比奈「比翼の鳥」あい「連理の枝」 (96)



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荒木比奈(20)
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東郷あい(23)

※百合じゃないよ

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 ——都内某所・撮影中——


春菜「春菜と比奈の〜!」

比奈「眼鏡探訪ー!」

春菜「今回から、比奈ちゃんがレギュラー復帰です!」

比奈「はい、お久しぶりです」

春菜「会いたかったですよ、比奈ちゃん!」

比奈「あはは。ありがとうございます。って、わ、抱きつかなくても……」

春菜「比奈ちゃんにかけてほしいメガネがいっぱいあるんですよ!」

比奈「そ、そうなんスか?」

春菜「はい、そんなわけで今回は復帰記念ということで、比奈ちゃんの新しい眼鏡を選びに、ここ、メガネ大王九段下店に来ていまーす!!」

比奈「あ、あの、抱きつくのはもういいんじゃ……。ええと、その、お店の説明しないと……」

春菜「いいからいいからっ! 説明は比奈ちゃんに似合うフレーム選びながらとかでもっ!」

比奈「え? いや、お気持ちは嬉しいっすけど、いや、ちょっと、春菜ちゃん? 春菜ちゃんっ!?」ズルズル

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上条春菜(18)


秋月律子(19)
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律子「うん、やっぱり比奈ちゃんの柔らかな笑顔はいいわね。うちの春菜のテンションを受け止めてくれるし」

