昔々、あるところに、桃太郎といぬとさるときじがいました。 (26)

桃太郎たちは、村の宝と共に鬼ヶ島へ向かっていました。

いぬ「しかし、これで良かったのでしょうか?」

桃太郎「まだ不安なのか、いぬ」

いぬ「鬼はたくさんの人を殺して、人もたくさんの鬼を殺して」

いぬ「それで」

さる「いまさら和平を結ぶなんて・・・・都合の良い話ってか」

いぬ「は、はい・・・」

桃太郎「いぬの気持ちも分かるよ」

桃太郎「僕だって、鬼と対峙するまでは倒すべき・・・・」

桃太郎「ううん、倒さなくちゃいけない存在だと思ってた」

桃太郎「でも、あの時の、鬼の目は真剣だった」

いぬ「真剣、ですか」

桃太郎「同じ魂が宿っているんだ、って思えた」

いぬ「そ、そうですよね、誰だって争いなんか望んでませんよね!」

桃太郎「ああ、もちろんさ」

さる「それにお互いの宝を入れ替え、保管しあうなんて」


さる「バカげた提案にも乗っかってきたわけだしな」

桃太郎「バカで悪かったな!」

いぬ「あはは」

きじ「バカ言ってる暇があるなら、積み荷を降ろす準備でもしな」

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きじ「戻ってくるまでに、持ち運べるようにしとくんだよ」

桃太郎「ああ、分かってるよ」

さる「おみやげよろしくなー」

きじ「ばか」

きじが翼を広げると、羽音が辺りを包み込んだ。

いぬ「・・・・僕もああやって空を飛びたいなぁ」

さる「その耳で?」

いぬ「羽根が欲しいって事ですよ!」

さる「ムキになるこたぁないだろ、冗談だよ」

いぬ「もぅ、人をからかって」

さる「楽しいからいいじゃねぇか」

いぬ「僕は楽しくないですよー」

さる「へへっ、俺様が楽しいからいいんだっての!」

桃太郎「おいおい、人が積み荷を分けてるのに」

桃太郎「ずいぶんと盛り上がってるじゃないか、んん?」

いぬ「あ、ごめんなさい」

さる「へーい、手伝いますよ~っと」

桃太郎「まったく・・・・」

桃太郎「ん?きじがもう戻ってくる・・・?」

きじ「た、大変!鬼が、鬼たちが!」

きじに連れられた桃太郎たちの目の前に、傷つき、倒れている鬼たちがいました。

桃太郎「これは一体、どうして・・・・」

いぬ「あわわわ・・・あわわ」

さる「こいつは、死んでる」

いぬ「ひぃっ!?」

桃太郎「何があったんだ」

きじ「何かしらの争いがあったことは確かね」

桃太郎「そんな・・・やっと分かりあえたと思ったのに」

きじ「でも、大半は気絶してるだけみたい」

さる「お、おい!しっかりしろ!」

鬼「うぅ・・・・・」

桃太郎「気がついた者がいるのか!?」

鬼「ぅ・・・こ、ここは」

桃太郎「しっかりするんだ、一体誰がこんな事を!」

鬼「に、人間!?」

さる「おい、まだ安静にしといたほうが」

鬼「人間!!!殺す!!!」

鬼が拳を天高く突き上げると、それを渾身の力で振り下ろしました。

桃太郎「うわぁ!?」

ブンッ

桃太郎は、身を屈め、これを間一髪かわしました。

桃太郎「あ、危なかった・・・・」

鬼「人間め!人間はやはり殺すべきなのだ!」

いぬ「や、やめてくださいぃ!」

桃太郎「鬼よ!なぜこんな事をする!?」

桃太郎「あの時、お前の目は嘘をついている目ではなかった!」

桃太郎「真に平和を夢見る、無垢な瞳だったはず!」

鬼「皆の者、地に伏している場合ではないぞ!」

鬼「人間に、我らが義を裏切った事を後悔させてやるのだ!」

鬼「う・・・この傷、この死、人間はやはり悪なのだ」

鬼「そうだ、奴らを野放しにはできない」

きじ「鬼たちの目が覚め始めたわ」

鬼「人間を生かしておくわけにはいかん!」

さる「や、やばいんじゃないのか」

桃太郎「どうして・・・・どうして」

いぬ「うわわ、鬼たちが来ますよ!」

さる「くそっ、こんな時は逃げるが勝ちだろ」

きじ「珍しく意見が合うわね、船まで走って!」

桃太郎「どうして戦うんだ、どうして逃げなくちゃいけないんだ」

さる「んな事あとあと!向こうは殺しに来るぞ」

桃太郎「くそっ、逃げるしかないのか」

鬼「者ども!人間をこの島から逃がすな!」

いぬ「船までもうすぐです、頑張って!」

さる「おい!宝はどうすんだ」

きじ「諦めるしかないでしょう!」

桃太郎(村のみんなが出し合ってくれたのに、ごめん)

きじ「足止めくらいならできるから、その間に船を海へ!」

さる「恩にきるぜ!」

いぬ「ありがとうございます!」

桃太郎(こんな事になるなんて、こんな・・・・)

さる「何をぼさっとしてる!船を押すんだよ!」

桃太郎「え?」

いぬ「しっかりしてくださいよ桃太郎さぁん!」

桃太郎(そうだ、今はみんなと共に生きて帰る事に集中しないと)

