駅員『ラストバトル……ねぇ』(15)

この茶番の登場人物

勇者……神に選ばれ世界を救う旅に出た勇者。という設定を持つ高校生。

魔王……暗黒の門よりこの世を征服しに現れた魔族の長。勇者の妹を妻に迎え入れようとしている。という設定を持つ高校生。

妹……勇者の妹。膨大な魔力を秘めたカードを身に宿す。現実には存在しない。

改札……駅の改札。市街地に設置されているため磁気カードに対応している。

ナレーション……良く通るテノールボイス。

ナレーション「突如現れた魔族により世界は暗黒に包まれようとしていた。

       しかし神に選ばれた光の加護を纏いし勇者は各地の魔族を次々に破り、ついには激しい攻防の末に魔王までをも追いつめた。

       あと一撃で勝負が決まると思われたが、魔王が勇者の妹を人質にとり形勢は逆転してしまった……」

妹「うう……」

勇者「くそう、魔王卑怯なり! 一刻も早く我が妹を解放しろ!」

魔王「ふはははは。愛する妹が捕らわれ手も足も出ないか」

勇者「待っていろ妹よ。すぐにこの兄が助けてやるぞ!」

魔王「無慈悲にも我が同族を殺しつくした勇者の貴様がたじろぎ戸惑い激昂する姿、我はそれを見たかった!

   勇者の妹よ光栄に思え。暗黒の門(エターナル・ゲート)よりお前を連れ帰り、我が妻としてやろう」

妹「嫌……」

勇者「そんなことは俺がさせるものか!

   それに、俺との死合によって貴様は消耗しきっておろう。今の貴様に門(ゲート)は開けられない!」

魔王「やはり勇者。浅はかよのう」スッ

勇者「なにい」

改札『ぴよ、ぴよ』

勇者「我が妹が秘めし魔札で暗黒の門(エターナル・ゲート)をこじ開けただと! 魔王め、やはり悪知恵が働く!」

魔王「本来ならば一人分しか通さないところを無理矢理二人通った。「!」どういう意味か、分かるだろう?」ニヤァ

魔王    「行くぞ小娘。我の居城で式を挙げよう」

勇者    「ま、待て!」バシッ!

改札    『ばたん。ピンポーン。もう一度、タッチしてください』

勇者    「だめだ、門が開かない! ええい、俺を通せ!」バシッ
改札    『ピンポーン。もう一度、タッチしてください』

勇者    「俺を妹の所へ通してくれ!」バシッ!
改札    『ピンポーン。もう一度、タッチしてください』

魔王    「はぁーっはっはっはっは! 愉快、実に愉快!」

勇者    「なぜだっ。何故開かないんだぁーっ!」

勇者「すまない妹よ。俺にはもうお前を助けることができな……」


ナレーション「回想始め」


妹『お、おにーい、ちゃん』

勇者『なんだ妹よ。旅立つ兄の見送りにでも来たか』

妹『ち違うもん! お使いのついでにちょっと通りすがっただけだもん!』

妹『~~~~っ!』

勇者『……………』

勇者『ははは、お前は可愛いやつだなあ』

妹『なっ何を』

勇者『ありがとう。最後にお前の顔が見れて良かった』

妹『…………でよ』

勇者『む?』

妹『最後だなんて、言わないでよ!』
妹『馬鹿っ、馬鹿ばかばかばか!』

妹『帰ってきてよ……絶対帰ってきてよ』

勇者『――ああ約束する。絶対帰ってきて、お前とまた一緒に暮らす。約束だ!』

妹『これ、私が作った手袋。持って行って。私の魔力、込めておいたから』

勇者『ありがとう。でも汚したくないな。嬉しすぎて、使えないや』

妹『もう、そんなこと言って、いざという時使わなかったら承知しないから!』


ナレーション「回想終わり」


たくや「お前回想の時間長くね?」

勇者「――そうだ、手袋だ!」

魔王「!? ごほん。……どうした勇者よ。絶望のあまり気狂いでも患ったか?」

勇者「妹よ、ありがとう」スッ

魔王「なんだその手袋は(pumaかよ……)。――これは一体どうしたというのだ。奴の右手に強大な魔力を感じる……!」

勇者「愛すべき我が妹よ! お前を魔王の元になぞ行かせるものか!」

ナレーション「勇者は右手をかざした」

改札『ピッ。ぱたっ』

魔王「暗黒の門(エターナル・ゲート)が開いただと!」

勇者「魔王! 妹を返せええええ!」

魔王「いいだろう、最後の戦いと行こうではないか!」

勇者「うおおおおお」

魔王「はあああああ」


駅員「はい、やめー。他のお客さんの迷惑。さ、事務所行こうか」

勇者「……」

魔王「……」

ナレーション「勇者と魔王は逃げ出した」

改札『ばたん。ピンポーン。もう一度、タッチしてください』

ゆうと「んなぁっ!」

たくや「貴様は馬鹿か! 早く行け!」

駅員「お前もだばーか」

あ、おわりです

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