女「こんなに寒い冬だから」 (63)

女「寒いね」

男「そうだな」

女「まあ、冬は寒いものだよね」

男「当たり前だ」

女「ああ、ボクの冷え切った体にちょうど良い肉棒は無いかな」

男「何を探してんだ」

女「だって、一肌が恋しくなる季節じゃないか」

男「だとしても今のはおかしい」

女「なら……体液?」

男「一肌から離れてるじゃねえか」

女「うーむ……じゃあ、精液」

男「やめろ、大して変わってねえ」

女「上からでも下からでも受け付けるよ」

男「その舌の動きはなんだ」

女「なめる仕草」

男「お前恥ずかしくないのか」

女「恥ずかしい……実はノーブラなんて」

男「誰も見ねえだろ」

女「恥ずかしい……実はノーパンなんて」

男「黙れ」

女「ボクは寒い日でもノーパンだ。それくらいの覚悟さ」

男「どんな覚悟かはわからん。もしそれが本当なら風邪を引くぞ」

女「スースーして気持ちがいいよ……吹き抜ける風を感じる」

男「中二病かよ」

女「あっ……今風がボクのあそこを撫でた」

男「……いちいち言わんでいい」

女「ああ、そんな気怠そうな視線をボクにしないでくれ」

男「わかりゃあいいんだ」

女「興奮してしまうじゃないか!」

男「そっちかよ!!!」

女「濡れてしまうよ♪」

男「音符つけて言うことじゃねえ!」

女「濡れると垂れるから困るんだ」

男「真顔で言うな!」

女「そうか! ボクがノーパンだから寒いんだ!」

男「ノーパンじゃなくても寒いっつーの!」

女「わからないよ? 僕がパンツを穿いたら……凄いよ?」

男「別に凄くねえよ!」

女「でもノーパンにもメリットはあるんだ」

男「……なんだよメリット」

女「スカートなら和式はしゃがんだらすぐにできる」

男「そんなメリットのためにノーパンにしねえよ!」

女「あとすぐにデキる」

男「うるせえ!」

女「あ、ヤレるだね」

男「言い直すな! そして照れるな!」

女「言い間違えるということは、つまり、全裸で街を歩いているくらいのミスだよ!」

男「どういうミスしたらそんなことが発生する!?」

女「例えば、スポーツ選手が『あれ……今日は体が軽い』と感じる時があるだろう」

男「確かに、調子が良いとそうなるって選手もいるな」

女「実は服を着ていないだけでした! というオチもありえるわけさ」

男「絶対にない!!」

女「まあ、どうであれ」

男「いきなり改まるな……」

女「ボクの人生において、まだ寒いところはたくさんある」

男「よくわからんが、お前の発言、なかなかサムいぞ」

女「ふふ、それは正解だね」

男(否定しろよ)

