唐傘娘と夏の雨(442)

-CASE1 傘拾った-

友「はー、雨が降っても涼しくなるどころか蒸し暑くなるだけだなぁ」

男「ほんとに」グッショリ

友「わあお前ずぶ濡れじゃん。傘持ってこなかったのか?」

男「いやあ、持ってきたんだけど途中でアサガオになっちゃって」

友「あーあ」

男「ホント雨ってうざったいよなー。しかも傘って捨てにくいし」

友「分かるー。ウチのアパートだとあれ回収できないゴミ扱いになるんだよなー」

男「買うより捨てる方が高くつくっていうね」

友「言えてる」

男「あの道端とかコンビニのゴミ箱に突っ込んでるのはどうかと思うわ」

友「なー」

男「ていうかコンビニと傘の組み合わせってあんまりいいイメージないよな」

友「なんで?」

男「ゴミ箱には壊れた傘突っ込まれてるし、売ってるビニール傘はすぐ壊れるし、挙句の果てに傘立ての傘は盗まれるし・・・」

友「傘盗む人って傘のこと共有財産と思ってる節あるよね」

男「ホント腹立つわー・・・今度傘の内側に小麦粉でも入れといてやろうかな」

友「はは、開いた瞬間ドバーってか。面白いな」

男「さて、この傘どうしようかな」

友「いや捨てろよ」

男「うーん、その気になれば直せそうだけどなあ。傘布外れて骨がちょっと曲がってるだけだし」

友「500円のビニール傘にそこまで愛着があるのか・・・」

男「いやないけど。捨てるのもそれはそれで面倒だし・・・痛てっ、指切った」スパー

・・・

友「男ー、そろそろ出ようぜー」

男「あーごめん・・・ちょっとまだ課題の調べ物が終わってなくて・・・」

友「じゃあバイトもあるし俺先帰るよ・・・お前も早く出ないと、予報じゃ夜にまた雨降るってよ」

男「んー・・・」

・・・

男「よし、ぼちぼち出るか・・・」

<ゴロゴロ・・・

男「お・・・っと、遠くで雷が鳴り始めてるな」

男「急いで帰ろう!」

<ザーーーーーーーーーーーー!!

男「うわー降ってきた!借りてきた本が濡れる!!」ビシャビシャ

男「傘は・・・やべぇ図書館に忘れてきたああああああ!!」

男「くっそー、こんな何もないところで・・・どこか雨をしのげる場所は・・・ん?」

ふと歩道の脇を見ると、細い道の奥に小さな鳥居が見える。

男「神社か・・・よし、ちょっと境内で雨宿りさせてもらおう!」タッタッタ

・・・

男「あーもう、せっかく乾いたのにまたびしょ濡れだよ・・・」ヒタヒタ

男「これ、止む気配ねぇなぁ・・・」

男「あっ、そういや今朝部屋の窓開けっ放しだった気がする!」

男「・・・はぁー」

男は拝殿脇の石段に腰掛けうなだれる。足元では軒下から滴る水が地面に跳ね返り石畳を濡らしている。

男「いつまでもここで待っててもしょうがなさそうだな。覚悟を決めるか」

立ち上がってふたたび雨の中に駆け出そうとしたその時、賽銭箱の脇に1本の傘が落ちているのに気が付いた。

男「うぉ、マジかよ。すごいタイミングで傘が落ちてるな・・・随分ボロボロだけど」

手に取って広げてみると、その傘にはところどころ破れがある。

男「こ、こりゃー随分年代物の傘だな・・・もしかして神社の備品?いやだったらこんなところに置いとく訳ないか・・・」

男「どうしよう、ちょっと借りようか?・・・しかし、神社で拾ったもの持ち帰るとか、なんか呪われそうだな」

一寸思案するものも、雨は一向に止む気配を見せない。

男「・・・仕方ない。神様、ちょっとこの傘借ります」

男はそういってその傘を手に取った。傘布は傷んでいるものの、骨自体はしっかりしている。

男「明日、雨が止んだらここに返しに来よう・・・あ、そうだ」

ポケットから財布を取り出し、5円玉を賽銭箱に投げ入れる。

男「レンタル料ってわけじゃないけど・・・雨宿り代ということで」

激しさを増す雨の中、男はその傘を手に神社を後にした。

<ザーーーーーーーーーーーーーーー

男「わーすごい雨!これがゲリラ豪雨ってやつか!」

男「っていうかもうこれゲリラというよりゴリラだよゴリラ!ゴリラと同じぐらい強ぇ!」

男「しっかしこの傘・・・まるで時代劇に出てくるようなフォルムしてんな・・・」

男が傘を見上げていたその時、急に辺りに突風が吹きつけてきた。

男「ぬわーーーー!また一段とデリカシーのない突風が!傘こわれちゃーう!!」バタバタ

男「あ・・・れ?壊れてない・・・」

今朝と同じように突風に煽られたその傘は、見事風に耐え切っていた。

男「すごい!コンビニのビニール傘よりよっぽど強いぞこれ!!」

男「・・・ってことは、かなりいい傘なんだろうな。雨が止んだら早めに神社に返しに行こう」

・・・

男「ふー、酷い目にあった・・・もう靴の中琵琶湖だよ琵琶湖」バシャー

男「ああ!やっぱり部屋の窓開けっ放しだった!!あぁもうカーペットがめちゃくちゃだよ・・・」

男「・・・とりあえず着替えて洗濯しよう」

男は着替えて着ていた服とカーペットを洗濯機に放り込むと、いつの間にかウトウトと眠りについてしまった。

・・・

タ……

ミツケタ……

ミツ、ケタ……

ワタシ、ノ……

・・・

<チュンチュン・・・

男「おおっ!?・・・いかん、寝ちまってたか。もう朝だよ・・・」

男「ぐああーフローリングで寝ちまったから身体痛ぇ・・・」バキバキ

男「おっ、もう雨も止んでるな。よし、じゃあカーペットを干したら神社に傘を返しにいくか」

起き上がって伸びをすると、男は玄関に置きっぱなしにしていた傘の柄を手に取った。

<グニュ

男「ぐにゅ?」

女「・・・」

男「・・・」

男「」

彼の手が握っていたのは、傘の柄ではなく玄関先に横たわっていた見知らぬ女性の足だった。

-CASE1 傘拾った END-

-CASE2 お化けなんて嘘さ-

男「・・・」

男「ふーん、あーそう。なるほどなるほど。なるほどねぇそうきたかぁ・・・」

男「よーしよし・・・OKOK、そういうことね。うーんなるほど」

男「・・・とりあえずもうちょっと揉んどくか」モミモミ

女「う、くふふ・・・くすぐったいです・・・」

男「お、気が付いたみたいだな」モミモミ

女「あはははは、ちょ、くすぐったいんでやめてください!きゃははは!!」

男「キミは誰かな?」

女「あ、あれ?えっ!?私のこと視えてるんですか!?」

男「そりゃ、見えてないのに扉に話しかけてたらただの頭おかしい人でしょうが」

女「す、すごい!人間と話すなんてどれくらいぶr」

男「いいからお前が誰か答えろ!回答次第じゃポリスにテレフォンするぞ!!」コチョコチョ

女「あはははははは!く、くすぐらないでください!くすぐらないでぇ!!」

男「あー女の子の身体ってやわらかいなあ。やっぱり女体って神秘だわー」

女「そ、それ以上やったらこっちが警察呼びますよっ!」

男「それは困る」ピタ

・・・

女「私ですよほら。昨日神社で拾われた・・・」

男「えっ!傘の妖精?」

女「妖精っていうか、いわゆる唐傘お化けってやつですね」

男「なるほどなるほど・・・必要なのは警察じゃなくて頭のお医者さんだったかぁ」

女「信じてませんね?」

男「ていうか、俺昨日帰ってきたとき玄関の鍵かけたはずなんだけど。チェーンもかけたんだけど。どうやって入ってきたんですかね?」

女「だから、一緒に入ってきたじゃないですかっ」

男「え、ていうことは俺はいつの間にか女の子を拉致監禁するほど手癖が悪くなってたの?」

女「埒があきませんねぇ・・・それじゃあ、えいっ!」

そういうと彼女は昨日拾った傘へと姿を変えた。

男「す、すげー!!」

傘「ふふんどうです?これで信じてくれましたか?」

男「え、ちょっとマジで!?すごいよ!テレビ局に売ったらいくらぐらいになるんだろうこれ!?」

傘「えっ」

男「待って待って、今動画撮るからもっかいやって!まずはネットに流して様子を・・・」

傘「や、やめてください!!」

男「じゃあ君、本当にお化けなの?」

唐傘娘「ええ、まぁ・・・」

男「へーぇ・・・」ジロジロ

唐傘娘「ど、どうかしましたか?」

男「きったねぇ」

唐傘娘「」

男「なにその格好。髪の毛はボサボサだし、服もほつれまくってるじゃん」

唐傘娘「そ、それは!長いこと修繕してないから仕方ないんです!!」

男「自分で直せばいいじゃん」

唐傘娘「自分で直した結果がこれなんですっ!」ボロッ

男「やべぇ超不器用」

唐傘娘「うぅ・・・だって後ろの方とか自分じゃ手届かないし・・・」

男「ていうかさ、俺の知ってる唐傘お化けってもっとこう、こういうスタイルなんだけど」

http://i.imgur.com/sxmbblj.jpg

唐傘娘「これはひどい・・・」

男「思いのほか女の子してるね。何、最近の萌えアニメの影響?」

唐傘娘「もう何百年もこのスタイルでやってます!!」

男「はー・・・とりあえず、シャワーでも浴びてきたら?」

唐傘娘「えっ?」

男「そんな薄汚れた格好で部屋に居座られるの嫌」

唐傘娘「ひどい」

男「人間の格好してるし、シャワーくらい浴びられるでしょ」

唐傘娘「いや、でも・・・わたし、頭から水をかぶるのが苦手で」

男「それ傘としては致命的すぎやしませんかね」

唐傘娘「ち、違うんです!その、普段は私、服を着たまま雨を浴びるので・・・」

男「ははあ、傘布の部分が服になるのか」

唐傘娘「だ、だからその」

男「ていうか君の傘布、油紙だったじゃん?その服どう見てもただの木綿生地にしか見えないんだけど

唐傘娘「それはアレですよ・・・変化したときにある程度いじってますから・・・」

男「そうなの」

唐傘娘「さすがに紙だとこの姿のまま動いてたら破けちゃいますしね」

男「ええい、いいからとにかくシャワー浴びろ!人間だろうがお化けだろうが不衛生な奴が部屋にいるのは許せん!!」グイー

唐傘娘「ひぃー!!」

・・・

唐傘娘「き、きれいになりました・・・」

男「そしたらそこにあるタオルで身体拭いて、俺のジャージでも来てなさい」カタカタ

唐傘娘「な、何してるですか?」

男「いま悪霊退治で名高い寺社検索してる」カタカタ

唐傘娘「」

唐傘娘「ま、待ってください!私悪霊じゃありませんよぉ!!」

男「冗談だよ」

唐傘娘「ひどい」

男「とりあえず、後で傘布貼り直してあげるからしばらくここにいていいよ」

唐傘娘「本当ですか!?」

男「うん」

唐傘娘「うわぁ~、久しぶりに私のことが視える人に出会ったと思ったらこんなにいい人だなんて!!人生捨てたもんじゃありませんね!私傘ですけど!!」

男「照れるぜ」

唐傘娘「っていうか、あなたすごいですね。普通の人だったら今頃こうしてまともに会話成立してませんよ?」

男「いやそりゃねぇ・・・さすがに>>25みたいな風貌だったら問答無用で追い出すけど、一応見た目は女の子だし?」

唐傘娘「えっ、下心あるんですか」

男「うん」

唐傘娘「私、今一気に身の危険を感じたんですが」

男「お化けでしょ?大丈夫だよね」

唐傘娘「何がですか!?」

男「・・・」

唐傘娘「な、なんで黙ってるんですかっ!?」

男「まぁほら、昨日の雨じゃ世話になったし。もし持ち主がいないってんならしばらくウチにいればいいじゃん」

唐傘娘「は、はぁ・・・」

男「それに、君がいれば新しい傘買わなくて済むし」

唐傘娘「ふ、普段使いする気満々ですか!?」

男「だってあの風の中君壊れなかったじゃん。傘としては超優秀だよ」

唐傘娘「褒められてるはずなのになんだか心が痛い・・・」ホロリ

-CASE2 お化けなんて嘘さ END-

かわいい

-CASE3 もったいないから-

唐傘娘「ところで、さっきから何調べてるんです?」

男「んー?ちょっと君を直すためのアイテムをね・・・」

唐傘娘「本当ですか!?うれしいっ!!」

男「・・・せっかく手を加えるなら無理やり折り畳み傘に改造してみるのもありだな」ボソ

唐傘娘「い、今何か怖いこと言いませんでしたか・・・?」ビクッ

男「まあ今まで使ってた傘直すついでにね」

唐傘娘「へぇ~、あなた傘直せるんですかあ」

男「あ、男でいいよ」

唐傘娘「男さん!」

男「はい私です」

唐傘娘「いいですね、そういうの!最近めっきり傘を修理する人が減ってしまって・・・」

男「値段が高いものならともかく、こういうどうでもいいものなら自分で直しちゃったほうが早いし、もったいないからね」

唐傘娘「ひどい」

男「あ、君の場合は下心」

唐傘娘「こわい」

男「・・・こんなんどう?」

唐傘娘「こ、これ・・・デュポン社製の高性能撥水生地じゃないですか・・・!?」

男「まあ、どうせ張り替えるならちゃんとしたの買った方がいいでしょ」

唐傘娘「デュポンとかアレですよ!?唐傘界のシャネルですよ!!」

男「その例えよく分からん」

唐傘娘「いいんですかこんなに良いものを!?」

男「あ、よく見たら売り切れだわこれ」

唐傘娘「・・・」ショボン

男「まぁそう気を落とさず・・・あ、そういや昨日壊れたビニール傘、あの傘布はまだ大丈夫そうだったなあ」

唐傘娘「えっ」

男「とりあえずニコイチでくっつけちゃおうか。なんかエコだし!」

唐傘娘「ちょ、ちょっと待ったあっ!」

男「はい」

唐傘娘「ビ、ビニール傘って透明じゃないですか!?」

男「そりゃビニールだもん」

唐傘娘「さ、さっき傘布の部分が服になるって言ったじゃないですかっ!!」

男「!!!!!」

唐傘娘「そ、そんなの着たら私・・・」

男「っしゃおらあ!!今すぐ図書館に昨日の傘取りに行くぞ!!こんなチャンス生かさずにいられようか!?全くもってもったいない!!」

唐傘娘「待って!待ってください、待ってえええええ!!」

・・・

おじさん「あぁーあの傘?壊れてたから処分したよ」

男「」

傘(よかった・・・)

おじさん「あれ、君の傘だったのかい?」

男「えぇ・・・まだ直せば使えそうだったので・・・」

おじさん「そうかぁ、なら悪いことしちゃったなー」

男「ああ、いいんです。気にしないでください」

おじさん「そうだ。これ、ずっと前から保管してる忘れ物なんだけど・・・持ち主も現れないし、よかったら持ってく?」

男「ビニール傘じゃないと意味ないんです!!!!」

おじさん「えっ」

・・・

男「はー、一足遅かったかぁ」

唐傘娘「私にとってはぎりぎりセーフでした・・・」

男「こうなったら、コンビニで新しいビニール傘買うか」

唐傘娘「い、嫌ですよやめてください!!」

男「ていうか、ジャージ着てた場合は傘に戻るとただの洋傘みたいになるんだね。ヘイボーン」

唐傘娘「うううこの仕打ち・・・」

男「ま、わざわざ壊すために傘買うのももったいないしね」

唐傘娘「そうですよ。そんなことしたらもったいないお化けが出てきますよ?」

お化け「もったいないもったいない!」

男「出たよ」

唐傘娘「出ましたねぇ・・・」

お化け「もったいないもったいない!!」

男「ていうか、人の部屋に勝手に上り込むんじゃねえ」

唐傘娘「もしかして、私が視えるようになって他の妖怪たちも集まって来ちゃったんですかねぇ」

男「マジなのですか」

お化け「もったいないもったいない!!」

男「ていうか、そんなあちこちに妖怪なんているの?」

唐傘娘「いますよ~、ていうか、私の場合は妖怪というより付喪神ですけど」

男「全部妖怪のせいってのもあながち間違いじゃなかったんだな・・・」

唐傘娘「何の話です?」

お化け「もったいないもったいない!!」

男「こいつうるせぇ」

唐傘娘「もったいないお化けは何かいらないものをあげるといなくなりますよ」

男「そうなの。じゃ、今履いてる穴の開いた靴下あげる」ヒョイ

唐傘娘「うわぁ脱ぎたてじゃないですか・・・」

お化け「もったいないもったいない!!」

男「・・・ごめん、ちょっとそれ持って『ドビー悪い子!』っていってみてくんない?」

お化け「もっ?」

唐傘娘「ムチャ振りしないであげてください・・・」

-CASE3 もったいないから END-

>>34
いいのよ

【参考画像】傘の部品名称
http://i.imgur.com/vHTWRD7.jpg
この雨を防ぐ傘布の部分をカバー、傘地というそうです

-CASE4 ねないこだれだ-

男「そういえば唐傘ちゃんはさぁ」

唐傘娘「はい?」

男「その姿でいるのと、傘の姿でいるのとどっちが楽なわけ?」

唐傘娘「えっ?うーんそうですね・・・動くときはこっちの方がいいですし、じっとしてるなら傘のままの方が楽ですねぇ」

男「なるほどなるほど。それじゃあさ、今夜はその姿のまま俺と一緒に寝ようよ!」

唐傘娘「いやじっとしてるなら傘の方が楽って言ってるじゃないですか!!」

男「どうしてもダメ?」

唐傘娘「へ、変なことしません?」

男「約束はできない。信じてくれ!」

唐傘娘「そ、そこまで言うなら・・・って、う、うん!?いま約束できないって言いましたか!?」

男「さあ来いよ!どこまでもクレバーに抱きしめてやる!!」

唐傘娘「行きたくない・・・」

・・・

男「おっほ、きたきた」

唐傘娘「へ、変なことしたらすぐに傘の姿に戻りますからね!?」

男「なんだかんだ言うこと聞いてくれる唐傘ちゃんマジらぶりー」

唐傘娘「ふとんの半分よりこっち側来ないでくださいね!!」

男「・・・」

傘「・・・」

男「ごめんごめん、善処するから傘に戻らないで!」

唐傘娘「それじゃあ、おやすみなさいです」

男「すげー!今俺女の子と一緒に寝てる!人外だけど!!」

唐傘娘「正確にはあなたは今傘と一緒に寝ているんですよ」

男「そんなマニアックな性癖ってねえよ」

唐傘娘「いやだからそれをやってるんですって」

男「見た目かわいければいいの!」

唐傘娘「///」

唐傘娘「というかあの、出会って2日目にこんなこと聞くのは野暮なんですけど、こういうのは普通彼女さんとやるものでは?」

男「なんで女の子って同じシャンプー使ってるのにこんなに良い匂いがするんだぜ?マジ神秘度高けー」クンカクンカ

唐傘娘「ひぃん、話聞いてくださいよぉ・・・」

男「だって唐傘ちゃんかわいい」

唐傘娘「うぐ・・・///そ、そんなジゴロなことを・・・」

男「ジゴロて」

唐傘娘「と、とにかく今日はもう寝ましょう!!」

男「なんかお話し聞かせてー」

唐傘娘「なんでちょっと幼児退行してるんですか」

男「いやホント一人暮らしの寂しい部屋に人外とはいえこんなかわいい子が来てくれてうれしいホントうれしい・・」ホロリ

唐傘娘「そ、そんな泣かなくても」

男「あの神社寄ってよかった・・・」

唐傘娘「うーんお話しですか、そうですねぇ・・・」

男「妖怪界の性の乱れの話とか聞きたい!」

唐傘娘「べ、別に乱れてませんし!」

男「嘗女とか蛤女房の話聞きたいなぁ」(ゲス顔)

唐傘娘「ず、随分とマイナーな方知ってますね」

男「女の子の口から発せられる下世話な話聞きたーい」

唐傘娘「ていうか、もうこれセクハラですよセクハラ!」

男「妖怪に人権はない」

傘「・・・」

男「ごめん優しくするから戻って」

唐傘娘「ほら、もう寝ますよ。早く寝ないと砂男が来ますよ」

男「日本の妖怪なのに西洋の妖怪を持ち出してくるとは」

砂男「寝ない子はいねがー!!」

男「西洋の妖怪なのに日本の妖怪をオマージュしているとは」

唐傘娘「ほらー、やっぱり来ちゃったじゃないですかあ」

男「フラグ立てたのは君だよね」

砂男「シャシャシャー」

男「ていうかなんだよそのトランプのジョーカーみたいなフォルム。ムカつくわー」

唐傘娘「ほらほら、早く寝ないと砂かけられますよ」

男「おうお前この部屋で砂なんかバラまいてみろ?首根っこひっ捕まえてでも掃除させたるからな」

唐傘娘「だから早く寝ましょうって」

男「じゃー子守ソングうたってー」

唐傘娘「もう子供じゃないでしょ・・・」

男「よし!子供じゃないならもう全部OKだな!!」

傘「何がOKなんですか!?ちょっと!やめてくだ・・・もぉー!やっぱり今日は傘になって寝ます!!」バサッ

砂男「お前らもう寝ろやああああああ!!」砂バサー

男「馬鹿め!こっちには傘があるんだ!!」バッ

傘「」ビシビシ

砂男「なん・・・だと・・・」

男「俺と唐傘ちゃんの愛のツープラトンをなめるなよ・・・さあ部屋を片付けてもらおうか」

砂男「えぇ・・・」

傘「Zzz...」

-CASE4 ねないこだれだ END-

-CASE5 モジャモジャ-

唐傘娘「うぅん・・・はっ!!」

男「あ、おはよー」

唐傘娘「男さん!酷いですよ人を砂男の砂の盾にするなんて!!」

男「傘としての本分じゃん」

唐傘娘「わたしが防ぐのは主に雨です!!」ムキー

男「まぁそう怒らないで。・・・それより、何か気付いたことない?」

唐傘娘「えっ?・・・ああっ!服(傘布)が新しくなってる!?」

男「唐傘ちゃんが寝てる間に注文してた生地が届いてね。張り直してみたんだけど。どう?気に入った?」

唐傘娘「すごい!まるで本職がやったみたいです!男さん手先が器用!!」

男「もっと褒めて」

唐傘娘「いよっ!傘職人コンクール関東甲信越代表!!」

男「なんで地域絞った」

傘「すごーい、今までの傘布とは全然ちがーう!!」バッサバッサ

男「デュポン社製の生地ではないけど、同等品だよ」

傘「すごいです!すごいです!わーい!!」ピョンピョン

男「どうでもいいけど傘の姿のまま跳ね回るの百鬼夜行みたいだからやめなよ」

?「ごめんあそばせ唐傘さん。貴方面白い人間を見つけたらしいわね?」

男「えっ、誰ですかアンタ」

唐傘娘「あっ!毛倡妓さん!!」

男「けじょうろう?」

毛倡妓「オーッホッホッホ!!まだそんなみすぼらしい服を着て・・・ってぇ!新しくなってるじゃない!?」

唐傘娘「男さんが直してくれたんですよー」

毛倡妓「キィーッ!何よ!貴方にはそんないい服は似合わないわ!!」ダンダンダン

男「ていうか何、俺の部屋はもう妖怪たちの集会所みたくなってんの?」

・・・

唐傘娘「毛倡妓さんは江戸時代からのお友達なんですよ~」

男「それにしてはずいぶんとバタ臭い格好していらっしゃいますわね。縦ロールですの?」

毛倡妓「フフン、身だしなみに気を使うのは淑女としての常識ですわ!」

男「なるほどー、絵にかいたような高飛車お嬢様だね」

唐傘娘「はい」

毛倡妓「何ですって!?」ムキー

唐傘娘「でも、こう見えて毛倡妓さんは妖怪界ではモテモテなんですよ!」

毛倡妓「こう見えては余計ですわ・・・」ビキビキ

男「まぁ人間の俺から見ても端正な顔立ちしてるしね。分かるよ」

毛倡妓「オーッホッホッホ!よろしくってよ!!」

男(何がよろしいんだろう)

唐傘娘(何がよろしいのかなあ)

毛倡妓「ところで貴方。わたくしたちが視えるなんて、今時の人間にしては珍しいですわね!」

男「急に発症しまして」

唐傘娘「そんな病気みたいに」

男「妖怪ウォ○チならぬ妖怪網膜といったところでしょうか」

唐傘娘「だから何の話ですか」

毛倡妓「フフン、それでしたら!定期的にここへ顔を出してあげてもよろしくってよ?」

男「えっ、別にいいです」

毛倡妓「えっ」

男「いいです」

毛倡妓「」

毛倡妓「えっ、ちょ・・・な、なんですって!?こんな気品と美貌を兼ねそろえたわたくしが定期的に会いにくるといっているんですのよ!?」

男「いやあ、お嬢様キャラは嫌いじゃないけど好きじゃないよ」

毛倡妓「」

唐傘娘(お、男さん男さん)ヒソヒソ

男(何?)ヒソヒソ

唐傘娘(毛倡妓さんは、ああ見えてとってもさびしがり屋なんです)ヒソヒソ

男(へー。そうなんだ。ギャップ萌えってやつ?)ヒソヒソ

唐傘娘(わたしがあの神社にいるときから、たまに遊びにきてたんですよ)ヒソヒソ

男(なにそれ暇なの?ニート?)ヒソヒソ

唐傘娘(いえ、夜は妖怪界で配送のアルバイトしてるみたいです)ヒソヒソ

男(苦労人じゃん・・・やめてよそういうギャップ。なんか彼女に対して急に哀れみの感情が湧きあがってきた・・・)ホロリ

毛倡妓「あ、貴方たち!小声で話していてもこの距離では丸聞こえですわ!!」

男「毛倡妓さん、ごめん・・・こんなところでよかったらいつでも遊びに来て」(暖かい目)

毛倡妓「ムキー!!もう金輪際来ませんわこんなところ!!」ダンダン

唐傘娘「えー、たまには来てほしいなー。寂しいですー」

毛倡妓「うっ・・・オーッホッホ!し、仕方ないわね!唐傘さんがそこまでいうのなら我慢して来てあげないこともなくってよ!!」

男「あの、バイト帰りとか疲れたら寄っていっていいんだよ・・・?」(慈しむ目)

毛倡妓「ど、同情はいらなくってよ!!」

男「ところで、なんで『毛』倡妓?」

唐傘娘「https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/b/b4/SekienKejoro.jpg

男「おぉ・・・」

毛倡妓「唐傘さん!?おやめになって!!」

男「そうか・・・この頃があったからこそ今は身だしなみに気を使うようになったんだね・・・」

毛倡妓「いやああああああああああああ!!!」(トラウマ発動中)

男「大丈夫、人間でも妖怪でも、努力してる姿ってすごく美しいと思うよ?」

毛倡妓「ヒックヒック・・・もうわたくしの精神は崩壊寸前ですわ・・・」スゥー…

唐傘娘「毛倡妓さん毛倡妓さん!消えかけてます!気をしっかり持って!!」ユッサユッサ

男「トドメをさしたのは主に唐傘ちゃんだと思うんだけど」

毛倡妓「も、もうこんなところ二度と来ませんわ!うえーん!!」タッタッタ

男「あーあ。唐傘ちゃん毛倡妓のこと泣ーかせた泣ーかせたー!せーんせいに言ってやろー!」

唐傘「先生って誰ですか・・・」

男「しかし・・・妖怪も色々と苦労してるんだねぇ」

唐傘娘「彼女の場合は、明治時代ぐらいに急におしゃれに目覚めたんですよねぇ」

男「高校デビューならぬ文明開化デビューか・・・」ウーン

唐傘娘「それから身だしなみに気を使うようになって、今はああして夜にバイトしたお金でおしゃれをしているんです」

男「・・・こんなこと人間の俺が言うのもなんだけど、誰かいい人いないのかい?」

唐傘娘「毛倡妓さん、ああ見えて純真ですから・・・きっとあと1歩が踏み出せないんだと思うんです」

男「そうか・・・じゃあこっちから10歩ぐらい踏み入れてみようか」

唐傘娘「アグレッシブすぎますって。踏み込みすぎでしょう10歩って」

数日後。

毛倡妓「・・・」ソー

男「毛倡妓さん!!」

毛倡妓「うひいっ!?」ビクーン

男「そんな玄関先から見てないで!どうぞ中へ!!」

毛倡妓「な、なんですの!?別に見てたわけじゃないですの!!」

男「まあまあまあ!唐傘ちゃんも待ってますから!!」

唐傘娘「あ、毛倡妓さんこんにちはー!」

毛倡妓「フ、フン!相変わらずいつ来てもむさくるしいところですわね!!」

唐傘娘「ここに来たの2回目だよね?」

毛倡妓「ゲフンゲフン!こ、こんなところ1回くれば十分ですわ!!・・・ところで、今日は何を?」

男「あのですね・・・唐傘ちゃんと相談して決めたんですけど・・・これをあなたに」

毛倡妓「これは?」

唐傘娘「私たちからのプレゼントです」

毛倡妓「プレ、ゼント・・・?」

男「はい」

毛倡妓「・・・・・・」

毛倡妓「・・・」

毛倡妓「」ブワッ

男「泣いてるよ」

唐傘娘「号泣ですね」

毛倡妓「ハッ!・・・フ、フン!まぁ貰ってあげないこともなくってよ!!」

唐傘娘「よかったー」

毛倡妓「あ、開けてみてよろしくって?」ソワソワ

男「どうぞどうぞ」

毛倡妓「・・・!」ワクワク

脱毛クリーム<オッス!!

毛倡妓「」

唐傘娘「それでちょっとでも毛倡妓さんのムダ毛のケアが楽になればとおもって・・・」

男「学生の身分じゃこんなものしかあげられないけど・・・これからもたまには唐傘娘ちゃんのところにきてやってね」

毛倡妓「・・・」

毛倡妓「うっ」

毛倡妓「うわああああああああああああああああん!!!」タッタッタ

男「あ、逃げた」

唐傘娘「でも脱毛クリームはしっかり持って行ってますね。気に入ってくれたみたいです」

-CASE5 モジャモジャ END-

連日猛暑の中妖怪スレとは荒俣先生もニッコリ

>>25
可愛いじゃないか
あ、脛毛モッサモサの方はお帰り下さい

-CASE6 今日はこの後どこか行かれるんですか?-

男「おはようございましってよ!今日もお暑いですわね!」

友「おはよー・・・ってなんで傘さしてんの?あと何その口調」

男「直射日光はお肌のエネミーですわ!!」

友「エセお嬢様口調やめろって。というか随分野暮ったい日傘だなぁ」

傘(なんだと)

男(まぁまぁ)

友「ところで、ちょうどよかった。ちょっとお前の手を借りたいんだけど」

男「えーやだー、なんで俺がお前の手伝いなんか」

友「俺じゃなくて、先輩(女)だよ」

男「馬鹿野郎!今すぐ行くぞ!!」

友「ひっぱるなって」

・・・

先輩「あ、男くん・・・」

男「ただ今馳せ参じました!」

友「騎士気取りか」

先輩「ごめん、ちょっと男君にみてもらいたいものが・・・」

男「なんでしょう?」キリッ

先輩「これ・・・私の自転車なんだけど・・・」

男「んん?チェーンが切れてますね。それにブレーキワイヤーも・・・」

先輩「うん・・・走ってる途中に急に壊れて・・・これ、直せるかな?」

男「任せてください」キリッ

先輩「ありがとう!後でお礼はするね!」

友「ま、コイツに任せとけば安心ですよ」

先輩「本当に助かるわ・・・あら、かわいい傘ね」

傘「」バッサバッサ

先輩「えっ?い、今傘が勝手に動いたような・・・」

男「気のせいです。さあ、行ってください。次の講義に遅れてしまいます」

・・・

男「さーて、どこから手を付けるか」

友「今気が付いたけど、これタイヤもやられてないか?」

男「あぁほんとだ、チューブもいかれてるっぽいな・・・イタズラにしてもこれは酷い」

友「直せそう?」

男「んー、とりあえずワイヤーと工具がいるな・・・工芸棟と工作センター回って使えそうな道具集めてこようか」

友「窃盗ゥー!」

男「魔王を倒すって名目があれば、民家の引き出しを勝手に開けても許されるわけだ」

友「魔王倒さないしお前勇者じゃないしここは現実世界だし」

男「ツッコミの三段活用やめて」

・・・

男「うーん・・・」

友「どうした?」

男「壊れたとこ外してみて分かったんだけど、これ鋭利な刃物で切断されたような感じなんだよなあ」

友「マジで?」

男「悪戯にしては相当タチが悪いっていうか・・・金属を切断できるような刃物を持ち歩いてるっていうのはヤバイだろこれ」

友「この街のセキュリティが危うい・・・でも先輩、確か走ってる途中に切れたって言ってなかったっけ?誰かにやられたんなら気付くだろ普通」

傘(男さん、男さん)ヒソヒソ

男(ん?)ヒソヒソ

傘(これ・・・もしかすると妖怪のしわざかも)ヒソヒソ

男(妖怪のせいなのね?そうなのね?)ヒソヒソ

傘(だから何の話ですか)ヒソヒソ

友「何独り言いってるんだ?」

男「んーん。なんでもない」

友「ところで、何か俺に手伝えることある?」

男「んー、じゃあちょっとゴム用の接着剤探してきて。あとチェーンプライヤー」

友「あいよ、分った」タッタッタ

男「で・・・どういうこと?」

傘「はい。これは多分、髪切りの仕業かと」

男「床屋かな?」

傘「じゃなくて」

傘「髪切りっていうのは、どこからともなく現れて人の髪の毛を切ってしまう妖怪です」

男「ハゲの天敵じゃん」

傘「そこまでいったらそもそも切る髪ないでしょ」

男「辛辣」

傘「さっきのあの女の人綺麗な髪してましたし、多分髪切りに狙われたんじゃないかと」

男「それさあ。もし髪切られたらどうなるの?死ぬの?」

傘「いやまあ別に髪を切られるだけで何も起きませんけど・・・髪は女の命って言いますし」

男「つまり先輩のハートが傷ついちゃうカンジ?」

傘「多分・・・」

男「・・・」ユラリ

傘「ど、どこ行くんですか?」

男「ちょっと彫刻学科の奴らに頼んで魔除けの人形とか掘ってもらうわ・・・」

傘「お、落ち着いて!!」

髪切り「はぁ・・・はぁ・・・」コヒューッコヒューッ

男「うわ、なんか瀕死のお化けがいる」

傘「お化けなのに瀕死とはこれいかに」

髪切り「いやぁキツイっす・・・最近の熱波マジヒートアイランド現象・・・」コヒューッコヒューッ

男「ていうか誰だよお前は。キャンパスにまで現れるんじゃねえ」

傘「あっ、彼が髪切りですよ」

男「貴様ァ!!」ギチギチ

髪切り「すんません・・・すんま・・・ぐふっ・・・」スゥー…

傘「お、男さん。とりあえず放してあげてください、消えかけてます」

・・・

男「で。なして先輩の自転車を狙った?」

髪切り「いやあの・・・狙ってたのは彼女の髪だったんですが、いかんせんこの暑さで自転車に追いつけなくて・・・」

傘「走って追いかけてるうちに、手元が狂って自転車を壊してしまった、と」

髪切り「はい・・・」

男「よーし。判決。死刑」

髪切り「許してください!なんでもしますから!!」

毛倡妓(ふっふっふ・・・見つけましたわ唐傘さん。あの部屋に遊びに行ってもいないと思ったらこんなところにいらっしゃったのね?)←遠くから見てる

男「ていうかさー。そんなに髪切りたいのならうってつけなのがいるじゃん?」

傘「毛倡妓さんですか?」

毛倡妓(あら・・・何か私の話をしているみたいですわね?)

