魔界の勇者「今日で16万歳…旅立ち、か」(61)

魔王「勇者よ。そなたもやっと16万歳だな」

勇者「はい、これでやっと旅に出れます」

魔王「おお、さすが勇者。先が楽しみだな」ニコニコ

魔王「人間界には我々が憎んでいる二つの存在がいる」

勇者「人間界の勇者と・・・星読軍師(ほしよみのぐんし)ですね」

魔王「ああ、純粋な戦闘力でいえば勇者が圧倒的に強い。わが軍も大量に殺されている」クッ

勇者(魔王様・・・民の死を哀しんでおられる)

魔王「だが、我々が魔界から出ることも叶わず、むしろ年々土地を追いやられているのは、全てあの星読軍師のせいだ」ニクィ・・・

勇者「私の使命は・・・二人の抹殺」

魔王「そうだ。だが、それだけではない。旅をして各地の虐げられている魔物を助けるんだ」セツジツ

勇者「それでは・・・」

魔王「ああ・・・分かっている・・・だが、わしにはもう耐えられん・・・」クッ

勇者(魔族の始祖である魔王様にとって全ての民が子供同然・・・くっ、人間め)

魔王「頼む勇者・・・頼む・・・」

勇者「・・・・いってまいります」タッ

勇者「さて、まずは仲間を集めなければ・・・」

勇者(勇者とはいえ、まだ16万歳・・・仲間になってくれる奴はいるのか?)テクテクテク

魔族の王子「おや、勇者じゃないか」

勇者「・・・王子、殿」

勇者(魔王様が初めてお創りになった魔族・・・だが、最近魔王様との不仲が噂に・・・)

王子「お前、仲間が欲しいんだろ? 俺が紹介してやろうか?」

勇者「いえ・・・、王子殿の知り合いは皆魔界の重鎮なので、とてもお願いなど・・・」

王子「はっはっは! 分かってるじゃねぇか!!」ニマァ

勇者「・・・はい、失礼します」ペコリ

王子「ちっ、からかいがいの無い奴だ」ペッ

勇者(くそっ、お前が本気を出せば歴史は変わっていたんだっ!!)

勇者「今は一人で行こう・・・。まずは自分を鍛えなくては・・・」グッ

勇者(たかだか魔界の16万年。力も技も精神もまだまだ弱い・・・)

勇者「まずは、近くの祠から見てみよう」


―――祠入口。

勇者「ここはまだまだ瘴気で溢れている」

勇者(だが、地面にはいくつも人間の足跡が・・・)サワ

旅人「いやぁ、ここもあんま良い物なかったなぁ」

魔法使い「そりゃそうでしょ。魔王に近づけば危険度が高くなるなんてゲームの中だけよ。安全なところにいるのは“金持ち”か“弱者”だけよ」

僧侶「そうですよ“勇者様”。これからは祠に行くのは我慢して、いち早く魔王を倒しましょう」

勇者「・・・あ」

旅人(人間界の勇者)「・・・え」

勇者(どうするどうするどうする!?)

旅人「・・・・・・」チャキッ

勇者「・・・・くっ」

魔法使い「僧侶、サポートお願い」

僧侶「はい!」

勇者(今の俺で勝てるのか・・・)クッ

旅人「てりゃぁあああああ!」バッ

勇者「くっ・・・って、え?」

ドラゴン「ぐぉおおおおおお!」

勇者(どらごぉおおおおおおん!!!)

旅人「いやぁ、危なかったなぁ。大丈夫か?」フゥ

魔法使い「ほんと、たった一人で魔界を旅するなんて危険すぎるわよ」

勇者(俺の親友・・・俺の・・・幼馴染・・・俺の・・・初恋相手・・・)

ドラゴン♀「」

旅人「ほんと、この辺の奴らは弱いけど、戦ったことないから凶暴性がやたら高いんだよな。でもよかったな助かって」ニコニコ

勇者「・・・・・・」プルプル

僧侶「震えているじゃないですか。大丈夫ですか?」スッ

勇者「・・・!?」ビクッ

勇者(人間の・・・気持ち悪いくらい温かい手・・・)

僧侶「・・・?」

僧侶(冷たい?)

魔法使い「僧侶ったら振られてやんのー」アハハ

勇者(一見のんびりしたパーティだが・・・圧倒的に強い!!)ガクガクブルブル

勇者「ま、魔王を・・・倒しに行くのですか?」

旅人「ん? ・・・ああ、いや、行かないよ」

勇者(・・・・・・ほっ)

魔法使い「星読様がまだ早いって」ニコニコ

僧侶「勇者様は少しでも早く世界を平和にしたいんですよね」ニコニコ

旅人「ああ、だが、星読様が言っていることは絶対だ。俺はその時を待つ」グッ

勇者(・・・・・くっ、キラキラしやがって・・・)グゥ・・・

旅人「今から国へ帰るところなんだが、送ってやろうか?」

勇者「・・・え?」

魔法使い「あなた、見た目は色黒だけど、見た目からしたら私達と同じ民族っぽいもんね。一緒に帰ろうよ」

勇者「・・・・・・っ」ギリッ

勇者(僕の気にしていることを・・・)

勇者「・・・いえ、いいです」ヤンワリ

旅人「そうか? じゃな」イドウジュモン!

