真姫「何よ、今日も来たの?」ことり「えへへ、来ちゃいました♪」 (117)

ラブライブSS

まきちゅん。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1420298709

凛「ねぇ、真姫ちゃん!」

真姫「……何よ」

花陽「今日は一緒に帰ろう?」

真姫「……ごめん、作曲があるから先帰ってて」

凛「え~っ!」

花陽「うん、わかった……」

真姫「ごめんね二人とも」

凛「もー次は一緒だからね!」

花陽「じゃあね、真姫ちゃん」

真姫「また明日」


二人は密着して帰っていく。

ちらりと、固く繋がれた手が見えた。

真姫「はぁ……」

大きなため息。理由はわかっている。

凛と花陽は仲が良いことは知っていた。

それがここまでなんていうのは予想外だった。

そして、その中にいる自分。

本当に居てもいいのだろうかなんていう問いが絶えず付き纏う。

いまいち距離感がわからない。そして――――



――――どれだけ頑張っても二人の一番に、なれないことを自覚しているからだ。

幼馴染っていうのはそういうことで。

凛と花陽の絆は強いんだろう。


人は一番じゃなくてもいいなんて言うかもしれないけど……

出来れば、自分の好きな友人の一番の支えになりたい、一番頼りにされたい。

そんな願望を捨て去る事なんて一生できない。

少なくとも私はそんなに達観していないのだ。

真姫「ようするに子どもってことじゃないの……」

独りごちる。

初めて出来た心の許せる友達に対しての嫉妬なんて最低よ。

だから、今日は帰りたくなかった。

こんな気持ちで帰るのはきっと二人に失礼だから、なんて。

これも言い訳。わかってる。

それでも、作曲もしなければならないから嘘は言ってない……はず。


音楽室に入るともうひとつため息。

嫌な空気を肺から出して、ピアノに向かい弾き始める。

2,3曲弾き終わり、手を止めていると、拍手が聞こえてきた。

いつぞやの時のように、穂乃果かと思った。

ことり「真姫ちゃんってやっぱり上手だね♪」

……正直、ことりが私の曲を聞きに来るとは思っていなかった。

というか、ことりと話したことなんてあまりなかったはず。

信用信頼はしているけれど、いつも影にいるような存在。

ことりに対しての印象は大体こんな感じなのよね。

…………じゃあなんで音楽室に?