髪切り「うぐっ!毛倡妓さんは勘弁してくれ!!」

男「なんでよ?」

髪切り「確かに俺は髪が好きだ!でもアンタ・・・いくらラーメンが好きだからって、1ヵ月連続で食えるか?」

男「いやまぁ・・・毎回味替えれば別に」

髪切り「味替わんねーよ!毛倡妓さんの髪の毛はあれラーメンでいったら二郎だよ二郎!!」

毛倡妓「」ガーン

男「あー、なんとなく分かるわー」

傘「分かるんですか」

毛倡妓「うっ・・・」

毛倡妓「うわああああああああああああああん!!」タッタッタ

傘「ん?いま毛倡妓さんの声が聞こえたような・・・」

男「気のせいでしょ。そんなことより、おい髪切り。お前は金輪際先輩に近づくんじゃねえぞ」

髪切り「へっ、へい!」

男「俺はお前が視えるんだ・・・いざとなったら地獄の果てまで追いかけてお前をハゲしかいない世界に叩き込んでやることもできるんだぞ?」

髪切り「ひっ、ひいいいいい!!鬼!悪魔!人の皮!!」ガクブル

傘「ハゲだけの世界ってある意味誰も傷つかない優しい世界ですよね」ボソッ

男「唐傘ちゃんはなにハゲに恨みでもあるの?」

友「おーい!あったぞー!」

・・・

先輩「わぁすごい!直ってる!!」

男「一応一通り見ましたけど・・・素人仕事なんで、なるべく早めに自転車屋に持って行ってくださいね」

先輩「ありがとう!さすが男くん!」

友「ほんとお前は手先が器用でうらやましいわ」

男「いいのよ」

先輩「それでお礼の話なんだけど・・・男君、8月の第2週って暇?」

男「あー・・・まぁ特に夏休み中大きな課題も出てないし、大丈夫だと思いますけど」

先輩「もしよかったら、友達と海に行くんだけど一緒に来ない?民宿をやってる親戚のうちに泊まれるから、宿泊費は気にしなくていいよ」

男「えっ、本当ですか?」

先輩「もちろん!友くんも一緒にこれたらおいでよ」

友「やったぜ」

・・・

男「いやー、海かぁ。海で泳ぐのなんて何年振りだろう」

唐傘娘「海ですかぁ、素敵ですねえ。私もついて行っていいですか?」

男「もちろん」

毛倡妓「ひっく・・・ひっく・・・わたくしを置いていかないでぇ唐傘さん・・・」

男「あっ、毛さんじゃないですか」

毛倡妓「その略し方はやめて!!」

唐傘娘「中国の国家主席みたいですね」

毛倡妓「わ、わたくしも!わたくしも一緒に海に連れて行ってほしいですわ!」

男「ていうか、誘われたのは俺なんだけど。なんで妖怪までついてくんの?」

毛倡妓「ひどいですわ!唐傘さんは連れて行くのになんで私だけ拒否するんですの!?」

男「だって・・・海っていったら水着だよ?水着っていったら・・・ねぇ?」

毛倡妓「何を言わんとしているかは分かりますがちゃんとケアしてますの!!」

唐傘娘「毛倡妓さん落ち着いて。自爆してます」

男「冗談だよ。もちろん、毛倡妓さんもついてきていいよ」

毛倡妓「ほ、本当!?本当ですわね!?」

男「うん」

毛倡妓「そ、それじゃあさっそく帰って準備してきますわ!!」ピューン

唐傘娘「あ、行っちゃった」

男「行くの2週間近く先の話なんだけどなぁ・・・」

-CASE6 今日はこの後どこか行かれるんですか? END-

>>85
ちゃんとケアしてますの!!
http://i.imgur.com/AT6TZjF.jpg

-CASE6 初乗り2kmまで650分-

友「もう来週の準備できた?」

男「おう!もう海パンも縫い終わったぜ!!」

友「そこから!?」

男「いや、こないだ傘張り替えた生地が余っててさぁ」

友「か、傘用の生地で海パンつくったのか・・・すごい水弾きそうだな」

男「えーと・・・何時出発だっけ?」

友「東京駅9時発の新幹線だね」

男「混まないかなあ」

友「お盆は外してるし大丈夫っしょ。心配なら指定席買っとく?」

男「そうね」

友「・・・あ、もう空席なしだ。思ったより混んでたな」

男「うわー、じゃあ朝早く出て自由席並ばないと」

友「2時間デッキに立ちっぱなしはキツイね」

男「よし、始発で出るか」

友「それはちょっと気合入れすぎじゃない?」

そして当日・・・。

男「よーし。着替えもった、歯ブラシもった、携帯の充電器もった、唐傘ちゃんもった・・・」

毛倡妓「わ、わたくしもですの!」

男「毛・・・と」

毛倡妓「チェックリストに『毛』とだけ書くのはおやめになって!!」

唐傘娘「これ、何も知らない人が見たらすごいシュールな項目ですね」

男「よし、じゃあそろそろ出ようか」

傘「おー!」

毛倡妓「楽しみですの!」

男「・・・あ、毛倡妓さんカミソリすぐ出せるとこ入れとかなくて大丈夫?」

毛倡妓「そ、そんな心配無用ですの!!」

『ただ今新宿方面への電車は運転を見合わせております・・・』

男「うわぁ・・・う、うわぁ・・・」

毛倡妓「人身事故ですの・・・」

傘「タイミング悪いですねぇ」

男「本当だよもう・・・振り替え輸送使ったら1時間は余計にかかるし・・・とりあえず友に電話しとこ」

<prrrrr....

友『・・・あ、もしもし?どうした』

男「あー悪い・・・電車止まってるわ」

友『マジかよ・・・新幹線、間に合いそう?』

男「まだ切符買ってないし、最悪何本か遅らせて向こうで落ち合いたいって、先輩たちに伝えといてくれる?」

友『わかった。あ、でも空席状況みたらこれ以降全部満席になってるから・・・2時間デッキコースだな』

男「うへぇ・・・まあ仕方ないさ。じゃあ、またあとで連絡するから」

男「あーあ、ついてないなあ。2時間立ちっぱなしかあ」

毛倡妓「あっ!それならいい方法がありますわ!」

男「唐傘ちゃんどうする?先ごはん食べようか」

傘「え?いや別に私は食べなくても死なないんで・・・」

毛倡妓「お聞きになって!無視しないでくださいまし!!」

・・・

男「はあ、朧車ですか」

毛倡妓「それを使えば、座ったまま目的地まで行けますわよ!」

傘「毛倡妓さんあったまいいー!」

男「でもそれ・・・俺乗れんの?」

毛倡妓「わたくしたちを視たり触れたりしている時点で問題ないはずですの!」

男「そうなんですの」

傘「じゃ、早速配車手配してもらいましょ~」

男「ハイヤーかな?」

毛倡妓「すぐにつきますわよ!!」

・・・

朧車「はーい、お待たせしました」

唐傘娘「さっき連絡した唐傘ですー」

男「すげー!趣味の悪いデコトラみたい!!さすが妖怪!!」

毛倡妓「妖怪をナチュラルにディスるのはやめてほしいですの・・・」

朧車「はい、足元気を付けてくださいねー、ドア閉めますよー」

男「へー、中は結構広いんだね。やべぇWi-fiまでつかえんのか・・・」

唐傘娘「元は牛車ですからねぇ」

毛倡妓「貴族の乗り物ですの!!」

男「なるほどー!じゃあお嬢様の毛倡妓さんなんかは、もう飽きるくらい乗ってるんでしょうねえ」

毛倡妓「と・・・当然・・・ですの・・・!」

唐傘娘「毛倡妓さん、無理しなくていいんだよ」

朧車「じゃあ出しますね」フワリ

男「おぉー飛んでるー!ネコバスってこんなカンジなのかなー!?」

唐傘娘「いやあれ飛ばないですよね?」

毛倡妓「それにしてもこの方は人間のくせに怪異にまったく動じませんわね・・・」

唐傘娘「それが男さんのいいところなのです」

男「いやー手足が伸ばせてWi-Fiまで使えるとか、新幹線のグランクラスなんかより全然いいじゃん!!」

唐傘娘「まぁ普通朧車に人間は乗れませんからねぇ」

男「ところでこれ、支払いはどうなんの?」

毛倡妓「フフ、それはですね・・・基本的には乗った人の残りの寿命で支払うんですのよ・・・!」ニヤリ

男「ふーん、そうなんだ」

毛倡妓「あ、あれっ・・・?怖くないんですの?」

男「え、だってこれ毛倡妓さんのおごりでしょ?」

毛倡妓「えっ」

唐傘娘「まあ、私たちは連れて行ってもらってるわけですからねぇ。片道分の交通費くらいは出さないと」

毛倡妓「か、唐傘さんまで!?ひどいですの!!」

男「いやでもほら、人間と妖怪じゃ寿命も違うし?そういう意味で言ったらやっぱり毛倡妓さんは俺なんかにくらべたら億万長者なわけじゃないですか」

毛倡妓「な、なんでですの!?なんで私のやることなすこと全部裏目に出るんですの!?」

唐傘娘「毛倡妓さん、ここは払ってあげましょうよ」

毛倡妓「あ、あなたも一緒に払うんですのよ!?割り勘!割り勘ですの!!」

男「あーおもしれぇ」ケラケラ

・・・

男「いやー思いのほか早くついたなぁ。途中で新幹線抜いたんじゃないか?」

毛倡妓「ううう・・・来月も節約ですの・・・」←カードで払った

傘「毛倡妓さん、いいんですか?私半分持ちますよ?」

毛倡妓「いいんですの・・・気にしないでくださいまし・・・」シクシク

男「毛倡妓さん、今を楽しもうぜ!」ニッコリ

毛倡妓「うえーん!!」

先輩「あ・・・れ?男、くん?」

男「あ、お疲れ様でーす」

友「お、お前・・・!?新幹線乗れなかったんじゃないのかよ!?」

男「ちょっと自家用ヘリで」

友「富豪か!!」

毛倡妓『全然自家用じゃないですの!全部私持ちですの!!』

傘『毛倡妓さん、そんなに叫んでも男さん以外の人には聞こえませんよ』

先輩「でも本当びっくりしたなぁ~!まさか先回りしてるだなんて・・・あ、紹介するね。一緒にきた、ゼミの友達」

筋肉「こんにちは!」

メガネ「こ、こんにちはぁ・・・」

アホ毛「清潔で美しく健やかな毎日をお送りします・・・」

男「これはまたなんとも濃ゆいメンバーですなぁ」

傘『男さんがそれ言いますか』

友「・・・」

先輩「じゃあ、みんなそろったことだし、行こうか!!」

アホ毛「おー」

メガネ「うふ、うふふ・・・」

筋肉「さあ行こうぜ友くん!我々は荷物係だ!!」ニッコリ

友「うっ・・・は、はい」ビクビク

男「あ、俺も手伝うよ」

-CASE6 初乗り2kmまで650分 END-

おつかれー!唐傘娘のイラストもまっとります!安定した面白さだ!

>>133
http://i.imgur.com/IVOHUET.jpg
うらぁ!!(既製品)

あとごめんあそばせ話数間違えてましたの!!(テヘペロ

-CASE8 ビーチの視線独り占め-

先輩「おばさんこんにちわー!遊びにきましたー」

おばさん「あら、いらっしゃい!よく来たわねー」

男「おー、でかーい!民宿って泊まるのはじめてー」

友「ふー、暑いなぁ」

筋肉「友君!後で一緒に汗を流しに行こう!!」

友「」ビクッ

おばさん「ごはんできてるけど、食べる?」

先輩「あ、いただきます!・・・じゃあみんな、部屋に荷物おいてこよっか」

アホ毛「ういー」

先輩「男君たちは、2階の部屋だよー」

筋肉「よし!じゃあ行こうか2人とも!」

男「よーし、行くかー・・・どうしたんだ友?」

友「な、なんでもない・・・」ビクビク

・・・

一同「ごちそうさまでしたー!」

先輩「で・・・どうしようか?さっそく泳ぐ?」

メガネ「た、食べてからすぐに泳ぐのは身体に悪いのでは・・・」

男「いやあ、実は俺もう服の下に水着来てるんだよね!!」バサー

友「見せなくていいから」

アホ毛「・・・やるなおぬし・・・実は私も」バサー

友「」

先輩「アホ毛ちゃんここで見せちゃダメ!!」

アホ毛「どうせ後で見られるものなのに・・・」

メガネ「あ、朝から着けてたら汚れてしまうのでは・・・」

アホ毛「海に入ればきれいになるから問題ない」

先輩「そ、そういう問題なのかな・・・」

おばさん「昼から泳ぎにいくのかい?」

先輩「そうですね、ちょっと食休みしたら行こうかな」

おばさん「裏に去年使った浮き輪とかあるから、空気入れて使っていいよ」

先輩「あ、ありがとう!」

男「あ、じゃあ俺膨らましときますよ。どうせもう着替えてるし」

アホ毛「じゃあ、私も・・・」

先輩「本当?2人ともありがとう。じゃあ、他の皆は部屋に戻って準備してこようか」

筋肉「よし友くん!俺たちもさっそく着替えて空気いれるの手伝おう!!」

友「ひっ・・・は、はい・・・」ビクビク

男「じゃ、俺たち先行ってますね」

先輩「うん、よろしくね!」

・・・

おばさん「空気入れはこれね。使い終わったら、表のホースで塩水だけ流しておいといてね」

男「分かりました」

アホ毛「空気入れ、1個しかない」

男「そうだね」

アホ毛「・・・」プー

男「いや、ゴムボートを口で膨らますのはさすがに無茶だと思うの私」

傘(男さん、私に任せてください)

男(え?)

傘(んんんん・・・えいっ!)

<ボワンッ

男「い、一瞬でゴムボートが!」

アホ毛「あうっ」バイーン

傘(唐傘忍法、なんか膨らますの術!)

男(忍法て。ていうかアホ毛ちゃんがいる前でそんなことしちゃさすがにヤバイでしょうよ)

アホ毛「・・・」

男「あっごめん!吹き飛ばされたけど大丈夫?」

アホ毛「・・・グッジョブ」

男「え?」

アホ毛「いまの。どうやってやったの?忍法?」

男「えっ」

アホ毛「すごい。もう一回やって」キラキラ

男「い、いやーあの」

筋肉「やあ!お待たせ!!」

男「あ、増援がきた!・・・って、友元気ないな。どうした?」

友「ううん・・・別に・・・」ゲッソリ

筋肉「あとはこの浮き輪膨らませばいいのかい?」

男「そうですねー。先輩たちは?」

友「まだ部屋で着替えてるみたい」

男「そうか。・・・あ、俺も部屋に小銭取りに行ってくる!」

友「あっ!じゃ、じゃあ俺も一緒n」

筋肉「友君!ちょっとそっち押さえててくれ!!」

友「」

・・・

男「おーい毛倡妓さーん、準備できたー?行きますわよー」

毛倡妓「ま、待ってくださいまし!えーと、日焼け止めクリームは・・・」キョロキョロ

男「あ、クリームならここにあるよ?」

毛倡妓「あ、どうも・・・」

男「脱毛クリームが」

毛倡妓「それじゃありませんわ!!」ムキー

先輩「あ、男くん準備できた?」

男「はい!・・・おぉ、二人ともかわいい水着ですね」

先輩「ホント?ありがとう!」

メガネ「ほ、ほかの人たちは・・・?」

男「みんなもう表にいるよー」

先輩「それじゃあ行こっか!!」

・・・

友「なんだよお前、またその傘持ってきたの?」

男「ビーチパラソルいるでしょ」

友「いやそれただの傘じゃん」

男「まぁ見てろって・・・ほいっと」

傘(えっ)ビヨーン

友「えっ」

男「こないだ直したときにちょっと手を加えたんだ。この大きさならビーチパラソルとして使えるだろ?」

友「ていうかあの・・・い、いまありえない伸び方しなかった?」

男「ん?何が?」

友「いやあの、明らかに物理法則を無視した伸び方を・・・」

男「・・・常識に囚われるな」

友「えぇ・・・」

傘『ていうかいつの間に私のこと改造したんですか男さん!?』

毛倡妓『勝手に改造ですの』

先輩「よーし、じゃあ泳ごうか!」

男「そうですね!!」

メガネ「わ、私は皆さんをカメラに収めてます・・・」パシャーパシャー

筋肉「さあ準備運動だ!友君も一緒に!!」

友「は、はい・・・」

アホ毛「私はいま海と一体化している・・・」プカプカ

男「若干一名すでに突撃されてる方がいらっしゃいますね」

筋肉「さぁ俺たちも行こう!どこまで泳げるか競争だ!!」

友「あ、いやあの・・・自分、もうちょっと馴らしてから行きますんで!先行っててください」

筋肉「わかった!沖で待ってるよ!」

友「はぁー・・・」

男「さっきからどうしたんだよ、お前?」

友「いや、あの人(筋肉)なんか怖えーよ・・・行きの新幹線からやたら距離近いんだよ」

男「コミュ力は筋肉量に比例する」

友「なんかちょっと俺貞操の危機感じてるもん今・・・」ゲッソリ

男「それにしても・・・きれいな海だな」

友「ああ、そこは同意するわ。向こうの濁った海とは大違いだな」

男「まぁなんか・・・海面からいっぱい手とか生えてるけど」

友「こ、怖いこと言うなよ」ビクッ

男『実際問題、唐傘ちゃん・・・あの手大丈夫なの?』

傘『え?大丈夫ですよ。海藻みたいなもんです』

手<ワサワサ

男『嫌な海藻だなぁ・・・視えてる分、泳ぎたくねえ』

傘『基本的には無害なんですけど・・・たまにいる爪のない手には気を付けてくださいね』

男『何それ』

傘『ざっくり言うと、爪がない手は悪い妖怪です』

男『爪があるのは?』

傘『お盆帰り待ちの、海で死んだ人達の手です』

男『そっちの方が圧倒的に怖ぇ!!』ビクッ

友「おーい、何ひとりでブツブツいってんだー」

男「あぁ、別に!?」

先輩「おーい男くーん、友くーん!こっちおいでよー!」

友「ほら、先輩が呼んでるぞ」

男「よし、じゃあ行くか・・・あれ、そういえば・・・」

友「どした?」

男(毛倡妓さんどうした・・・?)キョロキョロ

海坊主『すげー!本物の毛倡妓さんだ超美人!!ムービー撮らせてください!!』

海座頭『や、やっぱり若い妖怪はええのぉ・・・』ハァハァ

毛倡妓『オーッホッホッホ!!』

男「すげえ・・・本当に妖怪にはモテモテなのか・・・」

友「妖怪?何言ってんだ、お前」

男「いや、なんでもない。じゃあ行こうか」

傘『気を付けてくださいね~』

-CASE8 ビーチの視線独り占め END-

-CASE9 ひしゃくをください-

先輩「そうだ!せっかく膨らましたんだから、ボート乗ろうよ!」

男「お、いいですね」

アホ毛「うぃりーわずふりー・・・」プカプカ

友「アホ毛ちゃんシャチ乗るのうまいね」

アホ毛「シャチの気持ちを理解するのだ・・・」プカプカ

友「それビニールなんですけども」

メガネ「い、いい・・・すごくいい・・・これぞ若者たちの青春・・・」パシャーパシャーパシャー

友「女の子じゃなかったらこれ盗撮容疑で逮捕されてるよ・・・」

先輩「メガネちゃんも、写真ばっか撮ってないでこっちおいでよ!」

メガネ「いいんです・・・私はみなさんをファインダー越しに眺めることで夏を感じるんです・・・」パシャリ

先輩「そ、そっか・・・じゃああとでスイカ割り、一緒にやろうね!」

筋肉「友くん!はやくおいでよ!海は気持ちいいぞ!!」

友「うっ・・・は、はい」

・・・

先輩「スイカもってきたよー!」

メガネ「」パシャーパシャーパシャー

友「スイカそんなに激撮する要素ある?」

筋肉「あとスイカ割る棒と目隠しだ!!」

友(目隠しされたまま撲殺されそう・・・)ゴクリ

アホ毛「棒。棒貸して」

友「誰から割りますかね?」

先輩「じゃあ、ちょうど今棒を持ってる、アホ毛ちゃんからいく?」

アホ毛「私が出るということは、そこでスイカ割りが終わることを意味している・・・」

男「自身満々だね」

アホ毛「2番・・・センター・・・関根・・・」ガニマタ

先輩「アホ毛ちゃんそんなはしたない格好しない」

※参考
http://i.imgur.com/f47Ojkj.jpg

友「誰もいかないなら、とりあえずお前から行ったらどうだ?」

男「え、俺が?」

先輩「そうだね。まずは男くんにお手本を見せてもらおっか!」

男「プレッシャーかけますね」

友「よーし、じゃあ目隠ししてー。棒持ったまま10回まわるー」

男「おおおおおおおおおおおお」グルグルグル

先輩「男君右!もっと右・・・ああちょっと行きすぎ!!」

筋肉「もうちょっと反時計回りに・・・そうそう!」

アホ毛「方位027に転針せよ・・・」

男「わ、分かんねーって!!」

傘『男さん頑張って!!』

<ワイワイガヤガヤ

毛倡妓(ああ・・・これですわ・・・これでこそ夏・・・私の季節!私の本来の・・・)ウフフ

<モットヒダリー!!ソウ、ソコ!!

