【艦これ】磯風「磯風水雷戦隊」陽炎「陽炎水雷戦隊」 磯風・陽炎「突撃する!」 (72)

磯風主人公、陽炎相手の水雷戦隊演習合戦です。
前作後日談として書きましたが未読の方はこちらからでOKです。
面白いと思ったら他も読んでみてください。

磯風⇒球磨の教え子、陽炎に挑む(可愛い)
陽炎⇒神通の教え子、駆逐艦のエース(可愛い)

ざっくりこれだけ分かってれば読めます。それではよろしくお願いします。


前作 【艦これ】球磨「お姉ちゃんの損な役回り」
【艦これ】球磨「お姉ちゃんの損な役回り」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1430532671/)

大元 【艦これ】神通「私と提督の、恋」
【艦これ】神通「私と提督の、恋」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1427886950/)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1430824186

【プロローグ】 師匠たちの下馬評



木曾「おお、やってるやってる」

球磨「遅いクマー」

木曾しゃーねーだろ、任務帰りなんだから」


神通「丁度、始まったところです」

川内「さてさて、どう転ぶかねえ?」

木曾「で、どっちが勝ちそうなんだ?」


球磨「もちろん磯風の方クマ」

神通「陽炎ですね」

川内「あーあ、二人共ひいきしちゃってさ」



木曾「どれどれ・・・演習の設定ももってこいじゃねーか」



『遠海にて敵部隊と遭遇、これを殲滅せよ』



木曾「いいねえ、こりゃあどっちが勝つか・・・見当もつかないや」


球磨「磯風クマ」

神通「陽炎です」

川内「親バカ・・・」

【第一章】 磯風の秘策



今日の演習場の空気はピリリと辛い。
少なくとも私たち・・・磯風の部隊はそうだ。陽炎に勝つ、それだけを目的として来た。


磯風「浜風、浦風。直撃は避けろよ」

浜風「承知です」

浦風「分かっとる、とにかく回避に集中じゃけんね」


磯風「不知火は天津風のフォローを頼む」

不知火「了解です、さあ天津風。あのお調子者に一泡吹かせましょう」

天津風「ちょ・・・ついて行くだけで精一杯なんだから勘弁してよね!」

訓練組に戻ってから初の、陽炎との直接対決。

今日の演習はただただ相手の殲滅のみが目的、何も遠慮するものはない。

全力をただ、ぶつけるだけ。だからこそ、燃える。



浜風「磯風、来ます!」

磯風「散開して躱せ!」


敵の一斉斉射をいち早く察知した浜風のおかげで、余裕を持って回避運動を行える。
・・・・・・・・・まだ練度の低い天津風以外は、だが。



天津風「わわっ・・・不知火助けてよっ」

不知火「気合で躱して下さい」

天津風「ちょっとぉ!?」


天津風に若干の不安は残るものの、敵艦隊にも同練度の時津風がいる。

要はそういった仲間をどうやって上手く使うかだ。

磯風「斉射がやんだぞ、隊列を整えろ」

浜風「磯風、天津風が小破、他はみな無事です」

浦風「敵艦隊も一度引いてくね」



旗艦である私に、副艦・・・補佐役の浜風から即座に情報がもたらされる。

幾度となく練習した連携に歪みはない・・・どころか、どんどん精度が増している。

一方、正面で相対している少女からは舌打ち混じりの感想が漏れる。

陽炎「あ、あんですって~!?」

陽炎「何よ、あれだけ撃って直撃なし!?」


曙「黙って引きなさい、先に隊列整えるのはあっちよ」

陽炎「ぶー・・・分かってるわ、曙お願いね」



声は聞こえないが、遠目に見るだけでもどんなやり取りをしているかは察しがつく。

目つきのきつい、小柄な少女が中心となって陽炎を盛り立てている。


どうやらこちらにいる不知火への対抗心が彼女を奮い立たせているらしい。

陽炎の副艦は私だ、という声が聞こえてくるようだ。

曙「潮、時津風をフォローしていったん引かせて」

潮「は、はいっ」


叢雲「とはいえ、天津風が小破にこちらは無傷」

曙「この調子で少しずつ、押していくのが一番ね」

陽炎「ええ、その方向で・・」


曙「旗艦、隊列整ったわ」

陽炎「よーし・・・もうひとあて、行きましょう!」


叢雲「慎重に、そして確実に・・・ね」

陽炎「モチのロン、よ!」

叢雲「その返し死ぬほどダサいからやめて頂戴」

磯風「想定していたより、部隊の展開が早いっ・・・!」

浜風「慌てないで、こちらも陣形は整えています」

磯風「うむ、二度目のぶつかり合いだな・・・かかれ!」



流石に現駆逐エース。あの神通に揉まれただけのことはある。

私たちが想定したよりも圧倒的に早いタイミングで攻めを継続してくる。


いつまでも守勢にまわっていれば、削られていくのはこちらだけ。

じりじりと形勢が傾いていくのだけは阻止しなければならない。

浜風「焦らないで、磯風」

浜風「正面きっての対決では、陽炎には適いません」


私の不安を察してか、敵の弾幕を避けながら浜風が言う。

副艦のその声に、何よりもまず私は落ち着きを取り戻すが・・・。



磯風「中々はっきりと言ってくれるじゃないか、浜風」

浜風「事実の指摘です」

不知火「一朝一夕に追いつけるほど、陽炎の実力は甘くありません」

浦風「アンタ・・・今はこっちの部隊じゃきんね?」


不知火「ですが・・・」

普段は無口な不知火にしては、珍しくこんなことを言った。

不知火「磯風の指揮も中々です。偶然にも勝ってしまっても・・・不思議はありません」

磯風「そうか、なら今日は・・・その偶然を、起こしてやろう」


この日のためだけに考えてきた秘策を使って。


浜風「やりますか」

浦風「ちぃと卑怯だけど・・・勝つにはあれしかないけんね」


天津風「ちょっと・・・あの作戦、本当にやる気なの!?」

天津風「あんなの深海棲艦相手には通用しないじゃない!」

天津風の慌てぶりに、私たちは降り注ぐ弾幕を躱しながらニヤっと笑って。


磯風「おいおい、今相手をしているのは陽炎たち・・・艦娘だぞ?」

磯風「なら、艦娘に勝てるような戦い方をするのは当然だろう」

浜風「相手によって戦い方を変える・・・当然ですね」


浜風までもがシレっとのたまったのを見て、天津風が肩を落とす。



天津風「あー、もう。やってやるわよ付き合ってあげる!もう知らないから!」


かくして私たちの・・・一度きりの禁じ手を使う時が来た。

幕間 似た者同士



川内「あれ・・・磯風たち、なんか押され出したね」

神通「陽炎たちの艦隊が攻め続けています、けど」

木曾「磯風にはまだ荷が重かったのかな?」


神通「いえ・・・それにしては、磯風の艦隊も損傷は少ないです」

木曾「決定打が出る前に撤退ポイントまで退却する気かもしれんぞ?」

球磨「いや・・・あれは」

神通「ええ、おそらく」

木曾「ん、なんだ?」


球磨「磯風のやつ、何か企んでいるクマ」

川内「こりゃ、どうなるか分かんないね」

神通「陽炎に小細工など通用しません」

球磨「小細工じゃないクマ、きっと立派な作戦クマ」

神通「何ですか」

球磨「クマ~?」


川内「あははー。うちの妹がご迷惑をおかけします」

木曾「ふん、それを言うならうちの姉もな」

川内「まあ、勝つのは陽炎だけどね」

木曾「磯風の間違いだろう?」


川内「ん?」

木曾「は?」


球磨「おめーらも結局、似たもの同士クマ」

第二章 エースの逡巡



曙「陽炎、チャンスよ!」


曙の声に、でも私はすぐに決断を下さない。

突撃の指示は出さずに、今までと同じ中距離からの主砲の斉射を続けさせて様子を見る。


曙の報告どおり、磯風の率いる敵艦隊が後退をはじめていった。

何かあったらいつでも退却できるという距離感を保つためだろうか。

さっきから攻めているのはこちらなんだから、向こうが守りに入るのは仕方ない、でも。




陽炎「少し、潔すぎじゃないかしら?」


日頃の・・・そして今日の磯風たちの気合の入れようからは想像出来ない慎重な動き。

言ってみれば消極的過ぎるのだ、全てが。

こっちは開幕から突撃してくるんじゃないかと身構えていたっていうのに。

曙「ふん、こっちの攻めが凄すぎてビビってるんじゃないの?」


そう言う曙も、どこかで疑っているらしい。

愛想の無い目つきは絶えず敵艦隊の方へ向けられている。

私に悟られまいと不安を押し隠しているのがバレバレだ。



叢雲「潮、今のうちに時津風を落ち着かせてあげて」

叢雲「アンタが黙って動くことで、陽炎と曙の負担を少しでも減らすの」


潮「はいっ・・・分かりました」


経験豊富な叢雲がいるのがありがたい、言われなくても旗艦のして欲しいことをしてくれる。

この娘なら相手の動きに何か勘付いているだろうか?

判断に迷う局面だけれど・・・でも。叢雲はどう思う、なんて私は聞かない。

叢雲だって聞いても答えてはくれないだろう、副艦は曙よ、なんて言って。


この一戦に並々ならぬ気合を入れているのは何も向こうさんだけじゃない。

不知火が敵にまわった穴を埋めようと、相棒が必死で頑張っているのを私は知っている。

だから、今日の副艦は最後まで曙だ。私が頼るとしたらこの娘・・・そう、決めた。




陽炎「ねえ、十中八九・・・磯風たちは何か企んでる」

曙「そうね・・・このまま終わるなんて思えない」

陽炎「あら、気が合うじゃない」


バカじゃないの、なんて曙の憎まれ口も慣れたもので、安心さえしてしまう。

・・・・・・・・・やだ、私って実はマゾ?

陽炎「だからってさ、ここで引くのは駆逐のエースとしてどうよ?」

曙「磯風にエースの座、譲ったほうが良いんじゃない?」

陽炎「そうよね」


怖気付くのは性に合わない・・・・・・・・・なら。

相手の策も全て受け止めて、叩き潰す。それが神通一番弟子の戦い方。

・・・本人が聞いたら絶対、否定するだろうけれど。

方針は決まった、だから。


陽炎「何かあったら、頼んだ」

曙「ん」

相棒の短い返事に、全幅の信頼を置いて。



陽炎「陽炎艦隊、これより敵艦隊の殲滅を開始します」

高らかにそう、宣言した。

第三章 磯風水雷戦隊



磯風「敵艦隊が距離を詰めてきたぞ、撤退ポイントを目指しながら応戦」

天津風「難しいこと言ってくれちゃうじゃないの」

不知火「ほら、陣形がおろそかになっています、天津風」


浦風「思ったより接近してこんね」

浜風「もっと素早く突撃してくるかと思いましたが」


口々に陽炎艦隊の攻めへの感想を呟く。

これは・・・思ったよりも警戒されているのだろうか?

磯風「まあ当然か、撤退する気などさらさら無いからな」

浜風「こちらの損害もまだ軽微です、仕方ありません」


降り注ぐ弾幕を、天津風含めみな良く回避していた。

その出来過ぎなくらいの成果が返って敵を慎重にさせてしまっている。



そんな中、転機は突然に訪れた。

天津風「きゃぁ・・・ごめんなさい」

浜風「天津風被弾、中破です」

磯風「でかしたぞ、天津風!」

天津風「ひどい!」



これで敵艦隊が追撃をかけるきっかけが生まれた。陽炎はここで怖気づく様な女ではない。

私たちの中で一番練度が低い天津風が被弾したのを機に、相手の艦隊が前のめりになる。

そして一度乗ってしまった勢いは止められない、陽炎を筆頭に突撃してくるだろう。

天津風には悪いが・・・これで無事、作戦通りにことを運べる。

私が”撤退を決断しても不自然ではない状況”が出来上がったのだから。




磯風「浜風・・・艦隊の損害状況を”正確に”知らせろ」

浜風「!」


あらかじめ決めてあったキーワードを命令に込める。


同時についに来たか、と艦隊のみなに緊張が走る。

この日のために作り上げた秘策を実行する時が。

浜風「浦風、天津風が中破、私が小破」

磯風「撤退戦に移行する、”練習した通りに”だ」



隊内無線は無事、きちんと盗み聞きされているだろうか?

でないと、少々盛った損害状況を報告させた意味が無い。


万一のために天津風と・・・浦風を牽引するフリをして後退をはじめる。

敵艦隊が、自分たちが有利な追撃戦に移行したのだと錯覚させられるように。

陽炎が、高らかに掲げた右手を振り下ろす。

彼女が突撃を命じる際にやる、お決まりの動作。


格好いい。あの仕草を見るたびに何度そう思って、何度憧れたことか。

背の低い自分には似合わないから、やらない。いや・・・そうじゃなくても、やらない。

あの格好良さは、陽炎だけのもの。



やっぱり自分の中でも、駆逐の一番は陽炎なのだ。不動のエース。

だけれども私は、その一番を・・・。



磯風「超えたい」

浜風「あなたなら、出来ます。あなたと、私なら」

隣にいる浜風が、静かに・・・しかし強い口調で断言する。

磯風「ああ」

浦風「うちは仲間はずれ?」

天津風「私もいるんだけど!」

不知火「私も入れて下さい」


都合よく乗っかってくる旗下の駆逐たちに苦笑する。

磯風「というか、不知火はいいのか。陽炎の副艦だろう?」

不知火「今は、あなたの旗下です。それに」

不知火「負けて悔しがる陽炎も、見てみたい」


珍しい不知火の軽口にみんな、不敵にフっと笑って。

磯風「いいだろう、陽炎の泣き顔を拝みに行くとしようか」



磯風「磯風水雷戦隊、これより敵艦隊の殲滅を開始する」

応、という掛け声のもと・・・温めていた作戦を実行にうつしていく。

一旦休憩してきます、書き上げ済ですので今日中に全て投稿しきります
これでほぼ半分、多分今までの作品の中で一番短い

ラストダンス踊ってました、なお
再開します

第四章 陽炎水雷戦隊



やっぱりおかしいな、と私は思った。

磯風たちの艦隊は後退を続けているものの・・・ゴールである撤退ポイントを意識しているとは思えない。


ならば突撃して来るかというとそれも違う。

私たちの突撃を誘うかのように・・・ゆっくりと後退していくだけ。



罠に嵌ったら曙が何とかしてくれる・・・そう思ったら、踏ん切りがついた。

それに、磯風は何を仕掛けてくるんだろう・・・そう思ったら、すっごくワクワクする。

第四章 陽炎水雷戦隊



やっぱりおかしいな、と私は思った。

磯風たちの艦隊は後退を続けているものの・・・ゴールである撤退ポイントを意識しているとは思えない。



ならば突撃して来るかというとそれも違う。

私たちの突撃を誘うかのように・・・ゆっくりと後退していくだけ。



罠に嵌ったら曙が何とかしてくれる・・・そう思ったら、踏ん切りがついた。

それに、磯風は何を仕掛けてくるんだろう・・・そう思ったら、すっごくワクワクする。

潮が放った砲撃が天津風に直撃する。中破はかたい。

それに釣られて自然と、自分の艦隊が前のめりになっていくのを感じて。



陽炎「・・・・・・・・・」

曙「・・・・・・・・・」



曙と目が合ったけれど。艦隊はあえて止めない、この流れに任せることにした。

いいじゃない、それじゃあ・・・お望み通り仕掛けたげる!




陽炎「陽炎水雷戦隊・・・」




右手を天に突き上げて、高らかに宣言する。




陽炎「突撃開始!」




振り下ろした手の先にある獲物を目指して、艦隊が一つの獣になってゆく。

私の命令とともに、旗下の艦娘たちが磯風たちに突撃してゆく。

無駄玉は撃たせない。その分を速度に還元して、一秒でも早く肉薄する。


単縦陣の先頭を切って。足元の主機をフル回転させながら左に舵を切る。

磯風たちから見て、右舷を囲い込んだ丁字有利の状況を作り出せるように。


後ろは振り向かない。曙が上手く纏めてくれているはずだから。

だから、私は前を見据える。敵艦隊の守りをこじ開ける突破口を作るのは私の役目だ。



陽炎「よし、まずはこのまま追いついて・・・」

陽炎「え!?」

磯風たちの行動に、思わず驚きの声が出る。

撤退ポイントを目指してひたすらに駆けるはずの磯風たちが突然反転、こちらを向いたのだ。

磯風が何かを叫ぶ。小さな身体のくせに見惚れてしまうほど、凛々しい姿で。



瞬間。

私たちの足元に雨のような射撃が降り注ぐ。

ドカン、ドカンと水柱が立って、海水が跳ね上がる。




曙「もう、何も見えないじゃない!」

止まない射撃に水柱が次から次へと出現して、私たちの視界を奪った。

曙「陽炎、直撃はないわ・・・損害無し!」

陽炎「分かったわ、狙い撃ちされるから足を止めないで」

陽炎「そのまま進撃よ」



一度引くべきか・・・迷ったけれどそれは口にしない。

旗艦の迷いはそのまま他の艦娘たちの動揺につながるから。それに・・・。



私たちの後退は磯風の撤退を認めるということで、それは演習の終わりを意味する。

例え磯風たちの撤退がかたちだけのものでも、そうなってしまう。

それじゃ駄目だ。まだ磯風の真価を、全力を見せてもらってない。

距離が近づいたせいか、微かに磯風が指示を出す声が聞こえてくる。
浜風が復唱する声も。


磯風「敵の進撃が鈍った、魚雷発射」

浜風「各艦、魚雷発射」


シュウウウウ、という主砲とは違った音が、水底を駆け抜けてくる。

これが、これだけが磯風たちの作戦だとしたら。



陽炎「大したこと無かった・・・?」

曙「回避行動にうつるわ!」

相変わらず足元には主砲を打ち込まれ、立ち上る水柱に視界を奪われている。

磯風「主砲も撃ち続けろ、撃って撃って撃ちまくれ!」

浜風「主砲斉射、撃ちまくって!」


だけれども、こんなあからさまに魚雷を撃ったって当たるわけがない。

たとえこれだけ視界が悪くても、だ。



そもそも魚雷を当てたいのなら、タイミングが悪い。

主砲の発砲音か海面への着弾に紛れて撃たないと、今みたいにどうしても存在がバレる。

デカイ図体を持った深海棲艦じゃないのだ、艦娘なら回避だって容易に出来る。

そんなの磯風だって気が付くはず・・・そうだよね、磯風?

シュウウウ。

襲い来る魚雷は私とすぐ後ろの曙の間を次々と通過していく。もちろん直撃はない。

水柱の向こう側で、敵艦隊が同じ指示を出し続けているのが分かる。


浜風「狙いが逸れました、もう一度・・・魚雷発射」

浦風「主砲も・・・弾幕、途切れさせないで!」




私と曙、二人の間にかなりの距離が開いて、その間に次々と水柱が立ち上るけれど。

問題ない。もうじき弾切れをおこしてこの砲撃も止むだろう。

そうなった時に合流、一斉攻撃のチャンスだ。


浜風「磯風、もうじき弾丸が切れます」

浦風「魚雷もじゃ、どうする?」


浜風「・・・・・・分かりました、各自弾を撃ち尽くすまで発砲」

浜風「その後、全力で撤退ポイントまで引き上げます!」




どういうこと?

当たればラッキー、当たらなければ撤退してお茶を濁そうっていうの?

それは・・・あまりに呆気ない幕切れ、粗末な指揮。これでは落胆を禁じ得ない。


がっかりだわ、磯風。あなたの全力はこんなものだったの?

最後まで油断をするつもりはないものの、少しの苛立ちとともに混乱する。

正面から仕掛けてくるでもない。

撤退したかと思えば急な反転、当たることのない出鱈目な砲撃。

成果と言えば私と後方の艦隊を一時的に分断しただけの、当てる気があるのかと聞きたくなる魚雷と水柱。




陽炎「あれ・・・?」




心の中で、なにかが引っ掛かる。



当てる気がない・・・?




陽炎「あっ!」


そして、今更ながらに気づく。






浜風「残弾あと少しで”撃ち尽くします”」


浜風「”各自安全圏まで撤退を”」


浦風「”了解、武運を祈る”」



旗艦であるはずの磯風が、指示を出していないことに。

陽炎「曙!」


重なる主砲の発砲音で、その声が相棒に届いたのかどうか分からない。

けれども、もう一度叫んでいる余裕はないはずだ、おそらく。

私の勘が正しければ・・・。




だってほら、敵艦隊から主砲の発砲音が止んで。

それに一拍遅れて、最後に上がった水柱を突き抜けてくるのは・・・ああ、やっぱり。

完全に裏をかかれたというのに、嬉しくて口元が綻んでいるのが分かる。

どうしよう・・・私ってマゾなんだわ。






磯風「もらったあああああ!」





水しぶきを浴びて煌く長い長い黒髪を、翼のようにはためかせて。






至近距離から狙いを定めた主砲を、磯風がまっすぐに私に向けて構えた。

第五章 勝負の行方



磯風「もらったあああああ!」


浜風たちが作った、一瞬の隙・・・作戦は功を奏した。



視界を水柱で遮り、魚雷によって部隊を分断。

攻撃が失敗したと見せて撤退するフリをしながらの、私の単艦突撃による奇襲。

全てはこの一撃で、敵旗艦である陽炎を討ち取らんがため。

悔しいが、旗艦としての能力はまだまだ陽炎に及ばない。踏んだ場数が違うのだ。

正面から撃ち合ったら必ず負ける。演習なのだからいくらでも負けて、いくらでも学べばいい。

だけれども、その最初くらい。最初くらいは・・・。



磯風「勝たせてもらう!」


必中を確信するこの距離で、私は主砲をぶっぱなす。

その瞬間、突然陽炎が尻餅をついて倒れこんで、私の攻撃を躱した。

磯風「なっ・・・!?」

陽炎「ぐっ・・・」

陽炎「簡単に取られてたまるものですか!」



彼女を貫くはずの弾丸は肩を掠め、そのまま海を穿って消えた。

足元の主機を片足だけまわして、わざと体勢を崩したのだろう。


一発大破を免れるための咄嗟の判断・・・天才的な反応に背筋が凍る。

私は今改めて、陽炎が駆逐のエースだと言われる所以を肌で感じた。

陽炎「返り討ちよ」

磯風「そうはいかん」


曙たち陽炎の僚艦には浜風たちが突撃を敢行して時間を稼いでいるはず。



邪魔する者が現れるはずもなく、戦いは旗艦同士の一騎打ちに突入した。

普段なら陽炎に分があるが、先ほどの自分の弾丸で小破判定を受けたのか、彼女の動きは幾らか鈍い。

私にも勝機は十分にあると見た。

この一騎打ちで、最低でも陽炎との相打ちに持ち込む。もちろん、気合で。

そうなれば各艦隊の旗艦は残された浜風、曙となり仕切り直しになる。

おそらく叢雲は最後まで曙のフォローに徹するはず。アイツはそう言う奴だ。

それならばこちらも不知火が浜風を助けてくれる。状況は今よりも良くなるだろう。



陽炎を旗艦にして相手にするよりも、そちらの方が勝利への希望が持てる。

そこまでして、冷徹なまでに自分と陽炎の実力差を理解しての作戦。

ただただ、陽炎に勝つため・・・憧れの存在に近づくため。




磯風「今度こそっ!」


主砲を構え直す。

小破判定を受けている上に陽炎だけが体勢を崩している分、次の動きも私に分がある。

磯風「もらった・・・がっ!」


尻餅をついたそのままの体勢で私に足払いをかけた陽炎が、そのまま腹へと拳を突き出す。


磯風「ぐぅ・・・だが、まだだ・・・てぇぇぇー!」

陽炎「きゃっ」


ズドン。


苦し紛れに放った弾丸が、それでも陽炎の主砲を一つ吹き飛ばす。

衝撃で陽炎が吹っ飛ばされて再び倒れこむ・・・これで中破まで追い込んだ。

あと一撃。

磯風「はぁ・・・はぁ、艦娘なら・・・拳じゃなく砲で勝負したらどうだ?」

陽炎「ハン、あんたの師匠に言いなさい・・・ぐぅ」

磯風「ふん、違いない」



戦いの最中・・・敵同士だというのに、一瞬だけ、お互い笑い合って。

ゼロ距離からの砲撃で中破状態の陽炎に止めを刺すべく、突進する。

外し様がない至近距離を確保して。



磯風「今度こそ、止めだ!」

陽炎「・・・・・・・・・っ!」


必殺の一撃を叩き込んだ。




そう、浜風たちの足止めを振り切って。


私と陽炎の間に入り込んできた・・・目つきの悪い敵の副艦へと。

曙「あんた、あの出鱈目な攻撃は」

磯風「ああ、私が陽炎へ突撃するための時間稼ぎだ」


曙「へぇ・・・やるじゃない」

磯風「お前もな・・・正直、浜風たちを突破して来るとは思わなかった」



だが・・・曙はこれで戦闘不能。

中破状態の陽炎を守るものは、今度こそいない。

他の艦娘たちは浜風率いる私たちの艦隊が足止めしているはずだからだ。

磯風「今度こそ、陽炎・・・これで終わりだ!」

四度、私の主砲が陽炎を捉えて。今回もまた、駆逐のエースを屠ることはなかった。



曙「そう・・・でも、その作戦。利用させてもらったから」

ズドン、と・・・さっきまで誰もいなかった、いないはずだった右側面から発砲音がして。



磯風「なん・・・だと・・・」

曙と同じく一発大破の判定を受けた私は、散りゆく意識の中で辛うじて・・・私を討ち取った艦娘の声を聞くのだった。





叢雲「まったく・・・旗艦に似て人遣いの荒い副艦さまだこと!感謝なさいよね!」

エピローグ 冷めやらぬ感動



演習後の感想戦もとっくに終わって、間宮へと場所も移ったというのに。
それでも私たちの感情はまだ波打っていて、とどまる事を知らなかった。


磯風「まったく、あそこで叢雲が来るとは思いもしなかった」


先ほど何度話し合った分からないネタを、それでも振ってしまう。

浜風や浦風もまたか・・・などという顔をするはずもなく、同じ様な発言を繰り返す。




浜風「あれは・・・仕方ありません。曙の判断が良かったのですから」

浦風「うちらの作戦に最初から気づいていたとは・・・適わんね」


二人共言葉は素直だが、そこに浮かぶ表情は悔しそうだ。当然それは私も同じだが。

偽装撤退していた私たちの艦隊が反転して、主砲を打ち出したあの時・・・。

陽炎と一時的に連絡が取れず嫌な予感がした、という曙は独断で艦隊の指揮をとったようだ。



すなわち・・・艦隊の最後尾にいた叢雲を後ろから大きく迂回させて陽炎のもとへ。

この判断が功を奏して、叢雲は浜風たちによる足止めを受けることなく行動出来た。

私たちが突撃をかけるために稼いだ時間は、皮肉にも叢雲の陽炎救援と私への奇襲を成功させることになってしまったのだから、勝負とはままならないものだ。



もちろん・・・咄嗟の命令が受けやすい艦隊最後尾に叢雲がいたのは、偶然ではない。

司令が彼女を秘書艦にして離さないのも頷ける・・・私たちの完敗だ。

磯風「あそこで単艦突撃ではなく、私も含めて正面切って戦っていれば」


部隊から抜けた叢雲、陽炎・・・最も厄介な二人がいない分、有利に殴り合いが出来ただろう。


浜風「磯風、それだと作戦の前提が崩れてしまいます」

磯風「まあ、分かってはいるが」


浜風「陽炎・・・磯風のことを認めてくれたんですよね、多分」

磯風「ああ」


きっと、そうだと思う。

敵味方を交えて意見を交換し合う感想戦でも、陽炎とは話した。


最高にワクワクしたわ、という陽炎の一言。

私にとってそれは千の言葉を費やされる賛辞よりもなお、価値のある言だった。

そうやっていつまでも余韻冷めやらぬ私たちに、刺々しい声がかけられる。


曙「アンタたちまだ演習のこと話してるの、飽きないわね」



小馬鹿にしたような物言いは、勝って天狗になっているからではない。

あの機転を褒められすぎて照れているのだ、それが分かりすぎるほどに良く分かる・・・だから。



思い切りからかってやることにする。

磯風「仕方あるまい、あれだけ見事な指揮をされたんだ」

浜風「ええ、副艦として・・・見習いたいほどです」


曙「な、ななっ、うるさいわね、もうやめなさいよ!」

曙「あ、アンタたちが弱すぎただけなんじゃない!?」


面白いように顔が赤くなる曙。ムキになっているのがまた、手に取るように分かる。

磯風「ほう・・・そうか、そうだよな」


笑いをかみ殺して、出来るだけ暗い表情を作ってみる。



磯風「私たちなりに勝とうと頑張ったんだが・・・曙にはそう思われたか」

浜風「ざっ・・・残念です」

浦風「あ、あはは・・・」


おい浜風、口元がひくついているぞ?

演技が下手な奴だ・・・もしかして不器用なのか?

そんな大根役者ぶりにもすっかり騙されて、曙が慌て出す。

曙「べ、別にそこまで言ってないじゃない。手応えが無かったわけじゃないって言うか」

曙「もう少しでアイツもやられるところだったし、結構危なかったし・・・」


磯風「ほほう、そうだな。やはり曙はご機嫌らしいぞ?」

曙「なっ!?」


磯風「愛しの王子様を助けられたしな」

浦風「まあ、あれは格好良かったけぇね」


曙「ななな、なんっ・・・なな」

私たちよりも着任時期は圧倒的に曙が早くて、実力でも先輩なのに。

何故、こうも手玉に取りやすいのか。不意打ちに弱すぎるぞ?

今なら艦娘をからかう司令の気持ちがわかる気がする。



曙「な、なによそれ。い、愛しの・・・」

磯風「王子様、か?」


曙「べっ、別に陽炎は王子様なんかじゃ・・・そもそも女だし」

浜風「ぷっ・・・ククク」

曙「こ、今度は何よ」


もうニヤニヤが止まらない。

浜風なんかはこらえきれずに声を立てているし、浦風もすまなそうに笑ってる。

曙「だから何が可笑しいのよ!?」


オロオロする曙はまだ、自分の致命的な失態に気がついていない。
それを今、親切にも気付かせてやることにする。


磯風「なあ、曙」

曙「な、何よ」


事実の指摘は、何よりも強力なトドメとなるのだ。




磯風「誰も王子様が陽炎のことだなんて言ってないのだが?」


真っ赤にした顔を更に赤く染め上げて。

声にならない悲鳴をあげながら、曙は【間宮】を去っていった。

曙をからかうさまを、どこかで見ていたらしい。

現れた彼女は開口一番、くせっ毛を揺らしながらこう言った。



球磨「まったく・・・エゲツナイことするクマ」

磯風「あなたに言われたくはないぞ、お姉ちゃん」

球磨「ちっ・・・昔はあんなに照れていたのに、可愛くないクマー」



本当は今だってそう呼ぶのが照れくさいのだが・・・それを知られると面倒くさいので教えてやらない。

球磨「それにさっきの演習だクマ」


私と同じくらいの小さな身体を精一杯大きく見せて。

球磨は偉そうにお説教をするのだった。



球磨「なんだ、あの作戦はクマ。深海棲艦相手には通用しないクマ」

磯風「奴らには使わないさ。だが今日の相手は陽炎・・・艦娘、だろう?」

磯風「状況に合わせて戦い方を変える・・・生き残るための、鉄則だ」

球磨「むぅ・・・言うようになったクマ」


あの日の失敗から学んだことの一つ。

それを掴んだことを今日、この癖のある姉に示せたと思う。

磯風「今日・・・私はまた一つ、強くなった」

球磨「うん」


磯風「でも、まだ。陽炎にまだ及ばない。まだ足りないものがたくさんある」

球磨「うん」


磯風「これからだ。一つ一つ、学んでいって・・・陽炎を超える」

球磨「うん」

そして。
あなたも超えてみせるぞ、お姉ちゃん。

そう言うと奴は、しばらく目をパチクリとした後。


球磨「クマ~!」

磯風「おいやめろ、やめないか」


磯風「浜風・・・見てないで助けろ、浜風~っ!?」

球磨「お姉ちゃん、楽しみにしてるクマ!」


私の頭をワシワシと乱暴に撫でながら、満面の笑みでそう言うのだった。




こんなに無駄なく、サッパリと終わることができたのは久々です。
台本形式取り入れると短くまとまっていいですね。

好きな艦娘を贔屓しすぎました、陽炎どころか叢雲優遇されすぎ。
ただ最後は彼女たちでもなく球磨ねーちゃんが全部持って行きました。

不知火に嫉妬しながら陽炎に憧れる曙なんかいいですね、今度書いてみたいです。
それではここまで読んでくださった方がいましたら・・・ありがとうございました。

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