ちひろ「No price」 (32)

 
※地の文あり
 
今度は、値段が見える彼女のお話。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1431173541

私が今使っているボールペン、500円。

もう三年近く愛用している事務机、3万5千円。

「おはようございます、ちひろさん」

ドアを開いて、プロデューサーさんが挨拶をしてくる。

あなたが着ているスーツ、5万円。

社会人として恥ずかしくないように、と奮発したんでしたっけ。

まだまだ少し、服に着られてる感じはしますけど、似合っていますよ。

「おはようございます、プロデューサーさん。今日は休日じゃないんですか?」

この世の全てのものには値段がつけられる。

それを知ったのは、数年前の事。

突然だった。

朝起きた時、私は視認した物の値段がわかるようになっていた。

目で見る全てのものに、値札がついているように見えた。

それは、人間でも例外ではなく。

「久しぶりにスカウトに赴こうかと」

数十億の値札がついたあなたはそう言って笑った。

「そうですか。また、いい子に会えるといいですね」

また、蘭子ちゃんや凛ちゃんのように数億レベルを連れてきて欲しいものです。

この前は、数千万レベルの子達ばかりでしたから。

「今回は活動範囲を増やしてみようと思ってるんです。ちひろさん的にはどこがいいと思いますか?」

ばっ、と目の前に100円の日本地図を広げるプロデューサーさん。

47の値札が、私の前に並べられる。

「……そうですね。こことかどうでしょうか」

並べられた値札の中から、東京を除いて特に高いものの中で近場をチョイスしていく。

それは県自体の値段なので、決してそこに住んでいる人間の価値ではないものの、そうするのが一番無難だろうと。

こういう時、私の目は不便だ。住んでいる人間一人あたりの価値の平均を割り出したりはできない。

ちゃんとこの目で見た人間の価値しか、測れない。

逆に言えば、

この目があれば、価値が低い人間を炙り出せる。

プロデューサーさんがスカウトしてきた子達も、価値が一千万もいかないような子は切り捨ててきた。

「なるほど……参考になりました。是非行って見ます」

いくつかの県にマークをしたプロデューサーさんは、地図を片付けるとすぐに仕事に取り掛かった。

そういえば私にも、価値が測れないものはやっぱり存在する。

それは例えば、あまりにも広すぎる空。

それは例えば、量が多すぎる海。

それは例えば、芸術的な意味合いが高い絵画。

それは例えば―――あなたの、心。

値札の中で生きてきた私にとって、価値のわからないものほど不安や恐怖を感じるものはない。

だって値段がないという事は。

「いくら払えば、私のものになりますかね」

誰にも聞こえないよう、そっと自嘲気味に言う。

いくらお金を積んでも、手に入らないのだから。

こんな最低な私なら、尚更。

面白い

あのビルは5億円。

我がプロダクションは2億円。

やはりそろそろ、プロダクションを大きな場所に移転するべきだろうか。

外に出て物思いにふける。

プロデューサーさんがどうしてもと言うので、私もスカウト業務に付き合う事に。

女性がいた方が相手も話しやすいだろう―――なんて。

言い訳があっても、誘ってくれたのは嬉しいです。

ふと、窓ガラスに映った私を眺めてみる。

オーダーメイドの事務服、4万円。

こっそりオシャレしてみた髪留め、2千円。

だけど

「ふふっ」

笑ってしまいますね。

ぴょこんと一つだけ不自然に大きな値札。そこに書かれた一桁。

『\0』

どんなに綺麗なもので着飾っても、私の価値は誤魔化せないみたい。

「お待たせしました!」

プロダクションからプロデューサーさんが鞄を持って出てくる。

その1万5千円の鞄は……誰かがあなたにプレゼントしたんでしたっけ。

きっとあなたにとってはそれ以上の価値のある鞄。

私があげた万年筆も、同じくらい大事にしてくれているでしょうか。

「それじゃ、行きましょうか」

「はい。どこから回るんですか?」

そうですね―――と再び地図を広げるプロデューサーさん。

「日帰りだとこの辺りですかね」

「そうですね。それが妥当だと思います」

何となく、何となくだけれど。

これじゃあ旅行先を決める夫婦のようだと、笑ってしまう。

その関係は私が金庫のお金をひっくり返しても、手に入る事はないのに。

「それじゃあ、出発しましょうか!」

元気よく歩き出したプロデューサーさんの背中を追いかける。

そしてよもや追い抜こうかという時、ふらふらと空中を彷徨っていた彼の手を握る。

「ち、ちひろさん?」

「プロデューサーさんはどうも私がいる事を忘れて歩いてしまうみたいですから。首輪みたいなものです」

「く、首輪ですか……」

げんなりする彼と違って私は上機嫌。

これくらいは、役得ですよね。

価値のない私の、ほんの少し高い買い物。

「ちひろさん、お話があります」

あれから数日後。

今日も値札に囲まれた一日も終わろうとしている、二人きりの事務所で。

プロデューサーさんは、真剣な顔で告げた。

「何でしょうか。お金の話ですか?」

そんな顔にドキリとさせられたのを気付かれたくなくて、少し茶化すように言う。

「そんな冗談はいいんです。本当の本当に……未来に関わる、話ですから」

「未来……」

少し、想像してみる。

数年後の私は、何をしているんだろうか。

また、値札に囲まれた生活をしているのだろうか。

「ええとですね……その……」

歯切れ悪く、複雑な表情を浮かべて黙ってしまうプロデューサーさん。

これは何か、やましいことがある時の表情だ。

ただ、未来に関わるやましい話とはなんでしょう。やはりお金がらみじゃないのでしょうか?

「……俺と、付き合っていただけませんか!」

突然、ばっと目の前に小さい正方形の黒色の箱を差し出される。

40万円……?もしかして、この中に入ってるのって。

「開けてみても、いいですか?」

「は、はい」

ありえない。そんなワケがない。

でももしかしたら。

不安と希望が入り混じる心持ちで、箱をそっと開けてみる。

そこにあったのは、小さな小さなダイヤモンドがはめ込まれた指輪だった。

「……ふふっ」

「な、何か変でしたか?!」

笑いが止まらない。だって、中に入ってたものは私の予想通りのもので。

いくらお金を積んでも、手に入らないと思っていたもの。

私が全財産を払ってでも、喉から手が出るほど欲しかったもの。

「指輪って……結婚する時に送るものじゃないですか」

「あ、ええとですね、その、それくらいの覚悟でって……」

あたふたするプロデューサーさんをからかうように責め立てる。

そうしないと、泣いてしまいそうだったから。

「もし私に振られたら、この指輪どうするつもりだったんですか?」

「く、クーリングオフを……」

「流石にそれはもったいないです。せっかくの指輪なんですから」

お金以上に気を使って、慎重に、慎重にそっとリングを手に取る。

「こう、しないとですね」

そして手に取ったリングを、左手の薬指にはめた。

「あ……ち、ちひろさん……!」

相変わらず、40万円の値札はついているけれども。

それは世界にあるどんな指輪よりも、どんな物よりも、高いものに見えた。

「ありがとうございます。私も好きです。プロデューサー、さん」

窓越しに月明かりが事務所の中に差し込んでいる。

この風景に値札がついていなくてよかったと、心底ほっとする。

そんなムードのない告白は、いらない。

ふと、プロデューサーの後ろにあった鏡が目に入る。

馬鹿みたいに自己主張する、不自然に大きい値札に書かれている値段が、

変わっていたように見えたのは、私の気のせい、でしょうか。

 
 
おわり

ちっひおめでとう!

言葉が見える彼女のお話
 
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色が見える彼女のお話。


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では、ありがとうございました。



ちっひお幸せに

次回作も期待してる

やち天

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虚言癖 国士舘 中退 ウンフェ 飲酒運転 うつ病 長谷川亮太 無能 イジメ キッズライク 誘拐 ガイジ なかよし学級 ハッセ 恒心 前科 ストーカー 犯罪 万引 逮捕 韓国人 性病 ラブライ豚 盗撮

すげぇいいSSだった
設定も独特で引き込まれるし現実感あっていい

スレタイが小説っぽい

すごくよかった
おつおつ

全部逸書に拝見しました。
こういう完成が本当に羨ましい。星井ものだ、切実に。

乙です

いいssだった、かけ値なしに


良いssでした

ちっひはホントはえぇ子なんよー

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