【艦これ】提督「壊れた娘と過ごす日々」【安価・コンマ】 (1000)

※安価あり、コンマありです。

※あんまり明るくないです。

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提督「ここが新しい鎮守府か……」

提督「……」

提督「……」

提督「……、……」

提督「古いな……」

提督(今にも倒壊しそうな建物だ)

提督(雑草は生え放題、門は錆びて一部腐食している)

提督(鎮守府を囲う壁はボロボロで、これでは侵入し放題だ)

提督(そして何より……)


提督「……人の声が、全くしないな」

提督(波の音だけが、僅かに聞こえる)


提督(前いた鎮守府とは、まるで違う)

提督(住所が間違っているのではなかろうか)

提督「……ん」

提督(誰かいるな。もしや、艦娘か)

提督(しゃがんでいるので顔は見えないが、あの服装は憶えがある)

提督「ちょっと君、良いかな」

???「はい、どちらさまでしょう」

提督「今日からここで働くことになった者だが……」

???「あ、はい。お話は伺っています。あなたが提督なのね? よろしくお願い致します、高速戦艦、榛名です」

提督「ああ」

提督(立ち上がった彼女の服は、土で汚れていた)

提督(両手には雑草。よく見ると、彼女のしゃがんでいた辺りは、抜かれた雑草が積まれていた)

提督(靴下、袖、……それから、スカートの裾。そして手足。朝日に照らされて少しだけ光っているということは、早朝から草むしりをしていたのだろうか)

榛名「どうなさいましたか、提督?」

提督(……、今は、午前七時だ)

提督(一体彼女は昨日何時に寝て、今朝何時に起きたのだろうか)

提督「……」

榛名「提督?」

提督「……いや、なんでもない」

榛名「? そうですか」


提督「しかし……」

提督(辺りを見回すが、やはり彼女以外の姿は見えない。声もしない)

提督「なんというか、その」

榛名「……、はい」

提督(恐らく、何が言いたいのか分かったのだろう。少しだけ彼女は目を伏せた)

提督(どう取り繕ったって、良い言葉が出てこない)

榛名「……」

提督「……すまない」

提督(何故かそれが申し訳なくなって、謝ってしまった)

榛名「いえ。榛名は大丈夫です」

提督「そうか」

榛名「はい。榛名は……大丈夫です」

提督(困ったような、バツの悪そうな、そんな複雑な微笑だ)

提督「……、ここは、寒いな」

榛名「そうですね」

提督「中に入ろう。とりあえず他に艦娘は何名いるんだ?」

榛名「あ、ええと。三人です」

提督「そうか」


提督(合計四人、か)

提督「一度全員と顔を合わせて話がしたい」

榛名「榛名が呼んできます」

提督「ああ、頼む。場所は執務室……、いや、やはり食堂にしよう」

提督(そういえば、まだ朝食を摂っていなかった。まぁ、七時だからな)

榛名「分かりました」

提督「ああ、それと。一度身を正してきた方が良い。大分汚れている」

榛名「す、すみません」

提督「ゆっくりで構わない」

榛名「提督は優しいのですね。榛名になんて気を遣ってくれて」

提督「……、当たり前のことを言っただけだ」

榛名「では、榛名、行って参ります」


──廊下


提督(暗いな。電気がついていない)

提督(木造の床も一部腐食している。危ないな)

提督(まるでお化け屋敷だな)

提督(……、お化け、か)

提督「っと」

提督(廊下を歩くたびにギシギシと音がする)

提督「……ん?」

提督(俺のとは違う、もう一つ同じような音が聞こえる。ということは、誰かが向こうの曲がり角から向かってきているのか)

提督(榛名の言っていた、残り三人のうちの誰かか)

提督(さて、誰だ?)


↓1


鈴谷「……ん?」

提督(こっちに気付いたようだ)

鈴谷「んー……?」

提督(睨まれて……ああ、いや、違うか。廊下が暗いから、誰かわかっていないんだろう)

提督(ましてや今日初めて会う相手だしな)

鈴谷「っていうか誰?」

提督(開口一番がそれか……)

提督「今日からここに配属された、よろしく頼む」

鈴谷「ほぉー、新しい提督かー。チーッス」

提督「……」

提督(まぁ、いいか……)

鈴谷「なに、あたしの喋り方が気に食わないってかー?」

提督「そんなことはない」

鈴谷「ほんとにー?」

提督「ああ、本当だ」

鈴谷「ふーん……」


鈴谷「別に無理はしなくていいし、はっきり言ってくれた方があたしとしても楽なんだけど」

提督「やけにしつこいな」

鈴谷「別に」

提督(……、ここの鎮守府は、提督が入れ替わり立ち替わりだと聞く)

提督(もしかしたら、それも影響しているのだろうか……)

鈴谷「黙られると困るんですけどー」

提督「ああ、すまない」


提督「↓1」

あ、天津風? すいません、これは安価下にしてもいいでしょうか?


提督「ああ、すまない。これからよろしく」

鈴谷「……、模範解答。ふーん」

提督「気の聞いた言葉でなくて悪いな」

鈴谷(……前の提督よりかはマシかもね)

提督「悪いついでに、食堂へ案内してくれ。一度全員と顔合わせをする」

鈴谷「こんな朝から仕事すんの? マジやなんだけど」

提督「ならなんでこんなところほっつき歩いていたんだ」

鈴谷「あたし夜型だからこれから寝るところだったんだ」

提督「ああ、そう……」

提督(仮に寝ていたとしてもいずれ榛名に起こされていただろうから、大して差はないな)

鈴谷「まーしょうがないか……さてさて行きますかねぃ」

提督「うむ」

鈴谷「メイク落とす前でよかったよ」

提督(あぁ、その為に水道にでも向かっていたのか)


鈴谷「あー、寒」

提督「十二月だしな」

鈴谷「何もこんな朝早く来なくたっていいのに」

提督「時間にだらしないよりはいいだろう」

鈴谷「こんなに早くちゃ全員揃わないんじゃない?」

鈴谷「……っていうか、多分揃わないよ」

提督「他のメンバーも夜型なのか?」

鈴谷「……」

提督「……どうした」

鈴谷「まぁ、あたしがどうこう言うより、見たほうが早いよきっと」

鈴谷「ここが普通じゃないことくらいは、分かってるでしょ」

提督「……」

提督(暗い廊下で軋む足音が、それを物語っている)


提督「おっと、榛名、早かったな」

榛名「……いえ」

提督(暗い表情の榛名を見てすぐに気付いた)

提督(一人足りない)

鈴谷「……やっぱね」

榛名「……すみません」

提督(残りの一人は気になるが……今はさておくとしよう)

提督(それより今は、三人目だ)


三人目↓1


加賀「航空母艦、加賀です。あなたが新しい提督なの?」

提督「ああ、そうだ。よろしく頼む」

加賀「それなりに期待はしているわ」

提督「それなり、か」

加賀「ええ」

提督(冷めた目だ)

提督(榛名とも鈴谷とも違う……ようで、どこか似ている目をしている)

提督(それなり、と言う言葉さえお世辞に感じるような、そんな目だ)

提督(期待なんかしていないのかもしれないな)

提督(それはそれで構わない)

提督(その方が、互いに、楽かもしれない)

加賀「……何か私の顔についていて?」

提督「ん?」

加賀「考え事をするなら、人の顔を見ながらはやめて頂戴」

提督「ああ、悪い」


提督「とりあえず、これからよろしく頼む。これからについては、また改めて伝える。まずは朝食にしよう」

榛名「はい!」

加賀「ええ」

鈴谷「ウィーッス」

提督(三者三様だな)

提督(三者……三者、か)

提督(残りの一人は、部屋に引きこもっているらしい。榛名が呼んでも駄目だったのを、いきなり初対面の俺が行って出てくるだろうか)

提督(それよりかは、いくらか付き合いが長いであろう他の二人に行かせるべきか)

榛名「……」

提督(……ん、榛名がこっちを見ている)

榛名「……、……」

提督(おそらくは、残りの一人を呼べなかったことに責任を感じているのかもしれない。別段気にすることではないが、そういう性格なのだろう)

提督(さて、どうするか)

↓1

1.加賀に頼む

2.鈴谷に頼む

3.榛名に頼む

4.自分で行く


提督(いや、ここは俺が行こう。一度失敗した榛名にもう一度行かせるのは可哀相だしな)

提督「榛名、残りの一人の部屋を教えてくれ」

榛名「え、と」

提督「君は二人と一緒に朝食を摂るといい」

榛名「……でも」

鈴谷「提督も良いって言ってるんだし、良いんじゃない?」

榛名「……」

鈴谷「まー好きにすれば? あたしには関係ないし」

加賀「……」

提督(加賀は、我関せずと言った感じだ。米を研いでいる)

提督(全員が全員、仲がいいと言うわけでも、なさそうだ)

提督(すれ違っているとか、いがみ合っているとかではない)

提督(単純に、互いに深く干渉しあおうとしていない。境界線を引いて、そこだけで暮らしている感じだ)



──廊下、部屋前


提督(榛名を宥めながら、残りの一人の部屋に向かう)

提督(……ここか)

提督「いるか?」

提督(ノックをするが……反応はない)

提督(新しい提督が着た、という話自体は榛名から聞いているだろう。人に会いたくないのか、男に会いたくないのか)

提督(勿論、単純に寝ていると言う可能性もあるが……)

提督「……おい、起きてるか? 起きているなら返事をしてくれ」

提督(もう一度ノック……)

──ぃ……

提督(と、何か聞こえたな。起きてはいるみたいだ)

提督「……開けるぞ」

提督(ドアノブを捻るが、開かない。鍵がかかっているようだ)

提督(どうしたものか。無理矢理こじ開けるのはさすがにしたくない)

提督(かといって、ここで待ちぼうけしているのも、寒くて辛い)

提督(せめて中にいる艦娘と話が出来ればいいのだが)


提督「……」

提督(微かに声が聞こえる)

提督(誰かと話している……わけはない。部屋には一人しかいないはずだ)

提督(寝言にしては、ずっと聞こえる)

提督(それに、なにやら同じことを呟いているような……)

提督(良く聞こえないな。ドアに耳を当ててみるか)


──ち……ル……う……ち……

提督(なんだ? 何を言っているんだ?)

──オ……ル……もう……ち……

提督(震えた声だ……)

──オ……クル……もう……でち……

提督「……聞こえ──」


伊58「オリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでちオリョクルはもういやでち」


眠いのでとりつけて寝ます。こんな感じの内容です。
今回は全く出ませんでしたけど好感度もあります。ただし今の所全員0ですけど。
最終的にはイチャイチャするはず多分。


提督「……!?」

提督(あまりの事に驚き、ドアに足をぶつけてしまった)

提督(決して強くではない……ほんの少し、それこそノックをする程度の、軽さだ)

提督(にも拘らず、)

伊58「ひっ!」

提督(ただそれだけで、酷く怯えた声が返ってくる)

伊58「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だもう海は嫌です嫌なんです」

提督「お、落ち着け」

伊58「暗いのは怖いよぉ……寒いのは嫌だよぉ……」

提督「とにかく落ち着くんだ」

伊58「痛いの……痛いの……とんでかないよぉ……」

提督「痛い? どこか痛むのか? 怪我をしているのか?」

伊58「とんでかないよぉ……とんでかない! 痛いのとんでかないの! ああああああ!」

提督「──……!」

提督(まずい、これはまずい)


提督(部屋の中で、突然大きな音が聞こえた。もしや、暴れまわっているのだろうか)

提督(詳しい理由は分からないが、引きこもっている彼女を下手に刺激してしまったのは確かだ)

提督(まさか自傷行為はしないと思いたいが、何しろ彼女の精神状態を俺は知らない)

提督(どうする、ドアを蹴破ってでも止めに入るべきか。それとも、彼女のことを知っているであろう他の艦娘を呼ぶか)

提督(悩んでる暇はない、すぐに決断せねば)


蹴破るor誰かを呼ぶ
誰かを呼ぶ場合は艦娘指名(複数可)
↓1


自分からトラウマを刺激するのか(困惑)



提督(いや、待っている余裕はない。自傷しようと思えば数秒で出来る)

提督(他の艦娘を探しにいっている間に部屋の中の子がそんなことをしたら、俺はまた部下を失うことになる!)


提督「っ、すまん、許せ!」


提督(一二歩下がり、思い切り右足でもって、ドアを蹴る──)

提督「──、う、お!」

提督(脆い……!? 思いの外あっさりと蹴破れた。床だけでなく、ドアもぼろいのか!)

提督(いや、かえって今回はそれが幸いした。もし開かなかったら)

提督「違う、そんな事はどうでも良い! どこだ!」

提督(見回すほどのない狭い部屋だ。すぐに見つかった)

伊58「ひっ!?」

提督(布団に包まっているので、顔とはみ出た足先くらいしか見えないが)

伊58「嫌だ嫌だやめて! もう海には行きたくないでち! ごめんなさいごめんなさいごめんなさい嫌だ助けて!」


提督「落ち着け、俺はそういうつもりじゃない!」

伊58「嫌だ嫌だ!」

提督「落ち着け!」

伊58「いやぁ、嫌だよぉ!」ジタバタ

提督「いったん、落ち着くんだ!」ガシッ

提督(暴れる彼女の肩を掴み、宥めようとするが、激しく抵抗される)

伊58「やめてぇ! そうやってまた海につれてくんだぁ! 騙されないよぉ! 嫌だ嫌だ嫌だあああああ!」ジタバタ

提督「くっ、強っ……!」


↓1のコンマ50以上で宥めるのに成功


提督(少女といえどやはり艦娘か、力が強い!)グッグッ

伊58「放してぇ!」ジタバタ

提督(しかもこういうパニック状態のときは、普段より力が出……)

提督「……、し、しまった!」

伊58「助けてぇぇぇぇ!」ダッ

提督「ま、待ってくれ!」

提督(くそ、逃げられた!)

提督(接触を急ぎすぎたか……いや、今はそんな事を考えている場合じゃない。追わなくては)

提督「待ってくれ! 話を聞いてくれ!」

伊58「嫌だぁぁぁぁ!」


提督「待っ──うおっ!?」ズボッ

提督(腐った床を踏み抜いてしまった!)

提督「ぐへっ」グシャァ

提督「顔面打っ、痛ってぇ!」

伊58「嫌だぁぁぁぁ!」

提督「待ってく、くそ、抜けない!?」

提督「痛ててて、服が引っかかって……」

提督「……抜けた、くっ」

提督「見失った……」

提督「なんてこった……」

提督「はぁ、最悪だ……」

提督「……」ツー

提督「……しかも鼻血まで出てきたとはな」

提督「何をやっているんだ俺は」


通りかかった艦娘(加賀or鈴谷or榛名)
↓1


鈴谷「んぉ、何してるの。きっもー☆」

提督「開口一番でメンタルを削りに来るのはやめろ」

鈴谷「んで、何。筍の真似?」

提督「するかそんなもん」

鈴谷「はっ」

提督「鼻で笑うな鼻で」

鈴谷「……」

提督「……」

鈴谷「逃げられたっぽいねぃ」

提督「見てたのか?」

鈴谷「いんや。逃げてくあの子の声が聞こえたから」

提督「あぁ、なるほど……」

鈴谷「だぁから言ったのに。ここはこういう場所なんだって」

提督「……そうだな」


提督「あの子は」

鈴谷「ゴーヤ?」

提督「そう。あの子は、なんであんな感じなんだ?」

提督「そりゃあ、よほど好戦的な性格でない限り、戦争なんてしたくないだろう」

提督「でも、だからといって、あれは異常だ」

鈴谷「……」

提督「何か過去にあったのか?」

鈴谷「……さぁねぃ」

提督「……教えてくれ」

鈴谷「そういうのは、本人に直接聞くべきだと思うよ」

提督「それが出来なかったらこのざまなんだが」

鈴谷「知らないよ」

提督「教えてはくれないか?」

鈴谷「……」


提督「頼む。この通」

鈴谷「知ってどうするのさ」

提督「……、どうする、とは」

鈴谷「あの子のそれを知って、提督がどうするのって話」

提督「……」

提督(どうする、か)

提督(深く考えていたわけではない。ただ、目の前でああも悲痛な叫びを見せられて何もしないでいられるほど、愚鈍ではないつもりだ)

提督(だが、具体的にどうするといわれると、なんと答えていいのか分からない)

提督(何しろ俺は、あの子の事をまるで知らない)

鈴谷「……」

提督「……、すまない。答えられそうにない」

鈴谷「まぁ、そうだよね」


鈴谷「じゃあさ、提督はどうしたい?」

提督「?」

鈴谷「ここでどうしたい? ここで、こんな何もない廃墟みたいな、鎮守府なんて呼べない様な掃き溜めで」

鈴谷「提督はどうしたいのさ?」

提督「……」

提督「……俺は」

提督「↓1」


提督(俺を見下ろす鈴谷の目線が、また少し冷たくなった)

提督(……冷たいけれど、何故だか少し、脆くも見える。そんな目だ)

提督(取り繕うと思えば、いくらでもそうできる)

提督(誤魔化そうと思えば、いくらでもそうできた)

提督(そのはずなのに、何故かそうすることはせず、正直に答えていた)

提督「やり直したい。全てを」

鈴谷「……全て?」

提督「……ああ」

鈴谷「やり直すって、何を?」

提督「また、やり直すんだよ。俺は提督として、皆は艦娘として」

鈴谷「……ふーん」

提督「こんな風に、とりあえず生きはいるって感じじゃ駄目だ」

鈴谷「……」


提督「俺は、前の鎮守府で、過ちを犯した。後悔なんて言葉じゃ語りきれないほどの失敗をして、ここに着た」

鈴谷「まぁ、こんな底辺に飛ばされるってことは、そうなんだろうね」

提督「でも、俺はまだ提督だ。場所は変われど、職務は変わらない」

提督「だから、またここから、やり直したい」

鈴谷「……そういうタイプか」

提督「……?」

鈴谷「別に。なんでもないよ」

提督「青臭いとか、恥ずかしいとか、そういうこと言っているのは分かってる」

提督「だが」

鈴谷「もういいよ」

提督「……」

鈴谷「……」

提督「……」

鈴谷「まぁ」

鈴谷「せいぜい頑張ってねぃ」


提督「……あぁ、そのつもりだ」

提督「だけど、俺一人じゃどうしようもない」

提督「だから力を貸してくれ」

鈴谷「嫌だって言ったら?」

提督「無理強いはしないさ」

鈴谷「……、……」

提督「急がば回れ。さっき身をもって体感したからな」

提督「時間はかかるだろうが、信頼してもらえる様に頑張るよ」

鈴谷「あ、そ」

提督「……」

鈴谷「……」

提督「……」

鈴谷「……」

提督「……あの」

鈴谷「なに?」

提督「ちょっと引っ張り上げて欲しいんだけど」

鈴谷「だっさ」

眠いのでここまで

鈴谷の好感度上昇
↓1のコンマ一桁(0は0のまま)

とある形で登場する艦娘その1
↓2(既に出ている艦娘・登場させる予定の駆逐艦一隻以外でお願いします)


鈴谷の好感度 0→4



──夜


提督「……Zzz」

提督「……Zzz」

『大和型戦艦、一番艦、大和。推して参ります!』

提督(──あぁ、またこの夢だ)

『戦艦大和、連合艦隊、出撃です!』

提督(──もう、やめてくれ)

『大和が一番ですか。少し晴れがましいですね。次の海戦もお任せくださいね』

提督(──もう、許してくれ)

『さあ、やるわ。砲雷撃戦、用意!』

提督(──やめろ、いくな)

『そ、それで直撃のつもりなの!?』

提督(──やめろ、進むな)

『傾斜復元しないと……注水を急いで!』

提督(──ああ、また)

『くっ……、こんな所で大和は沈みませんっ……!』

提督(──ここで、右から砲弾がくるんだ。右なんだ)

『──……!』

提督(ああ、また、また……! また!)

『また……』

提督(また! また目の前で!)


『また……逝くのね』


『総員……、最上……甲板……』


『武蔵、信濃……後は頼みます』


『提督……』


提督(やめろ……やめろ……!)


『提督……』


大和『ごめんなさい……』


提督「やめろおおおおおおおおおお!」ガバッ


提督「──! ……はっ、はぁっ、」ゼェゼェ

提督「はぁっ、はぁっ……大和……」

提督「すまない……すまない……!」

提督「……はぁ。六時、か」

提督「寝直す気には、ならない、な」

提督「……起きよう」


──同時刻、別鎮守府


司令官「少し休んだ方が良いんじゃないか?」

「ありがとうございます。でも、大丈夫です」

司令官「いや、しかし。ここに来てからずっと出ずっぱりじゃないか」

「雪──……私は、沈みません」

司令官「駄目だ、大破どころじゃない、本当にボロボロなんだぞ」

「不沈艦の名は伊達じゃないのです。これくらいでは、私は、沈みません」

司令官「しかし……」

「沈みません。私は沈みません」

「私は絶対に沈まないんです」

「沈むわけにはいきません」

「沈みっこないんです」

「私は……私だけは」


私だけは、どうせ沈まないんだ

沈みたくたって、どうせ死なないんだ

死ねないんだ

大体こんな感じです。今度こそ寝ます。


──6:00 自室


提督「寒いな……」

提督(十二月の早朝だからな)

提督(……喉が渇いた)

提督(廊下に水道があったな。それかいっそ食堂に行くか)

提督(この時間では誰もいないかもしれないが、自分で作ればいいだけの話だ)

提督(……、自分で、か)

提督(それに、昨日はあれから伊58にも会えなかった)

提督(今会っても、また昨日の繰り返しになりそうではあるが……だからと言って、このままずっと避け続けていても埒が明かない)

提督(さて、どうするか)

↓1

1.食堂に行く

2.廊下の水道へ行く

3.伊58の部屋に行く

4.部屋の片付けをする


執拗に伊58に迫るスタイル


提督「……やはり、気になる」

提督(このままと言うわけにはいかないだろう)

提督(戦線復帰をするしないは別にして、現状では日常生活さえまともに送れていないようだし)

提督(彼女の苦痛を和らげることが何か一つでも出来れば、それをするべきだ)

提督(それが俺の仕事だ)

提督(それが俺の……)


伊58の部屋の前


提督(……そういうわけで、伊58の部屋の前だが)

提督(そっと耳をそばだててみると、微かに音が聞こえる。部屋にいるようだ)

提督(昨日は彼女と初対面だったこともあって、良く分からないままに刺激してしまったようだ)

提督(最初にノックをして声をかけた時点では、極端にパニックを起こしてはいなかった……と、思う)

提督(やはりドアを蹴りつけてしまったのはまずかったな)

提督(……さて、どうするか)


↓1


提督(まずはノックだ)コンコン

伊58「……っ」

提督「伊58、起きているか?」

伊58「……」

提督(反応はない)

提督(……何を言おうか)

↓1+コンマ50以上で反応あり


提督「……」

伊58「……」

提督「……」

伊58「……」

提督(反応はないか)

提督(そういえば、昨日の伊58がずっと繰り返していたな)

提督「……オリョクル」ボソッ

伊58「っ」

提督(どういう意味かはわからないが、何か反応がないだろうか)

提督「……」

伊58「……」

提督「……」

伊58「……」

提督(駄目か……)

提督(仕方ない、出直すとしよう)


伊58「……」

伊58「……」

伊58「……うぅ」ポロポロ

伊58(オリョクルって言ったでち……オリョクルって言ったよぉ)ポロポロ

伊58「いやだぁ……いやだよぉ……」


皆なにかゴーヤに恨みでもあるんですかね……?



提督「……さて」

提督(昨日ああやって鈴谷に言った以上、動かないとな)

提督(とはいえ、まだこの鎮守府について把握しきれていない)

提督(どこもかしこも廃墟みたいで、何から手をつければいいか分からない)

提督(これは出撃や工廠よりも、この鎮守府自体を何とかするのが先なのだろうか)

提督(しかしそれには人手がいる。資金がいる。資材がいる)

提督(そしてそれらを手に入れるには、功績を収めて本営に認めてもらわなければならない)

提督(するとどうしても戦力が必要になる……堂々巡りだな)

提督(裏を返せば、形さえ作れれば動き出せるのだが、今はその張りぼてすら作れていないわけなんだよな)

提督(いかに前の鎮守府が恵まれていたかが、良く分かるな……)

そういや連取は有りでしょうか無しでしょうか

>>101
問題ないと思います



提督(……、もし、あんな事がなければ)

『おはようございます。マルロクマルマル、提督、朝は本当にお早いですね』

『朝食の時間♪ 大和ホテル自慢のコンソメ、お飲みになります?』

提督(……)

提督(……また、飲みたいな)


提督「……誰もいないか」

提督(やはりというか、食堂には誰もいなかった)

提督(外に面した大窓三枚のうち一枚が割れている。そこから冷気が容赦なく入ってくるので寒くて仕方がない)

提督(その分、廊下と違って陽の光が入るので、数時間すれば幾分か明るくなるだろう)

提督(電気はつかない。電気が通っていないのか、それとも蛍光灯が寿命なのか、或いは両方か。いずれにしても、薄暗さを解消出来そうにはない)

提督「っと、埃か……」

提督(適当に近くにあった椅子に座ると、テーブルの埃が舞った。掃除もあまりされていないようだ)

提督「……」

提督(何もかもが、昔と違う)


提督(朝食……の材料は、あるんだろうか)

提督(冷蔵庫は、あるみたいだな。つまり電気は通っている)ガチャッ

提督(ほとんど空っぽだ。一応今日の分を作るだけはあるか)

提督(じゃあ適当にやるか。米炊いて……)トントン

提督(こんなことなら、大和に料理を教わっておくんだったな)ジュワー

提督「昆布とか……ないのか」

提督(しょうがない、まぁ俺が食うんだからいいか)



提督「いただきます」

提督「……」モグモグ

提督「美味くないな……」モグモグ

提督「……」モグモグ

提督「……ごちそうさま」

提督「……茶でも飲むか」


提督(現状、伊58を除いて三人しか出撃できる艦娘がいない)

提督(これでは遠征は論外として、出撃だって厳しい)

提督(鎮守府近海への出撃だけで満足な資材を揃えるのに何週間……いや、何ヶ月かかる?)