女「恋を、してみたいな」

寒さで赤くなった顔を、上に向けた。

女「なんて、言ってみたりしてね」

ヤツはニコッとこちらに微笑んで、静かに歩みを進めた。

いきなり何を言ってるんだコイツは。

高校二年生の冬。

もうすぐ三年生になるというのに。

そういうのは一年の春にでも言えよ。

男「まあ、遅くはねーんじゃねえのか」

一応、合わせておく。

女「そうだね。できれば体の相性が良い人がいいな」

いきなりかよ。性欲にあふれてやがる。

男「おいおい……」

もっと違うものがあるだろ、性格とか。

女「あとは……十分な長さ」

男「何のだ」

女「そんなの、これに決まってるだろ」

手で棒状の何かを表現するな。

女「ある程度の太さも必要だね」

男「やめろ、だんだん生々しくて若干引くぞ」

女「ん? そうかな? ボクは腕の話をしているだけなんだけどなぁ……?」

ニヤリと笑う。

やられた。

女「君は何を考えたのかな? ふふっ」

男「うるせえうるせえ」

女「じゃあ、静かに話すね」

男「耳元まで来るな」

女「それじゃあ、喋れないよ」

『うるさい』とは言っても、音量的な大きさじゃねえ。

なんつうか。

こういうとこがコイツはめんどくさい。

揚げ足をすぐに取ってきて、ニヤニヤしてくる。

ちょっと変なやつ。

……いや、だいぶ変だ。

男「そんなんで彼氏ができるのかねえ」

女「ふふ、今月中にできるといいな」

気が早いな。

女「赤ちゃん」

男「気が早いな!!」

とまあ。

こんな会話をした休み明けの学校では、特に何もしていなかった。

恋をしたいやつがずっと読書してるか? もしかして恋愛指南の本でも読んでるのだろうか。

そんなわけないか。

まあ、いきなりガツガツするのもあれだけども。

とことんわからんやつだ。

女「ふふ、読書している人を覗くのが趣味なのかな?」

見てたら変なこと言われた。シャクだ。

男「恋はどうしたんだよ」

女「ん、しているよ」

男「してる?」

いつの間に。

女「こうやって、いつもの流れに身を任せていれば、いつかは来るのさ」

来ねえよ。

そのテンションで高校生活過ごしてたのかよ。

気づけ、何もなかっただろう。

女「生チ○コって美味しいのかな」

男「なんでぼかす」

唐突に話を変えるな。

女「ほら、なんだか、いきなりエッチな会話になるだろう?」

男「アホか」

女「やっぱり生って良いんだろうね。ビールもチ○コも」

ぼかすな危険。

女「君は好きかい?」

男「何を」

女「チ○コ」

男「○の中をちゃんと表せ」

女「チヨコ」

男「誰!?」

まさか人名になるとは思っていなかった。

女「チヨコさんとは……どこまでいったんだい?」

男「チヨコという名前の知人がいないんだが」

女「ち、痴人!?」

漢字が違う!

男「知り合いの方だ!」

女「尻愛!?」

男「なんでそうなる!?」

女「き、君が下ネタにばかり誘導するから……」

おいおい、嘘をつくな。

男「お前だろそれは!」

ちなみに痴人が下ネタではない。

女「ふふ、やっぱり男子高校生だね」

お前に何がわかる!?

女「とにもかくにも、ボクは自分から動くのは苦手なんだ」

仕切りなおして、本を閉じた。

女「もちろん、ベッドでは自分で動く、かもしれないけどね」

必要のない情報だ。

男「ま、お前にとって恋というものはそういうもんなんだろうな」

女「そうだね……えい」

いきなり頬をつねられた。

女「故意だよ」

音だけ合わせてくるな。

男「やめろ」

女「ふふ、こんなことするのは初めてだね」

確かにな。

頬をつねってくることなんざ、普通はない。

女「ごめんよ、故意だとしても謝っておくよ」

男「ああ、いきなりされた身にもなれ」

女「うん、ごめんなさい」

ニヤニヤしながら頭を下げて、やつはまた本を開いた。

女「君はしないのかい?」

本の文字を目で追いながら、質問をしてくる。

男「何を」

女「恋。恋人がいたことは?」

男「ない」

女「あっ……そうだよね、君は男の子が好きなんだもんね」

男「待てなんだその誤解は」

女「ん?」

なんでそんなに不思議そうな顔をする。

女「え、同性愛者じゃないのかい?」

男「捏造するな」

女「あまり男の子と一緒にいることがないから、てっきり」

男「それはむしろ苦手なんじゃないのか?」

女「『近くにいたら、好きになっちゃう……』だと思っていたよ」

ふざけんな。

男「それは裏返してみりゃ、お前も同性愛者になるぞ」

女「そうだから仕方ないね」

否定しない!?

女「なんてね、冗談さ」

男「あのなぁ」

女「ふふ、君のことを同性愛者だとも思っていないから、安心してくれ」

安心も何も、真っ赤なウソだからな。

女「話を戻して、君はしないのかい?」

男「今更するようなことでもねえだろ」

女「大学生になるまでは恋をしないってことかい?」

別に期間を定めてるわけではないが、

男「まあ、来るときに来るだろうよ」

女「……ふふ、ボクと同じだね」

……あ、本当だ。

女「まあ、来る時に来るものだよ」

男「そうだな」

女「生理と一緒さ」

男「おい」

同意できねえ。

女「ドローっとね、来るんだ」

男「聞きたくない聞きたくない」

生々しすぎる。

女「あ、もちろん来た時はパンツを穿いているよ? 本当だよ?」

男「……」

聞いてねえよそんなこと。

女「誤解をされるのは嫌だからね」

涼しげに笑った顔で、どうしようもない変態発言を繰り返す。

男「変わったやつだな」

女「皮かぶったやつ?」

男「黙れ」

こいつはなんだ、動く下ネタか?

男「はあ」

女「ため息を吐くのはダメだよ」

吐きたくもなる。

こんな変態が『恋をしたい』なんて。

ただの戯言じゃねえか。

女「ため息でため池ができるよ」

……ドヤ顔してやがる。

女「ため息はあまり好きじゃないんだ」

男「ふーん」

誰のせいで吐いてると思ってんだか。

女「だから、ボクの前では吐かないでくれるかい?」

本から視線を俺に移して、言った。

男「わーったよ」

女「あ、突くならいいよ」

男「突かねえよ!」

冬は暖房がついていて。

学校はとてもあったかいけれど。

下校はとにかく寒い。

女「寒いね」

男「そうだな」

自然と、誰もが『寒い』と口に出してしまう。

女「SAMUI」

男「変な発音だな」

女「So cold!!」

男「外国人かよ」

女「まぢ寒」

男「ギャルか」

女「寒くても君のツッコミは最高だね」

試すな。

女「ちゃんと反応してくれるところが君の良いところだね」

男「反応しないとダメなのか?」

女「敏感だから、反応せざるを得ないだろう?」

なんか違う意味に聞こえるぞ。

女「ふふ、その目も良いね。ジトッとした目」

褒められてんのかわかんねえ。

女「M心をくすぐってくる」

男「お前なぁ……」

女「ふふ、素直だろう?」

自分で言うと台無しだぞ。

男「とにかく、そういうこと言わないようになれば、恋もできるんじゃねえか?」

女「へ?」

……ん。

いきなりなんでこんなこと言ったんだ俺。

女「なんだか、君、恋のことばかり言っているね」

男「わ、悪いかよ」

女「ふーん……?」

近づくな。

女「少し不思議だなと思って」

ヤツは着けていたマフラーを巻きなおした。

女「気にしてくれてるのかい?」

と、微笑して尋ねた。

女「ふふ、そんなわけないか」

顔を背けて、

女「自惚れが強すぎたみたいだ」

と言った。

俺にもさっぱりだ。

自分がいきなり言った言葉に。

まあ。

あまり自分から何かを言うのはやめておこう。

また、勝手に言葉が出てきちまうかもしれないから。

女「ふふ、なんだか話しづらくなっちゃったね」

珍しく苦笑を浮かべて、やつは俺に同意を求めた。

女「こういう時、どんな顔すればいいかわからなくて……こんな感じかな?」

アヘるな。

そしてダブルピースをするな。

女「しゅ、しゅごいいいい」

男「寒さでやられたか?」

女「うん」

いきなり真顔になるな。

男「オンナを捨てたネタはよせ」

こっちが反応に困る。

女「ならば、拾うネタならいいんだね」

男「どんなネタだ」

女「うーん……こ」

結局下ネタじゃねえか。

男「お前は口からそういうことしか言えないのか」

女「はしたないお口でごめんなさい」

男「その言い方はやめろ」

女「まあ、この話は置いておいて」

男「あん?」

女「今度の休日、空いているかい?」

少し首を傾けて、奴は尋ねる。

男「空いてたらどうなんだ」

女「良かったら、どこかに行こう」

なんだなんだいきなり。

いつもなら何も言わずに誘ってくるくせに。

男「別に聞かなくても、空いてるのわかってるだろ」

女「まあ、そうだけれど」

ヤツはニッコリと笑いながら、頭を掻いた。

女「都合を聞かずに勝手に決めるよりもいいだろう?」

と、言った。

今更な気がするが、まあいい。

と、言うことで。

俺はヤツと休日に会うことになった。

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