【fate】学園都市の聖杯【禁書】(295)


 学園都市、巨大な円筒器の液体の中、統括理事長であるアレイスター・クロウリーは目の前の肉塊を見つめていた。その肉塊は定期的に鼓動のような動きを見せ、生き物のようにも無機物のようにも見えた。

アレイスター「これで、始めることができる。この地での、聖杯戦争を…。」

アレイスターは微笑むと静かに準備を始めた。

注意
・とある魔術の禁書目録×fate/stay night、fate/zeroの地文ありのSSです。
・時間軸とかはノリで作っているのでグチャグチャしています。
・原作の設定崩壊、キャラクターの崩壊があります。(特に禁書キャラの口調とか)
・原作のネタバレ(特にfate)があります。
・数年前にある携帯サイトに載せていたんですがそのサイトが閉鎖して未完になっていたのを見つけまして・・・・・・。できればちゃんと完結したいなぁと。

―学園都市ビル―

 暗部組織「グループ」の土御門と海原光貴の姿を借りたエツァリがアレイスターの呼び出しを受け、アレイスターの円筒器の前に立った。

土御門「一体何の用だ?アレイスター」

海原「土御門だけでなく自分まで呼び出すとは・・・・・・。何か理由がありそうですね」

アレイスター「なに、すぐにわかるさ…。」

土御門「どういうことだ・・・・・・。ッ!」

海原「腕が・・・・・・、熱ッ!?」

土御門とエツァリの右手の甲に3区間に分かれた赤い印が現れた。聖杯戦争のマスターとして選ばれた証、令呪である。

海原「これは…?」

土御門「まさか!令呪!?」

アレイスター「その通り、かつて冬木で行われていた聖杯戦争のことは知っているな?その参加資格・・・・・・。お前たちは選ばれたのだ」

海原「冬木の聖杯は解体されたはずでは?」

アレイスター「それを再現する。万能の願望機、それを巡る戦いをこの地で・・・・・・」

土御門「学園都市を火の海にする気か!?アレイスター」

アレイスター「第4次のような惨劇は起こさない。何より、今回は冬木の地で行われたこれまでの戦争とは大いに内容が異なる」

海原「このような真似、他の魔術師たちは黙っていないのでは?」

アレイスター「他の組織も、聖杯には興味を持っているよ。その証拠にいくつかの組織と一時的に手を組み、この戦いを管理する」

土御門「・・・・・・これも計画のうちか?アレイスター。」

アレイスター「そうとも言える、しかし関係ないとも言える。」

海原「自分たちは何を?」

アレイスター「お前たちを選んだのは聖杯だ。聖杯を求めようと辞退しようと構わない。しかし、その時は聖杯は新たに魔術師を選ぶだろう」

土御門「上条当麻はどうする?彼なら右手一つでこの戦いを終了させると思うが?」

アレイスター「もう手は打ってある」

海原「拒否はできないようですね。土御門」

土御門「・・・・・・分かった。話はそれだけか?」

アレイスター「ならば、早いうちに英霊を召喚するがいい。もうすでに動き出している者もいる。そして、それを」

2人の気付かないうちに、手に収まるサイズの携帯電話のような電子端末が置かれていた。

海原「…これは?」

アレイスター「聖杯戦争のルールブックのようなものだ、今回の聖杯戦争にルールを設けた。そう・・・・・・。安全のためにな。クククッ」

 アレイスターは笑う。

土御門「親切なことだ・・・・・・」

アレイスター「では、健闘を」

海原「・・・・・・行きましょう。土御門。」

土御門「・・・・・・あぁ。」

 帰路を土御門とエツァリは急ぐ。

海原「どう思いますか?土御門。」

土御門「あいつの考えは俺達では予想さえできない。」

海原「聖杯が7人の魔術師を選択し、最後の1人が願望を叶える。噂に聞いたことはありますがまさか参加することになろうとは…。」

土御門「解体されて、多くの魔術師が失望したという。興味があるのだろう、万能の聖杯に」

海原「とりあえずは・・・・・・」

土御門「あぁ、とりあえずは様子をみよう。とにかくルールを確認だ」

土御門は端末を起動させる。黒い画面に白い文字が映る。

==学園都市における聖杯戦争の特徴==
・召喚できるのは第4次、第5次に召喚された英霊のみである、聖遺物を使用してもこれ以外の英霊を呼ぶことはできない。

・聖杯戦争の参加を拒否し、抜けるためには英霊を召喚したのち、自害させなければならない。英霊が消滅した段階で参加資格は永遠に失われる。

・聖杯戦争に関係の無い人間を意図的に巻き込むこと(英霊のエネルギーにするなど)は禁ずる。破った場合、ペナルティが課せられる。

・英霊を失ったマスターを攻撃することは禁ずる。そのマスターが攻撃を仕掛けてきた場合は認める。

・基本的にマスター同士の共闘は禁ずる。さらに外部の魔術組織に協力を仰ぐことも禁ずる。破られた場合、ペナルティが課せられる。しかし、学園都市に籍を置く超能力者と協力することは可能とする。(超能力ではサーヴァントと傷つけることはまず不可能。)

・7体のサーヴァントがすべてそろったときにこの端末を通して開始の合図がされる。それまで他の英霊、マスターを攻撃、することはできない。

海原「なるほど、これが学園都市を守るルールですか」

土御門「いや、このルールが守るのは学園都市ではないさ。守るのはアイツの計画だろう・・・・・・」

疑惑を抱きながらエツァリと土御門はそれぞれ活動を開始した。

―学園都市郊外―

 魔術師、ステイル=マグヌスは上条当麻のマンションに向かっていた。しかし、上条当麻はすでに神裂火織によってイギリス行きの飛行機に乗っているはずである。聖杯戦争において、上条当麻は根底を揺るがす存在とし、「必要悪の教会」の手によって監視される手はずであった。先ほど神裂から連絡が入り、上条を騙すことに成功し飛行機に乗せたということだった。ステイルは上条の部屋にいるインデックスを同様に避難させるため上条の部屋を訪ねたのであった。

 チャイムを押すが反応はない。不審に思いつつステイルはドアノブに手を伸ばした。

―ガチャ―

扉を開けるとそこにはかつてのパートナー、インデックスが座っていた。

インデックス「こんにちは。久しぶりだね。ステイル」

ステイル「・・・・・・やぁ、こんにちは。インデックス」

普段と違うインデックスを不思議に思いつつ、ステイルは切り出した。

ステイル「急で申し訳ないが、僕と一緒にイギリスに向かって欲しい。魔術師絡みで厄介な事件が起きているんだ。上条当麻ももう向かっている」

インデックス「それは・・・・・・。無理なんだよ・・・・・・」

予想外の彼女の返答にステイルは動揺した。上条が向かったと聞けば一緒に行こうとするはずだが・・・・・・。しかし、ここは危険だ早く彼女を避難させなければ。

インデックス「ステイル・・・・・・。嘘なんだよね。事件って・・・・・・」

 困惑しながらステイルは答える。

ステイル「な、言い出すんだい?本当に・・・・・・」

インデックス「学園都市で、聖杯戦争が始まるんだよね、それで・・・・・・」

 ステイルはさらに動揺した。しかし、それが何なのか、アレイスターの管理下で行われる。聖杯戦争、安全の保証は無い。

ステイル「・・・・・・そのとおりだ。この街は危険なんだ。さぁ」

 ステイルは手を差し出した。インデックスも手を差し出す。しかし、それはステイルの手を握るためではなかった。  

ステイル「ッ!?」

 インデックスの手には令呪が浮き上がっていた。ステイルにはその令呪が祈りを捧げているシスターのように見えた。

インデックス「私は聖杯戦争に参加するんだよ。ステイル。なんか黒い機械も届いて私は正式にマスターになったんだよ」

ステイル「なぜ…。君が…。なんで…」

インデックス「今回、他の魔術師と協力はできないんだよ。だから、ごめんね」

 ステイルは困惑しながら一つだけ質問をした。

ステイル「望みは…?」

インデックス「記憶を…取り戻すんだよ。」

 ステイルは自分の耳を疑った。インデックスは続けた。

インデックス「私は当麻の記憶を奪ってしまったんだよ・・・・・・その償いがしたいの」

ステイル「しかし、それは・・・・・・」

インデックス「うん。きっと、当麻はそれを望まないし、心配すると思う。でも、私はそれじゃ嫌なんだよ。できることがあるならできる限りのことはしたいの」

ステイル「聖杯が上条当麻の記憶を取り戻す。その保証は無い・・・・・・」

インデックス「それでも、価値はあるんだよ・・・・・・お願い、ステイル。これ以上ステイルが私にかまって、ペナルティを受けることになったら、きっとステイルを嫌いになるんだよ・・・・・・。だから」

 ステイルはインデックの目を見ることができなくなっていた。かつての自分のパートナー、彼女は自分自身に記憶が無いにもかかわらず、他人の記憶を取り戻そうとする。ステイルの心はいまだかつてない、混沌に包まれた。 その中でステイルは彼女のために今自分ができることを探した。

ステイル「では、せめて…。これを」

 ステイルは一枚のカードをインデックスに手渡した。

インデックス「これは?」

ステイル「クレジットカードさ。何かとお金は必要だからね。後、基本的な魔術道具は置いていくよ。儀式に使う物も入っている。この程度なら協力には当たらないだろう。・・・・・・君の無事を祈る」

インデックス「ありがとう!ステイル。私、がんばるんだよ。」

 数分後、ステイルはマンションを出た。知らず知らずに強く握った拳からは血がにじみ出ていた。

―大西洋上空―

 大西洋の空を1機のジェット機が飛行していた。パイロットを除いた、搭乗者は2名、オリアナ=トムソンとリドビィア=ロレンツェッティである。

オリアナ「それにしても驚いたわね。」

リドビィア「何がですか?」

オリアナ「あなたから急に連絡を受けたことはもちろんだけど・・・・・・。自由の身となって、聖杯戦争の情報まで掴んでいるとはね・・・・・・」

リドビィア「詳細はあなたが知る必要はありません。前回の失敗から私も多くのことを学び、悔い改めました。そして、私と同じ理想を持つあなたが聖杯に選ばれた。これは神が私たちに与えてくれたチャンスだと感じ、こうしてあなたに協力することとしたのです」

オリアナ「まぁ、それはいいとして本当に大丈夫なの?魔術関係の協力者を持つことは禁止のようだけど?」

リドビィア「悟られぬように万全は期しています。それにまだ始まってもいない戦争に協力も何もないでしょう」

オリアナ「納得できない点もあるけど・・・・・・。とりあえず協力には感謝するわ。でも、そろそろ、教えてくれてもいいのではなくて?私たちがどこに向かっているのか?」

リドビィア「今はまだ秘密にしてお置きましょう・・・・・・フフッ、あなたに最強の英霊をプレゼントしますよ。オリアナ=トムソン」

 笑顔のリドビィアと不満顔のオリアナを乗せジェット機は海を渡った。

―早朝 学園都市とあるファミレス―

 任務を終えた浜面仕上,滝壺理后、麦野沈利、絹旗最愛の4名が休息を取っていた。

麦野「それにしても、今回は骨が折れたわね」

絹旗「超疲れましたね」

滝壺(クークー)

麦野「まぁ、けが人も出なかったし。良しとしましょう」

絹旗「そうですね」

―スタスタ―

浜面「たくッ…あのさぁ、俺も疲れてんだけど。」

麦野「とりあえず、飲み物!」

浜面「・・・・・・はい」

―コトッ―

浜面「まったく、俺をなんだと思ってるんだよ」ブツブツ

絹旗「・・・・・・浜面、私達浜面を超大切な仲間だと思ってますよ」

浜面「へっ?!」

麦野「うん。感謝してる」

浜面「なっ!なんだよ・・・・・・急に・・・・・・」グスッ

絹旗「だからこそ、超正直に言いますね」

浜面「へっ!?」

麦野「仲間だからね・・・・・・」

浜面「…何?」

絹旗「その手の甲の入れ墨!超ダサいですからね」

麦野「気付いた時から思ってたけど、どこの厨二病だよ!」

浜面「なっ!?そっ、そうか?なんかさ、かっこ良くない?」

滝壺「大丈夫、ダサいはまづらでも私は応援する」

浜面(あっ、滝壺もダサいと思ってるんだ・・・・・・)

絹旗「何なんですか?そこから魔法でも飛び出る設定ですか?」

麦野「能力発現しなかったから、そんな悲しい行動に出るなんて。むしろごめん」

滝壺「大丈夫。痛いはまづらでも私は応援している」

浜面「滝壺何気にひどい・・・・・・ってちげーよ!これは入れ墨じゃなくて気付いたら手についてたんだよ!何かアザみたいでさぁ・・・・・・」

絹旗「はぁ・・・・・・じゃあそういうことでいいですから」

浜面「いや・・・・・・だからさぁ」

―スタスタ―

店員「あの・・・・・・、お客様?」

絹旗「ほら、浜面が超騒がしくしたから」

麦野「とりあえず謝んなさいよ」

浜面「いやっ。おまっ。・・・・・・すみません」

店員「いや、あるお客様から貴方にこれを渡すように言われまして・・・・・・」

―スッ―

浜面「俺に?」

店員「・・・・・・では」

麦野「最新の機械ね・・・・・・」

浜面「あの…、あれっ!?いない・・・・・・」

浜面が振り向くと店員の姿はなくなっていた。

絹旗「取りあえず、起動させてみたらどうですか?」

浜面「お、おう・・・・・・」

―とある喫茶店―

 御坂美琴、白井黒子、初春飾利の三名がお茶をしていた。ここで待ち合わせをし、出かける予定なのだ。しかし、待ち合わせの時間になっても来るはずの友人、佐天涙子は現れない。

御坂「でっ?これからどうする?」

白井「そうですわねぇ。定番の映画なんてどうでしょう」

初春「でも、面白いのやってないですよ」

―ピピピッ―

 初春の携帯が鳴った。

初春「あっ、すみません」

―スタスタ―

白井「そういえば、佐天さんはどうしたんですかねぇ」

初春「今日は来れなくなったそうです」

御坂「具合でも悪くなったの?」

初春「なんか急用が出来た。って・・・・・・。それと明日、御坂さんと白井さんにどうしても手伝ってもらいたいことがあるとか言ってました。あたあとで電話するって言ってましたけど・・・・・・」

白井「なんでしょうか・・・・・・」

御坂「まぁ、いいんじゃない。実験で今臨時休校中じゃん。暇だしね」

―その日の夜 上条のマンション―

 インデックスは魔法陣の前に立っていた。

インデックス「ふう・・・・・・。取りあえず準備は出来たんだよ・・・・・・。後は呪文を」

 インデックスの呪文に合わせ陣は光り部屋を照らす。風がどこからか流れる。そして、一段と陣が輝いたと思うと鎧に身を包んだ少女がそこに立っていた。

インデックス「せっ、成功したんだよ・・・・・・」

セイバー「聖杯の導きにより参上した。問おう、貴方が私のマスターか?」

インデックス「う、うん。インデックスなんだよ。あなたは・・・・・・」

セイバー「インデックス・・・・・・。私のことはセイバーとお呼びください」

インデックス「うん、私はあなたが戦った聖杯戦争のことを知ってるんだよ。セイバー。あなたは私と一緒に戦ってくれるんだよね」

セイバー「・・・・・・」

インデックス「・・・・・どうしたの?セイバー。」

セイバー「会ったばかりで申し訳ありませんが、今回の聖杯戦争、貴方の望みを聞かせていただきたい。私にはもう聖杯に願いたい願望はありません。前回の聖杯戦争で私の望みは間違いだと気付かせてくれた人たちがいました。だから私は貴方のためだけに戦うことになる・・・・・・どうか、包み隠さず私にインデックスの望みを教えてください。もし、あなたが邪な気持ちで戦いに望むのであれば・・・・・・」

インデックス「うん。聞いてセイバー。私はね、前に私を守ってくれた人の記憶を奪ってしまったんだよ。彼は優しい人で、私のことを責めたりしない。でも、そのことは私の心にしこりみたいに残ってるんだよ。それに、私は記憶を失う辛さを知っているから・・・・・・。だから、聖杯にその人の記憶を返して貰えるようにお願いするんだよ」

 いつしか、インデックスの頬に涙が流れていた。

インデックス「えへ。王さまだった、貴方には小さい望みかな」

セイバー「そんなことはありません。貴方のような純粋な人にこそ、聖杯は与えられるべきなのでしょう。私は今日から貴方の剣となり貴方を守ります。共に頑張りましょう。インデックス」

インデックス「うん!」

浜面「ん。そうだな…。ここはバニーを―」

―ドゴッ―

麦野「バカ」

絹旗「超馬鹿」

滝壺「・・・・・・ばか」

浜面「じょ、冗談だよ・・・・・・。じゃあ、お前らはなんか願いがあるのかよ」

絹旗「…実は私、随分前から超B級映画を自分で・・・・・・」

浜面「結局、私利私欲じゃねーか。滝壺は?」

滝壺「何も・・・・・・あっ、むぎのの手と目を治せばいいと思う」

―同刻 「アイテム」隠れ家―

 インデックスが自宅でセイバーの召喚に成功した時、アイテムのメンバーは隠れ家にしている廃墟で召喚の準備をしていた。

浜面「ふぅ、取りあえず。表示された通り血で模様は書いたけど」

麦野「模様じゃなくて魔法陣らしいけどね」

浜面「でも、本当に英雄が蘇るのか」

麦野「悪戯にしたら、手が込んでるし・・・・・・。やってみる価値はあるでしょ」

絹旗「わざわざ、超高い輸血用の血液を買って来たんですからね。失敗したら許しませんよ。浜面」

浜面「いや、この手の痣が選ばれた証って言われてもなぁ・・・・・・」

滝壺「・・・・・・そういえば」

浜面「ん?どうした。滝壺」

滝壺「あの端末に書かれていたことが本当で、願いが叶うとしたら、はまづらは何をお願いするの?」

浜面「ん。そうだな…。ここはバニーを―」

―ドゴッ―

麦野「バカ」

絹旗「超馬鹿」

滝壺「・・・・・・ばか」

浜面「じょ、冗談だよ・・・・・・。じゃあ、お前らはなんか願いがあるのかよ」

絹旗「…実は私、随分前から超B級映画を自分で・・・・・・」

浜面「結局、私利私欲じゃねーか。滝壺は?」

滝壺「何も・・・・・・あっ、むぎのの手と目を治せばいいと思う」

絹旗「あぁ、それは超名案ですね」

浜面「だな。良かったじゃねーか。麦野」

 浜面は麦野に向かって笑いかけた。しかし、麦野沈利は暗い顔をしたまま口を開く。

麦野「・・・・・・あのさ、この聖杯ってのは死んだ人も生き返らせることができるのかな」

浜面「麦野、おまえ・・・・・・」

麦野「別に私は自分のやったことを後悔している訳じゃない。結果的にあの子は私達を売った訳だからね」

絹旗「でも、いいんですか?」

麦野「まぁ、最近人手不足だし」

滝壺「うん、いいと思う。」

浜面「じゃあ、ちゃっちゃとやっちゃいますか」

 浜面は魔法陣の前に立つと端末を片手に呪文を唱え始めた。光とともに現れたのは2つの槍を携えた。美しい騎士。主である浜面を確認すると、頭を下げ口を開いた。

ランサー「ランサーの級によって、召喚されました。フィオナ騎士団、ディルムッド・オディナ。貴方の望みのため、全力を尽くすことを誓います」

浜面「お、おう・・・・・・おーい、成功したぞ。・・・・・・あれ?」

麦野「カッコイイ」

絹旗「超イケメン」

滝壺「かっこいい」

浜面「お、おい!どうしたんだよ」

ランサーの顔に影が落ちた。

ランサー「…おそらく私のホクロのためかと」

浜面「はぁ?ホクロってどういうことだよ」

ランサー「この泣きボクロには女性を魅了する力があります。一種の呪いのようなもので、私にはどうすることも・・・・・・」

浜面「うらやま…。じゃなかった。なっ、なんだってー!?」

ランサー「見たところ、彼女達に対魔力はありません。完全に魅了されたようです。・・・・・・申し訳ありません」

浜面「い、いや・・・・・・。わざとじゃ無いんだろ。でも・・・・・・」

麦野「カッコイイ」ポーッ

絹旗「超イケメン」ポーッ

滝壺「かっこいい」ポーッ

ランサーの脳裏に第4次聖杯戦でマスターの婚約者であった。ソラウの表情が重なった。

ランサー「クッ・・・・・・。また、私は・・・・・・」

浜面「フフ、俺に任せておけよランサー」

ランサー「なにかマスターには考えが!?」

浜面「ハハッ、用はこれを使えばいいんだろ」

ランサー「おっ、おやめ下さい!」

浜面「令呪よ!ランサーのホクロの呪いを解きやがれ!!」

―数分後―

―チーン―
 
浜面仕上は神妙に正座をしていた。

麦野「で!よく考えもせずに、令呪を使ったと」

絹旗「3つしかない超貴重な令呪を」

滝壺「別々に行動したりやりようはあったのに・・・・・・」

浜面「いや、そうは言ってもさ。そのままだと色々不便だったし。今後のためにも仲間同士の連携とかさ、大事じゃん。だから、苦渋の選択で」

麦野「本当は!?」

浜面「滝壺がポーッとするのが嫌だった・・・・・・。」

麦野「浜面?」

浜面「何?」

麦野「死んどく?」

ランサー「あの、これ以上はもう。私の責任ですし」

麦野「はぁ、もうやっちゃったことはしょうがないか・・・・・・。それにしても」チラッ

絹旗「えぇ」チラッ

ランサー「・・・・・・何か」

麦野「いや・・・・・・。本当の色男ってのに初めてあったなぁ。って」

絹旗「超カッコイイとかじゃなくて、超美しいって感じですね」

浜面「そんな、まだ解けてないのか…。」

ランサー「いや、これはその・・・・・・なんというか」

麦野「いや。残酷なこと言うようだけどさ。浜面」

浜面「な、なんだよ」

絹旗「・・・・・・超残酷なようですけど。ランサーと浜面を並べて、どっちがかっこいいかと女の子に聞いたらですね。100人中、150人はランサーと答えますから」

浜面「なんで50人増えてんだよ!」

麦野「それだけ、差がある。ってことよ」

滝壺「安心して、私ははまづらが好き・・・・・・」

浜面「滝壺・・・・・・」ジーン

絹旗「じゃあ、滝壺はどっちがかっこいいと思いますか?」

滝壺「らんさー」

浜面「即決・・・・・・だと。こうなったら令呪でランサーの顔を」

―ドゴッ―

浜面「冗談です・・・・・・。すみません」

麦野「とりあえず、ランサーを交えて作戦会議と行きましょう」

ランサー(これが・・・・・・我が主たち)

 アイテムの夜はふけていく。

―翌朝 セイバー陣営―

 朝日が昇りインデックスは目を覚ました。

セイバー「おはようございます。インデックス」

インデックス「おはよう、セイバー。あれっ?セイバーは寝なかったの?」

 昨夜と同じく鎧姿で座るセイバー。自分は召喚の疲れからセイバーの勧めもありすぐに寝てしまったのだ。

セイバー「えぇ、敵襲の危険もありましたし、インデックスからの魔力供給も十分ですので、睡眠は必要ありません」

インデックス「そうなの?じゃあごはんも食べないの?」

セイバー「いえ、食事は必要です。特に朝食を抜くという考えは理解できません。三食しっかり食べるべきかと」

インデックス「そうなんだ。じゃあ食べにに行くんだよ。カードがあるから、食べ放題なんだよ…。あっ!?」

セイバー「どうしました?インデックス」

インデックス「セイバーのそのかっこじゃ目立ちすぎるんだよ・・・・・・」

セイバー「確かに服を着替える必要がありますね。しかし、インデックスの衣服を私が着ることはできないでしょう。知り合いの方に借りることなどはできますか?」

インデックス「あっ。当てがあるんだよ。まってて、セイバー」

―数分後―

姫神「まさかの、登場。姫神秋沙」

インデックス「友達の秋沙なんだよ。服を貸して貰うんだよ。」

セイバー「はじめまして。セイバーです。申し訳ない」

姫神「まぁ、私の出番これだけだから、大丈夫」

―スッ―

姫神「じゃーん」

持ってきた鞄から姫神出したのは、紅と白の巫女服であった。

インデックス「わぁ、きっと似合うんだよ。セイバー」

セイバー「・・・・・・ありがとうございます。しかし、これは」

姫神「冗談。修道服と巫女服の外人とか目立つとかのレベルじゃない。鞄の中から好きなの選んで」

セイバー「感謝します。秋沙」

―数分後―

 着替えたセイバーが2人の前に立った。青いスカートに白いシャツ、とてもよく似合っている。

姫神「わぉ」

インデックス「似合ってるんだよ!セイバー」

セイバー「ありがとうございます」

セイバーは微笑むと回ってみせた。

インデックス「なんか、嬉しそうだね。セイバー。」

セイバー「はい、この服装は前回の聖杯戦争でマスターが用意してくれたものにとてもよく似ている。懐かしく思います」

姫神「じゃあ、私はこれで・・・・・・」

インデックス「まって、秋沙。一緒にご飯を食べるんだよ」

姫神「いや…。お金が」

インデックス「じゃーん。これがあれば問題無いんだよ」

姫神「それ、すごい高級なやつ」

インデックス「へへ。まだ、戦いは始まらないから、今日は食べ歩くんだよ」

セイバー「地形の確認も兼ねてその意見には賛成です。インデックス」

 この日、学園都市にまた一つ新たな都市伝説が生まれることになる。でもそれはまた別の話。

―同刻 佐天涙子のマンション―

 玄関の前に初春、白井、御坂の3名が立ちつくしていた。見慣れたはずの玄関は何やら古い本やら、置物やらで半分が塞がれている。

佐天「初春~。御坂さん~。白井さん~。来てくれたんですね」

初春「あの・・・・・・。これどうしたんですか?」

白井「雑貨屋さんでもやるつもりなんですの?」

御坂「随分古いわね・・・・・・」

佐天「なんか、親が送ってきたんですよ。鑑定してもらえ、って」

白井「鑑定?」

初春「白井さん知らないんですか?ちょっと前に学園都市に最新のセンサー使って骨董品の値段を客観的に出して、買い取ってくれる施設ができて流行ったじゃないですか」

御坂「あぁ、そう言えばきてたわね。学園都市に鑑定ブーム。ほんとに一瞬」

白井「胡散臭い上にとっくにブームが去って、来月には撤去予定じゃないですか。何もそんなところに・・・・・・」

佐天「なんか、遠い親戚の何代か前の人が学者かなんかやってたらしくて・・・・・・。どっからか話聞きつけて送って来たんですよ。おかげで昨日は整理で一日潰されちゃいましたよ」

白井「一円にもならないと思いますけどね…。こんなガラクタ」

―ヒョイ―

佐天「いやこの本とか、もしかしたら有名な歴史書かもしれませんよ」

白井「ちょっと古い落書き帳かなんかでしょう。」

佐天「この長い棒も、調べれば価値ある槍なのかも」

初春「あっ、これ多分加治屋さんの刀の失敗作ですよ。子供の時、社会見学で似たようなの見ました」

佐天「・・・・・・これとか価値ある双剣かも」

御坂「・・・・・・佐天さん、これ包丁」

―シクシク―

佐天「・・・・・・ふえーん。みんながイジメる~」

白井「・・・・・・はぁ、取りあえずテレポートで外に出しますから」

御坂「金属は私が持つわね。能力使って、磁力制御すれば軽く持てるし」

初春「まぁ、ちょっと前から臨時休校で暇ですしね」

御坂「そういや無期限っていつまでなんだろね・・・・・・」

白井「大規模な実験とやらがすむまでとのことですが・・・・・・。まぁ、今はこの骨董品、運びましょう」

佐天「やっぱ持つべきものは友達ですね」

うるせーと思うかもしれないけど確認。
インデックスが名前を呼ぶときは基本ひらがなです。当麻→とうま ってかんじですかね

 >>34 ご指摘ありがとうございます。

―「グループ」アジト―

 学園都市某所、椅子に座りエツァリはコーヒーを飲んでいる。扉が開きかすかに身構えるが入ってきた男の顔を見て緊張を解いた。最も今の彼に警戒は必要がないのだが。

海原「おかえりなさい。それでどうでしたか?」

土御門「あぁ、間違いない。まさか、奴とはな」

海原「とりあえず、後一人ですね」

土御門「あぁ、まだ召喚をしてない奴も多いようだがな。聖杯が後一人マスターを選び、英霊が揃えば、ついに始まる」

 土御門にコーヒーを出しながらエツァリは口を開いた。

海原「土御門、貴方の耳に入れておきたいことが」

土御門「・・・・・・なんだ?マスターのことか?」

海原「最近、学園都市の研究施設から動物などが盗まれ、惨殺されている事件はご存じですか?」

土御門「あぁ、変質者の仕業じゃないのか?聖杯戦争の準備で警備員の活動を制限しているしな」

海原「それですが、これを・・・・・・」

 机の上に何枚かの写真が置かれた。

土御門「ッ!?これは・・・・・・。」

海原「召喚のための魔方陣に見えますね」

土御門「しかし、まだ聖杯はマスターを選んでいない」

海原「おそらく、どこかの魔術師が行っているのでしょう。」

土御門「聖杯にも選ばれない、エセ魔術師が勝手なことをしていると?」

海原「もしあなたが許可してくれるのであれば・・・・・・。ライダー」

 突如、部屋の中に長い髪に目隠しをした。長身の女が現れた。彼女こそエツァリの召喚した英霊にして第五次聖杯戦争を戦ったライダーである。

海原「彼女に捕獲を命じますが」

土御門「いや、まだいい。もうしばらく警備員と風紀委員に任せよう。目立ちたくない。・・・・・・目立つのはアイツ一人で十分だ」

―ピピッ―
 
 土御門の携帯が鳴った。

土御門「俺だ。あぁ。そうか。分かった。すまないな。今日はもういい」

―ピッ―

海原「一方通行ですか?」

土御門「あぁ。サーヴァントと、はぐれたらしい」

海原「やはり、彼の制御は難しいですか・・・・・・」

土御門「しばらくは自由にさせておくさ。これ以上は彼の機嫌を損ないたくないしな。・・・・・・はぁ、特に話がなければそろそろもどるニャー」

海原「では、ライダー。送って下さい。」

ライダー「はい。」

土御門「いや・・・・・・。大丈夫だ。」

 土御門は立ち上がると部屋を出た。そして、ふとエツァリとライダーとの関係と自分とそのサーヴァントとの関係を思い浮かべ。つぶやいた。

土御門「羨ましいにゃー・・・・・・」

―学園都市 中心部―

 インデックスとセイバーがファミリーレストランから出てきた。本日3軒目である。ちなみに姫神は2軒目で帰った。

インデックス「ふう、さっきのお店は気に入ってくれた?せいばー?」

セイバー「ええ、ファミレスというのは初めてでしたがなかなか種類があって楽しめました」

インデックス「でもね、最初のお店のハンバーガーも十分美味しかったと思うんだよ」

セイバー「いや、インデックス。あのような大雑把な食事はどうしても好きになれません」

インデックス「もう・・・・・・、まぁその分私が食べたから問題ないけど」

セイバー「しかし、困りました」

インデックス「ご飯の話?」

セイバー「次は和食が・・・・・・、違います。インデックス、この街は建物が密集しすぎている。私の宝具を使いづらい地形です」

インデックス「じゃあ、必殺技が使えないってこと?」

セイバー「“約束された勝利の剣”はかなり慎重に使うことになるでしょう。しかし、ステータスだけでも私は優位に立っています。心配はいりません」

インデックス「でも・・・・・・。あっ!ちょっと待ってて」

インデックスは道の先に友人の姿を見つけ駆けて行った。

インデックス「ひょうかー。久しぶりなんだよ」

風斬「あっ、インデックス。久しぶりだね」

インデックス「そうだ。これからひょうかも一緒にご飯を食べに行くんだよ」

風斬「ごめん、今日は用事が・・・・・・」

インデックス「そうか、残念なんだよ」

風斬「じゃあ、私行くね」

インデックス「うん、じゃあまたね」

セイバー「インデックス。彼女は?」

インデックス「友達のひょうかなんだよ」

セイバー「あの、失礼な質問とも思いますが、彼女は信頼できるのですか?敵では?」

インデックス「いくらなんでもその言い方はひどいんだよ」

セイバー「すみません。貴方を怒らせるつもりは・・・・・・」

インデックス「確かに、ひょうかは普通とはちょっと違うけど私の大切な友達なんだよ」

セイバー「分かりました。先ほどの暴言を取り消します。失礼しました」

インデックス「気を取り直して、行くんだよ」

セイバー「ええ」(しかし、あの気配は・・・・・・)

ふと思ったんだがサーヴァントは禁書世界の魔術は使えるの?
使えるかどうかでインデックスの危険度がすごく違いそうなんだが

>>43基本的に魔術と超能力は英霊にほとんど効かないという感じで。・・・・・・例外はあるかもしれませんが。

―夕方 学園都市通り―

 佐天涙子は帰り道を一人歩いていた。無事に買い取りは終わった。しかし、ほとんど値段は付かず、今自分が手にしている鉄の棒に関していれば。

係員「こちらはなんの価値もないただの古い棒ですね。処分は料金がかかります」

 といわれる始末。憐みを通り越した。友人の目が痛かった。そんな友人、初春と白井は風紀委員の仕事に向かい。御坂とは途中で別れ一人帰路を急いでいた。

 ふと、骨董品を送ってきた時に母親と話したことを思い出す。母との会話は普段通りのものだった。ちゃんと食べてるのかとか、調子はどうかとか。しかし、会話が途切れると母は少し困った口調で普段はしない相談をしてきた。

 弟が、反抗期だという。佐天はそれを聞いたとき瞬時に嘘だと分かった。弟とはついこの間話したばかりだった。母と買い物に行ったと楽しそうに話す弟の声は覚えている。同時に母の言いたいことを理解した。母は、遠まわしに帰ってきなさいと言っているのだろう。心配してくれているのだろう。能力は未だに発現しない。先生に相談したり、自分でできる範囲のことはしているつもりだ。しかし、成果は出ていない。

 母から、もう諦めてもいいんじゃないの?そう言われた気がした。その時は適当に話を切り上げたが確かにこのまま、この学園都市にいて何か変わるのだろうか?

佐天「おっと、いけない。いけない」パンッ

 自分でできるだけ明るい声を出して頬を叩く。まだ大丈夫。そう自分に言い聞かせる。とりあえず、今度の長期の休みは家に帰ろう。そう決めて帰路を急ぐ。

佐天「やっばいなー」

 のんびり帰っていたのがまずかったらしい。日は沈んですでに周囲は薄暗い。帰るには路地を通るのが早いのだが・・・・・・。

佐天「・・・・・・大丈夫だよね」

 佐天は路地に入っていった。

―同刻 土御門元春 アジト―

 土御門元春は静かに椅子に座る。もう間もなく聖杯戦争が始まるのだ。確認できているだけで残ったマスターは一人。今、この瞬間に始まってもおかしくは無い。土御門は周囲を警戒しつつ自身のサーヴァントを待つ。

―数分後―

 空間が歪み、わずかに光の粒が舞ったと思うと、金色の鎧に身を包んだ、サーヴァントがそこに立っていた。英雄王、ギルガメッシュ。土御門のサーヴァントである。

ギル「ほう、王の帰りを待っているとは、お前にも家臣としての礼儀が分かって来たのか?元春」

土御門「まもなく、聖杯戦争が始まるというのに、のんきに寝てもいられないだろう。それよりアーチャー、契約はどうした」

ギル「王である我と契約を結ぼうとすること自体が思い上がりだ。それとも、召喚の時のように令呪を無駄にするか?」

 土御門は召喚の際にすでに1区間令呪を消費していた。彼の召喚に応じたのは最古にして最強の英雄。しかし、彼のコントロールは難しく第4次の聖杯戦争では、主を裏切った経歴を持つ。よって、「聖杯戦争期間中、現在地の把握を」土御門は令呪を使用した。

 令呪は限定的な内容で使用するのが通常である。長期的な命令はなんの効力も持たない。せめて単独行動を抑えたいと考えての令呪の使用であったが結果として令呪は無駄となった。ギルガメッシュの力か、それとも土御門の力不足か?つまらん。そう言い残してギルガメッシュは散策に出かけ。土御門がその居場所を感じることができるのは令呪の発動から一時間だった。

土御門「はぁ、あなたの力を理解したからこそ、できる限りの譲歩をした。そのために、契約をしたのでは?」

散策から帰った。土御門はギルガメッシュを制御することを諦めた。そこで、彼の自由を認める代わりに交換条件を出した。

1.土御門はギルガメッシュの行動すべてを認める。

2.サーヴァント、マスターへの攻撃はすべてギルガメッシュの判断で行ってよい。ただし、マスターへの攻撃は極力避ける。

3.連絡のためお供を一人つける。

4.一日一回は連絡のため顔を合わせる。

 以上の4つである。

ギル「元春よ。我は今回召喚されただけで不快、不愉快なのだ。聖杯戦争、この戦いはその名を冠するに値しない。茶番もいいところだ。雑種どもが競い合うには良いかも知れんがな、王である我のいるべき場ではない」

土御門「ならば、自害を命じて差し上げますよ。英雄王」

ギル「ハハハッ。そのような真似、王ができる訳が無かろう」

土御門「ならば、契約は守っていただきたいな」

 土御門の言葉にギルガメッシュは自身の言葉をかぶせる。

ギル「我は契約を反故にしてはいないぞ。元春」

 ギルガメッシュは口元に笑みを浮かべ答えた。

土御門「今朝の男、一方通行から連絡は受けている」

ギル「あぁ、あの男のそばに常に我は居た。霊体化していたがな」

土御門「なんだと!?」

ギル「前にも話したと思うが、この街は気持ちが悪い。1人の人間のエゴでつくられた都市、いやお前達の言葉を借りれば実験施設か。愛でることなど到底出来ん」

土御門「・・・・・・」

ギル「しかし、いや、だからこそこの街に住む者は面白い。まるで皆が道化のようだ。あまりに哀れで笑えるぞ。むろん、お前もな。特に今朝お前がよこした男は極上だ」

ギルガメッシュは静かに笑いだした。

土御門「じゃあ、お前の目にあいつはどう映った?道化か?」

ギル「あのような男は、どの時代、どの国にも居るのだ。ある意味、平凡。しかし、奴の置かれた状況は特異といえよう」

土御門「一方通行が平凡?」

ギル「殺したことを悔い、懺悔する者はあまりに多い、平凡だ。殺した相手の血縁者と何らかの関係性を持つこともまた、人間の歴史の中ではよくある。しかし、1万人近く同じ人間を殺し、殺した相手と同じ人間と関係性を持ったのはおそらく有史以来、あの男だけだ」

土御門「趣味が悪いな、王がストーキングとは」

ギル「観察をしてやったのだ。本来ならば、感謝するべき名誉であろう。しかし、趣味が悪いのはむしろお前だろう?我が興味を持つと考え、あえてあのような礼も何も知らん男をよこしたのだから」

土御門「で、どうするんだ。ギルガメッシュ」

ギル「しばし、あの男で暇をつぶしてやる。邪魔な雑種が居れば、刈り取っておいてやろう。その間せいぜい、この茶番を調べることだ」

土御門「そうさせて貰う。」

ギル「あぁ、一方通行のあの口調、あれを変えさせろ。気持ちが悪い。」

 そう言うとギルガメッシュは静かに消えた。

土御門「ふう」

 土御門は息をついた。これで大まかに計画通りである。ギルガメッシュのコントロール、まだ不安は残るものの、アレイスターに対抗するうえで最強のカードを手に入れた。しかし、一方通行は承諾するだろうか、どっちにしろ口調は治らない気がする。土御門は考えるのをやめ、静かに目を閉じた。

 まだ、英霊の座は2枠残っている。令呪を持ちながら召喚をしていないマスターがいるのだ。しかし、おそらく明日中には揃うことになるだろう。土御門は目を閉じた。

佐天「はぁ、はぁ」

 佐天は息を整えながら壁に身を潜める。何やら物音がして覗き込んだのが間違いだった。鼻につく生臭い匂い。男が少し開けた場所で何やらやっている。その行動と男の漫画に出てきそうな黒いローブを見て佐天は目の前の男が異常者なのだと感じ取った。

男「はぁ、はぁ・・・・・・。また失敗・・・・・・。畜生」

この男、古い魔術師の家系の者であるが魔術回路などは2代ほど前に完全に枯渇しており、魔術師とは到底呼べない。しかし、聖杯戦争の話を聞きつけ、参加しようと息巻いて来たのだ。もっとも、聖杯は彼を選ぼうとはしなかった。そのため、動物を盗み意味のない魔方陣をひたすら作っている。

佐天(変質者かな・・・・・・。とっ、とりあえず逃げなきゃ。)

―パキッ―

 逃げようと踵を返した佐天の足元から木の枝の折れた音が鳴る。佐天と男の目があった。

―ダッ―

 佐天は駆け出した。しかし、魔術師で無くても相手は成人の男性である。男の伸びた手が長い黒髪を掴む。

佐天「痛い!」

 男は佐天に馬乗りになると。

男「はぁ、はぁ。そうだ、いけにえ、生贄が・・・・・・。人の血で書けばきっと」

 何を言っているのか意味はわからないが身の危険はわかる。

佐天「いやっ」

 必死に暴れ、何とか拘束から抜け出す。男はうすら笑いを浮かべながら佐天を追った。しかし、すぐさま壁に追い込まれた佐天は混乱した頭で男を見つめる。

佐天「はぁ、はぁ。なんで・・・・・・。こんな」

男「フフッ。さぁ、命を、血を、俺のために」

佐天「うぅ。助けて下さい」

尻もちをついた彼女の眼には涙が。

男「あきらめろよ。ハハッ」

男が手にしたナイフを持ち直す。そして、逆手に持つと佐天の胸に向かって振り下ろした。

佐天「嫌―!」

 その瞬間。

―ピカッ―

 男の描いた魔方陣から光が放出される。光の中から、長い刀を持った群青の侍が姿を現す。第5次聖杯戦争、例外のアサシンとして召喚されたサーヴァントである。

男「やっ、やった。これで俺が―」

―バゴッ―

 男が言い終わらぬ内にアサシンの一撃が男を気絶させた。

アサシン「アサシンのサーヴァント、佐々木小次郎。とりあえず、不審なやつだったのでな、ノしておいたが問題ないかな、主よ」

佐天「はぁ、はぁ。あ、ありがとうございます・・・・・・。あの、今なんて言いました?主?」(風紀委員や警備員じゃない・・・・・・よね。)

アサシン「手に令呪が宿っているだろう。それがマスターの証明だ」

 知らない内に右手に赤い模様が出ていた。

男「うぅ・・・・・・。」

アサシン「しばらくすれば目覚めるか・・・・・・。必要であれば首を切るが?」

佐天「えっ!?だ、駄目ですよ!」

アサシン「ふむ」

 頷くとアサシンはその長い刀を背に背負った。

警備員「おーい。誰かいるのかー?」

路地の先から声が聞こえる。どうやら、警備員のようだ。

佐天「た、助かった…。」

しかし、佐天は今の状況をどう説明すればよいのか分からなかった。変な男に襲われ、地面からまた変な男が出てきて自分を助けてくれた。

アサシン「見られては不味いか・・・・・・。来るやつをどうする?」

佐天「えっ?こ、殺しちゃだめですよ。」

 それも、この男は自分を主と呼び。なんやら訳のわからないことを言っている。でも、その姿はどこか穏やかで、危険な感じは全くなかった。

佐天「あー!もう、ついて来て下さい。」

佐天はアサシンの手を引きながら急いで家に向かった。

―佐天涙子 マンション―

 机に向かいあい、互いに正座して座っている。先ほどから佐天はアサシンにチンプンカンプンな聖杯戦争の説明を聞いていた。証拠として霊体の証明?として消えたり現れたりしてもらったがびっくりする上気配があるのに姿は見えないというのは気持ちが悪いのでやめてもらった。

アサシン「できるだけの説明はしたつもりだが」

佐天「いや、あの。魔術師とか聖杯とかわけわかんなくて、何かの間違いじゃ」

アサシン「この問答も何度もしたはずだ。その手の令呪がマスターの証。間違いなどではないよ。それに、魔術なら使えているではないか?その不思議な箱や火の魔術をな」

佐天「これはテレビとコンロなんですってば!」

目の前の男は自分は侍と名乗り、テレビやコンロなどに驚いていた。なので、佐天は必死にこれらの道具の説明をする羽目になっていた。会話が途切れ。沈黙を何とかしようと佐天が口を開いた。

佐天「そっ、そうだ。ちょっと友達と相談してもいいですか?」

アサシン「・・・・・・好きにしろ」

頭がパンクしそうである。信じてもらえないだろうが友人の声を聞きたくなったのだ。佐天はベランダに出ると携帯を取り出し、友人の番号を押した。

―プルルル、プルルル―

―ガチャ―

佐天「あっ、初春?私だけど・・・・・・」

初春「どうしたんですか?こんな時間に」

佐天「あの、真剣に聞いてほしいんだけど―」

―ヒュン―

 突如佐天の目の前に黒い物体が現れた。

佐天「キャッ!」

 驚いた佐天の手から携帯が落ちる。

アサシン「どうした!」

―プー、プー―

初春「どうしたんですか!佐天さん!佐天さん!」

佐天の前に現れたのはマスターに配布される携帯端末であった。

佐天「何これ・・・・・・?」

佐天は端末を起動させる。そこにはアサシンの言うことを裏付けることが書いてあった。

佐天「本当に・・・・・・。ん!?」

アサシンの言っていることと反対のことが書いてある項目を見つけて佐天は部屋の中に入っていった。落とした携帯のこと、そして初春のことは頭から消えていた。

佐天「あの?」

アサシン「どうした?」

佐天「さっき、これが急に。アサシンさんの言うことと同じことが書いてありました」

アサシン「そうか、信じてもらえるのならそれでいい」

佐天「でも、ちょっと気になるところがあって」

アサシン「ん?」

佐天「サーヴァントはこの時代の知識がインストールされているため。配慮は必要ない。って」

アサシン「いかにも」

佐天「じゃ、じゃあテレビ見て中に人がいる。とか言って切ろうとしたのは・・・・・・」

 アサシンは笑いながら答えた。

アサシン「いやな、そなたが中々からかいがいのある主に見えたので。ちょっとふざけてみたのだ」

佐天「え!?」

アサシン「いや、実に可愛らしい慌てぶりだった」

佐天「なんなんですかぁ。もう」

 何ともふざけた男だ。しかし、嫌な感じはしない。信じられないがこの男が話すことは本当なのだろう。同時に疑問が湧き上がった。

佐天「なんで、私なんでしょう?私、魔術師じゃないです」

アサシン「そなたには魔術師としての素質があった。魔術回路はいくつか潰されていたようであったが、召喚の際にそれも復活した。聖杯はどのような状況であれ、マスターを選択する。お主に望みがあればそれに答えてな」

佐天「望み・・・・・・」

 望み、佐天涙子の望みは明確である。能力者。学園都市に来てからの夢。確かにそのためだったら、どんな辛いことでも耐えて頑張るつもりだった。しかし、そのために殺し合いに参加するなんて。

アサシン「話は変わるが」

佐天「?」

アサシン「泥を落とさなくて良いのか?女が泥まみれなのは感心出来ん。」

 確かに逃げる時に転んで佐天のセーラー服は泥だらけだ。

佐天(いや、男の人がいるのにお風呂は)

 アサシンが正確には人では無いといっても。やはり、年頃の女の子としては恥ずかしい。

佐天「だっ、大丈夫です」

―ピンポーン―

 その時、玄関のチャイムが鳴った。

白井「佐天さん。白井です。いらっしゃいますか?」

佐天「あっ、友達です。待ってて下さい」

 佐天はアサシンに声をかけると玄関の扉を開いた。

―ガチャ―

 白井黒子の目に飛び込んできたのは泥まみれの佐天涙子、その目は先ほど端末の小さい文字を見ていたため、少し充血していた。まぁ、泣いていたように見えなくもない。

―ガシッ―

声を出す間もなく白井は佐天の両肩を掴んだ。

白井「佐天さん!誰に!誰にやられたんですの!」

佐天「へっ?ちょっ、痛いです。白井さん」

―ヒョイ―

アサシン「何やら物騒な声が聞こえたが」

 アサシンの姿を見つけた白井は叫ぶ。

白井「貴様かぁーー!お姉さま!」

佐天「えっ!?」

 扉の陰から御坂美琴が現れた。その手にあるのはコイン。

御坂「どいてなさい!黒子!」

―キンッ―

御坂の指がコインを弾く。

佐天「ちょ、待って!御坂さん!こんなところで超電磁砲なんて撃ったら」

―バシュッ―

 佐天の声などお構いなしに、学園都市の第3位御坂美琴のレールガンがアサシンを襲う。

アサシン「面白い。」

 しかし、アサシンは笑みを浮かべると背中の刀を抜き、そのコインを相殺した。弾いたのではなくコインの推進力、それにともなう空力、それら力の流れを刀一つで打ち消したのだ。剣術においては英霊の中でも随一のこのアサシンならではの技術であった。結果、佐天涙子の部屋は破壊されず。 アサシンは摩擦で小さくなったコインを曲芸のように刀の上に乗せて見せた。

御坂「そんな・・・・・・」

佐天「ストーップ。何?どうしたんですか!?」

―数分後―

佐天「-それで、この人は私の使い魔らしいんですよ。」

 佐天は御坂と白井にことの顛末を説明していた。どうやら、初春は急に電話が切れたのとその前に男の声が聞こえたことで、佐天が何者かに襲われたと勘違いしたらしい。そして、白井と御坂に急いで連絡を入れたらしい。

白井「なるほど」

佐天「分かってくれましたか」

白井「と、いうプレイをこの殿方と楽しんでいたわけですわね」

佐天「どうしてそうなるんですか!」

御坂「黒子、確かに信じられない話だけど」

白井「お姉様は信じるんですの?」

御坂「確かに、話の筋は通ってる。私の電撃も効かなかったし、臨時の休校の理由も説明付くしね。でもびっくりしたわよ、初春さんから「佐天さんが襲われたみたいなんです」って電話もらって急いで来たんだから」

佐天「…すいません。あれっ?そう言えば、初春は?」

―ガチャ―

 息を切らせ、ノートパソコンを片手に初春が部屋に入ってきた。

初春「はぁ、はぁ。遅れました」

佐天「あっ、初春。ごめんね、びっくりさせて」

初春「いや、はぁ。それはさっき白井さんのメールでみたので大丈夫です。あの、白井さんちょっと」

白井「はい?」

―数分後―

奥から白井と初春が出てきた。

白井「はぁ、私も信じますわ」

佐天「急にどうしたんですか?」

初春「家を出る前に風紀委員の緊急メールが来たんです。確認しないわけにはいかなくて」

初春がノートパソコンを見せる。

御坂「何?これ。」

白井「本来は緊急性の高い事件時に風紀委員に送られる特別な連絡ですの。お見せするわけにはいきませんが、要約すると初春、白井は聖杯戦争に協力する場合、一時的に風紀委員の業務を免除する。そう書いてあります」

初春「これは間違いなく風紀委員の本部から送られたものです」

白井「あの、参加なんてしませんよね?佐天さん」

佐天「え!?」

初春「だって、殺し合いですよ。危険すぎます」

佐天「でも」チラ

アサシン「別にかまわん。このようなマスターでは勝てるものも勝てん」

御坂「あんた!何よその言い方。こっちを巻き込んでおいて!」

佐天「いや御坂さん、いいんです。確かに無能力の、弱い私じゃ、結果は目に見えてますよね。もちろん、死ぬのは嫌ですし」

御坂「佐天さん、それじゃあ」

 佐天は正座をし直すと頭を下げた。

佐天「私は、戦えません。すみません」

アサシン「幸いまだサーヴァントは出そろっていない。今、拙者に令呪を使えば。何の問題も無く戦いから退くことができる」

佐天「でも、それって」

アサシン「ただ、思い唱えればいい。自害せよ。とな」

初春「他に方法はないんですか?ほら、令呪を全部使ってアサシンさんは自由に戦うとか」

アサシン「俺は少々例外的なサーヴァントでな、以前はある強力な媒体に縛られ召喚された。その時は門であったが、今回は彼女がそれだ。さらに今回のマスターは魔術師としては未熟だ。結果として契約を破棄したとしても、魔力の繋がりが多少残る。もし、令呪がないとしても魔力を送る存在ならば危険は常に付きまわる」

佐天「・・・・・・」

アサシン「安全な生活に戻りたいのであれば自害させるのが唯一の方法だ。さぁ早くしろ」

白井「そんな、簡単に言うことではありません。佐天さんは中学生なんですよ」

御坂「大丈夫?佐天さん。」

 静かに深呼吸して佐天は答えた。

佐天「大丈夫です。出来ます」

アサシン「では」
 
アサシンはその場に正座すると静かに目を閉じた。沈黙を佐天の言葉が破る。

佐天「あっ、あの。最後にしたいこととか無いですか?お風呂入りたいとか、ご飯食べたいとか。お味噌汁とかならすぐに出来ますけど」

アサシン「何をいまさら。望みなど。・・・・・・いや、あるにはあるか」

佐天「なんですか?」

アサシン「月が見たい」

佐天「えっ?」

アサシン「月を見たいと言った。この街は建物が多く先ほどは隠れて見えなかったのでな」

初春「佐天さん、だったら。あの公園はどうですか?広くて良く見えると思いますよ」

佐天「うん、そうだね。じゃあ、アサシンさん」

白井「佐天さん。私達もお供しますの」

御坂「こんな夜更けに危ないしね」

佐天「…ありがとうございます。でも、私一人で行きます。間違いであっても、私が選ばれて自分で降りるって決めたから。ここから先は私一人でやらなきゃいけないと思うんです。だから、一人で頑張らせて下さい。行きましょう。ついて来てください」

アサシン「あぁ」

―数分後 とある公園―

 佐天とアサシンはとある公園に来ていた。昼間は子供達の遊び場となるが、誰もいないここはまるで森に囲まれた。ダンスホールのようだ。

佐天「どうですか?広くてきれいな公園でしょう」

アサシン「あぁ、人工的な緑だが、生命の息吹を感じる」

佐天「昼間は子供達でにぎわっていますけど、あっ野球道具が忘れてある。あはは」

アサシン「無理に会話をしなくてもよかろう。こんなにも静かで、月の綺麗な夜だ」

佐天「すみません」

アサシン「もういい。さぁ、あまりぐずぐずは出来ない。令呪を通して命じろ」

佐天「はい」

アサシン「いや、その前に一つ勘違いを正しておこうか」

佐天「えっ?」

アサシン「お前がマスターでは勝てないと言ったのは、弱いからではない。魔術師として未熟だからでもない」

佐天「他に理由が?」

アサシン「意志を感じぬからだ。たとえ弱かろうと何かを成そう、何かを変えたいと思っているなら意志が力となって人に宿るものだ。お主にはそれが無い。召喚の際には感じたような気がしたのだがな」

佐天「・・・・・・あの、アサシンさんはここに来る途中、燕を切ろうとしてなんかすごい技が出来たって、教えてくれましたよね。その時、挫折とか絶望とか感じませんでした?何度やっても、上手くいかない、人より努力しているはずなのに他の人はどんどん先に行っちゃう。そんな感情を感じませんでしたか?」

アサシン「さぁ?」

佐天「さぁ?って何かあったでしょう?」

アサシン「無理か、可能か、希望があるか、無いかなど感じてはいなかった。ただ、あの素早い鳥をどうしても切ってみたかった。それだけだ」

佐天「そっか、意思が強いんですね」

アサシン「いや、強い弱いでは無い。他の者よりあきらめが悪かった。それだけだ」

佐天「・・・・・・」

―同刻 佐天マンション―

初春「遅いですね。佐天さん」

白井「まさか、なにかあったんじゃ」

御坂「まぁまぁ、とりあえず、五分ぐらい経ったら連絡してみましょ」

―ピリリリリリリィ―

 端末から強烈な機械音が流れた。

白井「なっ、なんですの?」

 初春は端末をとると画面を見て顔を青白くした。

御坂「どうしたの!?初春さん!!」

初春「こっ、これ…」

 端末にはある文字が浮かんでいた。『全サーヴァント召喚確認 聖杯戦争開始』

御坂「黒子!」

白井「佐天さんのところですね!捕まって下さい」

初春「私も!」

白井「2人は連れて行けません。初春は待っていて下さい」

御坂「大丈夫!すぐ戻るから」

―ヒュン―

 白井と御坂が消え、初春だけが部屋に残された。

―とある公園―

佐天「・・・・・・」

アサシン「何を迷う?日常に戻ると決めたのだろう?急がなければ他のマスターに見つかる。まぁ、話せば戦いにはならないだろうが、面倒は避けるべきだ」

佐天「私には言う資格無いけど貴方と話せて嬉しかったです。」

 佐天が静かに目を閉じると令呪が静かに輝きだす。命令を告げようと口を開こうとしたその瞬間。

?「!!!!!!!!」

 声にもなっていない叫びが公園に響く。

佐天「なっ、何?」

 佐天がアサシンをみると彼は刀を構え真剣な面持ちで公園の奥を見つめている。彼の瞳の先には黒い鎧の騎士が身構えていた。

アサシン「バーサーカーか。間が悪い。令呪の使用は待ってもらおう、奴はこちらの事情を理解出来まい」

バーサーカー「!!!!!!」
 
黒い騎士は目にもとまらぬスピードで公園の隅に移動したかと思うと忘れられていたバットを掴んだ。そして、アサシンに突撃してきた。

アサシン「クッ」

 突如、佐天の目の前でアサシンとバーサーカーの戦いが始まる。英霊同士の殺し合い、佐天涙子の足は直立不動で動こうとしない。しかし、佐天は彼らの戦いが美しいもののように思えた。バーサーカーのほうが攻撃の速度、威力、どちらも高いことはわかる。しかしアサシンはその攻撃を技術で受け流すことでうまくいなしていた。その姿はまるで美しい舞のようである。

バーサーカー「!!!!!」

 紙一重で攻撃をかわすアサシンに業を煮やしたのか、バーサーカーの攻撃が激しくなる。

アサシン「っ!?」

 たまらず距離を置くアサシンだがその行動が失策であることにすぐさま気がつく。アサシンとバーサーカーの距離が離れ、バーサーカーの攻撃対象は立ち尽くす佐天に向けられた。

アサシン「しまった!!」

バーサーカー「!!!!!」

 バーサーカーは宝具と化したバットを振りかぶる。と、突然動きが止まった。

御坂「オリャー!!」

 動きの止まったバーサーカーに御坂の超電磁砲が炸裂しその周囲に土煙が巻き起こる。

―ヒュン―

白井「佐天さん!」

 白井は佐天の右手を掴むと瞬時にテレポートした。

―モクモク―

 土煙が晴れると傷一つついてないバーサーカーが現れる。片手で攻撃を弾いたのだ。

御坂「さすがに無傷ってのはショックね」

アサシン「いや、助かった。主をあのような形で失うのはさすがに悔やむところだ」

 いつしかテレポートした白井と佐天の横にアサシンと御坂が立っていた。

アサシン「ちょうど、良かったではないか。これで、俺は最後に戦うことができる。令呪を使い自害させる必要はないわけだ。ここで逃げれば敵は追っては来まい」

御坂「・・・・・・」

白井「・・・・・・」

 沈黙を破ったのは佐天のはっきりとした声だった。

佐天「いやです」

アサシン「は?」

佐天「アサシンさんを置いて逃げて。それで、明日から普通の日常なんて送れる訳がありません」

アサシン「死にたいのか?」

佐天「死にたくもありません。大体、考えがネガティブなんですよ。私たちが最後まで勝ち残るかもしれないじゃないですか!」

アサシン「ふふっ。どうした?まるで可愛らしい蝶が凶暴な蟷螂になったようだ。しかし、まさしく命の危機だ。あちらはサーヴァント単騎。お前たちを守りつつ戦うのは不可能に近い」

御坂「あのサーヴァント、鎧着てるけどその刀で切れるの?」

アサシン「鎧の隙間を狙えば問題ない。それに鎧を切ることも無理ではない」

御坂「黒子、テレポートは出来る?」

白井「あと、一回が限度かと」

御坂「私と黒子で隙をつくる。そこを狙いなさい」

佐天「御坂さん」

白井「無理だったら、みんなで逃げることにしましょう」

佐天「白井さん」

アサシン「決めたのであれば。行くぞ!」

バーサーカー「!!!!!!!!!」

 動き出したバーサーカーの目が佐天たちをとらえる。

白井「行きます!」

―ヒュン―

白井が御坂をバーサーカーの背後に飛ばす。

御坂「直接攻撃が効かないなら…。」

―パンッ―

―グワン―

 御坂が大地に手をつくと砂鉄が巨大なうねりとなって。バーサーカーを襲う。

バーサーカー「!!!!!!!!!!」

 バーサーカーは煙を払うように砂鉄を弾いていくが砂鉄はすぐさま形を取り戻しバーサーカーへの攻撃をやめない。

アサシン「上出来だ」

―シュタ―

 アサシンが気配を消し、バーサーカーを襲った。

―バン!―

 しかし、バーサーカーは大地に向かいバットを振り下ろし、衝撃で御坂を弾くとアサシンの攻撃をいとも簡単に受け止めた。

アサシン「ふっ、やはり簡単には獲らせてくれんか」

 再び打ち合いが始まるがそれも長くは続かない、未熟な魔術師がマスターのアサシンの体力は限界を迎えていた。

アサシン「グッ・・・・・・」

 バーサーカーとアサシンの鍔迫り合い。力の強いバーサーカーが有利なのは言うまでも無い。アサシンの不利は明らか。このままでは、バーサーカーの一閃がアサシンを両断するだろう。

 佐天は拳を握り締めながら戦いを見守る。そして、自分の無力を噛み締める。先程は偉そうなことを言っておいて自分は何もしていない。白井のようなサポートも、御坂のような攻撃も自分にはできないのだ。自分にあるのは・・・・・・。

佐天「そ、そうだ令呪」

 マスターの証である令呪は三回の命令を可能にする。そして命令だけでなく英霊を強化できるというものだったはずだ。

佐天「でも・・・・・・」

 どう願えばいいのだろうか。一時的な強化しかできないとアサシンは言っていた。ゲームなら攻撃力アップとか防御力アップとかあるがどう望むのか?

