リア充爆散しろ (573)

主な更新時間は深夜。まったり進行で書き込んで行きます。

勝手ながら、ネタバレ防止のためシナリオに関係ありそうなレスへの返事は各章終了後にまとめて返させて頂きます

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―第一章 リア充爆発しろ―

●だって俺はシングルベル

色取り取りのネオンやライトが街を彩り、わざとらしさ全開のツリーが歩行者天国の中央に聳え立ち…

ありとあらゆる店からは同じようなミュージックが流れ………それらの全てが俺の吐き気を掻き立てる。


そう…今日はクリスマスイヴ。

本来ならば家族と過ごし、イエスキリストの生誕を祝いサンニコラウスの到来に胸躍らせる筈の夜。


だが………何だこの惨状は。

その聖なる夜の意味を深く考えもせず、この後の営みに胸躍らせる不謹慎な男女共。

聖なる夜を冒涜し、性なる夜に貶める背信者達…悲しくもこれがこの日本における間違った常識である。


そう…そんな罪深き罪人達は一体どうすれば贖罪する事が出来るのか。

答えは至って簡単だ


俺「リア充爆発しろ」

俺はマフラーで口元を隠し、そう呟く。

気のせいか、通行人の視線が俺に向いたように見える。呟きを聞かれたのだろうか?そんな事を考えるも、それは直ぐに脳内で否定出来た。

………そう、呟きよりも何よりも、男一人でこんな所を歩いて居る事自体が目立って居るのだろう。


そもそも俺は、何でこんな所を歩いているのか…

コマの外枠が黒くなって申し訳無いが、回想シーンに入らせて貰う。

●ほんのちょっとの自尊心

俺「今日はクリスマスイヴか…」

自分の部屋…同じく独り身のネトゲ仲間達とチャットをしながら、独り言を発言する俺。


kuraudo「あー、そんな日あったなぁw」

hasewo「おいおい、折角のBOSS大量発生イベントなのに忘れんなよ」

kuraudo「わざとだよ、わざとw」


†キリト†「お前達、彼女居ないのかよ」

俺「そういうお前はどうなんだよwまさか現在進行形で彼女同伴でネトゲとか言うなよww」

†キリト†「よく判ったなwその通りww」

俺「いや、バレバレだからそれw」

hasewo「このシングルどもめー(AAry」


kuraudo「そう言えば…俺さんってあのタワーの近所だったよな……確か今日は、あそこでイベントあるんじゃ?」

俺「何故それを…」

kuraudo「ギルメンの身辺調査もマスターの役目だからな(キラッ)」

俺「いや、どうせ出会い系漁ってたついでに見つけたんだろ」


kuraudo「 」

kuraudo「 」

kuraudo「 」


†キリト†「ログ流すなwってか、発言禁止アイコン出ちゃってるしww」

俺「wwwwwwwwwwwww」

hasewo「おま………イベントどーすんだよ!!w」

†キリト†「しょうがないから野良で探すか…hasewoは強制参加として、俺さんは?」


俺「あー…どーしよっかな。今は亡きkuraudoさんの意思を継いで、ちょっとリアルイベントでテロでもしてくるかw」

†キリト†「おk、終わったら報告よろw」

俺「じゃぁ、ちょっとイベント行って来る!」

●先に立たないから後悔と言う

……………と言う訳で…勢いに乗って飛び出し、今に到る訳だが

その選択は明らかに失敗だった…という事を痛感させられている。


当然ながら家の外は寒く、厚着をしてきたつもりでもまだ足りない。

そして何より………心の寒さがハンパ無い。


もし隣に恋人でも居れば、こんな寒さなんて気にもならないんだろうが……あぁダメだ、そんな事を考えたら更に寒くなってきた。

引き返すべきか…いや、もう街中まで来てしまっているんだ

このまま何も無く戻ってしまったのでは、それこそ貴重なイヴの時間を無駄にした事にしかならない。


何か…何か理由が欲しい。イヴの時間を無駄に使ったと思わないだけの時間が欲しい!助けてアドラー先生!!

と、心の中で叫んでは見た物の…その実、もう答えは見えていた。

駅前のタワーの最上階で行われるイベント…クリスマスパーティーに参加する事だ。


クリスマスパーティー…本来ならば地雷原に踏み込むだけの命知らずな行為でしか無いそれ…だが俺は、その死中に活を見出していた。

男性:参加費8000円…学生には手痛い出費だが、問題はそこでは無い。

男女一組:参加費5000円…一人の時よりも安い事に納得は行かないが、そこが引っかかった。そして、その答えは次にある。

女性:参加費1000円…そう、ここだ。ここに活がある。


イベントの性質上、当然ながら一人でも参加する女性は少なく無い。そしてそれは…独り身女性の参加者が沢山来ると言う事で…

「参加費持つから、一緒に組んでくれない?その方がお得だし」

なんて口実で、参加会場に付く前に二人組を作る口実にもなると言う事だ!


勝てる…この勝負勝てる!そう確信してエレベーターのボタンを押す俺。

そして案の定、入場待ちの来客の中には女性一人の参加も多数………


ここに到るまでの全てが俺の計画通り…後は実行に移すのみだ!

●まぁそもそも判りきっては居たんだけど

………………うん

そうだよな、その実行に移すってのが出来ないから今の俺が在る訳で…

結局参加費8000円を払ってパーティー会場で食事をしている俺が居る。

横目で周囲を見渡すと…

どこもかしこもカップルだらけ、蹲って泣いてても始まらないから…と、そんな歌詞が頭が過ぎる。


会場に入る前からカップルだった者達…入場前は一人だったはずなのに、今ではカップルが成立している者達…

………あれ?もしかして一人で寂しい思いをしてるのって俺だけ?

いや…多分他にも独り身のままカップルになれなかった奴が居たのだろうが…恐らくそいつらは、挫折して逃げ帰ったんだろう。


………って、それなら会場に入る前に立ち去ってるじゃん!

独り身なのにわざわざ参加費払ってここに居る俺って何なの!?

ヤバい…何て言ったら良いのか判らないけどテンションがおかしな方向にヤバい。


カップルを組んでる奴等が憎らしい…この世の全てを恨まずに居られない。

リア充爆発しろ…

リア充爆発しろ…


爆発しろ…

爆発しろ…

爆発しろ!

爆発しろ!

精神を安定させるため…心の中で何度も復唱しながら、出口に向けて足を進める俺。


途中で何度か人に肩をぶつけてしまったが、そんな事を気にしては居られない。

そして、その逃避行動も間違いだった…いや、間違いが結果的に良かったと言うべきなんだろうか?


肩どころか、身体全体…目の前に居た誰かに正面衝突してしまった俺。

当然ながら俺の身体はよろめき…相手は後ろに倒れかける。

となれば当然相手は倒れてしまう訳で…こんな公の場で人身事故でも起こしてしまえば、それこそ大問題だ。


ほぼ一瞬の内に思考を終え、反射的に手を伸ばす俺。

相手の背中に手を回して抱き止め………

俺「す、すいません!怪我は………」


絶句した。

ぶつかった相手は物凄い美人…いや、美少女?どこぞの国のお姫さまと言われても信じてしまいそうな可愛い子だった。

歳相応のカジュアルな服装ながら、サラサラで長い金色の髪が明らかにレベルの違う次元の魅力を撒き散らしている。

そして翠色の瞳は、エメラルドのように鋭い光沢に彩られ………

あぁもうダメだ、言葉で表現する事に限界を感じた。そう、あえて単刀直入に言うなら………


俺はこの子に恋をした。

●言 葉に 出来ない

俺「あ……あ、あ、あの!!」

美少女「あ、お陰様で大事はありません。ご心配なさらずに」

そうだ…まずは安否を確認していたんだ。失礼な話しだが、正直忘れていた。

と言うか、それも聞いては置きたかったんだが、そうじゃない。


唾を飲み込む俺……なけなしの勇気を振り絞り、頭の中で紡ぐべき言葉を整える。

俺「こ……こんな事を聞くのも何ですが!お一人ですか!?」

美少女「…あ…えっと」


困惑する美少女……あぁぁぁ、しまった!大失敗だ!

そもそも、ぶつかっておいていきなりこんな事を聞く俺って何者!?

失礼とか通り越して、不審者レベルじゃないか!?

だが………どうする?どうするべきだ?


訂正するか?いや、訂正してどうする?

聞かなかった事にして貰って、この場は事無きを得るのか?その結果何が残る?

だったら…多少の傷を負ってでも彼女にもう少し踏み込んでみるべきなんじゃないだろうか?


成功すれば御の字…もし失敗して泥沼に嵌っても、今と殆ど変わり無し。

彼女にしても、言い寄る男の一人をあしらうだけでダメージは無い筈。


よし……決めた!!

●それでも無理矢理言葉にした結果

俺「もし一人なら、俺と―――」

金髪の男「おっと、どうした?」

俺「…………」

クロスカウンタァァァーーー!!!


あぁうん…よくよく考えてみれば予想は出来た事だよな。

こんな可愛い子が独り身な訳が無い。男連れで来ているに決まってるだろJK。

サングラスをかけた金髪の男…彼女の相手であろう男が現れた。

………さらば俺の恋心。


美少女「あの…そういう事なので……」

俺「………ですよねー…」

そして追い討ちとばかりに彼女の一言…俺はそれ以上は何も考える事が出来ずに逃げ出した。


あんな事があった手前、走って逃げる事も出来ず…背を向ける事も出来ずに後退り。

彼女の姿が人ごみに隠れて見えなくなるまで離れ…

そこで一息。


前向きに考えよう…何も悪い事ばっかりって訳じゃ無い…

可愛い子に会えて、仲間内での話しのネタが増えた…それで良いじゃないか。

そう心の中で呟き、自分に言い訳する俺。そしてその心の中を見透かされでもしたのだろうか…


こちらを見てあざけ笑うイケメン男。そいつも当然ながら彼女連れのリア充。

性格の悪さを隠そうともしない嫌なイケメンだ。

見たくも無いその姿が瞳の中に焼き付き……俺の胸の中に、再びあの言葉が浮んでくる。


リア充爆発しろ…

リア充爆発しろ…

いや、爆発だけじゃ生温い

もう1ランク上げても良いんじゃないか?

爆発の1ランク上って何だ?大爆発?核爆発?何かそれだとベクトル自体が変わってる気がする。

そうだ………

爆散しろ………


リア充爆散しろ!!


俺をあざけ笑う男を見て、心の底からそう叫ぶ。


すると―――――

●下痢だっていつも突然だ

結論から言おう。

俺の願いが叶った。

サンタクロースからの素敵な贈り物が届いたようだ。


具体的に言うと、そう………

まずイケメン男の体が不自然に膨らみ、爆発…と言うよりも爆散。

飛び散った肉片と血液が、周囲のカップル共の服や顔を赤く染め上げ…

1テンポ遅れて悲鳴が周囲に響き渡る。


文字通り蜘蛛の子を散らすように逃げ出す参加者達。

そこから更に1テンポ遅れて事態に気付く俺。


参加者「逃げろーーー!!爆弾だ!!!」


そう…冷静に考えれば俺の願い一つで人間が爆発する筈が無い。

となればつまり……


爆弾テロ!?


俺がネトゲで冗談混じりに言った言葉が、現実の物になったのか!?

こればかりは幾ら考えても答えが見つけ出せる筈が無い。


俺も他の参加者に混じり、脱兎の如く逃げ出した。

●一人の夜

逃げ帰った先…気が付けば何時の間にか辿り着いている、自分の部屋。

起きた出来事が出来事なだけに意識が錯乱し、そうやってここまで辿り付いたのかさえ…

あぁ、いや、そこは覚えてる。確かタクシーを拾ってここまで帰って来たんだ。

確か3240円…いや、料金はこの際どうでも良いか。


何があった?俺は一体何に遭遇した?


まず、ネトゲのギルメンに聞いたイベントに参加して…

そこからカップル達が爆発するように願って…

その願いが叶ってイケメンが爆発…と思ったけども、実際は爆発テロ?


訳が判らない………多分、今ここで何を考えても答えには辿り付けない。

ただ判るのは、どうしようも無いくらいの緊張感と疲労感が俺を襲っている事と…


その緊張が切れれば、意識もついでに途切れる事くらいだった。

●正直夢オチなら良いと思う

翌朝…寝冷えにより発されたクシャミによって目を覚ます俺。

起動したままのPC画面に映し出された日付を確認する。


12月25日…クリスマス。当然ながらクリスマスイヴの次の日だ。


つまり、推測は二つ。一つは昨日のあれは俺の妄想か夢…もう一つは、全て現実。

現実離れした出来事を認める事が出来ないが、同時にそれらが現実だった場合の…これからの事も頭に浮んでくる。


現実ならば、俺はどうするべきか…常識的に考えれば、あの場に居た被害者として警察に連絡するべきだろう。

だが、もし夢だったのなら…俺はただの頭がおかしな奴だ。

いやそもそも…うん、まず第一にすべきは事実確認だろう。


一階に下りてテレビを点ける俺…だが不幸な事に時間が悪く、ニュースはやっていない。

続いて新聞を確認…するも、載っては居ない。

この時点で夢オチだと安堵してしまっても良いのだが…情報規制がされている可能性も捨て切れない。


となれば、後の確認手段は………

●犯人は現場に戻ると言うが

現場確認…と言う事になるのだが…

正直、来なければ良かったと思わざるを得ない。


黄色いテープで遮られた入り口…立ち入り禁止の意味を持ったそれ。

理由等は書かれて居ない物の、何かがあった事は一目瞭然の風景。

俺は勇気を振り絞り、近くに居る警官に向けて足を進めるのだが………そこで思わぬ出来事に遭遇した。


いや…再会したと言うべきだろうか?

美少女「………」

昨夜、ぶつかり…一目惚れしたあの美少女だ。

あちらも俺の事に気付いたのか、こちらをじっと見ている。


周囲には昨日の男は居ない。

不謹慎だが、これは何かのチャンスなんじゃ無いか…俺の心の奥底の何かがそう告げる。

そして俺は、足の向かう先を警官からその美少女へと変え…


俺「えっと………昨日のパーティー会場で会った子だよね?確か名前は…」

美少女「カレン…昨日は教えて無いわ」

俺「カレンか…良い名前だね」


思ったままの言葉を口にした。

カレン…カレン…日本語にしたら可憐…たしかに彼女に似合う名前だ。


カレン「ありがとう…でも」

俺「でも?」

カレン「爆弾魔に褒められても嬉しく無いの」


そう言って俺に銃口を向けるカレン。

…………………は?

銃口?俺は今、銃口って言ったか?

いや、でもそれ以外に言いようは無い。彼女の手には拳銃が握られていて………


その銃口は今―――俺に向けられている。

●俺の知ってる常識と違う

俺「………え?何それ?モデルガン?って言うか俺が爆弾魔?え?新手のドッキリ?」

カレン「冗談に聞こえているならそれで良いわ。しらばっくれてるとしてもね」

俺「いや、だって…」

と言いかけた所で一つの可能性に突き当たる。


彼女の髪…瞳…よくよく考えてみれば日本人では無い事が判る。つまり…

何らかの伝手があり、外国から密輸したのならば……銃が本物という可能性も大いにあり得る。

では彼女の銃が本物だと仮定して…どうすれば良いのだろう?

そうだ、警官…警察官ならこの事態を見て見ぬ振りはできないだろう。そう思って警官が居た筈の場所を見るのだが…


今は不在。

こんな大事な時に限って何で居ないんだ!

他人をあてには出来ない。となれば後の選択肢は自然と絞られて行き…自力で何とかしなければいけないと言う結論に辿り着く。


俺「えっと…落ち着いて話し合わないか?」

カレン「元からそのつもりよ」

いやいや、どう考えてもそんな状況じゃ無いんだが…言葉に出したら面倒な事になりそうなので、黙っておく。


俺「だったら…どうすれば良いのかな?とりあえず近くの喫茶店にでも…」

そう…せめて人目の多い所に、そう思って提案するのだが…

カレン「寝ぼけた事は言わないで。これから対策本部に来て貰うわよ」

俺「え………」

却下された。そして更に不可解な単語まで飛び出して来た。


対策本部…その言葉を聞いてまず最初に浮ぶのは警察なのだが…事態が事態なために、その言葉を鵜呑みには出来ない。

しかもこのまま連行されると言う事は…もしかしたら、最悪そのまま誘拐される可能性だってありえる。

カレンの目的が何なのか…勘違いをしているのか、意図して嘘で翻弄しようとしているのか………

躊躇する俺。だが、そんな俺を迷いから押し出し、行動に向けて後押したのは………思わぬ伏兵だった。


金髪の男「ってー訳で…大人しくついて来てくんねぇかな?…手足を不自由にしてからだと、運ぶのが面倒なんだ」

カレン「黄色先輩…来るのが遅いですよ」

黄色と呼ばれた男…昨晩カレンと一緒に居た男…その男の登場で俺の選択肢は完全に無くなった。

銃を持ったカレンだけでも勝ち目があるかどうか判らないと言うのに、二人がかりに勝てる筈が無い。


俺「………はい」

●取調べのカツ丼は自腹らしい

女「それで…この子が重要参考人な訳ね?」

カレン「十中八九間違いありません」


目隠しをされて連れて来られた先…恐らくは何らかの力を持った組織の、取調室と思われる場所に…俺は居た。

不幸中の幸いなのは、カレンと違って審問官の女性が最初から俺を犯人とは決め付けて居ない事くらいだろう

いぶかしげに眉を顰め、信じられない物を見るかのような視線を俺に向けて来ている。


女「私の名前は伊吹零那…零那で良いわ。それで…木戸譲二が死亡した時の状況を詳しく教えて貰えるかしら?」

俺「きど…じょうじ?」

零那「あぁ、聞いて居ないのね。木戸譲二と言うのは、昨日あのパーティー会場で爆死した人物の事よ」


当然ながら初めて聞く名前に、状況の理解が追い付かない俺。

そしてそれを察してくれたのか、女性…零那は写真を出して来た。

見覚えがある顔…忘れもしない。俺をあざけり笑い、そのまま爆死した男に間違い無い。


とりあえず、話しだけならば…しても問題無いのでは無いだろうか?そう考え…当時の状態を思い出す。


俺「あの時は…一人であのパーティーに参加して、そこの…カレンにぶつかって…」

零那「何故一人で参加をしたのかしら?」

俺「相手になる女性が居なかったからです」

零那「言っている事に相違点は?」

カレン「無いようですね」


いつの間にか俺の肩に手を乗せているカレン。これはどう言う状況だ?

何故カレンが断言しているのかは判らないが、これは味方をしてくれているのだろうか?


零那「では次に…木戸譲二の存在を知って居たのかしら?彼があそこに居る事を知っていたの?」

俺「知りませんでした」

カレン「相違有りません。その時点では、木戸譲二の存在に関して完全に無知でした」


零那「では、彼を殺した理由は?誰でも良くて、たまたま彼が標的になったの?」

俺「いや、待ってくれ。そもそも俺はその譲二って男を殺してなんて…って言うか、殺そうとすら思ってないぞ」


いや、正確には木戸譲二と言う男の死を…爆発を願いはしたが、実際に殺害に及ぼうとまではして無い。

思っただけで犯人扱いされるなんて、冗談じゃない。


カレン「それは嘘。それに第三者の視点から見ても、木戸譲二を見る視線にはただ並ならぬ殺意が篭って居たわ」

おい…一体どっちの味方なんだ。第一、何で俺が殺したのが前提なんだ?


いや…まずはそこから突っ込むべきだろう

俺「そもそも、何で俺が殺人犯扱いされてるんですか?根拠も無いし、状況的にもどう考えたって不可能でしょ!?」

カレン「………そう考えれば全て辻褄が合うからよ」


………ダメだ話にならない。

●他人の性癖を笑うな

鋭い眼差しで俺を見据えるカレン。初めてあのパーティー会場で会った時とはまるで別人の、キッツい性格を隠そうともせず向けて来る女。

くそっ…この本性を知っていれば恋なんてしなかったのに………いや、本当にそうだろうか?

中身はともかく、見た目はどストライク…いや、中身に至ってもツンデレだと考えれば可愛げも見えてくる。


ルート次第では、デレた後にもギャップで萌える事が出来て二度美味しい…そういう考えもできる。

と言うか、こういう性格なら性格で…知って居たらどう扱うべきだったのだろう?

ありえない事だが…もしこのカレンと、あの時の出会いで良い仲になれていたのだとしたら…


どうするか…どう自分色に調教するかを考えてみた。


ツンデレも良い…だがここはあえて、強気な部分を折って…屈辱を味わわせながら辱めるのも良いんじゃないだろうか?

そうだな…まずはこの反抗的な性格を矯正するためにも、行動だけでも従順にさせる必要があって…そのためには、まず―――

大分脇道に逸れるが、そんな調教の妄想を膨らませる俺。そう…理不尽な疑惑をかけられている状況では、こんな事でも考えなければやって居られない。


エスカレートして行く妄想の内容。

始めはゲームで得た知識を応用し…そこから先は俺の趣味全開のとても口に出す事は出来ない内容。

そうして思い付く限りの方法でカレンの尊厳を失わせ、辱めて行き……………


………気が付けば、カレンの手が乗っていた肩にズキン!と走る大きな痛み。

と言うよりも、俺の肩がカレンに握り潰されかけている。


何故こんな事になっているのか…それを確かめるため、振り向いて見上げた先には…

顔を真っ赤にして、恥辱と怒りの表情を浮べるカレンの姿があった。


これはどう言う事だろう?

あぁ………気付かない内に妄想の内容を口にしてしまっていたのかも知れない。

と憶測を浮べるも、それに確信を持つ事は出来なかった。と言うか、確信を持つための確認も考察もさせて貰えなかった。


カレン「……のっ…!死ね!死になさい!死んで生き返ってまた死になさい!!」

カレンの殴打…そしてトドメの一撃により壁まで吹き飛ばされる俺…


そこから先は記憶が残って居ない。

●説明に入ってくれても良いんじゃないか?

零那「目は覚めたかしら?しかしまぁ…人間の暗部にも慣れている筈の彼女の心を、あれだけ揺さぶるなんて…一体どんな事を考えていたのかしら」

零那には聞こえて居なかったのだろうか?…まぁ、あんな内容を聞かれなくて良かったんだけど。

と、心配を終えた所で気付く異変。先程までの取調室とは異なり、白いカーテンに囲まれたベッドの上…どうやら、気を失っている間に移動させられて居たらしい。


零那「あぁ、そうそう…最悪の事態を考えて、勝手だけど精密検査をさせて貰ったわよ」

それはまた勝手な…と思いながらも、状況が状況なだけに仕方が無い事かと納得をしておく。


零那「それで…検査のついでに、ある程度の確証を持つ事が出来たから……もう少し踏み込んだ話をさせて貰おうと思うの」

俺「確証って…何度も言うけど。何を勘違いしているのかは知らないけど、俺は人殺しなんて…」

カレン「残念ながら、確証って言うのはそっちの事じゃ無いの」

カーテンの向うから現れる………カレン。俺をこんな風にした張本人。


俺「んじゃぁ、何の確証なんだよ」

カレン「貴方も私達と同じ………超能力を使えるって言う確信よ」


俺「……………………」

カレン「………………………」


俺「えっ?」


カレン「聞こえなかったらもう一度言うわよ?」

俺「いや、聞こえてはいたけど…何?超能力?」

カレン「そうよ」


俺「…………………」


正直…超展開過ぎて頭がついて行けない。

俺「超能力ってあれか?テレパシーとかサイコキネシスとか…」

カレン「そうよ」

え?何?電波?実はこの子って可哀想な子?


どうすれば良いのだろうか…

頭がちょっとアレな事が判る分、下手に反論すれば先程のように身に危険が及ぶ事も判るのだが…このまま犯人扱いされたままで良い訳も無い。

俺は困惑する頭をフル回転で動かし…そこで、一つの仮説を展開してみた。


俺「つまり…俺は超能力者で、あの木戸譲二って男を爆発させた犯人………お前はそう思ってる訳だよな?」

カレン「そうよ、やっと理解が追い付いて来た?」


俺「と言う事は………あの状況で俺を犯人として疑うだけの超能力を想定をしてて…その超能力は、相手を遠くから爆発させられる物…そう考えて居るのか?」

カレン「そう…念じる事で発生する、サイコキネシスでの内側からの爆破…私はそう考えて居るわ」

俺「なるほど…ねえ」


予想通り…カレンの考えはそれを前提としていた事が確認できた。しかしこうなると…反論の手段が限られてくる。

それどころか、その前提が本当に『在り得る』のだとしたら…その存在を俺自信が否定する事すら出来ない。

いや…そうだな……だったらこういうのはどうだろう?


カレン「……って、え!?な、何を考えてるの!?ま、まさか………」

カレンに向けて手を向け、不敵な笑みを浮べる俺…そしてその手を掴むカレン。


正直、それを行ったからと言って悪魔の証明にしかならないのだが…少なくとも俺だけは確信を持って否定する事が出来るようになる。

それに、試す事自体には何も問題は無い。ただ手を向けているだけ…何も起きなければ、何も責められるような事は無いのだから…

だから…念じる。


カレン………爆発しろ!!!

●そろそろ収束に向かうべきだと思う

カレン「ヒッ―――!?」

掠れた声の悲鳴を上げ、大きく目を見開くカレン。

死を宣告された囚人のように、歯をガチガチと鳴らしながら足を震わせ……その場にへたれ込む。


が………当然ながら何も起こらない。のだが………

いつの間にか、俺を囲むように現れていた兵隊のような服装の男達。

その幾つもの銃口が俺に向けられ…


俺「ヒッ!?」

今度は俺が悲鳴を上げる。


零那「キミ………潔白を証明したい気持ちは判らないでも無いけど、少々先走りが過ぎるわよ」

俺「えっ…ちょっ……これ、どういう…」

零那「カレンの反応を見る限り…超能力を行使しようとしたのね。不発に終わったようだから良かった物の…発動していたら死体が二つここに転がる所だったわよ」


俺「………………え?超能力って…ガチ?カレンの戯言とかじゃなくて、ここの皆信じてるって事?」

零那と兵隊…その全員がうんうんと何度も頷き、肯定を返してくる。

………ダメだ、正直理解出来ない。俺はまた困惑の中に落ちて行く


が…そんな俺の事情等お構い無しに、立ち上がって拳を握るカレン。うん………正直何をしようとしているのかは予想がつく。

その握り拳を俺に放つべく、踏み込み………何故か踏み留まる。そして急に顔を真っ赤にしたかと思えば、カーテンも向うに消え去ってしまう。

………一体どうしたと言うんだ。


零那「まあ、カレンが先走ったせいで説明が出来なかったけど…順を追って説明するから聞いてくれる?」

何だかんだで…仕切り直して会話を再開する零那。

俺「…はい」

と、空返事をする俺。すると、何故かカーテンの向うから金髪の男…パーティーでカレンと一緒だった男…黄色と呼ばれてた男が現れた。


あの時はサングラスで判らなかったが、髪だけでなく瞳も金色…そして恐らくはファンデで隠していたのだろうか、頬にはトライバル模様のタトゥー。

そして続けて、ネコミミの付いた帽子を被った女の子が現れ…


黄色「ぁー、ダメだダメだ。この手のヤツぁ言って聞かせるより実際に見せた方が早ぇ。俺とニヤで実践すっから、ちょっと待ってな」

零那「そう?じゃぁよろしく頼むわね」

ニヤ「全く…いえ、言っても無駄なんでしょうね黄色先輩のこれは」


黄色と呼ばれた男…そして、ニヤと呼ばれた少女の登場により、更に事態が掻き回されて行く。


と思っていたのだが…

●百聞は一見にしてならず

意外な程にアッサリと……これでもかと言うくらいに完膚無きまでに納得させられた。


まず、黄色が取り出したのは缶コーヒー。そしてその蓋を開けて、中身を飲み干した…かと思えば

それは黄色の掌の上で…捻られ…見る見る内にパチンコ玉のような球状に変形させられて行く。

その光景を前にして、俺は…


俺「……え?何かのマジック?と言うか…?え?ガチ?」


黄色「そうだな。仮にこれがマジックだったとしてだ…そのマジックを実行すんのに、どんくれーのコストがかかる?んで、そこまでしてどんなリータンがある?」

俺「えっと例えば…………ここがカルト集団だった場合…騙して信者にする…とか?」

黄色「んでも、これがトリックだってんなら…嘘だって前提で見てるんなら、騙される事も無ぇよなぁ?」


俺「だったら、騙されない事を前提で見せている以上………え?って事は…」

黄色「そんな無駄な事が出来んのは、そこに大したコストがかかって無ぇからだ。んでもって、コストがかからねぇ方法ってなると…」


そう言って今度は俺の背後…兵隊が持っていた銃を指差す黄色。そしてその銃は不意に空中へと引き寄せられ…コーヒー缶と同じ様に変形して行く。

どんな仕掛けなのか看破出来ない…超能力以外の説明が出来ない。悪魔の証明で悪魔を見せられ、今度はそれが悪魔で無い事を証明しなければ行けないという状態だ。

女「ちなみにその銃の弁償代…黄色君の給料から引いておくからね?」

黄色「マジか!?」


にわかに信じる事は出来ないが、否定する事も出来ない。と言うよりも、ただ納得する事が出来ないだけで…その事実すらも認めたく無いだけだ。

…俺は一体どうすれば良いのだろう?そんな苦悩を抱える中。ニヤと呼ばれた少女が俺の手を握り…


ニヤ「成る程………爆発しろ爆発しろと心の中で叫んでは居たけれど、まさかそれが本当に爆発するとは思って居なくて、困惑してた…って訳ッスね」

俺「……………」

ニヤ「そして今は、証明された悪魔の否定方法に苦悩中…納得出来ないけれど……あぁ、今ちょっと観念したッスね」


もう絶句するしか無い。そしてニヤの言う通り、俺は観念して…超能力の存在を認めるしか無かった。

●いい加減本題に入って良いんだぜ

零那「…と言う事で理解して貰えたとは思うのだけど…我々は超能力者の組織なの」

俺「そして俺も超能力者である…と。でも、それを裏付ける根拠って何なんですか?」

零那「そう、そこから。まず超能力者と一般人の違いなんだけど…簡単に言うと、それは脳にあるの」


俺「脳?頭の中?」

零那「そう…超能力を有する人間は、脳の中心…右脳と左脳の間に、一般人には無い器官が存在しているの」

俺「………具体的にはどんな器官何ですかそれ」

零那「脳に流れる神経電流を、拡張伝達する器官…って所ね。それによって超能力を使うチャンネルに接続したり、他人の神経に干渉出来たりするんだけど…」


俺「漫画で言う所の、特殊能力を使うための条件って事で…それを俺も持って居る…と」

零那「ちょっと偏ってるけどそんな所。ちなみに、一番多いのがテレパスやサイコメトリーとかの読み取り系で…サイコキネシスやパイロキネシスなんかは少ないわね」

俺「で………俺の使える超能力って何なんですか?カレンが予想してた、念じた相手を爆発させる能力なんて無かった訳でしょ?」

零那「まぁうん…問題はそこなのよね…」


俺「って言うと?」

零那「好きな時に好きなように使える…って程簡単な物じゃ無いのよね、超能力って。あ、黄色君は特殊なパターンだから気にしないで」

俺「えっ……それてつまり…下手したらさっきカレンが爆発してた可能性があって…ついでに言うと、まだ俺の容疑が晴れた訳じゃ無いって事?」


零那「そう言う事…カレンの件は条件を満たして無かっただけかも知れ無いし。ついでに言うなら、検査でもどんな種類の超能力を使えるのかまでは特定出来ないから…」

俺「無実の証明にはならない…と」


零那「うん。だから無闇矢鱈に使っちゃいけないのは勿論………これからある程度の検証に参加して貰う事になると思うの」

零那のその言葉を聞き、全員から嫌な汗が噴き出る。

超能力の検証……それはつまり………嫌な予感がと予想が頭の中を駆け巡る。


零那「あ、でも心配しないで。非人道的な事とかはしないし、手荒な真似もする気は無いから」

が、その懸念を少しは和らげてくれた。しかし…

俺「手荒な真似………」


ガーゼの下…カレンに殴られた場所を指差す俺。零那は視線を逸らし、空笑いを浮べていた。

●自分の立場を把握しないと

俺「で………聞き辛いんですが、その検証なり何なりを拒否した場合はどうなるんですか?」

零那「とりあえず…暫くは監視を行わせてもらうわね」

俺「それだけ?一応俺って…その、木戸譲二って男を爆発させた殺人犯…容疑者って事になってるんですよね?」


零那「まぁ、その辺りはまた複雑な事情になって来るんだけど…」

どういう事だろうか…女性は言葉に詰まり、考え込み始めた。


すると今度は、代わりに黄色が口を開き…

黄色「まぁ、ぶっちゃけて言うとあの譲二ってヤツはテロリストだったんだわ」

俺「………は?」

またもや超展開である。


黄色「俺とカレンがあそこに居たのも、その関係でな?お前がやらなけりゃ、俺がアイツを殺る筈だったんだが…」

ニヤ「思わぬ伏兵により、奇襲発生…戦闘による被害を出す事無く、事態を収束出来た…と言う訳ッス」

俺「………え?ちょっと待って?何それ、俺ってどういう立ち位置?」


零那「悪意的に見れば…偶然テロリストを殺した通り魔。好意的に見れば…偶然にも自衛を行う事が出来た、被害予定者…って言う微妙な立場」

俺「………」

零那「だから、組織としては…貴方に敵意があるのか否か、危険分子なのか否かを判断している最中なんだけど…」


俺「つまりそれって……え?カレンにしようとした事って、かなりマズイ?」

黄色「かなりマイナスに傾いたな」

ニヤ「無自覚な一般人から、軽率な要注意人物にランクアップしてるッス」


何てこった…

●身の振り方を決める時

俺「………え、ちょっと待って?そうなってくると、俺ってどうなの?どうすれば一番ベターなの?」

こんな事を相手側に聞くのもおかしいが、今の状況ではそうするしか無い。

正直今の判断材料だけで決める事は出来ない。


俺「俺ってまだ未成年だし…ほら、学校もあるしバイトだって始めるつもりで…時間は色々使うから…そういうので拘束されるのは…」

あぁ、何を言っているのだろうか…かなり苦しい言い訳をしているのが自分でも判る。だが…思わぬ所から意外な打開策が現れた

黄色「んじゃ、超能力検査のバイトすりゃ良いじゃねーか」


俺「はぃ?」


黄色「組織はお前の超能力の検査をしたい…そしてお前はバイトがしたくて、その時間が無ぇ…だったらそういうバイトって事にすりゃ良いだろ」

零那「成る程…そういう事なら彼に不利益ばかりを押し付けずに事を進められるけど…」

俺「でも…ほら、バイトって言っても給料の割とか良く無いと…」


本当に何を言っているんだ俺。往生際が悪く食い下がるにしても、もっと良い言い訳があるだろう?良いから黙れ。


零那「1日2時間の時間拘束で、日給4000円…この辺りでどうかしら?」

俺「なにぃ…!?」

あぁ…やばい、心が揺れてしまう。桁違いの額を提示されていたらそれこそ即決で断る事も出来たのだけれど…地味に美味しい数字なだけに逆に迷いが生まれてしまう。


そして、その心の迷いを後押しするかのように…

黄色「ついでに…俺の手伝いもしてくれんなら、カレンとの仲が上手く行くよーにお膳立てしてやっても良いんだぜ?」

俺「なん……だとっ!?」


ニヤ「何だかんだ…あの性格を見ても諦め切れて無い見たいですし…カレンちゃんのフラグは立ってるッスからね」

俺「つまりは………どういう事だってばよ!?」

ニヤ「上手く事が運べば、勝算はアリって事ッスよ。黄色先輩の毒牙にかかるのも防げますし」

俺「逆を言えば…俺が攻略しなければ、カレンの純潔が毒牙に晒されてピンチが危ない!?」


黄色「いや、落ち着け」

●乗せられた船も乗り掛かった船

カレン「何か私の名前が聞こえた気がするんだけど…また何か変な事企んでるんじゃ無いでしょうね?」

何故かジャージ姿で再び現れるカレン。

周囲の人物に視線を向けながら、手近な人間に手を伸ばし。伸ばされた先の人物はそれを避けるの…繰り返し。


そしてその手が、俺に向けて伸ばされると同時に…黄色が襟首を掴んで、その魔の手から俺を救い出す。

黄色「因みに…カレンの超能力は接触型のテレパスで、その時考えている内容を読まれちまう」

あぁ、そういう事か…しかし、タネさえ判れば対処は可能だろう。


俺「それってつまり…」

黄色「そう…他の事を考えていれば心を読まれる心配は無ぇ。むしろ、ダメージを与え返す事だって出来るぜ」


カレン「ちょっ…黄色先輩!部外者に何をバラしてるんですか!」

黄色「あぁ、その点なら気にすんな。こいつもう部外者じゃ無ぇから」

カレン「えっ」


零那「彼には今日からここでバイトをして貰う事になったのよ」

カレン「はぁっ!?そんな…こんな危険人物を!」

俺「いや、だから本当に危険かどうかを調べるための検査なんだって!」

カレン「………っ!」


可哀想に…ぐうの音も出なくなるカレン。

だが、それに少しでも同情してしまったのが間違いだった。

その隙を突き、再び俺の頭へと伸びるカレンの魔の手…


つい先程逃れたばかりの危機に再び晒される俺。しかし…黄色に聞いたばかりの対処法が脳裏を過ぎる。

ダメージを与え返すような思考…それを探し、彷徨う俺の頭脳。

そして、ふとある事に気付く。


何故カレンはジャージに着替えたのか…その直前には何があったのか。

そう………俺はその憶測を元に思考を巡らせ………

●だから後悔と言うのは(ry

到った結論を元に、脳内でカレンを思う存分辱める!!

カレン「―――――ッ!?」

みるみる内に顔を赤くし、茹蛸のように頭から湯気を上げ始めるカレン。


だが俺は反撃の手を緩める事無く、カレンの手を握って退路を断ち…更に追い討ちをかけて行く。

事実を突き付け、それを誇張するだけではダメだ…更にそれを装飾するだけのシチュエーションと…そうだ、アクセサリーだ!

俺「よぉし!犬耳だ!そして首……うぉぁ!?」


が……しかし、それは明らかにやり過ぎだった。

気付いた時には既に遅く…俺の顔面へと沈み込むカレンの拳。

俺の身体はベッドを離れて宙を舞い…重力に引っ張られるまま、隣のベッドまで殴り飛ばされて…その足に頭を打ち付ける。


カレン「だ……だだ、誰が犬よ!盛りの付いた犬はアンタの方でしょ!この変態!屑!畜生!何で人間に生まれ変われたのよ!」

後頭部の痛みと、罵倒による心の痛みのダブルパンチである……


黄色「なぁ……あぁは言った物の…俺達がフォロー出来ねぇレベルの事されっと、どーしよーも無ぇぞ…」

ニヤ「カレンちゃんの中での好感度が、糞蟲以下になってるっすね…」

訂正…トリプル…いや、カルテットパンチだった。


とまぁ…なんやかんやで………俺の、謎の超能力組織でのバイトと…カレン攻略への道が始まった。

○面接の替わりに身辺調査はあったらしい

零那「では…彼の身辺調査の結果を報告させて頂きます」

総統「うむ、始めてくれ給え」

零那「まず彼の通う学校…此方においての、彼の在学を確認。写真による照合も取れました」

総統「そうか、続けてくれ」


零那「そして次に、住所と家族構成…住所も申請された物で間違い無く、現在はアパートに一人暮らしでした」

零那「両親からの仕送りにより家賃を支払っているようなので、其方も確認しましたが…彼自身の口座も振込みを行った両親の口座にも、不穏な動きはありませんでした」

総統「両親…または片方の祖父母が超能力を保有していると言った関連の情報はあるかね?」


零那「その件に関してはニヤさんに直接確認を行って貰いましたが…これも該当は無し。至って普通の家族でした」

総統「となると、彼自身が覚醒世代で…複合型超能力の可能性は少ないと言う事だね」

零那「はい。ですので、現状で明らかになっている特徴から解析を進めて行く方向になるかと」


総統「成る程………しかし、未知数の部分が大半を占めている状態か。果たして彼の能力は、我々にとって吉と出るか凶と出るのか…」

零那「総統は彼の事を大分気にかけられて居るようですが…懸念されるくらいでしたら、能力の行使を制限すれば良いだけでは?」

総統「それは尤もなのだけど…ね。そうとも言っては居られない状況が来るかも知れない、そんな気がするのだよ」


零那「お止め下さい………総統の嫌な予感は的中するんですから」


     ―明日から本気出す― に続く

と言う訳で、リア充爆散しろ第一章にお付き合い頂きありがとうございました。
今回…着地点は決まっているのですが、どんな道を通るのかは決まって居ませんので…
途中、皆様を変な方向に振り回してしまうかも知れません。

それでは、先送りレス返しをさせて頂きたいと思います。

>8 引きで引っ張るだけの姑息な手段なので、気にしたら負けですYO!
>9 特にこれと言ったモデルは決めていません(ネトゲのキャラ名除く)が、親近感が持てる方には感情移入して頂ければ幸いです。
>10 人様の作品のキャラを出す予定は今の所ありません! 個人的にはそれっぽのも出したいのですけど…
>15 確信はありませんでしたが、推測に基いた行動でした。

あと、判り辛かったようなので補足させて頂きますが
金髪の男=サングラスをかけていた黄色先輩
嘲笑って俺君に爆殺されたイケメン=木戸譲二
です。

>19 テレパシーでバッチリ覗かれて居ました
>22 程度の能力じちゅう!
>28 その辺りはまだ…げふんごふん 今後の展開にご期待下さい。
>29-31 基準となる定義が無い以上、俺君の認識のみになりますが…リア充の範囲でした。
>34 しかも本人はあくまで自衛のつもりで、悪ノリはあっても悪気無し!
>35 歯…で済めば良いですね…

引き続き「リア充爆散しろ」にお付き合い頂ければ幸いです。

―明日から本気出す―

●一つ屋根の下で

―――前略。俺は今、カレンと共に一つ屋根の下で寝食を共にしている。

と言えば、聞こえは言いのだが…


カレン「ほら…次は貴方の時間よ」

俺「あぁ、もうそんな時間か。んじゃ…」

カレン「…って、どこに当たってんのよ!」

俺「いや、望遠鏡が固定されてるんだからしょうがないだろ!?」


実際はただの張り込みである。


ちなみに………本来ならば男女…それも学生のペアなど、若さ故の過ちを防ぐと言う理由で組まされる事無いらしいのだが…

カレン「いい…?次また変な所に触ったら、当たった箇所の骨を砕くわよ?」

俺「…肝に命じマス」


俺達に至っては『あの二人ならば、問題も起こらないだろう』との判断で組まされたらしい。

それは多分、カレンの自衛能力のみならず…俺にそれだけの気概も甲斐性も無いと判断されたからなんだろうけど…


いや………別の意味で問題が今すぐにでも起きそうな気がしてならない。貞操よりも命の危険を考慮して欲しかったなぁ!


おっと…そう言えばここに到るまでの説明を忘れていた。

経緯はこんな感じだ

●時間外手当が出るから良いかなって

黄色「って訳で…俺とニヤは別件でチョイとばかし持ち場を離れなけりゃいけねぇ状態になっちまってな」

俺「で…俺達がその間、代わりに張り込みをしておけ…と。でも、何か有事が起きたらどうするんですか?」

黄色「心配すんな。そん時は援護部隊の別の奴が応援に来るようになってっし…こっちから何かしなけりゃ、まず向うから仕掛けて来る事は無ぇ筈だ」


カレン「それで…何で私までこの人と一緒に張り込みしないといけないんですか?」

ニヤ「それは…ここ最近のカレンちゃん自身の行動を振り返ってみると良いッスね。同じ班になった彼との仲に、問題があると判断されたからッスよ」

カレン「だって、それはこの人が!」


ニヤ「生理的に受け付け無いのは仕方無いとして………でも…彼の方はカレンちゃんを嫌ってるって訳じゃ無いッスよね?」

俺「勿論、仲良くしたいと思ってますよ」

何だか物凄く失礼な事を言われた気がするぞ。でもまぁ、腰を折ってはいけないからスルーしとこう。


ニヤ「だったらここは、先輩であるカレンちゃんが折れるべきかと思うんッスけど…どうッスか?」

カレン「それはっ……それに、こんなケダモノと一つ屋根の下なんて…」


ニヤ「それに関しては…別に問題無いんじゃ無いッスか?」

黄色「カレンだったら、余裕で自衛くれー出来んだろ。それとも、一般人に毛が生えた程度の相手に負ける可能性があんのか?」

ニヤ「そうそう、もし彼が本能に負けて襲い掛かってきても…不測の事態で暴漢に襲われた際の訓練、そう思って臨めば良いんじゃ無いッスか?」

カレン「っ……」


だから何で俺をそんな立ち位置に持って行こうとするんだ…

この人達は、本当に俺とカレンをくっ付ける気があるのだろうか?と…疑う俺


しかしながらも、それを頼る他に術が無いのもまた事実

……故に、俺はその意図を疑るよりも先ず信用する事にした。

●そうして俺はここに居る

と言った感じの流れの末、今ではこうして同じ部屋に居るのだが………

悔しい事に、先輩二人の予想はあながち間違いでも無かったようだ。


正直理性が危険でピンチです


だってそうだろう!?健康な男子が気になる女の子とこんなに近くに居て…聖人君子で居ろと言う方が無理だろう!!

視覚効果もさる事ながら…密室の中に漂う、女の子の良い匂いが俺の頭の中の何かをチクチクと刺激して昂ぶらせて来る。

が、しかし…悲しいかな、その煩悩が生命の危機に直結している。

もし万が一、いかがわしい妄想をしている最中にカレンに触れよう物なら…恐らく俺の命は無い。


そして、男にとっての切り札…賢者になろうにも、持ち場を離れる事など出来ず…正に絶体絶命。

こうして張り込みとは別の原因で神経をすり減らし、永遠にも感じる一秒を繰り返しながら…


夕暮れ時が訪れた。と言うよりも、辛うじてここまで耐える事ができた。


夜の張り込みに備え、仮眠に入るカレン。これにより心を読まれる心配が無くなり、先ずは一安心。

望遠鏡からターゲットの部屋を覗き、時折横目で見るカレンの寝姿。

俺はゴクリと生唾を飲み込み、着崩れた寝巻きの隙間に視線を奪われる…が、そんなタイミングにこそ邪魔者は現れる。


ターゲットの部屋に訪れる来訪者…二十代前半であろう、綺麗な女性。

訪れた変化…その事で連絡を行うか迷う俺。それを余所に、進み始めて行く事態…いや、情事。

あろう事か、青少年の目の前で…いや、実際には目の前という訳では無いのだが、見ている先で……不健全な行為を始めてしまったではないか。


当然ながら、食い入るようにそれをデバガメ…否、監視する俺。

肝心な所はカーテンや窓枠に隠れて見えないが、劣情を煽るには十分過ぎるそれ。

そして何故か………いや必然か、俺の視線は…ふとカレンの下へと向かい………気が付けば、また生唾を飲み込んでいた。


そもそもあれだ…こんな閉鎖空間に男女一組を配置する方が間違っている。

もし何か問題があっても、それは配置を行った人物の責任。そんな言い訳を自分に聞かせながら、カレンの襟首に向けて手を伸ばす…

が…


ヒュン…と、小さく風を切る音と共に俺の顔面間近へと迫るカレンの拳。

改めて寝顔を見るが、その顔は至って平然。恐らくは反射的な防衛本能なのだろう事が伺えた。


俺「よし…真面目にお仕事お仕事っと…」

俺は………夜まで真面目な勤労青年で居る事を誓った。


くそっ!明日こそは…いや、明日から本気出す!

○夢の中へ…夢の中へ…行ってみたいと思いませんか?

正直な所…私はこの男の事が嫌いと言う訳では無い。

確かに、私に見せてくる妄想の数々は軽蔑に値するだけの物ばかりなのだけれど…

ただ、それを理由に嫌いだと断言できるかと言えば、また別問題になって来るだろう。


その原因は恐らく…いや、ほぼ確実に私の事情と感情にある。

恐らく彼はその事を知らず、私としてもそれを話す気は無い。

そう考えると…私の都合により一方的に彼に不愉快な思いをさせているのかも知れない…そんな考えも浮んでくる。


だが…もしそうなのだとしたら、私は一体どうすれば良いのだろう?

彼に全てを話す…いや、都合を加味してもそれ程までの仲では無い。

表面上だけでも仲良くする…いや、それもどうせすぐにボロが出る。


そもそも…彼の言動や思想は、一体どこからどこまでが本当なのだろうか?

良く良く考えてみれば、私が彼の心を読んだのは特殊な状況でばかり…本来の彼の心を見た事が無い。

彼の寝顔を視界に入れ…私の中の悪魔がチクリと胸を刺激する。


ターゲットは就寝中…もし何かの動きがあるようなら、そこで止めれば良い。

そんな逃げ道を用意する事で、私は心の枷を解き………彼の頭へと向けて手を伸ばす。


睡眠中…取り繕い様の無い夢の中を覗けば、彼の事を知る事が出来る…

例えそれが理性により形作られて居ない混沌とした世界であっても、その断片は彼の記憶その物。


本来ならば…会話の通じない相手から、一方的に断片を引き出す手法なのだが………私はその行使を抑える事が出来なかった。

●朝チュンとかだったら良いのにな

夢は…朝起きた時に覚えている夢と、覚えて居ない夢がある。

そして今朝の夢は後者に当たり、何か良い夢を見ていた筈なのに覚えて居ない。


俺「ふぁ…おはよ………」

カレンに目覚めの挨拶を向け、瞼を擦る俺。

カレンは相変わらず望遠鏡を覗き込み、こちらを振り向こうともしない。

まぁ、仕事熱心なのだから仕方の無い事なのだろう…と、色々諦めた所で


カレン「おはよう…」

と、返される一言。俺はその言葉に自然と頬が緩む。

そして、調子に乗って朝のスキンシップでも嗜もうと画策するのだが………俺自身がそれどころでは無い事に気付く

ちなみに俺自身とは、正に俺自身の事なんだが…これ以上言わせんなよ恥ずかしい。


危ない危ない…もしもこんな状態でカレンに近付こう物なら、確実に殺される…あるいは潰される。

俺は事態を収拾すべく、四つん這いになりながらトイレへと向かうのだが…

カレン「5分で出てこなかったら殺すから」


と、何故か死の宣告をされてしまった。

●仕切り直さないと命が危険

何故か続く重苦しい沈黙…

俺が何かしてしまったのかと不安にもなるが、寝て居たのだからそんな事しようが無い。

監視役をカレンと代わり…沈黙に耐え切れなくなった俺は、思い出したようにとあるファイルを開く。


要注意人物ファイル………組織の情報網により作成された、読んで字の如くの要注意人物達が記されたファイルだ。


俺「今監視してるのって…この、和褄池流ってヤツなんだよな?」

カレン「そうよ」

俺「この…能力欄に書いてある、複合型超能力ってどういう事なんだ?」

カレン「下の方に詳細が書いてある筈よ、良く見なさい」


促されるままに視線を下ろす俺…また会話が途切れてしまったのが口惜しいが、見ない訳には行かないのでその項目を読む。

『サイコメトリーの空間把握能力に加え、サイコキネシスによる直接干渉…半径5メートル以内の敵性反応は駆逐対象とみなされ迎撃される』

『通称パトリオット………接近の際は細心の注意を払う事』


俺「成る程…だからこうして遠距離から監視をしてる訳か…」

別に声に出す必要は無いのだが、あえてその独り言を口にする。

が…カレンからの反応は無し。いつにも増して冷たい対応のようだ。


そし更にページを進める俺………するとそこで一枚、気になるページを見付ける。

俺「なぁ…これって、要注意人物のファイルだよな?」

カレン「そうよ、何でそんな事をわざわざ聞くのよ…」

あからさまに億劫そうに答えるカレン。だが、それでも俺は質問を止められない。


俺「これ………名前は違うけど、黄色先輩だよな?」

カレン「そうよ」

ファイルを確認する事も無く肯定するカレン。恐らくは既に承知の上のだったのだろう。


俺「何で組織内部のあの人が要注意人物になってるんだ?」

カレン「要注意人物だからに決まってるじゃない」

凄く当たり前で至極当然な返答が返って来た。この事についてはこれ以上突っ込めそうに無い。


しかし、まだ疑問は尽きない

俺「何であの人、本名じゃなくて黄色なんて呼ばれてんだ?」


俺が向けた質問に対し、ため息を一つつくカレン。そして一呼吸置いた後、再び口を開き…

●人生観が変わるようなエピソード

カレン「あの人ね…昔、人質を取って女子高生をレイプしようとしたのよ」

俺「はぁっ!?」

カレン「で…その時に助けに来た、別の…名前が似た男子高生にボコボコに叩きのめされたのよね。その人もリストを見れば載ってる筈よ」

ページを捲る俺…すると、確かに似た名前の人物が載っていた。


カレン「それでその後に…その男子高生の仲間が、黄色先輩の名前を聞いてこう言ったらしいのよ『紛らわしい、貴方なんて黄色で十分よ』…って」

俺「成る程…んでも、何で黄色?」

カレン「黄色先輩って、髪も目も地で金色でしょ?」

俺「あぁ…そこからランクダウンして黄色って事か…と言うか、何で組織内でものその呼び方が流通してるんだ?」


カレン「この話を聞いた上で…まだ黄色先輩の呼び方を本名にしたいと思う?」

俺「………黄色先輩は黄色先輩だな」

先輩と言う敬称が付いているだけでも御の字…と言った所だろう。


話しのテンポも手伝ってか、次第に口数が増えて行くカレン。

黄色先輩には悪いが、お陰でこの場の空気も大分和んで来た。

…和んで来た?まぁ微妙に違う気もするが、殺伐感が無くなったのは大きな進展だろう。


俺「それで…後は、この前の木戸譲二……名前以外が一切不明のシグマ。それと………ん?この、能力欄に魔術って書いてあるのは?」

カレン「その名の通り、魔術よ。私達みたいな超能力者とはまた異なる、魔術師達が使う能力や技術の事ね」

俺「……って、超能力の次は魔術かよ。この調子だと、魔法少女とか変身ヒーローとかも居そうだな」


カレン「76ページと、113ページ」

カレンに促されるままページを捲る…と

俺「…………本当にいらっしゃいましたか」


思わず敬語になってしまいました。

●一応仕入れられる情報は仕入れて置おこう

カレン「ファイルを見て行けば判ると思うけど…細分化したらきりが無いくらい、他にも沢山居るわよ」

俺「みたいだな…元素記号を覚えた時よりも難航しそうだ」

カレン「ただ、その中でも注意しないといけないのが…特殊能力って書かれてる人達」


俺「何だよ特殊能力って…言ってみれば、超能力とかも全部特殊能力じゃないのか?」

カレン「それはそうなんだけど…言ってみれば、私達のそれとは一線を画した能力…って所かしら」


俺「漠然としてるな…」

カレン「そうとしか言い様が無いのよ」

俺「例えばその…どんなのがあるんだ?」

カレン「黄色先輩の項目を見てみなさい」


言われるままにページを戻し、黄色先輩の能力の項目を見る俺。確かにそこには、特殊能力と書かれて居たのだが…

俺「あれって、サイコキネシスじゃないのか?」

カレン「まぁ、そう思うわよね…でもその実、サイコキネシスとは次元が違う能力らしいのよ。詳細は…」

俺「皆まで言うな…読んでみる」


『自身が認識している空間を、螺旋状に捻じ曲げる特殊能力』

『力場を発生させる通常のサイコキネシスとは異なり、空間その物を歪曲させる。そのため阻害は実質上不可能』

『出力及び範囲の限界に至っては未だ不明。発生条件や動力源も不明。能力の通称も未だ無し』


俺「悪い、違いがよく判らない」

カレン「その辺りはまぁ…同じような結果を出して居るからよね。でも、根本的に発生している力の種類が別物で…」

別物…その言葉を聞いてある事に気付き、ページを捲って行く俺。


そして、幾つかの能力詳細を見て…とある事に気付く。

俺「あぁ……そうか、何となく仕分け方が判って来たかも知れない。確認して貰っても良いか?」

カレン「良いわよ」


俺「超能力だったり魔術だったり…要は、仕組みや動力源みたいな原理が判っている物は区分出来て…」

カレン「うん」

俺「それ以外の、不可解な物は全部特殊能力…って事か?」

カレン「その通りよ。大体合ってるわ」

俺「………」


何てアバウトな基準だ…そう思うも黙っておく事にした。

●無駄話はそろそろ終わりになりそうだ

カレン「さて…もうそろそろ黄色先輩が戻ってくる筈の時間なんだけど…結局ターゲットに動きは無かったわね」

俺「そうだな…変わった事と言えば、女がやって来てそのままベッドインした事くらいで…」

カレン「なっ……そっか…それであんな………って、え?それ何時の話し!?」

俺「昨日の夜…カレンが起きる前くらいだったかな。で、そのまま二人とも眠ったみたいだからカレンと交代したんだけれど…」


カレン「このっ…バカ!何でそんな大事な事を言わないのよ!!」

俺「えっ?いや…ただのデリかも知れないし……関係者かどうかも…」

カレン「それもだけど……っ…」

何だ?一体どうした?


カレン「そんな女、私は一度も見てないのよ!!」


俺「………え?」

可能性は幾つも考えられる…だが、そのいずれも明るい物では無い。

カレン「大きく分けたら…可能性は二つよね。ターゲットにより抹消されたか、見えない場所に監禁されているかのそっちの可能性…あるいは」

俺「俺達の存在に気付いて、自ら姿を晦ませ……」


「そう………逆に貴方達を監視していた可能性」


俺「なっ!?」

突如…ドアの向こう側から聞こえる女の声。

状況が状況なだけに、確認しなくても想像は付くが………恐らくは、ターゲットとベッドインしていた女だ


女「他人の情事を盗み見するような悪ぅい子には…ちょぉっと、オシオキをしないといけないわよねぇ?」

俺「おい……どうする?!」

カレン「っ………不味いわ!ターゲットの姿も消えた!」

俺「何っ!?」


そう………考えられるのは最悪の展開だ

●絶体絶命のピンチは…まだ絶命じゃ無い

女「まず私の方から自己紹介をして置こうかしら…あ、まずはドアを開けてくれる?」

そもそも、ターゲットが来てからでは鍵の意味など無いのだろう…ここは下手に逆らわない方が得策。

カレンもその事は承知しているのか、無言で頷き………俺は、ゆっくりと鍵を外してドアを開ける。


現れたのは予想通りの人物………ターゲットと一緒に居た女。

くそっ…こっちから仕掛けなければ何もして来ないんじゃ無かったのかよ!

心の中で黄色先輩を恨む俺を尻目に、女は玄関へと侵入して来る。


女「はじめまして…私はクレアボヤントの美由」

そして………その口から発せられた言葉に、俺は耳を疑った。恐らくカレンも同じだろう。


俺「おい…今」

カレン「確かに聞いたわ。この相手…自分の能力を明かしたんだけど…」

俺「さすがにブラフ………じゃなければ…」


美由「そうそう…デバガメのお返しにこっちも覗かせて貰ったけど…若いって良いわねぇ。一人で欲望を抱え込んじゃって慰めるなんて初々しいわぁ」

俺「―――っ!!」

カレン「―――!!!」


美由と名乗った女の発言からは、それがブラフでは無い事が確認出来た…いや、出来てしまった。

つまり………事態は先刻まで予想していたよりも更に深刻な状態と言う事だ。


俺「こいつ等…俺達を生かして返してくれる気は無いみたいだな。しかも…」

カレン「連絡系統は封鎖されている…と考えるべきよね」

美由「だぁいせいかぃ。此処に在る通信機も盗聴器も全部無効化済みよ」

ヤバい………外部との連絡が断たれた状態での袋小路…更にターゲットも恐らくは此方に向かって来ている筈。


文字通り袋の鼠状態だ。


池流「美由…お喋りが過ぎるぞ」

そして案の定、俺達の前に現れるターゲット…和褄池流。


美由と二人がかりで入り口を塞ぎ、俺達を閉じ込めてしまった。

●生存フラグに飛び付くのは間違いなのか

しかし、この絶対的な危機の中…目の前の脅威から放たれた言葉は、俺達の予想を覆す物だった。

池流「心配するな…美由はあぁ言ったが、お前達を殺す気は無い」

池流が俺の頭を掴み…瞳を見据えて、そう言い放つ。


美由「えぇー…久しぶりだから楽しみにしてたのにぃ……」

池流「目的を間違えるな。俺達の目的は金色の竜を手中に収める事…そのための切り札は在るに越した事は無い。それに無益な殺生はするなと言った筈だ」

美由「判ったわよぅ…じゃぁ、また彼を呼ぶのね?」


池流「美由」

美由「あっ…と」


不可解な会話…だが、同時にそこに見出す事が出来た生存の可能性。

それに縋るように、俺は問いの言葉を紡ぎ出す。


俺「あ、じゃぁその…金色の竜って言う物の事を教えて貰っても良いですか?もしかしたら力になれるかも…」

カレン「なっ…!?」

俺の言葉に驚愕するカレン。まぁ…ストックホルム症候群ばりに寝返る姿勢の俺を見たのだから当然と言えば当然だろう。

だが俺はそんなカレンの反応を意にも介さず、更に会話を続けていく。


池流「その必要は無い………金色の竜とは、お前達の前にこの部屋に居た男の事だ」

俺「黄色先輩の事?あぁ…金色で竜ってのは、あの見た目と苗字から来た二つ名か。と言う事は………」

池流「理解できたようだな。故に…お前達はそこに居るだけで良い。それだけで人質足り得るのだからな」


俺「だったら…こっちの女の子の方は解放しませんか?」

美由「あぁら、ナイト気取り?中々可愛い事するじゃない」

俺「いやぁ…どっちかと言うと提案なんですけどね。この女、こう見えて結構凶暴で腕っ節が強いし…どうせなら、大人しい俺だけの方が安心かなって」


池流「確かに…その女を捕らえておくよりはお前のだけの方がリスクが少ない」

俺「でしょ?正直この女が一緒だと、寝返った事を責められてそのまま心中されないか気が気じゃないんですよ!」

池流「だが…リスクを冒してでも切り札を持っておくべきと言う場合もあるかなら。その提案は却下する」


俺「………ですよねー……」

●繋がる心と心ってやつ

カレン「貴方………」

俺「皆まで言うな…浅はかだったのは判ってるって」

カレン「そうじゃなくて……いえ、もう良いわ」


諦めて目を伏せ…俺の手を握るカレン。

心細いのか、意外にも可愛い所があるじゃないか……

そんな事を考えて居ると…今度は、潰されんばかりの勢いで…その手を強く握って来る。


何か気に障る事でもしてしまったのだろうか…そんな事を考えると、また手を強く握るカレン。

正直心当たりは無く、何か手掛かりでも無い物かと過去を振り返る俺。


そして………気付いた。そうか、俺の手を握ったのはテレパシーで連絡を取るためか。

正解に辿り付いたのか、今度は手を緩めるカレン。


微かながらも現状打破の光明は見えた。


肯定なら人差し指…否定なら小指に力を入れてくれ。

握った手の人差し指に力を入れるカレン。よし…コミュニケーション手段は確保した。


まずは現状の確認…池流はサイコメトリーとサイコキネシスの複合能力保有者。俺達はその範囲内に居て、まな板の上の鯉だ。

次に、美由はクレアボヤント能力者…目立った行動を起こせば、すぐにばれてしまう。

そして最後に…この二人の目的は黄色先輩。文脈からして、俺達を人質にして黄色先輩を捕らえるつもりだろう。


それらをふまえた上で、俺達に何が出来るか…

主にカレンの生存を優先した上で、あわ良くば目的の阻害…この状況からの脱出となる訳だが………

正直な所、この絶望的な状況で打てる手は思い浮ばない。と言うか…ここに来て、想定しうる最悪の事態に気付いてしまった。


黄色先輩に対して…俺達が人質として有効なのだろうか?

カレンから聞いた話では、むしろ人質を取る側だった経験のある黄色先輩…当然ながらその利点と欠点は把握している筈。つまり………

俺達の事など気にせず、好き放題する可能性が高いんじゃないだろうか?

その考えを肯定するかのように、カレンは人差し指に力を込める。正直な所…して欲しく無かった肯定だ


しかしそうなると…相手が油断してくれている今の内に、自力でこの事態を打開しなければ行けない訳だが…

やはり良い案は浮ばない。

が………一つだけ疑問を感じる事があった。


この、和褄池流という男…本当にファイルに書いてあった通りの超能力者なのだろうか?

●小さい穴小さい穴小さい穴見つけた

効果範囲なんかに関しては、恐らく裏付けのある検証に基いた物なのだろうが……

もし…黄色先輩のように、似たような結果を齎すだけで別の能力なのだとしたら?

その仮説を元に、様々な可能性が頭の中に浮んでは消えて行く。そして……二人の言動や行動と一致する物が見付かった。


あくまで可能性なだけで、証拠も確信も無い…そして、希望的観測でしか無い。しかし現状を打開するにはその可能性に賭けるしか無い。

作戦を伝える俺…カレンから返って来るのは、小指の力ばかり。

だが…俺はそれを決行する。


俺「あの…池流さん。目的は黄色先輩を捕らえる事なんですよね?だったら、良い方法を思い付いたんですけど…」

池流「良いだろう。話してみろ」

俺「あ、でも…多分こいつが聞くと死に物狂いで邪魔してくると思うんで…ちょっと拘束してて貰えませんか?」

今まで生きて来た中で最もゲスだと言い切れるだけの顔を作って提案する俺。


池流「良いだろう…美由、その女を捕まえておけ」

美由「私がぁ?」

池流「いざとなれば俺の力で何とでもなる。それを知っている以上抵抗は無い筈だ」


と言った感じで話しが纏まり、俺からカレンを引き離す美由。それを確認すると、俺は池流に近付き………

俺「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」

その顔面に向けて殴りかかる!


が、しかし…その腕は顔面に届く事なくひしゃげ、折れ曲がってしまった。

あまりの激痛に、声は言葉になる事無く奇怪な音となって鳴り響き…


池流「馬鹿が………何故無駄と判って居てそんな事をする」

俺を見下ろしながら言い捨てる池流。

俺は余りの痛みにその場に蹲り、嗚咽と鼻水と涙と唾液を垂れ流す。…………が、それも想定の範囲内だ。


池流「美由…そっちの女を―――」

指示を出す池流…

だが、美由は返事の言葉を紡ぐ事無く…先よりも離れた場所で地に伏して居る。


池流「―――美由!?」

●ザコだと思って甘く見てるからこういう事になるんだぜ

恐らくこれは、相手にとって想定外の事態…それはわざわざ確認を取らなくても判る。

相手の油断…美由が自分の能力を暴露した事と、池流の能力がばれて居ないとの思い込み…俺達がパトリオットと言う能力の存在を信じて居るとの思い込み。

それらの失策と俺の仮定が噛み合わさり、起死回生の一手に繋がった。


美由の拘束から逃れ、池流の能力の範囲外…窓際へと逃げるカレン。

幸いな事に、望遠鏡用に窓を少し開けてあり…そこから一瞬で開け広げる事に成功。更にそのまま部屋の外へと飛び降り………見事脱出を果たす。

これで後は増援を呼び…遅刻気味な黄色先輩を急かしてさえくれれば、作戦完了だ。


池流「貴様………どういうつもりだ?いや、それよりも…」

俺「何でアンタの能力のカラクリが判ったか…だろ?それは至って簡単さ。そこの美由さんが余りにもお喋り過ぎたせいだよ」

池流「………」


俺「パトリオットと呼ばれている複合能力は…実はあんた個人の能力じゃ無い…あんたは…ただのって言うのもあれだけど、サイコキネシス単品使いだろ?」

池流「そこに到った理由は何だ?」

俺「俺の相方もテレパス使いでね…もしかしたらって思い付いたんだ」

池流「………」


俺「美由は…クレアボヤント能力だけじゃなくて、テレパスも持って居るんじゃないか。それも、送信に特化したテパス能力を…ってね」

美由「なん…でっ…そこまで………」

俺「最初に言っただろ…喋りすぎたって。クレアボヤントを暴露した事自体もそうだけど…」

美由「他にも…あるって言うの?」


俺「咎められるような不味い情報も、あえて言葉にして伝えたのは明らかに不自然だった」

池流「彼を呼ぶ…つまり、彼の存在を臭わせた部分だな」

俺「ご名答…あの発言に必要性は無く、失言だったのはすぐに判った。でもそれを行った事により生まれた疑問が、この解答に繋がったのさ」


池流「…言ってみろ」

俺「何故あんな明らかな失言をしたのか…それは、もう一つの能力…テレパスを隠すために、あえて言葉にし過ぎたんじゃないか…ってね」


池流「つまり、その前提に基き…あのテレフォンパンチにより美由の注意を引き、その隙にあの女が美由を攻撃。気を失わせて一時的に能力を阻害し…」

俺「そう…逃げるに足るだけの条件を作り出したのさ」


池流「幾多の可能性の中から、奇跡に近いような確率に己の命を賭けて女を逃がすとは…敵とは言え賞賛に値する」

俺「お褒めに預かり光栄ですね」

池流「だが少々博打が過ぎたようだな。配当はあっても。賭け金は徴収される物と知れ」


俺「ですよねー…」

●サバイバルユーゴットトゥムーブ

あらぬ方向へと折り曲げられる全身の骨…

辛うじて致命傷こそ避けては居る物の、息をする事さえ儘ならない瀕死の状態。

正に、死んでいないだけ…と言う言葉が相応しい


だが、これで良い…カレンが無事ならば、俺はそれで…


「とか思ってるんでしょうけど…そうは問屋が下ろさないのよね」


突如…耳に届くのは、聞いた事の無い声。

美由「美代…おそぉぃ…」

美代と呼ばれた女の存在……一転二転する展開に追い付くべく、俺は残った力を振り絞って首を動かし…


その姿を見る。

が……そこでは、悪い方向に俺の予想を裏切る事態が進行していた。


美代と呼ばれた女の肩に担がれたカレン………

脱出に成功したにも関わらず、その先で伏兵である美代に囚われてしまった…恐らくはそんな所だろう。


俺の全身から力が抜け落ち、痛みさえも緩慢な電気信号となって通り抜ける。

あぁ……くそっ…文字通り無駄骨を追っただけかよ。


詰んだ……この状態では、どう転んでも死亡フラグの消化にしか向かわない。


と言うか、何だよ………三人目の登場って…卑怯にも程があるだろ?

ってか、この流れはアレだろう?どうせこの美代も池流の女なんだろ?

両手に花か?大回転か?あぁくそっ!


心も体も折られ、生存に未練が無くなったからこそ回る思考。


リア充爆発しろ。

●自分自身が思いもしなかった事

いや、爆発だけじゃ足りない。

こいつもあの譲二ってヤツと同じように爆散すれば良い!

こうやって勝利に酔いながら女二人の間で余韻に浸ってるようなリア充は、爆散するべきだ!


そうだ


リ ア 充 爆 散 し ろ ! !


最後の力を振り絞り、心の底からその叫びを上げる俺………

そして、力尽きて闇の中へと落ちて行く俺の意識。


最後に耳に届くのは、声にならない二種類の悲鳴………

そして、どこからとも無く聞こえる呟き


『あぁ、面倒だ…また…●●を●●しなければいけない…』

○俺の知らない所で明らかになる俺の秘密

ニヤ「以上が、今回の件で彼及びカレンちゃんの記憶から提供された状況報告ッス」

総統「成る程…では、和褄池流は彼の能力により爆死した可能性が極めて高い…と?」

ニヤ「そうッスね…飛び散った肉片や血液からは和褄池流のDNAが検出されてますし、爆死に関しては間違い無さそうッス。でも…」


総統「それが彼の能力による物かどうか…までは確証が持てないかね」

ニヤ「そうッスね」


総統「それでは、美由と美代という二人の行方は?」

ニヤ「黄色先輩が辿り付いた時にはもう姿が無かったらしくて…現在では捜索班が動いているッス」


総統「では…彼とカレンの容態は?」

ニヤ「彼に至っては集中治療室で施術中…カレンちゃんはさっき目を覚ましたらしいッス」

総統「そうか………」


ニヤ「それにしても…彼の能力。木戸譲二爆殺の件は、今回の件から見ても彼の仕業で間違い無そうッスね」

総統「しかし、状況から判断するに、発動条件が…」

ニヤ「とてつもなく運用に困る条件ッスけど。でもまぁ、運用手段が無い訳でも無いんッスよね…」

総統「ふむ…聞かせて貰おうか?」


ニヤ「カレンちゃんに一肌脱いで貰うんッスよ。まぁ、一時的にッスけど……」

  ―チャーハン作るよ― に続く

と言った感じで…まだまだ伏線を放流したままですが、リア充爆散しろ第二章にお付き合い頂きありがとうございました。

それでは恒例のレス返しをさせて頂きたいと思います。

>39 申し訳ありませんが、その辺りのネタバラシはもう少し後で…!
>44-45 その辺りはまぁ…あえて語ってはいませんが、お約束と言う事で。お約束を大事にする◆TPk5R1h7Ngです!
>51-52 ありがとうございます! あまり多くを語ってしまうと今作のネタバレになってしまうので自重しますが
世界の仕組み自体は、別作品と同じ物で構成されています…とだけ。
>56 ぐぐって来ました。空の境界はノータッチだったので、時間を見つけて観てみようと思います。
>59 しかしそう長くは続かない!
>60 乙ありです!
>63 死亡フラグの回収だけは回避出来ましたが…詳細はまた次章!

