【艦これSS】提督「壊れた娘と過ごす日々」 02【安価】 (1000)

※艦これのssです。安価とコンマを使っています。

※轟沈やその他明るくないお話です。苦手な方は気をつけてください。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1419872466


好感度的なものとその目安

19 鈴谷
14 加賀
10 伊58
8 大淀
5 榛名
5 睦月
5 浜風
0 金剛/雪風


※攻略は出来ないけど絶対に病まない癒し的な存在
曙・阿武隈・阿賀野

・好感度30 トラウマオープン
(艦種によって改造レベルに大きな差があるので統一)

・好感度60 トラウマ解消
ここから恋愛対象&好感度上昇のコンマ判定でぞろ目が出たらヤンデレポイント(面倒なのでYP) +1

・好感度99 ケッコンカッコカリ

・YPは5がMAX、5になったら素敵なパーティ(意味深)

沈んだ艦娘24人

一回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
大和・朝雲・那珂・武蔵・弥生
(雪風は生還)

二回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
深雪・大鳳・如月・雲龍・龍驤
(雪風は生還)



 大体こんな感じです。

立て乙です

>>21
忘れてました、ありがとうございます

前スレ
【艦これ】提督「壊れた娘と過ごす日々」【安価・コンマ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418749126/)


提督「伊58、今日は俺の他にもう一人居る」

睦月「睦月でーす!」

 俺が言い終わるや否やにこやかな声で睦月がそう告げた。

 対して伊58からの返答はない。

 いきなりの事で戸惑っているのだろうか。

提督「さっきそこで会ったんだ。今日は三人で話そう」

睦月「そうだよー。出てきてよー」

伊58「……、あ、う……」

 困ったような呟きが聞き取れた。

睦月「提督、なんでゴーヤさんは出てこないの?」

提督「まぁ、色々あってな」

 その色々を聞く為にこうして彼女と会話を重ねているのだが、今日はいつも以上に歯切れが悪い。

睦月「なんか嫌なことがあったの?」

提督「そんなところだ」

 詳しく聞かれると俺も困ってしまうのだが、睦月は思ったことを口にするタイプなのだろう。

 不思議そうな表情で小首を傾げた。


睦月「どうしたんだろ。どこか悪いのかな? それとも誰かに酷い事されたとか?」

提督「……、睦月」

睦月「それともー……」

 まずい、と直感した時には遅かった。

 きょとんとした顔のまま、何事も無いように睦月が口にする。


睦月「それとも、誰か大事な人が死んじゃったとか?」


 背筋が凍るような音がした。

 あまりにもあっけらかんとした口調だった。

 まるで世界の反対側の、名前も知らない人の訃報を聞いたような、そんな言葉だった。

 少なくとも二人の死を知っている睦月の言葉とは思えなかった。

 目の前に居る睦月が、中身だけ別の何かになってしまっているような、そんな錯覚さえ覚える。

提督「……、睦月、少し待ってくれ」

睦月「およ?」

 震えそうになる声を抑揚ごと抑えながら絞り出す。

 二三歩睦月を下がらせる。良く分かっていないような顔の睦月だったが、今は放っておく。

提督「伊58、聞こえるか」

 返事は返ってこない。

提督「伊58……」

 ノックをする。それでもやはり返事はない。

 扉を叩いた手をそのまま扉に預け、脱力しかけるのを何とか堪える。


提督「……駄目か」

 その後も三十分ほど扉越しに話しかけてみたが、大した反応は得られなかった。

 睦月の言葉に辛いものでも思い出したのだろうか。

睦月「……ごめんね? 提督。睦月、そんなつもりじゃなかったんだけど」

 その頃には睦月も笑顔を収め、申し訳なさそうな声で上目に見上げるようになっていた。

提督「睦月は悪くないさ。事情を知らなかったんだから仕方ない」

 これは半分は方便で、もう半分は本音だ。

 彼女に悪気はない。悪意も何もない、本当に純粋な意味での疑問だったのだ。

 ここに来てまだ数日程度の、伊58について何も知らない睦月からしたら、彼女の苦悩がどれほどのものか分かる由もない。

 行き過ぎてしまった疑問も、睦月からしたらその境界線さえ知りえないのだ。

 だから、睦月を責めるつもりはない。

 ただ、惜しむらくは、悪意の無い彼女に、善意も同様に無かったと言う点だ。

 悪意も善意も何も無く、ただ単純に疑問を口にする事の危うさと言うものを分かってもらえればそれで……

提督(……なんて、何を俺はワガママなことを思っているんだ)

 ……きっと、ここまでが方便になるのだろう。

 これもまた、本心ではあるが、本音ではない。

 本当はもっと違う。

 しゅんとする睦月を思いやる一方で、その実睦月より性質の悪い心の内が確かにあった。

 しかしそれを認めたくなかった。

 睦月と別れ、食堂で水を飲み溜息を吐く。

 コップの水面に映る自分が酷く汚く見えた。


提督(本当は俺はあの時……)

 つい先ほどのことを思い返す。

 落ち込む睦月を励ましながら、俺は何を考えていたのだろう。

 伊58の事だろうか。睦月の事だろうか。

 それとも如月や弥生の事だろうか?

提督(違う。どれも違う)

 勿論、全くそうでないわけではない。

 沈黙してしまった伊58の事が心配だった。

 消沈してしまった睦月の事も心配だった。

 だけれど、それ以上に、

提督(あの時俺は、確かに自分の事を考えていた……)

 どこか心の奥、心の隅の方で安心した自分が居たはずだ。

 何故そんな事を考えたのだろうか。余りに浅薄すぎる身勝手な思いだ。

 怯える伊58が可哀相だと思った。守ってやりたいと思った。

 しかし、それをするには、彼女のことを知らなさ過ぎた。

 何故彼女は怯えるのか。何に彼女は怯えるのか。

 何をすれば彼女は心を開いてくれるのか。

 分からない事だらけで、見えないものだらけで、闇の中で手を振り回したくなった。

 そして睦月が現れた。

 もしかしたら睦月ならば彼女の心を開けるかもしれないと思った。

 表面上は、そう思った。


 その睦月でも駄目だった。

 良く考えれば当然だった。

 なぜならば、睦月もまた、伊58の事を知らなかったのだ。

 だから彼女の境界線が分からず、心を撫でられなかった。

 そして、それを見て俺は、心のどこかで安心したのだ。

 俺が上手くいっていないのに、来たばかりの睦月では難しいだろう、と。

 情けないにも程がある感情だった。

 要するに、俺は。

 睦月に先を越されなくて安心したのだ。

提督「……くそ」

 水に映る自分の顔が腹立たしく思い、一気に飲み干した。

 口の端から水が零れ落ちる。咳き込みながらグラスを叩くように置いた。

 勝手に使命感を燃やし、勝手にそれに執着し、あまつさえ嫉妬にも似た感情を持つなど、人として最低だ。

 きっとそれは、既に提督として最低な俺だからこそ至ったのだろう。

 伊58を守りたいと思った。

 その立場を守りたいと思った。

 もう何も失いたくなかった。

 あまりにも矮小で卑劣な男だった。


提督「……朝、か」

 心地の悪い寒さで目を覚ます。

 相変わらず外は曇ったままだ。

提督「……今日は、何をしようか」


↓1
1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


あと睦月の好感度上昇
↓2のコンマ十の位


提督「おはよう、加賀」

加賀「……」

 相変わらず返事は無い。こちらをちらりと見ただけで、再び矢の手入れに戻ってしまった。

提督「さてと。妖精はいるか?」

 何をするにも、彼らを見つけないことには始まらない。



妖精さんコンマ

00-49 発見
50-99 駄目

ほいっち

↓1って書き忘れていましたセンセイシャル! >>38でいきますね

今日は下げ進行なのな


提督「……ふむ、いないな」

 くまなく辺りを探すが、妖精は見当たらない。

 ネズミであれば問題なく居るのだが。

提督「いや、それはそれで問題か」

加賀「……ねえ」

 そんな事を一人言っていると、珍しく加賀のほうから声を掛けてきた。

提督「どうした、加賀」

加賀「……、そこ」

 と、加賀が指差す方向を見る。

提督「ネズミじゃないか?」

 そんな事を言いながら振り返ると、

妖精さん『……』

 確かにそこにはまごう事無き妖精さんが。

 青っぽい服装で、腕組みをしながらこちらを見上げている。

 きりっとした眉だ。理知的な印象を受ける。尤も、彼ら妖精は総じて中性的な出で立ちをしており、性別があるのかどうかは定かではないが。

提督「おお」

妖精さん『……』

本当だ、どうしてsageになっていたんだろうか。>>43 ありがとナス!


提督「ええと」

 向こうが何も言わないので若干戸惑ったが、思えば彼ら妖精が言葉を発するのかどうかを俺は知らなかった。

 或いは我々人間の分からない言葉でなら話すのかもしれないが、いずれにせよそれでは意味が無い。

 とはいえ、これまでの過去の例を見るに、彼ら妖精側は恐らく人間の言葉を理解しているだろう。

 だとすると、やや一方通行ながら一応会話の体は成り立つことにはなる。

提督「君、妖精さんだね?」

 分かりきった質問ではあるが、なんとなくしてしまう。

 こくりと妖精さんは頷いた。

提督「ここは、鎮守府だ。俺は、提督。彼女は空母加賀。君は何故ここに?」

 妖精さんは腕を組んだまま遠くを見つめている。

 何か思案しているのだろうか。

 或いはアウトプットの手段を探しているのだろうか。

妖精さん『……』

妖精さん『……』

妖精さん『……たび』

 喋った。

妖精さん『じぶんさがしの たび』

 良く分からないことを喋った。

 ……違う意味で混乱してきた。


提督「そ、そうか。旅か。良いよな」

妖精さん『かぜは どこからきて どこにいくのか』

提督「一人旅かい?」

妖精さん『ていきあつは やっかいだ』

提督「あ、ああ」

妖精さん『こうきあつに ていきあつを ぶつけると しぬ』

提督「……」

 頭が痛くなってきた。

加賀「意味がわかりません……」

提督「ああ、俺もだ」

 こんな形で加賀と意気投合するとは思わなかった。

 ……いや、これを意気投合を言うのかと問われると難しいところではあるが。

妖精さん『こうしょう するのかい?』

 唐突に本題に入られる。

提督「あ、ああ」

妖精さん『まかせろ』

 親指を立てる妖精さん。

 任せて良いのだろうか……。

加賀「……大丈夫なの?」

提督「しかし、これでも妖精なのは確かだ」

 心なしか小声になる俺と加賀である。


工廠タイム。

やることは二つで、建造と装備です。

・建造
新しいヒロイン候補の追加です。
下記の表から一つを選び、その中の艦種から安価で決めます。

A【燃料30 弾薬30 鋼材30 ボーキ30】
いわゆる最低限レシピ。駆逐艦・軽巡洋艦が対象です。

B【燃料250 弾薬30 鋼材200 ボーキ30】
軽巡洋艦・重巡洋艦・潜水艦が対象です。

C【燃料400 弾薬30 鋼材600 ボーキ30】
重巡洋艦・戦艦が対象です。

D【燃料300 弾薬30 鋼材400 ボーキ300】
軽空母・正規空母が対象です。

E【燃料500 弾薬500 鋼材500 ボーキ500】
駆逐艦・軽巡洋艦・重巡洋艦・潜水艦・戦艦・軽空母・正規空母「以外」が対象です。


・装備
今いるヒロイン候補の新しい装備を作ります。
と言っても錬度とか戦力数値も無いスレですので、要は資源と引き換えに好感度を上げるだけです。
まず【燃料100 弾薬100 鋼材100 ボーキ100】を支払います。
次に誰の装備を作るか選択し、その後はコンマ次第で好感度が上がります。
ただし実際のゲームと同じで失敗する場合もあります。勿論その場合資源は帰ってきません。
具体的には3割の確率で失敗します。


ちなみに現在の資源は【燃料96 弾薬99 鋼材143 ボーキ109】です。


妖精さん『これだと できるかんしゅは すくないけど いいか?』

提督「そうだな……」

 現在の資源だと、出来て駆逐艦か軽巡洋艦ということになる。


提督「↓1」

1.最低限レシピを頼む
(【燃料30 弾薬30 鋼材30 ボーキ30】を失います)

2.今回は見送る

ALL500は揚陸、潜母、工作か?

>>58
そうですね、あとは水上機母艦くらい?
わざわざ正規空母と書いたけれど、今考えたらもう装甲空母さんの出番は……


提督「お願いするよ」

 丁度軽巡洋艦は鎮守府に居ないことを考えると、決して悪い選択肢ではないようにも思える。

妖精さん『まかせろ』

 再び親指を上げる妖精さん。

 一抹の不安を感じないでもないが、それでも彼(?)に頼む意外に方法は無い。

 設備の殆んど無いこの工廠室で果たしてどうするのかも気になるのだが、

妖精さん『よせやい てれるだろ』

 という言葉と共に追い出されてしまった。

 作業に集中したいという事なのだろうか。今一何を伝えたいのかが分かりにくい。

 せめてどれくらいの時間を要するのかが知りたかったが、また折を見て尋ねるしかあるまい。

そういうわけで建造です。

駆逐艦・軽巡洋艦の中からお願いします。
大型建造やイベント限定の子でも構いません。

↓1~↓3のコンマが一番大きい艦娘

流石に建造で来る子は壊れてないよね……よね?

>>70
(これからそうなったら)いかんのか?


提督「……」

加賀「……」

提督「……」

加賀「……」

提督「……暇だな」

加賀「……そうね」

提督「……」

加賀「……お茶」

提督「ん?」

加賀「飲むかしら?」

提督「ああ、うん。欲しいな」

加賀「ええ」

提督「ありがとう」

加賀「別に」

提督「……」

加賀「……」

提督「……」

加賀「……」

 何だこの……何?

 狐につままれたような感覚である。

 あまりに妖精が謎過ぎて、互いに頭の上にクエスチョンマークを浮かべたまま食堂まで戻ってきてしまった。

 出されたお茶をゆっくりと啜る。

提督「……美味い」

加賀「そう」

 これはこれで、悪くは無いのかもしれない。

軽い遠征の為とにかく駆逐揃えたい気はする。睦月浜風は一応他所の艦娘だし
(既に攻略対象だけど)

>>85
壊れ方のバリエーションの関係で>>1的にも上限アナウンスはその内出るやろ、多分


 良く分からないままぼんやりと食堂で時間を過ごすが、さすがに一時間もすれば我に帰るには十分だった。

 再び加賀はそっぽを向いてしまい、二杯目のお茶は自分で淹れる事になったが、それを飲み終えると工廠室に戻ることを加賀に告げた。

 駆逐艦であればもう終わっているだろうし、仮に妖精さんが軽巡洋艦の船体を作り上げていたとしても、それならそれで残り時間を改めて聞けばよい。

 俺の言葉にそう、とだけ呟く加賀ではあるが、彼女自身まだ艤装や弓矢を置いたままだったこともあってか、一緒に工廠室に戻ることとなった。

 そうして成り行きではあるが、加賀と二人で工廠室へ向かう。

 なんだか新鮮な気分だ。


妖精さん『まちくたびれたぜ』

 工廠室に戻ると、妖精さんは既に作業を終えていたようで、知らない少女の頭の上にしがみつくようにして乗っていた。

 そんな妖精さんを撫でながら、

???「あなたが提督さん? こんにちは!」

 と元気良く挨拶してきた少女。

夕立「白露型四番艦、夕立よ! よろしくね!」

 宣言するや否や、夕立が飛び跳ねた。

 その衝撃で妖精さんが落っこちてしまわないかどうか不安になったが、立ち上がってサーフィンのようにバランスをとっている。

夕立「妖精さん見てるっぽい?」

提督「ああ、そうだ」

夕立「面白いっぽい!」

 甘くそう微笑んだ。そしてきょろきょろと辺りを見回す。

夕立「ここ、何だか古いですね。廃墟っぽい」

提督「あぁ、ちょっとここは特殊でな。寂れてはいるが、鎮守府だ。よろしく頼む」

夕立「頼まれたっぽい! 頑張るね!」

 素直な子という第一印象を受けた。

 同時に、白露型という言葉に四ヶ月前を思い出した。

何人まで出すかは全く考えていませんでした(池沼)

でも>>87の言うとおりどこかで必ず捌ききれなくなるのでそんなに増やすつもりもないです。
夕立で10人目っぽいので個人的に思いついてる子を合わせて後5人くらいを目安にすればいいのかなぁとかそんな感じです。


 旅に出る、とだけ言い残し、妖精さんは去って行った。

 最後までつかみどころの無い存在ではあったが、とはいえこれでまた新しい仲間が増えたのだから感謝せねばなるまい。

 ……また次もあんな調子なのかと思うと、少し頭が痛くなるが。

夕立「提督さん! 夕立のお仕事はなぁに?」

 そう言われて考える。

 伊58の代わりに夕立を入れれば、丁度六人になり出撃も演習もできる。

 とはいえ、来たばかりの彼女をいきなり海に出すのも気が引ける。

 鎮守府近海であればあまり問題はないのかもしれないが、近海ならば深海棲艦が絶対出ないと言うわけでもない。

 それ以前に、まだ彼女のことを加賀以外知らないのもよろしくない。

提督「……そうだな。↓1」


1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「まずは、皆に夕立のことを紹介しよう」

夕立「了解!」

夕立「夕立です、よろしくね!」

加賀「えっ」

 物凄く油断していたようだった。

 初めて加賀の驚きを見た。

夕立「? 紹介……」

 そんな加賀を見て、不思議そうな顔を浮かべる夕立。

提督「加賀はずっと居ただろう……」

夕立「あ」

 ぽん、と手を叩く。

提督「加賀以外の所に行こう」

夕立「はーい!」


提督「鈴谷と伊58以外、全員いるな」

 厳密に言えば、更に加賀も居ないのだが、もう既に加賀は夕立のことを知っているので問題ないだろう。

 伊58が部屋から出てこないのは想定済みだが、鈴谷はどこに行ったのだろうか。

 くまなく探したが見当たらなかったので、ひとまず後回しにして、他のメンバーに紹介することにした。

夕立「白露型四番艦、夕立よ! よろしくね!」

 先ほど聞いたのと同じセリフで夕立が告げる。

 ぱちぱちと睦月が手を叩く。つられて浜風も恥ずかしそうに少しだけ手を叩いた。

榛名「榛名です! よろしくお願いします!」

 夕立に対するように椅子から立ち上がり、榛名がお辞儀をする。

睦月「睦月です! 同じ駆逐艦同士、はりきっていきましょー!」

浜風「ん、同じく浜風です」

 きょろきょろと辺りを見回す夕立。

 食堂は鎮守府内でも比較的マシなほうになってきたが、それでもボロなのには変わりない。

 工廠室の時と同様に、再度夕立にここについて説明した。

提督「人数も少ないし、かなりボロいが、それも含めてこれからだ。一緒に頑張ろう」

夕立「夕立、頑張るっぽい!」


 夕立の私室については、今回も榛名に任せることにした。

 睦月と浜風も手伝ってくれるようなので、榛名も楽になるだろう。

 手伝うことも考えたが、女性三人で姦しく部屋作りをするところに乗り込むのも無粋な気がしたので、やめておいた。

 まだこれから部屋として機能させる段階とはいえ、一応女性の部屋は部屋である。

提督(それより、鈴谷はどこに行ったのだろうか)