アサシン「クッ」

悩んでいる場合ではない。そんな時、佐天の脳裏に浮かんだのはこの公園に来る前にアサシンと話した技だった。アサシンの真名は佐々木小次郎。正確には名前を借りただけのただの男ということだが。佐天はそこのところの説明は分からなかった。ただ、一つ分かったことがある。

 この男は、とても努力家なのだ。

いや、努力家というのは言葉が足りない。笑いながら燕を切ろうとし続けたおかげで剣撃を三つ一度に出せるようになったと語る男の横顔は何とも自信に溢れていた。

佐天「小次郎さん!!」

 佐天は自然に名前を呼んでいた。

佐天「あの技です!」

佐天の声とともに右手の令呪が輝く。そして、アサシンの体から突然力がわきあがってきた。

―キンッ―

 アサシンはバーサーカーの手からバットを弾き飛ばす。

アサシン「秘剣―――燕返し」

 アサシンの刀が3通りの軌跡を描く、秘剣・燕返し。空間をゆがめ、同時に剣撃を叩きこむこの技を横に避けることは不可能である。

バーサーカー「!!!!!!」

バーサーカーが衝撃で後ろに飛ばされる。

御坂「やった」

アサシン「いや、まだだ。とっさに後ろに避けた。芸達者なバーサーカーもいたものだ。しかし、ダメージはあるはず。それにもうあいつの武器は無い。追い込めば」

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 しかし、バーサーカーの手には武器が握られていた。それも、バットのようなまがい物では無く、彼の真の武器。魔剣「無毀なる湖光(アロンダイト)」。

「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 その場にいる誰もがバーサーカーが強化されたことを感じた。絶望がそこにはあった。

バーサーカー「」

 しかし、バーサーカーは攻撃を開始しようとはしなかった。それどころか、黒い霧に包まれたかと思えば、突如消えたのである。

アサシン「意味は分からぬが、逃げたようだ。あのバーサーカーを退かせることができるとは、マスターは優秀な魔術師のようだな」

 安堵からか、恐怖からか公園に沈黙が訪れた。それを破ったのは心配で駆けつけた初春である。

初春「はぁ、はぁ。だっ、大丈夫なんですか」

白井「え、ええ。けが人はいませんよ。初春」

御坂「全員死んでもおかしくなかったけどね」

 アサシンは佐天と向き合う。そしてまっすぐ佐天を見つめた。それに返すように佐天もアサシンの目を正面から見つめた。

アサシン「落ち着いたところで、先ほどの発言の真意を聞こうか?主どの」

佐天「私は、この戦いから逃げません」

アサシン「では、参加するのか?殺し合いだぞ」

佐天「もちろん、聖杯戦争で死にたくもないし、人も殺したくありません」

アサシン「では、サーヴァントだけ狙うと?甘いことだ」

佐天「甘くてもやります」

アサシン「では、戦うのであれば聖杯に何を望む?」

佐天「何も望みません。能力を聖杯に望むとかは違うと思うし」

アサシン「バーサーカーの狂気にでもあてられたか」

佐天「ふっきれた。それだけかもしれません。私はもう片足を突っ込んじゃいました。ここで、何も見なかったことになんかできません。それとも、私がマスターじゃ不服ですか?」

 アサシンは突然笑い出した。

アサシン「フハハ。いや、不安はあるが、不快ではない。痛快だ。このようなマスターに仕えることが出来るのであれば、戦いも楽しめるというもの。今までの非礼を詫びよう。私はそなたの使い魔なれば、貴方の思うがままに」

 アサシンは静かに頭を下げた。

御坂「まぁ、なんかこんな感じになる気はしてたんだけどね」

白井「…はぁ、初春。白井黒子は聖杯戦争に参加するため、風紀委員を休業する。とメールを返信して貰えますか?」

初春「はい!初春飾利と白井黒子が休業ですね」

佐天「いいんですか?危険ですよ。巻き込む訳には」

白井「ここまで来てそんな、言葉は不要ですの」

初春「みんなで協力すれば、きっと勝ち残れますよ」

御坂「毒を食わば皿まで。ってね。なんか、楽しめそうだしね」

佐天「みんな・・・・・・」

 こうして、かつて最高の魔術師に召喚されたアサシンは魔術師とは到底呼ぶことのできない少女をマスターとして、聖杯戦争を戦うこととなった。

―早朝 セイバー陣営―

 時間は4時、まだ日も出ていない。しかし、鎧姿のセイバーはインデックス起こそうとしていた。

セイバー「インデックス、インデックス」

インデックス「ん、せいばー?まだ暗いんだよ・・・・・・」

 静かに、それでいてはっきりセイバーは言った。

セイバー「敵です」

インデックス「!?」

 インデックスの表情が強張る。しかし、その瞳に恐怖は無い。昨日聖杯戦争の開始の合図は受けていた。覚悟は出来ている。

インデックス「状況はどうなっているの?」

 インデックスは修道服に着替えながら尋ねた。

セイバー「はい、この建物の前の道路からサーヴァントの気配がします。移動するでもなく、おそらくこちらを誘っているのではないかと」

インデックス「こんな早くしかけてくるなんて。せいばーの意見を聞かせて欲しいんだよ」

セイバー「何かの罠の可能性もありますが、ここは打って出るべきです。このまま持久戦になればこちらは不利になります。それに外に出てしまえば最悪、あなたを抱えて離脱することも可能です」

インデックス「うん、せいばーを信頼するんだよ」

セイバー「では、行きましょう。インデックス」

 セイバーとインデックスは部屋を出た。

―マンション前―

 日がわずかに出始め、朝霧が立ち込めている。静かにインデックスとセイバーは歩みを進めた。

インデックス「・・・・・・誰もいないんだよ」

セイバー「いえ、間違いなくこの近くに居ます。姿をくらましています。だとしたら、相手はアサシンか、そうでなければ―。インデックス!」

突如インデックスめがけ火の玉が襲った。

インデックス「えっ?」

―ザシュ―

 しかし、セイバーの不可視の剣によってその火の玉はかき消された。

セイバー「やはり、貴様か!キャスター!」

 火の玉が飛んできた方にセイバーが声をかけると。霧の中から紫のローブに身を包んだ面妖な女性が姿を現した。

キャスター「フフッ、随分なご挨拶ね。久しぶりに会ったのに」

インデックス「せいばー?」

セイバー「インデックス、私のそばを離れないようにして下さい。この女は第5次聖杯戦争でキャスターのクラスで召喚されたサーヴァント。最悪の魔女です」

キャスター「あら、今回のマスターは可愛らしいのね。殺すのは勿体ないかしら」

セイバー「戯言はそれまでだ、それにこの聖杯戦争、最初に敗退するのは貴様だ」

キャスター「だったら、早くかかってらっしゃいな。騎士王さま」

セイバー「グッ・・・・・・」

 セイバーとキャスターの距離は約10m。セイバーであれば一足跳びで斬りかかれる距離である。しかし、セイバーはそれをしなかった。いや、出来なかった。相手は戦闘力では劣るものの、様々な魔術を極めた魔術師である。自分が主から離れた瞬間何をされるか分からない。宝具を使用しようとも周囲は人の住居が多くあり使用は不可能。セイバーは完全に手詰まりになっていた。

キャスター「フフッ」

 キャスターはそれを見通したように笑うと、予想だにしないことを話し出した。

キャスター「ランサーは第4次の色男、アーチャーは第4次の英雄王、ライダーは第5次の蛇女、バーサーカーは第4次の黒騎士、そしてアサシンは第5次で私が召喚した侍よ」

セイバー「何のつもりだ?」

キャスター「あら?あいさつ代わりにサーヴァントの情報を教えてあげたのだけど、不満なの?」

セイバー「貴様の情報など信じるとでも思っているのか」

キャスター「信頼ないのねぇ。じゃあ、また会いましょう。セイバー、そして可愛いマスターさん」

 キャスターは次の瞬間、霧の奥に消えていった。セイバーは構えていた剣を下ろすと息をついた。

セイバー「・・・・・・どうやら逃げたようです」

インデックス「ふぅ、でもあの人-」

セイバー「あの女は奇策、策略に長けています。あの情報も、信頼できませんし、私達に他のサーヴァントを倒させて自身が漁夫の利を得ようとしているのかもしれません。油断は禁物です」

インデックス「うん、とりあえずお疲れ様せいばー。ご飯にするんだよ」

セイバー「えぇ」

インデックスとセイバーは踵を返すと部屋に戻った。

―学園都市 某所―

 学園都市、某所空気が淀んだかと思うとこの地の主であるキャスターが現れた。キャスターは目の前に長身の男がいることを確認すると頬笑みながら話しかけた。

キャスター「あら、朝も早いというのにもう起きてらしたの。マスター」

 億劫そうに長身の男、ステイル=マグヌスが答えた。正確には早く起きたのではなく、キャスターが出かけてから心配で一睡もできていない。

ステイル「どうして、セイバーのマスターをインデックスを攻撃した。命令は『他のマスターにばれることなく情報をセイバー陣営に流せ』だったはずだ」

キャスター「あら、命令通りに他のマスターの情報を教えたわよ」

ステイル「なぜ、攻撃を加えた?」

キャスター「ふぅ、あの場には他のマスターの使い魔もいたのよ。さらに、あのセイバー達に私達が協力しようとしていることもばれたら駄目なんでしょ。だから、カモフラージュよ」

ステイル「今後、いかなる場合でも攻撃はするな。もし、攻撃すれば-」

キャスター「令呪をもって私の自害を命ずる。でしょ」

ステイル「その通りだ」

 ステイル=マグヌスがキャスターを召喚したのは昨日の夜。令呪が現れてから最後まで彼はマスターになることをためらっていた。マスターとなることはすなわちインデックスの敵となること、最初は辞退を考えていたのだがマスターとなればインデックスの援助も可能と考えたのだ。

キャスター「まぁ、私は聖杯にも興味は無いし、戦いも好きではないんだけどね。せっかく、だから楽しませていただきましょう。ふふっ」

ステイル「勝手は許さない」

キャスター「えぇ。マスター。では、私は他の陣営の偵察に」

 キャスターは黒い霧と共に消えた。

ステイル「ふぅ」

 キャスターがいなくなったことを確認するとステイルは息をついた。キャスターはサポートなどには最適なサーヴァントと言える。しかし、あの魔女は前回の聖杯戦争にて主を裏切った経歴もある危険人物である。心を許すことは出来ない。ステイルは不安を抱きつつ眠りについた。

―ランサー陣営 アイテムアジト―

 アジトでアイテムの面々は今後の方針を決めていた。

麦野「へぇ、じゃあもう一回」

ランサー「はい」―すぅ―

 ランサーはゆっくりとその姿を消していった。

麦野「OK、戻って」

ランサー「はい」―スッ―

絹旗「本当に超すごいですね。消えたり出たり」

ランサー「霊体と実体化を状況によって使い分けるのが聖杯戦争の基本的な戦い方です。ただ・・・・・・」

浜面「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

滝壺「はまづらが・・・・・・」

絹旗「超、死にそうですね」

ランサー「霊体から実体化をする際に使用する魔力は浜面様に大きな負担になるようです。本来なら霊体の時の方が魔力の消費は抑えられるのですが、今回はどうやらそのシステムが変わったようでして」

麦野「実体化していた方が結果的には安定しているって訳?目立つわね」

ランサー「申し訳ありません」

麦野「まぁ、別にあんたのせいじゃないんだから」

絹旗「そうですよ、気にしちゃダメですよ」

滝壺「元はと言えばはまづらがへなちょこだから・・・・・・」

浜面(滝壺のキャラがいつもと違う・・・・・・)

麦野「じゃあ、こっちから打って出るのは難しいって訳?」

ランサー「はい、戦闘はできるだけ少ない方が良いと思います。ただ、魔術に対する防衛戦を私は作ることができません。後手に回るのも危険です」

麦野「ハンパってことか・・・・・・」

浜面「あ、そうだ」

絹旗「そうですね、どうしましょう?」

浜面「あのさ」

滝壺「らんさーはどう思う?」

浜面「無視しないで!リーダーでマスターの俺にいい考えがある!」

ランサー「私の考えですか?そうですねぇ」

浜面「ランサーぁぁぁ!お前もかぁぁぁ!」

ランサー「いえ、すみません。あまりにあなた達の仲が良いものですから。つい」

 ランサーは穏やかに笑った。浜面は少しバツの悪そうに頭をかいた。

浜面「まぁ、悪いとは思ってるんだぜ。前のご主人様は立派なマスターだったんだろ?」

ランサー「優秀な、魔術師でした。彼は、自らの地位と名誉のために聖杯を求めました。ただ、その中で多くのものを失っていきました。名誉を求め全てを失ったのです。・・・・・・私は何もできなかった」

浜面「ランサー・・・・・・」

ランサー「だからこそ、またこのように戦う機会を与えられたのです。主のため、皆さんの目的、夢のために何としても聖杯を手に入れてご覧に入れます」

麦野「夢とかそんな綺麗なもんじゃ無いよ。言ったでしょ?聖杯で生き返らせようとしている奴、そいつは、私が・・・・・・」

ランサー「それでもですよ、麦野殿。私は浜面様の、そしてアイテムの下僕なれば、どうようなことをしてでも聖杯をあなたたちに」

 ランサーのサーヴァント。ディルムット・オディナ。第四次聖杯戦争で騎士として誇りのために戦った男は、今は誇りを捨て、どのような手を使っても勝ち抜こうとしていた。それは第四次聖杯戦争における戦いの結果が残酷だったためか。それとも、仲間を生き返らせようとするアイテムのことを思ってのことかは誰にも、ランサー自身にもわからないことだった。

浜面「とりあえず、聞いてくれよ。いい考えなんだ」

麦野「自信満々ね」

絹旗「大したことのない作戦だったら超怒りますよ」

滝壺「うん」

浜面(滝壺・・・・・・)

浜面「あぁ、その前にランサー」

ランサー「はい、なんでしょう?」

浜面「さっき、自分のこと下僕とか言ってたけど、そんな言い方すんなよ」

ランサー「しかし、私はサーヴァント。浜面様の使い魔のようなもので」

浜面「たしかに、この聖杯戦争中だけしか一緒にいないし、一番新入りだからお前が一番下っ端だけどな」

麦野「浜面が一番弱いけどね」

絹旗「超弱いですね」

滝壺「大丈夫、弱いはまづらでも私は応援する」

浜面「話の腰を折るなって」

ランサー「・・・・・・」

浜面「でも、お前はアイテムの仲間だろうが。使い魔じゃなくてよ」

 ランサーは驚きの表情の後、優しく笑いながら頭を下げる。

ランサー「ありがたき、もったいないお言葉です。ありがとうございます」

麦野「ほら、もう始まってるんだから。作戦があるんだったらとっと言いなさいよ。敵が襲ってきたら困るでしょうが」

浜面「わかったよ。いいか――」

―アサシン陣営 学園都市 廃ビル―

 学園都市、某所。とある廃ビルの一室にアサシン陣営は集まっていた。廃ビルとは言ってもすでにその部屋にはパソコン、無数のモニターなど各種機材が運び込まれておりちょっとした秘密基地だ。

 アサシン陣営も状況としてはランサー陣営と同じく佐天の魔力の関係から何回も戦闘ができる状況ではなかった。しかし、ランサー陣営と異なるのはその目的である。

初春「何か悪いことしているみたいですね」

白井「まぁ、不法侵入ですけど。異常事態ということで許してもらいましょう。初春、状況は?」

初春「電源も確保しましたし問題なしです。防犯カメラの映像も来ましたから、御坂さんも戻ってくると思います」

 初春が言い終わったのと同時に御坂が部屋に入ってきた。

御坂「カメラの角度とかどう?」

初春「OKですよ。これで防犯は完璧ですね」

御坂「サーヴァントとやらには効かないらしいけどね。じゃあ後は」

白井「あの二人ですね」

 三人が見つめる先には地べたに座るアサシンとその前に仁王立ちする佐天の姿があった。

佐天「ですから、私ができるだけ側にいたほうが魔力の供給がスムーズだったら、できるだけ近くにいたほうがいいじゃないですか!」

アサシン「魔力の供給についてはその通りだ。しかしな」

佐天「しかし?」

アサシン「お荷物を抱えながら戦うのに比べれば。少ない魔力供給で戦う方がまだマシというもの」

佐天「お荷物って!私をマスターとして認めると言ったじゃないですか!」

アサシン「マスターとして認めてはいる。しかし、それと共に戦うのは別だ。今回は自由に戦える。その邪魔は何者にもさせん」

佐天「そんな・・・・・・」

 二人の会話に御坂が割り込む。

御坂「何?結局、平行線のまま?」

佐天「だって、御坂さん。私だって覚悟をちゃんとしたのに・・・・・・」

御坂「それだったら、あいだを取れば?敵のマスターの動きを私と黒子が監視してアサシンが敵のサーヴァントを抑える」

佐天「私は?」

御坂「地下とかで隠れつつアサシンに魔力を送る。敵の動きはカメラか何かを仕込んで確認。令呪もそれで使えるでしょ?」

佐天「それしかないんですかね」

御坂「希望的な推測だけどそれがベストでしょ?後は出たとこ勝負よ」

佐天「じゃあ、それでいいですか?」

アサシン「戦法はそれでいいさ、欲を言うのであれば戦いは任せてもらいたい」

佐天「わかりました。それじゃあ、今日はこれで解散。休むことにしましょう」

アサシン「あぁ、休む前にお願いが二つほどあるのだが」

佐天「なんですか?」

アサシン「アサシン。と呼ぶのをやめてもらいたい。名が知られても構わないのだ。バレて困ることも無いのでな。それならば、真名で呼ばれた方がいい」

初春「まぁ、アサシンって感じじゃないですもんね」

白井「どうみても、サムライって感じですからねぇ」

佐天「じゃあ、今度から小次郎さんって呼びますね」

御坂「令呪の時そう叫んでたしね」

佐天「後、一つは?」

アサシン「筋力を今から付けようとするのはあまり利口ではないな。疲れるだけだ」

佐天「・・・・・・やっぱり意味ないですか?」

御坂「私達が準備している時に筋トレしてたの?」

初春「どおりで姿が見えないと思いましたよ」

白井「しっかり休んでくださいと言ったのに」

佐天「だって、いてもたってもいられなくて」

アサシン「焦ることはない。だが、鍛錬をするならマスターらしく魔術の鍛錬を行うべきだな」

佐天「でも、私どうやればいいのかわからないし」

アサシン「詳しいことは知らぬがな、魔術回路というものが体内にある。それをイメージして体を動かすといい。少なくとも筋トレよりはな」

佐天「意味、あるんですかね」

アサシン「やる価値はあろう。コツを掴めば、魔術師として大成する器を持っているかもしれぬのだからな」

佐天「本当ですか?」

アサシン「あぁ、そのためにもしっかり休むことだ」

佐天「はい・・・・・・。じゃあ、先に顔と歯を磨いてきますね」

 佐天は部屋を出て行った。

御坂「ふぅ、うまく言ってくれて助かったわ。アサシ、じゃなくて小次郎さん」

白井「ちょっと焦っている感じでしたからね。ああでも言わないと夜中に何かトレーニングでも始めそうでしたし」

初春「サーヴァントの小次郎さんから言ってくれたのなら大丈夫ですよね」

アサシン「ふむ、しかしお前たちの言い方だと俺が嘘をついているように感じるが?」

初春「じゃあ、本当に佐天さんに魔術師の才能があるんですか?」

御坂「その魔術回路とやらで魔法が使えるようになるってこと?」

アサシン「魔術だ。まぁ、不可能だろうな。どんなに才能があろうと昨日今日で成果が出るほど甘いものではない」

白井「まぁ、そうですわよね」

アサシン「見張りは任せて、もう休め」

初春「そうですね、準備で疲れました」

白井「では、お言葉に甘えて」

御坂「じゃあ、後はよろしくね」

 三人が部屋から出てからアサシンは周囲を警戒しつつ月を眺めながら昨夜の戦闘を思い返す。魔術師として回路が目覚めたばかりの少女があれほどの戦闘を乗り越え、令呪さえ使って見せた。褒めるのもおかしいので、あえて何も言わなかったものの、並のことではないなのだ。

アサシン「才能があるのは嘘ではないのだがな。何よりみていてあれほど面白い主に巡り会えるとはな。くくっ」

 アサシンは静かに笑いながら。次の戦いを待ちわびる。

―学園都市 倉庫―

オリアナ「ふぅ」

 オリアナは持っていたスーツケースを地面に置き一息ついた。ここは学園都市の使われていない倉庫である。最も、今この倉庫の中には聖杯戦争のためにリドビィアが用意した道具で溢れている。

最初この光景をみたオリアナは驚きと同時にリドビィアが本気であると肌で感じたのだった。一体いくらかかったのか想像すらできない。数々の武器、それだけでなく自動車に小型戦闘機のようなものまである。さらに自分が先程受け取ったスーツケース。

 学園都市ならではの最新の武器を眺めながらオリアナはこれらをあのバーサーカーが装備して戦う姿を想像した。

オリアナ「ふふっ。確かに、最強のサーヴァントかもしれないわね」

 リドビィアはこのバーサーカー、ランスロットを召喚するためにわざわざ、彼の伝説の残る湖まで飛んで召喚をさせた。さらに、どうやったのかバーサーカーとの契約を書き換えることで魔力の消費を自分と彼女の二人で行うことにしたのだ。これにより、自分は魔力を危険なほど取られる心配はなくなり。制御に集中できる。

 アサシンとの戦闘で制御には自信が持てた。「無毀なる湖光」の使用は制御と魔力消費の関係から多様はできないがそれは問題ないだろう。アサシンを倒しておかなかったことは惜しい気もしたが、あの時は制御と他のマスターの動きの牽制を優先させた。何よりあのアサシンとマスターが相手であれば、勝つのは難しいこととではない。そう、マスターを殺さずにサーヴァントだけを倒して終わりにできる。

 オリアナは倉庫の扉を開ける。外には夜の暗闇。僅かに日が出てきていた。

オリアナ「さぁ、獲物を探しましょう」

 オリアナは独り言を言うと街を歩き出した。

―学園都市 歩道―

 学園都市を二人の男が歩いていた。その姿にすれ違う人々は道を開け、遠巻きに眺めるのだ。

理由は二つ、一つは先頭を歩く金髪の男が纏う空気が目立っていたから。金色のアクセサリーに明らかに高価な衣類に身を包み、何ともつまらなそうに歩くその男には人の目を引く何かがあった。

 そして、二つ目にその後ろを見るからにイライラしているという態度で歩く男の存在だ。学園都市第一位、一方通行は買い物袋を抱えながらギルガメッシュの後ろを歩いていた。

ギル「次はあの店に入る。着いてくるがいい」

一方通行「ちぃ・・・・・・。わかりましたァ」

ギル「一方通行。我は同じ忠告を重ねるほど暇ではない」

一方通行「はいはい、王様の仰るとおりですゥ。敬語のできないわたくしめを許してくださいィ」

ギル「まぁ、許容範囲か。まぁいい」

 一方通行はギルガメッシュの背中を睨みながらも、ため息をついた。土御門から頼まれたこの男のお守りはいつまで続くのだろうか。

最初はある要人の護衛ということで話を聞いた。どうして自分がと文句を言おうと思ったが土御門の口調と口ぶりの真剣さから渋々引き受けた。

 しかし、蓋を開けてみればその要人とやらはこの世界における最古の英雄だというのだからふざけている。それも自分の仕事は護衛ではなく買い物に付き合うことだというのだ。

ギル「ふむ、このレベルなら使ってやってもいい。一方通行、支払いを」

一方通行「はいィ」

 一方通行は怖がる店員に支払いをしつつ最初にギルガメッシュとあった時のことを思い出していた。

一方通行「ア”ア”ア”ァ”ァ”ァ”」

 一方通行は自分の身に起こったことを理解するのに時間が必要だった。最も、理解の前に強烈な痛みが右足を襲った訳であるが。

 護衛という言葉を聞いて目の前の男は笑ったのだ。そして、自分を罵倒すると着いてくるがいい。と言い残し先を歩き出した。それが、一方通行の誇りに大きな傷をつけた。こちらに振り向かせるために道端の小石を拾うとベクトル操作で男のイヤリングを狙った。次の瞬間、一方通行の目に映ったのは冷酷な男の目と自分に飛んでくる刃だった。

ギル「魔力を提供している魔術師ですらない。雑種以下の己の立場をわきまえよ」

 今のは何だ?一方通行が分かるのは先ほどの攻撃は自分が反射できない規格外、未経験のものであったということだ。

ギル「しかし、お前を許そう。あの、元春の推薦する男だ。楽しめるかもしれんのでな。だが、弓を引く相手は選ぶことだ。飲むがいい」

 ギルガメッシュの手には黄金の盃。中には何やら液体が入っている。

ギル「本来なら貴様には勿体無い物だ。特別に許可する」

一方通行「チィィ」

 その手を払おうとしたがギルガメッシュの目はそれを許さなかった。

 盃を手にすると一気に飲み干す。その効果に一方通行は目を見張った。足の傷が癒えている。しかし、それだけではない。演算能力が戻っている。

一方通行「・・・・・・」

ギル「多くの探求者が求めた秘薬だ。まぁ、効果は我が召喚されている間だけだろうがな。これで杖は必要あるまい。まずは食事をとる。着いてくるがいい」

一方通行「わァったよ」

 一方通行は、目の前の男に恐れを抱くとともに何やら魅力を感じていた。

 店を出るとギルガメッシュが待っていた。今までは先にとっとと歩いて行くのに珍しいことだ。

ギル「ふむ」

一方通行「はぁ、今度はどっちに行きますゥ?それとも、また酒と飯ですかァ?」

ギル「いや、そろそろ雑種どもが動き出す頃だろう。つまらん聖杯戦争だが見学ぐらいはしてやらねばな」

 ギルガメッシュは笑うと、歩き出した。

―学園都市 路地裏―

 昼間でさえ暗い学園都市のとある路地を一人の男が歩いていた。二本の槍を両手に携え、ランサーはゆっくりと周囲を警戒しつつ歩みを進める。路地の道幅は狭く、もし戦闘になればランサーは不利な状況。

 しかし、ランサーにそういった不安は無かった。道の先から感じる澄んだ闘気、奇襲を仕掛けてくるとは思えない。そうして、その予想通り、路地を抜けると大きな広場に出た。そしてその中央には一人の男が佇んでいた。

アサシン「待ちわびた。しかし、同時に礼を言うぞ。まさか、誘いに乗ってくるとは」

 アサシンは微笑みながら物干し竿を構える。

ランサー「セイバー。と、言う感じでは無いな。ならば、貴様は暗殺者のサーヴァントといったところか?」

アサシン「いかにも。アサシンのサーヴァント、名を佐々木小次郎。貴様は見ての通りランサーか?双槍の騎士とは珍しい。楽しめそうだ」

ランサー「!?」

 ランサーに衝撃が走る。

ランサー「貴様、真名を・・・・・・。」

アサシン「そう驚くな。何、口が滑っただけのこと。これ以上の語らいは無用。後は、戦いで語るとしよう」

 悪びれずに語るアサシンにランサーは動揺を隠すことができなかった。目の前にいる男は本来隠すべき真名を堂々と名乗った。しかし、ただの馬鹿というわけではない。

 生前もこういった男はいた。誇りや名誉のためでもなく、ただ戦いそのものを望む。とても純粋で、狂気も孕んでいる。そして、戦えばこちらまでその空気に巻き込まれていく。戦いが楽しいとさえ思えるようになる。・・・・・・戦えればだが。

ランサー「ふふっ」

アサシン「何がおかしい?」

ランサー「なんでもない」

 こういった男とはもっと違った形で出会いたかった。心にわだかまりを残しつつランサーは槍を構える。

―数分前 廃ビル―

 学園都市、アサシン陣営が拠点とする廃ビル。佐天、御坂、初春、白井、そしてアサシンはパソコンの画像を見ていた。

御坂「本当にマスターなの?」

佐天「多分・・・・・・」

白井「攻撃して間違いましたじゃ済まされませんからね」

初春「この車ですね。魔術師の人が車で移動ってなんかイメージと違いますけど」

アサシン「根拠を聞こうか?」

佐天「小次郎さんと契約してから、何か体調がおかしいことに気づいたんですよ。熱があるっていうか」

初春「風邪ですか?」

佐天「いや、そういうんじゃなくて。体が芯からあったまってるっていうか。うまく説明できないんだけど」

アサシン「魔術回路が目覚めて体が活性化したのか。未熟があるが上だろうが、この車の中に同様な者が?」

佐天「サーモグラフィーで見てみると体温が高くて、その感じが私と一緒みたいだからもしかしたらと思って」

御坂「運転手のことよね。うーん、強そうな感じはしないけど。どう思う?」

アサシン「どちらにしろ。待つのには飽きてきたところだ。こちらから打って出よう」

白井「街中で襲うつもりですの?それは風紀委員として流石に」

アサシン「殺気を送り、誘いをかけてみる。まぁ、出てくればそれで良し。無理であれば監視を続ければよかろう」

御坂「そうね、じゃあ例の広場に誘い込んで。そこなら邪魔も入らないし、佐天さんの魔力供給も大丈夫でしょう?」

佐天「分かりました」

御坂「それで、黒子は私と一緒に来て」

初春「どうするんですか?」

御坂「相手の動きをこっちが把握しているのに、傍観は勿体無いでしょ。あんたもそれで異議無しでしょ」

アサシン「こちらの邪魔をしないであれば。好きにしろ。では、挨拶に参るとしよう。掛かるのはどんな魚か、楽しみだ」

佐天「あ、連絡しますから通信機は付けてくださいよ」

 佐天は耳に付けるタイプの通信機を手渡す。

アサシン「承知した。しかし、命令に従うかどうかは責任が持てんがな」

白井「そこは聞いてくださいな」

アサシン「ふふっ。昔から戦いの最中は他のことを考えられないのでな」

 アサシンは部屋を出て行く。

御坂「さぁ、こっちも行くわよ。初春さんと佐天さんは、周囲の警戒は続けてね。何かあれば連絡と退去。危険だったらすぐに逃げるのよ」

白井「その手の令呪とやらもケチらず使ってくださいよ」

佐天「はい、でも大丈夫ですよ。二人と小次郎さんを信じていますし」

初春「頑張ってくださいね」

御坂「よし、じゃあ行くわよ。黒子」

白井「はい、ではお掴まりください」

 ―ヒュン―

 御坂と白井が移動を始めると佐天と初春はモニターの確認に移った。ターゲットの車は特に目立った様子もなく移動を続けている。佐天は座りなおすと息をつき画面を見つめた。

―同刻 ランサー陣営 車内―

麦野「で、これが作戦ねぇ」

絹旗「全員で車に乗りこんで移動するだけですけど。超ひねりがないんですけど」

滝壺「・・・・・・」

浜面「なんだよ、なんだかんだ言っても、何かあってもすぐ動けるからこの作戦でいこうってなったんだろ」

麦野「まぁ、他に何かいい作戦あるのか?って言われると困るけどね」

滝壺「じゃあ、予定通り」

絹旗「ここら辺をぐるぐる回るとしますか。あれ、どうしました?ランサー?」

ランサー「皆さん、敵です」

 車内の空気が変わる。この瞬間、彼女たちの顔は暗部のそれになる。

麦野「状況は?」

ランサー「この車に闘気を飛ばしてきているようです。こちらが車内にいることは知れているのでしょう」

絹旗「攻撃の気配は?」

ランサー「今のところありません。こちらが出てくるのを待っているようです」

浜面「おい、どうする?うまく裏道行けば止まらずにかなり離れられると思うぞ」

滝壺「あの・・・・・・。むぎの」

麦野「・・・・・・分かってる。ランサー、私と滝壺で敵のマスターを叩く。あんたはその間」

ランサー「敵のサーヴァントを足止めしていれば良いのですね」

絹旗「じゃあ、私と浜面は」

麦野「周囲に警戒しつつ、待っててくれればいい。滝壺の能力で敵の位置はすぐに掴める」

浜面「でも、それじゃあ滝壺が」

滝壺「わたしは大丈夫。むぎのからもマスターの位置が分かったら体晶は使わないようにいわれているし。わたしも力になりたい」

ランサー「では、私はここで降りましょう。相手も痺れを切らす頃です」

浜面「あ、あのさ。ランサー」

ランサー「何か?」

浜面「足止めって言ったけどさ。もし勝てそうだったら相手を倒してしまっても構わないんだぞ。お前だって全力で戦いたいだろ」

ランサー「・・・・・・お気遣い、ありがとうございます。しかし、勝とうとしては不要な隙を作ることになります。何かあれば連絡を、すぐに対応いたします」

 ランサーは車を出ると暗い裏路地に消えていった。浜面はそれを複雑な心境で見送る。

麦野「ほら、私達も。少し行ったところで降ろしてちょうだい」

浜面「了解」

これはアレイスターがウェイバー達に解体された聖杯戦争を復活させたって事?