P「ありがとうございます、秋月さん」

律子「ああ、比奈ちゃんのところのプロデューサー。……いえ、いまはプロダクションL.i.a.Mの社長さんでしたっけ」

P「それを言ったら、そちらは秋月プロダクションの社長さんじゃないですか」

律子「まあ、そうですね。そういえば、L.i.a.Mってどんな意味なんですか?」

P「クロタネソウの英名です。Love in a mist」

律子「霧の中の恋人、ですか。ロマンチックですね」

P「まあ、名前くらいは。……ところで、秋月さん」

律子「なんですか?」

P「ありがとうございます。比奈をこの番組に復帰させてくれて」

律子「ちょっ! 頭をあげてください」

P「でも、テレビ局のほうにもかけあってくれたそうじゃないですか。本当に、なんとお礼を言っていいか……」

律子「頭をあげてくださいってば。私は春菜にとってよい効果があることを狙って、比奈ちゃんがこの番組に戻れるよう動いただけです」

P「そうは言っても……」

律子「そして、比奈ちゃんは期待通りに動いてくれている。さっきも言いましたが、あの娘の笑顔はとてもいいものです。おかげで春菜も生き生きしてます」

P「はい。ありがたいことです」

律子「だから、あなたがそんな風に恩に着る必要はありません」

P「……それでも、お礼は言わせてください」

律子「まあ、それくらいは受けておきます」

P「はい。ありがとうございます」

律子「……あのですね」

P「はい?」

律子「……こんなこと言うの生意気かもしれませんが……。我々は、ビジネスをやっているわけです」

P「え? は、はい。そうですね」

律子「現状、あなたが元いた事務所に義理がある人は、そちらの顔を立てるために、あなたと比奈ちゃんに仕事を回さないでいる。そうですよね?」

P「はい……」

律子「芸能界はコネと義理で動いてますから、当然の部分もある。でも、その人たちにもそれぞれの損得勘定があります。テレビ局にはテレビ局の」

P「レコード会社にはレコード会社の、イベント会社にはイベント会社の……それぞれの利害がありますね」

律子「そうです。だから、義理よりも得のほうが大きければ、当然、そちらを取る」

P「そうでしょうね」

律子「私はあなたの元の雇い主のくだらない面子なんかより、自分のプロデュースする春菜が大事です。だから、比奈ちゃんの復帰も働きかけた」

P「はい」


律子「比奈ちゃんは春菜を輝かせてくれるし、共に輝いてくれると見込んでいるからです」

P「……秋月さん……」

律子「みんなに、そう思わせることですよ。あほエロ親父なんかに義理立てするより、比奈ちゃんを使うほうがよっぽど自分の得になるって」

P「秋月さん、知って……!」

律子「声が大きいですよ」

P「あ、す、すいません」

律子「比奈ちゃんは魅力的なアイドルです。きっと、みんなにわからせてやれますよ」

P「秋月さん……」

律子「ま、貧乏事務所から成り上がった小娘の生意気なアドバイスですから、半分くらいさっ引いて聞いておいてください」

P「いえ。肝に銘じて、がんばります」

律子「比奈ちゃんががんがん売れてくれれば、この番組ももっと盛り上がりますしね!」

P「はいっ!」

律子「負けませんから」

P「こちらこそ」


 ——車内・帰社中——


比奈「ふいー、春菜ちゃんのテンションさすがっす」

P「お疲れ様。シートベルトちゃんとしめろよ?」

比奈「了解です。ところで、眼眼もらっちゃったんですけど、いいんですかね?」

P「それはありがたくもらっておけ。あとで、お礼を考えよう」

比奈「そうっすね。はい、準備オッケーです」

P「じゃあ、帰ろうか」

比奈「いざ発進っスね。……今日は、このまま事務所に帰るんスか?」

P「ああ、うん。その、今日は他に予定がないから……。いや、まあ、今週はこれくらいしか仕事がないんだが……」

比奈「いまのところ、唯一のレギュラーの仕事ですからね」

P「うん。……すまんな」

比奈「いえいえ。じゃあ、戻ったら自主練つきあってもらえます? 来週のオーディション対策に」


P「ああ、もちろん。オーディションの傾向もばっちりつかんであるからな」

比奈「さすがっスね!」

P「……すまんな。俺が不甲斐ないばかりに……」

比奈「はは、なに言ってるんスか。時代劇の病んだ父親じゃあるまいし」

P「ごほっごほっ。すまないな。俺がこんな体でさえなければ、比奈に苦労をかけずに済んだのに……」

比奈「おとっつぁん、それは言わない約束でしょ……」

P「うわ、うまいな、おい。あははは」

比奈「プロデューサーも、くくっ、なかなかっすよ。あはははは」

P「演劇系にも売り込んでみるか……」

比奈「期待してますよ」

P「ああ……。任せておいてくれ」

比奈「ところで、プロデューサー、ちょっと質問いいですかね?」

P「うん? なんだ? 車の運転しながらで答えられることならいいぞ。なんか調べたりとかは難しいけど」


比奈「あ、いえ、大した話じゃないんですけど」

P「うん?」

比奈「春菜ちゃんがCランクに上がったそうなんですよ」

P「おお、さすがだなあ」

比奈「いまいちCランクより上って実感なくて。実際どれくらい売れてるもなんですか?」

P「うーん。そうだなあ。比奈は元々Dランクだったろう?」

比奈「まあ、そうでしたね」

P「それが俺の独立に伴っていったんリセットされて、FからEにあがったところなわけだ」

比奈「はい」

P「正直、アイドルとして認知されるのは一般にはDランク以上だろう」

比奈「ふむふむ」

P「Eランクはかけ出し……だな。Dランクで、まあ、普通のアイドル。このくらいでも、有線チャートに入ったりすることはある」

比奈「私の出した曲も有線で92位取りましたね」

P「ああ、もう権利関係で、あの曲は使えないが……」


比奈「いずれ、新しいの期待してますから」

P「うん。絶対にな。それはともかく、Dランクの幅は広い。たぶん、一番多くのアイドルがここにいるんじゃないか?」

比奈「でしょうねー」

P「そして、上条さんのCランクだが……。このあたりともなると、CD発売週のチャート10位以内もありうるって感じになってくるな」

比奈「お茶の間にも認知されてるって感じっスね」

P「そうなるな。人気が明らかにあるって感じだろう。ま、さすがにAランク、Bランクのアイドルが出てくるとつらいけど」

比奈「絶対1位取るだろうって人の発売日にぶつけるのはきつすぎますね」

P「うん。Aランクと勝負するのは、せいぜいがBランクの人たちだろうな」

比奈「Bランクともなると、いろいろ影響力があるんですかね?」

P「そうだな。インタビューが載れば、雑誌の売り上げを数万部単位で左右するレベルだ。それこそ、秋月プロダクションを例に出すと……」

比奈「出すと?」


P「……そうだな。東郷あいが、この位置か」

比奈「あ、イケメン六人衆の?」

P「六人衆?」

比奈「ええと、東郷あいさん、菊地真さん、木場真奈美さん、松永涼さん、吉岡沙紀さん、木村夏樹さんの六人っすね」


松永涼(18)菊地真(17)木場真奈美(25)

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吉岡沙紀(17)東郷あい(23)木村夏樹(18)


P「……全部女なんだな」

比奈「そりゃ、男性アイドルでイケメンランキングなんて決めようとしたら、ファンの間で血みどろの争いが……」

P「女性だから許されるか……。なるほどな」

比奈「Bランクだと、CDとかどれくらい売れるんですかねー?」

P「そうだな。歌の比重が高い人だと、シングルがミリオンいくらしいけど」

比奈「百万枚!?」

P「ああ。グラビア系が強い娘だと、写真集30万部突破とか。アルバムでもその程度は売れるだろうな」

比奈「うはあ……」

P「ドームコンサートとかもやるクラスだな、このあたりだと」

比奈「ドーム……。動員が数万人規模ですよねえ……」

P「ああ」

比奈「……たしか、秋月プロダクションってそれより上のAランク……トップアイドルが所属してるんですよね?」


P「秋月涼くんだな。少々異色な経歴だけに、知名度は抜群だ」


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秋月涼(15)


比奈「女装して活動して、高ランクまでいくって、化け物っスよ」

P「まあ、あれは……誰にもまねできないだろう」

比奈「それに、そもそも律子さんがAランクでしたもんね」

P「ああ。あの人は怒濤のように駆け抜けたからな。短期間でトップに上り詰めたと思ったら、すぐさま引退っていう……。とんでもない人だよ」

比奈「その……Aランクってどれくらいなんスかね?」

P「シングルチャートは一位が当然、アルバムは累計300万とか500万を突破、五大ドームツアーもこなす……ってレベルだな」

比奈「……」

P「声も出ないか」


比奈「目指せトップアイドル、なんていつも軽く言っちゃってますけど」

P「うん」

比奈「とんでもないっスね」

P「でも、目指したいよな」

比奈「そりゃあ……。それだけ、ファンが応援してくれたら……」

P「俺は……なれると思ってるよ、比奈なら」

比奈「……またまた」

P「だからこそ、スカウトした」

比奈「……て、照れますよ」

P「照れてくれても構わないが、本気だって事はわかっていてくれ」

比奈「……」

P「……」


比奈「……わかって、ますよ」

P「……うん」

比奈「一緒に、目指すんですよね?」

P「ああ、そうだ。二人で、な」

比奈「……はい。それじゃあ……」

P「うん?」

比奈「じゃあ、あんまり焦らないでください。トップ目指すなら、少しくらいの寄り道も、必要ですよ」

P「ははっ。寄り道か。……寄り道。たしかに、そうかもなあ」

比奈「はい。寄り道して、愉しんで、トップまで連れて行ってください……ね?」

P「ああ、もちろんだとも、比奈」


 ——レッスンスタジオ——


比奈「さーて、今日もレッスンに汗を流しますかねー」

比奈「といっても、それを生かすお仕事はしばらくないんスけどねー」

比奈「……」

比奈「……違う違う。プロデューサーががんばってくれてるんスから」

比奈「こっちはいつでも力を出せるよう仕上げておかないと!」

比奈「……ん? 誰かいる?」


 キュッキュッ、タンッ、ダン、タッ



比奈「ダンスの……練習?」


?「ふう……。いや、まだだな。もう一度」


 タンッ、キュ、キュキュッ、ダン、タンッ


.



比奈「……」

比奈「……綺麗」

比奈「……ああいうのを体の軸がぶれないって言うんスね……」

比奈「って、あれ……」

比奈「と、東郷……あい?」


あい「ふう……。まあ、この程度か、いまは……」

比奈「あ、あの、東郷……さん?」

あい「ん?」

比奈「まだいいんですけど、そろそろ、その、うちの予約時間で……」

あい「え?」

比奈「トレーナーさんが、その……」

あい「なんと、もうこんな時間なのか」

比奈「はい……」


あい「すまない。夢中になって時間を忘れてしまっていたよ。すぐ片付けるから、少し待っていてくれ。荒木比奈くん」

比奈「え?」

あい「荒木比奈くんだろう? アイドルの」

比奈「そ、そうっスけど、なんで……?」

あい「それは知っているさ。私のかわいい後輩だ」

比奈「へ?」

あい「おや?」

比奈「え、でも、アタシ、全然売れてませんし……。あ、もしかして、デビューするアイドルみんな把握してたり……?」

あい「あはは。まさか。それに、そういう意味じゃない」

比奈「え?」

あい「私は、君と同じプロダクションからデビューした過去があるのさ。もう昔のことだがね。そう……君にとっても」

比奈「え? そ、そうだったんスか!」

あい「ああ」


比奈「すいませんっ。不勉強で……!」

あい「いやいや、頭を下げるようなことじゃないよ」

比奈「でも……。あ、それじゃ、うちのプロデ……社長も知ってるんです?」

あい「……ああ、もちろん。よく、知っているよ」

比奈「うわー……びっくりです」

あい「あはは。そうだ、よかったら……」ゴソゴソ

比奈「はい?」

あい「私の連絡先だ。携帯番号も書いてある。気軽にメールでもしてくれると嬉しい」

比奈「あ、え、いいんスか? 東郷さん、お忙しいんじゃ……」

あい「あい、でいいよ」

比奈「はい?」

あい「あいでいい。その代わり、こちらも比奈くんと呼ばせてもらう。だめかな?」

比奈「いえ、もちろん、それは構いませんけど……」

あい「そうか、では、これからよろしくな、比奈くん。それでは、ちょっとどいてくれるかな? 床をさっと掃除して、私は立ち去るよ」


比奈「あ、はい。じゃ、お手伝い……」

あい「あはは。君が帰るときにまた掃除してくれればそれでいい。じゃ、さっさと終わらせてしまうよ」

比奈「は、はい」


………………
…………
……


トレーナー「あれ? どうしました」

比奈「はぁ……。いえ、ちょっと眼福なものを見まして」

トレーナー「ふむ。なにかは知りませんが、感動というものはいいものです。それを表現できるよう、体に覚え込ませましょう!」

比奈「で、出来ますかね」

トレーナー「努力次第です。さ、それでは、まず柔軟から……」


というわけで、あいさんと比奈ちゃんが出会ったところで、今日は終わり。
そんなに長くはない話のはずなので、あと二回くらいの投下で終わるかな?

