学者「なんの問題もないよ!だって私はケモナーだよ!?」(105)

<森の奥>
学者「やれやれ。困ったね。すっかり暗くなってしまった。」

少年「プロフェスール、あなたが夢中になってこんな森の奥まで来るからですよ!」

学者「悪かったと謝ってるじゃないか。しかしこの種の薬草は、この森でしか採れないのさ。」

少年「わかってるんですか?この森には魔物が出るという噂が」

学者「魔物、ねえ。出てきたならきたで、是非とも生きたサンプルを持ち帰りたいものだ。」

少年「あのう、プロフェスール?そんな風にフラグを立てたら……!」

学者「君にも魔導の心得があろう。魔物など敵ではないさ。」

少年「どうしてそんなに楽観的なんですか!ほ、ほら!見てください!あそこ!茂みが何か動いているではありませんか!」

学者「まったく君というものは、臆病だね。それでもタマのついてる男の子かい?」

少年「プロフェスール!ぼくは慎重なだけなんです!それに、下品なことを言わないでください。綺麗な顔して。」

学者「ほら見たまえ。猫じゃないか。おいで仔猫ちゃん。にゃ、にゃー。」

少年「……プロフェスール。その流れは非常にまずいです。」

学者「なにがだい?おや?あれはなんだろう。ちょっと見てくるよ。私が戻るまで、ここを動かないでくれるかい?はい。猫。」

少年「いっ、いかないでくださいよ!それに、だめですよ!うら若い女性をこんなところでひとりにできません!猫どうするんですか!」

少年「ほら言わんこっちゃない!魔物の群れですよ!?プロフェスールのせいですよ!」

学者「解せぬ」

少年「え、えと、呪文、呪文は……」

学者「焦る必要はないさ。棒切れ振り回しているだけで勇者と呼ばれる者のいる昨今、魔物の一匹や二匹、恐るるに足らない。」

少年「いっぴきや!にひきじゃ!ない!じゃないですか!3ダースはいるじゃないですか!」

学者「こんなこともあろうかと、妖精の光粉を蒔いておいたのだ。君は辿って逃げたまえ。猫はよろしくな。」

少年「なんですって?」

学者「私が囮になって君を逃がすだけのことさ。必ずあとで追いつく。ここは私にまかせて先に行きたまえ。」

少年「何を言い出すのですプロフェスール!どうしてあなたというひとはそうやって死亡フラグ立てまくるんですかー!」

学者「案ずることはない。棒ッキレ振り回して勇者と名乗るのに同行する魔法使いなんかよりずっと私のほうが優れているのだからね。」

少年「あなたが優秀なのは百も承知してますが!あと王家に任命された勇者をそんな風に言わないの!」

学者「ああ。無事にここを抜け出したら、私を賢者と讃えるがいいさ。さあ!足手纏いはさっさと行くんだ!」

少年「むむむ……!」

学者「いいから行きたまえ!」

少年「ヤです!」

学者「言っただろう君など足手纏いだ。それに魔物どもも、男の子の筋っぽい肉よりも、女の私の肉のが良いだろう。」

少年「なんてこというんです。もとより、あなたに拾ってもらった命なんですから、あなたを置いて逃げられるわけはない!」

学者「勝手にしたまえ。怪我をしてもしらんからな。」

少年「勝手にします!」

学者「さて……」

学者「豚やら狼やら小鬼やら。普通の野生生物でもそれなりに脅威だが……」

少年「魔物ですもんね武装してますもんね」

学者「目標、正面一列に……『焔』」

少年「すごい!一気に3分の1くらい減った!」

学者「しかし他は……やはり、火を恐れぬか。群れが欠けてもなお向かい来るとは見上げた根性だ。」

学者「……魔物の魔物たる所以、か。」

少年「どうしましょうプロフェスール。」

学者「せんりゃくてきてったいっ!」

少年「ちょっ」

学者「みゃっ!?飛び道具まで使ってきた!道具を使う知能もあるのか。面白い。」

少年「言ってる場合ですか!」

学者「にゃっ!足が!具体的にいうと左ふくらはぎが!」

少年「逃げても逃げても追ってくる……」

学者「参ったね」

少年「ッ!?崖……!」

学者「前門の崖、後門の魔物。おまけに雨まで降ってきたじゃないか。」

少年「プロフェスール……!」

学者「あらやだ詰んだ。」

少年「全然危機感ない口調やめてくださいよ!」

学者「せめて思い残しがないように今仔猫ちゃんを思う存分もふっておこう……」

少年「いきなり絶望するのも勘弁してください!ちっ!奴ら撃ってきやがった!プロフェスール!」

学者「落ち……!君、この手を離したまえ。君まで落ちる。」

少年「絶対離しません!ってうわあああ!?」

学者「ほらみろいったじゃないかあああ」

<崖の下>
学者「…………。」

学者「……!」

学者「おちた、のか。あの高さから。……私も君も存外丈夫だな。少年。猫ちゃんには怪我がなくて良かった。」

少年「う、うう……ィ痛ッ」

学者「どの位眠っていたのかはわからないが、魔物が諦めてくれたのは幸いだ。しかし。」

少年「プロフェスール!あなたその脚!」

学者「ああ。奴らの矢に毒がね。仕方なく患部をえぐり取ったのさ。道もわからんし崖を登ろうにも他の道を探すにも、あまり歩けそうに……ないな。」

少年「そんな!あんたまたぼくを庇って!」

学者「『かんちがいしないでよねあんたのためじゃないんだからこれはねこたんのためなんだからね』

少年「棒読みでツンデレる元気があってひとまずホッとしました。それにしても……」

学者「お誂え向きにいかにも……妖しげな城だなあ。」

少年「この辺りに、こんな城を立てられる財力を持ったものがありましたでしょうか。」

学者「紫の雲に緑の稲妻とは風流だねえ」

少年「おばけ……やしき……」

学者「背に腹はかえられまい。いこう。肩貸してくれ。」

<城 ホール>
少年「こんばんはー。だれか、いますかー!」

少年「雨が上がるまで、屋根を貸していただけませんかー!」

学者「……おお。ひとりでに扉が開いた。」

少年「このギィィ……、って音すっげーヤですね。」

学者「おじゃましまーす」

少年「あっ。ちょっと待ってください!」

少年「しまった!扉が!」

学者「駄洒落かい?」

少年「ちっ、ちがいますっ!うーん、開かない。びくともしない。」

学者「ま、ここの人に言えば開けてくれるだろ。しかし真っ暗だな。」

少年「見てくださいプロフェスール。灯りが見えますよ。」

メイド「いらっしゃいませお客様。」

少年「わっ!勝手に上がり込んでしまって申し訳ありません。崖から落ちて雨に……」

メイド「困った時はお互い様ですわ。さ、風邪をひかぬよう、このタオルをお使いくださいまし。」

学者「見たまえ少年。猫耳メイドだ。」

少年「猫耳っていうか全身猫じゃないですか!人の背丈もある大きな白猫が服をきて二足歩行して喋ってるんですよプロフェスール!」

学者「うん。もっふもふだな。」

メイド「……その辺は、その足の手当をしながらお話ししますわね。」

学者「助かるよ。ついでに雨が上がるまでで構わないから、屋根も貸してはくれまいか。」

少年「正気ですかプロフェスール!?」

学者「こらこら失礼だよ少年。相手は人語を解する知的生命体だ。我々も敬意を持って接するべきだ。」

メイド「話の通じる相手で安心しましたわ。人によっては、いきなり斬りかかってくる野蛮な方もいますもの。」

学者「それは良くないね。」

メイド「あら、猫、お連れくださったんですの?」

学者「この猫を知っているのかい?」

メイド「知っているも何も、この屋敷の猫ですわ。」

学者「お子さん?」

メイド「こんな姿ですけれど、わたくし、本当の猫というわけではありませんの。……お食事を用意しますが、召し上がります?」

学者「ありがたい。」

少年「大丈夫なんですか。とって食われたりしませんか。」

学者「ふふ。そうなったら、私を置いて逃げたまえ。」

少年「そんなことできますか!」

<城 食堂>
メイド「お食事の準備がととのいました。さあ、おあがりくださいな。」

学者「少年。待ちたまえ。私が先だ。」

少年「……?プロフェスール、お腹が空いていたのですか?」

学者「では、そういうことにしよう。……私が口をつけたあとならば食べてもいい。」

少年「??、は、はあ……。」

学者「すごい豪華な食事だね。味付けも王都の高級料理店並みだ。」

メイド「お褒めに預かり、料理長も感激することでしょう。」

学者「ところでちょっとした質問があるのだが。」

メイド「なんでしょう。」

学者「この食材はどうやって調達しているんだ?食材だけじゃない。日々生活する上で、モノはどうしても要りようだろう。それはどうやって?」

メイド「確かに、わたくしたちのような魔物の姿が、人の町に現れたら大騒ぎでしょうね。疑問に思うのも無理はありませんわ。」

学者「口をつけてから言うのもなんだが、まさか何処かから奪ったものではあるまいね?」

少年「えっ!?」

メイド「なるほど。そうですね、森の外の道は商隊が行き来しますものね。襲いかかるのは容易いことでしょう。」

学者「うん……この魚なんかは、海のものだ。この近くで獲れるものではない。」

メイド「ご安心召されまし。お金というのは、時に、人間が恐怖に打ち克つ力を与えるものですよ。」

学者「ああ、要は金で使える人間がいるわけだね。」

メイド「ええまあ。わたくしたちの主人は、富だけは無駄に莫大ですもの。」

学者「ふうん。ああ、少年。もう少し待ちたまえ。ビーフジャーキーを目の前にぶら下げられた犬のような顔をするでないよ。」

少年「してません!」

メイド「長い話になりますから、このままお食事を召し上がりながらわたくしたちの身の上話を聞いてくださいまし。」

学者「君たちがそのような姿であることにも、関わってくるのかな。」

メイド「まあ。するどい。」

学者「少年、さあ、スープとパンは食べても良い。魚料理と肉料理は私がいいというまでだめだ。」

少年「……?、はい。」

学者「さ、話してほしい。」

メイド「ええ。……こういう御伽噺をご存知でありません?」

メイド「あるわがままな王子のところへ、一人の老婆が宿を求めます。」

メイド「そのみすぼらしさに、王子が冷たく断ると、老婆は美しい女神に早変わり。」

メイド「お前のような性根の腐った男には、醜い野獣の姿がお似合いだ。」

メイド「そう言って、王子の姿を変える呪いをかけます。また、王子を甘やかしてきた城の者にも。」

メイド「そして。こうも言うのです。」

メイド「もし、この薔薇が散る前に、お前が真実の愛を知ることができれば、お前は元の姿に戻ろうが……」

学者「その前に薔薇が散ってしまえば、永遠に、その姿のまま……か。」

メイド「ええ。それと似たようなことが、ここでも起こったのですわ。もちろん、美しいメイドにも例外はなく。」

学者「俄かには信じ難いが、世界は広いからね。どんな不可解も、まあ起き得るんだろうね。」

少年「しっ、信じるんですか?」

学者「……少年。待たせたね。さ、どの料理に手を付けても良い。」

少年「???いただきます?」

メイド「わたくしたちは、まあ、困っているんですわ。結構。この姿ではいろいろと不都合もありますの。」

学者「そうだろうね。つまり、なにかね。君は私に、君の主人と恋愛がしてほしいのか。君たちの、解呪のために?」

メイド「あら。理解が早くて助かりますわ。」

少年「ぶふっ……!?」

学者「そのネタバラシは得策ではないのではないか?」

メイド「……雰囲気さえつくればなし崩し的に恋愛関係に移行するのは容易なものですわ!」

少年「いやあの。」

学者「まあ、何かの小さなきっかけで、思いも寄らないもの同士が惹かれ合うというのはありがちだね。」

メイド「頷いていただけるのであれば、あなたの怪我の治療もいたしますし、ここから無事に街まで帰るルートもお教えしますわ。」

学者「うーん」

メイド「そうすれば、正式にお客様としてお迎えいたしましょう。」

少年「プロフェスール、あれ完全にウラがありますよ!」

学者「そうかもしれないね。」

メイド「はいはい裏なんてないですよー。」

学者「投げやりにありがとう。……お言葉に甘えるよ。」

少年「何言ってんですかプロフェスール!?」

学者「いや、君には黙っていたが、結構……ダメージが大きくてね……少し……休ま……」

少年「ちょっ……プロフェスール!?しっかりしてください!プロフェスール!」

メイド「あらいけない。さ、こちらの客室にお運びしましょう。」

少年「プロフェスールに妙なことをしてみろ!ただじゃおかないからな!?」

メイド「……お客様に『妙なこと』をするほど、わたくしは不躾ではありませんわ。お客様でなければ別ですが。どうなさいます?おとなしくこの方のようにお客様になるか、それとも」

少年「わ、わかった。でも、プロフェスールのことはぼくが運ぶ。」

メイド「……こちらへ。」

<城 客室>
少年「本当に、手当してくれるんだ……」

メイド「さあ、これでもう大丈夫。」

少年「あ、ありがとう……」

メイド「いえ。あなたにとって、ずいぶんと大切な方なんですのね。」

少年「プロフェスールは、恩人だからな。」

メイド「恩人?」

少年「ぼくは元々、ある金持ちの家の召使だったんだ。」

少年「ドレイ、って言った方がいいのかな。暴力も、性的なことも含めていろいろされたし、食事だってマトモにもらえたことはない。」

少年「ある日さ、その金持ちの屋敷にプロフェスールが招かれて。プロフェスールの研究は、ある種の人間には完成したら喉から手が出るほど欲しいもので、たぶんその関係だと思う。」

少年「いつも通りいろいろあって動けなかったとこを、本当だったら客が入るようなところじゃない屋敷の裏だったけど、なんでかふらっと迷い込んだプロフェスールに拾われたんだ。」

少年「金で買い取られたんだし、最初はプロフェスールも同類だと思ってた。」

少年「けど、文字を教えこまれたり、剣術を習わさせられたり、正規の賃金を払われたり。なんだろ、ちゃんと助手として扱ってくれてるんだよな。」

メイド「…………。」

少年「自分の研究には、危険が多くて助手になりたがる人間がいないから、金で買えるぼくがちょうど良かった、嫌になったらまとまった金を渡すから、いつでも逃げ出していい、なんて言ってたけど……。」

少年「この人への恩返しにはまだ足りないし、なんとなくほっとけないひとだし、それに……って、あんたには関係ないよな。変なこと聞かせて悪いな。」

メイド「いえ。なるほど。わかりました。ひとつ、肝心なことだけお聞きしても?」

少年「なに?」

メイド「この方に、恋愛感情はあるのですか?」

少年「な!何言ってんだ!べつに、そんなんじゃない……!ただの師弟……いや、ぼくにとってはそれも違うな。」

メイド「ほう」

少年「母さんとか、姉さんみたいな存在だよ。尤も、そんなものはいたことがないから、こういうものだって想像でしかないけど。」

メイド「それは良うございました。あなたがこの方をちょっとウザいくらいに守ろうとしたり、てっきり愛やら恋やら肉体的交渉やらで結ばれているものかと。」

少年「誤解されるけど、ぼくたちの間にそういうことは何もないからな!?」

メイド「それならば、わたくしも安心して主人とこの方を引き合わせることができますわ。そして、我らの悲願を達成するために、とっととくっついていただきます。」

少年「いやそれはちょっと」

メイド「ともあれ、今日はゆっくりおやすみくださいまし。」

少年「ごめん。疑ったりして。」

メイド「いえ。慣れております。」

少年「…………。」

メイド「?、お手洗いなら廊下の突き当たりですが。」

少年「違ッ……!」

メイド「異形のもの相手に、最初から無警戒で挑むのは間抜けのすることですわ。この方も、あなたのように怯えはしないものの、警戒はなさっていたようですし。」

メイド「悲鳴を上げて逃げ惑ったり、いきなり攻撃を仕掛けてくる方もいらっしゃいますもの。もちろん、そういった方は屋敷からご退出願いました。」

メイド「……魔物に喰われてしまいましたけれど。」

少年「まじで」

学者「ふうん。ま、外は雨だし、足は思うように動かないし、地の利はないし、闇雲に外に出るよりは、出方を伺ったほうがマシさ。」

少年「プロフェスール!目が覚めたのですね!?……どこから聞いてました?」

学者「たった今だよ。……君たちが文化的な生活をしている上、言葉の通じる相手なら、折り合いをつけることもできよう。」

メイド「まあ。」

学者「で、受けたのがとても紳士的対応だ。いや、淑女的、と言った方がいいかな。無闇に怯える必要はないよ。」

メイド「悪い魔物が旅人に豪華な食事を与え、肥らせて食べてしまう、というのもよく聞く話ですわ。」

学者「うん……その場合は、むしろ脚が治らないほうが好都合だね?」

学者「しかし君の施した治療になんら不審な点はない。手際も完璧だ。少年にも危害が加えられていない。礼を言うよ。ありがとう。」

メイド「いいえ。人として当然のことですわ。あら?」

学者「ん?」

メイド「ちょっと外しますわね。ご主人様がお呼びのようですわ」

<城 主人の部屋>
メイド「……参りましたわ、ご主人様。」

主人「なんだ、あの者共は。」

メイド「なに、ってご主人様。ご主人様の花嫁候補ですわ。それと、その小姓。」

主人「ふざけるな。また勝手なことを。」

メイド「勝手なこと?他に手がありますか?」

主人「もとより、呪いなど解けぬのだ。このような姿、誰が愛そうか。」

メイド「愛していただかねば困ります。我々を真の姿に戻すには、それしかありませんもの。」

主人「結局は自分のことだけではないか。」

メイド「当然でしょう?他者のことを思いやれるような性質でしたら、このような姿に変えられることもなかったのですから。」

主人「ふん。忌々しい。」

メイド「今度はうまくやることですね。」

主人「余計なお世話だ。」

庭師「血のニオイ、若いオンナのニオイ、喰ウ、喰イタイ。」

メイド「お黙りなさい。そのようなことは許しません。精神まで獣と化すなど、恥を知りなさい。」

主人「ふん。まだ言葉を話せるだけ良いではないか。それこそ、知性のない魔物や、家具のようなモノに変えられた者に比べればな。」

メイド「ご主人様以外でこの城で唯一まともな精神を保っているのはわたくしと料理長と執事くらい。わたくしまでおかしくなりそうだわ。」

主人「いっそ、精神まで狂えればこれほどまでに苦しむこともなかった。ただ己が欲を満たすために生きれば良いのだから。」

メイド「例の期限がくればそれも叶いましょうが、わたくしは御免ですわ。」

主人「…………。」

主人「……それは、私とて同じだ……。」

<城 ホール>
学者「やあおはよう。良い天気だね。」

少年「まったく、呑気なんですから。」

学者「おや?眠れなかったのかい?そんな顔をしているね。」

少年「外から唸り声は聞こえるし、あなたの包帯は変えなきゃいけないし、眠れるものですか。」

学者「……そうか。繊細だな。」

少年「そういう問題じゃないです。」

メイド「おはようございます。今日はすっかり雨も上がりましたよ。」

学者「おはよう。早速で悪いが、頼みがあるんだ。」

メイド「なんでしょう?」

学者「彼だけ、村の宿に戻してほしい。」

少年「はあ!?」

メイド「わかりました。誰か手の空いた者に送らせましょう。」

少年「ちょっと待ってください!なんでぼくだけなんですか!」

学者「いや、前払いで助かったとは言え、宿屋には昨夜のうちに戻るつもりだったからね。荷物を王都の研究室に引き上げてほしい。」

少年「王都まで何日かかると思ってるんですか。プロフェスールも一緒に戻ればいいじゃないですか。」

学者「私にこの足で歩かせるつもりかい?」

少年「ぼくが背負います!」

メイド「それは……危険ですわ。安全な道をお教えするとは申しましたが、その、血の臭いに敏感な魔物も多いんですの。この屋敷内であればお守りすることも可能ですが……」

学者「ほらね。傷が完全に塞がるまでの滞在許可を先程いただいたのさ。」

少年「それならぼくも」

学者「いや、村で余所者がどういう視線を集めたか、君も経験しただろう。万が一、荷物に触れられて研究内容にあらぬ誤解を受けたくはない。頼むよ。私と、君の名誉のためだ。」

少年「そんな風に言われたら断れないじゃないですか……。行ってきますよ。」

学者「そう言ってくれると信じてたよ。」

少年「ちぇっ」

<城 庭>
道化「こんにちは。僕が貴方を森の外までお連れしましょう。」

少年「あんたは呪いにかかってないんですか?ヒト、の形してる。クラウン、かな」

道化「おやまあ、そう見えますか。」

少年「派手な仮面をつけて、帽子を被ってるけど、メイドさんみたいに獣化しているようには……。」

道化「……ここのご主人様以下、この城の者には例外なく呪いはかかっておりますよ。」

少年「仮面を外すと中は、ってこと?」

道化「お望みならば外しましょうか?」

少年「いやいいよ。道化師の素顔を見ようとする程、礼を欠くなってプロフェスールに怒られる。」

学者「……少年をよろしく頼む。」

道化「心得て御座いますとも。」

少年「荷物を運んだらすぐ戻ってきますからねプロフェスール!」

学者「はいはい。待っているよ。」

<森の中>
少年「うー。」

道化「よほど彼女が心配のご様子ですね。」

少年「そりゃあ……プロフェスールは怪我をして動けないのに、あんな化け物屋敷にひとり置いて……あ、ごめん。」

道化「いいえ。あそこが化け物屋敷であることには間違い御座いませんからね。」

少年「一体何をしたら、こんな魔法?呪い?をかけられるんだ?」

道化「……力のある方のご機嫌を損ねるべきではない、と言ったところでしょうか。ま、もしかしたらご当人は、こういう術をかけたこと自体を忘れていらっしゃるやもしれませんがね。」

少年「忘れてる、って。」

道化「あの方はそうしたところがおありですから。……おっと、その木を左回りに、その次の木を右回りに進んでください。でないと、永遠にここを彷徨うことになりますよ。」

少年「え、あ、うん。やっぱり、この森自体にそーいう魔法がかかってるのか。」

道化「ええ。よくあるトラップですが」

少年「うわっ。骨だ!ヒトの骨じゃん!」

道化「道を違えばああなります。」

少年「じゃあ、その、あの城にぼくたちが辿り着いたのは」

道化「貴方か彼女のどちらかが、余程、運が良いのでしょうね。」

少年「ひええ」

道化「ああ、それから」

少年「…………!」

道化「ここを抜けるまでは、どうかお静かに。気付かれると、あれらの餌食になりますから気をつけてくださいね。」

少年「うわ……昨日のやつらだ……」

道化「無闇に騒ぎ立てねば大丈夫ですよ。あれらは僕には近づきませんから。」

少年「う、うん」

道化「街道まであと少しです。そのように不安そうな顔をなさるるでありませんよ。」

少年「お、おー。」

<城 ホール>
メイド「荷物の心配、だなんて仰って。」

学者「ああでも言わないと、少年は素直に戻ってくれないからね。」

メイド「……良かったのですか?わたくしたちを信用して。」

学者「我々に君たちが危害を加えるつもりなら、昨夜のうちにされているだろう。例えば……料理に毒をいれたり、就寝中に襲ったり。」

メイド「…………。」

学者「それに、経験から、そういう気のある者は、なんとなく気配でわかるのさ。私も過去、いろいろあったからね。」

メイド「そう、ですか。」

学者「でも、まあ、少年が君たちに誤解から何かをしでかさないとも限らないからね。」

メイド「安全な場所へ避難させた、というわけですか?そして自分は構わないから彼だけでも無事に逃がして欲しい、ですか。」

学者「………あー……」

メイド「まあ、その条件さえ飲めば、あなたがここに留まってくださるということですし、あなたと邪魔者を引き離す願ってもない展開ですし。」

学者「言うね。」

メイド「ずいぶんと大切にされてるんですのね。」

学者「……あの子は同郷の生き残りだからね。」

メイド「生き残り、とは、妙な言い回しを仰るのですね。」

学者「王国の西の端の町の噂を聞いたことは?」

メイド「ええ、十年ほど前、魔王に滅ぼされた、とか。」

学者「……ま、そういうわけさ。」

メイド「あなたがたも、魔王の被害者というわけですのね。」

学者「まあね。ま、あれがなければ、私は今のような立場にはなっていなかっただろうけどね。」

<街道>
道化「さあ、つきましたよ。ここから南にまっすぐ進めば、村につきます。」

少年「う、うん。あ、ありがとう。本当にふつーに送ってくれたね……。」

道化「もっとアトラクション的な演出をお求めでしたか。」

少年「いやそういうんじゃないけどさ。プロフェスールが信用したなら、それも当然か。」

道化「さあ、用事を済ませて早くお戻りください。紳士はレディを待たせるべきではありませんよ。」

少年「すぐ戻る!プロフェスールにはそう伝えてくれ!」

道化「ええ。いってらっしゃい。」

少年「ああ!ありがとなー!」

道化「さあて、上手く事が運べば良いんですが。」

<城 廊下>
学者「……肖像画、かな。」

メイド「それは……ご主人様の在りし日のお姿ですわ。」

学者「顔部分が切り裂かれている。残念だな。これじゃ、イマジネーションにも頼りようがない。」

メイド「呪いをかけられた直後のご主人様は大荒れでございましたからね。」

学者「窓から見える庭の石膏像がみんな首がないのもその所為かい?」

メイド「お片付けが大変でしたわ。」

学者「苦労するね。」

メイド「仕事ですもの。」

<村>
宿屋「偉い学者先生だかなんだか知らないが、外泊するなら一言言っておくれヨ。」

少年「ごめんなさい女将さん。」

宿屋「ま、先に大金もらってるから良いけどサ。で?学者先生は?」

少年「えーっと……ちょっと、急用ができて。この宿もチェックアウトしておいてくれって。」

宿屋「はン、そーかいお忙しいこって。」

少年「荷馬車をお願いしたいんだ。ぼく、急いで先生の荷物を王都の研究室に運ばなきゃいけなくて。」

宿屋「ハイハイ、それにしても弟子に全部押し付けて、勝手なセンセイだネ。」

少年「そんなんじゃ……そんなんじゃ、ない……。とにかく急ぎたいんだ。」

宿屋「なんかあったのかイ?」

<城 書斎>
学者「それにしても、ここの蔵書数には目を見張るものがあるね。学園の図書館より多いんじゃないのかな。退屈せずに済みそうだ。」

メイド「執事がときどき手入れをしているものの、今ではだれも読む者もおりませんからね。そう言っていただけると良かったですわ。」

学者「そういえば、君以外にこの城のひととは会えないのかな。」

メイド「……城の者の姿は、少し刺激が強うございますから。」

学者「残念だ。最初の晩からずっと、部屋の外で私を何かから守ってくれている彼に礼を言いたかったんだが。」

メイド「?、そのようなものが?」

学者「扉の前で、寝ずの番をしてくれているようだ。」

メイド「心当たりはありますわ。」

学者「礼を言っていたと伝えておいてくれ。」

メイド「承知しましたわ。ま、その方には早めに本人をお目にかけましょう。主人が客人に挨拶もしないというのは失礼ですし。」

学者「そうしていただけると嬉しいよ。」

メイド「…………と、いうことですし、隠れていないで出ていらっしゃいませ。」

学者「ん?」

メイド「いいかげんになさいまし!」

主人「…………。」

学者「もっふもふだ」

メイド「こちらが、わたくしたちのご主人様ですわ。」

学者「数日前から、お世話になっている、学者だ。ハグしても、いや、できればもふらせ……いや、肉きゅ、握手してもいいかな。」

主人「お前は、私が怖くはないのか。」

学者「え?」

主人「私は、熊だか獅子だかわからぬ、このような真っ黒な姿が?」

学者「なんの問題もないよ!だって私はケモナーだよ!?」

主人・メイド『は……?』

学者「君との恋愛について猫耳メイド君に頷きはしたものの、触手、とか虫、とかトロールとかだったらどうしようかと思ってたんだ!それが!もふもふの肉食獣!願ったり!叶ったり!だよ!」

メイド「ここにきて一番テンションお高いですわね。ご主人様のお姿を見て恐怖でおかしくなる方は今までたくさんいらっしゃいましたが、こういうパターンは初めてですわ。お顔を真っ赤にされて……」

主人「メイドよ。私はお前に言いたいことがある。」

メイド「思ったより、呪いの解けるのが早そうで良うございましたわ!あらわたくし、ちょっとお仕事を思い出しました!ではお二人でごゆっくりー!」

主人「待て!メイド!待て!くそっ……!」

学者「一目惚れしました!結婚してください!」

主人「落ち着け。執事!貴様何をニヤニヤと!」

学者「執事?一体どこに……」

主人「そこの絨毯だ……。」

学者「やあ、気付かずに挨拶もせずにごめん。……聞こえているのかな?」

執事「(゚∀゚)」

学者「わ、絨毯が毛羽立って表情に!」

主人「腹の立つことだ。」

執事「(´・ω・`)」

主人「あとで、お前たち全員私の部屋に来い。」

学者「知り合ったばかりで、だっ、大胆なんだね。」

主人「お前ではない。お前は部屋で大人しくしていることだな。」

執事「(・∀・)」

主人「勘違いするな!別に安全なところへ避難させておきたいわけではない!誰も連れずに勝手に城内をうろうろされたくないだけだ!」

学者「わかったよ。本は何冊か借りて、部屋で読むことにするよ。ありがとう。」

主人「ふん!」

<街 学者の家>
少年「勇者ァ?」

勇者「うん。わたしたちは、ここの先生に用があって来たの。」

魔法使い「ここの学者は、禁じられた不死の研究をしているという噂がある。」

少年「!」

勇者「王様の命令でね。ちょっとでいいから話をさせてくれないかな。」

少年「せっかく来てくれたところ悪いんだけど、プロフェスールは留守だし、ぼくも明日早くに出かけるんです。それに、プロフェスールは」

勇者「旅先からキミだけ戻ってきたって聞いたけど、行くのはその先生のところ?だったらわたしたちも同行する。」

少年「え、えー。」

魔法使い「なぜ困っているの。潔白なら、何ら不都合はないはず。」

少年「プロフェスールは勇者という仕組みを信用してないから、君たちに不快な思いをさせるかもしれません。」

勇者「キミと話していてもラチがあかないみたいだね。わかった。じゃあ、キミの後をわたしたちが勝手についてくからヨロシクね」

少年「ちょっ……冗談だろ」

魔法使い「冗談なんかじゃない。」

勇者「道中もしなにかキミの身になにかあればフォローするし、勝手について行くんだから報酬もいらないわ。」

少年「なんだよ、その勝手な言い分。」

勇者「先生は、魔王に対抗しうる魔法の開発にも着手していると聞いているわ。そっちを聞かせてくれたら」

魔法使い「我々は何の研究であろうと、王国に報告したりしない。……たぶんね。」

少年「きたないぞ!帰れ!」

勇者「明日の朝また来るわ。」

少年「……ぐ。」

<城 テラス>
学者「彼と夕食を一緒に取るようになって、何日経っただろう。」

学者「晴れた日は彼と中庭でお茶を飲んだり、雨の日は読書や古代詩の解釈について議論したり、彼のブラッシングしたり。」

学者「このままじゃいけない、な。」

学者「少年は、今、何をしているんだろう。」

学者「ちゃんと帰れただろうか。迎えに来る気はあるだろうか。」

学者「ちゃんと食事はとっただろうか。お小遣いをもう少し渡しておけば良かったな。」

学者「風邪などひいていないだろうか。」

学者「ああ、心配だな……。」

<王都 学者の家>
少年「奴ら、明日の朝来るって言ってた。夜中のうちに出発すれば、撒けるかな。」

少年「今夜は新月だっけ。夜目がきいて良かったって初めて思えるな。」

少年「武器よし、携帯食糧よし、水筒よし、スペルブックよし、と。」

少年「待っててくださいねプロフェスール!」

道化「こんな夜中にお散歩ですか?」

少年「わっ!?」

道化「やあ、驚かせてしまいましたね。」

少年「な、なんだあんたか。……こんなところ、うろついてて大丈夫なのか?っていうか、よく門番が通したな。」

道化「僕はちょっとしたマジシャンなんですよ。」

少年「ふーん。」

道化「子供が外に出るには、時間が遅すぎやしませんか。」

少年「実はかくかくしかじか」

道化「なるほど。それはまた、厄介なトラブルに巻き込まれていらっしゃいますね。」

少年「だから、今から出て、プロフェスールに伝えるんだ。」

道化「それなら早い方がよろしいですね。」

少年「ああ。急ぐよ。」

道化「とは言え……歩いて行ったのでは、引き離すといってもたかが知れています。……協力いたしましょう。」

少年「馬でも貸してくれるのか?」

道化「似たようなもの、でしょうかね。」

少年「なんだっ!?急にめまいが!せかいがぐるぐる……」

<城 主人の部屋>
主人「潮時だ。あの娘を帰す。」

メイド「これ以上ないくらい、今回は上手くいっているではありませんか!今逃せば、今後二度とないのですよ!」

主人「見よ。」

メイド「……薔薇が、そんな。枯れ果てて……!?」

主人「時間切れだ。もう二度と、元には戻らぬ。永遠にな。」

メイド「そんな……そんなこと……だって!あなたがたは、あんなに四六時中いちゃいちゃいちゃいちゃしてたではありませんの!?」

主人「ああ、あんなに温かい気持ちになったのは初めてだった。だが、あの美しい娘が、私のようなものに真実に愛情を注いでくれるとは、どうしても思えなかったのだ。これは憐れみで、同情だ、そうとしか思えなかったのだ。」

メイド「……そう、ですか。ええ、なんとなく、このまま、戻らぬのではと察してはおりました……。わたくしたちの姿を受け入れた、あの方ならば、と思ったのですが……こうなった以上、あの方をこの城に留めておく理由はありませんね……」

主人「すまない。」

メイド「化け物、として……命が尽きるまで、このまま……」

主人「……すまない」

<街道>
勇者「やられたわね。」

魔法使い「馬車の出た記録は無かった。子供の足。すぐ追いつける。」

勇者「行き先は例の村だってわかってるし、わたしたちには飛空艇があるでしょ。先回りしましょ。」

魔法使い「……素直に同行すれば、敵対しないのに、愚か。」

勇者「ま、あの子にとって、センセが大事なんでしょ。いきましょう。」

<城 客室>
主人「おい。」

学者「……なんだい?」

主人「もう、その足は疾うに治っているだろう。街道まで送ってやるから早く帰れ。」

学者「え?」

主人「例の子供が心配なんだろう。」

学者「……まあ、うん。」

主人「準備しろ。明日の朝、出発する。」

学者「優しいな君は。」

主人「何がだ。」

学者「……いや。なんでもないよ。」

<森>
少年「うわあああ!?」

道化「はい、到着です。」

少年「なにがなんでどうなってんですか!?人間の空間転移は現在の魔道技術じゃ無理だってこの前の論文で立証されたばっかりじゃないんですか!?うえええきもちわるい。」

道化「人間の快適な輸送にはもう少し改良の余地がありますね。」

少年「……あんた何者なんですか。」

道化「ただの舞台回しですとも。ここから先は歩かねば城までいけません。森の魔法のせいで、転移はできませんからね。がんばってくださいね。」

少年「ちょっと、だけ、休ませて……うえっぷ。」

<村>
勇者「と、いうわけでわたしたち、この教授を捜しているの。この村に滞在してるって聞いてるんだけど。」

宿屋「勇者サマじゃないかイ。その先生なら何日も前に王都に帰ったヨ。連れてる生徒に荷物とか全部押し付けてねエ。ヒドい話サ。」

勇者「帰った?それからここには立ち寄ってない?」

宿屋「なんでもフィールドワークってんで、アタシらの止めるのも聞かないで、魔の森に入って行ったのサ。ヤレヤレ、偉い先生はアタシらのいうことなんか歯牙にもかけないンだから。」

勇者「魔の森?」

宿屋「ああ、あの森の奥には、化け物がいてね。大昔、このあたりを荒らしてたンだってサ。でもあるとき女神サマが封印してくれたおかげで、今こうしてすぐ近くの村のアタシたちも平和に暮らせるってモンなのサ。」

勇者「魔の森、ね。ありがとうおねえさん。行ってみるわ。」

宿屋「勇者サマなら大丈夫だと思うけど、気を付けるンだヨ。なんせ、ホントーに化け物が出るンだから。」

<森>
学者「……急に、どうして私を返してくれる気になったんだい?」

主人「……お前が溜息ばかりつくからだ。」

学者「え?」

主人「いや、もう我々はお前を必要としないからだ。」

学者「……そう、か。残念だ。君の凍てついた心を溶かしていると自負していたのに、自信を失ってしまうな。」

主人「…………。」

学者「良い関係を築けていた、と思っていたがとんだ独り善がりだったようだ。迷惑もかけただろう。ごめん。」

主人「いや……!そうではない!そうではないのだ。これは我々の勝手な都合であって、お前にはなんの落ち度も無い。」

学者「その都合、というのは聞かせてはもらえないのだろうね。」

主人「……いつ、呪いによって理性を失い、私たちがお前に襲いかかるかわかったものではないからな。」

学者「え?なんだい?」

主人「いや。なんでもない。足元には気をつけろ。」

学者「うん……最後に、ひとつだけわがまま、きいてくれないかな。」

主人「なんだ。」

学者「君は一度も許してくれなかったけど、一度でいいから君を抱きしめたいんだ。」

主人「な」

学者「私は今、君をもふもふとしてではなく、その、ひとりの男の人として頼んでいる。振られてしまったことには納得している。二度としない。だから。」

主人「……お前は……」

主人「わ、わかった。ゆ、ゆるす。」

学者「……とても温かいよ。どきどきする。」

少年「気まずい」

道化「その割には、まじまじとご覧になっていらっしゃいますねえ。」

少年「プロフェスールのあんな顔、初めて見た……。」

道化「奥歯をそのように噛み締めますと、血が出ますよ。」

少年「ギリギリギリ」

道化「……おや。困りましたね。」

少年「何が?……あ!」

勇者「見つけたわ!魔物と親しげに話している以上、言い逃れはできないと思って頂戴。」

学者「勇者殿、か。お噂はかねがね。こんなところでお会いできるとは思わなかったけれど。」

魔法使い「あなたには、不死の研究の容疑がかかっている。それは、禁呪のひとつ。」

勇者「そして今、あなたは魔物と行動を共にしていた。そうね?」

主人「この娘は私が捉えていたのだ。気紛れに逃がしてやろうとしたところであって、この娘が好き好んで行動を共にしたわけではない。」

勇者「あら嘘が随分とお上手ね。たった今抱き合っていたのは見間違いかしら。」

学者「……見て、いたのか。覗きとはよい趣味だ。勇者を名乗るだけあって、ひとがやらないことをするんだな。」

魔法使い「勇者を愚弄するのは許さない」

勇者「落ち着いて、魔法使い。わたしたちは何も戦いにきたわけではないのだから。わたしたちの本当に知りたいのは、あなたもうひとつの研究の方。」

魔法使い「魔王に対抗する、術。」

学者「そういう態度の人間には、協力できないと言ったら?」

勇者「協力したくなるように仕向けるまで。」

学者「……そう。」

道化「これはいけません。」

少年「もしかしてこのザワザワしてるのって。」

道化「ええ、魔物、魔王様の配下ですね。」

少年「プロフェスールたちが囲まれてる!」

道化「……彼らなら突破できましょうが」

主人「話は、後だ。」

勇者「あなたが呼んだんじゃないの?」

主人「まさか。あのような下賤なる輩、私は雇ったりせぬ。」

勇者「じゃ、あれを斬っちゃっても文句はないわね?」

主人「学者、お前は私の後ろに……学者?」

学者「ふふ……油断したよ。そういえば、あれらの使うのは毒矢だったね。しかも、先日よりも強力だ。」

魔法使い「今、解毒呪文を」

学者「いや、君は攻撃呪文を準備していただろう。それをキャンセルする必要はない。」

主人「くそッ!メイドを連れてくれば」

学者「いや。避けられなかった私のミスだ。大丈夫、私は大丈夫だから君は今、戦闘に集中してくれ。」

勇者「数が多すぎる……!」

主人「すぐに終わらせる。お前はここで休んでいろ。」

学者「いや、私も呪文ならば唱えられる。できる限りの援護を」

主人「いいから。」

学者「わかった……わかったよ。待っている。」

主人「良い子だ」

道化「誰も欠けぬ、というわけにはいかないでしょうね。」

少年「プロフェスールが!手を離してくれ!」

道化「貴方が行ったところでどうにもなりません。犬死するおつもりですか?」

少年「でも!」

道化「僕は彼女に貴方を任されているので、行かせるわけにはいきません。」

少年「うっ……なに……を……」

道化「そういう契約なんです。大人しくしていてくださいね。」

勇者「なんとか、全部倒した……わね」

魔法使い「満身創痍。」

主人「……学者!」

学者「…………」

魔法使い「『解毒呪」!」

学者「…………」

主人「学者?おい……嘘だろう?」

勇者「息をしてない……!?」

魔法使い「脈がない。」

主人「学者!目を、目を開けろ学者!そん、な」

道化「やあ。みなさん。こんな森の中でお散歩ですか?」

勇者・主人『道化……ッ!』

道化「お久しゅうございます殿下。勇者殿。」

主人「貴様と話す暇などない。去ね。」

勇者「斬るわよ」

道化「そのように怖い顔しないでください、おふたりとも。おや?殿下の抱いているのは、誰です?ああ、かの有名な学者殿ですか。ぐったりと動かない。それでみなさんそのような辛気臭い顔をされているわけですね。」

魔法使い「『光よ』!」

道化「おっと。相変わらず血の気の多いことです。しかし、何をそんなに嘆くことがありましょう。哀しむことがありましょう。」

勇者「この状況を見て、なにもわからないの!?」

道化「ええ、わかりませんね。だってソレは、不死者ではありませんか。」

<城 ホール>
メイド「おかえりなさいましご主人様。あの方は無事にお帰りに……!?」

主人「ベッドの用意を頼む。この娘を寝かせる。それから、客人に茶を。」

メイド「一体何が……いえ、かしこまりましたわ。」

魔法使い「知っていることを全て話して。」

勇者「洗いざらい、ぜーんぶよ。」

道化「承知いたしました。この狂言回し、全てお話いたしましょう。」

道化「そもそもの発端は、魔王様が双子のご兄弟に嫉妬なさったところからはじまります。」

<過去・魔王城 玉座の間>
魔王「なぜなの。妾が即位し、この世の全ては妾のものだと言うに、なぜ弟ばかり慕われるの。」

側近「魔王様。魔王様はこの世の誰より美しく、この世の誰より気高く、この世の誰よりご聡明でいらっしゃいます。そして、魔王という地位に相応しい残酷さもお持ちでいらっしゃいます。」

魔王「そうでしょう。ならばなぜ、家臣どもは妾にはへりくだるばかりで、弟にするように親しみをこめて接しはしないの。あれはとても醜い獣の姿だというのに。」

側近「殿下は、魔王様がお持ちのものをお持ちでない代わりに、魔王様のお持ちでないものがおありですから。」

魔王「それはなあに。」

側近「先程申しましたように、魔王様はその魔力、その権力に相応しい決断力もお持ちです。もしも魔王様に逆らうものがいたら、いかがなさいます。」

魔王「首を刎ねるわ。そして見せしめに、その一族を城のホールに呼び出して、中心に首を放り投げるかしら。」

側近「もしも魔王様が欲しいものを誰かが持っていたらいかがなさいますか。」

魔王「もちろん、奪い取るわ。逆らうようなら灰すら残さず燃やし尽くすでしょうね。」

側近「ええ。どちらも魔王様としては正しいお答えです。しかし、魔王様の臣下がみなそれを受け入れられる強いものではないのです。」

魔王「……弟の、あの優柔不断な『甘さ』の方を好ましいと思うものがいるということね?」

側近「その通りでございます。」

魔王「お前はどうなの側近。」

側近「僕は、殿下は魔王という地位には相応しいとは思えません。」

魔王「……そうでしょう。貴方ならそう言うと信じていたわ。」

<過去・魔王城 中庭>
魔王「ねえ王子。貴方、最近好きな女性がいるんですって?」

王子「姉上!……そ、それをどこで」

魔王「あら。妾は魔王よ。魔王に隠し事などできると思って?」

王子「はは……参ったな。」

魔王「ねえ、欲しいものは手に入れておしまいなさい。妾も協力してあげる。」

王子「いや、姉上。それは良いんだ。ここだけの話、あの女性は人間なんだから。私は魔族だし、寿命も違う。それに私の姿はこんなだし。」

魔王「?、それがなあに?」

王子「なに、って……。」

魔王「まさか、そんな些細なことで手に入らないとでも思っているの?相変わらず自信のないこと。いいわ。おねえちゃんに任せておきなさい。」

王子「いや姉上。この件についてはどうか何もしないで欲しい。」

魔王「どうして?」

王子「今は、人間の姿をとって彼女に会える。それで満足なんだ。」

魔王「変な子ね。」

<過去・西の街>
娘「君か。よく飽きもせずにくるものだ。」

王子「……迷惑か?」

娘「いいや。君の話は知的で面白い。」

王子「それは良かった。」

娘「だが……もう会えなくなるかもしれないね。」

王子「なぜだ?この街を離れるのか?」

娘「いや。実は……君にだけ正直に話そう。私は、こう見えて重い病でね。保ってあと3年の命だ。」

王子「お前の冗談には真実味があるな。そのように白く細い姿でそのようなことを言われれば、まるで本当に聞こえるよ。」

娘「ふふっ。冗談だったら良いな。」

王子「……うそ、だろう?」

娘「嘘なんかじゃないさ。でも、君と会えたここ数ヶ月間、それを忘れるくらい楽しかったし、これから3年もしも……君が会いに来てくれるなら、なんの思い残しもなさそうだ。」

王子「何とかならないのか?」

娘「両親も手は尽くしたよ。でも、人間の医学や魔術ではどうにもならないんだ。それどころか、エルフなんかの妖精や龍族にまで当たったらしい。でも駄目だった。どうにかできるとしたら、魔王くらいじゃないかな。」

王子「……そう、か。」

<過去・魔王城 玉座の間>
魔王「珍しいわね。あなたがこの部屋にくるなんて。」

王子「姉上に聞きたいことがある。」

魔王「なあに?」

王子「実は……」

魔王「そんなことで悩んでいるの?」

王子「では……!」

魔王「ふうん。貴方の想い人、そんなに短命なの。ムシ共もトカゲ共も、なにをそんなに難しがることがあるのかしら。」

王子「良かった……」

魔王「要するに、死なないようにすれば良いんでしょう。簡単だわ。」

<過去・西の街>
娘「あれから、彼が来ない。やはり言うべきでなかったか。引かれてしまったかな。」

娘「彼なら、言っても平気だと思ったんだが……だめ、だったなあ。」

娘「……はー。さびしいな。友人を失うというのは。慣れるものではないな。」

魔王「ごみごみしてちいさくて醜い街だこと。」

娘「!?」

娘「いつのまに……!」

魔王「ふーん。本当だ。今にも消えそうな魂の色ね。」

娘「……なんて冷たい手。まるで、この世のものではないみたいだ。」

魔王「さて。貴女は、死なないようにならなきゃいけないの。」

娘「何を言っているんだ?どんな名医も治せないものだ、もう諦めているさ。」

魔王「貴女の意志は関係ないわ。」

娘「……ぐ、ぅ……うぁっ……」

魔王「苦しい?苦しいわよね。だって一度人間としての命が終わるんだもの。」

娘「なに、を……」

魔王「貴女には永遠をあげる。永遠に若い姿のまま、生きることができるの。素敵でしょう。」

娘「そんなこと!望んでいない!」

魔王「貴女の意志は関係ないと言ったでしょう。二度同じことを言わせないで。初めて弟が妾を頼ったのよ。あの子の望みを叶えてあげなくちゃ。」

<過去・魔王城 玉座の間>
王子「本当ですか姉上!?彼女は、本当に病で命を落とさずに済むのですか!?」

魔王「ええ本当よ。そんなものでは死なないわ。見せてあげましょうか。」

王子「見せる?」

魔王「鏡よ。あの街を映しなさい。……よく見ていて。」

王子「なぜ、あの街に軍のものが?」

魔王「あの娘が死なぬところを見せてあげる。」

王子「姉上、何を……まさか!?」

<過去・西の街>
警備兵「なんだってこんなところに魔族共が!?」

町人「いやああああ!火が!坊やが!」

娘「なにが、何が起こっている……?」

娘「とう、さん?かあ、さん?」

娘「ねえ、目を覚まして。ねえ……血が、こんなに。うそでしょ?うそよね?」

娘「きっとこれは、悪い夢、だ。」

魔族「全部焼きつくせー魔王様のご命令だー」

娘「ッ!?」

魔族「おお、コレが例のおーじさまのお気に入りか。ま、これも仕事だ。燃えてくれや。」

娘「い、いやあああああ」

<過去・魔王城 玉座の間>
魔王「ほらね。言った通りでしょ。焼けたところから再生もするの。けして死なないわ。」

王子「やめろ、やめてくれ。」

魔王「どうして?貴方が望んだことよ。」

王子「あ……」

魔王「人間は脆いわねえ。でも大丈夫。あの娘だけは何があっても……あら?なぜ、妾に剣を向けるの?」

王子「何故!?何故だと!?巫山戯るな……!彼女に、彼女になんてことを」

魔王「もう。ちゃんと貴方の望み通りにしてあげたのに。なんて口のききかたをするの。」

王子「が……ッ」

魔王「静かになったわね。礼も言えずにこんなことをしでかす悪い子の首は」

側近「お待ちください魔王様。殿下は、魔王様の唯一のご血縁。どうかお許しいただけはしませんか。」

魔王「でも妾、妾に剣を向けたものを許したことはないのよ。そういう前例を作れば、他の者に示しがつかないわ。」

側近「ならば、このようにいたしましょう。魔王城からの追放、という形です。」

魔王「……うーん。そうね……。でも、ただの追放では面白くはないわね。こうしましょう。頭の中を少し弄るの。」

側近「頭の中を、ですか?」

魔王「ええ。サル共が考えた物語をなぞって、呪いで姿を変えられた人間の男だと思い込ませるの。」

魔王「ああ我ながら名案だわ。この前、謀反を起こそうとした者をたしか地下牢に繋いでいたわね。あれらも一緒にしましょう。」

魔王「ヒトの娘と恋に落ち、愛で魔法が解けるところも同じよ。違うのは、真の姿が人間なんかじゃなくて、醜い獣だということよ。」

魔王「そうしてずっと自分が呪いをかけられた王子だと思い込んでいたことに気付かされるの。ああ、そのときこの子はどんな顔をするかしら。」

魔王「ねえ、滑稽でしょう。最高の喜劇となるでしょう。」

側近「……魔王様のお気に召すままに」

<城 ホール>
道化「これが、僕の存じている全てです。」

勇者「じゃあ、なに?彼は魔王の弟だっていうの?」

道化「いかにもその通りです。」

メイド「そん、な……そんなこと。わたくしたちが、魔族……?見た目通りの、存在ですって……?」

道化「本当は薄々気付いていたのではありませんか?求めていたのは人間の姿ではなく、本来の力と記憶であると。」

メイド「ああ……それでは……それではわたくしたちは今まで……」

道化「魔王様の退屈を紛らわせる為に踊っていらっしゃったに他なりません。」

勇者「許せないわ。魔王……!」

道化「あの方は、しかしあれから笑わなくなりました。そしてなにをされても退屈だと仰せになりました」

勇者「それで、今度は世界を滅ぼすって言い出したのね。つまらない世ならない方がマシ、だなんて言って。」

道化「どうか、あの方を止めてはいただけませんか。僕は道化となりながら、あの方を笑わせることも、あの方の涙を拭うこともできない役立たずなのですから。」

<城 客室>
少年「プロフェスールの手、冷たい……。」

主人「……。すべて、私の所為だ。」

少年「それは否定しません。でも、プロフェスールがいつも寝言で呼んでたのはあんたの名前だったんですね。」

主人「彼女が?」

少年「……いつだってぼくはヤキモチ灼いてましたよ。」

主人「……」

少年「は、はやくちゅーでもなんでもしてプロフェスールを起こしてくださいよ。オヒメサマを目覚めさせられるのは、オウジサマのキスだってプロフェスールはいつも言ってますし、ぼくがしても良いけどぼくはオウジサマじゃありませんからね!ちくしょう。ぼくは部屋から出たくなっちゃったな!あーちくしょう!」

主人「……くそっ」

主人「……………。」

主人「………………………。」

主人「…………………………。」

学者「ん、ちゅ、ふ…ぁ……君は……」

学者「……ああ、懐かしい顔だ。」

王子「全部思い出した。」

学者「そうか。奇遇だね。私もだ。」

王子「恨んでいるだろう。」

学者「こんなに長い年月放っておかれたことならね。」

王子「お前の故郷を滅ぼしたのも、お前をそのような身体にしたのもこの私の所為だ。」

学者「……あと、私の唇を勝手に奪ったのも追加だ。それから、真の姿でなく、そのような偽りの姿で私を騙し続けたこともだな。責任を取れ。」

王子「ああ、そのつもりだ。姉上を刺し違えてでも止め、もしそれでも生き残ってしまった場合は自ら……」

学者「君は本当に愚かだな。」

王子「……何がだ。」

学者「また私を独りにするつもりか?少年は、人間だ。普通の寿命を全うする。私はどうだ。君の姉の、君の所為で死ねぬ身体になった。この呪いを解く術が見つからなかったら、永遠に孤独でいろと言うのか。」

王子「しかし私は魔族だ。そして」

主人「これが私の真実だ。この、醜い獣の姿を愛せるとでも言うのか。」

学者「もう一度言う。いいか。私はケモナーだ。勿論、君が人間の姿になっている方も好きだから一粒で二度オイシイ。それに、魔族なら寿命などないと聞く。なんの問題もない。それとも、君の方がこんな化け物じみた女は嫌か。」

主人「お前は本当に愚かだ。」

学者「愚か者同士、お似合いじゃないか。」

<城 廊下>
少年「ちくしょうちくしょうプロフェスール取られた」

メイド「……すべて、思い出した。思い出してしまった。わたくしは、わたくしは」

少年「メイドさん?あんたふらふらしてるけど大丈夫か?」

メイド「あなたは……」

少年「メイドさんも失恋ですか?実はぼくもたった今したばかりなんですよ。」

メイド「……わたくしは、」

少年「愚痴なら聞きます。代わりにぼくの愚痴聞いてください。」

メイド「……ふー……。なんだか馬鹿らしくなってきましたわ。わかりました。とことん付き合います。」

少年「そうこなくちゃ!で、後で魔王のところに八つ当たりに行きましょう。」

メイド「あら楽しそうですわね。その案、乗らせてくださいな。」

勇者「ちょっと。まさか素人だけで行こうって言うんじゃないでしょうね。」

魔法使い「魔王は、勇者が倒す。」

少年「あんたたち……プロフェスールをまだ王国に突き出すつもりじゃ」

魔法使い「彼女が研究していたのは、自分にかけられた呪いを解く為のものだとわかった。噂は噂。王国に報告するようなことはなかった。」

勇者「そういうこと。それに、魔王に対抗し得る手段についても収穫があったし。」

少年「収穫?」

勇者「ええ。魔王の血縁者に元四天王、そしてこのわたし、勇者が手を組めば、立派な武器よね。」

少年「……考えてみるとすごいパーティーになるなそれ。」

勇者「そうと決まれば明日早く奇襲をかけましょう。だからこの部屋の中のひとたちも色ボケている暇はないと伝えて頂戴。」

少年「いや……それは自分で言ってくれないかな。ぼく的には中の様子見るだけで大ダメージなんだから。」

勇者「……それもそうね。明日の朝伝えて、襲撃は明日の昼からにしましょう。」

魔法使い「ぐだぐだ。」

勇者「臨機応変と言って欲しいわね。」

メイド「……それじゃあ、明日に向けて英気を養わねばなりませんわね。料理長に腕を振るわせますわ。」

少年「メイドさん、ぼくなにかできることあるかな?」

メイド「あら、それじゃあ、わたくしを手伝っていただこうかしら。」

少年「任せて」

<城 ホール>
魔法使い「さくやはおたのしみでしたね」

学者「な、なにを言っているんだ。まだ私が完全に回復していないから、なにもしていない!彼はそのような鬼畜ではない。」

勇者「……うわあ。」

メイド「お熱いこと。」

学者「えっ?あっ……。」

少年「ちくしょう……ぐすん」

王子「……………貴様らには危機感というものがないのか?くだらぬ話をするな。」

勇者「顔が赤いわよ?獣形態のほうが、表情隠せるんじゃない?」

主人「うるさい黙れ」

勇者「おおこわいこわい。」

学者「どうか、気をつけて。」

主人「ああ。必ず戻る。」

学者「少年、君にもいろいろ迷惑かけたね。」

少年「これからも迷惑かけるつもりでしょう。これが最後みたいな顔したら許しませんよ。」

学者「その、私が……不死の化けも」

少年「ご自分のことを化け物呼ばわりしたらもっと許しません。唯一の同郷でしょう。それに、ぼくの初恋の相手を化け物呼ばわりされたくありません。」

学者「少年……。」

主人「……行ってくる。」

学者「いってらっしゃい。この戦いが終わったら……」

少年「わー!わー!それはナシですプロフェスール!こういう場面でそういう台詞は言っちゃだめなんです!」

学者「そうか?……それじゃあ、信じて待ってる。」

主人「ああ。」

勇者・メイド『きーす、きーす、きーす!』

少年「それはぼくのモチベーションがだださがるんでやめてください。」

<幕切>
道化「そうして、後に勇者一行と呼ばれる彼らは魔王の城へ出発しました。」

道化「戦いの行方、ですって?」

道化「さあ、どうでしょう。」

道化「新たな魔王が立ったやら、勇者が王国に凱旋したやら。」

道化「……ただひとつだけ。」

道化「後に広まった伝説を書き留めた書物にはこう記述されています。『王様は聡明な后と共に、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。』」

道化「めでたし、めでたし」

<完>

以上、お粗末さまでした。
そしてご支援ありがとうございました。

某所で「プロフェスール」表記についていろいろご意見いただいたおかげで、小ネタを思いついたのでヒトネタ投下。
***
学者「私のことは『プロフェスール』と呼びたまえ。理由はない。なんとなくだ!」

少年「ぷろふぇしゅー……」

学者「え?ちょっ、それ!」

少年「?」

学者「もーいっかい!もーいっかい言ってくれ!」

少年「えっと、ぷろふぇすーりゅ」

学者「ああ……!それ!だ!舌ったらず!すばらしい……!」

少年「……ちゃんと、言えないのに、あんたは殴らないんですか?っていうか鼻血吹いてますけど大丈夫ですか?」

学者「なんの問題もないよ!だって私はショタコンだからね!もーいっかい!いってくれないかな?」

少年「しょた……?ぷろへすーる?」

学者「ちょっとここの主人と交渉してくるよ!大丈夫だ。幾らでも出そう。金に糸目などつけるものか。イエスショタコンノータッチ。そのくらいの分別はある。大丈夫だ。なんの問題もない。」

***
少年「というのが、ぼくがプロフェスールの弟子になったきっかけです。」

メイド「……ケモナーでショタコンで不死者の三重苦って救いようのないあれですわね……。」

どっとはらい。

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