提督(演習は出来るのか? ここから一番誓い鎮守府はどこだ? どれくらいかかる?)

提督(そもそもうちに今資材はどれくらいある? 工廠をする余裕はあるのか? 工廠設備は? 工廠する人材は?)

提督(装備は? 武器は揃っているのか?)

提督(何から……やればいい?)

提督(分からない事だらけだ……俺はこんなに駄目な奴だったのか)

提督(自分ひとりじゃ、何も出来やしないのか)

提督(……)


『マルキュウマルマルです。提督、今日の作戦行動はどうされますか?』

『提督、他の艦隊の運用はどうされます?』


提督(……ああ)

提督(そういえば、そうだ)

提督(まず最初にやるべきことがあった)

提督(出撃よりも工廠よりも、何より最初に、するべき事があったな)

提督「秘書艦、決めないとな」


そんなわけで秘書艦決めます。
鈴谷・榛名・加賀の中からどうぞ。↓1

それと、また例の如くとある形(というかもうお分かりでしょうけど)で登場させる艦娘を指定してください
↓2~5

秘書艦:榛名
例のあれ:朝雲・那珂・武蔵
になりました。

今日の安価・コンマは終了です。

あ、本当だ弥生まででした、すいません

あぁーデイリー&ウィークリー任務をオリョクルで終わらせたあとの58のスクミズを煮込んで抽出した成分を絞りカスの水着を着ながら煽りたいんじゃー

>>149

成分いただきますね

(鈴谷の靴下は)もらっていきますね

>>147 遅レスながら 了解 乙

ならば俺は榛名のサラシを貰っていこう

憲兵「そこの4人、ちょっと同行願おうかな?」

憲兵「今日の逮捕者は4名。>>149>>150>>151>>152っと。」φ(._.)カキカキ

憲兵さんお疲れ様

それより、加賀さんの弓懸を通して吸う空気は美味しいな

眠ってる58にオリョクルと囁きながら頬にちんこ擦り付けたいとかいう奴がいないだけマシ

憲兵「>>155逮捕。>>157は要監視っと。変態ばっかで疲れるな。」φ(´._.`)カキカキ

オリョクル嫌だとか抜かすゴーヤには俺の精神注入棒でお仕置きをしなくちゃな

ゴーヤの子宮で精子をクルージングさせたい

なんだこの流れは、たまげたなあ……



「失礼します。お呼びでしょうか」

「うむ。まぁ入りたまえ」

「はっ、失礼します」

「早速だが、君、鎮守府に着任して今どれくらいになるかね」

「はい、先日で一年になりました」

「おお、そうか。それは丁度良かった」

「と、いいますと?」

「うむ。実は以前から、我が日本軍で新たな主力戦艦の建造計画を進めていてな。それが完成したのだ」

「そうでありますか」

「うむ。大艦巨砲主義の極致を行く、大和型戦艦だ。これまでの艦を大きく凌ぐ代物だ」

「それは凄まじい」

「それで、この大和型戦艦二隻……大和、ならびに武蔵を、君に任せようと思う」

「私にでありますか?」

「うむ。君なら任せてもいいだろう」

「し、しかし。よろしいのでありますか? もっと相応しい人材がいるのでは……」

「なにも私の独断と言うわけではない、本部会議で正式に決めたことだ」

「そうでありますか」

「君には期待しているよ」

「恐縮です」

「引き受けてもらえるね?」

「……、はっ、謹んで頂戴いたします! 必ずや期待に応えて見せます!」


「聞いたぞ坊ちゃん、え? あの大和型戦艦を授かったそうじゃねーか。あ、酒頼んでいい?」

「耳が早いな……坊ちゃんはやめろ。好きにしろ」

「けけ、悔しかったらその茶に酒を混ぜられるようになるんだな。何ていったってあの大和型だぞ?」

「体質なんだからしょうがないだろう……俺だって驚いてるよ」

「しかも二隻だって、ええ?」

「まぁ、そうだな」

「羨ましいぜ、俺が本部に呼ばれるときは大抵お小言だ。お、きたきた」

「それはお前が馬鹿やってるからだろう」

「お前は昔から要領が良かったからなぁ」

「別に上司に媚びたりはしていない」

「分かってるってぇの。ほれ、乾杯だ」

「ん、おう」

「お前は大和型戦艦の着任に、俺は始末書百枚目の大台を評して、乾杯!」

「おいおい、先週は九十だって言ってただろ。もう十枚分もやらかしたのか」

「やれ作戦指揮が雑だのやれ言葉遣いがなってないだの、あげくには字が汚ねぇってよ。まったく面倒なお上様だぜ」

「ほとんど自業自得じゃないか、まったく」


「しっかしまぁ、お前も出世したなぁおい。エリート様よ。ひっく」

「飲みすぎだぞ……。別に俺だって、出世したくてしてるわけじゃない。たまたまだ」

「嫌味かこのやろー」

「そんなんじゃないよ」

「分かってるってぇの。お前はそういうの頓着しないからな」

「士官学校時代は俺の方が成績優秀だったってぇのに」

「それは柔道と剣道での話だろ。勉強は俺のほうが出来たぞ」

「主席様には敵いませんよ、へぇへぇ。あ、酒追加で」

「本当に飲みすぎじゃないのか。あと、主席ではなかったぞ」

「あれ、そうだっけか」

「ああ、主席はほら、あの、眼鏡をかけてた……」

「あー、いたかもなぁそんな奴。走り込みで毎回最初に脱落してた奴だっけ?」

「酷い覚え方だな……」

「陰気で無口だったからなぁ。顔も覚えてねぇよ。あいつどこの鎮守府に配属になったんだっけ」

「北鎮守府だ」

「げっ、マジかよ。あいつもエリートコースか」

「そりゃあそうだろう」

「でも一番星の鎮守府はお前か。今頃そいつは歯軋りしてるだろうな。ははは」


『提督、演習終了しました』

「ああ、お疲れ。報告を」

『はい。勝利です。あちらの艦隊は6隻中5隻が脱落判定、残り1隻も中破判定。こちらは大破判定1隻、中破判定1隻、他は損傷ありません』

「そうか、良く頑張ったな。ちなみに、その2人は?」

『……、わ、私が大破判定です。すみません。左舷から集中砲火を貰ってしまいまして』

「構わないよ、演習なんだから」

『中破判定は武蔵です』

『ああ、なかなかいい攻撃だった』

『MVPは那珂ちゃんだよね!』

『何言ってるのよ、ほら、私じゃない? まだまだいけるわ!』

『雪風も頑張りました!』

『わ、私もです』

『大和、駆逐艦相手に張り合ってどうする』

「はは、まぁ元気なのはいいことだ。ただ、そうだな。今回は武蔵の言うとおり、折角だからMVPは弥生にしよう」

『や、弥生ですか。気を使わなくていいです』

『ずるーい』

「そう言うな。実際潜水艦を退けたじゃないか」

『私だって戦艦相手に頑張りました……』

『子供かお前は』

『……、うーん、弥生が活躍……。え、と。えーっと……うれしい、かな』

『たまにはMVPを譲るのもアイドルの務めかー』

「気をつけて帰ってこい」

『はい。大和、艦隊、帰投します!』


『演習したばっかりだから弾薬が……!』

『落ち着け、全くないわけではないだろう!』

『い……痛っ! た、大破……』

『敵は恐らく下だ!』

『潜水艦だとしたら私たちが動かないといけないってわけね!』

『い、いいけど』

『見えません! 敵艦隊確認できません』

『雪風、あまり離れるな!』

『なんですか!? 雨でよく聞こえません!』

『とにかく各自戦闘準備です! 主砲、副砲用意です!』

『十二時方向に前進、右に旋回でいいか大和!?』

『弥生、どこよ!』

『きゃあっ!? 顔は止めてー!』

『でも、敵の姿なんて見え──』



『──な、い……?』


『え──』


『なんで──?』



「応答しろ、どうした、大和!?」

『──……ザザ……て……け……』

「ノイズが酷くて聞こえない、どうしたんだ!?」

『ザザ……ザザ……』

「くそ、大和! 総員、誰でもいい、応答!」

『──……ザザ……』

「誰か、応答してくれ!」

『……ザ……れ……』

「聞こえるか! 応答!」

『……す……ザ……風、聞こえ……ザザ……』

「雪風! 何があった!」

『……りませ……襲げ……ザ……』

「皆は!?」

『……りま……雨……見え……』

「周りに誰かいないのか!?」

『……ザ……えま……』

「くっ……。とにかく退避しろ! 逃げるんだ!」

『……ザ……ザザ……』

「応答してくれ! 雪風! 大和! 武蔵!」

「聞こえないのか!? 朝風! 那珂! 弥生!」

「誰か……誰か応答してくれ!」


『総員退避です! 総員、退避ですうう!』

『誰かぁぁ! 大和さぁぁん! 武蔵さん! 聞こえませんかぁぁ!』

『退避ですぅぅ! 那珂さ……』

『……あ、ん?』

『あ、ああ』

『う、嘘』

『嘘』

『嘘……ですよね……』

『そんな……』

憲兵「>>159>>160も逮捕。まだ春じゃないのに変態提督が多いなぁ、もう。」φ( ̄Д ̄;)カキカキ


 横殴りのような嵐の中で、ふらふらと一隻の小さな影が見えた。

 海上での動きそのままに、港に上がったあとも雨に押しつぶされそうな弱々しい足取りで二三歩歩いたかと思うと、その場に崩れ落ちた。

 十メートルか二十メートルか、嵐のせいでその距離でさえもあやふやな中、ようやく彼女の姿をはっきりと確認する。

「雪風! 無事か!」

 と同時に、その異様な姿に、一瞬だけ駆け寄る俺の脚が鈍くなりそうになって、すぐにそんな考えを捨てさった。

 うわ言のように口許を動かす雪風。短い髪は乱れ、頬に張り付いたりしている。

『──しれぇ』

 普段は白く清楚な服も、ボロボロに解れ、或いは破れ、その服の下から痛々しい傷跡が零れて見えた。

 しかし、雨や海水で染みるであろう傷にも一切反応することはなく、ただ俯いてうわ言を繰り返す雪風。目の焦点は全くと言っていいほどあっておらず、はっと自分の心臓が一瞬跳ねるほどの恐怖を感じた。

 そんな雪風を宥めるべく抱きかかえようとして──

「その……それ……」

『雪風……生還……しました……』

 ──ようやく、それに、気がついた。


「ああ……」

『雪風……だけ』

 ひしと両腕に抱えられたそれは、

「雪風……」

『生還……しました……』

 彼女の服を赤く染めているそれは、

『生……還……。しま……し、た……』

「雪風。しっかりしろ。雪風!」

 恐らくは大和のであろう、片腕で──

『生……還……、……』

「雪風! 大丈夫か! しっかりしろ!」

「雪風! 返事をしろ! 誰か!」

 意識を失いながらも、決して彼女はそれ──大和を、離そうとはしなかった。

 三日三晩、離そうとは、しなかった。

シリアスな流れをぶった切っちまったごめん
十中八九北鎮やろな


榛名「榛名をお呼びでしょうか?」

提督「ああ」

 執務室─といっても、食堂と変わらず、ボロボロだ─に榛名を招きいれる。

 立たせたままと言うのも悪いので、座らせてあげようとも思ったが、何分座る椅子がない。

 いや、厳密に言えば、恐らく執務机とセットであろう椅子が一脚だけあるのだが、背もたれと足が折れており、椅子としての機能を有していない。

 よって、榛名も俺も、立ちながら話すこととなった。

提督「単刀直入に言う。君を秘書艦に任命したい」

 少しだけぽかんと口を開けて、すぐにまたきゅっと結ぶ。

榛名「榛名が……ですか?」

提督「ああ」

 突然のことに、どう反応すべきか考えているようだ。

 まぁ、それもそうだろう。

 この鎮守府の様子を見るに、ここ最近はまともに艦隊としては機能していなかっただろう。それこそ、ここに転がった椅子のように。

 そこに突然俺が現れ、あまつさえ秘書艦に任命されたら、戸惑いを覚えても無理はない。


榛名「……提督は」

 俺の顔を一瞬だけ見て、床に視線を落とし、それから十秒ほど間をおいて彼女は再び口を開いた。

榛名「提督は、艦隊を再び組むおつもりなのですか?」

提督「ああ」

 入れ替わりが激しかったこの鎮守府で、彼女たちがどういう扱いを受けてきたかは分からない。しかし、多少なりとも予想は出来る。

 伊58を始めとして、鈴谷も加賀も、決して俺のことを歓迎はしていなかった。

 それはそのまま、彼女たちがこれまでの提督から受けてきたであろう態度と言っても差し支えない。

 冷たく乱雑に扱われただろう。疎まれて蔑まれただろう。或いは、艦隊として出撃さえさせてもらえなかったのかもしれない。

 そういった不遇の積み重ねがあったからこそ、榛名がそういう質問をしてきたのだろう。

 本当に自分たちを、まともに扱うつもりがあるのかと。

 そういう心の種だ。

提督「これまでの提督については、俺は知らない。でも、少なくとも俺は、君たちとまた海へ出るつもりだ」

榛名「……、……」


提督「突然ですまない。やはり即決はできないだろう。この件はゆっくり考えてもらって構わ……」

榛名「いえ。榛名にやらせてください」

 ない、と、言い切る前に、そう言われてしまった。

提督「そ、そうか。それは助かる」

榛名「はい。榛名、全力を尽くします」

 熱を吐き出すように、強く答える榛名。

 即決してくれたのは嬉しいが、なんだか戸惑ってしまう。

提督「別に無理はしなくていいんだぞ? 秘書艦を断ったからと言って、不当な扱いはしない。約束する」

 もしかしたら、過去に似たような事……つまり、パワハラ、があったのだろうか。そのせいで、命令は全て受け入れなくてはいけないと思っているとか。

 決してそういうつもりではないが、その可能性もないわけではない。

榛名「いえ、榛名は大丈夫です」

提督「そ、そうか」

 しかし、再び力強く答えた榛名はずいと一歩、前に出た。実は先ほどから一言ごとに前に出てきており、気付けば最初はドア付近にいたはずの彼女が今は部屋の中央ほどまで来ている。

 その度に半歩後ろに下がっていたのだが、もう後ろには壁があるので、これ以上は下がれない。

 距離をとっていることを悟られないように半身でもって窓の外に視線を投げる。

 きらきらと朝露に濡れた雑草が、朝日で光って見えた。


榛名「榛名は何をすればいいのでしょうか」

提督「そ、そうだな」

 ずい。

榛名「出撃準備でしょうか。工廠整備でしょうか。それともこの部屋の掃除でしょうか」

提督「あ、ああ」

 ずい。

榛名「提督は朝食は召し上がりましたか? 何か榛名が作りましょうか。材料はあまり多くはありませんが、頑張ります」

提督「ああ、うん」

 ずい。

榛名「何故外を見ているのですか? 庭の手入れなら榛名にお任せください」

提督「あ、ああ」

 ずい。

榛名「何か榛名に仕事をください」

提督「……、うん」

 ずい。

 ……完全に、詰め寄られてしまった。

 二人して壁際に、半身だった俺の上半身はそっくり窓の外へと向けることとなってしまう。

 その横で榛名が乏しい表情ながらも、ぐっと視線に力をこめている。

 はて、どうしたものか……。


榛名「……」

提督「……」

 じっと見上げられ、何とか言葉を探そうと腕を組む。

榛名「……」ソワソワ

提督「……」

 なんだか、駄菓子をねだる子供の様だ──といったら、彼女に怒られるだろうか。

 彼女は駄菓子を買うとしても、一番安いのを選びそうだな、とどうでもいい事を考えてしまう。

 互いに触れるか触れないかの微妙な距離で、触らなくても体温が伝わってきてしまうのではないか、そんな錯覚さえ覚える。

 そうして間近の彼女をどうしようかと思ったところで、ようやく解決策を見つけた。

提督「そうだな、榛名よ。最初の仕事が今出来た」

榛名「はい!」フンス

 待ってました、と言わんばかりに姿勢を正す。

提督「とりあえずだな」

榛名「はい!」

提督「……少し、離れようか」

榛名「……」

提督「……」

榛名「……」

提督「……」

 十秒きっかり時間を置いて、

榛名「す、すみません!」

 顔を赤くしながら慌てて榛名が頭を下げた。

 当然目の前には俺がいたわけで、彼女の頭が直撃する。

提督「ぐふっ」

榛名「ああっ、すみません! すみません!」

 秘書艦榛名、最初の仕事は、残念ながら失敗といえよう……。


 ぺこぺこと謝り続ける榛名を宥める。

提督「そんなに気にすることはない。それより君は大丈夫か」

榛名「はい、榛名は大丈夫です。すみません」

 ようやく落ち着いた彼女ではあるが、それでも謝るのは性格なのだろう。

 謙虚なのはいいが、度が過ぎるのも考え物である。

提督「ともかく、そうだな。何をしようか」

 早起きをした事もあって、時刻は七時になろうかと言うところだ。


提督「そうだな……↓1をしようか」


1.出撃(全員集合)

2.演習(全員集合)

3.工廠(榛名のみ)

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


K(鋼材)B(ボーキ)S(資材)トリオっていうネタがふと出てきたんですが誰かかいてください




榛名「工廠ですか」

提督「ああ。現状ではあまりに戦力が足りないからな」

 伊58を除くと戦艦榛名、空母加賀、重巡鈴谷という3人が全ての戦力だ。

 しかも榛名に聞いたところ、彼女達の錬度は低い……というより、ほとんど実戦経験がないそうだ。戦艦、空母、重巡とだけ聞けば鎮守府近海を警邏するだけであれば彼女達にも出来そうだが、肝心の錬度が低ければ話が変わってくる。

 錬度の低い彼女達と、十分に錬度を上げた駆逐艦であれば、後者が勝ってもおかしくはないのだ。

 しかも潜水艦に対する対策がまるでない。これではもし敵潜水艦に急襲されたらひとたまりもないだろう。

 なので、最低でも駆逐艦一隻を作るだけの資材があればいいのだが……。

榛名「ここが工廠室です」

提督「ううん……」

 思ったとおり、ここも他の場所と変わらず荒れ果てている。

 なぎ倒されたクレーン、錆びたドラム缶、腐食した木箱……。

提督「とても艦娘を工廠できる状態ではないな」


提督「しかも肝心の作り手がいない」

 装備や艤装の製造は、誰もが出来るわけではない。膨大な知識と稀少な技術を駆使できる、妖精と呼ばれる種族でなければ作れないのだ。

 前の鎮守府に務めていたときは、日がな一日工廠室で複数の妖精たちが盛り上がっていたのを思い出す。

 彼らの生態については、それこそ深海棲艦と一緒で、殆んどが解っていない。

 もしかしたら、彼らはきっと明るい所が好きなのだろうか。

 そう思えるほどに、この工廠室はうら寂しい。

提督「……榛名は、工廠は?」

榛名「すみません、榛名には……」

 念の為、というより、駄目元で聞いてみたものの。当たり前の回答をされる。

榛名「……一応、全く彼らがいないと言うわけではないんです」

提督「そうなのか?」

 どうしたものかと細く溜息を吐きかけたところで、そう榛名が言った。

榛名「はい。数日前に見かけました」

提督「ふむ……」


 妖精は、軍が正式に賃金を出して雇用しているわけではない。

 何しろ彼らの生態は謎が多く、金銭と言う文化があるのかどうかも不明だ。

 唯一ついえることは、彼らは物を作ることを非常に好んでおり、それが故に我々人間に対して工廠と言う形で関わりを持っているのだろう。

 人間は彼らに対して物を作る為の環境を与え、彼ら妖精はそれを受けてものを作る。

 それを我々人間が使用する。そういう仕組みが、いつの間にか出来ていた。

 その為、気がついたら誰かが仲間を連れてくることもあれば、逆にふっと違う鎮守府へ紛れ込んでいることもある。

 彼らにとっては、物を作ることが出来、そしてそれが活用されればなお満足するということだ。

 そう考えると、今のこの鎮守府に妖精がいないのも納得だ。

 何しろ今のここは、ものを作る環境ではない。

 榛名が妖精を見かけたのも、たまたまふらっとここを通っただけかもしれない。

提督「ちなみに、それぞれの資材はどれくらいあるんだ?」

榛名「ええと……」

 あまり榛名もここには来ないのだろう。きょろきょろと辺りを見回しながら、資材を探し始めた。


榛名「……実は、ここにはあまり来たことがなくて」

提督「みたいだな」

 艦娘が自ら工廠室に向かうことは、どちらかといえば珍しい部類と個人的には思う。

 新しい艦娘が進水した場合は、報告を受けて提督が足を運ぶだろうし、それか新しい艦娘自らに執務室に来てもらえばいい。

 装備品であれば、秘書艦が受け取りにいく事もあるだろうが、あまりそういったことは、少なくとも前の鎮守府ではなかった。専ら自ら工廠室へ向かったものだ。

榛名「資材については、多分榛名よりも加賀さんの方が詳しいかと」

提督「加賀が?」

 と、そんな榛名の口から加賀の名前が出てきて、オウム返しのように首を傾げてしまった。

榛名「はい。加賀さんは、良くこちらに足を運んでいるみたいなので」

提督「そうなのか」

 後で聞いてみるとしよう。

榛名「ええと……。確かこのあたりに……」

榛名「あ、ありました」

提督「ふむ」

全部0にしようかと思いましたけど折角なので

燃料↓1のコンマ
弾薬↓2のコンマ
鋼材↓3のコンマ
ボーキ↓4のコンマ

妖精さん↓5のコンマ50以上で発見


提督「……」

榛名「ええと……」

提督「どれもほぼ底だな……」

 というより、弾薬にいたっては本当に一つもない。

 これでは出撃をするにしても、本当に一度が限度だ。

 弾薬がなければ、攻撃する手段がほぼなくなってしまうのだから。

提督「これでは駆逐艦も建造できそうにないな」

 尤も、仮に資材があっても、妖精を見つけなければならないのだが。

榛名「すみません……」

提督「なんで榛名が謝る必要があるんだ」

榛名「ですが……」

提督「気にしなくて良い。これから集めればいいじゃないか」

 はい、と返事をしたものの、視線を下に落としたままの榛名。

提督「……、折角だから、ここを整備しよう。掃除をすれば、また資材が出てくるかもしれない」

 ほとんど方便に過ぎなかったが、それでも落ち込んだ榛名の表情が少し和らいだようだ。

榛名「はい、榛名、道具を取ってきます!」

提督「ああ、ありがとう」

 あっという間に榛名は駆け出して行ってしまった。


ゴーヤのときといい軒並みコンマが死んでますね。皆がもっと艦娘を絶望させたい可能性が……?



 その後、二時間ほどかけて工廠室を片付けた……と言っても、瓦礫やら木材やらの目に見える廃材をある程度動かしただけだが。

 しかしそれでも当初に比べれば大分綺麗に見える。

榛名「結構片付きました。榛名、感激です」

提督「この程度で感激してたら身がもたないぞ」

 惜しむらくは、追加の資材が見つからなかったことで、その点については榛名も再び眉根を寄せて悲しそうな表情をしたものの、一つ汗を拭うことで切り替えられたようだ。

 冬の工廠室にも、太陽が昇ってきたこともあり、少し体に熱を感じる。

 すっかり煤で汚れた軍手を外した所で、くぅ、と小さく音が聞こえた。

提督「ん?」

榛名「っ」

 咄嗟に腹に手をやる榛名の様子で、音の正体はすぐに分かった。

 思えば、俺は既に朝食を摂っていたものの、榛名はそうではなかったのだろう。

榛名「す、すみません!」

提督「気にしなくて良い、一旦終わりにしよう」

榛名「うう……」

 腹部に手をやっているせいで恥ずかしさに染まった頬がはっきりと見て取れた。

 が、それを指摘すると余計に赤くなってしまいそうなので、何も言わないでおく。

今日はここまでです。

いつもの如くまた艦娘安価です。↓1~5の計5隻分お願いします

すみません、>>164>>165の間にこれが抜けていました。



『はー、那珂ちゃんもうくたくただよぉ』

『おまけに雨が大分強くなってきました』

『体が冷えちゃう……。いいけど……』

『提督も心配しているだろうから、早く帰りましょうね』

『だらしないわね』

『帰ったら夕食にしましょうか』

『いいけど……』

『ああ、そうだな』

『……』

『どうした、雪風?』

『いえ、なんだか変な感じが……』

『敵?』

『何も見えませんよ』

『疲れてるんじゃな──』

『──、し、至近弾です!』

『きゃあっ!?』

『どこから!? 下!?』

『魚雷です!』

『大和、大丈夫か!?』

『くっ、砲雷撃戦、用意!』

雑談と本文が混じってるとふいんき(ryが崩れるとかいろいろあるじゃん?
まあ何にせよ乙です、そして期待

>>269
分かりました、配慮します


 食堂でお茶を啜りながら、一人─榛名は着替えに自室に戻った─工廠について再度考える。

 榛名曰く、この鎮守府に本部から物資が送られたのはだいぶ前のことで、この数ヶ月は完全に自給自足での生活をしていたようだ。

 だとすると、資材の要求をしたところで、本部は認めないだろう。

 つまりは自分達で海に出て確保しなければならないのだが、それを行う準備が出来ない。

 燃料がなければ動かない。弾薬がなければ戦えない。鋼材やボーキサイトがなければ建造や補給が出来ない。

 服を買いに行く服がない、ならぬ、資材を拾いにいく資材がない、といったところか。

提督「……しかし、何故ゼロなんだ?」

 気になる点がある。

 それは、弾薬の備蓄が全くないという事だ。

 燃料が尽きるのは分かる。たとえ海に出なくとも、船体の状態を維持するためにはどうしても燃料を入れ替えなければならない。

 古い燃料を入れっぱなしにしたら、時間の経過とともに酸化し、不備を起こすからだ。

 だから、燃料が消費されるのは、当然ではある。


 続いて、鋼材やボーキサイト。これも、燃料と同じで、例え海に出なくとも艤装が全く悪くならないという事はない。

 潮風や雨によってどうしても劣化してしまうであろう艤装を修復するためは消費は避けられない。

 ただ。

 弾薬はというと、これは果たして疑問が残る。

 はじめは、弾薬が時化ってしまったからかと考えた。

 出撃さえ出来ないこの鎮守府で、戦闘による弾薬の消費は考えられない。現に榛名に聞いたところ、この数ヶ月は出撃などしていないようだ。

ならば使わなかったことで時化ってしまった弾薬を交換してしまったのかと思ったのだが、だとしたら先ほどの工廠室での榛名の反応はいささか不思議なものに思える。

 榛名自身、弾薬の備蓄がないことに驚いていた。

 出撃したにせよ、時化って駄目になってしまったにせよ、弾薬を交換したからには残数を知らないはずがない。

 何せここは、普通の鎮守府ではないのだから。

 妖精もいない、提督もいなかった鎮守府で、自分のことは全て自分でやらなければならなかったわけだし、実際の所やらなかったから榛名は知らなかったのだろう。

 やらなかったとはつまり、弾薬の交換を、ということだ。

提督「となると、彼女か」

 ここで、再び榛名の言葉を思い返す。


──資材については、多分榛名よりも加賀さんの方が詳しいかと

──加賀さんは、良くこちらに足を運んでいるみたいなので


 彼女たちは、どこか互いに線を引いている。

 境界線をつくり、それが重なり合わないように、ずれあって避けあって過ごしている。

 さながらハウスシェアをしているように。

 だからこそ、工廠室に足を運ぶ加賀を見て、逆に榛名は足を運ばなくなったのかもしれない。

 工廠室は、加賀のテリトリー。

 だから榛名も鈴谷も伊58も立ち寄らない。

 そんな暗黙の了解が、彼女たちの間で成立しているのだ。恐らく、きっと。

 だから榛名は知らなかった。

 弾薬の残数を知らなかった。

提督「加賀か……」

 思えば初対面……と言っても、まだ昨日のことではあるが、ともかくそれ以来一度も顔を見ていない。

 存外榛名を秘書艦に選んだのは、一番姿を確認できそうだからだったのかもしれない。そんなことをふと思った。

提督「なんにせよ、工廠については一度彼女と話をする必要があるな」


提督「……さて。一息ついたことだし、どうするかな」

 何しろやるべきことがいくらでもある。


 ↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「工廠……だな」

 とにかく加賀に会わなければ話が進まない。

 榛名を待たずして出るのは気が引けるが、彼女たちの微妙な隙間を考えると、却って一人のほうが良いのかも知れない。

 少し心の中で謝りながら、工廠室へ向かうことにした。


提督「……やはりここにいたか」

加賀「……」

 工廠室に向かうと、予想通り加賀が居た。

 俺の言葉にも、一瞥送っただけで特に反応はない。

 視線の先には先ほど俺と榛名が片付けた廃材の塊があり、更にその先にはただ海だけが広がっている。

提督「ああ。それな、さっき片付けたんだ。片付けたといっても、ただ種類を揃えてどかしただけのようなものだが」

加賀「そう」

 榛名の名前を出そうかどうか一瞬だけ悩み、やはり出さなかった。

提督「迷惑だったか?」

加賀「別に」

 淡々と答える。ぽつりと水に落とすような声量で、実際の所半分ほどは聞き取れなかった。

 ふっと冷たい風が一つ吹く。

 その風が加賀の、片側だけ無造作に結ばれた髪を小さく揺らす。

 何故だかそれが、母親の帰りを待つ子供のように見えて、ひどく悲しく映った。


提督「加賀は、よくここに居るのか?」

加賀「……ええ」

 本当は既に榛名に聞いているのだが、再度尋ねる。

 加賀と同じように、体ごと視線を海へと向けた。

 ……今もこのどこかの海底で、深海棲艦は息を潜めているのだろうか。

 或いはそこに、彼女たちは居るのだろうか。

 未だに、彼女たちのほとんどは、見つかっていない。

 だけれど、見つかって欲しいと思う反面、そう思いきれない自分もいた。

 彼女たちの一部が見つかるたびに、心が壊れていった子がいるからだ。

 笑わなくなって、自分の事を名前で呼ばなくなってしまったあの子は、今もきっと苦しんでいる。

 この海の何千何万何億、何兆分の一かは確かに、彼女たちの血と涙だ。


提督「……、工廠をしようと思ってな」

加賀「そう」

提督「調べてみたら、資材が足りなくてな」

加賀「そう」

提督「弾薬にいたっては、ゼロだった」

加賀「そう」

 加賀の調子は変わらない。抑揚のない声で、風にかき消されそうな呟きを努めて聞き漏らさないようにする。


提督「加賀は、知っていたのか? 弾薬の残数を」

加賀「ええ」

提督「そうか。なら──」

加賀「私が」

 と。

 俺の言葉を遮って、

 加賀が低く告げた。

加賀「私が全て使い切りました」

 先ほどまでの呟きではなくはっきりと。

 砂の音がして、加賀のほうを見やると、俺に正対していた。

 そして再度、

加賀「弾薬は私が全て使いました」

 と繰り返した。

提督「そうか。それならいい」

加賀「はい」

提督「一応確認するが、何の為に使用したんだ?」


加賀「敵を討つ為です」

 加賀の瞳が黒さを増した気がした。

 そこに先ほど感じた、母を待つ子の様な儚さはない。

 目の前の海を腐らせるような、重い鈍色の瞳だ。

提督「敵か」

加賀「はい」

 冬の様に冷たい表情で、闇の様に思い瞳で、

加賀「敵を殺す為です」

 そう彼女は答えた。

 言葉だけで深海棲艦を呪い殺せるのであれば、一面赤色の海になっていただろう。

 そう思わせるような、強い目だ。

 間違いない意思を持った、間違った瞳だ。
 


提督「聞くが、一人で戦っていたのか」

加賀「はい」

提督「何故だ? 他の仲間は何故参加しない?」

加賀「仲間?」

 怪訝そうな表情を浮かべる加賀。

 例え境界線を引いてテリトリーを分け合っていようと、それでも彼女たちは仲間のはずだ。

提督「ああ、仲間だ。榛名に鈴谷、それに伊58だって、同じ鎮守府の仲間だろう」

加賀「……」

提督「まさか、彼女たちは仲間ではないとでも言うのか?」

加賀「提督にとって、仲間とはどういう意味合いなのかしら」

 それは質問に対する解答になっていないような気がしたものの、有無を言わせぬ加賀の瞳に、思考を余儀なくされる。

提督「具体的な線引きは人それぞれだろうが……。少なくとも、心を許せる相手だろうな」

加賀「そうね」

 微かに頷いて見せた加賀。

 現状の彼女たちは、とてもそんな様子ではない。


提督「君達が過去にどれほど不当な扱いをされてきたかは知らないが……」

 一度言葉を切る。

 まるで加賀の瞳は、淀んだ川のようだった。

 何度も見てきた瞳だった。

提督「少なくとも、こうして残った数少ない者同士じゃないか」

 それを仲間と呼ぶのには、抵抗があるのかもしれないが。

 だけれど、一人よりはその方がいい。

 一人になっては駄目だ。

 孤独になっては駄目だ。

提督「それに、これからは共に戦うんだ」

 加賀だけでなく、榛名も、鈴谷も、勿論伊58も。

 そして、俺も。

 今はまだどうしようもないほど弱い仲間ではあるが、必ずまたやり直せる。

 その為に仲間になるべきだ。

加賀「……そう」


 ふっと加賀の口元が綻んだ。

 それを見た俺は、言葉が届いたと思い、思わず安堵しかけ──

加賀「何も聞いていないのね」

 ──ぞくりと、背筋を凍らせた。

加賀「残った者同士、ですって? 馬鹿にしないで頂戴」

 暗い瞳が俺を捉える。

 射抜くのでもなく、突き刺すのでもなく、纏わりつくような視線。そのまま雁字搦めにされて、溺れ死んでしまいそうな、そんな視線を受けて、息苦しさを感じた。

 その息苦しさから逃れるように、もがく様にして何とか言葉を返す。

提督「どういう、ことだ」

加賀「私を彼女たちと一緒にしないで」

提督「どういう……」

 暗いヘドロのような川に体が沈む。

加賀「私を。彼女たちと、一緒に、しないで」

 重く冷たい言葉を最後に、彼女はその場を後にした。

 とてもじゃないが追いかけるような雰囲気ではない。

 二分……いや、三分ほどその場に立ち尽くし、乱れた呼吸を直して、すっと息を吸い込んだ。

 冬の冷たい空気が肺に流れ込む。

 目一杯まで吸い込んで、思い切り吐き出して、ようやくヘドロの正体に行き当たる。

提督「……ああ」

 あれが、憎悪と言うものか。


提督「……ふぅ」

 さすがに冬の寒さに限界を感じ、一度鎮守府内に戻ることにした。

 海から十数メートル離れることで、潮風の分だけ体を冷やさずに済む。

 食堂に行こうかとも思ったが、今また加賀と会っても話しづらい。少なくとも今日は会わないほうがいいだろう。

提督「……ん?」

 ふと目をやると、廊下の先を誰かが歩いている。


提督「あれは……↓1か」

まだメンバー全員とろくに会話できていないと言う···
道のりは長い


提督「鈴谷」

鈴谷「提督。うぃーっす」

提督「ああ、おはよう」

 おはようといっても、もう朝よりも昼のほうが近いのだが。

 どこか気だるげな表情をしているのは、彼女が夜型だからだろう。大方夜中に寝て先ほど起きたか、或いは満足に眠らずに今を迎えているのかもしれない。

 改めて鈴谷の姿を確認する。

 気だるそうなのは表情だけで、それ以外の外見はしゃんとしている。

 そして鈴谷の向かう先には玄関があり、察するに彼女は外に向かうようだった。

鈴谷「え、なに。あんま見られると恥ずかしいんですけど」

提督「ああ、済まない」

 案の定鈴谷が嫌そうな顔をした。

提督「ところで、どこかに行くのか?」

 よもや工廠室という事はないだろうが。

鈴谷「まーね。ちょっと遊んで来るよ」

提督「遊……」

 あっけらかんとした声色に、思わず驚いてしまった。


鈴谷「別に良いでしょ? 何もする事ないんだし」

提督「それはそうだが。鍛錬は出来るぞ」

鈴谷「弾薬ゼロで何しろってのさ」

提督「……」

 正論で返され、言葉に窮する。

 ……。

 ……、……ん?

鈴谷「じゃ、出かけて──」

提督「待った待った、待ってくれ」

 出かけようとする鈴谷の腕を掴んで止める。

鈴谷「なにさもう」

 不服そうな鈴谷に謝りながらも、俺は今降ってわいた疑問をぶつけた。

提督「何故お前が、弾薬の備蓄がない事を知っている?」


 そのことを知っているのは、俺と加賀、そして榛名だけではないのか。

 それがどうして鈴谷も知っているのだろう。

 彼女たちは互いに関わりあわないはずだ。

 直接鈴谷が工廠室に向かったのだろうか?

 或いは加賀から聞いた?

 榛名から聞いたということも、なくはないが……今朝それを知った榛名と、夜型の鈴谷の生活スタイルを考えると、可能性は低く思えた。

鈴谷「それってそんなに驚くこと?」

 対して鈴谷は、呆れたような表情を浮かべている。

 普通に考えれば何もおかしなことではないのだが、ことこの鎮守府で考えると、それは疑問に思えることだった。

鈴谷「まぁねぃ……確かにここは異常だからね」

 白い歯を少し見せながら笑った鈴谷。

 しかしその笑顔は、先ほどの加賀の無表情と大して変わらないようにも見える。

 本当の感情、本当の笑顔ではない気がした。

今日はここまでです。

>>293
作中二日目の朝だから、まぁ多少はね?

パッピーをエンド?(難聴

パッピーをエンド?(難聴

風邪引きました。少しだけやりますが、寝落ちしてしまったら申し訳ありません


鈴谷「さっき加賀さんに会ったんだけどさ」

提督「加賀に?」

 唐突に加賀の名前が出てきて、思わず聞き返した。

鈴谷「そそ。めっちゃ怒っててさ」

提督「ああ……」

 それは、先ほどの工廠室でのやり取りのせいだろう。

鈴谷「ただでさえ無表情で怖いんだから、怒らせないで欲しいんですけど」

提督「それは悪かった」

 鈴谷はどこまで知っているのだろうか。ただ加賀にあっただけなのか、それとも。

鈴谷「話すわけないでしょ、雰囲気だけで人殺しそうな感じだったのに」

 同じことを海で感じて、頷きかけたが、それはさすがに加賀に失礼だろうと思いとどまる。

鈴谷「でも」

 短く低い声で、鈴谷が続けた。

鈴谷「二人がどんな会話をしたかは、予想がつくよ」


 壁に背を預け、腕を組む鈴谷。

鈴谷「大方提督が加賀さんに“俺たちは仲間だ”とか言ったっしょ」

 まるで見ていたかのような物言いだ。

提督「見ていたのか?」

鈴谷「まさか。でも分かる」

 彼女たちは、互いに線引きをして暮らしている。自分以外のテリトリーは、犯さない。

鈴谷「だからだよ」

 とんとんと、右の人差し指を組んだ腕で鳴らす。

 目を閉じているので、表情の機微は窺えない。

鈴谷「あたしたちは互いに干渉しないからこそ、境界線に敏感なの」

 “ああここまでは平気なんだ”
 “ああここからは駄目なんだ”

鈴谷「だから、加賀さんが何に対して腹を立てたりするのかは分かる。特にあれだけ深く怒るとなると、尚更」

提督「……」

 不用意に踏み込んだだけに、何も言い返せない。


鈴谷「提督はさ、あたしたちのことどう思う?」

提督「……」

 ぱっと目を開き、こちらを見ながらそう尋ねてきた鈴谷。その表情は、少なくとも先ほどよりかは穏やかに見えた。

 一応は話を続けてくれるらしい。ただ、それがいつ気まぐれによって翻されるのかが分からないので、まずは様子を見ることにした。

鈴谷「んー、いや。あたしたちって言うか、あれだね」

 一旦自分で自分の言葉を切りながら、再度尋ねてくる。

鈴谷「昨日と今日で、あたしたちのことをどう思った?」

提督「まだ二日目だ。分からないとしか答えられない」

鈴谷「初日で逃げた提督だっていたからねぃ」

 ふっと鼻で笑う。脳内でその人物を責めてでもいるのだろうか。床を見下ろす鈴谷の表情は笑っていながらも冷たい。

 そしてどことなく、それが自虐している風にも見える。

鈴谷「一日見れば十分だって事だよ。それこそ、ゴーヤのときみたいにさ」

提督「……」

 確かに鈴谷の言う通りで、一日……いや、一回会っただけで伊58の精神状態は察することが出来た。

 加賀にしても、鈴谷にしても。彼女たちは、何かしらの闇を抱えている。

 それが、彼女たちがこれまでこの鎮守府で受けてきた仕打ちであり、ここが廃墟と化している理由のうちなのだろう。

 ……榛名だけは、まだそれが良く分からないけれど。

 もしかしたら、彼女もまた、どこか心が壊れているのだろうか?


鈴谷「答えられない?」

 とんとんと、右の人差し指を組んだ腕で鳴らす鈴谷。

 どう答えれば鈴谷が納得するのかが分からず、言葉に窮する。

鈴谷「じゃあ、代わりに答えてあげる」

 指が止まった。

鈴谷「あたしたちは欠陥品なんだよ」

提督「……」

 口の両端だけ微かに釣り上げて笑う。

 音もなく壁から背を離し姿勢を正す。

鈴谷「最初からなのか途中からなのかは人それぞれ。どっちにしたって使えなくなったりした失敗作が集まるのがここ」

提督「それは、つまり」

鈴谷「ここは艦娘を捨てる場所。要らなくなって、使えなったゴミを捨てる場所」

鈴谷「或いは、使えなくなった提督もね」

提督「……」

 なにも言い出せない。

 なにも言い返せない。

鈴谷「なにをやらかしたのかは知らないけどさ。こんな所に来るってことは、そういう事だろうし」

鈴谷「ようこそ、最低な提督さん。賑やかな艦隊になれば良いね」

 そういって鈴谷は、踵を返した。


提督「……一つだけ聞きたい」

鈴谷「んぉ」

 声だけで鈴谷を呼び止める。

提督「……、その言い方だと、全員他所の鎮守府から異動させられたということか?」

 捨てられた、とは言わなかった。そんな言葉を使いたくなかった。

鈴谷「あたしは違うけどねぃ」

 ちらりとこちらを振り返る。

提督「それは、鈴谷は元からこの鎮守府にいたって事か?」

鈴谷「そ。最初から、ずっと。ずーっと」

鈴谷「……昔は、普通の……」

 目を細めて、一瞬だけ揺れた感情を見せた鈴谷だったが、すぐに向こうを向いてしまった。

 だとすると、鎮守府として機能していた頃の他の艦娘はどうしたんだろうか。

 他の場所に異動になったのだろうか。或いは……。

 尋ねようかどうかしばし逡巡し、結局俺はそれをやめた。代わりに、別の質問をする。

提督「他の三人はどこから来たんだ?」

鈴谷「……、さぁねぃ。そこまで話はしてないよ」


鈴谷「今度こそもう話は終わり。あたしは出かけるよ」

提督「遊びにか」

鈴谷「言ったでしょ。ここは艦娘として使えなくなったのが来る場所だって」

 吐き捨てるようにそう言う鈴谷。

鈴谷「だったら別に艦娘としてご丁寧に鎮座してる必要はないっしょ。そういうのは……」

 と、鈴谷が目線を右の方に向けた。

 つられて見ると、そこには榛名。

 その光景は、昨日も見た。

 そう、榛名は今日も草むしりをしていた。

 昼を迎えるとはいえ、冬に素手でやる行為ではない。

鈴谷「……ちっ」

提督「えっ?」

 それを見て、忌々しげな顔をしながら鈴谷が舌打ちをする。

鈴谷「……なんでもない。じゃ」

 何故、舌打ちをしたのだろうか。

 そう尋ねる間もなく、鈴谷は再び歩き出した。

 榛名の数メートル横を通るも、見向きもしない。

 反対に鈴谷に気付いた榛名が、立ち上がろうとするも、間に合わず。

 眉根を寄せながら、ただその場に立ち尽くすだけだった。


提督「……、榛名。何をしている?」

 鈴谷を追おうとも思ったが、秘書艦の榛名を放っておいたままだったのを思い出し、話しかける。

榛名「て、提督」

 俺には気付いていなかったようで、少し驚きながら榛名が姿勢を正した。

 土で汚れた手には、雑草が握られている。

榛名「草むしりです」

提督「ああ、それは見れば分かる。何故そんな事をしている?」

榛名「……すみません」

 別段怒っているわけではないのだが、どうしてか榛名は謝った。

 申し訳なさそうに頭を下げる榛名を手で制す。

提督「違う、怒っているんじゃない。ただ気になっただけだ」

榛名「そ、それは……」

提督「それは?」

榛名「……、……」

 無理に急かす事はなく、話すのを待つ。

 手には雑草を持ったままだ。

 そうして一分ほど経ってから、榛名は口を開いた。

榛名「……、仕事です」

提督「仕事?」


榛名「はい。私に出来る仕事はなんだろうと考えまして、草むしりを……」

 確かに、出撃が出来ないとなると、どうしてもできる仕事は限られる。

 ましてやこの鎮守府は廃墟も当然で、掃除をしようと思ったらいくらでも出来るだろう。

 だが、だとしても。

提督「何故草むしりなんだ。寒いだろう、もっと他の事をすればよかったのでは?」

榛名「掃除道具がほとんどありませんでしたし、それに……」

 すっと榛名は正面の門を見た。先ほど鈴谷が出て行った門だ。

榛名「鈴谷さんが歩きやすいようにと思いまして」

 改めて見回すと、確かに他の部分に比べて、正面の門から鎮守府の玄関へと続く道周辺の方が綺麗になっている。

 思い返せば昨日俺がここに来た時も、無意識のうちにこのルートで歩いていた気がする。

 そっと榛名が持っていた雑草を地面に置く。

 良く見ると、榛名の手はボロボロだった。

 所々赤く血が滲んでいる。

 それを見て、昨日のことを思い出す。

 彼女は、昨日も草むしりをしていた。

 朝七時にだ。

 そして今はもうすぐ昼である。


 冬の寒空で、素手で草むしりなどしたら。

 それを何時間も何日もしていたら。

 手が無事で済むわけがない。

提督「その手はどうしたんだ」

 動揺そのままに、聞かずとも分かっていることを聞いてしまい、後悔してしまった。

 案の定榛名は両手を背中に回して隠す。

榛名「は、榛名は大丈夫です」

提督「大丈夫なわけないだろう」

榛名「大丈夫です、榛名は大丈夫です」

提督「良いから手を見せるんだ。仕事よりも休むんだ」

榛名「っ、休……」

 肩を震わせたかと思うと、榛名は一歩下がった。

 それは、手を見られるのを嫌がるというよりは、

 休むと言う言葉に反応したかのようだった。

 やや俯きながら、ふるふると首を横に振る。


榛名「……、大丈夫です」

提督「気持ちは嬉しい。嬉しいが……」

 怪我をしている彼女を、無理に働かせたくない。

 そう思い、一歩彼女に近づく。

榛名「まだ……、まだやれます。榛名が」

 ぶつぶつと、小さく呟く。

 横に首を振り続ける榛名。

榛名「榛名なんかが、お休みしてしまっては……駄目なんです。これが当然なんです」

提督「榛名、落ち着け」

榛名「そんな特別な事……良いんです……」

 肩に手を置き、宥めようとする。

 そして榛名の腕を引き寄せようとして──

榛名「榛名に仕事をください! お願いします!」

提督「──……」

 そう、叫んだ。

 見上げた榛名の表情は必死で、そして悲痛な声で、そう訴える。


榛名「榛名は大丈夫なんです!」

提督「落ち着け、落ち着くんだ!」

 榛名の肩に置いた手を先ほどよりも強くする。

 それに連動するかのように、榛名が首を横に再度振った。

 いやいやをする子供のように、ただ必死に。

榛名「榛名は! 榛名に特別な扱いはしないでください!」

 目尻にうっすらと浮かぶ涙を気にもせず、ただ叫ぶ。

榛名「榛名は……」

榛名「榛名は……大丈夫ですから……」

榛名「榛名に、何か、仕事を……」

榛名「お願いします……」

榛名「お願い、します……」

 しかしその叫びも、徐々に力弱いものとなっていき、最後は囁くような、ただ唇を動かしているだけのようなものになってしまった。

提督「一旦戻ろう。ここは……寒い」

榛名「……」

 すみません、と唇だけを動かした。

 声さえも、聞こえなかった。

やっと全員とまともに話せた……(疲弊)

すみません、今日はここでおわりにさせてください。

祝日で病院やってなかった(激怒)

一つ先に述べますが、このスレでは深海棲艦が変な感じになっています。
「そんなの実際の艦これではねーから!」とお思いになるかもしれませんが、二次創作と言うことでどうかご容赦を。

もう随分前で題が思い出せないんだけど
どっか精神がかけた娘しか艦娘になれなくてその艦娘に男娼やってた提督を書いてた人?

