響「におい」 (29)


――執務室


Верный「ほら、司令官ッ! 早く言いなよォ! 下一段活用だよォッ!!」ピシーンッ!!

提督「は、はいぃぃ!! けーけーけるけるけれけ……れ?……よ!!」キリッ

Верный「最後詰まっちゃ駄目だろォ!? 曖昧な発音で誤魔化すんじゃあないよッ!!」

Верный「 Переделай !!(もう一度やりなさい!!)」ビシーンッパチィーン

提督「い"ぎィ! 痛いッ!! ゴメンナサイッ! ロシア語はさっぱりなんですゥゥゥ!!」ヒリヒリ

Верный「ええい! まどろっこしいね。じゃあもう覚えやすいので妥協しよう」

Верный「あり をり はべりィ!?」キッ

提督「いまそかりィィィ!!」

Верный「次は全部自分で言うんだッ!」

提督「ありをりはべり……いまそかりッ!!」

Верный「では今言った一節には、文法としてどのような意味がある!?」

提督「え、えと、えと、ご、五段活用ッ!……かな?」

Верный「」バッチィィィィン!!

提督「うぎぃいいいぃぃぃいえええええ!!」ジーン…ビリビリ

Верный「ラ行変格活用だろぉぉぉ!?」バシーンビシーン

提督「ヒ、ヒィ! ラ行変格活用! 略して『ラ変』でございましたァ!!」

提督「ありをりはべりいまそかりィ! ありをりはべりいまそかりィィィ!!」

Верный「今更遅いッ! 馬鹿め。と言って差し上げるよ!!」バチコォーンッ!!

提督「ひっぎゃあァァリガトウゴザイマス!! でも何で古典文法の授業なんてしなくちゃいけないんですかァッ!」

Верный「意見は許可しないィッ!」バチンッバチィィン



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――執務室前の廊下


<ヒギィィィィ!!
<ホラァ!! ニホンダンジダロォォォ!?

雷「ヴェルったら凄いのね! まるで練習艦みたい。香取さんもあんな感じなのかしら?」

暁「うちの鎮守府には香取さん居ないけど、多分違うと思うわ……」

電「はわわ……ヴェルちゃん怖いのです。流石に司令官さんが可哀想な気がしてきたのです……」

暁「どうして古文を教えているのかは……まぁ、さておいて」

暁「司令官の自業自得よ! 私達がボロボロになるまで対潜哨戒を頑張ったのに」

雷「まさか、『受注申告の押印を忘れていただけ』だなんてねぇ」

暁「散々『Верныйが達成条件に含まれない! 無慈悲の極みなり!』とか言って騒いでおきながら……」

暁「それに……」チラッ

電「は、はわわ……」チラッ

雷「……」チラッ




響「」




暁 , 雷 , 電(どうしましょう)


暁(まさか、本来の達成条件について改めて問い合わせる前に)

雷(他所の鎮守府に、他の〈響〉の派遣要請を出していただなんてね……)

電(早とちりも良いところなのです……)

響「あ、その。私は応援で訪れただけで、ここで働くのは今週一杯だけだから」

響「そこまで、気を遣わなくても結構……だよ」

雷「……あっ、あら! 響は弥生のモノマネが上手なのね!」アセアセ

響「してないよ」

暁「お、怒ってない……?」アセアセ

響「怒ってないよ」

電(対して、うちの響......ヴェルちゃんは現在進行形で怒髪が天を衝く勢いなのです)


<ア"ア"ア"ァァ! カムカム! カミィンカミィン!!
<урааааааааааааа!!
スパーンッ バチィン


――執務室


Верный「ふぅ……」キラッキラ

提督「」大破

<ヴェルー!! モウハイッテモイイ-?

Верный「ああ、暁……皆、入ってきていいよ」キラッキラ

ガチャッ ギィィィ……

暁「し、失礼しm……ぁーす」ウワァ

雷「これはまた……」ウワァ

電「は、はわわ……えげつないのです。ドとレとミとファとソとラとシの音が出なくなってそうなのです」

提督「フヒィ。パッキャラマードーパッキャラマードーパオパオパ」

暁「嗚呼、司令官。すっかり壊れかけのレディオになっちゃって……」

暁「っていうか、鞭で打ってるんだと思ってたけど、素手でビンタしてたのね……」

暁「全身に隈なく手跡が残っているわ……」

電「期せずして今年の紅葉狩りが済んでしまったのです!」

雷「しかも、パンツの迷彩柄が夕焼けを背に映る山のようで良いアクセントになってるわね」

暁「なってないわよ! こんなので今年の紅葉狩りを済ませられたらあんまりよ!」プンスカ!!


