魔法少女ダークストーカー (702)

まだ不慣れなため至らない所が多々出てくるかと思いますが、その際はご指摘・指南をお願いします(´・ω・`)

今回はまったり進行です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1414330789

●はじまり

26にもなってアルバイト店員、明日も知れないその日暮らしの俺。

そんな俺が、いつもの様に仕事帰りの夜道を歩いていた時の事

??「コイ……ツカ……」

身の毛もよだつような気色の悪い声が聞こえ、振り返ると『ヤツ』はそこに居た

真っ黒な芋虫の先に巨大な口が開き、人の手足を何本も取って付けたような奇怪な姿の何か

その正体を考えるよりも早く足は動き、本能のままに駆け出す俺。

俺『保健所?警察?自衛隊?どうすれば良い?いや、とにかくどこかに逃げ込まないとダメだろ!?』

がむしゃらに走って走って、行き着いた先は工事現場。

思慮の浅さを悔やむ暇も無く、迫り来る『ヤツ』壁際に追い詰められた所で、俺は両腕を掴まれた。


掴まれた手が焼けるように熱い。いや、多分実際に焼け爛れている。

『ヤツ』の口が大きく開き、鼻が捩れるような異臭が周囲を覆う。

俺『ヤバい…死ぬ』

そう思った次の瞬間『彼女』が現れた。

彼女「貴方は絶対に守ります」


機能性を無視してフリルやリボンがふんだんにあしらわれた服。先端にハート型の装飾が付いた杖…

いわゆる『魔法少女』の格好をした女の子だ。


そして『彼女』が現れてからの出来事は、非常に淡々としていた。

『彼女』の持った杖の先からビームサーベルのような光が現れ、ものの数秒で『ヤツ』を解体。

その血飛沫を浴びた俺は全身に苦痛を感じてフェードアウト。


そう言えばこんな言葉が聞こえていた気がする

??「無理だよ…ダークチェイサーの瘴気に侵食されてしまった人間は助からない…」
彼女「そんなのダメ!彼は絶対に私が………」

>5 世界観やキャラクターの設定は作中で追々。
途中で暗い話もありますが、基本ラブコメ路線で行く予定です。

>6
トリップ忘れてた…

●そのあと

―――という夢を見た

なんてオチを期待していたんだが、現実は非常に非情なようだ。

まるで歯医者に神経を弄られている時みたいに全身から激痛が走り、否が応でもそれが現実だと主張してくる。

??「たかが人間一人、今まで通り放っておけば良かったんだ。なのに君はどうして…」

彼女「だって…彼は…彼だけは」

そして、耳に入って来る不穏な会話。何だこれ、どういう状況だ?

俺「…っ!!」

あ、ダメだ。声もまともに出せない。でもまぁ、こんな声でも俺の覚醒を知らしめる事くらいは出来たようだ

彼女「あ、目が覚めましたか!?無理に喋らないで、今少しだけ楽にしますから!」

??「なっ…ここに来てキミはまた!」

瞼の上からでも判るような暖かい光を感じ、眩しさに身を捩る俺

………と、そこで気付く

俺「あれ…?少しだけど痛みが…いや、それより俺、普通に喋れてる?」

完全にとは行かないまでも、大分薄らいでいく身体の痛み。恐る恐る目を開けると、そこには…


俺の部屋に、声の主…『ヤツ』を解体した女の子と、動物?ぬいぐるみ?何かのキャラクターかと思えるような存在が居た

>8 >6に続いてトリップ忘れ…

彼女「あ…完全に癒えた訳じゃなくて、痛みを消しているだけです。無理しないで下さい」

??「…一命は取り留めたようだね。こうなってしまっては仕方ない、その命を僕達の役立つよう使って貰うよ」

彼女「ディーティー、何て事言うの!」


ディーティー…と言うのがこのキャラクターの名前らしい。ここまで定番が過ぎると、否が応でも展開を察せてしまう自分が憎らしい。

俺「よし…じゃぁお互い自己紹介をしよう、俺は…言うまでも無くこの世界の住人だ。そっちの二人はどこの世界から来たんだ?よかったら説明して貰えるか?」

彼女・ディーティー「「………」」

二人とも目を合わせて沈黙している。質問が先走り過ぎていたのだろう?失敗したか?

ディーティー「やっぱりコイツ事情を知っているみたいだね。消去しておこう」

彼女「ディーティー!!」

失敗したようだ。と言うよりも大変物騒な事を言われている。

俺「いや、あくまで推測だ。お前みたいなのが普通にこの世界に居てたまるか。と言うか、説明出来ないなら出来ないで諦めるから良い」

彼女「あ、いえ…私から説明します」

ディーティー「ハル!!」

女の子の方の名前はハルというらしい。ディーティーが止めようとするが、ハルの方は説明を続けてくれる

ハル「かいつまんで言うと…ディーティーは、異世界からさっきの魔物…ダークチェイサー達を追いかけて来たんです」

俺「キミはどっちの世界の子??」

ハル「私はこっちの世界の人間です」

良かった、それなら問題なく話が通じそうだ。

俺「それで、キミはディーティーに協力させられている…と」

ハル「はい…そんな所です」

俺「で…その、ダークチェイサーって言うのが人を襲うには何か条件があるのか?………ぶっちゃけ、俺また襲われるのか?」

ディーティー「ハルのような狩猟者を襲うならまだしも、特定の一般人を襲う条件は不明だね。再現性を見出すためにキミを助けたと思っても良いくらいだ」

狩猟者…それがこのタイプの魔法少女の名称か。と言うか、お前さっきは助けるなとか言ってなかったか? いや…それよりも

読みたくない言葉の裏が見えてくる。未だにって事は何回かあって、それらは再現性を確認できなかった…確認できていないではなく過去形

ついさっきも「たかが人間一人、今まで通り放っておけば良かったんだ」とか言ってたよな

つまり…恐らくは皆死んだって事だろう。

俺「ダメダメじゃねぇか…この無能マスコット。ってか、こんな娘に自分の尻拭いでそんな危ない事をやらせんなよ」

思わず呟いてしまった言葉にディーティーが押し黙る。落ち込んでいるというよりは、俺に対する敵意をどう処理するべきか悩んでいるようだ。


ハル「あの…それに関しては、私の力不足も原因なんです。私がもっと早く駆けつけていれば、貴方がこんな事には…」

対してハルはとても良い子のようだ。手が動けば、頭でも撫でていただろう

俺「いや、ハル…ちゃん?は、気にしなくて良い、キミが居なければ今頃俺は死んでただろうしね。命の恩人だ」

ハル「いえ…そんな。あと……ハル…で、良いです」

何とも奥ゆかしい良い子である。あっちのダメマスコット、略してダスコットとは大違いだ。

俺「―――で、これから俺はどうすれば良い?勿論この怪我が治るまでは何も出来ないだろうけど…」

ハル「そうですね…あ、私の携帯番号入れておきます。何かあったら連絡して下さい」

俺「…俺の方から自発的にする事は無い感じか?…んじゃ、それ以外は今まで通りの生活でいいのか?」

ハル「はい、ダークチェイサーさえ現れなければ…あ、怪我の方は心配しないで下さい。明日のシフトまでには間に合うように、治療できると思いますから」

ディーティー「ハル!!またそうやって魔力の無駄遣いを…!!」


ディーティーがまた横槍を入れるが、何ともありがたい話である。

そして…安心に浸った俺の意識は、自然にまどろみの中へと落ちて行った。

>15 >16
ごめんなさい、無関係です。

●つぎのひ

俺「で…………」

俺「昨日の今日でこの有様かよ!!」

胴体に目玉が付いた、巨大で真っ黒な鳥…もう疑うまでもない、ダークチェイサーが現れた。

バイト帰り、時刻は昨日と同じくらい…午前2時。待ち構えていたかのように俺の前に現れるそれ。

あの後ディーティーの言った言葉を思い出す

ディーティー『奴等はその名の通り、闇の中から現れて対象を追跡する。精々夜道の一人歩きには注意する事だね』

ディーティー『ま…いっそ襲われてくれれば再現性を確認できて、今後の対策に役立てられるから…僕としてはその方が嬉しいんだけどね』

喜べディーティー、再現性は今この瞬間確認されたぞ。いや、そんな事を考えている暇があったらハルに連絡しなければ。

俺はすぐさま携帯を手に取り、電話帳を開く。そして登録されたばかりのハルの番号を選び、決定を押―――


しまった、携帯をダークチェイサーに弾き飛ばされてしまったぞ。押せたか?押せなかったか?ヤバい、非常に不味い。

昨日と違い、逃げ回るだけの距離はある…だが、スピードで絶対に追い付かれる。今度こそ詰む…そう思った瞬間だった

ハル「はぁぁぁぁぁ―――!!!」


上空から現れたハルの一撃がダークチェイサーにヒット!翼を屠って機動力を奪うが、惜しくも絶命には至らない。

ハル「大丈夫ですか!?」

俺「お陰様で大丈夫だ。それより気を付けろ、まだ生きてるぞ!」

ハル「はい!」

そこから始まるハルの猛攻。光の刃を展開してジャベリンのような形状になった杖は、光の刃で敵を切り刻み…瞬く間にその命を削いで行く。


俺「危ない!避けろ!」

だが、そんな敵さんも一方的にはやられて居ない。関節の無い首が大きくしなり、その凶暴な嘴をハルの腹部へと突き刺した

………かのように見えたのだが、ハルに外傷は見られない。

俺「大丈夫…なのか?」

ディーティー「彼女のような狩猟者は、奴らへの耐性を持っているからね。奴らが放つ瘴気は勿論。魔力によって物理的干渉もある程度軽減できるのさ」

と、いつの間にか現れたディーティーが解説する。なるほどそういう事と納得できてしまう俺もどうかと思うが、疑問を持っても仕方ない。

そうしている間に、ついに絶命するダークチェイサー。どうやら昨日よりも手強い相手だったようだ。

俺「お疲れ様、ハル」

ハル「あ…ありがとうございます」

俺が労いの言葉を向ける俺、心なしか嬉しそうな顔をするハル。

俺「あ、この後はどうするんだ?何か事後処理とか…」

ハル「いえ、特にする事はありません。倒せば自然消滅するみたいですから」

俺「そっか…んじゃ、改めてこの後はどうする?何なら飯でも食いながら作戦会議でも…」

ハル「あ…いえ…一応まだ見回りをした方が良いと思うので、その…また今度」

俺「そっか、残念。それじゃ頑張れよ」

上手く行けば変身前のハルの姿を見れるかも知れないと思ったのだが、そこまで上手く事は運ばないようだ。

夜空に向かって去るハルを見送った後、俺は弾き飛ばされた携帯を拾い上げる。駄目だ………案の定壊れている。


そして俺はこの時気付くべきだった…ハルの行動、そしてハル自身に起きた事に。

●ふたりは

俺「待ったか?」

ハル「いえ、今来た所です」

あれから二ヶ月…俺達は何かある度に落ち合って作戦会議を行うようになった。

作戦会議とは言っても、普通に食事をしたり買い物をしたりしながら今後の対策を話し合うだけ…まぁ、ぶっちゃけデートのような物だ。

そして、ここまで言ってしまえば察して貰えるとは思うが…実質上、俺はハルと付き合っているような形になっている。

プライベートで会うのは勿論、手を繋いでキスをして………まぁあれだ、男女の関係になるに至っている訳だ。

今日もそうしていつものように俺の部屋にハルが泊まり………


寝付いたハルをベッドに残し、ベランダに出る俺。そこでディーティーの姿を見つけた

ディーティー「そう言えば、以前ダークチェイサーにやられた怪我の調子はどうだい?」

こいつが俺の心配をするなんて珍しい。悪い物でも食ったか?

俺「ハルのお陰で全く問題無しだ。さすがに痕は残ってるが、後遺症みたいな物は無さそうな感じだな」

ディーティー「成る程…ハルの魔力は予想以上だね。まさか、肉体に染み込んだ瘴気をここまで浄化するとは…本当なら今頃は……」

前言撤回。こいつは俺の身体じゃなくてハルの力の方に興味があったようだ

俺「なぁ…ところでディーティー、一つ聞いても良いか?」

ディーティー「内容によるね」

俺「お前ってさ…俺達がしてる最中どうしてるんだ?ってか、俺達のって、異世界のお前らから見てどうなんだ?」

ディーティー「………下品な事を。まぁ良い、答えてあげるよ。最中はこうやって気を利かせて姿を消して外に居るのさ。それと…今はこんな姿をしているけど、元はこの世界の女と同じような姿だからね、別に違和感とかそういうのは感じないよ」

その言葉に俺は驚愕した

俺「…………」

ディーティー「…どうしたんだい?」

俺「お前!女だったのかよ!?」

ディーティー「…君は僕を何だと思って居たんだ。よく考えてもみたまえよ…ハルと日常生活も一緒に居る僕が、男だとでも思っていたのかい?」

俺「それも…そうか。んじゃ次、ハルの事なんだが…込み入った事を聞いて良いか?」

ディーティー「内容によるね」

もはや定番と化したディーティーの相槌である。

俺「ハルってよぉ…来て無いよな?アレ。って事は…出来てんのか?それとも、まだ…なのか?」

ディーティー「………曖昧過ぎてとぼけたくなる質問だが、あえて察してあげよう。僕としても、君自身が気付かない事に苛立ちを覚えていたからね」

俺「って事はやっぱり…」

ディーティー「違うね。そもそも機能していないんだよ」

俺「………は?」

予想だにしなかったディーティーの言葉に、頭が真っ白になる。

機能していない…キノウシテイナイ…つまりはあれがアレで………妊娠その物が出来ないという事だ。

俺「それはまた…何で……」

好奇心とは恐ろしい。聞いてはならない事、聞かない方が良い事も、全ての思慮がその欲求に塗り潰されてしまう。

ディーティー「負傷したからだよ」

俺「いや、待てよ…負傷したからって…治せるんだろ?現に俺の怪我だって…」

ディーティー「技術と魔力さえ足りていればね。ただ治療は手術と同様に精密作業なんだ。その行使には膨大な魔力を使い、足りなければマトモな治療をできない」

………察してしまった。

俺「…………大掛かりな治療を行った後は、それに比例した魔力が失われ…防御にまで影響が出る……って事だよな」

ハル「気にしないで下さい。全部私が決めてやった事ですから」

俺「ハル!?起きて……」

話し声で起こしてしまったのか、会話に加わってくるハル。その表情は穏やかながらも、どこか影を持っていた…

ディーティー「すまないハル。僕の口から言うべきでは無かったかもしれないのだけど…」

ハル「ううん、良いの…私からは言い出せなかったけど、隠しておくのも辛かったから」

俺「ハル……その…」

ハル「さっきも言いましたけど、気にしないで下さい。貴方が悪いんじゃありません。これも私が決めた行動の結果ですから」

結果…ここに至るまでの何が悪かったのだろうか。俺を助けた事?俺を治療した事?そもそもディーティーの尻拭いをしている事?

ダメだ、責任転換にばかり気が向いてしまう。でもそうせずには居られない。そんな俺の心中を察したのか、ハルは後ろから俺を抱きしめ…


ハル「じゃぁ……もし貴方がその事を気にして、自分を責めてしまいそうになるなら…代わりに、その分私を愛してくれませんか?」

俺「……あぁ…勿論だ……」

ハルの言葉に、そう答えるくらいの事しか出来ない俺。そんな俺達を見るディーティーの瞳が、何故か無感情で無機質な物に見えた。


…その夜はハルを何度も何度も愛し……そして、意識を失ってからは夢を見た。

雨の日のバス亭…面接帰りの俺は、帰りのバスを待っていた。

今回も駄目そうだな…俺に向いてる仕事なんてあるのか?

そんな事を考えながらため息をつき、ふと隣の人物が視界に入る。

この雨の中、傘も差さずにずぶ濡れの女の子。髪はセミロングのストレート、前髪に隠れて顔はよく見えない。

夏服の制服は雨に濡れてびったりと張り付き、エロいと言うよりも、その様子が心配になってくる。


…とか考えて居ると、俺の待ってたバスがやってきた。

この女の子のバスはまだのようだ。


まぁ、降りてからは家まで近いし…この子もこれだけずぶ濡れだったら今更なんだが…

俺『俺、もう使わないからやるよ』

そう言って女の子に傘を押し付け、バスに乗る俺………

●くろまく

俺「最近あんまり奴等に遭遇しないよな」

ハル「そうですね…私としては助かっていますけど」

ディーティー「僕としてはあまり喜ばしい事では無いね。襲撃が少ないと言う事は、奴等を殲滅する速度が落ちているという事だからね」

俺「それと関係してるのかどうか判らないんだが、最近何かここら辺の治安が悪くなってないか?」

ハル「気付かれないように活動してる可能性…ですか」

ディーティー「何とも言えないね。奴等の中には、そういう活動を出来る物が居るかもしれない」


俺「そう言えば、奴等って…何匹居るんだ?まさか、無限に増えたりしないだろうな?」

ディーティー「確認されている個体数は126体…内78匹は殲滅済みで、生殖能力は有していないからその点は心配要らないと思う」

俺「と思う…か、頼りないな」

ハル「あ、もうこんな時間…すみません、そろそろ失礼しますね」

いつも通りの作戦会議…いつも通りの会話。ただ今日はハルの補習が重なり、途中でお開き。

ちなみに、ここまでの経緯を軽く説明すると

……話を遡る事二週間前。それはハルが学校を休んでいると知った日の事だった。

ダークチェイサーの出現頻度も落ち、ハルと過ごす日が多くなったある日の事…平日にも関わらず一緒に居て大丈夫かと、聞いたのが事の始まり。

狩猟者としての活動が忙しい事を理由に休んではいたが、今ではそれの頻度も下がっている。ので…登校を促してみた。

最初はあまり乗り気ではなかったが、学歴はやはり大事だと言う俺の説得…それと、俺の言う事だからと唆したディーティーの甲斐あって

今では勉強の遅れを取り戻すため補習に出る程になってくれた。


ただ…俺はと言うと。

今までハルと一緒に過ごして居た分、一人の時は何をしていたかさえ忘れてしまっているこの有様。

改めて自分の中のハルの大きさを実感しながら、アイスコーヒーを口に含み……


女子校生「オニーサン、ハルの彼氏だよね?」

そのコーヒーを、今度は一気に噴出した。

女子校生「うわっ、危なっ!いきなり何すんの!?」

俺「いや、それはこっちのセリフだ!何なんだいきなり!?」

改めて声の主を見てみる。

金髪のツインテールに青い瞳。制服は…ハルの学校と同じ制服だ。おまけにタイが青い所を見ると、ハルと同学年という事が判る。

女子校生「オニーサンってハルの彼氏でしょ?一緒に居る所よく見たから、声かけてみたの。でも、いきなりコーヒーシャワーが来るとは思わなかったわー」

俺「いや…一緒に居るからって彼氏とは限らないだろ。親戚の叔父さんかもしれないだろ?」

ハルの世間体もある以上、下手な事は言えない。ここははぐらかす事にしようと決めたのだが…

女子校生「叔父さんとラブホ入るってのはちょっと問題じゃない?」

無駄だった。携帯にバッチリ俺達がホテルに入って行く姿が映されている。

しかし、よりにもよって数回しか使ってない内の一回を目撃されていたとは…


俺「……何が目的だ?金なら無いぞ」

女子校生「やーだー、そんなのじゃ無いって。ちょっと聞きたいだけー。ねね、ハルとはどこで出会ったの?どんなきっかけで付き合うようになったの?」

俺「そんなの俺じゃなくてハルに直接聞けば良いだろ」

女子校生「それがさー、ハルってあんまりそういうの話そうとしないんだよねー。だから彼氏なら話してくれるかなって」

これは…俺から情報を聞き出して、ハルを陥れようという魂胆だろうか?とも考えたが、それならさっきの写メだけで十分だ。

俺「んー…俺達の馴れ初めって特殊だったからなぁ…」

女子校生「何それ、興味ある」

俺「俺がちょっとした事故に逢って、そこをハルに助けて貰ったんだ」

即興で考えた設定だが、こんな所だろう。嘘は吐いて居ないので、ボロも出ない筈だ

女子校生「へぇー…………じゃぁついでに聞きたい事があるんだけど。ちょっと場所変えない?時間ある?」

俺「それは大丈夫だが…」

女子校生「じゃ、行こっか」


人間、二つ返事でホイホイと着いて行く物では無い。もしかしたら行き先が地獄の可能性もあるのだから…by俺

連れて来られた場所は写メの場所…ホテルの中である。

無人受付なせいで途中で止められる事も無く、俺自身も逃げ出す事も出来ずにここに居る。

女子校生「で、オニーサン…さっき言った質問なんだけど…」

と言いながら、おもむろに服を脱ぎ始める少女。一瞬それを見てしまうも、罪悪感から目を背ける

俺「何だ!?というか、何で服を脱ぎ始める!?」

女子校生「ぇー?服着たままシャワー浴びるとかありえなくない?」

俺「何 故 い ま 浴 び る ! ?」

女子校生「汗かいたし」


ダメだ、完全に弄ばれている。こいつは一体何をしたいんだ。

俺「お前は一体何をしたいんだ!質問があるんじゃなかったのか!?」

もう我慢できずに、怒鳴り声で言葉を投げつける。

女子校生「あぁうん、質問あったね。質問。あのさー………ハルじゃなくて、アタシの物にならない?あと、アタシの事はレミって呼んで?」

レミは俺の後ろに回り込み。背中に身体を押し当てながらそう問いかける。だが

俺「名前呼びは良いとしても、お前の物になるのはダメだ」

ここはキッパリと言い放つ

レミ「何で?ハルのどこが良いの?何でそんなに頑ななの?」

俺「ハルだからだ。俺とハルの絆が絶対の物だからだ」

譲らない。

レミ「ハルに助けて貰ったから?」

俺「そうだ」

レミ「ハルが子供産めなくなった事に負い目を感じてるから?」

俺「それも…………いや、何…?」

ん?どういう事だ?何を言っている?何故知っている?俺が言ったのは、助けられた事だけの筈

レミ「本当に?本当にそう?オニーサンが思ってるそれ、どこからどこまでが本当なのかな?」

何を言っている?何を知っている?何を吹き込もうとしている?


俺「レミ…君はどこまで知っている?それに…」

レミ「何者なのか…でしょ?」

そう言って手を離すレミ。それと同時に感じる寒気……そう、覚えのあるこれは………

俺「ダークチェイサーの瘴気………!?」

レミ「大正解ー」

言い終わると同時に俺は視線をレミに戻し、その光景を見る。

脱がれた制服がダークチェイサー特有の瘴気を持った塊へと代わり、今度はその塊がレミの身体や顔を覆って服を形成して行く。

俺「お前…人間じゃなかったのか!? 人型の…ダークチェイサー…!?」

失策だ、完全に失念していた。多種多様な形状を持つダークチェイサーの事。人間の姿をしていてもおかしくは無い。

レミ「ブッブー、それは不正解」

俺「……どういう事だ?」

外れだったようだ。ならば一体どういう事なのか。多分答えが帰って来るだろうから、問い質してみる事にした。


レミ「私は人間だよ?ちゃぁんとこっちの世界生まれの日系ハーフ」

カラコンと髪染めかと思っていたら天然物だったようだ。いや、今はそんな事はどうでも良い

俺「だったら何故こっちの世界の人間がダークチェイサーなんかと一緒に居るんだ。レミ自身は危なくないのか!?」

レミ「あ、そこで心配してくれんだ…やっさしー。でも大丈夫、元々この子達は人を襲ったりしないから」

俺「………………は?」


何を言っているんだこいつは。人を襲わない?そんな筈があるか。現に俺は襲われているし、他の被害者も聞いている

俺「嘘を吐くな、俺や他の人間にも被害者は居た筈だぞ!」

レミ「ぁー…それね。…………ゴメン!」

俺「………はっ!?」

何が起きている?何を言っている?謝罪?俺に謝罪?つまりレミに非があるという事か?それは判るが何故謝る!?

レミ「あんまりハルの近くに居るもんだから…さ、てっきりハルと同じでアタシ達を殺そうとしてるのかと思って…つい」

俺「ついで人を殺そうとするな!!!」

レミ「でもね…ここ数ヶ月貴方を観察してて、間違いだって判ったわ。ディーティーの手先として脅威になるどころか、一般人としてもダメな分類だもの」

俺「いや待て、今何か物凄く失礼な事言われた気がするぞ?」

レミ「事実でしょ?大体、最初の頃にハルと一緒に居た時だって………あれ?…もしかして…」

突然言いよどみ、一人だけ納得したような様子を見せるレミ

レミ「そっか…今でもハルが一緒に居るのって、そういう事……?でも、だとしたら……」

俺「おい、一人で納得してないで説明をしてくれ」



質問をすれば返してくる素直な子…そういう印象を持っていた。ただそれだけに、レミの返答は以外な物だった。

レミ「ゴメン…答えられない…」

俺「なっ…」

レミ「えっと…どうしよう…でも下手な事言うと邪魔されそうだし…………あ、そうだ」

俺「何だ」

レミ「えーと…まず、今日私に会った事は言わないで。でもダークチェイサーの親玉に会った事だけは伝えて」

俺「………それはまた随分と無茶な」

レミ「仮面してたから正体までは判らなかったって言えば良いでしょ」

意外と頭が回る子のようだ。

レミ「それで…ここからが本番。これはありのまま伝えてくれれば良いわ。ちゃんと聞いてて」

俺「おう」

レミ「以前貴方の身体をダークチェイサーの瘴気が侵食したでしょ?」

俺「あぁ、ハルに治してもらったけどな」

レミ「でもそれ完全に除去し切れて無くて、脳に残っているわよ」

俺「何ぃ!?」


レミ「で…万が一私の正体がばれるような事になったり、私が死んだりした場合はそれが爆発して貴方を殺せるようにしたわ」

俺「…………はぁぁっ!?」

レミ「これをハルに伝えて。そうすれば上手く事が運んでくれると思うから」

俺「上手くねぇよ!?何?俺一気にそんな危ない立場に立たされたのか!?」

レミ「その危ない事態にならないようにすれば良いのよ。頑張って」

無責任に言い切るレミ。そして俺の動揺など気にする事無く、衣服を元の制服へと戻し…


レミ「私はやる事ができたから先に帰るわ。貴方はしばらくしてから出てきてね?」

と、マイペースのまま部屋を出て行った。


そして、その後の俺はと言うと…


ハル「どうしたんですか!?ずっと探していたんですよ!家にも居ないし、探知魔法にもかからないし…もしかしたらって…」

物凄い勢いでハルに心配された。そして当然、起きた事をそのまま伝える訳には行かず……

レミという少女に会った事、ホテルに行った事はぼかし…伝えるように言われた内容だけを伝える事になった。……のだけど

>21 >26 >34
ネタバレになりそうな返信は自粛するため、完結後に改めてレスさせて頂きます。今はご容赦をorz

>36 >37
37さんの言う通り、俺=作者 ではなく、俺=主人公の、一人称描写です。
判り辛かったようですみませんorz

>38
今の所まだ18禁に進む予定はありません!

●げきへん

ディーティー「成る程…それは由々しき事態だね。彼の命が係っているとなれば下手な行動は起こせない」

おかしい…明らかにおかしい、俺の知っているディーティーの口ではありえない言葉が展開されてる。

しかも、俺に向かって声を出しているにも関わらず視線はハルを向き、アイコンタクト…いや、テレパシーでも送っているようだ。

………嫌な予感しかしない。


ハル「うん…判ったわ、仕方ないわね」

ディーティー「判って貰えて嬉しいよ。もしこちらの動向まで知られているんだとしたら、大問題だからね」

あぁ、やっぱり微妙にずれた受け答えが発生してる。これは間違い無く水面下の会話があって

更に言えばディーティーの意見にハルが同調を見せているようだって事が判る。

俺の安否が危うくなるのは判ったけれど、一体どこが妥協点になったのか…ただ見殺しにされるのか、それとも……


ハル「………」

いや、今処分されるようだ。ハルの手には光の刃が発生した杖が握られている。

どうする?どうすればハルから逃げられる?…いや、逃げるべきでは無いのか?

足手まといになるくらいなら、このまま大人しく殺された方が男らしいんじゃないか?そんな考えが頭を過ぎった瞬間……

ディーティー「馬鹿な………念話で嘘を吐くなんて……」

ディーティーの腹部に突き刺さる光の刃。俺は一瞬その光景を飲み込めず、ただ息を飲んだ。

ハル「ごめんねディーティー…仕方ないの、こうするしか無いみたいだから…」

ディーティー「契約を破るのかい…?いいさ…それなら僕にも…考えがある。彼に全ての真じ…」

ハル「黙って」

次々と突き刺さる光の刃。臓器こそ無いようだが確実にダメージは蓄積し、もう言葉を発する事も出来ない様子。

俺にとっては命拾いの機会…僅かに見えた光明だった。…にも関わらず、どうしても好奇心という物は命知らずのようだ

俺「どういう事だ…?俺に全ての真実って……?」

つい口に出てしまうその疑問。そしてそれが失敗だった。

ハル「それ……は……あ!」

動揺を隠せないハル。その隙を突いて逃げ出すディーティー。手負いとは思えない程の速さで窓から飛び出し、夜の闇へと消えて行く。

俺「………」

ハル「………」

訪れる沈黙…そして静寂。それに耐え切れなくなった俺は口を開き、問いかける

俺「俺には言えない事なのか?」

保身のための嘘もあれば、相手の事を思えばこその嘘もある。現に俺は保身のためにハルに黙っていた事があり

恐らくはそれが原因で今の状態に陥っている。

ハルを責める事は出来ない…いや、それどころか、ハルは俺のためを思って黙っているのかも知れない。


そしてその疑問の答えは紡がれる事無く、ハルが頷く事で一幕を終えた。


俺「ディーティー…あれで良かったのか?その、契約とか…魔法が使えなくなるとか…」

ハル「魔法は…まだ使えます。ディ-ティーは、見つけてちゃんと決着を付けないと」

契約の事はやはり話さない。だからそれ以上の事は俺からも聞かない

それで良いと思っていた………その時は

>43 一つ良い事を教えよう。母親キャラは皆「致し済み!」つまり…

>44
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=46866452
こんな大人な女性がJC以下な筈が(ry

●しんゆう

レミ「オジャマしまーす。ここが二人の愛の巣かー」

ハル「そんな、愛の巣だなんて…」

あれから三日後…ハルがクラスの友達を俺の家に連れて来る事になった。

ちなみにその友達と言うのが………レミである。

俺「敵の魔法少女がクラスメイトで親友とか、ベタ過ぎにも程があるだろ…」

同じ学年である事は知っていたが、まさかここまで近しい存在だった事は予想外である。

しかも聞いた所によると、お互いに今の立場になる前からの親友だったと言う。

とりあえずは夕飯を一緒に食べる事になり、ハルが買出しに行くという流れになったのだが…


俺「レミ…お前、よくもノコノコと…」

レミ「良いじゃない。ディティーが居なくなった今となっては、そんなにギスギスした関係な訳じゃないんだし。」

俺「お前は良くても、こっちは全然良くない。頭ん中に爆弾入れられてて、気が気じゃ無いんだぞ!?」

レミ「あ、ゴメン。あれ嘘」

俺「……はっ?」


レミ「だから嘘だって。脳幹にちょっと残ってるのは本当だけど、爆発とか害は無いわよ。むしろ貴方に適応しちゃってるんじゃない?」

俺「…………」

いや待て、つまりはあれか?俺達はレミにいいように踊らされてディーティーを排除させられただけか?

こいつは一体何を企んでいる?

俺「お前の望みは何だ?さっぱり判らん」

レミ「ダークチェイサーの子達と大人しく暮らす事。出来れば悪人を懲らしめつつね」

俺「悪人…?まさか、俺以外の被害者って言うのは」

レミ「そ、全員悪人。と言っても、命まで奪ったのは本当に許せないような奴等ばっかりだけどね」

俺「…被害者は全員死んだみたいに聞いたんだが?」

レミ「そんな事無いわよ。ちょっと悪い事しただけの悪人なら、それ相応のお仕置きをしただけだもの」

つまりはあれか?明らかに被害者な死者なんかはカウントしているが、軽度の被害は見逃していたのか?ザルにも程があるぞディーティー


俺「…何か、正義の味方みたいだな」

レミ「私はそのつもり…だったんだけど。やっぱり、正義って一つじゃないのよね。私の正義も他人から見たら悪になるって思い知ったわ」

俺「当然だな」

レミ「だから…私は正義の味方じゃなくて、私の正義の味方になる事にしたの。あんまり変わってないけどね」

俺「いや、認識の違いを認めるのは大きな進歩だろ」

そう言ってわしわしと頭を撫でてやる。何かこう、こいつ思って居たよりも…

俺「思って居たよりも良い奴なんだな、お前…」

レミ「ちょっ、髪型がみーだーれーるー。それに、思ってたよりって何よー」

まんざらでも無い様子なのが可愛らしい。


俺「で、話は戻るんだが…今日は一体何をしに来たんだ?本当に俺達の愛の巣を見に来たって訳じゃ無いだろう?」

レミ「うん……ディーティーも居なくなった事だし、ハルに全部話そうと思って来たの。あ、貴方にも一部は教えてあげるわよ」

俺「…一部だけかよ」

レミ「全部は………まだ話すべきか迷い中。ハル次第では私から話す事になるかも」

俺「そっか…」

それ以上の事はその場では聞けなかった。そしてレミとの会話が終わってしばらく後、ハルが戻ってきて…


ハル「二人とも…」

俺「ん?」

レミ「何?」

ハル「何で髪、乱れてるの?何があったの?ねぇ?ねぇ?」

ヤバい、ヤンデレモードに入った。

そしてこの後、説明をして納得して貰うのに30分を要し、中々本題に入れなかったのは言うまでもない。

>48
絵でお金貰った事すらありません(´・ω・`)

>49
SSから脱線してしまいそうなので、絵の投下はあまり期待しないで下さいorz 

●うちあけ

レミ「ごちそうさまー」

俺「ご馳走様…相変わらずハルの料理は美味かったな」

ハル「その…お粗末様でした」

夕飯が終わり、食器を片付け始める頃…満腹になった腹を摩り、至福のひと時を感じる時間。

ただ、そこで終われない…その幸せをかみ締めたからこそ、活力にしてこの先の話へと進めなければならない

俺「じゃぁ………本題に入るか」

レミ「…そうね」

ハル「え?何…?二人して…え?」

ハルの目がヤンデレモードに入っている。あぁ、これは完全に勘違いしている

俺「いや、そうじゃない、そうじゃないから包丁を仕舞って落ち着いて聞いてくれ。ダークチェイサーに関わる事なんだ」

ハル「あ、何だ…私てっきり……って、え?ダメだよ!レミちゃんが居るのにその事は…!」

俺「だからこそ話すんだ」

ハル「…どういう…事?」


レミ「私から話すわね?…って言うか、見せた方が早いかしら?」

そう言って立ち上がるレミ。程なくして着ていた制服が黒く染まり……あぁ、こいつアレをやる気だ。俺は咄嗟に視線を逸らして横を向く

ハル「え………レミちゃん…だったの?何で?どうして?何でレミちゃんが私達の命を…」

レミ「違うの、まずはそれが誤解…」

俺「誤解だったらしい。聞いてくれ」

レミが色直しを終え、始まった会話…そこで狼狽するハルを抑え、俺が話しの舵を取る

レミ「順番はちぐはぐになっちゃうけど…まずは彼の事について謝罪するわね」

ハル「…うん」

レミ「私はあの時、てっきり彼もディーティーの手先…もしかしたらあいつ同様に私達を殺したい側の人間だと勘違いしてた。理由は…」

ハル「…彼との距離…だよ…ね」

ん?どういう事だ?俺とハルの仲の事を言ってるなら、順番がおかしいんじゃないか?

レミ「そう…それで次に、他の被害者…と言っても悪人ばかりなんだけどね。あれも理由があって…独断だけど、裁いてたの」

ハル「うん…それも今なら判る。て言う事は…だよね。その…一番最初の…」

レミ「………そう、あいつ等も殺すに値するだけの事をしていた…だから殺したの。でもそこで一番大事な食い違いが起こってしまった」

ハル「真っ黒な恐ろしい怪物が現れて、あの時居た人達を食い殺して………このまま私も殺される。そう思った矢先に…」

レミ「ディーティーが現れ、契約を持ちかけた。断りようが無いのを判っていて、その上でね」

ハル「それで私、契約してダークチェイサーの狩猟者になって…知らなかったとは言え、レミちゃんに……」

ぼろぼろと涙を流し始めるハル。それをなだめるようにレミが胸を貸す

レミ「それは良いの…それより私の方こそ、この子達を守るためとは言え…ハルに辛い思いさせて…」


辛い思い…と言うのは恐らくあの事だろう。俺という足かせが居たせいでハルは魔力を消耗し、次の戦闘では女として癒えない傷を負った。

辛い思いなんて言葉で片付けられる事では無いが、レミにその責を追求するのはまた筋違いだろう。

もし俺が居なければ、牽制で終わった…そう考えるとどうもやるせない。


俺「それで…割って入るようで悪いんだが、ダークチェイサー達は結局の所何なんだ?」

我慢できなくなって言葉を放つ。内容は、以前から耳に入れる事が無かったそれ。


ハル「私がディーティーから聞いた話だと……あっちの世界で殺戮の限りを尽くした危険生物で、それが逃亡してこっちの世界に来たって…」

レミ「やっぱり…成る程、あいつの良いように捻じ曲げられてるわね。私があの子達から聞いた話とは全然違うわよ」

俺「…って言うと?」

レミ「あの子達は、元々ディーティーに作られたの。生物兵器としてね」

俺「はぁっ!?」

ハル「ぇ………」

思わず声を上げる俺とハル。価値観が丸々反転した瞬間なのだから当然だ

レミ「複数の個性を持ちながらも核に意識の中心を持ち、各々の状況に分化した個体で殺戮行動を行うように作られた兵器…それがあの子達よ」

新事実のオンパレードだなおい。

俺「大本があるからこそ、多少は個体を使い捨てられる…だからあぁいう戦い方ができたのか」

レミ「そういう事。続き良い?」

俺「あぁ、頼む」

レミ「で、ある日問題が起こったのよ。と言っても一方的な酷い話なんだけど…この子達って、あっちの世界では違法の存在らしいのよね」

違法とか以前に法律がある事も少し驚きだ

レミ「それで、研究…この子達の存在がばれそうになったの。そうしたらディ-ティーはどうしたと思う?」

俺「抹消…いや、証拠隠滅しようとした…って事か」

レミ「その通り。だけどこの子達にだって命がある。生きたいって思うのは当然。だからディーティーの手を離れてこの世界に逃げてきたの」

俺「成る程…そして更にそれを追ってディーティーがこの世界に現れ、ハルを利用して抹殺しようとした…って訳か」

レミ「そういう事よ。全く、命を作り出しておいて、わが身可愛さにそれを消し去ろう何ておこがましいにも程があるわ」

ハル「一つ…聞いても良い?」

レミ「何?」

ハル「ダークチェイサーって…元々は生物兵器なんでしょ?その…こっちの世界で危険は無いの?」


俺「無い…と言えば嘘になるだろうが、何のために生まれたかと、何をするために生きるかは別問題だろう」

悪人とは言え人を襲った手前、レミ自身は答え辛いだろうから…レミより先に俺が答える。

俺「現にレミとは上手く共生出来ているみたいだしな」

人を殺す事自体は褒められた事では無いが…暴走の結果でないのならば、一先ずここは不問にして良いだろう。


レミ「貴方…結構物分り良いのね。この子達と上手くやれそうじゃない」

それは褒められているのか?しかし…俺がこいつらと戯れている図は、あまり想像したくないな。

>52 >53
大事な事だから二回言った!?

>59
ディーティーの手先だな

●いえない

レミ「以上が私の知ってる…多分一番信憑性のある真実。私からはこれ以上言う事は無いんだけど…ハルからは、彼に言っておく事は無い?」

レミにそう言われ、一目見て判る程に強張り狼狽するハル。明らかに俺だけが知らない事がそこにあり、ハルを中心にそれが隠されている。

ハル「わ……私からも………言う事は…無い………かな?ほら、レミちゃんが…全部…………教えてくれたし…ね?」

追求するのも可哀想な程の狼狽ぶり。それを見たレミは明らかに不機嫌そうな表情を浮べ…

レミ「そう………そうなのね、じゃぁ…」

何故か俺の方へと歩み寄るレミ。そして俺の襟を掴み……ズギュゥゥゥゥ~~~~ンという音と共に、俺の唇を奪い去る。

レミ「このままじゃあまりにもフェアじゃないわよね。と言う訳で、私も彼を奪いに行かせて貰うわ」

意味不明な事を言いながら舌なめずりをするな。明らかに男女の立場が逆だ。

ハル「え?え!?ぇ…えぇ!?」

あぁ…ハルの瞳がヤンデレモードと驚愕を交互に繰り返して収拾がつかない。

レミ「それじゃ、今日はもう帰るから。二人ともご馳走様」

余分な事を言ってこれ以上場を掻き回すな。

レミ「あ、そうそう…」

俺「何だ…これ以上ややこしくするような話はするなよ」

レミ「ややこしくは無いわよ。むしろ、色々有耶無耶になりそうだから言っておくの」

俺「だから何をだ…」

レミ「貴方の事…冗談じゃなくて本気だから。アンフェアなまま今の関係で居るのだけは、親友でも絶対に許せない」

言って捨てて帰路に着くレミ……だから俺の知らない範囲で話をするのは止めてくれ。

それに……もし本当に俺に好意を持ってくれていて、あぁ言っているのだとしても…

そう…その責任の殆どが俺にあるとしても、ハルの身体の事に、レミが絡んで居ない訳では無い。

レミもハル自身もその事は判っている筈なのに、何故あんな事を言えるのか…俺には理解出来ない。


そう…この時には理解できなかった。

ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=46923460
折り返し地点に来たので、レミ投下

●ついせき

俺「ディーティーが見つかったって、本当か?」

レミ「正確には痕跡だけだけどね…この周辺を移動してるみたい。移動予測範囲は合流してから教えるわ」

ハル「………あれだけ切り刻んだのに…しぶとい」

病みモード一歩手前で呟くハル。この状態の扱いは非常に難しくて困るのだが…何故こんな状況になっているのかと言うと―――


遡る事20分前。俺はハルからの電話で目を覚まし、それを聞いた

ハル「大変です!レミちゃんからの連絡で…ディーティーが、見付かりそうみたいなんです」

俺「…本当か!?今すぐ行く。場所は?」

ハル「えっと…まずはカフェで落ち合う事になってます。準備をするので、今から20分後に来て下さい」

という経過を経て、今に至っている。

レミ「それじゃ、まず現時点で見付かってる痕跡を教えるわね?まずはここ…それからここ…」

集合した喫茶店で地図を広げ、赤いペンでその軌跡を書き込んで行くレミ。

俺の部屋を始めとして、少し歪みながらも西へ向かう痕跡が見て取れる。

俺「西へ向かってるな…この先に何があるんだ?」

ハル「判りません、何か特殊な施設がある訳でも……」


不意に…途中で言葉を止めるハル。その表情は明らかに強張り、顔中に汗を浮かべて硬直している。

……明らかに異常。何か心当たりがある様子。

俺「ハル……何か気付いたのか?」

ハル「い…いいいい、いえ…そ、そんな何も……」


最近気付いた事なのだが、ハルは俺に対して嘘を吐くのが下手なようだ。

こんな風にどもりながら返答する時は、大抵何かを隠している。


だが…それが判ったからといって、ハルを言及するだけの勇気も厳しさも持っていない。ので、レミに聞いてみる事にする。

俺「レミは何か知っているか?」

レミ「………」

こちらもまた沈黙…しかしハルの浮かべる恐怖のような表情とは異なり、何か決意を胸に秘めているような面構え。

確実に何かがある…だがそれを二人とも明かそうとはしない

その場に流れる沈黙…だが、その沈黙を破るようにレミが口を開く

レミ「これは憶測だけど……ここがディーティーの目的地ね。多分ここで、私達が来るのを待ち構えてると思う」

その言葉を聞いて我に帰るハル。そのまま勢い良く立ち上がり、この場を立ち去ろうとするが…そんなハルをレミが止める。


レミ「言ったでしょ…待ち構えてる筈だって。急ぐ必要は無いし、万全の状態で行くべきよ」

ハル「だって…このままじゃ…あの場所に…あの場所に彼も行く事になって………もしかしたら、知られるかもしれない…」

前言撤回。全く我に帰っていない。本人を前に隠し事を隠す事すらも忘れている。


レミ「だったらハルの口から直接言えば良いじゃない」

ハル「無理…それ無理。無理、私には…無理…!!」


いまいち状況が掴めないが…ハルの狼狽がディーティーの策略であるなら、間違いなく成功している事だけは判る。

だが、どうするのが最善のか判らない。レミに助け船を求める。


レミ「行くわよ、三人で。魔力を温存するためにもバスで行きましょう」

答えは至ってシンプルだった…


しかし何故だろう。一つだけ…レミの発した言葉『バス』という単語が気にかかった。

●けっせん

俺「……此処、この廃工場が目的地か。此処にディーティーが居るのか?」

レミ「多分…ね。アイツの嫌な気配がプンプンしてるわ」

ハル「…………」

相変わらず落ち着かないハル。出発前と比べて外面での様相は大人しくなっている物の、内面の動揺は隠し切れていない。


俺「そう言えば……痕跡ってどんな物なんだ?血痕とかだと、さすがにそう長い距離は残らないだろ」

レミ「……言ってなかったわね。痕跡って言うのは、私たちには結構馴染み深い物………そう」

喋りながら脚を進める俺達三人。そうして辿りついた扉の前で、俺達は足を止め…レミがその扉を押し開く。

そして………そこから現れたのは―――


レミ「ダークチェイサーの瘴気よ。それも、私の所に居る子達とはまた異質のね」


マスコットのようだった生物の身体を巨大に肥大させ、更に様々な部位から手足…

それも人間のような物から昆虫のような物まで多種多様な物を生やし、顔の中心には見た事の無い少女の体躯が埋もれている…という奇怪な姿。

辛うじてディーティーの面影を残した塊だった。

ディーティー「やぁ…キミ達…よく来たね。驚いただろう?この身体……見てくれは悪いけど、なってみると中々使い勝手が良い物だよ。ふふふふ…」

腕程の長さの舌を伸ばし、語り始めるディーティー。これは気持ち悪い意外の表現が思いつかない。


レミ「そんな姿になってまぁ…元の世界に帰るのは諦めたようね?」

ディーティー「減らず口を叩かないでくれないかなぁ!?誰のせいだ!誰の!キミが大人しく殺されていてくれていれば、こんな事にはならなかったんだ!」

俺「逆恨みも良いところだな…自分が蒔いた種が大輪の花を咲かせただけだろうに」

ディーティー「黙れ!黙れ黙れ黙れ!良いさ、僕はポジティブなんだ!あの世界に戻れないなら、この世界を僕の好きなように変えるだけの事さ!」

ハル「………あっちの世界の調査隊が来たら、その無駄な足掻きも終わる筈」

ここに来て初めてハルが話す言葉。単語自体は初耳だが、その語調から察するに…ディーティーを追い詰めるに足る存在なのだろう。


ディーティー「ハハハッ、そんな物殺せば良いんだよ。調査隊もその次の調査隊も、実行隊も国軍も、全部全部殺せば良いんだ!」

あえて言うまでも無いが、完全に狂ってるなこれは。まぁ…だからと言って何がどう変わるという訳では無いが

とりあえずは宣言しておくか。


レミ「それは出来ないわね…私たちが…」

俺「俺達が…」

俺・レミ「「今ここで、お前を倒すんだから」」

レミと俺は声を合わせるが、ハルは声を発さない。恐らく戦力としても期待できない事を考えると、厳しい戦いが予想される

…と言うかまず俺も戦力ではないから、実質上レミ一人に任せてしまう形式になるのだが

俺「レミ…何とかなりそうか?」

レミ「正直判らない。悪い予感が当たらなければ良いんだけど…」

俺「…そういう事は言うな、当たるフラグだろう」

ディーティー「どうだろうねぇ?とりあえずはかかっておいでよ。さぁ!さぁさぁさぁ!!」

お前は会話に入って来るな。

制服、影、バッグ…レミのありとあらゆる周辺の物から姿を現すダークチェイサー達。

様々な生物の形どころか、形容する事さえ難しい物まで、多種多様のそれら。そして召還を終えたレミは、大きく息を吸い込み…

レミ「行けーーーー!!!!!」

と、大きな声で一言。それを合図にしたダークチェイサー達は、文字通り解き放たれた獣のようにディーティーへと襲い掛かる。


巨大な爪、幾つもの牙…甲殻の足に角。生物の持つありとあらゆる武器を用いて繰り出される攻撃は、正に一撃必殺の集中豪雨。

…にも関わらず、其れ等は一向にディーティー本体へと届く事が無い。

攻撃の一つ一つを確実に四肢で受け流し、致命傷どころか有効打すら当てられる気配が無い。


俺「…どういう事だ。数では圧倒的にこっちの方が優勢の筈だろう?」

レミ「悪い予感的中…って所かしらね。腐っても生みの親…あの子達の行動ルーチンを全部把握してるみたい」

俺「それは不味いな…他に手は無いのか?」

レミ「やってみる。ちょっと集中するから、話しかけないでね」

そう言ってまたレミは息を大きく吸い込み…

「アイン!右側面に回り込んでパターンA!ツヴァイン!サードのサポートに回ってパターンD!」

ネーミングと思わしき部分はスルーするとして……レミが司令塔になって戦う戦法がある事を見せ付けられる。

ダークチェイサー達はレミの指示に従って動き、それにより今までに無い善戦を見せた

…かに思えたのだが、これも打破される。


作戦指示のパターンも無限では無く、それらもすぐに看破された。加えて指令という行動により動作がワンテンポ遅れてしまう。

ダークチェイサーでの戦闘に勝機は無し…ハルに至っては戦闘を行えるような状態ですら無し。

いや、それ以前の問題だ。何が原因なのかは判らないが、ここに来てからはハルの状態は悪化する一方。

今では足元さえおぼつかずに、その場にへたり込む始末。非常に不味い。こんな状態を狙われたら…狙われたら……そう

そういう事を考えている時に限って、悪い予感は当たる。ダークチェイサー達の猛攻を凌ぎ、尚余裕を持った脚が、ハルへと向けられる。


同じ事に気付いたのか、ハルを庇うべく飛び出すレミ…だが、その身体には一体のダークチェイサーも纏っておらず…

文字通りの肉壁にしかならない。あの攻撃を受けたら確実に死ぬ

だったら…同じ肉壁になるなら、より戦力にならなくて分厚い肉壁の方が良いだろう。


ただ…その結論に到るまでに余分な事を考えていたせいで、出遅れてしまった…

間に合うか?間に合ってくれ。頼む、間に合え。間に合って欲しい…いや、意地でも間に合う!!

意思の力が作用したのか、奇跡でも起こったのか…自分でも驚くほど身体が俊敏に動き、突き出されたディーティーの足の軌道を変える程の体当たりに成功。

レミにもハルにも怪我は無く、正に大成功とも言えるファインプレーだ。


これだけの成果を出せたんだから……俺の腕とか、わき腹くらい、安い物だよな?

●ぜつぼう

「嘘…嫌……いやぁぁぁぁぁーーーーーー!!!!」

ハルの声なのかレミの声なのかも判らない悲痛な叫び。しまった、これは考慮していなかった。ゴメン。


ディーティー「何勝手な事してるんだい。今のは庇ったレミから死ぬ所だろう?君の出番はまだの筈だったんだよ?」

勝手な事を言うなこの肉塊。


ハル「あぁ……ぁ……ぁ…ぁー…あ………」

ハルの声だ、壊れたラジオみたいに音にならない声が響いているのが判る。悲しませてゴメン。

せめて俺の死に怒って立ち上がってくれれば…というのは、高望みが過ぎるようだ。逆に気力が削がれてるのが判る


レミ「死なないで!起きて!ねぇ!」

レミの声だ。いや、起き上がってもこの様では戦いようが無いだろう。


ディーティー「仕方が無いなぁ…予定は狂ったしもう良いや、二人とも一緒に死んでよ」

何を言ってるこのケダモノ野郎。お前はダークチェイサー達と戦ってろ。…いや、戦ってないのか?

そうか…あいつらもやられちまったのか……さぞ無念だったろうな。


いや、待て…だったら誰がハルとレミを守る?どうすれば守れる?何をすれば守れる?


ディーティーを殺せば守れる


ディーティーを殺すにはどうすれば良い?


ディーティーを殺す手段を使うしかない


ディーティーを殺す方法はどんな物がある?今何ができる?


最短ルートで思い出せ、全速力で考えろ


来いよ走馬灯。俺の脳細胞よ、焼ききれるまで回転しろ

『コイ……ツカ……』


『彼女のような狩猟者は、奴らへの耐性を持っているからね。奴らが放つ瘴気は勿論。魔力によって物理的干渉もある程度軽減できるのさ』


『確認されている個体数は126体…内78匹は殲滅済みで、生殖能力は有していないからその点は心配要らないと思う』


『やぁ…キミ達…よく来たね。驚いただろう?この身体……見てくれは悪いけど、なってみると中々使い勝手が良い物だよ。ふふふふ…』


『そんな姿になってまぁ…元の世界に帰るのは諦めたようね?』


『だから嘘だって。脳幹にちょっと残ってるのは本当だけど、爆発とか害は無いわよ。むしろ貴方に適応しちゃってるんじゃない?』


『あの子達は、元々ディーティーに作られたの、生物兵器としてね』


『複数の個性を持ちながらも意識の中心を核に持ち、各々の状況に分化した個体で殺戮行動を行うように作られた兵器…それがあの子達よ』


『ダークチェイサーって…元々は生物兵器なんでしょ?その…こっちの世界で危険は無いの?』


『無い…と言えば嘘になるだろうが、何のために生まれたかと、何をするために生きるかは別問題だろう』


『現にレミとは上手く共生出来ているみたいだしな』


多すぎる。もっと厳選しろ


『やぁ…キミ達…よく来たね。驚いただろう?この身体……見てくれは悪いけど、なってみると中々使い勝手が良い物だよ。ふふふふ…』


『だから嘘だって。脳幹にちょっと残ってるのは本当だけど、爆発とか害は無いわよ。むしろ貴方に適応しちゃってるんじゃない?』


『複数の個性を持ちながらも意識の中心を核に持ち、各々の状況に分化した個体で殺戮行動を行うように作られた兵器…それがあの子達よ』


これだ…そうだ、あるじゃないか

>78
ハルは変身すると髪の色と衣装が変わるだけです。
レミに至っては、衣装しか変わりません。

大丈夫、心の目で見れば大学生に見えるはず!

●はんげき

ディーティー「さぁお別れだ…何だかんだ色々あったけど………うん、碌な事が無かったや。さよなら」

ハルとレミ、二人に向けて狙いを定め、振り下ろされる二本の前足。

空を切り裂き二人の眼前へと迫る先端。だが、そうはさせない。

レミ「え…?」

ハル「……ぇ?」

ディーティー「なっ……そんな馬鹿な。何なんだよ君…その姿は!」


ディーティーの前足二本を根元から切り裂くのは、ダークチェイサーで形成した俺の右腕。

少ない体積で形成したせいか、殆ど糸のような物だが…切る事に特化するならこれで十分だ。

失ったわき腹もダークチェイサーの組織で止血を行ったおかげで、当面は死なずに済むだろう。

そしてそれらの部位は、思い通りに動く…と言うよりも、思った瞬間には動いている。脳幹から直結しているおかげか?

成る程、確かにこれは使い勝手が良い。


『ディティーコロス』『無闇に殺しちゃいけない』『アイツハ殺シテ良イ』『ヨシコロソウ』

ちょっと物騒な事を頭の中で呟くのが難点だが…レミの教育なのか、それもしっかりと判別ができているようだ。

ディーティーに比べて俺の保持しているダークチェイサーの組織は、ほんの僅か…にも関わらず、不思議と負ける気が微塵も沸いて来なかった。


ディーティー「元の肉体を保ちながらのダークチェイサーとの融合だって…?ありえない…ありえないありえないありえない!」

うるさい。お前はもう少し現実を見ろ。


ディーティー「創造主の僕でさえこんな事になっているって言うのに、何で赤の他人の君がそんな姿でいられるんだ!?おかしいだろう?!」

懲りない奴だ…今度は背中から生やした8本の腕で掴みかかってくる。そうだ、今度はあれを試してみよう


俺「アイン、来い!」

瀕死ながらも、俺の声を聞き駆け付けるアイン。そして俺はそのアインに右手を沿え……同化。

鋭い爪を持った巨大な手を形成し、一瞬の間にディーティーの腕を全て切り落とす。

それと、ついでにわき腹の器官も再構築しておく。以前侵食された際に俺の臓器の形状も記憶してくれていたようで、難なく修復完了だ。


レミ「嘘…攻撃が通じてる?そっか…あの子達の動きじゃないからディーティーは先読みできないのね」

解説ありがとう、要はそういう事らしい。俺の攻撃は面白いようにディーチーの身体を削ぎ落とし、今までの劣勢を覆す。


俺「ツヴァイン!サード!クィンテット!来い!!」

さぁ、この茶番に幕を引く時だ。

ディーティー「ふふ………ふふふふ…」

何がおかしい。

気でも触れたのか、追い詰められたディーティーが急に笑い出す。


ディーティー「驚いたよ…正直凄く驚いた。正直この身体でここまで追い詰められるとは思って居なかったよ」

俺「遺言はそれで良いのか?」

俺はディーティーの本体と思われる部位に爪を向ける。


ディーティー「いやいや…これは対話だよ、君と僕のね。悪足掻きだと思って聞いてくれて構わない、聞くだけなら損は無いだろう?」

俺「………」

ディーティー「キミも知りたい筈だと思うんだ…あの子達が何を隠しているのか。何故此処を選んだのか…此処で何があったのか」

ハル「殺して!ディーティーを早く殺して!!」

下品な笑いを浮かべるディーティー、執拗なまでに急かすハル。


ディーティー「簡単に言うとね…騙されてたんだよ、キミ。ハルにね」

俺「…どういう事だ?」

ハル「止めて!止めて止めて止めて!!!」

ハルの悲痛な叫びが木霊する。だが…ディーティーの言葉を裏付けする根拠には心当たりがある。俺はその言葉を遮れない。


ディーティー「ハルが子供を産めない身体になったのって、ダークチェイサーとの戦闘が原因じゃないんだよね」

何を言っているんだコイツは


ハル「お願い!止めて!!」

ハルまで何を言っている。何故否定しない


レミ「………」

レミまで口を閉ざし、沈黙を守っている。


本当…なのか?

●しんじつ

ディーティー「いやぁ、色々と口裏を合わせるのは大変だったよ…事前に行った発言を撤回せずに、捻じ曲げて設定を作るのは大変な物だね」

ハル「………」

ディーティー「確かにあの時、腹部へのダメージはあったけど…実はもっと前…キミと出会う前からあの身体だったんだよ?」

俺「出会う前…?」

ハル「止めてディーティー…お願い………」

一瞬の閃光と共に変身するハル。動揺こそ残る物の、瞳には固い決意の色が見て取れる。

手元の杖には既に巨大な剣のような光の刃が形成され、今にでもディーティーに襲い掛かりそうな勢いだ。


ディーティー「おっと、いきなりこれを言ってしまったら他の部分が面白く無いか。じゃぁ先に別の隠し事から暴露して行こうか」

…何?、他にもまだ隠し事があったのか?いや、こいつの口車に乗るべきじゃない、乗るべきじゃないのは判っているのに…


ディーティー「ハル………彼女ね、キミのストーカーだったんだ。いや…ここは洒落を利かせて…」

ディーティー「闇に潜んでキミをストーキングする者…ダークチェイサーならぬ、ダークストーカーとでも呼んでおこうかなぁ!!」

…………は?何を言っている?言うに事欠いて俺のストーカー?自慢じゃないが、俺は美形でも何でもないただのフツメンだ。

おまけに、ダークチェイサーに襲われるまでハルとは何の接点も持ってなかったんだぞ。そんな俺が、何でハルみたいな女の子に…


その頭の中での否定を否定するかのように、ハルがディーティーへと襲い掛かる。

だがその手を、ディーティーの身体から生えた腕が抑え………ハルの刃は寸での所で届かない。


俺「何だよその話…そんな無茶苦茶な話が本当なのか?何でだ?何で俺なんかに?」

ディーティー「キミは覚えてないかも知れないけど、バス亭で傘をあげただろう?実はあの時、ハルは初陣直後でね…身も心もボロボロだった所に…」

あぁ、覚えてる…そうだ、忘れかけてたけど確かに覚えてる。そうか…あの時の女の子がハルだったんだ…


ディーティー「で、そこまでだったら美談だったんだけど…そこからのこの子の行動がまた見物だったんだよね」

ハル「黙って!お願いだからもう何も言わずに死んで!」

ハルの刃が大鎌のような形に変わって、束縛していたディーティーの腕を切り落とす。

ディーティーに至ってはそんな事など気にする事も無く、新たに生やした腕で応戦しながら言葉を続ける。


ディーティー「ハルが家に帰って…まず何をしたと思う?キミもご存知の探知魔法を使って、キミの住処を調べ上げたんだよ。キミの傘を便りにね」

俺「はっ………?」

絶句…あまりにも突拍子の無い言葉に、俺は言葉を失った。


ディーティー「それから先はもっと凄いよ?遠隔透視で私生活を覗き見たり、不可視化してキミの近くに付き纏ったり…」

ぞくり…と、背筋に寒気が走る。あの時から見られて居た?部屋で一人の時も?バイトの時も?

ディーティー「当然キミの趣味も調べていたよ。髪はセミロングのサイドテールが好き、あと処女厨。好きなコスプレとか他にも色々……ね」

足が震える…今まで無条件に信じて居た、ハルの偶像が崩れ去る。…そして、気付いてしまう。


『あんまりハルの近くに居るもんだから…さ、てっきりハルと同じでアタシ達を殺そうとしてるのかと思って…つい』

俺「つまり…俺がダークチェイサーに襲われたのは…」

ディーティー「そう、ハルが原因だよ」

あの時レミが言っていた言葉は、どこもおかしな所が無かった。勘違いでも嘘を吐いていた訳でも無かった。


いや…待て。例えハルが原因だったからと言って、ハルがそれを望んだ訳じゃない。現に危ない橋を渡って俺を助けてくれたじゃないか。

ディーティー「更に付け加えると…あの時、本当は怪我を負う前に助けられたんだよねー…」

俺「え………?」


ディーティー「だって、不可視の魔法で近くに居たんだよ?やろうと思えばすぐにでも助けられたんだけど…折角だから、ピンチを助けて恩を売る事にしたんだ」

何を…なにを言っている?ナニヲ?あの時近くに居た?肉が焼け爛れ、瘴気に侵食されて行く俺を…機会を見計らいながら見ていた?

俺「嘘だろ…ハル……嘘だと言ってくれよ。なぁ?」


ハル「嘘に………う、嘘に決まってる…じゃ、ないですか………」

あぁ…相変わらず何て嘘が下手なんだ。俺の望みに必死に応えようとしてくれてるのに、その言葉が嘘だって丸判りだ。


俺「それじゃぁ……治療には膨大な魔力を使うって言うのは」

ディーティー「それは本当さ」

俺「いや、でも…俺を治療するかしないかで言い争ってたじゃないか、あれは…」

ディーティー「うん、演技。前もってやり取りを打ち合わせてあったんだよ」

え……?あれ?何だこれ?俺が信じてた物って何だ?俺があの時ハルに感じた物って何だったんだ?

駄目だ、この感覚は不味い。


ハル「ぁ………あ………ゃ………」

おいおい、頼むからハルまで被害者面しないでくれよ。そんな顔されたら…俺は…


ディーティー「あぁうん、二人とも絶望するのはまだ早いよ。ここからがメインディッシュなんだから」

何だよ…もう止めてくれ。何も聞きたくなんて無い

●うらぎり

ディーティー「ハルが子供を産めない身体になった理由…それがダークチェイサーとの戦闘が原因じゃないって事はさっき言っただろう?」

そうだ…俺はてっきりそうだと思い込んで居たんだ。いや、思い込まされていた?

ディーティー「きみがハルに傘をあげた日が初陣だって言ったけど、あれって狩猟者としての初陣って意味だけじゃないんだよね」

ハル「ゃ……それ…は………お願い……それだけは…………言わないで」

くそっ…話の先が読めない。もう良い、早く言ってくれ。俺を楽にしてくれ。

ディーティー「あの日は…『女性』としての初陣でもあったのさ。僕が『魔法少女』と呼ばずに『狩猟者』と呼んでいる理由もそれなんだけど」

………はっ?

ディーティー「ハルはね…あの日、この場所で。複数の男性との性交渉を行って居たんだ」

ハル「―――――――」


糸が切れたように膝を突くハル。

頭の中が真っ白になる俺。

何だよそれ


ディーティー「それで、その時に大分無茶をしたせいで子宮に甚大なダメージが残り、後はキミも知っての通り…」

俺「いや…おかしいだろ……それこそ治療魔法で治せば良いんだし…いや、ハルの初めての時だって現に……」

ディーティー「ふっふっふー、後者は自分で答えを言ってるのに気付いてないのかな?」

俺「ぁ………」

ディーティー「そう、キミを騙すためにわざわざ治癒魔法で処女膜を再生したのさ。流石に子宮の方は複雑で、治癒魔法でも機能回復までは出来なかったけど」

騙すため…?騙されてた…?ずっと騙されてた?

駄目だ…もうハルの事を信じられない……

俺「だ……めだ…駄目だ………信じられ…ない、誰も………」

ハル「…………………………」


ディーティー「うんうん、二人とも中々良い感じに仕上がったみたいじゃないか。それじゃぁ……そろそろ終わりにしようか」

ディーティーがそう言い切るか否か、不意に…そして不自然に引き攣ったように跳ねるハルの身体。

およそ人のそれとは思えないような動きでもがいたかと思えば、今度は静かに立ち上がり…刃を、俺へと向けてきた。


俺「……ハル?」


俺は問いかける。


だが返事は無い。

●こころは

ディーティー「無駄だよ。この身体は僕が貰ったからね」

ディーティーのような口調で話し始めるハル……いや。ハルの身体を使って話し始めるディーティー

俺「………そうか、テレパシーか」

ディーティー「察しが良くて助かるよ。キミを切り捨てようとした時は、無茶苦茶な芸当で邪魔をされたけど。本来は契約者としてこんな事もできるんだ」

レミ「………何それ…そんなの聞いてない」

今更話しの渦中に戻ってくるレミ。明らかに動揺している。


ディーティー「とは言え…ここまで完全に乗っ取るのは大変だから、色々と準備が必要だったけどね。そう…傷を深く抉るために、この場所を用意したりね」

さっきはレミと一緒に殺そうとしたくせに、何を調子の良い事を…だがまぁ…

俺「もう、どうでも良い事だ…」


ディーティー「そうだね…キミが恩義も責任も愛情も感じるハルはこの世に居ない…いいや、最初から居なかった。だから僕がこの身体を使おうとどうでも良い」

違う…どうでも良いのは俺の方だ。このまま殺されたってどうでも良い。もうどうにでもなれ…


そうこう考えている内に、俺の腹部へと突き刺さるハルの刃。

痛みは勿論ある…あるけれども、そんな事はどうでも良い程に絶望が俺を塗り潰す。


ディーティー「堪えて無いね…よし、確実に頭に行っとこうか」

そうしてくれ。頭が無くなれば考えなくても済む。

眼前まで迫る刃…死へと踏み込む感情。無という名の安堵に踏み込もうとしたその時…

レミ「クィンテット!こっちに来て!」

不意に…俺の意識とは関係無く、地を蹴る足…いや。足と同化したクィンテット。

紙一重の所でハルの刃をかわした俺は、そのままレミの前に降り立ち……レミがそれを睨み付ける。そして…


レミ「馬鹿!」

罵倒、同時に平手打ちの一閃。

レミ「アンタ本当にそれで良いの?本当にそれで良いと思ってんの!?」

余計なお世話だ。あとお前も隠して居たんだから言われる筋合いは無い。


レミ「ハルが…本当にあいつの言う通りの子だと思うの?」

それはハル自身も肯定してただろ…

レミ「うぅん、もし本当にあいつの言う通りの事をしてたとしても…」

今度はお前まで肯定かよ。何が言いたいんだ


レミ「アンタは、それを許せないの?ハルの事が嫌いになっちゃったの!?」

………はっ?許す?何を言っているんだこいつは。許すも何も、俺は絶望しているんだ。

そう………ただ、今までのハルの偶像が崩れ去って………


………ん?


いや…………

………………あれ?



    そうだ

○わたしの

私『それで………魔法少女…狩猟者になれば私生き残れるの?』

ディーティー『勿論、キミはそれだけの資質を持っているからね。仮契約でも構わないから、まずはやってみるかい?』

私をレイプした人達は、変な黒い化け物達に食べられた。

もう何もかもを諦めて、死を覚悟した瞬間にディーティーが現れた。


彼『俺、もう使わないからやるよ』

犯されて…ダークチェイサー達と戦って…傷は治したけどボロボロになった私に、あの人は優しくしてくれた。

凄く嬉しかった…また会いたいと思った。


私『傘を…あの人に返したいんだけど。魔法少女になれば、そういう事も出来るの?』

ディーティー『勿論さ。それどころか、相手の事をもっとよく知ることだって出来るよ』

私は言葉の意味を深く考える事無く、ただただその甘い誘惑に乗った。

私は魔法少女になった。

私『あの人、また後輩のミスを助けてる。今度はお年寄りに優しくしてる…やっぱり優しい人なんだね』

ディーティー『…もっと近くで彼の事を見たいかい?』

私『出来るの?』

ディーティー『勿論さ。恥ずかしいんだったら、ハルの事は見られないようにも出来るよ。君と僕は契約者…知恵も力も貸すとも』


私『大変!彼がダークチェイサーに襲われちゃう!』

ディーティー『待って!これはチャンスだ!』

私『何言ってるの?そんな事言ってる暇…』

ディーティー『良いかい?よく考えるんだ。生きてさえ居れば傷はいくらでも治す事が出来る。それより、その傷の治療を口実に彼に近付くんだ』

私『そんな…絶対駄目だよ!彼に痛い思いをさせるなんて…!』

ディーティー『おっと、そうこう言っている間に丁度良い頃合じゃないか………しかし見事に侵食されたね、これは中々の大仕事になりそうだ』


ディーティー『さぁ、彼が目覚めたら僕が言った通りに口裏を合わせて。そうすれば必ずハルに好意を抱くはずさ』

私『………』

私『彼…またエッチな本読んでる。あぁいう子が好みなのかな』

ディーティー『彼は、この辺りの俗称で言う所の処女厨と言う趣向みたいだね』

私『じゃぁ…やっぱり……私じゃ、駄目………なのかな』

ディーティー『そんな事は無いよ。治癒魔法を使って処女膜を再生すれば、ばれっこないさ』


私『……………はふぅ…』

ディーティー『その様子だと、上手く行ったみたいだね』

私『うん………凄く優しかった………この幸せが、ずっと続けば良いのに』

ディーティー『大丈夫さ』

私『でも…私のこの身体じゃ……』

ディーティー『僕にいい考えがあるんだ、多分近い内に機会は来るから、口裏を合わせておこう。多分この方法しか無いよ』


ディーティーがそう言ったから…それを言い訳にして、ずっと私は甘えて来た。

でも、その言葉に乗って彼を騙してきたのは他でも無い私…


私は許されない罪を幾つも犯してしまった。


本当は、どうすれば良かったんだろう…どうしてこんな事をしてしまったんだろう。

そう…彼に付き纏ったりなんてしないで……ただ傘を返して立ち去って居れば、彼をこんな目に合わせる事は無かったのに………

●ことのは

俺「ハハ………ハハハハハハ………アハハハハハハハハハハ!!!!」

レミ「な、何なの!?」

ディーティー「ビックリした。何がどうしたんだい。気でも違えたの?」

俺が高らかに笑い声を上げ、二人が驚愕の声を上げる。

まぁ当然だろう。俺が逆の立場だったら確実に正気を疑う。それは判るが、判ってもこの笑いを止められない。

何故か?可笑しいからに決まってる。

何が?俺の馬鹿さ加減がだ。


俺「そうだな…あぁ、確かにハルが処女じゃなかったってのはショックだ」

俺「子供が産めない原因が俺にあるって思い込まされてたのもショックだ」

俺「ストーキングされてたのもショックだ」

俺「痛め付けられてる所を傍観されてたのもショックだ」

俺「もうショックな事ばかりで、ハルに対するイメージがメチャクチャになったのも事実だ!」

心の奥から、止め処なく言葉が溢れ出て来る


俺「だが! そ れ が ど う し た !!」


ディーティー「な…何を言っているんだい?ハルの事を信じられなくなったんじゃないの?どうでも良くなったんじゃないのかい!?だったら…」

俺「それは間違いだった!」

ディーティー「…………は?」

俺「その上で…その上で尚、俺はハルの事が好きだ!むしろ、弱みを握って優越感まで溢れ出て来るぐらいだぜ!」

ディーティー「何だコイツ………自分を騙していた相手に対して………っ…何?ハルの意識が」

ハルを指差し、ポーズを決めて言い切る俺。普段なら絶対しないような恥ずかしい事だが、こうなればもうとことんやってやる。


俺「ハル!俺はお前が好きだ!俺の所に戻って来い!」

今更ながら、何て恥ずかしい愛の告白だ。

いや………でも、これは俺が言いたいだけだな。ハルが今言って欲しいのは…


俺「ハル…お前にスト-カー気質があって良かったと思ってる!お陰でお前と恋人になれたんだからなぁ!来いよ…俺は全部許してやる!」


ディーティー「……!!!そんな馬鹿な…嘘だろ?…こんな…こんな言葉だけでハルの意識が………!!」

また糸が切れて崩れ落ちるハルの身体。今度はそれをしっかりと受け止め、抱き締める


ハル「…私…私……」

俺「大丈夫だ…判ってる…まだ判ってない事があっても、後で許す…」

俺の胸の中で声にならない泣き声を上げるハル。俺はただ、その頭をぽんぽんと軽く撫で……そして立ち上がる。


俺「さぁ…それじゃぁさっさと決着をつけようぜ」

ハル「………はい!」

●さいごに

ディーティー「ふざけるな…ふざけるなふざけるなふざけるな!何なんだよそれ!どうして僕の計画が何一つ思い通りに行かないんだよ」

自身の身体に戻り、悲痛なまでの叫び声を上げるディーティー。

聞かれたならば答えるべきだろう。俺は教えてやる


俺「これが何か?それは、愛だ!愛の力だ!」

レミ「………うわー……」

レミ、そこでお前がテンションを下げるような声を出すな


ディーティー「…………もう良いよ。そんな物に付き合ってられない。今度こそ本当に全部終わらせてあげるよ。君達もそう望んでるんだろ?」

吹っ切れたように言葉を紡ぐディーティー。そして…次の瞬間、変異を起こす。


肥大するディーティーの身体…

手足はより強靭な物となり、頭部には巨大な角を生やしていく。


おかしい…こんな奥の手を隠し持っていたのなら、何故もっと早い段階で使わなかったのだろうか?