勇者「・・・あれが・・・人間界の勇者」ボーゼン

勇者(今の僕じゃ到底太刀打ちできない・・・)

ドラゴン「う、うぅ・・・」

勇者「・・・!! ドラゴン! ドラゴン!!」バッ

ドラゴン「・・・・・・う、うう・・・」パァアアアア

勇者(まずい、竜と人間のハーフであるドラゴンの竜の部分が死んでいく)

竜娘「・・・・・・」シュゥゥゥ

勇者「ああ、ドラゴン・・・」ナミダ

竜娘「・・・勇者・・・私・・・ああ、そっか・・・死んじゃったんだ」

勇者「違うよ。違う。“生まれ変わったんだ”」

竜娘「・・・魔王様、私が人間になったの知ったら、怒るかなぁ・・・」

勇者「絶対哀しむ。哀しんで、助けてくれる」

竜娘「知ってるでしょ。竜の一族は魔王様の一族とは異なる種族。お互い干渉はできない」

勇者「ああ、知っている。だけど、方法は知っているはずだ」ガバッ

竜娘「きゃぁ!」

勇者「今すぐ行こう。魔王様の元へ」ダッ

――――魔王の城。

王子「おや、勇者じゃないか。もう戻ってきたのか?」

勇者(・・・くっ、一番会いたくない奴に・・・)

王子「おやおやぁ、それは下種ドラゴンの“残りカス”じゃねぇか」ニヤニヤ

竜娘「・・・・」ギュッ

勇者「・・・っ。すみません・・・失礼します」

王子「おいおい、さっきといい勝手に動いてんじゃねぇよ」バッ

勇者「ぐぅううううう!!」ジュウリョクッ

竜娘「きゃぁぁぁぁぁああ!」

王子「あ、しまった。魔族用に強めの力使ってしまった。こいつ骨が折れてるかもな」グイッ

勇者「・・・や、やめてください・・・」

王子「・・・あ? 何訳わかんねーこと言ってんの?」ガスッ

竜娘「ぐぅっ!!」バキッ

勇者(動けっ! 動けよ!!)

王子「・・・つまんねー奴らだなぁ。さっきも人間界の勇者を前に何もしなかったし」ニヤニヤ

勇者「!? ・・・見てたのですか」

王子「ああ、もちろん。だが、優しい俺はお前の仕事をとったりはしないぜぇ」ニマァ

勇者(あんたが動いていれば、勇者を倒せたし、ドラゴンが死ぬこともなかった!!!)グッグググ

王子「お? がんばるねぇ。だけど・・・」クィ

勇者「ぐ、ぐぅうううううう!」バタリ

王子「魔界にいる限り俺に逆らえるのは魔王か竜王だけだっつーの」ギャハハ

勇者「・・・・・ちきしょう」

王子「・・・・・・・・・・・そうだ」

王子「お前、こいつ連れて勇者討伐の旅に出ろよ」

勇者「・・・え?」

王子「人間界の中心にある世界樹の樹あれの葉っぱならこいつを元に戻せるだろ」

勇者(確かに・・・しかし、あそこは人間界でも最も戦力を集めている要塞。魔族の中でもあそこへ行って帰ってきたのは・・・)ゾクリッ

王子「“仲間のために血を流す”」

勇者「・・・・・!!」ビクッ

王子「それがお前のソンケーしてる魔王の口癖だろ」ニマァ

勇者「・・・・・・くっ・・」

王子「まぁ、そんな睨むなって。その勇気に免じて“俺に噛みついた”ことは許してやる」ギャハハハハ

竜娘「・・・・・勇者」

勇者「・・・・・・くそっ」

――――魔界の祠。

竜娘「本当に行くの? 死んじゃうかもしれないよ?」

勇者「僕はキミを助けるためなら“どれだけ血を流してもかまわない”」キリッ

竜娘「勇者・・・」ポーッ

勇者「・・・そういえば、勇者って名前は人間界なら大丈夫だろうけど、ドラゴンって呼ぶ訳にはいかないね」

竜娘「“りゅうこ”でいいよ」

勇者「竜娘?」

竜娘「人間のお母さんがね・・・付けてくれたんだ」

勇者(ずいぶんネーミングセンスのない人間だな)

竜娘「だから、人間界では竜娘って呼んでね」ニコリッ

勇者「・・・!! あ、ああ!」カァア

勇者(今の気持ちは・・・なんだ)ドキドキ

竜娘「さ、いこっ!」

―――旅立ちの村。街道。

勇者「ここが・・・人間界」

竜娘「一応、魔界との距離が離れた場所に設定したから、比較的穏やかだね」

スライム「人間かと思ったら、魔族か。珍しい」キュピィ!

勇者「スライム殿。この辺の情勢を知りたい」

スライム「ああ、その態度は非常に好感を持てるな。教えてやろう」

竜娘(・・・16万歳の勇者がたかだか1年生きたかどうかのスライムに頭を下げてる・・・)

スライム「この辺りはな旅人の故郷で、非常に平和な地域だ。人々も我々に対して敵対意識をもっておらず、危険なのは好奇心旺盛な子供くらいだ」

勇者「そうですか・・・では、この辺りを統べる魔族の名は!?」

スライム「・・・・・・おおにわとりだ」

勇者「おお・・・にわとり・・ですか?」

スライム「ああ、そうだ」

竜娘(それって、体格のでかいにわとりじゃない。魔族と一緒にしないでよ)

