八幡「なんだ川越」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」 (236)

八幡「やめてください死んでしまいます」

沙希「あんたが名前間違えるからでしょ」

八幡「それより何か用じゃないのか?」

沙希「そうだった、あんたにまた依頼があるんだけど」

八幡「依頼なら雪ノ下に頼めよ」

沙希「あんたにしか頼めない、個人的な頼みなの」

八幡「めんどくせえ」

沙希「答えは『はい』か『YES』なんなら『承知しました』でもいいよ」
八幡「断る権利ねえじゃねえか」

沙希「んじゃ付いて来て」

八幡「なんなんだ一体」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1429632180

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よろしゅうたのんます。

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.        └─  | |   ヽ_ノ|.|  |      | (_]__. ._). !__     ヽ_, ヽ__ノ.(_| ヽ_


                       ~ 架空世界より戦場へ ~




             \   、
     _  -――- 〉\ 辷_   _
       ̄二ニ=-ミ    ー‐   `ヽ `ヽ
    ー=彡ー                \
    /      -┐r―、\ヽ.          Y
.  / 〃´/ / __| l___〕| ヽ V´        L_
 / / //, / /  | l   ソミ、l ト、         ヽ
. ´  / / /lイ   リ , --、ヽ」リ 廴ミ≧=ー  ミト       以下のスレにて、4/21(火)20:00投下開始!
      |  | l r‐。、  { ° }  | ΤT´  ヽ=\l
      l/|ハ八  ノ   `ー'′, |  | l {こイ }  |        なお、このスレはマブラヴ的対化物末期戦テイストのR-15Gです。
          //   、       |  |   7 /   |
         ゝri__∩ノ `ーイ |  | r イ   l  |        残虐描写・ぱっくんちょ等苦手な方はご注意下さい。
         Y O` ー-      j _|_l | | ハ ト|
         \       / / -、  ̄ ̄ ̄ ̄
    ィ示ー ――l       / /| l  ヽ
.   |l  ヽ     辷ニ二´__, イ | l   l |
      l|    /   二_〔__ | l   l |             【一応やる夫】 エイルン・ラストコード ~ 架空世界よりAAへ ~ 【R-15G?】 
   |l   l|     F「 r―――‐ | l   l |             【一応やる夫】 エイルン・ラストコード ~ 架空世界よりAAへ ~ 【R-15G?】  - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1429568738/)

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八幡「どこに向かってるのか知らねえけど依頼内容くらいは教えてくれても良いだろ?」

沙希「……そうだね。前もって言っておかないといけないか……じ、実はあたしの彼氏になって欲しいんだけど!」

八幡「は? …………はああああ!?」

沙希「か、勘違いすんな! フリだよフリ!」

八幡「え? あ、ああ」

沙希「実は最近ちょっとしつこく言い寄られてる相手がいてさ、その、断るのに『彼氏がいるから!』って言っちゃって……」

八幡「ああ、お前外見はいいもんな。可愛いっつーか綺麗系だけど」

沙希「っ……また、あんたはそういう事を平然と……そ、それでしばらく彼氏のフリをしてほしいんだけど……」

八幡「なんで俺に依頼するんだよ? お前なら俺なんかより良い男に頼めるだろ」

沙希「こんなこと頼める知り合いなんかいないよ」

八幡「そういやお前もぼっちだったな……まあ俺なんかでいいなら構わないが」

沙希「ほ、ほんと!? もうキャンセルは効かないよ!」

八幡「有無を言わさず了承させようとしといて何を今更……」

沙希「う、だってこんなにあっさり引き受けてくれるなんて思わなくて……じゃ、じゃあしばらくの間頼むよ」

八幡「へいへい。んで、期間は?」

沙希「とりあえず今から見せに行ってそこからは一週間もあればいいと思う」

八幡「そか。んじゃ行くか」

沙希「そ、それと!」

八幡「んあ?」

沙希「じ、自分のことを『なんか』って言うなよ。あたしは、その、比企谷は充分良い男だって思ってるから」

八幡「……」

沙希「……」

八幡「////」

沙希「////」




みたいなのを期待してたのに
スレ立てたなら早く書けよ

スレ立て面倒だし私生活はどうやって大志に成り代わってさきさきの弟になるか試行錯誤するのに忙しい
だから>>1は責任持って



八幡「なんかすげえ悔しがってたなあいつ……『何でこんな野郎に!』みたいな顔をしてた。いや、気持ちは分かるが」

沙希「そこはわかっちゃうんだ……」

八幡「だって俺だぞ? どうやっても釣り合いが取れてねえよ。いや、釣り合う女がこの世に存在するかどうかも……」

沙希「比企谷!」

八幡「うわっ、な、何だよ?」

沙希「あまり自分を卑下するなと言っただろ、少なくともあたしはあんたの良いところをいっぱい知ってるし、釣り合いが取れてなくなんかない」

八幡「お、おう」

沙希「そ、それにフリとはいえ一応今はあたしの彼氏なんだからそういうことを言わないでほしいな」

八幡「わ、わかった……その、ありがとな」

沙希「う、うん」

八幡「……」

沙希「……」

八幡「////」

沙希「////」


みたいなのをきっちり書くべき
もちろんスレタイに沿って「みょ、苗字が覚えにくいなら名前で呼んでもいいんだよ////」みたいなやりとりも忘れずにな

そんな誉めるなよ////

八幡「なんだ川崎」
川越「川越だよ、料理するよ?

八幡「あー……この後はどうすんだ? あの様子じゃあまり納得してないだろあいつ」

沙希「っぽいね、あいつの前だけでいいからそれっぽく振る舞ってくれるとありがたいんだけど」

八幡「それっぽくって、その、恋人同士みたいに、ってことだよな?」

沙希「う、うん、その、無理にとは言わないけど」

八幡「いや、一度引き受けたんだ、やれるだけやってみるさ。でも期待はするなよ? 今までそういうことなんてゲームか妄想でしか経験ないんだから」

沙希「あたしだってないよ。その、ゲームとかだと恋人同士って何をするんだい?」

八幡「えーっと、一緒に登下校したり飯食ったり、休日にはデ、デートしたり……」

沙希「んなっ……えっと、休日はあいつと出くわすこともないだろうしそこまでは……というか普段は振る舞う必要もないのかな?」

八幡「でも慣れておかないといざ本番って時に戸惑うかもしれないぜ。ソースは文化祭の劇で予行演習に呼ばれなかった村人Aの俺」

沙希「なんで役割与えられてるのに呼ばれないのさ……じゃ、じゃあ適当に頼むよ。悪かったね、部活あるのに呼び出しちゃって」

八幡「いいさ、これも依頼の一環だ。雪ノ下だってそこまで怒ったりしないだろ」

沙希「そうか、前もってあっちにも言っておくべきだったか。ホントごめん、あたしの名前出しちゃっていいからね」

八幡「まあその辺は上手くやるさ。んじゃそろそろ行くわ」

沙希「うん、あたしはちょっと図書室で勉強してから帰るから。またな」

  * * *


八幡「うっす」ガラガラ

結衣「ヒッキー遅いよ!」

雪乃「遅れるならその連絡くらいするべきでしょう。遅刻谷くんはその程度の配慮もできないのかしら?」

八幡「あー、悪かったな。ちょっと色々あってさ、依頼を引き受けていたんだ」

結衣「え、依頼? ヒッキーに? ヒッキーが?」

八幡「疑問符多すぎだろ……ちょっと川崎から相談を受けてな。まあその辺はもう解決済みだから気にしなくていい」

雪乃「川崎さんが? 彼女はあまり人を頼りにするタイプには見えないのだけれど」

八幡「まあ一人じゃどうにもならんかったからな。先に言っておくが依頼内容はプライバシー保護のために秘密だ」

雪乃「そう……あなたならともかく川崎さんのプライバシーをおいそれと侵害するわけにはいかないわね」

八幡「おいこら、俺ならともかくってどういうことだ」

結衣「でももう解決しちゃったんなら無理して聞くことでもないね」

平塚「全員揃ってるか?」ガラガラ

雪乃「平塚先生、ノックを」

平塚「おお、すまんすまん。ところで今晩急遽近隣学校の若手教師の集まりが催されることになってな、私もそちらに行かなければならなくなった。面倒くさいが若手だからな! 若手だから仕方ないのだ! どんな出逢いがあるかわからんから一度帰宅して気合いを入れた格好にしないといかん」