毛倡妓「んっ?」

男「っしゃおらああああ!!」ズバァン!!

毛倡妓「」チュイン!!

傘『わあ、毛倡妓さんにかすりましたね』

毛倡妓『殺す気ですの!?』ドキドキ

友「なんだよー、全然外してんじゃん」

男「いやこれ無理だって・・・次お前やってみろよ」

友「よーし」

筋肉「さ。目隠しするぞ」ニッコリ

友「」

男「うける」

・・・

筋肉「とりゃっ!!」ドコーン

先輩「あー惜しい!!」

友「威力は凄まじいんだけど・・・」

先輩「じゃあ・・・大トリはアホ毛ちゃんね!」

アホ毛「心得た・・・」ユラリ

友「お、おぉ・・・謎のオーラを身にまとっている・・・」

男「4割60本打ちそう」

アホ毛「・・・」スタスタ

友「あ、あれ・・・見えてませんよね?」

先輩「のはずだけど・・・」

男「スイカのほうに一直線に向かっていくぞ」

アホ毛「・・・ここっ」スパァン

一同「・・・」

先輩「す、すごい・・・周りからの誘導もなく一発で・・・」

友「し、しかも切断面がまるで刃物で切ったようにスッパリいってるんですが・・・」

アホ毛「またつまらぬものをきってしまった・・・」

筋肉「スイカはつまらなくないぞー。甘くて美味しい!!」

アホ毛「・・・ごめんなさい」

先輩「とにかく、みんなで食べましょう!」

・・・

男「あー・・・こうやってボートに寝転がって波間を漂うのも悪くないなー」

唐傘娘「よかったんですか?私まで乗せてもらって」

男「もうみんな泳いでるし、誰もパラソル使ってなかったからね」

唐傘娘「ていうか、私はいつビーチパラソルに改造されたんでしょう・・・ん?」

男「どしたの?」

手「ひしゃく・・・柄杓をください・・・」

男「なんぞこれ」

唐傘娘「これは船幽霊ですね」

男「船幽霊?」

唐傘娘「はい。海にすむ悪霊で、言われるがままに柄杓を渡すと船の中に水を入れられて沈められてしまうんです」

男「へー・・・あ、確かに爪が無いね。悪い妖怪なわけか」

唐傘娘「まぁ、そうですね」

手「柄杓をください・・・」

男「んなもんないよ。ただのゴムボートだし」

手「・・・」

手A<バシャバシャ!! ←手で掬って水入れてる

手B<ピュッピュッ!! ←手水鉄砲で水入れてる

唐傘娘「必死ですねぇ」

男「いじらしいなぁ・・・」ホロリ

唐傘娘「でも、このままだと本当に沈んじゃいますよ?」

男「なーに、打開策はある」

唐傘娘「へー、どんな?」

男「まぁ見てなって」チャプン ←海に入る音

男「・・・」

男「」ブルル

唐傘娘「ちょっと」

男「あーすっきりした」(爽快感)

手A<ウワーキッタネ!!

手B<エンガチョ!!

唐傘娘「男さん最悪です・・・」

男「よっこいせ」ザバァ

唐傘娘「い、嫌ですよ!そのままボートに乗ってこないでください!!」

男「いんだよ、細けぇことは」

唐傘娘「嫌ああああああああああああ!!」

・・・

筋肉「よーし、一応これで全部洗えたかな?」

男「あ、このパラソルも一緒に洗ってください」

筋肉「いいの?濡らしちゃって」

男「夜のうちに干しとくんで大丈夫です。傘が洗ってほしいって言ってるんで」

筋肉「はは、そうか。男くんは傘の気持ちがわかるのか!」

アホ毛「わかる・・・」

傘(うっうっうっ・・・汚れつちまつた悲しみです・・・)サメザメ

・・・

男「あれ?そういや毛倡妓さんどうした?」

傘「えーっと・・・私が最後にみたときは、確か砂に埋まってたような・・・」

男「ふーん・・・」

男「・・・」

男「ま!今日は楽しかったね!」

傘「ですね!」

男「あー泳いだら腹減ったー!夕ご飯何だろ!?」

<タスケテホシイデスノォー!!

傘「あっ、海岸のほうからなにやら絶叫が聞こえますね」

男「楽しんでくれてるようで何よりです」ニッコリ

<カラカササァーン!ウエエェーーーン!!

-CASE9 ひしゃくをください END-

というわけで、ちょっくら海行ってくらぁ!!
10日くらい!!

-CASE10 元興寺の鬼(前編)-

男「ええっ、絵ですか!?」

先輩「うん。来週のお盆にね、岬の広場で盆踊り大会があるの」

友「そこで使う大看板の絵を描いてくれ、と?」

先輩「そうなの!その代わりに宿泊費をおまけしてもらったんだ~」

男「そ、そうは言っても俺たち絵画学科じゃないし・・・正直、絵心なんて砂漠の中の水ほどもないっすよ?」

筋肉「なに、心配はいらないよ。かくいう俺も彫刻学科だからな」ムキムキ

男「えぇ・・・」

友「ていうか、同じゼミなのに学科が違うんですか?」

先輩「ううん彼はね、大学に入る前からの知り合いで、今回は私たちのお手伝いのためについてきてくれたの」

筋肉「そういうこと!」ニッコリ

友「な、なるほど・・・」

男「で、俺たちも絵を描くんですか?」

先輩「あのね、会場設営の準備とかもあるからそっちを手伝ってほしいの。それに男君手先が器用だし、お祭で使う道具の補修とかしてくれるとうれしいな」

友「ま、タダ飯食わせてもらって遊んでるだけなのも悪いし、俺らも手伝おうよ」

男「手伝うのは吝かじゃないんだけど・・・役に立てるかなぁ」

筋肉「大丈夫さ!俺たちも一緒に頑張ろう!!」

先輩「それじゃあ、明日自治会のセンターまで案内するね」

・・・

毛倡妓「絵ですの!?」

男「うん」

毛倡妓「オーッホッホッホ!いよいよわたくしの時代がやっていらっしゃったようね!」

男「どういうこと?」

唐傘娘「じつは毛倡妓さん、こう見えて絵が得意なんです」

男「へー」

毛倡妓「だから唐傘さん!こう見えては余計ですの!!」

男「まぁ、いっても俺が絵を描くわけじゃないんだけどさ」

唐傘娘「あれ、そうなんですか?」

男「うん。俺はなんか、祭で使う小道具とかの補修を手伝うみたい」

毛倡妓「ふふん、ではわたくしはあなたが汗まみれで小道具を直している間、優雅に染筆タイムですわ!」

男「いや描かせないよ?何もない紙にいきなり絵が浮き上がるとかホラー以外の何物でもないし」

毛倡妓「そんな!?」

唐傘娘「むしろなんで普通に参加できると思ってたんですか」

毛倡妓「だ、だって・・・最近この方の余りのフレンドリーさに、てっきり私たちも表立って活動してよいのかと・・・」

男「言うほどフレンドリーかなぁ、俺」

毛倡妓「ええっ!?」ガーン

唐傘娘「まぁ私たちが視えてる時点で勘違いしちゃっても仕方ないです」

毛倡妓「か、勘違い!?勘違いだったんですの!?」ガガーン

男「だって毛倡妓さん、俺にとっては友達の友達だもん」

毛倡妓「」チーン

毛倡妓「・・・」ドヨーン

男「毛倡妓さんの妖怪度が増してる」

唐傘娘「ショックだったんですねぇ・・・」

男「真実は時として残酷だなぁ」

唐傘娘「もうちょっとビブラートに包むべきでしたかね」

男「オブラートでしょ。声揺らしてどうすんのさ」

翌日・・・。

先輩「じゃあ、看板チームはここで作業しまーす」

筋肉「俺たちはどうする?」

先輩「そうね、向こうに青年会の人がいるから、そっちのお手伝いをしてくれる?」

筋肉「よし、分かった!」

先輩「男君はこの上にあるお宮さんに太鼓とかをみてるお爺さんがいるから、そっちに行ってみてくれるかな」

男「了解でーす」

友「あ、じゃあ俺もお前と一緒に行って手伝・・・」

男「あーいいよいいよ。こっちの方が人数も要りそうだし、お前もこっちに残ってみんなの手伝いやっててくれ」

友「」

筋肉「一緒に頑張ろう、友くん!」ニッコリ

友「へ、へい・・・」ゲッソリ

先輩「じゃあ、またあとでね!」

・・・

男「へぇ、随分と小さい神社だなぁ」

傘「お邪魔しまーす」ヒョコヒョコ

男「お行儀がよろしい」

お爺さん「おぉー・・・アンタか、手伝いにきてくれた若いのってのは」

男「あ、はい。よろしくお願いします」

お爺さん「いやぁなに。こっちこそありがとうよ・・・じゃ早速、中に入ってくれ」

男「はい」

・・・

お爺さん「いやー、すまんのー。ここらは年寄りばっかだから助かるよ」

男「いえいえ」

お爺さん「それにしてもアンタ手先が器用だなぁ・・・なんならこのままウチの青年団に入ってほしいくらいだのう」

男「あはは、ちょっと学校とかあるんで無理ですねぇ」

お爺さん「フォッフォッふぉっ、フォーッ!ゲフンゲフンかはぁっ!!」グヘァ

男「ヤバそう」

・・・

<ゴロゴロゴロ・・・

お爺さん「天気が悪くなってきたのう・・・」

男「大丈夫です、傘持ってますんで・・・っと、よし!あと他に何か直すものありますか?」

お爺さん「ああ、今日はもうええよ。祭で使うものは、大体みてもらったしのぉ」

男「いやー、まだあっちの連中も作業してるみたいなんで、他にも何かあれば手伝いますよ?」

お爺さん「そうかえ?悪いのお・・・いやーほんとウチの青年会にほしい・・・あの民宿んとこの姉ちゃんとくっついて、こっちに越してこんか?」

男「いやー結婚はともかく、向こうに親がいるんで無理ですねー」

お爺さん「はっはっはっは!!冗談じゃよ・・・じゃあすまんが、正月に使う獅子もちょっと見てもらえるかの・・・」

男「おー、獅子舞の獅子ですか」

傘『男さん、ずいぶん献身的ですね』

男『いやー、こういう古いもの直すの結構面白いよ。俺こういうの好きだもん』

傘『ふふ、知ってます・・・』

お爺さん「おー、これこれ・・・この上にあるこの・・・」プルプル

男「あ、お爺さん俺とりますよ」

お爺さん「はあうっ!!」パキョ

男「あっ」

お爺さん「こ、腰が・・・ワシの腰が爆ぜおった・・・」ピクピク

男「だっ、大丈夫ですか!?」

お爺さん「す、すまんが・・・ちょっと家に戻らせてもらってええかの・・・」プルプル

男「え、それだと俺一人になりますけど・・・」

お爺さん「アンタなら大丈夫、悪いことはせんよ・・・そこに鍵があるから、出るときに締めて民宿の人に渡し・・・アイタタタ」ピクピク

男「あの・・・何なら下から仲間呼びましょうか?表の石階段、降りるのしんどいでしょう?」

お爺さん「大丈夫じゃ・・・若いモンが頑張ってるとこを年寄りが足をひっぱるのも悪いしの・・・」プルプル

男「・・・き、気を付けてくださいね」

・・・

男「行っちゃったよ。ていうか余所者をこんなところに一人にしていっていいのか?」

唐傘娘「信頼されてるんですよ~」

男「じゃ、その信頼に応えるべく頑張りますか!」

唐傘娘「・・・」ジー

男「ん?どしたの」

唐傘娘「ああ、いえ・・・私、男さんが物を直してるとこ見てるの、好きなんです」

男「そっか」

唐傘娘「はい!」

男「・・・ひょっとして今俺、結構ディスカバリーチャンネルっぽい?」

唐傘娘「それはちょっと分かりませんけど・・・」

男「よし、じゃあもうちょっと作業続けるね」

唐傘娘「はい!頑張ってください!!」

男「うまれたりゆ~、ゆ~、ゆ~、みつめてよゆ~ゆ~ゆ~って♪」トンテンカンテン

唐傘娘「・・・」

・・・

男「よし、こんなもんかな!」

唐傘娘「お疲れ様です!」

男「・・・うわ、作業に熱中してて気づかなかったけどもう外暗いじゃん」

唐傘娘「雨が降ってるからなおさらですねー」

男「よかったー唐傘ちゃんがいてくれて」

<バターン!!

友「男!いるか!?」

男「うわ、なんだよお前。傘もささずに。びしょ濡れじゃねえか」

友「せ、先輩たちが・・・」

男「なに?メシだから早く帰って来いって?」

友「先輩たちが、いなくなっちまったんだ!!」

-続く-

-CASE11 元興寺の鬼(後編)-

男「はあっ、はぁっ・・・!先輩たちは!?」

おばさん「それが・・・まだ見つかってなくて・・・」

男「お前、先輩たちがいなくなるところ見てなかったのか?」

友「先輩たち、雨が降り始める前に岬の広場に向かったんだ・・・看板を飾る位置を確認したいからって・・・」

筋肉「俺たちはここで片付けとかをしてたんだが・・・いつまでたっても3人が戻らないんで様子を見に行ったら、彼女たちの姿が見当たらなくて・・・」

男「先輩の携帯は!?連絡はとれないのか!?」

友「・・・これ、先輩たちの携帯だよ。会場脇の、岩場に落ちてた・・・」

男「・・・!」

筋肉「でも、あそこは子供が行ったって海に落ちるような場所じゃない。自分から入っていかない限りは・・・」

自治会長「とにかく、警察に連絡せんと!」

男「俺たちも探しに・・・!」

筋肉「ダメだ。もう暗くなってきてるし、雨も降ってきてる。・・・下手に動くと、俺たちが周りに迷惑をかけてしまうかもしれない」

男「・・・!」

<ザーーーーーーーーーーーーー

友「雨・・・強くなってきたな」

男「・・・おう」

友「先輩たち・・・大丈夫かな」

男「・・・」

友「どこへ行くんだ?」

男「・・・トイレ」

男はそう呟いて静かに部屋を後にする。

男「・・・で、どう思う?」

唐傘娘「・・・」

男「やっぱり、妖怪の仕業かな」

唐傘娘「分かりませんが・・・もしかすると、そうかも」

毛倡妓「いいえ、間違いありませんわね」

唐傘娘「毛倡妓さん」

毛倡妓「おそらくこれは伴かづきですわ」

男「伴かづき・・・?」

毛倡妓「人間に化け、人間を海に誘い込む妖怪ですの」

男「人間を・・海に?」

毛倡妓「伴かづきはこういう天気の悪い日によく現れますわ・・・おそらく、彼女達は伴かづきに誘われ、そのまま海に・・・」

男「くそっ!!」

毛倡妓「どこへ行くんですの?」

男「決まってるだろ!皆を助けに行く!妖怪の仕業っていうんなら、それが視える俺が行くしかないだろうが!!」

唐傘娘「男さん落ち着いて!行ったら男さんまで死んじゃうかもしれませんよ!男さん!」

男「くそっ、間に合ってくれっ!!」

彼女の制止を振り切り、男は民宿の裏手から外へと駆け出していく。

唐傘娘「大変・・・すぐに追わなきゃ!」

毛倡妓「唐傘さん、ついて行くんですの?」

唐傘娘「当たり前じゃないですか!!」

毛倡妓「あなた、あの方が好きなのでしょう?」

唐傘娘「・・・そ、そうです!だから行くんです!!」

毛倡妓「なら、なおさら行かなくてもよろしいんじゃなくて?」

唐傘娘「えっ・・・」

毛倡妓「妖怪の手にかかって命を落とした人間は、基本的に普通の死に方はできませんわ・・・言ってみれば、あの方が伴かづきの犠牲になれば、この先ずっとあの方と寄り添えるかもしれませんのよ?」

唐傘娘「そ、そんなの・・・ダメです!」

毛倡妓「何故ですの?」

唐傘娘「私は、人間の!男さんが好きなんです!そんな・・・彼を幽霊にしてまで、一緒になんていたいなんて思ってない!!」

・・・

男(くっ、もう警察が現場に入ってる・・・)

男(正面から入っていっても、追い払われるだけだ)

男(どうするか・・・)

筋肉「・・・やれやれ。周りに迷惑になると言っただろう?」

男「!!」

筋肉「彼女たちを助けようと、宿を出たのかい?」

男「・・・そうです」

筋肉「ふふ、まるで漫画の主人公だな」

男「冗談言ってる場合じゃないでしょ!」

筋肉「もちろんだ。だから、これは冗談じゃないぞ」

男「え?」

そういうと彼の頭部に突如、藍白の蛇が浮かび上がった。

筋肉「分かってたよ・・・君が普通の人間じゃないことはね」

男「あ、あなたは・・・?」

筋肉「俺はガゴゼ・・・まぁ、半人半妖の物の怪といったところかな」

男「ガゴゼ・・・」

ガゴゼ「君が考えている通り、これは妖怪の仕業に違いない・・・さあこっちへ。ここから岬の反対側に回れる」

男は、ガゴゼの後について磯へと降りていく。

ガゴゼ「見なさい、あそこだ」

男「あれは・・・岩ですか?」

ガゴゼ「あれは娘岩といって、後ろから見ると女性の形に似ていることからこう呼ばれている」

男「ちょ、ちょっと見立て強引すぎやしませんかね・・・?」

ガゴゼ「ふふ、確かにな・・・だが、本当の由来はそうじゃない。今、見せてあげよう」

そういうとガゴゼは、その大きな岩を両手で押さえつけた。その凄まじい怪力に、岩の周りにビキビキとヒビが入り始める。

岩「ぐっ!?ぐ、ぐぐぐぐ・・・お、おのれぇ・・・何故分かった!?」

ガゴゼ「男君、今だ!岩の表に回れ!!」

男「はい!・・・うっ、これは!?」

男が岩の正面に回ってみると、そこには先輩たちを抱えた恐ろしい形相の女性の貌があった。

男「これが伴かづき!?」

ガゴゼ「そうだ。別名磯女・・・後ろから見ると岩の姿をしているが、その正体がこれだ」

伴かづき「くっくうぅ・・・」ギギギ

ガゴゼ「伴かづきは言葉巧みに人を海に誘い、その命を喰らう・・・そういう妖怪だ」

男「こ・・・の・・・!」

伴かづき「フ、フフフ・・・誰ぞはしらんが所詮は人間と鈍混じり(半妖)・・・私の邪魔を、してくれるなああ!!」

ガゴゼ「俺がこいつを押さえている間に、早く彼女たちを!!」

男「は、はい!!」

伴かづき「さあああああああせええええええええええるうううううううううかあああああああああ!!」

まるで海鳴りのような声で伴かづきが叫ぶと、男の元に岩の礫が凄まじい勢いで降りかかってきた。

傘「危ないっ!!」

男「唐傘ちゃん!?」

飛んできた礫は唐傘に化けた彼女によって弾かれ、岩の隙間にカラコロと落ちていく。

傘「は・・・早く・・・先輩さんたちを」

男「う、うん!!」

男は伴かづきのそばで倒れている3人に駆け寄る。

男「先輩!先輩!!」

先輩「・・・う、男・・・くん?」

メガネ「あれ・・・あれ?どうしてここに・・・?」

アホ毛「Zzz・・・」

男「みんな!早く逃げて!」

先輩「に、逃げる?逃げるって一体・・・?」

男「いいから早く!!」

状況が掴めていない3人の手を引っ張って起こしあげると、男は岬の上にある広場へ向かうよう促す。

伴かづき「逃がすかああァァァ!!」

ガゴゼ「お前の相手は俺だあああ!!」

元から筋骨隆々の彼の腕がひときわ膨れ上がったかと思うと、そのまま振りぬかれた拳が伴かづきの眉間を抉る。

伴かづき「ぬううううウウウウウウッ!!」

ガゴゼ「早く!!」

両者の攻防は激しさを極めている。妖怪の姿が視えない者からすれば、それはまるで磯の岩礁がひとりでに弾け飛んでいるようにしか見えないだろう。

先輩「あ、アレ・・・お、男くん!一体、何が起こってるの!?」

男「いいから行って!!」

先輩「・・・っ!!」

雨で濡れ滑りやすくなった岩場を、彼女たちは必死で駆け上っていく。

その様子を見ながら、男は傷ついた唐傘を拾い上げ伴かづきと戦っているガゴゼに声をかける。

男「ガゴゼさん!先輩たちは岬に向かってる!あともう少しだ!!」

伴かづき「小癪な・・・私の獲物をおおおおおおおお!!!」

一際大きな声を上げると、伴かづきは自らを抑え付けていたガゴゼの腕を振り払う。

ガゴゼ「ぐうっ!」

男「ガゴゼさん!!」

伴かづき「おのれ・・・おのれおのれおのれえええええええ!!

