タイムスクープハンター コミケの行列を追え! (67)

タイムスクープ社 
タイムワープ技術を駆使し あらゆる時代にジャーナリスト

を派遣 人々の営みを映像で記録し アーカイブする計画

を推し進めている機関である


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1440002525


absolute position N07 W65 E70 S49

けがなしウイルス反応なし 
いつものようにタイムワープ時の衝撃によって軽い頭痛が
ありますが健康状態に異常はありません

absolute time
C8819190721年 69時 72分 23秒
西暦変換すると 2000年代前半です……。 
code number 102331

古橋さんこの時代はどんな時代ですか?


古橋「この時代は西暦2000年代。江戸時代が終わり、百数十年後といったらわかりますかね。
議院内閣制で、総理大臣が存在します。
また、IT技術黎明期で人々の多くがアニメなどのコンテンツ産業に触れています。」




わかりました。これから記録を開始します。

コミックマーケット。その作品のファンが作る同人誌と呼ばれる情報誌の即売会から始まったイベント。

最初期はたったサークル数32 参加者約700人で日本消防会館の会議室から始まったが、

現在サークル数では3万5000組 参加者は55万人を超える世界最大級のイベントである。

これは鳥取県の人口とほぼ等しい。

 また、現在ではただの同人誌即売会ではなくコスプレと呼ばれる漫画等のキャラクターへのなりきり、
企業ブースと呼ばれる公式の出店まである。

 いわば日本のサブカルチャーの祭典といったところである

 今回はこのコミックマーケットに密着する。

えー、この時代の人々にとって、私は時空を超えた存在です。

彼らにとって私は宇宙人のような存在です。彼らに接触する際には細心の注意が必要です。

私自身の介在によって、この歴史が変わることも有り得るからです。

彼らに取材を許してもらうためには、特殊な交渉術を用います。

それは極秘事項となっておりお見せすることは出来ませんが、

今回も無事密着取材することに成功しました。

「コミケの行列を追え!」

ーーすごい行列ですね……。まだ太陽が昇る前だというのに多くの人が列を成しています。

ようやく一番最初の電車が動く時間ですが、もうすでに会場の東京ビッグサイトの前

には列ができています



 今回密着したのは千葉からコミックマーケットに初参加だ

という†キリト†さんである。彼は同じように初参加だという埼

玉から来た弥太郎さんと新橋で合流し始発のゆりかもめと呼ばれる乗り物で

こちらに来たそうだ。ちなみに彼らはtwitterと呼ばれるこの

時代のSNSで知り合って「リアルでは初めまして」という状態らしい。

ーーどうですか? こちらがコミックマーケットですね



†キリト†「うわぁ……いゃツイッターで写真は見てましたけど実際見るとやっぱ圧倒されるものですね……コポォ」

弥太郎「ほんとっすよねー。実際これより多く来るんでしょ?たまんねぇと思います」


ーーそうなんですか?

弥太郎「はい、3日間合わせて55万人とか」

†キリト†「それ過小評価らしいっすよ、消防法的にこれ以上多く申告しちゃうとまずいとかなんとか」

[消防法]

 この時代における法律の一種で建物の運用や管理について定めるもの


ーー初参加なのに詳しいんですね

†キリト†「この時期になるとコミケまとめみたいなものができるんで読みました」

[まとめサイト]
 2ちゃんねる と呼ばれる大型匿名掲示板の書き込みを任意に抽出し、再編集した情報サイトのこと。
 各サイトごとに扱うテーマが異なり、その中にコミックマーケットについて啓蒙するサイトがあった。


弥太郎「それにしても3日目ってことで徹夜組がやばいっすね」

†キリト†「わかります。公式があんなにやめろって言ってるのに」


[徹夜組]
 限定販売の商品を買うために会場に少しでも早く入ろうと始発が出る
時間よりも早く会場の前に並ぶもののこと。治安維持の関係上公式には禁止されている行為だが、
多くの人間が徹夜組となっている。

ーーそこまでしてほしいものがあるんですね

†キリト†「いや、そうじゃないんですよ。奴らは」

弥太郎「そうそう、大体のところ転売じゃないっすか?」

ーー転売? 

