小町「お兄ちゃん、今年の小町のバレンタインデーは中止となります。」 (171)

※やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。
タイトルに偽りあり?ww


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「あ、でも今年は雪乃さんと結依さんからはもらえるから小町からもらえなくても記録更新だよ。一気に2個、なんと2倍!」
「もらえるとはかぎらんだろ。だいたい雪ノ下なんか製菓業界の陰謀ねとか、世界的に見てみて一般的な行事ではないわねとかいいそうだぞ。いや、絶対言うね。」
「あー雪乃さんならいいそうかもなー。」
「でもねゴミいちゃん、本当にどうでもいいと思ってるの?」
「い、いや、貰えたら嬉しいかなとは思うけど。」
「お兄ちゃん、普通の女子高生は深い意味なくても男の子の友達に義理チョコ普通に配るよ。年賀状とか挨拶みたいなもんだよ。いままで一個ももらったこと無いお兄ちゃんが特殊なだけだからね。」
「そ、そうなの?」」
「そうなの。結依さんはそういうイベント外さないだろうし、雪乃さんもー、バレンタインはどうだかわかんないけど、例えば友達への普通の挨拶ってことなら嫌がりはしないとおもうよ?奥さんになってもー、年賀状とかーお歳暮とかー、そういう来たものにはきちんとお返しはするタイプだと思うし。」
「あー、年賀状とかの例えはすごく想像できるわ。てか、おまえ年賀状なんて出してんの?今はメールとかじゃないの?知らんけど?」
「はー。スルーしたかー。まあいいや。お兄ちゃん。社交辞令でもチョコはチョコ、一個は一個だよ。今年は貰える。絶対、雪乃さんや結衣さんがくれるって。」
「あー、社交辞令ね。」
「ゴミいちゃんわかってないなー。社交辞令っていう建前があるから渡しやすいんじゃないの。まわりもいっぱいやってるんだよ。これは普通、特別じゃないことじゃないっていいわけができるの。お兄ちゃん自分を目立たないようにするの得意だからわかるでしょ。」
「うっせ。」

「でもね、お兄ちゃん。目に見えるモノが真実とは限らないのですよ。」
学校で本命チョコ渡すのは恥ずかしい。あからさまに義理っぽいチョコなら私にもわたせるかもー。いや、でも

やっぱり気づいて欲しいこの乙女心ー。」
「あー、ハイハイ。」
「そこでもらった男の子はチョコをみて判断しなければならないのですよー。手作りとかー、メッセージ添えて

あるとかー、あ、他の人へ配るのとラッピング違うとかは要チェックだよお兄ちゃん。」
「それ全部目で見えてるよな。だいたい女のやる事ってわかりづらすぎるだろ。」
「お兄ちゃんうるさいよー。とにかくそういう思いがこもっているかもしれないって考えて見なけりゃいけない

んだよ。何にでも疑って入るのも得意でしょ。」
「お前色々詳しいけど、学校で配ったりしてるの?お兄ちゃん聞いたこと無いんだけど」
「お兄ちゃん、さすがにそういうこと詮索するのはキモい。とにかく小町のことはどうでもいいの。」
「いや、お兄ちゃんにとっては何より気になるところなんだが。あ、今の八幡的にポイントーー」
「いや、低いから」

「まあ、そういうわけで、小町はお兄ちゃんの14日の戦利品の開示を要求しまーす。」
「開示って、別に今まで隠したこと無いんだが。」
「ウン、隠す物自体なかったもんねー。」
「今年も無いかもしれんだろ。」
「お兄ちゃんほんとにそう思ってる?」
「・・」
「とにかくっ、14日は帰ってきたらお兄ちゃんの持ち物検査をしますのでそのつもりで。それじゃあ小町もう

出るね。行ってきます。」
「ああ、俺もスグ出る。いってらっしゃい。」
「あ、そだ、お兄ちゃん。小町を気遣ってくれてるのは嬉しいんだけど、やっぱりソレ付けなくてもいいよ。小

町もちゃんと予防してるし。うがいとか。」
聞き用によってはいやらしいセリフだったな。いや小町相手にイカンイカン。
「いや、万が一ってこともあるからな。」
「んー分かった。でも不審者に間違われないようにしてね。今のお兄ちゃん暗いところで会ったら小町でも怖い

