真姫「おりこうエリー」 (86)

初投稿

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どうやら私、西木野真姫は人の心が読めるようになった、らしい。

穂乃果「今日もパンが美味いっ!」 (今日もパンが美味いっ!)

海未「また穂乃果は…太りますよ」 (美味しそうに食べる穂乃果かわいい)


真姫 (読める…というより、考えていることが漠然とわかるって感じ、直感に近いわ)

凛「真姫ちゃんまたボーっとしてる〜」

真姫「最近寝つきが悪くてね…」

真姫 (ウソだけど)

花陽「大丈夫?」 (心配だなぁ…)


違いはわからないけど、読める時と読めない時のバラツキもある


凛「にゃ…」 (元気ないならくすぐってやろうかにゃ)

真姫「変なことしたら怒るからね」

凛「にゃ!?」

真姫 (凛のイタズラ防止程度にしか使えないけど)

小説や漫画とかだと、人の心が読める系のキャラクターは疑心暗鬼になったりするのがよくあるパターンだ。


希「ヘイにこっちわしわし!」 (本気で嫌がられてたらどうしよ…)

にこ「ちょっ、やめなさいよ!」 (本気で嫌がったら希気にするからリアクションは控えめにしよ)


真姫 (まぁ、こんな空間なら平気デッショー)

つくづく、私は環境に救われている気がする。



真姫 (……ただ、一つ気がかりな事が…)


ことり「絵里ちゃーん、アクセサリー作り教えて!」 (次の衣装で使ったらみんな喜ぶかなー♪)

絵里「いいわよ、今度一緒にパーツ買いに行く?」 ()


真姫 (絵里の心だけが何一つ読み取れない…)

絢瀬絵里。

生徒会長でμ'sの実質的なリーダー、個性的すぎる8人を取りまとめる頼れる先輩。

待って、8人だと私もカウントされてるじゃない、7人よ。
私はいつでも冷静なクールビューティー、ドンウォーリ。

じゃなくて。



真姫「エリー、エリー」

絵里「どうしたの真姫?」

真姫「新しい曲のフレーズが思いついたから聞いて欲しいんだけど…」

絵里「いいわよ、イヤホン借りるわね」

真姫「…」

絵里「いいじゃない、私これすごい好きよ」()

真姫 (やっぱりなんにも見えない…)

絵里「ん? 真姫?」()

真姫 (嘘を吐いている感じでもない…?)





絵里「…真姫?」(■■■■■)

真姫「っ!」ビクッ

絵里「真姫? どうしたの?」

真姫「あ…いや、なんでもないの…」

絵里「どうしたの? やっぱり寝不足のせい?」

真姫「そうかもしれないわね…」

絵里「曲作りもいいけど、体は大事にしなさいよ?」

真姫「えぇ…じゃあこの感じで作るわね」

絵里「頑張りすぎないようにね〜」

次の日

真姫 (なんだったのアレ…何も読めないのとも違う…)

何も見えない時は本当に何も見えない。
アレはなんというか、途中までは見えかける、しかしはっきりしない、霞がかかった様な。



凛「まっきちゃーん」ギュ-

真姫 (なんていうか…逆に、見ちゃいけないものを見たような…)ナデナデ

凛「ん? 今日は凛を甘やかす日なのかにゃ?」

真姫 (まさか、アレが人の悪意…みたいな?)ワシャワシャ

凛「ん〜…」ゴロゴロ

真姫(もしそうなら…絵里は私に嘘を吐いていたのかしら…?)ナデナデ

凛「あー…なでなで気持ちいい…」

花陽「真姫ちゃん…?」 (考え事してるのかな…?)

真姫「はっ…私は何を…」

凛「止めないでにゃー」

とりあえずここまで、明日また書きます。

思ったよりドンキー3がバレてて、なんか期待を裏切ってしまった感がすごい。


・・・

真姫 (思えば心が読めるようになってから誰かに嘘を吐かれた事がないような)

冗談でおかしな事を言われることはままあるが、悪意のある嘘はまだ経験していない。
果たして経験していいものなのかも怪しいが。



穂乃果「まーきちゃん!」(まーきちゃん!)