>>117イメージとしてはそうですね。手を加えて再現した、みたいな感じです。矛盾とかはあると思いますが・・・・・・。

―学園都市 ビル―

 ビルの間を白井と御坂は瞬間移動で進んでいた。目標はランサーのマスターの乗る車。ランサーを降ろして移動を始めたようだがこちらの方が早い、まもなく到着するはずだ。

白井「それで、まずは先制攻撃を?」

御坂「そうね、うまくいけばすぐに決着をつけられるわ」

 ジジッ、通信機の音。御坂と白井に通信が入る。

初春「御坂さん、白井さん。例の車から二名降りて別行動に入りました」

御坂「別行動?」

白井「サーヴァントの援護でしょうか?」

佐天「でも、なんかおかしいんです。壁を抜けてまっすぐこっちに来てるんです」

白井「初春と佐天さんの方向に?壁を抜けるというのは私のように瞬間移動で?」

佐天「違います。防犯カメラで見ましたけど壁に穴を開けてるんです。なんかビームみたいなので」

御坂「ビーム!?ちょっと待って。その二人の顔は見た?」

佐天「顔は見れませんでしたけど。茶髪でロングのスタイルのいい感じの人と、黒髪のジャージ姿の人ですね」

御坂「ッ!?黒子!戻るわよ!初春さん!その二人の現在地教えて!!」

白井「お姉さま!?どうしたんですの?先に敵のマスターを押さえたほうが良いのでは?」

御坂「その二人組。知ってる奴なのよ。多分アジトもバレてるし逃げても居場所があいつらにはわかるのよ。私達が止めないと!」

白井「わ、分かりましたの。初春!距離と方向を教えて下さい」

初春「は、はい!」

御坂「まさか、あいつらが絡んでるだなんて・・・・・・」

白井「お姉さま!五回の瞬間移動で接触します!手を!」

御坂「分かった!」

 御坂は白井の手を握った。そして、もう片方の手にコインを掴む。

―学園都市 廃ビル-

 壁に穴を開けながら麦野と滝壺は進む。アサシンのマスターはすでに補足している。まもなく攻撃範囲に入る。

滝壺「敵に動きは無いよ。むぎの」

麦野「よし、能力はもう使わないで。逃げるそぶりがないんだったら一発で決める」

滝壺「うん。・・・・・・!?」

麦野「どうした?」

滝壺「こっちに、たぶんテレポートで近づいてきている二人組がいる」

麦野「敵の魔術師って奴?だったら、返り討ちに・・・・・・」

滝壺「まじゅつし、じゃない。信じられないけど間違いない。これは第三位」

麦野「超電磁砲!?滝壺!方向は!?」

滝壺「後ろ。むぎの!くる!」

麦野「チィィ!!」

 その瞬間、白井と御坂の姿が空中に現れる。麦野が予測していたのと同じように、御坂もすでにコインを弾いていた。

麦野「超電磁砲!!」 御坂「原子崩し!!」

 光線と超電磁砲が空中でぶつかり合う。煙の中、両者は向かい合う。

麦野「ふぅ、どうしてあんたがここにいんのよ」

御坂「私の友達がマスター。説明はこれで十分よね」

麦野「へぇ。それじゃあ、そのお友達の顔だけは残してやるわね。体は吹っ飛ばすけど」

御坂「させると思ってるの?あんたらは何?暗部の仕事か何か?割に合わないでしょ?おとなしく帰ったら?」

 空気が固まり。両者が一斉に口を開いた。

麦野「・・・・・・滝壺」 御坂「・・・・・・黒子」

麦野「この女」 御坂「この女」

麦野「ここで」 御坂「ここで」

麦野「殺す!」 御坂「倒す!」

 麦野が光線を放ち。御坂が電撃で応戦する。宿命の戦いが始まった。

―同刻 ランサーVSアサシン―

 先程まで激しい打ち合いをしていた両者であったが今は動きが止まっている。浜面から連絡が入りランサーが距離を取ったためだ。

ランサー「状況は分かりました。麦野殿の援護の必要はないのですね」

浜面「あぁ、邪魔したらこっちが殺されるよ。だけど敵のマスターを狙うのは無理みたいだ」

ランサー「分かりました」

浜面「要はお前に頑張ってもらわなきゃいけないんだ。魔力消費とか考えずに全力で頑張ってくれ。信じてるぞ」

ランサー「はい、勝利を必ず」

 通信を終えたランサーにアサシンが語りかける。

アサシン「さて、お話は済んだかな?」

ランサー「律儀に待っていたのか。武士道というものか?」

アサシン「意識はこちらに常に向けていただろう。隙は無かった。あったとしても不意打ちなどつまらん。さて、お互い探り合いに疲れただろう」

ランサー「同感だ。ここからは狙わせてもらう」

アサシン「いいな。やはり戦いはこうでなくては」

ランサー「その前に、騎士の誇りにかけ。私も真名を明かそう」

アサシン「真面目な男だ。しかし、その必要は無いぞ。呪いの黒子の色男」

ランサー「なっ!?」

アサシン「そう驚くな。双槍の騎士というだけで珍しい。そして、お前の戦い方だ。うまくごまかしているが、短槍で確実に傷をつけようとしている。傷の治らぬ呪いの短槍。ふふ、考えれば分かることよ」

ランサー「改めて敬意を示そう。武芸者よ。フィオナ騎士団、ディルムッド・オディナ。参る!」

アサシン「いざ!」

 小細工無しでランサーはアサシンに向かって突進する。対するアサシンは受け立つ構え。ランサーの体が接近し、お互いの制空権が接触する。

アサシン「いくぞ。秘剣-」

 ランサーは燕返しを見ていない。初見であれば、仕留めることができるという確信をアサシンは持っていた。

 しかし、ランサーには迷いがあった。マスターによる魔力の不足の不安。第四次聖杯戦争の記憶。全く意識できないところでランサーの踏み込みはわずかに弱いものになっていた。

 それが、幸いした。

ランサー「!?」

 アサシンの放とうとしている技の危険性にランサーは直感的に反応する。そして、自らの体を強引に仰け反らし必死に回避行動に移る。

アサシン「燕返し!」

 アサシンの燕返しは後ろに退避したランサーの胸をわずかに傷つけることしかできなかった。

アサシン「馬鹿なっ!」

 技が外れたことに衝撃を受けたアサシンに対してランサーはその俊敏性で攻撃に移る。

ランサー「っ!唸れ!黄薔薇!」

 戦いに迷いがあることが勝利につながるとはなんという皮肉。ランサーの黄薔薇はアサシンに向かって突き出される。

 避けることはできない。

気になってる、あるいは注目してふるSSってある?

アサシン「くっ!」

ランサー「なっ!?」

 回避が無理なら受けるまで。それが、アサシンの選択だった。

アサシンは左手でランサーの黄薔薇を掴む。左手は血で染まり左肩には槍が到達していた。

 理解が追いつかないランサーの首に向かって。アサシンの物干し竿が振り下ろされる。

ランサー「・・・・・・どういうつもりだ」

 ランサーの首筋につくか付かぬか寸前のところで刃は止まっていた。

ランサー「情けを・・・・・・かけた、つもりか・・・・・・」

アサシン「そのような、不敬を払うつもりはない。勝負はあった。本来ならばひと思いに振り下ろすのが礼儀」

ランサー「ではなぜ!」

アサシン「どのような形であれ。この勝負を汚されるのは許せん。気配に気がつき自然に腕が止まった」

ランサー「・・・・・・戦いを汚す?」

アサシン「また、うまく気配を消したが。勝負の瞬間は尻尾が見えたぞ。姿を見せろ」

 広場の電灯の上、アサシンとランサーの視線の先に、不愉快な顔をした英雄王、ギルガメッシュが現れた。

ランサー「お前は!」

アサシン「お前も知り合いか。漁夫の利でも狙っていたのか?黄金の王よ」

 ギルガメッシュはその言葉を鼻で笑うと口を開いた。

ギル「戯言はそれまでにしておけ。まともなマスターに選ばれもしない雑種どもが」

ランサー「貴様!我が主に対する暴言は許せん!」

ギル「ふん、命を拾った者の言葉ではないな」

ランサー「くっ・・・・・・」

アサシン「ふん。なるほど、まともに魔力の供給があるので少々鼻が高くなったか。よければその鼻、へし折って差し上げるが」

ギル「強がりは両手で武器を掴めるようになってからだな。雑種」

アサシン「・・・・・・」

ギル「貴様らのどちらが勝とうと興味は無い。王として視察に来ただけだ。勝負が決まれば去るつもりだった。しかし――」

アサシン・ランサー「「・・・・・・」」

ギル「少々無礼を働きすぎたな」

 ギルガメッシュは軽蔑の眼差しでランサーとアサシンを見下すと宝具「王の財宝」を展開する。

ギル「王であるこの我の手で死ねることを光栄に思え」

 ギルガメッシュの背後で顔を出す宝剣、宝槍を見据えつつ身構えるランサーとアサシン。

 その耳に、ほぼ同時に通信が入った。

浜面「ランサー!」佐天「小次郎さん!」

浜面「麦野達が!」佐天「御坂さん達が!」

浜面「ヤバイんだ!」佐天「ピンチなんです」

>>129
他のSSはあまり見てないので特にありませんね。すみません。

―同刻 廃ビル内―

 先程まで、この場では学園都市の最高峰、レベル5による激しい戦闘が行われていた。しかし、現在視線さえも動かせられない。そして、両者の視線の先には不敵に笑う白髪の男、学園都市第一位、一方通行が佇んでいた。

一方通行「よォ。これはこれはァ、第三位と第四位ィ。何やってンだァ?」

御坂「あんた・・・」

麦野「一方通行・・・」

一方通行「なんだァ。三位決定戦かァ?よければ、俺がァ」

 一方通行は両手で部屋の壁に手を付ける。コンクリートが崩れ、塊が一方通行の周囲を浮遊する。

一方通行「審査ァ。してやろうかァ?」

御坂「どういうこと」

麦野「まさかあんたも、聖杯戦争に・・・」

一方通行「あン?俺はただのお守りだァ。そンなゲームに興味はねェ」

御坂「じゃあ、邪魔してんじゃないわよ」

一方通行「だがなァ・・・。こっちは訳のわかンない金ピカに振りわまされていらついてンだよォ!!」

 一方通行の周囲を周回していた。コンクリートの弾丸はその場で回転を始める。

一方通行「お前らも、どこぞのマスターと協力してンだろう?だったら、ここで死ンでも、その覚悟はあンだよなァ!!」

 一方通行の最後の言葉と同時に弾丸は半分に分かれて御坂と麦野に向かって放たれた。

麦野「滝壺!こっち!!」

御坂「黒子!」白井「お姉さま!」

 麦野が弾丸を迎撃し、御坂と白井が瞬間移動で回避する。体制を立て直し両者が一方通行の方向を向くと。一方通行は先程と同様にコンクリートを周囲に浮遊させていた。違うのは数が倍はあるというのとドリルのように加工が施されているという点だ。

滝壺「むぎの・・・・・・」

麦野「あれは、きついわね・・・」

御坂「黒子・・・」

白井「瞬間移動は後二回が限度です・・・・・・」

 両者にあるのは退避の選択だけだった。消耗した現在、一方通行を倒すのは例え四人が協力したところで無理であろう。

 そして、無事に逃げられるかどうか。鍵はサーヴァントにかかっていた。

―同刻―

 通信を終え、状況を理解したランサーはギルガメッシュを睨みつける。

ランサー「王を名乗る者にしては姑息な手段を使うのだな。アーチャー!」

ギルガメッシュ「あの雑種が何かしたのか?問題はあるまい、マスターは狙うなと躾はしてある。それよりも-」

 王の財宝はランサーとアサシンに標準を合わせていた。

ギルガメッシュ「どうやって、美しく消えるか考えたほうが良いのではないか?」

 ランサーとアサシンにはマスターから指示が届いていた。佐天と浜面は同じの指示を自らのサーヴァントに出した。

 つまり、御坂達、麦野達を拾い。安全地帯まで退去しろというものだ。

ギルガメッシュ「せめて散り際で我を興じさせよ」

 ギルガメッシュの言葉が終わると同時に王の財宝から槍と剣の雨がランサーとアサシンを襲う。

ランサー「クッ!」

 ランサーは自らを襲う槍と剣をなんとか弾きながら目の前の壁を壊す。麦野達の場所は把握している。このまま入り組んだ建物を利用すれば、無事に逃げられることであろう。

ふと、振り向く。考えるべきは麦野達を救出する方法のみであった。しかし、ランサーの頭にはわずかに先程まで自分を追い込んでいた侍のことが残っていた。

ランサー「!?」

 アサシンもランサー同様に建物をうまく使用して仲間を助けに行くのだろう。片手でありながら壁を切り抜き入口を作っていた。しかし、そのアサシンに向かって、槍が飛んでいた。ギルガメッシュの攻撃、このままではアサシンの頭部を貫くであろうその槍に向かって。ランサーの体は自らの長槍を投擲していた。

 二本の槍は弾き合い地に落ちる。その場にいた三騎のサーヴァント、すべてが驚く光景だった。それは、敵を守ったランサーにしても同様であった。

ランサー「クッ」

 宝具を一つ失ってはこの聖杯戦争を勝ち抜くのはさらに難しくなった。ランサーは唇を噛み締めると麦野達の元に向かった。


 一方通行はコンクリートの弾丸に回転を加え、殺傷力を増す。

一方通行「オリャァァァ!!」

 そして、咆吼とともに一気に打ち出した。一方通行の能力で音速を超える巨大な弾丸となったコンクリートが麦野と滝壺、御坂と白井を襲う。

―ギンッ!―

 麦野と滝壺が聞いたのは今まで聞いたことの無いコンクリートが切断される音だった。そして目の前には槍を構えたランサーの背中があった。

麦野「ランサー!」

滝壺「らんさー」

ランサー「遅れてしまい申し訳ありません。一時撤退の指示が出ております。私がお二人を運びます。少々我慢を」

麦野「ちっ。わかったわよ」

滝壺「ありがとう。らんさー」


白井「はぁ、はぁ」

御坂「黒子!」

白井「大丈夫・・・ですの」

 先ほどの攻撃を瞬間移動で回避したことによって白井の体力は限界に達していた。

白井「そ、それよりも・・・・・・」

御坂「敵のサーヴァントが無事に到着。つまりこっちは」

白井「負けてしまったんですの・・・。小次郎さん」

 一方通行の攻撃によって通信機がうまく通じなくなり、戦況がわからない御坂と白井に不安が広がる。

アサシン「失礼な奴らだ」

白井「ひっ!幽霊ですの!?」

御坂「いや、元々死んでる。ってあんた!その腕!」

アサシン「あぁ、消えるのが早かったぞ。一つ直撃するところだった」

 アサシンの手に持った物干し竿には、一方通行が弾丸として使ったコンクリートが刺さっていた。御坂たちが瞬間移動した後を狙った時間差の攻撃を一突きで止めたのだ。

 しかし、御坂が言ったのはそちらではない。


御坂「そっちじゃないわよ!片手ボロボロじゃない」

アサシン「ふん、なんでもない。無傷で手に入る勝利に価値などあるまい」

白井「いや、でも・・・・・・」

 アサシンは御坂と白井を無視するとランサーを見る。

ランサー「アサシン・・・。俺は・・・・・・」

アサシン「忘れ物だ!」

 アサシンは背中に背負っていた槍を抜くと、ランサーに向かって投げた。

ランサー「しかし、俺は・・・・・・」

アサシン「この傷と、その槍で貸し借りは無しだ。これ以上何も言うでない。互いに男を下げるぞ」

ランサー「・・・・・・感謝する」

 ランサーは足元に落ちた槍をしまう。

アサシン「しかし、お主も捨てきれん男のようだな。決めることだ。そうでなければ、この世に戻った甲斐がないであろう」

ランサー「・・・・・・」

 
 この光景を見ていた一方通行はつまらなそうに呟く。

一方通行「チッ。つまんねェ。あの金ピカ、偉そうなこと言いやがってェ」

 一方通行は、自分が完全に無視されているこの空気を鼻で笑うと踵を返し、帰っていった。

アサシン「潮時のようだ、ねぐらに帰ることにしよう。疲れているのなら背負ってやるが?」

御坂「私はいいから黒子をお願い」

白井「・・・すみません」

滝壺「らんさー・・・」

麦野「ほら、私達も」

ランサー「・・・はい」

 ランサーとアサシンは背中をお互いに向けると地面を蹴った。戦いに満足したアサシンに対して、ランサーの心にはアサシンの言葉が重くのしかかっていた。


―夕刻 キャスター陣営 学園都市 某所―

 まもなく、日が沈もうとしている。ステイルは体力を回復するためにソファーで
横になっていた。その時、ステイルは声を聞いた。

?「・・・いる。すている」

ステイル「・・・・・・ん」

?「すている。起きて欲しいんだよ」

ステイル「!?インデックス。どうしてここに」

 ステイルの眼前にインデックスの笑顔があった。

インデックス「すているを探してたんだよ。それにしても、タバコの吸殻ばっかりなんだよ」

ステイル「あ、あぁ。済まないね。こればっかはね」

インデックス「イギリスで会った時からそうなんだよ。体に良くないんだよ」

ステイル「あぁ、本当に・・・すま・・・・・・。インデックス、今なんて・・・」


インデックス「契約の時の魔力のせいで記憶が戻ったんだよ。ちゃんと、すているのことを思い出したんだよ」

ステイル「そ、そんな・・・・・・。そんな・・・ことが・・・・・・」

インデックス「すている・・・。ごめんね、すているはずっと私を守ってくれたのに・・・・・・。でもちゃんと思い出したから。本当に・・・ごめんね・・・・・・」

 ステイルは気がつけばインデックスを抱きしめていた。

ステイル「いいんだ。良かった。本当に良かった。インデックス・・・インデックス・・・・・・」

ステイル「・・・・・・」

 ステイル=マグナスは夢を見ていた。それは、自分のことを忘れてしまった少女が自分のことを思い出してくれるという。

 とても、とても悲しい夢だった。


ステイル「ハッ!」

 ステイルは目を覚ます。そこには殺風景な光景。当然、彼女の姿は無い。その代わりに黒衣の魔女が立っていた。

ステイル「キャスター・・・。何かあったか?」

 ステイルの頭は先ほどの夢のせいで混乱していた。偵察を命じていたキャスターがなぜここに居るのか考えが回らない。

キャスター「すみません。お休みのところ。よろしければ、まだ寝ていた方が良いのではないですか?・・・・・・とても、安らかな寝顔でしたわ」

ステイル「ッ!黙れ!報告を!」

キャスター「あらあら、何を怒っているのやら」

 キャスターは不敵に微笑むと。はっきりとした口調で報告する。

キャスター「各陣営に動きが。セイバーも今夜は戦うつもりのようです」


 ステイルに衝撃が走る。

ステイル「場所は!」

キャスター「敵との接触はまだです。街を散策しながら敵を誘う作戦のようです。いかがなさいますか?」

ステイル「まだ彼女たちにこちらの存在を気づかせるわけにはいかない。バレないように接近して何かあればどんな手を使ってもいい。彼女たちを守れ」

キャスター「また、難しいことを・・・・・・。しかし、分かりましたわ。では、私は早速・・・」

 数歩、歩き出すとキャスターは立ち止まるとステイル方向を振り向いた。

キャスター「マスター。あなたが見たのは自らの望みの夢。聖杯になぜ選ばれたのか。考えるべきではないかしら?」

 キャスターの顔には思わせぶりな笑顔が張り付いていた。

ステイル「キャスター!貴様!」

キャスター「遅れてはいけません。私はこれで」

 キャスターは煙のように消えた。

 ステイルはこの瞬間、キャスターに令呪を使うことを決めた。


―学園都市 エツァリ(以降、海原)アジト―

 学園都市、暗い部屋で海原は静かに椅子に座っていた。日は落ちた。そろそろ、戦闘が本格的に始まる。

 海原は今夜サーヴァントに、合流の指示を出していた。敵の襲撃を警戒してのことだが、着前まで情報収集に行かせたのが、まずかったようだ。

 嫌な予感が当たったことを肯定するように。海原にライダーからの通信が入る。

ライダー「光貴、申し訳ありません。敵に見つかりました。現在、攻撃を受けています」

海原「謝る必要はありません。貴女に無茶をさせているのは理解しています。相手は?」

ライダー「バーサーカーです」

海原「バーサーカー・・・・・・。まだマスターも把握できていません。無理に戦闘するのは危険です。・・・・・・ライダー、令呪を使用してあなたをこちらに呼びます。合流し次第、アジトを破棄、一旦退避します」

ライダー「そのことですが、光貴。良ければ、私に戦いの機会をいただけませんか?」

海原「何かありましたか?貴方の性格を考えると、意外なのですが・・・・・・」

ライダー「えぇ、私は騎士のように誇りのために戦いをするつもりもありませんし、戦いを愉悦とする趣味もありません。ですが・・・」

海原「ですが?」

ライダー「ライダーのサーヴァントとして、騎乗の勝負から逃げられるほど、無関心な女でもありませんので」


 ビルの屋上に立つライダー。道路にはバーサーカーがライダーを見上げている。その手には宝具と化したライフルが握られている。さらにバーサーカーの手に触れられることによって宝具となったバイクに跨りライダーの様子を見ていたのだ。

 まさに、騎兵のサーヴァントである彼女を挑発するように。

海原「ふぅ・・・・・・。あなたのおかげで多くの情報を集めてもらいました。ここで、貴方の希望を不意にするのは許されないように思います。いいでしょう、ライダー。ただし、勝って下さい。あなたの仕事はまだ残っています」

ライダー「ありがとうございます。桜ほどではありませんが貴方も良いマスターです。ワカメなどとは比べるまでもない」

海原「褒められていないのはわかります。では、ライダーご武運を」

ライダー「はい」

 ライダーは息をつき、バーサーカーを睨みつける。そして、ビルを駆け下りる。

 バーサーカーもそれに応えるように、バイクに爆音を吐き出させる。

 学園都市を舞台とした騎上の戦いが始まった。

 
着地した、ライダーにバーサーカーが襲いかかる。バイクでライダーとの距離を詰めながら、手に持ったライフルを構えると宝具と化した弾丸がライダーを襲う。

ライダー「ハッ!!」

 ライダーは自身の武器である鉄杭を使い、弾丸を弾きつつバーサーカーを迎え撃つ。ライダーはすでにバーサーカーの宝具を理解していた。手に持ち、武器と解するだけでそれを自身の宝具とすることができる。

バーサーカーのマスターはその有効性を理解した上でバーサーカーに武器を提供しているようだ。実際、バーサーカーの身体能力に遠距離の武器とは最悪だ。さらに攻撃しながらの移動として二輪車まで。

ライダー「なんにせよ、その武器は少々厄介ですね」

 バーサーカーがライダーとの距離を縮める。バーサーカーの突進をライダーは紙一重で躱すと、その一瞬で狙いすましたように鎖でバーサーカーのライフルを絡め取った。

 しかし、ライダーには誤算があった。バーサーカーが騎乗している以上、彼の乗る鉄の馬は乗り物ではなく、ひとつの武器であるということだ。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーはライダーが自分を避けるのを確認すると同時にその足を道路に着ける。いや、足を着けるというのは正しい表現ではない。足を強引にコンクリートに突っ込みバイクの動きを完全に止める。

そして、次の瞬間。バイクを持ち上げると、ライダーに向かってフルスイングした。


ライダー「グッ!」

 ライダーはビルに吹き飛ばされる。とっさに自分を守るために掲げたライフルと鎖は粉砕される。

バーサーカーはバイクに跨り、ビルを見上げる。その時、ライダーによって穴のあいたビルの闇から何かが光る。

 バーサーカーの動きは歴戦の戦いによって培われた直感だった。バイクを反転させると瞬時に移動を開始する。次の瞬間ビルから何かが飛び出ると、バイクのあった場所を通り天空にその姿を現す。バイクがあったコンクリートは黒く焼け焦げ大きく削られていた。

ライダー「よく避けました。しかし、地を這うその宝具ではこの子には届かない」

 自信が召喚した天馬に乗ったライダーは、逃走するバーサーカーを見下ろすと急降下、バーサーカーを襲う。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーは街灯を走りながらむしり取ると、長槍のように構えライダーを迎え撃つ。

 学園都市の夜をバーサーカーの乗るバイクとライダーの天馬が切り裂くように進んでいく。しかし、両者の差は歴然としていた。

ライダー「はぁぁっ!!」

 天馬は横を走るバイクをその体で歩道の先、建物まで押し込む。バイクは音を立てながら、壁と自らの車体を削る。


バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!」

バーサーカーの咆吼とともにバイクは爆散しバーサーカーの体は道路に投げ出される。

ライダー「狂戦士にしては素晴らしい騎乗能力でしたね」

 ライダーは敵に賛辞を送りつつ、再び天空に昇る。

ライダー「しかし、これで終わりです」

 ライダーの手に光り輝く手綱が握られる。

ライダー「騎兵の手綱!!」

 真名の開放。ライダーはその天馬とともに強大な塊となった。バーサーカーの息の根を確実に止める。一撃がバーサーカーを襲う。

 しかし、ライダーは失念していた。この場所はバーサーカーを追った自分が追い込んだ場所ではなく、バーサーカーが自分を誘い込んだ場所であったということに。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!」

 咆吼とともにコンクリートに手を突っ込み何かを引っ張りだす。同時に、ただの道路であったはずの場所に、壁が三つそそり立っていた。

 学園都市には外敵との先頭や様々なトラブルに対応するために、いつか細工を施された建物や地点があった。それの一つがここだった。敵の侵入を抑えるために作られた壁は今、狂戦士の盾となった。

ライダー「クッ!!」


 すでに、避けることはできない。バーサーカーの持つ鎖と壁はつながっているため壁は宝具となっている。しかし-

ライダー「舐めないで・・・・・・」

 静かな言葉と裏腹に、ライダーは全力の魔力でそれに応える。

 一枚目、速度はわずかに落ちる。

 二枚目、速度はさらに落ち、天馬の悲鳴が聞こえる。

 三枚目、今まで一番厚く強大な壁。ライダーと天馬は体を傷つけながら、全力でぶつかる。

 鈍い音がしたと同時に壁に穴が空き、光の塊となったライダーと天馬はバーサーカーを狙う。

 しかし、ライダーが壁を突破できるのを予想していたかのようにバーサーカーは武器を構えていた。その手には漆黒の剣が握られている。

オリアナ「ふふっ」

 この瞬間、オリアナ=トムソンは勝利を確信する。ライダーの魔力は限界、対するバーサーカーは対した消耗も無い。そして、あの武器。リドビィアの用意した最後のとっておき。

スーツケースを持ってきたドレス姿の少女はなんと言っていただろう。オリアナは剣の形をしながら、異質な雰囲気を纏うあれは人が扱えるものではないと感じたものだ。その物体の名は確か・・・・・・。

