ネリー「咲、ちゅーしてよ」 (34)

ネリー咲。
短いです。

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風の音が聞こえるような穏やかな昼下がりだった。

突然両肩にかかった重みに、

咲は読みかけの頁に栞を挟んで振り返る。


咲「ネリーちゃん」

ネリー「咲……暇だよー」


ソファで読書をしていた咲の背に、

背凭れ越しに伸し掛かるようにしてネリーが体重を掛ける。

童子のようなそれが微笑ましくて、

咲は後ろを振り返る。


咲「夜になったらお祭りに行く予定でしょ?もう少しの辛抱だよ」

ネリー「つっても暑いし暇だし……」


そう言って眉を寄せるネリーはかなりの暑がりである。

ニュースが猛暑日であると騒ぐ日ですらそんなに暑いとは感じない咲にとっては、

今日程度の暑さは逆に過ごしやすい。

だがネリーにとっては全てのやる気を奪ってしまう程暑苦しいらしい。

なら密着せずに離れていれば良いと思うのだが。

以前にそう言えば、


ネリー「暑かろうが何だろうが、咲の傍に居たいの!」


と臆面もなく言われてしまえば咲には返す言葉もなかった。

ネリーが良いのならそれで良いか、と思うことにしている。


ネリー「ねー、私の相手してよ」


悪戯を思いついた子供のようにネリーが目を輝かせる。

それに一つ嘆息した咲は、持っていた本を掲げてみせる。

咲「わたしは今読書中なの」

ネリー「本なんていつでも読めるでしょ」

咲「ネリーちゃんだって四六時中わたしと一緒じゃない」

ネリー「……まぁ、そういう言い方も出来るね」


どこか感心したように呟いたネリーに咲は首を傾げる。

ふむ、と何かを考えるように黙り込んだネリーに、

もうそろそろ読書に戻ってもいいかと意識を逸らした時だった。

強い力で顎を捉えられ、

無理矢理ネリーの方を振り向かされる。


咲「い、痛っ…ネリーちゃん!」

ネリー「ごめん。ちょっとこっち向いて、咲」


しぶしぶ本を手放し、ネリーの方を振り向く。

背凭れ越しに見つめるネリーは明らかに何か悪いことを思い付いた時の表情をしていた。

遅ればせながら冷や汗が咲の背を伝う。

咲「……今度は何の悪ふざけ?」

ネリー「何で悪ふざけって分かるの?」


本気で不思議そうなネリーに咲はむ、と唇を尖らせる。

全面に「ろくでもない事を考えています」という、

思考が透けるような顔をしておきながら気付いていないのか。


咲「顔に書いてあるよ」

ネリー「そりゃ都合いいね。ちょうど咲に頼み事をしようと思ってたトコ」


にぃと唇を歪めたネリーに、咲は眉をひそめる。

咲「頼み事って?」

ネリー「ちゅーして」

咲「はぁ!?」


思わず素っ頓狂な声を上げた咲の唇に、ネリーが人差し指を当てる。

それに押し止められたように咲の口からは言葉が出てこなくなる。


ネリー「だって咲の方からしてくれる事ってほとんどないし」

咲「そ、それは……恥ずかしい、から」


頬を赤くしながらそれだけを口にすれば、

ネリーが笑みを深くする。

ネリー「咲は相変わらず恥ずかしがり屋だね。そこが可愛いんだけど」

咲「うう……」

ネリー「今日一日私の相手してくれなかったんだから。その位のサービスがあってもいいでしょ?」

咲「だから、夜はお祭りに付き合うって…っ」

ネリー「足りないよ、咲」


耳元で囁かれた言葉に咲はびくりと肩を揺らす。

意図せず、かぁと顔に血が上っている。

きっと今の自分はひどく顔が赤いことだろう。

それを間近で見ているネリーはこれ以上なく楽しそうだ。

ネリー「ほら、早く」

咲「…っ、ならせめて目を閉じて…」


咲が消え入りそうな声でそう言うと、

ネリーは眉を寄せた。


ネリー「そんな勿体ないこと出来る訳ないでしょ」

咲「えっ」

ネリー「せっかくの咲からのキスなんだし、目に焼き付けておかないと!」

咲「そ、そんな…」


ただでさえ恥ずかしいのに、

ネリーの視線を浴びながらのキスなんて。

ネリー「…咲は私にキスするのが嫌なの?」


寂しげなネリーの声に、咲はとっさに言葉を返す。


咲「違うよ!ネリーちゃんのことは大好きだよ」

ネリー「ならできるよね?」


にっと笑うネリーに、咲ははめられたと悟る。


咲「…わかったよ」


咲はそろそろとネリーの方へと顔を近づけ、

ネリーの前髪を掻き上げた。


ネリー「咲…?」


あらわになった額に、触れるだけの口付けを落とす。

ネリー「でこちゅー…」

咲「こ、これだってキスだしっ」


真っ赤な顔でそう告げる、極度に恥ずかしがり屋な恋人が可愛くて。

こみ上げる愛しさにネリーは口の端を歪めた。


ネリー「随分と可愛い真似してくれるね」


低く呟くネリーに、

頬を染めたまま咲は言葉を返す。


咲「だ、だってネリーちゃん、素直に目を閉じてくれないから…っ」

ネリー「ふふ。咎めてる訳じゃないよ。褒めてるんだよ」


ぐい、と強引に顎を捉えられる。

本日二度目のその行動は、先程の力任せのものより幾分優しい。

優しいというより甘いと言った方が良いのだろうか。

ネリー「日本人は奥ゆかしいっていうけど、咲はまた特別だね」

咲「うう…」

ネリー「だったらネリーが教えてあげる。…キスの仕方をね」


そう言って距離を詰めるネリーの顔の向こう、

咲は意識を逸らすように時計を見遣る。


咲(…お祭り、間に合うかな…)


そんなことを考えながら、咲はゆっくり目を閉じた。

目を閉じた薄闇のなか、ネリーの唇の感触だけが唯一の現だった。


カンッ!

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