桃太郎「魔王退治は流石に厳しいと思います」(29)

――備前岡山藩、御津・川のほとり

桃太郎「……釣れないなぁ」

タッタッタッタ

お婆さん「桃太郎! 桃太郎や!」

桃太郎「どうしたんですか、そんなに慌てて」

お婆さん「大変なんじゃ! たたた大変なんじゃて!」ゴシゴシゴシ

桃太郎「慌てすぎですよ! なんで洗濯を始めるんですか!」

スゥゥ、ハァ

お婆さん「……落ち着いたわ」ゴシゴシゴシ

桃太郎(……洗濯は止まらないのね)

お婆さん「桃太郎、よく聞くのじゃ!」ゴシゴシ

桃太郎「は、はい」

お婆さん「釣りなんぞやっとる場合ではない! 今、この国が危険なんじゃ!
 5年前とは比べものにならぬ程の、強大な恐怖がやってきたのじゃて!」ゴシゴシ

桃太郎「なんですって!?」

お婆さん「その恐怖とは……」

桃太郎「……」ゴクリ

ゴシゴシゴシゴシ、ピタ

お婆さん「このシミ落ちにくいのう」

桃太郎「…………はい」

――御津・お爺さんの家

桃太郎「――魔王、ですか」

お爺さん「そうじゃ。この国にもとうとう魔王が現れらしい」

桃太郎「西の大陸を征服したばかりと聞いていましたが」

お爺さん「――つい一週間前のことだったそうじゃ。
 江戸前の水平線に突然大きな黒い船が現れたかと思えば、
 一瞬にしておびただしい数の魔物や魔族達が港になだれ込んだらしい」

桃太郎「まさか幕府は!」

お爺さん「うむ。幕府含め、各地が占領されつつあるようじゃ。
 このまま放っておけば、この国全てが魔王軍に占領されてしまうじゃろう」

桃太郎「……なるほど」

お爺さん「うむ」

桃太郎「……」チラ

お爺さん「……」ジー

桃太郎(――うッ。し、視線が痛い)

お爺さん「……」ジー

桃太郎「……い」

お爺さん「おお、そう言ってくれるか! それでこそ桃太郎じゃ」ニコ

桃太郎「まだなにも言ってないですよ!」

桃太郎(お爺さんはいつもこうだよなァ。
 鬼退治の時なんか、僕に聞くより先に村中に張り紙してたし)

お爺さん「なんでも魔王や魔族達は恐ろしい妖術を使うらしい。
 その強さたるや、江戸の武士達でも歯が立たなかったのだそうじゃ」ゴクリ

桃太郎(怖ッ! それはもうお手上げだろ!)

お爺さん「すぐに魔王の居る江戸に向かうのは自殺行為じゃ。
 まずは旅のお供を探すと良かろうな。ほれ、あの異名も持つ彼らじゃよ。
 忠犬ハチ公、間抜けのエテ公、そして蟹」

桃太郎「雉です。あと色々間違ってます」

お爺さん「まあ5年前に見事鬼を退治した桃太郎のことじゃ。
 わしは全く心配しとらんよ。ホッホッホ」ニコ

桃太郎(鬼と魔王を一緒にするな!)

――翌日、御津のはずれ

痩せた村人「英雄桃太郎様のご出立だ!
 今度はあの魔王を討ち取りにいかれるらしいぞ!」

小柄な村人「ありがたや! これでこの国は救われたァ!」

団子屋の娘「桃太郎様ー! 私、毎日無事をお祈りします!」

ウォォォ桃太郎様ァァァ!! ガヤガヤ

桃太郎(き、期待が重い!)

お爺さん「これこれ皆の者。桃太郎が困っているじゃないか」

桃太郎(全員あんたが呼んだんでしょうが)

お婆さん「桃太郎や、これを忘れてはいかん。大慌てでこしらえたんじゃ」スッ

桃太郎「……そうですね、やっぱりこれがないと。ありがとう、お婆さん」ニコ

△桃太郎は黍団子を手に入れた!

お婆さん「礼なんていいんじゃよ。わたしはとにかくお前が心配で心配で……。
 怪我と病気に気をつけるんじゃよ? きっと、きっと無事に帰ってくるんじゃよ?」

桃太郎「お婆さん……」

お婆さん「あとお宝を必ず持って帰るんじゃよ」

桃太郎(台無しだ……)

お爺さん「さあ行くのだ、桃太郎よ! その手でこの国に光をもたらすのじゃ!」

桃太郎「行ってきます」

――風の吹く街道

桃太郎(――勇んで村を飛び出したのはいいけど、
 お供のみんなが今何処に住んでいるのかなんて知らないんだよな)スタ、スタ

ガサガサ!

桃太郎「うわッ! なんですか!?」ビク

スライム「……」ニコニコ

△スライムが現れた!

桃太郎「これが魔物……? き、気持ち悪い」

△スライムの攻撃!
△桃太郎は避けた!

桃太郎「うお!? あ、危ないじゃないか!」

△スライムの攻撃!
△桃太郎は避けた!

桃太郎「ちょっと待て! ほ、ほら。黍団子だぞー。美味いぞー」

△桃太郎は買収した!
△スライムの攻撃!

桃太郎「痛ッ! いい加減しろこの野郎!」ボコ

△桃太郎の攻撃!
△スライムは倒れた!
△桃太郎は20文手に入れた!

桃太郎「よ、弱くて助かったァ。……え、お金? 魔物ってお金持ってるの?
 路銀になるから助かるけど……気絶してる相手からお金を剥ぎ取るってどうなんだろう」

スライム「……」ピクピク

――播磨姫路藩、姫路城・城下町

桃太郎(……とりあえず姫路まで来てみたけど……ここって)

シーン

桃太郎「本当に城下町か? 大通りなのに人一人居ないじゃないか」スタ、スタ

――暖簾が外れたままのおでん処

桃太郎「あのー。どなたか居ませんか?」コンコン

ゴソ

桃太郎「すいませーん。……変だなァ、物音はするのに。
――なんだ、この張り紙。Pork brothers' territory?」

『枯――を、――しょう』

桃太郎「異国の言葉かな? ――ハァ、こんな様子だとここでお供を探すのは無理だな」

『枯れ木に花を、――ましょう♪』

桃太郎「……歌? いったい何処から……」キョロキョロ

全裸の老人「枯れ木に花を、咲かせましょう♪」クネクネ

桃太郎「……ッ!」ビク

全裸の老人「枯れ木に花を――あ」チラ

桃太郎「……え?」

全裸の老人「咲かせましょう!」ズダダダ

桃太郎「ヒィィィ!?」

△全裸の老人が現れた!

全裸の老人「あァ、待ってくだされ! もしやあなたは!」

桃太郎「ごめんなさいごめんなさい違うんです! 人違いです!」

全裸の老人「人違いじゃない! ウォォォ!」

△全裸の老人は全力で走り始めた!

桃太郎「ぎゃあァァァ!?」

△桃太郎は限界を超えて走り始めた!

全裸の老人「もしや、もしやあなたは!」

桃太郎「いやいやいやいや違います! 僕はそういうのじゃないですから!」

全裸の老人「そういうのってなんじゃ! 何故逃げるんじゃ! はうッ!」ペチンペチン

△全裸の老人はダメージを1受けた!

桃太郎「あなたが追うからでしょう!? ていうか今の音なんですか!」

全裸の老人「はうっ! 全裸じゃからはうっ!風で揺れて! わしの金た――」

桃太郎「あーあー聞こえなーい!!」

△全裸の老人はダメージを1受けた!
△全裸の老人はダメージを1受けた!
△全裸の老人はダメージを1受けた!

――城下町・河川敷

桃太郎「ハァ、ハァ……用事があるなら、最初から、そう言って下さいよ」

全裸の老人「だってお前さんが、ゼェ、ゼェ。おまゴホッ。もういいですわい」

桃太郎「一体この町はどうなっているんですか?
 こんなに明るいうちから外には誰も居ないし、全裸の老人は追いかけてくるし」

全裸の老人「誰もって……わしが居るでしょうに」

桃太郎「“まともな”人はどうして誰も居ないんですか?」

全裸の老人「……全ては、奴らのせいなんじゃ」

桃太郎「……それって、もしかして」

全裸の老人「――魔王軍ですわい」

桃太郎「……まさかもうこんなところまで迫っていたなんて」

全裸の老人「ところで、わしはお前さんに聞きたいことがあるのじゃ」ブラーン

桃太郎「それはいいんですけど、正面には立たないで下さい」

全裸の老人「お前さんもしかして、鬼を倒したというあの桃太郎じゃないか?」

桃太郎「――どうしてそれを?」

『あっしが旦那の人相を伝えておいたんですよ』タッタッタ

全裸の老人「戻ったかい。また無茶しおって」

犬「ご無沙汰しておりやした。お元気そうでなによりです、旦那」

桃太郎「――犬さん!」

犬「ねえ花の翁。きっと来て下さるって言ったでしょう?」

全裸「そうですなァ。それよりほれ、傷の手当てをせねば」

桃太郎「傷だらけじゃないですか!?」

犬「ヘェ、些細な傷ですよ」ボロボロ

桃太郎「どうみてもボロボロじゃないですか!」

犬「あ、そうだ。久しぶりに噛んでもいいですか?」ブンブン

桃太郎「駄目です」

犬「ハッハッハ。旦那は相変わらず手厳しいですなァ。では早速」あぐ

桃太郎「だから駄目ですってば!」

――城下町・隠れ家

全裸の老人「ほれ、痛いとは思うが、包帯を巻くからじっとしなされ」

犬「あっしは痛がっておりやせんよ」ダラーン

全裸の老人「そんなこと言って、尻尾が垂れ下がっておりますぞ」

犬「花の翁のナニもぶらぶら垂れ下がっておりやすが」ニヤ

全裸の老人「こりゃ1本取られましたな! ハッハッハ!」

桃太郎「……なにしてるんですか」シラー

犬「……さて、どこから話せばいいのでしょうなァ。
 ことのはじまりは4日前、江戸が占領された3日後ってことになりやす。
 あっしは通りすがりのマタギから魔王の噂を聞いて、住処の山を出たんでさ」


――
―――
――――

――4日前、姫路城・城下町

犬(行きがけに城下によってみりゃあ、この臭いは一体なんだ……?)タッタッタ

『よく聞け人間共ォォ! 俺達は魔王軍の幹部様だ!』

飛脚の若者「な、なんだあいつら! 人間じゃねェぞ!? ギャアッ!」ドサ

次男豚「兄貴が話してる時は声を上げるナ! くそ人間風情ガッ!」ボコ

おでん処の娘「きゃあッ! 変な生き物が沢山居るわ!」

三男豚「静カニシヤガレッテンダ!!」

長男豚「ほーう。まだ叫ぶ元気があるのかァ
 よく聞け! 俺の後ろに見えるこの城は、さっき俺達が占領した!!」

呉服屋の主人「そ、そんな」

長男豚「つまり! 今日からこの町はこの俺達ピッグブラザーズのものって訳だ!!」

三男豚「アッ。中兄貴! 中兄貴! 俺、張リ紙ノ字間違エタ!」

次男豚「あァ? お前これ、またポークブラザーズになってるじゃねえカ!
……仕方ねえ、兄貴が知ると怒るから黙ってろヨ!」

長男豚「そこで! 今からこの町に新たなルールを加える!
――そのルールとは……これより自分の家から出た者は死刑だッ!」

中年の煙草屋「なんだって!? そりゃああんまりだ!」

次男豚「閉じ込めたり食ったり散々豚を酷く扱っておいて!
 いざ自分がとなるとそれカ!? 調子の良いこと言うんじゃネェ!」

三男豚「調子ノ良イコト言ウンジャネェ!!」

次男豚「真似すんナ!!」

三男豚「ゴメン!!」

次男豚「おらッ! 話しが分かったら全員家に戻レ!」

三男豚「早クスルンダ!!」チャキ

あの豚剣を持ってるぞ! きゃああ! 早く家に入るんだ! 殺されるぞ!

長男豚「フッフッフ。よしよし、後は時間をかけて一人ずつ食うだけだな」

三男豚「楽シミダナ! 楽シミダナ!」

犬(……こいつはマズイなァ。この場は隠れてやり過ごしやしょうか)

花の翁「――待つんじゃ。わしは家に篭る訳にはいかん!!」

犬「なッ!?」

次男豚「あァ? 誰だてメェ」

花の翁「わしは花の翁、殿よりこの城下の桜を任されている者じゃ!
 今は春、手入れを怠る訳にはいかん!!」

長男豚「桜だァ? なに馬鹿なこと言ってやがる!」

花の翁「馬鹿なことではない!! この城下には綺麗な桜が必要なんじゃ!!」

次男豚「いいから家に入りやがレ!」ボコ

花の翁「ぐッ……何故じゃ、まだ話しは終わっておらん。
 明日もわしは外に出なければならんのじゃ!!」

次男豚「この野郎!!」ボコ

花の翁「がはッ!!」ドサ

次男豚「へッ死にてェのカ? ……ん? なんだこリャ」ヒョイ

花の翁「――! それを返せ!! その袋は大切なものなのじゃ!
それがなければ桜の手入れが出来ん!!」

次男豚「へェ、じゃあ丁度良いじゃねェか。こいつは俺達が預かる」

花の翁「なッ!?」

三男豚「イイカラ早ク家ニ行ケヨー、食ッチマウゾ!」

花の翁「ならん!! それを返してくれ!! 頼む!!」

長男豚「……仕方ねえなァ。じゃあ、殺せ」ギロ

次男豚「任せろ兄貴!! ――なんだッ!?」

犬「グルルルル……!!」スタ

次男豚「なんだこの犬ァ!!」

犬「花の翁とかいいましたか。大丈夫ですかィ?」

花の翁「あ、あなたは?」

犬「へェ、通りすがりの野良犬です」

三男豚「邪魔スルナ!!」

犬「おかしなことを言いなさる。
……邪魔ってェのは、このお方の大事なもん取り上げたお前さんらの方でしょうに」

長男坊「犬は美味くねェ。殺しちまえ!!」

犬「へッ。美味くても食われたかァねえですがね」ニヤ


――
―――
――――

――城下町・隠れ家

犬「――と、まあそんな具合でして」

桃太郎「格好いいじゃないですか!」パチパチ

花の翁「その日はなんとか犬さんに助けてもらいましてな。
 それから、隙を伺ってはさっきのように少しでも桜の様子をみてる訳なんじゃ」

犬「あっしもなんとか町の人たちが食われないように戦ってはいるんですがね。
……魔物はともかくあの豚の連中はなかなか強いもんで、守るのが精一杯だったんでさ」

桃太郎「……犬さんがボロボロになるなんて、本当に強い相手なんですね。
 お爺さんも凄いです。服が破り切れる程やられても諦めないなんて……」

花の翁「いや、服は最初から着ておりませんぞ」

犬「ええ、花の翁は最初から素っ裸でありやしたよ」

桃太郎「…………なんで?」

続きは近日中に書きます。
※時代背景が合わない昔話や童話の生き物が沢山出てくるので、嫌いな方はお気をつけ下さい。

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