真姫「うーんと……何しにきたの?」

ことり「えっと、廊下をぶらぶら歩いていたら曲が聞こえてきたからつい……」

真姫「穂乃果と海未は?」

ことり「……またダイエット中で……」

真姫「またなの……」

相変わらず穂乃果にも困ったものだ。というか太るなんてあり得ないでしょ。

ことり「厳しいよぉ、真姫ちゃん」

真姫「自業自得なのよ、まったく」

ことり「真姫ちゃんは作曲?」

真姫「えぇ、と言っても全然進んでないけどね」

ことり「ことりは真姫ちゃんの力になれるかなぁ?」

真姫「ん、まだいいわよ。むしろ私が衣装作り手伝う?」

ことり「ことりも切羽詰まってないから大丈夫だよ」

真姫「宿題溜めるタイプじゃないからねことりは」

ことり「海未ちゃんに怒られたくないから……」ニコッ

真姫「怒られている人がいることはわかったわ」

ことり「あはは……」

真姫「海未と一緒に穂乃果を監視しなくてもいいの?」

ことり「海未ちゃんがことりがいると穂乃果が甘えますっていうから……」

真姫「もっと、穂乃果を叱ってもいいんじゃない?」

ことり「それは海未ちゃんに任せてるから」

真姫「……ふーん」

ことり「そういう真姫ちゃんは、花陽ちゃんと凛ちゃんが一緒じゃないの?」

真姫「……作曲ちょっと遅くなりそうだから帰ってもらっただけよ」

ことり「一緒にアイデア出してもらえば進んだんじゃない?」

真姫「……確かにね。でもまだ焦る段階じゃないからね」

ことり「……そうなんだ」

真姫「……」

ことり「……」

真姫「あの」 ことり「あ!」


真姫「先にいいわよ」

ことり「真姫ちゃんからどうぞ」

真姫「……喧嘩したの?」

ことり「えぇっ? そう見えた?」

真姫「なんとなくだけど」

ことり「してないよぉ、本当にたまたまだって!」

真姫「変なコト言ってごめんね」

ことり「気にしてません♪」

真姫「それでことりは?」

ことり「うーん、暇があったら真姫ちゃんのピアノ聞きたいなって」

真姫「えー……」

ことり「露骨に嫌な顔されるとことりは悲しいです……」

真姫「冗談よ」

ことり「えへへ、じゃあ真姫ちゃんが一人だったら来るからね♪」

真姫「そ、嫌じゃないから別にいいわよ」

ことりがぱぁっと笑顔になった。

そんなに聞き心地がいいのかしら。ちょっと嬉しいわね。


にこにこ笑顔のことりと二言三言話して今日は解散することになった。

明けましておめでとうございます。

今日はここまでです。お疲れ様でした。

今の私が一人になることは簡単だった。

昼休み、約束があると言って教室を出る。

花陽と凛は少し訝しげに見つめてきたが、約束。と一蹴した。

本当はそんな約束なんてしていないんだけれど、なんとなく……

本当になんとなく来るような気がした。

来なければその程度だ。

期待半分、疑い半分といった所。

真姫「さて……」

召喚の儀式じゃないけど、1曲弾いて待つことにした。

1曲弾き終わったところで、拍手が聞こえた。

ことり「こんにちは♪」

真姫「……やっぱり来たのね」

ことり「だって、約束したから」

約束。私は冗談で凛と花陽には言ったけど、同じ認識で少し嬉しい。

真姫「約束なんてそんな大きなものじゃないでしょ」

少し否定する。なんだか恥ずかしくて。

ことり「ピアノの音が聞こえちゃったからつい……」

真姫「物好きなのね」

ことり「そうかも」ニコッ

私のイメージの中では二年生は三人でセットだと思ったんだけど……

やっぱり喧嘩でもしたのかしら。

真姫「ねぇ、ことり」

ことり「なぁに、真姫ちゃん」

真姫「何かあった?」

ことり「ううん、なんでもないよ」

いつもと変わらない返答。表情は笑っていて読み取れない。

真姫「……海未と穂乃果は?」

ことり「……あーうー」

真姫「……ごめん、聞かないわ」

ことり「言いたくないわけじゃないんだけど、ごめんね」テヘ

両手合わせて舌をぺろり。

可愛い仕草なんだけど、なんだか寂しく感じた。

……あぁ、そうか。わかりたくなかったけど、わかっちゃった。

真姫「そういうことね……」

ことり「ん?」

なんでもないわ。

ようするに、ことりと私が同じだった。

凛と花陽、海未と穂乃果。つまり…………

真姫「ことり」

ことり「なぁに?」

真姫「おいで」

両手を広げて迎え入れる。

ことり「ええぇぇっ!? 悪いよ、真姫ちゃん」

真姫「いいから……」

有無をいわさず引き寄せる。

我慢することが得意な子に我慢をさせちゃいけない。

知っているから。

ことり「ありがとう……」

抱き寄せたことりの身体は柔らかかった。

綿みたいっていうのが正しいのかな。

ふんわり。ことりにはぴったりじゃない。

しばらくして、ことりを離した。

まだ、ことりの温もりが身体中に残っている。

ことり「あ……あの……」

真姫「ん、突然ごめん……」

ことり「こ、ことりは先に教室に戻るね!」

駆け足で音楽室から出て行くことりを見送った。

真姫「……なにしてるんだろ、私」

馬鹿じゃないの。

あぁ、でも喧嘩したわけじゃないっていうのは良かったわ。

ことりも私と同じか……

決して一番になれない存在。

穂乃果と海未の一番に、ことりがなれない……

なんて残酷なんだろう。あれだけ仲が良さそうに見えるのに。

いや、仲がいいからこそわかるんだろうか。

一人だけ繋がりきれていないことに。

周りから見てもこればっかりは当人しかわからない。

思い込みや勘違いの可能性だってある。

でも、そう思ってしまっただけで気になってしまって仕方ないはずだ。

……だって、私がそうだから。

じゃあ……じゃあ私に話しかけたのは?

