まどか「ねえ、キョンくんって好きな人、いる?」 (39)

まどマギ×ハルヒ


俺は今、家に遊びに来ている年下の愛らしい容姿の少女から
不意にそんな事を言われて、少々面食らってしまった。

俺の数少ない友達・・・親友と言っても差し支えない少女、鹿目まどか。
彼女こそが、今しがた俺を驚かせた張本人だ。
まどかは出会った最初こそ俺に怯えていたような素振りを見せていたが
様々な出来事を通じて、今ではお互い心の通じ合った仲にまで発展している。
彼女の事ならかなり熟知しているつもりだが、今の質問は流石に予想外だった。

キョン「ええっと・・・すまん、まどか。どういう意味だ?」




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まどか「あのねあのね、キョンくんが今その・・・恋愛感情を抱いてる人、いる?っていうような意味だったんだけ、ど」
 
なるほど、そういう事か。
そういう方面に関しては、とんと知識も経験も疎い俺がオウム返しにしても
まどかは嫌な顔一つせずに噛み砕いて説明してくれた。

キョン「恋愛感情・・・ね。そうだな・・・・・・今は、いないかな」

まどか「そ、そっかぁ・・・!よかった」

事実だった。
というよりもそういう事を考えた事がなかった。
今の俺は大切な友人であるまどかやSOS団と共にいる毎日がとても楽しい。
色恋などに興味を抱く事すらなかった。
その事を伝えたまどかの反応を見るに
彼女も俺と同じ気持ちなのだろうか。
「よかった」などと言うからには、俺に実は好きな人がいて
その事に熱を入れたいのに、自分とばかり一緒にいていいのか、という
優しいまどかならではの悩みだったのだろうか。
本当にまどかは可愛い奴だ。
そんな事を思っていたのだが。

まどか「あ、あのね・・・私は・・・いるよ。好きな人。だからその・・・キョンくんに、相談に乗ってもらいたくて」
 
彼女の口から出た言葉は、またしても俺を驚かせるには充分すぎるくらい充分だった。

キョン「そ、そうなのか・・・」

まどか「う、うん・・・」

思わず俺は声が震えてしまった。
釣られてまどかもどこか申し訳なさそうに俯きぼそりと返事をした。

キョン「そ、それはいい事じゃねえか。いいぜ、俺でよければいくらでも相談にのるぞ」

何がいい事なのかはよく分からんが
まどかの力になってあげたいのは紛れも無い本心だ。

当然ながら恋愛経験などあるはずもない俺だが
それでも何かできる事はあるはず。そう思った。

まどか「ほ、ほんとっ!?ありがとう、キョンくん!」

言いながら嬉しそうに、ぱぁっと顔を輝かせるまどか。
やはり協力を申し出てよかった。
こいつの喜ぶ姿を見れるのはすごく嬉しいからな。

キョン「・・・」

・・・すごく嬉しいはずなのに、どこか胸の奥が小さな針にでも刺されたかのように
チクリと痛んだ。
しかし理由は全く分からなかったので、とりあえずその問題は置いておく事にした。

キョン「いつもまどかには沢山お世話になってるからな。俺に任せておけ」

などと根拠のない自信を見せながら、俺は早速頭の中で作戦を立てていた。

キョン「じゃあ、順を追っていくぞ。まどか、まずお前が相談したい事ってのは?」

まどか「うん、あのね、私その人の事がずっとずっと好きでね。でも、このままでもいいかなって思っていたんだけど・・・。ママに相談したら「誰かに取られる前にちゃんとケジメつけとけ」って言われちゃって・・・。でも、いざ告白しようと思うと色々不安で」
 
キョン「なるほど・・・。訽子さんらしいな。でもその考えは一理あるな。後で後悔するのは勿体無いからな」
 

まどか「キョンくんもやっぱりそう思う?」

キョン「あぁ、勿論」

まどか「そっか・・・そう、だよね。・・・うん、私、頑張って告白する!」
 
キョン「よし、その意気だ。まどか」

両手で可愛らしくガッツポーズを作るまどかに対し、
俺がエールを送るとこいつは嬉しそうにはにかんだ。
まどかの背中を後押しできるのは喜ばしい事だ。
また少し胸が痛んだけれど、やはり無視しておく。

まどか「でも・・・どうやって告白しよう・・・?」

キョン「確かにそれは問題だな・・・。仕方ない、まどか。一緒に考えようぜ。まずそのターゲットの特徴を教えてくれ」
 

まどか「タ、ターゲットって・・・」

キョン「敵を知り、己を知れば百戦危うからず。そんな言葉がある。対象の事を一度キチンと整理しておくのは重要なことだぞ」
 
まどか「わ、私が驚いてるのはそこじゃないんだけど・・・。え、えっとね。何から話したらいいんだろう?」
 
視線をさ迷わせ、何やら考え込むまどかに対し、俺は一つづつ要点を挙げていく事にする。

キョン「そうだな・・・。じゃあまず、容姿だ」

まどか「見た目の事だよね? んとね・・・黒髪の長髪がとっても綺麗なの」
 
キョン「黒髪で長髪、と・・・それから?」

以前、情報整理用にと使っていたホワイトボードを引っ張り出し、
そこにターゲットの特徴を箇条書きにしていく。

まどか「あとね、背が私よりもちょっと高くて・・・かっこいいの」

キョン「背はまどかより高い、と・・・性格はどんな感じだ?」

俺は、キュキュキュとペンがホワイトボードを撫でる音を聴くのはそれなりに好きだったりする。

まどか「んとね、優しくて、思いやりもあって、何よりすごく私を大切に扱ってくれるの」

キョン「優しい、思いやりがある、まどかを大事にしている、と・・・。ちょっと待ってまどか。という事は、そのターゲットとの面識は何度かあるのか?」
 

まどか「う、うん。友達っていうか・・・もっと親しい友達っていうかその・・・」

ここにきてまたも驚かされた。
まどかは俺が知る範囲では、小学校からの親友である美樹さやか、志筑仁美。
そして暁美ほむらと大抵一緒にいる。
男性とは俺以外と一緒にいる姿は見かけたことがなかったのだが
きっと俺のあずかり知らぬ所で親交があったのだろう。
そう思うと、先程より強めの痛みが俺の胸を襲った。
けれど動揺を見せればまどかが不安がるに違いない。
俺は平静を装って続けた。

キョン「まどかと親しい友達関係にある、と。・・・特徴はこんな所か。なかなかの逸材だな、これは。競争相手も多そうだ・・・」
 
まどか「そう!そうなの!」

キョン「ま、まどか?」

俺は急に語気を強めたまどかに少し圧倒された。

まどか「クラスの皆からも、人気がすごくって・・・!その子にラブレター出したって話もすごく聞くし・・・。私、それもすごく不安なの・・・」
 
キョン「やれやれ。どうやらかなりの難敵のようだな」
 
まどかのクラスにそんな男がいたなんて。ますますもって俺は衝撃を受けていた。

キョン「それなら、尚更告白は早いほうがいいな・・・。そのターゲットの登校時刻は分かるか?まどか」
 
まどか「え、ええっと・・・う、うん。大丈夫」

キョン「よし。それなら早速明日決行だ!対象の登校時刻より少し早めにまどかは家を出ろ。そしてまだ誰とも遭遇していない頃合を見計らって・・・告白だ!」
 
まどか「え、えええええ!?」

キョン「我ながら完璧な作戦だな。大丈夫、まどかは誰が見てもとても可愛い、必ず上手くいく。・・・それにもし断ったら、俺が許さない」

 
 
 

まどか「で、でもでもでも!まだ心の準備が・・・!」

俺が言葉尻に呟いた内容は、声のトーンを落とした為、
幸いまどかには聞こえなかったようだ。
けれど、その気持ちに嘘はなかった。

キョン「大丈夫だって、まどか。自信を持て。俺はお前と出会ってから本当に色々と救われてんだ。お前の言葉、一つ一つに。どこまでも優しいまどか。そんなお前が振られるなんてあるはずがないだろ」
 
まどか「キョンくん・・・!嬉しい・・・!」

「それじゃあ、また」

作戦会議を終えた俺達がどちらからともなくそう言って、
まどかが自宅へと帰ったのが、つい先程。
俺はなんとなくまどかとの打ち合わせで用いたホワイトボードを眺めていた。
目の前にある箇条書きされた、まどかの想い人の特徴。
それを見るたび、かなりの超人である事が伺いしれた。
そして胸の痛みは今やズキズキとなるレベルにまでなっており、
うるさいくらいに思えるそれを、俺は流石に無視する事ができなかった。

どこかで胸部を負傷した?
それはありえなかった。近頃戦闘らしい戦闘は起きていない。
街が平和な証拠だ。とてもいい事だ。

では、何故か
俺はこの胸の痛みが起きる要因を探って見る事にした。

「まどかの想い人の事を考える」時に、この痛みは発生する。
その感情は醜く感じるものであり、認めたくはなかった。
認めたくはなかったのだが、そう。これは嫉妬なのだろう。

まどかは明日告白をする。
そしてきっと・・・いや、必ず上手くいくだろう。
まどか程の素敵な女の子をまさか振る男性などいようはずもない。
そうするとどうなるか?

まどかとそのお相手との交際が始まる。
休日にはデートだって当然するだろう。
下校だって共に連れ立ってしたいだろう。
教室でも一緒におしゃべりに華を咲かせたいだろう。
お昼だって同じ時間を過ごしたいだろう。

そうして俺はまどかと過ごせる時間が確実に目減りする。
寂しい。それはとても寂しい事だ。
しかし優しいまどかの事だ。
きっと俺の事を気遣って、今まで通り時間を作ってくれようともするかもしれない。
けれど、そんな事は俺が許さない。
そんな無理をすれば、お相手との関係に亀裂が生じてしまうかもしれない。
そんな事になったら俺が俺を許せなくなる。
誰よりも大切なまどか。
あいつには絶対に幸せになってもらいたい。
いや、ならなくてはいけない。
それこそが、俺の望みだからな。

そう、なんといっても俺はまどかの事が───。




冬の早朝はツンと鼻をつく冷気がどことなく心地よい。
夕べはあまり寝られず、
かろうじて入浴だけは済ませ、気付いたらベッドではなく
愛用のソファーの上で横になり、眠りに落ちている始末だった。
人を好きになることがこんなにも苦しいものだとは思わなかった。
家にいても気分が滅入るだけなので、
腫れぼったいまぶたをなんとかごまかすように何度か洗顔と
フェイスマッサージを手早く済ませ、
いつもの登校時刻より早めに家を出た。

流石にこの時間帯はまだ通学する生徒の姿すら見えない。
けれど今の私には調度よかったのかもしれない。
こんな酷い顔はなるべく見られたくない。
授業が始まる時間ともなれば、多少はマシになっているだろうから、
それまで人に会う可能性が低いのはありがたい話だった。

そんな事を思った矢先、いつもの通学路の並木道に、
見慣れた桃色の髪の毛をした人影が見えた。
私はよせばいいのに、ついつい習慣というものか、声をかけてしまった。

ほむら「・・・まどか?」

まどか「・・・あっ!ほむらちゃん!」

目の前にはまどかがいる。
昨日も一昨日も彼と仲良さげに話していた・・・
それを思うだけで、またしても胸が痛み出す。
私はそれを隠すように「早く行きましょう」とだけ短く言い、足早にその場を立ち去る。


まどか「まって!」

しかしそれは、声をあげながらまどかに腕を掴まれ、叶わなかった。

ほむら「まど、か・・・?」

まどか「ほむらちゃん」

いつものように私の名前を呼んだまどかの声は、
穏やかだけれど私を捉えて逃がさない、そんな響きがあった。

まどか「私ね、卑怯だし弱いし・・・ずっと友達でいられるのなら、それでもいいのかもしれない。そんな風にも思っていたの」

ほむら「まどか、何を・・・?」

まどか「聞いて、ほむらちゃん。でもね、ママに言われた事や、ほむらちゃんの噂──あ、ラブレターをもらったとかそういうのね。を聞く度、このままじゃいけないって思えてきて・・・」
 
真剣な眼差しで私を真っ直ぐ捉えるまどかの声と顔から
私は目が離せずにいた。

まどか「それでも、なんとなくこの気持ちに気付いてもらえたらな・・・なんてそんな甘い考えもあったんだけど。昨日の事で分かったんだ。このままじゃ、ダメだって」
 
ほむら「まどか・・・」

まどか「ねえ、ほむらちゃん。いつも、私を守ってくれてありがとう。いつも、私と仲良くしてくれてありがとう。でも私・・・もう、ほむらちゃんと友達のままじゃ、イヤなの」
 
ほむら「まどっ・・・!」

まどか「ちょっぴり怖いけれど・・・勇気を出して、言うね。私ね、ほむらちゃんの事───。」
 







まどか「・・・・・・ほむらちゃんのばか」

さっきまで赤く染まっていたまどかの頬が見る見る冷めていく。

まどか「ほむらちゃんのばかああああああああああああああああ!!」

その瞳から大粒の涙を流しこの場を去っていくまどか。


まどか。まさかあなたが私のことを・・・
本当に人生というものは何が起こるか分からないものね。

…でもごめんなさい。
私には他に・・・好きな人がいるの。

想い人の彼の事を考える。とたんに胸が苦しくなった。



おわり

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月05日 (月) 21:57:12   ID: fIt-cQEN

ぅおぅ…まさかの三角関係…
いやぁ、3人が幸せになることをお祈りいたしますよ

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