やはり雪ノ下雪乃にはかなわない (39)

比企谷八幡は今日もけなげに部室に行く。主夫志望といっているが、今のこの姿はサラリーマといっていい
だろう。ただ、いつもと違うところがあるとすれば、男子高校生が持つには不似合いなぬいぐるみが入って
いる紙袋を持っているところだ。クラスメイトがこの姿を見れば、ついにぬいぐるみ相手に独り言を言い始
めたかとドン引きしてしまうだろう。
 といっても、そんなかわいそうな目で見られないような対策はしていた。教室では、誰にも見つからない
ように袋の奥に隠していた。ほんの思いつきで始めた今回の作戦のために、今まで以上の好奇の目を向けら
れるような行動は避けねばならない。
 そう。このぬいぐるみを偶然(ここ重要! 蛍光ペンでアンダーラインすべき)発見してもらう人間は一
人でいいのだ。
 でも、なんで蛍光ペンでマークしたところほど暗記できないの? しかも、5色くらいのマーカーで目が
ちかちかするような教科書にするやつほど、テストの点悪いし。そーいや、由比ヶ浜は十二色入りの蛍光ペ
ンセット買ったって、部活の時雪ノ下に見せてたな。

「うす。」
 いつもと変わらないように挨拶をする。いつもほとんどしゃべらないんだけどね。
「あら。疲れ果てたサラリーマンがやってきたのかと思ったわ。比企谷君、こんにちは。」
「最初から俺だってわかってるんじゃねーか。それに俺は主夫志望だから、リーマンにはならねーぞ。」
「それは違うわ。正確にいうのならば、腐った目をして、会社の評判を落とすような人を誰も雇わないから、
あなたはサラリーマンになれないのではないかしら。」
「もう完全に最初から俺だってわかってるって自白してるでしょ。それって。」
 雪ノ下は俺との会話に飽きたのか、本に目を戻そうとした。だが、俺がさりげなく雪ノ下が気がつくように
もった紙袋に目がとまる。
 ぬいぐるみを入れるにはやや小さい紙袋からは、パンさんの顔が出ている。ちょっと考えれば、いかにもわ
ざとらしい行動だ。
 人をだますのではあれば、わざとらしすぎるが、人をおちょくるには、わざとらしすぎるほうが効果てきめ
んだ。思惑通り雪ノ下は、俺の誘いにのってきてくれたようだ。
 最初こそちらみを装っていたが、好奇心がかったのがガン見している。どんだけパンさん好きなんだよ。
雪ノ下のコレクターレベルって、アキバのコレクターと互角なんじゃないの?
「比企谷君。その紙袋に入っているパンさんって、今クレーンゲームでとれる3種類のパンさんのうちの一
つかしら?」
「お前は何でも知ってるな。」
「この前も言ったけど、プライズ商品も一応調べて入るのよ。」
 やはり「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ。」とはかえしてはくれないんだな。


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1387361731

 たしかに、頭脳の優秀さも、外見の美しさも、かの猫娘と引けはとらないだろう。まあ、視線を顔から下におろすと、
大敗北しちゃうけど。なにあの胸。あの胸に包まれたい! もうあの人、理想のなかの理想の彼女でしょ。
雪ノ下春乃が偽物の理想の彼女ならば、あちらは本物の理想の彼女だといえよう。これ以上偽物について語っちゃうと、
人気作家になっちゃうかも。そして、アニメ化になって、映画化か。おっと、映画化はまだだった。
時系列的にもうテレビだけでいいんじゃない?
 ちょっとトリップして、現実の残念でつつましくひっそりとした胸を見つめていると、雪ノ下は怪訝な目を向けてきた。
 おっとあぶない。警察に通報されるところだった。
「ああ、覚えてるよ。これは、この前小町とゲーセン行ったときに見つけてな。そのときは全く取れなくて、
小町のかっこいい姿見せられなくて、陰で努力していたわけだ。ここ数日ゲーセンで特訓ってわけ。」
「努力という言葉に縁遠い人が努力という言葉を使うと、違う意味合いの言葉に聞こえてしまうのは不思議ね。」
「ちょっと。ここで新しい日本語作ろうとしないでくれる。」
 兄というものは、妹にかっこいい姿を見せたいものだ。しかも、スイートハニーといえる小町ならばなおさらだ。
かっこわるい姿を見せたならば、その日の夜泣いちゃうよ。
「そのパンさんは、小町さんへのプレゼントかしら?」
「いんや。小町が欲しいって言うのならば、あげるけど。小町は取ってほしいとは言ったんだけど、
欲しいとは言ってなかったな。」
 妙な含みがある発言をする妹だ。将来悪い女になるんじゃないかと、お兄ちゃん心配だよ。
「そう。」
 こちらの彼女も妙な含みを持たせた発言をなさる。国語学年3位の俺でも、行間を読まないといけない会話
ばかりだと疲れちゃう。まあ、今回の質問の回答は簡単だ。なにせ、自分が誘導したのだから。
「昨日の帰りにゲーセン寄ってとったんだけど、そのまま鞄にいれたままだったんよ。妙に鞄が膨れてるなって
思ったてたらさ。」
「その大きさのものに気が付けないだなんて、ほんと残念な人ね。」
 あちらさんも気づいているのだろう。わざとぬいぐるみを持ってきていることに。わざとだと知りながらも、
その流れに乗らなければならないときもある。
 だが、突然にも会話は終了してしまい、雪ノ下は再び読書に戻ってしまった。