オリアナ「未現物質,だったかしら」

 学園都市第二位の能力と科学力によって生まれ落ちた魔剣は今、狂戦士の手でその真価を発揮する。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーの咆吼と共に振り下ろされる剣は敵の体を両断した。

 戦いによる煙により見えなくなったサーヴァントの姿が徐々に現れる。

オリアナ「そんな・・・」

 オリアナの目の前には想像だにしない光景が広がる。ライダーの姿が無い。バーサーカーが両断したのは天馬のみであった。

オリアナ「くっ。バーサーカー!追撃を!」

バーサーカー「・・・・・・」

 しかし、バーサーカーは動かない。

オリアナ「何をして・・・。ハッ!」

 オリアナはバーサーカーが動かない理由を理解した。バーサーカーの背後、いつからかあいていたビルの穴。おそらく、回避のためにライダーが飛び込んだであろう。そこからライダーが歩いて出てくる。

 しかし、先ほどとは違い、その体には魔力が溢れていた。そして、その顔、今まで付けていた目隠しは取り払われ。その瞳でバーサーカーを睨みつけていた。


ライダーの耳にマスターである海原光貴の声が聞こえる。

海原「魔力の変移からこちらで判断しました。余計なことだったでしょうか?」

 海原の手には三区間あった令呪が一つなくなっていた。

ライダー「いいえ、光貴。素晴らしいタイミングです」

 ライダーは話をしながら、自らの首に杭を刺す。血は陣を描き。再び、彼女の愛馬を召喚する。

ライダー「狂戦士、そのままお逝きなさい」

 ライダーは構えると魔力を一気に放出する。

ライダー「騎兵の手綱!!!」

 ライダーの宝具が炸裂する。


オリアナ「そんな・・・・・・」

 オリアナは計算外の結果にショックを受けていた。ライダーを決して甘く見ていた訳ではない。それどころか、サーヴァントとしての彼女の能力を理解した上でこちらの情報があちらに渡っていない今が好機と考え戦いを挑んだのだ。

オリアナ「くっ・・・・・・」

 オリアナは爪を噛み、悔しさをにじませた。

海原「・・・・・・。ふぅ」

 ちょうどその時、戦闘が終わり海原は息をついた。そして、口を開く。

海原「・・・申し訳ありません。ライダー。自分の責任です」

 謝罪する海原の手から令呪が消えていった。

 
オリアナの視線の先にはバーサーカーが立っていた。その手には未元物質ではない、彼の真の宝具である「無毀なる湖光」が握られている。それには先程までバーサーカーを追い詰めていたライダーの体が刺さっていた。そして、その姿も徐々に消えていった。

オリアナ「まさか、令呪を・・・。武器まで・・・・・・」

 オリアナの手には令呪が一区間失われていた。

 ライダーが宝具を使用しようとした瞬間、オリアナは令呪を使用しバーサーカーの体を自由にした。そして、バーサーカーはライダーの方向を振り向くとためらうことなく、その手に持っていた剣をライダーに向かって投擲した。その剣はライダーの突進力をわずかに抑えた。

 そして、バーサーカーはその魔力を放出し、その手に魔剣を召喚したのだ。全身の能力が上昇したバーサーカーは迫るライダーを今度は騎乗者であるライダーのみを狙って貫いた。

オリアナ「今夜はこれまでね。本当は余力があれば、あっちの方も狙おうと思ったけど・・・・・・」

 オリアナはバーサーカーを霊体化させると、息をつき。その場を後にする。とりあえず、勝利はした。計画は変更が必要かもしれないが自分の有利は変わりないだろう。今日のところは帰って休むとしよう。オリアナはその場をあとにした。かなり離れた場所で行われている、もうひとつの戦闘に注意を払いながら。


―数分前 学園都市 某所―

 時はライダーとバーサーカーの戦闘が始まる数分前、場所はいくつもの倉庫が並ぶ学園都市の一画。セイバーとランサーが対峙していた。

ランサー「ここならば、邪魔は入らない。さぁ、始めるとしようか」

セイバー「えぇ、望むところです」

 マスターであるインデックスを背に、そう言いながらセイバーは不可視の聖剣を構える。その瞳は迷いなど無く。ただ、真っ直ぐにランサーを見る。

ランサー「あぁ、望むところだ」

 声を張り上げランサーは応える。しかし、そのはっきりとした声とは裏腹に、その心は冷め切っていた。そして、表情には出さないように細心の注意をしながら、心でセイバーに語りかける。前に戦った時と変わりない騎士王の姿に語りかける。
 
偉大なる騎士王よ。誇り高い騎士の中の騎士よ。あなたを、あなたとの戦いを穢そう。

そして、そうすることで自分は全てを捨てる。そして、どんなに穢れようと、汚れようと、彼らの手に聖杯を捧げよう。

 ランサーは地面を蹴った。目的は勝つことではない。殺すことだ。マスターを、殺すことだ。

 
戦いは始まった。しかし、アイテムのメンバーは戦闘が始まった瞬間、移動を開始した。まもなく、ランサーはセイバーを予定のポイントまで誘い込むはずだ。そこで、一気に奇襲をかける。

 無防備であるセイバーのマスターに総攻撃をかける手筈になっていた。麦野と滝壺は攻撃の射程を計算し、予定の位置に付き、息を潜める。

浜面と絹旗は車で待機。離脱しやすくも、いざとなればセイバーのマスターを攻撃できる位置でランサーの戦闘を設置したカメラで見守る。ふと、浜面の口から息が漏れる。

浜面「はぁ・・・」

絹旗「どうしたんですか?超辛気臭い顔して」

浜面「いや・・・これでいいのかと、思ってさ。本当はこんなやり方、あいつしたくないんじゃないかと思ってさ」

絹旗「・・・・・・誰だって、やりたいように出来るわけじゃありません。浜面だって、好きでスキルアウトになった訳じゃないし、私達だって・・・」

浜面「・・・ごめん」

絹旗「それに、この作戦はランサーの希望ですよ。手を抜いたりしたらそれこそ超失礼ですよ」

浜面「・・・そうだったな」

 浜面は、自分に必死に頭を下げるランサーの姿を思い浮かべていた。


 アサシンとの戦闘を終えた一同はアジトに引き返していた。しかし、戦闘によるダメージは思ったほどでもなかった。滝壺と麦野は消耗したものの、少し休めば回復するだろう。
けが人は無く、アサシン陣営には傷を与えた。アーチャーの存在は危険だが初陣としては上々の成果と言えただろう。しかし、ランサーの心は晴れない、特にアサシンの最後の言葉は胸に刺さっていた。

ランサー「捨てろ・・・か」

 ランサーは目を瞑ると頭の中を整理する。自分はなぜ戦うのか。生前の戦い。以前の聖杯戦争。先の戦い。そして、令呪を使ったものの、自分を仲間と言ってくれた彼らの仲の良い姿。

 目を開く、そして、アサシンの言葉に応える。

ランサー「考えるまでも無い事だ。捨てるさ、今度こそ」

 ランサーは安全を確認すると、浜面達の方向に向かって歩いていく。


浜面「ま、まぁ。夜にもう一度戦うってのはいいけど、大丈夫なのかよ」

 浜面は丁寧に頭を下げつつ、嘆願するランサーに戸惑いつつ声をかける。その姿と声には有無を言わさぬ強い意志を感じる。

ランサー「浜面様の魔力量などを考えても不意を打つことで勝てるのであれば、早いうちに行動するのが得策かと」

麦野「それで、どいつを狙うの?例のアサシン?」

ランサー「いえ、狙うサーヴァントは騎士。セイバーのサーヴァントです」

絹旗「あれ?セイバーって超強いって言ってませんでした?」

ランサー「はい、しかし不意を付けばこちらは犠牲を出さずに勝利を手にできます」

麦野「自信がありそうね。その根拠は?」

ランサー「おそらく、今回召喚されたセイバーは私がかつて戦った相手。彼女の性格は、気高さはよく知っています。マスターの方針もあるでしょうが、誘えば乗ってくるはず。マスターと一緒に行動してくれているのでしたら、マスターの方を狙えばいい」

浜面「勝算があるのはいいけど、何もわざわざこっちから喧嘩売る必要ないんじゃないのか?自滅してくれるかもしれないし」

ランサー「主よ。どうしても、彼女は私が、この手で倒さなければならないのです。彼女の清涼な闘気は私の決心を鈍らせる。迷いを捨てたいのです。・・・・・・聖杯を手にするには、必要なことなのです」


 浜面の迷いとは裏腹に、作戦は計画通りに進んでいる。セイバーは敵を探すために夕方から街をマスターと散策していた。一緒に行動していた白い修道服の少女の手には令呪が確認できた。

 そして、セイバーは闘気を飛ばしたランサーの誘いに乗ってこの地まで来た。一切警戒もせずにである。

浜面は考える。もしかしたら、その行動は以前のランサーのことを信頼してのことだったのではないか?

 両者の戦闘は続いている。予定通り、ランサーは防御に徹して、セイバーをある倉庫まで誘い込もうとしていた。マスターとの距離も予定通り開いてきた。

 しかし、まだ浜面の心には引っ掛かりがある。しかし、自分に何ができるのか?車内でモニターを見つつも必死に心に折り合いをつけようとする。

 その時、セイバーとランサーが倉庫内に入る。まだ、ポイントには届かないが、あと少しで襲撃のタイミングとなる。浜面をはじめとしたアイテムのメンバーに緊張が走る。

 そして、もうひと組。この光景を見下ろす影があった。キャスターとその使い魔を通して監視しているステイルである。

キャスター「ふふっ。愚かな人間たち・・・」

 キャスターは笑う。襲撃のポイントまで残り数メートル。

Fateと世界観共有してるならケイネスとかって必要悪の教会に名は知れてるのかな?

>>162一応、共有している設定です。以前の聖杯戦争の情報はある程度、禁書のマスターも知っているって感じで……。


セイバー「りゃあ!」

ランサー「くっ」

 セイバーの一太刀をランサーは紙一重で躱す。しかし、それによってセイバーとランサーの距離が開く。セイバーをポイントに誘い込むのに絶好の機会。しかし―。

ランサー「ッ!」

 その距離を埋めるようにランサーはセイバーに接近し槍を刺し出す。

ランサー(何をやっている。なぜ、踏み込んだ。なぜ……)

 ランサーは唇を噛み締めると必死に思いを打ち消す。

ランサー(決めたはずだ。捨てる。決別すると。俺の誇りなど……)

  ランサーの戦う、その光景を、緊張の面持ちで見つめるのはアイテムのメンバーであった。浜面と車の中で見守る絹旗が口を開く。

絹旗「くっ。今の超惜しかったですね。やっぱり、予定通りとはいきませんね。浜面?」

浜面「……あいつ、やっぱり」

絹旗「どうしたんですか?」

浜面「…なんでもねぇよ」

絹旗「?」

 浜面の横顔を不審に思った絹旗が話しかけようとした瞬間。戦況は動いた。


ランサー「ふん!」


セイバー「っ!」

 ランサーはセイバーを牽制しつつ、絶妙な距離を持った。セイバーは体制を立て直し、ランサーに切りかかろうと姿勢を下げる。セイバーが通る先はまさにポイントの位置。アイテムのメンバーに一気に緊張が走る。そんな中、ランサーは手を握りしめていた。その手は、自身の感情を押し殺すために強く握りしめられ、血が滴り落ちた。

セイバー「ッ!!」

 距離を狭めるためにセイバーが踏み込む。その瞬間-。

「かちゃり」

 絹旗はおかしな音を聞いた。ふと横を向く。そこにはあるはずの浜面の姿がなく、開かれた扉が見えた。とっさに絹旗は叫んだ。

絹旗「麦野!!」

 それと、同時に、セイバーの足元から爆音と共に火柱があがる。


 計画はシンプルだった。まずは罠を張る、誘い込む倉庫の一画に爆薬を仕込み敵が足を踏み入れた瞬間に爆発させる。その混乱に乗じて敵のマスターを攻撃する。たしかにシンプルではあるが、だからこそ準備に手間がかからず。ハマればあっけなく勝利を手にすることができるように思えた。

 そして、予定通りセイバーの踏み込みの瞬間を見極め、滝壺が爆破のスイッチを押した。それを合図に麦野は能力での攻撃を開始。絹旗と浜面は援護。途中までは予定通りだった。

 そう、浜面の行動を除いて。

「ドゴォゥォォン!!」

 爆音と同時に絹旗の叫びが通信機を通して、滝壺と麦野に伝わる。同時に視界にその浜面の姿が見える。そう、麦野とインデックスの間に飛び出したのだ。

滝壺「むぎの!だめっ!!」

麦野「あん!!馬鹿がぁ!!」

 標準を付けていた麦野は、浜面を避けるために攻撃を上方に修正する。

 結果、インデックスを狙った光線は虚しくそのはるか頭上を通った。

 空気が硬直した。アイテムのメンバーはもちろん。セイバー、ランサー、インデックスも状況を理解できずに棒立ちになる。多少なりとも理解できているのは飛び出した浜面、そして傍観に徹しているキャスターぐらいのものだ。


キャスター「うふふ。思ったより面白いことになったわね」

 キャスターにステイルの声が聞こえる。

ステイル「キャスター、分かっているな」

 怒気を孕んだステイルの声にキャスターは朗らかに答える。

キャスター「えぇ、セイバーは守りますわ。当然です」

 わずかな沈黙の後、キャスターはくすくすと笑いだした。

ステイル「何が面白い?」

キャスター「だって、マスター。分かっているか?なんて、令呪を使用したのに何を聞いているのかと。その身を持ってでもセイバーのマスターを守れ。でしょう?」

ステイル「……」

キャスター「でも、この戦い、セイバーが勝ってしまっては令呪は無駄になってしまいますわ。違いまして?」

ステイル「これ以上話すことは無い」

キャスター「そうですか……。あら?動くようですよ」


 止まった時を動かしたのは、槍兵の悲痛な叫びだった。

ランサー「…なぜ…なぜですか!?わが主よ!なぜ邪魔を!あなたも、あなたも私を信じてはくれなかったのですか!?どうして……」

 ランサーの声に押されつつも浜面はしっかりと顔を上げる。

浜面「うっ、うっせぇ!あんな苦しそうな顔で戦いやがって!見てるこっちが苦しいんだよ!」

ランサー「……」

浜面「そ、それにあれだ!お前、捨てるとか決めたとか言っといて、結局捨てれてないじゃねぇか!麦野の攻撃が失敗したらお前が槍投げてマスターを殺すって言ってただろうがぁ!」

ランサー「そ、それは…」

浜面「それに、作戦が男らしくないんだよ!正面からでは勝ち目がないとか情けないこと言ってんじゃねぇよ!でもそれは俺のせいか…。いや!でもそれだけじゃねぇだろ!だから!えーと!えーと!あぁぁぁ!もう!」

ランサー「浜面様……」

浜面「クッ!つまり!最初っから逃げてちゃこれから勝ち抜けるわけねぇんだよ!だから!頼む!こいつに!」

 浜面の手の令呪が強い輝きを放った。

浜面「後悔の無いように!男として恥ずかしくないように!胸張って戦わしてやってくれぇぇぇ!」


 次の瞬間。令呪は弾け、一画が失われた。同時にランサーの体に今までに無い力が宿る。

セイバー「なっ!」

 状況がわからないセイバーが見たのは槍の先端。セイバーの持つ直感さえ置き去りにして、ランサーの一閃はセイバーの顔の数センチの所で止まっていた。

セイバー「…どういうつもりですか?情けをかけたのですか?」

ランサー「……セイバー、すまない。俺は今、あなたに声をかける資格もその言葉も持たない。……しかし、もし許してもらえるのであれば、今一度騎士として勝負を申し込みたい」

 槍を下げながら、語るランサーの言葉にセイバーは答える。

セイバー「分かりました。やっと、かつてのあなたに再会できたような気がします。……では、騎士の誇りをかけて、名乗らせて頂こう。ブリテンの王、アーサー・ペンドラゴン。騎士王の名に懸けて勝利を誓おう」

ランサー「フィオナ騎士団……。いや、暗部組織アイテムの戦闘員、ディルムット・オディナ。騎士の誇り。そして、主達の望みのためにいざ!勝負!」

 ランサーが踏み出し。戦闘が開始された。

 全く想定外の事態であったが、アイテムの四人はどこか穏やかな表情でランサーの姿を見守っていた。


 予定外のランサーとセイバーとの真剣勝負であったが、結果的に命拾いをしたのはランサー陣営である。

 セイバーを見守るキャスターに加え、セイバー自身も戦闘力を持たない主に対して手をうっていた。現在、セイバーの持つ聖剣の鞘、傷ついた体を回復させる聖鞘は、インデックスが所有している。

さらにセイバーはランサーの行動を予測していた。正確には聖杯戦争が正々堂々の戦いの場ではないことをその身を持って知っていたのだ。

 アイテムの襲撃も、現代兵器の爆発など問題にせず、その神がかりな直感でインデックスを助けて見せたことだろう。浜面の行動で結果的に動けなかった訳だが。

 そして、その二人の騎士による戦闘が始まる直前、無慈悲にもステイルはキャスターに命令を出していた。

ステイル「キャスター、セイバーが不利になればランサーを攻撃しろ。最大の攻撃で、仕留めるんだ。いいな」

キャスター「あらあら、騎士の誇りを傷つけると後が怖いのですよ」

ステイル「それがどうした?できないとでも?」

キャスター「いえいえ。私はサーヴァント。マスターの命令は絶対ですわ」

ステイル「・・・・・・分かっていればいい」


 しかし、キャスターは攻撃の準備さえすることができなかった。ステイルもそのキャスターに声もかけない。そして、戦いを見守るインデックスとアイテムのメンバーは声はおろか息をするのさえ遠慮しているかのようだ。

 それほどに、セイバーとランサーの戦いは美しいものであった。全霊をかけて振り下ろされる一撃、それをお互いに紙一重で避け続ける。攻撃は一つ一つが命を奪う一閃でありながら、同時に相手を欺く罠にもなった。

 その光景は、美しい絵画を見ているようでもあり。荒々しい、野生の光景のようでもある。しかし、その戦いも永遠に続くものではなかった。

セイバー「ハッ!!」

 セイバーの一閃をランサーは後ろに下がり回避する。しかし、距離を取り着地した瞬間。ランサーの頬に血が流れる。

 僅かな傷。しかし、これはセイバーとランサーの戦力の差を如実に表していた。時間をかけた戦いになればランサーは明らかに不利。


ランサー「やはり、お前との戦いは俺の心に心地よい風を吹かしてくれる。・・・しかし」

セイバー「えぇ、決着をつける時が来たようです」

 ランサーはアイテムの方を見ると。優しく微笑む。その笑顔は心配するなと言っているようだった。

ランサー「ハッ!」

 ランサーは後ろに大きく跳んだ。そして、着地すると体を大きく沈める。その姿はまさに獲物を狙う獣。

 同じように王の威厳と誇り高さを感じさせる動きでセイバーも聖剣を構えた。

 そして、一時的に静寂が訪れる。次の瞬間!




セイバーとランサーは,ほぼ同時に動いた。


ランサーは全身のバネを使い、まさしく獣のような俊敏さでセイバーに向かう。

対するセイバー。ランサーを獣、と表現するなら。セイバーはロケットやミサイルのようであった。聖剣から一気に魔力を放出して推進力に変えている。二人の騎士が接触するのは一瞬のことであった。

 しかし、その一瞬の間。ランサーは勝利の布石を打つ。

 シュ!

 それは、槍の音だった。両手に握られたランサーの宝具。「破魔の紅薔薇」はランサーの手によってセイバーに向かって投げられた。

 しかし、それはセイバーも想定の範囲内。ランサーの宝具は二つ。ならば、そういった使い方も当然。

だが、セイバーは槍を避けることも、叩き落とすこともしなかった。正確にはする必要がなかった。紅薔薇の軌道はわずかにセイバーには当たらずその横を通り過ぎるものだった。

 セイバーは瞬時に判断し、紅薔薇を無視。ランサーに狙いをつける。

セイバー「なっ!?」


 しかし、セイバーは次の瞬間。ランサーの攻撃の意味を知る。破魔の紅薔薇はセイバーを傷つけることはしなかった。しかし、セイバーの魔力。推進力となっている魔力の流れをわずかに削る。

 セイバーの体がわずかに、揺れる。放出している魔力を制御すればすぐに体制は立て直せる。しかし、その一瞬はランサーには十分すぎる隙。

ランサー「セイバーぁぁぁ」

 ランサーの手にはもうひとつの宝具「必滅の黄薔薇」が握られている。ランサーは咆吼と共にセイバーの心臓めがけて槍を突き出す。槍は、騎士王の体を破りランサーに勝利の感触を与える。


――はずだった。しかし、ランサーの手に残ったのは空気を切ったことによる虚しさ。そして、体を斬られたという感触だった。


 魔力の推進力を崩されセイバーは体制を立て直すはず。ランサーの予想は当然であり。むしろ、それだけの技術を持つセイバーだからこその予想だった。しかし-

セイバー「りゃあぁぁぁ!」

 体制を崩したセイバーは魔力を抑えるどころかさらに魔力の放出を強めた。体を守る鎧さえ解き放ち。全霊の魔力を放出する。

 結果、セイバーの体は回転することとなり、それによってランサーの一突きは空を斬ることとなった。そして、その回転力を利用し。セイバーは剣を下ろした。

セイバー「うりゃあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 セイバーの聖剣は攻撃を外したランサーの体を容赦なく両断した。ついに決着がついたのだった。


そして、その決着をアイテムのメンバーは地面に倒れるランサーの姿で理解し、浜面は手から消える令呪の痛みで理解した。

 ランサーが敗北を理解したのも視覚だった。敵と戦っていたのに、現在仰向けに倒れている。星が綺麗だ。

 敗北したが思い残すことは無い。純粋な戦いで負けたのだ、誇りであっても恥ではない。セイバーに対しても賞賛の気持ちしかない。うまくやられたものだ、騎士王の名は伊達ではなかった。体が消えていく感じがする。痛みはない。そう、本当に思い残すことは・・・・・・。

ランサー「グハッ!!!ググッ!!ウッ!」

 ランサーは意識を必死に引き戻した。思い残すことがない?騎士としての誇りを守った?ふざけるな!ふざけるな!自分はなんのために戦ったのだ?誰のおかげで戦えた?彼らのおかげだ。信じてくれたのに。彼らには、望みが。仲間を取り戻したいという美しい望みがあったのに。それを台無しにした。


ランサー「グガッ!!」

 ランサーの全身に痛みが襲った。強引に現世に残ろうとするランサーを今まで感じたことのない痛みが走る。しかし、それが何だ。自分が何をしたのか?どうして、爽快な気持ちで消えることができるのだ。彼らは、きっと怒って。いや、呆れているに違いない。当然だ。

ランサーは必死に口を開く。奇跡的に通信機は動いていた。せめて、謝罪を。謝罪したところで罵倒されることだろう。しかし、それこそ自分の最後にお似合いだ。一言、意味がなくても・・・・・・。ランサーは必死に謝罪の言葉を探す。

 と、ランサーの耳に声が聞こえた。震えた、少女の声。

滝壺「らんさー・・・」

絹旗「ごめんなさい、私たち。あなたに何もできなくて」

麦野「・・・ちっ勘弁して欲しいのよね。本当にさ・・・・・・」

浜面「後輩が出来ると思ったらさ・・・・・・これかよ。・・・・・・ごめん。俺が、余計なことしなけりゃ・・・・・・。お前が・・・消えることも!ごめん!」

 思い思いにランサーに感情をぶつける。短い間だった。しかし、その短い時間ランサー、ディルムッドはアイテムの一員だった。

ランサー「・・・・・・ありがとう・・・ございました」

 必死に謝罪の言葉を探していた槍兵の口から出たのは感謝の言葉。

ランサー「・・・・・・あなたたちと出会えて。あなたたちの仲間になれて、良かった。・・・・・・お元気で」

 ランサーは消えた。そこには、アイテムが使用していた通信機だけが残されていた。


―学園都市 土御門 隠れ家―

 ランサーとセイバーの戦闘が終わったその時、学園都市の某所で土御門は海原から報告を受けていた。

土御門「なるほど・・・・・・。状況は分かった」

海原「判断ミスでサーヴァントを失いました。あなたにはどうお詫びすればいいのやら・・・」

土御門「なに、まだ仕事は残っている。まだまだ働いてもらうにゃー」

海原「そうですか、では仕事に向かう前に報告を一つ」

土御門「何だ?」

海原「彼女を、ライダーを倒したサーヴァントについてです」

土御門「バーサーカー。だったな」

海原「えぇ、そのマスターに関して」

土御門「あれだけの武器を準備した奴だ。ずいぶん前から学園都市に潜伏していたか、強力な協力者がいるようだな。まだしっぽは掴めていないが・・・・・・」

海原「これに関しては自分の勘なのですが・・・・・・」

土御門「何か覚えが?」


海原「大覇星祭の時を覚えていますよね。単独で学園都市中を引っ掻き回した。『追跡封じ』と『告知の火曜』」

土御門「リドヴィア=ロレンツェッティとオリアナ=トムソンか!」

海原「自分たちの監視をかい潜った隠密性。彼女たちなら可能かと」

土御門「同感だ。早速その線で調べてみよう。指示をするまで休んでいてくれ」

海原「えぇ、少し休んだら自分も働きますよ。腑抜けているといなくなった彼女に向ける顔がありませんから」

土御門「そうか、だが他の陣営も、明日の夜までは動かないだろう」

海原「だと、良いのですが・・・・・・」

 挨拶をすると海原は部屋を出て行った。

 土御門の想像は当たっていた。戦闘を終えたセイバーとバーサーカー、そして偵察をしていたキャスターは魔力の温存をしようとしていた。アーチャーに先頭の意思はなく。アサシンは活動拠点を移動しているため動けないでいた。

 しかし、事件は早朝に起きた。それも異変は学園都市ではなく、海の先。イギリスの地で起きたものだった。


―イギリス 某所―

 学園都市でマスター達が戦闘を終えて休んでいる早朝の時間、イギリスは昼時だった。

五和「上条さん、ここは有名なアーサー王伝説で出てきた湖のモデルじゃないか、って言われている場所なんですよ。お弁当を作ってきたので、ここでお昼にしましょう」

上条「・・・うん」

神裂「どうしましたか?」

上条「いやさ、上条さん、イギリスが謎の魔術結社に襲われてて。ピンチだから。イギリスが無くなるかもしれない。って言うから。来たんだけどさ」

五和「それが何か?」

上条「観光しか、してない気が・・・・・・」

神裂「・・・・・・」

五和「・・・・・・」

上条「それに、来るって言ってたインデックスとステイルもいないし。何かあったんじゃ・・・・・・」

神裂「な、何を言っているんですか!?」

五和「そうですよ!今はあれですけど、本当にピンチなんですよ」

神裂「あなたはいつからそんなに冷たい人になったんですか!?」

五和「そうですよ」


上条「そ、そんなつもりじゃ・・・・・・。わかったよ、じゃあ、ちょっとトイレ行ってくるから・・・・・・」

―スタスタ―

上条(なんなんだよ・・・・・・。あれ?迷った?)

―キョロキョロ―

上条(どうしよう・・・ん?)

 上条の目に付いたのは魔方陣だった。

上条(なんだこれ・・・・・・。魔術っぽい何かだよな。大事な結界とかかな。でも、それだったら五和が伝えただろうし、・・・壊しとくか)

上条「そげぶ。っと」

―キュイーン―

上条「良しっ」

五和「上条さーん。どうしたんですかー」

上条「あぁ、今行くー!」

 そして、その瞬間。学園都市で、仮眠をとっていたオリアナは跳ね起きた。確実かつ有利に召喚を行うために、伝説の残る湖で召喚をしたことが裏目に出た。

 上条当麻の右手によって、オリアナ=トムソンと『湖の騎士』ランスロットの魔力の循環は破壊されたのだった。


―学園都市 バーサーカー陣営 アジト―

リドビィア「もう一度!説明なさい!」

オリアナ「ふぅ・・・・・・」

 学園都市、アジトでオリアナとリドビィアは通信機で熱い言い合いをしていた。最も、熱くなっているのはリドビィアで、オリアナはむしろ冷静になっている。

オリアナ「原因は不明だけど、バーサーカーとの魔力のパスが途切れてしまったわ。今は簡易の魔方陣を使って現界を保っているけど、それも長くは持たない。戦闘の有無に関わらず、もって二日といったところね」

リドビィア「そんな、馬鹿な・・・・・・」

オリアナ「逆にどんなに戦闘させてもこちらが魔力を吸い取られて死ぬ心配はなくなったんだけどね」

リドビィア「残るサーヴァントは残り、4騎です。二日ではどうやっても・・・・・・」

オリアナ「無理でしょうね」

リドビィア「・・・・・・ふ」

オリアナ「どうしたの?」


リドビィア「ふふふっ。あはははは」

オリアナ「・・・・・・冷静さを欠いたのなら私は降りるけど?」

リドビィア「ふふっ。いえ、心配はいりません。オリアナ=トムソン。これは神の啓示です。私たちに聖杯を与えようとする神の御意志です」

オリアナ「何か考えが?」

リドビィア「えぇ、最後の手段。イチかバチかの保険のつもりでしたが状況が変わりました。あなたはこちらが連絡するまで待機していてください」

オリアナ「いいけど・・・・・・」

リドビィア「心配は無用です。一日で残りのサーヴァントを倒し、聖杯を手にするとしましょう」

 リドビィアは笑いながら通信機を切った。そして、真剣な表情になると手元にあった魔道書を手に取り部屋を出た。


―学園都市 キャスター陣営 アジト―

ステイル「・・・・・・んっ」

 アジトで睡眠を取っていたステイルは目を覚ました。ゆっくりと目を開き、息をついた。

 彼は再び夢を見ていた。しかし、そこにはインデックスも、自分さえも出てこない。故郷を捨てた王女。ある女の物語だった。

 ステイルはキャスターを召喚したのち、改めて彼女の逸話を調べた。王女にして、良妻、賢母。それでありながら夫と息子を殺害した魔女、メディア。

 メディアはコルキスの王女であった。しかしその故郷を捨てた。理由は一人の男。それは、現代でもよくある話なのかもしれない。

しかし、彼女を待っていた苦痛は計り知れない。唯一と信じた者から裏切られ、全てを奪われた彼女に残ったのは、自分を包んでくれた故郷のみだった。

 ステイルはキャスターの心象風景であろう夢を見たことでそれまでキャスターに抱いていた欺瞞や残虐というイメージを考え直した。もしかしたら、彼女は時代や人の汚さに翻弄されただけの、ただの犠牲者で、純粋な女性なのかもしれない。

ステイル「どうかしてるな・・・・・・」

 まだ、キャスターは帰ってきていない。ステイルは頭を整理するためにも再びまぶたを閉じる。しかし、心に残ったわだかまりは消えることはなかった。


=学園都市 廃ビル アサシン陣営=

 日が昇って間もない時間、御坂美琴、白井黒子、初春飾利、佐天涙子の4人とサーヴァントの佐々木小次郎はパソコンの画面に見入っていた。

 視線の先には、新たに設置した防犯カメラの映像が映っている。その一つに彼女は居た。カメラの存在を知っているかのように振る舞い、数分前からその場に座る白い修道服の女性。

佐天「どう…思います?」

御坂「どうって……」

初春「罠…ですかね……」

白井「それにしたって、とても戦闘員には見えませんが……」

佐天「小次郎さんはどう思います?」

 沈黙を守っていたアサシンが口を開く。その手には呪いの傷は無い。ランサーの敗北によってアサシンは全快していた。

アサシン「サーヴァントの気配は無い。それどころか、こちらへの敵意も感じない。しかし、このまま放っておくことは出来ないのではないか?……流石に目障りだ」


御坂「そうよね……。私、行ってくるわ。場合によってはご退席いただかないとね」

佐天「ま、待ってください。……私に行かせて貰えませんか?」

御坂「でも……」

佐天「私、見ているだけは嫌なんです。それに、本当に相手に敵意が無いんだったら。一時休戦とか共闘の申し入れかも知れないし……。マスターの私が、行くべきだと思います」

御坂「……分かったわ。あんたも着いていくんでしょうねぇ?」

アサシン「ふっ、マスターの出陣であるなら、お供が必要だろうからな」

佐天「御坂さんたちはここで待機をお願いします」

初春「気を付けてください」

佐天「うん、じゃあ行きましょう」

アサシン「了解だ」

 
目を閉じ、彼女たちの到着を待っていた。リドビィアは気配を感じて顔を上げた。

佐天「聖杯戦争の、関係者ですよね?どういったご用件でしょう?」

 佐天は真っ直ぐにリドビィアを睨みつけた。

リドビィア「はじめまして。リドヴィア=ロレンツェッティと申します。今回はあなたたちにある提案がございまして」

佐天「残念ですが、私たちはどんな人であれ。協力関係は結びません。もし、これ以上ここに居座るなら・・・」

 佐天の前にアサシンが現界する。その瞳は、冷たくリドビィアを見据えていた。

佐天「怪我をすることになります」

リドビィア「・・・ふっ」

佐天「?」


リドビィア「ふふっ」

佐天「何がおかしいんですか!?」

 佐天の声を皮切りに、我慢できないといったようにリドビィアは大きな声で笑い出した。

佐天「いったい・・・」

リドビィア「ふふっ。だって、あなたたちがあまりに滑稽なものですから・・・。ふふっ」

アサシン「下がれ・・・・・・。痛い思いをしたいようだ」

佐天「こ、小次郎さん・・・・・・」

リドビィア「だって、そうでしょう?魔術師とはとても呼べない。小娘」

佐天「・・・」

リドビィア「そして、それにお似合いの不完全なサーヴァント。あなた、自分が聖杯に呼ばれるべきサーヴァントではないと気がついているのですか?」


 リドビィアは言い終えるとその右手を前に出す。

リドビィア「異常は正さねばなりません。さぁ、真の姿を」

佐天「えっ!」

アサシン「なっ!」

 次の瞬間、三人に異変が起きた。佐天の右手は激しい痛みと共に光りだす。

佐天「きゃあぁぁ!」

 そして、リドビィアの手にも光。それを、リドビィアは恍惚の表情で見つめる。

アサシン「グッ・・・。グァァァァァァ」

 アサシンの足元には気がつけば魔方陣が描かれていた。そして、アサシンの全身を強烈な痛みが襲う。

アサシン「グワァァァ!」

 アサシンは声を上げながら。佐天の体を片手で突き飛ばす。

佐天「きゃあ!」

 佐天は壁に叩きつけられる。意識を失いそうな痛みの中で佐天は気絶などできなかった。なぜなら、彼女の目の前で。無残な光景が広がっていたからだ。


アサシン「ググアアアアアアァァァァ!!」

 美麗であった侍は、血にまみれその体内に動く何かに必死に抵抗している。しかし-

 グッシャアァァ。その音とともにアサシンの姿は消え。そこには血だまりと黒ずくめに白い仮面の異形が立っていた。

佐天「こ、小次郎・・・さん・・・・・・」

 佐天は自身の令呪が無くなっていることにも気づかずに、彼の名を呼ぶ。しかし、リドビィアは佐天を無視してその異形に話しかけた。

リドビィア「私がマスターです。名を」

?「恐れ多いことです。しかし、私を呼ばれるのでしたら。ハサンと」

リドビィア「真の暗殺者。ハサン・サッバーハ。ふふっ、素晴らしい」

真アサ「時に我が主」

リドビィア「なんですか?」

真アサ「先程から耳障りなあの小娘はいかがしましょう?」


 アサシンはその仮面を通して佐天を見る。突然の恐怖。佐天はその場を動くことができなかった。

リドビィア「気にすることはありません。今の彼女は我々の障害にはなりえません。それより、向かうところがあります。気配を消して付いてきてください」

真アサ「御意」

 アサシンの姿が消えて。リドビィアはスタスタと歩き出した。

佐天「こ、次郎さん・・・・・・」

 シュタ!瞬間移動で、白井、御坂、初春がその場に現れた。映像を通して、状況は見ていたものの彼女たちも動くことができなかったのだ。


御坂「佐天さん!」

白井「お気を確かに!」

初春「分かりますか!?」

 佐天の目の焦点が次第に合っていく。

佐天「み、みんな・・・私・・・私・・・・・・」

御坂「佐天さん!」

佐天「私は-」

 次の瞬間。佐天は大きな声を上げて泣き出した。そして、その場にいた全員が聖杯戦争の敗北を理解したのだった。


―学園都市 通り―

 学園都市が夕日に染まろうという時刻。佐天から令呪とサーヴァントを奪ったリドビィアはオリアナに連絡を取っていた。

リドビィア「予定通りです。はい-。はい-。はい-」

 リドビィアはオリアナの最後の言葉に頷く。

リドビィア「では、行動を開始しましょう」


―学園都市 キャスター陣営 アジト―

 その気配に気がついたのは、キャスターであった。

キャスター「マスター」

ステイル「どうした?」

キャスター「何者かがこちらを監視しているようです」

ステイル「!?・・・結界に反応はないようだが」

キャスター「えぇ、結界に入るか入らないかの位置にいます。中々優秀な魔術師のようですわね」

ステイル「敵は?まさか・・・」

キャスター「セイバーでは無いようです。ただ、相手が何者であれ、取る手段は限られているのでは?」

ステイル「その通りだ。この工房は破棄する。撤退の準備を」

キャスター「はい-」

 しかし、キャスターが動くより前にステイルとキャスターに魔力の刺激が走った。結界がサーヴァントの侵入によって反応している。


キャスター「先手を、打たれたようです。敵は-」

ステイル「ッ!バーサーカー」

キャスター「逃げるにしても、足止めが必要のようですわ。それに、バーサーカーはアーチャーと並んでセイバーとは戦わせたくない相手」

ステイル「そんなのわかっている!・・・・・・計画を変更する。時間を稼げ、少しでいい」

キャスター「では、その様に。この建物は多少の防御能力を持っていますがサーヴァント相手では紙も同然。押しかけられる前に迎え撃ちましょう」

 消えようとする、キャスターの背にステイルは自然に口を開く。

ステイル「・・・死ぬなよ」

 驚くキャスターの顔を見ないようにしてステイルは続ける。

ステイル「仕事はまだ残っているんだ」

キャスター「・・・・・・えぇ。それでは、予定の第二のアジトで」

ステイル「あぁ」


 キャスターが消えたその箇所をステイルはしばらく見つめていた。その間、ステイルはキャスターが自分にかけた言葉を反芻していた。自分は何を聖杯に求める?そして、サーヴァントである彼女は自分をどうしたいのか?

ステイル「・・・・・・」

 無事に撤退したら、戯れに聞いてもいいかもしれない。わずか数秒の思考を打ち切り、ステイルは撤退しようと出口に向かう。

ステイル「馬鹿・・・な」

 ステイルが歩いた先、出口に男の姿。

真アサ「どこかに、お出かけですかな?」

 真アサシンは抑揚のない声でステイルの前に立った。

ステイル「どう・・・して・・・・・・」

 どうして、ここにいる?

 どうして、キャスターの結界が作動していない?

 どうして、7騎以外のサーヴァントが存在している?

 どうして、僕の足は動かない?

 ステイルは混乱した頭で自分の命の終わりを悟った。


真アサ「流石、キャスターの工房。忍び込むのには手が折れました」

 アサシンの言う通り。キャスターの結界は完璧なものだった。ただ、一つの誤算があった。気配遮断スキルを持つサーヴァント、アサシンの存在。真アサシンの気配遮断スキルは佐々木小次郎をはるかに超えるものだった。

 キャスターの結界は最初に召喚されたアサシンの気配を読み取ることは出来ても。この真アサシンの気配を感知できなかったのだ。

ステイル「グッ……」

 一度は絶望したステイルであったが、余裕のためか攻撃を仕掛けてこないアサシンを前にして脳内は必死に生き残る手段を探していた。

ステイル「……」

 とる手段はただ、一つ。サーヴァントと戦うことが出来るのはサーヴァントのみ。


ステイル「ッ!来い!―」

 ステイルの令呪が光輝く。

令呪の使用によってキャスターを呼び戻そうとするステイルの動きを確認しつつ。暗殺者は仮面の下で静かに笑う。

 そして、彼の右腕を包んでいた。布が解かれる。

ステイル「-キャスター!!」

 ステイルがキャスターの声を呼び終わると同時にその声を聞いた。

真アサ「妄想心音」

 対象に触れることで結果的に心臓を握りつぶす。必殺の呪術がステイルに向かって放たれた。


 真アサシンの目的は確実にキャスター陣営を潰すことであった。そのためにはサーヴァントとマスターを同時に葬ることが必要があった。

 普通のサーヴァントであるならば、マスターを殺してしまえば魔力の供給が途切れ、依代を失ったことによって体を保つことが出来ない。

 しかし、例外は存在する。キャスターは単独行動のスキルは持っていないものの。魔力を様々なものから吸い取ることに長けていた。マスターを殺したものの、キャスターに逃げられては意味がないのだ。

 そのために、ステイルが令呪の使用を待ったのだった。ステイルはまんまとその罠にはまった形になった。

ステイル「グッ!!」

 光が集まり。キャスターが姿をあらわした。

 しかし、すでに遅い。直感を持っていないキャスターは状況判断が遅れる。理解したときにはステイルは死に、わずかに動揺しているところを一撃で決めればアサシンは完全な勝利をおさめることが出来る。


キャスター「――――――」

 しかし、キャスターに動揺は見られず。一言、神代の言語で呪文を唱えた。ここは、ほかならぬ彼女の結界の中、そこで行使される魔術は手に取るようにわかる。そして、彼女は主の危険を一瞬で理解し、対応を取った。

 アサシンの宝具、妄想心音は発動した相手の心臓の虚像を作り、それを潰すことで対象を死に至らしめる。そのため、人間以外の相手、心臓が無くても動けるような相手には即殺性が無い。

 もっとも、キャスターにも、ステイルにもそのような能力は無い。しかし、全く対応ができない訳ではない。強力な魔力は、呪いをわずかに捻じ曲げる。

キャスター「グハッ!!」

 ステイルが見たのは目の前に現れたキャスターと彼女が口から流した鮮血だった。

ステイル「キャスター!!」


真アサ「馬鹿な…。自らの心臓を身代わりに……。そんなことが…しかし!」

 追撃のアサシンには目もくれず。キャスターはステイルを自らのローブで包む。

 そこに向かって。アサシンのダークと呼ばれる短刀が放たれる。しかし、ローブはただの布となりそこには何も残っていなかった。

真アサ「……逃げたのか」

 アサシンの耳にマスターである。リドビィアの声が聞こえた。

リドビィア「情けないことです。逃がしたのですか?」

真アサ「申し訳ございません。しかし、結果は何も変わりません。キャスターは確実に仕留めております。マスターを殺せというのでしたら出向きますが……」

リドビィア「いいえ、時間が有りません。予定通りに行きます」

真アサ「御意」

 アサシンが消え、かつて要塞であった彼女の工房はすでにただの廃墟となっていた。


―学園都市 某所―

 ステイルはこの場所に見覚えがあった。

ステイル「ここは……」

キャスター「-ここが、一番…結びつきが。強かったから……」

 ここは、ステイルがキャスターを召喚した場所。キャスターは突然の状況にも自らの魔力とステイルの令呪を使用することで空間の移動という魔法を実現させた。もっとも、その体も消えようとしている。

ステイル「……」

 ステイルは、キャスターに声をかけることができなかった。本来ならば、感謝の言葉、謝罪の言葉を述べるべきだ。しかし、ステイルは質問せずにはいられなかった。

ステイル「どうして」

キャスター「…ふふっ」

 キャスターはそれに答えず、ステイルに手を伸ばす。

ステイル「……」

 ステイルには令呪が無い。しかし、危険であったとしても、ステイルはひざまずきキャスターの手を取る。キャスターは手をステイルの顔に当てる。――そして。


ステイル「なっ、何を!ぐわぁぁぁぁ!!」

 ステイルの頭に脳が焼き切れるほどの激痛が走った。

キャスター「ふふっ。我慢なさい……。私からの置き土産なのだから……」

 キャスターは笑うと、手を離した。

ステイル「はぁ、はぁ……。キャスター……。これは…」

 ステイルの脳裏に何やら魔術の格子のようなものが浮かぶ。現代のものではない、到底理解できないが神代の魔術のようだった。そして、おそらく中身は―。

キャスター「最後に…質問をしましょう。…マスター、ステイル=マグナス」

ステイル「……」

キャスター「あなたに夢は、望みはありますか?心の底から、割り切れない。純粋な思いはありますか?」

ステイル「キャスター……。お前は……」

キャスター「ふふっ。あなたは私に似ているわ。大切なものを捨てて、それでもいいと思っている。でも、あなたは届かないわけではないでしょう?……だったら、足掻きなさい。どんなに侮蔑されたとしても、大切なものはあきらめてはダメ」


ステイル「……そうだな」

キャスター「私の魔術の記憶の一部はあなたには不要?」

ステイル「いいや、記憶の修復の魔術の一端、確かに受け取った。無駄にはしない」

キャスター「そう……良かった…」

 その言葉を最後にキャスターは消えた。ステイルは静かに頭を下げるとゆっくりと歩き出した。


=夕刻 バーサーカー陣営=

 夕刻、キャスターを葬ったアサシンとリドビィアはすでに次のターゲットを定め、移動を開始していた。そして、リドビィアと手を組むオリアナはすでに行動を始めていた。キャスター討伐の際は時間稼ぎと敵を引き付ける囮になったバーサーカーだが、今回は令呪を使用しての奇襲。下手すればマスターの自分も死ぬことになるだろう。

オリアナ「ふぅ」

 自然にため息が出た。しかし、それも相手の強大さを考えれば無理は無い。確実に気づかれない位置を維持しつつ、魔術を使用して相手の姿を確認する。

 その視線の先に白髪の少年と金髪の青年。そう目標は英雄王、ギルガメッシュ。

 その緊張の糸をリドビィアからの連絡が切った。

オリアナ「・・・はい」

リドビィア「敵の動きはどうですか?」

オリアナ「今のところは無いわね。楽しくお買い物中よ。あの男、本当にサーヴァントなのかしら」

リドビィア「油断はなりません。彼と正面から戦えば、バーサーカーとアサシンでは敵にもなれません」

オリアナ「わかっているわよ。そっちの準備はできたのかしら」

リドビィア「えぇ。襲撃をかけます。成功し次第そちらも攻撃を」


オリアナ「わかっているわ。そして、失敗したときは-」

リドビィア「どちらかが、あれを発動します。目的は何としても叶えましょう」

オリアナ「えぇ。監視に戻るわ」

リドビィア「えぇ。神のご加護を」

 通信が切れる。オリアナは深く息をつき。彼らに意識を集中させた。

リドビィア「・・・アサシン。準備は良いですね?」

真アサ「はい。修道女殿」


 リドビィアの作戦はキャスターを襲った時と同様のバーサーカーとアサシンの同時攻撃だった。しかし、その内訳は大きく異なる。キャスターを相手にしたときは圧倒的な戦力的な有利にたっていた。実際にバーサーカーはあくまでキャスターをおびき出す囮であり、もしそれがなかったとしてもアサシン一騎で十分にキャスターは倒せただろう。

 しかし、今回はその逆。アサシンとバーサーカーが束になっても。いや、最古の英雄王が本気で自身の宝具を全開で使えば。聖杯戦争で彼を除く全てのサーヴァントが手を組んでも英雄王に傷をつけることさえ難しいのかもしれない。

 そのためにも、彼の隙、慢心をつくことが唯一の勝機だった。

 作戦ではアサシンがマスターを殺害、アーチャーの単独行動スキルであってもマスターを失ったことによる魔力の乱れは強大な隙になる。そこをバーサーカーと令呪を使用して移動させたアサシンが襲撃するというものだ。

 タイミングさえ合えば、作戦は成功する。オリアナの監視がバレないうちに何としてもマスターを・・・・・・。リドビィアは祈る。

 その祈りが、全くの的外れとも知らずに。


真アサ「・・・・・・」

 アサシンはすでに土御門を捉えていた。建物には結界は張ってあったが、キャスターのものに比べると当然ではあるが数段落ちる。無論何者にも気づかれずにマスターである土御門の背後をとっている。

 魔力の動きなどで気がつかれては意味がないので宝具は使わないほうがいい。距離としてはダークでの攻撃が十分に届く範囲であったが、令呪を絶対に使わせてはいけない。投擲と共に自分自身が止めを指すのがいいだろう。

―ザッ!―

 アサシンは背を向け座る土御門に向かってダークを投げると同時に土御門の無防備な背に飛びかかった。



―ザシュ!!―

 アサシンの耳が音を聞く。肉の切られる音。しかし、それは自分の攻撃がマスターの命を奪ったものではなかった。

真アサ「ア、アガ、ガガガ」

 土御門はゆっくりと立ち上がると壁に張り付けにされた。アサシンを見つめる。

土御門「やっと掛かったか。待ちくたびれたにゃー」

 そして、その土御門の背後から。アサシンの攻撃を弾き飛ばし、宝具である右腕を張り付けにしている三本聖剣の持ち主が姿を現す。

ギル「元春、我の時間を借用しておいてかかったのがこの程度の虫。我の宝物の格を落とすつもりか?」


土御門「そうは言ってもこっちのサーヴァントは英雄王ただひとりなんだ。この程度は臣下のために動いてくれてもいいだろう」

ギル「ふん、臣下であるならもう少し礼節を持つことだな。そうでなければ道化として我を興じさせることだ」

土御門「はいはい。わかりましたにゃー」

真アサ「な、なぜ・・・。お前がここに!」

―ザシュ!―

 アサシンの左足に槍が刺さる。

真アサ「グアァァァ!」

ギル「我は発言を許可していない。さて、場合によっては交渉と言っていたがどうするのだ?」

土御門「・・・すでにアレイスターの目的はわかっている。こいつから引き出すものは何もない」


ギル「そうか・・・。ん?」

 ギルガメッシュが顔を向けるとアサシンの姿は無かった。正確にはそこにあったのは消えていく右腕と左足。暗殺者のサーヴァントは姿を消していた。

土御門「令呪を使ったようだな。しかし、もういい。この聖杯戦争を始めた奴に会いにいく」

ギル「ほう、茶番も終幕か。少々惜しい気にもなる」

 好きなことを言うギルガメッシュを横目で見つつ土御門はため息をついた。

土御門「とりあえず、一方通行と海原に連絡を入れておこう。特に海原には面倒な役目を押し付けてしまったからな」

 その言葉にギルガメッシュは笑い出す。

ギル「何を言う?王の影武者など最高の誉れではないか」


=学園都市 大通り=

―ピッ―

 一方通行は土御門からのメールを確認すると、となりの男に話しかけた。

一方通行「任務完了。罠は成功だってよ」

 その言葉を聞くと、隣の金髪の青年は息をついて一方通行に笑いかけた。

?「やっとですか・・・・・・。良かったです」

 次の瞬間、高慢な顔つきをしていた金髪の青年は、真の姿である魔術師エツァリとなる。

一方通行「それにしたってェ。よくあいつが許したなァ。身代わりなンて」

海原「許してませんよ。土御門は令呪を使用したのです。自分の魔術には変装の対象者の協力が必要ですので」

一方通行「ハァ・・・。ご苦労なこったァ」

海原「合流の指示が出ているのでしょう?行きましょう。・・・先程から感じていた殺気も消えていますし」


土御門とギルガメッシュはすでに学園都市の夜に消えていた。この度の聖杯戦争、それを終わらせるために。

 そして、その時敗北した、リドビィアも移動を開始していた。間一髪を令呪で撤退させたアサシンを連れている。片手片足とは言え、護衛としてはまだ役に立つ。
 すでに聖杯は諦めたリドビィアはオリアナと合流するために学園都市の路地を急ぐ。口を噛み締めながら今回の失態を悔やんでいた。しかし、それさえ神の啓示と彼女は捉える。

 まぁいい。聖杯が手に入らなくとも目的は達成できる。かつて学園都市で行おうとした儀式。使徒十字ではやはり力が足りなかったのだ。今度こそあれを発動させる。
 彼女の目的を知り、阻止しようとするものは居なかった。阻止しようとするものは。

=学園都市 マンション=

 マンションの一室、佐天涙子はベッドからゆっくりと起き上がった。そして、シャワールームに向かう。冷たい水が頭から降り注ぐ。サーヴァントを失ってからのことはほとんど覚えていない。

初春たちに連れられて。家に戻った。

 温かい飲み物を渡された。

 たくさん慰めてもらった。

 でも、一人になりたかった。

 そして、寝て。

今、起きた。

佐天「ふぅ・・・・・・」

 ―パンッ!!!―

 自分で自分の両頬を強く強く叩いた。目が冴える。彼が目の前でやられてから、周りは放心しているように見えたのだろう。実際、ショックは大きすぎた。でも、ずっと考えていた。ここまでのどうやって帰ってきたのかわかんなくなるほど考えて、考えて。寝ている間も考えていたように思う。

 それで答えが出たかと言うと、出ていない。きっと出ないんだろう。でも、出ないのならやりたいようにやろう。それが、佐天の選択だった。

佐天「よし!」

 制服に着替えて、バットと一緒に、彼と出会うきっかけになった鉄の棒も持つ。靴はスニーカー。決して振り返らないよう。思いっきり。扉を開いた。


御坂「・・・・・・こんな夜遅くにお出かけ?」

 扉の先には見慣れた廊下ではなく。見慣れた友人の姿があった。

佐天「御坂・・・さん」

 御坂だけではない、白井と初春の姿も見える。御坂は怒っているし、白井と初春は心配そうな表情だ。

佐天「・・・ちょっとそこまで。忘れ物を取りに」

御坂「自殺に。じゃないの?」

初春「佐天さん、やめてください。私たち、空き部屋で待機してたんです。佐天さんが・・・。その・・・・・・」

白井「無謀なことをしないように・・・・・・。学園都市の理事会から、学園都市中に連絡が回ってますの。今夜は大規模な実験が行われる。外出などは危険なので控えるようにと」

佐天「あはは。私って幸せですね。こんなに心配してくれる友人がいて。無能力がどうのこうの言うと、バチが当たるかも」

御坂・白井・初春「・・・・・・」


佐天「でも、退いてください。私はいきます。あの女の人と黒い奴に-」

御坂「いい加減にしてよっ!!私達がモニターで見ててどんなに心配したか分かってる!?」

佐天「それは・・・、分かりません。御坂さん達が、目の前で何もできなかった私の気持ちが分からないのと同じで」

 佐天は歩き出す。普段の明るい彼女からは想像もできない気迫の満ちた足取りで。ふと、音が聞こえた。

―バチバチ―

 その音を佐天は聞いたことがあった。自分が危ない時に御坂が助けてくれる。その時に聞こえる電撃の音。今は自分に向けられている。

御坂「最後は力ずくでいくわよ」


佐天「いいです。御坂さんの気がそれで済むのなら・・・・・・」

 佐天の目から涙がこぼれた。

佐天「ごめんなさい、こんなことになって。巻き込んで・・・。いっぱい心配かけて、もし私が逆の立場だったら。・・・きっとすごく怒って。すごく悲しい気持ちになるのに・・・・・・」

御坂「・・・・・・」

佐天「でも、このまま。何もしなかったら。私は一生後悔するんです。だから・・・・・・」

 佐天は歩き出す。ゆっくりと、御坂の隣を通り過ぎる。

御坂「待ちなさい!」

 御坂は佐天の腕を強引に掴む。

御坂「・・・・・・行かせない」


佐天「・・・・・・」

御坂「・・・一人でなんて」

佐天「御坂さん・・・。でも・・・・・・」

御坂「巻き込んだと思うなら。最後まで連れて行きなさいよ・・・」

佐天「御坂さん・・・」

初春「私も・・・」

佐天「初春・・・」

白井「責任は最後まで果たします。どうやっても引けないようですし」

佐天「白井さん・・・」

 佐天は大きく頭を下げた。

佐天「私、悔しいんです。何もできなかったことが。小次郎さんが、奪われたことが。これは、ただのわがままです。でも・・・大切なことなんです。お願いします!力を貸してください!!」

―――――
――――
-――

 マンションから四人の少女が出てくる。彼女たちは目が赤くなっているがその目は意思に燃えていた。そして、しっかりとした足取りで最後の戦いに向かったのだった。

―学園都市 路地―

リドビィア「・・・・・・」

 リドビィアは焦った心を落ち着けつつ、学園都市の路地を進んだ。儀式を行う場所には、オリアナの方が早く着くだろう。しかし、サポートはあった方が確実。そして、素早い。目立たぬように、路地を早歩きで移動する。

 ギルガメッシュと対峙し、敗北したことによるショックは大きい。しかし、目的のためには落ち着かなければ。儀式の発動には冷静さが必要だ。

 しかし、そんなリドビィアの眼前に人影が現れる。そして、その人影が自分の知る人物、であることを理解したリドビィアの中に確かな怒りが芽生える。

リドビィア「こんばんは。そろそろ良い子は寝る時間ですので。お帰りになられた方が良いのではないですか?」

 怒りを隠しつつ、笑顔で話しかけるリドビィアに対して、佐天は無言で刀を構える。


リドビィア「・・・・・・アサシン。排除を」

真アサ「御意」

 リドビィアの前に現界したアサシンはダークを構え、佐天に向かって投げつける。体を欠損していても、威力は変わらず、弾丸の速度。

 ――キンッ!!しかし、その攻撃は何者かの攻撃で弾かれる。そして、わずかに動揺したアサシンに向かって佐天は駆け出した。

 佐天達に明確な目的はなかった。リドビィアの作戦ももちろん知らない。ただ、あのような形で聖杯戦争を終わらせたくない、というわがままだった。

 そのために、初春は学園都市中にハッキングをかけ、リドビィアを見つけ。御坂は路地に隣接するビルから電撃で佐天への攻撃を弾き。白井は危険であればすぐに撤退できるように待機していた。

そして、佐天は「せめて、一矢報いたい」その思いで駆け出した。

佐天「りゃあぁぁ!」

 必死の特攻。佐天は刀を現界した真アサシンに振り下ろす。


――バシッ。真アサシンは特に避けることもなく。その刀を片手で掴む。確かに攻撃を弾かれたのは予想外であった。隙は確かにできていた。しかし、だからといって仮にも英霊であるハサンを倒せることにはならない。

白井「ッ!?」

 白井の判断は早かった。佐天の攻撃が防がれた瞬間に瞬間移動の体制に移る。しかし、リドビィアの怒りによる行動はそれさえも凌駕していた。

リドビィア「令呪を使用します。宝具の開放を。愚か者には確実な死を!」

 リドビィアの令呪が輝く。そして、真アサシンの欠損している右腕に光が集まり形を形成した。


真アサ「うおぉぉぉ!」
 真アサシンの咆哮。その時、リドビィアは異常に気がついた。令呪が消えないのだ。発動したはずの令呪は未だにその輝きを維持したままである。そして、真アサシンの様子もおかしい。

未だに宝具を発動していない。そして、真アサシンの異常はそれだけではなかった。光は足にも集まり右手と同じよう形を作っていく。

リドビィアは今回の魔力の流れを知っていた。思い出していた。しかし、反応はできない。ただ、ひたすら頭の中が混乱していた。


 ――刀が止められた瞬間、佐天は覚悟し、目を閉じた。

 いざという時は白井が救助に来てくれる予定だったが、間に合わない気がした。全身の感覚が研ぎ澄まされている。

佐天「・・・・・・」

 目をつぶったのは、死の恐怖からではない。死ぬ寸前の光景が、汚い路地と気持ちの悪い髑髏の仮面ではあまりに切ないからだ。

 その瞼の裏では過去が走馬灯のように流れる。両親の顔、弟の顔、友人たちの顔、そしてほんの数日前に知り合った彼の姿も。その姿に後悔と申し訳なさを感じる。そして、最期の時を待つ。

 しかし、次の瞬間佐天は右手の熱さと共に、声を聞いた。

?「秘剣・燕返し!」


 今回の聖杯戦争は、冬木の聖杯戦争を踏襲している。そのため、呼び出せる英霊は限られていた。本来なら召喚されないサーヴァント、佐々木小次郎の真名で呼び出された彼が今回参戦できたのはその特異性があったからだ。

 しかし、その根本が異質な彼はリドビィアの手によって、その肉体を糧に、真アサシン召喚の道具となった。

 だが今回、佐々木小次郎はただ召喚されたわけではない。
 ――聖遺物。佐天が偶然持っていた。あの出来損ないの刀は以前佐々木小次郎が持っていたものではもちろんない。それどころか、侍の手に渡ったことがあったのかもわからない。しかし、佐天の親戚の研究者は、それを剣豪、佐々木小次郎の刀、物干し竿と思っていたという。

 まがい者の佐々木小次郎にまがい物の物干し竿。

 つまり、今回アサシンのサーヴァントは聖遺物をもって。強い意志によってこの世に召喚されたのだった。

 だが、そのような背景も、理由付けも無用のものだった。彼女たちには一つの言葉があれば良い。

 ――奇跡が起きたのだ。


佐天がゆっくり目を開くとそこには長身の剣士が立っていた。初めて会った時と同じような笑顔で佐天を見下ろす。

アサシン「どうやら、今回は異常の連続のようだ。久しぶりだ。済まなかったな」

佐天「そ、そんな・・・。小次郎さん・・・。なんで?」

アサシン「説明は後にしようか。さて、無駄な殺生は嫌いだが、どうしてもと言うのなら相手をするが?」

 アサシンは口を開けて驚愕しているリドビィアを睨みつけた。

 リドビィアは必死に状況を整理しようとするが頭が追いつかない。真アサシンの体が光に包まれたと思った瞬間に3本の剣筋が見えたと思ったら真アサシンは消え去り、あの男が立っていた。そして、令呪は消えている。わかったのは自身の敗北だけだった。

 ビリッ-。何やら分からぬ音を聞いてリドビィアは失神した。

 その背後から御坂が現れた。

佐天「御坂さん」

アサシン「相変わらず血の気が多いな。もう少し話をしておきたかったのだが」

御坂「訳わかんないけど・・・。また、この前みたいなことなったら大変だからね。一晩寝てもらうだけよ。必要だったら起こす?」

佐天「いや、寝かしておきましょう。それより、小次郎さん!?」

アサシン「何だ?」

佐天「えっ?そんな風に返されるとなんて言えばいいのか困るんですけど」

―ヒュン!瞬間移動とともに初春と白井が現れる。

白井「大丈夫ですか!?佐天さん!お姉さま!・・・そして、あなた本当にあの小次郎さんなんですの?」

初春「また、あの変なのに変身したりしませんよね?」

アサシン「多分大丈夫だろう。心配をかけた。しかし、少し騒ぎすぎではないか?」

御坂「全く、こっちの気も知らないで・・・」

佐天「でも、変わってなくって良かったですよ。再会できるなんて思わなかったし」

白井「そうですの」

初春「そうですよね。あっ、そういえば残り何組残ってるのか知りませんけど、私たちもしかしたら、最後まで残れるんじゃないですか?」


アサシン「ふむ、そのことだがな」

佐天「どうかしたんですか?」

御坂「何?弱気になってんの?」

アサシン「少々、この女たちが面白い計画を建てていてな。お前たちには聖杯云々より重要なことだ」

白井「なんですの!?」

佐天「計画って・・・・・・?」

アサシン「まぁ、聞け。――」

 アサシンはリドビィアとオリアナの計画を話し始めた。


―学園都市 ビル―

 学園都市、アレイスターに会うために土御門とギルガメッシュはビルのエレベーターに乗っていた。

 土御門が口を開いた。

土御門「そちらの状況は?あぁ・・・」

 エレベーターに乗っているのは土御門とギルガメッシュのみであったが、土御門が話しかけているのはギルガメッシュではない。

 会話の相手は外で待機している一方通行だった。現在、このビルには特殊な魔術がかけられており。一般の通信機、魔術による外部との連絡ができない状況にあった。

 土御門が連絡できているのは宝具の力である。土御門とギルガメッシュ、そして外にいる一方通行の耳には変わったイヤリングがついている。

 遠くの人と連絡を取りたいと思うのは古代も現代も同じだ。それを可能にする宝具がギルガメッシュの宝物庫に無い訳がない。


土御門「・・・・・・とりあえず。外に動きはない。間に合ったようだな」

ギル「ふん、つまらんな。元春、この我が動いてやろうというのだ。この建物ごと破壊すればいい。派手に壊せば、我の鬱憤も少しは晴れる」

土御門「好き放題やっておいてよく言うよ。約束は守ってもらうぞ」

ギル「壊すのは聖杯だけ。その道化回しも殺すな、か・・・。元春、残った令呪を確認しておくことだな。多少、礼を尽くしていたとしても、我が気に入らなければ意味などは無い」

土御門「分かっているさ英雄王。あと少しの辛抱だ。アレイスターがやろうとしていることが予想通りだったら。あなたにだって影響が出るだろう」

ギル「ふん、まぁ。元々、興の乗らない茶番だった。楽しめたほうか」

 土御門とギルガメッシュを乗せたエレベーターはゆっくりと降りていく。そんな二人をアレイスターは不敵な笑顔で待っていた。


―学園都市 広場-

 学園都市のとある広場。オリアナ=トムソンはある十字架の前に立つ。その十字架こそが、リドビィアの奥の手にして最後の宗教兵器だった。

 オリアナはおもむろに自身の魔術「速記原典」を発動させる。火球が現れ、十字架を襲う。十字架の一部が焼け焦げ、崩れる。しかし、次の瞬間崩れた破片が十字架に戻り、元の形となった。

 オリアナは十字架の特性である自己修復能力を確認すると静かに笑う。上条当麻がいない今、これを破壊できる人間などアレイスターくらいではないだろうか。

オリアナ「……」

 しかし、オリアナはその考えを打ち消した。破壊できる魔術師はアレイスターくらいかもしれないが、現在学園都市には英霊であるサーヴァントが召喚されている。残っているのは自身が使役しているバーサーカー、セイバー、アーチャー、そして―。

オリアナ「リドビィアのアサシン……。だったはず、なんだけど。…お姉さん、困っちゃうわ」

 オリアナの視線の先には悠然と歩いてくる。アサシン、佐々木小次郎と佐天涙子の姿があった。


アサシン「さて、祭りも終盤だ。初戦の雪辱を晴らしたいのだが、異存はあるまいな」

 アサシンはゆっくり物干し竿を構える。その表情は晴れやかな笑顔だった。

佐天「それのことは聞きました。……破壊させてもらいます」

 佐天はアサシンの背後に立つ。その顔には強い意志が現れていた。

オリアナ「……ふぅ。いいわ、起きなさい!バーサーカー!」

 オリアナの前方にバーサーカーが現れる。オリアナとの魔力の連結は弱まっているものの、明け方までなら全力で戦っても消えることは無いだろう。宝具の使用には令呪を使う必要があるが……。

バーサーカー「!!!!!!!!!」

アサシン「礼を言うぞ、狂戦士。今回は部外者はいない、互いに全開を出そうではないか」


佐天「小次郎さん……」

 佐天は言葉に詰まる。御坂たちはここには来ていない。それは、彼女たちが体力的に限界をむかえていたからであり、サーヴァント同士の戦闘では無力だからである。つまり、自分たちが負ければオリアナを止めることが出来る者はいない。

それなのに、アサシンは随分楽しそうだ。文句の一つも言うべきなのかもしれない。そう思いつつも、佐天の口から出たのは文句とは正反対の言葉だった。

佐天「小次郎さん……」

アサシン「何かな?」

佐天「存分に、後悔無いよう戦って下さい。手は出しませんから」

アサシン「無論。中々の好敵手だ。ここで、楽しまなければな」

佐天「あ、当然ですけど勝って下さいね」

アサシン「もちろん、そのつもりだが。絶対は無いな。その時はどうする?」

佐天「ご心配なく」

アサシン「おや、何やら策があるのかな?」

佐天「小次郎さんが負けても、私が戦います。あの十字架を壊せばいいんだから、きっとできますよ」

アサシン「……ふふふ。そうか、ならば安心だ」

 アサシンは穏やかに笑う。佐天もそれに答えた。二人の間には他に例えることのできない不思議な信頼関係が築かれていた。


オリアナ「……」

 オリアナは二人の様子を見ながら、状況を解析していた。なぜ、このアサシンが存在できているのかは分からないが、リドビィアは無事ではないようだ。生死は分からないが今は戦闘に集中する。こちらの手札は自分の魔術と二つの令呪。

相手のマスターは魔術師としては最低のレベル、彼女を狙うこともできるがこちらが不要に動いて十字架がサーヴァントに壊されては意味がない。

ならば、サーヴァントの戦闘に集中し、サポートをする方が良いだろう。アサシンは技量はあるものの、それ以外の面ではバーサーカーが圧倒している。ならば―。

オリアナ「令呪を持って命ずる。バーサーカー!魔剣を!」

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーの咆哮と共にその手に彼の真の宝具、「無毀なる湖光(アロンダイト)」が握られる。

 最初から全力で圧倒的な力でねじ伏せる。オリアナは合理的かつ、シンプルな方法を取った。

アサシン「さぁ、始めよう!」

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 アサシンとバーサーカーは共に駆け出した。そして、強烈な衝撃を生み出し、広場の中央で衝突した。


 戦闘が始まり、オリアナは混乱した。二騎のサーヴァントの実力が拮抗していたからだ。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーの一閃がアサシンの頭めがけて振り下ろされる。

 しかし、アサシンはそれを最小の力で受け流す。そして、わずかな隙を確実に攻め立てるのだ。

オリアナ「…ッ!」

 オリアナは歯を食いしばる。完全に予想外の展開だった。初戦の時と比較して、確実にアサシンは強くなっている。

バーサーカーと前回一度戦ったことで手の内がある程度読まれていること。リドビィアの魔力が残っていること。この戦いに全身全霊をかけていること。

 オリアナの推測した、いくつもの要因の中。オリアナは一番大きな要因をこう考えた。
―――変化はマスターにある。

実際、アサシンの戦闘を見守る少女はまるで歴戦の魔術師のような落ち着きを持ちつつ、周囲への警戒さえしているように見える。手に持った武器はただのバットのようでそれは、滑稽であるものの殺気さえ感じるほどだ。


オリアナ「馬鹿な……」

 どのような分野でも天才はいる。強烈な経験が人を急激に成長させることもあるだろう。しかし、いくらなんでも……。

オリアナ「……」

 オリアナはゆっくりと「速記原典」を発動させた。バーサーカーの戦闘に注意を払いつつ、マスターの佐天のみを狙う。

 オリアナの目の前に現れた空気の塊は回転を始める。そして、バーサーカーとアサシンの戦闘を避けるような軌道を描きながら佐天に向かっていく。

 空気の球の破壊力は大きくは無い。しかし、気づかれにくく避けにくい。空気の球は音もなく佐天の頭部を襲う。

佐天「!?」

 ―――ボシュ!!それは空気がぬけた音だった。佐天は自身を襲う不可視の攻撃を見事に破壊して見せたのだった。


―――シュタ!

 アサシンは一旦バーサーカーと距離を取った。佐天の方を向きもせず。視線はバーサーカーに注がれている。

アサシン「何かあったか?」

佐天「いいえ、何も……」

 佐天はバットを構えながら言う。

その光景見ていたオリアナは一つの決定を下した。あのマスターを狙うことはやめる。という決定だ。

 やはり、魔術師としてあの少女は最低ランクである。あの攻撃の対応がそれを物語っている。しかし、サーヴァントとの契約によって魔術回路に異常が起こり、感覚や身体能力に変化が起きている可能性がある。

そのような、未知の存在を相手にしての戦闘は自分の本分ではない。さらに、アサシンも彼女も完全な捨て身の形だ保身に走っては勝てない。

オリアナは令呪を通してバーサーカーに意識を集中する。完全に切れてしまったと思った魔力のパスは、令呪を使用した時に多少つながった。一時的なものだろうが今はそれで十分。

オリアナ「……バーサーカー。全力で行きましょう」

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!」

 今まで以上に大きいバーサーカーの咆哮。それを、アサシンと佐天は強い視線で受け止めた。


オリアナ「やりなさい!バーサーカー!!」

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 咆吼と共にバーサーカーはアサシンに向かって突進する。「無毀なる湖光」を大きく振りかぶりアサシンめがけて振り下ろす。

 しかし、アサシンはバーサーカーの一撃を紙一重で避けると瞬時に攻撃に移る。しかし-。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

アサシン「クッ!」

バーサーカーは体制を立て直そうとはせずに、崩れた体制のまま再び攻撃を開始する。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーの連撃はその一つ一つが必殺の一撃。アサシンもうまく攻撃をいなしていくものの、徐々に押され始めた。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


アサシン「クッ!」

佐天「小次郎さん!」

オリアナ「止まらないで!!バーサーカー!」

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

アサシン「なっ!?」

 バーサーカーの一撃を受け切れず、アサシンの体制が大きく崩れる。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 剣を両手で持ち振り下ろす、バーサーカーの渾身の一撃。

アサシン「グッ!?」

 ドゴン!!その衝撃は地面に小さなクレーターを作り、アサシンの体を佐天の足元まで吹っ飛ばした。


佐天「小次郎さん!!」

アサシン「全く・・・。狂戦士の力、あれ程とはな」

佐天「傷が・・・・・・」

 バーサーカーの攻撃を避けきれずについた傷がアサシンの胸についていた。

アサシン「何、服と皮が一枚切られただけだ。まだこれからよ。しかし、つくづくバーサーカーにするには惜しい英霊だ。技量には自身があったのだが、その看板も下ろさねばならないかな」

佐天「小次郎さん・・・・・・」

アサシン「わかっているさ。そろそろ、だろうな」

 アサシンはゆっくりと立ち上がると、なぜか追撃をしてこないバーサーカーに向き合った。

アサシン「実に、楽しい戦いだったが、幕を下ろすこととしようか。狂戦士」

 アサシンはバーサーカーに向かって駆け出す。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーはアサシンが刀を使い、力を逃せないように強力な一閃を放った。再び両手に剣を掴むと横に大きく振り切った。


オリアナ「なっ!?」

 しかし、バーサーカーの選択は意味のないものとなった。アサシンは攻撃を刀で受けようとはしなかったからだ。--アサシンは跳躍したのだ。

 バーサーカーの攻撃が空を切った瞬間、地面に着地したアサシンは必殺の構え。バーサーカーに向かって秘剣を放つ。

アサシン「秘剣・燕返し」

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーは体制を立て直しながら、自らの魔剣を盾に防御の体制を取る。

 しかし、燕返しは空間を捻じ曲げ三撃を同時に召喚する技。平坦では回避はまず不可能、バーサーカーは背後に避けることもできなかった。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 燕返しによって、魔剣が大きく弾かれた。

アサシン「馬鹿な!!」

 しかし、バーサーカーは健在。武器を失ったものの傷はついていない。燕返しは狂戦士に当たらなかったのだ。

アサシン「だが!」

 アサシンは状況を理解できないまま、再びバーサーカーに斬りかかる。武器を持たない騎士ではこの一撃は避けられまい。


オリアナ「バーサーカー!!」

 しかし、武器は彼女が用意していた。十字架を離れバーサーカーの近くまで移動していたオリアナの口には小さな紙片。

 オリアナの声と同時に魔術「速記原典」が発動した。バーサーカーの足元の地面がわずかに隆起し、剣の柄のような形となる。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーは咆吼と共にその柄を掴むと引き抜く。引き抜いた物は土でできた剣。それは、偶然にも彼の国に伝わっていた。王を選定する聖剣のような形をしていた。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 宝具となった土の剣はアサシンの腕を切りつけ侍の腕を切り落とした。彼の愛刀である物干し竿は大きな弧を描いて飛んで地面に落ちた。

アサシン「・・・なるほど」

 そして、自分が斬られる感覚と共に、アサシンは自身の敗北の理由を知った。

アサシン「地の利を得ていたか」

 バーサーカーが燕返しを避けることができた理由。それは、地形が大きく関わっていた。燕返しが回避不能となるのは平坦の状態のみ、バーサーカーは燕返しを避けるのに、自らの攻撃で作った地面のクレーターを利用したのだ。


アサシン「卑怯・・・。などとは言わんよ。実に巧い。完敗だ」

オリアナ「残念だったわね」

 オリアナは息をつき、消えかけているアサシンに語りかける。

アサシン「ふっ、確かに私は負けはした。しかし――」

オリアナ「しかし?」

アサシン「最期に教えてやる。我が主はな。可愛らしい小鳥に見えて、中身は鋭い爪を隠した猛禽のたぐいぞ。目を離すと、首を切られる」

 不敵に笑うアサシンの言葉を聞きつつオリアナは必死にマスターである佐天を探していた。

 しかし、視線の先、たっていたはずの場所にはその姿は無い。オリアナは嫌な予感を感じつつ自らの背後、十字架の方向を見る。

オリアナ「!?」

 ――いた。佐天涙子は物干し竿を構え、十字架の前に立っていた。

 佐天が走り出したとき、彼女は何も考えていなかった。アサシンとバーサーカーの激突の前に、オリアナは移動をしていた。佐天の目には守る者のいない、十字架が見えた。

 だから、駆け出した。気がついたら走り出していたのだ。戦闘はアサシンに任せる約束だった。自分ができるのはそれを見守ること。アサシンにはああ言ったが十字架の壊し方などわからなかった。

 でも、足が駆け出してしまったのだから、止まることは許されない。

 走っている途中、目の前に見慣れた刀が落ちてきた。なぜそれが、ここにあるのか。考えることもはできなかった。自然な動きで走りながら、地面に刺さったそれを引き抜き、駆け出す。

佐天「はぁはぁ」

 学校ではしたことのないような全力疾走で、佐天は十字架の前に立った。

佐天「・・・・・・」


 彼女は自然に構えた。物干し竿を両手に掴み、対象に背中を見せるように。

佐天「・・・・・・秘剣」

 その口は自然にその名を呼ぶ。

 その技を見たのは何回だろう。目に焼き付くほど、見たわけでは無い。

 でも、心には焼き付いている。

 手の甲の令呪は熱く、消えかけていた。でも、それ以上に全身が熱い。目の前には十字架、切る場所はわかっていた。

佐天「燕返し」

 その瞬間、佐天の放った剣筋は空間を捻じ曲げ、三本の軌道で十字架を切り刻む。そして、十字架が再生することは無かった。

佐天「・・・はぁ」

 佐天はその場に座り込んだ。全身から力が抜けて、どうやっても力が入らない。立てるかどうかさえ。


佐天「グッ」

 しかし、佐天は立とうとした。令呪が無いのはわかっていた。それでも、振り向いたら彼が笑っていてくれるようなそんな気がしたから。

佐天「あっ・・・」

 佐天の目の前にサーヴァントが立っていた。狂戦士、バーサーカーは佐天を、感情の読めない兜越しに見下ろしていた。

佐天「グッ」

 佐天は力の入らない体を動かし、刀を構えようとした。しかし、その手は無残に刀を落とした。同時に佐天は前向きに倒れ込む。

 ガシッ。それを支えたのはオリアナだった。

オリアナ「随分無茶したのねぇ。魔術回路もボロボロ。もう使えなくなってるかも」

佐天「あ、あの・・・・・・。なんで・・・」

 オリアナは佐天を座らせと、ペットボトルに入った水を差し出した。


オリアナ「流石に、こんなことやられちゃねぇ。お姉さんの完敗。これも壊されちゃったし、バーサーカーも消耗しすぎて残り数時間も持たない。こんな状況でお嬢ちゃんを殺す様な女じゃないわよ。お姉さん」

佐天「あ、あり・・・が・・・・・・」

オリアナ「休みなさい。大丈夫だから。あなたのサーヴァントも、あなたのことは褒めてたわよ」

佐天「そう・・・で、すか・・・・・・」

 佐天は倒れるように眠った。

オリアナ「さてと・・・・・・。何!?この魔力?」

 ドゴゴゴ。その瞬間!学園都市の都心部から巨大な光の柱が立ち上がったのをオリアナは見た。


―学園都市 某ビル―

 広場でアサシンとバーサーカーの戦いが始まっていた時。土御門とギルガメッシュはアレイスターと向き合っていた。部屋の中には不気味に蠢く肉塊が置かれている。

 真剣な表情の土御門に対して、楽しそうな声でアレイスターは話しかける。

アレイスター「何の用だ?まだサーヴァントは残っているぞ」

土御門「聖杯か・・・・・・。残念だが、アレイスターこの聖杯戦争は終わりだ」

アレイスター「なぜ?参加者の望みを無下にする資格が、お前にあるようには思えないが?」

土御門「確かに無いな。だが、召喚されるのがまともな聖杯でないのなら話は別だ。それどころか、お前は聖杯をこの地に召喚するつもりもないんだろう」

アレイスター「おかしなことを言う。では、何のために私がこのような場を用意したと?」

土御門「英霊の座」

 土御門の言葉にアレイスターの表情がわずかに変化した。

土御門「聖杯戦争の際に、呼び出される前の英霊たちが存在する場所。人の手に届かない世界の記録装置」

アレイスター「それをどうしようと?」

土御門「最終的な目的はわからないが。アレイスター、お前は英霊の座をこの学園都市に堕ろすつもりだな」

 アレイスターは笑い出した。部屋の中に声が響く。


アレイスター「思っていたより早かったな。いつかは気づかれるとは思ったが」

土御門「この世界の、過去、現在の英霊たちが存在する。神域との接触だ、何を考えているが知らないが、下手すると世界そのものが崩壊する」

アレイスター「ほう、ではどうする?」

土御門「ギルガメシュ」

 土御門の声を聞き、つまらなそうな表情で立っていたギルガメッシュは宝具を一瞬展開する。

 ザシュ――。目にも止まらぬ速さで宝剣が放出され、肉塊を跡形もなく消し去った。

土御門「悪いがこれで・・・・・・。何が可笑しい?」

 アレイスターの笑いの理由をギルガメッシュは不愉快な声で説明した。

ギル「元春、やはり役者としての腕は奴の方が数段上の用だ。我の潰した肉塊、あれは聖杯の器では無い」

土御門「なんだと!?」

ギル「人造人間に近いものではある。聖杯の核はあれに入っていたのかもしれぬ。しかし今は僅かな魔術回路を持つ、みすぼらしい肉に過ぎなかったようだ」

土御門「では、聖杯は・・・・・・」

アレイスター「既にここにはない。しかし、すぐに姿を現す」


土御門「何を言って・・・・・・」

アレイスター「先程、4騎目のサーヴァントが聖杯の器に入った。機は熟した」

土御門「!?」

 同時に、大きな音が土御門の耳に入る。この部屋にまで響く轟音。そして、土御門の耳にギルガメッシュの宝具を通して一方通行の声が聞こえる。

一方通行「おい土御門ォ!何が起きてんだァ!!」

土御門「クッ。先手を打たれた。外では何が起きてる!」

一方通行「突然、巨大な光の柱が・・・・・・。まるであの時みてェだ」

土御門「あの時!?」

一方通行「九月の事件で――」

土御門「0930事件の!?ヒューズ=カザキリか!?」

 土御門はアレイスターを睨みつける。

土御門「ヒューズ=カザキリに聖杯を連結させたのか!?」

アレイスター「いかにも、予想以上に馴染んでいるようだ」


土御門「ギルガメッシュ!!外に出るぞ!」

ギルガメッシュ「ああだこうだと五月蝿い男だ」

 踵を返し歩きだそうとするギルガメッシュと土御門の背中にアレイスターは声をかける。

アレイスター「それを、私が許すとでも?」

ギルガメッシュ「許さないとどうなる?せっかく拾った命、むざむざ捨てることも無いと思うが?」

 ギルガメッシュは軽蔑の眼差しでアレイスターを睨みつける。

土御門「やめろ!アレイスター。こいつの力をお前だって知っているだろう」

アレイスター「無論、最古の英雄王に勝とうとは思わない。それに――」

 アレイスターの眼前の床に円形の光が集結しだした。土御門はそれが英霊召喚の魔方陣だと瞬時に気がつく。

アレイスター「サーヴァントの相手はサーヴァントに任せるとしよう」


土御門「ギルガメッシュ!攻撃を!」

 あせる土御門の声をあざ笑う声で、ギルガメッシュはその命令に答える。

ギルガメッシュ「そう急ぐな。このような状況下で召喚されるサーヴァントだ。我の敵ではなかろう。その無様さを笑うのもまた一興よ」

土御門「ッ!?また油断を・・・・・・」

アレイスター「流石は英雄王。では、胸を貸していただこう」

 アレイスターの眼前にサーヴァントが召喚される。

土御門「!?」

 しかし、その姿を見て土御門は安堵した。召喚されたのは英霊には違いないが、明らかに魔力が不足している。

 姿は細身に金髪の美青年であるが、意識は無いようだ。宝具も使用できる状態とは思えない。

?「!!!!!!!!!!!!!」

 バーサーカーのような咆哮を上げて、サーヴァントはギルガメッシュに突進する。しかし、それも単調な動きだ。ギルガメッシュは宝具の一撃をもって終わらせるだろう。

 ―――しかし、土御門の予想は裏切られることとなる。ギルガメッシュは一つの宝具を展開することもなく、敵の攻撃をその体で受け止めたのだ。

 ドガッ!大きな音と共にギルガメッシュは背後の壁に強く叩きつけられる。

土御門「ギルガメッシュ!!」

ギル「・・・・・・」

 ゆっくりと顔を上げたギルガメッシュの顔には先ほどの余裕は無かった。代わりにそこにあったのは土御門の見たことのない憤怒。そして、視線は敵のサーヴァントではなくアレイスターに注がれていた。

ギル「おのれぇ!!!魔術師風情がぁ!!!」

 次の瞬間、宝具「王の財宝」が一気に展開される。しかし――。

?「・・・・・・」

ギル「クッ」

 しかし、敵のサーヴァントがその前に立った瞬間、ギルガメッシュは宝具の使用を止める。

?「!!!!!!!!!!!!!!」

 再び、敵は咆吼と共にギルガメッシュに襲いかかった。


ギル「グッ!!」

 ギルガメッシュも応戦するものの敵に攻撃を加える様子はない。徒手で戦う英雄王を見ることとなろうとは。混乱のまま土御門はギルガメッシュに声をかける。

土御門「何をやっている!?早く宝具を!!」

 しかし、土御門の声など気にもせず。それどころか、戦っている敵の姿さえ見ようとせずにギルガメッシュはアレイスターに視線を注ぐ。敵のサーヴァントから、目を逸らすように。

ギル「魔術師ごときが・・・。このような・・・。この男に、我にこれほどの不敬をぉぉぉぉ!!!」

 そのギルガメッシュの咆哮も敵の攻撃にかき消される。

 しかし、土御門は敵のサーヴァントに思い当たった。

土御門「まさか、あの男は――」


 最古の英雄、ギルガメッシュは当時、栄華を極めたウルクの王であった。半神であったギルガメッシュにとって自国の国民、いや自分以外の全ての人間は自分に仕えるべき存在であり、自身と並ぶ存在では無かった。
 そんな暴君に神々は泥から一人の人間を創りだした。それがエルキドゥ。英雄王、ギルガメッシュの唯一無二の親友。
 ギルガメッシュとエルキドゥは戦いを通してお互いを認め合い。数々の冒険を通して友情を育んだのだ。
 しかし、エルキドゥは神々の怒りに触れたことで命を落とすこととなる。ギルガメッシュは親友の死に涙しながらその体が朽ちるまで、抱きしめ続けたという。そして、ウルクを襲った怪物を倒すときに使用した、神をも捕らえると言われる「天の鎖」にその親友の名をつけた。

 もし、アレイスターの召喚した英霊がそのエルキドゥならば、ギルガメッシュの行動は理解ができる。ギルガメッシュにとってエンキドゥは特別な存在だ。そもそも、「王の財宝」の中にある数々の宝具は親友と共におこなった冒険、そして親友を失ったショックから不死を求める事となった旅の途中で手に入れたものだった。
 仮に、エルキドゥが正式なサーヴァントとしてまともに召喚されていれば、英雄王は喜び勇んで戦っただろう。自身の財宝全てを使用して戦うに値する相手だと狂喜したかもしれない。

 しかし、アレイスターの策略か、自然にこの状況になったのかはわからないが、エルキドゥはまともな状態ではない。英霊の魂はあるかもしれないが意思はなく、それこそ只の人形のような状態だ。

 そのような、親友に英雄王が全力で戦うことはできなかった。彼以外の英霊であれば、涼しい顔で宝具を使用した。彼以外の英霊であればその相手に礼を尽くそうとは思わなかった。しかし、現在彼の前には親友が変わり果てた姿で立ちふさがる。

 アレイスターは本来ならば最強クラスの英霊を弱体化させることで、最古の英雄王を無力化したのだ。


土御門「くそっ!」

 土御門の視線が自然に手のひらの令呪に移る。残された令呪は残り一つ。使用すればギルガメッシュに強制的に宝具を使用させることもできるだろう。

土御門「!?」

 しかし、その考えを強烈な殺気が打ち消す。ギルガメッシュは戦いながらも土御門に視線を向ける。

土御門「くそっ!」

 令呪を使用してエルキドゥを倒せたとしても、ギルガメッシュはすぐに消えるわけではない。単独行動のスキルを持つアーチャーのクラスは、マスターからの魔力供給が無くてもしばらく行動できる。

 怒りに狂った英雄王はその怒りのままに宝具を使用し、学園都市を廃墟とするだろう。土御門は身動きが取れないでいた。

―学園都市 大通り―

 擬似聖杯の発動、その巨大な光の柱が出現した瞬間、インデックスは瞬時に聖杯戦争と930事件と結びつけ、状況を理解した。――つまり、あの光はあまりに危険なものであり、その下には親友である風斬氷華が、またしてもこの学園都市の道具にされた状態で存在している。というものだ。

 本来ならば、すぐにでも彼女を助けるために聖杯の元に急がねばならない。そんなことはわかっていた。サーヴァントのセイバーにも状況は伝えてある。彼女の足であれば数分であの聖杯に到達できる。

 しかし、それはできない状況だった。

インデックス「せいばー!!」

セイバー「クッ・・・」

?「””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””!」

 セイバーはサーヴァントと戦っていた。

 聖杯の元に駆けつけようとする二人の前に現れたのは見たことも無い鎧を付けた騎士のサーヴァントだった。そのサーヴァントには意思がない様であったが、実力は確かでセイバーとの打ち合いを演じている。