勇者「そうですか・・・分かりました。そのおおにわとりさんに面会させてください!」フカブカッ

スライム・竜娘((え、ええええ!?))ビクッ

――――鳥小屋。

おおにわとり「クケーコッコッコ!! クケー!!!」

勇者「確かに・・・でかい・・・にわとりだ」

おおにわとり「クケー!! クケー!!」

竜娘「美味しそう」ジュルリ

スライム「お、おい! 我らがボスになんてことを!!」

村人「おやまぁ、若いお人らがこんなところで何しとるんじゃ?」

勇者「あ、はい。ここらに大きな鶏がいると聞いて」ニコッ

村人「そうかそうか! こいつは確かにでかい! わしの○○○なんかこいつに比べたらトサカみたいなもんじゃ!」ハハハ

竜娘「・・・・」/////

勇者(これが人間の・・・精神的攻撃)ギリッ

スライム(なんだこいつら・・・)アキレ

村人「おんやぁ、スライムがついてきてるでねぇか。そかそか、ほんだらこいつも放そうかな」ガチャ

スライム(な に ?)ゾクリッ

勇者「どうしたスライム殿?」

スライム「お前ら・・・危険だ。逃げろ」ガクガク

おおにわとり「・・・・・・・・・」ギロリ

スライム「ぎゃぁああぁぁあ! 助けてください!!!」キュッピィイイイ!!

おおにわとり「クケークケーコッコッコ!!!!」バサバサッ

勇者「スライム殿が・・・」

竜娘「放っておきましょう・・・」

村人「そういえば・・・おんしら見たところ剣を使えるようじゃの」

勇者「はぁ・・・まぁ」

村人「頼むっ! この村にはずれにいる盗賊を殺してくれっ!!」

勇者「盗賊・・・って人間か?」

村人「ああ、だが心は人間じゃねぇ。わしらの食い物を片っ端から盗んでいくんじゃ!」ニクニクシイ

勇者「ひとつだけ約束してくれ」

村人「なんじゃ?」

勇者「僕らは慈善事業で旅をしている訳じゃない。だから、そいつの命は保証できない」チャキッ

村人「あ、ああ。あんな奴の命なんて知ったことじゃねぇ」

竜娘「・・・・・」

勇者「・・・・・分かった」

―――村のはずれ。

竜娘「なんで引き受けたの?」

勇者「あの村人の言い方。・・・気に食わない」ギリッ

竜娘(ほんと、優しいんだから。“魔王様”によく似てるわ)フフ

勇者「ところで、竜娘は人間界のほうが調子よさそうだな」ニコリ

竜娘「ええ、まぁ、そうね。・・・身体は“人間”だからね」

勇者「ああ、えっと・・・ごめん」

竜娘「・・・なんで謝るのよ」

勇者「うっ・・・だから、ごめん」

竜娘「はぁ、まぁいいわ。あなたが私を“生き返らせてくれる”んだものね」ニコッ

勇者「・・・あ、ああ!!」

盗賊「おめぇら! こんなとこで何をしてるんだ!!」

勇者「・・・お前が村人の言ってた盗賊か?」

盗賊「ああ? そんなのはしらねぇが、ここはおらの土地だ! さっさと出てけ!!」

勇者「それはできないね。“僕は勇者だから”」ジャキッ

盗賊「勇者ぁ? そんな寝言は・・・寝てから言えやぁああ!!」ブゥン

勇者「・・・両手斧か。当たると即死だな」ヨケッ

今日はここまで。

160歳くらいのほうがまだよかったんじゃ…

意味が合って16万にしたんなら良いけど
あるいは時間の流れが人間界と魔界で違くて
人間界16年≒魔界16万年
とかか?(精神と時の部屋的な

>>21 それはこれから分かるとか分からないとか分からないとか。

続きいきます。

盗賊「うぉらぁあああ!」ブゥン!

勇者(両手斧は直線的で避けやすいけど・・・攻撃範囲が広くてやりにくいな・・・)サッ

盗賊「避けてっばかりが勇者かぁ!?」ブゥン!ブゥン!!

勇者(確かに・・・。でも、これをかいくぐって反撃に出るほど身体が人間界に慣れてないな)サッサッ

勇者(それに、僕の武器は両手剣。魔力の伝導率ばかり上げてるから耐久力はないんだよなぁ)スチャ

盗賊「それが勇者様の武器かぁ? そんな弱そうでいいのかぁ?」ニタニタ

勇者「まぁ、確かにそれに比べたら威力はなさそうだけど・・・」シュン

竜娘(ほんと打たれ弱いんだから・・・)ハァ

盗賊「これで終わりだぁああああ!!」ブゥン!!!

勇者「両手斧みたいな重たい物質を振り回せば・・・その破壊力の分・・・」ガッ

盗賊「おっっと・・・」ヨロッ

勇者「反動はでかいよねっ!」ガスッ

盗賊「お前っ! ・・・勇者のくせに、人を・・・ころす・・・のか」バタリ

勇者「悪いけど・・・お前のための勇者じゃないんでね」チャキッ

竜娘「案外余裕だったわね」

―――村。

村人「おお、本当に殺して来てくれるとは」フカブカ

勇者「まぁ、約束しましたからね」

村人「良ければこれをお持ち下さい」キンカ

竜娘「・・・? それがあれば傭兵でも勇者「竜娘、行くぞ」

勇者「あいつらは別に盗賊に被害を受けていた訳じゃないさ」

竜娘「え?」

勇者「スライムを見た時、すぐにおおにわとりを放しただろ。もし、食料の被害に遭ってるなら、そんなこと軽々しくしないはずさ」

竜娘「なるほど・・・。なら、どうしてあいつを?」

勇者「あいつ、あの両手斧からしてあそこで木こりでもしてたんだろ。もしかしたら実際に何かを盗んでいたのかもしれないが、とにかく村人にとってあいつは“邪魔者”だったという訳だ」