†キリト†「そうっす。レアものとか会場限定のものを買い占めてヤフオクとかで転売するんすよ」

弥太郎「うまいことやれば1日で数十万とか儲かるという話ですわ」

†キリト†「そりゃーやっちまいますがな」

ーーなるほど

古橋さん、この時代の転売という行為について資料ありますか?

古橋「こちら古橋です、2000年代のコミックマーケットについての転売でよろしいですか?」

ーーはい。それで大丈夫です。

古橋「はい、この時代では同人誌やそれに類する商品を大量に買い占

め、インターネットオークションや中古商へ転売する行為のようです。購

入時の何十倍の値段に高騰する場合もあり、相当の利益が見込めることから

組織立って行動することも多いようです。徹夜組と呼ばれるグループの多くは

転売行為を行う者だという情報があります」


ーーありがとうございました。

†キリト†「しかし、暑くなってきましたね……」

弥太郎「全くですな……ねむい……」

 午前七時を回った時点で太陽の日差しが強くなってきました。列にいる

人々は次第に帽子やタオルなどを頭に乗せ、日差しに耐えている様子

である。猛暑日が予想されている今日、早朝といえどもその熱は次第に

人々の体力を奪っていく。
 ふと後方を見るとまだまだ来場者が来るようで、ブロック単位に整理さ

れている。
 ここ、会場である東京ビッグサイトに向かう交通手段は公共交通機関

が推奨されていて、バス、ゆりかもめ、りんかい線などがあるが、コミック

マーケット開催期間に限ってはどれも全てが超満員となる。

ここで†キリト†さんに声を掛ける男性が現れた。今まで同じ列に並んでいた男性だが、

突然であるため、†キリト†さんそして、弥太郎さんも動揺を隠せない。

男性「あの……」(プライバシー保護のため顔には修正が入れてあります)

†キリト†「はい……」

男性「これどうぞ、暑いですから」

 男性がなにかを†キリト†さんに差し出す。

†キリト†「これは……?」

男性「塩飴です。塩分が足りなくなるでしょう」

†キリト†「ああ! ありがとうございます」

男性は弥太郎さんや周囲の人にも配り、私にもひとつくださった。


 

 なんでしょう、飴のようですが……透明ですね。成分分析にかけてみよ

うと思います。



 本部による解析の結果、これは塩分が含まれている飴だということが分かった。

この時代にはもう、暑く、汗が出るときには塩分を採ることが大事だということが知られていた。

暑さきびしい夏のコミックマーケットにおいて、自主的に周囲に分け与える者も居たという。


私はフィジカルバージョンアップシステムを着用していますが、やはり暑いのでいただくことにしましょう。モグ
こういった小さなことから交流が進むこともあるんですね。


†キリト†さんと弥太郎さんはさっきの男性とそのグループ、七、八人と「オタトーク」と

呼ばれる同好の作品について語り合いを始めた。どうやら同じようなものが好きらしくとても盛り上がっている様子だ。

ここで彼らが現代から持ってきた「オタク」のイメージ画像とだいぶ違うことに気が付いた。


ーー申し訳ありません、みなさん、オタク、という人たちですよね?


男性「wwwwwwwwまあ、確かにそうだけどね」


ーー私たちはオタクというとこのような人たちを想像するんですが。

 現代から持ってきた画像を見せる。チェックのシャツにジーパン、バンダナにリュックサック。そして眼鏡。

ここにいる人たちを見てこのような人が見受けられないことに違和感を持った。


男性2「あーこれなー、もうだいぶ昔だわな、秋葉原がアニメとゲームとメイドの街になる前だな」


男性3「せやな。まだ無線機が主流だったときのやつよ」

弥太郎「お父さんから聞いたことがあります」

男性3「そんな時代か……」


男性2「そもそもオタクっていう言葉は二人称だかんな。『お宅の設備ってどんなの?』って」


男性「それがいつからかうちらみたいなのを指す言葉になったってわけ」



 もともと秋葉原には無線やラジオショップが多く立ち並び、アニメ、漫画関連のものはなかったという。
それがこの時代で知られるような「萌えの街」となったのはパソコンが入ってきて、ゲームが一緒に売られる
ようになってからではないか、という風に解説を受ける。


