スラム街の貧乏少女「おなかすいた…パン…ください…」(44)


荒くれ「うわっ、汚ねぇガキだ」

荒くれ「ほらシッシッ、俺達は慈善事業家じゃねぇんでな。病気が移ったら困るから近づくんじゃねぇ」

少女「…」グー

荒くれ「旦那、だからオレぁいったんですぜ。こんな汚い通りはやめましょうって。浮浪者だらけだ」

男「…」

少女「…」グー

荒くれ「旦那? 行きましょうぜ」

男「…。止めてある馬車に空きはあったか?」

荒くれ「まじですかい…こんな小汚くて発育も悪いみすぼらしいガキに買い手なんてつきませんぜ」

荒くれ「売れてもせいぜい銀貨4枚が関の山。飼育代と場所の無駄です」


男「お前、親や家族はいるのか」

少女「…」フルフル

少女「おなか…すいた…もうずっと…」

男「そうか…。これを食べるといい」スッ

少女「…? 黒い」

男「チョコレートは見たことないか? 大丈夫、食べられる」もぐっ

少女「…!」はむっ

少女「あまい」

男「肩に乗せてやれ」クイッ

荒くれ「へいへい…おらよ、暴れたらおちるぜ。ひょいっとな」

少女「……」

男「急ぐぞ。商談に遅れる」

荒くれ「旦那の気まぐれには苦労しますぜほんと」どたどた

 

―とある貴族の家


貴族「おおっ、待っていたぞ。時間通りだな」

男「お久しぶりです」

貴族「それで、例の物は」

男「調教済みです。牙も抜いているため噛み付きはしません」

貴族「どれ、ひとつ見せてくれ」

男「持ってきた檻を」

荒くれ「あいよ」ガラガラ

魔獣娘「キシャー」

貴族「おお! 素晴らしい。この時代にまだ混血の魔物が残っているとは」

貴族「いくらだ! 私に売ってくれ!」

男「エヴェン金貨2枚と銀貨7枚いただきましょう」

貴族「ふぅむ…少々値が張るが致し方ない」

荒くれ「これが鍵です。檻ごと家の中まで運んでおきやすぜ」


貴族「うむ、頼んだ」

貴族「にしても、貴様は毎度良い仕事をするようだな」

貴族「以前買った魔物もずいぶん楽しめた」

貴族「絶滅危惧種の魔物と戯れたいなどと、ふざけた夢がこの歳になって叶うとは思わなかったよ」

男「お役に立ててなにより」

貴族「金のためならなんでもすると言ったな」

男「魔物に関することなら」

 
貴族「ラミアという種はいまでもおるのか?」

男「あいにく見たことはありません。伝承によると深い森の奥にひっそりと生息しているとか」

貴族「捕まえてもらえんか? 倍払う」

貴族「いや私は爬虫類が好きでな。館内でたくさん飼っておるのだ」

貴族「見ていくか?」

男「申し訳ないが結構。仕事がまだ残っていますので」

貴族「このあとどこかにまた売りに行くのか?」

男「あと一件まわってから帰ります」

貴族「他の檻をみてもいいか」

男「えぇ。商品ゆえお手を触れることは叶いませんが」

男「布をとりましょう」ばさっ


貴族「ほうほう、みな珍しいもんだ」

貴族「憂いのう…やはり魔物娘は鑑賞するなら最高だ」

貴族「すこし整った人間の小娘程度では比べもんにならん」

貴族「ん、魔物使いよ。こっちの檻の銀髪の娘はなんだ」

貴族「フリークというにはえらく人間じみすぎていないか」

男「人間の娘です」

貴族「魔物売りの貴様が人間の、それも年端もいかぬ小娘を商品にするのか?」

男「いえ、さきほど拾っただけですよ。置き場がないのでとりあえずそこに」

男「それと、商品ではなく私の個人的な趣味です」

貴族「ええいもういい。聞いた私が悪かった」

貴族「貴様はやはり聞き及んだ以上に倒錯した男のようだな」


荒くれ「運び入れおわりやした」

男「それでは我々はこれで」

貴族「ラミアの件、うけてくれるな? いやいつでもいい、手に入ったら一報をくれ」

貴族「貴様の仕事には期待している」

男「かしこまりました。失礼します」


―――
――


アジト

荒くれ「ふいー疲れた疲れた」

男「ご苦労だったな」

荒くれ「今日もがっぽり稼げやしたね旦那! ひーふーみーよー、おっとこれ以上数えられねぇ!」

男「それに他の収穫もあった」


荒くれ「…収穫って、あのー旦那、あんま野暮なこと言う気はないんですが…」

荒くれ「その…"マジ"なんですかい?」

    マジ
男「大本気だ」

少女「…すぅすぅ…zzz」

荒くれ「どうするんですこの娘」

荒くれ「俺はカミさんが待ってるんで今日は帰りますぜ」

男「あぁ、あとは俺がやる」

荒くれ「そんじゃまた! ラミア狩りの話、ぜひ俺もつれてってくだせぇ」

男「そのつもりだ。じゃあな」

荒くれ「~♪」


男「…さて」

男「起きろ」ペシペシ

少女「ぁ…」


少女「……」キョロキョロ

男「人里離れた俺のアジトだ。ここで魔物の飼育をしている」

男「お前はこれからここで暮らすんだ」

男「食べ物も服も寝床も手に入る」

男「悪い話じゃないだろう」

少女「……?」

男「状況が飲み込めていないようだな」

男「まぁいい、とにかく、風呂だな」


パタパタ


火竜娘「ご主人さまー」バッサバッサ

男「うわっ」

火竜娘「ご主人様おかえりぃ」ギュー

火竜娘「お風呂わいてるよ」

男「リューカ離れろ。お前はいまからこの娘を風呂に入れてやれ」

火竜娘「ん?」

少女「…っ」おどおど

男「心配しなくてもいい、こいつはお前をとって食いやs」

火竜娘「わー! ボクへのおみやげ!? いっただきまーす! んあー」

少女「!!」ビクッ

男「まて、違う。待て! お前に人肉は食わせん」

火竜娘「かぷ?」

男「甘噛みも無しだ。その娘は餌じゃない」


火竜娘「なーんだ。こんがり焼いて晩御飯にするのかとおもったよ」

少女「…」ぶるぶる

男「いいから風呂に入ってこい」

男「リューカ、連れて行ってやれ。食うなよ、絶対食うなよ」

火竜娘「はいはーい!」

火竜娘「いこっ!」

少女「…」チラッ

男「大丈夫だ、行け。魔物だが俺の命令には従う。それにお前がいつまでもそんな姿では困る」

火竜娘「ボクは人間の濃い臭いがしておいしそうで好きだなぁ」すんすん

男「だそうだ。食われる前に入って来い。いいな?」

少女「…はい」


男「まったく」


―風呂

火竜娘「ざぶざぶ」

火竜娘「綺麗になったかなー、お肌まっしろだねー」

火竜娘「おいしそうおいしそうおいしそうおいしそう…」ジュルッ

火竜娘「あーダメダメ。ご主人様に怒られちゃう」

少女「あの…あの…」

火竜娘「ボクが怖い? ボクは竜人族のリューカ。ここで働いているよよろしくね」

少女「ここは…」

火竜娘「ご主人様のお家だよ。珍しい魔物を捕まえて飼育したり、増やしたり、売ったりする仕事をしてるの」

火竜娘「ボクも珍しい魔物なんだよ!」

少女「わたしは…」

火竜娘「君はきっと…君は…うーんなんだろう」

火竜娘「ちょっと聞いてくる! 待ってて」ばさばさ


――――
―――
――

火竜娘「てへーすっぽんぽんで聞きに行ったらたくさん怒られちゃった」

火竜娘「君もボクと一緒でここで働くんだって!」

火竜娘「心配しなくても平気だよ。ボクたちが教えてあげるから!」

火竜娘「おいしいごはんもいっぱい食べられるし、あったかい寝床もあるよ!」

火竜娘「一緒にがんばろうね!」

ぎゅっ

少女「…うん」

少女「…よろしくおねがいします」ニコ…

火竜娘(はぁ~おいしそおいしそおいしそ、うなじをガブーって噛み付いてチュウチュウ食べちゃいたくなるよ)

火竜娘(ご主人様も困った人だなぁ)

今回はここで終わりです
次回から少女のなれない環境での奮闘がはじまります
主人公は男ではなくて少女ですよろしくお願いします


男「さて、風呂はすませたようだな」

火竜娘「ご主人様、なんでモップもってるの」

男「お前が全裸のまま飛んでまき散らした水をふいているんだ」

火竜娘「なぁんだ!」

男「ほうっておくと床が腐る」ゴシゴシ

男「……」

男「お前の仕事だ。風呂に入ったばかりですまないが」スッ

少女「…はい」

男「あとは廊下だけだ。終わったらバケツの水を捨てて、俺の部屋に来い」

男「つきあたりを右に曲がって奥の書斎だ」

少女「はい」


火竜娘「なんか機嫌わるっ!」

少女「……」

火竜娘「あ、ごめんね…ボクのせいだよね。ボクも手伝うよ!」

火竜娘「見てて。ボクがブオーッって火をふけば床濡れなんて一発で」

少女「…!」フルフル

火竜娘「だめかな?」

火竜娘「ま、君の仕事とっちゃうのも悪いよね! えへへへへ」

火竜娘「ねぇ君名前はなんていうの?」

少女「…なまえ」

火竜娘「しらないの?」

火竜娘「へんなの」

火竜娘「じゃあボクは寝るね。おやすみ~」パタパタ



―――
――

カチャ…


男「入る前にノックをしろ」

少女「…? おわりました」

男「ノックがわからないのか」

男「…こっちへこい」

男「怖がらなくていい」

男「すこし顔をみせてくれないか」

男「…ふむ。お前、歳はいくつだ」

少女「…わかりません」

男「名前は」

少女「…わかりません」


男「…なに? 名前もないのか不便だな」

男「…じゃあ俺がつけてやる」

男「そうだな……ヘミョンポーン」

少女「!」フルフル

男「いやか…ならニョンテパール…、まてよケポケポとか」

少女「!!」フルフルフル

男「なんだ。自分で名乗らないからつけてやるというのに」

男「だったら本当に適当につけるぞいいのか」

男「セレインだ。お前を拾った通りの名前だ」

男「いやならもう最初ので我慢しろ」

少女「せれいん…」

男「セレイン…どうやら最低限の教養すらなさそうだな」

男「いいだろう。仕事をあたえつつ、お前には毎日俺の元で勉強もしてもらう」

男「まともに人の言葉もわからんようでは仕事にならんのでな」


男「お前の部屋はここを出て2つ隣の扉だ」

男「物置だからいまは散らかっているが、まぁスラム街で転がって寝るよりマシだろう」

男「この毛布をもっていけ」バサッ

少女「…」コク

男「それと、今日の食事はこのコッペパンでもたべるといい」

少女「…!」

男「嬉しそうだな」

少女「おいしそう…いいパン」

男「……そうか。2つやろう」ポン

少女「…えへ」ニコニコ

男「…これからは食い物に困ることはない。寝床にも、風呂にも、服にもだ」

男「がんばれるか?」

少女「はむはむっ、はむっ」

男「おい俺の目を見ろ。人と話してる途中に飯を食うな」

男「くっ…これは相当の教育が必要だな…」



-翌朝


男「昨夜は眠れたか」

少女「…はい」

男「朝飯は一緒にとろうか。一応一階に食堂がある」

男「食事当番は交代制だ。お前にも料理を覚えてもらう」

男「今日はリューカが担当している。起きていればな」

少女「…」

男「まだ少し時間があるな。他の仲間を紹介しよう」

男「本当は昨日のうちにしておきたかったのだが、どこぞのバカ竜が無駄に仕事をふやしてな」

男「…なにも喋らないなお前は」

少女「……パン」

男(物乞いの仕方しかわからないか)


コツコツ


男「説明した通り、俺は魔物や魔獣を飼育している」

男「知能が低いものから、リューカのように人語を自在に操る高等種族まで多種多様だ」

男「最初のうちは会っても危険が少ないやつを紹介しよう」

男「つまりはここでの放し飼いだ。檻には入れていない」


-ため池


男「スキュラ。寝ているのか」

男「セレイン。石をひとつ拾って投げ込んでみろ」

少女「…?」

男「あぁそのくらいの大きさでいい」

ちゃぽん…

ザバッ

スキュラ「ご主人様~おはよーございます」


男「セレインだ。今日からお前たちの飼育係だ」

スキュラ「スキュのお嫁さん?」

男「飼育係だ」

スキュラ「スキュのお嫁さん?」

男「……セレイン、こいつはスキュラという半人半蛸の娘だ」

男「タコはみたことあるか? 足の吸盤はうかつに触ると取れなくなるからさわらないほうがいい」

スキュラ「…セレイン。スキュのお嫁さんする」

しゅるしゅる…がしっ
ぴたっ

少女「ひぅっ!」


男「おい、待て! 飼育係だと言っているだろ!」

スキュラ「でも…ご主人様、そのうちスキュにお嫁さんくれるって言った」

スキュラ「たのしみにしてたのに…」

男「すまないがその娘は違う。お前は…そのうち繁殖させてやるから…そのうち…」

スキュラ「……わかった」ポイッ

少女「きゃっ」ドテッ

男「という生き物だ。わかったな。次に行くぞ」

スキュラ「また来てね」にゅるにゅる

少女「…」ぶるぶる

男「大丈夫だ。みんな俺のいうことは聞く。食われはしない、たぶんな…」


男「次は…森だな」


-森

男「おい、いないのか」

狼娘「わふっ! マスタ~」ガブッ

男「……」

狼娘「はみはみ…ん? 人間の♀の臭いがする」

狼娘「おや? マスタ~いつから子連れ?」

男「昨日からお前たちの飼育係になったセレインだ」

少女「セレイン…です」

狼娘「おびえてるじゃん」

男「お前が俺に噛み付いているからだろ」

狼娘「あぁそう」はみはみ


狼娘「あたし狼娘のウルってんだ! 特別にワン子って呼んでもいいよ」

少女「…」ペコ

狼娘「にひひひ」

狼娘「で、なんで急に人ふやしたの!?」

狼娘「お金ないくせに!」

男「この娘は拾ってきた。ここに住み込みで、タダ同然で使える」

狼娘「まじ!? やった! あたしらの遊び相手じゃん!」

狼娘「よろしくなよろしくな!」ゆさゆさ

少女「…」がっくんがっくん

狼娘「なぁマスター…セレインしゃべれねーの?」

男「言葉ならすぐに覚えていくだろう。子供は環境に適応して生きていくいきものだ」

男「もうすぐ朝飯だ。お前も来い」

狼娘「おうっ」



-食卓


火竜娘「ごはんできてるよ~!」

火竜娘「あ~! 昨日の子! おはよ~。今日もおいしそうだね~」

男「俺の隣に座れ」

少女「…」

男「どうした」

少女「…あっ、あっ、あの」

火竜娘「ボク? どしたの」

少女「せ…せ…せ」

男「…」

火竜娘「?」


少女「せレイン…です」

火竜娘「そっか! 良かったね! ご主人様に名前もらえて!」

火竜娘「これでボクたちの仲間だよ!」

火竜娘「よろしくねセレイン!」

少女「う、うん…!」

狼娘「なぁ~はやくたべようぜ~。げっ、また焦げてら…ふざけるなよーー」

火竜娘「え~、こんがりやけててこの方がおいしそうじゃん!」

狼娘「あたしは生のほうが好きなんだって」

少女「がじがじ」

火竜娘「ね~セレインはどっちが…あ、もう食べちゃってる」

男「最低限の教育は私がする。こいつもしばらくはお前たちみたいなもんだな…手が掛かりそうだ」

狼娘「マスターさ、なんか嬉しそうじゃん」

男「そうか? いただきます」

更新おわり

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom