河童「あいつ、元気かねえ」座敷「寂しい?」天狗「がはは!」(140)

「学校行きたくないってどういうこと?」

少年「……」

「何かあったの?」

少年「……」

「何かあったのね? 言ってみなさい」

少年「別に、何でもないよ」

「何でもないことないでしょう」

少年「ほんとになんでもないんだ」

「……」

少年「なんでも、ないんだよ」

……

「すみませんお義母さん」

  「いいんだよう、孫が一緒にいてくれるなら嬉しいわあ」

「じゃあ、この子をお願いしますね」

  「はいはい。帰りの車も気をつけてねえ。坂道、多いから」

「はい、それじゃあ。……行儀よくしてるのよ?」

少年「うん……」

  「よろしくね」

少年「よろしく、お願いします」

少年「……」

「田舎は退屈だろう? すまないねえ」

少年「あ、別に大丈夫です」

「なにかあったら遠慮なく言ってね」

少年「はい」

「……」

少年「……。あの」

「ん? なんだい?」

少年「ちょっと外歩いてきます」

「ああ、わかったよ。気をつけてね」

少年「はい」


 タッタッタ……


「……あの子は相変わらずだねえ」

裏の林 川岸


少年「ふう」

少年「……」

少年「はあ」


『あいつ? いや、なんとなくいっしょにいるだけだよ』


少年「……はあ」

少年「……」

少年「……」ポイ

 ――ぽちゃん……

少年「……」ポイ

 ――ぽちゃん

少年「……っ」ブン!

 ――ばしゃん!

少年「グス……」

?「なんだこいつ」

少年「!?」

少年「か……っ」

?「……ん?」

少年「河童……!?」

河童「お前、俺が見えるのか?」

少年「え?」

河童「見えてるんだな」

少年「……見えてるけど」

河童「へえ。最近の奴は俺らのことなんて忘れちまったもんだと思ってたが」

少年「?」

河童「まあいいか。見えるんなら好都合」

少年「な、何が?」

河童「さっきから川に石を投げ込んでるのはお前だろ。うるさくてかなわん。さっさと失せろ」

少年「え? あ……ごめん」

河童「さっさと行け。さもないと尻子玉抜いちまうぞ」

少年「しりこ……? 何それ」

河童「殺すぞっつってんだよ」

少年「……。それ、楽に死ねる?」

河童「あ?」

少年「……いや、何でもないよ。うるさくしてごめん」

河童「しっしっ」

少年「じゃあね」

河童「もう来るんじゃねえぞ」

林の奥


少年「……びっくりした」

少年(河童って、ほんとにいたんだ)

少年「しりこ……ってなんなんだろう」


?「がはははは!」


少年「え?」


 ヒュウウウゥゥゥ――ドスンッ!


少年「うわ!」

?「着地成功! だがなんだ。なんだかおかしく候!」

少年(な、なんだ? 空から人が……)

?「天地がまっさかさまさま! これはあれか。皆してワシをからかっておるのだな!?」

少年(なんで頭から落下して平気なんだろう)

?「ぬうん」

少年「あの……大丈夫ですか?」

?「なにぃ!? ワシがおかしく見えると申すか! 失礼千万笑止千万!」

少年(あれ? この人、鼻が……)

?「天狗の頭たるこのワシをコケにするなら相応の覚悟をすべし!」

少年「! 天狗!?」

天狗「ぬ?」

天狗「おお」

少年「?」

天狗「お主、人間か。いや、さかさまだから『んげんに』か?」

少年「ちがいます。人間です」

天狗「なんと!? さかさまの分際で生意気な!」

少年「ええと……さかさまなのはあなたです」

天狗「おや?」

天狗「おお……確かにさかさまなのはワシの方じゃった」

少年「起こしましょうか?」

天狗「目からうろこが落ちたような気分じゃ。記念にワシは今日から『ぐんて』と名乗ろう」

少年「記念しなくても。名乗らなくても」

天狗「うるさい! ワシが決めたことに逆らうな!」

少年(打ちどころが悪かったのかな)

天狗「去れい去れい!」

少年「すみません、失礼しました。帰ります」




少年「ただいま帰りました」

「ああ、おかえり」

?「おかえりー」

少年「え?」

「どうかしたかい?」

少年「あ、いや……別に」

少年(今、女の子の声が。気のせいかな)

「じゃあ夕食の支度の続きするからね」

少年「あ、はい」

?「おや?」

少年「!」

少年(小さな女の子?)

?「あたしが見えるのかい?」

少年「き、君はどこから入ったの?」

?「ありゃりゃ、本当に見えちまってるんだねえ」

少年「何をいってるのか分からないけど、勝手に入ったらだめだよ」

?「うーん、その口のきき方はないんじゃないかい? この家のことならあたしの方がずーっと先輩だよ?」

少年「は?」

座敷「あたしは座敷わらしさ。なんで見えてるのか知らないけど、よろしくね」

少年「……」

少年「え?」

次の日


少年「あの」

河童「んあ?」

少年「こ、こんにちは」

河童「……何しに来た?」

少年「ええっと」

河童「もう来るなっていったのは忘れたのか? ずいぶんとできのいい頭だな」

少年「それは覚えてるんだけど……昨日迷惑かけたからお詫びをと思って」ゴソ

河童「きゅうり?」

少年「うん」

河童「殊勝な心がけだが安物は嫌いでな。余計なことするぐらいなら出てこない方がマシだってなんで分からないかね」

少年「うう……」

河童「決めた。てめえの尻子玉抜いてやる」

座敷「それは困るねえ」

河童「っ!」

座敷「あたしんちのもんに手ぇ出すんじゃないよ」

河童「お前は……」

座敷「久しぶりだねこわっぱ」

河童「出てきやがったなクソババア……」

少年「知り合い?」

河童「不本意ながらな」

座敷「かれこれ半世紀ぶりってとこかねえ」

河童「このガキはお前の宿主んとこのかよ。どうりで見覚えのある辛気臭さだと思ったぜ」

座敷「お黙り。うーん、この林に来るのもしばらくぶりだね」

少年「?」

座敷「ああ、あたしは人家が活動範囲だから基本外には出ないんだよ」

少年「出てるじゃない」

座敷「あんたがいるからね。その家の人間がいる場所なら家の中と似たようなもんなのさ」

少年「ふうん?」

座敷「というわけでここに来るのもだいぶ久しぶりってわけ」

河童「永遠にこもってりゃ良かったものを」

座敷「なんか言ったかい?」

河童「別に」ヒョイ

少年(あ、きゅうり……)

河童「……」シャクシャク……

座敷「ひひ。どうだい? うちの野菜はやっぱり絶品だろ?」

河童「うんにゃ。他よりマシってだけだ。まあ最近は食えたもんじゃねえのがほとんどだからそりゃあありがてえけどよ」ペッ

座敷「もしよければこれからちょくちょく差しいれするけどどうする?」

河童「うれしいね……とすぐ飛びつく野郎はただの阿呆だろうが」

座敷「……」

河童「何企んでやがる?」

座敷「やだねえ、変なことは何一つ企んじゃいないよお」

河童「嘘ならもっと上手くつきやがれ」

座敷「まあ確かにただとは言ってない」チラ

少年「?」

座敷「とりあえずはこの子の話を聞くって事でどうだい?」

少年「え?」

河童「は?」

「がははは!」


 ヒュウウウゥゥゥ……ドスンッ!


天狗「ぬうん!? 暗いのう! 夜か!」

少年「頭が埋まってる」

座敷「ちょうどいいとこに来たね」

天狗「おお、その声。林裏の!」

河童「チッ、天狗のジジイもきやがったか」

少年「また知り合い?」

座敷「まあこの辺のは大抵顔見知りだあね」

河童「……」

天狗「何が始まるのだ?」ワクワク

少年「え、っと?」

座敷「ほら、あんたが主役だよ」

少年「ぼ、ぼく?」

河童「チッ、さっさと済ませろよ」

少年「え。ぼくは何を期待されてるの?」

座敷「察しが悪いねえ。あんたがなんでここにいるのか聞きたいんだよ」

少年「なんでって」

座敷「あんたは都会にいたんだろう? なんで急にこんな辺鄙なとこに来たのさ」

少年「……」

少年「それは、その」

河童「……」イライラ

少年「ご、ごめん。ぼくがここに来たのは、学校に行きたく……なくなったからなんだ」

天狗「ガッコウ? なんだそれは?」

少年「人間の子どもが行くところです。みんな行かなくてはならないんです。ぼくはそれがいやになっちゃって……」

座敷「ここらの子どもは皆楽しそうに通ってるみたいだけどねえ」

少年「都会の学校は、いろいろふくざつなんです……」

座敷「ふうん、そういうものか」

河童「けっ、甘ったれが」

座敷「ちょっとあんた」

少年「いいんだ。たしかにぼくのわがままだし……ぼくがもっとうまくやってれば、もっと楽しかったはずなんだ」

天狗「よくわからんのう」ガハハ!

座敷「はあ……まああんたには永遠に分からないことだろうね」

少年「そういうわけで、あの学校に居場所がなくなっちゃって。おばあちゃんちでしばらく休むことになったんだ」

座敷「なるほどねえ」

河童「ふわぁ……ねみぃ」

天狗「さっぱり分からんかった!」

座敷「あんたたち……」

少年「はは……」

河童「話は終わりだな? 俺は帰るぞ」

天狗「ワシももっと面白いことをしに行こう!」

座敷「お待ち!」

河童「あん?」

天狗「ふむ?」

座敷「あんたたち、こんないたいけな少年を一人残して行っちまう気かい?」

河童「それが何か」

座敷「はあ~嘆かわしいねえ、河童族天狗族には情けってもんがなくなっちまったのかい」

天狗「む! 何が言いたい!」

座敷「この子の話を聞いたなら、遊び相手になってやろうって普通は思うだろう?」

河童「思わねえよ」

天狗「ふむ、一理ある!」

河童「騙されてんじゃねえよ馬鹿」

座敷「そうかい、遊んでやってくれないのかい、残念だねえ」

河童「話を聞くって約束は果たしたからな」

座敷「あれは、いつごろだったっけねえ」

河童「ん?」

座敷「ある大きい家の子供にちょっかい出した河童がいたっけ」

河童「……」

座敷「遊びたい盛りで抑えがきかなかったんだろうね、相撲でその子をわんわん泣かせちゃって」

河童「てめ……」

少年「その河童はどうなったの?」

座敷「その家の主人に手ぇ引っこ抜かれて――」

河童「分かった分かった! 遊んでやるからそれ以上言うな! 尻子玉ひっこ抜くぞ!」

座敷「ひひ」

少年「?」

座敷「あんたも文句ないかい?」

天狗「楽しいことのためなら多少の労苦はいとわぬ!」

座敷「それでこそ天狗の大将だ」

天狗「がははは!」

河童「チッ! オラ! 何して遊ぶんだっ?」

少年「え、ええと! ちょっと待って」

河童「ええいじれったい!」ドン!

少年「うわ!」


 ドボーン!


河童「今日は水遊びだ!」

少年「ぼ、く! 泳げない、よおっ!」バシャバシャ!

河童「んだと軟弱! 俺が今日からみっちり叩きこおおむ!」ドボーン!

天狗「ワシも混ぜろー!」ドボーン!

少年「ひいい!」

座敷「ひひひ」

……


少年「ひい、ひい……!」

河童「くぉら! 諦めんじゃねえ!」

少年「むり、だよお……!」

河童「なんでそこで諦める! もうちょっとだろうが! 必死で脚動かせやあああああ!」

少年「わああああん!」


  天狗「あいつはなんであんなに楽しそうなのだ?」

  座敷「そりゃあもともと子ども大好きだからね」

……


少年「――」

河童「セイッ」

少年「……うっぷ!」

座敷「大丈夫かい?」

少年「ぼ、ぼくはいったい……」

天狗「今にも死にそうな顔しとったわ。がはは!」

少年「ぼく死にかけてたの!?」

座敷「すまないねえ」

河童「でもまあ、見ろ」

少年「?」

河童「泳ぎ切ったぞ、お前」

少年「あっ……」

座敷「おめでとう」

少年「……」

天狗「うむ、見事であった! がはは!」

少年「……」

河童「まあ、まだまだだが、そこはおいおいだな」

少年「グス……」

座敷・天狗・河童「?」

少年「ふぐ……」

座敷「ご、ごめんよう。怖かったもんねえ」

河童「俺は悪くねえぞ!」

少年「ちが、います……っ」

天狗「嬉しいのであろう?」

座敷「え?」

天狗「ワシにはそんな涙に見えるがのう」

少年「た、楽しく、て……こんなの、初めて、で……っ」

座敷「……」ナデ

河童「チッ」

少年「ありがとう、ございました……」

天狗「がはは!」

少年「ありが、とう、ございました……!」

数日後


座敷「どうだい練習の調子は?」

天狗「今はぐっすり寝ておるぞ」

少年「――」

河童「……俺は悪くねえ」

座敷「また死にかけてるのかい」クスクス

河童「セイッ」

少年「うぶぅ……っ」

座敷「おかえり」

少年「死んだお父さんが手招きしてた……」

天狗「それはいい夢じゃのう!」

少年「そうとも言い切れません……」

座敷「家からおにぎり持ってきたよ。休憩しよう?」

……


少年「毎日びしょぬれで帰ってくるからおばあちゃんが心配するんだよ」

河童「仕方ねえだろ多少の犠牲は」

少年「毎日命を落としかけるのはちょっと……」

天狗「その割には楽しそうだがのう!」

少年「それは、まあ。へへ」

座敷「どうだい、上達したかい?」

少年「どうかなあ」

河童「全然ダメだな、身体が浮く感覚ってのを分かってねえ。手足の動きがばらばら。すぐ顎を上げやがる」

少年「……うう」

天狗「それだけか?」

河童「……だが、熱心なのは感心だ。絶対にモノになる」

少年「ほ、本当?」

河童「ああん!? 俺が嘘吐くとでも!?」

少年「わ、わーい!」

河童「……チッ!」

座敷「ひひひ……っとそういえば」

少年「?」

座敷「さっき来る時てれびで、今日は星が降る日だとかなんとか言ってたねえ」

少年「流星群?」

座敷「ああそれそれ」

天狗「なんなのだそれは?」

河童「もしかして流れ星か?」

少年「そう。それがたくさん見れる日なんだ」

天狗「???」

座敷「そろそろ時間じゃなかったかねえ、夕方って言ってたし」

少年「どうせだし見てから帰ろうかな」

河童「悪くねえな」

座敷「あ、どうせだしのついでで」

河童「ん?」

座敷「ひひ」

……

 ビュウウウゥゥゥゥ!


座敷「相変わらず速いねえ!」

少年「お、重くないですかあ!?」

天狗「お主ら程度では重いとか分からんのう!」ガハハ!

河童「……」

少年「どうしたの!?」

河童「うるせえ話しかけんな!」

座敷「高いところが苦手なのさ!」

少年「へえ!」

河童「あ! この野郎笑うんじゃねえ!」

山頂


少年「始まったね」

座敷「綺麗だねえ……」

天狗「ぬう、これが流れ星か」

河童「知らなかったのかよ」

少年「……」

少年「……あの」

座敷「うん?」

少年「天狗さんって、その、言っちゃあなんですけど……」

天狗「ふむ?」

河童「言いたいことは分かる。馬鹿だよな」

天狗「いかにも!」

座敷「認められる辺りが唯一持ちえた英知かねえ」

少年「は、はは」

少年「……。ぼくのいた学校では、頭のわるい子はいじめられちゃうんです」

天狗「いじめられる? とはなんだ?」

少年「いるのにいないように扱われたり、暴力を振るわれたり……」

天狗「いるのにいない?」

座敷「それはつらいねえ」

河童「へえ」

少年「河童さんみたいに人当たりが、その、悪くてもそうなります」

河童「え?」

少年「座敷わらしさんみたいにあんまりお節介でも、同じです」

座敷「……」

少年「それで、聞きたいんですけど。妖怪の世界にはいじめってないんですか?」

座敷「……」チラ

河童「……」フルフル

天狗「いるのにいないなどと言う馬鹿は妖怪にはおらんな!」

少年「……そうですか」

座敷「ねえ」

少年「いいなあ、妖怪の世界って」

座敷「え……」

少年「……」

……


 ビュウウウゥゥゥゥ……!


少年「ムニャ……」

座敷「寝ちゃったね」

河童「この強風の中でよく眠れるもんだぜ。支える方の身にもなれよ」

座敷「できるだけ優しく飛んでちょうだいよ」

天狗「あい分かった!」

座敷「妖怪の世界っていいな、か」

河童「……」

座敷「なんかあったね、これは」

河童「俺たちが見えるのもそのせいか?」

座敷「あまりいいことじゃないのかもね」

河童「俺たちと遊んでいることもか?」

座敷「多分」

河童「そっか。……そうかもな」

座敷「やっぱりあの子には人間の友だちが必要だと、あたしは思うねえ」

河童「人間の、友だちか」

天狗「着いたぞお!」

ある日


河童「今日は泳ぎは休みだ!」

少年「え?」

河童「かくれんぼやるぞ、かくれんぼ! 俺が鬼だ、隠れろお!」

少年「ええ?」

河童「いーち、にーい」

少年「あ、え、その」

河童「さんしいごおろく」

少年「わわっ!」ダッ!

 タッタッタ……


河童「……」

河童「さて」

少年「……」

少年(とりあえず草むらの中に隠れてみたけど……)

少年(かくれんぼなんて何年ぶりかなあ)


 ガサガサ……


少年「!」

少年(け、結構ドキドキするっ)

少年(来るな。来ないでよ?)


 ガサガサ!


少年(あ、見つかる!)

「あのー」

少年「ひゃい!?」

少年「だ、誰!?」

少女「あ、その、ごめん」

少年「き、きき、君は?」

少女「えっと。通りすがり?」

少年「……?」

少女「なんかこんな紙が落ちてて」

少年「『助けて』?」

少女「同じようなのが林の外から点々と」

少年「……何それ?」

少女「君が書いたんじゃないの?」

少年「いや、知らない」

物陰


河童「よし、接触したな」

座敷「なんかごそごそやってると思ったら……」

天狗「ふうむ?」

河童「これであいつにも人間の友だちができるぞ」

座敷「あんたも結構単細胞なんだねえ……」

河童「何ぃ!?」

少女「なんでこんな所に?」

少年「あ、えっと、かくれんぼで……」

少女「……一人で?」

少年「そ、それは」

少女「……」

少年「……うう」

少年(逃げ出したい……)

河童「……あれ?」

座敷「はあ……」

天狗「ふうむ」

少女「ふうん」

少年「あの、ぼくはその、これで……」

少女「ちょっと待ってよ」

少年「な、何?」

少女「わたし、今暇してたの」

少年「そ、そう」

少女「かくれんぼ、混ぜてくれない?」

少年「え?」

河童「お!」

座敷「ええ?」

天狗「うむ、うむ」

座敷「……うっそお」

……


少女「はー楽しかった」

少年「ほ、本当?」

少女「うん、かくれんぼなんて久しぶりだったから」

少年「よかったあ……」

少女「わたし、今日はもう帰るね」

少年「あ……さようなら」

少女「またね!」タタッ!

少年「……」

少年(ん? またね?)

河童「ま、ざっとこんなもんか」

座敷「こんなこともあるんだねえ……」

天狗「ぬ? 何か意外か?」

座敷「だって普通に考えたら」

天狗「こうなる以外はなかったと思うが」

河童「だろ!?」

座敷「天狗……あんたってさあ、ときどき妙に勘がいいんだねえ」

次の日 川岸


少年「河童さーん」タッタッタ

少女「それ、わたしのこと?」

少年「あ!」

少女「大人しそうな顔してけっこう毒舌なんだね」クスクス

少年「いや! 君のことじゃ、なくて」

少女「じゃあ誰のこと?」

少年「それは」

少女「……」

少年「……うう」

少女「……ぷっ。ふふ」

少年「?」

少女「今日の最初の鬼は君ね!」タッタッタ……

少年「ええ?」

少女「ちゃんと十数えてねー!」

少年(……)

少年「……クス」

少年「さて。いーち、にーい……」

……


河童「……」ブスッ

座敷「あの子たち、妙に仲良くやってるねえ。毎日飽きもせずかくれんぼにかくれんぼ」

天狗「良きかな!」

河童「チッ」

座敷「……おやあ?」

河童「なんだよっ?」

座敷「あんたもしかして」

天狗「奴と遊べないから不機嫌なのだな」

河童「くっ、ちげーよ!」

座敷「ひひひ!」

夕方


少年「あー、疲れた!」

少女「もうそろそろやめようか」

少年「そうだね」

少女「じゃあわたし、帰るね」

少年「……うん」

少年(毎日遊んでるけど、この子のこと、何にも知らないなあ)

少年(せめて名前くらいは知りたいな……)

少女「あ、そうだ」クル

少年「え、何?」

少女「ちょっと寄るところがあるんだけど、一緒に行かない?」

少年「寄るとこ……?」

少女「来てくれると嬉しいな」

少年「……え?」

少女「なんてね」

少年「……。行く」

山のふもと 小さなほこら


少女「着いたよ」

少年「ここは?」

少女「狐の妖怪を祀ってるって」

少年「狐の妖怪?」

少女「そう。妖狐」

少女「知ってる? 子どもを妖怪の世界にさらっちゃうきれいな女の人の話」

少年「知らない。こんなとこがあることも知らなかったよ」

少女「その女の人はね、人間の世界がいやになっちゃった子が来ると現れるの」

少年「……」

少女「正体は妖狐で、そんな子を妖怪の世界に連れていっちゃうんだって」

少年「妖怪の、世界」

少女「そこは楽しくて、苦しみがなくて、でも生きてるって実感もないの」

少年「……」

少女「もしそんな世界があったら、行きたい?」

少年「……」

少女「……」

少年「分から、ない」

少女「……」

少年「前は行きたかった。絶対に行くんだって思ってた」

少女「今は?」

少年「……分からなくなった」

少女「どうして?」

少年「こっちの世界もいいかな、って」

少女「どうして?」

少年「君と――」

少年(一緒にいたいから)

少年「一緒に遊ぶのが楽しいから」

少女「……そっか」

少年「うん」

少女「よかった」

少年「え?」

少女「だって君、最初に会った時、すごくさびしそうだったもん」

少年「そう……?」

少女「昔のわたしにそっくりでさ。あっち側に行きたがってるんだって、すぐに分かった」

少年「……」

少女「でも、もう大丈夫だね?」

少年「……多分」

少女「多分、か。じゃあ絶対にあっちに行かないように、これあげるよ」

少年「……お守り?」

少女「うん」

少年「でもこれ」

少女「うん。わたしの手作り」

少年「……」

少女「でも、心をこめて作ったよ?」

少年「なんだろう」

少女「え?」

少年「今、よくわかんない感じがした」

少女「やな感じ?」

少年「ううん。逆。とてもいい感じ」

 
少女「……」

少年「……帰ろうか」

少女「うん!」
 

     ・
     ・
     ・
 

 
少女「ごめんね」

少年「え?」
 

少年「え……」

少女「……」

少年「今、なんて?」

少女「……ごめんね」

少年「……」

少年(なんだよ……なんだよそれ)

少年(引っ越すって、なんだよ)

少女「本当は、前から決まってたんだ」

少年「……」

少女「お父さんの仕事の都合で町の方に行くの」

少年「……」

少女「言いだせなくて、ごめん」

少年「なんだよ、それ」

少女「ごめん」

少年「なんだよそれ! なんで言ってくれなかったんだよ!」

少女「ごめん……言いだすのが怖くて、言ったらだめな気がして」

少年「い、言いわけなんかいらないよ!」

少女「っ……」

少年(まさか、まさか)

少年「ぼくにいろいろよくしてくれたのは、どうせすぐに縁が切れるからって……」

少女「ち、ちが」

少年「嘘つくなよ! ぼくを、か、からかって遊んでたんだろ!」

少女「ちがうよ!」

少年「だって毎日遊んでたのに、名前……名前も教えてもらってないじゃないか!」

少女「それは」

少年「やっぱりどうでもよかったんだ……!」

少女「わ、わたしの名前は」

少年「……ッ!」ダッ

少女「待って!」

くぅ~疲れましたw これにて完結です!
実は、ネタレスしたら代行の話を持ちかけられたのが始まりでした
本当は話のネタなかったのですが←
ご厚意を無駄にするわけには行かないので流行りのネタで挑んでみた所存ですw
以下、まどか達のみんなへのメッセジをどぞ

まどか「みんな、見てくれてありがとう
ちょっと腹黒なところも見えちゃったけど・・・気にしないでね!」

さやか「いやーありがと!
私のかわいさは二十分に伝わったかな?」

マミ「見てくれたのは嬉しいけどちょっと恥ずかしいわね・・・」

京子「見てくれありがとな!
正直、作中で言った私の気持ちは本当だよ!」

ほむら「・・・ありがと」ファサ

では、

まどか、さやか、マミ、京子、ほむら、俺「皆さんありがとうございました!」



まどか、さやか、マミ、京子、ほむら「って、なんで俺くんが!?
改めまして、ありがとうございました!」

本当の本当に終わり

……


家 少年の部屋


 ……コンコン

  「大丈夫? ずっと部屋から出てこないけど」

少年「……大丈夫です、おばあちゃん。ほっといて」

  「そう……夕食できてるからね」

少年「うん」

少年(……いらないけど)

少年「……ふん」

少年(ひどいこと、言っちゃった)

少年「ち、ちがうや、あの子が悪いんだ」

少年(名前、ちゃんと聞いておけばよかったな)

少年「そんなことない」

少年(ちゃんと見送りしてあげれば)

少年「そんなのいらない……!」

 ガチャ


「あ、あら、やっと出てきたねえ。ご飯できて」

少年「いらない」

「え?」

少年「ちょっと出かけてくる」

「え、ちょ、ちょっと!」

夜 川岸


少年「……河童さん?」

少年「天狗さん、座敷わらしさん」

少年「みんな、どこにいるの?」

少年「……どこいっちゃったんだよ」

少年「……グス」

……


少年「……」

?「おや、こんなとこでうずくまってたのかい」

少年「……え?」

女「そんな格好じゃ寒いよ」

少年(あれ? ここはどこ? なんで森の中に……)

女「おいで。いいところに案内してあげるよ」

少年(きれいな、人だなあ)

森の中の屋敷


少年(大きい……広い)

女「いいところだろう?」

少年「誰も、いない」

女「ここにいるのはわたしとお前だけだよ」

少年「……」

女「おいしい食事が用意してあるんだ。こっちにおいで」

少年「……」

屋敷 広い部屋


女「ほら、おいしそうだろう?」

少年「……」

女「さあお食べ」

少年「……」

女「食べ終わったら眠るんだ。眠って起きても時間はたっぷりある。そうしたらいい服に着替えて、一緒に遊ぼう?」

少年「あなたは、何者ですか?」

女「……お前の事をよく知る者さ」

少年「ぼくのこと?」

女「つらかったねえ」

少年「え?」

女「お前は優しいけど引っ込み思案な性格のせいで友だちはいなかった」

少年「……」

女「学校ではいつも一人。いじめられても誰も助けてはくれない」

少年「……」

女「先生にも見捨てられて、母親も忙しくて気づいてはくれなくて」

少年「……」

女「でも、そんなお前にもやっと友だちができたんだ」

女「話しかけられて嬉しかっただろう? 一緒にいてくれてほっとしただろう?」

少年「……」

女「でも」

少年「っ……」

女「そいつもお前を裏切った」

少年「ッ……!」

 
『あいつ? いや、なんとなくいっしょにいるだけだよ』

『あいつと友だち? 馬鹿言うなよ、かわいそうだから仕方なく一緒にいてやってるだけだよ』

『あんな暗い奴と友だちになりたがる奴なんていねえよお』
 

女「つらかったねえ……」

少年「……」

女「でも、もう大丈夫だ。わたしと一緒にいれば、つらい思いはしなくてすむ」

少年「あなたは、妖狐ですね」

女「……」

少年「現実から逃げてきた子どもを連れていく、妖狐ですね」

女「……」

妖狐「そうだ」

少年「ここは、妖怪の世界」

妖狐「楽しく、苦しみがなく、しかし生きる実感のない場所」

妖狐「生きる実感がない? そりゃそうさ。ここでは人間の時間は流れていないのだから」

少年「人間の時間?」

妖狐「そうさ。それを失う代わりに、もう傷つかなくてもいい」

少年「……」

妖狐「どうだい? 悪い話じゃないだろう?」

少年「……」

少年「あっちの世界じゃ、いいことなんてなかった」

妖狐「……ふふ」

少年「学校から逃げて、その先で手に入れたと思ったものも、にせものだった」

妖狐「ふふふふ」

少年「河童さんも天狗さんも座敷さんも、あの子も。ぼくの前からいなくなってしまった」

妖狐「そう。その通りだよ」

少年「ぼくにはもう何も残ってない」

妖狐「そうだ、お前は空っぽだ」

妖狐「おいで。わたしが抱きしめてあげよう」

少年「……」

妖狐「どうした? 迷っているのかい?」

少年「……ぐ」

妖狐「じゃあわたしがお前のところに行こう」

少年「あ……あなたは」

妖狐「ん?」

少年「あなたは、泳いで死にそうになったことがありますか?」

妖狐「どういう意味だい?」

少年「死にそうになるまで頑張ったことがありますか?」

妖狐「……」

少年「ぼくはある」

少年「あっちの世界で、河童さんが教えてくれました。天狗さんや座敷わらしさんと一緒に教えてくれました」

妖狐「……」

少年「あなたは、誰かを好きになったことがありますか?」

妖狐「……」

少年「心の中があったかくてあったかくて、どうしようもなくなったことはありますか?」

妖狐「……」

少年「ぼくはある。あの子が、教えてくれたから」

妖狐「教えてくれた者たちはみな、お前の前から去っていったよ?」

少年「そうだ。確かにそうだ……」

妖狐「ほら見ろ。お前は一人だ。お前を愛せるのはわたしだけだ」

少年「そう……いやちがう」

妖狐「……」

少年「たしかにいなくなってしまった。でも」

妖狐「……」

少年「それでも、一緒にいたんだ。少し前までは一緒だったんだ」

妖狐「過去にすがりつくのかい?」

少年「ちがう……と思う。ぼくが望めばもっと一緒にいれる。そんな気がする」

妖狐「お前は……」

少年「それならぼくは……ぼくは生きていたい」

 
 ――カッ!


妖狐「ぬ!」

少年(……お守りが、光って――)


 ピカッ! ――ドサドサァ!


河童「いつつ……」

座敷「うう……」

天狗「がーはっはっはっは!」

少年「あ……あ……」

河童「お、坊主か……久しぶりだな」

座敷「だ、大丈夫かい!? 怪我はない!?」

天狗「うむ、今日も快調である!」

少年「みんな!」

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