ずか「ラジオの仕事、ですか?」【SHIROBAKO SS】 (46)


 マネージャー「はい。来月からなんですけどお願いできますか?」

 マネージャー「とりあえず1クール、12回」

 マネージャー「評判良かったらもう少しやろうかなって感じなんですが」

 ずか「やります! やらせてください!」

 ずか(遂に、遂にわたしにもラジオの仕事が……)


SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1427802188


 ずか(声優と言えばラジオ。ラジオと言えば声優)

 ずか(声優とラジオは切っても切れない関係)

 ずか(ここでこのチャンスをものにすれば)

 ずか(ラジオがおもしろい声優として固定ファンをゲット!)

 ずか(アクセス数一桁のブログにも人が来るようになって)

 ずか(一気に人気声優への道が開けるかも)

 ずか「…………」

 ずか(このチャンス。なんとしてでもものにせねば)


 ずか(相手は鈴木京子さん)

 ずか(三女で主役だった人だよね)

 ずか(あんまり話したことはないんだけど)

 ずか(主役やるくらいだから、きっとラジオの仕事もばんばんやってるだろうし)

 ずか(相方としては最高のカードを引いた!)

 ずか(あとはわたしさえしっかりすれば)

 ずか(人気番組も夢ではないはず)

 ずか(きてる……、流れがきてる)

 ずか(ここから坂木しずか伝説が始まるのよ!)


 ずか(わたしは聞ける限りたくさんの声優ラジオを聞き)

 ずか(リサーチにリサーチを重ね)

 ずか(万全の準備を整えて本番に臨んだ)


 鈴木「みなさん、初めまして! テレビアニメ、リップグラスで深見透華役の鈴木京子です」

 ずか「みなさん、初めまして! 鷹山さなぎ役の坂木しずかです」

 鈴木「この番組は四月から放送を開始するテレビアニメ、リップグラスのラジオ番組です」

 ずか(さあ、今こそ身につけた声優ラジオスキルを使うとき――)

 ずか「わたしたち、実はあんまり話したことないんですよねー」

 ずか(親しくない間柄二人でラジオをする場合)

 ずか(98パーセント(ずか調べ)の確率で使われる常套句)

 ずか(鈴木さんなら勿論のってくれるはず)

 鈴木「そ、そうですね……」

 ずか(あれ?)


 ずか「三女の撮影で一度。オーディションで一度。あと、三女の打ち上げでもお会いしましたよね」

 鈴木「そうですね」

 ずか「じゃあ、まずお互いの呼び名とか決めましょうか」

 鈴木「呼び名……はい、そうですね」

 ずか「鈴木さんは普段どんな風に呼ばれてます?」

 鈴木「呼ばれるのは、鈴木さん、とかですかね」

 ずか「…………」

 ずか(この子、まさか――)

 ずか(口下手、だと……!)


 ずか(そうですねばっかじゃダメだよ)

 ずか(マネージャーさんがブースの外であわあわしてるし)

 ずか(なんとか、なんとかわたしが喋って場をつながないと!)

 ずか「いや-、リップグラスの魅力はですね」

 ずか「なんといっても風景が綺麗なところだと思うんですよね」

 鈴木「あ、綺麗ですよね。風景。わたしもそう思います」

 ずか「あと、思春期の心の微妙なところをすごく繊細に描いてるんです」

 鈴木「すごくいいですよね。わたしもそう思います」

 ずか「あ、あと他には――」


 ずか「……つかれた」

 ずか(まさか、鈴木さんが口下手だったなんて)

 ずか(ラジオも一度しか出たことないらしいし)

 ずか(あ、番組ニコニコ動画にあがってる)

 「坂木しゃべりすぎ」

 「でしゃばんな」

 「鈴木さんの声が聞きたいのに」

 ずか(……叩かれてる)


 「つまんね」

 「来週は見ないわ」

 「全然面白くないんだけど」

 ずか「…………」

 ずか(まずい……)

 ずか(これでは人気声優になれない)

 ずか(どうにかして、ラジオを面白くしないと)

 ずか(どうすればいい。考えろ、考えるのよ、しずか)

 ずか(そうだ、あの手を使えば……!)


 ずか「わたし、実は鈴木さんのこと、かわいいってずっと思ってたんですよ」

 鈴木「え?」

 ずか「抱きしめたいというか、そのまま持ち帰りたいというか」

 鈴木「そ、そうなんですか」

 ずか「今日マスクしてきてたじゃないですか。あれ、使い終わったらくれません?」

 鈴木「い、いいですけど、何に使うんですか?」

 ずか「それは、その、ね……ぐふ、ぐふふふ」

 鈴木「…………」


 ずか「……つかれた」

 ずか(必殺、百合営業でちょっとはおもしろいものにしたつもりだけど)

 ずか(ニコ動の反応は、と)

 「また百合営業かよ」

 「気持ち悪い」

 「死ね」

 ずか(……叩かれてる)


 「キマシタワー」

 「2828してる俺きめー」

 「これはひどいww」

 ずか(全体的には好評みたい)

 ずか(再生数も伸びてるし)

 ずか(よし、これなら人気声優も夢では……)

 「ずかちゃんはおもしろいけど、鈴木ちゃんはちょっと」

 「鈴木ちゃんが足を引っ張ってるな」

 「鈴木ちゃん変えた方がいいんじゃない?」

 ずか「…………」


 収録後


 鈴木「どうしたんですか?」

 ずか「少し、話があるんです」

 鈴木「話、ですか?」

 鈴木「…………」

 鈴木(きっと、わたしが足を引っ張ってるから)

 鈴木「す、すいません、いつもご迷惑を――」



 ずか「わたし、鈴木さんともっと距離を縮めたいんです!」

 鈴木「…………」


 鈴木「え、えっと、あの……」

 鈴木「わたし、男性が好きなのでそういうのはちょっと」

 ずか「あー、いやいや、そうじゃなくてですね」

 ずか「わたしたち、収録以外であんまり話さないじゃないですか」

 ずか「なんか勿体ないな、って思うんですよ」

 ずか「鈴木さんしっかりしてていい人ですし、できたら友達になりたいなぁって」

 ずか「ダメ、ですか?」

 鈴木「…………」

 鈴木「ダメじゃないです! 全然ダメじゃないです!」


 ずか(よし、計画通り……!)

 ずか(仲良くなればラジオはもっとおもしろくなって)

 ずか(人気声優待ったなし!)

 ずか「わたし、ちょっとだけ先輩だけど、そんなの全然気にしないでいいし」

 ずか「なんでもずばずば言ってくれればいいからね」

 鈴木「い、いやそんな……」

 ずか「わたしが気持ち悪いこと言ったら、ありあみたいな声で」

 ずか「気持ち悪い」

 ずか「これでいいから」

 ずか(その方がおもしろいし)


 ずか「じゃあ、また収録でね」

 鈴木「はい、お疲れ様でした!」

 ずか「いやいや、敬語じゃなくていいからさ」

 鈴木「……はい!」

 鈴木「お疲れ、ずかちゃん」

 ずか「うん。お疲れ、京子」

 ずか(なんかすごくうれしそうだったけど)

 ずか(どうしてだろ?)

 ずか(コーヒーがおいしかったのかな)


 ずか「ねえねえ、アキレス腱さわらせて」

 鈴木「気持ち悪い」



 ずか「……つかれた」

 ずか(京子のキャラを立てることでより面白くしたつもりだけど)

 ずか(ニコ動の反応は、と)

 「こいつ頭おかしい」

 「俺の京子に近寄らないで欲しい」

 「営業が露骨すぎて不快」

 ずか(……叩かれてる)


 「鈴木ちゃんツッコミうまいな」

 「鈴木ちゃんに罵られたい」

 「鈴木ちゃんは警察を呼ぶべき」

 ずか(よかった。なかなか好評みたい)

 ずか(再生数も伸びてるし)

 ずか(よし、これなら人気声優もすぐそこ……)

 「やっぱりまだ鈴木ちゃんが弱いな」

 「鈴木ちゃんが話すとこっちまで緊張する」

 「鈴木ちゃんがもうちょっと話せたらなぁ」

 ずか「…………」


 収録後


 鈴木「森野は怪我したけど福田が調子よくて」

 鈴木「亀澤も振れてるみたいで」

 鈴木「三連敗はしたけどこれからがすごく楽しみなの」

 ずか「…………」

 ずか(京子をもっと面白くするにはどうすれば)

 鈴木「…………」

 鈴木「あの、さ……」

 鈴木「わたし、実は声優の友達ってできたの初めてで」

 鈴木「だから、すごくうれしいっていうか」

 ずか「…………」

 ずか(こ、これは――)

 ずか(ぼっち営業、だと……!)


 ずか(友達がいないことをアピールして)

 ずか(友達作りが苦手な声優ファンの心を掴む)

 ずか(オーソドックスだが効果的な営業手法)

 ずか(こんなに自然に使ってくるなんて)

 ずか(さすが京子。三女で主役だっただけのことはある)

 ずか「わ、わたしも声優の友達って初めてなんだよね」

 鈴木「そうなんだ」

 鈴木「ずかちゃんもなんだ」

 鈴木「うれしいな」

 ずか(……待てよ)

 ずか(そうだ、これだ!)


 ずか「わたしたち、お互い声優の友達っていなくて」

 鈴木「初めての友達、なんだよね」



 ずか「……つかれた」

 ずか(ぼっち営業でもっともっとおもしろいものにしたつもりだけど)

 ずか(ニコ動の反応は、と)

 「またぼっち営業かよ」

 「坂木うそくせー」

 「あざとすぎて受け付けないわ」

 ずか(……叩かれてる)


 「ぼっちww」

 「かわいそすぎるw」

 「鈴木ちゃんはガチっぽい」

 ずか(全体的には好評みたい)

 ずか(再生数も伸びてるし)

 ずか(よし、これならもう人気声優はもう目の前だ)



 マネージャー「番組打ち切りの話が出てまして」

 ずか「…………」


 マネージャー「ただ、これは坂木さんがよかったらなんですけど」

 マネージャー「ちょっとてこ入れをして続けようって話もありまして」

 ずか「ほんとですか!」

 ずか「やります、やらせてください!」

 マネージャー「で、そのてこ入れの内容なんですけど」

 マネージャー「鈴木京子さんを外して別の人に――」

 ずか「…………」


 ずか「折角人気でてきたのに打ちきりとか」

 ずか「ほんとみんな見る目ないよね」

 ずか「はぁ、仕事こないかなぁ」

 鈴木「…………」

 鈴木「あの、ずかちゃん」

 鈴木「ちょっと噂で聞いたんだけど」

 鈴木「わたしだけ交代して続行の話があったって本当?」


 ずか「うん。あったけど」

 鈴木「それ、断ったの?」

 ずか「うん」

 鈴木「どうして?」

 ずか「そんなの決まってるでしょ」

 ずか「京子とじゃないと意味ないし」

 鈴木「…………」


 ずか(京子とじゃないと折角磨いたコンビ芸が使えないからなぁ)

 鈴木「ずかちゃん」

 鈴木「わたし、ずかちゃんのこと大好き」

 ずか「うん、わたしも好きだけど」

 ずか(急にどうしたんだろ)

 ずか(まあ、いいや)

 ずか「あーあ。仕事、こないかなぁ」


 おわり

以上。
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