それでは引き続き「リア充爆散しろ」にお付き合い頂ければ幸いです。

作品の内容以外でご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません。
仕事のシフトが増えて魔法少女の方しか更新しなかったり、咽頭から肺にかけて炎症起こしたりしてダウンしていました…

ちなみに今回は警察のお世話になっていた訳でも、国の幹部に呼び出されていた訳でも、家族バレして止めるか止めないかの瀬戸際に居た訳でもありません
断じてありません。

あと………


「この世界はネトゲである」

ある日、主人公と同じネットゲームを始めたヒロイン。だがその次の日、ヒロインは主人公の目の前で交通事故に遭ってしまう。
幼馴染を亡くした悲しみに暮れる中、その事実を仲間達に告げるべく主人公はネットゲームにログインするのだが…
その先で待っていたのは、死んだ筈のヒロインのキャラクターだった。


「竜胆学園帰宅同好会」

どこにでもある学園七不思議、都市伝説、連続殺人犯。
生徒達の帰宅を邪魔する存在を排除するため
どこにでも居るような二人の小学生…委員長と螺旋が立ち向かう。


「魔法少女神風―少女白虎隊―」

時は西暦1945年…第二次世界大戦の真っ只中。
人の命が水泡の如く沸いては消える中、運命に導かれて魔法少女となった少女達…
ハナ達の命と魂を賭けた戦いが始まる。


「アプリテイカー」

地図上に表示された「アプリ」を争奪するソーシャルゲーム「アプリテイカー」
手に入れたアプリで争奪戦を有利にするもよし、アプリでリアルを充実させるもよし
そんなアプリテイカーを始めたばかりの主人公が、偶然手にしたのは…超レアアプリ。
そのアプリを狙うプレイヤー達の歪んだ欲望の中に、主人公は巻き込まれて行く。


「三代目☆彼女」

世界には自分と同じ顔の人物が三人居ると言うが…実は声に至ってはその比では無い程に同じ声の人間が居る。
そしてそれが、有名な人物と同じ声ならば…演技次第で、影武者…先には二代目にさえなる事がある。
そう…そんな事情の中で有名声優の名前を継いだ、彼女と俺との甘くて酸っぱくて渋くて苦くて辛いラブストーリである。


「聖闘士☆お兄さん」

南十字星の聖闘士クライスト、乙女座の聖闘士シャカ。
作品が違えば天界でツートップの筈の二人が、現代日本で織り成す日常コメディ。
初のパロディ作品に挑戦!


と言った電波に浮気していた訳でもありませんので悪しからず!

>72とりあえず、爆散を1ルート完結させるまでは頑張ってみますorz

―チャーハン作るよ―

●見知った天井

カレン「馬鹿…」

目覚めたばかりの俺を出迎えたのは、カレンの口から放たれた罵倒の言葉だった。

窓の外を見ると、夜。

…一体どれだけの間、こうして寝ていたのだろうか


個人的には、45日くらい寝てたような感覚さえあるのだけれど…


カレン「馬鹿…馬鹿…馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!」


その疑問を投げ掛けるよりも先に、連投されて来るカレンの言葉。

誰かが止めない限りはいつまでも続くであろうそれ…を遮るため、俺はやっと重い口を開く。

俺「馬鹿馬鹿言い過ぎだろう…」


ちなみに、重いと言うのは比喩では無く…実際に口にかかっている負荷が半端無く重い訳なんだが…

自分でもよく判らないその原因を、別の方から解説してくれる人物が現れてくれた。

零那「無理しちゃ駄目よ、1週間もずっと寝たきりだったんだから」


成る程…1週間も口を動かして居ないのならばこの負荷も納得出来る。

…と言うか、45日とは言わないまでも結構な期間寝たきりだったらしい事は判った……のだが…

俺「まぁ…あれだけの事があって、一週間の昏睡で済んだってのは不幸中の幸いか。それに…」


零那「だけって訳じゃないんだけど……それに?」

俺「目覚めた瞬間にカレンが居てくれたってのは、ちょっとラッキーかなって…な」

カレン「なっ………!」


そう…正直な所、一人で目覚める孤独を味わわずに済んだ事はこの上無く嬉しい。

俺は自分で言ったその言葉を頭の中で反芻しながら、カレンの方を見る。

と…そこには、顔を真っ赤にして拳を構えるカレンの姿があった。


俺「………骨折してない場所に頼むよ?」


俺怪我人、無事じゃない。何も変な事考えて無い。これ凄く理不尽じゃない?YO!

思わずラップ調で考えながら、妥協案を打ち出して口に出す俺。

そしてそんな俺とカレンの間に、零那が割って入り…


零那「骨折してない場所が無いから無理じゃないかしら?それに、さっきは言いそびれたんだけど…」

あまりよろしく無い様子の顔で呟く零那。何だ?まだ何かあるのか?

零那「彼…今、カレンの拳を受けたら確実に死ぬわよ?と言うよりも…そもそも完治は無理。現時点でも11個の後遺症が確定してるくらいだもの」


と…あまりよろしく無い事実を突き付けて来た。

●死の淵から蘇っても強くならない。

俺「………は?」

ご丁寧に解説を続ける零那に対し、思わず声に出して疑問符を浮べる俺。

だがすぐにその言葉を飲み込み、意識を失う前の事を思い出す。


自分の力量も省みず、格上の相手を出し抜いた代償…決して安くは無かったが、そう考えるとむしろ命があるだけでも儲け物だ。

俺「ま、そうだよな…」

幾ら無茶をしても大怪我をしても、次のシーズンには完治して更にパワーアップ…なんてのはあくまで物語の中の話。


現実の人間はこうして怪我をすれば普通に壊れるし、取り返しの付かない怪我になる事もある。

超能力と言う常識外れの医療技術に期待していた面が無いと言えば嘘になるが…

まぁ…だからと言って、ボロボロになったこの結果を後悔している訳でも無い。


俺は自分が望む結末に命を賭け、その結果…こうしてカレンが生き残り、ついでに俺の命まで助かって居る。

100点満点で言えば90点くらいは取れている結果じゃないか。

と、そんな事を考えて居ると………今度はカレンが顔を近付けて来る。


気が付けばカレンの手は俺の肩に乗って居て…ついでに言うと、いつの間に立ち去ったのか零那の姿は無し…

俺とカレンがとても近い位置に居て、他には誰も居ない…つまり……

その意味を考えて、二重の意味で心臓がドクドクと高鳴る。


カレンと二人っきり!?まさかの恋人フラグ!?

いや待て考えろ?逆にこれは死亡フラグなんじゃないのか!?カレンが暴走したら誰が止めてくれるんだ!?


カレン「馬鹿…でもまぁ、確かに暴走はするかもね」

そして焦りまくる俺を余所に、またもカレンの口から零れるその言葉…


しまった、テレパシーで俺の心を読んでるんだから、当然この考えも読まれているに決まっている。

死亡フラグが確定。その覚悟をした次の瞬間…


カレン「良い?これは今回だけの暴走だからね?」

何故か念を押して宣言するカレン。俺はその言葉とカレンを前にして、ただだた頷き…

更にその次の瞬間には、信じられない言葉を耳にした。


カレン「貴方の言う事…なんでも一つだけ聞いてあげる」

●これ何てエロゲ?

俺「…はっ…!?」

カレン「だから…このまま貴方に貸しを作ったままにしておく訳にはいかないから、何でも一つだけ言う事を聞いてあげるって言ってるのよ!」

カレンの言葉を、もう一度頭の中で整理する。


カレンが俺の言う事を何でも一つだけ聞いてくれると言っている。

その理由は恐らく、前回の件で…プライドの高いカレンが、借りを清算するための手段だという事。

だが問題なのは、その内容………何でもとは言っても、さすがに限度はある。

考えるまでも無く、俺の想像とカレンの想像は異なり…当然想定も違ってくる訳で…


ぶっちゃけ、俺の基準で 何でも なんて言われたら、エロい事しか思い浮んで来ない。

例えるならば…丸々一日、俺の言う事に従順で何でもしてしまうエロメイドを差し出されるに近い発言でしか無いだろう!?

だが、カレンの想定はもっと違う筈だ。


きっとカレンの事だから、サンドバックにされるだのパシリにされるだの、そう言った方向で考えているんじゃないだろうか?

となれば、俺の思考だけでの先走りは禁物。なるべくカレンの意図に添った―――

と考えた所で、再び思い出す事実。この思考もカレンに読まれている…即ち、俺自身の欲望も読まれてしまった訳で…


カレン「…馬鹿」

本日何度目かのカレンのその単語と共に、死を覚悟する俺。

だがその覚悟の後に続く物は…


カレン「良いのよ…私に合わせ無くっても、貴方の望みをそのまま言えば良いじゃない」

またも予想外の言葉だった。


俺「いやそれ…本気で言ってるのか?俺が考えてるのって、物凄い内容だぞ!?」

カレン「わ…判ってるわよ!」

俺「何かもう色々後戻りできなくなるような凄い事をカレンにしたいって考えてるんだぞ!?」

カレン「だから!わざわざ言わなくても心は読んでるから判ってるって言ってるでしょ!?」


顔を真っ赤にして、声を荒げながら言葉を交わす俺とカレン。

そして、言葉に乗せたお互いの思いを確認した後……


俺は、自分の心に正直になった。

●俺が最後の希望だ(30)

俺「それ…じゃぁなぁ……あー……えと、ダメだ。うん、エロいのはとりあえず無しだ」

カレン「はひっ!?え?な…な、何で!?私は大丈夫だって…」

俺「まぁうん…そこなんだよな。カレンは俺の心が読めるけど、俺はカレンの心が読め無いんだわ」


カレン「そ、それはそうだけど…」

俺「で…な?何て言うか、こう言うのは違うんだよな」

カレン「な…何が違うって言うの!?私にそういうエッチな事したくないの?」


俺「したく無い訳あるかぁ!!そりゃぁもう、あんなこんなエロエロな事をしたいに決まってるだろ!!」

カレン「ちょっ…声大きいって!って言うか、したいなら何でしないのよ!?」

俺「したいけれど、こういう形でそういう事するのは違うんだよ!」

カレン「ど、どういう事…?」


俺「上手くは説明できないけど…な。カレンとは、こういう義務感とか制約じゃなくて…ちゃんとそういう仲になってから…って、これ以上言わせんな!」

カレン「……………」

それ以上はあえて言葉にせず、心を開け広げてカレンに伝える。そして……


カレン「…馬鹿ね」

俺「……はい、馬鹿です。千載一遇の機会を逃してでも自分の拘りに生きる、ただの馬鹿です」

カレン「………はぁ」


深くため息を付き、今まで溜め込んだ力を抜き去るカレン。

つられるように俺も肩の力を抜き、改めてカレンの方を見る。

カレン「じゃぁ…それは良いとして、どんな言う事を聞かせるの?引っ込み付かないんだから、そこはちゃんと決めてよね?」


自分自身の望みでやった事なのだから、勝手に貸し借りを感じられても困るのだが…それでも、何か言わなければ終わりそうに無いこの空気。

何を望むか…それを考えた結果、一つの願いが浮かんで来た。

俺「そうだな…じゃぁ…」


カレン「決まった?」


俺「何か手料理作ってくれよ。腹の中に何も入って無いもんだから、空腹で死にそうなんだ」

●蟲毒のグルメ

カレン「料理なんて初めてだから…あんまり美味しく無いかも知れないけど」

そんなこんなで、厨房を借りてカレンが作って来てくれた料理…

底の深い皿に盛られた、広い円柱状の黒い色の何か…


その姿以上の情報は無いに等しく、俺はその少ない情報の中から正体を推測して行く。

円柱状…丁度ケーキ6号分と同じくらいのサイズ。色も黒な事を考えると…

恐らくはチョコレートケーキ!


俺「にしても、一番最初の料理がケーキだなんて…中々チャレンジャーだなぁ」

カレン「ケーキ?もう、そんなに褒めても何も出ないわよ?」

まんざらでは無い様子で否定するカレン。


褒める?見た目がケーキのようだと言う意味で取られたのだろうが、それにより、更に謎は深まって行く。

では一体何なんだろうか…次なるヒントを探す俺。

深い器に…あれはレンゲ?


スプーンではなくレンゲな辺り、普通に考えれば和か中華の可能性が高い…が、カレンがそこまで気にしていない可能性もある。

いくら考えてもこのままでは切りが無い…こうなれば残された手段は、実際に食する他無いのだが…

ここに来て次の難問が襲い来る。


レンゲでどうやって食べれば良い?

天井からか?角から?あるいは側面か?

その選択の時点で足踏みをする中、カレンがレンゲを手にする。


カレン「あ、手もまだ動かせないのね…良いわ、今回だけ食べさせてあげる」

そして円柱の角にレンゲを入れるカレン。

サクッサクッっと音を立てながら、レンゲの上にその料理を乗せて行き…俺の口元まで運んでくれた。


だが、その時点で俺の頭の中に生まれる違和感。

その可能性に気付きながらも、あえて思考から外していた内容

口の中に運ぶ今この瞬間にもその可能性を否定し続けるのだが………それは無駄な努力だった。


口全体に広がる濃厚なビターと、サクサクの食感………間違い無い、これは消し炭だ。

辛うじて焦げ切って居ない部分も、パフのような食感しか舌に届かず…その正体の究明には到らない。

そう…問題はそこである。


消し炭を食べさせられる事までは想定内…正直予想以上の不味さだが、それはそれ。

例え不味い料理であろうと、折角カレンが俺のために作ってくれた料理。最後まで食べ切って美味しかったと言うのが、男の絶対条件。


そしてその言葉を放つには、最低でも知らなければいけないのが…料理の正体な訳だが…

●たった一つの真実見抜きしていいですか?

俺「中々変わった調理法…だな」

カレン「そう?強火でパラパラにするのが基本って聞いたんだけど」


いや、パラパラの消し炭になるまで強火で調理する料理って何ですか?


強火でパラパラにする料理…とりあえずそれだけは判ったが、あまりにも情報が少な過ぎる。

強火でパラパラにする料理など、この世には山ほどあり…それこそ、中華などは強火が基本……

いや、待てよ?…そうか!


料理の正体を難しく考えるからいけなかったんだ。

料理初心者のカレンが作れる料理と言えば当然バリエーションなど無く、それこそ簡単な物に限られる。

そして強火でパラパラ…焦げたパフのような食感…それらのピースを繋ぎ合わせれば、自然とその答えが導き出されて行く。


さぁ…答えさえ判ってしまえば、後は完食するだけだ。


一口…また一口と口に運ばれて来る、消し炭。

口の中に広がる何とも言えない苦味とえぐ味を堪えながらも、辛うじてその奥に眠る調味料と素材の味を探りつつ食べる。

自分のペースで食べられない事にもどかしさを感じながらも、カレンの笑顔を見る事で挫けそうな心を滾らせる。


そして……俺はついに食べ切った。

やった…俺はやったぞ。

さぁ、後はその料理の名前を口にするだけだ。


俺「ありがとう。このチャーハン、凄く美味かった」


やり終えた…ここまで来ればもう、真っ白に燃え尽きてゴールして良いだろう。

さも満腹から来た眠気に襲われてるかのような船漕ぎを装い、瞼を落として行く俺。

だが…そこで終わってはくれなかった。


カレン「お粗末様でした。でもね…これ、チャーハンじゃなくてパエリアって言うのよ」

クスリと天使のような笑みを浮べながら自身満々で言い切るカレン。

ここまで来ると、もういっそドヤ顔の方がスッキリとするレベルである。


俺「そ、そっか…パエリヤって言うのか。知らなかった」

突っ込みたい…物凄く突っ込みたいという思いを抑えながら平然と答える俺。

当然ながらパエリヤが何なのかは知っているが、それを突っ込んだ所で得られる物など無い。


ぐるぐると頭の中を巡る、もどかしさと意味不明な混濁感。

そしてその後者の理由に気付いた時には、もう遅く…


俺は再び意識を失った。

●くぎゅボイスの新キャラ登場

黄色「んっ当………ここが病院で良かったよな」

少年「病院でも病院を呼ぶ事を出来るんだっけ?」

黄色「いや、病院は呼べねぇからこの場合呼ぶのは救急車だろ」

救急車も呼ばなくて良いんで、とりあえず医者かナースを呼んで下さい。


再び意識を取り戻した俺…そして、今回の目覚めに立ち会ってくれたのは、黄色先輩と見知らぬ少年だった。


俺「俺…あれから…」

黄色「あれから4時間って所だな。まぁ安心しろ…カレンには本当の事は伝えて無ぇ」

俺「そっか…良かっ……た…」


話から察するに、黄色先輩の機転で誤魔化しに成功…どうやらカレンを傷つける結果にはならなかったらしい。

黄色先輩の言葉に安堵し、また意識を失いかける俺。

が………中途半端に回っている頭のせいで、自分で自分の理性を繋ぎ止めてしまう。


俺「………って、そうだ!元はと言えば俺がこんな目に遭ってるのも黄色先輩が原因じゃないですか!」

そう、元を辿れば黄色先輩の代理行動と誤情報が原因だ。

俺「何が遠くから見てる分には大丈夫で、身の危険は無い仕事ですか!思いっきり襲われたんですけど!?」


少年「黄色…また適当な事言って他の人を困らせたの?」

黄色「あー…それな。まぁ、ちょっと下調べが甘かったってーか…こっちの情報が予想以上に漏れてたってーか…」

少年「って…もしかして、あの建物の件を引き継いだのが彼なの?!あーもう!黄色があんな事するから監視がばれたんだよ!」


と、ここで一つ感じる違和感。黄色先輩と一緒に居る人物。俺は一見してこの人物を少年と判断した訳だが…

よくよく見てみると、履いているのは半ズボンでは無くキュロット。キュロット以外でも、男性用では無く女性用の服を着込んでいるではないか。

そう…パっと見だけではすぐには判らないが、この少年は女性の服を着て居る。そしてその事実を確認した後…俺は、導き出された答えを口に出す。


俺「あの…もしかしてそっちの人………男の娘ってヤツですか?」

少年「……………」

黄色「だってよ、アウィスくん。アウィス く ん」


プルプル肩を震わせた後、深呼吸して笑顔を作る少年…アウィスと呼ばれた人物。

片や黄色先輩は口元を抑えたまま背を向けて…


アウィス「はじめまして。ボクの名前はアウィス……ちなみにこんな恰好してるのは黄色の趣味で、ボクはれっきとした女だから」

女…の部分を強調して言うアウィス。額に物凄い血管マークを浮かべてる辺り、相当な怒りと………コンプレックスを持って居る事が見て取れる。


俺「ゴメンナサイ、そんな恰好なんで思いっきり勘違いしてしまいました」

ので…唯一の逃げ道であるそこに同意しつつ、謝っておく事にした。

黄色先輩には悪いが、ここは共通の敵に………いや、もしかしたら勘違いする事を判って居て…あえてこの服をチョイスしたのでは無いだろうか?


そう考えると中々侮れない。黄色先輩…底が知れぬ男よ。

●そんなヤツじゃないって解ってるじゃんよ

俺「で…一体何の用ですか?ただお見舞いに来たって訳じゃ無いんですよね?」

そして、底が知れぬとは言ってもある程度の思惑は勝手知ったる何とやら。わざわざ男の見舞いに来るような人物では無い事くらいはお見通しな訳で……

終わり無きコントが続く前に、本題に切り込んで行く事にする。


黄色「よーく判ってんじゃねぇか。んじゃ確認しとくが…例のファイルはもう見たな?」

俺「一通りは流し読みしましたけど…」

黄色「76ページ目のヤツは覚えてるか?」


促されて思い出すそのページ…確か、俺の質問に対してカレンが返して来たページだ。

俺「覚えてますけど、それが何が?」

黄色「んじゃ、話は早いな。退院手続きはもうしてあるから準備しな」


見えない所で進み始める話…

正直月単位の入院を覚悟した所で、突然に突き付けられた退院。

当然ながらその流れを、素直に受け入れられるはずも無く…


俺「え?いや、ちょっと待って下さいよ。退院ってどういう事ですか?何かしようにも、こんな身体じゃ…」

黄色「だから、そんな身体をどうにかするためにソイツの所に行くんだっての」

ソイツ…つまりは要注意人物リスト76ページの人物の所に行くと言う事までは理解した。


俺「って…要注意人物に会いに行くんですか!?第一、自分からの接触は禁止だって注意事項に…」

黄色「それを言うなら、俺だって要注意人物だぞ?」

ご尤も。でもそれを自分で言ってしまうのは如何な物だろうか。


黄色「それに…そのために今回はアウィスを呼んどいたんだ。まさか笑いのネタにするためだけに、初対面のコイツをわざわざ呼んだとでも思ったのか?」

アウィス「えっ…違ったの?」

ショタ面に聞こえた、と言うのは置いといて…当の本人にも初耳の様子。


本当に大丈夫なのだろうか…そんな疑念が絶えない中、着々かつ強制的に薦められて行く退院準備。

気が付けば俺は、アウィスさんの押す車椅子に乗せられ………

アパートの近所の大学の正門前に居た。


さぁ、いよいよもって何だか先が見えなくなって来ちゃったぞ。

●魔法も魔術もあるんだよ?

カライモン「おや、これは珍しいお客さんだね。まぁ良い、魔女の茶会へようこそ」

大学の敷地内…小さな建物の中でそれは開かれていた。


近代的な概観とは正反対の、幻想的且つオカルティックな装飾に彩られた部屋。

その部屋でまず最初に俺達を出迎えてくれたのは、先にも話題に上った人物……

要注意人物ナンバー76…魔法少女カライモンだった。


そして、部屋の中にはもう後三人…

一人はカライモンと同じく、目隠しをした…昆虫の触覚のような二本のアホ毛の黒髪の少女。

一人はアホ毛とバッテン前髪が特徴的な超ロングな銀髪の少女。

一人は、シャギーの入った前髪とツインテールの黒髪の女の子。


アウィス「あ、リーゼも来てたんだ?知ってればお菓子を作って来たのに…」

アウィスの言葉を聞き、アホ毛をピクリと動かす…リーゼと呼ばれた少女。

ちなみに服装は…ゴシックパンク調のシャツとミニスカートの上に、軍服のようなジャケットを羽織っている。


黄色「って…ベリル、お前も来てたのかよ。だったらアウィスに仲介して貰う必要無かったなぁ」

ベリル「あら。どこかの誰かさんがもっとこまめに報告してくださってたら、ちゃあんとお伝えできましたのに」

黄色「………」


続いて、ベリルと呼ばれた少女…服装は定番とも言えるようなゴシックドレスとミニハット。

アウィス「あれ…? あのベリルって人、どこかで…」

黄色「いや、気のせいだから気にすんな」


二人と何かしらの関係がある人物のようだが、きっと今は触れ無い方が良さそうだ。


そして最後に…… 最後に………

俺「あの…そっちの人は?」

誰も触れないようなので、触覚アホ毛少女の事を聞いて見る事にした。

ちなみに服装は、黒い鳥の羽があしらわれたドレス。前が大きく開いていて、辛うじて大事な箇所が羽で隠れているデザインの痴女服だ。


カライモン「あぁ、彼女はGだ」

G「誰がGじゃ!!わらわの名は鴉姫!傲慢の大罪をその身に宿す悪魔、鴉姫じゃ!」

ベリル「悪魔になりたての、まだまだばろっとですけれど」


ひよっこ通り越して、生まれる前に死んでるけど良いのかそれは。

まぁともあれ、毎度ながらのご丁寧な説明ありがとうございます。


ただ…その中二設定よりも、見た目と触覚のせいでGの方が定着してしまいそうです。

●秘密結社の改造人間になんてなりたいとは思わない。

俺「で…話は大分逸れてしまったんですが、一体これからどうするんですか?」

そして、一段落した所でいつものように方向修正して黄色先輩に問いかける俺。

黄色「っと、そーそー…危なく忘れちまう所だったぜ。そもそもお前の件でここに来たんだったな」


その思惑を知っている唯一の人間に忘れられたら、俺はただの退院損だ。


アウィス「確か、カライモンさんに用があったんだよね?」

黄色「…の予定だったんだが。こんだけの面子が揃ってんなら、別の選択肢も出て来そーだなぁ」

カライモン「ふむ。君達が私を頼ってきた時点で、ある程度目的の予想は付いてはいるが………その理由を聞くまでは返答し兼ねるね」


だから、俺を置いたまま話を進めないで下さい。


黄色「あー…そうだった。まずコイツ…組織内での俺の後輩なんだが、キングダムの連中との戦いで見ての通りのボロボロになっちまってな」

カライモン「キングダム…確かここ最近名を上げているテロ組織だったね。しかし、その件と私との関係は…」

アウィス「彼、カレンちゃんを助けてこんな身体になっちゃったらしいんだよ」

カライモン「ほう………そう言う事かね」


アウィスがカレンの名前を出した途端、判り易い程に態度を変えるカライモン。


カライモン「ではその口ぶりから察するに、カレン君に関しても…いや、カレン君の目的その物が…」

黄色「察しが良くて助かるぜ」

カライモン「となると、そこの彼に至っては…」


意味深な伏線じみた単語をちりばめながら会話を進める黄色先輩とカライモン。

そしてその会話に区切りが来たのか、二人はじっと俺を見据え…


黄色「あぁ…コイツの身体を、もうちっとばかし戦えるように改造して欲しいんだわ」


予想の斜め上を行く発言をしてくれた。

●少しだけで良い、落ち着く時間が欲しい。

俺「いやいやいやいやいや!改造って何なんですか!?何かもう色々突っ込みたい事ばっかだけど、とりあえずお断りしますからね!?」

黄色「ま、そう言うだろうと思ったぜ」

しれっと言う黄色先輩。だがその言葉は終わる事無く、俺の言葉を遮りながら続きを紡いで行く。


黄色「俺だって最初は、ここまで深入りさせるつもりじゃ無かった。適当な所で適当にカレンと仲良くやらせて、適当な所で落とし所を見つけるつもりだったさ」

俺「いや…だから何でそこでカレンの………ん?」

と、自分で言った所で見つける一本の糸。さっきからちょくちょく出て来るカレンの名前と、その延長上に改造なんて言葉が出てくる理由…


黄色「っと…その様子だと、幾らかは察しが付いたみてーだな。まぁつまり…」

俺「カレンと一緒に居る事で、これから先も危険な戦いに巻き込まれる可能性がある…いや、高いって事…?」

黄色「ま、その通りだ」


黄色先輩の言葉により、頭を横殴りにされたような衝撃で思考を塗り潰される。


俺「じゃぁ…えっと、そうだ。その理由を聞かせて貰えませんか?ほら、第一俺が危ない目に遭うんなら、カレンだって…」

黄色「まぁ簡単に言えば、その理由がカレンにあっから…かねぇ」

俺「あー…カレンって実は、どこかのお姫さまとか重要人物で…命を狙われてるとか?」


黄色「いや…ってーかむしろ、カレンが命を狙ってる側だからな」

俺「………は?命を狙ってるって、どこの誰の!?」

黄色「例のテロ組織…キングダムってーんだが、そのトップの命を狙ってんだわ」


次から次に訪れる新事実に、俺の頭は破裂寸前だ。


俺「は?!何でそんな事を!?」

黄色「両親の仇だから、だろーなぁ。ちなみに、実行犯でカレンの両親を殺したのは木戸譲二な」


俺「…………………はっ?」


あ、ダメだ…訂正、破裂した。

●だんだん気になる心

黄色「あぁ、そだ。ついでに一つ…お前、カレンの料理を食って何か思った事無ぇか?」

俺「いや、そんな事今何で…」

黄色「良いから答えろ」


内容とは裏腹に真剣な顔で問う黄色先輩。俺はその勢いに押され…

俺「えと、何って言うか…正直、物凄く不味くて………どういう調理法方すれば…ん?あれ?そう言えば…」

そこで違和感に気付く


俺「カレンは…あれが、初めての料理だって………」

そう…幾つかの可能性は浮んだが、そこから生まれる違和感が拭えない。

両親が殺された時期が何時かは判らないが、少なくとも一人になってから自炊の一つもした事が無いと言うのは極端過ぎる。


俺「今まで作らなかった…いや、料理を作る事が出来なかったか作る必要が無かった?」

黄色「で、後者二つだった場合に考えられる原因は何だ?」

俺「それは…出来ないって事は、必要な物が無い訳で…料理に必要な器具なんかはどうとでもなるから、カレン本人の………」


…思考の中で見つけ出してしまった答え。

俺がいかに無知で無頓着で無神経で…カレンの事を知らなかったのか、それを痛感させられた。


俺「もしかして…カレンには味覚が…」

そう…味覚が無いとなれば…味見すら出来なかくて…非常識とも思える事に違和感を感じる事すら出来ないのも納得できる。


黄色「詳しい説明は置いとくが…正確に言やぁ、ちょっと前まで味覚以外も殆どの感覚が無かった訳だがな」

俺「…えっ?」

カライモン「まぁその辺りは、ここに来た時点である程度の察しも付くだろう」


俺「そっか…カレンもここで治療を受けて…」

カライモン「受けたと言うよりは、受けている途中で抜け出してしまったと言うのが正しいけれどね」

俺「え?あ………いや、カレンの事だから…もしかして、味覚は復讐に必要無いとか言って出てったんじゃ…」


カライモン「ご名答」


次々と当たって行く、当たって欲しく無い予想。

胸の鼓動が自分でも気付かない内に激しくなり、鼓膜を殴打していた。

●決めない事もまた勇気

黄色「と言った感じの事情がある訳で…だ。もしアレなら、折角良い感じになってきた所を悪ぃが、カレンとは別れて元の生活に戻るってー選択肢も…」

俺「それは嫌だ!」


そう…自分でも驚いた事だが、思考を巡らせる事も無く…反射的にその言葉が飛び出した。


カライモン「参考までに聞くが、その結論に到った理由は何だね?聞いていて判るとは思うが、これからも命の危険が伴って来るのだよ?」

俺「その…何て言ったら良いか上手く言葉には出来ないんですけど…俺、カレンの事が好きで…そんな話聞いたら、もう絶対放っておけなくて…」

カライモン「ふむ………」


黄色「若ぇって良いよなぁ」

カライモン「まだ30代にもなって居ないキミがそれを言うのかね?それに…私としては、若さよりもどこか彼に似た物を感じるね」

アウィス「彼って誰の事ですか?」

カライモン「こちらの話だ、気にせず流してくれ給え」


黄色「で、どーする?これからもカレンに付き合ってくってーんなら、お前自身のパワーアップが必要になってくる訳だが…」

カライモン「そういう意味ではこの茶会に同席出来た事はかなりの幸運だろうね。此処に居る彼女達は、癖が強い物の大きな力になれるだろう」

黄色「あぁ、そだ。ついでだから自己紹介もして貰えっか?コイツもだが、俺も何人かは初対面なんだわ」


と…こうして魔女の茶会のメンバー…正確には魔女で無いにしろ縁のある面子の自己紹介が始まった。


ベリル「私の名はベリル。今回は、遺伝子の改造や改良…魔改造や呪いによる底上げを行えますの。カレンさんのためらしいので、力をお貸し出来ますわ」

G「わらわ名は鴉姫…悪魔じゃ。主に薬物を使った強化を得意としておる。面白そうなので助けてやろう」

リーゼ「ドラゴンクォーター、リーゼ。色々出来る…報酬はアウィスの作ったお菓子」


カライモン「そして私が主催のカライモンだ。医学を基礎とし、魔法により施術を行う形式を主としている」

と、参加者の方々に自己紹介を頂く。

だが俺の中では、その答えが既に出ていた。


いやまぁ、その答えを出すまで自分の中では結構悩んだり迷ったりしたんだけどな!

●ありのままの俺を見せるのよ

俺「えっと…その、皆さんの気持ちは物凄く嬉しいんですけど…」

カライモン「ほう…その口ぶり、私達の力が要らないとでも言い出しそうだね?」

ニヤニヤと面白そうに笑いながら俺を分析するカライモン。


アウィス「えっ…でも、キミ…そのままじゃ…」

カライモン「そうだね、こんなチャンスを前にして…その上でリスクを背負い続ける理由を聞かせて貰えるかね?」

俺「あ、いや…別に身体を治したく無いって訳じゃ無いですよ?ちゃんとリハビリ何かはやって、ある程度動けるようにはなりたいと思ってますし」


カライモン「ならば…あぁ、いや…少し見えてきたかもしれない。続けてくれ給え」

俺「ぶっちゃけ言っちゃうと、俺の意地…って言うんですかね。ここで誰かの力を借りたら、俺がした事が無かった事になるみたいで…」

黄色「傷は男の勲章…って事か?にしたって、こっから先はどーすんだ?意地だけでカレンを助けられんのか?」


俺「正直、俺の力だけではすぐ限界も来ると思います。でも…それでも」

黄色「それでも、何だ?」

俺「誰かの力を頼ってカレンを助けるのは、俺が助けた事にはならないと思うんです。だから…本当我儘だけど…」


黄色「んじゃぁ………改めて確認するぜ?」

俺「…はい」


黄色「カレンを助けるための最善策は取らねぇ…あくまで自分のエゴだけでやりたい事をやる…って事で良いんだよな?」

俺「はい」


黄色「で、その身体も魔法で治さねぇ…自分の意地でカレンの足を引っ張ったり、心配をかけっ放しにしても構わねぇ…って事だな?」

俺「心配をかけるのは不本意ですけど…足は引っ張らないように頑張ります」


黄色先輩の問いに、間を空ける事無く思ったままを答える俺。

対する黄色先輩は、その返答に大きくため息をつき………その後…


黄色「だったら俺からは何も言わねぇ。お前の思うようにやってみな。ただし!自己責任で動く以上は俺も助けてやらねぇから腹括れよ?」

俺「はい!!」


渋々ながらも折れてくれた。

●それでも台無しにする要因はゼロじゃない

俺「…と言う訳ですみません、折角の皆さんのご厚意なんですが…」

カライモン「気にしないでくれ給え。私もそう言うノリは嫌いでは無い」

ベリル「私も、無理に手出しをする程野暮では御座いませんもの」


G「わらわは大いに不満じゃがな。このわらわを前にして、その力を拒むなど…」

ベリル「あら、そんな事を仰っているから小物臭が抜けませんのよ?小物臭が抜けても、まだ別の匂いが残っていそうですけれど」

G「――――っ!!減らず口を!今日こそ決着を付けてくれようでは無いか!」


大分失礼な事をしてしまった手前、皆の気分を害する事を懸念していた…が、それも無く無事に話は纏まった様子。

カレンの過去を…そして現在を知り、改めてきを引き締める…そんな中、ふとある事に気付く。


俺「えっと、リーゼ…さん?さっきからずっとそっぽを向いているみたいですけど…何か気に障るような事でも…」

リーゼ「………」

アウィス「あれ?どうしたのリーゼ?」


そしてその様子は、知人であるアウィスから見ても異常なようで…心配したのか、それに関して伺いが入るのだが…

リーゼ「……………ごめんなさい」

長い沈黙の後。視線を逸らしたまま、何故か謝罪の言葉が発せられた。


俺「え?一体何が?どっちかって言うと俺の方が謝ってる立場なんですけど…」

謝罪の意図を汲み取る事が出来ず、困惑する俺達。

俺は顎に手を充てて、首を傾げながら考えるのだが…一向に答えが…………ん?


俺「あれ?何で俺、普通に手とか首とか…」

普通に動いている事に疑問を拭えない俺。そして更に、そこから試みた内容により…疑問は確信へと変わった。


俺「えっと………これはどの時点で?」

リーゼ「この部屋に入って来た時………アウィスの知り合いが怪我しているのが判ったから…とりあえずそれだけをって」

顔を両手で隠しながら、更に身体を捻るリーゼ。そして事態を察したのか、黄色先輩とカイラモンが俺の方を向く


黄色「ぁー………折角恰好付けたのに台無しだな」

カライモン「まぁ、人生何事も上手く行くとは限らないものな」

リーゼ「………ごめんなさい」


俺「いや……ははは、厚意でして貰った事ですからね!それに、俺の意地よりカレンへの実益の方が大事でしょ!?」


俺は全快していた。

●一つの終わりは一つの始まりであり、始まりは終わらない

俺「それでは、お世話になりました」

カライモン「と言っても、私は何もして居ないがね。まぁ、もし私達の力を借りたくなったら、今度は…」

俺「今度はマイさんの方を尋ねさせて貰います」

カライモン「ほぅ………」


G「で、戦とは関係無い所で干渉を受けるのは良いのじゃろう?」

そしてカライモンとの会話の途中…横槍の言葉と共に謎の錠剤を投げて渡すG

俺「これは?」


G「使ってみてのお楽しみじゃ、カレンとやらに飲ませて見るが良い」

邪悪な笑みを浮べて言葉を濁す…ので、それ以上はあえて突っ込まずにおく事にした。


ベリル「では私からは…私を召還出来る魔方陣をお渡ししておきますわね」

続けてベリルからは、折り畳まれた古紙。

なるべくそういう事態が起きなければ良のだけれど…とりあえずこれも受け取っておく。


そして最後に…俺の身体を治してくれたリーゼが、何かを言いたそうに俺を見上げている。

ので…リーゼの方に向き直り、その話を聞く事にした。

リーゼ「私からも…一つだけ伝えておく事がある」


俺「伝えておく事って言うのは、一体何関連の話ですか?」

この短時間であまりにも多くの新事実が語られ、何の事なのか見当が付かない。

リーゼの言葉をこのまま待って居ても良いのだが、好奇心に押されて質問が飛び出した。


リーゼ「貴方の能力の事………貴方の能力の根幹は一つ」

俺「それは一体どういう………」

リーゼ「………後々判る」


が、しかし…謎の言葉を残して、それ以上は語る事無くアウィスの方へと歩いて行くリーゼ。


こうして…魔女の茶会で、不思議なアイテムやら意味深な言葉を貰い…ついでに後遺症の無い健康な身体を得た俺。


最後にもう一度皆に頭を下げ、今度は自分の足でその場を去る事になったのだが…

●繋がらなくても伝わるビート

カレン「馬鹿」

戻った俺を出迎えた、カレンの第一声は…またも、聞き慣れたその言葉だった。

カレン「急に病室から居なくなるなんて、何考えてるのよ!」


俺を罵倒するカレンの声…ほんの数時間聞いて居なかっただけなのに、それが何故か懐かしく聞こえる。

で…その懐かしさついでにカレンを見て居て気付く事が一つ。


カレン「また何かに巻き込まれて…もしかしたら今度こそって考えて…」

泣き腫らしたカレンの目…その姿から、俺がどれだけカレンに心配をかけたかが伺えた。

カレン「大体、あんな重体で外を出歩くなんて…出歩く……あれ?」


そして、俺の身体に起きた異変に気付くカレン。


俺「あー…っとな、黄色先輩に連れられてマイ先生の所に行ってたんだ。それで…」

カレンの疑問に答えるべく、俺は事情を掻い摘んで話す…が、同時にそこで失態に気付く。

俺「あ、いや。治療はマイ先生じゃなくて、そこに居合わせたリーゼって子が―――」


慌ててフォローを入れる俺…だが、それさえも更なる失敗となってしまった。

そう………当然のようにマイさんの名前を出す事も失敗で、マイさんに治療を受けて居ないと宣言した事も失敗。

これらの言葉は、カレンが能力を使わなくても事情を理解にするために十分な情報を持って居て…


カレン「………………そっか、知っちゃったのね」

訪れたのは重苦しい沈黙………そしてその後、当然のように理解したカレンが呟く。


俺「………」

そんなカレンの言葉に、無言による肯定で返す俺。

カレン「どこまで…って聞くのも変よね。あぁでもダメ…ゴメン。私からじゃ、何て言えば言いのか判らない」


だが、無言だからと行ってそこで終わらせるつもりは無い。


俺はカレンの手を握り…魔女の茶会であった事の…ありの侭の全てを、記憶で以って伝える。そして…


俺「言いたくなったら、その時に言ってくれれば良い。カレンが言いたく無い事は言うな!」

あえて言葉にして、その想いを伝えた

●ここから始まる強火のヒート

カレン「馬鹿…何でそんな男らしい事言ってるのよ。そんなキャラじゃないでしょ?」

俺「カレンの前でくらい、恰好付けたって良いだろ?」

カレン「本当もう…馬鹿」


そう呟くカレンの言葉は、文面とは裏腹にどこから嬉しそうだった。

と…そんな中。テレパシーで意思を伝えた事で、思い付いた事が一つ。


俺「なぁ…カレンのこの能力って、読めるのは心の声だけなのか?」

カレン「えっと…心の声以外を、意図的に読んだ事はあんまり無いけど…あっ………そう言えば夢では…」

俺「夢?」

カレン「な………なななななな、何でも無いわよ!!?」


何故か真っ赤になって誤魔化すカレン。しかしその様子からは、俺の求める可能性を見出せた。


俺「じゃぁ…試してみるか」

カレン「試すって………」

何を…という言葉は続く事無く、俺の心の声がそれを止める。


もしもカレンのテレパシーが、思考以外の物を読み取れるなら…


カレンに欠けている物を、俺が補う事が出来るなら…


それは俺にとって嬉しい事だから。


カレン「でも…何を食べるの?」

俺「そうだな…とりあえず、カレンが好きな物にしようと思うんだが……」

と、そこで俺が思い出したのは、カレンの作った手料理…自称パエリヤ。


カレン「自称も何もパエリアだってば…って、そう言えば私はパエリアって教えたのにパエリヤって言ってたわよね」

あぁ、そうだ…あの時はそこまで気が回らず、元から知っていたパエリヤの方で呼んでしまっていた

…と言うか、この回想もカレンに伝わってるじゃん!何してる俺!?


カレン「もう…私を気遣ってくれた上での事なんだから、別に怒らないわよ。それより話を戻しましょう?」

俺「っと、悪い。余計な事考えてた。じゃぁ…カレンの好きなパエリヤで…」

カレン「ううん」


俺「じゃぁ、何にするんだ?」

カレン「貴方はパエリアよりチャーハンの方が得意なんでしょ?だったら………」

それ以上は言葉にされなかったが、言いたい事は伝わった。


そうと決まれば、腕によりをかけて…最高の


俺「チャーハン 作るよ」

○暗躍の手がどこに伸びるのか?

総統「それで…その後の、彼の件はどうなっているんだね?」

零那「カレンの了承も得て、着々と進行しています」


総統「ふむ…そうか。しかしこんな内容だと言うのに、よく了承が取れたね」

零那「恐らくですが…これも全て彼女の復讐心の成せる業かと」


総統「そうか…とは言え我々も、その点に関してはカレン君の事をどうこう言える立場では無いか」

零那「全くですね。目的のためとは言え、まだうら若い男女達の心を弄んで要るのですから」

総統「また人聞きの悪い文面で言ってくれるね。それが事実な分、否定は出来ないのだけれど…まぁ、それも」


零那「いずれその報いを受ける日は来るだろう…ですよね?」

総統「その通り…そう言う意味では、君には損な役回りばかりさせてしまってすまないね」

零那「いえ…これも私が望んでしている事ですから」


総統「そうか………」

零那「はい…」


総統「ところで……何故君はフォークを持って居るんだい?」

零那「そこは気にしないで下さい。それより、大事な報告を一つ忘れて居ました」

総統「わ、判った……で、大事な報告とは?」


零那「木戸譲二の能力による被害者達の中で、一名…脳に器官を有する者が居ました」

総統「それは…ふむ。現状ではどのような措置を取って居るのだね?」

零那「万が一に備えて直接干渉を避け、機械を中継した検査のみを行っている最中です」


総統「懸命だね。その後の予定は?」

零那「危険性が有りと判断されれば相応の措置を…無しと判断されれば、通常通りの手続きを取る事になって居ます」

総統「了解した。では引き続きその方向で頼むよ」


零那「―――畏まりました」


     ―くそっ…壁殴っちまった…― に続く

魔法少女ダークストーカーやらエイプリルフールでゴタゴタしている最中ですが、リア充爆散しろ第三章にお付き合い頂きありがとうございました。
恒例の先送りレス返しをさせて頂きたいと思います。

>75-76 大丈夫、フィクションだからどうせすぐ治る!
更新に関してはご心配をおかけしました。
>78 乙ありです!コーヒーライター!
残念ながら、Fateのカレン程クールでは無いです!
>80 もんげーありです
>81-83 自分では動けなくても、カレンに動いてもらうという選択肢が…げふんごふん
>85 最近復活した555みたいに、数年後に再登場したらウィザードも本当に魔法使いになってそうですよね。
>87 大体あってます
>89 悪意のあるペロス
円柱状…丁度ケーキ6号分と同じくらいのサイズ<ここヒントです
>90 中華鍋を使用したかどうかすらも…
>91 作っても…良いんですよ?
>93 ちなみにカレンはちわー、黄色は勇者王、総統は霞のジョー、零那はゆずねぇで脳内再生してお楽しみ下さい。
今回の恰好は大体あってます。今作は知人のキャラを出演させて貰っていて、アウィスもその一人なので、掲載許可が貰えたらURL貼らせて貰います。
>95 要注意人物のカライモンでした!
>97 YESYESYES…
>98-100 カライモン(マイ)は同一人物ですので、スターシステムではありません。
スターシステム使った作品も書いてみたいのですけど、そこまで手が回らない今日この頃…
>101 違いが判る女になったカレン先生の次回作にご期待下さい!
>103 それを何とか突っ撥ねる俺君。しかし意地は通せませんでした。
>104 魔改造の魔の手から逃れ、無事に一般人で居られました!
>107 えっ…エグくないですよ!?ほら、傷を持って居て両親の復讐に燃えるキャラなんてテンプレじゃないですか。
>108 ダディァーナザーン! カライモン マッドチガウ ダカラノウカイゾウシナイ チリョウダケ
>110 ハイダラー! 人間の規格を完全に超えてますよねそれ!?
>111 本当、どこの中二病フォームでしょうね?
>113-117 その辺りはまた後々…
>119-120 恰好付けても決まるとは限らない!見えない敵はウジャウジャいます。ここにもそこにもあそこにも
>122 次回の冒頭の通り!
>123-125 サイドテールアラサーがマイ ストレート和ロリがカライモンです。
まぁ、あっちの俺君はサイドテールで人を見分ける変態なので、それ以上を期待するは酷かと…
>127 …キングエンジンくらい?
>129 YES!詳細はまた後程

それでは引き続き「くそっ…壁殴っちまった…」にお付き合い頂ければ幸いです。

>133 何と言うカレン違い…
キャラは覚えてたのに、何故か名前を忘れて早とちりしていました…ご指摘ありがとうございます(代償)

アニメの顔は…初見層に向けて、背伸びしたキャラデザ起用してますよね。
個人的には原作規準の方が好みですが、動いてみると意外に合うかも知れませんし…とりあえずアニメ版にも期待してます!

―くそっ…壁殴っちまった…―

●社員食堂24時

ニヤ「で…公衆の面前で恋人繋ぎッスか」

食堂で昼食を取る俺とカレン…そして、そんな俺達に声をかけて来たのはニヤ先輩だった。


まず俺達の状況を補足すると……俺とカレンは隣同士の席に座り、手を握ったまま俺が食事を取って居る。

何故手を握っているかって?あぁ…どこから話して行こうか………とりあえず、カレンと味覚を共有する試みの所からだろうか?


魔女の茶会で身体を治してもらったその帰り、俺とカレンは俺の部屋でチャーハンを食べる事になった。


そしてその際に…あぁいや、誤解を生むのもアレだし、ここからは変に略さずありのままを語っておくか。

●1時間待ってくれ、本当のチャーハンって物を食べさせてやるぜ

俺「……って事でだな、とりあえずチャーハンを作ろうと思うんだが…何でそんなにソワソワしてるんだ?」

俺が借りているアパートの部屋…そのキッチンで俺がチャーハンを作っている最中の出来事である。


テーブルに着いた…不審者さながらに挙動不審なカレンに、問いかける俺。

カレン「だ…だって、その。ひ、一人暮らしの…お、男の部屋に上がるのって…初めてだから」

俺「………」


そして、カレンの言葉によって、今更ながらその事実に気付く俺。

そうだ…成り行きでカレンに食事をご馳走する、という建前になっていたため失念したが…

これはつまり、女の子を自分の部屋に連れ込んで居るという事実に他ならない。


実感して鼓動が早くなるのを感じ、慌てて顔を背ける。

しかし、そうして事実から目を逸らした所で、何も解決はせず…むしろ気まずい沈黙が場に広がっていくばかり。

そしてそんな空気に耐えられなくなった俺は、逃げ道となる話題を探し…


俺「そ…そう言えばカレンのテレパシーってさ。本当は、ニヤさんと違って直接触れなくても良いんだな」

思い出したようにその話題をカレンに投げる。


カレン「え?あ、うん…気付いてたのね。精度は大分落ちるけど、服何枚か分なら通過出来るわよ」

俺「だったら…やっぱ直接触れた方が精度が高いって事なんだよな?でも、そっちの方で積極的にテレパシーを使ってないよな?」

カレン「何て言ったら言いのかしら…心を読むくらいなら、むしろフィルターがかかってるくらいが丁度良いって言うか…」


俺「あぁ…直接だと強すぎるって事か。スピーカーの音量を最大にしてラジオを聞くような感じ?」

カレン「あぁ、そうね…そんな感じ。他の感覚が鈍い分、テレパシーでの受信が結構強いみたいだから」

俺「あと、いつも手で触れてるけど…テレパシーを受信し易い場所とかそういうのは?」

カレン「そうね…皮膚が薄い所とか、神経がより近かったり密集してる場所の方が受信し易いわね」


と、その言葉を聞いて想像する。皮膚が薄い場所…神経が密集している場所と言えば顔か指先…あとは…………

俺「―――痛っ!!!」

食材を切りながら考え事…それも邪な事を考えていた罰が当たってしまったようで、話題の指先を切ってしまった。


カレン「―――大丈夫?傷は…薄皮を切っただけだから、見た目ほど酷くは無いわね」

俺を心配して駆け付けるカレン。慣れた手付きで俺の傷を看て……その指先をペロリと舐める。

カレン「唾液には殺菌成分が含まれてるからね。後は絆創膏でも…………って――――」


と、そこまでは良かった…良かったんだが、どうしてもその先の回避する事が出来ない事態を招いてしまった。

どんな事態かと言うと…カレンはテレパシー使いで、神経云々で邪な妄想の残響あり。ついでに言うなら…


女の子に指を舐められて、更に邪な感情を抱かない男は居ないって事だ。あぁもう察してくれ!!

●チョロインの定義について考える

カレン「あ………ぅ…ぁ…………」

蒸気でも噴き出しそうな勢いで、顔を耳まで真っ赤に染めるカレン。

その様子を見る俺の顔も多分真っ赤っかだ。


カレン「ど…どうしてもって言うなら……その………食事の、後…で……」

俺「いやいやいやいや!ストップ!早まるな!!!」

暴走しかけるカレンを慌てて制止する俺。そう言えば話は変わるが、カレンとの距離が縮まった事で判った事が一つある。


カレンは、一般的な常識や道徳…情緒等と言った物に酷く疎い。


いや、日常生活に措いてはその限りでは無いのだが、そのラインを超えると途端に露見すると言った方が正しいだろう。

普通なら少し考えれば正解が判る事も、カレンは感情で結論を出す…あるいは、偏った他者の結論を鵜呑みにしている部分もある。


普段の印象が邪魔をして気付き難いが……………ぶっちゃけ、チョロイン気質なのだ。


不信感を抱かれていたり、敵対している相手ならその限りでは無いが…ある程度親しい相手となると、それが手に取るように判る。

多分俺が無理矢理押し倒しても、カレンは受け入れてくれるだろう…が、それではダメだ。

前にも言ったが、そんな勢いだけでカレンと繋がるような事は避けなければいけない。


カレン「………私、チョロインじゃ無いわよ。誰にでもって訳じゃ無いんだから」

俺「あ…しまった、手に触れたままだった」

カレン「声に出てる…でもまぁ良いわ、それだけ私の事を大事に考えてくれてるって事だし…」

俺「………」


そして俺は、声も出せないまま真っ赤になる。

あぁ…むしろ俺の方がカレンにとってはチョロインなのかも知れない。いや、ヒロインじゃなくてヒーローだからチョーローか?

カレン「何それ、長老みたい。もう…本当馬鹿……二つの意味…うぅん、三つの意味で馬鹿」


いや、最後の一つに心当たりが無いんだが……それを聞くにはハードルがとてつもなく高い空気のようだ

●探し物は何ですか見つけ難い物ですか

俺「さて……それじゃぁ、出来上がった所で試食に入ろうと思うんだが…どうする?」

どうする…と言うのは、勿論味覚を共有する方法の事だ。

俺のよからぬ妄想のせいで話しが逸れてしまったが、そろそろ本題に戻さなければいけないだろう。


カレン「服越しに触れただけだと、そこまでは共感出来ないから…まずは直接……えっと、手を繋いでみるのはどう?」

俺「まぁ、無難にその辺りだよな…」

あわよくば…と言う考えが無い訳でも無いが、そんな事を考えていたらまた先に巻き戻ってしまうだろう。


俺は溢れる邪念を振り切り、そっとカレンに左手を伸ばす。

そして今度は、その手にカレンの右手が触れ………握る。


何だろう…別に初めて手を握る訳でも無いのに、変に意識してしまう。

カレン………俺が好きな女の子の手。

細く柔らかで、暖かい手の感触と…微かな脈動が俺の手まで伝わってくる。


自然と早く強くなる鼓動…それにつられて高まる体温。

聴覚で感じ取れるまでに高まった脈動を自覚しながら、カレンの方を向く…と

カレンもまた、耳まで顔を真っ赤にして俺を見ていた。


うん…俺もつくづく学習しない奴だな。手を繋いでいるんだから、カレンに心を読まれてるに決まってるじゃないか。


俺「えっと…じゃぁ、とりあえずこのまま食うか」

誤魔化しながらレンゲを手に取り、一口目を自分の口に運ぶ俺。

胸を張って言う事でも無いが、今回のチャーハンは中々の力作に仕上がっている。

これならカレンも気に入ってくれるかも知れない。そう思ってカレンの方を見るのだが………


カレン「……………」

反応は薄く、何かを考え込みながら言葉に詰まっているようだった。

●気が付けばそこにある物

俺「その…あんまり美味く無かったか?」

カレン「そうじゃないんだけど…あのね、少しだけなら判るんだけど………」

その言葉から察するに、味がしない訳では無い…しかしそれが本来の物に足りていないと言った所だろう。


カレン「うん…特別薄味…って訳じゃ無いみたいだし。手を繋いだだけじゃ駄目なのかも」

しかし、手を繋ぐ以上の繋がりとなると…さすがにそれ以上事をしながらでは食事にならない。

と言うか、まだそんな段階に進むような状態では無い。


もどかしさと焦りが交じり合い、握った手の間に汗が滲み出る。

そして、カレンの手を握る俺の手には自然と力が入り…それに気付いて、今度は緩める。

僅かに滑る二人の手…それを組み直すべく指を動かし……ふと、それを思い付く。


俺「で…ちょっと試してみようと思うんだが…」

カレン「べ…別にそのくらいの事、許可取らなくたって良いわよ!?」

真っ赤になった顔を向け合う俺とカレン。


ゴクンと唾を飲み込み、一旦握った手を緩めて指を伸ばす。

続けてお互いの掌を合わせた後、お互いの指の間に指を滑り込ませ……


そう……いわゆる恋人繋ぎをする事になったのだが…


俺「うわ…何だこれ……手を繋いでるだけなのに滅茶苦茶ドキドキする…」

さっきまでも手を繋いでいただけなのにドキドキしていただろう言う突っ込みは無しで

それとは比にならない程に心臓がバクバクと脈打っている。


カレン「だから、わざわざ口に出さなくても…って言うか、もう…私も同じ感覚共有してるんだから」

俺「じゃ…じゃぁ…それは置いといて…改めて試食って事で」

カレン「そ、そうね…!」


お互いにごまかしを交え、二人とも挙動不審のまま…震えるおぼつかない手でチャーハンを口へと運ぶ俺。

正直な所、味わう余裕があるか判らない…だが、味わうという目的を忘れてはいけない。


ぐるぐると目的と現実の中を回りながら、レンゲに乗ったチャーハンを口に入れ―――

●ありがとう言わないよ

気が付けば、カレンは涙を流していた。


カレン「おかしいな……不要な物だからって、自分で置きっ放しにしてきた筈なのに…何で、何でこんなに………」

カレンの内心は判らない…でもそれはきっと多分、置き去りにしてきた物が大切な意味を持って居てそれに気付いたからなんだと思う。


そして…俺は、本当の意味でまだカレンの事を知らない。


大切な物を置き去りにしてでも、果たすべきだと思い詰めた…カレンの復讐。

その真意と真相と深淵を、俺はまだ知らない。しかし、それを俺からカレンに問い…土足で踏み込む訳には行かない。


もどかしさと歯がゆさの中、俺の視界の中でカレンがこちらを向く。


カレン「本当はね…話すつもりは無かったのよ。話しちゃったら、貴方の事だからきっと深く思い詰めてのめり込むから…今より巻き込むから」

そして語り始めるカレン。あぁもう…俺ってやつはいつもこうだ、隠し事の才能が皆無にも程が有る。


俺「話したく無いなら、無理には…」

カレン「私は…正直な所、貴方に話したい。話して楽になりたい、理解されたい。でも、話すのはずるいから話したくない…だけど……」

俺「だったら………話せよ。ちょっとくらいのズルくらい許すから、カレンが話したいなら話すべきだ。いや、話さないと今度は俺が納得しない」


カレン「何よそれ…頭の中で理論が纏まって無くて、感情だけで喋ってるじゃない」

俺「駄目か?」

カレン「駄目じゃないけど…馬鹿。でもありがとう」


俺「どういたしまして…と。じゃぁ………」

カレン「話すわ…私の過去……私の家族に何があったのか、どうして今の私が居るのか」


そうして…カレンの話しが始まった。

○この胸の中の思いだけは

「紹介しよう、彼が新しいボディガードのジョージだ。こう見えて武術の心得があって……」

父が紹介したのは、私より少し年上くらいの東洋人の青年。

人種特有のその容姿に似合わない名前…それがジョージ…木戸譲二の第一印象だった。


ジョージ「知っているかい?虫はフェロモンと言う物質を出して異性を引きつけるんだよ」

ジョージは物知りで、私の知らない事を幾つも知っていて…私はその一つ一つに感嘆した。


カレン「ねぇ、今日はお父様は何時に帰ってくるの?」

ジョージ「まだまだ時間があるから…今日はお忍びで古書堂に行こうか」

家柄のせいで学校では浮きがちな私には、同年代の友達が居なくて…ジョージがそれを埋める友人になるのまで、そう時間はかからなかった。


ジョージ「そう言えばカレンは、人の心が判るんだって?」

カレン「判ると言っても、ほんのちょっとだけ…漠然と、どんな感情を持って居るのかとか…あと、嘘を吐いてるかどうかが判るだけ」

ジョージ「それは怖いね。僕が悪企みなんかしてたら、すぐにばれちゃうのか」

カレン「何言ってるの。そんな事しない人だって事くらい判ってるわよ。ほら、今だって」


幼い頃の私は、今程テレパシーを扱う事が出来ず、漠然としかその能力を行使出来なかった。

ただ…それでもジョージが嘘を吐いて居ない事が判り、私にとってそれは彼が信頼を寄せるに相応しい相手だと思うには充分だった。

そして………あの事件が起きた。


違う…始まった。


ジョージ「お嬢様!無事ですか!?」

学校を終え…車を降りて庭を進む私に、血相を変えながら駆け寄るジョージ。

二人切りの時のよくに崩れた口調ではなく、仕事に没頭している時の口調…加えてその表情は珍しく焦りと驚愕に染まり、額に汗を滲ませて居た。


カレン「どうしたの?ジョージ、そんなに慌てて…」

ジョージ「旦那様が…旦那様と奥様が、殺されました!!」


カレン「………え?」


屋敷に向けて駈け出す私…それを追うジョージ。

そして屋敷の中で見た物は…無残に切り刻まれ、バラバラに解体された両親の死体だった。

○追っているのか追われてるのか判らなくなるまで

カレン「――――――――!!!!!」

言葉にならない声を上げる私


カレン「嘘よ…嘘!嘘!こんなの嘘よ!!誰が!?どうして!?そうよどうして?どうしてジョージはお父様を守らなかったの!?」

ジョージ「迂闊だった…等と言う言葉で済ませられるとは思って居ませんが、完全に出し抜かれました」

カレン「どういう事なのよ!ちゃんと説明して!?」


ジョージ「犯人は、男女の二人組…しかも、恐らくはどちらかが記憶操作能力を持って居ます」

記憶操作能力…自分の力のせいで幾らかの予備知識があった私は、すぐにその意味を理解し…同時に驚愕した。


ジョージ「その能力により私の中の彼等の存在は書き換えられ、彼等をただの使用人としてしか認識できず…」

カレン「お父様も、無防備なまま招き入れてしまった…と言う事なのね」

ジョージ「はい…そして今もまだ彼等は屋敷の中に居ます。彼等に気付かれない内に、早く逃げなければ……」


逃走を促すジョージ…しかし私はその意思に反し、一つの目的が浮んでいた。


カレン「お父様とお母様の仇は…私が知っている使用人?」

ジョージ「いえ…今まで内部に潜んでいた者では無く、今日初めて襲来して周囲の記憶を改竄したようです」

カレン「それって、他の使用人の記憶も…」

ジョージ「恐らく改竄されているでしょう」


カレン「だったら…ジョージ以外では、私にしか仇の正体が判らない…そういう事よね」

ジョージ「何を考えているんですか!そんな事をして、返り討ちに遭いでもしたら!」

カレン「それでも…自分が死ぬかも知れなくても、仇を討たないといけない。お父様とお母様と同じ目に遭わせないと…!」


ジョージ「どうしても…やるおつもりですか?」

カレン「止めても無駄よ…」


ジョージ「判りました。ただし、条件があります」

カレン「何?」

ジョージ「私の能力で援護はしますが、危ないと感じたら必ず退いて下さい。そしていずれ訪れるであろう次の機会に備え、生き延びて下さい」


カレン「ありがとう…ジョージ」

涙を拭い…ジョージから渡されたナイフを握る私。


悲劇の舞台は、まだ幕を下ろして居なかった……

○その大空に両手を広げ


玄関…


男と女の二人組、私の知らない顔の使用人……即ち、お父様とお母様を殺した犯人がそこに居た。

私の両親を殺した後だと言うにも関わらず、悠々とした足取りで外への道を歩んで行くその二人。

怒りと憎悪が交じり合い、形容し難い感情が私の中に渦巻いて行く。


カレン「ジョージ…あの二人が犯人で間違い無い?」

ジョージ「私の記憶が再び改竄されて居なければ…いえ、何よりお嬢様に見覚えが無いのなら確実でしょう」

草むらの影の中で…その言葉を聞いて私の決意が確固たる物に変わり、ナイフの柄を強く握り絞める。


ジョージ「お嬢様…落ち着いて下さい、相手は恐らくプロの殺し屋です。正面から突撃して勝てる見込みは、まずありません」

カレン「だったら……」

ジョージ「以前話したトロイの木馬の事は覚えて居ますか?」

カレン「覚えているわ。確か、贈り物の木馬の中に兵士が潜んで居た話でしょう?」


ジョージ「そう…兵士はナイフ、木馬はお嬢様。判りますね?いざと言う時は私の能力でお嬢様をお守りしますので…」

カレン「判ったわ…」

そうして私はナイフを後ろに隠し、草むらの影から姿を現す。


あれだけ嫌がっていた社交界で得た特技が、こんな事に役に立つとは思って居なかった。

二人組に私の殺意を気付かれないように…何も知らない、惨劇になど気付いても居ない、無垢な笑顔を向けながら歩み寄るのだけれど…

一歩…あと一歩…もう少しでナイフの間合いに入ると言う所でそれは起こった。


消していた筈の殺意に気付いたのか、男が両手を広げて私を掴みにかかって来る。

捕まればそこで終わりの、死の抱擁…しかし私はそれを避けず、あえて飛び込む。

そして、手を広げた事でガラ空きになった胸に………ナイフを付き立てた。


途中で肋骨を掠めながらも、分厚い筋肉の層を突き抜ける手応え。

幼いながらも、それが心臓への一撃…致命傷である事を悟り、達成感と共にナイフを引き抜く。

だけど、まだ終わっては居ない。女の方が残っている。

○飛んで行きたいな

突然の…予想外であろう出来事を前にして立ち竦む女。

私はその隙を見逃す事無く、女の胸にもナイフを突き立てる。


しかし…切れ味が鈍ったのか、先程よりも細い体躯の相手にも関わらず、大きな抵抗を感じながら中々沈み切らない切っ先。

更に、今度のそれは心臓に届く事無く…女が後ずさった事でナイフが抜けてしまった。

私に背を向け、逃げ去ろうとする女。しかし私は女の足を斬り付け、それを止める。


女はうつ伏せに倒れ込み、私はそれを逃すまいと馬乗りになる。

そして、その体制のままナイフを逆手に持ち…

何度も…何度も…何度も何度も。その命が絶えるまで…いや、絶えても尚、怒りを乗せて刺し続けた。


そして…

ジョージ「そこまでです、お嬢様」

ジョージの言葉で、私は我に帰った。


カレン「ジョージ…やったわ。私、やったわよ。この手でお父様とお母様の仇を……」

押し留めて居た涙を流しながら、その言葉を絞り出す私。

ジョージはそんな私を見て、静かに微笑み………


ジョージ「いえ、それは違いますよ。お嬢様」

予想すらしなかった言葉を投げ付けて来た。


カレン「………どういう事?だって、この二人組がお父様とお母様の仇じゃないの?」

ジョージ「はい、違います」


カレン「何…?それ、どう言う……」


男「お前は…何者だ………何故カレンが……」

ジョージ「おやおやぁ?まだ息がありましたか、と言うかお嬢様の前でそれを聞いてしまいますかぁ?」

致命傷を負い、死を待つだけの男と…ジョージの間に交わされるやりとり。


双方の言葉に不可解な物があるが、より気になったのはジョージの言葉の方。

ジョージの能力は、物質透過…分子と分子の隙間を意図的に作り出し、トンネル効果を発生させる能力で

実際に何度もその能力を見ているし、偽装でない事も私の能力で確認している。


判らない………私が理解出来ない所で話しが進んでいる。

○悲しみの無い自由なソラへ

ジョージ「はじめまして、僕の名前は木戸譲二…キングダムからの差し金です。あ、親しみを込めてジョージとお呼び下さい」

男「何故……」

ジョージ「それは、貴方がこうして死に行く理由ですか?それとも何故お嬢様がこんな事をしたかですか?」


ジョージ「狙われた理由は簡単。その動かない胸に手を当てて思い出して下さい、キングダムと旦那様の関係を」

ジョージ「そしてお嬢様がこんな事をした理由は至って単純明快。私の能力でお嬢様を誘導したからです」

ジョージ「さぁ、ここまで聞ければ冥土の土産としては充分でしょう。このまま夜空に輝く綺羅星とおなり下さい」

ジョージ「あぁ…我等が王から授かりし力で、王の命を果す事が出来た…。何と素晴らしき事でしょう」


ジョージの言葉の終わりを待つ事無く、男は息絶えた。

終わった筈…これで終わった筈なのに、私は何一つ訳が判らなかった。


カレン「え……何?キングダムって何なの?王って誰?」


ジョージ「いやぁ、お嬢様のお陰で事が上手く運んでくれて助かりましたよ。最高の結末です」

カレン「何?何なの?何を言ってるのジョージ」


ジョージ「キングダムの敵をただ殺してしまっただけではつまらない。悲劇と屈辱を与えてこその制裁!あぁ素晴らしい!」

カレン「じょう……じ?」

ジョージ「まだ判りませんか?では簡単な言葉でお伝えしましょう。お嬢様のご両親、つまり旦那様と奥様の仇は………お嬢様です」


カレン「………え?」

ジョージ「ほら、よくご覧下さい。お嬢様が殺した二人を」


そうして、促されるまま見下ろした先にあったのは……


カレン「………………―――」


カレン「―――嫌ああぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!!!」


私の手により無惨な肉塊へと変わり果ててしまった…お父様とお母様の………死体だった。


何故忘れてしまっていたのだろう、お父様とお母様の顔を…

あの時もそう、いつものお父様の笑顔を見ていた筈なのに……

それを、私がこの手で………


何故?

いや、理由があれば許されるような事では無い。

私はどうすれば良い?この先どんな事をすれば心を保てる?


考えられない

考えたく無い


そして………私は自ら、意識を心の奥深くへと閉じ込めた。

●いきたい

俺「くそっ!!!」

気が付けば俺は壁を殴り付けて居た。


カレン「それから先は…まぁ、貴方が知っている通りの有様よ」

カレン「ちなみに、私の超能力が今の状態まで開花したのもそうやって閉じ篭ってる時」

カレン「ニヤさんに助けて貰って…マイさんに治療して貰ったり、リミッターの外し方を教えて貰ったりして…今の私になった」


カレン「で…後から知ったんだけど、木戸譲二の超能力は介入型テレパスの記憶改竄」

カレン「私はまんまとその餌食になっていたらしくて…まぁ、操り人形にされた被害者って事で罪に問われる事は無かったわ」


俺「………」

慰めも激励も…ましてや同意の言葉も出ては来なかった。


カレン「で………その関係の事で、今の今までずっと悩んでた事があるんだけど…」

俺「悩んでたってのは…何にだ?」

カレン「両親の仇…木戸譲二を、貴方が通り魔的な犯行で殺した事について」


俺「………」

先程までとは違う気まずさで声が出せなかった。


カレン「本当はもっと苦しめてから私の手で殺したかった…とか。私の標的を横取りした相手が許せないとか…恨みが無かったって言ったら嘘になるわ」

俺「………」

カレン「でも、それだけの感情で愚直に生きる事も出来なかった」


カレン「私がやらなくても、他の誰かが怨恨や復讐復讐で木戸譲二を殺していたかも知れないし…」

カレン「本当に私の力で木戸譲二を殺す事が出来たのか…そもそも、その時点でも怪しかったのよね」

カレン「で………その事にも答えは出たの」


俺「その答えってのは?」

カレン「逆恨みするのは止めにした。むしろ、無自覚とは言え私の替わりに仇を討ってくれたんだから感謝する事にしたわ。それに何より…」

俺「何より?」


カレン「貴方のお陰で、木戸譲二が起こす悲劇に終止符を打つ事が出来た…それが一番大事だって判ったの」


復讐をいう憑き物が落ちた…そんな表現が相応しいのかも知れない。

カレンは俺に微笑みながら、そう言った。


カレン「とは言え…木戸譲二に命令した、王と呼ばれる存在に関しては何も解決してないし…その問題も残ってるのよね」

俺「そう言えばそうだな…その王って奴を倒さなければ、本当の意味で悲劇を終わらせられないよな」

カレン「だから、私はいずれその王も倒すつもり。協力して欲しいとまでは言わないけど…その………」


俺「その…何だ?」

カレン「依存させてとまでは言わないわ。私の支えに…なってくれたら…嬉しいなって………ダメ?」


それを断る理由がこの世界のどこにある?

と思いつつも…恥ずかしくて、それを言葉にして返す事が出来ない俺であった。

●長くなった前置きから冒頭に戻る

俺「…と言う訳で、味覚共有に一番最適なのがこの繋ぎ方だって判ったんですよ」

ニヤ「あー………それはまた、うん。お熱い事っすね」

黄色「いや、説明長ぇよ」


いつから聞いていたのか、黄色先輩からも突っ込みが入って来た。


黄色「ってーか、イチャついてる所を悪ぃが…お前達二人とも、零那が呼んでたぞ」

俺「零那さんが?場所はどこですか?」

黄色「ミーティングルームだ。あと、カレンは途中でコピー室で次の作戦の資料を持って来てくれとも言ってたな」

カレン「判りました。では途中で寄って行きますね」


そうして、食事の途中で席を立った俺達。

カレンとはコピー室の前で別れ、俺は一足先にミーティングルームの前まで辿り着いたのだが…

ふと、気付く。


次回の作戦の資料と言うのは、そもそもどのくらいの量があるのだろうか?

余計な心配かも知れないが、俺も一緒の方が手助けになったのでは無いだろうか?

と言うか、資料を探す時点で手間取っているかも知れない。


気が回らず、カレンをコピー室に残して来た事を少し後悔する俺。


早足で来た道を戻り、辿り付いた先はコピー室の前。

ここまでカレンと鉢合わせなかった事から、カレンは恐らくまだ室内に居る。

俺はとりあえず、カレンの所在を確かめるべく、ドアに手を伸ばすのだが…その瞬間


カレン「はい……彼の件に関しては……」


室内から漏れ出て来た、カレンの話声に気付く。

その際にドアに触れてしまい、ガタリと音を立てるのだが…どうやらカレンはそれに気付いて居ない様子。


どうするべきか…散々迷いはした物の、好奇心に勝つ事は出来なかった。


俺はドアに耳を付け、聞き耳を立ててその内容に意識を向けるのだが……

●幸せな一生を送りたいのならば、幸せな瞬間に死ぬべきだ。By…誰だっけかな

カレン「コホン。はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

………

…………は?


カレン「私の過去を話し、着実に距離が縮んでいる事も確認しました」

計画?一体何を言っているんだ?

とりあえず…話相手の声が聞こえない事から、恐らくは携帯で話しているであろう事が伺えるんだが…それよりも

察する事が出来る内容が内容なだけに、聞き流せない。


カレン「はい、勿論組織内の他のメンバーには知られていません。これも能力で確認済みです」

カレン「このまま行けば、いずれ彼は私の傀儡…キングダムの王を倒すための手段になってくれる筈です」


心臓が嫌な音を立てて高鳴り、全身の毛穴と言う毛穴から汗が噴き出る。

聞きたくない…聞きたくない言葉の筈なのに、鼓膜がそれを捉えて離さない。


カレン「私…ですか?いえ、私の方は別段支障ありません。ただ……」

カレン「目的のためとは言え………正直、吐き気がするくらいに気持ち悪くはなります」


俺「――――――――ッ!!!」

脚はガクガクと震え、視界がぐるぐると回り出す。

手放しそうになる思考を繋ぎ止めるかのように…俺は壁を殴り付けて居た。


もう何もかもが判らなくなった。

いや、本当はカレンの口から紡がれた言葉の意味を理解出来る筈だった…

しかしそれを、他でも無い俺自身が理解する事を拒否しているだけだった。


俺は震える足を無理矢理に動かし…コピー室の前から駆け出した。

カレンに声をかける勇気も無く、真実を釈明して貰う勇気も無く、ただ………


一分一秒でも早く、その場から逃げ出したくて………脚を動かした。

●知らないフリしてあの子、ちょいとやるもんだね…と

零那「それで…食事時に呼び出して申し訳無いんだけど、まずは二人に来て貰った理由を説明させて貰うわね」

あれ程激しかった動悸も一回りして、今では至って冷静…と言うよりも、感情が動かないまま零那さんの説明を聞く俺

…と、その隣に座るカレン。


机の上には、カレンが持って来た物を始め様々な書類が置かれ…その机の向かい側に零那さんともう一人。

ここでは見慣れない、それでいてどこかで見た事があるような気がする女の子が座っていた。


長い黒髪をツインテールにしている、中学生くらいの女の子。

どこか暗い雰囲気で、常に伏目がちにしている。


零那「この子の名前は、理央ちゃん。例のハーモニカタワーでの…木戸譲二のテロ未遂の時に同伴していた女の子の一人って言えば判るかしら?」

俺「それって……あぁ、言われてみれば確かにあの時居たような…」

先の既視感の正体が判り、次第に記憶に輪郭が付き始めて行く。


俺「確かあの時…俺から見て木戸譲二の左側に居た子ですよね?」

理央「………はい」

理央は小さな声でそう答え、そこで会話が止まる。


内容が内容なだけに、カレンは軽口を叩く事も無く黙して居て…零那さんに至っても、そこから進展させようという素振りは見られない。

いっそ俺も黙り込んでしまおうかとも思ったが、それは話しが進まない。

とりあえずは、何か話題になりそうな事を探し…


俺「あの時はその…ゴメン。思いっきり浴びてたと思うんだけど…」

理央「いえ、謝らないで下さい…その件に関してはむしろ感謝していますから。あれが無ければ、私はきっと今もまだ…」

と言いかけ、言葉を止める理央。

俺も言いたい事に察しは付くので、それ以上の言及はあえて避ける。


俺「それで…今回の件は、この子とどう関係があるんですか?」

零那「それなんだけど…午後からこの子の案内と、研修を頼まれて欲しいの。貴方達もやったのと同じ内容で良いから」

俺「………え?それってつまり…」


零那「そう…理央ちゃんも組織の一員として加わる事になったの。貴方達の後輩になるから色々教えてあげてね」

○毎回お馴染み、総統と零那のターン

総統「それで…彼の件はどうなっている?」

零那「万時滞りなく、計画通りに進行しています」


総統「カレンくんの方はどうだね?聞いた話では、精神面に大分負荷がかかっているようだが…」

零那「その件に関しましては…遺憾ながら、事態が収束するまで暫く耐えて貰う事になるかと思います」

総統「そうか…」


総統「では、例の木戸譲二の被害者…理央くんの方のその後は?」

零那「幾つかの計測と調査の結果、複合型超能力を保有している事が判りました」

総統「ふむ…では、彼女の両親は…」


零那「両親の父親が分岐前に該当する超能力を使えて居たようですね。両親は死去しているため確認できませんでした。詳細は資料をご覧下さい」

総統「ふむ…これはまた珍しい形式に分岐した超能力だね」

零那「更に特筆すべきは、P器官のみならずD器官にも微量ながら干渉を行えると言う点です」


総統「成程…だから木戸譲二はあの時、黄色くんの接近を察知しながらも表舞台に出て来た…と言う訳か」

零那「恐らくは」

総統「それで、理央くんに関してはどのような対応を?」


零那「系統の近い…カレンと同じ班に所属させて、研修を受けさせて居ます」

総統「………それはつまり、彼とカレンくんと理央くんの三人で班を組んでいると言う事だね?」

零那「その通りです。と良いますか、そんな当たり前の事を復唱させないで下さい」


総統「それは…いや、しかし…うん」

零那「何ですか、言葉を濁さず言って下さい」

総統「何となく…何と無くなのだが、あまり良く無い事が―――」


零那「訂正します。やっぱりお黙り下さい」


総統「えぇ…っ」


     ―とりあえず落ち着け― に続く

リア充爆散しろ第四章にお付き合い頂きありがとうございました。
前回からまた大分時間が空いてしまいましたが、恒例のレス返しをさせて頂きます。

>136 まだもげないっ!…多分
>139 △△△
>140 すみません、判りません!
>143 こうなりました
>144 まだ早い!いや、そもそもくっつくかどうかも…
>147 >149 >151-153 >156 …と言った感じのカレンの過去でした。あまり急展開の無い平坦な話で申し訳ありません(´・ω・`)
>158 当然手は繋ぎっぱなし
>160 YESYESYES

それでは引き続き、「とりあえず落ち着け」にお付き合い頂ければ幸いです。

追記:リア充爆散しろ 及び、魔法少女ダークストーカーの書き溜めのため、少し更新をお休みします。

―とりあえず落ち着け―

●ありったけの夢をかき集め、正社員に俺はなる

リア充…爆散しろ!

双眼鏡越しに見た男に向けて、そう念じる。


―――男はキングダムの構成員。

女連れで人質を取ってコンビニに立て篭もり、組織がそれを打破すべく人員を召集し…今に到る。


「対象の爆散を確認。作戦終了です」


カレンとの一件以来…俺は自分でも判るくらいに色々な物が変わってしまった。

この能力に関してもそうだ。


自分の能力を自覚して、自分の意思でそれを行使したのはこれが初めてと言う訳ではない。

最初は、正直…抵抗があった。

だがその僅かな抵抗で踏み止まる事無く、最初の一歩を踏み出す事が出来たのは…多分ここ最近で起こった出来事が関係しているだろう。


コピー室の前で聞いた、カレンの言葉…

俺を利用していた事を知ったときはかなりショックだったが、よくよく考えて見ればそれも納得出来る事…

利用価値でも無ければ、例え表面上だけでも…カレンみたいな美少女が俺なんかと良い仲になる筈が無かったんだ。


ちなみに、あの後カレンとの仲はと言うと…

お互いに多忙な事を理由にして、食事どころか顔すらまともに合わせては居ない。


正直、顔を合わせて俺が事実を知っている事を知られるのも気まずいし…何より俺がカレンにどんな態度を取れば良いのかも判らない。

と言う心配の下に、逃げに逃げ…積極的に仕事を回して貰って、今も逃げ回っている真っ最中と言う訳だ。


そうそう、仕事と言えば…俺は正式に組織の構成員になった。


仕事を増やして貰うに辺り、それに伴って昇進や昇給…実質上正社員のような待遇で組織に所属している。

今までとは異なる装備を支給されたり、より詳細が記載された要注意人物ファイルを渡されたり…同時に様々な制約を課せられたり………

勿論、仕事にかかる重圧は今までの比では無いが…不思議とそこに不満や抑圧を感じる事は無かった。


多分、仕事に没頭する事でカレンの事を考えずに済むからだろうな………

そんな事を考えて居ると、携帯からメールの着信音が流れ出す。


差出人は理央…件名は『明日の研修について』

●ミラクルエピソード一番目のエピソード

ロアン「がるるのるー 食べちゃうぞー」

kuraudo「がるるのるー」

hasewo「がるるのるー」


Ginrei「いや、一体何年前のネタを…」

ロアン「DVDが安く売ってたので、ついカっとなって買った。後悔はしている」

Ginrei「してるのかよ!」


ロアン「と言う訳で、運営にパクられ乙!」

Ginrei「だから何を今更…って言うかあれの話をするなら、むしろブラックの外見がまんま2ndな方にふいたわ!」

俺「にしてもあれ、サービス停止したって話すら聞かないくらいに水面下に沈んだよなぁ…」


久しぶりにログインしたネトゲ…狩りに行くでも無くダラダラとチャットをして過ごす俺…と他のギルメン達。


俺は懐かしさと安心感にどっぷりつと浸かりながら、カタカタと小気味の良い音を鳴らしてキーボードを打つ。


俺「ところでさ…全然関係無い話なんだけど、皆は超能力とか信じる?」

kuraudo「いきなりだなー。定義にもよるんじゃないか?昆虫の能力とか、それっぽいのはあるし」

hasewo「無いと思って諦めるより、あると思って探す方が面白い」


俺「いや、だからもうパクリネタは良いってのw何て言うのか、漫画とかに出てくるようなサイキックみたいなヤツ。どう思う?」


ロアン「どう思うも何も…あったら面白いとは思うけど、現実にあるかどうかって言われたら無いだろ。質問の意図が見えないぞ」

俺「そうだよな…じゃぁ、悪魔とかって居ると思う?」

kuraudo「それは居る!俺の上司は絶対に悪魔だ!」


脱線して行く会話…一般人としては当然の反応と返答が返ってくる。

懐かしいながらも、以前と変わらないいつもの面子のやり取り…にも関わらずどこか距離を感じてしまうのは、俺が一般人では無くなってしまったからだろうか


ロアン「がるるのるー!」

●夢から覚めてもこの手を伸ばすよ

と…一人黄昏ていると、ウィースパーチャットが届く。

ちなみにウィスパーチャットと言うのは、一対一で外部には見えない会話が出来るチャットの事だ。

hasewo「(あ、そう言えばクリスマスの件どうなった?例のタワーで何か起きたって聞いたけど…確か休止始めたのもあの後だよな?)」


クリスマス…タワー最上階で起きた木戸譲二の件は、組織による情報統制が行われていた筈だが…やはり漏れる所からは漏れているらしい。

俺「(あぁ、それ…実は途中で逃げ帰ったwんで、その帰りにバイト見付けて暫く拘束されてたんだわ。心配かけて悪いね)」

hasewo「(そう言う事だったのか。いや、何も無かったなら良いんだ。あ、そうそう。今出張で近くに来てるんだけど、オフしないか?)」


俺「(あんまり長く時間は取れないけど、それでも良いなら。日時は?)」

hasewo「(今度の日曜…って言うか明日の、午後6時から。場所はZ∀Z∀シティ前でOK?)」

俺「(OK、それじゃよろしく)」


明日は…朝6時から理央の研修だが、終了時間は夕方3時の予定。

移動時間と距離を考えても、余裕で間に合うだけの時間はある。

ネット上とは言え知らない仲では無いし、研修の後の予定も特には無い…ので、俺はその誘いに乗る事にした。


Ginrei「しかし、超能力ねぇ…僕はそんなの無くても良いと思うけどなー」

と、通常の会話に視線を戻した所で、丁度目に入る発言。

俺「そう言えば、Ginrei見るの久しぶりだよなー。人の事言えないけど」


Ginrei「こっちも同じく仕事で大忙しっすよ。はぁ…」

俺「お互い大変だよなー…まぁ、ネトゲの中でくらいゆっくりしようぜ」

Ginrei「そうだねぇ…ネトゲの中なら、上辺見るだけで済むし」


俺「上辺?そりゃまぁネットなんて、上辺だけって言えば上辺だけだけど…」

Ginrei「あぁいや、悪い意味で取らないで。ほら、リアルって上辺で本音を隠して、それを探り合って…正直面倒くさいでしょ?」

俺「まぁうん…」


それに関しては痛いほど良く判る。

俺もカレンの件でそれを痛い程思い知らされた。


Ginrei「それに対してネットって、上辺だけ…って言うか、上辺で接するのが前提だから」

俺「あぁ…そう言う事ね。何となく判るよ、重くも深くも無く…軽い感じで付き合えるのが、結局心地良いんだよな」


Ginrei「そう…ま、そういう事」

●この声が聞こえたらアクセスして欲しい

理央「…………」

俺「………」

カレン「………」


そして理央の研修当日……場所は駅から少し離れた建物の、空中公園。

まずは改めて、お互いの自己紹介をする…と言う流れの筈なのだが………


俺「えーっと…理央………さん?とりあえず自己紹介を……」

理央「あ…あ、あの……わ、わた…私………」

理央「私……今日から研修で…あ、いえ。それより先に…組織に所属して、新人として……その、えっと…」


物凄い勢いでキョドってしまっている。


俺「よし、とりあえず落ち着け」


初めて顔を合わせた時も、少々言葉に拙い所が見て取れたが…今日はそれに輪をかけて言葉を詰まらせているようだ。

どうした物か…このままでは、先に進む事も侭ならない…と考えながら、携帯でスケジュールを確認した所で思い付く。


俺「『言葉が纏まらないなら、無理に流暢に喋ろうとしなくても大丈夫。まずは要点を箇条書きにして、順番に言葉にして』」

と、メールにして理央に送信する。

理央はそのメールを確認後、じっくりと読み始め…


理央「『ありがとうございます。まず私は理央、14歳です。次に組織に入ったばかりの新人です、今日からの研修を宜しくお願いします』」

すぐにその返信が俺の元に届いた。


俺「そうそう…じゃぁ今度はそれを見ながらでも良いから、ゆっくり声に出してみて」

カレン「え?何?どうなってるの?」

そして事態を飲み込む事が出来ないまま取り残されたカレンが、俺達に追い付くべく尋ねてくる。


俺「あぁ、理央が喋り易いように…」

と説明しようとする俺。だがそれを終えるよりも早く、理央が自分の携帯をカレンに見せ…

カレン「あ、成程…そう言う事ね」


判り易く事情を把握させてくれたようだ

●多分同じだろうでも言葉にしよう物なら稚拙が極まれり

カレン「それにしても…よくこんな方法を考えたわね」

俺「考えたって言うか、昔やってた方法の応用かな」

カレン「どゆ事?」


俺「俺も…前は人と話するのが結構苦手でさ、言葉に詰まって中々上手く喋れなかったんだ」

カレン「あぁうん…コミュ障な所は初対面の頃もあったわね。会話が噛みあわなくてキャッチボールにならない事もあったし…」

俺「ズバっと言ってくれるなおい…んでもまぁ、あれでも結構改善した後なんだぞ」

カレン「そうなの?」


俺「前はもっと…それこそ今の理央よりも喋れなくて、必死に考えたんだ」

俺「何で上手く喋れないのか、言葉が纏まらないのか……んで自分なりの答えが、経験不足と焦り過ぎ」

俺「喋る内容よりも、まずとにかく喋って伝えないといけないって思いが先走って、相手に伝わる言葉にならなかったんだ」


カレン「あぁ…だから、まずは相手に伝え易いように、一旦言葉を書き留めて。そこから必要な事だけを喋るようにしたのね」

俺「そう言う事。書き留めとかないと、次の思考で前の言葉が塗り潰されて、どんどん斜め方向に会話が突っ走った物さ…」


遠い目をして、過ぎ去りし日を思い出す俺…と、それを見ながら携帯を操作する理央。


理央「えっと、私も…慣れれば……もっと、普通に喋れるように、なれますか?」

俺「あぁ、言葉の順番とか…何が重要で何が必要じゃ無いかに馴れてくればな」

理央の小さな口から紡がれる言葉は弱々しく、俺を見上げる瞳にも不安の色を残している。


俺はそんな理央を元気付けるべく、そっと頭に手を乗せ…ポンポンと、軽くその頭を撫でる。


理央「ぁ………」

瞼を伏せがちにしながらも、身体の強張りを解いて肩の力を抜く理央。

そして暫く携帯を見た後、また文字を打ち始め…


理央「ありがとうございました。お時間を取らせてしまい申し訳ありません。ですがもう大丈夫なので、研修を続けて下さい」


拙さを残しながらも、先のそれよりも大きな声で…理央が言葉を紡ぐ。

●ぐるぐる今日も目が回るいつもの事気にして無いけど

ちなみに…研修と言うのは、主に要注意人物の把握と、対処法。街中に設置された組織の施設や機能の説明である。

時間の大半を移動や説明に費やしたので、そこは省略させて貰う。


俺「さて…予定よりも順調に進んだな。この分なら30分くらい早めに終わりそうだけど…」

携帯の時計を見ると、表示は14:15。後は空中公園に戻って解散するだけなのだが


俺「二人はこの後どうするんだ?俺はネトゲのギルメンとオフ会の予定だけど…」

…何となく気になったので、二人に今後の事を聞いてみた。


カレン「私はこの後また本部に戻って、溜まってた仕事をしようと思うわ」

理央「わ、私は…今日から借りる予定の、部屋に…」

携帯に手をかけるも、文字を打つ事無く返答する理央。その様子から、この短時間でかなりの進歩をした事が見て取れる。


俺「あぁ、そうか。理央は居住先が…」

理央はクリスマスの事件まで木戸譲二に操られて居た。


多分その間に使っていた住居もあったのだろうが、キングダムの息がかかっているかも知れない場所に置いておくのは得策では無い

…との理由から、組織の方で居住先を確保して、そこに住まう事になった…と言う事になっているのを思い出す。

そしてその入居予定日も今日、研修後と言う事になっていたのだろう。


カレン「私と同じマンションの予定だったわよね?ちゃんとカードキーは持って来てる?あれが無いと、入り口も部屋のドアも開かないわよ」

理央「は、はい…ちゃんとお財布の中に―――」

と、その財布を取り出そうとポケットに手を入れた所で固まる理央。


これは……


カレン「もしかして…財布落としたとか?」

理央「あ、はい………あ、でも大丈夫です。すぐに見付けられますから」

俺「見つけられるって…あぁ、もしかして理央の超能力でか?」


探し物を見つける方法として…普通に考えるのなら、発信機なりを連想する所なのだろうが…先ず最初に思い付いたのはそれだった。

うん、超能力のある日常に馴れてしまった自分がちょっと怖い。


理央「はい。あ、だったら…丁度良い機会なので説明と一緒にお見せします。その…目を閉じていて下さい」

理央から肯定の言葉を受け、促されるまま目を閉じる俺…と、恐らくだがカレン。


そして…次の瞬間。俺の手に何か、多分理央の手が触れ…閉じている筈の目に、筈かな光が映り始めた

●瞳閉じれば君の謡うメロディ聞こえるはず

まず視界に現れたのは、理央のポケット。

ガサガサと紙が擦れるような音が響く中、ビデオの逆再生のように巻き戻って行くその光景。


空中公園に来る前…建物に来る直前の歩道橋。

俺達との会話の最中で、携帯を取り出す場面……

俺「あ…サイフがポケットに戻った。いや、逆再生だからここで落ちたのか」


と、呟いた所で…今度は歩道橋へと移る視界。

理央のポケットから落ちたサイフが、そのまま歩道橋の手すりにぶつかり…落下して行く

どうやら逆再生から通常再生へと戻ったらしい。


そして落下したサイフはと言うと………

理央「え…そんな……」

運悪く…木材を積んだトラックの荷台に落下する、理央のサイフ。


そこで視界は橋視点からサイフに視点に変わり…サイフからトラックに。

トラックは環状線へと入る道に進み………更に向かう先は、恐らく高速道路。


俺「参ったな…高速に入られたら追跡は容易じゃ無いぞ。理央の超能力は…」

理央「わ…私の超能力でも…離れすぎると………」

だ、そうだ。困ったな…遺憾な事ながら、お手上げのようだ。


カレン「仕方ないわね、今日の所は私の部屋に泊めてあげるわ。カードキーは再発行して貰いましょう?」

理央「あ………はい…………」

力無くカレンの言葉に答える理央。そりゃぁサイフを無くしたのだから当然と言えば当然なのだが…何故かその表情が気にかかる。


ちなみにカレンも俺と同じ感想を抱いたようで…俺に目配せして来た。


俺「なぁ…理央、もしかして、俺達に何か隠して無いか?」

示し合わせた訳では無いが、こう言う時に俺が使うようになった常套句。反射的に隠し事を思い描いてしまう、最大公倍数の質問を投げる俺。

そして間髪入れずに理央の肩に触れ、心を読むカレン。


………だが、その先に待っていたのは、俺もカレンも予想して居ない出来事だった。


理央「あ…駄目です!!」

●止めて止して触らないでベイビー

カレン「――――――ッ……ッハ」

肺から空気を絞り出すような声と共に、勢い良く体を仰け反らすカレン。

膝が崩れて後頭部から地面に転がりそうになる所を、俺は慌てて受け止める。


俺「何だ!?一体何が起きた!?」

理央に悪意が無い事は判っている…だが声を抑え切れず、荒げてしまいながら問いかける。

理央「わ…わた…私の心を……読んだ…から………厳選…ろ過してない情報を読み取ったから…」


ガチガチと歯を鳴らし、身体中が痙攣するカレン。俺は右手でカレンの手を握り、左手は舌を噛まないようカレンに噛ませる。

カレンの歯は皮膚を破り、肉に食い込む。痛みが無いと言えば嘘になるが、痛みなんかよりもカレンの安否の方が気になる。

カレンの身に何があったのか…下手に何もしない方が良いのだろうか?どうすれば良いのだろうか?


様々な思案や憶測が駆け巡る中、ふと左手から離れるカレンの歯。

小さく開いた口からは弱々しい呼吸が零れ…虚ろだった瞳が俺の方を向く。


俺「大丈夫か?痛い所とか無いか?」

カレン「ゴメン…迷惑………かけ…ちゃって…でも…今はそれより…」

心配する俺を余所に、理央を睨み付けるカレン。


あんな目に逢わされたのだから、恨んで当然だろう…と一瞬考えるも、カレンの性格を考えてその可能性はすぐに消えた。

では何故こんな態度を取って居るのか…それを深く考えるよりも先に、カレンの口から言葉が飛び出した。


カレン「何で…諦めちゃってるのよ!」

理央「ひっ……そ、それは………私…の、不注意で……迷惑かける訳には…行かないから……」

カレン「他人への迷惑とか…気にして、諦められるような物じゃ……無いでしょ!?」


俺「えっと…状況が判らないから、説明して貰っても良いか?」

理央「それは…………」

カレン「理央が落とした財布の中に…カードキーよりも…もっとずっと大切な物が入っていたのよ。この世に一枚しか無い…お母さんの写真」


大分端折られては居るが、事態の深刻さを把握するには充分な単語だらけだった。

●走れ走れコータロー本命穴馬掻き分けて

俺「成程な…んじゃぁ、絶対取り戻さないとな!理央、カレンの事は頼んだぞ!」

空中庭園の手すりに足をかけ、携帯を取り出しながら飛び降りる俺。

ちなみに…空中公園の丁度その下には駐輪場があり、ここに来るために使った俺の自転車が置いてある。


俺は鍵を外してペダルに足をかけながら…組織の担当に電話をかける。

俺「えっと…ちょっと特殊な状態で、車を一台…トラックを停車させたいんですけど、出来ますか?」

「状況次第で方法は変わりますが、可能です」


俺「よしっ!じゃぁ、ナンバーは………」

信号を無視して十字路を突っ切り、トラックの通った道をなぞるように駆け抜ける。

「対象車両の場所を確認しました、環状線を走行中です」


俺「じゃぁ…どうにかして、足止めをっ!」

「理由によって取れる手段が異なります。優先度は?」

俺「優先度は………A!!」


「優先度Aの作戦行動には実行コードが必要ですが…」

俺「あぁぁ、そうだった!じゃぁ優先度B!」

「優先度Bを単独で指示出来る権限が、貴方にはありません」


俺「じゃぁCで良いから頼むよ!!」

「優先度Cの場合、余り長い時間拘束する事は出来ませんが、宜しいですね?」

俺「何も無いよりずっとマシ!それじゃよろしく!!」


その叫び声を残して電話を切り、全力で自転車を漕ぐ。

足は痙攣を起こしかけ、肺の奥からは血の匂いがする…だが、休んでいる暇は無い。

事が起きてから、既に短くない時間が経過していて…その間に開いた距離を詰めるのは容易では無い。


漕いで…漕いで…漕いで………

ただひたすらに、間に合う事だけを祈りながら全力で突き進み―――

●傷を負ってもライオンは強い

俺「そら…もう落とすなよ?」

理央「あ、ありがとう…ございます………で、でも…私、のせいで…こんな迷惑…」

俺「んー…まぁ。さすがに迷惑じゃぁ無いって行ったら嘘になるが…なぁ、カレン?」


カレン「良いのよ別に…迷惑かけたって。私達だって迷惑かける事あるんだから」

理央「でも…絶対私の方が…迷惑かける事が多くなるから」

カレン「だから…多いとか少ないとかじゃなくて…っ…!」


頭にアイスノンを乗せながら喋り、まだ収まらない頭痛に言葉を遮られるカレン。

美味しい所を持って行くようで悪いが、ここは俺が代弁させて貰う。


俺「回数なんか関係無しに、何か困って居たら助ける。助けて貰う…仲間だからそれで良いんだよ」

理央「ぁ………」


仲間…と言う言葉の所で声を漏らし、ボロボロと涙を零し始める理央。


とりあえず胸を貸して頭を撫でてやるが、理央の感情は暫く収まりそうには無い。

何とかしてこの空気を変えようと、話題を探す俺。

そして…真っ先に見付かったそれに言葉を向ける。


俺「そう言えば…理央の心を読んだ時、一体何があったんだ?」

カレン「私が知覚したのは、大きく分けで二つ…まず片方は理央のお母さんの写真」

俺「端折って伝えてくれたあれだよな?」

カレン「そう…で、問題はもう片方。あれは何て表現すれば良いのかしら……混沌?カオス?ケイオス?」


俺「いやそれ全部同じ意味だから。ってか、それじゃ全然判らないっての」

カレン「でも、そうとしか言いようが無いのよ。色んな声とか景色とか匂いとか味とか思考とか入り混じって…」

理央「わ、私も…上手く説明できませんけど……それ、私の能力です」


目尻に残った涙を拭いながら、辛うじてだが会話の輪に戻る理央。


カレン「原理は多分…テレパシーとサイコメトリーの複合。周囲の情報を無差別に収集してるんだと思うけど…」

理央「あ、はい。多分それです」

カレン「もしかして…四六時中ずっとあの状態なの?」

理央「………はい」


そしてカレンは理央の言葉に絶句し……再び頭を抱えるのであった。

●限りない過ちを打ち砕くそれが使命さ

カレン「ゴメン…私、理央の事ADHDだと思ってた。でも実際は…あんな、あんなの生半可な精神じゃ無理…」

理央「え…そ、そんな。謝らないで下さい。あ…そうだ、仲間だったら気にしたり謝るような事じゃないですよね?」

カレン「理央……」


俺「一本取られたな、それじゃお互いに自虐タイムはここまでだ」

カレン「って、何でそこで貴方が仕切るのよ」


カレンの突っ込みに笑みを零す理央。

俺とカレンもその笑みが感染して、笑い合う。

と、そこで思い出す事が一つ


俺「あ、そう言えば…カードキーと写真は大丈夫か?取り戻す時にちょっと荒っぽい事になっちゃったから心配なんだが…」

理央「そ、そうですね…確認してみます」

カレン「まぁ、ちょっとくらい欠けてても、テープ部分が破損してなければ使えるわよ」


そしてサイフを開き…何だかんだで気になっていたのか、写真の方を取り出して確認する理央。

その笑顔から無事を確認出来て、俺からも安堵のため息が零れる。

だが、続いてカードーキーを取り出すと…


理央「………」

カレン「どうしたの?……あー……さすがにこれは無理ね」

俺「すまん」


カードキーは真っ二つに割れ、テープも切れていた。言うまでも無いが、これでは使い物にならない。


カレン「それじゃぁ、カードキーは再発行して貰うとして…今日の宿泊先は……」

理央「そ、そうですね…手持ちも心許ないので、ネットカフェにでも……」


俺「それは駄目だ!」

カレン「それはダメ!」

理央「えっ………」

●何でも一人で出来るって強がるだけ強がってもね

カレン「ちゃんとベッドで寝ないと疲れも取れないし、お風呂も入れないじゃない」

理央「あ、でも最近のネットカフェはシャワーも……」

俺「と言うか…ネカフェ泊なんてのは、危険を物ともしない野郎だから出来る蛮行なんだ。理央みたいな可愛い子がネカフェ泊なんかしたら危ないだろう」


カレン「悪い男に捕まったら、そのままお持ち帰りされ兼ねないわね…」

俺「そう…通りすがりのレイプ犯なんかが、偶然を装って甘い言葉で近付いてきたりしたら…」

ちなみにこの会話は特定の人物の事を指しているが、プライバシー保護ためあえて名前を伏せさせて貰う。


理央「え?…え?」

カレン「と言う訳で…カードキーを壊した罰として、コイツの部屋に理央を泊めるのが順当な所なんだろうけど…」

理央「は、はひっ!?」


カレン「さすがにそれは、猛獣の檻の中に子兎を放り込むような物だから無しね」

理央「え、えっと…」

カレン「コイツの事だから…そうね。理央にネコミミでも付けさせて、お兄ちゃんとか呼ばせかねないわ」

俺「いや、確かにそれはさせてみたいけど。実行するだけの勇気は無い!」


カレン「…………」

理央「…………」

しまった、声に出してしまった。カレンから突き刺さる視線と、理央から向けられる心配の視線が物凄く痛い。


カレン「と言う訳でやっぱり…最初に言った通り。理央は今夜、私の部屋に泊まって貰うわね」

理央「え、あ…でも………」

俺「気を付けろ理央…カレンはお前を取って食う気だ!」


仕返しとばかりに放った冗談に対し、カウンターで顔面に打ち込まれるカレンの拳。


カレン「この馬鹿のセリフはスルーして。あと、遠慮は無し。私達は仲間でしょ?」

理央「ずるいです…そう言われたら断れません」


俺の身を挺したジョークのおかげもあり、一件落着………そう思い、気を緩める。

だが俺は忘れて居た………俺の役目はまだ終わって居なかった事を、この先に待っている出来事の事を。


理央「あ、そう言えば………その、オフ会…ネットゲームの………」


そう、すっかり忘れていた。オフ会の待ち合わせを!


俺「……やべぇ!んじゃ解散!俺は先に帰るから、二人共気を付けて帰るんだぞ!?」

時間は既に18:15…現時点でも15分の遅刻。


俺はまた、慌てて空中公園から飛び降り…待ち合わせ場所へと向かうのだった。

●そこの誰かさん準備そろそろOK?

Z∀Z∀シティ前駐輪所……オフ会の集まりと思われるような人だかりは無く、携帯を弄る独り身の男女が数人居るだけ。

俺は思い出したようにhasewoにメールを送り、返信を待つ…が、返信は無い。

携帯の時計を見ると、時間は18:30。現時点で30分の遅刻…待っていると考える方が難しいだろう。


…もう帰るべきか、後でログインして侘びを入れないとな。そんな事を考えて居ると……


「あー、違ってたら悪いんだけど…」

後ろから、聞き覚えない声をかけられた。


相手は…野球帽を被り、上半身はオレンジのパーカー、下半身はブラウンのジーンズという恰好の青年。

声は高く、身長は俺よりも少し低い…何と言うか、微妙に不審者っぽい感じの男だった。

警戒する俺…だがそれと同時に沸き出た心当たりを、言葉にして相手に放つ。


俺「ん?あー…もしかして、hasewo?」

hasewo「そうそう俺俺、やっぱお前か。いやぁ、辺りを見回して何か探してる不審者が居たから、まさかって思ってな」

俺「いや、不審者って件ではお前にとやかく言われる筋合いは無い。ってか、何で返信くれなかったんだよ」


hasewo「悪ぃ悪ぃ、携帯のバッテリー切れちまって。って言うかお前こそ無断で30分も遅刻してんじゃねーよ。ま、遅刻の連絡あっても見れなかったけどな」

と言って帽子をずらし、不機嫌そうに頬を膨らませて見せるhasewo

俺「あー…その件は悪い。ちょっと急用が入ってな…それ終わらせてたら遅れちまった。hasewoは何時から待ってたんだ?ってか他の皆は?」


hasewo「俺はきっかり6時から。あとリアルでその名前で呼ばれるのはアレだし、空って呼んでくれ。ってか、他の皆って何の事だ?」

俺「えっと、じゃぁ…そ、空…いやほら、オフ会の他の面子も来てるんじゃないのか?」

空「いや、オフ会参加者は俺とお前だけだぞ?」


俺「………って、サシオフかよ!皆に迷惑かけてるんじゃないかって心配してた俺の心配を返せ!」

空「あぁうん、サシオフとも言う。ってか、実際に俺に迷惑かけてるんだからそこは返す必要無いだろ!」

俺「一理在る」

空「いや、一理どころか全部だ!!くっそ、こうなったら埋め合わせでオールナイトで付き合って貰うぞ」


と…言い合いにも似たやり取りを交わしながらも、あれやこれやでサクサクと進む会話。

俺達はそのまま歩き出し、ネトゲの他愛無い話に花を咲かせて行く。


俺「なっ…マジか!?エクスカリバー拾ったのか!?あのHPSP回復二倍の聖属性最強の剣を!?」

空「マジでマジ。何なら今度貸してやろうか?」

俺「うおぉぉぉぉ、テンション上がってきた!!!」


ちなみにオフ会の内容は…

ゲーセンに行ったりショートカラオケをしたり、飯を食いに行ったりと至って普通の物だった。


そして…・・・街中をネオンやら街灯やらの明かりが照らし出し、人通りも少なくなって来た頃…俺は、空の事で一つの疑問が浮びかけていた。

●偶然が幾つも重なり合って貴方と出会って

まず考えるべきは、確率論だろうか…それとも、フラグ理論だろうか?

物語があれば、一人は登場するだろうというお約束キャラ…

ただそのキャラクターの登場は既に果たしており、言わば消化済みの状態だ。


そう…俺の予感が当たるのならば、消化後に再びそれを味わわせ、暴満感を与える結果にしかならない筈。

俺は、空に向かって恐る恐るながらもそれを切り出す。


俺「なぁ空…俺、確認しときたい事があるんだが」

空「奇遇だな、俺もお前に確認しときたい事があったんだ」


そう言って俺達は立ち止まり、互いの顔を見合わせる。


空「まぁ…ここだと人目もあるし、ちょっとあっちで話すか」

そして促された先は、照明が一つも無い路地裏。大通りから漏れた光が、辛うじて俺達二人の存在を照らしている。


空「んじゃ、お前から。確認しときたい事って何だ?」

俺「それは……言い辛い事なんだが」

空「何だよ、遠慮するような仲じゃ無ぇだろ?」


俺「じゃぁ聞くけどよ…お前…男だよな?」

空「…………」

そして訪れる沈黙。


沈黙……それを破るように空が俺の手を取り、引き寄せる。

空「お前なぁ………いや、何ってーか…ずっとそんな疑問を持たれてたかと思うと、もの凄い腹が立つな」

そして俺の手を、空は…自分の胸に押し当てる。


掌に伝わる、柔らかい感触…僅かに膨らみと感じられるそれを理解すると同時に、俺の体が強張る。

空「あ!あるのか無いのか判らないから判別し辛いって思ってるだろ。だったらこれでどうだ?」

パーカーを捲くり上げ、今度はその中へと誘われる俺の手。


そして俺の手に吸い付いて来るのは、マウスパッドのような柔らかい感触。

空「おい………何で未だにノーリアクションなんだよ。お前がそんな態度取るんなら、こっちにだって考えがあるぞ?」


ちなみにノーリアクションなのは、初めての生乳に思考がフリーズしているからである。

しかし空はそんな俺を余所に、ベルトを外し…俺の手をジーンズの………

俺「って、それはさすがにダメだろ!?」


中に入れようとした所で、空の手を跳ね退ける。

トリップ忘れてた…

●欲張りな愛と夢を叶えよう

空「何だよ…お前が変な事言うから、それを確認させてやろうって言ってるだけだってのによぉ」

俺「俺が悪かった!もう確認は充分だから落ち着け!!」

空「んー……そいつは無理だな、スイッチ入った。俺…普段はレズ専なんだけど、お前なら………」


俺なら何だって言うんだよ!いや…聞いてみたい気もするけど、聞くのが怖い。

と、戸惑っている内に…ジッパーへと掛かる空の指。


バクバクと騒音を奏でる心臓に意識を乱される中…不意に空が顔を近付け

空「そうそう…俺からお前に確認しときたい事…まだ聞いてなかったよな」

俺「そ…そうだ!一体何なんだ!?」


キョドってどもってしどろもどろで質問を返す俺。だが…その意識は、空の次の一言でクリアかつ鮮明になって引き戻される。


空「なぁ…お前、こっち…キングダム側に来る気無いか?」


俺「………は?」


空「大丈夫…お前は絶対こっち側の人間だって、こっちに居る方がお前にとっても居心地良と思うぜ?」


俺「いや…空、お前一体何を言って………え?キングダム?お前が?」

空「そう、俺はキングダムのミラ・イソラ…安心しな、お前を取って食おうって訳じゃねぇよ。ただ勧誘してるだけだからよ」


いや、別の意味で食われそうではあるんだが…と、突っ込みを入れている暇は無い。

長年ギルメンとして連れ添ったhasewoが実は女で…更にキングダムの構成員?もう突っ込みするどころか理解が追い付かない。

だが…一つだけ確実に返せる言葉がある。


俺「それは無理だ…カレンの両親を殺した組織に入る事なんて出来ない!」

空「あー…あの件な、まぁあの件は仕方ない。不幸な事故と方向性の不一致だ」

俺「仕方ないなんかで済ませられるのかよ!人を殺したんだぞ!?」


事も無げに言う空に対し、段々と怒りの感情が込み上げて来る。そしてそれを爆発させ、空に向けて放つのだが…

●止まらない未来を目指してゆずれない願いを抱きしめて

空「いや、それ言うならお前だって殺してんじゃんか」

俺「…え?」

空「仕方なくだったんだろ?自分の命を守るためだったり、誰かを守るためだったり…自分の地位や利益を守るために仕方無く俺達の仲間を殺したんだろ?」


嫌な感覚と共に、心臓が跳ねるように脈動する


空「なぁ…もしかして、敵は人間じゃ無いとか思ってるんじゃ無いだろうなぁ?あいつらにだって家族や仲間が居た…ちゃんと人間だったんだぜ?」

俺「そ…それは……」

何か言い返さなければいけない…言い返さなければ飲み込まれてしまう。それを理解しながらも、言葉が出て来ない。


空「言われて気付いて…いや、改めて言及されて怖くなったか?でもな、それで良いんだ…そうやって怯えられる心があるなら、俺達の仲間に相応しい」

俺「何だよそれ…どう言う……」

空「組織から聞いて無いのか?簡単に言うと…俺達は弱者の集団だ。弱者の弱者による弱者のための世界を作るための革命軍だ。なぁ…お前なら理解出来るだろ?」


理解出来ないと言えば大嘘になる。弱者である事は嫌と言う程身に染みて理解している。

だが…だからこそ、その考えが破綻している事も判る。


俺「悪い…やっぱキングダム側にはなれない」

空「そっか…まぁ、気が変わったら言ってくれ。俺達はいつでもお前を歓迎するぜ」


拒絶を受け入れ、一旦は諦めを見せる空。だが…俺の中に湧き上がる警戒心は、緊張を解こうとしない。


俺「ってかよ………お前達、キングダムの奴等ってどうしてそうお喋りなんだ?そんなにホイホイ情報を出して、口止めとか考えないのか?」

空「あぁ、それな?構成員の中に、便利な超能力を使える奴が居て…そいつの力があれば、部分的に………」

俺「いや、そいつは…もしかして木戸譲二か?」


空「あぁ、やっぱり知ってるんだな。途中で逃げ帰ったってのは嘘か…いや、カレンって子から聞いた可能性もあるか」

俺「でも、木戸譲二はもう死んでるんだぞ?どうやって……」

と…零した所で失言に気付く俺。


俺の言葉を聞いた空も呆気に取られ、信じられない物を見るような目で俺を見る。

空「…………はぁっ!?死んだ!?あのジョージが!?」

あぁ……これは完全に失敗だ。多分致命的な選択肢間違いをしてしまったらしい。

●ハテナのブーメラン飛んで行け

空「あのジョージだぞ!?のらりくらりと危機を避けて、殺しても殺しきれずに後でひょっこり現れるジョージだぞ?!」

俺「いや、俺はその辺り良く知らないんだが…」

空「いやでも待てよ?それが本当なら…ジョージを殺せるだけの能力を持ってるヤツが居て………」


何かに気付いたように目を見開き、俺を直視する空。

そしてその視線の意味を理解した俺は、次の瞬間には危機を察知する。


空「あーあ…くっそ………もうちょっと考える時間やって、じっくり和解したかったんだけどなぁ」

俺「いや…その、何だ。とりあえず落ち着け」

空「心配すんな、落ち着いてるよ。それより…急で悪いが今決断してくれ。俺達の仲間になるか、今ここで死ぬか…」

パーカーのジッパーを下ろし、素肌を晒しながら問う空。


俺「いやいやいや、他にも選択肢はあるだろ!?お互い情報を漏らして痛み分けとか!お互い報告せずに黙っとくとか!」

空「悪いがそれは出来ねぇなぁ。そっちの組織にも居るだろ?記憶を読む奴」

ヒュン…ヒュン…と、どこからとも無く、風を切るような音が聞こえ始める。


俺「だったら…お互い報告に戻らず、どっかに隠れるとか!殺さないにしても行動不能にして時間を稼ぐとか……」

迂闊!言い終えた所で、またも自らの失言に気付く。


空「あぁ…それならまぁアリっちゃぁアリか。んじゃぁ…ちょっと痛くするけど我慢してくれよ?」

ヒュンヒュンヒュンヒュンと、ヘリコプターのような音と共に吹き荒れる風。

そして空の近くにあった壁が、ジッ!と削がれるような音と共に削り取られる。


何が起きているのか判らない…だがとてつもなく危険な物が俺に迫っている。


空「あぁ…ついでだから教えといてやるよ。俺の能力名はソーサー=ソーサ…皿状の金属をサイコキネシスで飛び回らせる超能力だ」

俺「いやいや、聞きたく無いから!これ以上背水の陣になるのやめようぜ!?」

空「おっと動くなよ?うっかり直撃しちまったら、怪我程度じゃ済まねぇぞ」


駄目だ、全然聞いて居ない。ヤバい…とてつも無くヤバい。

●目覚めた瞬間廻りはじめるプリズム

空「あー…そうそう…護衛の奴等なら来られ無ぇからな?金色の竜も今は手が離せ無ぇ筈だぜ?」

空の言葉はもう滅茶苦茶で支離滅裂で意味不明…前後の脈絡も無く、何を言っているのか訳が判らない。

更には、唐突に駅の方を指差し………


俺「―――!?」

空の指差した方角…駅ビルの周辺。間に聳え立つビルの隙間から覗く爆炎…それに続いて響き渡る爆発音。

何が起きているのか………いや、原因やら経緯やらを考えるよりも、結果を見ればそれは単純明快だ。


俺「爆破テロ…だとっ?まさか…俺を引き込むために…」


空「いや、それは流石に無ぇよ。どっちかってーと、俺があっちの作戦に乗っかっただけ」

俺「ありゃ?…そうなのか」

少し恥ずかしい勘違いをしてしまったようだ………って、そう言う問題じゃ無い!


俺「俺も早く行―――」

空「行かせると思うか?」

俺「………だよなぁ!!!」


空「おぉ?ヤる気になって来たみたいじゃねぇか!!良いねぇ良いねぇ、無抵抗の奴をヤるより興奮するぜ!」

俺「滾ってる所を悪いが、タラタラしてもいられ無いんでな。速攻で決着つけさせて貰うぞ!!」


お互いの視線が交差し、火花が散る。


空は腕を大きく広げ、金属盤で周囲のありとあらゆる物を削りながら突進してくる。

対する俺は、ゆっくりと瞼を閉じ…額を手に宛てながら、目を見開く。


指の隙間から捕らえるのは空の姿。


勝負は一瞬……


―――そう……一瞬で決着がついた

●すぐヒビ割れる未来のために

空「いやまぁ………そもそも誘った理由が、弱者仲間だったからって事で…判っちゃぁ居たんだが………流石に弱すぎじゃね?」

俺「……………」

情けなく地面に突っ伏す俺…一瞬の間に何があったか説明しよう。


まず空の金属盤が俺の足を掠め、大腿骨骨折と同時に重度の打撲傷。

慌てて空が勢いを殺すも、金属盤はそのまま俺の全身をボコボコに打ちのめし……今に到る。

ちなみに………女の子は爆散させられなかったよ。空には勝てなかったよ………


空「俺はてっきり、お前がジョージを殺した張本人じゃ無いかって思ったんだが…とんだ的外れだったか」

俺「………」

命中しているけれども、下手な事は言わないで置こう。どう転んでも良い方向には行かない気がする。


空「あー…その何だ、安心しな。さっきの爆発はほんのデモンストレーションだ。金色の竜がちゃんと仕事してりゃぁ、何も問題無ぇから」

俺「………は?」

空「今な、色んな所に仕掛けた爆弾をあんな感じで爆破して組織の奴等を誘き出してんだわ。んで…正規の処理班は他の所に優先で出払ってる筈だから…」


俺「黄色先輩がそこに駆り出されてる筈…って訳か。わざわざそんな事して、一体何が目的なんだ!」

空「そりゃぁ勿論………っと…いけねぇ、さすがにこれは喋る訳にはいかねぇな」


あれだけお喋りだった空が、その口を噤む程の内容。底知れぬ物を感じながらも、言及する事すら出来ない事に歯痒さを感じすには居られない。


空「さて……それじゃぁ約束通り拉致らせて貰うとすっか。なぁに心配すんな、優しくしてやっからよ」

そう宣言して俺に歩み寄る空………逃げようにも、俺の身体はまともに動かない。

とりえず今この場所で殺される事は無さそうだが、身の安全まで保障されている訳では無い…つまり、実質上の詰みだ。


何か出来る事が無いか…電話で…駄目だ指の一本も動かない。

焦りと恐怖心が入り混じる俺を余所に、空の手が俺の襟へと伸び………


何故かその手を引っ込めた。

●いまのボクたちマニュアルどおりにゃいかないぜ

一体何が起こったのだろうか?それを確認すべく顔を上げると……

空の視線は俺では無く別の方に向いている。


空「おいおい冗談だろ…爆弾放ったらかしにしてこっちに来たってのか?」

俺の遥か後方…闇夜の中に向けて語りかける空


「いいや、ちゃぁんと全部ぶっ潰してから来たぜ」

虚空から聞こえるのは。どこか覚えのある声。


空「は?嘘だろ?あれだけの数の爆弾を、全部見つけ出して処理して来たってのか?この短時間でそんな事出来る筈が…!」

「まぁ、一つ一つ一々駆除してたら日が暮れちまうわなぁ」

いや、もうとっくに暮れている…と言う突っ込みは野暮だろうか?


空「だったら……」

黄色「だから…ビルごとまとめてぶっ潰して来た!」

空「なっ―――」


そして…万を持して登場とばかりに姿を現す黄色先輩。正直勿体を付け過ぎな気もするが、そんな贅沢を言える立場では無いのが悲しい所。


俺「………って、ビルごとっ!?」

黄色「あー…勿論客が全員非難してからだぞ?」

俺「あぁ、それなら…って良いのか?本当にそれで良いんだろうか…?」


空「さすがは金色の竜……常識が通じねぇなぁオイ」

全く以って同感である。


黄色「ってか…そこの手前ぇ。手前ぇに一言、言っとく事がある。重要な事だから耳の穴かっぽじってよぉく聞きやがれ」

空「ほう…金色の竜から俺にか。そりゃぁ光栄だな……んで、一体何だ?」


黄色「手前ぇ、喋り方が俺と被ってんだよ!今すぐ変えやがれ!」

―――今更突っ込むのも何だが、何とも理不尽な言いがかりである。


>>185 きんぎょ注意報
>>186 東鳩
>>188 爆れつハンター
>>189 レイアース
>>190 三つ目が通る
>>191 セイバーマリオネットJ
>>192 ゴクドーくん漫遊記
>>193 RPG伝説 ヘポイ

>>1が同年代な気がしてきた
そして黄色先輩が何故かデュラララのしずちゃんに見える不思議

ついでに…
>>166 ワンピース(替え歌?
>>167 MOE(アニメなんかやってたんだな…
>>168 .hack
>>169 東鳩
>>170 血界戦線
>>171 Piaキャロット
>>172 きんいろモザイク
>>173 VS騎士ラムネ&40 FRESH
>>174 走れコータロー (コレはアニメとかじゃないんだな…走れマキバオーだったら「みどりのマキバオー」なんだが
>>175 マクロスF(?
>>176 疾風アイアンリーガー
>>177 まもって守護月天
ってとこか

●ダダダダダーンと弾が降るババババーンと破裂する

空「生憎と…生まれてこの方、この喋り方以外は知らないんでね。そりゃぁ聞けねぇ話だ」

黄色「だったら…今すぐ俺の目の前から消えて無くなりな。いや…今回に関しては、大人しく捕まれって言っとく所か?」

空「はっ、捕まえたけりゃぁ俺を倒して力づくで捕まえてみな」


空は強気な口調で啖呵を切るも、表情には余裕が無い。

味方として一緒に居る時はピンと来ないが、実は黄色先輩は凄い人なんじゃないだろうか?という錯覚さえ感じてしまう。


黄色「教えといてやんよ…その台詞を吐いて、俺に捕まらなかった女は居ねぇ!そら、レディーファーストだ。先に仕掛けて来な」

空「はん、大した余裕じゃねぇか…吠え面かいても知らねぇぞ!」

売り言葉に買い言葉…そして支払われたのは空の金属盤。

ものの数秒の間に加速を終えたそれは、弧を描いて頭上から黄色先輩に襲いかかる。


俺「避け―――」

反射的に声を上げる俺。だが…俺の言葉など必要とされては無かった。

一瞬だけ周囲を照らす程の閃光を放ち、弾き飛ばされる金属盤。


黄色先輩の能力だろうか…一瞬だけそう考えるも、その愚考はすぐに目の前の光景に否定された。


左手に逆手でナイフを持つ黄色先輩………その光景はこう語っている。

俺「なっ……まさかっ……あれを…」

空「弾いた…ってのか…!?」


黄色「別に驚くよーな事じゃぇ無ぇだろ。ってか、まさかこれで終わりじゃ無ぇだろーなぁ?」


空「っ……だったら、これでどうだぁぁぁぁ!!!」

肌蹴たパーカーの下から次々に現れる金属盤。それらの全てが別々の角度で円を描き、空を包み込む。


空「これだけの数のソーサーを…果たして……」


が……その言葉を最後まで語る事すら待たず、今度は右手に銃を持って発砲する黄色先輩。

バァン!とお決まりの銃声が聞こえたかと思えば、今度はガガガガと何か硬い物が連続してぶつかる音。

………跳弾だ。


何と言う事だろう、あれだけ在った空の金属盤が、黄色先輩の鉛球一発により全て撃ち落されてしまったではないか。

●今君の目にいっぱいの未来

空「な…何なんだこのバケモノは!?これが金色の竜の能力なのか?!」

黄色「いや…勘違いしてるみてーだが、俺は能力なんざ使って無ぇぞ?こんくれーなら、使うまでも無ぇよ」

空「は………?」


空の顔に浮ぶ絶望の表情…まぁ無理は無い、俺も同じ立場だったら絶望していただろう。


黄色「んじゃ……そろそろ力付くを執行させて貰うとすっかなぁ?」

もの凄く下衆じみた笑みを浮べながら宣言する黄色先輩…

対する空は、何とかしてそれに抗おうと…恐らくは最後の一つであろう金属盤を黄色先輩に向けて放つ。


が…案の定、その金属盤もあしらわれてしまう。


黄色先輩のナイフに弾かれ、流線型の曲線を描きながら後方へ…

後方?

そう………黄色先輩の後方と言えば、その先にある物は言うまでも無い。


あ、ヤバい………これは死ぬ。

スローモーションになった景色の中、俺に向けて迫り来る金属盤。


空も黄色先輩も、この事に気付いている様子は無い。おまけに周囲に人の気配も無い………

即ち…俺を助けてくれる存在は今この場に存在しない。


回避…身体中が満身創痍で動かない。尤も、動けたとして回避出来る気がしない。

爆散…いや、こんな物をどうやって爆散させる?

我ながら、何て応用の効かないピーキーな超能力を持って居るのやら…


黄色先輩並の反則的な能力じゃなくても良い、せめてもっとこう…例えばあいつの―――


と………考えている内に、もう金属盤はすぐ目の前に来て居る。


俺は死ぬのか?


嫌だ!死にたくない!!


心の中でそう叫んだ、次の瞬間―――

●悔しさを堪えて蹴り上げた石ころ跳ね返ればダイヤモンドにもなる

ガキンッ!! ―――と、鈍く硬い音が周囲に響き渡り、俺を撃ち抜く筈だった金属盤が弾き返される。

そして、その金属盤の向かった先に目を向けると………

空「ぐっ……がっ………!!」


その先にあったのは、腹部を赤く染めた空の姿だった。


空「はぁ…っ!?…ちょっ…おま、それ………マイケルの……」

空は言葉を紡ぎ終えるよりも先に体勢を崩し、前のめりになって地面に倒れ込む。

そして口からは、言葉の替わりに血反吐を吐き出し…


空「…―――!!」

それはもはや言葉どころか声にすらなって居なかった。


黄色「お前………」

何か聞きたそうに問いを紡ぐも、俺の様子を見てそれを止める黄色先輩。

俺自身にも何が起きたのかサッパリ訳が判らないし、それが顔にも出ているようだ。


俺はその困惑の解を求め、黄色先輩に顔を向けるが…

黄色「いや、俺に聞かれても判る訳無ぇだろ」

案の定…予想通りの言葉が返って来るだけだった。


あぁ…ここでこれ以上考えても仕方が無い。次に何をするべきなのかを考えなければいけない。

と…思考の志向を整えると、視線は自然と空の方へと吸い寄せられて行く。


腹部と口…その双方から流れ出した血の量は、決して少なくは無く…

このまま誰かが何もしなくても、その命の灯火はじきに消え去ってしまう…そんな状態だと言う事が見て判る。


黄色「さぁて…コイツはどーする?何なら俺が一思いに…」


俺「……いえ、その。すみません……コイツ…空は俺の友達なんです。だから………」

黄色「そっか…んなら俺はこれ以上口出ししねーわ」

と言って、アスファルトの地面にナイフを突き刺す黄色先輩。


俺「………ありがとうございます」


黄色「んじゃ、俺はここでもう帰る。組織の方には俺から上手く言っといてやるよ」

俺「はい…お手数おかけしました」

黄色「あぁ…そーそー…」

俺「どうしました?」


黄色「お前がどう転ぶにしても…顔だけは、また見せに来いよ?」

○どうしようも無く落ち着かない夜何もかも投げ出したくなる

総統「それで…今回の被害は?」

零那「負傷者24名、行方不明者3名、死者1名。Lv4データファイルの一部と、Lv3データファイルがキングダムの手に渡りました」

総統「被害甚大だな………召集されなかった非戦闘要員に被害は?」


零那「ありません。略式ではありますが被害と安否の確認も完了しています」

総統「さすがのお手並みだね」

零那「お褒めに預かり光栄です」


総統「さて…Lv4データファイルは一部と言って居たけれど、具体的には?」

零那「キングダムに関して我々が持って居る情報と、現日本政府のシ-クレットファイル。それと…」

総統「それと?」


零那「つい先日、Lv3から移動したばかりの…リア充爆散能力者のファイルです」


総統「…………何て事だ…キングダムの連中が、彼の事を嗅ぎ付けてしまったか」

零那「むしろ、そのファイルが囮となったお陰で、Lv5データファイルにまで手が回らなかった。そう考えれば宜しいかと…」

総統「…ポジティブだね」


零那「しかし、Lv5データファイルの中身とは一体何なのですか?」

総統「おっと、それはいくら君にも教える事は出来ない」

零那「そこまでひた隠しにする情報…むしろ興味が湧いて来ますね」


総統「君はパンドラの箱と言う物を…まぁ、知っているだろうね」

零那「当然です。一般教養レベルのトリビアでドヤ顔が出来ると思わないで下さい」

総統「ま、まぁつまり……そう言う類の代物なんだよ。あれが開かれれば、私も君も…全ての存在が危ぶまれる程のね」


零那「………そこまで行くと、逆に胡散臭いですね」

○暗闇はパラダイス毒入りバケーション

「成程…これが今回の襲撃の成果って訳だ。って、おぉ!?なぁマリオ、見てみろよ。面白い物が載ってるぜ?」

マリオ「………」

「ケッ、相変わらず愛想の無い奴だ」


「あらぁん、彼はそこが魅力的なんだから良いじゃなぁい。マークも見習ったら?」

マーク「エリー!何時から居やがった!?はん、そんなのまっぴらゴメンだな。俺は俺でこのスタイルを貫くぜ」

エリー「ところで何それ?あぁら、組織の新人の子のデータファイル?見た所普通の子っぽいけど…」

マーク「…ところがどっこい、能力欄の所を見てみな?」

エリー「どぉれどれ?って…えぇっ!?リア充爆散って……嘘でしょう!?」


マーク「まぁ、信じられ無いよな。それでも、それだけなら単なる偶然とも考えられたんだが…これも見てみろよ」

エリー「無関係…ってぇ訳じゃぁ無さそうねぇ」

マーク「あぁ…」


エリー「組織に入った、リア充爆散能力の子と…」

マーク「2年前に殺された、俺達の仲間…リア充爆散能力の、アシッド…」


エリー「組織内でも一括りに考えられて、同じファイルに纏められて居た訳だからぁ、まず無関係とは考えられないわよねぇ?」

マーク「しかもこれがLv4データファイルの中身となれば…」

エリー「なぁにそれ、真っ黒じゃない。ブラックじゃない」


マーク「断言するぜ…コイツは間違い無く、でっかい秘密の鍵を握ってやがる」

○新しいステップで素直になればいい

カレン「はい、判りました。一応私達も警戒しておきます」

理央「組織からの…通達…ですよね?何でした?」

カレン「この付近でテロがあって、組織と幾つかの建物が襲われたみたい」


理央「えっ…それなら私達も応援に………」

カレン「行ってもあまり意味は無いわよ。足手まといになるだけだし、第一連絡もただの事後報告だもの」


理央「……」

カレン「………」


理央「それじゃ…先輩は…?」

カレン「黄色先輩?あぁ…じゃなくて、アイツの事ね。骨折と打撲だけで、命に別状は無いらしいわよ」

理央「骨折と打撲で…だけ、だけって…大丈夫なん…ですか?」


カレン「アイツにしてみれば日常茶飯事みたいな物だもの、心配するだけ気遣いの無駄よ」

理央「カレン先輩…先輩の事、よく判ってるんですね」

カレン「え?そんな…………いえ、えぇ、そうね」


理央「………」

カレン「………」


理央「カレン先輩」

カレン「何?」


理央「私…カレン先輩達が先輩にしてる事………反対ですから」

カレン「それをどこで…って言うのもまぁ、今更ね」


理央「カレン先輩は間違っています」

カレン「そんな事、私が一番判ってるわよ」

理央「いいえ、判っている振りをしているだけで判って居ません」


カレン「そんな事………」

理央「とにかく…私は反対です。それでは、お休みなさい」

◎誰かが捨ててしまった昨日を拾い上げ


こうして…其々の夜は明け、次の朝へと旅立って行く。

ある者は希望を…ある者は絶望を目指し


昨日に………背を向けて


  リア充爆散しろ シーズン1 ―完―

と言う訳で、シーズン1終了となりました「リア充爆散しろ」に
今回もお付き合い頂きありがとうございました。

今回も恒例のレス返しをさせて頂きます。


>165 歩くような早さでの更新になってしまいました、申し訳ありませんorz

>178 その点はまた追い追い…この先の展開にご期待下さい!

>179-184 予想以上の反響を頂いた手前申し訳無いのですが、実はうろ覚えな歌詞やフレーズを適当にレスタイトルにしていただけで…(ゲフンゴフン)
…と言いますか

>194-195 >200
書いた本人さえあまり覚えていない事なのに、何故判った!?


そして最後に、大分今更となってしまいましたがヒロイン達のお披露目を
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51393265

―はっ夢か―

●―――

『さ~ゆけ われら~♪ニンニン――』

空「なぁ、ボンバーマンの単行本取ってくれよ」

テレビから流れる歌をBGMにして…遠慮のえの時も無く、俺に指示を飛ばす空


俺「爆外伝か?それならそこのRPGマガジンの下に…」

空「いや、これこれ」

『おのれ…だが貴様らの命運もここまでだ!今日は助っ人を呼んである!出でよ、ニンニンジャースレイヤーさん』


そう言って空が開いて見せた単行本は…

俺「って、それはボンバーマンじゃねぇ!!!ダイナマンだ!!」

『ドーモ、ニンニンジャー=サン、ニンニンジャースレイヤーです』


空「ダイナマンはスーパーヒーロー戦隊だろ?ってかこれ爆弾持ってるしどう見ても…」

俺「今更遅いが、そこは大人の事情だ!深く突っ込むな!ってか、表紙にも書いてあるだろ!」

空「いや…そもそも表紙にはパッパラ隊って書いてあるぞ?さっきは惑星のさみだれだと思ったらジパングが入ってたし…」


と言って一旦単行本を閉じ、表紙を見せる空。

迂闊…俺とした事が、カバーを間違えて付けて居たようだ。追求する空の瞳に慈悲は無い!

あぁ…そう言えば以前にも、ヤプーにアランイヤンナイトのカバーを付けてしまっていた事があったな…なんて事を思い出す。


空「っと…そー言や、今日ってHEROSの返却日じゃ無ぇのか?」

俺「ぜんっぜん関係無い思い出し方したな、今」

空「良いだろ別に。あ、勿論続き借りて来るんだろうな?一気に見れそうだから、残り全部借りて来てくれよ」


俺「お前なぁ………たまには外に出て自分で―――」

空「いや、俺って表向きは死んだ事になってんだろ?ウッカリどっちかの知り合いに見付かっても良いのか?」

その確率は極めて低いが、無いと言いきれない以上は反論出来ない。と言うかウッカリマンの単行本を持ちながら言うな。


ともあれ…伝家の宝刀を抜かれた俺は、渋々ながらもDVDを返却袋に詰め始める。


空「それで………な?今更なんだがよ」

俺「どうした?」

空「その………あ――――――――――――」

『『『『『『『ワッショイ!!』』』』』』』


テレビの大音量に食われる空の言葉…だがその言葉は、確かに俺の耳に届いた


俺「気にすんな、俺がそうしたくてやった事だからな」

●×××

俺「さて…後は空に頼まれた散人左道とエンジュエルお悩み相談所とぴよぴよとげこげことでろでろと………」

ビデオ返却&レンタルを終え、その帰りに訪れた何軒目かの書店。

最近、本屋が少なくなったな…何て事を考えながら、先に言葉にした通り、空に頼まれた本の在り処を探す俺。


新刊では無いから、本屋には余り置いて居ない。大人しく古本屋に行けばまず置いてあるし、新品よりも幾らか安く手に入る…そんな分類の本。

だが…中古で買ってしまえば作者に印税が入らず、作者への対価が支払われない………と、くどい能書きはこの辺りで止めておこう。

まぁ平たく言えば俺は中古派では無く新品派な訳だ。


そんな理由から書店をハシゴし、この書店に来て目当ての本を遂に見つけ出すに到った訳だが―――


げこげこに向けて伸ばした手に、割って入る手が一つ。


これが可愛い女の子なら、運命の出会い…何て事もあったんだろうが、世の中そう上手くは出来ていない。

「あ、もしかしてキミもこの本が目当てだったりする?」

先に本を取ったのは、俺と同い歳くらいの青年だった。


「ゴメン、割り込んじゃったりして。それじゃこれはキミのだね」

俺「いや、良いよ。先に取ったのは君なんだから」

背丈は170後半くらいで、細身。顔は間違い無く美形で…間違い無くリア充だ。


「良くないよ。あ…じゃぁ、こうしよう、最初はグー、ジャンケン…ポン!」

その青年につられるまま、グーを出す俺。咄嗟の事で強張ってしまっていたためか、次の手もグーで出してしまったのだが…

「あー…僕の負けかぁ。じゃ、お互いこれで恨みっこ無しって事で☆」

青年はチョキを出し、何やら決着がついたらしい。だが…


俺「あ…………えっと、この本、持ち帰りたい方?それとも読みたい方?」

それでも何となく蟠りが残ったので、打開策を切り出す。微妙に質問がおかしいのは気にしないでくれ。


「読みたい方だけど…え?何?読ませてくれるの?」

俺「友達への土産で欲しいだけだからね。急いで無いし、俺はもうリアルタイムで読んだから」

「わぁ、ありがとう!あ、そうだ。自己紹介しとくね?ボクはショウ、小さいと書いてショウさ☆」


俺「よろしく、ショウ。俺は―――」

●□□□

ショウ「はぁー…やっぱり水上先生の作品は面白いなぁ」

俺「その口ぶりだと、他の作品も読んでるんだな。どっから入ったんだ?」

ショウ「ボクはトライガン経由でアワーズに入って、さみだれから。で、そこから過去作品を見てる最中かな」


俺「俺は散人左道から。やっぱ最初に見た作品の補正は強いけど、さみだれはそれも押し退けるくらいに勢いあったよなー」

ショウ「だよねー」

俺「だよなー」


何が嫌いかより何が好きかで自分を語り合える相手…同好の志と言う物だろうか

お互いに何か引かれあう物があるのか、理解出来る故の安心感か…

漫画の話に華を咲かせる俺達。


リア充的な外見のせいで最初はシュウに対して抱いていた警戒心…話している内に、いつの間にかそんな物は消え去り…


ショウ「あのさ、いきなりこんな事聞くのも変かも知れないんだけど…キミは今の自分に満足しているかい?」

俺「…………あぁうん、確かに変だな。一体何だよ、藪から棒に」

そう…消えた所で、また別の警戒心が湧き出るような言葉が飛び出して来た。


ショウ「今のキミを見て、気になってね。今までの自分に後悔していないか…もっと別の道を進んで居た方が良かったんじゃないか、って後悔してないか…」

俺「………宗教とか怪しい団体への勧誘とかだったらお断りだぞ?」

オブラートに包み、その上からラップをかけて問い返す。


ショウ「そう言うんじゃ無いよ。ただ単純に気になっただけさ☆それで…答えて貰えるかい?」

俺「俺は………いや、悪い、判らない。もしもの話をしても、答えは出て来そうに無い」

ショウ「そっか……じゃぁ…」


俺「…ショウ?」


急に立ち上がるショウ。そしてそのまま明後日の方向を見たかと思えば…


ショウ「>210 くん! 今のこの世界は、あるべき姿だと思うかい?」

訳の判らない事を口走り始めた


ショウ「さぁ…過去と未来を天秤にかけて、捏造を始めようじゃないか☆」

●△△△

ショウ「>209 くん。ぁー、うん。あんまり遠すぎると声が空しく木霊しそうだったからさ」

いや、空しく木霊しているぞ。見えない誰かと喋ってる可哀想な人みたいだ


ショウ「>210 くん。ちょぉっと誤解もあるみたいだけど、選択は確かに貰ったよ。さぁ、それじゃぁ本来あるべき姿に進もうじゃないか!」

高らかに声を上げ、両手を広げるショウ。

そしてクルリと体を回せば、真っ直ぐに俺を見据え…


ショウ「ところで…もう一つ聞きたいんだけどさ、今日は西暦何年の何月何日だっけ?」


まるでどこかの時代からタイムスリップして来たかのような台詞を叩き込んで来た


俺「西暦2010の7月1日だ。いい加減ボケに対応出来なくなって来たんだけど、どうすりゃ良いんだ俺…」

ショウ「なるほどぉ…2010年の7月1日か。あ、別に今突っ込まなくても良いよ?後々明らかになる伏線だから」

俺「いや、伏線とか言うな。ってか何の話だよ」


ショウ「きみのお話…かな?まぁどちらにしても、ボクからキミへの質問はこれでお終い。時間的にもこれでお開きかな?」

と…促されて時計を見ると、時間は既に午後5時。

空を待たせている手前、長居は出来ない…ので、納得行かない物を残しながらも俺はショウの提案に乗る事にした。


ショウ「それじゃ、漫画読ませてくれてありがとねー。また一緒に語り合おうよ☆」

俺「お前が途中から暴走して自分の世界に入らなければな?」


別れの言葉を交わし、互いに帰路へと向かう俺とショウ。


ふと夕焼け色に染まりかけた空を見上げ、家で待つ空を思い出し…

ショウ「それでも彼女だけが居ない町は廻っている」

俺「タイトル混ぜんな!」


不意に呟いたショウの言葉に突っ込みを入れてしまう。

そう…聞いた言葉に対しそのままの突っ込みを。


だってそうだろう。電波な発言に対して、深く考えるのも馬鹿馬鹿しい。

●▼▲▼

俺「だいまー…っと。悪いな空、途中でちょっと色々あって遅れた」

自室に戻り、空に謝る俺


俺「ショウって言う変な奴でと出会って…そこで単行本を読ませて………あ、勿論単行本は全部買って来たから安心しろ」

そして今に到るまでの経緯を話しながら…頭の中にちくりと刺さるような、妙な違和感を覚えた。

○☆☆☆

ショウ「さて…彼も帰った所で、本当に今回最後の質問をさせて貰おうか」


ショウ「A…カレンルート」

ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」


ショウ「選択は…じゃぁちょっと遠くして、>218 くん!お願いしちゃおう」

ショウ「あ、別に一度っきりの選択じゃ無いから気楽に考えてくれて良いよ?」


ショウ「それじゃ、またいずれ…ね☆」

―彼とカレンと彼女の恋愛経路R―

○Not So Long Ago

私「はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

コピー室の中…

次の作戦で使う資料を取って来る…と言う名目で、私はここに居る。


私「はい、私です………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

壊れたドーナッツ盤レコードのように、私は間を空けて何度も同じ言葉を繰り返す。


私「はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」

彼が思い当たるまでの時間までは判らない…けれども、必ず彼が来ると確信してまた繰り返す。


そんな時………不意に、ガタリと音を立てて揺れるドア。

僅かに動いたそれは、それ以上開く事無く、やや内側に向けて押されているのが見て取れる。

恐らくは聞き耳を立ててドアに耳を押し当てているのだろう…音の主が部屋に入って来る事は無さそうだ。


それが彼だと言う保障は無いが、別に他人に聞かれたとしても不都合は無い。故に私はまた同じ言葉を繰り返す。

私「コホン。はい、私です…………はい、彼の件に関しては問題ありません。計画通り、順調に好意を寄せられて居ます」


そして…その続きに入る。

●顔に出るタイプなら出さないよう我慢

作戦後の報告室…並べられたテーブルに着き、顔を突き合わせる俺と総統…そして黄色先輩

普段ならば総統自らが報告を受ける…と言った事など無く、ニヤ先輩か他の担当が記憶を読み取って終了となって居たのだが…

どうも今回は様子がおかしいようだ。


俺「あの…ニヤ先輩は?と言うか、何で総統が?」


そして、堪らずそれを言葉にして問う俺。

総統は一度黄色先輩に目配せをして、それを受けた黄色先輩が立ち上がる。

黄色「あー…っとだな、爆破テロがあった日の事なんだが…別の問題が発覚したんだ」


俺「問題…ですか?」


黄色「あぁ…実はあの騒ぎの前、キングダムのエリーが目撃された」

俺「エリーって確か、おネエの…えっと、テレパストラップ使いでしたっけ?」

テレパストラップ…確か、対象の精神にトラップを仕掛け、それを読み取った者の精神を破壊するトラップだ。


黄色「そうだ…だから今回の報告でテレパシー使いの奴等を使うのは危険…って事で、他の手段で報告して貰う事になったんだが…」

総統「こう言う場合に備えて設置しておいた機器が、先日の襲撃で破壊されてしまってね…止む無く、口頭での報告と報告書の作成をして貰っているんだよ」

俺「あぁ……成程」


こう言ってしまうのも何だが、正直俺にとってこの事態は願っても居ない事だった。


あの日…爆破テロが起きた日。俺はネットゲームの友人であり、キングダムの構成員であった空と対峙した。

その結果空は瀕死の重傷を負い、今では自分の部屋で匿っている

のだが………さすがに、敵対する組織の人間を匿っているなどと、正直に報告出来る筈が無い。


おまけに、あの時発揮された俺の超能力…和褄池流と同じサイコキネシス、パトリオット。

自分でも訳が判らないあの出来事を、知られる事に対し…何故か警戒心がざわつきを起こして居た。

●手放しで全てを丸投げに出来ない

総統「ふむ…爆破テロに便乗して君を勧誘に来た少女か…それで、どう言った方法で彼女を撃退したんだい?」

俺「それは…」

話難い事は省き、要点だけを報告した俺。だが総統はそこに存在する空白を見逃す事無く、痛い所を突いて来る。


黄色「いやぁ…俺がチョチョイっと相手してたんだが、ちょっくら手元が滑ってなぁ」

が、それに対して助け船を出してくれる黄色先輩。

今まで見損なっていた分を訂正したいぐらいの感謝を抱くが…そこで俺は戸惑った。


折角黄色先輩が庇ってくれたが、果たして俺がそれを隠し通す事が出来るのか…

もし俺がその事を喋らなかった事で、もっと重大な事態を引き起こしてしまったら………

そう考えると、総統や皆を欺く事への罪悪感…いや、危機感が溢れ出す。


俺「いえ……黄色先輩では無く、俺が止めの一撃を放って、彼女を倒しました」

黄色「おまっ……まぁ良い、話すんなら任せるわ」

総統「ふむ…何か事情があるようだね。ではまずこれを聞いておきたいんだが…それは、女性に対しても君の爆散の能力を発揮する事が出来たと言う事かい?」


俺「いえ、違います。何故か発動する事が出来た………パトリオットで、彼女のソーサーを反射しました」

総統「………ふむ」

そして俺の言葉を聞き…両手を口元に沿え、瞼を閉じて考え込み始める総統。


黄色「黒き森の賢者モードか…久々に見たな」

俺「賢者モード?」

黄色「そこで区切んなよ。まぁともかく、もの凄く深く考え込んでる状態って事だ」


と、何度か言葉を交わした所で瞼を開く総統。その瞳はじっと俺を見据え…

総統「ではもう一つ確認して起きたいのだが…彼女の遺体はどこに?」

ここに来て、一番答え辛い核心を突いてきた。

●金色の竜だの黒き森の賢者だの…

真実をありのままに伝えるべきか…隠すべきか…

本来は前者で即決しなければいけないのだが……どうして、俺の部屋に居る空の顔が頭の中を過ぎる。


俺「判りません………」


そう答えるのが精一杯だった


総統「君の方では…」

黄色「いや、俺は二人を残して先に帰ったからなぁ…マジで判らねぇ。ただ、心臓も肺も潰れちまってて、あの状態から生きて帰れる筈は無ぇと思う」

総統「ふむ…では、キングダム側の何者かが回収した…という可能性が有力か」


と、総統の憶測により収束していく詰問。

気付いた時には俺の心臓がバクバクと嫌な鼓動を奏で、手には滝のような汗を握って居た。


総統「では今回の報告も含め、何か思い出した事もあればそれも追記した上で、後日報告書を提出してくれ」

安堵のため息の中、定型文通りに進められる手続き。

やるべき事をやり、やるべきでは無い事を全力で避けた…そんな実感を得ながら、瞼を軽く閉じ…テーブルに突っ伏した。


総統「すまないね、いつもとは勝手が違って疲れただろう?」

俺「あ、いえ…そんな事は…」

総統「無理に取り繕わなくても良いよ。さぁ、尋問…もとい君達からの報告はこれで終了だ、次の人と変わってくれ」


冗談めかして言う総統。


しかし俺はそんな冗談を受け流す余裕さえ持てないまま、黄色先輩と共に部屋を出た。

申し訳ありません、ちょっとデスマーチ続きとかで更新滞ってました。
21日からはニートになるので、次の職場が見つかるまでは少しだけ更新頻度を上げられると思います。

>225
ご心配をおかけしました。
次の職場探し等の問題は残っていますが、概ね大丈夫です!