セイバー「なぜ・・・・・・」

?「””””””””””””””””””””””””””””””!」

 セイバーの僅かな隙を謎のサーヴァントが攻撃する。しかし――。

セイバー「ッ!りゃぁああ!!!」

 セイバーは目にも止まらぬスピードでサーヴァントの攻撃を回避すると、敵の体を横薙ぎに斬りつけた。

?「””””””””””””””””””””””””””””””””」

 ゴンッ!!セイバーの攻撃を自身の剣で防御したものの、衝撃を抑えきれずにそのサーヴァントは大通りに並ぶ店の中に飛ばされた。

インデックス「せいばー。やったんだよ!」

 喜ぶマスターの発言をセイバーは否定した。

セイバー「まだです。あの子はあの程度では・・・。それよりインデックス、お願いがあります」


 あのサーヴァントを知っているかのようなセイバーの発言に驚きながらインデックスは答える。

インデックス「何?」

セイバー「聖杯を使用して、私の脚力に強化を。ここで時間をかけるのは得策ではありません。それに――」

インデックス「それに?」

 辛そうな表情でセイバーは答える。

セイバー「私は、あの子ともう、戦いたくないのです」

インデックス「それって・・・・・・」

?「””””””””””””””””””””””””””””!」

 インデックスの声をかき消す敵の咆哮、インデックスは考える間もなく令呪を発動させた。

 インデックスの命令通り、セイバーの肉体には魔力があふれる。

セイバー「・・・インデックス、捕まってください。あの子は多分追ってきます。直接聖杯に向かってはあの子も連れて行くことになる。少し回り道をします」

インデックス「うん」

 セイバーは土煙から出てくるその英霊に悲しい視線を投げつけ、大きく跳躍した。


 ――シュタ。先程からかなり離れた、とあるビルの上にセイバーは着地した。

セイバー「ここまでくれば、大丈夫でしょう。すぐに聖杯に向かいましょう。インデックス」

インデックス「うん・・・。その前に質問なんだよ。あのサーヴァントはいったい・・・・・・」

 セイバーは静かに口を開いた。

セイバー「一目見て分かりました。あの子は私の罪なのです。円卓の騎士の一人、真明は―――」

 しかし、そのセイバーの告白をインデックスの悲鳴が止める。

インデックス「きゃあ!せいばー!!」

セイバー「なっ!?」

 令呪を使い、振り切ったはずの先ほどのサーヴァントがいつしかその場に立っていた。

?「”””””””””””””””””””””””!」

 困惑するセイバーとインデックスに襲いかかる凶刃。

セイバー「ッ!?」

 かろうじてセイバーの防御が間に合う。そして、セイバーの口からは悲痛な叫びが。

セイバー「あなたは、そんなにも私を・・・・・・。答えてください!モードレット!」

 モードレット。アーサー王の息子でありながら、祖国とアーサー王の命を奪う原因となった反逆の騎士がインデックスとセイバーの前に立ちふさがった。


 キンッ!!―その、剣と剣の打ち合いがどこか寂しく響く。

セイバー「クッ!」

モードレット「”””””””””””””””””””””””!」

 声にならない、モードレットの叫び。それは父に対する憎しみか、あるいは本人の意思で戦っていないこの状況に対する救済を求める声なのかはセイバーには理解できない。

 しかし、今自分がやるべきことはただ一つだった。

セイバー「・・・・・・」

 セイバーはモードレットの攻撃を弾くと距離を置いた。そのセイバーの背中にインデックスが声をかける。

インデックス「せいばー!令呪を」

セイバー「いえ、必要ありません。今は宝具を使用する場面ではありません。大丈夫です。・・・・・・今の私はあなたの剣です。この子のためにもこの勝負、すぐに終わらせます」

 そう言うとセイバーは聖剣を構えモードレットに斬りかかる。――と、轟音と共にセイバーとモードレットの間に光の球体がどこからか飛び込んだ。

 光が徐々に消えていき、それが何か理解した瞬間、セイバーは絶望した。

セイバー「そんな・・・・・・。ランスロット・・・。あなたまで・・・」

 光が消えたその場所には、裏切りの騎士。バーサーカー、サー・ランスロットの姿があった。


―数分前 学園都市 某広場―

 光の柱が出現した光景を見たオリアナは素早く行動した。佐天を安全な場所に移すと、空間がわずかに歪んでいるという状況を把握、装備を整えると移動を開始した。

オリアナ「と、その前に・・・・・・」

 オリアナは自分の手に薄く光る令呪に目を落とす。そして、目線の先に立つ自身のサーヴァントに話しかけた。

オリアナ「残念だけど、この先あなたの仕事はないわ。この空間だと、あなたが敵の操り人形になる可能性もあるの」

 オリアナは令呪をバーサーカーに向かって差し出した。

オリアナ「まぁ、わざわざ自害を命じなくても、今の状態ならこの令呪が無くなれば消滅するでしょう・・・・・・。何?」

バーサーカー「・・・・・・」

 沈黙するバーサーカー。意識のないはずの使い魔、しかしその兜の下の眼は何かを訴えているようだ。

オリアナ「まぁ、ここまで忠実に動いてくれた貴方を、最後まで道具のように捨てるのもひどい話ね・・・・・・」

 オリアナの令呪が最期の光を放つ。

オリアナ「令呪をもって命じます。バーサーカー!あなたの向かうべき場所へ!最期の時を自由に!」

バーサーカー「・・・・・・」

 バーサーカーが光に包まれた瞬間、頭を下げ、オリアナに礼をしたような気がした。しかし、きっと気のせいだろう。オリアナは意識を切り替え走り出した。


―ビル屋上―

セイバー「クッ・・・・・・」

 ランスロットの姿を確認したセイバーは瞬間的に、インデックスの前に移動し、剣を構えた。この場で戦うにしろ、逃げるにしても状況は悪くなった。いかに自分といえど、二騎の英霊を相手に無事では済まない。

 セイバーは唇を噛み締め、モードレットとランスロットを睨みつける。

 僅かな沈黙のあと動いたのはバーサーカー、サー・ランスロット。

バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 咆吼と共に、その手に握られた剣を振り下ろす。

セイバー「えっ!?」

 セイバーは目の前に広がる光景を理解できなかった。ランスロットが攻撃を仕掛けたのは自分ではなくモードレットだったからだ。

セイバー「ランスロット・・・・・・。あなたは・・・・・・」


―――世界で最も有名な騎士譚、アーサー王物語。その中で、アーサー王率いる円卓の騎士団は、時に国に攻め入る蛮族に立ち向かい、時に聖杯を求める冒険を行い、時には伝説の竜種との戦い、華々しい伝説を残した。

 しかし、その物語の最後はその華々しさとはかけ離れたものだった。円卓の騎士団を裏切ったランスロットは海を渡り、そこで土地を治める王となった。そんなランスロットを他の円卓の騎士たちが許すはずもない。アーサー王は興奮する円卓の騎士たちを抑えることができなかった。

 アーサー王は息子のモードレットに国を任せると、ランスロットの治める土地に攻め入った。しかしその直後、モードレットは父であるアーサー王に反逆したのだ。

 混乱の中、アーサー王は軍を引き上げ、自分の国を取り戻すためにモードレットの率いる軍との戦闘に入った。そして、ランスロットの元には亡霊となった円卓の騎士、ガウェインが現れ、救援を求めたという。

 ランスロットはそれに応えた。しかし、その救援は円卓の騎士たちが求めたものではなかった。ランスロットは、自国の兵士をブリテンに送ったものの、自身は自国に留まったのだった。

 その行動をアーサー王を除く円卓の騎士たちは罵った。アーサー王はそれは致し方ないことと、ただランスロットの派兵に感謝した。だが、円卓の騎士をはじめとしたブリテンの人々、そしてアーサー王でさえもランスロットの心はわからなかった。

 ランスロットが自国に留まったのは、それが彼が唯一知る王道だったからだ。彼の尊敬する王は、常に正しく有り続けた。それが、人々に恨まれることでも、常に自分の守るべき民と仲間のことを考えていた。それが、騎士道に反することであっても、王は選択し、それを悔やむことなど無かった。

 その背中を守ってきたランスロットだったからこそ、王となった今、自国を離れることはできなかった。アーサー王のようにはなれなくとも、その背中を追い続けなければならなかった。

 だが、もしもモードレットの反逆が起きた時。ランスロットが王でなかったら、一人の騎士として戦うことを許されたのなら。彼は何を捨ててでも、自分の敬愛する王のために、どこにいようと馳せ参じただろう。


バーサーカー「!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

モードレット「””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””””」

 ランスロットとモードレットの打ち合いが続く。しかし、必死に剣を振るバーサーカーの体は所々が透け始めている。残された時間が少ないことは明白だった。セイバーは意を決し、インデックスに話しかける。

セイバー「インデックス、令呪の使用を、先程と同じように。時間がもうありません。聖杯の元に向かいましょう」

インデックス「で、でも・・・。また追ってきたら・・・・・・」

 不安な表情を浮かべるインデックスにセイバーは優しく微笑んだ。

セイバー「大丈夫です。私の親友が・・・。最も信頼する騎士が手を貸してくれています。安心してください」

インデックス「わ、わかったんだよ」

 令呪が使用され、セイバーの体に魔力がみなぎる。セイバーは戦うランスロットに深く頭を下げるとインデックスを抱え聖杯の元に向かった。


―学園都市 聖杯―

 セイバーとインデックスが光の柱(聖杯)のもとに到着したとき、その場には3人の能力者の姿があった。その光景を彼らの正体を知る者が見たのならさぞや驚いたことだろう。
 学園都市、第1位、3位、4位が共闘するなどと誰が想像できるだろう。

 彼らが到着したのは数分前、多少のいざこざはあったものの、聖杯の危険性に気づいた三人は各々が聖杯の破壊に乗り出した。しかし、巨大な魔力の塊である光の柱の前に、麦野の光線、御坂の超電磁砲、一方通行の自転砲でさえも意味がなかった。僅かに削ったように見えるものの、瞬時に修復されてしまうのだ。

御坂「!?ちびっ子!あんたどこにいたのよ!」

 御坂がインデックスに気がつき歩み寄る。

御坂「!?」

 御坂は足を止めた。インデックスを守るように騎士王が御坂の前に立ちふさがる。

セイバー「魔術師・・・ではないようですね。だが、何者か分からぬ人間を私の主に近づけるわけにはいきません」

御坂「・・・・・・サーヴァント。・・・まさか、この騒ぎがあんたの望みとか言わないわよね」

インデックス「違うんだよ!せいばーも大丈夫だから落ち着いて!説明するんだよ」


セイバー「インデックス。説明などしている場合ではありません。令呪を、聖杯を破壊しましょう」

インデックス「・・・・・・ダメなんだよ。近くで見るまで確信できなかったんだけど。ひょうかが聖杯と同化しててこの都市の地脈と英霊の座を強く結びつけてるんだよ。この状態で宝具を使ったら結局学園都市は・・・・・・。大体、ひょうかまで死んじゃうんだよ」

麦野「わけわかんないんだけど。じゃあ、どうすればいいのよ」

インデックス「やることはこの前の時と一緒なんだよ。今回は、直接・・・・・・。ひょうかの所に行ければ、接続は切れるから。そのあとで宝具を使えば被害は少ないんだよ」

御坂「直接って・・・・・・。どうやって、あの光の中に入んのよ・・・。触っただけで蒸発するわよ」

セイバー「インデックス。私が-」

インデックス「せいばーはここにいないと宝具が使えないんだよ」

セイバー「しかし、あなたの言うようにあの魔力を突破しなければいけないのなら、英霊の力が必要です」

セイバー「まってよ!きっと・・・。きっと何か方法があるんだよ・・・・・・」


 沈黙を破ったのは一方通行だった。

一方通行「よォはァ・・・。こいつに強力なの当てればいいンだな」

インデックス「うん・・・。でも、ただの攻撃じゃダメなんだよ。宝具クラスの・・・。対城宝具か持続性のある対軍宝具じゃないと・・・・・・」

一方通行「問題ねェ・・・・・・」

麦野「問題ねぇ。って、さっきあんたの攻撃は-」

一方通行「当てがあンだよ。タイミングはそっちが合わせてくれェ」

 そう言うと、一方通行は歩き出した。


―学園都市 ビル―

 土御門元春は聖杯に願うものなど何もなかった。実際、アレイスターの反応からも、自分と海原は聖杯戦争の監視のためにマスターとなったと理解した。

 しかし、その土御門もサーヴァントを召喚する時、正確には召喚されるサーヴァントを確認するまでは、その神秘の儀式に多少の興奮を覚えていた。それは仕方のないことだろう。過去、現代の英霊を召喚し自身の使い魔とする奇跡の行為。あくまで目的は聖杯とは言え、その過程も超常であり、一人の魔術師としてそれに参加できるのは誇るべきことだった。

 もっとも、召喚されたサーヴァントは使い魔とはとても呼べない暴君だったわけだが・・・・・・。その厄介さに閉口した土御門だったが、同時に彼の人間性に魅力を感じたものだ。

 様々な修羅場を経験した土御門としても、全く見たことのないタイプの人間。半神の王、最古の英雄、英雄王ギルガメッシュ。

 誰よりも、傲慢で、誰より強く、誰よりもある意味純粋な男、それが彼だった。

―ドゴン!!―

 しかし、現在彼に王としての威厳はなかった。人形と化した親友の攻撃を受け切れず再び壁に打ちつけられる。体はボロボロ、髪も乱れている。しかし、そのような姿になっても彼は宝具を使用しない。親友を穢すのなら自身が犠牲になろうというのか。

 そして、マスターである土御門にも令呪を使用して宝具を強制的に使わせるという選択肢は無くなっていた。しかし――。

>>271 セイバー「まってよ!きっと・・・。きっと何か方法があるんだよ・・・・・・」→ インデックス「まってよ!きっと・・・。きっと何か方法があるんだよ・・・・・・」
ミスは誤字脱字色々ありますが流石にハズいので・・・。訂正で。


―ドゴン!!―

ギル「グハッ!!」

 ギルガメッシュは朦朧とした意識の中で立ち上がる。そして、あれに立ち向かう。あれを親友とは、エルキドゥとは呼べない。しかし、ただの有象無象と切り捨てることもできない。魂は間違いなくあの男のものなのだ。

 そうなれば、この肉体が朽ちるまで前進する以外の選択は無い。

ギル「は、ははは」

 乾いた笑いでギルガメッシュは変わり果てた姿の親友を見据える。

エルキドゥ「!!!!!!」

 エルキドゥはギルガメッシュに再び殴りかかる。

ギル「構わん、お前の相手をするのはこの我以外には無い!ならば、その拳この身で受け止めよう!」


―ボシュゥゥ!!!―

 しかし、その瞬間。エルキドゥの体は先ほどのギルガメッシュのように反対の壁に叩きつけられる。強力な魔力な放出。それが、令呪によるものと直感したギルガメッシュは冷静を失い、最低の選択を取った裏切りの臣下を睨みつける。

ギル「元春ぅぅぅ!!貴様ぁぁぁぁぁ」

 しかし、どういうわけか土御門は落ち着いた表情。そして、落ち着いた声で自身のサーヴァントに話しかける。

土御門「こっちとしても流石に待ちくたびれたんだにゃー。大体、令呪の命令をしっかり聞いていなかったな。相変わらずのサーヴァントだ」

ギル「元春ぅぅぅぅ!!!」

 展開しようとする「王の財宝」を必死に押さえつつギルガメッシュは咆哮する。

土御門「しょうがない、もう一度命令しよう。英雄王ギルガメッシュ。令呪をもって命じる」

 土御門は既に令呪のなくなった手を前に出し命令を下す。

土御門「宝具『王の財宝』を放出せよ」

ギル「貴様ぁぁぁ!!」

土御門「一方通行を対象にな」


ギル「なん、だと・・・・・・」

 その土御門の言葉にギルガメッシュだけでなく静観していたアレイスターまで驚きの表情を浮かべる。

土御門「一方通行のやつ、今は聖杯の近くにいるそうだ。宝具の借用を求めているんだが」

 土御門は自身の耳についた耳飾りを指差す。ギルガメッシュのものは戦いで取れていた。

土御門「ここから、探知できない聖杯に攻撃をすることはできない。だが、令呪の力を使えば、行動を共にしたあの男になら宝具は届く。どうだ?文句を言いながらも、従者を務めたんだ。一度の願いを聞いてやっては?」

ギル「・・・・・・」

 しばしの沈黙の後、大きな笑い声が響く。

ギル「ふふふ!!あはははは!!どうした?!最後になって道化となるのか!それも、この趣向は最高と言ってやってもいい!」

土御門「王様が喜んでくれて何よりだ」

ギル「しかし、いいのか!?あの男、串刺しになるだけやもしれぬぞ!」

土御門「本人の希望だ。出し惜しみせずやってやれ」

ギル「いいだろう!待つがいい、魔術師!そして友よ!!臣下に荷物を預けるとしよう」

 一気にギルガメッシュの「王の財宝」が展開される。

ギル「受け取るがいい!!一方通行!この時に限り、我が宝具触れることを許す!!」

 ギルガメッシュの号令と共に他を圧倒する勢いで、宝具が放出された。


―学園都市 聖杯―

 一方通行は土御門に一方的に連絡を入れると周囲に建つビルの一つの屋上に登った。どこから、宝具が来ようと確実に光の柱を狙える位置、あの光柱の上部を宝具の攻撃で光を削れば後は彼女たちが上手くやってくれる。

 土御門に連絡してから予想以上に時間が経った。しかし、一方通行に焦りはない。彼は信頼している。飄々とした土御門元春。そして、かつて自分が相手にさえ、ならなかった英雄王ギルガメッシュを。

―ドゴッ!!!シュ!シュシュ!シュシュシュ!―

 最初に聞こえたのは音だった。ビルの強固な結界を紙同然に打ち破り、無限とも思える数多の宝剣宝槍が空気を切り裂き一方通行を襲う。

一方通行「遅ェぞォ!」

 聖杯を狙うには「王の財宝」を約90度曲げなければならない。

一方通行「ウォォォォォ!!!」

 一方通行は咆吼と共に宝具に立ち向かう。


 先頭の宝剣の一つが一方通行の頬を切り裂く。皮膚の切れる音が一方通行の耳に響き血が吹き出す。

一方通行「チィィ!!」

 能力を全開に発揮するものの、宝具はその軌道を変えようとしない。

―ザシュ!―

 肩に槍がわずかに掠る。それだけのことで深い傷が一方通行の体に刻まれる。

一方通行「ッ!?」

 そして、一方通行の顔に向かって宝具が飛んでくる。避けることは、いやそのような選択肢は無い。

一方通行「あ”ぁ”ぁ”ぁ”!!!!!!!!!」

 一方通行の叫びと共に、彼の眼前で宝具は一斉に止まる。そして、一方通行の背中からは黒い翼が生成される。

一方通行「手こずらせェェ!!」

 そして、その翼の色が徐々に光り輝く白に変わっていく。

一方通行「やがってェェェェ!!!!」

 次の瞬間、一方通行の叫びとともに「王の財宝」聖杯に向かってその軌道を変える。

 数多の必殺が聖杯を襲い、その光をかき消す。


―聖杯 根元―

 地上では、インデックス、御坂、麦野、そしてセイバーの4名が一方通行の操る「王の財宝」による攻撃が始まったと同時に行動を開始した。

 聖杯の上部に攻撃が集中したことによって下部の魔力の壁が薄くなる。薄くなった光の先には横たわる風斬が見えた。

インデックス「見えたんだよ!」

御坂「原子崩し!」

麦野「命令すんなぁ!!」

 御坂の怒号と共に麦野は光に向かって制御した光線を照射する。光線は風斬まで届く道を作り出した。

麦野「超電磁砲!!」

御坂「分かってるって!!捕まって!!!」


インデックス「うん!せいばーは待ってて」

セイバー「はい、ご武運を!」

 御坂は脇にインデックスを抱えると電磁波でバリアを張る。

御坂「おりゃあぁぁ!!」

 そして、風斬に向かって全速力で駆け出す。一方通行と麦野の攻撃で僅かに空いた空間に滑り込むと御坂は即座に電圧、電流、電磁波を複雑に操作すると魔力から身を守る小さなドームを作る。

御坂「あまりもたない!急いで!」

インデックス「わかってるんだよ」

 インデックスは風斬の前に座る。930事件の時とやることは一緒、自らの声で風斬と聖杯との接続を切ればいい。その時と違うのは時間が全く無いことだけだ。


 一方、上空では一方通行が自身を襲う最期の宝具を光の柱に向かって放った。

一方通行「ちィ・・・、打ち終わりかよ」

 そう呟くと、一方通行はビルの屋上に倒れ込んだ。

御坂「あいつの攻撃が・・・。ちょっと!まだなの!?」

インデックス「――――・・・終わったんだよ!ひょうか!ひょうか!!」

風斬「・・・・・・うぅ」

インデックス「成功なんだよ!短髪!早く!」

御坂「わかっ・・・・・・。うそ・・・」

 ドームを張るために頭上に注意を払っていた御坂は顔を下げてあるはずの退路を見て絶望する。道があったはずの場所には魔力が渦巻き、完全に退路を塞いでいた。

セイバー「インデックス!!」

 主を救い出そうとするセイバーを麦野が止める。いや、彼女はどけただけだった。攻撃の線上にいる者は王であろうとただの障害なのだ。

麦野「邪魔!!」

 麦野は全力で暴走して魔力が不規則に流れる光の柱を攻撃した。僅かに、道が開ける。その先には驚いた表情の御坂。


麦野「急げぇ!!超電磁砲!!!」

御坂「ッ!!掴まって!!!この子は私が運ぶから!!!」

インデックス「う、うん!」

 御坂は叫ぶと両手で意識のない風斬を抱きかかえるように掴む。インデックスは御坂の背中に抱きついた。

御坂「離れんじゃないわよ!!」

 御坂は力を自身の足と足元に集中させる。筋肉を動かすのは体内電気、御坂はそれを操作し筋肉を強制的に動かす。さらに磁場を操り考えられる最良の方法で脱出を計る。

御坂「!?」

 しかし、作戦は失敗する。飛ぶように光の柱から脱出した御坂の背中は軽い。

 倒れ込んだ御坂が顔を上げると、ほとんど形をなしていない道にインデックスが倒れていた。脱出の際に落ちたのだ。

御坂「馬鹿っ!!ちびっ子!!」

 動こうにも御坂は既に力を使い果たしている。麦野も同様だった。セイバーは聖剣を放つために距離のある場所に。彼女たちはどうやっても間に合わない。

 しかし、彼女たちは視認した。危険な光の渦に飛び込む黒い影を。


インデックス「あっ・・・・・・」

 御坂の背中から落ちたインデックスは仰向けに倒れた。いつの間にか手が離れてしまったらしい。そして、仰向けになったインデックスの目には核を失ったことで暴走する魔力の凶悪な流れ。それが、ゆっくりと自分に降りかかる。

 ―――走馬灯。死ぬ間際に時間がゆっくり感じ、過去が思い出される。それは、死の直前に脳がフル稼働して生き残る手段を探すために起きるという。しかし、インデックスの脳内にある魔道書を以てしてもこの状況から逃げる方法などありはしなかった。

 しかし、そんな状況だからこそ。自分に伸びる彼の腕と、彼の必死の形相はしっかり見えた。

インデックス「・・・すて・・・いる?」

ステイル「魔女狩りの王(イノケンティウス)!!!!!!!!!」

 遅れて聖杯に到着したステイルは、それでいて誰よりも早くインデックスの救出に向かっていた。インデックスを抱えると、まともなルーンも呪文も使わず自身の切り札である「魔女狩りの王」を発動させた。


 ステイルと、インデックスを守るように展開された炎の巨人、しかし正式な術式でないため、その体は不安定、さらにその炎は術者であるステイルにまで及ぼうとしている。

ステイル「ッ!!」

 しかし、ステイルは自身が燃えることも恐れずにインデックスを掴む。

インデックス「まって!」

 インデックスの声は届かず、ステイルは炎で僅かに道を作ると出口めがけインデックスを放り投げた。

 投げ出されたインデックスをセイバーがキャッチする。

セイバー「インデックス!もう持ちません!令呪を!」

インデックス「だめだよ、せいばー!まだ中に!!」

セイバー「これ以上待てばこの街が崩壊します!ご決断を!!」

 セイバーとインデックスの声がステイルにも届く。彼女は無事のようだ。それがステイルによって大事なことだった。彼女が助かれば自分の命など・・・・・・。

ステイル「うおぉぉぉ!!」

 しかし、ステイルは諦めなかった。まだ、出口は空いているのだ。この行為は自分の命をいたずらに伸ばすだけの行為かもしれない。しかし、彼はあきらめない、自分に知識を授けた神代の魔術師に足掻けと言われた。―――その言葉は裏切れない。


ステイル「くっ・・・・・・」

 しかし、限界はすぐそこまで来ていた。炎は徐々に消えていく。

 そして、炎が魔力の渦に飲み込まれたと同時に、ステイルは死を覚悟した。

ステイル「グハッ!!」

 痛みはあるだろうと予想していたものの、その痛みの質は予想とは違っていた。まるで殴られたような、そして痛いのは背中だった。

 ステイルはどうして、自分が聖杯を見ているのか理解できないまま気絶した。その視線の先には土が隆起していた。

 インデックス達は、状況が理解できなかった。しかし、ステイルが何かにぶつけられたような動きで吹っ飛んで脱出したことはわかった。

 ―――そんな、驚きの表情を少し離れた位置でオリアナは見つめている。

オリアナ「お姉さん、手を出しすぎかしら・・・。まぁ、たまにはこんなことがあってもいいわよね」


 インデックスが叫ぶ。声が響く。

インデックス「せいばー!!聖杯を!破壊して!」

 セイバーは宝具を構え、終幕の光を放つ。

セイバー「約束された勝利の剣!!!」

 強大な光の衝突。その先には、聖杯も魔力の欠片もなく。ただ巨大なクレーターができているだけだった。

 聖杯戦争は終結した。


 元々、冬木の聖杯戦争とは異なるものでありそれにアレイスターが手を加えたことで聖杯の消滅はサーヴァントの消滅に直結する。

 消えかけた体でセイバーはインデックスに笑いかける。このような別れは予想できなかった。しかし、この主との最期は悲しいものではないだろう。

インデックス「せいばー・・・・・・」

セイバー「このような最後は予想できませんでした。でもあなたが無事でよかった。インデックス、あなたとの食事はいつも楽しいものでした。あなたの望みが叶うことを祈っています」

インデックス「うん、ありがとうなんだよ。せいばー」

 セイバーは穏やかに消える。

 それと同時に、最後まで王を守った狂戦士はその宿敵と共にゆっくり消えた。

 
 部屋に笑い声が反響していた。耳に響く声は英雄王ギルガメッシュのものだった。

ギル「面白いではないか元春!あの男、我が財宝に認められたらしいぞ!実に不愉快だな!我の宝具の格が落ちる」

 そう言いながらも、口調は何とも楽しそうだった。

土御門「そのようだ。結局なにも変わらずこの戦いは集結したようだな」

ギル「しかし、遊戯としては及第点だ。最期の不敬も目をつぶろう」

 エルキドゥはすでにあるべき場所に帰っている。その瞬間だけギルガメッシュは悲しそうな表情を見せた。

土御門「まぁ・・・・・・。あれだ、万が一どこかに現界することがあったら顔を出してくれてもいい。歓迎しよう」

ギル「ふふっ。何を勘違いしている。この世界は余すことなく我の庭だ。庭を歩くのに歓迎などいらん。供の用意をしていればいい」

土御門「そうか・・・・・・」

ギル「そして、元春。忠節、大儀であった。一方通行にも伝えておけ」

土御門「あぁ・・・・・・。ギルガメッシュ―――」

 土御門の最期の言葉を聞かずに英雄王はその姿を消した。

土御門「最後まで・・・。勝手な男だ」


―数日後―

 聖杯戦争による。被害は迅速に修復され、参加した者たちもそれぞれ日常に戻っていた。

白井「初春!逃げられましたの!」

 それは白井と初春も同様だった。二人の日常とは当然、風紀委員の仕事だった。

初春「二手に分かれたみたいです。一人、ビルに逃げ込んでます!」

白井「了解ですの!」

 白井は瞬間移動する。先には追いかけていた犯人がいた。―――黒焦げで。

白井「お、お姉様ぁぁぁ!?」

御坂「あれ?黒子?近くにいて初春さんの無線が耳に入ったから片付けといたわよ」

白井「お姉さま!それは盗聴と・・・。と、とりあえず後でこの件については話を聞きますから!」

 白井はテレポートで御坂の前から消える。


白井「初春!」

初春「もう一人が路地裏に逃げ込んでます。右にビルの裏側です」

白井「わかりました!」

 初春の指示で、白井が瞬間移動する。その先には犯人が、いた。―――気絶して、いた。

白井「な、佐天さん・・・」

 そこには、なぜか木刀を構えた佐天が立っていた。

佐天「あ、どうも。白井さん」

白井「どうも。じゃありませんの!!またですか!!」

佐天「いや、あれですよ。正当防衛ですよ。健康のためにマラソンしてたんですよ」

 実は、聖杯戦争が終わってから佐天は何か吹っ切れたように元気になった。ただ、元気になりすぎているのが白井の頭を悩ませていた。

白井「・・・・・・わかりました」

佐天「わかってくれましたか」

白井「佐天さんとお姉さまにはしっかりと自分の立場をわかってもらう必要があるようですの。・・・今から支部でお説教です」

佐天「えぇー」

 頬を膨らませながらも、佐天は笑っていた。結局自分は無能力者のままだけど、なぜかなんでもできる。そんな気持ちになっていた。


―イギリス―

 イギリスに戻ったステイルは教会の書庫にいた。そこに、扉の開く音。神裂が入ってくる。

神裂「どうしたんですか?帰ってくるなり、閉じこもって」

ステイル「何でもないよ。ちょっと、調べ物をね」

神裂「はぁ。でも、ここは火気厳禁ですよ」

ステイル「分かってる。ちゃんと、外で吸うさ。・・・・・・どうした?」

神裂「・・・・・・全部、記憶に関する書物ですね」

ステイル「あぁ・・・。何か問題が?」

神裂「いいえ」

 神裂は穏やかに笑うと、ステイルに手紙を渡した。あなた宛です。請求書のようですよ。

 そこに書かれた金額はとてつもないものだった。無論、彼女たちの食事代だった。

ステイル「・・・・・・上条当麻に請求しておいてくれ」


―学園都市―

 上条当麻は、家の前に立っていた。結局イギリスでは観光しただけの気がするが、タダで色々回れたので正直楽しかったのだった。それだけに、インデックスは怒っているに違いない。出会い頭に、噛み付かれるかもしれない。

上条「ただいまー・・・・・・」

 ガチャ。扉を開けるとそこには穏やかな顔のインデックスがいた。

インデックス「あ、お帰りなんだよ!!」

上条「お、おう・・・・・・。なんか機嫌いいな。なんかあったのか?」

インデックス「・・・うん。新しい友達ができたんだよ」

上条「ふぅん。よかったじゃん。そういう上条さんも今回は怪我もしてないし、タダでヨーロッパ色々見れてさ。幸せでしたよ」

インデックス「それは、いいけどお腹がすいたんだよ」


上条「あぁ、ちょっと待ってろ。お土産もあるしすぐに準備を・・・・・・。あれ?これってイギリスからの」

インデックス「今日届いたんだよ」

上条「えーと、なになに・・・。ゼロが一つ、二つ・・・・・・。なにこれ!?えっ!?上条さんが払うの!?」

インデックス「とうまー。早くご飯なんだよ」

上条「ま、待って!ちょっと!!」

インデックス「とうまー!!」

上条「あー!もー!不幸だぁー!!」

(完)

 これで、終わりです。読み返すと、誤字脱字話の流れなどひどいですが、最後まで見てくださった方々ありがとうございました。

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