竜娘「それで・・・それだけで、殺すの?」

勇者「まぁ、人間界の勇者が生まれた村だからな。世間体とかあったんじゃないかな?」

竜娘「それだけで仲間を殺すなんて・・・。あいつらは殺さないの?」

勇者「ああ、確かにあいつらも“悪”だ。だが、ただ共食いしてるだけで、魔族に被害は及んでいない。今はまだ放っておくさ」

竜娘「まぁ、私達には目的があるもんね」ニコッ

勇者「あ、ああ・・・、竜娘は必ず僕が“生き返らせる”」

スライム「おっ、さっきの二人。無事だったようだな」ボロリ

勇者「スライム殿も無事で何より」

竜娘(・・・無事なの?)

スライム「確実な死から生き延びた記念に、良き情報を進呈しよう」ニヤリ

勇者「それは助かります」ペコリ

竜娘(なんなんだこの関係・・・)ハァ

スライム「北に俺が生まれる前から存在する古き塔があるのだが、そこに魔族が棲みついているらしい。お主らの力になってくれるかもしれんぞ」

竜娘(あんたが生まれる前って一年前じゃない・・・)

勇者「そんなすごい情報をありがとうございます!!」カンシャッ!!

スライム「ああ、がんばれよ。同志」

勇者「スライム殿~」ウルウル

竜娘(あほらし・・・)スタスタスタ

勇者・スライム「「また会おう!!!」」ガシッ

―――古き塔。

竜娘「確かに・・・古いわね」

勇者「造りは人間よりむしろ魔族のものに近いな・・・」サワリ

竜娘「もしかして“はじまりの塔”じゃない?」

勇者「それって、歴史の教科書にも載ってた魔界を創った場所のこと?」

竜娘「うん、その塔はあまりに古くて魔族からも人間からも忘れられたって・・・」

勇者「それがここなら、すごい装置でもあるのかな」ワクワク

竜娘「目的・・・忘れてない?」

勇者「う、うるさいな。趣味なんだよ。魔界の歴史を調べるの」/////

竜娘「さっ、行こ?」スッ

勇者「な、なんだよ」

竜娘「手繋いでいこ」ニコッ

―――塔内部。

勇者「お前を媒介に魔力探査した方が効率が良いからだからなっ」ギュッ

竜娘「はいはい。でも、私ただの人間だからしっかり守ってね」ニコニコ

勇者(それにしても・・・内部はあまりにもあっさりしている・・・というか階段以外何もない・・・)キョロキョロ

勇者「魔物もでないな・・・」

竜娘「魔族と違って、魔物は私達と意思疎通できないし、出ないに越したことはないんじゃない?」

勇者「まぁ、確かにそうだけど。経験も積んどかなきゃ、これから先苦労するだろ?」

竜娘「そこは愛と勇気でなんとかなるでしょ」ニコッ

勇者「僕の顔は新しくなったりしない!」

竜娘「あ、あそこっ!」

勇者「敵か!?」ジャキッ

獣娘「う、うぅ・・・」

竜娘「この子が魔族?」

勇者「いや、違う・・・この子は亜人だ」

竜娘「亜人って、人間と獣族とのハーフ?」

勇者「ああ、だから、人間界側の生き物に分類される。獣族と竜の一族は昔から仲悪いだろ? あれは大昔に獣族が人間側に、竜の一族が魔族側についたからだ」

竜娘「でも、最近じゃそれも曖昧になってるんでしょ?」

勇者「まぁな。特に竜の一族は人間に強い興味を抱いているし、獣族も人間に虐げられて魔族に助けを求めるパターンが増えてるからな」

獣娘「・・・だれ?」キョトン

勇者(見た目は獅子族の毛並みに近いな・・・。年齢は人間でいう10歳くらいか・・・まだ幼い」

竜娘「えっとね、お兄ちゃんは“勇者”。お姉ちゃんは“人間”だよ」ニコリ

獣娘「ひ、ひぃいいいいい!!!」ガタガタブルブル

勇者(どっちだ? 今のは“どっちに怯えたんだ”?)

死神「どちらにも・・・ですよ」キキキキキ

竜娘「誰!?」バッ

勇者「あなたは・・・」

死神「私の名前は死神です。以後お見知りおきを」ペコリ

勇者「これはこれはご丁寧にどうもです」フカブカ

死神「おや? あなたは本当に勇者だったようですね。それも“魔族側”の」キキキキキ

竜娘(大きな人。白と黒の服に真っ白な仮面、その奥に見える瞳は・・・とても暗い)

獣娘「・・・おじちゃんの友達?」

死神「いえいえ、初対面ですよ。だけど、あなたが怯える必要のない方々です」ニコリ

勇者「この子はあなたのお連れさんでしたか! これは失礼しました!」スッ

獣娘「・・・ありがとう」ギュッ

死神「・・・面白い方だ」キキキキキッ

死神「しかし、こんな辺境の地に勇者様がいかなる用ですかな?」キキキキキッ

竜娘(笑い声面白い・・・)