Верный「さあ司令官、おさらいだ」

Верный「『高速道路の登坂車線は、貨物自動車以外が通行してもよい』」

提督「マル!」キリッ

Верный「はい、正解」

提督「やぁりまぁしたぁ~!」

Верный「誰が綾波の真似をしろと言ったァッ!!」バッチィィン

提督「フギィッ!! 腿ォ!」

雷「あれ? 古文の授業は?」

電(教鞭の方針が羅針盤の如く気まぐれなのです)

暁「そ、そんな事より! 別の鎮守府から派遣されてきた響の待遇について考えないと!」

Верный「そうだったね……見苦しい所をお見せして申し訳ない」ペコリ

Верный「ヴェールヌイだ。よろしく」

Верный「そして、ここにパンツ一丁で寝転がっているのが」

Верный「うちの司令官だよ」

提督「どうも。この鎮守府で司令官を務めさせて頂いている」キリッ

電(流石のマゾヒストは切り替えが早いのです)

響「どうも、響だよ。佐伯湾泊地から来たよ」

響「来週の金曜日までお世話になる。皆、どうぞよろしく」ペコリ

響「そして、ドックを貸して頂き感謝する」

響「護衛艦の皆は未だ入渠中だから、最初に上がった私が先に挨拶させて頂いたよ」

提督「この度は私の不覚で要らぬ時間と労力を使わせてしまった。誠に申し訳ない……」

提督「ドックの貸与は当然のこと」

提督「君と君の護衛艦達がこれから本拠地へ帰投するまでの間に消費する資源は、こちらで賄わせて頂くよ」

提督「勿論、ここへ来るまでに消費した分もね」

提督「というわけでヴェールヌイ、この手紙を出しといて。佐伯湾泊地宛だから」

Верный「了解……あ、そうだ。『頻尿提督より』って書き足しておくべきだよね?」

提督「勘弁してくれたまえ。ていうか、向こうはそんなこと知らないだろう」


響「司令官殿は頻尿なのかい?」

Верный「うん。しかも、司令官が用を済ませた後の便器は根本の方がビッシャビシャだよ」

Верный「駅やデパートのトイレの如くね」

提督「俺は床を汚してもトイレットペーパーで拭いて綺麗にしてるから良いのさ」

提督「そもそも、なんで俺の男子トイレでの用足し事情を知っているんだ……」

暁「ていうか! なんで駅やデパートの男子トイレの事まで知ってるのよ!」

Верный「秘書艦だからね。当然だよ」

暁「理由になってなーい!!」



響「……」



提督「あ、そうだ。響達の部屋なんだけど、それぞれ部屋を用意してあるから自由に使ってくれて構わない」

提督「ただし、響の部屋に限っては」

提督「うちの《鳳翔》が隣の部屋に立ち入ることがあるから、その点は了承願いたい」

響「隣の部屋?」

Верный「ああ。その部屋は隣の部屋と襖戸で仕切られていて」

Верный「その『隣の部屋』というのが、布団や衣類を管理する場所なんだ」

Верный「ここでは皆が着る衣類の洗濯を《鳳翔》が担当してくれているから」

Верный「そういった用件で立ち入られる事が多いんだよ」

提督「そういう事だ。隔たる物が襖戸しか無いから、互いに物音が通りやすくなってるんだが」

提督「もし隣から物音がしたら、彼女が仕事をしているのだと思ってくれれば良い」

響「なるほど。Понятно(了解した)」

Верный「普通なら、もっと他所からの来客でも安心できそうな部屋を用意すべきなのだけれど……」