真姫 (穂乃果は心の中まで同じ事言ってるし)

穂乃果「真姫ちゃん?」

真姫「なに? 穂乃果」

穂乃果「いや、見かけたから呼んでみただけー」



そうだ。

真姫「穂乃果、ちょっと私に嘘ついてみて」

穂乃果「うん…ん? 真姫ちゃんに嘘つくの?」

真姫「まぁ細かいことは気にせず」

穂乃果「じゃあ……実はことりちゃんのアレはトサカなんだよ…!」(トサカだよねぇ…アレ…)

真姫 (トサカだ、とは思ってるのね)

ことり「トサカジャナイヨォ!」

穂乃果「こ、ことりちゃん! だって無いところ見たことないんだもん!」

ことり「絶対あるよぉ〜…なんかそういうイメージついちゃってるんだよぉ〜…」

穂乃果「そうかなー…?」

真姫 (結局、絵里のまっくろいアレは嘘とは違うみたいね)

真姫「…あれ?」

部室についてから、ふと思い出す。

真姫 (無意識に『まっくろい』と言ったけど、なんでそんな表現を?)

手帳を取り出して、白いページをボールペンで塗りつぶしていく

真姫「なんかこう…黒ーい雲…みたいな」

にこ「な、なにやってんの真姫ちゃん、病んだの」

真姫「むかしACのCMでこんなのあったわね」

にこ「それそれ…でっかいクジラのやつ」

真姫「にこちゃん、この…これがもしこう、浮いてたらなんだと思う?」


手帳を持ってヒラヒラと動かす


にこ「えぇ〜…もう意味が…」

真姫「なんだと思うこれ?」

にこ「綿ぼこりかなにか…?」

希「ケセランパサランとちゃう?」

にこ「うわ! いつの間に!」

希「にこっち驚かそうと思ってたらな…もっとびっくりするような事を真姫ちゃんがしててな…タイミング逃したわ…」

真姫「一緒に来てたわけじゃなかったのね…」

人知れず出鼻を挫かれる希が、そこにいた。

『見たら良い事が起こる』

そんな漠然とした都市伝説、ケセランパサラン。

その正体は絢瀬絵里の中に住まう謎の生命体だった (?)


真姫 (まぁそれはおいといて…)


どうしたものかと考える。
そもそも人の心など読めないんだから悩む必要などないのだが、絵里の心だけが読めないとなると気になってしまう。

それとも絵里だけが、この読心術もどきを防ぐ方法を持っているのだろうか。

真姫「エリー…」

絵里「な、なにかしら」()

真姫 (相変わらず読めない)

真姫「絵里って、人の心が読めたりしたらどうする?」

絵里「えー…突然の質問ね…」

真姫「興味本位よ」

絵里「そうね…あんまり人の心の中をあんまり覗きたくはないわ」

真姫「そう…」


その言葉に若干の後ろめたさを感じるも、あいにく私はコレを制御できているわけでは無いし、なにより今更過ぎた。

絵里「やっぱり、人って隠したいことの一つはあるでしょ?」

真姫「そうね」

絵里「あら、貴女も?」

真姫「私は別に無いけれど」

絵里「だから、あんまり不用意に心なんか見て、それで関係が複雑になるのなら私は見ない方がいい気がする」

真姫「一理ある、わね」

絵里「そうね…どちらかと言えば、私は……」










絵里「『心を読まれる方が嫌』かしら」(■■■■■)

絵里と別れ、廊下を歩く。


真姫「…」


少しずつ、少しずつ、その足取りは重く、しかし早くなる


真姫「…」






真姫 (ばれている)

ばれている、ばれている、バレている。

絶対、確実、完璧に

真姫 (私のコレがばれている!)