勇者「ああ、それはですね。スライム殿の紹介で、あなたに会いに来たのです」

竜娘「力になってもらおうと思って・・・」

死神「力・・・ですか。申し訳ありませんがそれは無理です」フカブカ

勇者「なぜですか!?」

獣娘「おじちゃんは私と結婚するのっ!!」

勇者「けっ!!」

竜娘「結婚!?」

死神「いやぁ、お恥ずかしい」キキキッ

死神「と言っても、少しばかり彼女の言葉は説明不足ですね」キキッ

勇者「けけけけ、結婚・・・」////

竜娘「ほんと初心(うぶ)というかなんというか・・・」ハァ

死神「私達死神の一族には“死婚”という儀式がありましてね。彼女は私と“契約”したのですよ」キキキッ

勇者「・・・・・・」モンモン

竜娘「その内容は?」

獣娘「私がねぇ、この世で最も嫌いな人を“殺して”もらうんだ」

勇者「・・・!?」

竜娘(・・・やはり、死神の一族は好奇心の塊と言われる私達竜の一族も嫌う種族。その理由は単純に“死を軽く扱いすぎる”ことだ)

死神「おやおや、どうやら、竜の娘さんには一気に警戒されたようだ」キキキッ

勇者「・・・・・! そうか! 結婚という名の契約を交わしているんですねっ!」ワカッタ

竜娘「・・・・ばか」////

死神「・・・本当に面白い方だ。しかし、その剣に込めた魔力は解いて頂きたいものですな」キキキッ

勇者「・・・いや、何、本当に状況を把握できなかっただけです」スゥ

竜娘(ほんと、勇者は時々ボケたフリするからむかつくのよね)ムゥ

獣娘「死神のおじちゃんは悪くないよ! だって、私の嫌いな“ほしよみのぐんち”を殺してくれるんだもん!!」

勇者「・・・・!?」

竜娘「どういうこと?」

死神「キキキッ。簡単なことです。人間は“獣の一族”を魔族と認定したのですよ」キキキッ

勇者「なんだと・・・」ジャキッ

竜娘「獣の一族は一度だって魔族に頭を垂れたことはないのに!!」

死神「まぁ、私を含めたあなたがた魔族はながーく生きてますから、その辺の情勢に詳しいでしょうが。人間などは本当に寿命が短い。国単位で見ても我々の幼少期より長く生きる国などごくわずかでしょう」

勇者「つまり・・・、人間が裏切ったと・・・」

獣娘「ぐんちが悪いんだっ! あいつが・・・あいつが皆を・・・」

死神「まぁ、そういうことです。今はこの子の体力をここで回復しているのです。そして、いずれは・・・」

勇者「星読軍師を・・・殺す」

死神「できると良いですけどね。私ごときに・・・」キキキキッ

竜娘「死神の一族は生まれながらにして“死”を神に捧げる。つまり“死ぬことがない”」

死神「ええ、まぁ、封印されたり時空の果てに飛ばされたりはしょっちゅうありますけど」キキキッ

勇者「死を軽んじている分、最も人間と戦い、最も人間を殺した種族だと聞きます」

死神「キキキッ。嘘は歴史を造ると言いますか、数で言えばオークの豚よりも殺していないと思いますよ」

竜娘「星読軍師は多くの軍を抱えています。あなた一人で何ができるというのです?」

死神「いやぁ、まったくその通りで、獣娘の回復を待ちながら作戦を練っているのですが、全く妙案が思い浮かびません」ハハハ

勇者「ならば―――――」

死神「それはできません。死婚は一対一で行う儀式。彼女が残りの人生を私に捧げた分、私は一人で彼女の願いにこたえねばなりません」キリリッ

獣娘「・・・おじちゃん」

死神「キキキッ。そんな顔したって、あなたの一生は私が弄ぶのだから、無駄ですよ」

勇者「そう、ですか」ザンネン

死神「まぁ、あなたが勇者を先に殺してくれれば、世界の情勢は一変して私も動きやすくなるのですがね」キキキッ

勇者「そうすればあなたが星読軍師を倒してくれて、魔王様の願いは達成される・・・」

竜娘「・・・決まったようね」フゥ

獣娘「ゆうちゃ? ゆうちゃはねぇ、そうりょをかばうんだよ」ニコリ

勇者「どういうことだい?」

死神「キキキッ、子供の戯れです。聞き流しておきなさい」

竜娘「もしかしたら、ピンチになったら僧侶をかばって死んでくれるのかもね」

勇者「まぁ、覚えておいて損はないな」

勇者は深く心に刻み込んだ。

死神「では、運命的な出会いを祝福して一つ有力な情報を」

勇者「お願いします!!」フカブカ

死神「勇者は今、星読軍師の指令で魔界探査を定期的に行っていますが、それと並行して神器(ジングー)を集めています」

勇者「神がお使いになった武器<神器>・・・」

死神「星読軍師は武人ではなく元々魔法使いだったので、神器をそれほど重要視しておりませんが、神器は我々魔族にとって脅威です」

勇者「逆にいえば人間にとっても・・・か」チャキッ

死神「あなたの魔力を剣に乗せる戦い方も魅力的ですが、神器はそれ自体が魔力を持ちます。あなたの魔力はそのまま戦闘に使うことができ、きっと勇者との戦いを有利に運ぶでしょう」

竜娘「世界樹攻略にも必須ね」

死神「ああ、それと、竜の娘さん。あなたはまだ若いので知らないでしょうが、竜の死というのは、存在の死ではなく魔力へ回帰しただけですよ」キキキッ

竜娘「それは・・・どういう」

死神「さぁ? 竜の一族がかつて私に嫌味を言ってきたのです。“私の命を奪っても、私は死なない”って」キキキッ

竜娘「あなたに初めて殺意が湧いたわ」ゴゴゴ

死神「キキキッ。死神に殺意を向けることほど無駄なことはありませんよ」

勇者「色々とありがとうございました。また会える日を楽しみにしてます」ペコリ

死神「ええ、次は魔王城の祝いの席で会いましょう」キキキキキッ

獣娘「お兄ちゃん達またね」バイバイ

――――塔より西に数キロ。

勇者「いやー、やっぱまだまだ知らないことがいっぱいだなぁ」ニコニコ

竜娘「ほんと、魔界の16万年よりこっちの数年のほうがよほど意味があるわね」

勇者「まぁ、仕方ないさ。魔王様が動けるようになるのに後10億年以上もかかるんだから」

竜娘「ところで、誰が魔王を動けなくしたんでしょうね」

勇者「そりゃ、人間界の勇者じゃないのかな」

竜娘「人間が魔族を殺さないなんて変じゃない?」

勇者「まぁ、ね。でも、魔界は魔界で良いところあるだろ。・・・瘴気が豊富だったり?」

竜娘「竜の一族は瘴気なくても生きていけるけどね」

勇者「人間界より時間が進むの遅いし?」

竜娘「認識の問題で人間界の数週間が魔界の1年だけどね」

勇者「ということは、僕は人間界ではえっと・・・」

竜娘「電卓ないんだからやめときなさい」

勇者「とにかく、まずは神器だな。死神さんが西にあるって言っていたけど・・・」

竜娘「あいつの言うことは信じられないけど、どっちみち情報ないし、今は西に進みましょう」

勇者「それにしてもあの獣娘、きっと獅子王の娘だよ」

竜娘「獅子王の話はやめて・・・、あいつ魔界まで乗り込んできてウザいから」

勇者「そうか? 僕は少し憧れたけどなぁ。獅子王の乱なんて歴史にも載ってるし」

竜娘「結局、火竜ごときにボッコボコにされて帰ってったけどね」

勇者「いやー、でも、もし獅子王の娘なら、・・・死神さんを説得した方がよくないかな?」

竜娘「ほんとあんたは権力に弱いんだからっ!!」

勇者「違う! 断じて違う!! 僕は歴史と伝統を重んじているんだぃ!!」

竜娘「ほんと、やんなっちゃう」ヤレヤレ

勇者「神器かぁ、・・・どんなのかなぁ」パァァァ

竜娘「・・・・・・はぁ」ヤレヤレ

今日はここまで。一つ一つの文章長いかな・・・。おやすみ

続き。

――――迷いの森。

勇者「で、いつの間にか森にいる訳だけど・・・」キョロキョロ

竜娘「方向感覚狂わされる森だなぁ」ヤレヤレ

勇者「瘴気がないから、この森は妖精が管理している土地なのかも」

竜娘「うわぁ…私妖精嫌い」

勇者「竜の一族はほんと好き嫌い激しいね」

竜娘「だって、あいつら竜のウロコむしり取るんだもん」

勇者「それ、妖精じゃなくて“妖精もどき”な。それは、魔物だぞ」

竜娘「え、そうなの?」

勇者「もどきは妖精と同じ特性を持ちながら、肉食で共食い気質も持つから魔界ではあんまり繁殖してない種族だね。人間界ではどちらかというと、イタズラ妖精として有名だけどね」

竜娘「・・・妖精じゃなかったら殺しとくんだった」クッ

勇者「妖精は一人殺したら何十人も引き連れて報復にくるもんね」

竜娘「あいつら魔力だけはとんでもない量持ってるから、無理」

妖精もどき「あ・・・エサ発見」カサカサ

勇者「げ、噂をすれば“もどき”かよ」スチャ

竜娘「わ、私、命の危険感じるから離れてるね・・・」

妖精もどき2「うまそう。うまそう」カサカサ

竜娘「」

勇者「囲まれちゃったね」ヤレヤレ

妖精もどき3「わたしの、わたしの」カサカサ

竜娘「羽根があるのに何で地面を這いまわるの」ゾクゾクッ

勇者「とりあえず、3匹か・・・」

勇者(しょっぱなから魔力全開でいかなきゃ殺されるな・・・)ブゥゥゥン…

もどき1「こわいこわいあれこわい」カサカサ

もどき3「あれよけるよける。にんげんくう」カサカサ

もどき2「わたしの、それわたしのっ!!」バサッ

竜娘「ぎゃぁあああああ!!!」

勇者「女の子が・・・」

勇者(右剣に闇、暗闇の属性魔力最大出力)ブゥン

勇者「ぎゃあとか・・・」

勇者(左剣に黄昏、終焉の次元魔法最大展開)バァッ

勇者「言うんじゃありません!!」

勇者「くらぇええええ!!!」ズバァッ

もどき2「うっ・・・いた・・・い」ズシャッ

もどき1「うまそううまそう」カサカサガツガツ…

竜娘「・・・うええぇ。共食いしてる」

もどき3「しんせんしんせん」バッ

勇者「竜娘! しゃがめっ!」カイテンギリッ

竜娘「いきなりかぃ!!」バッ

もどき3「え」ズバァ

勇者「この程度なら魔界にもたくさんいるな」スチャッ

もどき1「たくさんたくさん」ガツッガツッガツッ

妖精「あなたたち! 早くあいつも殺して!!」ハヤクッ

勇者「なんで?」

妖精「え?」キョトン

勇者「僕らは別にあいつらを殺したくて戦ってたわけじゃないし」

竜娘「まぁ、勝手に共食いしてる分には好きにしたらいいと思うわ」

妖精「そんなっ! 困るっ!!!」

勇者「自己都合が過ぎるんじゃないのかな? 魔族を“裏切って”光に吸いついた虫のくせに」ギロッ

妖精「・・・くっ、魔族だったのか」

竜娘「ほんと、人間にもてはやされてるからって差別ばっかりして。心は汚いのよね。あんたたちって」

勇者「お前の嫌ってたのはもどきのほうだろ」

竜娘「どっちも一緒よ!!」

妖精「・・・・勝手なこと言いやがって」ブゥン

勇者(妖精魔法・・・威力は知れてるけど無尽蔵の魔力で手数が多いって話だけど・・・)

妖精「くらぇえええええ!」ボボボボボッ

勇者「炎の魔法かっ!!」

勇者(右剣に深海、望めぬ空、水属性魔力最大出力!!)

勇者「魔水剣技! はごろも!」スゥ

妖精「水の膜ごときで俺の魔法がっ!!」ボボボボボッ

勇者「そんな僕らを気にする暇があったら・・・」

もどき「・・・ようせいようせい」ガブリッ

妖精「ぐ・・・ぎゃぁあぁあぁぁぁああ!!!」チシブキッ

竜娘「うえぇええ、共食いより気持ち悪い・・・」

勇者「まぁ、気持ちの良いもんじゃないな」スチャッ

勇者(終焉剣技“無音”)スッ

もどき「・・・・・・?」スパッ

妖精「・・・っ、はぁはぁはぁ」ボロボロッ

勇者「大丈夫か?」

妖精「お前ら・・・はぁはぁ・・・許さないぞ」ギロリ

勇者「許さないとしたらどうするの?」

妖精「決まって・・・る。はぁはぁ・・・仲間を呼んでお前をころ・・・・・・」ズバッ

勇者「そんなことさせると思ってるのかな・・・」ヤレヤレ

竜娘「ほんと、人間の感性で物事を考えるの止めてほしいわね」

勇者「まぁ、妖精なんて人間に媚びうるだけの魔物みたいなものだしな」チャキッ

竜娘「でも、妖精って基本群れで生活するのよね」

勇者「そうだろうな。あんな臆病な連中」

竜娘「じゃあ、これも見られてるんじゃない?」

勇者「そうだろうね」シレッ

勇者「まぁ、視線が多すぎて、位置は特定できないけど、すでに10以上の魔法を展開してこちらに向けているからね」

竜娘「・・・それってピンチなんじゃない? てか相変わらず探知能力半端ないわね」

勇者「勇者だし、それくらいの特技はないとね」

妖精2「お前ら、言いたいことはそれだけか?」

勇者「うーん、そうだねぇ、いきなり来て喧嘩腰なのはあんま好きじゃないな」

妖精3「お前らが先に仕掛けてきたんだろう!!」

竜娘「と、言っておりますけど?」

勇者「はぁ、じゃあそれで良いですけど、で、どうしたいんですか?」

妖精3「血を捧げよ。死んで詫びるんだ」ニヤニヤ

勇者「・・・・・・」チャキッ

妖精4「おおっと、こっちはお前の女に向かって魔法を向けているんだ。大人しくしてもらおうか」

勇者「・・・・・・・んー、絶対いや」ニコリッ

勇者「終焉剣技!! “陽炎”!!!」ピカッ

妖精達「なんだこの暗い光は!!」パニック

勇者(ただの影を作り出す魔法なんだけどね)テヘ

勇者(竜娘、こっち!!)ガッ

竜娘「きゃっ!!」ダッ

妖精2「まてっ!!!」ヒカリノヤッ

勇者「あぶなっ」サッ

竜娘「ど、どうするの!?」ハァハァ

勇者「妖精はもどきをすこぶる嫌う。それなのに、ここにとどまっているのには訳があるはずだ」タッタッタ

竜娘「あんな気持ち悪いのと一緒の森にいるなんてどんなわけよ?」

勇者「たとえば、“人間や魔族じゃ創りだせない物”とか?」

竜娘「もしかしてっ・・・神器!!?」

勇者「あくまで可能性だけどね」ニコッ

勇者(問題は場所だ。妖精の幻惑魔法が全く効かないのはもどきだけ・・・)

勇者「そうだ、こうしよう」ニマァ

竜娘「勇者っぽくない」ヤレヤレ

妖精4「いたっ!」バッ

妖精4「幻惑魔法! 無限の矢!!!」シュババババババッ

勇者「はい、ごくろうさん」

もどき5「ようせいようせい」ガブリッ

妖精4「ぎゃぁああああ!」

竜娘「妖精って・・・バカ?」ヤレヤレ

もどき「うまうまうまうま」ガツガツガツガツ

妖精「に、肉がぁ・・・痛い・・・痛いよう・・・」ポロポロ

勇者「黄昏魔法“肉体覚醒”」ブゥン

妖精「ぐっ、ぎゃぁあぁぁあ!! 何をしたぁあああ!!!」ジタバタ

勇者「ちょっと、キミの感覚を鋭敏にしただけさっ」ニコリ

もどき「しんせんな・・・にくっ」モグモグモグ

勇者「そろそろかな」ケリッ

もどき「ぎゃんっ!!」

妖精「・・・はぁはぁはぁ・・・」ポロポロポロ

竜娘「うわぁ、右腕が完全に喰われてる・・・」

妖精「お、おまえら・・・」ギロ

勇者「何調子乗ってんの?」ガッ

妖精「ぐっぎょえぇええぇぇぇぇえ!!!」モンゼツ

竜娘「うわぁ、瘴気が少ないせいで勇者が完全に魔族モードに入ってるよ」

竜娘(私は人間の身体な分、むしろ調子が良いけど。瘴気で呼吸してる勇者にとって、この世界は苦しすぎるよね・・・)

