灰原「決めたわ、私。工藤君に嫌われる」 (106)

灰原「……こうするしかないのよ。彼の為にも、私自身の為にも」

灰原「私は、私は……。工藤君に嫌われてみせる!」


灰原(何故私がこんな決意に至ったのか。それは数日前の事……)

数日前。

灰原「……今日も暑いわね」

コナン「ああ、確かになぁ……」

光彦「こんな日にサッカーの授業は辛いですね……」

歩美「お肌が焼けちゃうよ……」

元太「腹も減るしな……」

コナン(ハハッ、それはいつもの事だろ……)

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小林先生「はい、みんな!始めるわよー!」

コナン「良し、うだっても仕方ねー。頑張ろうぜ!」

灰原「ホント、サッカーになると元気ね」

コナン「まあな。オメーだって嫌いじゃないだろ?今は?」

灰原「そうね。多少は興味が出たかしら」

コナン「素直に好きって言えよな......。さ、行くぜ!」

灰原「ええ」

灰原「......素直に好きって言えないから困るのよ」ボソッ

コナン「ん?何か言ったか?」

灰原「何でも無いわよ」

歩美「コナンくーん!哀ちゃーん!早くー!」

コナン「分かったー!ホラ、行くぜ」

灰原「はいはい」

灰原(危ない危ない。独り言は気を付けて言わないとね)

授業終わり頃。

灰原(ようやく終わりそうね、長かったわ)

灰原(それにしても暑いわね......。でも、また熱射病になったら工藤君に何言われるか分からないし......。踏ん張らないとね)ハァ

歩美「哀ちゃーん!行くよー!」ポーン

コナン「灰原!パス行ったぞ!」

灰原「オーケー」

灰原(もう少しだから頑張らないと......)ヨロッ

灰原(あ、暑さで足が......)

グキッ......

灰原「痛っ......!!」バタッ

コナン「灰原!?」

歩美「哀ちゃん?!」

光彦「灰原さん!!」

元太「灰原!」

灰原「痛......」ズキズキ

コナン「大丈夫か?!灰原!?」タタタッ

灰原「だ、大丈夫......っ」ズキッ

コナン「見せてみろ......。ダメだ、腫れ上がってる」

歩美「哀ちゃん、大丈夫?!」タタタッ

光彦「灰原さん!」タタタッ

元太「大丈夫か!?」ドスドス

小林先生「どうしたの?!大丈夫?!」タタタッ

コナン「先生、僕灰原を保健室に連れてくよ!足が腫れて歩けないから!」

小林先生「ええ、分かったわ!私も!」

コナン「先生は他のみんなを見てて、みんなが不安がったら困るから」

小林先生「分かったわ。お願いね。みんなをクラスに戻したら私もすぐ行くから」

コナン「ありがとう。灰原、立てるか?」

灰原「な、何とか......うっ」ズキッ

コナン「ちょっとだけ我慢しろ、肩に手ぇ回して......」グッ

光彦「コナン君、僕も手伝いm」

歩美「私も手伝うよ!コナン君!」ダッ

コナン「ああ、ありがとう!歩美ちゃん!」

灰原「2人とも......。ごめんなさい」

コナン「気にすんな。良し、歩美ちゃんいいか?」

歩美「うん、大丈夫!」グッ

コナン「良し、せーの!」グッ

灰原「うっ......」ズキズキ

コナン「立ち上がりの衝撃でそんなに痛むのか......。先生に早く見てもらわないと」

歩美「しっかり掴まってね、哀ちゃん」

灰原「ありがとう......」フラッ

コナン「ん?!オメー、様子が変だと思ったら......」

灰原「だ、大丈夫......」ハァ、ハァ

コナン「大丈夫じゃねーな、急ごう!」

歩美「うん!」

光彦「......」

元太「良いとこ見せれなくて落ち込んだのか?」

光彦「ち、違いますよ!心配なだけですよ!」

元太「コナンがいるから大丈夫だろ、心配ねーよ」

光彦「そうですね......」

光彦(コナン君がいれば......。はぁ)ガクッ

保健室。

灰原「......」

保健師「うーん......」

コナン「どう?先生?」

保健師「軽い熱中症ね。意識が朦朧とはしてるけど、大丈夫だと思うわ」

コナン「そっか、足は?」

保健師「捻挫ね。腫れ方は酷いけど、見た目ほど重症じゃないわ。2、3日で歩けると思うわ」

コナン「そっか、良かった」ホッ

保健師「でも2人とも偉いわね。意識が無い人は重たいから、大人でも運ぶのは大変と思うのに」

コナン「歩美ちゃんと2人で協力したから平気だったよ。ね?」

歩美「うん......」

コナン「どうした?」

歩美「うん......。哀ちゃんのケガは私のせいだと思って」

コナン「何でだよ?」

歩美「だって、歩美がパスを出さなかったら哀ちゃんはケガしなくても......」ウルッ

コナン「......考えすぎだよ」ポンッ

歩美「コナン君......」

コナン「ケガなんて誰のせいでも無いさ。歩美のせいでも灰原のせいでも無いんだ。ただ運が悪かったんだ。だから気にしちゃダメさ。その方が灰原も却って傷付く」

歩美「うん......。分かった!」ニコッ

コナン「よし。俺はもう少し灰原を見てるから。歩美は教室に戻ってくれ。小林先生が来たら俺もすぐ戻るから」

歩美「分かったよ。コナン君、ありがとう」チュッ

コナン「え?!な、何で?!」ドキッ

歩美「だってコナン君、優しいから!じゃ、後でね!」タタタッ

コナン「......弱ったな」ポリポリ

保健師「モテる男は辛いわね?」クスッ

コナン「そ、そんなんじゃないよ!」

灰原「ん......」

コナン「お、気が付いたか」

灰原「あれ、私......」

コナン「保健室に来てからすぐ気を失ったのさ。熱中症だったみてーだな」

灰原「そう、また私......」グッ

コナン「無理して起きんな。寝てろよ」

灰原「......ええ」

保健師「あら、目が覚めたのね」

コナン「うん、大丈夫みたい」

保健師「そう。ならちょっとコナン君ここをお願いしていいかしら?氷のうに入れる氷が無くて。すぐ戻るから」

コナン「うん、分かったよ」

保健師「お願いね。コナン君は大人顔負けにしっかりしてるから助かるわ」

コナン「あ、ありがとう」

保健師「じゃあ、宜しくね」

コナン「はーい」

灰原「随分な信頼ね......」クスッ

コナン「小林先生がオーバーに俺達の事を話しすぎなんだよ」

灰原「だとしてもなかなかあそこまで評価はしてもらえないと思うけど。あなたの人柄ね」

コナン「バーロ。止せよ、こそばゆいぜ」

灰原「ふふ......。ねぇ、工藤君」

コナン「ん?」

灰原「ごめんなさい、迷惑掛けて」

コナン「は?」

灰原「また熱中症で......。おんなじ失敗ばかりで呆れるわよね」

灰原(と言ったら......。ボーッとしてるからだ、バーローとか言われそうだけど仕方無いわね......)

コナン「いや、俺の方こそ悪かったな」

灰原「え?」

コナン「俺がサッカー好きか?みたいな事言ったから変に意識させちまったんだよな。ごめんな」

灰原「え、あの......」

灰原(何故今日に限ってこんなに物分かりが良いの?拍子抜けと言ったらおかしいけど)

コナン「なんつーか、嬉しくてさ」

灰原「嬉しい?」

コナン「オメーがサッカーに限らず色んな事に興味持ってくれるとさ、ああ。みんなに溶け込んで来たなあっつーか。普通になって来たなあっつーか。上手く言えねーけど嬉しくてさ」

灰原「工藤君......」ドキッ

灰原(何、この感じ......)

コナン「だから、俺のせいで気負わせちまったならごめんな」

灰原「ううん。違うの。あなたのせいじゃないわ。私の不注意よ。ごめんなさい」

コナン「良いんだよ。気にすんな。喉渇いたろ?水持って来るからさ。待ってな」

灰原「ええ。ごめんなさい」

コナン「違う違う。そう言うときはごめんなさいじゃない」

灰原「え?あ......。ありがとう」

コナン「そうそう。謝ってばかりじゃ疲れちまうからな。もう少し肩の力抜けよ」

灰原「そうするわ。ありがとう」

コナン「よし。ちょっと待ってな」スタスタ

灰原「......ありがとう」

灰原(......何で今日はこんなに優しいの?分からないけど、でも、でも)

灰原(......嬉しい///)ニコッ

灰原(何気無い1言がこんなに嬉しく感じるなんて......)ニコニコ

コナン「持って来たぜ......?何ニヤニヤしてんだ?」

灰原「え?な、何でも無いわ」ドキッ

コナン「変なヤツだな。身体起こせるか?」

灰原「ええ、何とか」グッ

コナン「よし。ホラ。口開けて」

灰原「え?」

コナン「吸い飲み持って来たからさ。ホラ」

灰原「い、良いわよ///自分で飲むから///」

コナン「良いから。ホラ」

灰原「......分かったわ」ハムッ

コナン「良し、傾けるぞ」

灰原「ん......」ゴクッゴクッ

コナン「どうだ?まだ飲むか?」

灰原「......ん、もう良いわ。ありがとう///」

コナン「何か顔赤いぞ?まだ熱あんのか?」

灰原「違うわ。何でも無い、何でも無いわ///」

コナン「?」

灰原(こんな事して貰えるなんて思わないもの、顔も赤くなるわよ......)