伴かづきはその巨大な岩でできた巨体をゴロゴロと転がし、男の元へ迫ってくる。

メガネ「い、岩が登ってくる・・・!?」

先輩「どうなってるの!?」

アホ毛「・・・!!」

男「振り向いちゃダメだ!そのまま走れ!!」

巨大な岩は既に男のすぐ目の前まで迫ってきている。自らの身に迫る巨岩を前に、彼は死を覚悟した。

と、その時―――

<ガキィン!!

伴かづき「な、なんだ!?」

毛倡妓「その方に手を出すのは、許しませんわよ・・・」

男「け、毛倡妓さん!!」

伴かづき「貴様ァ・・・妖怪のくせに、人間どもに加勢するかああああああ!!」

毛倡妓「やれやれ・・・これだから岩場に張り付くことしか能がない田舎者は困りますわね」

そういうと、彼女の毛髪がみるみる伸びて伴かづきを包み込んでいく。

伴かづき「ぐっ、ぐううううう!!!」ギリリリ…

毛倡妓「よく覚えておくといいですの・・・この方は・・・男さんは・・・わたくしの大切な・・・友達の、友達なんですのよおおおおおおおおおおおおお!!」ドコォォォン

伴かづき「ぐあああああああああああ!!」

毛倡妓の髪によって持ち上げられた伴かづきの巨体は、そのまま岩礁に叩きつけられ4つに割れてしまった。

毛倡妓「今ですわ!!」

その声と同時に、ガゴゼは砕けた伴かづきに向かって早九字を切る。すると、あたりに轟く雷鳴と共に伴かづきの姿は夜の闇に溶けていってしまった。

・・・

友「先輩たち、見つかってよかったよなー」

男「ああ・・・」

帰りの新幹線の中で、男は頬杖を突きながら窓の外を眺めていた。結局あの後盆踊り大会は中止となり、彼らも日程半ばで東京に戻ることとなった。

男「・・・」

友「元気だせよ。色々あったけどさ、まぁ・・・楽しくないことばかりじゃなかったし」

男「別に落ち込んでるわけじゃないよ・・・ただちょっと考え事をね」

トンネルに入った瞬間窓に浮かぶ自分の顔を見て、あの晩のガゴゼとの会話が頭をよぎる。

・・・

ガゴゼ『今夜見たことは、アイツには内緒にしててくれよ』

男『先輩のことですか』

ガゴゼ『・・・彼女のことは子供の頃からよく知っててね。俺は半人半妖だったから、ずっと遠くで見てるだけだったんだが』

男『・・・好きなんですね?先輩のこと』

ガゴゼ『ああ。だが俺は普通の人間とは違う。近づきすぎれば、彼女を傷つけることになる』

男『どうして?』

ガゴゼ『妖怪は人と同じようには生きられないからだよ。彼女がこの先歳をとっていっても、俺はほとんど歳をとらない。もしずっと一緒にいれば、そのことはきっと世間から奇異の目で見られるようになる。平穏には、暮らせない』

男『・・・』

・・・

毛倡妓「唐傘さん、大丈夫ですの?」

唐傘娘「ええ、男さんが応急処置をしてくれたので、なんとか」

毛倡妓「まったく・・・わたくしたちに手を出そうとするなんて身の程知らずにもほどがありますわね!」

男「あ、二人とも。まだデッキにいたの?」

唐傘娘「あ、男さん!」

毛倡妓「おやおや。噂をすれば・・・もっとわたくしに感謝なさってもよろしいのよ!?」

男「うん、本当にありがとう」ペコリ

毛倡妓「えっ」(動揺)

男「あんなに強かったんだね。すごくカッコよかったし、助かったよ」

唐傘娘「ですよねですよね!さすが毛倡妓さん!惚れ直しました!!」

毛倡妓「あっ・・・うっ、と、当然ですわ!!///」

男「本当、君がいなかったら俺たぶん死んでたよ、あの時」

毛倡妓「オーッホッホッホ!!よろしくってよ!!」

男「だからさ。もう、友達の友達じゃなくて、ちゃんと友達になろうよ。毛倡妓ちゃん」

毛倡妓「へ?」

毛倡妓「・・・・・・」

毛倡妓「・・・」

毛倡妓「」ブワッ

男「泣いてるよ」

唐傘娘「号泣ですね」

毛倡妓「あああ・・・やっと!やっとわたくしのことを唐傘さんと同じようにちゃん付けで呼んで下さるのね!!」

男「そこそんなにうれしいポイントなのか・・・」

唐傘娘「よかったですね、毛倡妓さん!」

毛倡妓「うれしいですのおおおおお!!」

男「まぁ、俺は人間だから君たちと違ってすぐに歳とって死んじゃうかもしれないけどさ」

毛倡妓「その時はアレですわ!なんならお墓掘り返してでも遊びにいくので何も問題ありませんわ!!」

男「えぇ・・・」

唐傘娘「毛倡妓さん、それ犯罪です・・・」 ※刑法第189&190条

毛倡妓「妖怪に国も法律もありませんの!オーッホッホッホッホ!!」

-CASE11 元興寺の鬼(後編)END-

-CASE12 三位一体-

男「あー、まだまだ残暑も厳しいなぁ・・・」ジリジリ

男「食欲がわかない・・・今夜もそうめんでいいか・・・いやでもこんな時こそスタミナのつくものを食わないと・・・」ブツブツ

男「ん?なんだこれ」

男(道の真ん中にロープ・・・?)

縄を持ったイタチ「・・・」ドキドキ

鎌を持ったイタチ「もうちょっと・・・もうちょっと・・・」

壺を持ったイタチ「お兄ちゃん頑張ってなの・・・!!」

男「・・・あのー、視えてますよ」

三匹「ぴぎィ!!」ビクビクーン

男「あの・・・ひょっとして君たち、かの有名なカマイタチご兄妹ですか?」

壺を持ったイタチ(末妹)「お兄ちゃん!私たちみえてるの!!」

鎌を持ったイタチ(次兄)「やばいよやばいよ!!」

縄を持ったイタチ(長兄)「ほ、保健所だけは勘弁してください!!」ドゲザー

男「いや、うん・・・まぁ持って行っても俺以外には視えないだろうし・・・」

・・・

男「ははー、なるほど。もうこうして何週間もここで人が通るのを待っていたと」

長兄イタチ「そうなんです・・・」

末妹イタチ「でも全然引っかからないの・・・」

男「ていうか、あんな縄丸出しにしてたら普通の人なら気づくでしょうよ」

次兄イタチ「でも最近は歩きスマホとかしてる人も結構いるし・・・」

男「まさか妖怪の口から歩きスマホという言葉が繰り出されるとは」

男「ところでこの縄、すごいしなやかだね。何で作ったの?」

長兄イタチ「これは・・・僕たちの尾っぽの毛で・・・」

男「え、妖怪由来の素材?」

長兄イタチ「はい・・・」

男「それさぁ・・・多分、普通の人だと素通りして引っかからないんじゃない?大抵の人間って妖怪触れないし・・・」

三匹「!!!!!」

男「歩きスマホに目をつけたわりにはそこまで考えが至らなかったのか・・・」

次兄イタチ「そ、そんなぁ・・・」ガッカリ

末妹イタチ「わたし、もうだめなの・・・」ゲッソリ

長兄イタチ「ご、ごめんな・・・お兄ちゃん気づかなくてごめんな・・・」ションボリ

男「ていうか、なんでそんなに人を傷つけようとするの?悪い妖怪なの?保健所っていうかお祓いしとく?」

三匹「ひっひいいいいいいいいいい!!」ガクガク

男「とりあえず理由を聞かせてごらんよ」

長兄イタチ「はい・・・実はあの、私たち普段は木の実やら雑穀やらを食べて暮らしているんですが・・・」

男「慎ましい」

長兄イタチ「如何せんそれだけだと食生活に彩がなくてですね・・・たまには精が付くものも食べたいわけです」

男「分かる」

末妹イタチ「私たちにとって、人間の血はすごいご馳走なの・・・土用の丑の日に食べるうなぎみたいな」

男「まじかよかわいい見た目して結構怖ぇーな」

次兄イタチ「そうはいっても、もう何十年も人間の血なんて舐めてないね・・・」フラフラ

末妹イタチ「正直もう、夏バテで倒れそうなの・・・」ヘロヘロ

長兄イタチ「ふ、2人ともしっかりするんだ!」ヨロヨロ

男「悲しいなぁ・・・」

長兄イタチ「す、すみません・・・というわけで、どうか見逃してください!!」

男「とは言え、これから起きるであろう傷害事件を未然に防がない手はないんだよなぁ・・・」

三匹「お慈悲を!!」

男「ていうか、どれくらい人間の血がほしいの?」

次兄イタチ「ほんのちょっとなんです!ほんの、この鎌の先にちょろっとついたのを舐めるくらいでいいんです!」

末妹イタチ「それに、できた傷は私のこの薬ですぐに治せるの!!痕も残らないの!!」

男「必死だなぁ」

長兄イタチ「・・・」ソロリソロリ

<グイッ

男「うぉっ!?」ヨロッ

長兄イタチ「みんな!今だ!!」

次兄イタチ「うおおおおおおおお!兄ちゃんナイス!!」

末妹イタチ「お兄ちゃんかっこいいの!!」

男「や、やべぇやられる・・・っ!!」

三匹「ちょっとだけ指先を切らせてください!!」ドゲザー

男「うわ誠心誠意お願いされてしまった」

次兄イタチ「ほんと!おねがいします!おねがいします!!痛くしないんで!!」

末妹イタチ「(指の)先っぽだけ!先っぽだけでいいの!!」

男(童貞に迫られる女の人ってこんな感じなのかなぁ・・・)

長兄イタチ「おねがいします!腹を空かせた弟と妹のためにも!どうか!!どうか!!」ペコペコ

男「うーん、そこまで言われたら・・・仕方ないなぁ」

三匹「やったー!!」ピョンピョン

・・・

次兄イタチ「じゃああの、なるべく痛くないようにするんで」

男「はいはい」

次兄イタチ「えいっ」スパッ

男「いややっぱり痛てーわ」

末妹イタチ「お、お兄ちゃん・・・」ゴクリ

長兄イタチ「ま、まて・・・順番順番・・・」ギラギラ

次兄イタチ「おれ・・・俺もう・・・」ダラダラ

男「三匹とも一気に妖怪度増したな」

末妹イタチ「い、いいよね!?もういいよね!!」

次兄イタチ「あああ・・・もう我慢できねぇよぉ・・・」

長兄イタチ「よ、よし・・・お兄ちゃんは最後でいいから、お前たち先に舐めなさい・・・」

二匹「うわあああああああああ!!」ペロペロペロペロ

男「って直に俺の指舐めるのかよ!くすぐってええええ!!」

末妹イタチ「ああ、この芳醇な鉄の香り!口の中に広がる濃厚な塩味!たまらないの!!」ペロペロペロ

次兄イタチ「俺・・・俺もう生きててよかった!!」ペロペロペロ

長兄イタチ「こ、この度はこのような不躾なお願いをきいていただき・・・」チラッチラッ

男「いや、そんな指先ガン見しながらお礼言われても・・・・」

長兄イタチ「も、もう辛抱たまらん!!」ガバッ

三匹「あぁ~~~~~~~~~~~~~~~~!!」ペロペロペロペロペロペロ

男「ムツゴロウさんだったら喜ぶかもしれない」

・・・

末妹イタチ「はぁ・・・」(恍惚)

次兄イタチ「すげぇ・・・人間の血考えた奴って天才だよ・・・」ウットリ

長兄イタチ「本当に・・・本当にありがとうございます・・・これでしばらく兄妹元気に暮らしていけます・・・」

男「あの、それはいいんだけど早く薬塗ってくれないかな。いやもう舐められすぎて指ふやけてるけどさ。ほとんど血も止まってるけどさ」

長兄イタチ「こ、これは失礼しました!ほら、薬出して!」

末妹イタチ「はっ、はいなの!!」

末妹イタチ「いたいのいたいのとんでいけー」ヌリヌリ

男「おーすごい。本当に傷跡がなくなってくー」

長兄イタチ「この薬はカマイタチだけに伝わる秘薬で、どんな傷もたちどころに治してしまうんですよ」

男「なんか思いっきりメンタムって書いてあるけど・・・」

末妹イタチ「こ、これは前に薬壺にヒビがいっちゃったから、拾った容器に入れてるだけなの!!」

男「悲しいなぁ・・・」

・・・

男「そんなわけで、ちょっと薬をおすそ分けしてもらいました」

唐傘娘「すごーい!カマイタチの塗り薬なんてなかなか手に入りませんよ!!」

男「売ったらどれくらいになるかなぁ」

唐傘娘「いや多分視えないんで売れないとおもいますけど」

男「あーそっかー」

唐傘娘「まあせっかくカマイタチが男さんにくれたものですし、そのまま使うのがいいんじゃないですかね~」

男「そだね」

毛倡妓「ごきげんよう!」

唐傘娘「あ、毛倡妓さん」

男「おーいらっしゃい・・・ん?なんか足怪我してる?」

毛倡妓「ああ、これは・・・ちょっと剃刀負けしてしまいまして」

唐傘娘「あらら・・・」

男(もう脱毛クリーム使い切ったのか・・・)

毛倡妓「それで、ちょっと廊下に置いてあったメンタムお借りしましたわよ

男「・・・は?」

毛倡妓「いや~やっぱりメンタムはよく効きますわね~」

唐傘娘「毛倡妓さん、それって・・・」

男「勝手に・・・使っちゃったの・・・?」ゴゴゴ

毛倡妓「ひっ・・・!な、な、な、なんでそんなに怒るんですの・・・?メンタムくらいいいじゃないですの!?」ビクビク

男「あれはただのメンタムじゃねえええええ!!」ドタドタ

毛倡妓「ひいいいいい!?普通じゃないメンタムとか訳分かりませんわ!!おやめになってええええ!!」バタバタ

唐傘娘「二人ともー、部屋の中で走り回ると近所迷惑ですよー」

-CASE12 三位一体 END-

良い子のまめちしき!お墓を掘ったらどうなるの?

第189条
墳墓を発掘した者は、2年以下の懲役に処する。

第190条
死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3年以下の懲役に処する。



上2つの合わせ技
第191条
第189条の罪を犯して、死体、遺骨、遺髪又は棺に納めてある物を損壊し、遺棄し、又は領得した者は、3月以上5年以下の懲役に処する。

夏の夜でおにゃのこいるのに肝試しネタがないだと…!?

-CASE13 ここはお告げ所-

<ガガガガガガガガガガガ!!!!

友「うるせーなぁ」

男「今度ここにバイパス通すんだってさ」

友「それでずっと工事してんのか」

男「日中だけならまだいいよ。たまに夜中でもやってるからな」

友「うへぇ」

男「はー、それにしても・・・なんで夏休み時期はバス止まっちゃうかな」

友「そりゃだって、学生乗らないからだろ」

男「そうはいってもまったく大学行かないわけじゃないんだしさー・・・へぁー暑い」

友「さすがにこの炎天下の中、歩いてお前んちまで行くのはちょっとキツかったか」

男「とりあえず、ちょっとあの日陰んとこで休んでこ」

友「ん」

・・・

男「おぉー涼しい!!」

友「後ろの岩ちょっと湿ってるな。ここから染み出した水が辺りを濡らしてるから涼しいのかな」

男「いやーこりゃいいや・・・ふぅー、随分汗かいたなぁ。のど乾いた」

友「俺も・・・まあ、この後お前んちで飲むんだからちょうどいいじゃん」

男「もう今すぐここでビール呷りたい」

友「ところで、つまみとか酒どこで買おう?」

男「あー、それならいつも通り駅前のスーパーでいいでしょ」

友「たまには刺身とか食べたいけどなぁー。こないだ海行ったから金ないんだよなぁ・・・」

『今日は国道沿いの店で17:00からお刺身のタイムセールやってるよ・・・』ヒソヒソ

男「え?」

友「ん?どした?」

男「あぁ、いや・・・」

『飲み物を買うならバス停脇の酒屋で在庫処分やってるよ・・・』ヒソヒソ

男(岩が喋ってる・・・?)

友「どうしたよ。岩なんか見上げて?」

男「いや。なんでもない・・・そうだ、今日は気分転換に国道沿いの店行ってみようか」

友「へ?まぁいいけど・・・」

・・・

友「おいおい、運がいいな!マグロの切り落とし2パック500円で買えたぞ!!」

男「やったぜ」

友「えーと、あとはじゃあ酒を・・・」

男「あ、それなら帰る途中にあるバス停脇の酒屋に行こう。たまにはそういうとこも面白そうだし!」

友「へ?別にここで買ってけばいいじゃん・・・」

男「いいからいいから」

・・・

友「すげぇ・・・こっちは在庫処分でほとんど半額じゃんか・・・」

男「やったぜ」

友「お前、分かっててこのルートを?」

男「いやー、たまたま運がよかっただけだって」

友「へーそっか・・・こんな日もあるんだなぁ」

・・・

唐傘娘「それはきっと囀り石ですね~」

男「さえずりいし?」

唐傘娘「文字通り、言葉を喋る石のことです」

男「ほほーう」

唐傘娘「囀り石は人の役に立つことを話してくれるので、土地によっては石の神様として祀られてるんですよ!」

男「しゅごい」

毛倡妓「囀り石ですって!?」

唐傘娘「あ、毛倡妓さん」

毛倡妓「ど、どこですの!?どこにあるんですの!!?わたくしにも是非!是非その場所を教えてくださいまし!!」

男「ゑー」

毛倡妓「後生ですの!!」

唐傘娘「毛倡妓さん、妖怪なのに後生って」

・・・

男「ほら、ここ」

唐傘娘「おー、私がいた神社の近くだったんですねー」

毛倡妓「囀り石様!お願いですわ!!わたくしに天啓を!!」

囀り石「・・・明日はコストコ横のホームセンターで脱毛クリームが2割引きだよ」

毛倡妓「男さん!!お金は渡すので是非箱買いしてきてくださいまし!!」

男「やだよぉ、重いし」

毛倡妓「後生ですの!!!!」

唐傘娘「毛倡妓さん、2回目ですよ」

その後、囀り石は彼らの生活を豊かで潤いのあるものへと変えていった・・・。

男「この特売牛焼肉めっちゃうめぇ!!」ジュージュー

毛倡妓「この化粧水お肌に優しいですの!まさかこんな値段で買えるとは!!」ピトピト

唐傘娘「この扇風機値段の割にはすごく涼しいですぅ~」ア゛~

男「囀り石さんサイコー!もう一生ついていくわ!!」ヒャッホー!!