もどき「あし、あしだけでも」ガジガジ

妖精「ぐゃぁぁぁぁぁ! ゆ、許してぇえええ!!」シュワァアアアア

勇者(強い恨みが瘴気を創りだしてる・・・。気持ちいい)スゥ

勇者「あー、落ち着いた。で、許してほしいんだっけ?」

妖精「はいっ! 許してくだぎゃぁあぁ!」

もどき「ふとももふとももももも」ガツリガツリ

勇者「もう、それで生きても辛いだけだと思うけど・・・」スッ

もどき「おいし・・・かった」マップタツ

妖精「・・・・・・・痛い、痛いよう・・・」ポロポロ

勇者「何でも言うこと聞くって言ったよね?」ニコリ

妖精「言うこと聞くから、助けて!!!」

勇者「神器のところまで案内してくれたら助けてやるよ?」

妖精「・・・・! ・・・わ、わかった!!」

竜娘「さすが妖精。裏切るのはやっ」

――――森、中心部。

神器「・・・・・」シュゴォオオォォォ

勇者「すごい瘴気。めっちゃ気持ち良い」スーハースーハー

竜娘「私はあんま気持ちよくない。まぁ普通の人間よりだいぶ平気だけど」

妖精「さぁ、案内したから助けてよっ!!」ヒッシ

勇者「いやぁ、息の根を止めて楽にしてあげようと思ったけど、なんかそんな気分じゃなくなったなぁ。てか大丈夫?」

竜娘「ここにきてなんという方向転換」ヤレヤレ

妖精「ひ、ひどいや・・・」ポロポロ

勇者「あー、一つだけ方法はあるかも」

妖精「な、なんだっていい! 助けてくれ!!」

勇者「その代わり、今日から“魔族”になっちゃうよ?」

妖精「え?」

勇者「まぁ、人間界で言う“堕落”って言う奴? 僕達魔族は血液に瘴気を吸収する組織があるんだけど、それって非常に強力で一滴でも血が混じったら一瞬で身体中の血に繁殖するんだ」ニコリ

竜娘「竜の一族は血じゃなくて魔力が全身かけめぐってるから、繁殖することはないけどね」

妖精「・・・・・それって痛いの?」

勇者「いや、瘴気はその消化酵素がないと毒になるけど、それがあればプラス効果しかないよ」ニコリッ

竜娘「その代わり瘴気がなくなると、それが“不快物質”を身体中にまき散らして、さっきの勇者みたいな“イライラ状態”になっちゃうけどね」

妖精「手足は・・・治るわけないよね」

勇者「まぁ、それくらいなら瘴気さえあれば僕の魔法程度でもなんとかなるよ」ニコリ

妖精「・・・・・・・お願いします。助けてください」ペコリ

勇者「じゃあ、さっそく躊躇なく」スパッ

勇者(僕の血を妖精の肩にかけて、と)ポタポタポタッ

妖精「・・・・・!? ぐっ、ぐぎぎぎぎ」ジュゥゥゥゥ

竜娘「痛そうだよ」

勇者「まぁ、最初は誰だって仕方ないでしょ」

竜娘「・・・やらしい////」

勇者「変な想像するなっ!」

妖精(だったもの)「う、ぅううぅう・・・」

勇者(羽根の生えた可愛らしい生き物から・・・)

竜娘(妖怪人間べ○みたいな醜い姿に・・・)

元・妖精「・・・い、たくない」フゥ

勇者「最初は消化酵素が活発すぎて醜い姿になるけど、だんだん身体が馴染んできて美しい姿になるからね」

竜娘「ほんと、魔族が美形なのはこれのおかげだもんね」

元・妖精「そう・・・か」

勇者「さて、ひと段落ついたところで・・・」

神器「・・・・・・・」シュゴォオォォォ

勇者(見た目はただの岩・・・だけど、呼吸するように瘴気を吐きだしてる・・・)

竜娘「神器って神様が創ったんだよね。それなのに瘴気を吐き出すっておかしくない?」

勇者「まぁ、その理由は触ってみたら分かるんでない?」ペタ

神器「・・・・・・」

勇者(瘴気が・・・やんだ?)

勇者「そうか・・・なんとなく分かった」

竜娘「つまり?」

勇者「神器って、基本的に武器だろ?」

竜娘「そうね」

勇者「基本的に神の“負の感情”を形どっているのが神器なんだ」

竜娘「あー、だから瘴気が噴き出してたの?」

勇者「そうそう。これは神の“後悔”かな。形状は持ち主に合わせるみたい」ジュゥン

竜娘「あー、双剣の片方飲み込んじゃった」

勇者「黒い剣になったな。特性は使ってみないと分からないなぁ」

元・妖精「あ、あんたら・・・」オズオズ

元・妖精「一緒に連れて行ってくれ!」タノム

竜娘「だってさ」

勇者「うーん、まぁ、別にかまわないけど・・・」

元・妖精「ほんとかっ!?」パァァ

勇者「見た目、ほんとに気持ち悪いぞ」

元・妖精「」

ここまで。おやすみなさい。

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