 雪ノ下に再び関心を持たせようと廊下のドアを眺めながら考えていると
「由比ヶ浜さんは、三浦さんたちとカラオケに行くから、今日は休むってメールが来たわよ。

私には。」
 なにその倒置法。いかにも「私には」を強調してるだろ。使用方法は正しいけどさ。もうその勝ち誇ったような顔。どんだけ由比ヶ浜好きなんだよ。
「なんか三浦たちがカラオケ行くって騒いでいたな。あんな大声で宣言しなくてもいいと思うんだけど、あれってリア充ですって宣言してるの?」
「そんな風に考えるのは、あなたくらいよ。」
「カラオケ行って、ゲーセン行って、プリクラとって、ほんと充実した生活だこと。」
「あなたこそ、ここ数日ゲームセンターにかよっていたじゃない。」
「そーだけどさ。そのかいもあって全3種類コンプできたのだから、充実感はあるな。」
「おめでとう。」
「全然心がこもってない謝辞ありがとさん。」
「ところで、そのパンさんどうするのかしら? 小町さんは欲しがってはないのよね。」
 よしっ! きたーと心の中でガッツポーズをしてしまった。
「そうだなぁ。戸塚とか貰ってくれないかな。戸塚、人形似合いすぎだろ。他だったら、戸塚とか戸塚とか戸塚くらいしか思いつかないな。」
「どれだけ戸塚君が好きなのよ。今度戸塚君に注意勧告する必要があるようね。」
「それだけはやめてくれ! 戸塚だぞ。心のオアシスを奪わないでくれ。」
 これが漫画だったら血の涙を流していたに違いないと確信できる。
 ちょっと引き気味の雪ノ下だったが、本気で注意勧告する気はないようだ。もしほんとにしてたら、泣いちゃうよ八幡。
 雪ノ下は、パンさんの行方が気になるようだ。しつこく聞くの恥ずかしいのだろう。ただ、目では訴えてくる。こえーよ。その視線で心に穴があいちゃうから。
「もしよかったら、家にあるのも含めて、貰ってくれないか? ほら、人形も大切にしてくれる人にわたったほうがいいだろ。」
「そうね、比企谷君がもっていても、ほこりが被るだけだもの。」
「なに上から目線?」
「比企谷君。私にパンさんを下さい。」
 丁寧なものいいなんだけど、魂を削られるのはなんでだろ。雪ノ下春乃といい、雪ノ下姉妹は精神攻撃魔法でも使えるのかもしれない。
「ああいいよ。明日持ってこようか? それとも今日の帰りに・・・。」
「さあ、今日の部活は終りにしましょう。由比ヶ浜さんもこないし、それに、依頼もなさそうだし。」
「そうだな、行きますか。」
「鍵を返してから行くから、自転車を持って校門の前で待っててちょうだい。」

 雪ノ下は、こちらの返事を待たずに帰る準備を始めていた。

 自転車をとって、校門まで行くと雪ノ下は既に待っていた。ちらっと俺を確認すると、
そのまま歩きだしてしまう。
 ですよねー。さすがに雪ノ下と二人で下校する姿をみんなに見せるわけにはいくまい。
ましてや、今は部活動の時間帯で、生徒も多い。もし一緒に帰っているところを見られたら、
明日何か噂になるかもしれない。今まで日陰でひっそりしていたが、ついに高校デビューしちゃう? 
 と、妄想に浸っていると、雪ノ下は校門を出てすぐそばで待っていた。
「なにをくずくず歩いているのかしら。ちゃんと道案内してほしいのだけど。」
「いやぁ、人も多いし、一緒に帰ってるのを見られると、お前が困っちゃうだろ?」
「何を言ってるのかしら。しっかり道案内してくれないと、あなたの家に行けないじゃない。
それに、他人にどう思われようが、私には関係ないわ。」
 ららぽでは、知り合いがいなければ問題ないと言っていたが、これは大きな進歩だと言える
のではないだろうか。自然と足取りも軽くなった気がした。

 家に着くと、雪ノ下をリビングに案内し、待っててもらうことにした。
「その辺の本棚でも観ていてくれよ。なんかしら興味がありそうなものがあったら、
借りていってもいいぞ。」
 雪ノ下は、返事の代わりに本棚を物色し始めた。
 人んちの本棚って面白いよな。なんか今まで知らなかった人の趣味とかわかったりするし。
いやいやぼっちだし、人んの本棚など、見る機会なんてないのでした。妄想乙。
 ぬいぐるみをもってリビングに戻ってくると、雪ノ下は一冊の本を持っていた。
「この本、読んでたのね。」
 この本とは、ららぽで雪ノ下が熱く語っていたパンさんの原書だ。わりと大きめな本屋で
見つかると思って探してはみたもののみつからなかった。結局はアマゾンで買ったのだが、
ほんとネットって便利だよな。本屋で注文て、なんの苦行だよ。小難しい本を注文するのであっても、
お前頭いい振りしてんじゃないかと思われてないか勘ぐってしまう。ましてや、ライトノベルだと、
タイトルを言うのでさえ赤くなってしまうぞ! 作家さん、ちょっと考えてください。
「まあな。なにも知りもしないで語るのもへんだしな。一応な。」
 照れ隠しもあってか、ちょっとぶっきらぼうにぬいぐるみを渡した。
「ありがとう。」
 ちょっと照れくさそうに顔をぬいぐるみにうずめる姿、ちょーかわいいじゃないか。
さんざんぼっちレベルを上げてきた自分であっても、勘違いしてしまいそうだ。


 もしかしたら、これが雪ノ下雪乃の素顔かもしれないと思ってしまった。
普段の雪ノ下も本当の雪ノ下雪乃かもしれないが、どこか傷つかないように武装しているようにも見える。
春乃のような仮面とはいかないまでも、似たような環境で育ってきたせいか、同じような自分を
作ってしまったのかもしれない。そう考えると、雪ノ下春乃の素顔もいつの日か見てみたい気もした。
ただ、それを見てしまったら引き返せなくなりそうで怖い! パンドラの箱は希望が残っていたけど、
あの仮面の下には、なにがあるのだろうか?

「ぬいぐるみ入れる袋もってくるから、ちょっと待ってな。小町が服買ったときにとっておいた
大きな紙袋があるはずだから。」
 なんで女ってデパートとかの紙袋とっておくのだろうか? 紙袋って、そんなには使い道ない気も
するんだよな。最近の紙袋はデザインが良いのあるからとっておきたい気持ちもわからないでもないが。
「勝手に小町さんのを使っても大丈夫なの?」
「あぁ、、勝手に使っていいのと、使ったらめっちゃ怒られるの分けられてるから大丈夫。」
「そのいいようだと、過去に勝手に使ってしまったことがあったかのような言いようね。」
「人間、失敗を反省し、成長していくもんなんだよ。」
「ここに、反省も成長もしていない見本がいるのはなんなんでしょうね。」
「俺もちょっとずつだが成長してるんだよ。はいよ。この紙袋使ってくれよ。この大きさなら入るだろう。」
「ありがとう。・・・そうね。あなたはかわっていってるわ。」
 雪ノ下の声は後半声が小さくて、なにをいってるのか聞き取れなかった。「ありがとう」という言葉が
事務的だったので、この言葉のほうが印象に残っていた。

「さて、送っていく。荷物も大きいしな。」
「あら。そのような気遣いができる程度には成長したのね。」
「なにを言ってる。いつも小町の荷物持ちをしてるぞ。」
「小町さん限定なのね。」
 他にもなにか言いたそうだが、何も言ってこない。家族を大切にするのは当然だろう。
小町が困っていたら、台風だろうが迎えに行く。あ、大雨の時、父親が駅まで傘持ってきてほしいって
連絡してきたが、あれこれいいわけして行かなかったっけ。訂正。家族じゃなくて、
妹を大切にするのは当然でした。仕方がない。これが千葉スタンダードだしね。

