キュクロ「特に理由のない暴力に襲われる装置?」 (22)

短いですがよろしければお付き合い下さい。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1370346823

ゼノフォン「はい。」

キュクロ「意味が分からない。」

ゼノフォン「言葉の通りですよ。この装置を使うと誰かが特に理由のない暴力に襲われるんです。」ゴソゴソ

ゼノフォン「これがその装置です。」スッ

キュクロ「〈装置〉の射出グリップみたいな形だな。」

ゼノフォン「これを相手に向けてトリガーを引きますと、その人が周囲から特に理由のない暴力に襲われるという寸法です。」

キュクロ「なんでそんな物を?」

ゼノフォン「君の為ですよ。」

キュクロ「えっ?」

ゼノフォン「君、立体機動訓練の成績がここ最近下がってるでしょう?」

キュクロ「うっ・・・」ギクッ

ゼノフォン「絶好調の日もありますが、絶不調の日もある。要は波が激しいんですね。」

キュクロ「それは・・・」

ゼノフォン「なぜこんな事になったのか不思議に思いまして、ここ最近、こっそり隠れて訓練を観察してました。」

キュクロ「いつの間に・・・」

ゼノフォン「その結果、分かりました。君達が森で立体機動訓練を行う時に見学に来る訓練兵仲間。その中にシャビイがいると君は成績が下がり、いない時には上がっている。」

キュクロ「・・・。」

ゼノフォン「つまり彼の野次が気になるんですね。他の人の野次は無視できるのに、彼の野次だけはそうではなさそうだとお見受けしました。」

キュクロ「・・・ダメなんだ。アイツの声を聞いたり、ニヤついた顔を見たりするとどうしても昔を思い出して憎悪が抑えられない。」

ゼノフォン「その結果、訓練に集中できなくなってしまうんですね。」

キュクロ「そうだ。」

ゼノフォン「君の生い立ちを考えると当然かも知れませんね。ですが、それが訓練に支障をきたしているとなれば私も黙っているワケにはいきません。ですので、この装置を作りました。」スッ