だが、このような日々は長くは続かなかった・・・。

・・・

<ドガガガガガガガガガガ!!!

男「」

毛倡妓「」

唐傘娘「」

男「あ、あの・・・なんか思いっきり彼(囀り石)、砕かれてるっぽいんですけど・・・」ガクガク

唐傘娘「ど、道路工事の対象区域だったんですねぇ・・・」

毛倡妓「おぉ、もう・・・」ガックシ

男「あれ・・・囀り石死んじゃったの?」

唐傘娘「いや、私たちに死の概念はないので・・・まぁでも、もうこの場所からはいなくなっちゃったんじゃないかと」

毛倡妓「ひ、ひどいですわ・・・せっかく豊かな毎日を送れていたというのに!!」

男「あぁ・・・またモヤシと鶏皮ばかりの生活が始まるのか・・・」ホロリ

毛倡妓「あの化粧水・・・これからは水で薄めて使うしかありませんわね・・・」ホロリ

唐傘娘「ふ、二人とも元気を出してください!」

-CASE13 ここはお告げ所 END-

>>261
あっ、肝試死っすか・・・

-CASE14 夜に笛を吹いてはいけない-

男「はぁー?肝試し?」

友「うん」

男「それも構内で?バカじゃないの?」

友「まぁそういうなって・・・お前も聞いただろ?彫刻棟の噂・・・」

男「あぁ・・・なんか、夜になると彫刻が動くとか動かないとか?」

友「そうそう」

男「いやだって・・・あそこ泊まり込みで制作してる人もいるし、見間違え以外ありえないでしょ」

友「それはそうかもしれないけどさ」

男「大体、制作に追われてる人間って基本的に頭イッちゃってるからなぁ・・・」

友「ちょっと分かる」

男「そんなラリった人たちにお化けが出たなんて言われてもねぇ・・・鏡に映った自分の姿でも見間違えたんじゃないの?」

友「辛辣ゥー!」

男「それに、開いてるとはいえ基本的に夜のキャンパスに人がいるのってあんまり良くないでしょ」

友「それはそうだけど・・・」

男「真面目に制作やってる人たちの邪魔にもなるだろうし、そういうのはやめたほうがいいんじゃない?」

友「そっかー・・・よし、じゃあ俺先輩に言って断ってくるよ」

男「馬鹿野郎いつやるんだバイトのシフト調整しなきゃいけないから早く教えろ」

・・・

先輩「あ、男くん久しぶり―」

男「どうもー」

先輩「・・・この間は、いろいろお世話になったね」

男「いやー、ホント!不思議なこともあるもんですよねぇ」

アホ毛「世界ふしぎ発見・・・」

友「あれ?今日はあの人(筋肉)いないんですか?」

先輩「うん。なんでも制作が忙しくて、アトリエに籠りっきりみたい」

友(よかった・・・)ホッ

男「というか、キャンパス内で肝試しなんてして怒られません?」

先輩「・・・実は、今回は肝試しというよりもっと別の目的があるの。メガネちゃん、例の物を」

メガネ「は、はい」

男「んん?」

メガネ「こ、これをみてください・・・」

男「どれどれ・・・あ、こないだ海行ったときの写真だね」

アホ毛「ここ。よく見て・・・」

男「ん・・・?あっ」

先輩「そう・・・あの時砂浜には私たちだけしかいなかったはずなのに、ここに何か顔みたいなものが写ってるのよ・・・!」

友「うわっ!?マジだ!!」

男「」

メガネ「他にもこれと・・・これ・・・」

友「うっ・・・こっちは海面から手みたいなものが生えてる・・・?」

男「」

先輩「そうなの・・・みんなに配ろうと思ってデジカメの写真を印刷したら、こんなに・・・」

アホ毛「しかも。全部キミ(男)の写ってる写真・・・」

男「」

友「ま、マジかよお前・・・ひょっとして呪われてるんじゃ・・・」

メガネ「デジカメの方で見ても何も写ってないんです・・・ホラ」

先輩「不思議よね・・・」

友「きゅ、急に雰囲気出てきましたね・・・」

男「」ダラダラ

アホ毛「・・・怖いの?」

友「すごい汗だぞ、お前・・・」

男(やべぇ心当たりめっちゃある!!)ドキドキ

先輩「ひょっとして・・・あの夜に起きた事と、何か関係があるんじゃ・・・」

男「な、なに言ってるんですか!そんなことあるはずないですって!ブハハ!!」

友「ブハハて」

メガネ「しかも・・・私たちが帰ってきたのとほぼ同時に起き始めた彫刻棟の幽霊騒ぎ・・・」

アホ毛「囁くのよ。私のゴーストが・・・幽霊だけに」

男(う、うわぁ~・・・これひょっとして、俺そういう類のもの寄せ付ける体質になっちゃってる!?)

先輩「もしかしたら、私たちの身の回りに何か普通じゃないことが起きているのかも・・・」

メガネ「きょ、今日も私、このカメラで何枚か写真を撮ってみようかと・・・」

アホ毛「そして必ずや。フェイタルフレームを・・・」

友「ちょっと俄然怖くなってきた・・・うわーだって俺今一人でトイレ行きたくねぇもん」

先輩「今日は皆で、この謎を解き明かしましょう・・・!」

男「え、えぇ・・・」

・・・

先輩「噂によると、この棟の2Fあたりで幽霊を見た人がいるんだって・・・」

友「マジかよ怖ぇ・・・昼間何度となく通ってる廊下だけど超怖ぇ!!」ガクガク

メガネ「ううぅ・・・」ビクビク

アホ毛「暗い廊下・・・消火栓の赤い灯り・・・遠くに浮かび上がる非常口のマーク・・・」

先輩「よ、夜の学校とか病院って不気味よね・・・」

<ガタン!!ズルルルル…

メガネ「ひいっ!!」←物音にびっくりしてる

友「」←びっくりした声にびっくりしてる

先輩「だ、誰もいないはずの教室から物音が・・・!?」

アホ毛「シャッターチャンス・・・」パシャパシャ

お化け『やべっ、なんか撮られてる!ポーズしなきゃポーズ!!』ウッフーン

男「」←実際に視えてるのでびっくりしてる

友「せっ、せっ、せ、先輩!!も、戻りませんか!?」ビクビク

アホ毛「・・・怖いの?」

友「超怖い!!」

アホ毛「よろしい。ではお姉さんが手をつないであげましょう・・・」

メガネ「わっ、私もお願いします・・・」ギュー

男「・・・」

先輩「お、男君は平気なの?」

男「へっ?あ、い、いやー怖い怖い!超怖いです!だからそろそろやめときましょうか!」

アホ毛「嘘。全然怖がってない」

男「いやほんと怖いよマジで、今年の俺の取得単位数より怖い!!」

友「そ、それ怖さのベクトルが違くねーか・・・?」

先輩「とにかく、先に進みましょう・・・」

・・・

先輩「この彫刻・・・これが先週、ひとりでに動いてたらしいわ」

友「う、うわ・・・」ビクビク

メガネ「い、一応撮っときますね・・・」パシャリ

男(ていうか誰だよ、執金剛神像なんて掘った奴・・・)

http://i.imgur.com/zuFdKRq.jpg ←コレ

アホ毛「・・・」ムムム

先輩「どうしたの?アホ毛ちゃん」

アホ毛「感じる・・・この像から、何かを」

男「えっ」

友「」

メガネ「な、何かってなんですか・・・?」

アホ毛「分からない。けど、普通じゃない何か・・・」

男(う、うーん・・・俺から見ても普通の彫刻にしか見えないんだけど)

先輩「や、やっぱり噂は本当なのかしら・・・」

アホ毛「あと、こっちのゼウス像・・・」ムー

友「な、なんでギリシャ神話の神様と仏教の神様がセットで置いてあるんですかね・・・」

アホ毛「とにかく。調べてみるべし」ピタ

ゼウス『・・・我に触れるな』

メガネ「ぴぃ!?」ビクゥーン

友「ひいいいいいいいいいい!!」ビクビクゥーン

男「喋った!?」

筋肉「ふふ・・・なーんてね、びっくりしたかい?」

男「あ、あなたは・・・」

筋肉「久しぶりだね、男君。それに、友君も!」ニッコリ

友「ひいいいいいいいいいい!!」ガクガク

男「さっきとは違うビビり方しててうける」

先輩「ふふ、ごめんね!本当はこれ、ドッキリなの」

友「ド、ドッキリ?」

メガネ「はうぅ・・・」ヘナヘナ

先輩「本当ならこの間海に行ったときに肝試ししたかったんだけど・・・色々あって、できなかったからね?」

友「あ、あんなことがあった後なのにメンタル強いっすね先輩・・・」

男(ていうか本当にホラーな体験してたんだよなぁ・・・)

メガネ「じゃ、じゃあこの写真は・・・?」

先輩「ごめんね。実はこれ、グラデザの子に頼んで加工してもらったの」

メガネ「え、えぇー・・・」

アホ毛「夢幻の如くなり・・・」

友「こ、この彫刻は?」

筋肉「俺の作品!」

友「へ、へぇ・・・」

筋肉「この執金剛神はヘレニズムの影響で生まれた天部の神様で、ギリシャ神話のヘラクレスを元にしていると言われているんだ」

友「そ、それで隣にゼウス像があったのか・・・」

筋肉「一応彼らは親子だからね!ヘラクレスはゼウスとアルクメーネという人間の女性の間に生まれた半神半人の英雄なんだよ!」

男「その辺の話ってすごくドロドロしてますよね。というかゼウスさん種馬すぎる」

先輩「それを言ったら日本神話も相当なものだけどねー」

友「じゃ、じゃあここにある彫刻像ってもしかして・・・」

筋肉「うん!全部俺が彫ったんだ!」

メガネ「すごい・・・」

友「そりゃ筋肉つくわけだよ・・・」

アホ毛「・・・これ。この棒は、何?」

筋肉「ん?ああ、それはアスクレーピオスの杖だよ!」

メガネ「アスクレーピオスって、あの医学の神様の?」

筋肉「そうそう!」

先輩「あら?でもこの杖、蛇がいないわ。確か前に見たときは蛇が巻き付いていたような・・・」

筋肉「・・・あっ」

先輩「えっ?」

友「と、ところでさっき誰もいないはずの教室から音がしたのも、先輩たちの仕掛けたドッキリなんですよね!?」

先輩「えっ、い、いや違うよ?多分、他の誰かがいたんじゃ・・・」

メガネ「で、電気もつけずに、ですか・・・?」

筋肉「今日はこのアトリエ以外、泊まり込みしてる人たちはいないと思うけど・・・」

全員「・・・」

友「せっ、先輩!今日のところはもう邪魔になりますしか、か、か帰りましょう!!!」ゾゾゾ

先輩「そ、そうだね!ご、ごめんね、邪魔しちゃって!!」ゾクゾク

メガネ「あわわわわわ・・・」ガクガク

アホ毛「宇宙天地 賜我力量 降伏群魔 迎來曙光 吾人左手・・・」ブツブツ

筋肉「え?あっ、うん!暗いからみんな足元に気を付けて帰るんだよ!」

男(・・・ガゴゼさん、その蛇ってもしかして)ヒソヒソ

筋肉(うん、俺の相棒・・・いつもあの杖のところで休ませてるんだけど、今日は戻すの忘れてた!例の物音も、たぶんアイツの仕業だな!)ヒソヒソ

男(それもう完璧にホラーじゃないっすか!!)ヒッソォー

筋肉(いやーゴメンゴメン!)アッハッハ

友「お、男!お前も早く行こう!!」ガクガク

男「お、おう・・・」

数日後・・・。

友「ひいいいいいいい!!」

男「ん?どうした?」

友「こっ、ここここっここここここ・・・」ガクガク

男「落ち着けよニワトリかお前」

友「これを見てくれ!!」

男「ん・・・?なんだよ、こないだの肝試しで使った写真じゃん」

友「こっ、これ・・・実は、この写真だけ、別に加工してないんだって!!」

男「えっ」

友「そ、それなのに!!ほら!!す、砂浜に埋まった女の足が・・・!!」

男「」

傘『これ、毛倡妓さんですね』

男『だよね・・・』

友「や、やっぱりおかしいよ!お前、きっと呪われて・・・」ブルブル

男「あー大丈夫大丈夫。それ知り合いの足だから」

友「もっと怖ぇーよ!!」ビクッ

-CASE14 夜に笛を吹いてはいけない END-

-CASE15 ライオンにも効くらしいぜ-

男「やっぱりさぁ・・・冬場とかはどうしてもね・・・」

唐傘娘「いや、そうはいってもやっぱりそこは気を使うんじゃ・・・」

毛倡妓「ごきげんよう・・・あら?二人とも何の話をしているんですの?」

唐傘娘「あ、毛倡妓さん」

男「今ねー、毛倡妓ちゃんの冬のムダ毛ケアがどうなってるかについて議論してたんだよ」

毛倡妓「ななな!なんて失礼な!!」

男「だってさ・・・脱毛クリームって、1本1000円くらいするでしょ?毛倡妓ちゃんは露出の多い今の時期は1日で1本空けちゃうでしょ?仮に露出の減る冬の間は2日で1本になるとしても、夏の間の半年で約18万円、冬の間でその半分の9万円として合計27万円あまりもの額が脱毛費に消えていくわけでしょ・・・」

毛倡妓「そんな深い考察しなくていいですの!!」

唐傘娘「平均して1ヵ月あたり2万円強ですか・・・下手したらその辺のサラリーマンのお父さんのお小遣いと同じくらいかもしれませんね・・・」

毛倡妓「唐傘さんまで!?」

男「いっそシェーバーとか買った方がいいんじゃない?」

毛倡妓「大きなお世話ですわ!!」ムキー

唐傘娘「あれ?ところで何持ってるんです?」

毛倡妓「お土産にと思って持ってきたのですが、今の話で差し上げたくなくなりましたわ!!」プンスカ

男「お土産?いやー毛倡妓ちゃんは優しいなあ~。こんなに美人で気も使える友達がいて嬉しいなあ~」

毛倡妓「オーッホッホッホ!分かればよろしくってよ!!」

唐傘娘「毛倡妓さんちょろいです」

男「で、なにこれ?」

毛倡妓「うちの裏でとれたマタタビの葉ですわ!」

唐傘娘「なぜにマタタビなんでしょう・・・」

毛倡妓「この時期枝葉を放っておくと伸び放題になってしまうので、剪定したんですの」

唐傘娘「それお土産っていうか、ただのゴミ処理じゃないですか」

男「マジで!?いいの、もらっても!?」ウキウキ

唐傘娘「えっ、マタタビにそんなテンション上がる要素あります?」

男「だって唐傘ちゃん、マタタビって言ったら・・・猫だよ!?」

唐傘娘「そうですね」

男「猫っていったら・・・にゃんこだよ!?」

毛倡妓「当たり前ですの」

男「こうしちゃゐられねゑ!!さっそく俺の秘密のにゃんこスポットへ!!」Bダッシュ!!

毛倡妓「・・・あの方、猫が好きだったんですのね」

唐傘娘「イタチに対しては割とドライだったんですけどね」 ※カマイタチ編参照

>>252
以前の作品の、お菊さんにもお岩さんにも効果のあるメンタムはこれだったわけなのね
あ、でも骨折には効かないんだっけ

>>312
以前のは関係ないよ!(断言)

<ニャー

男「おっほほほ・・・おるわいおるわい」

男「ほらおいで・・・マタタビやるから寄っといで・・・」

猫A「ミャーミャー」

猫B「ニャーニャー」

猫又「フニャーゴロゴロ・・・」

男「」

唐傘娘「あ、いた」

毛倡妓「探したんですのよ」

男「あ、あの・・・なんか一匹超でかい猫がいらっしゃるんですが・・・」

猫又「ゴロゴロゴロ・・・」

毛倡妓「あら、猫又じゃありませんの」

男「ね、猫又!?思いのほかでけぇ!そしてかわいくねえ!!」

唐傘娘「そんなこと言うと猫又怒りますよ」

男「ていうか・・・妖怪のくせにマタタビ効くのか・・・」

毛倡妓「所詮は猫ですの」

猫又「オォーンアォーン」ゴロゴロ

唐傘娘「完全にエクスタしくなってますね」

毛倡妓「鳴き声が汚いですの」

男「こいつのせいで他の猫が逃げちゃったよ・・・」

・・・

猫又「・・・」ノッシノッシ

男「な、なんかついてくるんだけど・・・」

唐傘娘「どうやら気に入られちゃったみたいですね」

毛倡妓「ついてくるというか憑いてくるですわね」

男「まいったなー・・・うちのアパート、ペット禁止なんだよなー」

唐傘娘「男さん、妖怪です」

毛倡妓「どうするんですの?」

男「どうしよう・・・さすがに追っ払うのもかわいそうだよなあ」

唐傘娘「困りましたねぇ・・・」

アホ毛「・・・」キョロキョロ

男「ん?あれは・・・」

男「おーい」

アホ毛「ムムッ」

男「こんなところで、何やってるの?」

アホ毛「・・・猫」

男「えっ」ビクッ

アホ毛「猫が。いなくなりました」

男(ビビった、猫又視えてるのかと思った・・・)ドキドキ

男「猫って・・・アホ毛ちゃんちの飼い猫?」

アホ毛「そう。もう一週間も。姿をみてない」

毛倡妓『そういえば、猫は死ぬときは飼い主から姿を隠すっていいますわね』

唐傘娘『毛倡妓さん、そういう縁起でもないこと言わない』

男「なるほど・・・どんな猫なの?」

アホ毛「ずっと。私が子供のころから、飼ってる猫」

男「じゃあ、結構歳なんだ?」

アホ毛「人間で言ったら。菅井きんクラス」

男(な、なぜに菅井きん・・・)