ーーあれ、何か聞こえますよ

 奇抜な格好をした男性が列に向かって何か呼びかけている。

†キリト†「ああ、あれがスタッフ名言ですね……」

弥太郎「そうなのか……」

 ここ、コミックマーケットでは列形成時に会場整理をするスタッフがウイットに富んだ指示や注意をすることが有名だという。

その多くがその時代に流行った漫画やアニメ、ゲームにちなんだものだという。また、それの多くはSNSなどにて共有され、一部歴史に残ることがある。
 
スタッフの中にはこの酷暑にも関わらず、厚着のコスプレをしているものも見受けられる。


ーー彼らは整理に慣れているようですが



†キリト†「そうですね、毎年やってる人もいるらしいですね」


ーー過酷な環境ですから報酬もいいのでしょうね


†キリト†「え、これは無報酬ですよ? いわゆるボランティアってやつだそうです」


男性「そうよ、金や待遇なんてないわ、俺も去年はスタッフだったが、もう大変で死ぬかと思ったわ」


 そう、ここで働くスタッフは無報酬。飲み物やお弁当、カタログなどは支給されるというが、コミックマーケットの役に立ちたい

と願う者たちが進んでやっているというのだ。

 しかし、無報酬といえど手を抜く様子はない。列は整然と保たれ、秩序立っている。



この時代の人間にとってコミックマーケットとは特殊な儀式のようである

えー午前八時を回りました。ゆっくりとですが、列が動き始めたようです。

 現在私は東館と呼ばれる建物に向かっているようです。

 動きが気になるので超小型マイクロカメラを上空に放つ。

 送られてくる映像を見ると黒い塊が一定の周期を持ってうねっているよ

うに見える。


ーーいやぁ、圧巻ですね……。見たことがない量です……と画面を見ながら同行していくと、何かに躓いた。


 見ると、女性が何かを引きずっている。それに躓いたようだ。

†キリト†「あー、キャリーカートですね、危ないっすよね」


ーーキャリーカート?


†キリト†「そうっす。大量に買ったりする予定があったり・・・・・あとレイヤーさんとかは衣装を入れてたり……」

[レイヤー]
 コスプレイヤーの略で、漫画などの登場人物になりきる者の事。1990年代以前から存在したが、
2000年代に入ると衣装が市販されるようになり、コスプレを楽しむものが増加したが、依然手作りの衣装にこだわるものが多い。


ーー会場が近くに見えるのになかなか入れませんね……。

弥太郎「ええ、もどかしい感じがします」


 もうそろそろ10時になります。開場時間に合わせてどんどんと列が固定されていきます、

さっきまで余裕のあった空間がきつく狭くなっていきます。手を広げることもできそうにありません。

 人のいなくなった空間にはにはなぜかリュックサックなどがそのまま置いてあります。

†キリト†さんによると集合時間に間に合わなかった人の遺物だそうです。

 
ーーおや、放送が始まりましたね……

 何を言っているかはよく聞き取れませんでしたか、音楽が鳴っていて、それから拍手が巻き起こっています。

どうやら、コミックマーケットが始まったようです。

†キリト†「じゃあ、俺はあっちのサークルに並ぶから、弥太郎氏は例のところへ頼むぞっ!」

弥太郎「心得たっ!」



 うぉっ、みなさんっ! 走るんですか! 危ないですっ!

 先頭の一部が猛突進するとそれにつられて疾走する者も多くいた。
人気のサークルになると開場すぐに並ばないと入手できない可能性が彼らをそうさせるようだ。
スタッフがそれを制止するが、多くのものは走っているのと同じ速度で歩き始めた。
 
†キリト†さんと弥太郎さんは二手に分かれ、それぞれの目的地へ向かう。
 
ーーあれ、また行列ですか?

 広いホールを抜けまた行列が形成されたところへ向かう。



†キリト†「ええ、シャッター前の大手ですからね……こればっかりは仕方ないっすよ……」

[シャッター前]
 たくさんの同人誌を販売する人気サークルが配置される場所で、やはりここも行列が発生する。

 一時間後

†キリト†さんは漸くお目当ての品物を手に入れたようだ。
 満面の笑みで紙袋を抱えてくる。

ーーこれが同人誌ですね?

†キリト†「はい、というか、ポスターとか、紙袋とかタオルとかがほしかったんですけどね」
 
 見せてもらうと紙袋には赤髪の水着を着た女性の絵が描かれており、

中には彼の言うとおりタオルやポスターが入っている。

†キリト†「これはラブライブ! の真姫ちゃんです。かわいいでしょう?」

ーーなるほど……。人気なんですね、


†キリト†「うちの周りではエリチー推しが多いんですけどやっぱし真姫ちゃんが好きなんで」


  どうやらこの赤い髪の女性が「まきちゃん」というらしい

ーーでもこっちは金髪の子ですね?


†キリト†「ああ、こっちがエリチー。弥太郎氏から頼まれてるものです。弥太郎氏も僕のほしいもの買ってくれるんで、役割分担です」




  こちら沢嶋、古橋さん聞こえますか?


古橋「はい、こちらタイムナビゲータの古橋です」

 ラブライブについての資料をお願いします。


古橋「はい、この時代に流行していたスクールアイドルです」

 アイドルですか?


古橋「はい。といっても実在する女性ではありません。想像上のアイドル

であるようですが、実際のアイドルと同じように人々に親しまれています」

 なるほど。


古橋「彼女たちの信奉者はラブライバーと呼ばれ、彼女たちの関連商品

を身にまとい、通りを練り歩くものもいたといいます。以前取材した傾奇者のようですね」

 たしかに、そうですね。ありがとうございました。

彼らはアイドルのためにこのような過酷な環境下でも臆することなくどんどんと進み、着実に物を買っていく。

途中水分補給のために立ち止まることすらない。周囲を見ると僅かな日陰があるアスファルトの地面に座り込むものが多く居て、

早速自らが調達した同人誌を読んでいる。



ーー†キリト†さんはまだ読まれないんですか?


†キリト†「まだまだ、後で合流してから交換しますんでそれが終わったら」


ーーよろしければ何冊か拝見できませんか?


†キリト†「いいですよ。はい」


ーーありがとうございます。

 一冊の同人誌を受け取る。


ーー非常に薄いですね。30ページもありませんね。中は絵入り、というか漫画ですね。装丁はオフセット印刷のようです。



 この時代より約40年前は「同人誌」という言葉は仲間内で発行される文芸雑誌を主に指していたようだが、2000年代に入ると

マンガ作品のファンが自分でその登場人物を使い、作った物語を載せたものという解釈に変化していった。

 これを二次創作というようだ。

 コミックマーケットで人気の本の多くはこういった二次創作のものらしい。


ーーいくらぐらいするんですか?


†キリト†「大体500円とかそれぐらいですかね」


ーー少々お高いのでは?

 この時代180ページの漫画単行本が500円前後で売られていた。それに比べれば非常に強気な値段設定である。



†キリト†「確かにねー、でもなんか一期一会って感じだし、買っちゃうんだよね。公式だと出てこない話とかさ」


 量より質ということであるらしい。












ちゃりんちゃりんちゃりん!!!

音のする方を向くと男性が小銭を床にぶちまけてしまっている。

 するとあっという間に歩いていた人間が集まりその小銭を拾い集め男性に返していく。

 †キリト†さんも同じようにさっと駆け寄り男性を助けた。両手に紙袋をたくさん提げているのに。


ーーすごいですね。みなさん助け合っていて


†キリト†「ええ、やっぱりなんとなく助けちゃいますね……」

 こんなに大規模なイベントにもかかわらず混乱が少ないのも、このような心遣いがあるからだろうか。
 そのあともたくさんのサークルに立ち寄り同人誌を買っていく。

ーーそれはなんですか?

†キリト†「宝の地図……というか、サークルの地図です」

 この会場の見取り図になっており、巡回する順番がきちんと書き込まれている。
 これで効率よく目的の同人誌が購入できるという寸法らしい。
 
†キリト†「よし、これから連絡を取って、合流といこうか……」

 †キリト†さんの様子がおかしい。
 紙袋を地面に置き、全身をたたき始めた。



ーーどうなさったんですか?

†キリト†「携帯がないんです、合流したいと思ったのに」

ーー紙袋の中とかは?

†キリト†「いや、入れた覚えはないんですが……一応」

 一つ一つ探してみるが、無いようだ。焦りの色が次第に濃くなる。

†キリト†「どうしよう……」

ーー待ち合わせとかは?

†キリト†「買うもの買って適当に連絡を取ろうと思ってたから最初に決めてなかったんですよ……」


[待ち合わせ]
 人がごった返すコミックマーケットにおいて、非常に難しいもので、通常は12:00 13:00などの
 切のいい時間にわかりやすい場所で待ち合わせることが推奨されているが、
 携帯型の通信機が発達し始めた2000年代ではこのような約束をする人々は徐々に減っていった。


 しかし、その通信機がなくなってしまった今、彼には何も頼るものはない。

これ需要あるんか……


ーー電話番号……っというものは?

公衆電話と呼ばれる誰でも利用できる電話がこの時代には存在する。それを使うのはどうだろうか。


†キリト†「ツイッターとラインしか知らないので……」

 この時代の主な通信手段であるが、簡単に追跡できる性質のものではないようだ。

†キリト†「どうしよう……」

 

因みに2000年代に入ると個人での通信機器所持が一般化していくため、公衆電話の数1980年末の約100万台から
それ以降年々減り続け、2000年代には20万から18万台にまで減少していく。

割と面白い


 そこで私は†キリト†さんに向けていたカメラの映像を巻き戻し、彼の携帯を探すことにした。

 巻き戻したところ、あのとき、男性のために小銭を拾ったとき胸ポケット入れていた携帯がすとんと落ち、

それがさらに運の悪いことに、誰かに蹴られ、どこかへ滑り飛んでいった。


ーーわかりました。さっきの場所です

†キリト†「あっ、本当だ! ってか録画してたんですか」

 この時代の人間なら録画という概念もわかっているようで見せた映像にも抵抗がない。

†キリト†「いまならまだあるかもしれないです!」

ーーあっ、走ったらだめですよ!

>>29 ありがたや ありがたや

駐車場沿いの植え込みを捜索すると、それらしきものを発見した。

ーーこれ……でしょうか?

†キリト†「はい! これです! これ! よかったぁ……」

 私からそれを受け取ると頬ずりをするほど感激している。この時代の人間にとってとても大切なもののようである。


ーーちょっと見せていただいてもいいですか?

ーーおお……重いですね……。

 
表面には先ほど真姫ちゃんと紹介されたキャラクターが描かれている。

†キリト†「あ、ヒビが入ってる……」

絵が描かれていない側のガラスには確かに斜めにヒビが入っている。


ーーこれはまずいんじゃないですか?


†キリト†「そうですね、でもきちんと動くので大丈夫です」


†キリト†さんの言うとおり、きちんと画面として機能しているようだ。

†キリト†「はぁ、よかった……でも、連絡来てない。お昼には連絡し合おうと約束したのに……」

 
 時計では今12:43 とっくに過ぎている。

 再び焦りの色が見え始める。

†キリト†「まだ並んでるのかもなぁ、とりあえず弥太郎氏が回るはずだったとこ見てみます」

 
いてもたってもいられない様子で地図を片手に会場を進む。


ーー心当たりがあるんですね

†キリト†「まぁ、弥太郎氏は特殊な趣味故、回る場所も限られてますしおすし、回る地図も交換しましたし、会えるかもしれません」


[ますしおすし]

 通常は「ですしおすし」と綴られる文末表現。とあるネットゲーム上で使われたことから広まった。
 文意を和らげる効果がある

ーー特殊な趣味。というと?

†キリト†「いゃぁ、イケメンのお兄さんはきっと読んだことがねーやつですわ。
このご時世、取り締まりが二次元に及ぶかもしれませんし、つらぁ……」

ーー大変ですね……。

 この時代、二次元と呼ばれる表現方法においては児童ポルノとしての追及を逃れることができたが あ、†キリト†さんが立ち止まりました。


ーーどうしました?

†キリト†「とりあえず、一応探したんですが……いませんでした。どうしよう……」

 
一難去ってまた一難のようだ。これから出会えることもこの人ごみの中では難しいように感じる。
 捜索のための体力も通常よりも多く削がれる。午前四時より行列に並び、重い荷物を持った†キリト†さんの疲労の色が濃い。

 もはやこれまで……と思ったそのとき。

男性「あれ? さっきの列にいた……」

 振り向くと先ほど塩飴を配っていた男性が†キリト†さんに手を振っていた。
 両手に紙袋を下げているのは一緒だが、顔色などが違う。先ほどの話によるよ何回も来ているため慣れがあるのだろう。

 男性は†キリト†さんの様子がおかしいことに気が付きすぐに近寄ってきた。

男性「どうしたんですか?」

†キリト†「実は……」

状況を説明すると男性は携帯電話を取出しどこかへ電話したようだ。そしてひとしきり頷いたあと、こちらを見た。

男性「お連れの弥太郎さんは医務室にいるようですぞ。熱中症で倒れたみたいですね」

ーーどちらへ掛けたんですか?

男性「おーそれ何のコスプレ? ああ、救護スタッフに友達がいてね、特徴を伝えたらそれっぽい人がいるっていうからさ」

†キリト†「つれてってもらえますか?」

男性「もちろん」


 こうして三人で弥太郎さんのところへ向かう。

そして、そこにはベッドに臥している弥太郎さんの姿が。

男性「感動の再開ってやっちゃね」

医師「並ぶ前から眠かったとかそういう兆候があったみたいなんでもうちょっと休んでいったらいいと思いますよ」


 東京より遠く離れた参加者は逆に宿を取っていて休養するが、首都圏からくる人たちは頑張ってしまうので
倒れやすいという。埼玉から来た弥太郎さんはまさにそれである。
 そして、列にいる際確かに眠いと言っていた。

 この救護所はそこまで手厚い看護や治療ができるわけではない。涼しくして、水分補給をさせる程度だが、
熱中症患者にはひと時のオアシスとなる。

ここにいる医療スタッフは医師や看護師などの有資格者であるが彼らも無償で働いている。


弥太郎さんはよく回らない口で何かを言っている。

†キリト†「どうした?」

弥太郎「すまぬ……すまぬ……頼まれていたやつ……並んでた最中に倒れて……しまった・・・・・もう完売してしまった・・・・・」



 彼らはお互いにほしいものを分担して買っていく約束をしていたようで、倒れ、買えなくなってしまったことを†キリト†さんに詫びているようだった。

†キリト†さんは表情を一瞬ゆがめたがすぐに笑顔に戻り


†キリト†「ええんやで、再販クルー? かもしれんし、もしあれやったらヤフオクで落とすし、あんたが無事ならええんやで」


弥太郎「ンゴーオオオオオオオ」


 二人は熱く抱擁合う。同人誌よりもお互いの友情をとった二人。戦場と呼ばれるコミックマーケットでも
現実の戦場と同じ戦友意識が生まれる。
 
そしてその戦友同士が新たな芸術を作る仲間となっていく。事実、コミックマーケットで

同人活動をしていた者同士が次代のコンテンツを創始した例もあるという。

 しかし、同人誌のほとんどが教科書には残らず、消えていく。それでも
その薄い本も積み重なれば高みへとつながっていく。
 この取るに足らないように見える活動こそが、次のコンテンツへの第一歩かもしれないのだ。

そう、たった37組から始まった活動が55万人の規模になったように。
 


ーーみなさん、私はこれで、

†キリト†「そうですか? 携帯ありがとうございました」

弥太郎「ありがとうございました」

男性「ねえ、それなんのコスプレ?」


その後の調査によると †キリト†は弥太郎と共にゲーム会社を起業し、

その後プログラマーを大量に養成し日本のゲーム産業を陰ながら支えた。

男性はアフリカに萌えを伝えるために渡航。
まず絵からと製紙産業を持ち込んだ。



ーーcode number 102331 アウトします。


私の仕事は教科書には乗らない人々の営みを記録すること。これからもあらゆる時代に飛びその真実の姿を記録していく。

IDNo. 0208沢嶋雄一。私はタイムスクープハンターである。

後日談

沢嶋「古橋さん、どうして二人が抱擁しあうシーンを繰り返し見てるんですか?」

古橋「えっ? いや、見てないですけど?」 ピッ



終わり

100いかなかったな。残りはコミケとかタイムスクープハンターについて語ったりしてくれ。

読んでくれてありがとう

乙、面白かった
みなみちゃんは腐女子なのか……

>>42
ありがとうございます。

だといいなぁ(願望)

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