 先ほど、夕立を皆に紹介するときに鎮守府内を探したのだが、どこにも見当たらなかった。

 伊58の様に私室に居るのかと思い榛名に確認を取ったが、部屋には居なかったらしい。

 別段この鎮守府はとてつもなく広いと言うわけではない。

 入れ違ったりすれ違ったりすることはあっても、複数人で探して姿さえ見えないと言うのはおかしい。

 となると、やはり、鎮守府の外に出たのだろうか。

 先日こそ出撃や演習に顔を出してくれたものの、それ以前に一度鈴谷と話したときには、鈴谷は良く出かけているといっていた。

 この寂れた鎮守府で、艦娘としての自分の存在意義について悩むのは酷く当然だ。

 だから彼女はしばしば鎮守府の外に出ているようだが、今日もそうなのかもしれない。

 それを止める権利は今のところ俺にはないのだが、夕立の事があるので、出来れば顔を合わせておきたかった。

 玄関付近で鈴谷を待つ。

 何もせず待つのは存外に辛い。何しろ今は十二月だ。

 少しだけ睦月の気持ちが分かったような気もするが、しかしそれでも頭を振って、鈴谷を待ち続けた。


 陽が傾き始める。

 そうして短い夕方になった所で、ようやく鈴谷が正門に姿を現した。

 こちらを見るなり嫌そうな表情を浮かべるも、特に歩く方向を帰るわけでもなく、そのまま玄関へと戻ってくる。

提督「お帰り」

鈴谷「わざわざ待ってたの?」

提督「鈴谷に報告があってな。っと」

 硬くなった体をほぐすべく伸びをした。

 かじかんだ手を握っては開く。

鈴谷「報告? っていうか何時間ここにいたの」

 皮肉気に笑う。

提督「さあ、何時間だったかな」

 夕立に初めて会ったのが昼前なので、おおよそ五時間か六時間か。

鈴谷「……馬鹿じゃないの」

 呆れたように吐き捨てる。お気に召さなかったらしい。

鈴谷「忠犬にでもなったの? そんだけ待てば話を聞くと思った?」

提督「そういうつもりではない」

鈴谷「そういうタイプが一番嫌い」

 苦々しげにそう零し、さっさと立ち去ろうとする鈴谷を引き止める。

提督「君の好みはともかく、聞いて欲しい。新しい仲間が出来た」

鈴谷「……」

鈴谷「……はぁ?」

 立ち止まった彼女の苛立ちは、いつぞやの工廠室の加賀のようだった。


鈴谷「この鎮守府に、新しい仲間? それ、本気で言ってるの?」

提督「あぁ、そうだ。白露型四番艦の夕立だ」

鈴谷「名前なんか聞いてない!」

 鈴谷が壁を強く蹴り上げた。

 あまり女性がそういう事をするべきではない、と言おうと思ったが、とてもそんな状況ではない。

鈴谷「ここがどんな場所か言ったでしょ? ここはゴミ箱だって。そんな場所に来るのが、仲間!? 冗談でしょ!?」

 ギリ、と歯軋りをしながら鈴谷が詰め寄る。

 もし今彼女が艤装を装備していたら、間違いなく俺を撃っていただろう。

 それくらいの勢いだ。

鈴谷「そいつがどんなポンコツか知らないけど、仲間にするのはやめてくれる!?」

提督「落ち着け鈴谷。君は多分、何か勘違いをしている」

 至近距離で俺を見上げる鈴谷。その瞳は怒りに満ちていた。

鈴谷「私が何を勘違いしてるって? ここのことはあたしが一番知ってるんですけど」

提督「そうだな。その通りだ。だが、新しくきた子に関してはそうじゃないだろう?」

鈴谷「どいつが来ようが関係ないよ。ここに来るって時点で、そういう事なんだから」

提督「その点において鈴谷は勘違いしているんだ。いいか、良く聞け」

鈴谷「何度も勘違い勘違いってしつこい。ここは──」


夕立「お呼びっぽい?」

 と。

 廊下をとてとてと歩きながら、夕立がやってきた。


 突然の夕立の登場に一瞬呆けるも、すぐに我に帰ると、

提督「鈴谷、彼女が新しく来た夕立だ。夕立、彼女がさっき居なかった鈴谷だ」

鈴谷「こいつが……」

夕立「鈴谷、さん! よろしくね!」

 にぱっと笑いながら夕立がそういうも、鈴谷は耳すら貸そうとしない。

 よほど気が立っているのだろうが、それはさすがに夕立が可哀相である。

 目すら合わせずに腕組みをする鈴谷を見て、夕立が泣きそうな顔で縋り付いてきた。

夕立「提督さん、夕立ったらなんか怒らせちゃったっぽい……?」

 背中に隠れるようにして鈴谷から逃れる夕立。

 そんな夕立を見て、腹立たしげに舌打ちをしたのが鈴谷だ。

提督「夕立、気にすることはない。ちょっと鈴谷が勘違いしてるだけだ」

夕立「勘違い?」

鈴谷「なに、その子はおかしくないとでも言いたいの? そんな奴ここに来る訳ないでしょ」

提督「まぁ、落ち着け鈴谷。この子は他から来たわけじゃない」

夕立「っぽい……」

 それは相槌なのだろうか。良く分からないが、多分口癖のようなものなのだろう。

鈴谷「はぁ……?」

 意味がわからない、と言った表情を浮かべる鈴谷。

 俺からすれば、何故鈴谷がそうとしか思わないのかが分からなかった。

提督「この子は、この鎮守府の工廠室で船体を作った。だから他の鎮守府から来たわけじゃない」

鈴谷「……」


 ぽかんと口を丸く開ける鈴谷。口だけでなく、目まで丸くしているように見える。

 先ほどまでの激情はまるで消えうせ、ただ呆然と棒立ちのように突っ立っていた。

提督「……そんなに驚くことか?」

 新しい艦娘が鎮守府に加わった。それが他の鎮守府からの異動でないのであれば、後はせいぜい自分の鎮守府で建造するしか可能性はないと思うのだが。

 しかし鈴谷は、まるで後者は考えていなかったかのような表情だ。

 この鎮守府が以前どれだけの規模のものであったかは分からない。建物の大きさを考えると、俺が前居た鎮守府の半分にも満たない数の艦娘しか居なかったのかもしれない。

 とはいえ、それでも、一度も建造を見ていないわけでもあるまいに。

 まるで本当に初めて建造されたばかりの子を見た、という反応だ。

提督「……鈴谷?」

鈴谷「……へ?」

 目を瞬かせながら、素っ頓狂な声で返事をする。

鈴谷「あ、ああ。うん。あー……」

 やがて四方へと忙しなく視線を巡らせ、最終的には諦めるように、

鈴谷「……ごめん。確かに勘違いしてた」

 と謝った。

鈴谷「あー……そういえばそんな事もあったな……」

 続いて小さく呟き、すぐにそれをかき消すように軽く笑った。

 その表情は、いつもの皮肉めいたものだった。


鈴谷「夕立、だっけ?」

夕立「?」

 相変わらず俺の背中にしがみついたままの夕立だったが、

鈴谷「あたしは鈴谷。よろしく」

夕立「! うん、頑張るっぽい!」

 鈴谷の言葉を受けて、俺から離れた。

 子犬のようにはしゃぐ夕立を見て鈴谷が少し微笑む。

 そしてよしよしと彼女の頭を撫でながらふっと溜息を吐いた。

提督「ところで鈴谷。どこに行ってたんだ?」

鈴谷「別に。遊びに行ってただけだよ」

提督「そうか」

鈴谷「なに、文句ある?」

提督「いいや」

鈴谷「でしょ。……あたしお風呂入りたい、もう行くね」

 ああ、という俺の言葉を聞くまでもなく鈴谷は行ってしまった。

 その間頭を撫でられ続けていた夕立だったが、存外嫌いではないらしく、寂しげな表情を浮かべた後、ずいと頭を俺に差し出した。撫でろと言う事だろうか。

 それをやんわりと断ると、頬を膨らませてしまう。

 宥めるようにまた今度、と言うと、渋々引き下がりながら、それでも次の瞬間には微笑みながらまたどこかに行ってしまった。

 そんな夕立の後ろ姿を見ながら、そっと息を吐いた。

 果たして鈴谷はどうしてあんな反応をしたのだろうか。

提督「……推測の域を出ないな。やめよう」

 ぶるりと身を震わせる。思いの外、体が冷えてしまっていた。

 いつの間にか暗くなった廊下を一人で歩く。



遅くなったけれど加賀さんの好感度
↓1のコンマ十の位

今日はここで終わりです。おやすみなさい。

すいません、今仕事終わったので今日は更新出来ません


提督「……朝か」

 窓が濡れている。どうやら夜中の内に雨が降ったようだ。

 今はもうやんではいるが、やはり空の色は明るくない。

提督「……」

 雨が降るたびに夢を見る。

 初めて大和達を失った時も、二回目に龍驤達を失った時も。

 三回目に皆を失った時も、四回目にあの子を失った時も、

 どれも全て雨だった。

提督「……起きよう」


↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「……ん?」

 ふと窓の外を見ると、榛名が立っていた。

 一瞬、また草むしりをしているのかと思ったが、しかし様子がおかしい。

 雑草の中、何をするわけでもなく、本当にただ突っ立っているだけなのだ。

 視線はやや上向きで、思いつめた顔で空を見ている。

提督「……」

 先日の演習の事を考えているのだろうか。

 榛名が対面した相手は、よりによってすっかり変わってしまった金剛だった。

 あの時榛名は何を思っただろうか。

榛名「……」

 白く息を吐きながら、榛名は相変わらず空を見上げている。

 その様子が気になったので、榛名の元に向かうことにした。


提督「榛名。おはよう」

榛名「……、提督。おはようございます」

 こちらに気付いた榛名が、ぺこりと頭を下げた。

提督「こんな朝早くに何をしていたんだ?」

榛名「……、少し、考え事をしていました」

 さっと後ろに隠した手が濡れていたのを見逃さなかった。

 恐らくまた草むしりをしていたのだろう。

榛名「……」

提督「……、何を考えていたんだ?」

榛名「はい。金剛お姉様について……です」

 吐いた息が白く溶けていく。

提督「そうか」

榛名「はい」

 しばらくの間、沈黙が流れた。

 微かに波の音が聞こえる。

榛名「……提督」

 先に口を開いたのは、榛名だった。


榛名「提督は、お姉さまと親しかったのですか?」

提督「と言うと」

榛名「……、先日の演習のお相手は、以前提督が着任していた鎮守府だったと聞きました」

提督「ああ」

榛名「あちらの方は、提督の事をまだ慕っていました」

 阿賀野に引っ付かれている所を見られていたのだろう。

榛名「提督は優しいですから、きっと以前の鎮守府でも、皆に慕われていたのでしょう」

榛名「……、お姉さまも。提督を見る目が穏やかでした」

提督「……」

 今の金剛は、幼い子供と変わりはない。

 ただ目の前の出来事にはしゃぎ、それを擬似することくらいしか出来ない。

 しかし、それでも、榛名から見たら、金剛が俺を慕っているように見えたのだろう。

 緩い風が榛名の髪を靡かせる。

 榛名の横顔を見ながら、俺はかつてのことを思い返す。

提督「……、そうだな」

↓1

1.あまり親しくなかったよ

2.親しくさせてもらってたよ

3.一番大事だった


提督「親しくさせてもらってたよ」

 明朗で元気だったかつての金剛。

提督「明るくて、いつも笑顔だった。誰とでも仲良くしていたし、鎮守府の中心と言ってもいいくらいだったよ」

榛名「お姉様らしいです」

 くすりと榛名が微笑んだ。

提督「そんな金剛のおかげで、鎮守府も一丸となっていたよ」

榛名「……、そんなお姉様が、どうして今は」

 微笑に影が落ちる。

提督「……」

榛名「……やはり、榛名のせいなのでしょうか」

提督「どうしてそうなるんだ」

榛名「……、それは。榛名が……」

 ぐっと唇を噛む様に榛名が言いよどむ。

榛名「……榛名が、悪いからです」

提督「……」

榛名「提督。榛名は……」

 悲痛な声で榛名が呟くも、そこで言葉は途切れる。

提督「……」


↓1

1.自分を責める必要はない

2.金剛は俺のせいでああなったんだ

3.……そうだな。榛名のせいかもしれない


提督「自分を責める必要はない」

榛名「……そうでしょうか」

提督「ああ。その、自分を責めすぎる所は、榛名の少し直した方がいい点だ」

榛名「……すみません」

 実際の所、金剛がああなってしまったのは、俺のせいでしかない。

 三度の襲撃事件と金剛の暴走。一つも止めてやれなかった俺のせいで、金剛は心に傷を負ってしまった。

 その傷から逃れるために、金剛は言葉を失い、理性を失った。

 そこに榛名のせい、という言葉は全くもってないのだ。

榛名「……、榛名が悪い子なのは、事実です」

 しかしそれでも、榛名は自分を責めることをやめなかった。

榛名「……、榛名があんな事をしてしまったから、お姉さまが」

提督「……あんな事?」

 揺れる榛名の声に、眉を顰める。

 いつの間にか身体の前で組んでいた手は、力をこめているからか白くなっていた。

 爪が食い込んで、今にも血が流れそうだ。

 或いは、もしかしたら、そうすることで自分を罰しようとしているのだろうか。

 ……それは間違った行為だ。


榛名「……すみません」

提督「……榛名。繰り返すが、自分を責めないでくれ」

 榛名に非はない。その非は俺にある。

榛名「……」

 榛名は答えない。じっと空を見たままだ。

 今はこれ以上話しても平行線かもしれない。また時間を置いて話すことにしよう。

提督「……俺は一旦戻る。風邪を引かないようにしてくれ」

榛名「……」

 何も答えない榛名を見ながら、俺は鎮守府に戻ることにした。


榛名「……」

榛名「……榛名のせいなんです」

榛名「榛名が、確かにこの手で……」

榛名「ごめんなさい……」



榛名の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


提督「午後か……」

 適当に食事を済ませ、腕時計を確認すると、既に昼を過ぎていた。

提督「さて、何をしようか」


↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「出撃、か」

 夕立の船体を建造したことで、資源が再び少なくなったことを考えると、悪くない考えだ。

提督「問題はメンバーだが……」

 この鎮守府も、人数だけ見れば七人になった。

 未だ伊58の問題もあるものの、それでも最初にここに来た時に比べたら少しずつ変わってきている。

提督「……、まずは全員に声をかけよう」


声をかける相手 ↓1、↓2


 食堂へ行くと、丁度そこには鈴谷と睦月がいた。

 二人とも昼食だろうか、カレーを食べている。

 珍しい組み合わせだと思いつつ、声をかける。

提督「二人とも、ちょっといいか」

睦月「およ?」

鈴谷「なに?」

提督「これから出撃をしようと思っているんだ」

睦月「おおー」

 口許にカレーをつけながら、睦月が感嘆した声を挙げる。

 それに気づいた鈴谷が呆れながら布巾を渡す。

鈴谷「ふぅん。それで皆を探してるわけ?」

提督「ああ。手伝ってもらえないか?」

 口を拭いながら睦月が敬礼をする。

睦月「睦月、了解!」

 そして再びスプーンを動かす。

 対して鈴谷は食べ終わったところで、お茶を啜りながら溜息を吐いた。

鈴谷「……悪いけど、あたしはパス」

睦月「およ?」

 俺の代わりに睦月が声を挙げた。


提督「来てはくれないのか」

鈴谷「行くなら他のメンバーで勝手に行ってよ。七人いるんだから、あたしが居なくてもいいでしょ」

 そういうとふっと笑って湯呑みを置いた。

 しかしその表情は楽しそうなものではない。

提督「……、伊58にはまだ何も言っていない。彼女が参加できなければ、五人になってしまう」

鈴谷「だったら頑張って説得しなよ。守ってやりたいんでしょ?」

 ちくりと針で刺すような言葉に、喉を詰まらせる。

鈴谷「あたしは出かけるから」

 立ち上がり、食器を流しに置く。

提督「……、遊びに行くのか?」

鈴谷「……そうだよ」

 ぴくりと一度だけ立ち止まるも、すぐにまた歩き出す。

睦月「鈴谷さん、遊びに行くの?」

 状況の分かっていない睦月が、遅れながらようやく声を発する。

鈴谷「ん、そうだよ」

睦月「良いの?」

鈴谷「良いんだよ。ここはそういう場所なんだから」

睦月「良いなぁ。睦月も遊びに行こうかな」

 口許に再びカレーをつけながらそう言う。

提督「睦月、それは今度にしてくれないか」

睦月「はぁい」

 気の抜けた声を出しながら、睦月が頷いた。


 結局鈴谷はそのまま出かけてしまい、伊58も今回は嫌がってしまった。

 なので五人での出撃をすることになる。

 前回も五人ではあったが、新しく来た夕立と鈴谷では戦闘経験に差がある事を考えると、決して同様とは言えない。

提督「前回同様、この出撃は鎮守府近海での資源確保が目的だ。敵艦隊が現れたからと言って、必ずしも戦闘をするわけではない」

夕立「頑張るっぽい!」

 これが初めての出撃となる夕立が目を輝かせながら意気込む。

 睦月は先ほどの鈴谷の言葉をまだ引っ張り、若干口を尖らせながらも浜風と共に艤装の用意をしている。

 鈴谷が居ないという事に戸惑っている榛名が、何度かこちらを見るが、俺が緩やかに首を横に振るとそれ以上は何も言わず自分の準備を始めた。

 一方で加賀は鈴谷の行動に慣れているのだろうか、特に反応することはなかった。

 そうして全員の準備が整う。

提督「旗艦は榛名。加賀、榛名と夕立を挟むようにしてくれ」

加賀「ええ」

 経験の乏しい夕立を二人の間に置くことでケア出来ればいい。

 視線は既に海に向いている加賀にぺこりと頭を下げて夕立が横に並んだ。

提督「くれぐれも無茶はしないで、敵艦隊が出たらまず報告をしてくれ」

 自分のことを言われていると思ったのだろう、加賀が少しだけ咳を払って息を吐いた。


そんなわけで出撃コンマ

↓1のコンマの数だけ燃料
↓2のコンマの数だけ弾薬
↓3のコンマの数だけ鋼材
↓4のコンマの数だけボーキ


↓1~↓4のコンマの一の位で一番小さい数字の数だけ敵出現
↓1、↓2にぞろ目でドロップ(安価)
↓3、↓4にぞろ目でドロップ(非安価)

ちゃんと返事するなんて大分加賀デレたなw

>>191
深海棲艦に夢中だからまあ多少はね?


榛名「提督」

提督「どうした、榛名。敵か?」

榛名「いえ、敵艦隊は見当たりません。資源も多くはありませんが、回収できました」

提督「そうか」

 どうやら今回は敵に遭遇しないで済んだようだ。戦闘しないで済むならばそれに越したことはない。

加賀「……」

榛名「加賀さん?」

加賀「……なんでもないわ」

 不満げな声だ。加賀としたら深海棲艦を倒したかったのだろうが、だからと言ってまた以前みたいなことをされたら困る。

睦月「敵が居ないから楽だねー」

浜風「出来ればその方が良いと思うけど……」

夕立「戦いたいー」

 夕立だけが不満そうにしているが、睦月と浜風の言うとおりである。

提督「よし、すぐに帰還してくれ」

榛名「はい、分かりました」


伊58「……」

伊58「……あ。皆、戻ってきた」

伊58「……敵、出なかったんだ」

伊58「……ずっとそうなら、ゴーヤも、また潜れる、かな」

伊58「うー……でも……」

伊58「次何も出なかったら、ちょっとだけなら……どうかな……」

伊58「……んう」

あれ、最低値0ですよね? それとも最低一体は出るって言ったっけ、やばい記憶があいまいだ

あっ……見間違えてたゾ(池沼)
次の出撃で一体にさせてください、オナシャス!


鈴谷「お待たせーぃ。遅くなってごめんね」

鈴谷「出かけ際に提督に捕まっちゃってさ。出撃しろって。するわけないじゃんあたしが。何言ってんだか。あっはは」

鈴谷「? 良いの良いの、気にしなくてさ」

鈴谷「あんな場所で真面目に艦娘するなんて馬鹿のやることだよ」

鈴谷「あたしはこうして皆と話してるほうが楽しいから」

鈴谷「あ、何飲む? ……って聞いてもどうせ紅茶って言うんだよねー」

鈴谷「お風呂入ったら紅茶の出汁が出るんじゃないの? なんて、冗談冗談。怒らないでよ」

鈴谷「偶には違うのも頼みなよ。決めた、明日は紅茶以外ね。決定」

鈴谷「いいじゃんお金だしてるのあたしなんだから」

鈴谷「はい決まりー、駄目認めない! ふふっ」


燃料66→82 弾薬69→100 鋼材113→120 ボーキ79→96


戦っていないのに好感度上げて良いのかと思ったけど私のミスなので上昇

加賀↓1のコンマ十の位
榛名↓2のコンマ十の位
夕立↓3のコンマ十の位
睦月↓4のコンマ十の位
浜風↓5のコンマ十の位

27 加賀
22 榛名
19 鈴谷
11 浜風
10 伊58
08 大淀
07 夕立
06 睦月
00 金剛/雪風

加賀さんと榛名がオープン圏内になりました


提督「鈴谷」

鈴谷「なんだ提督か。何?」

提督「いや、おかえり」

鈴谷「……なに、気持ち悪いんですけど」

提督「酷い言われようだな……」

鈴谷「言っておくけど、優しくしようと思ったところで、出撃はしないからね」

提督「明日もか?」

鈴谷「明日も明後日も、明々後日も」

提督「やの明後日……だったかその次は」

鈴谷「へー。知らなかった。じゃあたしは行くから」

提督「……」


提督「……今の香り、紅茶か? それに花の香りもした」

提督「それにもう一つ何か……」

提督「……」

提督「……だめだ。混じりすぎて分からないな」

提督「駄目元でも、また鈴谷とは話をする必要があるな」

提督「このまま伊58に加え鈴谷までも出撃しないのが続くのは良くない」


提督「朝、か……」

 ここ最近の曇り空がようやく抜けたのか、今日はいい天気だ。

 寒さは相変わらずだが、晴れていると言うだけでまだ気分はマシだ。

提督「さて、今日は何を使用か……」



1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

えっといつも通り直下?