それでは引き続きお付き合い頂ければ幸いです

●僅かな綻びさえ警戒して張り詰める神経

黄色「その…何だ、辛い事だったろうが、よく頑張ったな」

部屋を出て…突然、黄色先輩からかけられた言葉。


俺「え?と、それは一体どの…」

黄色「お前のダチの件だ。自分の手ぇ汚して楽にしてやんのは、キツかっただろ」

そしてその内容を確認した所で…周囲の視線に気付く。


黄色先輩が何を言いたいのか、何をしたいのかを理解して、俺は口裏を合わせる事にする


俺「はい…だけど、やっぱり俺がやらないと…いえ、やるべきだと思ったんで」

視線の主は、廊下で報告の順番待ちをする他の構成員達。

少々わざとらしい気がしないでも無いが…部分的ながらもここで情報を開け放しにする事で、後々の要らぬ追求を幾らかは減らせる筈だ。


廊下を進み、人が少なくなるに連れて少なくなる口数。

後は自然と無言が二人の間に出来上がり、先に待つ出来事が二人の進む道を分ける。


黄色「んじゃ、俺はこの後ニヤと」

俺「あ、はい。俺はこの後、カレンや理央と」


黄色先輩はニヤ先輩とミーティング。

俺はカレンと一緒に理央の研修の続きが待って居た。


今はまだ話すまでの踏ん切りが付いていないが、皆にもいずれ空の事を明かさなければいけない…いや、明かすべきだろう。


そんな事を考えながら、俺は足を進めた。

●後に響く意味深な事件

カレン「ねぇ…貴方、私の部屋に書き置き残した?」

邂逅に開口一番。カレンの口から飛び出した言葉は、身に覚えの無い事だった。

俺「いや、書き置きどころかカレンの部屋にすらここ最近は行って無いんだが…」


カレン「そうよね…」

俺「理央は?ってか、どんな内容の書き置きなんだ?」

カレン「理央にはもう確認済み。それで、内容の方なんだけど…意図が全然掴めないのよ、ただ『3日後、お迎えに上がります』って書いてあるだけ」


俺「何だそれ?3日後にイベントか何かの心当たりは?」

カレン「それがさっぱり心当たりが無いから困ってるのよ。まぁ…最悪の事態も考えて、一応鑑識に回して調べて貰っても居るんだけど」

俺「最悪の事態…キングダムのメンバーがカレンの部屋に忍び込んだ可能性か」


カレン「そう…だとしても、それはそれで訳が判らないのよね」

俺「だよなぁ…そんな事が出来るなら、わざわざ書き置きだけ残して帰る意味が判らないし…」

カレン「結局、今考えても仕方が無い…って結論になっちゃうのよね」


俺「果報は寝て待て…って所か」

カレン「その果報が悲報じゃない事を祈るばかりね。さて、いつまでも立ち話してないで理央を迎えに行かないと」


思い出したように切り出し、歩き始めるカレン。

それに続いて歩き出す俺。


そう………

この時は、あんな結末になるなんて予想すら出来なかった。

もしかしたら…せめてほんのあと少し、違和感を持って突っ込んでいれば…もっと違う結末を迎えられたのかも知れ無い。


…先に悔やむ事が出来無いからこそ、後悔と言うのだけど。

●刻一刻と迫る崩壊の序曲

次の日…………

理央に呼び出されて、以前訪れた空中庭園へと向かう俺とカレン。

何でも…人目がある所では話し難い事で、俺とカレンに話があるとの事。


俺「話って何だろうな?例の書き置きの件で、実は理央が関係してたとか…か?」

カレン「それは無いと思うわ。あ、さっき鑑識の結果が出たんだけど……」

俺「って、早いな。何か判ったのか?」


カレン「書き置きに使われたメモ帳もペンも私の私物で、私以外の指紋もDNAも検出されなかったって事だけ。後は…」

俺「後は?」

カレン「念のため侵入者の形跡が無いか部屋も調べて貰ったんだけど、そっちもシロ」


俺「何だよそれ…それじゃまるで……」

と…言葉を紡ぎかけた所で、空中庭園に続く階段にさしかかる俺達。


この先で理央が待っている…それをお互いが思い出した所で無駄話はピタリと終わり、一時の静寂が訪れた…のだが

カレン「………そう言えば、テレパストラップ対策の件、聞いた?」

俺「急遽、海外から専門スタッフが来る事になったんだってな」


無言の空気は想像以上に重苦しく、沈黙は長くは続かなかった。


カレン「昨日の今日だって言うのに、相変わらず手際が良いわよね、うちの組織って」

俺「と言うかそもそも、本当ならそう言うスタッフも必要無かったくらいの設備があったらしいんだよな」


階段の終わり近くで、ほんの数言の会話を交わす俺達。

そして階段を上りきった先では………


今まで見た事が無いような、真剣な顔付きの理央が待っていた

●序曲は足音となり足跡を残しながら迫り来る

理央「きょっ……今日は、ご、ご足労頂き…あ、ありがとうございます」

拙いながらも力の篭った声で俺達を向かえる理央

理央「お二人を…よ、呼び出した用件は他でもありません。この茶番についてです」


カレン「―――っ!?」

茶番………理央の口から飛び出すにはどこか不釣合いな感じのあるその言葉を耳にして、何故か体を強張らせるカレン。


…………何故か?


いや、ダメだろ。俺までしらばっくれていたら多分話は進まない。

何故かじゃない、俺はその言葉の意味を知っている。


理央の能力からすれば、真実を知る事など児戯に等しい…そして

その理央がこの面子で茶番と言い切るような事など、他には思い浮かばない。


俺が向き合う事から散々逃げてきたあの事を、正面から突き付けようとしている。

そう…俺とカレン……二人に向けて、理央が突き付けようとしているのは………


俺「………俺とカレンの…関係の事だろ?」


理央「その通りです。せ…先輩が知らない真実を、今この場で明らかにさせて貰います」

カレン「…………」

拳を握り唇を噛み締めながらも、横槍を入れる事無く黙するカレン。


カレンに代わり…そして理央が言葉を紡ぐよりも早く、俺は重苦しい口を抉じ開ける。


俺「まぁ……知ってたけどな。だって、俺の能力を利用するって理由でも無ければ、カレンみたいな美少女が俺なんかと付き合ってくれる訳無いからなぁ」

●十字路を越えて俺のすぐ真後ろに居る其れ

カレン「違うの!そうじゃ無いの!」

俺「あー…いやな、実はコピー室での話…聞いちまったんだよ。だからもう取り繕わなくても良いんだって」

カレン「だから……」


俺「あ、安心してくれ。何だかんだで俺はカレンに力を貸す事に決めてるからな…まぁ、今まで通りとは行かないにしても………」

カレン「だから、そうじゃなくて―――」

理央「あ……あの、先輩。私はその事で……先輩が」


各々の言葉が区切られるよりも先に、互いの言葉が横槍を入れる中…空気を読まずに鳴り出す俺の携帯。

相手は…………ニヤ先輩だ。

さすがに修羅場じみたこの状況で、電話に出る程空気の読めない俺では無い


………が、一向に鳴り止む気配の無い呼び出し音が、二人の言葉を鎮めて沈黙へと導いてしまった。

俺「……………ぁー……」

理央「………良いですよ、先に其方の用件を済ませて下さい。此方の用件はその後でじっくりと決着をつけましょう。カレン先輩もそれで良いですよね?」


理央に促され、カレンに視線を向ける俺。

カレンに至っても理央と同じ意見のようで、ただ小さく頷いて肯定の意を返す。


そうして…3分近く鳴り続ける呼び出し音に応えるべく、俺は電話に出る事になったのだが


ニヤ『お取り込み中の所悪いんッスけど、緊急任務ッス!』

俺「………はぁっ!?緊急任務って………マジですか?」


何とも間の悪い問題が発生しているようだった

●振り向いて来た道を駆け下りる

ニヤ『例のテレパストラップの件、専門のエージェントが来るって事は聞いてるッスよね?』

俺「えぇまぁ…予定だと明日でしたっけ?」

ニヤ『それが、物凄く繰り上がったみたいで、もう来てるんッスよ』


俺「はぁっ!?」


俺「いや、俺今取り込み中で…明日………いや、せめて1時間…30分後って訳には…」

ニヤ『いかないからこうして急かしてるんッス。そんなに時間はかからない筈だから、カレンちゃんと理央ちゃんには待ってて貰って欲しいッス』

俺「いや、そんな事一方的に言われても……」

ニヤ『それじゃ、用件は伝えたからすぐ来るッスよ!』


と、反論し切る前に切られてしまう通話。

文句を向けるべき相手は既にマイクの先に居らず、ツーツーと通話終了の音が聞こえるだけだった。


俺「………」

カレン「………」


理央「………判りました、では先に緊急任務を片付けて来て下さい。私もカレン先輩も、先輩が戻ってくるまで待って居ます」


そして、気まずい沈黙が周囲を支配する中…妥協案を切り出したのは理央だった。


俺「その………悪い。カレンの方は時間大丈夫か?」


カレン「私も…こんな中途半端な所で中断にはしたく無いから、待ってる」

消え入るような声でカレンが答え、それを合図に頭を下げて…俺は走り出す。


俺「すぐ終わらせて戻って来る…!だから、少しだけ待っててくれ!」

●逃げても逃げても追いかけてくる非情な物

「次、吉祥寺 彰人。森本 幸一」

次々と名前が呼ばれ、入れ替わり立ち代わりに報告室を出入りする構成員達。

順番待ちの席が減り、自分の番が近付いて来る。


早く終わらせてカレンと理央の所に戻らなければ…

専門のエージェントと言うのは一体どんな能力者なのか…

そもそも、どんな人物なのだろうか……


そんな事を考えながら、順番を待つ…が、そこで新たな問題が不意打ちが飛んでくる


「では、テレパストラップ検査を済ませた人から順番に、隣の部屋で改めて報告を行って下さい」

開かれた報告室のドアの、その向こう側から聞こえて来る声。


何て言った?報告?つまりはあれか?

テレパストラップの脅威が無くなったから、改めてテレパシーを用いた報告を行うと言う事か?


全身の毛穴という毛穴から、ドっと嫌な汗が溢れ出す。


カレンとの関係の件で頭がいっぱいになっていたが、よくよく考えてみれば当然の事。

そのためにわざわざ専門のエージェントまで呼んだのだから、情報の収集と統合をしない筈が無い。


不味い………このままでは空の事がばれてしまう。

どうすれば回避出来る?逃げ出すか?いや、そんな事をすれば後ろめたい事があると宣言しているような物だ

最悪、離反行為とも取られかねない。


焦りを抑えながら思考を巡らせ、活路を見出すべく疾走する脳内電気信号。

だがそんな努力は空しく、俺のすぐ直前…一人前の構成員が呼ばれ…………

●破滅の音色を刻むタップダンス

タタタッ…タタタタタッ………

突如、マシンガンの乾いた銃声が鳴り響いた。


何が起きたのか…それを理解するよりも先に目の前に飛び込んで来たのは、血の海だった。


俺「なっ………」

目の前には、サブマシンガンを手にした構成員。

冷たく沈んだ瞳をヘルメットの下から覗かせながら、その銃口を今度は俺へと向けて来る。


「………」

俺「………」


事は一瞬で済んだ。


構成員の放った銃弾計12発を、俺がサイコキネシス…パトリオットで跳ね返し、死と言う名の沈黙を射手に送り返した。


何が起きた?何故こいつはこんな事を?

いや…

何が起きている?


タタタタッ…タタタ……

周囲から響き渡る銃声。


恐らくはこの建物のいたる所で銃撃戦が繰り広げられている。

何故だ?


俺はまずキングダムの襲撃に思い当たる…が、返り討ちにした構成員の顔を見下ろし、確認した所でその可能性を除外する。

見知った顔の構成員…名前は確か、秋山 陸斗

キングダムのスパイで無い事は、前回までのテレパスによる報告で明らかになっている筈だ。


ならば何故こんな事を…

ピースの揃わないパズルを並べるように、思考を組み変えて行く俺。

だが肝心の状況の方は、それが終わるまで待ってくれる程甘くは無いようだ。

●後ろ向きに進んでただひたすらに

ドアを蹴破り、新たに侵入してくる構成員達。

鎮圧用の増援である事を期待するも、警告無しに発砲される事でその期待は泡のように消え去る。


俺「あー…くそっ!どうなってるってんだよ!」

「どうなっている!?奴の能力は………」


銃弾を反射し、暴徒と化した構成員を蹴散らしながら出口へと駆け抜ける俺。

案の定シャッターが下ろされているが、知った事では無い。


パトリオットで強引にシャッターをぶち破り、やっとの思いで外へと逃げ出す事に成功。

未だ銃声の鳴り響く建物を背に、俺は息を整える時間も惜しんで駆け出す。


周囲を見渡し、状況確認…

幸いな事に、外では目立って事を起こしては居ない様子…となれば、まず確認すべきは……


俺「カレン!理央!そっちは無事か!?」

カレン『無事って…どういう事?テレパストラップの件で何かあったの?』

俺「詳細は判らないんだが、銃撃戦が起きた!」


カレン『銃撃戦って…え?もしかして組織の建物内で?相手は?』

俺「どう言う訳か、構成員が発砲しきて…って言うか、もしかしたらカレン達も危ないかも知れ無い!念のために身を…」

カレン『ちょっと待って、それって内部の犯行って事よね?だとしたら、避難シェルターも安全とは言えないんじゃ…』


俺「あぁ…くそっ、そう言やそうだ!んじゃぁとにかく合流で…そこから真っ直ぐ俺の部屋に向かってくれ!」

カレン『貴方の部屋って…どうして?』

俺「理由は後で話す!多分半径1kmくらいに入れば大丈夫の筈だから、理央の事も頼んだぞ!」

●ただ一時だけ足を止めて進む道を考える

カレン「本部どころか、黄色先輩やニヤ先輩にも繋がらない…本当に切迫した事態みたいね」

アパートの前…無事に合流を果たし、情報交換と考察を行う俺達。


カレン「と言うか…どうしてここは安全だって言い切れるの?」

俺「あぁ、それはだな…」

マイ「この周辺は特に規制が厳しいからね。と言っても…こう言う事態では、手放しで安心されても困るよ」


そして、当然のように突然に沸いて出てくるマイさん。


俺「おわっ!?…って、居るなら居るで一声かけて下さいよ!」

カレン「え?マイさん?何でこんな所に?」

マイ「私の実家はこのアパートのすぐ向かい側なのだよ」


はい、ご丁寧に説明ありがとうございます。


俺「あ、マヤさんは?」

マイ「今日は少し野暮用で出かけているが、何か用かね?」

俺「あ、じゃぁ。この前頂いた干し柿、凄く美味しかったって伝えておいて貰えますか?」


理央「あ、あの…其方の方は…?」

俺「あぁ、理央は初対面だったな。この人は亜門舞さん、聞いての通り俺の住んでるアパートのお向かいさんで…」

カレン「私の主治医だった人…それと」


俺「魔法少女カライモンの正体で、大学教授。元総理でライトノベル作家で声優で演歌歌手。今は学校の保険医もやってた筈だな」

カレン「…………」

理央「………」


カレン「…って、えぇぇ!?マイさんが魔法少女カライモンの正体!?」

理央「そ、そんな人が何で先輩と知り合いなんですか!?」


あぁうん、ちょっと落ち着いてくれ

●一歩進んで二歩下がる

マイ「先に彼が言った通り、単にお向かいだからだよ。劇的な出会いやそれに纏わる逸話は無いので期待しないでくれ給え」

俺「あ、んでも流石に魔法少女姿で会った時は驚いたなぁ」

マイ「そう言えばあの時は…よく私の正体が判ったね」


俺「いや、目元だけ隠しても…声も喋り方も、ちょっと若返ってたけど顔立ちだってそのまんまだったじゃないですか。知人だったらあれはモロバレですよ」

マイ「ふむ…ボンクラに馴れすぎていたが、やはり判る者には判ってしまうか」

と言って考え込むマイさん。


こうして紹介に一区切り付いた所で、俺はカレンと理央の方に視線を向ける。


俺「カレンの方は説明は要らないと思いますけど…えっと、こっちの子は…」

マイ「知っているよ、あの娘の従姉妹の理央君だろう?」

理央「えっ………」


俺「いや、そのあの娘って方を俺は知らないんですけど…」

マイ「しかし…あの娘の関係者だからと言って、特別扱いする訳にはいかない。ここから先は指示に従って貰うよ」

理央「え?あの……指示って………」


そして…俺の疑問は置き去りにされたまま進む会話。


マイ「ここ…このアパートを中心にした半径1kmは、不可侵条約により保護された非干渉地帯なのだよ。上の者から聞いていないかね?」

カレン「彼の住むアパートが?どうして…あ、でも……考えてみれば意図的に干渉しないよう仕向けられてた節も…でも、身辺調査の時は…」

マイ「その辺りはまた複雑な事情になるが…とりあえず身辺調査の件に関しては、条約の適用外だったのだよ」


俺「まぁ…うん。俺自身もあのファイルを渡されるまではここがこんなワケあり物件だとは知らなかったしなぁ」

理央「え?え?え?一体何が…」


事態が把握できず、頭の上に幾つものハテナマークを浮かべてうろたえる理央。

俺も最初はこんな感じだったなぁ…と思い出しながら、ポンポンと軽く理央の頭を撫でてやる。

と同時に…理央だけでなくカレンの頭の上にもハテナマークが現れる。


カレン「あれ?でも理央なら、知ろうと思えばその辺りの事情は幾らでも探れるんじゃ…」

マイ「あぁ、それは無理だ。この周辺での観測行為は過度なまでに制限されているからね」

俺「先に言った俺の身辺調査みたいに、本人が許可や容認した内容以外…まぁ、盗み見みたいな事は一切出来無いんだ」

●振り返って瞼を閉じて

カレン「あ…そっか。チャーハン…前に来た時は容認されてたから…でも、一体どうやってそんな事」

俺「俺も良く知らないんだが…そいう特殊能力を使える人が居るらしいんだ」


マイ「とまぁ、そう言った感じでここの特異性を理解して貰えた所で……改めて説明を続けさせて貰おうか」

俺「お願いします」

カレン「…はい」

理央「………」


マイ「先にも説明した通り、ここは非干渉地帯だ。多少のいざこざが飛び火する程度なら目を瞑る事も出来るが…今回ばかりはそうも行かない」

俺「それってやっぱり…俺がここに二人を呼んだからですか?」

マイ「その通り…今回の君は巻き込まれた側では無く、全て判った上で自らここに問題を持ち込んで来た」


俺「…はい」

マイ「この領域に本来干渉しない筈の領域の者を、意図的に巻き込みんだ。故に…即刻退去を勧告させて貰う」


カレン「え…ちょっ、ちょっと待って!彼は私達を助けようとしたのよ!?そんな追放みたいな真似…だったら、私達が出て行けば―――」

マイ「君達も勿論だが、これは彼自身の起こした問題でもあるからね。いや………そうか、この場合君達は…そう言う事か」


カレン「…え?何?」

理央「もしかして……先輩が巻き込んだ側で………私達は巻き込まれたとか……」

カレン「えっと……ゴメン、意味が判らない。どう言う事?」


マイ「説明しよう。まず第一に…ここは特殊なルールによって守れている地域だと言う事は判っているね?」

カレン「…はい」


マイ「そして次に、そのルールを知った上で彼はここを避難所代わりに利用した」

カレン「そうみたい…ですね。その結果、キングダムとの抗争と言う問題をここに持ち込んでしまって…退去しなければいけなくなって」

マイ「…だが、こうも考えられる。問題を持ち込んだのは彼で…君達は意図せず彼に巻き込まれたに過ぎない。むしろ保護対象であり、つまりは……」


理央「結論は……先輩だけが全責任を負って出て行けば、私達はこの安全地帯に残る事が出来る…そう言う事ですか?」


俺「あー……うん。ま、そう言う事だ」

●喧騒に耳を澄ませてみれば

カレン「ふっ…ふっざけないで!!!何なのよそれ!?ルールって何なの!?意味判らないし内容だって何も聞いて無いわよ!!」

理央「私も納得できません。そのルールの…内容を知らなかった事もですが…それ以前に、知っていても反対します」

マイ「知らなかったからこそ、被害者側に周れるのだけどね」


俺「いや、だからな?とりあえずここは安全地帯だから、二人にはここに居て欲しいんだって!ここに居ればキングダムにも見つからないし…」


カレン「だからそれが嫌だって言ってるのよ!貴方を巻き込んだのは私なのよ!?それなのに何でのうのうと安全な場所で…!」

俺「俺がそうして欲しいからに決まってるだろ!?カレンを危ない目に逢わせたく無いんだよ!」


理央「わ…私もです!だって私達は…チームなんですから!!そう言ってくれたのは先輩じゃないですか!」

俺「っ………」


マイ「どうやら…身を挺した君の策略は、脆くも崩れ去ってしまったようだね」


俺「くっ……くそっ!!どんな危険が待ち構えてるかも判らないんだぞ!?」

カレン「臨む所よ」

理央「カレン先輩に同じくです」


あぁくそっ、二人共折れる気配が全く無い。

こうなると…


俺「あぁもう判った!俺は止めたからな!どうなっても知らないぞ!?」


結局…俺が折れるしか無かった。

●今まで知る事が無かった世界の旋律

理央「それで…順番は逆になってしまいましたけど、ルールって何ですか?何でここにだけそんな物が…」

マイ「別にここだけと言う訳では無く、他にもあるが…まぁ、それはさておき概要だけは説明しておこうか」

理央「…お願いします」


マイ「まずこの世界の事情なのだが…この世界のルールを決めているのは誰だと思う?」

カレン「各国の首脳…ですか?」

マイ「それはあくまで一般人社会の法律を決めている者達だ」


理央「ならもっと広域の…もしかして、物理法則とかそう言うレベルの話ですか?」

マイ「その通り。答えを言ってしまえば、最終的にルールを決めているのは世界その物な訳だが…そこから少し細分化出来るのだよ」

理央「世界の細分化………まさかそれって、世界の法則に干渉する特殊能力者……D器官保有者…」


マイ「それも要素の一つではあるね」

理央「それすらも要素の一つでしか無い…ですか」


マイ「そしてまぁ、現在の世界を構成する要素達が絶妙なバランスで均衡を保った結果…維持されているのがこの世界…」

理央「………」

マイ「特殊な能力にその存在を大きく左右されない普通の世界…と言う訳だ。まぁ、表向きだけだがね」


理央「でも…それって矛盾して居ませんか?普通の世界を維持しようとしているのなら、キングダムや組織は邪魔になる筈…」

マイ「良い質問だ。さっきも言ったがその辺りは絶妙なバランスでね…異質な力で世界を変えようとする存在に対しては、それに対抗する力も発生するのだよ」

理央「予定調和…いえ、対抗勢力が発生する事自体がこの世界の仕組みと言う訳ですか」


マイ「中々物分りが良いね…そしてもう一つ、その仕組みの中にもルールが存在する」

理央「不可侵条約…非干渉のルールですね」


マイ「………その通り」

●旋律と足跡は螺旋を描いて

マイ「原則として、一つの領域に括られた問題に対して他の領域の…部外者が干渉してはいけない…と言うルールが存在するのだよ」

理央「でも、それもおかしくはありませんか?現にマイさんはカレン先輩と先輩の治療に関わったんですよね?…それに今もこうして…」

マイ「あくまで原則だよ。しゃしゃり出てその領域の核心を脅かすような干渉で無ければ、多少は見逃して貰える場合がある」


理央「逆に…核心を脅かすような干渉は出来ないと言う事ですよね?例えそれが知人の命に関わるような事でも…」

マイ「その程度の理由では干渉出来ないね。まぁ、干渉に関して例外が無い訳でも無いが…」

理央「その例外と言うのは?」


マイ「本人が意図しないまま、別の領域からの干渉により巻き込まれてしまった場合…それと」

マイ「その領域の関係者が全滅し、発生した問題の解決が不可能になった場合…それらの場合のみ、部外者の手による解決が許可される場合がある」


理央「場合がある…ですか。仮定ですが、今回のような場合…もしキングダムが組織を破り、その活動を止める事が不可能になった場合は?」


マイ「誤解があるようだが…まぁ、キングダム側の出方次第だね」

マイ「おおっぴらに能力を使って世界を捻じ伏せるならば、他の領域からも干渉するが…節度を守って世界征服するくらいならば放置する事になる」


理央「世界征服も、節度を守れば容認するんですか…?」

マイ「彼らの思想その物が絶対悪では無い以上。表向き、テロリストが革命に成功した…と言う体面ならね。似たような事ならば私も以前行ったよ」


理央「場合によっては、逆に組織の方が粛清対象になると言う事ですね……。その境界線を決める、絶対的な基準は何なんですか?」

マイ「この世界を構成する存在達の主観…としか言いようが無いね」

理央「厳しい割に、凄く曖昧なんですね」


マイ「肯定するよ」

理央「つまり…曖昧で理不尽なルールに踊らされた挙句に、そのルールから外れたから、先輩を追放する。そう言う事ですよね」

マイ「身も蓋も無い言い方だが、否定はしないよ」


理央「判りました…では行きましょうか」

カレン「…そうね」

俺「あぁ…そうだな。まぁ、出来れば最後に一つだけやって起きたい事があったんだが…」


マイ「勘弁してくれ給え、私としてもさすがにこれ以上の滞在を見過ごす訳には…」

と、マイさんが言いかけた所で…不意に近付いてくる足音。

コツ…コツ…と乾いた軽い靴音と共に、全身…髪の毛の先から靴の爪先に至るまで真っ白な少女が現れ……


「3時間………3時間だけ時間をあげるの」


と、呟いた

●再び足音が進み始める

カレン「さっきの真っ白な女の子…朱桜ちゃんだっけ?…一体何だったのかしら?貴方は何か知ってる?」

俺「いや、俺もサッパリ…初めて見る子だった。様子からして、マイさんよりも上の権限を持ってる感じだったけど…」


カレン「さすがに全部不問…にはして貰えなかったわね」

理央「で、ですけど…こうして身支度が出来るだけでも御の字ですよね…」


俺の部屋…3時間の猶予を与えられ、これから起こりうる事態に備えて出来る限りの身支度を進める俺達。


俺はまずは、空に今の事態を伝えておこうと思っていたのだが…戻った時には既にその姿は無く…缶バッヂっと書置きが残されているだけだった。

『厄介な事になりそうだから、俺は身を隠しつつ色々動いてみる。オキニのバッヂを置いとくから、俺だと思って使ってくれ』

…との事。相変わらずのマイペースっぷりだが、そのおかげでカレン達と鉢合わせしないで済んだ事に安堵する。


カレン「…あれ?開かない」

と、そんな折…目に入るのは、バスルームのドアノブに手をかけながら苦闘するカレンの姿。

カレンの馬鹿力によりギシギシと悲鳴を上げ、今にも取れそうになるドアノブ。

だが…それに気付いた理央が、俺より早くカレンの手を持ってそれを制止する。


俺「あ、バスルームのドアは今壊れて入れないんだが…えっと、今すぐ入りたいのか?」

カレン「……………………あ、うぅん。そっちじゃなくて…ちょっとお手洗いの方を…」

俺「あぁ、だったら部屋を出て右側に共有のがあるから使ってくれ」


青ざめた…と言うよりも蒼白に近い顔のカレン。

俺の問いに対しても答えるまでに間を要し、調子の悪さが見て取れる。そして、それに気付いた俺はカレンに外の共有トイレへの道を教え…

慌てた様子で部屋を出るカレン…残された俺と理央。


ふと気付けば、理央の顔もカレン同様にどこか青ざめていて…


俺「理央は…良いのか?」

理央「…え? あ…はい………私は、平気です」


…我ながらデリカシーの無い事だと自覚しては居るが……念のため、それを聞いておいた

●歩みから旅立ちへの境界線

理央「あの………さっき一時的に…あれって…」

朱桜「そうなの」

カレン「どうしてあんな…」

朱桜「必要な事だったからなの」


最低限の準備を終え…アパートの前で再び落ち合う、俺達と…マイさんと朱桜。


マイ「それで…君達は一体これからどうするつもりだね?」

俺「とりあえずは…状況の再確認ですね。幸い理央も一緒だし、自分達の立場を把握してから身の振り方を決めようと思います」

マイ「そうか、では最後に一つだけ…知人として言わせて貰おう」


俺「何ですか?」


マイ「問題を片付けて、さっさと戻って来給えよ」


俺「………はい!」


マイさんからのエールを受け、安全地帯…世話になったアパートを離れて行く俺達。

これから先に何が待ち構えているのか判らない…

だけど…俺達は前に進む以外の道は残って無い。


進んだ先…まだここに戻って来られる道がある事を信じて、俺達は歩き出した。


………


マイ「それで…朱桜さん」

朱桜「朱桜ちゃんなの」

マイ「朱桜…ちゃん。彼らは…」


朱桜「多分今回はダメなの」

二つの歩みがぶつかり正面衝突

マーク「んで…本当にこいつらに出くわすたぁなぁ…」

俺「それはこっちのセリフだ…っての」


安全地帯を離れ、町外れを歩いていた俺達…だがそこで待ち構えて居たのは、異様な様相の三人組

一人は、先の事件でも名前が挙がったエリー…もう一人は、筋骨隆々のいかにもな感じのごろつき…最後の一人は、フードとマントを羽織った…恐らくは男

理央がその存在を察知した時にはもう遅く、逃げられない位置にまで追い詰められていた。


理央「すみません…私がもっと早く探知出来ていれば…」

俺「いや…直前に気付けただけでも上出来だ。不意打ちで全滅なんていう最悪の事態は避けられたからな」


マーク「はん、不意打ちなんざするかってーの」

理央「狙撃手を配 置しておいて、どの口が言うんですか」

マーク「あれは上の奴らの指示だ。俺の本意じゃ無ぇ。どの道手出しはさせねぇか安心しな」


俺「だったら…アンタ個人としては正々堂々正面から勝負のつもり、って考えて良いんだよなぁ?」

マーク「ハハッ、威勢が良いなぁ!手前ぇみてぇなヤツぁ嫌いじゃねぇぜ!!………当然…っ!と言いてぇ所だが……」

俺「何だよ…ここまで啖呵切っといて引っ込める気じゃ無いだろうなぁ?」


マーク「お前らじゃぁ、全員束になっても役者不足なんだよな…なぁ?リミットブレイカーに…リア充爆散!」


マークの言葉に一瞬固まる俺達。

…俺達の情報が奴らに洩れている。理央の事には触れて居ないが、恐らくは能力を把握されている…つまり

カレン「不味いわね…これって多分…」

俺「あぁ…十中八九、俺達の能力への対応策を持ってるって事だよな」


エリー「ご名答ぅん。私の能力でそこのお姫様のテレパシーは封じられて、ナイトくんの能力も、私がどちらの恋人か判らなければ使えないわよねぇん?」

マーク「いや、そもそも全員男だから通じねぇんだよ、コイツの能力は。アシッドの時もそうだっただろうが」

エリー「あらぁん、身体は男でも心は乙女よぉ?マークってば、マリオと違って何時までたっても女性扱いしてくれないのよね。悲しいっ!」


俺「って事は…そこのマントの大男は、理央対策の能力持ちか…」

エリー「勿論ぉん、マリオにはそこの小さなお嬢さんの能力が通じないの。二つとも…ね」


俺「理央…」

理央「…試してみなければ判りませんが…リーディングの方は確実に駄目です。全く心が読めません」


●鍔迫り合いながら進める足並み

………毎度の事ながら、自慢げに自分達の能力をペラペラと解説してくれるキングダムのメンバー達。

こいつらの思惑通りに戦う事になれば、敗北は必至…だが逆に、こいつらを出し抜くことさえ出来れば活路が開く筈。


…な訳だが。


マーク「あぁ、何ならスイッチしても良いんだぜぇ?尤も…誰が誰の相手をしても勝てる見込みは無いと思うがなぁ!」

カレンは、エリーのせいでテレパスと併用した接近戦が使えない以上…どの相手と戦っても不利。

理央に至っては、戦闘になる事その物が問題外だ。

マークの言う通り、相手の意図を外したとしても勝てる見込みは無い。


俺「だったら、いっそ勝ち抜き戦にでも…」

マーク「自分が戦ってる間に他の二人を逃がしそうだからダメだな」


読まれている…と同時に、俺一人でどうにかするという選択肢も無くなってしまった。

となれば後は…


俺「とりあえず…リーダー格っぽいマークは俺が倒す。二人は俺が助けに入るまで何とか逃げ延びてくれ」

マーク「良いねぇ良いねぇ!言ってくれるねぇ!だが作戦としちゃぁ実現不能の下の下だ!その甘さ…たっぷり後悔させてやんよ!」


マークが幾つもの硬貨を宙に放り投げ、それを合図にエリーとマリオが動き出す。


こうして…戦いの火蓋は切って落とされた。

●逃げて回り込んでまたぶつかって

その体躯からは想像も付かないような俊敏さで理央に詰め寄るマリオ。

対して理央は、その小柄な体躯を活かして狭い道や障害物を使って紙一重の所でマリオの猛攻を掻い潜る。


優雅に日傘を差し、カレンと対峙するエリー。

相手の意図を読む事が出来ず、警戒したまま動けない動く事が出来ないカレン。


辛うじてだが、瞬殺を免れた二人の安否を確認し、一安心する俺。

…だが、安心したからと言って気を緩めている訳では無い。


マーク「俺を相手に余所見たぁ、随分と余裕かましてくれるじゃねぇか!!」

宙に舞わせた硬貨を両手に一枚ずつ掴み、その拳で俺に殴りかかるマーク。

踏み込みで要した距離を見れば、後ろに軽く跳ぶだけでもその拳が届かない事が判る


…が、そこで思考を止める訳には行かない。


何故…回避されるのを前提にしたテレフォンパンチなんかを放つのか。

自信過剰なキングダムの面子特有の、能力の実践説明か?

いや………違う


エリーがあれだけペラペラと能力を明かしていたのに対し、マークは自分の能力に関しては一切喋っても喋らせても居ない。

と言う事は…これは罠だ!


俺は後ろに跳ぶ事無く、身を屈めてマークの拳を避ける。

と………案の定マークの拳は、轟音と共に俺の頭上を飛び越えて行く。


予想通り…マークは何らかの方法で加速し、踏み込みの飛距離を伸ばした。


だが、それでけでは終わらない…この一手をここで終わらせてはいけない…何故かそんな気がして、俺は前へと踏み込む。

頭から腰までの…上半身の筋肉に力を込め、ガラ空きになったマークの胴体に…渾身の頭突きをカウンターでお見舞いする。

●吹き飛んで吹き飛ばされて粉々に

俺の渾身の一撃により、後ろに倒れこんで尻餅を付くマーク…

俺は…マークの上に倒れ込まないよう、もつれる足で斜め前へと踏み込む。そして………


ガガガガガガッ!!と言う轟音と共に抉られる…ついさっきまで俺が居た場所。


何が起こったのか、一瞬理解出来なかった…が、次の瞬間にはそれが追い付いた。

一つ残らず空中から消え去った硬貨…先刻のマークの行動…


俺「テレフォンパンチどころか、パンチその物が囮かよ………見た目に似合わず、策士的な事してくれじゃないか」

マーク「卑怯って言ってくれても良いんだぜ?ってーか…それを避けるお前も中々良い読みしてくれるじゃねぇか」

俺「臆病って言ってくれても良いんだぜ?些細な事でも警戒せずにはいられくてね…」


そして俺の予想に応えるかのように、抉られた地面から次々と姿を現す無数の硬貨。


俺「やっぱりな…空と同じような金属盤操作か。さっきのパンチも、握った硬貨で引っ張ってたって訳だな」

マーク「空…ミラの事を知ってるって事ぁ…あぁそうか、お前がアイツのお気に入りか。丁度良い、お前には聞きたい事があんだよなぁ」

俺「空の居場所の事なら聞いても無駄だぜ。俺も今はあいつがどこに居るか知らないからな」


マーク「ハハッ!ほざけ。話したく無ぇなら話したくようようにしてやんよ!」

先程までも十分感情的だったが、更にそこに怒りを加えて叫ぶマーク。


振り上げられた両拳に煽られるように、無数の硬貨が宙に飛び上がる。

●踏み鳴らすだけで留まる事もまた

エリー「ふふっ…男同士の戦いって良いわよねぇ…」

カレン「で…そう言う貴方は戦わないのかしら?」

エリー「私は肉体派じゃないから、荒っぽい事はしたく無ぁいの。今はただこうやって対峙だけしておけば、それ以上は必要無いでしょぉう?」


カレン「…どう言う意味?」

エリー「だぁってぇ、マーク勝てば私が戦わなくてもお姫様を確保出来るじゃなぁい?ナイトくんを置いて逃げるお姫様には見えないもの」

カレン「そうね…逆に彼がマークに勝てば、私と二人がかりで貴方を倒せる…無理に今戦う必要な無いわね…っ」


エリー「あらあらぁ?言葉と心が裏腹ねぇ…お姫様は戦いたくて仕方ない感じ。いいえ…ナイトくんを助けに行きたいのね」

カレン「っ………」

エリー「図星…みたいねぇ。そんな健気さを見せられたら行かせてあげたくなっちゃうわぁん」


カレン「だったら…そこをどいてくれないかしら?」

エリー「だぁー…め。行かせてあげたいけど、行かせてあげるかは別問題。第一…」

カレン「第一…何なのよ」


エリー「お姫様が戦場に行っても、足手まといになるだけよ」

●喧騒と雑踏が入り混じってぶつかって

降り注ぐ無数の硬貨…字面だけ見れば何とも豪華なだけの技に見えるが、現実はそう甘く無い。

一つ一つが銃弾と同等の質量と速度を有し、俺に向けて迫り来るんだが…

威力もさる事ながら、速度に至っては空のソーサーよりも数倍早い。


何が聞きたい事だ!こんな物くらったら即死じゃないか!!


どうする…どうすれば良い?

………まぁ、選択肢はそう多くは無いか。


マーク「急所は外すつもりなんだが…うっかり殺しちまったら悪ぃな」


地面に突き刺さる無数の硬貨。

粉々に砕けた石片と土煙が撒き上がり、爆風と共に周囲を包み込む。


マーク「ちっ…やりすぎちまったか。粉々に…」

俺「いや、心配要らねえよ。俺ならこうしてピンピンしてるからな」


土煙の中から飛び出し、拳を大きく振りかぶりながらマークに向かって飛び込む俺。

背後からは、当然のように無数の硬貨が俺に襲いかかる…が、みすみすそれを受けるような事はしない。


マーク「なっ…!?お前…そりゃぁ……っ!」


今更説明の必要も無い…俺の奥の手、サイコキネシス…パトリオットだ。

俺はマークの放った硬貨を全て叩き落とし、マークの右腕…肩…脇腹の三箇所にそれを叩き込む。

●繋がった道で怒り嘆く者達

あと一歩…あと一歩踏み込んで頭を叩けば意識を刈り取れる。

俺はその最後の一手を打つべく、マークに向けて更に踏み込む

……が、その意図を察したのか、マークは後ろに跳んで距離を取る。


文字通り、後一歩の所で決着には至らなかった…が、今はこれで充分だ

形勢は逆転した。


エリー「…ど…どう言う事?彼の能力って、リア充爆散じゃなかったの!?」

カレン「………え?何…?何なの……これ、え?…嘘………」


マーク「アシッドのリア充爆散に、マイケルのパトリオット…そうか…そーいう事かよ。それが手前ぇの本当の能力ってぇ事か!」

俺「悪いが、その質問には俺も答えられない。俺自身、何でこれが使えるのか判って無いからな」

マーク「ハッ…!どの口がほざきやがるんだか!まぁ良い…聞きたい事は山ほどあるが、事情が変わった。手前ぇだけはこの場で…殺す!!」


マークから放たれる、先程までとは比べ物にならないような殺気。

俺はそれに恐怖と危機を覚える…が、屈する事無く見据えて返す。


エリー「ってまさか…マーク、貴方ここでアレをやるってんじゃ無いでしょうねぇ!?」

マーク「あぁん?やるに決まってんだろぉがよぉ!!」

エリー「ちょっと…正気!?あぁんもぅ!お姫様!なるべくここから離れて物陰に隠れるわよ!」


カレン「…え?何で…え?」

俺「何だか判らないが、相当にヤバそうだ!今はエリーに従ってくれ!」

カレン「っ………!わ、判ったわ」


異様な空気が周囲を取り巻き始める中、エリーに手を引かれてこの場を離れるカレン。

俺はそれを確認した後、改めてマークに向き直る。


そして…そこで目にしたのは…

●嵐で道が見えなくなっても

マークの上着の中から姿を見せる、大量の硬貨。そして、それに伴う既視感。

俺「………って、それ…空の奥の手とまんま同じじゃ無いかよ」

既視感の正体を突き止め、それを言葉にしてマークに投げる。


マーク「あぁ…そーか、ミラが俺と同じ奥の手をなぁ…嬉しい事してくれるじゃねぇか」


マークの言葉…そして今までの空に関する反応からしても、親しい仲な事は判る。

詳細に至っては本人に聞くのが一番なのだろうが………どうも今は、そんな事を言ってられる状態ではない。


マーク「なぁお前…一つだけ聞くが、ミラは生きてんのか?」

俺「はぁ?何言ってんだ!?生きてるに決まって……あぁ、そうか、組織にもキングダムにも死んだ事にしてあるから…」

マーク「そうか…本当か嘘かは判らねぇが、それを聞いてとりあえず安心したぜ」


俺「だったら、そんな危なそうな技は止めて殴り合いに戻らないか?」

マーク「だから死ね」


成り立たない会話のキャッチボール。

ついでにそこに一つ付け加えると…投げられたのは、言葉だけでなく無数の…いや、とんでもない数の硬貨だ。


マークの周囲を衛星の如く飛び回る硬貨…それは銀色の球体のような形状を作り出し、周囲に竜巻を巻き起こす。

飛び交う土やら木片やらコンクリート片…まるで大型台風をこの範囲に凝縮したような被害を撒き散らしながら、その中心が近付いてくる。


どうする?逃げるか?

駄目だ、逃げたところであれを止めてくれる保障が無いし…むしろカレン達に被害が及びかねない。

だったらどうする?あれを止めるのか?どうやって?


何とかの考え休むに似たり…と言った所か

どうするもこうするも、結論は一つしか無いじゃないか。


今ここで俺が止めるしか無い…


俺が出来る全てを用いてな

●風の生まれる場所

リア充爆散…ダメだな、マークをリア充として見る事が出来ない。

パトリオット…これにばかり頼るのも何だが、現状であれに対抗できるのはこの能力くらいか…

しかし、どうやってマークを倒す?


さすがにあれだけの数の硬貨をパトリオットで一つ一つ打ち落とすのは無理だ

かと言って一纏めで打ち落とすには威力がありすぎる。

上手く叩き落せたとしても、その後の硬貨にやられるのが目に見えてる。


となると……


俺「回転技の定番の弱点…か、通じてくれれば良いんだがなぁ」


一歩…また一歩、俺へとにじり寄るマーク…そして、マークに向けて足を進める俺。

温存しておくため、飛び交う欠片にはパトリオットを使わない。多少の怪我を負ってもここは我慢だ。


マークの作り出した球状の硬貨の壁は、半径7m程。対して、俺が使えるパトリオットの範囲は5m。

リーチの差は大きく、壁の向こうに直接パトリオットを当てる事は不可能。

結局、硬貨の壁を破らなければいけないようだ。


俺は覚悟を決め、マークに向けて飛び込む。


目の前には硬貨の壁。

跳躍の頂点を過ぎれば、自ずと自由落下が始まり、鼻先と額を硬貨が掠める…が、当然そのまま壁に飲み込まれるような真似もしない。


俺は、俺自身の脚の裏にパトリオットを使う。変則型の二段跳躍だ。

二度…三度と連続して跳躍を行い、辿り着いた先は………球体の上空。


そう…狙うは回転の最も弱い部分、回転の中心。

●足音風音にて塗り潰されここに降りる

球体の天井に打ち込むパトリオット…

最も弱い部分にも関わらず、充分過ぎる程に強固な守りを残すそこ。

パトリオットを打ち込む度に弾き飛ばされた硬貨が宙を舞い……


7発目にして、遂にその壁を打ち破る!


が…それは決着の一手にはならなかった。

打ち破った壁の奥から姿を見せたのは…マークでは無く、二枚目の壁だった。


一枚目の壁とは異なり…帯状に形成されたその壁は、自在に角度を変えるアクティブシールド型。

こんな物で二重に守られていたら、突破する事など出来はしない。二枚目の壁を崩している内に、一枚絵を再生されるのが目に見えている。

体制を立て直すべく、更に上空へと自分自身をパトリオットで打ち上げる俺。…だが、そのまま逃がしてくれる程相手は甘くなかった。


俺「……なっ!?」


一枚目の壁が、文字通りの竜巻となって俺を取り囲む。

外界から隔絶された、歪んだ円柱…外壁に刃が付いたミキサーだ。

そしてそれは、みるみる内に俺へと向けて収縮を始め………


視界を…死が支配した。

死ぬ…このままでは俺は確実に死ぬ。

逃げる隙間すら無く、ほんの数秒で俺はこのミキサーに削り潰される。


死ぬのは嫌だ…勿論嫌だ。だが何故か、浮かんで来るのは他人の事ばかり…あぁ、走馬灯にまで自分の出番が無いのか……

俺が死んだらカレンはどうなるんだろうな…良くても捕虜で…最悪これに巻き込まれて………


伝えたい事…聞きたい事…色々あったってのになぁ…もう二度と、あんなのはゴメンだってのになぁ…


浮かんでくる皆の顔…色あせて行く思い出の中の情景……

そして………それは不意に飛び出した。


『俺だと思って使ってくれ』

●風に吹かれぬよう地に足を付けて

マーク「な………手前ぇ……やっぱ……り…ぁが………っ…!」


内側に向けて抑え付ける力が失われ、遠心力に引き摺られるようにして散開する硬貨達…

手元には、ピンの付いた円状のカバー


俺「あれ……?俺……え?これ…空の缶バッヂの…カバー?」


そして…足元には、カバーの中に入っていた缶バッヂ…いや、金属盤が突き刺さって居た


俺「一体…何がどうなって…」

状況を確認するべく、周囲に視線を巡らせる俺、

周辺の景色はマークの能力のせいで荒れ果て…その荒地の中、少し離れた場所に倒れこんでいるマークの姿が見える。


出血と共にの首元が大きく抉り取られ、蹲ったまま痙攣をしている。そう……遠目に見ても判る、ショック状態に陥っているようだ。

恐らく、硬貨の渦が止まったのもその影響だろう。


何故?

何がどうなって?

誰がマークを?


頭の中に渦巻く疑問。だが…その疑問の答えはすぐ手の届く場所にあった。


俺「俺以外に居ない…よな」


俺は空の金属盤を拾い上げ、カバーに嵌め直しながら呟いた。

●動き出す足は誰がために

エリー「まさか…マークがやらちゃうなんてねぇ…」

瓦礫の中からカレンと共に這い出し、改めてその姿を晒すエリー。

服に付いた土埃をポンポンと叩き落とし…何を思ったのか、今度はその服を破り始める。


エリー「ねぇ貴方達…ボールペンとか持って無ぁい?」

カレン「そんな物、いきなり言われても…」

俺「あ、俺持ってる。さっきの戦いで折れたかも知れないけど…」


エリー「ちょっと見せて?うん…これなら何とか使えそうね」

カレン「使うって、一体何に…」


カレンが言い終わるよりも先に、マークの喉へとボールペンを突き刺すエリー。

かと思えば今度は芯を抜き出し…半ばの辺りで芯を噛み折って………


カレン「な…何?何をしてるの!?」

エリー「お願い、集中するから黙ってて頂戴」

カレン「………」


芯の残ったインクを吸い出し、出来上がったのはプラスチックの管。

手の影になっているせいで、よくは見えないが…今度はその管をマークの傷口付近に持って行き…

エリー「完璧…とは行かないけど、外れないように血管を押さえておけば、これで少しは時間稼ぎになるでしょう」


カレン「え……ぁ………」

やっとの事で何が起きていたのか理解するカレン。

ちなみに…俺も、余りの手際の良さに見入ってしまっていた。


俺「なぁ…とりあえずは、俺達の勝ちって事で良いんだよな?」

エリー「そうねぇ…今は作戦よりもマークの命の方が大事。だから私達の試合放棄って所かしら」

俺「なら救急車を…」

エリー「それには及ばないわ、もうキングダムの息がかかったのが向かって来てる筈。どうにかなるわよ、ここから消えて無くならない限り…ねぇ」


俺「…じゃぁ理央の方を…」

エリー「それももう大丈夫、マークが暴走した時点で作戦の中止をマリオや狙撃手達にも伝えてあるわ」

俺「そっか………なら―――」


俺の質問に対し、先手を打って答えるエリー。

殆ど予定調和のような、これまた手際の良い会話の中で、俺が次の言葉を向ける途中……


タ―――ン……


と、乾いた銃声が鳴り響いた。

●例え間に合わずとも走るしか無い時がある


嫌な予感がする。


俺「おい!狙撃手も止めてあるんじゃないのかよ!?」

エリー「勿論止めてあるわよ!………ほら、確認したけど誰も発砲してないわ!」


俺「だったら……いや、こんな事行ってる場合じゃ無い。カレン行くぞ!」

カレン「ぁ…う、うん」


銃声のした方角へと走り出す俺達…

その場所が近付くにつれて増して行く、嫌な予感。


俺「確か…こっちの方だったよな!?」

カレン「間違い無いわ、方角的には次の角を左!」


俺達は倉庫の角を曲がり、遂にその場所へと辿り着く。


………

…………

……………


そこで見付けた姿は三つ…


拳銃を握り締めた、キングダムのメンバーとおぼしき男。

壁にもたれかかって、微動だにしないマリオ。

そして………


側頭部を撃ち抜かれた、理央の死体だった。


「ハ…ハハ…おまけに二匹か!マークもエリーもしくじったな!全部俺が頂きだ!!」


男の目を見た瞬間、金縛りに遭ったかのように動かなくなる俺の身体。恐らくこの男の能力だろう。

………………いや、そんな事はどうでも良いか。わざわざ説明するような事でも無い。


とりあず   お前は死ね

○立ち止まって見下ろす原点

この世界には、無数の力が溢れている。

…財力や暴力を始め、魔力…超能力…特殊能力…様々な名称と様相を持つ力の数々。


中でも私達の持つ能力は、超能力…と呼ばれる類の物。


では、超能力とは何か?…他の力との明確な境界線は在るのか?超能力を超能力たらしめる物的証拠…超能力の定義となる物は存在するのだろうか?

超能力を語る上で必要不可欠となる、その答えは…存在する。

私達の脳の…やや前頭葉に近い位置で、右脳と左脳の間に形成された…P器官という物の存在だ。


このP器官を用いる事で私達は超能力を行使する事が可能になるのだけど…今回はそれを説明させて貰う


P器官の構造と、保有者のニューロンネットワークの形状…この双方に一致する箇所が存在した場合

それに伴った範囲の物理干渉や知覚範囲の延長を行使出来る…簡単な説明で申し訳無いけど、これが超能力と呼ばれる力の仕組みだ。


しかし…当然ながら、P器官を有していてもニューロンネットワークがそれに伴わなければ超能力を行使する事は叶わず

逆に…人為的な交配等の手段により特殊なP器官を持った者が、複数の超能力を所持する事に成功した…と言う事例もあるらしい。

ただし、その辺りの情報の殆どは開示されて居ないため、詳細は不明。


存在や条件こそ解明されては居る物の、超能力と言うのは正直まだまだ謎の多い力だ。


また…これはごく一部の人間にしか知られて居ない事だけれど…

P器官の上位存在………物理では無く法則に干渉する、D器官と呼ばれる器官を持つ者が存在する。


が…その件に関して現存する資料は極めて少なく、研究者達の間でさえ都市伝説のような物として扱われている。

●道標は足元に

ゴウンゴウンと重い機械音が響き渡る中、物陰に身を隠す俺とカレン。

とある豪華客船…その貨物室に、俺達は密航していた。


何故こんな事になっているかと言うと………


カレン「ねぇ………王は、本当にこの船に乗ってるの?」

俺「あぁ……理央が残してくれた情報が確かなら、この船で間違い無い筈だ」


そう言って俺は理央の携帯を取り出し、未送信メールを開いてカレンに見せる。


…概要はこうだ


マーク達から…テレパシーを用いる事無く、サイコメトリーを駆使して情報を読み取った結果

王が日本に来ていると言う事…そして、王の滞在先がここ…この豪華客船の中だと言う事が判った。


相手の戦力は、護衛が5人…側近が一人。最低限の人数しか居ない上に、場所の特性上増援をが来る可能性は低く…王を倒すならこれ以上の機会は無い。


………という内容に基き、俺達は今ここに居る。


因みにそれ以降は、この文章を打ちながら戦っていた相手…マーク達の能力や戦力、狙撃手が二人居る事。

そして最後に…『二人とも、真実を知って下さい。私も本当の』

と…最後まで打たれる事無く、文章の途中で途切れている。


カレン「せめて…銃の一丁のでも持ってたら…」

俺「カレン達は通常業務中だっただろ……それを言ったら俺の方が、脱出の時にチャンスがあった訳だし…」

カレン「貴方は生きるか死ぬかの瀬戸際だったじゃない。そこまでの余裕なんて無かったでしょ」

俺「………ってか、そもそも…持ってても、理央は撃つ暇さえ無かったんだろうな」


狙撃手の二人は別の場所で確認して、警戒していた形跡もある。恐らく理央を撃った奴は、不測の乱入者だったのだろう。

予期せぬ相手との遭遇で、不意打ちを受け…その銃弾により理央は倒れた。

そして俺達は、理央の遺してくれた情報を頼りに………王との最終決戦に向かっている訳だが…


カレン「でも…本来のスケジュールだと、もうとっくに出航している筈よね?」

時計を見ると、いつの間にか日付が変わっていて…午前1時23分。本来の出航時間よりも、現時点で23分の遅れが出てている。

俺「何か不測の事態でも起きたのか…いや、さすがに全部が全部予定通りになるなんて虫の良い考えは流石にしてないだろうし…」


多分、ここで幾ら考えても答えは出無い。


俺達は、もう少しだけ待機して様子を見る事にした。

●戯れに踊る道化の輪舞

カレン「ねぇ………」

俺「……何だ?」

カレン「貴方の能力って…一体何なの?」


俺「何なのって聞かれてもなぁ…正直、俺にもよく判らないんだ」

カレン「じゃぁ…聞き方を変えるわね。貴方の能力って、リア充爆散の超能力だけじゃなかったの?」

俺「俺も途中まではそうだと思ってたんだが…どうやらそう言う訳じゃ無いらしい」


カレン「そう…じゃぁ、パトリオットを使えるようになったのはいつから?」

俺「テロと同時に組織が襲撃された時……場所は違うんだが、空…キングダムのメンバーと戦った時だ」


カレン「リア充爆散以外の能力が使えるようになってたのは、いつ頃からか…それは判る?」

俺「判らない。もしかしたら最初からなのかも知れ無いが…機会が無ければ、死ぬまで知らなかったのかも知れない」


カレン「…………そう…」

俺「………」

カレン「………」

俺「………」


カレン「アハ…ハハ……何なんだろうね…無意味だったんだ。下手してたら全部裏目に出て…だだ足を引っ張ってただけかも知れないのね……」

俺「カレン……」


カレン「…………ゴメン。もう…何て言ったら良いのか判らない、本当…ゴメン」


俺「……………なぁ、俺達が初めて出会った時の事覚えてるか?」

カレン「木戸譲二の事件の時…クリスマスパーティーの時の事よね?貴方は一人でパーティーに来て居て…」

俺「そう…そこでカレンにぶつかって………って、そう言えば、あの時のカレンはすっごい猫被ってたよな」


カレン「………それは貴方もでしょう?今じゃあの時みたいな敬語の欠片も無いじゃない」

俺「敬語の方が良いのか?」

カレン「…うぅん。貴方こそ、猫被ってる方が良いの?」


俺「いや、いつも通りのカレンが一番だ」

カレン「…………………馬鹿」


俺「そうそう、それでこそカレン………っと、どうやお喋りはここまでみたいだ」

●忍び足で進む終局への迷路

壁を二枚隔てた向こう側…非常用の通路を何者かが歩いて来る。

俺はその存在を、パトリオットの片割れ…クレアボヤントで感知し、臨戦態勢に入る。


余程腕に自信があるのか、相手は一人…いかにもと言った感じの黒いスーツとサングラスの男。護衛の一人と見て間違いは無さそうだ。

やりすごすか?

ここで倒しておくか?


自分達の存在を隠しておきたいならば、やりすごすべき…

発見されるリスクを侵してでも敵の戦力を削っておきたいならば、ここで倒しておくべき。

後は…発見されてしまった場合にも倒す他無くなるが、それはまだ考えなくても良い筈。



手に汗を握り、刻一刻と迫られる選択。

しかし…俺がそれを決断するよりも先に、事態は急変した。


ガコン!ガコン!と、けたたましい音を鳴り響かせ…グラリと大きく揺れる船内。

波に揺られた訳では無い…察するに、出航を始めたようだ。

これでもう後戻りはできなくなった訳だが…それも、俺にとって悪い事ばかりでは無いようだ。


揺れに足を取られて体制を崩し…意識をそっちに持って行かれている、護衛。

俺はその隙を突き………


「ごぁ…っ!?」


パトリオットによる不意打ちに成功。

見事に顎を捉え、護衛の意識を刈り取る事がに成功した。


これで………残るは、護衛4人と側近1人

…………そして王だ。

●踏み鳴らし踏み荒らし踏み潰し

「なっ……そうか、お前達が…ぐぁ!!」

一人目の護衛と同様に、二人目の護衛の頭を捕らえて気絶させる事に成功。


「………私は索敵担当。戦闘力は無いから、お手柔らかに頼むわよ」

カレン「じゃぁ…救助用の浮き輪とロープがあるみたいだから、あれで縛っておきましょうか」


「ぐはっ!そんな…この俺が、こうも……」

「不意打ちとは言え、リックがやられるなんて…くそっ本気を出す事さえ出来ればっ!!」


一人…また一人と、最後に二人。俺達は護衛を片付け、その先に足を進めて行く。

残るは王と側近のみ…目指すはその二人が居る筈の、最上階VIPフロア


俺達は、逸る気持ちを抑えながら…一歩…また一歩階段を昇り……


「お待ちしておりました、お二方。中で王がお待ちです」


階段を登りきった先…VIPフロアの扉の前で待ち受けていたのは、落ち着いた物腰の男

そして、続いてその口から飛び出したのは…俺の予想とはかけ離れた物だった。


俺「王がお待ち…と来たか。まるで俺達が来る事が判ってたみたいじゃないか」


「はい、勿論」

道中あれだけ暴れたのだから、隠れきれて居ないだろうという可能性も考えては居た…

俺達の潜入がばれているのならば、それはそれで仕方が無い。だが…


俺「で…その刺客をすんなり通すってのはどう言う了見だ?王を差し出すから自分は見逃してくれって事か?」

「滅相も御座いません…私はただ、王の命に従うのみ。王が自らの身に危険が及ばないと判断した上での事でしょう」

嘘を吐いている感じはしない…だが、どこか胡散臭い喋りをする男。俺はその男がどうしても気になり…更に問いを投げる事にした。


俺「まぁ………そうならそうでお言葉に甘えさせて貰うが…一つ忘れて無いか?」

「と、言いますと?」

俺「俺達みたいな狼藉者ならまだしも、あんたみたいなタイプは、まず自己紹介をするべきだと思うんだがなぁ?」


「確かに…失礼致しました。始めまして、私の名は木戸譲二…以後お見知り置きを」


俺「なっ………」

カレン「―――ッ!?」

●心を踏み躙られても立ち上がってここに居る

俺「何が始めましてだ。ほんの一目だけだが、俺達は会ってた筈だよなぁ?ってか、その時俺が殺した筈だよなぁ!?」

そう…無自覚だったとは言え、木戸譲二は確かにあのクリスマスパーティーで俺が殺した。

その木戸譲二が生きている筈が無い。男の言葉の真偽を確かめるため、俺は目の前の男…譲二と名乗る男に更なる問いを向ける。


譲二「はい、その通りです。ですが私が初対面と言うのも間違いではありません」

俺「…どういう意味だ」

譲二「私は、オリジナルの木戸譲二の予備…この体に記憶と人格をコピーしただけの存在です。なので…」


俺「それ以降のオリジナルの記憶は持って無い…そう言いたいのか?」

譲二「勿論、その通りです。あと、オリジナルの持っていた記憶改竄能力も持ち合わせておりませんのでご心配無く。確認しますか?」

譲二の言葉を聞き…反射的にその腕を掴むカレン。警戒心は張り詰めたままながらも、少し間を置いてから小さくため息を零し…


カレン「大丈夫、嘘は吐いていないみたい」

と、結論を口にした。


譲二「相変わらずだなぁ、カレンは。どうしてそんなに擦れた性格になっちゃったんだろうねぇ?」

カレン「…黙って!それ以上喋ると殺すわよ!」

目を尖らせ、今にも襲いかかりそうな剣幕で叫ぶカレン。


だが譲二はそれに臆する事無く、扉に手を伸ばし…


譲二「殺されるのは困るけど…案内も僕の役目だからねぇ。ささっ、王を待たせちゃいけないから、早く入ってよ」

歯軋りをして、拳を握り締めるカレン。だが、さすがにこの時点で厄介事を増やす事が好ましく無い…と理解する程度の理性は残っていた様子。

怒りを抑えながら、譲二の開いた扉へと歩き出し…俺もそれに続く。


と………そうして辿り着いた先が、このVIPフロア。

一目で判る程高価な装飾や施設が揃えられた…まさにVIPのためと言える大広間。

そして、その一番奥…玉座のようなデザインの椅子に座っている男が居た。


俺「さて………ついにラスボスとご対面…って訳だな」

カレン「……………」

俺「………気圧されるなカレン。気を引き締めないと…」


カレン「違うの……そうじゃ無いの…」

俺「なら……一体どうした?…」

カレン「どうして……?何で?何でそこに居るの?」


カレン「―――お父様!!」

●靴を脱いで裸足で歩き出す

俺「………………は?」


王「よく私の元に戻って来てくれたね、カレン。待って居てくれれば、迎えを行かせたのに」

カレン「………え?」


王「詳細は無くとも、書き置きがあっただろう?まぁ、結果的に乗り込んでくれたから良いのだけど…」

王「あぁ、そうそう…一応船内の彼等には伝えておいたけど、船内では乱暴されなかったかい?」

俺「そう言う事かよ…くそっ、全部掌の上だったって事か」


カレン「何?…どう言う事?お父様は死んだ筈で…そのお父様がキングダムの王として目の前に居て……」

俺「落ち着けカレン。目の前の王がカレンの親父さんで間違い無いなら…とりあえず親父さんは死んで無いって事だろ?って事は……」


言い終えると同時に、俺は譲二を睨み付ける。


譲二「正解。お嬢様…いや、お姫様が王を殺した記憶は、僕に作られた偽者の記憶さ。僕がお姫様を生かしておいた時点で不思議に思わなかった?」

俺「やっぱりそう言う事かよ。でも腑に落ち無いな、何でわざわざそんな事をした?」


譲二「それに関しては、僕の口から説明するよりも王から直々にお言葉を賜るべき…かな」


王「あぁ…そうだね。その件に関しては私の方から説明しよう。カレンも聞いてくれるかい?」

カレン「…………はい」


王「当時…私はとても危うい立場に居た」

…語り始める王


カレン「危うい立場?」

王「そう…そうだね、どこから話そう。そう…まず、私は組織の研究者だった」

カレン「…え?だって、そんな事、組織の誰からも…何も…」


王「私の行っていた研究は、当時の組織の中でも極秘の物だったからね…組織側としても、カレンから悪戯に情報が拡散しないよう警戒しての事だろう」

カレン「で…でも………どうして、組織の研究者であるお父様が、キングダムの王に…?」

王「それはもう少し後に話す事になるから、順を追って話そう。良いかい?」


カレン「…はい」

●裸足に茨が刺さっても歩く事を止められない

王「では続けよう。私の行っていた研究…それは、人為的にP器官…超能力の根源となる器官を生成する研究だ」

俺「なっ!?」

王「驚くのも無理は無いか。あの研究は、言うなれば生命の改変…数多の倫理観の中でも禁忌とされる行為だからね」


俺「って言うか、そんな事が可能………いや、可能だったから今のキングダムが存在してるのか?」

王「察しが良くて助かるよ。カレンはどこまで理解できてるかな?」

カレン「え…と、もしかして…お父様の研究が原因で、組織に狙われてた…と言う事…?」


王「その通り。組織の人間達はその技術を独占しようとして…私はそれに反発した。組織から追われる身になるのも時間の問題…そんな状態に陥ったのだけど」

俺「そこで登場するのがキングダム…って事か。いや…違う、組織に対抗するためにキングダムを作ったのか!」

王「惜しい…そこは少し違う。私が作った訳では無く、彼らが私の元に集ってくれたんだ」


譲二「そう…僕らは自らの意思で王の元に集ったのさぁ。銀河に遍く綺羅星が星座になるが如くねっ!」

俺「判った…その辺りは後で聞かせて貰うから続けてくれ」


王「私は彼等と言う心強い味方を得て、組織に対抗する手段を手に入れた。だが…所詮は私も一人の人間。矢面に立てば真っ先に討たれてしまうだろう」

俺「だからあんたは…キングダムに研究を奪われ殺された…と言う体面にして、表舞台から姿を消したって事か」


王「その通り」


俺「カレンの記憶を改竄して、組織の手に渡るように仕向けた理由は?あんたの死に信憑性を持たせるためか?」

王「それもある…けれども、その方がカレンが安全だと踏んだからだよ。キングダム側で保護していたら、争いに巻き込まれてしまう危険があった。それに…」

俺「組織側なら、貴重な情報源に対して手荒な事は出来無い筈……って訳か」


俺「でも納得出来無えな。カレンの記憶を書き変えて安全にするにしたって、もっと別の記憶を用意する事だって出来ただろ!」


王「それについては…また別の意図もあったからね。大筋を語り終えた事だし、ではその辺りにも入らせて貰おうか」


俺「………」

●裸足で踊れば傷だらけの足が残る

王「私がキングダムを率いる事になった理由…それ以前に、研究を始める事になったきっかけ…それは何だと思う?」

俺「そんな事、いきなり言われても………いや、待てよ。確か…」


王の言葉を聞き、脳裏を過ぎるのは空の言葉。そう…空はこう言っていた筈だ


俺「弱者のため…か?」

王「その通り…私はそれまで見てきた。弱き者…強者に虐げられる弱者の存在をね。君も聞きかじる程度には知っているだろう?」

俺「それって…あれだよな?外国の貧困地域の子供達とか……募金なんかの謳い文句の、恵まれない子供達とか言う…いや、これで合ってるのか?」


王「合っているよ。そう…正にそう言う弱者達のために私は研究を続けてきた。実際に、可能な限りの弱者を救うべく奮闘してきたつもりだ」

俺「………そうか、その弱者だった奴らが…キングダムのメンバーか!」

譲二「そう…僕達は王に力を与えられ、救われた者達の集まりなのさ」


俺「いや、待てよ…俺が知ってるキングダムのメンバーは、外人の名前を名乗ってたけど、殆どが日本人だったぞ?」

譲二「それが何か?あ、ちなみに僕も生まれは日本だよ」

俺「世界中の弱者って存在を持ち出しといて、今更日本人が弱者に分類されるってのは無理が無いか?」


王「確かに…君達日本人は、他国の弱者に比べれば比較的裕福で、食事にも困らない者ばかりだ。だが…逆に聞こう、弱者とは一体何だと思う?」

俺「はぁっ!?俺が答えるのかよ!まぁ………弱者って言う以上は弱い者だよな。強者じゃ無ければ弱者って事になるのか?」


王「半分正解で半分不正解だね。弱者とは…弱さを持つ物、弱さの本質を理解出来る物の事だ。強者で無くとも、弱さを持たない者は弱者では無い!」


俺「何だよその理屈………そんな理屈が通るんだったら、俺だって……」

…と、言いかけた所で言葉が止まる。そして、またも空の言葉が脳裏を過ぎる

王「そう…弱さを知る者ならば、それは弱者足りえる資格を持っていると言う事だ。そして…弱さこそが強者を打ち破る力となる。違うかい?」


劣等感…反骨精神…下克上…リア充…妬み……勝ち組…負け組……社会格差…ヒエラルキー…底辺……そんな言葉が次々に浮かんで来る。

そして………俺の中で息を潜めていたドス黒い物が溢れ出す。


そうだ…俺は……


    リア充を…憎む側に居た………


少しの間恵まれた環境に居ただけで、有頂天になって忘れて居た…そう、俺は弱者じゃないか!