結衣「先生……」

八幡「(早く誰か貰ってあげてください)」

平塚「そんなわけで部活はもう終わりでいいぞ。鍵は私がここで預かろう」

雪乃「ではお願いします」

結衣「ゆきのん一緒に帰ろー。ヒッキーも昇降口まで行こ」

雪乃「ええ」

八幡「へいへい」

結衣「でさー」

雪乃「そうなのね」

八幡「(前を行く二人が楽しそうにお喋りをしている。あれ? 俺いらなくね?)」

八幡「(一緒にいる意味あんのかよ、って思ったがそれは部室でも同じことでしたね)」

八幡「(まあぼっちなんて慣れてるし別に……って、あそこに歩いてるのは川崎?)」

八幡「(まあいちいち声をかける必要も……げっ、グラウンドにいるのあのフラレ野郎じゃねえか。しかも目が合っちまった!)」

八幡「(ここで川崎に声をかけないのは恋人として不自然すぎる……雪ノ下達がいるが仕方ない、あとでワケを話すとして今は川崎だ)」

八幡「おーい川崎、一緒に帰ろうぜ!」

結衣「えっ!?」

雪乃「!?」

川崎「比企谷? あ……」

八幡「(あいつに気付いたみたいだな)自転車取ってくるから校門で待っててくれよ」

沙希「あ、いや、一緒に行くよ」

八幡「そっか、よし行こうぜ。じゃあな雪ノ下、由比ヶ浜」

雪乃「」

結衣「」

八幡「(二人とも固まってやがる……ま、当然だろうな)」

沙希「いいのかい、二人を置いて来ちまって」

八幡「あそこであいつらに構ってる方が不自然だろ」

沙希「でも二人にはちゃんと説明してないんだろ、勘違いされるんじゃないか? その、あたしたちがそういう仲だって」

八幡「まあ明日あたり適当に説明しとくさ、川崎が俺なんかとそういう……」

沙希「だから! なんかって言うのは禁止!」

八幡「お、おう」

沙希「それと勘違いってのはあたしじゃなくてあんたのことなんだけど」

八幡「ああ、どんな弱みを握ったんだとか罵倒される姿が目に浮かぶぜ」

沙希「もう……わざと言ってないかい?」

八幡「?」

沙希「ま、いいや。説明するのはいいけど外に漏れないようにしてくれよな。あいつの耳に入るとやっかいだ」

八幡「ああ、その辺は言い含めておくさ。俺は言いふらす相手もいないがな」

八幡「よっ、と。どうする? 今なら妹限定の後ろの席に乗せてやってもいいぞ?」

沙希「シスコンめ……いや、いいよ。学校を出てちょっと先まで一緒にいれば大丈夫でしょ」

八幡「そうか、なら……悪ぃ、やっぱり後ろに乗ってくれるか?」

沙希「え?」

八幡「校門のとこで雪ノ下たちが待ち構えてやがる。たぶん話を聞こうとしてるんだろうが……あそこじゃマズい。突っ切るから」

沙希「わ、わかった……よいしょ、と」

八幡「よし、ちゃんと掴まっとけよ」

沙希「うん」ギュ

八幡「(う、柔らかいモノが背中に……平常心平常心)」

沙希「(比企谷の背中……大きくてあったかいな)」

八幡「じゃ、行くぞ」

沙希「あいよ」

八幡「(漕ぎ出すと雪ノ下たちはこっちに気付いたようだが、構わずに突進だ)」

八幡「話は明日だ! じゃあな!」

雪乃「比企谷くん!」

結衣「ヒッキー!」

沙希「(あたしは眼中にないんだろうか? ……いやまあ当然ちゃ当然か、だって……)」

八幡「ふう、脱出成功だな。ついでだしこのままお前の家まで送ってってやるよ」

沙希「いや、それはさすがに悪いよ。確かあんたんちからウチまではそんなに遠くないからあんたんちで降ろしてくれればいいさ」

八幡「遠慮しねえでもいいのに。ま、了解したよ。依頼主の言うことなら聞いときますかね」

沙希「依頼主……」ズキン

八幡「どうした?」

沙希「何でもないよ、それより随分二人乗りに慣れてるみたいだね」

八幡「ああ、小町をよく送り迎えしてるからな。いや、むしろ送り迎えさせてもらってる」

沙希「なんでへりくだってんのさ……」

八幡「あんな可愛い妹が後ろに乗ってくれるんだぞ、こっちからお願いするレベルだ」

沙希「やれやれ、ホントにシスコンなんだから」

八幡「千葉では普通だろ。悪いかよ」

沙希「いや、いいんじゃないか。家族を大切に思うのは当然のことだし」

八幡「……そ、そうか」

八幡「(いつもなら『キモい!』とか『気持ち悪い』とか『通報するわ』と言われて引かれるのに……あ、そういやこいつもブラコンだったな、気持ちは解るってことか)」

沙希「でもさ」

八幡「ん?」

沙希「家族を思いやるのもいいけど……少しは自分のことも大事にしなよ」

八幡「…………何のことだかわかんねえな」

沙希「わざとにしろそうでないにしろその答えはズルいって理解してるかい?」

八幡「……………」

沙希「ま、あんたがそうしたくてやってるなら止めはしないけどさ、本当にイヤなことからは逃げたっていいんだよ?」

八幡「ははは、むしろ逃げに逃げ回って今の俺があるんだぜ。働きたくない専業主夫希望をなめんなよ」

沙希「…………馬鹿」ギュッ

八幡「かかか川崎さん!? その、そんなにくっつかれるとですね!」

沙希「いいだろ、減るもんじゃないし」

八幡「(減ってます! 俺の精神がゴリゴリ減ってますから! あとそういうセリフって男から言うものじゃないですかね!?)」

沙希「なんなら依頼料とでも思っときな」

八幡「ホントに止めて! 運転に集中できなくなるから!」

沙希「ふふっ」

八幡「くそ、無駄に疲れた……もうちょいかかるのに」

沙希「いい思いが出来たろ?」

八幡「うるせえ」

沙希「(否定はしないんだ)」クスクス

八幡「ウチが見えてきたぞ、どこで降ろす?」

沙希「この道をそのまんま行くから家の前でいいよ」

八幡「アイアイサー」

沙希「(もうこの時間も終わっちゃうのか……)」

八幡「到着、っと」キキッ

沙希「ああ、ありがとう」ヒョイ

八幡「んじゃまた明日な」

沙希「ああ、また明日」

小町「残念ながらそれは叶わないのです! ババーン!」

沙希「!?」

八幡「突然出てきて何を言ってる。あと擬音を口で出すな」

小町「沙希さん、こんにちは! いつも兄がお世話になってます!」

沙希「あ、いや、むしろこっちが世話になってるくらいで」

小町「女の子を送らないなんて男としてゴミにも程があるよゴミいちゃん! 小町的にポイント低い!」

八幡「いや、ちゃんと送るかどうかは聞いたから。それで断られたなら仕方ないだろ」

小町「そういう時はわざわざ聞かずに黙って実行すればいいの! さりげない優しさってやつだよ!」

八幡「そんなのこそ逆に迷惑だろ。ソースは女子の運ぼうとしてるプリントを半分持ってやったら仕事を邪魔されたと先生に言いつけられた俺」

小町・沙希「うわぁ……」

八幡「そんなわけだから……「ひ、比企谷!」……あん?」

沙希「や、やっぱり……その、送って行ってくれない、かな?」

八幡「お、おう」

八幡「(なにその申し訳なさそうな表情での上目遣い。好きになっちゃうよ?)」

八幡「じゃ、じゃあちょっとカバンだけ置いてくるから待っててくれ」

小町「あ、小町が預かっとくよ。それよりちゃんと送り届けないと夕飯抜きだからね」

沙希「なんかごめんね」

八幡「別に謝るようなことじゃないだろ、とりあえず乗れよ」

小町「あ、ストップストップ。その前に沙希さん、メルアド教えてもらってもいいですか?」

沙希「え、ああ、構わないけど……ほら、赤外線」ピロリン

小町「はい、確かに受け取りました。あとで小町から連絡しますねー」

八幡「騒がしい妹で悪かったな」キコキコ

沙希「そんなことないよ(おかげでこうしている時間が増えたし)」

八幡「…………」キコキコ

沙希「…………」キュ

八幡「…………」キコキコ

沙希「…………」ギューッ

八幡「(なんとなく沈黙してしまったな……でも)」

沙希「(気まずくもないし苦痛でもない、むしろ)」

八幡・沙希「(くすぐったい感じだけど居心地が良いな……)」

八幡「(もうすぐ着きそうだけど……言ってみようか)」

八幡「(ええい! 失敗したって黒歴史が一個増えるだけだ! それにこいつには言いふらすような友達もいない! ぼっちでありがとう川崎!)」

八幡「なあ川崎」

沙希「な、何だい?」

八幡「知っての通り俺は奉仕部でさ、あんまり身体を動かさないんだ」

沙希「そうだね」

八幡「休日もだいたい家でゴロゴロしてるし」

沙希「そんな感じっぽいよねあんたは」

八幡「たまには少し運動をしないとなってふと思ってさ」

沙希「? うん」

八幡「こ、この自転車トレーニング、もうちょい続けたいから、す、少し遠回りしてもいいか?」

沙希「!! 夕飯まで時間がまだあるし、か、構わないよ」

八幡「お、おう、ありがとな」

八幡「(あれからしばらく自転車でブラブラ徘徊したあと川崎を送り届けたわけだが)」

八幡「(別れ際の川崎の顔が赤かったのは夕日のせいだな)」

八幡「(だからもし俺の顔も赤かったとしても夕日が悪い)」

八幡「(やはりぼっちは日の当たるところで生きてはいけないのである)」

八幡「たでーまー」

小町「お帰りなさいお兄ちゃん、遅かったね。まさかデートしたり沙希さんの家にお邪魔したり!」

八幡「なんで疑問符じゃなくて感嘆符で決め付けてんだよ……お邪魔とかねーから。自転車で家まで送ってってすぐに引き上げたから」

八幡「(嘘は言ってない)」

小町「はあ……ま、そうだよね。ヘタレなお兄ちゃんから何か言ったり誘ったりするわけないか」

八幡「………………」プイッ

小町「え、なにその反応。まさか、え……?」

八幡「そ、それより小町、川崎の連絡先教えてくれ。交換しようと思ったらカバンの中にスマホ入れっぱなしだったんだ」

小町「うわあ、話すり替えるの下手すぎ……でもそっか、だから結衣さんからメール来たんだ」

八幡「は? 由比ヶ浜から?」

小町「うん、聞きたいことがあるのにお兄ちゃんが電話に出ないって」

八幡「マジかよめんどくせえな、明日話すっつってんのに」

小町「あと沙希さんと一緒に帰ってたけど何か知らないかって」

八幡「あー……実は川崎と付き合うフリをすることになってな」

小町「ええっ!? お兄ちゃんと沙希さんが……ってフリ?」

八幡「ああ、一緒に帰ったのもそれ関係だ。しばらくの間だけどな。バレたら色々面倒だから秘密にしといてくれ」

小町「付き合ってるのを? それともフリってのを?」

八幡「どっちもだよ。まあぼっち同士が付き合ったところでそんなに気にするやつもいないだろうが一応な。由比ヶ浜達には明日説明するつもりだ」

小町「うむむ、これは修羅場の予感」

八幡「だよなぁ……どんな罵詈雑言が飛んでくるかわかったもんじゃないぜ」

小町「……お兄ちゃんもしかしてわざと言ってる?」

八幡「何のことだよ? 川崎も似たようなこと言ってたけど」

小町「小町はなーんにも知りませーん。それよりお兄ちゃんのスマホに沙希さんのアドレス添付して送っといたから。フリであるにしろ彼氏役なんだったら何かしらメールを出すこと、わかった?」

八幡「へいへい、まあ打ち合わせとかもあるしな。夕飯出来たら呼んでくれ」

小町「ラジャー。あと三十分くらいだから」

八幡「おう」

~ よくあさ!! ~

八幡「…………」

八幡「(やべ、すっげえ眠い)」

八幡「(昨晩川崎と綿密な打ち合わせをメールでやり取りした。それはいい)」

八幡「(ただぼっち同士、メールの止めどころというのがわからなくて本来必要のない話題や世間話に花を咲かせてしまった)」

八幡「(慣れないことをしている上に深夜のテンションも加わって俺のいくつかの黒歴史まで暴露してしまったのは後悔している)」

八幡「(ただこのやり取りで俺の事をもっと川崎に知ってもらえただろうし、俺も知らなかった川崎の面を知ったのは嬉しいと思った)」

八幡「(そしてあわよくばもっともっと川崎の事を知りたいと思ってメールをどんどん送った)」

八幡「(中には不躾な質問もあっただろうに、少なくとも文章上では不快感を表さずに答えてくれた)」

八幡「(フリ、なんだよなあ……)」

八幡「(なんかもやもやするな)」

八幡「起きるか……」

小町「あ、おはようお兄ちゃ……うわっ、どしたのいつも以上に目が腐ってるよ! 二割増くらい!」

八幡「たかだか二割くらいでそこまで驚くのかよ普段の腐りっぷりが尋常じゃねえな俺の目」

小町「でも本当に大丈夫? 心なしか元気もなさそうだけど」

八幡「寝不足なだけだから気にすんな、体調とかは問題ない」

小町「それならいいけど……今はお兄ちゃん一人だけの身体じゃないんだからね。お兄ちゃんに代わって沙希さんのことも考えてあげるあたり小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい高い高い、良く出来た妹で幸せです、愛してるぜ小町…………あっ!」



八幡『愛してるぜ、川崎!』



八幡「あ、あ、ああ、あああああ」

小町「ど、どしたのお兄ちゃん!? とうとう頭まで腐っちゃったの?」

八幡「(文化祭のあの時、お、俺は川崎に……)」

八幡「(し、しかしそれ以降のあいつの反応は別に……)」

八幡「(ほ、本人に確認してみたいが藪蛇になりかねん)」

八幡「(いや落ち着け比企谷八幡。クールになれ)」

八幡「(今は悩んでる場合じゃない、やるべき事を考えろ!)」

八幡「(とりあえず今やるべき事は……)」

八幡「ちょっと部屋で枕に頭埋めて足をバタバタさせてくるわ」

小町「お兄ちゃん!? お兄ちゃーん!?」

すまん、たぶんというか絶対違う人だ
てかそれだけでわかる有名な人がいるのか……勘違いさせて悪い



八幡「(一通り奇行を終え、数々の黒歴史を持つ俺は持ち前の精神力でさっさと立ち直り、登校の準備をする)」

八幡「(ただ小町には憐れみの視線を向けられ、気を使われて送迎を遠慮されてしまった)」

八幡「(むしろこっちがしたいくらいなのに! 妹を後ろに乗せて自転車で走りたい!)」

八幡「(もちろんそんなことを口にしたら憐れみの視線がゴミを見る目に変わるだろうが)」

八幡「(そんなふうにぼんやりしてたら遅刻ギリギリになってしまい、なんとか担任より一瞬早く教室に飛び込めた)」

八幡「(そしてまず目に付いたのがこっちを振り向いた川崎沙希さんである)」

八幡「(表情を変えずに、ちょっとだけ視線を逸らして手を軽く上げて挨拶っぽいのをしてきた)」

八幡「(俺も少しだけ手を振り、声を出さずに口の動きだけで挨拶をする)」

八幡「(いや、こんくらい友達なら誰だってやることだろ。俺友達いないけど)」

八幡「(だから今にもうなり声を上げそうな表情でこちらを睨むのをやめてくれませんかね由比ヶ浜さん。部活の時間に説明するって昨日言ったじゃないですか)」

八幡「(さて、幸いにもあのフラレ野郎は別クラスだから教室では特に気にすることもない)」

八幡「(カップルだからって常日頃からイチャイチャベタベタくっついてるわけじゃないしな。いや、そんなカップルもいるけど。何なの? 病気なの? 離れると死んじゃうの?)」

八幡「(少なくとも俺には考えられん……さて、昼休みだし購買寄っていつものベストプレイスに向かうか)」

沙希「ひ、比企谷」

八幡「うお、川崎か。どうした廊下で待ち伏せなんかして」

八幡「(よく考えたら今日初めてのこいつとの会話か。実にカップルらしくねえな、いや、フリなんだけど)」

沙希「い、今から昼ご飯だろ、一緒に食べない?」

八幡「え、あ、お、おう」

八幡「(そうだな、昼を一緒するくらいはしとかないと不自然か)」

八幡「じゃあちょっと購買寄ってくるから待っててくれ」

沙希「いや、大丈夫、その……あんたの分も作ってきたから」

八幡「!! マ、マジで?」

沙希「う、うん、でもちょっと恥ずかしいからさ、できれば人目につかないとこで……」

八幡「わかった、俺のベストプレイスを紹介するぜ」

沙希「いつもここで食べてんの?」

八幡「おう、雨じゃない限りな。人もほとんど来ないし風も吹かないし」

沙希「そう……じゃあ、あ、あり合わせで作ったもので悪いんだけど、はい」

八幡「いや、絶対嘘だろそれ。なんで俺の好物ばっかで構成されてんの? 確かに昨日好きなものは話したけどさ」

沙希「う……その、小町に聞いたんだよ」

八幡「え?」

沙希「昨日小町ともやり取りしててさ、今日は比企谷は弁当じゃないからって聞いて……あと自分のことは『小町って呼んで』って言われた」

八幡「あー、あいつ稀に『姉も持ってみたかった』とか言うからな、川崎みたいなのがいるのが嬉しいんじゃねえの? 小町の姉になってくれね?」

沙希「え……そ、それって」

八幡「ん……あっ! い、いや、今のは言葉の綾っつーか、その、変な意味じゃなくてだな!」

沙希「わ、わかってるから!」

八幡「そ、それより弁当食おうぜ! 美味そうでもう我慢できそうにない!」

沙希「うん、め、召し上がれ!」

八幡「ふう、御馳走様でした」

沙希「お粗末様でした」

八幡「(緊張と恥ずかしさのあまり味がよくわからなかった)」

八幡「(なんてことは一切なく、普通に、いや、すげえ美味かった)」

八幡「(雪ノ下みたいに一人暮らしをして家事スキルが高いのとは違い、たくさんの家族の長女だからこそ家事スキルが高い)」

八幡「(特に家族思いの川崎なら苦に感じることもなく嬉々として日々研鑽を積むことだろう。面倒見のいいオカンといったところか)」

八幡「(俺を養ってくんねえかなあ……主婦業スキルですら負けているが。でもどっちにしても)」

八幡「いい嫁になりそうだなぁ」

沙希「えっ!?」

八幡「えっ」

八幡「(あれ?)」

八幡「い、今、俺、何か言ってたか?」

沙希「ううん! 何も! 何も言ってない! もし何か言っててもあたしには聞こえなかった!」

八幡「そ、そうか、ならいいんだ」

八幡「(嘘だ、その反応は絶対聞かれてた。てか俺がおかしくね? 寝不足のせい?)」

沙希「昼休みはもう少しあるけどいつも何してんの?」

八幡「だいたいここでギリギリまでボーっとしてる。ぼっちが一人で教室にいたって邪魔なだけだからな」

沙希「あんたの場合邪魔どころか認識すらされないんじゃないの?」クス

八幡「うるせえ、同じクラスなのに『え、誰コイツ?』みたいな反応をされる辛さがわかるのか? わからないだろ? だから俺も同じことを周りにやり返す」

沙希「それは周りに興味がないから覚えないだけでしょうが。由比ヶ浜も初めて奉仕部に来たときに存在を知ったんだろ?」

八幡「なんで知ってんだよ俺のプライバシーどこ行ったの? いや、すまん……昨晩俺が言ったんだったわ。深夜のテンションは恐ろしい」

沙希「でもあたしは楽しかったよ。寝不足にはなったけど、その、時々はああいう相手してくれると嬉しい……かな?」

八幡「なんで疑問文なんだよ。まあ俺なんかで……じゃない、俺で良かったら、その、また、な」

沙希「うん」ニコッ

八幡「!!」ドキッ

八幡「(なんだよ今の笑顔反則だろ!)」

八幡「(普段つり上がり気味の目尻があんなにふわっと柔らかく……ちくしょう)」

八幡「ああ、弁当、本当にありがとな。洗って明日返すよ」

沙希「何言ってんだい、それじゃ明日作って来れないじゃないか」

八幡「え、明日も作ってきてくれるのか?」

沙希「少なくとも依頼中はね。どうせ自分の分は作るからそんな手間じゃないし」

八幡「マジか、ありがとう。本当に美味かったから遠慮なく頂戴するぜ」

沙希「そこまで褒められると明日からのがプレッシャーかかるんだけど……」

八幡「いやいや自信持っていいって。そうなると依頼が終わる時が残念なくらいだ」

沙希「!! そ、そう……」

八幡「はあー、これで午後の授業が数学と体育でなけりゃな」

沙希「このままここでサボっちまうかい?」

八幡「ばっか、ぼっちは目立たないことが重要なんだよ。移動教室や体育ならともかく数学の時間はさすがにバレるだろ、俺の経験上」

沙希「体育とかでもバレない方が不思議なんだけど……」

八幡「(そんなたわいもない話をしてると予鈴が鳴り、俺達は教室に向かう)」

八幡「(万が一にでも好奇の目で見られないように入るタイミングをずらす)」

八幡「(これも目立たない為の配慮だったのだが、その気遣いは由比ヶ浜のせいで無駄になった)」

結衣「どこ行ってたのヒッキー!? ゆきのんと一緒に聞きたいことがあったのに!」

八幡「どうどう、落ち着け由比ヶ浜。話なら放課後にするって昨晩メールしただろ」

結衣「う……そうだけど、でも、待ちきれなくて」

八幡「何、俺の話が気になるの? お前そんなに俺のこと好きなの?」

結衣「好っ……! ヒッキーの馬鹿! キモい! 死んじゃえ!」

八幡「おいやめろ、大声で俺の評判を貶めるな。もうすでに地に着いてるのに穴を掘らなきゃいけなくなるだろ」

沙希「あのさ、入口で佇まれると邪魔なんだけど」

結衣「あ、サキサキ、ごめん」

沙希「サキサキ言うなって……」

結衣「えー、可愛いし言いやすいじゃん」

沙希「そんなこと思ってるのはあんただけだよ」

八幡「そうだぞ、こいつには川越沙希っていう立派な名前がだな」

沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」

八幡「ごめんなさい」

結衣「むー……え、えっとその、二人ってさ……」

担任「川崎! 川崎はいるか!?」

沙希「!? はい!」

八幡「(なんだ? 血相変えて駆け寄ってくるなんてただ事じゃないぞ)」

担任「今お前の妹さんが通ってる保育園から連絡があった! 妹さんが怪我をして病院に運ばれたらしい」

沙希「えっ!?」

八幡「!!」

担任「詳しくはわからないが御両親とは連絡が取れなかったらしい。そこのバス停のそばにタクシーがよく泊まってるからそれでこのメモの病院に向かえ」

沙希「は、はい! 今日は早退します!」ダッ

結衣「サキサキ……大丈夫かなぁ…………あれ? ヒッキー?」キョロキョロ

沙希「(っ……なんでっ! なんで今日に限ってタクシーがいないんだよ!?)」

沙希「(どうする? バスを乗り継いで行くか? それとも大通りに出てタクシーを上手く拾うか?)」

「川崎!!」

沙希「!! 比企谷!? なんで! それに自転車……」

八幡「後ろ乗れ! その病院なら通ったことあるし裏道知ってる! 上手く行きゃバスやタクシーより早い!」

沙希「で、でもあんたは授業が……」

八幡「数学と体育はサボることにしてんだ! 早く!」

沙希「っ! ごめん! ありがと!」

八幡「よし! 安全運転しつつ飛ばすぞ! しっかり掴まってろ!」

沙希「お願い!」

沙希「(京華……無事でいて……)」

「(       )」

これやめよう

セリフは「」
モノロは()
『』なんて普通は使わないから決まってない

敢えて言うなら『』はセリフ内でのセリフとかに使う

川崎「雪ノ下知ってる?あいつって尿道に舌こじ入れると『んほおおお』って喘ぐんだよ」

って感じで

うっせーなちくしょう
「()」は最初にうっかり使っちまったからそのまんま通そうとしただけだよ俺だって今まで使ったことねーよ見難いし打ちにくいしで使う意味なんか一切ねーよごめんなさい
こんなにだらだら長く書くとは思わなかったんで……正直構ってちゃんだし調子に乗ってるので書くのやめろって人がいるならやめるから。すまんな