何もしてないのに突然PCが再起動してびびった
>>236 書き忘れたら直下だと思ってくだち


提督「……ん」

 食堂に向かうと、なにやら談笑している睦月と鈴谷を見つけた。

 昨日と似た光景だ。睦月の誰にも物怖じしない性格のおかげか、それとも案外鈴谷の面倒見がいいのか。

 先に俺に気づいたのは睦月のようで、こちらに向かって手を振る。

 それに釣られて俺を見た鈴谷がわざとらしく一つ溜息を吐いた。

提督「おはよう。何を話してたんだ?」

睦月「おっはよ!」

鈴谷「ちーっす」

 内容は他愛もない雑談だったようで、睦月が面白そうに話す。

 適度に相槌を打ちながらそれを聞く俺と、欠伸をしながら自分の髪の毛を弄る鈴谷。

睦月「……、それでね。鈴谷さん朝からカレー食べてたんだよ」

提督「朝からか。それはまた、すごいな」

鈴谷「別に、単に好きなだけだし。それに、あたしの朝は昼みたいなもんだからね」

 腕時計をちらと見る。今は午前八時。夜型の鈴谷にとっては、本来眠っている時間だろう。

 欠伸をかみ殺しながら、鈴谷が髪を手で梳いた。

鈴谷「あたしだって毎日遊んでるわけじゃないからね。遊ばない日は寝てるよ」


 遊び、という言葉に目を輝かせたのは睦月だ。

 身を乗り出すようにして鈴谷に尋ねる。

睦月「ね、鈴谷さんは何して遊んでるの?」

鈴谷「んー?」

 この鎮守府で暇を持て余している睦月にとっては、鈴谷の行動には興味津々と言った様子だ。

 その姿は身長差もあってか、傍から見ると姉に自分の知らない遊びを聞く妹のようだった。

睦月「睦月もう暇で仕方ないよー」

鈴谷「別に、ただ街に行って、お茶したりなんだりってだけだよ」

睦月「お茶!」

 なんてことはない、といった風に答える鈴谷の言葉に、更に目を爛々と光らせる睦月。

睦月「誰と? 何飲むの? 何話すの?」

 矢継ぎ早に質問を重ねる。

 上半身を完全にテーブルに乗り出して、鈴谷に接近する。

 そんな睦月に苦笑しながら彼女の額に手をやり押し戻す。

 にゃあ、と猫のような声を出しながら睦月が少しだけ身を引いた。

 しかしそれでもテーブルの上に肘をつき、楽しそうに体を揺らす。


鈴谷「んー。あたしはその日の気分次第だけど、紅茶しか飲まない人がいてさぁ。ですわーとかお嬢様みたいな喋り方するんだよ」

睦月「えー、すごい。お嬢様なの?」

鈴谷「まさか。そんなわけないじゃん、良くわかんないけどただの口調だよ」

睦月「変なの!」

 二人して笑いあう。

鈴谷「花屋には良く行くかな。それと……あぁ、お風呂にも良く行くよ」

睦月「お風呂? お風呂が好きなの?」

鈴谷「そうだねぃ。あたしもその人もお風呂好きだからね」

睦月「やっぱりお嬢様みたい! その人髪長い?」

鈴谷「? なんで?」

睦月「だって、お嬢様っていったら、髪の毛が長くて、ドレス着てるイメージがあるから」

鈴谷「あぁ、なるほど。……んー、髪はまぁ解けばそこそこ長いかな。結ってるから普段はそうでもないけど」

睦月「ほへー」

鈴谷「睦月も髪伸ばしてみたら?」

睦月「うーん……睦月はいいかなぁ」

鈴谷「なんで?」

睦月「長いと手入れが面倒っぽいし」

鈴谷「まぁ、そうなんだけど」

睦月「それに、睦月結構癖っ毛だから、伸ばせないんだよー。如月はそうでもないのに」

鈴谷「あー、それは大変だねぃ」


睦月「なんだか話を聞いたらますます羨ましくなっちゃったよー。良いな良いな」

鈴谷「なら今度一緒に遊びに行く?」

睦月「良いの!?」

 再び睦月が身を乗り出した。そのまま鈴谷に飛び込まんばかりの勢いだ。

鈴谷「良いよ」

睦月「じゃあ今日! 今から行こう!」

 はやる睦月の頬をこねるようにつまむ。

鈴谷「今日は眠いからまた今度。もう寝る時間だよ」

睦月「にゃあー」

 飼い主に甘える猫の様にされるがままの睦月。

鈴谷「ふぁ……ん、眠」

 瞬きをしながら欠伸をかみ殺した。

提督「……」


↓1

1.二人の好きにさせる

2.二人を止める

3.自分もついていく


提督「鈴谷」

鈴谷「うん?」

 ふにょふにょと睦月の頬をつまみながら、声だけで返事をする。

提督「俺もついていっていいか?」

睦月「ふにゃ」

 が、そういった途端、がくっと脱力しながらテーブルに突っ伏した。

 つられて睦月もテーブルに突っ伏す。

 ……まるで芸者のようなリアクションだ。

鈴谷「なんでそうなるの?」

 身を起こしながら、鈴谷がこっちを見る。

 睦月の頬から手を放し、頬杖を吐きながら半眼で睨まれる。

提督「まずいか?」

鈴谷「まずいっていうか、今の流れの中のどこにそういう提案をするポイントがあったのさ」

提督「ないな」

 即答。呆れたように口を開けた鈴谷が、やはり呆れたように大きく息を吐いた。

鈴谷「意味がわかんない」

提督「別にいいだろう。俺も、君が何をしているのかが気になる。それだけだ」

鈴谷「今話したじゃん」

提督「百聞は一見にしかずというしな」

鈴谷「……」

 再度大きく息を吐く。そして八つ当たりをするかのように睦月の頬をつまんだ。

睦月「ふにゃあ」

鈴谷「全く……意味がわかんない」


睦月「提督も来るの?」

鈴谷「来ない」

提督「いや行くぞ」

鈴谷「来なくていいって……」

 そのまま睦月の頬をつまんでいた鈴谷だったが、やがて立ち上がり、

鈴谷「寝る」

 とだけ言い、自室へ向かう。

提督「俺も行っていいんだな?」

 そんな事は一言も言っていなかったのだが、このまま有耶無耶にされるのはよろしくないので、後押しのように尋ねる。

 深く溜息を吐いて頭をかいていた鈴谷だったが、根負けしたかのように「好きにすれば」と呟き、戻っていった。

 やや強引ではあったが、何にせよ、ついて行く事の了承を得たわけだ。

 とはいえ、必ずしもそれが果たされるとは限らない。

 俺の知らない所で二人が出かけてしまうかもしれない。

 勝手に俺がついて行くのと、俺を認識して連れて行くのとでは、似ているようで全然違う。

 なので、出来る事ならば二人の動向に気を使いたいのだが、中々そういうわけにもいかない。

 あまりそればかりに囚われて他が疎かになってしまってもいけないし、注意できる範囲で注意することにしよう。


睦月「ねぇ、提督」

提督「なんだ」

 ほんのりと頬の赤い睦月。良い様に鈴谷に頬を弄られていたからだろう。餅の様だった。

 自分の頬を手先でさすりながら、睦月が続ける。

睦月「提督も一緒に来るんだよね?」

提督「ああ、そのつもりだ」

睦月「おおー。提督とお風呂入るのかー」

提督「は?」

睦月「およ?」

提督「……いや、そこは別だ。それ以外だ」

睦月「あ、そうなんだ」

提督「当たり前だろう、そんな訳……」

提督「……」

 背後から物凄いオーラを感じる。

 振り返ると、そこには鈴谷が。

 なんとも高圧的な無表情だ。

鈴谷「……そのつもりで一緒に来るって言ったわけ?」

提督「馬鹿言うな。そんな訳ないだろう」

鈴谷「……」

提督「……」

鈴谷「……」

提督「……」


鈴谷「もしそんなつもりで言ったんだとしたら殺す」

提督「そんなつもりはまるでない」

鈴谷「ならいいけど」

提督「ああ」

鈴谷「……」

提督「……」

鈴谷「……」

提督「……」

鈴谷「……ふん」

 今度こそ鈴谷は踵を返し、立ち去った。

 そんなつもりは本当になかったのだが、ああも激しく睨まれるとさすがに冷汗もかく。

提督「……はぁ」

睦月「怖かったぁ」

提督「ああ、そうだな」

睦月「殺されるかと思ったよ!」

提督「全くだ」



好感度上昇

鈴谷↓1のコンマ十の位
睦月↓2のコンマ十の位


提督「……もう午後か」

 あれから睦月は浜風と共にどこかに行ってしまった。

 鈴谷は今頃部屋で寝ているだろうか。さすがに今から出かけはしなさそうだが、どうだろう。



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

イベント内容次第ではコンマとは別に好感度がプラスされてもいいと思う


睦月「提督ー!」

提督「どうした」

 廊下の向こうから勢い良く睦月が走り出す。

睦月「やっぱり暇なのです!」

提督「そう……か!?」

 そしてそのまま俺に向かって突進してきた。

睦月「いひひっ」

提督「危ないから、やめなさい」

 咄嗟に抱きかかえるようにして受け止め、すぐに放す。

睦月「はぁい」

提督「後日鈴谷と出かけるんだから我慢しなさい」

睦月「でもー。暇なものは暇なのです!」

提督「浜風はどうしたんだ?」

睦月「向こうで夕立と遊んでるよ」

 遊んでる、というか、面倒を見ている、という感じなのだろう。

 睦月と夕立に比べるとやや大人びている浜風は、そのまま二人の保護者のような立ち位置になっている気がしてならない。

提督「なら睦月も二人と遊んでくるといい」

睦月「良いから良いから! ほら出かけるのです!」

 ぐいぐいと袖を引っ張る睦月。

提督「引っ張るな、一旦落ち着け」

睦月「提督ってばそればっかり! そんなに落ち着いてばかりいたら地蔵になっちゃうよ!」

 それはそれで悪くない気がした。

>>271
0は10でも良いかなぁとか思ったけど、好感度上がらないのもこのスレらしいのでまぁいいかなと


睦月「ええー。お地蔵さんになって何が楽しいの? ただ毎日拝まれるだけですよ?」

提督「いやまぁそうだが」

睦月「それに、動けないのはつまんないのです。ほらほら遊びに行きましょう!」

提督「はぁ……分かった。分かったよ」

 強い睦月の誘いに折れる。

 無邪気さのせいで忘れかけていたが、これでも彼女は浜風と共に深海棲艦に襲われ海上を彷徨っていたのだ。

 そこを助けられた上、何の暇つぶしもないこの鎮守府に流れ着いたのだ。

 今でこそこうして元気に振舞っているが、内心元の鎮守府を思って寂しがっているのかもしれない。それを誤魔化すための明朗さだとしても何もおかしくはない。

 少しくらいは希望を叶えてあげられるのであれば、それも良いかもしれない。

提督(……それに)

 それに、睦月を見ていると、どうしても如月と弥生の事を思い出してしまう。

 俺は、二人の分まで睦月を楽しませてやらなければいけないのではないだろうか。

 睦月の願いやワガママを叶えることが、二人への償いになるのではないだろうか。

 ……そんな気がしたのだ。

睦月「おりょ。いいの?」

提督「ああ、構わない。君の希望に出来るだけ応える」

睦月「おぉー!」

 その場で飛び跳ねるように喜びを表す睦月。

 そんな睦月の笑顔は、やはり無邪気なものだった。


提督「……とはいえ」

睦月「?」

 いざ鎮守府の外に出てふと思った。

 そういえばこうして街に出るのはこれが初めてだ。

 ここには本部に直接護送された─おそらくは途中で逃亡をしないためだろう─ので、実際に自分の足で歩いたことはない。

睦月「そうなのですか?」

提督「ああ」

睦月「睦月もです! さぁどこに行きましょうか!」

提督「そうだな……」


↓1 場所でも「○○をする」でもOKです。コンマがゾロ目で行き場所固定


 賑やかな街並みを歩く。

 鎮守府が余りに古いので、もしかしたら辺鄙な土地なのかと思っていたが、そうでもないらしい。

 単にあの鎮守府だけが寂れていたようだ。

 まるで時代に取り残されたお荷物のように。

 深海棲艦が世界に現れてから、その対策として各地に造られた鎮守府。時代背景としては新しいはずなのに、みずぼらしい過去の遺産のような場所だ。

 尤も、この平和そうな街並みからすれば、確かにあの鎮守府はお荷物なのだろう。

 海軍服の男と、セーラー服の少女。

 その組み合わせは明らかに街並みにあってはおらず、まるで腫れ物に触れるかのような目線を感じた。

 しかしそんな視線など全く気にせず、あちらこちらを見渡しながらふらふらとする睦月。

 あっちのショーウインドウに惹かれては止まり、こっちの看板を見ては止まり、と殆んど前に進まない。

 挙句の果てには街路樹にさえ感動する始末だ。

 今ばかりは睦月の無邪気さに少しだけ心を救われる。

提督「そんなペースじゃ、どこにも行けないぞ?」

睦月「見た事ないのだらけ!」

 あまり前の鎮守府では出かけなかったのだろうか。

睦月「そうなのです!」

 目を輝かせて、睦月が歩く。


 とはいえ、このまま睦月の興味のままに歩いていたら疲れてしまう。

 ここは一旦喫茶店にでも入ろうか。

提督「ん?」

 そんな事を考えていると、ふとなにやらビラを配る着ぐるみを見つけた。

 パンダ……だろうか。何故か中華風の民族衣装に身を包んだパンダが、ビラを配っている。

 何故パンダが服を着ているのかとも思ったが、確かにその姿は目を引くので、集客を言う意味では間違っていないのだろう。

 睦月も気付いたようで、一目散に着ぐるみに駆け寄る。

睦月「提督! パンダなのです!」

提督「ああ、パンダだな」

パンダ「可愛らしいお嬢さんですね」

 着ぐるみが喋った。

睦月「ふにゃ!? 喋りました!」

提督「ああ、喋ったな」

パンダ「えぇ、喋りますよ。パンダですから」

睦月「ほぉー。すごいですね!」

提督「ああ、すごいな」

 ……先ほどから、睦月の言葉を繰り返しているだけの様な気がするが、気にしない。

パンダ「時にお二人様、折角の昼下がり。もしよろしければ遊園地など如何です?」

睦月「遊園地?」

パンダ「はい」

 そう頷くと、パンダの着ぐるみはすっとビラを差し出した。

 あの分厚い手で、よく器用に一枚だけビラをとれるものだ、と変なところに感心してしまう。


睦月「提督! 睦月、ここに行ってみたいのです!」

 ビラから目を離さないまま、睦月がそう言った。

 距離もさほど遠くない。別段どこか行くあてもなかったので、ここは睦月の言葉に従うことにした。

パンダ「ありがとうございます。折角ついでに、よろしければこれを差し上げましょう」

 そう言ってパンダが差し出したのはぬいぐるみだった。

睦月「ひよこ?」

 にしては、なんと言うか、酷くみすぼらしい。

 バッテンの様なデフォルメの目をしている。

パンダ「はい。自閉症で貧血気味のひよこです」

提督「……」

 要らない。

睦月「可愛いのです!」

提督「えっ」

 ネーミングと言い、とてもそうとは思えないが……睦月が気に入ったのであれば、まぁいいだろう。

 一度両手で掲げた後、すぐにぎゅっと胸元にぬいぐるみを抱き寄せた。

睦月「パンダさん、ありがとうございます!」

 笑顔を弾けさせながら、睦月がお辞儀した。

パンダ「いいえ、お客様の笑顔のためです」

 言っている事は立派なのだが、しかしぬいぐるみのセンスはいかがなものか。

 再度ぬいぐるみを見る。

 ……やはり可愛くない。

今日はここで終わりです。

あんまり遊園地行ったことないので何するか(アトラクションとか)を下3つまでお願いします
なおゾロ目が出たら・・・


提督「さて。睦月は遊園地に来たことはあるか?」

睦月「ありません!」

提督「そうか。じゃあ、行ってみたいアトラクションは?」

睦月「あれです!」

 そう高らかに返事をしながら睦月が指差したのは、ジェットコースター。

 遊園地の外からその姿は見えていたので、やはり気になっていたのだろう。

提督「ふむ……」

 別段高いところが苦手と言うわけではないので、ここは睦月の希望通りに乗るとしよう。

提督「なになに。コース全長2,000メートル、最高速度150キロ。最大傾斜90度……」

睦月「速いの?」

提督「さぁ、俺も余りこういうところにきたことはないからな」

睦月「普段海で死ぬほど動き回ってるから多分大丈夫なのです!」

 自信満々な睦月。

 睦月はそうかもしれないが、俺はというと、少し不安である。

 よもや睦月の前でみっともない姿は見せたくないが、大丈夫だろうか。

係員「お客様、すみません」

 と、係員らしき女性に話しかけられる。

提督「なんでしょう?」

係員「こちらの乗り物は、身長制限があるのですが……」

睦月「ふにゃ?」

提督「そうですか」

係員「はい。安全のため身長120cm以上のお客様しかお乗りすることが出来ないんです」

睦月「えぇー?」

係員「こちらの壁で計測できますので、すみませんがお願いします」

提督「まぁ、しょうがないな」


睦月「はい」

係員「お客様、背伸びは……」

提督「悪あがきをするな」

睦月「ふぬぬ……!」

睦月「こんな事ならちゃんと牛乳を飲んでおけば……! 浜風ちゃんに押し付けたりしなければ……!」

睦月「伸びろー! 今この瞬間に突発的に成長期になれー!」

提督「無茶を言うな無茶を」

係員「えーと……」

睦月「睦月にもアホ毛があればー!」

係員「……、ぎりぎりセーフです」

睦月「にゃっ!? 本当!?」

係員「はい」

睦月「やったー! 睦月やりました!」

提督「良かったな」

睦月「良かった良かったぁ。はぁ一時はどうなることかと思ったのです」

係員「それではこちらにどうぞ」

睦月「はぁい! 提督、隣に座って!」

提督「分かってる」

係員「こちらのバーをしっかり握ってください」

睦月「おぉー、わくわくしてきたのです!」

提督「ああ、そうだな」


 折角なので、↓1のコンマで提督の余裕具合。高いほど余裕
 ぞろ目でちょっといいこと

1/16だか1/7だかスケールの雷フィギュアを購入(?)した友人曰く、
「つまり比率を計算すると、雷の身長は127cmになる」
ってそれはもうとても真剣な顔で仰っていたので、それにあやかりました。


睦月「おぉー! わぁー!」

提督「まだ動いたばかりだぞ……これからだ」

睦月「高い! 人が小さいのです!」

提督「そうだな」

睦月「あっ、次はあの車みたいなのに乗りたいのです!」

提督「ゴーカートか。分かった、そうしよう」

睦月「あ!」

提督「今度は何だ?」

睦月「海が見えます!」

提督「……本当か?」

睦月「ほら! あそこ!」

提督「どこだ?」

睦月「あそこで……すぅぅぅぅぅ!?」

提督「どこ……うぉぉぉぉぉ!?」

睦月「ふにゃぁぁぁぁぁぁ!」

提督「これがジェットコースターか……!」

提督(すさまじいGだ!)

睦月「うにゃぁぁぁぁぁぁ!」

提督(急降下したと思ったら今度は急上昇、そして回転し始めた!)

睦月「逆さにゃぁぁぁ! 猫吊るしにゃぁぁぁぁぁ!」

提督(下向きのまま滑走とかありか!?)

睦月「あっははは、はぁぁぁぁぁぁ! たぁぁぁのしぃぃぃぃぃ!」

提督(まるで戦闘機のドッグファイトだ! すさまじい!)

提督「睦月、手を放すな! ちゃんとバーを持ってなさい!」

睦月「ふにゃあぁぁぁ!」

提督「違うそれは俺の手だ!」

睦月「あははははははは!」

提督(ええいくそ!)


睦月「面白かった!」

提督「意外と何とかなるものだな」

睦月「もう一回!」

提督「車に乗るんじゃなかったのか?」

睦月「そういえばそうでした!」

提督「確かあっちの方だったな」

睦月「ようし行くぞつくね!」

提督「えっ」

睦月「?」

提督「……あ、あぁ。ぬいぐるみか」

睦月「はい! この子の名前はつくねです!」

提督「食べる気か」

睦月「砂肝の方がよかったですか?」

提督「いや俺は皮の方が好きだが……というかそういう話じゃなくてだな」

 ひよこのぬいぐるみに焼鳥の名前はなんというか、しのびない。

 ただでさえ可愛くないぬいぐるみの顔が余計に貧相に見えてきた。

睦月「じゃあ間を取ってネギマにします?」

提督「別段間でもないな……。やっぱりつくねでいい」

睦月「はぁい!」

ちなみにぞろ目だったらここで如月or弥生って名づけてました、残念


睦月「む、む……」

提督「動いてないぞ」

 厳密には、動いているのだが、すぐに止まってしまっている。

 小刻みに少しずつだけ移動しており、歩くスピードと大差ない。

睦月「艤装とはまた違うから難しいのです」

提督「まぁ、そうだろうな」

睦月「でも、車も偽装も似たようなものです、なんとかなるはず……!」

 そう意気込み、思い切りガチャガチャと足を動かす。

 するとようやく車が発車した。

提督「お、良いじゃないか」

睦月「よーし、行けふにゃぁぁ!」

 ……と思ったら、思い切りタイヤで作られた壁にぶつかった。

 どうやら発進した事に気をとられ、ハンドル操作をおろそかにしていたらしい。

 勢い良く飛び出し、勢い良く壁にぶつかった睦月が、白旗を揚げるように手を振った。

提督「大丈夫か?」

睦月「海の上なら負けないけど、陸は苦手です!」

 魚みたいな事を言う。

睦月「せめて一周するまでは頑張ります!」

提督「あ、あぁ、頑張れ」

 そういうと睦月は再び前を向き、アクセルを踏んだ。

 ……そしてまたも敷き詰められたタイヤに突っ込んだ。

 大丈夫だろうか。


 その後、結局一周で終わらず三周ほどしたところでようやく気が晴れたのか、睦月は車を降りた。

 二周目に入ってからは操作に慣れ、そして三周目にはもう壁にぶつかるようなことはなかった。

 やはりこれも艦娘の能力が関係しているのだろうか。

睦月「高いのです!」

提督「そうだな」

 そうして今は二人して、観覧車に乗っている。

 時計の針で言う八時から九時の間くらいで、まだこの高さならば先ほど乗ったジェットコースターの頂点のほうが高いだろう。

 しかしジェットコースターの時は、高さを意識していられる時間が短かったので、こうして改めて観覧車で見る景色はまた先ほどとは違って見えた。

睦月「夕陽が見えます」

 そう指差す睦月の方向は朱色に染まっている。やがて数時間もしたら、夜の帳が下りるだろう。

睦月「提督、ほら、あそこ。海です」

 先ほどは確認できなかった海が見える。

 微かに白い波が間隔を置いて揺れている。あの海で、我々と深海棲艦は戦っているのかと思うと、それを遠くから見ている今が奇妙なものに思えた。

睦月「海、広いですね……」

 窓に顔を寄せながら景色を見る睦月が、ほうと息を吐いた。

 ガラスが白く濁り、何故だか睦月が微笑んだ。

 もうすぐ二人の乗った時計の針が、頂点に上る。

睦月「今日はありがとうございました」


 少し掠れた声で睦月がそういった。

 アトラクションで声を出しすぎたのだろう。

提督「突然改まって、どうした」

睦月「睦月だって、ちゃんとお礼は言えるのです」

 別段彼女を無作法だと思ったことはない。

 囁くように声を出す。

睦月「また来たいのです」

提督「……、そう、だな」

 甘い表情で微笑みながら、俺を見た。

 そして吐息で白くなった窓ガラスに、自分の名前を指で書く。

睦月「今の内に予約しておくのです」

 次に来た時には消えている、などと野暮なことは言わない。

 睦月だってそれくらいは分かっているだろう。

 ただ、気分の問題だ。

睦月「提督の名前も書いておくのです」

提督「やめてくれ」

 にゃはは、と猫の様に笑った。


 ……今度はいつもの太陽のような笑い方だった。


睦月の好感度上昇
↓1のコンマ十の位

ここ最近出番多かったから高いかと思ったけどそうでもなかった>睦月
良く見たら直近の好感度コンマが1→0とかいう激渋だった


27 加賀
22 榛名
22 鈴谷
14 睦月
11 浜風
10 伊58
08 大淀
07 夕立
00 金剛/雪風


提督「もうこんな時間か」

 一つ咳をする。

 ……俺もジェットコースターで声を出しすぎたらしい。睦月ほどではないが、少し声に違和感がある。気がする。

提督「俺がこんなではいかんな……気を引き締めないと」

提督「さて、午前は何をするか?」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


提督「あー、あー。……ふむ」

 喉の調子を確かめつつ、ふと思案する。

 昨日は睦月と遊園地に行った訳だが、そういえば彼女を含めた、比較的最近うちの鎮守府に来た子達はどうなのだろう。

 この鎮守府には慣れただろうか。仲間同士うまくやっているだろうか。

 当然出来る事ならば仲良くして欲しい。

 落ち着いた性格の浜風は、特別波風を立てるとは思えない。

 恐らく駆逐艦三人の中では一番安心できるといえる。

 問題は残りの二人。睦月は分かりやすく快活で、夕立も恐らくそういう性格だ。

 冷静な加賀がうるさく思うか、機嫌次第で鈴谷もへそを曲げかねない。

提督「……、ああ、いや、伊58もか」

 榛名以外の三人とは、もしかしたらぶつかる可能性がないわけではない。

 孤立はして欲しくないのだが、かといって俺が余計な口を挟んでいいものかどうかも分からない。

 そもそもにしてこの考え自体が杞憂である可能性の方が高いのだ。

 実際のところは、何の問題もなく過ごすしていると思う。

提督「とはいえ、何かあってからでは遅いからな」

 特別やることも見当たらないので、駆逐艦の子を探すことにする。


提督「加賀……に、夕立。おはよう」

 工廠室を見てみると、そこには加賀と夕立がいた。

 艤装を磨いている加賀と、それを楽しそうに見る夕立。

 見たことのない組み合わせだ。

夕立「提督さん、おはよう!」

 ぴょこんと跳ねる様に夕立が挨拶を返した。

加賀「……何か用?」

 加賀がこちらを一瞥し、そう尋ねる。

提督「いや、夕立にな」

夕立「夕立? ご用事はなぁに?」

 首をかしげる。

提督「いや、君はまだここに来て日が浅いからな。一人になってはいないかと思ったんだ」

 花のようにぱっと笑った。

夕立「夕立のこと、心配してくれたっぽい?」

 睦月と浜風の様な例はあくまで特別で、皆この鎮守府では一人になりがちだ。

 例え加賀や鈴谷達がそれに慣れていようと、やはり俺としては皆一緒になってもらいたい。

 特にここに着たばかりの夕立には尚更だ。

夕立「ありがと。でも夕立は平気、こうやって加賀さんの手入れ見てるっぽい」

 そう言うと夕立は加賀の隣に座った。

 居心地が悪そうに加賀がやや背を向ける。

 それに口を尖らせたのは夕立だ。

夕立「……でも加賀さん、夕立が隣に座ると嫌がるっぽい?」

加賀「近いわ」

 加賀からしたら、余り近くに座られても、集中できないのだろう。


提督「どうして加賀の手入れを見ているんだ?」

夕立「お話してくれるの」

提督「話?」

夕立「うん。深海棲艦を倒した時のお話。いっぱい!」

 両手を広げて、子供のようにそれを表現する。

加賀「……、そんなに大層なものではないわ」

夕立「そんなことないの、聞いてて楽しい! 夕立も早く敵を倒したいっぽい!」

提督「そうだな」

夕立「ねー提督さん、今日は出撃しないっぽい?」

提督「少なくとも午前はしないな」

 異議を唱えるようにやや頬を膨らませた。

加賀「……そうね。出来れば出撃したいものね」

夕立「夕立も!」

提督「考えておく」

夕立「絶対よ!」

提督「分かったよ」

 ……夕立は大丈夫そうだ。加賀と上手くやっているのは意外だったが、出撃に対してアグレッシブな性格が功を奏したのだろう。


夕立の好感度上昇
↓1のコンマ十の位

浜風って最初に安価をもらった時に改めてwikiで確認したんですけど、
金剛武蔵雪風大和と接点があったみたいでなんかすごいと思いました(小学生並の感想)


睦月「おりょ。提督!」

提督「ああ、睦月。おはよう……」

 食堂では、こちらも良く分からない光景が繰り広げられていた。

 睦月と一緒にいるのは鈴谷。

 それは分かる。先日もこの二人は一緒にいたし、遊ぶ約束もしていた。

 正直な話、睦月に関してはこの鎮守府に慣れたかどうかを調べるまでもない程度には大丈夫だろうと思っている。

 なので、こうして鈴谷と一緒にいるのは、ある意味では慣れた光景で、望むべき光景なのだが……。

鈴谷「ちーっす……」

 死にそうな瞳でこちらをみやった鈴谷。声も元気がなく、それどころかやや枯れている。

提督「どうした鈴谷、えらく疲れているな」

鈴谷「そりゃあね……あたし夜型だからね」

 途切れ途切れにそう答える鈴谷だが、それにしてもこうまでボロボロなものだろうか。

提督「夜型とかそういう問題か? それ以上に駄目そうなんだが」

鈴谷「ほぼオールでこの子のハイテンションについてけるわけないでしょ……」

 テーブルに突っ伏す鈴谷を揺さぶりながら睦月が声を張り上げる。

睦月「鈴谷さん、遊園地! 遊園地に行きましょう! ジェットコースター乗るのです!」

鈴谷「勘弁して……」

提督「……」

 なんというか、うん。

 ……申し訳ない。


睦月「鈴谷さん起きてー! ジェットコースター! ゴーカート! フリーフォール! ウォータースライダー!」

鈴谷「何で全部絶叫系なの……」

睦月「お化け屋敷! 恐怖の館!」

鈴谷「いやそれも結局叫ぶじゃん……」

睦月「ふにゃぁぁぁ」

鈴谷「耳元で叫ばないでほんっときついから……!」

提督「まぁ睦月、落ち着け」

睦月「うにゃ」

提督「鈴谷は寝起きなんだ、少し寝かせてやれ」

睦月「うー……」

鈴谷「助かる」

睦月「……じゃあ提督、遊園地」

提督「鈴谷、起きてくれ」

鈴谷「おい」

睦月「三人で行きましょう!」

提督「それも悪くない」

鈴谷「三人ならあたし要らなくない? っていうかあたしじゃなくてもよくない? 浜風とか夕立とかいるじゃん、っていうかそれでよくない? 駆逐艦三人でよくない?」

提督「そういわれると立つ瀬がないな」

睦月「……! はっ」

提督「どうした睦月」

睦月「睦月、気付いちゃいました。もしかして鈴谷さん、怖いんじゃ……」

鈴谷「そんなわけないから。そんなわけないから」

提督「……」

睦月「……」

鈴谷「……」


睦月「睦月、無理言ってしまったのです。やはりここは別の……」

鈴谷「……ああ分かったよ行けばいいんでしょ行けば! だからその憐れみめいた目をやめて!」

睦月「やったのです!」

鈴谷「くそう……何なのマジでもう最悪……」

提督「頑張れ」

鈴谷「うるさいよ」

睦月「ジェットコースター十周しましょう!」

鈴谷「いやそれはほんと無理だから、あれってそういう乗り物じゃないから」


 ……睦月も問題ないな。

 馴染みすぎている位だ。



睦月の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


提督「最後は浜風か……」

 夕立も睦月も、孤立しているということはないようでひとまずは安心した。

 やはり明るい性格が良い方向に働いているようだ。

 そういう意味では、残る浜風が少し不安ではある。

 特に睦月と比べると大人しい彼女は、誰かと相対することはないかもしれない。

 しかし同時に、誰とも馴染まないと言う事も十分に考えられるのだ。

 言ってしまえば、彼女もまた、自分だけのテリトリーに収まってしまいかねない。

 加賀や鈴谷達同様に、必要以上に他人に干渉しないという、この鎮守府の重い問題。

 それに彼女も飲まれてしまうのではないか。

 そんな不安を感じ始めた。

提督「ここにもいないか」

 工廠室から食堂、そして中庭(という名の荒れ放題の庭)を見るも、浜風はいない。

 自室にでもいるのだろうか。

 或いは、彼女も外へ出かけたか。

 いずれにしろ、もう少し鎮守府内を探す必要がある。


 この鎮守府は神社の鳥居の様な構造をしており、その両足がそれぞれ出入り口となっている。

 鳥居の右足が通常使われる玄関で、その最上部、つまり玄関から最も遠い位置に食堂があるわけで、言うなれば玄関からもう一方の玄関に行くには「コ」の字を描くように歩くわけだ。

 鳥居と表現したのは、その途中に四箇所別の出入り口があるわけで、それぞれ右足側の二箇所が入渠ドック、反対の二箇所が母港、ならびに工廠室に通ずる道だ。

 なので工廠室から食堂へ戻る際に、片方の廊下を見通すことができる。

 夜であれば暗くなってしまうので見えないが、午前中の今ならば何とか確認できた。

 しかしそこに浜風の姿はない。

 彼女、と睦月の共同部屋がこちらの廊下だという事もあり、見るだけでなく歩いてみたが、やはり浜風はいない。

 睦月に教えてもらった私室の扉をノックするも、返事はない。

提督「となると、反対側か……?」

 しかし、反対側の廊下に何の用があるのだろうか。

 特に負傷したわけでもあるまい。入渠ドックに行く理由が思い浮かばない。

 或いはただ用を足している可能性もある。

 トイレは鳥居の“二重線”の二番目、食堂の一つ隣の廊下だ。

提督「ふむ……」

 さすがにトイレを調べるわけにもいかない。

 とりあえず反対側の廊下にいくことにした。


提督「……?」

 トイレを通り過ぎ、曲がり角を右に折れる。

 玄関までの廊下に、浜風がいた。

 壁に背を預け、向かった扉をじっと見ているように見える。

 始めは距離があって分からなかったが、近づいてみてそこが誰の部屋か分かった。

 伊58の部屋だ。

 そして同時に分からなくなる。

 何故浜風が彼女の部屋の前にいるのだろうか。

 それも、厳しい眼差しで。

提督「浜風」

 声をかける。実際は既にその前にこちらに気付いていたようで、特に驚くようなことはなかった。

浜風「なんでしょう?」

提督「ああ、いや」

 一度口許に手をやり考える。

 尋ねるべきか。彼女がここにいた理由を。

 何の理由もなくふらっとやってきた、という風には見えなかった。

 何か確実な意図があってここにいたと思うべきだ。

 それが彼女のためなのか、伊58のためなのか。或いは二人のためか。

 何をするべく、彼女は伊58の部屋の前にいたのだろうか?


提督「……、浜風を探していてな」

浜風「ん、私を、ですか?」

提督「ああ。少しはここに馴染んだか?」

 迷った挙句、尋ねるのはやめた。

 彼女の目的も気になったが、聞いたところで答えてくれるとは限らない。

 ただ答えをはぐらかすだけならまだしも、拒絶をされてしまったら話がこじれてしまう。

 そうなれば、本来の目的である、彼女がこの鎮守府に慣れたかどうかという確認も出来なくなってしまう。

 だから、ここは当初の目的を果たすことにした。


 ……、よもや、まさか、彼女が伊58に危害を加えようとしていた、などとは欠片だって思いたくはない。


浜風「なるほど」

 承知したといわんばかりに浜風が頷いた。さらりと銀色の髪が揺れる。合わせて普段隠れている右眼が見えた。

 海のような澄んだ青。凛とした彼女に良く似合う色だ。

提督「ここは、君が元いた鎮守府に比べたら、少し静かかもしれないが」

浜風「静かなのは、好きです」

提督「そうか。それなら良かった。睦月以外とは上手くやれているか?」

浜風「はい、問題ありません」


 杞憂、だったようだ。

提督「そうか。何か相談があったらいつでも言ってくれ。俺にしづらい内容なら榛名でも誰でも良い。一人で抱えないでくれ」

浜風「ありがとう」

 浜風も、特別問題はないようだ。

提督「それじゃあ、俺は一旦失礼する」

浜風「はい」





浜風「……」

浜風「……」

浜風「……ここは、落ち着く」

浜風「……ここなら私の願いも叶いそう」

浜風「……ふふ」


浜風の好感度上昇
↓1のコンマ十の位


今日はここまでです。


27 加賀
22 榛名
22 鈴谷
21 睦月
16 夕立
15 浜風
10 伊58
08 大淀
00 金剛/雪風


提督「昼か……」

提督「さて、仕切りなおして。午後は何をしようか?」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


 思えばここ数日、あまり伊58と話せていない気がする。

 折角少しずつ話せるようになってきたのだから、継続していかなければならないだろう。

 それに、後から来た駆逐艦三人の方がここに馴染んで、伊58が一人部屋にいると言うのも寂しい。

 彼女も近い将来皆の輪の中に入れるように、今から会話に慣れさせないといけない。

提督「……、伊58、いるか?」

伊58「こ、今度は誰……?」

 相変わらず怯えた声だ。

 今度は、というのは、恐らく先の浜風を指すのだろう。

提督「俺だ。最近話せていなかったから、少し話そう」

伊58「……ほんとにひとり?」

 不安げな声色で確認をしてくる。

提督「あぁ、勿論だ」

伊58「……ん」

 少しの沈黙と衣擦れの音の後に、再度伊58の声。

伊58「んと、何話す、の?」

 先ほどより僅かではあるが、声が近く聞こえた。部屋の端から中央くらいに移動してくれたのだろうか。

 それは本当に些細ではあるが、それでも彼女が心を開き始めているのではと思える変化だった。


提督「お腹すいてないか? 何か食べたか?」

伊58「ん、平気、だよ。加賀さんが、ね、おにぎり作ってくれた、の」

提督「加賀が?」

 工廠室に行く前に作ったのか。

 確かこの間も、加賀が彼女に食べ物を差し入れていたと聞いた。

提督「そうか。足りるのか?」

伊58「ゴーヤ、少食だから、十分なんだ、よ。一個で、お腹いっぱい」

 リスの様に両手でおにぎりを齧る伊58が容易に想像できた。

 しかし少食とはいえ、一個というのは不安になる。

 彼女は華奢な方だと思うので、出来る事ならばもう少し食べた方がいい。

伊58「ん……うん」

 彼女もその言葉に頷いた。

提督(後は、何を話そうか?)

提督(そうだ、↓1について話そうか)


提督(……今なら彼女が以前うわ言のように言っていた“オリョクル”について聞けるかもしれない)

 ふとそんな事を思った。

 ここに来た当初に比べたら会話ができるようにはなっている。

 この流れのまま、彼女のあの言葉の真意を尋ねてみるのも良いかもしれない。

提督(だが……本当に良いのだろうか?)

 不安はある。

 呪詛のように繰り返し繰り返し吐き続けていた言葉だ。きっと彼女のトラウマそのものだろう。

 それを掘り起こすように尋ねるのには、まだ時期尚早ではないか。

 せめて彼女と直接話せるくらいになるまでは、待った方が良いのではないか。

 そう言う思いも、同じくらいにある。

 不安だ。だが、いつかは聞かなければいけない。

 しかしそれは今でいいのか。

 思考が思考を呼び、錯綜と迷走をしながら混ざり合う。

 そうして黙りこくってしまった俺を不思議がったのか、

伊58「どうした、の……?」

 と尋ねてくる。

提督「……、ああ」

 どうやれば彼女を守れるか。

 どうすれば彼女を守れるか。

 それが分からなくて、それを知りたくて、意を決し俺は尋ねてみることにした。


提督「……、初めて君の部屋に来たときのことを思い出した」

伊58「……ん」

提督「あの時君は部屋の内側で、ずっと同じ事を繰り返していたな」

伊58「……」

 思い出したのだろう。彼女の声がか細くなる。

提督「改めて聞きたいんだが……、その。聞かせてくれないか」

伊58「……」

提督「君が言っていた、“オリョクル”という物について、話してみてはくれないか?」

伊58「……」


↓1

00-10 話す
11-99 無理

>>434
やりますねぇ!(賞賛)


伊58「……」

伊58「……、あ、う」

提督「……無理にとは言わない。すまなかった」

伊58「ん、と。ん、と」

 一生懸命に言葉を搾り出そうと必死になる彼女ではあるが、それが文章にならない。

 呼吸音に混じり、時折鼻を啜る音が響く。

伊58「っ、ん、うう……」

 恐らく今彼女は泣いているに違いない。嗚咽を殺すことで、本来話すべき言葉も喉から出てこないのだ。

 俺は何をしているのだろうか。

提督「すまない、やめよう。今日は話さなくてもいいんだ」

提督「一旦落ち着こう。何か飲むものでも持ってくる。待っていてくれ」

 そう彼女に告げ、踵を返す。

 自分の情けなさに苛立ちながら廊下を歩く。

 ……いや、歩こうとする。した。

 しかしそれを遮るように、細く高い金属音。蝶番の擦れる音だ。

 慌てて振り返ると、そこにはぺたんと床に座ったまま、ドアノブに手を掛けた伊58の姿。


伊58「……、てーとく、まって、くだち」


 鼻を啜りながら、彼女が扉を開けたのだ。



提督「顔を拭くといい」

伊58「ん」

 伊58が顔を拭き、鼻をかむ。

 カーテンを閉め切っているからか、部屋の中は暗かった。

 部屋の中は基本的に閑散としており、物は少ない。

 いや、少ないという言葉さえ適切ではないような、そんな程度の風景だった。

 なにしろ彼女の部屋は、布団と着替え、それからゴミ箱くらいしか見当たらないのだ。

 それらが部屋の端に全て寄せられている。はっきり言って、四分の一か五分の一ほどしか使っていないだろう。

伊58「……ん」

 敷布団の上に座ったまま、伊58が顔を上げた。

 彼女の眼はやや赤い。やはり涙ぐんでいたようだ。

提督「すまない、強引だったと反省している」

伊58「ん、大丈夫、だよ」

 部屋に入れてくれたからと言って、何も隣に座っているわけではない。

 彼女は部屋の奥隅で、俺は扉を背にして座っている。

 少し振り返って考えてみる。以前演習をした際に見学をした彼女との距離は、これより遠かった。

 あの時より近づけたと考えると、それは嬉しい。

 しかしその為に一度は彼女を泣かせてしまったのは嬉しくない。

伊58「……、顔、怖い、でち」

提督「ああ、すまない」

 結果として、どうやら俺は苦い顔をしてしまっているようだ。


提督「ええと、伊58。話してくれるのは嬉しいが、無理はしないで欲しい。辛かったらいつでも止めていい」

伊58「ん、大丈夫、だよ。ゴーヤ、お利口さん、だから」

 掛け布団ごと膝を抱える。

伊58「んと、話す、ね」

提督「ああ」

 そう前置くと、ぽつりぽつりと彼女は話し始めた。


伊58「ん、と。ゴーヤのね、前居た鎮守府なんだけど、ね。てーとくさんが、凄く怖くて、厳しい人、だったんだよ」

伊58「毎日毎日、出撃ばかりさせられて、ね、大変だったんだ、よ」

伊58「朝から晩まで、ずうっと潜らされて、ね、怖い敵もいっぱいいて」

伊58「いっぱい敵に狙われて、怖くて、でも囮だから遠くに逃げるな、って言われて」

伊58「今でも、耳鳴り、するの。いっぱい撃たれたとき、の」

伊58「海水で、体が染みて、痛いの。ゆらゆらって、血が流れるのが、怖いの」

伊58「怪我しても、何もしてくれ、なくて、」

伊58「寒くて、暗くて、痛くて、怖くて、でも、逆らえなくて……」

 再び彼女は泣き出した。

 ぎゅっと掛け布団を握り締める。

伊58「オリョール海、を、クルージング、するから、オリョクル、なんだ、よ」

伊58「もう、したくない、よ」

伊58「海は……怖いよ……」


提督「……伊58」

 考えられない話だった。少なくとも、少女たちにそんな事をさせるなんてありえないと思った。

 やっていることは人道を大きく踏み外した行為だ。

伊58「怖い……怖いの……」

伊58「ぐすっ……」

 しかし、一つだけ疑問が残る。

 今の話で、彼女が海を怖がる理由は分かった。俺を過去の提督と重ねて怖がっているのも分かった。

 だが、艦娘は違う。

 伊58の話した内容であれば、少なくとも虐げられたであろう艦娘同士は、互いを大事に思うはずだ。

 或いは、形は違うにせよ、同じくこの鎮守府に来た者同士として、鈴谷たちには心を許すはずだ。

 なのに、何故伊58は、彼女たちにも怯えているのだろう。

提督(……まさか)

 まだ俺の知らない辛い経験が、伊58にはあるのではないだろうか。

 こんなに辛い思いをした彼女がこれ以上どんな酷い目にあっているのだろうか。

 考えたくもない、が。

 どうにも、それだけが、気がかりで仕方なかった。


提督「……伊58」

伊58「……?」

 喉を鳴らしながら、伊58がこちらに目をやった。

 こしこしと目元を拭う。

提督「↓1」


1.まだ他にも辛かったことがあるんじゃないのか?

2.今日は話してくれてありがとう

3.少し俺の昔を聞いてくれないか


提督「今日は話してくれてありがとう」

伊58「……、……。うん」

提督「辛い思いをさせてこんな事を言っても説得力がないかもしれないが、俺は君を守りたい」

伊58「ゴーヤ、を?」

提督「ああ。もう君が辛い思いをしなくても良い様に」

伊58「ん……」

提督「少しずつで良い。一歩、いや、半歩でいい。ちょっとずつ取り戻して、また外に出られるようにしよう」

伊58「……うん」

提督「必ず君は俺が守る」

 守らなくてはいけない。

 彼女だけでなく、他の誰も。

 もうあんなことは二度と引き起こしてはならない。

 もうあんな思いは二度としたくない。

 守らなければ。

伊58「……、ん、と」

提督「なんだ?」

伊58「……あの、ね。ありがと、でち」

提督「……ああ」



ゴーヤの好感度上昇

↓1のコンマ十の位

10%の確率を勝ち抜いたんだから好感度補正が付いても良かったような


提督「……朝か」

 夢を見た。いつもの夢だ。

 途中の形は違えど、必ず最後は一緒だ。

 必ず最後は、彼女達が俺を食い殺そうとして終わる。

 恨みに満ちた顔で、崩れかけた顔で、腐りかけた顔で。

 それでいて皆満面の笑みで、三日月のように唇を釣り上げて不気味に笑うのだ。

提督「一昨日は那珂、昨日は深雪、今日は……誰だったか」

提督「……、ああ、春雨だ」

 どうせなら、いっそ食い殺してくれればいいのに。

 夢の中でくらい、一緒にいさせてくれ。



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

>>486
まぁ確かに睦月とかの時になかった判定してますし一理あるといえばあるのかなぁ……
(単に補正とか考えてなかった)
次に58来るまでに考えておきます


提督「榛名、ここにいたのか」

榛名「おはようございます」

 入渠ドックでなにやら作業をしていたらしい。

提督「何をしていたんだ?」

榛名「備品の整理です。……といっても、あまり数はないのですが」

 そう言いながら榛名がてきぱきと箱を片付ける。

榛名「?」

 薬品の箱を整理していた榛名が首を傾げた。

提督「どうした榛名」

榛名「……、いえ。榛名の勘違いです」

提督「そうか」

 閉じた箱を棚に戻す。

榛名「榛名に何か用事でしょうか。出撃ですか?」

提督「いや、少し話をしようと思ってな」

榛名「話、ですか」

提督「まぁここじゃ何だ、食堂に行こう」

榛名「はい」

あ、榛名ってオープン圏内(22)やん。

すみませんが先に好感度上昇コンマとります。
↓1のコンマ十の位


榛名「お茶です」

提督「ありがとう」

 一口啜る。すっと良い香りが鼻を抜けていく。

榛名「お話と言うのは?」

提督「ああ、そうだな。確か榛名には金剛の他にもう二人姉妹艦が居たな」

榛名「……、はい」

提督「俺は彼女達とは演習で会ったことはあるが、榛名はどうだ?」

榛名「……、ええと」

提督「確か霧島が南……だったか、さすがに場所までは覚えてないが」

榛名「霧島お姉様が南で、比叡お姉様が北です」

提督「あぁ、そうだったか。会った事あるのか」

榛名「はい。榛名も演習で」

提督「そうか。なら良かった」

榛名「良かった、とは?」

提督「姉妹艦が全く会えないまま、というのも寂しいからな」

榛名「……、そう、ですね」

提督「歯切れが悪いな。……喧嘩でもしたのか?」

榛名「まさか、そんな。お姉様方は皆優しいです」

提督「榛名もだな」

榛名「……、そんな。榛名はとてもそう言って頂ける様な」

提督「そう自分を卑下するな」

榛名「……はい」


提督「俺は特別彼女たちと話はしていないが、榛名はしたんじゃないのか?」

榛名「はい。霧島お姉様は別段お変わりありませんでした。いつもの理知的なお姉様でした」

提督「眼鏡をかけているからかやはり聡明そうだったな」

榛名「聡明なんです」

提督「比叡はどうだったんだ?」

榛名「寝坊癖がますます酷くなっていました」

提督「それは……」

榛名「よく怒られていた、そうです」

提督「北と言うと……」

榛名「眼鏡を掛けた細身の方です」

提督「ああ、そうだったな。あいつは几帳面で厳しい、分かりやすいA型だったな」

榛名「そこまでは知りませんでした」

提督「士官学校時代の同期でな。彼のほうが成績は優秀だったよ」

榛名「それは比叡お姉様から似た話を聞いたことがあります」

提督「? そうなのか」

榛名「あの、提督」

提督「どうした」

榛名「提督は、以前はどの鎮守府に?」

提督「俺か。俺は……中央だ」

榛名「……そうですか」


提督「それがどうかしたか?」

榛名「いえ、ふと気になっただけです」

提督「まぁ……酷いミス、不祥事をしてしまってな。それでここに異動になったんだ」

榛名「不祥事、ですか」

提督「ああ。悔やんでも悔やみきれない、最悪の出来事だ……」

榛名「……」

提督「……すまない。暗くなってしまったな」

榛名「……、榛名も、してはいけない過ちを犯しました」

提督「……そうなのか」

榛名「……はい」

提督「ここに来たという事は、やはりそうなんだろうな」

榛名「……はい」

提督「……後悔したり、反省したりするのは大事だ。それに、それらは自分しか出来ない。他の誰にも転嫁できない」

提督「だが、自分で自分を罰するあまり、それに押しつぶされてしまうのは駄目だ。榛名、君は一人じゃない」

榛名「……」

提督「俺では頼りないだろうが、それでもただ話すだけで楽になる事もある。話して心を整理することで、見えてくるものもある」

榛名「……、榛名は、楽になってはいけないのです」

提督「そう思うのは、もう心が潰れかけている証拠だよ。榛名、例え君にどんな辛い過去があっても、救われちゃいけないなんてことにはならないんだ」

提督「むしろ君は救われなくちゃいけない。自分で自分を罰しているんだから」

榛名「……榛名は」


榛名(話せば楽になれるのでしょうか……)

榛名(話して楽になりたいのでしょうか……)

榛名(でも、榛名は、本当に酷いことをしてしまって)

榛名(深海棲艦を……敵を……)

榛名(敵を……撃ったはずなのに……)

榛名(榛名は……榛名は……!)

提督「榛名。無理はしなくていいんだ。今言えないのなら、またでいい」

榛名「……ごめんなさい」

提督「謝る必要はない。榛名、自分を大事にするんだ」

榛名「……」



榛名(撃ってしまったんです……)

榛名(撃ってしまったんです……)

榛名(榛名はこの手で、確かに、)

榛名(殺してしまったんです……)

今日はここで終わりです。


29 榛名
27 加賀
22 鈴谷
21 睦月
16 夕立
15 浜風
11 伊58
08 大淀
00 金剛/雪風

四人オープン圏内ですね!


イエスオリョクルノー喧嘩でいきましょう。焦らずYP5にして全員と結婚すればいいんです

一つだけ言わせてくれ


榛名は末っ子じゃない
末っ子は一応霧島ですわ

霧島姉さんは間違い

>>533
痛いですね、これは痛い……
お兄さん許して!

なんだこの伸びは、たまげたなあ……
そろそろ始めますね


提督「もうそろそろ昼過ぎか……」

提督「午後は何をしようか?」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

圏内だけど先に取るの?


提督「ん、睦月と浜風か」

睦月「おりょ」

浜風「あ、提督」

 廊下の窓から二人が見えたので、庭に出て声を掛けることにする。

 いつの間にかここも雑草が減り、湿った地面が顔を出していた。

 これを全て榛名がやったのだとしたら凄まじい事だが、良く見ると二人の手も泥に汚れている。

 どうやら今日は二人も雑草をむしっていたようだ。

睦月「睦月達に何か用なのです?」

提督「いや、偶々姿が見えたから声を掛けただけだ。二人は、草むしりか」

浜風「はい。あまりやる事もないので、どうせなら榛名さんの手伝いをしようかと」

 自分の鎮守府でもないのにそんな事をさせてしまっていいのだろうか、と思い、申し訳なくなった。

浜風「全く同じ事を榛名さんも言っていました」

 そんな俺を見て浜風がくすりと笑う。

浜風「二人にわざわざそんな事をさせるのは悪い、と」

 榛名らしい言葉だ。

浜風「……、少し似ていますね」

提督「俺と榛名が?」

浜風「はい。他人を思いやる所が」

提督「誰だってそうだ。俺だけじゃない」

 人は多かれ少なかれ他人の事を思いやる生き物だ。

 本当に自分の事しか考えず、他人を蹴落とすことにしか興味がない人間なんてきっといない。

提督「……、まぁ、確かに榛名はそれが強いだろう。でも俺は普通だ」

 俺も腕まくりをして、その場にしゃがみ込む。

 冬の冷えた空気と水気を感じながら草を抜く。

 これを朝からやっていた榛名と、今になってようやく始める俺が似ているだなんて、とてもそうは言えない。

>>618
本当だ、睦月圏内でしたね
9なんて出ないだろうしまぁええやろ(震え声)
30になったらなったで追加で書く形でも大丈夫ですしヘーキヘーキ


浜風「なら少し言葉を変えましょうか」

提督「なんだ?」

浜風「他人を思いやる、ではなく」

 すっと浜風が隣にしゃがんだ。

 耳打ちをするようにか細く囁く。

浜風「他人を思いやらずにはいられない、という所です」

提督「……」

 粘ついた蜜のような声。背中が不快に震えそうになり、すんでの所でそれを堪える。

浜風「あなたも、榛名さんも。何故かそうしないといけないという強迫観念に囚われているように見えるんです」

提督「そんなことはない」

浜風「そうですか? 伊58さんのことを、救わなければいけないと思ってはいませんか?」

提督「それは……」

 頭を殴られたような感覚。あるいは、心の底を掬い取られた様な、そんな感覚。

 すっぽりと抜け落ちたように次の言葉が出てこない。

 開いた口が、やはり開いたままでそれ以上の機能にならなかった。

浜風「だから、似ているんです。お二人は。……そして私も」

提督「……、君も、か?」

 やっとのことで声を絞り出す。

 視線はずっと地面に落としたままで、彼女を見ることはしない。

 おそらくは微笑んでいるだろう。

 だが、その笑顔は見てはいけない様な気がした。

 今彼女の顔を見てしまったら、きっと。

 彼女の声に絡めとられそうだったから。

 ──まるで蜘蛛の巣の上にいるようだ。

 くすりと隣で、綺麗な蜘蛛が微笑んだ。


睦月「なになに? なに二人で秘密の話してるの?」

 浜風の声は俺にしか聞こえていなかったようで、状況をつかめていない睦月が割って入る様に声を挙げた。

 いや、様に、ではなく、文字通り割って入ってきた。

 無理矢理詰め込むようにしゃがみ込まれたおかげで、俺と浜風の距離が広がる。

 そのおかげか、先ほどまで感じていた息苦しさが遠のいた。

 今ばかりは睦月の無邪気さに感謝しなければならない。

睦月「睦月も仲間に入れるのです!」

提督「あ、ああ」

浜風「……ふふっ」

 再度の微笑みは、幾分か和らいだものだった。恐らく睦月に向けたものだろう。

 立ち上がり、視線から逃れるように二人に背を向けた。

 未だ粘ついた彼女の声が耳から離れない。そのままそれが鼻を通り喉に落ち、呼吸が出来なくなるのではないかという錯覚さえ覚える。

提督「……、別に大した話じゃない」

睦月「むぅ……」

 はぐらかされていると思ったのだろう。睦月が不満そうな声を挙げた。

 事実睦月の勘は正しく、出来ればその話はもうしたくはなかった。

 そうして誤魔化すように考えを巡らせ、やはり誤魔化すように深海棲艦の話題を挙げる。


提督「二人がここに来たいきさつについて再度話していてな。やはり深海棲艦の情報は少しでも欲しい」

睦月「いきさつ? 深海棲艦? 睦月達を襲った深海棲艦って事?」

提督「ああ。深海棲艦と一口に言っても、全てが全て同じわけじゃない」

 咄嗟に思いついた話題ではあるが、思いのほかにすらすらと言葉が出てくる。

 浜風は何も言わない。取り立てて先ほどの話題を、睦月にするつもりはないのだろうか。

 それはありがたいのだが、しかし、目に見えない糸……蜘蛛の糸を周囲に張り巡らせているようにも感じられ、素直に安心は出来なかった。

提督「手足のない異形のモノもいれば、人型を模しているモノもいる。人の言葉を話す例も報告されている」

 それらは全て一人による報告だ。

 手足のない深海棲艦に手足を食いちぎられた雪風だけが、全てを知っている。全てを押し付けられた。

 命だけは助かった彼女は、しかし命以外は全てを失ったといっていい。

 手足を失った。

 仲間を失った。

 笑顔を失った。

 ……もうあの頃の彼女はいない。

 そうしてしまったのは、俺だ。

浜風「……」

 ぼそぼそと浜風が何かを呟くが、小さすぎて聞き取れなかった。

提督「……、まぁ、だから、君たちが見た深海棲艦について情報を教えて欲しいと思ってな」

睦月「んー、良いけど」


睦月「睦月達が見たのはー……」


↓1のコンマ

00-49 普通の深海棲艦
50-89 人型の深海棲艦
90-99 ???


睦月「人の姿をしていました。セーラー服で、帽子被ってて、髪が長かったです」

浜風「あれは艦娘でもおかしくないくらいに人型をしていました」

提督「そうか」

 深海棲艦が現れ始めてから約十年。その始めの方では手足のない鯨のような、分かりやすく異形のモノと呼べる外見をしていた。

 それが最近になるにつれ変化し、ついには艦娘と変わらないほどの外見をしたモノまで確認されるようになった。

 外見だけではなく、人型のモノたちは我々と同じ言葉を発し、またそれを適応させ、正しく使用しているのだ。

 深海棲艦は、進化している。

 それが今の常識であり、本部の懸念事項なのである。

提督(……しかし、そうか)

 睦月の言う深海棲艦を、俺は知っている。

 しかしそれは、あまりに辛い記憶だった。

 少なくとも、目の前で笑う睦月や浜風に言えるものではなかった。

 彼女たちを不安にさせたくない。

 そう思い、きっとそれが浜風の言った言葉なのかも知れないとも思った。

いまっさら気付いたけどスレタイが「艦娘」じゃなくて「娘」になってるじゃん……なにやってだ


睦月と浜風の好感度上昇
睦月↓1のコンマ十の位
浜風↓2のコンマ十の位

提督と艦娘を入れ替えてもあら不思議、特に問題ないよねっていうスレにしたかったんですよ

あと、安価ですけど、今のところは特別問題ないのでこのままでいきます。
「それコンマすっ飛ばして即BADENDっすけど大丈夫?」っていうくらい酷い安価でないかぎりはなんとかします
仮にそういうのが来たら一言言って修正なりなんなりしますので、少なくとも唐突な当たり前のエンドってのはないです


提督「……」

 目覚めの悪い朝だ。

提督「今日の夢は一段と酷かったな……」

 辺り一面が血に染まった鎮守府の廊下。

 廊下だけではなく、壁も、床も、天井も、部屋の扉も、どこを見たってまともな景色なんてなかった。

 夢は記憶の整理だという。

 ……この悪夢を見続けたら、いつかなんとかなるのだろうか。

 整理しても整理しても溢れるほどの後悔は、どうすればいいのだろうか。

提督「……、今日は、どうするか」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)


睦月「提督さーん、起きてますかー?」

提督「……起きてるが、ノックもせずに勝手にあけるのは良くないぞ」

 やってきたのは睦月だった。

睦月「およ。ごめんなさい」

 舌をぺろりと出して謝る睦月。

提督「それで、何だ?」

睦月「おお、そうでした」

 目を爛々と輝かせて、睦月が手を叩いた。

睦月「遊びに行くのです!」

提督「……、そうか」

睦月「はい!」

 きらきら。

提督「……そうか」

睦月「はい!」

 きらきら。

 可愛らしい満面の笑みだ。窓の外の冬晴れの空より澄んでいる。

 これは断れない、そんな言外のプレッシャーを感じる。

提督(……、まぁ、睦月の願いだ。出来る事なら叶えてやろう)

 遊びに付き合うことで気が晴れるなら、それでいいか。

提督「で、鈴谷は」

睦月「玄関で待っているのです。執務室には来たくない、って」

提督「ふむ……?」


鈴谷「……ちぃーっす」

提督「眠そうだな」

鈴谷「眠そうじゃなくて、眠いの」

 溜息を吐きながら鈴谷が言う。

 さすがに連日睦月にせがまれたら折れざるを得なかったのだろう。

 中途半端にあしらい続けるよりは、いっそのこと一度彼女の望みを叶えれば満足して静かになる。

 そう鈴谷は考えたようだ。

鈴谷「ほんと面倒……」

提督「まぁ、そういうな。この鎮守府に何もないのも事実だ」

鈴谷「だったら出撃でもしてなよ」

 鼻で笑いながら鈴谷が欠伸をした。

提督「……それでもいいが、それだと君が来ないだろう」

鈴谷「まぁね」

 こちらを見もせずに頷いた。

 普段から好意的ではないが、今日は輪を掛けてにべもない。

 眠さからか不機嫌になっているようだ。

鈴谷「……、それもだけど、それだけじゃない」

提督「というと」

鈴谷「あんたの顔があいつにそっくりだから」


 あいつ、とは、鈴谷の前の提督、の事だろうか。

 これだけ鈴谷が人を嫌う要因になった様な人物に似ていると言われるのは、嬉しくはないのだが。

鈴谷「……違う、誰があの屑なんか話題にするのよ」

提督「じゃあ誰にそっくりなんだ」

鈴谷「あの戦艦」

提督「……榛名か?」

 思わず驚いた。

 それは、思わぬ名前が出てきたことに対する物と、昨日の浜風に続きまたも同じ事を言われたことに対する物との、二つの驚きだった。

 俺が榛名に似ている?

 何故そう思うのだろう?

鈴谷「……、あんた、昨日寝てないでしょ」

提督「いや、そんな事は無い」

 嘘ではないが、真逆でもない。

 実際のところは、短い睡眠と悪夢の繰り返しで、何時間眠ったのかは自分でも分かっていない。

 ただ、素直に認めるには納得が出来なかった。

鈴谷「じゃあ嫌な夢でも見たか」

提督「……」

 今度は否定できなかった。

 適当に投げられた石に当たる感覚。昨日の浜風の、蜘蛛の巣の上のような息苦しさは感じない。

 代わりに動悸の様に胸と頭が痛くなる。


 何も言わない俺の代わりに鈴谷が頷く。

鈴谷「ああ、そう。やっぱり。通りで同じ顔してると思ったよ」

提督「どういうことだ」

鈴谷「あの戦艦様は毎晩毎晩ほっつき歩いて寝てやしないからさ」

提督「……どういう、ことだ」

鈴谷「……さぁねぃ。本人でも聞いたら」

 それきり鈴谷は俺から視線を外し、欠伸をかみ殺しながら適当に睦月と会話し始めてしまった。

提督「……」

 俺と榛名が、何故似ているのだろう。

 浜風にも言われた。

 人を思いやらなければいけないという思い。

 人を救わなければいけないという強迫観念。

 それが似ていると言われた。

 だがそれは、人が人であるために必要なもののはずだ。

 苦しんでいる人がいたら助けたいと思う。

 悲しんでいる人がいたら救いたいと思う。

 そう思うのが当たり前だ。

 目の前で苦しんでいる人がいるのに何もしないと言うのは、間違っている。

 人は一人で生きていけない。助け合わなければ生きていけない。

 誰もが助けを必要としている。

 大和も、武蔵も、那珂も、弥生も、朝雲も、

 深雪も大鳳も如月も雲龍も龍驤も雪風だって春雨だって金剛だって大淀だって曙だって阿賀野だって阿武隈だって他の彼女たちだって皆助けを求めていた。

 助けを求める彼女たちの、七十九人の腕のうちのたった一本だって俺は掴めなかった。

 だから今度こそ守らなければいけない。

 伊58を守らなければいけない。睦月の願いを叶えてやらなければいけない。

 ただ、それだけで、それだけのことに必死なだけだ。


 そんな俺のようなまがい物と榛名が何故……?

 榛名もあまり眠っていないのだろうか。

 鈴谷の言葉を考えるのならば、そういうことになる。

 眠れないで陰鬱としていた所を鈴谷と遭遇し、その顔が俺と重なったのだろう。

 彼女も辛い経験があってここにいる。

 自分を必要以上に卑下したりないがしろにするのは、そのせいなのだろうか。

 或いはそのせいで彼女も夜が辛いのだとしたら、それは哀しいことだ。

 ……守ってやらなければ。

睦月「出発進行なのです!」

鈴谷「ちょっとボリューム下げて欲しいんだけど」

睦月「ええー?」

 二人の後を追う。

 海の中を歩けといわれているような、重い足取りだ。

 鈴谷が振り向き、こちらを一瞥する。

 三日月のように唇を釣り上げて、冷たく笑った。

 お前には何も出来ない、そう言われている様な気がしてならなかった。

 いや。

 多分、そう言いたかったのかも知れない。

 実際、俺に出来ることなんて何があるのか、全く分からないのだから。

露骨な下地作りをしながら今日はここまでです。

鈴谷睦月とどこに行くのか(別に遊園地じゃなくてもいいです)だけ安価だしておきます
↓1

本日はアニメ艦隊これくしょん放送日です。よろしくお願いします(ステマ)