悔しさと悲しさと情けなさが入り混じった感情がこみ上げ、強烈な吐き気となって襲いかかる。

ダメだ…この感情に負けてはいけない。何か反論しなければ…


俺「あ………いや、あんたの理念やキングダムの事も判った…でもそれ、質問への答えになってないよな?」

王「本当にそう思うのかい?」


あ………これは多分勝てない。

●そして足が無くなっても…

俺「あ…あれか?わざとカレンに辛い思いをさせて……弱さを身に付かせたとか言うんじゃないだろうな!?そもそも研究だってカレンを実験に――」

王「その通り、そう言わせて貰う。カレンまで…あの子の母のように、組織に消されるくらいなら……私は…悪魔にでもなる!」

必至なって先手を打ったつもりでも、それを真正面から打ち返される。


俺「で、でもよ!カレンはそれで…!」

王「…と、彼は言っているが、実際の所カレンはどう思っている?辛い目に遭わせた私の事を恨んでいるかい?憎んでいるかい?」

カレン「私は…私は………お父様が生きて居てくれるのならば、それで充分…辛かった事だって、全部許せるからっ……」


俺「カレン…」


カレンの瞳から毀れる大粒の涙…

今まで我慢してきたであろう涙を、俺の前で溢れ出させている。


そうだ…幾ら強気を装って居ても、カレンは年頃の女の子なんだ。俺は、一瞬でもカレンを言い訳にしようとした自分自身に怒りを覚えた。

そして……そんなカレンを見て、考えるよりも先に感情で動き……俺はカレンを抱き締める。


正直………今は何が正しく何が間違ってるのか判らない。


キングダムに対する恨みや憎しみを消す事は出来ないが、その感情に任せて王を…カレンの父親を殺す事なんて出来ない

…死んでいたと思っていた父親の生存……それだけが、今のカレンに残された唯一の救いだからだ。


俺「なぁ…だったら聞かせてくれよ。カレンはこの後どうなるんだ?アンタの代わりにキングダムの頭に据えるつもりじゃ無いだろうな?」

王「それは私が決める事では無い、カレン自信が決める事だ。ただ…少なくとも組織との抗争が終結するまでは、その答えを求めるつもりは無い」


俺「くっそ………少しくらい横暴な所を見せろよ。反論の余地すら無いじゃないか」


カレン「お父様……私からも一つ聞かせて」

王「何だい?カレン」

カレン「もし私が…このままキングダムの後継者になる事を選んだとしたら…彼はどうなるの?彼は組織の人間だけど…」


王「そうだね、彼の持つ弱さを考えれば…恐らくはすぐに解り合えるだろう。それに組織に所属していたからと言って、それを枷にするつもりは無いよ」

カレン「……じゃぁ…」

心底嬉しそうな笑顔を浮かべるカレン


王「だがね……」

だが…その笑顔を遮るかのように険しい表情を浮かべ、俺の背後…譲二へと目配せする王。


そして、次の瞬間には…


俺の胸部から………


真っ赤に染まった刃が突き出ていた。

○ひたすらに歩き続けるしか無い…それが

カレン「嫌あぁぁぁァァぁ―――!!!」


譲二に背後から胸を貫かれ…身体を赤く染める彼。

私は慌てて彼に駆け寄るが、彼に何かしてあげる事も出来ない…彼を助ける術を何も持って居ない。


カレン「どうして…どうしてこんな事を!?」

全身を真紅に染めながら、更に…私の腕の中で、口から大量の血を吐き出す彼。


王「彼の能力は余りにも危険過ぎる」


カレン「そんな…そんな理由で!!」

虚ろな瞳を私に向ける…彼。


どんな意図を…どんな感情を混めたのか判らない。

自分が今にも死んでしまいそうな時だと言うのに…私が悲しみの中に沈み込んでしまいそうな時だと言うのに…


    彼は…私に向けて微笑んだ


譲二「おっと、まだそんな余裕がありましたか」

彼の背中から剣を引き抜き…彼の首筋へと添える譲二。

それが何を意図しているのか…私にも判る。


カレン「止めッ―――」

刃が彼の首筋を走り、そこから噴き出す鮮血。


熱い…彼の命その物が私に降り注ぐ。

○彼とカレンと彼女の恋愛経路

カレン「あ……あぁぁ…ぁあ゛ぁぁぁぁ!!!!」

理性…と言う物が何なのかにもよるけど…多分それは私の中には残って居なかった。

身体のみならず精神からもリミッターが外れ、私の身体は考えるよりも先に動き出す。


まず譲二の手から…彼を殺した剣を奪い、その剣で以って譲二の首を撥ね飛ばした。


王「判ってくれ…カレン。いずれ彼は…彼の能力は、己の空白を満たすために内側からキングダムを食い破ってしまうだろう」

お父様の声が聞こえる…でも、その声が何を言っているのか判らない。


判らない…

判らない…

ワカラナイ…


カレン「判らない…判らない判らない判らない!!何なの!?私は何なの!?誰が一番大切で…誰のために生きてたの!?」


意味不明の雑音…その雑音を発する何かに、剣を突き立てる私。

王「カレン…お前………っ…は……」

それでも止まらない…だから私は、何度も何度もナンドモ何度も剣を突き立てる。


乾いたオトを立てて、手から滑り落ちる剣…


静寂に満ちた世界が見せるのは、真っ赤な海。


何が起きたのか…何をしたのか………

判らない…判りたくも無い。

何も無い…空っぽの何かが私を飲み込もうとしている。


カレン「あ…そうだ…私……彼に言わなきゃいけない事があったんだ……謝らないと…」


この感情から逃れるには、どうすれば良いのだろう…

そうだ……

私は………


―――私と言う存在を手放した。

◎R

血の海の中…糸が切れた人形のように、後ろに倒れ込むカレンの身体。

カレンはまるで呼吸すらも忘れてしまった人形のように動きを止め、瞳は見開かれたまま宙に向いている。

永遠に続くかに思えるように停滞した死の空間で…時計の秒針だけが時を刻み続けていた。


生きる者はその場に存在しない。


ただ…

死を向かえて生を手放した者と

死を向かえずとも、生を手放した者


その二種類の存在だけが無造作に転がっているだけだった。


………

………

………


が…そんな中、不意に動きを見せる影が一つ。

カレンと呼ばれていた少女が力なく起き上がり、焦点の揺れる目で周囲に視線を巡らせた。


「やれやれ…愛故に、二度も両親をこの手にかけますか。さて仕方が無い、こうなったら僕が代理を務めるとしよう」


そして…カレンと呼ばれて居た存在は、その言葉だけを残してフロアの外へと消えて行った。



     ―BAD END―

長らくお待たせしました。「リア充爆散しろ」シーズン2第1話「彼とカレンと彼女の恋愛経路R」
今回もお付き合い頂きありがとうございました。

恒例のレス返しをさせて頂きます。

>214 とりあえず、第1話はAのカレンルートで進行させて頂きました!

>215 黄色先輩ルートは、全ヒロインコンプして余力があれば…
   因みに、やるとしたらシーズン2よりちょっと前のお話になると思います。

>216 安価進行を試してみたくなってやっちゃいました!でも後悔はしていない!

>217 更新速度遅くてすみませんorz

>218 選択ありがとうございました。

>236 未確認で進行形です(求人情報的な意味で)
   理央の認識範囲に関したてのネタバレは、また別のルートで

>258 その辺りのネタバラシも、もうしばらく後になります。今後の展開にご期待下さい。

それでは引き続き、シーズン2第2話にお付き合い頂ければ幸いです。

―美少女かと思った?残念ショウくんでした―

●≠≠≠

ショウ「おっつかれさまー☆」

ショウ「いやぁ、見事に報われなかったねー、糞悪かったねー、やり直し前提ならではだよねー」


ショウ「さて…それじゃぁまず、二週目のルート選択行ってみようかぁー」


ショウ「A…カレンルート」

ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」


ショウ「ルート選択は >278 くんにお願いしちゃうよ☆」

ショウ「はい、それじゃぁ再びカレンルートにけってーい☆」

ショウ「前回と同じだとつまらないから、自動的に本物の世界で進ませてもらうよっ」

―彼とカレンと彼女の恋愛経路RR―

○Not So Long Ago Zero

ニヤ「―――と言うのが、過去に存在したリア充爆散能力の概要。照らし合わせても、彼の能力はこれと同じと見て間違い無いッスね」

カレン「つまり…彼が能力を行使するためには、私の存在が邪魔になると言う事ですか?」

ニヤ「そう言うと語弊があるッスね。あくまで恋人…とまで行かなくても、彼女のような立場の女性が居る事が問題ッス」


カレン「………」


ニヤ「彼が能力を行使する相手は、リア充限定…彼の基準で妬ましく思う事が出来る相手のみッス」

ニヤ「だからもし自分がリア充になってしまったら、その能力の対象範囲は狭まり…実質上行使不可能になって…」


カレン「組織の戦力を失うどころか、唯一の自衛手段を失ってしまう…ですよね」

ニヤ「情報が漏れてなければ良いんッスけどね…キングダムからすれば、彼は幹部の木戸譲二を倒した存在で…」

カレン「それを知られれば、いつ命を狙われるようになるか判らない…それどころか」


ニヤ「彼はカレンちゃんの力になって、キングダムと戦おうとしているッスからね…」

カレン「正直…私の復讐に彼を巻き込みたくは無いです。ついこの間だって…治しては貰えた物の、本当だったら後遺症が残るような大怪我をして…」


ニヤ「でも、カレンちゃんの過去…話しちゃったんッスよね?」

カレン「…………はい」


ニヤ「となれば、取れる手段は多くは無い訳ッスね。全部が全部上手く行くとは限らないけど、当面の事態を解決する方法なら在るッス」


カレン「…本当…ですか?」

ニヤ「ただ、そのためには…けしかけた身で悪いんッスけど、カレンちゃんには悪役になって貰う必要があるんッスよ」

カレン「………解りました、やります。例え彼に嫌われ、憎まれる事になったとしても…それが彼のためになるならっ」


ニヤ「カレンちゃん…本当に良いんッスね?」

カレン「…はい」


ニヤ「チャーハン…しばらくは味わえないッスよ?彼の手も握れなくなるッスよ?」

カレン「………はい」

○魔女×魔法少女×魔法幼女ッョィ

「それで…朱桜おねーさんは何をしてるの?」

朱桜「誰かさんが頼りないから、ちょっとしたテコ入れをしてるの」

カライモン「いや…せめてその誰かさんの前で直接言うのは勘弁してくれないかね…」


朱桜「もし私達の力を借りたくなったら…何て言っておきながら、ルールに屈して追い返して…どの口でそれを言えるのか不思議なの」

カライモン「いやいや、そもそもあのルールを作ったのは貴方達だろう!?」

朱桜「貴方じゃなくて…朱桜ちゃんなの」

カライモン「………っ」


朱桜「ルールの一つや二つくらい無視して助けるくらいの男らしさは見せて欲しかったの」

カライモン「男らしさも何も、私は女だがね!?」


「朱桜おねーさん、何で今回はそんなに積極的なのかな?イクシオちゃんも不思議がってるよ?」

朱桜「ちょっと出過ぎた真似をしようとする可能性がある人が居るから、お灸を据えようと思ってるの」

カライモン「あぁ…それは例の―――もがっ!?」


「うわ…マイおねーさんの口にシュークリームがストライク…」


朱桜「ネタバレ禁止…お喋りは嫌われるの」

カライモン「…………ブフッ!!…ゲホッ!ゴフッ!!」

「食べ物を粗末にする人も嫌われちゃうよ…」

朱桜「スタッフが美味しく頂いたからセーフなの」


カライモン「ゴホッ!ゴホッ!!と言うかだね…ゴホッ!部外者が直接関わるのは…ゴホッ…禁止事項では…」

朱桜「そんな事だから、ゴリライモンちゃんはサクヤちゃんの劣化コピーの域から抜け出せないの…」


カライモン「誰のせいでゴリラみたいな声が出ていると!?第一クレーバー教授の事は今は関係無いだろう!?」

朱桜「…直接関わらなくても、やり方はいくらでもあるの。それに今回は二周目だから丁度良いの」


「お手並み拝見?イクシオちゃん、難しい言葉知ってるんだね」

●修羅場修羅修羅修羅シュシュシュ

カレン「………それで、これは一体どう言う事なのか説明して貰おうかしら?」

俺「…………」

俺の部屋…そこでカレンに正座させられている、俺………と、空。


空「………」


俺「…何で部屋から出たんだよ」

空「いやな?返却頼んでたDVDあるだろ?あれな?」

と言って空が視線を向けた先は、星のカービィのDVDケース。


俺「まさか…中身間違えてたとか言うなよ?」

空「悪ぃ、そのまさか。んで、それを届けようとしたら、丁度アパートの前でコイツに…」

カレン「コイツじゃ無くて…私の名前はカレンよ。それより、口裏合わせは終わったかしら?」


俺「いや、カレンを相手に口裏合わせなんてしたって…」

と、ここで失言一つ。


カレン「貴方ね…っ、その事は部外者には………え?まさか…」

カレンが俺の言葉を遮り、空の手を握る。

カレン「答えて、貴方は一体何者?彼とはどうやって知り合ったの?」


俺は慌ててカレンを引き離そうとするが、もう遅い。


カレン「………嘘……貴女…」

空「え?何だ?俺まだ何も言ってねぇぞ?」


俺「えーっと………な?まぁ…ここまでやったらどっちも隠してもしょうがないよな…」


俺「カレンは、組織の構成員でテレパシー使い…」

俺「空は、キングダムのメンバーでサイコキネシス使いだ」


俺は、今更ながら二人の紹介を行った。


当然…カレンはそれをすんなりと受け入れてはくれなさそうだけど…

●ガミガミのちギスギスところによりジットリ

カレン「………ゴメン、ちょっと頭の中を整理させて」

俺「ってか、どこまで見たんだ?」


カレン「黄色先輩に弾かれた金属盤が貴方の方に向かって、次の瞬間には彼女に風穴が空いてたって所…多分これは黄色先輩の能力ね」

空「んでその後は…」

カレン「言葉にしなくても良いわ、直接読ませて貰うから」


俺「………」


カレン「………え?何これ、気が付いたら彼の部屋で…傷も完治って…一体途中でどんな…」

俺「あ、それな。悪魔と契約して治して貰った」


カレン「………はっ?」

空「悪魔…?いや、どうやって治したのか…いつか聞こうとは思ってたが、それは無いだろ」


俺「いや、な。ベリルって言って、カライモンの知り合いの悪魔が居てその悪魔と…」


カレン「ちょっと待って、カライモンって…あの魔法少女カライモン?何でそんな人と…」

俺「あぁうん、カライモンってマイ先生の事な。以前俺の身体を治して貰った事があったろ?その時に召喚魔方陣を貰ったんだ」

カレン「え?え?カライモンの正体がマイ先生?あ、でも…だったら悪魔なんて存在が実在しても…え?」


空「…え?マジか?今の話マジなのか?」


カレンと空…二人とも仲良く頭にクエスチョンマークを浮かべている。

俺の口下手が原因なのでは無く、隠されて居た真実が複雑だったのだろう…うん。

●雨々降れ降れユカイ

カレン「それで………彼の迷惑をかけないようにするため、組織には戻らずここで同居してる訳ね」

空「同居って言うか居候?まぁ、結局コイツもコイツで組織には黙ってるみたいだけどな」


カレン「黙ってるって…ニヤさんのテレパシーで読み取られたら一発でアウトじゃないの」

俺「あぁ、それは何とかなってる。キングダムのエリーって奴の件、聞いただろ?」

カレン「テレパストラップのエリーね?あぁ、口頭報告だけなら…でも、その場合一緒に居た黄色先輩も………え?何?黄色先輩もグルなの!?」


ご名答


俺「ちなみに、空死亡の情報流布も済んでるぜ」

カレン「二人して親指立てながら、誇らしげに言わないで!何したか解ってるの!?」

俺「まぁ…結構不味い事してるってくらいには…な。んでも、友達を守るためだからなぁ…カレンは同じ立ち場だったらどうする?」


カレン「………そういう質問の仕方は卑怯よ」

俺「悪いな、こういう性分なんだ」


カレン「まぁ……事情の方は解ったわ。でも、現状のままじゃ良く無いのは解ってるわよね?」

俺「あぁ…いつまでもこうしてる訳にはいかないよな。隠し通せるのもいつまでか…」

カレン「その件は私の方でも何とかしてみる…けど、もう一つ。部屋の問題はどうするのよ」


俺「部屋?いや、別に今のままでも俺は不自由してないし、別に良いんだが…」

●笑顔ニコニコニヨニヨ動画

カレン「そうじゃなくて!…同じ部屋に男女が一緒に暮らしてるのが問題だって言ってるの!」

俺「え?」


空「ぁー…あぁ、なるほど、なるほどねぇ…そー言う事か…」

カレン「そう言う事よ!」


俺を置いてきぼりにして、話を進める二人


空「まぁまぁ安心しろよ、今ん所はまだ男女の関係でも無ぇし問題も起きて無ぇから」

カレン「そっ…その言い方だと、この先起こす気満々みたいじゃない!」

空「いっやぁ、解んねぇぜ?んでも、この先何があってどうなるかも解らねぇしなぁ?」


と、二人の会話でやっと意味を理解する俺


俺「こら、茶化すな。あぁ、いや。空そはそー言うんじゃ無いから安心してくれよ。第一カレンだって、俺と二人で寝起きしてた時は…」

空「………はぁっ!?何だそりゃ!?初耳だぞ!?」

カレン「あ……あ、ああ、あの時は!!」


カレンをなだめたつもりが、今度は何故か空からクレームが飛んで来た。何を言っているか以下略…

と言うか、何でカレンは真っ赤になってるんだ?やれやれ、全く訳が判らないよ…

●二人仲良く狐と狸のロンド

カレン「とにかく………組織内での空の件は、私の方でも何かしてみる。確約は出来ないけど、一人で何かするよりはマシな事が出来ると思うわ」

空「悪ぃな」

俺「悪い、巻き込んじまって」


カレン「それは良いの…今回は私が踏み込んだような物なんだから」

俺「そう言えば…何でカレンは俺の部屋に?」


カレン「あ、そうそう…これなんだけど………貴方、この書置き…私の部屋に残して無いわよね?」

そう言ってカレンが取り出したのは『3日後、お迎えに上がります』と書かれたメモ用紙。

俺「いや、俺は知らない。その様子だと、カレンにも心当たりが無いんだよな?」


カレン「侵入者の形跡は無し…今の所、誰も心当たりが無し…正直気味が悪いわ」

空「書き置き?どれどれ…………ん?」

カレンの持って来たメモ用紙を覗き見て、首を傾げる空


俺「知っているのか、空」

空「いや…もしかしたらなんだけどな?この手口、俺の知ってる奴かも知れねぇ」

カレン「…えっ?」


空「さすがにこんな状況だから、直接聞く事は出来ねぇんだが…ちょっと遠回りな方法で確認してみらぁ」

カレン「でも…こんな事を初対面の貴女に…」

空「おいおい、そー言うのは言いっこ無しだぜ。ま、元キングダムのメンバーだから信用出来ねぇってんなら仕方無ぇけどな」


カレン「そ…そう言う意味じゃ無いわよ!」

空「だったらお互い様だ。俺の件で手間かけさせちまうんだから、そのお返しってとこだな」


カレン「それは、貴女のためじゃなくて彼の負担を………っ」

空「………な?お互い様だろ?」


カレン「――――っ…!!」


あれ?また俺の判らない所で話が纏まってないか?

●偽りペルソナ壊してハリハリー

理央「で、では…来て貰って早々ですが…本題に入らせて貰い…ます」

空中庭園…急遽理央に呼び出され、俺とカレンはこの場所に来て居る。


俺「本題って言っても…一体何の話なんだ?」

理央「お二人を…よ、呼び出した用件は他でもありません。この茶番についてです」


茶番…理央が口にするには、なんと言うか…らしくないその言葉を耳にして、身体を強張らせる俺とカレン。

茶番と言うからには、演技をしている事…演技をして隠している事と考えて間違い無い筈。

となれば、先ず最初に浮かんで来るのは空を匿っている件なのだが…


理央「そ、空さんの事ではありません。あ…で、でも。空さんも無関係ではありません…」

俺の予想が外れた事を、理央の口から告げられた。


理央「先輩も…カレン先輩も……隠し事をしているせいで、お互いにすれ違って居ます。だから…そこから正します」

俺「隠し事?………あぁ、そうか…理央が言ってるのは…」


理央「コピー室前で先輩が聞いた会話…いえ、言葉の内容ではありませんよ」

俺「…えっ?」

カレン「………」


理央「あ、あの言葉は…元々先輩に聞かせるためにカレン先輩が連呼してたんですよ」

俺「………はぁっ!?いやいや、おかしいだろ!騙してる相手にその内容を聞かせて何の得があるんだ!?」

理央「…利益が無いと思い込んでいるからこそ、その可能性に目を向けようとはしない…それは間違いです」


俺「いや、訳が判らねえよ!ってか、第一俺がカレンを手伝いに行くかどうかなんて…」

カレン「…解るわよ。貴方なら、待ってればきっと手伝いに来てくれるって……」


俺「っ………」

理央「そ、それに…その時来なかったとしても、別の機会に改めてやり直せば良いだけの事ですから」


俺「で、でもよ。俺じゃなくて他の誰かだったら…」

理央「他に誰も通らない事は確認済みでしたし、カレン先輩なら先輩の足音くらい解ります」


俺「いやいやいや、待ってくれ」

理央「では次に…先に先輩の方の隠し事を明かします」


一体どうしたと言うのだろうか…今日の理央は止まらない。

●気付かないふりして愚鈍はノーノー

理央「先輩の能力は、リア充爆散だけではありません」

カレン「………え?」

理央「と言うかカレン先輩も、この件に関してはわざと見ない振りしましたよね?空さんの記憶を読んで、見ましたよね?」


カレン「え…だ………だってあれは、彼女の勘違いで…本当は、黄色先輩の能力でしょう?」

理央「それはカレン先輩がそう思い込みたいから、そう思っただけです。現実から目を逸らしています、先輩はパトリオットを使いました」

カレン「そ…そんな…じゃぁ…私が彼にした事って間違ってて…全部無駄で……彼を傷付けただけ…」


理央「間違って居たとは言いません、あの時点ではあれが最善策でした。ただ…結果的に無駄だった事も否定はしません」


俺「……………え?一体どう言う事だ?いや、何となく行き違いが発生してるって感じはあるんだが…」


理央「では、順を追って話します」

俺「…頼む」


理央「先輩の能力は対象を爆散させる能力…そう思われて居ました。これは組織のみならず、先輩自身もそう思っていましたね?」

俺「あぁ、そうだ」

理央「そんな中、幾つもの困難を越えてカレン先輩が先輩に惹かれ…皮肉にも先輩の能力がリア充爆散能力だと判明しました」


俺「え?そうなのか?」

カレン「………」


理央「そしてリア充爆散能力を維持するためには…カレン先輩が恋人になるイコール先輩がリア充になる、と言う事態を防がなければいけませんでした」

俺「何でそんな…いや、確かに組織としては能力者が減るの困るだろうけど」

理央「それ以前に、先輩の安全のためです。どこかの先輩が自分から危険に飛び込もうとするから、その手段を取らざるを得なくなったんです」


俺「そんな大袈裟な…」

理央「大袈裟ではありません。能力一つで戦略がどれだけ大きく変わると思っているんですか?どれだけの生死に関わると思っているんですか!?」

理央「それに…それ次第で、先輩にどれだけの護衛を付ける余裕が出来るかも変わるんですよ。先輩は気付いて無いようですけど」


俺「………え?」


と、そこで初めて気付く…いや、初めて考えるという地点に至った

●水面下のドントゥノウ

『あー…そうそう…護衛の奴等なら来られ無ぇからな?』

あの時…俺に護衛が付いていた?俺のために人員が裂かれていた?

理央「解りましたか?先輩一人で戦って自分勝手出来る訳では無くて…そういう土台があるから、先輩がこうやって今も生きてるんです」


俺「だったら、今の俺なら…………………」

理央「………」


俺「………………ああああああぁぁぁぁぁ!!!そう言う事か!!!」


理央「そう言う事です」

ドヤ顔…いや、ドヤ顔を作ろうとして震えた笑顔になってしまっている理央。

そこはせめてキメてくれ。


俺「悪いカレン!俺がパトリオットを使えるようになってた事を言って無かったから、カレンにずっと辛い思いをさせっ放しに…!」

カレン「え?ちょっ…ちょっと待って!謝るのは私の方よ!?貴方の気持ちを知ってて、ずっと騙してたんだから!そのくらい…」


俺「だってそれは俺のためだろ?だったら結局俺が原因で俺が悪いんじゃ無いか!」

カレン「違うわよ!だって私が勝手にやった事なのよ!?貴方が悪い訳無いじゃない!」


理央「………本当、悔しいくらいにお互い様じゃないですか…」


俺「ん?何か言ったか?悪い、よく聞こえなかった」

理央「何も言っていませんよ。何ですか?難聴設定アピールですか?」


俺「いやそれ、どこの―――」


理央「……と、言う訳で…お互いの誤解と隠し事が解消された所で……つ、次…い、行きましょうか」

落ち着いた所で、何故かまたたどたどしい口調に戻る理央。


カレン「次って……何?何処?」

理央「せ…先輩の家です。空さんにも会って話を聞いてみましょう、き…気になる事があるんです」


こうして…カレンと理央が俺の部屋に来る事になった

●暴露続ける事情のアンマスク

俺「なぁ…理央の能力の範囲ってどのくらいなんだ?」

理央「凡そ半径200メートルくらいです。それ以上の範囲も多少は読み取れますけど、不鮮明になります」


俺「空の事はどうやって知ったんだ?この辺りって確か、そういうの出来ない筈なんだが…」

理央「空中庭園でお二人が思い浮かべた時点で知りました。なので今はこうして直接お会いしに来て居ます」


カレン「出来ないって…どう言う区分のどの範囲?」

俺「テレパシーとかサイコメトリーとか…容認されていない覗き見行為全般にジャマーが掛かってるみたいな物と思ってくれ」

カレン「何その出鱈目な……あ、でも。彼女の心は読めたわよ?」


空「あー……そりゃ多分あれだな…ってか、あれでも容認したって事になんのか…」

俺「説明plz」


空「コイツ…カレンと最初に会った時。二人して正座させられた時があっただろ?」

俺「あぁ、あったな。DVDの返却に行って、本屋巡りして…そこから総統に呼び出されて報告して、やっとの事で戻って来た所であれだったな…」

空「んであの時な…お前が戻ってくるちょっと前に、こう思ったんだ」


空「もしかして…コイツがカレンか?ならどうやって説明するか…下手な嘘吐く自信も無ぇし…いっそ頭ん中全部ぶちまけられたらなぁ…ってな」


俺「少しは誤魔化そうとしろよ………ってかまぁ、多分それが原因だな」

空「あ、でもよ…容認しなけりゃ読まれないんなら、組織の方に俺の事黙っとくのも…」

カレン「それは無理よ。まず正規職員の大前提として、全ての情報提供を要請されて…それを許可する事に同意してる筈だもの」


空「…マジか。お前等ん所の組織、滅茶苦茶ブラックだな」


俺「テロ組織に言われたく無ぇよ!?」

カレン「テロ組織に言われたく無いわよ!?」


同時にツッコミを入れてしまった


理央「それ以前に…空さんと事を起こしたのは別の場所ですから、足取りが掴めた今なら私の能力でも遡れますよ」

●常識に創られた今この時ブレイクアゥッ

俺「にしても…カレンは俺が来るまでの間に、空の思考を読もうとは思わなかったのか?」

カレン「その時点で白か黒かも判らない相手に、そう簡単に超能力は使えないわよ…」


俺「あぁ…その辺りは意外としっかりしてるんだなぁ」

カレン「ちょっと、意外って何!?私を何だと思ってるの!?」


直情脳筋少女…なんて単語が頭に浮かんだ。

しかし、さすがにそれを口に出す事など出来る訳が無い。俺はこのまま胸の奥にその言葉を仕舞っておく事にした

………のだが


カレン「へぇー…ふぅーー…ん………」

何時の間にか掴まれている俺の腕…それはつまり…

カレン「じゃぁ…その期待に応えてあげないと駄目よね?」


俺「落ち着けカレン…落ち着いて話し合おう、な?」

カレン「あら…落ち着いてるわよ?それに本音はちゃんと聞かせて貰ったもの、これ以上は…あぁ、言葉じゃなくて拳で語り合いたいのね?」

俺「いやいや…同じ肉体言語なら、拳じゃなくて………はっ!?」


冗談交じりながらも、頭の片隅にその思考を浮かべた事を俺は後悔した。


カレン「っ……!!あ…貴方って人は!!!」

俺「いや、今のはあくまで冗談……おぶふぅっ!?」


久々に受ける、カレンのセクハラ制裁リミッターブレイクパンチ。

俺の身体は、きりもみ回転とムーンサルトを同時に行いながら天井へと飛び上がり……


俺の意識は…そこで途切れた


       DEAD END

●まだ眠るには早いデイドリーム

国王「おぉ勇者よ、死んでしまうとは情け無い」

俺「え?あんた誰!?」


帝王「死んじまうたぁ情けねぇなぁ」

俺「って、黄色先輩何やってるんですか!?」

姫「やれやれ、情け無いね」

俺「アウィスさんまで何を!?」


大統領「情け無い…あぁ情け無い、情け無い」

俺「いや、だからあんたも誰!?ってか5・7・5!?」


魔王「ナサーケナイ♪ ナサーケナァィッ♪」

俺「いやそれもうとっくに旬過ぎてるネタだからな!?」


………………………


俺「ハッ…夢か」


目を開けると、そこには理央の顔。後頭部に当たる柔らかい感触…うん、どうやら膝枕をされているらしい。

カレン「迂闊だったわ…心を読まれてなければ勝てると思ったのに…」

空「くそっ…目の前の相手を警戒しすぎたかっ…」


部屋の隅で空とカレンが何か言っている…が、とりあえずそれは置いておこう


俺「酷い夢だった…俺がカレンに殴り飛ばされて…」

理央「あ…そこは夢じゃなくて現実です」


Oh…

●二人の世界を二人が許さないザワールド

カレン「あ…あのね」

俺「ん?何だ?」

しゃがみ込んで床に手を突き…理央との間に割って入ってくるカレン


カレン「やり過ぎたとは思ってるけど…謝らないわよ?でもその代わり…貴方が黙ってた事はこれで無し、チャラよ」

俺「いや、だからそれは…」

カレン「だ…だから………あ、貴方からも私に好きな事して、それで本当におあいこ。二人とも全部許すって事で良いわよね?決定」


俺「お…おう?んでもそれって………」

顔を赤らめるカレン…それに気付いて心臓が高鳴り、多分俺の顔も赤くなっている。

俺は思わず、ゴクリと音を立てて唾を飲み込む……が


理央「コホン」

理央の咳払いが、俺とカレンを正気に引き戻してくれた。


空「ってかよぉ…そもそも俺に用があって来たんじゃ無ぇのかよ」

理央「そうですよ、現状で可能な限りの情報を得るために、空さんに話を聞きに来たんですから」

俺「あぁ、そう言えばそうだったな…と言うか、空から一体何を聞くつもりなんだ?カレンの部屋の書き置きの事なら…」


理央「それもありますが…まずは、カレンさんのご両親の事です」


カレン「…………」


そして…理央の一言により、その場の空気が一瞬にして張り詰めた

●まだ夏には早い七月のフール

理央「先輩とのやり取りでは、こう言っていましたよね?『あの件は仕方ない。不幸な事故と方向性の不一致だ』って。その辺りの事を教えて下さい」

空「教える…って言っても、俺も他のメンバーからまた聞きしただけだぜ?」

理央「それで構いません」


空「んじゃぁまぁ…俺が知ってる概要はこうだ」

俺に理央…そしてカレンが空の言葉に聞き入る


空「まず…キングダムの研究者の一人が造反を起こして、組織に技術を売り渡そうとした。これが多分、カレンの父親の事だな」

カレン「お父様が…キングダム構成員…?そんな…まさかそんな事……」

動揺を隠し切れず、身を震わせるカレン。俺はそんなカレンの手を取り、強く握り締める。


空「で…その事をいち早く察知した幹部が、それを止めさせるために説得に向かったんだが…どうも、話が平行線になって止められなかったらしい」

理央「方向性の不一致と言うのはその事ですね。では不幸な事故と言うのは?」

カレン「説得に向かったはずの幹部が…誤って、その研究者を殺してしまった…そんな所になってるんでしょうね」


空「は?何だそれ?」

カレン「え…?」


空「俺が聞いた話だと…こうだ。研究員は、キングダムを去る際に研究中の実験体を持ち出そうとしたらしいんだが…これが不幸な事故の始まりだ」

俺「………」

空「実験体…シグマって名前なんだが、それが逃げ出して暴走。更には実験体による研究者の殺害と同時に、組織の部隊が攻め込んで来た」


空「幹部は辛うじてそこから逃げ出すが、研究者の遺体も実験体も回収出来ず終い。実験体は組織に回収されたんじゃないか…って言われてる」

カレン「何…?何なの?実験体って何?そんなの私知らないわよ!?ジョージがお父様を殺した事を隠すために創った、作り話じゃないの!?」

空「いや、いくらジョージでもそんな作り話して内部を掻き回したりはしねぇよ。第一、裏切り者を粛清したからって隠す必要無ぇだろ」

理央「むしろ、問題を起こした事の方が、他人に知られて不都合な筈。それをあえて報告した以上…真実である可能性の方が高いですね」


俺「いや、待てよ?だったらカレンの記憶はどうなる?間違ってるのか?カレンは木戸譲二に操られて、両親をその手で……」

●絶対不変そんな物はナッシング

理央「そうですね、現時点で考えられるのは……自分の功績では無く実験体のせいにする事で、何らかの別の利益を得た…と言う可能性ですが」

俺「別?あぁ…そう言えば、カレンが木戸譲二に操られた時は実験体なんて全く関与してないんだよなぁ?」

カレン「えぇ…今の今までその存在すら知らなかったわよ」


俺「って事は…カレンの両親殺害は……実験体の暴走よりも前か、それよりも後の可能性が出て来るな」

空「後は………カレンのその記憶その物がジョージによって作られた物……なんてな、いや、まさかな」


カレン「…………」

俺「理由が無ければそんな事はしないだろうが…逆に理由があるならその可能性も捨てきれ無い…よな」


空「あ、そー言やぁそっちのちっこいの。お前はどうなんだ?一時期ジョージと一緒に居たんだろ?何か知らねぇのか?」

理央「ちっこいのでは無く理央です。それは、木戸譲二に操られていた時期の事ですよね?」

俺「あぁ、そうか…理央の無差別なリーディングなら、もしかしたらその辺りの木戸譲二の記憶も…」


理央「遺憾ですが、当時は超能力その物に制限をかけられて居たので…木戸譲二の情報はほぼ全くありません」

俺「超能力その物に制限って…そんな事が出来るのか?いや、理央の能力なら、使えばすぐに記憶操作がばれるんだから…出来てたんだよなぁ?」

理央「木戸譲二だからこそ出来た芸当ですけどね。原理は簡単です」


空「超能力が使えると言う記憶を消しておいて、利用したい時にだけ戻してまた消した…そんな所か」

理央「それもありますが…私の場合は、人格その物を変質させられて居ました」

カレン「人格の変質…そう言う事ね…」


俺「悪い、俺だけ解って無いみたいだから説明してくれ」


空「んー………それを説明するとなると」


カレン「超能力の仕組み…そこから説明しないと駄目みたいね」

●彼と彼女繋ぐサイキック

カレン「それじゃぁまず、P器官…超能力を行使するための器官の事から始めましょうか」

俺「確か…脳に流れる神経電流を、拡張伝達する器官…だよな?」

カレン「そう…それにより超能力を行使するチャンネルに接続、他人の神経への干渉。例えば…」


空「サイコキネシス…俺のソーサー=ソーサみたいな物理干渉」

理央「カレン先輩の受信型テレパス…私の複合リーディングのような感覚拡張を行使する事が出来ます」


カレン「でも…これらの超能力を行使するためには条件があるの。それは…P器官の構造と、ニューロンネットワーク…人格が一致する事」

俺「一致って…完全一致か?部分的でも良いのか?」

カレン「部分的…と言うか、言葉が悪かったわね。人格とP器官の構造が重なり合った部分…それがその人が使える超能力だと考えて」


空「そうだな…例えば俺は、本当はもっと凄いサイコキネシスを使えるP器官を持っているとする」

俺「でも人格が残念だから、P器官のほんの一部分しか使えなくて…ソーサー=ソーサが精一杯…って事か」

空「そうそう…って誰の人格が残念だ!!」


理央「逆に私は…全てを使える人格を持っているので、私のP器官が保有している構造の全て…複合リーディングと送信型テレパスが使えます」

俺「成る程…つまり木戸譲二は、記憶改竄で理央の人格を空くらい残念にして…その超能力に制限をかけた訳か」

空「ま、そう言う…って、だから人の人格を残念とか言うな!!」


カレン「と言うかこれ…研修の時点で教わった筈なんだけど」

俺「悪い、カレンの事で頭がいっぱいで聞き流してた」

カレン「………馬鹿」


俺「しかしそうなると…実際の所は、当事者である木戸譲二のみ知る所か」

カレン「死人に口無し…闇から闇へ…と言う事よね」


手詰まりになり、黙り込む俺達。

だが…糸口は思わぬ所から現れた


空「あぁ、そうそう…ジョージで思い出した。カレンの部屋にあった書き置き…あれ、やっぱりジョージの手口だったわ」


カレン「……え?」

俺「はぁっ!?」

●迷走するアンビエントハート

俺「で………どうしてこうなった!?」


次の日…空の呼び出しで改めて集合した俺達。

場所は街外れの廃工場…

面子は………俺、カレン、理央、空………


そして…キングダムの、マーク、エリー、マリオ

当然ながら…俺達組織側とキングダム側との間には、張り詰めた空気が漂っている。


マーク「そりゃぁこっちの台詞だ!死んだと思ってたミラから連絡が来たかと思やぁ、何なんだこの面子はよぉ!」

エリー「何て言うかこう…運命的な何かを通り越して、作為的な物を感じちゃうわよねぇん」

空「いやぁ…そっちの事情もあるみてぇで悪ぃんだが、今回は一応俺の顔を立ててくれよ。な?オジキにエリー…それと…」


エリー「彼の名前はマリオ。貴女の代わりに配属された、無口なクールガイよぉん」

空「んじゃマリオ、アンタも頼むよ」

マリオ「………」


マリオと呼ばれた…黒いマントに身を包んだ大男は、無言のまま頷いた。


俺「まぁ…空の仲間…キングダムって広い区分じゃなくて、チーム的な仲間だってのは判った。んでも…」

カレン「手放しで信用出来る…って空気でも無さそうよね」

マーク「おぉっ?良いねぇ良いねぇ…一発やらかすか?」


互いに構える俺達とマーク。だがそんな状況さえ気にした様子も無く、エリーが双方の間に割って入る。


エリー「んもぅ、三人とも…今日は喧嘩じゃなくて話し合い、と言うか情報交換に来たんでしょう?火花なんて散らさないのぉん」


俺「情報交換…? いや、そんなの今初めて聞いたぞ?」

空「あ、悪ぃ。言うの忘れてた☆」

俺「おまっ……」


テヘペロ顔で言う空。いや、そんな顔をしても許さない!

●頑固親父と青年のヴァーサス

空「いやな?例の書き置き…ジョージの手口の件でオジキ達に色々確認して貰ったんだがよぉ」

エリー「ど~ぉぉぅも、キナ臭い匂いが鼻から離れないのよね。私達の知らない所で何かが動いてる感じぃ?」

マーク「俺達に下ってる指令にしたってそうだ。元々気乗りはしてなかったが、ここに来て一気にやる気が無くなったぜ」


俺「いや、その辺りの事情も全く聞いて無いから説明して欲しいんだが…てか、俺達から提供出来る情報なんてあるのか?」


マーク「まぁぶっちゃけた話、俺は姪っ子の顔を見に来るついでだったから…そっちの事情や情報はどーでも良かったんだが…」

俺「んじゃぁ…」

マーク「手前ぇの顔を見て、気が変わった…ってか形式を変える。小僧、お前が俺に勝てたら洗い浚い全部話してやんよ」


俺「はっ…?」

エリー「あぁんもう…結局こうなっちゃうのね」


俺「いやいやいや、何でそうなる!?ってか、逆に俺が負けたらどーすんだよ!?」

マーク「男が…負けた時の事を考えてんじゃ無ぇよ!」

懐から幾つ物硬貨を取り出し、それを宙に放り投げるマーク


俺「ついさっきアンタがそれ言ったばかりだよなぁ!?そもそも、やられた方が喋れ無くなったらどーすんだよ!」

マーク「こっちの情報は全部エリーから聞けるようになってるぜ!」

俺「だったら…えっと、理央!こっちはお前が頼む!」

理央「え?えっ!?は、はい…わ、判りましたっ」


俺「あぁもう…自分もノっといて何だが、何なんだよこの会話!!」


納得しては居ないが、退く訳にも行かない。

双方の合意が半ば無理やりに成され…開始のゴングも無いまま、マークとの闘いが始まった。

●漢の意地はアンブレイク

まず、先手を打ったのはマーク

大分離れた場所から俺に向かって踏み込み、その拳を振り下ろして来る。


後か横にろに跳べば、余裕で回避可能…懐に飛び込んでカウンターも狙える…が、俺はあえてそのどちらも選ばない。


マーク「正面から受け止めた…だと?中々骨があるじゃねぇか!だが…それは迂闊過ぎるにも程があるぜ!」

両掌を額の前に構え、マークの拳を受け止める俺。


しかしマークの一手はそこで終わらず、追撃が俺に襲いかかる。


斜め前の上方…マークの放り投げた硬貨。その硬貨の一つ一つが、マークの動きに続くように豪雨となって俺に降り注ぐ

一つでも直撃すれば致命傷になりかねない攻撃…だが、当然ながらそれを黙って受ける俺では無い。


マーク「な……にぃ!?」

パトリオットで硬貨を撃ち落され、絶句するマーク。

エリー「ちょぉっとぉ!それって…パ…パトリオットじゃないの!!」


俺「後で騙し打ちに使うのもアレだからな…先にお披露目させて貰ったぜ」


マーク「リア充爆散だけじゃなくパトリオットまで…手前ぇ……一体何者だ!」

俺「勝った方が負けた方の情報を聞けるんじゃ無かったのか?」

マーク「ぁー…そーだったなぁ、くっそ、まどろっこしいルールだなぁくそっ!」

俺「だから、そのルール決めたのアンタだろ!!?」


マーク「くそっ…ミラのために、隙を見てわざと負けてやる作戦は無しだ!こうなったら本気で行くぜ!!」

俺「さりげなくネタバラシしてるけど、それなら最初から素直に話してくれてれば良かったんじゃないか!?」

マーク「るっせぇ!男にはメンツって物があんだよ!」


懐から大量の硬貨を取り出し、宙に舞わせるマーク。

エリー「って…ちょっとマーク!こんな所でアレをやるつもりぃ!?」


何をするつもりか…出し惜しみにしていたマークには悪いが、大体予想はついている。

●正面突破のスピナー

恐らくだが…マークは、空の時のように自分の周囲に硬貨を廻して攻防一体のフィールドを作り出す筈。

あれは厄介なんて物じゃない。パトリオットの射程距離以上のフィールド形成されてしまったら、勝ちの目が殆ど無くなってしまう。

しかも、宙に舞っている硬貨の量は空の時の金属盤の比では無い………となれば


俺「悪ぃが…完成する前に決めさせて貰う!!」


これは戦ってみて気付いた事だが…空もマークもサイコキネシスに瞬発力が無く、対象の金属を急加速する事が出来ない。

現に先の硬貨の雨も、充分な加速が付いていなかったためパトリオットで弾くのは余裕だった。

…いや、それでも当たったら大怪我してたんだろうけどな。


あのフィールドは…円を描いて充分に加速して…そこで初めて完了する筈。だから、それの形成前に勝負を着ければ良い訳だが…

問題は、その方法だ


俺の足では、形成前に距離を詰めるのはほぼ不可能…恐らくマークもそう踏んでいる筈。

裏をかくには………くそっ!手段を選んでは要られないか!


俺はマークに向かって大きく跳ぶ


マーク「遅ぇよ!蝿が止ま―――何!?」

そして、自分自身にパトリオットを放って、空中で急加速。

一度の加速では足りなそうだから、追加で二回…背骨や肋骨が悲鳴を上げているが、構っては居られない。


充分では無いながらも、かなりの加速が付いた硬貨が横から俺に迫り来る。だが…このくらいなら致命傷にはならない筈

俺はそれに余力を向けず…狙うはマークの頭部、顔面。


両者の決着へと続く一撃…男と男の意地がぶつかり合う…そう思った瞬間


俺「な…っ!?」

マーク「なにぃ…!?」


マリオが俺達の間に割って入り…


俺の拳…マークの硬貨…その双方の攻撃を遮った。


マリオのマントが大きく肌蹴て、その下から覗くのは西洋甲冑のような全身鎧。

関節にさえ隙間の無い構造が、その鎧の強固さを物語っている…が、鎧の上からとは言え衝撃すら無い筈が無い

…にも関わらず、マリオは一切の声を上げず…何も無かったかのように手を下ろして、元の位置へと戻って行った。

●叔父と姪の行き違いカオス

理央「二人とも…いい加減にして下さい!特に先輩!」

俺「え?俺!?」

理央「カレン先輩との件で、情報の行き違いに懲りて無いんですか!?」


俺「いや、だってなぁ?さすがにあの状況から…」


理央「言い訳は聞きません!それと…エリーさんだって、どちらかが一方的に情報を得る状況は好ましく無いと思っている筈ですよね?」

エリー「あらぁん…心は読まれて無い筈なのに、よぉく判ったじゃない」

理央「読まなくても、予想は出来ますから」


俺「………って流れになってるみたいなんだが…」

マーク「あぁん?こんなスッキリしねぇカタの付き方で納得出来っかよ?」

エリー「マーク、我慢なさいな…我侭を通せる時間は終わりよ?あのお嬢さんの言う通りにしましょう」


マーク「ちっ……んじゃ、これだけは先に聞いとく。手前ぇ…うちのミラに手ぇ出して無ぇだろーなぁ?」

俺「はぁっ!?いきなり何言い出すんだオッサン!!」

マーク「キズモノにしてねーだろーなって言ってんだよ!アイツは姉貴と義兄貴の忘れ形見だ、下手な事したら許さねぇぞ!!」


エリー「………って、それよりも先に聞くべき事あるじゃないのよぅ…気が変わった振りして…最初からそれを聞くのが目的だったんじゃない?」

マーク「るっせぇ!!」


空「あ、それもう手遅れだわ。俺、穴空けられてキズモノにされちまった後だし」

エリー「あらまっ」

カレン「…………え゛?」


俺「はっ!?何を…いや、あれの事か…?」

マーク「な…ん…………だ……………とぉ!?」


俺「違う!あれはそー言う事じゃなくて!」

マーク「あぁん?んじゃぁミラが嘘吐いてるってぇ言うってのか!?」

俺「いや、嘘は吐いて無いんだが…誤解だ!」


マーク「やっぱりヤっちまってんじゃねぇかぁぁぁぁ!!!!しかも五回もだとぉ!?殺す!手前ェ!今すぐここで殺す!!!」

俺「あぁぁぁぁもう面倒くせぇ!!空!お前も何とか止めろ!!」


この後…マトモに話が出来るように落ち着かせるまで、更に一苦労あった事は言うまでも無い。

●不穏心音エトセトラ

エリー「さぁて…何から紐解いて行こうかしらねぇ」

理央「まず…お互いの知りたい情報を項目に分けて挙げてみませんか?あと、テレパストラップの解除をお願いします」

エリー「テレパストラップは最初から仕込んで無いわよ。ま、後から仕込ませて貰うけどねぇん」


理央「…確認しました、では私が貴女方の内容の真偽を確認をさせて貰います」

エリー「了解ぃん…じゃぁ、お互いの知りたい情報を言いましょうか」


理央「私達が知りたいのは…まず、カレン先輩の部屋に残された書き置きの件と、貴方達がキナ臭いと言う任務の内容」

カレン「それと…お父様。キングダムの研究者だったと言う、お父様の事。お父様が研究していた内容も判るなら…」

俺「あ、あと…出来るんなら王の正体と、あんた達がキングダムに所属する事になったきっかけ。これはついでで良いんだがな」


マーク「俺からは…そっちの小僧の能力の仕組みだ。どーしてアシッドとマイケルの超能力を使えんのか、ハッキリさせときてぇ」

エリー「そこのお姫様の正体の方が先でしょうん?ま、あっちの質問で大体判ったけどぉん…」


俺「………」

エリー「………と、挙げてはみた物の…こうして並べると、本当に奇妙に繋がってるわよねぇ…」


理央「その辺りの繋がりが私達にはまだ判らないので、説明して貰えますか?」

エリー「それじゃぁん…時系列順よりも、考察順の方が良いわね。まずは、私達が受けた任務から…それで良い?」

理央「お願いします」


こうして…エリー達の口から、俺達の知らない事実が語られる事になった。


●無限連鎖のラビリンス

エリー「私達が受けた任務は…そこのお姫様、カレンちゃんを迎えに行く事。その書き置きの日…二日後にね」

カレン「…じゃぁ…やっぱりあれはキングダム絡み…」

マーク「んでもな?この任務ってのがまたおかしな任務で…王からの命令だってんだ」


俺「ん?それの何がおかしいんだ?王からその配下に命令なんて、普通の事だろ?」

マーク「俺達にとっちゃ普通じゃ無ぇんだよ。王は…今の今まで命令なんて一度も出した事が無ぇんだ」

俺「…………は?!何だそれ!?いや…それ居る意味あるのか?ってか………そもそも…王って本当に実在してるのか?」


マーク「んじゃ次に…お前の質問。キングダムと王の事を挟むとすっか」


エリー「そうねぇ…まず結論から言うと、王はちゃぁんと存在してるわよ?でもぉん…」

マーク「その正体は誰も知らねぇ」

俺「いやいやいや、それはおかしいだろ!?どこの誰かも判らねぇ相手に従ってんのか!?」


マーク「正確には、従って無ぇよ」

俺「…は?は?はぁ!?」

エリー「何て説明すれば良いかしらねぇ…あ、じゃぁお姫様達。ちょっと私の心を読んで貰えるぅ?」


エリーの促され、その腕を掴むカレン。


カレン「………え?何これ……」

俺「…一体何を見たんだ?」


カレン「王って言う存在の…個人情報になりそうな物が、全部空白…でも、王がした事だけはハッキリと記憶に残ってる…」

エリー「そう…私達キングダムのメンバーは、その殆どが王から力を頂いて…それを覚えてる。でも…王自身の事は何も覚えて無いのよ」

俺「そんな相手に従う…って、これじゃ話が撒き戻っちまうか」


エリー「でぇ…ここからが重要。そんな相手だから、忠誠を誓ってる訳でも無いんだけど…誓う必要も無いし、誓えとも言われて無いのよ」

俺「…………は?」

カレン「………じゃぁ何?誰に言われた訳でも無く、貴方達一人一人の意思による行動の結果が…今までのキングダムのテロだったって言うの!?」


エリー「その言い方もまた語弊があるけど…そうね、テロなんかは、起こしたかったメンバー達が起こした結果で間違い無いわねぇ」

●不審増幅ルネッサンス

俺「まるで自分達はテロとは無関係みたいな言い方だな」

エリー「乗っかってる以上は無関係とまでは言わないけどぉん…当事者かって言われたら素直に頷けない、そんな所よぅ」

俺「何だよそれ………同じキングダムのメンバーだってのに、一貫性は無いのかよ」


エリー「そんな事、どこの国だって同じでしょう?あ、誤解が無いように言っておくけど指揮系統はちゃんとあるのよ?」

俺「ただ居るだけの王が指揮なんて…いや、そうか。王以外のメンバーが統制を取ってるって事か?」

エリー「ご名答ん。日本のナニナニ党ナントカ党みたいに、一枚岩じゃなくて烏合の衆だけどねぇ」


俺「だったら、平和的解決を望む党みたいなのは無いのか?」

エリー「無くは無いけど…極々少数派ねぇ。そもそも私達って、虐げられて来た弱者の集団だものぉん」


マーク「んで、話を戻すが…そーいう指揮系統の上の奴等にしたって、絶対的権力を持ってる訳じゃ無ぇ」

エリー「配下であっても、納得できない事はしなくても良いし…最終的にそれをやるかどうかは自分次第」

マーク「反感買うよーな命令ばっか出す奴は、すぐ下ろされて干されちまうから、高い立場に居座ったりも出来無ぇしな」


カレン「キングダムという名前のくせに………民主主義を通り越して、個人主義なのね」


エリー「そう…皆、王に恩義を感じたり信奉したりはしてるけど、結局は自分達個人の意思でそこに居る…こうしてキングダムが成り立ってるの」

俺「能力を貰うだけ貰って、キングダムから去るような恩知らずな奴等は居ないのか?」

エリー「勿論居るわよぉん。少数だけどねぇ」


マーク「って事で、俺達の常識…物差しを判って貰えたと思うんだが…」

俺「その状態での………王…からの命令…か。キナ臭いどころか、むしろ………」

理央「命令を下した者が、王の名を騙っている…そんな可能性も邪推したくなりますね」


マーク「そう…もしそうなら、そりゃぁ間違い無く反逆行為だ。放置しとく訳には行かねぇ…って俺達は考えてる訳なんだが…」

俺「それに加えて、命令の内容が内容…か」


エリー「だから知っておきたかったのよ…王を騙る存在が狙う、お姫様…そのお姫様が一体どんな存在なのか…」

マーク「もし本当に王からの指令だとしたら…何で嬢ちゃんを狙うのかを、な」

●娘と父の不定形プリズン

カレン「私は………私が何者なのか判らない」

俺「………」

カレン「私は…ずっと、お父様の仇を討つ事ばかり考えて生きて来た…」


カレン「討つべき相手のジョージが死んで…一度は生きる目的を見失って…」

理央「………」

カレン「テロの元凶である王を倒して、キングダムを崩壊させる事を目的にしてた…」


マーク「おいおい…物騒な事を考える嬢ちゃんだな」


カレン「でも…その目的も間違ってて…王を倒しても変わらない事が、今判った」

エリー「………」

カレン「だから………私は自分が判らない。何をすれば良いのか、どうしたいのかも判らない」


俺「だから…教えてくれ。カレンの親父さんの事、判る範囲で良いから全部教えてくれ!」

俺はカレンの手を握り、力強く声を出した。


エリー「成る程ねぇん………ただ、悪いんだけどその辺りの事はミラちゃんが説明したのと同程度しか知らないのよぅ…後は…」

俺「後は?」

エリー「お姫様のお父様の研究が…人為的にP器官を形成する研究だった事。実験体は完全なP器官を持っていた…そんな噂くらいかしら」


俺「人為的にP器官を形成……?それって、超能力を使えるようにするって事だよな?…ってことは」

マーク「王と無関係では無さそう…って事だ」


理央「そうなると…今回、事の経緯を知る人物にしてキナ臭い匂いの元凶が浮かび上がって来る訳ですが…」


俺「木戸………譲二か……!」


俺はその名を口にした

●脅威生存確定アライブ

エリー「そう…お姫様宛の書き置き、あれがジョージの手口なのはもう知ってるわよねぇ?」

俺「あぁ、空から聞いた」

エリー「じゃぁ確認しておくけど…最近、ジョージと接触した?具体的には、ジョージに触られた?」


エリー「お父様が殺された日からは一度も…クリスマスに遭遇する事はあったけど、遠巻きに見てただけで…」

俺「その時…俺が木戸譲二を殺した。偶然だけど、リア充爆散の能力で殺したんだ」


エリー「そうなると………これは中々厄介な問題ね」

空「当の本人…ジョージが死んでるからか?」

エリー「いえ、その可能性は低いんだけど…あ、これはまた後で話すわね。問題は、最後にお姫様が接触した時期なのよ」


俺「ジョージが生きてる可能性が?ってか、問題がそこって事は……そうか……」

エリー「仕組みは判らないけど…お姫様が自分で書き置きを残すように仕組まれてた訳よ。その行動をジョージが最後に仕込む機会があったのが…」

俺「カレンの親父さんが殺された日…つまり……この事は、当時から計画されてた…って事か」


エリー「大正解…嫌ねぇ、一致して欲しく無い事ばっかりぃ…」


俺「で…話を戻すが、ジョージが生きてる可能性ってのは?」

エリー「彼ね…自分の能力を使ってバックアップやら替え玉を沢山作ってるみたいなのよぉ…」

マーク「さすがにキングダム内にゃぁ作って無いらしいが…どこまで信じられるか怪しい物だ」


俺「………え?って事はつまり…俺が殺した木戸譲二は…」


エリー「偽者の可能性もあるし、本物の可能性もある……ただそのどちらにしても、ジョージの意思を持った者はまだ存在してるわよぉ」

カレン「ジョージが…生きて…る?じゃ、じゃぁ…本物と偽者を見分ける方法は!?」

マーク「そりゃぁ、使ってくる超能力で判断すりゃぁ良い」


俺「そうか…記憶改竄以外の超能力を使ってきたら偽者確定…記憶改竄で本物確定…って事だな。となると俺達の当面の目的は…」


カレン「ジョージを探し出して、問い詰める事…ね」

●正体不明のアビリティ

マーク「…って訳で、そちらさんの知りたい事は全部判ったな?んじゃ最後にこっちからの質問だ」

俺「あぁ…後、残ってるのは…」


マーク「小僧…お前の能力だ。お前の能力は一体何だ?」


俺「悪いんだが、その質問には答えられない…と言うよりも、俺自身がこの能力の事を把握し切れてる訳じゃ無いんだ」

マーク「だったら俺達の質問に答えろ。まずはそうだな…2年前の地下鉄崩落事故の時、お前はどこに居た?」

俺「地下鉄崩落事故?ぁー……確かニュースで見たような気はするんだが、当時どこに居たかとかは覚えて無い」


マーク「んじゃぁ質問のし方を変えるか。お前、アシッドとはどう言う関係だ?足土 令っつった方が判り易いか?」

俺「アシッド…あしど……れい?聞いた事があるような、無いような…」

マーク「なら更に直球で聞くぜ?お前…2年前にアシッドを殺したか?」


俺「…………は?」


マーク「その様子だと…無自覚か、俺のアテが外れた…か。そーだな、まずはこれを見てみな」

そう言って、マークは何かのファイルをエリーから受け取り…俺に投げて寄越す。

カレン「……って、これ、強奪されたLv4データファイルじゃない!貴方達が実行犯だったの!?」


マーク「いやぁ…あん時は大変だったぜ。一人も殺さずにこのファイルを奪って来なけりゃぁいけなかったからな…」

エリー「マーク、わき道に反れないで。話の続き続きよぉん」

マーク「っと、そーだったそーだった…そん中の、小僧のデータとアシッドのデータを見てみな?」


俺「な……え?これって……」

カレン「二人とも同じ能力…リア充爆散能力なんて言う特異な能力を持った人間が、二人も居たって事」

マーク「あらぁん?そっちのお姫様は予め知ってたみたいねぇ…」


理央「この件で…一悶着ありましたから」

俺「って……そうか、俺の能力の詳細まで判ってたのは、この前例があったからか…」


少しだけ…少しだけだが、俺は自分自身の能力の事が判って安堵した。

だがその反面…未だ理解できない部分が、俺の中で燻るような感覚に気付きもした。

●疑念深まるサクリファイス

マーク「んじゃぁ、続けるぜ?次にマイケル…和褄 池流のパトリオットだが……」

俺「和褄 池流は…俺が殺した……かも知れない。あの時は意識が朦朧としてて、確証は持てないんだが…多分」

マーク「らしい…な。って事はだ…確実な事が一つある訳だが…」


俺「俺が使える超能力…それを持ってた奴等が死んでる…って事だよな」


空「しかも……アシッドの能力を考えっと、その身に食らって覚えたなんて訳じゃぁ無さそう…と来てる」

エリー「発動条件にしたって、ただの模倣ならそんな所まで真似する必要無いものねぇ…」


エリー「まぁ…ナイトくんが殺した他のメンバーの能力は使えないみたいだし、サイコキネシス限定とか、何かしらの特殊な条件はあるんでしょうけど」

マーク「現状を見た限りじゃぁ、能力その物を危険視せざるを得ねぇわなぁ」


エリー「さて…ここまでの話もナイトくんが嘘を吐いて無いのが前提なんだけど…その様子だと、それも無さそうね」

理央「信じて貰えないかも知れませんが、それは私が保証します」


俺「あ、そうだ…ニヤ先輩や理央の能力で、俺の能力の事が判らないか?」


カレン「ニヤ先輩が読めるのは、はあくまで記憶…貴方が覚えて無い事までは無理って言ってたわ」

理央「私の能力でも…先輩からは、使えるようになった原因は不明で、当たり前のようにその能力を使っている…と言う事しか…」

俺「…そっか」


マーク「結局は解明には至らず…か。まぁ、進展しただけでも良いとするか」

エリー「それじゃ、今日の所はこれでお開きにしましょうかぁ。組織の皆、準備は良い?」


俺「準備って…何のだ?」


エリー「テレパストラップよぉ、最初に言ったでしょぅ?」

●仕込み上々クッキング

エリー「はい、お終い。上手くそれっぽく録れてるから、そっちの携帯に送っておくわねぇ?」

俺「悪いな、こんな事まで手間かけさせちまって」

エリー「良いのよ良いのよぉん。ミラちゃんの安全のためでもあるんだもの」


カレン「テレパストラップを仕掛けて…あえてそれを知らしめる事でテレパスを防ぐなんて」

俺「自分の能力を把握してるからこそ、考え付く芸当だよな…」

エリー「あらぁん?褒めても何も出無いわよぉ」


俺「あ、でも…理央はともかく、カレンが心を読めないのは少し問題が…」

エリー「あ、その辺りは大丈夫よ。起爆範囲は私達と王…それとこの後の計画に関係する情報の部分だけにしたから」

俺「そんな細かい指定まで出来るのかよ…って、待てよ?範囲を指定…それ以前に確認出来たって事は…お前!受信型テレパスも持ってるって事かよ!」


エリー「あら、ばれちゃったぁん?ほら、一応貴方達の証言を確認する役が居ないと駄目でしょう?」

俺「そりゃばれるっての!…ってか、カレンと理央は気付いてたのか!?」


カレン「ゴメン、私は………」

エリー「お姫様は気付かなかったでしょうねぇ…私、この事は考えないようにしてたものぉ。でも…そこのお嬢さんは…」

理央「気付いては居ましたが、出方を見ていました」


エリー「本当…抜け目のないお嬢さんだことぉ」


俺「そう言う事かよ………くそっ、何だこの敗北感」

エリー「若いって事よ」


マーク「さて…無駄話はそこまでだ。んじゃ手前ぇら、また二日後な」

俺「あぁ…また二日後」


マーク「ミラ!もしその小僧に襲われそうになったら、返り討ちにしちまえよ!」

俺「だから、襲わねぇっての!!」


そんな言葉を交わした後、キングダムの面子…マークとエリーとマリオは、廃工場を去って行った。

●継続黄昏カタルシス

俺「マリオって奴…結局最後まで一言も喋らなかったな」

カレン「………そうね」


俺「しっかし…解決するどころか、どんどん謎が深まるばかりか」

カレン「………………そうね」

理央「ここから先は多分…理解する事が、知る事その物が命懸けになって来ると思います」


俺「…そうだな」


理央「せ、先輩も…カレン先輩も…後悔はして居ませんか?進み続けますか?」

俺「判り切ってるくせに、そんな事聞くなよ」

カレン「一人だけ確信を持てない誰かのために、あえて言葉にするために聞いてるのよ。勿論私は後悔してないし、進み続けるつもり」


俺「…………って、誰かって俺か!?…あぁもう…気を遣わせてばっかだな」


理央「そ、そう言えば…カレン先輩」

カレン「何?」


理央「さっきの話…一つだけ訂正させて貰います。カレン先輩の生き甲斐、もう一つあるじゃないですか」

カレン「…え?」


そう言って俺の方を向き、同意を求める理央。だが、俺には心当たりが無く慌てるばかり

………にも関わらず、何故かカレンは戸惑いを落として、落ち着き…俺に笑顔を向けて来た。


そして…

俺は、そんなカレンの笑顔に…ドキッ…と胸が高鳴るのを感じた。

●境界無用のパントマイム

エリー『不味いわねぇ…明後日の計画の事、聞かれたんじゃない?始末するぅ?』

俺『止めろ!やるなら俺だけにしろ!』

マーク『いや…そこまでする必要は無ぇ。ってか下手な仕掛けがありゃぁ、殺した方が面倒な事になり兼ねねぇ』


エリー『じゃぁ…とりあえず拘束して倉庫にでも監禁しとくぅ?』

マーク『そうだな…いや、念のためにそいつら全員にテレパストラップを仕掛けとけ』

理央『マーク…エリー…貴方達は一体何を…』


マーク『そりゃぁ、当日になってのお楽しみって奴だ。ま…組織が無くなっても誰かが助けに来てくれたら…の話だがな』


総統「…以上が、理央くんが録音した内容なのだが…この内容に間違いは無いんだね?」

俺「はい、間違いありません」

理央「本当は通話でリアルタイムでお伝えしたかったんですが…電波が届かない場所でしたので、止む無く録音にしました」


総統「この直後にテレパストラップを施され…監禁された倉庫の鍵が、壊れていたお陰で脱出する事が出来た…と言っていたね」

俺「はい」

総統「この録音に入って居ない範囲で、何かしらの情報は掴んでいるかい?」


俺「いえ、この会話が始まる前は世間話でした。朝食が不味かったとか、髪型が乱れたとかそんな程度の…」

総統「そうか………命懸けの情報収集に感謝する。だが、もう二度と独断で危険な行動はしないでくれたまえ」

俺「はい…すみませんでした」


総統「………」

俺「………」


総統「君達に…これを渡しておく」

カレン「………え?これって…」

総統「持って行きたまえ…私に出来る事は、このくらいしか無いんだよ」


俺「…え?だって、特殊任務以外での銃の持ち出しは禁止で…下手したら総統の立場が…」

総統「持って行きたまえ」


俺「………はい………ありがとうございます」

●希少日常ファイナル

俺「なぁ理央………総統に、どこまでばれてた?」

理央「私達が総統…組織に対して隠し事をしている事。何かを計画している事までは確信していました」

俺「マジか…」


理央「後は…鍵が壊れたと言う証言にも、先輩が何かしらを隠し持っている可能性を考慮していました。逆にそのお陰で信憑性が増したようですが…」

俺「そんな所までか!?」


理央「そして……最初から最後まで、総統は私達の事を心配していました」

カレン「その結果が…ルールを破るリスクを負ってまで、持たせてくれた銃…ね」


俺「そう言えば…今は護衛は?ってか昨日の密会の時は?」

理央「昨日は撒きました。今日は、つけずにいてくれているみたいです」

俺「……そっか」


カレン「明日…ジョージは動くのかしら」

俺「判らないが…その可能性も考えて、オッサンはあんな言い方して注意を煽ったんだろうな」


理央「それで…今夜はどうしますか?」

カレン「念のため…全員固まって行動した方が良さそうね」

理央「では、明日以降の事も考えて荷物も纏めた方が良いですね。場所的に、私の家からで良いですか?」


カレン「じゃぁ、その次が私の部屋ね」

俺「って事は…って、え?もしかして、二人とも俺の部屋に泊まる流れ?」

理央「そうですよ?一番安全な場所ですし、空さんを私達どちらかの部屋まで連れ出すのも難しいですからね」


俺「あ、あぁ…そ、そう言う。まぁうん、そうだよな」

カレン「何?もしかして…また変な事考えてたんじゃないでしょうね?」

俺「は!?い、いや、そんな事…」


理央「考えてました…口にするのも憚られるので、詳細は言えませんが」

俺「いやいやいや!そこまでマニアックなのは考えて無いぞ!?」

カレン「へぇ…そこまでじゃないのは考えて居たのね……」


俺「…………くっ、はめられた…」

理央「………どやぁ」


いや…だから、理央のドヤ顔はドヤ顔になってない。

そんな事を考えながら………俺は、夕焼けに染まる空を舞っていた

●最終出撃プレリュード

「おい、これはどう言う事だ!」

マーク「見て判らねぇか?ウォリック。命令通りターゲットのカレンを連れて来たんだよ」

ウォリック「そうじゃない!何故、他にも組織の構成員が付いて来て居るのか聞いて居るんだ!!」


古びた波止場………そこに停船する豪華客船の前で口論を展開する、マークと…キングダムのメンバーと思わしき男。


マーク「おいおい…どんな手段を使ってでも連れて来いって言ったのはどこのどいつだ?」

ウォリック「そうは言ったが…だからと言って、常識的に考えれば判るだろ!?」

マーク「はっ、笑わせんな。常識なんかを後生大事抱えてる奴が俺等の中に居るってのか?」

ウォリック「この……屁理屈ばかりを…っ」


いつ終わるかも知れぬ口論の中…船から降りた階段に、誰かが居る事にふと気付く。

白いスーツ姿の、オールバックの茶髪の男…

その男がマークとウォリックの間に割って入って行く。


「二人とも、一体どうしたんだい?もう出航の時間は迫っているよ」


ウォリック「いや、これは…」

マーク「ジョージ…やっぱり手前ぇが一枚噛んでやがったか」

ジョージ……その名を聞き、身構える俺達。


ジョージ「おや?ちゃんと連れて来てくれてるじゃないか。ダメだよ、早く船に乗せてあげないと」

そして…そんな俺達を事も無げに一瞥し、ジョージは言い放つ。

ウォリック「いや、でもな…ターゲットだけじゃなく、余分な奴等まで…」


ジョージ「穏便に連れて来るために必要な条件だったんだろう?なら彼等もゲストだ、一緒に来て貰えば良い」

ウォリック「なっ……」


俺「ジョ-ジ…お前、一体何を考えてる?」

ジョージ「これから長い船旅…時間は充分にあるし、理央が居るんだ。覗いてみれば良いんじゃないかな?」


そう言い放って、ジョージは船内へと続く階段を昇り…俺達はその後を追うように階段を昇って行く。

●閉鎖空間クローズドサークル

俺「ここがVIPフロアか…」

理央「物凄く豪華でお金がかかってそうですね…」

カレン「そう?」


俺『まさか…いきなりジョージが出てくるとはな…』


盗聴を警戒し、俺達は理央を中継してテレパシーで会話を行う。


理央『あえて捕まって、可能な限り内側からの情報を集める…と言う作戦でしたが、大分予定が狂って来ましたね』

俺『シージャックする必要が無くなったのは良いんだが、あれだけすんなりと俺達の同行を認めるとなると…』


カレン『罠…の可能性が高いわね。理央はジョージから何か読み取れなかった?』

理央『カレン先輩をキングダムの本拠地に連れて行く…と言う目的以外は何も。多分、最低限の情報だけコピーされた偽者です』

俺『んじゃぁ…ジョージ以外の船内の奴等は?そいつらが罠を仕掛けてる可能性はあるか?』


理央『船員とマークさん達以外のキングダムメンバーは…5人。そのいずれも、ジョージと同程度の情報と目的を持っているだけです』

俺『不意打ちで、仲間ごとこの船ごと沈める…とかじゃぁ無い限りは、一先ず安心って事だよな』

カレン『食事とか、鎮圧用設備とかは?私達を毒とかで動けなくしてくる可能性は?』


理央『その辺りも、私達が大人しくしている内は実行するつもりは無いようです』

カレン『大人しくしている内は…ね』


俺『盗聴や盗撮の類は?』

理央『盗聴はされていますが、盗撮は無いようです』

俺『そっか…盗撮されてないのはかなり助かるな』


カレン『って…何でこんな時にまでいやらしい事考えてるのよ!!』

俺『いや、それは連想するんだから仕方ないだろ!?ってか、いきなり暴力とか振るったら怪しまれるぞ!?』

カレン『くっ………』


俺『しっかし…当面は安全、それは良い事だってのに、そのせいで逆に落ち着かないってのも変な話だよな』

理央『拍子抜け…と言うよりは、違和感に近い物がありますね』


俺『これも…理央が居るから、暗躍は無駄だって判った上での対応なのかもな。理央さまさまだ』

理央『そんな事…あ、でもその心の緩みを狙っているのかも知れません。油断だけはしないで下さい』


俺『あぁ、そうだな…』


眼前に危険は無いが、一時の油断すら許されない…俺達にとって厳しく長い…長い船旅が始まろうとしていた。

●崩壊必然エリュシオン

俺「俺…ロブスターなんて、初めて食った」

理央「私も…キャビアとかフォアグラとか、一生食べる機会が無いと思ってました」


俺「ベッドにしたって、あれ…明らかに材質が別物だったよな」

理央「多分…値段を気にしたら負けとか、そう言うレベルだと思います」


そう…俺達は厳しく長い船旅を覚悟していた……訳だが………

待ち受けていたのは、予想を裏切る程に快適な船旅だった。


理央「着替え…持って来なくても用意してありましたね」

俺「いや、持って来て正解だっただろ。着心地は良くても、絶対落ち着け無いぞ」

理央「………そうですね」


俺「いや、駄目だ…こうやって俺達を籠絡するのが目的かも知れない」

理央「そうですね…それなら、船内のメンバーが知らなくても実行可能ですから…」

カレン「え?籠絡って、どの辺りで?」


俺「えっ」

理央「えっ」


俺「あぁ………そう言えばカレンってお嬢様だったよな…」

カレン「え?何?ちょっと止めてよ。私だけ変みたいに言わないで!?」


理央「あ…目的地が見えて来ました」

窓の外を見て、声を上げる理央。そして、理央に続いて窓の外に視線を向ける俺とカレン。

俺「あれが…キングダムの本拠地…か」


大きく切り立った崖を内壁に持ち、外側に町並みのような建物が並ぶ、三日月型の島…キングダムの本拠地。


俺達は緩み切った心を引き締め直し、その島の姿を目に焼き付けた。

●踏み込む先エンドレスアビス

ジョージ「さて…皆、船旅はどうだった?不自由は無かったかな?」

俺「お陰様で、今の所は…な」


目的地…三日月型の島の港に着き、船を降りた俺達。

ジョージは誰かと携帯での連絡を取り…それを終えた後、俺達を一瞥しながら問いかける。


俺「それで…この後、俺達をどうするつもりだ?」

ジョージ「どうするもこうするも…この後二人には、王に会って貰う予定だよ?」

俺「その言葉をどこまで………ん?」


俺「…………二人?」


ジョージ「そう…王に会えるのは君とカレンお嬢様の二人だけ。理央は勿論、マーク達も………ここまでだ」


マーク「ちっ…さすがに最後まで羊の皮被り続けられやしねぇか。だがな………」

ジョージ「ん?あぁ、違う違う」


マーク「何が違うってんだ、大人しくやられる俺達じゃ無ぇぜ!」

ジョージ「だから、そう言う意味じゃ無いんだって。ここで始末とかじゃなくて、ここから先は立ち入り禁止、キープアウト。判る?」

マーク「今更そんな戯言を………おい、嬢ちゃん。ジョージは…」


理央「嘘は…吐いていません。言葉通り、私達をここで待機させるよう指示されたみたいです」

マーク「……はぁっ?マジか?」

理央「はい……でも、逆にどんな裏があるのかも………」


ジョージ「ま、その辺りまでは覗けなくても仕方ないよ。僕が知っている情報も指令もここまでみたいだからね」

俺「…自分の事のくせに、他人事みたいに言ってくれるじゃないか…」

ジョージ「そりゃぁ当然、僕は僕であって僕じゃ無いんだもの」


くそっ…とことん食えない男だ。

●進み行く先ゴートゥーヘル

俺「それで…もしそれを断るって言ったら?」

正直な所、情報収集能力の面で筆頭の理央と別行動になるのはかなり手痛い。

少しでも付け入る余地があるならば…と、探りを入れるが…


ジョージ「残念だけど、君達に拒否権は無い。忘れてるかも知れないけど、ここはキングダムの本拠地だよ?」

付け入る余地どころか、交渉の余地すら無いようだ。


俺「なら…一つだけ約束してくれ。理央達の安全だけは…」

ジョージ「だからそれは大丈夫だって…本当、僕って信用無いんだなぁ」

カレン「貴方のどの口が信用なんて言葉を吐くのよ…」


と…不毛な会話をしてる最中、とある物に気付く。

こちらに向かって来る、一台の黒塗りの車………

法定速度という概念など無視して、減速の気配も見せぬまま突き進んで来るその車。


このまま直進すれば、俺達にぶつかる。

俺はカレンと理央を守るべく、手を伸ばす……のだが

車は直前で急激な方向転換を行い、盛大にU字のブレーキ痕を残しながらジョージの背後に停車した。


ジョージ「おっと、そうこうしている間にお迎えが来たようだ。さぁ、二人とも乗っておくれ」


あれだけの危険な運転を披露した車に搭乗すると言うのも気が気では無い…が、それ以上にジョージの言う事に素直に従う事に危機感を覚えずには居られない。

しかし…そんな状況を打開するだけの選択肢を持ち合わせていないのもまた事実。

虎穴に入らずんば虎子を得ず…車の件はさて置いても、ここから先は安全とは無縁の道。自分達で決めた作戦ながら、今更になって怖気付いてしまっているようだ。


俺は震える足を抑えながら車の後部座席に乗り、それにカレンが続く。


走り出す車………先程の無茶な運転とは打って変わり、運転手は無表情で、まるで機械のように車を運転する。


そして道中………俺は車に揺られて落ち着きを取り戻し、余裕が出てきた所で窓の外を見る。

道があり…家があり…店があり、人が居る。端から見れば普通の町並み………そして


カレン「え?……ここ…そんな……どうして…?」


街から少し離れた山の中。屋敷の前で車が停まり、カレンの口からそんな言葉が零れる。

だが…その言葉の意味を確かめる暇すら与えられないまま、それは現れた


ジョージ「予定より遅れたみたいだけど、何かトラブルでもあったのかな?さぁ、王がお持ちかねだよ」

俺「またジョージ…かよ」


黒い執事服に黒い髪…線のような細い目、白い手袋にモノクル。

見た目こそ違うが、喋り方で判る。先程まで一緒に居たジョージとはまた別人の、ジョージが俺達の前に現れた。

●予想不可能アンブッシュ

俺「で…この場面でこうしてまた別のお前が出てきたって事は、今度こそお前が本物か?」

ジョージ「さぁ?どうだろう?確認してみたらどうだい?」

俺「誰がその手に乗るか。いや、その手に触るか」


屋敷の中を、ジョージの案内で進む俺達。


ジョージ「あ、もしかして僕の超能力の発動条件知ってる?聞いちゃった?ざーんねん」

俺「白々しいな…そのために理央達と分断したくせに」

ジョージ「分断?あぁ違う違う。あれも言葉の通りだよ?君達だけが招待されてるのさ。ひねくれた考え方をしないでよ、心外だなぁ」


俺「ひねくれたのは誰のせいだ、誰の!大体、こうやって疑われんのも、全部お前の自業自得だろうが!」

ジョージ「んー………僕ってそんなに君にちょっかいかけてたっけ?確か初対面だよね?」

俺「俺の目の前に居るお前はな!だが生憎俺自身はお前と初対面じゃ無いんだよ!」


ジョージ「あれー?………っと、お喋りはここまでみたいだ」


ジョージが扉の前で足を止め、それに続くように俺とカレンも立ち止まる。

俺「そう言えば…カレン。この屋敷に来てから、ずっと黙ったままだよな?どうかしたのか?」

カレン「あ、ゴメン…大丈夫。多分私の記憶違い…気のせいだから」


ジョージ「あぁそれ…多分記憶違いでも気のせいでも無いよ」

扉を開きながら言い放つジョージ。その先…扉の向こうに広がるのは、豪華な作りの大広間

そして………テーブルを挟んだ向かい側の席に座った、一人の男。


察するに、この男こそが……王。


俺は、身構えながら王を見据える………が


王「よく戻って来てくれたね…カレン」

カレン「お父……様……っ……」


予想すらしなかった言葉が目の前で交わされ、俺の思考を真っ白に塗り潰して行った。

●明鏡止水黒く染めるインク

俺「王が…カレンの親父さん…?」

反復し、思考の中へと沈めるその言葉と事実。

それは水の中に落ちた墨汁のように拡がり、俺の中に溶けて行く。


そして………仄暗く染まった思考の中を、稲妻のような電気信号が走り抜けた


俺「そうか………カレンの記憶は、親父さんの生存を隠すためにジョージが改竄した物…偽装工作か」

ジョージ「ご名答。君、意外と物分りが良いんだねぇ」

カレン「………え?」


俺「だが、それはそれで腑に落ちないな。何で、カレンをみすみす組織に渡した?記憶を改竄してる暇があって、助ける時間が無かったとは言わせねぇぞ!」

ジョージ「あぁ、それね。それに関しての説明は僕より適任が居るよ」

と言って王の方を向くジョージ。それに応えるように、王が俺とカレンを見据える。


王「カレンには…弱者の持つ弱さを知り、生き抜くための力と意思を身に付けて貰う必要があったのだよ」

俺「そのために…そのために、死ぬほど苦しんで辛い目に遭っても良かったってのかよ!」

王「何と罵られようと構わない…カレンが…カレンまで、あの子の母のように、組織に消されるくらいなら……私は…悪魔にでもなる!」


 俺「………ふざけんな!!」


王「何…?」

俺「カレンのためだぁ?笑わせんな!アンタの言葉は破綻してるじゃねぇか!」

ジョージ「へぇ…」


俺「カレンのためだってのが前提なら、カレンを悲しませてんじゃねぇよ!苦しませてんじゃねぇよ!楽しませてやれよ!幸せにしてやれよ!」

王「それが出来ればしている…出来なかったからこその苦肉の策だ。それを判っては貰えないか?」

俺「判らねぇし、判りたくも無ぇ!アンタは諦めてただけじゃねぇか!」


王「…………」

●戯言決壊ダークネス

俺「カレンを大事にしたい…その気持ちは俺だって判る!あぁ、痛いほど判るさ!でもそれだけじゃ駄目なんだよ!」

王「ならば…何が間違っていると言うのだね?」

俺「そこにカレンの願い…気持ちが、心が無ぇ!カレンの心を置き去りにして、自分の願いを押し付けてるだけじゃねぇか!」


王「………」

ジョージ「プッ……クク……クハハ…ッ…」


俺「俺は違う…俺はカレンと一緒に居る!これからも一緒に居る!カレンのしたい事に、とことん付き合う!」

王「その結果、カレンの身を危険に晒す事になってもかね?」

俺「カレンが望んだ道なら、それも受け入れる。だがな…そうならないように俺がカレンを守る!そう決めた!」


王「………」

ジョージ「ククッ…ハハハ!駄目だよ、もう駄目。彼の方が一枚上手だ、勝てないよ」


カレン「……………馬鹿。もう…何でそんな恥ずかしい事言えるのよ。そんな事言われたら…私、悩む余裕すら無くなっちゃうじゃない」

俺「悪い。でも…悩んでるカレンより、そうやって振り回されて困ってるカレンの方が…何て言うか、らしいしな」

カレン「…馬鹿。振り回してる本人が言うセリフじゃ無いわよ」


ジョージ「ま、これはこれでしょうがないか…嘘で固めた言葉の重みなんて、所詮はこんな物だよね」

俺「嘘…だって?」

王「ジョージ…貴様…っ!」


ジョージ「とりあえず、本当の事だけ教えておいてあげようか?」

王「それ以上喋るな!それ以上は王への反逆だぞ!」


ジョージ「やーだね。とりあえず…目の前の、カレンお嬢様のお父上が王と呼ばれている事、超能力を与える存在で居る事。これは本当」

いつの間に奪ったのか、カレンがホルスターに仕舞っていた銃を片手に持ち…その銃を回しながら語り出すジョージ。

ジョージ「組織が襲撃してきた際…お父上の指示で、僕がカレンお嬢様の記憶を改竄したのも本当。ただし………」


王「ジョー……ジィッ!!」

ジョージの言葉を遮るべく跳びかかる王。


……だが


カレン「お父様―――」


 王の額を、ジョージの放った凶弾が貫いた。


ジョージ「お嬢様の安全のため?お嬢様に弱さを知って貰うため?そんなのはデタラメの嘘っぱちさ!」

●残虐無慈悲のパラベラム

カレン「嫌あぁぁぁァァぁ―――!!!」


ジョージ「あぁ…そうそう、こんな僕でも、お父上に一つだけ感謝してるよ。お嬢様と言う存在をこの世界に生み出した事をね」

ジョージ「ありがとう…って言っても、聞こえてないか」


俺「ジョージ…手前ぇぇぇ!!!」

ジョージ「怒ってるのかい?変だな…君達の目標だったよね?打倒キングダム、王の殺害。あぁ…君達自身の手でやりたかった?ゴメンね、気が利かなくて」


カレン「お父様…お父様っ!!」

指一つ動かぬ亡骸となった王…そしてそれを抱きかかえるカレン。

何時、どのタイミングからだろうか…俺の中の怒りは、頂点に達していた。


俺「ジョージ…手前ぇだけは絶対に許さねぇ!!」

ジョージ「おかしいなぁ…あぁ、もしかしてまだ気付いて無いのかい?駄目だよ、ちゃんと落ち着いて考えないと」

俺「どの口が…ほざきやがる!」


俺が放ったパトリオットを、ギリギリの距離まで逃げて避けるジョージ。

パトリオットによる攻撃を止め、銃を構える俺。


ジョージ「マーク達から聞いて居ないのかい?カレンお嬢様のピースは全部揃ってる筈なんだけどなぁ?」

銃撃戦ならば、パトリオットを使える俺が有利。だが…その事はジョージも把握している様子。

ジョージは、一定の距離を保ちながらカレンの後方へと回り込み…


ジョージ「まぁ良いか…届かないなら届かないでそれでも良い。気になるなら、ここから追い上げて追い付いてご覧よ」

カレンの頭を掴み…俺の持つ銃に向けて突き付け、盾にして来た。

そして…………あろう事か、ジョージが持つ銃の銃口を、カレンのこめかみに突き付け………


俺「……ジョージィィィッッ!!!」


ジョージ「撃つな!動くな!撃ち落すな!避けても殺す!!」

俺「ッ―――」


ジョージの言葉に俺が怯んだ瞬間………俺に向けて放たれる2発の弾丸。


衝撃と共に、その弾丸が俺の胸へと突き刺さり…心臓を突きぬけ、肋骨をへし折りながら背中から飛び出て行った。

●無限飽和のリザレクト

カレン「嫌…いや……そんな…嘘……いや……」

子供のように泣きじゃくり、ぼろぼろと大粒の涙を零すカレン。


ジョージ「おやおや、君がカレンお嬢様を守るんじゃ無かったのかい?そう決めたんだろう?」

俺を貫いた銃弾が、心臓と一緒に肺の一部を抉り取り…溢れ出た血液が気道を塞いでいる。

悔しいが…反論の言葉を搾り出す事も、銃の引き金を引く事も出来ない。


ジョージ「しかし残念だね…もう少し我慢して大人しく出来て居れば、君も世紀の瞬間に立ち会えたって言うのに」


カレン「離して…離してっ!死んじゃう!彼が死んじゃう!!」


カレンが俺を見ている。

…駄目だろ、カレンにそんな悲しそうな顔は似合わない。


ジョージ「さぁ…新たなる王の誕生だ。いや………王の帰還?復活かと言うべきかな?」


カレン「死なないで!死なないで!お願い!お願いだからっ!!」


でも、俺から何か言ってやる事も出来ない。


ジョージ「さぁ…目覚めるんだ。その偽りの仮面を壊し、本当の…………」


俺が出来る事と言ったら………あぁ、そうだ、このくらいなら出来るかも知れない。


  俺は………カレンに、精一杯の笑顔を向けた。


ジョージ「なっ………これ…は……リーの…………レパ………………」


耳の隅に雑音が入ってくるが、それが何を言っているのか判らない。


   俺の意識は…深淵の中へと落ち、消えて行った―――



     ―NEVER END―

前略、今回のレス返しを行わせて頂きます!

>274 その認識でおkです

>275 カレンルート(ただしハッピーエンドとは言って居ない)です

>276 やり直しはきくので、読みたいと思ったルートを選択して頂いて結構ですよ!

>277 更新が遅い作品は人が離れる法そk(ry そして加速ありがとうございますorz

>278 ルート選択ありがとうございます。

>287 はい。選択により生じた変化で色々な事が挿し替わり、それをメインに書かせて頂きました。

>293-294 >305 つい魔が刺してやりました!でも後悔はしていない!

膝枕は…うん、今はちょっとだけ目を逸らしておいてあげて下さい。

>316 まだ爆散しない! 乙ありです!

>328 作者が銃に詳しく無いだけなので、そこは突っ込まないで下さ(ry


ある程度察されたとは思いますが、こんな感じの形式で各ルートを進行させて頂きます。

はじめての安価挑戦で皆様を色々と振り回してしまって居ますが、これからもお付き合い頂ければ幸いです。

―ねぇねぇ今どんな気持ち?ねぇねぇ?―

●∥∥∥

ショウ「はいはい、おつかれさまー☆」

ショウ「いやぁ残念。今回も、BAD ENDだったねー」


ショウ「それじゃぁ改めて、三周目のルート選択行ってみようか☆」


ショウ「Aのカレンルート…は、どっちも終わったから」


ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート………」



ショウ「…………あれ?」



ショウ「あれあれ?………BAD END…じゃ、無かった?」

ショウ「ふぅん………そう言う事か、やってくれるね。じゃぁ、僕もそれに合わせようじゃないか」



ショウ「じゃ、改めて…」


ショウ「どうやら今回、新たな可能性が開かれたようだ。新たなルートを捏造できるようになったよ」


ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」

ショウ「D…黄色ルート」

ショウ「Σ…シグマルート」


ショウ「ルート選択は >336 くんにお願いしちゃおうか☆」

ショウ「理央ル-トだね?」

ショウ「じゃぁ次に、本物の世界【厳しさの世界】か 偽者の世界【優しさの世界】か…>339くんが決めておくれっ☆」

順当に厳しさかね
はて?カレンの時は「この世界初偽物」的な流れになったんだっけ?

初ってなんだ…「は、」の間違いだ

―操り人形は電気執事の夢を見るのか?―

○人形姫と人形館

私「あれが…ミュー?まるでフランケンシュタインの怪物みたいですね」

ガラス張りの壁の向こう側…寝台の上に横たわった一人の男性を見ながら、私は呟いた。


ジョージ「フランケンシュタイン、あるいは現代のプロメテウス…そうだね、うん。フフフ…」

私「お兄様、一体何が可笑しいんですか?」

ジョージ「いや、こちらの話さ。そう言えば…今日の実験の事は何も聞いて居ないんだよね?」

私「はい。私の能力…送信型テレパスの研究に関する実験とだけしか」


「あぁ、そちらのお嬢さんが今回のコンダクターですね?」

研究衣を来た男が、私とお兄様に話しかけて来る


私「コンダクターとは?それと、貴方は?」

「失礼しました。私の名前はティム・フランケンシュタイン、皆からはヴィクターと呼ばれて居ます」

フランケンシュタインに、怪物。成る程、確かにここまで符合すれば、ヴィクターなんてニックネームを付けたくなるのも頷ける。

お兄様が先程笑っていたのもこれが理由だろう。


ヴィクター「そしてコンダクターと言うのは、言葉の通り彼の…」

怪物の方を向き、そこで意味深に言葉を止めるヴィクター


私「フランケンシュタインの怪物の…花嫁?まさか、私が…?」


どこまで物語になぞらえているのか、どこまで本気なのか…

えもしれぬ不安が心臓を早鐘と変える中、私はその言葉を搾り出した。

○私の住むべき新たな家

ピピピピ…ピピピピ………

まどろみの中から、私を引き摺り出す電子音。

私は目覚まし時計のアラームを切り、寝ぼけた眼を指で擦る。


私「またあの夢……」

そう…ずっと前、私がキングダムに居た頃の記憶。

最近はあの時の事を…夢に見る日が多い気がする。


洗面所…あの頃のように髪を下ろしている私の姿。

私はこの姿が好きでは無いので、髪を整えてからいつものようにツインテールに束ねる。


台所…今日は目覚めが良く無いので、目玉焼きとフレンチトーストで簡単に済ませる。

テレビから流れる映像と音声に混じり、私の頭の中に飛び込んでくる雑音と喧騒

私はようやく目が覚めた事を自覚しながら、朝食の片付けに入る。


再び洗面所…歯を磨き、先輩から貰った怪獣型の歯ブラシホルダーに歯ブラシを置く。

余談ながら、この怪獣はロブスターだか海老だかの味がするらしい


私「ロブスター…一度食べてみたいかも」

勿論、怪獣の話では無く本物のロブスターの話。


私「後は…」

郵便受けの中身を取り出し、確認する。

スーパーのチラシに、どうでも良いようなプリント…その中でも一際目立っているのは、和紙の封筒


私「お爺様から………」

●始まった場所は判らない

俺「……………」

理央「あ、あの……先輩。何か…?」

俺「ちょっと待ってくれ。あとちょっと………こう…」


いつもの昼休み…いつもの社員食堂…いつもの理央…にも関わらず、何故か違和感を覚え…理央を観察する俺

化粧…と言う訳でも無く、異変があるようにも見えない。

瞳の奥を覗き込むくらいまで近付いても判らないので、今度は遠ざかって見てもみる


理央「え?え?あの、先輩…近っ………」

俺「あぁ、そうか。今日はツインテの位置がちょっと上…ついでに少し後ろなのか。ツンデレ…いや、ちょっと強気キャラ風味か?」

理央「え………さっきからずっと見てたのって、その事ですか?」


そして、やっとの事でその違和感の正体に気付く。


俺「ん?そうだけど、どうかしたか?」

喉の奥に刺さった小骨が取れたような…そんな感じだろうか

俺は理央に言葉を返すが、理央は何故か納得いかない様子。


理央「…………なっ…何でもありません」

おまけに、何故か臍を曲げてしまっている。


俺「え?俺、何か気に障るような事言ったか?したか?」

理央「…知りません」

そっぽを向き、そのまま立ち上がる理央。


食べ終えて空になったトレイを持ち、最後に一度だけ俺を見る。


理央「そ、それよりも…退勤した後の事、覚えてますよね」

俺「あ、あぁ…カレンと一緒に、猫カフェだったよな?」

理央「では、お願いします」


そしてトレイを片付け、食堂を去る理央

乙女心と秋の空とは言うが、初夏の空でもサッパリ訳が判らない。

用法が合っているかどうか判らない、そんな言葉を用いて達観しながら…


俺は一人とり残されたまま、食事を続けた。

●始めるべき場所は判っている

カレン「それで…どうしたの?」

俺「いや、俺も理央から何も聞いて無いんだ」


猫カフェ…と行っても猫が居る喫茶点と言う訳では無く、ただの店名

それも、ちゃんとした名前があるのだが…あえてこの通称で俺達は呼んでいる。


あと…閑古鳥が鳴くような日時では無い筈なんだが、店内に客の姿が殆ど無く

…ここからは死角の反対側の席から、言い争いのような声が聞こえて来るだけだった。


理央「予め内容を言ってしまうと尻込みしてしまいそうだったので、あえて伏せさせて貰いました」

俺「………え?俺が尻込みするような内容?俺、また何かやらかしたか?」

理央「いえ、先輩では無くカレン先輩が尻込みするような内容です」


理央の言葉を聞き、身を強張らせるカレン

だが、それならそれで俺がするべき事が一つある。


俺「あー……カレンに用なら、俺は席を外しとくか?」

伝票を持って立ち上がる俺…だが、それに対して理央は手を付き出して

理央「いえ、先輩にも関係がある事です」


話に関係の無い邪魔者は、ここで退散…しようとしたのだが、理央により引き止められた。


理央の超能力は、広域リーディングと送信型テレパス

テレパス傾向の強いP器官に加え、許容範囲の広い人格を持った理央だから持てる…ぶっちゃけチートに近い情報収集能力だ。

そんな理央の前では俺達の隠し事など丸裸同然…現にこうして意味深な事を言われてもそれが……どれの事なのか……と考えるばかりで、特定など叶わない。

結局の所、真意を知るには理央の発言を待つ以外の手段が無く、切り出されるのを待つだけのまな板の上の鯉状態である。


俺「で…一体何の話だ?」

理央「私がチームに加わる事になった日の事ですが。先輩がコピー室の前で聞いたカレン先輩の言葉…覚えてますよね?」

俺「………」

カレン「…………」


そして理央は…よりにもよって、俺にとってもカレンに取っても触れられたく無い急所を抉って来た。

●更地にする所から始める

理央「あれ、先輩の能力を維持するための…先輩がリア充で無いと錯覚させるための嘘です」

俺「…………は?」

カレン「なっ…ちょっと理央!貴女、何を言ってるか判ってるの!?」


理央「それと…先輩は先輩で、空さんとの一件でパトリオットを使えるようになっています」

カレン「………え?ちょっ…ちょっと待って!?パトリオットって、和褄 池流の…!?」

理央「正確には、和褄 池流のサイコキネシスと炭徒 美由のクレアボヤント…その両方で形成されるパトリットですけどね」


俺「いや、待て………何で今そんな事を言うんだ!?」

理央「今の状態が…私が嫌だったからです」

俺「………はぁ!?」


理央「ぶっちゃけた話、カレン先輩は先輩の事が好きです。先輩のために自ら泥を被るくらいにらぶらぶです」

カレン「ちょっ……ちょっと理央!!」

顔を真っ赤にして理央の口を塞ぎにかかるカレン。だが理央はそんなカレンの手を避け、更に言葉を続ける。


理央「そして…先輩は先輩で、当然のようにカレン先輩の事が好きです」

俺「おまっ………」

理央「裏切られても、利用されても…それでも好きで好きで、カレン先輩の力になろうとしてます。ほら、図星を突かれて赤くなっています」

俺「っ………」


俺「で……でだ!今それをここで暴露しといて、理央は一体何がしたいんだ!?」

理央「先輩」

俺「な…何だ?」


理央「好きです」


カレン「…………えっ?」

俺「………………………は?」


理央「判って居ないようなのでもう一度…私は先輩が好きです。でも…今の関係のまま先輩に迫るのは嫌だったので、関係を清算しました」

俺「……………」


驚きの余り…俺は絶句し、パクパクと口を動かすしか無かった。

●石橋を叩いて崩すところから

理央「カレン先輩だけでも強敵だって言うのに…空さんだなんて言う強力なライバルまで現れて………どうしろって言うんですか、本当」

俺「いや待て、そこで何で空の名前が!?ってか、理央が俺の事を!?え?え!?」

理央「理解してくれるまで何度でも言いますよ。私…播磨 理央は先輩の事が好きです。あと、空さんも先輩の事が好きです」


俺「いやいやいやいやいや!無い!色々と無い!俺に限ってそれは無い!」

理央「自覚して下さい。先輩は今や、非リア充では無くリア充です!」

俺「無い!それは無い!カレンからも何か―――」


と、カレンに助け舟を求めるが…カレンは完全に固まってフリーズしてしまっている。


理央「これが横恋慕だと言う事は判って居ます。でも…私の気持ちに嘘を吐く事は出来ません」


今までに見せた事無い程真剣な表情で告げる理央…

はぐらかす事なんて出来ない。俺は覚悟を決め…呼吸を落ち着ける。


俺「気持ちは嬉しい…でも、正直色んな事を一度に言われて心の整理すらまだ付いて無いんだ。だから、理央の気持ちに返す言葉すら見つからない」

理央「今はその言葉だけでも充分です。また後日…先輩が全部飲み込んでから返事を下さい」

俺「悪い…済まねぇな」


カレン「………あ、あの……ゴメン。私からも…質問して良い?」

そして、やっとの事で再起動を果たしたカレン。

自身を置いてきぼりにして進行した事態を把握すべく、その声を上げた。


俺「あー………っと、そうだよな。カレンもすぐには追い付けないよな…んで、何を聞きたいんだ?」

カレン「空って………誰?」


………………そこからか

●隣のお宅へ視察に向かう

理央「未来 空、17歳女性…キングダム所属。ヴァルハラオンライン上での名前はhasewo。三年前に先輩と知り合って、同じギルドに所属」

理央「版権名の男性キャラのため、先輩は彼女の事を男性と思い込んで居ましたが…リアルでオフ会をした事により女性だと判明」


空「何だよこのちびっ娘…ってか、俺の事喋ったのか?」

理央「ちなみに本人は…レズの性癖を持ち、ネット上ではネナベをして女性を釣っていた…と証言して居ますがこれは嘘で、性経験皆無の上に処女です」


俺「………」

空「な…何でそんな事まで!?いや、そこで黙んなよ!ってか余計な事言ってんじゃねぇよ!」

俺「あー…っとな、その子の名前は理央。複合リーディング能力持ちで、相手の事を何でも読んじまうんだ」


俺に呼び出されてカフェに訪れ…理央の手による丸裸にされて行く空。

売り渡した身で申し訳無いのだが、俺は理央を止める手立てなど持ち合わせいない。

そのため…ただただ成り行きを見ているしか無かった……


理央「………そして現在は、空さんを匿うと言う名目で先輩と同棲中」

俺「いや、同棲じゃなくて同居な!?ってか、居候だよな!?」

が…理央のその言葉で空気は一転。


俺は慌ててフォローを入れるが、カレンは尋常では無い気配を纏いながらこっちを見ている。


空「いや…ってか何だ?これは一体どー言う事だ?コイツ等は組織の人間だろ!?」

理央「あ、その点は心配無用です。組織側に貴女を引き渡すつもりはありません」

空「だったら、何でわざわざ俺をこんな所に…」


理央「宣戦布告をするためです」


空「………は?」

理央「先輩の恋人…その立場を勝ち取る戦いに、私も参加します。そして負けるつもりも無い事を、ここに宣言させて貰います」

空「…………へぇ、そう言う事かい。良いぜ、受けて立ってやんよ!」


空と理央が、山猫と兎のオーラを纏いながら火花を散らす中…

ふと気付けば、ジト目で俺を見据えるカレンの姿。


嗚呼………俺は一体どうすれば良い?どうなってしまうんだ?

●そうだ石橋の亡骸で塀を作ろう

空「………で、何がどうしてこうなった!?」


次の日…再び猫カフェで落ち合った俺達だが…そこで待って居たのは、キングダムのメンバー…

マーク、エリー、マリオの三人だった。


マーク「そりゃぁこっちのセリフだ!ミラ、お前が行方不明になってどんだけ……い、いや何でも無ぇ!とにかく…っ」

エリー「あらあぁん、素直じゃ無いわねぇ。あれだけ心配してたくせにぃん」

マーク「だ、黙りやがれ!!!」


俺「で…俺も聞くが、どうしてこうなってる?」

カレン「それは、えっと……まず貴方が来る前に、私達が先に集まってたんだけど。そこに彼等が来店して来て…」

俺「不運にも、遭遇しちまった…か」


カレン「しかも、見ての通り彼女の知り合いだったみたいで…」

俺「誤魔化しも出来無い、逃げられない…って訳だよな」

理央「…と言う訳で」


理央「丁度良い機会なので、親睦を深めつつ情報交換を行いましょう」

「「「「「何でそうなる!?」」」」」


理央「カレン先輩の書き置きと拉致の件…お互いに気になって居ますよね?」

カレン「え?拉致って何?どう言う事?」

マーク「書き置き…だと?いや、ってか待て!何でその事を知ってんだ!?」


理央「ほら、情報交換…したくなったんじゃ無いですか?」

●崩落地帯にご用心

マーク「元々乗り気の指令じゃぁ無かったが…こりゃぁ、ジョージの腹ん中を探らにゃぁいけねぇみてぇだな」

俺「それじゃ…オッサン達は木戸譲二の方を調べるとして、俺達はどうする?」

理央「話を聞いた感じでは、他にも何か仕組まれて居そうですから…組織の方を調べてみようと思います」


情報交換を終え、陰に隠れたジョージの存在に辿り着く俺達。

空の仲介もあってか、マーク達とは目的や利害が一致する結果となり

この場の騒動は収束へと向かい始めた………恐らくは皆がそう思っていたのだが…


新たな騒動の火種は、唐突にその頭角を現した


理央「………………そんな…まさか、ヴィクター………?」

店の外…明後日の方向を向いたま大きく目を見開き、驚愕の表情を浮かべながら…理央が呟いた。


俺「ヴィクター?何だそれ?」

理央「あ、いえ………何でもありません」

俺「いや…明らかに、何でも無いって様子じゃ無いだろ」


理央の様子を案じ、俺は更に問い詰める


理央「………………」

だが、理央の方は一向にそれ以上の事を口に出そうとはしない


まぁ…誰しも喋りたく無い事の一つや二つあるだろうし、俺達に関係のある事なら理央の方から話してくれる筈か。

こうなってしまっては、無理に聞き出すのはただの無神経だろう…

そう思い、俺はそれ以上の詮索はしない事にした。

○足跡探す路地裏

猫カフェでの一件を片付け、解散した私達。

各々が自らの事情に奔走する中、私は店から200m程離れた路地裏に訪れて居た。

この場所で私が探しているのは―――


知覚範囲ギリギリの場所を掠めて行った存在………

キングダムに居た頃、研究所で出会った………


   悪魔のような男


私は周辺の記憶を遡り、ヴィクターを探す…けれども、読み取れるのはヴィクターの乗った車がこの道を通り過ぎたと言う事だけ。

せめて何か落とし物でもしていてくれれば、そこから情報を引き出す事も出来たのだろうけど…それも無し。


理央「あの…すみません、理央です。今から言うナンバーの車について調べて欲しいんですけど………あ、はい。事情は確信を得てから話します」

私は組織に電話をかけ、ヴィクターの乗っていた車のナンバーを告げる。


何故あの男が生きているのか。その上、日本…しかもこの地区に何の目的で来て居るのか

今はその片鱗すら知る事も出来ないけれど…どう考えても悪い方向に転がる未来しか浮かんで来ない。


あの男はそう言う男だ

私はあの男の行為を許す事は出来ないし、するつもりも無い。

そして…あの光景を忘れる事など出来ない。


思い出しただけで私の心臓はバクバクと嫌な音を立てて高鳴り、全身の毛穴から汗が噴き出て行く。

何とかしなければ…きっと、事が起こる前に何とかしなければ…取り返しの付かない事になってしまう。


私が…私が止める


では、どうすれば良い?どうするべき?

そうだ…せめて先輩達に、身の危険が迫ってるかも知れない事だけでも伝えないと―――


振るえる手で携帯を持って、電話帳を開き

先輩の番号を選び、指先に力を込める。


しかし…限界まで張り詰めた私の意識は、そこで途切れてしまった。

○人形姫と怪物

私「ぁ…………ゃ………いやっ……来ないで……」


ジャラジャラと金属が擦れ合う音が響く、明かり一つ無い室内

暗がりの中で蠢く影が、不気味に光る目を私に向ける。


金属に覆われた指が私の頬に触れ、そこから全身に向けて寒気が駆け巡る

私は喉の奥から掠れた声を絞り出すが、身体は震えに支配されて指一本動かす事が出来無い。


私「た……たす……助け………ヒッ―――」


触れた指先が私の頬を傷つけ、熱く赤い雫を滴らせる。

暗がりの中から顔を近付ける、其れ…ヴィクター・フランケンシュタインに創られた、名前を持たない怪物。

幾つもの人間の顔をツギハギにして作られれ、飛び出した金属を隠そうともしない醜悪な顔


その口元から伸びた舌が、私の血を舐め取り…今度は首元へと指先が伸びて行く。


私の中を駆け巡る感情は恐怖

怪物に対してか、死に対してなのか…その正体すら判らない恐怖の渦が私を支配する。


引き裂かれる服…

怪物の口から滴り落ちる唾液…


そして―――

●目覚めた場所は部屋の中

理央「――――――――ッ!?」

俺「――のわっ!?」


奇声と共に跳ね上がる理央の上体。その行動の結果、ぶつかりあう俺の額と理央の額。

奇襲とも言える一撃に対し、防御行動などと言う物が間に合う筈も無く…拳よりも重たい一撃により、俺の脳は大きく揺さ振られた

が……それは一撃を繰り出した理央の方も同じ様子。額を押さえながら、蹲ってふるふると震えて居る。


俺「っ……たた……理央…大丈夫か?」

理央「……っ…は、はい…すみません……」


言葉を交わし、互いの無事を確認した所で再び沈黙…いや、悶絶する俺達。


やっとの事で痛みが引き、俺は理央の様子を伺うべく視線を落とすのだが……

理央「………………」

何故か、今度は真っ赤になって震えている。


理央「あ……ああああ、あの…こ、この。この服っ…服っ!!」

あぁ…そう言う事か

俺「いや、さすがに寝かせるのにあの格好のままだと………」


って、違う!俺の予想が甘かった!今度こそ言うぞ

  そ う 言 う 事 か!


理央「し………下着が……な…なな、無くて…え?え??」

俺「ち、違う!あの格好のままだといけないと思ったのは俺だが、実際に着替えさせたのは空だ!!」


理央「………………え?…あ、そう…ですよね。まさか先輩が直接着替えさたなんて訳…」

そして…ギリギリ間に合った弁明の甲斐あり、何とか落ち着きを取り戻した理央。

落ち着きを取り戻し、微動だに…ん?何か様子がおかしい。落ち着くどころか、とある方向を向きながら完全に固まって居る。


俺は理央の視線の向かう先を追い………その原因と経過と結果の全てを理解した。

理央の視線の先にあるのはベランダ…更に細かく言えば、ベランダの物干し竿。

正確に言うならば、物干し竿に引っかかっているハンガーに干された……


  兎プリントのショーツ

●もしも室内でラッキースケベが起こったら

理央「@#&%*―――!!!!」

再び真っ赤になり、涙目+渦巻き目になりながらベランダへ飛び出ようとする理央

しかし窓は閉まったままで、おまけに理央は明らかに冷静さを欠いている。


もしこのまま突き進めば、ガラスに激突…下手をすれば割れたガラスで大怪我なんて事にもなり兼ねない。

俺は慌てて理央のパジャマを掴むのだが………


倒れる勢いで地面を離れ、不運にも的確に俺の顎を捉える…理央の踵。

更に交差する脚が俺の頭を掴み、身体を捻りながら壁へと打ち付ける

何と言えば良いのだろうか…変則式きりもみフランケンシュタイナーとでも名付けておくべきか。


結果的に理央が窓ガラスに激突するという最悪の事態は防ぐ事が出来た訳だが…

俺の方は無事では済まなかった。


ぐらぐらとゆらめく世界…中々ピントが合わず、鮮明になったりぼやけたりする景色…

俺はもうダメかも知れない…そんな事を考えるも、理央の安否を確認するまではくたばれないと思い直し、その姿を探す


が……視界を覆う景色がそれを遮り、邪魔をする。

俺はその景色を振り払うべく、手を伸ばし


理央「――――ひゃっ!?」

まず、理央の声でその安否を確認した。

そして、視界のピントを合わせて確認すると………


遠くから順番に言おう。まずは真っ赤になった理央の顔…続いて、パジャマが肌蹴て露になった肩

平坦では無いと主張する程度に膨らんだ胸と、その先端にかかる薄紅色

薄い腹部から更にへこんだ臍………下腹部はうっすらとついた筋肉がカーブを作り…そこからは、歳相応ならば在っておかしく無い筈の………


俺は、見てはいけない物を見てしまったんだと思う。


即頭部に向けて、両側から迫り来る理央の膝………

それに挟まれ、鈍い打撃音と共に意識を刈り取られた。

○人形姫と悪い魔法使い

「ひっ……ぁ……あがっ…!……あ………」

「……ぅ…ぁ…………ぁ………」

ガラガラとけたたましい音を立て、寝台ごと治療室へと運ばれて行く少女達。


私がこの研究所に来てから、もう何度も見ている光景。だけど…その意味が判ったのは、つい最近の事だった。


私「何故…まだあれを続けて居るんですか?私が成功した以上は、不要な事でしょう?」

ヴィクター「ん?いやいや、何を言うんですか?まだまだ予備が必要に決まってるじゃないですか」

私「っ…予備…ですか……そうでしょうね。他者を簡単に使い捨てる貴方では、マトモに何かを残せるとは思えませんし…」


ヴィクター「おや、もしかして先日の件でご立腹ですか?」

私「言わなくても判る事でしょう。一歩間違えれば私は命を落としていました………それを簡単に水に流せと?」

ヴィクター「やれやれ、大きな誤解があるようですが…さすがに命を落としそうな状況になったら、途中で中止していましたよ?」


私「命さえ落とさなければ、それ以外はどうなっても良い…そう言っているようにも聞こえますが?」

ヴィクター「どこか間違って居ますか?」

私「………やはり、貴方は貴方ですね。それに…成功の目が無いと判断すれば、命さえ切り捨てて居たでしょうに」


ヴィクター「成功の目さえあれば切り捨てませんよ?」

私「……………」


これ以上は話すだけ無駄…と言うよりも、話しているとストレスが溜まる一方

言い放ってしまいたい事は山ほどあるけれど、私はそれを飲み込んで口を噤んだ。


ヴィクター「あぁ、そうそう…これ、頼まれて居た彼のファイルです」

私「………」

ヴィクター「少しでも多く実験の事を知り、自発的に協力する…とても良い心意気ですね」

●深刻な部屋へようこそ

覚醒を促したのは…鈍い痛みだった。

脳天…側頭部…顎…首…見事なまでに頭全体を痛みが覆う中、俺は引き摺り出されるように意識を取り戻す。


瞼を上げて最初に飛び込んできたのは、夕焼け色に染まった理央の寝顔。

どうやら、俺の頭を膝に乗せたまま…壁に背を預けて眠ってしまったらしい


俺「………」

声をかけようとする…が、起こしてしまうのも悪いと思い直し、それを止める。


俺「あ…」

そして…顎に湿布が貼られていて、他の部位にも包帯が撒かれている事に気付く。

不器用ながらも手当てをしてくれていたようだ。感謝の気持ちと…申し訳無さが溢れ出て来る


俺「この怪我にしたって、俺の無神経さが原因なのにな…って言うか、確かあの時…」

脳裏に浮かぶのは、気を失う直後に目にした光景


そう………今まで完全に失念していたが、俺は今、理央に膝枕をされている。つまり…俺の頭のすぐ下にはあの―――


理央「言っておきますけど…もう履いていますからね?」

俺「――――――ッ!!??ゴフッ!?ゲホッ!!!」

突然の理央の言葉により、勢い良くコースアウトする思考。俺は盛大に咳き込みながら、理央の顔を見上げる。


俺「お、起きてたのか…」

理央「はい…先輩が私の脚をしきりに気にし始めた辺りから」


俺「………………死にたい。せめて穴があったら入りたい」


理央に悟られた居た事に対する羞恥心が溢れ出る…にも関わらず、そこから更に脱線して行く思考

そして脱線に脱線を繰り返した後、戻らなくても良いコース…気を失う直前に見た光景の辺りにまで巻き戻る。


我ながら下衆い思考の持ち主だとは自覚しているのだが…思わず視線は頭の下へと向かう

そしてその意図に気付いた理央は、真っ赤になりながら物凄い勢いで立ち上がり……


俺の頭部は急上昇


後の自由落下により、とどめの一撃を受ける事となった。

●重態な部屋へようこそ

理央「あ、す…すみません!先輩、大丈夫ですか!?」

俺「何か二回くらいデッドエンドって文字が見えたけど、多分大丈夫だ……ってかうん、自業自得だから放置してくれても良かったんだけどな…」

口の端から8割くらい魂が抜け出している状態で、何とか理央に返答する俺。


しかし、訪れる沈黙…理央からはそれ以上の返答が無し。言葉通りに放置した可能性も無いでは無いが、それはそれで理央にしては不自然。

心配になった俺は、視線を上へと向ける。すると…

理央「そ…………そ、そそその…不意打ちとか…無理やりは…い、嫌ですけど………せ、せせせせ先輩がどうしてもと言うなら……」

視界に飛び込んできたのは…顔を真っ赤にして暴走状態になった理央が、パジャマを脱ぎかけている場面だった。


俺「って、ストーーーーーップ!!!」


俺「そ…そう言うのは好きな相手以外にする物じゃ無―――」

理央「わ、私!先輩の事好きですから!!」

俺「そ、そうだったー!って、そう言う事じゃなくてだな!!」


完全にテンパる俺と理央…心臓はバクバクと激しく脈動しているくせに、脳は酸素を使いすぎて酸欠寸前の状態に陥っている。

もうどうする事も出来ない…抗えない本能の赴くままに暴走してしまいそうになった、その瞬間……

「困った待って 待って♪ちょっぴり待って 待ってて♪既に充分 う ろ たーえてる♪」

理央の携帯から鳴り響く着信音が、辛うじて残っていた俺の理性を引き戻した。


俺「…………」

理央「…………」


俺「携帯…出なくて良いのか?この着信音、組織からだろ?」

理央「あ…は、はい。そ、そうですね!」


辛うじて…本当に辛うじての所で、色んな意味で踏み止まる事が出来た俺と理央。

少々…いや、かなり勿体無い事をした気がしないでも無いが、そんな後悔さえ上回る程の安心感が俺を包み込む。


理央「はい…はい………ありがとうございました」

そして…俺が普段通りの落ち着きを取り戻した辺りで、理央も通話を終えた様子。

改めて事態を整理するべく、理央に声をかけようとするのだが…


理央「せ………先輩」

俺「あ…あぁ、どうした?」


理央「帰る部屋……無くなってしまいました」

俺「………………はぁっ!?」

●車もある意味一つの部屋

俺「えっと……じゃぁ、詳しい事はまだ何も判って無いんですね?」

黄色「あぁ、メトリー系の能力者が出払っててな。お前、理央が今どこに居っか判るか?」

理央「あ、わ、私なら…せ…先輩と一緒に、先輩の部屋に居ます!」


黄色「……お前等、何時の間にそう言う…お前はてっきりカレンと……いや…まぁ、何にせよ現場に居なかったのは不幸中の幸いだな。今そっちに行く」

理央「あ、ち…違います!そう言うのじゃなくて!あ…と、とりあえず合流後に説明しますから!」


黄色先輩との通話を終え、荒いだ息を整えるため深呼吸をする理央。

ちなみに…今の俺達が置かれている状況はと言うと……


まず…組織からの連絡により、理央の部屋が襲撃された事を知った俺と理央。

たまたま現場の近くに居た黄色先輩達とも連絡を取り、事態の把握と収束に勤める事になったのだが…

今は、その黄色先輩の到着を待っている…と言う訳だ


俺「襲撃…か。カレンの件絡みで間違えて襲われたか?んでも、だとしてもまだ予告の日付には早い気がするよなぁ」

理央「あ、その件…いえ、多分今回の件で心当たりがあります。本当なら、目覚めてすぐに伝えなければいけなかったんですが…」

俺「ぁー………まぁ、目覚めてすぐはアレだったから仕方無いだろ」


黄色先輩を待つ間に、俺達は可能な限りの確認を行う事にした。

ちなみに、あまり鮮明に思い出させるとまた暴走しそうなので…起き抜けの辺りはあえてぼかしておく。


理央「あ、そう言えば…私、起きてから能力が全然………えっと、このままだと私の部屋に戻っても………」

俺「ん?あぁ、それは多分この地区のルールに阻害されてるからだろ。ってか随分落ち着いてるが、その様子だと前にも同じような事があったのか?」

理央「前にも…と言うか、起き抜けはいつも…能力で読める情報が不鮮明になってるんです。それで…ルールと言うのは?」


俺「あぁ、そう言う事か…っと、そうそうルールってのはだな…簡単に言うと、ここから半径1kmくらいの地区では覗き見能力全般に制限がかかってんだ」

理央「それで…以前私の能力で先輩のプライベートを覗こうとした時も、何も見れなかったんですね」

俺「本人が許可した場合に限り、部分的に見る事は可能になるんだが…って、そんな事しようとしてたのか!?」


俺がツッコミを入れると共に理央は視線を逸らし、そのまま黙秘権を行使

どうにかして白状させるべきか…そんな事を考えていると、不意に外でクラクションが鳴り響く。


俺達はその音の主を確認すべく、窓から外を見る…と、道端に停まっている金色のNSX-Rが目に停まる

俺達が話している間に、黄色先輩が到着していたようだ。


俺「んじゃぁ…襲撃の件の続きは、車ん中で良いよな?」

理央「………はい」


俺達は無駄話を切り上げ、直面している事態へと頭を切り替えた。

●ライドオン出来る部屋のような物

黄色「よりによって、ベリルと契約しちまったか……お前、地毛が金髪で黒に染めてるとかじゃぁ無ぇよなぁ?いや…カレンの方か?」

俺「金髪?違いますけど、それってどう言う…」

黄色「ぁー…んじゃ気にすんな。とりあえずカレンの書き置きの方はどーなってる?」


理央の部屋へと向かう途中…俺達は黄色先輩に今までの経緯をかいつまんで話していた。


理央「利害が一致したキングダムのメンバーと、共同で情報収集をしている最中です。あと、今回の件ですが…」

黄色「何か心当たりがあんのか?」

理央「はい……私が記憶を改竄されてキングダムに所属して居た頃、ある研究所で知り合った男が居るんですが…今日、その男を観ました」


俺「その男ってのは…もしかして、猫カフェで言ってた…」

理央「そうです。本名ティム・フランケンシュタイン、通称ヴィクター…研究所に所属していた研究員で………悪魔のような男です」


黄色「その辺りの所…突っ込んで聞いても良いか?」

理央「…はい」


理央「ティム…ヴィクターが研究していたのは、人体改造…いえ、人造人間と言うべきでしょうか」

理央「人体のパーツや超能力者の脳…複数のP器官を接続して、全く新しい別の人間を創り出す研究をしていました」

俺「それでヴィクター…ヴィクター・フランケンシュタインか」


黄色「いや、何でヴィクターなんだ?」

俺「………日本ではフランケンと呼ばれてる怪物が居るでしょう?あれの創造主の名前が、ヴィクター・フランケンシュタインなんですよ」

黄色「だったら、フランケンの本名は一体何ってーんだ?」


俺「ありません。フランケンシュタインの怪物が略されたり、創造主の苗字を取ってフランケンって呼ばれたりしてるんです」

黄色「へーへーへーへーへー」

俺「トリビア!?」


黄色「…っと、そうこう言ってる内に理央の部屋が見えて来たな。続きは降りてからにするか」

と言うか否か…ブレーキを殆どかける事無くハンドルを切り、瞬く間に車体を半回転させて駐車する黄色先輩。


理央「え……きゃっ!?」

俺は、急旋回の勢いで倒れ込んでくる理央を受け止め……

車体の揺れが落ち着いた所で、改めて窓越しにマンションを見上げる。


まるで巨大なハンマーで打ち付けたかのような、破壊の痕を残したマンション……理央の済んでいた場所。


もしあの現場に理央が居たら…そんな最悪の事態を考えると、自然と理央を抱き止める手に力が篭った。

●壊れた部屋に残った物

黄色「おい、イチャイチャしてねーでとっとと出て来いよ」

俺「してません!と言うか、誰のせいでこの状況になってると思ってるんですか!?」


車の外から呼ぶ声に応え、後部座席のドアを開く俺と理央

襲撃された部屋を改めて見上げてから、俺は理央に視線を向ける。


俺「…大丈夫か?」

理央「はい………目を背けてはいられませんから。それに…能力を使うまでも無く、目視だけで判りました。あれは間違い無く…」

俺「ヴィクター・フランケンシュタインの…名前を持たない怪物の仕業……か」


理央は無言で頷き、俺の言葉を肯定した。


そして瞼を閉じ、恐らくは能力…複合リーディングの展開

額に汗するその様子から、深刻な事態を読み取っている事は傍目にも判る。

…が、リーディングに集中していた筈の理央が、不意に目を開き…


路地の暗がりの方へと向き直る。


俺「どうした?………まさか、怪物がまだここに居るのか!?」

理央「いえ、そうではありません。でも………」


警戒心を露にして身体を強張らせる理央…それに続いて俺も身構える。

そして、理央の見据える先から姿を現したのは………


黒い執事服に黒い髪…線のような細い目、白い手袋にモノクルの男。


ジョージ「やぁ皆、はじめまして」

理央「……………ジョージ…」

俺「…はっ!?」

黄色「ほぅ…死に切れて無かったって訳か」


木戸 譲二…通称ジョージ

クリスマスのイベントで、能力の覚醒と共に殺した筈の男…その名前を持つ男だった。

●部屋の前で織り成す喧騒

懐から銃を取り出し、ジョージと呼ばれた男…いや、ジョージへと向ける黄色先輩。

ちなみに黄色先輩の銃は…実銃使用許可が出ている場合には、トゥルスキー・トカレヴァを

それ以外では、AMTハードボーラーロングバレルのイミテーション…ただのモデルガンを持ち歩いている。


そして今回、黄色先輩が構えたのは………見覚えのある、50AEデザートイーグルフルオート


俺「ってそれ、カレンの銃じゃないですか!!」

黄色「安心しな、ちゃんとカレンに言って借りて来てっからよ」

俺「いや、そうじゃなくて!…そんな物、カレン以外が撃ったら……」


ジョージ「あー……コホン。ちょっと良いかな?戦う気満々の所を悪いんだけど、今回は争いに来た訳じゃ無いんだ」

黄色「はぁ?一体どの口がほざきやがる」

ジョージ「信用無いなぁ…じゃぁ、理央が居るんだから確認してみたらどうだい?」


ジョージの言葉に促され…横目で理央を見る、俺と黄色先輩。


理央「ジョージが言っている事は本当です。怪物や実験体を持ち出して逃走したヴィクターを追い掛け、私達に協力を求めに来たようです」

理央「それと…このジョージはオリジナルで。カレン先輩を拉致する計画は当分凍結……ただ拉致その物の目的は、意図的に記憶を改竄して消しています」


ジョージから次々と情報を引き出す理央。


理央「そう言う事ですか…私達をあえて泳がせていたのは、このため…だったと」

ジョージ「理解して貰えたかな?…と言う訳で、理央に裏を取って貰った所で説明に入らせて貰おうか」


そして…理央があらかたの情報を読み終え、落ち着きを見せ始めた頃

ジョージは唐突に宣言を行い、俺達の確認も待たずに語り始めた。


●情報の隔離部屋

ジョージ「まず…理央が言ってくれた通りなんだけど、ヴィクターが勝手に実験体を持ち出して困っているんだ」

俺「だからって俺達がお前等キングダムに力を貸す義理は無いよな?」

ジョージ「義理は無くても、必然性はあるんだよねぇ、これが。ほら、この惨状を見て判る通り…理央が無関係だとは思わないだろう?」


当たって欲しく無い予想の的中…それをサラリと事も無げに証明してくれやがった。


俺「だとしても、お前等の不手際が起こした事だろ?理央を巻き込まず、そっちで処理しやがれよ」

ジョージ「それこそ、そんな義理は無いよね?でも利害が一致する以上は、協力する事で円滑に進む…そう思ってるんだけど、違うかな?」

俺「この野郎……理央を盾に、尻拭いを手伝わせようとしてるだけじゃ無えか!」


ジョージ「悪いかい?と言うか、僕達は手出しせずに君達に丸投げする事だって出来るんだけど…」

理央「失敗した場合のリスクを省みた場合、一時的にでも手を組んだ方が得策…そう考えた訳ですよね。良いでしょう、乗ってあげますよ」

俺「いや、待てよ!!こいつは理央を―――」


理央「勝手な事を言ってすみません。でも安心して下さい…これは私の問題なので、先輩方を巻き込むつもりはありませんから」

俺「そうじゃ無い!ヴィクターが理央を狙ってるって事は、囮にされるって事だろ?理央をそんな危ない目に遭わせられるかよ!」

理央「先輩………あ、でも違うんです。囮…と言うよりも、今は私がヴィクター達を追い掛けないと…」


俺「………ん?どう言う事だ?」


ジョージ「ヴィクターと怪物が、理央の部屋を強襲したのは…理央本人だけじゃ無く、別の目的もあったからさ」

理央「怪物の暴走…研究所の崩壊に伴い、私が持ち出したフロッピーディスク…むしろそちらの方が本来の目的だったようです」

俺「………ん?じゃぁ、もう、理央に危険は無いんじゃないのか?」


ジョージ「いや…そっちの目的を果たしたら、また戻って来て理央を襲いに来るんじゃないかなぁ?と言うよりも…そうなったらかなり不味いよね」

俺「何でだよ」

理央「データディスクに記されて居たのは、怪物に更なる力を与える存在の在処だったようです…ですから」


俺「それを手に入れる前にヴィクターを止めないと、怪物を止められなくなる…って事かよ」

ジョージ「大方、キングダムとの交渉材料になると思ってディスクを持って居たんだろうけど…早めに処分しておくべきだったね」

理央「…………」


俺「元凶は黙ってろ!」

●走り出す金色の小部屋

黄色「飛び飛びな情報だが、大体判った。要は、ヴィクターって奴と怪物に追い付いて倒しちまえば良いんだろ?」

ジョージ「そうそう、物分りが良くて助かるよ。ただ…今回、金色の竜には他にやって貰いたい事があるんだよねぇ」

黄色「はっ冗談言うな、誰が手前ぇなんかの思い通りに動いてやっかよ」


ジョージ「それは残念…ヴィクターが持ち出した実験体の中には、DCDCも入っていたんだけど…」

黄色「DCDC…だと?……んな馬鹿な……いや、まさか…………マジか?」


ジョージ「金色の竜としては見過ごせない事態だろう?って言うかぁ…既にもうこの近辺に放たれちゃってたりするんだよね…これが」


黄色「はぁぁぁ!?っざけんなよ!!あぁくそっ…俺は一緒に行けなそうだ、野暮用が出来ちまった!」

ジョージの言葉を聞き、瞬く間に車に乗り込む黄色先輩。

更にそのまま発車したかと思えば………あっと言う間に、夜の闇の中へと消え去って行ってしまった


俺「……なぁ理央、今の話…陽動の可能性は…」

理央「いえ、事実のようです。詳細までは判りませんでしたが、黄色先輩のはそちらで手一杯のようです」


ジョージ「さて…そんな訳で、この後理央にはヴィクター達を追いかけて貰う事になる訳だけど…君はどうする?」

俺「………一緒に行くに決まってんだろ!理央だけを危険な目に遭わせられっかよ!」

ジョージ「決まりだね。あぁ、そうそう…カレンお嬢様は、その危険な目に遭わせる訳には行かないから…留守番して貰うよ」


俺「はっ?…そうか…カレンを孤立させて、そこを攫うつもり…」

ジョージ「なんて事が出来たら楽なんだけどねぇ…さっきも理央が行った通り、それどころじゃないから、その計画は凍結中さ」

理央「嘘は吐いていません…ですが、念のためにカレン先輩を警護して貰うよう組織に…あと空さんにも連絡しておきました」


俺「さすがは理央………仕事が速いな。んじゃ、次の問題はヴィクターの追跡手段だが…」

ジョージ「ご心配無く。それはキングダム側で手配してあるよ」


そう言ってジョージは手を挙げ………しばらくしてから近付いて来る、けたたましいまでのプロペラ音。


夜空に溶け込むような黒塗りのヘリコプターが、俺達の上空に現れた。

●空飛ぶ部屋での合流

俺「オッサン達も来てたのか…ってか、オッサン達 が キングダム側の追跡メンバーって事か」

マーク「そう言うお前等こそ、今回の当事者たぁ…どーいう星の巡り合わせだ?」

エリー「やぁねぇん…もしかして、ここで不穏分子を始末するつもりじゃ無いわよねぇ?」


理央「確認しましたが、罠ではありません………一応」

俺「そう言えば、マリオの姿が見えないけど…」


ジョージ「彼なら先に乗船しているよ。と言うか…そう言う話はせめて本人の居ない所でして欲しいなぁ」

俺「乗船?このままヘリでヴィクターの所に行くんじゃ無いのか?」

ジョージ「ヘリで追うには距離が離れすぎちゃったからね。今ある手段…船で追うしか無いのさ。あ、目的地は判ってるから大丈夫だよ」


俺「離れすぎたって…ちゃんと間に合うんだろうなぁ?」

ジョージ「目的の物を手に入れたとしても、それが馴染むまでには日数がかかるからね。何事も無ければそれまでに到着する予定さ」

俺「いや待て、日数って何だよ。どんだけ遠くに…ってか、目的地は一体どこだ!?」


ジョージ「あれ、言って無かったっけ?」

俺「欠片も聞いて無ぇよ!」


ジョージ「北極だよ」


俺「…………は?」

ジョージ「正確には、北極海にある一般的には知られていない島の一つ。そこにある研究施設が、ヴィクター達の…そして僕達の目的地さ」

俺「フランケンシュタインが逃げ込んだ先が北極とか…冗談キツ過ぎんだろ…」


ジョージ「それを僕に言われても困るなぁ。あ、船が見えて来たから降りる準備をしておくれ」

そう言われて外を見る…と、波止場に停まった豪華客船が一艘。ヘリポートが一箇所空いているが…

俺「まさか…なぁ…」


ジョージ「あの船だよ?」

●一人一人の部屋の中

船内に案内され、宛がわれた個室で休憩を取る俺。

部屋の隅に備えられたベッドに横たわり、ぐるりと部屋を見回してみる

見た限りでは監視カメラの類は無し…鏡に触れてみるも、マジックミラーでは無い。盗聴器の類は…調べていたらキリが無いので保留。


くつろぐとまでは行かないが…最低限の休息を取るだけの余裕は持てそうだ。


俺は椅子に座り、テーブルの上に置かれた食事に手を付ける。

毒は入って居ない…まぁさすがに今毒を盛るメリットは無い筈だから、当然と言えば当然か

普段は口にする機会も無いような豪華な食事にも関わらず、警戒心のせいで肝心の味が頭まで届かない。


俺「ってか…下着やスーツはともかく、何で組織の制服まで揃ってんだよ」

クローゼットの中身を確認して、ぼやくように呟く……と、それとほぼ同時に鳴り響くノックの音。


理央「あ、あの…先輩。お邪魔しても…良いですか?」

そして、続くは理央の声。俺はその主を確かめてから、ドアの鍵を開け…理央を招き入れる。


俺「どうした?」

理央「……その、ご一緒しても良いでしょうか?」

俺「あぁ、理央もか。協力してるとは言え、やっぱり敵の船で分断されてたら不安だしなぁ…俺も合流しとこうかと考えてた所なんだ」


理央「…え?あ、そ…そうですよね」

と、言い終え…理央が予想外の反応を見せた所で気付く。

俺「あ…………いや、もしかして……単純に一人だと寂しかったとか、そう言う…?」


理央「…………」

赤面の後、無言で頷く理央。


俺「………」

勘違い…早とちりした恥ずかしさから、理央同様に俺まで赤面する事になった。

●二人が居る一つの部屋

俺「なぁ…理央は、俺と一緒の部屋で良いのか?平気か?」

理央「はい…先輩ですから」

俺「よっぽど信用されてんのか、安全牌だと思われてんのか…」


理央「先輩」

俺「ん?何だ?」

理央「先輩は、自分の事を卑下し過ぎです」


俺「そ…そうか?」

理央「はい。先輩は…もっと自信を持って良いと思います」

俺「そうは言ってもなぁ…」


理央「自信を持って下さい。その………私は、先輩の事が好きなんですから」

俺「…………」

改めて言われると恥ずかしくなるその言葉。

俺は、赤くなった頬をポリポリと掻きながら視線を逸らす。


俺「なぁ………理央は俺なんかの…俺の、どんな所を好きになってくれたんだ?」

理央「それはまた…答え辛い事を聞いてくれますね」

俺「お互い様だろ。まぁ、答え難い事なら…」


理央「…いえ。でも、答えるには…まず、私の事から話す事になりますけど…聞いてくれますか?」

俺「あ、あぁ…聞かせてくれ」

●二人の思い出を交わす部屋

理央「私には…家族が居ません。父と…いえ、父は物心付く前に行方不明になり、母は…私が幼い頃に死にました」

俺は、理央が持って居た母親の写真の事を思い出す。

理央「祖母は私が生まれる以前に他界していて………祖父とも…私の能力のせいで疎遠になり…」


理央「そのせいか…決して取り戻す事の出来ない、家族と言う存在に飢えて……そこに付け込まれたんだと思います」

俺「付け込まれた…ジョージの記憶改竄の件…か」


理央「はい…ジョージは私の兄に成り代る形で、私の記憶を改竄しました」

理央「その後は、先輩達に話した通り………非人道的な研究に参加させられたり、ジョージの手駒として作戦に組み込まれたり……」

理央「そして、クリスマス…金色の竜と呼ばれる存在、黄色先輩の捕獲作戦の日…」


俺「………クリスマス…あの日の事か。俺が能力を使って…木戸譲二を殺した日」


理央「そうです…先輩は覚えて居ないでしょうけど、私が初めて先輩に会った日…そして、ジョージの手から解放された日…です」

理央「こう言うと変に思われるかも知れませんけど…先輩は、私にとって白馬の王子様だったんですよ」

俺「白馬の王子様って…さすがにそんな柄じゃ無いだろ。第一、あれは偶然だったし…実感が無いからなぁ」


理央「でも、私にとってはそうだったんです。先輩は、悪い魔法使い達から私を助け出してくれた…誰よりも格好良い王子様です」

俺「いや………ハードル上がってるぞ!?」


理央「あと…研修期間が始まったばかりの頃。本来の能力を取り戻したせいで会話もままならなかった私を、助けてくれましたし」

俺「あれは…俺も同じような経験があったし、何ってーか、放っとけ無かったからで…」

理央「…判って居ます。そうやって照れ隠しする所も、好きですよ」


全てを悟ったように…いや、悟った上で向けられる、理央の笑顔。

俺は、不覚にもその笑顔に動揺させられる。

●秘めた思いを明かす部屋

理央「因みに…もうご存知とは思いますけど、改めて再会した時点でカレン先輩と先輩の偽りの関係には気付いていたんですが…」

俺「あぁ…そう言えばそう言ってたな」

理央「あの時点では、カレン先輩を押し退けてでも先輩を強奪する気満々でした」

俺「おま………」


理央「でも、その後…カレン先輩は……知らずにやった事とは言え、危ない目に遭ったのに…それを責めるどころか、私のために…」

理央「先輩だって…たった一枚の写真ために、生傷だらけになりながら奔走してくれて……」

俺「たった一枚はたった一枚でも……たった一枚しか無い写真だからな」


理央「あの時は……結構悩んだんですよ」

俺「………」


理央「本当にこのままカレン先輩と先輩の間に割って入っても良い物か…横恋慕なんて止めた方が良いんじゃないか…」

理央「でも、私の方が先に先輩の事を好きになったのに…私が居ない間に、二人の気持ちが近付いて居た事が悔しくて…でも、それでも」

理央「カレン先輩も凄く良い人で、傷付けたく無い…そんな事も考えて…悩んで…」


理央「でも…それでもこの気持ちを、胸の中だけに押し留めて置く事なんて出来ませんでした」


俺「で………その矢先に、空の登場…か」

理央「そうです」


理央「千載一遇の、またと無いチャンスだと思いました。後は、先輩もご存知の通り…」

俺「宣戦布告…空を呼び出してのあの騒動…か。そう言えば…あの時のツインテールって、今思えば…」

理央「はい…私なりの決意が、無意識の内に表に現れていたんだと思います。と言うか…私自身でも気付かなかった所に気付くとか、ずるいです」


俺「何だそれ、理不尽」

理央「でも…あの時は先輩が顔を近付けて来たせいで動揺してたのに、それに気付かなかったのは減点でした」

俺「と思ったら、更に理不尽な減点来た!?」


理央「冗談ですよ。私にとっては、いつも先輩は100点満点です」

はにかんで笑顔を向ける理央…その笑顔に動揺しながら、今度は俺が悟った。


  多分…理央の笑顔には勝てそうに無い

●葛藤と異変の部屋

理央「今…こうやって二人っきりで居る事。抜け駆けしてるみたいで、カレン先輩や空さんに申し訳無い気持ちもあります。でも…」

俺「…でも?」

理央「例え卑怯でも…ずるくても、先輩と一緒に居たい………出来るなら、先輩の恋人になりたいです」


理央は俺の手を握り、体温と脈動を伝えてくる。

そして俺の方も、理央の熱が伝染したかのように胸がドクドクと早鐘を打ち始める。


俺「いや…でも、俺………カレンとも、まだちゃんと話しもしてなくて…」

理央「判って居ます…ですから、今これから何があってもノーカウントです。私が勝手にするだけで、先輩がカレン先輩に負い目を感じる事はありません」


真っ赤になりながら俺に跨り、両掌を俺の掌に重ねて指を絡める理央

本気になれば逃げられるような体格差にも関わらず、俺の手は理央を振り払おうとさえしない。いや…出来ない。


理央「もし……せ、先輩が…嫌だったら…止めるなり逃げるなり…して下さい」

俺「いや…嫌な訳無いだろ。でも…」


理央「でも…じゃ、止められません」


理央の手から伝わって来る震え…

テレパシーが無くても、この行動を起こすために理央が勇気を振り絞っている事くらい判る。


理央の気持ちに応えるべきか…?


でも、それで良いのか?逆に、突き離すのが正解なのか?

幾ら考えても、堂々巡りになるだけで答えに辿り着けない。


少し…また少しずつ近付く理央の顔…

逃げる事も止める事も出来ないまま、俺の唇に理央の唇が…僅かに触れたその瞬間


ビ――――!! ビ――――!! ビ―――――!!


と、けたたましい警報音が鳴り響いた。


●部屋から出たら…

正直な所、心臓が止まるかと思った。


突然の警報により、否が応でも警戒態勢を取る事になる俺達。

左手は理央の手を握ったまま、状況を確認すべく廊下へと飛び出す。


マーク「おいおい、こりゃぁ一体何の騒ぎだ!?」

そして、廊下でマークとエリーと合流。向こうも事態を把握しては居ない様子。

とにかく情報が欲しい…そう考えた矢先、不意に周囲にノイズが響き渡り……船内放送が始まった


ジョージ「非常事態発生、非常事態発生。当船内に正体不明の侵入者の形跡あり。情報収集のため、可能な者は最上階のVIPフロアに集合せよ」


マーク「正体不明の侵入者…だぁ?」

俺「いや…今の指示、明らかにおかしいだろ。管制や駆動系の防衛をそっち除けで集合させるって事は…」

エリー「少なくとも…侵入者の正体に確信…そこまで行かなくても、心当たりはあるって事よねぇん」


意見を交わす…と言うよりは、満場一致である事を確認。

少々癪ではあるが、俺達はジョージの指示する通りに最上階へと向かう事になった…のだが…


俺「理央、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」

顔面蒼白になり、立ち止まる理央。それに合わせて俺達も足を止め、理央の様子を伺い…


理央「何………これ……こんな物…今まで見た事―――」

理央が侵入者の存在を探知していた事を把握。と同時に、理央の様子から伺えるその存在の異常性に戦慄する。


そして………覚悟どころか、心の準備すらする暇も無い内に訪れる…突然の遭遇。


T字路の角から覗く………真っ黒な、煙のような霧のような物

そして、それを纏った…俺よりも一回りも二回りも大きな、巨大な身体の…犬のような形の………四つの目の化け物が現れた

●部屋の中より出ずるモノ

マーク「何だよ…あの見るからに化け物って感じのヤツは…」

エリー「化け物以外に表現する言葉が無いわよねぇん…と言うよりも、問題はあれの正体が一体何なのかだけどぉ…」

俺「超能力で形成されたまやかしか…それとも、ヴィクターの……」


と、言葉を紡ぎながら理央の様子を伺う俺

しかし理央は首を横に振るばかり。先の反応と同じく、未だその正体を掴めずに居るらしい。

正体不明の敵…少なくとも友好的な相手では無い以上、やるべき事は一つ。


先制攻撃


化け物が俺の射程範囲に入ってきた所で、その頭部にパトリオットをお見舞いする

………が、有効打にはならず。いや…それどころか、全くダメージを与えていないようにすら見える。


俺「嘘だろ………」


マーク「まぁ、パトリオットじゃぁあの変な質感とは相性が悪ぃのかも知れねぇなぁ。そんじゃ、次は俺が行かせて貰うぜ!」

俺からの攻撃が無駄に終わり、続いて名乗りを挙げるマーク。その周囲には、いつの間にか大量の硬貨が円を描きながら舞っている。

恐らく、空の能力と同系統の能力………そしてその予想に対する答えは、次の瞬間の攻撃によりもたらされた。


化け物に対して降り注ぐ大量の硬貨…恐らく一つ一つがマシンガンの弾丸相当の威力を持っているであろうそれが、化け物の巨躯に余す事無く突き刺さる

………にも関わらず、化け物は平然と歩みを進めて来る。

化け物の肉質に押し戻され、床に落ちる硬貨。俺達の全力攻撃ですら足止め程度にしかならず…絶望と言う名前の足音と共に迫り来る。


危機感に駆られ、俺達は後退して距離を稼ぐ…が、それもすぐ追い付かれて壁際へと追い詰められる。


絶体絶命………この化け物がどんな攻撃手段を持っているのかは判らないが、確実に仕留められてしまう状況と言う事だけは容易に理解できる。

そんな中…理央が俺の腕を掴み、身を預けて来て………


理央「先輩………余裕が無くて…動けないので、お願いします」

言い終えると共に、力無く倒れる理央。俺は慌てながらもその身体を抱き止める、と…ほぼ同時にそれは起こった。


化け物の側面に位置する部屋…その部屋のドアが内側から勢い良く蹴破られ、化け物を窓側へと吹き飛ばす。

そして…その奥。部屋の中から姿を現す、黒い影。

俺は、見覚えのあるその姿を目の当たりにして…そいつの名前を呟いた。


俺「……マリ…オ?」

●退室の時

理央「このまま…力づくで船の外に押し出します。先輩は壁を壊して…マークさんは、押し出した後、海に叩き落として下さい」

俺「え?何で理央が………いや、判った。オッサンも理央の手筈通りに頼む!」

マーク「何がどーなってんのか判らねぇが…今はそれっきゃ無ぇか!後でちゃぁんと説明して貰っかんな!?」


理央に指示された通り、まずは俺が船の壁を破壊……と言っても、化け物を放り出せる程の穴をすぐに空ける事は出来ない。

強固な断熱材を含めて何層にも重なった壁に、何度も何度もパトリオットを撃ち込み…何とかして拳大の穴を空け

その断面にパトリオットを撃ち込む事で、穴を拡げて行く。


そして…穴の大きさが化け物と同等になるとほぼ同時に、マリオが掴んでいた化け物を蹴り飛ばし…タックルによる追撃で押し出しにかかる。

が………化け物は壁と床、加えて天井に爪を立ててそれに耐える。それを見た俺は考える間も惜しむまま、反射的にパトリオットを放ち…


俺達の連携により、化け物は遂に船から弾き出される。


そして更に…マークが放った硬貨が、追い討ちとばかりに次々と降り注ぎ…

堪える足場すら持たない怪物は…………海の中へと墜ちて行った。


マーク「やった………のか?」

俺「いや…やれて無いフラグ立てんなよ…」

マーク「今のでトドメを刺せてるたぁ思え無ぇだろ、作戦成功かって意味だ。ってか、お嬢ちゃんは無事か?聞きてぇ事が山ほど出来たんだが…」


俺「怪我は負って無いみたいだが…気を失ってる。とりあえず、今の内に最上階のVIPフロアに移動しとかないか?」

マーク「チッ…しゃぁねぇか」


俺は理央を抱き上げ、マークとエリーはマリオを担ぎ……最上階へと続く階段を歩き出した。

○人形姫と操り人形

ヴィクター「この短期間でミューをここまで使いこなすとは…うん、実に素晴らしい。しかしこれは…燕尾服まで着せて、執事の真似事かい?」

理央「コンダクターとしてのリンクが成功した以上、彼は私の物…どう扱おうと私の勝手でしょう?」


ヴィクター「ん?んんん?もしかして……彼を人間として扱おうとしているのかい?」

理央「答える義務はありません。貴方にしても、彼の過去なんて興味の無い事でしょうしね」


ヴィクター「んー…重々承知しているとは思うんだけど…彼個人の人格や意思なんて物はもう存在していないんだよ?」

理央「それを奪った張本人のくせに…」

ヴィクター「おいおい、実験のために仕方無くやった事だよ?」


理央「それを楽しんで居なかったと断言出来ますか?」

ヴィクター「断言するのは…うん、難しいね」

理央「……………」


理央「それと…一つ訂正させて貰います」

ヴィクター「何かな?」

理央「彼はもう、ミューではありません。今の彼の名前は………マリオです」


ヴィクター「マリオ…か。君も中々皮肉が利いたネーミングセンスを持っているじゃないか」

理央「………………」

ヴィクター「そうかそうか、マリオか…それじゃぁ新しいミューを用意しないといけないね」


そう言い残し、ヴィクターは私の前から去って行った


ヴィクター「操り人形が、自分の操り人形に操り人形と名付けるとか…面白いよね本当」

●部屋の中での作戦会議

理央「………―――ッ!」

俺の腕の中で跳ね起きる理央。さすがに二度目は無く…俺は理央の頭をかわして、抱き直す

俺「大丈夫か?」


理央「先っぱ…い……私、どれくらい…」

俺「5分くらいかな。今丁度、集合した所だ」


最上階、VIPフロア…俺はそこに集まった面子を一望した後、理央の問いに答える。


ジョージ「まったく…無茶をしてくれるねぇ。ま、あの状況では他に選択肢が無かったから仕方ないけど…」

俺「見て来たように言ってくれるじゃ無いか……と言うか、一体何だったんだよあの化け物は!」

ジョージ「あの化け物に関する説明は追々するとして…まぁ、間接的に見はしたからね。こうやってマリオの記憶を読んで…」


部分的に装甲を外したマリオの手を持ち、その腕に触れながら解説するジョージ。

いや…解説するだけならばそれで良いんだが、その行動は俺の警戒心を一気に高めてしまった。


俺「お前は他人に触れんな!記憶を改竄するお前の能力…誰にも使わせ無ぇぞ!!」

声を張り上げ、俺はジョージに怒鳴り付ける…が、ジョージはそれを事も無げに笑い飛ばし、やれやれと首を横に振る。

ジョージ「心配には及ばないよ。彼にはそもそも、自我も人格も存在しないんだ。仮に記憶を書き換えたとしても、理央の操り人形に変わり無いさ」


俺「操り人形?…そうだ、マリオが理央の操り人形って、どういう事だ!?さっきも何で…」

ジョージ「その辺りは理央に聞いた方が良いんじゃないかなぁ…ねぇ?君も直接話しておいた方が良いと思うだろう?」

理央「………そう…ですね。貴方に言われて明かすのも癪ですが、いずれは話さなければいけない事ですから」


そう言って理央は俺の腕から降り…語り始めた


理央「マリオは…ヴィクターの作り出した人造人間…いえ、私と同じ被害者なんです」

●開かれる秘密の小部屋

理央「彼は、名前を持たない怪物と同様…複数の人間の身体やP器官を繋ぎ合わせて作られた存在で、当時の研究所ではミューと呼ばれていました」

マーク「繋ぎ合わせてって…胸糞悪くなる話だなぁおい…」

理央「私はそんな彼のコンダクター候補として、研究所に召喚されたのですが…そこで行われていたのは、起動実験の名目で行われる非人道的な行為でした」


エリー「ちょぉっと良いかしら、コンダクターってなぁに?」

理央「彼の超能力に適合する事の出来る者の名称です。そうですね…では、先に彼の超能力の説明をさせて貰いますね」

エリー「横槍入れたみたいで悪いけどぉ、お願いするわねぇん」


理央「彼の主な能力は、限定対象への広域テレパシー。適合に成功した相手…コンダクターに対してのみ、地球の裏側に居ても送受信する事が可能…」

理央「他にも、限定的なサイコキネシスによる筋力補助…自身を中心とした斥力式防壁も形成出来ます」

エリー「でもぉん…コンダクターなんて言う以上、役割はそれだけじゃ無さそうよねぇ」


理央「はい…外科的処置により、彼からは人格や意思…思想と言う類の物は取り除かれていて…その行動は適合者の意思を完全に反映………」

マーク「文字通り…コンダクターの操り人形って事か」

理央「…………その通りです」


エリー「って事はぁ…なぁにぃ?今まで私達がマリオだと思って接して居た相手は、実は貴女だった…って事ぉん?」

理央「…………はい」

マーク「んじゃぁ…喫茶店で偶然小僧達に遭遇したのも……」


理央「すみません…マリオで誘導しました」

マーク「あー…くそっ!やっぱりかよ!!」


俺「ん?でもちょっと待ってくれ。そもそも超能力って、P器官と人格の適合部分に応じた物が使えるようになるんだよな?」

マーク「何を今更言ってんだ。んな物は初歩の初歩……ん?いや、そうだよな…」

俺「マリオには人格が無いんだろ?それなのに、超能力が使えないどころか複数使えるってのはどう言う事だ?」


理央「その辺りは…確信を持って答える事は出来ませんが、恐らく…何も無いと言う事が、全てを許容しているのでは無いかと思います」

エリー「あるいは、何も無いのでは無く…空っぽの器がそこに在る。そうなると…超能力の基本も、逆に考えないといけなくなりそうねぇん」

●壊れた玩具の部屋

エリー「ところで…さっきは遮っちゃったんだけどぉん、非人道的な行為って具体的にはどんなのだったのかしら?」

理央「私達…コンダクター候補の少女達は、適正を確認するため段階的に適性検査…起動実験を行わされました」

理央「初は彼に話しかけたり、触れたりと言った簡単な物…次に、直接テレパシーを送り込んでの反応検査………そして」


理央「危機的状況下における、潜在能力の強制覚醒。それにより能力が拡張された状態での適正確認」


エリー「危機的状況下…ねぇん。ごめんなさい、その辺りの詳細を聞いても良いかしら?」

理央「…はい」


理央「まず私達には番号が割り振られ…その順番に従い、一人ずつ…とある部屋に入れられました」

俺「その部屋ってのは………まさか…」

理央「そう………名前を持たない怪物の居る部屋です」


理央「怪物は体中の拘束具や鎖により動きを制限されていました…が、それは所詮脱走を防ぐためだけの物。室内での行動を制限するには至りませんでした」

理央「結果は…火を見るよりも明らか。ある者は身体の一部を切り刻まれ、ある者は犯され、ある者はその命を奪われ…」


理央「私は…適正があったらしく、辛うじてマリオの起動に成功。その能力を以って名前を持たない怪物を退け、一命を取り止める事が出来ました」

理央「……私は幸運な方でした。私以外に生き残る事が出来た少女達も居ましたが、彼女達は適正が見られなかったため、次の実験に連れ出されて…」


理央「知っている限りでも…薬物投与。外的刺激による覚醒の促進。脳に電極を挿し込んでの、神経への強制介入」

理央「更に…それでも適正皆無と判断された者は………」

エリー「その先は…聞くのも憚られるような内容…って事になりそうねぇん。それで、そこから今に至るまでの貴女の経緯はぁん?」


理央「彼…マリオとの実験と経過観察の日々の中。突如、名前を持たない怪物が暴走。研究員を皆殺しにして、施設その物を破壊」

理央「私はその騒動に乗じて研究所から逃走。その際に、機密データを持ち出し…当時、兄と思い込まされて居たジョージの元へと逃げ込みました」

理央「ジョージは、私の受けた待遇に対して上層部に異議を申し立て…その合間に、怪物の遺体を発見したという話も聞いたのですが…」


俺「どっちも嘘だった…か」


理央「後は、極めて淡々とした展開です。私はマリオの名義と姿でキングダムに参加…マリオと自分を使い分けて任務を遂行する日々でした」

理央「ですが…ある任務の最中。ジョージの死をきっかけに、私は本当の自分を取り戻し…復讐のため、組織に転身」

理央「幸いな事に、当時私の存在を知っていたのは死去したジョージだけ。マリオはキングダムに所属したまま、スパイとして活動していたのですが」


ジョージ「実は泳がされていただけ…生きていたヴィクターと怪物に対する、餌に使われていた…って訳だ」

俺「お前は黙ってろ!!」


ジョージ「冷たいなぁ…まぁ良いか。それで…彼、マリオの説明は全部かい?」

理央「はい…私からの説明は終わりました。次の話に進んで下さい」


ジョージ「ふぅん…まぁ良いか。じゃ、リクエストに応えて、今度は僕から話をさせて貰おう。君達がさっき撃退した、DCDCに関する事だ」

●黒き獣を語る部屋

DCDC………俺はその言葉を、ごく最近聞いた気がする。


そうだ………


俺「DCDCって…確か、黄色先輩が相手してる筈のヤツだろ?何でこんな所に居るんだよ」

ジョージ「その筈…だったんだけどねぇ。ヴィクターに出し抜かれたみたいで、船内に一体潜んで居たらしい」


俺「潜んで…居た?……この船全域は理央の知覚範囲内だろ。あんな異質な存在が潜んでいて気付かない筈が…」

ジョージ「事が起こるまでは休眠状態だったんだろうね。逆に外部から侵入してきた形跡も無かっただろう?」

俺「そう言えば、窓じゃなくて中央の通路の方から現れたよな………いや、そもそもDCDCって一体何なんだ?」


ジョージ「僕等が知る限りの科学や超能力とは全く異なる、未知の技術で作られた生物兵器。正直、僕も知っている事は余り多くは無いんだ」

マーク「んじゃ、その判ってる範囲の事を全部吐いて貰おうじゃ無ぇか」


マークが促し、ジョージが更に言葉を連ねる

ジョージ「まず…さっきも言った通り、休眠状態の奴等は超能力でも知覚不能。戦って判ったと思うけど、物理攻撃は殆ど効果無し」

ジョージ「周囲に存在する生命に対して、無差別に襲い係り…防御手段を持たない物は、触れただけでも瘴気に侵食されてしまう」


俺「…他には?」


ジョージ「特例を除き、奴等を滅する手段は無し」

俺「特例…黄色先輩の事か。で、その他には?」

ジョージ「それだけだよ?あぁ、そうそう…もう一つあったか。君達が撃退したあのDCDC……現在進行形でこの船に迫って来てるよ」

俺「……………は?」


エリー「やっぱりねぇん…事が終わってるなら、わざわざ説明する必要は無いとは思ってたんだけどぉ………どうするのかしらぁ、策はあるの?」

ジョージ「その点はぬかり無いよ。ほら、君達が乗ってきたヘリは覚えているだろう?あれが他にも二機…合計三機あるんだけど…」

俺「ちょっと待て………まさか」


ジョージ「丁度、船員の中にもヘリの運転が出来る人達が居る。航行速度から考えて…上手く引き離せば、目的地に到着するま追い付かれずに済む筈さ」


俺「ふっ……ざけてんじゃ…無ぇぞ!!!!」

●生贄を乗せた空飛ぶ部屋

俺「それはつまり、ヘリのパイロットを囮にするって事じゃ無ぇかよ!」


ジョージ「ふざけてなんか居ないさ、僕は至って大真面目だよ。じゃぁ逆に聞くけど、他に良い案があるのかな?」


ジョージの言葉に反論する事が出来ず、口を噤むしか無い俺達。

しかし、そんな静寂すら長くは続かず…新たな激動が襲い来る。


ジョージ「おっと…長話をし過ぎてしまったみたいだね。招かざる客のお帰りのようだ」

ジョージが船尾側の窓に目を向け…それを追い掛けて視線を向ける俺達。

闇夜に浮かぶ雲………その中に見える、黒い点。


目視出来る範囲ではその姿形を捉える事は出来ないが…それが何を意味しているか…何者なのかはすぐに理解出来た。


ジョージ「腹案は………無さそうだね。それじゃ仕方が無い、作戦決行だ」


ジョージの合図により、甲板に備えられたヘリポートから飛び立つ三機のヘリ

ある者は窓越しにその姿を見送り、ある者は顔を伏せて目を逸らす。


俺「武器は………何か、武器は無いのかよ。こんだけの船なんだ、ミサイルか何か…」

ジョージ「また無茶を…この船は戦艦じゃなくて客船なんだよ?銃火器にしたって、君達の能力よりも威力が低い物…あれに効果が見込めない物ばかりさ」


ジョージ「と言うかさ…この船の船員は皆、キングダムのメンバーだよ?敵である組織の君達が気を病む事は無いだろう?」

俺「そうじゃない……理屈じゃ無いんだよ…」

ジョージ「今更だねぇ…今までキングダムのメンバーを何人もその手にかけて来たって言うのに」


返す言葉も無く…沈黙を以って意を返す事しか出来ない。

今まで考えようともしなかった事…犠牲の上に何かを成り立たせる事…仕組みその物に対する疑念が俺の中で渦を巻く

そんな最中……………


三つ……船尾の方向から響き渡る、小さな爆発音を耳にした

●壊れた部屋が遺したモノ

爆発音が意味する物…そんな物は考えるまでも無い。

やりきれない思いが俺を押し潰しかけた時………違和感、いや…違和感を飛び越して疑問が生まれた。


爆発音が三つ……続いた?


ヘリが飛び立ったのは何のためだ?

DCDCを俺達から引き離すため、囮になるための筈。


ならば、相応の間隔……少なくとも一度にやられてしまわない距離を取って居た筈…でなければ複数で囮になった意味が無い。

にも関わらず、こんなにも早く…しかも連続して迎撃された?

更に、爆発音?爆発したって事は、燃料タンクに至る程の攻撃を受けたと言う事。


つまり………


俺「おい、どう言う事だ!?何が起きた!?」

嫌な予感…嫌な可能性ばかりが脳裏を過ぎる。

そして……皮肉かつご丁寧に、目の前の光景がその可能性の証明を行ってくれた。


ジョージ「彼等は無駄死にか………さすがにあの作戦の失敗は堪えるなぁ」


帰還する筈のヘリを失ったヘリポートに、降り立つ黒い影…

巨大な犬の体に蝙蝠のような翼を生やし………ヘリを撃ち落したと思われる、何百メートルにも及ぶであろう尻尾を宙でしならせる…


化け物…DCDCの姿がそこにあった。


マーク「………おいおい、冗談だろ。ただ追い付いて来るだけじゃなく、所々パワーアップしてんじゃねぇか」

エリー「ねぇジョージぃ…こんな事態に陥った時の対策は無いのかしらぁん?」

ジョージ「あるけど…余りお勧めできないよ?」


マーク「遠慮知らずの手前ぇらしく無ぇなぁ。言って見ろよ」


ジョージ「至って単純な戦法なんだけど………まず撃退するだろう?」

マーク「簡単に言ってくれやがるなぁ。んで…その後は?」

ジョージ「次に…また追い付かれたら、また撃退……」


マーク「………それをいつまで続けりゃぁ良い?」

ジョージ「DCDCが諦めるまで………ちなみに、目的地に到着するまでに諦めて貰えなければヴィクターとの挟み撃ち確定だね」


マーク「最悪の作戦だなぁおい。んでも…そんな作戦でもやらなけりゃぁいけねぇってのが、もっと最悪だ」

●諍いは部屋の外

エリー「ちょぉっとぉ!全然歯が立たないじゃないのぉ!!」

アサルトライフルを手にしたエリーが、嘆きに近い叫びを上げる。


マーク「無駄口叩いて無ぇで、とくかく撃て!撃って撃って撃ちまくれ!!」

事態は最悪…いや、最悪と言う言葉さえ生温い程の絶望的状況。


対峙しているのが、先の戦闘の時と同じ状態のDCDCであったとしても…苦戦は必至

にも関わらず…今こうして俺達の目の前に居るDCDCは、更にそこから強化された規格外のモノ。

勝算なんて言葉を浮かべるだけでも虚しくなってくる。


マーク「くそっ…!何なんだよこの尻尾はよぉ!!俺のジャックポットでも間に合わねぇ!」

俺「もっと弾幕を…油断してたらヘリみたいに微塵切りにされるぞ!」

枝分かれして襲い来る尻尾を前に、マークの硬貨操作…ジャックポットと、俺のパトリオットを合わせても手数が足りず…防戦一方。


マリオも攻撃に回る余裕など無く、少しでも前に出ればその隙に尻尾の餌食になる事が目に見えている。

戦闘型能力を持たないエリーやジョージさえも、銃を片手にサポートに回るが…それでも焼け石に水。


マーク「なぁ…こいつ、今度はどうやって撃退すんだ?あの羽根と尻尾じゃぁ、落としてもすぐ戻って来ちまうだろ」

マークの言う通り、今のこの状態のDCDCを撃退する事は至難の業…いや、撃退どころか今この瞬間を耐えきる事さえ危うい。


それにもし…例え今を耐えても、次…その次…耐えられなくなった所でやられるのは確実

生き延びるためには、殺られる前に殺るしか無いが…当然ながら、そんな手段は無い。


追い詰められる俺達……


エリーやジョージの銃弾は勿論の事、マークの硬貨も無尽蔵では無い。

硬貨を失ったマークは、弾丸や薬莢…果てには瓦礫まで持ち出して防御に回すが、不慣れなためか操作がおぼつかない。

マリオに至っては…いくら斥力式防壁を持って居ても、肉弾戦を行っている以上確実にダメージが蓄積する。と言うか現に動きが鈍っている。


俺にしても…消耗品も肉体を使っていないとは言え、集中力を持続させるにも限度があり…

戦闘が長引くに連れて、パトリオットの制度は落ち…今では、尾撃を弾き返すどころか逸らすだけでも精一杯と言う有様。


勝ち目の無い戦い…無駄な足掻き………絶望…そんな言葉が次々に脳裏を過ぎる。

諦めれば楽になる…犬に負けて負け犬になるなんて冗談はお呼びじゃ無いが、そうなってしまえば…何もかも捨ててしまえる。


そんな弱気が俺の中で膨張を始めた時………俺は気付いた。

●開かれる禁断の箱

俺「…おい、ジョージ!」

ジョージ「何だい?」

マズルフラッシュと発砲音…そしてDCDCの尻尾をパトリオットで弾く際の空気の破裂音が響く中、ジョージは俺の声に応える。


俺「―――――――――――って事…出来るか?」

ジョージ「出来なくは無いけど、本当に良いのかい?」

多分、今打つ事が出来る唯一の手段。それをジョージに確認した後、俺はパトリオットを止めて理央に視線を向ける。


俺「………俺、優柔不断だから、誰が一番好きかとか答えが出せないんだと思う」

理央「……え?」

マリオを操作しながらも、回避行動を取って尻尾を避ける理央


俺「でもな…これだけは言えるんだ」

マーク「何無駄口叩いてやがる!そんな暇ぁ無ぇぞ!!」

一歩も動く事が出来ず、瓦礫と薬莢の竜巻をひたすらDCDC尻尾にぶつけるマーク


俺「俺はカレンが好きだ…」

エリー「あらぁん…お姫様が居ない所でまさかの告白ぅ?」

尻尾を避けながらカートリッジを交換…どこに隠し持って居たのか、手榴弾の安全ピンを抜いて投げ付けるエリー


俺「でも………優劣なんて付けられない程、理央の事も好きだ!!」

理央「先輩…何で…今……そんな事を……っ」


俺「だから…」


上手く行っても、俺自身どうなるか判らない………

もしかしたら不発に終わるかも知れない………

それでも………やらなければ後悔する…いや、後悔する事すら出来なくなる。


俺「ジョージ………やれ!!!」


掛け声を合図に、俺の手を握るジョージ。

やるべき事は打ち合わせてある。

欠片ほども信用出来ない相手だが、例え砂粒であっても信用しなければこの状況を打破する事なんて出来ない。


ジョージが手を離し、俺は目の前の敵に向けて駆け出す

腹の底から声を張り上げて……叫ぶ



   俺「リア充………………爆散しろ!!!」


○閉ざされた部屋の中で狂う何か

………俺は誰だ?

『お前は誰でも無い。虚像だ』


俺は何だ?

『お前は何者でも無い。虚構だ』


俺は何を持っている?

『お前は何も持って居ない。虚無だ』


俺には何が出来る?

『お前は何も出来ない。無力だ』


俺はどこに居る?

『お前はここに居る。だがそれ以外のどこにも居ない』


そうか………俺は存在以外、何も持って居ないのか。


目の前のあれは何だ?


『DCデッドコピー…現時点でのお前の敵だ』

敵か…そうだな、確かにそんな感じの見た目してるよな。


俺より強そうだし、俺より格好良いし、俺より賢そうだし、俺より頼りにされそうだし、俺より必要とされてそうだし

俺より性格良いだろうし、俺より世渡り上手だろうし、俺より人気あるだろうし、俺よりモテそうだし!!!


こう言うの…何て言うんだっけ?いや、俺の方じゃ無くて、DCナントカ…アイツの方…

あぁ、そうだ…


リア充だ…


羨ましいな…妬ましいな…憎らしいな…腹立たしいな…

リア充なんか爆発すればいい。いや、するべきだ。しなけりゃおかしい。いや…爆発なんかじゃ足りない。

もっと花火みたいにド派手に…欠片も残らず、跡形も無くなるくらいに……


そうだ…高らかに叫ぼう


俺「リア充………………爆散しろ!!!」

●目覚めた部屋は何処かがおかしくて

俺「――――ッッッッ!!!!??」

―――頭の中を駆け巡る頭痛が痛い

世界がグルグルグルグル回ッテ、気持ちワルくなって、ハラワタガ鼻から飛び出ス


「せ…ぱい………先輩っ!!」

首筋が痛くナル声が妬ましく響いて回って転ゲて一回転スル

妬ましい、羨ましい…この声の主はきっと美形だ。確認シてみよう、どうすれば良い?そうだ、目をあけよう


理央「先輩!しっかりして下さい!」

あぁ…この美声はやっぱり美形だ。髪も目も肌も綺麗で……俺なんかよりも、ずっと異性から好かれてるに間違い無い。妬ましい。

リア充だ…リア充は敵…リア充は…リア……リア……リ…リ……?


俺「あ……れ?………理……央…?」

理央「何で……何であんな無茶をしたんですか!!」

俺「何でって、あぁでもしないと………ッ…あ…れ?俺…どうやって…あれから…どうなったんだ?DCDCは!?」


理央「先輩が…先輩が倒したんですよ…」

エリー「それも…リア充爆散の能力でねぇ……」

俺「俺が…リア充爆散…で?いや…そうだ……ジョージに記憶を改竄させて…」


マーク「DCDCの野郎を爆散…おまけに、俺等に瘴気がかからねぇように。体当たりで吹っ飛ばして…」

俺「そうか…俺、瘴気にやられて…そのせいで…」

理央「そのせいだけじゃありません!あんな無茶な記憶改竄…!一歩間違えたら、戻って来れなかったんですよ!?」


理央の声が頭の奥まで響いてくる。けれど…多分それは頭痛だけが原因では無いのだろう。


俺「悪い…控えるようにする」

理央「控えるじゃありません!もう二度としないで下さい!それ以前に、先輩はもう同じような事なんて出来ないんですからっ!」

理央「それに…どれだけ…どれだけ心配したと思ってるんですか!先輩が…先輩まで居なくなってしまったら…私…っ!!」


理央の瞳からボロボロと零れる涙…その涙が、俺の頬に落ちる。

そこで初めて…俺は罪悪感と言う物を思い出した。


●制約の部屋

俺「悪い…理央。もう二度とやらない。それと…心配かけて悪かった」

理央の頭を抱き寄せ、そのまま抱き締める。

罪滅ぼし…と言う訳では無い。そうしたいと感じて、感情のままに体が動いた。


俺「それで…もう出来ないってのは、どう言う意味だ?」

理央「それは………」


ジョージ「最初に言っておくけど、僕のせいじゃ無いよ?」

呼んでも居ないのに現れる…ジョージ

ジョージ「君の希望通り…能力が使用可能な範囲内で記憶を改竄して…更に、元の記憶に改竄し直す。僕は全て完璧にこなしたからね」


俺「だったら、言い訳だけしてないで説明しろよ」

ジョージ「仕方が無いなぁ…まぁ、簡潔に説明すると………君のP器官が壊死してしまってる。それが原因だね」

俺「俺のP器官が…壊死…?」


ジョージ「無茶な運用で負荷がかかり過ぎたのか、はたまたDCDCの瘴気の影響か…全体では無いけれど、大半が壊死しているみたいだよ」

俺「んでも…壊死してる部分がリア充爆散で使ってる部分かどうかってのは…」

理央「それは…私が確認しました。壊死部分から外れているどころか…壊死の中心がそこです」


俺「んじゃぁ…パトリオットの方は?いや、こっちは使ってみれば判るか」

俺は自問自答し、天井付近の何も無い空間に対してパトリオットを放つ

俺「――――ッ!?」

と…同時に、脳の奥から全体へと電撃のように走り抜ける痛み。


理央「駄目です!パトリオットの部分も壊死しかかっているんですから!」

俺「成る程…使えない訳じゃぁ無いけど、連射は出来ない。使えても頭痛が走るって訳か」

理央「使わないで下さい…壊死が広がるどころか、先輩の命に関わるかも知れないんですから…」


俺「………そうだな…悪い。さっき約束したばっかりだってのに、またやっちまいそうになってた」

理央「判って貰えれば…それで良いんです」


……とは言った物の、この二つの能力が使えないと言うのはかなりの痛手

今の俺は…実質上お荷物でしか無い。


目的地に辿り着くまでに、解決しなければいけない課題が出来てしまったようだ


いつの間にか夕暮れになっている空を、窓越しに見上げ…俺はそんな事を考えた

●動かす部屋で思ふ事

出航から5日目…


目的地…北極の施設へと向かう旅路の途中…窓の外にはちらほらと氷塊が見え始めて来る。

DCDCの襲来以降、特にこれと言った問題も起こる事無く…順調と言って良い経過。


そんな折…進行状況の確認がてらに訪れた操縦室で、ジョージに出くわす。


俺「ずっと気になってたんだが…こんだけ時間がかかるんだったら、多少待ってでも空路で来た方が良かったんじゃないのか?」

俺「そうすれば、DCDCに襲われる事も無かっただろうし。先回りする事も出来たって思うんだが?」


ジョージ「まぁ、当然の疑問だね。でも…目的値には滑走路もヘリポートも無いからそれは無理」

俺「だからって…海路で直行しなくたって、途中まで空路で移動してそこから海路に切り替えれば良かったんじゃ無いのか?」


ジョージ「……………」

俺「………何だよ」


ジョージ「いや、ちゃんとその辺りを考える事も出来るんだなぁ…って」

俺「……………喧嘩売ってんのか?蹴るぞ?」


ジョージ「冗談だよ。でも、残念ながらそれは無理。航空手段が無いし、民間の飛行機を使ったとしても、そこからの船が無い」

俺「意外だな…キングダムって、どこにでも潜んでていつでも行動に移れる…そんなイメージがあるんだがなぁ」

ジョージ「いや…準備期間があればまだしも、いきなり船を用意するなんて人数が沢山居ても無理だからね?」


俺「民間の船を買うなり借りるなり出来ないのかよ」

ジョージ「北極に行けるだけの装備が整っていて、キングダムの極秘施設まで乗って行けて、おまけに施設のドックの規格に収まる船を?」

俺「…………」

悔しい事だが、俺はジョージの言葉に納得してしまう。


ジョージ「まぁ…君は目的地に着くまでの心配よりも、着いてからの心配をした方が良いんじゃないかな?」

俺「どう言う意味だよ」

ジョージ「しらばっくれたって意味無いって。わざわざ指摘されなくたって、君が一番判ってる筈だろう?」


俺「………」

大きすぎる心当たりがあるため、反論できず…俺は口篭るしか無かった。

●部屋の中に詰め込んで

瘴気によるダメージは残っているが、行動を阻害する程深刻な物では無し


そう…むしろ問題は超能力の方


俺はあの一件以来、マトモに超能力を使えない状態に陥っており…このままでは戦力にはなれない。

一応の武装として幾つかの銃火器を借り受けているが、もし戦闘になった場合はこれがどこまで通用するのか怪しい所

戦闘を行う事無く事態を収拾する事が出来ればそれが一番なんだが………どこまで期待できるのかも判らない。


俺「なぁ………俺達の目的…名前を持たない怪物の件なんだが…」

ジョージ何かな?


俺「北極にある何か…それに馴染むまでには日数がかかる…上手く行けばそれまでに到着する…って言ってたよな?戦闘にならずに済む可能性はあるのか?」

ジョージ「そうだね…ヴィクターが施設に到着してすぐに施術するのを前提とした場合、僕達の到着は定着前の無防備な状態の可能性が高い」

俺「その状態での奇襲に成功すれば、戦闘にすらならず、一方的に制圧出来る…って事だよな」


ジョージ「逆に…僕達に備えて施術を後回し、待ち伏せをしている可能性もあるけど………その可能性は低いだろうね」

俺「どうしてそう断言出来る?」

ジョージ「DCDCさ。ヴィクターからしても、僕達がDCDCを倒す事が出来たのは計算外の筈だよ」


ジョージ「定着完了までの時間稼ぎには充分…上手く行けば船ごと撃沈して脅威を排除…そう考えていると見て間違い無いと思う」

俺「………だと…良いんだがな」


楽観視は出来ない状況…

戦闘が起こるか起こらないか…今考えた所で仕方の無い事なのは判っているが、やはりそれを考えずには居られない。


だがまぁ…結局の所、俺がやるべき事は決まっている。


戦闘を行わなければいけない場面に備え、一つでも多くの付け焼刃を焼き付けておく事…

残りの時間で、どんな付け焼刃をどれだけ用意できるか考える事…それだけだった。

●やがて部屋は辿り着く

出航から7日目……


俺達は、遂に目的地へと辿り着いた。


傍目にはそれと判らないよう、氷山でカモフラージュされた研究施設。

船は入り組んだ氷塊の隙間を縫って進み、外からは見えない位置に備えられた港湾ドックに停船する。


防寒具を着込んで船を降り…ジョージが先頭に立って、ゲートに暗証番号を入力。

程なくして、重厚な駆動音と共に扉が開き…そこから先に待ち受けていたのは第二の門

第一の門を全員が通過した所で、ジョージが今度はカードキーを取り出し…門に供え付けられたスキャナーにそれを通す。


まず先に第一の門が閉じ、続くように開く第二の門が開門。再び全員が通過した所で、第二の門は閉ざされ…


ジョージ「防寒具はここまでで大丈夫。さぁ、行こうか」

と…ジョージが、施設内への先導を始める。


施設内の廊下を歩く俺達……

廊下の側面に面した部屋は、理央の広域リーディングで内部を確認するため…ゆっくりと素通りするだけで事足りる。

理央から何の警告も無いのは、便りが無いのは良い便り……と言った所な訳だが


時折聞こえる機械音以外は、物音一つ無し。不気味なまでの静寂が施設内を支配している事に、俺は違和感を覚えずには居られない。


俺「なぁ…随分広い施設みたいだが、誰も居ないのか?」

沈黙に耐え切れなくなり、ジョージに対して質問する。勿論ヴィクター達の事も含んで居るが、本当に聞きたい所はもう片方…

ジョージ「研究員も施設管理要員も居る筈なんだけどねぇ…抵抗して片付けられちゃったんじゃないかな」


皆殺しにされている可能性…懸念していた内容を、ジョージは濁す事無く言って除けた。


俺「にしては…抵抗の跡も血痕も、死体の一つも無いよな」

ジョージの予想に反抗すべく、子供じみた反論を投げ付ける俺

だが…ジョージの返答が来る前に………いや、備えるかのように…理央が俺の袖を摘んで来る。


ジョージ「抵抗の跡が無いのは気になるけど…血痕はスプリンクラーで流されて排水溝の先なんじゃないかなぁ?」

そう言ってジョージが指差したのは、大きめのスプリンクラーと目の細かい排水溝。

俺「スプリンクラーって普通、火事が起きた時に起動する物だろ?火事の跡なんかどこにも…」

と言いかけた所で、その意味に気付く。


エリー「最初から、火事以外で使うのが前提。ガスとか菌とかもあるんでしょうけど、壁の材質を見る限り・・・血を洗い流すのが前提みたいねぇん」

理央「……………」

理央の沈黙は、恐らく肯定の意。


その事について、これ以上の詮索をする者は居なかった。

●静寂の中に並ぶ部屋

俺「ところで理央…今の所どうだ?何か確認出来ないか?」

理央「知覚可能な範囲では…まだこれと言った物は何も」

申し訳無さそうに呟き、首を横に振る理央。


交わす言葉を失い、再び訪れる沈黙。そんな中……今まで一本道だった通路がT字路になって別れ、皆が立ち止まる。


ジョージ「それじゃ…ここから先は一旦二手に別れて、手分けして探そうか」

マーク「一旦…か。ちゃんと合流出来るんだろうなぁ?」

ジョージ「目の前の壁…と言うか柱を囲む形で通路が作られているだけだからね。反対側で合流出来る筈さ」


俺「だからって、わざわざ分散して探す必要も無いだろ?もし別々に居る所を襲われたらどうするんだ?」

エリー「なぁんか…裏がありそうよねぇ」

ジョージ「やれやれ…どうして皆こんなに疑い深いんだろうねぇ。まぁ裏があるのは本当なんだけどね」


俺「あるのかよ!」


ジョージ「右側の通路…丁度半ば辺りの部屋には、理央に見せたく無い物がある…残ってる可能性があるんだよ」

俺「………それを口にしてる時点で、見せてるも同然じゃねぇかよ!いや…そもそも理央もその辺りは読んでる筈か?」

ジョージ「事前に知るのと実際に見るのとでは大違いだからねぇ……ま、万が一に備えてさ」


俺「にしたって、合流時に理央が俺達の記憶を読んだら…」

ジョージ「いや、間接的に見られる分には大丈夫だと思うよ」

マーク「そう言う物なのか?」

ジョージ「僕達の記憶限界が丁度良いフィルターになるだろうしね。後は念のため、意図的にリーディングから外せば問題無いんじゃないかい?」


俺「じゃぁ話を戻すが、別々の所をヴィクター達に襲われたらどうする?」

歩き出そうとするジョージの腕を掴み、確認のため詰問する。

ジョージ「理央に関しては、複合リーディングの広域知覚…おまけにマリオと言う護衛が居る以上、余程の事が無い限り心配は無い筈だろう」


俺「お前の方のグループが襲われた場合は?」

ジョージ「頑張って合流地点まで逃げて、合流して戦うしか無い」

ジョージ「まぁ…理央の方が先に探索を終えるだろうから、実際はもう少し先の地点で合流出来るだろうけどね」


嘘を吐いている様子は無し……

と言うかそれ以前に、襲撃という事態さえ俺の杞憂に過ぎないかも知れない。


結局…反論の言葉を失った俺達は、二手に分かれ

理央にはエリーが付き添って、左側。ジョージには俺とマークが監視として付き、右側。それぞれの通路に進む事になった。

●禁断の部屋

そうして辿り着いた部屋…………


この部屋をどう表現すれば良いだろう………

悪趣味…狂気…異常…どんな言葉を用いても、一言で言い現す事は出来そうに無い。


ただ、ありのままの光景を言葉にすると………


水槽に入った…氷漬けの脳が壁一面を覆い尽くしていた

いや、厳密には違う。脳だけでは無く…

赤黒い宝石のような球体…その球体に灰色の肉片のような物がこびり付いた物が試験管に入り、ケージの中に保管されている。


しかも…それをよく見ると、一つ一つにネームプレートが貼られていて…


俺「ジェリー・サイオン…エスケーパー。トム・イカルガツ…ハンティング。レナード・ホプキンス…トリックポックス」

俺「ダニエル・ウェーバー…イリュージョン。クロウ・レベッカ…アムネジアフィールド。リー・ユーチェン………」


中には、ネームプレートだけが残され、持ち出された形跡がある物が幾つか。


俺「何だ………これ…まさか…………」


ジョージ「そう…そのまさか。超能力者の脳とPSI器官、P器官と呼ばれる物さ。それと如意宝珠、D器官は……不味いな、持ち出されているようだ」

その正体を耳にして、胃の奥底から吐き気が込み上げる…が、辛うじて堪え…再びケージの中を再び覗き込む。

俺「あぁ…くそっ!………これは…多分…いや、絶対理央に見せられねぇ………!!」


そして…目に焼きついて離れない それ を再び見て、言葉を吐き出す。


ジョージ「その通り。これだけの量のP器官が持つ情報を視るのは、いくら理央でも精神に支障を来たしかねない」

予想通りと言えば予想通りだが…ジョージからは、俺の考えは正反対の理由が返って来た。


俺「そっちじゃ無ぇ………この、ネームプレートだけ残った所…理央の…………」

ジョージ「あぁ…確かに、よく気付いたね。うん…情緒面でのマイナス要因になるだろうから、なるべく隠しておこう」

マーク「おいおい、お前等だけで納得してんじゃ無ぇよ。一体どう言う…」


マークは俺達に会話について来れず、その意図を探るべくケージを覗き込む。そして………そこで理解する。


マーク「…………おい、もしかしてコイツは、あのお嬢ちゃんの………」

マークが言い終えるより先に頷き、俺はその言葉を遮る。

俺自身…確信を持って居た訳では無いが、憶測とジョージの反応だけでも懸念するには充分過ぎる。


湧き上がってくる、怒りと憎しみ…そして悲しみ。


気が付くと俺は…銃を構えて居た

●崩壊の部屋

マーク「………なぁ…止めなくても良いのか?あれもキングダムの財産じゃぁ無ぇのか?」

引き金を引く度…水槽が一つ割れて、中身が弾け飛ぶ。

ジョージ「元々、事が終わったら施設諸共廃棄する予定だった物だからねぇ…下手に止めて機嫌を損ねるよりは良いんじゃないかい?」


吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする吐き気がする


ドラマ…アニメ…漫画…フィクションの世界ではたまに目にする光景ではあるが、実際に見てみるとその衝撃に耐えられそうに無い。

こんな物は、生への冒涜であり死への冒涜だ

こんな事をするヤツは頭がいかれている。こんな事をするヤツを生かしておいてはいけない。


キングダムは危険だ…危険なヤツ等の巣窟だ。

そうだ…今は利害関係の一致で同行しているが、元々コイツは許せない存在…生かしておけない存在じゃないか

コイツ等は…こんな事を出来るコイツ等は人間なのか?人間じゃ無いなら処分してしまっても良いだろう?


全ての水槽を破壊し終えた俺は、ジョージに向き直って銃口を向ける。


マーク「おい、小僧!そこまでだ!!」


マークの声により我に返る俺。

銃を握った手から力が抜け、乾いた音と共に銃が床に落ちる。


マーク「コイツを殺してぇって気持ちは痛い程判るが、今はまだ我慢しとけ」

ジョージ「あれあれ?何か僕、酷い事言われてない?」

俺「あぁ…そうだな、ちょっと頭に血が昇ってた。悪いんだが………ちょっと一人にしてくれないか?」


俺は気持ちを落ち着かせるべく、小さく深い息をして…

落ちた銃を拾い上げ、ホルスターに戻しながらマークに返答。


同じキングダム所属でありながらも、マークのような裏の無いタイプも居る事を思い出す。


マーク「それは良いんだが…大丈夫か?」

ジョージ「彼もしょ………おっと、焦燥から抜け出すのに時間がかかるだろうし、ここは素直に聞いておこうよ」


察した上で従うジョージ…コイツに対する怒りも苛立ちも、遺憾ながらもう馴れて来た。


マークとジョージが室外に出たのを確認してから、俺はもう一度室内を一望

心の整理………

それと…やり残した事、やるべき事を実行する。

●部屋から出てきた三人と

理央「先輩…大丈夫でしたか?その…銃声が聞こえましたけど…」

ジョージとマーク…そして、様子見で寄越されたマリオと途中で合流してから、理央とエリーの元に辿り着く。


分断前にジョージから読み取った内容が、結果的に功を奏して抑止力になっているのか…

理央は心配そうに俺を見詰めるが、その真相を読み解こうとはしない。


俺「心配かけて悪かった。もう大丈夫だ」

なるべく簡潔に…理央の意思を押し除けないようにしつつ、多くを語らず話を切り上げる

幸いな事に理央の俺の言葉の裏側を察し、表でも裏でもそれ以上の追求を諦めてくれたらしい。


後は俺が、自分の言葉通り平静を保てば良い…それで良い。


そんな俺達のやりとりが終わるのを待っていたのか、踵を返して歩き出すジョージ。

俺達は無言のままその後を追い…真っ直ぐに伸びる廊下を歩き続ける


そして………異変は、突然訪れた。


理央「……………え…?」

俺「どうした?何か見つけたのか?」

理央「いえ…その逆です。何も…何も見えない…何も読み取れないんです」


理央のその言葉を聞いた瞬間…俺は体中の毛穴が開き、嫌な汗が噴き出した。


俺「それは…特定の範囲か?それとも…」

理央「特定の範囲…十字路の先、正面に見えているあのドアの先が全く視えません」


話を聞く限りでは、阻害系の能力。

理央の能力が無効化された訳では無い…その事に安堵するも…それが示す意味を理解する事で、俺の心臓は嫌な音を立て始める。


俺「ヴィクターと怪物…これはどっちの能力だ?」

理央「ヴィクターの超能力は、自分自身の腕力と同程度の威力しか持たないサイコキネシス…なので」

ジョージ「怪物か第三者……あるいは第四第五と考えるべきだろうね」


確認の言葉を交わすに連れて、天井知らずに脈動を早めて行く心臓

やはり希望的観測なんて物はするべきじゃ無い。嫌な方向に想定して居た事態を、現実は律儀に踏襲してくれているようだ。


ジョージ「危険だと思うなら、君達組織グループはここで待っていてくれて良いんだよ?」

俺「馬鹿言え…お前達が負けたら尻拭いするのは俺達なんだ。少しでも勝率を上げるためにも、同行する方が良いに決まってんだろ」


話している間に十字路を越え、問題のドアの前へと辿り着く俺達。

罠の可能性を考えれば、戦力になる人間が開けるべきでは無い……となれば必然的に適任者は…


との自問自答の末…俺は真っ先にドアノブを掴み、そのドアを引き開いた。

●棄てられた物の部屋

まず俺に襲いかかってきたのは、鼻の曲がるような異臭…いや、死臭だった。

狭い部屋の中に押し込まれた、大量のバラバラ死体。

ざっと見た限りでも、10から20。一番上の死体以外は、皆同じ白衣を着用している。


俺は喉の奥から溢れ出しそうな吐き気を堪えるも、よろけて一歩後ろに後ずさる。


マーク「どーした?何が……………って…何だこりゃ、酷ぇ有様じゃねぇか」

エリー「本当ぉん…あら?一人だけ服装が違うわねぇ」


そう言ってエリーが指摘したのは、例の一番上の死体…腹部から下と頭が無い死体

白衣には代わり無いが、袖の刺繍やポケットの数などが明らかに別物の白衣…その白衣を着込んだ死体だった。


そして…俺達のやりとりを把握すべく、室内を覗き込む理央。

惨状を目の当たりにして一瞬だけ顔を顰めるも、またいつもの顔に戻り…

理央「この死体は………ヴィクターです」


そう断言する


俺「根拠は?幾ら昔の知り合いとは言え、顔も見ずに判るのか?」

理央「指…指紋で判ります。忘れたくても忘れられない…赤い跡を幾つも残して来た手ですから」

強い確信を持ってその言葉を紡ぐ理央……そこに疑う余地は微塵も無い。


マーク「…ってー事は……だ。ヴィクターは殺された…誰に殺されたかって言やぁ…」

俺「名前を持たない怪物…か。北極まで逃げてきたフランケンシュタイン博士が怪物に殺されるとか、冗談が過ぎるぜ」

それも、第三者が居なければ…の場合だが、皆も判っていると思うので、あえてそこの所は口にしないでおく。


俺「で、そうなって来ると次の問題は…その怪物が今どこに居て、どんな状態…どの段階かって話になって来る訳だが…」


エリー「少なくともぉ…この施設の中からは出て無いわよねぇん?こんな極寒の地で外に出るとは思えないしぃ…」

マーク「んで、判ってるのは…お嬢ちゃんの探知能力を阻害する能力を持ってるって事と…」

ジョージ「この施設に来る前に、予め阻害能力を移植されて居たか…この施設に来てからで…今はまだ能力定着の最中か…」


俺「まだまだ、大事な所が判らない事ばかりって事か。ってか、思ったんだが…」

ジョージ「何かな?」

俺「最初っから施設を廃棄する予定だったなら…施設ごとヴィクターと怪物を爆破するなり閉じ込めるなり出来たんじゃ無いのか?」


ジョージ「そのどちらも内部にスタッフが居たら止められるから、確実じゃ無かったんだよ」

俺「今は怪物しか居ないんだし……」

ジョージ「第三者が存在する可能性が消えて居ない以上、それは無理。爆破に乗じて脱出なんかされたら、文字通り野に放つ事になるよね」


俺「結局…怪物を倒す以外の選択肢は無しか」

●部屋の奥に潜む扉

ジョージ「さて…さすがにこれ以上こんな場所に居るのも何だし、先に進もうか」

他の皆が立ち竦む中、死体の山を掻き分けるジョージ。

バラバラになった部位が転がり落ち、残った血が周囲に跳ねる…そんな中。

掻き分けられた死体の陰から、血で真っ赤に染まったドアが姿を現す。


ドアノブに手をかけ、ドアを押し開くジョージ。


そして奥の部屋に踏み込むのとほぼ同時に、暗闇の中で微かにゆらめく………何か

俺は反射的にジョージの襟首を掴み、元の部屋へと引き戻す。


弧を描いて宙を舞う、二つの血飛沫

つい先程までジョージが立っていた床には、斜めに走った残痕

そして………鈍い音を立て落ちる、二つの手。


ジョージ「……………え?」

ジョージは糸のような目を見開き、目の前の自分の手を凝視する。


俺「怪物………こんな所に潜んでやがったか!」


俺はジョージの脇を擦り抜け…ドアのすぐ手前で、部屋の中央に向けて発砲。

弾丸は当然のように壁に当たり、何度も跳弾してから床に落ちる…


が…俺の目的はそこでは無い。

マズルフラシュにより一瞬だけ照らし出された室内

その天井に張り付く、フルプレート姿の巨体……怪物の姿を捉え、その怪物に向けて銃弾を放つ。


その巨体からは想像も付かない程の俊敏さで弾丸を避け、部屋の奥へと駆け抜ける怪物

俺はその隙に室内に踏み込み、手探りで探したスイッチを入れる。


怪物が逃げた先…部屋の隅へには、別の部屋へと続く廊下

他に隠れる場所が無い以上、その先に進んだと考えるべきだろう

流石にそれ以上の独断先行は控え、俺は皆の足並みが揃うのを待つ。


ジョージ「ククッ…ははは……そうか…そう言う事か。中々やってくれるじゃないか!」

が、そんな中…両腕を失ったにも関わらず、余裕の笑い声を上げるジョージ。


今はこいつに構っている余裕は無いし、構いたくも無いが…かと言ってこのまま放置して置く訳にもいかない。

室内の薬品に関しては、どれがどんな物なのかも判らないので手を付けず…


ジョージには最低限の止血だけ施して、エリーが担いで先に進む事になった。

●部屋の奥の更に奥

俺「さっきの…って言っても、見えてたか判らないんだが…あれが例の怪物か?」

理央「間違いありません。あれが…名前を持たない怪物…です」

俺は銃のカートリッジを取り替えながら問い、それに答える理央。


俺「そっか…んじゃ、怪物の持ってる超能力は判るか?」

理央「今はまだリーディングが出来なくて…研究施設に居た時に見たのは、金属を高速で震わせて高周波ブレードのようにする能力だけです」

ジョージ「それと…サイコメトリー。ある程度近くの物の記憶を読み取る事が出来る筈だよ」


俺「って事は…さっきから理央のリーディングを阻害してる能力は、怪物に新たに移植された能力の可能性が高いって訳だよな」

マーク「にしたって、おかしく無ぇか?移植したってんなら、まだ定着してない筈だろ?」

俺「それに関しちゃぁ、意外と簡単な答えなのかもな」


ジョージ「…と言うと?」


俺「希望的観測なら、施設の頃から理央やジョージに秘密にしていた…あるいは、この施設に来る前に予め移植してあったって事だろう」

マーク「あぁ…だったらまだ怪物の野郎は、目的の能力の移植を受けて無ぇって事だよな」

俺「んでも、逆に絶望的観測をすると………あの怪物は、もう能力の移植が終わっている。本来の目的を果たした状態にある」


ジョージ「………その根拠は?」


俺「まず最初に、P器官が持ち出された後だって事だ。ここまでヴィクターについて来ておいて、いざ移植って時より前にヴィクターを殺すのはおかしい」

エリー「目的を果たした事で、不要になったヴィクターを殺害…って訳よねぇん」

俺「次に…大前提である、定着までに必要な日数。これがジョージの想定とは異なっている場合…あるいは意図的に偽っていた可能性がある」


ジョージ「それはまた大胆な推理だけど…そう考える根拠は?」


俺「元々お前の言葉は信じられなかったが…明らかにおかし過ぎたんだよ。ここに来るまでの渡航手段も日数も…その他も」

理央「でも、ジョージの記憶は事前に確認してましたけど…」

俺「意図的に消されてた部分があった…だろ?」


ジョージ「いくら協力が必要な事態とは言え、外部に漏らせない機密があるからねぇ。理央に視られないためには必要な事さ」


俺「俺も最初はそう思ったんだが…さっき腕を落とされたお前の反応を見て、考えが変わった」

ジョージ「………」

俺「こっからは完全に憶測なんだが…お前、理央の能力が阻害され始めた辺りから、消してた記憶が戻ってるんじゃないのか?」


ジョージ「………良いよ、続けて」


俺「多分、本来の計画ではお前がヴィクター達…あるいは怪物と合流して、俺達を差し出す予定だった」

俺「だが、裏切りか予定外の事態か…お前自身が怪物に襲われ…」


ジョージ「その結果…口から出た言葉があれだった…という事か。成程、面白い推理だね。でも、間違っている所があるよ」

●閉ざされた部屋の中から

ジョージ「悪いけど、僕の記憶は消去されたままだ」

俺「だったら、さっきの言葉は何だ。辻褄が合わないだろ」

ジョージ「その事だけど…本当に面白い事に、僕も君と全く同じ推理をしたんだ」


俺「はぁ?おかしいだろ。どこでそんな…」

ジョージ「この腕を切り落とされた時…実は、君のお陰で一撃目は当たらなかった…掠りもしなかったんだけど。その直後の二撃目で腕を持ってかれてた」

エリー「それってぇ…」

ジョージ「一撃目で命を…二撃目で妥協して能力を狙って来た…そう取れるよね。だから、そこで思い当たった」


ジョージ「怪物は僕の能力と発動条件を把握している…そして、それは多分僕が教えた」

ジョージ「では何故教えたか…協力関係にあったから。内容は多分、君が推測した通り」

ジョージ「僕は僕での思惑があったんだろうけど…出し抜かれてこの有様…って事なんだと思う」


俺「って、結局俺達を裏切ってた事に変わり無いじゃないか!」

ジョージ「嫌だなぁ、そこは最初から否定してないだろう?」


俺「つくづく思うぜ………何でもっと早く、お前を始末しとかなかったんだろうか…ってな」

マーク「右に同じく」

理央「…私もです」

エリー「本当…いいかげん疲れて来るわよねぇ」


悪びれた様子も無く、いけしゃぁしゃぁと述べるジョージに対し…意見は図らずも満場一致

変なタイミングで、俺達の結束が固まる結果となった。


俺「そう言えば…マリオの方は大丈夫なのか?」

理央「遠隔操作は出来ませんが…接触した状態のテレパスでの操作なら可能です」

マリオの左腕の上に、抱えられるような形で座る理央

利便性は大幅に削がれるが、致命的な戦力低下は逃れた事を確認出来て…少しだけ安堵する。


ジョージ「しかし本当…君は他人とは思えないよ。もし違う出会い方をしてたら、僕達は友達になれていたかもね」

俺「寝言は墓ん中で言ってろ」

ジョージ「いや、本気本気。保障するって」


にも関わらず…そんな空気さえも的確に濁す、ジョージの存在。

両手を失っているにも関わらず、呑気にそんな会話を続けようとするのだが…


言葉の代わりに…目の前に立ち塞がるドアと後方で降りる防火シャッター。それが会話を打ち切った。

●怪物の待つ部屋

エリー「退路は塞がれた…って事よねぇ」

マーク「脱出…ってーか、帰り道はどーすんだ?」


ジョージ「この先右手にある制御室で、シャッターを上げるか…この先左手にある非常口から外に出るかだけど…」

俺「防寒具も無しに外に出るのは、ただの自殺行為だよな」

ジョージ「そして、その防寒具も…この先で置いてあるのは、制御室のみ」


俺「どっちにしても制御室か…ならまず間違い無く、そこかその前で…怪物が待ち構えてるんだろうなぁ」


進むべき道が決まり…警戒を怠らないようにしながら、ドアを押し開く。


正面には………氷山と氷海…外の景色が一望できる、分厚いガラス張りの壁。大半が外に向いた椅子と、テーブル。

右手には制御室の入り口と思わしきドアと、食事用カウンター…左手には、非常口のマークが描かれた出入り口。


そして………天井のシャンデリアから降り立ち、俺達の正面に対峙する…フルプレートを纏った、名前を持たない怪物。


意外な程静かで落ち着き払った出で立ちに、少々肩透かしをくらう…が、それもすぐに警戒へと変わる。


床を踏み締め…先にも見せた俊敏さで、一瞬の内に俺達の懐へと飛び込んで来る…怪物

その鋭い爪の切っ先が、俺の腕を浅く裂いて血飛沫を舞わせ………


返しの刃が、俺の喉元へと迫り来る。が…寸での所でマリオの手がそれを止める。


本来ならばどんな物でも切り裂くような、怪物の高周波ブレード。

しかしそれも、マリオの斥力場により遮られてしまえば…本領を発揮する以前の問題。能力その物が何の意味も持たない。


理央を抱えているため右手しか使う事が出来ないが、それでも現時点では圧倒的優勢

加えて、マリオの拳には一切の慢心も油断も無く…優勢を勝利へと繰り上げるべく、猛攻が続く。


防御の上から胸部に…ガラ空きになったボディへと打ち込まれるマリオ拳

そこから怪物の両腕を跳ね上げ、パイルバンカーのような勢いで怪物の頭部へと放たれ…

その時点で、この場に居る者の殆どがマリオの勝利を確信するのだが………


優勢は、瞬く間に劣勢へと裏返った。

●分解霧散暴露の部屋

マリオの拳に砕かれ、四散する怪物のヘルム

だが………それと同時に、壊れたブラウン管テレビのように歪む…マリオの腕。


ほんの一瞬…自分の目を疑い、一度瞬きをしてから改めてその光景を凝視する

幻覚…見間違え…そんな物を期待するが、現実はそんな楽観を許さない。

歪んだマリオの腕は、硬度と言う物を感じさせない奇妙な動きと共に、四方八方に引き伸ばされ…


砂…いや、霧のように…分解されて、文字通り周囲に霧散した。


何が起きたのか判らなかった…だが、結果だけは嘘偽り無く目の前にある。


右腕を失い、ボトボトと血を滴り落としながら後方に跳ぶマリオ

ヘルムを失い、その素顔を晒す怪物……………いや、あれを素顔と呼ぶべきかどうか


壊れたヘルムの下から現れたのは…本来首があるべき場所に、ツギハギのように縫い付けられた幾つもの顔のパーツと…

その上に据えられた、左半分の顔。

想像していた怪物の顔とは大きく異なるが、怪物と言う名称に相応し過ぎる姿がそこにはあった。


そして…


理央「………え?…ヴィク…ター……?」

理央の口からその名前が紡がれ…俺の思考が、嫌なルートへと走り出す。


俺はヴィクターの顔を見た事が無いが、理央の言葉や反応でそれが本人だと言う事が判る。

なら、何故…こうして明かされた怪物の正体が、ヴィクター…その人物なのか…

短絡的な思考で答えに辿り着くのは好きじゃないが…どうもそれが正解のようだから仕方ない。


俺「現代のプロメテウスを気取ってるかと思えば…その実、現代のピグマリオンだったってオチかよ…」


頭の中に真っ先に浮かんだ皮肉を込め、怪物…いや、ヴィクターに向けて言い放つ。


ヴィクター「アフロディーテも兼任してたから、一人三役かな。キミ…中々良いセンスしてるね」

が…ヴィクターは、首に付いた口から減らず口を叩いて返して来る


俺「ジョージと言いお前と言い…キングダムの…いや、キングダムでも指折りの悪者に褒められても嬉しく無いなぁ!」

●禁忌眠る部屋

俺は銃を構え…挨拶代わりの一発。グロック18の銃口から放たれた弾丸がヴィクターに襲いかかり…

更に排莢された薬莢を、マークの能力が空中で拾い上げて放つ…二連撃。


しかしそのどちらも…先のマリオの腕のように、歪められて引き伸ばされて…霧散してしまう


俺「なぁ…お前もキングダムのメンバーだったんよなぁ?多分に漏れず、能力の説明とかしてくるんだろ?」

ヴィクター「ハハハハ…自分の手の内を明かすのは、三流だけ…と言いたい所だけど、実はもう一つだけ例外がある。判るかい?」

俺「自分を全能と信じて疑わない奴…能力を知られようとも、必ず勝てると確信を持ってる奴…って所か?」


ヴィクター「その通り…よく判っているじゃないか。それじゃぁまず、ご褒美も兼ねて僕の能力の秘密を一つ教えてあげよう」

言い放って、周囲を一瞥するヴィクター。そしてその視線は、理央に向いた所で止まり…


ヴィクター「僕がサイコメトリーを使える事はご存知かな?これは、とある人物の脳の一部とP器官を移植して使えるようになったん物なんだけど…」

俺「いや、そんな事はもう知ってる」

ヴィクター「まぁまぁ落ち着いて最後まで聞こう。実はこのP器官の持ち主、理央の良く知ってる…ようで良く知らない人物なのさ」


マーク「っん当…に、ジョージみてぇな野郎だな。言いたい事があるなら、ハッキリ言いやがれ!」

ジョージ「知ってるようで知らない人物。更にサイコメトリーって事は………あぁ」


思い当たる人物を見つけた様子のジョージ。そして…そのジョージを見て、理央は何かに気付き…

みるみる内に顔が青ざめ、見開いた目が震えるように小刻みに動き始める。


理央「そんな…まさか………あの時…私を襲おうとしていたのは…」

ヴィクター「そう…彼ってば幾人もの少女を犯して殺し、理央さえもその手にかけようとしてたんだよね……自分の娘とも知らずに!!」


理央「ヴィク…ター………………ヴィクタアァァァァァァ!!!!」

怒りに駆られ…マリオの残った左腕でヴィクターに殴りかかる理央。しかしその左腕さえも、触れる直前でヴィクターに霧散されてしまい…

ヴィクター「あぁでも安心しておくれよ!!そんな彼も今はこうして愛しの妹と一緒に僕の中に居るんだからねぇ!!」


理央は我を失い、終いには自らの拳でヴィクターに殴り掛かろうとする。


だが、それはあまりにも無謀な自殺行為。俺は理央の身体を後ろから抱え込み…寸での所でそれを止める。

ヴィクター「ほらほら!君達も来たまえよ!!家族水仲良く、僕の中で僕のために存在して良いんだよ!!」

理央「あ…あ゛あ゛あ゛あああぁぁぁぁ!!!!許さない!!絶対に許さない!返して!!返して!!!お父さんとお母さんを返して!!!」


室内に響き渡る理央の悲痛な叫び。

渾身の力で飛びかかろうとする所を俺が抑えると…理央はそのまま力無く倒れ込んだ。


ヴィクター「おやおやぁ?もう戦意喪失かい!?残念だなぁ!もっと僕を楽しませてくれよ!もっとこの力を実感させてくれよ!!」

あぁ、そうそう………言い忘れていた事が一つあった



  俺はもうとっくにブチ切れている。



俺「安心しろよ…理央の代わりに俺が相手になってやる。それと理央…安心しろ、止めはお前に刺させてやるからな」

●逆転制裁の部屋

ヴィクター「らしくない…らしくないなぁ!君はそんな冗談や強がりを言うようなキャラじゃぁ無いだろぉ!?」

俺「御託は良いからかかって来いよ…第一お前、俺の事を何も知らないだろ?」

ヴィクター「知っているさ。アシッドのリア充爆散とマイケルのパトリオットをその身に取り込んだんだっけ?でも、そんな能力で…」


俺「いや、リア充爆散は完全に使えなくなっちまったし、パトリオットも無理…使えてあと1、2発だけだ」

ヴィクター「んんー?ブラフかい?もし本当だとしたら、それこそ勝ち目なんて無いしさっきの発言と矛盾してるだろう?」

俺「俺の切り札がそれだけなら…な」


ヴィクター「あぁ、そうか…他にも幾つもの超能力を隠し持っているんだね?そして、それを駆使して戦おうって訳か」

俺「あぁ…そうだな、二つと二つで四つ…いや、とりあえずお前の相手だけなら………二つで充分だ」


ヴィクター「………へぇ、舐めてくれるじゃないか…今のはちょっと頭に来たねぇ。良いとも、相手になってあげようじゃないか!」

挑発に乗ってか…口元を歪めながら俺を凝視するヴィクター。

戦闘開始………無言のゴングを聞きながら、俺は付け焼刃の一本を鞘から抜く。


チリチリと脳の奥が焼け焦げるような痛み…

あまり長くはもたない事は百も承知…だが、その限界までに勝負を付ければ良いだけの事


ヴィクター「簡単には殺さないよ…僕を侮った事を後悔させながらゆっくり殺してあげるからね!」

ヴィクターの言葉と共に、俺の右足を狙って発生するそれ………ヴィクターがD器官を持った事で得た能力、分解空間。

俺はその発生に先駆けて飛び上がり、難なく回避して見せる。


ヴィクター「…へぇ良く避けたねぇ…だけどこれはどうだい?」

余裕綽々の文面とは裏腹に、苛立ちの色を隠しきれない声色のヴィクター。

俺に回避された事が余程頭に来たのか、今度は俺を丸々飲み込む程の特大の分解空間を…それも滞空中に発生させてくる。


普通に考えれば回避不能…ここでお終い。だが、今の俺には通じない。


ヴィクター「―――な…!?」

両足の裏を基軸にして、半回転。更にそこから、分解空間の周囲を回りながらスカイボードのように滑空し…着地して見せる

ジョージ「ジェリーの…エスケーパーか………面白いね。彼はまるで、能力を回収しているみたいじゃないか」


ヴィクター「そうか、保管庫で………いや、例えあの中のどの能力を取り込んだとしても僕の攻撃を避けた理由には…」

俺「そーやって定番な驕りに浸ってっから足元掬われるんだっての。良いぜ、今度は俺が教えてやるよ」

ヴィクター「…………」


あれだけ饒舌だったヴィクターが押し黙り、俺の言葉に聞き入る。

これだけでも相当な屈辱なんだろうが…ここで終わらせるつもりは毛頭無い。

●詰み手は部屋の中

俺「さっきから展開してるこのリーディング阻害………あくまで阻害できるのは遠隔リーディングだけだろ?」

ヴィクター「……………」


俺「ジョージの腕を奪ったのは、直接接触による記憶改竄を恐れたから……それに、理央も遠隔じゃなくて直接ならマリオを動かせてた」

ヴィクター「それがどうしたって言うんだ。少し考えれば判る事じゃないか!」


俺「で…遠隔だとしても、自分の体の一部なら中継可能。ジョージが出てきたタイミングで襲い掛かれたのはそう言う事だろ?」

ヴィクター「そうだ!だが、仕組みが判ったところどうにか出来る筈が無い!」

いい感じに頭に血が昇って来ているヴィクター。だが…当然ながら、まだまだ追撃の手は緩めない。


俺「一つ教えておいてやるよ………古典SFじゃぁどうか知らないが…現代能力バトルじゃ、相手の返り血に警戒するのは常識なんだぜ?」

ヴィクター「返り血……まさか…あの時の!?」

俺「そう…この部屋に入ってすぐに食らったあの一撃…あの時の血が、今もお前の手にべったりとくっ付いてるぜ」


ヴィクター「だが…だとしても!何故君がそんな超能力を使える!どこで取り込んだと言うんだ!」

俺「お前の知らない所でに決まってるだろ。そうやって自分の視野と価値観でしか物事を見られ無いから、こういう結果になるんだろうよ」

ジョージ「接触型テレパス……そうか…彼女の能力か」


ヴィクターに手を翳し…抜いた付け焼き刃を見せ付ける。

徹底的に屈辱を与え、鼻を明かし…後は最後の一手を残すのみとなった訳だが………


俺「――――――――ッツ!!!」


突如…頭の中で何かが皹割れ、爆ぜるような激痛がつき抜ける。

どうやら、俺のP器官に限界が訪れたらしい


ヴィクター「フ……フハハハ!ハハハハ!!何だい何だい?こけ脅しかい!?顔色が良く無いねぇ!?」

限界を向かえた俺…それを察したのか、形勢を建て直し…余裕を取り戻すヴィクター。

ヴィクター「まずは…よくやったと褒めてあげるよ。でもね…僕をこけにしてくれた罪は万死に値するんだよ!!」


視界に俺を捉え、大規模な分解空間の形成を始めるヴィクター

エスケーパーすら使えない今の状態では回避不可、走って逃げても間違い無く呑み込まれて分解される。


絶体絶命


………と言ってやりたい所なんだが……


俺「悪いな………王手…いや、チェックメイトだ!」

●終演の部屋

ヴァイクター「はぁ?何を言っているんだい?そんな事を言って時間稼ぎにでもなると―――」

俺の宣言を受け…それを受け入れずに否定を続けるヴィクター

だがそんな減らず口も、途中で途切れ………自身に起きた事すら理解できないまま、前のめりに倒れ込む。


恐らくは、まともに歩くどころか喋る事すら儘ならない…

そんな中で、ヴィクターは最後の力を振り絞り…己に止めを刺した存在を、汚れ濁った瞳に映す。


ヴィクター「リ……オ…?な………なな…何…一体…何をを…をををををを!?」

理央「オーバークロック………広域リーディングで収集した膨大な量の情報を、相手の脳に直接送り込んで精神を破壊する能力です」


ヴィクター「な…ななななななななななな…」


理央「と言っても、今回は周囲から読み取る事が出来なかったので…貴方に取り込まれた人達の記憶を…思い出を叩き込ませて貰いました」


研修の時に、うっかり理央の心を読んでしまったカレンが陥ったのと同じ状態…

いや、意図的にその何倍もの量の情報を叩き込まれたのだから…あの時の比では無い程の負荷が襲い掛かっている事だろう。


ヴィクター「そ…ん……なななななななな……こ………なななななな何故…僕ががががががががが」

俺「理解する余裕なんて無いんだろうが……教えてといてやるよ。お前の敗因は、全部お前自身が撒いた種…つまりこれは、因果応報だ」


理央「ヴィクター………今まで貴方が踏み躙って来た人達の思いに押し潰されて………」

ヴィクター「いや……やややややややや…やだっ!!!ぼ…ぼぼぼぼぼ…僕は!!!」


理央「………消えなさい」


ヴィクター「―――――――!!!!」


発狂し…意識の波に押し潰されて事切れるヴィクター

長い…長い、俺達の………いや、理央の戦いがここで終わった。

○人形姫と電気執事

理央「話には聞いていたけど…貴方、本当に何も喋らないのね」

理央「と言うよりも…何考えて居ない……空っぽ…」

理央「過去を失い、あるのは今この時だけ…ミューと言う名前だけ…」


ヴィクターから貰ったファイルに記されていたのは、私の知らない名前と知らない情報ばかり…

今ここに居る、ミューと言う存在への繋がりが実感出来ない物ばかり。


理央「でも…その名前自体、ただの記号として与えられた物に過ぎない」

理央「貴方を貴方として定義する物では無く、予め存在していた定義に貴方を当て嵌めただけ」


理央「そうだ…私が名前を付けよう」


理央「貴方の元の名前はミュー…ギリシャ文字のΜ」

理央「私と貴方は今では一心同体…一蓮托生…運命共同体。なら…」


理央「Μ………リオ………M…リオ………」

理央「そう…マリオにしましょう。貴方はどう思う?」


問いかけても、当然のように答えは無い。


操り人形に選択肢など存在しない…

操り人形に自由意志など存在しない…

操り人形にそれを求める方が間違っている。


理央「私…何を言ってるんだろう」


理央「まぁ良いわ、そう言えば…貴方って、以前は執事をやっていたのよね…」

理央「記憶の中にあるそれを反復行動させたら…もしかしたら…」

●脱出へと続く部屋

マーク「何ってーか…俺達、結局何も出来なかったな」

エリー「新たな世代が負の遺物に終止符を打った…そんな風に考えれば良いんじゃ無いかしらねぇん」


俺「いや…まだ終わって無いからな?帰るまでが遠足だからな?」


マーク「ん?」

俺「いや、頭にハテナマーク浮かべて無いで、とっとと制御室に行って来いよ!防火シャッター閉じたまんまだろ!?」


マーク「あぁ、そーだったそーだった…おいジョージ、生きてっか?ここの操作が判んのはお前だけだ。勝手にくたばんじゃぁ無ぇぞ」

ジョージ「うーん…一応怪我人なんだから、もうちょっと丁寧に扱って欲しいなぁー」

エリー「黙りなさいよぉ、裏切り者のくせに贅沢言わないのっ!」

漫才のようなやりとりを交わしながら制御室へと向かう、マークとジョージとエリー。


俺は…一息つきながら、膝の上で眠る理央の頭に手を乗せる。


激戦の跡…倒れた椅子やテーブルに、抉られた床…落ちたシャンデリア

時折見せる痙攣以外、動きと呼べるような動きを見せないヴィクター。

応急処置を終え、倒れたテーブルを背にして…眠ったように座り込むマリオ。


俺「お前も…いや、あんたも…理央のために今までありがとな」

途中まで紡ぐが、元の体格も年齢も判らないので言い直す…労いの言葉。


今まで考える余裕は無かったが、マリオは今まで理央の事を…時には近くで、時には遠くから守ってくれて居た。


それが果たしてマリオ本人の本来の望み…あるべきだった人格が、選択していた行動だったかまでは判らない

もしかしたら、本人としては不本意極まりない行動を無理強いされていただけかも知れない

でも…それでも、俺は感謝を込めずには居られなかった。


終わった………いや、まだやるべき事は山程残っているけど、ヴィクターとの決着はついた。

その余韻に浸りながら…まどろみの中に意識を落とそうとした………その瞬間


      ドクン!!!