そんな事を考えていると、俺の中のダークチェイサーがチリチリと焼け焦げるような警戒を伝えてくる。


俺「成る程……脳までダークチェイサーになる事で、リミッターを解除したって事か」


これまでに無い強大な敵…そんな奴を眼前に置きながらも、俺の精神は至極落ち着いていた。

何故か?それは………

そんな奴が相手でも、負ける気がしないからだ

俺「皆!俺の所に来い!」

俺の掛け声と共に集結するダークチェイサー達。

俺の身体は瞬く間にこいつらに包み込まれ、一匹の獣のような身体を形成する。

今や全身がこいつらであり、こいつらこそが俺である。

根幹と一体化した俺は、掛け算式にこいつらの力を引き出せる。思い込みでは無く、本当にそれが出来る。


俺「さぁ行くぜ、キモマスコット!」

そして、宣言すると同時の体当たり。ディーティーの巨体はいとも容易く吹き飛び、廃工場の支柱にぶつかって互いに捻じ曲がる。

だが俺は攻撃の手を緩めない。緩める必要も緩める気も無い。いや、緩めたくない。

右、左、右、左。巨大な爪が相手を引き裂き肉片を飛び散らせ、尖った牙が噛み千切る。

その猛攻にディーティーは成す術も無く………いや、あったようだ。

突如背中から翼を生やし、それを大きく広げた。


何をするかは手に取るように判る。

次の瞬間には予想通り、屋根を突き破って空へと逃げるディーティー。

その速度は凄まじく、瞬く間に豆粒のようなサイズになっていく。

だが…問題は無い。相手は翼を生やしたが、俺にはその必要すら無い。

ただの一度の跳躍で頭上に回り込み、一蹴で地面に叩き落す。


今は俺こそがダークチェイサーだ!闇の追跡者から逃れられると思うな!

俺「さぁ…最後はお前が決めるんだ。ハル!」

俺の掛け声と共に巨大な目を見開き、視線を向けるディーティー。そして、その視線の先にあるのは……


杖を構えたハルの姿。


その杖の先端には、光の刃ではなく光の輪が形成され、更にその中心からは眩い光が放たれている。


ディーティー「いや…だ……イヤダ、イヤダァァ!!!」

ディーティーの中の、辛うじて残っている知性がその危機を感じ取り…逃げ出そうとする。

だが俺はその頭を掴み、天へと掲げる。


俺「一つ教えてやるよ…自分がされて嫌な事は、他人にもしちゃぁいけないんだぜ。やられたくなけりゃぁ、やるんじゃねぇよ!」

それを言い終るか否か、ディーティーを貫く一筋の閃光。

…それは一欠片も残す事無く、その存在を消滅へと導き……


ディーティーとの戦いに終止符を打った

●おしまい

レミ「いっやー…本当、一時はどうなる事かと思ったわ」

俺「一時だけか?常時ハラハラしてたように見えたぞ?」

レミ「言わないでー…でもまぁ、ハルの方の問題もちゃんと解決できたみたいだし。一件落着かな?」

俺「あぁ、そうだな……ここに辿り付くまで…長い道のりだったぜ」

折角なので、ちょっと格好良い事を言って決めてみる

レミ「あ、ゴメン。全部解決した訳じゃないわ」

が、台無しだ。


ハル「え?何?レミちゃん…まだ問題があるの?」

気が気では無いハル。まぁあれだけの事があってまだ続きがあるとなれば当然の反応だろう

レミ「ダークチェイサー達の事よ。あの子達、彼と完全に一体化しちゃったでしょ」

俺「…あ」

言われてみればそうだ。元の人間の姿に戻ったから忘れていたが、分離していない…いや

俺「……分離…出来ない?いや、分化は出来るけど、根幹が俺から離れない?」

ハル「えぇ………」

レミ「って事で…返してって言っても、返せる状態じゃない訳よね?」

俺「すまん………そういう事みたいだ」

困った、調子に乗りすぎてやり過ぎた。考えてみればこいつらはレミの眷属なんだから、返せなければ色々と問題だ。

…つまりだ

レミ「じゃぁこうしましょうか。貴方、あの子達の代わりをして」

俺「………はぁ!?」

正直予想出来た範囲だが、大袈裟に驚いておこう。

レミ「別に四六時中とは言わないわよ。アタシが必要な時だけ」

よし、演技の甲斐あって譲歩してきた。


レミ「そうね…例えば、欲求不満の時とか」

ハル「え?……それって………つまり。レミちゃんが…彼と………」

レミ「うん、そういう事。あの子達で出来なくなったった事を、ちゃぁんとしてもらわないと…ね?」

勘違いだった。色んな意味でぶっ飛んでいる。


ハル「駄目!駄目駄目!そんなの絶対だめ!」

レミ「あら、何で?ハルにそこまで束縛する権利があるの?」

ハル「それは……わ、私は彼の彼女だから!」

レミ「じゃぁ私は二号で我慢するわ」

ハル「え…えぇぇぇ……!?」

おい、俺を置いてきぼりにしたまま話を進めるな。


レミ「ま、最終的な決定権は彼にあるんだけどね?」

その通りだ。俺の事なんだから俺に決めさせろ。……ん?いや、それって俺の決定に責任が圧し掛かって来るんだよな?

レミ「ほら、ハーレムって男の浪漫でしょ?嫌?」

しかも、これは誘導尋問じゃないのか!?


俺「……嫌じゃぁ無い。そりゃぁ当然な」

ハル「!?」

俺「だが、俺はハルの恋人だ!」

ハル「………!!」

レミ「うん、勿論それで良いわよ。ハルは彼の恋人で、私は二号。何なら、お試し期間してみる?」

ダメだコイツ、そこから一歩も譲る気が無い。こうなると俺も突き放しきれないぞ

…よし

俺「いや………それは……………そうだ、ハルが許すんならって事で」

うん、逃げた。正面から戦っても押し負けるに決まってるんだから仕方ないだろ?なぁ!?

ハル「…………」

あぁ…ハルがジト目で見て来る………さすがにこの状態では勘弁してくれ…男だとどうしようもないんだ



ハル「ねぇ…レミちゃん…やっぱりレミちゃんが彼を好きになった理由って…」

レミ「うん、ハルが…一目惚れした理由じゃなくて、依存しちゃった理由も…」


ハル&レミ「「ダメ男、だからだよね」」


………え?

え――――…………何?何か俺の立場が酷い事になってないか?いや、むしろ最初から酷かったのか?


ハル「そう言えば…大分話は戻るんだけど。レミちゃんも、彼の正体を探るために何ヶ月も観察してたんだよね?」

レミ「え?あ、うん」

ハル「じゃぁ…レミちゃんも私と同じ、ダークストーカーだね。お揃い」

レミ「えぇっ!?ま……まぁ、それはそれで良いかもね」


良くないだろ…

こうして二人に増えたダークストーカー。

俺の受難はまだまだ継続…と言うか、悪化する事が約束されたようだ………


    魔法少女ダークストーカー ―完―

と言う訳で…

ここまでお付き合い下さった皆様、ありがとうございました。
マオウシステムから来て頂いた方、今回もありがとうございます。

改めて、ネタバラシ自粛のため控えていたレスをさせて頂きます。
>14 俺君が自分の物にしちゃいました
>21 こういう感じになりました
>26 YES!
>34 DTのネタバラシは続編で、どー○ーではありません。
>62 俺君が騙されてたっちゅー事だったずら
>63 俺君とハルが初めて出会ったバスです。
>68 こんな感じでハッピーエンドに収まりました。
>73 でも動けない。それがハルクオリティ。
>74 痴女ジャナイヨ!肌色硬化スキンだから恥ずかしくナイヨ!
>77 ワイヤー代わりにはなりました。
>82 とりあえず性病ではありませんでした。
>86 そ れ が ど う し た で押し切りました。
>87 ですよね。正直、タイトルをどストレートな「魔法少女ストーカー」にするかどうかで迷いました。
>88 良くそこに気気付いた…(ry
>90 >91 処女厨な俺君を騙…喜ばせるためにです。
>93 テレパシーって便利!
>94 愛の前にはちょっとやそっとのダークなんて無力。無事ハッピーエンドに収まりましたよ!
>95 忘れてた は、伏線にとって褒め言葉です。
>96 ハルは幼女じゃないし、母親に突き落とされたりしてません。
>99 こうなんだよだぜ
>100 精神的にも肉体的にも、認めちゃった方が楽な訳でした。
>106 しかしそう長くは続かない。それが俺君クオリティ
>107 まさにそれ、ディーティーさえも空気を読んで攻撃して来ない。
>114 ありがとうございます!

そんな訳で、今度はレミとの仲が進展していく続編を構想中です。
ユウシャシステムを執筆しながら、ある程度本筋が纏まったらまったり進行で書き込んで行こうと思います。

それでは皆様 改めて、お付き合い頂きありがとうございました!!

>116 18禁パートは無いので安心してください
理由が何であれ、惚れてくれる相手が居るだけましでしょう!

>117 すみません、次のシリーズでいきなり幼馴染と新マスコットが登場します。あとついでに……も
三人だけのお話は、番外編で描くかも知れません。

>118 女の子に助けてもらっちゃうダメっぷり、性欲に抗えないダメっぷり、年の差を気にしないダメっぷり
はっきりしないダメっぷり、恋人の親友とラブホに入っちゃうダメっぷり、26にもなって定職に付いていないダメっぷり…etc

>119 ありがとうございます!
次のシリーズもダークに磨きをかけられるよう努力したいと思います!

>121 大丈夫…年齢の数値なんて、有って無いような物だから

●あらすじ

バイトの帰り道、謎の黒い怪物…ダークチェイサーに襲われた俺。

それを助けてくれたのは…変なマスコット、ディティーを連れた魔法少女…ハルだった。

こんなベタな展開から始まり、恋人になった俺達。

しかしそこに現れたのは、ハルの親友でありダークチェイサー側の魔法少女、レミ。


ダークチェイサー側と和解をしたり、実はハルが俺のストーカーだった事を知ったり…

何だかんだのいざこざを挟みつつも、力を合わせて…真の黒幕であるディーティーを打ち果たした俺達。

最後の最後で奇妙な三角関係になりながらも、とりあえず平和な日々を過ごしていた。

~魔法少女ディヴァインシーカー~


●いつもの

草木も眠る丑三つ時…闇夜を駆ける影が二つ。

一人は金色の髪を横で纏めた少女…

一人は黒き獣の姿をした…………俺

描写に力が入ってないのは勘弁してくれ…バイト帰りで正直眠いんだ。


と…脇道に逸れてしまったので本筋に戻すが、今はレミ…この金髪ツインテールの女の子と、深夜のパトロール中だ。

今まで深夜中心だったシフトを夕方から深夜半ばまでに変えて貰い…その後はこうして街の平和を守るのが俺の日課である。

レミ「居た!あそこ!!」

と、ナレーションをしている内に早くもレミが対象を見つけたようだ。

俺「女の子に対して、男が三人……やばいな、もう襲われかけてる」

レミ「急ぐわよ!」

と言うか否か、現場に向けて飛び降りるレミ。


ちなみに……レイプと言うのは、レミにとって許せない犯罪ベスト3らしい。

まぁ、レイプを許せないと言うのは俺も同感なんだが………

俺「そのくらいにしといてやれよ。まだ未遂なんだから、半身不随…じゃなかった、半殺しで許してやるんだろ?」

レミの場合…放って置くと本当に殺してしまうので、気が気では無い。


そして…獣の姿で喋ったためか、恐れをなして逃げ出す残りの男達…

あ、いや…喋らなくてもこのサイズの動物を見たら逃げ出すか。

助けた筈の女の子まで怯えさせてしまったようだ。

俺「んじゃ、俺はあいつ等を追いかける。レミはその子を頼んだぞ」

レミ「判ったわ。ギッタンギッタンにしてやりなさいよ!」

俺「おう、任せとけ」

と言っている間に追い付き、男達の進行方向へと先回りする俺。


なぁに命までは取りはしない。そうだな…両足でも折って全治一ヶ月って所か。

仕事の早さには自信がある。コンビニ店員から逃げられると思うな!!

レミ「はーい、ご苦労様」

俺「そこはお疲れ様だろ」

レミ「良いのよ、今のアンタはアタシの眷属なんだから」

そう…今の俺は、かつてレミの眷属だったダークチェイサー達の代わりだ。

何故そんな事をしているかと言うと…まぁ、先の戦いでディーティーという悪人を倒すためにそいつらを取り込んでしまったのが原因なんだが…

レミ「あ、ちょっと待って。この声………」

おっと、そんな事をしている場合じゃなかったみたいだ。レミはまた新たな事件を見つけた様子。しかもこの反応は……


あ、そうそう…先にレミの事を説明しておこう。

コイツはレミ。ハーフの外国人で、ハル…俺の恋人の親友だ。

先の戦いでは、悪の黒幕かと思いきやサポートキャラだったというオチを叩き出してくれた美少女である。

結構面倒見が良くて、フランクながらも人当たりは良い。

ちなみに…本人曰く、俺の二号らしい。


あと付け加えておくと…好きな物は動物とダメ男。

嫌いな物…と言うか、嫌いな犯罪は…ベスト3がさっき言ったレイプ、ベスト1が殺人。

そして今回の反応を見る限りは、ベスト2の………

レミ「アンタ達!何してんのよ!!!」

ゴロツキA「あぁん?何だこのアマァ」

ゴロツキB「何そのカッコ。痴女?痴女なの?」

いや、素肌に見えるそれはただの肌色の強化皮膜だ。ダークチェイサーのな


レミ「アタシの事なんてどうでも良いのよ!それよりアンタ達、何してるのかって聞いてんのよ!」

おっと、また話しがずれたな。レミの嫌いな犯罪…そのベスト2は………

ゴロツキA「見て判んねぇのか?」

ゴロツキB「ストレス発散だよ、ストレス発散。何?お前もヤりてぇの?」


動物虐待だ。


汚い口から反吐のような言葉を出しながら、子犬を蹴飛ばすゴロツキ共。

当然ながら俺の胸には怒りの感情が沸き起こる……のだが

それすらも、レミの前では…とてもささやかな物らしい。

あぁ…目が完全に本気だ…キレちまってるよ、久しぶりにな………


レミ「一つだけ選ばせてあげるわ………二ヶ月かかるのと、二ヶ月残るの…どっちが良い?」


結果だけ言えば……ゴロツキは二人とも両手両足複雑骨折、歯が全損。ゴロツキAはそれに加えて右肺破裂に、ゴロツキBは肋骨全損。

救急車は呼んでおいた。

良かったなお前達…命だけは助かって。


さて、問題は虐待に遭っていた子犬の方だ。

俺「そいつ…大丈夫そうか?」

レミ「結構危ないかも…あんなヤツ等なんかのせいで、こんなに酷い目に………」

俺は携帯を取り出し、ハルに連絡する


俺「寝てた所だと思うんだが…悪ぃ。子犬が危ない状態なんだ」

ハル「はい、判ってます。大丈夫…今治療していますから」

気付けば既に子犬の治療を始めている、ハル。

何時の間に……いや、多分最初から居たんだろうな。


改めて紹介しよう。この子はハル…俺の恋人だ。

先の戦いで………何と言えば良いんだろうか。ディーティーに騙されて利用されていた魔法少女だ。

内気な性格で引っ込み思案。ちょっとヤンデレに入るスイッチを持っている……

…………まぁうん、ストーカーだ。多分…今日も不可視の魔法で隠れつつ、付いて来てたんだろうなぁ…

ちなみに、ハルもレミも俺のダークストーカーを自称している。その辺りの説明は省かせてくれ


以上が…魔法少女ハルとレミの説明である。


俺か?俺は………ダークチェイサーという闇の獣に襲われて、最終的にそれら全員と融合したただの一般人だ。

●あるひの

という訳で………先に説明した通りの日課を終えて、絶賛朝帰りの真っ最中。

…ふと視界に入ったのは、近所のバス亭。

バス亭…思えば、バス亭でハルに傘をあげた事で始まった今の関係。

もしあの時、バイトの面接が長引かなかったら…もし雨が降っていなかったら。もし………

そんな事を考え初めても、切りが無いのは判っているのだが…ついつい考えてしまう。


本当、人生何があるか判らない。

色んな偶然が重なって今の俺があり、今のこの世界がある…そう考えると、こう…色々感慨深くなる。


そして、感慨深くなると言えば…バスの向かい側にあるこの大学。

色々あって中退したこの大学………そう言えば、それまでずっと一緒に通っていたアイツは………


マイ「おや、久しぶりだね」

噂をすれば現れた。

俺「お、亜門教授じゃないか。久しぶり」

マイ「何だねその他人行儀な呼び方は。昔のようにマイと呼び捨てにしてくれても良いのだよ」

俺「いやー…一介のフリーター風情である俺が、恐れ多くも天下の大学教授様にそんな」

マイ「わざとらしい謙遜は止めたまえ。文面通りの尊敬など微塵もしていない事くらい判っているんだぞ」

会話から察して貰えているとは思うが…こいつは幼馴染

俺がダラダラとフリーター生活を満喫している間に、26の若さで大学教授にまで登り詰めた天才だ。

俺「だよなー。にしても調子はどうだ?何でもまたナントカ細胞とか言うのを発見したらしいじゃないか」

マイ「キミの言っているのがどれの事を指しているのか判らないね。そのテの研究はもう飽きるほどやったのだから…」

俺「うへ…さすがは天下の亜門教授」

マイ「だからその呼び方は止めたまえ」

俺「はいはいっと…と、じゃぁ今は何の研究をしてるんだ?」

マイ「今かね?今は特に何もしてはいない。強いて言うなら……趣味の並列世界の研究かな」

俺「それってあれだよな?こっちの世界じゃなくて、あっちの世界の…―――」

と言った所で慌てて口を閉ざす俺。

いけないけない。ディーティーやダークチェイサー達が居た世界の事は一般には知られて居ないんだった

マイ「何だねその、さも自分の身近にある物を指すような口ぶりは…」

そして、そこを鋭く突いて来るマイ。さすがは教授。

俺「いや、ただの三人称間違いだ。気にするな。って言うかその研究は進んでるのか?」

マイ「進むも何も、机上の空論を頭の中で構築しているだけだよ。いち大学の施設程度では検証以前の問題だからね」

俺「ごもっとも」

と、そこでふとした事に気付く俺。

俺「あ、じゃぁ暇なんだよな?それなら……ちょっと、本職の方の事で質問したいんだが、良いか?」

マイ「何だね、言ってみたまえ」

俺「再生医学…って、お前の専門だよな?」

マイ「専門では無いが、一通り齧っては居る。今の専門は遺伝子工学だからな」

俺「じゃぁ……不妊治療、損傷した子宮の再生なんかも……」

マイ「相談に乗る事は出来るな」

俺「ありがたい。じゃぁ早速なんだが……俺の知り合いの女の子で、その…妊娠が出来なくなって困ってる子が…」

マイ「それは播磨…ハルくんの事だね」


俺「そうそう…って、何でマイがハルの事を知ってるんだ!?」

マイ「以前ハルくんから相談を受けた事があるのだよ。ついでに言うなら、キミの部屋から出てくる所も何度か目撃した」

俺「何で目撃してんだよ!?」

マイ「ボケたのかね。私の実家はキミのアパートの隣だぞ」

そうだった

マイ「さて、話が逸れてしまったので戻すが…結論から言って、ハルくんのケースはかなり難しい」

俺「何でだ?」

マイ「原因は判らないが……あれは何と言うか、かなり特殊なんだ」

俺「どういう事だ?」

マイ「例えるなら…割れたパソコンを木工用ボンドでくっつけたら、何故か電源が入るようになった…けれどもOSが起動しない…そんな感じなのだよ」

物凄い判り難い例えだが、物凄い判り易い理由だった。

ハルは魔法で無理矢理子宮を治した…その結果が今マイが言った事なんだろう。

俺「つまり………」

マイ「うむ…残念ながら力になれそうには無い。可能性で言えば、子宮を全摘出した後に新たに再生した子宮を移植…という手段も無いでは無いのだが…」

俺「さすがにそこまで大掛かりな事になると…」

マイ「移植の段階でリスクを伴い、正常に機能しなくなる可能性すらある。そして……」

俺「あぁ、いや…そこから先は言わなくても良い。ともかく、相談に乗ってくれてありがとう」

マイ「いや、それは構わないのだが………そう言えばハルくんの件で思い出した事がもう一つ」

俺「ん?何だ」

マイ「ハルくんの他にもう一人連れ込んで居るだろう。金髪ツインテールの子を」

俺「――――!!?」

俺は盛大にむせた

あぁ、レミの事まで知られていたか…それはそうだよな、ハルの事を知られている時点で当然だ。

マイ「一回りも歳の違う女の子を連れ込んでいる時点で問題なのに、更に二人目にまで手を出すなど…よもや二人合わせて同年代などと言うつもりでは…」

俺「いや、レミの方には手を出してねぇよ!」

当然の事ながら弁明する俺。

マイ「ほう、あの子はレミと言うのか…そして、レミ『には』か…」

が、それは物凄い自爆だったようだ。

俺「……………」

マイ「まぁ何だ…男なのだから性欲は持て余し、若い方が良いと言うのはわかるが…程ほどにしたまえよ?」

俺「………ハイ」

そこに反論の余地など全く無かった。

まぁ、ここで…手を出して居ないならば何をしているのだと聞かれなかった事だけがせめてもの救いか

ダークチェイサーとのお喋りや、俺の体調管理……そもそもこの世界に存在して居ない物を説明など出来やしないのだ。

マイ「所で…」

俺「はい!?」

慌てて返事を行い、敬語になる俺

マイ「どうしたのだね?まぁ良い…話は変わるのだが、あの噂は聞いたかね?」

俺「あの噂ってのは?」

マイ「カマをかけたが引っかからなかったか…いや、最近この街で起きているという妙な噂なんだが…」

どんなカマのかかり方を期待したんだこいつは

俺「何の事だよ、噂なんて全然聞かないぞ」

まぁ、ダークチェイサーやディーティーの件で手一杯だったからな。

マイ「黒い靴を履いた少女通り魔の噂…街を徘徊する猫のぬいぐるみの噂…羽の生えたピンク色の少女の噂……」

スミマセン、多分それ全部に心当たりありました。でも言う訳にはいきません。

マイ「後は…そうそう、変な宗教団体が形成されつつあるらしいな」

俺「宗教団体が形成されつつ…?」

マイ「うむ、妙な話だが言葉の通りだ。新興宗教が設立されたのではなく、形成されつつあるらしい」

通常、宗教団体という物は誰かの手によって作られる物である。

教祖が居て、そこに教義が存在し、信者が集まって宗教団体が出来上がる。

しかし、形成されつつある…と言うのは、どうも順番がおかしい。

教祖が正体を隠して居る?何かを象徴として人が集まっている?

…そんな事を考えても、今ここで真実に辿り着けるはずがない。

俺「そりゃまた………うーん、まぁ何か耳にしたらお前にも伝えるよ」

と、そこで話しは区切り…軽く挨拶をして別れる俺達。


そして今回は………この直後から全てが始まって居た。

○できごと

久しぶりの幼馴染との再会…こちらから一方的に見る事はあったが、やはりあちらは気付いていなかった様子。

正直少し腹が立った。

昼休みとなった今でもまだ思い出して愚痴っているくらいなのだから、その立腹度がどのくらいの物なのかはお察し頂きたい。


気分転換に…と屋上に来ては見た物の、この季節の風は思った以上に肌に突き刺さる。

これ以上ここに居ても仕方が無い以上、戻ろうか…そう考えた矢先の事だった


ふと視界の隅にそれが入ったのは、正に偶然…

本来ならば、そんな所にはある筈の無い『それ』

私は目を疑い、再びそれを見据える………が、確かに『それ』はそこにあった。

よりによって何故あんな所にあるのか……いや、場所だけなら幾らでも仮説は立つが、問題はその状態だ。

そう、知的好奇心に駆られた私は走り出していた。


階段を下り、廊下を走り…門を抜けて、その先に進み………『それ』…アイツのアパートの庭に浮ぶ『扉』の前に辿り付いた。

私「何なんだこれは…何故こんな所に扉が?…いや、問題はそれどころでは無いな。何故倒れない?何故浮いている?」

好奇心に促されるまま、門を調べる私。

装飾…材質…そして、取っ手。扉である以上開くのは当然の事……当然開いても、扉の向こうが見えるようになるだけで何も無い事は判りきって居るのだが…

好奇心には勝てない。

私はその取っ手を握り、扉を一気に開け広げた。

●らいほう

少し寄り道をして、午後一時頃に帰宅した俺…明日と明後日は休みなので、ぐっすり睡眠を取る予定だった…そんな俺を、ある来訪者が俺を待ち受けていた。

本来の可能性として言うのなら、ハルかレミ。若しくはその両方………そのくらいしか俺の部屋に来る人物は居ない筈だった、のだが…


俺「…誰だお前は。ディーティーの仲間か?」

何と言えば良いのか…そう。ディーティーのように、マスコットのような姿をした何か。

強いて言うなら、猫型ではなく犬型なのだが…


エディー「失礼。外に居ては目立つため、勝手ながら中で待たせて頂きました。私の名はエディー…」

俺「電子マネーみたいな名前だな」

エディー「ディーティーと同じ世界から来ては居ますが、今となっては仲間に属する者ではありません」

スルーしやがった


俺「………まーた、あっちの世界からの干渉かよ…いい加減にしてくれ」

エディー「申し訳ありません。ですが…我々は、貴方達を無理に巻き込むために来た…と言う訳ではありません」

俺「どういう事だ?」

さて…その言葉が一体どこまで信用できるやら…

エディー「それを話すにあたって、ハル様とレミさまをここにお招き頂きたいのですが…宜しいでしょうか?」


得体の知れない相手の言う通りにするのも癪だが…俺一人で対応するよりは、あの二人が居てくれた方が心強いのも事実。

俺は携帯を取り出し、ハルとレミを呼んだ。

エディー「では改めまして…私の名はエディー。此度は、貴方様とレミ様に助力を乞うため参りました」

レミ「あっちの世界の住人が…私と彼にねぇ………」

内容を聞いて不信感を露にするレミ。当然の事だ。

俺「ハルじゃなくて俺達…って事は、ダークチェイサー絡みって事だよな。で、更にその上でハルまで呼び出したって事は」

罠…想定していたその可能性に備え、警戒心を高める。


エディー「誤解をなさらないで頂きたい。ハルさまをお呼び頂いたのは、助力頂くためではなく、助力への対価がハルさまに支払われるからです」

俺「………説明して貰おうか」

エディー「では…説明の順番が逆になってしまいますが、報酬のお話です。私達は、助力頂いた場合の報酬としてハルさまのお身体の治療を申し出ます」

レミ「お身体って……え?それってつまり…………」

俺「ハルの……妊娠出来なくなった身体を直せる……そういう事なのか!?」

エディー「左様で御座います。我が国の医療魔法使いの治療を受ければ、まず間違い無く完治されるかと」

俺「いや、待て……話が美味過ぎる。それに、ハルってあっちでも稀なくらいの強力な魔法使いなんだろ?それでも治せなかったってのに…」

エディー「失礼ながら、それはハルさまの治療魔法の腕が及ばなかっただけと思われます」

レミ「…どういう事?」

エディー「ハルさまの持つ力はとても大きな物で御座います…こちらの世界で例えるなら、都市一つを賄える程の発電機のような物」

俺「………」

エディー「しかし、医療魔法と言う物は力だけでは無く技術と知識を要する物……例えそれが器用な細工師であっても、手術が上手いかと言えば別問題かと」

俺「確かに」

エディー「逆を申し上げれば、ハル様が貴方様に施した瘴気の浄化…あれだけの魔力を使う治療を行える魔法使いは我が国にも居りません」

レミ「…一応筋は通ってるわね。でも、貴方達が本当にハルの治療をしようとしているって証拠は?」

エディー「御座いません。私共はただ信じて頂く意外の手段を持ちません」

俺「ならその話は置いといて……ハルの治療をする条件は何だ?」

エディー「私共の世界を………救って頂きたいのです」

俺&レミ&ハル「!?」

●ほうかい

俺「世界を救うって………いや、そもそも一体何がどうなってそんな事になってるんだ?」

エディー「私共の世界は、光りと闇…秩序・節制・不変等を司る光と、混沌・例外・変質等を司る闇がバランスを取り合い形成されています」


レミ「うわ、物凄くファンタジーっぽい」

同感だが、そんな見も蓋も無い事を口には出さないぞ。


俺「で、それが世界を救うのとどう関係してるんだ?」

エディー「現在…光の力が闇の力を大きく上回った状態にあり、そのバランスが崩れようとしているのです」

レミ「光の力が大きくなると、具体的にどうなるの?」

エディー「まず、ハルさまの使われるような光の魔法が強くなり…闇の力が衰退。やがて世界は一切の変質を持たぬ、停滞した死の世界となるでしょう」

俺「逆に闇の力が強くなると?」

エディー「闇の力が増し、光の力が衰退…無秩序の混沌により世界は崩壊…闇が全てを飲み込んだ死の世界になります」

俺「………どっちにしても死の世界かよ」

エディー「はい…ですので、双方のバランスを取る事が必要なのですが…」

レミ「バランスが崩れかけてる、その原因は?」

エディー「ディーティーで御座います」

俺&レミ「えっ」

エディー「ディーティーがダークチェイサーを作成する折に…あろう事か禁忌を侵し、闇の核の一部を奪って材料にしてしまったのです」

俺「………………」

レミ「………………」

成る程、理解した。レミも理解できたようだ。

俺「ぁー………それを聞いたら放っておく訳にはいかないよなぁ…」

レミ「そうね…この子達の生まれ故郷がピンチってだけでもアレなのに…その原因が………」


ハル「でも……」

ここに来て初めて口を開くハル

ハル「私のために、二人が危ない目に逢うのは嫌…」

あぁ、やっぱり。ストーキングの件の負い目もあって、こういう所では過度なまでに引っ込みがちなんだよな


レミ「ねぇ…」

俺「あぁ……」

ハル「………?」

俺「気にすんな。順番が逆になったらからそう聞こえるだけで、最初にこの事を聞いた時点で俺達は行く事を決めてたぜ」

レミ「そうそう。これは私達がそうしたいから、しに行くの。ハルの治療はそのついで…と言うか、報酬として貰える分タナバタ?」

俺「それを言うならタナボタだ。変な所でハーフ設定を活かそうとするんじゃない、この日本育ちめ」

レミ「てへぺろ♪」

エディー「では皆様…私共の依頼を聞き届けて頂けたとと考えても…」

俺「あぁ」

レミ「オッケーよ」

ハル「あ……うん」

エディー「ありがとうございます…それでは、皆様の準備さえ宜しければ……」


俺「あ、そだ」

レミ「何?どうしたの?」

俺「ハルもレミも、来週には春休みが終わって新学期だろ?それまでに終わるかどうか…」

レミ「アンタねぇ…あっちの世界の危機って時に何を…」

エディー「その点でしたら心配は御座いません。私共の世界と此方の世界は時間の経過速度が違います故…」

俺「具体的には?」

エディー「此方の1日が私共の世界の10日…10倍の差が御座います」


俺「実質60日の猶予か……まぁ、さすがにそこまでの時間はかからないと思いたいな…」



そして…所変わって、アパートの庭。

エディー「…こちらが、私共の世界へと通じる扉となっております」

レミ「文字通り扉ね…」

ハル「扉だね…」

エディー「因みに…私からあまり離れすぎてしまいますと、どこに出るか判りません。ご注意を……んん?」

俺「どうした?故障か?」

エディー「いえ、何者かがこの扉に触れた痕跡が…まさか」

レミ「どうしたの?」

エディー「すみません…現時点では私の杞憂に確証は持てません。取り敢えず続きはあちらの世界に到着してからでも宜しいでしょうか?」

おいおい本当に大丈夫か?

レミ「ま、判らない事でモタモタしてても仕方ないし…行きましょうか」

そうだな…ここに居ても判らないのなら仕方ない…

俺「あぁ…あっちに行って確認出来るなら、まずは行くか」

俺達は異世界…ダークチェイサー達の生まれ故郷である、あちらの世界へと旅立つ事となった。

相変わらずながら…
ネタバレに繋がりそうなレスは先送りにして、最後にレスさせて頂きます。ご容赦下さい(´・ω・`)

>150
お付き合い頂きありがとうございます。
マオウシステム - SSまとめ速報
(ttp://ex14.vip2ch.com/news4ssnip/kako/1413/14135/1413562415.html)
マオウシステムは、多分ここで過去ログとして見られると思います

●いせかい

俺「と言っても……普通に扉を潜るだけだったな」

レミ「あんまり実感わかないわね」

ハル「それより…心配してた事はどうだった?」

エディー「周囲に転送反応は無し…問題御座いません、やはりただの杞憂だったようです」

どんな杞憂だったかは気になるが…あえて聞かない方が良い事かも知れない。俺はそのまま流す事にした。


レミ「にしても……辺り一面荒野よね」

俺「そうだな…この状態から一体どうすれば良いのやら…」

ハル「そもそもここが目的地なの?」

エディー「いえ…最初の目的地は医療施設で御座います。そちらでハル様の治療を開始して頂き、次なる目的地へと向かいます」

俺「んじゃぁ、俺がダークチェイサーになって皆をその医療施設まで運べば…」

エディー「いえ、それには及びません。迎えが参りました」

そう言って空を指差すエディー

その先には、巨大な鳥が空を舞って居る……かと思えば

その鳥は、瞬く間に………暴風のような羽ばたきと共に、俺達の目の前へと降り立った

ハル「じゃぁ二人とも…絶対に無茶はしないでね?」

俺「心配するな。ちょっとやそっとの事で俺達が危険な目に逢うと思うか?」

レミ「そうそう。私達の事は心配しないで、ハルはちゃんと治療に専念してなさいね」

ハル「………うん」

治療施設…俺達の居た世界の、病院によく似た雰囲気のそこにハルを預け、次なる目的地へと向かう事になった俺とレミ。


エディー「では…こちらに」

そう言って案内された先は、此方の世界に来る時に使った『扉』………


俺「ん?これからこの世界を救いに行くんじゃないのか?」

レミ「別に帰るような用事も無いわよ?」


エディー「いえ…これから皆様に向かって頂く先は、あちらの世界では御座いません。此方の世界に存在する別次元…闇の神殿に御座います」

俺「あぁ…成る程、そういう事か」

レミ「って言うか、闇の核の所に行って具体的には何をすれば良いの?あと、私達だけでこの扉を潜っても大丈夫なの?」

エディー「お二人のなさるべき事は私にも判りかねますが…闇の核が導いてくれる事と思われます」


闇の核の導き…か。つまりはその闇の核には意思があるって事だな。

と言う事は多分…

俺「俺とレミを選んだのも、闇の核の意思…って事か」


エディー「左様に御座います。そして、この扉の先は闇の核の領域…お二人は無事辿り着く事が出来るのでしょうが、逆に私めは…」

レミ「成る程、招かれざる者は立ち入ることさえ出来ない…って訳ね」

となれば、後は……

俺「よし…レミ、行くか」

レミ「そうね、行きましょう」


エディー「では…貴方達、ディヴァインシーカーに幸運のあらん事を…」

覚悟を決め…固く手を握りながら扉を潜る俺とレミ。


ここから先は闇の神殿………さぁ、鬼が出るか蛇が出るか

アサラー投下
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47168465

>158 ありがとうございます!
大人の女性を書いたのは久しぶりで、上手く表現できてるか心配でした。


あと、ディヴァインシーカー編がちょっと長くなりそうなので。途中で分けて一旦区切ります。
ダーク成分は後半で少しだけ出る予定です。

●まよいご

蛇が出た。

具体的に言うなら、全長10メートルはあろうかと言う巨大なアナコンダ。

俺は咄嗟にダークチェイサーの腕を形成し、アナコンダを捕縛。間髪入れずに遠くへと投げ捨てた。


俺「な…………何なんだよここは!?」

レミ「いやいやいやいやいや、私が聞きたいわよ!何ここ、ジャングル!?」

そう……実際に行った事は無いが、多分アマゾンとかその辺りのジャングルがこんな感じなんだろう。

周囲には背の高い木々が生い茂り、到る所から聞こえてくる生き物の鳴き声。

そう……ジャングルだ、まさにジャングルだ!!


レミ「私達…闇の核の神殿に来る筈だったのよね?」

俺「あぁ…その筈だ」

となると……転送に失敗してジャングルに迷い込んだ?

あるいは、このジャングルのどこかに闇の核の神殿があるのか?

最悪のパターンは、エディーに騙された…という場合だが………


見れば、俺達が潜って来た筈の扉は無くなっている。

これはまさか…最悪のパターンか?

いや…もしそうだったとしても、それに対して何も出来ない事に変わりは無い。


レミ「進むしか…無さそうね」

俺「…そうだな」


同じ結論に達し、ジャングルの中を進む俺達…

何があるか判らない以上、ダークチェイサーの使用は最小限…

少し多めにレミの身体を覆うダークチェイサーを形成し、俺は有事の際まで通常形態。

食物に関してはまず俺が毒見をして、食べられそうならレミに。食べられない物だった場合は、消化前にダークチェイサー達に分解して貰う

こうしてると実感するが、本当に便利だよな…ダークチェイサーの身体って。


そして…ジャングルの中を進む事三日目。

サイバイバルの手管にこそ馴れては来た物の、目的地が見えない事は多大なストレスとなって襲い掛かる。

いや…正確にはストレスによるものだけでは無いかも知れないが……その可能性はあまり考えたくは無い。


レミが熱を出し、倒れた。

●かいほう

俺「くそっ…何てこった」

レミ「ゴメン…アタシ………足引っ張っちゃって…」

俺「そんな事を言うな、って言うか無理に喋るな」

どうする…どうすれば良い?

レミは俺と違い、適性があるとは言えダークチェイサーを纏っただけのただの人間だ。こんな風に内側からやられたら、打つ手が無い。

俺「俺と同じように、ダークチェイサーを内部に……いや、ダメだ。こんな状態で試すにはリスクが大きすぎる」

考えろ…考えろ俺。病気になったらどうする?専門的な事は無理だが………

出来る事はある…ただ、本当にそれは基本的な事でしか無い上に、実行するためのコストも大きい。

だが、そんな事で迷っている暇は無い。

俺「皆…頼むぞ」

俺の内に残る47体のダークチェイサー全員を分化し、総動員で行う。

周囲に展開し、まずは水辺の確保…続けて風避けを兼ねて、材木による家屋の設置。

人間ならば何日もかかる作業を、ものの数分でやってのけるダークチェイサー達。

改めてレミとの絆の深さを感じさせる。

食料の確保と飲料水の確保を完了し、最低限安静に出来るだけの環境は確保したのだが…


俺「まだ油断は出来ない……」

原因が判らない以上は楽観視する事なんて出来ない。

もし原因が判ったとしても、対策を取れるかどうかすら判らない。

今の俺に出来る事は、信じる事とレミの自然治癒を助ける事だけだった………

四日目……

レミの熱が上がり、意識が朦朧としているのが見て取れる。危険な状態だ。

体温を下げないために、俺の服を重ね着させた上で身を寄せる。

ダークチェイサー達も、大分消耗しているにも関わらずミツバチの要領で室温を上げてくれた。


五日目……

先日よりは安定して来たが、まだ予断を許さない


六日目……

レミの容態に変化は無し…だが、それとは異なる問題が発生。暴風雨だ

ダークチェイサー達の頑張りで、何とか凌ぐ事は出来たが、それによる消耗も甚大…

倒壊しかけた家屋の修理すら追い付かない


七日目……

レミ「ゴメン………アタシの事は……もう良いから………」

俺「弱音を吐くな。レミらしく無いぞ」

レミ「……でも…………」

俺「良いから、少しでも体力を温存しとけ」

レミ「………」

俺「それに………仮にお前を見捨てたって、他に何かするアテも無いしな」

冗談めかして言う

レミ「………バカ」

少しは元気の素になれたようだ


八日目……

ここに来て劇的な変化が起きた…それも、良い方向ではなく悪い方向に。

レミの身に直接起きたのでは無いのが不幸中の幸いだが………ここでどうにかしなければ、結局レミが危ない。


俺達の前に敵が現れた。

>164 残念ながら、八重歯はどっちかと言うとレミの属性です。いや、二人とも八重歯でも良いんですけど

>166 アラサーです!本編でもコメントでも誤字頻発していますが、気にしないで下さいorz

そして本編のネタバラシになりそうなレスはまた後ほど。お返事できなくてすみません(´・ω・`)

>169 スパムでしょうかね(´・ω・`)

>170 正直、レンタルで借りてハズレ引いたのが悔しくて登場させました

>171 >172 本人がアラサーだと思ってるからアラサーで良いんですよ。

>174 むしろ作者が死んでんねん

●げきとつ

獲物の取り合いでぶつかるような野生動物とは異なる。明らかな敵意を持った『敵』だ

その姿を形容するなら……巨大な『手』

白い板金の上に金の装飾をあしらった鎧のような外殻。

手全体から見れば細いと思われる指も、俺達人間からしたら大木と変わらない。


そんな化け物みたいな手が宙を舞い、俺達に襲い来る。

俺「くそっ…どっかのゲームで見たぞ、こんなラスボス」

押し潰しにかかる平手…横から迫り来る拳………

紙一重で避けるだけでも精一杯な上に、風圧だけでも吹き飛ばされそうになる。

これは………出し惜しんでどうにかなる相手じゃない。


俺「皆!来い!!」

全てのダークチェイサーを集め、獣の巨大な姿を取る俺…

レミとのパトロールで人間サイズの獣になる事はよくあったが、このサイズの獣姿になるのはディーティー戦以来だ。

体積を増し、正面衝突を覚悟する俺…これだけやってもまだ向こうの方が圧倒的に上…にも関わらず、手は抜いてくれない。むしろ……

俺「嘘…だろ……」

奥の手まで出して来やがった。

爪の先から発せられる、光の刃……ダークチェイサーの天敵である、狩猟者の光の刃だ。


迫り来る刃…距離と軌道からして、回避はギリギリ……

いやダメだ、出来ない。

回避したらレミの居る家屋に直撃する。

俺は爪の一本を牙で受け止め………残りの止められない刃はその身で受ける。

噛んだ爪は死ぬ気で捕まえたまま…

対して手の化け物は残りの指を振り上げ、止めを刺しに来る……が、そこで一つ閃いた

出来れば多少はマシになる…出来なければ死ぬ……だったらやるべきだろうな。

俺「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


爪に噛み付いた頭…そしてその横から新たな頭部を形成し、化け物の指の根元に齧り付く。

もがく手の化け物…だが、暴れれば暴れる程俺の牙は深く深く食い込み……


遂にはその指を根元から噛み千切る!!


俺「どうだ…!名付けてオルトロスアタックだ!!」

窮鼠猫を噛み…いや。窮獣指を噛み、痛恨の一撃を与える事に成功……

しかし問題は、倒しきれて居ないという事。

手の化け物は、爪から展開していた光りの刃を今度は拳に纏い…あぁ、これは不味い

案の定その握り拳のまま突撃を行って来る。

…だが知っての通り、俺の背にはレミの居る家屋…これも正面から受けて立つしか無い。

………が

俺「ぉ……うおぉぉぉぉ!!!!」


正面から受ければ、当然のようにその質量の差が顕著に現れる。

ジリジリと押し退けられる俺の身体…加えてそれを切り刻む光りの刃。

そしてその一本が、俺の体を貫き………

俺「――――――レミ!!!!」


レミの居る家屋をも貫いた。

●ぼうそう

そう…レミの居る家屋を貫いた……中に居るレミごと……

レミを貫いた……レミを殺した………レミをコロシタ………

レミが死んだ?


………ふざけるなよ…

…レミヲコロシタ…

そんな奴が生きていて良い筈が無い。


『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』

『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』

『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』

『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』

『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』

『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』

『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』

『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』『コロス』「殺す」


満場一致で可決だ。

さぁ行くぞ皆………


俺の中で雄叫びを上げ、我先にと表層に現れ出でるダークチェイサー達。

俺が形成出来る質量の限界をゆうに超え、各々がその本性たる姿を形成して行く。


手の化け物に、噛み突く牙…牙……牙……

48種の頭全てが手の化け物に噛み突き


…抉り

…噛み千切り

…引き裂き



俺達は…

手の化け物を…




―――――カミコロシタ


だが………その成果に何の意味も無い。

レミが死んだ……

もっと早くこの力を出せて居れば、レミが死なずに済んだかも知れない。

いや、レミが死んだからこの力が出せて………


俺「あぁぁぁぁ!!くそっ!!!!」

何だ…何なんだよこれは!ふざけるな!!!

俺「レミが居なければ…レミが生きてなければ、倒せたって何も意味が無いんだぞ!!!」

力を使い切り、完全に無力化して俺の中へと戻るダークチェイサー達。

しかし…意識を失って尚俺の中で渦巻き続ける喪失感と怒り。


そして…俺の中で何かが欠ける感覚……

そう………欠けるだけの何かが俺の中にあった事を思い知った。


俺「そうか………俺、何だかんだ言ってもレミの事が………」

向ける相手の居ない言葉…それが空しく響き………

レミ「アタシの事…………何……?」

俺「え………レ…ミ……?」

レミ「何…幽霊…でも、見た……ような顔してる………のよ」

俺「どう…して…………」

困惑する俺…だが、レミのその姿を見て思い出す。

あぁ、そうか……レミに纏わせていた一体…こいつがレミをギリギリで退避させてくれてたのか

レミ「この子のお陰…でも、私の代わりに……攻撃を受けて、今は………気を失っちゃってる」

悪い…満場一致じゃ無かったな。頑張ってくれてたお前を数に入れなくて悪かった。


レミの安否を確認し…どっと襲い来る疲労感。

無茶を超える無茶をした反動だろう…

指一本動かそうとするのにも全力を絞り出さなければいけない始末。


もしもこんな所を襲われたら、ひとたまりも無い……そのくらいの……

あぁ…しまった。考えちゃいけない内容だった。


外殻の殆どが剥がれ…内部の骨が露出した上で、まだその生命に終止符を打って居なかった

………手の化け物。


俺「悪ぃ…レミ………逃げてくれ……お前だけなら………」

ただ不幸中の幸いか、あちらも慢心相違で機敏な動きは出来ない様子。

俺が最後の力を振り絞って、囮になれば………

レミ「馬鹿……そんな事、出来る筈…無いじゃない。アタシだって……アンタを見捨てたって…他に何かする…アテ…無いのよ…?」

レミ…お前はそんなに男らしく無くても良いってのに…


俺を抱き起こし、手の化け物を見据えるレミ。

したくも無い覚悟…死を覚悟したその瞬間。


そう、まさに一瞬の出来事だった。

●かくせい

レミが身に纏っていたダークチェイサーが、脈動と共に変貌した。

その外殻はより鋭利で強固に…そして、より攻撃的な形状へ

強化皮膜は幾重にも分かれ、服のような形状を織り成して…

背中の甲殻は跳ね上がり………その下からは…大きな羽が生まれた。


二段階変身?そんな言葉が頭を過ぎったのとほぼ同時に………

視界を駆け巡る黒い線。


手の化け物の動きが一旦止まり、そこから僅かに動いた…かと思えば

その身体が駒切れになって崩れ去った。


そう……今度こそ……レミの手により手の化け物を倒す事ができたんだ。


理由は判らないが、俺と同様に限界を超えた変化を起こしたレミ………


勝利を称えて抱きしめでもしたい所なんだが…そんな事をする余裕は無い。

レミはレミで、目が虚ろ…そして吐く息も荒く顔も赤い。

そうだ……まだ熱があるってのに無理しやがって………


安堵感と疲労感……


不味い………気を失いそうだ。

俺は動けず、レミは完治していない…こんな状況で無防備になるのはどう考えても不味い

レミ「ぁ…………」


ダメだ……更に…レミまで気を失う寸前のようだ。せめて安全な場所を確…保………

くそっ…無茶を…させ……過ぎ………た…………―――


こうして俺は意識を失った


●しんでん

のだが………目覚めは不思議と安らかだった。

ジャングルの喧騒も無く、寝込みを襲われた感じも無い。


目を開けて周囲を見渡すと、そこは………


薄暗い部屋の中……いや、部屋と言うよりは神殿の中のようだった。

俺「レミ………」

は、俺の隣でまだ寝ていた。

熱も大分引いたのか、その寝顔は少しだけ安らかそうだ。


俺「ここは…どこだ?見た感じ神殿みたいだし、やっぱりここが………」

闇の核「そう………ここが闇の神殿です」

俺「!?」

驚きの声を出しそうになるのを堪えながら、声のする方向へと視線を向ける俺。


そこにあったのは、真っ黒な球体……黒い光りを放ちながら浮遊する球体だった


俺「…って事は、あんたが闇の核で………いつの間にか闇の神殿に辿り着いていた…いや、あんたがここに連れて来てくれたのか?」

闇の核「そうです……」

俺「そうか…それじゃ、あんたに助けられたんだな。ありがとな」

闇の核「いえ…礼には及びません。むしろ私から貴方方にお礼を言わなければいけないでしょう」

俺「どういう…………あぁ、もしかして、あの手の化け物の事か?」


闇の核「その通りです。あれは、光の核を信奉する者達から私に差し向けられた刺客…ライトブリンガーです」

俺「ライトブリンガー…それがあいつの名前か。いや…まさか、あいつ………等…?」

闇の核「はい…貴方の考える通り、あれは一体ではありません。今もこの次元に向けて、新たなライトブリンガーが迫り来ている所でしょう」


俺「なっ……!?」

闇の核「先程の者は、私が作り出した空間により一時的に封じ込める事が出来ましたが…それも結局は時間稼ぎにしかなりませんでした」

俺「あぁ…やっぱりあの空間を作ったのはあんただったのか」

闇の核「はい…侵入者に備えて、この神殿に入る前の関門として作ったのがあの空間。本来ならば三日目が終えた時点でこの神殿に招き入れる筈でしたが…」

俺「あのライトブリンガーがここに来たせいで、それが出来なくなった…と。ん………?」


あの空間が闇の核により形成されていた物だと言う事…そして、レミが熱を出した三日目…

俺「もしかして…俺やレミに現れた変調って、あの空間と何か関係してるのか?」


闇の核「その通りです。あの空間の中では闇の力との親和性が高まり、より強く結び付くためのきっかけとなる…筈だったのですが…」

成る程…その影響で、急激な変化に絶えられずレミは熱を出した…と言う訳か。しかし…

俺「運悪く…ライトブリンガーの乱入で、逆にその途中で危険に晒される事になっちまった訳か」


闇の核「はい。不測の事態とは言え結果として貴方方の命を危険に晒してしまった事、申し訳なく思います」

俺「まぁ…その辺りはレミも無事だったみたいだから結果オーライだ、新しい力も手に入ったみたいだしな。で、話は戻るんだが…」

闇の核「これ以降…襲来が予想されるライトブリンガーの事ですね?」

俺「あぁ、そうだ。何か手はあるのか?」

闇の核「あります……そのためにも貴方方を此方の世界へお招きしたのですから」


レミ「………ん…………?」

と、そこでタイミング良く目覚めるレミ

俺「起こしちまったか?悪い。今闇の核から話を聞いてる所なんだ」


闇の核「ライトブリンガーの襲撃に備える方法…そして光と闇の均衡を保つ方法…それは、奪われた私の一部を取り戻す事です」

俺「なっ…………!?」

レミ「えっ…………それってつまり………」


つまり………俺達からダークチェイサーを―――

●こづくり

闇の核「いえ、多分誤解をされているようなので解いておきますが、貴方達からダークチェイサーを取り上げようとしている訳ではありません」

あ、違ったらしい。俺とレミは同じタイミングで安堵のため息をついた。

闇の核「彼等は、闇の一部からそれへと変わった時点で既に別物…そして、今では貴方達の一部です。共存する物を引き離すのは本位ではありません」

中々話しが判るじゃないか。だが、それだと…

俺「だったら、どうやってあんたの一部を取り戻すんだ?」

闇の核「失った部分を取り戻すためには…それを新たに作り出すしかありません」

レミ「具体的にはどうやって?」

闇の核「新たに命を作り出す方法…貴方方が命を生み出すに足ると確信する方法で、闇の核を作り出すよう願うのです」


……………ん?

俺「いや……待て?待ってくれ?それってつまり………」

レミ「こ…こっここっこ こっこ……」

落ち着け、どこかの県の銘菓みたいになってるぞ


俺「俺達に子作りしろって事か!?」

よーし言ってやったぞ。どストレートに言ったんだから、誤解も変な言い回しもせずに否定してくれ

闇の核「その通りです(ドンッ)」

はーい、背後で太鼓の音が聞こえました。ドンドンうるさいんだよ!!!


レミ「えーっと………それって、どうしても私達じゃないと…」

闇の核「はい…唯一、同種族の雌雄一対で闇に適応する事が出来た貴方達にしか出来ない事です」


俺「…………」

レミ「…………」

俺「あ、でも……」

闇の核「時間の心配ならば要りません…先程の空間とはまた別の、専用の加速空間を形成しました」

先回りして答えやがった。と言うか、手回しも早いなおい。

そうして次の言葉を紡ぐ間も無く、切り替わる景色…先程のジャングルとはまた違った山奥の森の中。

闇の核「重圧を与えるようで申し訳ないのですが…今この世界の命運は貴方達の双肩にかかっています。どうか、善戦を……」

と、言い残して消える闇の核……


俺「………なぁ、レミ」

レミ「ひゃっ!?ひゃい!?」

顔を真っ赤にしてキョドりまくるレミ。

そう言えば前々から気にはなって居た物の、あえて聞きはしなかったのが………

いやまぁうん、ダークチェイサー達に聞いても無反応だった時点で察するべきだったんだろうが…


俺「お前………ただの耳年増で、実は処女だろ?」

レミ「しょ…しょしょしょ処女ちゃうわ!!」

……………判り易い反応をありがとう。


俺「ちなみに俺…処女厨だけどな」

レミ「ひぇっ!?そ、そそそそそそそれって!?」

不謹慎ながら、珍しく余裕の無いレミを弄りまくる俺。

正直楽しくなって止まらなくなってきたぞ。


しかしまぁ………この場合は何と言えば良いのだろうか。

覚悟を決める…と言えば男らしいんだが

実際は…流される………ってだけだよなぁ


えぇい、もうどうにでもなれ


こうして………俺とレミの、子作りと言う名の闇の核再生作業が始まるのであった



    魔法少女ディヴァインシーカー ―完―

と言う訳で再び…
魔法少女ダークストーカーに引き続きここまでお付き合い下さった皆様、ありがとうございました。

恒例の、先送りにしてレス返しをさせて頂きます。
>128 ですよねー、しかし俺君に自覚はありません。
>129 NOTロリコン!!たまたま好きになった子が幼かっただけですよ?……本当ですよ?
>130 こんな感じで、ライトブリンガーという異形が現れました。
>131 ほぼMOBなので、その辺りは保障できません…
>135 マッドジャナイヨー、一般でありえる範囲ダヨー
>138 大丈夫、この時点のレミはまだ手付かずです。
>139 >140 >141 参考外部リンク。あと今回はストーカーじゃないですよ!
ttp://ejje.weblio.jp/content/divine
>147 すみません、今回ただのMOBです。
>148 >149 149さんと同じく東方が判らなかったのでぐぐってきました。科学を仕事にしてる科学者が、趣味で非科学をやるのはテンプレかと。
>154 >193 教授のその後は、後編でちょっとだけ出ます。
>156 唯一神、対立する神、三竦み。この辺りは、この手のモチーフではどうしても被るテンプレかと。
>163 ぶっちゃけ当たってました。
>165 二人の愛の神殿の出番はこれからです(書かないけど)
>166 ジャングルは神殿に行く前の検問で、そこから別次元の神殿に拾い上げられる感じです。
>182 チジョジャナーイヨ!元々首から下は強化皮膜だから見せてナーイヨ!
>183 その謎は後半で明らかに…!
>184 まぁこの時点では…うん
>185 すみません、来ませんでした。むしろ俺君達が来させられました。
>186 熱病と熱帯夜だけでは熱さが足り無そうだったので
>187 両方倒れたけど無事でした。
>190 予想通りフェイクでした。親和性上げておいて取り上げるとか鬼畜な事はしませんでした。

さて、都合により前後編に分かれてしまいましたが
引き続き後編に移りたいと思います。

●あらすじ

ハルの治療と引き換えに、世界を救って欲しいと頼みに来たエディー

俺達はそれを引き受け異世界へと旅立った。

ハルは治療を受けるため、医療施設へ…俺とレミは、闇の核の神殿へと向かうのだが…

その途中、ジャングルの中でレミを襲う熱病。

追い討ちのように襲い来る、新たな敵『ライトブリンガー』

俺達は辛うじてそいつを倒し、闇の神殿へと辿り着くのだが……

そこで課せられた使命は、闇の核の再生だった。

―魔法少女ダルマサンサーラ―


●じごです

闇の核「ご苦労さまでした…貴方方の尽力により再び闇の力を取り戻す事ができました。これでもう、ここが襲撃に逢う事も無いでしょう。ただ……」

俺「………まだ何かあるのかよ」

レミ「さすがに……また、あれをやるのは……」

思い出して真っ赤になるレミ。

途中からは勢いで物凄い事になってしまったしな………まぁ当然の反応だ

闇の核「いえ、そうではありません。むしろ逆……再生が過剰に行われてしまい、今度は闇の力が強くなってしまいました」


レミ「―――――!!!」


真っ赤になった顔から今度は湯気を噴出すレミ

………まぁうん、遠回しにヤりすぎだって言われたのだから当然だ。

かく言う俺も内心かなり恥ずかしい。


闇の核「と言う訳で……レミさん。余剰分は貴女の管理下に置いて頂きたいと思います」

レミ「え?…それってつまり…」

俺「新しいダークチェイサーにして良い…って事だよな?」


レミ「………!!」


今度は言葉にならない程喜び、俺に視線を送るレミ…くそう、気付くと色々可愛いぞこいつ

俺「んじゃまぁ…ってー事はだ………俺達への依頼はこれで完了って事になるんだよな?」


闇の核「はい…この上無い成果です」

よし………長かったような短かったような旅はこれで終わりだ。

これで後はハルを迎えに行って…治療が終わっているようならそのまま元の世界に帰還。

終わって無いならそのまま待つだけなんだが……


俺「そう言えば、帰りの手段はどうなってるんだ?俺達あの扉とか持って無いぞ」

闇の核「その事でしたら心配要りません。私が元の座標へとお送りします」

と言うと同時に黒い光に包まれる俺達。


目の前が黒で埋め尽くされたかと思うと、今度は元の医療施設の前に立っていた…のだが―――

●いずこへ

エディー「………」

俺「うぉっ!?びびった…待ち伏せかよ!?ってか……そんなに黙りこくって一体どうした?」

エディー「皆様には申し開きの言葉も御座いません……ハル様が攫われてしまいました」

そこに待ち受けて居たエディーの口から放たれたのは、とんでもない言葉だった。

俺「………は?何を言ってんだ!?どういう事だ!?」

レミ「どういう事なのよ!ハルが攫われたって!!」


エディー「お二人が扉を潜り、闇の神殿に向かった直後の事でした…ハルさまがお眠りになった所を…」

俺「誰だ……一体誰が攫ったって言うんだ!!まさか…お前か!?お前が最初から――」

エディー「滅相も御座いません!私の不始末故この命を捧げる事は厭いません!ですが…せめてその前に、ハル様に関して今判る事を聞いては頂けませんか!」

レミ「っ………まあ、攫った本人がわざわざ事後報告するのもおかしいわね。それより、少しでも情報が欲しい所だし…」

俺「それもそうだ……悪い、続けてくれ」


頭に血が上り過ぎて熱くなっていたようだ。そうだ…レミの言う通り。こいつらが攫ったのなら、一々それを報告する筈が無いんだった

エディー「ハル様を攫った犯人は、恐らく光の恩恵派の者かと…」

俺「光の恩恵派?名前からして、光の勢力みたいだが…」

??「そう…光と闇に分かれた派閥の、光側…その中でも最も危険視されている団体さ」

俺「なっ……!? お…お前は!!!」


そして…俺達は思いもしない相手と再会する事になった

俺「ディーティー!!!手前ぇ、生きていたのか!」

右手を巨大なかぎ爪に変え、ディーティーへと襲い掛かる俺…だが、それを遮る見えない障壁

??「おっと、この施設周辺での攻撃行動は制限されてるから無駄だよ。あと、付け加えさせて貰うと…ボクはキミ達が知っているディーティーじゃぁ無い」

俺「どういう事だよ…!!」

??「キミ達が知っているディーティーというのは、ディーティー02…ボクのコピーさ」

レミ「コピーって……」

DT「そしてボクはオリジナル。ダークテイカー、略してDTさ。まぁいきなりこんな事を言われて信じられないかも知れないけど…」

俺「そうだな……お前がオリジナルかコピーかは関係無く、お前が信じられない」

DT「うーん、初対面でいきなり物凄い嫌われようだなぁ。02は相当酷い事をキミ達にしたみたいだね」

右手を戻す俺…しかし、こいつ…DTに対する警戒だけは消す事が出来ない。

レミ「そうね…多分アンタをあと98人くらい殺さないと気が晴れないと思うわ」

DT「それはさすがに困るなぁ…まぁ、ボクに対して憎悪があるのは判ったから、続きを喋ってもいいかな?」

俺「早くしろ」

DT「恐らく、彼等の目的は彼女…ハルくんの魔力だろうね。ハルくんの魔力に関しては知っているだろう?」

俺「………」

DT「で……キミ達が出発…つまりハルくんが攫われてから既に八日が経過している。この意味が判るかな?」

俺「勿体ぶらずに言え」

DT「もしかしたら、最悪の事態…手遅れになっているかも知れない。この意味は判るだろう?」

俺「……っ!!」

DTを切り刻んでしまいたい衝動を必死で抑える俺。

エディー「DT!!それはくあまで想定しうる最悪の事態の中でもこの方達にとって取り返しのつかない事!!口を慎みなさい!」

DT「判った判った………じゃぁ他の可能性に関しても話してみようか。連中の目的はハルくんの力…要は、彼女の力を自由にしたい訳だけど…」

俺「まさか……テレパシー……洗脳!?」

まさにそこの、DTのコピーであるディーティーが使った手段だ


DT「そう…良いセン行ってるね。テレパシーは契約者でなければ使えないけれど、洗脳ならば彼等でも出来る…」

俺「だったら、俺がまたハルを正気に戻せば…」

DT「彼等の手段が洗脳だったら…ね。あと、洗脳解除を行うにしても……これだけの帰還が経ってしまうと、相当強固な物になっている可能性が高い」

俺「だとしても……ハルを助けなけりゃ…」

DT「キミの声が耳に届かない状況さえもありえる…そうしたら、無理にでも聞かせるために行動不能にしなければいけないかも知れないよ?」

俺「っ…………それでも…!!」


DT「ふむ………まぁ、覚悟自体は出来てるみたいだね。じゃぁ改めて聞くけど…ハルくんを助けに行きたいかい?」

俺「当たり前だ!!!」

DT「よし、じゃぁ出発しよう。あの辺りは転送が使えないから、アルバトロス…君達が乗ってきた鳥での移動になるんだけど…」

俺「あの辺り…って、ハルが攫われた場所を知ってるのか!?」

DT「だからボクが呼ばれたんだよ」


含みのある言葉…その真意を汲み取る事は出来ないが、今はDT意外に頼る伝が無いのもまた事実。


俺達は、このDTの言葉に乗せられるまま旅路へと向かうのだが………どうしても不安を拭い去る事が出来ない。

●みちのり

レミ「それで…その、光の恩恵派って言うのは一体どんな奴等なの?過激派って言ったって、色々あるでしょ?」

DT「一言で言えば、狂信者…かな。この世界の法を作り変えようとしている系の」

レミ「どんな風に?」

DT「この世には光の恩恵のみがあれば良い…その結果世界が死へと向かっても、それが運命…抗うなかれ…って法にね」

レミ「………判り易い狂いっぷりね」


DT「それと…死を恐れないが故に、兵士が決死の特攻を仕掛けて来るのも特徴かな。ほら、あんな風に」

DTの言葉に促され、その視線の先を見据える俺達。

そしてそこに居るのは………およそ100人は居るであろう飛行兵と…ライトブリンガー。前回は右手だったが今回は左手のようだ

…さしずめ右手の敵討ちと言ったところか。だが返り討ちにしてやる


臨戦態勢に入る俺達…俺はアルバトロスから飛び降り、落下までの間に巨大な翼を生成。続いて蜥蜴のような胴体を生成し…

物はついでだ、角も生やしておく。

レミはレミでアルバトロスの上に待機したまま、飛行可能なダークチェイサーを分化。良い判断だ。


兵士どもの光の刃はハルのそれとは比べ物にならない程弱く、俺の皮膚すら貫く事は出来ない。

決死の特攻自体は恐ろしいと言えば恐ろしいが、俺の命を脅かすにはまだまだ戦力不足だ。

この圧倒的な質量差の前では、返り討ちにされるだけの空飛ぶ的でしか無い。


そしてレミに至っても……光の刃さえ当たらなければ、何の問題も無い。

先のライトブリンガー戦で見せた、黒い線…それにより大半の兵士を蹴散らし

残った兵士には…圧倒的に機動力で勝るダークチェイサー達の攻撃。


飛行兵の攻撃は掠りもせず、逆に………一人…また一人と撃墜されて行く

DT「成る程…これが噂のダークチェイサーの力か…02め、なかなか良い仕事をしてくれたじゃないか」

まるで自分の事のように喜ぶDT…そうだな、ディティーもダークチェイサー達を殺そうとしなければ、こんな風にしていられたのかも知れない

DT「さて…問題はこいつか…確かライトブリンガーとか言う名前だっけ?」

どうやらDTもライトブリンガーは初見のようだ


俺「もっと上空を飛んでろ!こいつは俺がやる!!」


そう宣言してライトブリンガーへと襲い掛かる俺…

一度は戦った事のある敵で、加えて俺は万全の状態…その上新たに生まれたダークチェイサーにより、あの時よりも更にパワーアップしている。


そう…そこに負ける要素は無かった

DT「成る程…ダークチェイサーの特性が大分見えて来たよ」

砂漠を越え…建築物らしき物が見えて来た所で語り始めるDT

DT「彼女のダークチェイサーは、光の刃に耐性こそ無い物の、変幻自在…分離も可能」

DT「彼のダークチェイサーに至っては…光の刃さえある程度防ぐ程の防御力を持っているのか」

まだ見せていないだけで、レミに言った特徴を俺も持っているけどな。

あと…レミは指示を出さずに扱えるようなった分、反応速度が段違いに上がっている。


しかし、やっぱりレミの方は光の刃に弱かったのか…注意しておかなければ。


…と、悠長に考えている暇も無く、近付いて来る敵の本拠地。


恐らくはあそこにハルが居る。待って居ろ…無事で居てくれ。

●もうすぐ

兵士A「我等が祈願……ハレルヤ様が必ず……」

兵士B「ハレルヤ様………どうか……」

本拠地内部…ここに来てやたらと耳にする名前…『ハレルヤ』


レミ「ねぇ、コイツらがよく口にしてるハレルヤって…人名よね?」

DT「そう…単語の意味としては『光あれ』…何とも光の恩恵派らしい名前じゃないか」

エディー「となりますと、恐らくは…」

俺「黒幕…敵の親玉。ハルを攫わせた張本人の可能性が高いか」

レミ「じゃぁ…そのハレルヤって奴の事も聞きながら倒して行くのが良さそうね」


そうして情報収集を兼ねつつ侵攻して行く俺達…

どうやら、ハレルヤと言うのはこの兵士達の信仰対象…光の核の代行者である事は間違い無いようだ。

そして、そのハレルヤとやらの居場所も突き止める事が出来た。


残念ながらハルの居場所に関しては全く情報が入らなかったが…それももう時間の問題だ、ハレルヤとやらに直接聞いてやる


エディー「DT…現時点に置いて、ハル様の安否に関してはどう考察されますか?」

DT「そうだね…ハルくんの魔力量と今までの光の恩恵派の戦力を考えると…その膨大な魔力を使用した可能性があるのはライトブリンガーくらいか」

エディー「…では………」


DT「それだけの魔力を貯蔵する施設は見当たらないし…精神の安否はともかく、生命に関しては無事であると見ても良さそうだね」

小声で話すエディーとDT…俺達に気を使っての事なのだろうが、悪いが俺には聞こえている。

しかし、精神の安否か………最悪、ハルを相手に戦って行動不能にまで陥らせなければいけない……その事態だけは起きて欲しく無い。

そんな心配をする俺…だが、いつまでもそんな事を考えている暇は無い。

俺「くそっ…今度のライトブリンガーは二体同時かよ!」


現れたライトブリンガーは右足と左足。

●かいがん

辛うじて右足と左足、二体のライトブリンガーを倒す事が出来た俺達。

ハレルヤの居城まであと一歩…となれば当然敵の守りも厚くなってくる。


雑兵も去る事ながら、今度は同時に三体のライトブリンガー……

恐らくは右目と左目……そして、口……いや、外殻に覆われてよく判らないが、恐らくは顎全体か?

右目と左目はその瞳孔付近に光の輪を形成し、比類無い程強力な威力の閃光を…

顎は外殻の上から刃を形成し、襲い来る。


ライトブリンガ-と雑兵を同時に相手にする俺達…混戦を極める中………こう言うのも変だが、眼球ライトブリンガーと目が合う俺。


俺「――――!?」


感じたのは、形容しがたい…えも知れぬ寒気。

その正体に気付く事も無く…いや、勘ぐる隙すら与えられないまま続く攻防。


決着がついた時には、俺達は皆満身創痍…死者が出て来ないのが不思議なくらいだ。


レミ「それで………あとは、この中庭さえ突っ切っちゃえばハレルヤの居城な訳なんだけどさ」

俺「いや……レミの言いたい事は何となく判るんだが………なぁ?」

レミ「でもさ、これっていわゆるお約束…じゃない?」

止めてくれ、それは言葉にしたら起きる類のジンクスだ


DT「今までのライトブリンガーは全て人体のパーツ…と言う事は」


おい止めろ

DT「最後の最後に登場するのは、それらのパーツの集合体…という事かな?」

あぁくそ、言っちまった!


無言で足を速める俺…それに続くレミ…

しかしDTは合いも変わらずマイペースで歩き…

DT「大丈夫、さすがにその心配は無いって。今までのライトブリンガーはちゃんと倒したんだ、倒した相手がそう簡単に蘇るなんて、ある筈が無いだろう?」

俺「……………」

そう言って扉を開くDT………俺達の予想が当たらず安堵した反面、DTの予想が当たった事への悔しさも滲み出る。


くそっ、助かったって言うのに何か悔しいぞ。

●ざんこく

DT「さて………恐らくはここがハレルヤの居る部屋なんだろうけど…」

レミ「今の今まで、ハルと対峙しなかったわね」


そう…俺が一番気になっているのはそこだった


DT「可能性としては…魔力を使い果たして居る。魔力を残し、どこかに監禁されている。ハレルヤと共にこの先で待ち構えている…辺りが高いと思うけど」

俺「どれも碌な状況じゃないな。せめて、最後の可能性だけは引き当てたく無い物なんだが……」

そう言いながらも覚悟を決め、扉を開ける俺。


―――結論だけ言おう。俺達が一番懸念していた、最後の可能性では無かった。


ただ………これは何と言えば良いのだろうか

DT「生命維持用ポッドの中に一人……これが今まで兵士が言って居たハレルヤで間違い無いだろうね」


そうだ、恐らくはそれがハレルヤで間違い無い。

DT「しかし…肝心のハレルヤがこの状態では、ハルくんの所在を聞き出す事は出来ないね」

そこに居たDT以外の全員が押し黙っている。いや………DT以外の誰も喋る事が出来ないと言った方が正しいだろう

DT「よし…大分手間はかかるだろうけど、建物を一つ一つ探して行こう。さすがにほぼ全滅のこの状態で、人質になるハルくんが殺されたりはしないだろう」


そうだな…その通りだ、確かにこの状況で光の恩恵派の奴等がハルを殺せる筈が無い。

DT「しかし、さっきまでのライトブリンガー…このハレルヤって子のパーツを元にして作られて居たんだねぇ」

そう…さっき感じた寒気の正体は正にそれだった。


DT「いや…よく見るとこの子が欠損してるのって、ライトブリンガーに使われたパーツだけじゃないね…脳や頭の一部も切除されて、電極で強制的に……」

レミ「………………て……」

震える声で呟くレミ


DT「ん?どうしたんだい?」

レミ「………めて…………やめてよぉぉ!!!!!」」


その場に響く悲痛な叫び


DT「え?止めるって……………………ぁ………まさか………」

そう…話を戻そう…ハルがハレルヤと共に待ち構えては居ると言う事態は無かった。

この部屋で待ち構えて居たのはハレルヤ一人だった。


いや………違う………


ハレルヤと呼ばれ…狂信の対象にされていた……


変わり果てた姿の……


              ハル  だった

●きうさい

確かにハルは監禁されていた…

確かにハルは魔力を使いきっていた…

確かにハルは洗脳されていた…

確かにハルは生きていた…

喜べよDT、ハルの状況はまさにお前が予想した通りだぞ


俺「………く…そぉぉぉっ!!!」


どうすれば良い?

どう受け止めれば良い?

どう解釈すれば良い?

どうすれば解決する?

どうすれば元通りになる?


奇跡か?魔法か?


いや、魔法での治療だって限度がある。さすがにこんな状態になったハルを……いや、どうなんだ?

俺「なぁ…………治療魔法って………」

DT「言いたい事は判るけど……さすがにここまでの状態になると…ねぇ」

俺「いや…魔法だろ?」


DT「魔法だからって万能な訳じゃないんだ。失われた部位を再生するまでは出来るけど……脳までとなると」

止めてくれよ…否定しないでくれよ………もう他に手は無いんだぞ?

DT「それに、もし奇跡的に脳の再生を行えたとしても。記憶……人格までは……」

おい…奇跡まで前提にした上で否定するなよ。だったら俺は何に縋れば良い?何を頼りにすれば良いんだ?


俺「だったら………俺は一体どうすれば……」

DT「そうだね…君に出来る事は………ハルくんを一刻も早く楽にしてあげる事くらいじゃないかなぁ」

正論だ…あぁ、吐き気がするくらい正論を吐きやがる。

DT…確かにお前は正しい。推測は確かに当たってたし、やるべき事も的確だ。

だが………どうしてもそれを飲み込む事は出来ない


俺「そんな事…そんな事が出来る筈無いだろ!!」

DT「だったらどうするんだい?見なかった事にして帰るのかい?」

俺「そんな訳無いだろ!!!」

DT「じゃぁここに居て何をするのか教えておくれよ」


俺「――――っ!!!」

駄目だ…反論の言葉も出ない。

何も考え出す事が出来ないまま、ただ無為に時間だけが刻まれて行く。

そして…その沈黙を破ったのは―――


エディー「危ない!お逃げ下さい!!」

エディーの声。そしてその原因…ハルだった。

体中のあらゆる場所から光の刃を形成し、何の前触れも無く暴れ出すハル。

そしてその光の刃は、ハルの入っていた生命維持用ポッドを切り裂き…その周囲の壁を切り刻む。

一番近くに居た俺が皆の盾になり、幸い負傷者は出なかったんだが……


俺「ハル………」

レミ「……………」


見るからに…苦しそうにもがくハル。

俺が呼んでもそれに対する反応は無く、ただただ暴れるハル。

ハルの耳にもう俺の言葉は届いていない……いや、届いてもそれが俺の声である事すら判らないのだろう。


俺「俺は…………どうすれば良いんだよ……」

DT「先送りにしたいのなら…ここで彼女を気絶させて連れ帰るという手も無い訳じゃないけど…」

考えを先回りして否定をするな。言いたい事は判ってる。何も解決にならないんだろ!?


レミ「ハルは………」

口を開くレミ

レミ「もしこの状態を自覚したら、どういう事をするか…それを考えてた」

俺「………止めてくれよ…お前はハルの親友だろ?お前は誰よりもハルの事を判ってる………そんなお前が結論を出したら…」

レミ「それはアンタも同じでしょ?本当は同じ結論を出してるんでしょ?」


そうだ………ハルの身になったら答えなんて簡単に出てくる。

ハルは誰よりも自責の念が強い子だ…

そんな子が、俺達を悲しませると知ったら…

俺達に危害を加えると知ったら……


駄目だ……考えるな俺

●とうそう

そして…その考えを遮ってくれたのは当の本人…ハルだった。

暴走し、更に巨大な光の刃を形成するハル…そう、それを目の前にした俺達に選択肢は一つしか無かった。


俺「………逃げるぞ…」

レミ「………っ」


そう…ハルの刃から逃れるべく、逃走を決める俺達。だがハルの形成した刃の丈は異常なまでに大きい。

走って逃げられる距離では無い。

俺なら回避する事は出来るだろうが…レミは?DTやエディーはまず無理だ。

だったら…また俺が盾になるしか無い。


覚悟を決めてハルに向き直る俺。

左手に集中し、分厚い盾を形成する。

下手をすれば…いや、それは考えないでおこう。

今はただ、レミやその他を守るために―――――


刃に備えた俺………だが、俺の身にハルの刃が向けられる事は無かった。


ハルが正気に戻ったのか……とも一瞬考えたが、それは目の前で展開する光景により否定された

魔法少女「アーム2から6まで、イグニッション……バースト!」

俺の目の前に現れたのは見た事も無い……魔法少女。


赤褐色の機械じみた鎧に身を包んだ、黒髪の少女。歳はハルかレミと同じくらい………見た感じ13歳前後だろうか?

小型ミサイルのような物を飛ばしてハルの刃を牽制し、体制を崩させる事で攻撃を逸らしている。

一歩間違えばハルに直撃する…にも関わらず、それらの攻撃の一撃もハル本体を傷付けはしない。恐ろしいまでの正確さ

…そんな状況を前に、どう対応すれば良いのか判らない俺。ただ、その光景を見詰めながら…


その魔法少女に問いかけた。

俺「お前は…一体」

エディー「おぉ、間に合いましたか。ナイスタイミングで御座います」

とりあえずエディーの知人…一応は俺達の味方である事が判った。

だが、魔法少女本人からの返答は無い。


そして、唐突に部屋の奥を指差す魔法少女。

瓦礫の先…そう、そこには例の『扉』があった。


全身から光を放ち、もがきながらも外骨格を身に纏っていくハル…

その光景から推測できる事…それは、残ったハル自身のライトブリンガー化。

周囲を周る刃のせいで、俺達は近付く事すらままならない。


………結局は先送りにしてしまう事になるんだが…今はこうするしか無いか。

俺は巨大な手を両腕に形成し、扉を塞ぐ瓦礫を排除。


他の皆が扉を潜った事を確認して………最後に、ハルを見据えながら俺も扉を潜った

>234 >236 それはほら…あれですよ。えーと………そう、見た感じ13歳前後!あくまで外見年齢!、つまりハルは合法ロリだったんだよ!(AAry
>237 補足レスありがとうございます!

>235 マジカルトラアアアアンス!(違)
そう言えばコミックポラリスに移動してからはまだ過去のリメイクのみで、話しの方は進んで無いんですよね。
少女が変身したと見られるヒーローが出来た所までしか読んでなかったのですが、続きが気になります(´・ω・`)

あと、ザックリですがレミの二段階変身差分
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47378004

●ひかりの

DT「それで……ここは一体どこなんだろうねぇ」

当然ながら湧き出るその疑問を、迷う事なく口に出すDT

真っ白い壁に光輝く球体………俺と…そう、レミもここが何処なのか察しがついていた。


レミ「光の神殿…ね」

俺「そうみたいだな。そして恐らくあれが…」

DT「成る程…光の核…という訳だね」

話がスムーズに進むのは良い事の筈なのに、こいつの察しの良さが何故かむかつく。


DT「となると問題は…何故ボク達がここに来られたのかって事になる訳だけど…」

俺「そんな事………ここに続く扉を潜ったからに決まってるだろ」


DT「いや、それはそうなんだけどね?忘れて無いかい、この神殿には、招かれた物しか入る事が出来ないんだ」

エディー「つまり…私達は光の核に招かれてここに来た…と言う訳ですな」

俺「何のためにだよ」


DT「だからそこが問題なんだよ。闇の側に属するボク達が…」

光の核「否―――…その区分は汝等が教義により後から定義した物でしか無い。何を信仰に置こうと、我等にとっては皆等しく人である」

俺やレミみたいな、明らかに闇の適性がある奴は別なんだろうけどな。


DT「じゃぁその定義に沿った上で…キミはボク達に何を望んでここに招いたんだい?」

光の核「それは……この世の秩序を守るため。現在…本来ならば秩序を守るべき者が、ライトブリンガーとなり秩序を乱して居る。それを止めて欲しい」

あぁ…勘違いしていたが、どうやら光の核が黒幕という訳では無いようだ


DT「あぁ、何となく判ったよ。ライトブリンガーって、闇の核から見たダークチェイサーみたいな物なんだね」

思考が被るのはこの上無く悔しいが、俺もDTと同意見だ。

光の核「その通り…あの者の生成のために我が一部は奪われ、世界の均衡は崩れ去ろうとしている」

お前もか。闇の神殿と言いこの神殿と言い、セキュリティは一体どうなってるんだ。

ってか………こんな状態で闇の核みたいな要求はしてくれるなよ。


DT「成る程…で、奪われたキミの一部を再生させるにはどうすれば良いんだい?」

光の核「我は生み出さず、不変を保つ者。その手段は………無い」

さすがにあんな事の二の舞にはならないみたいだが…それはそれで大問題だ


DT「だったら、ボク達は何をすれば良いんだい?」

光の核「ライトブリンガーを討ち滅ぼし、我が一部を取り戻す事…それより他は無い」


俺「―――――っ!!!」


くそっ!どいつもこいつも!!揃いも揃ってハルを殺す事にばかり話を持って行こうとしやがる!

俺「ふざけんな!!!」


DT「キミの言いたい事は判るよ。ボクとしても、正直世界を救うための犠牲としてハルくんを殺す事には賛同出来ない」

あぁくそっ…何でこいつはこんなにも俺の心の先を読んでくるんだ!!

DT「でも…この世界とは関係無しに、ハルくんを止めなければいけないとも思っている」


もう止めてくれ…俺の逃げ場は無いのかよ…俺の逃げ場………

あぁ、そうだよな………結局俺って逃げてるだけなのか。

ハルを助けられるかも知れないって可能性を言い訳にして、それに飛びついて縋ってるだけなんだ。


俺「そう……なんだよな。俺が……俺がちゃんとしないと…ハルは…駄目なんだよな…」

覚悟を決めた…とはとても言えないが、少なくとも現実だけは見えた。

レミ「………」

心配そうに俺を見詰めるレミ。俺って本当にだらしがないな、こんな女の子にまで心配をかけるなんて。


そして、ふと…もう一つの視線に気付く。


俺達を助けてくれた魔法少女だ。

目隠しともゴーグルともとれるマスクのせいで素顔は見えないが、不思議とその視線は感じる事ができた。

俺「あぁ…そうだ…助けて貰ったってのにまだお礼も言ってなかったな。ありがとう…えっと…」


そうだ、そう言えば名前も聞いてなかったんだ

エディー「あぁ、そう言えば紹介をしておりませんでしたね。この方は―――もがっ!?」

と、何故か紹介の途中でエディーの口を塞ぐ魔法少女。


魔法少女「……………カライモン」

エディ「えっ!?」

カライモン「…………」

短い沈黙の後、魔法少女の口から発せられた単語…

カライモン…何語なのだろうか?とにかくそれが彼女の名前らしい。


エディ「…は、はい。そうで御座います。彼女の名前はカライモン…貴方方と同じく、特殊な資質を持っている魔法少女です」

成る程…それは何とも頼もしい。戦力に至ってはついさっき見せて貰ったばかり…申し分無い。

俺「じゃぁ頼む、カライモン。俺達に力を貸してくれ」

カライモン「………」

無言で頷くカライモン。


これで、成すべき事は決まった。


あまり嬉しい事では無いが準備は整った…


この上無い程の詭弁に吐き気がするが………

ハルを殺すためでは無い…

ハルを…救うための…

そして、ハルの思いを守るための…



戦いが始まる

●はれるや

手足…そして顔の殆どと頭部の一部を失った巨大なハル………いや、ライトブリンガー・ハレルヤ。

しかしその様相に反し、持ち得る力は強大の一言に尽きる。

手足が無くとも周囲の光の刃が万物を切り裂き、五感は不要…何も感じる事無く、その必要も無く…ただ破壊の限りを尽くしながら突き進む。


俺「手心とか…そんなのを無しにしても、勝てるのか?…あれに」

カライモン「………」

レミ「勝たないとダメよ……ハルのために」


そうだな…その通り。そうだと決めた以上、全力でやらなければいけないだろう。

俺は全身のダークチェイサーを開放し、巨大な獣となる。

像のような牙に、前に向かって捻じ曲がった角…空を舞う翼に、爬虫類の尻尾。首回りを守る鬣に、大地を掴む脚。


この戦闘を行う上で、今出来る最適のイメージだ。

ゴングは無い。いつ始まるかは判らない…いや、ここに来た時点で始まっているというのが正しいか

俺はハレルヤに向けて突進を行った。


レミ「嘘…………」


が……まず驚きの声を上げたのはレミだった。

突進を受け止められるくらいの想像なら俺もしていた…だが、これは流石に予想外としか言い様が無かった。

ハレルヤに近付いたその瞬間…まさにその一瞬で削り取られる角と牙。

もし途中で止まらずに突進を続けていたのならば、恐らく……


DT「不味いな……あれは恐らく、不可視の速度で回転している刃だ。レミくんの黒い線も恐らくは先に切られて……殆ど無力だろうね」

成る程…確かにそれらしき物を受けた感覚はある。

だが…だからと言ってここで止める訳にも行かない。

こうなったら根競べだ。俺の再生とハレルヤの刃…どちらが先に尽きるのか!



牙と角を削り取られ…そしてまた生やし、突撃。

進展も無く、消耗が続く行為………だが、俺はそれを止めない。

削り取られようと…弾き飛ばされようと…折られようと……

尽きぬハルへの思いを貫き通すように、何度でも…何度でもそれを再生して突撃を繰り返す…


が……

俺「くっ……!!」

訪れるのは質量の限界…角の再生に質量を費やした事で、体躯は既に最初の3分の1以下…

更にその状態で、再生するだけの質量が尽き……言うまでも無い絶対的危機。

だが、そんな状態だからこそあえて言える…俺の…俺達の信念は負けては居ないと


レミ「こん………のぉ!!!!」


外殻だけを形成…即座に分離して刃の軌道上に射出するレミ。更にその激突と共に黒い線を走らせ……

鳴り響く乾いた音と共に、ここに来て初めて欠けるハレルヤの刃。


カライモン「………」

そして、トドメとばかりにカライモンの一斉掃射………俺の角にぶつかり皹の入った刃が、次々と乾いた音を立てて砕けて行く。

失われ行く不可視の刃…そう、これが俺達の反撃の決定打となる筈だったのだが…………


カライモン「―――――っ!!」

俺達を出迎えたのは、無慈悲な絶望だった。

突如ハレルヤの体を覆うように周囲に現れた光輪……いや、あれは


レミ「光の刃の軌跡…って所かしらね」

先程までの不可視の刃とは段違いの威力と、実質上耐久限界の存在しないそれ…

心身ともに消耗した今の状態で、回避しきる事は不可能だ。


ダメだ………今の俺達に、打つ手は残って居ない。

●ろんそう

闇の核「光の核よ…」

光の核「闇の核か…汝がこの神殿に訪れるとは、どういう意図だ?」

闇の核「一つ…貴方と相談したい事がありまして」


光の核「我と汝は、対となり相容れぬ存在………それを判った上で、何を語る?」

闇の核「ダークチェイサーとライトブリンガー…それらを宿した彼等の事です」

光の核「良かろう…では聞こう」


闇の核「彼等は本来、光とも闇とも関わる事が無い筈だった存在…それが今のような状況に陥っているのは、我等が原因でしょう」

光の核「その結論には相違無い」


闇の核「そして、そもそも…この世界において我等が存在しなければ、この争いも存在しなかった」

光の核「否…我等が存在しなければ、今のこの世界その物が存在していない」

闇の核「では、演算を求めます。この世界が存在した上で、争いを起こさずに居られた方法は?

光の核「存在する」


闇の核「私はその内の一つの方法を取ろうと思います。さぁ…共に行きましょう」

光の核「その提案は拒否する。そして、此方からも演算を要求する」

闇の核「何でしょう?」

光の核「現状況から、ハレルヤと呼ばれる存在を討ち果たす手段…そして――――」


闇の核「存在します」

光の核「では確認する。その方法を実行する意思はあるか?」

闇の核「ふふっ…さすがにそれを拒否したら、闇の核の名が地に落ちてしまいますね」


光の核「同意に感謝する」

闇の核「それにしても………最後の最後に恰好付けた事をするではありませんか。まるで昔のようですよ?」

光の核「………だろう?」

●ちからを

ハルを中心に、幾重ににも生成されていく光の輪…

エンジェルハイロウと呼ぶには余りにも凶悪な力を秘めたそれが眼前に迫り

今正に俺の頭を削り取りに来ている。


俺「くそっ……こんな所で……まだ…ハルを…ハルの心を救えて無いってのに…!!」


    『汝は力を求めるか?』


突然頭の中に響く声…

勿体を付けては居るが、この声は光の核だ

俺「俺が求めてるのは力じゃない…ハルの安息だ…」


    『では要らぬか―――』


  は?


俺「いや待て、くれるのか!?俺にくれる力があるのか!?だったくれ!!ハルを助けるための力をくれ!!!」

    『そう言っている…では、我等が汝の力となろう』


我等?我等って事は複数型だよな?って事はつまり………

と、考えを纏める暇も無く…俺の目の前に広がる光と闇の渦。

それはハレルヤの刃を弾き………直後、俺の中へと入り込んで来る。


むせ返るような力の奔流…頭の中で明暗を繰り返すような衝撃。


そんな無茶苦茶な存在の中で、俺の意識は辛うじて片隅にしがみ付き………

レミ「え……?何…あれ」

エディー「あれは…彼、なのでしょうか?」

カライモン「……………」

DT「うーん…実に興味深い…」


皆が俺に視線を向け、口々にその真偽を確かめている…

その様子だけでも、俺の姿が変わっている事は判る。

あれだけの力が俺の身体の中に入って来たんだ…ダークチェイサーによる変質程度では済まない程の変化があったとしても驚く事は無い

恐らくは、生物としての原型すら保って居ないのかも知れない。だが…ハルの心を救うためならば、俺の身体の一つや二つ―――


カライモン「…………しかし、さすがにあれは…」

ん?何だその反応は


DT「そうかい?ボクは好きだよ、あぁいうの」

待て、どういう流れだこれは?


レミ「私も…アリかナシかで聞かれればアリな方だけど……ちょっと中二病過ぎるかな?」

いや待て、レミに中二病って言われるのってどんな外見なんだ!?


俺は恐る恐る自らの身体を見下ろす。

まず手は……外骨格に覆われた人間の手だ。黒い外骨格に、ライトブリンガーのような金の縁。

確かに中二臭いが、レミに言われるほどでも無い。

手以外の部位も、同様…となると後は……


俺はダークチェイサーにより蛇の頭部を作り出し、自らの姿を見る


俺「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁ!!?」


仄かに銀色がかった白い髪……そして窮め付けに、金の右目と銀の左目のヘテロクロミア!


中二病の定番中のど定番が来やがった。

●かれらの

光の核『身体の変異に戸惑うのも無理は無い…だが、今はそう言っていられる状態でも無い』

俺「戸惑ってるのは、身体が変異した事よりも変異した結果のせいだけどな!?」


原因その物が真面目な顔をして言わないでくれ…って言うか…ん?

何か今、俺の中から声が聞こえたぞ?


光の核『当然だ、我等は今汝と一つになっている』

俺「……はっ?」

闇の核『そう…私達と一つになる事で、貴方はその力を行使する事が可能となったのです』

お前もかよ。と言うか…


俺「いや、それって……光の力も俺の中にあるって事だよな?俺の中のダークチェイサー達は危なく無いのか?」

光の核『全く影響が無い…と言う訳では無いが、彼等は光の力に対しての耐性を持っている』

そう言えばDTもそんな事を言っていたような…


俺「それは何でだ?ってか、そういうのも判るのか?」

闇の核『闇の力が貴方との共生へと向かう際、光の影響を受け…それにより耐性を得るに到ったようです』

あぁ、そうか………そう言う事か


あの時…ハルが俺に治療魔法をかけてくれたから………


俺「それで……具体的にはどのくらいの影響が出るんだ?」

光の核『一定時間以上この姿を保った場合、ダークチェイサー及び汝の生命に影響するダメージを残す』

俺「その一定時間ってのは何どのくらいだ?」

良かった…口ぶりからすると、ずっとこの姿で居なければいけない訳でも無さそうだ。


光の核『汝の体感時間で5分だ』

俺「……って、もう殆ど無駄話で消費しちまってるじゃねぇか!!!」


となると、もうこれ以上時間を無駄にする事は出来ない。

残された時間で何が出来るか………


確か、光の核と闇の核の力が両方使えるんだったよな。

じゃぁまずは生成だ………右手にはライトブリンガーの刃…左手にはダークチェイサーの爪…

そして、どんな行動を起こせるのか…とりあえず俺が判って居るのは……


闇の核の、加速空間だ。

●しんそく

体感時間…実時間ではなく、俺の体感にかかる時間制限。

つまりは、加速している間にも刻一刻と迫るそれ。

一秒たりとも無駄には出来ない。


俺は自身の存在に干渉し…加速する。

停止する世界…いや、僅かだがスローモーションで動いている世界。

正確には俺が早く動いているだけなのだが…そこはまぁあくまで主観という事でまとめておく。


…少し動くだけでも、空気の壁がまるで分厚いゴムのように俺の行動を邪魔してくる。が、今の俺には大した問題では無い。


まず行ったのは、光の輪の破壊。

比類無き攻撃力を誇るそれだが、同じくライトブリンガーの刃を以って輪の腹を叩く事で、簡単にかき消す事に成功。

…形成した刃の軌道を潰しただけで、再構築されれば意味は無いのだが……今はそれで充分。


そうして、ほんの数秒でその全てを消し去る事が出来たのだが………ここからが最大の問題だ。

身を守る光の刃を失い、ただその身を曝け出す事となったハレルヤ…ハル。


決意はした……した筈なのに俺の手は震え、心臓の鼓動が激しく身体を駆け巡る。

殺す………

ハルを…

俺が…

この手で……?

踏み込めない一歩…しかし、刻一刻と迫る限界…

そんな時…


一瞬…俺の脳裏に浮ぶハルの笑顔。


俺「あぁ……そうだよな………俺がしっかりしないとな………」

左手を振りかぶる俺


俺「さよなら…ハル」

そして振り下ろすは、ダークチェイサーの凶悪な獣の爪………


俺「ゴメンな…それと……今まで…ありがとな………」


その爪は……

ライトブリンガー・ハレルヤの…

頭を…胴を引き裂き………

その存在を…

闇へと塗り潰して行った…………


  「ワ タ シ コ ソ」


俺「ハル!!!」

幻聴かも知れない…

言葉を話す事は愚か、思考すらままならない状態だったハルからは紡がれる事の無い言葉。


ただ俺は……

気が付けば、大粒の涙を流していた。

●まだまだ

レミ「………」

DT「………」

エディー「………」

カライモン「………」


全てが終わった……そう、世界を救う戦いも…ハルの命も。

この場で言葉を発する者は一人も居ない。


………筈だった


DT「さて…どうしようか」

少しは空気を読め…

俺「どうしようもこうしようもあるか………ここから何をするって言うんだ。一件落着を気取って帰りたいなら帰れ」


DT「何を言っているんだい?」

俺「………お前こそ何を言ってるんだ!!こんな状態で…!!!」

DT「何って、ハルくんの事に決まっているじゃないか」

俺「これ以上ハルに何を望むって言うんだ!いい加減にしろ!」


DT「いい加減にする気は無いね。ボクが望むのはハルくんの復活だもの」

俺「………は?」

俺は頭の中が真っ白になった


俺「いや…待て、ハルが生きていた時点でも治療を諦めていたお前が…」

DT「だから、それはさっきまでの話。光と闇の核の力をキミが使えるようになったと言うなら話しは別さ」

俺「………は?」


DT「例えば…ボクや必要な資材を加速空間に放り込む。そしてボクはその中でハルくんを記憶ごと再生する手段を開発する…とかね」

俺「なっ―――」

何を言っているんだこいつは?

俺「それはつまり……終わりの見えない牢獄に閉じ込められるような物じゃないのか?」

DT「そうだね」

俺「判ってるんなら、何でそんな事を………」


DT「元はと言えばボクのコピー…02の起こした事…そして、02がそんな事をしてしまった原因は多分ボクだからね」

俺「………罪滅ぼしのつもりか?」

やめてくれ…そんな事を言われたら、俺はお前を憎めなくなる。


DT「まさか?そんな事で帳消しになるなんて思ってないよ」

くそっ……!!

DT「それに…脳の再生までなら、未完成ではあるけど見込みはあるんだ。後は、どうにかしてハルの記憶を取り戻す手段を―――」

俺「駄目だ……そんな不確定な事に使う余力なんか無い」

嘘だ…俺がそれをしたくないだけだ

DTの罪悪感に甘えて責任を押し付けるような事をしたくないだけだ。


DT「だったら何か腹案があるのかい?」

俺「無い………でも何か出来ないのか?もっと他に……」

DT「あぁ…なら彼等に直接聞いてみれば良いんじゃないかな?」


そうだ…さっきは時間が無くて聞く事が出来なかったが、今ならコイツ等に何が出来るのか聞けるんだ

そこで一つ…俺の中にある一つの可能性が浮かび出した。


俺「なぁ……お前達って、時間の流れを操ったりできるんだろ?過去に…ハルが、ハレルヤになる前に時間を戻したり出来ないのか?」

●そうだん

光の核「理論上は不可能では無い…が、それを行うための力を得る手段が存在しない…故にその案を実行する事は出来ない」

DT「時の流れは基本不可逆…戻す規模に応じた力と、状態の記憶が絶対的に必要になる訳だからね」

闇の核「そう…時を巻き戻すためには、その瞬間に発生している力以上の力を発生させる必要があります」


俺「だったら…だったらよ。何とかして俺がそれだけの力を…」

DT「それだけの力を発生させた時点で、更にその時を巻き戻すためにそれ以上の力が必要になるね」

俺「何だよそれ……ビデオテープを巻き戻すみたいにもっとこう、簡単に出来ないのかよ…」

DT「ビデオテープを巻き戻すと言うのは…構造上、幾つも存在するコマの一つを再生者の意思でその時点まで巻き戻すだけだろう?………いや、そうだね」


俺「何だ…?どうした?」

DT「ビデオテープだよ。ビデオに映っている範囲と同じ………ハルくんだけを巻き戻すだけなら?」

光の核「定義による…状態の再構築を行う事は可能だが、客観的に認識した場合にその存在が巻き戻された物として認識可能かどうかは別問題」

俺「いや、それで十分じゃねぇかよ!!」


光の核「世界全体の観点…いや、汝の観点からかしても…厳密には同一の連続性を持ったハルとは言えない。それでも構わないのだな?」

俺「そこまで贅沢は言わねぇよ!良いからハルを戻してくれ!!」

光の核「それならば可能……だが、それを行うにも問題がある」


俺「何だ、俺に出来る事なら何でも強力するぜ」

闇の核「それは心強いですね…実はここまでは光の核とも思案した事なのですが。ここから先は、貴方方にしか出来ない事ですから」

レミ「それって…私にも何か出来るって事?」

闇の核「その通りです」


俺「じゃぁ言ってくれ、俺達は何をすれば良い?」


光の核「光と闇の核…双方が保持するアーカイブ…世界の記憶の中から、再構成に必要となるハルの存在を検索して貰いたい」

俺「………何だそれ、どういう事だ?」

レミ「アンタ達自身が検索出来ないの?自分達の記憶なんでしょ?」


光の核「我々は共通の見解を持つ事はあっても、共通の主観を持つ事は無い…故に、過去の事象に確定した判断を齎すためには第三者の観測が不可欠」

DT「要するに…二人の意見が合わないから、キミ達に決めてく欲しいって事だね」

俺「何だよそれ………んでもまぁ、それでハルが助かるってんなら…やってやろうじゃねぇか!!」


DT「とまぁお互い簡単そうに言っちゃってるけど……人の身で世界の記憶に触れるなんて、無茶も良い所なんだけどなぁ…」

俺「無茶の一つや二つ、こなしてやるさ」


と豪語する俺………だが、もう二度と無鉄砲な判断はしないと誓ったのも………この後すぐの事だった

●さいげん

闇の核「まず始めに警告しておきますが………私達のアーカイブは、異物の混入を想定していません」

光の核「故に…一度異物が入り込めば、その時点でアーカイブは崩壊を開始する」

俺「時間制限付きか……しかも…」


レミ「壊れるって事は…チャンスは一度っきりって事よね…」

闇の核「その通りです。そして、時間内にアーカイブからの脱出を果たさなければ…」

光の核「汝等の精神もまた、アーカイブと共に崩壊する」


DT「具体的には、脳内伝達信号が暴走してニューロンネットワークをグチャグチャにしちゃうって事だろうね」

いらん説明をありがとうなこの野郎。

闇の核「確認します…その危険を冒してまで、貴方達はハルさんを取り戻しに行きますか?」


決まっている。

俺&レミ「「当然!!」」

闇の核「判りました…ではお二人とも、目を閉じて下さい」


言われるままに目を閉じるレミ…と俺。

一瞬の浮遊感が襲い掛かった…かと思えば、今度は身体全体に重苦しい重圧がかかり……

闇の核「さぁ…目を開いて下さい」


目を開くとそこは………ノイズの中だった。

ノイズと言われて何の事か判らないかも知れないが、そうとしか説明のしようが無い。

放送の終わったテレビの砂嵐のように、白と黒が入り混じったノイズの景色……


そして耳に飛び込んで来るのは、脳を揺さぶるような雑音の波。

俺「何だこれは…ここがアーカイブなのか?本当にこんな所にハルが………」

レミ「待って、何か聞こえる!これは…声?」


レミの言葉に促され、耳を澄ませる俺………

「あーもう、マジ信じらんない」

「腹減った…何食おうかな」

「ついにやった…この術式が完成すれば!」

「以上の通り、わが社の利益は…」

「センパーイ、今行くッスよ」

「お前の髪質って、サイドテールに向いてないよな」

「これが闇の核…」

「何故だ…何故奴等に勝つ事が出来んのだ!」

「やっば、宿題忘れちまった」

「帰りどこ寄ってく?」

ノイズに混じって聞こえてくる声………いや、違う。


俺「このノイズ自体が…声の集まり?いや、声だけじゃない……」

今度は目を凝らして砂嵐を見る俺…そこは幾つのも景色が折り重なって作られたモザイクだった。

俺「そうか…そういう事か」

やっと判った……これがアーカイブの仕組みか。

と言うか、こっちの世界だけじゃなくて俺達の居た世界の記憶まで持ってるのかよ…


レミ「これを遡って…この中からハルを探し出せば良いって事ね」

俺「そういう事らしいな」

闇の核「はい、その通りです」

判ってしまえばどうという事は無い。ほんの少しだけ…アーカイブの過去へと向かう俺。


だが…

俺「何だこれ…星空ばかりで何も無いぞ?」

光の核「当然の事…それはこの星が生まれるよりも前の記憶だからだ」

………一体どんだけ前から居るんだ、こいつら。

もっと細かく……そして、もっと狭めてアーカイブを探す俺。


ハル「大変!彼がダークチェイサーに襲われちゃう!」


俺「!?」


ハルの声だ!

重なるノイズの奥から聞こえたハルの声

俺はそのハルに手を伸ばす


……が…間に合わずにかき消える。

俺「なんだよこれ!今確かに…」


光の核「今確かにハルという少女の存在はそこにあった…だが、ただ闇雲に手を伸ばしただけでは…それを掴む事はまず不可能」

レミ「ハルの存在をしっかりと認識して。方向…場所だけじゃなくて、深度まで見極めた上でハルが居る場所を掴まなければいけないみたいね…」

闇の核「その通りです……そして、もうあまり時間がありません。急いで下さい」


くそっ…慎重さが必要って時に急かすなよ

レミ「あ、あそこ!」

俺「っ!!!」

遡り…また進んでは探すハルの存在。

見付けながらも掴む事は出来ず、俺の手を摺り抜けて行く。


だが諦めない。何度でも………


闇の核「…………残念ですが…」

おい、勘弁してくれよ

光の核「もう限界のようだ…汝等をアーカイブから…」

あと少し…あと少しなんだ。あと少しでハルの存在を掴めそうってその時に……


レミ「お願い!もう少しだけ…もう少しだけ探させて!!」

光の核「ここに留まるのならば、命の保障は…」

俺「そんな事は判ってんだよ!良いから続けさせろ!!」

過ぎた無鉄砲…アーカイブの崩壊に伴い、頭の中を駆け巡り始める痛み…恐らくはレミもこの痛みを感じている。

それでも手を止めない俺達…だが、限界はもっと判り易い方法で訪れた。


レミ「アーカイブの存在自体が……」

そう…ヒビ割れ…崩壊して行くアーカイブ………

過去も…現在も………ハルの居たと思われる瞬間も………

ダメだ…ハルを探すどころか、脱出すら出来るか判らない。

諦めるべきか?


いや、諦めない!どうする?どうすれば………

そうだ、いや…出来るのか?

出来るかどうかなんて試せば良いだけの事か


俺は……加速空間を自分自身に使った。

闇の核「私達の中に存在しながら私達の力を使うとは…また無茶をしますね」

光の核「確かにこの方法を使えば、アーカイブからの脱出も…」

俺「いや、俺はハルを探す!限界のその瞬間まで!!」


闇の核「………」

光の核「………」


闇の核「判りました。では、私が何としてでも崩壊の寸前に貴方方をアーカイブから排出します」

光の核「我はその瞬間まで可能な限りハルの存在する区画を守ろう」

俺「……お前達………ありがとな」


小さく礼を言い、ハルの存在を探す俺……

くそっ…ここも崩壊してる

ここはまだハルが生まれる前……

ハレルヤになってからじゃ遅いんだ!!


ぁ…………

しまった………


  加速空間が途切れた



闇の核「もう限界です。強制排出を行います」

まだ………いや、ダメだ…レミが居る………

俺一人ならここに残って消えても悔いは無いが、レミまで巻き添えには出来ない。


そんな事を考えた一瞬…その一瞬に夢を見た。

『やっと……やっと目が覚めたね、二人とも……』

『……おかえり』


俺「―――!?」


何だったんだ今の光景は?

それを熟考しようにも、もう時間が無い…時間が………


俺「―――――」


そう…

正に一瞬…

一瞬の夢の後に見たそれ

俺は必死でそれに手を伸ばし……

…………そこで意識が途切れた。


そう…アーカイブからの強制排出された。

ついつい書いてしまったので、魔法少女カライモン投下
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47486669

●ふたたび

エディー「皆様方、ご無事ですか!?どこかお変わりは―――」

頭の奥までガンガンと響く声…エディーの声だ。

頭の中は最悪なまでに痛みが走り、視界は真っ白に染まっている。

ただ、身体に伝わっている感覚だけはハッキリと感じ取る事が出来る。

左腕には、抱きしめているレミの身体……


そして………


右手には…………


??「ん…………あれ?ここはどこ?」

そう………

レミ「っ………」

??「え…レミちゃん?」


レミ「あ……………ぁ………」

??「何?どうして泣いてるの?」


レミ「―――――ハル!!」


ハルの右手を、しっかりと感じていた。


ハル「え?何?何があったの!?」


レミ「お帰り………ハル…」

ハル「お帰りって……まずここが何処だか判らないんだけど……」


俺「ま、今は判らなくてもしょうがないさ…その辺りはまた後で…」

ハル「あ、あの……」

俺を見て何か言い淀むハル…


そして気が付けば、右手を捩じらせている

あぁそうか…嬉しさの余り強く握り過ぎていた。

俺「おっと、悪い。あまりに嬉しくて…つい、な」

レミ「やった、やったよ!ハルが帰って来た!!」

俺「判ってるって。ってかそんなにはしゃぐから、ハルが置いてかれちまってるぞ?」


ハル「あの、一つ聞いても良いですか?」

まぁ、本人としては事態が飲み込めて居ないのだろう

俺「あぁ、何でも聞いてくれ」

今の俺なら、どんな質問にんだって答えられる気がするぜ

それこそ、最近お気に入りのエロ本の在り処だって……


ハル「貴方は………誰ですか?」

●かたすみ

俺「…………え?」

ハル「あ、レミちゃんの知り合いですよね?それは判ります」

レミ「………」


ハル「で、でも……その、私…初対面の人とは………話すの、苦手で………」

エディー「これは………」

DT「ふむ………」


各々が今のハルの状況を思案する中…まず始めに動いたのはカライモンだった。

ハルと俺との間に入り、ハルの方を振り向く

カライモン「…私の顔…若しくは、私に似た感じの親戚の顔に覚えは?」

と言って…俺の方からは判らないが、恐らくゴーグルを取ってハルに顔を見せるカライモン。


ハル「え…?いえ、すみません…判りません」

カライモン「………そうか」

そう言って再びゴーグルを付け…今度は首を上下に何度か往復させて居る。

俺の視点からでは何をしたかったのか判らないが、カライモンは何かを納得したようだ。

そして…


カライモン「このハルは恐らく、魔法少女になる前のハルだ」


俺の中で意図的に除外していた可能性を口に出してくれた。

DT「成る程…そっちだった訳か。ボクとしては、記憶喪失の方が良かったのだけど」

あぁそうだ、俺も全面的にお前に賛成だ。


ハル「え…?魔法少女?一体……」


俺「あぁ、いや。イベントの話しな?ほら、ここの皆を見て貰って判ると思うんだが、ここってコスプレ会場なんだよ」

レミ「アンタ……」

俺「で、ハルちゃんはレミちゃんの付き添いでここに来てたんだけど…さっき階段から落ちて頭を打っちゃったみたいでさ」

ハル「えっ…」

俺「多分そのせいで色々記憶があやふやになっちゃってるんじゃないのかな?」


ハル「でも…さっき、記憶喪失がどうとか…」

俺「そうそう、記憶喪失じゃなくて一時的な記憶の混乱だったってだけ。いやぁ、本当に軽症で済んで良かった」

ハル「でも私、頭なんて…」

俺「頭ってのは、外側が痛くなくても異常を起こしてる事があるんだぜ?多分その事も記憶から飛んでるんだろうな…」

俺「そうだ、念のために病院で診て貰おう。近くに病院があった筈だよな?カライモン、連れてってやってくれよ」


カライモン「………キミがそれで良いのならば…」

俺「あぁ…頼む」

カライモン「………承知した」

そう言って『扉』を潜るカライモンとハル


ハルには悪いが、ここから先の会話に参加して貰う訳にはいかない。

レミ「アンタ………本当にそれで良いの?ハルに本当の事……」

俺「言う訳にはいかないだろ。あれは俺達に…いや、俺に出会う前のハルなんだぜ?」

レミ「だからって…」


俺「ディーティーに出会う事も無く…普通の女の子として暮らせる筈だったハルなんだ」

レミ「………」

俺「折角取り戻す事が出来たその時間を、俺の身勝手で壊す訳にはいかないだろ」

レミ「…………駄目よ、そんなの不公平すぎる。ハルはアタシの事は知ってるけど、アンタの事を知らないなんて…」

コイツは本当…変な所で律儀なんだよなぁ


俺「それはレミがアーカイブで頑張った分のご褒美って事で良いんじゃないか?」

レミ「だったら…それこそアンタが!!」

俺「俺のご褒美は、ハルが生き返ってくれたって事だけで十分だ……」

レミ「――――っ!!!」


俺「それより…頼みたい事があるんだ」

レミ「………何?」

俺「ハルには記憶喪失じゃないって事にしといたけど…ハルの周りの人達には、記憶喪失だって事にしといて欲しいんだ」

レミ「えっ……」


俺「そら、帰って来たハルの記憶と今までの時間の分で…大分時差が出来ちまってる筈だろ?」

レミ「それはそうだけど…」

俺「勉強の遅れはこっちとあっちの時間差で何とかなるとしても…やっぱ周囲の人間との認識の差ってのは、理由付けが必要だと思うんだよな」

レミ「それでハルには…アンタが言ってた事は早とちりの間違いだったって言っておけ…って事よね?」

俺「あぁ、それで頼む。診断に関しては知り合いのコネを頼れば何とかなると思うし……」


DT「あのさ…突っ込むのは悪いかと思って黙ってはいたけど……」

じゃぁ喋るな

言いたい事は判ってる。


DT「恰好付けてるだけだよねぇ?キミ」

当たり前だ

レミ「何で?何でそこまで我慢するの?」


俺「そんなの……ハルのために決まってるじゃないか!」

レミ「でも…でも………!」

俺「もし今この瞬間、お前の目の前に知らない男が現れて『お前の恋人だ』なんて言われたらどうする!?」

レミ「それ……は…………でもっ…」


DT「だったらさ…」

だからお前は口を挟むな

DT「涙を流すの…止めなよ」


うるさい、止められるならとっくに止めている

●ひとりの

俺「……………」

あの出来事…異世界での騒動から1ヶ月。

アルバイトだけは惰性で続けては居る物の、殆どが無気力で過ごす毎日。

あの時の俺の行動は正しかったのだろうか?

いや、あの行動がハルにとってのベストだった筈

繰り返す自問自答。


光の核「あの選択は無難…自らが負債を背負う事となったが、ハルの人生を取り戻した」

いや、訂正する…他答してくれる奴が居るには居た。

闇の核「しかし、今のまま無気力で居るのも沈み込むのも良く無い事…何か目的を探してみては如何でしょう?」

俺「目的…か…そうだな…」

闇の核「ハルさんと同じようにとは言いませんが…生まれ変わるのも一つの道かも知れません」


俺「生まれ変わる……か。そーいやぁ、あっちの世界はどうなったんだ?お前達が居なくなったから、大分変わっちまうんだろ?」

闇の核「そうですね…私達が居なくなった事により様々な法則が変わり、文字通り世界その物が生まれ変わるでしょう」

光の核「しかし、心配は不要…我等が消えた新たな世界…法その物が生まれ変わった世界でも、彼等は生きて行けるだろう」


俺「成る程な、逞しい物だ。それを見習って、俺も少しは変わってみるか…」


本棚の中から一冊の本を取り出す。

昔、何故か買ってしまった外国語の辞書だ。


俺「直訳すると………ダルマ…サンサーラ…か」

俺「そう言やぁ…大分話しは変わるんけど、アーカイブから排出される寸前に変な夢を見たんだが……」

闇の核「あれは恐らく、在り得た可能性の一つ…アーカイブの情報から演算された物かと」

俺「んじゃ、結局はただの夢か…」

闇の核の言うように、ただの可能性なのか…それとも………いや、ここで考えても証明する手段が無い以上は無駄か


そんな思考を巡らせる俺…

そして、その思考を遮ったのは…不意に、部屋の中へと響いた足音。

俺の他に誰も居ない…いや、居なかった筈の部屋に現れたのは、魔法少女…カライモンだった


俺「あー………っと、いきなりどうした?何か用か?」

カライモン「…………」

肯定も否定も無く、ただ沈黙するカライモン。


俺「あ、そー言やぁまだハルの件でちゃんと礼を言ってなかったな。あの時は色々ありがとな」

カライモン「私の意思でもあった…故に恩義を感じる必要は無い」

俺「そ、そっか………」

ヤバい…会話が続かない。

再び訪れる沈黙…プラス、双方無言の気まずい雰囲気。

誰か…この空気を何とかしてくれ!


そんな俺の願いが通じたのか…俺の部屋へと訪れる来訪者。

部屋の中へと鳴り響く、インターホン。俺は天の助けとばかりに、その来訪者を迎えるべく玄関へと足を進める

のだが………俺の考えが甘かった事を痛感させられた。いや、むしろ他人に頼った甘さへの罰なのかも知れ無い


マイ「………」

現れたのは…マイだった。何故今この瞬間に狙い澄ましたかのようなタイミングで現れてくれた……


カライモンに一度だけ視線を向け、またその視線を俺に戻すマイ。

そして開口一番


マイ「三人目かね…・」


コスプレだと思ってくれたのか、カライモンの服装に関して突っ込まれなかったのは不幸中の幸い…ながら

マイに大きな誤解をされてしまったようだ。

俺「いや、あの子は―――」

そして俺の言葉を聞き入れる間も無く、静かにドアを閉じるマイ。

更には、つい先程まで部屋の中に居たカライモンまで忽然と姿を消している。


俺「あいつら………一体何をしに来たんだ。せめて用件だけでも伝えてくれ…」

訳が判らない事だらけで頭がおかしくなりそうな中…一つだけ確かな事がある。



俺「あぁ…また悩みの種が増えた………」


    魔法少女ダルマサンサーラ ―完―

魔法少女ダークストーカー、魔法少女ディヴァインシーカーに引き続き、お付き合い下さった皆様ありがとうございました。
毎度お馴染み、先送りレスのまとめ返しをさせて頂きたいと思います。

>197-198 地獄でした(`・ω・´) そして、諦めなければまだまだ勝ちの目は…
>199 おまけに、レミ限定で公認浮気もさせてくれますしね。
>200 >201 >207 >209 待って待って、何でこの時点で皆さんそっちの方向にばかり想像してるの!?
>208 その辺りは更にまた後程…
>214 >215 >217 そこはほら…皆さんダルマお好きみたいですしお寿司…私は四肢損失に欲情なんてしませんよ!?ホントウデスヨ?
>216 自称光が正義とは限りませんからねー。むしろ、自分が正義だと思い込んでいる人間の方が怖いという事で。
>218 洗脳済みの状態だったので、ハルに殺意はありませんでした
>222-223 残念ながら…しかし、ご都合主義の逃げ道はまだまだありました!
>224 イヤデスヨォー、日本語の韻語のダルマだなんて一言も言ってナイジャナイデスカー
>225 そうですね、変に勘ぐらず純粋な視点で見て欲しいですよ…ねぇ?
>226-230 いつから錯覚していた? ハルにおっぱいがあると…そして、ニップルが陥没していないと…
>233 大丈夫…まだまだこれから…
>243 (`・ω・´)(ドヤッ)
>244 ばれた!? 拡大画像まで開いてくれてありがとうございましたorz
>245 それはもう少し先までのお楽しみで
>246 ありがとうございます。実はもうちょっとだけこういう要素あります
>247 秩序を司る存在ですからねー…
>251 その辺りはまた後……あ、語る予定ありませんでした。
>252 あんな感じの事をしました!
>256 あー、あれもオッドアイの銀髪でしたね。
>259 その叫びはまだ早い!
>260 汚い、さすが俺君汚い!
>261 空気を読まない事に定評のある核達でした。
>262 残念、別の方法を取らせて頂きました!
>263 こんなんなりました
>264 正直物凄くやりたかったけど、空気読んで自粛しました。
>265 すみません、オリジナル作品なので判り難い所が多々あるかと思います。
そしてカライモンに関しては266さんに誘導して頂いた通り、自作の別作品との共有ネーミングです。
>266 誘導ありがとうございます。
>270-271 復活手段となると…作り直すか、元に戻すか、類似品を用意するかで狭まってしまいますからね。マンネリで申し訳ありません(´・ω・`)
>275 愛、そして友情故に出来る無茶ですよね
>279 バーストリンクよりは、むしろクロックアップで。意識だけでなく、俺君の部分の時間その物が加速しています。
>280 こんな感じの結果でした!
>281-283 むしろちょっとだけ若返って新品になりました!
>284 ですよね、一つくらいならご都合主義の軌跡が起きても…
>286 だってカライモン

当初の予定よりも長くなり、前後編に分かれてしまいましたが…
皆様のおかげで、ディヴァインシーカー及びダルマサンサーラを無事完結する事ができました。

本編の最終章にあたる、続編の構想はあるので…また大筋がある程度固まったら、まったり進行で書き込んで行こうと思います。

それでは皆様、改めてお付き合いありがとうございました!!

>293 サンサーラはサンスクリット語で輪廻転生の意味で、サンサーラナーガは転生の竜という意味ですね。
>294 ありがとうございます!
>297 555は全体的に恰好良いですよね。555アクセルの仕様があまり描写されなかったのが残念ですが

●あらすじ

過激派集団『光の恩恵派』により、その身体をライトブリンガーへと変貌させられたハル…

俺は…光と闇の核の力を借りる事でそれを撃破し、ハルを過去から蘇らせる事にも成功した。

しかし、そのハルは………俺と出会う前…魔法少女になる前のハルだった。


本当なら平穏に暮らしていた筈の、本来あるべきハル…

俺はそのハルの人生を、自分のエゴで捻じ曲げる事が出来なかった。


そして………俺は、ハルと交わる事の無い未来を選んだ。

=魔法少女ドゥンケルシュナイダー=


●そこには

俺「にしても………レミって、本当に面倒見が良いよな」

夕飯の豚カツを揚げる音に混じり、呟きを漏らす。

レミ「何、唐突に?今になって、やっとアタシの有り難さに気付いた?」

俺「あぁ、そうだな……正直、お前が居てくれなかったら酷い有様になってたと思う」


レミ「………何よもう、素直になられたら反論に困るじゃない」

ハルとは別の道を進み…また一人の生活に戻る事を覚悟していた俺。


だが、そこに現れてくれたのはレミだった。

元々面倒見の良いレミは、それはもう俺のために色々してくれている。

まぁそれは…それだけ俺がダメ人間であると言う事の裏返しなのだから、素直に喜んで良いのか迷う所だが………


それはそれ。レミに感謝している事に変わりは無い。


俺「そう言えば…学校の方はどうだ?何か変わり無いか?」

レミ「何その父親じみたセリフ…老けて見えるわよ?」

俺「るっせぇ、さすがにそこまでは歳食ってねぇよ。ってか、実際の所どうなんだ?」


レミ「そうね………進級が近いくらいで、特にこれと言って無し。あんまり話題になるような事は無いわね」

そして…これは暗黙のルールみたいな物だが。俺とレミの間では、ハルの話はしない。

話をしてもどうにかなる訳では無く、その場が暗くなるだけだ。


と言っても、レミとハルの仲に至っては至って良好…学校でもそれ以外でも、前と変わらず親友のようで何よりだ。


俺「で……そろそろ出来上がった頃か?」

レミ「そうね…あとはキャベツを……って…」

レミのツインテールを縛るリボンを解く俺…

俺の意図を察して赤くなるレミ。それなりに回数はこなした物の、それでも馴れない様子。


俺「まぁ………乗り気じゃないんだったら…」

レミ「………冷めても知らないわよ…」

俺「レミの料理は、冷めても美味いから問題無い」

レミ「………馬鹿…」

そうして俺を受け入れるレミ………


そう………これが俺の今の日常だ。

○そうしつ

私は………記憶喪失らしい。

記憶を失う前…最後に記憶に残っていたのは、いつものバス亭…それ以降の記憶は空白。

そして、その空白の期間を明けて一番最初に覚えたのは……見知らぬ建物の中。

冬休みを使ってレミちゃんと一緒に参加したイベントらしいけど………やっぱりそれも覚えて居なかった。


そう言えば、あの時一緒に居た男の人…あの人は結局誰だったんだろう?

変な事ばかりを言っていたのは覚えているけど、その言葉の意味が判らなかった。


レミちゃんはあの人の事を全然話さないし………何だろう、どうも気になって仕方が無い。

少なくともあの人は私の事を知っていた…でも、何かがおかしかった。


そう言えば………記憶を失って居た期間の私は、いつも通りちゃんと日記を付けていなかったのだろうか?

記憶を失う前には付けて居た筈の日記帳は、いつもの場所には無かった…と言うよりも、いくら探しても見付からない。

まだまだページは残っていた筈だから、捨てたとは思えないのだけど………


ハル「あ…もしかして」


何かを隠したい時に使っていた、屋根裏部屋の机………そこを探してみる事にした。

屋根裏部屋の机の引き出し…そこには確かに、私の日記があった。

しかし………そこには、とても信じられない内容が書き連ねられていた。

飛ばし飛ばしに…後ろから読んで居ても判る程、びっしりと敷き詰めて書かれた…『彼』の記録。

およそ普通の生活では知り得ない程の細かい情報まで、余す事無く……そう、これは日記などでは無く…これはまるで…


………ストーキングの記録

記憶を失っている間の自分が一体何をしていたのか…それを考えるだけで手が震え、視界が霞む。

しかし…それでも目を背ける事が出来ない。

私は、なけなしの勇気を振り絞り…ページを捲って行く。


そこから先は酷い物…彼のプライバシーという物を微塵を感じられない程の記録。

しかし、同時に………それを見て、気付く事があった。

ハル「私………こんなにも彼の事を好きで居たんだ」


でも…私の知る彼は、レミちゃんの彼氏。

レミちゃんは自身は否定してたけど、見ていれば判る。

レミちゃんは、間違い無くあの人の事が好き。


でも、だとしたら………この私は何?

レミちゃんに横恋慕するストーカー?そんな事あってはいけない。

でなければ、本当に私が彼の………いや、でも…だったらストーキングなんてする筈が無い。


希望的観測を加えて、そう考えを巡らせて居た…けれど、その考えは………あるページで打ち砕かれたのだった。

え………何…これ?

レイプをされた…魔法少女になった、彼に傘を貰った。彼を助けた、彼と恋人になった…彼と繋がった………

改めて日付の順に追って見返す日記…そして、そこに記された記憶の数々。


それはもう、現実とは呼べない代物…そう、紛れも無い妄想。

そして、その筆跡は間違い無く私の物。

つまり………


ハル「私は………心を病んでいた?うぅん?もしかしたら………今も病んでいる?」

達した結論がそれだった。


しかし………その結論で落ち着く事さえ私には出来なかった。

目に止まったのは、窓際に置かれた傘………自分では買わないような大きめの傘…つまり。

ハル「私………盗んだの?あの人の傘を………でも、もしかしたら…本当に………傘を…?」


嫌な感じに高鳴る鼓動…私は家を飛び出し、夜の道を走る。


立ち止まる事など出来ず……日記に記されていた『彼』の家へと向かって………


●それでも

重ねた身体の下…事を終え、荒げるた息を抑えるレミ…

俺はそんなレミの首筋に手を沿え、労うようにそっと撫でる。

俺「悪ぃな…少し無茶させ過ぎたか?」

レミ「うぅん……全然平気……」

そう言って俺の頭に手を回し、顔を近付けるレミ。

いつもの…そう、いつものように行い、終える筈だったそれ。

しかし、その日だけは違った。


ガチャリ…とドアノブを回す音がして、開かれるドア。

誰かが来た事に気付き、慌てて服を整えようとする俺。

だが…そんな事は無駄だった。


俺「な………ハル…?」

レミ「ぇ………?ハ……ル…な、何でこんな時間に………あ、違う…なんでこんな所に………」


ハル「……………」

傘を握ったまま黙すハル。

俺とレミはとりあえず着崩れた服を直し、お互いの身を離そうとするが…

レミ「――――っ……」

そこで小さく毀れるレミの嬌声。


ハル「………―――!!」

ハルの押し殺した声と共に落ちる傘。

そしてハルは次の言葉を紡ぐ事無く、踵を返して走り去って行ってしまった。

俺「………」

レミ「………」


そうしてその場に残されたのは……重苦しい沈黙だけだった

●そこには

お互いが入れ替わりでシャワーを浴び、身なりを整えた後…

レミは携帯でハルに連絡を取ろうとメッセージを送り続け………俺は、ハルが残して行った傘をただただ見詰めていた。

レミ「ねぇ……もしかして、ハルの記憶…」


沈黙に耐え切れなくなったのか重苦しくも口を開くレミ


俺「いや………最初から無い物は戻りようが無いだろ。多分、何かしらの方法で外部から知り得たんだろうが…」

レミ「あ………」

俺「何か心当たりがあるのか?」


レミ「日記…確か、ハルは日記を付けてた筈」

俺「成る程…な。にしたって……どんな事が書かれてたのか判らない以上は、動きようが無いが…」

レミ「だったら…さ。私、ハルに直接聞いてみるわ」

俺「いや、でも………こんな」

レミ「良いから…ね?」


俺「…………じゃぁ、悪いが…頼む」

●そういう

俺「そう言えば…今は何の研究をしてるんだっけか?まだ並列世界の研究とかしてるのか?」


レミに事を任せ…手持ちぶたさからか、近所を散策していた俺。

そして偶然にもマイに遭遇し、多愛も無い雑談を展開していた


マイ「いつの話をしているのだね?今ではもう別の研究に取り掛かっているよ」

俺「へぇ…どんなのだ?」


マイ「それは…ちょっとした不死の研究だよ。とある出来事に立ち合う事で、インスピレーションを得てね」

俺「そりゃまた………」


あり得ない…と言いかけた所で口を噤む俺。

人を生き返らせた過去を持ち、限りなく不死に近い身体を持った俺はそれを否定する事が出来なかった。


俺「じゃ、また新聞に載ったら教えてくれよ」

マイ「多分それは無いと思うが…な」


と、意味深な笑みを返された

○あきらめ

放課後…私はハルを屋上に呼び出した。

二人っきりで話をするため…昨日の誤解を解くために。


レミ「あのさ………昨日の事なんだけど…」

ハル「あ………うん、その……ゴメンね。凄く…間が悪い時にお邪魔しちゃって………」

レミ「そ、そうじゃないの!その…何て言うか……ハルと話したいのはそこじゃなくて、彼の………」

ハル「うん、大丈夫…判ってる」


ダメ…これは判ってる時の声じゃない


ハル「大丈夫…思い出した訳じゃないけど、記憶を失ってる間に私が何をしてたのかは判ったから」

レミ「…それは…つまり」

胸がドクンと大きく高鳴る。期待半分、不安半分…だけど、その前半分は簡単に打ち砕かれた。


ハル「まずあの人は……レミちゃんの彼氏なんだよね?」

レミ「それは………」

そうでもあるけど、それ以前にハルの彼氏…私はあくまで2号。

内容は簡単な筈なのに、それを上手く伝える言葉が出て来ない。


ハル「それで…私まであの人を好きになっちゃって………ストーキング、してたんだよね?」

レミ「それは違うの!順番が!」

違う…好きになったのはハルの方が先。正式な恋人になったのもハルの方が先。

でも、その訂正を放つよりも前にハルの言葉が続く。


ハル「順番が違っても、やっぱり関係は間違い無いんだね」

レミ「ちがっ……だからそれは…」

ハル「じゃぁ…私の日記に書いてあった事…あの人をストーキングしてた記録は全部妄想だったのかな?記憶が無いのも、それに罪の意識を感じて―――」

レミ「それは…………そうじゃないけど…」

ハルが彼をストーキングしていたのは事実…けれど、その罪悪感から記憶を失ったわけでは無い。


言いたい事は山ほどある…けれど、それを言葉にする程私の頭が早く回らない。

ハル「やっぱり……」

レミ「でも、それは!!」


ハル「ありがとう………でも良いんだよ、私を庇ってくれなくても。ゴメンね…もう本当、何から何まで迷惑かけちゃって…」

レミ「だからそれは誤解なの!」

迷惑をかけてるのはハルの方じゃ無い…むしろ私の方。


ハル「じゃぁ、何が誤解なの?何が嘘で何が本当の事なの?今の私には、記憶の無い時の私の事が何一つ判らないの!!!」

レミ「それは………今の私からは……」

言えない………親友でも…ううん、親友だからこそ言う事が出来ない。

彼にはあれだけ真実を話すべきだと言っておきながら、いざ私の口から言うとなると…その言葉が出て来ない。

その言葉にかかった重みの責任を背負うだけの覚悟が出来ない。


ハル「そもそも……今の私って何なのかな?レミちゃんの他の人も…本当に必要としてるのは昔の記憶を持ってる私なんでしょ?」

レミ「―――――ッ!そんな事!!」

そんな事は無い、彼も私も今のハルを必要としている。でも………ハルを説得するに足るだけの言葉が出て来ない。

何を…どこからどう説明すれば良いんだろう。どこから説明しても誤解を解ける気がしない。


ハル「でも………一つだけ確かな事はあるから安心して?」

レミ「…何?」

ハルの目を見れば判る…それは安心できるような内容じゃ無い。

でも、今はそれを聞く事くらいしか出来ない。


ハル「もう判ったから…レミちゃんの彼氏に関わって、困らせるような事はしないから…っ」

そう言って、反論の言葉も待たずに走り去るハル。


そしてハルは…顔を見せなかったけれど、間違い無く泣いていた。

●けつべつ

レミ「………と言う訳で…ゴメン。話を付けるどころか、よけいこじらせたまま終わらせちゃった」

俺「いや…レミは悪く無い。むしろ、そんな状況でよく頑張ってくれたじゃないか」


レミ「でも………うぅん、いっそ…私があの子達を見せれば、せめて…」

俺「それは駄目だ!」

それをしたら、またハルをこちら側に引き込んでしまう。

それだけは避けなければいけない。


レミ「言いたい事は判るけど…でも!」


俺「今のハルは普通の女の子なんだ…もう二度とあんな事に巻き込んで…酷い目に遭うのだけは避けなくちゃいけない」

改めてそれをレミに言う。

レミ「それは判るけど………」


そう………その前提がある以上、これ以上の事をハルに知らせる事は出来ない。

そしてそれは…今ある唯一の解決策を封じると言う事でもあった。

●さいらい

マイ「それにしても…今日は一段と沈み込んでいるようだね。レミくんと何かあったのかね?」

俺「レミと?……あぁ、そうだな。うん、そんな所だ……」

マイ「いや、違うか……ハルくんと何かあったようだね」


お前はエスパーか


俺「その通りだ…しかし、どうりゃ良いのかすら見えて来ないからな…」

マイ「だったら、したい事をすれば良い。誰かのために譲歩するのでは無く、自分のしたい事を…」


俺「…それが出来てりゃ、こんな苦労はしてねぇよ」

マイ「確かに…な。しかしそれはそうと…例の噂話は覚えているかね?」


俺「何だよ藪から棒に…確か、女の子の通り魔にぬいぐるみ…羽の少女と………あとは、新興宗教だったか?」

マイ「あぁ…新興宗教の方はもう片付いたから良いのだが…残りの3つが最近頻発しているようなのだよ」


………ん?


俺「…………頻発?最近?いや、それはおかしいだろ。だってそれは…」

終わった事のはず…そう言いかけて、慌てて口篭る俺。


マイ「特に通り魔の方は深刻で…複数犯の可能性もあるらしい。キミも夜道には気を付けたまえよ?」

だが、それを意にも介さず話し続けるマイ。正直、突っ込まれなくて助かった。


俺「あぁ…そうする」

そして…とりあえずそう答えるも、腹の中は完全に真逆。

次々に起こる問題を前に、苛立ちを覚えるのだが……その反面


目の前の…ハルの問題から目を逸らす事が出来ると言う事実に、安堵してもいた。

●たんさく

レミ「言っておくけど…私でもこの子達でも無いわよ?ここ最近はずっとアンタと一緒に居たでしょ?」

そう…そのアリバイがある以上、真犯人は別に居る。

俺達はまず、黒い靴を履いた少女の通り魔………その事件の真相を探る事にした。


俺「それで……案の定、調べに来てみた結果がこれか」

街に繰り出し、魔力を探り始めた俺達。

そして、開始早々………いとも簡単に見つけ出す事が出来た、その存在…

瘴気を纏った真っ黒な靴を履き、虚ろな瞳で俺達を見据える女の子。


俺「こいつが例の、通り魔…って事になるんだろうが。なぁ、あの子が履いてる靴って、どう考えても…」

レミ「そうね………ダークチェイサーの一部で間違い無いわ」

一体何がどう………いや、どの可能性が出しゃばって居るのやら…

ダークチェイサー絡みとなれば、可能性は自然に狭まってくる…が、その中のどれが関わっているのかは判らない。


レミ「アンタの中の光の核と闇の核は何か知らないの?」

俺「それなんだが…こいつら、ちょっと前から停止状態なんだよな」

レミ「何それ?」


俺「何でも……アーカイブを再構築するために力の殆どを使うから…って事らしいんだ…がっ!」

レミと話している最中にも関わらず、それを意にも介さず襲い掛かって来る女の子。

その女の子は、当然のように黒い靴を履いた脚で蹴りを繰り出し…対する俺も、当然のようにその靴を掴んで止める。


女の子「―――!!」

そこからは物のついでだ…指の先から光の刃を形成し、蹴りに使われた方の黒い靴を解体。

更にその足を持ち上げ、女の子の体が宙に浮いた所でもう片方の靴も確保…そして解体。

物凄くはしたない恰好をさせてしまっては居るが、非常事態だ…許してくれ。


レミ「で……多分、こっちで倒れてる男が被害者なんだろうけど…」

俺「これは………魔力を抜き取られた…いや、奪い取られた形跡があるな」

例えるなら…チーズ蒸しパンの敷き紙に残ったカスのような物。

そこに何かがあって、残留物が元の形を示している…だが、肝心の物が無いのという事が見て取れた。


レミ「って事は、その奪った魔力は犯人であるこの子が持ってる筈なんだけど…」

俺「あぁ…それが無い。つまり………」

レミ「さしずめこの子は働き蟻…って事よね」


俺「あぁ……そうみたいだな。畜生」

黒幕に利用されていた…そう見て間違いは無いだろう。そして………


今俺達を取り囲んでいる、この子達も…同じ境遇と見て間違いは無い筈だ。

●おぼえは

レミ「で……貴方はどこから覚えてる?それか、どこまでの事を覚えてる?」

黒い靴に操られた女の子達を開放し、比較的意識のハッキリした女の子に事情を聞く俺とレミ


女の子「最後に覚えてるのは………何かを踏んだような感覚と、それが纏わり付いて来るような感覚だけです…それ以降は何も……」

他の子に聞いても、同じような証言ばかり…逆を言えば、皆が皆共通してその手順を踏まされている事が明らかになった。


レミ「成る程……つまりは、その何か…ダークチェイサーを仕掛けたヤツが黒幕で、アタシに濡れ衣を着せてくれた張本人って訳ね」

俺「今回の黒幕が一体何者なのかは判らねえが…とりあえず、闇の靴屋とでも呼んでおくか」

レミ「そうね…それじゃぁ次は、闇の靴屋…ダークシュナイダーを倒しに行こうじゃないの!待ってなさい、必ず見つけ出してやるんだから!!」

いや…それを言うならダークスナイダーかドゥンケルシュナイダーだろ。それじゃどこぞのミュージシャンだ。


と、意気込んだ所で…再び感じる魔力の気配。

それも二種類……片方はさっきまでと同じダークチェイサーの一部で、もう片方は………


いや、まさか……これは

●ざんしの

全速力で走り出した俺達。


レミよりも僅かに早く…辿り付いた先は、工事現場。そう、俺はここに見覚えがあった。

ダークチェイサーに初めて襲われたあの工事現場だ。


あの頃と比べればさすがに工事が進んでいて、鉄筋などと言った骨組みは殆ど組みあがっている。

そして…その骨組みの頂上にそれは居た。


鉄筋の隙間から覗く、光の羽…機能性を無視してフリルやリボンがふんだんにあしらわれた服。先端にハート型の装飾が付いた杖…

その後姿を見た俺は、胸が高鳴った。


期待からだろうか…

不安からだろうか…


あるいはその両方なのだろうか……


ドクドクと早鐘を打つ心臓を自分でも感じながら、俺は一歩だけ足を足を進める…が

それと同時に…俺が見据えていた存在は、夜空の中へと消えて消え去ってしまう。


そして気付けば、ダークチェイサーの気配も無く…

鉄筋の頂上には、黒い靴に操られていたであろう少女が残されていただけだった。

●かいこう

カライモン「理解した……そうして前日に続き、探索を行って居た最中と言う事か」

説明ありがとう。

そう…昨夜の出来事の後、遅れて到着したレミにも見た侭の事を話し

今度は二手に別れて、ハルと思わしき魔法少女と闇の靴屋の二者を探す事になったのだが…

その途中、偶然にもこの魔法少女…カライモンと再会する事となった。


そうして事の流れるまま、道ながらに事のあらましを話し…結果、彼女の方から助力を申し出てくれて今に到る。


俺「ちなみに…レミの方からハルに確認を取ろうとしたらしいんだが…学校にも来て居なくて、電話にも出ないらしい」

カライモン「泥沼は自業自得………そのせいで確認すらも難航しているのだろう?」

図星、痛い所を突いて来る


しかし………最初の頃に比べるとカライモンの口数が増えてきている気がする。

まだ喋り方にぎこちなさが残っては居る物の、多少は会話に馴れた…いや、心を開いて貰えたという事なのだろうか?

そんな事を考えている、まさに最中…感知範囲内に現れる、魔力の気配。


間違い無い……黒い靴と昨日の魔法少女だ!

俺とカライモンは、それを感じ取ると共に駆け出した。


距離はすぐ近く…ビルを5つ程飛び越えた先の路地裏。

そう…そこにそれは居た。黒い靴に操られていたであろう少女と………魔法少女。


俺「ハ―――」


考えるよりも早く紡がれる声…俺達に気付くその魔法少女。

ピンク色の髪をふわりと靡かせながら、振り返ったその顔は……


??「貴方達…何者ッスか」


ハルでは無かった

●なりゆき

俺「なっ………お前は一体何者だ!?」


ユズ「自分の名前はユズ…魔法少女ッス。そういう貴方達こそ一体何者っすか」

カライモン「何者だと言うお前こそ何者ッスかと言うお前こそ何者だというお前こそ何者………」

いや、何を言いたのか判らないが。これ以上引っ掻き回さないでくれ


俺「俺は………っと、色々巻き込まれてるだけのただの一般人で…こいつはカライモン。お前と同じで…」

カライモン「…魔法少女」

ユズ「って事は…同業者って事ッスよね? 自分以外の魔法少女が居るなんて驚きッス」


ハルでは無かった…その事に安堵も落胆も覚えながら、同時にこのユズという少女に敵対心が無い事も判って……一先ずは警戒心を解く俺達。


俺「それじゃぁ…いきなりで悪いんだけどさ、ちょっと聞きたい事があるんだ。良いか?」

ユズ「自分が知ってる事なら別に良いッスよ?あ…ちょっと待って下さい…………え?この人達が敵?」


途中からは噛み合ない会話…前触れも無く出た単語。

その状況に俺は既視感を覚えた。

そう……とてつもない嫌な感じのデジャヴュだ。


見えない『何か』と会話をしながら、杖をこちらに向けるユズ。

そして、此方を見据える瞳は―――

光を失って居た。


間違い無い。これはハルの時と同じ…テレパシーによる乗っ取りだ。

だが、それに気付いた時にはもう遅かった。

杖の先から形成された光が、今正に俺の頭部を貫くべく放たれ………


俺は何者かに突き飛ばされた


いや…何者なのかは考えるまでもない。今この場でそんな事を出来るのは一人しか居ない。

突き飛ばされたおかげで、俺は閃光の直撃を免れる…が、そうなれば当然、突き飛ばした相手がその位置に残るはずで……


そう………今この瞬間、振り向いた俺の目の前にあるのは………


上半身を失った、カライモンの身体だった。

●ぼうそう

俺「…………あぁぁぁあ゛あ゛あ゛!!!!??」

死…目の前にあるのは、死。またも俺に関わった女の子の死だった。


もう何度目だ?三度目?いや、レミの時は生きて居たんだから二度目か?

あぁもう、頭の中がグチャグチャだ。

どうすれば良い?ハルの時みたいに…いや、ダメだ。アーカイブが無い以上蘇らせる事は出来ない。


ではまず何をすべきか……

そうだ…危険性の排除が最優先じゃないだろうか?


そう…危険性……目の前の魔法少女…ユズの排除を優先しなければいけない。

全身をダークチェイサーで形成し、獣の姿を取って追撃に備える。


いや…まだ追撃は来ない。今の内に反撃を仕掛けるべきだ!

俺はユズに向かって飛び掛り、右前足の爪を繰り出す!


………が、杖を盾にする事で辛うじてそれを凌ぐユズ。

爪の先が太腿に傷を走らせるせる程度で、有効打には程遠い…が、流れは掴む事が出来た

このまま畳みかけるべく、身を低く落としてためを作る俺


……だが、そこから先は予想外の展開だった。

ユズ「ヒッ……!!」

小さく…怯えたような声と共に恐怖の表情を浮べ、文字通り脱兎の如く逃げ去るユズ。


何が起こったのか………

落ち着いて可能性を考えれば…テレパシーによる乗っ取りから開放され、戦闘から逃げ出したと言った所だろうが…

だったら、何故彼女を開放したのか…そもそも何を目的として乗っ取ったのかが判らない。


少なくとも、狙われた筈の俺はまだ生きている。

あるいは…俺では無くカライモンが目的だったのか?………そうだ、カライモンだ

彼女の遺体をあのままにしておく訳にはいかない。

手段は後で考える。とにかく、彼女の遺体を―――……そう考えた。だが、その考えを実行する事は出来なかった。


彼女の…カライモンの遺体は、その場から忽然と消えていた。

●こうさつ

マイ「どうしたのだね?今日は一段と落ち込んでいるでは無いか」

その理由は話せない……だが、俺一人でこの状況を把握し切れないのも事実。

事が事なだけに、レミには警戒を促す以上の事を伝えられず……今、頭脳を借りられる相手はマイしか居ない


俺「それは良いんだ。それで、今日…マイに相談したい事なんだが………」

マイ「今回は一体、どの分野での話だね?機械工学か生物学か…それとも超科学やオカルトの類かね?」

茶化すマイ…悪気は無いのだろうが、その態度に俺の腹は沸々と沸騰していく


俺「多分………生物学だ。その…例えばの話しなんだけどな…?」

マイ「何だね?」

俺「人を………女の子の死体を。下半身だけ残った人体を誰かが持って帰った奴が居たとしたら………どんな事をすると考えられる?」


マイ「…………」

真顔による一瞬の沈黙…そして、後ろを向くマイ。当然ながらその表情を読み取る事は出来ないが…不信感を露にしているであろう事は予想できる。


マイ「それはまぁ…状況や前提次第だが。下半身と言っても、どこまでが残っていたのだね?子宮だとか、腸がどこまでだとか…」

俺「多分…子宮は残って居たと思う。腸は…正直どこからどこまでがどうなんだか判らねえ…」


マイ「なら…普通に考えれば、性処理にでも使うのでは無いかね?あるいは…手段こそが目的、犯人が単純に証拠隠滅のために持ち去ったか…」

後者ならばまだ良いが……ハレルヤという前例がある以上、そこは楽観視出来ない。そして…


俺「前者はまず無い…犯人は女である事が前提だと思って進めてくれ」

マイ「女性だからと言って除外し切れんとは思うが…まぁ、だとしたら………食べるのでは無いかね?カニバリズムだ」

推理を巡らせ調子に乗ってきたのか、表情に笑みを浮かべ始めるマイ…だが、その不謹慎さは俺の神経を逆撫でる


俺「あぁ……あと、その下半身に特殊な物が付いていたとしたら?」

マイ「それは…男性器という事かね?」

明らかに不審そうで不機嫌そうな顔をするマイ


俺「いや、そうじゃなくてだな…特殊な機械とかだ」

マイ「それが目当てなのだとしたら、外して持って行ったのでは無いかね?身体ごとと言うのは非効率極まりないだろう」

それもそうだ


マイ「まぁ、それが身体から剥がす事が出来ない物だと言うのなら話は別なのだが……他に何か判断材料はあるのかね?」

俺「いや…今はそれ以上は無い」

実際はある…が話せない。そして、それは今の話し応用や延長線上で考える事が出来る。


俺「その…何だ。一方的で悪いんだが、大分参考になった。ありがとな」

マイ「いやいや、幼馴染のよしみだ。この程度の事で良いのならまた相談してくれたまえ」

何故か上機嫌でそう返すマイ。

その様子に複雑な物を感じざるを得ないが…何にせよ、力になってくれる存在がいるのは心強い…という事も同時に痛感させられる


俺「んじゃ…その時はまた頼むぜ」


マイに相談する事で見出した可能性…そして、あまり良く無い方向にばかり広がっていく其れ等。

恐らくは、その解決と共に……決着の時が近付いて居る。俺はそれを予感していた。

●さいせん

俺「さて………いきなりで悪いんだが、カライモンの遺体を返してくれないか?」

黒い靴との戦いを終え、一息ついていたユズ…そこで姿を現し、話しかける俺。


ユズ「―――ヒッ!?」

判り易い程顔に出ている恐怖の表情。

正気に戻った瞬間に見たのがあれなのだから、仕方が無いとは思うが…今はそれに気を遣っていられる状態では無い。


俺「知っている事を全部話して貰おうか…テレパシーの向こうに居るヤツに身体を明け渡して逃げるのもナシだ」

ユズ「な…何の事を言ってるのか判らないッスけど。あ………貴方達に喋る事なんか一つも無いッスよ!!」

どこから沸いて来ているのか判らないが、予想外にも威勢の良い返答。だが……


俺「そっか………君は話しの判る良い子だと思ってたんだが…俺の勘違いだったか」

正気の状態で、尚敵対意識を向けてくるとなれば……穏やかに事を進められる筈が無い。

ユズ「貴方達みたいな悪人に、良い子だなんて言われても嬉しく無いッス!知ってるッスよ、貴方達がダークチェイサーっていう悪者だって事!!」


………ん?


ユズ「他にも知ってるッス。あの黒い靴もダークチェイサーって言う悪者の一部だって事!貴方達が仲間だって事も判ったッスから!」

俺「いや、待て………誤解があるみたいだぞ。そもそも、その事を誰から聞いたんだ?」

ユズ「それは………え?言っちゃダメなんッスか?でも、戦ったら勝てないし……出来れば話し合いで………」

声に出さなければテレパシーを伝えられない子なのか……それが幸いして、事情は大分掴めて来た。


よし…まずはこの子の方から攻略出来そうだ。

●おはなし

俺「よし…じゃぁこうしよう。ユズ…君が戦いたくないなら、俺も戦わない。そいつに身体を明け渡さなければ、俺もダークチェイサーにならない。良いか?」

ユズ「そ……そんな事を信じる証拠はあるッスか!?」

俺「無い。信じられないなら、そう……ユズの方から攻撃してくれれば、それを戦闘開始の合図にしてくれても良いんだが…」


ユズ「ヒッ……!?そ、そんなの嫌ッスよ!」

俺「じゃぁ、話し合おうぜ。俺としては、とにかくそいつに身体を明け渡しさえしなければそれで良いんだ」

ユズ「…って言ってるッスけど……えぇ…でもそれだと………」


あぁ、そういう事か…


俺「成る程…今すぐにでもその身体を明け渡せてって言われてるんだな?」

ユズ「な…なんでそれを!?」

一目瞭然なんだが…それで驚いてくれるなら都合が良い


俺「そいつの手口を知っているからさ。そうだな…訂正しよう、身体を明け渡しても攻撃しない。したら、そいつの目論見通り…ユズが死んでしまうからね」

ユズ「………え?」

俺「ユズが身体を明け渡し、俺がユズを返り討ちにする…多分、そこまでもそいつにとって折り込み済みなんだ。そう…そうすれば口封じの手間が省けるからな」


ユズ「え……ほ…本当にあの人の言ってる事は出任せなッスよね?ねぇ!?」

足を震わせながらテレパシーの向こうの相手に話しかけるユズ…見ていて可哀想になるくらい痛々しい。だが…手は抜かない。


俺「じゃぁこうしよう…ユズは自由に攻撃をしても良い…勿論防御をしても良い……そして、危険を感じたらそいつに明け渡しても良い」

ユズ「ふへっ!?な、何でそんな事………そんな条件…貴方にとって何の得も無いじゃないッスか」


俺「あるさ、キミとちゃんとした形で話が出来る」

ユズ「っ……………じゃぁ、それなら良いんッスね?あの条件なら話をさせくれるんッスね?」

どうやらあちらはあちらで話がまとまったようだ…と言っても、向こうのヤツは俺を殺す機会を探っているんだろうが……


ユズ「判りましたッス………自分が知ってる範囲の事で良ければ話します。でも……代わりに自分が知りたい事も答えて欲しいッス」

俺「あぁ、その条件で良い。それじゃまず君…ユズの方から質問をしてくれ」


ユズ「じゃぁ一つ目…貴方達は一体何者ッスか?ダークチェイサーじゃ無いんッスか?」

俺「最初にも言ったが…俺は一般人だ。んでも、ダークチェイサーじゃ無いって訳でもない。」

ユズ「どういう事ッスか?」

俺「色々あって、ダークチェイサーと融合してんだよ。だからどっちでもある…ま、その辺りは見てて判るだろ?んじゃ、次は俺から質問して良いか?」

ユズ「…はいッス」


俺「ユズが魔法少女だって事は判ったんだが…どういう経緯で魔法少女になったんだ?誰と契約したんだ?」

ユズ「それは……え?言っちゃダメなんッスか!?でもそれだと…」

俺「いや、答えられないんならそれで良い」

答えられないって言うのは、裏を返せば正体を明かしているような物なんだがな…それは明らかな失策だ

と言っても、出鱈目を言ったら言ったで騙されはしないが。


俺「じゃぁ代わりの質問だ。ユズはダークチェイサーの事をどんな存在だと思ってるんだ?」

ユズ「それは…ダークチェイサーは無差別に人間を襲う、凶悪な殺戮兵器だって聞いたッス。実際人を襲っている所も見たっす」

俺「それは半分正解で半分間違いだな」

ユズ「…えっ?」


俺「ダークチェイサーは、確かに殺戮兵器としてディーティーという研究者に作られた…だが、彼等はそれが嫌で逃げ出したんだ」

ちょっと脚色はしてあるが、現状では間違っている訳でも無いから良いだろう

ユズ「ど……どういう事っすか?!…で、でも…嘘だって言うなら、何で他の人が知らない筈の―――」

ビンゴォ!!!よし、全てのピ-スが填ったぜ!


俺「そして、それからがまた酷かったんだ……逃げ出したダークチェイサーを始末するべく、ディーティーがこっちの世界にまで追いかけて来て…」

ユズ「えっ…でもそれって、この世界の平和のためじゃ……」

俺「まさか?このダークチェイサー達は、あっちの世界じゃ違法な存在で…その証拠隠滅のためさ。それに、黒い靴以外が人を襲ってる所を見たのか?」

ユズ「え?え?え??」


レミが人間を襲わせている場面はあったが…もしそこを見られて居たら居たで何とか誤魔化せる。

少々賭けになるかも知れ無いが、俺はそこから追撃の道を切り開く。


俺「ちなみに…どんな感じに違法だったのかって言うと。世界のバランスを取ってる存在の一部を勝手に使って作る物だったからなんだ」

ユズ「そ……そんな大事な物を使ったら…」

俺「当然、その世界その物が危なくなった。他ならぬディーティーのせいでね…ま、それは何とかなったんだけど…ただ」

ユズ「どうしたんッスか?」


俺「そのせいで、俺の大事な人の記憶が無くなった。今じゃ俺の事を一切覚えて居ないんだ」

ユズ「そ…そんな……」

俺「とまぁ…そんな事があったせいで、ダークチェイサーの事で問題が起きてるのは見過ごせないんだよ。今だって黒い靴の事件が起きてるだろ?」


ユズ「そ…そうっすよ。じゃぁ、あの黒い靴がダークチェイサーじゃないって言うなら……え?聞いちゃダメ?何でッスか!?」

俺「あの黒い靴もダークチェイサーの一種だ…でも、それは俺達と同じ勢力のダークチェイサーじゃない」

ユズ「え…?な、何言ってるッスか!?明け渡す必要なんて……え?ダ、ダメッスよ!」

あぁ…向うは向こうで相当必死になって隠そうとしているな。だがまぁ、手遅れだろう。


俺「あの黒い靴の正体は………自らをダークチェイサーに作り変えたディーティーの一部だ!」

ユズ「…………え?………そん…な……え?」

俺「どうやって生き返ったのかは知らないが…あの靴を使って皆から魔力を奪っていた犯人、闇の靴屋の正体は……お前だ!ディーティー!!」

ユズを…正確にはユズの向こうに存在するディーティーを指差し、断言する俺。

と、そこまでは良かったのだが………またも不測の事態が起きた。


ディーティー「あぁもう……折角全部上手く行ってたのに…キミのせいでまた台無しじゃないか」

ユズ「え…く、口が勝手に……あ、何やってるッスか、ディーティー!?」


俺「意識があっても…明け渡さなくても身体を乗っ取る事が出来たのかよ」

ディーティー「正確には、出来るようになった…って所かな。まぁ、それもこれもキミがヒントをくれたお陰ではあるんだけどね」

俺「…どういう事だ?………なっ、まさか!?」


ディーティー「その通り…ユズの身体にボクの一部を忍び込ませておいたのさ。流石にこの方法だと身体を無理矢理動かす事になるから……」

俺「っ……ユズの身体の安否はお構い無しって事か」

ユズ「え…?ちょっ……痛…ディー…ティー……止め……!!!!」


身体を無理に動かされるだけでなく、神経に直接干渉してくる痛みを感じているであろうユズ。

その声は言葉になる事無く、悲痛な音として喉から漏れている。

その苦痛は、文字通り痛い程良く判る…あれは言葉に出来ない程の激痛だった。


ディーティー「あーあぁ…可哀想に…これも全部キミが悪いんだよ?ユズと僕を追い詰めるもんだから」

俺の「っ……の。ふざけんじゃねぇぇぇ!!!!」


怒りの叫びと共に獣の身体を形成する俺。

ディーティー「おっとストップ。何?そんな身体になってどうしたいの?ユズを殺すのかい?」

俺「っ……」

そう…俺はユズに手を出す事は出来ない。同じ被害者であるユズを犠牲にする事など出来ない

ディティー「でも…ここで犠牲を払わなければ、また新たな被害者が生まれちゃうんだけどねー?うふふふー」


あぁくそう…ここでディーティーだけを殺す事が出来ればどれだけ幸せか…

多分、ハルなら…いや、今居ないハルを宛にしても仕方が無い。それに、ハルが居てもあのディーティーが大人しく治療なんてさせるはずが無い。

だが、だからと言ってどうすれば良い?ここでディーティーを逃がす訳にも…ましてや、ユズの身体を持って行かれる訳にも…


ディーティー「あ、そうそう…ここでユズを逃がす事を懸念してるんだたらその心配は要らないよ?」

俺「……何?」

ディーティー「ここまで一気に侵食されちゃったら、もうユズは助からないからね。僕が反逆の可能性のある駒を残しておくと思うかい?」

ユズ「なっ……そ…んな………」

くそっ…前回痛い目を見せたのが災いしたか


ディティー「って事で……さぁ、残り時間でキミをどれだけ痛め付けられるか試してみよっかなー」

俺「俺がそんなに大人しく…って言いたい所なんだが…大人しくしてなければ、ユズを苦しめるつもりなんだろうなぁ…」


ディーティー「当☆然」


と言いながら、鼻歌混じりに光の刃を何度も何度も俺に突き刺して来るディーティー。

あぁくそう、こいつ今すぐ殺してぇ……

ディーティー「…と思ったんだけど、思ったよりも長くなさそうなんだよねぇ…この身体。期待はずれも良い所だよ」

俺「何様のつもりだよ…手前ぇ…!!!!」

ディーティー「俺様☆…と言いたい所だけど…僕様☆かな?」


と言って俺の頭に狙いを付け、光の円を発生させるディーティー…くそっ…思いっきり根に持ってやがる。

そして、したくもない死を直感したその瞬間……またも予測すらしていなかった不測の事態が起きた。


いや、予測してないから不測の事態なんだが…そこはまぁ流してくれ。

●さいたん

床を突き破り、その姿を地上に晒すドリル……そして、それに続くように現れる…


カライモン


俺「……はっ?」

ディーティー「な……!?」

俺もディーティーも、予期せぬその存在の登場に気を取られる。


そしてその隙に俺とディーティー…ユズの間に割って入るカライモン。何でそんなに男らしいんだよチクショウ。

俺「カライモン…お前、死んだ筈じゃ…」

ディーティー「そ、そうだよ!ユズの一撃で死んだ筈だろ!?」


カライモン「一つだけ教えておく……」


何だ?一体何を教えてくれるって言うんだ?

カライモン「死亡が確定せず、有耶無耶のまま消息不明になったキャラクターは大体生きている」


いやいやいやいやいや、お前明らかに死んでたじゃねーかよ!心の中では叫びつつも声には出さない


ディーティー「ふざけるな!?あの時確かに上半身を吹き飛ばされて死んでいたじゃないか!!」

そら見た事か…予想通りディーティーが突っ込んだ。

そして、その突っ込みを遮るかのように…左手の何だかゴツイパーツをユズに向け…


放った

どこから説明すれば良いか………


まず、左手のパーツ…ユズの胸部に向けて構えられられた…其れから発生したのは、弾薬の破裂音のような物。

そしてそれに続くように一瞬で姿を現した……巨大な杭。

名前だけは知っていた。パイルバンカー…目標に穴を開けるための機械。


パイルバンカーにより胸部の中心を貫かれ、文字通り風穴を空けられたユズ。

………と同時に展開される、黒い何かの魔方陣。

そして杭が引き抜かれると、風穴からは当然の如く血が溢れ出し………


ディーティー「信じ…られないね………でもまぁ…いいや。もう…この体は要らない…し………」

そうしてユズの身体から気配を消すディーティー。

辛うじて命拾いをした俺……

だが、そのために犠牲にした物は決して小さくは無かった。


ユズ「……ぇ………?…………」


当然ながら事態を飲み込む事が出来ないユズ。

自分から溢れ出る血…それに向けるべき感情を見せる事も出来ないまま…その場に崩れ落ち……

カライモンが展開した魔方陣が、真っ黒な立方体を作ってそれを取り囲む。


カライモン「大丈夫…この――――」


俺「大丈夫な訳があるか!!くそっ!いくら何でも…!幾ら自分の仇でも………」

カライモン「………」


俺「…………ここまで…ここまでする事は無かったんじゃないのか?」

カライモン「あの状態では、双方共助かりはしなかった………ただ死を待つのみだった」

俺「それで…俺を助けるため…最善の策だった………って言いたいのか?」

カライモン「その通り」


俺「………っ!!!」


悔しかった…悔しくて拳で床を打ち付けた。

ユズを助けられなかった事もそうだが…助けられた事もそうだが……何よりも、カライモンの言葉に反論する事が出来ない自分が悔しかった。

だが…ここでただ悔しがっている訳には行かない。


ディーティーを…今度こそディーティーを倒さなければいけない!

●せんめつ

俺「あぁ………黙ってて悪かった。そういう事だから、今度こそディーティーと決着をつけようと思う」

レミに連絡を行う俺…


俺「お前は…来るなって言ってもどうせ来るんだろう?あぁ、そうだよな…じゃぁ、先に言って待ってる」

事の顛末を話し…先に向かう事を伝え終える。


ディーティーの居場所は判っている。奴の考えそうな事などお見通しだ。

廃工場前………やっぱりな、思った通りディーティーの…ダークチェイサーの魔力が嫌と言う程感じられる。

そして……周囲には地雷原のようにばら撒かれた黒い水溜り。

成る程…多分こいつが黒い靴の正体だろう。


あと…付け加えると…こいつに取り付かれた女の子も待ち受けていた。

カライモン「ここは受け負う…」

俺「任せたい所なんだが……この子達はあくまで被害者だ。ユズの時みたいな手荒な真似は―――」


と言うか否や、地面に白い魔方陣を展開するカライモン。

それと当時に、地に接していた黒い靴は消滅し………操られていた女の子達は、糸が切れたようにその場に倒れ込む。


カライモン「…何か?」

俺「いや、何でも無い……任せた!」

そうしてその場はカライモンに任せ、廃工場の中を突き進む俺。


扉を蹴破り、奥へ…奥へと進み………前回の決戦の場、その扉の前へと辿り着いた。

小さく息を呑み、扉を開ける俺。

そこで俺を待ち構えていたのは………


俺「な……何で…」

初めて出会った時と同じく、マスコットの姿をしたディーティー……そして



魔法少女…狩猟者の姿をした………ハル……だった。

●せんりつ

いや……正確には微妙に違う。衣装こそあの時のままだが、靴だけは黒く染まっていた。


つまり………


俺「ディーティー…手前ぇ………ハルにもその黒い靴を…」

ディーティー「そう…何故か狩猟者としての力を失っていてくれていたお陰で、狩猟者にする前に履かせる事が出来たのさ」


俺「そんで……その靴で傀儡にした状態で、改めて無理矢理に魔法少女として契約した…って事か」

ハルの恰好を見てそれを予測…そして


ディーティー「その通りさ。ま、契約してからはハルの記憶からだけでも大体の状況を把握できたけどね」

その予想が当たっていた事に苛立ちを覚える。いや…苛立ちどころか激怒だな。


俺「ってかよぉ……そもそも、狩猟者になる以前でハルは闇に対して耐性がある筈だろ………何で操られてんだよ」

ディーティー「そうそう…気付いたようだね。大変だったんだよ…耐性があるハルを侵食するのは。まず耐性を薄めるために―――」


あぁいや…やっぱ聞かなくても良いわ。多分聞いたらブチ切れて理性が吹っ飛んじまう。

そうだな、とりあえず…ディーティーをぶっ殺すか。

左手にダークチェイサーのかぎ爪を形成する俺…そして、前置きも無しにディーティーへと斬りかかる。


が………それをハルに…ハルの靴に止められる。


俺「くっ……そぉ!」

ディーティー「おぉっと、危ない危ない…危うくまた肉片から再生しなくちゃいけなくなる所だったよ」

肉片?……あぁ、そうか…


ディーティーの言葉でフラッシュバックする俺の記憶。

そう…ハルが止めを刺す直前、俺はコイツの身体を切り刻んだ。

そして…俺が腹部を再生した時みたいに………ディーティーが再生したのだとしたら…


俺「そう言う事か…プラナリアみてーな生き返り方してんじゃねぇよ」

ディーティー「キミがそれを言うのかい?」

うるせぇよ


俺「まぁ、だったら……今度は肉片一つ残らねぇくれーに殺し尽くしゃぁ良いって事なんだよなぁ…」

ディーティー「キミに…それが出来るならね?」

ディーティーがそう言うか否や、俺の前に立ち塞がるハル。


そう…ディーティーを倒す前の問題としてハルが居る。記憶が無い今のハルでは、前回と同じ手は仕えない。

………どうする?

●けんせん

まず始めに思い付くのは、黒い靴の破壊…

操られている他の女の子同様に、靴を破壊すれば操作が解ける…という考えも出来る…が

それだけでハルが正気に戻る保障は無い。


いや、そもそも…ハルに至っては魔法少女としての契約が交わされているはずだ。

靴を壊したとしても、ディーティーを何とかしなければ意味が無い。

そして…ディーティーを倒すためには……くそっ、無限ループじゃないか。


ディーティー「ふふふのふー。どうだい?解決策は見付かったかい?見付かる訳無いよね?」

俺「っ…黙れ!」

ディーティー「答えを教えてあげようか?ハルを倒せば良いんだよ。そうすれば僕は無防備だよ?あれ?出来ないの?そうだよねー、できないよねぇ?」

あぁくそっ!図星なだけに100倍ウザい!!


だが…油断を持ってくれるのは良い事だ。勿論こっちにとってはだがな。

これなら………


ハルが大きく足を振り、ハイキックを放った瞬間…俺はそれを受け止め、軸足を払う。そして、ハルがバランスを崩した所で…

八匹の大蛇を背中から形成。

更に殆どためを行わず、一直線に…ディーティーへと向けてそれを放つ


が、ディーティー本人はそれを避ける事も無く………撃ち落とされる八つの首。

ディーティー「危ない危ない…ちょっと見ない内に中々多くの質量を扱えるようになってるじゃないか。正直驚いたよ」


ハルの形成した光の刃……それが大蛇の首を貫き…落とし、ディーティーを守り抜く。

ディティー「判ってないなぁ…ハルを倒さない限り、ボクに攻撃は…」

が、それも想定の内。


壁の向こう側から突如として現れた甲殻の足。今度はそれがディーティーに狙いを澄まし……刺し貫く。

ディーティー「え……?なっ……」

俺「ナイスタイミングだ。レミ」

レミ「でしょ?」


そう…決め手となったのはレミの存在だった

レミ「アタシが居ない事…不自然に思わなかったのかなー?」

ディーティー「くっ……」


多少は遅れるとしても、ダークチェイサーの機動力だ…到着にかかる時差は精々1、2分と言った所。

そして、この部屋で決着を行う事は予想していた。


そう……レミには予め奇襲要員として立ち回って貰って居た。

何かあった時のための予防策だったが、それどころか問題解決の決定打になってくれたようだ。

●あがきと

ディーティー「ふはっ……ふははははははは!!!」

レミの登場、及び奇襲により決着がついた…筈なんだが

突然、気が狂ったように笑い始めるディーティー。


俺「何だこいつ…いきなり」

レミ「……あの時のアンタみたいね」


俺「えっ?」

嘘…俺こんなにヤバい笑い方してたか?


ディーティー「成る程…想定していた内容とは言え中々やってくれるじゃないか。じゃぁボクも、そろそろ本気を出そうかなぁ!!!」

負け惜しみや悪足掻き…という感じでは無い。確かな自身を持った語調で言い切るディーティー


ディーティー「キミ達はボクの事をドゥルケンシュナイダーって呼んでたみたいだけど…うん、それはあながち間違いじゃないんだ」

レミ「ダークシュナイダーよ!」

俺「いや、それは誤用だから訂正するな」


ディティー「ただね…一つだけ間違ってる事があるんだ」

そら見た事か、ディーティーにまで訂正されてるぞ


ディティー「シュナイダーって言うのはね…何も靴屋って意味だけじゃなくて…」

あぁ、そっちか。

しかし、突っ込みをしていられる余裕は無さそうだ…嫌な予感が背筋を駆け巡っている。


ディーティー「そう…仕立屋全般の事を言うんだよ。こんな風にね!!」

そう言うか否か、ハルの服と同化を始めるディーティー…いや、違う


俺「ハルと…同化………した?」

ディーティー「その通り…ハルがボクであり、ボクがハルだ。そう………キミ達は絶対にボクを倒せない」

レミ「そ……んな……」


声が震えるレミ…その感覚は俺にも痛い程判る。

ハルを倒さない限りディーティーを倒す事は出来ない…ディーティーを倒すためには、ハルを……殺さなければいけない

さっきまでの、立ち位置的な意味では無く…物理的な意味で同一の意味を持ってしまったそれ


レミ「こんなの……まるっきりハレルヤの時と………」

そう…同じだ。

そして、あんな事を二度と繰り返す訳には行かない。


ディティー「ハレルヤ?……まぁ、よく判らないけど…これで形成逆転だよね?」

ハルの身体で口元を吊り上げて笑うディーティー


………止めろ。

●きずつき

ディーティー「ほらほら、どうしたのさ?反撃してこないのかい?出来ないよねぇ?」


ダークチェイサーにより形成された服と、その到る所から展開される光の刃…

ダークチェイサーの身体能力に狩猟者の攻撃力…そしてハルの魔力を持った相手…

それが今のディーティーだ。


そして、俺達はハルを攻撃する事が出来ない…となれば、出来る足掻きは…

ディーティー「おっと…成る程…ダークチェイサーで形成された部分だけを狙って無力化させようって魂胆かい?」

読まれている…だが、読まれているからと言って無意味では無い。


俺とレミは光の刃を避けながら、ダークチェイサーの部分を削ぎ落としにかかる

ディティー「でも…そんなザマじゃ、ボクを…ハルを無力化させる事なんて出来ないね。例えできたとしてもどうするんだい?」

黙れ


ディティー「ボクを殺すかい?ボクを閉じ込めるかい?そう……ハルごと…するのかい?」

だから黙れって言ってるんだよ!

そう……いくらハルを無力化できたとしても、肝心のディーティーの存在をどうにかしなければ意味が無い。


そして…その手段が見付かるまでは凌ぎ切るしか無い………分が悪い戦いなんて物じゃないな、これは。

だが……


俺「だが! そ れ が ど う し た !!」


ディーティー「ハハッ…またそれかい?無駄だよ無駄無駄。キミの声なんてハルの心に響いたりしないよ」

俺「やってみなけりゃ判んねぇだろぉがよぉ!!」

ディティー「判るさ…記憶を失ってからのハルの記憶は覗かせて貰ったからね。全く、酷い物じゃないか」

レミ「アンタが…アンタがハルを語るんじゃないわよ…」


ディーティー「語れるさ…少なくともキミ達よりはね?そう…ハルの気持ちを何も判って無い君達よりね?」

俺「黙れよ…俺達は絶対手前ぇからハルを取り戻してみせる…」

ディーティー「そんなボロボロの状態で?どう考えてもこのまま押し負けるような満身創痍の状態で?」

レミ「それが…どうしたぁぁぁ!!!」


今度はレミが叫ぶ


レミ「ハルは私の友達なのよ!親友なのよ!そりゃぁ心の内が判らない事だって沢山あるわよ!でも…」

ディティー「でも…何だい?」

レミ「だからこそ、判りたいと思ってるのよ!!ハルの事!もっと判りたいと思ってるの!!」


俺「俺だって……俺だってそうだ!!」

ディティー「はぁ?ハルを遠ざけておいて何を今更…」

俺「俺は馬鹿だった!臆病になってた!!ハルのせいにして自分の臆病さを隠してただけだったんだ!!でもな…」


俺「俺だって…ハルと判り合いたかった!一緒に居たかったんだよ!!」

○きおくの

記憶…

私では無い誰かの記憶…

そこには私が居て、その誰かが私を見ている記憶。


私の記憶…私が体験した事の無い私の記憶…


そして更にその記憶を内側から覗き込んでいる私。

私だけど私では無い存在…


好奇心…と言うよりも探究心が突き動かし、その私に触れる私。流れ込んでくる、その私の記憶…

私が私で無くなり、塗り潰されて行くような記憶。


ハル「貴方は誰?」

ハル「私は貴方」


ハル「貴方は…存在しない筈の記憶?うぅん…多分、本当は存在しない筈なのは私の方?」

ハル「………」


ハル「本当は貴方の方が本当の私で…私は不完全な代用品?」

ハル「それは違うわ」


ハル「じゃぁ何?皆が知っている事を私だけ知らない…今の私は必要とされてない。必要とされてるのは以前の貴方…」

ハル「それも違う………私はもう居ないけれど、貴方は必要とされてここに存在している」


ハル「でも…でも……私は、その期待には応えられない。私は皆に望まれる私になれない」

ハル「………大丈夫」


ハル「………………え?」


  『だが! そ れ が ど う し た !!』


突然…私の中にその声が響いてきた

ハル「………」

ハル「だって…私は…貴方になれない…皆に…ううん、自分が望む自分にすらなれない」


  『やってみなけりゃ判んねぇだろぉがよぉ!!』


まただ…


ハル「貴方は私にならなくても良い…なりたいのなら、なっても良いけど…無理をしてなる物じゃないから…貴方は…自分が望む姿を思い描いて」

ハル「でも……あの人も……レミちゃんも…私のせいで辛い思いをしてる…」


  『それが…どうしたぁぁぁ!!!』


また…今度はレミちゃんの声だ


ハル「きっと…二人はこう言ってくれると思う…そして、許して…受け入れてくれると思う」

ハル「私…私………」


  『ハルは私の友達なのよ!親友なのよ!そりゃぁ心の内が判らない事だって沢山あるわよ!でも…』


ハル「だから私も…私達も…ね?」


  『だからこそ、判りたいと思ってるのよ!!ハルの事!もっと判りたいと思ってるの!!』


  『俺だって……俺だってそうだ!!』


  『俺は馬鹿だった!臆病になってた!!ハルのせいにして自分の臆病さを隠してただけだったんだ!!でもな…』


  『俺だって…ハルと判り合いたかった!一緒に居たかったんだよ!!』


ハル「うん……私も…」


ハル「「うぅん…私達も…―――」」

●さんにん

ディーティー「あぁもう………本当君達の言葉には論理性の欠片も無いね…」

レミ「そんな物、別に要らないわよ!」

ディーティー「なっ……」


俺「そうさ…言葉に必要なのは、論理性でも正当性でも無ぇんだよ…」

ディーティー「何を言っているんだキミ達は…」

俺「相手に気持ちを伝える力…それだけありゃぁ十分なんだよ!御託はいらねぇ!!」


ディーティー「成る程…よぉく判ったよ…キミ達は予想以上にバカなんだね。そりゃぁかひわ…も…せひりっ………―――!?」


ハル「私も……―――」


ディーティー「っ―――!?」

ハル「私も一緒に居たい…判り合いたい……」


ディーティー「ばっ…!馬鹿な!!何で!?ボクを押し退けるだけの精神力なんて形成できる筈………」

ハルの身体から押し出され……引き剥がされるディーティー………


ハル「形成出来たんだよ……判り合えたから…判ったから」

ディーティー「誰と…誰とだよ!?」

ハル「私自身…そして……まだ判り合えては居ないけど、ディーティーの事も判ったから」


ディーティー「――――!!! 知った…知った風な口を効くなぁぁぁ!!!」

引き剥がされて尚、失せる事の無い敵意を向けるディーティー…


あぁ、成る程…今回あのマスコット姿だったのは……

マスコットの姿で復活して、ダークチェイサーと一体化したんじゃなくて…

ダークチェイサーであのマスコットの姿を形成していただけか。


本性…本来の姿を現すディーティー。

以前より禍々しく、強大な力を連想させるだけの姿…それを俺達に晒す……が、しかし

俺「まぁやっぱり…負ける気はしねぇよな…」

レミ「そうよね…何て言うか、地球外でのデータを取り忘れたせいであっさりやられちゃう科学者の立場って言うか…」


俺「って言ってたら…丁度アーカイブの修復が終わったみたいだ…」


光の核「うむ…すまない、大分待たせてしまったようだ」

闇の核「そのようですね…しかし、寸での所で間に合ったたようで…」


ディーティー「なっ………えっ!?そ…そんな…闇の核に光の核!?な……なんでそんな物がここに……っ!?」

あぁ、可哀想なくらい怯えている。


ハル「あ、えっと…初めまして?」

そして、ハルはハルでご丁寧に挨拶まで始めて居る。あぁ…何かもう、エンディングに向けて一直線だって言うのに緊張感ゼロだな。


ハル「それで…出てきて貰った所悪いんですけど…ここは私に任せて貰えませんか?」


闇の核「…何かお考えがあるようですね?」

光の核「…よかろう。その手並み見せて貰うとしよう」


ハル「ありがとうございます」

●かいけつ

ディーティー「ふ……ふふふふ……馬鹿だなぁ…本当に馬鹿だなぁ!!!ハル!キミ一人でボクに勝てる訳が………」

と、語り始めるディーティーを余所に………魔法少女の姿で更に光を纏うハル……

衣装を構成する光が新たに円を描いてハルを包み込む。


そして……


ディーティー「…………」

ディーティーを含む、その場の全員が絶句した。

そう……俺達は、ハルが二段変身したその姿に見覚えがあった。


レミ「えっ……ちょっと…嘘でしょ?その姿………」

俺「ライト…ブリンガー!?」


そう…俺達を散々苦しめたハレルヤの…ライトブリンガーを集めたような姿だった

いや、これこそがライトブリンガーの完全体と言う事なんだろうが…内包しているその力は、個々の時とは次元が違う。


ハル「ライトブリンガー…って言うんですか?これ」

そしてハル本人は無自覚のようだった。


俺「おい…どうなってんだよあれ…」

光の核「恐らくは…肉体の再構成の際に我等の一部を使用した事が原因」

闇の核「ダークチェイサーの組成方法を応用して、自らの力でライトブリンガーを作り上げたのでしょう」

あぁ、そうだよな…存在の記憶だけ持ってきても、肝心の肉体が…って、そんな大事な事を今更言うんじゃねぇよ!!


ともあれ…そこから先は語る必要もあまり無いくらい………まぁ、言うまでも無く一方的な戦いだった。

ハルを取り囲む光輪はディーティーのありとあらゆる攻撃を無効化し…

対するハルは、作り出した刃を舞う様に繰り出して…ディーティーが構成したダークチェイサーを次々に削ぎ落として行った。


こうなればもう………


ハル「すみません…光の核さん。やっぱり少しだけ力を借りても良いですか?」

と、何故かこのタイミングで光の核に助力を求めるハル。


光の核「良かろう。存分に使うがいい」

うわぁ…物凄く嬉しそうだコイツ。出番無かったのが相当堪えてたんだろうなぁ…

っと、脇道に逸れたので方向修正。


こうなればもう………ディーティーに残された手段はただ一つ。脳のダークチェイサー化によるリミッター解除……な訳だが


ディーティー「そ…………………」

それすらもマトモに実行させて貰う事は出来なかったようだ。


ハルは、停滞空間…闇の核の加速空間と対を成す、光の核の力を使ったようだ。

●ていあん

俺「で………このディーティーの処分…どーする?」

レミ「まぁ…順当に行けばアンタかハルの光の力で完全消滅って所なんでしょうけど……」


俺「ま、その辺りが…」

と言いかけた所で、思わぬ横槍


カライモン「と、済まない…一応の解決を見せたのならば、こちらの方を診てはくれないだろうか?」

と言って、ひょっこり姿を見せるカライモン…そして、その手の中にあるのは…黒い立方体


俺「おい…まさかそれって…」

カライモン「そのまさか………ユズく……ユズだ」

そして黒い立方体は、カライモンの手を離れると同時に元のサイズに戻り…


俺「どうにかって言っても…コイツはもう……」

カライモン「死んではいないぞ?」

俺「えっ」


カライモン「心臓を貫き、損傷させただけ………脳にダメージはまだ無いため、損傷部位さえ回復させれば生命活動に問題は無い」

あぁ……そうか…考えてみれば俺もディーティー戦で同じような事やってたよなぁ……


俺「それで死んだと思わせて、ディーティーに諦めさせた訳か……にしても、こんな方法よく…」

カライモン「ハルの復活にヒントを得た……」

成る程…納得の答えだ。


俺「でもって………いや………って事はあれか!?ユズに上半身吹き飛ばされた後って……」

カライモン「自力で蘇生を行い、帰還した。記憶の保持さえ可能ならば、肉体の修復後にそれを上書きする事で解決出来る」

俺「……………何だよそりゃ!あぁくそっ!!心配して損した!!」


言葉の通りの内心である。


俺「ってかよぉ…ユズが生きてるんなら生きてるって…」

カライモン「それを説明する暇すら与えて貰えなかった…そう記憶している」


俺「………そうでした。全部俺が悪かったです。ってー事はあれだよな?今の今まで黙ってたのも…」

カライモン「蘇生準備が整うまで待機をしていた。加えて言うのなら……他に手段が無かった場合、ハルの開放にもこの手段を使うつもりだった」

俺「ですよねー………何かもう、怖いくらい手回しが良いなぁオイ」

カライモン「褒め言葉と受け取っておく」


俺「あ、でもよ…ユズの心臓とか損傷部位をどうやって直すんだ?俺もハルもそんな技術は……」

カライモン「技術は無くともデータは確保してある。そして……停滞空間と加速空間を使えば、いくら不器用でも……」


俺「…え?マジ?俺がやるのか?」

カライモン「でなければ、ユズはこのまま」

一同「…………………」


俺「…あーくっそ!!やるよ!やってやりゃ良いんだろ!!」

そうして…どうにかしてユズの体を治した俺。

途中で休憩は挟みはした物の…体感時間にして360時間くらい。黒い医師も真っ青の長期間オペだった。

ちなみに…俺がユズを治療している間に、黒い靴に侵食された女の子はハルが治療したらしい。


俺「で…改めて…ディーティーの処遇はどうするんだ?」

ハル「それなんですけど……」

DT「それなんだけど……」


おいオリジナル。お前どこから沸いて出た


DT「出来れば殺処分は回避して欲しいんだよね…あくまでボクの希望なんだけど」

俺「いや、でも……こいつのせいで何人の人間が死……ん?」


こいつのせいで……前回と今回、どんな被害があった?

前回…俺やレミ…そしてハルの命の危険…そしてダークチェイサーの目減り…

今回……通り魔事件の加害者にされた女子や被害者。俺とレミとハルに命の危険…加えてユズとカライモンが瀕死な訳だが……

被害者は、無事では無い物の命に別状は無し、加害者の女の子も治療済み…となると………


俺「あれ?あー……一応だけど、死者は出て無い…?」

ハル「はい、そうなんです。一歩間違えれば危ない所でしたけど…」


レミ「………」

ああ…悪人とは言え人を殺しちゃってるレミがもの凄くバツ悪そうな顔してる


DT「しかも…それに至ってはボクへのコンプレックスが原因だからね…ボクも一緒に罪を償うから、許してあげてくれないかなぁ?」

一番の被害者…一度死んでしまったカライモンの方を見る

カライモン「オリジナルのDTには借りがある。それに、罪を償うと言っている以上…その言葉の通りに行動して貰えるのならば許す」

口元が物凄くマッドな笑いをしている……


そして次に…散々な目に遭ったハル

ハル「こういうのも変かも知れませんけど…またディーティーとリンクしたお陰で、そこから過去の自分の記憶を取り戻す事が出来たんです」

俺「あぁ………成る程、そういう事だったのか」

ダークチェイサー…もといライトブリンガーの組成方法もそこから引き出したって事か。


ハル「と言っても、完全にそれが溶け込んだ訳ではなくて…まだ自分とは違うと感じる部分もあるんですけど…」

まぁ…そのくらいは仕方ないだろう

ハル「だから……そこだけは感謝していて…ちょっと恩情を与えてあげて欲しいんです…」


最後に……瀕死の重傷を負ったユズ。

ユズ「…へ?自分ッスか?……えっと…状況がよく判らないんッスけど……とにかく、償える程度の悪い事だったら許して上げても良いんじゃないッスか?」

なんともまぁ…自分の事でもあると言うのに……って…そう言えば胸部の再生で手一杯で、服の方まで直すのを忘れてた。


俺は無言でユズの胸にジャケットをかける。そして、ユズもその時点でやっと気付いたようで……

ユズ「って、えぇぇぇ!?何ッスかこれ!?もしかして自分、ずっと胸晒してたんッスか!?」


その通りだが……誰も気にはしていなかった、安心してくれ。

●おさまり

そして………二度目のディーティー騒動も収まり、再び訪れた平穏な日々。

それに関わった面々は、今どうしているかと言うと………


まず、黒い靴に操られた女の子と被害者達。

女の子「あの…公式発表で聞いたとは思うんですけど…」

被害者「錯乱ガスだっけ? まぁ…それじゃぁ仕方無いよね」


どんなコネを使ったのは知らないが…

どこかで研究中のガスのが漏れ出して、そのせいで女の子達が一時的に精神に異常を来たして錯乱状態になった…

という公式発表を……政府に行わせる事で解決を見せたらしい。


ちなみに、この事件で少なくない数のカップルが誕生したらしいのだが…

俺「どんだけ吊り橋効果に弱い奴等なんだよ」



ユズとDT。

DT「と言う訳で、改めてボクがキミのパートナーになった訳だけど…」

ユズ「ディーティーのお姉さんッスよね?見た目だけじゃなくて名前も同じなんッスね」

DT「あぁ、じゃぁ02の方は今まで通りディーティーって呼んで貰って、ボクの事はディーティー01またはディーティーオリジナルとでも呼んで貰おうかな」

ユズー「おおー!ロボットみたいでカッコ良いッス!!」


何だかんだで良いコンビをしているっぽい。

ちなみに、イメージカラーをピンクからオレンジに変えてコスチュームも一新したとの事。



続いてカライモンとエディー。

エディー「あのぅ…今回当事者で無かった私が言うのも何ですが…その位で…」

カライモン「…………」

便利道具担当は、また何か怪しい物を開発しているらしい。



次にマイ。

俺「何だか最近やけに上機嫌じゃないか」

マイ「判るかね?いやぁ…久しぶりに楽しめる研究課題を見つけたのだよ」

こっちはこっちで充実しているようだ。

そして最後に俺達………俺と…レミと…ディーティー…そしてハル

ディーティー「いやさ………さすがにこういう恰好は、ボクとしても恥ずかしいんだけど…」

ハル「そんな事無いよ。うん、凄く似合ってて可愛い」

レミ「そうそう、可愛いわよー」


ディーティー「―――っ!」

ダークチェイサー部分の浄化、DTとカライモンの共同開発技術により、本来の姿…それもマスコットの方ではなく女の子の姿固定で元に戻ったディーティー。

贖罪という名目で、今では二人のおもちゃにされている。


まぁ…自業自得だな。



あぁ、そうそう…そう言えば毎度恒例となりつつある俺の受難だが………


ユズ「あ、センパーイ!お昼一緒にどうッスか?」

どこでどう勘違いをされたのか……ユズにまで懐かれてしまったらしい。

ちなみにセンパイと呼ばれる理由は、ユズの通う中学が俺の出身校だからだ。


ハル「ねぇ…ユズちゃんは彼のどんな所が好きになったの」

ユズ「えぇっ!?ちょっ…直球ッスね…!!じ、自分が…センパイの事を好きになった所は……男らしさッス!!」

ハル&レミ「「えっ!?」」

いや…地味に傷付くからその反応は止めてくれ。


こうして取り戻す事が出来た俺の日常………

レミが居て…

そしてハルが居て………

おまけにユズが居るこの日常………


ちょっと世間様の常識からは外れた所に在りはする物の…

まぁ、何だかんだで俺は満足している。


    魔法少女ドゥルケンシュナイダー ―完―

と言う訳で…今回のドゥンケルシュナイダーを持ちまして、第一部完とさせて頂きます。
長い間お付き合い頂いた皆様、ありがとうございました!

それではいつもの、先送りレスのまとめ返しをさせて頂きたいと思います。

>305 ダメ男が逃げの手を打った結果ですしね…
そして、花のネタが判りません、すみません!
>306 どっち付かずのまま暴走してしまいますよね。
そして乙ありです!
>307 sat○の社員さんの事になります。
>308 恰好良いですよ、キャラデザ担当が桜玉吉先生ですし。
>315 全くもってその通りです。
>316 流出しちゃうと、どうしてもそういう結果になっちゃいなすよね。カライモンさんの情報管理にご期待下さい。
>320 核達と無関係の存在が居ないとは断言しませんが、基本的に関係性があります。
あと、その中でもダークチェイサーはディーティーの創造物なので…と言う真相でした!
>320-321 ぶっちゃけ未使用の新品になって戻ってきましたよ!
>326 実は捕まってすらいませんでした。俺君の思い込み!
>327 リョナラージャナイデスヨ!? 障害が大きい程ハッピーエンドが際立つじゃないですか。
>334-335 ディーティー「ごめんな。悪りい。すまねえ。許せ。」
>338-339 特に主人公は…作者の都合で難聴になったり、名探偵の推理力を失ったりしますものね。
>344 ディーティーと遭遇していたら、知って居たとしても捕まってしまっていたでしょうしね
>345-346 ハッピーエンドを盛り上げるための「ため」ですよ!?
>350 そろそろ活躍させないと、メインヒロインだって事忘れられてしまいそうですし。何よりクライマックスですから!
>358 最後まで突っ切ってみました。ユズはリアルにjcなんで…まぁうん…
ちなみに、傘やレ○プ等の、記憶に無い記録に関しては…DTの中に残ってたハル本人の記憶を複写した感じになっていますので
その辺りの折り合いをハルの中で付けて行く事になります。

そして最後にヒロイン全員集合写真を一枚
ttp://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=47834224

>361 改めて乙ありです! 投稿タイミングに関しては気にしない方向で!
ユズはほら…素直なダケデスヨ、キット。

>364 メインヒロインなので、やっぱり目立つ場所にしようかと思いまして。
アホの子人外漫画…どれの事なのか。個人的には、某おもちゃとか好きです。
そして花についての補足ありがとうございます。ぐぐっても出ないと思ったら、ドゥンケル(闇)の単語しか合っとらんやーん!(ツッコミ)

>365 ありあり!
そしてネタばかりが先走り過ぎて文章にするのが追い付かないのが今の現状…
皆様のご期待に応えられるよう頑張ります!     ………来月から

>366 ありがとうございます!
イメージカラーと羽根猫モチーフなのは初期から決めてましたので!

>368 えっ 狂ってたり暴走してるだけで変態が相手な訳じゃないですよ!?

>369 集合写真の対比がほぼそのまま身長差と見て頂いて問題ありません。
ちなみに各ヒロインの身長は
ハル:138cm
レミ:139cm
ユズ:134cm
マイ:164cm
カライモン:142cm
ディーティー:136cm(ヒールで+5cm)
となっております。

>370 途中でレミに乗っ取られそうになりましたが、一応ハルがメインヒロインですよ!
それはあれですよ。恋は障害が多い方が燃え上がると言う事で…

>371 孫と聞いて最強の幼女を連想しましたが、吸血鬼の方の孫だと気付いた今日この頃
>372 ヒドクナイデスヨー、格別の扱いがそう見えてるダケデスカラー
>373 ダメ男でも節操無しではありませんからね!特にマイはこの後ずっとアイアンなメイデン…
>374 あけおめことよろ! 新シリーズ「リア充爆散しろ」始めました。魔法少女ダークストーカーもまったり進行を再開する予定です。

新シリーズ「リア充爆散しろ」
リア充爆散しろ - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420919792/)

●あらすじ

ある日突然、謎の怪物…ダークチェイサーに襲われた独り…もとい一人の男。

そして、それを助けた魔法少女…狩猟者ハル。

ダークチェイサーを影から操っていた黒幕にしてハルの親友、レミ。

ダークチェイサーの創造主にして、事件を引き起こした張本人…ディーティー。

この四人を中心に巻き起こった事件…通称ダークチェイサー騒動。


そしてそのダークチェイサー騒動を解決した後も、彼等は異世界で光の恩恵派というカルト集団の侵略に巻き込まれ…

悪の手に落ち、ハレルヤとして立ちはだかるハル。

そこに現れる三人目の魔法少女、カライモン。

光と闇の力を力を借り、最強に見えるようになった男により…もたらされる決着。

そして一度は命を落とすも、過去の記憶から復活を果たすハル。


更には、死んだ筈のディーティーが巻き起した事件…

通称ドゥンケルシュナイダー事件を解決し、以前の記憶を取り戻すハル。

そして、新たな魔法少女…ユズと、人型の姿で固定されたディーティーを強制的に仲間に加え…

彼と彼女達は、波乱ながらも平穏な日々を送っていた。

†魔法少女ドリットデーゲンシュトラーフェ†

●わたしが

「やーいやーい、アマイモンがまた甘い物食べてるぞー」

「私は亜門マイだもん!アマイモンじゃ無いもん!」

「やーいやーい、アマイモン、アマイモンー」

「だから違うって言ってるでしょ!私はアマイモンじゃないもん!」


言葉が残響して頭の中に響き渡る中、最悪の気分で目覚める私。

しばらくぶりに見た、昔の夢…

まだ私が幼く、何の力も持って居なかった頃の…幼馴染に苛められていた頃の記憶…

この夢を見ると決まって苛立ちを覚え、そのテンションが丸々一日続く事が約束されている。


…おっと、私とした事が自己紹介を忘れてしまっていたようだな。

私の名前は亜門マイ。大学教授をしているしがない学者…そしてお気付きの事だろうとは思うが、魔法少女カライモンだ。


とは言った物の…藪から棒に言われて納得出来ない人も中には居るだろうから、順を追って説明して行こうと思う。


そうだな…まずは私が魔法少女になるに到ったきっかけ…異世界へと続く門を潜った時の事から話して行こう

●きっかけ

私「何だ……一体何処なんだ此処は?」

私の実家のすぐ隣…幼馴染のアイツが住むアパートの庭で見つけた謎の扉…

学術的好奇心に負けてその扉を潜った私を待ち受けていたのは、見た事の無い景色だった。

そしてそれは、直接自分の目で見た事が無いという意味だけでは無く…見聞きした情報のどの国にも該当しない景色。


今、自分が居る崖の下に見える大河…その川に沿って泳ぐ巨大な蛇。

空を泳ぐ鯨に、それを取り巻く魚群の数々。

山の上にもう一つ、空中に浮んだ山。


あえて形容するならば、御伽噺や空想の…ファンタジーの世界だろう。

白昼夢にして明晰夢…最近、並列世界論に没頭していた故にこんな物を見ているのだろうか…そんな事を考える。

が………それが夢では無い事をすぐに思い知る破目になった。


この世界の異変に気を配る余り、疎かになってしまっていた周囲への警戒。


突然現れた私の体重に耐え切れなくなったのか…崩れ落ちる足場…

気が付いた時には既に遅く、手を振り回しても掴むのは空ばかり。

私の身体は、万有引力に引き寄せられるまま…岩肌にぶつかりながら、崖の下へと落ちて行き…


そこで意識を失った。

●せつめい

エディー「ご存命でしょうか?私の言葉が聞こえていらっしゃいますか?」

私「………っ」

そして、失って居た意識を現実へ引き戻したのは謎の声。


体中と走り回る痛みに耐えながら、何とか思考を手繰り寄せる私。

見知らぬ場所に来て、崖から落ちた…そこまでは憶えて居る。

そして、身体の痛みから…それが解決していない事も理解出来る。では、当面の謎は何か…この声の主の正体だろう。


私「キミは……一体何者だね?」

エディー「私の名はエディー。非常事態故に説明は省きますが、今…貴方の生命はとても危険な状態です。私と契約して下さい」

省き過ぎだ…と心の中で愚痴るも、自分の生命の危機を自覚出来るのもまた事実。

このエディーと言う存在が何を目的としているのか…いや、それを勘ぐった所で私に選択肢は無い。

例え悪魔の契約であろうとも、生き延びるためにはそれを交わす意外の選択肢が用意されては居ないのだろう。


私「…良いだろう…契約しよう。どうすれば良い?」

エディー「その確認さえ行えれば十分です。後の事はお任せ下さい」

その言葉を最後に、聞こえなくなる声…いや、周囲の音全て。


私は再び意識を失った。

●どなどな

そして再び………私が目を覚ましたのは、何かの荷台の上。

テントのような屋根が張られて居て周囲は見渡せないが、その振動から車状の…荷車か何かで運ばれている事は判った。

私「何だここは……っ――!!」


そして、意識の覚醒と共に全身を駆け巡る激痛…だが、最後に感じた物よりは幾分か和らいでいるそれ。

気付けば…傷だらけだったであろう皮膚からも、その痕跡は殆ど消え去っている。

何だ…これは一体どうなっている?どこからどこまでが夢で、どこからが現実なのだ?


エディー『貴方は私の『扉』を潜って此方の世界に訪れ…その直後に崖から落ちてしまわれた…そこまでが現実で御座います』

私「何だねこれは!頭の中から声が聞こえるぞ!?」

エディー『これは、我々獣人が契約者との間でのみ通わす事が出来るテレパシーで御座います』


あぁ…段々と思い出して状況が掴めて来たぞ。確か、崖から落ちた直後…エディーと名乗る者と契約する事になったのだ。


私『そして…契約の結果私はこうして生き延び、今に到ると言う訳なのだろうが…そもそも契約とは何なのだね?対価として何を要求するのだね?』

エディー『もうテレパシーを使いこなしているとは、恐れ入ります。申し送れましたが…私の要求は貴方の傷の完治で御座います』

私『どうも都合の良い話だね…私としては助かるけれども、それは君にとって何のメリットも無い内容に聞こえるのだが?』


エディー「そもそも事の発端は私の失態ですので。この上更に貴方に負債を負わせないよう…そう考え選択した結果の契約内容で御座います」

そう言って、テントの入り口から姿を現すエディー………いや、エディーなのだろうか?


私の目の前に現れたのは、犬ともカピパラとも付かない存在に羽根の生えたぬいぐるみのような存在。

一見して生物に見えないそれを目にして硬直する私。

だが、エディーはそんな事など気にする風も無く…淡々と説明を続けて行く。


エディー「あの扉は本来、ある程度魔力の素養を持った者にしか見え無い物…」

マイ「つまり、私にはその素養があったという事なのだね」

エディー「左様に御座います。故に、貴女のように侵入して好奇心で開けてしまう方に対しての対策を怠っておりました」

マイ「それはそうだろうね。例えそこに不思議な物があったとしても、わざわざ他人の敷地内に侵入して調べようと言う者などそうは居まい」

盗人猛々しい事この上無いが、あえてここは同意しておく。


エディー「そして同時に、私が同伴しなかった場合の転移座標の変異…この割り出しに手間取った故に、貴女の発見が遅れ、あのような事態に…」

私「それに関しては、来てすぐにあの状態になったので仕方が無い。それよりも…別件で一つ質問しても良いだろうか?」

エディー「如何な内容で御座いましょうか?」

●しつもん

私「そもそもキミは何者なのだね?先程は自らを獣人と名乗って居たが…」

と……その姿を見た時から、ずっと気になっていた事を口に出す

私「と言うか、その身体でどうやって声を出しているのだね?生命維持機構は?飛行方法は?そもそも、契約とはどういう仕組みなのだね?」


エディー「はい…私は獣人。獣の姿と人の姿の双方を持つ種族に御座います。まず、この姿での様々な行為を行う手段なのですが…」

マイ「詳しく聞かせてくれ給え」


エディー「まず声に関しては、魔力による空気振動で…複数音声の同時発音。その中でも対象に馴染みの深い言語のみを鼓膜に届ける仕様となっております」

マイ「成る程…それはまた便利な物だね。キミが日本語を話していると思ったのだが、そんなカラクリがあったとは…それも獣人の能力かね?」

エディー「いえ、これはこちらの世界の住人の基本技能に御座います。逆に貴女のように特定の言語で発言されても聞き手は理解できますのでご安心を」

何と言う事だ…異世界人の言語能力恐るべし


エディー「次に、生命維持や飛行方法ですが…これに関しては微量の魔力を用いる事で、貴女の世界のエネルギー消費とは異なった方法で行っております」

マイ「予想はしていたが…種の在り方や物理法則にまで干渉するとは。魔力とは底が知れぬね」

エディー「それに関しましては、世界の違い故の環境の差異かと。私共からすれば、過剰なまでに電力に頼った生活にこそ違和感を覚えます故」

マイ「成る程…それもそうだね。魔力が自然の一部なのであれば、それに適応した進化を行うのもまた必然か」


エディー「それでは最後に、契約の仕組みで御座いますが…こちらは少々長くなりますが、宜しいでしょうか?」

マイ「構わんよ、続けてくれ給え」

エディー「では……まずその初期プロセスから。我々獣人には、限定的ながらもテレパシー能力がある事は先程お伝えしたと思います」


マイ「契約者との間でのみ通わす事が出来るテレパシー…と言っていたね。これはニューロンネットワークの一部を間接的に接続していると言う事かね?」

エディー「左様にございます。そして、それにより記憶情報の一部を共有し…」

マイ「そうか…それにより魔法の行使手段を与え……更には、時に互いに遠隔干渉を行い、時に相互的に補助を行えると言う事だね」

エディー「左様にございます。しかし…あまり使い過ぎると双方の意識が混線してしまうため多用はお控え下さい」


マシンガンのような私の質問に対し的確に解答するエディー…こやつ、中々できる。

そして、会話の中のから得られる情報の数々

恐らくは、契約を行い私の魔力を使う事で私の身体を治療したのだろうが……


マイ「と言う事は…キミ達は、単体で保有する魔力はあまり多くは無いのだね?」

エディー「左様に御座います。故に私達の多くは、魔力を持つ者…主に人間との共生を主としております」

マイ「成る程…他者からの魔力供給を主とし…カロリーを消費せず、最小限の魔力で活動するためのその姿…と言う事か」


そして、更に拡張して行く思考…テレパシー…この能力における情報保持の可能性。

数多の応用方法が浮び、頭の中を埋め尽くす…が、そこで一旦思考を停止する。


どこまでが可能でどこからが不可能なのか、考え出したらきりが無い。それは後々模索して行く事としよう。

●もくてき

マイ「しかしまた話しが変わるが…当面の目的は私の治療なのだろう?」

エディー「左様に御座います」

マイ「では、この荷車はどこに向かって居るのだね?この世界に来た時のように、あの扉を使って移動は出来ないのかね?」


エディー「その件に関しましては…まずあの扉。あれは世界と異世界の通行用のための物で、同一世界の別座標への移動へは運用できないのです」

マイ「さすがにそこまで便利な物では無いと言う事か…では、この荷車の目的地は?」

馬も動力も無く…恐らくは魔力で車輪を回転させて進むこの荷車…その行き先を問う


エディー「こちらの世界の医療施設に御座います。貴女からすれば元の世界の医療機関の方が信用に足るかとは思いますが…」

マイ「いや、そんな事は無い。むしろこちらの世界の医療を知る機会の方が重要だね。そして、文脈から察するに…あの扉は今は使えないのだね?」

エディー「流石は貴方様…あの扉は今、とある事情によりあるお方が使っておられまして…」

マイ「あぁ、私の事はマイと呼んでくれて構わない。そして、これは憶測でしか無いのだが……そのお方と言うのは男性で…ハル君の関係者かね?」


エディー「流石はマイ様………既にそこまでお見通しでしたか」

マイ「あの扉があった場所が場所なだけに、予想はね。となると…彼が元からこの世界に関わっているという推測も立つのだが…詳しく聞いても良いかね?」

エディー「そうで御座いますね…事情に巻き込まれてしまっている当事者である以上、その権利は所有されているかと。では簡略ながら―――」


そうしてエディーから説明される現在の状況…

ハル君が魔法少女になった経緯…光と闇の勢力による争い…その均衡が崩れ去ろうとしていてそのために動いている事

その中でハル君が何者かに攫われてしまった事と、その犯人の目星が未だに付いて居ない事。

ただその話を聞いている中で、一つ…引っかかる物があった。


マイ「光の勢力…そう言えば」

エディー「何かご存知なのでしょうか?」


マイ「私達の世界で最近動きを見せ始めている宗教団体があるのだよ。名前はそう、確か……光の恩恵派とか言って居たかな」

エディー「何ですとっ!?それは真ですか!?…そんな…いえ、ですがそれならば辻褄が……しかし」

その名前を聞いた瞬間、血相を変えて声を荒げるエディー。

そして暫く独り言を続けたかと思えば、急に押し黙り………


エディー「これは………予想以上に深刻な状態なのかも知れません」

重苦しくその一言を発した。

●かくさく

医療施設にて……本格的に怪我の治療を始めながら、エディーの話を聞く私。

光の恩恵派と言う、この世界の過激派テロリストの存在…それにハル君が攫われてしまった可能性…私の世界の同名の団体との関連の可能性…

そして…それらを一通り聞いた所で現れる、新たなぬいぐるみ。

白と灰…いや、銀を基調とした猫に翼の生えたそれ。恐らくはエディーと同様獣人であると思われる。


エディー「彼女の名はDT。先に話したディーティーのオリジナルで…」

DT「はじめまして、ボクの名前はDT。本名はダークテイカー…元、光の恩恵派の幹部さ」

説明を始めるエディー…そして、それを遮って自己紹介を始めるDT本人。


私「成る程…容疑者が狭まった所で、その内部に詳しい人間を呼んだと言う所か」

エディー「ご名答で御座います」

DT「その通りさ」

私「では、具体的な話を聞こう。この先どういった手段でハル君を奪還しようと考えて居るのだね?」


エディー「それは…」

と、私がその質問を投げかけた所で口篭るエディー。案が無いのでは無く、それを口に出し難いのは見ていて判り…内容も大体予想が付く。

DT「キミには大変悪いと思っているのだけど…キミの力を借りるしか無いと思うんだ」

そしてそれを代弁するDT…まぁ、予想通りの内容だ。


と言うか…契約の内容を変更して協力させれば良い物を、それを行わない事からもエディーの性格が読み取れる。

だからこそ、これ以上それに甘える事は私の意に反するし…加えて言うなら、個人的にもハル君を助けたい。そして………

こんな面白そうな事に巻き込まれるチャンスを、逃す気も無いのだ。


エディー「ですがっ…」

私「よし、承知した。ではまず、魔法の使い方の詳細と…そうだな。変身方法を教えてくれないか?このままの姿で彼等の前に出るのも少々あれでね」

DT「そうだね…実戦向けの魔法となるとエディーよりもボクの方が詳しいし」

渋るエディーを余所に、進めて行く会話…


その様子を見て、諦めたのか折れたのか…エディーも説明に加わり始める

●まほうの

DT「じゃぁまず、魔法の使い方…これは、キミ達の世界で言う所のプログラミングや回路の組み立てに近い物なんだよね」

私「大体言いたい事は判る。問題は、その組み立て方法なのだが…」

エディー「それに関しては私がマイさまの意識に直接伝達しますのでご心配無く」


と言って、私の意識の中に魔法の式を書き込み始めるエディー。

…成る程、これは確かにプログラミングに近い。そして脳がハード代わりか。


そうして書き込み終わる魔法の基礎…だが、そこで一つ思い付く。

私「これは…私自身で無くとも、他の媒体に書き込んでも同様の効果を発揮できる物なのだよね?」

DT「術式を書き込んだ先が、魔力を流し込む事が出来る物であればね。大抵はステッキ状の物に、補助的な術式を書き込んで居るよ」

それを確認して、脳の片隅に置く私。


私「では次に変身方法を聞こうと思ったのだが…これもついでに書き込まれているようだね。しかし……」

予想はしていたが、難点が多数…

まず、変身と言ってもあまり大きな肉体的変化は起こせないと言う事。


私「これは本来、キミ達の変身プロセスを流用した物だろう?と言う事は、もっと大きな変化や…変身による損傷のリセットは出来ないのかね?」

DT「理論上はそれも不可能では無い…けれど、それらに関してはボク等自身にもリミッターがかかっているんだよ」

私「具体的にはどのようにだね?」


DT「まず、獣型と人型…この二つの形態は、どちらか一方に起きた変化に連動している。肉体の形状…つまり、脳の状態変化にもね」

私「成る程…でなければ変身の度に記憶が失われてしまうからな」

脳限定では無い事にも意味があるだろう事は伺えるが、その詳細までは判らない様子。私は一旦、その思考を片隅に押し退けて置く。


私「そして、契約者の変身にかかっているリミッターは…本来の用途とはまた異なる、例外的流用。それ故の措置…か」

エディー「左様に御座います。自分達でさえ危うい領域の存在する物故、それを本来持たざる方々にはより強固な制限を設けざるを得ないのです」

そしてその情報を、また一旦脳の片隅に追いやる私。


ふむ…全容と可能性が見えてきた。


私「不可能では無が、安全性を考えれば踏み込ませる事が出来ない領域…か」

エディー「はい…ですので、契約者の変身は原則的に装備の換装…及び、簡易的な色素の変換のみとなっております」

私「そして肉体の損傷リセットも、獣人同様に不可能…か」


DT「ま、その辺りは…ボクも研究しているんだけど。現段階の技術水準では、治療魔法で治すのが無難…って所なんだね」

そうして………それらの説明を頭の中でまとめ、形作り始める変身の姿と手順。

エディーに貰った魔法の基礎を元に、そこから応用と改変により自分なりのカスタマイズを加え……

私「よし、出来た」


DT「えっ?」

エディー「何ですと!?」

驚きの声を上げるエディーとDT…


と言うか、私自身アッサリと改変が終わった事に対して驚きを禁じえない。

もしかしたら、私は魔法の運用と相性が良いのかもしれない…そんな考えも浮ぶくらいだ。


私「と言う訳で…早速変身してみようと思うのだが…一つだけ確認して置きたい事がある」

エディー「何で御座いましょうか?」

私「エディー…君は女性だよね?」


エディー「正直、男性だと思われて居た可能性があった事の方が心外で御座います」

その喋り方なのだから仕方が無いだろう…と思う私……そして恐らくは同じ考えのDT。

しかし双方ともそれを口には出さず…


改めて唯一の懸念を拭い去った私。これにより、事実上は何の問題も無くなった。


最後確認を終え、変身の準備を整える私。変身と言ってもほんの数秒で終わるよう組んであるのだが…うん

何事にも共通する事なのだが、一番最初の試行と言う物はどうしても緊張してしまう。

大きく息を吸って、深呼吸をする私。そして覚悟を決めた所で…変身プロセスを開始する。


DTとエディーが見守る中…そうそう、念のために身体を発光させる魔法を追加して………

簡易的な身体の変化…装備の換装。


変身プロセス…その全てを終え、変身後の姿を二人…二匹?にお披露目する。

●いがいと

が………その反響は、予想外の方向に大きかった

DT「…………いや…うん、確かにあぁは言ったけど…えぇ…?」

エディー「と言いますか…言いますか……私、ご説明いたしましたよね!?」

私「うむ、説明された範囲の中で私にも出来そうな事をしてみた」


エディー「出来そうな事、ではありませんよ!!一歩間違えればどんな大惨事になっていたかも予想出来ないのですよ!?」

DT「しかしまぁ…色んな意味で随分と思い切った姿になったねぇ……うん、無茶もさる事ながら、チョイスも…」

私「そうかね?…と言うか私としては、姿よりもこれらの武装の方に注目して欲しかったのだが…」


と言って、くるりと身体を回す私…自己診断でも身体に異常は無し…エディーの心配するような不具合も特には無し。

作り出した武装…魔力により強化した装甲や、凝縮した魔力を打ち出す小型ミサイルポッド、感知ゴーグルにも異常は無し。

完璧な変身を行ったと自負するに足りる成果なのだが……どうも二匹…特にエディーはお気に召さないようだ。


エディー「当然で御座います!説明をお聞きになられましたよね!?その危険性故にリミッターがかけられていると!」

私「うむ」

エディー「では何故!そんなに大幅な肉体の改編を行われたのですか!」

そう言って私の体を指差すエディー。

説明が遅れたが…変身後の私の肉体は、私が12歳の時の物。そう…リミッター解除に成功したので、折角だからこの体型になってみた。

あの背恰好で魔法少女と名乗る事に抵抗を感じた訳では、断じて無い。

ちなみに当時はストレートでは無くサイドテールにしていたのだが…

彼はサイドテールを見ただけでそれが一体誰なのか区別できる変態だ。と言うよりもサイドテールで人を区別している可能性すらある。

一応は正体を隠して行動する以上、自分からそれを明かすような要素は排除しておく事にして……


私「戦闘能力と体格が比例して居ない以上。同じ性能ならばよりコンパクトな方が都合良いだろう?」

と、もっともらしい理屈を告げておく。

エディー「………」

そして、ついには諦めたのか…うな垂れて抗議の言葉を終えるエディー。


空気を読んでいたDTは、それを確認してから…

DT「じゃぁまぁ…無事変身には成功したから良いとして…この後は、具体的にどうするつもりなんだい?」

と問いかけてくる。それに対して私は…


私「そうだな…まずは私の世界の光の恩恵派の方を調べてみようと思う」

DT「成る程…名前からして無関係では無さそうだし、もしかしたらハルくんがキミ達の世界に連れ去られた可能性もある…そう踏んでいるんだね?」

私「そういう事だよ。折角来て貰ったDT君には悪いが、彼等が戻って来た時にそちらのサポートをして貰えるかね?」

DT「あぁ、うん…ちょっと気が重いけど、頑張ってみるよ」


エディー「しかし、あちらの世界に続く私の扉は彼等が使用中で…他の扉を借りようにも時間が…」

私「それならば問題は無い。私も扉を形成できるようにしておいた」

エディー「えっ」

DT「えっ」

と言って魔方陣を展開し、壁に扉を作る私。


そう………こうして魔法少女としての初陣が始まった。

●たんさく

………と、その場の勢いで飛び出しては来たのだが…正直、もう少し策を練ってから来るべきだったのかも知れない。

向こうの世界の時間経過はこちらの世界の10倍…もしハル君があちらの世界に居た侭の場合を考えると、無駄に時間を消費する訳には行かない。

なるべく簡潔に…無駄を省いた行動を必要がある。そう…いの一番に行うべきは、情報収集。


そして…そこでふと気付く。もしかしたらエディーなりDTが何かこちらの世界での光の恩恵派の動きを予測する手段を持っていたかも知れない。

聞き忘れた事は無いか、確認のためテレパシーでの通話を試みる………が、エディーからの返事は無い。

世界の壁の問題か、世界の速度の問題か…どうやら、世界を隔ててのテレパシーは行えないようだ。


となれば………まず最初に行うべきは、私が持って居る手段の中で有用と思われる手段を使う事だろう。

それは、ゴーグルに書き込んだ魔法…魔力の探知だ。


聞いた話では、ハルくんの魔力は都市一つを賄えるだけの物との事…

もしあちらの世界に残っているのではなく、こちらの世界に連れ去られたのならば

この方法で見つけ出すのは難しくは無い筈。そう踏んでゴーグルをかける…のだが


私「………」

正直、探知結果に絶句した。

市内だけでも、それなりに高い魔力を持った人間が十数人。隣の市に至っては………うん。見なかった事にして路線を戻す。


魔力の探知ではこの中のどれがハル君なのかまでは判別出来ない…となれば、それらの中から絞り込むしか無いだろう。

噂話が示して居た場所は街中……新興宗教、光の恩恵派が活動していると見られる場所。その近辺。


幾つかの小さな魔力の反応が取り囲む…巨大な魔力反応。

符合する状況から見て、これがハル君で間違い無いのだろうが…問題は、その反応が全く動かないという事。

嫌な予感を思考の片隅に置きながら……バックパックからウイングを展開する私。


魔力を燃料代わりにしたジェット噴射により、そのまま一直線に…ハル君の下へと飛んで行く

●しずけさ

そうして…程無くして辿り付いた先。光の恩恵派の集会場として使われていると思わしき場所。


かつては別の宗派の教会として建てられたのだろうが…今では管理する者も無く、蔦に覆われた廃墟も同然の建物。

ここから取れる手段は大きく分けて二つ…建物ごと壊してハル君の下に直行するか、建物の中を探索しながら進んで行くか…


個人的には前者の方法を取りたいのだが…万が一ハル君まで巻き込んでしまう事を考えると、それも出来ない。

故に、面倒ながらも後者を選び………入り口の扉を蹴破る。


宙を舞い…轟音と共に床へと落下する扉…呼び鈴代わりとしては騒がし過ぎる程の音を立てて床を転がるそれ。


しかし、教会の中を支配するのは不気味な程の静寂。

私「信者は皆地下…か」


改めてゴーグルで魔力探知を行い、信者達とハル君の居る方角を確認する。

しかし…地下に居たからと言って、これだけの事態に誰も偵察に来る様子すら無いのは極めて不自然。

気持ちの悪さと嫌な予感が頭の中を渦巻く中、私は地下へと続く階段を発見するのだが……同時に其処で一枚のプレートを見つける。


   カタコンペ

●いかれた

カタコンペ…直訳で地下墓地。

何を意図してそんな名前を付けたのかは判らないが…集会所と思われる場所にそんな名前を付ける時点で、頭がいかれた連中だと言う事が再認識できた。


一体何が起きているのか…何が待ち構えているのか…そんな事を考えながら螺旋階段を一歩一歩下りる私。


一歩…また一歩……始めは足音を殺して歩いていたが、長い歩みの途中でそれさえ面倒になり早足で下りて行く…

しかしおかしな事に…もうかなりの距離を降りている筈だと言うのに、次の階層への扉が一向に見えて来ない。

これ程まで地下深くに作る意味は何なのだろうか……それを考え始めた所で、根本的な間違いに気付く。


私「しまった…これは罠か!」

改めてゴーグルをかけ直し、行うのは魔力の探知。地上から見た時と同じく、自分よりも地下に存在する魔力の数々。

だが、その距離は一向に縮んで居ない。つまり………

恐らくは、ずっと同じ場所を歩かされていた。時間を浪費しただけで、何も進展していなかったのだ。


魔法への不慣れを差し引いても、本来ならば回避出来た筈のトラップ…まんまと出し抜かれたという事実に、沸々と怒りが沸きあがる。

なるべく穏便に…騒ぎを起こさず解決しようと心がけてはいたが、今の私にそんな心の余裕も時間の余裕も無い…

と言うよりも、余裕を奪ったのが光の恩恵派の連中なのだから仕方が無いだろう。


私はそれを言い訳にするように、周囲に魔方陣を形成し………そこに存在する魔法の一切を、解析…侵食…そして破壊する!


ガラスのように皹割れ、崩壊する景色…そして、目の前に現れる扉。

その扉に鍵が掛かっている事を確認し、その上で………感情に任せるまま、再び扉を蹴破る。


そして………今度こそ得られる、信者共の驚愕の表情。

蹴り飛ばした扉が乾いた音を立てながら中央の通路を転がり、信者共の視線がそれを追う。

更に私もその先に視線を向け……目にしたのは、無数の継ぎ目が走った棺のような物。


魔力の反応からして、恐らくはあの中にハル君が捕らえられているのだろう。私はその安否を確認すべく、足を進めるのだが…周囲の信者共がそれを阻む。

信仰すべき神聖な物を穢され、怒りに狂った狂信者特有の表情……とはまた違った感じの狂人の様相で立ち塞がる信者達。


「何者だ……」

「悪魔だ…悪魔が現れた……」

「新たなハレルヤ様の誕生を穢しに来たんだ…」


訂正…狂信による怒りも篭って居たようだ。と言っても、その様相が明らかに狂っているのは間違い無い。

私としては、穏便に事を済ませたいのだが…そう、穏便に事を済ませるべきだと思っているのだが……


それをさせてくれないのだから仕方が無いだろう。

●ざんさつ

私に掴み掛かる信者達…そしてそれを振りほどく私。

しかし振り解かれた程度で彼等の心根は折れる事無く、ゾンビのように何度も何度もしつこく掴み掛かって来る。

となれば……まぁ、取るべき手段は限られて来るだろう。


ガントレットに収納していたブレードを展開し…そのまま横に一線。

私に掴み掛かる男の肩から上が、其処より下の部位の進行から置いて行かれて…床に落ちる


「なっ………」

「人の所業では無い…」

「悪魔だ……やはり悪魔だ…」

「そうだ…奴は悪魔だ…」


人が一人死んだと言うのに…恐れるでも無く悲しむでも無く、非難から入るこの反応。

淡々とその思考を口に出して行動するだけの信者達。彼等も人の事を言える程の人間らしさを持って居るようには見えないのだが…恐らくそれを言った所で意味は無い。

今更ながら、会話が無駄である事を実感する。とまぁ、そんな事もあってか更に苛立ちが積もり…少し悪ノリをしていたのかも知れない。


私「そうとも…私は悪魔……私の名は悪魔アマイモン!」


元を遡れば、幼馴染の彼が付けたあだ名…偶然知った事なのだが、悪魔の名前でもあったそれ。

折角なので皮肉を混ぜて信者共にそれを宣言し……私は抵抗を再開する。そう、悪魔で抵抗だ。


そして…どこから取り出したのか、中世時代じみた武器を取り出す信者達。

ある者はその先端から光の刃を形成し、ある物は障壁を形成し…常人ならざる魔法の力を用いて私に迫り来る。

が……そのいずれも、私の存在を揺るがす程の力を持っては居なかった。


次々に肉塊へと変わる信者達…まさに圧倒的と言うに相応しい力の差で彼等をねじ伏せる悪魔…アマイモン。

一人…また一人その狂った人生に終止符を打って行く信者達。

だが、そこで遊びすぎたのが失敗だった。


私の存在に危機を感じ、何かの魔法を発動させる信者の一人。

そして私がその魔法の正体に気付いた時には、既に遅く……


ハル君…いや、恐らくハル君が捕らえられている棺は、ここでは無いどこか他の場所へと転送されてしまった。

●おくそこ

油断故の失態…本来ならばそこで解決出来た筈の事態を逃してしまった。生まれる焦り…更にそこから派生するであろう事態への不安

そして、更に不安を煽るのは…反復した記憶。

転送されるその一瞬で気付いたハル君の異変…その身体に動きが無かった事もさる事ながら…


右手にあたる部分から魔力の反応が無かった…という事。


考えたくは無いが、想定しなければならない状況…あの棺の形状…継ぎ目の意味…

一刻も早く行動しなければ、手遅れになってしまう可能性さえある。いや…恐らくその可能性が高い。

そしてその思考の結果、私はそれを追跡すべく扉の魔方陣を展開するのだが………

何故だろうか、そこに違和感を感じた。


私「何だ?私は何を戸惑っている?何に違和感を覚えている?」

私は自らの思考の奥底に意識を沈め、その違和感を探る。


早くハル君を助け出さなければいけない…どこに行けば良い?いや、それ以前…もっと根本だ

誰から助け出す?光の恩恵派からか?それならば今私が全滅させた…いや、あちらの世界には残っているのだから、そいつらからか?

いや、そもそも…奴等は何を考えている?何を目的としている?


共通の目的は、あるのだろう…だが、そこで生まれる差異に、どこで折り合いを付けている?

こちらの世界で発生した光の恩恵派に至ってもそう…目的だけで複数の意思が一つになる事などあり得ない…

つまり、それをどこかで纏める物が存在している筈だ。


では、それは一体何者で…何処に居ると言うのか。


何者か…その答えは深く考えるまでも無い。存在しないとされている…表にはその姿を現す事の無かった、教祖にあたる黒幕だろう。

そしてその黒幕が何処に隠れて居るのか…その答えを導き出すべく、今までの情報を統合して行くのだが………

その想定は、実に馬鹿馬鹿しく呆気の無い可能性の一つを導き出してしまった。


ゴーグルの魔力探知で周囲を探る私…

ただの骸と化した信者達からは、魔力を感じられず…ハルを転送した魔法も、その残り香が僅かにある程度。


そして…………

●かくれが

壁一枚隔てた先に存在する、微かな魔力の反応。


そう、もしも………あくまでもしもだが

黒幕が、身を隠しながらも暗躍する方法にあれを使って居たのだとしたら…

ハル君を早急に転送したのも、その行為が目的なのでは無く…あくまで手段なのだとしたら…

黒幕の正体はアレで…その隠れ家は……


その結論を出すや否や、発泡スチロールでも殴るかのように拳で壁を破壊する私。

舞い上がる土煙…そして、土煙が収まると共に視認出来るようになるそれ…

私の仮定を肯定する存在にして、この悪趣味な惨劇の舞台を作り出した存在。名前は恐らく……


私「貴様がハレルヤ…光の恩恵派の親玉と言う事かね」

ハレルヤ「いかにも。良くこの場所に辿り付いた…と言うよりは、よくこの場所に留まる事が出来たねぇ」


玉座に座り、胡散臭い声で私の質問を肯定するそれ。

背中からは鳥のような白い翼を生やし、顎からは黒く長い髭を伸ばした男。

名前とは言った物の、恐らくハレルヤとは代表者を現す記号であり本名では無い。そして、この男は恐らく人間では無く…


私「やはり獣人か。それも、獣人の中でも強力なテレパシーを保有している変異種と言った所かね」

ハレルヤ「自己紹介をする前から私の事を把握してくれているようで嬉しいよ。それが事前情報で無く推測ならば、他の推測の答え合わせにも付き合おうか?」

私「照合の必要は無さそうだがね。こうして想定と事実が一致した時点で、色々と底が知れたよ」

一番最初のダンジョンでラスボスとの決戦とは…興醒めも良い所だ

ハレルヤ「それは大変興味深い発言だ。では私からお願いしよう、何故私が此処に居ると判ったのか…教えて貰えるかね?」


私「ある仮定を立てたのだよ。もし巷での噂が間違いで、光の恩恵派に教祖が存在しているのだとしたら…その教祖は何故その存在を知られて居ないのか」

ハレルヤ「そう…その時点で可能性は絞られる」

私「その意思を知る事が出来ても、存在を確定する事が出来ない…意識でしか認識する事の存在だったからだ。そして、それを行う方法に心当たりがあった」

ハレルヤ「テレパシー…獣人の所有する能力の一つ、それに思い到った訳だね。それにより、この世界における光の恩恵派の仕組みが見えた…と」

紙面やネット等と言った可能性も考えた…だが、それで片付けるには不可解な事があった。


私「過剰なテレパシーにより信者を洗脳…あるいは先に洗脳して信者に仕立て、それらと契約…戦力や手足として扱って居た」

ハレルヤ「私は彼等を導いて居ただけだが…まぁしかし、その見方も間違いでは無いのかも知れないねぇ」

そう、そのカリスマ性である。およそ間接的に得た情報だけでは構築できない程の信仰心をつい先程目の当たりにした。


私「そして、操るためには同一の世界に存在して居なくてはならず…身を隠す場所も限られる。尤も、世界を隔てたテレパシーを使える可能性もあったのだけど…」

ハレルヤ「私を発見した時点でその可能性は潰えた…と」


私「そう、他にもまだまだ教祖ハレルヤが存在する条件や場所を想定はしたのだけど…これは一番つまらない結果だと言わざるを得ないね」

ハレルヤ「それは申し訳の無い事をしたねぇ…ではこうしよう。君が想定していないであろう可能性の一つをお見せしようではないか」


そう宣言するか否か、ゴーグル越しに私の瞳を見据えるハレルヤ。そして…


もう何度目か…私の意識は混濁へと飲まれて行った

●おくそこ

彼「なぁ…お前は何で素直にならねえんだ?」

私「勝手に私の記憶の中から彼を拾い上げないで欲しい物だな」

彼「お見通しか…んでもまぁ、現実での姿よりもこっちの姿の方が腹を割って話し易いだろ?」

私「思う存分敵意を露にして戦える相手…と言う意味ではその選択に感謝をしても良いかも知れないね」


彼「んじゃぁ、話し合おうぜ。何でお前は素直にならねぇんだ?いつも意地を張って天邪鬼で居るんだ?」

私「それは見解の相違だね。私は常に彼の上位の思考を持ち、それを彼は天邪鬼と勘違いしているだけだ」

彼「んでも、答えの出ない灰色の範囲の事でも…あえて反発した答えを選んでるだろ?」

私「否定も肯定も行う気は無いね」


彼「んじゃ、言わせて貰うが…それは弱さを隠すためだろ?俺と同調する事が敗北と考えて、それを避けるために反発してんだろ?」

私「世迷言だな。的外れも良い所だ」

彼「否定しても本心は判ってるぜ。ここは精神の世界なんだ、隠し事なんて出来やしねぇ。だがな…それは別に良いんだ」

私「それを良しとする理由を言ってみたまえ」


彼「それがお前を律するための手段だからだ。知性ってのは、秩序を作り出して己を律する事が出来る事を言うんだからな」

私「それはまた極論にして暴論だな」

彼「んでも、真理であって真実だ。自分を律する事で本能を抑え、理性を保つ事でより高位の思考に辿り着く…それが知的生命の証であり存在理由だとは思わないか?」

私「辿り付いた先が頂と言う名の停滞だとしても…か。成る程、それが光の恩恵派の思想という訳だね」


彼「そうさ…そして知性の高いお前はその結論に到る道程を既に見付け、反論の糸口を探している…んでも、見付からない。そうだろ?」

私「そうだね。確かに極論とは言え、一つの結論ではある。人が人であるために世界を犠牲にすると言う思考も理解出来る」

彼「だろ?だったらそれを認めて…そのために行動してみねぇか?そうすりゃぁ、もっと高潔な………っ!?」


言葉を続ける彼…彼の姿をしたハレルヤ。

だが、それを遮り…忌まわしきその姿を貫く、私のブレード

ハレルヤはその事態を把握する事が出来ず、困惑の瞳を私に向ける。


彼「な………何だこれは?何故こんな行動を起こす?何故こんな結論に到る事が出来る?私の思想を否定すら出来なかった筈では………」

私「あぁ、それなのだが。君の思想を否定出来ない…そう言う風に見えて居たのは、私の擬似思想なのだよ」

彼「な…に……!?」

私「君がテレパシーによる精神干渉を仕掛けて来る事は予想出来ていたからね。予め思考範囲を制限した思想を形成して、それに相手をさせていたのだよ」


彼「馬鹿な…そんな事が…」

私「出来たのだから、否定される謂れは無いだろう?まぁ、その点に関しては君の想定が甘すぎただけの事だ」

私が言い終えると共に崩れるハレルヤ。そして私の意識は現実へと引き戻され…目の前には、ブレードに貫かれたハレルヤの骸だけが残っていた。


私「さよなら、底の浅い独裁者。とてもつまらない戦いだったよ」

●そこから

そして…そこからは皆の知っての通り。

ハレルヤの精神攻撃で予想以上の時間を食われ、大分遅れてハレルヤとの決戦の場に辿り付いた私。


遅刻を埋め合わせるだけのお膳立てをされた舞台で、彼を助け…エディーと再会して、その部屋にあった扉への避難誘導。

扉を抜けた先は予想外の場所だったのだけれども…まぁ、その後は概ね想定範囲内。

ただ………


彼「あぁ…そうだ…助けて貰ったってのにまだお礼も言ってなかったな。ありがとう…えっと…」

あまり対応したくない事態が訪れた。


どう名乗るべきか…元の世界での光の恩恵派のアジトで名乗ったように、アマイモンと名乗るべきだろうか?

しかしそれでは、折角この姿になって正体を隠しているのにばれてしまうかもしれない…

だが…姿を変えた上に名前も無関係な物にすれば、正体に辿り付けないもの当然。アンフェア過ぎて勝利を実感出来ない。


そう考えている内に、エディーが口を開き…

エディー「あぁ、そう言えば紹介をしておりませんでしたね。この方は―――もがっ!?」

私はその言葉を遮り、続きを紡ぐ。


アマイモンでは思い出すだけで済む…では少しだけ捻って、ヒントだけに留める事にしよう。

私「……………カライモン」

甘いの反対で辛い…駄洒落のようなネーミングで、少し考えれば判ってしまうような名前だ。

幾ら彼が相手とは言え、少々手緩過ぎたか…そう考えもしたのだが…


エディ「…は、はい。そうで御座います。彼女の名前はカライモン…貴方方と同じく、特殊な資質を持っている魔法少女です」

彼「じゃぁ頼む、カライモン。俺達に力を貸してくれ」

私「………」


私の予想以上に彼は鈍感だったよう

ある意味で予想を上回られた事に敗北感を感じながらも…とりあえず、助力の要請には頷いて返した。

●あかすは

後はまぁ、特筆する事も無いのだろうが…あぁ、そうそう。ハレルヤ騒動終結後の裏話も一応しておこう。


私「それで…ハル君は肉体の再生を果たしながらも、記憶までは復旧する事が出来なかった訳だが…逆に、バックアップが在れば完全な形で復活できたのだろう?」

エディー「…と言う事になるのでしょうが…まさか」

私「うむ。私もあの手段を応用して、いざと言う時のための蘇生プロセスを構築してみようと思うのだよ」


エディー「それは………えぇ…あまりお勧めできませんね」

まぁ、判っては居たが…エディーはこの種の話には乗り気では無い様子。なので、DTに話を振ってみる。


私「まず肉体の再生に至っては…この世界では、クローン技術が確立され…更に実践されて居るのだよね?」

DT「非合法スレスレだけどね?」

私「そして逆に、部分生成に限っては…治療技術が発達しているため、余り進展しては居ない…と」

DT「その通り…って言うか、うん。大体言いたい事は判るよ」


私「ならば話しが早い。どうだね?少しこの分野の発展のため手を組んでみないかね?」

DT「そんな危険な橋を渡るような事………断るとでも思ったかい?」

私「勿論…食い付いて来ると思ってたとも」


こうして手を組み…共同で人体再生と蘇生の研究を始めた私達。

ただ…手を組むと言っても、実際はDTのラボや施設を借りて私の研究を行うだけで

ついでに言うならば、研究その物も…以前組んだ理論をそのまま魔法に転用するだけの物。

結果を共有するとは言え…負担部分の大小を考えれば、私の負担は少ない。これはDTに一つ借りだろう


そして………実質上、理論のコンバートと実験だけに時間と資源を費やして…10ヶ月。元の世界の時間にして、1ヶ月。


生成と再生…そして情報のバックアップにより、限りなく不死化に近い存在へと成る魔法理論を完成させた。

それと、あともう一つ…生成の実験で、副産物として生まれた物もあった。


私の…魔法少女カライモンの姿を持ったスペアボディである。

何故こんな物を作ったかと言うと…

私の変身プロセスはハル君の物よりも大幅な変化が必要となり、それに伴い…より多くの魔力を変身の時点で消費してしまうからだ。


ちなみに私はハル君以上の魔力回復力を持って居るらしいのだが、それを考慮した上でも大きな無駄使いには変わり無い。

かと言って今更元の姿を基準にするのも、敗北感を味わう事になるので……それらの解決策として、これを採用したのである。


予め変身後の身体を用意しておき、必要の際には乗り換える。

稼動して居ない時には魔力を吸収・変換して、マイクロミサイル等に貯蔵して置く。

至って合理的な手段、なのだが…


DT「テレパシーによるリンクは問題無しのようだね…調子はどうだい?」

私「そうだね…文字通り私の身体なのだから、何も問題は無いのだが…ただ」

DT「ただ?」


私「私と言う意識が一つしか無い状態で、二つの身体を動かすと言うのは少々骨が折れるね。これはある程度の自立性も必要のようだ」

そう…片方の身体を動かしている内は、もう片方の身体の操作が追い付かない…という問題があった。

片方は上半身を動かし、もう片方は下半身…と言った別々の動作ならば問題は無いのだが、両方の同じ箇所を同時に動かすのは至難の業である。


DT「そればかりはねぇ…でも、自立性を持たせるのだとしたら…」

私「判っているよ…君が懸念しているのは、02の事…発生した自我と自身の認識の差異だろう?」

ちなみにディーティー君は、DT君の物理的な複製では無くクローニングによるコピーだ

複製方法が異なる以上、同じ事態になる確率は少ないと思われるが…まぁ、心配するのも仕方の無い事か。


DT「判った上で実行するのならば止めないけど…後悔しないように立ち回るのは難しいよ?」

私「なぁに、その点は問題無い。と言うよりも…私の想定から逸脱してくれると言うのならば、それはそれで面白そうでは無いかね」

エディー「貴女はまたそんな…」

私「こういう性分なのだから仕方ないだろう。それに……」


DT「もし自分を越えるだけの何かを持ったコピーが現れたのならば、オリジナルの座を譲っても良い…そう考えているんだろ?」

私「勿論だとも」

そう………正直な所、私の最も深い部分にあるのは面白い事への興味だ。そのためには自身の存在すらも手段の一つでしか無い。


と、話が脇道に逸れた所で方向修正。

そうそう、このスペアボディが完成した時。またも余所…と言ってもDT君から、インスピレーションを得て思い付いた事があったのだった


私「さて…私は少し、この身体で彼の部屋に行って来ようと思う」


エディー「と仰いますと、例の件…ドリットデーゲンシュトラーフェ作戦…で御座いますか?」

DT「そう言えばそんな事を言っていたね。でも…別にそこまでしなくても、彼の事だからキミの正体には気付かないと思うんだけどなぁ…むしろ」

私「念には念を入れてだよ。それに、二つの身体を別々に動かすための練習も兼ねての事だ」


DTは言いかけて止めたが、ディーティーとDT…そう…コピーによる二人の存在という前提がある以上、逆にヒントを与えてしまう…そんな可能性もあった。

だが…恐らくはどこかの時点で意地になっていたのだろう。私は…予てから計画して居た、その作戦を実行する事にした。


そう………カライモンと亜門マイ。乗り換えの一人二役で一人芝居の修羅場を演じたのは…丁度この直後の事だった。

その後は………


ユズ君との戦闘で上半身を失い、そこで初めて実戦で起動した蘇生プロセス。

そう言えばあの後…彼はカライモンとしての私が死んだと思い込み、私の所に相談に来たのだったな。


何と言うか…あの時は、滅多に見れない彼の狼狽ぶりのせいで顔がニヤけてしまって

彼はそれを、不謹慎にも学術的好奇心から来た笑みだと勘違いしていたようだが…まぁ、些細な問題だ。


他には、再生を阻害しながら同時に状態の自然変化も停止させる空間凍結魔法…

力の弱いダークチェイサーくらいならば消滅させる事の出来る、広域浄化魔法等を開発及びお披露目して…

あぁ…私がユズを殺したと勘違いをして、彼が激昂したりもしたな。


そして、今では……


エディーやDTには行う事が出来なかった獣人の研究を、ディーティーの助力により行っている。

言っておくがあくまで合意の上の助力なので勘違いしないで欲しい。


とまぁこれにより、また新たな魔法の開発や、新たな可能性の発見も果たしたのだが…

それはまた別の機会にさせて貰うとしよう。



あぁ、そうそう…そう言えばまだ解決して居ない問題が残って居たな。


聞いた話によれば、闇の神殿も光の神殿も…本来ならば招かれなければ入れない領域の筈…

では…光と闇の核の一部を持ち出し、それをディーティー君やハレルヤに渡したのは一体誰なのだろうか?


今度本人に問い質して見るとしよう。


   魔法少女ドリットデーゲンシュトラーフェ ―完―

アニメなんかでよくある、前期のおさらいと総集編…そしてちょっとした裏話を加えて新作感を出した第二部第一話
魔法少女ドリットデーゲンシュトラーフェに、第一部に引き続きお付き合い頂きありがとうございました。

いつものヤツ(先送りレス返し)をさせて頂きたいと思います。

>378 そんな事ありませんよ、マイさん的には子作りもアリかと考えて居ます。勿論、愉快な期待込みですが…
>383-386 魔法です(`・ω・´)
ディーティー&DTと同じような方法で複製体として同時に存在していただけなので、深読みして頂いた方の予想は悪い意味で裏切ってしまったかもしれません(´・ω・`)
>389 むしろ純粋に正体を隠すための変身でした。いえ、小さくなった姿に魅力を感じる男性が居ない訳ではありませんが!
>393 いや、居ない!
>394-395 >412 逆に考えるんだ…手を出して居た二人がたまたま優良物件だっただけだと…っ
>398 ありがとうございます!拙い文章で申し訳ありませんが、宜しければこれからもお付き合いお願いします。
>401 あったのですよ
>402 そんなマイさんもメンタルへ
>406 俺君に爪の垢を飲ませてあげたいですね
>407 そこはほら…獣人に限らず、判り易く少ないメンバーで回す事を心がけてる作品ですしお寿司。

第一部で消化しきれなかった伏線の回収も兼ねつつ、続編の大筋が出来上がり次第また書き込ませて頂きますので
その際はまたお付き合い願います。

次章「魔法少女ダンシングドラゴンスピリット」にご憂慮下さい。

>414 正直英語以外を翻訳したり検索するんのが面倒になっちゃった訳じゃないんだからねっ!
>414-416 いつもの如く、どこかで聞いたタイトルは気のせいです。すみません!
ただイリアではありませんが、攫われたメインヒロインの救出劇は今回もあります
>417-418 乙あり!
>418 タイトル回収はまた本編のお楽しみで!
>419 ホ、ホラ アクソクザンハ自分ガ悪ジャナケレバモンダイナイ!
>420 すみません、ぐぐってもTPRGのキャラシートしか出て来なかったので判りません(´・ω・`)
>421 毎回作りかえるよりも低コスト!合理性を重視したマイさんなので!
>422 大体あってます、そうプラナリアの如く。

●あらすじ

ある日突然、謎の怪物…ダークチェイサーに襲われた俺。

……え?第一部のあらすじは前回聞いたって?んじゃぁ省略して

…………俺達は、また新たな事件に巻き込まれる事になった

【魔法少女ダンシングドラゴンスピリット】

●いわかん

英司「売ってくれよセンパイ、俺とセンパイの仲だろ?」

俺「黙れ未成年。二十歳になってから来たら幾らでも売ってやる」

就業時間も間近…常連と化している後輩が酒の購入を強請り、いつものように俺がそれを断る。


特に変わり映えもしない、平穏な日々…

客数も大分落ち着き、今日の仕事で残っているのは駐車場清掃のみ。

箒と塵取りを片手に、駐車場へと出向く俺……と、ふとそこでふと見上げる夜空。


満天の星空の中…その存在を主張する満月が、月輪を纏いながら闇夜を照らしている…

そんな見慣れた景色にも関わらず


何故か…その光景に違和感を覚えた。

●かくにん

カライモン「と言う訳で…解決していない疑問と、それに伴う懸念を明確にするための情報交換を行うために、皆に集まって貰ったのだけど」

ディーティー「その疑問て、光の核と闇の核の一部を奪い去ったのは誰なのか…って事かな?」

俺「ん?それって光の恩恵派の誰かとディーティー本人じゃ無いのか?」


DTの研究所…そこに集まった、ダークチェイサーやライトブリンガーを発端とした事件に関わった者達全員。

発案者のカライモンが口火を切り、それにより各々が己の考察を口に出して行く。


ディーティー「キミは本当に低脳だねぇ…あの神殿に入る条件を忘れたのかい?」

カライモン「そう…あの神殿に入るためには、光と闇の核…それぞれに招かれなければいけない」

俺「んじゃぁつまり………」


と、話がここまで進んだ事で理解出来た事が一つ。

情報交換に俺が呼ばれた理由…それは、俺の意見を求めての事では無く……俺の中に居る、光と闇の核の情報を求めての事だったらしい。

まぁ、当然と言えば当然か。判らない事を予想するよりは答えを知っている奴に聞けば良いだけなのだからな。


俺「って訳で…お前達が神殿に招いて、挙句に一部を持ち去った犯人の事を知りたいみたいんだが…一体誰を招き入れてあんな事になったんだ?」

闇の核「その件なのですが………私は永らく…具体的には121年の間、如何なる者も招き入れては居ませんでした」

光の核「我もまた…汝等以外ではハレルヤ以外の謁見を許しては居ない。そして奴の仕業ならば気付かぬ筈が無い」


はい?


俺「いや、それってちょっとおかしく無いか?だったら一体誰がどうやって…ってか待てよ、そもそもお前達、この世界の記憶を全部持ってるんだろ?」

レミ「そうよね…アーカイブを探れば、犯人もその意図も全部判ると思うんだけど…」

闇の核「修復したアーカイブに記憶されているのは、修復が完了した時点からの物…そのため」

光の核「我等の主観を除き、それ以前の情報は全て失われてしまっている」


情報源として使えねえ…と心の中で呟きかけるも、思い留まる俺。

アーカイブを崩壊させた原因が俺本人なだけに、他人の事をどうこう言える立場では無い事を思い出した。


レミ「でも、逆に考えれば…主観で犯人を記憶出来ないような方法で、事を起こされたって訳よね?奪われた時はどんな状況だったの?」


そして珍しく、核心を突いた鋭い推理をするレミ。

●はんこう

闇の核「何の前触れも無く…気が付いた時には既に一部を奪われていました。加えて言うのならば…」

闇の核「その直後、奪われた一部の痕跡を追った先は…そこの彼女、ディーティーの研究室の中でした」

光の核「我もまた同様…奪われた一部は光の恩恵派の研究室に送られ、ライトブリンガーを精製する材料とされてしまった」


レミ「じゃぁ逆に…ディーティーはどうやって闇の核の一部を手に入れたの?その犯人に依頼したの?何かの取引があったの?」

ディーティー「それに関しては、悪いけれど何の情報も持って居ないね。ボクが気付いた時には、既に闇の核の一部が室内にあったんだから」

俺「何だよそれ、信じられねぇなぁ……そんなあからさまに怪しい物を使って研究を始めようと思ったってのか?」


ディーティー「幾ら怪しまれても事実は事実だからね。検査してそれが闇の核の一部だって判った以上、そこに到るまでの経緯なんて気にもならなかったよ」

DT「まぁ、それは仕方が無いよね…」

カライモン「そう…そこから先に浮ぶ構想の前には無駄な経緯の考察など時間の無駄にしかならない」


何故かそこで同意を見せる一人と一匹…

正直突っ込みたくて仕方が無いが、それこそ時間の無駄になりそうなので我慢をしておく。


レミ「じゃぁ逆に…って、さっきからこればっかりだけど………その犯行はどうすれば実行可能なのか、それを考えてみましょうか」

俺「そうだな。それじゃぁまず…どうやって光と闇の神殿に犯人が侵入したかって所から考えてみようぜ。エディー、あの扉を使える奴ってどのくらい居るんだ?」

エディー「現存する扉は12…そしてそれらを扱う事が出来る者も12名…いえ、先代ハレルヤ…ケイエルの死去により11名に御座います」


俺「……犯人を絞り出すには、微妙に多いな」

エディー「しかし、先程から仰られて居ますように…神殿へと向かうには招かれる必要があり、その数は問題では無いかと」

と、振り出しに戻る会話。

だが同時に、とある事を思い出す。


俺「いや、待てよ?招かれ無くても神殿…あるいはそれに近い場所に辿り着く方法はある筈だ!」

レミ「え?どういう事?」

俺「思い出してみろ、闇の神殿に辿り着く前の事」


レミ「前って言うと…医療施設の前から扉を潜って……あっ、そう言えば」

俺「そう…闇の神殿に辿り着く前の段階で、闇の核に作られたジャングルがあった。そしてそれを作られた用途が確か…」

レミ「侵入者に備えるための………関門!」


俺「つまり、侵入者に備える必要があるという事は…侵入する方法が在ると言う事で、実際にライトブリンガーも侵入出来た訳だから…」

●はんべつ

闇の核「その考察は間違いではありません。ですが…そこに今回の可能性を見出すのは少々早計かと」

俺「くっ……何が違うんだ?そこの所の説明を頼む」

闇の核「まずライトブリンガーの侵入…あれは光の核の一部を持っていたがために行う事ができた強硬手段です。更に言うのでしたら…」


ディーティー「光の核の一部を持っていたとしても…行けるのは関門までで、神殿には侵入出来ない。闇の核を持ったダークチェイサーでも同じ…と言う事だね?」

闇の核「その通りです。もしあのまま侵攻されていたとしても、それを私に気付かれずに行う事は不可能だったでしょう」

俺「あぁくそっ…また振り出しか」


闇の核「ですが………不測の侵入者が現れないと言う訳でもありません」

俺「どういう事だ?お前達が招くか侵攻しない限り…」

カライモン「そうか…案内人が不在の状態での転送…」


俺の言葉を遮り、思い出したように呟くカライモン。

それに連れられるように、俺もエディーの言葉を思い出した。


俺「でもよ…予め判ってるならまだしも、どこに出るか判らないような転送で特定の場所を狙うなんて…」

DT「あぁうん…それが意図的な物ならまず奇跡に近いような可能性だけど…」

カライモン「可能性としては…幾つかの条件が重なれば今回のような事態も………」


話の成り行きを聞いてか、何やら俺の考えも付かない範囲での可能性を模索し始めるインテリ組達。

その話に置いて行かれる中で、今までずっと頭をショートさせていたユズが口を開く。


ユズ「でもそれって…ヒカリさんとヤミさんのルールの中での話ッスよね?その外から手を出して来るような人は居ないんッスか?」

闇の核「………」

光の核「………」

DT「………」


そして、ユズの一言により言葉を失う面々。

身も蓋も無いと言えばそれまでなのだが、捨て置く事も出来ない…そんな発言だったらしい。

●ようぎは

俺「って訳で…そう言う存在に心当たりはあるか?」

光の核「この世界において、干渉の可能性がある存在と言えば…」

闇の核「…………無限蛇」


小さく…闇の核が呟いた。恐らくはそれが今回の敵


光の核「…根幹を食らう竜…狭間に巣食う蜘蛛……数多の世界を記録する大樹…個にして全を持つ者……」

………では無さそうだ。闇の核に引き続いて、次々に二つ名のような名前を連ねる光の核。

ここまで容疑者が膨らむと、またも絞込み作業の停滞…イコール振り出しに戻ってしまう。


が…それらの言葉を聞いて、ディーティーが何かに気付いた様だ。

ディティー「まさか………スピリット?」

俺「スピリット?何だそれは?」

聞き馴れない言葉を耳にして、その内容を問いかける俺。


言い出したディーティーは自らの思考に没頭し…代わりにDTがそれに答える。

DT「スピリットと言うのは…僕達獣人の間に伝わる伝説の存在さ」

俺「んで、そのスピリットって言うのは一体どんな物なんだ?名前から察するに、魂とか精霊とかそんな感じの物っぽいんだが…」


カライモン「その存在に纏わる話なら私も知っている…が、しかし。伝説だけの存在と言い切るには早いかも知れない」

エディー「何ですと…?」

カライモン「それを説明するに当たって…横道に逸れてしまうが、君達獣人についての研究結果を報告させて貰って良いだろうか?


カライモンの発言により遮られてしまった俺の疑問…しかしその答えにも行き着きそうなので、今は黙って聞きに入る事にした。

●かいせき

カライモン「まず最初に、特筆すべきはその遺伝子で…こちらの世界の人間ともあちらの世界の人間とも大きく違った特徴を持って居る事が判った」

語り始めるカライモンに、その場に居る全員が耳を傾ける。

カライモン「判り易い所から説明すると、まずテロメラーゼが人間のそれの10倍近い長さを持って居て…」


と、カライモンが語り始めたところで手を上げるユズ

ユズ「テロメラーゼって何ッスか?」

カライモン「細胞の中に入っていて、その細胞が分裂出来る回数を決める物…そう考えてくれれて問題無い」


ユズ「じゃぁ…それが人間の10倍って事は、DT達は人間の10倍長く生きれるって事ッスか?」

カライモン「残念ながら、単純計算で寿命に換算出来る物では無い…けれども、中々良い所を突いた質問だ」

良い所を突いているのか?その時点では何を言っているのか判らないので、俺はまた聞きに入る事にした。


カライモン「例え細胞分裂の回数が10倍に増えたとしても、脳細胞の劣化が限界に達すればそこまで…寿命を迎える事になる。では、逆に考えてみよう」

レミ「逆に……そうね。寿命が変わらないなら、そんなに長いテロメラーゼは必要無い筈って思うんだけど」

カライモン「その通り。ただ天寿を全うするためには必要無い筈の物を何故持って居るのか…一体どういう状況ならばそれが必要になるのか…」


あぁ、そうか…

俺の頭の中で、パズルのピースが嵌るような音がした。

俺「脳の寿命よりも先に細胞分裂の限界を迎える事がある…って事だよな?」

カライモン「珍しく頭が働いたようだね、正解だ。獣人達は、それこそ多岐に渡り細胞分裂を多用する生態を持って居るのだよ」


DT「変身…魔法による自然治癒の活性化…」

ディーティー「そして、クローニング…」

カライモン「魔法と共に生き、適応してきた種族故の特異的な性質…と言ってしまえばそれまでなのだが、語るべき事は他にもある」


ユズ「あ、質問ッス!何でDT達は皆、人間の姿と動物の姿を持ってるんッスか?何で動物の姿もバラバラなんッスか?」

カライモン「そう…正にそれなのだよ。皆が異なる…それこそ血縁者でも全く別の獣の姿を持ちながらも、何故か共通して人間の姿を持って居る。何故か判るかね?」

俺「人間の姿こそが本当の姿で、獣の姿はあくまでオプション…って事じゃないのか?」


カライモン「その見解も、別視点から見れば間違って居ない…とは思うのだけれども、私はそれとも異なる見方に気付いた」

俺「別の見方ってーと?」

カライモン「獣人にとっての人間の姿とは…生殖手段なのでは無いか…と」


俺「………は?」

その余りにも突拍子の無い言葉に、俺達は絶句した…が、DTとディーティーだけは何か真剣に考え事を始めたようだ

俺「んでもよ…生殖手段で人間の姿を取るってーのはどういう事だ?人間と生殖するための擬態とかそんな事言うんじゃ無いだろうな?」


カライモン「その可能性もある」

俺「あるのかよ!」

カライモン「だが…そんな事よりももっと重要な意味がある事に気付かないか?」


俺「って言われてもなぁ…わざわざ人間の姿になって生殖する意味なんて…」

と言った所で、俺を見るレミ。


レミ「あ………もしかして」

●おくそく

レミ「重要なのは、共通の種族に変身する事で生殖が可能になる…って所?」

カライモン「その通り。そして人間の姿で新たな生命が宿れば、獣の姿に戻った際にもそれがフィードバックされる」

DT「そうか…ボク達の傷が変身で修復されないのも、新たな生命を異物として排除しないためか」


カライモン「更に言うならば、何故共通の生殖手段が人間なのか…と言う事なのだけれども…これは彼の意見を聞いてみよう」

俺「俺か!?………つっても、人間との交配は別問題なんだろ?んじゃぁ、他に人間の生殖に拘る必要何か無いだろ?」

カライモン「本当にそう思うかね?」


俺「だってそうだろ?ヤる事なんて突き詰めれば他の生物だって変わら無えし、その後の事にしたって人間の妊娠なんて動物よりもリスキーだし…」

カライモン「リスキーか…では逆に、何故人間はそんなリスキーな方法を進化の過程で残して来た?」

俺「それは…自然淘汰されなかったて事は多分、その方が都合が良いからで………ん?」


カライモン「気付いたようだね?そう…キミの視点でリスキーとされている物こそが目的であり理由なのだよ」

ディーティー「一対の雌雄から誕生する子供の数が他の種よりも圧倒的に少なく、それに反比例して出生率が高い…それがポイントという事かい?」

カライモン「そう………ここから先は私の憶測にしか過ぎないのだけど…」


一旦言葉を止めるカライモン。皆がその視線を集める中、小さく息を吸い…


カライモン「獣人達は…その個体数が爆発的に増加しないよう、繁殖にもリミッターをかけられている…そして、それこそがこの生殖手段……では無いのか?」


その言葉に、この場に居る全員が言葉を失った

●うらづけ

カライモン「他にも、合理性だけを見れば不可解な点が存在する。少し話を戻すが、人間では無い方の獣形態…これの規則性の無さだ」

ユズ「そうッスよね…確かDTのお母さんは狼で、お父さんは羊なんッスよね?」

狼に襲われる羊…そんな構図が思わず脳裏に浮んだが、黙っておく。


カライモン「そう…先祖まで遡っても隔世遺伝のような物は見られず、ランダムと言って良い程に多種多様な種族が表面化している」

俺「んでも、それっておかしいよな?多様性を重視してるみたいな特性のくせに、繁殖手段にはリミッターがかけられてる………あ…いや、まさか」

とある可能性に気付き、DTとディーティーを見る。


カライモン「そのまさかの可能性も無視できないのだよね…」

俺「従来の繁殖方法では無く、特定の個体が複製される事…それ自体が繁殖方法の可能性がある…って事なのか?」

生物としては余りにも歪。人為的な干渉を疑わずには居られないその可能性を前にして、俺はまず今の現実を疑った。


カライモン「そして話は最初に戻るのだが…スピリットの伝説とその逸話について話して行こう。ここはDT君に任せるべきかな?」

そう言ってDTの発言を促すカライモン。

対してDTの方も、言葉を纏めたようで…俺達に向けて語り始める

●でんせつ

DT「スピリットと言うのは…まぁ、簡単に言えば君達で言う所の精霊に近いかな。別の名前では、八百万の神々や、マニトゥ…そんな類の物なのだけど…」

精霊は文化によって定義が違うので纏め辛いが、日本の八百万の神々やアメリカのマニトゥに関しては判る。

物に宿った魂や、人間の魂が昇華し…霊的な上位へと変化した物、あるいは霊的な存在を持って生まれた物。恐らくはこの見解で間違い無い筈だ。


DT「ボク達獣人で言う所のスピリットと言うのは、この世界その物と一つになった獣人の事なんだ」

俺「それはあれか?物理的な意味か?それとも何か、哲学的な意味で……あっ…」

DT「肉体は元々この世界の一部だろう?それで、哲学論でも精神論でもあるんだけど…知ってるよね?僕達が持って居る能力の事」


俺「テレパシー………他者と意識を通わせる能力で、この世界その物と意識を一つにした…って言いたいのか?」


カライモン「あくまで理論上…それも伝説と言った御伽噺に分類される程の途方も無い内容なのだけれども…」

俺「それが、伝説同然に扱われて居るのは………リミッターにより、その存在の発生が抑えられていたからで…」

エディー「可能性が有るか無いかで言えば、有る…に分類される話………と言う訳で御座いますね」


確かに途方も無い話ですぐに納得出来ない。が、それ以上に引っかかる物が残っている。


俺「でもよ…そのスピリットってのが、今回の話…光と闇の核の一部を奪ってたって話と、どう繋がるんだ?」

改めてその疑問を口に出す俺。そして返すようにディティーが口を開き…

ディーティー「スピリットは、この世界と一体化した存在…つまり、この世界のあらゆる場所に存在しているのと同じな訳で…」

俺「おいおいおいおいちょっと待て、それだとアレか?こいつらの神殿の中にも現れる事が出来て………」


ディーティー「更には、光と闇の核に感知される事無くその一部を奪い去る事が出来る…という可能性が存在するね」

つまりはこういう事だろう。光と闇の核に…下手したら知覚範囲外からも干渉出来るだけの存在

如いては世界その物が今回のダークチェイサーやライトブリンガーに関わる事件を引き起こしたという事になる。


流石に突拍子の無さに拍車が掛かり過ぎている…と一笑に臥せようとも思ったのだが…

光の核「………」

闇の核「………」


俺の中に存在している光の核と闇の核は、事態をそこまで楽観視する事が出来ないようだった。

●そこから

カライモン「以上の情報を踏まえる事により、スピリット実在に関する仮説が立てられるのだけれど…もう、皆の中でもある程度の推論が出来上がっているだろう?」

ディーティー「さっきも話題に上ったように、ボク達獣人のリミッターは…スピリットに変質しないために設けられた物の可能性がある」

カライモン「あるいは逆に、獣人と言う種その物がスピリットの前提として生み出された可能性さえあるのだけどね」


憶測が飛び交い、着地点も定まらないままに突き進む議論…


しかし、スピリットの存在の有無以外にも問題は浮んでくる。

もしスピリットなんて物が存在したとして…ならば、何故そんな事をしたのか?


情報も無く、意図が読め無い以上…それ以上の進展など望める筈も無く………

獣人達とカライモンはそこから更に推論を展開するのだが…

それ以外のメンバーは既に、議論をする以前に会話に入るためのきっかけすら見つける事が出来ない状態だった。


そして結局…結論が出ないまま会議は終わり、そのまま現地解散する事になった俺達。

俺とレミは日課のパトロールに繰り出し、他のメンバーは各自帰路に着く事となったのだが…


何故だろうか、バイトの終わりから感じている違和感が一向に消えない。


その違和感の正体が判ればこの変な感覚を消し去る事も出来るのだろうが、それが出来ないからこその悪循環。

拭い様の無いその感覚が次第に不快感へと変わる中…


ふと、視界の片隅に映り込んだ異質な存在に気が付いた。

●かんそく

ビルの上…月を背にして俺達に視線を向ける………翼の生えた白い虎。


その翼という特徴から、自分にとって身近な存在…獣人を連想するが、その本体は見知った物とは明らかに異質。

更に言えば、俺の中で膨れ上がる違和感があの存在に起因している事を何故か理解する。


そう…ここまで条件が揃えば、あえてそれを避けて進む道は無い。

例えそれが次の騒動の引き金になるのだとしても、構いはしない…


そう覚悟して、白虎の佇む方向へと向けての跳躍を行う。


あと50メートル…30メートル…10メートル………

白虎へと向けて飛び込む俺。

膨れ上がる違和感を拭うため………その焦りが無いかと言いえば嘘になるが、決して油断をしていた訳では無い。


5メートル…2メートル……1メートル…

そう…今正に掴みかかるその寸前で姿を消す白虎。

俺は体表に無数の目を形成して、逃げた先を捜索……改めて白虎を発見。


今度はその白虎が存在する座標に停滞空間を発生させ、更には自分自身に加速空間を付与。

念には念を入れ、更に念入りに手を加えた上での行動だ。


白虎を捕まえた後はどうするか…獣人同様に意思の疎通は出来るのだろうか?

そもそも、俺の違和感に関係しているというのは思い込みなのでは無いか?

そんな事を懸念しながら、跳躍によって詰める距離。


いや…そもそもそんな心配はまだ早い。まずはこの白虎を捕まえてから…

そう思って手を伸ばした瞬間………またも消え去る白虎の姿。

停滞空間で限りなく停止に近い状態まで動きを遅らせ、更に俺自身が加速したその状態…にも関わらず逃げられた。


不可解という感覚を通り越して、本能的な嫌な汗が全身から流れ落ちる感覚を覚える。

白虎を逃して体制を崩す俺…

俺の身体は空中でぐるりと回り、夜空が…ビルが…道路が目まぐるしく俺の視界を駆け回る。


が…その感覚は錯覚だった。

全身から流れる嫌な汗も、体制を崩した感覚も、身体が空中で回る感覚も…

俺の視界に映った、ある一つの物により否定され…今の俺の状態を突き付けられた。


そのある物とは………首から下の爪先まで…一番上に乗せる大事な物を失った、俺の胴体だ。

●もくぜん

不味い…いや、ヤバい……

首から下はダークチェイサーで形成しているが、頭は俺が人間の時のまま

首の部分に少し残っているダークチェイサーで止血くらいは出来るが、肺も心臓の無い状態では脳が死ぬ。

……と言うよりも、それよりも先に地面に激突して死んでしまう。


誰か助けてくれないだろうか…そう考えて直前の状況を思い出す。

レミは…加速した俺に追い付く事が出来ず、助けに入れる距離には居ない。

他の皆に至っては、さっき別れたばかり…助けとしては見込めない。


落下までの僅かな時間の中で、生き残るための手段を探る俺。

回りの景色がスローモーションになる中、駆け巡る走馬灯の中からありとあらゆる手段を模索する…

が、そのいずれも今この瞬間には使えない。どの手段も、実行するための下準備が間に合わない。


そう、結論は出た…

直面している死から、逃れる事が出来ない……

●ぜつめい

死ぬしか無い…となれば、逆に考えるべきは死んだ後の事。

カライモンの蘇生魔法…これはそもそも、他人の蘇生の準備までしているかが疑問。

光と闇の核の、アーカイブからの復活。


いや…あれは第三者の観測が不可欠で、尚且つ俺が同伴しなければいけない。

何か他に手は無いかと模索するが、一向にその手段に辿り着かない

万事休す………全ての可能性を諦めた所で、またぶり返して溢れ出す違和感。


おかしい…俺は何で今こんな事を考えた?


そもそも、何でこんな事を知っている?


思考を埋め尽くして行く違和感…

だが、そんな事はお構い無しに近付く地表。

もう駄目だ…そんな思考が頭の中を塗り潰した、その瞬間……


目の前に現れたのは、白い髪をサイドテールにした女の子。


真っ直ぐに俺を見詰める瞳に、既視感を覚える俺。

そしてその女の子は、逆さまになった俺の頭をそっと掴み……

暫くの間、観察するかのように俺を見続ける。


九死に一生…まだ危機その物は去って居ない物の、当面のそれは免れた事に安堵する俺。

だが、そこで改めて気付く。目の前の女の子に生えた耳と羽根…そして尻尾…

虎柄の模様が入ったそれ…と言うよりも虎その物のそれらが示すのは………


この少女こそが、つい先程まで追っていた白虎だと言う事。

そして、視線をずらして目視した先の手には…恐らく俺の物と思われる返り血。

そう…俺の首を刎ねたのもこの少女だと言う事が見て取れる。


助かってなど居なかった…むしろ絶体絶命の状態が続いてただけだった。

にも関わらず、脳の中に残った酸素はもう底を尽き………


俺は意識を失った。そして恐らく………命を失うだろう。

●かいせい

………と、思って居たのだが…予想外にも、目覚めを味わう事が出来た。

くっ…これで俺も死んだ死んだ詐欺師達の仲間入りか


場所は自分の部屋…隣に居るのは、レミ…と、カライモン。

レミ「どうしてあんな先走った事したのよ!死んじゃうかと思ったんだからね!」


涙目で俺を罵倒し、胸板をゴスゴスと叩くレミ。

ため息を付きながら俺を見下ろし、何かの魔方陣を形成するカライモン。

俺「なぁ…俺、一体どうなったんだ?あの白虎の獣人にやられて…それから…」


レミ「私にも訳が判んないわよ…一瞬だけ現れてアンタの首を刎ねたと思ったら、今度はその首を掴んで身体にくっ付けて…」

その時の状況を身振り手振りを添えて伝えてくれるレミ。

しかし、それを聞いてもあの白虎獣人の意図は読めず…謎が深まって行くばかりだった。


だが…あの白虎獣人の正体にだけは心当たりがあった。

俺「なぁ………もしかしてなんだが、アイツって…」

カライモン「状況及び痕跡から判断して…恐らくはスピリットだろう」


………とまぁ…先にカライモンに言われたが、俺の推測もその通りだ。


カライモン「停滞空間と加速空間を使用した形跡があるが…それによる干渉を受けながらも座標を移動したようだ。これだけでも十分脅威なのだけれど…」

俺「ディーティー達の話してた事が本当なら…倒す事も出来ない上に、襲撃を防ぐ事も出来ない…って事だよな?」

カライモン「…その通り」


レミ「何よそれ…気を付けないの言葉も言えないくらい危ない状況だって事?」

カライモン「そう…一切の楽観を許されない状況なのは間違い無い。彼の命がある事さえ、どんな気まぐれなのかも想像が付かない」

俺「ってかそもそも…スピリットってのはこの世界の意思でもあるんだろ?そんな物に命を狙われてるのか?」


カライモン「獣人達の伝説がそのままならば、そう言う事になる…が、状況からしてその信憑性は薄いかも知れない」


俺「って言うと?」

●ふかかい

カライモン「世界の意思の反映…にしては、その行動に一貫性を見られない。むしろ、迷いや判断に近い行動をが見受けられる」

俺「あぁ…そー言えば…」

思い出すのは、落下直前の白虎獣人の行動。


俺の首を刎ね、その首…と言うよりも俺を観察。更にはその首を胴体に戻し、こうして命を繋ぎ止める事が出来た。

こう言うとおかしいのかも知れ無いが、その行動は…いや、行動理念はまるで………

カライモン「君を観察していた…もっと砕いて言うならば、興味を持っていたようにも見える行動だね」


そう…カライモンと全くの同意見だ。


レミ「何それ…あ、でもそれって…この子達ダークチェイサーも、最初はそんな感じだったかも」

そして、レミの言葉により新たに見えてくる可能性…

状況から得た情報を統合すれば見えてくるそれを、頭の片隅に置く。


が………その可能性を否定するだけの出来事が起こるまで、そう長い時間はかからなかった。

●そうだん

と言うよりも、時間をくれなかった…と言う方が正しいのだろうか。

視界の端に映るそれ………

今度こそ身体中から嫌な汗が噴き出し、それを伝って電流が脳まで駆け上がる。


レミとカライモンの背後…二人はまだ気付いて居ない、俺もまだ直視して確認はしていない。

だが…否が応でも突き付けられるその存在。

俺は辛うじて肺の中に空気を送り込み………


俺「一つ…聞かせてくれ。お前は一体何をしたいんだ?」

レミ「え?何?いきな…………―――」

カライモン「…………」


放つ言葉…それにより事態を察するレミとカライモン。

その場にはただただ沈黙が流れ、心臓の早鐘だけが内側から響き渡る。

そして、沈黙を破るように白虎獣人が口を開き…


白虎獣人「私の目的は………この世界をあるべき姿へと修復する事。そしてそれは、貴方達にも無関係では無い事です」

どこかで聞いたような内容を言い放つって来た。

だが、これで判った事が一つ。少なくとも会話が成立しない相手では無い…その点だけは何とか確認して、俺も言葉を返す。


俺「無関係じゃない…って所が引っかかるんだが…それは、俺達が修復する立場でって事か?それとも、邪魔者って立場でって事か?」

白虎獣人「それは…前者です」

その言葉を耳にして、やっと緊張の糸が一本解ける俺。だが二本目を解くにはまだ状況が許さない。


俺「だったら…何で俺を襲った?何で俺を殺そうとして…また助けたんだ?」


そう……まず確認しておかなければいけない、俺は白虎獣人にそれを問う。のだが…

●まちがい

白虎獣人「それは違います」


返された言葉は否定だった。その否定がどの部分に掛かっているのか問おうともしたが、まだ言葉続くようなので踏み止まり…

白虎獣人「襲って来たのは貴方の方。ですから私は力を見せ…その上で貴方の命を奪わずに置きました」

………うん、正直下手な事を言わなくて良かった。


そうだ…殺されかけた事で一方的な被害者だと錯覚していたが、元を辿れば俺の方が功を焦って彼女に襲い掛かって居たんだ。

俺「ごめんなさい」

そう…それを自覚した俺は土下座で謝った。


俺「そりゃぁうん…そうだよな。見ず知らずの男にいきなり襲いかかられたら自衛もするよなぁ………ん?いや、一応俺の事は知ってたのか?」

白虎獣人「私はスピリット…それ故に貴方の事は知っていました。そして、あの時襲い掛かられる事も…」


ん………?


カライモン「未来視…と言う事かね?全ての現在を見渡す事が出来るのならば、理論上は可能だが…」

俺の疑問をカライモンが言葉にしてくれた。

白虎獣人「その通り…しかし、その未来視も絶対的な物では無く、ある不確定要素により揺らいでしまって居ます」


俺「そして、その不確定要素ってのが今回の敵なんだろうなぁ…ってか、いや!襲われるのが判ってたなら、わざとあんな意味深な誘い方すんなよ!?」

白虎獣人「あの流れで進行する事で、貴方達にとって円滑な理解を促せる…そう判断したので」

レミ「あぁ、確かに…私達はともかく、彼は直接身体に教え込んだ方が理解早そうよね」

俺「………」


反論しようとする俺…だが悔しいかな、それに足るだけの言葉が出て来なかった。

ので…あえて話題をずらす事にした。


俺「んじゃぁ…とりあえずアンタの名前を教えて貰えるか?俺達の事は知ってるみたいだから説明は要らないだろうけど、俺達はアンタの事を知らないんだ」

と、問いかける。

そして白虎獣人も…一呼吸おいてから、その問いに返すべく言葉を紡ぐ。


白虎獣人「私の名前は―――」

●なまえは

白虎獣人「…神風」

俺「神風か…それじゃ改めてよろしくな、神風」

改めてその名前を呼び、右手を差し出す俺…そして、その手を握って返す神風。

だが、その光景を飲み込めずに居る物も居た。


カライモン「しかし…その神風君の言葉を全面的に信用すると言うのもどうだろう?もしかしたら、私達を欺いている可能性も…」

と、当然の懸念を口に出すカライモン。だが、俺はその否定するだけの確信を持って居た

俺「なぁに大丈夫だ、サイドテールの女の子に悪い奴は居ない。もし欺いたとしても、何かしらの事情がある筈だ」


そう…その確信を以って断言する俺。

カライモンに至っても、それを論破する事は出来ず…納得して、反論の言葉を止めてくれたようだ


俺「それで……話が纏まった所で改めて聞きたいんだが、俺達は一体どうすれば良い?」

神風「大きく分けて、やるべき事は二つ………この世界を歪ませる存在を倒す事と、この世界をあるべき姿に戻す事です」

と、その言葉を聞いて一つの可能性が思い浮ぶ。


この世界を歪ませる存在…それは恐らく、本来ならば存在していない筈のイレギュラーな存在。

そして、世界に干渉するだけの力を持った存在……そして、恐らくは俺が干渉出来る存在…と言う事は……

俺「この世界を歪ませる存在って言うのは、まさか…光と闇の核の事か!?」


思い浮んだその可能性をそのまま口に出し、神風へと問いかける。


が………

神風「いえ、違います」

光の核「違う」

闇の核「違います」


光と闇の核が今更出て来て、三人がかりの否定をかましてくれた。


神風「これらもまたこの世界の一部…予定調和に含まれる存在」

俺「だったら、何でこいつらに危害を…と言うか、こいつらの一部を奪ったんだよ…」

神風「それはそれで必要な行為だったからで…その理由はまた後で話す事になるでしょう」


と、はぐらかされた返答。しかしそれ以上突っ込んでも暖簾に腕押しなので、今の所は諦めておく。


レミ「じゃぁ話を進めるべきかしらね。私達が倒すべき相手って言うのは何者なの?」

と、方向修正して話を進めるレミ。

神風「それを説明するに当たり…まずは、魔法少女達とその契約者たる獣人を集めて下さい」


が…中々前には進められないようだ。

●かいせつ

そうして集められた魔法少女達と獣人達。


神風は何かを確認するように、その面子を見渡して………

神風「やはり…」

と、意味深な言葉を呟いて押し黙る。


現在も未来も見渡す事が出来る筈の、スピリットらしからぬ行動…そんな感想を持ったのだが…

あながち間違いな感想でも無かったようだ。


神風「この世界に生じた歪みが、貴方達に深刻な影響を与えているようですね」

言葉を続ける神風。だがしかし…俺にはその言葉の意図する所がが判らない。

なのでその確認も兼ねて、俺は神風にその真意を問う。


俺「いや、深刻な影響って言われても…特に俺自身に変調があるわけでも………ん?」

と、言いかけた所で構築されて行く一つの仮説。もしやと思い、俺はそれを口に出す。

俺「もしかして………何も無いって事が…いや、何事も無いって思ってるって事が………深刻な影響って事なのか?」


感じて居た違和感と照らし合わせ、何故かそこで妙に一致する破片と破片。

全身を駆け巡る嫌な予感を抑えながら、神風の言葉を待つ

神風「そう…貴方達は大事な物を奪われ、それに気付く事が出来て居ない。それこそが歪により齎された影響です」


そして…俺達へと向けられた返答。仮説を肯定されるも、それを素直に喜べない俺。正直な所、否定された方が良かったとさえ感じて居る。

何かを失って居たとしても…それを認識する事が無いのならば、それは主観的には失っていないのと同じ事。

しかし、逆にその事実を突き付けられてしまえば…


襲い来るのは、正体の見えない喪失感。


俺「じゃぁよ、教えてくれよ!俺達が奪われた物ってのは一体何だ!?」

せめてその内容だけでも把握できれば……そう思って神風を問い詰める。だが…

神風「それは私の口から話すべき事では無い。真実は貴方達自身が奪い返すべきです」


と………はぐらかされてしまった

俺「だったらよ…それを奪ったのは一体誰だって言うんだよ!せめてそのくらいは教えろよ!」


神風「それを教えるため…今から、貴方達に向かって貰う場所があります」

●ねもとに

そして神風に導かれるまま…エディーの用意した扉を潜って、辿り付いた先は………俺達が良く知る、もう片方の世界だった。

日本列島がそのまま収まるんじゃ無いかと錯覚する程に巨大な森と、その中央に聳え立つ巨大な樹。

………その根元だった。


神風「世界に歪を齎した者は、この地下に居ます」

レミ「って、まだここから進むの?だったら最初からそいつの居る所に転送すれば良かったんじゃない」

色々と勿体振る神風に抗議するレミ…だが、それに対する反論は神風とは別の所から放たれた。


闇の核「それは余り得策では無いでしょうね。この先に待ち構えているのは………」

光の核「根幹を食らう竜………故に、不用意な転送はその物の存在を食われ兼ねない」

根幹を食らう竜………確か光と闇の核に干渉するだけの力を持った存在として、こいつらが挙げていた中にあった名前だ。


俺「にしたって…さっきの口ぶりからしたら、今から最終決戦って感じじゃぁ無かったみたいだが………」

神風「そう…今回はあくまで、その存在を知るためにここに来て貰いました」

ユズ「つまり…良く判らないッスけど、カミカゼさん主催の安全な見学ツアーが出来るって事ッスよね?」


神風「下手な事をしなければ…ですけどね」

念を押す…と言うよりは釘を刺すように言い放ち、地下へと続く洞窟のような道へと歩き出す神風

そして神風に続き…俺達もその中へと進んで行く。


かなりの距離…加えてかなりの深さまで降りた所。大きく開けた空洞のような場所で、目にするそれ。

影絵の様に………平坦な床に移し出された巨大な竜の影。

時折緩慢で僅かな動きを見せるだけで、こちらに気付いた様子さえ伺えない。


ご対面…と言うよりも、恐らく一方的に見ているだけの状況だろう。

しかし相手の素性が判らない以上、迂闊な行動は取れない。

この竜について聞きたい事は山ほどあるが、正直この状況で口を開く事が許されるのかどうかすら判らない。


言葉にする事無く、胸に秘めた迷い…それを察したかのように、神風が口を開く。

●そんざい

神風「まず………あれが誕生したのは、西暦1944年の日本」


レミ「61年前…私達の基準じゃぁ結構昔だけど、あんまり桁外れって訳じゃ無いわね」

俺「んでも、こっちの世界は10倍の時間が経ってるんだろ?そう考えれば………って、おい。今、日本って言ったか!?しかも西暦1944年の日本っつったら…」

カライモン「第二次世界大戦の真っ最中…と言う事になるね」


神風「その通りです。付け加えて言えば、私がスピリットになったのもそれとほぼ同時で…」

俺「こいつと無関係じゃ無い…って言うか、因縁がある…って事だよな」

神風「その通りです」


カライモン「ならば聞かせて貰うとしよう…この竜の生い立ちと君の事情を」

カライモンがそれを促し、同じくして聞きに入る一同。

神風はそこで一旦目を伏せ…再び語り始める。


神風「この竜は………戦争が…人間の憎しみや妬みと言った感情が作り出した存在」

神風「かつては獣人だった者の一体が、誤った変質によりスピリットから堕ち………根幹…人の想いを食らう物へと変化した存在です」


神風「当時、私はある少女達と契約し…多大な犠牲を払いながらもこれを封じる事に成功しました」

神風「しかし、その封印はあくまで一時的な物。効力が弱まるに連れてこの竜は力を取り戻し、遂にこの世界にその姿を現すまでに到りました」

神風「そして私は、かつて竜を封印した少女達の子孫の力を借り…それを再び封印しようと試みました。ですが………その封印は不完全に終わり、更には…」


神風「再び、多大な犠牲を払う結果となってしまったのです」


神風「そしてその犠牲こそが…」


俺「奪われた…俺達にとっての大切な物…って事なのか?」

神風「その通りです」

カライモン「と言う事は…ふむ。この竜の…人の想いを食らうと言う行為は…」


神風「そう……食らった人間の存在その物を、人々の記憶の中から消してしまうのです」

●きえるは

俺「何だよそれ…」

ここに来て、やっと明らかになった違和感の正体。

あるべき筈の物があるべき場所に無い…そんな感覚だった事に気付く。


しかしそれが一体何なのか…探る事すら出来ない現状に、苛立ちを覚え始める俺。


そしてふと…神風の言葉を思い出す。

俺「なぁ…お前の目的は、この世界を歪ませる存在を倒す事と、この世界をあるべき姿に戻す事…そう言ってたよな?間違い無いんだよな?」

神風「間違いありません、それが目的です」


俺「だったらよ…未来が見えててそうしてるって事は、その両方を果たす事が出来るって事で…こいつを倒せば、俺達が奪われた物も戻って来るんだよな?」

今までの情報を纏め、その先に見据えるべき物を確かめる。だが…


神風「…………」

神風は押し黙って言葉を濁す


カライモン「恐らくは…あるべき姿では無いが故に、それに関わる事の演算が行えない…と言った所なのだろうな」

神風「…その通りです。例えこの竜を倒す事が出来たとしても、彼女が戻って来ると言う保障はありません」

俺「何だよそれ……あぁでも…くそっ!奪還にしろ怨恨にしろ…俺には戦う理由があるんじゃねぇか…」


そう…例えどちらの可能性であっても、戦って倒す以外の選択肢が無い。更に言うならば、これは………つまり

俺「ここまで、神風の…スピリットの計画通りって事かよ」

神風「………その通りです」


と……悪びれた様子も無く神風が言い切った。

●それなら

カライモン「となると…目下の所の問題は、この竜を如何にして倒すか…と言う事になる訳だが。勝算はあるのかね?」

神風「理論上では…有ります」

カライモン「理論上では…か。先程までの言動から察するに、この竜は人間の集団深層意識にまで干渉出来る…あるいはその階層に存在しているのだろう?」


神風「はい、その推測の通りです」

カライモン「では、一体どうやってそれだけの階層に干渉………いや、そうか…そのための、彼か…」

神風「その通りです」


訳が判らない次元の話を始めたかと思えば、今度は俺の方を向く神風とカライモン。

カライモン「光と闇の核……その二つの力を合わせる事で、集団深層意識への直接干渉が可能になる…と言う事なのだね」

神風「はい。ですが、それを行うためには条件があります」


カライモン「説明して貰おう」

神風「まず…根幹を食らう竜が、今の彼と同じ次元に存在する事」

カライモン「次元が違えばお互いに干渉する事が出来ない…まぁそれは当然だね」


神風「そして…彼が光の力と闇の力を………竜を倒せるだけの段階まで使いこなす事が出来る事」

カライモン「それは中々の難問だね。彼の力は、どちらかと言えば闇側寄り…光の力に関しては、お世辞にも使いこなせて居るとは言えない」

当の本人の意思を無視して、言いたい放題で進むその会話…まぁ、実際その通りだから文句は言え無い。


と言うか…その問題こそが最も重要な所だろう。流石に無策でこれを推している訳では無いんだろうが…


俺「で…そこん所は結局どうするんだ?今から特訓とかするにしたって、間に合うのか?」

念のために、それを直接聞いて置く。


神風「今から特訓をしたとしても、残された時間では付け焼刃にすらなりません」

カライモン「では、どうすると言うのだね?」

神風「貴方達…魔法少女の力と経験を借り、それを彼の力とするのです」


成る程、皆の力を合わせて……っていう王道パターンな訳か。しかし…

俺「そんな事、どうやってやるんだ?」


そう…根本的な問題。明かされては居ない、その具体的な手段を問う。

●ひとつに

神風「それを説明するにあたり、最初に警告して起きますが…これは、スピリットの力を以ってしても危険な賭けです」

俺「危険の一つや二つ、どうって事無い!…って言いたい所なんだが、レミやユズやカライモンには…」


ユズ「その事なら心配無いッスよ!センパイに助けて貰ったこの命、いつ捨てても惜しくは無いッス!」

レミ「そうそう…って言うか、命の危険なんて今となっては毎度の事よねぇ?」

カライモン「私に関しては皆以上に問題無い。それどころかしぶとさには自信があるので、他の二人よりもぞんざいに扱ってくれても構わない」


頼もしいやら危なっかしいやら…各々が力強い言葉で返してくる。

しかしこれで…俺の中の覚悟も決まった。

俺「んじゃぁ…改めて教えてくれ。どうやって皆の力を借りるんだ?」


神風「貴方と彼女達…全員が、私と契約するのです」

俺「…………」

その言葉に俺の返答は詰まり、頭の中を色々な事が渦巻き始めた。


契約…DTとユズのように…エディーとカライモンのように…テレパシーで繋がると言う事だ。

前例を見て来た以上、その利点は理解出来る。だが…

同時に、未知への恐怖が俺の中に生まれる。


カライモン「その場合…二重契約による不具合は発生しないのかね?それと、意識が混濁してしまう可能性は?」

そして、俺の不安を具体的な言葉にして神風に向けるカライモン。

神風「最善は尽くしますが、そのどちらの可能性も無いとは断言出来ません。しかし…現状ではそれ以外の手が無いのもまた事実です」


カライモン「………私は、多重契約により精神が混濁し自我が崩壊した人間を見た。あんな有様になると言うのなら、私はそれに賛同する気は無いが…」

神風「………」

カライモン「ならない可能性を見据えた上での提案ならば、乗ってみても良いと思う。と言うか、決定権は彼にあるのだしね…」


と言う感じで……結局俺に戻って来てしまった決定権。

こうなってしまったら、尻込みして立ち止まっている訳には行かないだろう。


俺「皆…俺に力を貸してくれ」

●なるとき

神風『其れでは皆さん…間も無く根幹を食らう竜が目覚めます。準備は良いですか?』

カライモン『問題無い。現状で可能な限りの手は打っておいた』

ユズ『自分は何時でも準備OKッス!』


手順や経緯は幾つか省略するが…神風との契約を終え、再び訪れた根幹を食らう竜の根城。そこでテレパシーの会話を行う俺達。

ユズやカライモンは勝手知ったる何とやらで、すぐにそれを使いこなし、流暢な会話を繰り広げている。

が……俺やレミに至っては…


俺「正直俺はまだ…何っつーか、ダークチェイサー達との会話とはまた違った感じで…」

レミ「私も…言葉が聞こえるって言うよりも、誰かが考えてる事がそのまま自分の考えになってるみたいで………」

ぶっつけ本番を目前にしながらも、未だに悪戦苦闘していた。


…ちなみにテレパシーと言っても、皆の記憶を覗き込むと言った感じとはまた違って………

何と表現すれば良いだろうか?現在進行系で思考を巡らせて居る事を全員で共有するような感じだ。

しかも繋がっている誰かの体を動かせるような感覚さえ存在している訳だが………


カライモン『恐らくは、これを使って君の光の力と闇の力をサポートするのだろう』

毎度の事ながら説明をありがとう。


………などとやり取りをしている間に、少しずつながらもテレパシーに慣れ始めて行く俺とレミ。

ある程度、不自由無くそれを交わせるようになった所で…


神風『竜の目覚めまでもう余り時間は有りません。彼の補助を開始して下さい』

いよいよ、俺達の力を一つにする時が来た。

●そしたら

俺『皆…頼むぜ…!!』

テレパシーで掛け声を伝え、俺を経由して光と闇の核へのリンクを皆へと繋ぐ。

そして皆の方も、それを合図に光と闇の核への接続を開始して………


ディーティー「嘘…だろう………?」

ユズ「そんな………」

次々に驚愕の声を上げる。


不測の事態…深刻な問題が起きてしまった事を懸念し、繋がった精神を読む俺。

そして、各々から紡がれた思考は………


カライモン『これだけの規格外な代物を有しながら、あれだけの力しか使いこなせて居ないのか…!?』

ディーティー『これはもう、無能ってレベルの問題じゃ無いよ!?』

DT『………いや、語るまい。あえて言葉にすれば彼を傷つけてしまうだろうしね』


俺「いや、十分傷付いてますけどね」


ユズ『さすがにこれは…えっと…あぁダメッス!フォローの言葉が浮ばないッスよ!!』

レミ『豚に真珠とか猫に小判とかって慣用句が生易しく思えて来るレベルね…この無駄っぷりは』

ユズどころか魔法を使えないレミにまで言われるとか、どんだけ酷いんだよ俺


神風『と言う事が判った所で…皆さんの力で彼をどうにかして下さい』

俺『いや、どうにかって何だよ。他に言い方が……―――っ!?』


と反論する暇も無く、俺の身体に現れ始める変化。いや……正確には仲間達が好き勝手な干渉を始めたようなんだが………

●かいぞう

カライモン『まずは此方のメンバー全体の強化…闇の核で物理攻撃は完全無効化…光の核を使えば、更に因果干渉にも多少は抵抗出来るようだね』

俺達を包み込み…そしてすぐに見えなくなる光と闇の膜。


レミ『それと…万が一のために、外殻を多重構造にしてパージも出来るようにしておかないとね。あ、あとあれも追加しとこう』

強制的に中二病フォームに変身させられる俺。付け加えるならば、その姿は前回の時よりも外殻が多くなっていて………更に

俺『………いやこれ、必要あるのか?』

背中には三対の翼が付加されていた。しかもこれは…うん、コイツ動くぞ。


ユズ『後は、防御と攻撃にも…光の刃だけじゃなくて、ちゃんと存在干渉の魔法を付けて置かないとダメっすよね』

そして発光を始める外殻の先端。


DT『あぁ、後…質量を持った残像を発生する器官も精製しておこうか。名付けてザンゾー胞子だ!』

ディーティー『そうだ、ついでにネコミミも付けちゃおうか』

俺『いや、ネコミミはどう考えても要らないだろ!!』


…………と言った感じで好き放題弄られる俺の身体。

もうどうにでもしてくれ…と、諦めが入った所で………形成が完了した。


中二病フォーム末期モードの完成である。


と…自棄っぱち混じりの愚痴など漏らしている場合では無かった。

皆がそんな悪ふざけをして居る間にも、竜を封じた封印…影の映り込む床に皹が入り始め………

神風「竜が…目覚めます」


落ち着く暇も無く、決戦の火蓋が切って落とされた。

●かいまく

遂に訪れた決戦…根幹を食らう竜との戦い。

辛うじて間に合った準備に併せて、再確認して置かなければならない注意点が幾つか存在する。中でも重要な物が………


一つ目………絶対に竜に食われてはいけない。食われてしまえば、その存在その物が無かった事にされてしまう。

二つ目………竜に決定打を与える事が出来るのは俺だけ。

三つ目………この空間の中で空間転移を行う事は出来ない。転移を行えば、その瞬間に無防備になって確実に食われてしまう。


以上の三つ。他にも細かい注意点が幾つか存在するのだが………

さすがに、そこまで説明する余裕を与えてくれる程サービスが良い相手では無いらしい。


開かれた二つの瞳で俺を見据える竜…


そして俺を食らうべくその大口を広げ―――


俺「何っ!?」

消えた……と思った次の瞬間には、俺の背後に現れる。

その巨体からは想像出来ない程の素早さ…では無いか。恐らくは、スピリットとして持っていた能力…転移。

あちらだけが自由に使えるその手段に、拭いきれないアウェー臭をひしひしと感じるのだが…


その分…能力的なハンデを補うだけの仲間が、俺には居る。

大きく開かれたその顎が閉じきるよりも早く、両足の外殻の一部を射出…その反動で竜の牙から逃れる事に成功する。

さすがはレミ…ダークチェイサーの指揮に馴れている分、こう言った事態への対応は早い。


………ん?


俺、今何で助かったんだ?

神風『レミの形成した外殻が囮になる事で窮地を脱しました。しかし、それが食べられてしまった事により記憶から消去されてしまいました…』

成る程…食われるとこう言う事態になってしまうって事か。


………背筋に嫌な感覚が走る

●こうせん

本来ならば、神風の因果予測により如何なる攻撃も当たらない筈の俺達…

だが、相手も同様の能力を持ったスピリット…正確には元スピリットとなればまた話が違って来る。

互いの因果予測を読み合い、読み負けた方が皺寄せを受ける…あるいは、読み合いが硬直して…必然的に直感のみの戦いになってしまう。


だが…それのみの戦いで、何の策略も立てる事が出来ないか…と言えばそう言う訳では無い。


再び俺に狙いを定め、転移を行う竜………先の失敗から学習したのか、今度は俺の頭上にその姿を現し…その大口の中に俺を収めようとする……のだが

それを遮る、カライモンのマイクロミサイル。

俺と竜の双方に着弾し、双方の距離を離す…と共に微量ながらもダメージを与える。


そして、その仕返しとばかりに今度はカライモンが竜に狙われる事となるのだが………

俺「そうは問屋が卸さねぇ…ってな!!」

その隙を突き、今度は俺が竜に一撃を加える。


カライモンの時とは違い、確実に手応えを感じる痛打。竜の腹部を大きく抉り取り、その断片を無へと帰させる…その一撃。

対する竜は…その痛みからか悔しさからか、およそ生き物のそれとはかけ離れた叫びを挙げて暴れ回る。

追撃のチャンス…そう踏んで竜の元へと飛び込み、両手に………と次の行動を起こしかけた所で不意に止まる身体。


そして目の前…本来ならば俺が居た筈の場所を、空を切るように食らい去る竜の顎。

俺『危ねぇ………助かったぜエディー』

エディーの慎重さに助けられ、俺はその礼を告げる。


必勝パターンとまでは行かないまでも、善戦を展開出来るだけの戦力と戦略…

それを得る事で俺達の眼前に映ったのは、一筋の光明…そして


生まれてしまった油断の代償だった

●しつねん

そう…俺達は完全に失念してしまっていた。

消滅に直結した竜の顎…最も警戒するべきそれに注視する余り、それが竜であると言う認識をどこかに置き忘れてしまっていた。


竜が俺に向けて再び牙を剥き、その顎が閉じきる前に後退する俺。後に…反撃を行う筈だった。

しかしその顎は閉じる事無く、口内が不自然な動きを見せ………

その異変に気付いた時には、もう遅かった。


噴き上がる息………


黒く染まった粒子のような物が俺に向けて噴き付けられ、その奔流が外殻や防御魔法を削り取って行く。

おまけにそれらはタールのように俺の身体に絡み付き、身動きさえもままならない状態へと陥れてくれた。


これは致命的だ………そう確信したまさにその瞬間………

俺の盾になるかのように、竜に立ち塞がる…レミ…ユズ…カライモン。


このままでは…女の子を犠牲にして生き残る、なんていう情け無い事この上無い状況になってしまう。

そんな事は断じて認める訳にはいかない。これ以上誰一人として犠牲なんかにさせる訳には行かない。

全身に力を込め、ブレスの残骸を引き千切る俺。そして翼から推進力を発生させ、皆よりも前に出る…のだが


正直な所、ここから先は何も考えては居なかった。皆に至っても、先走った俺をフォローする手段にまで思考が回らない。

食われる……そう直感する。

しかし、直後に待ち受けていた現実は…想像とは異なる物だった。


竜の牙を遮るようにして展開される魔方陣…

カライモンの魔方陣魔法かと思い、リンクした思考でそれを確認するも…答えは否。

困惑が伝染して巡る俺達。

更にはそんな思考さえも遮るかのように、竜と俺達の間に姿を現す…新たな来訪者。


俺は、その来訪者の姿に見覚えがあった。

そして、驚愕の声と共に………その名前を呼んだ。

●ひさしい

俺「なっ………マヤ婆ちゃん!?」

カライモン「―――――っ!?」


マヤ婆ちゃん…幼馴染であるマイの祖母で、俺が子供の頃から世話になっていた人物だ。

何故マヤ婆ちゃんがこんな場所に?…と言うか、この魔方陣はマヤ婆ちゃんの物なのか?

幾つもの疑問が頭の中を駆け巡る中、その思考を遮るように神風が呟いた。


神風「久しぶりですね…マヤ」

マヤ「久しぶりねぇ…もう60年も経つのかしら」

神風「正確には61年…ですが、その魔力は衰えて居ないようですね」


マヤ「勿論…この日がいつか来るんじゃないか…そう思うと気が気では無かったもの…」

神風「では……」

マヤ「えぇ………微力ながらお手伝いさせて貰うわねぇ」


俺達には意味の判らない会話の後、契約者のリンクの中へと加わるマヤ婆ちゃん。

そして、共有した思考から読み取ったのは……


俺「なっ…………マヤ婆ちゃん、魔法少女だったのか!?」


そう…とんでもない事実だった

●へんしん

マヤ婆ちゃんが予め持っていた変身プロセスが展開すると…そこからはカライモンへの直接リンクに切り代わり、俺には思考を共有する事が出来なくなった。

魔方陣で竜を遮りながら、稼いだ時間でマヤ婆ちゃんが行う…何か。

そしてその何かが完了した瞬間……俺は更に目を疑わざるを得ない状況に陥った。


マヤ婆ちゃんが光に包まれ…その光の中から現れたのは………一人の魔法少女。

巫女服を基調とした衣装を着込む……見た目12歳くらいの女の子だ。

もう一度言うが、魔法少女が光の中から現れた。


だがその正体はマヤ婆ちゃんである。


俺はその光景にただただ唖然として、開いた口が塞がらなくなっていた…のだが、いつまでもそんな事をしている暇は無いようだ。

魔方陣を食い破り、再び俺に向けてその牙を剥く竜

………だが俺はその場所から動かない。動かずに…マヤ婆ちゃんの魔方陣の展開を待つ。


マヤ『そんなにお婆ちゃんお婆ちゃんと言わなくても…今は若い頃の姿なんだから、マヤちゃんで良いのよぉ?』

俺『ちゃん付けは流石に抵抗が半端じゃないんで、名前呼びにさせて下さい』

そんなやりとりを交わしながら、俺と竜の間に魔方陣を展開するマヤ婆ちゃん…もとい、マヤ。


その魔方陣は、とりもちのように竜の口を覆って塞ぐ光を形成し………

俺はその好機に賭ける!!


光と闇の核…その力を両拳に集め………形成するは光の拳と闇の拳。

名前こそ無い物の、これこそが根幹を食らう竜を倒すための切り札……必殺の拳だ!!


地上に墜ちる竜を追って俺も下降を行い………

床にぶつかった衝撃で跳ね上がった身体に、拳を打ち込む!!


右!左!

右!左!


交互に…同じ箇所に向けて捻じ込むように放つ拳。その一撃一撃により削り取られて行く竜の身体。

補足しておくと、マヤの助力による底上げが予想以上に大きく響いて居るようで…

それが無ければこれだけのダメージを与えられて居たかすら怪しかっただろう。


九死に一生を得て、そこから連ねる起死回生の拳。

確かな手応えと、存在を死に追いやる感触。

…正直心地が良い物では無いが、だからと言ってそれを止める訳には行かない。


俺は、竜に向けて拳を放ち続ける。

●おどるは

避けるように体を捩らせる竜…それを追い、次なる一撃を叩き込む俺。

レミ「まるで…舞っているみたい」

テレパシーでは無く、声に出して呟くレミ。


浮き上がった竜の体を更に叩き落とし、周囲に轟音が鳴り響く。

竜の動きに合わせて俺が動き、俺の動きに合わせて竜もまた動く…

ある種のリズムを持って戦う様は、踊りとどこか似ている感じさえもする。


そんな事を一瞬考え、レミの言葉に共感を覚えもしたが…

すぐに、その余裕など無い事を思い出す。

そう………


俺達は、奪われた大事な物を取り戻すために戦っているんだ。

財宝を奪い返すために竜と戦うなんて、昔ながらの御伽噺のようだが…今はそれが現実になっている。


取り戻さなければ……絶対に取り戻さなければいけない!

この竜が奪った物は、俺にとってかけがえの無い大切な物………

もう二度と………失ってはいけない物なんだ!!


俺「し……やがれ……!!」

深々と竜の身体に沈み、その内側を削る俺の拳。

閉じられた口から苦悶の叫びを上げる竜。


そして……何かに触れる手応え。

その手応えに向けて、俺は拳を繰り出し続ける。

俺「返し…やがれ…!!!」


俺「ハルを………返しやがれ!!!」

その名を…俺にとって一番大事な、奪われた存在の名を叫びながら放つ拳。

遂にその拳が、竜の中の『何か』を貫いて……


『それ』は起きた

◎げんいん

隊長「諸君!よくぞこの再編蒼竜隊に志願してくれた!しかし、この部隊に入った以上は生きて帰るを望めると思うな!命が惜しい者は直ちに去れ!」

少女「貴女が、蒼竜隊の基軸となる………不思議ね、お人形さんみたい」

マヤ「貴方達が蒼竜隊の……あ、ゴメンなさい。そういう積りじゃ…うん、ありがとう」


少女「もう嫌!!何でこんな事をさせられるの!?あんた達もおかしいと思わないの!?」

少女「思ってるわよ!こんな事になると知っていたら、志願なんかしなかったのに!!」

少女「おかしい…な………死ぬ事なんて怖くなかった筈なのに…私もあんな死に方をするって考えると………」


少女「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ――――!!!止めてやめてやめてヤメテヤメテヤメテヤメテ!!!」


少女「次は私の番じゃない…私の番はもっと後…次は私の番じゃない…私の番はもっと後…」

男「おい壱四番、お前の番だ!」

少女「私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない私の番じゃない!!」


『もう止めてくれ!私はこんな事を望んでは居ない!!』


少女「あ……あはっ…生きてる。私生きてるの?こんなになっても生きてるの?これって夢なの?覚めるのよね?ねえ?ねぇってばぁぁぁ!!!」

少女「私の番はもう終わった。私の番はもう終わったぁ。私の番はもう終わったんだからぁ……」

少女「あっはハはー…あっはっはー…あっハハはっはアッハッハ」


少女「ねぇ……殺して?お願いだから殺して?貴方なら出来るんでしょ?」

少女「そうよ…もう用済みだって言ってくれればそれで終わるんでしょ?」

少女「だからぁ…良い加減役立たずの烙印を押してくれない?処分して?」


『すまない…私の力ではどうする事も出来ないっ……』


少女「はじめまして!貴女が私達の指揮官なのよね?」

少女「本当に生きてるんだ…お人形さんみたいなのに」


『君達は…この先で待ち受けている物が怖くは無いのか?』


少女「怖い筈が無いわ。だってお国のためにこの命を捧げる事が出来るんですもの」

少女「そうよ、これ以上栄誉な事なんて無いわ。怖がるどころか誇るべき事じゃなぁい?」


『………』


隊長「ふむ…また失敗か、腑抜け共め。全くと言って良い程に進展が無いが…しかしまぁ、材料ならば幾らでも居ることだし『次』に期待するか」

○しんじつ

私「根幹を食らう…竜?」

エディーさんに連れられ、訪れた治療施設…

その控え室に突然現れた女の子から伝えられたのは、聞き馴れない名前だった。


神風「貴方の祖母…ハナ達の手により封印された、世界の根幹を食らう存在です」

私「その…根幹を食らう竜って言う物の封印が解かれると問題なのは判るんですけど……どんな事が起きるんですか?」

神風「こちらとあちらの世界…その双方に存在するありとあらゆる物の存在と記憶が食らい尽くされ…無かった事にされてしまいます」


私「それって…勿論………彼の存在もですか?」

神風「はい、そうです。根幹を食らう竜に食らわれた者は消えてしまいます」

その少女の言葉からは嘘偽りを感じる事が無く、真実を述べている事が判った。


そして…彼に関わる事となれば、避けて通る事が出来ない事も理解出来た。


私「じゃぁ…私はどうすれば良いんですか?」

神風「彼が闇の核の一部を取り込んだように、貴方も光の核の一部を取り込む必要があります」

私「その方法は?そのために私に何か出来る事はありますか?」


神風「貴方の了承さえあればいつでも開始する準備は出来ています。ですが……それを実行すれば、まず間違い無く貴方はその命を失います。そして…」


私「やります」

神風「そう答える事も判っていました…判っていて尚、私はその言葉に甘える事しか…」

私「私も…何となくだけど、そんな感じだと思っていました。だから気に病まないで下さい」


神風「………すみません」

○だんかい

私「それで…一体どんな流れになっているんですか?」

神風「まず…今夜、貴方は光の恩恵派と言う組織に誘拐されます」

私「それから?」

神風「そして、そこで貴女は光の核の一部と融合させられる事になるのですが…同時に脳の手術による洗脳を受ける事になります」


私「それも折り込み済み…必要な事なんですね?」

神風「…そうです。更には光の核の力を得た貴方の一部が彼等を襲い、それがきっかけで彼等の力が目覚めます」

私「彼とレミちゃんに命の危険は無いんですか?」


神風「瀕死には陥りますが、命を落とす事は無い…と言う段階まで追い込まれます」

私「………危ない目に遭わせたくは無いんですけど…仕方無いんですよね」

神風「…はい」


私「それから…洗脳を受けた後の私はどうすれば良いんですか?」

神風「彼等の力を高めた後…その彼等との戦闘で貴方自身の光との親和性を高め、根幹を食らう竜との決戦に備える事になるのですが…」

私「勝てる戦いだと断言は出来ないんですね?」

神風「それもあります。ですが、それとは別に………身体の部位を欠損した貴女の姿を彼等に晒す事になります」


私「それは…今の目的を考えると、ちょっと辛い目に合わせてしまいそうですね」

神風「………すみません」

私「良いんです、続けて下さい。その後はどうなるんですか?」


神風「彼等が一時撤退を行った後、残された貴方自身が…その力を以って根幹の竜の封印を行い、その後………」

私「…その後………暴走を止められなくなってしまった私を、彼とレミちゃんが止める…と言った流れなんですね」

神風「その通りです。これらの話を聞いた上でも、貴女はまだ…」


私「やりますよ?だって………」


そうしなければ…思い出さえ残さず彼の存在が消えてしまう……それだけは許せなかったから

○さいせん

私「………それで…再び封印を行った筈の根幹を食らう竜が目を覚ましかけている…と言う事なんですね?」

神風「はい…本来ならばあと少し…彼が光と闇の力を使いこなせるようになるまで時間を稼ぎ、竜を滅ぼす筈だったのですが…」

私「再々封印の必要がある…そう言う事ですよね?」

神風「…その通りです。しかし、前回とは違いライトブリンガーの力を完全に制御している貴女ならば…」


私「勝てる見込みは十分…でもその予知じみた能力も、竜に直接関わる事だと精度が下がるみたいですよね?」

神風「…否定の言葉もありません」

私「最悪で敗北…次点で私の存在の消滅………でも」


神風「………」

私「やる以外の選択肢は…やっぱり無いみたいですね」


神風「…すみません」

●めざめて

恐らくは…アーカイブの中で見た物と同じ、記録の断面のような物。

俺以外の皆も同じ物を見ていたらしく、過呼吸で肩を揺らしながら顔には脂汗を滲ませている。

訂正…皆ではなく、マヤを除く全員だった。


何故マヤは平然として居られるのか、その理由に至っては至極簡単で…

俺『知ってたのか…あの竜の正体……って言うか、あの出来事を』

マヤ『えぇ…ハルちゃんの事以外は全部ねぇ』


と、マヤは淡々と語る。

そして俺は、大きく深呼吸をして気持ちを落ち着かせ…腕の中に視線を下ろし………


―――ハルを見下ろす。

やっと取り戻す事が出来た…奪われて居た大事な物…俺にとってかけがえの無い存在。

ずっと付き纏っていた違和感は消え去り、こんな状況だと言うのに安堵感が俺の中を満たして行く。


判らない事はまだまだ沢山…それこそ山のようにある。

だが、今一番やるべき事は曇る事無く見据えられている。

俺「ハル…目覚めたばかりで悪いんだが、いけそうか?」


ハル「………はい!」

力強く返事をするハル。

おっと、衝撃と感動のあまり忘れていた…


俺「っと…そうそう……お帰り、ハル」


ハル「ただいま…………お待たせしましたっ!」

●ふたたび

ハルを助け出した…ラスボスの得物は無効化した………あとは俺達の愛の力で止めを刺すだけ。

そう…いつもならそれで終わっていた筈の戦いなんだが…

しかし、今回は……どうも勝手が違っていた。


俺「何だよ…あれ」

レミ「何て言うか…あれはもう、竜って感じじゃ無いわよね」

ユズ「何か、身体中に口みたいな物が出来てるんッスけど…」


カライモン「口…と言うよりも、あれは顔だね。他の部位も形成されて来て居るようだ」

エディー「えぇ…それも…」

DT「それぞれが個性を持った顔…」

ディーティー「恐らくは異なる複数人の顔を形成しているのだろうけど…」


マヤ「あれは………」

神風「…………」

ハル「………根幹を食らう竜を形成するまでに到った人達…戦時中に魔法少女となって……」


その先の言葉は誰もが理解し、あえて言葉にする事は無かった。


レミ「…………」

●しびとの

俺『なぁ…あの変化もお前の予想の範囲内なのか?』

神風『正直…あのような姿になる事を想定して居ませんでした。彼女達は、自身を認識する事など出来ない状態の筈なので…』

レミ『じゃぁさ…それってつまり、自我があるかも知れ無いって事よね?』


カライモン『自我があったとしても、それが理性を持って居る可能性は極めて低いだろうね』

ハル『話を出来れば良いんだけど………そうでなければ、可哀想だけど…』

レミ『そうよね…ゴメン、無かった事にして』


言い終えて覚悟を決めるレミ。

それに連れられるように再び臨戦態勢を取る仲間達。

俺に至っては………先の連撃で殆どの力を使い切った訳だが、辛うじてハルのおかげでもう一度切り札を使う事が出来そうだ。


となれば、問題はその使い所なんだが………正直まだそれが見えて来ない。


相手の手の内が見えていない以上、慎重にならざるを得ない。

だが同時に、未知を前にした焦りが時間の経過と共に蓄積して……

先の発言からの責任感もあってか、レミが先陣を切る…いや、切ってしまう。


焦りから生まれる特攻。

無防備なままに竜に近付き、攻撃を加えようとしたその瞬間………顔の一つが変貌を遂げる。

レミを丸ごと飲み込みそうな程、大きく開かれる口。それが閉じられようとする正にその瞬間………


レミ「なっ………」


カライモン「………」


それを庇って…レミを口の外へと突き飛ばすカライモン。

以前も見た光景…ユズから俺を庇ったあの時と同じ………いや、違う。

あの時は復活の算段があったようだが、今回の相手は次元が全く異なる。


記憶その物を消されてしまったら、復活のしようが無い。

そう……いくら………



俺『ん……?今、レミはどうやって助かったんだ?』

●ぜつめい

体中を駆け巡る嫌な予感…

神風『仲間の一人…彼女の犠牲により助かりました』

俺『それで…例によって、それが誰なのかは教えられないんだよなぁ!?』


神風『はい…私が教えてしまったら、その時点でその人物は…他者から与えられたただの情報になってしまいます。そうしたら、本人が戻って来る場所を失い…』

俺『復活の目が潰れる…だから、潰さないために教えないって事か』

しかし、思い出す事が出来なければ助け出す事も至難の業。


どうする………どうすれば良い?

ハルのように…いや、ハルを助け出せた理由さえまだ判って居ない。

そもそも、どんな行動を起こすのが正解で…何が不正解なんだ…!?


思考の袋小路に陥る俺…

くそっ…こんな時、アイツが居てくれたら…嫌味混じりながらも正解を教えてくれただろうに

心の中で渇望しながらも、無い物強請りをする訳にはいかない。


ではどうすれば良いのか…

俺『いや、答えは決まってる…か』

神風『根幹を食らう竜を打ち倒し…』


ハル『失った仲間を取り戻します!!』

●きぼうの

マヤ『仲間を思う絆は…何時の時代においても変わらず、強い力を生み出す物よねぇ。私にも、昔は…』

ハル『昔の仲間はもう居なくても…今の仲間が…私達が居るじゃないですか』

俺『そうだぜ。今まで世話になった分、ここで恩返しをしねえとな!』


マヤ『貴方達……あら?お嬢さん、貴女………』

ハル『どうかしましたか?』

マヤ『いえねぇ…気のせいかしら。嫌だわぁ、歳を取るとこれだから…』


何かに気付き、急に困惑し始めるマヤ………

しかしこの状況での足踏みは致命傷に近い。

対峙している竜が…俺達のその隙を見逃してくれる筈も無く、当然ながら更なる攻撃を仕掛けてくる。


俺『……って、何だこりゃ!?』

俺に向けて襲い掛かって来たのは……紙切れ。いや、模様が描かれた…お札?

新たに現れた口の中からそれが飛び出したかと思えば、今度は俺の周囲を竜巻のように飛び回り…


俺『――――っ!?』

俺に張り付き、次の瞬間に爆発するそれら。

竜が…今までとは全く異なる攻撃方法を取り始めた。


突如頭上に現れる無数の氷柱…

四方八方から現れ、絡み付く無数の鎖………

行く手を遮る空気の壁…


そして………それらの妙手に絡め取られた所で、打たれる一手。

俺…だけでは無い。ハル…レミ…ユズ…マヤ…神風…DT…ディーティー…エディー………

9つに別れた首が、皆に向けて伸ばされて行く。くそっ、人の技をパクんなよ!


自衛するべきか…誰かを助けるべきか………

皆の思考は、切り札である俺を守る事に集中しているが………それは御免被る!

しかし、我儘を通そうにも絶体絶命の危機を覆す程の手段も無い。


巡る思考に結論を出せないまま、竜の首の一つが迫る…その瞬間。


突如として地表に打ち付けられる、竜の首達。

立ち上る土煙の中から現れたのは……見た事も無い魔法少女…いや


魔法少女…達…だった。

●せんたい

レッド「私の名前はカライモンレッド!」

ブルー「私は…カライモンブルー…」

イエロー「カライモンイエロー!」

ピンク「私はカライモンピンク☆」

ブラック「同じくブラックだ」

シルバー「カライモン…シルバー!」

ゴールド「カライモンゴールド、ここに参上!」

マスター「百鬼夜行を切り開く…カライモンマスター!」

ブラックRX「私は太陽の子!カライモンブラックRX!!」


俺「いや、ブラック二人居るのかよ!」


と…思わず突っ込みを入れてしまったが……実の所、彼女達にはそれ以上に違和感を感じる物があった。

のだが…違和感の切り口は、思わぬ所から現れた。

神風『何故…竜に食われた筈の彼女が………?』


神風が、根幹を食らう竜以外でその存在を掌握出来て居ない人物………

にも関わらず、竜に食われたと言う経緯を持って居る存在。

これはつまり………既に復活している以上、聞いてはいけないと言うルールの前提から逸脱している訳で………


どういう事だ!?


神風『彼女は…つい先程、竜に食われた貴方達の仲間…カライモンです』

俺の疑問を汲んで話し始める神風。

レッド「事情は後で説明する…まずは私達とも契約してくれないかね?」


そして、その神風の思考さえも遮って事態を進行させるカライモンレッド。

案の定…思考を接続した後も、彼女の正体や経緯については説明が無いままなのだが…

その事に疑問を持ちながらも、神風は彼女の事自体を信用しているようだった。


と言う訳で…俺も半信半疑かつ間接的ながらもカライモンを信用し、彼女の思考を伺うのだが……

俺『なっ………お前、それ本気か!?』


伝わって来た内容に………テレパシーにも関わらず、俺は耳を疑った。

●にくほね

9つの首…それらに対して、首一本につき一人ずつ対峙するカライモン達。

他の仲間達はやや後方に下がり、それを見守っているのだが……

当然ながら竜の方は、そんな俺達の事情には構う事無く…それぞれの首の近くに居るカライモンへ達と襲い掛かる。


そして………それに応戦するカライモン達。

魔方陣でその攻撃を受け止めたかと思えば、今度は自ら竜の口の中へと飛び込み

自分の身体ごと、竜の首を魔方陣で束縛する。


首を束縛された本体はもがき、のた打ち回り…

闇雲に様々な魔法を展開して行く。

しかし…明確な目標を持たずに繰り出されるそれらは精度に欠け、皆は難無く回避してやり過ごす。


待ち構える機会…

チャンスは一度切り

俺はゴクリと唾を飲み、それに備る。


食い破られる魔方陣。

カライモンを食らい、飲み込む竜。

俺達はその光景を前にして、今はただ見守るのみ。


そう………ここまで作戦通りの展開だ。


一秒…また一秒と過ぎて行く時間。

カライモンを食らって尚のた打ち回る竜を前に、ただ次の事象を待つのみ。

彼女達の存在が俺達の中で消えて居ないか…それだけを何度も反復して確認する中…


それは起こった。

●うちがわ

『ねぇ…どうして私達こんな事になってしまったの?』

『無駄…無駄…私達の苦しみは全てが無駄だった!!!』

『悔しい…憎い……苦しみの無い全ての存在が妬ましい…!』


俺達の中に流れ込む、ドス黒い感情。

傾けた耳を抉り取られるような錯覚を覚えながらも、俺達はその言葉の一つ一つを飲み込んで行く。


『私達はただ、国のために…いいえ、ただ、人の役に立ちたかった…それだけだった』

『でも…待ち受けていたのは、辛く苦しいだけの意味の無い日々だった』

『皆使い捨てのボロ切れのように扱われていた…何の意味も残させて貰えなかった!』


竜の中に存在する、少女達の叫び…

戦時中、実験体にされた魔法少女達の記憶が俺達に叫び続ける。


『だったら…私達は何のために存在していたの?』

『私達がこの世に存在する価値も意味も無かったの?』

『いいえ…この世界こそ私達が存在する価値があったの?』


壊れて行く心…

少女達の最後の理性さえも崩れ去る、その瞬間が流れ込んで来る。


『無価値な世界なら消し去ってしまえば良い』

『全てを巻き込み…』

『全てを飲み込み…』

『全てを無に………』


『それが君達の望みなら…最後にそれを叶えるのが私の義務なのだろう』

●かいせき

少女達の声が消え、現実へと引き戻される俺達。

気が付けば荒いで居た呼吸を整え、再び竜を見据える。


レッド『解析及び収束完了だ。場所は…床に落ちた影を参照してくれ』


そしてカライモンレッドの声に促されるまま、竜の影に視点を落とす俺。

竜の影…その中央に位置する場所に輝く、一点の光。

カライモンの手により収束された…根幹を食らう竜を構成する、彼女達の意識がそこにあるらしい。


彼女達の記憶を覗き…正直、迷いが生まれて無いと言えば嘘になる。

だが、その迷いを理由にこの手を止める訳には行かない。


光の核の力の全てを右手に…

闇の核の力の全てを左手に…

皆の力を借り…僅かでもその出力を狂わせないよう、バランス調節して…


その両の手に、一対の剣を作り出す


俺『情けねぇなぁ……俺にあと少しでも力があれば、あの子達の意識も救ってやれたかも知れないってのに』

光の核『不甲斐無いのは我等も同じ事…』

闇の核『これが今出来る精一杯の事…それ以上を望む事など出来ません』


根幹を食らう竜へと向けて駆け出す俺………

苦し紛れに暴れる竜の…腕を、爪を、牙を、尾を遮る………ハル…レミ…ユズ…マヤ…


俺は力一杯地面を蹴り、跳び上がった先の天井に両の足を着け………

そのまま天井を蹴って、竜へと向けて垂直下降。

そして、竜の中心に向けて両手の剣を十字に構え………


決着の一撃を放つ

●ついめつ

根幹を食らう竜…その外装を吹き飛ばし、中核へと触れる二本の刃。

僅かでも気を緩めれば、逆に弾き飛ばされてしまいそうな程の力の奔流の中…皆の力を借りて、辛うじて退かずに耐える俺。

負けられない…ここで押し負ければ、失った物を全て失ったままになってしまう。


力は出し尽くした…

手段も出し尽くした…


もうあと絞り出せるのは気力くらいの物。

正直そんな物でどうにかなるのかどうかなど判らない…が、何もしないよりはマシだ。

俺は最後の気力を振り絞り、光と闇の刃を握る手に力を込め―――


ついにその刃が、竜の中核に沈み込む。

ほんの僅か…だが確かな手応えを感じるには十分なそれ。

俺は更に刃を沈ませるべく、力を込める………が、意図せずその動きが止まる。しかもその理由は…


俺『なっ…どう言う事だ!?神風!!』

神風による制止だった。

この状態で刃を止める理由など判らない。俺はそれを問い詰めるべく、神風の思考を探り……見る


俺『―――っ』

根幹を食らう竜の中核を断ち斬り、その反動で消滅する俺の姿と…

それを避けるために………神風が取ろうとしている行動。


俺『お前………竜と対消滅…心中するつもりなのかよ』

神風『現状ではそれ以外の手段がありませんから。それに…』

俺『それに…何だってんだよ』


神風『私は…自らの目的のために、貴方達を手駒として利用して来ました。せめて最後ぐらいは私自信がこの身を張らなければ、筋が通りませんので』

レッド『確かに…筋は通って居るね。今までの謀略を帳消しにするには打倒な対価だろう』

神風『ご理解感謝します』

レッド『しかし………』


神風の言葉に対して、それを否定するだけの言葉を出す事が出来ない俺達。

しかし否定出来ない事と反論出来ない事はまた別の事で……

満場一致で、一つの結論が導き出される。


そして…ただ、感情の赴くままに言葉を放つ。

●はんろん

俺「それが…どうしたぁぁぁぁ!!!」

レミ「それがどうしたぁぁぁぁぁ!!」

レッド『知った事か――――!!!』

ユズ「知ったこっちゃ無いッスよ――!!」

マヤ「丁重にお断りするわねぇ」


神風「なっ―――」


ディティー「そう言う自己犠牲の精神とか、認めないよ僕は」

DT「僕も同意見だね」

エディー「他者の屍の上を歩く趣味は持ち合わせておりませんので、はい」


俺達の言葉を聞き、呆気に取られる神風。

多数決により神風の作戦を却下し、制止を振り切って竜への攻撃を再開する俺達。


しかし、大見栄を切った手前言い辛い事だが…その行動に腹案など持ち合わせては居ない。


神風『ですから…私がかの竜と対消滅をする他…』

俺「だからそれは却下だっつってんだろうがぁぁぁ!!!」

が………だからと言って、それ以上に退くに退けないだけの理由がそこにはある。


妥協せず…

諦めず…

何が何でも、俺達が望む結末になるまで足掻いてみせる!!!


心の中でそう叫んだ、まさにその瞬間

俺の目の前に、一人の少女が……いや、少女の姿をした何かが現れた。

●あなたに

神風『そんな………ハナ、何故貴女が…』

ハル『えっ…お婆ちゃん?』

ハナ『………』


神風…ハル…そして俺に向けて微笑む、ハナと呼ばれた少女。

二人の思考から、それがハルの祖母にして神風の知人だった事が読み取れる。

かつて根幹を食らう竜を封印した魔法少女の一人


…ちなみに、少女姿な事に違和感を覚えない訳では無いのだが…

正直マヤのおかげで慣れた。


ハナは、ハルと重なるようにその身を寄せ…俺達の繋がりの中へと入り込んで来る。

俺からすれば見ず知らずの他人…にも関わらずそこには、本来感じる筈の違和感も疎外感も無く…そう、そこに居る事が当たり前のようにさえ感じてしまう。


俺『あぁ…そうか。そう言う事だったのか』

そして、その理由に気付いて零す一言。

ハルの魔力…いや、魔力だけでは無い。ハルの優しさや愛情…それを与え育んでくれたのが、このハナという少女だったんだ。


ハナ『………』

再び微笑み、瞼を閉じるハナ。

ハルを通じて感じるハナの力…


俺の中に存在する光の核の力が、闇の核の力に匹敵…いや、凌駕する程にまで引き出されて行く


この力ならば、根幹を食らう竜の中核を断ち切る事が出来る…そう確信する俺。

だが…確信を持ったが故に、同時にそこに生まれる疑念。

本当にこれで良いのか?これで決着なのか?


その疑念と疑問は、俺だけでは無く皆の思考を巡り…

そしてそれが一巡した所で………一つの答えが出た。

幸いな事に、誰一人としてその答えに異論を唱える者は現れない。


皆の心が、再び一つになる。


妥協など無く…

諦めも無く…

理想を捨てずに皆で導き出した結論。


俺はその答えを決行する事にした。

●こころを

俺「って事で…こっちの自己紹介は要らねえよな?」

竜「………………」


根幹を食らう竜…その心の中に入り込んだ俺…いや、俺達。

俺達は、俺の姿をを基軸にして各々が姿を現し…

対する竜は………その体に幾人もの魔法少女の屍を背負い、その屍にしがみ付かれて居た。


竜「何故…こんな事を試みる?私達を消し去りたくば、ただその剣で以って消し去れば良い。私達を尚苦しめたいと言うのか?」

神風「…………」


ディティー「今更、この程度の事で苦しむようなデリケートな精神でも無いだろう?話くらい聞いたらどうだい?」

竜「では問おう…お前達の目的は一体何だ?失った物ならば、私を倒せば取り戻せるぞ?」

自嘲気味に笑い、そう答える竜…だが俺達はそんな挑発には乗らず、言葉を連ねて行く。


俺「奪われた物を取り戻す…って目的もあるけどな。ただ、それだけじゃ終わんねえんだ」

DT「ぶっちゃけて言うと、僕達の目的は君なんだよ」

竜「成る程…私の力を得るため私を食らう…そう言う事か」


俺「いや、ちげーし」


竜「……………」

俺の否定を聞き、沈黙する竜…しかし俺は退く事も止まる事もせず、続きを言葉にして行く。

俺「解放しに来たんだよ…お前も、その魔法少女達もな」


竜「クク…お前がか?ハハ…ハハハハ!!」

そして、笑い出す竜。

竜「私は…決して許される事の無い罪を犯して来た。その罪の重さを貴様達が僅かでも背負えるとでも言うのか!」


竜は激昂と共に声を荒げ、俺達に牙を剥く…が、俺達はそれに臆する事無く剣を構え………竜の攻撃に備える。

俺「どうだろうな…正直、どのくらい背負えるかは判らないんだが………そんな判らない物だらけの中でも、一つだけ判った事はある」

竜の爪を闇の刃で受け流し、新たな確信を持った上で続ける言葉。


俺「少なくとも………救われたく無い、解放されたく無いとは言わなかった。つまり、お前はまだ心のどこかで解放されたいと思っているって事だよな」

●かいほう

俺はそれをドヤ顔で言い放ち、それを塗り潰すべく竜が再び爪を振るう。

俺と竜の間で剣閃が飛び交い、その衝撃が俺達の存在へと響き渡る中…今度はレミがその口を開く。


レミ「正直…私達はアンタ達の望みを、本当の意味じゃ理解してないと思うわ」

レミ「世界その物を消したりたいって望むだけの憎しみのも…断片的に見ただけで、全部は理解して無いもの」

レミ「でも、だからこそ………もっとちゃんと理解して、少しでもその憎しみや苦しみを和らげたいのよ」


竜「それは所詮、貴様の自己満足に過ぎぬだろう…」

俺「それがどうかしたか?」

竜「…何?」


レミ「そう…アンタの言う通りこれは私の自己満足よ。でも、その自己満足が誰かの救いになるなら悪い事じゃ無い…そうも思うのよね」

竜「…………」

攻撃の手を止め、沈黙する竜…しかし竜の背負う屍はそれを許さず、その体躯を無理にでも突き動かそうと蠢く。


…そして


竜「だがそれも…それが彼女達の救いになるの…と言う前提の物。この世界を憎み消し去りたいと願う彼等の思念は、そんな意思では………」

カライモン「まぁ、満足どころか納得…いや、考察にさえ値しないだろうね」

竜の背負った屍の一つ…その奥底から姿を現す………カライモン。


存在を食われていた筈のカライモンがその姿を俺達の前に晒し…

レミの言葉に対し、否定を投げ付けて来た。


カライモン「さて…ここからは私のターンだ」


俺「………だったら、どうすれば良いのかお前は判ってるんだよな?」

改めてそれを問う俺。

カライモン「当然…こうして双方と一体になる事で、やっと解決の糸口を見付けたよ」


竜「解決の糸口など…」

カライモン「当然…皆が皆、同一の方法で解決するとは思って居ないよ。自我を殆ど無くしたとは言え、彼女達の根幹は残っているからね」

竜「では一体……いや、まさか…」


カライモン「そう…解決法は、簡単では無い物の実にシンプルだ」

と、ここまでカライモンが言った所で俺にもある程度の予想は付いた。


俺「あぁそうか………そいつら一人一人の執着が一つじゃ無いなら…一人一人を別々の方法で解放すれば………」

●かいけつ

カライモン「とは言っても…この竜を含む大多数はレミ君の言葉に心を動かされ、この苦しみからの解放を望み…今は当然その手段もある」

竜「しかし…それだけでこの憎しみの繋がりを崩す事など出来はしない。一人でも憎しみが残るのならば…」

カライモン「根幹を食らう竜…その存在その物に張り巡らされた根幹が別離を許しはしないだろうね」


竜「それが判っているのならば、何故…」

カライモン「彼が言ったように…逆に、一人残らずその遺恨を消し去れば良いのだから……まぁまずは、彼に一働きして貰うとしようか」

カライモンがその言葉を紡ぎ終え、同時に俺が動き出す。


光と闇の刃を十字に構え…それを竜と少女の間に沈めて行く。

切り裂く…と言うよりは、引き離すように合間に刃を滑らせ………一人…また一人と竜の身体から少女達の意識を剥がして行く。

浅い階層に居る少女達は目に見えた抵抗も無く、救済を求めて俺達に身を任せる


…が、問題は奥底に潜む彼女達だ。

救済と解放を前にしても、まだその感情を鎮める事無く滾らせる者達…

いや…救済も解放も望まず、ただひたすらに崩壊を望む者達さえも居た。


俺「なぁ…本当にこの子達も…」

カライモン「憎悪に囚われているとは言え、彼女達も結局は人間の意識…救済する手段が違うだけで、解放する事は可能な筈だよ」

しかし、問題はその手段が無いと言う事なのだが…


と、杞憂する俺。しかしカライモンはそんな俺の事など気にも留めず、竜の奥底に眠る少女達へと近付いて行く。


カライモン「鍵となる記憶の断片は見た筈だと言うのに…君も中々に鈍いね」

恐らくは俺に向けられたであろう言葉。

しかしそれに反論するだけの言葉が出ずに、押し黙る中…更にカライモンの言葉は続いて行く。


カライモン「と言う訳で………君達が早々に諦めてしまった本当の望みを叶えようと思う。その竜から離れて、私の下に来たまえ」

竜「なっ!?」

俺「はぁっ!?」

●しんいの

カライモン「一旦君達に食われ、一つになった事で理解したよ…今迸っている感情の渦の奥に潜む本当の望みをね」

竜「そんな事…理解した所で実行出来る筈が…」

カライモン「出来る…と言うよりも…私でなければ出来ないだろうし、何より他の誰かでは納得もされないだろうね」


俺「いや、何の話をしてるのか判らねぇから説明してくれ!」

話しに追い付けず、ついには助け舟を求める俺。そしてその言葉を聞いてから、カライモンが不敵な笑みを浮べ…


カライモン「私が…彼女達の隊長の研究を引き継ぎ、それを完成させて見せる。そう言っているのだよ」

俺「………はっ?」


カライモン「はっきり言って、当時は施設がまず不十分…加えて隊長の手腕も発想も未熟だったと言わざるを得ない。しかし…私ならば出来る!!」

竜「………」

無言のまま戦慄する竜…そして、その中に眠る少女達。


カライモン「私ならば、君達の死を…研究成果を無駄にはしない。君達の死に…そして生に意味を持たせる事が出来る!!」


断言するカライモン。

そして………竜から離れ、カライモンへと近付き……その中へと消えて行く少女達。


本来ならば主役だった筈の俺は取り残されたまま…事態は解決へと向けて収束しているようだった。

●それなら

竜「彼女達は…自分の存在に対する意味を欲していた」

…俺に向けてと言うよりも、独り事を呟くような口調で語り始める竜。

竜「その意味を見出す事無く裏切られ、利用された事に価値さえ与えられないままその生涯を終えてしまった」


竜「全て私のせいだ…私と言う存在があちらの世界に迷い込みさえしなければ…いや、私が全てを諦め…あちらの人間との関わりを持たなければ…」

神風「それは違います…もしそれを責とするのならば、私もその責を負うべきです」

竜「イ…いえ、今は神風と言う名前だったわね」

神風「姉さん………」


竜「良い名前を貰ったわね」

神風「………はい」


話に乗り遅れてばかりの俺だが、このやり取りである程度の事は理解できた。


俺「つまり………お前達姉妹が俺達の世界に迷い込んで、帰れなくなって……」

ハル「元の…こっちの世界に送り返すためにという名目で、軍が魔法の研究を始めた…と言う訳ですよね」

レミ「そして…その結果、この子達が実験の犠牲になって…その罪滅ぼしとして意識を取り込んだら、暴走して根幹を食らう竜になっちゃった…と」


ディティー「で…神風の方は、根幹を食らう竜になってしまった姉を救うためにスピリットになって…」

DT「何だかんだで、僕達を巻き込んでその目的を達成した…と」

エディー「一件落着と申し上げればその通りなのですが…」


カライモン「全く以って傍迷惑な騒動だったね」

何故だろうか、カライモンがこのセリフを言っても同意する気が起きない。


俺「にしたって…お前はこれからどうするんだ?根幹を食らう竜じゃ無くなれば、一緒にその身体も無くなっちまうんだろ?」

竜「私は…このまま自然の摂理に従い、意識の奔流の中へ還ろうと思う」

俺「それってつまり…死ぬって事なんだよな?」


竜「厳密に言えばそれとは違うが…君達から見れば変わりは無いだろうな」

俺「だったらよ…別に無理して死ななくたって…」

竜「無理をしている訳では無い…むしろ私は長く生きすぎた。現世を去るには良い機会だとも思っている。ただ……」


俺「…ただ?」

竜「最後の未練が無い訳では無い」

神風「なら…」


竜「神風…お前に伝えておきたい事がある。それこそが私の未練だ」

神風「………」

竜の言葉に押し黙る神風。俺はそんな二人のやりとりに口を挟まず、ただただ黙してそれを見守る。

●きもちの

竜「本当に…迷惑をかけてすまない」

神風「………」


竜「私が不甲斐無いせいで、お前達には途方も無い苦労をさせてしまう事になった」

神風「………」


竜「幾ら謝っても謝り足りない…しかし、それでも謝らなければ私の気が済まない」

神風「そんな事…ありませんから、謝らないで下さい」


竜「しかし…」

神風「私は…この事を迷惑だなんて思っては居ません。そもそも、私達のために姉さんがしてくれた事なんですから」


竜「………」

神風「…むしろ。それならば、私達のために姉さんがしくれた事に対して…私達が謝らなければいけないでしょう?」

俯いた顔から涙を落とし、竜の言葉に答える神風。


竜「そうね…ならば、こう言うべきよね」

神風「………」

竜の方もまた涙を零し、更なる言葉を紡いで行く。


そして…


竜「ありがとう…神風」

神風「――――っ!!!」

その言葉を最後に、薄れ行く竜………


その存在がより希薄な物へと変わって行くにつれ、俺達の意識も現実へと引き戻されて行き……


目覚めてまず始めに瞳に飛び込んだのは、綺麗な蒼に輝く…一匹の竜。

ゆらゆらと揺れるように宙を舞うその姿は…

文字通り、まるで舞いを俺達に披露しているような錯覚さえ感じた。


レミ「ダンシング…ドラゴンスピリット……って所ね。多分これ…彼女なりの感謝の意思表示よね…」


俺「あぁ…そうかも知れ無いな」

●なじみの

ハナ「そう言えば…昔貴女に言った事、覚えてるかしら?」

神風「どの事でしょうか?」

ハナ「私に子供が出来たら、貴女みたいな良い女の子になって欲しい…って言う事」


神風「そう言えば、そんな事を言っていましたね」

マヤ「お子さんの方は大分お転婆になってしまいましたけど…代わりにお孫さんがその望みを叶えてくれたわねぇ…」


神風「そんな…私なんかよりも、ハルさんの方がずっと良い子ですよ。私なんて…自分の目的のために…」

と言いかけた所で神風の頭に落ちる俺の拳

神風「…えっ?」


俺「その話しはもう良いってーの。ハルも帰って来たしカライモンも帰って来たし…これ以上自己嫌悪するんなら、俺が怒るぞ」

神風「………」

俺の言葉に呆気に取られる神風。初めて見るそんな表情に俺の方も驚きながら……ふと、気付く。


俺「ん?いや、俺がこーいう事するって判って無かったのか?」

神風「先の戦いでスピリットとしての存在を消耗してしまったので…」

そして、まずい事に予感的中である。


って事はだ……


俺「で、それって…すぐ治るのか?」

神風「正直…判りません」


先も言ったが、それは非常に不味い。

何が不味いかと言うと…今まで黙って居たが、実は神風と思考を繋げた時に未来の出来事について幾つか知ってしまった事だ。


そしてそれが、具体的にどんな物かと言うと………

●じかいへ

俺「………間に合うのか?」

ハル「間に合うって…何にですか?」


俺「狭間に巣食う蜘蛛の襲撃に…だ。他にも、十二大祭だとか災厄の日だとか…このままの状態で臨むのは結構ヤバいんじゃないか……」


狭間に巣食う蜘蛛の襲来。文字通り、異世界…厳密には世界と世界の狭間に巣食う蜘蛛の襲来…

十二大祭。獣人の中でも基盤となる、十二種の姿の代表者達…その選抜と契約者による最強魔法少女決定戦…

災厄の日。ただそれが起こる事以外は一切が謎に包まれた…スピリットの力を以ってしても見る事の出来なかった、災厄の訪れ…


解決策を見出す事も無く、山積みになったままの問題が待ち受けている。


俺「頼むから、広げる大風呂敷は畳めるだけのサイズにしてくれよ…

カライモン「まぁそれらの件に関しては私の方でも対策を練ってみよう。ある程度だが、祖父の研究が応用出来そうでもあるしね」

と、相も変わらず頼もしいカライモン。


しかし…その言葉の中に、気になる単語が一つ混ざって居た。

俺「ん?祖父ってのは誰の事だ?」

カライモン「先の話で判らなかったかね?彼女達の隊長と言うのは、私の祖父の事なのだよ」


俺「………」

数奇な巡り合わせと言うか運命の悪戯と言うか…明かされる事実に、ただただ唖然とするしか無い俺。

しかしそんな運命に対して突っ込みを入れる暇すら無く…問題は怒涛の勢いで押し寄せて来る。


エディー「お取り込み中の所、大変申し上げ難いのですが…扉の所有者の一人が、狭間に巣食う蜘蛛らしき存在に遭遇したようでございます」




どうやら…平穏な日々はまだまだ訪れそうに無いようだ。


   魔法少女ダンシングドラゴンスピリット ―完―

…と言う訳で、前回以上のスローペースな更新となってしまいましたが
第一部及び魔法少女ドリットデーゲンシュトラーフェに引き続き、ダンシングドラゴンスピリットにお付き合い頂きありがとう御座いました。

今回も恒例の先送りレス返しをさせて頂きたいと思います。

>428 >442 >463-465 >471-472 >477 >480 >489 >498 >512 >516 >519 乙ありです!
>429 探しても見付かりませんでした、残念(´・ω・`)
>437 後の神風でした。
>438 採用させて頂きます(一秒)
>441 好奇心は死亡フラグ…
>443 勝った!第三部完!
>447 百聞は一見にしかず、手駒に物分りを良くさせるためでした。
>448-450 神風と竜の関係者にかんしてはまた後程…ちなみに、新キャラで雄もちゃんと居ます。
>454 それこそ、反論するのも面倒な程に
>455-456 読みはカミカゼ、由来は…語る機会があれば、番外編『魔法少女神風―少女白虎隊―』で!
>460-461 正直、不在でも違和感はありませんでしたよね(開き直り)
>465 大丈夫、サイドテールに(ry 神風的には計画通りのつもりでも、その枠に収まるほど大人しい彼女達ではありません。
>472 大体そんな感j
>476 マヤ婆ちゃんでした
>481 ビジュアル的にそんな感じです!
>484 惜しい!蒼竜隊の隊長と隊員はギリギリ大正生まれです!
>485 まぁ、戦時戦後の老害に関しては…うん(ry
>488 しかし、残念ながら熱血ノリでは無くヤンデレ彼女への対応でした
>494 それはもう少し後…カライモンジャー登場の後で!
>499 未通です。あと最初のカライモンはちゃんと本体の変身で、世界制服に関しては…また後程。
>500-501 ま、まだBBAじゃないYO!ロリババァ枠はマヤさんが何とかしてくれるってばYO!
>505 エゴがの世に存在する限り、避けようの無い問題ですけどね…
>506 「私の辞書に自重の二文字は無い」byカライモン
>509 希望でした。仮面ライダー(30)の如く最後の希望!
>515 君の前で ありのままで 熱くなれ!
>520 パイルバンカーで?

それではまた大筋が出来上がり次第書き込んで行きたいと思います。

次章、第二部最終話「デュアルディメンションスレイヤー」をご心配下さい。

エイプリルフールなので、今日中に10人以上からレスあったらR-18の番外編書きます。

まぁエイプリルフールですし、嘘の一つも吐いておかないといけませんよね!

>544 リア充爆散しろの方も一段落ついたので、勝手ながら今書いてる物と平行して大筋を固めて行こうと思います。

申し訳ありませんが、続編はもう暫くお待ち下さい

●あらすじ

光と闇の核に俺達を引き合わせたスピリット…神風。

俺達はその神風と出会い、その真意の中に隠されていた本当の敵の存在を知る。


ハルを俺達から奪った存在…神風の姉にして、世界の根幹を揺るがす者…根幹を食らう竜

積み重なった幾つもの悲劇から生まれた存在だ。


俺達は、取り戻したハルとマヤ婆ちゃん…加えてハルのお婆さんの力を借りて、事態の解決に漕ぎ着く事が出来た。

のだが…ついでと言うのも何だが、更に深淵に潜む敵の存在も知る事となってしまった。


狭間に巣食う蜘蛛


名前以外の詳細を知る事は出来なかったが、それが根幹を食らう竜以上の強敵である事だけは判った。


そして…狭間に巣食う蜘蛛の鉤爪は、俺の知らない内に喉下にまで迫っていたのだが…

俺はまだその脅威に気付く事が出来ていなかった。

▼魔法少女デュアルディメンションスレイヤー▼


●あくむの

俺「止めろ!頼む止めてくれ!そいつらには何の罪も無いんだぞ!!」

悲痛な声を上げ、懇願する俺…

しかしその願いは届く事無く、無慈悲な鎚が振り下ろされて行く


俺「そいつらが一体何をしたってんだよぉ!!!」

叫ぶ俺…だが制裁と言う名の鎚は止まる事無く、俺にとって大切な物は壊されて行く。


そして、ふと…鎚の担い手がある物に視線を向ける。


俺「そうだ、そいつは違う!そいつは完全に無関係だ!信じてくれ!」

必死になってそれを告げ、何とかしてその手を止めようとする俺。


しかし…無慈悲な鎚は振り下ろされ、残されたそれも潰される。


ハル「知っていますよ…末っ子のこの子。魔法少女スピンオフ作品のアニメ第三期で、成長してサイドテールになるんですよね?」

見透かされていた―――


俺の背筋に寒気が走る中、鎚の担い手は淡々とその言葉を続けて行く。


ハル「ダメですよ…他のサイドテールに浮気をするなんて」

俺「頼む…許してくれ…っ!!」


ハル「許しを乞うくらいなら、最初からあんな事をしなければ良かったんですよ」

俺「――――――」



………と言う夢を見た。


夢と言う物は…それがどんな夢だか覚えて居ない夢と、詳細までハッキリと覚えて居られる夢が存在するのだが…

今回は後者だったようだ。


俺の愛すべきサイドテールが存在する、全ての二次元をことごとく殺されて行くと言う悪夢…

しかし、幾ら後味が悪くとも夢は夢…

目を覚ましてパソコンデスクの棚を見れば…


見れば―――――

●ているす

俺「なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!??」

驚愕の声を張り上げる俺。

頭の中がクチャグチャに掻き回される中、俺は辛うじて残った意識で現状を整理する。


まず、悪夢を見た…

ゲームから映像媒体…果てはドラマCDに至るまで、サイドテール作品を悉くハルに潰される夢だ。

そして、目覚めた直後に見た物がこれ………


ツインテール作品で埋め尽くされたパソコンデスク

そう、ツインテール作品で俺のパソコンデスクが埋め尽くされて居るんだ。大事な事だから二回言った。


一体誰がこんな事をしたのか…

俺の見ていた物は、実は悪夢では無く現実の出来事だったのだろうか?

次々に沸きあがる疑問はその解答に届かず、全身から嫌な汗が噴き出す。


そして、嫌な感覚が全身を巡る中…ふと、俺は部屋の隅に佇む一つの存在に気付く。


俺「って…神風、お前一体何してるんだ?」

神風「観察です。私の事はお気になさらず」


白虎姿で片手を挙げ、そう答える神風…

あ、ちなみに。神風が居る事には驚いて居たが、このアパート内に居る事自体は別に驚く事では無い。

俺の寝床に居る事に驚いただけだ。


物のついでなので経緯を話しておこう。


神風は、根幹を食らう竜との騒動の後スピリットとしての能力を殆ど使えなくなり、その存在を世界に同化する事が出来なくなった。

そして、目下の所の住まいを探す事になったのだが…何故か俺の部屋を希望。

幾つかの条件を前提としてだが、その希望を通し…とりあえず俺の部屋で、白虎の神風を飼う形に落ち着いたのだ。


と、一通りの説明を終えた話を戻そう。


俺「で…具体的には俺の何を観察してたんだ?ってか、俺のデスクの有様について何か知ってるのか?」

神風「それに関しては…」


恐らくは事情を知っているであろう神風にそれを問い、神風の方からもその返答を紡ぎ始める。

だが…こうして何かを進める時に限って………そう、邪魔者と言う物は決まって現れる。


ディティー「いや、そんなどうでも良いような話をして居るような事態じゃ無いんだよねぇ」

そら見た事か。

●きおくの

何時の間にか俺の部屋に居るディティー…

どこから沸いて出てきた…と言うか、どこから入って来た?

俺のプライバシーと鍵の存在意義を教えてくれ。


俺「どうでも良い事じゃぁ無ぇよ!ってか何だよ藪から棒に。いや…もしかして、また何か起きたのか?」

ディーティー「何も起きないのに、ボクがわざわざキミなんかの部屋に来ると思うのかい?」


相変わらずの口の悪さが、着実かつ確実に苛立ちを煽って来る…が、俺はそこれを堪えて大人の対応をする。


俺「だったら、とっとと用件を話してとっとと帰りやがれ」

ディーティー「話すのも面倒だし、テレヴィジョンでも付けたら?多分どこかの局でやってるんじゃないかなぁ?」

素直にテレビと言いやがれ。


ディーティーに指図されるのは癪だが、他に情報源が無い以上は話しが進展しない。

俺は渋々ながらもリモコンに手を伸ばし、テレビの電源を入れる。

そして、映し出されたテレビの画面には何かのニュースが映し出され…


ニュースキャスター「このように、現在、集団の記憶混濁が世界各地で見られており、政府はこの原因を解明するため―――」


早々に嫌な単語が飛び出して来た。

と言うか、この時点で既に幾つかの嫌な予想が沸き上がって来て居る。


まず第一に、ディーティーがこれを伝えに来た時点でこの事件が普通の事件では無いという事…

続いて第二に、ニュースになっている=いつぞやの権力でも隠蔽し切れない事態になっている…という事。

そして最後に…


俺「で…これが今回の事件だとしてだ。何でこれを伝えに来たのがお前なんだ?」

ディーティー「キミの頭はただの中二病の入れ物かい?他に伝えられる役が居ないからに決まってるだろう?」

そう………一番当たって欲しく無い予想が当たっていた。


ニュースキャスター「また、この意識混濁が近日頻発している失踪事件に関与しているかどうかは―――」


俺「………どこに居るかは判ってんのか?」

ディーティー「どんな場所に居るかは判るけど、それがどこなのかは判らないよ」

俺「失踪して行方不明になってるって奴等も、そこに居るのか?」

ディーティー「多分ね」


ニュースキャスター「これらの事件について、政府は―――」


俺「場所の目星はついてんのか?」

ディーティー「ついてない。判っているのはそこに迷い込むための方法だけだね」

俺「その方法ってのは?」


ニュ-スキャスター「―――以上、亜門知事からのお言葉でした」


ディーティー「こっちの世界とあっちの世界を行き来する…扉だよ。ただし…それもあくまで片道切符、行ったら戻って来れないだろうね」

●いわかん


ノイズが走った


俺「で…エディー以外で扉を持ってる獣人とは、連絡が取れないのか?」

ディーティー「彼等も多分同じように捕まっちゃったんだろうね。多分獣人の持ってるゲートは全滅さ」

俺「んじゃぁ、どうやって………」


アパートの階段を下りながら、今後の対策について会議をする俺とディーティー…それと、子猫サイズにまで縮んだ神風。

ディーティーを右の肩に、神風を左の肩に乗せてて、俺は足を進めて行く。


ディーティー「あのさぁ…ちょっとは頭を使ってから話してくれないかな?残されたキミがそんな事じゃ、先が思いやられるよ」

俺「そうは言うがな…魔法の事に関しちゃぁ、俺はそんなに詳しく無いんだぜ?俺ん中にこいつ等が居なけりゃ……あぁ、そうか」

ディーティー「やっと気付いたかい?方法の一つはまずそれ…光と闇の核の力で扉の代わりを作れば良いんだけど…」


俺「いや、作ろうにも俺は作り方知らねぇし。ってか、核達は何かまたスリープモードに入ってんだよなぁ…」

ディーティー「やっぱり、期待するだけ無駄だったね。じゃぁ腹案だ、スピリットの力を復活させて………」

神風「すみません…私の力の回復にはまだ暫く時間がかかります」

ディーティー「となると後は、ケイエルの持っていた扉を探し出す……には情報が少なすぎるし………エーシーアイの扉はそもそも…」


何だか雲行きが怪しくなって来ちゃったぞ。


そして散々苦悩した挙句、ディーティーはやっと何かの決心をしたようだ。


ディーティー「仕方ない。こうなってしまったら、マ…カライモンに扉の代わりを作ってもらうしか無いか」

結論を出すまでの様子から伺える、カライモンに対する苦手意識。あぁ…そう言えばこいつ、罪滅ぼしで実験台になったんだったな。

しかし、文面から察するにカライモンは無事だったようで一安心。他人を頼るのも情け無いが、今はそこから逆転の手を捜すしか無い訳だ。


と、そんな事を考えていると…ふと階段の下に、知った顔を見つけた。

●そうぐう

俺「っと、誠司じゃないか。久しぶりだな」

誠司「あ、先輩…丁度良い所に。少しお尋ねしたいのですが、兄を見かけませんでしたか?」

俺「英司か?んー…2週間前くらいに酒をせびりに来て、それっきりだが…何かあったのか?」


学ランに身を包んだメガネくん…黒森 誠司、俺の後輩だ。


誠司「やっぱりその辺りからですか…いえ、その…失踪事件の事は知っていますか?」

俺「あぁ、ニュースでやってたな」

誠司「兄もずっと家に帰って来なくて…もしかしたら、また何かに首を突っ込んで巻き込まれたのでは無いかと……」


多分、誠司の予感は当たらずとも遠からず。

俺は少し考えた後、誠司の肩に軽く手を乗せる。


俺「んじゃぁ、俺の方でも気にしとくから、何か判ったら伝えるわ。ま、あんまし心配し過ぎんなよ?」

誠司「…ありがとうございます。では、よろしくお願いします」


そうして、軽く頭を下げてから立ち去る誠司。

状況から見ても、多分今回の件と無関係では無いだろうし…捨て置く訳にはいかない。

やる事が一つ増えた事に対し、俺は少しだけ疲労感を覚えた。


俺「んじゃぁ改めて、カライモンの所に………ん?」

改めて話を戻す…いや、戻そうとした所で、一つの存在が視界の端に映り込んだ。


10歳…あるいは11歳くらいの少女。

地面につきそうな程に長い、薄紫色のストレートヘアで…前髪は目にかかるくらいの長さ。

服装は…ゴシックロリータの分類だろうか、フリルまで真っ黒な洋服


異様な気配を放つその存在を、まじまじと見ていたせいか…あちら側も俺の視線に気付いて、視線を返して来る。

そして、小さく唇を動かし


少女「…………テ…」

消え入るような…聞き手が俺でなければ、届く筈の無いであろう程の小さな声で何かを呟いた。

●よりみち


ノイズが走った


マイ「黒森兄の行方…かね?。それなら、よく一緒に居る…何と言ったかね、あぁあれだ、弘康君にでも聞いてみればどうだね?」

俺「いや、それが。康の話だと、どーもマイの講義の直後辺りから姿が見えないみたいなんだよなぁ」


大学の正門前でマイに呼び止められ、物のついでに英司の事を尋ねる俺…

しかしマイの方も持って居る情報は殆ど無く、実質上は収穫無し。


マイ「まぁ、私の方でも何か判ったら連絡するとしよう」

俺「頼む、それじゃぁ俺はここで…」

マイ「あぁ、そうそう。少し待ってくれないかね?」


そして、立ち去ろうとする俺を呼び止めるマイ。

協力を頼んだ手前それを邪険にする事も出来ず、俺は立ち止まって振り返る。


マイ「新しいタイプの歯ブラシを作ってみたので、少し試してくれ。確かキミは虫歯になり易いタイプだったよね?」

俺「いや、さすがに今から歯磨きしてるような時間は…」

マイ「なに、そう時間は取らせんよ。と言うよりも、断る時間があったら実行した方が早く済むだろう?」


悔しいがマイの言う通り…ここから逃げ出すなり断る時間を考えれば、多分言う通りにした方が早く済む。

それを理解した所で俺は手を差し出し、マイはその手に歯ブラシを置いてくる。


俺「何だこれ…ブラシの変わりに付いてるのって…スポンジか?」

マイ「新開発の、水溶性フッ素式歯ブラシだ。まずは舌の上に乗せて唾液を染み込ませてくれ給え」

マイの言う通りにする俺…しかし、この実験には幾つかの問題点がある事に気付いた。


俺の身体…首から下はダークチェイサーにより構成されて居る事に関しては、説明は要らないと思うのだが…これにもう一つ付け加えておく事ガある。

首から上に至っても、表皮か口内に至っては多少のダークチェイサー化をしてあり…要は、虫歯にならない体質を作り出している訳だ。

となれば当然、マイの試みは正常な結果を出す事が出来ないのだが…それを説明する事は出来ない。


マイ「次に、頬の内側をスポンジの部分で擦って薬品を塗り込んでくれ」

俺「…こんな感じで良いのか?」

マイ「そうだね、上出来だ。では使用済みの歯ブラシをこちらに戻してくれ給え」


言われるままに歯ブラシを返し、マイはその歯ブラシをビニール袋の中に入れる密封する。

実験は一先ず終了。結果として…もどかしさと後ろめたさが僅かに残る物の、これでマイからの用件は済んだ

改めて俺は、本来の目的…カライモンの下へと向かう事となったのだが………


そこでまた、視界の端に例の少女が映りこんだ。そして―――

●ぱられる


ノイズが走った


カライモン「パラレルワールド…並列世界と呼ばれる物には、大きく別けて二種類の物が存在する」

俺「二種類?」


カライモン「片方は、今存在する世界とは別に実際に存在している双子のような世界…私はこれをAndの世界と定義している」

俺「もう片方は?」

カライモン「もしかしたら存在したかも知れない可能性の世界…仮定の世界。私はこちらをIfの世界と定義している」

俺「いや、その二つって具体的にどう違うんだ?」


カライモン「………そのどちらも目にしておいて、尚その言葉が出るのかね…」

俺「えっ?」


カライモン「まずAndの世界と言う物は、先にも言った通り双子のような世界…同じように誕生しながらも僅かな差が現れた、あちら側の世界の事だよ」

俺「…って、何だよその設定。あっちの世界の成り立ちなんて初めて聞いたぞ」

カライモン「あぁ、言って居なかったかね?しかしまぁそれは些細な事だ。それよりも、今回問題となっているのはIfの世界の方だ」


俺「些細じゃねぇよ!」

思わず突っ込んでしまう。


カライモン「Ifの世界と言うのは…」

しかし俺の抗議などカライモンは意にも介さず、パラレルワールドの解説を再開する。

カライモン「Andの世界にように並列して存在して来た世界では無く、本来の世界から分岐した世界…ありえたかも知れない可能性の世界の事だよ」


と、そこまで聞いてふと思い出す。ありえたかも知れない可能性の世界…そう言えばどこかで聞いた事がある気がするんだが…

もう少しで思い出せそうにも関わらず、あと一歩が出て来ない。

そして、思い出す代わりと言っては何だが…頭の中で、一つの疑問が沸き上がってくる。


俺「ん?でも、それってあくまで可能性の話で…実在しない世界なんだよな?何でそれが問題なんだ?」


カライモン「今回の敵…狭間に巣食う蜘蛛は、そのIfの世界から生まれた存在なのだよ」


俺「……………は?」

●へいれつ

俺「いや、だから。Ifの世界ってのは実在しないんだろ?だったらどうやって元の世界に干渉なんて…」

カライモン「現実に存在はしないが、空想としてなら…その個体という情報は確立している。そして、事実干渉して来て居るでは無いかね」

俺「それは、集団記憶混濁事件…あるいは、失踪事件の事か?んでも、幾らなんでもそんな話………」


あり得ない…と言おうとした所で、その言葉を飲み込む俺。

思い返してみれば、今まで戦って来た相手は…今までの常識ではありえない筈の存在ばかりだった筈だ。

俺は自らの浅はかさを反省し、カライモンの言葉を待つ。


カライモン「狭間に巣食う蜘蛛…あれはその名の通り、世界と世界の狭間に巣を張り、その糸を伝って世界間を移動する能力を持って居る」

カライモン「そして、Ifの世界の狭間から…こちらとあちらの世界の狭間にまでに糸を伸ばし、私達の世界にまで干渉するに到った訳だが…」


俺「ハル達は…いや、扉を使って世界間を行き来してた奴等は、世界の狭間にあったその糸に囚われた…って事か」

カライモン「その通り。そして、現状を見る限りでも、その糸は自力で脱出する事が出来ない物と考えるべきだろう」


俺「つまりはあれか?屏風の中の虎よろしく、Ifの世界から蜘蛛をおびき出して倒さなけりゃぁいけねぇと?」


カライモン「キミにしては大分、的を射た結論だね」

一言余分だが、お褒めに預かり光栄だよコンチクショウ

カライモン「しかし今回はその逆…Ifの世界に潜入し、蜘蛛を追いかける必要がある」


俺「そっちか…んでも、そんな事が可能なのか?」

カライモン「幸か不幸か…その手段は存在する。先も言ったが蜘蛛は糸を伸ばし、その糸で巣を作って移動する訳で…」


俺「あぁ、もしかして…俺達もその糸を利用して蜘蛛と同じようにIfの世界を出来るって事か?」

カイラモン「ご名答。しかし、それに関しては当然ながらリスクも存在する。糸の上を歩くと言う事は…」

俺「他の失踪者みたいに、糸に絡め取られる可能性もある…って事だよな?」


カライモン「その通りだ。文字通りミイラ取りがミイラになる可能性がある訳だが…それでも行くかね?」

俺「そんなの…行くに決まってんだろ。俺だけ平穏無事に逃げ隠れなんてしてられっかよ」

カライモン「では良いだろう、君に扉の術式とマーカーの術式を預けておく。私はここに残って、対策を練りつつ事態に対応するが…」


俺「っと…それはつまり、俺達のバックアップをしてくれるって事で良いのか?」

カライモン「さすがに同行するのはリスクが高すぎるのでね、そこまで過度な期待はしないでくれ」

俺「いや、扉を借りるだけのつもりだったから、むしろありがたいと思ってる。悪いな、俺達の問題なのにここまでさせちまって」


カライモン「あぁ、そういう事か。何、私としても無関係と言う訳では無いのだから気にする事は無い」

俺「そっか…そう言ってくれると助かる。んじゃぁ、ちょっくら行って来るぜ」


そう言って扉を開く俺

だが、この時点では予測する事も出来なかった。

まさか、俺が―――

●はざまの


ノイズが走った


扉を潜った先…世界と世界の狭間。

景色一面に蜘蛛の糸が張り巡らされ、まるで幾重にも網をかけられた世界。


その隙間から見える糸も影がかかった糸で、それ以外の物が見当たらない。

そんな中で、ただ一つ特筆すべき点があるとすれば………

人が一人入りそうな大きさの、繭のような球体。


パッと見ただけでも少なくない数の球体が所々に存在し、その中でも一際目を引いたのが…

中央…何となくだが、中央だと感じる場所に存在する…一つの球体だった。


どこか懐かしく…それで居て、触れてはならない禁忌の匂いがする…それ。


俺はその球体を暫く見据えた後、何故か……それに手を伸ばしていた。


カライモン「それに触れてはいけない!その糸の一本一本が世界線だ!」

俺「えっ?」


どこからとも無く聞こえる、それを制止するカライモンの声。しかしそれを理解した時には既に遅く…

カライモン「そういう事か…れに絡まれ………戻れな…………」


球体に触れる俺の手。

その言葉を聞き終える事無く、カライモンの声が遠ざかって行き………

●めざめる


ノイズが走った


瞼は鉛のように重い…にも関わらず、眩しい光を遮る役目を殆ど果たす事無く、不快感だけを与えてくる。

俺はそれに耐えられなくなり、何とかして重い瞼を引き上げ………

その瞳に、よく見知った人物…間違えようのその無い顔を映し込んだ。


俺「えっ………ハル?何でこんな所に?蜘蛛は………」

ハル「蜘蛛…ですか?この中庭では見た事ありませんけど、どうかしたんですか?」

穏やかな声で返答するハル。


どこか懐かしい感じのするその声に…俺は安堵すると同時に、何故か違和感を覚えた。


レミ「まさかとは思うけど…アンタまで例の記憶混濁を起こしてるんじゃ無いでしょうね?」

声がする方を見ると、そこには予防衣を纏ったレミの姿。そして、思い付いたように俺自身を見下ろすと…

案の定俺も予防衣を着ていた。


状況の変化に追い付く事が出来ず、周囲を見渡す俺。

判った事はと言えば、ここが以前来た事のある病院の中庭だと言う事…

そして、ハルとレミが居る世界だと言う事くらいだった。


何時の間に…何故こんな所にこんな恰好で居るのか…

違和感…いや、違和感と言う言葉だけでは済ませられない異変が起きている。


俺「悪ぃが…そのまさかかも知れない。色々確認させてくれ」


その異変を確かめるべく、二人に向けて問いかける俺。

そして更に気付けば、視界の先…二人の間から更にその先…ベンチの前に、佇む………例の少女。

つい先程見渡した時には存在しなかった筈のそれが、俺をじっと見据え……


次の瞬間…瞬きした直後には、俺の視界から消え去って居た。

●いふから

ハル「ではまず事の発端、二人が意識を失う直前…アーカイブの中での出来事を覚えていますか?」

俺「あぁ…俺とレミで、ハルを探しにアーカイブの中に潜って…」

正確には、意識を失う寸前どころか大分前の出来事なのだが…あえてそれは触れずに置く。


レミ「アーカイブの崩壊寸前に、私達はハルを発見。あと一歩で連れ出せるって所まで行ったんだけど…」

ハル「間に合わず、私だけ先にアーカイブから排出されて…二人は崩壊に巻き込まれてしまった。レミちゃんからはそう聞きました」

レミ「で…私とアンタは崩壊の反動で脳にダメージを受けて………何ヶ月も昏睡状態にあった…と言う訳なんだけど。ここまでは覚えてる?」


俺「悪いが、思い出すどころか体験した記憶が無いんだと思う」

俺の言葉を聞き、ハルとレミが困った顔をしてお互いに見合っている。


ハル「…それで目覚めてからは、記憶とか体の機能とかを取り戻すためのリハビリをしていたんですけど…」

レミ「その辺りでは、完全にハルに迷惑をかけちゃったわよね…」

ハル「それは言いっこ無し。そもそも私を助けようとしなければ、二人共こんな事にはならなかったんだから」


と、一応ながらも一通りの説明を受け…確認を行った所で気付いた事が一つ。


俺「あ、そー言やぁ…ハルの方の記憶は大丈夫なのか?」

ハル「え?………あ、はい。大丈夫ですよ。私はちゃんと以前の記憶がある状態でアーカイブから連れ出して貰えましたから」

俺「そっか…」


つまり、その点が俺の居た世界のハルとは違う…

過去のハルが復活せず、本来のハルがそのまま復活した形になっているようだ。

あまり上手く動かない頭を何とかして動かし、俺は現状を一つ一つ噛み砕いて飲み込む。


俺「で、俺の記憶だと…ハルは魔法少女になる前のハルとして蘇って。そこから更に幾つもの事件に巻き込まれた訳なんだが…」

レミ「その、幾つかの事件っての物の記憶がアタシ達には無いわよ」

ハル「はい、二人の意識が失われてからは、私の方でも特に事件と言う事件は…」


俺「んー………聞けば聞く程俺の記憶とこの世界での出来事に差異があるなぁ。むしろ俺の方が記憶に自信無くなってくるぞ」

レミ「そうよ、聞いてる方からしたらアンタが変な妄想か夢を現実だと信じ込んでるようにしか聞こえないもの」


恐らくは記憶混濁事件の被害者もこんな感じなのだろう。

となれば…逆に記憶混濁事件の真相や原因にもある程度の察しが付いて来る。

そして、記憶混濁事件と失踪事件が同じ物なのだとしたら……と、今回の事件に対して考察を進める俺。


これらを裏付ける要素が他にも何か無いだろうか?そう考えながら、視線を自分の周囲に巡らせて、糸口を探すのだが…


見つけたのは、糸口では無く…糸その物だった。

●いふへと

例の少女が現れ、消えた場所…

ベンチの脚付近に残った、一本の蜘蛛の糸。

カライモンが世界線と呼んでいた蜘蛛の糸なのか、この世界に棲むただの蜘蛛の糸なのかは判らないが…どうもその存在が気になった。


俺「なぁ…こっちの世界でも記憶混濁事件は起こってるんだよなぁ?」

レミ「そうよ。まぁ、そう言う意味では…アンタがさっき言った事件も、全く起こってないって訳じゃ無い事になるけど」

俺「で、この事件の犯人…ってか、原因に関しては何か掴んでるのか?」


レミ「まさか?そもそもこれが私達に関わりのある事かどうかも知らなかったのよ?」

ハル「はい…私も、貴方がそんな事を言い出さなければ特に気にも留めませんでした」


しかし二人は何も知らない様子…となると、蜘蛛に関する意見を求める事も出来ない。

となれば、確認する手段はただ一つ………正直どんな結果が待っているのかは判らないが、試さなければここから動き出す事すら出来そうに無い。

俺「んじゃぁ…ちょっと確認してくるわ。俺が居なくなっても、あんまり驚くなよ?」


そう言い残して、俺は糸に手を伸ばす。


レミ「ちょっと…それってどう言う…」

ハル「えっ………」


戸惑う二人を背に、指先で糸に触れる俺。

ただここで予想外だったのは…

もう片方の手に触れる、誰かの手の感触があった事。


誰かと言っても、俺以外ではその場に二人しか居ないのだから、別に考える程の事でも無いのだが…


手の主はどちらなのか…それを確認する暇も無く、あの感覚が俺に迫り来て居た。

スレ墜ちないように、ちょっとだけ小出しするぬ

●しのくに


ノイズが走った


ゴーン…ゴーン…ゴーン…ゴーン………と、周囲に鳴り響く鐘の音。

周囲に人の気配は無く、見慣れたいつもの街並みが静寂に包まれている。

その光景はまるで、死の世界…いや、無の世界と表現するのが正しいのかも知れ無い。


何故こんな場所に迷い込んだのか…

いや、何故こんな場所に来たのかと言えば、その答えは明白だ。

俺があの蜘蛛の糸に触った事が理由に他ならない。


しかし問題は、何故迷い込んだ場所が…こんな場所なのかと言う事だ。

そこに在るはずの意図は見出せず、帰る糸も見付かりはしない。

袋小路…もしかしたら、俺は詰まされるために誘い込まれただけなのかも知れない。


そんな事を考え、気持ちが焦り始めた瞬間…


ハル「この世界では…誰も生きて居ません。停滞と言う名の死が世界を支配しています」

何時からか…はたまた最初から其処に居たのか、言葉を紡ぎ始めるハル。

そして俺は………ハルの紡いだ言葉から、一つの事を思い出した。


俺「停滞によるの死の世界って…それって確か、光の恩恵派の…」

ハル「はい…恐らくここは、光の恩恵派の目的であるダルマサンサーラが成された世界でしょう」

そう告げた後、更に背後を指差すハル。


そこにあったのは…ハルの言葉を裏付けするに足る存在…


鐘の音が鳴る教会を覆う…

ライトブリンガー、ハレルヤ…かつてハルが成ったその存在の亡骸だった。

●あいつと

教会の中。

唯一の手掛かりである、その建物の中へと進む事を決めた俺達。

カタコンペ…そう書かれた札の、更にその先にある階段を下りた場所で…俺達を待っていたのは、見覚えの無い一人の男。


顎からは黒く長い髭を伸ばしていて…背中から生えた翼は、男が獣人である事を示唆している。

ハレルヤ「君達は…何故生きて……んいや、蜘蛛の影響で並列世界から来訪したのか」

そして、男から放たれた胡散臭い声が俺の耳に届くのだが…目の前のこの男の正体に関しては、思わぬ所から答えが飛び出して来た。


ハル「ハレルヤ…ケイエル」

俺「………は?」

ハル「貴方も知っての通り…私をライトブリンガーにした黒幕にして、この世界を停滞の死に追いやった張本人です」


ハレルヤ「相変わらず…私の思想には賛同してくれないようだねぇ。現存するこの世界を見て、何故そんな言葉が出て来るのだろう、あぁ…判らない」

俺「いや、何言ってんだ。こんな世界を見て何にどう賛同しろって言うんだよ。こんな人っ子一人居ない世界の何が良いってんだ?」

ハレルヤ「君に至っては理解すら出来ないようだねぇ。まぁ良いだろう、簡潔な言葉で説明をしてあげよう」


俺「………」

ハレルヤ「蜘蛛…あれは、何らかの意思が持つ虚構の並列世界に巣食い、それを食らい糧とする」

俺「それは俺も知ってる。とある情報通から聞いたんでな」


ハレルヤ「では、その虚構の並列世界を生み出す物は何か…それもおのずと判るだろう?」

俺「人…と言うか、生きる物の意思だろ?」

ハレルヤ「その通り…では、その不確定なる混沌を浄化し、この世を秩序で満たしたのならば…」


俺「その世界を蜘蛛が狙う事は無くなる…そう言いたいってのか?ふざけんな!」

ハレルヤ「しかし事実、この世界は蜘蛛に襲われて居ない。君達のような例外を除けば、正に平和その物では無いか」


俺「馬鹿馬鹿しい。誰も居なくなって平和になった世界に何の意味があるってんだよ」

ハレルヤ「それは価値観と見解の相違と言う物だね。私は人にそれ程の価値を見ない」

俺「………」


と、いつまで経っても平行線のまま進まない話。

直接顔を合わせて居なかった元の世界でもそうだったが…やっぱりこいつとは判り合えないようだ。

●わかつわ

ハレルヤ「さて…お喋りが過ぎてしまったねぇ。君達は私にとって招かざる客。君達にしてもここは本来、来るべき場所では無かった筈だ。早々に立ち去るが良い」

俺「言われるまでもなく、俺だってそうしたい所だが…あぁ、そうだ。薄紫色の髪の女の子がこの世界に来て無いか?」

そう、余りに突然な出来事の連続で忘れて居たが…この世界に来た原因は恐らくあの女の子だろう。その事について何も解決しないままだった。


あれだけ何度も意味深な登場をしておいて、気にするなと言うのが無理な話。

きっと今回の出来事に大きく関わっていると見て間違いは無い筈

まずは、示された先のこの世界で手掛かりを探すのが無難な選択だと思うのだが…


ハル「………」

ハレルヤ「この世界には居ない…と言うよりも、もう居ないと言った方が正しいのだろうねぇ。今はすぐ隣の世界に居るようだ」

意外な程にすんなりと、その糸口を掴む事になった。


ハレルヤ「しかし君は、その少女の正体を知っているのかねぇ?」

俺「何となくの予想は…な。まぁ、色々と不可解な所はあるが…逆にそこに希望もあると思ってる」

ハレルヤ「ならばその点への口出しは野暮としておこう。が、しかし…そこに彼女を連れて行く気かねぇ?」


と言ってハルを指差すハレルヤ。

正直な所、一人でも味方が多い方が助かるが…このハルは本来の俺や蜘蛛の事件とは関係無い。

本来ならば、巻き込んでしまったハルを元の世界に戻す事が優先なんだろうが…


ハル「狭間に巣食う蜘蛛を倒しに行きましょう。私も放ってはおけません」

ハルは、俺の結論よりも早く………以前の、俺の知っているハルと同じ、聞き覚えのある語調でその意思を示して来た。

既視感と言うべきか…そんな感覚を俺は覚えた。


ハレルヤ「と言っているが…」

俺「まぁ、こうなったら曲がってくれねぇからなぁ…ハルは」

ハレルヤ「ふぅむ…それが君の選択であるのならば、私からの言葉は一つだ」


俺「何だよ」

ハレルヤ「後悔も納得も、全て自分自身の選択の先にある。汝が良き未来を迎えん事をここに祈ろう」

俺「それ、祝福ってよりフラグじゃねぇか!ってかわざとか!?わざと言ってるだろ!?」


と、ハレルヤからありがたくも無い助言を貰い…


俺達は、蜘蛛の居る…いや、蜘蛛の待つ世界への扉を開いた。

じぜんに


ノイズが走った


カライモン「蜘蛛と遭遇したようだが、もう決着はついたのかね?」

扉を潜り、蜘蛛の居る世界に行く筈だった俺…その耳に突然飛び込むカライモンの声。

見渡した周囲には、白い線で描かれた地面以外に何も無く…地平線だけが無との境界線を作っていた。


俺「いや、まだだ。ってか、出発してから…どこからどこまでそっちで把握出来てる?」

カライモン「君が世界線に触れてから、今の今まで何も………まるで何者かに遮られたかのように情報を得られなかったよ」

やっぱりな…連絡が無かったのはそう言う訳か。


俺「蜘蛛と遭遇したって事が判ったのは?」

カライモン「簡単に言えば痕跡が残っていて、そこの差異から判断した。それ以外の詳細は判らないから説明してくれ給え」

俺「まだ断言は出来ないが、蜘蛛…ってか、多分蜘蛛が姿を変えてる奴は判った」

カライモン「それで、何か進展は?」


俺「まだ…ってーか、今正に蜘蛛の居る世界に行く所でここに迷い込んだ。そもそも何なんだ?この世界は」

カライモン「あぁ、その事なら心配には及ばない。ここは私が作った並列世界だ、すぐにでも元の座標や目的の座標に移動出来る」

俺「相変わらずのチートっぷりだな…」


カライモン「しかし、この先の世界でも先程までと同等の妨害がある可能性が高そうだね…よし、そちらの方も何とかしてみよう」

何とかしてみようと断言した以上は本当に何とかしてしまうのだろうな…

と、こうして何時までものんびりしている訳には行かなかったんだ。


俺「んじゃ、そっちの方はよろしく頼む。悪いが俺は急がなけりゃいけねぇんだ」

カライモン「そうだったね、また蜘蛛に逃げられる訳には…」

俺「いや、訳あって並列世界のハルも一緒に蜘蛛を追って一緒に移動したんだ。先に一人行かせたままだと心配だからな」


そう言って改めて扉を開く俺。

カライモン「成程…では、詳細はまた後で確認させて貰おう。モニタリング出来ない間は、くれぐれも無茶はせず退避に努め給えよ」

俺「ありがとな。それじゃ行って来る」


カライモンに一旦も別れを告げ、扉を潜る。


蜘蛛の待ち受ける世界…そこで待ち受けていたのは………

●たたかい

ハル「さぁ…散々手を焼かされましたが、これで鬼ごっこはお終いです」

ライトブリンガー姿で、ヤンデレモードの時のように瞳を濁らせたハルが…薄紫色の髪の少女を追い詰めている場面だった。


俺「って…遅れてる間に何でここまで展開が進んでんだよ!ちょっと待ってくれハル、その子と話す事が――」

ハル「―――え?」

俺が制止の声を上げ切るよりも早く、振り抜かれる光の刃。


しかし少女は辛うじてそれを避け、脱兎の如く駆け出して行く。

そしてその少女を、今度は俺が追いかけ…


何の因果か、はたまた奇妙な偶然か………辿り付いた先は、例の廃工場だった。


俺「なぁ…お前が、狭間に巣食う蜘蛛なんだろ?」

少女「タスケ…テ………」

行き止まりに追いやられ、立ち止まる少女。俺はそれに問いをかけるが、返答は無く…少女の口からはただその言葉だけが紡がれる。


俺「安心しろ。俺はお前の敵じゃない。お前は何も悪い事して無いもんな」

少女「ホン…トウ?」

俺「あぁ、本当だ。俺の今回の敵は、お前じゃ無くて…他に居るんだからな」


俺「なぁ、聞こえてるんだろ?……ディーティー!」


今はまだ見ぬ聞き手に対し…俺は、周囲に木霊するように声を張り上げた。

●しんそう

ディーティー「ふふ…フフフフフフ、アハハハハ!良く判ったねぇ!」

工場内に響くディーティーの声。

それに続くように周囲の景色が変わり、今まで不可視化されていたであろう蜘蛛の糸が周囲に現れる。


ディーティー「本当なら、もう少し弄んでからばらそうと思ってたんだけど…思ったよりも早く辿り付いたじゃないか」

そして遂に姿を現すディーティー。

今回は、蜘蛛の胴体から異形化した人間姿の上半身が生えている。


俺「毎度毎度ワンパターンなんだよ、お前は。それに今回は、あからさまに怪しい伏線…いや世界線もあったしな」

ディーティー「へぇ…言ってごらんよ、合ってるかどうか答え合わせしてあげるよ」


俺「俺が病院で目覚めた世界…あの世界ではドゥンケルシュナイダー事件が起きて居なかった」

俺「おかしな話だろう?俺が健在だった世界でもあの事件を起こしてた奴が、俺とレミが動けない世界で大人しくしてるなんてな。…で、幾つか考えた」

俺「事件を起こさなかったのは、どうなるかを知っていたから…ハル一人が相手でも負ける事が判って居たから。あるいは…」


ディーティー「あるいは?」

俺「あの世界以外にも、向ける矛先とその手段を見つけたなら……そう、お前がダークチェイサーだけでなく蜘蛛もその身に取り込んだのなら…」

ディーティー「空想の世界を飛び出し、現実の世界の君達に襲い掛かる…か。まぁ、90点って所かな」


俺「で、ついでに言っておくなら…この薄紫色の髪の女の子は、蜘蛛の本体だ。多分、お前に乗っ取られ切らずに逃げ延びたんだろうな」

ディーティー「正解。いやぁ、そこの蜘蛛を追いかけるのは結構手間取った手間取った」

ディーティー「空想世界が存在しないケイエルの世界に逃げ込んだ時は、どうしようかと思ったけど…君達が一緒に追ってくれたおかげで助かったよ」


俺「ついでに、現実の世界での集団記憶混濁事件と失踪事件の方も聞いとくが…あれもお前の仕業だな?」

ディーティー「否定はしないけど…断定する以上は根拠があるんだろうね?」

俺「ありもありで大アリだ、ディノボネラくらいのな。いや…大蜘蛛だからゴライアスバードイーターか?」


少女「………」

と、上手い事を言おうとして話がズレまくってしまった。


俺は一度咳払いをして仕切り直す

●ついせき

俺「あれは二つの事件なんかじゃ無くて、糸…世界線を使った並列世界の強制移動だろ?」

俺「移動する前の世界では対象の人間が居なくなって、移動した先の世界では前の世界の記憶との辻褄が合わなくなる…まぁ、蓋を開ければ単純なカラクリだ」

ディーティー「うんうん、良いよ良いよ。94点をあげちゃおう」


事件の真相を暴いたってのに、たったの4点かよ


俺「そもそも、頻繁に走るノイズもそうだ。あれも並列世界を移動した影響と考えればしっくり来るし…多分気付かない間に世界線に触れてたんだろうな」

ディーティー「ノイズ?いや、世界線トラップは沢山張っておいたけどそれは知らないなぁ。あ…そうか、ふーん……そう言う事か」


俺「いや、何しらばっくれた挙句に一人で納得してんだよ!」

ディーティー「教えてアゲナイヨ、ジャン♪って言うか何で敵にそこまで教えて貰おうとするかなぁ?ここまで答えてあげたのもありえない大サービスだよね?」

俺「っ………」


いけしゃぁしゃぁと繰り出される言葉。しかも正論なだけにぐぅの音も出ない。


俺「まぁ良い…とにかく今回の事件の真相が判った訳だ。後はお前を倒して一件落着させて貰うぜ」

ディーティー「それまた勇ましい事で…で、ボクを倒すって、どうやって?」

俺「そんなの……」


と、言いかけた所で思い出す…今の状態。

光と闇の核は未だに休眠状態にあり、味方も居ない。手助けしてくれているハルに至っては、まだここに辿り着く気配が無い。

………となれば


俺「ダークチェイサー達の力で…」

ディーティー「どうにかなるような状況だと思う?ドゥンケルシュナイダールートのボクならまだしも、今のボクは狭間に巣食う蜘蛛の力を持って居るんだよ?」

俺「…………」


またも反論の言葉を出す事が出来ず、口篭るだけの俺。しかし、だからと言って諦める訳にも行かない。

やれるだけの事をやる…そう決心して、ディーティーを睨み付けた、その瞬間…


カライモン「何、心配する必要は無いよ。丁度今完成した所だ」


まるで硝子のように罅割れる空間。そして、その隙間から姿を現したのは―――

●どらごん

俺「カライモン…なのか?その姿は、まるで……」

カライモン「研究の成果の一つ…根幹を食らう竜の力をこの身に宿す事に成功したのだよ。まぁ、さすがにこの世界での未来視までは出来ないがね」

そう…根幹を食らう竜のような角と翼と爪…それと尾を、カライモンが有していた。


カライモン「どうだねこの姿は?あぁ、そうそう…この姿を名付けるのならば、そう…モード・ニーズヘッ…」

俺「ドラゴンフォームのカライモン…ドライモンか!」

ドライモン「やぁ、ぼくどらいもん~…って、何を言わせるのだねキミは!!」


あぁうん…言われてみて気付いたが、確かにアレっぽい。さすがにアレがアレだとアレなので、訂正しようとするのだが…


ディーティー「ドライモン…まさか、根幹を食らう竜の力だなんて…」

その暇すら与えられる事無く、定着してしまったその名前。

しかし…それに突っ込みを入れる事も憚られる程に、ディーティーの声色は異質な物になっていた。


ドライモン「…まぁ、名前に関しては後々訂正させるとして…ここで戦うのはお互いに得策では無いだろう。場所を変えないかね?」

と言うか否か、真っ黒な球体を作り出して俺と少女…加えてディーティーや自分自身を包みこむドライモン。そして…


ノイズが走った


強制的に転移させられた先は、狭間の世界………蜘蛛が広大な巣を張った、完全なアウェイである。

ちなみに…気のせいか、以前来た時よりも球体の数が増えている気がする。


俺「おい、ここって蜘蛛の巣…相手のフィールドだろ?よりにもよって、何でこんな所に…」

ドライモン「その辺りは複雑なのだけど…まぁ簡単に言えば、あのまま倒してしまったら皆を助け出せなくなる可能性がある…とだけ言っておこう」


納得出来ないけれども凄く判り易く端折った説明をありがとう。


俺「でもそれってつまり…ここでなら倒しても問題無いって事で良いんだよな?」

ドライモン「説明したままの通りだよ。と言っても…キミの役割はディーティーを倒す事では無く他にあるので、そこは気にしなくても良い」

俺「は?他の役割?いやいや、そんなの何も聞いて無いぞ!?ここでラスボスを倒す以外に何をしろってんだ!?」

ドライモン「言って居ないからね。まぁ…まずは、そこで見学でもしていてくれ給え」


と……こうして、何だかんだでディーティーとの決戦が始まった。

●きりふだ

切り結ぶ、蜘蛛の爪と竜の爪…

ドライモンは蜘蛛の巣の合間をねって飛び回り、ディティーの放つ糸を軽やかに避けて…背部一撃を加える。

しかしディーティーの方も負けてはおらず、その一撃と同時に反撃の爪をカライモンの翼に放ち…僅かにその体制を崩させて………


ドライモンの頭上に現れる、もう一体の蜘蛛…ディーティーと全く同じ姿をしたそれ。

その蜘蛛は、その爪を以って背後からドライモンに襲い掛かる…が、ドライモンもそれを黙って受けはしない。

突如、ドライモンの背後に現れる謎の魔法少女…いや、魔法少女達。

機械パーツをあしらったその服装からして、ドライモンの関係者である事は見て取れる…が、その詳細を問う暇は無さそうだ。


   中略


蜘蛛の巣の中央で対峙する、ディーティー達とドライモン達。

途中何度か、ディーティーは並列世界から無傷の自分を呼び出してバトンタッチしていたが…今となっては、それを行うだけの余力は残って居ない様子。

対するドライモン達に至っては、僅かなダメージを受けたのみで疲弊の色は見られない。


恐らくは次の一撃がトドメだろう…そう予想していた俺の方に、不意にドライモンが顔を向けて来る。


ドライモン「さて…それではそろそろ君の出番だ。一応確認しておくが、このディーティーは私達の世界に居たディーティーでは無いと理解しているね」

俺「あぁ、判ってる。どこで入れ替わったかは知らねぇけど、Ifの世界のディーティーだろ?」

ドライモン「理解しているのならば話は早い。では…本物のディーティーと区別するために、これを何と呼称する?」


ディーティー「っ……やっぱり…そう言う………」

俺「そうだな…ディーティーアナザー…ディーティーAとでも呼んでおくか?それで良いか?」

ドライモン「問題無い。では、ディーティーAを消し去るとしよう。そう…二度と復活も干渉も出来ないようにね」


そう言い放ち、両手を広げるドライモン。

そしてその両手のガントレットが形を変え…二つの竜の頭に変化する。


俺「って…おい!それってまさか………」

ドライモン「そう…根幹を食らう竜のアギトだよ。君の知っての通り、これに食われた者は…」

俺「その存在その物が消し去られてしまう…って、そんな事しちまったらディーティーが―――」


ドライモン「その点は心配無用…そのためにあそこのディーティーAに名前を付けて貰ったのだからね」

俺「…は?名前?いや、そんな事で大丈夫だなんて保障があんのか?!」

ドライモン「ある。まぁそれに関する詳細は、いずれ時が来たら話すとしよう」


と言って、俺の納得を待つ事無くディーティーAへと突撃するドライモン。


その両手の、大きく開かれた竜の口がディーティーAへと迫り―――

●おくのて

ディーティーAの身体に、竜の牙が食い込んだその瞬間…目の前には信じられない光景が描かれた。


ドライモンの体を貫く、光の刃…そして、その光の刃を担う………ハルの姿。


俺「なっ………何してんだよ!ハル!!そいつは根幹を食らう竜の力を得たカライモンだ!お前の敵じゃないんだぞ!?」

ハル「大丈夫、判っていますよ。ただ、彼女の早まった行動を止めようとしただけです」

静かに…冷淡な声で返すハル。俺はこのハルの声色の意味を知っている。


ハル「貴方も言ったじゃないですか、確証も無しに根幹を食らう竜の能力でディーティーを食らえば、本物のディーティーも消えてしまうかも…って」

気付かなかった…いや、違う。気付くだけの情報を幾つも得ながら、あえてそれを考えないようにしていただけだった。

俺「頼む、ハル…それ以上余分な事を言わないでくれ」


ハル「余分な…あぁ、私ってば駄目ですね。やっぱり貴方に嘘を吐くのは苦手みたいです」

多分その言葉自体は偽りの無い事実だろうが、ハルの意図はその声色から伺う事が出来てしまう。


そう…あの声色は………敵に嘘を吐いている時の声色だ。


カチリ…カチリ…と音を立て、頭の中で幾つもの違和感と伏線が噛み合って行く。

止めろ…止めてくれ。こんな謎解きはしたくない。

知りたくも無い答えだと言うのに、考え出してしまうとそれが止まらない。


ハル「さぁ、それでは全部片付けて帰りましょうか………私達の世界に」


俺「悪ぃがそれは出来ない」

ハル「どうしてですか?」


俺「説明しなくても判るだろ?それより教えてくれ………どうしても判らないんだ」

ハル「何がですか?」


何で…どうしてディーティーAと組んでるんだ?


ハル「………」


ハルはその問いに答える事無く…不気味な程に透明な笑みを俺に向けて来るだけだった

●かいせき


おかしな所は幾つもあった


ハル『え?………あ、はい。大丈夫ですよ。私はちゃんと以前の記憶がある状態でアーカイブから連れ出して貰えましたから』

以前の記憶があるハル…それはつまり、以前の記憶が無いハルが存在していた事を知っていると言う事。


ハル『狭間に巣食う蜘蛛を倒しに行きましょう。私も放ってはおけません』

ハルの前では、狭間に巣食う蜘蛛の事を…蜘蛛…としか呼んで居ない。


ハル『さぁ…散々手を焼かされましたが、これで鬼ごっこはお終いです』

いつから手を焼いていた?どんな理由で?


ハル『貴方も言ったじゃないですか、確証も無しに根幹を食らう竜の能力でディーティーを食らえば、本物のディーティーも消えてしまうかも…って』

そもそも、ドゥンケルシュナイダー事件で和解してないなら…ディーティーが消えても何の問題も無い筈だろう?


そう…あの世界に存在するハルならば知らない筈の事を、あまりにも知り過ぎて居た。


俺「くそっ…残りの6点の答えがこれかよ。これで100点満点なんだろ?ディーティーA!」

ディーティーA「98点って所かな、まだまだ大事な所が判ってないよ?」

ハル「…ディーティー」


ディーティー「おっと、喋りすぎてしまったみたいだ。ここから先はハル自身に話して貰おうか」

と言ってハルに発言を促し、口を閉じるディーティー。


それに続くように、ハルは視線をこちらに戻し…語り始める。

●いきさつ

ハル「まず始めに…そうですね、私の居たIfの世界が誕生した所から始めましょうか」

ハル「と言っても、貴方の事ですからもう察しは付いているんでしょうし。一応確認だけしてみますか?」

俺「俺がアーカイブの中でハルに手を伸ばす直前…あの時に見た光景が、分岐したIfの世界だったんだろ?」


ハル「はい、正解です。あの時二人に望まれ、私とあの世界は生まれました」

俺「………」

ハル「ふふっ、さすがにここまで情報が出揃えば、推測もすんなり進んでくれるみたいですね」


ハル「ですが…全てが望んだ通りにとは行きませんでした」

俺「病院の中庭で聞いた通り…数ヶ月の間、俺とレミが昏睡状態になってたんだよな」

ハル「半分正解で半分不正解です」


俺「半分?」

ハル言葉を聞いて、背筋を嫌な感覚が駆け上がる。


ハル「昏睡状態になってから数ヵ月後のあの瞬間…ほんの一瞬、目覚めた時以来。二人が…目覚める事はありませんでした」

そう…そのたった一言で全てが繋がった。


点と点を線で繋ぐ…と言うよりも、ガラスに刻まれた弾痕と弾痕がヒビ割れて繋がるような感覚。

ヒビは亀裂へと変わり、やがて砕けて破片に変わる。そして砕けた破片は、鋭利な凶器となって降り注ぐ。


ハル「DTもエディーさんも…マイさんも尽力してくれたんですよ。でも…」

蛇足とも言えるその言葉に、何も返す事が出来ない俺。

伝えるべき事は全て痛い程に伝わった…にも関わらず、ハルの口から止め処なく言葉が紡がれる。


ハル「希望を持ち…絶望して………それから私が、新たに何を望んだのか…想像が付きますよね?」

俺「取り戻せないんなら、また新たに手に入れる…それこそ、どんな手を使っても…だろ?」

ハル「はい。魔法…ダークチェイサーにライトブリンガー……ありとあらゆる方法を模索して、見付けました」


俺「この子…狭間に巣食う蜘蛛か」

ハル「その通りです」

●よくぼう

ハル「本当の世界とIfの世界を繋ぐ事が出来る存在…ミクトランより這い出した蜘蛛」

ハル「絶望の最中で再会して和解したディーティーと一緒に、その蜘蛛を取り込んで…まぁ、取り込み切れずに一部を逃してしまったんですけどね」

ハル「ともあれその蜘蛛の能力により、私は二人が生きている世界を…本当の世界を知りました」


俺「………」


ハル「最初は…自分が虚構の存在だと知って戸惑いましたが、それにも馴れて…色んな事を考えるようになりました」


ハル「どうしてあの世界の私には二人が居て、私には二人が居ないのか!」

ハル「私とあの世界こそが…二人に望まれて生まれた世界なのに、何故二人が居ないのか!」

ハル「望まれていた私と、二人が一緒に居る世界こそが本当に望まれた姿の筈です!」


ハル「………そう考えたら、答えはすぐに出て来ました」


ハル「私があの世界に行くか、あの世界の二人を私の世界に呼び込むか…どっちにしたかは、今更説明する必要もありませんよね?」

俺「それが今回の事件だからな…んでも、何でそっちの方法にしたんだ?」


ハル「あの世界には、既に私が居たからですよ。勿論力ずくで入れ替わる事も出来ましたが、それは目的を考えれば得策ではありませんでした」

俺「確かに…いきなりハルを並列世界のハルが乗っ取ったりなんかしたら、俺達の中に警戒心や敵対心が湧かない訳無いよな」

ハル「と言う訳で…何度かの実験を繰り返した後、二人を呼び込む事にしたんですが……そこで問題が起きました。想定しては居た事なんですけどね」


俺「案の定、元の世界のハル達の抵抗に逢った…この子が俺達に助けを求めて来た…って所か」


ハル「それもありますが…一番の問題は貴方です。何かしらの方法で抵抗はするとは思って居たんですけど、この方法は除外すると考えて居たので」

俺「……ん?それはどれの事だ?俺はどっちかって言うと、抵抗って言うよりも流され流されここまで来てるんだが…」

ハル「自覚出来ないのであれば、そのままで結構です。ただ…」


と、言葉の途中で光の刃を構えるハル。そして何故か、その刃を俺に向けて構え…


ハル「このままだとトゥルーエンドにはなら無いので………消えて下さい」


――――俺に向けて振り下ろす

●ほんとう

俺「―――っ!?」

だがその刃は俺に届く事無く、何者かによって遮られた。

黒く長い髪…赤褐色の鎧……特徴ある後姿だけ確認すれば、それが誰なのかはすぐ判る。


俺「ド…いや、カライモン!無事だったか!」


謎の魔法少女達も、根幹を食らう竜の力は跡形も無く…普段の姿に戻ったカライモン。

装甲の大部分が砕けて居るが、胴体に受けた傷は治癒している。


ハルの意味不明な行動を前にして、困惑を続ける俺の思考…それを彼女の復活が、一旦纏め上げてくれた。


カライモン「元々しぶとさが売りなのでね。君達が長々と解説してくれている内に休ませて貰ったよ」

と言って俺の方へと振り返るカライモン。

装甲と同様にヘッドギアも破損し、その奥には彼女の素顔が見える。


思い起こせば、初めて見る彼女の素顔………

にも関わらず既視感を覚え、それが更に違和感と一致感と混ざり合って行く


あぁ、そうか……

ん?

いやいやいやいやいいやいや


俺「ってお前、マイじゃねぇかよ!!!」

カライモン「なっ!?」

突っ込みを入れる俺、そして何故か素っ頓狂な声を上げて驚くカライモン…いや、マイ。


カライモン「な、何故!?い、いや私は亜門マイなどでは無くっ…!」

俺「いやいやいや、昔と違って痩せてっけど、子供の頃のマイそのまんまじゃねーか!」

カライモン「待ち給え!どこがだね!?第一私はあの頃と違ってストレートヘアだぞ!?」


俺「どこも何も、その顔も声も全部マイじゃねーかよ!」

俺「前々から、何となくマイっぽい声や口調だとは思ったが…以前俺の部屋で二人共…ってあぁぁぁ!カライモンレンジャーの時と同じ要領か!」

俺「ってか、髪型なんか誤差だろ?俺の事を、人を髪型で区別する奴か何かだとでも思ってんのか?」


ハル「…えっ?」

ディーティーA「え………」

カライモン「違う………のかね?」


俺「お前等…揃いも揃って、人を何だと思ってやがる」

三人「「「サイドテールで人を区別する変態」」」


Oh………想像以上に酷い答えが返って来た。

●なおして

俺「あー…ってかもう、とりあえず落ち着けマイ」

熱論により熱くなるマイをなだめ、平静を促す俺。


本来は緊迫すべき決戦の中、思わぬ所から崩れこんでしまったこの空気…それを本来あるべき流れに直すべく、俺はハルとディーティーAを見据える。

そして、やっとの事で平静を取り戻したマイもそれに続き…ハル達もそれに応えるように視線を返す。


カライモン「それでは…聞きたい事は山程あるだろうが、それは後回しにして……一体この先どうするのだね?」

俺「どうするもこうするも…」

と、その先を口に出そうとする所で止まってしまう俺。


どうする?

どうすれば良い?

いつものように、黒幕を倒してハッピーエンドか?何だかんだで和解すれば良いのか?


いや、そうは行かない…俺にハルを倒す事なんて出来やしない。

ハルがライトブリンガーになって、世界を滅ぼしかけた時だってそうだ…ハルのためだから、ハルを倒す事が出来たに過ぎない。

今回は、並列世界の存在とは言えハルと対立して戦わなければいけない…戦わなければ、ハルを助け出す事が出来ない。


無理だ。

となれば…


俺「なぁ…」

ハル「話し合いで解決する事は出来ませんよ?私は二人を手に入れるまで、退きませんから」

俺「だよなぁ…」


カライモン「ふん、彼を消し去ろうとしておいて何を今更言っているのだね」

あぁ、そうだ。そう言えば俺はついさっき、ハルに消されそうになったんだが…その辺りの事を全く説明されていない。

ハル「あぁ…その様子だとやっぱり気付いて居ないんですね。彼への愛がその程度と言う事ですよね?」


いや…緊迫した会話の中で悪いが、突っ込ませてくれ。マイは俺に対してそういう感情を持って無い。

●できない

カライモン「成程…自分だけが持って居る情報に優越感を持ち、それを見せびらかしたくてたまらないと言った所だね」

ハル「そう取って貰っても構いませんよ」

カライモン「しかし、見せびらかせば見せびらかす程その全容も見えて来る。留守になった足元を掬われるぞ?」


初めて見る、ハルとマイの口論………一見するとただの問答だが、その水面下には敵意が隠れているのが嫌でも判る。


ハル「では試してみましょうか、全ての足を掬うのが先か…」

カライモン「ご自慢のアベレージが、この勝負を決めるか…」


火花散る中、その場に居る者全員が再び臨戦態勢を取る。

ハルは全身から光の刃を形成し、ディーティーは蜘蛛の大群を召還。マイは、右手だけを竜のアギトに変え………


俺「って…もしかしてまだダメージが残ってるんじゃないのか?ってか、竜の力はさっきので………」

そこで思い出す。本来の世界でも、ハルのライトブリンガーの力は、根幹を食らう竜を封印するだけの力を持っていた。

そしてカライモンは、その竜の力を使って居た訳だから…


カライモン「あぁ、力の大部分を封じられてしまった。悔しいが、この状態でハル君と正面からぶつかるのは好ましく無いね」

予感的中だったようだ。


俺「だったら、俺がハルと戦って…カライモ…マイにはディーティーAを片付けて貰うってのが得策か」

カライモン「この姿の時はカライモンと呼んでくれて構わない」

そして交わされるのは、肯定の言葉を必要としない意思の疎通。


俺は改めてハルに向き直り、臨戦態勢を取る。

…と言っても、このままの状態では勝ち目が無いのは明らか…何とかして光と闇の核を目覚めさせなければ…そう思った瞬間

全身から、嫌な汗が噴き出すような感覚を覚えた。


俺「まさか…いや、そんな………」

ディーティーA「気付いた…って訳では無さそうだけど、片足だけ踏み込んだと言った所かな?」

●りゆうは

ノイズが走った…時の事を思い出す。

あのノイズはアーカイブの中で見た物と同じ物で、幾重にも折り重なった情報の集積体だ。

そう…アーカイブの中で見た物。

逆に言えば、アーカイブが機能して居なければ見れない物…


つまり、あれを見たと言う事はアーカイブが機能していると言う事になるんだが…俺の中の光と闇の核は休眠状態にある。

いや………そもそも本当に休眠状態なのか?

その考えに到った所で、俺は脳髄に氷柱を押し込まれたような寒気に襲われる。


俺「確かアーカイブは、他の並列世界も観測して記録してた筈。つまりは並列世界の把握も出来てる訳で…」

俺「その情報を元に、アーカイブの機能で………以前やったように…………」


俺「まさか………いや、もしかして…俺は…」

それ以上は言葉に出来なかった。


ハル「そうです…貴方は本物の彼ではありません」

が………俺が言葉に出来なかった内容を、そっくりそのままハルが口にした。


そして更に、ハルは球体の一つ…一際特殊な何かを感じた『それ』に手を伸ばし…


ハル「本当の彼は…ほら、ここに居るんですから」

世界線の糸で作られた繭状の球体…それを掻き分け、奥に存在する物の一部を覗かせた。


ハル「今の彼は眠って居ます。貴方と言う存在をアーカイブから作り出し、維持するために。この意味が判りますよね?」

ハルがそれを言い終えると…再び糸で包まれ、覆い隠される…俺。本物の俺。


俺は…心臓がバクバクと嫌な音を立てる中、残った理性で考える。

俺「俺は……一体どうすれば……」


ハル「そんな事は決まって居ます。とりあえず…とりあえず大前提として消えて貰います」

敵の言葉だと言うのに反論する事が出来ない。

例え目の前のハルを退ける事が出来たとしても、事件が解決したとしても………俺はこのままでは居られない…


全てが終わったら、消えて本物の俺にこの立場を明け渡さなければいけない。

ハルに限らず、カライモンやレミやユズだってそれを望む筈…そんな思考が頭を巡る中、視界に入って来たのはハルの光の刃。


あぁ…俺はここで消えるのか……そう思った瞬間―――

●だいじな

激しい光を撒き散らし、肌を焼くような火花が周囲に弾け飛ぶ中で…

またも光の刃を遮る…カライモン。

何時の間にか修復した装甲に亀裂を走らせながら、その両手のガントレットでハルの刃を押し返す。


カライモン「悪いが、私としてはその大前提には納得していないのでね…邪魔をさせて貰おうか」

ハル「何を言っているんですか?そこの彼は本物の彼では無いんですよ?」

カライモン「それがどうかしたのかね?」

ハル「えっ………」


カライモン「彼が本物か偽者なのかは、この際どうでも良いのだよ。問題は彼が消える事…それ自体に納得出来ないだけだ」

ハル「それ…何も考えずに、ただ感情だけで暴走しているだけですよね?」

カライモン「そう取ってくれて構わない、否定はしないよ。どこかの幼馴染と同じで、そう言う部分だけはダメ人間なのでね」


キッパリと断言するカライモン。そしてその言葉に俺の迷いも切り捨てられ…俺の成すべき事が決まった。


俺「そうだな…そうだよな。納得できない事はしないで、納得出来る事をやる…ダメ男らしく、それで良いんだよな」

カライモン「やっと腹を決めたかね。全く昔から世話の焼ける男だよ」


俺「俺は…とりあえず囚われてる皆を助け出す。まずはそこからだ!」


ハル「折角決心した所ですが、それは叶いませんよ?」

俺「何?」

ハル「貴方達には、この糸に対抗する手段がありません。どうにかしたいのなら、まずは私とディーティーAを排除するのが先ですから」


くそっ…いきなり出鼻を挫いてくれる。

しかも相手がハルな以上、感情的な意味でも物理的な意味でも困難極まりない事が判る。

●かいせん

ディーティーA「さて…そろそろ無駄話は終わったかな?ボクも手を出して言いのかな?」

ハル「良いわよ、そうね…向こうの提案に乗ってあげて、ディーティーはマイさんの方をお願い」

ディーティーA「えっ、ボクがあっちをやるのかい?だってあっちは根幹を食らう竜の力を……」


ハル「大丈夫…さっきの一撃で残りの力の殆ども封じたから。力が回復する前に片付ければ問題無いわ」

さっきの一撃…俺を庇った時に受けた攻撃の事だろう。


また迷いがヒビを生み、ヒビが亀裂になろうとしている…だが、俺はもう躊躇しない。


俺「マッチングは決まったみたいだな。折角だからインターバルも挟みたい所だが…」

ハル「さすがにそこまでサービスが良くはありませんよ」

笑顔のまま、却下された…が、このやりとりの時間を稼げただけでもよしとしよう。


光と闇の核を持たない俺に、根幹を食らう竜の力の殆どを封じられたカライモン。神風の姿は無く、おまけはに居るのは戦力外であろう狭間に巣食う蜘蛛。

戦力はこちらが圧倒的に不利…だが、それは諦める理由にならない。


俺「だったら俺は…やれるだけの事を、とことんやってやるよ…」

●らんせん

ディーティーAの爪や糸を掻い潜り、その合間を縫ってヒット&アウェイを繰り返すカライモン。

先の攻防とは打って変わり、明らかにカライモンの劣勢…


そして俺とハルの戦いはと言うと………


ハル「光と闇の核が無い状態なのに、中々粘りますね。でも、そんな戦い方でマイさんの回復まで持ち応えられると思いますか?」

俺「そんなの、やってみなけりゃぁ判らないだろ?」

ダークチェイサー達を分化と分離して、それで攻撃をやり過ごす…消耗戦どころか、防戦一方で戦力を削られるばかり。


強がって見せてはみた物の、この戦法を続けて居ては勝ち目はゼロ。

………と言うのが現状だ。


ハルの攻撃を凌ぎ、後方へ…時には方向を変えて、右へ左へ避け続ける。

が…そんな回避行動ですら、何時までも続ける事は出来ない。


逃げた先は、丁度カライモンとディーティーAの交戦空域。

カライモンが避けた糸が、その延長線上に居る俺へと迫り来て…そこで一つ閃く。


ハルから見て糸が死角になる位置を取り、直撃する寸前に糸を回避。

俺にぶつかるだった筈の糸は、そのままハルに直撃する………そう言う目論見だったんだが


ハル「古典的な手ですね…無駄ですよ」

光の刃により、糸は弾かれてしまった。


ハルに対して一切の影響を与える事が出来なかった…だが、そこまでの結果を望むのは欲張りだろう。今はこれでも充分だ。


何事も無かったかのように、再び繰り出されるハルの猛攻…

俺はそれを凌ぎながら、弾き飛ばされるように後退を続ける。

そして…追い詰められた先は、球体の目前。


球体に触れれば並列世界へと飛ばされ、帰還するまでの間にカライモンが挟み打ちになって敗北確定。

ハルの攻撃を受ければ…言うまでも無い。


球体と周囲を繋ぐ糸が回避経路を塞ぎ、この場から動く事すら侭ならない。

そんな俺とは対照的に、ハルは悠々と落ち着いた動作で光の刃を構えて………


ハル「マイさんの回復まで、半分の時間も稼げませんでしたね。結局無駄な足掻きで終わってしまったじゃないですか」



その光の刃で―――俺の胴体を刺し貫いた。

●もくろみ

これで良い…俺が、カライモンの回復のために時間稼ぎをしている…そう推測してくれる事も予想通りだ。

糸はハルに効かない事…その手で触れても光の刃でも、干渉出来る事は確認出来た。

自分で言うのも何だが…球体に触れる事無く、尚且つハルが球体に攻撃を当てる事を懸念しないくらいの距離に留まれたのは中々に上出来だったと思う。


とりあえず、ここまでは俺の目論見通り…後は仕上げをするだけだ。


両手を形成するダークチェイサーを肥大化させ、そのまま破裂。爆風がハル包むが、握り絞めた武器は離していない。

そして当然ながら、ハルは無傷…だがそれで良い。爆風が推進力になり、俺とハルの身体は、背後の球体へと飛ばされる。

視界の端を駆け抜ける糸の数々……俺を見据えるハルの表情が、確信じみた笑みから驚愕へと変わった時………


俺の胴体から飛び出た光の刃の切っ先が、球体に突き刺さり………届く。


ハル「そんな…まさか最初からこれを狙って…」

俺「まぁ…これ以外の方法を思い付けなかったからな」

ハル「で…でも、無駄ですよ!この程度の隙間では―――」


俺「脱出するには狭すぎるだろうな…んでも、ちょっとした足掛かりにはなるだろ…なぁ?」

ハル「えっ…………?」

俺の言葉に気を取られ…我に返ってから、初めて気付くその存在。


少女「タスケテクレル……ダカラ………タスケル」

球体の反対側に位置取り、光刃で切られて僅かに緩んだ糸に…手をかける少女。

そう…糸に干渉する事が出来る、残された一人だ。


ハル「そんな事…させな―――」


と…ハルが止めに入るが、もう遅い。

少女の手により糸は引き解かれ、球体はただの糸となって宙を舞う。


俺「それじゃ……あとは頼んだぜ………」


最後にその言葉を残し…



―――俺の命はそこで燃え尽きた




「あぁ……任せとけ、俺」

●はじまる

カライモン「それで…今の君は一体どこまで事態を把握しているのだね?」

俺「ここ…世界の狭間に来るまでの出来事は、フィードバックで知ってる。まぁ、そこからは逆に何も…って訳だが…」


ハル「そのカライモンさんは偽者です!耳を貸さないで下さい!」

カライモンとの会話…それに割って入るハル。

だが、その言葉は俺の意思を絡め取るには足らない。


俺「悪ぃな、ハル…いや、Ifの世界のハル。経緯こそ判らねぇが、状況くらいは推測出来てんだ」

ハル「え?何を…」

俺「確証こそ持って無かった物の、ハルに怪しい所があったのは判ってたからな。んで…実際にこの光景を見れば……」

ハル「っ………」


カライモン「ちなみに、あちらの下半身蜘蛛のディーティーはディーティーアナザー。ハル君もそれに倣って、ハルアナザーとでも呼称すると良い」

俺「何でわざわざ別の名前を…いや、二人を助け出した後の事を考えれば別の呼び方を考えておいた方が良いとは思うが…」

カライモン「その辺りを何度も説明するのは時間が勿体無いので、省略させて貰う」


俺「いや、俺は聞いてないんだから省略しないでくれ」


ハルA「そんな…いえ、彼が目覚める事こそが本来の目的だし。脱出してしまったのは予想外にしても、また捕らえてしまえば……」

俺「ところが、さすがに二度も捕まっちゃ居られ無いんだよな。あん時は不意打ちだったが、同じ手は…な」

ハルA「―――っ」


ハルAとディーティーAを包み込むように、俺は停滞空間を展開する。


そう…ハルAが俺を最初に捕らえた時と同じ方法で、今度は俺がハルA達を捕縛した訳だ。

●やくどう

俺「さて…それじゃぁ狭間に巣食う蜘蛛…子?今の内にハルやレミ達もその繭みたいな球体の中から助け出してくれないか?」

少女「クモ…コ?ナマエナラ、ベツノナマエガイイ」


余裕があるとは言え、この状況で我儘を言えるとは…中々に図太い精神の持ち主のようだ。


カライモン「ハルA君の話では…場所の事なのかは判らないが、ミクトラン…より這い出たと言っていたね。では、ミクトランテクートリで良いのでは無いのか?」

少女「ソノナヲモツモノハ、スデニソンザイシテイル」


俺「ってか、クートリは王だから男性名だろ。せめて女性名のミクトランシワトルにしとけよ」

少女「ソノナヲモツモノモ、スデニソンザイシテイル」

俺「そっちも使用済みかよ!」

うん、何だかネトゲキャラのネーミングで総当りしてるような気分だ。いっそ名前の前後に記号でも付けてしまおうか


カライモン「では、シンプルかつ定番な所でアラクネーやアトラク=ナクア辺りから変化させてみてはどうだろう?」

俺「いや、その二つって定番か!?つっても…まぁ、そこに突っ込んでも仕方ないか。んじゃ、両方から取ってアラクでどうだ?」


少女「アラク………」

暫く考え込んだ後、うんうんと何度か頷く少女…アラク。どうやら気に入ってくれたようなので、これ以降は少女をアラクと呼ぶ事にする。


カライモン「と…話し込んでいる間に魔力も大分回復して、根幹を食らう竜の力で二人のアナザーを屠れる程度にまで持ち直したのが……」

俺「はっ!?根幹を食らう竜の力!?そんなの持ってるなんて初耳だぞ!?」

カライモン「だから今こうして説明しただろう。君は昔からそう………はっ」


俺「昔?いや、そもそもカライモンと出会ってから1年も経って無いよな?」

カライモン「言い間違えただけだ、気にしないでくれ。それよりも皆を救い出す上での注意点を聞きたくは無いのかね?」

俺「っと、そうだ…そっちを先に話してくれ。危うくまた脱線する所だった」

●ゆくさき

カライモン「まず…彼女達はこの世界の中で倒す事が好ましい」

俺「まぁ、また別の世界に逃げ込まれちまったら探し出すのも一苦労だしなぁ」

カライモン「それもあるが…別の世界で倒した場合の、この世界への影響の方が懸念されるのだよ」


俺「あぁ…そっちか。で、他には?」

カライモン「彼女達をオリジナルと同一人物として認識してはいけない。君が認識してしまったら、根幹を食らう竜の力がオリジナルにまで及んでしまう」

俺「それ、さっき省略した話だよな?」


カライモン「そうだ。今ならば時間があるから説明しておこうかというのもあるが…それ以上に」

俺「何だ?まだ何かあるのか?」


カライモン「先の会話を見ても、念を押しておかなければ彼女達をオリジナルと混同してしまいかねないと思ってね」

まぁ確かに…と言うかこの口ぶりだと………

カライモン「当然…アナザーの彼女達を助けよう等と言う考えもしてくれるなよ。それはつい先程までの彼が乗り越えたばかりの事だ」


あぁうん、案の定お見通しのようだった。


俺「まぁ………そうだよな。今更そこで俺が迷ってる訳にはいかないわなぁ」


命を賭けて俺に全てを託した、もう一人の俺…その決断に応える義務が俺にはある。

俺は胸にその熱い思いを滾らせ…

決着への一手を指しにかかる


……だが


ディーティー「上…いや、全方角から来る!」

何時の間にか、アラクの手により戦線復帰したディーティー。

その声が警笛のように周囲に響き渡り、促されるままに俺達は視線を巡らせる。


周囲に存在しているのは、蜘蛛の糸ばかり…いや、蜘蛛の糸しか存在しておらず、俺達以外の異物は全く見当たらない。


ディーティーが一体何を言っているのか判らない。俺はディーティーの言葉の意味を汲み取るべく、それを考え始めるが…

思い至るよりも先に現実の方が迫り来て、ご丁寧にもその存在をアピールしてくれた。


俺「おい………もしかしてこれって」

ディーティー「もしかしなくても、見たままだよ」


俺「この空間の蜘蛛の巣その物が…俺達に向かって、収縮して来てやがるのかよ」

●さいやく

上下左右前後………六方向に向けて、俺は反射的に停滞空間を形成する。

収縮する蜘蛛糸は停滞空間に絡め取られ、事態は収束へと向かう……その筈だったんだが…


俺「あぁくそっ!」

停滞空間の範囲から外れ隙間を潜った糸が、已然として俺達に迫り来る。


全ての糸を絡め取るだけの停滞空間を形成したら、ハルAとディーティーAを捕らえている停滞空間を維持出来ない

高範囲の停滞空間を形成して、丸々全部飲み込んだとしても…その場合は俺達も停滞してしまうから意味が無い。


手詰まり……迫る敗北の影が胸に突き刺さり、脈動を加速させる

が………そこで、俺の思考が一つの可能性に辿り着き…


俺「また、一か八かの賭けになるのかよ…!」

俺は、愚痴りながらもその手段を実行に移す。


――――――


カライモン「なっ…これは…まさか…停滞空間の中に加速空間を形成しているのか!?」

俺「時間…稼ぎにしかならねぇ……頼むから…稼いだ時間で…どうにかしてくれっ!!」

カライモン「また無茶を…そんな事をすればどうなるか、判らない君でも無いだろうに!」


そう…カライモンの言う通り、俺はかなりの無茶をしている。

頭の中はぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた上に電流を流されているような感覚に襲われ

一旦細切れにされてからドロドロに溶かされて、また固められてからバラバラにされるような状態になっている。


カライモン「しかし……この状態では私に出来る事は何も無い。出来る事があるのは、彼女だけだ」


そう言って、カライモンはアラクを見る。

カライモン「我々の中で、あの糸…世界線に対抗しうる手段を持って居るのはアラクのみ。彼女が皆を解放する事が出来るよう祈るしか無い」

俺「皆が…開放されれば………何かしらの…手が………」

カライモン「………無い。迫り来て居る糸に絡め取られ、別の世界に飛ばされる…それが現状に措ける最大の妥協点だ」


俺「アラクの力で………包囲網を…破る事は………」

アラク「ムリ。イトノカズガオオスギテ、マニアワナイ」

俺「………そう…か」


カライモン「だが、囚われの身のままこの空間に取り残される…と言う最悪の事態だけは避ける事が出来る筈だ」

俺「…んじゃぁ……無駄じゃぁ…無い………か」


アラク「ココニ………トリノコサレタ、バアイ…ドウナル?」


カライモン「良くて…別の世界に連れ去られ、二度と連れ戻せなくなる。悪ければ…ここで始末されてしまうだろう」

アラク「………ソウカ」

その言葉を聞き、一旦手を止めるアラク。そして…静かに目を閉じ……


アラク「ナラバ、ホンキヲ…ダス」

閉じた目を見開くと同時に、額と頬に現れる六つの目…それに続いて、服の隙間から飛び出す4本の蜘蛛の足。


見開かれた瞳が周囲を捉え、伸ばされた爪先が繭を巣から引き千切ってアラクに引き寄せる。


カライモン「この速度ならば………いや、問題は君の方か。あとどのくらい耐えられそうだ?」

俺「正直………結構ヤバい………」

カライモン「っ……最悪、救う順番を決めなければならないか。アラク君、残りは!?」


アラク「マダ、オオゼイ……」

エディー…DT…神風…ユズ…それとディーティー。

見て判る限りで、糸から開放された仲間はこの5人だけ。おまけに、ディーティー以外はまだ意識を取り戻してさえ居ない。


アラクは両手と4本の脚で、次々と繭の中から人々を解放して行くのだが………

俺「やば……い…………もう…」

俺の意識はグチャグチャのボロボロになり、停滞空間と加速空間を維持する事が出来なくなってしまった。


掠れる視界…薄れ行く意識………だが、そこで俺は見た。


繭の中から伸びた手が、アラクの手を掴み………


次の瞬間、周囲に黒い線が駆け巡る光景―――


●くろいと

―――

俺「――――っ!……俺、一体どのくらいっ!」

カライモン「安心したまえ、ほんの数秒程度だ。それよりも………」


停滞空間と加速空間が途切れ、この空間に在る全ての物があるべき速度に戻った世界。

本来ならば、俺達は糸の包囲網に囲まれて別の世界に飛ばされて居た筈……

にも関わらず、俺達は誰一人欠ける事無くこの場に居た。……と言うよりも


そもそも俺達を包囲していた蜘蛛の巣が、この場には無かった。

いや…厳密に言えば糸その物が無くなっている訳では無い。

包囲網を形成していた糸は確かにそこにある。だが…それは既に、本来の用途を成せるだけの形を保ってはおらず


………バラバラに切り刻まれて居た。


ハルA「そんな…まさか………」

ディーティーA「糸を…世界線を……切った…だって!?」


そしてその事実は、停滞空間から開放されたハルAとディーティーAを驚愕させるに足りて居たようだ。

もう一度停滞空間を形成するだけの余裕は無いが、決着をつける手立てが無い訳でも無い。

俺は二人に向けて、力一杯に跳び込み………その陰から、カライモン…いや、ドライモンが飛び出す。


ディーティーA「なっ――――」

呆気に取られたままのディーティーAに、不意打ちを決めるドライモン。

竜のアギトに変わった腕が、悲鳴を上げる隙すら与えないまま…ディーティーAを屠り去る。


ドライモン「包囲網の中では何も出来なかったのでね…おかげで回復に専念する事が出来たよ」


まずは一匹…ディーティーAはこれで片付いた。

ハルA「くっ―――!!」

返しの手でハルAを屠ろうとするドライモン。

だがハルAはハルAで、それを大人しく受ける筈も無く…咄嗟に後ろに跳んで回避する。


レミ「え………何で?ハル…?何で………?」

戦闘による騒音がきっかけか…黒い線を周囲に舞わせながら我に返り、ハルAを見上げるレミ。


俺「あのハルは、俺達の居た世界のハルじゃない…今回の事件の真犯人だ」

更に…俺がレミに事情を説明している間に、繭の中から救い出される………ハル

それを見て、レミも事態を把握したようで…ハルAに向かい、臨戦体勢を取る。


俺「さっきのアレ…糸を切ったのって、レミの黒い線だよな?」

レミ「覚えて無いけど…糸って…これ?」

黒い線を走らせ、近くにあった糸を切断して見せるレミ。


俺「瓢箪から駒…だな。まさか、こんな所に一発逆転のチャンスが転がっているとはな」

俺は思わず感嘆の声を上げ…レミを見る。

そして…俺達を後押しする風は、それだけでは止まらない


ハル「いえ…形勢その物が逆転です。私も…戦線に加われます」


レミ「…ハルッ!」

俺「おかえり…………ハル!」

ハル「………ただいまっ」


足元に少々のおぼつかなさは残る物の、意思の篭った声を返すハル。


ハルが………

遂に、ハルが俺達の元に返って来た。

●しんうち

ハルA「どうして…どうして、どうしてどうしてどうして!何もかも、あと一歩の所で私の思い通りにならないんですか!!」

カライモン「何事も…思い通りにいかないのが世の常だよ。完璧な計画に見えたとしても、綻びがあればそこから崩壊する」

ハル「いえ………今回はもっと単純です」

カライモン「…ほぅ?」


ハル「彼女の…もう一人の想いが、皆の想いよりも弱かった。それだけです」


ハルA「あぁ、そうね…もう一人の私だもの、そう言うよね。でも……結果論を言ったつもりでも、早過ぎるよ」

ハル「……それは、どう言う…」

ハルA「私の想いは負けて居ない!皆に負けない想いを持ってるから!!」


大声を張り上げ、ステッキを構えるハルA。

かと思えば今度は、ハルAの瞳のハート型が…クロウリーの六芒星のような形状へと変化する。


ハル「えっ………そんな、まさか………」

ハルAを中心に形成される、白と黒の六芒星。その二つが回転を始めたかと思えば、今度は…その中心から光と闇が溢れ出す。

俺「おい…嘘だろ………これってまさか…光と闇の…核の力か!?」


光と闇の奔流が収まり、姿を現したのは…ライトブリンガーの装甲の上に、ダークチェイサーのような外殻を纏った姿のハルA

俺の中二病フォームとはまた違った方式で、光と闇の力を併せ持っている事が…目視の時点で理解出来た。


カライモン「その形態は、ハル君では理論上不可能な筈。いや………私の知るハル君では、か」

ハル「それは…色々な、大事な物を捨てなければ出来ない事。つまり、もう一人の私…貴女はそれを………」


ハルA「そう…この力を得るために捨てて来た。と言うよりも…捨てる前に無くなった物が殆どだけどね」


俺「くっ………神風!スピリットの力は!?」

神風「まだです…それに、完全に戻ったとしてもこの世界での行使は…」


光と闇の核に優位性を持つ、スピリットの力…その回復を神風に問うが、あてには出来ない様子。

こうなってしまった以上、今のハルAに対抗するのは俺の中の光と闇の核の力だけな訳だが…


ハルA「私と貴方…どちらがよりこの力を使いこなす事が出来るか、判りますよね?」


そう…その格差は悲しい程に明らかだった。

●れんせい

ハル「いえ…ブラフです。あの力はあくまでイミテーション…本来の力を持っている筈がありません。それは今までの行動が物語って居ますから」


が………そんな俺の不安を振り払うように飛び出し、ハルAに向けて光の刃で切り付けるハル

ハルAはその刃を光の刃で切り払い、周囲に新たな光の刃を舞わせ……ハルもまた光の刃を展開して応戦する。


俺「そうか…そうだよな。光と闇の核の力を使えるってんなら…俺をアーカイブから複製するなり、昏睡状態から引き摺り出したり出来た筈だ」

俺は光と闇の核の力を開放し…毎度恒例の中二病フォームを形成

そこから更に、前回の状態を思い出し…中二病フォーム末期モードへと二段変身を行う。


カライモン「それに…光と闇の核が複数存在する可能性と言うのも怪しい話だから…ね!!」

両腕のガントレットを竜のアギトに変えて掴みかかるカライモン。だが…ライトブリンガーの力により竜の力は霧散されてしまう。


レミ「私は…正直、偽者とは言えハルと戦うのは乗り気じゃ無いわ。でも…ハルが危ないんなら…戦う!!」

先程は糸を切り裂いた黒い線。だがそれも、ライトブリンガーの光の刃に容易く切り刻まれて無効化…


そして…俺は三人の攻撃の合間を縫って、ハルAに接近。

光の刃の隙間を縫い、ライトブリンガーとダークチェイサーで形成したそれぞれの爪をハルAの首へと滑らせる


……が、その首を刎ねる事は叶わなかった。


ライトブリンガーの装甲とダークチェイサーの外殻…二重の防御程度には考えて居たが、実の所はそんな物では無かった

光と闇の力が複雑に絡み合って形成され、そのどちらの力も弾く万能の装甲と化していたのだ。


  強い………まだ全ての力を使って居ないに状態も関わらず、間違い無く俺達全員の総力を上回っている


焦りを抑えながら、ハルAに勝つ手段を考える俺達。

だが、その答えを導き出す暇さえ与えられないまま…ハルAの反撃が始まる。

ほんの一瞬…集中が途切れた瞬間にかき消える、ハルAの姿

何が起きたのか…理解が追い付いた所で、俺は咄嗟に加速空間を展開する。


光さえ色褪せる程に加速した世界…仄暗く染まった世界の中で、異彩を放つハルAの光の刃。

今まさにハルAがハルへと襲い掛かる…その瞬間に割って入る。


火花を散らしながら切り結ぶ刃と刃


俺は僅かな隙の間にハルを加速空間で包み込み、その身を退かせる

…が。ハルAは、更にその加速空間ごと停滞空間で包み込み、後退を阻害する。


俺「冗談だろ…加速空間と停滞空間を重ねといて、何とも無ぇのかよ…!」

ハルA「何とも無いと言う訳ではありません。ただ…そこまで気にする程の事では無いだけです」


痩せ我慢をしている…と言った様子も無く、言葉通りの余裕が見て取れる。

出力だけでは無く、耐久力の面でも圧倒的にハルAの方が勝っているらしい


俺「判らねぇな…なんでこんだけの力を、ギリギリになるまで隠してた?」

ハルA「決まっているじゃないですか…貴方のためですよ?最後に縋る奥の手を否定して、その心を折ってしまわないために隠していたんです」

俺「そりゃぁまた………心をへし折るのに充分な事を、言ってくれるじゃねぇか」


ハルA「でも…それも杞憂でしたね。この現実を前にしても、貴方は心を折るどころか対応策を考えていますね」

俺「買い被り過ぎだってーの…俺は、お前が好きなダメ男だぜ?」


ハルA「ダメ男で無くても、私は貴方を愛しています」


俺の加速空間が解除されると同時に、ハルAもまた加速空間を解いて…とびっきりの笑顔を向けて来る。

ちなみにハルは停滞空間に囚われたまま、開放される気配は無い。


ハルA「最後通告です、降伏して下さい。話し合う時間くらいは差し上げますよ?」

俺「って言ってるが…どーする?」

俺はカライモンと神風に目配せして、神風がそれに気付き…契約。以前にもやったように、思考を直結させる。


カライモン『ディメンションスレイヤー………根幹を食らう竜の心の中に干渉した、あの一対の剣の事は覚えて居るかね?』

俺『あぁ…光と闇の核の力を全部集めた二本の剣だよな?んでも、この状態であれをもう一度やるってのは…』


光の核『不可能では無い…』

闇の核『ですが…多角的に検討しても、リスクの方が圧倒的に多いでしょう』

俺『おわっ!?って…お前達、起きてたのかよ』


光の核『現在干渉している事象の解析と演算に膨大な時間を費やした』

闇の核『そのため、今の今まで助力を行えませんでした。申し訳ありません』

俺『そりゃまぁ良いんだが…あの剣…ディメンションスレイヤーだっけか?あれを使えばどうにかなるのか?』


カライモン『どうにかなる…と言うよりも、どうにでもしてしまう…と言うのが正しい所だろうな』

俺『何だそりゃ…あれって心に干渉出来る剣じゃ無いのか?』

光の核『否…それはあの剣の力ではあるが、全てでは無い』

闇の核『根幹を食らう竜との戦いで用いたのは、あの剣の力のほんの一面に過ぎません』


カライモン『これは私の憶測だが…あの剣の本来の力は、イデア…別次元、あるいはもっと深層に干渉する力を持っているのでは無いか?』


光の核『…肯定する』

俺『つまり…何にでも通用するチートって事で良いんだな?』

闇の核『しかし、無条件に万能の力を振るえると言う訳ではありません』

俺『って言うと?』


闇の核『貴方が対象をその剣で以って斬ったと言う事実…それが絶対不可欠になります』

俺『あぁ……そりゃそうだよなぁ』


ハルA「さて…作戦会議は終わりましたか?」


そして、終焉の鐘のように告げられる、ハルAの言葉。

万全では無いが、万策尽きた訳でも無い


俺達はハルAに向き直り…その内に滾らせる戦意を、瞳で語った。


ハルA「そうですか…残念です」

●ふたつの

同時に加速空間を展開する、俺とハルA

間髪入れぬ閃光のような踏み込みと共に、俺へと迫る…ハルAの光の刃

だがその刃が俺に届く前に…カライモンが間に割って入り、ハルAの刃を遮る。


ハルA「またですか…でも、その程度の時間稼ぎをした所で…」

カライモン「………それはどうかな?」

ハルA「……えっ?」


ほんの一瞬だけ俺から離した視線…それを戻すハルA

だがその一瞬の油断がここに来て大きく戦局を傾ける。


カライモンの後方…僅かにハルから死角になったその場所で展開する加速空間…いや

元々展開した加速空間に加速空間を加え…更にもう一つ重ねた三重加速状態で、ディメンションスレイヤーを創り出す。


少々、いや…かなりの勢いで無茶をしたせいか

全身…それこそ頭の奥深くから足の指先に至るまで、ありとあらゆる場所が負荷に耐え切れずに悲鳴を上げる。

二振の剣を握るだけで精一杯…指の一本動かす事すら儘ならない。


力を振り絞れるようになるまで、あと数秒…ほんの数秒あれば良い

俺自身の状態を把握して、予測を弾き出す。

そしてそんな僅かな間に、ハルAはカライモンを弾き飛ばし、俺へと迫るが………


遅い


ハルAに向け…光の束が真横から襲い掛かる。


ハルA「しまっ…」

光の束の元を辿りるハルA…その先で待ち受けるのは……ライトブリンガーへと姿を変えた、ハル。


ハルA「そんな…どうやって…」

ハル「注意が逸れている間…に彼が一瞬だけ加速空間を形成して、脱出させてくれたんですよ」


そして…ハルAの注意がハルに向いている間に、最低限だが…俺は力を取り戻し


ディメンションスレイヤー…二振の剣を携えて、ハルAへと斬りかかる。

未知の力に警戒しての事か…全ての光の刃を収束して備えるハルA

だがディメンションスレイヤーはその全てを断ち切り、ハルAへと迫る。


宙に舞う赤い鮮血……


切っ先はハルAの腕を掠めるのみで、その存在を切り裂くまでには至らないが…

同時に、ハルAに傷を負わせるだけの力があると言う事を立証して見せた。

ただし…ハルの方もそれに気付き、狙いを剣では無くそれを持つ腕に切り替えて来る


途切れる事無く続くハルの猛攻に、俺は防戦一方

このままでは決着を付けるどころか、攻撃に回る事すら出来ない訳だが…

俺達には、それを覆す仲間の力がある。


突如、ハルAの前に出現する光の球体………俺はその出現と共に後方に飛び退き、ハルAとの距離を取る。

ユズ「自分だって………ちゃんとセンパイの力になれるんッスよ!!」

ハルA「……え?」


ハルAが声を上げるとほぼ同時……光の球体が閃光と共に爆炎を巻き起こし、ハルを飲み込む。

ハルA中心に渦を巻き、球状の檻となって閉じ込める爆炎………

光の力を燃焼して炎を発生させると言う、ユズの新たな魔法。


俺達でさえついさっきまで知らなかったそれを、ハルAが知る筈も無く…ましてや備える事も出来ない。

ダメージこそ与えては居ないが、目眩まし…時間稼ぎには充分過ぎるだけの成果を上げた。


爆炎を振り払い、体制を戻すハルA

だが…それよりも早く、爆炎の切れ目から俺の持つ剣…ディメンションスレイヤーがハルAに向けて切り込んで行く。


光と闇を織り込んだ刃でそれを受け止めるハルA…

光の刃単品よりは格段に耐久力が上がっては居るが、それでも俺の攻撃を跳ね除けるには至らない。


ハルAの刃に沈み込むディメンションスレイヤー。

追い詰められたハルAは、世界線の糸を放って俺を絡め取りに来るが…それもレミの黒い線にって切り刻まれ、不発に終わる。


このまま押し切れば俺達の勝利…

俺は最後の力を振り絞り、剣を持つ手に力を込めた…


その次の瞬間


空間…いや、世界その物が捩れて歪み…俺達を中心に波動が解き放たれる。

身体の芯まで揺さ振られるような感覚…最小単位で存在を揺るがされる…そんな感覚と共に…


二振りの剣…ディメンションスレイヤーは………俺の腕諸共、砕け散った。


俺「……………は?そんな…何で………」

予想だにしない衝撃により、空っぽになった頭の中…そこを駆け巡るのは一つの疑問…

目の前の光景によりその疑問に答えは出るが、それがまた新たな疑問を生み出して俺を押し潰す。


俺が目にした物…それは………


両手にディメンションスレイヤーを携える………ハルAの姿だった。

●じげんの

俺「何…だ?何が起きた?何でお前がその剣を……?」

ハルA「創り出したんですよ………かなり無茶はしましたけど…でも……どうしても…負けられないから…!!」


俺達が…仲間の力を借りて、やっとの事で創り出す事が出来た奇跡………

その奇跡を、ハルAは一人でやって除けた…一人で奇跡を創り出した。


一体何がハルAをここまで突き動かすのか…

俺達全員の想い以上の力を奇跡を起こしたのか…


こんなにボロボロになってまで…手足も顔も傷付いて……

いや………一箇所だけ……そうだ、ハルAは一箇所だけは攻撃を受けないように戦っていた?