「えっ! 指先を紙の端でちょっと切っただけ!?」

八幡(入口で川崎を下ろして先に向かわせ、駐輪場に自転車を置いてから後を追った俺の耳に入ったのはそんなセリフだった)

八幡(いや、確認するまでもなく川崎なんだが。そちらを見ると川崎と初老の医者と保育士っぽい若い男性が話をしていた)

八幡(俺がそちらに駆け寄ると同時に気が抜けたのか川崎がフラッと崩れ落ちそうになる)

八幡「おっと、大丈夫か川崎?」ガシッ

沙希「あ……比企谷、ごめん、その」

八幡「いいから。とりあえず座れ、な?」

沙希「あ、うん」

八幡(川崎を待合室の椅子に座らせ、医者と保育士の方に顔を向ける。あの、保育士さん、なんでそんなにビクッとしたんですか? 俺の顔に何か付いてますか? あ、付いてましたね腐った目が二つ)

八幡「ああ、俺は沙希さんのクラスメートです。けーちゃん、京華ちゃんとも遊んだことがあります」

保育士「あ、そ、そうでしたか」

八幡(怪しい男の素性が知れてほっとしたようだ。まあ俺みたいなのが突然しゃしゃり出てきたら無理もないか)

八幡「それより今京華ちゃんは指を怪我したと聞きましたが?」

保育士「は、はい、指先を本のページの端っこで切ったのですが……あまりに痛いと泣くのでもしかしたら、と思いまして」

医者「子供は血を見ると大袈裟に泣くからね、仕方ないよ」

保育士「おおごとにしてしまってすいません」

八幡「いえ、こういう時に中には痛いのを我慢してしまう子もいますから。むしろそこまで気にかけてくれてありがたいことです」

保育士「そう言っていただけると……」

八幡(クレームとかを恐れていたのかもしれない、保育士さんはひと安心といった表情になる。もしかしたらまだ新人なのかもしれない)

八幡「ところで京華ちゃんはどちらに?」

医者「御手洗いに行きたいと言ってうちの看護婦が連れて行ってるよ、すぐに来るさ」

「あー! はーちゃんだー!」

すまんな
正直まともなストーリー書くこと殆どないんでビクビクしすぎてるみたい



八幡(トテトテと駆け寄って来たのは指先に絆創膏を巻いた川崎の妹、川崎京華だった)

京華「さーちゃんもいるー! どうしたの?」

八幡「けーちゃんを迎えに来たんだ。あとここは病院だから静かにな」シー

京華「うん」シー

八幡(しゃがんで目線を合わせ、口に指を当てて『静かに』のジェスチャーをする俺を真似するけーちゃん、ええ子や……特に俺の目を見ても怖がらないところが最高)

八幡(ご褒美に頭を撫でてやるとにへへーと笑う……しまった、でしゃばりすぎたかな? そう思って川崎を窺うと、すでに立ち直ったか川崎は医者と保育士さんと話をしている。ならばもう少し面倒を見とくか)

八幡「けーちゃん、さーちゃんは先生達とお話してるから俺と待ってようか」

京華「うん」

八幡(小さく元気よく返事をしたけーちゃんは椅子に座る。この躾の良さは川崎家の育児の賜物だろう。俺はその隣に座った)

八幡「怪我をしたんだってな。平気か?」

京華「うん、血が出て泣いちゃったけどばんそうこうしてもらったから」

八幡「そっか、大したことなくて良かった。でも怪我には気をつけような? さっきも走ったりして危ないぞ」

京華「あ、ごめんなさい……」

八幡(ペコリ、と下げた頭を俺はまたそっと撫でてやる。そうするとけーちゃんはもっと、と言わんばかりに頭をこちらに寄せてきた)

八幡(まあ話してるよりこっちの方が気楽だしな……べ、別に園児とはいえ女の子と何を話していいかわからないわけじゃないんだからねっ、いざとなれば俺にはプリキュアがあるんだからっ)

沙希「ごめん、待たせちゃったね」

八幡(どのプリキュアが好きか話し掛けるタイミングを見計らっているうちに、いつの間にか話を終えたらしい川崎が声を掛けてきた)

八幡「いや、大丈夫だ。この後はどうするんだ?」

沙希「園にも大した荷物はないし今日はこのまま連れて帰ることにしたよ……なんというか、その、ごめ「川崎」」

八幡(頭を下げて謝ろうとする川崎を俺は遮った。妹は姉のそんな姿を見たくはないだろう)

八幡「その話はまた今度だ」

沙希「あ……うん」

八幡(ちら、とけーちゃんを見た意図に気付いたのだろう。川崎は素直に頷いた)

八幡(しかし俺はどうしたもんかね。今から学校に戻って授業を受けるなんてしたくない。体育が終わった頃を見計らってHRに何気なく参加するか……いや、由比ヶ浜がいるな、また目立ってしまう……とりあえず自転車を取ってくるか)

京華「はーちゃんもいっしょにかえるんだよね? ふたりでおむかえっていってたもん」

沙希「こら、比企谷はね……」

八幡「あー川崎、お前さえ良ければ、なんだが暇つぶしに一緒に帰っていいか?」

沙希「え……?」

八幡「いや、今から戻るのも何だし、部活の時間までまだそれなりにあるしさ」

沙希「ああ……うん、あたしは構わないけど」

京華「やったー、はーちゃん、かたぐるましてかたぐるまー!」

沙希「けーちゃん、ワガママばかり言わないの」

八幡「いや、構わねーよ。川崎、悪いけど自転車頼んでいいか? 鍵はかけてないから」

京華「わーい!」

沙希「まったく……ごめん、ありがとね比企谷、すぐにあんたの自転車取ってくるから」

八幡(川崎家までそんな大した距離でもないので歩いて帰ることになった。けーちゃんを肩車してる俺の横を、川崎が俺の自転車を押して一緒に歩いている)

沙希「それにしても随分子供の相手が手慣れてるね」

八幡「ウチは両親が昔から忙しいから小町の世話は俺がしていたからな。小町を泣かせたりすると怒られるし」

沙希「ご両親も小町が最優先なんだ……」

八幡「あんな可愛い妹なんだから仕方ない」

沙希「シスコンと親バカか……」ハァ

京華「はーちゃんいもうといるのー?」

八幡「おう、けーちゃんよりずっと年上だけどな」

京華「かわいいの?」

八幡「ああ、すっげー可愛いぜ」

京華「さーちゃんとどっちがかわいいー?」

沙希「なっ!? けーちゃん、何を……」

八幡「んー、さーちゃんはどっちかって言うと可愛いってより美人さんだな」

沙希「ひっ、比企谷!?」

京華「さーちゃんびじんー?」

八幡「おう、結構モテるんだぞさーちゃんは。だからけーちゃんも大きくなったら美人になるぜー、なんたってさーちゃんの妹だからな」

京華「わーい! やったー!」

八幡(こんな会話を平然とやってのけている、なんて勘違いしないでもらいたい)

八幡(川崎は顔を真っ赤にしてうつむいてしまっているが、それに負けず劣らず俺も赤くなっていることだろう)

八幡(当たり前だ、あんな葉山が言いそうな甘ったるくて吐きそうなセリフがまともに話せるか!)

八幡(だが、家族が褒められるのは自分にとっても誇らしいことなのはすごくよくわかる)

八幡(だから俺はけーちゃんに喜んでもらおうと少しオーバー気味に褒めたのだ)

八幡(それに、まあ……嘘ってわけでもないしな…………)

京華「~~♪」

八幡(けーちゃんは上機嫌になったか俺の頭の上で歌を歌い始めた)

八幡(正直助かった、あの話を続けられると俺の精神が持ちそうにないからな)

八幡(そんなこんなで川崎家が見えてきた)

京華「ふぁ……」

八幡(家の前で肩から下ろしてやったところでけーちゃんは大きなアクビをした)

沙希「ああ、はしゃいじゃったしお昼寝してないから眠くなっちゃったんだね。ほら、手を洗ってうがいして着替えたらお昼寝しようか」

京華「うん……はーちゃんは? いっしょにおひるねしないの?」

八幡「ああ、ごめんな。でもまた今度遊びに来るからその時は一緒にご飯食べたりお昼寝したりしような」ナデナデ

京華「うん! ぜったいきてね! ……ふわぁ」

沙希「ほら、行くよ。それと比企谷、少しだけ待っててくれない? その、話があるからさ」

八幡「ん、わかった。ここにいるからさ」

沙希「ごめんね、家にあげても良いんだけど……その」

八幡「わかってるよ、俺がいるとけーちゃんが興奮して寝れないんだろ? 気にしないでいいからちゃんと寝かしつけてやれ」

沙希「ごめ……ううん、ありがとう」

八幡(お、家の前の自販機にマックスコーヒーがあるとは川崎家は恵まれてるな)ピッガコン

八幡(ふう、やはり甘くて旨い。甘くないのは俺の人生だけで充分だ……いや、もうひとつあるか。人にはなかなか言えないが)

沙希「待たせちゃったかな?」

八幡「おっと。いや、随分早かったな」

沙希「はしゃぎすぎて疲れてたみたいでね、すぐに寝付いたから」

八幡「そっか」

沙希「うん」

八幡「…………」

沙希「…………」

八幡(何となく沈黙。いや、川崎は何かを話し出そうとしてはいるのだが、どう切り出したものかと悩んでいるようだ)

八幡(仕方ない、水を向けてやるか)

八幡「けーちゃん、大したことなくて良かったな。川崎があんなに狼狽えるなんて珍しいものが見れたし」

沙希「うん……」

八幡(あれ? 何でそんなにしおらしいの? ここはからかった俺に怒ったり恥ずかしがったりするとこだろ?)

沙希「本当にごめん、大したことなかったのに比企谷にこんなに迷惑をかけちゃって」

八幡「やめろ」

沙希「……比企谷?」

八幡「大したことなかったのを理由に謝るな。それだと大したことあった方が良かったみたいに聞こえかねないぞ」

沙希「! そ、そんなつもりはないよ!」

八幡「だろうな、だったら謝罪じゃなくてもっと別の言葉が聞きたい」

沙希「…………」

八幡(正直カッコつけすぎだと自分でも思う)

八幡(でも川崎に負い目を持たせたくないし、謝られるのも苦手なんだよ)

沙希「比企谷、本当にありがとう。すごく感謝してる」

八幡「お、おう、どういたしまして」

八幡(思っていた以上に真摯でまっすぐな感謝に戸惑ってしまった)

八幡(謝られるのは苦手だと言ったけど感謝されることにも慣れてないからな)

沙希「でもさ、何でここまでしてくれたの? あたしがあんたの立場だったら授業を抜け出してまで、なんてしたかどうか」

八幡「んー……理由なんか後付けでいくらでも出てくるが……身体と思考が勝手にそういう方向に行っちゃったんだよ」

沙希「勝手にって……」
八幡「まあ、もうしばらく弁当作ってきてくれるんだろ? それの礼としてタクシー代わりをしたってことにしといてくれ」

沙希「それっぽっちのことで……」

八幡「あとけーちゃんのことは俺も心配だったからな、川崎がタクシーやバスで向かっても自転車で駆け付けたと思うし。お前の弁当と一緒でついでだよついで。だからそんなに気にすんな」

沙希「うん。あんたがそう言うなら……でもあの子も随分あんたに懐いてるね」

八幡「ああ、川崎もフリとはいえ彼女だし今が人生最大のモテ期かもな、ははは」

沙希「ば、ばか」

沙希(本当はもっとあんたのこと好きな女子はいるんだけどね……)

間違えやすいので訂正

×『沙希(本当はもっとあんたのこと好きな女子はいるんだけどね……)』

○『沙希(本当はあんたのこと好きな女子はもっといるんだけどね……)』




沙希「比企谷、あたしはあんたにちゃんとしたお礼をしたい」

八幡「いや、だから、アッシー君にしたくらいでそこまでかしこまるなって」

沙希「なんでそんな古い言葉を選ぶのさ……違うよ、それだけじゃない」

八幡「んん?」

沙希「あたしがほっとして力が抜けて倒れそうなとき、あんたは抱き止めてくれた」

八幡「…………」

沙希「まだ落ち着かなかったあたしに代わって冷静に先生達と話をしてくれた」

八幡「…………」

沙希「逆にあたしが話をしている間、さり気なくあの子の相手をして面倒を見てくれた。もちろん躾してくれたのも含めて」

八幡「…………」

沙希「帰ってる時だってそう。なんで……なんでここまで優しくしてくれるの?」

八幡「……わかんねえ」

沙希「え?」

八幡「さっきも言ったように勝手に身体が動いたんだよ。あとは単純に俺がそうしたかったから、だ」

沙希「自分がそうしたかったから、か……それじゃあたしもそうしたいからそうする。あたしは比企谷にお礼がしたい」

八幡「う……」

沙希「自分だけ通して他人には通させない、ってことはないよね?」

八幡「くっ……でもお礼ってなんだよ? デートでもしてくれんの?」

沙希「あんたがそれを望むならね」

八幡「な……っ」

沙希「あんたの言うことを一つ、あたしに出来ることなら何でもしてあげる」

八幡「!!」

八幡(何でも!? 何でもだって!?)

八幡(クラスメートの女子に何でもしてくれるって言われた、すげえ勝ち組になった気分だ)

八幡(たぶん今の川崎なら多少無茶なお願いも聞いてくれるだろう……いやいや、変なことをさせる気は一切ないぞ?)

八幡(うん、ここはあれだ。あれにしよう。川崎ならきっと笑わずに俺の昔からの願いを叶えてくれる)

八幡「じゃあ川崎にしてほしいことがある。たぶんお前なら出来るし、お前以外には頼みにくい」

沙希「随分勿体ぶるね」

八幡「あと笑うなよ。いや、笑ってもいいけど誰にも言うなよ」

沙希「何かそこまで念押しされると怖いんだけど……」

 ~奉仕部~

八幡「うっす」ガラガラ

結衣「ヒッキー!! どこ行ってたの!? 先生も怒ってたよ!」

八幡「ああ、今職員室寄ってきたからすでにしこたま怒られてきた」

八幡(川崎の件を最初に伝えたから実際はそんなでもないけどな。平塚先生もフォローしてくれたし。なんであんな良い人が結婚できないんだろう?)