桃太郎「す、すまない」

桃太郎たちは、船を海へ押し出し鬼ヶ島を脱出しました。

いぬ「ふぅー・・・・こ、怖かったぁ」

さる「間一髪、ってとこだったな」

桃太郎「ああ・・・・・」

さる「そういや、きじは?」

いぬ「きじさんなら上を行ってますよ」

さる「あんなとこにいるのか、おーいお前も休め・・・」

いぬ「どうかしましたか」

さる「きじ、ありゃ落ちてねぇか」

桃太郎「なに!?」

いぬ「あわわ、どどどうしましょう」

さる「海に落ちるだけだが、誰かが助けないと」

いぬ「僕犬かきしかできませんよぉ!」

さる「誰もお前に頼んじゃいねぇよ!」

桃太郎「任せて!」

桃太郎は、海に落ちたきじを抱えて船へ戻りました。

桃太郎「げほっ!げほっ!」

いぬ「大丈夫ですか桃太郎さん」

桃太郎「大丈夫だよ、それよりも」

さる「きじ、足止めの時に・・・・」

いぬ「心配いりません、軽い打撲だけです」

さる「気絶、してるだけだよな」

いぬ「はい、きじさんもそう弱くはありません」

いぬ「手当をして、一時間もしない内にまた元気よく飛べますよ」

さる「そうか、良かった・・・・・」

桃太郎「みんな、本当にごめん」

いぬ「ど、どうしたんですかいきなり」

桃太郎「僕のせいだ、僕のせいで」

さる「おいおい、こいつを忘れられちゃ困るぜ」

いぬ「あ、へへ」

桃太郎「それは・・・・きびだんご」

さる「俺は絆って呼んでる」

いぬ「これをもらった時、どこまでもついていこうって思えたから」

桃太郎「お前たち・・・・・」

さる「大将がそんなでどうすんだ、しゃきっとしろよー」

桃太郎「あ、ああ!」

桃太郎たちを乗せた船は、小さな港にたどり着きました。

さる「ふぃ~、やっと陸に上がれた」

いぬ「きじさん、無理はなさらないでくださいね」

きじ「自分の体の事くらい、分かるってば」

桃太郎「無事に目を覚ましてくれて、安心したよ」

きじ「自分の事じゃないのに、私以上に喜んでる」

桃太郎「ま、まあね」

さる「皆が無事でよかったじゃねぇか」

きじ「・・・・・・・」

桃太郎「きじ?怪我が傷むのか?」

きじ「・・・これ」

いぬ「あ、きびだんご」

さる「へっ、やっぱりお前も持ってたか」

桃太郎「きじも大事に持っていてく」

きじ「返す・・・・返すわ」

桃太郎「へ?」

さる「お、おいおい・・・珍しく冗談でも言ったのか?」

いぬ「冗談ですよね、なーんだもー」

きじ「きびだんごを返す事がどういうことか」

きじ「あなたたちが一番よく分かって?」

さる「なおさら分かんねぇよ、分かるわけないだろ」

いぬ「そ、そうですよ!」

きじ「鬼と人間が再び争おうとしているのよ」

桃太郎「そ、それは」

きじ「今度はどちらかが滅ぶまで・・・死にたくないわ」

さる「死にたくないって、命を懸けてでも守」

きじ「分かってるわよ!!」

さる「なら、どうして!」

きじ「皆が・・・・・皆が!」

きじ「貴方のように強い心を持っているわけじゃない、から」

いぬ「きじさん・・・・」

きじ「ごめんなさい、情けないわよね」

さる「俺は、お前に憧れてたんだ。憧れてたんだぞ」

きじ「私、を?」

さる「いつも冷静で、頼りがいがあって、かっこよくて」

さる「俺、お前の事・・・す、す・・・・好」

きじ「やめて!!!」

さる「!?」

きじ「それ以上は・・・お願いだから」

さる「なんでだよ、お前がいなくなったら俺!」

きじ「・・・・・・」

さる「なんでこっちを見ない、もう見たくもないってか!」

きじ「違う、違うの」

さる「じゃあ・・・・・」

きじ「貴方を見ると、心が・・・・揺らぐから」

さる「きじ・・・お前・・・・」

きじ「さよなら」

桃太郎たちは、きじを見送ると村へ歩みを進めました。

桃太郎「・・・・・」

いぬ「・・・・」

さる「・・・・・」

桃太郎「・・・もうじき日が暮れるな」

いぬ「そ、そうですね」

さる「・・・・・」

桃太郎「さる、お前の気持ちも分かるよ」

さる「・・・・・」

桃太郎「何も辛いのはさるだけじゃない」

いぬ「そ、そうです」

桃太郎「出会いがあれば別れもあるっていうし、さ?」

さる「・・・・桃太郎さん」

桃太郎「おっ、どうした?」

さる「このきびだんご、やっぱりあんたに返すよ」

いぬ「!!」

桃太郎「さ、さる!」

さる「あんたとの日々、楽しかったよ」

桃太郎たちの静止など気にも留めず、さるは森の中へ姿を消しました。

桃太郎「いぬ、もう寝たのか?」

いぬ「・・・・・」

桃太郎「・・・僕は寝れないよ」

桃太郎「家族と、思ってたんだ」

桃太郎「固い絆で結ばれてると思ってて、それで」

いぬ「・・・・」

桃太郎「はは、バカみたい・・・」

いぬ「・・・」

桃太郎「お前がいてくれるだけで嬉しいよ」

桃太郎「帰ったら、たらふく飯を食おうな」

桃太郎「おばあさんの作る飯はすごく美味いんだ」

いぬ「・・・・・」

桃太郎「きびだんごも、おばあさんが作ってくれてさ」

桃太郎「ちょっと心配性なんだけど、それも恋しいよ」

桃太郎「明日に備えてもう寝よう・・・・」

いぬ「・・・・・」

桃太郎「いぬ、ありがとうな」

目を覚ました桃太郎の隣に、きびだんごが一つ、虚しく転がっていた。

桃太郎「いぬ・・・・」

桃太郎「お前も辛かったんだな、分かってやれないで・・・」

桃太郎「こんなだから俺は、ダメなんだな」

桃太郎「皆が去っていくんだな」

桃太郎「・・・・・」

桃太郎「・・・帰ろう、僕には家がある」

桃太郎「そうさ、皆も家に、帰るだけなんだ」

桃太郎「だがら・・・・だから、立ち止まってちゃ」

桃太郎「ぅ・・・・」

桃太郎「泣いちゃだめだ」

桃太郎「泣いだっで・・・皆は戻っでごなぃ」

桃太郎「ぅ・・・うぅ」

桃太郎「会いたいよぉ・・・・なんでみんな・・・・・」

桃太郎は、長い道のりを経て、村へたどり着きました。

桃太郎「・・・あれだけ涙を流しても、乾くのだけは早い」

桃太郎「皆に、おじいさんとおばあさんになんて言えば」

桃太郎「もう、いっそこのまま」

おばあさん「桃太郎!」

桃太郎「お、おばあさん・・・・」

おばあさん「ああ、よく帰ってきてくれたねぇ」

桃太郎「・・・・・・」

おばあさん「さぁさぁ、大変だったろぉ?」

桃太郎「う、うん」

おばあさん「今、火をつけてあげるからねぇ」

おばあさん「おや、薪がもう少ないみたい」

桃太郎「そ、そうなんだ」

おばあさん「おじいさんねぇ、村長になってから忙しくてねぇ」

桃太郎「・・・・・うん」

おばあさん「桃太郎?どうかしたのかい?」

桃太郎「その・・・あの・・・・」

おばあさん「・・・私はいつだって桃太郎の味方だからねぇ」

桃太郎「お、おばあさん・・・・・実は」

桃太郎は、おばあさんにこれまでの事を話しました。

おばあさん「それじゃ、鬼との和平というのは」

桃太郎「・・・・本当にごめん」

おばあさん「・・・・・」

桃太郎「おじいさんにも、村の皆にもこの事」

おばあさん「駄目!」

桃太郎「お、おばあさん・・・?」

おばあさん「そんな事、桃太郎が無事で良かった」

おばあさん「それだけで、幸せだよ」

桃太郎「おばあさん、でも」

おじいさん「おーい、今帰ったぞー」

桃太郎「あ・・・・」

おばあさん「この事は私に任せて、今は旅の疲れを癒しておくれ」

おばあさん「おじいさんには私から言っておきますから」

桃太郎「それじゃ・・・・」

おばあさん「こんな酷い顔、見せられたもんじゃないよ」

月の光に照らされた桃太郎は、ただ時が過ぎるのを待っていた。

おばあさん「眠れないのかい?」

桃太郎「・・・うん」

おばあさん「世の中、そう上手くはいかないもんだねぇ」

桃太郎「うん・・・・」

おばあさん「これ、飲みなさい」

桃太郎「これは?」

おばあさん「若返った様に元気になると、村に伝わる秘薬だそうな」

桃太郎「・・・ありがとう、ごめんね」

桃太郎「本当、どうして」

桃太郎「こんな、生まれてきたんだろう」

おばあさん「桃太郎・・・」

桃太郎「結局、争いを終わらす事ができなくて」

桃太郎「家族と思っていた仲間が去っていって」

桃太郎「僕は、あの時・・・・・」

桃太郎「鬼を皆殺しにするべきだったのかな」

おばあさん「・・・・桃太郎」

おばあさん「桃太郎、私が守ってやる、絶対守ってやる」

おばあさん「だから今は、眠りんさい」

翌朝、桃太郎の姿はそこになく、代わりに赤子がいました。

おじいさん「それじゃ、柴刈りに行ってくる」

おばあさん「はい、気を付けてくださいねぇ」

おばあさん「・・・・桃太郎、行くよ」

おばあさん「お前は、私たちの宝じゃ」

おばあさん「お前さえ・・・・・生きてくれれば」

おばあさん「桃太郎、この桃がお前を鬼から守ってくれる」

おばあさん「愛してる、愛してるよ桃太郎」

おばあさん「どうか、私たちの事を」

おばあさん「忘れないでおくれ・・・・・」

おばあさんの手から離れた大きな桃は

どんぶらこ、どんぶらこと、川を上っていきました。






おしまい

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