アホ毛「名前は、ネコ」

男「えっ」

アホ毛「首輪に、ネコって書いてある」

男「ネ、ネコって名前の猫なの?」

アホ毛「そう。えぬいーけーおー」

男「そ、そう・・・」

毛倡妓『この方、ちょっと変わってらっしゃいますよね』

唐傘娘『毛倡妓さんも大概人の事言えないと思います・・・』

毛倡妓『なんでですの!?』

アホ毛「特徴は・・・毛色はトラ地で」

男「ほうほう」

アホ毛「右耳がちょっと欠けてて」

男「うんうん」

アホ毛「右目が青で、左目が黄色のオッドアイ」

男「あれ・・・それってどこかで・・・」

猫又「オアアーン」←トラ地+耳欠け+オッドアイ

男「」

アホ毛「どうしたの?」

男「お、おぉ・・・」ガクガク

アホ毛「もしかして。見覚えがある?」

男「いっ、いやぁ!?今のところ無いなぁ!!」

アホ毛「・・・そう」

男「と、とにかくそんなカンジの猫見かけたら連絡するよ!」

アホ毛「捜査員が増えた。これで勝つる」グッ

男「アホ毛ちゃんも、暑い中探して熱中症にならないようにね」

アホ毛「承知した」

男「・・・」

男「・・・さっきの話、やっぱりどう考えてもコイツな気がする」

猫又「オアーン」

唐傘娘「ですねぇ・・・共通点も多かったですし」

毛倡妓「それに、長い年月を生きた飼い猫は猫又になると昔から言われてますの」

男「でもコイツ、首輪だけはしてないんだよなぁ・・・?やっぱり違うのかな」

猫又「ニャッ」グイッ

男「うぉ!ちょ、ちょっと!袖引っ張るなって!!」

唐傘娘「なんか、私たちをどこかへ連れて行きたいみたいですね」

男「化け猫にいざなわれるってそれもう絶対よくない場所じゃん!!」

毛倡妓「ひょっとしたら迷子の妹とかお母さんの病院とか行くかもしれませんわよ?」

男「それはない!だってこいつフォルム的にはネコバスっていうより山犬寄りだもん!!」

唐傘娘「とにかく、ついて行ってみましょう」

毛倡妓「曇りなき眼で見定め、決めるですの!!」

男「んもおおおおおおおおお!!」

・・・

猫の死体「」ブーン

唐傘娘「・・・既にハエがたかり始めてますね」

毛倡妓「車に轢かれたような跡もありませんし・・・おそらく老衰ですわね」

男「首輪・・・ネコって書いてあるな・・・」

猫又「オアーン」

毛倡妓「・・・それで、どうするんですの?」

男「そりゃ・・・やっぱり、彼女に連絡した方がいいだろ。首輪からみて間違いなさそうだし」

唐傘娘「彼女、悲しみませんかね」

男「ずっと見つからないで探し続けるより、いいんじゃないかな・・・」

唐傘娘「・・・」

猫又「ゴロゴロゴロ」

・・・

アホ毛「・・・」

男「俺が見つけた時にはもう、ここで・・・」

アホ毛「そう・・・」

男「・・・」

アホ毛「本当は、なんとなく分かってた・・・」ポロリ

アホ毛「もうずっと。ごはんも食べてなかったし。歩くときも足を引きずってたし・・・」ポロポロ

男「・・・」

アホ毛「私が悲しまないように。最後の力でここまで来たんだね・・・」

男「・・・そうだね」

アホ毛「・・・ひっく、ひっく」

男「大丈夫?」

アホ毛「うん・・・でも、最後に見つかってよかった」

アホ毛「ありがとう」

男「・・・うん」

アホ毛「でも、どうやって。どうしてここだって分かったの?」

男「いや・・・猫がいそうな場所を探してたら偶然・・・」

アホ毛「そう・・・」

猫又「フニャー」

男「まぁでも・・・ネコは幸せだったと思うよ。こうやって探してもらってさ。最後には家に帰れるんだし・・・」

アホ毛「うん・・・」

男「家まで送ろうか?」

アホ毛「大丈夫。帰って、ネコのお墓を建立する・・・」

男「ん・・・」

猫又「ニャー」

毛倡妓『あ、猫又が離れていきましたわ』

唐傘娘『きっと、彼女と一緒に家に帰るんですね・・・』

・・・

男「はぁー・・・ああいうの見ちゃうと、やっぱりペットは飼いたくねぇなぁー・・・いや猫かわいいけどさ」

唐傘娘「大体は飼い主より早く死んじゃいますからねー」

男「ペットロスってやつでしょ?俺だったら立ち直れるか分からんわー」

毛倡妓「でも、貴方の場合は死んでからも視えるのでは?」

男「嫌だよそんなの・・・やっぱり近所の野良猫を愛でるのがナンバーワン!」

毛倡妓「あ、それはそうとあのマタタビ、枝だけでなくて実も持ってきましたのよ!」

男「へー、マタタビってこんな実がなるんだ」

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/9/90/Actinidia_polygama_071027a.JPG ←こんな実

毛倡妓「マタタビは果物キウイと同じ仲間で、この実も食べられるんですのよ!!」

男「ホホーウ!」

唐傘娘「毛倡妓さん、そr」

毛倡妓「シッ!」

男「このまま食べれるの?」

毛倡妓「もちろんですわ!お酒などに漬ける方もいらっしゃいますけど・・・」

男「なるほどー。それじゃ、さっそく一口」パクッ

男「」

毛倡妓「ニヤリですの」

男「辛ぇぇええ!!っていうか痛ぇえええ!!」 ※本当にこうなります

唐傘娘「そりゃそうですよ・・・食べられるっていったって、なかなか生で食べる人なんていませんよ」

男「毛倡妓ちゃんに騙されたああああああ!!」

毛倡妓「オーッホッホッホ!!日頃わたくしを蔑ろにしている罰ですわ!!」

男「ゲッホゲッホ!ぐへぁっ!!」ブハー

毛倡妓「」ビスビスビス

唐傘娘「うわぁ・・・えんがちょです」

毛倡妓「あああああ!!!目に!目にかけらがあああああああああ!!」

男「舌があああああああ!!キウイの種食ったときのピリッとした感じのが100倍ぐらいで押し寄せてくるうううう!!」

毛倡妓「ああああああああああ!!」ドッタン

男「ああああああああああ!!」バッタン

唐傘娘「二人ともー、部屋の中で転げ回ると近所迷惑ですよー」

-CASE15 ライオンにも効くらしいぜ END-

※本当にこうなります
って事は食った事あるんかい。どんな生活してたらそんな機会に出会うんだホント

ちなみに食えるように加工?したら美味いの?

SS読んでくうちに、なんでか寺生まれのTさんシリーズを思い出した


>>1
もしかしてandropすき?

>>342
なってる木の実はとりあえず口にしていくスタイル
なお、今は亡きざざむしによるとマタタビ酢漬けは「ケッパーを胃薬で和えて酢酸15%の特殊酢で漬けたような味。」らしいぞ!

>>343
破ァ!!

>>344
すこ

-CASE16 唐傘娘と夏の雨(前編)-

<カーンカーンカーン、ガガガガガガガ

男「うーん・・・うるせぇーなぁー」

唐傘娘「例の道路工事の音ですね」

男「こんな夜中までやんなくていいじゃんよー・・・あー目ぇ覚めちゃった」

唐傘娘「じゃあお話でもしましょうか」

男「猥談?」

唐傘娘「嫌ですよ!」

男「お話ねぇ・・・じゃ毛倡妓ちゃん呼ぶ?」

唐傘娘「毛倡妓さんこの時間はバイト中です」

男「そういえばそんな設定あったねぇ泣きそう」ホロリ

唐傘娘「えらいですよねぇ、自分でお金稼ぐなんて」

男「そういう意味でいったら唐傘ちゃんはニートだね」

唐傘娘「失礼な!」

男「まぁでも・・・毛倡妓ちゃんと違って唐傘ちゃんは脱毛クリームや食事もいらないし、お金いらないもんね」

唐傘娘「まぁぶっちゃけてしまえば、別にお金がなくても人間からは視えないからやりたい放題ですけどね」

男「おまわりさんこっちです」

唐傘娘「妖怪に国も法律もないんですよ」

男「それ前毛倡妓ちゃんが言ってた」

唐傘娘「・・・」

男「どうしたの?」

唐傘娘「いえ、なんで男さんは私たちのこと視えるんだろうなぁ・・・って」

男「なんでだろうね?」

唐傘娘「なんか、うまく言えないんだけど私と男さん、昔も会ったことある気がするんですよねぇ」

男「なにそれデスティニーじゃん」

唐傘娘「本当に昔・・・私が多分、この姿になる前に」

男「それって、唐傘ちゃんが普通の傘だった時のこと?」

唐傘娘「ええ・・・」

男「それいつの話よ。確か前に、江戸時代から毛倡妓ちゃんと顔見知りとか言ってなかったっけ?」

唐傘娘「そうです・・・だから、普通に考えたら有り得ないんですよねえ」

男「ひょっとして元の持ち主が俺のご先祖様だったとか?」

唐傘娘「むしろ逆に男さんが実は妖怪の類なんじゃないですか?」

男「なにそれひでぇ」

唐傘娘「冗談です」

男「まぁでもー、こうやってかわいい女の子と夜お話できるならそれでもいいやー」

唐傘娘「うっ、またそんなジゴロなことを・・・///」

<ポツッ、ポツ…ザーーーー

男「ん・・・雨が降ってきた?」

唐傘娘「ですね」

男「と、いうわけでちょっとこっちにおいで」

唐傘娘「えっ」

男「早く」

唐傘娘「な、なんですk・・・きゃっ!」

男「あー、やっぱり妖怪とはいえ若い男女が一つ屋根の下でいるって素晴らしいなあ」ギュー

唐傘娘「ちょっ、なっ、ややややや///」

男「チューしていい?」

唐傘娘「何を!ホントに下心が!!ちょ、ちょっと男さん、あなたあの女の人(先輩)のことが好きなんじゃないんですか!?」

男「んー・・・ちょっと違う・・・」

唐傘娘「な、なにが違うですか?」

男「先輩はなんていうか・・・憧れ?手の届かないところで眺めてたいみたいな?」

唐傘娘「よく分からないです・・・」

男「でも唐傘ちゃんはねぇ、手の届く範囲に置いておきたい」

唐傘娘「うぐ・・・///」

男「傘だし」

唐傘娘「それ完全に日用品枠じゃないですか!!」プンスカ

男「だってさぁ、唐傘ちゃん、俺と違って歳とらないでしょ?」

唐傘娘「えっ?ええ・・・」

男「だったら俺が死ぬまで、ずっとそばにいてくれるでしょ?」

唐傘娘「それは・・・男さんがそれでいいのなら・・・」

男「だったらずっと、手の届くところにいてほしいなぁ」

唐傘娘「こっ、これはプロポーズというやつなのでしょうか・・・」ドキドキ

男「・・・ちなみにその姿のままなら、俺と性交渉できる?」

唐傘娘「雰囲気ぶち壊しです!!」プンスカ

男「いやでも・・・突き詰めていったら、人間の愛って結局はそこに行きつく思うんだけど」

唐傘娘「ちゃんとプロセス踏みましょうよ!!」

男「愛など粘膜が作り出す幻想に過ぎん、って昔えらい人が言ってた」

唐傘娘「大体私人間じゃないですし!赤ちゃんだって産めませんよ?」

男「よし!なおさら好都合だな!!」

唐傘娘「・・・本気ですか?」

男「本気じゃない、って言ったら唐傘ちゃんはどうする?笑う?怒る?」

唐傘娘「私は・・・」

わずかに開いた窓の隙間から、雨に冷やされた夜風が吹き込んでくる。

男「ここ、ほつれてるね」

唐傘娘「また、直してくれます?」

男「直すよ。手の届くうちは・・・」

既に虫の声や工事の音も止まってしまった。

雨音だけが響く部屋の中で、二人は顔を近づける。

・・・

友「ぼちぼち夏休みも終わるなー」

男「なんだかんだで結構大学には来てたけどなあ」

友「確かに」

男「あ、ところでこの後図書館行くんだけど一緒に行く?」

友「あーごめん、今日は用事あるんだ」

男「そっか」

・・・

男「えーと、こないだ借りた本はっと・・・」

<大型で非常に強い台風12号は、現在中国地方を中心に・・・

男(お・・・そういえば台風くるんだっけ)

男(天気が悪くなる前に帰るか)

<ガガガガガガガガガガガガガ!!

男「おっと、もうこんなところまで工事が始まったのか・・・げっ!いつもの帰り道が通行止めになってる!」

男「通行止め期間・・・10月いっぱい!?マジかよ!それまでずっと遠回りして帰らなきゃいかんの!?」

男「・・・仕方ない、バスで駅まで出るか」

・・・

男「ただいまー。あれ、唐傘ちゃんいないんだ?」

男「ふぅー・・・回り道して帰ったら30分も余計にかかった」

男「ってことはこれ、大学始まったら朝早く出ないとだめってことか・・・」ウヘー

男「そんなことより台風どうなった?ニュースニュース」ポチー

<・・・依然として北上を続けており、明日未明にも東海地域を暴風域に巻き込んで・・・

男「こわいなーとづまりすとこ」

・・・

<ビュオオオオオオオオオオオオオオオ

男(風が出てきたな)

男(明日は家に引きこもってよう・・・)

男(・・・唐傘娘ちゃん、戻ってこないな)

<ガタガタガタ・・・

・・・

数日後。

男「・・・」キョロキョロ

友「お、男じゃないか。どうした、こんなとこで」

男「あ、なぁなぁ。念のため聞くけどさ」

友「うん?」

男「俺がいつも持ってたあの赤い傘しらない?」

友「ああ、あの和傘?・・・いやー分かんね」

男「そっか」

友「なくしたのか?」

男「ちょっと見当たらなくて」

友「学生課とかに届いてない?」

男「確認しに行ったけど、なかった」

友「最後に使ったのはいつよ?」

男「えーと・・・こないだの台風がくる前くらいだったかな」

友「台風のときに傘差して出かけて、どこかに忘れてきたとか?」

男「いや、台風の日は家に引きこもってた」

友「じゃあ、いつもの図書館は?」

男「あ、そこはまだ見てないな。行ってみるか」

友「じゃ付き合うよ」

・・・

男「悪いねー、付き合ってもらっちゃって」

友「いいよ。どうせ俺も課題の調べものとかしたかったし」

男「そういや全然話変わるけど、前にこの辺工事してたじゃん?」

友「おー、してたしてた」

男「そのせいで、いつも通学に使ってた道が10月いっぱい通行止めになって。回り道しないといけなくなったんだよ」

友「はは、そりゃ災難だな」

男「本当だよー。30分は余計にかかるからなー・・・朝の30分とか貴重すぎて鼻血でる」

友「どっか探せば抜け道とかあるんじゃない?」

男「そうかも。あとで探してみよう」

友「それにしても、随分と急ピッチで工事進んでるなあ」

2人の目の前には、建設中の高架桁が長く伸びている。

友「こんなとこに道作ってどうすんだろ?」

男「ああ、なんでも基幹道路のバイパスになるって話だろ?これができれば、下道の渋滞が緩和するって」

友「そういうのって、道を走ってる車が少なくなるだけで、ジャンクションのあたりはかえって混むんだよなあ」

男「まー車乗らないから関係ないし」

友「まあね」

・・・

おじさん「傘の忘れ物っていうと、ここにあるのが全部だね」

友「どう?ある?」

男「いやー・・・ないな」

友「残念」

おじさん「赤い和傘ね?もし忘れ物で届いたら、保管しとくよ」

男「あ、どうもすみません」

友「さて・・・お前この後どうする?」

男「お前は?」

友「俺はちょっと本探してく」

男「じゃー俺もなんか適当に本読んでようかな」

友「ん」

・・・

男「友、悪い。ぼちぼち帰るわ」

友「はいよー」

男「なんか曇ってきたから、お前も早く帰ったほうがいいぞ」

男「んー・・・」

<ゴロゴロ・・・

男「お・・・っと、遠くで雷が鳴り始めてるな・・・」

男「急いで帰ろう」

<ザーーーーーーーーーーーー!!

男「うわー降ってきた!最悪だ!!」

男「こんなとき唐傘ちゃんがいてくれれば・・・」

男「くっそー、工事中で回り道しないといけないってのに・・・どこか雨をしのげる場所は・・・」

辺りを見回すと、工事中の高架の下に一カ所だけ入れる場所があるのを見つけた。

男「おっ、ちょうどいいじゃーん!雨宿り雨宿り!」タッタッタ

・・・

男「あーもう、傘持ってない日に限ってこれだもんなぁ・・・またびしょ濡れだよ・・・」ヒタヒタ

男「これ、止む気配ねぇなぁ・・・」

男「・・・」

男(なんだか、唐傘ちゃんに会った日を思い出すなあ)

男は高架の桁に寄り掛かりスマホを取り出す。足元では草に跳ね返った水が足元を濡らしている。

男(このまま回り道して帰るのはちょっと嫌だな・・・なんとかこの先抜けられないかな)

マップアプリで、近辺の路地を確認する。

男(おっ、この道まっすぐ行けば家の近くの道に出れそうだな)

どうやらこの高架を抜ければ、家までたどり着くことができそうだ。

さらに幸運なことに、しばらく降り続くかと思われた雨が、雲の切れ間から現れた日差しと共に降りやんだ。

男「通り雨だったかー・・・よっしゃ!この期を逃す手はない!」

彼は高架をくぐり、草薮が迫る細い道を歩いて行く。

舗装されていない砂利道は先ほどの雨でぬかるみ、石の間から染みだした泥が足元を汚している。

男「歩きづれぇ・・・蚊も多いし」

しばらく歩を進めると、フェンスで囲まれた一角に工事用の重機が置いてあるのが見えてきた。

男「へー、こんなところにこんな空き地があったのかぁ」

フェンスの外に張られたトラロープには、建設予定地の札がぶら下がっている。

男「なるほど、結局ここも潰しちゃうのか・・・お、そろそろ出そうだな」

細い道が続く上り坂の向こうに、いつも通っている歩道が見えてくる。

・・・

男「ふぅー、だいぶショートカットできたな!」

歩道に出て足元についた草土を払うと、男は今来た道を振り返る。

男「あれ?ここって・・・」

その道は、あの唐傘を拾った神社へと続く道だった。

-続く-

-CASE17 唐傘娘と夏の雨(後編)-

その日、男は以前肝試しを行った彫刻棟にあるアトリエにいた。

筋肉「なるほどね・・・神社が取り壊されるのとほぼ同時に、彼女達の姿も視えなくなったわけかい」

男「唐傘ちゃんだけじゃなくて、毛倡妓さんや他の妖怪なんかも・・・」

筋肉「ひょっとしたら、その神社が君に何らかの能力を与えていたのではないかと?」

男「まぁ、よく分からないですけど。もしかしたら」

筋肉「うーん・・・」

男「こういうこと相談できるのは、ガゴゼさんくらいしかいないと思って」

そう言われ半人半妖の彼はわずかに笑みを浮かべている。だが、その表情はどこか憂いを帯びているようにもみえる。

筋肉「まあ、元々神様に与えられた能力だとしたら、ここで騒いでみてもどうしようもないさ」

男「それは・・・そうですけど」

筋肉「それに、君にあの能力が与えられたのはもしかしたら運命だったのかもしれない。いずれまた何かのきっかけで、彼女たちに会えることもあるんじゃないかな」

男「・・・」

筋肉「・・・そうだ!今度、みんなで飲み会をやるんだけど、君も来れないかな?」

男「え?」

筋肉「俺も今年で卒業だからさ。今のうちにたくさん思い出を作っておきたいんだ」

男「は、はぁ」

筋肉「もう彼女たちにも声をかけてあってね」

男「先輩たちですか?」

筋肉「そうそう。それで、俺のバイト先の居酒屋でやろうと思うんだけど、お店の人の厚意もあって貸し切りにしてくれたんだよ」

男「す、すごいっすね」

筋肉「友君にも声をかけてみてもらえるかな」

男「分かりました。誘ってみます」

・・・

筋肉「それじゃあ、カンパーイ!」

先輩「かんぱ~い」

友「すごいな。店貸切かよ・・・」

男「ああ、あの人(筋肉)のバイト先なんだってさ」

友「げっ」

筋肉「やあ友くん!楽しんでるかな!?」ガッシ

友「ひっ・・・ハイ、タノシイデス・・・」ガクガク

筋肉「そうか!よかったよかった!」ニッコリ

先輩「あら?メガネちゃん今日はデジカメもってきてないの?」

メガネ「はい・・・それが、この間の台風で壊れちゃって」

先輩「た、台風で壊れたって・・・あの雨風の中いったい何を撮ろうとしてたの・・・?」

アホ毛「あの」

男「ん?」

アホ毛「このあいだ。ありがとう」

男「あー・・・うん、見つかってよかったね、ネコ」

アホ毛「うん・・・暑い中探すのを手伝ってくれて、本当にありがとう・・・」

男「いいよいいよ、気にしないで」

筋肉「ところで皆、ちょっとこれ試してみてくれるかな」

先輩「なにこれ?」

筋肉「うちの地元でとれた山菜の天ぷらだよ」

男「へー」

筋肉「はじかみっていう・・・まぁミョウガみたいなものだよ」

先輩「なんか店で売ってるのと形がちがうね?」

筋肉「これはうちの地元じゃナガレとも呼んでてね。形は悪いけど、味はいいはずだよ」

先輩「へー、そうなの。どれどれ・・・あっ、おいしい!!」シャクシャク

男「じゃ、俺も・・・へー、こりゃすごい。こんなの初めて食べたぞ」シャクシャク

メガネ「わ、私ミョウガとか香りの強い野菜が苦手で・・・」

男「あ、でもこれねぇ、全然そんなキツい感じしないよ?なんか、芋とかクワイ食べてるみたい」シャクシャク

友「おー、本当だ。やべぇめんつゆつけて食うと超美味い」シャクシャク

アホ毛「ごはん。たべたくなる」シャクシャク

メガネ「じゃ、じゃあ私もちょっとだけ・・・あっ、これなら大丈夫です」シャクシャク

筋肉「はは、よかった!」

男「これ美味いっすね。どの辺で獲れるんですか?」

筋肉「それは企業秘密!」

アホ毛「止められない止まらない・・・」シャクシャク

先輩「そういえば、ミョウガってたくさん食べると物忘れがひどくなるっていうよねぇ」

友「えっ、そうなんですか?」

筋肉「・・・」

男「・・・どうかしました?」

筋肉「あぁ、いや・・・なんでもないよ!ていうか、それは迷信だよ」

先輩「え、そうなの?」

筋肉「むしろミョウガの香り成分には集中力を高める効果があるらしいよ」

先輩「そうなんだ」

メガネ「なんでそんな迷信が生まれたんでしょうね?」

先輩「ねー」

筋肉「昔、チューラパンタカっていうブッダのお弟子さんがいてね。物忘れの酷い人物で、自分の名前をかいた名荷っていう札を首からかけてたんだけど、それと発音が同じミョウガをかけて物忘れがひどくなるって言われてるそうだよ」

メガネ「そうなんですか・・・肝試しの時も思いましたけど、結構仏教について詳しいんですね」

筋肉「はは、まあね。作品を作る前に下調べしたりもするし」

先輩「そういえば、実家お寺っていってたっけ?」

筋肉「昔はね・・・今は、違うよ」

男「・・・」

・・・

先輩「あ、ねぇねぇ。皆で写真撮ろーよ!!」

友「いいですね」

メガネ「でも、カメラが・・・」

先輩「大丈夫、私のスマホで撮るから!その方が後でみんなにメールで配りやすいしね~」

筋肉「あ、じゃあ俺が撮ろうか」

先輩「何言ってるの!皆で撮らないと意味ないでしょ!それに・・・ふっふっふ、こんなこともあろうかと自撮り棒をもってきたのだー!」

友「おぉー」

メガネ「お、お店の人に撮ってもらえばいいんじゃ・・・」

先輩「つ、使ってみたかったの!」

男「なんか、例の海の一見以来すっかりサークル仲間みたいになっちゃってるな」

友「だな」

先輩「はい、それじゃ並んで並んで―」

男「ここはやっぱり、先輩たちが真ん中のほうがいいんじゃないですか?今日の主役なんですし」

先輩「私は自撮り棒もってるから端っこでいーの!」

筋肉「俺も身体がデカいからな。端っこでいいよ」

アホ毛「それでは。拙僧が前へ・・・さぁ君も隣へ」

男「へ?あっ、うん」

メガネ「こっち向きで撮った方が順光になりますね」

先輩「まかせて!それじゃあ、撮るよー!」

筋肉「さ、友君も笑って」

友「・・・」←ひきつった笑顔

そしてこれが、先輩たちと肩を並べて撮った最後の写真になった。

数年後。

<prrrrrrrr

友『おー、もしもし』

男「久しぶりー」

友『久しぶりだなー。どうしたよ?こんな時間に』

男「いや、たまにはちょっと声でも聞いとこうかなって」

友『なんだぁ?お前もしかしてそっちの気が・・・』

男「ねーよバカ」

友『はっはっは!冗談冗談』

男「ところで・・・今度、一緒に飲みにでもいかないか?」

友『おーいいね!えーと・・・再来週の金曜とかいけるぜ』

男「よーし、それじゃあ店予約しとくわ」

友『おっ、じゃ頼んだぜ。そっちの方いくのも久しぶりだなー・・・』

・・・

・・・

友「おっす!久しぶりー!!」

男「おー、しばらくぶりだなー・・・5年ぶりくらい?」

友「かもなぁ」

男「カミさんはどうよ」

友「今子供連れて実家帰ってる」

男「別居か!?」

友「ちげーよ!!ただ飛行機が安い時期に帰省してるだけだっての!!」

男「じゃ、今は一人暮らしか」

友「一週間だけなー。いやー久しぶりに伸び伸びできていいわぁ~!お前とこうしてると学生時代を思い出すなぁ」

男「学生時代といえばさ・・・これ、覚えてる?」

友「ん・・・おぉー!懐かしい!!皆で居酒屋貸し切って飲んだ時の奴だ!!」

手元の端末には、15年前の大学生時代に取った画像が映し出されている。

男「みんな若いよなぁ、お前超痩せてるし」

友「あっはっは、それを言うなよ・・・でもこの写真、やけに右に寄ってるよな」

男「たしかあの頃、自撮り棒とかいうのが流行っててさ、先輩がスマホで撮ったんじゃなかったっけ?」

友「あーあったなそんなの!いやー懐かしいわ・・・それにしても、5人いてそのうち3人が女の子だもんなぁ。よりどりみどりのはずだったのに、大学時代は彼女すらできなかったよな」

男「5人・・・」

友「ん?どうかしたか?」

男「いや、別に・・・そうだよな、5人だよな?」

友「そりゃ・・・先輩にメガネちゃんとアホ毛ちゃんだろ、俺とお前で5人だ」

男「だよなぁ・・・」

友「そういえば先輩、あの後あの彫刻どうしたんだろうな」

男「彫刻?」

友「なんだ、覚えてないのか?ほら、彫刻棟の使ってないアトリエにさ、誰が彫ったのか分からない木像があったじゃん」

男「・・・あー、あったあった!あの執金剛神像とゼウスのやつな!!」

友「それそれ!!なんか卒業の時に先輩が『記念に持って帰るー』とか言ってて」

男「今考えると、よくあんな得体の知れない木像なんて持って帰る気になったよなぁ・・・」

友「まぁー大学側も処分に困ってたみたいだし・・・寄贈されたわけでもないからな。出来は相当よかったけど」

男「あれ今どこにあるんだろうな?」

友「確かほら、前にみんなで海行ったときに泊まった、先輩の親戚がやってる民宿じゃなかったっけ?」

男「ああ!そうだ」

友「あそこに置いとくーなんて言ってた気がするぞ、先輩」

男「懐かしいなー・・・いやホント懐かしい。今頃先輩何してるんだろうな」

友「懐かしいと言えばこの辺だってそうだよ。大学卒業してから、めっきり来なくなったもんなぁー」

男「残ったのは俺だけ」

友「アホ毛ちゃんは?確か一緒に院までいったんだろ?」

男「卒業間際に海外留学してから音沙汰なし」

友「それ・・・死んでねぇべな?」

男「多分」

友「そういやアホ毛ちゃん、お前の事好きだったんだろうなぁ」

男「はぁ?んなわけないじゃん」

友「いや多分お前だけだよ。彼女の好意に気づいてなかったの」

男「そうなの?」

友「だって事あるごとにお前にくっついてたじゃん。さっきの写真だってわざわざお前の隣にいるし」

男「おぉ・・・だったら惜しいことしたなぁー」

友「・・・こんなこと俺が言うのもなんだけど、誰かいい人いないのかね?」

男「いい人ねぇ・・・」

友「家族はいいぞぉ、夢と希望と疲労を与えてくれる!!」ゲッソリ

男「別に疲労は労働でも得られるし・・・まぁ、考えないわけでもないんだけどさ。俺ももう人生折り返し地点だし」

友「そうだよ。連れ添ってくれる誰かがいるっていうのはでかいぞ」

男「とりあえず、まずは安定した職に就かないとな」

友「えっ、何お前・・・もしかして今、住所不定無職?」

男「住所不定ではないけど、もうすぐ無職」

友「会社は!?」

男「うん・・・もう入って10年経つし、そろそろ自分のやりたいことやろうかなって」

友「だっておまえ、30半ばで転職って・・・自営業?」

男「かな・・・まぁ、なんとかなるさ」

友「なんとかって・・・そもそも、やりたいことって何だよ?」

男「そうだなぁ。やっぱりこう、古いものを直したりするような仕事をしたいな」

友「お前、昔からそういうの好きだよな。手先も器用だし・・・って、今の仕事だって確か時計修理だろ?」

男「うん。だけど今どき時計の修理工なんてやってても、先は見えてるしなぁ・・・」

友「それこそアンティーク時計の修理とか、需要は無くならなさそうなもんだけど」

男「それがそうもいかんのよ。そういうのはどんどん数も減ってるし、大体は有名どころの企業が持ち主抱え込んで十年単位で契約してたりするから」

友「へぇ・・・」

男「それに時計もいいんだけどさ、時計だけじゃなくてもっと様々ものを直してみたいわけよ」

友「そんなお前・・・せっかく時計修理技能士の資格取ったのに」

男「とりあえず、無職やってる間に他の技能士の資格も取得してみようかなって」

友「勉強熱心で頭が下がるわ・・・俺なんて今あるスキルでなんとか食いつなぐことしか考えてねーもん」

男「まぁ、俺のは半ば趣味みたいなもんだから」

友「なんかカッコイイなお前」

男「実は今、仕事の合間に時計以外の修理も受けてるんだよ」

友「マジで?ワーカホリックだな」

男「素人仕事だから金はもらってないんだけど・・・たまにリサイクル施設の人にも声かけられてさ」

友「ガチのやつじゃねえか」

男「ゴミの中から修理して使えそうなもの分別して、直したうえで新興国や全国の施設なんかに提供してるんだって」

友「へー、エコいな」

男「しかも、結構同じ型の製品だけで数が揃うもんなんだよ。最近の家電とかってサイクル短いから」

友「もうなんていうかお前・・・一人リサイクルショップだな」

男「今の仕事やめたらそこの手伝いしてくれって頼まれてるし、まぁ転職するときも繋ぎはなんとかなるかなって」

友「いいなぁその余裕。それだけのバックボーンがあってしかも独身とかもう怖いものなしだな。超うらやましいわー」

男「ははは」

数日後。

ふと立ち寄った古書店に並んでいた本が男の目に留まる。それは、鳥山石燕という画家の画集だった。

石燕は江戸時代後記の狩野派の画家で、浮世絵、特に妖怪画を多く残している。

その画図百鬼夜行や百器徒然袋などに描かれるおどろおどろしくもどこか珍妙な妖怪の数々は、現代における妖怪のイメージの基礎を作ったとも言われている。

元より絵画にはほとんど興味を持ったことのない彼だったが、何故かこの妖怪画には目を奪われてしまった。

男「北海よ・・・ま?・・・さ、き・・・ふん?うーん読めん・・・」

それぞれの画には筆字で説明書きが書かれているのだが、一見して何が書かれているのかを読み解くことは難しかった。

そんな中特に彼の目に留まったのが、妖怪の纏わりついた壮麗な飾り箱を開ける妖怪の絵だった。

脇に書かれた文字を読み解くに、どうやらこれは塵塚怪王という名の妖怪らしい。

調べてみると、あらゆるゴミの付喪神を司る妖怪の王なのだそうだ。

男(おぉ・・・コイツ、まるで俺みたいだな)

様々な物が入った箱の中をのぞき込む様子や、辺りのゴミに宿った付喪神たちの姿が描かれたその妖怪画が、工具箱を漁りながら家電を修理している自分とオーバーラップした気がして、男は苦笑を浮かべた。

それにしても、石燕の描いた妖怪の姿にはどこか懐かしさのようなものを感じる。

当然、今の妖怪画の礎を築いた彼の絵だからこそ、それは特段不思議なことではないはずだ。

しかし男にはもっと、自己の経験を含んだ懐旧の念に近いものを感じていた。

-CASE17 唐傘娘と夏の雨(後編) END-

-CASE18 夢の随に-

それからさらに数年の歳月が経ち、男はそれまで勤めていた会社を退職し個人経営の古物修理の店を開いた。

その繊細な仕事は評判をよび、今では直せなくなったようなあらゆる物が全国から集まるようになった。

時には博物館に展示されているような物品の修理依頼も入ってくるようになり、今や彼の仕事は完全に軌道に乗っていた。

・・・

『――物を直す喜びというのは?どういったところにこの仕事の喜びを感じますか?』

男『そうですね。やっぱりそれは、古い物に対するリスペクトであったり、あるいは自分の手で再び何かに命を宿らせるといったようなある種のクリエイティブな喜びであったり・・・結局のところ、これが自分に合った天職ということなんだろうなと思います』

『ありがとうございました。本日は古物修理のお店、塵塚工房の店主である・・・』

・・・

友「知り合いがメディアに出てるとウケる」

男「やめろよ、結構恥ずかしかったんだぞ、あれ」

友「いやァ、なかなかちゃんと受け答えできてるよ・・・独立後も、上手くいってるみたいだな」

男「おかげさまで」

友「これであとは嫁さん探しに専念できるな」

男「それが今度は仕事が忙しくなりすぎてなぁ」

見渡した店先には修理待ちの家具や装飾品が多数並んでいる。

友「これ全部、お前ひとりで直すの?」

男「向こう3年予約でいっぱい」

友「すげーなぁ・・・」

男「これじゃホントに俺、塵塚怪王だよ」

友「何それ」

男「ゴミを付喪神にする妖怪の王様だって」

友「あぁ、そりゃ確かにお前だわ」

男「店の名前もそこからとったんだけどさ」

友「なるほど。それで『塵塚工房』ね」

男「多くて見苦しからぬは文車の文、塵塚の塵。ってね」

友「まぁ傍から見たら、お前結構世捨て人感あるよな」

男「げっマジで」

友「というか、美大出てる人間なんて大抵どっかそういうとこあるから」

男「ブーメランささってるぞ」

友「俺はもう・・・夢を失ったただのしがないサラリーマンだし」(枯れた目)

男「頑張れ日本のお父さん・・・」

友「邪魔して悪かったな」

男「ああ、いいよ。今日は休みだし。たまにはこうやって気分転換しないと」

友「そうか」

男「また今度飲みに行こうや」

友「ああ、またな」

男「気を付けて帰れよ」

友が工房を後にすると、一人になった男は店から出て付近を散策し始める。

学生時代から20年余りを過ごしたこの街も、月日の流れがその様相をガラリと変えてしまった。

あの時工事中だった高架道路は、今では首都圏の主要な交通網としての役割を担っている。

かつては緑が残され古い一軒家の多かった街並みも、現在では巨大なショッピングモールやマンションなどで賑わっている。

その一角にある小さな公園の周辺のみがわずかに当時の面影を残し、今でも子供たちの声を街に響かせている。

公園に立ち寄ってみると、その一角で的屋と思しき集団が出店準備をしているのが見える。

さらにその横では数人の男性が公園内に長い木の棒を立ててしていた。どうやらそれは、祭の時に上げる神社のぼりらしい。

その光景を見た男は、近くにいた近所の住人と思しき初老の男性に声をかける。

男「こんにちは。神社のお祭りですか?」

老人「そうだよ。昔このあたりにあった神社のね」

男「あぁ、あの道路ができるときに、廃社になった神社ですか?」

老人「いや、廃社にはなってないよ」

男「えっ?」

老人「新しい本殿ができるまで、離れた場所にお移りいただいてたんだ」

男「そうだったんですか・・・」

老人「もともと工期の間だけの予定だったんだけど、色々と計画が伸びてしまってね。今年に入って、やっと元の場所にお戻りいただいたんだよ」

男「・・・」

男は一言礼を述べ、公園を後にした。

学生時代、毎日のように通ったその道は、今はもうその面影を微塵も感じさせない。

にも関わらず、男はまるで何かに導かれるように路地の間を進んでいく。

新しくできたドラッグストア脇の小さな小道を下りていくと、そこには昔とほぼ変わらない神社の姿があった。

男「ここだ・・・間違いない」

辺りを見回してみる。鳥居や手水鉢など、綺麗に磨かれてはいるがどうやら昔と同じものを使っているらしい。

拝殿自体も古材を使っているらしく、20年の歳月を経てなお、あの雨が降っていた夏の日と同じままだった。

男(まるで狐狸にでも化かされてる気分だ・・・)

ふと、懐から携帯端末を取り出す。学生時代に撮った例の集合写真には「6人」の姿がはっきりと映し出されていた。

男「・・・やっぱり、化かされてたのかも」

そう呟いて、境内の奥へ進んでいく。あの日雨宿りで座っていた拝殿の石段に、今は木漏れ日が差し込んでいる。

賽銭箱に小銭を入れ拝礼をする。目を瞑ると、今まで忘れていたあの不思議な日々が瞼に浮かんでくる。

工房に戻ると、補修待ちの古物の中に一本の赤い傘が置いてあった。

男「・・・これは」

そっと手に取り眺めてみる。傍から見れば何の変哲もなただの和傘ではあるが、彼にとっては確かに見覚えのあるものだった。

『あら、やっと戻ってきたんですのね』

誰もいない工房に、女性の声が響いたような気がした。

http://i.imgur.com/8CFfMgF.jpg

-END-

ちなみにすっげーどうでもいいけど賽銭箱に小銭投げ入れるのってマナー違反なんだぜ!本当は賽銭箱の上に置くようにするらしいんだぜ!でもそれじゃ江島神社の銭洗白龍王とか詰みじゃんよ!!

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