結衣「そんで結局どこ行ってたの?」

八幡「昼飯食ったあとに数学と体育なんて最悪だろ? ちょっとやる気出なくてサボったんだよ」

雪乃「ホラ谷君、さすがの由比ヶ浜さんでもその嘘は通用しないわよ」

結衣「ゆきのん!?」

八幡「うむむ、さすがの由比ヶ浜でもダメか」

結衣「ヒッキー!?」

雪乃「川崎さんの妹さんのことは由比ヶ浜さんから聞いたわ。そのタイミングでいなくなれば予想くらいつくのだけれど」

結衣「ちょっと! さっきのってどういう意味!?」

八幡「由比ヶ浜は正直者でいいやつだなってことだよ」

結衣「え、そ、そうかな?」エヘヘ

八幡(ちょろい)

雪乃(ちょろいわね)

雪乃「一応確認しておくけれど、川崎さんと一緒に病院へ行ったのかしら?」

八幡「ああ。怪我は全然大したことなかったが、やたら泣くから念のために病院に連れて行ったというのが真相だ。伝言ゲームよろしく大袈裟にこっちに伝わったんだな」

結衣「あ、そうなんだ。良かった……」

八幡(由比ヶ浜が安心したように溜め息をつく。やっぱりなんだかんだこいつはいいやつだ。さて、話は終わったし先週買った本でも……)

雪乃「比企谷君、まだ話は終わってないわよ」

八幡(ですよねー)

結衣「そうだよ! 何で昨日サキサキと一緒に帰ってたの!?」

八幡「あー……あまり吹聴して欲しくないんだがな、実は」

雪乃・結衣「……」ゴクリ

八幡「俺、昨日から川崎と付き合う……」

雪乃・結衣「!!?」

八幡「フリをすることになったんだ」

雪乃・結衣「………………え?」

八幡「まあそんなわけで昨日は一緒に帰ったんだ、以上」

結衣「ちょっと!? 全然説明になってないんだけど!」

八幡「いや、一応川崎のプライバシーに関わるかなと。リスクは減らしたいし」

雪乃「比企谷君、それは奉仕部としてのあなたに依頼したのでしょう? だったら同じ奉仕部である私達は知っておいたほうがいいと思うわ」

八幡「うーん、まあ川崎もお前らならって言ってたしいいか。実はな~~(説明中)~~ってことなんだ」

結衣「へー……でもやっぱサキサキ美人だからね、無理ないか」

八幡「なんか相手がやたらしつこくてな、追い払うためについ彼氏がいると言ってしまったらしい。まああの様子だと外見だけに惚れたみたいだからしばらくすれば興味無くすだろ、それまでは適当に彼氏役を務めるさ」

結衣「ヒ、ヒッキー、実はあたしも時々男子に告白されて困ることがあるんだけど…………」チラ

雪乃「私もそういった声をかけられることはよくあるわ。断ってもしつこかったりして困るわね、決定的な理由があれば楽なのだけれど……」チラチラ

八幡「ああ、お前らは可愛いし俺とは正反対でモテるからな、俺なんか『なんでこんなやつが……』って視線で見られたぞ」

結衣「かっ、かわっ……ヒッキーの変態!」

八幡「ええー……なんで俺今罵倒されたの?」

雪乃「コホン……まああなたの場合仕方ないでしょうね。目が腐敗しているし悪い評判の方が広まっているでしょうし目が腐敗しているし」

八幡「ねえ、なんで二回言ったの? 大事なことなの?」

雪乃「事実でしょう?」

八幡「そうだけどさ……だからこんな依頼引き受けるのは今回限りだな」

雪乃・結衣「えっ」

八幡「川崎もぼっちだから他に頼める男がいなくて、って感じで俺にお鉢が回ってきたからな。今度から似たような依頼はお前らに回すから適当な断り方を教えてやってくれ。さっきも言ってたけど慣れてるんだろそういうの?」

雪乃・結衣「…………」

八幡(まあ川崎は俺をいい男と言ってくれたけどな。でも他に仲が良い男子がいないから相対的に良く見えるだけかもしれん。勘違いは禁物、と)

結衣「う、えと……ううう」

八幡「どうした由比ヶ浜、唸りだして? トイレなら早く行ってこい」

結衣「違うし! ヒッキーの馬鹿!」

雪乃「あなたは一度生まれ変わった方がいいわね。もっとも一回の転生でその目が持つカルマをすべて浄化できるとは限らないけれど」

八幡「なんか今日は俺に厳しくない?」

~♪~♪~♪

八幡「おい、どこかでなんか鳴ってんぞ。誰かの携帯じゃねーの?」

雪乃「私ではないわよ」
結衣「あたしでもないよ。てかヒッキーじゃないの? そのカバンから鳴ってるけど」

八幡「ああ、俺のカバン持ってきててくれたのね。スマホ入れっぱなしだったか……というか俺に電話するやつがいるのか?」ゴソゴソ

結衣「それ自分で言っちゃうんだ……」

八幡「よっと、はいもしもし」ピッ

???『あ、あの、かわさきけいかといいます。こんにちは。その、はーちゃん、ですか?』

八幡「ああ、けーちゃんか、俺だよ。お昼寝の時間は終わったのかな?」

雪乃・結衣「!!?」

京華『うん、あのね、はーちゃんにいいたいことがあったの!』

八幡「ん? なんだい?」

結衣(な、なに、あのヒッキーの表情……)

雪乃(腐ってる目が気にならないほど優しい表情ね……)

結衣(声もすっごく柔らかくて……)

雪乃(私達はあんなのを向けられたことないわね……)

京華『その、きょうは、ありがとうございました!』

八幡「うん、どういたしまして。もしかしてそれを言うために電話してくれたのかな?」

京華『うん! あ、ちょっとさーちゃんにかわるね』

沙希『ごめんね、今大丈夫だった?』

八幡「ああ、益体もない部活中だ」

沙希『今度会ったらちゃんとけーちゃんもお礼を言わないとねって言ったらすぐに伝えたいって主張してきてさ。迷惑かなと思ったけど電話させてもらったの』

八幡「そっか、じゃあそれに対するお礼を言わないとな、ちょっとけーちゃんに代わってくれ」

沙希『あいよ』

京華『けいかです!』

八幡「ああけーちゃん、電話してくれてありがとう。凄く嬉しいよ、けーちゃんはお利口さんで良い子だな」

京華『えへへー、だったらまたあそんでくれる?』

八幡「ああ、ちゃんといい子にしてたら絶対遊びに行くよ、じゃあまたさーちゃんに代わってくれるかな?」

京華『うん! ぜったいだよ!』

沙希『もしもし、なんか本当に色々と悪いね……代わりってわけでもないんだけど例の件、頑張るから』

八幡「いや、そんなに気合い入れなくてもいいぞ? いつも通りでいいから」

沙希『そう……なら程々に頑張るよ』

八幡「ああ、よろしく。それと雪ノ下と由比ヶ浜にお前から依頼されたっての伝えたから」

沙希『あ、そう……その、二人はなんか言ってた?』

八幡「やっぱ川崎もモテるんだなって。それ関係は慣れてるから今後そっち方面で困ったらいつでも相談に乗るってさ。やっぱり俺じゃ頼りないってことだな」

雪乃(言ってないわよ)

結衣(言ってないし!)

沙希(言ってないんだろうなあ……)

八幡「それとけーちゃんが無事で良かったってさ」

沙希『うん、二人にも礼を言っといてくれる?』

八幡「ああ」

沙希『それじゃ、あたしは家の用事をするからこのへんで。また明日ね』

八幡「おう、また明日な」ピッ

雪乃・結衣「…………」

八幡「川崎が、二人に心配かけてすまなかった、ありがとうってさ……って何だよその表情」

結衣「その、さ……ヒッキーって、ロリコンなの?」

八幡「はぁ? 突然何を言い出してんだこのアホヶ浜は」

結衣「アホって言うなし! だ、だって最初電話してたのサキサキの妹でしょ? あたしたちとは全然態度が違うじゃん! すごく優しかったし!」

八幡「子供に優しくするのは当たり前だろ……というか園児と同じ扱いされるのって逆に嫌じゃね? 頭撫でられたり肩車されたりするんだぞ」

雪乃・結衣(むしろ撫でられたい)

八幡「あと俺の目を見ても怖がらないしな。それだけで小町と戸塚にしか出さない微粒子レベルしかない俺の優しさを分け与える価値はある」

結衣「ちょっとしか持ってないんだ……」

雪乃「いずれも手を出したら問題になる人選ね」

八幡「いずれにせよ俺はロリコンじゃないからな。そもそも懐いてくれる相手に優しくするのは当然だろ?」

結衣「じゃ、じゃあさ、あたしにももっと優しくしてよ!」

八幡「なんだよ突然」

結衣「あたしだってヒッキーに優しくしてるじゃん!」

雪乃「それを言うなら私もよね」

八幡「普段から腐ってるとかキモいとか散々吐き出してる口がそれを言うのか……あれだろ、お前らの言う優しさってのはぼっちの俺と会話してあげてるとかそういうレベルだろ」

結衣「そんなことないもん! あたしだってヒッキーとお話するのは楽しい……って何言わせるの!? ヒッキーの馬鹿! ……あっ」

八幡「フォローすると見せかけて流れるように悪口を言うとはさすがだな」

結衣「違うし! うう……そ、そうだ、あたしが明日お弁当作ってきてあげる! どう、優しいでしょ!?」

八幡「すまん、まだ俺は死にたくないんだ。この苦しい世の中から解き放ってくれるという優しさは気持ちだけ受け取っとく」

結衣「どういう意味だし!?」

雪乃「由比ヶ浜さん、あなたはもう少し練習してからの方がいいと思うわ…………なら比企谷君、私が作ってきたら嬉しいと思うかしら?」

八幡「ああ、お前は料理上手いもんな。嬉しいっちゃ嬉しいが……しばらくは川崎が作ってきてくれるからいらんぞ」

結衣「えっ、サキサキが!?」

八幡「ああ、少なくとも彼氏役の間は作ってくれるってよ。あいつも料理スキルは高いからな」

雪乃「あなた……依頼にかこつけて何を命令しているの」

八幡「ちげーよ、川崎の方から言ってきたんだよ。元々自分や家族のも作るから手間は掛からないって言ってるし」

雪乃「やめておきなさい。女子が男子にお弁当を作ってくるなんて周囲にどんな誤解を産むかわからないの? 川崎さんが可哀想じゃない、自分の立ち位置を忘れたのかしら?」

八幡「あのな雪ノ下、お前こそ忘れてんのかもしれねーが、今回の依頼はその誤解を産むことなんだぞ。おおっぴらに撒き散らすことじゃないがある程度の下地は必要なんだから」

雪乃「それは……そうなのだけれど……」

結衣「じゃ、じゃあさ、ヒッキーとサキサキってどこでお昼食べる予定なの?」

八幡「特に決めてるわけじゃないが……どこだっていいだろ」

雪乃「よくないわ、あなたと二人きりだなんて川崎さんの身が危ないもの」

八幡「どんだけ信用ねーんだよ俺は……お前らと二人きりになったこともあるけど何にもしてないだろうが」

雪乃「あら、直接手は出さなくともその腐ってる下卑た目でいつも私達の身体を舐めるように視姦しているじゃない」

結衣「なっ……最低! ヒッキーのスケベ!」

八幡「俺は今痴漢冤罪の過程をありありと目にした」

八幡(まあそういう目で見たことがないわけじゃないんですけどね。でも巨乳の由比ヶ浜やスレンダーで姿勢良くピシッとしてる雪ノ下は男ならそう見ちゃうでしょ)

八幡(そういや川崎もそれなりにスタイルはいいんだよな。二人乗りの時や抱き止めた時の感触は正直忘れられん……)

雪乃「なにか妙なことを考えている表情ね……あなたやっぱり」

八幡「ないから」

雪乃「ふむ、同年代に欲情しないとなると……ロリコン?」

八幡「もっとねえよ。てかそういう目で見ると罵倒するくせに見なきゃ見ないで貶されるなら俺はどうすりゃいいんだよ」

結衣「あ、あたしは別にヒッキーなら……」ゴニョゴニョ

~♪~♪

八幡「ん、俺にメール……って今気付いたけどこの由比ヶ浜からの不在着信やメールの山は何だよ。あんな短時間でどんだけ送ってきてんだ」

結衣「だ、だって気になったし……」

八幡「てことは何だ、カバンの中で延々と着信音が鳴ってたのか、気付けよ」

雪乃「それは無理よ、誰もあなたの席なんて見ないもの。音が鳴っててもどこかで鳴ってるな、くらいにしか思わないわ」

八幡「まあそれは否定しないがな」

結衣「しないんだ……」

雪乃「ところでそのスパムメールはどんな内容だったのかしら?」

八幡「なんでスパムって決め付けてんだよ、小町や戸塚から来ることもあるから三割くらいは違うぞ」

雪乃「七割はスパムメールなのね……」

結衣「ヒ、ヒッキー、もっとあたしがメールしてあげるね!」

八幡「いや、いらないから。お前のメール顔文字絵文字多くて目に良くないし」

雪乃「あら、それ以上悪くなりようが…………いえ、そういえば今日はいつもより濁っているような……」

八幡「ああ、これは単に寝不足なだけだ。てかよく気付いたな」

雪乃「元が最悪だから気付きにくいけれど隈が広がっているわよ。ゲームや漫画は早めに切り上げて睡眠をきちんと取りなさい」

八幡「いや、昨晩は川…………そうだな、今日は早く寝ることにするわ」

結衣「ヒッキー! 今サキサキのこと言いかけたでしょ!? 何、まさか一緒にいたの!?」

八幡「んなわけねーだろ、ちょっとメールのやり取りしてたら遅くなっちまっただけだよ」

雪乃「なら何故今隠そうとしたのかしら? 疚しいことがないならきちんと説明できるはずよ」

八幡「お前らがそうやって問い詰めてくるのが面倒だからだろうが……今だって明日の弁当についてのことなだけで大したもんじゃない」

雪乃「本当でしょうね」

八幡「こんなことで嘘ついてどうすんだよ……疑うなら川崎にも聞いてみろ」

結衣「うー、あたしも! あたしも今晩ヒッキーとメールする!」

八幡「勘弁してくれ、今日は早く寝るって決めたんだよ」

結衣「少しくらいいいじゃん!」

八幡「はあ……わかったわかった、少しだけだからな」

結衣「うん! 絶対だからね!」

八幡「へいへい」

 ~ 翌朝 ~


八幡(眠ぃ…………)

八幡(ちょっとだけって言ったのに由比ヶ浜は日が変わる頃まで延々とメールを送り続けてきた。返信しないと催促が何度も来るし、それでも無視をすると小町経由で注意してきやがった)

小町「おはようお兄ちゃん、夕べはお楽しみでしたね」

八幡「どこの宿屋の主人だよ。いや、楽しんでねーから。早いとこ寝たかったのに由比ヶ浜のやつ小町まで使いやがって。おかげで2日連続で寝不足だぜ」

小町「えー、女の子とメールしてて寝不足だなんてリア充みたいじゃん」

八幡「睡眠時間を削ってまですることじゃないだろ、健康にも悪いし。やはりぼっちが最高だということが改めて証明されてしまったな……ふわああ」

小町「ありゃ、本当に眠たそうだね。今日サボっちゃう? そんなお兄ちゃん小町的にポイント低いよ」

八幡「サボんねーよ、多分いなくてもバレねーけど。川崎との約束もあるしな」

小町「バレないんだ……ん、沙希さんとの約束?」

八幡(やべっ)

八幡「小町、そんなわけだから今日は小町の送迎はなしだ。寝不足で運転誤って小町に怪我でもさせたら大変だからな」

小町「そこまで小町のことを思ってくれるお兄ちゃんはポイント高い! だから今は話を逸らそうとしたのを黙認してあげる。帰ったら聞かせてもらうけどね!」

八幡(それ黙認って言わなくね?)

