さら誉められるものではないんだが。
 テーブルの上には、今日買ってきた陽乃さんの食器が並べられている。
 俺と雪乃が使っている食器と似ている食器が、陽乃さんの前に用意されていた。
 茶碗にはじまり、汁もの用の椀や箸に至るまで、俺と雪乃の食器と並べれば、
この3組で一つのセットだと思ってしまうだろう。
 実際雪乃が選んだから、メーカーとか、茶碗を作った人までとはいかないまでも産地と
いうのか? 見た目だけではなく、作り手の所まで調べているんじゃないかと思えてしまう。
 だから、今日買った食器だというのに、
昔からここにあったと感じさせるぬくもりがそこには存在していた。
 そして俺は、その温もりを違和感なく享受した。




第65章 終劇
第66章に続く







第65章 あとがき



昼間は暑いのに、夜は涼しくて快適っす。はやく昼間も涼しくならんかな……。
来週も木曜日にアップできると思いますので
また読んでくださると大変嬉しく思います。


黒猫 with かずさ派



乙です


第66章



雪乃「私は元々雪ノ下の人間ではあるけれど、八幡と一緒に雪ノ下で生きていく決心を
   したわ。とはいうものの、私がいくら足掻こうとあのお母さんが簡単に私を手放して
   はくれなかったでしょうけど、それでも八幡と一緒にあの家にいることにしたわ。
   だから姉さん。姉さんもこのマンションにいる事を決心してほしいの。もちろん酷な
   要求をしているとは理解しているわ。でもね、姉さんがアメリカに行っても意味が
   ない。だって姉さんがアメリカに行ったところで心の整理ができるはずがないもの」

陽乃「雪乃ちゃんは断定できちゃうのね。私でさえ自分の心の内を理解できていないのに」

雪乃「姉さんは人の感情を理解するのは得意かもしれないけれど、自分の事となると八幡以下よ」

陽乃「案外評価が低いのね」

八幡「ちょっと待て。俺くらい自分の心を制御できている人間はいないぞ」

 そしてもう一つちょっと待てと言いたい。どうして俺をここでディスる。
しかも、雪乃も陽乃さんも俺のことなど無視して話を進めているしさ。
…………わかってはいるさ。ここは全て雪乃に任せているんだからさ。でもな、いちおう彼氏
であるわけだから、少しくらいはオブラードに来るんだ表現をして頂けると嬉しいのですが……。

雪乃「だから言ったでしょ? 他人の感情を読む能力は素晴らしいけれど、自分に対しては
   並み以下だと。そもそも自分の感情を抑えてきた人間が、自分の心をわかるわけ
   ないもの。今まで自分の心を見ないふりをしてきた弊害ね」

陽乃「なるほどね。自分を偽ってきたつけがここにきて出てきたわけか」

雪乃「そうなるわね。だから、姉さんがアメリカに行ったとしても、意味がないわ。
   姉さんが言う通り勉強に集中したとしても八幡のことを忘れる事などできやしないわ。
   もちろんアメリカにいるときは勉強に集中するとは思うわ。でも、八幡への気持ちは
   封印しているだけよ。だから、日本に帰って来て八幡に会った瞬間に、
   その封印はきっと解けてしまう。だからアメリカに行っても意味がないわ」

陽乃「もしかしたら向こうで恋人ができるかもしれないわよ?」

雪乃「勉強をしに行くのでしょ? 姉さんがそう決心してアメリカに行ったのなら、
   ほかのことになど興味を示さないと思うのだけれど?」

陽乃「…………これだから姉妹は嫌なのよ。
   これが男兄弟だったら理解なんてできないでしょうけど、女はね」

雪乃「なら、認めてしまう?」

陽乃「でも、恋なんていつ落ちるかわからないわよ?」

雪乃「普通ならそうでしょうね。でも、姉さんの心の中には八幡がいる」

陽乃「……うっ」

 めずらしく雪乃が陽乃さんに圧倒してないか?
 普段の二人の関係からすれば想像すらできない光景だ。
 由比ヶ浜が見たら、きっと目の前で繰り広げられていても
信じやしないんじゃないのかとさえ思えてくるぞ。
 …………そうでもないか? 陽乃さんが言っていたけど、男にはわからないけど
女にはわかるってことがあるみたいだし、そうなると俺だけが理解できないとか?

雪乃「そのような状態で、どうやって他の男性が姉さんの心に入っていくのよ。しかも誰の
   侵入も許さない姉さんの心の中に入ってくる人間なんて八幡以外にいるとは思えないわ」

陽乃「…………うぅ。雪乃ちゃんがいじめるぅ」

 あっ、泣いた。でも、泣き真似だってことはわかってはいるけど、あの陽乃さんがなぁ。
ある意味新鮮ではある。
 もちろんここで手をさしのべる勇気はない。むしろたじろいで動けないまでである。なにせ
手をさしのべたら、生涯手を離される事がないトラップつきだとわかりきっているしな。

雪乃「あとは時間が解決するなんてことはないわね」

陽乃「うっ!?」

雪乃「だって八幡の事を思いださないように封印しているだけなのよ。封印は消去では
   ないわ。いつか封印が解けた時、八幡への想いは解放されてしまうわね」

陽乃「ねえ、雪乃ちゃん」

雪乃「なにかしら?」

 つんと見つめる雪乃の視線は冷たい。
 冷静に一つ一つ陽乃さんの逃げ道を潰していくその行為は残酷なまでも機械的だ。
だが、徹底した侵略もどこか温もりがあり、優しさに包まれているような気がした。

陽乃「そんなにお姉ちゃんをいじめて楽しい?」

雪乃「べつに楽しいとかつまらないとかという感情はないわね。ただ私は事実を述べている
   だけだもの。でも、もしその事実を聞いて姉さんがいじめられていると
   感じたのならば、それは図星だっただけよ」

陽乃「それをいじめと言うのよっ!」

 あっ! 叫んだのと同時にわずかながらだけれど目じりが涙でぬれてなかったか?

雪乃「私の中ではいじめとは言わないわね」

 やれやれと首を振る雪乃の姿には余裕が見受けられた。
 ここに陽乃さんを連れてくるまで緊張していた雪乃だが、
やはり覚悟を決めて動き出した雪乃は強い。

雪乃「だから姉さん」

陽乃「なによっ?」

 もはや駄々っ子のごとく返事をする陽乃さんには、威厳も偽りもなくなっていた。
 そこには年相応の陽乃さんがいるだけで、もしかしたら微笑ましいくらい楽しそうに
気持ちをぶつけあっているんじゃないかと思えてしまう。

雪乃「姉さんは自分の手で解決しなければ自分自身が納得できない面倒な人間よ。
   どうしても自分が納得しなければ何をやっても無駄に終わるわ」

陽乃「だから、アメリカに行ってなにかしらの形で納得すれば問題ないじゃないのよ」

雪乃「はぁ……。だからその事についてはさっき無駄だといったじゃない。姉さんも納得して
   いたように思えるのだけれど? あぁ、心の中では納得できてはいたけれど、
   私の言葉で納得する事は拒否していたともとれるわね」

陽乃「今日の雪乃ちゃん。すっごく意地悪よ?」

雪乃「姉さんの妹だもの。仕方ないわ」

陽乃「それを言われてしまうと、反論できないわね」

 反論できないのかよっ! やっぱ姉妹なんだよなぁ……。

雪乃「しかも最悪のケースとして、自分を抑え込んでアメリカに行ったものの、感情を無理
   やり抑え込んでも噴き上がる感情を制御できず、すぐに日本に帰ってくるかも
   しれないわね。悲劇のヒロイン症候群とでもいうのかしらね?」

陽乃「それはないんじゃないの? 自分で言うのはなんだけど、
   感情を抑え込むのには自信があるわよ?」

雪乃「以前の姉さんならそうだったと思うわ。でも、今は違うじゃない?」

陽乃「どうしてよ?」

雪乃「だって、八幡が姉さんの感情を解放してしまったじゃない。一度素直な心を解放して
   しまっては、もう一度心を閉ざすことなど難しくなってしまうのではないかしら?
   だって、素直な気持ちで人に接する喜びを経験してしまったのでしょう?」

陽乃「うっ……」

雪乃「だから、姉さんは高い確率ですぐに日本に帰って来てしまう。
   八幡への気持ちを膨らませ、しかも暴走気味に」

陽乃「まるで未来を見てきたようないいようね」

雪乃「もし私が姉さんの立場だったら、私がそうなってしまっていたでしょうしね」

陽乃「なるほど……」

雪乃「私も姉さんの気持ち、痛いほどわかってしまうもの」

 あぁ……納得するんですか。いやね、そこまで雪乃に好意をむけてくれているのは嬉しい
と思う。でもさ、これっていわゆる「ヤンデ……」フラグ。いや、違うよな。雪乃だもんな。
………………うん。俺が雪乃一筋なら問題ない。そう、何も問題ない。そうにきまっている。

雪乃「だから、姉さんが日本にいてくれたほうが、私としては助かるのよ。
   目の届く場所にいてくれれば対処のしようがあるわけだし」

陽乃「ほぉ……、正妻の強みってわけね」

雪乃「そう思ってくれても構わないわ」

陽乃「まっ、事実だからしょうがないか」

雪乃「それに、もし私が逆の立場だったら。姉さんが八幡の彼女で、
   私がそうではなかったら、きっと姉さんは私に手をさしだしてくれたはずよ。
   だから私は手をさしのばすのよ」



陽乃「…………雪乃、ちゃん」

雪乃「姉さんは姉さんであって、雪ノ下陽乃なのよ。いつだって雪ノ下陽乃なのだから、
   そこからは逃げる事はできないわ。それに、逃げたとしても私が追いかけるわ。
   だって家族だもの。姉さんの妹は執念深いのよ」

陽乃「自分で執念深いって言ってしまうのね? これじゃあわたしも八幡も逃げられないわね」

 今、さらっと重大な事を言いませんでしたか? 雪乃から逃げるつもりはないよ。
ないけどさ……。これはもう本当に「ヤンデ……」なんじゃ、ないのか?
 今は病んでいないのが救いか? 気をつけないとな。

雪乃「姉さんはふてぶてしく、そして策略を張り巡らせて八幡にアプローチしていなさい」

陽乃「言ってくれるわね」

雪乃「八幡の気持ちが私から離れていく事はないでしょうけど、諦めがつくまで八幡に
   アプローチして、そして気持ちにけりをつけて欲しいわ。戦わない雪ノ下陽乃なんて、
   姉さんではないわ」

陽乃「それを言ってしまうからには、雪乃ちゃんも覚悟しているのよね?」

雪乃「だから言ったでしょう? 宣戦布告だって」

陽乃「なるほど」

雪乃「だから、私に対して気にする気持ちは必要ないわ」

陽乃「わたしは……、ここにいてもいいのかしら?」

雪乃「ええ、私がいてもらいたいのよ」

陽乃「愛人になってしまうかもしれないわよ?」

雪乃「構わないわ」

 ほんとうかよっ?!
 今この場で俺が介入する勇気なんてありゃしないから黙っておくけどよ。
陽乃さんが宣言すると事実になってしまうような気がしてしまうんだよなぁ。しかも雪乃公認だし。

陽乃「言ってくれるわね」

雪乃「八幡にその甲斐性があればの話だけれど」

 ですよねぇ……。へたれな俺には土台無理な話ってことなんだよな。
 そもそも命の危機…………って感じがするのは、間違いではないはずだろうし。

陽乃「それもそうね」

雪乃「それに、もし八幡が姉さんを愛人にするのなら、それは私の意思でもあるわ」

陽乃「ふぅ~ん」

雪乃「八幡は私の事を考えて結論を出すわ。だから、姉さんは私のことを気にする必要
   なんてないのよ。八幡が出す答えが私の答えでもあるのだから」

 それって、すっげえプレッシャーじゃないかよ。俺が雪乃だけじゃなくて陽乃までの
人生を背負う選択をするってことだろ?
 ここまで俺を信じてくれてもらえるのはうれしいけど、
さすがに過大評価しすぎではありませんか?

陽乃「わかったわ」

雪乃「理解してくれて助かるわ」

陽乃「ありがとね、雪乃ちゃん」

 そう晴れ晴れとした笑顔で雪乃に微笑むと、きりっとした意思の強い瞳を俺に向けてくる。
一瞬雪乃が睨みつけてきたんじゃないかと錯覚までしてしまう。さすがは姉妹だというところか。
 恥じらいも興奮も、後悔や信頼も、そして不安や期待も、
あらゆる感情が渦巻くその姿は愛おしく思えてしまう。
だって自分を偽っていないから。本心を隠していれば、きっと傷つく事はあっても軽傷ですんで
しまうだろう。でも、本心からぶつかれば、嘘は付けないから大けがをおってしまいがちだ。
 自分の心をさらけ出してしまえば、後戻りなどできやしないから。
 だから俺も本心をさらけだそう。うまくできるかはわからないけど、
陽乃さんがしてくれているのだから、せめて嘘だけは付きたくはなかった。

陽乃「わたしは、比企谷八幡のことが、好き。大好き。愛してる。
   …………言葉で表現しきれないから、
   欲望を解放してこの愛情を体で伝えられればどれほどいいかって思えてしまう」


 俺は初めて陽乃さんから「愛の言葉」を耳にした。
 今までセクハラまがいの愛情表現を受けてはきたが、
言葉にして好意を伝えられた事はなかったと思う。
 だからこそ俺はへたれでいられたのかもしれない。
 だって、言葉にして伝えられていなければ、その愛が勘違いだったかもしれないと
思えるじゃないか。でも、もうその時間は終わった。
なにせ陽乃さんが俺に言葉で本心を伝えてきたから。

八幡「俺は雪乃のことを一番に考えていますよ? それでもいいんですか?」

陽乃「わかっているわ」

八幡「俺はずっと自分の事しか考えてこなかった、と思う。自分が傷つくだけで解決
   できるならそれでもいいと思っていた。誰かが我慢しなければならないのなら、
   面倒なさぐりあいをするくらいなら、俺が泥をかぶったほうがいいと思っていたから。
   あれこれ話しあったりするのは非効率でもあるとも思ってしまいたしね。
   どうせだれかがやらなくてはならわいわけですし」

陽乃「比企谷君らしい考えだったわね」

八幡「他人は助けてくれない。自分の事で精一杯なのに他人のことなんて助ける余裕なんて
   ない。だから、自分のことはすべて自分だけでやらないといけないと思っていた」

陽乃「間違いではないわ」

八幡「たしかに間違いではないと、今でも思っていますよ。
   でも、それが全て当てはまるわけでもないのも事実ですよね?」

陽乃「どうかしらね? それは人によるわよ?」

八幡「まぁ、そうでしょうね。でも陽乃さん」

陽乃「ん、なにかな?」

八幡「今の俺は、俺の事を後回しにしてでも雪乃のとこを最初に考えてしまうんですよ。
   今大学に通ってほとんどの時間を注いで勉強しているのも、将来雪乃の隣にいる為に
   すぎません。この方針は大学を卒業しても変わらない。
   一生雪乃と一緒にいる為に俺の全てを注ぎ続けます」

陽乃「ん? そんなこと知ってるわ。実際わたしが見てきたもの」

八幡「俺は雪乃が悲しむ姿は見たくないんですよ。そりゃあ人生笑っているだけでってこと
   はないはずです。苦しい時や悲しい時が必ず訪れるはずです。
   笑っているだけの人生でしたなんて言う奴は、どこか精神が歪なはずです」

陽乃「捻くれている八幡には言われたくないって思っているんじゃない?」

八幡「でも、陽乃さんも俺と同じような意見なのでしょう?」

陽乃「それは否定しないかな。だって、楽しいだけが人生じゃないのもの。
   悲しい事もなければ楽しくないわ」

八幡「だから俺は、せめて雪乃が笑っているときは真っ直ぐそれを見つめられる人間で
   いたいんです。一緒に笑っていたいんですよ。後ろめたいことなんて抱きながら
   中途半端な気持ちで見つめたくはないんです。それに、そんな気持ちじゃ一緒に
   笑えません。そもそも笑顔なんて貴重だとは思いませんか? 一日のうちで
   笑っている時間なんてわずかですよ。無表情で一日が終わる事はないでしょうけど、
   笑顔を見せないで終わる日も少なくはないと思いませんか?」

陽乃「ん~……、わたしも自分の表情がどうなっているかを全て確認した事がないから
   わからないけど、八幡の言う通り、案外笑顔って貴重なのかもしれないわね」

八幡「俺は雪乃の隣で胸を張って生きていきたいんですよ」

陽乃「なるほどね。じゃあ、今は胸を張って生きていられているのかな?」

八幡「どうなんでしょうね? 自分でいうのはなんですが、けっこうどころかかなり捻くれた
   人間だったと思うんですよね。やはり人間の本質はなかなか変えられないと言いますか……」

陽乃「最後くらいはかっこうよくしめなさいよ」

八幡「これが比企谷八幡なのですからしょうがないじゃないですか」

雪乃「そんなことはないわ。八幡の隣にいるわたしが保証するわ」

八幡「雪乃?」

雪乃「たしかに今も捻くれているわ。でも、私を大切にしてくれている。
   不器用ながらも愛情を注いでくれているわ」

八幡「まあ、なんだ。ありがとな」

 てれるじゃねえかよ。まっすぐすぎる瞳でみつめられちゃったら、
彼氏としても心強いけど、やっぱてれてしまうよな。
 って、それどころじゃないか。


八幡「ですから陽乃さん。俺が嫌なんです。愛している雪乃の隣にいられなくなるのが
   嫌んです。雪乃が悲しむ姿を見るのが嫌なんですよ」

陽乃「わかったわ。雪乃ちゃん……、八幡に愛されているのね」

雪乃「ええ……」

 どうにか理解してくれたか。
 これが雪乃がいうところな陽乃さんが納得しての解決とはいえないかもしれないけど、
あとはゆっくりと未練を全てなくしていくしかないよな。
 雪乃と陽乃さんは、雪ノ下陽乃に関しては時間が解決することなんてないって
言ってたけど、俺はそうとは思わない。
 もちろん時間だけが解決してくれることなんていう楽観的すぎる考えなんて持ち合わせては
いない。けれど、時間をかけて解決しないといけないことがあるこつも事実だ。
 長い年月プラス入念なケア。どちらも欠くことができない大切な要素なはずだ。
 だから俺は陽乃さんの隣にもい続ける。
 雪乃と一緒に、陽乃さんが自分の足で自分の道を歩き始める日までずっと。

陽乃「だったら、雪乃ちゃんが納得してくれて、なおかつ悲しむ事もなければなにも問題が
   発生することなくわたしとお付き合いすることができることになるのよね。
   そうすれば八幡はずっと雪乃ちゃんの隣にいられるわけだから、すべてがうまくおさまるわ」

 えっとぉ…………。映画で言うならば、感動のシーンでしたよね?
なのにどうしてもう一人のヒロインに詰め寄られている修羅場が展開されているのでしょうか? 
 ほら見てくださいよ。メインヒロインたる雪乃もわけがわからないくて
呆れているっていう顔をして……………………いないだとぉ!
 おい、雪乃。どうして納得してますっていう顔をしてるんだよ。
しかも挑戦は受けてやるっていう顔をするんじゃないっ。
 どこの少年漫画のバトルものの展開やっちゃてるんだよ。
 「好敵手」って書いて「とも」って読ませるのか?
 ここだと「姉妹」って書いて「ライバル」って読ませるのが正しいのか?
 いや落ち着けよ、俺。なに馬鹿な事を考えて現実逃避しちゃってるの?
 今は目の前の敵(?)を迎え打たねばいけないしょうよ。
 でも、どっちの敵(?)を?
 なんか右も左もがっちりと抑えられてしまっていますよね?

雪乃「上等だわ。雪ノ下雪乃が受けて立つわ。私を納得させられるのなら、
   いくらでもやってみるといいわ」

 だから、雪乃も挑発するなっての。

陽乃「…………ありがとう、雪乃ちゃん」

 素顔。これが雪ノ下陽乃の素顔なのだろう。
 厚い雲に覆われていた空に、ゆっくりと日差しが差し込んでくるような柔らかい笑顔。
まだまだ遠慮がちに照らす太陽は、これから夏がやってくることを予感させる。
 今まで何度か素顔の笑顔を見る機会はあったが、これほどまですがすがしい笑顔を
見た事はない。この笑顔と比較してしまうと、
今までの笑顔はどこか遠慮があったのではないかと思えてしまう。
 まあ、陽乃さんの場合だと遠慮という概念でくくるよりは戸惑いと名付けたほうが
しっくりとくるか。なにせ今まで素顔を見せる事を封印していたんだ。
それを突然解放してもいいって言われても簡単には全てを晒す事などできやしないだろう。
 俺だって捻くれるなと雪乃に命令されてもちょっとやそこらでは改善できないもんな。

雪乃「感謝されるようなことはしていないわ。むしろこれから大変なのは八幡のほうね。
   だってね。どう切り抜けていくのか楽しみだわ」

陽乃「それはそうね。……だってさ、八幡」

八幡「まあ、そのなんだ。お手柔らかにお願いします」

 光栄にも陽乃さんの心を初めて汚した男になってしまった。
 今まで誰も立ちいる事ができないでいた真っ白で、汚れを知らないその雪原に、
土足で踏み込んでしまった。
 一生消えることがない事をしでかしてしまったのだろう。俺にとっても、
陽乃さんにとっても、そして雪乃にとっても。
 俺はなにをやらかしてしまったかを自覚している。もちろん一生背負っていかなければ
ならないと覚悟もしてる。俺の覚悟程度でいいのならいくらでもしてやろう。
 ただ、陽乃さんにとってのその初めての受け入れを俺に許してくれた事を、
俺は最上級の喜びを抱いてしまっていることは、雪乃に対する裏切りになってしまうかだけは
気がかりではある。
 まあ、雪乃のお許しが出ている時点で免責ってことでかたをつけておくか。
 とはいうものの、免責という時点で事実上の有罪であってしまうことだけは後々の禍根に
ならなければいいなと祈らずにはいられない。
 そのときはそのときか。きっと俺と雪乃ならば、
そして陽乃さんも含めた三人であれば切り抜けられるはずだ。
 今後、陽乃さんが、無垢で正直な心を、俺に語りかけてくれる機会は減ってしまうだろう。
一度痛みを知ってしまえば、本音は言いにくくなる。何かしらの建前で武装して、
オブラードにくるんだ言葉を投げかけてくることになるはずだ。
それこそ陽乃さんが使い慣れてきた仮面でもあるのだから、すぐになじんでしまうかもしれない。
 そもそもありのままの心をそのまま感情表現できる時期など限られており、
それは幼少期に卒業するイベントである。
それを今、大人になってから卒業するとは、ある意味陽乃さんらしいって言えるのかもしれない。



それは少しさびしくもあり、それと同時にこれからの成長を見られることは楽しみではある。
 ………………ただなんだ。なんだかすっげぇ怖くないか?
 今の陽乃さんでも十分すぎるほど魅力的で美しいのに、
これからもっと成長する余地があるってことだろ?
 そう考えると、今でさえ人の想像を超えて人を魅了してしまう女性は、
これからどこまで人を虜にしてしまうのだろうか。
 今日の太陽は美しいほどに朗らかであった。





第66章 終劇
第67章に続く










第66章 あとがき


次週からはエピローグ的なお話となります。
来週も木曜日にアップできると思いますので
また読んでくださると大変嬉しく思います。


黒猫 with かずさ派



乙です

ガハマさん・・・


第67章


 首が痛くなるほど見上げても、
この高層マンションにある自分の部屋がどこにあるかなんてわかるわけなかった。
昼間の明るい時に時間をかけて探し出せば見つかるかもしれない。
 でも私にはそんな酔狂なことをする趣味はないし、
首を痛めてまで自分の部屋を探す必要もなかった。
 それは今夜も同じ事。理由は少々違うけれど、
いくら自分の部屋がわかったとしても八幡が家に帰って来ているわけなんてない。
今夜は由比ヶ浜さん達と一緒にレポート完成の打ち上げに参加しているはず。
 本来なら八幡はそういった打ち上げには参加しない。
本人いわく、誘われもしたことがないとか。
 とはいうものの、由比ヶ浜さんが毎回誘っている事を知っている私としては、
毎回やや呆れた顔を作って聞いていたものだ。
 そして照れながら私と一緒に食事をするほうがいいって冗談交じりに言ってくれたのを、
自分でも女々しいとは思うのだけれど、毎回嬉しく思ってしまっている。
 でも、今日は班単位でのレポート作成であり、
なおかつ由比ヶ浜さんが強引に八幡をひっぱっていってしまったので、
今回ばかりは八幡も打ち上げに参加している。
 ほんと、しょうがない人ね。由比ヶ浜さんには甘いんだから。
 …………それにしても由比ヶ浜さん。ちょっと遠慮がなくなったのかしら? 
私は気にはしていないのだけれど、
私は由比ヶ浜さんの友達でもあるわけだからヤキモチなんて妬かないのだけれど、
それでももやもやするのは一人で夕食を取らないといけないからね。
 …………そうに決まってるわ。なんて、なにを意味もない言い訳をしているのかしら。
 素直に認めればいいのに。ほんと私も姉さんを見習わないといけないわね。
 そう珍しく姉さんを羨ましく思いながら、
私はマンションのエントランスホールを抜けていく。
綺麗に清掃されたマンション内は、すでに夜という事もあって寂しさも感じさせる。
 照明によって浮かぶ影が一つしかない事に、ここでも寂しさを感じてしまうのは、
きっと先日の姉さんの悲しみを見てしまったからかもしれない。
 やはり一人はさびしい。
高校時代では考えもしない結論だけれど、二人を知って、三人も知った今となっては、
やはり一人は寂いしいと思ってしまう。
 …………三人ではなく、四人だったわね。
 ごめんなさい、由比ヶ浜さん。やっぱり今夜の私は、あなたに嫉妬しているみたいだわ。



 玄関にあるインターホンを鳴らした後、自嘲気味に鍵を差し込んで室内に滑り込む。
 予想通り八幡はいない。
当たり前のことなのに、ここでも女々しいことをしてしまったことに、
自分でも驚いてしまっている自分もいる。
 でも、私もわかったいるのよね。だって、一人はさびしいって。
 靴を脱ぎ、明かりもつけないで奥に進んでいく。
いくら暗くても、長年住んでいればだいたいの構造を体が覚えてしまっている。
だから、月明かりと街の明かりがあれば、
うっすらと浮かぶ室内を見る事さえできれば室内の移動くらい
できないわけがない…………・。
 でも、部屋の構造はわかっていても、足元は危ういのよね。

雪乃「いったぁいぃ…………」

 我ながら可愛らしい悲鳴をあげてしまったと苦笑いが浮かびそうになる。
誰も聞いていないのだから気にする必要なんてないのに、
どうしてもいつも隣にいる八幡を意識してしまっている自分がいた。
 そして、そのことを自覚すると、
さらに苦笑いを浮かべてしまうのは当然の結末かもしれない。
 ローテーブルに脛をぶつけ、鈍い痛みが足を響かす。
 痛みを無視すると、ここにはいないとわかっている八幡を一応探す自分がいた。
 探すと言っても、リビングから始まって、キッチン・寝室・バス・トイレくらいしかない。
だから1分少々で全ての確認が終わる。
 そして私は、もう一度寝室に戻ってくると、
そのままベッドにダイブして八幡の枕に顔をうずめた。
 わずかに残っていた八幡の臭いをかぎ取っても満足できそうもない。
臭いは臭いでしかなく、八幡の事を思いださせてしまう分寂しさを増長させてしまった。

雪乃「八幡……。早く帰ってきなさいよ。雪ノ下雪乃が寂しがっているわよ。
   今すぐ抱きしめてあげないと、泣いてしまうかもしれないのよ?」

 やっぱり姉さんが悪いのよ。幸せは簡単には手にし続ける事ができないって
わからせてくるものだがら、なんだか不安になってしまったわ。
 でも、姉さんが悪いってわけでもないのよね。姉さんは苦しんでいて、
私たちの為に行動してくれていたんですもの。理不尽な言いがかりをするものじゃないわね。
 でもでもでもでも、やっぱり今夜は寂しく思ってしまうわ。
今夜みたいな事は初めてではないのに。
理由はだいぶ違うけれど、今までも何度もあったことなのに、
どうして今夜は寂しいのかしら?
 悶々とする心を発散させるべく枕を抱えてごろごろ転がってみたものの……。

雪乃「…………きゃっ」

 見事にベッドから転落し、涙で視界がかすんでしまった。

 ようやく視界がはっきりしてきたので時計を見ても、
帰って来てから10分もたっていない事に気が付き、再び涙があふれてきてしまった。
 よろよろと立ちあがり、リビングへととって返す。ソファに置いた鞄を見つけると、
中から携帯電話を取り出し、手慣れた手つきで目的の番号を呼び出した。
 ……一回。……二回。……三回。
 いつもなら気にもしないコール回数だけれど、今夜ばかりは長く感じられる。
 ……四回。……五回。

八幡「もしもし?」

雪乃「……八幡」

 数時間前に大学で別れたばかりだというのに、心がじわっと温まっていくのを実感してしまう。
このたった数時間が、何年にも感じ取れてしまうっていってしまうのは、大げさかしら?
 でも、どうでもいいことね。だって、今は八幡の声に集中したいもの。

八幡「もう家にはついたのか?」

雪乃「………………」

 いつもと同じ口調であるはずなのに、なぜかよそよそしいって思ってしまう。

八幡「……雪乃?」

雪乃「………………」

 やはり隣に由比ヶ浜さんが隣にいるってわかっているから、
ヤキモチを妬いているのかしらね。

八幡「雪乃? 何かあったのか? なあ、おい?」

 意識を耳に戻すと、私が無言で自嘲している間に八幡を不安にさせてしまったらしい。
 でも、焦って私を心配してくれている八幡を耳にして喜んでいる私もいるのよね。
 …………本当に酷い女ね。
 鏡があれば、きっと悶えながら携帯を大事そうに手にしている私が見る事が
できたかもしれない。あと、明かりも付けていればという条件も必要かしらね。
 でも、自分で考えてしまった事ではあるのだけれど、
さすがの私も、そんな自分の姿を見る勇気はないわ。
 …………八幡なら喜んで見たがるでしょうし、
私も八幡になら喜んで見せているのでしょうけど。

雪乃「ごめんなさい。ちょっと考え事をしてしまっていたわ」

八幡「雪乃の方から電話してきてくれたというのに、その放置プレイはひどくないか?」

雪乃「だから謝っているじゃない。
   でも、考えていた事はあなたの事なのだから、それで我慢なさい」

八幡「まあ、今日はそう言う事にしておくよ」

雪乃「あら? 今日は素直なのね。なにかやましい事でもしているのかしら?」

八幡「ちがうって。そんな怖い声だすなっての。
   こっちはおとなしく隅っこの方で食事をしているだけだっての」

雪乃「あら? 予想通りの展開だったようね」

 本当に今夜の私は抑えが効かないんだから。
このまま八幡に放置されていたら、どうかなってしまいそうで怖いわね。

八幡「俺が学部の誰かと楽しそうに食事していたら、それはそれで気持ちが悪いだろ?」

雪乃「由比ヶ浜さんたちがいるじゃない?」

八幡「あいつらは人気者だからな。
   最初こそ俺の隣にいて話しかけてきてくれてはいたが、
   今は連れていかれて楽しそうにしているぞ」

雪乃「どこにいても一人になってしまうのね」

 嬉しそうに話しているのに気がつかれていないかしら?
 でも駄目ね。八幡が一人でいるのを喜んでいるだなんて彼女失格ね。
 でも、今日くらいはいいわよね? 大切な彼女をほったらかしにしているんですもの。

八幡「でもそのおかげで二次会は行かなくても大丈夫そうだぞ?」

雪乃「由比ヶ浜さんが許すかしら? なんだか張り切っていたようにも見えたのだけれど?」

八幡「そんなのあいつの勝手だろ?」

雪乃「でも……」

八幡「それに、あいつは学部の奴らによって拘束中だから、
   俺を拘束する事はできない。
   そもそも俺が参加するのはこの食事だけだって話だったからな」


雪乃「でも、あとで怒るわよ、きっと」

八幡「いいんだって。俺の義務は果たした。後の事は知らん」

雪乃「もう……」

八幡「だけど、ここでの食事ももう少しかかりそうだから、帰るのは遅くなるだろうな。
   雪乃も明日があるんだから、先に寝ていていいからな」

雪乃「私も明日の準備があるから、いつ寝るかはわからないわ」

八幡「…………まっ、疲れが残らないようにな」

雪乃「えぇ」

 ばれてしまったかしら? 
 無性に八幡に会いたいのだから、
ちょっとくらい遅くなっても寝ないで待っているに決まっているじゃない。
 きっと電話の向こうで苦笑いでも浮かべているのね。
 でも、この心地よい敗北感は素直に嬉しいと思えるようになったのは、
あなたのせいなのよ?

八幡「じゃあ、あとでな」

雪乃「えぇ」

 やっぱりばれているんじゃないっ。
 あとでってことは、私が寝ないで待っているって確信しているわね。ほんとうにもぅ……。
 そして私は、八幡が通話を終了するのを確認してから携帯をソファーに置いた。






 どこもかしこも似たようなことを考える人間が多いようで、
なんらかの理由をつけて食事にへと繰り出している学生が多く見られる。
この店も大学の近くであり、低価格のわりにはそこそこ美味しく、
ボリュームもあるので男子生徒に人気がある。
 もちろん大学の女子生徒への対策もしっかりとしている。
明るい店内に、清潔感も心がけているようで評判も悪くはない。
食事に関しても男子諸君と同じく気にいっているようだ。
 ただ、食事の量に関してはたくさん食べられるではなく、
みんなでシェアできる分一人頭の食事代が減るからみたいだけれど。
 わたしはそんな騒がしい店内を迷いなく進んでいく。
店に入ってすぐに目的のテーブルは店員に確認済みだから迷うはずもなかった。
 店内を進んでいる時数人顔見知りがいたが、
笑顔で挨拶しておけばへたな詮索などしてはこない。
まあ、この店に来ている時点で打ち上げの確率が高いから、
何をしに来たなんて聞きに来る人間などいないとは思うけれど。

「じゃあ、再度レポートの完成を祝って、かんぱ~いっ」

「「「かんぱ~いっ」」」

 目的のテーブルに到達すると、どうやら盛り上がっているようだ。
これで何度目の乾杯かはわからないけれど、そんな回数当人たちにとっては意味を持たない。
 本人たちが楽しければそれでいい。
わたしもそれでいいと思うし、こんなのはその場ののりだ。
 でも、なかにはその場ののりを読まない人間もいるわけで…………、
雰囲気を読まない人間。比企谷八幡がそれの該当者であり、わたしの目的の人間でもあった。
 ただ、一通り盛り上がった彼等彼女等の話題はお酒の勢いも借りて
普段は聞けないような事を聞きだそうとする。その対象が雰囲気を読まない男であっても、
好奇心が彼等彼女等を突き動かす。
 まあ、彼等彼女等が聞きたいのは彼自身ではなくて、
彼の隣にいつもいる女性についてなんだろうけどね。

「なあ比企谷。楽しんでるか? ほら、飲めよ。今回のレポートの最大の功労者だからな」

「そうそう比企谷君ってとっつきにくいように見えるけど、しっかりとしているのよね。
 私が遅れたところなんてサポートしてくれたし」

八幡「いや、提出期限が迫ってたから…………」

「もう、ほんと~にっ、感謝してるんだよ」

 ほらほらぁ~、八幡困ってるねぇ。しかも苦笑いまで浮かべているしぃ。
 周りの人間は照れ隠しだと思っているみたいだけれど、
彼の内心はむっとしているんだろうなぁ。
きっと自分の分担部分くらいはしっかりやれよくらいは思っているんじゃないかしら?
 それとも、最初から他人は期待していないかな? 
もしかしたら一人で全部やってしまっているかもしれないか。
そうなると、問題が起きたらさりげなく自分がフォローするってかんじでってことかな?
 まあいいや。あとで問い詰めてやろう。

「ほら、飲んでぇ」

「いっつも授業が終わるとすぐ帰ってしまうから、
 なかなかこうやってゆっくりと話す機会なんてなかったよねぇ」

 そうだろうか?
 本気で話したいと思っているんなら、講義の後に捕まえればいいことだし、
それができないのなら講義の前に声をかければいいんじゃないの?、って、
きっと思ってるんだろうなぁ。
 にやにやが止まらないなぁ。
 こうして盗み聞きしているだけでも面白いけれど…………、
やっぱりもうちょっとだけ聞いていようかな。

「それにしても比企谷くんのプライベートって謎だよね」

「そうそう。あんなに綺麗な彼女がいるんだもん。最初はみんな嘘だと思っていたもんね」

「そうだよな。どうやったらあんな彼女ができるのか聞いてみたもんだよ。
 つ~か、俺にも紹介してほしいっての」

「いや~、あんたは無理でしょ~」

「そりゃないっての」

「でもさぁ。どうやってあのすっごく美人の彼女をゲットしたか聞いてみたいよね」

「ねっ。あたしも聞いてみたいなっ」

「でも、比企谷君って由比ヶ浜さんと付き合っているんだとみんな思っていたよね」

「そうそう。いっつも一緒にいるし、勉強も見てあげてるんもんね」

「比企谷ってじつは女たらし? あんな羨ましい彼女がいるのに、
 学部では由比ヶ浜さんもだもんなぁ……」

「それはあるかも」

「ねぇ~。実は浮気してるんじゃないかっていう噂もあったよね」

八幡「それはないから。そもそも由比ヶ浜とは高校のクラスメイトでもあり部活仲間でも
   あったからで、そういう邪推するような発言は由比ヶ浜に失礼だろ」

「でもねぇ~、由比ヶ浜さんもまんざらでもないって感じだし」

陽乃「それはわたしも問い詰めたいところね」

八幡「陽乃さんっ」

 わたしはするするっと八幡の背中に身を寄せると、
八幡が逃げ出さないように両腕で固定する。八幡もなれたもので、無駄な抵抗はしてこない。
 ここが自宅なら多少は抵抗したかもしれないし、
雪乃ちゃんの援護も期待できたかもしれない。
 でもここは自宅ではない。学部の人間が見ているし、
派手に動いてさらなるハプニングが起こるかもしれない。だから八幡は動かなかい。
 そのことをわたしも八幡もわかっているから、
二人とも無駄な動きはしようともしなかった。

「あっ、雪ノ下先輩だっ」

「どうして、どうして?」

「なんでいるの? 由比ヶ浜さん知ってた?」

結衣「ううん。あたしも陽乃さんが来るって聞いてないよ」

「じゃあなんで?」

陽乃「なんででしょうねぇ」

 けたけたと笑顔を見せると、みんなの高まりすぎた興奮がさらに上昇していく。
 それを見て八幡の気分は下がる下がる。もう勝手にしてくれって感じかな?
 そういうつもりなら、もっとやっちゃうぞ。
 っていうことで、えいっ。
 背中ら抱きしめてはいたけれど、わたしはさらに胸を押しつけるように腕の力を込める。
 すると、八幡はぴくっと反応したものの、やはり抵抗らしい抵抗はしてこない。
抵抗したらしたで、さらに胸をこすりつける結果になるわけだから、抵抗してこないか。
 まっ、いいか。もう一つ、えいっ。
 もう、顔だけはしっかりと反応しちゃって赤くなっちゃって。
 こんな見えない攻防をわかっているのは、わたしと八幡と…………、
あとはガハマちゃんくらいかな?
 ガハマちゃんたら、顔をひきつらせて可愛いんだから。

八幡「陽乃、さん。……どうしてここにいるんで、しょうか?
   聞いたらこたえてくれますか?
   それとも聞いてもこたえてはくれないんでしょうか?」


陽乃「もう質問しているから、その質問は意味をなさないんじゃないの?」

八幡「それもそうですね。…………だったらこたえを聞かせてもらってもいいですか?」

 やっぱりそうとう動揺はしているんだね。ほんと、可愛いんだから。うり、うりぃ。
 八幡に触れるたびにわたしのこころは喜びに満ちていく。
もうこんな馬鹿ふざけはできないと思っていた。みんなの前では当然距離を取ろうともした。
 だって八幡の隣にいたら勘違いされるから。八幡の彼女は雪乃ちゃんであって、
わたしではない。
 噂であってもわたしが八幡の彼女だって思われたら雪乃ちゃんが傷ついてしまうもの。
 でも、もうそんな心配をしなくてもいいのよね。だってわたしたちは三人だもの。

陽乃「ん? わたいは最初からこたえないなんて言ってないわよ?」

八幡「じゃあ、答えをきたせていただけると助かります」

陽乃「えっとね……、八幡に会いたかったから?」

 そう答えると、頬と頬がくっつくくらい八幡を引き寄せる。
 当然わたしの頬も赤くなるけれど、お酒の席だしいいよね。
…………お酒なんて飲んではいないけれどさ。

八幡「なんで疑問形なんですか?」

陽乃「じゃあ、本当の事を言ってもいいのかな?」

 きらりと光る怪しさに、八幡は無駄だとわかっていても逃げようと肩を震わせる。
 でもね、逃がさないわよ?
 ペナルティーとして、えいっ。

八幡「本当のところはなしでお願いします」

陽乃「じゃあ、どう答えればいいのよ?」

八幡「そうですね。建前でとか?」

陽乃「それだったら最初から聞く必要ないじゃない」

八幡「それもそうですね」

陽乃「は~い、罰をあたえま~す」

八幡「どうしてです?」

陽乃「だって、意味がない質問をしてきたじゃない?」

八幡「それで罰ですか? やりすぎでは?」

陽乃「べつにいいじゃない」

八幡「よくはないですよ」

陽乃「いいのよ」

八幡「それは陽乃さんだけですよ」

陽乃「そぉお? だったら別の罰を与えます」

八幡「俺は何もやっていないと思いますけど?」

陽乃「ぶっぶっ~。さっきから陽乃って呼んでくれていないじゃない。
   陽乃って呼ぶって言ってくれたわよね?」

「「「えぇ~~~っっっつっ!!!」」」

「おい、雪ノ下先輩の妹と付き合ってたんじゃないのかよ?」

「私もそうだと思ってたけど……」

「でも、いつも雪ノ下先輩とも一緒にいるよね」

「あぁ。俺も何度も見たことある。昼なんて一緒に食事しているしさ」

「そうそう。なんか雪ノ下先輩がお弁当作ってきているって聞いたことあるよ」

「まじでぇ…………」

 まあ、嘘ではないから八幡も否定できないか。
一部、事実が行き過ぎて噂に化けているのもあるようだけれど、
ここで否定しても効力は全くないのよね。

八幡「今それをいいますか?」

陽乃「べっつにいいじゃない?」


八幡「はぁ……、わかりましたよ」

陽乃「よろしい」

八幡「それにしてもいつまで俺にひっついているんですか?」

陽乃「八幡がこうしてほしいって望んでいるから?」

八幡「いつ俺がそんな物騒な事を言ったんですか」

陽乃「心の中で、かな?」

八幡「…………もうそれでいいです」

 諦めが肝心だよ。そのうなだれている姿も哀愁が漂っていてかわいいっ。

陽乃「それはそうと、わたし、喉が渇いたんだけど」

八幡「それは唐突ですね。なにか注文しますか?」

陽乃「そのウーロン茶でいいわよ。あまり長居するつもりもないしね」

 指差す先にはさきほどまで八幡がちびちび飲んでいたウーロン茶であろうソフトドリンクが
置かれている。
 アルコールの可能性はほとんだないかな。だって、
いつ車を運転する必要があるかわからないのに、
用心深い彼がアルコールなんて不必要なものを飲むとは思えないもの。

八幡「じゃあどうぞ」

 勝手に飲めとばかりに視線を送ってくる。でもね八幡。わたしは雪ノ下陽乃なのよ?

陽乃「ん~~」

八幡「なんですか?」

 その警戒心。ぞくぞくしちゃうなぁ。

陽乃「ほら、わたしの手って両方ともふさがってるじゃない?」

八幡「はぁ……」

陽乃「手、が、つかえ、な~いっ」

八幡「右手を使ってコップをつかめば問題ないと思いますよ。
   というよりも、むしろ両手とも俺を拘束するのをやめればいいと思いますがね」

陽乃「それは無理よ」

八幡「どうしてです?」

陽乃「八幡が逃げるじゃない」

八幡「当然です」

陽乃「そう言う事を言うんだ。お姉ちゃん、さびしいな」

八幡「あぁ~、なんといいますか」

陽乃「ほんとっさっびしいなぁ~。
   …………というわけで、寂しさを解消する為にもっとぎゅっとします」

 今度は頬と頬がしっかりこすり合わさるまでしがみつく。
まわりからの歓声と悲鳴はこの際無視かな。まあ、最初から気にしていなかったけれどね。

八幡「さすがにこれはまずいんじゃないですか」

陽乃「目が泳いでいるわねぇ」

八幡「誰のせいですか、だれのっ」

陽乃「悪いと思っているんなら誠意をみせてほしいな」

八幡「わかりましたよ」

陽乃「喉が渇いたなぁ~」

 素直がよろしい。わたしの要求通りに動きだした八幡は、
グラスを手に取り、わたしに飲まそうとする。

陽乃「おっしいなぁ。少し間違っているわね」

 目の前まできたグラスを前に、わたしはあえて口を付けない。
 それを見た周りの人たちは怪訝な顔を見せる。


ただ八幡だけはその理由がわかったらしく、重々しく苦笑いを落とす。

八幡「一応何が違うか聞いてもいいですか?」

 本当はわかってるくせに無駄な時間稼ぎをするぅ。

陽乃「ええ、いいわよ。でも、言ってもいいのかしら?」

八幡「言ってくれないとわかりませんから、どうぞ口にしてください」

陽乃「だったら言ってあげるわね。
   …………いつもみたいに、口移しで、してくれないと飲めないなぁ、と」

八幡「いっ」

陽乃「ほらはやくぅ」

 ギャラリーのボルテージはあがるあがる。
その逆に八幡からは覇気どころか体温さえも失われていってるんじゃない?
 わたしがいっちゃうのはどうかとは思うけどね。
 身動き一つしない八幡に、わたしは悠々と片手を自由にしてグラスを手に取る。
そしてそのグラスを八幡の手に這わすように縛りつけると、八幡の口へと導いていった。
 ごくり。
 八幡の喉を震わす音がわたしの頬を伝わってダイレクトに響かせる。
 かくいうわたしも、ちょっとやりすぎたかなって思わないでもない。
でもねぇ、ここまでやっちゃうと、べつにいいかなって思ってしまうのも事実なのよね。
 10センチ。もう5センチ。あと2センチ。
 数秒後には八幡の口の中にはウーロン茶が満たされているだろう。
そしてその後には……。

雪乃「はい、そこまで」

 どこから見ていたのかしら? 雪乃ちゃんったら、タイミング良すぎない?
 八幡の手からグラスをもぎ取った雪乃ちゃんは、
一気にグラスに残っていたウーロン茶の飲み干す。
 そして、これもわざとだろうな。うん、たぶんわたしへ見せびらかす為よね。
 べつに八幡の飲みかけがうらやましいとか、
間接キスがどうかとか、わたしはどうでもいいのよ?
 ほんとうよ。でも、その目はやめなさいよ。ぜったいにわたしへの見せつけね。

陽乃「雪乃ちゃんがどうしてここに? 学部が違うんじゃないかしら?」

雪乃「それをいうのならば、姉さんこそ学部が違うのではないかしらね?
   そもそも姉さんは大学院生であって大学生でさえないわね」

陽乃「わたしは八幡に会いに来ただけだもの。学部が違う事になんの意味があるのかしら?」

雪乃「それこそ姉さんが会いに来る必要なんてなんじゃない。
   恋人でもない姉さんが八幡に会ってどうするつもりかしらね?」

陽乃「それこそ妻気取りの雪乃ちゃんは、
   旦那様が帰ってくるまで自宅でお留守番していればよかったのではないかしらね?
   それとも一人でお留守番するのがさびしくなって会いにでもきたのかしら?」

 あら? 正解だったの?
 なにも言いかえせないでいるっていう事は、やっぱりそうだとか?
 たしかに顔を赤くして、両手をプルプルと震わせながら睨みつけている時点で
正解確定なのだろうけれど、それにしても雪乃ちゃんったら可愛すぎないかしら?

雪乃「ね、姉さん、っこそ、どうしてここに、いるかしら、ね? 
   姉さんこそ寂しくなって八幡に会いに来たのではないかしら?」

陽乃「そうよ」

雪乃「……えっ?」

 あぁ、これが呆気に取られるっていう顔なのかぁ。
 雪乃ちゃんの普段が普段だけに、
こういう雪乃ちゃんの顔を見られただけでもここに来た価値があったかもしれないわね。

陽乃「聞こえなかったのかしら?」

雪乃「そ、その、ええと……」

陽乃「だからわたしは、八幡に会えなくてさみしいなって思ったから会いに来たのよ。
   で、こうして癒してもらっている状態にと至るわけね」

雪乃「…………そ、そんなこと許されると思っているのかしらっ!」

 あら? 立ち直りが早いわね。さすが雪乃ちゃんってことかしら。
 でも、こうでなきゃ雪乃ちゃんらしくなくてものたりないし、
そしてなによりも、寛大な妹だからこそわたしはここにいられるのよね。
 だから、なにがあってもここからいなくなる事はないのよ。
 そして、あなたのことを裏切る事もない。

 だって、わたしは八幡のことも好きだけれど、
雪乃ちゃんのことも同じように好きなのだから。





 朝の生ぬるい空気を肺に満たし、今日も始まってしまったなと憂鬱になりかける。
朝の今の時点でこのぬるさ。
あと数時間後には外で突っ立ってるだけでも汗だくになってしまうことだろう。
 そう考えれば朝のこの時間こそが最高のパラダイスであり、
時間が過ぎるとともに地獄へと転がり落ちていくとも言えよう。
 まあ、いくら朝が大切だとご高説しようとも、眠気には勝てないんだけど。
 とにかく今朝は特別眠い。
 なにせ昨夜、雪乃と陽乃さんの乱闘は店を出たあとでも続いていたんだから。
一応二人とも常識は捨ててはいなかったらしく、店内ではおとなしく乱闘を繰り広げた。
 そして、早々に第一ラウンドを終了させた二人は、
俺を拘束しつつ自宅マンションへと戻り第二ラウンドを開始させた。
 当然ギャラリーがいない自宅では、核ミサイル級の攻撃の連続で、
側にいた俺の方が被害甚大だった事は当然の結末と言える。
 ただどうしてだろうか、と毎回悩む事がある。
あんなにも激しい戦闘を繰り広げた二人は、
昨夜の疲れなどなかったかのように朝から元気である。
 あの体力が壊滅的に少ない雪乃でさえ元気であるのだから、
きっとこの原理を解明できればノーベル賞もとれるのではないかと、
本気で思った事も、あるとかないとか。
 と、朝からどうしようもない事を考えて現実逃避を試みていると、
俺の両脇をしっかりと抑えている二人から何とも言えない甘い香りが俺に襲い掛かる。
 女って、どうしてこうもいいにおいがするんだよ?
 それも両脇からくるんだから、これこそパラダイスともいえる。
実際俺を見た通りすがりの男連中は嫉妬の眼を俺に全力投球でぶつけてくる。
 ちなみに女連中は汚いものでも見るかのような視線だ。
 …………だけどなぁ。
 お前らが思っているほど楽しくはないのが現実なんだよな。
 何を思ったのか、俺の腕を一時的に解放した陽乃さんは、数歩俺の前まで躍り出ると、
華麗なターンを披露する。
するするっと舞う姿はそれだけでも目を引いてしまう。
 からかうようにさらに体をくねらせ俺にその肢体を見せつけてくる。
 完全に夏の装いとなったその肌の露出が多すぎる姿は、
俺の視線をくぎ付けにするのに少しも苦労をしない。
むしろ視線を引き離す方こそ苦労するほどだ。

陽乃「八幡が選んでくれたこの服。どうかしら?」

 風にのって鼻をくすぐる陽乃さんの香りが、俺の体温を急上昇させる。
まだ陽は高くないっていうのに、俺の体からは汗がわき出てきてしまう。
 ふわりと舞ったスカートから覗くきゅっと引き締まったら白い脚は、
当然のごとく俺の目を奪っていく。
 そして俺の視線を素早く察知した陽乃さんは、十分な収穫を満足してか、
再び指定席となった俺の腕へと戻ってきた。

陽乃「どしかしら?」

八幡「俺が選んだからって部分はどうでもいいんじゃないですかね?
   素材がよければ何を着てもいいっていうか……」

 だからぁ、耳元で甘い誘惑を吹きつけるのはよしてくださいって。

陽乃「ん~。でも、わたしとしては八幡が喜んでくれないと意味がないのよね」

雪乃「だったらこのワンピースは八幡が気にいっているものだから、
   喜んでくれているのよね?」

 だから雪乃。お前まで朝から陽乃さんのペースにのらないでくれませんか?
 陽乃さんがアクセルだったら、雪乃はブレーキ役だったでしょうが。

八幡「どっちも似合ってるから、朝らか誘惑するのだけはよしてくれ」

 人目ものあるし、ここは大学の側なんだぞ。
今までだって大量のゴシップネタを提供しているんだ。
今朝もその一役を担う必要なんてないはずだろうに。

陽乃「でもねぇ雪乃ちゃん」

雪乃「ええ、そうみたいなのよね」

八幡「急に同盟組んじゃってなんなんだよ?」

陽乃「だってね、わたしたちは八幡の言葉を信じればいいのか。
   それとも八幡の体を信じればいいのか、悩むところなのよねぇ」

雪乃「そうね。だって八幡は捻くれているんですもの」

八幡「あぁっ、もうっ。本当にやめてくれ。
   こういうときだけ仲がいいっていうのは反則だろ」


 見事に雪ノ下姉妹の術中にはまり、ものの見事に体が従順に反応してしまう。
だから、それを隠す為につい声が大きくなってしまう。
 その反応こそが喜ばせるものだというのに、俺はときたらただただ罠にはまりまくるのみ。
 夏を匂わす日差しも、心地よく吹き抜けて行く風も、
両隣から擦り寄ってくる甘い香りの前ではどうでもいいような気がしてしまう。
 どうしてこうなってしまったのだろうか。
 どうして止めることができなかったのだろうか。
 どうしてもっと強く言うことができなかったのだろうか。
 俺の身に降り注いでくる誘惑の原因に俺は全く関わっていないとは思わないが、
そうであってもあんまりではないか。
 自分が何をしたっていうんだ。
 俺はちょっと三人の仲が良くなればいいと思っただけなのに、
どうしてこうまでも仲が良すぎるまで進展してしまったのだろうか?
 でも、その全ては俺達が選んだものだ。
 でも、その全ては俺達が手放さなかったものだ。
 でも、その全ては人生を全て費やす覚悟で決めた事だ。
 だったらこの可愛らしい誘惑も、
朝からハイテンションなのはちょっとばかし疲れはするけれど、
ちょっとした維持費だと思えば楽しめると言えよう。
 そう、右腕に手をそわす雪乃といるためにはなんだってやろうと決意したじゃないか。
 左腕にぶら下がる陽乃さんの笑顔を見る為にはなんだってやろうと決意したじゃないか。
 だったら俺は、彼女たちに負け続ければいいだけだ。
 やはり雪ノ下姉妹にはかなわない。




『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』 終劇











『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』 あとがき


これにて完結です。
最初のプランでは「高校生編」を書こうと思っていたのですが、
どうせ書くなら『はるのん狂想曲編』以降の設定に縛られない方が
話の広がりがもてるかなと考え、続編は書かない事にしました。
あとはプロット自体を書きなおしたかった事もありますが。
『愛の悲しみ編』のラストは、
やはり『はるのん狂想曲編』と同じように『愛の悲しみ編』冒頭の文章と繋がっております。
最後くらいはちゃんとしめようかなという思いですね。
次回作開始時期は未定ですが、そのうち書けたら投稿したいなと思っております。
長々と連載してきましたが、お付き合いくださりありがとうございました。
またいつの日か舞い戻ってきたときには宜しくお願いします。


黒猫 with かずさ派




乙ー

乙です
面白かった

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