うぃ、やりますー


鈴谷「睦月、帯がずれてる」

睦月「おりょ」

提督「動き回りすぎだ。少し大人しくしていなさい」

睦月「むー」

鈴谷「じゃああたしが正客やればいいの?」

提督「ああ。俺も睦月もこういう経験はないからな。頼む」

鈴谷「仕方ない。じゃあ睦月が真ん中」

睦月「ほえ? 睦月?」

鈴谷「末客は末客でやることあるから。あんたは真ん中でお茶飲んで菓子食べてなさい」

睦月「はーい」

鈴谷「で、あんたは最後に入って襖を閉める時は、間違っても一回で開け切らないでよね」

提督「ああ、それは知ってる。勢い良く開いて驚かせないように、だったか」

鈴谷「まぁそういうこと」

提督「よし、睦月の帯も直ったし、いくか」

睦月「おー!」

鈴谷「はいはい」

鈴谷「……」

鈴谷「……」

鈴谷「……ってなんで茶道やってんのよあたしらは」

提督「今更言うか」

睦月「ノリツッコミってやつなのです。着物もばっちり着こなして」

提督「うむ。確かに着慣れている感じがする」

鈴谷「うるさい」


鈴谷「っていうか、本当になんでこんな事してんの」

提督「君が茶店に行きたいと言ったからだろう」

鈴谷「そうだけど違うって。普通に喫茶店で良かったのにさ」

 呆れるように鈴谷が溜息を吐いた。

提督「なるほど。次は気をつけよう」

鈴谷「まぁ遊園地連れてかれるよりかは良かったけどさ……」

 遊園地に行きたいと駄々をこねた睦月と、静かな茶店で一息つきたいと言った鈴谷。

 無論両方の希望を叶えるつもりではあるが、まずは鈴谷の希望を優先する事にした。

 そのことにやや不満げな睦月だったが、それでもそれを口にまではしなかった。

 朝早く鈴谷を引っ張り出している事に加え、一度は自分の行った場所だからだろう。

 後ろめたさ、とまでは言わないが、そのことに目を瞑ってまで自分のワガママを押し通す程の性格は睦月にはない。

 無邪気で思ったことをそのまま口にする子だが、決して横柄だったり不遜だったりはしないのだ。

睦月「睦月、今、大和撫子の気分です!」

 それに、思いの外睦月も楽しげな表情をしている。

 くるりと回って、自分の着物を見下ろした。

鈴谷「あんまり動き回らないでよね」

睦月「はーい」

 やや淡い赤色の生地に、花や紅葉が白く彩られている。

 帯は緑色で、これもまた控え目ながら植物の刺繍がなされていた。

 この手の知識は乏しいが、やはり着物と言うのは奥ゆかしさや慎ましさをイメージする。

 普段はそれらとは反対の睦月であるが、しかし似合っていないわけではなく、むしろ可憐さを演出しているようにも見えた。


睦月「およ。提督、睦月に見とれちゃった?」

提督「どうだろうな」

 勿論似合っている。だが、あまり女性を褒めたことがないので、どう言えば良いのか分からず、ついついそんな返事をしてしまった。

睦月「むむ……」

 途端にむくれる睦月。取り繕うように言い直す。

提督「いや、すまない。似合っていると思う」

睦月「思う?」

 じとりと半眼で、せがむ様に睨まれた。

 ……、女性の価値観は難しい。まるで不発弾だ。

 些細な言葉尻でも許さないと言った表情だ。

 下手な刺激をしないよう、ここは睦月に従う。

提督「似合っている」

睦月「それだけですか?」

提督「……、……」

睦月「……むー」

提督「分かった、分かった。可愛らしい」

 半ば背中を押されるが如く突き出た言葉ではあるが、睦月は満足したようだ。

 ぱっと花を咲かせるように笑いながら喜んだ。

睦月「にゃはは、褒められました」

 ……まぁ、これで彼女が満足するのならば安いものだ。

睦月「それじゃ次は鈴谷さんです!」

鈴谷「は?」

 不意をつかれたのか、腕を引っ張られた鈴谷がふらつきながら俺と睦月の間に押し込まれる。

 いや、押し込まれるといっても、別段密着しているわけではないのだが。


 鈴谷の着物の生地は、睦月の帯よりも濃い緑色をしている。刺繍も睦月のものより控え目で、普段の彼女よりも大人びて見える。

鈴谷「あんま見なくていいから」

 そっぽを向きながら鈴谷が言う。

睦月「そー言わずにぃ。ほら提督、鈴谷さんに一言!」

 後ろから抱きつくようにして鈴谷を掴んで離さない。

鈴谷「ちょっと、離してくんない!?」

提督「……、凄く嫌がっているみたいだが」

睦月「照れてるんです!」

提督「そうは見えないんだが……」

 鈴谷が睦月を引き剥がし、目尻を釣り上げながら頬を引っ張った。

 抵抗しようとする睦月だったがそれも敵わず、餅の様に頬をこねくり回されながら頭部を揺らされた。

睦月「ふにゃ、ふにゃあ」

鈴谷「ったく、もう、ほんとに」

提督「鈴谷、まぁ、落ち着け。睦月も嫌がらせで言ったわけじゃない」

鈴谷「……ふん」

 ぐにぐにと睦月の頬をひとしきり弄った後に手を放す。

睦月「ふにゃあ……くらくらします」

 ようやく解放された睦月は千鳥足を踏むようにしながらふらついた。

提督「……」

鈴谷「……なに?」

提督「君も似合っていると思う。睦月とは違う魅力が出ているのだろう」

鈴谷「……」

提督「鈴谷?」

鈴谷「……うるさい。きもい!」

 腕を組みながら完全に背を向けられてしまった。

 言葉を間違えただろうか。

睦月「鈴谷さん、顔が赤……ふにゃあ、ひっはああいえ~!」


睦月「お菓子だ! 好きなのとっていいの?」

鈴谷「そんな訳ないでしょ、一つずつ取るのよ」

提督「この懐紙を使うのか」

鈴谷「そ。お先に。頂きます」

睦月「おいしそー。睦月も早く食べてお茶飲みたい」

提督「順番だから待つんだ」

鈴谷「あむ。……、……」

鈴谷「ん」

睦月「よーし、睦月の番なのです」

鈴谷「全部飲まないでよね」

睦月「はーい。ええと、ええと?」

提督「茶碗を回すんだ」

睦月「あ、そうだ。でもなんで回すの?」

鈴谷「茶碗の正面は絵柄だったり模様だったりが入ってるから」

提督「茶碗は亭主、向こうのもてなす側の物だからな」

睦月「ほえー」

鈴谷「はいストップ、そっちの干菓子は次のお茶のだからまだ食べちゃ駄目」

睦月「ふにゃあ……難しいのです……」

鈴谷「まー実際面倒なだけだよ」

提督「そういう鈴谷は詳しいんだな」

鈴谷「まぁ、たまたま教わっただけだし」

提督「なるほど」


鈴谷「んー、終わった終わった」

 ぐっと伸びをしながら空を見上げる鈴谷。

 二人ともいつもの制服に戻っており、今となってはもう少し着物姿を見ておいても良かったと僅かに思う。

鈴谷「まー偶にはいいかな」

 どことなく晴れ晴れとした表情を浮かべる。慣れているのは単に回数をこなしたと言うだけではなく、やはり純粋に好きなのだろう。

 対してぐったりとした表情を浮かべたのは睦月だ。

睦月「足が痺れました」

 生まれたての小鹿という比喩を良く聞くが、まさに今の睦月がそれだろう。

 上手く動けないようで、小刻みに震えている。

鈴谷「はん。人を朝早くから引っ張り出すからよ」

睦月「ふにゃあ、突かないでー!」

 足先で睦月のふくらはぎを突く。悲鳴(と言っていいのかは分からないが、)をあげながら睦月が懇願するが鈴谷はなおもやめない。

提督「まぁ、あまりいじめてやるな。悪くなかったんだろう?」

鈴谷「……、今回はね」

 ようやく溜飲を下げたのか、鈴谷が突くのをやめた。

 ……数分後、足の痺れから解放された睦月がリベンジとばかりに鈴谷を遊園地に引っ張ることになるのだが、まぁそれは違う話である。



好感度上昇
鈴谷 ↓1のコンマ十の位
睦月 ↓2のコンマ十の位

(0の時だけ一の位にするのも良いかなぁとか今更思ったけど本当に今更過ぎるやつ)

今のままでいいよ
温情措置イラネ


提督「もう昼か」

 陰鬱な夢で始まった朝だったが、二人と行った茶店のおかげか、大分気分は落ち着いた。

 気が引き締まる、といったら大げさかもしれないが、落ち着くにはいいものだったと思う。

提督「さて、午後は何をしようか」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

そういや結局睦月のは6か0どっちにするん?
話が進まないから0は一桁で良いと思うけど

>>761
そうですねぇ、一桁にしましょうか。話進まなさ過ぎるのも申し訳ないですし

>>750
申し訳ないです、許してくだち


浜風「提督」

提督「……浜風か」

 背後から声を掛けられて、驚きそうになりながらそれを隠す。

 ふたたび蜘蛛の巣の上に絡めとられる感覚に陥る。

 どうやら二人の時は、“こういう”態度で接することに決めたようだ。

浜風「睦月とお出かけですか?」

提督「鈴谷も一緒だ」

浜風「そうですか」

 ゆっくりと踵が木の床を叩く。時間を掛けて浜風が俺の正面へと立った。

 ……再び背を背けることもできたが、あまりそうしすぎるのも彼女に悪いと思い、居直った。

 微かに瞼を下ろし、くすりと笑う。

 掴みどころのない恐ろしさの片鱗を感じながら、彼女に尋ねることにした。

提督「何の用だ?」

浜風「ええ。用はあります」

 一歩二歩、と浜風が距離をつめる。

 触れるか触れないかくらいの距離に迫る彼女が、うっとりと微笑んだ。

 怪しく唇が光らせながら、俺を射抜くように見つめる。

浜風「伊58さんに会いにいこうと思いまして」

提督「……」


 押し黙る俺を見て、やはり彼女は唇を釣り上げたまま言葉を続ける。

 声色だけみてとれば、子供をあやすような穏やかなものだったが、しかしその実は先の見えない闇のようなものに感じられた。

浜風「私一人ではないですよ? 睦月に、夕立もです」

提督「……、そうか」

 その言葉に、どう反応するべきか考え、結局ただ頷くだけにとどまった。

 ただ、胸中は分かりやすく傾いていた。

浜風「不満ですか?」

提督「いや。そんなことはない。伊58が安心して話せる相手が増えるのであれば、喜ばしいことだ」

浜風「本当に?」

提督「……ああ」

 先日のことを思い出す。睦月と二人で伊58の部屋を訪れた時のことだ。

 あの時俺は、睦月の声に反応しなかった伊58を心配した。

 だけれど、どこか心の端で違うことを感じたのだ。

 それは、きっと、

 伊58を助けなければいけないというのが、

 
 
 
 

提督(“俺が”伊58を助けなければ──)

浜風「“俺が”伊58を助けなければ──」

 
 
 

 


提督「……え?」

浜風「……ふふ」

 また一歩浜風が足を踏み出した。

 服が擦れ合う。空気を通して彼女の熱が伝わってくるのではないかという錯覚さえ覚える。

 微かにだが、それでも確かに甘い花の様な匂いがした。

 それは彼女から発せられたものであり、香りではなく、やはり匂いだった。

 すっと鼻から入っては抜けていくような、簡単な香りではない。

 蜜のように、蜘蛛の巣のように。

 あるいは、妖しく光る唇の奥に僅かに見える赤い舌を纏う様な、粘膜のように。

 ねっとりと粘ついた拭い切れない匂いだ。

 甘い毒。食虫植物。巣の代わりに、その上に佇む毒蜘蛛だ。

提督「……、何を、馬鹿な」

浜風「貴方が、貴方の力で、伊58さんを助けたいんでしょう? 他の誰でもない、貴方の手で救いたいんでしょう?」

 それはまるで、

浜風「まるで、昔の何かを誤魔化すようですね。あるいは、取り戻すみたい」

提督「──……」

 逃れるように一歩退く。

 磁石のように彼女が再び距離をつめる。

 呼吸を忘れて二歩下がり、思い出したかのように口を開いた。

 彼女の残り香が鼻から抜け、一度咳を吐きながら息を吸う。

 ……今度は、彼女は迫っては来なかった。

浜風「……、提督も、行きましょう?」

 その代わり、後ろに手を組んで歩き出す。

 向かう先は、伊58の部屋だった。


睦月「浜風おそーい」

夕立「待ったぁ」

浜風「ごめんね」

 廊下で二人と合流する。

 気付けば浜風から、あの粘ついた毒の香りは消えていた。

 表情も和らいだもので、とても先ほどのような雰囲気は感じられない。

 錯覚か勘違いだったら良かったが、そんなものではないだろう。

 やはり、あれは、あくまで俺に対してのものなのか。

 しかし、そうだとしても、だからどうすればいいと言うのだろう。

 救わなければいけない人が目の前にいたら、そうするのが義務だ。

 だから俺は目の前にいる伊58を救いたい。

 ……。

 ……でも、本当にそれだけか?

 本当は浜風の言うとおり、心のどこかで……

睦月「……とく。提督。もー、提督!」

提督「っ、な、なんだ」

夕立「聞いてなかったっぽい?」

 覗き込む様にして二人が俺の腕を持ち揺らした。

 一人考え込んでいた俺は、二人が話しかけていたのに気付いていなかったようだ。

 慌てて誤魔化しながら返事をする。

提督「すまない。それで、なんだって?」

睦月「もー。だから、伊58さんとお話しするのです!」

提督「ああ、そうだったな」

 ……浜風は、口を挟まない。

 普段の控え目な彼女だった。

提督(……普段?)

 果たして、本当の彼女は、どちらなのだろう。

前6なら睦月が28だから初トラウマ爆発を見る事が出来るかな


夕立「まず夕立が行くっぽい!」

 びしっと手を挙げて、そう力強く宣言した。

提督「一人ずつ行くのか?」

浜風「いっぺんに話しかけたら大変でしょうから」

提督「なるほど」

 粘度の低い声。

睦月「というより、新しく着た夕立の紹介なのです」

 確かに、思えば夕立と伊58はまだ話をしていなかった。

睦月「だからここで自己紹介して、皆で仲良くなるのです!」

夕立「なるっぽい!」

 声を揃えるようにしてはしゃぐ。

提督「なるほど。それはいい考えだ」

 頷きながら賛同する。

 伊58が三人と仲良くなれれば、外に出てきやすくなるだろう。

浜風「……」

提督「夕立、やってみてくれ」

夕立「いくっぽい!」


↓1のコンマ
00-49 会話成功
50-99 夕立、強引に部屋に入る


夕立「ゴーヤさんゴーヤさん! 聞いて欲しい!」

伊58「? だ、だれ?」

夕立「新しくここに着た、白露型四番艦、夕立よ! よろしくね!」

 ……自己紹介のパターンが毎回一緒なのは何か意味があるのだろうか。

浜風「多分ないですね」

 にべもない。

伊58「ん、と、新しく?」

夕立「ここで建造されたっぽい!」

伊58「ここ、で……」

伊58「……」

提督「伊58、大丈夫か?」

 口を閉じた伊58が心配になり、口を挟んでしまった。

伊58「……ん、と。てーとく、さん?」

提督「ああ。ここに着たばかりの夕立を紹介することになってね」

睦月「発案者は睦月なのに!」

提督「分かってる、別に横取りしたわけじゃない」

睦月「むむむ……」

浜風「よしよし」

伊58「ん、ん……そっ、か」

夕立「お顔が見たいよ」

伊58「ん……」

 初対面でそこまでいけるだろうか、と思った。

 何しろ俺も、先日ようやく彼女の部屋に入れてもらったのだ。

>>783

29 榛名
28 睦月
27 加賀
25 鈴谷


すげーことになってんぞー


伊58「……、……」

伊58「……ん」

伊58「……んん」

伊58「んう……」

伊58「ん……みゅ」

夕立「ゴーヤさーん」

伊58「……あう」

夕立「ゴーヤさーん」

提督「夕立、やはりいきなりは……」



──カチャリ。




提督「……え?」

夕立「開いたっぽい?」

伊58「ん、う……」

 細く開いた扉から、伊58がちらりと顔を覗かせた。

伊58「夕立、さん?」

夕立「うん! 夕立!」

伊58「ん……」

 にこにこと笑う夕立。

 しばしの間逡巡した伊58だったが、

伊58「ど、どう、ぞ……」

 と小さく呟いた。

そして放送見たいので30分開きます、すいません


球磨! 球磨! 球磨! 球磨ぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!!
あぁああああ……ああ……あっあっー! あぁああああああ!!! 球磨球磨球磨ぅううぁわぁああああ!!!
あぁクンカクンカ! クンカクンカ! スーハースーハー! スーハースーハー! いい匂いだなぁ……くんくん
んはぁっ!球磨たんのアンテナアホ毛の髪をクンカクンカしたいお! クンカクンカ!あぁあ!!
間違えた! モフモフしたいお! モフモフ! モフモフ! 髪髪モフモフ! カリカリモフモフ……きゅんきゅんきゅい!!
コミカライズ小説四コマ各方々の球磨たんかわいかったよぅ!! あぁぁああ……あああ……あっあぁああああ!! ふぁぁあああんんっ!!
アニメ放送されて良かったねルイズたん! あぁあああああ! かわいい! 球磨たん! かわいい! あっああぁああ!
いつか静かな海で二巻も発売されて嬉し……いやぁああああああ!!! にゃああああああああん!! ぎゃああああああああ!!
球磨ああああああああああ!!! コミックなんて現実じゃない!!!! あ……小説もアニメもよく考えたら……
球 磨 ち ゃ ん は 現実 じ ゃ な い? くまあああああああああああああん!!うぁああああああああああ!!
そんなぁああああああ!! いやぁぁぁあああああああああ!! はぁああああああん!! 横須賀ぁああああ!!
この! ちきしょー! やめてやる!! 提督なんかやめ……て……え!? 見……てる? 艦娘図鑑の球磨ちゃんが僕を見てる?
母港画面の球磨ちゃんが僕を見てるぞ! 球磨ちゃんが僕を見てるぞ! 中破絵の球磨ちゃんが僕を見てるぞ!!
アニメの球磨ちゃんが僕に話しかけてるぞ!!! よかった……世の中まだまだ捨てたモンじゃないんだねっ!
いやっほぉおおおおおおお!!! 僕には球磨ちゃんがいる!! やったよ多摩!! ひとりでできるもん!!!
あ、コミックの球磨ちゃああああああああああああああん!!いやぁあああああああああああああああ!!!!
あっあんああっああんあ北上様ぁあ!! 大井っち!! 多摩ぁああああああ!!! 木曾ぁあああ!!
ううっうぅうう!! 俺の想いよ球磨へ届け!! 単冠湾鎮守府の球磨へ届け!

それじゃ再開しますね。


睦月「やった! じゃー……」

伊58「あ、あう、違う、の」

睦月「おりょ?」

伊58「ゆ、夕立さん、は良いの」

睦月「ふぇ」

伊58「あと、ね、てーとくは、良い、よ」

睦月「なんで!?」

浜風「……、まぁ、仕方ない」

睦月「ふにゃあー!」

 納得がいっていない睦月と、それを宥める浜風。

 睦月の頭に手をやりながら、ちらりとこちらを見た。

浜風「提督」

 にこりと微笑んだ。粘ついた声で囁いた。

浜風「良かったですね。夕立さん一人じゃなくて」

提督「……」

夕立「お邪魔するっぽい!」

 甘い毒が全身を巡る前に、夕立に続いて伊58の部屋に入り、蜘蛛の糸を切るように扉を閉めた。

 ……それでも扉の隙間から、毒の香りが漂ってきそうで仕方がなかった。


夕立「えへ。ありがとう!」

伊58「ん、うん」

夕立「ええと、ゴーヤさんはどうして部屋の中にいるの?」

提督「伊58はちょっと前の鎮守府で嫌なことがあってな。今はお休み中なんだ」

 伊58の代わりに答える。

夕立「そうなんだー。辛いっぽい?」

伊58「ん……」

 こくりと首を縦にふる。

夕立「大変っぽい……」

 そんな彼女の様子を見て、夕立も心配そうに眉根を寄せた。

 しかしすぐに元の明るい表情に戻ると、

夕立「でもでも、夕立達がいるから大丈夫っぽい! 元気出して!」

 と、伊58の手を取った。

 布団を握り締めた彼女の手に、夕立の手が重なる。

 突然のことに驚き、咄嗟に手を放そうとするも、それも出来ない。

 一度だけ布団から手を放し、やがて再び布団の上に手を置いた。

 ぎゅっと夕立が手を重ねる。

夕立「ゴーヤさんの手、冷たいっぽい!」

伊58「ん、と。い、いつも、ここに、いる、から」

 しどろもどろになりながら答える。視線はあちらこちらに移り、やがて困り果てて俺を見た。

 しかし、それが助けを求める目なのかどうかがわからず、きっと俺も同じような顔をしていたに違いない。


夕立「ぎゅーってすればあったまるっぽい?」

伊58「わ、わかんない」

夕立「ぎゅー!」

伊58「ん、と」

夕立「ぎゅー! ゴーヤさんも!」

伊58「ゴ、ゴーヤ、も?」

夕立「うん、一緒に! ぎゅー!」

伊58「あう」

夕立「ぎゅー!」

伊58「……、ぎゅ、ぎゅう」

夕立「もっとー」

伊58「ぎゅ、ぎゅう。ぎゅう」

夕立「ぎゅー!」

伊58「あ、あった、かい、かも」

夕立「ほんと?」

伊58「ん、あったかい、でち」

夕立「わーい!」

伊58「ん、ん……と。えへ」

夕立「提督さんも混じるっぽい?」

伊58「うぇ!?」

提督「いや、俺は良い。遠慮しておく」

夕立「そう?」

提督「ああ。二人で温まってくれ」

夕立「んー……分かった! そうするっぽい! ぎゅー!」

伊58「ぎゅー」


提督「伊58」

伊58「んと、なに?」

提督「夕立を部屋に入れたのは何故だ?」

 何故夕立だけは平気なのだろうか。

伊58「ん、とね。夕立、さんは、建造されたばっかり、だから、だよ」

提督「……?」

 要領を得ない。

伊58「建造されたばっかり、だから、大丈夫、だよ」

提督「……そうか」

夕立「どういうこと?」

伊58「ん……」

 考えるように視線を逸らしたが、特別返事は戻ってこなかった。

 おそらくは、まだ、話せていない事があるのだろう。

 先日彼女が話した、前の鎮守府で受けた扱い。

 確かにそれは酷いものだったが、しかし未だ全ての説明がつくわけではない。

 艦娘同士を、避けたり受け入れたりする理由が、分からない。

 そしてその分からない理由に則って、夕立は受け入れられたのだろう。

 伊58にしか分からない、伊58だけの何かがまだあるのだ。


浜風(……二人で温まってくれ、だなんて)

浜風(本当は自分でも分かっているんでしょう)

浜風(単に嫉妬しているだけだということに)

浜風(自分が時間を掛けて接してきた相手を、横から簡単に持ち去られるのが、悔しいんですよ)

浜風(伊58さんを守るのは、他の誰でもない自分だと)

浜風(他の誰にもそれを邪魔されたくないと) 

浜風(そういう邪な思いがあるから、すんなりと彼女の懐に入った夕立が憎い)

浜風(……)

浜風(……)

浜風(……ふふ)

睦月「浜風ちゃんどうしたの?」

浜風「ううん、なんでもない」

睦月「ふーん……?」



好感度上昇

睦月↓1のコンマ十の位
夕立↓2のコンマ十の位
浜風↓3のコンマ十の位

※十の位が0なら一の位を使用




睦月「ふぇぇ、疲れたのです」

提督「お疲れ」

 明くる日の事。

 今日は出撃を行うことにした。

 伊58と鈴谷は参加していないので、メンバーはそれ以外の五名だったが、特に問題は起きなかった。

 深海棲艦数隻こそ現れたものの、加賀を始めとした皆が集中し、つい今しがた倒した所である。

加賀「……問題ないわ」

 色の濃い瞳でそう応答する加賀。

睦月「ふぇぇ、痛いのです……。睦月、装甲は紙なんだよぉ」

提督「ああ。だがまだ油断はしないでくれ」

 不意をつく形で連続して深海棲艦が出る事もある。

 戦ったばかりで弾薬を消費している上に、負傷したメンバーもいるようだ。

提督「加賀。戦うための索敵ではなく、安全に帰るための索敵をしてくれ」

加賀「……ええ」

 渋々ながらも加賀が頷いた。

榛名「提督。資源は確保できました」

提督「ああ。皆の状況は?」

榛名「はい。睦月さんが大破、浜風さんと夕立さんが中破です」

提督「ああ、分かった。帰投してくれ」

榛名「分かりました」

加賀「……」

 加賀は何も言わないが、特別抗議するわけでもなかった。

 メンバー五人のうち、三人が中破以上なのだから、当然の判断だろう。

 或いは、単に索敵に集中しているのかもしれない。

榛名「帰投します。全員陣形維持で……」

 榛名の掛け声と共に、海を走る音。

 全員が鎮守府へ戻る、はずだった。

浜風「睦月?」

 ──しかし。

 一人だけ、それをわかっていない者がいた。


睦月「おりょ?」

 間の抜けた声で、睦月がのんびりと声を挙げる。

睦月「なんで帰るの?」

浜風「資源は回収できたし、私たちのダメージが大きいから、一旦帰るの」

睦月「でも、ここ、鋼材いっぱいありそうだよ?」

提督「睦月。気持ちは分かるがここは一旦戻ってくれ」

 心底、本当に意味がわかっていないと言う声色だ。

 その、現状にそぐわない落ち着きぶりに、思わず心がざわつく。

 もしこれが加賀のいう事ならば、わからなくはない。

 加賀は分かりやすく深海棲艦を絶滅させる、という強い意思があるからだ。

 或いは任務に執着している榛名が言うのであれば、容認はしないが、納得は出来る。

 そういう事を言っても不思議ではない、という意味での納得を、だ。

 しかし、睦月はと言うと、それが分からない。

 何故彼女は、自身が大破、仲間二人が中破しているのに、海に残ろうとするのだろうか。

夕立「夕立も戦いたいっぽいけど、ちょっと無理っぽい……」

榛名「はい、榛名もそう思います。今は戻るべきかと」

加賀「……」

 索敵を続ける加賀を除いた三人が、睦月に説き伏せるようにそう言った。

 続けて再度俺も同じ事を繰り返す。

提督「睦月。資源はまた拾える。また来ればいい。だが命は一つしかないんだ」

睦月「……?」

 んー、と。

 軽くとぼけるようにしながら、睦月が答えた。

 
睦月「失敗しても、死ぬだけだよ?」

提督「それが駄目なんだ」

睦月「なんで?」

提督「なんで、って」

榛名「睦月さん……?」

睦月「別に、死んだら死んだで、しょうがないのです」

加賀「……」

浜風「……」

睦月「そしたらまた、やり直せばいいのです。にゃはは」

夕立「ちょっと、何言ってるのか、分かんないっぽい……」

睦月「死んでもやり直せるのです。また工廠で作ってもらえばいいのです。にゃはは」

夕立「え、でも、それは……」

加賀「……ちっ」

提督「……榛名」

榛名「はい」

提督「頼む。帰投してくれ。何をしてでも全員でだ」

榛名「勿論です」

睦月「にゃはは」


書ききれていないけどちょっと今日はここまででお願いします


提督「浜風、睦月のことなんだが」

浜風「ええ」

 執務室。今ここには、睦月と伊58以外の全員が居た。

 執務机の前に立つ浜風を中心に、近くに榛名と夕立、少し離れた所に加賀。そして俺から一番遠い、扉のすぐ脇の壁に背を預けているのが鈴谷だ。

 よもや本人に事情を聞くわけにもいかない。

 いや、恐らく話してはくれるだろう。ただそれは、先ほどのようなすれ違いの会話にしかならないだろう。

 使っている言葉は同じはずなのに。意味が通じない。

 片方が訓読みで、片方が音読みの感じで会話をするようなものだ。

 そして睦月はそれがおかしいとは思っていない。

 自分が普通で、自分が正常で、あくまで周りが変だと言う認識だ。

鈴谷「……」

 出かけていて戻ったばかりの鈴谷は最初状況が分からず、執務室という単語を聞いただけで自室に戻ろうとしたが、事の顛末を話すと渋々ながらついてきてくれた。

 やや苛立ちを見せながら、腕を組む鈴谷。まるでいつでも帰れるといわんばかりだ。

 何故そんなにこの場所を嫌うのかは分からなかったが、今はそれは気にするべきことではないので置いておく。

提督「端的に聞くが、睦月の言う事はどういうことだ?」

 まずは睦月のことを確認しなければ話が先に進まないのだ。

浜風「そのままの意味です。睦月は少し、死に対して緩慢なんです」

 苦々しげに加賀が舌打ちをした。

 その舌打ちが、まるで自分に向けられたもののように榛名が下を向く。
 


提督「少し、という程度ではなかったように見えるが」

 緩慢というより、もはや靡いてすらいなかった。

 鈍感を通り越して無感。

 まるで死がどうでもいいかのような、そんな言い草だった。

浜風「鈍感でも無感でも、緩慢でも散漫でも傲慢でもなんでも構いません。何にせよ、睦月にとっては命がその程度のものなんです」

浜風「……勿論、自分の命も」

 あの時、一番負傷の度合いが大きかったのが睦月だ。

 艤装の破損は酷く、全速力を出しても榛名達の半分の速度にも満たなかったと容易に想像できる。

 万が一直後に深海棲艦に遭遇した場合、最初に致命傷を受けるのは睦月だっただろう。

 ただ単に、周りの命を軽んじているのであれば、きっと彼女も撤退に賛同していたはずだ。

 しかし彼女はそうはしなかった。

 まるで、自分が深海棲艦に殺されようが、些事な事でしかないと言う風に。

 自分の命も他人の命も、平等に軽いものでしかないといわんばかりに。

夕立「間違ってるっぽい……」

 夕立の言葉に頷く。

 命は平等だ。だけれどどの命も重い。重くなくてはいけない。

 守らなくて良い命などというものは存在しない。

榛名「睦月さんは、ずっとああいった風なんですか?」

浜風「いえ、違います」

 首を横に振り否定する。

提督「……という事は、何か原因があって、今のようになったという事か」

浜風「はい」

 少しだけ浜風の髪が揺れた。瞳も同様に微かに揺れる。

 普段の大人しく真面目な表情でもなければ、俺にだけ向ける甘い毒のような微笑でもない。

 ただ純粋に、睦月の事を憂う、友人の顔だった。


浜風「……と言っても。なにも格別珍しいことが起きた訳ではありません」

提督「そう、なのか」

浜風「はい。ただ、私たちの鎮守府で、艦娘が轟沈したんです」

提督「……」

 夕立を除く誰もが表情に影を落とした。まるで、身に覚えがあるといわんばかりに。

 沈痛な面持ちで床に視線を落とす榛名と、忌々しげに眉間を歪めながら表情を殺そうとする加賀。

 位置的に正面に当たる鈴谷と目が合った。その表情は能面のように無機質なものだった。

夕立「……、えっと。それが原因、っぽい?」

 ただ一人、影から遠い夕立が、代弁するかのように尋ねる。

浜風「原因の一つではあります」

 という事は、他にも原因があるという事か。

浜風「ええ、まぁ。というより、その程度で心を壊していたら、キリがありませんよね」

 じわりと浜風の体から、甘い匂い。

加賀「そうね。艦娘として海で戦う以上、その覚悟はなければならないわ」

榛名「そう、ですね……」

 加賀が頷き、苦しげながら榛名も続いた。

 実際、加賀のいう事は正しい。

 海を脅かす脅威と戦うのは彼女たちだ。

 腕を食いちぎられ、足を食いちぎられ、骨を砕かれ、肉をもがれ、砲弾を食らい、その結果命を落としても何も言えない。

 覚悟と決心がなければ、あの深海棲艦を撃ち滅ぼすことは出来ないのだ。

 ……しかし、だからと言って、浜風の投げ捨てるような言い方はして欲しくなかった。

 例えそれが正論の上に積み重なった極論だとしても。

 覚悟と意思は、固い方がいい。

 だけれど、冷たすぎてもいけない。

 覚悟をするのは人──艦娘も含めて、人で、人には温もりがある。

 その温もりさえ凍らせるような覚悟は、強さと引き換えに何かを失ってしまう。

 それは優しさだったり健気さだったり、あるいはそれこそ、今の睦月のように。

 命の価値観や距離感さえ、間違えて失ってしまうのだと思う。


浜風「私と睦月は、ここでもそうですけど、元々の鎮守府でも、同じ部屋なんですよ」

 世間話をするような穏やかな口調。

浜風「ただ、私と睦月では、私のほうが後に誕生しました。睦月はかなり最初のほうに生まれたそうです」

提督「そうか」

 関係があるのかどうか今一要領を得ない話だ。

浜風「それで、私が誕生した時にはもう睦月は居て、その当時は私は睦月とは違う部屋でした」

榛名「……、それは、つまり」

 浜風が頷く。

浜風「睦月と一緒に居た子は、海に沈みました」

 こともなげに浜風が言う。

 夕立と榛名がそれを悼み、加賀と鈴谷は変わらない。

提督「それで、君が睦月の部屋に?」

浜風「いえ。それはもう少し後です」

夕立「後?」

浜風「ええ。三人目だったか四人目だったかは忘れましたけど、私が睦月の部屋にあてがわれたのは、かなり後です」

 その度に、睦月は死に直面していたということになる。

 最低でも三回は。

浜風「ああ見えて睦月は面倒見が良くて、世話焼きなんですよ。誰であろうと目を掛けたがりますし、手を焼きたがるんです」

 そしてその度に睦月の心が擦り切れていく。

浜風「提督……向こうのですね。提督が、空いた彼女の部屋に、丁度新しく来た艦娘を住まわせたんです」

 恐らくはルームメイトを失った睦月を心配したのだろう。

 あちらの提督の優しさであり、それは正しい行為だ。

 いや、そのはずだった。

 少なくとも、その時までは。


浜風「新しいルームメイトにも睦月は分け隔てなく明るく、優しく接しました」

 仲間の死が傷ならば、平和な日々はかさぶただ。

 睦月の心の傷を、新しく彼女のルームメイトになった艦娘が癒そうとした。

浜風「けれど、その子も海に沈み、また睦月は一人になった」

 心の傷は、必ず古傷として残る。

 どんなに長い時間が経っても、どれだけ平穏な日々が続こうとも、不意に夢やフラッシュバックで蘇ることがある。

 傷が記憶の底に埋まる前に、睦月は悲しみを重なって背負った。

浜風「そのまま一人にしておいたら睦月が駄目になってしまうと思った提督は、またも新しく来た艦娘を睦月と一緒にしました」

 地層のように、睦月の心に傷が重なっていく。

 傷を塞ぐかさぶたが固まる前に傷を抉られる。

 濡れた地面が乾く前に雨が再び降り注ぐ。

 傷つき続けた心はやがて擦り切れ、溶ける様になくなっていく。

浜風「それが続いた事で、睦月は思ったんでしょう。“艦娘は、死んでもまた代わりがやってくる”と」

 そうして残ったのは、壊れてしまった睦月だけだった。

浜風「ええ。仲間の死を哀しんで、敵である深海棲艦を憎んでいた筈の睦月がそうなったのは、私が新しくやってきたときだそうです」

 折れようが摩れようが、それでもまだ辛うじて絶えていた睦月。

 それまでは最後の一線を超えずに保っていた彼女の心が、完全に壊れた瞬間だった。

浜風「限界を超えたんでしょうね。それ以降睦月が泣いたり怒ったりすることはなくなりました」

 かわりに、常に笑う今の睦月になった。

 喜怒哀楽の、真ん中二つがすっぽりと抜け落ちたようにただ笑うだけになった睦月。

 口調だけは哀しんだり怒ったりする素振りは見せても、しかし表情は笑顔のままだ。

 それは確かに、ここに着てからの睦月だった。

 笑って、笑って、ただ笑うだけの、哀しい笑顔だった。

 
浜風「提督。人と艦娘の違い、分かりますか?」

提督「……違いはない。海に出て戦うのが君たちだとしても、君たちは人だ」

 浜風がくすりと甘く笑い、鈴谷も微かに唇を曲げた。

 ただし鈴谷のそれは、笑うと言うより、負の感情を押し殺すような、冷たいものではあるが。

浜風「優しいんですね。それか臆病か」

提督「……」

浜風「それはともかく。この問いに明確な答えは、まぁ、法律などを追えば定められるのかもしれませんが、今はそういう事を言いたいのではないので置いておきます」

 深海棲艦が現れてから十年。最初の数年は深海棲艦に海を占拠されていたが、その脅威に対抗すべく、急遽新しく国の戦力として造られたのが艦娘だ。

 それに伴い同じ様にして彼女達に関する法律などが出来上がった。

 それらの出来事は全て二、三年ほどで行われたわけだが、発案から施行までの間がこれほど短いものもないだろう。

 勿論全ての人間がこれに賛成したわけではなく、むしろ当初は反対意見のほうが多かった。

 世界を変えるような脅威に対してその程度の話し合いでいいのか、これを悪用して国家同士の戦争に発展しないか、

 武装しているとはいえ少女たちを兵器として扱うのは倫理的にどうなのか、そもそも艦娘というのが本当に深海棲艦に通用するのか。

 様々な疑問と意見が熱をまとい、世界中を包んだ。

 海は深海棲艦に包囲され、陸は人間同士で荒れていた。

 もし深海棲艦が陸上での行動を可能としていたら、間違いなく我々人類は滅んでいただろう。

 それほどまでに異常な事態で、異例の事態だったのだ。 


 しかし、とはいえ、いつまでも人間同士が争っていても埒が明かない。

 深海戦艦が海を占拠していると言うことは、単に海に出なければいいと言うわけではない。

 漁業や輸送業などのライフラインに影響が出始め、人々の生活が崩壊に向かったのも、そう遠い話ではなかったのだ。

 そうして自分たちに火がつき始めた事で、これまで主流だった反対意見は一気に鳴りを潜め、気がつけばあっという間に艦娘が誕生していた。

 少女たちに対する倫理だとか、国同士の争いに対する懸念だとかいうものは、一杯の食事よりも軽く、無為なものだった。

浜風「そうして私達艦娘は誕生しました」



浜風「私はですね、提督。艦娘と人の違いについてこう考えます」

浜風「いかに他人に尽くせるか。いかに他人を救えるか。いかに自分を殺せるか」

浜風「人は人のために艦娘をつくり、艦娘は人のために戦う」

浜風「私達は生きるのではなく戦うために生まれて、人は生きるために私達を造る」

浜風「私達は死んでもまた別の艦娘と言う形で補充されます。ですが人間はそういうわけにもいきません」

浜風「私達が貴方達を守って、貴方達は私たちに守られるんです」

浜風「それが私達と貴方の違いです」

浜風「そして睦月も、そういう考えなんですよ」

 最後のだけは、私の考えですけれど、と付け加えた。

 誰も何も言わない。静かな執務室で、浜風だけがうっとりと微笑んだ。

 それから逃れるように反論する。

提督「……、仮に、仮に君と睦月がそういう考えだとしても。そしてそれが正しいのだとしても。俺はそれを認めるわけにはいかない」

浜風「何故です?」

提督「君達に代わりなんていないからだ」

 睦月はこの世に一人しかいない。

 名前、容姿、性格、声、感情、得手不得手、全てが全て一緒の存在なんて、ありえない。

提督「君達は皆それぞれ一つの命だ。新しく誕生した艦娘が、そのまま全てを代わって受け持つなんて事出来ないんだよ」

加賀「……」

 無表情の加賀が少しだけ瞳を揺らした。

提督「誰が死んでも駄目なんだ。死んで補える命なんてない」

浜風「……」

提督「考えを改めろとはいわない。だが、少なくとも、この鎮守府にいる間は、自分の命を粗末になんてさせない」

浜風「……」


浜風「……そうですか」

提督「ああ。睦月には、いや、睦月だけでなく君も、他の皆も。自分を大事にして欲しい。そして出来るならば同じ艦娘同士、互いを嫌わないで欲しい」

 睦月を説得することは難しいだろう。

 だけれどやらなければならない。

 今のままでは、睦月はきっと本当に壊れてしまう。

 それは心だけではなく、体もだ。

 命を一発の弾薬程度にしか思っていないようでは、近い将来深海棲艦に食われてしまうだろう。

 そうなってからでは遅い。

 彼女のことは守りたい。守らなければならない。

 だけれど、自分を守る一番の存在は、自分自身だ。

 彼女自身がまず、自分を大事にしてくれなければ、意味がない。

 だから睦月に、自身の命について考え直してもらわなければならない。

 俺にそんな大それたことができるとは思わないが、少しでもそれが出来るのであれば、やらなければならない。


浜風(……もっと早く、貴方に会っていたら)

浜風(もしかしたら睦月は、まだこうはなっていなかったかもしれない)

浜風(……)

浜風(……なんてね)



【睦月の好感度が30を越えました】


提督「……朝、か」

 睦月の件から一晩が明けた。

 あの後は三々五々それぞれ入渠ドックに行く者、自室に戻る者、或いはどこか別の場所に行く者……と言った風に散会してしまい、特別何もなかった。

 同じく睦月に会うことはなかったが、果たして大丈夫だろうか。

提督「……もうすっかり綺麗になったな」

 ここにはじめてきた時には地面を隠すほどに覆い茂っていた雑草も、今はもうない。

 ズボンの裾が朝露で濡れなくなるのはありがたいが、その分だけ榛名が手を痛めているのだと思うと手放しには喜べない。

提督「……今日は、何をしようか」



↓1

1.出撃

2.演習

3.工廠

4.その他(自由安価。お好きにどうぞ)

榛名の好感度が29&安価の内容的にどうやっても過去のお話出さないといけないんで、先に好感度コンマとらせてください

↓1のコンマ十の位
※0だったら一の位参照


提督「……榛名?」

 食堂に顔を出すと、そこには榛名がいた。

 しかし様子が変だ。

 格好こそきちんと座っているものの、目を閉じて頭をやや前後に揺らしている。

 俗に言う、“舟を漕いでいる”という状況だ。

 彼女のこんな無防備な姿を見るのは初めてで、珍しい。

 声を掛けるかどうかしばらく逡巡していると、そのまま突っ伏すようにテーブルに顔をぶつけた。

榛名「んぐっ」

 ……痛そうだ。

 額はまだしも、鼻をぶつけると鼻血が出はしまいかと心配になる。

提督「大丈夫か?」

榛名「えっ、あっ、あっ! て、提督、すみません!」

 思い切り取り乱しながら、榛名が勢いよく立ち上がる。

 頭をテーブルにぶつけた痛みからか、やや目が潤んでいる。

 額だけでなく頬がやや赤いのは、恥ずかしい所を見られたと言う思いだろう。

提督「いや、俺こそ覗き見のようになってしまってすまない」

榛名「いえ、榛名が悪いんです。こんな所でうたたねをしているから……」

 俺の言葉を塗りつぶすように榛名が否定した。

 別段彼女を責めるつもりはこれっぽっちもない(というより、責める理由がない)のだが、とはいえ確かに何故こんな所でうたた寝をしていたのかは気になる。

 腕時計を見る。長針は七を刺していた。

 こんな朝早くに彼女はここで何をしていたのだろうか。

 ……ふと、鈴谷の言葉が脳裏に蘇る。



 ──あの戦艦様は毎晩毎晩ほっつき歩いて寝てやしないからさ



 提督(それがここでうたた寝をしていたことの理由と繋がるのだろうか)


提督「時に榛名、こんな朝早くに、ここで何をしていたんだ?」

榛名「……、……ええと」

 視線を床に落とし、言い淀む。

 そんな彼女を宥めるように続ける。

提督「いや、何も責めているわけじゃない。ただ心配なだけだ」

榛名「心配、ですか?」

提督「ああ。今は十二月下旬の早朝だ。こんな所で寝たら風邪をひくだろう」

榛名「……、榛名は大丈夫です」

 そう言いながらも、一度肩を震わせてさすった。

 やはりいくら言い繕うとも、寒さをごまかせはしない。

提督「寒さで震えているじゃないか。部屋に戻って眠るといい」

榛名「……、榛名は秘書艦ですから、大丈夫です」

 それは理由になっていない。

 仕事熱心なのはいいことだが、しかしこれはいきすぎだ。

 仕方なく、少しだけ強めに告げる。

提督「九時になったら来てくれればいい。それまでは必ず休むんだ。これは任務だ」

榛名「任務……」

 こうでも言わないと、きっと彼女は眠らないだろう。

 眠らないのではなく眠れないのだとしても、目を瞑って横になるだけで大分違う。

 とにかく今は休ませるべきだと思った。

榛名「……分かり、ました」

提督「必ず休むんだ」

 出来れば見張っていたいくらいだが、さすがにそれは出来ない。相手は女性だ。

 いや、榛名だったら従いそうではあるが、しかしそれは度が過ぎた行為だ。

 ……部屋に入るのを見届けるくらいならば大丈夫だろうか?


提督「榛名の部屋はどこだ」

榛名「……え?」

 きょとんとした表情を浮かべていた榛名を見て、弁解する様に

提督「ああ、いや、違う。決して変な意味ではない」

 と言った俺だったが、却って余計だったようだ。

榛名「……あっ、はい、す、すみません」

 榛名にそういう考えはなかったようで、変に俺が取り繕ってしまったことで勘違いしてしまったらしい。

 再度さっと頬を薄く染め、動揺を隠せないままに謝った。

提督「違う、本当にそう言う意図ではない。君の場合、無理してでも何か仕事をしそうだと思ったからだ。部屋に入るのを見届けるだけだ」

榛名「そ、そうですね。すみません」

 どちらかと言うと……いや、どちらかではなく明らかに俺が悪いのだが、重ねて榛名が謝る。あまりいい口癖ではない。

 廊下を歩く。何故か榛名の部屋に向かうのに俺が先を歩いているというおかしな光景だ。

 大股一歩分後ろを歩く榛名。

提督「で、榛名の部屋はどこなんだ」

榛名「……」

提督「……ん? 榛名?」

榛名「あ、ええと、ここです」

 いつの間に榛名の部屋を通り過ぎていたらしい。

 振り返ると既にドアノブに手を掛けた榛名がそこにいた。

提督(……ん?)