「さ、行くぞ。」
と、自転車をおして歩こうとしたが、、雪ノ下は自転車の自転車の荷台をつかむと、なにか考え

ごとをし始めた。
「ひ、・・・比企谷君。いつも小町さんを乗せて走ってるそうね。」
「そうだな。最近では、楽をすることを覚えたか、朝送っていくことが増えたぞ。」
 ヒッキーならぬ、アッシーでした。ほんと、小町が将来悪女にならないか心配になっちゃうよ、
おにいちゃん。
「だったら、私を乗せることも可能ね。お願いしてもいいかしら。」
「別にいけど、しっかりつかまっててくれよ。。」
「信頼してるわ。」
 心ばかりの胸をぎゃっと背中に押し付けて、俺の腰にしっかりと腕をまわしてくることはなかった。
いやいや期待なんてしてません、ほんとだって。ね、信じてください。二人乗りのカップルをみて、
うらやましいなんておもったことなんてないんだからね。
 実際は、軽く腰をつかんだ程度だった。それでも鼓動は早くなる。
 奉仕部での部室と同じような無言の時が進む。いつもはとくに何も感じていないが、今は違う。
無言の時間を苦痛に感じることなど少ない。むしろ、無言でいるときのほうが心地いい。
ただ、今流れている時間は苦痛ではないが、少し心が締め付けられる。
だが、この時間がもっと続けばにいいのにと、がらにもないことさえ思ってしまった。

「今日はありがとう。」
「別に大したことはしてない。」
 今日はよく「ありがとう」を聞く日だな。そんな人間観察をしていると、意表をつく言葉がくるもんだ。
ほんと、身構えてないときに爆弾発言よしてください。
「よかったら、紅茶でも飲んでいかない? 今度部室に持っていこうとかんがえているのがあるのだけど、
持っていく前に感想を聞かせてくれると助かるわ。由比ヶ浜さんは、こういったことの意見は
参考にならないところがあるし。・・・別に、彼女の意見を聞かないというわけじゃないのよ。
皆で飲むものなのだから。・・・その・・・。」
「ありがたく飲んでいくよ。自転車で二人乗りしてきたし、喉も乾いたしな。」
 ちょっと饒舌な雪ノ下もかわいいじゃないか。自分のことを棚に上げ、いつもの自分では
考えられない発言に戸惑っていた。

 部屋に着くと雪ノ下は、紅茶の準備を始めた。とても速い動いているようにみえるが、
無駄がない分早く感じるのだろう。ひとつひとつの作業がしっかりしている。
自分で紅茶を入れてみて入るものの、雪ノ下のような味を出すことはできない。
高校卒業後、雪ノ下の紅茶が飲めなくなってしまったら、紅茶は飲むことはなくなってしまうのだろうか。
最高の味を知ってい待っては、並みのものは受付ない。芸能人が売れなくなっても生活水準をなかなか下げられな

いのと同じなんだろう。
 ふと、なにをしていればいいかわからす、室内を見回していると、今日あげたパンさんが既に飾ってあるじゃないか。目で見えない速度で動けるんじゃないかと、本気で思ってしまいそうだ。
 しかし、足元に置かれた荷物をみると、俺が雪ノ下にあげた3種類のパンさんがあるじゃないか。雪ノ下のほうに視線を向けると、俺は鳩が豆鉄砲をくらったようなバカな顔をしているのだろうか。雪ノ下は、子供が親にかわいいいたずらをしたときのような、満面の笑みを浮かべていた。
ゲームセンターに貯金したこづかいも、ここ数日ゲームセンターに費やした時間も、雪ノ下をからかおうとした作戦があらぬ方向にいってしまったことも、この笑顔が代価だったのしたのならば、十分におつりが出てしまうはずだ。
自然と自分も笑みをうかべてしまっていた。
「比企谷君。子供が見たら泣き出してしまう笑顔はやめなさい。子供にトラウマを植え付けたいの?」
「おい。俺にトラウマを植え付けるのやめてくれない?」
「そう? だったら、私だけにその笑顔を見せてくれればいいわ。」
 俺はどうのよう返事をすればいいか思いつかなかった。いや。言いたい言葉があっても、、言葉に出すことができなかったのではないだろうか。ただ、言葉に出さなくとも、この雪ノ下雪乃ならばわかってしまうのだろう。
 雪ノ下が紅茶を準備している姿を俺はどんな顔でみているのだろうか。
 雪ノ下雪乃は時折俺のことを見ながら、やさしい笑顔で紅茶を入れていた。

 やはり雪ノ下雪乃にはかなわない。

 完

 短編なんだけど、よろしくお願いします。お手柔らかに。

すみません。次投稿するときは気をつけます。

今から改行しなおしたに貼り直したほうがいいですか?

時間があったので。。。。



 比企谷八幡は今日もけなげに部室に行く。主夫志望といっているが、今のこの姿はサラリーマといっていいだろう。

ただ、いつもと違うところがあるとすれば、男子高校生が持つには不似合いなぬいぐるみが入っている紙袋を持っている

ところだ。クラスメイトがこの姿を見れば、ついにぬいぐるみ相手に独り言を言い始めたかとドン引きしてしまうだろう。

 といっても、そんなかわいそうな目で見られないような対策はしていた。教室では、誰にも見つからないように袋の奥

に隠していた。ほんの思いつきで始めた今回の作戦のために、今まで以上の好奇の目を向けられるような行動は避けねば

ならない。

 そう。このぬいぐるみを偶然(ここ重要! 蛍光ペンでアンダーラインすべき)発見してもらう人間は一人でいいのだ。

 でも、なんで蛍光ペンでマークしたところほど暗記できないの? しかも、5色くらいのマーカーで目がちかちかする

ような教科書にするやつほど、テストの点悪いし。そーいや、由比ヶ浜は十二色入りの蛍光ペンセット買ったって、

部活の時雪ノ下に見せてたな。




「うす。」

 いつもと変わらないように挨拶をする。いつもほとんどしゃべらないんだけどね。

「あら。疲れ果てたサラリーマンがやってきたのかと思ったわ。比企谷君、こんにちは。」

「最初から俺だってわかってるんじゃねーか。それに俺は主夫志望だから、リーマンにはならねーぞ。」

「それは違うわ。正確にいうのならば、腐った目をして、会社の評判を落とすような人を誰も雇わないから、

あなたはサラリーマンになれないのではないかしら。」

「もう完全に最初から俺だってわかってるって自白してるでしょ。それって。」

 雪ノ下は俺との会話に飽きたのか、本に目を戻そうとした。だが、俺がさりげなく雪ノ下が気がつくようにもった紙袋

に目がとまる。

 ぬいぐるみを入れるにはやや小さい紙袋からは、パンさんの顔が出ている。ちょっと考えれば、いかにもわざとらしい行動だ。

 人をだますのではあれば、わざとらしすぎるが、人をおちょくるには、わざとらしすぎるほうが効果てきめんだ。

思惑通り雪ノ下は、俺の誘いにのってきてくれたようだ。

 最初こそちらみを装っていたが、好奇心がかったのがガン見している。どんだけパンさん好きなんだよ。

雪ノ下のコレクターレベルって、アキバのコレクターと互角なんじゃないの?