真姫「…………ふふ」


簡単な事じゃない。寂しいから、私で埋めたかった。

恐らくことりも、私がそういう気持ちって言うことを知っていてここに来たんだ。

一番になれない同士の傷の舐め合い。

そう、私は結論づけた。

真姫「……まだ温かい」



自分以外の温度は、なかなかに消えてはくれなかった。

今日はここまでです。お疲れ様でした。

教室に戻ってからも、ことりのことを考えていた。

私より長い期間一緒にいて、私より長い間そういう気持ちを抱えていたとしたら。

そんなことばかり頭をぐるぐると駆け巡った。


悲しそうな素振りを一切見せないことりが……


……私を利用してるのかな、なんていうのも思った。

知らないで利用されるのは気に喰わないけど、私はそれを知っている。

知っていて、あえて利用されるのは悪く無いと思う。

その心の傷を知っているのは私しかいないと思うと、独占している気持ちになれる。


真姫「ことりの一番……ね」

歪んだ一番ねと、内心毒づく。もちろん自分に。

放課後の練習では、ことりの動きを追ってみた。

一度そういう意識を持ってしまったら、なかなか拭えない。

自然と目がことりの方に向けられる。


海未「穂乃果! また貴女は……!」

穂乃果「えー! 海未ちゃんが厳しすぎるよ!」

海未「ことりからもなにか言ってください!」

ことり「うーん、今のは穂乃果ちゃんが悪いかなっ♪」

穂乃果「う~海未ちゃんごめん……」ダキッ

海未「わかればいいのです」ナデナデ

ことり「二人とも喧嘩はダメですよ~」ニコニコ


真姫「……」

凛「真姫ちゃん?」

真姫「ん、どうしたの?」

花陽「気になることあった?」

真姫「別に……」

凛「お昼過ぎてからぼーっとしてたけど大丈夫?」

真姫「あ、体調とかは大丈夫だから…ね」

二人の友人に心配されてしまった。

熱中しすぎて全てが上の空だったようだ。

二人に余計な気を使わせてはいけない。

理由が理由だから相談なんてことは永遠に出来ないし。


大丈夫と嘘をつくたび、心がズキズキする。

決して見せないけどね。貴女達だからこそ。

気づいたことがある。

ことりはあの二人に壁があるって言う訳じゃない。

私みたいに、自分を守るために壁を作ってるわけじゃない。

むしろ溶け込んでいる。

溶けこんでなお、穂乃果と海未の方が深いのだと感じた。

でも、絶対に必要な存在で……

海未も穂乃果も判断がつかない時はことりに委ねている。


留学騒動の時もそうだった。

あの時、もしことりがしっかり穂乃果をリードしていたら、あの事件は起きなかったかもしれない。

IFの話をしても仕方ないんだけどね。

練習が終わり、また一人で静かに音楽室に入る。

凛と花陽は昨日からの私を察してくれたのか、無理しないでねとの一言でそれ以上追求をしてこなかった。

ありがと、二人とも。


真姫「はぁ……」


最近溜息を付くことが多くなった。

考え過ぎなんだろうか。

友人に序列をつけることなんて考えたことはあまりなかった。

でも身を持って知ってしまうとどうにもならなくなる。

自分で自分を縛り付ける鎖は重い。

抜け出す方法を知らない。答えを聞こうと思えばすぐにわかるのに、それが怖い。

知ってしまうのが怖いんだ。どうしようもなく。


ことり「頭抱えて大丈夫?」

真姫「ことり……」

顔を上げると、にこりと笑ったことりがそこには居た。

真姫「大丈夫よ」

ことり「よかったぁ」

安堵の表情を浮かべていることり。

身を案じてくれているんだろうか。それとも居場所が逃げなくて安心しただけなんだろうか。

疑惑の芽が消えてくれない。


端的に言ってしまえば、私じゃなくてもいいんじゃないかな。そう思った。


真姫「ねぇ、ことり。どうしてここに来たの?」

ことり「う~んなんででしょう?」

そうやってはぐらかす。

真姫「真剣に答えて」

ことり「……ここに居たいから……かな」

真姫「どうして?」

ことり「それは内緒です♪」

……一番聞きたい場所なんだけどね。

真姫「じゃあ違うことを聞くわ」

ことり「どうぞ」ニコニコ

穂乃果と海未に関しては何も言ってくれない。

なら……

真姫「衣装の事でにこちゃんとかに話したりはしないの?」

ことり「にこちゃんは……ちょっと」

真姫「どうしたのよ」

ことり「成績が思わしくないから二人のコーチが……」

真姫「……得意教科数学だっけ」

ことり「赤点ぎりぎりだったから猛勉強中で……」

真姫「何やってんのよ……」

3年生は仲睦まじくやってるってわけね。

どのみち、私しかいないか……。

ことり「真姫ちゃん」

真姫「何……」

ことり「えいっ♪」ギュー

真姫「ちょ、何すんのよ!」

柔らかい感触が頬に伝わってくる。それにとても温かい。

ことり「ことりにしてくれたことを真姫ちゃんにもしてあげてるだけです♪」

真姫「だっ、誰も頼んでないっ!」

ことり「ことりがしたいからしてるんですよ~」

抱きしめられて、頭を撫でられて……顔が真っ赤になってるのがわかる。

それくらい……火傷してるみたいに熱い。

ことり「考え事は解決した?」

真姫「一層深まった……」

ことり「ことりに相談はしてくれないんですか?」

真姫「ことりは……」

言ってもいいのかな。

これを言うと、戻れないかも。

また、一人になるだけだし……それでもいいかな。

代替のような関係を続けるなんてきっと私が耐えられない。


真姫「ことりは誰かの一番になりたい?」

じっとことりの瞳を見つめて問いを投げた。



ことり「うん。一番になりたいよ」


しばしの沈黙の後、静かに……しかしはっきりと解答を出された。

誰の? なんて無粋な質問を続ける趣味はない。

じゃあどっちの? 海未? それとも穂乃果?

私は誰かのと聞いた。二人の、ではない。

ことりの中でも決まっているんだ。

もし海未なら、もし穂乃果なら。通わせたい人と心が近かったとしたら。


ここにいるのは穂乃果か海未だったのかもしれないってことね。

一旦切ります。お疲れ様でした。

今日は寝ます。すいません。続きは明日書きます。

過去作はこの作品の最後のレスに書いてます。

真姫「もし叶うことなら」
真姫「もし叶うことなら」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418221376/)

そんなことを考えていたら――――

ことり「誰の一番かって聞かないの?」


――――なんて、蠱惑的な一言が聞こえた。


ことりの顔が朱い。私の告白に対して、最後まで付き合ってくれるということだろうか。

二者択一。海未か、穂乃果か。でもそこまで聞く必要があるのだろうか。


だってそうじゃない。私がその質問をされたら――困る。


未だに答えが出せない。私が大切なのは、一番になりたいのは……誰?


花陽? 凛?


どっちの方が大切なんだろうか。

優劣をはっきりと決めることの出来ない自分に対して、ことりは間違いなく答えを持っている。


それが、羨ましい。

ことり「真姫ちゃん?」

真姫「あ、あぁ、ごめんなさい」


考えすぎていたようだ。急かされるように名前を呼ばれたように感じてしまった。


真姫「……いえ、言わなくても貴女の一番は分かっているわ」


……やってしまった。求めるより、自分の保身をとってしまった。

挙句の果てには貴女のことを知っている風の態度をしちゃった。


……本当に悪い、見栄っ張りだと自分でも思う。


ことり「真姫ちゃん……」


真姫「?」


ことりの表情が読み取れない。照れてそうな……それでいて寂しそうな……?

百面相のように顔が変わっている。もちろん崩れてる顔ってわけじゃないんだけど。

ことり「……ごめんっ、今日はことり帰るねっ!」ダッ

……踏み込み過ぎたかな、距離を上手く取れなかったみたい。


……明日から、顔を合わせるのが気まずいわね。


傷つけるつもりはなかったんだけど、ひょっとしたら傷つけちゃったかも。

あぁ、でもことりの一番はどっちなんだろう。

もう一つの選択に手を伸ばせなかったことが、悔いになった。

その結果で失敗していても、きっとないに鳴ったんでしょうけれども。



まぁ、もういい時間だ。帰るのも仕方ない。


私も帰ろう。一人で。

一人で帰るのは、寂しいことじゃない。

悲しいことでもない。

自分の思いを整理できる大切な時間。


夜の闇は、自分の心を写す鏡のようなもの。

強さも弱さも、堅さも脆さも教えてくれる。

それでも――


真姫「私は何が大切なの?」


――それでも、そんな疑問だけは景色に溶けて消えてしまった。




今の私には、決定づけるものがなかった。

……どうしよう。

悩みは深まるし、増えてくし……

裏目に裏目に出てる気がするわ……


もっと単純な性格だったらなぁ、なんて思ったりする。

もちろん最初に思い浮かべるのはμ’sのリーダーだ。




明日、ことりに謝らないといけないかな。


……来てくれればだけどね。

今日はここまでです。僕ラブの準備やらなんやらで忙しくて更新できずすいません。

エタらないようにはしますので、これからもよろしくお願いします。お疲れ様でした。

早朝――――早起きは得意ではないのだけれど、目が覚めた。


朝練があるわけでもないのに、どうして早く起きちゃったんだろう。

……わかってる。きっと、わかってるんだ私には。


理由も根拠も裏付けなんて何もない。それでも、それでもことりは来てくれる。


そう――確信していた。

授業の始まる1時間前。そこまで運動部が活発でないここでは、人もまばらだ。


音楽室に入り、1曲を適当に弾く。そうすればことりは来てくれるんだ。

そう盲目的に考えていた。



曲は終わり、いつものようにひょっこりと現れて談笑を始める。

それから私の一日は始まると思っていた。


でも――――







ことりは来なかった。

舞台の幕が上がらない。

序曲を終えれば物語が始まる。



奏でる音を聞いてくれる人が居ない。

特等席でいつも聞いてくれている主役が現れない。



半ば放心状態になりながらも音を紡いだ。

これが途切れてしまえば、何かが無くなってしまいそうだったから。


2曲……3曲……


元々、約束をしたことじゃない。ことりを責めるのはお門違いだ。

弾けば来る。そんな風に思っていただけ。



手を止める。音は途切れる。

真姫「歪んだ一番……」

ただの思い違いだったわけだ。




全ては都合の良い妄想だ。

ぐちゃぐちゃとした思考を抱えたまま、始業のベルで舞台は開くこと無く終幕を迎えた。

授業中は無色の景色が続いた。

何かを言っているようだけど、何も耳に届かない。


あぁ、でも大丈夫ね。我慢をすることは慣れている。


そう、そうよ、そもそも、ことりはそんなに私の中でウェイトを占めるものじゃなかったはず。

ただ、一人で音楽室でピアノを弾くことが日課だった。

そこにたまたま行き場を無くしたことりが迷い込んできただけだ。

それだけじゃない……


昼休み、昼食も摂らずに音楽室に歩を進めた。

音楽室。心が安らぐ場所だったのに、今は心が不安になっているのを感じた。

一人の時は感じなかった、音楽室の大きさ。

二人になって、また一人になると何故か大きくなったような気がした。


真姫「はぁ……」

指が動かない。

手が震えている。独りで弾いてどうするのだろう。


……正確に鍵盤を叩けないなら、叩かない。


……それで…………いいじゃない…………




聞いてくれる人が居ないんだから。

今日はここまでです。お疲れ様でした。

真姫「ごめん、今日は練習を休むわ」

そうやって花陽と凛に告げる。

凛「体調が悪いの?」

花陽「一人で帰れる?」

サボりなのに、これだけの心配をしてくれる二人には悪いと思う。

でも、今の私じゃ練習で足を引っ張りそうだったから。





……嘘つき。ことりと会うのが怖いくせに。

真姫「ん、明日になれば大丈夫だから」


そうだ。一晩もあれば切り替えられる。

だから今日だけは……一人で居させて。

校門から出ようとすると、屋上から元気のいい声が聞こえてくる。

真姫「練習が始まったのね」


その練習風景を尻目に私は帰ろうとしている。

くだらない意地と言えば片付けられるのに、それが捨てきれない。


誰かの一番だなんてどうでもいいって思えば、こんな気持ちから開放されるのに。

一瞬でも、一番が欲しいと願ってしまった。

それを手に入れたと錯覚してしまった。


それが、間違いだった。


だから今日休むのは未練を断ち切るためだ。


…………ごめんね。

足が前に進まない。

それどころか戻ろうとしている。

休むといった手前、練習をする気はしない。


けれど……一人でいるなら音楽室でいいんじゃない。

なんて、言い訳で私は音楽室にいた。


上で声が聞こえる。


談笑しているのだから、休憩中なのだろうか。

ピアノに向き合って、ぼーっとする。


弾くことをせず、まじまじと見たピアノはとても大きく見えた。

…………

手の震えはない。

恐怖感はどこかに消えてしまった。

慣れ親しんだ感触が戻っている。

音が教室いっぱいに鳴り響く。


大きすぎず、小さすぎず。自分の空間を取り戻すように。


一人でも大きいと、不安になるような感情は消し飛んでいった。

一曲を弾き終わる頃には、いつもの場所に戻っていた。


なのに、なんで……





拍手が聞こえるんだろう。

ことり「真姫ちゃん……?」

真姫「ことり……」


気まずい。非常に気まずい。

私は休むと言って、音楽室にいるのだから、サボりがバレたことになる。

いやいや、そんなことよりも、ことりが目の前にいるのが……


何を話せばいいんだろうか。どうやって取り繕えばいいのか。

言い訳ばかり考えていると、ことりが目の前に来て……


ことり「真姫ちゃん、大丈夫?」

なんて、近くで見つめられて……私は相変わらず……

真姫「大丈夫よ」

なんてぶっきらぼうに返してしまった。

今日はここまでで……更新少なくて申し訳ないです。お疲れ様でした。

ことり「嘘ばっかり」

真姫「…………っ」

心を見透かされたように、鋭い視線に捉えられる。


怒られるのは苦ではない。

嫌われることに恐怖してる。


なぜ……? 嫌われる……? どうして……?

練習をサボってしまったから?

それとも、一人で居たいと思ったことがバレてしまうから?


違う。単純な考えだ。

今のまま、ことりと話して自分を曝け出した結果を知るのが怖いんだ。

ことり「ことりは、真姫ちゃんに言わないといけないことがあります」

ふと、緩んだ表情になることり。

瞳の力は変わらないはずなのに、先程より重圧がない。

真姫「何よ……」


正直なことを言えば、心臓の鼓動がうるさい。

ことりから紡がれる次の言葉が聞きたくて……でも怖い。

最悪もすでに想定している。ただ、想定外のことには泣いてしまいそうだ。

だからこそ、その言葉が意外なものだった。



ことり「昨日は突然帰ってごめんね?」


真姫「えっ? あ、うん」

間の抜けた声を出してしまったのは秘密だ。二人だけの。

ことり「それとそれと、今日、朝も昼も来れなくてっ!」

聞こえてくるのは、謝罪の言葉ばかりだ。

言い換えれば、それほど私の約束を重視してくれていたということだろうか。


そう考えると、自然と顔が綻んでいく。

ことり「もー! 真姫ちゃん!」

真姫「え?」

ことり「ことりが一生懸命に謝ってるのに笑うなんて!」

真姫「ふふ、ごめんごめん」

ことり「でも、約束破っちゃったのはことりだし……」

約束。あれを約束とまだ言ってくれるのか。


真姫「いいのよ、本当に」

ことり「真姫ちゃん、泣いてるんだもん」

その言葉を聞いて目元が濡れているのに気づく。

でもこれは悲しい涙じゃない。


真姫「……なんででしょうね」クスリ

大分、和んだところで知りたいことが一つある。

真姫「ことり」

ことり「なぁに?」

真姫「どうして、昨日は帰ったの?」

その質問をするやいなや、ことりの顔が朱色に染まっていく。

ことり「イヤーナンデカナー」

真姫「……?」


あからさまに怪しい。聞いてくれと言っているようなものだ。


真姫「こっちをしっかり見て……言って?」


トマト色のことりが潤んだ瞳で見つめてくる。

……海未の気持ちがわかる。これは卑怯だ。

ことり「真姫ちゃん、ずるい」

真姫「えぇ、そうね」

ずるいのは、ことりの方だ。と内心でのみ思っておこう。


ことり「ことりのこと、知ってるくせに……」

意味深な言葉が出てきた。昨日のことね。


言わなくても分かっている。

ことりの理解者気取りの昨日の自分を叱ってやりたいわ。

今、これだけの近くにいるのに何もわからないのにね。

それでも、理解っていることがある。

と、言っても自分のことだけれども。

ことりが傍にいると安心している自分がいる。

ことりと話していると、とても良い気分になれる。

ふふ、こうしてことりのことを考えていると、まるで恋をしてるみたい。


恋に恋する少女は高嶺の花には似合わない。けれど――――


大空を舞う白い小鳥に恋をするなら釣り合うんじゃない?

ことり「ことりは真姫ちゃんが……」

真姫「…………」

言葉を探しているようだ。何かを言おうとして噛み潰している。

それでも、私はことりの言葉が聞きたいから、待つだけだ。


ことり「……一番」

真姫「え?」

恥じらいの乗った言葉は耳に微かに聞こえた。

もう一度聞きたい。その思いは、届いたようだ。


ことり「ことりの一番は……一番になりたい人は真姫ちゃんです!」

理解が追いつかない。想像が現実になった。

幾多の理想が形を成した。それはあり得ないとずっと否定していたことだ。

虚影の一番を手に入れたと錯覚して絶望して、やはりと……兎角なものだと認定していて。

問い質した答えは自身が切望したことだった。


真姫「わっ、私も……」

言いかけて、言いよどむ。もっと素直になれば、勇気を出せばいいのに。

言う気がないわけじゃないのに、先延ばしにしてしまうのは悪い癖だ。

ことりは、返事を待っている。意を決して、声を出そうとした瞬間――――


「ことり! どうかしましたか!?」

音楽室のドアが乱暴に開かれ、μ’sの皆が心配そうに、ことりを見つめた。

海未「真姫?」

ヴェエェ……一番会いたくない相手だ。

穂乃果「ことりちゃんが遅いから皆心配してたんだよー!? って真姫ちゃん?」

やばい。

凛「あれ、真姫ちゃん体調が悪いんじゃなかったの?」

花陽「ケビョウダッタノォ!?」

真姫「いや、その、ちがっ……くないけどその……」

すっごく、この場所から離れたい。

真姫「あ、私ちょっと忘れ物しちゃって……」

にこ「ストップ!」

絵里「何があったか聞きたいわね」

希「練習をサボるような悪い子にはおしおきしないとねぇ~」



真姫「また明日」

ことりとすれ違いざまにそう呟いて、この場から逃げた。


意外なことに、追手が来ない。あぁ、きっとおせっかいな人のせいだろう。

真姫「明日……ね」


早く明日になって欲しい。

逸る気持ちが抑えきれずに、昨日よりも早く来てしまった。

不思議と清々しい気分だ。

音楽室にはすでにことりがいた。


真姫「早すぎ」

ことり「来ると思ってたから」

柔和な笑みで迎えられる。


真姫「昨日の答えなんだけど……」

もう、保留はしない。伝えなきゃ、この想い。

真姫「私の……私の一番は貴女よ、ことり」

ことり「嬉しい……嬉しいよ、真姫ちゃん」

昨日の私と同じように涙を流している。

ことり「真姫ちゃんはひどいよ!」

真姫「う、でもああ言うしかなかったじゃない」

今にして思えば、私が最初に勘違いさせてしまったのが原因だろう。


ことり「ことりがどれだけ恥ずかしかったと思ってるのー!」

ぽかぽか叩いてくることりが愛しい。

私は理解っているなんて、言ってしまえば、ことりの気持ちに気づいていると誤解させても仕方ない。

真姫「それは、紅くもなるわね」

自分がその立場なら間違いなく逃げ出すだろう。

ことり「えへへ、でも……一番になれたからいいかなっ♪」

大切にされているという実感が湧くと、とたんに嬉しくなる。

現金なものだ。自分は割と単純なのかもしれない。


……この後のことを考えると頭が痛くなる。

ことり「昨日は止めたけど、今日は説明しないとね」

真姫「何をどう説明するのよ……」

ことりのことで悩んでいたけど、両想いを認識したから体調も復活しました。

……惚気じゃない。完全に。


ことり「えへへ」

真姫「ふふ」

ことりの幸せそうな笑みを見ていると、どうでも良くなりそうだ。

いっその事、全部赤裸々に話してしまったほうが、海未には効果的かもしれない。

ことり「ねぇ、真姫ちゃん一曲聞きたいな」

真姫「お安いご用ね」



幕が静かに上がる。二人きりの舞台が今日は始まった。

放課後、抵抗の甲斐も虚しく、こっぴどく怒られた。

とどのつまり、起こったことを何も話さなかったのだ。

だって恥ずかしいじゃない。


色々と言い訳を考えていたけれども、サボったのは事実だし、甘んじて受け入れることにした。

ことりはことりで、質問攻めをされているし、何も話すことはない。


ことり「……」

真姫「……」

目が合う。それだけで微笑み合う。繋がっているようで、にやけてしまう。




そして海未に怒られる。

数日後、ことりとの仲は、μ’sの皆は納得してくれたようだ。

そして、早朝に音楽室へ行くことが日課になってしまった。

理由は一つ。私より早く来てる人物が居るからだ。

真姫「何よ、今日も来たの?」

ことり「えへへ、来ちゃいました♪」


待ち望んでいたかのように、満面の笑みを浮かべている。

愛しい彼女に捧げるように、曲を奏でる。

聞き入っているのか、心地良いハミングが私の耳を撫でる。

二人きりの秘密の時間。誰にも話していない甘い時間。

二人で奏でた音楽は音楽室に静かに沁み渡る。

その空間に浸るように、二人は演じた。

劇中には、ヒーローとヒロイン以外は居ない。

それを見ている観客すら存在していない。



演劇の時間は始業のベルとともに終りを迎える。

だが――――


真姫「ことり、また放課後に」

ことり「うんっ、待ってるからね」

全く、と苦笑してしまう。

あれ以来、私が待つことが無くなってしまったのだ。

先に先にと、ことりが居るようになったからだ。

真姫「私にも少しは待たせなさいよね」

だめです。とにこやかに言われてしまった。

頑固モードのことりには勝てない。それは数日で分かった。

日を重ねる度に、ことりに惹かれていく自分がいることも知った。


真姫「ふふ」

ことり「真姫ちゃん、今どうして笑ったの~?」

真姫「秘密よ、ひ・み・つ」



――――二人の紡ぐ物語は、始まったばかりだ。

FIN

お疲れ様でした。見て下さった方々有難うございます。

完結に2ヶ月以上かかって、申し訳ない。

それではまた、次の作品で。

僕ラブ落ちました……4月19日の真姫誕と4月26日のLOVEインパクトに出る予定です。

今まで投稿したSSを改稿してpixivにも載せていますのでお暇でしたら是非読んで欲しいです。
http://www.pixiv.net/mypage.php#id=8224810

それでは皆様、お疲れ様でした。次回投稿は脱稿完了後になりそうです。

受かってた……有難うございます。まだ内容は決まってませんが、うみまき・えりまきのどちらかの予定です。

それでは会場で会いましょう。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月12日 (月) 03:32:23   ID: Ms3JtZbw

ことまきのスレだからいいんだけど、二年生の関係に一番がどうとかってないよね。

2 :  SS好きの774さん   2015年01月19日 (月) 22:38:41   ID: DCUawLAA

はよ

3 :  SS好きの774さん   2015年03月08日 (日) 21:35:35   ID: 4LQEow9j

これは期待

4 :  SS好きの774さん   2015年03月15日 (日) 20:37:44   ID: GN8A9sYz

いいことまきだった

5 :  SS好きの774さん   2015年04月17日 (金) 15:34:04   ID: oL7aF1ab

※1
二年生にどうとかってないというのもお前の考えだしもしかしたらあるかもしれない。そこまで決められてないし真実はないよ

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