その箇所だけは、怪我どころかかすり傷一つ付いていない。


致命傷を避けるため?だとしたら、胸部への攻撃を避けないのはおかしい……


―――まさか


その可能性に至った瞬間、俺の心臓は爆発と紛う程に跳ね上がった。


俺「そうか…そう言う事か………」

ハルA「………」

俺「俺達に無い想いを持って戦ってたって事か…そりゃぁ強い訳だ……奇跡も起こす訳だ…勝てない訳だ…」


ハルA「判って貰えたなら……出来れば、今のままの貴方を―――」

俺「………でもな」

ハルA「――――ッ……」


俺「それでも…自分達の背負ってる物より重い物を背負ってる相手でも…俺達は勝たなけりゃいけねぇんだよ!!!」

ハルA「どうして…どうして!!戦う力も残ってないのに!勝てる可能性も無いのに!どうして!どうして判ってくれないんですか!」


俺「どうして判らねぇのかって…そんな事は判り切ってるじゃ無ぇか」

ハルA「………」

俺「無理だって判ってる事にも、未練タラタラ残しまくって…自分が楽な気持ちで居られる方に逃げちまう………」



俺「ダメ男だぜ?俺は」

●とどける

ハルA「戦う力も…手段も無いのに…」

俺「そうだな…何も無い」


ハル「勝ち目なんか無いのに…」

俺「あぁ…無いけど諦められない」


ハル「確固とした信念も無いのに…」

俺「あぁ…何だかんだ、その場の流れに流されて生きてるもんな」


ハル「それなら……このまま負けて下さい!!」

俺「それは出来ない…例えお前が相手でも、負けられない!」


「だったら………」


対峙するハルと俺……その二人の間に割って入るかのように、どこからとも無く響き渡る…

どこかで聞いた覚えがある声。

そして………俺の目の前に、光の柱が現れ………


「ダチからの餞別だ!使えセンパイ!!」


再び声が響くと共に、巻き起こる旋風。

その中心からは一際眩しい閃光が放たれ…

光がこの空間を満たした、その瞬間



目の前に、黄金色に輝く剣が現れた。



カライモン「何だあれは…光と闇の力の両方が……いや、完全に融合している…!?」

毎度ありがたいカライモンの解説…だが申し訳無い事に、今回に限ってはそれも不要だ

触れて確かめるまでも無く……同じ場所、同じ空間に居るだけでも判る。


俺「ディメンション…スレイヤー」

光と闇の力を全て集めた剣、ディメンションスレイヤー…その発展型、あるいは上位互換

光と闇…その両方の力を分かつ事無く、一振りの中に秘めた剣。

流石にその正体やここに現れた理由の究明にまでは至らないが、それを理由に戸惑っている暇も躊躇している暇も無い


俺はその剣に手を伸ば……そうと思ったが、俺の手は腕ごと粉々にされたばかり。

残っている力では、両腕どころか片腕の再生すら儘ならない…

とにかく何か掴む物………これしか無いか。


思い付いたら即実行

俺は目の前のディメンションスレイヤーの柄に噛み付き、その牙で以って刃を振るう。


弾ける閃光…

横に一薙ぎする俺の一撃を、交差した二振りの剣で受け止めるハルA


ハルA「そんな…どうしてこう次から次へと…次々次々次々次々!!私の邪魔ばっかり!!」


ハルAはヒステリックな叫びを上げながら、二振りの剣を持つ手に力を込め…

俺は、吹き飛ばされて掻き消えそうな気持ちと身体を何とかその場に留まらせる。


圧倒的な装備の差にも関わらず、それさえも覆すほどの圧倒的な力の差

じりじりと押し返され…ついには剣ごと俺の体が弾き飛ばされようとした、その時…


俺の背中に何かが触れた


カライモン「どうしてもこうしても…そんな物は決まっているではないか」

ユズ「ハル先輩の偽者さんのしようとしてる事…」


そしてその何か…彼女達の手が、俺の背中を押す。


レミ「納得出来ない以前に、筋が何も通って無いからに決まってるじゃない!」

ハル「もう一人の私…いえ、貴女は…私達が知らない事を知っている。でも…私達を…私達が培ってきた物を、知ってもいない!」


触れた手から流れ込んでくる想いと力…

俺は失った両腕を…そして、二振りの剣…ディメンションスレイヤーを再構築して交差する。


ハル「だから……」


「「「「負けられない…負ける訳が無い!!」」」」



ハルAが手にしたディメンションスレイヤーが砕け散り、三振り…二対のディメンションスレイヤーがハルAへと沈み込む。

●たびだち

ハルA「私は…ただ、彼とレミちゃんと……4人一緒の時を過ごしたかっただけなのに………どうしていつも一人に…」

淡い光に包まれ…その光の中で、小さな光の束となって消えていくハルA

黄金色のディメンションスレイヤーは何時の間にか消え去り、両手の二振りも光と闇の粒子となって消えて行く。


『一人じゃないさ…これからは俺が一緒に居てやるからな…』

ハルA「えっ………」


今にも消えてしまいそうな小さな声…

ただの空耳かと流してしまいそうな程に小さな声。


俺「んじゃ、今度は俺の方から言わせてもらうか…」

そして、俺はその声に言葉を返す。


俺「それじゃ…あとは頼んだぜ」


『あぁ……任せとけ、俺』


光の中へと消え行くハルA……

共に寄り添うように消えて行く声。

それは既に声と言うには余りにも小さな音と成り果てて居たが…


俺には確かに届いて居た。

●それから

カライモン「さて、これでやっと解決に漕ぎ着けた訳だけれども……毎度の事ながら、余りゆっくりしている時間は無い」

俺「ん?前と違ってこの空間は元々存在してた空間なんだろ?だったら別に危ない事も無いんじゃぁ…」


レミ「あ、それってもしかして…この蜘蛛の巣が原因じゃない?だったらアタシの…」

カライモン「いや、それは止め給え。むしろそんな事をしたら余計事態がややこしくなってしまう」

レミ「えー…」


ハル「あの、急がなければいけない理由は…この世界の方じゃなくて、この世界に囚われて居る人達じゃないですか?」

ユズ「でもでも、もうハル先輩の偽者さんは居ないッスよね?別に急いで助け出さなくても…」

カライモン「なぁ君達…忘れて居ないだろうか?我々が居た世界ともう一つの世界だけでも…」


俺「そうか!時間の経過速度か!!」


カライモン「そう、その通り。ただでさえも日数が経過しているのだ、彼等を元の世界に戻した時の事を考えれば…なぁ?」

レミ「だったら、それこそチャチャっと片付けるためにもアタシの…」

カライモン「だから止め給え!あの力その物の危険性もさる事ながら、繭の中の人間を避けて切れる自信はあるのかね!?」


レミ「……………てへぺろ♪」

俺「………考えて無かったのか!?いや、そこは真っ先に考えろよ!!」


カライモン「…と言う訳で、スピードアップで頼むよ。君だけが頼りだ…うん、本当に」

アラク「シンドイ…アトデ、ウナギパイヲヨウキュウスル」

何故ピンポイントで夜のお菓子!?


ともあれ…こうしてハルAとディーティーAの起こした騒動は、その幕を閉じた。

●あれから

俺「んで、アラクはこれからどーする?また並列世界の放浪に戻るのか?」

アラク「シバラクハ…コノセカイニ、イヨウトオモウ」

俺「となると…問題はどこに住むかってー話しになる訳だが…」


カライモン「研究対象としては興味深いが…能力の特性を考えると、私の周辺に置くのは得策とは言えないね」


ハル「私の所は……」

アラク「…………ムリ、コワイ」

ディーティー「まぁ、ボク達の偽者にやられた事を考えれば苦手意識の一つや二つ持つよねぇ」


俺「んじゃ、今回も俺…」


ハル「それはダメです」

レミ「それはダメ」


俺「いや…だったら、どーすんだよ!?」


ユズ「自分の所に来ると良いッスよ。部屋は屋根裏部屋しか余って無いッスけど、それでも良いなら」

DT「あと、ボクが一緒でも平気なら…かな」

アラク「アレトハ、ベツジン…ダカラ、ダイジョウブ」


と言う事で、アラクの滞在先は決定。

俺「っと、そーだ…今回の騒動の件ですっかり忘れてたんだが、神風に聞いておく事があったんだ!!」

神風「何ですか?」

俺「朝起きたら、俺のデスクの棚の中身が全部ツインテール作品になってた件の事だよ!何か知ってるんだろ!?」


レミ「あ、それアタシ」

俺「はぁっ!?な…なんでそんな事をした!?」

レミ「いやさぁー…最近アタシの方にはご無沙汰だし、ほら…ね?だから、ちょっと発破かけるつもりで揃えてみたんだけど…ね?」


俺「ね? じゃ無ぇ!犯人はお前か!!ってか、元からあったサイドテール傑作集はどこにやった!?」

レミ「サイドテール…?アタシが見た時には何も無かったけど…」

俺「は?…いや、そんな筈…」


ハル「あ、それ私ですよ」

俺「はいっ!?」

ハル「覚えてないんですか?」


俺「え?……んじゃぁ………つかぬ事をお聞きしますが……あれらの作品達は…」


ハル「勿論、処分しましたよ?」


この時………ハルはもの凄く良い笑顔をしていた。

カライモン「そう言えば、話は大分飛ぶが…英司君の件はどうなったのだね?蜘蛛の巣には捕えられて居なかったようなのだが…」

俺「あー……んー…まぁ、アイツはアイツで元気にやってるみたいだったから良いんじゃねぇか?」

カライモン「そうか…では、ついでと言っては何だが…あの黄金色のディメンションスレイヤーに関して、何か心当たりは?」


俺「サッパリ無し。ってか…あの時あれが無けりゃぁ、今の俺達は無かったんだよなぁ…」

カライモン「そう言う事になるね。しかし…やはり仮説を裏付けるような物は無しか」

俺「仮説って、どんなのだ?」


カライモン「ハルA…ハルくんの偽者が土壇場で創り出したように、並列世界で創られた贋作…あるいは」

俺「あるいは?」

カライモン「何かの到達点…それがあの形なのでは無いか、そんな仮説を立ててみたのだよ」


俺「到達点か…確かにそんな感じもあったなぁ。ってか、お前等本人としてはどうなんだ?」


光の核「我等の力を以ってしても、あの存在の全てを解析するには至らなかった」

闇の核「ですが…私達にとても近い存在である事だけは判りました」


俺「…だ、そーだ」

カライモン「手がかりにはなるが、解明には遠く及ばない…か」


俺「あぁ…そだ、何となくで良いなら…あれの存在の答えっぽいのを感じたかも知れねぇ」

カライモン「ほぅ?…言ってみたまえ」


俺「そうだな…ちょっとした我侭を聞いてくれる気前の良いヤツ………そんな所かな」


カライモン「何だねそれは、全く以って答えになっていないでは無いか」

俺「しょーがねーだろ。そーとしか言いようが無ぇんだからよぉ」


そう言って俺は空を見上げ………



  その向こう側に、あいつら…もう一人の俺とハルの笑顔を見た気がした。



   魔法少女デュアルディメンションスレイヤー ―完―

大変長らくお待たせしました。
回を重ねる毎に、一章辺りの完結までの期間が長くなっている気がしないでも無い今日この頃…
魔法少女デュアルディメンションスレイヤーにお付き合い頂きありがとうございました。

早速ですが今回の総レス返しに入らせて頂きます。

>525 >551-552 >554 >556-557 >562 >564 >568 >575 >579 >582 >593 >606 乙ありです!
>526 直訳そのまんまの意味です!
>527 いえいえ、あくまで主人公の「俺」君の意見ですよ、ハイ(視線逸らし)
>529 こんな感じで、懐かれました
>530 何それ犯罪臭い
>531 >548 保守ありです!
>556 マイ先生の経歴増加はこれからだ!
>558-559 登場してないキャラは平等に消えました。あと、名前は呼ばれてませんが知事はマイです
>561 何それ卑猥!
>565 今回活躍した英司くんの事も忘れないであげて下さい!あと、ちゃんと男のまま一生を終えますよ!?
>566 パルプンテでもパルプテンクスでもありません。詳細は本編で!
>569-571 キノセイデスヨ、ハハハ
>573 続きは本文で!
>578 18禁でもチョイエロ作品でも無いので、残念ながらその辺りは無しです。
>580 ちょっと惜しい
>584-585 ハルでした。あと面倒とか言わないであげて下さい!
>586 更新が遅くなってしまい申し訳ありませんでしたorz
>604-605 皆に理解される主人公(変態)です。マイの愛に関しては……請うご期待?
>613-614 何そのモンスター娘のいる日常(原作)みたいな主人公。歯ブラシの件はもうちょっとだけ先のお話で…
>618 正体を知ってしまったがために、彼はお亡くなりに…
>619 狭くなる部屋的なあれです
>620 ありがとうございます!こんな所にレアなディーティー派が!?
   新作と言うかオリジナル作品ですが…今の所どこからもお声がかかりません!
>621-622 >634 本当もう、大変お待たせしましたorz
>634 この場合「切り裂くまでには至らない」と認識してしまったため、不発に終わってしまいました。


前回に引き続き、大筋が出来上がり次第(あと、爆散が落ち着き次第)続きを書き込んで行きたいと思います。

次回の部で最後になりますが、魔法少女ダークストーカー第三部にご期待下さい!

●あらすじ

光の核と闇の核…

不可解にして未知のその存在の下、数奇な運命に導かれた…彼と魔法少女達。


異世界より訪れた者………獣人

光の核と闇の核より生まれ出でた怪物………ダークチェイサー…ライトブリンガー

世界と同化し、一つになった獣人………スピリット

人の手により創られ、世界その物を呪った亡霊………根幹を食らう竜

虚構の世界より生まれ、虚構と現実の世界を渡る放浪者………狭間に巣食う蜘蛛


十二大祭で刃を交えた………12の派閥の強敵達


幾多の困難を乗り越え、その度に新たな絆を紡いで来た彼等…

そんな彼等も、休息の中に身を置いていた。


―――災厄の日【バースデー】―――

彼等にとって最後の戦いとなる、その日までの…束の間の休息の中に

《魔法少女独断独奏》

●ふりむき

さて…どこから振り返るべきだろうか


総理を辞任した辺りか、クリエイターを休業した辺りからか…

十二大祭で大敗を喫した辺りからか


いや、私が魔法少女になった直後辺りが無難な所だろう。


人間と言う生き物は、得てして力を手に入れた時その力に慢心する物である

だが私に至っては、幸運にもその範疇から外れる事が出来たらしい。


ではその幸運とは何か…

他でも無い、自分以上の強者の存在を知る事が出来た事だ。


光の恩恵派に攫われたハル君…その救出の際の事。

当時の隣の市…現時点での当市の同名区で探知した、圧倒的存在。

…後に十二大祭で文字通り刃を交える事となった、彼等の存在を知っていたからこそ…

切磋琢磨し、己の力を高め…今の今までこの命を繋ぎ止める事が出来たのだと断言できる。


そして…彼等との邂逅が齎した物はそれだけでは無い。


今まで知る事も無かった…私達が扱うそれとは、大きく異なった大系を持つ魔法…

魔法とは根本的に異なる力により形成される異能の数々…


私の慢心どころか、常識すら打ち壊したそれらの存在は

私と言う名の殻を破り、新たな視点と世界を作り上げた………のだが


同時に、新たな疑問と悩みを齎した。


………ここからが本題である。

ベリル「始めまして…私、悪魔公爵のベリルと申します。この度はお招きに預かりありがとうございます」

私「いや、私の方こそ急に呼び出してしまって―――」

ベリル「因みに私が好きな物は、黄金。貴金属の黄金を始め、金髪金眼や金色の動物…他にも黄金の彫像の、中でも造形の繊細な物が―――」


ゴシックドレスに身を包んだ淑女…私が異世界より呼び出した悪魔。名前はベリル…ベリル・ヒューペリオン

黄金好きな事は聞いていて判るが…その趣向を語らせると終わりが無さそうなので、一旦ここで区切らせて貰う。


私「ベリル君…キミに幾つか質問させて貰いたい」

ベリル「対価を頂けるのでしたら、幾らでも構いませんわよ」


私「ではまず…キミを召還する際にその存在を確認した異世界。DT君達の世界とも異なる異世界の事なのだが…」

ベリル「何でしょう?」


私「ああ言った世界…異世界、並列世界は幾つも存在しているのだろうか?」

ベリル「勿論存在して居ますわ。それこそ数え切れない程の数の異世界が」


私「そしてそれらは、当然ながら虚構では無く現実の世界…質量を持った世界。間違って居るかね?」

ベリル「間違って居ませんわ。ただ…虚構でありながらも質量を有した世界、あるいはそれと同意義の世界も御座いますわね」


私「ではやはり…この世界が数多の並列世界の大本である等と考えるのは…」

ベリル「ご冗談でしょう?」

私「………だろうね」

私「では次に…私達の扱う魔法と君達の扱う魔法、その差異について聞かせて貰いたい」

ベリル「それはまた、魔法を定義する上での線引きにもよりますわね」

私「線引き…かね?具体例を頼みたい」


ベリル「例えば貴女の用いる魔法…あれは科学に基いた理論に、魔力となる力を当て嵌める事で発動しているのでしょう?」

私「その口ぶりから察するに…異なる理論どころか、異なる魔力すら存在しているようだね」

ベリル「それどころか、理論を用いる事無く魔法を使う方々もご存知でしょう?」

私「薄々感付いてはいたが、やはりそう言う事だったか…」


ベリル「他にも…それを魔法だと自覚する事無く世界を改変する方や、魔力を用いる事無く事象を発生させる方…」

私「魔力を用いずとも、それは魔法と呼べるのかね?」

ベリル「ですから線引き次第なのですわ。線引き次第では貴女のそれは魔法でも魔術でも無く、科学と定義する事が出来るでしょう?」


私「確かに…ふむ、自己理論だけではやはり限界の幅が狭いな。では魔力を用いる物に限定してくれ給え」


ベリル「それでは魔力を用いた魔法に関して。まず…魔力と呼ばれる物にしても、当然数多の種類が御座いますの」

私「これまた無知を痛感するのは遺憾だが…聞かぬ一生の恥を晒すよりはマシか」

私は独り愚痴るように呟いた


ベリル「まず、貴女方の用いる魔力…この世界に存在する、魔力と呼ばれる物。この世界で最も一般的な故の名称ですわね」

私「一般的で無い物も…あるようだね」

ベリル「勿論御座いますわ。思考ロジックを変換した力に、何も無い存在の裏側への干渉を行う力…単純な活動エネルギー…これらも魔力ですもの」


私「キミが用いる物はどれにあたるのだね?」

ベリル「企業秘密ですわ」

●もんだい

私「そう言えば…十二大祭で、朱桜と輪…二人の少女…いや、特異な存在に出会ったのだが…」

ベリル「そのお二人ですのね…」

私「さすがのキミでも、あの二人の事はおいそれと語る事が出来ないのかね?」

ベリル「………いえ。ただ…そのお二人の事に関しましては、私よりもリーゼさんの方がご存知でしょうから、其方にお伺いした方が宜しいかと」


私「…と言っているのだが…キミの話を聞くのにも、何か対価が必要かね?」


リーゼ「対価はもう貰っている…」

私の問いに答えた少女…先程から黙々とケーキを口にしている少女の名前はリーゼ…リーゼ・ミュレイヒ

十二大祭で竜の派閥に所属して居た、規格外の魔術師…リューゼ・ミュレイヒの妹だ


リーゼ「まず輪………特異性を感じたのは多分、魔法では無く特殊能力」

私「本人は魔法と言って居たのだが…ブラフと言う事かね?」

リーゼ「魔法を使っているのは確か…でも輪の能力は、魔法の仕組みその物を…自分の思い込んだ物に変えてしまう物だから…」


私「そう言う事か…魔法に法則性も理論性も無かったのはそのため…」

リーゼ「しかも…相手の使う魔法に類似性を見出した場合は、その相手の魔法の仕組みまで侵食してしまう」


私「………」

リーゼ「………」


私「出鱈目だね」

リーゼ「そう…だから注意して欲しい」


私「では、次は朱桜と言う少女の事について教えて貰いたいのだが…」

リーゼ「朱桜は………一言で言うと、そう…逆らわない方が良い存在」


私「………」

リーゼ「………」


私「その理由は?」

リーゼ「朱桜は…情報と言う分野で規格外の能力を有している。言い方を変えれば…情報を支配しているとも言える」

私「キミが定義する情報の範囲は?個人情報程度なのか、それとも…」


リーゼ「ほぼ全部…並列存在を含めたほぼ全ての三次元に存在する情報の収集が出来る」

私「馬鹿な!?個体で全ての情報を処理しようとしたら、自己演算でパラドクスが…」

リーゼ「だから朱桜は複数…並列世界に存在して、群で情報を処理している」


私「数多の世界を記録する大樹…そうか、光の核が言って居たのは、彼女の事か」

リーゼ「そうも呼ばれている」



ベリル「そう言えば…一緒にいらしたユーキさんとリューゼさんの事に関しては、お聞きになりませんの?」

私「あの二人に関しては察しが付く…と言うか、知った所でどうしようも無い類の能力だろう?」

ベリル「あらあら、ご存知でしたのね」


私「リューゼと言う男は…リーゼ君と同じく、桁違いの魔術知識と魔力許容量の持ち主…」

ベリル「では、ユーキさんの方は?」

私「魔法による強化では無く、単純に出力が規格外なのだろう。物理法則を軽く超越していた所は、ある意味魔法とも言えなくは無いがな」

●かくしん

私「さて…では最後の質問だ。君達は、DT君達のような獣人と呼ばれる存在…すぐ隣の異世界に住む彼女等の事を知って居るかね?」

ベリル「存じておりますわ」

リーゼ「………一応、知っている」


私「では、彼女達の事をどこまで把握しているのだね?彼女達が如何にしてあの世界に生まれたのか…あるいは…」

リーゼ「…それは言えない」

私「何故言えないのだね?」


ベリル「新しく作られた『ルール』で、核心に迫る干渉は禁じられて居ますの」

私「成る程…つまり、その答えが何かしら核心となっていると言う訳か」

私の問いに対し、ベリルは意味深な微笑みを浮かべて返す。


私「………もし、君達がその『ルール』を破って私に真実を告げた場合。君達はどんな罰則を受けるのだね?」


ベリル「別に何も御座いませんわ。私達…には」

私「………には?」

リーゼ「この場合…私達が干渉する事が…舞達にとって……良く無い事だと言う事」


私「…脅迫じみた事を言ってくれるね」

リーゼ「ただ…私達がそれを言う事は出来ないけど……舞がその核心に迫るのは自由。だから…その道を進むべき」

私「………」


リーゼ「あと…核心まで聞く事は出来ないと思うけど…後は、『ルール』を作った朱桜本人に聞いてみると良い」

私「それで、その朱桜君は一体どこに?」


リーゼ「…16号室」

私「どこのだね?」

リーゼ「舞が良く知っている所」


私「………あのアパートか」


頭を抱える私を他所に、示し合わせたように同時に立ち上がるリーゼとベリル。

そしてベリルから私に、一枚の紙が手渡された。

私「………実家で埃を被っている黄金の獅子像や、金細工付きの刀はまだ判るが………日本円でも良いのかね?」

ベリル「最終的に黄金に代わる物でしたら、ドルでも構いませんわよ?それとも…命を対価にした方が宜しかったかしら?」

私「いや、金銭で済むならそれに越した事は無い。しかし…」


手渡された紙は請求書…言わば今回の情報への対価と言う訳だが………

拍子抜け…いや、ある意味驚愕したと言わざるを得ない。

彼女…ベリルの言う通り、命の一つや二つ差し出す覚悟で居たのだが…実際の所は


報酬として至極まっとうな、金銭や貴金属による支払いを要求されてしまった。相手が悪魔であるにも関わらず…だ


私「………よくこの世界の…それも日本に口座なんて作れた物だね」

ベリル「色々と融通を利かせて貰いましたの。貴女もその辺りの事はご存知では?」


ご存知…と言うよりは、その融通を得るために色々と策略を重ねて権力を手にして来た身。

ベリルはその事を言っているのだろうが、あえて話題を切り上げる事にした。


ベリル「それでは…本日はこれにて失礼致しますわね。またこのような機会がありましたら、お招きに預かっても?」

私「こちらとしてもそうしたいのは山々なのだが…今回の召喚は偶然のような物。どうすればキミをまた呼び出せるのだね?」

ベリル「でしたら、召喚用の魔方陣をお渡しして置きますわね。これに魔力を通して頂ければ馳せ参じますわ」


私「魔方陣か…こう言う所は確りと悪魔らしいのだね」

ベリル「褒め言葉と受け取らせて頂きますわね」

そう言い残し…足元から現われた黒い茨に包まれ、ベリルは姿を消した。


そしてベリルが去った後…私はリーゼに視線を向ける。

私「キミもそろそろ時間かね?」

リーゼ「そう…今日はご馳走様」


私「私の方こそ、有意義な話を聞けて助かったよ。また次の機会にも来て欲しい」

リーゼ「そうする……また近い内に来る事になると思うから」

私「それは…予想では無く予言かね?」


リーゼ「現時点では予想。だけど…舞はきっとこれからも、私達と関わる事になる筈」

私「その私達と言うのは………ベリル君だけで無く―――」


私は一旦俯いて考え、その言葉を向ける。

だがリーゼからの返答は無く…その姿はいつの間にか消え去っていた。


私「やれやれ…皆、揃いも揃って出入り口の存在意義を否定するのが趣味のようだ」

私「しかし…長きに渡る牛の派閥の時代を終え、新たに訪れる竜の派閥の時代か…一体この世界はどう変わって行くのやら…」


私は独りぼやくが…その問いに答える者は居なかった。

●ふりむき

フミ「あら…皆様、もうお帰りになられたんですか?」

カップケーキの乗ったトレイを持って、廊下の角から現われたのは…フミ君。フルネームは西条 文

根幹を食らう竜の中に存在していた、旧日本軍蒼竜隊の元一員で…今では私の身の回りの世話をしてくれている人物だ。


因みに…フミ君以外にも、蒼竜隊の元一員が何人か私の周辺で働いてくれているのだが…

全員を紹介していると長くなってしまうので、今は割愛させて貰う。


私「あぁ…なので、このカップケーキは私の夕食にさせて貰う」

フミ「いけません。食事は食事でしっかりとバランス良く取って頂かないと、体調を崩しますよ」

私「バランス…か」

フミ「どうかしましたか?」


私「いや、キミも大分現代に慣れた物だな…と思っただけだ。ハイカラなカタカナ言葉なんて以前は使って居なかったものな」

フミ「お陰様で…今の日本にも大分慣れさせて頂きました。マイさんが居なければ、私達がこうして居る事なんて出来ませんでした」

私「止してくれ給え。そう言う意味で言ったのでは無い」


フミ「それでも…こういう機会でも無ければ、感謝の気持ちを言葉に出来ませんかので」

私「そもそも…君達をこうして現代に蘇らせる事が出来たのだって、偶然のような物なのだからね?」

フミ「その偶然の原因にしても、私達との約束が元なのでしょう?」


私「………あぁ言えばこう言う」

フミ「きっとマイさんに似たのでしょうね。以前仰っていた…そう、環境へ適応した結果です」

私「そう言えばそんな事を言ったような気がするね。あぁ、そうだ…物のついでなのだが、あの時のあれは何事も無いかね?」


フミ「はい。依然変わり無く…今はヤエさんが見周りをしていると思います」

私「ふむ………」

フミ「様子を見に行かれるのですか?」


私「あぁ、もしかしたらまたあれの出番が来るかも知れないのでね」

フミ「では、ヤエさんに伝えておきますね」

私「頼んだよ」


そう言って私は先に進み、すれ違い様にカップケーキを二個程拝借。

はしたない…と、フミ君から説教をくらう前に退散して、次の部屋に向かう。


●とりかご

第三研究室…幾重にも重なった厳重なセキュリティの奥

今はただの赤褐色の塊となっているそれを、私は見下ろしていた。


私「………………」


祖父の研究の一つ………根幹を食らう竜に連なる研究の過程で生まれたそれ

…と言うと他人行儀に聞こえるが

ぶっちゃけ、私の身体の一つだ。


予想外の出来事や事故に見舞われた、実験と経過観察の日々…

根幹を食らう竜の力を得るために奮闘していた、あの頃を思い出す。


そうだな…次はこの件を振り返ってみるとしよう。

●かこから

根幹を食らう竜………その名の通り、集団深層意識へ直接干渉して対象の存在その物を食らう力を持った竜。

主たるその能力の他にも…位相次元間の航行や獣人由来の記憶情報保管等……幾つかの能力を持っている事が確認されている。

ただ…因果予測はスピリットの特性らしく、物のついでで得る事は叶わないらしい。


さて…力を得ると一言で言っては見たものの、それを実現するのは容易い事では無い。

幾つかの手順は省くとして……解析…予測…実験。大まかに分けてこの三つは必須となる。


…では、それらの実行に入ろう。


………まずは解析


根幹を食らう竜は、スピリット同様に物質として存在しては居ない。

我々の居る三次元に於いては、物質と同質の力場をエミュレートして存在していた…いわゆる情報存在だ。

先の戦いにおいて、物理攻撃の効果が薄く決定打となり得なかったのはこれが原因らしい。


となると…力を取り込むために必要な物は、肉体では無く力場を形成するための媒体…

精神構造…あるいはそれよりも確実性の高い物。


魔力………その結論に至る。



………次に予測


根幹を食らう竜…その存在を取り込んだ際に、私の身に起こるであろう事はある程度予測出来た。

根幹を食らう竜の力を受け入れ切れず、心身のどちらか…あるいはその双方が崩壊してしまう可能性…

力その物、あるいは意思に取り込まれて暴走してしまう可能性…

集団深層意識に干渉する際、その奔流に取り込まれてしまう可能性…

その他諸々の事態を想定した上で、次の段階に移る。



………最後に実験


先に述べた通り…根幹を食らう竜の魔力構造を私に移植する事で、実験と経過観察を開始する。

移植は難無く成功…予想されていた事態への対策も恙無く効果を表わし、出だしは快調…

だが、実験とは須くして予想外の事態が付き纏う物で……多分に漏れる事無く、今回の実験においてもそれは訪れた。

実験開始から三日目……体表の一部に、黒色に変色した箇所が現れる。

科学的な成分分析を行ったが、壊疽とはまた異なった変色で…当然ながらメラニン色素の沈着とも異なる物だ。

精神的な変質を主として想定しただけに、肉体的な変質が起きた事への驚きは大きい。


四日目……変色の範囲が広がり、皮膚の一部が角質化のような現象を起こす。

同時に…こめかみと肩甲骨付近、尾てい骨付近に違和感を感じるようになる。


五日目……皮膚の約九割が変色し、角質化が進行。角質の一部が瘡蓋のような物を形成し始める。

成分分析を試みるが、これも変色と同様に解析不可能…予想外の事態が着々と進行しているらしい。


七日目……身体全体の皮膚が黒色に変わり、瘡蓋の大きさが親指大まで膨れ上がる。

角質化から始まったそれは、現状では僅かに透明みを帯び…赤褐色の宝石のような外観を形成している。

これらの外見的特徴から見ても、私の身体が根幹を食らう竜と同質の物に変化しつつある事が判るのだが…

同時にそれが示唆する物…更なる進展の可能性を知る事となった。


八日目……問題を確認すべく幾つかの手段を試みて…その一つが的中。

手段は至って単純で、例の塊…その中の額の塊に魔力を通すだけ、と言う単純な物なのだが……これが予想外の成果をもたらした。


私「何かが見える………これは…根幹を食らう竜の記憶か?いや…そうなる以前の物もあるのか?」

まるでその塊が目であり耳であるかのように感覚を伝え、私の脳内に直接投影される竜の記憶。

あちらの世界からこちらの世界に漂流し、蒼竜隊と共に生き…根幹を食らう竜になり…そして、私達に倒されるまでの……


そう…今はもう存在して居ない筈の、竜の記憶。


私「ありえない…これはありえない事だ」

竜の魔力構造は解析済みで、それは移植した…だが、記憶までは移植して居ない。

ではこの記憶は一体どこから来た?

とりあえず…糸口を探すためにも、今までの経過と憶測をまとめてみよう。


竜の力を得るために移植した魔力構造…この影響により魔力が肉体に作用し、根幹を食らう竜のそれへと変質…それはまだ判る。

だが、この魔力構造自体は言わば設計図のような物で…後々刻まれた筈の記憶が蘇る理由にはなりえない。

幾つかの可能性は考えられないでも無い…が、それを証明する要素も皆無。

回答を得る事が出来ないまま、疑問だけが駆け巡る中…それは訪れた。


エディー「マイ様…お身体の調子は如何でしょうか?」

私の安否を気遣い、見舞いに訪れたエディー。

実験中は何が起こるか判らない以上、近付かないように言っておいたのだが…どうやら、いつものお節介が先に出たらしい。

エディーは持参したタオルを片手に近付き…いつの間にか溢れ出ていた、私の汗を拭い始めるのだが…


気を利かせた上でのその行動が、仇となった。

小さな手で器用にタオルを折り畳み、乾いた面で再び汗を拭き始め…

と…そこまでは別に問題無かった。

だが………その小さな手がタオルから滑り、赤褐色の塊に触れてしまった瞬間……状況が激変した。


エディー「―――っ!?」

私「なっ―――」


突然襲いかかる衝撃…

その衝撃と共に私の身体の流れ込む魔力。そして………エディーの記憶。


以前…魔法少女になる契約の際にテレパシーの中で見たそれとは、根本的に違う質と量の…情報の奔流

それを受け入れ、私の意識が現実に引き戻される…と同時に

………一連の出来事から推測できる…嫌な予感が頭の中を過ぎって行く。


そして………その予感が的中した事を悟ったのは、次の瞬間。

エディーの姿を確かめるべく、視線を下ろした時だった。


私「エディー!!」

床に落ち、微動だにしないエディー…

私は声を荒げて叫ぶが、当然のようにエディーはそれに応えない。


間違い無い…根幹を食らう竜の力だ。

肉体こそ、こうして辛うじて残っているが……その記憶と魔力は私の中に在る


…いや、私がそれを食らってしまったと言うべきだろう。

●かいせき

エディーを病室に移し…必要な処置を施してから、私は実験室に戻った。


私と言う存在が、まだ完全に竜に変質して居なかった…それが幸いしてか、エディーの身体は無事で済んだ。

元々契約者だった事も幸いし、記憶や魔力の方も滞り無く復旧する事が出来はしたが………

パートナーであるエディーに被害を被らせてしまった以上、この実験は凍結せざるを得ない。


ただ………一口に凍結と言ってもその準備にも時間がかかる。

準備が終わるまでの少しの間…私は、改めて今までの経緯を振り返る事にした。


赤褐色の塊……まず間違い無く、エディーから記憶と魔力を奪った元凶で…根幹を食らう竜の力その物。

奪った記憶や魔力はこの塊の中に保存され……私達が戦った竜と同じ構造で、各々の魔力と人格を保持する物と推測できる。

と………ここまで考察した所で、ある事に気付く。


私「人格…言うなれば個性。そしてそれを一つの大本に保存している…と言う訳だよな」

更にその個性を分化し、フミ君のように個体の中に乗せる…と言う手順は、本来の運用とは異なる筈。

……にも関わらず、何故かその仕組みに対して強烈な既視感を覚えずには居られない。


私「魔法少女と獣人の契約…いや、それよりも…そうか……これはダークチェイサーの仕組みに酷似しているのか」


と、その仕組みの正体を突き止めるに至るのだが…両手離しで喜ぶ気分にはなれない。

またも謎を解いた事で現れた新たな謎………この二つの類似性の理由を解明しない限り回答に辿り付けない事を、直感的に理解した。


私「双方は共に闇の核由来…いや、光と闇の核、両方に由来している。それが理由なのか?」

その可能性は充分にある

スピリットと言う、ある側面では光と闇を凌駕する存在…その力の干渉により別たれた種別という可能性は存在する。

だが……だとしたら、それはそれでまた不可解な部分が浮き彫りになって来る。


私「では……そもそも光と闇の核とは一体何者なのだろうか?」

存在を確立し、誕生するまでの経緯も去る事ながら…観察出来る範囲内の、主たる特性を上げても不可解な部分が多過ぎる。

そう、例えば………まずその力関係だ。


秩序・節制・不変等を司る光と、混沌・例外・変質等を司る闇………

一見すれば、拮抗する力を持った相反する二つの存在に見えるそれ……だが、その実の所は大きく異なる。

一部の例外を除けばの話だが…光の力及び光の眷属の持つ力は、闇の力及び闇の眷属に対して圧倒的な優位性を持っているのだ。


これが光の核の一神教であるのならば、何も違和感は抱かない…闇の核が引き立て役になる事で話がまとまる筈。

にも関わらず…あちらの世界では、明確な格差が存在する二つの存在が同格として信仰されている。

明らかにおかしい…では、何故そんな事が現実に起こっているのか?それを考えていると……私の中で、不意に一つの可能性が力を持った。


私「そうか…そもそもあの二つが、二つで一組の存在…そう考えて居たのが間違いだったのか」

確信にも似た予想へと変わる、その可能性。確証は無い…にも関わらず、私の中ではその可能性を前提に理論が組み上がって行った。

棚からぼた餅…いや、ひょうたんから駒と言うべきか。思わぬ所から得た、祖父の研究に対する回答。

スピリットと契約した際に知った、災厄の日………バースデーの片鱗を垣間見た気がした。


……と、一区切り付けた所で、また根幹を食らう竜の力に話を戻す。


全容を見据え…異なる視点を持つ事で、新たに見る事ができるようになった別の側面。

その側面に触れるべく…まずは、以前DNA採取キットで採取した彼のDANサンプルを取り出す。

続けて、診察の際に採血したハル君の血液。レミくんの物はハル君と同じなので、今回は必要無い。


さて…再び準備が整った所で説明しよう。


概要はこうだ。

私は…魔力構造にこそ根幹を食らう竜の力が存在すると仮説を立て、その仮説を実証した。

だが…それではまだ不完全だった。

この方法では、力を得ても制御するには至らない。力の制御に必要な物…それは、無関係と思い込んでいた肉体側にあったのだ。

相変わらず確証は無い、が…充分な可能性が私を突き動かす。


実験開始…そして終了。結果を言うと、呆気無い程に滞り無く成功。

一応言っておくが…ダークチェイサー及び光と闇の核に適合している彼のDNA自体は、何の変哲も無い普通の人間の物だ。

特に何かしらの能力の兆候がある訳でも、疾患がある訳でも無く…当然、特殊な血筋と言う訳でもない。

故に………この上無い説得力を以って、私の仮説を後押ししてくれた。


私「やはり…条件と結果が逆なのだね。前提条件ありきで結果が伴うのでは無く、結果が条件に追随していると見て間違い無い」

仕組みさえ判れば、後は至って簡単な手順のみ。

根幹を食らう竜に適合しうるの遺伝子…その中の適合の鍵となるマーカーを抽出して、該当部分に移植する…これで適合可能。


と言っても…不適合のまま変質してしまった今のこの身体に、新たな因子を組み込むのは得策では無い。

この個体は当初の予定通りに凍結を行い、新たに用意した個体に適用するのが無難な所だろう。


とりあえずだが………以上をもって、根幹を食らう竜の力の獲得は完了。

祖父の遺した研究課題も一歩前進…これに伴って、狭間に巣食う蜘蛛を撃退するための手段も得た。

後は…災厄の日への対策だが、こちらはこの先の情報収集次第と言った所だろう。


事を終え…改めて過ごす、凍結準備完了までの残りの時間。まだ僅かに残った猶予の中で、私はふと思い付く。

根幹を食らう竜の記憶を、赤褐色の塊から入手する事が出来た…

それはつまり、あの塊が記憶媒体の役目を果たしていると言う事……と言う事は、だ…

●げんざい

ヤエ「あんの…どうしただぁ……いんや、ですか?」


私「あぁ、すまないヤエ君…居たのだね」

ヤエ「いんえ、今来た所です。そんで、ボーっとして、どうかしたですか?」

私「昔の事を少し思い出して居て…ね。ほら、丁度君達を現代に蘇らせた時の事だ」


ヤエ「あーぁ…あん時の。確かあん時はぁ……」

私「摘出した塊に、君達…蒼竜隊の記憶と魔力構造を転写。その上で新たに生成した各々の身体に移植したんだったね」

ヤエ「そんでしたぁなぁ、あん時はえんらいびっくりしましたわぁ。いえねぇ、あんだしとしてはぁ、舞さんの中に居る方のが落ち着けたんですけどね」


私「おいおい、私の容量にも限界があるのだから勘弁してくれ給えよ」

ヤエ「んですよねぇ…あ、そうそう。キヨちゃんとぉチヅちゃんはぁ、どですかぁ?」


私「彼女達はまだ少々危険な…じゃじゃ馬だからね。もう暫く出番は無さそうだ」

ヤエ「んですかぁ……あの子達もぉ、今の世の中ぁ知ったら丸くなりそうな物ですけどねぇ」

私「そうだね…魔力構造を除外した上で、人格だけを転写する事が出来れば……うん、試してみる価値はあるかも知れない」


ヤエ「よんろしくお願いします」

私「あぁ…では、今日の所はこれで失礼するよ」

ヤエ君にそう告げて…私は第三研究室を後にする。


思えば今回の研究は、独断で独走…いや、独奏した部分があまりにも多すぎて……結果的にエディーを巻き込む事になってしまった。

私「そうか…多分私に欠如しているのは、そう言った他者への配慮や共感なのかも知れないな」


得る物は大きかったが、それ以上に反省する物が大きかった。

それを次回までの課題とする事を肝に銘じ…今回の締め括りとする事にした。

○さいはて

私「私は…誰?カライモン…私……名前?」

眠っていた…ポッド……プレート…書かれた文字…見て、私の名前……理解する。


エディー『左様に御座います。貴方の名はカライモン……この終焉を向かえた世界で、観測者としての命を受けた存在です』

私「頭の中、声………誰?」

エディー『私めの名はエディー…この度は貴方の教育係を仰せ付かった者です』


私「教育係…?」

エディー『はい。初期化を終えた貴方は、魔法はおろか御自身の記憶さえ覚束ないのでは無いかと心配されておりましたので…』

私「初期化?魔法?」

知らない単語…ばかり。


エディー『しかし…そのご様子を伺った限りでは、会話すら儘ならないようですし……そうで御座いますね。まずは言葉からお教えしましょうか』

●しんそう

彼「んで、今日は一体どうした?」

予め召集をかけ、彼のアパートに集まった各々の面子…所狭しと並んで座る彼女達の顔を見渡して、彼がぼやくように呟く。


私「本日…皆に集まって貰ったのは他でも無い。近日中に訪れるであろう、災厄の日に関する説明と対策を行うためだ」

彼「マジか!何か判ったのか!?」

私「あぁ…一から十までとは行かないが、昨日スピリットとして復帰した神風君の協力で、一から三くらいまでの概要を把握出来た」


彼「四から十までは不明のままか…」

私「キミの中の光と闇の核がもう少し協力的ならば、大幅な進展を見込めるのだろうが…」

彼「そっちの方は相変わらずだんまりだ。災厄の日の事は全く口を割ろうとしねぇ」

私「…だろうね」


彼「どうせまた、主観がどうだの可能性が確定して居ないだのって理由なんだろうが―――」

私「いや…今回に関しては一概にそうとも言い切れない」

彼「…………どー言う事だ?」


私「これは根拠の無い憶測でしか無いのだが…」

彼「お前にしては珍しいな」

私「茶々を入れないでくれ給え。ともかく…私はどうもその辺りが腑に落ちないのだよ」


レミ「何で腑に落ちないの?」

私「光と闇の核は、彼と同化する際に彼に主観を…言わば、決定権を託した。だが考えてもみてくれ給え」

ハル「決定権を託した…その託したと言う行為その物が、光と闇の核の意思では無いか…そう言いたいんですか?」

私「その通りだ。そして…知っての通り、光と闇の核にも人格に相当する物が存在している。故に…」


彼「おいおい……まさかこいつらが災厄の日の事をわざと隠してる、とか言い出すんじゃ無いだろうな?」

私「欺こうとしているとまでは言わないが…言わない、あるいは言えない理由があるのでは無いかと…私は考えている」


彼「神風…その辺りの事、お前のスピリットの力で何とか判らねぇか?」

神風「該当する箇所の記録が抹消されているため、読み取る事ができません」

彼「…は?」


私「大方、神風君がスピリットの力を失っている間にでも消去したのだろう」

ユズ「え?大事な事なんッスよね?消しちゃって大丈夫なんッスか!?」

私「スピリットに感知される事の無い世界…Ifの並列世界にでも退避させたのでは無いかね?多分、必要になった時には帰還するような仕掛けも込みで…」

ハル「そこまでして隠し通したい内容…それが災厄の日の真実と言う事ですか」


光と闇の核に対しての不信と疑惑…この場に居る皆の中でそれらが深まって行くのが判る。

だが……

彼「そっか…こいつ等はこいつ等で、大変な事情を抱え込んでんだな」

彼の一言により、それらが大きく希釈される。


ハル「……え?」

ディーティー「いや、何でそう言う結論になるんだい?光と闇の核が僕達を裏切っているかも知れないんだよ?」

彼「いや、お前がそれを言うなよ!」

恐らくはこの場に居る全員が思って口に出さなかったであろう事を、彼が突っ込んだ。


彼「裏切ってるかも知れないって事は、その反対に裏切ってない可能性もあるんだろ?」

ディーティー「そりゃまぁ、理屈ではそうだけど…」


彼「だったら俺は、こいつ等が裏切って無い可能性の方を信じるぜ」

ディーティー「どれだけ楽観視するつもりなんだよ、キミは…」


彼「楽観視ってか、経験則だな。何だかんだこいつらは、事在る毎に俺達に力を貸して来てくれた……良い奴等だ。だから俺は、信じたい」

私「予想通りと言えば予想通りだが…こうなってしまっては、彼は梃子でも動かない。この件は保留して、次に進ませて貰おうか」

DT「次…って言うと?」


私「災厄の日に備える上で、避けては通れないであろう考察……君達獣人の起源に関してだ」

エディー「私めどもの…」

DT「……起源だって?」


ユズ「でも、それが避けて通れないって…どう言う事ッスか?」

ハル「無関係と言う訳では無い…むしろ、重大な関連性を持っていると言う事ですよね?」


私「その通り。前々から獣人の存在に関しては、疑問を持って居たが…それに対して限り無く核心に近いであろう仮説を、立てる事が出来たからね」

私「まず簡単に言うと…君達獣人は、言わば外来種だ」

彼「…何を今更言ってるんだ?あっちの世界から来た存在だってのは判ってるだろ」

私「そうでは無い…あちらの世界から見ても、獣人という存在は外部から訪れた者…外来種なのだよ」

彼「………は?」


私「獣人達の祖先があちらの世界に現れたのは、恐らく現在の人類が人類としての進化を遂げる前…」

ユズ「人類が誕生するよりも前に、あの姿を持ってたって事は…あ、ひょっとして、人類進化の謎がそこにあるって事ッスか!?」

私「いや…獣人の干渉を受けて居ない筈のこちらの世界との差異を考えると、その可能性は極めて低い」


レミ「あれ?でもそうなると。無関係の筈の、獣人の人型形態と…人間が、偶然同じような姿をしてるって事になるわよね?」

私「うむ、良い所に気が付いたね。ついでに言うと…人間の姿だけでは無く、動物の姿に関してもこれに当て嵌まる」

彼「いやいや…動物つっても、コイツらのはぬいぐるみみたいなマスコットだろ?」


神風「………」

彼「あ………いや、そうでも無いのか?」


私「獣人達は普段、魔力やカロリーの消費を抑えるためにあの形態を取っているが…それを度外視するならば同様の形態を取れるのだよ」

神風「そう…スピリットに限ってはそれを制限する必要が無いので、常にあの形態を取っているだけです」


彼「成る程な。それはまぁ判ったが…んで、それがさっきの話とどう繋がるってんだ?」

私「では続けて…スピリットの存在に辿り着いた際に行った、獣人達の存在に関する考察を思い出してくれるかね?」


彼「獣人達の存在に関する考察ってーと…あれだよな?細胞分裂の上限が異常に多いのと…」

ハル「それに追随するかのような、特殊な繁殖方法を有している事」

レミ「あと、テレパシー。生き物だけじゃなくて、世界とも一つなれる…だっけ?」


私「その通り。そして…それらの要素を、獣人達が外来種であると言う前提で当て嵌めた場合…その目的の片鱗が見えて来ると思う」

彼「まず棲息地域の拡大…は違うな。繁殖能力が限定的過ぎるし、特定の環境にありつけたとしても…そこからの拡大が見込めない」

レミ「テレパシーにしたって…一方的に盗み見るんじゃ無いって事は、意思の疎通を図るための物よね?」

私「そう……以上の事から、侵略が目的では無い事は判った筈だ」


彼「となると、他に考えられる目的は…文化や技術、教義の布教とかか?実際、魔法だとか光と闇の核の信仰だのを伝えてる訳だし…」

私「その一面もあるだろう。だが…更にそれを行うに至った原因にこそ、真実が隠されている」

ユズ「あの…話の途中で申し訳無いんッスけど…ちょっと良いッスか?」


私「構わんよ」

ユズ「布教するだけなら別に、信仰の対象その物…光の神殿や闇の神殿なんかをわざわざ持って来る必要は無いッスよね?」

私「そう………正にそこだよ。門を繋げば良いだけの所を、わざわざ移住させた。皆もこの発言で大体の予想が出来た事だろう」


彼「信仰対象である光と闇の核が、あっちの世界に現れた理由…時期は確か、あっちとこっちの世界が生まれた時から居たんだよな?」

レミ「って事は…二つの世界を観測するため?でもそれなら、あっちの世界に来る必要が無いんだから」

ハル「観測は副次的な物でしか無くて…本当の理由は、元の場所に居られなくなったから…何かから逃げて来たから…ですか?」


私「その通り。彼等は、何かから逃げて来た…遭難者にして箱舟。そして、獣人の一人一人がその副次的な役割を担って居る…という仮説が成立するのだよ」


彼「いや………ってー事は、だ。あっちとこっちの世界より先に、良く似た生態系の世界があったって事だよな?」

私「うむ、それは大前提だ」

彼「んで、こいつ等…光と闇の核と獣人達は、その世界から逃げ出さなけりゃぁいけねぇ状態に陥った。つまり…」

私「正確には、あちらの世界に逃げ延びたのは光と闇の核のみで…先に言った通り、獣人達は後から発生した訳だが…まぁ、続けてくれ給え」

彼「これは、話の文脈から予想しただけなんだが………こいつらが逃げ出す事になった理由ってのが……」


私「そう……災厄の日。バースデーと呼ばれる物だ」

●そなえて

私「相変わらず…キミの中の光と闇の核はだんまりを決め込んで居るのかね?」

彼「あぁ…うんともすんとも言いやしねぇ」


DT「それにしても…もしマイの仮説が正しかった場合。災厄の日をこの世界に呼び込んだのは僕達…という可能性も出てくる訳だね」

私「可能性としては存在するが…肝心の相手の正体が判らない以上は、断言出来無い」

彼「結局の所…ある程度の予測が付いたってだけで、今の俺達に出来る事はまだ何も無ぇって事だからなぁ」


レミ「ねぇ…災厄の日って言うのを回避出来なかったら、アタシ達ってどうなっちゃうの?」

私「判らない…が、あまり良く無い事になると言うのだけは確かだろう」

ディーティー「大災害か…はたまた世界の滅亡か…何にせよ、光と闇の核が逃げ出す程の出来事なんだろう?」


ユズ「もしもの時に備えて…色々やっておかないと駄目ッスよね」

ディーティー「それまた縁起でもない事を…」

ユズ「ち、違うッスよ!?悔いを遺さないとかじゃなくて、事前準備の事ッスから!」


彼「まぁ……走馬灯って訳じゃ無いが、今まで色々あったよな。元を辿れば、神風が光と闇の核の一部を奪い去った所から始まって…」

神風「ケイエルが光の核の一部からライトブリンガーを、ディーティーが闇の核の一部からダークチェイサーを作り出し…」

ディーティー「それをボクが、証拠隠滅のために処分しようとした所で、こっちの世界に逃げ込んで…」


レミ「この子達…ダークチェイサーをアタシが助けて…」

ハル「勘違いから、彼を襲わせちゃって……それを私が助けに入って」

ディーティー「ま、助けに入ったのも計略の一部だったんだけどね」


彼「いや、だからお前は黙ってろ。色々台無しになる」

彼「ってーか…あん時は驚いたよな。手足が何本も生えた真っ黒な芋虫の怪物が、いきなり『こいつか』なんて言いながら襲い掛かって来たんだからなぁ」

レミ「………………え?」

彼「そー言やぁ、あの時のダークチェイサー…アイツは何て名前だったんだ?」


レミ「…………知らない」

彼「…は?」


レミ「手足が生えた真っ黒な芋虫?そんな形状の子、私は知らないわよ!?」

彼「は!?いや、だってお前が差し向けたんだろ?お前だって、以前そう言ってただろ!」

レミ「私が向かわせたのは卵型の子…ロストよ!?そもそも、あの子達は発声なんて出来ないもの!」


彼「………………いや…待ってくれ。俺はむしろそっちの方を知らないぞ!?」

レミ「………」


彼「だとすると…」


彼「あの時俺を襲撃した………アイツは…一体何者なんだ?」



   魔法少女独断独奏 ―完―

今回もお待たせしてしまいました。
クリスマスも近付いてリア充爆散を切に願いつつ、年末年始に頭を悩ませる今日この頃…
魔法少女独断独奏に、お付き合い頂きありがとう御座いました。

うっかり2日遅れになってしまいましたが、レス返しをさせて頂きます。

>644 前作のデュアルディメンションスレイヤーが第二部最終章、今回の独断独奏から第三部となります。
>645 悲しみも喜びもハルから奪う勢いで、ハルAに担って貰いました!
>647 まだまだ、緊迫して来るのはここからです。
>651 ベリルは悪魔、リーゼは竜人、マイは辛うじて人間です。何が普通で、何がそうでないかは…時代や世界の定義によるかと。
>656 >663 >664 >669 >678 乙ありです!
>657 そう言えば、あの作品も竜対牛説の作品でしたね。アニメ版しか見た事無いので、原作や竜の柩もいずれ読んでみたいと思います。
>675 誕生日の、バースデー(birthday)の方です。

余談ではありますが…某なろうで、ハルとのデートや主に描写の加筆修正を行ったリテイク版を掲載させて頂いています。
もし興味がありましたら、あちらもご覧下さい。

それでは、残り二章となりました本作。
魔法少女ダークストーカーに最後までお付き合い頂ければ幸いです!

保守しつつ生存報告。

すみません、ラスト2章の更新はもう少し先になりそうですorz

●ほしくず

輝く数多の星々と…有機物とも無機物とも取れない幾つもの白い塊……それが、解体された虚獣の欠片である事はすぐに判った。

そして…レミは、その中央に居た。


レミ「この子達…ね。銀河系ごと消滅させようとしてたから、仕方無く…こうするしか無かったの」


近い物は、手の届きそうな距離…遠い物は、恐らく何光年も離れた先まで……四散した虚獣の欠片を眺めながら、この状況に至った理由をレミの口から聞いた。

俺「あぁ…判ってる」


レミ「………ゴメンね」

俺「おいおい、謝んなよ。ってーか…この後どうするんだ?この虚獣は最後の抑止力だったんだろ?」

レミ「そうね…アタシとしても、この世界が無くなるのは嫌」

俺「………だよな、俺だって嫌だ。何だかんだで、俺はこの世界が好きだしな」


レミ「だから…終わらせよ?それが…アタシの最後の………」

俺「………」

レミ「………………」


俺「…そっか」

★魔法少女でも大事な人を誰も救えない★

●いとぐち

俺「そうだ…神風。神風なら、スピリットの力でその辺りの事が判るんじゃないか?」


ハル…レミ…カライモン…ユズ…ディーティー…紛らわしいが、アルファベットのDT…エディー…神風…アラク。

六畳しか無い俺に部屋に、所狭しと並んで座るその面々。

全員揃った上で…迫る災厄の日に対しての考察や対策を練って居たんだが……その中で議題に上がったのが、俺が最初に遭遇したダークチェイサーの正体について。

俺は、手っ取り早くそれを突き止めるため……神風に真偽を問う事にした。


神風は…スピリットと言う名の…こちらの世界とあちらの世界の全てを知る存在。どちらに転んでも、真実を知る事が出来る筈…そう考えて聞いたのだが…

神風「……困りました。私の把握している領域では、そんな事象が発生した筈が無いのですが…」

どうにも…話の雲行きが怪しくなって来てしまったようだ。


カライモン「となると…彼の記憶違いと言う可能性が濃厚かね?卵と手の生えた芋虫を見間違えると言うのは、大分厳しいが…可能性が無い訳では無いしな」

ハル「あの…その事なら私も。私が見た姿も彼と同じでした」

ディーティー「…遺憾だけど、ボクも同じく。その場に立ち会った本人が行ってるんだから、これ以上疑ってもしょうがないんじゃないかな?」


カライモン「ふむ…」

俺達の証言を聞き、黙り込むカライモン。

そして…暫く考え込んだ後。何かの答えに行き着いたらしく、再び口を開いた。

カライモン「神風君の…世界視点で見て、事実が無いのならば…彼等の勘違い……あるいは、記憶を改竄されたと見るべきなのだろうが…」

神風「念のために言っておきますが…現時点では、彼等が記憶を改竄された形跡もありません」


俺「………ん?…いや、それっておかしくないか?」


カライモン「…そうだね。となると……これは予想以上に厄介な状況だな」

ユズ「ど……どういう事ッスか?」

カライモン「問題は…最初に遭遇したダークチェイサーの認識について、相違が発生していると言う事」

ユズ「えっと…それって。センパイの勘違いで……それは神風さんなら…あれ?え?」

カライモン「そう…そして、その矛盾点をスピリットが把握出来て居ない…それが最大の問題なのだよ」


神風「もし、彼の言う通りの事実があったのだとしたら…それは、私を欺く存在が干渉していると言う事で…逆に、彼の証言が事実で無かったとしても……」

カライモン「彼の記憶を改変しつつ…その存在を隠蔽出来る者が存在する。つまり…どちらにしてもスピリットを欺く存在が居ると言う事だ」

エディー「それはつまり…もしその存在と戦う事になってしまいました場合には………」

ユズ「神風さんの力に頼る事が出来ない…って訳ッスね」


レミ「それだけなら、まだ良いんだけど……下手したら、現時点で既にアタシ達がソイツに躍らされてる…って事もありうるのよね」

ハル「更にその前提の上で……私達が、今こうして…その存在に気付く事が出来たと言う事は………」

カライモン「既に詰んでいる………それ故のネタバラシ展開…と、考える事も出来る訳だ」


カライモンのその言葉により、俺達は沈黙した。


俺「んでも、待てよ?ってー事は…だ。何しても遅いかも知れないって事は、逆に何をしても良いって事だろ?」

ユズ「………え?」

俺「だってそうだろ?今までの戦いじゃ、あれはダメこれはダメって制限ばっかりだったが…今回は、勝つ可能性を自分達で作る事も出来るんじゃ無いか?」

何とか空気を変えようと、半ば自棄になって言ってみたのだが………結果は、余す事無く一同唖然。

盛大に外してしまったのだろうか……そう思って、一瞬額に汗したのだが………


レミ「ま、アンタらしいわね」

カライモン「…全くだ」

ハル「それに…案外それが正解なのかも知れませんよ?」

ため息交じりながらも、皆の表情には僅かな余裕戻ってくれたようだった。


俺「それに…本当に何も出来ない状態だってんなら、俺ん中のコイツ等が何か言ってくんだろ?俺達は、とにかく今出来る事をやってみようぜ」

エディー「そうで御座いますね…そう考えれば、光明が見えて来たやも知れません」

ディーティー「黙ってやられるような奴等なら、今までだってしゃしゃり出て来なかっただろうしね」

カライモン「まぁ…もう少し様子を見てみるとしようか」


………と言った感じで、皆の賛同は得る事が出来て…俺達は、考察を次の一歩に進める運びとなった。

●いきさつ

カライモン「それで…一応決めておきたいのだが、一番最初に彼と遭遇したダークチェイサーは結局どちらなのだね?」


俺「って…話がそこに戻るのか?最終判断の材料が無い以上、堂々巡りの無限ループになるだけだろ?」

カライモン「だが、今一番重要なのはそこだ。それ次第では、対応も対策も大幅に変わって来るだろう?」

俺「え?」


カライモン「判らないかね?今まで我々は、君と同化したダークチィサーが…正規の物であるという前提で行動して来たのだよ?」

レミ「あ…そっか…」

ハル「そう…ですよね……」

ユズ「え?どう言う事ッスか?」


カライモン「そもそも…彼がダークチェイサーに適合するきっかけとなった存在が、最初に彼を襲撃したダークチェイサーだった訳だろう?」

ユズ「そうッスね」

カライモン「しかし…それは、彼を襲撃したダークチェイサーが、ロスト…レミ君が把握している範囲のダークチェイサーだった場合に限られる」

ユズ「あ………そうッスよね。もしロストちゃんじゃ無いとしたら…」


カライモン「そう…今まで私達が想定していた物とは全く別物だった場合…今までの彼とダークチェイサー関連の前提が、全て覆ってしまうのだよ」

ディーティー「まぁ、当然そうなるよね」

カライモン「後はまぁ…ダークチェイサーその物もさる事ながら、大本である筈の闇の核も…ひいては光の核も、これに該当して…」


DT「良くて、光と闇の核も欺かれた状態。悪ければ………」

ディーティー「光と闇の核さえも、敵の可能性がある…って事だね」

カライモン「更に言えば…本来ならばアーカイブでの照合で解決するべき、この件に出て来ない時点で、限りなく黒に近いと考えられる訳だが……」

アラク「ココマデ、ハナシタトコロデ……」


俺「……とは言っても、だ。コイツ等がいなけりゃ、今が無かったのも確かだろ?可能性としては考えても、それを前提に話を進めるのは危なくないか?」

アラク「ト…フォローガハイッテ、ケツロンニイタル」

レミ「ま、途中からは読めてた話よね」

ハル「では………神風さんの能力に干渉出来る存在が当面の敵で、彼に何か仕掛けた可能性がある…と言う事で、話を進めましょうか。名前は………」


神風「恐らくですが……彼の者の名は『終焉を齎す者』でしょう」

俺「って…それは判るのか。名前が判るんだったら、能力とか特徴なんかも判るんじゃ無いのか?」

神風「全容は判りません。判るのは……その名の通り、災厄の日に世界に終焉を齎す者である事と…それが必ず訪れると言う事だけです」


アラク「……ソモソモ…サイヤクノヒ、トハ、イッタイナンダ?」

ユズ「あぁ…アラクちゃんは根幹戦では居なかったから知らないんッスね」

俺「スピリットの能力…未来視で垣間見た未来の内の一つだ。現に、そん時に見たアラクの出現や十二大祭なんかも起きてるし…まず来ると思って間違い無い」

アラク「デハ…ソレハ、ヒツゼン……カ」


俺「肝心の経過までは、判らなかったけどな。ま、そんな訳で今はその事に関して話し合ってる訳だ」

アラク「…………」

話の展開を整理しているのか、単に難しい話だったのか…アラクはそのまま黙り込んでしまった。

カライモン「では、議題を少し移すとして…芋虫型のダークチェイサー…以下偽ロストと呼称するが、偽ロスト…あるいはその黒幕、終焉を齎す者の目的は何だと思う?」


俺「最終目的は、名前の通りそのまんまなんだろうが…問題は、そこに至るまでの経緯だよな」

レミ「ここまでの話じゃ、殆ど情報は無いけど…えっと、アンタが遭遇した時、ソイツ…偽ロストは『コイツカ』って言ってたのよね?」

俺「あぁ…そうだが、それが何か……いや、待て。え?あれってつまり…」

レミ「アンタを探してた………って事。もしあれが、偽ロストじゃなくてロストなら…それはアタシが指示した内容だから、何も問題無いんだけど…」


ハル「偽ロストが、それを口にしたと言う事は…レミちゃんの意思とは別の思惑で、彼を狙っていた…って事よね」

レミ「………そう…なるわよね」


俺「いや、でもおかしくないか?俺はハルみたいな魔力を持ってる訳でも、何かしらの特別な資質を持っている訳でも無いぞ!?」

ユズ「そう言えば…ヒカリさんやヤミさんとの融合にしたって、成り行きでそうなっただけなんッスよね?」

神風「あ、いえ…」

ユズ「え?違うんッスか?」


カライモン「根幹を食らう竜を倒すための、手段として…いずれ光と闇の核と融合する事自体は、神風くんの視点からすれば大前提だった筈だ」

ユズ「じゃぁ…先輩は選ばれた存在って事ッスか!?」

カライモン「と言っても、彼自身が言った通り…選ばれるべくして選ばれたのでは無く…本当にたまたま、その立場に居たから選ばれたに過ぎないのだろうがね」


神風「そう…彼は特異な存在故に選ばれた、と言う訳ではありません。なので…最初に偽ロストの標的となった理由が見当たらないのです」

ユズ「んー………だったらそれって、神風さんと同じ理由じゃ無いんッスか?」

神風「………え?」

ユズ「神風さんは、先輩がヒカリさんとヤミさんに選ばれるのが判ってたから…そう言う風に仕組んだんッスよね?だったら…偽ロストも同じなんじゃ無いんッスか?」


俺「………」

カライモン「………」

神風「………」


レミ「確かに…その線で話を整理してみれば、色々しっくり来るわよね」

カライモン「現に私も、根幹を食らう竜の力を得る過程で、それに近い手段を用いている。可能性は決して低くは無いだろう」


ハル「だったら…もしも偽ロストが彼の中に存在していて、光と闇の核の力を用いる事が出来たのだとしたら……」

神風「ディメンションスレイヤーの力を用いて、私に干渉し…その正体を隠す事も可能で……」

俺「現在進行形で、コイツ等…光と闇の核を取り込んで、表に出て来られないようにしている可能性もある…って事だよな」


俺がその言葉を放った後…皆は言葉を失い、各々が深く考え込み始めたようだった。


そして…かく言う俺もその中の一人となって、これまでの話を振り返り…一つ、確かめ忘れた事を思い出して質問を投げかけたのだが……

俺「っと忘れてた…そう言やぁ、ロストの所在はどうなってんだ?まずそこから確認すべきだったよな」

カライモン「それと…念のために、彼の中に居るダークチェイサーについても調べておくべきだね。スピリットの力ならば可能だろう?」


レミ「ロストなら、今もアタシ達と一緒に居るわよ?」

神風「彼と同化しているダークチェイサーに関しても…知覚可能な範囲での相違はありません」

俺「知覚範囲外であれば、言わずもがな…で、そちら側の場合はどうしようも無し…か」


こちらの疑問は呆気無く…そして、進展の無いままに結論が出た所で……俺達の考察は収束へと向かって行った。