キュクロ「・・・。」

ゼノフォン「使って下さい。君の成績が落ちると偉いさん方に〈立体機動装置〉の性能をアピールできない。困るのは君だけではないんです。」

キュクロ「・・・・・・。」







—補修生たちの立体機動訓練—

ガヤガヤガヤ

カルディナ「今日もギャラリーが集まってますね。」

ローザ「暇人ね。」

キュクロ「・・・。」



シャビイ「ほぉら、飛べ飛べ猿どもぉ!」

腰巾着A「頑張ったらバナナあげまちゅよぉ!」

腰巾着B「ウキィ! ウッキッキー!」



ガハハハハハハッ



キュクロ「・・・。」イラッ

カルディナ「キュクロ。気にしたら負けですよ。」

ローザ「そうそう。人語を話す珍しい芋とでも思えば良いわ。」

キュクロ「・・・そうだな。よし、始めよう。」パシュッ

カルディナ「さっさと済ませて美味しい残飯をいただきましょう。」パシュッ

ローザ「そうね。」パシュッ



ヒュンヒュンヒュン



シャビイ「はっはっはっはっ! 間抜けな光景だ!」

腰巾着A「こっち向いてお猿さ〜ん!」

腰巾着B「ウホッウホッ! キッキー!」



キュクロ「・・・。」イライラ



シャビイ「巨人の子にお似合いな間抜けっぷりだなぁ!」



キュクロ「・・・。」イライラ



シャビイ「良かったなぁ巨人の子! “猿に進化”できてよぉ!」

ガハハハハハハッ



キュクロ「・・・!!」ブチッ



ヒュンッ ストンッ



キュクロ「・・・。」スチャッ

カルディナ「キュクロ?」

ローザ「何あれ? どうして射出グリップを3つも?」

キュクロ「・・・食らえ。」カチッ



腰巾着A「!」ピクンッ

腰巾着B「!」ピクンッ

シャビイ「何だアイツ? 銃を撃つような真似して。悔し紛れか?」

腰巾着A「・・・。」

腰巾着B「・・・。

シャビイ「バキューン! やられたー! ってか? はははははっ!」

腰巾着A「・・・。」

腰巾着B「・・・。」

シャビイ「ん? どうしたお前達?」

腰巾着A「・・・。」ヒュッ

シャビイ「えっ?」



バチイィィィィィィン



キュクロ「!?」

カルディナ「なっ!?」

ローザ「平手打ち!?」



シャビイ「ぐはっ! お、お前なにしやがる!?」

腰巾着B「・・・。」スッ



ゴスッ



シャビイ「ごはっ!!」



キュクロ「・・・今度は肘打ち。」

カルディナ「何なんでしょう?」

ローザ「仲間割れかしら?」



シャビイ「ぐっ・・・はっ・・・」ぐらっ



ドサッ



腰巾着A「はっ・・・俺は何を?」

腰巾着B「うわっ、シャビイさん! どうしたんですか!?」



ワーワー ギャーギャー



カルディナ「・・・よく分かりませんね。」

ローザ「何にせよ五月蝿いのが消えてくれて好都合だわ。訓練を再開しましょ。」

キュクロ「・・・。」







—翌日 対人格闘訓練—

シャビイ「うぅっ・・・」グルグルグル

腰巾着C「シャビイさん、大丈夫ですか? まさか昨日の傷が・・・」

シャビイ「違う。そっちは何ともない。そうじゃなくて腹が痛いんだ。」イテテ

腰巾着C「腹ですか?」

シャビイ「あぁ。今朝から少し調子が悪くて。アイテテテッ!」グルグルグル

腰巾着C「胃腸風邪ですかね? トイレ行きますか?」

シャビイ「そうだな。お前はその間べつの奴と組んでろ。」

腰巾着C「分かりました。ホルへ教官殿! シャビイ・イノセンシオ訓練兵にトイレへ行く許可をいただきたく存じます!」

ホルへ「許可する。10分で戻るように。」

シャビイ「了解いたしました!」ビシッ



タタタタタッ



キュクロ「・・・。」カチッ

掃除のおばちゃん「!」ピクンッ

シャビイ「う〜、イテテ」グルグルグル

掃除のおばちゃん「・・・。」

シャビイ「な、何だよババァ? どけよ。」

掃除のおばちゃん「・・・。」

シャビイ「・・・えっ?」







ギャアァァァァァァァァァァァ

ウワーシャビイガウンコモラシター

ワーワーギャーギャー







キュクロ「・・・。」



その後もキュクロはことあるごとに装置を使った。

行軍演習で熊に襲われる、対人格闘訓練で20対1の袋叩きに遭う、食事中に熱々のスープを浴びる、就寝中にカカト落としを喰らう。

いつどのような形で襲い来るか分からない特に理由のない暴力はシャビイの精神を浸食。

濃いクマと、おびただしい数の生傷をこしらえ、シャビイの体はみるみる痩せ細っていった。

彼がホルへに退団届けを提出し、開拓者の道を選ぶまでにそう長い時間はかからなかった。

そして後日。



キュクロ「ゼノフォン。この装置、返す。」

ゼノフォン「持ってらして結構ですよ? 私はこれをプレゼントしたつもりですから。」

キュクロ「いらない。気味が悪くなってきた。」

ゼノフォン「気味が悪く?」

キュクロ「シャビイに対しては別に罪悪感も何も感じないし、何なら良い気味だと思う。アイツが俺にしてきた事を考えれば当然だ。」

キュクロ「ただ、人の人生をこんな簡単に狂わせる道具を持ち続けるのは気味が悪い。」

ゼノフォン「なるほど。分かりました。まぁ、このさき特に使い道もなさそうですしね。」



その後、キュクロは立体機動の技術をメキメキと向上させ、ついに史上初となる立体機動による巨人討伐に成功したのだった。

めでたしめでたし







の、ハズである。

話がここで終わっていれば。

しかし、終わらない。

キュクロとゼノフォンは知らなかった。

特に理由のない暴力がこんなところで引き下がってくれるほど、甘くないという事を。







—数日後 工場都市の工房—

ガサゴソ ガサゴソ

ゼノフォン「あれぇ?」

シャルル「どうかされたんですか?」

ゼノフォン「キュクロの為に作ったあの装置がないんですよ。」ガサゴソ

シャルル「特に理由のない暴力に襲われる装置ですか?」

ゼノフォン「えぇ。ここにしまったハズなんですが。」ガサゴソ

シャルル「工房長の“ここにしまったハズ”ほど信憑性に欠ける言葉はないと思いますけど。」

ゼノフォン「はははっ。返す言葉もありませんね。」ガサゴソ

シャルル「でも、どうして装置を探されてるんですか?」

ゼノフォン「いや、もう使う機会もないでしょうから、分解して使えそうなパーツは再利用しようかと思いまして。」ガサゴソ

ゼノフォン「ん〜、しかし、ないですねぇ。」

シャルル「本当にそこにしまったんですか? どこかに落としたという可能性は?」

ゼノフォン「落とした、ですか? ん〜・・・・・・」

ゼノフォン「もしかしたら、訓練場から帰ってくる途中で落としたのでしょうか・・・」







そして時は流れ

—850 訓練兵舎の倉庫—

コニー「あ〜、休みの日に倉庫整理の罰なんてツイてねぇなぁ。」

サシャ「コニーがいつまで経っても敬礼を覚えないからですよ。」

コニー「お前が訓練中に物を食うからだろうが!」

ライナー「どっちもどっちだ。それより、無関係なのに手伝ってやってる俺への感謝はないのか。」

コニー「分かってるよ。本当にありがたい。今度必ず礼はするから。」

サシャ「もしライナーが食欲がない時はパァンを食べるのを手伝って差し上げます。」

ライナー「・・・気持ちだけ受け取っとくよ。」

コニー「しっかしこの作業、終わりが見えねぇ・・・・・・ん?」

ライナー「どうした?」

コニー「何か出てきた。これは・・・・・・銃?」

サシャ「銃ですか? 私は立体機動装置のグリップに似てると思いますけど。」

ライナー「座学のテキストで見たな。確か、立体機動装置の前身にあたる機械がそんなグリップだったハズだ。」

コニー「へぇ〜、昔はこんなだったのかぁ・・・」チラッ

ライナー「なんだ?」

コニー「バキューン!」カチッ

サシャ「!」ピクンッ

ライナー「ぐわあぁ、っておい! 銃じゃないっての!」

サシャ「・・・。」

コニー「へへへっ。」

ライナー「バカやってないでさっさと終わらせようぜ。」

コニー「そうだな・・・・・・あれ? サシャ?」

ライナー「ん?」クルッ

サシャ「・・・。」

コニー「どうしたサシャ?」

ライナー「気分でも悪いのか?」

サシャ「・・・。」スッ



ライナー「えっ?」









バチイィィィィィィン



おしまい

以上です。ありがとうございました。

小説キャラがSSに出てくるのは、初めてかも?

>>21
どうなんでしょうね?
僕も「進撃ラノベのSSってないなぁ」と思って書いてみたんですけど。
単に他の方のSSを見落としてるだけかも知れませんね。
ちなみに昨日こんなのも投稿してみました。
よろしければ読んでやって下さい。

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