>>356
いえ、私はこれが初めてのssです


 ──大和艦隊が謎の襲撃を受けてから数日後。


雪風「あまり覚えてないんです……」

 雪風は、生還して四日後に目を覚ました。

 そこから更に一日置いた日の夕方に、ようやくぽつりぽつりと状況を話し始めた。

 窓の外はいまだに大雨が降り続いている。長く続く灰色に、鎮守府全体の空気までも重くなっていた。

 あの日起こった事は、暴風雨の中の突然の襲撃ということもあり、艦隊は通常の陣形を作ることが出来ず。結果としてバラバラに散開しての応戦だったようだ。

 なので雪風自身、断片的にしか覚えていないようだ。

提督「……、襲ってきたのは、やはり深海棲艦か?」

雪風「恐らくは……。少なくとも、雪風が見たのは、深海棲艦です」

 よもや艦娘が艦娘に襲撃されることはないとは思いたい。そんな事をしたら当然処罰の対象であるし、なによりメリットがないからだ。

提督「そうか……」

雪風「……」

 雪風がベッドに体を預けたまま、視線だけを動かした。そこには大和の腕が先ほどまであり、今は何もない。そのことに雪風が少し顔を曇らせた。

提督「……、すまない。埋葬させてもらった」

雪風「……」

 あのまま置いていても、いずれは肉が腐るだろう。そして骨になるが、その過程は見せたくはなかった。雪風だけでなく、他の艦娘達にも。

 ならば今の姿を保ったままの状態で弔った方が良い。その方が彼女達のためになる。そう思った。

 きゅっと、雪風がシーツを握った。

雪風「……彼女達って、誰のことですか」

 小さく、そう噛み殺すように呟いた。


提督「全員だ。大和、武蔵、那珂、朝雲、弥生。それに雪風、他の艦娘全員だ」

雪風「……」

 零れた涙が、重力に従いシーツを濡らす。

提督「今は、とにかく休んでくれ。焦らなくていい」

雪風「……」

 雪風は何も言わない。

提督「……、俺は本営に行かなければいけない。すまない」

雪風「……」

 椅子を片付け、もう一度だけ雪風の様子を見るが、表情は読み取れない。

 口を真一文字に結び、シーツを握り締めたまま、何も言わない雪風。

 何かを言いたそうにも見えるし、何も話したくない様にも感じられる。実際との所、何も言わないという事は後者なのかもしれない。

 目を覚ましてからはまだ一日程度しか経っていないことを考えると、それはなんらおかしくはないことだった。

提督「……雪風だけでも、生きて帰ってきてくれて良かった」

 気休めにさえならないだろうが、それでもこれは本心だ。

 そうして俺は医務室を後にし、本営に向かうことにした。


提督「失礼致します」

上官「入りたまえ」

提督「はっ、失礼します」

上官「早速だが、君、今回の件について説明してもらおうか」

提督「……、先日送付いたしました報告書の通りです」

上官「こんな僅かばかりの報告書では何も分からん」

提督「申し訳ありません。唯一生還した艦娘が先日目を覚ましましたので、後日改めて報告書を提出しなおします」

上官「大和型戦艦二隻の損失は大きい。次もまたこんな意味のない報告書であれば、責任問題になる。庇いきれんぞ」

提督「重々承知しております」

上官「それで。どうなんだね、改めて」

提督「と、言いますと」

上官「悪天候で視界が悪かった中での襲撃とはいえ、五隻もやられるのは普通ではない」

提督「……、生還した彼女曰く、“少なくとも自分を襲ったのは深海棲艦だった”と」

上官「忌々しい」


上官「ここ最近、富にやつらは活発化している。先月も南の鎮守府が襲撃を受けている。南東の鎮守府からもこの間報告があった」

提督「そうでありますか」

上官「北の鎮守府でも一艦隊が襲われたようでな。君と同じく六隻中五隻がやられた」

提督「それはまた……」

上官「深海棲艦め、調子に乗りおって」

提督「……」

上官「そうだ、君」

提督「はっ、何でありましょう」

上官「追加調査をしたまえ」

提督「……、もう一度現場に向かえという事でしょうか?」

上官「ああ、そうだ。死体も一部が見つかっただけだろう? それは困る」

提督「と、言いますと」

上官「彼女達の艤装を奴ら深海棲艦が利用しないとも限らん」

提督「……、……」

上官「あれからじきに一週間経つのだから、死体は回収出来ないだろう。というより死体を改修しても何にもならん、放っておいて良い。だが艤装は拾われたら困る」

提督「……承知、致しました」

上官「うむ。話は以上だ、すぐに取り掛かりたまえ」


「坊ちゃん、今回は大変だったな」

「……坊ちゃんはやめろ。お前の所も襲われたんだろ?」

「ああ。でもうちは何とか無事だった」

「そうか」

「別にお前を皮肉ったわけじゃないぞ?」

「分かってるよ」

「深海棲艦ねぇ……。ほんと気味悪いなあいつら」

「そうだな」

「……ああ、やめやめ。こういう時は酒でも飲んでだな」

「飲めるかよ。明日も早いし、そんな気分じゃない」

「こんな雨じゃ出撃なんて無理無理、開店休業だろ?」

「そういうわけにもいかない。追加調査で現場を調べなくちゃならない」

「かー、大変だなおい」

「仕方ない」

「だけどよ、こんな雨だったからやられちまったんだろ。それなのにお前、同じ事したら、また繰り返すんじゃねぇのか?」

「……うるさい」

「おいおい、ムキになるなって」

「……分かってる」

(本当に分かってるのかねぇ)


雪風「……」

雪風「……」

雪風「……どうして」

雪風「どうして……埋葬なんて、言うんですか」

雪風「どうして……諦めちゃうんですか」

雪風「きっと……きっと、皆、生きてるはずです」

雪風「雪風だけだなんて、そんな事言わないでください」

雪風「皆生きてるって、皆助けを待ってるって……」

雪風「嘘でも良いから、言って欲しかったですよ……」

雪風「嘘でも……良いんです……」

雪風「……、うぅ、っく……」

>>363
×改修
○回収

ですねすいません


龍驤「雪風、大丈夫か? 無理はしたらあかんで?」

雪風「大丈夫です、龍驤さん」

雲龍「行ける? そう……? とてもそうには」

雪風「……、あの場所を覚えてるのは雪風だけです。だから、雪風が行かないと」

深雪「敵はどんなんだぁ?」

雪風「あまりはっきりとは……。深海棲艦なのは確かです」

龍驤「そらまぁなぁ」

雪風「すみません」

雲龍「気に病まなくていい」

大鳳「……、今日も、嫌な風ね」

如月「雨もまだ降ってるし、髪が痛んじゃうわ」

深雪「髪どころじゃないだろ全くよぉ」

大鳳「ごめんなさい、暗くなる事言っちゃいましたね」

龍驤「ほんまやでーもー」

深雪「まぁ、いざ敵が来たら深雪スペシャルで吹っ飛ばしてやるから安心しなって!」

龍驤「ほんならうちも艦載機飛ばしまくるでー!」

大鳳「火力は任せてくださいね」

雲龍「空母軽空母が合わせて三人いるんだから、安心して」

如月「勿論駆逐艦だって、イロイロスゴイんだからぁ」

雪風「……、……っ、はいっ!」


雪風「この辺りです」

龍驤「なんもないなぁ」

雲龍「そうね」

大鳳「仮に皆さんが轟……、」

深雪「ちょっと!」

大鳳「す、すみません。大怪我、をしたのだとしても、一切艤装が破損しなかったとは思えません」

如月「そうねぇ。大和さんの腕が吹き飛ぶ位の激しいやり取りがあったんですもの」

深雪「あんたまで……」

雪風「……、でも、事実です。何もないと言うのは、変です」

龍驤「っちゅうことは、逆に生きてるかも知れんな、やっぱり!」

深雪「そうだよ!」

雲龍「そう、ね……」

大鳳「ええ……」

如月「……」

龍驤「なんや?」

雲龍「……いえ」

龍驤「なんや、はっきり言いやーもう」


大鳳「艤装は決して軽いものではありません。今頃海の底に沈んでる可能性もあります」

如月「それに、あの日からずっと大雨が降っていたし、どこか遠くに流された可能性だってあるわ」

龍驤「それは……」

雲龍「だから、何もないからといってそれが生きているという事には……」

深雪「……、なんだよ、なんだよ! 死んでるって言いたいのかよ!」

大鳳「そ、そういうわけでは」

如月「楽観しちゃ駄目って言いたいだけよ?」

龍驤「そんなん、言われんでも分かってるわ!」

深雪「絶対見つけてみせるからみてろよ!」

大鳳「勿論、私達も見つけたいです」

雲龍「その為の空母と駆逐艦だから」

龍驤「うちらだけでも探したるからな!」

深雪「そうだ! いようし、行くよ龍驤さん!」

龍驤「おう、任せとき!」

大鳳「あ、ちょっと!」

如月「早いんだからぁ」


大鳳「追いかけましょう」

雲龍「そうね」

如月「このまま二人一組になってもいいんじゃないかしら?」

雪風「それは……どうなんでしょう」

雲龍「……、そうね。向こうも軽空母と駆逐艦、こちらも残りは似た組み合わせ」

大鳳「ですが、あまりバラバラになるのは……」

雪風「……、あのときよりは雨も弱くなりました。雪風はそれでも構いません」

雲龍「今回は戦闘をするためじゃない」

如月「もし敵に会ったら即時撤退するから」

大鳳「……、そう、ですね」

雪風「はい。雪風も、特に異論はないです」

如月「じゃあ、私は雲龍さんと組むわ」

雲龍「私か」

大鳳「じゃあ、私は雪風さんと」

雪風「分かりました」

如月「あの二人が直進していったから、私たちは時計回りに調べるわね?」

大鳳「はい」

雲龍「無理はしないで」

雪風「分かりました」

如月「それじゃ、また後でね?」


大鳳「……すみません」

雪風「えっ? な、なんでしょう?」

大鳳「いえ、その。大丈夫かな、と思いまして」

雪風「ええと……?」

大鳳「あの日は、その。……、一人、だったじゃないですか?」

雪風「……そう、ですね」

大鳳「なので、出来る限り六人のまま行動すべきだったかもしれません」

雪風「いえ、そんな。雪風は平気です」

大鳳「私が余計なことを言ってしまったばっかりに」

雪風「……、大鳳さんも、大和さんたちは生きていないと思いますか?」

大鳳「……、……。分かりません」

雪風「……」

大鳳「でも、雪風さんが生きていると思うなら、きっと生きていると思います」

雪風「大鳳さん……」

大鳳「あの日、大和さんたちと一緒にいた雪風さんがそう願えば、きっと……」

雪風「……そう、かも、知れません」


雪風「……うん。そう、ですね。そう」

雪風「うん……! きっと、いえ、絶対、大丈夫!」

大鳳「良かったです、そう言ってもらえて」

雪風「そうです、大丈夫です!」

雪風「ありがとうございます、大鳳さん。雪風、元気が出てきました!」

雪風「雪風の幸運で、きっと見つけてみせます!」

雪風「……何て言ってたら、早速雨が弱くなってきました。少しですけど!」

雪風「このまま止んで、晴れてくれればいいのに」

雪風「ねぇ、大鳳さん」

雪風「……」

雪風「……?」

雪風「あれ? 大鳳さん?」

雪風「た──」


 くるりと振り向いた雪風の背後には、大鳳の姿はなかった。

 代わりに、眼前、僅か一メートル程の至近距離に、黒と灰色の不気味な物体。

 否、物体ではなく、それは、生き物の様だった。

 生き物の様、と、わざわざ曖昧な表現をしたのは、雪風にはそれが瞬時には何か分からなかったからだ。

 ぐじゅる、と、不快な音を立て、それが動いた。

 無数に生えた触手の下で、粘膜を垂らしながら蠢く口。

 黒く光る鯨のような胴体。

 海の匂いをかき消すような、鉄の匂い。

 あまりに近く、あまりに鮮烈過ぎて。

 雪風には、それが、

 それが、数日前に自分に襲い掛かった深海棲艦だという事に思い当たるのに、時間を要したのだ。

雪風「────!?」

 一秒か、二秒か。声にならない声を挙げながらようやくそれに気付いた雪風は、慌てて後ろに下がろうとした。

 だが、身を捻りながら急に反転したため身体のバランスを崩し、そのまま海面に突っ伏してしまう。


 それが却って功を奏したのは、ひとえに彼女の幸運だろう。

 鯨のような胴長のその化け物──深海棲艦は、大きく口を広げたかと思うと、そのまま雪風へ突進してきたのだ。

 それはつまり深海棲艦が雪風を食らおうとしたという事であり、転覆したからこそ彼女は無事で済んだのだ。

 もし仮に彼女が立ったままだったら、恐らく今頃彼女の上半身は深海棲艦に飲み込まれ、或いは食いちぎられていただろう。

 間一髪で難を逃れた雪風だったが、決して状況は好転していない。ただ即死を免れたと言うだけで、実際の所は変わらず命の危機に直面したままだ。

 自分の僅か十数センチ先にダイブした深海棲艦から逃れるべく、すぐに体勢を整える。

 対して深海棲艦も身を立て直すのは早かった。

 そして二度目の捕食を試みて、再び雪風に向けて深海棲艦が口を開いた時、雪風は理解した。

 そのギザギザの歯にこびりついた肉。

 舌に残る赤い液体。

雪風「あ……ああ」

雪風「ああ、あああああ!」


 ──深海棲艦は、大鳳を食い殺したのだ。


 水面を蹴る。四足歩行のように前のめりになりながら、前へ進む。

 手で水を掻き、足で水を弾き、ただ全身の力で持って深海棲艦から距離をとろうとする。

 だが、何かに躓き、再び顔を水面に叩きつけてしまう。

雪風「がっ、げほっ!」

 思わず海水を飲んでしまい、大きく咽ながらそれを見る。

 この状況で、海で躓くとしたら。

 そんな理由など、もう他に考えられない。

雪風「ひっ!」

 雪風の眼前に流れてきたのは、足だった。それが誰の足であるかは言うまでもない。

 一瞬だけ怯えながら、手を伸ばしかける。

 だが、それは、あまりに致命的な好きだった。

 例え僅かとはいえ、至近距離でそんな余裕など、深海棲艦相手に与えてはもらえなかった。

雪風「いっ──ああああああ!」

 ばつん、と。聞いた事のない音がして。

 見ると自分の右腕に、黒い塊が覆いかぶさっていた。

 それが深海棲艦の頭部だと気付き、つまりは自分の腕が食べられたのだと分かり……そこでようやく痛みがやってきた。


 熱湯を被せられた様なつんざく痛み。

 体中の神経を引き抜かれたような、そんな感覚。

 肺が逆流するのではと思うくらいに呼吸を吐き、そして本当に先ほど飲んでしまった海水を少し吐き出した。

 立ち上がろうにも、文字通り身体のバランスが崩れてしまっている今、焦りと痛みでそれさえもままならない。

雪風「ぐっ、うっ、ふぅぅ!」

 そして雪風が手に掴んだのは──大鳳の足だった。

 それは勿論偶々で、偶然であり、だけれども決して幸運とは言えない代物だった。

雪風「ああっ! はな、せぇ!」

 掴んだ大鳳の足を、そのまま深海棲艦の頭部へと振り下ろす。

 ガツン、と音が響いた。どうやら足の艤装の一部が丁度深海棲艦の頭部へと刺さったようだ。

 大きく深海棲艦がよろめき、腹部を足で蹴り払う。

 しかしそれで雪風と深海棲艦の間に距離が生まれた。

 大鳳の足を振り下ろしても届かなくなったのだ。

 そして深海棲艦が、再び雪風へと狙いを定める。


 飛び込んできた深海棲艦の牙は、雪風の左足の太ももを抉る。

雪風「い、ぎ、あああああ!」

 大きく肉が裂け、骨まで達するか否かの傷に、再び雪風が叫んだ。

 掴んでいた大鳳の足を投げ捨て、左手だけで艤装を動かし、単装砲を深海棲艦の頭部に振り下ろす。

 ガツンガツンと何度か振り下ろすも、少し怯んだ程度で、致命傷には程遠い。

 それを察知したか否か、上から振り下ろしていた単装砲を、今度は剣道の突きのように強引に深海棲艦の口の中へとねじ込んだ。

雪風「ぐ、ん、うう! あああ!」

 そして思い切り撃ちまくる。何も考えず、ただただ全ての弾薬を深海棲艦の口に発射する。

 最初こそばば、と濁った音だったが、それもじきにビシャビシャと水音混じりになり、最後には肉を抉る手応えさえもなくなった。

 弾が完全に深海棲艦を貫き、海面を見通せるようになっても、雪風はただ撃ち続けた。

 そうして全ての弾薬を使い切るのと、雪風の意識が途絶えるのは、ほぼ同時だった。


龍驤「なんや、向こうの方が騒がしいな」

深雪「近くで演習でもしてるのかな」

龍驤「……雨やで?」

深雪「雨だね」

龍驤「……」

深雪「……」

龍驤「戻ろか。雪風が心配や」

深雪「そうだね、また雪風が襲われでもしたら大変だ」

龍驤「このまま六時方向やっけ?」

深雪「ああ」

龍驤「っし、戻──」

深雪「どうしたの?」

龍驤「ん、ああ、いや。今、なんか見えた様な」

深雪「まさか、弥生達?」

龍驤「いや、一瞬だったからちょっと分からんなぁ」

深雪「……敵かもしれないのか」

龍驤「ん、んん。どうする?」

深雪「……、……追おう。もし敵なら逃げる、弥生達なら、連れて雪風たちと合流する」

龍驤「ようし、決まりやな」


龍驤「こっちや」

深雪「どこ?」

龍驤「こう通っていったから、この辺……」

深雪「……あっ! あれ!」

龍驤「……! 見えたで!」

深雪「敵じゃない! 艦娘だ!」

龍驤「艦娘やない、あの後姿は、確かに那珂や!」

深雪「おおい!」

龍驤「気付いてへんのか?」

深雪「意識が混濁してるのかも。さっさと捕まえよう」

龍驤「せやな……!」


龍驤「っし、追いついたで!」

深雪「朝雲! 那珂さん!」

「……」

龍驤「反応がないな……」

深雪「でも、立ってるんだから、生きてるはずだよ」

龍驤「やっぱり一旦連れ帰らなあかんな」

深雪「そうだね……五日も海を彷徨ってたんだから」

龍驤「よーし、深雪は朝雲を頼むわ。うちは那珂を支える」

深雪「おっけー、任せて!」

「……、キ」

深雪「?」

龍驤「今、なんか言ったか?」

「ミユ、キ」

深雪「……! そう、私だよ!」

龍驤「わかるかうちらが! 助けにきたで!」

「……、ミユキ」

深雪「そうそう!」

「……」

龍驤「うし、ほんなら──」



──バツン。


「……」

「……」

「……ゴチソウサマ」



(回想終了)



提督「……」

 昨日はあれから榛名を宥めていたら夕方になっていた。

 放っておいたら夜中にも草むしりをしていそうで不安ではある。一応、しなくて良いとは言ったものの、見張っているわけではないので効果の程は分からない。

提督「さて、と」

 食堂から拝借してきた椅子に腰掛ける。執務室の椅子は壊れてしまっているので使えない。

 まぁ、執務室の整備など後回しで構わないのだが。

提督「まずはなにをするかな」


1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

↓1


提督「そう、だな……」

 加賀と伊58。二人は、ベクトルこそ正反対なものの、結果としては揃って他人を寄せ付けない雰囲気を出している。

 加賀は相手を怯ませ、伊58は相手に怯え、自分の境界線を強く引いたままだ。

提督(だがそれは、好ましくない)

 同じ鎮守府にいるのだから、やはり蟠りはなくしていきたい。


提督「となれば、食堂か」

 工廠室に行けば加賀はいるだろうが、伊58はいない。

 反対に、伊58の部屋に行けば加賀と接触は出来ない。

 二人が向かいそうな場所といえば、現状食堂位しか思い浮かばなかった。

提督「まずは向かってみるか……」


提督「加賀か。おはよう」

加賀「……」

 一瞥を向けただけで、言葉は返ってこない。昨日の事を考えると、仕方ないのかもしれないが、やはり辛い。

提督「食事か?」

加賀「……ええ」

 それでも加賀に声をかける。面倒臭そうに、というより、実際に面倒なのだろう、半ば投げやりにそう答えた。

伊58「……あ」

 と、その時、食堂の入り口から伊58がやってきた。

伊58「……あ、あう」

 一歩二歩としり込みをするように引き下がる。



加賀のコンマ↓1 伊58のコンマ↓2
コンマの十の位だけ好感度上昇。
ぞろ目で身の上話


提督「……、おはよう。調子はどうだ?」

伊58「ご、ごめんなさい!」

提督「あっ……!」

 止める間もなく、伊58は駆け出していってしまった。

加賀「……」

提督「……、上手くいかないものだな」

加賀「……」

 加賀は何も言わない。やはり俺に呆れているのだろう、と思い加賀の様子を見ると、

提督「加賀?」

 口を小さく開き、眉を下げ、じっと入り口の方を見ていた。

 それはまるで、伊58の事を心配しているかのような眼差しで、思わず俺は呆気にとられてしまった。

 ……しかしそれも一瞬のことで、

加賀「……なんでもないわ」

 次の瞬間には、俺を冷たい眼差しで見ながら、加賀は席に着いた。

 仕方なしに加賀の正面……には椅子がなかったので、斜め前の椅子に腰を下ろす。


提督「……」

加賀「……」

提督「……」

加賀「……」

 もくもくと食事をする加賀に対し、何を言えばいいのか分からず、ただ誤魔化すように湯呑みを傾ける。

 湯呑みが空っぽになったので席を立ち、ふと思いついたように加賀に声をかける。

提督「お茶、いるか?」

加賀「……結構よ」

提督「そうか」

 断られたものの、特に落胆はしない。いきなり加賀が心を開いてくれるとは思っていないからだ。

提督(まずは少しずつ……だな)

誰が食事作ってるんだ?
材料とかあったか?

>>424
各人自分で自分の物だけ作ってます。
材料も各自それぞれで賄ってます。


 あれから加賀とはあまり話さなかったが、邪険に扱われなかっただけまだ昨日よりは前進したと思う。

提督「っと。危ない危ない」

 廊下に開いた穴に危うく足を突っ込みそうになりながら歩く。

 この床も早めに直したほうがいいかもしれない。

提督「とはいえ、材料がな……」

 廃材ならばその辺りにいくらでもあるので、使える木材をまた選ぼうか。

提督「いや、それでは足りないな」

 食材も不足している。やはりいずれは街に出る必要があるか。

提督「幸い貯蓄はまだある、が……」

 いずれはそれも尽きる。そうなる前にこの状況を好転させなければならないな。

提督「工廠の様子も確認したいし、やることは多いな」

 何もないよりかはマシではあるかもしれないが。

提督「さて、どうするかな」


1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

↓1

オリョクルさせなきゃ(使命感)


提督「……うん。やはり気になるな」

 先ほどの食堂での伊58を思い返す。

 現状、この中で一番問題が目に見えているのが彼女だろう。

 何しろ俺の姿を見ただけで逃げ出し、或いは泣き叫んでしまっている。

 それが男性に対してなのか、それとも提督という存在に対してなのか、せめてまずはそれだけでも確かめるべきだろう。


提督「伊58、居るか?」

 コンコン、と軽くノックをする。

伊58「……っ」


 ↓1のコンマ十の位だけ好感度上昇。
 ぞろ目で伊58の回想


提督「いるか?」

伊58「……、……」

 微かに呼吸音が聞こえる。耳をそばだててこちらの様子を窺っているのだろうか。捕食者を警戒する兎の様だ。

提督「何も警戒しなくていい。ただ少しお話をしに来ただけだ。扉も開けなくて良い」

伊58「……、ほんと?」

 ぽつりと声が返ってきた。

提督「ああ」

伊58「で、でも、この間、扉蹴飛ばして、開けよう、と」

提督「あれは誤って足をぶつけたんだ。すまない」

伊58「……、ん、ん」

 たどたどしく話す彼女に、ゆっくりとできるだけ優しく話しかける。

伊58「……」

 呼吸音だけが聞こえる。

伊58「……、え、と」

提督「ああ」

伊58「何か、用、でちか」


提督「まぁ、用、と言うわけでもないんだが。ただ、君の様子が気になってな」

伊58「ゴーヤ、の」

提督「ああ。酷く辛そうだ」

伊58「……、……」

提督「何か、力になれることはないか?」

伊58「え、と」

提督「話すことで、楽になる事もある」

伊58「ん、と」

提督「……焦らなくていい」

伊58「……」

提督「……」

伊58「……う、うぅ」

提督「どうした?」

伊58「こ、こわい」

提督「分かった、ならやめよう」

伊58「う、うう、ふうう」

提督「深呼吸をするんだ。何も考えず、ゆっくりと息を吸って吐くんだ」


伊58「……、……」

提督「落ち着いたか?」

伊58「……ん、ん」

提督「少しずつでいい。ゆっくり治そう」

伊58「……」

提督「……話すのが辛かったら筆談でも構わない。とにかく一人で塞ぎこむのはあまり良くない。助けを求めるんだ」

伊58「たす、け」

提督「ああ。俺は、君を助けたい」

伊58「……え、と」

提督「なんだ?」

伊58「……」

提督「……」

伊58「……あ、の」

伊58「……、あ、あり、がと」

榛名「提督! こちらにいらしてたんですね!」

提督「あ、ああ、びっくりした。榛名か」

榛名「はい」

提督「っと、すまない伊58」

伊58「……」

提督「伊58?」


榛名「ええと、提督。伊58さんの部屋の前で一体何を?」

提督「ああ。少しでも何か話が出来れば、と思ったんだ」

榛名「そうですか。お話は出来ましたか?」

提督「ああ。と言っても、数分程度だが」

榛名「……、さすが提督です」

提督「そんな褒められるようなことじゃない。榛名だって少しくらいは話したことがあるだろう?」

榛名「……、いえ。榛名は一度も、伊58さんとは」

提督「そうなのか?」

榛名「はい……。何だか、避けられているようで」

提督「ふむ……」

榛名「……」

提督「……あまり、塞ぎこまない方が良い。きっと、偶々だ」

榛名「そう、でしょうか」

提督「ああ。榛名は、何か伊58に酷いことをしたのか?」

榛名「まさか、そんな!」

提督「だったら偶々だ。気に病むな」

榛名「はい……」


提督「それより、俺を探していたのか?」

榛名「あ、はい。実は……」





伊58「……」

伊58「……」

伊58「……榛、名」

伊58「……」ガタガタガタガタ

別の榛名の仕業かね

今日はここで終わりです。

現状の好感度
鈴谷4
榛名0 
加賀5
伊58 5



不沈艦さんは一応仲間に出来ます。
あと、各キャラの現在に至るまでの設定らしきものは好感度が上がったら出してく感じでいいですかね?

友好的な榛名の好感度が一番低いのが意外
秘書艦補正とか無いのかね

>>441
言及してませんでしたが、一応ここでは各艦娘はこの世に一人です。
でないと「大和型とか別にまたもらえるやん!」ってなっちゃいますので。

>>1乙 遅くまで乙!

>>442 その形式でいいと思います

質問なのですが、提督の目標は、>>64さんの安価の、この鎮守府で提督としてやり直すということで大丈夫でしょうか
そして現状、出撃自体がままならない状態ですが、出撃を選択した際に効果はあるのでしょうか

現状答えられないものであるならスルーしていただいて結構です
長文、無礼を失礼しました

>>444
ゲームと同じく出撃・演習での好感度を1.2倍にしようかとも考えていますが、正直決めかねています。
それをするなら秘書艦を入れ替えられるようにしないといけませんからね……。

>>449
目標については、現時点ではそうなります。ただ、これも安価次第で変化するでしょうから、必ずしも絶対にそれだけだ、とはいえません。
後はやっぱりケッコンカッコカリですかね。これも個人的にはやりたいです。
出撃も演習も現時点で選ぶことは可能です。と言うより選ばないとフラグさえ立たない子もいます。

とりあえず、全員(の好感度)を改造できるレベルにすれば、過去に何があったのかがはっきりと分かります。

フラグ制か···
重婚はアリ?


>>453
個人的にはあんまりハーレム好きではないんですけど、ゲームが重婚できるのでまぁいいかなとは思っています。
ただ私がヤンデレ好きなので、あくまでこれはぼんやりとした予定ですが、

・好感度がゲームでの改造可能レベル(例:加賀30、鈴谷35、榛名25、ゴーヤ50)になったらトラウマ全オープン

・ケッコンカッコカリについてはゲームと同じく好感度99になったらいつでも可能

・好感度50以上の時に、好感度が上がるコンマ判定でぞろ目が出たらヤンデレポイント(面倒なのでYP)+1

・YPは5がMAX、5になったら素敵なパーティ(意味深)

とかにしたいなぁと思っています。

全員のYP5にして重婚、しよう!

ヤンデレにしなきゃ(使命感)

クリスマス? 知らない子ですね……。
皆いるって信じて始めます


提督「んー……良い天気だ」

 寒さこそあるものの、冬の晴れた日は嫌いではない。

 ほうと吐いた息が少し白く色づき、消えていく。

 とはいえ、もう時刻は正午を過ぎているので、ここからは寒くなっていく一方だ。

 日が暮れる前に、何かしようか。

提督「さて、どうするかな……」


1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

↓1


提督「榛名、居たか?」

 食堂へ顔を出すと、榛名が丁度いたので声をかける。

榛名「はい、なんでしょうか?」

 相変わらず榛名は掃除をしていたようで、箒を動かす手を止め、こちらに反応する。

提督「また掃除をしていたのか」

榛名「す、すみません」

 身を縮めるようにして謝ろうとする榛名。

提督「昨日も言った通り、あまり根を詰めすぎないでくれ」

榛名「……、大丈夫です」

 少しだけ間をおいてそう榛名が答える。

 両手の傷は今日も変わっていない。

 それを見て、思わず心の中で深く息を吐いた。


榛名「提督、榛名に用事でしょうか」

提督「ああ、そうだ」

 沈黙が続きそうになったところで、榛名にそう言われてようやく本題を思い出す。

榛名「榛名は何をすればいいのでしょうか」

提督「そう急かすな。ええとだな……」


提督「↓1」


提督「今度出撃したいんだが何か案はあるか?」

榛名「出撃、ですか」

提督「ああ。いずれやらなければいけないことだ」

 ここからやり直すと決めた。

 また一から……いや、ゼロから、この鎮守府で何とかすると。

 その為には、今いる彼女達から意見を聞くのは必要不可欠だ。

 ましてや榛名は秘書艦、いうなれば、何も問題がなければそのまま出撃においては旗艦になる。

 であれば、まずは榛名に話を聞くのが妥当だろう。

榛名「そう、ですね……」

 じっと目線を床に落とし、考え始める榛名。人によって考える時に観る場所は違うと言うが、どうやらそれが榛名の癖のようだ。

榛名「確かに、資材は必要ですから、いずれは出撃はしないといけませんね」

提督「ああ」


榛名「……、案、と言うわけではありませんが」

提督「ああ、構わない」

榛名「伊58さんは、出撃するのでしょうか?」

提督「そうだな……」

 それは当然の疑問で、実際の所一番のネックなのだ。

 あの精神状態の伊58を無理に連れて行くのは困難だろう。

 いずれは解決しなければいけない問題だとしても、今はあまりに時期尚早すぎる。

榛名「伊58さんは連れて行かない、という事でしょうか」

提督「……>>+1」


出撃させるorさせない


提督「……いや」

榛名「えっ?」

提督「伊58にも、参加してもらう」

榛名「……、大丈夫なのでしょうか?」

 不安そうに榛名が見上げる。

提督「現状、あまりに戦力が不足している。三人と四人では大きな差だ」

榛名「それは……そうですが」

 あまり乗り気ではないようだ。

 確かに今の伊58を海に連れ出すのは難しいだろうが、しかし加わってもらう必要もある。

提督「燃料の問題もあるし、遠出はしない。鎮守府近海の警邏と資材確保を中心にする」

榛名「仮に、深海棲艦に遭遇した場合は?」

提督「向こうの艦数次第だ。こちらの方が多く、対応できそうであれば対応、そうでなければ即退避」

榛名「……」

提督「その判断をする旗艦は、榛名。君に任せたい」

榛名「……、榛名ですか。良いのでしょうか? 加賀さんや鈴谷さんでなくて」

提督「問題ない」

榛名「……、……」

 いくらかの逡巡の後、榛名は小さく頷いた。


榛名「出撃はいつでしょうか? これからですか?」

提督「いや、今日はもうやめておこう。まずは出撃の話を全員にしないとならない」

榛名「分かりました。……伊58さんはどうしましょう」

提督「そうだな……」

提督「>>+1」

自分で説得するor榛名に説得してもらう


提督「伊58には俺から直接話す。榛名は、他の二人へ連絡しておいてくれ」

榛名「はい、分かりました」

 こくりと頷き、榛名は食堂を後にした。

 そんな榛名の後姿を見やりながら、考える。

提督(榛名にはああ言ったが……果たして本当にこれで良かったのだろうか)

 実の所、伊58を部屋から海へと連れ出す確実な方法は全く思いつかない。

 先日ドア越しに少し話をしただけで、やや早計だっただろうか?

提督「……、いや、しかし、話してみないことには何とも言えないな」

 何はともあれ、まずは彼女と話をしてみよう。


提督「伊58、いるか?」

 軽くドアをノックする。返事の代わりに部屋から物音が聞こえた。

提督「突然済まない。また少し話をしようか」

 いきなり切り出すのもどうかと思ったので、まずは昨日と同じ様にそう切りだした。

 しばしの無言の後に、たどたどしく声が返ってくる。

伊58「……、何、話すの?」

 思いの外、悪い反応ではないようにも思える。が、あくまでそう思うだけで、実際は相変わらず怯えた声色だ。

 下手に刺激しないように、やんわりと切り出す。

提督「なんでもいい。何か言いたいこととか、したいこととか、好きなことでも何でもいい。話して楽しくなることを話そう」

伊58「ん……」

もぞもぞと音がする。

伊58「ん、んと」

提督「うん」

伊58「ん、ん……」

 何を言おうか悩んでいるようだ。なんだかそれが少し微笑ましく感じる。


伊58「ゴーヤは、ね。ゴーヤって、言うん、だよ」

提督「……? ……、あぁ、なるほど。そうだな」

 一瞬だけ何のことを言っているのかと思ったが、すぐに合点がいく。

 彼女の艦娘としての艦名は、文字で書くと伊五十八ではあるが、それを一々そのまま口頭では言わない。

 ニックネームと言うほど砕けたものではないが、まぁ、愛称のようなものだ。

伊58「で、でも、苦くは、ないんだよ」

提督「うん。俺も嫌いじゃないぞ」

 相変わらず怯えた声色ではあるが、それでも彼女主体で話が出来ているというのは大きな前進だ。

伊58「き、嫌いじゃ、ない?」

提督「ああ。火を通すと苦味も抜けるからな」

伊58「ゴーヤは、おかずじゃない、もん」

提督「すまないすまない」

伊58「ん、ん」

 笑い声は聞こえないものの、その代わりに少しだけ声が穏やかに聞こえた。

 せめて表情だけでも綻んでいてくれていたら嬉しいのだが、ドアの向こうで一体今どんな顔をしているのだろうか。


伊58「あ、あの」

提督「うん?」

 そんな事を考えていると、おずおずと切り出すように、再び彼女が声を発した。

伊58「い、今、何時、かなぁ」

提督「今? 今か……」

 腕時計を確認する。

 この鎮守府では、俺が知る限りは食堂にしか時計はない。

 皆自室に時計はないのだろうか?

伊58「ん、ゴーヤの時計、電池、切れちゃった、の」

提督「あぁ、そうか。今は15……いや、じきに16時になる」

 明日のこの時間には、出撃は終わらせている予定だが、果たして全員揃うだろうか。

 少しだけ不安になる。

伊58「ん……」

提督「どうした?」

 返事の代わりに、幾つかの物音が聞こえる。

 最初はもぞもぞとした衣擦れのような音で、それが何かをまさぐるような音に変わり、最終的には何かを頬張る音に変わった。

伊58「むぐ……」


 思えば先日食堂で会った時も、彼女はすぐに自室へと逃げ帰ってしまった。

 彼女にとっては、食堂は食料をとりに行く場所で、安心して食事が出来るのはこの部屋なのかもしれない。

伊58「お、おやつ、でち」

提督「そうか。何を食べているんだ?」

伊58「ん、ん、と。お饅頭、だよ」

提督「そうか。俺も好きだ」

伊58「ん、うん。加賀さん、がね、くれた、の」

提督「……、そうなのか」

伊58「うん。加賀さん、は、優しい、でち」

 意外な一面、といったら失礼かもしれないが、やはりそれは変わったことの様な気がした。


──私を彼女たちと一緒にしないで


 先日加賀に言われた言葉を思い出す。

 あの時の言葉は、決して嘘なんかには思えなかった。

 本当に、心の底から全てを憎んでいるような、そんな表情。

 その加賀が、こうして引きこもる伊58に何かを差し出すと言うのは、矛盾しているようにも感じられる。

 或いは、俺の知らない何かが、二人の間にはあるのだろうか。

 俺がこの鎮守府に来る前に、二人に何かが。

伊58「……、どうし、たの?」

提督「ん? ああ、いや。なんでもないよ。ゆっくり食べなさい」

伊58「ん、うん」

 不思議そうな声で尋ねる彼女にそう返しながら、一つ息を吐いた。

出撃要請の前にゴーヤの好感度上昇

↓1のコンマの十の位だけ上昇


 5分ほど沈黙が続いた後、

伊58「ごちそうさま、でち」

 小さく彼女がそう呟いた。部屋で一人だというのに律儀だと、どうでもいい事を考え、首を振る。

伊58「ん、と。まだ、話す、の?」

提督「……、ああ、そうだな」

 告げるべきかどうか悩みながら、それでも決意する。

伊58「……? ん、と。何、話す、の?」

 はっきりとしない俺の言葉に、おどおどとした声で尋ねる伊58。

提督「少し、聞いてくれないか?」

 その彼女に、ゆっくりと噛み砕くように説明をし始める。

伊58「ん、ん。なに?」

提督「今、この鎮守府には、資源が乏しい。燃料も鋼材もボーキサイトも底をつきそうだ。弾薬にいたっては本当に余蓄がない」

伊58「……、……」

提督「なので、明日出撃をすることにした。メンバーは、加賀、鈴谷、榛名」

提督「遠くに行って敵を倒すのではなく、この鎮守府近海で資源を回収するのが目的だ」

伊58「……」


提督「なので決して無理なことはしない。仮に、万一敵が現れても、こちらより敵の数が同数以上の場合は即時撤退する」

伊58「……」

提督「だから、出撃と言う言葉を使ったが、戦うためではない。資源を回収するためだ。生きるためだ」

伊58「……」

提督「……、君が、出撃したくないという事は重々承知している。その上でこんな事を言うのは、君にとっては辛いことだとも思う」

伊58「……」

提督「だが、現状君を除くとこの鎮守府には三隻しかいないんだ」

伊58「……」

提督「なんとか、頼めないだろうか?」

伊58「……」


好感度の分だけ出撃可能
↓1

00-06 出撃してくれる
07-99 無理
ぞろ目 見てるだけなら


伊58「……、……ご、ごめん、なさい」

提督「……ああ」

 分かっていた答えとはいえ、やはり少し苦しいものがある。

伊58「海、は、こわい、でち」

 今の彼女を無理に海に連れ出すのは、やはり厳しかったか。

 分かってはいたものの、もしかしたらという甘い期待をしてしまった。

提督「無理を言って済まなかった」

 ドア越しにそう謝る。

伊58「あ、あの。ん、と」

提督「……?」

 と、まるでそんな俺を止めるように、しどろもどろながらも彼女が再び口を開く。

伊58「ん、と。ね」

提督「ああ」

伊58「……、み、見てても、いい、かなぁ」

提督「見てる、とは。出撃を、ということか?」

 冷静に考えればそれしかありえないのだが、何を考えたのか聞き返してしまった。

 動転でもしていたのだろうか。


伊58「ん、ん。うん」

提督「そうだな、それしかないな。何を言っているんだ俺は。勿論構わない。大歓迎だ」

 彼女なりの、精一杯の頑張りなのだろう。

 海を見るのも嫌なのかどうかまでは分からないが、それでも部屋から出てきてくれるだけで今は十分だ。

提督「ありがとう」

伊58「ん、と」

提督「予定は、そうだな。ああ、ええと」

 そういえば、具体的な時間を決めていなかった。

 後で榛名と合流して確認しよう。

提督「明日、天気がよければ昼に行おう。具体的な時間は、実はまだ決めていなかったんだ。明日また迎えに来るよ」

伊58「ん、うん」

提督「改めて礼を言う。ありがとう、伊58」

伊58「ん……、うん」

 ようやく一つ、一つだけだが、前進の兆しを見せた気がする。


 それから、一旦伊58の部屋を後にして、榛名を捜すことにした。

提督「ああ、居た。榛名」

榛名「あ、提督」

 捜す、といっても、この鎮守府ではそれは容易い。

 まともに立ち寄ることの出来る部屋自体が大分限られているからだ。

 建物自体が別の場所にある工廠室を除くと、各人の個室と食堂、それからトイレと浴場くらいしか俺も足を踏み入れていない。

 後の空き部屋は文字通り何もなく、あっても瓦礫や埃などといったもので、偶に長らく先客として居座っていたであろうネズミや昆虫─黒くて速い奴だ。私はあれが大の苦手なので名前は伏せておく─がいるくらいだ。

 榛名は丁度お茶を飲もうとしていたらしく、ついでに俺の分も淹れてもらった。

 近くの椅子を引き寄せて、榛名の向かいに座る。

 確かこのテーブルは、昨日までは埃まみれだったのだが、いつの間に榛名が掃除したのだろうか。

 この様子では、やはりあまり休んではいなさそうである。

榛名「提督、伊58さんは……」

 やはり気になっていたのだろう、あまり間をおくことなく榛名が切りだした。


提督「出撃自体は、断られた。まだ海が怖いらしい」

榛名「そうですか……」

 まるで自分の事のように俯いて落ち込む榛名。

提督「……だが、部屋からは出てきてくれるようだ。見てるだけでも、と言ってくれた」

榛名「ほ、本当ですか?」

 即座にぱっと顔を上げる。忙しい反応だ、と思わず心の中でそう思った。

榛名「そうですか……」

 ほっとした表情で、やはり自分の事のように嬉しそうにする。

榛名「良かったです」

提督「ああ、そうだな」

 もしかしたら、榛名もまた、加賀と同じく何か彼女に対して思うところがあるのだろうか?

 少しだけ気になったが、それは質問に知るには余りに些細な棘で、じきに気にもならずに消えていった。

榛名「榛名が行っていたら、きっと失敗していました」

提督「そんなことはない。偶々だ」

榛名「いえ、提督のおかげです」

提督「……」

 どう返そうか悩み、結果何も返答はしなかった。

 榛名もまた、自分の湯呑みの中をじっと見つめただけで、それ以上は何も言わなかった。


提督「それで、榛名のほうはどうだった?」

榛名「……」

 湯呑みから目を離さない榛名。

提督「……榛名。どうした」

榛名「……っ、はい。なんでしょう」

 慌てて榛名が顔を上げる。

 その反応に、まさか二人の説得に失敗したのかと思い、つい声が強張った。

提督「二人は、どうだったんだ。駄目だったのか?」

榛名「す、すみません。大丈夫です。お二人とも、参加してくれるそうです」

提督「なんだ、そうか」

榛名「すみません」

 折角伊58が部屋から出てくれることになったのに、肝心の出撃が出来なければ意味がない。

提督「榛名も、よく説得してくれたな」

榛名「……、いえ。榛名は何も」

提督「そう謙遜しなくていい」

榛名「……いえ」

 が、どうにも榛名の表情は芳しくない。


提督「何か二人に言われたか?」

榛名「……、いえ、何も」

 そう尋ねてみるが、榛名の解答はそれで終わった。

 本当に何も言われなかったのかもしれないが、どちらかと言うとそうではない気がした。

 そんな榛名の様子を見ながら、ふと考える。

 伊58に饅頭を差し入れた加賀。

 加賀とはある程度話していた鈴谷。

提督(……、いや。しかし)

 仮説とも呼べない物が頭の中に芽生えるが、即座にそれを否定する。

提督(考えすぎだろう)

 それより今は、明日の出撃について考えなければならない。

 この鎮守府での出撃は初めてだ。この出撃では資源の回収を目的と皆に言ったし、事実その通りだが、それと同じくらいにある目的がある。

 それは、この出撃を通じて、少しでも意思疎通を図ること。

 四人の蟠り、四人の壁を少しずつでもなくしていきたいし、この出撃がその第一歩である。

 なので、明日の出撃は失敗するわけにはいかない。

 例え鎮守府近海とはいえ、油断は出来ない。いつどこにどんな危険があるのかは分からないのだ。


提督「このあたりの海域の資料はあるか?」

榛名「はい、資料室に」

 思いの外すんなりと返事が返ってきた。

 恐らく彼女のことだ、仕事を求めて資料の整理を既にしていたのだろう。

 資料室の存在には気付かなかったが、他の空き部屋と混同して見落としてしまったのだろうか。

 いずれにせよ、資料があるのは心強い。

提督「じゃあ、早速それを見たい」

榛名「はい、取ってきます」

提督「ありがとう、頼む」

 きびきびと榛名は食堂を後にした。

 一緒に行っても良かったなと思ったが、今更である。


榛名「すみません、お待たせしました」

 十分もしないうちに戻ってきた榛名の手には、十枚ほどの紙が束ねられていた。

 それを一枚一枚確認し、すぐに違和感に気づく。

 やけに真新しい紙をめくり、印刷でなく手書きの文字を読む。

榛名「……、どうかしましたか?」

提督「この資料は……」

 丁寧で綺麗な字だ。

 恐らくこの資料は、榛名の手書きだろう。

 ここにあったであろう書類は、本営が回収してしまったのかもしれない。

 だからわざわざ書き直したのか。

榛名「……、すみません」

 何故か彼女は謝った。

提督「謝る事はない」

 どうにもそれは、彼女の悪い癖だ。

今日はここで終わります。明日は出撃から。


出撃と演習の違いですが、

・出撃 コンマで好感度・資源上昇 一定確率でドロップ艦あり ダメージ判定あり

・演習 コンマで好感度上昇 ドロップ艦なし ダメージ判定なし

こんな感じですかね。

足柄さん改二おめでとうございます。
まぁうちはレベル80の球磨を除くと五十鈴と那珂ちゃん以外誰も改二になっていないクソザコ鎮守府なので縁のない話ですけど。

球磨改二実装あくしろよ


提督「……、と、以上の通りだ」

榛名「はい!」

加賀「……」

鈴谷「はぁ」

 昨日と変わらず冬晴れに恵まれた昼である。

 予め昨日の内に纏めておいた─といっても、ただ辿るルートと総点を綴っただけの紙一枚程度のものである─資料を三人に見せながら、言葉を切り上げた。

 三者三様の返答を聞きながら、ちらと後ろに目をやる。

 二十メートルほど離れた位置にある、母港へと直接出る鎮守府の出入り口で、身を半分ほど隠しながらこちらを見る伊58と目が合った。

 さっと一度顔を隠し、またおずおずと顔を出す。

 彼女の自室からここに来るまでの間も、同じ様に一定の距離を置いてでないとついてきてくれなかったのを思い出す。

提督「書いてあるとおり、あくまでこれは戦うための出撃ではなく、資源を確保するためのものだ。敵が出ても、必ずしも戦闘をする必要はない」

加賀「……」

 何か言いたげな表情で加賀がこちらを見やる。

 深海棲艦は全て始末する、と言っていた加賀からすれば、できれば撤退などしたくはないのだろうが、しかしそうも言っていられない。

 弾薬の予蓄はなく、本当に戦闘一回分しかないことを考えると、長期戦さえも行えない。

 確実に相手をしとめられる数的有利な状況でない限りは、撤退以外の選択肢がないのだ。

 そして加賀もそれが分かっているからこそ、今回は口をつぐんでいてくれるのだろう。


鈴谷「で、旗艦は? 優秀な秘書艦さんがそのままやる感じ?」

提督「そのつもりだ」

鈴谷「うぃーす。よろしくねー」

榛名「……は、はい」

 全く榛名のほうなど見ずにそう言う鈴谷。

 正直に言って、鈴谷が断らないで参加してくれたのは、実の所意外だった。

 仮に突っぱねられていてもおかしくはないと思っていたし、単に榛名が熱心に説得したからなのかとも思ったが、やはり二人の仲は決して良くない。

 いや、良くないと言うより、むしろ四人の組み合わせの中で一番溝が深そうに見える。

 それも、一方的に鈴谷が榛名を遠ざけているような感じがする。

鈴谷「さてさて、さっさと参りましょうかね」

 軽口を叩くように準備をする鈴谷と、少し俯いたままの榛名。

 そして我関せずの加賀。

 果たして大丈夫だろうか……。


そんなわけで出撃コンマ

↓1のコンマの数だけ燃料
↓2のコンマの数だけ弾薬
↓3のコンマの数だけ鋼材
↓4のコンマの数だけボーキ

ただし↓1~↓4のコンマの一の位で一番小さい数字の数だけ敵出現
↓1~↓4にぞろ目があったらドロップ

どうしてその高コンマをゴーヤに捧げないのか


提督「どうだ、榛名」

榛名「はい、大丈夫です。今のところは問題ありません」

加賀「……」

榛名「……加賀さん?」

加賀「……敵反応あり」

鈴谷「マジ? 何体?」

加賀「四体ね」

榛名「提督、敵艦隊捕捉しました。数は四体」

提督「こっちより多い、撤退だ」

榛名「はい、分かりました。撤退します」

加賀「……」

榛名「加賀さん?」

提督「加賀、ここは撤退だ。数的不利で戦うのは危険だ」

加賀「……」

鈴谷「さっさと帰る、はい帰るよ!」

加賀「……くっ」


榛名「提督、間もなく帰還します」

提督「ああ、分かった」

 くいくいと袖を引っ張られて見下ろすと、いつの間にか傍らに伊58が居た。

 怯えながらも、長袖の肘の当たりを遠慮がちに引っ張る彼女に釣られて海を再度見る。

 良く目を凝らすと、榛名達から百メートルほど離れた辺りの海面に、何かが浮いているのが分かった。

 最初は流れ着いた木材かと思ったが、どうにも様子がおかしい。

 双眼鏡に目を当てると、それは確かに艦娘だった。

 ふらふらと舵取り怪しくよれたかと思うと、そのまま海岸へと倒れこんだ。

提督「榛名、聞こえるか?」

榛名「はい、なんでしょう?」

 その様子をくまなく榛名へ伝えると、

榛名「分かりました、合流します」

 といい、海面に“く”の字を描くように左に折れた。

提督「一人……いや、二人、か?」

伊58「……」

 なんにせよ、伊58のおかげで間に合いそうだ。

提督「ああ、ええと。伊58」

 そう思い、彼女の名前を呼ぶとびくりと肩を震わせ、摘んでいた手を離し、一歩二歩と下がってしまった。

提督「よく見つけてくれた、ありがとう」

伊58「……、ん、ん、と」

 ふるふると首を振る。

提督「目がいいんだな」

伊58「ん、と。うん、目、いい、よ」

 ぎこちなく、それでも彼女は軽く微笑んだ。

 初めて彼女の顔をちゃんと見たと、今になってようやく気付いたが、そういえばこの鎮守府で微笑んだ顔を見るのも初めてだと思った。

ドロップはもうこの際好きな艦娘なんでもいいんじゃないでしょうか、安価スレですし。

早いもの勝ちで二人どうぞ。ただし、過去にこのスレで既に出てる子(大和とか)以外でお願いします。


榛名「提督、作戦終了です。帰投しました」

提督「あぁ、おかえり」

榛名「こちらが回収した資源です」

 少しだけ表情を綻ばせながらそう言う榛名。

 彼女からすれば、ようやくきちんとした任務をこなせた、という安心感のようなものがあるのだろう。

鈴谷「それと、この子達だね」

浜風「……」

睦月「……」

提督「そうだな」

 先ほど伊58が気付いた、座礁した二人である。

 冬の冷たい海水に濡れ、しかも艤装の一部は破損している。

 息も絶え絶え、というほどではないにせよ、大分疲弊しているのは事実だ。

 ましてや連れてこられたここの様子は、彼女たちからしたらとても自分たちがいた鎮守府とは比べ物にならないに違いない。

 不安げに辺りを見回す様子から、それが見て取れた。

提督「とりあえず、君たち、名前を教えてくれないか。私はここの提督だ」

浜風「……、浜風、です。陽炎型十三番艦の駆逐艦です。ここは、本当に鎮守府……なんですか?」

 その反応も無理はない。

浜風「す、すみません。失礼なことを」

提督「いや、無理はない。そう思うのも当然だ」


提督「君達は、どこの鎮守府から?」

浜風「私も睦月も、南西からです」

提督「そうなのか」

睦月「……」

 じっとこちらを見上げたまま、一言も喋らない彼女。

浜風「……睦月?」

睦月「……」

 そんな彼女を見て──厳密には、彼女の瞳と髪を見て。

 一つの影が重なった。

提督「……君は」

睦月「……」

浜風「え、ええと……?」

 まだこの鎮守府に来る前の、あの苦く辛い思い出だ。

睦月「……そう、なんですね」

 ぽつりと彼女が呟いた。

睦月「如月が言っていた、提督さん、です、よね?」

提督「……、ああ。そうだ」

睦月「そう、ですか」

 沈黙が、続いた。


睦月「如月から、生きてた時の如月から、話はきいてます」

提督「……ああ」

 生きていたとき、と言う言葉に、改めて重さを感じる。

 刺す様な目線で鈴谷が見てくるが、目を合わせることなく睦月に居直った。

睦月「どうして、如月は……」

提督「……すまない」

睦月「……」

 同じ言葉を何度も言われ、その度に同じ言葉を返してきた。

 そしてそれに対する沈黙も、またこれまでと一緒だ。

 恨まれるにせよ、憎まれるにせよ、必ずそれらは沈黙が最初に入る。

 そこからふつふつと熱を焦がすように感情が入り混じる。

睦月「……」

 すう、と息を吸い、同じくらいに息を吐く。

睦月「……、……。そうですよね」

 そうして勢いのままに感情を爆発させるのかと思ったが……彼女はそうはしなかった。


提督「……何も、言わないのか」

睦月「およ?」

 とぼけたような声で、彼女が首をかしげた。

睦月「ううん……。そりゃ全く言いたいことが何もないって訳じゃないですけど」

提督「なら、何故」

睦月「にゃあー……ううん。なんと言うか。仕方ない、んだと思います」

提督「仕方ない?」

睦月「化け物相手に戦ってるんですから、そう言う事もあるかもしれないっていう覚悟は、心のどこかにありますから」

提督「……」

睦月「それに、如月、提督の事気にいってましたし。だから、きっと、酷い事されて死んだわけじゃないのなら、諦めもつきます」

提督「そういう、ものなのか……?」

睦月「はい」

 にこりと笑う彼女の表情に、嘘は感じられなかった。

 或いは単に、彼女がこの場では感情を抑えただけなのかもしれない。

 いずれにせよ、どうしていいのか分からず落ち着かない様子の榛名と浜風を前に、これ以上考え込んでも仕方ない。


提督「……、分かった。何にせよ、今すぐに帰るのは二人とも無理だろうから、暫らくは行動を一緒にすることになるな」

 艤装の修理をしようにも、妖精や技師がいないこの鎮守府では、自分で何とかするか、彼らを偶然見つける他はない。

 それ以前に、この鎮守府から他の鎮守府へ連絡を出す手段がない。

 鎮守府同士で連絡を取り合おうにも、そういった設備もないし、かといって本営から切り離されているこの鎮守府がいくら本営に連絡しようと、無視されるのがオチだ。

 なので、まずは彼女達の鎮守府自体に、彼女たちのことを気づいてもらわなくてはならない。

睦月「体もずぶ濡れだしー」

浜風「そうですね……」

提督「入渠か……。榛名、案内してあげてくれ」

榛名「はい、分かりました」

睦月「ふぇぇぇぇ……お風呂入りたいんだけど」

浜風「お借りしても、宜しいですか?」

提督「好きに使ってくれ。……といえるほど立派なものではないが」

鈴谷「そんじゃあたしも。今日はもういいっしょ?」

提督「ああ」

 そうして全員がいなくなる。

提督(伊58は……部屋に戻ったか)

 ふう、と大きく息を吐く。

 何はともあれ、作戦は成功した。資源も回収できたし、何もいう事はない。

提督「浜風と睦月。しばらくの間は力を借りることにしよう」

 艤装の予備があったかどうかを思い出そうとして、そこでふと気づく。

提督「……、……そういえば」

提督「加賀はどこに行ったんだ?」


加賀「……いたわね。四体」

加賀「敵空母の主力が出てくるのなら……流石に、慎重に攻めたいところだわ」

加賀「鎧袖一触……仕留めて見せる」

加賀「……っ、ふっ!」

加賀「やりました……後、三体……!」

加賀「撤退、ですって……? 笑わせないで。ここは譲れないわ」

加賀「敵は全員殺す……それだけ」

加賀「殺すのよ……」

加賀「小破……くっ、頭にくるわ」

加賀「仕留めるのよ……!」

加賀「後二体!」

加賀「……っ!」

加賀「甲板に、火の手が。飛行甲板に直撃……ぐっ」

加賀「退けない……退けない、退けない」

加賀「私は……こいつらを全員殺す……!」


提督「──何を、やっているんだ……!?」

 母港から見えた光景に、思わず俺は声を震わせた。

 息を切らせ、歯を食いしばりながら、必死の形相で深海棲艦に攻撃をしている加賀。

 もんどりうちながら海面に倒れる深海棲艦一体と加賀を挟んで反対側にも深海棲艦。

 そこから少し離れた所にも波に流されるだけの深海棲艦が居た。

提督「四対一で戦っているのか……!?」

 ありえない。

 いかに加賀の錬度が高かったのだとしても、それはもうそういう次元ではないのだ。

 四方から一斉に取り囲われたら、死角から攻撃されたら、もう錬度も何も関係ない。戦法も何もない、ただの数に任せた横暴で粗暴な戦い。

 そして、それは間違っていない。それが正解なのだ。

加賀「っ、くっ……!」

 主砲をバラ打ちしながら、加賀が水面を走る。

 背後の敵をやり過ごし、脇腹へ銃弾をねじ込む。

 雄たけびをあげながら深海棲艦が海面へ倒れた。

 と同時に、最後の一体であろう深海棲艦が、加賀の右から口を開けて迫る。

 やや反応の遅れた加賀だが、すぐに反転して大きく開いた口めがけて銃を打ち込んだ。

加賀「はぁっ……はぁっ……」

 よろよろと揺らめきながら加賀が水面を滑り、一度だけ倒れこみそうになりながらも何とか持ちこたえる。

加賀「……、……!」

 苛立ちを紛らわすかのように、背に携えた矢を抜き、近くに浮いていた深海棲艦の死体に突き刺す。

 その行為に意味はなく、本当に苛立っていただけなのだろう。

 それでも、呼吸を整えながら矢を抜いた加賀の瞳は、深海よりも遥か遠い、あの時の暗く濁った瞳のように見えた。


提督「加賀!」

加賀「……、なんでしょう」

 覚束ない足取りを一瞬見せながらも、俺の姿に気付いた途端にそれは消えた。

 しかし、いくら取り繕っても、加賀の損傷は見て取れた。

提督「何故あんな無茶な真似をした」

加賀「無茶ではありません。心配は要りません」

提督「馬鹿を言うな。事実ボロボロじゃないか」

加賀「心配は要りません。同じ事を言わせないでください」

提督「心配させるようなことをしないでくれ」

加賀「……、余計なお世話です」

 そう突っぱねると、やはりふらつきを隠せない足取りで、加賀は行ってしまった。

提督「……」

 引き止めたい気持ちもあったが、休ませてやるべきでもあったので、追う事はしなかった。

 いや、出来なかったと言うべきなのかもしれない。

 それほどに、加賀の瞳は暗く重たいものだった。


今日はここで終わりです。

一応出撃はしたので伊58以外好感度上昇。

加賀の好感度上昇↓1のコンマの十の位
鈴谷の好感度上昇↓2のコンマの十の位
榛名の好感度上昇↓3のコンマの十の位

【朗報】駆逐艦、建造可能になる

燃料96 弾薬99 鋼材143 ボーキ109


好感度
11 鈴谷
8 加賀
6 伊58
1 榛名
  浜風 睦月


提督「……、さて」

 執務室で今日の出撃を纏める。

 加賀が倒れこむようにして入渠してから数時間が経った。

 窓の外では、オレンジの夕日が徐々に色濃くなっている。

提督「皆は何をしているんだろうか……」

 加賀以外のメンバーはもう自由にしているだろう。

提督「どうするかな」



自由安価↓1


提督「あぁ、ここにいたか」

榛名「なんでしょう」

 食堂ではなく、意外にも工廠室に居た榛名を見つけた。

 恐らく今日の出撃で回収した資源を管理していたのだろう。

榛名「また何か新しい仕事でしょうか」

 すぐに立ち上がり、こちらを見上げる榛名。


提督「↓1」


提督「榛名、今日はお疲れ」

榛名「いえ、そんな。榛名には勿体ない言葉です。それより、加賀さんは……」

提督「怪我はしているが、命に別状はない。今は休んでるよ」

榛名「そうですか……」

 少しほっとした表情を浮かべた後、すぐに奥歯を噛み締めた。

榛名「加賀さんの分も、榛名が頑張ります」

提督「焦るな、榛名。君だって疲れは残っているはずだ」

榛名「大した事ありません」

提督「……、榛名」

榛名「……はい」

 説き伏せるように、ゆっくりと榛名に告げる。

提督「今は少しのんびりしよう」

榛名「……」


提督「榛名の強い責任感は良く分かる」

榛名「……」

提督「でも、現状この鎮守府で一番戦えるであろう加賀があの怪我だ」

提督「となると、榛名と鈴谷だけしか出撃できる人間がいないんだ」

提督「それはあまりに危険だというのは、分かってくれるよな?」

榛名「……、……は、い」

 ぐっと下を向きながら、堪える様に声を絞り出す榛名。

 本当は、今日会った二人の駆逐艦を戦列に加えれば、四人になるのだが、あえてそれは伏せた。

提督「だから、明日……か、明後日か。いずれにせよ、加賀が戻るまでは出撃は出来ない」

榛名「……はい」

提督「今は、休むんだ。また近い内に、榛名の力が必要になるから」

榛名「はい……」

 説得を出来たとは思わないし、恐らく納得はしていないだろう。

 それでも、俺の言葉に言い返すだけのものが出てこなかったらしく、とぼとぼと俯きながら工廠室を後にした。


──夜。


睦月「にゃああ、今日は疲れたよ」

谷風「色々ありましたからね」

睦月「皆とはぐれるわ深海棲艦に襲われるわ、挙句の果てにはなんかボロい鎮守府に来るわだしー」

谷風「最後のは……。拾ってもらえただけ運がよかったと思わないと」

睦月「おりょ。そうだったそうだった。にゃは」

谷風「皆さん、迎えに来てくれるでしょうか」

睦月「んー。どうだろねー」

谷風「か、軽いですね……」

睦月「およ、もしかして、寂しい?」

谷風「そ、そういうわけでは!」

睦月「じゃあ寂しくない?」

谷風「そういうわけでも……」

睦月「どっち? ほれほれ答えなさーい」

谷風「ひゃあっ、もう、やめてください……!」

睦月「にゃはははは」

谷風「くすぐりは禁止です! 本当に禁止!」

睦月「それはやれというフリ?」

谷風「違います!」

睦月「にゃはははは」

ああ、ごめんなさい、間違えました浜風でした

浜風早くうちにも来てください


──夜。


睦月「にゃああ、今日は疲れたよ」

浜風「色々ありましたからね」

睦月「皆とはぐれるわ深海棲艦に襲われるわ、挙句の果てにはなんかボロい鎮守府に来るわだしー」

浜風「最後のは……。拾ってもらえただけ運がよかったと思わないと」

睦月「おりょ。そうだったそうだった。にゃは」

浜風「皆さん、迎えに来てくれるでしょうか」

睦月「んー。どうだろねー」

浜風「か、軽いですね……」

睦月「およ、もしかして、寂しい?」

浜風「そ、そういうわけでは!」

睦月「じゃあ寂しくない?」

浜風「そういうわけでも……」

睦月「どっち? ほれほれ答えなさーい」

浜風「ひゃあっ、もう、やめてください……!」

睦月「にゃはははは」

浜風「くすぐりは禁止です! 本当に禁止!」

睦月「それはやれというフリ?」

浜風「違います!」

睦月「にゃはははは」


睦月「で、どっち? 寂しい? 寂しくない?」

浜風「え、えぇ? まだ続くんですか?」

睦月「だって答え聞いてないしー」

浜風「別に、そんな寂しくは……」

睦月「ほんとにぃ?」

浜風「だからくすぐりはなしです!」

睦月「じゃあほら答える答える!」

浜風「あぁ、もう、寂しいでいいです! 寂しいでいいから抱きつかないで下さい!」

睦月「浜風ちゃん温かいナリ~」

浜風「漣さんみたいな事を……」

睦月「しょうがない、そんな寂しがり屋の浜風ちゃんの為に、今日は一緒に寝てあげよう」

浜風「どうしてそうなるんですか!?」

睦月「身も心も疲れ果てた浜風ちゃんが、一人だと寝られないと思って。ここはお姉さんが一肌脱ごうかななんて。にゃははは」

浜風「一人で寝られます、もう」

睦月「まぁそう言わずにぃ。っていうかね」

浜風「はい?」

睦月「……布団、一組しかないんだってさ」

浜風「……」

睦月「ここ、ボロいしね」

浜風「……ですね」


浜風「睦月さんは寂しくないんですか?」

睦月「およ?」

浜風「私にばかり聞くのはずるいです」

睦月「んー。別に」

浜風「本当は寂しいんじゃないですか?」

睦月「にゃははは」

浜風「笑って誤魔化してもだめですよ」

睦月「別に。特に何もないよ」

浜風「……」

浜風「……えっ?」

睦月「だって睦月達は艦娘だからね。いつ死んでもおかしくはないよ」

浜風「む、睦月さん?」

睦月「現に如月はもう死んだし」

浜風「え、と……」

睦月「……」

浜風「……」

睦月「……にゃは。なんてね、ちょっとびっくりした?」

浜風「……! そ、そういうのは止めてください、もう」

睦月「ごめんごめん」


浜風(冗談だなんて。とてもそんな顔じゃなかった)

浜風(少しだけだったけど、冷たい表情だった)

浜風(怖かった……)


睦月「……にゃははは」


提督「もう朝か……」

提督「さて、今日はどうしようか」


↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「演習か……」

 そういえば、まだここに来て演習をしていない。

 昨日出撃を果たしたとはいえ、敵艦隊からは撤退している。

 そう考えると、未だ足並みを揃えての戦闘というものはしていない。

 加賀の力は確かに秀でているし、昨日の様子を見る限り、榛名も鈴谷も敵艦隊を見ても落ち着いていた。

 であれば、決して個の力は低くはないだろう。

 しかし、それがそのまま全体、艦隊としての能力に直結するかと言うと、そうではない。

 今のように意思疎通や連携を出来ないままでは、決して持っている力の全てを発揮することは出来ない。

 なので、それを改善するためには演習はうってつけではあるのだが……。

提督「問題は、受けてくれる相手がいるか、だな」

 演習は、相手がいなければ始まらない。

 その演習相手を見つけるのが、提督である俺の役割ではあるのだが、この他からつまはじきにされている鎮守府で、果たして申し出に乗ってくれる相手が見つかるかどうか。

提督「……、悩んでいても仕方ないな」

 まずはとにかく出来る事を探さなくては。

 それに、うまくいけば昨日保護した駆逐艦二人の下の所属先と連絡がつくかもしれない。

 そうなれば、彼女たちも元の鎮守府に戻れる可能性がある。

提督「よし、演習だ」


演習相手はコンマで決めましょうか。

01-09 北
10-49 南西
50-75 東
76-99 南
ぞろ目 不沈艦さん

てい

あ、すいません↓1です。

>>1 無能 ザコ
>>677 有能 イケメン

>>677でいいでしょうかね?


提督「……、そうですか。いえ、こちらこそ突然な申し出ですみません」

提督「はい、失礼致します」

提督「……ふぅ。駄目か」

 溜息を吐きながら受話器─鎮守府の電話は壊れていて使えなかったので、近くの街に出て掛けている─を置く。

提督「最後も駄目か……」

 この場合の最後、というのは、全ての鎮守府に電話をしたわけではなく、俺が電話番号を覚えている鎮守府の数がこれで最後、という意味である。

 全ての鎮守府の電話番号を覚えているわけではない。

  地団太を踏むように踵を鳴らしながら、溜息をついて考える。

提督「……」

 本部に掛け合ったところで、演習相手はおろか、他の鎮守府の連絡先さえ教えてもらえないだろう。

提督「……どうするか」

 それどころか、余計なことをするなと言われるかもしれない。

提督「他の連絡先、か……」

提督「……」  

 一度だけ腕を組み、少しだけ考えて、また息をはく。

 そして再度公衆電話の受話器を手に取り、ダイヤルを押す。



提督「……あ、もしもし。そちら中央鎮守府ですか?」

「はい、そうですが」

 聞きなれた名前。

 かつて自分が勤めていた鎮守府へ、こうして外から電話することになるとは。

提督「お忙しい所すみません、ご苦労様です。私、鎮守府の者なのですが」

「……、確かあちらに、提督はいらっしゃらなかったと思いますが」

提督「先日着任致しました」

「……そうですか」

提督「それで、そちらの司令官に折り入って相談がありまして。取次ぎ願えないでしょうか?」

「相談とは?」

提督「演習です」

「ああ、なるほど……」

 頷くように、電話の向こうでそう呟く声の主。

 その声に、酷く心当たりがあったけれど、

 それを言うには、あまりに距離が離れすぎていた。

「……分かりました。少々お待ちください」

提督「待ってく……だ、さい」

「……なんでしょう」

提督「……」

「……」


提督「……」

 一言聞く事が出来たら、どれほど楽になれただろう。

「……」

提督「……君は」

 一言、たった一言。ただ、名前を聞くだけで良いのに。

 それが出来たら、どれほど楽か。

 だけれど。

 それが、出来ない。

提督「……いえ。失礼しました、なんでもありません」

「……そうですか」

 それをしたら、この電話が切れてしまう様な気がして。

 それどころか、もう二度と声が聞けない様な気がして。

 そんな気がして、分かっている名前を、聞けなかった。

提督「……、すまない」

 聞こえないように、受話器から遠い所で呟いた。

 耳から離れた受話器からは、何も聞こえない。

 そのまましばらくの間、身勝手な謝罪の言葉だけが、頭の中をうめていった。


提督「……はい、ありがとうございます。では、明朝にこちらから伺います」

提督「では、失礼致します」

提督「……ふぅ」

 受話器を置く。いつの間にか、じわりと手に汗を握っていたようだ。

 向こうの司令官は俺の事をある程度知っていたようで、気を利かせてくれたのだろうか、演習を引き受けてくれた。

 昨日の加賀の怪我の癒え具合や、これから鎮守府に戻り全員にその話をしなければいけないこと、更に向こうの鎮守府の都合も加味した結果、演習は翌日という事になった。

 こちらとしては、演習を引き受けてもらえるだけありがたい話である。

提督「……、さて」

 そうと決まれば、次はメンバーを考えなければならない。

 榛名は問題ないだろう。

 加賀は怪我の状態がどこまで万全か気になるし、鈴谷は逆に気分が乗るのかどうかが分からない。

 伊58は海に出てこれるかどうか、これも不確かだ。

 浜風と睦月はその点では大丈夫だろうが、正式にこの鎮守府の艦娘ではないため、仮に断られても無理強いは出来ない。

 実の所、榛名以外は不確定要素だらけだったりする。


提督「考えていても始まらない。やれるだけのことをやろう」

 自分に言い聞かせるようにそう呟き、鎮守府へ戻ることにする。

提督「まずは、誰と話をするかな?」


 ↓1


提督「まずは榛名か」

 秘書艦である彼女に話をするのが一番妥当だろう。

 そう思い、ちょうど食堂へ向かおうとしている榛名に声を掛ける。

提督「榛名、ちょっといいか?」

榛名「はい、なんでしょう?」

提督「ああ。明日、演習をすることになってな」

榛名「演習、ですか」

提督「前、俺がいた鎮守府だ」

榛名「そう、なんですか」

提督「他に引き受けてくれるところがなくてな。とりあえず、まずは榛名に言おうと思ってな」

榛名「榛名に、ですか。ありがとうございます」

提督「また、全員に声を掛けなくちゃならない。榛名にも頼んでいいか?」

榛名「はい、勿論です!」


提督「じゃあ、俺は↓1と↓2に声を掛ける」

榛名「分かりました」


提督「鈴谷、と浜風。ちょっといいか?」

鈴谷「ん、なに」

浜風「なんでしょう?」

 珍しい組み合わせだと思いながらも、食堂にいた二人に声を掛ける。

 二人ともカレーを食べているようだ。

 テーブルに肘をつきながらスプーンを滑らせる鈴谷と、ポリポリと福神漬けを食べる浜風。

提督「明日、演習をすることになってな」

鈴谷「ふーん」

浜風「そうですか」

提督「鈴谷、問題はないか?」

鈴谷「……、時間は?」

提督「午前中だ」

鈴谷「起きられるかねぃ」

提督「起きてくれ」

 皮肉げに笑う鈴谷。

鈴谷「……、良くこの鎮守府と演習やってくれるところなんて見つけたね」

提督「……まぁ、な」

鈴谷「飛ばされる前の鎮守府にでも頼った?」

 当てずっぽうの様に言った鈴谷だったが、黙りこくる俺を見て、一瞬だけ目を丸くした。

 鈴谷「ふぅん。そう……」


 一度そこで言葉を切ると、スプーンでカレーを掻きこむと、

鈴谷「……起きれたらね」

 とだけ答えた。

 一応ではあるが答えてくれた事にほっとしつつ、

提督「ああ、そうだ。浜風も、どうだ?」

浜風「私も、ですか?」

 少し驚いた表情で自分を指差す浜風に頷きながら、続ける。

提督「ここは見てのとおり何もなくてね。人手もなければ暇つぶしもないんだ」

浜風「そうですね……」

 一度頷いた後、失礼なことを言ったと思ったのだろうか、慌てて謝ろうとする彼女を手で制す。

提督「無理強いはしないよ」

浜風「……、睦月と一度相談してもいいでしょうか?」

提督「ああ、勿論だ」

 ぺこりと頭を下げる浜風。

 これで鈴谷は参加してくれるだろう。

 浜風は、睦月次第ではあるが、決して後ろ向きな感じではない。

 問題はやはり加賀と伊58か。

 こればかりは、榛名に期待するほかはないが、果たしてどうだろうか。


鈴谷と浜風と榛名の好感度上げ+ゴーヤさんの出撃コンマ

鈴谷↓1のコンマの十の位
浜風↓2のコンマの十の位
榛名↓3のコンマの十の位

↓4のコンマ
00-06 出撃
07-99 無理
ぞろ目 見学


 伊58の部屋の前。困った表情で立ち往生している榛名を見つける。

提督「榛名。どうだった?」

 こちらに気付いて顔を上げた。申し訳なさそうな表情を浮かべる榛名を見て、まさか全員駄目だったのかとも思ったが、

榛名「はい、加賀さん睦月さんは問題ないそうです」

 という言葉を聞き、胸をなでおろす。

提督「そうか、それは良かった」

 しかし、次いで榛名が告げる。

榛名「伊58さんは、すみません。出撃は断られました」

提督「そうか。仕方ない、気にするな」

榛名「すみません……」

 気にするな、と言っても、榛名は謝ろうとするので、言いくるめるように肩を叩く。

提督「十分だよ。明日に備えて今日は休むといい」

榛名「……、はい」

提督(これで五人か。正直に言って、上出来だ)

 こちらから演習の申し出をしておいて、メンバーが揃いませんでしたでは話にならない。

 なので、加賀と睦月が参加してくれるのは助かる。

 そうでなければ、伊58を無理にでも説得しなければならなかったからだ。

提督「伊58、俺だ。少し、話せるか?」


伊58「ん、と。ん、と……」

提督「ゆっくりで良い」

伊58「ん、ん……」

 もぞもぞとまたドアの向こうで身じろぎしているであろう伊58に、そう声を掛ける。

伊58「……、榛名、さん、はいる?」

提督「榛名はもう戻ったよ。今は俺一人だ」

伊58「ん……。そ、か」

 そのまま、少し間が開いた後、

伊58「演習、する、の?」

 と彼女が尋ねてきた。

提督「ああ。明日な」

伊58「ん……」

提督「出来れば君にも参加して欲しいが、無理にとは言わない」

伊58「……、まだ、こわい、の」

提督「ああ、分かってる。構わない」

伊58「あの、あの、ね」

提督「ああ」

伊58「ま、また、見て、も、良い?」

 おどおどとそう聞く彼女に、勿論、と頷く。

伊58「うん……」

提督「明日、迎えに来る」

伊58「うん、分かった、よ」


提督「……寒いな」

 翌朝。寒さに目を覚まして窓の外を見る。

 昨日までの冬晴れを半分ほど隠すような雲で、太陽は隠れてしまっていた。

 この様子だと夕方か夜には一雨降りそうだ。

 せめて演習の前は降らないでいてもらいたい。

提督「……」

 あの時は夏だった。

 夏の雨の中、彼女たちを失ってからもう五……いや、四ヶ月、か。

榛名「提督、準備できました」

榛名「……提督?」

 榛名に声を掛けられ、はっとしながら窓から目を離す。

榛名「どうかなさいましたか?」

提督「いや、なんでもない。俺は一旦伊58を迎えに行って来る。先に母港に向かっててくれ」

榛名「……、はい。分かりました」

 ぺこりと頭を下げて、榛名は執務室を後にした。

提督「……、さて、行くか」


提督「本日は演習の申し出を受け入れていただき、誠に有難うございます」

司令官「いえ、こちらこそ」

 初老くらいだろうか。穏やかそうな表情をした司令官に敬礼をしながら礼を言う。

提督「ましてやこちらまでご足労頂き、申し訳ありません」

司令官「いえ、気になさらず」

 本来であれば、こちらから出向くべきではあるのだが、わざわざ向こうからこうして来て頂いたのだから、本当に頭が上がらない。

 それに、これは今朝気付いたことなのだが、仮に向こうの鎮守府にこちらが向かうとしたら、伊58に海に一度は出てもらわなかった。

 そう考えると、非常にありがたい話である。

司令官「私としては、貴方にお越しいただくのも良いかと思ったのですがね……」

 あの夏の日に失った命は24つ。

 それでもなお戦力が成り立つほど、あの鎮守府には艦娘が多く所属していた。

司令官「貴方に会いたがっている子も、多くいましたからね」

提督「……」

司令官「少し、演習の前に、彼女たちと話をしても良いんじゃないですか?」

提督「しかし」

司令官「一人で思いつめすぎるのも、良くはないですよ」

提督「……」

向こう側の戦力も安価。なんですが、攻略対象にします?
攻略対象の場合は提督に対する態度は冷え冷えです
非攻略対象の場合は会いたかった的な感じでかなりひっついてきます

あるいはコンマで偶数ならどっち、奇数ならどっち、ってのもありです

ならコンマで。↓1~5で好きな艦娘をどうぞ。不沈艦さんはもう確定なのでそれ以外で。
コンマ奇数で攻略対象
コンマ偶数で非攻略対象


提督「ん?」

 とんとんと肩を叩かれて振り返る。

提督「んむ……阿賀野、か」

阿賀野「提督さん、お久し振り!」

 そこには、得意げに俺の頬を指で突く阿賀野が居た。

阿賀野「寂しかったよーもう! 今日は提督さんに会えるって聞いて、寝れなくて!」

提督「そうか」

阿賀野「えへへ。それに私だけじゃないよ、阿武隈ちゃんも曙ちゃんもー。ね?」

 そう言って左右に目線を振る阿賀野。

 照れくさそうに前髪を弄る阿武隈と、つんと横を向いた曙が、ともに口許を濁らせる。

阿武隈「うー……」

曙「私は別に、そんなんじゃないわよ。ホント、冗談じゃないわ」

提督「とてもそうは見えないんだが……」

阿賀野「照れてるんだよー。だって二人とも寝坊してギリギリだったよ」

曙「あんたが一番遅かったじゃない! あたしはギリギリ間に合ったから!」

阿賀野「そうだっけ? てへ」

提督「曙が? 珍しいな。いつもは一番初めに集合するのに」

曙「そ、それは、偶々、偶々よ!」

阿賀野「久々に提督に会うから緊張するって言ってなかったっけ?」

曙「い、言ってない!」

阿武隈「あたしだって寝坊じゃないし……。ちょっと髪のセットがうまくいかなかっただけで」

雪風は当然攻略対象ですよね


阿賀野「そうだったそうだった。ほら提督さん、阿武隈ちゃんの顔良く見て? 気付かない?」

提督「ん、何だいきなり」

阿賀野「ほらほらー」

提督「ひっつくな、引っ付かなくても見れる」

阿武隈「ひぇ、ち、近い……よ」

提督「……、……」

阿武隈「……」

提督「……」

阿武隈「……、やっぱり、四ヶ月ぶりじゃ覚えてないよねそんな細かく」

提督「四ヶ月……あぁ、そうか。髪切ったばかりなのか」

阿武隈「わ、分かるの?」

提督「四ヶ月前と全く同じだったから、逆に気付きづらかった。最後に別れたときと同じだな」

阿賀野「ぴんぽーん、正解! この四ヶ月、阿武隈ちゃん髪の毛ずっと伸ばしてたんだよ? いつかまた提督に会うから、その時になるまで伸ばすんだーって」

阿武隈「わ、わー! わー! 言わなくて良いのそういうのは!」

提督「そうだったのか。なんだか、すまないな」

阿武隈「て、提督が謝らなくてもいいの。あたし的には、今日会えたからオーケーっていうか……うん……」

阿武隈「……って何いってるのあたし! こういうのは曙の役目だよ!」

曙「ちょっと、人を巻き込まないでくれる!?」

阿武隈「提督がいなくなってから時々メソメソ泣いてたくせに!」

曙「なっ!? いてなんか!? いないわよ!? 誰がこんなク……提督なんかのために!」


阿武隈「ク……何? 久々に会うのに酷い言葉使いたくないって一人部屋でジメジメしてたって噂は本当だったんだ」

曙「はー!? はぁぁぁ!? ありえない、ばっかじゃないの!」

阿武隈「じゃー提督に向かって言ってごらんよ前みたいに」

曙「それは……それは」

曙「……」

阿賀野「提督さん、今気付いたんだけど」

提督「なんだ」

阿賀野「私たち、名前が全員“あ”で始まるよー。すごいね!」

提督「そ、そうだな……。でも今いう事でもないな」

阿賀野「そうだったかな。えへへ」

提督「離れてくれ、頼むから」

曙「……ばか!」

提督「何故だ」

曙「うるさいばか! ふん!」

曙「そういうのは他所でやってよね、迷惑だわ」

曙「勝手にいなくなって……何よもう……」

阿武隈「……」

曙「せめて一言くらい言ってから居なくなりなさいよ……」

曙「ほんとばか……」

提督「……ありがとう」

曙「ばかにされて礼言ってんじゃないわよ、ほんっとばかなんだから……」


大淀「久し振りの再会で喜んでいるところすみませんが」

提督「大淀。久し振りだな」

大淀「ええ、まぁ。私は殆んど出撃はしませんでしたけどね」

提督「そうだな。最後のほうに何度か指揮を執っただけだったな」

大淀「私は本来海戦畑の人間ではないですからね。どちらかと言うと事務作業がメインでしたし」

提督「悪かったな、無理言って」

大淀「まぁ、仕方ありませんでしたからね、あんな事があっては」

提督「そうだな。今でも海に出てるのか?」

大淀「ええ。意外と適正があったみたいで。あの事件以来、引き継いだ新しい司令官の下、無事にやってますよ」

提督「ああ、大淀は冷静で周りが見えるから、きっと貴重な戦力だろう」

大淀「いい迷惑ですけどね」

提督「すまないと思ってる」

大淀「いえ、貴重な経験だと思っておきます。全く無駄ではありませんでしたよ」

提督「……、そうか」

大淀「三人とも、一度戻りますよ。司令官が……私たちの司令官が、お待ちですから」

阿武隈「……」

阿賀野「えー」

曙「……ふん」


提督「三人とも、行ってこい」

阿武隈「……うん」

阿賀野「また後でね?」

曙「逃げるんじゃないわよ」

提督「逃げるも何もないだろう……」

大淀「……正直、何故提督がそこまで好かれているのかが私にはわかりませんが、まぁ、そちらもそちらで頑張ってください」

提督「ああ」

 ちなみにではあるが。

 俺と話している間、大淀は一度も俺の顔を見ることはなかった。

 とはいえ、それは何もおかしなことではない。

 あれだけの事件を引き起こしてしまった俺に対して、以前のように接してくれというのが間違っている。

 仲間を次々と殺された原因が目の前に居たら、自然ああいう態度にもなるだろう。

 むしろ、阿賀野達三人が、異例なのだ。

提督「……ふぅ」

 誰にも聞かれないように、小さく一つ息を吐く。

 そして海を見ていると、背中に視線を感じた。

提督「……金剛、か」

金剛「……」

すいませんが今日はここで終わらせてください。金剛さんどうしようかすごい悩む。

>>760
はい、そうです


提督「久し振り……だな」

 何から言おうかしばし悩み、結局オーソドックスな言葉に行き着いた。

 曙が言ったとおり、俺は満足に皆に別れを告げる事も出来ずにあの鎮守府を後にした。

 それを逃げたと思われても、決して文句は言えないのだ。
 
 金剛は、あの事件が起きる前からは慕われていた。

 優雅に紅茶を振舞い、朗らかに笑う彼女の姿は今だってありありと思い出せる。

 しかし。

 目の前の彼女は、記憶の中の光景とは、まるで違って見えた。

金剛「……」

 長かった髪は、ばっさりと短く切られていた。

 目に見えて違う外見の変化はそれくらいなので、一見は金剛だとわかるのだが、
 
提督「……金剛?」

金剛「……」

 あの独特な英語交じりの、楽しげな声が聞こえない。

金剛「……、……」

 小さく口を開けて、何かを呟く仕草を見せたが、それでも声は聞こえない。

提督「……、金剛。まさか、君」

 虚ろな瞳。

 小刻みに動く唇。

金剛「…………、……」


 ──彼女は声を、失っていた。



司令官「驚かせてしまった、かな」

提督「金剛は……その。声を」

 首を縦に振る司令官。眉を顰め、視線を海へと投げた。

司令官「君が居なくなったことで、一番激しく動揺したのが彼女だった、と聞く」

 司令官の傍らでぼんやりとした表情を浮かべる金剛。

 俺と司令官の顔を交互に見て、前へ倣えをするように海に目をやった。

司令官「私は元々本部直属でね。凄かったよ。本営に直属して勤務する艦娘はいるが、よもや鎮守府所属の艦娘が直接本営に乗り込んでくるなど前代未聞だからね」

提督「でしょうね」

 いわばそれは反逆行為だ。処分や処罰の対象であるのは勿論、下手をしたら彼女自身解体されてもおかしくはない。

司令官「いくら見た目が可憐でも、彼女は艦娘。本気で暴れたら、生身の人間がいくら束になっても敵いやしない。結局肝心な所では立場や階級なんて、深海棲艦の餌にもならん」

 苦笑しながらそう零す。

 本営の人間が聞いたら怒りそうな言葉ではあるが、その本営に居た本人が言うのだから説得力が違う。

司令官「二日……いや、三日だったかな? 本営内で十二十の艦娘相手に大暴れをし続け、弾薬が切れても艤装を振り回して抵抗し続けた」

司令官「その間ずっと、“提督を返して下さい”と、叫び続けながらね」

提督「……、それで声帯を痛めたのですか?」

司令官「かも知れない。或いは精神的なものなのかもしれないが、そこまでは私も聞いていないんだ」

提督「そうですか」


司令官「ただ、私が思うに、彼女の失語症は、精神的なものではないかと思っている」

提督「と、言いますと?」

司令官「あれだけの大騒ぎをしたんだ。当然処罰は受けることになる」

提督「それは、そうでしょうね」

 頭をふらふらと揺らしながら、やや唇を尖らせてその場に座りこむ金剛。

 それは、幼子のような仕草だった。

司令官「身を拘束され、何日も捕らえられていた彼女だが。その間ずっと、掠れた声で、君の事を呼んでいたそうだよ」

提督「……」

 その光景を想像して。

 自分の身が切り刻まれたかのように、苦しくなった。

司令官「ただ。彼女にとっては、どんな辛い処罰よりも、君に会えないのが一番の苦痛だったんだろう」

提督「……」

司令官「そして解放された彼女は、言葉を失った。言葉だけじゃない」

 小首を傾げながらこちらを見上げる金剛。

司令官「行動も、どこか幼くなってしまってね。記憶も一部、欠落しているようだ」

提督「……、みたいですね」

 ただ言葉を失っただけならば、俺に対して態度で反応を示すはずだ。

 それもなかったという事は、やはりそういう事なのだろう。

 これもまた、俺のせいだ。


提督「……、あの」

司令官「うん?」

提督「司令官は、何故、本営勤務をお辞めに?」

司令官「あぁ……」

 少し顔をほころばせて、鼻の頭を掻いた。

司令官「なんだか、しのびなくてね……」

提督「と、いいますと」

司令官「本来ならばこの子の処罰は解体だったんだ」

 無理もない話だ。

提督「……そう、だったん、ですか」

司令官「ああ。死者こそ出なかったものの、怪我人は多数出たからね。建物も滅茶苦茶、面子もあった。だから本部としてはせめてもの体裁でこの子を処分しようとした」

司令官「ただ、それはあまりに可哀相だと思ってね」

提督「……」

 司令官がほう、と白く息を吐いた。

 それをみて、金剛が真似をする。

 消えていく白い息を見ながら、金剛がにこりと笑う。

 見たことのある笑顔で、そして見たことのない笑顔でもあった。

司令官「彼女のしたことは規律には反している。でも、人道には反していない」

司令官「そう思うと、何だか無碍に出来なくてね……」

提督「それで、あの鎮守府を」

 答える代わりに、穏やかに笑って頷いた。

 つられて金剛も笑い、そして俺だけがうまく笑えなかった。


司令官「さて……それじゃそろそろ始めようか。そちらは五人で?」

提督「はい。申し訳ありません、揃いきりませんで」

司令官「いやなに。気にすることはない。じゃあこちらも合わせるとしようか」

提督「ありがとうございます」

司令官「君に会えば症状が改善されるかと思ったが、時間がかかりそうだな」

 自分のことを言われていると分かっていない金剛が、ふらふらと頭を揺らして歩いていく。

 その先に居た彼女に、思わず俺は目を見開いた。


提督「……え」

「……」

 金剛の頭を撫でながら、こちらに目をやる彼女。

提督「……雪、風」

雪風「……」

 その表情は硬い。

提督「雪風、君、」

雪風「お久し振りです、提督」

 俺の言葉を遮るようにそう言い放つ雪風。

 硬く冷たい言葉には、どこか脆さが感じられた。

 だが、それよりも驚くべきことがあった。


提督「雪風、君」

雪風「……」

提督「その手……それに、足も」

雪風「……はい」

 俺の知っている雪風は、あの夏の日に、

提督「どうして……」

 あの夏の日の、雨の日に、右腕と左の太腿を、

提督「どうして、元に、戻っているんだ……?」

 深海棲艦に食いちぎられたはずなのに。

雪風「……、どうしてでしょうね」

 目の前の雪風は、確かに四肢がついている。

 艤装や偽手足ではない、確かな人間の体が、そこにある。

 くすりと彼女が笑った。

 悲しそうに、泣きそうな顔で微笑んだ。

提督「……」

雪風「……多分。多分私が、幸運だからです」

雪風「ただ……それだけです」

提督「雪風」

雪風「……行きましょう。皆、待っています」

 踵を返し、離れていく。

 僅かに足を引きずりながら。

 その足取りが、金剛の変化よりも、大淀の冷たい態度よりも。

 今までの、これまでのどの日々よりも、悲しかった。

なんとなく出来たので。今度こそ寝ます

演習やります。

こちらの艦隊→十の位 向こうの艦隊→一の位 で、数字の高い方が優勢
(例:コンマ94だったらこちらが優勢、77だったら対等)

より優勢っぽいほうが勝ちです。

↓1 加賀-阿賀野
↓2 鈴谷-阿武隈
↓3 榛名-金剛
↓4 浜風-曙
↓5 睦月-大淀


加賀(深海棲艦が相手でもないのに、本気で戦う気なんて起きないわ……)

阿賀野「いよいよ阿賀野の出番かー。でも空母さんが相手か。きついよー!」

加賀(何が楽しいのかしら……)

阿賀野「でもでもー、頑張るよ! 阿賀野、水雷戦隊、出撃よ!」

加賀「……出撃します」

阿賀野「活躍して提督さんと司令官さんに褒めてもらうんだからー!」

加賀「……」

加賀(……、下らない)

阿賀野「連装砲全砲射撃はじめー!」

加賀(これくらいなら……見切れる)

阿賀野「うわ、ぬぬ」

加賀「……、砲弾、開始します」

阿賀野「ひゃあん!」

加賀「……そのまま大人しくしていて頂戴」

阿賀野「連装砲が壊れたぁ……。でも、まだ高角砲がっ」

加賀「やらせません」

阿賀野「こ、高角砲もぉ!?」

加賀(相手は深海棲艦じゃない……これでいい)

加賀(武器を壊すだけで大人しくなるなんて、たやすいわね)


加賀(……、これは演習。たかが演習)

加賀(あの時とは違う)

加賀(無理に痛めつける必要はないわ)

阿賀野「か、かくなる上はぁ」

加賀(もうあんな思──)

阿賀野「秘密兵器! 単装砲!」

阿賀野「発射ぁ!」

加賀「──、なっ……!?」

加賀「うぐっ……!」

阿賀野「きらりん、命中! 阿賀野、ついに活躍しちゃった!?」

阿賀野「こんな事もあろうかと隠し持っていて良かったぁ。空母さん相手に勝利しちゃった、提督さん司令官さぁん、見てたぁ?」

加賀「……」

加賀「……」

加賀「……」ユラリ

阿賀野「……へ?」

加賀「……した」

阿賀野「え、えへへ、へ……」

加賀「頭に、きました」ギロリ

阿賀野「あ、阿賀野、ちょっと御手洗いに……」

阿賀野「なんて……」

加賀「鎧袖一触。手加減は一切なし」

阿賀野「」


加賀「殺……こほん。やりました」

阿賀野「」プカプカ

提督(加賀は負けず嫌いなのか。意外だな)



阿武隈「なにあれこわい」

鈴谷「あれで負けず嫌いだからねぃ……っと!」

阿武隈「よっと、危ない危ない。重巡相手だからって、遅れは取らないよ! やるときはやるんだから!」

鈴谷「痛いしー、やるじゃーん」

阿武隈「なぁんか張り合いないなー……。手抜いてません?」

鈴谷「演習で本気になってどうすんのさ」

阿武隈「……」

鈴谷「不満?」

阿武隈「……、そういうの、あんまりあたし的にはオーケーじゃないです」

鈴谷「なぁに張り切ってるのか知らないけどさ、そういうの、面倒なんだよね!」

阿武隈「きゃあっ! っく、小破……」

鈴谷「愛しの提督様に会えて嬉しいのは分かるけど、恥ずかしいよそういうの」

阿武隈「……っ!」

鈴谷「はい隙あり、うりゃー!」

阿武隈「あうっ……!」

鈴谷(何ムキになってんだあたし)


阿武隈(やっぱあたしじゃムリ……?)

阿武隈(でもこのまま負けるなんて、特にこの人に負けるのなんてイヤ!)

阿武隈「まだまだ!」

鈴谷「そういうの、本当面倒なんですけど……!」

鈴谷「くっ、外した!」

阿武隈「がら空き!」

鈴谷「しまっ……!」

阿武隈「よし! まだまだ!」

鈴谷「なーもう! そういうの本当面倒! きもい!」


提督(序盤は鈴谷が押していたが、一度優位に立ったことで油断したか)

提督(一気に接近戦になったことで大分阿武隈が持ち返したが、ダメージを差し引きするとそれでもまだ若干鈴谷が有利といったところか)

提督(やはり加賀も鈴谷も、ある程度戦闘慣れしている)

提督(基本的にはこの二人が戦列を引っ張ることになりそうだな)


金剛「……」

榛名「お姉様、何か言ってください!」

金剛「……」

榛名「くっ……!」

提督(演習というより、まるで鬼ごっこをしているような光景だ)

提督(ジグザグに海上を走る榛名に対し、全く同じ波しぶきを上げて追いかける金剛)

提督(榛名の呼びかけにも当然答えない。いや、答えられない、というのが正しい)

榛名「どうして……」

金剛「……」

榛名「……っ、お姉、様」

提督(時折榛名が砲弾を構える。が、すぐに躊躇いそれをやめる)

提督(そして再び金剛を振り切ろうと海面を刻むように走る)

提督(金剛からすれば、本当に榛名の真似をしているだけだ。ジグザグに走り、榛名が構えたら自分も連装砲を構える)

提督(しかしそれは、何も知らない榛名からしたら、異常でしかない)

提督(混乱させない為に、榛名には金剛のことを伏せておいたのだが……却ってそれが裏目に出てしまったかもしれない)


榛名(どうしてお姉様は何も言ってくれないんですか)

榛名(どうしてお姉様は銃を撃ってくれないんですか)

榛名(何か榛名が悪いことをしたのでしょうか)

榛名(……きっとそうです。榛名は悪い妹です)

榛名(だからきっと愛想を尽かされてしまった)

榛名(もう榛名とは話すつもりはないという事なんですね)

榛名(悪いのは榛名。悪いのは榛名。悪いのは榛名。悪いのは榛名)

榛名(榛名は悪い。正しい事をしなければいけない)

榛名「……」

榛名「……撃ちます」

榛名「撃ちます。撃ちます」

榛名(お姉さまなら避けてくれる。きっと避けてくれる)

榛名(榛名は悪い。だから当たらない)

榛名「主砲……砲撃開始」

榛名「砲撃開始……!」


榛名「……」

金剛「……」

榛名「……」

金剛「……」

榛名「……どうして」

金剛「……?」

榛名「どうして、避けてくれないんですか……?」

榛名「お姉様なら、あれくらいの砲撃、簡単に避けられるはずなのに……」

金剛「……?」

榛名「どうして一歩も動かないんですか」

榛名「どうして反撃してこないんですか」

榛名「榛名はどうすればいいんですか……!」

金剛「……?」

榛名「榛名は……榛名は……っ!」

金剛「……?」


金剛「……?」

金剛「……」

金剛「……」チョンチョン

榛名「……は、い。なんでしょう、か」

金剛「……」ナデナデ

榛名「……お姉、様」

金剛「……」ニコニコ

榛名「……、大丈夫、です」

金剛「……」ニコニコ

榛名「榛名は……大丈夫です……」

金剛「……」ニコニコ

榛名「大丈夫です……」


曙「……、何やってるんだかどいつもこいつも」

曙「敵同士慰めあってるんじゃないわよみっともない」

曙「遊びじゃないのよ全く」

浜風(こちらの攻撃が、全く当たらない……!)