 と、ふと違和感に囚われる。

 先ほど俺が通った時、そこの扉は開いていた様な気がするのだが……。

榛名「勘違いでは?」

提督「そうか」

 榛名がそういうのだからそうなのだろう。

提督「眠れなくても横になるんだ。良いね」

榛名「……はい」

 ぺこりと榛名が頭を下げた。

 さすがに部屋の中をのぞくつもりはない。

 榛名が部屋の扉を開ける前に、俺は踵を返した。


──数時間後。

提督「……ふむ」

夕立「提督さん、まだ演習しないっぽい?」

 執務室。

 また昨日と同じく、鈴谷と伊58を除いたメンバーがここにいた。

 ただし昨日と違う点が一つある。

 それは、昨日いなかった睦月がいて、代わりに榛名がいないと言う点だ。

睦月「榛名さん、寝坊なのです?」

浜風「珍しいですね」

 珍しいと言うより、初めてだ。

加賀「……時間が押しているんじゃない?」

提督「そうだな」

 先ほどの榛名を考えると、出来れば寝かせておいてあげたいのだが、しかしそういうわけにもいかない。

 というのも、これから演習の予定が入っているのだ。

 しかもこちらから申し出たのではなく、相手側からわざわざ申請してくれたのだから、無碍にするわけにはいかない。

浜風「榛名さんを置いていくわけには?」

提督「……駄目だ」

 ただでさえこちらは鈴谷と伊58を欠いた五人なのだ。

 これで更に榛名を欠いたメンバーで出迎えるのは出来ない。

 それは戦力的な意味合いもないわけではないが、むしろそれよりも、相手側に対しての思いがある。

 この鎮守府に演習を申し出てくれる相手など、そうはいない。

 出来る事なら今回だけでなく次回以降も手合わせを願いたいわけなのだが、その相手に対して駆逐艦三隻、空母一隻だけで出迎えると言うのも少々申し訳ないのだ。

 なので、榛名には参加してもらわなければ困るのだが……。

提督「……仕方ない。起こしに行くか」


提督「誰か、榛名の部屋を知っているものは?」

 誰も手を挙げない。

 俺は先ほど確認してはいるが、しかし出来る事ならば同じ女性が行った方が良いだろう。

提督「仕方ない。場所を言うから、誰か起こしてきてくれないか?」

睦月「はい、睦月が行きまーす!」

 いち早く手を挙げたのは睦月だった。

 先日の事もあるので少し不安ではあったが、榛名の部屋にいく分には問題ないだろう。

 場所を伝えると、睦月はすぐに執務室を飛び出していった。

浜風「ところで、提督」

提督「なんだ?」

浜風「演習相手ですが、私たちがいた鎮守府だったりはしませんか?」

提督「いや、違う」

浜風「そうですか」

 それはある意味ではベストの選択ではある。

 もし彼女たちの鎮守府の提督に会えれば、二人を引き渡すことができるからだ。

 とはいえ中々そうはいかない。

浜風「……」

 口元に手をやりなにやら考え込む浜風。

提督「どうした?」

浜風「……いえ。思ったんですけど、何故迎えが来ないんでしょう」

提督「それは……」

 それは確かに、おかしな事ではある。

 実は彼女たちの元いた鎮守府には、連絡をすでにしているのだ。

 二人を保護したので迎えに来て欲しい、と。

 しかし答えはノー。


 理由は単純で、この鎮守府からの電話を真に受ける相手などほぼいないからだ。

 いってしまえばここはゴミ捨て場のような扱いをされている。

 そこから電話が来て、大事な艦娘を預かっている、などといわれても、悪戯電話にしか思えないだろう。

夕立「でも、実際二人はいないんだから、少しくらい疑ってもいいっぽい」

 しかし夕立の言う事も最もである。

 いくらこの鎮守府からの電話とはいえ、居なくなった二人の名前を出しているのだから、全く信用しないと言うのは不自然なのだ。

提督「……」

 或いは。

 或いは、その電話の真偽自体が、向こうの鎮守府にとってどうでも良いことなのだとしたら。

 もっと言ってしまえば、彼女達が保護されたのがこの鎮守府だという事を“そういう風”に捕らえているのだとしたら。

 もしかしたら向こうの鎮守府は、もう彼女たちのことを……

浜風「提督」

 すっと浜風が囁く。

 まるで、それ以上は考えてはいけないという風に。

提督「……そうだな」

 これはあくまで俺の推測でしかない。

 しかも彼女たちを傷つけかねない代物だ。

 今は、一旦捨て置くとしよう。

浜風「私たちの鎮守府でないのなら、どこなんですか?」

提督「ああ」




提督「北鎮守府だ」

睦月「提督! 大変!」

 俺がそう言うのと、睦月が執務室の扉を開けたのは、ほぼ同時だった。


 睦月に手を引っ張られながら榛名の部屋に向かう。

 加賀は執務室から動かず、夕立と浜風が俺たちの後ろをついてくる。

 着いた先は間違いなく先ほど榛名が指した部屋だ。

提督「……、なんだ、これは?」

 しかし、その室内は、異様だった。

夕立「埃だらけ……っぽい」

 明らかにその部屋は、部屋として使われていないのが一目瞭然だった。

 薄暗い部屋には、朝日に反応するかのように埃が時折舞っている。

 窓側のガラスは割れたまま、寒い空気が容赦なく入り込み、それが埃を舞い上げているのだ。

提督「榛名」

榛名「……提督」

 布団はおろか家具は何もない部屋で、榛名は膝を抱えるようにして丸くなっていた。

 どう考えてもこの部屋が榛名のものというのは信じられなかった。

睦月「部屋を間違えたの?」

 だとしたら、すぐに元の自分の部屋の戻るだろう。

 こんな部屋で眠る理由がないのだ。

榛名「……すみません」

提督「榛名。一つ聞く。君の部屋は、どこなんだ?」

 嫌な考えが頭をよぎり、それを否定しようと彼女に尋ねる。

 しかし榛名の口から答えは返ってこない。

 代わりに再度すみませんと言う言葉だけが返って来た。


提督「榛名。もう一度尋ねる。答えてくれ。君の部屋はどこなんだ?」

榛名「……」

 こんな事は考えたくなかった。

 本当の部屋を教えてくれればそれでいい。口で言うだけでも、指で示すだけでも何でも良かった。

 或いは、いっそこの部屋が本当に榛名の部屋だと言われても、俺は目を瞑っただろう。

 少なくとも、自分の考えを否定してくれるアクションをしてくれれば、それでひとまずは良かったのだ。

 しかし榛名は何も言わない。

 いや、恐らく。

 何も言えないのだ。


浜風「……、提督」

睦月「浜風ちゃんどこに行ってたの?」

 いつの間にか姿を消していた浜風が、やや息を切らしながら戻ってきた。

浜風「ん。今、全部の部屋を見てきたんです」

提督「……」

夕立「速いっぽい」

 時間だけを見れば確かに速いが、しかしそれはさして不思議なことではない。

 この鎮守府では、使っていない部屋は扉が空いたままなのだ。

 扉が閉まっている部屋の数がそのまま彼女たちの人数─睦月と浜風は一緒の部屋なので、実際はそれから一つ少ない数だが─であれば、その中に榛名の部屋はある。

 そうでなければ、空いた扉の部屋のどれかが榛名の部屋。

 そうでなければならない。

 そして扉が空いたままの部屋であれば、少し覗けば使用しているかどうかすぐに分かる。

 一々一つずつ扉を開けて中を見ると言う手間が省ける分、簡単にチェックできるのだ。

浜風「……、結論から言うと、使っている部屋はありませんでした」

榛名「……」

睦月「え、っと。つまり?」

 最悪の考えが的中してしまう。

提督「……この鎮守府に、榛名の部屋はないんだよ」

夕立「えっ……」

榛名「……」

 誰に向けたものか分からないすみませんという言葉が、小さく榛名の口から零れ落ちた。


 夜な夜な出歩いていると言う鈴谷の言葉。

 それはこう言うことだったのだろうか。

 自分の部屋がないから、寝られない。

 だから夜も出歩く。

 ……だが、それはおかしい。

睦月「空き部屋ならいくらでもあるのです」

 睦月の言うとおりだ。

 空き部屋ならまだまだある。わざわざ部屋を用意しないで出歩く理由がないのだ。

 ……或いは、逆なのかもしれない。

 部屋がないから寝られないのではなく、

 寝られないから部屋を持たない。

 部屋は必要ない。

夕立「……あ!」

提督「なんだ?」

 と、突然夕立が素っ頓狂な声を挙げる。

夕立「演習! 時間、忘れてたっぽい!」

浜風「しかし、今回は……」

 難色を示す浜風を制するように榛名が立ち上がった。

 顔色は酷く悪い。土気色といってもいいくらいだ。

 今も結局まともに熟睡はしていないのだろう。

榛名「榛名は大丈夫です」

睦月「いやいや、駄目ですよ!?」

 慌てて睦月が止めようとするも、榛名はやはり大丈夫の一点張りだ。

 隈のとれないままの眼差しで俺を見る。

榛名「榛名は大丈夫です。演習を」

提督「……」

 悩んでいる時間はない。

榛名「提督。お願いします」


提督「……本当に、大丈夫なんだな?」

 念を押すように尋ねる。

榛名「はい、榛名は大丈夫です」

睦月「ちょ、ちょっと提督、駄目なのですよ」

夕立「ふらふらっぽい」

浜風「らしくないですね」

 三人のいう事は正しい。

 俺も出来る事ならば彼女は参加させるべきではないと思っている。

 演習相手への配慮は当然すべきことではあるが、それよりも彼女の体調の方が大事だ。

 だが、それと同時に、もしここで榛名を休ませたら彼女はどうするのかが不安だった。

 ただ部屋で休むことはないといっていいだろう。

 演習に参加できない自分を責め、負い目を感じ、更に卑屈さを加速させるのではないか。

 或いは鞭を打つ様に何か別の仕事を自分で見つけて没頭するのではないか。

 そのどちらもありえるし、そして恐らくはそのどちらをも彼女は実行するだろう。

 であれば、彼女の望むままに演習に参加させるのも一つの考えだと思った。

提督「出撃ではなく、演習だ」

 深海棲艦を相手取るわけではない。少なくとも死ぬことだけはありえない。

 今回の演習もまたこちらの鎮守府近海で行うものである。

 だから大丈夫……

提督「……」

睦月「提督?」

提督「……、いや、なんでもない」

 ……なんだろう、今の嫌な悪寒は?


提督「……、榛名。君を信用してもいいんだよな?」

榛名「はい、榛名は大丈夫です」

提督「……」

榛名「……」

 じっと榛名の瞳を見る。

 その瞳を、どこかで見た気がする。

 ここに来る前のことだ。

 どこかで、以前、彼女の瞳を見た気がするのだが。

提督「……」

榛名「……」

提督「……」

榛名「……」

 演習。北鎮守府。榛名。

 ──夏の雨。

提督「……、……榛名」

榛名「……はい」

提督「俺達は、夏に会っていたりは、しないか?」

榛名「っ……」

提督「雨の日に」

榛名「榛、名は……」

 項垂れるように榛名が唇を噛んだ。

提督「榛名。君は……」

榛名「……提督」

 
 
 
 
 
榛名「大和艦隊を殺したのは、榛名です」

 
提督「──……」 
 
 
 
 
 
 震える声で、榛名がそう言った。


 心の中で雨が降る。

 かつて何日も降った、今でも夢に降る、あの雨が。


 きっと榛名も同じだった。

 

沈んだ艦娘24人

一回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
大和・朝雲・那珂・武蔵・弥生
(雪風は生還)

二回目の襲撃事件で沈んだ艦娘
深雪・大鳳・如月・雲龍・龍驤
(雪風は生還)

???
春雨



過去スレ
01
【艦これ】提督「壊れた娘と過ごす日々」【安価・コンマ】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1418749126/)
02(前スレ)
【艦これSS】提督「壊れた娘と過ごす日々」 02【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419872466/)


以上です。

うーんこのミス……

今日はここで終わりです、明日更新できるかどうか分かりませんので次スレ建てました

【艦これSS】提督「壊れた娘と過ごす日々」 02【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1419872466/)

無能無能アンド無能、ほんとすいませんこっちですね

【艦これSS】提督「壊れた艦娘と過ごす日々」【安価】 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420739475/)

そろそろ始めます
あと、沈んだ艦娘のうち残り13人ですが、全員安価だと手間な上に別段出番があるわけでもないので、こちらで決めてしまっても構いませんかね?

 
 
 ──榛名の提督は、無口な方でした。

 
 
 無口なだけでなく、無表情で、ともすれば気難しい方でした。


 執務中でも最低限の言葉しか発さず、私語など聞いた事もありません。

 口を開いたとしても大抵は叱咤や注意などの内容で、誰かを賞賛するところは見た記憶がありません。

 出撃や演習で殊勲艦となった子にもそれは同様でした。

 中破はおろか、小破、あるいは僅かな負傷でも許さず注意する方でした。

 決して背丈が高いわけではありませんが、その厳しい目線に萎縮してしまう子も少なくはありませんでした。

 そんな提督の秘書艦を務めようものならば、一日中厳しい視線と注意に晒されます。

 誰もが秘書艦に指定された時に嫌な顔をし、また誰もがその日の夜か、長くて二三日の内に秘書艦の交代を提督に直訴していました。

 榛名が秘書艦を務める様になったのも、そんな事情もあって巡り巡って榛名がやらざるを得なかったのかもしれません。

 榛名の直前に秘書艦を務めていた子は、重荷から解放されてほっとした表情を浮かべました。

 あるいは、新しく秘書艦に任命された榛名に対して、貧乏くじを引いたと言う同情の様な表情を皆浮かべました。

 そうして榛名の秘書艦としての日々が始まりました。



 提督はやはり変わらず厳しく、榛名は毎日何かしらの注意を受けました。

 書類に誤字があれば書き直すのは勿論、ホキチスの位置が左上二センチでないと落ち着かないらしく、つき返される事もしばしばありました。

 本棚は背の順、番号順、発行順と言う風に必ず位置が決まっていましたので、新しく本が増えるたびに悩むことになりました。

 弾薬一本でさえも備蓄の誤差は許さず、報告と実際が少しでも違えばその原因を再度纏めなければなりませんでした。

 艦娘の行動は必ずスケジュールに則ったものでなければならず、仮に緊急の修復だとしても、それを報告しなければ秘書艦である榛名の責任として叱咤されました。

 特に厳しかったのは時間で、五分前行動が出来なければその日一日睨まれることもありました。

 朝にコップ一杯の水、昼過ぎに緑茶、夜にはコーヒーを用意する時間も、十秒でも過ぎようものならば不機嫌そうに舌打をされました。

 一度だけコーヒーの準備が遅れた時には、よほど機嫌が悪かったのでしょう、中身を浴びせられた事もありました。

 自分の火傷よりも床の掃除を優先しなければなりませんでしたが、木の床の継ぎ目に流れたコーヒーを完全に拭いとるのは大変でした。


 提督は無口でした。提督は厳格でした。

 だけれど、提督は決して榛名達を嫌っているわけではないと思います。

 言葉が少ないせいで勘違いされがちなだけで、提督はそんな人ではないはずです。

 注意や叱咤は裏返せば期待や心配の表れで、つまりは榛名達を思ってくれているからこその行為です。

 期待や心配をしていなければ、注意はおろか何も言わないはずです。

 その為提督は、榛名達のために厳しいのです。

 そして榛名達はその期待に応えるのが使命だと思いました。

 だからその期待に応えられない榛名が注意されるのは当然なのです。


 提督の期待に応えられないのが申し訳なくて、そんな自分が情けなくて、榛名はひたすらに謝り続けました。

 
 一週間が過ぎ、皆がそれだけもつのはすごいと賞賛しました。

 二週間が過ぎ、皆が無理をし過ぎないようにと心配しました。

 三週間が過ぎ、皆が何故秘書艦を続けるのかと懐疑しました。

 四週間が過ぎ、皆が神経が常軌を逸していると畏怖しました。


 一ヶ月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ、榛名は秘書艦のままでした。

 
 提督は無口でした。提督は厳格でした。

 そして榛名は悪い子でした。

 注意されては謝り、叱咤されては謝り、侮蔑されては謝り、睥睨されては謝り、舌打されては謝りました。

 提督は無口でした。そして榛名は、


「榛名さんさぁ」

榛名「はい」

「謝ってばっかで辛くないの?」

榛名「す、すみません」

「いや、別に私怒ってるわけじゃないんだけど」

榛名「……すみません」

「……はぁ、もういいよ」

榛名「……すみません」


 ……榛名は、謝ることしかできなくなっていました。



榛名「提督、今日の演習ですが……」

『……』

榛名「これ以上雨が強くなるようでしたら、難しいかと」

『……』

榛名「視界が悪くなりますと、連携を取りづらいですし、あちらの鎮守府としても……」

『……ちっ』

榛名「すみません、余計なことを言いました。すぐに準備します」

『……三分だ』

榛名「せ、せめて五分頂けませんか」

『……ちっ』

榛名「すみません、三分で準備します」

『……ふん』


「はぁ? この雨で演習やるの?」

榛名「すみません。提督の指示です」

「冗談じゃないよ、無理に決まってる」

榛名「すみません。ですが……」

「嫌だ、風邪引くし」

榛名「ですが……」

「うるっさいなぁ、だったらあんた一人で行けば良いじゃん!」

榛名「……すみません」

「すみませんすみませんって、それしかないの本当に」

榛名「……すみません」

「あんた秘書艦なんでしょ、私たちの代表みたいなもんじゃん。だったらこんな雨の日に演習なんて出来るわけないって言ってよ」

榛名「それは……」

「提督の腰巾着やって何でもかんでも頷いてんじゃないわよ」

榛名「……すみません」

「あんたの点数稼ぎのために私達に危険なことさせないでくれる? ほんといい迷惑」

榛名「……すみません」

「……ちっ」

榛名「……すみません」


榛名「提督、申し訳ありません、遅くなりました」

『……ちっ』

榛名「すみません」

「榛名さんが中々来なくてー」

榛名「……え」

『……馬鹿が』

榛名「……すみません」

『……さっさと行け』

榛名「はい、すみません」

「嫌な雨。やる気出ないよこんなの」

榛名「皆さん、気は緩めないで……」

「分かってるようるさいな!」

榛名「す、すみません」

「あんたは提督におべっか使ってればいいんだよ!」

榛名「……すみません」



提督「今日はよろしく頼むよ」

『……ふん』

提督「相変わらずだな……」

大和「提督、準備できました」

提督「ん、そうか」

那珂「那珂ちゃんセンターじゃないのー?」

朝雲「センターってどこよ……」

武蔵「お、戦艦が相手にもいるじゃないか。楽しみだな」

弥生「……そう、かな」

雪風「しれぇ、行ってきます!」

提督「ああ、気をつけてな」

榛名「……」


榛名(……楽しそう)

榛名(何が違うんでしょう。榛名達と、あちらと)


榛名「榛名、いざ出撃します!」

大和「戦艦大和、連合艦隊出撃です」

武蔵「この武蔵の主砲、伊達ではないぜ」

那珂「那珂ちゃん、現場はいりまーす!」

弥生「弥生、出撃します」

雪風「雪風、いつでも出撃できます!」

「……」

「はぁ、雨鬱陶しい」

「ほんと面倒」

「普通やらないだろこんな雨で……馬鹿じゃないの」

「勝ち負けは良いからさっさと終わらせようよ」


榛名(こんなにも違うものなのでしょうか)

榛名(何故こんなにも……)


──────
────
──


榛名「提督、演習が終わりました」

『……』

榛名「こちら、榛名以外は全員大破、榛名小破。あちら一隻大破、残りは……無事、です」

『……』

榛名「すみません。勝てませんでした」

『何故だ』

榛名「……すみません」

『何故劣る』

榛名「……すみません」

『何故あいつに劣るんだ』

榛名「……すみません」

『何故俺があいつより劣る……! 大和艦隊まで厭味のように引き連れやがって……!』

榛名「……お知り合い、なのですか?」

『……貴様には関係ない』

榛名「す、すみません」

『忌々しい』

榛名「……すみません」

『……』

榛名「……」

『……』

榛名「……、あの、提督。帰投します」

『待て』


榛名「……え?」

『そのまま出撃して来い』

榛名「そ、それは」

『……』

榛名「……すみません。……、で、ですが、今回だけはそれは出来かねます」

『……』

榛名「演習とはいえ、全く無傷なわけではありません。皆集中的にやられて疲弊しています。弾薬も燃料も減少していますし、何より雨が……」

『……』

榛名「……提督。提督、お願いします」

『……ふざけるな』

榛名「っ……」

『あれだけ無残に負けておいて、おめおめと戻ってくるつもりか』

榛名「すみま、せん……」

『貴様らが無駄に浪費した資源、貴様らで回収して来い』

榛名「……」

『……ふん』

榛名「て、提督!? 応答してください、提督! 提督!」

榛名「提督、お願いします! どうか考え直してください! 提督……!」

榛名「どうして……!」


「はぁ!? ふざけんじゃないわよ、このまま出撃!? 馬鹿じゃないの!?」

榛名「……すみません」

「すみませんじゃないわよ、あんたには意思ってもんがないわけ!? なんでもかんでも頷けばいいわけないでしょ!」

榛名「分かってます……」

「分かってるなら断りなさいよ、今すぐ連絡しなおしなさい!」

榛名「出てくれないんです」

「馬っ……鹿、じゃ、ないの」

榛名「……」

「そんなの、つまり、あれじゃない。私達、見捨てられたような、もんじゃない」

榛名「そ、そんな事は」

「ないって、まさか言うわけじゃないでしょうね。どこにあいつを庇う余地があるのよ」

榛名「……」

「ああ、そりゃあんたは別かもしれないわね。さっきの演習も、自分だけ大破しないで、逆に唯一向こうに負傷させたしね」

榛名「あれは、ただの偶然です」

「自分だけいい格好して、嫌な奴ったらありゃしないわ」

榛名「……、きっと、提督は榛名達のことを思って言ったはずです」

「……あんた、それ本気で言ってるの」

榛名「……」

「馬鹿だ馬鹿だって言ったけど、あんた本当馬鹿だわ……」

榛名「……すみません」

「ありえない。あんた、媚びへつらいすぎて頭おかしくなったんじゃないの」

榛名「……すみません」

「いかれてる。提督がアレなら秘書艦もアレね」

榛名「……」

「よく辞めないで秘書艦やってると思ってたけど、単に異常者同士お似合いだったわけね」

榛名「……」

「……はん。こんな所であんたを罵っても意味ないし、風邪ひくだけだわ。やりたきゃあんた一人でやりなさいよ。私達は帰るから」

榛名「で、ですが」

「うるさいわよ! もうやってらんないわよ!」

榛名「あ、ま、待って下さ……!」

榛名「……」

榛名「……」


榛名「……見つかりません」

榛名(こんな雨の中、どうやって資源を……しかも一人で)

榛名「皆は無事に帰れたでしょうか……」

榛名「くしゅんっ……」

榛名「……提督」

榛名(提督は本当に榛名達を見捨てたのでしょうか)

榛名(……)

榛名(……そんな筈ありません。提督がそんな事をするはずがありません)

榛名(榛名達が……榛名が悪かったからきっと、こんな無茶を言ったんです)

榛名(早く資源を見つけて、戻らないと)

榛名「……夏なのに、寒い、です」

榛名「……、……」

榛名「……」

榛名「……?」

榛名(何か、聞こえます)

榛名(水の音……雨、じゃありません。それに、何か重い音。駆動音?)

榛名「……、あれは。まさか、皆?」

「……」

榛名(そう、です。あの姿は、確かに皆です!)

榛名「良かった……」

「……」

榛名「皆さん! 戻ってきてくれたんですね!」

「……」

榛名「良かったです……」

「……」

榛名「……?」

榛名「皆、さん……?」

榛名「何故何も話してくれないんですか……?」

榛名「──えっ……!?」


──────
────
──

ちょっとPCフリーズしたので、こっちのスレは埋めてしまって構いません

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月02日 (金) 22:03:05   ID: dWE8fsMc

夕立キタコレ

2 :  SS好きの774さん   2015年01月05日 (月) 04:58:38   ID: MSeXj2TK

ぜひ完結してほしい

3 :  SS好きの774さん   2015年01月05日 (月) 14:32:35   ID: MTK_W-LR

面白いのね!いい時間潰しになるのね!

4 :  SS好きの774さん   2015年01月06日 (火) 05:16:18   ID: 7XxnElO-

今一番ホットなSS

5 :  SS好きの774さん   2015年01月08日 (木) 03:00:24   ID: nNz1l6ZM

唐突なルイズコピペに大草原 いいゾ~これ

6 :  SS好きの774さん   2015年01月08日 (木) 23:04:20   ID: TGyVTlSP

このシリアス感がいいねぇシビれるねぇ

7 :  SS好きの774さん   2015年01月17日 (土) 00:04:07   ID: M_JHuKXd

はやく次スレたてろや

8 :  SS好きの774さん   2015年01月20日 (火) 20:30:28   ID: E7_rnja7

まーだですか

9 :  SS好きの774さん   2015年01月21日 (水) 03:32:20   ID: KR8CQVxw

次スレからタイトルが一部変わってるから酉で検索すると出る

10 :  SS好きの774さん   2015年01月23日 (金) 22:05:12   ID: 5AdvT1l6

オリジナル感がすごいあっていいねぇ、しびれるねぇ。

11 :  SS好きの774さん   2015年01月30日 (金) 15:04:18   ID: fKL1maK2

おもしろいわ

12 :  SS好きの774さん   2015年02月04日 (水) 18:46:26   ID: 55kPdOzE

榛名の仲間(?)に何があったんだよおおおおお!

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