「比企谷君。その紙袋に入っているパンさんって、今クレーンゲームでとれる3種類のパンさんのうちの一つかしら?」

「お前は何でも知ってるな。」

「この前も言ったけど、プライズ商品も一応調べて入るのよ。」

 やはり「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ。」とはかえしてはくれないんだな。

 たしかに、頭脳の優秀さも、外見の美しさも、かの猫娘と引けはとらないだろう。まあ、視線を顔から下におろすと、

大敗北しちゃうけど。なにあの胸。あの胸に包まれたい! もうあの人、理想のなかの理想の彼女でしょ

。雪ノ下陽乃が偽物の理想の彼女ならば、あちらは本物の理想の彼女だといえよう。これ以上偽物について語っちゃうと、

人気作家になっちゃうかも。そして、アニメ化になって、映画化か。おっと、映画化はまだだった。

時系列的にもうテレビだけでいいんじゃない?

 ちょっとトリップして、現実の残念でつつましくひっそりとした胸を見つめていると、雪ノ下は怪訝な目を向けてきた。

 おっとあぶない。警察に通報されるところだった。

「ああ、覚えてるよ。これは、この前小町とゲーセン行ったときに見つけてな。そのときは全く取れなくて、

小町にかっこいい姿見せられなくて、陰で努力していたわけだ。ここ数日ゲーセンで特訓ってわけ。」

「努力という言葉に縁遠い人が努力という言葉を使うと、違う意味合いの言葉に聞こえてしまうのは不思議ね。」

「ちょっと。ここで新しい日本語作ろうとしないでくれる。」

 兄というものは、妹にかっこいい姿を見せたいものだ。しかも、スイートハニーといえる小町ならばなおさらだ。

かっこわるい姿を見せたならば、その日の夜泣いちゃうよ。

「そのパンさんは、小町さんへのプレゼントかしら?」

「いんや。小町が欲しいって言うのならば、あげるけど。小町は取ってほしいとは言ったんだけど、

欲しいとは言ってなかったな。」

 妙な含みがある発言をする妹だ。将来悪い女になるんじゃないかと、お兄ちゃん心配だよ。

「そう。」

 こちらの彼女も妙な含みを持たせた発言をなさる。国語学年3位の俺でも、行間を読まないといけない会話ばかりだと

疲れちゃう。まあ、今回の質問の回答は簡単だ。なにせ、自分が誘導したのだから。

「昨日の帰りにゲーセン寄ってとったんだけど、そのまま鞄にいれたままだったんよ。

妙に鞄が膨れてるなって思ったてたらさ。」

「その大きさのものに気が付けないだなんて、ほんと残念な人ね。」

 あちらさんも気づいているのだろう。わざとぬいぐるみを持ってきていることに。

わざとだと知りながらも、その流れに乗らなければならないときもある。

 だが、突然にも会話は終了してしまい、雪ノ下は再び読書に戻ってしまった。

 雪ノ下に再び関心を持たせようと廊下のドアを眺めながら考えていると

「由比ヶ浜さんは、三浦さんたちとカラオケに行くから、今日は休むってメールが来たわよ。私には。」

 なにその倒置法。いかにも「私には」を強調してるだろ。使用方法は正しいけどさ。

もうその勝ち誇ったような顔。どんだけ由比ヶ浜好きなんだよ。

「なんか三浦たちがカラオケ行くって騒いでいたな。あんな大声で宣言しなくてもいいと思うんだけど、

あれってリア充ですって宣言してるの?」

「そんな風に考えるのは、あなたくらいよ。」

「カラオケ行って、ゲーセン行って、プリクラとって、ほんと充実した生活だこと。」

「あなたこそ、ここ数日ゲームセンターにかよっていたじゃない。」

「そーだけどさ。そのかいもあって全3種類コンプできたのだから、充実感はあるな。」

「おめでとう。」

「全然心がこもってない謝辞ありがとさん。」

「ところで、そのパンさんどうするのかしら? 小町さんは欲しがってはないのよね。」

よしっ! きたーと心の中でガッツポーズをしてしまった。

「そうだなぁ。戸塚とか貰ってくれないかな。戸塚、人形似合いすぎだろ。他だったら、

戸塚とか戸塚とか戸塚くらいしか思いつかないな。」

「どれだけ戸塚君が好きなのよ。今度戸塚君に注意勧告する必要があるようね。」

「それだけはやめてくれ! 戸塚だぞ。心のオアシスを奪わないでくれ。」

 これが漫画だったら血の涙を流していたに違いないと確信できる。

 ちょっと引き気味の雪ノ下だったが、本気で注意勧告する気はないようだ。

もしほんとにしてたら、泣いちゃうよ八幡。

 雪ノ下は、パンさんの行方が気になるようだ。しつこく聞くの恥ずかしいのだろう。

ただ、目では訴えてくる。こえーよ。その視線で心に穴があいちゃうから。

「もしよかったら、家にあるのも含めて、貰ってくれないか? 

ほら、人形も大切にしてくれる人にわたったほうがいいだろ。」

「そうね、比企谷君がもっていても、ほこりが被るだけだもの。」

「なに上から目線?」

「比企谷君。私にパンさんを下さい。」

 丁寧なものいいなんだけど、魂を削られるのはなんでだろ。

雪ノ下陽乃といい、雪ノ下姉妹は精神攻撃魔法でも使えるのかもしれない。

「ああいいよ。明日持ってこようか? それとも今日の帰りに・・・。」

「さあ、今日の部活は終りにしましょう。由比ヶ浜さんもこないし、それに、依頼もなさそうだし。」

「そうだな、行きますか。」

「鍵を返してから行くから、自転車を持って校門の前で待っててちょうだい。」

 雪ノ下は、こちらの返事を待たずに帰る準備を始めていた。




自転車をとって、校門まで行くと雪ノ下は既に待っていた。

ちらっと俺を確認すると、そのまま歩きだしてしまう。

 ですよねー。さすがに雪ノ下と二人で下校する姿をみんなに見せるわけにはいくまい。

ましてや、今は部活動の時間帯で、生徒も多い。もし一緒に帰っているところを見られたら、

明日何か噂になるかもしれない。今まで日陰でひっそりしていたが、ついに高校デビューしちゃう? 