>>7
>比奈「了解です。ところで、眼眼もらっちゃったんですけど、いいんですかね?」

もはや目まで渡すようになったか

>>24
おおう。
>>7のそれは『眼鏡』ですなあ。


 ——オーディション会場控え室——


比奈「……今日はえらく待たされるっスね」

P「そうだな。普段はすぐ結果が出るんだが……」

比奈「うう……」

P「どうした? えらい緊張してるな」

比奈「緊張もしますよ……」

P「そんなに心配しなくても、今日はなかなかのパフォーマンスだったけどなあ……」

比奈「ほ、本当っスか?」

P「ああ、どんな結果でも胸を張れる出来だったと思うよ」

比奈「本当に本当ですね?」

P「おいおい、どうした」

比奈「だって……正直、今日は頭真っ白で……」

P「え? 何かあったのか!?」



比奈「何か、じゃないですよ! 審査員っスよ、審査員!」

P「あ……ああ。まあ……。うん、あれは……」

比奈「なんで、いきなり伝説のアイドルがいるんスか!」

P「そう興奮するな。俺だって知らなかったんだ。まさか日高舞が審査員で来てるなんて」


        『伝説』
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日高舞(29)


比奈「もう衝撃なんてもんじゃないですよ」

P「ほんとにな。だが、それは周りも同じのようだぞ?」

比奈「……まあ、みんなの反応見てるとそうみたいっスね」



猫アイドル「生の日高舞なんて初めて見たにゃ! ほんとに動いてるにゃ!」

ダンサブルアイドル「まあ、この世界レベルの私にかかれば、日高舞くらい大したことはないのだけれどね!」



比奈「喜んでる人あり、対抗心を燃やす人あり……みたいですね」

P「実際は、Dランク、Eランクじゃあ、対抗どころの話じゃないんだけどな」

比奈「そりゃあ、『Sランク』っスからね……。トップを超えてるなんて……」

P「一応、復帰後はAランクにとどまってくれてるんだけどな」

比奈「それだって、形だけみたいなものじゃないですか。Aランクの人たちだって、正面対決を避けてるだけで……」


P「まあ、あれに挑んでるのは、765と876くらいのもんだ……。あとは元876の秋月涼くんとな」

比奈「それが、こんなオーディションに来てるのはどうしてなんですかね?」

P「おいおい、『こんな』はないだろう。比奈にはDランクへのランクアップがかかった大事なオーディションだぞ」

比奈「いえ、そういう意味じゃなくてですね」

P「うん、まあ、わかるけどな。そうだな……。箔をつけるために、誰かがなんとかして呼んだんだろうなあ」

比奈「やっぱりそうなんですかね。それにしても……」



 ザワッ



P「……ん? って、日高舞!」

比奈「あわわわ、な、なにをしにきたんスかね。うわ、こっちくるっス」

舞「ああ、いたいた。荒木比奈ちゃん、だったわよね?」


比奈「は、はい!」

P「う、うちの比奈になにか!?」

舞「ああ、あなたプロデューサー? うん、ちょっとね。ええと、あとは、あ、そこの前川みくちゃんと、ヘレンちゃん。私と来てくれる?」

みく「ひゃいっ?」

ヘレン「……何事、かしら?」

舞「まあ、ちょっと来てちょうだい。もちろん、それぞれの事務所の人もねー。他の人は……邪魔しちゃだめよ♪」


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前川みく(15)

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ヘレン(24)


 ——日高舞控え室——


みく「あわわ、備品のレベルが段違いにゃ!」

前川みくマネージャー「こ、こら、みく……」

ヘレン「……置いてあるドリンクもね」

ヘレンP「ヘレンも黙っておけ」

比奈「……」ビクビク

P「ええと……」

舞「最初に、あなたがたには謝罪をさせてもらうわ」

みく「ひ、ひ、ひ……」

ヘレン「……きっと、日高舞に頭を下げられた、と驚きたいのでしょうね」

比奈「へ、ヘレンさん、れ、冷静っスね」

ヘレン「私の心は常にアレグロ・コン・ブリオよ!」

ヘレンP(それ、むっちゃ賑やかじゃねえか)

前川M「あの……謝罪というのは一体どういう……」


舞「うーんとね、はっきり言うと、今回のオーディション、ベスト3はあなたたち三人なの」

みく「ほ、ほんとですかっ!……にゃっ」

舞「うん。嘘つく必要もないしね」

比奈「……よかった。……って、あれ? で、でも、ベスト3なら、その、このオーディションの合格枠は三人だから……」

舞「順当に行けば、あなたたち三人、となるわね」

P「……順当に行けば、ですか」

舞「そ。正式な発表じゃなくて、こうして私が呼び出してることでわかると思うけど、合格者はあなたたちじゃないわ」

みく「な、なんでにゃっ! みくたちが良かったなら……」

ヘレン「私たちの前に立ちふさがる者がいるということかしら?」

舞「そうね。ごり押しで挙げられた、とある事務所の三人組が、ね」

比奈「それって……」

舞「同じ事務所から別々に三人のアイドルがオーディションを受け、その三人が『たまたま』そろって合格し、共演をきっかけに新ユニットを組む」


ヘレンP「しかも、その三人を選んだのは、あなた……伝説のアイドル、日高舞さん」

P「……素晴らしい宣伝効果になります」

前川M「出来レースだとわかっていても……か」

舞「ええ、もう笑えてくるわよね」

六人「……」ゾクッ

舞「そんなことを、この私が許すと思ってる能天気さに、ね」

P「あ、あの、日高さん?」

舞「そんなわけで、がんばってくれたあなたたちには本当に悪いんだけど」



舞「このオーディション、潰すから」


 ——プロダクションL.i.a.M——


比奈「いやー……すごかったっすね、日高舞」

P「ああ。ぶっ倒れるかと思った」

比奈「やっぱり、プロデューサーもそうだったんスね。あの圧力、半端なかったですね。オーラってやつなんですかね、あれが」

P「そうかもしれん」

比奈「それに、あの後二十分くらいで、今回の話はなかったことにしてくれって、偉い人が頭下げに来たのが衝撃でしたねー」

P「あれ、あの局の編成局のカルチャー担当室長だぜ」

比奈「ええと、つまり?」

P「あのテレビ局の音楽関連のボスだよ」

比奈「ひええ」

P「まさか、本当にオーディション自体なかったことにするとはね……。しかし、すまなかったな、比奈」


比奈「ん? なにがっスか?」

P「……今日の比奈のパフォーマンスは、あの日高舞も認めるくらいだったわけだろ? 少なくともあのメンバーの中では」

比奈「……ですね。自分ではおぼろげにしか覚えてないんスけど」

P「オーディションが不正なものでなければ、比奈はまず合格して、Dランクになっていただろう」

比奈「まー……可能性の話としては」

P「つまり、無くなるようなオーディションを選んだ俺のミスだ。本当にすまない」

比奈「え? な、なに言ってるんスか! そんなのプロデューサーの責任じゃありませんよ!」

P「いや、俺の責任だ。なにしろ、俺はお前のプロデューサーなんだから」

比奈「そ、そう言われちゃうとあれですけど、でも、プロデューサーが悪いんじゃありません!」

P「ありがとう。だが、やはり気を配るべきだったんだ」

比奈「プロデューサー……」


P「いや、まあ、俺の反省をお前に押しつけてもしかたないな。……それよりも、聞いてくれ、比奈」

比奈「はい? なんでしょう?」

P「比奈も知ってるとおり、俺たちはいま苦境にある。元の……」

比奈「あそこの名前は聞きたくないっス」

P「……そうだな。まあ、あの事務所の妨害もあって、営業は難しい。そして、実績が積み上げられない」

比奈「……ヒーローショーの司会とか、老人ホームの慰問とか取ってきてくれるじゃないっスか。子供やご老人が喜んでくれるの嬉しいっスよ」

P「うん。仕事としての意義はあると思う。だが、まあ、アイドルファンと言われる層には届きにくいからな……」

比奈「……それは……まあ」

P「そんなわけで、実績がないために、あいつの影響がない仕事でもなかなか獲得しにくい。つまり、俺たちには現状オーディションしかないわけだ」

比奈「はい」


P「そんな中でも、今日見たように、いろんなところの思惑がからんだり圧力がかかったり、公正とは言えなくなることも、ある」

比奈「……ええ」

P「だが、それに腐らずにがんばって欲しいんだ。もちろん、俺も、出来る限り今日のようなことが起きないようなオーディションを選ぶから」

比奈「……」

P「あいつの圧力だけじゃなく、他のいろんな動きを見て……」

比奈「プロデューサー」

P「うん? なんだ?」

比奈「プロデューサーは今日のことで、私がなんか疲れちゃったり、あきらめちゃったりすると心配してたんスか?」

P「いや、そこまでは……。ただ、やっぱり、少しは、その……」

比奈「プロデューサー」

P「ん?」


比奈「アタシは、プロデューサーにスカウトされて、本当に驚いたっス。こんな可愛くない女騙してどこに売りさばくつもりだって」

P「おいおい」

比奈「でも、違ってたっス。アイドル活動はつらいことももちろんありますけど、楽しかったっス。本当に、楽しかった」

P「比奈……」

比奈「日陰者だって思ってた……そう、思い込んでたアタシが、本当は可愛いんだって……」

P「うん」

比奈「誰よりも可愛いんだって言ってくれた。そう思わせてくれた」

P「本当のことだから」

比奈「気づかせてくれたのは、プロデューサーです。そして、アタシをいまの私に変えたのも、プロデューサーです」

P「うん、そうだな」

比奈「私は、楽しんでるっスよ。自分がどこまで行くか、アイドルなんてものを、どこまでやれるのか」

P「楽しんで、か……」


比奈「どきどきしながら、わくわくします。新しい自分も、新しい世界も」

P「……うん」

比奈「だから、あきらめたりしません。こんなことでくじけたりしません。誰が邪魔したって、プロデューサーと一緒だから」

P「……ありがとう」

比奈「いえいえ、お礼を言うのはこっちっスよ。ここまで、一緒に来られたんスから」

P「そうだな。……うん、気弱になっていたのはこっちだな!」

比奈「そうっスよー。まったく、しかたない経営者さんっスよね」

P「あはは、すまんすまん」


 〜〜♪ 〜♪


比奈「……っと、すいません。電話みたいです」

P「ああ、話はひとまず終わりだから、出ていいよ」

比奈「じゃ、失礼して……」


P「……励ますつもりが励まされ……か」

P(……とはいえ)

P(圧力や妨害をはね除けるだけの地力はうちにはない。これからも比奈に不自由させるだろう)

P(独立は間違いではなかったにせよ……)



比奈「あのー……」

P「ん? どうした?」

比奈「ええと、ですね。いま、最近お友達になってくれた人と話してたんですけど。あ、アイドルの方で」

P「へえ? どこかの事務所の?」

比奈「ええ、プロデューサーも知ってる事務所です。当人も知ってるはずっス」

P「ふむ?」

比奈「その彼女が、うちの事務所に遊びに来たいと」


P「ふうん? いいんじゃないか? 大したおもてなしは出来ないが……」

比奈「いいんですか?」

P「ああ、構わないよ。いつだい?」


 ガチャッ


あい「いま、さ」

比奈「あ、あいさん。びっくりさせるなら、もう少し……」

あい「いやいや、十分だよ。ほら、見てご覧」

P「あい……!」

比奈「プロデューサー……? 真っ青になってどうしたんですか? お知り合い、ですよね?」

P「……っ」

あい「ふふ、彼は驚きすぎて、声も出せないようだ」

比奈「……え? え?」

あい「ある意味、当然かもしれないね。なにしろ、私は……彼に育てられ、彼を裏切った女なのだから」

比奈「なっ……!」

本日はこれまでー。
次は木曜日くらいかも。



     あなたをアイドルにしたいんです。いえ、あなたはアイドルになるべきです!

 『私をアイドルに……? フッ……君は面白い事を言うな』

     興味を持ってくれたなら、話を詳しく聞いてくれないでしょうか。私はこの事務所に所属していて……。

 『……いいだろう。私が皆を魅了させるために、君にも存分に働いてもらうから、覚悟するように。いいね?』

     はいっ!



 『そうだ、キミに頼みごと……いや、やっぱりいいよ。自分でやる』

     なに言ってるんですか。プロデューサーとアイドルは一心同体って言ったじゃないですか?

 『フッ……君らしいな。では、代わりにお願いだ』

     ん? なんです? なんでも言ってください。

 『ちょっと見ていてくれないか』



『君に頼みごとしていいかな。ちょっと服を見たくてね』

     俺のセンスでいいのかな?

『君の意見を聞きたいな』

     そうか。じゃあ、見せてもらうよ。
     ふーむ……。

『どうだったか教えて欲しいわ』

     いや、どれも似合ってるよ。さすがの着こなしだと思う。

『フッ……。そうかい?……私がいい女でよかっただろう?』

     ああ、もう存分にそう感じてるよ。




     今回は正念場だ。これまでのあいを全部ぶつけてこい。

『期待以上の成果を見せるよ……。そうでなければ面白くないだろう』

     あいは相変わらずだな。

『だが、私をここまで連れてきたのは君だ。誇っていいさ』

     ああ、誇りに思うよ。お前と一緒にやってこられて。
     さあ、ファンたちが待ってるぞ!

『最高のステージをご覧にいれよう』

     その意気だ!



     移籍って……どういうことだ?

『そのままさ。私はもうこの事務所ではやっていけない』

     なんでだ? 俺たちはずっと……。

『……口にしてもしかたないことというのはあるものさ。それよりも、一曲聴いていかないか?』

     なんだって?

『君に聴いてもらいたい曲があるんだよ。ほら、サックスも用意して……』

     ふざけるな!

『……』

     裏切り者の演奏なんて、まっぴらごめんだ。


『裏切り、か……』



P「あい……」

あい「……」

比奈「え? 裏切りって……? え、どういうことなんスか?」

あい「まあ、落ち着いてくれ、比奈くん。裏切りというのは、ジョークだよ。いや、誤解と言うべきか」

P「そうだな。いまとなってはわかる。むしろ、あいの信頼を裏切ったのは、俺のほうだと」

あい「おやおや、やめてくれたまえ。悪いのは君じゃない」

比奈「えっと……?」

P「たしかに、諸悪の根源はあのゲス野郎だ。しかし、俺にも責任はある。気づかなかった責任が」

あい「内罰的なのは君の悪い癖だよ」

P「いや、俺が気づかないから……気づけなかったから、あいだけじゃない。比奈まで危険に晒してしまった」

比奈「……え? あ……」

あい「しかたあるまい。誰だって、自分の勤める事務所の社長が、アイドルに体を差し出すよう要求するような屑だとは予想しないものだ」



比奈「……そんな……まさか……あい、さんも……」

あい「そうだ、比奈くん。私と君は共にあの外道に襲われかけ、からくも逃げおおせた……そんな仲間なんだ」

比奈「……あ……う……」

P「……」

あい「異なるのは、私は一人で突っ走り、君は彼を信用しきれたというところだろうか」

比奈「……え?」

P「あい……」

あい「私は彼に打ち明ける勇気を持てなかった。担当アイドルを全力で守ってくれたであろう男を頼る前に全てを決めてしまった」

P「それは違う。あのときは……」

あい「うん、弁明はいくらでも出来ると思うよ。私も、君もね。だが……もう、過ぎたことだ」

比奈「あいさん……」

あい「どうせなら、うんざりする過去の話よりも、輝かしい未来の話をしようじゃないか」



P「未来?」

あい「ああ。実は、近々武道館でライブをやるのだが、二人をそれに招待しようと思ってね」

P「ああ……。そういえば、今月末だったか」

あい「フッ。予定はしっかり把握しているか。さすがだな」

P「……真実を知ってからは余計にな。本当はもっと早く謝罪に……」

あい「だからそれはいいと言っているじゃないか。それよりも、だ」ピッ

比奈「……チケット?」

あい「ああ、チケットだ。関係者席だから、受け付けが別なので気をつけて欲しい」

比奈「あ、はい」

P「……必ず行かせてもらうよ」

あい「そうかい、それはよかった。さて、いきなりの登場で驚かせてしまったね。そろそろ私はお暇させてもらおう」

比奈「あ……か、帰っちゃうんスか?」



あい「ああ、彼もいきなりの私の出現で心穏やかではないだろうし、君にも嫌な過去を思い出させてしまったからね」

比奈「いえ、それは……。あいさんだって……」

あい「実のところ、それほど時間もないんだ。ゆっくりするのは、そのライブの日にしよう」

P「ライブの日に?」

あい「ライブの後、食事につきあってほしい。二人とも、ね」

ちと休憩。たぶん、再開後の投下で一気に最後までいける……はず。



比奈「……」

P「……」

比奈「……あいさんと私って……」

P「ん?」

比奈「先輩後輩だったんスね。プロデューサーがプロデュースしたアイドルとして」

P「え? あ、ああ……。うん、そうなるな」

比奈「あっちにいたとき、プロデューサーが前に担当してたアイドルとかタブーみたくなってましたけど……。あいさんだったんですねえ」

P「ああ。あの事務所的には義理も通さずいきなり移籍したってことになってたからな……。馬鹿な俺も、そう思ってた」

比奈「……しかたありませんよ」

P「だが、俺は、心ない言葉を……裏切り者なんて言葉を投げつけてしまった。それが、彼女をどれだけ傷つけたことか……」

比奈「……」

P「……俺は……」



比奈「……でも、プロデューサーはアタシを助けてくれたじゃないですか」

P「え?」

比奈「プロデューサーが駆けつけて、あいつをぶん殴ってくれなかったら……。アタシ、ひどいこと、されてました」

P「それは……」

比奈「怖くて、情けなくて、悲しくて……。でも、プロデューサーを呼んだら、来てくれました」

P「……遅いくらいだったけどな」

比奈「プロデューサーがアタシを助けてくれた。それは間違いないことです」

P「……うん」

比奈「それから、あいつから少しでも離れるために、独立して……」

P「本当にばたばたとな」

比奈「ええ。それで落ち着いた頃に、きっと、あいさんのこと、察したんですよね?」

P「ああ。なぜあいが逃げるように移籍していったのか。なぜ『この事務所ではやっていけない』と言ったのか。ようやく悟ったよ」



比奈「たしかに、プロデューサーはあいさんの苦境に気づかず、傷つけてしまったかもしれません」

P「……っ」

比奈「でも、それを割り切れてない人が、わざわざ会いに来るっスか? 怒ってるように見えましたか?」

P「それは……そうは見えなかったが。しかし、あいつも大人だから……」

比奈「はぁー……」

P「な、なんだ、そのため息」

比奈「仕方ないっスね。あいさんが帰り際になんて言ってたか教えてあげるっスよ」

P「なに?」

比奈「改めて謝罪してから、あいさんはこう言ったんです。『実は、比奈くんにちょっと嫉妬してるんだ』って」

P「なんだと?」

比奈「ええと、『もし、私が勇気を出していれば、いまここにいたのは私だったかもしれないのに、とね』と、こんな風に」



P「……」

比奈「あいさんは、プロデューサーを怒ったり恨んだりしてませんよ。むしろ、一緒に仕事できてたらって惜しんでるんス」

P「……あいつ……」

比奈「……いやあ、モテモテじゃないっスか」

P「なっ……からかうな!」

比奈「……別にからかってるわけでもないんスけどね」ボソッ

P「……うーん。しかし、そうか……。まあ、まずはありがたく、武道館に見に行くか」

比奈「……そうっスね。勉強にもなりますし」

P「うん。……あー、そういえば、びっくりしすぎて、いろいろよくわかってないんだが、比奈はあいと仲良くしてるのか?」

比奈「ええ。いろいろとよくしてもらって……って、早速あいさんからメールっスね」

P「ん? なにか伝え忘れたのか?」



比奈「いえ……なんか、フォローですね。騒がせてすまないというのと、これからも友達としてつきあってくれるとありがたいって」

P「へえ……。まめなんだな」

比奈「……プロデューサーも見習ったらどうです? 詳しい文面は言いませんけど、さすがイケメンって言われるセンスの良さっスよ」

P「……い、言っておくが、アイドルとしてのあいの基礎は俺が……」

比奈「それ、負け惜しみに聞こえるからやめておいたほうがいいっスよ?」

P「……くぅ……」



 ——都内のホテル・ライブ当日——


比奈「いやあ……。すごかったすね、あいさんのライブ」

P「ファンもすごい熱気だったしな」

比奈「あの、最後のサックス演奏もすごかったっス」

P「あいのサックスは、玄人はだしだからな……」

比奈「そういえば、アンコールでもう一曲吹いてましたけど、あれ、パンフにも載ってないんスよね。なんて曲なんですかね……」

P「『All of Me』ジャズのスタンダードナンバーだ。1930年くらいの曲だったかな」

比奈「へぇ……。あれって、歌もあるんですか?」

P「ああ。あるよ」

比奈「ふむー。家に戻ったら調べてみるっス」

P「……うん。そうするといい。っと、そろそろあいの部屋の階だな」



比奈「スイートの階って、専用カードないとエレベーターも止まらないなんて、初めて知ったっスよ」

P「比奈もランクが上がれば、そういうところに泊まらざるを得なくなるよ」

比奈「泊まれる、じゃないんですね」

P「ああ。アイドルの場合、スイートを使うのは、別に贅沢の為じゃないからな。セキュリティや防音、ホテル側との関係やら……」

比奈「あー……なんか面倒っスね」

P「いや、まあ、広くてくつろげるのも確かだと思うが」

比奈「それはそうでしょうね……。あ、つきましたよ」

P「ああ、この内線で連絡して……と」



あい「いらっしゃい、二人とも」

P「ああ……。招待、ありがとう」

比奈「あいさん、ライブすごかったっス!」

あい「楽しんでくれたようでなによりだ。さ、適当に座ってくれたまえ。ルームサービスは後でくる予定だからね」

比奈「あ、外にはいかないんスね」

あい「ああ、うちの社長から外には出ないよう厳命されているからね。一応顔も売れていることだし」

P「比奈くらいだと、レストランで囲まれたりはしないけどな」

比奈「うう、これからっスよ!」

あい「もちろんだとも。ルームサービスとは言え、このホテルに入っているレストランと内容は変わりない。美味しいはずだよ」

比奈「楽しみっス」

P「ああ、いまからよだれが出るよ」

あい「気が早いな、相変わらず」



あい「さて、そろそろ腹もくちくなってきたところで、少し込み入った話があるんだが」

P「ん?」

比奈「どうしたんですか?」

あい「ぶしつけを承知で言うが、いま、二人は、前所属事務所からの妨害を常に受けている。そうだろう?」

比奈「……んぐっ」

P「……落ち着いて呑み込め、比奈。それはともかく、あいの言うとおりだよ。あいも嫌がらせを受けたんじゃないか?」

あい「私がそれを考えないで移籍先を選んだと思うかい? 秋月律子という人物は、圧力や妨害があれば、かえって燃えるタイプだよ」

P「……ふむ」

あい「まあ、それはともかく、確かに私にも覚えがある。幸い、いまの事務所の庇護下にあることで躱せたわけだが……」



比奈「……」

P「まあ、お察しの通りだ。残念ながら、うちに、765系列の秋月プロほどの力はない」

あい「うん。それでね。そのことに対して、少々力を貸せるのではないかと思うんだ」

比奈「え?」

P「助力を?」

あい「ああ。秋月プロとしてね」

P「……ありがたい話ではあるが、どうやって?」

あい「簡単なことだよ」

比奈「な、なんスか?」

あい「君たちに、秋月プロに入ってもらうのさ」



 ——比奈の自宅——


比奈(あのあと、あいさんとプロデューサーは二人で長いこと話し合ってました)

比奈(私は邪魔にならないように、許しを得てスイートルームのあちこちをスケッチしてましたが……)

比奈(うん。いろいろと資料にはなりましたね)

比奈(正直、あいさんも春菜ちゃんもいるし、秋月プロに行くことに、抵抗はないんですけど……)

比奈「うーん。結局、どうなるんスかねえ……?」

比奈「……っと、悩んでもしかたないので、まずは検索検索。おーるおぶみー……そうそう、この曲……。あ、歌詞もありますね」

All of Me
https://www.youtube.com/watch?v=4P0hG3sD0-E


All of me, why not take all of me

私のすべてを、なんで私のすべてを奪ってくれなかったの?

Can’t you see, I’m no good without you

わかんないの? 私はあなたなしじゃやっていけないの。

Take my lips, I want to lose them

唇なんてあげる。そんなものいらないの。

Take my arms, I’ll never use them

腕もあげる。そんなもの、二度と使わないんだから。

Your goodbye left me with eyes that cry

あなたが去ってしまってから、私の目は涙でいっぱい。

How can I go on dear without you

これからあなたなしで、どうやって生きていけばいいというの?



You took the part that once was my heart

私の心さえ、奪っていってしまったのなら

So why not take all of me

なんで、私の全部を奪ってくれなかったの!



比奈「……これって……」

比奈「はーあ……」

比奈「やっぱ、そういうこと、かあ……」



 ——プロダクションL.i.a.M——


比奈「おはようございまー……」

P「はい、はい。ええ、もちろん。はい。では、メールをいただきましたら、こちらの予定と照らし合わせてすぐに……はい、はい」

比奈「はわー……完全仕事モードっすね……」

P「はい、失礼いたします……。ふぅー……」

比奈「おはようございます、プロデューサー」

P「おう、比奈! 聞いてくれ!」

比奈「は、はい?」

P「あのViDaVo!にお前のインタビューが載ることになった!」

比奈「え? あ、う? び、ViDaVo!って……大手のアイドル雑誌っスよね?」

P「最大手の、な」

http://uploda.cc/img/img51a56087683cc.jpg
ViDaVo!



比奈「なんで、そんなところに私が?」

P「あそこは定期的に新人アイドルを特集するんだ。新人といってもど新人じゃなくて、注目の成長株って意味でな」

比奈「……そこに私が選ばれたと?」

P「もちろん、こっちからも押した結果だがな」

比奈「……喜んでいいんですよね、これ」

P「ああ、もちろんだとも! よしっ、これでいけるっ!」

比奈「小さいガッツポーズそんなに繰り返さなくても」

P「比奈のことをわかってくれたら、絶対いけるって思ってたんだ。だから、ことあるごとに、担当の人に比奈の仕事の様子とか送ってたんだが」

比奈「そんなことしてたんすか」

P「そりゃあするさ。足も使えば、色んな資料も使う。売り込みってそんなものだろ?」

比奈(満面の笑顔がまぶしいっス。プロデューサーが喜びすぎて、私の喜ぶタイミングが……)



P「いやあ、これが飛躍の第一歩……って、比奈。目が充血してるぞ。また漫画描いて徹夜したのか?」

比奈「あははー……。まあ、そうなんスけど……。元々は寝付けなくて……」

P「寝付けない?……やっぱり、気になるか、引き抜きの件」

比奈「いやあ、まあ」

P「そうだよなあ」

比奈「あいさんのことには変わりませんしね……」ボソッ

P「ん? ともかく、あの件について、少し話そうか。ちょっと待っててくれ、いまのを片付けて……」

比奈「あ、じゃあ、コーヒー淹れてきますよ」

P「おお、頼む」



P「ありがとう。ああ、いい香りだ」

比奈「うち、コーヒーメーカーだけは立派ですよね」

P「そりゃあ、仕事の友だしな。奮発したんだ」

比奈「わからないでもないですけどねぇ……」

P「ともあれ、例の件だが……」

比奈「はい」

P「秋月さんにもきちんと確認はとった。俺とお前、二人で秋月プロに来て欲しいと、改めて言われたよ」

比奈「……なるほど」

P「メリットは大きい。比奈が出来る仕事も増えるだろうし、妨害なんて気にする必要もなくなる。金銭的にも有利になるはずだ」

比奈「まあ、あの765の系列ですからね……」

P「うん。あそこもしばらく前はそこまでの存在感はなかったんだが……。いまの影響力は大きい」

比奈「ですよね」



P「比奈も、秋月さんにしろ所属アイドルたちにしろ、悪い印象はないだろ?」

比奈「ええ。涼くんはちょっとわかりませんけど……」

P「あの秋月さんの従弟だし、いい子だよ。いずれにせよ、そこは障害にならないと思う」

比奈「そうですね。他にデメリットとかあるんですか? やっぱり」

P「うーん。デメリットと言えるかどうか……。まあ、寂しいと言える点はあるな」

比奈「この事務所をたたんじゃうのが残念とか……」

P「いや、それは気にしてないよ、俺は」

比奈「そうなんですか? やっぱり、こう、一国一城の主みたいな……」

P「勘弁してくれよ。零細事務所の社長なんて、そういいものじゃない」

比奈「そんなものですか」

P「そんなものさ。それで、寂しいっていうのは、だな」

比奈「はい」

P「しばらくお前と一緒に仕事が出来ない可能性が高いんだ」

比奈「え?」



P「秋月さんが俺たちを受け入れようとするのは、比奈の将来性はもちろんだが、俺の力も欲しているからだそうなんだ」

比奈「プロデューサーの?」

P「そうだ。……実は、いま、あいはAランクへの昇格を狙っている」

比奈「……いずれはトップに行きそうですけど……」

P「ああ、でも、そこをしっかり狙ってやるとなると、なかなか大変でな。半年から一年間、重点的にあいの面倒を見られる人間が欲しいらしい」

比奈「ああ、それで……。元々あいさんを育てたプロデューサーを……」

P「そういうことだ。つまり、俺は秋月プロに入った場合、しばらくはあいにかまけきりになる」

比奈「……なるほど」

P「比奈のプロデュースは秋月さんが担当することになるだろう。場合によっては春菜ちゃんとのユニットも考えているそうだ」

比奈「春菜ちゃんと……。それはそれで面白そうっスけど……」

P「うん。それ自体は、比奈にとっても悪くない話だと思う」



比奈「ただ、プロデューサーとは離ればなれと」

P「いや、同じ事務所にはいるわけだから……」

比奈「……」

P「……」

比奈「たしかに……寂しいっていうか、感情的なデメリットすね」

P「ああ。条件的にはとんでもなく良好だ。秋月さんじゃなければ、なにか裏の目論見があると思うところだ」

比奈「そりゃあ、ないと思いますよ」

P「うん、そうだろうな」

比奈「律子さんには……ですけど」ボソッ

P「んぅ? どういうことだ」

比奈「いえ、気にしないで欲しいっス。それで、プロデューサーはどう考えてるんスか?」

P「……俺は、比奈はもっと輝けると思ってる」

比奈「い、いきなりなにを言ってるんスか!」



P「比奈の笑顔はみんなを笑顔にする。笑顔の天才だと俺は思ってる」

比奈「だ、だから、なに恥ずかしいことを……」

P「そんな比奈が、アイドルを金と色でしか考えてないような奴に嫌がらせされて、くすぶってるのは間違ってる」

比奈「……プロデューサー……」

P「比奈がふさわしい輝きを得られるための場所を提供する。それも本来はプロデューサーの仕事だ。だが、それが出来ないなら……」

比奈「律子さんの力を借りても……ですか?」

P「ああ、そう思う。だけど……」

比奈「……だけど?」

P「これは俺のわがままでしかないが……。そんな比奈をこの手でプロデュース出来ないのは……残念だ」

比奈「……」

P「だから、なんというか、うん……。悩ましいな」



比奈「あいさんは……どうなんスか?」

P「……うん。あいをアイドル業界に引きずり込んだのは俺だし、出来ることなら力になりたいと思ってる」

比奈「そりゃそうですよね……」

P「ただ、いまのところ、あいは秋月さんのプロデュースでうまく行っているわけだからな……。そこに割り込むべきかどうかは……」

比奈(この人、わかって言ってるんスかねえ……)

P「どうした? あきれたような顔して?」

比奈「いえ、まあ……」

P「なんだ? この際腹を割って話そう。そうじゃないと、俺たちのこれからが……」

比奈「いいんですね?」

P「え?」

比奈「腹を割っちゃっていいんスね?」

P「ああ、それは……。比奈? どうした?」



比奈「ああ、もうっ。要するに、問題は単純なわけですよ。プロデューサーが、あいさんを取るか、私を取るか。それだけです!」

P「……え? いや、そういうことじゃなくて……」

比奈「そういうことなんスよ」

P「待て待て。俺は、そんな……。それに、もし秋月プロに行くにしても、比奈を見捨てるとかそういうことじゃ……」

比奈「わかってますよ。プロデューサーの考えも、あいさんの善意も、律子さんの親切も。それでも、別の思惑だって、みんなあるんスよ!」

P「別の思惑……?」

比奈「わかんないんスか? あんな素敵な曲を、一万人の前で捧げられておいて!」

P「え? なに言ってるんだ?」

比奈「『All of Me』ですよ」

P「あれは……アンコール曲だろう?」

比奈「昨日、一昨日の合わせて四ステージで、サックスのアンコールに応えたのは昨日の夜の部だけなのに?」



P「それは……ええと、明日だってステージがあるだろう? 後半戦にそういう仕掛けを……」

比奈「……プロデューサー?」

P「……う。ま、まあ、あいがある程度の執着を俺に持っているのはわからないでもないが……」

比奈「わかってるなら、条件についても……わかるでしょう?」

P「比奈」

比奈「……はい」

P「あいはけして悪意を持って俺とお前を引き離そうなんて……」

比奈「わかってますってば! わかってるから、困るんじゃないスか!」

P「……む。うむ……」

比奈「うむ、じゃないっスよ」

P「えー……」

比奈「私だってアイドルとしてがんばりたいんスよ? でも、プロデューサーと一緒じゃなくて大丈夫かとか不安だし、怖いし……」

P「そ、そうか……」



比奈「でも、あいさんの気持ちだってわかるし……。ああ、もうぐちゃぐちゃっスよ!」

P「うん、わかった。わかったから落ち着こう」

比奈「フーッ、フーッ……」

P「ほら、深呼吸、深呼吸……」

比奈「すー……はー……っ」

P「ほら、コーヒー飲んで」

比奈「……ごくっ……。はあ……」

P「落ち着いたか?」

比奈「……まあ、少しは」

P「うん、よかった」

比奈「……で?」

P「え?」

比奈「……どうするんスか。私ですか? あいさんですか?」



P「そこに戻るかー?」

比奈「そこしかないんス!」

P「ああ、もう、だから、大声は……」

比奈「うー……」

P「……」

比奈「……」

P「……うん」

比奈「プロデューサー?」



P「そうだな、俺は……」



...rr



 rrrr...


比奈「……電話っス」

P「……うん、電話だな」


 rrrrrrr...


比奈「……出ないんスか」

P「……うん、出る」



P「はい、こちら、プロダクションL.i.a.M……。あ、秋月さん」

律子『いま、いいですか?』

P「あ、はい」

律子『そろそろ煮詰まった頃だろうと言うので。あいが』

P「はい?」

律子『おそらくは、そちらで結論が出た頃だと、そう主張してるんです』

P「はあ」

律子『まあ、彼女はあなたの行動パターンをいまもよく把握しているということでしょうね。それはともかく』

P「はい」

律子『あなたと比奈ちゃんをうちに……という話ですが、少し変更しませんか』

P「はい? ええと、どういうことでしょう」

律子『ええ、こういうことです……』



比奈「どうしたんスか? 狐につままれたような顔して」

P「ああ……うん」

比奈「律子さんになに言われたんです?」

P「ええと、秋月プロへの引き抜きの話は……無くなった」

比奈「はいっ!?」

P「その話が無くなって、うちの株式を20%差し出す代わりに秋月プロが発行する新株予約権付社債をもらうってことになった」

比奈「……ええと?」

P「要するに、うちの事務所は秋月プロの影響下に入る。子会社ほどじゃないが……。まあ、それでも、765グループだな」

比奈「……つまり?」

P「うちにちょっかい出す奴は格段に減るだろう」

比奈「……なんだか、えらく結果オーライなような? よくわからないような?」

P「……うん。ありがたいんだが……。なんだったんだろうな……これ」



 ——秋月プロダクション——


あい「彼の返事は?」

律子「詳細は今後詰めてくけど、まあ、うまくいくでしょうね」

あい「それは重畳」

律子「まったく……。なんで、こんなことをする必要があったの?」

あい「ちょっとした意趣返し、かな。彼にも少しは悩んでもらわないとな」

律子「はあ……。まあ、私としては最初の提案に乗ってくれるほうがありがたかったんだけど」

あい「乗ったと思うかい?」

律子「どうかしらね……。アイドル一人連れて独立した人が、その娘を他の人に託して、別の娘を担当するなんて……」

あい「難しいだろう? 特に彼は責任感が強い」

律子「うーん……。もったいないわね。あなたも……だけど」

あい「ありがたいとは思っているよ。だが……」



律子「ああ、もういいわよ。どうせ、気持ちは変わらないんでしょう?」

あい「……すまない」

律子「ふーんだ。どうせふられ女ですよーだ」

あい「す、拗ねられると……その、困る」

律子「……」

あい「あの……」

律子「ふふっ」

あい「な、なんだい?」

律子「少しくらいは困りなさい」

あい「……まったく。敵わないな」

律子「それにしても、こんな策を弄することはなかったと思うけど?」

あい「そうかな?」

律子「ええ。素直に二人とも来てもらって、比奈ちゃんとあなたを担当してもらえばよかったじゃない」



あい「まあ、要求自体の効果よりも……。そうだな……彼と私の間での気持ちを整理する時間が必要だったのかもしれない」

律子「すんなり受け入れられた場合、かえってその後でわだかまりを生じていたかもって?」

あい「ああ」

律子「あーあ」

あい「なんだい、いきなり」

律子「ほんっとうに、惚れ込んでるのねえ」

あい「……ああ」

律子「はいはい。わかりました。ま、それはともかく、意識を切り替えていきましょうか。明日は最終日よ」

あい「任せてくれたまえ。望み通り、華麗に舞って見せようじゃないか」

律子「ええ、お願いするわ。私たちが、これからずっと悔しがるくらいのをね」

あい「あはは。ああ、見ていたまえ」



 ——プロダクションL.i.a.M・一ヶ月後——


P「秋月プロとの資本提携もうまくいった。比奈のViDaVo!インタビューも評判はなかなか。うむ、順風満帆とはこのことだな!」

比奈「はいはい、自画自賛、自画自賛」

P「なんだよ、比奈」

比奈「その割にはー、思ったほど仕事増えてなぃかなーって思ったりぃ?」

P「なんだ!? そのイントネーション!」

比奈「いえ、こないだ老人ホームのお仕事で一緒になったアイドルの真似なんスけどね」

P「あー……藤本里奈ちゃんか」

http://uploda.cc/img/img51a5a3aa276d2.jpg
藤本里奈(18)



比奈「ええ。ヒマならかまちょーっスよ」

P「なんだそれ」

比奈「ヒマなら構ってちょうだい、じゃないっスかね?」

P「へえ……。ああ、なんだ。比奈は構って欲しかったのか」

比奈「へ? いや、ち、違いますよ。これはあくまで真似で。あ、アタシは自分の出てる雑誌チェックするので忙しいですし!」

P「うんうん。そうだな。さっきからめくってるだけで見てるとも思えないViDaVo!な」

比奈「み、見てますよ! それより……」

P「うん? なんだ、寂しがり屋の比奈くん」

比奈「違うって言ってるじゃないっスか! それより、うちの広告とかありますよ、これ」

P「ああ、出してるな」

比奈「大丈夫なんスか? よくお金ありましたね?」

P「いや、それくらいは……。それに義理もあるしな……」

比奈「ああ、つきあいで?」

P「うん。まあ、雑誌そのものより代理店のな……。ただ、それ……」



比奈「はい?」

P「アイドル事務所だからさ、一応はアイドルの募集もしてるんだよ」

比奈「ああ、そうみたいっスね」

P「応募、来ちゃってな」

比奈「へ? うちに?」

P「うん」

比奈「へえ……。物好きもいるものっスね」

P「ほんとだよ」

比奈「いや、そこは否定しましょうよ」

P「いや、でも、さすがに比奈しかいない事務所だからなあ。比奈もDランクに戻って、調子もいいが、それにしたって……」

比奈「事務所のほうは知名度無いに等しいはずですもんね」

P「うん。一応、今日面接に来てもらうんだけどな……」

比奈「どんな娘なんです?」



P「いや、その、書類審査とかなにも考えてなかったから、とりあえず、今日来てくれって言っちゃったんだよな」

比奈「はあ?」

P「いや、だって、びっくりして。あ、声は綺麗だったぞ」

比奈「あー……そーっスか」

P「まあ、ちょっと綺麗すぎる気はしたけど……。あれは、前職も何か喋ったりする仕事かもしれないな……」

比奈「……へ?」

P「まあ、ともかく、今日、来るんだ、うん」

比奈「それでそわそわしながら、今日はずっと事務所にいたんスか……?」

P「う、うん……」

比奈「わからなくもないスけど……」

P「実は名前も聞き忘れてるんだよなあ……」

比奈「なにやってるんスか……」

P「あと十分くらいで来るはずなんだよ」



〜〜・〜♪

比奈「あ、早速来たみたいっすよ」

P「え? もう来たのか。あー、えっと、比奈、コーヒー淹れてくれ、コーヒー」

比奈「はいはい」

P「はい、いま出ますー。……って、え?」

あい「やあ」

比奈「あいさん!?」

P「あい? え? どうしたんだ? あ、遊びに来たのか? えらいタイミングだな。ええと、すまないが、少し待って……」

あい「なにを言っているんだい?」

P「へ?」

比奈「……あー……」




あい「東郷あい23歳、プロダクションL.i.a.Mのアイドル候補生募集を見てきました! よろしく面接をお願いいたします!」

P「え? へ? はぁああああ?」

比奈「……こんなことじゃないかと思ったんスよ……」



     おしまい

比奈ちゃんとあいさんとPのお話を書こうとして、でも、この二人の女性はそこまで激しい攻防似合わないなあ、と考えた結果、
そこに至るまでの話となりました。

この先始まるであろう三角関係は、読者の方々のご想像にお任せするとして、これにておしまいです。

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