。」
「うっせ。」

今年のバレンタイン終わってるけどな

>>5
サンクス
やってみる

そう、数日前から俺はマスクをしている。

2月に入り小町は第一志望のウチの高校を含め、3つの高校を受験する。

併願の滑り止めの入試は明後日、間違っても家に風邪を持って帰る訳にはいかない。

2月に入った時点で両親は外出時は基本マスク装備だ。

で、本命のうちの高校の受験はバレンタインデーの翌日から。

小町が心の余裕が無いというのも仕方がないだろう。

小町からもらえないというのはちょっとさみしいが、第一の志望校に受かって欲しい。

何より俺が一緒に学校行きたい。

今年は仕方がないか。親父もスゲー落ち込むと思うが。

>>7
時系列は10.5のフリペ以降ということで

通学途中、通り過ぎる人に2度見された。

小町の心配していたことがコレである。

当たり前だがマスクというものは顔の下半分を隠してしまう。

それマスクは刑事ドラマでも犯人役のマストアイテムと言っていい。

おまけに俺のしているマスクは立体的に整形された結構ガチなマスクだ。

ウイルス99.7%カットとか嘘か本当かわからんが高性能を謳って結構なお値段のするやつ。

そして極めつけは俺は目付きが悪い。

ウン、まあ不審者だな。

自分で鏡を見てもそう思うのだ。他人がそういう印象を受けても仕方がない。

まあ小町の為だし。赤の他人の目なんか気にしてられるか。

でも職質とかされたらさすがに立ち直れないかもしれない。

「あ、ヒッキー、やっはろー。」

「うす。今日は驚かないのか?」

「あはは、やだなヒッキー、まだ根に持ってんの。」

下駄箱で朝会った時には毎回元気よくこの意味の分からない挨拶をくれる由比ヶ浜だが数日前はじめてマスクをつけて行った日には普段より1文字多かった。

「わ!、あ、ヒッキー、やっはろー。」

こんな感じ。ちょっと傷ついた。

それでも由比ヶ浜は風邪でも引いたのかと体調を気遣ってくれたが、放課後部室で俺の顔を見た雪ノ下は不思議なことに驚きはしなかった。が、久しぶりに毒舌を炸裂させた。

「あら、今日学校に不審者が出たなどと言う噂は耳にしなかったのだけれど・・。」

こんな感じである。

ついでに最後まで風邪かとも聞かなかった。心配しろよ。

まあ雪ノ下のことだ。小町の受験の事を察したのかもしれないが。

でも雪ノ下とのああ言うやりとりは久しぶりだったような気がする。

「じゃ、先行くわ。」

「いっしょにいこうよ。」

人目が多いところではなるべく距離をとったほうが良いと思っている俺だが、最近コイツはどうもその距離を詰めてきているように感じる。

仕方なく二人で、少し距離をおいて教室へ向かった。

朝、こいつと挨拶を挨拶を交わせるのは嬉しい。

あの元気な声を聞くと、一日を少し前向きに過ごせる気がする。

だからできれば校門や下駄箱で会いたい。

教室では人目がありすぎる。俺に好印象を持っていない人間の目が。

昼休み昼食を終えて教室に戻ると一色が来ていた。

2月に入ってからは、俺は毎日教室を出て昼食を取るようにしている。

別に教室に居づらい訳じゃない。

風邪をもらわないようになるべく人混みにはいないように心がけてるのだ。

そう、小町のため、小町のため。教室に居づらい訳じゃないから。

一色が教室まで来るのは珍しい。

葉山らと談笑しているからサッカー部関係の用事があったのだろうかと思ったが、チョコレートがどうのと聞こえてきた。

面白くなさそうな三浦を由比ヶ浜がなだめていた。あいつももう部室から帰ってたのか。

進路選択の一見以来三浦はずいぶん丸くなったようにみえる。

あのやりとりも友達同士がネタでじゃれあっているよなものなのかもしれない。

午後の授業までもう少し時間があるのでいつもどおり机に突っ伏す。

普段のように寝たふりをするわけでは無い。考えたいことがあるのだ。

小町の受験に集中しなければならないのだが、どうしても頭のなかから消せない心配事がある。

その件のタイムリミットは小町の第一志望、この総武高の入試日より速かったりする。

つい先程耳に飛び込んできたチョコレートという単語

そう、2月14日バレンタインデーのことだ。

今朝の小町とのやりとりが思い出される。

当たり前だ。クリスマスもバレンタインも必ずやってくる。

そしてそれらは一大消費イベントなのだ。

新聞のチラシも、テレビののCMにも、電車の吊り広告も、コンビニのガラス窓も、これらのイベントの文字が踊る。

俺が本当のひきこもりであっても、気付かなかったなんてことは絶対に有り得ないだろう。

俺にとっても全くの無関心ではいられなかった。

男子であれば期待せずにはいられないイベントなのだ。

気になる女の子がいるなら。

中学の時、の苦い経験によって、勝手に期待して、勝手に裏切られて、かってに失望してた俺は人と関わることをやめ、すべてを諦め、期待することをやめた。

高校に入学しても一人だった俺の前に二人の少女が現れた。

雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣だ。

変わることを否定していた俺はこの二人と交流することによって少しづつ変わっていった。

勢いも合ったのかもしれないがこの二人には自分をさらけ出してしまったことまであった。

二人と知り合ってまだ一年にもならない。

それでも最初に合った頃からこの関係は少しづつ変わっていった。

不思議な関係だと思う。今の関係はどう表現すればいいんだろうか?