浜風(ありえない、そんなの……!)

曙「……っと。休ませちゃったわね。これじゃ私も変わらないか」

浜風(もう私は息も絶え絶えなのに、向こうは全然そんな様子はない)

浜風(同じ駆逐艦で、こうも違うの……?)

曙「まだいけるでしょ? 行くわよ」

浜風(速い……っ!)

浜風(でも、速さなら負けない!)

浜風「くっ……!」

浜風(また真っ直ぐ突っ込んできた!)

浜風(銃弾なんて全くお構いなしの猛進なのに、どうして当たらないの!?)

曙「焦りでぶれてるのよ。二発撃ったって同じ所を撃ってるんじゃ、それは一発と変わらない」

浜風「うっ……!」

浜風(もう目の前に!)

浜風(射撃──間に合わない、入り込まれた!)


曙「私達駆逐艦はね、水雷艇の始末から哨戒偵察救助に補給、物資の輸送、なんでもやらなくちゃいけないのよ」

曙「クソみたいな仕事と思うかもしれないけど、誰かがそれをやらなくちゃいけない。そのための駆逐艦なのよ」

曙「それに必要なのは、機敏さじゃなくて、冷静さ」

曙「どんな状況に陥っても、冷静でいられるかどうかが大事なのよ」

曙「銃弾くらい、いくら撃たれても問題ないわ」

浜風「……、すごい、ですね」

曙「……別に。これくらいは当然よ」


曙「……」

曙「……」

曙「……」チラッ

提督「?」

曙「っ」プイッ

曙(ちょっと格好つけすぎたかしら……いやでも偶にはこれくらい……)

曙(ていうか見てたのかしら、ちゃんと出来てたかしらううああ)


大淀「……、三対一ですか。しかも旗艦が負けたとなると……」

睦月「なにぶつぶつ言ってるの? それー!」

大淀「はい」

睦月「お、おりょ? 当たった?」

大淀「ええ、当たりましたね」

睦月「お、おー、やった」

大淀「あなたの勝ちで良いですよ」

睦月「およ? なんか知らんけど勝った!」

大淀(私が勝っても多分判定は変わらないでしょうからね)

睦月「この勝負、睦月が貰ったのです!」

大淀(あの提督の前で真面目に戦うのも癪ですし)

睦月「いえーい」

大淀「すごいですね」

睦月「睦月をもっと褒めるがよいぞ! 褒められて伸びるタイプにゃしぃ」

睦月「軽巡に勝ったー勝ったー」

大淀「よしよし」

睦月「ふにゃー、わしわししないでー!」


提督(大淀はあからさまに手を抜いていたな)

提督(最後の被弾も、彼女なら避けられた)

司令官「そちらの勝ちということで良さそうかな」

提督「そう、ですね……」

 結果だけを見れば、確かにこちらが優勢だった。

 しかし、内容に深く目をやれば、必ずしもそうとは言い切れない。

 加賀と鈴谷も圧勝ではなく、ギリギリの攻防だったように見えるし、浜風は曙相手になすすべなくやられた。

 榛名と睦月の場合は、こちらの試合運びと言うより、向こう側の問題であるので、一概になんとも言えない。

 そう考えると、とても手放しでは喜べない結果でもある。

 とはいえ、初めての演習を勝利で飾れたことには素直に喜びたい。

 ぱちぱちと伊58が拍手をする。つられて金剛が手を叩き、阿賀野がそれに続いた。


提督(折角だから、少し誰かと話をしようか?)


↓1~3 向こうの艦隊でも可




ついでに演習で好感度上昇。

加賀 ↓1のコンマ十の位
鈴谷 ↓2のコンマ十の位
榛名 ↓3のコンマ十の位
浜風 ↓4のコンマ十の位
睦月 ↓5のコンマ十の位

今日はここで終わりです。

明日明後日はちょっと更新できるかどうか分かりません。
ご了承ください。


 一番近くに居た伊58に話しかける。

提督「何とか勝てたな」

 控え目に拍手していた手を止める。

 未だ真横に立てるほど警戒を解いてはくれないが、それでも部屋から出てきてこうして演習を見てくれているのだから十分だ。

伊58「ん、と。皆、すごい、ね」

 拍手を止めた手をそのまま擦り合わせ、暖める様にはぁと白く息を吐いた。

 目線の先には、それぞれ和やかに話し合う睦月と浜風。

 少しだけ口を開けながら、ぼんやりと二人を眺める。

提督「……、伊58」

伊58「……?」

 なんとなく、そんな彼女が寂しげに見えて、声を掛ける。

提督「いつか君もまた、ああいう風に笑えるといいな」

伊58「……、……。うん」

 こくりと頷いた。


阿賀野「提督さん!」

提督「うわっ」

 と、突然背後から衝撃。

阿賀野「もう、何で来てくれないの? 阿賀野の方から来ちゃった!」

 背中に覆いかぶさるように体重を預ける。その上両腕でがっしりと体を掴まれて逃げられなくされてしまった。

阿賀野「みててくれた? 頑張ったけど負けちゃった。あっ、違う、負けちゃったけど頑張ったよ!」

提督「あぁ、見てた。見てたから、離れてくれ」

阿賀野「えー。提督さんそんな冷たかったかなぁ。変わった?」

提督「君が変わったんだよ。前はそんな直情的ではなかったはずだ」

 そうだったかな、ととぼけるように首をかしげる。

 実際の所、彼女はのんびりとした性格ではあったが、ここまでではなかったと記憶している。

 なんだか、少し子供っぽくなったような……。

阿賀野「子供じゃないよぉ。この洗練されたボディ、知ってるでしょ?」

提督「そういう事を言ってるんじゃないんだがな」

 何を勘違いしたのだろうか、顔を赤くしながら伊58が手で顔を隠した。

 ……が、しかし、指の隙間からきっちりこちらを見ている。

 それでは手で隠している意味がない。


提督「ともかく、離れてくれないか」

阿賀野「えー」

提督「えー、じゃない」

阿賀野「もうちょっとだけ」

 ぎゅっと俺を抱きしめる腕に力が加わる。

 阿賀野は軽巡洋艦の中では背の高いほうに入る。

 その為、押し付けた彼女の額が丁度首筋に当たって、思わず肩を震わせてしまった。

 すっと彼女が呼吸するたびに、それが伝わってくる。

阿賀野「阿賀野寂しかったんだよ? 提督さんが居なくなっちゃって」

 引き離そうと思って彼女の腕に触れると、ぽつりと呟くようにそう言われた。

提督「……それは、すまないと思っている」

阿賀野「阿賀野だけじゃなくて、皆」

提督「……ああ」

阿賀野「戻って来れないの?」

提督「……ああ」

阿賀野「そっかぁ……」

 次の言葉はなかった。

 代わりに、再度彼女の腕に力がこもる。

 少しだけその抱擁が痛い。

阿賀野「……」

阿賀野「……ん。充電完了」

 そして、一分ほどそれが続いたかと思うと、ぱっと彼女は離れた。


阿賀野「えへ。提督さん成分ばっちりもらったから、阿賀野、頑張るよ!」

 惚けた声ではにかむ阿賀野。

 変な成分を作るな、と言い掛けたが、それで彼女が納得するのならば良いかとも思い、口をつぐんだ。

大淀「阿賀野さん、そろそろ行きますよ」

阿賀野「はぁい」

 やってきた大淀に気の抜けた声で返事をする。

 そんなやり取りを見て、先ほど阿賀野が言っていたことを思い出すが、

提督(皆、寂しがっている……か)

 頭を振って溜息をついた。

提督(少なくとも、大淀は違うだろうな)

 だが、それで良いと思った。

 恨まれたり、憎まれたり、蔑まれたり。

 それだけのことをしてしまったのだ。

 いくらやり直そうとしても、実際にやり直せても、それらがなかったことになるわけではない。

 誰にも咎められないのはありえない。

 だから、もしかしたらきっと俺は、誰かにそうして欲しいのかもしれない。

大淀「……、そういう自己満足は、嫌いです」

提督「分かってる」

 吐き捨てるように大淀がそう言った。


大淀「それに、貴方に対して甘い皆の事も嫌いです」

大淀「誰も彼も皆、貴方の事を許そうとしています」

大淀「だからせめて……」

 そこで口をつぐむ。苦虫を噛み潰したような表情を一度だけ浮かべ、またすぐに冷静な表情に戻った。

 彼女は頭が良い。

 だから、自分が言おうとした言葉の意味に気付いたのだろう。

 きょとんとした顔で小首を傾げる阿賀野と伊58。

大淀「……今日はご苦労様でした」

提督「ああ。また手合わせ願いたいな」

 肩をすくめる。

大淀「秘書艦は私ではありませんので、そう言われましても」

提督「ああ、そうだったな」

 踵を返し、仲間の所へ戻る大淀と阿賀野。

 早速曙と阿武隈に何かどやされている阿賀野を見ながら、

提督「……、俺たちも戻ろうか」

 と伊58に告げた。

 ……伊58は未だに顔を手で覆っていた。


好感度のコンマです。

伊58 ↓1のコンマ十の位
大淀 ↓2のコンマ十の位

現状こんな感じです。こんなペースで一スレとか申し訳ないでやんす

19 鈴谷
14 加賀
10 伊58
8 大淀
5 榛名
5 睦月
5 浜風


提督「昨日は疲れたな……。まぁ、一番疲れているのは艦娘達なんだが」

 窓の外は、曇天。

 昨日の夜に振り出した雨は、どうやら夜中の内にピークを過ぎたらしく、今では小雨程度になっていた。

 この程度であれば、昼になれば雨は止むだろう。

提督「さて、どうするかな」


↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

今ようやっと追いついた
今年の最後を飾る(もちろん跨いでもいいけど)大作SSになりそうな予感

あと浜風愛してる


 先日の出撃のおかげで、一応最低限の資源は確保できた。

 であれば、工廠をしてみてもいいかもしれない。

 現状うちの鎮守府に所属していて、問題なく出撃できる艦娘は、空母一人、戦艦一人、重巡一人。

 それに潜水艦が一人と、座礁した他鎮守府の駆逐艦が二人、という状況だ。

 こう見ると、あまりに戦力不足と言える。

 軽巡洋艦や軽空母などが全くいないのは問題だ。

 それに、いかに加賀や榛名達が強力でも、現状の資源では、艤装や船体の維持も長くは出来ない。

 伊58や浜風、睦月といった不確定要素を計算しなくても良いだけの形にはしたいのだが……。

提督「加賀か」

加賀「……」

 工廠室には、加賀が居た。

 丁度偽装の手入れをしていたところのようだ。

 相変わらず一度こちらを見ただけで何も言葉は返されないが、それでもあの殺意に満ちた視線ではなかっただけマシと思うべきか。

提督「身体のほうは大丈夫か?」

加賀「……ええ」


提督「燃料96に弾薬が99。鋼材が143でボーキが109……か」

 駆逐艦、軽巡洋艦ならば建造可能な資源の量である。

 この鎮守府に不足している人材でもあるので、丁度いいといえばいいのだが、肝心の妖精がいない。

提督「加賀、妖精さんを見なかったか?」

加賀「……見ていないわ」

 彼らがいなければ、資源があっても船体を作ることは出来ない。

 溜息を吐きながら、腕を組む。

 すると、こちらを見ないまま加賀が、

加賀「……工廠するの?」

 と言ってきた。

 すぐにそのつもりだと答え、十秒ほど沈黙が続き、更に十秒経ってからふと疑問に思い、加えてもう十秒経ってから驚いた。

 そういえば、加賀の方から話しかけてきたのは初めてかもしれない。

提督「尤も、妖精さんがいなければそれも出来ないんだがな」

 驚きを隠すようにそう取り繕う。

 こちらを見ていない加賀がそれに気付くはずもなく、そう、とだけ答え、会話はそこで途絶えた。

妖精さん発見できるか否か

↓1

00-49 駄目
50-99 発見


提督「……居ないか」

 三十分ほど工廠室を探したものの、妖精を見つけることは出来なかった。

加賀「無駄骨ね」

提督「まぁ、仕方ないさ」

 先日ある程度片付けたとはいえ、まだまだ薄汚れているのには変わりない。

 部屋の隅で何かを齧るネズミを見つけ、溜息を吐く。

提督「加賀は、自分で艤装を直しているのか?」

 じきにする事もなくなり、手持ち無沙汰になった俺はそう加賀に尋ねる。

加賀「……、別に、大したことではないわ」

提督「謙遜するな。俺からしたら、凄いことだ」

 矢の先を研ぎながら、そう、とだけ答える加賀。

提督「……、そう言えば、加賀は空母なんだよな」

加賀「突然、何?」

 呆れたような声を出す加賀だが、

提督「いや。どうにも、加賀が艦載機を使っているところを見た記憶がなくてな」

 と尋ねると、溜息を吐きながら口を閉じた。

 深海棲艦を相手取った時も、今研いでいる矢(と弓)と銃弾だけで押し切っていた。

 それは筆舌にしがたいほどの出来事ではあるが、しかし異常ともいえる。

 とはいえ、これは実の所想像ができていた。

加賀「……艦載機はもうないわ」

 要は、この寂れた鎮守府に、それを用意するだけの物がない、ということだろう。


加賀「この間まではあったけれど、壊れたのよ」

 一度壊れてしまえば、妖精の居ないここではそれは最後を意味する。

 また、新しく作る事もできない。

 加賀も、艦載機の修理までは出来ないのだろう。

 何から何までが手詰まりだった。

加賀「……」

提督「……」

 心なしか視線を床に落とす加賀。

 何か声を掛けてあげるべきか……。


提督「↓1」

次スレです。
>>934
このペースで年内に終わるわけがないんだよなあ……

【艦これSS】提督「壊れた娘と過ごす日々」 02【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419872466/)


提督「必ず妖精を見つけて修理してあげるから」

加賀「……」

 何の確約もない、口約束のようなものだったが、それでも躊躇うことなくそう告げた。

提督「今はこんな状態だが……必ず」

加賀「……そう」

 目を伏せて、何かを呟くように口を動かす。

 その声は小さく、何を言ったのかは分からなかった。

加賀「……期待しないで待っておくわ」

提督「……、ああ」

 再び加賀が、うっすらと瞳を開け、そういった。

 それきり加賀が話す事はなく、仕方なく俺は工廠室を出ることにする。

 その際に、もう一度だけ加賀に目をやったが、加賀がこちらに気づくことはなかった。

 ただぼんやりとした瞳で、虚空を見やるその表情を、どこかで一度だけ見たと思って記憶を辿る。

 そうして思い出したのは、伊58に対する彼女の視線だった。

 珍しくあの時の加賀は、狼狽していた様な気がして、それでなんとなく覚えていたのだが。

 加賀にそれを尋ねるわけにもいかず、結局俺はその場を立ち去るしかなかった。


加賀「……」

──待っていて。今妖精をつれてくるわ。必ず修理してあげる

加賀「……」

──しっかりして。気を強く持って

加賀「……」

──大丈夫よ。私が必ず……

加賀「……必ずなんて、ないのよ」


加賀「必ずなんて言葉……」



加賀の好感度コンマ

↓1のコンマ十の位


提督「あぁ、結局また降り出したな」

 先日までは晴れが続いていたのに、このところどうもこういった天気が続いている。

提督「この様子だとまた夜には本降りになるか……?」

 夜中の内に降り終ってくれればいいのだが。

提督「さて、午後は何をするかな?」


↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「ああ、睦月……か?」

睦月「およ?」

 廊下を歩いていると、睦月に出くわした。

 何故か彼女はこちらに向かって後ろ向きに歩いていたので、ぽすんと彼女の背中から受け止める形になる。

 そのまま俺を見上げると、にこりと笑った。

提督「何をやっているんだ?」

睦月「ほえ?」

提督「後ろ向きに歩いていただろう」

 ここの廊下は腐食していて危ない。ここに来たばかりの俺も床板を踏み抜いた記憶がある。

 なのであまり危ない事はして欲しくないのだが、

睦月「暇なんだもん」

 対する彼女の答えはシンプルだ。要はすることがなく、暇つぶしで変な事をしていたのだろう。

提督「まぁ、確かに何もないが」

睦月「でしょー」

 俺に体を預けたままその場で足踏みをする睦月。

 ここで彼女の体が重かったら後ろに押されていたのだろうが、そんな事は起きず、ただ揺れるつむじを見下ろす他になかった。


睦月「何かする事ない?」

提督「そう言われてもな」

 今から出撃と言うわけにもいかない。演習も同様だ。

提督「そうだなぁ……」


提督「↓1でもするか?」

何でか分からないけれど「58の鏡開き」に見えてちょっと混乱しました(意味不明)
今日はここでおわりにさせてください

あけましておめでとうございます。昨日は更新出来ず失礼しました。
20時ごろ始めます。

今年最初の大型建造は鈴谷でした。
去年最後の大型建造も鈴谷でした。どういうことなの……


 そういえば、すぐ近くに伊58の部屋がある事を思い出す。

 少しずつ接してくれるようにはなってきたが、それでもまだ心の壁は厚い。

 海だけでなく人にもやや怯えている彼女にとっては、これまで直接あまり関わりがなかったであろう睦月との会話であればこなせるかもしれない。

 一人ぼっちの伊58に話しやすい仲間ができれば、彼女も部屋から出やすくなるのではないか。

睦月「?」

 ぽかんと小さく口を開ける睦月を見下ろしながら、そう考える。

提督「伊58と少し話をしようと思う。来てくれないか?」

睦月「はーい」

 そう返事をすると、再度彼女は後ろ向きに歩き出した。

 よほど暇なのだろうが、それにしてもせわしない。

提督(如月や弥生とは全然違うな)

 ……ふとそんな事を考えた。

 彼女の姉妹艦であるところの如月は、穏やかでのんびりとしていたし、弥生も物静かだった。

 それに比べると睦月は文字通り少女の様な明るい性格をしている。

 にこにこと良く笑い、良く話す。それはこの鎮守府ではとても貴重で、そしてとても大事なことだ。

 彼女の無邪気さに鈴谷たちが少しでも感化されたら、それほど嬉しいことはない。

 とはいえ、まるで正反対、というわけでもない。

 如月は大人びた性格や言動ではあったが、それでも時折は悪戯めいた事を言う子で苦笑させられたこともあった。

 弥生も弥生で、本人は自分の事を表情が硬いだとか無愛想のようなことを言っていたが、それは感情表現が苦手なだけで、根の部分は素直で優しい子だったと知っている。

 その辺りはやはり、彼女達は似ている。


 艦娘と言う言葉も、突き詰めてしまえば少女という事に変わりはない。

 兵器が少女の形をしているのではない。少女達が兵器の代わりに戦っているのだ。

 ただ他の人より少しだけ、弾薬の匂いが強いというだけで。

 硝煙は香水で、海水は口紅で、そして艤装は花束だ。

 生まれた理由が違うと言うだけで、生まれた場所が違うと言うだけで、

 たったそれだけのことで、彼女たちも少女として生きている。

 そして、

 たったそれだけのことで、彼女たちは艦娘として死んでしまった。

 だから出来る事ならば皆睦月のように笑って欲しいし、笑っていなければいけないのだと思う。

 ……それを願える立場ではないと分かっていても。そう思うのだ。



提督「あまり先に行かないでくれ。伊58の部屋は知っているのか?」

睦月「およ。そういえば知らなかった!」

 舌を出しながら頭をかく睦月。

 そしてすぐにまた、飛び跳ねるように進みだした。

 床板を踏み抜かなければいいが、と少し心配になり、やがてその心配が不思議な感覚としてふと胸を叩く。

 目の前で、無邪気に笑う睦月。床板の木目の数を数えてたり、壁に手をやったりと気ままに行動している。

 別段それにおかしなところはない。

提督(……、おかしくない)

 何故自分がそんな違和感に囚われたのかが分からず、思わず眉を顰めた。


 するとそんな俺の表情の変化に気付いたのか、覗き込むように睦月が尋ねてくる。

睦月「おりょ。提督、どうしたのそんな顔して」

提督「いや、なんでもない」

睦月「そんな感じには見えなかったけど」

提督「大したことじゃない」

睦月「ふうん……?」

 訝しげな表情を一瞬浮かべる。しかしそれも次の瞬間にはまた朗らかな笑顔に変わっていた。

 その目元が少し如月に似ていて、しかし笑い方はまた違うなと思い返す。

 如月はおっとりとした柔和な微笑みだったし、弥生はあまり笑わなかった。

 如月が春の穏やかな陽射しで、弥生が冬晴れの朝だとしたら、睦月は太陽だろう。

 もし三人が今一緒に居られたら、きっとそれは幸せな光景だったはずだ。

 睦月がはしゃぎ、如月がそれを見守り、弥生は何も言わず。

 そんな弥生を笑わせようと睦月がちょっかいをだし、如月が少しだけそれに乗っかり、弥生が困りながらも僅かに笑う。

 そんな未来があったかもしれない。そんな未来になって欲しかった。

 だけれどそれは叶わない。

提督(そうしてしまったのは、俺か……)

 そう悔やみ、溜息を吐いた。

 ……そしてそこでようやく違和感の欠片を見つけた。


 それはあまりに自然すぎて、だからこそ見落としていたのだ。

 睦月の笑顔。何の変哲もない、朗らかな笑顔だ。

 だけれどそれは、間違っていないようでおかしい。

提督(そうだ。そういえば何故睦月は……)

 にこりと笑う睦月。こちらを見て笑う。

提督(何故睦月は、笑っているんだ?)

 冬晴れの朝がなくなった。春の陽射しが失われた。

 弥生。如月。

 二人を失ったはずの彼女は、どうして──

提督(何故睦月は、笑っていられるんだ……?)


 ──どうしてこんなに、自然な笑顔でいられるのだろう?


睦月「提督。そんなに睦月の顔見てどうしたの?」

提督「……、いや、なんでもない」

睦月「んー? もしかして、睦月に惚れちゃった? にゃんて! にゃはは」

提督「……」

 彼女の笑顔が偽物だとは思えない。決して無理をしている表情ではない。

 だとしたら。

 今の彼女は何を元にしているのだろう。

睦月「~♪」

 ……本当に、彼女の瞳に、俺は映っているのだろうか?


睦月「ここ?」

提督「そうだ」

 一見ボロボロのこの鎮守府で、使われている私室を判別するのは難しい様にも思えるが、実はそうではない。

 というのも理由は単純で、使われている部屋は扉が閉まっているからだ。

 他の使われていない部屋は扉が開いたままか、或いは扉自体存在しないので、部屋の使用の有無自体は簡単に見分けられる。

 尤も、その逆として、使われている部屋のうち誰がその部屋を使っているかに関しては、これは覚える以外に判別の方法はない。

 ちなみにではあるが、ここに来てから伊58以外の私室は訪れていないので、実の所他の艦娘達がその部屋を使っているのかは俺は知らない。

 この睦月にしても、新しく部屋の準備をしたのは榛名なので、先述したとおり、使われているであろう部屋のうちどこが彼女(と浜風)のものであるのかは把握していなかったりする。

睦月「それで、睦月は何をすればいいの?」

提督「あぁ……」

 ……先ほどの疑念もあり、つい彼女から視線を逸らしてしまった。

 それを誤魔化すように一つ咳払いをしながら、伊58の部屋の前に立つ。

提督「特別意識することはない。いつも通り明るく話してくれ」

睦月「はーい」

 にこりと睦月が笑う。

提督「伊58、いるか?」

 ノックをし、話し掛ける。

伊58「……、ん、いる、よ」

 やや遅れて返事が返ってきた。


コンマ判定。

↓1

00-15 成功
16-60 普通
61-99 失敗

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月05日 (月) 01:34:02   ID: a-OWJXVV

独自設定でシリアスやるなら安価に逃げないで自分で書きなよ

2 :  SS好きの774さん   2015年09月09日 (水) 23:02:27   ID: vFdUa6-r

おもろかったのに続きは無しか

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