 と、妄想に浸っていると、雪ノ下は校門を出てすぐそばで待っていた。

「なにをくずくず歩いているのかしら。ちゃんと道案内してほしいのだけど。」

「いやぁ、人も多いし、一緒に帰ってるのを見られると、お前が困っちゃうだろ?」

「何を言ってるのかしら。しっかり道案内してくれないと、あなたの家に行けないじゃない。

それに、他人にどう思われようが、私には関係ないわ。」

 ららぽでは、知り合いがいなければ問題ないと言っていたが、

これは大きな進歩だと言えるのではないだろうか。自然と足取りも軽くなった気がした。




 家に着くと、雪ノ下をリビングに案内し、待っててもらうことにした。

「その辺の本棚でも観ていてくれよ。

なんかしら興味がありそうなものがあったら、借りていってもいいぞ。」

 雪ノ下は、返事の代わりに本棚を物色し始めた。

 人んちの本棚って面白いよな。なんか今まで知らなかった人の趣味とかわかったりするし。

いやいやぼっちだし、人んの本棚など、見る機会なんてないのでした。妄想乙。

 ぬいぐるみをもってリビングに戻ってくると、雪ノ下は一冊の本を持っていた。

「この本、読んでたのね。」

 この本とは、ららぽで雪ノ下が熱く語っていたパンさんの原書だ。

わりと大きめな本屋で見つかると思って探してはみたもののみつからなかった。

結局はアマゾンで買ったのだが、ほんとネットって便利だよな。本屋で注文て、なんの苦行だよ。

小難しい本を注文するのであっても、お前頭いい振りしてんじゃないかと思われてないか勘ぐってしまう。

ましてや、ライトノベルだと、タイトルを言うのでさえ赤くなってしまうぞ! 

作家さん、ちょっと考えてください。

「まあな。なにも知りもしないで語るのもへんだしな。一応な。」

 照れ隠しもあってか、ちょっとぶっきらぼうにぬいぐるみを渡した。

「ありがとう。」

 ちょっと照れくさそうに顔をぬいぐるみにうずめる姿、ちょーかわいいじゃないか。

さんざんぼっちレベルを上げてきた自分であっても、勘違いしてしまいそうだ。

もしかしたら、これが雪ノ下雪乃の素顔かもしれないと思ってしまった。

普段の雪ノ下も本当の雪ノ下雪乃かもしれないが、どこか傷つかないように武装しているようにも見える。

陽乃のような仮面とはいかないまでも、似たような環境で育ってきたせいか、

同じような自分を作ってしまったのかもしれない。

そう考えると、雪ノ下陽乃の素顔もいつの日か見てみたい気もした。

ただ、それを見てしまったら引き返せなくなりそうで怖い! 

パンドラの箱は希望が残っていたけど、あの仮面の下には、なにがあるのだろうか?




「ぬいぐるみ入れる袋もってくるから、ちょっと待ってな。

小町が服買ったときにとっておいた大きな紙袋があるはずだから。」

 なんで女ってデパートとかの紙袋とっておくのだろうか? 

紙袋って、そんなには使い道ない気もするんだよな。

最近の紙袋はデザインが良いのあるからとっておきたい気持ちもわからないでもないが。

「勝手に小町さんのを使っても大丈夫なの?」

「あぁ、、勝手に使っていいのと、使ったらめっちゃ怒られるの分けられてるから大丈夫。」

「そのいいようだと、過去に勝手に使ってしまったことがあったかのような言いようね。」

「人間、失敗を反省し、成長していくもんなんだよ。」

「ここに、反省も成長もしていない見本がいるのはなんなんでしょうね。」

「俺もちょっとずつだが成長してるんだよ。はいよ。この紙袋使ってくれよ。この大きさなら入るだろう。」

「ありがとう。・・・そうね。あなたはかわっていってるわ。」

雪ノ下の声は後半声が小さくて、なにをいってるのか聞き取れなかった。

「ありがとう」という言葉が事務的だったので、この言葉のほうが印象に残っていた。




「さて、送っていく。荷物も大きいしな。」

「あら。そのような気遣いができる程度には成長したのね。」

「なにを言ってる。いつも小町の荷物持ちをしてるぞ。」

「小町さん限定なのね。」

 他にもなにか言いたそうだが、何も言ってこない。家族を大切にするのは当然だろう。

小町が困っていたら、台風だろうが迎えに行く。

あ、大雨の時、父親が駅まで傘持ってきてほしいって連絡してきたが、

あれこれいいわけして行かなかったっけ。

訂正。家族じゃなくて、妹を大切にするのは当然でした。仕方がない。これが千葉スタンダードだしね。

さ、行くぞ。」

と、自転車をおして歩こうとしたが、、雪ノ下は自転車の荷台をつかむと、なにか考えごとをし始めた。


「ひ、・・・比企谷君。いつも小町さんを乗せて走ってるそうね。」

「そうだな。最近では、楽をすることを覚えたか、朝送っていくことが増えたぞ。」

 ヒッキーならぬ、アッシーでした。

ほんと、小町が将来悪女にならないか心配になっちゃうよ、おにいちゃん。

「だったら、私を乗せることも可能ね。お願いしてもいいかしら。」

「別にいけど、しっかりつかまっててくれよ。。」

「信頼してるわ。」

 心ばかりの胸をぎゃっと背中に押し付けて、俺の腰にしっかりと腕をまわしてくることはなかった。

いやいや期待なんてしてません、ほんとだって。ね、信じてください。

二人乗りのカップルをみて、うらやましいなんておもったことなんてないんだからね。

 実際は、軽く腰をつかんだ程度だった。それでも鼓動は早くなる。

 奉仕部での部室と同じような無言の時が進む。いつもはとくに何も感じていないが、今は違う。

無言の時間を苦痛に感じることなど少ない。むしろ、無言でいるときのほうが心地いい。

ただ、今流れている時間は苦痛ではないが、少し心が締め付けられる。

だが、この時間がもっと続けばにいいのにと、がらにもないことさえ思ってしまった。




「今日はありがとう。」

「別に大したことはしてない。」

 今日はよく「ありがとう」を聞く日だな。そんな人間観察をしていると、意表をつく言葉がくるもんだ。

ほんと、身構えてないときに爆弾発言よしてください。

「よかったら、紅茶でも飲んでいかない? 今度部室に持っていこうとかんがえているのがあるのだけど、

持っていく前に感想を聞かせてくれると助かるわ。

由比ヶ浜さんは、こういったことの意見は参考にならないところがあるし。

・・・別に、彼女の意見を聞かないというわけじゃないのよ。皆で飲むものなのだから。・・・その・・・。」

「ありがたく飲んでいくよ。自転車で二人乗りしてきたし、喉も乾いたしな。」

 ちょっと饒舌な雪ノ下もかわいいじゃないか。

自分のことを棚に上げ、いつもの自分では考えられない発言に戸惑っていた。

部屋に着くと雪ノ下は、紅茶の準備を始めた。とても速く動いているようにみえるが、

無駄がない分早く感じるのだろう。ひとつひとつの作業がしっかりしている。

自分で紅茶を入れてみて入るものの、雪ノ下のような味を出すことはできない。

高校卒業後、雪ノ下の紅茶が飲めなくなってしまったら、紅茶は飲むことはなくなってしまうのだろうか。

最高の味を知ってしまっては、並みのものは受付ない。

芸能人が売れなくなっても生活水準をなかなか下げられないのと同じなんだろう。

 ふと、なにをしていればいいかわからす、室内を見回していると、

今日あげたパンさんが既に飾ってあるじゃないか。

目で見えない速度で動けるんじゃないかと、本気で思ってしまいそうだ。

 しかし、足元に置かれた荷物をみると、俺が雪ノ下にあげた3種類のパンさんがあるじゃないか。

雪ノ下のほうに視線を向けると、俺は鳩が豆鉄砲をくらったようなバカな顔をしているのだろうか。

雪ノ下は、子供が親にかわいいいたずらをしたときのような、満面の笑みを浮かべていた。

ゲームセンターに貯金したこづかいも、ここ数日ゲームセンターに費やした時間も、

雪ノ下をからかおうとした作戦があらぬ方向にいってしまったことも、

この笑顔が代価だったのしたのならば、十分におつりが出てしまうはずだ。

自然と自分も笑みをうかべてしまっていた。

「比企谷君。子供が見たら泣き出してしまう笑顔はやめなさい。子供にトラウマを植え付けたいの?」

「おい。俺にトラウマを植え付けるのやめてくれない?」

「そう? だったら、私だけにその笑顔を見せてくれればいいわ。」

 俺はどうのよう返事をすればいいか思いつかなかった。
いや。言いたい言葉があっても、、言葉に出すことができなかったのではないだろうか。

ただ、言葉に出さなくとも、この雪ノ下雪乃ならばわかってしまうのだろう。

 雪ノ下が紅茶を準備している姿を俺はどんな顔でみているのだろうか。

 雪ノ下雪乃は時折俺のことを見ながら、やさしい笑顔で紅茶を入れていた。




やはり雪ノ下雪乃にはかなわない。





色々ご指摘ありがとうございました。

書き方については、すみませんでした。
ワードで書き終えたのを、そのまま貼ったことと
なにもルールを知らなかったのが間違いの原因でした。
それにもかかわらず、読みにくいのを読んでくれてありがとう!

マスケラじゃなくて、雪乃のブックカバーが黒猫だったので。

『やはり雪ノ下雪乃にはかなわない』


<部室近くの廊下>

比企谷八幡は今日もけなげに部室に行く。

主夫志望といっているが、今のこの姿はサラリーマンといっていいだろう。

ただ、いつもと違うところがあるとすれば、

男子高校生が持つには不似合いなぬいぐるみが入っている紙袋を持っているところだ。

クラスメイトがこの姿を見れば、

ついにぬいぐるみ相手に独り言を言い始めたかとドン引きしてしまうだろう。

といっても、そんなかわいそうな目で見られないような対策はしていた。

教室では、誰にも見つからないように袋の奥に隠していた。

ほんの思いつきで始めた今回の作戦のために、

今まで以上の好奇の目を向けられるような行動は避けねばならない。

そう。

このぬいぐるみを偶然(ここ重要! 蛍光ペンでアンダーラインすべき)発見して

もらう人間は一人でいいのだ。

でも、なんで蛍光ペンでマークしたところほど暗記できないの? 

しかも、5色くらいのマーカーで目がちかちかするような教科書にするやつほど、

テストの点悪いし。

そーいや、由比ヶ浜は十二色入りの蛍光ペンセット買ったって、

部活の時雪ノ下に見せてたな。

<部室>

八幡「うす。」

いつもと変わらないように挨拶をする。

いつもほとんどしゃべらないんだけどね。

雪乃「あら。疲れ果てたサラリーマンがやってきたのかと思ったわ。

   比企谷君、こんにちは。」

八幡「最初から俺だってわかってるんじゃねーか。

   それに俺は主夫志望だから、リーマンにはならねーぞ。」

雪乃「それは違うわ。

   正確にいうのならば、腐った目をしていて、

   会社の評判を落とすような人を誰も雇わないから、

   あなたはサラリーマンになれないのではないかしら。」

八幡「もう完全に最初から俺だってわかってるって自白してるでしょ。それって。」

雪ノ下は俺との会話に飽きたのか、本に目を戻そうとした。

だが、俺がさりげなく雪ノ下が気がつくようにもった紙袋に目がとまる。

ぬいぐるみを入れるにはやや小さい紙袋からは、パンさんの顔が出ている。

ちょっと考えれば、いかにもわざとらしい行動だ。

人をだますのではあれば、わざとらしすぎるが、人をおちょくるには、

わざとらしすぎるほうが効果てきめんだ。

思惑通り雪ノ下は、俺の誘いにのってきてくれたようだ。

最初こそちらみを装っていたが、好奇心がかったのかガン見している。

どんだけパンさん好きなんだよ。

雪ノ下のコレクターレベルって、アキバのコレクターと互角なんじゃないの?

雪乃「比企谷君。その紙袋に入っているパンさんって、

   今クレーンゲームでとれる3種類のパンさんのうちの一つかしら?」

八幡「お前は何でも知ってるな。」

雪乃「この前も言ったけど、プライズ商品も一応調べて入るのよ。」

やはり「なんでもは知らないわよ。知ってることだけ。」とはかえしてはくれないんだな。

たしかに、頭脳の優秀さも、外見の美しさも、かの猫娘と引けはとらないだろう。

まあ、視線を顔から下におろすと、大敗北しちゃうけど。

なにあの胸。

あの胸に包まれたい! 

もうあの人、理想のなかの理想の彼女でしょ。

雪ノ下陽乃が偽物の理想の彼女ならば、あちらは本物の理想の彼女だといえよう。

これ以上偽物について語っちゃうと、人気作家になっちゃうかも。

そして、アニメ化になって、映画化か。

いやいや、映画化はまだだった。

時系列的にもうテレビだけでいいんじゃない?

ちょっとトリップして、現実の残念でつつましくひっそりとした胸を見つめていると、

雪ノ下は怪訝な目を向けてきた。

おっとあぶない。

警察に通報されるところだった。

八幡「ああ、覚えてるよ。これは、この前小町とゲーセン行ったときに見つけてな。

   そのときは全く取れなくてさ。小町にかっこいい姿見せられなかったから、

   陰で努力していたわけだ。ここ数日ゲーセンで特訓ってわけ。」

雪乃「努力という言葉に縁遠い人が努力という言葉を使うと、

   違う意味合いの言葉に聞こえてしまうのは不思議ね。」

八幡「ちょっと。ここで新しい日本語作ろうとしないでくれる。」

兄というものは、妹にかっこいい姿を見せたいものだ。

しかも、スイートハニーといえる小町ならばなおさらだ。

かっこわるい姿を見せたならば、その日の夜泣いちゃうよ。

雪乃「そのパンさんは、小町さんへのプレゼントかしら?」

八幡「いんや。小町が欲しいって言うのならば、あげるけど。

   小町は取ってほしいとは言ったんだけど、欲しいとは言ってなかったな。」

妙な含みがある発言をする妹だ。

将来悪い女になるんじゃないかと、お兄ちゃん心配だよ。

雪乃「そう。」

こちらの彼女も妙な含みを持たせた発言をなさる。

国語学年3位の俺でも、行間を読まないといけない会話ばかりだと疲れちゃう。

まあ、今回の質問の回答は簡単だ。

なにせ、自分が誘導したのだから。

八幡「昨日の帰りにゲーセン寄ってとったんだけど、そのまま鞄にいれたままだったんよ。

   妙に鞄が膨れてるなって思ってたらさ。」

雪乃「その大きさのものに気が付けないだなんて、ほんと残念な人ね。」

あちらさんも気づいているのだろう。

わざとぬいぐるみを持ってきていることに。

わざとだと知りながらも、その流れに乗らなければならないときもある。

だが、突然にも会話は終了してしまい、雪ノ下は再び読書に戻ってしまった。

雪ノ下に再び関心を持たせようと廊下のドアを眺めながら考えていると

雪乃「由比ヶ浜さんは、三浦さんたちとカラオケに行くから、

   今日は休むってメールが来たわよ。私には。」

なにその倒置法。

いかにも「私には」を強調してるだろ。

使用方法は正しいけどさ。

もうその勝ち誇ったような顔。

どんだけ由比ヶ浜好きなんだよ。

八幡「なんか三浦たちがカラオケ行くって騒いでいたな。

   あんな大声で宣言しなくてもいいと思うんだけど、

   あれってリア充ですって宣言してるの?」

雪乃「そんな風に考えるのは、あなたくらいよ。」

八幡「カラオケ行って、ゲーセン行って、プリクラとって、ほんと充実した生活だこと。」

雪乃「あなたこそ、ここ数日ゲームセンターにかよっていたじゃない。」

八幡「そーだけどさ。

   そのかいもあって全3種類コンプできたのだから、充実感はあるな。」

雪乃「おめでとう。」

八幡「全然心がこもってない謝辞ありがとさん。」

雪乃「ところで、そのパンさんどうするのかしら? 

   小町さんは欲しがってはないのよね。」

よしっ! きたーと心の中でガッツポーズをしてしまった。

八幡「そうだなぁ。戸塚とか貰ってくれないかな。

   戸塚、人形似合いすぎだろ。

   他だったら、戸塚とか戸塚とか戸塚くらいしか思いつかないな。」

雪乃「どれだけ戸塚君が好きなのよ。今度戸塚君に注意勧告する必要があるようね。」

八幡「それだけはやめてくれ! 戸塚だぞ。心のオアシスを奪わないでくれ。」

これが漫画だったら血の涙を流していたに違いないと確信できる。

ちょっと引き気味の雪ノ下だったが、本気で注意勧告する気はないようだ。

もしほんとにしてたら、泣いちゃうよ八幡。

雪ノ下は、パンさんの行方が気になるようだ。

でも、しつこく聞くの恥ずかしいのだろう。

ただ、目では訴えてくる。

こえーよ。

その視線で心に穴があいちゃうから。

八幡「もしよかったら、家にあるのも含めて、貰ってくれないか? 

   ほら、人形も大切にしてくれる人にわたったほうがいいだろ。」

雪乃「そうね、比企谷君がもっていても、ほこりが被るだけだもの。」

八幡「なに上から目線?」

雪乃「比企谷君。私にパンさんを下さい。」

丁寧なものいいなんだけど、魂を削られるのはなんでだろ。

雪ノ下陽乃といい、雪ノ下姉妹は精神攻撃魔法でも使えるのかもしれない。

八幡「ああいいよ。明日持ってこようか? それとも今日の帰りに・・・。」

雪乃「さあ、今日の部活は終りにしましょう。

   由比ヶ浜さんもこないし、それに、依頼もなさそうだし。」

八幡「そうだな、行きますか。」

雪乃「鍵を返してから行くから、自転車を持って校門の前で待っててちょうだい。」

雪ノ下は、こちらの返事を待たずに帰る準備を始めていた。




<校門近く>

自転車をとって、校門まで行くと雪ノ下は既に待っていた。

ちらっと俺を確認すると、そのまま歩きだしてしまう。

ですよねー。

さすがに雪ノ下と二人で下校する姿をみんなに見せるわけにはいくまい。

ましてや、今は部活動の時間帯で、生徒も多い。

もし一緒に帰っているところを見られたら、明日何か噂になるかもしれない。

今まで日陰でひっそりしていたが、ついに高校デビューしちゃう? 

と、妄想に浸っていると、雪ノ下は校門を出てすぐそばで待っていた。

雪乃「なにをくずくず歩いているのかしら。ちゃんと道案内してほしいのだけど。」

八幡「いやぁ、人も多いし、一緒に帰ってるのを見られると、お前が困っちゃうだろ?」

雪乃「何を言ってるのかしら。しっかり道案内してくれないと、

   あなたの家に行けないじゃない。

   それに、他人にどう思われようが、私には関係ないわ。」

ららぽでは、知り合いがいなければ問題ないと言っていたが、

これは大きな進歩だと言えるのではないだろうか。

自然と足取りも軽くなった気がした。

<比企谷家リビング>

家に着くと、雪ノ下をリビングに案内し、待っててもらうことにした。

八幡「その辺の本棚でも観ていてくれよ。

   なんかしら興味がありそうなものがあったら、借りていってもいいぞ。」

雪ノ下は、返事の代わりに本棚を物色し始めた。

人んちの本棚って面白いよな。

なんか今まで知らなかった人の趣味とかわかったりするし。

いやいやぼっちだし、人んの本棚など、見る機会なんてないのでした。

妄想乙。

ぬいぐるみをもってリビングに戻ってくると、雪ノ下は一冊の本を持っていた。

雪乃「この本、読んでたのね。」

この本とは、ららぽで雪ノ下が熱く語っていたパンさんの原書だ。

わりと大きめな本屋で見つかると思って探してはみたもののみつからなかった。

結局はアマゾンで買ったのだが、ほんとネットって便利だよな。

本屋で注文て、なんの苦行だよ。

小難しい本を注文するのであっても、

お前頭いい振りしてんじゃないかと思われてないか勘ぐってしまう。

ましてや、ライトノベルだと、タイトルを言うのでさえ赤くなってしまうぞ! 

作家さん、ちょっと考えてください。

八幡「まあな。なにも知りもしないで語るのもへんだしな。一応な。」

照れ隠しもあってか、ちょっとぶっきらぼうにぬいぐるみを渡した。

雪乃「ありがとう。」

ちょっと照れくさそうに顔をぬいぐるみにうずめる姿、ちょーかわいいじゃないか。

さんざんぼっちレベルを上げてきた自分であっても、勘違いしてしまいそうだ。

もしかしたら、これが雪ノ下雪乃の素顔かもしれないと思ってしまった。

普段の雪ノ下も本当の雪ノ下雪乃かもしれないが、

どこか傷つかないように武装しているようにも見える。

陽乃のような仮面とはいかないまでも、似たような環境で育ってきたせいか、

同じような自分を作ってしまったのかもしれない。

そう考えると、雪ノ下陽乃の素顔もいつの日か見てみたい気もした。

ただ、それを見てしまったら引き返せなくなりそうで怖い! 