一人は友達以上の何か、一人は友達以外の何か。

この思い自体がすでに俺の”期待”であり”妄想”だ。

彼女ら二人にかってに押し付けているものにすぎない。

彼女ら自身が実際のところどう思っているのかはわからないのだから。

それでも二人に対して”期待”することがやめられない。

以前は傷つくことを恐れて、下らない事だと切り捨て、いや、切り捨てたふりをしてきた事を。

決して俺がポジティブに変わった訳ではない。絶望を恐れ無いほど強くなったわけでもない。

至極簡単な理由だ。

俺が被るリスクに比べて、比較にならないほどリターンが大きく魅力的だということ。

ああ、またひねくれた考え方をしている。

ただ純粋に欲しいのだ。大事にしたいのだ。おそらく生涯、こんなにも思うことは現れないだろうというほど。

本当にまた俺が勝手に押し付けているだけだとしたら、もう二度と立ち直れないほどの絶望を味わうことになるのかもしれない。

だからその時は倒れる。倒れたままでいいと思う。

そして今度は絶望することではなく、このまま二度と立ち上がれないかも知れない事を恐れよう。

とりあえず”恐れ”を棚上げし、先送りするのだ。

それは会長選挙の時に間違い、二度としないと誓ったことだが、だけどいいだろ。

これは俺のまわりで起きていることじゃない。俺の心の中で起こっていることなんだから。

さて、その俺の”期待”、”妄想”だ。

二人の少女の一人、由比ヶ浜結衣は俺に好意を寄せてくれていると思う。おそらく。

俺も好意を抱いている。魅力的な女の子だ。彼女と過ごす時間が本当に心地よいと感じる。

そしてこんな俺に対し、彼女はゆっくりと距離を縮めてきてくれていると感じてる。

もちろん本当の彼女の気持ちはわからない。俺がかってに抱いた”期待”かもしれない。

俺は行動力はある、あったのだ。もしなければ傷ついて無かっただろう。

彼女との関係は自分が一歩踏み出せば変わるかもしれない。

こんなにも欲しいものなのだ。だから傷つくことを恐れずに告白するだろう。

俺の前に現れたのが彼女一人であれば・・。

もう少し時間がほしい。

ただこの関係は、俺が望まなくとも簡単に壊すことだって出来る。

彼女がそう望めば。

例えば一色が葉山に飛び込んだように。

もう一人、雪ノ下雪乃。彼女との関係性は表現しづらい。

友達になってほしいという申し出は断られた。しかも2回。共に即答だった。

友達以外の何か、赤の他人ではないと思う。

似ているところがあるといえば有り、無いといえば無い。

由比ヶ浜と比べると一定の距離があるとは感じる。

だがその距離が近くなったり遠くなったり、判断が出来ない。

彼女に強く憧れる。ああありたいと思ったこともある。そして強く惹かれている。

彼女について知らないことが多すぎる。だから彼女のことを知りたい。

”もっと酷いなにか”とは何だ?俺は何に気づいてないんだろう。

彼女は俺に何から””助けて”欲しいのだろう。問題を抱えているならばそれを解き明かさなければ。

最近になってはじめて本当に小さな一歩を踏み出した。

進路の選択、文系か理系か?二者択一。

普通の友人なら、いや友人ではなくても簡単に話せる内容でしかないように思える。

それでも答えてくれたことがとても嬉しかった。

今の彼女はどこまで許容してくれるのだろうか?

知らないことが酷く怖い。

そして、全てを知らないと、結論は出せない。出す訳にはいかない。

俺の欲しい”本物”とは、彼女たちの中にある何かかも知れない。

こう思っている事自体が、俺の勝手な”期待”、”妄想”でしか無いかもしれないのに、

それでも二人との関係を考えずにいられない。

だから今俺は、恋愛至上主義のこの国で定期的に行われる、男女の関係を変えるきっかけとなるイベントが酷く怖い。

以前とは別の理由で目を背けてしまいたい。

いっそなくなればいいと思う時もある。

時間がかかったとしても、3人で過ごすあの部室の中で、

彼女らとの距離を近づけていくことは出来るのではないか?

今は目前のバレンタインデーのことを考えなければならない。

あと一週間。時間は多くない。

今は小町の入試を控えただでさえやらなければいけないことが多い。

せめて一人の時間は二人のことを考えよう。

そんなことを考えている。

「せんぱーい」

うわぁ。

微睡んでいたというわけではなかったが一気に頭の中が現実に引き戻された。

一色の声だ。

なんでこっち呼ぶんだよ。いや俺のことじゃない、俺のことじゃない、俺のことじゃない・・

と言うか俺今ビクンってなったかもしれない。

「なーに寝たふりしてるんですか先輩。」

軽く耳を掴まれた。

やっぱり俺のことだよね。っていうか耳弱いからやめて。

仕方なく顔を起こして一色の方を向くと

「うわっ、何ですかそれ。怖いです。まんま不審者じゃないですか。」

あーハイハイ。マスクの事ですねー。

あとお前も、体調悪いのかとかそういう心配はしないのな。

「バカ、なんで教室で普通に話しかけてんだよ。」

思わず小声で話しかける。一色とは目を合わさない。昼休みの教室だ。周りに人が多い。

「はあ、なんですかソレ?」

俺の言い方がマズかったのかちょっと怒ったような声だ。

確かにあの言い方じゃ「話しかけんな」ってとるよな。

「いやそういう意味じゃなくてだな」

言い淀んで、由比ヶ浜の方をちらりと見、また自分の机に視線を戻す。

一色とは視線を合さないように。

「俺は評判悪いからな。お前も妙な噂立ったりすんの嫌だろ。」小声で続ける。

選挙の推薦人の時の件といい、こいつのキャラ同姓からは受けが悪そうだしな。

小町も女子の場合半、分の女子は敵とか言ってたし、花火大会の後の相模のような奴だっている場合もあるだろう。

一応可愛い・・・・、いやいや、初めて出来た後輩だ。

俺のせいでこいつに嫌な思いをさせるのは申し訳ない。

チラリと由比ヶ浜を見た一色はこっちを振り返って言った。

「先輩ってそういう気の使い方するんですねー。自意識過剰なんじゃないですか?だいたい別にそんなの気にする必要ないのに。」

その時教室に携帯の着信音が響いた。思わず音の方を向くと川崎と目が合った。

どうやら鳴ったのは川崎の携帯らしい。川崎はワタワタと慌てて携帯を取り出し耳に当てる。

しまった。携帯の音は不意打ちだった。

正面に顔を戻した時一色と目を合わせてしまった。

一色は呆れたような顔をしていた。

「ところで今日の放課後なんですけどー。」

「断る。」

「まだ何も言ってないじゃないですか。そんな事言わずに聞いてくださいよー。そうだ、先輩にもチョコレートあげますから。」

向こうでの話なんとなく聞こえてたけどさ。俺さっきお前とチョコレートの話してないよね。

いきなりその話題、脈絡ないだろ。まあ分かるけど。2月だし。

「いらん。お前に何かもらったらすげー高いもんに付きそうだ。」

「えー。でも先輩もらったことないじゃないですかー。手伝ってくれてるお礼と言うか報酬の前払いというかー。」

無いけど知ってるように言うのやめてくれない?

あと、こいつ最近本音と建前が逆になってないか?後から報酬って言ったぞ今。言い直すんなら順番考えようね。

というか最近キャラ隠す気がないように思えるんだが。

確かに葉山もそっちのほうが好きだろうとか適当なこと言ったかもしれんが。

だいたい前払いってやっぱり働かすつもりなんじゃねーか。

「なんで分かるんだよ。ま、いいんだよ。俺は毎年世界一かわいい娘からもらってるからな。」

「妹とかってオチでしょ。」

「うっ」

なんでコイツ小町のこと知ってんだ?