コンコン

コナン「ん?誰かな?」

ガラッ......

小林先生「遅くなってごめんなさい」

コナン「あ、先生」

保健師「灰原さん、大丈夫だった?」

コナン「うん、大丈夫だよ。目も覚めたし」

保健師「そう、良かったわ。たまたま廊下で小林先生に会ってね。保護者の方に連絡がついたそうよ」

コナン「あ、博士に電話してくれたの?」

小林先生「ええ、今日は帰って休んだ方が良いと思うから。もうすぐ迎えに来て下さるわ」

コナン「そっか、ありがとう。灰原、もうすぐ博士が来てくれるってさ」

灰原「ええ。ありがとう先生」

小林先生「お礼なんて。先生として当然よ。早く良くなってね」

灰原「ありがとう」

灰原(博士が来るのはありがたいけど、ちょっと残念ね......)

灰原(残念?何が?工藤君ともう少し話したかったって事?)

灰原(そんな事って......)

コナン「じゃあクラスに戻るかな。みんな灰原の様子が気になるだろうし。大丈夫だって伝えなくちゃ」

灰原「ええ。宜しくね」

コナン「ああ。ゆっくり休めよ」

灰原(博士が来るまでいれば良いのに......)

コナン「んじゃな」

灰原「あ、工藤君」

コナン「ん?」

灰原「本当に......。ありがとう」

コナン「気にすんな。またな」ニカッ

灰原「......」

保健師「あら?大丈夫?ボーッとして」

灰原「......大丈夫よ」

灰原(別れ際にあんな笑顔見せないでよね。全く......。あんな良い笑顔)ハァ

保健師「......ひょっとしてコナン君がいなくなったから寂しい?」

灰原「違うわ。違う。断じて違う」

保健師「そう」ニコッ

灰原(違うわ。違う。違うハズ......。私はそんな......)

灰原(違う......わよね?私......)

保健師(青春ね。この歳で。ちょっと羨ましいわ)



その後。阿笠の車中。

阿笠「いやあ、哀君がケガしたと聞いた時は驚いたわい」

灰原「......」

阿笠「哀君?」

灰原「は?」

阿笠「まだ加減が優れんかな?ボーッとしておったようじゃが」

灰原「何でも無いわ。ごめ......。ありがとう」

阿笠「いやいや。疲れてるのに声を掛けてすまんの。家までゆっくりすると良い」

灰原「ええ。そうするわ」

阿笠(何だか様子がいつもと違うが......。何かあったのかのう?)

灰原(......ごめんなさい、じゃなくありがとう。って工藤君言ってたものね。つい言い直してしまったわ)

灰原(それにしても、今日の工藤君は気も利いて優しかったわね。いつもああなら良いのに)

灰原(水も飲ませてくれたし。案外マメに気が回るのね。普段は鈍感なのが玉にキズだけど)

灰原(......何で私工藤君の事ばかり考えてるのかしら。あの先生が変な事言うから変に意識してるのかも)

灰原「......まだまだ未熟ね」ハァ

阿笠「何か?」

灰原「何でも無いわ。少し静かにして」ギロッ

阿笠「す、すまん」

阿笠(やはりいつもの哀君じゃな。ハハ......)

阿笠宅。灰原の部屋。

灰原「はぁ。やっと家についたわ」

灰原「とりあえず寝ましょう」ドサッ

灰原「......工藤君、今頃は授業中かしら」

灰原「この足じゃ今日は歩けないし......。改めてお礼しなくちゃね」

灰原「何が良いかしら。お菓子でも作ろうかしら。また私が興味を持つ事が増えたって喜んでくれるかしら」

灰原「......また彼の事。頭冷やさなきゃ。冷やしてきたばかりだけど」ハァ

灰原「何か違う事を考えなくちゃ。違う事......」

>>19訂正

流れで書いちゃいましたが、先生の前なので灰原の「あ、工藤君」は「あ、江戸川君」でお願いします。

灰原「違う事......ん......」






コナン「灰原......」

灰原「え?工藤君?何故ここに?どうしたの?」

コナン「灰原。俺、お前が......」ギュッ

灰原「え?///ちょっと?工藤君?///」ドキッ

コナン「灰原......」スッ

灰原「ま、待って工藤君?!心の準備が......///」

灰原(何でいきなりこんな?どうして?分からないけど工藤君が私に......?!ダメ、ダメなのに///)

灰原「工藤君っ......///わ、私も......///」スッ

灰原(工藤君の唇が......目の前に......///)

チュッ......




灰原「ダメ、ダメよ......工藤君......。工藤君......?」パチッ

灰原「......ゆ、夢?」ドキドキ

灰原「何て夢見るのよ......。いつ寝たのよ私......」ハァ

灰原「今時こんな夢見るなんて......。ベタな恋愛ドラマですらやらないわよ。何なの一体......」ドキドキ

灰原「まだドキドキしてる......。鎮まらない......」ハァ、ハァ

灰原「何なの......。どんどん強くなる......。あの夢の景色が目から離れない」ドキドキ

灰原「何でなの......。まさか私......」

灰原「いえ。分かってはいた。でも見ない様にしてたのに......。今日の一件で、そしてさっきの夢で。表に出ちゃったの......?」

灰原「私が、工藤君を好きだと言う気持ちが......」ドキドキ

灰原「好きだから......。望んでるから、あの夢を見たの?」ドキドキ

灰原「そんな、ダメよ。ダメよ!許されるハズ無いわ。抱く資格もない!そもそも勝負にすらならないのに......」ドキドキ

灰原「どうして。どうしてこんなに胸が切ないの......?」ドキドキ

灰原「ダメ......。意識しちゃったらもう......。目から工藤君が消えない......。声が耳から離れない......」ドキドキ

灰原「どうしたら良いの......?私......」ドキドキ

灰原「工藤君が悪いのよ......。変に優しくするから......。だからあの時余計に嬉しくて......」ドキドキ

灰原「あー、もうどうしようかしら......。分からないわ......」ドキドキ




灰原(それ以来、私は......)





灰原「......」ボーッ

阿笠「......哀君?」

灰原「......は?」

阿笠「どうしたんじゃ?茶碗を持ったままボーッとして」

灰原「別に......」

阿笠「食も進んどらんし......。学校で何かあったかの?」

灰原「何でも無いわ......」ハァ

阿笠「あ、新一とケンカでもしたかの?ホッホッホ!!」

灰原「......」ギロッ

阿笠「へっ?!」ビクッ

灰原「......」ゴゴゴ......

阿笠「あ、哀君?何か妖気の様なモノが出とるぞ......」ビクビク

灰原「......何もないわよ」ハァ

灰原(いけないいけない。いちいち工藤君の名前に反応しちゃ。バカみたいじゃない私)ハァ

阿笠「お、この煮魚。ワシ好きなんじゃよ」

灰原「好き......」ピクッ

阿笠「む!それにこの玉子焼き!これまた大好きなんじゃよ!」

灰原「......大好き」ピクッ

阿笠「いやはや、今日はワシの好きなものだらけじゃな!」

灰原「好き......なんかじゃ......無いわよ!!」バンッ

阿笠「むおっ?!」ビクッ

灰原「私は好きなんかじゃないわよ!ぜんっぜん好きなんかじゃないわよ!!」

阿笠「す、すまん......。じゃ、じゃが献立は哀君が作ったモノじゃろ?」

灰原「はっ?あ、ご、ごめんなさい......。ちょっと考え事してて。本当にごめんなさい......」ハァ

阿笠「いや、良いんじゃよ。大丈夫かの?」

灰原「......ごめんなさい。ちょっと部屋で頭冷やすわ」ハァ

阿笠「......どうしたんじゃろ?哀君?」

阿笠「ダイエットでもイライラしとるのかのぅ......?」




灰原(こんな事があったり。他にも......。足が治って学校に行っても......)




灰原「ハァ、足が治ったのは良いけど......。学校に行くと言う事は彼に会うって事よね......」

灰原「とりあえず先に来てみたは良いものの......。却って悶々とするわ......。ああ、どうしたら......」ハァ

歩美「あ、哀ちゃん!おはよ!足大丈夫?」

灰原「歩美ちゃん。おはよう。大丈夫よ、ありがとう」

歩美「良かったぁ。ずっと心配だったから」

灰原「心配かけてごめんなさい。もう平気よ」

光彦「あ!灰原さん!おはようございます!」

元太「おう、灰原!」

灰原「円谷君、小嶋君。おはよう」

光彦「お元気そうで何よりです!」

元太「ちゃんと飯食ってたか?」

灰原「ありがとう。もう大丈夫だしご飯も食べてたわ」

歩美「ホント良かった!でも今日何で早く来たの?」

灰原「え?あー、足の調子を見るのにちょっと早歩きしてみたの。それより、江戸川君は?」

歩美「もう来ると思うよー?ちょっと寝坊したみたいだけど」

コナン「おーっす、おはよー」

灰原「!!」ビクッ

歩美「あ、来た来た!」

コナン「いやはや。小説読んでたら夜更かししちまったぜ......。お、灰原!おはよう。足大丈夫か?」

灰原「......」

コナン「灰原?」

灰原「お、お、おはよう。江戸川君。大丈夫よ。ありがとう」ニコッ

コナン「お、おう。何かあったのか?灰原?」

灰原「え?何が?」ドキッ

コナン「何か顔赤いし、声が上ずってるし。何処かニヤニヤしてるしよ」

灰原「そ、そんな事無いわよ?普通よ、普通」ニコッ

歩美「でも、哀ちゃんコナン君の言う通り顔真っ赤だよ?」

光彦「それに、確かにニヤニヤしてる様に見えます」

元太「何かこえーぞ、灰原」

灰原(笑うと怖いと言うのはどういう意味かしら、小嶋君?)ピキッ





コナン「まあ、とにかくあんま無理すんなよ?キツかったら誰かに言えよ?まだ病み上がりなんだしよ」

灰原「ええ。ありがとう」ニコッ

コナン(何だその爽やかな笑顔は......。普段しない分却って怖いな......。元太の言う事も理解できるぜ......)

灰原(くっ。普通にしたいのに......。顔のニヤケを抑えられない......。工藤君に話しかけられたら自然と顔筋が弛む......)

灰原(いちいち話しかけられたらこうなるんじゃたまったモノじゃないわ......)ハァ

灰原(その後も......)



コナン「おーい、灰原」

灰原「ふぁい?!」ビクッ

コナン「な、何だよ?」

灰原「ご、ごめんなさい。ビックリしちゃって」ドキドキ

コナン「そんな驚くタイミングだったか?」

灰原「ちょっとボーッっとしてて。ごめんなさい」ニヘラ

コナン「なあ、最近良い事でもあったか?」

灰原「え?」

コナン「ニコニコしてるしよ。声もいつもより明るくて高いし。余程嬉しい事でもあったか?」

灰原「な、何でも......」ドキドキ

灰原「うん、ちょっとだけあったかもね///」ドキドキ

コナン「っ?!」ドキッ

コナン(な、何だこの恥じらう乙女みてーなリアクションは......。いや、実際女の子か)

コナン(不覚にもドキッとしちまったぜ)

灰原「で、そう言えば何の用?」

コナン「え?ああ。ちょっと声掛けただけさ。ワリーな。手間とらせて」

灰原「良いのよ。気にしないで。ありがとう」ニコッ

コナン「ありがとう?」

灰原「話しかけてくれて」ニコッ

コナン「は?」

灰原「あ......。いえ。何でも無いわ。気にしないで」

コナン「あ、ああ。でも、何かにこやかなオメーを見てると何かホッとするよ」

灰原「本当?」

コナン「ああ。気持ちが落ち着いてんだなって分かるからな。その位普段は緩めてる方が女の子らしいぜ。今は子供なんだしよ」

灰原「そうね......。分かったわ。そうするわ」ニコッ

コナン「お、おう」

コナン(嫌味の1つも返って来るかと思ったが。悪いもんでも食ったのか?)

灰原(にこやかな方が良い......のね)ニコニコ

歩美「何だか最近哀ちゃん機嫌良いね!」

光彦「本当ですね、ニコニコしてますよね」

光彦(ああ、灰原さん素敵ですね。あの笑顔も)

元太「きっと旨いもんでも食ったんだな!」

光彦(それで笑顔になるのはあなただけですよ)

歩美(でも、考えたら哀ちゃんがニコニコしてるのはあの足をケガした日からだなあ。ひょっとして保健室でコナン君と何かあったのかな?)

その日の夜。

灰原「はぁ。今日も工藤君の前だと笑顔が抑えられなかったわ......」

灰原「我ながら情けないわ......。感情を丸出しにするなんて」ハァ

灰原「でも、ついつい呼ばれたら嬉しくなってしまうのよね」ニヘラ

灰原「ダメ、また顔が......」ニヘラ

灰原「ああ、こんな日がずっと続けば良いのに......」

灰原「ずっと......!?」ハッ

灰原(その独り言で私は我に返った......)

灰原「......続くワケ無いじゃない。この身体からいつか元に戻る日が来るのに」

灰原「そうなったら、彼は彼女の元に帰る......。元々の居場所へ」

灰原「そもそも、彼をあんな運命に巻き込んだのは私なのに。こんな浮かれた日々を過ごす資格は無いのよね」

灰原「でも、ついつい嬉しくて......。幸せで......」

灰原「......でも、この気持ちは持っていてはいけない。互いに傷を負うだけ。いえ、私が惨めになるだけ」

灰原「......でも、捨てられない。この気持ちを。人を想うこの感情を。捨てたくない」

灰原「......どうしたら良いの。お姉ちゃん」ハァ

灰原「お姉ちゃんがいなくなって、もう生きる意義も無くしかけてた。でも、工藤君がもう1度生きようと思わせてくれた」

灰原「そんな工藤君を好きな気持ちを捨てたくない......。でも工藤君と彼女に迷惑を掛けたくない」

灰原「どうしよう......。いっそ彼を嫌いになれたらどんなに楽か......。でもそれはあり得ない。彼を嫌いになる事なんて出来ない......」

灰原「......嫌いに?」

灰原「そうよ......!それだわ......!」

灰原「私が彼を嫌いになる事は出来ない。でも、彼から嫌われれば......!」

灰原「今は仲間へのモノだとしても、彼が私に好意を向けてくれるからこんな気持ちになるのよ」

灰原「でも、彼から嫌われればその気持ちも薄らいでいくハズよ!」

灰原「そうだわ。多少最初は辛くても、私と彼にとってそれが1番良いハズよ」

灰原「そうだわ。そうと決まれば明日から......」



灰原(こうして、私は冒頭の決意に至った。有りがちな、自虐的な自分を強引に納得させる為の決意を)

灰原(そして、翌日から私の間違った努力が始まった......)

翌日。教室前。

コナン「ふぁぁ......。眠い......。また遅れそうだ。歩美達もいい加減怒りそうだな」

コナン「夜更かしは控えっか......」

ガラッ......

コナン「おーっす、おはよう」

歩美「あ、コナン君!おはよう!」

光彦「おはようございます!」

元太「おう、おはよう!」

コナン「あれ?灰原は?」

歩美「トイレかなあ?カバンはあるけど」

コナン「ふぅん?見てないのか?」

光彦「ええ」

コナン「何やってんだろ?アイツ」

女子トイレ。

灰原「......ふぅ。いざやるとなると緊張するわね」ドキドキ

灰原「覚悟を決めなきゃ。やるのよ。灰原哀......!」




教室。

ガラッ......

灰原「......」

歩美「あ、哀ちゃん!」

灰原「おはよう、歩美ちゃん」

光彦「おはようございます!」

灰原「おはよう、円谷君」

元太「おう、灰原!」

灰原「おはよう、小嶋君」

コナン「おう、おはよう灰原」

灰原「......」

コナン「ん?どうした?」

灰原「......」スタスタ......

コナン「えっ?」

灰原「......」ストンッ

歩美「ど、どうしたの哀ちゃん......?」

光彦「コナン君、何かしたんですか?灰原さんが明らかにコナン君を無視したように見えましたよ?」ヒソヒソ

コナン「な、何もしてねーよ!」ヒソヒソ

元太「腹でも痛いのか?アイツ」

コナン(何だってんだ?一体?)

ガラッ......

小林先生「はい、みんな席に着いてねー!」

歩美「あ、先生!」

光彦「と、とりあえず後で!」

コナン「ああ、分かった」

コナン(何なんだ?ったく。気分屋だからまあ別に良いけどよ。ニコニコしてたと思えば不機嫌になったり。変なヤツだぜ......)

コナン(ま、その内フツーになんだろ......)



しかし、その後も......

コナン「おい、灰原。消しゴム貸してくんねーか?」ヒソヒソ

灰原「......」

コナン「おい、聞いて」

灰原「授業に集中してるの。話しかけないで」

コナン「は?」

灰原「......」

コナン「ったく。もう良いよ」

コナン(集中って......。一桁の計算問題に集中する必要あんのか?)

灰原「......」

その後も......。

小林先生「はい、じゃあみんな2人1組になって似顔絵書いてね!」

コナン(また似顔絵か、隣だし灰原と組むか)

コナン「なあ灰原、似顔絵」

灰原「小嶋君、似顔絵ペアになって」

元太「おう!良いぜ!」

コナン「っ......?」

光彦(......何故かコナン君は灰原さんに無視されていますね。元太君と灰原さんが組んだのは納得行きませんが。しかし、コナン君には悪いですがこの隙に歩美ちゃんに)

歩美「コナン君、一緒に書こ?」ニコッ

コナン「あ、ああ。よろしく」

光彦「」

コナン(段々気分悪くなって来たな。灰原のヤツ、何だってんだよ?)

歩美「コナン君、似顔絵書くんだから笑ってよ」

コナン「あ、ゴメン」

コナン(ったく。後で聞いてみっか。理由があんのかも知れねーしな)

歩美(コナン君達、ケンカでもしたのかな......?今日は変だなあ)




放課後。

小林先生「じゃあ皆さん、また明日ね!」

元太「おーし、学校終わったし遊ぶぜー!」

光彦「賛成です!」

灰原「......私パス」

歩美「え?どうして?」

灰原「ちょっと体調が優れないの。ゴメンね」

歩美「そうなんだ、大丈夫?」

灰原「ええ。心配いらないわ。私先に帰るわ。ゴメンね」

光彦「分かりました、お気を付けて!」

元太「また明日な!」

歩美「哀ちゃん、大丈夫かなあ?」

元太「自分で帰れるし大丈夫だろ!さ、行こうぜ!」

光彦「そうですね。灰原さんの事は心配ですが、僕達が心配し過ぎると却って灰原さんに迷惑ですからね!」

歩美「うん、そうだね。コナン君、行こ?」

コナン「......ワリ、すぐ行くからよ。先に行っててくれ!」ダッ

元太「おい、コナン!」

光彦「どうしたんでしょう?」

歩美(コナン君、哀ちゃんが心配で......?)




灰原「......ふぅ」

コナン「おーい、灰原!」

灰原「......何よ」

コナン「大丈夫か?ずっと不機嫌だったし。何かあったのか?」

灰原「何でも無いわ。放っといて」

コナン「放っといてって、心配すんだろ?何かあったなら話せよ」

灰原「何も無いわ。悪いけどしばらく放っといて」

コナン「でもよ......」

灰原「良いから。放っといて。じゃあ」スタスタ

コナン「あ......」

コナン「何だってんだ?俺、何かしたのかよ......?」

阿笠宅。

灰原「......はぁ、疲れた」ドサッ

灰原「やっぱり本意で無い行動を取るのは疲れるわね。1言1言放つ度にどっと疲労が来るわ......」ハァ

灰原「......それに、痛いわ。胸が」

灰原「心無い会話をする度、胸が痛い。本当はこんな事言いたくないのだものね」

灰原「それに彼、もう少し怒るかと思ってたのに。あの戸惑いと悲しみの混じった顔......。あんな顔するなんて」

灰原「......でも、ここで止めるわけにはいかないもの。辛くても、やり遂げなくちゃ。お互いの為だもの......」ズキッ

灰原「でも、痛みは無くなりそうに無いわね。この胸の......」

灰原「......慣れるわよ。その内。そう、慣れるわ」

灰原「工藤君......。あなたは今どうなの?」

灰原「私の事、少しは嫌いになった......?」

灰原「なっていて欲しい。でも何故」

灰原「そうなってると思うとこんなに悲しいの......」ズキッ




夜。毛利探偵事務所。

コナン「......はぁ」

蘭「どうしたの?コナン君?」

コナン「あ、な、何でも無いよ。蘭ねーちゃん」

蘭「そう?溜め息なんかついて。何かあった?」

小五郎「どうせ学校の宿題でも出来なくて困ってんだろ?勉強しろ勉強」

コナン「ハハ、そ、そうだね」

コナン(おっちゃんじゃねーんだから。そんなんで悩まねーっての。ハハハ......)

コナン(しっかし、灰原のヤツ。何だってんだろうな?あの態度は)

コナン(いくら考えても分からねーんだよな。最近組織とも関わりがねーからナーバスになる理由も考えつかねーしな)

コナン(まあ良いんだけど。理由が分からねー事ってのはそれだけで何かイライラすんなぁ)

コナン「......はぁ」

蘭「ホントに大丈夫?」

コナン「......ゴメンね。僕今日早めに寝るよ」スタスタ

小五郎「大丈夫かぁ?アイツ」

蘭「ホントに......。何かあったのかなぁ?」

コナン(ったく。何でこんな悩まなくちゃいけねーんだよ。灰原......)

コナン(俺達、仲間だろ......?腹の内今更隠す事ねーだろ?)

コナン(それとも、俺知らねー内にオメーが話しかけにくい空気作ってたのかな......)

コナン(そうかも知れねーな......。明日もう1度話してみよう。このままじゃ歩美達も心配するからな)

コナン「事件なんかより余程厄介だぜ。アイツの中身は......」ハァ

しかし、その後も。

コナン「灰原!ちょっと良いk」

灰原「歩美ちゃん、ちょっとトイレに行ってくるから」

歩美「え?うん......。あの、コナン君が」

灰原「じゃあ、後でね」スタスタ

コナン「え、あ......」

歩美「......」

他にも......。

コナン「......」prrrr......

コナン「......ダメか。直接がダメなら電話やメールならと思ったが出ない」

コナン「何でだ?何故そこまで......?教えてくれよ。灰原......」





prrrr......

灰原「......また彼から電話。皮肉な事に嫌われようとしてから却って毎日連絡が来るように」

灰原「何故よ。そろそろ怒って無視でもされると思ったのに」

灰原「どうして目論見と違うの?どうしてこんなに構って来るのよ」

灰原「何でよ。バカ......。工藤君......。あなた本当にバカよ......。何にも分からないんだから......」

そして、1週間。

灰原「......」

光彦「何だかどんどん灰原さん暗くなってますね......」

元太「ああ。話しかけにくいよな」

歩美「最近笑ってるの見た事無いよ。1週間位前にはニコニコしてたのに」

灰原(......工藤君だけを避けるつもりがあの子達まで近寄れなくしてしまったわ。悪い事をしてしまったわね)

灰原(でも我慢よ。もう1週間。彼も痺れを切らして諦めるハズよ......)

コナン「......」スタスタ

歩美「あ、コナン君」

コナン「灰原、ちょっと来てくれ」

灰原「今気分じゃないの。悪いけど」

コナン「良いから。すぐ済む」

灰原「......分かったわ」

光彦「コナン君も凄く暗い顔してましたね」

元太「灰原がおかしくなってから殆ど口聞いてねーもんな」

歩美(......哀ちゃん。何でこうなったの?コナン君も苦しそうだし。やだよ。こんなの)





灰原「で、話って?」

コナン「言わずとも分かるだろ。何故俺を無視すんだよ?」

灰原「......理由が必要?」

コナン「は?」

灰原「話したくないから話さない。ただそれだけよ」

コナン「......何だよ。それ」

灰原(......だから何故怒りでは無く悲しそうな顔なのよ)ズキッ

コナン「ただ気分が悪いだけでそんなになるかよ?話してくれよ。仲間だろ?俺達」

灰原「......仲間、ね」ズキッ

コナン「え?」

灰原「そうよね。仲間よね。仲間以上では無いものね」ボソボソ

コナン「何言ってんだ?灰原......?」

灰原「あなたってどこまで人の気持ちが分からないのよ。それとも分かった上でわざと人を煽ってるの?」

コナン「えっ......」

灰原「私はあなたのそう言う所が嫌なのよ!人の気持ちが分からないのなら変に親身にならないでよ!私はあなたのそう言う所が......」ハッ

コナン「......」

灰原(何でそんなに辛そうな顔するの?私があなたを嫌う素振りをするのが、あなたにはそんなに辛い事なの?)

灰原(なら、言うのよ。本心で無くてもあなたが嫌いだと)

灰原(そうすれば、工藤君はきっと私を嫌いに......)

灰原「......とにかく。しばらく話しかけないで」スタスタ

コナン「......」

灰原(言えなかった......。あまりに彼が辛そうで)

灰原(痛い......。苦しい......っ!何故こんなに苦しいの?)ズキッ

灰原(私だって、したくないのに......。こんな、こんなの......)

コナン「......俺、そんなに灰原を傷付けてたのかな」

コナン「アイツのあんな辛そうな顔。お姉さんの件で泣いた時以来だ」

コナン「そこまで酷い事をしちまったのかな。無自覚に」

コナン「どうしたら良いんだ。俺......。アイツにどうしたら許して貰えんだ?」

コナン「......クソッ、痛ぇ。こんなに胸が痛ぇのは久々だ」

(人の気持ちが分からないのなら変に親身にならないでよ!)

コナン「俺、人の気持ちが分からないのかな......。だとしたら探偵失格だよな......」

コナン「高校生探偵が聞いて呆れるぜ......」

教室。

コナン「......」ハァ

歩美「あ、コナン君!おかえり!」

コナン「......ああ。ん?あれ?灰原は?」

光彦「具合が悪いからって帰りましたよ?ご一緒だったんじゃ?」

コナン「ああ、さっきまではな」

光彦「もしかして......。何かコナン君が酷い事言ったんじゃ」

コナン「!!」

歩美「光彦君、何言ってるの?!」

元太「そうだぜ、いきなり何言ってんだよ?」

光彦「だって、灰原さんは最近コナン君を避けてましたし!それ以外に理由が分からないですよ!」

コナン「酷い事か。確かにそうかもな。何せ本人にその自覚が無いんだからどーしよーもねーよな......」トボトボ

歩美「あ、コナン君!もう、光彦君のバカ!!最低!!」タタタッ

元太「何だか分からねーけど、ちょっと気分ワリーぜ。さっきの態度」スタスタ

光彦(......歩美ちゃんには嫌われてしまうかも知れませんが。仲睦まじいコナン君と灰原さんの間に入るには今がチャンスなんです)

光彦(悪く思わないで下さいね。コナン君)

歩美(酷いよ光彦君。コナン君にあんな事)

歩美(理由は分からないけど......。コナン君をこんなに落ち込ませた哀ちゃんも......。酷い!)

歩美(とにかく、コナン君を励ましてあげなくちゃ!)




阿笠宅。

ピンポーン......

阿笠「む?こんな時間に誰かの?はーい」ガチャ

灰原「......」

阿笠「おや、哀君。どうしたんじゃ?こんな時間に」

灰原「......気分が優れないの。寝るわ」スタスタ

阿笠「あ、ああ」

阿笠「何があったんじゃ?酷い顔色じゃったが」

灰原の自室。

灰原「......もうダメ。倒れそう」ハァ

灰原「身体が自分の身体じゃないみたい。頭もボーッとするし」

灰原「ずっと胸がザワザワしたまま......」

灰原「工藤君、悲しそうな顔してたわね......」

灰原「ごめんなさい、工藤君。あんな事......。あなたが悪い訳じゃ無いのに」

灰原「私、私......」

灰原「もう何が正しいのか分からない......。けど引き返せもしない」

灰原「それどころか、私勝手......。あんなにあなたに酷い事言ったのに。会いたいと......。謝りたいと思ってる」

灰原「いっそ......。私はこの世から」

灰原「......そんな事聞かれたらまた彼に怒られちゃうわね」

灰原「勝手に苦しんで思い詰めて。ホントにバカみたい」

灰原「あなたは......。まだ私を仲間と思ってくれてるのかしら。それとも、今日の件で愛想を尽かしたかしら。工藤君......」

夜。毛利探偵事務所。

コナン「......」ポロポロ

蘭「ちょっとコナン君、大丈夫?」

コナン「え?」

蘭「ご飯こぼれてるよ?」

コナン「あ、うん......」

小五郎「最近変だぞオマエ。大丈夫か?」

コナン「大丈夫だよ。ありがとう。ごちそうさま」フラフラ

蘭「え、まだ全然食べてないのに?」

小五郎「病気じゃねーだろうな、アイツ」

蘭「コナン君......」





コナン「......はぁ。ダメだ。力入んねー」

コナン「明日からどうやって灰原に接したら良いんだよ。日中歩美ちゃんが声掛けてくれたけど、殆ど応えてあげられなかったし」

コナン「考えれば考える程分からなくなるよ......」ハァ

prrrr......

コナン「ん?電話?新一側の......?」チラッ

コナン「蘭か......。出るか?」

コナン「いや、止めよう。他の女の事で悩んでるなんて言ったらあらぬ誤解を受けそうだし。実際、今は誰かとしゃべる気分でもねーからな......」




蘭「......おかしいなあ。出ないなあ?何してるんだろ?新一?」ピッ

蘭「......まさか他の女の子と。なんてね」

翌日。学校。

灰原「......憂鬱ね。この日々はいつまで続くのかしら」ハァ

歩美「哀ちゃん、おはよー」

灰原「おはよう......」

歩美「ねぇ哀ちゃん。お話があるんだけどちょっと良い?」

灰原「話?」

歩美「うん」

灰原「......分かったわ」

灰原(何かしら......?)

屋外。

灰原「それで......。話って?」

歩美「うん。ちょっと聞きたい事があるの」

灰原「何かしら?」

歩美「あのね......?」



教室。

コナン「......はぁ。ダメだ。考え過ぎて眠れねーし疲れちまうぜ」

元太「おう、コナン」

コナン「ああ。おはよう」

光彦「おはようございます。眠そうですね。灰原さんに嫌われて悩んでるんですか?」

元太「おい光彦!いい加減に」

コナン「良いんだよ元太。ま、そんな所さ。ん?そういや灰原と歩美は?」

光彦「そう言えばみかけませんね?」

コナン「どこ行ったんだ......?」

再度屋外。

灰原「で、何かしら?」

歩美「あのね......?何で哀ちゃんはコナン君を避けるの?」

灰原「え?」

歩美「哀ちゃんがコナン君を無視するから、コナン君ずっと辛そうだし。理由があるなら教えて欲しいなぁ」

灰原「別に......。何も無いわ」

歩美「理由が無いなら、尚更仲直りしてよ。このまんまはやだよ......」

灰原「仲直りも何も無いわ。別にケンカしてる訳じゃなし。普通にしてるだけよ」

歩美「ウソだ!!」

灰原「えっ?」ビクッ

歩美「絶対にわざとコナン君を避けてるよ!どうしてコナン君をいじめるの?!」

灰原「いじめて、なんか......」ズキッ

歩美「じゃあ、何で?」

灰原「あなたには関係無いわ......」

歩美「友達なのに?関係無いの?それに哀ちゃん......。何でムリするの?」

灰原「無理ですって?」

歩美「コナン君の事好きなのに、何でイジワルするの?嫌がらせするの?」

灰原「べ、別に彼をそんな目で見てはいないわ」ドキッ

歩美「ウソだ!見れば分かるもん!」

灰原「あなたがそう思ってるだけよ......。違うったら違うのよ!!」

歩美「もういい!哀ちゃんなんかキライ!哀ちゃんがコナン君に優しくしないなら私がするもん!!」タタタ......

灰原「人の気も知らないで......。私がどんな思いで......。私だって、私だってホントは......」

灰原「......友達に当たり散らす時点で何を言ってもダメね。最低」ズキッ

教室。

コナン「ったく。もうすぐ授業なのにアイツら何処に?」

タタタ......

歩美「はぁ、はぁ。疲れた......」

コナン「歩美?どこ行ってたんだよ?」

歩美「う、ううん。別に......。ねぇ、コナン君?」

コナン「ん?」

チュッ

コナン「へっ?!」ドキッ

歩美「ふふ、びっくりした?」

コナン「え、あ、何で?」

歩美「だって歩美、コナン君大好きだから」ニコッ

コナン「お、おいおい」

元太「おいコナン!ズリーぞ!何やってんだよ!」

コナン「いや、俺は何も......」

光彦(......何があったか知りませんが、これは好都合かも知れません。歩美ちゃんとコナン君がくっついたのなら、灰原さんに僕が)


灰原「......」

光彦(んっ?あれは灰原さん?)

灰原「......」タタタ......

光彦(灰原さん、何処へ?コナン君に気付かれないように......)タタタ......




コナン「ちょ、とりあえず座れよ。先生が来る!」

元太「ちぇ、分かったよ」

歩美「あれ?光彦君は?」

コナン「んっ?そういやいねーな?灰原も戻ってねーし」

歩美(哀ちゃん、気にして帰っちゃったのかな......?)

廊下。

灰原「......もう嫌」

灰原(教室に戻った時に見た......。歩美ちゃんの姿をあれほど羨ましく思うなんて......)

光彦「灰原さん!」

灰原「円谷君?」

光彦「授業始まってしまいますよ?」

灰原「......悪いけど気分が悪いの。帰るわ」

光彦「コナン君のせいですか?」

灰原「え?」

光彦「コナン君が灰原さんを不快にするからですよね?」

灰原「違うわ、私は」

光彦「コナン君なんてもうほっとけば良いじゃないですか!」

灰原「え?」

光彦「彼は灰原さんの事を苦しめるだけですよ!歩美ちゃんと最近は仲が良いですし!」

灰原「何が言いたいの?」

光彦「僕ならコナン君みたいな事はしません!灰原さんを幸せにして見せます!」

灰原「......!」

光彦「だから、もうコナン君なんて」

灰原「......それは無理ね」

光彦「え?」

灰原「あなた、勘違いしてるわ。彼が私を苦しめてるんじゃない。私が彼を苦しめたくないの」

光彦「え......」

灰原「彼のせいで不快になってるんじゃないわ。彼を不快にさせている自分自身が嫌なの。ただそれだけよ」

光彦「で、でも結果苦しんでるならコナン君のせいじゃ無いですか!何故そんなにコナン君を」

灰原「さあ、何でかしらね。分からないから困るのよ」

光彦「!!」

灰原「あなたの気持ちは嬉しいわ。でも、その気持ちはもっと大人になるまでとっておいた方が良いわ」

光彦「......」

灰原「じゃあ、とりあえず帰るわ。またね。円谷君」スタスタ......

光彦「......何故」

灰原(子供に何を言ってるのかしらね。最も、子供の方が素直な分マシかもね......)

教室。

コナン(ったく。結局灰原も光彦も朝の会には戻ってこねー。何してんだよ......)

歩美(......哀ちゃん)

スタスタ......

光彦「......」

コナン「あ、光彦!」

歩美「光彦君!」

光彦「......」

コナン「オメー、どこ行ってたんだよ?先生も心配してたぞ?」

光彦「......」

コナン「つーか、灰原知らねーか?アイツも戻ってこねーんだ」

光彦「......帰りましたよ」

コナン「え?何でだ?」

光彦「さあ。あなたのせいでは?」

コナン「え?」

歩美(!)

光彦「何も分からないなら知りませんが、もっとあなたは灰原さんの事を知ってあげるべきでは?」スタスタ......

コナン「え?」

歩美(......!)

光彦(もう、悟りました。灰原さんは心からコナン君を......)

コナン(何だってんだ?どいつもこいつも。ワケわかんねーよ......)

歩美「......」




放課後。

コナン「はぁ。疲れたぜ......。最近気が休まる日がねーし。灰原......。本当にどうしたんだよ......?」

歩美「コナン君!」

コナン「歩美?」

歩美「一緒に帰ろ?」

コナン「ん?あ、ああ。分かった」

歩美「ありがとう」ニコッ

コナン(無邪気なヤツだな。ん?そういや歩美なら灰原の内心をもしかしたら理解してるかも知れねーな。それとなく話して見るか)

帰り道。

歩美「......」

コナン「......」

コナン(何か、今日は話しにくいな......。何かあったのか?)

歩美「......」

コナン「な、なあ歩m」

歩美「哀ちゃん」

コナン「え?」

歩美「哀ちゃんがいないから、元気無いね。コナン君」

コナン「バ、バーロ。んな事ねーよ」

歩美「ううん。元気無いよ」

コナン「う......。まあ、そうかもな」

歩美「好きだから?」

コナン「ヘ?」

歩美「哀ちゃんが好きだから、嫌われて元気無いの?」

コナン「な、何言って......」

歩美「ねぇ、教えて?コナン君?」

コナン「......??!」

歩美(さっき光彦君は、哀ちゃんの事をもっと知ってあげてと言ってた)

歩美(何であんな事言ってたのかはわからないけど、良く考えたら歩美もコナン君の気持ちとか哀ちゃんの気持ち良く知らないで酷い事言っちゃった)

歩美(だから知らなくちゃ。コナン君の気持ちを)

コナン「......別に好きとか嫌いとかじゃねぇさ。ただな」

歩美「ただ?」

コナン「アイツが......。俺にあんな態度を取るのは、きっと知らず知らず俺がアイツを傷付けてたんじゃねーかなってさ。思ってよ」

歩美「コナン君が?」

コナン「ああ。アイツが側にいる事に慣れすぎてさ。知らない内に失礼な事とかしちまったんじゃねーかなってな」

歩美「だから、哀ちゃんが怒ってると思うの?」

コナン「ああ。きっとな。仲間だからと言う慣れが礼儀を忘れさせちまったのかな。親しき仲にも礼儀ありってヤツさ」

コナン「だから、謝りたくてさ。俺のせいでずっとあんな態度を取るのは苦しいだろうし。オメーらにも迷惑だからさ」

歩美「コナン君......」

歩美(そっか、分かった。何と無く。コナン君は優しいけど、哀ちゃんは優しくされるだけじゃイヤなんだ。でもコナン君はそれが分からないから......)

歩美「コナン君って、ホントに女の子の気持ち分からないんだね」ハァ

コナン「え?」

歩美「だから哀ちゃんも怒るんだよ」

コナン「っ......。確かに、人の気持ちも分からないのに親身になるなって言われたよ」ズーン......

歩美「やっぱりね。コナン君、ダメだなあ」

コナン「ぐ......。じ、じゃあどうしたら良い?俺は?」

歩美「......そーだなあ。聞いてみたら?哀ちゃんに」

コナン「え?」

歩美「考えても分からないんでしょ?なら、思い切って聞いてみたら?」

コナン「で、でも聞いても答えてくれないんだぜ?」

歩美「もっと気持ちを込めて聞いてみたら?哀ちゃんの気持ちを知りたいって言う気持ちを」

コナン「気持ちを込めて、か......」

歩美「そう。いきなり聞いても答えてくれないかも知れないし、哀ちゃんが喜びそうな事して気分を良くしてあげたら?」

コナン「気分を良くしてあげて、気持ちを込めて聞いてみる、か。なるほど......。確かにそれが1番かもな。ありがとう、歩美」

歩美「お礼なんていーよ。ちゃんと哀ちゃんと仲直りして」ニコッ

コナン「ああ。分かった。お陰で希望が湧いてきたぜ!ありがとな!じゃあな!」タタタ......

歩美「頑張ってねー!」

歩美「......あーあ。私バカだなあ。もっとコナン君と仲良くなるチャンスなのに」

歩美「でも良いんだ。やっぱりコナン君と哀ちゃんが仲悪いのはやだもん」

歩美「ごめんね、哀ちゃん。酷い事言って」

歩美「コナン君と......。気持ちが通じたら良いね......」

夜。毛利探偵事務所。

コナン「......さて、アイツを喜ばせるにしても何をしてやったら良いのやら」

コナン「分からねぇな......。クソ、時間ばかり過ぎちまうぜ」

コナン「しかし......。歩美にいきなり哀ちゃん好き?何て聞かれた時はびっくりしたがな。んな事意識した事も......」

コナン「......待てよ?好きか?だと?」

「人の気持ちも分からないなら......」

コナン「......まさか、灰原。オメーは」

「もう少し気持ちを考えてあげるべきでは?」

コナン「気持ち......。アイツの......」

コナン「そして、俺自身の......」ドクン

コナン「胸が高鳴る......。何なんだこの感覚は?」

prrrr......

コナン「ん?電話?蘭か?」

コナン「......もしもし」ピッ

蘭「あ、新一?」

コナン「おう、どうした?」

蘭「ううん。最近連絡無いからどうかなって」

コナン「ワリーな。ちょっと忙しくてさ」

蘭「また事件?女の子と遊んでるんじゃ無いの?」

コナン「バーロ、んな訳......」

蘭「......新一?」

コナン「......いや、あながち間違いでも無いか」

蘭「え?」

コナン「遊んでるんじゃねーけどな。ある女の事で悩んでるのは確かだ」

蘭「え......」

コナン(俺は何を口走ってるんだ。こんな事言ったら......。でも、俺は......)

コナン「俺は今、ある女を傷付けちまってさ。ソイツにどう謝ったら良いか考えてる。ここんとこずっとな」

蘭「......その子が好きだから?」

コナン「分からねぇ。自分の気持ちがどうなのかも」

蘭「......自分の言ってる意味、分かってる?」

コナン「ああ。分かってる。だけど、隠してる訳にも行かない。そして、自分の気持ちとアイツの気持ちを確かめずにはいられない。本当の事が知りたいからな」

蘭「......」

コナン「だから、確かめてくる。自分の眼で。自分の心でな」

蘭「......その結果、その子が好きだったら?私をどうする気?勝手だよね、随分」

コナン「ああ。許されないよな。分かってる。事が済んだら、必ず報告に行くよ。そして罰を受ける。だから」

蘭「もう良い。好きにして。悪いけどもう聞きたくない」ピッ

コナン「......蘭」

コナン「そりゃ、怒るよな。何やってんだかな。俺は......」

コナン「だけど......。どの道このままじゃいられない。ここ数日ずっと俺はアイツの気持ちを知りたくて悩んできた。蘭の事を蔑ろにする程。その事実を隠しちゃおけない」

コナン「いずれにしても、蘭にはもう許してもらえねーかも知れねーが......。もう引けない」

コナン「今はとにかく全ての頭を灰原と俺の本心を知る事に使おう。そうしなきゃ進めねーからな」

コナン「全てが終わった後の覚悟は、しとかなくちゃいけねーけどな......」



深夜、阿笠宅。

灰原「......んっ。暗い」

灰原「あれからずっと寝てたのね。今何時かしら」

灰原「......起きなきゃ良かったわ。起きたらまた胸が痛くなってきた」

灰原「工藤君、今頃怒ってるかしら」

灰原「それとも、もう私の事を見限ったかしら。それなら良いのだけど......」

ピコーン......

灰原「メール?こんな時間に誰?」ピッ

灰原「......工藤君?」

「よう、寝てるか?遅くにワリーな。今日は悪かったな。オメーをあんなに怒らせちまってさ。色々多分俺の日頃の言動に腹立ってたんだよな。ゴメンな」

「で、明日時間調整で休みだろ?色々腹割って話してーからさ。一緒に飯でも付き合ってくれねーか?都合が悪いならしかたねーけど、どうしても話したいんだ。返事は朝で良いからさ。じゃな、お休み」

灰原「......どうしてなのよ。どこまでバカなのよ。人の気も知らないで。何故まだあんな酷い事言った私を気遣えるのよ」ハァ

灰原「工藤君には悪いけど断って......」

灰原「......待って。ご飯に付き合う?2人で?それってつまり」

灰原「......デート?」

灰原「何バカ言ってるの。そんな意図は無いでしょ。彼に。でもそれなら尚更断らなくちゃ」

灰原「いえ......。あるいは逆に誘いに乗って、そこで我が儘に振る舞えば......」

灰原「案外、そう言う日常で嫌気がさす人も多いものね。感情的に振る舞うより効果的かも......」

灰原「......分かったわ。何時にどこでっと」ピッピッ

灰原「......来た!」ピッ

「返事ありがとな。10時に米花駅でどうだろ?」

灰原「了解っと......」ピッピッ

灰原「......明日、10時。なら早く寝なきゃ」

灰原「......決して明日が楽しみではないわ。私の目的の為。そう、目的の為」

灰原「......ご飯、どこ行くのかしら」




コナン「......そっか。オッケーか」

コナン「っし。もう1度プラン考えっか!」

コナン「......何でこんな張り切ってんのかな。アイツの本心聞き出すっつー、重たい目的の為なんだけどな」

コナン「とにかく、アイツの気に入りそうな所をっと......」

翌朝9時。米花駅。

灰原「......何故私はこんな早く来てしまったのかしら。しかも結局あんな早く起きてこんな気合い入れたスタイルで」

灰原「これじゃまるで、ホントにデートを楽しみにしてるみたいじゃない」ハァ

灰原「まあ良いわ。これだけ早く来てれば、定刻通りに来た彼に待たせたと嫌みを言える......」

コナン「おーい、灰原!」タタタ......

灰原「く、工藤君?」

コナン「ワリーな。待たせちまったか?早く来たつもりだったんだが」

灰原「い、いえ。今来たばかりよ」

コナン「そっか。良かった。もう移動出来るか?」

灰原「え、ええ」

コナン「じゃ、行こう。色々ちょっと付き合って欲しいんだ」

灰原「わ、分かったわ」

コナン「良し。じゃあ付いて来てくれ」

灰原(計算外よ......。流石にあれじゃいちゃもんの付けようも無いわ......)

灰原(でも、こんなに早く来たのは......。それだけ私を待たせまいと気を配ってくれたって事......?)

灰原(だから何だと言うの。私は彼を遠ざける為に会いに来たのよ。だからこの間の事も謝らない。散々我が儘に振り回した後で突き放せば彼も今度こそ愛想を尽かすハズ)

灰原(そう、それだけの話よ......。彼が何を考えていようが......)

コナン「おい、灰原!行こーぜ!」

灰原「え?あ、うん......」

灰原(っ、とにかく彼が私を何処に連れていくか。見せて貰いましょうか)



ブティック。

灰原「......?ご飯を食べに行くんじゃなかったの?」

コナン「色々付き合って欲しいんだって言ったろ?」

灰原「それはそうだけど、何故ブティック?」

コナン「いや、その。日頃世話になってるオメーにお礼がしたくてさ」

灰原「お、お礼?」

コナン「そう、お礼。タマにはオメーに感謝の意を表したって良いだろ?」

灰原(な、何考えてるの?あの工藤君が私にお礼?何のつもり?これは現実?)

コナン「さ、好きに見てくれよ。気に入りそうなのがあったら教えてくれ」

灰原(好きにって......。と、ともかく。無茶な要求をして彼をうんざりさせないと......)

灰原「分かったわ。そう言うなら一応見るだけ見てあげるわ」

コナン「ああ、ありがとな」

灰原(嫌みを言って何故お礼を言われるの......?本当にどういうつもり?)

灰原「......んん、じゃあこれなんてどうかしら?」

コナン「ん?どれどれ?10万?!いきなりスゲーな......」

灰原(そうでしょ。無理だと言いなさい。そしたらまた買えないのかと無理難題を......)

コナン「ま、しかたねーか。こんだけで良いのか?」

灰原「えっ?」

コナン「え?ってなんだよ。これ欲しいんだろ?」

灰原「え、うん。欲しいけど......。で、でもお金は?」

コナン「ああ、大丈夫だよ。ここ母さんの知り合いの店なんだよ。母さんに話したら店に話も通してくれたし、お金も俺の小遣いしばらくカットする代わりに払ってくれるってよ。だから好きに選べよ、な」

灰原(わ、忘れてたわ......。彼がお金持ちの家庭なのは......。でもすんなり受け入れる訳には。そ、そうだわ。自分のお金でないなら受け取れないとでも言って......)

コナン「お、これなんか似合うんじゃねーか?」

灰原「え?」

コナン「ホラ、合わせて見なよ」

灰原「え、でも」

コナン「良いから。な?あ、この靴なんかも合うんじゃねーか?」

灰原「そ、そうかしら」

コナン「一緒に履いてみたら良いさ、あっちに試着室あるから」

灰原「ええ......」

数分後。

灰原(......結局着てしまったわ。チラッと見せてすぐ脱がないと)サッ

コナン「お、出てきたな?うん、似合うんじゃねーか?」

灰原「そうかしら?」

コナン「うん、良い感じだぜ。可愛らしくてよ」

灰原「そ、そう......?」

灰原(っ!喜んでどうするのよ......。断らないと、いらないって)

灰原「あ、あの工藤君」

コナン「すいませーん、これくださーい」

店員「はい、ありがとうございます」

灰原「いや、あの......」

コナン「灰原、それそのまんま着て行けよ。せっかくだからさ」

灰原「え、あ、はい......」

灰原(い、今更無理だわ。店員さんにまでは迷惑掛けられないし......)

しばらく後。

コナン「どうだ?感想は?」

灰原「そうね......。わ、悪くはないわ」

コナン「そっか、良かった」ニカッ

灰原(結局買ってもらってしまった......。しかもそんなに喜ばないでよ。満面の笑みで)

灰原「とにかく。一応お礼は言っておくわ。ありがとう」

コナン「ああ、どういたしまして」

灰原「あ、あなたにじゃないわ。あなたのお母さんによ。お金を出してくれたのはあなたじゃないんだから」

コナン「ハハ、分かってるよ。伝えとくさ」

灰原(堪えて無いわ......。今日に限って妙に器の大きい......)

コナン「まだ10時近くか。次行こーぜ」

灰原「次って、どこ?」

コナン「ま、行ってからのお楽しみさ」

灰原「......分かったわ」

コナン「良し、行こう」

灰原(彼の真意が分からない......。あなたは何を考えてるの?分からないけど、ただ)

灰原(正直この服......。着心地良いし、見た目も良い。靴も......)

灰原(お礼くらい、ちゃんと言うべきだったかしら......)

コナン(ふぅ。とりあえず今んとこ機嫌は悪くねーみたいだな。もう少し色んな所行ってから話すっかな......)

コナン(しかし、似合ってんだよなあ。服。おだてるつもりで言って見たが、マジで可愛らしくてなぁ......)

コナン(っと。いけねーいけねー。雰囲気に流されずに自分の本心を見極めねーとな)

コナン(まあ、この後灰原が機嫌悪くならなきゃだけどな......)

しばし後。

コナン「っし。着いたぜ」

灰原「ここ......。スポーツショップ?」

コナン「そうだよ。見たまんまのスポーツショップだ」

灰原「何しに連れてきたの?私、別にそれほどスポーツに興味があるわけでも」

コナン「まあ良いから。入れよ」

灰原「気乗りしないわね。大方あなたの趣味に延々付き合わされるんでしょ?」

コナン「ったく。刺々しいな......。あ、おじさーん!」

店主「やあ、コナン君。こんにちは」

コナン「ねぇ、例のモノ。入った?」

店主「ああ。待っててくれ」ニコッ

灰原「何、ここも知り合い?」

コナン「ああ。工藤新一時代からのな。勿論、コナンとしての交遊関係は1から築いたがな」

灰原「そう......」

灰原(......私の作った薬で、彼はこうした交遊関係も失っているのよね。なのに更に精神的に負担を掛けている私って、最悪よね)

店主「はい、お待たせ」

コナン「ありがとう、おじさん!」ニコッ

灰原「......で、それ何?」

コナン「ホラ、見てみな」サッ

灰原「どうせ下らないもの......。え?これ、比護さんのユニフォーム?」

店主「そう。限定のサインプリント入りレプリカユニフォームさ。コナン君から頼まれててね」

灰原「え、どうしてこれ......。私の為に?」

コナン「あ、ああ。まあな。オメーが気に入りそうだと思ってさ」

灰原「......あ、ありがとう」

コナン「良いよ、礼なんか。気にすんなよ」

コナン(ホントは自分の趣味で頼んでただけなんだけど......。ま、ウソも方便ってな。灰原が喜んでくれんなら、それに越したことは無いしな)フッ

灰原「どうかした?」

コナン「あ、いや。何でも」

店主「しかし、コナン君もスミにおけないね」

コナン「え?」

店主「こんな可愛らしいカノジョがいるなんて」

灰原「!!?」

コナン「い、いやあ......。そ、そんな......」ポリポリ

灰原「?!」

コナン「と、とにかくおじさん。お会計ね」

店主「はいよ」

灰原(......き、気のせい?カノジョと言う表現を強く否定しなかった気が?まさか、ね)

コナン「どうした?変な顔してよ」

灰原「何でも無いわ、気にしないで......」

コナン「そうか?まあ良いけどよ」ニカッ

灰原(だから笑顔を見せないでよ......。切なくなる......から......)ズキッ

コナン(ここでもまだ笑顔になんねーか。でも、素直にありがとうって言ってくれただけ良しとすっかな......)





灰原(その後も工藤君は私を色んな所に連れて行った。ペットショップで子犬や子猫を見たり、書店で私が密かに応援しているアイドルの写真集を買ってくれたり)

灰原(彼の行動の端々から、私を喜ばせようとしている意図が見て取れた。何故私を喜ばせようとしてるのかは分からないけど)

灰原(それに抗おうとした。当初の目的を果たそうと、頑なな態度を崩すまいと。でも......)




昼時。とあるレストラン。

コナン「ふう、結構歩いたな」

灰原「そうね。色んな所に行ったものね」

コナン「ああ。悪かったな。連れ回しちまってよ」

灰原「謝る事なんて無いわ。寧ろお金をかけさせてしまったわ。申し訳無いわ。このレストランだって高いでしょ?」

コナン「まあ値段の話は良いじゃねーか。せっかくだし、今日くらいは日常も離れて流れに身を任せろよ」

灰原「そうね。それも悪く無いかもね」

コナン「うっし。じゃあ何頼む?」

灰原「そうね、少しゆっくりメニュー見させて。ご飯をメインに誘ったんだからきっと期待出来るんでしょ?」

コナン「まあな。気に入るといーけどな」

灰原「気に入らないとしても文句なんて言わないわ。ごちそうになってそんな事言うのは無粋だもの」

コナン「ハハ、そりゃ助かる」

灰原「決めたら声かけるから。ちょっと待ってて」

コナン「おう。俺も選ばなきゃな」

灰原「さて、どんな感じかしら」

灰原(......何か忘れてる気が)

灰原(って、そうよ!こんな普通に会話してる場合じゃ)

コナン「灰原!」

灰原「は、はい?」

コナン「なんて声出してんだよ?ま、いいや。好きなの頼めよな。遠慮しねーで」

灰原「え、ええ。ありがとう」

灰原(何で……。今日はこんな優しいの……。そんな事ばかりされたら私)

コナン「にしても、さっきの可愛かったよな」

灰原「さっき?」

コナン「猫だよ。見てきたろ?」

灰原「そうね……。可愛かったわ。癒されるというか。良いものね」

コナン「だよな。ま、オメーは何か変なツラだったけどよ」

灰原「変な?」

コナン「何かを我慢してるようなさ。笑いたいならクール気取らないで笑やぁ良いのによ」

灰原(人の気も知らないで……。全く……)

コナン「ま、猫絡みで裸同然になったんだから素直にも笑えねーか」

灰原「昔の話をグチグチ掘り返さないで欲しいわね。あれは不可抗力だもの。仕方ないじゃない」

コナン「そんなに昔の話でもねーだろ……。顔真っ赤にして恥ずかしがってたじゃねーか」

灰原「あのねぇ……。そんなに女の子の恥ずかしい話を蒸し返して楽しい?」

コナン「ん、いや......。それは楽しいわけじゃねーけど。オメーと話すのは、楽しいよ」

灰原「はっ......え?」

コナン「ん?何か変な事言ったか?俺?」

灰原「え、だって......。今......。私と話すの、楽しいって」

コナン「ああ。楽しんで。てか、嬉しい」

灰原「え?」ドキッ

コナン「その......。せっかくの時間にこんな事言うのはあれだけどさ。オメーが俺と話をしなくなって、ちょっとキツかった。だから、今日来てくれた事も、こうして話が出来るのも嬉しいんだよ。ありがとな」

灰原「工藤、君......。わ、私」

コナン「良いんだよ、色々あんだろーからさ。ただ、俺は俺で色々考えがあっからさ。今は何も考えねーで、1日俺と居てくんねーかな?今日が終わる時に、俺は俺の考えをオメーに伝えっからさ。灰原も、そんときに灰原の考えを伝えてくれよ。な?」

灰原「......私に、そんな資格は」

コナン「難しい事は考えんなって。今日だけ!今日だけはなーんも考えねーでさ!な?」

灰原「......」

灰原(良いの......?こんな都合良く彼の言葉に甘えて。でも)

灰原(今日、1日位は......。今日で彼を諦めると決めるのなら、最後の救いに......)

灰原「分かったわ。今日はあなたのプランに従うわ。宜しくね」

コナン「そっか、ありがとな!」

灰原「こちらこそ、ありがとう」

コナン「っし。話もとりあえず決まったし。メシ食おうぜ!」

灰原「ええ、そうね」

コナン(良し、とりあえず乗って来たな。良かった)ホッ

コナン(......やっぱり、灰原が反応してくれんのを喜んでるって事は。俺は)

コナン(とにかく、今日の最後まで慎重に見極めねーとな)

灰原(それから私達は1日を共に過ごした。映画を見て、ゲームセンターに行って、他にも色々)

灰原(彼の真意を推し測る事ばかり考えていた私も、いつしかその事を忘れてしまっていた)

灰原(ハタから見れば子供同士が遊んでいる様にしか見えない、極普通の時間)

灰原(そんな、私が遠ざけようとした普通の時間を工藤君は一生懸命用意してくれた。そして、その時間を過ごす私の様子をとても真剣に見つめている様に見えた)

灰原(その真剣な眼差しを見る度、私の胸は高鳴った。真意を知りたいからとかではなく。ただ純粋に鼓動は早く、大きくなった)

灰原(その都度、気付かされた。ああ。やはり私は彼が......。好きなのだと)

灰原(そして、その気持ちに呼応する様に。その時は訪れた)

夕刻。ベイエリア。

灰原「風が気持ち良いわね、ここ」

コナン「ああ、そうだな。こんな所まで引っ張って来ちまったけど、疲れたか?」

灰原「いいえ。たまには思いっきり遊ぶのも悪くないわね。久々に童心に戻れたわ」

コナン「んだよ、アイツらと遊んでるときは違うのかよ?」

灰原「あの子達と遊んでる時は、どちらかと言えば保護者の気分だもの。楽しいけれど、羽目を外してるって訳ではないわ」

コナン「まあ、そうかもな」

コナン(......さて、こんな所まで来た訳だが正直未だ自分の答えが出ねぇ。灰原が楽しんでるかどうかが気になっちまって、考えるまで頭が至らねー。どうしたもんか)

灰原「......工藤君?どうしたの?」

コナン「あ、いや」

灰原「......ねぇ、そろそろ話してくれても良いんじゃない?」

コナン「え?」

灰原「今日の本当の目的を。色々らしく無い真似までして、私を接待した訳を」

コナン「い、いや。ただ俺はオメーと話が」

灰原「気を遣わなくて良いわ。私の態度がおかしいから、あなたなりに色々考えてくれたのよね」

コナン「ん、まあそうなんだけど......」

灰原「あなたってホントに優しいのね。それと同じくらい、冷たくもあるけど」

コナン「え......?」

灰原(......ああ、どうにも気持ちを話したい衝動を抑えられ無い)

コナン「どういう意味だよ?」

灰原(......もう1日も終わるし。夢から覚める時ね)

灰原「言葉通りよ。あなたは優しい。でも優しさが逆に辛くなる時もあるのよ?人って」

コナン「灰原......」

灰原「あなたの優しさが、私を温めもする。傷付けもする。何故か分かる?」

コナン「......何故だ?」

灰原「それを探りたかったんじゃないの?」

コナン「......」

灰原「その顔は、ちょっと違うのかしら。いまいちあなたの本当の目的が分からないけれど。でも、良いわ。ここまで来たら、本心を話すわ」

コナン「本心......?」

灰原「私はね、今日まであなたに酷い態度をしたのはね。あなたに嫌われたかったのよ。心からね」

コナン「な、何故?どうしてだよ?」

灰原「......あなたから、一辺の好意も向けられない様にしたかったからよ。でなきゃ、未練がましくなるから」

灰原「あなたが好きだから。好きと思われたくなるから」

コナン「!!」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2018年01月20日 (土) 21:54:14   ID: sFQlsRv0

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