Верный「この司令官が、手頃な部屋を手配し損ねt」

提督「それはさておき! 建物の案内をせねばな!!」

響「スパスィーバ。よろしくお願いする」


暁「最初から客室として備わってるのに、なんで改めて手配が必要なのかしら」ヒソヒソ

雷「それがね……雨漏りを理由に、慌てて根本的な改築を妖精さん達に依頼しちゃったらしいのよ」ヒソヒソ

雷「簡易な修復かと思いきや、妖精さん達が総動員で天井を剥がしてるのを見て」ヒソヒソ

雷「ただ呆然として佇む司令官を、何人かの艦娘が目撃したそうよ」ヒソヒソ

電「相手に伝えたい内容の全体図を自分でも並行して捉えられなくなる頭でっかちの典型なのです」ヒソヒソ

暁「極めつけはアレね」ヒソヒソ

暁「ワサビを『からし』、タバスコも『からし』と呼んじゃう貧相な語彙よ」ヒソヒソ

電「強化缶を『ドラム缶』と呼ぶ事もあったのです」ヒソヒソ

雷「あんなんじゃ正確な注文が妖精さんに伝わらなくても当然よ!」ヒソヒソ

提督「……」

提督(……全部聞こえてる。つらい)

響(そういえば、うちの司令官もドライバーの事を『ねじまき』って呼ぶなぁ……)


――客室前


響「これは障子戸だな。穴を開けないように気をつけよう」ズッズズズズズズ…ゴトン

響「ここは……大きな箪笥が並んでいるな」

響「多分、話に聞いていた《鳳翔》が出入りする部屋だ」

響「客室に直接入る扉は無くて」

響「この部屋を必ず通らなければいけないようだ」

響「客室の入り口も奥にある。早速入るか」

響「羽ばたく白鶴の絵が入った襖戸か……美しい。実にハラショーだ」ズッ……ズススス…ゴトッ

響「おっと、少し段差があるな。床があるつもりで踏み出したら危ない。覚えておこう」

響「さて、荷物はここに置こう」ドサッ

響「ふぅ……それにしても」

響「たった一週間の宿泊なのに、とても丁寧に案内して頂けたな」

響「この部屋だって、元々は客室じゃないとは聞いていたけれど」

響「布団だって敷けるし、壁や床にも汚れが見当たらない」

響「窓から外の運動場まで見えるし、立派なものじゃないか」

響「非常口の標識が箪笥の上に見えるのは気になるけど……」

響「箪笥で出入口を隠してくれているんだろうね」

響「非常時に使えない非常口っていうのも危なっかしいけど……」

響「……」

響「……こうして部屋の状況を口に出して並べていると」

響「推理モノの主人公になったかのような気分になるな」フフッ

響「……なんだか」

響「ここへ来てから、変な気分だ……頭も、胸元もスカスカする……」



<スッ……スススス……コトッ


響「っ!」


<ギーンーノーリューウノー♪

<セニーノーォテー♪


響「……そうか、《鳳翔》が隣の部屋に入ってきたのかな」

響「挨拶をしておこう」コンコン...ズッズズズスススー……ゴトッ

響「失礼す……いたします」

鳳翔「あら。こんにちは、響ちゃん」

鳳翔「鳳翔です。どうぞよろしく」ニコ

響「佐伯湾泊地から来ました、響です。どうぞよろしく」

鳳翔「提督から話は伺っています。なるべく静かに用事を済ませるわね」

響「あ、いや、そこまで気を遣って頂く必要はないよ」

響「先程のように歌われていても、全然」

鳳翔(うっ……聞こえていらしたのね)


<ホーショーサーン!! タスケテクダチー!!
<バスタオルガタリナイノー!!


鳳翔「あ、はーい! すぐ行きまーす!」

鳳翔「ごめんね、響ちゃん。ちょっとの間、洗濯物をここに置かせてもらうわね」

パタパタパタ……スッ、ススススス、コトン……パタパタパタパタ……


<アッ! ローチャンチョットマツデチー!!
<カラダハチャントフクノー!!
<ハイハイ、オマチドウサマー


響「……」

響「凄く忙しそうだ」

響「洗濯物の量も沢山あるし」

響「手伝った方が良いかな」

響「……無断で手を出すのは悪いかな」

響「戻ってくるまで見守ることにしよう」

響「あれは……」

響「男物の下着か……」

響「迷彩柄ということは……司令官殿の下着か」

響「……」ウズウズ

響「何をしようとしているんだろう、私は」ウズウズ

響「明らかに駄目だろう……それ以上いけない」ウズウズ

響「で、でも……」

響「……」


響「嗚呼、ハラショー」スンスン

響「洗剤の爽やかな香りが、春先に雪解けの始まった平原から頭を出す樹木群のような」

響「自然の瑞々しさを彷彿とさせ」

響「この緑と土色の混ざり合った憎い迷彩柄が、そういった連想を一段と加速させる」

響「涼しげでありながら、鼻腔に陽の温もりが間接的に差すような」スゥゥゥー……ハァァァァー……

響「親しみ深く懐かしい香りだ……」

響「それもさることながら、洗濯済みなのにも関わらず」

響「力強い大人の……頼もしくて落ち着く感覚が残っているような……」

響「……実にハラショー。こいつは力を感じる」スゥゥゥゥ……スンスン

響「聞いた所によれば」

響「この迷彩柄のパンツは、Верныйが司令官殿にプレゼントした物らしい」

響「頻尿でパンツを汚してしまうから、それを目立たなくする為の工夫なのだそうだ」

響「自分の後身ながら、実にハラショーな気遣いだ……」

響「なるほど……司令官本人の体調や精神的なニーズを察した上で」

響「個人を取り巻く身近な物的資源(パンツ)などを考慮して環境を整理するのも」

響「秘書艦の重要な務めなんだな……。勉強になった」

響「……」

響「何故か、ニオイが恋しい……」

響「心細い……」ボソッ


響「……」

響「……もう一嗅ぎ(ひとかぎ)だけ」ハァァァ……スゥゥゥゥゥ

響「……」

響「もうちょっとだけ」ハァァァ……スゥゥ




鳳翔「……」

鳳翔「ぁ……あら、響ちゃん!」

響「っ!?」ビックゥゥゥゥゥウゥン

響「あ、う、あっ、えっと、その」アセアセ……

鳳翔「ごめんなさいね。戻るのが遅いから、畳むのを手伝ってくれようとしてたのね」

鳳翔「ありがとうございます。とても助かるわ」ニコ

響「あ、ど、どういたしまして……」ドキドキ

鳳翔「もし良かったら、半分手伝って貰えないかしら」

響「も、勿論だよ……です」ドキドキ

鳳翔(……)

鳳翔(ちゃんと注意してあげるべきだったのかしら……)


――23時頃


響「」シーン

響「今日の、失態……むしろ痴態だろうか……」ズーン

響「気になって眠れない……」ドキドキ

響「何かの脈絡があったわけでもなく、何かの理由に衝き動かされたわけでもない……多分」

響「何故あのような事をしてしまったのか……」

響「……」ズキッ

響「私は変態だったのか……」

響「咄嗟に取り繕ってしまった自分が恥ずかしい……」

響「これが罪悪感というものか……」

響「胸が苦しい……」

響「せっかく振る舞ってくれた夕食も、味がよく分からなかった……」

響「戻ってきた鳳翔さんに声をかけられた時に、本当のことを言えば良かった……」

響「あんなに優しい人を騙してしまった……」

響「こんな事は初めてだ……」

響「明日、皆に会うのが怖い……」

響「……寝て、起きたら謝ろう」

響「今は眠ることに集中するんだ――」

―――――
―――


アイマスかと思ったのに…ちゃんと艦これならそうスレタイに入れてくれよ

>>13
うっかりしていました……。
ごめんね。


響「――? ここは」

響「隣の部屋……?」

響「目の前に紅葉の山……いや、これは」

響「司令官殿の……パンツ! パンツです!!」

響「緑だッ! 土色だッ! 大自然だァッ!!」

響「しかもパンツの本体(司令官殿)も居るじゃないかッ!!」

響「肌が小さく真っ赤な手形で彩られ、消灯済みの闇の中で唯一つポツリと燃ゆるその姿たるや!」

響「まるで紅葉に染まったオアシスだッ!!」

響「ハラショー! ハラショー!!」クンクン!! クンカクンカ!!

鳳翔「何をしているの!!」

響「うわぁあぁぁあ!? 鳳翔さんだ!!」

鳳翔「それが子どものやることなのぉぉぉ!?」

響「子どもだからやるんだろォ!! いや違う! 私は何を言っているんだ!!」

鳳翔「やることが汚いわよ! シベ公ッ!!」

鳳翔「早く出て行きなさい! 憲兵を呼ぶわよ!!」

響「は、はい! あ、あれ、脚が動かない。立っても倒れる! 立てない!!」

響「部屋から出られない! 助けて!!」

響「あ、ああっ! パンツの山に倒れこんでしまった……!」

鳳翔「何をしている! 貴女なんかが艦娘だっていうの!?」

響「ち、違……これは、わざとじゃ……なぃ」ビクビク

鳳翔「憲兵ィィィ!! 侵入者よおおおおおおおおお!!!!」

響「ま、待って」

憲兵「スタァァァップ! そこで止まれッ!!」バァーンッ!

響「わああああ!! 違う! 違う!」

憲兵「お前は大本営及び当鎮守府、それに所属する全ての者に対して罪を犯した!」

憲兵「何か釈明はあるか!?」

響「あっ、あっ……あっ……」

鳳翔「……変態不死鳥」チッ

響「ひっ」ビクッ


Верный「……」

響「え、う、あ。ここの……Верный」

Верный「別の鎮守府から来たとはいえ」

Верный「私の前身がこんな醜態を晒すとは……流石に情けない気持ちになる」

響「ご、ごめんなさい……」

Верный「まぁいいけど。間違っても改装なんてしないでくれよ」

Верный「『信頼』の名を汚されたら、洒落にもならないから」

響「」

阿武隈「アタシ的に、超ファッキューです」

榛名「榛名は大丈夫だけど、変態不死鳥は大丈夫じゃありません!!」

葛城「業深き罪人発見! ち、違う? ただの変態不死鳥? 牢屋に回せー!! 尋問官、執行人、粛清準備!!」

憲兵「温かい部屋で蜂蜜酒を呷る同僚達の陽気を頭上に感じながら、ここの地下牢で朽ち果てることだな」

憲兵「改装は勿論のこと、海域攻略にも、演習にも、遠征にも同行できず」

憲兵「ましてや解体すらされず、艦船選択画面のLv7~20辺りで放置されて腐るよりマシだろう?」ニタァ

響「ぅ、う――」



―――
―――――

響「――わあああああああああああああああああああああああああ!!」ガバァッ

響「ハァ、ハァッ!」ゼーハーゼーハー

響「ハァ……はぁ……」ドクンッドクンッ

響「ゆ、夢……なのか?」

響「……」ダクダク

――ドッドッドッ

響「ひっ!?」

響(足音!?)

ガザッズススススス……

響(襖戸が開く……!)



鳳翔「響ちゃん!! 大丈夫!?」

響「ほ、鳳翔さん……?」


橙色の淡い光を放つ豆電球の下に、《鳳翔》の輪郭を捉えた。

彼女が、天井の照明器具から垂れた電源の紐を下へ向けて引っ張る。

カシャン。カシャン。カチリ。

硬く短い音が3回鳴った後、パッと白い明かりが点く。

先程とは打って変わって、相手の表情をハッキリと捉えられる明るさになった今、

その直前まで彼女がどのような顔をしているのかが分からず恐怖していた自分が

以前より重ねて恥ずかしくなるぐらい

『自分の身を案じてくれているのだ』と、はっきり分かるような優しい顔が見える。


鳳翔「ひどい汗じゃない。顔色も悪いわ……」

響「ほうs……ゲホッゴホッゴホッ」ゼーゼー

鳳翔「喉が乾いているのね。ちょっと待っててね、すぐ水を持ってくるわ」


鳳翔「お待たせ、響ちゃん。持ってきたわ。落ち着いて飲んでね」

響「……っ」コクコク

響「ハァ…ハァ…!」

鳳翔「大丈夫。落ち着いて」ダキッ

鳳翔「だいじょうぶ。だいじょうぶ」サスサス

響「……ハァ」

鳳翔「……どう? 落ち着いた?」

響「あ、ありがとう。ウッ……」グスッグスッ

鳳翔「……」ポンポン.....サスサス.....

響「ごめんなさい……実は……」ポロ......

響「洗濯物を畳む時、司令官殿の下着のニオイを嗅いでて……」ポロポロ......

響「畳むのを手伝ってもいないくせに、『どういたしまして』だなんて言ってしまって……」グスン

響「そもそも、あんな変態的なことをしてたのに……」

響「こんなに優しく接してくれる鳳翔さんを、こんな、騙してしまって……」グスン…グスッ

鳳翔「……」サスサス

鳳翔「響ちゃん。実はね、私も響ちゃんに謝らなければいけないことがあるの」

響「……?」グス…

鳳翔「あの時、響ちゃんが何をしていたのかは知っていたの。途中から見ていたわ」

響「っ!」ピクッ

鳳翔「気を遣ったつもりだったのだけれど、逆にツライ思いをさせちゃってたのね」

鳳翔「私の方こそ、『知らないフリ』で響ちゃんを騙していたと言えるわ」

鳳翔「ごめんなさい」

響「そ、そんな……鳳翔さんが謝る必要なんて……」

鳳翔「それにね、響ちゃんがしていた事を咎めるつもりなんて無いの」

鳳翔「あの時、途中から独り言も聴こえていたのだけれど」

鳳翔「多分、響ちゃんの場合は『ホームシック』みたいなものじゃないかしら」

響「ホームシック?」

鳳翔「ええ。あくまで、『みたいなもの』だけどね」

鳳翔「私達の住む領域って、ヒトが提督や憲兵さんしか居ないでしょ?」

鳳翔「きっと、似たようなニオイで寂しさを紛らわせようとしたのよ」

鳳翔「ニオイと思い出は、とても結びつきが強いから」

鳳翔「でも、本当はそれが全然違うモノだと分かってて」

鳳翔「『補おう、補おう』と必死で、頭のなかで想像力が暴走しちゃったんだと思うわ」

響「……そう、なんだ」

響「……」


その時の時刻は、おおよそ午前4時頃だった。

私は、彼女に十分過ぎるほど慰められた後

お詫びを兼ねた礼として、朝の支度を手伝った。

朝食時に使う"おしぼり"の用意や

食堂の掃除、溜まったゴミの処理等々……

その時、私は心機一転を試みようという意気が空回りしていたのだろう

勝手な判断で『艦隊の総員起こし』をしてしまったのだ。

それ故、その日の当番であった《まるゆ》が

「皆さん、もう既に起床していました……」

と、空笑いしながら司令官殿に報告していた。

私は「余計な事をしてしまった」と反省し、彼女と司令官殿に謝罪した。

それから、私がここを発つ日までは

良くも悪くも色々な事が起こり退屈しなかった為、さほど長く感じられなかった。

破るまい、破るまいと気をつけていた筈の障子戸の紙を、考え事をしながら歩いていた所為で

額をぶつけて突き破ってしまったり

その事で、司令官殿に謝ったり。障子用のワッペンを貼り付けたり

本来客室であった筈の部屋が、根本的な改築とやらで『大浴場(温泉岩風呂)』になっていたり

それを見た司令官殿が、青ざめながら立ち尽くしていたり

遠征終了後、私と共にここへ来た護衛艦達と、その温泉岩風呂に浸からせて貰ったり……

そして、着任期日である金曜日。

その日は、《比叡》が少し変わった味のカレーを振る舞ってくれた。

彼女は、「自分の愛しい姉妹達が一般向けのカレー作りの練習に付き合ってくれたのだ」と

見た目にも分かるほど、嬉々として語っていた。

一般向けの味には、まだ程遠いような気もしたが

食べ終えた後は、「病み付きになりそうだ」と思えた。

そのカレーは美味しかったということだろう。


――帰路の海上


響(……)

響(思い返してみれば、あの鎮守府の第六駆逐隊とは)

響(最後まで、あまり関わることができなかった)

響(同じ艦でも、その所属地によって喋り方や考え方が違うのだろうかという疑問があったけれど)

響(結局、よく分からないな。比べようが無い)

響(……)

響(鳳翔さん、優しかったな)

響(あの場、あの時だけでなくても)

響(今でも、彼女に救われてる気分だ)

響(……最後に、挨拶したかったな)

響(……)

摩耶「おい、響」

響「」ハッ

摩耶「考え事かぁ? ぼーっとしやがってよ。身体傾いてたぜ」

摩耶「走行中は危ねぇから気をつけな」

響「す、すまない」

響(いい加減、改善せねば)

北上「ははーん。さては思い出に浸っておりましたなぁ? 駆逐艦の響ちゃんよ」ニヒヒ

響「……そうだね。屋内だけでも印象深い出来事が多かったんだよ」

大井「あんまりハードな仕事は任されませんでしたからね」

北上「ちょっとだけ旅行気分だったよね。ホームステイってやつ?」

北上「しかも、あんなに大きな浴場に加えて岩風呂温泉とかねー」

大井「うちも大概ですけどね……執務室に檜のお風呂とか」

北上「ねー。ちゃんと執務室と区別してる分、うちよりマシよねー」ケラケラ

球磨「でも部屋の居心地は最悪だったクマー……」

球磨「旅館みたいな浴場を作るぐらいなら、寝室整備の方を優先すべきだと思ったクマー……」


金剛「マー、色々と恥をかいた事も、楽しい事もありましたケド」

金剛「何と言っても極めつけは今日のLunchネ!」

金剛「あの鎮守府の比叡が作ったCurryも、最高にデリシャスでしたネー!」

摩耶「すっげえ独特だったけどな……」

金剛「オリジナリティは大切ネー!」

北上「アレはアレで美味しかったよねー。変な味だったけど」

北上「あ。変な味といえば、大井っちも以前変な味のカレー作ったよねぇ」

大井「うっ……あ、あれはですね……」

北上「食べた後、なんか身体も熱くなったし」

球磨「……や、やばいクマ……大井ちゃんは限度というものを改めた方が良いクマ……」

金剛「バ、バイオレンス……大井ってば大胆デース!///」

大井「ち、違います! アレは漢方薬の分量を間違えただけです!」

摩耶「慣れねえもん使うからだよ……普通の香辛料でいいじゃん」

大井「だ、だって……」

北上「あー、もしかしてアレか。大井っち、最近は料理モノの少女漫画にハマってるんだよねー」

大井「う"っ」

金剛「ガールズコミック! やっぱり大井も乙女デスネー!」

球磨「漫画に触発されて真似するなんて……大井ちゃんも可愛いところあるクマ」

大井「」

球磨「しかも少女漫画に……本当に可愛いクマー」プスプス

大井「」


<モー!! ナンナノヨォォ!!!
<オ、オチツクデース!!
<ギャー!! ミミガモゲルクマー!!
<ア、アブナイヨオオイッチー
<オマエラシュウイヲケイカイシロヨー!!


響(……)

響(なんだか懐かしい空気だ)

響(あそこでは、一度に皆で集まることが無かったからな……)

響(話に入り込むのは苦手だけど)

響(近くに居るだけでも落ち着く……)

響(……あれ?)

響(あの、10時の方向に見える艦は)

金剛「Oh!! あそこに艦隊が見えますネー!」

大井「あ、あら本当……あの鎮守府の艦隊かしら」

北上「遠征帰りかもねー」

摩耶「移動の軸的に、合流することはなさそうだな」

球磨「う"う"ォ"ォ"ォ"……それよりも耳がぁぁぁ……クマー……」

大井「知らないわよ」フンッ

金剛「Oh......Very angryデース……」

北上「帰ってメシ食えば機嫌直るって」ヘラヘラ


響(……影が小さすぎて判然としないけど)

響(あの艦隊の旗艦、鳳翔さんに見える)

響(ちょっと、手を振ってみよう)パタパタ

響(……)

響(うん。やっぱり分からないな)

北上「お? 駆逐艦の響ちゃんや、お手手を振っちゃって」

響「もしかしてあの艦隊にお知り合いでも?」

響「あ、うん。まぁ遠くて分からないんだけどね……もしかしたら、と」

北上「自分から手を振る程の相手ねー。その人が遠征要員だったら」

北上「同じく遠征要員である駆逐艦の響ちゃんなら」

北上「またどこかで、ばったり出会えるかもしれんよ~」

響「そうだったら良いな」

金剛「遠征だけでなくても、演習で会えるかもしれマセーン!」

球磨「一期一会とも言うクマー。また会えたら沢山喋っておくことだクマー」

金剛「オー。コトワザ! ジャパニーズ金言デスネー!」

響「ことわざ、か……」

響(……)

響(強いて、この一週間に当てはめるなれば……)



響(『旅の恥は嗅ぎ捨て』、なんてね)

響「フフッ」





END




前作

提督「電さん……トイレ、いいッスか……」

……しまった。打ち間違えていた。響さんが自問自答してしまっている。悔しい。

〈訂正箇所〉

響「もしかしてあの艦隊にお知り合いでも?」

響「あ、うん。まぁ遠くて分からないんだけどね……もしかしたら、と」



北上「もしかしてあの艦隊にお知り合いでも?」

響「あ、うん。まぁ遠くて分からないんだけどね……もしかしたら、と」

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