「何にせよしばらくは絶対手伝いとか無理。今回ばかりは譲れん。」

「えー、なんでですか?」

「その可愛い妹がもうすぐ入試なんだよ。明日と明後日もな。

飯とか俺がやってるから部活も早めに上がらせてもらってんだ。だから無理。」

「あ、それでマスクなんですね。まあ今日のはそんなに大変じゃないからいいか。」

じゃあ声かけんなよ。

「そういえば先輩の妹さんってウチに来るんじゃなかったんですか?」

「本命はそう、明日のは滑り止めだ。というかお前なんで小町の進路知ってんの?」

「前に言ってたじゃないですかー。しかもなんかえらくカッコつけてー。」

「そうだったか?つーかカッコつけたことなんて無い。俺がやっても痛いだけだ。」

「いやー、結構やってると思いますよ。」

「なあ、あんたちょっといい?」

会話が切れた時、川崎が割り込んできた。こいつがこういうふうに話しかけるのは珍しい。

「ん、なんか用か?」

「悪い、聞く気はなかったんだけど聞こえちゃって。明日の試験って総北高?」

「ああ、ってお前んトコもか?」

「あ、ああ。」

「何、小町追いかけてんの?、ストーカーなのお前の弟?」

ぱっと見怖い印象のコイツだが、根っこはいいやつなのはわかっている。

こんなのは下の子を持つお兄ちゃんお姉ちゃんの掛け合いだ。小町は渡す気無いけど。

などと考えていたが、いつもの鋭い視線と低い声は返ってこなかった。明らかにおかしい。

「なあ、川崎、何かあったのか?」

「大志が熱出したって連絡があって、朝はそんなでもなかったんだけど。

明日試験なのに・・。そういう場合って、ほら、追試とか何かできるんだっけ?インフルエンザとかじゃなくても・・。」

入試で追試してどうする。もう目に見えてオロオロしてる。

体調管理失敗したのか。

「落ち着け川崎。他には受けてないのか?」

「大志が受験料がもったいないとか、通学にお金がかかるところ遠慮したりして、ウチと総北だけなんだ・・。

総北は判定余裕だったし・・。」

俺は妹を愛する心は負けてないつもりだが、お兄ちゃんスキルの方は川崎のほうが高いと評価している。

あ、おねーちゃんスキルかこいつの場合。おにーちゃんでも通りそうだけど。

こいつはは姉弟多いし、料理とか裁縫はすごそうだもんな。

そいつらの面倒見ながら自分の学費の心配までしてた。

相当良いお姉ちゃんなんだよな。

負けてるばかりじゃ癪だ。俺の偏ったお兄ちゃんスキルの一つを見せてやろう。何より気持ちはわかる。

財布の中からとあるメモを取り出す。これなら絶対肌身離さず持っていられる。

ウンお兄ちゃんスキル高い。

「総北はそういう場合予備日じゃなくて2次試験に回されたはずだ。基準までは問い合わせてないけど、

平塚先生によればウチのの場合だと診断書あれば内容によって大丈夫みたいだ。確認してみろ。」

「それが無理でもまだ2次試験で願書出せるとこはあるぞ。海浜とか弁展高も大丈夫だ。

海浜はちょっと偏差値高めだけど、どっちもガラの悪い学校じゃない。」

小町は海浜になんて絶対行かせたくないけどな。

ノートの端を破って、メモからいくつかの情報を書き出して川崎に渡す。

高校受験は小町の人生の大事だ。あらゆることを想定してリスクを潰してある。

最後の入試日までの救急病院の電話番号まで把握している。

通学圏内で2次試験を受けれる学校、その連絡先、有力なのは願書まで取り寄せた。

そして小町を信じてないみたいに思われるから秘密にしている。

八幡的に非常にポイント高いと思うんだが、実際どう取られるかわからないので今のところは言う気はない。

俺はここぞとばかりに俺のお兄ちゃんスキルの成果をまくしたてた。

一色はちょっと引いてるみたい。

「やっぱあんたってすごいな。」

だが川崎には普通感心されたようだ。恥ずかしいじゃねーか。ちょっと照れる。

「ハイハイ。シスコンってんだろ。そのとおりだよ。」

「い、いや、普段からって言うか・・」

「は?、いいから早く迎えに行ってやれ。平塚先生には伝えといてやるよ。家に誰もいないならお前多分明日も休むだろ。」

「あ、ああ。多分そうすると思う。」

川崎が携帯を取り出しながら言った。

「な、なあ、さっきの病院とか学校のことか、メ、メールしてもらっていいか?」

「あーー、電話でいいか?書くことかなり多くなるからな。長文スマホで打つの苦手なんだ。」

「で、電話っ。」

「うわー、先輩さらっと番号聞き出しますねー。」

「あ、そうじゃなくてだな。すまん川崎、電話はマズかったか?」

「い、いやいいけど。」

じゃあとスマホのアドレス帳を開いて自分の番号を見せる。

「コレ、1回鳴らしてくれ。落ち着いたら電話くれりゃいい。その時教える。」

「あ、ああ。」

「海浜とかの2次の願書のは予備持ってきてやるよ。まだ期限までは余裕があるから焦らなくても大丈夫だ。いいから早く行ってやれ。」

「あ、ああ、ありがと」

川崎が席に戻ろうと背を向けた時、ふと思い出した。

「そうだ川崎。」

「何?」

鞄の中からマスクの箱を取り出す。もう開封はしてあるがまだ3枚残ってある。

結構高いんだけどなコレ。だが姉弟心配する気持ちは痛いほどわかる。まあいいか。

「やる。そのまま病院行くだろ。」

受け取った川崎はポカンとした顔をしていた。なんだよ、俺がこういうことすると変なのかよ。

「この時期受験生の弟がいるのにマスクしないなんてブラコン失格だろ。」

「だ、だからブラコン言うな。・・でも、あ、ありがと。」

さっきからありがとばっかりだな。

川崎が帰る支度をし始めたので自分の席に戻ると一色がジトッとした目で見ていた。


「いやー、でもいきなり女の子の電話番号聞くとかありえなく無いですか?」

「電話もメールも似たようなもんだろ。滅多に送らないから打つの苦手なんだよ。」

平塚先生みたいな長い文章スマホで打つとか無理。

というかあの人慣れすぎだろ。恋人いないってのに普段誰とメールやりとりしてんの?

「えー、電話って意外とハードル高いですよ。用事が無いのにかけたら変じゃないですか。」

片付けを済ませ教室から出ていこうとしていた川崎が入り口でピタリと止まった。

「メールなら特に用事が無くても送りやすいしー。」

なんか一色悪い顔してない?

「そんなもんか。まあ確かにメールのほうがいいかもな。」

「ねー、そうでしょ。」

「メールのほうが気づかなかったって言い訳しやすいからな」

「対応しないことが前提なんですね。」

川崎がこっちを見ている。もうお礼なんていいってのに、あいつこっちの会話が切れるの待ってたのか?

「どうした?早く行ってやれよ。」

「あ、ああ、また・・、電話する。」

「おう、大志、大丈夫だといいな。」

「ありがと」

川崎の足音が遠ざかって行った。

「先輩ってタチ悪いですよね。・・・・・・・葉山先輩より(ボソッ)」

なんで?

「ということで先輩、私ともアドレス交換しましょうよ。」

「断る。」

「即答ですか。信じられないですね。こんな可愛い後輩がアドレス教えて上げるって言ってるんですよ。」

こいつも知られたらいけない人の一人だ。

あとは平塚先生とか陽乃さんとか。着拒したいけど小町経由で連絡取りやがる。それ反則だろ。

「でも実は知ってるんですけどねー。」

「は?」

「フリペの時、先輩の携帯お預かりしたじゃないですかー。」

え?、あの時?、いや、あれお前が取り上げたんだろ。まさかあの時盗んだの?

慌ててスマホのアドレス帳を確認する。一色の名前は見当たらないが・・。

「やだなー。私のを登録してるわけ無いじゃないですかー。

さっき交換は嫌だって言いましたよねー。私のは教えませんよ。」

えー、一方的に連絡先把握するとかお前どこの悪徳業者だよ。

いや、まだ大丈夫だ。コイツには小町経由の裏ルートはバレてない。

1回目は仕方ないとして、後は着拒とブロックでどうとでもなる。

「そういえばさっき言ってた小町ちゃんって、クリスマスイベントの時来てた娘ですよねー。」

お前に紹介はしてないよね?。まさかお前ソレまで抜いたの?。

一色はフフンと自分の携帯を口元に当ててウインクをした。

いや仕草は可愛いけどさ。それ犯罪だぞ。

個人情報保護法はもっと厳しく取り締まってもいいよね・・・。

そんな話をしていると予鈴がなった。

「それじゃ。入試が終わってからまた手伝ってくださいね。卒業式の準備とかあるんで。」

「いや、だから手伝うとは一言も言ってないんだけど。」

「葉山せんぱーい、しつれいしまーす。」

こっちの言うことは聞く気はないらしい。鼻歌を歌いながら教室を出て行こうとする一色がドアの前で立ち止まった。

「あ、先輩、逃げたら電話しますからね。」

俺はため息とともにうなだれた。


放課後いつもどおり部室へ顔を出す。

今月に入ってからは雪ノ下たちより少し早く帰らせてもらっている。

本当は休んで帰るべきなのだろうが、小町はいつもどおりの時間に夕食をるほうがいいと遠慮した。

普段は小町がやっている買い物と料理の時間を見計らって帰らせてもらっている。

俺としても少しの時間でいいから二人と話して帰りたい。

「そういえばヒッキー、小町ちゃんの入試って明日なの?」

「ああ、知ってたのか?」

「あはは、聞いてたわけじゃないんだけどいろはちゃんと話してるの聞こえちゃって。」

「昼休みに一色さんに合ってたの?」

「葉山に用があったんだろ。なんか教室に来てた。」

「そう。それで小町さんはどうなのかしら。頑張っていたみたいだけど。」

「まあ明日のは多分大丈夫だろう。ウチのは15日からだからもう少し先だな。」

「15日からなんだ。あ、ひょっとして昼休みいろはちゃんの用事って入試の手伝いとかじゃなかったのかな? 」

「それも聞いてたのかよ。」

「いやヒッキー達普通に目立ってたし。」

まじかよ

「一色さん、また何か雑用を押し付けようとしてるのかしら?」

「さすがに断った。小町の受験が目下俺の最優先事項だ。」

「あはは」

「それは小町さんの用事がなければ手伝う事はやぶさかではないということかしら。」

痛いところを。でも会長に押した弱みはあるしなー。

「あ、そういえばヒッキー、卒業式も手伝って欲しいとか言われてたよね。」

「はぁ、そろそろ自立を促してもいいと思うのだけれど。」

「いや基本的には手伝う気はないから。」

「基本的には、ね。」

「あ、いろはちゃんチョコレートあげるから手伝ってっていってたよね。」

しまった。今その話題はマズイ。まだ何も考えがまとまっていない。

まだ一週間あると思って俺は完全に油断していた。

「チョコレート?バレンタインデーのことかしら?」

「う、うん。隼人君と戸部くんにあげるとか話してたかな。それと・・、ヒッキーにも。」

「そ、そう。」

「ね、ねえ、ヒ、ヒッキーはもらったことあるの、チョコレート。」

話が広がってしまう。由比ヶ浜はこういう話題には必ず食いつく。できれば話を変えたい。

「俺は毎年世界一かわいい娘からもらっている。」

「あー、ごめん。それも聞いてた。」

結局全部聞いてたんじゃねーか。

「その、どうなの?」

「毎年小町からの1個だけだ。聞かなくてもわかるだろ。」

「そ、そうなんだ。」

「一つ?男の子の母親は大抵子供に与えるものだと思ったけど。」

与えるってお前、他に言い方ないのか。

「小町がくれるようになってからはもらってないな。親父には渡してるみたいだが。」

「そう。じゃあ小町さんにとっても母親から引き継いだ業務でしか無いということかもしれないわね。」

「それやめろよ。ほんとにショックだから。」

「あはは、ヒッキーと小町ちゃん仲いいもんねー。じゃあ毎年楽しみでしょ。どんなのくれるの。?」

「いや、今年は受験で忙しいからあげないって・・、今朝言われた。」

「なるほど。その上優先度が高い業務では無いということね。」

「オイ。」

「あはは。」

「ねえねえ、じゃあ、ゆきのんのバレンタインデーはどうなの?」

「どう、とは?」

「いやー、毎年どうしてるのかなーとか。」

「別に何もしてないわ。それにあれは日本独自の習慣みたいなものよ。

実際始めて広めたのは製菓会社だったはずね。私も海外にいた時は聞いたこともなかったわ。」

ほら小町、こいつやっぱり言っただろ。

「えー、じゃあ誰にもあげたりしないの。」

「昔は父さんに渡していたことはあったけど、今は渡してないわね。」

「えー、ゆきのんつまんないよ。それに普通はお父さんには毎年上げるもんだよ。」

「そうか?小町もかなり適当だぞ。一応渡しちゃいるけみたいだけどな。」

「それじゃあやっぱり小町さんにとっては適当にすませる業務なんじゃないかしら。」

「フフン。小町はオレと親父には別のチョコを用意する。オレの方が明らかにグレードが高い。」

「はあ、そこしか自慢するところがないのね。でも小町さんがそういう差をつけたりするのは意外ね。」

「あいつは意外と計算高いぞ。親父には幾らのもの渡してもリターンは同じだからな。

なら投資額は少ない方がいい。」

「り、リターン?」

「この場合はホワイトデーのお返しのことでしょうね。で、そのリターンとは何なのかしら?」

「5千円だな。」

「お金なんだ・・。」

「本当にリターンなのね。」

「ま、まあでもやっぱり、ほらこの時期のチョコって、どんなものでもなんか特別ーって気がしない?」

「まあ、今年は特別だな。毎日のように買ってる。」

正しくは買わされるだけど。

「そ、そうなの?」

「ああ、合格菓子。」

「あはは、そっちか。ヒッキー小町ちゃんに甘いからなー。」

「合格菓子?」

「そ。お菓子の名前に”合格ー”とか”受かるー”とか縁起のいい言葉をくっつけてたり、

あ、この時期しか買えな い赤とかピンク色のがいっぱいあるんだよー。」

「受かるって縁起用語なのかよ。それに説明下手すぎるだろ。雪ノ下、一個でも理解できたか?」

案の定、首を傾げて考えている。今の俺には、こういう話になる方が都合が良い。続けざまに補足する。

「中身は大抵同じだけど商品名の一部に1,2文字足したり入れ替えたりして、

合格に関連する言葉にするんだよ。そうだな、たとえば・・」

そういやこいつジャンクな菓子の知識なんてどの位あるんだろうか。

サイゼのドリンクバー使いかた知らなかったしな。

そうだ。俺は彼女についてこんなことすら知らないのだ。

なるべくメジャーな菓子の名前を頭のなかで検索する。これなら知ってるのかどうか・・。

「”うカルピス”なんてのがあったな。ちょっと捻ったもので願いを叶えるから”カナエルコーン”なんていうのもある。」

よりジャンクな”うカール”は知らないかもなとのチョイスだったが、雪ノ下の方を見ると、窓の方に顔を背け 肩を揺らしていた。

いや、そんなんでウケられても。

数秒で居住まいを正して、

「なるほど。それじゃあ赤とかピンクとか言うのはどういうことなのかしら。」

と質問をつなぐ。笑ってるのバッチリ見たからな。

「えーと、なんかかわいいっとか、おめでたいとかそんな感じ。」

「あーほ。まあめでたいってのは間違っちゃいない。赤というより紅白だな。

ピンクは桜の色だ。合格のこと サクラサクとか言うだろ。

そういう名前だけ変えたんじゃないやつは中身も変えてるのが多いな。

味は大体いち ごとかなんだが、物によっては桜の香りつけてるようなものもある。」

「ああ、なるるほどそういうことね。ずいぶん詳しいのね。」

「小町への差し入れでほとんど制覇したからな。その季節しか買えないもんってあいつ喜ぶし。」

「ふふ、いいお兄さんね。」

「別にどこの家でもやってるだろ。しょーもないゲン担ぎだよ。家も今日の夕飯はトンカツにするつもりだしな 。」

「あー定番だよね。ゆきのんトンカツの意味はわかるよね。」

「当然だわ。なにかバカにされているように聞こえるのだけど。ところであなた揚げ物なんてできるの?」

「さすがに無理だから買って帰るよ。やれないことはないかもしれんがかえって小町が心配しそうだ。」

「ふーん、あ、ヒッキーの時は小町ちゃんが作ってくれたの?」

「ああ、チキンカツだったけどな。」

今度は2人共声を殺して笑っていた。

あ、やっぱりそういう意味だったんだね小町。

「そうだゆきのん。私ゆきのんと友チョコしたい」

「友チョコ?」

「うん。女の子の友達同士でチョコを贈り合うの。」

「何の意味があるのかわからないのだけれど?それこそ製菓業界の販促の類ではないかしら。」

また言った。

「ま、まあまあゆきのん。こういうのは楽しまないと。

この時期じゃないと買えないようなカワイーのとか綺麗 なのとか見てるだけで楽しいのがいっぱいあるんだよ。一緒に見にいこーよー。」

「か、考えておくけれど、その、由比ヶ浜さんの交友範囲を考えたら、あまり大勢と交換するのは大変なんじゃ ないかしら。

ある程度親しければ男子の友人にも配るものなのでしょう。ほら予算とか。」

「あはは、実は今年は自分で作ってみようかなーなんて・・。

あ、ほら、ゆきのんにクッキーの作り方とか教え てもらったし、私だって少しは、その・・、そ、そう、それなら安くつくし。」

「まあチョコレートなら由比ヶ浜でもなんとかなるかもな。あんまり難しいところ無いし。」

「酷い言いかただし。ていうかチョコレートってどうやって作るの?」

やっぱそこからかよ

「チョコレートの場合、ゼロから作るのは現実的ではないから”作る”と言っていいものかわからないのだけど 、

市販のチョコレートを湯煎して溶かして好きな型に入れて固めるということならできるかしらね。

どちらかと いうと形を変えるという感じだけど。」

「ゆ、せん?」

期待通りの反応だな、オイ

「コホン、でもね由比ヶ浜さん、日本のお菓子というのは世界的にも非常に高い水準なの。

チョコレートにおい てもそれは例外ではないわ。

一度溶かすような手間を加えても風味が落ちるだけであまり意味がないと思うわ。 」

雪ノ下のやつ、説明すんのが面倒くさくなったな

「うーん、でもただ買うだけってのもちょっと味気ないというか・・。やっぱり意味ないかな?」

「そうね・・、あえて手を加えるとすれば、今の時期ならスーパーにも様々なトッピングが売っているから

そう いうものを使えば簡単に見栄えを良くすることはできるわね。

それだけだと味自体はほとんど変わらないからチ ョコレートにナッツやドライフルーツを混ぜたりするのも良いかしら。

好き嫌いはあると思うのだけれどリキュ ールに漬けた物を使えば大きく風味を変えることができるみたいね。

あとは、そうねホワイトチョコでメッセ・ ・文字を書くとかかしら。」

「・・・・・・。ゆきのん詳しいね。」

「い、いえ別にそういう訳ではないのだけれど。」

「で、でもめっせー   」

「て、手作りというならチョコレートそのものを作るのではなくて、素材として利用してはどうかしら」

「素材って言うと?」

「そ、そうね。例えばケーキとかクッキーにいれるとか・・。」

「クッキー・・・。それいいかも。クッキーなら作ったことあるし。」

「なあ、由比ヶ浜だぞ。どんどんハードル上げてどうするんだ。」

「ヒッキーうるさい。あ、でもクッキーだとお返しとかぶっちゃうかも。あー、貰えるなら私は別にかぶったり とかー、何でも、いいんだけど・・」

「そうね。確かにホワイトデーのお返しといえばクッキーが無難で一般的といえるようね。

他にもマシュマロや キャンディーが一般的みたいなのだけど。

ソースが不確かなのだけど、それぞれ贈る品物に意味があると言う場 合もあるようね。キャンディーだとどうだとかそういうのが。」

「やっぱりゆきのん詳しくない?」

今おまえソースっていったよね、それ確実に調べてるだろ

「い、いえ、そういえば最近はお返しは別に食べ物には限らないらしいし、あまり気にする必要は無いのではな いかしら。」

「食べ物じゃないってどんな?」

「そうね。お菓子と同額程度の返礼で趣旨に即した品ということであれば・・・・、意外と難しいわね・・・。」

同額とか考えるのは雪ノ下らしい。俺も興味ある。

だがそんな物より、今は特別な意味を感じさせない、そんなもののほうが知りたい。

「例えば・・は、花とか。」

「花・・、それイイ!」

いや無理。絶対無理。花とかハードル高いなんてもんじゃ無いから。

「ヒッキーは、その、家族とか以外の女の子に貰ったこと無いんだよね。」

結局話が戻ってきてしまった。あまりいい流れじゃない。

「しつこいな。あーそうだよ。何」

「いやぁ、ちゃ、ちゃんと、もらったらどうする?」

これは直球だ。もう少し時間がほしい。どう対応するのが良いだろうか・・。

「どうするというか、二人共くれるのか?貰ったら嬉しいに決まってる。」

するりと言葉が出た。自分でも気味悪いくらい軽い調子で。

普段の俺なら絶対にこんな台詞は言わない。こんな言い方はしない。

これは予防線だ。それに特別な意味を持たせないための。

ただ俺の一方的な期待、願望、妄想、根拠はそれしか無い。

そして何か予感が合った。俺の勝手な、気持ち悪いな根拠。その上での予感。

だが、これは葉山のやっていることと同じだ。

踏み込ませない事。葉山と俺の場合は理由は異なる。

俺が彼女のことを知り、彼女たちへふみこむまでの時間を確保する為に。

そのために相手には踏み込ませない。

葉山と俺、どっちがタチが悪いんだろう。一色の言葉がチラリと頭をかすめた。

葉山の場合は自分に向けられる好意を確信できている。実際そうなのだろう。

それなら他に取れる手段もある。

だが俺には、僅かであっても俺のただの妄想であるという可能性を排除できない。

だから俺にはこれしか思い浮かばない。

雪ノ下が怪訝な表情を向けていた。

「あはは、そ、そうなんだ。そりゃあ、ほら、部活仲間なんだし、絶対にあげるよー。あはは。」

これは残念な声なのだろうか?でも由比ヶ浜ならそうするだろう。別に変なことじゃない。

まだ雪ノ下の顔は気になる。でも大丈夫、変では無かったはずだ。

「そ、その、いろはちゃんもあげるって言ってたけど、ど、どうかな。あ、もちろん隼人君にもあげるとおもう ・・けど。」

「そこも聞いてたんじゃないの?アイツから物貰うとか怖いだろ。

ホワイトデーのことなんて考えたくもないね 。一色からとかいらん。お前らと小町から貰えれば嬉しいけど。」

完璧とは思えないが、それでも思惑は成功したと思っていた。だから簡単に言葉をつないだ。いつもの軽口のは ずだった。」

一瞬間があった。しっかりと聞くべきだった。次の問が真剣な口調だったことを。

「それじゃヒッキーは、もしいろはちゃんがくれたとしても受け取らないってこと?」

「まーその時考える、ほんとにどうでも~」

「それはダメっ!」

俺の言葉を遮りいきなり立ち上がってそう言った由比ヶ浜の声は厳しかった。

そして今度は消え入りそうな声でこういった。

「そういうの受け取らないとか・・しちゃダメだよ。」

「え、いや、一色だぞ。葉山のついでだろ。戸部とかサッカー部とか色々配るんだろうし別に俺がどうしようが 関係ないっっていうか。」

由比ヶ浜は黙ったままじっとこっちを睨んでいる。

「大体あいつにとっては、生徒会の手伝いの礼っていうか、雑用押し付ける為の報酬っていうか、そんなもんだ 。

そもそも全然労力に見合ってないけどな。」

この頭は屁理屈を並べるときだけよく回るのだ。

捻くれたいつもの調子の言葉が自然に転がり落ちてきてしまう。

何か間違ったのだろう。それだけはわかる。考えがまとまらない。

ほんとうに必要な言葉を絞り出すために考える時間がほしい。

だから喋りながら考えてしまう。悪循環だ。

真剣な由比ヶ浜の目を見ているのが怖かった。

その後ろの雪ノ下はどんな顔をしているのだろうか。

視界には入っているのに焦点を合わせられない。怖い。

「そういうことじゃないよ。前に言ったよね。人の気持ち、もっと考えてって。」

これはあの時、竹林で聞いたのと同じ言葉そして同じ声だ。

由比ヶ浜がはっと表情を変える。

いつもの明るい声の調子で、ところどころつまりながら、それでも捲し上げるよに早口で・・・

「あ、いやあ、ほら、いろはちゃんが何って言うんじゃなくて、なんて言うんだろ、ホラ・・・・・」

「ヒッキーにもさ、今じゃなくても・・、いつとか・・・誰とかわかんないけど・・・・・気持ちを込めてって のがあるかもしれないじゃん」

「あ、わ、わかんないよ。ほんとに何でもないってことだってあると思うけど・・・。」

「でも、ちゃんと、そういう事考えるよ様にして欲しい・・ってそんな感じ・・かな。」

最後に小さくつぶやいた。

「そういうものを貰うのって・・・怖い?」

図星をつかれた。どちらかと言えば鈍いほうだと思っていた由比ヶ浜に。

この二人から貰いたいと期待している。

反面、貰ったものに対して何か特別な意味を考えるのは怖い。

というより俺は貰ったら考えてしまうのだ。

特に今は、二人のことだけを考えてしまう。

他の人の事など考えている余裕など無いってほど。

「あ・・いや・・」

考えがまとまらない。言うべき言葉が出てこない。

間違ったという思いだけが頭の中を回る。

雪ノ下が椅子を引いて立ち上がった。

顔を見る勇気がない。

由比ヶ浜にさえ見透かされた。

雪ノ下にわからないはずはないだろう。

何時かと同じ、雪ノ下が嫌悪した行為。

こちらに近づいて斜め前に立つ。

その手にはティーポットが握られていた。

「お茶のおかわりは?」

返事を返す前に雪ノ下は俺の湯のみへ手を伸ばした。

いやどのみち声は出せなかったかもしれない。

少し屈んでゆっくりと紅茶を注ぐ雪ノ下はジッと俺の目を覗きこんでいた。

背後の由比ヶ浜には見えてないはずだ。

いつもと変わらない表情、真剣で、だが非難するような視線ではない。

お茶を注ぎ終わり、雪ノ下は一瞬目を閉じ、またこちらを見た。

その表情はとても穏やかで、そして優しかった。

ゆっくりと背を向け、窓際の机に戻りポットを保温する。

そしてこちらを向いた。

「比企谷くん。」

普段なら身構えるただろう。だがこの時は厳しい声ではなかった。

「あなたがこれまで女性に好意を持たれたことがあると、などと思っている人がいると思っているのかしら。?」

「由比ヶ浜さんが聞いたのだって確認ですら無いと思うわ。」

いつものヤツが始まった。

だが、なんだろう?普段とはどこか違うように感じる。そして長い。というか返答ができない。

「そのような惨めな思いをしてきたあなたに施しを~

基本俺への皮肉・悪態、そして注意、そんな言葉だ。

おそらく意図して由比ヶ浜に意味がわからないであろう難しい単語は使っていない。

難しいい回しを好み、それだけの語彙を蓄えている雪ノ下が。

そして問いかける言葉もあるのに返答をさせない。

それ力ずくではない。答えられない質問でもない。

ただなぜかできないのだ。会話術というのだろうか?

なんというか、うまい、そんな事を考えてしまう。

今俺は非難を、詰問をされなければいけない状況なのだ。酷く不謹慎だ。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年06月02日 (火) 21:17:20   ID: 9miXd58Z

おもしろいよ!
続きおなしゃす!!

2 :  SS好きの774さん   2015年06月26日 (金) 17:53:01   ID: AjaQghhx

誤字があるよ、後、誰が喋ってるか分からないから名前をつけて欲しいです

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