彩加「おはよう八幡! なんだか眠そうなだね、大丈夫?」

八幡(教室に入ると天使が話しかけてきた、いや違った、戸塚だった。あれ、じゃあ天使で合ってるんじゃね?)

八幡「おはよう戸塚、ちょっと寝不足でな」

彩加「何かあったの? 昨日も午後からいなくなっちゃってたし……また変な問題でも抱えてるんじゃ……」

八幡「ああいや、何か起こってるわけじゃない。眠いのは遅くまで本を読んでただけだし、昨日の午後は……ちょっとしたことがあったんだけどすぐに解決したから。心配かけてすまないな」

彩加「それならいいけど……あ、だったら知らないかも。今日の授業って午前中はこんなふうに変更になったんだよ」ピラ

八幡「なん……だと……?」

八幡(戸塚が見せてくれたプリントには今日の授業日程が書いてあった)

八幡(幸い必要な教科書やノートは用意できているが、多大な問題が発生していた)

八幡「寝れそうな時間がねえ……」

八幡(授業態度が厳しい教師の教科だったり移動教室だったりで結構面倒だ、本気でサボってしまおうか……)

彩加「だめだよちゃんと授業は受けないと」

八幡「お、おう」

八幡(仕方ない、頑張るか)

八幡(なんとか昼休みまで乗り切った……正直昼飯を食わずに寝たい気持ちもあったが、川崎との件があるからな)

八幡(由比ヶ浜が時折チラチラとこっちを見ていたが、ステルスヒッキーの能力を最大限に発揮して教室から抜け出す)

八幡(川崎とは現地で落ち合う約束だ。眠気覚ましに顔を軽く洗って自販機に寄ってから行くか)

八幡(………………………)

八幡(やべえ……川崎との弁当の時間にドキドキしてる俺がいる)

八幡(昨日川崎にお願いしたことが、俺の希望が叶えられる時が一刻一刻と近付いている)

八幡(今は眠気よりそっちの期待の方が強くなってきた)

八幡(えっと、川崎はっと…………いた、もうベンチに座ってたか)

八幡(近付いていくとこちらに気付いたか川崎が軽く手を上げる。俺もひらひらと手を振って返した)

八幡「すまん、待ったか?」

沙希「いや、それほどでも」

八幡「そっか、ほらお前の分」

沙希「ありがと」

八幡(自販機で購入した川崎の分の飲み物を渡し、俺は川崎の隣に座る)

沙希「はい、あんたの分」

八幡「おう、サンキュ」

八幡(包みをほどき、川崎のより一回り大きい弁当箱を受け取る。この中に……)ゴクリ

八幡「じゃ、腹も減ったし早速いただくか」パカ

八幡(蓋を開けるとごくごく一般的な手作り弁当が目に入る。変わったことといえば玉子焼きが多めにあることだろうか)

八幡「い、いただきます……」

沙希「うん……そこまで緊張されるとこっちもしちゃうんだけど……」

八幡(俺は玉子焼きを箸で一口サイズにし、口に放り込む)

八幡「美味い……マジで、美味しい……」

八幡(じっくり味わい、咀嚼して飲み込んだ俺の口から出た言葉はそれだった)

沙希「良かった……」

八幡(川崎は心底安堵したような表情になる。ちょっとプレッシャーかけすぎたか?)

八幡「いや、本当に、他に言葉が出なくて申し訳ないけど、マジで美味い」

八幡(おかげでめっちゃご飯が進む)ガツガツ

沙希「あー、なんだったらあたしの分の玉子焼きも食べていいよ」

八幡「本当か!? いや、でもそれはさすがに……」

沙希「そんなに美味しく食べてもらえるならその方があたしも嬉しいから遠慮しないで」スッ

八幡「じゃあ悪いけど貰うな」ヒョイ

沙希「ふふ、たくさん召し上がれ」

八幡「ふう……ごっそさん」

沙希「お粗末様でした。気持ちいいくらいの食べっぷりだったね」

八幡「俺の夢が叶った瞬間だしな」

沙希「夢ってそんな大袈裟な……だいたい『甘くない玉子焼きを作ってくれないか』なんて普通に言ってくれれば作ってくるのに。こんなお礼なんてノーカウントでいいよ」

八幡「いやいやそうは言うけどな、うちの家庭内では甘くない玉子焼き好きに人権はないんだ。俺にはもともとないけど」

沙希「ないんだ……」

八幡「昨日も言ったけど小町が甘いの大好きだからな、それが拍車をかけてるんだ。もしバレたらどんな迫害を受けるか……」

沙希「そんなオーバーな」

八幡「だから誰にも言うなよ。そのせいで家を追い出されたらお前んちで養ってもらうからな」

沙希「なっ……」////

八幡「甘くないのは俺の人生と玉子焼きだけでいい……ん、どうした?」

沙希「な、なんでもない! それより意外だね、あんたが甘くない方が好きだなんて」

八幡「ああ、俺も不思議に思ってる。何でかこれだけは甘くない方が好みなんだよな。食べる機会がほとんどないし、うちじゃ作れないけど」

沙希「うちはみんなどっちも好きみたいでね、気分によって変えてるよ」

八幡「いやー、本当に美味かった。味付けもしっかりしてたし」

沙希「あんまり手放しで誉められるとくすぐったいからその辺にしてほしいんだけど……なんなら毎日作って来ようか?」

八幡「マジで!? あーでも、毎日だと有り難みがなくなっちゃうかな……くそっ、どうするか?」

沙希「そんな真剣に悩まなくても……じゃああたしの気分次第ってことにするよ。甘いのも嫌いじゃないんでしょ?」

八幡「ああ、じゃあそれでよろしく頼む」

八幡「さて、まだ昼休みあるな……ふぁ」

沙希「なんだか今日は随分眠そうだね、授業中にも寝そうになっては飛び起きてたし」

八幡「今日の授業は寝れないのばっかだったからな……くそ、由比ヶ浜のやつめ」

沙希「…………由比ヶ浜がどうしたの?」

八幡「ああ、一昨日お前と遅くまでメールのやり取りしただろ。それを聞いた由比ヶ浜が自分もするって言ってきかなくて。あいつも変なところで負けず嫌いだからな」

沙希「そ、そう」

八幡「あふ……仕方ない、教室戻って寝とくかな」

沙希「ぼっちは教室にいると邪魔なんじゃなかったかい?」クス

八幡「しょうがねえだろ、このベンチじゃ背もたれ低くてよく寝れねえし」

沙希「…………ねえ、ここって人通りないの?」キョロキョロ

八幡「ん? ああ、結構良スポットなんだけどどこへ行くにしてもここを通ると遠回りになるんだ。ここで昼飯食ってて人が通ったことなんて2、3回あるかどうかだ。昨日の場所は人もそこそこ通るし由比ヶ浜も知ってるし、万一誰か邪魔者が来たら厄介だからな」

沙希(邪魔者って、あたしとの時間のことなのかな)ドキドキ

八幡(甘くない玉子焼き食べてるのバレてどこからか小町に伝わったら生きていけないからな)

八幡「んで、それがどうかしたのか? 別に所有権を主張する気はないから川崎も使いたきゃ使っていいぞ」

沙希「いや、そういうわけじゃないさ」ススス

八幡(え? なんで距離を取るの? もしかして眠気が増したことによって俺の目の腐り具合がアップしたの?)

沙希「ほら、使っていいよ」ポンポン

八幡「…………」

八幡(あの、川崎さん、なぜ御自分の太ももを叩いてらっしゃるのでしょうか?)

八幡「え、えっと、その」

沙希「ああもう、じれったいね」グイッ

八幡「うわっ」ポスン

沙希「まったく。頭フラフラされてるほうが気になるっての。素直にこのまま少し寝ときな」

八幡「あ、あの、これ、膝枕ってやつ、ですよね?」

沙希「か、彼氏彼女の関係ならこれくらいするでしょ、一応そういうことなんだし」

八幡「そ、それはそうなんだけど」

沙希「ほら、少しでも寝とかないと午後の授業がツラいよ?」ナデナデ

八幡「あ……」

八幡(お腹いっぱいで、柔らかい枕があって、頭撫でられて)

八幡(すげー心地良い……目蓋が重い……眠……)スゥ

沙希「比企谷……もう寝ちゃったのかい?」ナデナデ

八幡「zzz……」

沙希(こうして見るとやっぱり比企谷って顔立ちは整ってる方だよね)ナデナデ

沙希(目が腐ってどうこう言ってるけど……もし腐ってなかったら外見だけに惚れた女とかが寄ってきたのかなやっぱり)ナデナデ

沙希(あたしは見てくれだけに惚れられても嬉しくないけどね、ちゃんと中身も一緒に見て欲しい…………比企谷みたいに)ナデナデ

沙希(……比企谷が今の比企谷で良かった。比企谷にはあんまりモテてほしくない)ナデナデ

沙希(あたし、卑怯者だ……)ナデナデ

沙希(比企谷……)





???(…………)コソコソ

沙希「比企谷、そろそろ起きな」

八幡(そんな声とともに身体を揺すられ、俺は目を覚ます。そういや川崎に膝枕してもらってたんだったな)

八幡「ん、ああ……あ……」

八幡(思わず言葉が出なかった。仰向けで見上げる形の俺とこちらを見下ろす形の川崎。その間にある女性の象徴)

八幡(え、あれ? こんな格好で見るの初めてだけどひょっとして川崎ってめっちゃ巨乳なんじゃね?)

八幡(そうか、俺の頭に上着の裾が挟まって引っ張られて強調されてるのか)

沙希「どうかした? まだ微睡んでる?」

八幡「ああ、いや……心地良くて名残惜しいかなって」

八幡(誤魔化すためにとっさにそんなセリフが出たが、嘘ってわけじゃない)

沙希「そっか、じゃあギリギリまでこうしてていいよ」

八幡(あれ? いつもならこういうことを言うと恥ずかしがって色々言ってくるのに、多少顔を赤くしただけで流された。何か心境の変化でもあったか?)

八幡「そういや今何時だ? どれくらい寝てた?」

沙希「もうすぐ五限が終わるってとこだね」

八幡「そっか……って何だと!? 思いっきり授業サボっちまったじゃねえか!」

沙希「ああ、それなら大丈夫。さっき海老名からメール来てさ、五限は完全自習になったから教室にいなくても平気だってさ」

八幡「ああ、そうなのか……びっくりした」

沙希「それと比企谷によろしくってさ」

八幡「…………なんで俺の名前が出んの?」

沙希「自転車二人乗りしてんの見られたみたいでね、関係を聞かれたから想像に任せるって返したんだけど何となく察してるみたい。さすがにフリってのは思ってないだろうけど」

八幡「そうか……」

沙希「一応秘密にはしてくれてるみたいだけどね。それと『はや×はち』は諦めない、だってさ」

八幡(…………何も言うまい)

沙希「…………ねえ、比企谷」

八幡「なんだ?」

沙希「その、依頼のことなんだけど、さ」

八幡「ああ、彼氏役のことか」

沙希「期間、変更してもいいかな?」

八幡「……どの程度?」

八幡(今日で止めようとか言われたらちょっと立ち直れないかもな……)

沙希「あたしかあんた、どっちかが嫌になるまで」

八幡「!!?」

沙希「相手のことが嫌になったり、他に好きな人ができたり、そんなふうになるまで」

八幡「…………意味、わかってるのか?」

沙希「さあね。ただ煩わしいことをかわすのに彼氏役がいるってのは思いのほか便利なんだ。もちろんあんただってあたしを彼女役として使っていい」

八幡「……俺でいいのか? 校内有数の嫌われ者なんだぜ。お前だって何を言われることか」

沙希「言いたいやつには言わせておけばいいよ。むしろそんなのを理由にあんたが身を引いたりしないかの方が心配さ」

八幡「…………」

沙希「それにあたしだって離れていくような友達がいるわけじゃない。その辺はむしろ共感出来るでしょ?」

八幡「そりゃまあ……な」

沙希「で、返事はどうなの?」

八幡「……俺に気を使ったりせず言いたいことをちゃんと言ってくれるなら考えないでもない」

沙希「それはむしろあんたの方でしょ。いつも他人に気を使って、自分を犠牲にして傷付いて、そんで雪ノ下や由比ヶ浜達にもっと自分を大事にしろって怒られるんだ」

八幡「いや、別に気を使ってるわけじゃ……」

沙希「いいんだよ」

八幡「え?」

沙希「比企谷がそうしたくてやってるなら、いくら傷付いてもあたしは止めないし怒りもしない」

八幡「…………」

沙希「でももし、泣きそうなほどに傷付いて、立ち上がれない程に疲れたら、あたしのところに来な。いつだってあたしの膝で良ければ休ませてあげるから」

八幡(そう言って俺の顔を撫でる川崎の表情はとても優しいものだった)

八幡(俺はその手をそっと握り締め、川崎に返事をする)

八幡「じゃあ、これからよろしくな、彼女役さん」

沙希「うん、これからよろしく、彼氏役さん」

八幡(依頼内容の変更に伴い、俺達は改めてこれからのスタンスや方針について話し合った)

八幡(まあ積極的に広めたりはしないが聞かれれば否定はしない、くらいにしておこうとなった)

八幡(もっともぼっちとぼっちがくっついたからといって騒ぎ立てるようなやつもいないだろうが、いろんなことを想定しておいたほうがいいだろう。無駄になったらそれはそれでいいわけだし)

八幡(五限終了のチャイムが鳴り、途中で花を摘みに行くらしい川崎と別れて一人教室に向かう)

八幡「が、廊下で厄介なやつに見つかり、うんざりしてしまった」

結衣「口に出てるし! 厄介って何だし!」

八幡「どうどう、落ち着け由比ヶ浜。可愛い顔が台無しだぞ」

結衣「かわっ……あうう」

八幡「落ち着いたか? 良かったな、じゃあ俺は教室戻るからまた放課後に部室で」

結衣「あ、うん、また……ってちょっと待ってよ! そんなんで誤魔化されるわけないし!」

八幡「九割がた誤魔化されてたじゃねえか……何か用か?」

結衣「その……昼休みと五時間目どこ行ってたの?」

八幡「昨日も言っただろ、川崎とメシ食ってたんだよ」

結衣「でもいつもの場所にもいなかったし……ヒッキーもサキサキも五時間目まで戻って来なかったし……」

八幡「いや、後者はお前のせいだからな」

結衣「えっ?」

八幡「元々寝不足だったのにお前が昨晩遅くまで付き合わさせるから昼休みに寝ちまったんだよ。五限が自習だと知ってた川崎が気を使ってギリギリまで寝かせてくれたんだ」

結衣「え、あ、ごめん……」

八幡「まあだいぶ頭もスッキリしたしもういいけどな」

八幡(本当はだいぶ、どころかめちゃくちゃスッキリしている。短時間ながらも熟睡したせいだろう)

八幡(川崎の膝枕でしか寝れなくなったらどうしよう……)

結衣「ヒッキー、その……遅くならないならまたメール、してもいいかな?」

八幡「俺の気が向いたらな。でも俺今彼女いるから他の女子とメールはする気にならんな」

結衣「フリじゃん! ホントはめんどくさいだけなのに言い訳に使ってるでしょ!」

八幡「おい、声がでかい。フリってのは特に秘匿事項なんだからな」

結衣「あ、ごめん……」

八幡「はあ……一応お前らを信用して話してんだから気をつけてくれよな」

結衣「わ、わかった」

八幡「もういいな? 俺教室戻るから」

結衣「うん、またあとで」

八幡(六限は国語。午前中はこの時間にうたた寝して平塚先生に鉄拳制裁を喰らうかもとヒヤヒヤしていたが、恙なく乗り越えた)

八幡(いや、むしろいつもより頭は冴えていた感じがする。何なの川崎さんの膝枕、特殊な成分でも出てるの?)

八幡(HRも終え、部室に向かおうとしたら由比ヶ浜が呼び止めてきた)

結衣「あ、ヒッキー、今日部活休みにするって連絡来たよ。ゆきのんが何か用事があるんだって」

八幡「あ、そうなの、んじゃとっとと帰るかな」

結衣「うん、あたしは優美子達と遊んでくから。また明日ね」

結衣(サキサキと一緒に帰ったりしないんだ、良かった…………ってなにがいいの!?)ブンブン

八幡(さて、どうすっか……そういやそろそろ新刊のチェックをしときたいな。本屋に寄ってくか)

???「せーんぱい」

八幡(どこの本屋に行くか……ちょっと遠いけど品揃えのいいあそこに行くかな)

???「ちょっとちょっと先輩、無視しないでくださいよ!」

八幡「あん? なんだ一色だったのか」

いろは「もう! 聞こえてるなら返事してくださいよ!」

八幡「すまん、ちょっと考え事をしててな」

八幡(本当は俺を呼ぶ奴なんていないと思ってスルーしてただけなんだが)

いろは「先輩今日暇ですか? 暇ですね? ちょっと買い物に付き合ってくださいありがとうございます」

八幡「いや、今日はいろいろアレがコレで忙しいから。じゃあな」

いろは「先輩が忙しいわけないじゃないですか。今日は奉仕部もお休みって聞いてますよ」

八幡「じゃあなおのことお前の頼みは聞けん。今日は奉仕部は活動してないんだからな。だいたいお前生徒会やサッカー部のマネージャーで忙しいだろ」

いろは「奉仕部としてでなく個人的な頼みですよー。それに今日はどっちもお休みです」

八幡「聞けん。俺のメリットが何もないだろ、むしろデメリットしかないまである」

いろは「何言ってるんですか、こんなに可愛い後輩と買い物できるんですよ。あ、でもデートなんかじゃないんでそんな勘違いして変な気を起こされても困りますごめんなさい」

八幡「うぜえ……」

八幡(ああそうか、川崎はこういうことを想定していたのか? お前の存在、早速使わせてもらうぜ)

八幡「個人的つーならなおさら無理だ。俺達二人で行くつもりなんだろ?」

いろは「はい、でもただの荷物持ちですからね? それくらいで私が気を許してると思われても困ります」

八幡「好きでもない男を買い物に誘ってんじゃねーよ。俺だって彼女以外の女と必要なく出かけるつもりはない」

いろは「またまたそんなこと言ってー。彼女なんかいないくせに。別に私のことを好きになるくらいは許してあげますから」

八幡「いるぞ」

いろは「…………え?」

八幡「この前できたんだよ」

いろは「……な、なーんだ、ゲームの話ですか、びっくりしちゃいましたよもー」

八幡「どんだけ俺がモテないと思ってんだよ……いや、俺だってびっくりしてるけどな」

沙希「…………何やってんのこんなとこで」

八幡「おう、川崎か」

沙希「今日奉仕部はどうしたのさ? そっちは……生徒会長さんか」

いろは「あ、はい、えっと…………」

沙希「比企谷と同じクラスの川崎だよ。あんま関わることはないと思うけどよろしく」

いろは「は、はい、若輩者ですがよろしくお願いします」

八幡(なんでこんな畏まってんだ……ああ、猫被ってんのか)

いろは(うわあ、ちょっとキツそうだけど綺麗な人だな……)

沙希(……なんでコイツの周りには可愛い女の子ばっかりなんだろう)ハァ

沙希「で、何か揉め事かい? 言い合っていたみたいだけど」

いろは「あ、えっと……」

八幡「いや、何もねえよ。奉仕部に頼み事をしようとしたけど、今日は奉仕部はお休みだって説明してただけだ。な?」

いろは「は、はい」

沙希「そう、奉仕部休みなんだ……ならちょうどいいや。比企谷、買い物付き合ってよ」

八幡「あ? 別にいいけど何買うんだ?」

いろは「!!?」

沙希「近所のスーパーで色々と。お一人様数量制限の玉子とかもね」ニヤリ

八幡「! いいぜ、いや、是非手伝わせてくれ。俺の分の弁当の材料とかも買うなら無関係じゃないからな」

いろは(弁当!?)

八幡「ちょっと自転車取ってくるわ。門のとこで待っててくれ」

沙希「はいよ。まあタイムセールの時間までまだ少しあるから急がなくてもいいよ」

八幡「おう」スタスタ

沙希「……さて、と」

いろは「あ、あの、川崎先輩!」

沙希「ん?」








今更だけどトリって別にいらないよね?
正直>>128で終わらせた方が綺麗だったんじゃないかと後悔し始めてる

いろは「か、川崎先輩は、比企谷先輩と、その、お付き合い、してらっしゃるんですか?」

沙希「…………比企谷がそう言ったのかい?」

いろは「その、さっき最近彼女ができたと聞きました……」

沙希「そう……大っぴらには言いふらさないでね。煩わしいことになったら面倒だから」

いろは「じゃ、じゃあ本当なんですか?」

沙希「ああ」

いろは「な、なんで」

沙希「ん?」

いろは「なんで川崎先輩みたいな綺麗な人が、あんな捻くれ者で、嫌われ者で、目が腐ってるような先輩と」

沙希「…………むしろそう思ってるならあんたこそ比企谷に近付くんじゃないよ、そんな人のそばにいても評判が落ちるだけだよ生徒会長サマ」

いろは「!!」

沙希「比企谷のことを好きで近付くならあたしもそうまで束縛はしないよ。でも普段あいつを馬鹿にするような連中が自分の都合のいい時にだけ都合のいいように扱うのは我慢ならない」

いろは「…………」

沙希「あたしは好きであいつのそばにいるんだ。捻くれ者でも、嫌われ者でも、目が腐っていても、あたしにとってはどうでもいいことなの」

いろは「…………」

沙希「…………ちょっとキツい言い方しちゃったね、謝るよ。でも、その辺はちゃんと考えて」

いろは「はい……」

沙希「…………わかってるよ、あんたが本心から言ってるわけじゃないのは」

いろは「え?」

沙希「そんじゃ、またね」

いろは「え、あ、は、はい」

沙希(あの子も比企谷のことを憎からず思っているんだろうな)

沙希(少なくとも負の感情は持っていない。悪口っぽいのを言うのもどちらかといえば甘えているってのに近い)

沙希(そこから先が信頼なのか恋愛なのかはわからないけど)

沙希(なにが“ぼっち”なんだか……女誑しじゃない)

沙希「お待たせ、スケコマシ」

八幡「おいこら、挨拶と謂われのない悪口を同列にするな。てか何で俺の方が先に来てんだよ」

沙希「ああ、あの子に捕まってね、ちょっと話をしてたから」

八幡「話?」

沙希「本当に付き合ってるのか、みたいな」

八幡「なるほど、俺みたいな捻くれ嫌われぼっちと付き合うなんて気でも狂ったか、とか言われたのか」

沙希「うん、だいたい合ってる」

八幡「え、マジで……一色にどんだけダメ人間だと思われてるんだ俺は」

沙希「大丈夫、ちゃんと『あたしはそんな比企谷が好きになったんだ』って胸を張って答えておいたから」

八幡「そこだけ聞くとすげー変わり者みたいだな……てかかなり恥ずかしいこと言ってるのわかってるか?」

沙希「そうだね。でもフリだし演技だから」

八幡「そうだけどさ」

八幡(実際この“フリ”だとか“演技”ってのは実にやりやすい)

八幡(普段なら絶対言えないようなことも『これは演じているだけだから』といって言えてしまうのだ)

八幡(何より所詮演技なのだから最初から裏切られることもないしな)

八幡「んじゃ行くか、後ろ乗れよ」

沙希「三日連続でお世話になります、っと」

八幡「おう、行くぞ」

八幡(三日連続、か)キコキコ

八幡(川崎から依頼を受けてまだ三日なのに随分昔のことだったような気がする)キコキコ

八幡(たった三日の間にいろんなことがあったからな)キコキコ

八幡(四日前だったら川崎とこんなに急接近するなんて考えもしなかっただろうに)キコキコ

八幡(背中に感じる川崎の存在が心地良い。いや、エロい意味でなく)キコキコ

八幡(俺の腰に回された腕がずっと解けなきゃいいのに、なんて柄にもなく考えてしまう)キコキコ

八幡(まああと五分もしないうちに着いちゃうんですけどね、目的地のスーパー)キコキコ

八幡(さて、自転車を停めて店内に入ったわけだが)

八幡(買う物がだいたい決まってる以上二手に別れて行動する方が効率がいい)

八幡(少し前の俺なら、あるいは連れが川崎でなく雪ノ下や由比ヶ浜だったら間違いなくそう提案していただろう)

八幡(だけどごく自然に俺は川崎が持とうとした店内用買い物カゴを先に取る)

八幡「よし、行こうぜ。どの辺から回る?」

沙希「ふふ、ありがと。じゃあ野菜のコーナーから行こうか」

八幡(川崎は物を吟味しながらカゴに次々と放り込んでいく)

八幡(やはり大家族のためか量が多く、カゴはどんどん重くなる)

八幡(それでも俺は苦に思わず、むしろついて来て良かったとさえ考えた。川崎に重いものを持たせずにすんだのだから)

八幡(別にカートを使ってもいいのだが、タイムセール時に邪魔になるからな)

八幡(そんなこんなで会計を済ませる)

八幡「数量限定品も二人で並べば一気に二人分まとめて会計してくれるんだな。複数で利用することがないから知らなかったぜ」

沙希「そうなの? あたしは時々家族連れで来るから。あんたもここ使ってんでしょ。小町とか連れてきたら?」

八幡「いや、小町をあんな戦場に放り込むわけにはいかん。人とぶつかって怪我でもしたらどうするんだ」

沙希「シスコン」

八幡「お前だってそうだろ。昨日の取り乱しっぷり」

沙希「うるさいよ」

八幡(そんなどうでもいい会話をしながら買った物を袋に詰めていく)

八幡(川崎は確か口下手な方だったはずなのだが、俺との会話にその片鱗は見られない)

八幡(俺に対しては遠慮がいらないと思ってくれているのだろうか)

八幡(俺は、川崎にとっての特別になっているのだろうか)

八幡(今までなることもなられることも拒否し続けてきた特別)

八幡(…………演技、か)

八幡「到着、っと」キキッ

沙希「ん、ありがと」

八幡「結構重いけど大丈夫か? 玄関くらいまでなら運ぶぞ」

沙希「平気、慣れてるからね」

八幡「そうか、んじゃ……」

???「あら、沙希……そちら様は……?」

八幡(後ろから声がして振り向くと、川崎にちょっと似た女性が立っていた。おそらく母親だろう)

八幡(そして案の定俺の顔を見るとびくっとする。この世に唯一無二の選ばれし目だから仕方ないが。え? 別に羨ましくも何ともないって?)

沙希「あ、母さんおかえり、今日は早かったんだね。こっちはクラスメートの比企谷。買い物を手伝ってくれたんだ」

八幡「どうも」ペコリ

川崎母「あ、どうも。いつも沙希がお世話になっております」

八幡「いえ……」

「あ、はーちゃーん!」

「お兄さんじゃないっすか」

八幡(さらに後方から新たな声がかかる。お迎えだったらしく手を繋いでる大志とけーちゃんだ。なんで川崎一族が次々集まってくんの? あ、川崎家の前でしたねここ)

八幡「俺をお兄さんと呼ぶな」

大志「じゃあ俺もはーちゃんって呼べばいいっすか?」

八幡「ぶっ飛ばすぞこの野郎」

沙希「そんなことしたらあたしがあんたをぶっ飛ばすよ」

八幡「暴力反対、平和が一番」

京華「はーちゃん、あそびにきたのー?」トテテ

八幡「ん、ちょっと寄っただけだけどな」ナデナデ

川崎母「え、じゃああなたが……あの、良ければお茶でも飲んでいってくれませんか? ちょっとお話したいこともございますし」

八幡「あ、えっと……」

沙希「あんたさえ良けりゃ寄ってってよ。下の弟もあんたに会いたいって言ってたし」

八幡「……じゃあ少しだけお邪魔します」

八幡(川崎家のリビングに通されてお茶を出されたわけだが)

八幡(川崎や大志は着替えやら弟妹の世話やらで今は席を外している)

八幡(必然的に俺は川崎の母親と二人になってしまうわけで、正直ちょっと気まずい)

川崎母「えっと、比企谷君、ね?」

八幡「は、はい、比企谷八幡です。かわ……沙希さんにはいつもお世話になってます」

川崎母「そう、あなたが……どうも、ありがとうございます」

八幡(そう言って突然頭を下げられる。俺は慌てふためいてしまった)

八幡「ちょ、ちょっと、頭上げてください。いきなりどうしたんですか?」

川崎母「昨日のこと、お聞きしました」

八幡「あ……いえ、特に大したことをしたわけでもないですしそんな改めてお礼を言われるような事では」

川崎母「いえ、園のほうからも聞きました。いろいろ気を使っていただいて、とてもよく出来た男性でしたと」

八幡「いや、そんな……」

八幡(手放しで賞賛されても困る。実際俺はそこまで出来た人間ではないのだから)

川崎母「本当はこちらからお礼に伺うのが筋なのですが、なにぶんお名前もわからなくて……沙希は教えてくれないし京華は『はーちゃん』としか言わないしで」

八幡「いや、お礼ならもう沙希さんからいただいてますから。そんなお気になさらないでください」

川崎母「お弁当、かしら?」

八幡「あ、はい、御存知でしたか」

川崎母「ふふ、作ってる時の態度がいつもよりすごく真剣だったから。親の贔屓目で言ってるかもだけど、あの子、なかなか料理上手でしょう?」
八幡「はい、それはもう」

川崎母「私達が忙しいのをいいことに家の事を押し付けたりであの子には本当に苦労をさせてしまってねえ……それに少し人見知りで不器用だから、まさかあなたみたいなのがいるとは思わなかったわ」

八幡「…………沙希さんは」

川崎母「はい?」

八幡「沙希さんは家族が本当に大好きなんですよ。だから家族のためになることを苦だなんて思っていません。人見知りで不器用かもしれませんが、それ以上に優しくて気が利く子です」

川崎母「まあ……」

沙希「ちょっと、人の親の前で何恥ずかしいこと言ってんの」

京華「はーちゃーん」トテトテダキッ

八幡「おっと……別に嘘を言ってるわけじゃないから」

沙希「はあ……」

京華「はーちゃん、あそぼー」

八幡「おう、いいぞ」ナデナデ

川崎母「あらあら、沙希だけでなくうちの子みんなと仲良くしていただいてるのね。京華、あまりお兄ちゃんを困らせちゃダメだからね」

京華「はーい」

八幡(夕飯の時間まで俺は川崎家の子供達と遊んで過ごした)

八幡(夕飯も一緒にどうかと誘われたが、さすがにそれはお断りしておく。ウチで小町一人になっちゃうからな)

八幡(それを言ったら万が一ここで一緒にとか言われかねないから隠しておくが)

八幡(大志さえいなきゃそれでもいいのだが。あの野郎をふんじばって庭にでも転がしてればよかったか)

沙希「変なこと考えてるとあんたの両腕腐らすよ」

八幡(門のとこまで見送りに来てくれた川崎がそう言ってきた。なに、エスパーなの? 弟に対するわずかな邪気を感じ取ったの?)

八幡「じゃあな川崎」

沙希「あ、ちょっと待って。あんたに聞きたいことあったんだけど」

八幡「あん?」

沙希「あんたさ、よくあたしの苗字覚えてなかったり間違えたりしてるけど、あれってわざとなの?」

八幡「以前は本当に覚えてなかったが、今はただのネタだ。悪かった」

沙希「いいんだけどさ、そんなに覚えにくい苗字ってわけでもないでしょ? 何で?」

八幡「何でだろ?」

沙希「原因不明かい……じゃ、じゃあさ、苗字、覚えにくいんだったら、別に名前で呼んでくれても、いいんだよ?」

八幡「な……」

八幡(誰この子。赤くなって俯いてるのが可愛いお持ち帰りしたい)

沙希「親や医者とかの前では呼んでたし初めてってわけでもないんだろ?」

八幡(なにその言い方エロい)

沙希「だから、その……」モジモジ

八幡「…………じゃあまた明日な、沙希」

沙希「! うん、また明日ね、八幡」

八幡(俺は別れの挨拶を交わし、自転車を漕ぎ出す)

八幡(初めて同級生の女の子に名前で呼ばれた。全身がむず痒い)

八幡(しかしそれ以上に心が暖かくなる)

八幡(…………はあ)

八幡「ただいまー」

小町「おかえりお兄ちゃん、小町にする? 小町にする? それとも小町?」

八幡「一択じゃねえか。じゃあ小町で」

小町「はい、ではご飯を食べながら小町とお話できるコースですね。ご案内ー」

八幡「なんかテンション高いな」

小町「だってだって、お兄ちゃんが沙希さんと一緒に買い物なんてしてたんだよ! あのお兄ちゃんが女の子とスーパーで買い物するなんて!」

八幡「付き合ってんのはフリだからな、勘違いすんなよ。てかどっかで見かけたのか?」

小町「うん、ちょうど二人がスーパーに入るとこを。お邪魔しちゃいけないと思ったから声はかけなかったけど」

八幡「別にかけてもいいのに。数量限定品とかあったから人数増えたほうが良かったんじゃねえかな」

小町「これだからゴミいちゃんは……」

八幡「あん?」

小町「何でもないでーす。もうすぐ夕ご飯できるから着替えて待ってて」

八幡「あいよ」

八幡「いただきます」

小町「いただきまーす、それでお兄ちゃん、沙希さんとはスーパー行っただけ? それにしては遅かったしデートでもしてきた? キャー!」

八幡「少しはゆっくり食わせろよ……いや、そのままあいつの家にお邪魔してちっちゃい妹達と遊んできただけだから」

小町「へー」ニヤニヤ

八幡「妹のニヤケ顔がうざい」モグモグ

小町「外堀から埋めていくなんてなかなかの策士だねお兄ちゃん、成長して妹は嬉しいよ」ヨヨヨ

八幡「うぜえ……」

小町「そんでそんで、朝言ってた沙希さんとの約束って何だったの? スーパーに行くこと?」

八幡「いや……弁当を作ってきてくれるって話だ」

小町「え、でもそれは昨日からでしょ?」

八幡「今日も一緒に食べようって約束しただけのことだ」

小町「……ふーん」

八幡(そのあとも根掘り葉掘りいろんなことを聞かれた)

八幡(あくまでもフリだっていうのに俺達の行動を聞くたびに一喜一憂する小町)

八幡(ちょっと騒がしいけどまあいいか)

八幡(少しだけ刺激的で、それでも波風のない日々が続けばなと思っていた)

八幡(しかし次の日、事件は起きた)

八幡(久しぶりに寝不足でない朝だ)

八幡(心なしか目の腐り具合も昨日より二割減といった感じだ)

八幡(あれ、でも昨日は二割増で腐ってたからプラマイゼロじゃね?)

八幡(まあ腐ってようがそうでなかろうが気にするやつなんてそういないけど)

八幡(…………川崎は気にしないって言ってくれたしな)

八幡(が、教室に入ったところで俺は不穏な空気に気付く)

八幡(いつもなら一瞥したあと興味を一切示さないクラスの連中がこぞってこっちを見ているのだ)

八幡(え? 何? ひょっとしてみんな今日は俺の目の腐り具合が薄いことに気付いたの?)

結衣「ヒ、ヒッキー、その…………黒板」

八幡「あん? …………あ」

八幡(なるほど、ちょっとこれは予想外だったな。まさか写真とは)

八幡(黒板には昨日の昼休みに撮られたであろう俺達を被写体にした写真が張り出されていた)

八幡(あのほとんど人気のない裏庭のベンチで俺が川崎に膝枕されているシーンだ)

八幡(ふむ、誰が何の目的で写真を撮って晒したのかは知らんが)

八幡(相手が悪かったな)

八幡「由比ヶ浜、アレ誰がやったかわかってるか?」

結衣「え、ううん……朝早かった人達が来た時にはもう張られてたみたい」

八幡「そうか」

八幡(まあこんなことするようなやつがすぐバレるようなヘマをするわけないか)

結衣「……ヒッキー、どうするの?」

八幡「どうもしねえよほっとけ」

結衣「え……」

八幡「こういうのはこっちが慌てふためくほど相手の思う壺なんだ。反応すんな」

結衣「で、でもサキサキが」

八幡「いいから」

八幡(不安そうな由比ヶ浜を押しとどめ、俺は委細構わずに自分の席に着く)

八幡(対象が俺か川崎かはしらんが、目的は俺達を気まずくさせることと思っていいだろう)

八幡(しかし残念だったな! 俺にはからかったり揶揄してきたりするような友達なぞいない!)

八幡(よって俺に精神的ダメージを与えることはできん。ぼっち最強!)

八幡(現に皆はチラチラとこちらを見てくるものの、実際に話しかけてきたのは由比ヶ浜だけだ。戸塚は朝練があるらしくまだ来てないし)

八幡(ずっと張りっぱなしだといずれ先生に見つかるが……別にやましいことをしているわけでもないしな)

八幡(それより…………)

八幡(………………)

八幡(…………なるほど)

ガラガラ

八幡(お、川崎さんがいらっしゃった)

沙希(……?)

沙希(なんでみんなこっち見てんの?)

沙希(ん? 比企谷が黒板を顎で差して……ああ、そういうこと)

沙希(気付かなかったけど誰かいたのね、まあこの時は比企谷しか見てなかったから仕方ないか)

姫菜「さ、サキサキ、おはよう…………」

沙希「ん、おはよう。ねえ、これ誰がやったかわかる?」

姫菜「いや、朝早くから貼られてたみたいで……」

沙希「そう。じゃあこれ、貰っちゃってもいいのかな?」

姫菜「え?」

沙希「隠し撮りっぽいけど良く撮れてるじゃない。言えばもっとちゃんと写ってあげたのに」ペリペリ

八幡(川崎はそう言うと写真を剥がし、席に向かう)

八幡(途中俺のそばを通るので全員の視線が俺達に集まった)

八幡(こうした注目を浴びるのは苦手だったはずなのだが……なぜか今の俺は平常心を保てている)

沙希「これどうする? 欲しけりゃカラーコピーするけど」ヒラヒラ

八幡「いらんわ自分の寝顔の写真なんか。さっさとしまえ」

沙希「はいはい」

八幡(それだけの短い会話をし、川崎は自分の席に着いた)

八幡(クラスの大半は拍子抜けしたようながっかりしたような表情になる。何を期待してたんだか)

八幡(俺達があまりにも平然と対処したのでどうしたものかと思っているようだ。そういう関係ならもっと会話や距離が近いだろうし、そうでないなら騒ぎ立てたりするだろうし)

八幡(俺と同じく川崎にも揶揄してくるような友達がいない。せいぜい海老名さんが懐いてるくらいだが、こういう男女の色恋沙汰には変に口出ししないだろう)

八幡(男同士の色恋沙汰は置いといて)

彩加「ねえ八幡、今日はなんかクラスの雰囲気が妙なんだけど……みんなチラチラ八幡の方を見てるし、何かあったの?」

八幡(二限が終わったあと、戸塚が心配そうに話しかけてきた。ああ、何てことだ! 俺のせいで戸塚を不安にさせてしまった! これはお詫びに今度デートに誘ってあげなければ!)

八幡「ああ、実は俺と川崎が交際しているんじゃないかっていう噂が流れてな。それを気にしているらしい」

彩加「え、八幡と川崎さんが?」

八幡「一緒にメシ食ってるとことか見られたようでな、ぼっち同士がくっついたのかみんな気になるんだろ」

彩加「へえ……」

八幡「…………戸塚は気にならないのか? 聞いてこないけど」

彩加「うん、どっちでも八幡が八幡なのは変わらないしね。でもそれが本当で僕との遊んだりする時間が減ったりするのはちょっと寂しいかな」

八幡「戸塚…………大丈夫、俺の戸塚の愛情はどんなになっても変わらないから!」

彩加「あはは、八幡間違えてるよ。愛情じゃなくて友情でしょ」

八幡(いえ、愛情で合ってます)

彩加「でも何か困ったら僕にも相談してよね。僕にできることなんかたかが知れてるけど……」

八幡「いや、そう言ってくれるだけで嬉しいよ。ありがとう戸塚」

彩加「うん、どういたしまして」ニコッ

八幡(天使や……)

八幡(さて、このあとはどう動くか)

八幡(別に放っておいてもいいのだが、相手が諦めるかエスカレートするかはわからない)

八幡(少し川崎と話し合う必要があるが……その前に昼飯どうすっかな)

八幡(昨日の場所は写真でバレてるだろうし、どこに行っても好奇心旺盛なやつが見に来る可能性はある)

八幡(由比ヶ浜あたりなんかはあとを付けてくるかもしれんし……別々に食べるにしても一度は川崎に接触して弁当を受け取らなければならん)

八幡(そんなふうに試行錯誤しているうちに昼休みに突入してしまった)

八幡(川崎が弁当の包みを持って席を立つと、俺と交互に注目が集まる)

八幡(あー、考えるのが面倒くさくなってきた。もう昼を一緒にしたのはバレてるんだし教室でもいいか)

八幡(席を立たない俺を見た川崎は一瞬考え、自分の椅子を引きずって俺の机にやってくる)

八幡(え、なに、俺の考えを読んだの? やっぱり川崎さんエスパーなの? それとも俺がわかりやすいだけ?)

八幡(俺の斜め向かいに椅子を据えて座り、包みをほどく)

沙希「はい、あんたの分」

八幡「おう……よく、わかったな」

沙希「何となくね」

八幡(会話はそれだけ。いただきますの挨拶をしてからは二人とも無言で食す)

八幡(別に俺達はそれが苦ではないのだが、一般的には理解されないようでこちらを窺っている連中は怪訝な表情をしている。由比ヶ浜も今日は三浦達と食べているようで、こちらを様子見していた)モグモグ

八幡(今日は甘い玉子焼きか……)モグモグ

八幡「ごちそうさまでした」

沙希「お粗末様でした。んじゃ」

八幡「ああ」

八幡(またもや必要最低限の言葉しか交わさずに俺達は席を離れた。川崎は自分の席に、俺は飲み物を買いに)

八幡(やはり大半は俺達の距離を計りあぐねているようだ。別に知ってほしいとも思わんが)

八幡(やはり校内では人目が気になるので、予備校で話し合うことにした)

八幡(幸い今日は予備校があるし、俺達が同じ予備校だと知っているやつはほぼいない)

八幡(そのことをメールで確認し、今日一日ほとんど川崎と言葉を交わさずにいた)

八幡(そのせいか写真を見てない川崎よりあとから来た連中は疑り深い目で俺達とクラスメイトを見ていた)

八幡(いや、別に隠してるわけじゃないんだけどね。聞かれたら答える気はあるし。聞かれなかっただけで)

八幡(ただそんなポンポン会話が飛び交うような性格ってわけじゃないってだけだし)

八幡(そんなこんなで俺は特に誰かに絡まれることなく部室へ向かう)

八幡「うぃーっす」ガラガラ

雪乃「あら、誰かと思えば……誰だったかしら?」

八幡「おい、一日置いただけで記憶から消されるってなんなの? そんなに俺の存在を脳から抹消したいの?」

雪乃「冗談よ、ひ、ひ……えっと、あなたのことを忘れるわけないじゃない」

八幡「名前を現在進行形で忘れてるからなそれ」

結衣「ヒッキー!!」ガラッ

八幡(雪ノ下といつものようなくだらないやりとりをしていると由比ヶ浜が駆け込んできた)

八幡「おう、どうしたそんなに慌てて。二日振りに雪ノ下に会えるのがそこまで嬉しいのか」

結衣「あ、ゆきのんおとといぶりー」ダキッ

雪乃「暑苦しいから離れてちょうだい由比ヶ浜さん」

八幡(そうは言っても引き離そうとはしない雪ノ下さんです。ゆるゆりの世界を邪魔しちゃいけませんね、大人しく本でも読んでましょう)

雪乃「それでどうしたの由比ヶ浜さん?」

結衣「あ、そだ、ヒッキー! アレどういうこと!?」

雪乃「アレ?」

結衣「えっとね……」ゴニョゴニョ

八幡(ねえ由比ヶ浜さん、目の前に本人いるのにわざわざ内緒話っぽくするのは何でなんですかねえ)

雪乃「なるほど……」

結衣「で、結局あの写真はどういうことなの!?」

八幡「知らねえよ、誰が貼ったかなんて。自撮りしたわけでもねえし」

結衣「そうじゃなくて! なんでサキサキに膝枕されてるの!?」

八幡「なんでって……お前とのメールのやり取りで寝不足だって言ったらしてくれたんだよ」

結衣「あ、う……えと」

八幡「つまり原因を突き詰めたら由比ヶ浜がそもそもの原因ってわけだな」

雪乃「寝不足自体はそうだとしてもわざわざ膝枕である必要はないんじゃないかしら?」

結衣「そ、そうだよ! そんなうらや……恥ずかしいことをわざわざ!」

雪乃(でも、比企谷君が寝不足の機会があれば私も……)

結衣(あたしが膝枕してあげるって言ったらヒッキー喜んでくれるかな……)

八幡「んー、そういやそうだな。あまりに眠くてよく考えずに川崎の提案を受けてしまった。軽はずみに女子の身体に触れるようなことは極力避けるべきだな。これからは特に気を付けるから。もちろんお前らに対しても」

雪乃・結衣「えっ?」

八幡「? そう言いたいんだろ?」

雪乃「え、ええ、そうよ。色眼鏡で見ていかがわしいことをしていると思う人もいるかもしれないし」

結衣「こ、これからは気を付けてね!」

雪乃・結衣(またやってしまった……)

八幡(でも、女子側からくっついてくるのはセーフだよな。あと自転車の二人乗りの時とか)

雪乃「それで、結局写真のことはどうするのかしら?」

八幡「犯人ならある程度目星を付けてるが……どうするかはまだ考えてねえな」

結衣「えっ、わかってるの?」

八幡「候補を何人かに絞っただけだ」

雪乃「でも、たまたま通りがかった愉快犯かもしれないわよ?」

八幡「そうだな。その可能性も含めてあとで川崎と話し合っとくつもりだ」

結衣「……ねえヒッキー、まだサキサキと付き合うフリ続けるの?」

八幡「そうだな、今回みたいなのがあった以上ここで止めたら川崎がアレに屈したことになるしな。彼氏役であることに特典がないわけじゃないし」

八幡(弁当とか玉子焼きとか)

雪乃「……あなた川崎さんに変なことをしてないでしょうね? 恋人役にかこつけて」

八幡「するか。手すら繋いどらんわ」

八幡(あん時のあれは握っただけだから嘘じゃないな)

結衣「まあヒッキーはヘタレだもんね」

八幡「出してなきゃ出してないで貶されるのかよ……」

雪乃「一応聞いておくけれど私達に出来ることはあるかしら?」

八幡「んー、今んとこねえな。方針も決まってねえし。でも何かあったら頼らせてもらってもいいか?」

結衣「! う、うん! 遠慮しないでどんどん頼ってよ!」

雪乃「困った人に手を貸すのが奉仕部よ」

八幡「サンキューな二人とも、あ……ありがとう」

結衣「ヒッキー、サンキューとありがとうが被ってるよ」クスクス

八幡「うっせ」

八幡(愛してる、とか言いそうになってしまった。こういうのも軽々しく言っちゃいけねえな)

八幡(そして舞台は予備校へ)

八幡(今日のカリキュラムを終え、自習室で川崎と落ち合う)

八幡「で、一応アレをやった犯人に目星を付けとこうと思うんだが」

沙希「うん」

八幡「どんなやつかってのは四つに分類される。まず『俺に恨みを持つやつ』。これは正直不特定多数だ。文化祭とかでの悪評もあるしな」

沙希「文化祭…………」////

八幡(あ、やべ、地雷踏んだ!?)

八幡「つ、次は『川崎に恨みを持つやつ』。どうだ、心当たりはあるか?」

沙希「あんまり他人と関わってないからあたしにはないね。知らぬ間に買っている可能性までは否定できないけど」

八幡「まあ逆恨みってこともあるしな。そして『川崎のことを好きなやつ』。これはこの前のやつも当てはまるし、好きだけど言い出せなかったのに俺みたいなのと付き合い出したのに怒って行動に出たパターンもあるな。この場合『俺に恨みを持つやつ』にも該当するが」

沙希「それだとしたら実に陰険なやつだね。付き合う気なんかまったく起きやしない」

八幡「んで最後、『俺のことを好きなやつ』。まあこれは考えなくていいだろ。いるわけないし」

沙希「……本当にそう思ってる?」

八幡「そりゃそうだろ、こんな目をしたやつに誰が惚れるんだよ」

沙希「あんたの内面に惚れたかもしれないじゃない」

八幡「俺の内面知ってるやつなんてほとんどいねえよ。知ってて俺のことを好きっていうならこんな俺が嫌うようなことはしない」

沙希「……そうだね」

八幡「そんなわけで有力候補は『俺に恨みを持つやつ』か『川崎のことを好きなやつ』、あるいはその両方だな」

沙希「じゃあこの前フったあいつが……?」

八幡「それも有力候補なんだが……あの写真、貼る時は人目につかないように行動していたはずだ。そんなコソコソしなきゃいけない状況で他のクラスの教室に入るのって結構リスキーじゃないか?」

沙希「じゃあ犯人はうちのクラス……?」

八幡「可能性は高いだろうな。撮ったやつと貼ったやつが別々で共犯というのもありえるが」

沙希「ねえ、あんたもしかして当たりが付いてるんじゃないの?」

八幡「…………何でそう思う?」

沙希「さあ? ただ何となくそうかなって感じただけ」

八幡「お前マジでエスパーかよ……」ハァ

沙希「ふふ、たぶんあんた専用だけどね」

八幡「!!」ドキッ

八幡(なんだよクソ、俺の事を理解してますってか? 勘違いしちゃうよ?)ドキドキ

沙希「で、誰なの?」

八幡「あ、ああ…………相模、だろうな」

沙希「……ふうん」

八幡「驚かないんだな」

沙希「むしろ動機の面で言ったら最有力候補じゃない」

八幡「そりゃそうだ、そして朝それとなくクラスを観察していたんだが……あいつだけ反応が違ってた」

沙希「へえ、どんなふうに?」

八幡「まず俺が特に気にせず席に着いたら拍子抜けした表情になった」

沙希「でもそれぐらいなら……」

八幡「そして次第に焦り始めた。このまま先生達に見つかってさらに騒ぎが大きくなることを恐れたんだろう」

沙希「……」

八幡「お前が写真を剥がした時にはほっとしてたよ」

沙希「……」

八幡「んで、俺達が平然と会話してんのを睨み付けていたな」

沙希「いやそれもうほぼ確定じゃない、さっきまでの考察や前振りはなんだったのさ」

八幡「一応すべての可能性をだな」

沙希「馬鹿らしい……で、どうすんの? 本人に何か言うの?」

八幡「それなんだよな……あいつには俺を恨むだけの理由はあるし」

沙希「でもあんたは泥を被っただけなんでしょ? だったら」

八幡「どういう理由があろうと俺が相模に罵声を浴びせたのは事実なんだ」

沙希「……あんたも大概お人好しだね」

八幡「そんなことねえよ」

沙希「まああんたがそういうならいいけどね」

八幡「…………でだ、俺は別に何もしないでいいと思ってる」

沙希「……どうして?」

八幡「相模は弱者には強く出るが、強者には決して手を出さない。不良っぽいお前に直接手を出すことはないだろう」

沙希「いろいろ言いたいけどまあ一応納得しとくよ。でもそれならあんたには出してくるんじゃないの?」

八幡「そこまで大っぴらに派手なことはしないさ。事が大きくなって一番困るのは相模本人だからな」

沙希「そうなの?」

八幡「被害者は被害者でいるから同情を集められるんだ。復讐をしてそれがバレれば無条件に皆味方ってわけにはいかないさ…………まあ俺だったらどんな被害者になっても同情は集められないが。ソースは」

沙希「もうあんたの自虐ネタはお腹いっぱいだから。でもちょっとした嫌がらせとかは続くんじゃないの?」

八幡「そのくらいだったら俺の人生においては大したことねえさ。それに…………」

沙希「それに?」

八幡「えっと、その……」

沙希「何さ、はっきりしないね」

八幡「お、お前がいてくれるからな」

沙希「えっ」

八幡「お前は俺の味方でいてくれるんだろ、だったら大抵のことなんか気になんねえよ」

沙希「な、なに恥ずかしいこと言ってんのさ!」

八幡「わ、わかってるよ! でもそれだけは伝えておきたいって思ってだな」

沙希「言うな! それ以上言わなくていい! もうわかったから!」

八幡「お、おう」

沙希「…………」

八幡「…………」

沙希「……そ、そろそろ帰ろうか」

八幡「そうだな、まあしばらくは様子見ってことで。んじゃ送ってくぜ」

沙希「……いいの? あんたにとっては遠回りになるけど」

八幡「俺がそうしたいんだよ。頼むから送らせてくれ」

沙希「じゃあ……お願いするよ」

八幡(そんなわけで比企谷タクシーは今日も川崎を乗せて走る)キコキコ

八幡(もう暗くなっているので安全運転で。そう、暗いからな、だからいつもよりゆっくりめに走った。そもそも二人乗りするなというツッコミはナシだ)キコキコ

八幡(ずっと小町専用だったこの場所にすっかり川崎は馴染んでしまった)キコキコ

八幡(自転車だけじゃない、俺自身との距離も小町しかいなかった近さに川崎はいるんじゃないかと思う)キコキコ

八幡(今みたいに会話がなくともちっとも気まずくない、穏やかな空気を持てるような存在)キコキコ

八幡(俺は……川崎とどうなるんだろうか? どうなりたいんだろうか?)キコキコ

八幡(答えの出ない問題をぐるぐる頭の中で考えているうちに川崎家に着いた)キキッ

八幡「着きましたぜお客さん」


沙希「どうも、お代は明日の昼にね」ヒョイ

八幡「おう」

八幡(ここで俺は周りに誰もいないか確認する)キョロキョロ

沙希「?」

八幡「また、明日な、沙希」

沙希「っ! ま、また明日ね、八幡」

八幡(俺達はお互い少し顔を赤くしながらも、はっきり見つめ合って挨拶をする)

八幡(何か得体の知れないものが込み上げてくるのを誤魔化すように俺は帰宅すべくペダルを漕ぎ出した)







物語の着地点が見付からない……やっぱり>>128で締めとくべきだったか
基本的にその場その場の即興で書いてるから『何か事件やイベントが起こる→行動、対策、解決、ついでに二人がいちゃつく』しかできん。神様、物語を書く才能が欲しいです……
でも期待してくれているひとがいるみたいですげー嬉しい。添えられるかはわからないけど頑張るだけ頑張ってみる

沙希(比企谷は何もしなくていいって言ってた)

沙希(あの写真の時におおごとになりそうなときは不安そうな顔をしていたってなら確かに派手なことはできないんだろうけど)

沙希(それでも比企谷が何かされる可能性はあるわけで)

沙希(いや、比企谷自身が構わないって言ってる時点であたしは何もするべきじゃない。比企谷がそうするなら止めはしないって言ったし)

沙希(でもそれとは別にあたしはあたしで言いたいことがあったんだよね)

沙希(だから比企谷は関係なく、あたしがしたいことをする)

沙希「ねえ、ちょっといいかな?」

南「な、なに?」

沙希(トイレから出てきたタイミングで話し掛けると、相模はビクッと身体を震わせる)

沙希(なにこの反応……悪いことした時の弟達みたい。もう少し隠す努力しなよ)

沙希「あの写真てさ、あれ一枚なの?」

南「な、なんのこと? 写真て何の話か全然わかんないよ!」

沙希(助けを求めるように周りを見ながら慌てたように言う。いや、あの教室にいたあんたが『写真』と言われてわからないわけないでしょ、犯人じゃなかったとしても)

沙希「落ち着きなって。あたしは別に怒ったり責めたりしてるわけじゃないんだ」

沙希(苦笑しながらそう言うと怯えの色が薄まる)

沙希「あれ以外にも撮ったのがあったら欲しいなって思っただけさ」

南「あ、あの、あたしじゃなくて……」

沙希「そういうのいいから。たぶんスマホで撮ったんだよね? データくれると嬉しいんだけど」

沙希(あたしがそういって自分のスマホを取り出すと、観念したように相模もスマホを取り出した)

沙希(震える手で操作し、あたしの方に昨日貼り出されたのと同じ写真のデータが転送される)

沙希「ん、ありがと。撮ったのこれ一枚だけ?」

南「…………うん」

沙希「そ。こそこそしなくても撮りたきゃ言えば撮らせてあげるから。もちろん言いたいことも全部聞くよ。あたしもあいつも」

沙希(相模はハッとしたように顔を上げる)

沙希「んじゃね」

八幡(チャイムが鳴り、昼休みが始まった)

八幡(もうどこでも同じなのだが、ちょっと人には聞かれたくない話もあるのでいつものベストプレイスで食べることにする)

八幡(包みを持った川崎と一緒に教室を出るが、それに声をかけるやつはいない)

八幡(一年の頃、似たような状況でクラスメートにはやし立てられて気まずくなって別れたカップルがいたが、俺達にそんな仲の良いクラスメートはいない。またしてもぼっちが勝利してしまった、敗北を知りたい)

八幡(まあ敗北なんて腐るほど溜め込んでるんですがね。そもそも川崎と一緒の時点でぼっちじゃねーしな)

沙希「はい、タクシー代」

八幡「おう、んじゃいただきます」

沙希「で、今日はなんでここ? 恥ずかしくなった?」

八幡「別にお前とメシ食うのに恥ずかしいことなんかねえよ…………お前さ、相模に何か言っただろ」

沙希「なんでそう思うのさ」

八幡「俺はトラウマと黒歴史にまみれたぼっちだからな、人の視線には敏感なんだよ。あいつの俺を見る目に朝はなかったはずの怯えが入ってたぞ、仕返しされるんじゃないかみたいな」

沙希「別に大したことは言ってないよ。やっぱりデータでも欲しいなって思ってそれを貰っただけさ。ほらこれ」スッ

八幡「っ! ま、待ち受けにしてんじゃねーよ! 今すぐ変えろ!」

沙希「ふふ、その顔が見たかったよ。ま、あたしも家族に見られたらあれだし変えとくから」

八幡「おのれ……でもやっぱり相模だったか」

沙希「声をかけた時の態度で丸分かりだったね。どんだけ小心者なんだか」

八幡「そう言ってやるな、こういうことに慣れてないんだろ。だったら普段はそんな悪いやつじゃないってことだ」

沙希「ま、あたしはこれが手に入ればどうでもいいけどね。撮ったのはこれ一枚だけだって」

八幡「そうか。これで悪いことはできないと思ってくれりゃいいんだがな……ごちそうさまだ、今日も美味かったぜ」

沙希「はい、お粗末さまでした。今日はどうする?」

八幡「? なにが?」

沙希「これ」ポンポン

八幡(川崎さん、平然と太ももを叩いてますけど赤い顔が隠し切れてないですよ可愛いお持ち帰りしたい)

八幡「い、いや、今日はそんなに眠くないし、遠慮しとくよ」

沙希「別に眠くなくてもいいじゃない。横になるだけでも、さ」

八幡「いや、その、心地良過ぎるからさ、お前の膝枕でしか寝れなくなったら困るし……」

沙希「…………ダメ?」

八幡「……!!」

八幡(あーもう、なにその上目遣い、誘ってんの!? あ、誘ってるか)

八幡「えっと、じゃあちょっとだけお邪魔しようかな……」

沙希「ん、いらっしゃい」

そうかきもいか

んじゃとっとと終わらせますか
html依頼出されてるのか知らないけど




沙希「ねえ比企谷」

八幡「なんだ川越」

沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」

八幡「すまんすまん。で、何だ?」

沙希「あの依頼、終わりにしよう」

八幡「…………嫌になったか?」

沙希「うん、もうこんな関係は嫌」

八幡「そうか……わかった、恋人ごっこは終わりだな」

沙希「それで比企谷、頼みがあるんだけど。奉仕部としてじゃなく個人的に」

八幡「何だ?」

沙希「あたしを比企谷の彼女にしてください」

八幡「……俺なんかでいいのか?」

沙希「比企谷がいい」

八幡「じゃあ俺も話がある」

沙希「何だい?」

八幡「俺の彼女になってください。偽物じゃなく、本物の」

沙希「あたしでいいの?」

八幡「川崎がいい」

沙希「うん……これからよろしく彼氏さん」

八幡「これからよろしく、彼女さん」

八幡(そして俺達の顔がゆっくりと近付き、一つになる)

八幡「愛してるぜ、沙希」

沙希「愛してるよ、八幡」

八幡(こうして俺の間違った青春ラブコメは終わりを告げ、望んでいた本物が始まりを告げた)


~ 完 ~



乗っ取りにお付き合いいただきありがとうございました
陽乃さんと全面対決したり家族と喧嘩した沙希が家出したりのネタもありましたがやはり乗っ取りは良くないですね
期待だけさせてスレ立て逃げするような世界じゃなくなりますように

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月22日 (水) 12:04:39   ID: X5xNiCfF

サキサキ可愛えぇ

2 :  SS好きの774さん   2015年05月03日 (日) 15:30:02   ID: sO0jKBj1

お似合いなんだけどなあサキサキ
どう考えても本編じゃ浮上しないだろうなあ

3 :  SS好きの774さん   2015年05月16日 (土) 19:21:20   ID: YEA4Eijp

なかなかよかった。
けど、ウザい外野に一々反応せんでいいと思う。

4 :  SS好きの774さん   2015年05月17日 (日) 00:29:26   ID: oerLfBFq

おつかれやで
とてもよかった

5 :  SS好きの774さん   2015年05月17日 (日) 09:23:34   ID: _zmRnfZF

良かった。

>>2
同意。
二人の相性はとても良いと思う。

6 :  SS好きの774さん   2015年05月17日 (日) 14:30:49   ID: KSdmrqrV

やっぱりサキサキですなぁ

7 :  SS好きの774さん   2015年05月18日 (月) 01:49:59   ID: xNPRLRQG

おもしろかったよ!
長く見てたかっただけに残念だな

8 :  SS好きの774さん   2015年05月19日 (火) 15:49:54   ID: XisfzxrB

うわ外野のせいかよ…
もうちょい見たかったのになぁ…

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