パンドラの箱は希望が残っていたけど、あの仮面の下には、なにがあるのだろうか?

八幡「ぬいぐるみ入れる袋もってくるから、ちょっと待ってな。

   小町が服買ったときにとっておいた大きな紙袋があるはずだから。」

なんで女ってデパートとかの紙袋とっておくのだろうか? 

紙袋って、そんなには使い道ない気もするんだよな。

最近の紙袋はデザインが良いのあるからとっておきたい気持ちもわからないでもないが。

雪乃「勝手に小町さんのを使っても大丈夫なの?」

八幡「あぁ、、勝手に使っていいのと

   使ったらめっちゃ怒られるの分けられてるから大丈夫。」

雪乃「そのいいようだと、

   過去に勝手に使ってしまったことがあったかのような言い方ね。」

八幡「人間、失敗を反省し、成長していくもんなんだよ。」

雪乃「ここに、反省も成長もしていない見本がいるのはなんなんでしょうね。」

八幡「俺もちょっとずつだが成長してるんだよ。

   はいよ。この紙袋使ってくれよ。この大きさなら入るだろう。」

雪乃「ありがとう。・・・そうね。あなたはかわっていってるわ。」

雪ノ下の声は後半声が小さくて、なにをいってるのか聞き取れなかった。

「ありがとう」という言葉が事務的だったので、この言葉だけが印象に残っていた。






八幡「さて、送っていく。荷物も大きいしな。」

雪乃「あら。そのような気遣いができる程度には成長したのね。」

八幡「なにを言ってる。いつも小町の荷物持ちをしてるぞ。」

雪乃「小町さん限定なのね。」

他にもなにか言いたそうだが、何も言ってこない。

家族を大切にするのは当然だろう。

小町が困っていたら、台風だろうが迎えに行く。

あ、大雨の時、父親が駅まで傘持ってきてほしいって連絡してきたが、

あれこれいいわけして行かなかったっけ。

訂正。家族じゃなくて、妹を大切にするのは当然でした。

仕方がない。

これが千葉スタンダードだしね。

<比企谷家前>

八幡「さ、行くぞ。」

と、自転車をおして歩こうとしたが、、

雪ノ下は自転車の荷台をつかむと、なにか考えごとをし始めた。

雪乃「ひ、・・・比企谷君。いつも小町さんを乗せて走ってるそうね。」

八幡「そうだな。最近では、楽をすることを覚えたか、朝送っていくことが増えたぞ。」

ヒッキーならぬ、アッシーでした。

ほんと、小町が将来悪女にならないか心配になっちゃうよ、おにいちゃん。

雪乃「だったら、私を乗せることも可能ね。お願いしてもいいかしら。」

八幡「別にいけど、しっかりつかまっててくれよ。。」

雪乃「信頼してるわ。」

心ばかりの胸をぎゃっと背中に押し付けて、

俺の腰にしっかりと腕をまわしてくる

・・・ことはなかった。

いやいや期待なんてしてません、ほんとだって。

ね、信じてください。

二人乗りのカップルをみて、うらやましいなんておもったことなんてないんだからね。

実際は、軽く腰をつかんだ程度だった。

それでも鼓動は早くなる。

奉仕部での部室と同じような無言の時が進む。

いつもはとくに何も感じていないが、今は違う。

無言の時間を苦痛に感じることなど少ない。

むしろ、無言でいるときのほうが心地いい。

ただ、今流れている時間は苦痛ではないが、少し心が締め付けられる。

だが、この時間がもっと続けばにいいのにと、がらにもないことさえ思ってしまった。

<雪乃マンション前>

雪乃「今日はありがとう。」

八幡「別に大したことはしてない。」

今日はよく「ありがとう」を聞く日だな。

そんな人間観察をしていると、意表をつく言葉がくるもんだ。

ほんと、身構えてないときに爆弾発言よしてください。

雪乃「よかったら、紅茶でも飲んでいかない? 

   今度部室に持っていこうとかんがえているのがあるのだけど、

   持っていく前に感想を聞かせてくれると助かるわ。

   由比ヶ浜さんは、こういったことの意見は参考にならないところがあるし。

   ・・・別に、彼女の意見を聞かないというわけじゃないのよ。

   皆で飲むものなのだから。・・・その・・・。」

八幡「ありがたく飲んでいくよ。自転車で二人乗りしてきたし、喉も乾いたしな。」

ちょっと饒舌な雪ノ下もかわいいじゃないか。

自分のことを棚に上げ、いつもの自分では考えられない発言に戸惑っていた。

<雪乃マンションの部屋>

部屋に着くと雪ノ下は、紅茶の準備を始めた。

とても速く動いているようにみえるが、無駄がない分早く感じるのだろう。

ひとつひとつの作業がしっかりしている。

自分で紅茶を入れてみているものの、雪ノ下のような味を出すことはできない。

高校卒業後、雪ノ下の紅茶が飲めなくなってしまったら、

紅茶を飲むことはなくなってしまうのだろうか。

最高の味を知ってしまっては、並みのものは受付ない。

芸能人が売れなくなっても生活水準をなかなか下げられないのと同じなんだろう。

ふと、なにをしていればいいかわからす、室内を見回していると、

今日あげたパンさんが既に飾ってあるじゃないか。

目で見えない速度で動けるんじゃないかと、本気で思ってしまいそうだ。

しかし、足元に置かれた荷物をみると、

俺が雪ノ下にあげた3種類のパンさんがあるじゃないか。

雪ノ下のほうに視線を向けると、

俺は鳩が豆鉄砲をくらったようなバカな顔をしているのだろうか。

雪ノ下は、子供が親にかわいいいたずらをしたときのような満面の笑みを浮かべていた。

ゲームセンターに貯金したこづかいも、ここ数日ゲームセンターに費やした時間も、

雪ノ下をからかおうとした作戦があらぬ方向にいってしまったことも、

この笑顔が代価だったのしたのならば、十分におつりが出てしまうはずだ。

自然と自分も笑みをうかべてしまっていた。

雪乃「比企谷君。子供が見たら泣き出してしまう笑顔はやめなさい。

   子供にトラウマを植え付けたいの?」

八幡「おい。俺にトラウマを植え付けるのやめてくれない?」

雪乃「そう? だったら、私だけにその笑顔を見せてくれればいいわ。」

俺はどうのよう返事をすればいいか思いつかなかった。

いや。言いたい言葉があっても、、言葉に出すことができなかったのではないだろうか。

ただ、言葉に出さなくとも、この雪ノ下雪乃ならば、わかってしまうのだろう。

雪ノ下が紅茶を準備している姿を俺はどんな顔でみているのだろうか。

雪ノ下雪乃は時折俺のことを見ながら、やさしい笑顔で紅茶を入れていた。



やはり雪ノ下雪乃にはかなわない。




               完


最後の文章訂正です。
HTML化依頼この後出します。ご指導ありがとうございます!

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom