魔王の卵から産まれた幼女の物語(35)

1000年ほど昔の事。

伝説の魔王と伝説の勇者が、地上の覇権をかけて戦った。


伝説の勇者「俺のすべてをこの槍にかける」

伝説の魔王「はじき返してくれるわ」

伝説の勇者「つらぬけー!」

ズン!

伝説の勇者「勝った。勝ったぞー」

…………………………
………………
……

……そして1000年後。つまり現在……

──とある農村──

幼女「ねこさーん。あそぼー」

白猫「にゃー」

黒猫「にゃー」

虎猫「にゃおー」

幼女「ねこねこ。にゃーにゃー」

猫ズ「にゃー」「にゃー」「にゃお」「にゃおー」

中年「こら幼女。にゃーにゃーウルセェぞ」

幼女「にゃー。おにーちゃん」

中年「水汲み済んだか?」

幼女「おわったにゃー」

白猫「にゃおー」

中年「そうかい。ごくろうさん」

幼女「にゃー」

中年「今日は猫語か」

幼女「にゃーにゃー」

中年「それじゃあ、朝飯にするか」

幼女「にゃー」

黒猫「にゃおー」

中年「こら。返事は『にゃー』じゃねぇぞ。『はい』だ」

幼女「はーい」

虎猫「にゃー」

幼女「ねこ。へんじは『はい』だよー」

白猫「にゃ?」

中年「ハハッ、バカ野郎。猫は『にゃー』でいいんだよ」

黒猫「にゃー」

幼女「にゃー」

中年「おい。テメェは猫じゃねぇだろうが」

幼女「そうなの?」

中年「……そうだ。テメェはニンゲンサマだ。『はい』でいいんだよ」

幼女「はーい」

中年「よーし。やりゃぁ出来るじゃねぇか」なでなで

幼女「にゃー」

中年「……おいおい。また猫語かよ」

虎猫「にゃー」

中年「ほら。馬鹿やってるとスープが冷める。母ちゃんにお尻ぺんぺんされるぞ」

幼女「はーい」

猫ズ「にゃー」「にゃー」「にゃお」「にゃー」

中年「ただいま。母ちゃん」

幼女「ただいま。おかーさん」

老婆「はいよ。また猫と遊んでたね?」

幼女「にゃー」

中年「……だそうで」

老婆「はいはい。準備はとっくに出来てるよ。冷める前に食べな」

中年「へいへい。いただきます……」

幼女「いただきます」

老婆「……ふぅ」

猫ズ「にゃー」「にゃおー」「にゃー」「にゃおー」

中年「そうそう。外に幼女のお友達がなぁ……」

老婆「分かってるよ。アンタの昼飯食わせとく」

中年「おい。母ちゃん……」

老婆「冗談だよ。今日はね」

中年「……明日はマジじゃねぇだろうな?」

幼女「…………」もぐもぐ ぱくぱく

中年「よく噛んで食えよ」

幼女「ふぁい」もぐもぐ あむあむ

老婆「ほら。アンタらの分だよ」

猫ズ「にゃー」「にゃお」「にゃー」「にゃおー」

老婆「さてと。それじゃぁ、アタシも食べようかね……」

???「ワイワイ」「ガヤガヤ」「ワイワイ」「ガヤガヤ」……

中年「んっ?」(外が騒がしい……)

幼女「おにーひゃん。はれはひはほ(おにーちゃん。だれかきたよ)」もごもご

中年「こら。食いながら喋んな」

幼女「ふぁーい」あむあむ ごっくん

老婆「……村長達だね」

中年「…………」(何かあったか?)

猫ズ「にゃー」「にゃお」「にゃー」「にゃおー」

老婆「こら猫。ちょっと静かにしてな」コツン…

猫ズ「にゃ?」「にゃー」「ニャー…」「……」

村長「おはよう婆さん。朝からスマンねぇ」

老婆「あぁ。おはよう村長さん」

農夫「婆ちゃん。ちょっと頼むよ」

老婆「何をだよ?」

幼女「おはよーございます」

村長「やぁ幼女ちゃん。おはよう」

農夫「おはよう。幼女ちゃん」なでなで

幼女「えへへっ」

中年「……どうも。村長さん。農夫」

村長「あぁ。おはよう」

農夫「オッス」

老婆「それで、用事は何だい?」

村長「うむ。ちょと、幼女ちゃんを貸してほしい」

幼女「わたし?」

農夫「あぁ。あと、ついでに中年も」

中年「…………」(ついでって何だよ……)

老婆「言ってごらん。何があったんだい?」

村長「……熊が出たんだよ」

中年「熊?」

幼女「くまくま。がおー?」

農夫「そう。ガオーの熊さん」

老婆「ちょっと、アンタら……」

村長「うむ……。スマン……」

中年「おい。まさか……」

農夫「えーとな。幼女ちゃんに、熊退治をだなぁ……」

中年「……それ。マジで言ってんのか?」

農夫「マジだよ。少ないど、礼はちゃんとするぜ」

中年「テメェ。ふざけんなよコノヤロー! 人の妹を何だと思ってやがる!」

村長「まぁまぁ。中年くん……」

中年「村長! いくらアンタが偉くてもなぁ」

老婆「中年。ちょっと落ちつきな」ぐいっ

中年「あっ、あぁ……」

幼女「おにーちゃん?」

村長「…………」

農夫「ダメか?」

中年「ダメだよ」

老婆「…………」

村長「中年くん……」

老婆「…………」

村長「しかしなぁ中年くん。里に降りてきた熊を放ってはおけんだろう?」

中年「だからって幼女に熊退治はねぇだろ。他に誰かいねぇのかよ」

農夫「あぁ。こっちもな、誉められた事じゃねえってのは分かってんだが……」

中年「だったらよぉ……」

村長「だが、この村で一番強いのは、間違いなく幼女ちゃんだ」

中年「……っ」(確かに、そうかも知れねぇけど……)

幼女「つおいー」

村長「幼女ちゃんならば、確実に熊に勝てるだろう」

中年「だがなぁ。万一って事が……」

村長「無いよ」

中年「…………」(この糞オヤジ……)

老婆「あぁ。無いだろうね」

中年「おふくろぉ……」

老婆「……この村の男達には、キンタマなんざついて無いんだよ」

村長「……むぅ?」

中年「おふくろ?」

幼女「きんたまないの?」

老婆「あぁ。どうせ股ぐらの貧相な袋にゃ、腐ったウズラの卵でも詰めてるんだよ」

幼女「うずらのたまごー」

中年「…………」

農夫「……婆ちゃん」(ひでぇよ)

村長「…………」(言うねぇ。相変わらず……)

老婆「幼女。よく見ておきな。これが玉無しってやつらの顔さ」

幼女「たまなしー」

村長「…………」

老婆「こんな顔の男の家に嫁に行ったら、間違いなく不幸になる。覚えておきな」

幼女「はーい」

農夫「幼女ちゃん……」

老婆「さてと。幼女……」

幼女「なぁに? おかーさん」

老婆「アンタ。この玉無し達の代わりに、ちょっと熊さんと遊んでやりな」

中年「おい! おふくろ」

村長「おぉ。やってくれるか……」

農夫「助かったよ……」

中年「…………」

老婆「中年。アンタも行っておいで。まだキンタマ持ってるならね」

中年「……ふぅ」(しょうがねぇなぁ……)

老婆「後の二人。どうするんだい? このままじゃ、本物の玉無しだよ」

村長「わっ、悪いが、私はもう年寄りだ。戦力にはならん……」

老婆「幼女に熊狩りを頼んだ男の台詞じゃないねぇ」

村長「……スマン。スマンとしか言えん……」

中年「…………」(村長の玉無しが確定……)

老婆「アンタはどうなんだい? 農夫」

農夫「おっ、俺も、もう若くはないしさ……」

中年「テメェは俺より年下だろうが」

農夫「ごめん。マジでごめん。熊はムリよ……」

中年「……さよか」(まぁ。コイツは昔からこうだったしな……)

老婆「ハァ。やっぱりねぇ……」

村長「本当にスマンねぇ。幼女ちゃん。中年くん……」

老婆「じゃぁ、玉無しの二匹は置いといて、アンタ達二人で行ってきな」

幼女「くまくまー。おすもー」

老婆「そうだよ幼女。軽く相撲の相手でもしてやんな。それで十分だ」

幼女「はーい」

老婆「中年。アンタは、熊さんの昼飯にされない程度に頑張りな」

中年「へいへい。頑張りやすよ……」

…………………………
………………
……

……数年前の事……


どんぶらこ、どんぶらこ。

どんぶらこ、どんぶらこ。


川で洗濯をしていた老婆が、流れてきた大きな卵を拾った。

禍々しい模様の卵だった。

齢八十に近い老婆でさえ、今まで見たこともない卵だった。

そして、卵から産まれたのは赤ん坊。

とても可愛らしい赤ん坊。

おそらくこの子は運が良かった。

産まれるのが半日ほど早ければ、おそらく川で溺死していた。

産まれるのが半日ほど遅ければ、おそらく卵は茹でられていた。

だからこの子は運が良かった。

そして、この子は幸せだった。


どんぶらこ、どんぶらこ。

どんぶらこ、どんぶらこ。


月日が流れ、今となり、

卵から産まれた赤ん坊は、立派な幼女になっていた。

熊よりも相撲が強いと、評判の幼女に……

…………………………
………………
……

1000年ほど昔の事。

伝説の魔王と伝説の勇者が、地上の覇権をかけて戦った。


伝説の勇者「俺のすべてをこの槍にかける」

伝説の魔王「はじき返してくれるわ」

伝説の勇者「つらぬけー!」

ズン!

伝説の勇者「勝った。勝ったぞー」

…………………………
………………
……

勇者が勝った。魔王は死んだ。

そして世界は救われた。

全てはこれで終わったのだ。

この時は誰もがそう思った。


……しかし、新しい物語はここから始まった……


この時。魔王は一つの卵を遺していたのだ。

己の能力のほぼ全てを詰め込んだ恐るべき卵。

次期魔王となるべき才能を秘めた卵を……

『我が子よ。いつの日か母の無念を……』


……これが、伝説の魔王の最後の言葉……


だが、幸か不幸か残念ながら、

伝説の魔王の遺言を聞いていた者は、誰一人いなかった。

卵生の悲しさとでも言うべきか、

魔王が希望を託した最愛の我が子は、

まだ卵の中でスヤスヤと眠っていたのだ。

そして卵は眠り続けた。

この後、約1000年近くのも間……

…………………………
………………
……

おやすみなさい

もう寝るのか?

1000年ほど…

>>21 えんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ

支援

──とある城──

大臣「国王様」

国王「うむ」

大臣「神官からの手紙が……」

国王「読め」

大臣「はい……」パサッ ペラッ…

国王「…………」

大臣「……前略……国王様……麗らかなる春の……」

国王「……要点だけ教えよ……」

大臣「はい。しばらくお待ちを……」

国王「うむ……」

大臣「…………? …………? …………」

国王「 うむ? どうした。大臣よ……」

大臣「はい。国王様……」

国王「神官は、何と書いておる?」

大臣「はい。魔王が復活したとか何とか……」

国王「……冗談を……」

大臣「いえ。確かにそう書いてあります……」

国王「……ふむ」

大臣「…………」

国王「…………」

大臣「神官は、冗談などを言う男ではありませんが……」

国王「うむ。だが魔王だぞ? そんなお伽噺……」

大臣「国王様。神話をお伽噺にしてしまっては、国王様の権力の正統性が……」

国王「うむ?」

大臣「国王様は建前として、伝説の勇者の子孫ですし……」

王様「どうせ誰も信じておるまい。ワシが勇者の末裔に見えるか?」

大臣「いえ。見えません」

王様「…………」

大臣「……失礼しました」

国王「……うむ。まあよい」

大臣「しかし、一部の田舎の者や聖職者達は、わりと本気で信じております」

国王「あの子供だましの神話をか?」

大臣「はい。故に、この神官の報告は無視できません」

国王「やれやれ……」

大臣「…………」

国王「して、その魔王復活の根拠は何だと?」

大臣「占いです」

国王「…………」

大臣「占いです。国王様」

国王「うむ。そうか……」

大臣「はい」

国王「あの神官。歳はいくつだった?」

大臣「確か、還暦を少し過ぎたあたりだったと……」

国王「ボケるには、まだ少し早いな」

大臣「はい。特に奇行の噂もありませんし、そこそこ有能な男です」

国王「めんどくさい……」

大臣「聖職者とは、概ねそういう生き物かと……」

国王「ふむ……」

大臣「…………」

国王「分かった。お主に任せる。適当に頼む」

大臣「適当で宜しいのですか?」

国王「どうせ与太話だ」

大臣「……はい」

国王「会って話でも聞いてやってくれ。一応、神官の顔も立ててやれ」

大臣「はい。分かりました」

…………………………
………………

──数日後──

国王「おぉ勇者よ。よく来たな」

勇者「おい。オヤジ……」

王女「お父様。これは何の冗談ですの?」

国王「うむ。ワシもよく分からん。大臣に聞け」

勇者「あのなぁ……」

大臣「申し訳ありません。王子様……」

王女「大臣。どうして、お兄様が勇者なのですか?」

大臣「はい。王子様は、伝説の勇者の末裔であらせられますから」

王女「それは分かりますけど……」

勇者「今時はガキでも信じてねえぞ。そんなお伽噺」

王女「えっ?」

国王「お前はピュアだな。王女」

王女「お父様?」

大臣「…………」

勇者「とにかく、わけがわからん」

国王「文句は神官に言ってやれ」

勇者「神官?」

大臣「……はい。全ては一人の老いた神官の予言から始まったのです……」

勇者「無理にシリアス決めてんじゃねぇよ年増」

大臣「…………」

王女「……あの。予言とは?」

大臣「はい。伝説の魔王の復活です」

王女「まっ!? 魔王ですって!!」

勇者「あ? 魔王? 何だよ、その与太」

国王「文句は神官に言ってやれ」

大臣「……はい。全ては一人の老いた神官の予言から始まったのです……」

勇者「二度もいらねぇよ。要は爺さんの寝言につき合えって事かよ?」

大臣「当たらずと言えども、遠からずです……」

勇者「あのなぁ……」

国王「まぁ、そう言うことだ。勇者」

勇者「……勇者って呼ぶなよ」

王女「あの、お兄様。色々と、よく分からないのですが……」

勇者「あぁ。後でまとめて説明してやる」

王女「ありがとうございます。お兄様」

大臣「それでは、国王様……」

国王「うむ」

勇者「ん?」

国王「では、勇者にこの剣を与える。見事、魔王を討ち取ってみせよ」

勇者「……おう。くれるなら貰う」

国王「うむ」

勇者「…………おい。糞オヤジ」

国王「……糞はいらん」

勇者「これ、ただの銅の剣じゃね?」

国王「確かにそうだが。何か?」

勇者「これで魔王を倒せってか? 確か勇者の武器は伝説の槍だろ?」

国王「問題ない。どうせおらんだろう。魔王など」

大臣「はい。おそらく」

勇者「確かにな……」

王女「?」

国王「しばらく領内を適当に放浪してこい」

勇者「めんどくせぇ」

国王「武者修行みたいなものだ。経験は無駄にならんと思うぞ」

勇者「武者修行ねぇ」

国王「熊か狼でも倒せば十分だ。後で噂に尾ひれをつけてやろう」

勇者「熊とか狼って、けっこう強いんじゃね? よく知らんけど」

国王「モンスターよりは弱いんじゃないのか? ワシもよく知らんが」

大臣「それでは王子様。御武運をお祈りしております」

王女「お兄様……」

勇者「はぁ……。拒否権はなしかよ?」

国王「うむ。これは国王としての命令だ」

勇者「オヤジ。あんまりワガママやってると、いつかクーデターが起きるぞ」

国王「お前が言うな。洒落にならん」

勇者「へいへい……」

王女「…………」

国王「あぁ、勇者よ。分かってるとは思うが……」

勇者「何だよ?」

国王「気をつけろよ。たぶん死んだら生き返らないぞ。お伽噺じゃないからな」

勇者「分かってるよ。それくらい」

王女「えっ!? そうなんですか?」

勇者「おいおい。王女……」

国王「ピュアだな。王女よ」

大臣「ですね」

…………………………
………………
……

──とある教会──

ここに、一人の老神官がいた。


神官「魔王は復活しておる……」


神官の占いは当たっている。

魔王は確かに目覚めている。


神官「このままでは、この国が魔王の物になるかも知れぬ……」


神官の予想は外れてはいない。

この国は、いずれ魔王の物になるかも知れない。


神官「勇者よ。世界を救ってくれ……」


だが、神官は知らなかった。

復活した魔王が……


……ぶっちゃけ人畜無害な存在であると言う事までは……

おやすみなさい

見てるよ

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