絵里は私の異変にいつからか気付いていて、そしてそれを防ぐことが出来るんだ。


真姫 (しまった…注意が散漫だった)

心が読めるようになってから、それを隠そうとしていなかったことに、今更、本当に今更気が付いた。

ばれるのも無理はない、隠そうとしていない私は自然と相手の会話の一歩先を行く事になる。
そうなれば不自然な程に会話がスムーズに行われる。

その円滑さが、決め手になったのだろう。


真姫 (調子こいた…)


あまりの動揺から、普段使わないような言葉まで出てきた。

まさか、自分の心を暴かれるのがここまで怖い事だとは、ここまで逃げたいものだとは。

翌日

しかし、家に帰り一旦落ち着けば、対処方法もあっさりと思い付いた。


真姫「おはよう、絵里」

絵里「あら、早いわね」

にこ「まだ3人しか来てないとか、やる気あるのかしら」(早く練習したいんだけど)

絵里「まぁ、もう少し待てばみんなくるでしょ」()

昨日、絵里自身が言っていた。
『それで関係が複雑になるのなら』
つまり、私が人の心を読めようが読めまいが、普段通りにしてくれればそれで良いのだと、言ってくれていた。

多分そういう事、だろう、多分。

いつの間にか身に付けた人に在らざる力、心を覗き見るこの力。

私はもっとこの事態に慌てふためき、誰かに助けを求めるべきだったのかもしれない。

戒めのために、私はコレを「病気」と呼ぶ事にした。

いつになるかは分からないが、私はこの病気が治るまで、しっかりと向き合っていこうと思う。

前半終了

しかし、適当なオチを自分でつけた所でこの話が終わるはずもなく。



真姫「カウンセリング…?」

希「そうそう、診て欲しい人がいるんやけど」

真姫「そんなの本職に頼みなさいよ…音ノ木にもスクールカウンセラーくらいいるでしょ」

希「それが…なんか同い年くらいの人の方がいいみたいで」

真姫「それなら希の方が向いてるんじゃないの? 得意そうじゃない、そういうの」

希「いやや!」

真姫「・えぇ!!?」

・ う"

>>41

しかし、適当なオチを自分でつけた所でこの話が終わるはずもなく。



真姫「カウンセリング…?」

希「そうそう、診て欲しい人がいるんやけど」

真姫「そんなの本職に頼みなさいよ…音ノ木にもスクールカウンセラーくらいいるでしょ」

希「それが…なんか同い年くらいの人の方がいいみたいで」

真姫「それなら希の方が向いてるんじゃないの? 得意そうじゃない、そういうの」

希「いやや!」

真姫「う"えぇ!!?」


希「ウチは真姫ちゃんしかおらんと思って頼んでるんよー!?」

真姫「な、なんで私が怒られてるのよぉ…」

希「なのに真姫ちゃんときたら…面倒なのはわかるけど、信頼されてるんやから素直に頼まれなあかんで!」

真姫「いや…それ希も同じじゃ」

希「ダメやなぁ真姫ちゃん!」

真姫「う"ぇぇ…言葉が…言葉が強い…」

希「まぁ作戦は考えてきたから、どうかひとつ」

真姫 (いつの間にか引き受けるみたいになってるし)

真姫 (なんだったのかしら、希は)


口調こそいつもの関西弁だったが、なんというか焦っている様な、急いでいるような感じだった。


真姫 (カウンセリングね…この読心術もどきにはうってつけかしら)


カウンセリングなどするまでもなく、何で悩んでいて、どう解決したいのかが分かってしまうのだからそれほど大変な頼みでもない。



真姫 (相手が絵里じゃなければ…だけど)

部室に入ると丁度よく絵里がいた、作戦の実行前ではあるが、なにか悩みが無いか聞いてみるとしよう。


真姫「エリー、なにか悩みとかあるの?」

絵里「ん…最近真姫は突然な話をすることが多いわね…」(■■■)

真姫「元気なさそうな顔する方が悪いのよ」

絵里「そんな顔してたかしら」


やはり私の『病気』に感づいているからか、はぐらかすような発言が多い。
注意して見ていると、いつもと違う点に気が付いた。


真姫「あれ、絵里ってそんなペンダント持ってた?」

絵里「触っちゃダメ!」

絵里の声で、伸ばしかけた手が凍り付いたように固まる
なんなの、今日は三年生に怒られる日なの?


真姫「ご、ごめんなさい、なにか大切なもの?」

絵里「えっと、あの、大切というか…あんまり触っちゃうと…その…」

真姫「…」

絵里「…取り憑かれちゃうから…」

真姫「あ…はい…」


とりあえず無難な感じで頷いておく


真姫 (これは…)

絵里「私がスベったみたいなのやめてくれる?」

真姫「いや、みたいじゃなくてそうでしょ」

絵里「本当なのよ、だから触っちゃいけないの」

真姫「へぇ…ふーん…」

絵里「だ、だから…」





真姫「じゃあ貴女は何に取り憑かれたのよ?」

絵里「…っ」(■■■■■■■■)

真姫「…まぁ、別にオカルトは信じてないから良いけれど、ね」


私は部室を後にした。

私はとある可能性を普段から考えていた。
私以外の『病気』持ちの存在。

日本中で私一人だけがこんな事になっているわけがない。
必ず他にも居るはずだ、そう考えていた。


読めない思考。
触ってはいけないペンダント。
『取り憑かれてしまう』という言葉。

間違いない。

絢瀬絵里は『病気』にかかっている。

絵里の思考が読めない原因、それは何かしらに『取り憑かれて』いるから。

日常生活での動きは自然だ、動きを制限するものではない。
あくまで「思考をジャックされる」もしくは「発言を無意識にすり替えられる」といった現象が、絵里に起きているのだろう。

なるほど読めないはずだ。


真姫「ただのオカルトなら信じない…んだけど」


私にとって、こいつは『病気』だ。




真姫「…」

真姫「スクールアイドルカウンセラー、西木野…」


なんだか語呂が良い気がした。

休日


希の作戦の概要はこうだ。

私が絵里の家に遊びに行き、そして2人になったところで絵里のカウンセリングを始める。

これのどこが作戦だというのか、騙された気分である。


カウンセリングの目的は一つ。
『絵里の嘘つきを治す』

希いわく、『絵里ちはすごく嘘つきなんや、治さんといつかおかしくなる』とのこと。

絵里の『病気』を希は感づいているらしい。
正直な話、あんまり関わりたくないのだが、確かにこれは私が一番の適任者だ。

というのは建前で、私以外の『病気』に興味があった。



真姫「興味本位でこんな事しない方が良いわね…」

絵里「どうしたの? 入りなさいよ」()

真姫 (後悔先に立たず…)


一寸先の闇に、今まさに脚を突っ込んだ。

真姫 (それにしても…)


絵里の部屋を見渡してみると、まぁオシャレな感じでいい感じのモダンな雰囲気だ。

考えない、感じる。


絵里「真姫はぶどうジュース平気?」()

真姫「いただくわ」

絵里「それにしても急ね、突然遊びたいなんて」

真姫「私だって誰かと遊びたくなることはあるわよ」

絵里「でも普通、凛とか花陽とかじゃない?」()

真姫「確かに三年生を誘う一年生は変かしら」

絵里「真姫の場合は、貴女が三年生みたいだから変じゃないかも」

真姫「もう、急に褒めないでよね」

絵里「ふふ、そういうとこは変よ」

会話の最中、何度か心を読み取ろうと意識してみるがやはり成功しない、それどころか嘘を吐いている様な素振りも一切ない。


真姫 (なんとかして絵里の言葉の辻褄が合わない部分を見つけなきゃ…希の頼みは達成できない…)

その後、しばらく探りを入れつつ談笑してみたものの。


真姫 (ダメね…何も掴めない、しかも絵里もそろそろ疑い始めてるわね)


何をするでもなく、ただ雑談を続ける自分に、絵里は若干の不信感を抱いている。

真姫 (これはもう…直球勝負)


行くぞ、私こと西木野真姫、一世一代のハッタリだ。


真姫「さてと…絵里」

絵里「なに?」








真姫「貴女いま何考えてる?」


絵里「…!」(■■■■■■■■■■)

真姫 (出た…!)

絵里「ど、どういう意味よ…? 私が何か企んでるっていうの?」(■■■)


絵里からかつてないほど真っ黒な思考が読み取れる、やはり興味本位で手を出すものでは無かったかもしれない、だが今更引くわけにはいかない。



真姫「分かるでしょ…私が何を聞きたいのか」

絵里「…具体的に言われなきゃ分からないわよ」(■■■■■■■)


絵里は私の『病気』を知っていて、それに対抗しうる『病気』を抱えている。
シラを切るのは簡単だが。


真姫「貴女は何かを考えている…いや、考えすぎているのよ、だから重なって見えないわけだわ」

絵里「全然具体的じゃないじゃない…」(■■■■■■■■■)


動揺までは隠せまい。

真姫 (ん…?)

しかし、ここで私はある重要な事に気づいてしまう。
それは、ある意味なぞなぞみたいな、引っ掛け問題。
ヒントは、口から出まかせのさっきの言葉。
『考えすぎなのよ』


真姫 (まさか、そんなわけ)


でも、試す価値はある。


真姫「そうねじゃあもう少し具体的に…能動的に聞いてみるわ」

絵里の腕を掴む。


絵里「えっ、ちょっと、なに!?」(■■■)

真姫「まぁまぁ、すぐ終わるから」

絵里「ちょちょちょ、待って、何するのかだけ教えてよ!」

真姫「まぁまぁ、すぐ終わるから」

絵里「じゃなくて!」(■■■■■)


ササッと手際よく絵里をベッドに寝かせ、両腕を紐で結びベッドの脚にくくりつける、いわゆる万歳ポーズ。

絵里「なっ、なんなのよぉ…ていうかなんでロープなんて持ってんの…?」

真姫「ふふっ、あいしてるばんざい」

絵里「うるさいわよ!」(■■■)


怒られた。

真姫「それじゃ失礼して…」

絵里「本当に失礼よ貴女…」(■■■)

真姫「それっ…」コチョコチョ

絵里「うひゃあ!?」

真姫「あら、弱いの?」コチョコチョコチョコチョ

絵里「ちょ…まっ…あはははっ!」(■■)

真姫「まだ足りないかしら…」コチョコチョコチョコチョ

絵里「わっ、私何かした!? したなら謝るからっ!あははははははっ!」

あと少し、私の読みが当たっていれば、あと少しのはず。


真姫「それそれ」コチョコチョコチョコチョコチョコチョ

絵里「あっ、あははっ、もぅ、だめっ、やめなさい真姫っ、あはははっ!」

真姫 (もう少し…もう少し…)

絵里「やめなさいって言ってるでしょ!」(このトマト色ベートーヴェンが!)

真姫「あだっ!」

無理やり起き上がろうとした絵里の頭と、無我夢中で絵里を辱めていた私の頭が衝突事故を起こす。


絵里「はぁ…はぁ…なにするのよ…」

真姫「やっと…読めた……」

絵里「…え?」

真姫「…じゃあ今度こそちゃんと聞くわ…どうしてそんなに自分を隠してたの…?」

絵里「…どうしてわかるの?」

真姫「希の眼は誤魔化せないわよ」

絵里「あの子はまた余計な事を…」

絵里「で、それを聞いてどうするのよ…」

真姫「私が貴女を治してあげるの、カウンセリング開始よ」

絵里「私が嘘を吐くかもしれないわよ」

真姫「大丈夫」

絵里「なにが…!」

真姫「わかるから」

絵里「わか…る…」

真姫「私は、わかるから」

絵里「でも…私」

真姫「だから嘘でも良い、貴女の言葉をそのまま喋って」

絵里「…わかった」


つまりだ、希の言う「嘘」とは、絵里が絵里自身に吐いていたものだった。
自分の考えの上から、「それは違う」「間違っている」と否定を重ねてしまえば、私が正しく思考を読み取ることは出来なくなる。

そして、問題はここから。

絵里「私ね、昔から思った事と違う事を、時々口走ってしまうの、虚言癖…とは違うかもしれないけど」


絵里の中には「嘘つき」が住んでいる。


絵里「この前のアクセサリー…あれを買った時からかしら…何を聞かれても嘘を交えてしか答えられなくなった…なにかの曰く付きだったのかもね」


これが絵里の『病気』。

彼女は、嘘吐きに取り憑かれた。

絵里「だから私…人に嘘を吐きたくないから…自分の思ったことを一旦否定して、それから喋るようにしたの」

真姫「でも、それも限界があるんじゃない…?」


取り憑いた嘘吐きを押し[ピーーー]為に生まれたもう一人の嘘吐き。

嘘の重ね掛け。

絵里の心の中はとんでもなく不安定だったに違いない、自分の考えが本当でも嘘でも、それを全て否定しなくてはいけないのだから。


絵里「案外平気だったわ…人に嘘を吐くくらいならこっちの方がマシよ」(■■■)

真姫「また嘘ついてる」コチョコチョ

絵里「はひゅん!」

真姫「貴女ね、自分に嘘ついて喋った言葉は結果として相手にも嘘ついてることになるのよ?」

絵里「それでも…私は嘘なんか言いたくない…!」

真姫「そんな誰も気づかないような気遣いのせいで貴女が傷ついていくほうが、私は耐えられないわ」

絵里「やめて…私にそんな言葉を受け取る資格ないのよ…」(■■■■■■)


そして、もう一つ気づいたことがある。

絵里は既に完治している。

嘘の言葉も本当の言葉も、全て否定し続けた結果、彼女の中の「嘘吐き」は成立しなくなり、とうの昔に消滅している。
そしてそれに気付かず、もう何年も自分に嘘を吐き続けている。
自分への嘘に取り憑かれてしまっている。
無意識な嘘なんかよりよっぽど酷い症状だ。


真姫 (でも、これをそのまま絵里に伝えても意味がない…自力で立ち直らせなければカウンセリングは成立しない)

真姫「悩みがある時は誰かに相談しなさい…一人で抱え込んでも仕方ないじゃない…」

絵里「したわよ…中学の先生とか…カウンセラーに…でも相手にされなかったわ!」

絵里「こんな事…誰に言えばいいのよ…! 誰に相談すればまともに相手にしてくれるのよ…!」


絵里の一番の問題、それは嘘に取り憑かれ、嘘吐きになった事ではなく、それを自分でなんとかしてしまったこと。

自分への嘘のせいで、既に満身創痍の心さえも嘘だと決めつけ、誰にも相談できず、まだ平気だ、大丈夫だと抑え込むしかなかった事。

希が心配していたのは、そういう部分だろう。


絵里「こんなわけのわからない事を…誰に言えば…治してくれるのよ…」


だから、私のすることは決まっている。

真姫「もう平気よ、私がちゃんと治してあげるから」

絵里「…嘘よ」

真姫「かもね」

絵里「ちょっと」

真姫「でもね、悩みを聞くくらいなら誰だって出来るわ」


まともに聞かなくたっていい、絵里には、ただ頷いてくれる人が必要だった。



絵里「…真姫」

真姫「だって私も同じ様なものなんだから、当たり前じゃない」

絵里「…え?」

真姫「ん?」

真姫「あれ?」

絵里「私と同じって…?」

真姫「え、じゃあ気づいてたんじゃなかったの?」

絵里「な…なにがよ…」

真姫「…」


ここで私が心を読めることを喋ったらなんだか台無しな気がするので、敢えて言わない。


真姫「なに、その、貴女とは違う症状だけど、私も変な現象が起きてるのよ」

絵里「そうだったのね…」


私がばれたと思って不安だったあの時間は何だったのか、そう思うと無性に悔しくなってきた。


絵里「ところで…そろそろ外してくれない…?」

真姫「…」

絵里「…」

真姫「えい」コチョコチョ

絵里「ふひゃあ!?」

真姫 (なんか悔しいからくすぐっとこ)

絵里「あははははははは!やめて!やめて!」

それから絵里で遊んでいたらすっかり夕方になってしまっていた。


絵里「はぁ……はぁ…」

真姫「これからは駄目そうになったらすぐ私に相談すること、いい?」

絵里「は…はい…」

真姫「貴女は色々考えすぎなのよ、素直になりなさい」


その病気は完治できるものかどうかはまだわからないけど、とりあえず今までみたいに自分を否定することは控えなさい、そういうことだけ伝えておいた。


真姫「じゃあ、そろそろ帰ったほうがいいかしらね、また明日」


振り返りって部屋を出ようとすると、なにやら裾が引っ張られていた

真姫「エリー?」

絵里「…」


なんだか何かを言いづらそうに顔を俯ける絵里、これはアレだ、お礼とか言われちゃうやつだ、ベートーヴェン照れちゃう。


絵里「その…真姫」

真姫「どうしたの?」

絵里「えっと…もう少し…くすぐっ…て…くれない…かしら…」


初めて聞く絵里の素直な言葉に私は微笑む。



真姫「じゃあね! ばいばい!」

絵里「あっ! ちょ、ちょっと!」


これ以上見え透いた闇に自分から飛び込んでなるものか、全力で駆け抜ける。
私は今日、また一つ大人になった。

・・・

希「まーきちゃん」

真姫「あら、希」

希「上手くいったみたいやね」

真姫「あはは…上手いかどうかはちょっとわからないけど…」

希「ううん、大成功や、絵里ちすごく素直になったもん」

真姫「それなら良いけどね」

希「そうや、真姫ちゃんはウチからの依頼をこなしたわけやから、なにか報酬をあげんとね」

真姫「別にいらないわよ…でも、そうね、絵里がまた変になった時は、隣に居てあげて」

希「ふふふ、了解やん」


希の顔は晴れやかだった

嘘を吐き、嘘に吐き疲れ、嘘に取り憑かれた少女は、これからどのようにして心のバランスを取っていくのだろうか。
彼女の中の否定屋は、どのように消えていくのだろうか。

その答えはきっと、彼女が正直に嘘を吐けるようになった時。


希「ところで真姫ちゃん」

真姫「なに?」

希「…絵里ちと二人きりになるとな…しきりにくすぐって欲しいって言うようになったんやけど…」

真姫「絵里の性癖に私は関係ないわ」


嘘は吐いていない。





ー・憑きー おしまい

>>75


嘘を吐き、嘘に吐き疲れ、嘘に取り憑かれた少女は、これからどのようにして心のバランスを取っていくのだろうか。
彼女の中の否定屋は、どのように消えていくのだろうか。

その答えはきっと、彼女が正直に嘘を吐けるようになった時。


希「ところで真姫ちゃん」

真姫「なに?」

希「…絵里ちと二人きりになるとな…しきりにくすぐって欲しいって言うようになったんやけど…」

真姫「絵里の性癖に私は関係ないわ」


嘘は吐いていない。





ー 嘘憑きー おしまい


正直すまんかった。

SSなんて書かないでドンキー3やってればよかった。

何か思いついたらまた書くかも。
依頼出してきます。

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