と…まるで脈動なような音が周囲に響き渡った。


全身の毛穴と言う毛穴から噴き出る汗…喉の奥から溶岩が溢れ出るような悪寒

理屈では無く本能で感じ取る事が出来る程の………絶望


何が起きているのか…その原因を突き止めるため、俺の視線は周囲を駆け巡り

幸か不幸か、探していたそれはすぐに見つかるのだが………


それは、新たな絶望の始まりでしか無かった。

●絶望覚醒の部屋

物理法則を無視して質量が増し、各所が膨れ上がるヴィクターの身体………

体組織の表面から棘のような鱗が飛び出し…外骨格のように分厚い装甲へと変質する。


そして…繋ぎ合わされた各部位から生え出でる小さな手足…翼

幾つもの顔の部位を連ねた首元は、その一つ一つから新たな顔や角が生え……


ヴィクター…いや、ヴィクターであった物は、多足多翼…多頭の怪物へと変貌を遂げた。


俺「何だよあれ………」

喉の奥から飛び出した言葉…慌ててそれを飲み込むも、時既に遅し。

怪物は俺に気付いて視線を向け……一歩、その足を踏み出して来る。


一歩…たった一歩動いただけだと言うにも関わらず、俺の中から溢れ出す恐怖。

どうすればあの怪物を倒せる?どうすればあの怪物を退ける事が出来る?どうすれば逃げられる?


一瞬で頭の中を駆け抜け、妥協を繰り返しながらも行き詰るその思考。


そうしている間にも、一歩…また一歩と怪物は俺達に迫り…

俺は、限界を超えて振り絞ったパトリオットを…焼け石に水と判っていても、怪物に叩き込む

が……当然のように、いや当然ながら…全くと言って良い程に効果が無く、無駄な抵抗で終わってしまう。


死ぬ……殺される…確実に殺される…

せめて理央だけでも逃がす事は出来ないか…でも、どうやって?

理央を起こす?いや、駄目だ…起きたばかりの理央は超能力をまともに使えない。


俺が囮になって、理央に逃げて貰う?…どこに?

来た道は未だシャッターに遮られたまま…制御室は多分袋小路…非常口は防寒具無しでは使えない。

俺の超能力は、さっきのパトリオットで完全に打ち止め…残っていたとしても、打開策になるような物は無し。


絶体絶命…万策尽きた…

そして、絶望の先にある…死…を目の当たりにした…その時……


マリオ「おお゛お゛……ああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!」


喉の奥から搾り出したような叫び声と共に、怪物の横腹へと体当たりする………マリオ

マリオの突撃は留まる事を知らず……ガラスの壁にぶつかっても、その勢いを止めるどころか更に増し…


乾いた音と共にガラスの壁が砕け、砕けたガラス片と共に、怪物とマリオが宙へと放り出される。


そしてそれらは、引力と言う抗いようの無い力に引き寄せられ………氷海へと落ちて行き………


気のせいかも知れない…それどころか、俺の思い込みかも知れないんだが…

化け物と共に落ちて行くマリオ…その、砕けたヘルムの下から覗いた顔は……


俺と理央に向けて微笑んでいた………そんな風に見えた。

○操り人形は電気執事の夢を見るのか?

―――――夢を見た。

――――――これは多分、マリオの夢


ジョージ「おーい…おーい、そこの。そこのレオ、お嬢様を見てないかい?」

レオ「何だ何だ、お前またお嬢様に逃げられたのか?あんまりヘマばっかりしてるとクビになるぞ」

ジョージ「怖い事を言わないでおくれよ。第一…お嬢様が脱走する度に誰かクビになるなら、誰もここに残れないんじゃないかい?」


レオ「違い無いな。ま、あのじゃじゃ馬お嬢様のお目付け役を出来るのはお前くらいな物だから、当分は安泰だな」

ジョージ「それは喜ぶべき所なのか…悲しむべき所なのか…」


「………聞こえているわよ」


レオ「おっと、これは失礼。居る事に気付きませんでした」

「…匿った本人が言う言葉では無いわね…お父様に言って解雇して貰うわよ」

ジョージ「レオ………君はまた…そんなに僕を困らせるのが楽しいのかい?」


レオ「楽しく無いと言えば嘘になるな…でもまぁ、楽しさ目的は半分だけだ」

ジョージ「残りの半分は?優しさとか言わないでおくれよ?」

レオ「もう半分は………楽しさ目的だ!」


「…………結局全部楽しさ目的じゃない」


ジョージ「………君に聞いた僕が馬鹿だった」

レオ「おいおい、落ち込むなよ。そんな調子で、俺が居ない間も大丈夫なのか?」

ジョージ「あぁ…そう言えば今週だったっけ?日本に帰るのは…確かお父上も一緒に帰国するんだったかな?」


「レオ………日本に帰ってしまうの?」


レオ「おいおい、二人ともそんなに心配するなよ。生まれたばっかの妹の顔を見に行くだけだ、一週間ちょっとで帰って来るって」

「………本当?」

レオ「いや、ここで嘘吐く必要あるのか?」


「今まで何人も………帰って来るって言って、帰って来なかったから」

ジョージ「……………」

レオ「そりゃきっと、お嬢様が苛め過ぎたからだろ。大丈夫だ、お嬢様が良い子にしてれば絶対帰って来るからよ」


「………本当に?良い子にしてたら帰って来る?約束?」

レオ「あぁ、約束だ」


ジョージ「………レオ」

レオ「ん?何だ?」


ジョージ「いや…何でも無い。帰ってきたらまた会おう」

●操り人形は部屋を飛び出し…今を夢見て…生きた

マーク「おい!一体何があった!?…って、ガラスが丸々割れてんじゃ無ぇか!凍える前にシャッターを…」

制御室から戻り、惨状を目の当たりにして叫ぶマーク。

マーク「ってか、マリオはどこに行った?ヴィクターの野郎の姿も消えちまってんじゃ無ぇかよ!!」


エリー「何だったのよ、さっきの重圧……もう収まったみたいだけど…」

マークに続いて制御室から出てくるエリーとジョージ。こちらも惨状を見て驚愕するが、それを言葉には出さない

ジョージ「………」


俺「ヴィクターは…D器官に呑まれた」


マーク「はぁっ!?何だそりゃぁ!?………ってか」

ジョージ「マリオは………マリオの最期は?」

マーク「てんめっ…俺のセリフ……って、最期ってどう言う……」


俺「マリオは………」

言葉の途中…俺は理央を見下ろし、そっと頭を撫でる


それから理央は、少しだけ身動ぎして………

理央「兄……さん」

小さく…そして短く、寝言を呟いた。



  俺「マリオは………生きたんだと思う」



ジョージ「………そっか」


マーク「いや、何お前等だけ納得してんだよ!意味判んねえぇよ!」

エリー「んもう…野暮な水の差し方してるんじゃないわよぅ!少し黙ってなさい!」



  そう…


  マリオは…操り糸が切れても尚、自分の意思で理央を守り抜いた…


  少なくとも、俺はそう信じたい。



     ―理央ルート END―

皆様ご機嫌如何でしょうか。ニート生活絶賛満喫中の1です
今回もお付き合い頂きありがとうございました。

では、今回の総レス返しをさせて頂きます。

>335 黄色先輩と帝王は別人です。ただ、帝王は総統の…げふんごふん

>336 >339 ルート選択ありがとうございます!

>354 お前は先輩…もとい変態!

>359 あれでイメージしていると、黄色シナリオでは酷い事に…
   ちなみに着信音は こまったおさかな です

>378 その意味合いもほんの少しだけ…

>384 大体そんな感じです!

>391 ダ…DCの正体に関しては本編に直接関係無いので、他所での心当たりが無ければお気になさらず!


それでは引き続き…お付き合い頂ければ幸いです。

―…と言ったけどあれは嘘だよ―

●‡‡‡

ショウ「理央ルートENDおつかれさまーっ☆」

ショウ「メインシナリオとはあまり関わり無いルートだったけど、各キャラクター達の隠された一面も結構見れたんじゃないかな?」

ショウ「あ、ボクのそういうのは気にしないでね?明かして面白いような正体は持ってないから☆」


ショウ「と言う訳で…それじゃ引き続き、四周目のルート選択行ってみようかぁ!」



ショウ「B…理央ルート」

ショウ「C…空ルート」

ショウ「D…黄色ルート」

ショウ「Σ…シグマルート」



ショウ「…彼のルートは未だ出ず…か」

ベリル「あらあら…私、ルート次第では次が最後の活躍になってしまいますのね」

ショウ「って、いつの間に!?いや…呼んで無いのに勝手にここに入って来ないでくれるかなぁ?さぁ、帰った帰った!」


(しばらくお待ち下さい)


ショウ「さて、気を取り直して…ルート選択は >417 くんにお願いしちゃおう!」

ショウ「理央ル-トだね?」

ショウ「それじゃカレンルートの時と同じく、自動的に偽者の世界で進ませてもらおうかな」

―死霊の行進 生者の懺悔―

○前途多難のグレイブディガー

総統「―――………以上が今回の任務内容になる訳だけれど…引き受けて貰えるかい?」

理央「は…はい、問題ありません。引き受けさせて貰います」

総統「そうか、すまないね。もし途中で危険を感じたり、辞退したくなったら…」


理央「いえ、大丈夫です。そ、そろそろ祖父とは直接会って話さなければいけないと思っていましたから」


総統「では、先にこれを渡しておこう」

ニヤ「P器官活動抑制剤……思ったよりも早く実用にこぎ付けたッスね」


総統「それも全て君達のお陰だよ。と言っても…まだまだ副作用を完全に取り除くには至って居ないけれどね」


理央「副作用は睡眠導入…抑制効果の開始から30分程で発生…ですか」

総統「今更言うまでも無い事だろうけど…使用時には充分気を付けてくれ給えよ?」

ニヤ「睡眠導入ッスか…そうなると誰を護衛に付けるかが問題になる所ッスけど…」


総統「一人は彼を…もう一人は、本来カレン君にしたかったんだが…」

理央「例の、犯行予告とも取れる書き置きがありますから……離れるのは、得策ではありませんね」

ニヤ「それに加えて、キングダムの船が日本に向かって来ているって言う情報もあるッスから…下手に人員は割けないんッスよねぇ」


総統「と言う訳で…君の方の伝で誰か外部からの協力をお願いしたいのだが。心当たりは無いかね?」


黄色「んー………っと、ちょっと待ってくれ。まず…アウィスは近隣のモンスター討伐で…リーゼもそれに同行か」

ニヤ「あー、リーゼちゃんが来てくれたら心強かったんッスけどね…」

黄色「あぁ、そーだ。ユーキに頼んでみっか?」


総統「ぶふっ!げほっ!ごほっ!…!い、いや!さすがに彼に助力を求める程の事では無いだろう?!」


黄色「だったら…朱桜姐さんか、紫杏姐さんに」

総統「いやいやいやいや………君は私を心労で殺す気かい!?」

黄色「つってもなぁ………丁度良さげな按配のヤツが………あぁ、そー言やぁ一人こっちに来てたな」


ニヤ「こっちに来てるって………まさか、シヴィトちゃんにお願いする気ッスか!?」

●残響デッドスメル

俺「それで……えっと、貴方が…シヴィト…さん………ですか?」

ゴシックドレスに身を包んだ女性………女性?

年上と聞いていたが、どう見ても俺…いや、理央よりも年下にしか見えない少女に向けて問う。


シヴィト「……そう、シヴィトと呼び捨てで構わないわ。…君達が、彼の言っていた後輩?」

そして、肯定の言葉と共にシヴィトは俺に近付き…おもむろに匂いを嗅ぎ始める。


俺「え?えっと…何か変な匂いでも?」

シヴィト「変な匂いでは無いけれど…死臭がする」


俺「――――!!?」


死臭…その言葉を聞き、不穏な心音と共に何故か全身から嫌な汗が吹き出る。

俺「は?…え?それってどう言う……」

シヴィト「…心当たりが無いのなら、多分知らない間に触れてしまっただけだと思う。気にしなくても大丈夫」


俺「…………」


気にしなくても良い…と言われても、否…気にしなくて良いと言われたからこそ気になってしまうのが人の常。

出だしから不安を煽られるような事を言われ、気が気では無い中…


組織の護送車らしき車が、俺達の近くで停車した。


俺「あぁ、そだ。今回の任務は…確か輸送だったよな?目的地と物はどうなってるんだ?」

理央「あ、はい…では、その辺りの説明は車内で行いますので…ま、まずは乗って下さい」


理央に促されるまま、護送車に乗り込む俺とシヴィト。

そして最後に理央が乗り込んだ所で…


目的地に向けて、護送車は走り出した。

●直結タブレット

シヴィト「護送任務と聞いていたけれど……それ?」

目的地へと向かう途中…俺の懐を指差し、シヴィトが問う。


と言っても、俺の懐にあるのは…内ポケットの中の財布くらいの物

質問の意図が掴めないため、俺は聞き返す事にした。

俺「いや、この中には俺の私物しか無いんですけど…何か気になる物でも?」


シヴィト「悪魔の薬…ここに存在する物の中では、それが一番異質だったから」

言われて初めて思い出す、その存在。以前、魔女の茶会で鴉姫から貰った薬。

用法も用量も聞かず終いだったため、とりあえずタブレットケースに入れて、財布の中にしまっておいたのだが…正直、完璧に忘れていた。


理央「そう言えば、そんな物もありましたね…でも、今回はこちらの文献です…」

と言って示すは、理央が両手で持ったジェラルミンケース。

明らかに入れ物の方が重くて頑丈な事から、中身は相当に貴重な事だと予想出来る

…と言うか、護送任務にするくらいなのだから今更か。


俺「………って、この薬の事まで知ってるのか!?あ…もしかして、この薬の効果も理央の能力で判ったりもするか?」

理央「先輩が持ち歩いている物ですから、半自動的に把握しています。でも…聞いたら多分、先輩はダメージを受けると思いますよ?」

俺「聞くだけでダメージを受けるような効果って何だよ…平気だから教えてくれないか?」


理央「媚薬です」

俺「……………はぃ?」


理央「知らなかった事とは言え…先輩は、女性との行為に及ぶための道具を財布に入れて持ち歩いて居た訳です」

理央の言葉を聞き、体中からダラダラと汗が溢れ出る。


俺「え?何?それってつまり…サイフの中にゴム入れて持ち歩いてるあれ系と同じって事?」

理央「…と言うよりも…クスリを使って無理矢理にでも出来てしまう分、それらよりもずっと性質が悪いですね」

容赦無く突き刺さる理央の言葉により、崩壊寸前のガラスハ-ト。


何?何なのこの状態!?公開処刑!?

俺が意図した事でも無いのに、女性二人に挟まれて晒し者になるって何の罰ゲーム!?

もしかして鴉姫はこういう事態を想定して、わざと渡したんじゃ無いのか!?

何て事をしてくれるんだ!鬼!悪魔!!……いや、うん…落ち着こう。そもそもアイツは悪魔その物じゃないか


………って、悪魔だからって納得しちゃダメだろ!?


シヴィト「大丈夫………彼も、そういう道具は常に持ち歩いてるから…」

俺「って、黄色先輩と同レベル!?」

因みにこの場合、黄色先輩と書いてレイパーと読む。


色んな意味で打ちのめされた俺のハートは、もう完全に粉々に砕けて居た。

●黄昏時のタクティクス

そして…車で走る事4時間半。

シヴィトの黄色先輩との惚気話や、理央による暴露話に花が咲き…外の景色はもう夕暮れ。

俺の精神が限界まで磨り減った所で、ようやく目的地へと辿り着いた。


俺「しっかしまぁ…随分と山奥に来たもんだよなぁ。ってかこの屋敷…何ヘクタールあるんだ?」

理央「能力の関係上、人里から離れた場所に住んでいる方が都合良いので。あと…住人同士でも出来るだけ離れるために、わざと大きな家にしているんです」

俺「へぇ………」


詳しいんだな…と言いかけた所で、ふと視界の端に入る表札

改めてその表札を見る事で、俺の中に一つの可能性が浮かび上がった。


俺「なぁ…間違ってたら悪いんだが…ここって」

理央「はい、私の実家です」


的中した予感…だからどうしたと言えばそこまでだが、どうにも野次馬根性が疼いてしまう


俺「んじゃぁ、今回の任務の相手って…」

理央「私の祖父です」


次から次に湧き上がる疑問………

両親は?兄弟は?何故理央だけ一人で組織に?そもそも、操られてキングダムに居た時、家族は何を?


だが素っ気無く答える理央の言葉の裏には、触れるをよしとしない部分も見て取れる。

なので…俺は言葉を飲み込み、それ以上の質問を堪える事にした。


理央「ありがとうございます。でも………先輩がどうしても知りたくなったなら聞いて下さい。答えますから」

が………それも、理央には言葉通り読まれて居たらしい。


そして沈黙が生まれた所で、理央はタブレットケースを取り出し……その中の錠剤を一つ飲み込む。

俺「ん?何だその薬」

理央「P器官活動抑制剤です。私と祖父の超能力は相互干渉で大きな問題が発生してしまうので…」


俺「そのための予防策…か」

理央「ただこの薬には副作用があり、30分後には眠ってしまいます。効果が出るまでに10分かかってしまうので…」

俺「実質上の効果時間は20分だけか。んで…眠った後は俺とシヴィトでサポートって事だな」


理央「はい…お手数をおかけします」

俺「チームなんだから気にすんなって」


そんなやり取りを交わした後、改めて理央がインターホンを押し…

家政婦らしき人物に話を通して、屋敷の中へお邪魔する運びとなった。

●曲がり角のミステイク

俺「あれ?春風さん、何でこんな所に?」

廊下を進む途中…曲がり角で出会ったのは、見知った顔。


春風「あら、こんにちわ。ちょっと祖母の遺品を届けに来て居たんですけど…。其方は可愛らしい恋人さんを二人も連れて…あぁ、お孫さんを下さいってお願いに…」

俺「違います!!」

春風「フフッ冗談ですよ。それじゃ…私は失礼しますね」


シヴィト「今のは…誰?」

俺「同じアパートの春風さん。あぁ、そう言えば旧姓が………そっか、理央の親戚だったのか」

理央「はい…祖父の姉のお孫さんに当たる人です」


何故か…不機嫌そうな顔を赤く染めながら返す理央。

春風さんと何かあったのだろうか?…と勘繰ってしまうが、それを口に出す程の無遠慮さは持ち合わせて居なかった。


そう………そうで無くても今日は、理央に質問したい事ばかり

聞く事だけでなく、聞かない事さえも躊躇してしまう。


この空気は苦手だ。


早く任務を終わらせてしまいたい。

帰ってからいつもの日常に戻りたい。

そして、ほんの些細なきっかけから、少しずつ聞き出せて行ければそれで良い…

そんな想いを胸に秘めていたのだが………


この後…その願いの内一つが叶う事になって尚、愚痴を零す破目になるのだった。

●不満炸裂ヒュプノシス

理央「………以上が、組織から返却させて頂く文献の全てです。検め下さい」

源十郎「うむ…………確かに」

理央がジェラルミンケースを差し出し、その持ち主である理央の祖父…源十郎氏が受け取って中身を確認


理央「では、これにて失礼させて頂きます」

源十郎「ご苦労だった」

万事滞りなく、これで任務は完了。


となったのだが………何故かそれが腑に落ちない俺が居る。


俺「あの…ちょっと良いですか?」

源十郎「何だ?」

俺「源十郎さんって、理央の祖父…お爺さんなんですよね?」

源十郎「いかにも」


俺「だったら…もうちょっとこう………」

理央「………」

源十郎「言いたい事は判らぬでも無い。だが…身内と言えど、今は業務の最中。特別扱いする訳にはいかぬ」


余分な言葉を発っする事無く…いや、揚げ足を取られる言葉を発する事無く切り返し、反論の余地を与えない源十郎氏。

至極当然の文面で丸め込もうとして来ては居るが、だからこそ…それが不審でならない。

我ながら短気な事この上無いと自覚はしているのだが…ついつい、我慢しきれず切り返してしまう。


俺「じゃぁ聞きますけど…仕事以外のプライベートでは特別扱いしてるんですか?」

源十郎「………」

言葉を詰まらせ、黙り込む源十郎氏。

しかし納得の行く言葉が返って来ない以上、俺も手を緩める訳には行かない。


音を上げさせるための追い討ちとして、更なる言葉を放とうとした…その時

理央「…………先輩」

理央が俺の袖を摘み、何かを訴え掛けて来た。


そしてその手が離れ、理央の体が倒れ込んで来た所で…気付く

源十郎氏との口論に没頭する余り、失念していた……抑制剤の副作用だ。


源十郎「理央を蚊帳の外にやったまま、まだ話を続けるか?」

遠回し…いや、直接言って居ないだけで、源十郎氏は限りなく直球で帰れと言っている。

圧されて退くのは癪だが、ここに居残るだけの大義名分も俺には無い。


渋々ながらも、理央を抱き上げてその場を去ろうとした…その時。


それは起きた

●進撃のドラゴントゥース

源十郎「…………」

シヴィト「……………」

突如、示し合わせたかのように庭の方……いや、その更に先へと視線を向ける二人。


俺も慌ててそちらを見るが、何も確認出来ず……いや

庭の木々を超えた遥か向こう…山奥の木々の間で光る何かが見える。

そしてその何かは、俺が突き止めるよりも先に…実力行使で存在を誇示して来た。


パトリオットにより弾き返され、庭先へと沈み込む弾丸。


そう…先の光の正体はスコープの反射光。そして今この瞬間も、狙撃手が俺達を狙っている。


俺「伏せろ!狙撃手だ!」

俺がそう叫ぶも、二人は従おうとはしない

いや…それどころかシヴィトに至っては、何故か立ち上がって狙撃手の方を向いている。


シヴィト「さっきの…君の能力?防御は任せても大丈夫?」

俺「え?あ、あぁ…5メートル以内に居てくれれば…」

シヴィト「じゃぁよろしく…攻撃は私がする」


一方的に言い切り、パトリオットの効果範囲ギリギリまで歩いて行くシヴィト。

そこから、おもむろに口の中の中に指を入れたかと思えば………

ゴキッ!ゴキッ!……と、何かを折るような音が二回。


俺「おい、一体何………」

問いを向けるが…それを終えるより先に、行動によって答えが明かされる。

シヴィトの手の上に乗っている、二本の歯…いや、牙。


そしてシヴィトが、その牙を庭先に放り投げると………今度は、牙が落ちた場所に異変が起きる。


枯れ行く木々…カラカラに干からびる地面。かと思えば今度はその地面が盛り上がり…


二体の……角の生えた巨人が、その姿を現した。


●偽装崩壊アムネシア

人間の…いや、生物のそれとは思えない程の俊敏さで山の中に消え、木々を薙ぎ倒しながら突き進む…巨人の内の一体。

これでもかと言う痕跡を残しながら、巨人達は狙撃手の居た場所…いや、そこから少し進んだ場所…逃げ込んだと思われる場所に辿り着き…

轟音と共に、巨大な土煙が噴き上がる。


そうして…後に訪れる静寂が決着の狼煙替わになり、事態の収集を告げる事になったのだが…

圧倒的な戦力差とでも言うべきか…そんな感じの物を味方に見せ付けられた気がする。


俺「何だったんだあれ…物凄い戦闘力だったよな」

シヴィト「あれは私の特殊能力…ドラゴントゥースウォーリアー。新鮮な歯と土地の力で、今回はスパルトイ級を作り出せた」

問い…返される答え。


俺は安堵のため息をつき、肩の力を抜くのだが……それも束の間。

新たな敵…フルプレートを身に纏った大男が、天井を突き破って現れる。


俺は新たな敵に向けてパトリオットを放つ…が、その巨大な体躯に対しては余り効果が無し。

畳を突き破りながら着地して…大男が。まず始めに定める狙いは………不味い、理央だ。


何度も何度も何度も……1秒間の間に数え切れない程のパトリオットを撃ち込んでも、大男の足は止まらない。

シヴィトが作り出したドラゴントゥースウォーリアーも、大男と理央との間に向かうが…間に合いそうにも無い。


駄目だ…………間に合わない…理央が襲われる。

理央が襲われる……理央が…………死ぬ

理央が死ぬ 理央が死ぬ 理央が死ぬ 理央が死ぬ 理央が……死ぬ?


駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ

許容出来ない 許せない いや違う 嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ

もう二度とあんな想いはしたく無い あんな悲しみは沢山だ あんな苦しみは沢山だ


………あんな苦しみ? あんな悲しみ? あんな想い? 何の事だ? 俺は何を言っている?

俺は………嫌だ…何を…嫌だ…思い出そうと…嫌だ…している…?


俺「うああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

●極限ハートブレイク





俺「ハァッ…ハァッ……ハァッ…!!」

シヴィト「君…一体幾つの能力を持ってるの?」

俺「理央は…理央は……理央は!?」


叫びながら周囲を見回し、理央の安否を確認する。

俺の後方…木片や瓦の欠片などは被ってしまっているが、辛うじて理央は無傷

大男は……ドラゴントゥースウォーリアーに頭を叩き潰されて死んでいる。


良かった………理央は無事だ


安堵の溜息…

それと共に胸に走る、突き刺さるような痛み………

いや、違う……突き刺さるようなじゃ無い。


見下ろして初めて気付いた

胸に突き刺さった金属片

大男の爪を形成していた金属の破片。


胸元の傷からは血が流れ出し

触れた手を赤く染めていた。


やばい…俺はこのまま………死―――

●喧騒ホリディ

シヴィト「死の恐怖に染まった顔をしているけど…その傷では死なないわよ?」

俺「…え?」

シヴィト「財布…見てみると良い」


シヴィトに言われた通り、懐に入れた財布に手を伸ばす…と、そこから痛みが駆け巡る。

いい加減痛みに苛まれるのも馬鹿馬鹿しいので、俺は金属片を引き抜こうとする……と、そこで気付く。


俺「え?もしかして………懐のこれ…財布のお陰で致命傷を避けたとか…そんなお約束なオチ…?」

シヴィト「お約束なオチ…らしい」


張り詰めていた糸が切れ、俺はその場にへたり込む。

引き抜いた金属片を床に起き、まずは傷の確認。ほんの数センチ刺さっていただけで、命に別状は無し…

財布を取り出すと、切り口から小銭やら割れたカードやらの中身が飛び出すが…わざわざそれを拾うような気力も残っては居なかった。


源十郎「では…今後の事について話しておこう」

俺「え?今後ってどう言う…」

源十郎「先の大男の記憶を読んだのだが…奴等の狙いは儂と理央らしい」


俺「複数形なのは…狙撃手と大男の事だけじゃ無いんだよなぁ?」

源十郎「左様、残りは二人…主犯の男と怪物が一体」

俺「怪物って何だ…さっきの大男よりもエグいのが居るってのかよ」


シヴィト「因みに…今は匂いが届かない程遠くに居る」

俺「って事はあれか?目的はハッキリしてても、いつ襲われるか判らない…と」

源十郎「そうなる。まぁ、そのお嬢さんでは探知出来ずとも…今は儂の能力で行動を把握してはいるがな」


俺「どうする?組織に増援を要請するか、安全な場所に移るか…」

源十郎「人の多い場所では、探知に支障が出る上に被害が拡大する恐れがある。待ち受けるのならばここに居た方が都合が良いだろう」

シヴィト「増援に関しても、多分人員は裂けない筈…それに、私が居るから戦力だけなら問題は無い」


俺「んじゃ現状維持として…日帰りで終わる筈の任務が、とんだ延長だな。ってか…俺と理央は良いとしても、シヴィトは良いのか?」

シヴィト「本来はすぐ帰る筈だったから、余り良くは無い。でも………」

俺「でも?」


シヴィト「頑張れば頑張っただけ彼に愛してもらえる…だから残るわ」

そう言って怪しげな笑みを浮かべる。


出会った時から薄々感づいてはいたが、今確信した。

この人、ヤンデレだ。

●無意識下のデジャヴュ

シヴィト「それじゃ…篭城のプランだけど、理央とお爺さんは近くに居られないんだよね?」

源十郎「左様…だが、理央が離れに居れば相互干渉を避けられる」

シヴィト「なら…私が理央の方に居て」

俺「俺が爺さんの方。片方が襲われるようなら、もう片方が救援に向かう…そんな感じで良いな?」


と言った流れで割り振りが決まり、それぞれの持ち場へと向かう途中

理央を背負ったシヴィトが振り返る。


シヴィト「そう言えばさっきの事だけど…何故君は他人のためにあそこまで感情的になったの?」

俺「さっきって…理央が襲われた時の事か?あの時は無我夢中で…」

シヴィト「うぅん…そっちじゃなくて、お爺さんと話してた時」


俺「あれは………何でだろうな。何て言うか………イライラしたから…かな」

我ながらお粗末な答えになってしまったが、何故かシヴィトは満足した様子

シヴィト「やっぱり君は…どこか彼に似てる」


俺「って、またそれか!?それって褒められてるんだろうか、貶されてるんだろうか…」

シヴィト「大丈夫…褒めているから」


そして最後に意味深な笑みを浮かべ…シヴィトは離れへと歩いて行った。

●黒塗りのブランク

警戒態勢は二交代制…源十郎氏が起きている時間帯はそちらがメインで、屋敷周辺を索敵待機。

逆に寝ている時間帯には理央が母屋に赴き、最低限の範囲を索敵と言う手順。


最初の打ち合わせ通り、俺は源十郎氏…シヴィトは理央のに付いて護衛

ちなみに今はまだ理央が目覚めないため、源十郎氏と俺が待機状態で母屋に居る。


源十郎「ときに…一つ聞いておきたいのだが、お主は一体何者だ?」

俺「は?」

唐突に…そして予想外な内容の問いを向けられ、俺は戸惑う


俺「いや、理央と同じ…それ以上のリーディング能力を持ってるんだろ?だったら、俺本人よりも俺の事知ってるんじゃ?」

源十郎「儂もそう思っていた…いや、実際にそうなのかも知れぬが、それでも不可解な事があるのでな」

俺「何だそれ…判るように…と言うか具体的に説明して欲しいんだけど」


源十郎「お主の過去…お主が自分自身を構築する記憶以外の物が見えんのだ」

俺「…え?それってどう言う事だ?…当たり前の事じゃ無いのか?」

源十郎「お主がお主であるために必要な記憶はそこにある…が、それとは異なるお主の記録は何も無い」


源十郎氏の言葉を聞き、何故か背筋に寒気が走る


俺「あ、それってもしかして…住んでる所が原因じゃないかな?あそこって、リーディング全般が阻害されるから…」

源十郎「それもあるかも知れぬ…が、それだけでは説明の付かぬ部分もある。もし場所が原因ならば、それ以前の―――ん?」

途中で途切れる源十郎氏の言葉。


源十郎「無粋な奴等よ……来おったな?」

そして途切れた言葉に続くのは、他でもない……敵襲の合図。


俺は立ち上がり、臨戦態勢を取る。

●見敵逃走モンスター

俺「現在位置、進行方向、到着までの時間は!?」

源十郎「5時の方向3キロメートル先から、ここ…儂等の居る母屋に向けて、時速50キロメートルの速度で進行中」

俺「到着まであんまり時間が無いな…他に情報は?」


源十郎「白衣を着た男の名前は、チャールズ・ブラウン…通称チャーリー。女性との交友が広く、二つ名は百人斬りのチャーリー」

俺「他には?」

源十郎「キングダム所属で、非人道的な研究を行うマッドサイエンティスト………理央の両親も、この男の手により殺された」


俺「…………―――はっ!?」


余りに唐突に飛び出した、聞き流す事の出来ない言葉

思わず源十郎氏の方を振り向いたその瞬間………木々の合間から中庭へ飛び出す、二人の男。


片方は、先の大男よりも更に大きな体を持った…怪物。

もう片方は、怪物の肩に乗った白衣の男。

特徴から見て、恐らくこちらが………理央の両親の仇。


白衣の男を乗せた怪物は、中庭の砂利の上へと降り立ち…その肩から降りた白衣の男…チャーリーが、こちらに向けて会釈する。


チャーリー「夜分遅くに失礼します、ミスター・ゲンジュウロウ。今宵は………」

源十郎「判っておる…儂の力が目的であろう?息子と娘同様…この頭をくびり千切って実験に使う腹積もり…と」


チャーリー「さすが、話が早い。ではこの、ヴィ―――」

俺「リア充………爆散しろ!!」


チャーリー「は―――?」

最後まで言葉を紡ぎ切る事無く、爆散して肉片と血飛沫へと変わり果てるチャーリー。


何が起こったのか判らないのだろう…怪物はチャーリーが居た位置を一瞥した後、俺に視線を向け…

一瞬で…野生動物を思わせるような俊敏さで屋敷の外へと逃げて行った。


俺「……………」

事を終え…バクバクと忙しなく脈動する心臓を落ち着かせるべく、深呼吸をする。


理央の両親の仇…余りに唐突に告げられた事実に、突然の対峙…

つい反射的にリア充爆散の能力で爆殺してしまったが、その行動に対する疑念が次々に浮かんでくる。

●必要不可欠フェイク

源十郎「心配は要らん。お主は間違っておらぬ…むしろ、あの一瞬での適切な判断は賞賛に値すると言えるだろう」

まだ落ち着きを取り戻すには遠い…が、源十郎氏の言葉で幾分か気が楽になる。

源十郎「ただ…お主には謝らねばならぬ事がある。一つだけ、嘘を吐いた」


俺「………え?」


源十郎「奴の本当の名前は、ティム・フランケンシュタイン…愛称はヴィクターで、女性との交友など欠片も無し」

俺「は?何でそんな嘘を?」

源十郎「偽りの情報であっても、その能力を行使できるのか…それを知っておきたくてな」


俺「偽りって……だったら、理央の両親の仇ってのは!?」

源十郎「それは本当だ。儂や理央に代わってその仇を討って貰えた事…深く感謝する」


俺「……え?ちょっと待ってくれ?え?……え?」

二転三転する言葉に翻弄され、理解している筈にも関わらず混乱してしまう俺。

そんな俺の様子を見るに見かねてか、源十郎氏は縁側に腰を下ろし…その隣を叩いて、着席を促して来た


源十郎「すまなんだな………お主を騙してでも、あの男はあの場ですぐにでも始末して起きたかったのだ」

俺「その理由は、理央の両親の……えっと、爺さんにとって息子さん?娘さん?どっちかの仇だからだよな」

源十郎「両方だ」


俺「あぁ、言い方が悪かった。義理の息子か娘がどっちが判らなかったんだ。爺さんは、理央の父方母方どっちの祖父なんだ?」

源十郎「だから両方だ。理央の両親は、二人とも儂の子供…血を分けた実の息子と娘だった」


俺「………は?」


源十郎「驚くな…とは言わん。外の世間の常識とはかけ離れた行いと言う事くらいは判っておる」

俺「………聞かせて貰っても…良いか?」


縁側…源十郎氏の隣に腰を下ろし、俺はその続きに聞き入った

●血縁ディープブロー

源十郎「儂等の家系は、代々異能を色濃く受け継ぐ家系でな…その血をより濃く受け継ぐため、近親婚を課されて来た」

俺「まぁ…無くは無い話…だよな」

源十郎「と言っても、兄妹での婚姻は稀な事。現に儂の代では従姉妹との婚姻だったのだが、不測にもその次の世代で…多くの外の血が混ざる事となってしまってな」


俺「それで…濃い血を残すため、理央の両親に白羽の矢が立ったって事か」

源十郎「左様。唯一の救いだったのは、二人が互いに愛し合って居た事くらいの物か。そして、二人の間には男と女…二人の子が生まれ…」


俺「って、ちょっと待ってくれ!今何て言った?二人の子供!?」

源十郎「そう、理央には兄が居る。いや…居たと言うべきかな」


俺「過去形って事は………」

源十郎「だが、この事は儂が語るよりも理央の口から聞くのが良かろう」

俺「いや、そんな重要な所を投げんのかよ…」


源十郎「聞けば判る…」

と言って一方的に話を切り上げ、それ以上の追求を憚る源十郎氏。

だが…それならそれで、この場で聞いて置きたい事は他にある。


俺「じゃぁ話は変わるが…一つ、爺さんに聞いておきたい事がある」

源十郎「…何だ?」

俺「理央の事…実際の所はどう思ってるんだ?


源十郎「………」

俺「爺さんの話を聞いてる限りじゃ、決して理央を無碍にはしてない。んでも理央に直接向けてた態度…あれは何なんだ?」

源十郎「先にも話した通り…理央は家族を失っている。加えて、儂も老い先長くは無い」


俺「長くは無いって…俺にはまだ50後半くらいに見えるけどな」

源十郎「それでも一族の中では長寿な方でな…理由は推して察してくれ。そんな境遇だからこそ、理央の将来の事を案じずには居られないのだ」

俺「将来か、成る程な…爺さん亡き後、それが重荷にならにように…って事か」


源十郎「加えて、血筋の重荷。外の者は異質をよしとせず…内の者も多くが掟を破り、戻る事叶わぬ始末」

俺「………」


源十郎「犬神と交わるべからず…竜と交わるべからず…翼持つ者と交わるべからず。違えればそこに災厄が生まれ出ずる」

●心配症へのサプライズ

俺「後半のは良く解らなかったんだが…要は、理央が独り身になる事を心配してる…って事だよな?」

源十郎「…左様」

俺「んじゃついでに、もう一つ質問…爺さんの能力って、遠くを警戒してると近くはよく見えなくなる感じか?」


源十郎「ぬ…?うむ、確かに。若い頃はそうでも無かったのだが、寄る年波には勝てなんでな…」

俺「理央みたいに無差別に読み込んでる様子じゃ無かったし……やっぱりな。よし、事情は解った」

源十郎氏の返答を聞き、それを確かめた所で…俺は携帯を取り出す。


そして………


俺「あ、理央か?起き抜けの所悪いんだがちょっと聞いてくれ。お前の爺さんな?ツンデレだわ」

源十郎「…………なっ!?」

俺「ぁー…詳しい事は後で話す。あと、理央が寝てる間に色々あったから、その辺りはシヴィトから聞いといてくれ」


源十郎「なっ……なっ…何を…お主、何を言って居る!?理央の事情を理解したのでは無いのか!?」

俺「いや、理解した上で言ってるに決まってるだろ?」

源十郎「なっ………」


俺「あの時の理央と爺さんの会話…何でイライラしたのか、やっと判ったぜ」

源十郎「お主…何が言いたい」

俺「理央のため…それは嘘じゃぁ無いって判るが……心配性が末期な上に、やり方が屈折し過ぎてんだよ」


源十郎「………心配性で何が悪い。甘やかして…その結果、駄目にしてしまうよりは…」


俺「だから、そこが間違ってるつってんだよ!拾って来た犬や猫とは訳が違うんだ、家族なんだぞ?甘やかして何が悪い!」

源十郎「っ……無責任な事を言うな!甘やかした結果理央が自立も出来ないような子供に育ったらどうする!」

俺「そうならないように、爺さんは十分過ぎるくらい厳しくして来たんだろうが!!」


源十郎「…………」

俺「そんなに責任が大事なら、俺が責任持って断言してやるよ」

源十郎「………何?」


俺「理央はもう立派に成長してる…爺さん、あんたは理央を甘やかして良いんだよ!!ってかむしろ甘やかせ!理央のためにも甘やかせ!!」

●仲直りのエンチャント

源十郎「……………」

俺「…………」


源十郎「クッ………ククク………ハッハッハッハ!!ただの小僧かと思えば…言ってくれよるわ!!」

俺「ただの小僧で間違って無ぇよ。ただ…あんたがそのただの小僧でも判る事を、判って無かったってだけだ」


源十郎「ククッ…一本取られたわ。だが…お主のその言葉、吐き出した以上飲み込む事は出来ぬと知れ」

俺「元からそんなつもりは無ぇよ。そこまで無責任な人間のつもりは無ぇ」

源十郎「そうか…そうかそうか………ならば儂ももう憂いは無い。いつ冥土からの迎えが来ようと悔いは無いわ」


俺「いや、縁起でも無い事言ってんじゃ無ぇよ。爺さんにはまだまだ生きて理央を甘やかして貰わなきゃならねぇんだからな?」

源十郎「あぁそうだったな…そう言う事だ、理央。また明日…一緒に朝食でも作りながら話をしよう」

と源十郎氏が言った所で、俺は携帯が通話中になっていた事に気付く。


俺「明日まで待たなくても、別に今からだって良いだろうに。下手に間を空けると、死亡フラグになっちまうぞ」

携帯を手にして、通話を終えてからぼやく俺。それに対して源十郎氏は向き直り…

源十郎「何…理央は逃げぬし、怪物も今は山奥に身を潜めておる。それに……」


言葉を連ねて、俺を指差す。


源十郎「そのようななりでは、落ち着いて話をする事も出来まい?」

そして、指摘されてやっと思い出す今の格好。チャーリー…もといヴィクターの返り血を浴び、軽くスプラッタな今の姿。


俺「………確かに、これはどうにかしないとダメだな」


源十郎「離れの風呂ならば湯沸し機が付いておる。一っ風呂浴びて来るが良い」

俺「んでも、その間の護衛は………」

源十郎「もう一人のお嬢さんに代わって貰えばよかろう?」


…………と言う事で…改めて携帯で話を通してから、俺とシヴィトが交代する流れとなった訳だが…


源十郎「一度目の襲撃の後から潜んでおる竜牙兵…型は大分違うようだが、あれはお主の物だな」

シヴィト「やっぱり……気付いていたのね…」

源十郎「先の襲撃で姿を現さなかったのは…何か腹中にあっての事か?」


シヴィト「別に…怪物が向かってくるようなら応戦したけれど、その必要が無かっただけ」

源十郎「そうか……儂にはあれが殺気を放って怪物を退かせたように見えたが、そうか…気のせいだったか」

シヴィト「………判っているなら…聞かないで。あ………そうだ、交代の時…言い忘れてた事があった」


源十郎「お主こそ何を白々しい。あの小僧が向かうと知っていたからこそ、わざと仕込んだであろうに」

●伝達不備のトラップ

シヴィト「ゆうべは…お楽しみ?」

俺「ギリギリセェェェーーーーフ!!」

シヴィト「そう…残念」


俺「はいそこ残念がらない!限りなくアウトに近いギリギリセーフで、こっちはどれだけ大変だったと…!!」

シヴィト「別に…我慢せずにまぐわってしまえば良かったのに」

俺「まぐわうとか言うな!!はしたない!」


詳細はあえて省略するが………シヴィトの策略により理央と風呂場で鉢合わせ、大変な夜を過ごした次の日の朝。

理央と源十郎氏は台所で水入らず…俺達は食堂で暇を潰しながら、二人と朝食を待っている最中である。


シヴィト「据え膳食わぬは男の恥…つまり、恥を晒している君の方がはしたない」

俺「何でそんな日本語知ってるんだよ!」

シヴィト「彼から教わった…勿論―――」

俺「はいストップ!」


そこから先の言葉は判っている。どうせ、勿論実践付きでとか言うに決まってる。

黄色先輩の影響なのか、元からこう言う性格なのか…おかげ精神的疲労が半端では無い。


早く来てくれ、理央ーーー!!

思わず心の中で叫ぶ俺。そしてその叫びが届いたのか、精神的過労で倒れかける寸前で…


理央「皆さん、お待たせしました」


朝食を作り終えた理央が、お盆を片手に現れた。


俺「理央…マジ天使」

理央「はひっ!?」


おっと、思わず口に出てしまった。

落としそうになったお盆を抑えながら、理央の顔がみるみる内に真っ赤になって行く

が………発言の訂正はしない。


いや…決してからかいの矛先を俺から理央に逸らすためじゃ無いからな?

●逆転ターンエンド

そうとも…矛先が逸れて居たのならば、こんな事にはなって居ない

源十郎「しかし…責任持を持つだのとのたまって置きながら、あれだけの状況で手を出さぬとはのう…」

俺「うるせぇ!ってかそのネタは、昨日理央本人からも振られたネタだっての!」


理央と源十郎氏お手製の朝食を平らげた後…食後の団欒タイムにまで、俺は昨日の件でからかわれ続けて居る。


シヴィト「ところで…抑制剤の方は飲まなくても良いの?そろそろ時間だと思うけど…」

含みを持たせてか、そのままの意味か…思い出したように呟くシヴィト。

俺と理央は、抑制剤と言う単語によって半ば強制的に昨夜の記憶を引き出され…二人同時に耳まで真っ赤になってしまう。


理央「そ…そう言えば、本物の抑制剤はどこにあるんですか!?」

シヴィト「ベッドの裏側に貼り付けておいた。能力ですぐ判ると思っていたのだけど…じゃぁ今はどうして?」

理央「予備で小分けにしておいた分を飲んだんです!そもそも、能力で探してる余裕すら無かったんですよ!?」


シヴィト「あぁ…成る程。そんなに激しかったんだ…」

理央「っ……と、とにかく!ベッドの裏ですね!?取って来ます!」

シヴィトの意地悪に耐えられなくなったのか、離れの部屋に向かおうとする理央。

だが俺は手を伸ばし、理央の行く手を遮る。


俺「あー…その件なんだがな。多分抑制剤は必要無いぞ」

理央「………え?どうしてですか?」

俺「能力の相互干渉の事…多分ありゃ爺さんの嘘だ」


理央「え?え?どう言う事ですか!?」


俺と源十郎氏を交互に移動する理央の視線。

その視線を受けた源十郎氏は、顔を逸らしながらポリポリと鼻の頭を掻き始める。


俺「理央に爺さんの本心を知られないため…わざと辛く当たるために、そう言う設定にしといたんだろ」

源十郎「人聞きの悪い事を言うでは無い。認識範囲が重複すれば相互干渉を引き起こしてしまうのは、本当の事だ。ただ……」

俺「ただ………?」


源十郎「儂の方で意図的に範囲をずらすなり、認識を止めるなりすれば………防ぎ様があると言うだけだ」

この…ツンデレジジイ………

俺「ってー事は……これからは時間も場所も気にせず、理央を甘やかせるってぇ訳だよなぁ?良かったなぁ、理央」


いじられた分はいじり返す…そう、今度は俺のターンが始まった!

●戦局のリバース

シヴィト「それで…ホームコメディが終わった所で相談しておきたいのだけど。例の怪物はどうするの?」

俺「っと、そう言えばそうだった…結局あの怪物は、今どうなってるんだ?」


源十郎「今は山奥の洞穴に身を潜めて居るが、再び儂等を襲う機会を虎視眈々と狙っておる」

俺「となると…相手の出方を待っていたら、何時まで経っても埒が空かないな」

シヴィト「それなら、一番有効な策は…」


俺「こちらから打って出る……か。爺さんが居る以上、地の利はこちらにある訳だし…勝算は十分だよな」


源十郎「いや、地の利に関しては儂と奴で五分と五分…単純に戦力差が勝率と考えた方が良いだろう」

俺「そうなのか?だったら、主戦力になるシヴィトの能力を把握しときたいんだが…」

シヴィト「戦力は………手持ちの分だけだと騎兵百体分程度。日中は個体レベルで戦力が低下する」


俺「低下?日中だと何か不味いのか?」

シヴィト「日光…私のドラゴントゥースウォーリーアーは光や聖属性に弱いから、長時間は維持できない」

いや…属性とか、ここに来て新しい概念を持ち出さないでくれ

俺「と言うか…騎兵百体とか言われてもピンと来ないんだが」


源十郎「誤差はあるが、三十体前後であの怪物と考えて問題無かろう」


俺「三十体で同等…約三倍の戦力か。正面から戦う分には申し分無いんだが………」

理央「正面からの戦闘に…なるんでしょうか?」

そう、そこが最大の問題だ


俺「正面から仕掛けるのは簡単だが、怪物が乗って来るとは限らない。それどころか、逃げられてしまう可能性も大いにある」

シヴィト「こちらの手の内を知られて居ない内は良いけど…戦力差を目の当たりにしたら」

俺「撤退して、また期間を空けてからの襲撃…なんて事になったら面倒だよな。そうなると…」


シヴィト「戦力を分散させてでも包囲網を敷いて…追い詰めた上で決着を付けるのが得策」


俺「ただその場合…逆に今度はこっちの戦力不足が問題になって来るんだよなぁ」


理央「あの…その事なんですけど……先輩に、話しておかなければいけない事があるんです」

●突撃疾走アスリート

源十郎『目標、3時方向に移動を開始。現状の速度を維持したまま、進行方向を6時に変更せよ』

源十郎氏から送られてくるテレパシーの指示に従い、目標への進路を取る俺達…討伐隊遊撃班


構成は、まず俺と理央……シヴィトが創り出した、動物の骸骨のドラゴントゥースウォーリアーが5体

そして………フルプレートアーマーに身を包み、理央を背負った大男…マリオ。


立ちはだかる木々の合間を練りながら、坂道を滑るように下降して行く俺達。

一旦森を抜けて、川原を突き進み…犬型ドラゴントゥースウォーリアーの背中を借りて川を越え…

再び山道を突き進む。


源十郎『もうじき200メートル圏内に入る。理央の複合リーディングに切り替えだ、伝達を頼む』

俺「理央、爺さんからだ。圏内に入るから、こっから先は理央の方でサポートを頼む」

理央「判りました」


理央に伝え、それを確認した所で…源十郎氏からのテレパシーが途切れた事を感じる。


俺「遂に…あの怪物との決戦なんだよな」

理央「はい…この先の平地での交戦になると思われます。右方から来るので注意して下さい」

理央に促されるまま右に視線を向ける…と、その先には揺れる木々が見える。


怪物…名前を持たない怪物との決戦が迫っている。


しかし、俺は迷いを捨て切る事が出来ない。

恐らく理央も同じ…いや、理央だからこそ俺とは非にならない程の苦悩を抱えているに違いない。


何故なら―――


●驚愕のパンデモニウム

―――

理央「マリオと言う名前でキングダムに潜入している………兄…いえ、兄だった物です」

作戦打ち合わせの最中…縁側の陰から現れる、フルプレートアーマーの大男。


一見すると、先の襲撃者達の仲間かと見間違うその容姿に、俺は反射的に警戒態勢を取る。

が…先の理央の言葉を思い出す。


俺「え?兄ってもしかしてこの……いや、それ以前に…兄だった物って……」

理央「言葉通りの意味です。かつては私の兄だった人物を、ヴィクター…ティム・フランケンシュタインが改造して作り上げた存在…それがマリオです」

俺「は?改造?そんな事…」


理央「して居たんです。そしてその研究に、私も…参加させられていました」

俺「………」


突然明かされる事実…俺はそれに返すべき適切な事を見付ける事が出来なかった。

…が、同時にそのせいで訪れるであろう重苦しい沈黙にも耐えられる気がしない。

俺は無理矢理に言葉を探し、それを搾り出す。


俺「えっと、じゃぁ…過去形って事は今、マリオの状態って…いわゆる記憶喪失みたいな物か?だったら何かしらのきっかけがあれば…」

理央「ありえません。記憶喪失とは真逆…記憶は存在していても、自我や人格と言う物を外科的に排除されて居ますから」

俺「は?いや、さすがにそれはおかしいだろ。今だってこうやって自分で歩いてる訳だし…」


理央「違います…」

俺「違うって?」


理央「マリオは、自分で歩くどころか指一本動かす事も出来ません。自律神経以外は全て私の操作で動いているんです」

俺「操作って…それじゃぁまるで…」

理央「はい…ただの操り人形です」


俺が口から吐き出しかけた失言の続きを、臆する事無く言い放つ理央。

マリオ…理央の兄がこんな状態になってしまったと言うだけでも、充分過ぎる程に残酷な現実

…にも関わらず、その残酷は更に追い討ちをかけてくる。


源十郎「そして…ここから儂が話すは、理央も知らぬ事。理央には辛い現実だが、目を逸らさず聞いて貰わねばならぬ」

理央「………え?」

源十郎「兄のみならず…理央の両親もまた、ヴィクターの研究の材料とされ……命を落とした」


そこまでは俺も聞いた事。だが……そこから先は…

源十郎「そして…二人のP器官と脳の一部は摘出され、あ奴…名前を持たない怪物に組み込まれておる」


理央にとって…余りにも非常で残酷な内容だった。

●復讐決断リバーサル

理央「…………」

青ざめる理央の顔…震える足。視線は定まらないまま下がり、膝が力を失って崩れ落ちかける

俺「―――……」


が、理央はそこで踏み留まり、辛うじて持ち直す。いや………違う

手放しそうな意識を必死に掴み、目の前に突き付けられた現実から逃げる事無く…立ち向かっている。


理央「お父さんと、お母さんの…意識は?」

祖父「他者の脳同様…ツギハギの一部にされて、個人の意思などと言う物は残っておらぬ」


理央「そう…ですか。だったら………躊躇する理由は、ありませんよね」


理央の口から搾り出された結論。

幾多の葛藤を繰り返しながらも、自分が成すべき事を見据えて…導き出した理央の答え。


にも関わらず俺は………

俺は………その姿を見て、何故か頭の中に黒い靄がかかるような感覚に陥った。


シヴィト「なら…決行時間はどうする?」

源十郎「万全を期すならば、日が暮れるのを待って夜襲…包囲網を敷くならば、早ければ早い方が良いが…」


理央「出来るなら、今すぐにでも………」

決断を口にするも…途中で言い淀み、言葉を濁す理央。皆、理央の挙動を追求しようとしないが…その理由は判っている。


決着を逸る気持ちもあろうだろうが…それ以上に、自らの決意に揺らぐ暇を与えないため

そして………自らの判断が感情に伴った事を、下手に自覚しているが故に…その主張を押し切る事が出来ないで居るのだと。


俺「俺も理央に賛成だ。厳しい戦いにはなるかも知れないが、それを避けて取り逃がすようじゃ本末転倒だしな」

理央「先輩………」


頭の中の靄を振り払うように、俺は声を上げる。

今の俺に出来るのはこのくらいの事、だからこそ…その出来る事に全力を注ぐ。


シヴィト「それじゃぁ…始めよう」

●追跡のレギオン

シヴィト「アルテリック皇国、第五皇女…シヴィト・アルテリックの名の下に命ずる」


シヴィト「我に仇為す彼の者に…我が領域より逃げる事叶わぬと、思い知らせよ!!」

白い小石のような物…恐らくは自身の歯を砕いた物を山へと向けて振り撒き、高らかに声を上げるシヴィト。


その声が山中に響き渡ったかと思えば…続いて引き起こるのは、足元を揺るがす程の山鳴り。

そして…いつか見たような光景。

歯が振り撒かれた辺りを中心に、枯れ行く木々。

枯れ細った木々は自重さえ支え切れなくなり、幹を折ってそこに現れた存在を示す。


牙より生まれ出でし、それ……目視した限りでも、約八十体。未確認の者を数えれば、恐らくその数は…

シヴィト「この山には人の死体が少なかった…だから、動物の死体を使わせて貰った。スケルトン級計百体…完成」

シヴィトの言葉通り、百体。


数多の獣の中、僅かな数だが人のそれが混ざった…有角の骸骨、ドラゴントゥースウォーリアー。


それらの全てがシヴィトを向いて傅き…次の刹那には、俺達の前から姿を消して居た。


シヴィト「………情報を。怪物の位置と状態に伴い、包囲網を展開する」


瞬く間に移り変わる展開を目の当たりにして、俺はほんの数秒ながらも放心してしまったらしい

改めて気を引き締め…源十郎氏からテレパシーで送られて来る情報を頼りに、次に取るべき行動を考える。


俺「理央………準備と覚悟は出来てるか?」

理央「…はい」

俺「なら行くぞ………決戦だ!」


マリオの背に理央が乗るのを確認し、屋敷を背にして俺は走り出す。


怪物との…決戦が始まった

―――

●不可逆エントロピー

―――そう…この経緯があったから…両親の事が理央を苛んでいるからだ。


怪物を倒さなければ決して解決する事の無い問題…

にも関わらず、その怪物を倒すために乗り越えなければいけない壁。


しかし…そんな悩みにさえ折り合いを付ける暇も無く、邂逅は訪れてしまう。


平地に躍り出た俺達の目の前に現れる…怪物。

その行く手を阻むように、犬型のドラゴントゥースウォーリアー6体が回り込み…


俺と理央、マリオ…怪物を追い立てて居た10体…回り込んだ6体。計19の数で怪物を取り囲む。


ある者は角を…

ある者は爪を…

ある者は牙を用いて


ある時は別々に…

ある時は同時に怪物に襲いかかり、着実にダメージを蓄積させて行く。


が……そのダメージの代償として、一体…また一体と倒されて行くドラゴントゥースウォーリアー達。

交戦中に包囲網を狭め、それを形成していた者達が次々と増援に駆けつけるが…正直な所、一進一退


三十体で怪物と同等と言われては居たが、それは同時に戦った場合の事。

現在の形式で戦力を削がれ続けるようならば、こちらが圧し負ける事態も充分に考えられる。


となれば…戦法を変えるしか無い。

俺「理央………」

理央「はい…判って居ます」


ここから先は、俺と理央…そしてマリオが中心となった、直接対決だ。

●戯言ループ

…と言っても、実際に行う事は至ってシンプル

マリオがメインになって怪物と正面から戦い、俺が後ろからパトリオットを撃ち込み続けるだけ。

ドラゴントゥースウォーリアーを消耗し続けるよりは幾分かマシだが…それでも決定打に欠けていると言わざるを得ない。


どうした物か…この状態からの打開策は………そうだな、少々危険だが…ある。


俺「おい、怪物!こっちを見やがれ!」

マリオと代わり、俺が怪物の注意を引き付ける…という戦法だ。


だが、怪物の手が届かない範囲からでは食いついてはくれない。

怪物の攻撃の射程範囲ギリギリ…避けても尚、爪の先が皮膚を掠める程まで距離を詰め…そこで初めて注意が俺に向く。

俺に向けて爪を突き付ける怪物…その隙を付いて、頭部を揺るがす程の一撃をマリオが放つ。


戦闘が開始してから、初めてのクリーンヒット。

怪物はよろめき、おぼつかない足取りで体勢を立て直すが…反撃に移るまでには至らない。


追撃…いや、トドメを刺す絶好のチャンス。

開いた間合いを一気に詰め、マリオが怪物に迫り行く。

そして大きく振りかぶり、怪物の頭部にその拳を撃ち込んだ……ように見えたのだが…


俺「なっ……あの状態で避けた!?」

いや、違う。マリオが…理央が外した。


俺は焦りを押し殺しきれず、振り返って理央を見る。


ガタガタと歯を鳴らし、青ざめた顔のまま汗を零す理央

戦闘中、自分の事で手一杯だったため気付く事が出来なかったが…理央の精神は、限界寸前に張り詰めて居た。

しかも、不味い事にその原因は…


理央「おとう…さん………おか…あ…さん……」

押し殺したような声で呟かれた、理央の両親。

本人に聞くまでも無く判る。理央は…怪物を殺す事、その中の両親を殺す事に抵抗を…いや、拒絶反応を示している。


俺「しっかりしろ!理央!!ここでお前が折れてどうするんだよ!!」


そして、理央を鼓舞するべく俺の口から飛び出したのは………陳腐で矮小で滑稽で…戯言にすらならないような、詭弁だった。

●絶望リフレイン

俺「親父さんとお袋さんの仇を討つんだろ!?」

闇夜の中…見上げた向こう側に横たわる死体

何だ?俺は何を言っている?


俺「親父さんもお袋さんも…もう死んだんだ!居ないんだよ!!」

血で真っ赤に染まった両手…真っ赤な穴の向こうに見える石畳

止めろ…これ以上………したく…無い


俺「アイツは、理央の親父さんとお袋さんの力を奪って取り込んでるんだぞ!?」

ソーサー=ソーサ

止めろ…止めろ止めろ止めろ止めろ止めろ!!


俺「あんな…死体を弄ぶような奴の思惑に負けて良いのか!?」

バスルーム…バスタブ…

…一体どの口がのたまっている?


俺「自分に負けるな!理央!!」


…………空


あぁ………そう言えば、今回の任務って…本当は日帰りの筈だったんだよな…

空には何も言わずに、何日も戻って無いんだった…


何を言っている?止めろ…どの口がのたまっている?


何日も放ったらかしにして…多分空の奴、腐ってるだろうな…

帰ったら愚痴の一つも………


俺「言われる訳…無いだろ?だって、空は俺が殺して……見付からないように…」

黙れ!喋るな!無駄口を叩くな、俺の口!


俺「あぁ…ぁぁぁあああああああ!!!!!!」


そうだ……空は―――

●真実虚像クライシス

頭の中に霞がかかったように、ぼやけた視界の中…。

いつの間にか雲がかかった空の下で…理性の欠片も無く、互いの拳をぶつけ合う怪物とマリオ。

怪物の四肢には、何体ものドラゴントゥースウォーリアーが食らい付いているのが見て取れる。


あぁ……そうだった、俺はこの怪物を倒すためにここに居たんだった。

でも………

正直、もうどうでも良い。


今の俺は、自分さえも偽って形作られた偽者だ…

他人には偉そうな事を言って起きながら、その実…自分の事さえ受け止められないような弱い奴だったんだ。

逃げたい…逃げる場所なんてどこにも無いけれども、逃げて逃げて消え去りたい。


そうだ、いっその事怪物の手にかかって――――


俺「………え?」

怪物に向けて歩き出した俺…だが、目の前に見据えて居た筈の景色が不意にぶれる。


そして………頬を打たれた事に気付いた。


理央「止めて…下さい………」

俺「何を…言ってるんだ?」

理央「判ってます………先輩の考えてる事、全部判ってるんですから!!」


そうだ…すっかり失念してが、理央には複合リーディングがあるんだった。

だが…


俺「だから…俺の事が判ったからって何だって言うんだ?理央は黙って、自分の問題で悩んでろよ!!」

理央「黙りません…自分の気持ちにすら、けじめを付ける事が出来ないけど……黙りません!!」

俺「訳判んねぇよ!!何で理央が俺の事情に首突っ込んで来るんだよ!!」


理央「私だって判りませんよ!でも、先輩だって私の事情に首を突っ込んだじゃないですか!どうしてですか!?」

俺「っ……成り行きだよ、成り行き!気の迷いだ!理央が妄想してるような立派な理由なんか無ぇんだよ!」

理央「だったら私も成り行きです!それに…先輩は先輩です!!例え先輩が否定しても、先輩です!」


俺「んのっ……何でも判るくせに、何で判んないんだよ!!さっきまで理央が見てた俺は………」

理央「偽者でも虚飾でも…全部ひっくるめて先輩です!お願いです…自分を否定…しないで下さい!」


俺「くっ………」

●救済とエクソダス

俺「一体、どうしろって言うんだよ……こんな俺に何が出来るって言うんだよ……」

理央「向き合って下さい…直視して下さい……現実を、自分自身を」


俺「………」

理央「私も…一緒に向き合います。だから……」


………俺は一体何を考えているんだ。

このままだと、理央の言葉に…


理央「甘えて良いんですよ!寄りかかって良いんですよ!!」


俺「何で…何で理央は、俺にそこまで………」

理央「違います…尽くしてるんじゃありません。私が先輩と一緒に居たいんです、私の我侭なんです」


俺「そんなの…ただの詭弁じゃ…」

理央「だったら、先輩も我侭を言って下さい!お互いに我侭を言い合って、それでおあいこです!」


俺「理央……お前ずるいよ。こっちの心を読まれてるのに、口論で勝てる筈無いじゃないか」

理央「悔しかったら、先輩も私の心が判るようになって下さい」


そう言って、俺に笑顔を作って見せる理央。


説き伏せられた…と言うよりも、強引に押し切られて言い包められたと言った方が近いかも知れない。

にも関わらず…気分は悪くない。

そうか…


俺は理央に救われ―――


理央「―――」

理央の背後に走る影…赤い雫。俺に向かって倒れ込む前に、理央の体を怪物の巨大な手が掴む。

持ち上げられた理央の陰から覗くのは………頭部を失ったマリオの姿。


そして…衝撃と共に俺の胸から溢れ出す、熱く赤い血液の奔流。


一体何が起きたのか……それを理解した時には既に手遅れで、怪物は山奥へと向けて駆け出して居た。

●綱渡りラビリンス

不味い…理央を連れ去られた

しかもご丁寧に、追撃の足を止めるために、俺を瀕死の状態で放置して行ってくれる始末。


俺「俺の事は良い…!怪物を追ってくれ!!」

俺が叫び、それに応えるドラゴントゥースウォーリアー達。

だが、そんなやりとりをしている間にも怪物は逃走を続け…俺達との距離を稼いでいる。


このままでは理央を取り戻せない

連れ去られた先で理央はどうなる?

いや…連れ去られた時点で、碌な目に遭わない事なんて判り切っている。


だったらどうすれば良い?


パトリオットは…もうとっくに射程範囲外だ

リア充爆散は…裏技で使えるようになったとしても、木々に遮られて目視出来ない以上…発動出来ない。


………ソーサー=ソーサ…


辛うじて使えそうな物なら周囲に幾つもあるが、怪物との間の遮蔽物が多過ぎる。

いや、それ以前に…届くかどうかも怪しい所。

例え届いたとしても、理央に当たってしまう可能性を考えれると下手な手は打てない。


駄目だ…俺には何も出来ない

『諦めるの?それも一つの手だけど…それで良いの?』

ふと…どこかのお節介焼きの声が聞こえた気がした。


でも、どうすれば良い?俺に何が出来る?

切羽詰り、思考停止に陥りかけたその時…俺の脳裏に、お節介焼きの声が浮かんできた。

シヴィト『君…一体幾つの能力を持ってるの?』


これはいつ聞いた言葉だったか…そうだ、大男が襲撃して来た時だ。

結果的にドラゴントゥースウォーリアーが止めを刺す事にはなったが、その間に俺は何をした?


そうだ…覚えて居なかったのは、俺が空の死を否定して居たから…と言う事は


俺は要素と条件を当て嵌め、結果に向けてのプロセスを頭で組み立てる

必然と言う名の道標に従い…遂に俺の思考は、結論と言う閉ざされて居た領域へと辿り着く。

●虚構破壊のフィナーレ

俺「発破をかけられても…この様じゃぁ、あの怪物を倒すのが精一杯だ。理央の事は任せたぞ」


俺は愚痴るように呟き、マリオの砕けたヘルムの破片を拾い上げた。

まずは破片を目の前に浮かせ…次に、逃走を続ける怪物の方へと手を向ける。

……必要な能力は揃っている、後は実行に移すのみ。


そんな時だと言うのに…不意に今までの思い出が頭の奥に浮かんで来る。


パーティー会場…カレンと初めて会って、リア充爆散の超能力に目覚めた日。

いや、違うか…それだけじゃ無い。

思えば、理央に初めて出会ったのもあの時だったんだよな。


あの時は、髪を下ろして…紫色のドレスを着てて…

今の理央とはまた違った一面を持ってて、可愛かったよな。

そう言えば再会した時も…思い出すのに少し時間はかかったけど、すぐに理央だって判ったんだっけか。


………あぁ、そうか。こんな所でも、俺は自分を騙してたんだな。


カレンの事が好きで…カレンの力になりたくて…それは勿論嘘じゃない。

でも、それと一緒に…

理央の事も気になってたんだ。


俺「やべ………これって…走馬灯じゃねぇか」

時間をかけ過ぎたせいか、出血のせいで意識が朦朧とし始めている事に気付く。

このまま意識を…いや、命を失う前に決着を付けなければいけない。


俺「理央………今までありがとな」


俺は、誰に見せる訳でも無い笑みを浮かべ………目の前に浮かべた金属片を解き放つ。

加速を続けながら、木々の合間を縫って突き進む金属片…途中で怪物がその存在に気付くが、もう遅い。

回避不能なまでに加速した金属片は、弾丸となり………怪物の頭を吹き飛ばした。


理央は……背中に傷を負っては居るが、幸いな事に命に別状は無し。

早急にドラゴントゥースウォーリアーの背に乗せられ…後は屋敷へと連れ帰られる事だろう。

………これでもう、心残りは無い


「せ…ん………ぱ…い」


そして最後に…薄れ行く意識の中で、理央の声が聞こえた気がした。


     ―理央ルート END―

理央ルート裏表両方が終了した今日この頃、皆様如何お過ごしでしょうか。
今回もお付き合い頂きありがとうございました。

>422 犯した罪は消えません。ちなみにシヴィトも黄色の被害者だったりします。
>430 そっちの方もあります。
>438 勿論お風呂タイムです!ラッキースケベのお約束!
>441-442 一般スレなので、本番無しでもギリギリなのはカットしました! とりあえず首もいでおきますね |つつ ミ(´・ω・`)

やっとこさ…もとい、いよいよ佳境に入ってきたシーズン2。
シーズンファイナルに向け、このまま引き続きお付き合い頂ければ幸いです。

―折り返し地点が近い件について―

●★★★

ショウ「二つ目の理央ルートENDおつかれさまーぁ☆」

ショウ「何だか他のルートのネタバレもあったみたいだけど、気にしないで行こう」


ショウ「さて、それじゃぁ五週目のルート選択をお願いしちゃおうかな?」

ショウ「今回で理央ルートは両方終わったから…」


ショウ「C…空ルート」

ショウ「D…黄色ルート」

ショウ「Σ…シグマルート」


ショウ「選択肢はこの三つ。ルート選択は >461 くんにお願いしちゃおう!」

ショウ「空ル-トだね?」

ショウ「じゃぁ次に、本物の世界か偽者の世界か………あれ?おかしいな…二つが混ざり合ってる?」

ショウ「彼女の悪戯か…じゃぁ、今回はこのまま空ルートに突入してみようか☆」

―ソ・ラ・ノ・ム・コ・ウ・ガ・ワ―

○ワカイミソラ

俺の名前は…未来 空。


突然こんな話をするのも何だが…俺の両親は、飛行機事故で死んだ。

『あ、これ生きてるフラグだ』とか思っただろ?そりゃそうだ、俺も最初はそう思った。

だってそうだろ?飛行機事故だぜ?冗談みたいな話じゃないか

親父もお袋も、本当は生きている…当然のように、そんな幻想を抱いていた。


まぁそれも…実際に両親の死体を見るまでの話だったけどな。



………両親を失った俺

色々あって………俺はそこから、叔父貴…お袋の弟にあたる人物に引き取られた。


マンションでの二人暮らしではあったが…叔父貴は仕事が急がしくて、実質上は俺の一人暮らし。

学校なんかに行く気にもならず…加えて出不精なのも手伝って、瞬く間に引き篭もりが一丁上がり。


だが……ずっと一人で居ると、どうしようも無い孤独感が襲って来る時がある。


かと言って、今の学校に行ったとしてもダチなんか居る筈も無く…町へ繰り出すような気力も無し。

必然的にその手段は絞られ…最後に残ったそれを行うべく、俺はパソコンデスクへと向かう。


ヴァルハラオンライン…登録ユーザー数200万人の、国内でも大手のMMORPG。

前々から広告バナーでタイトルだけは知っていたそのゲームの…まずはインストーラーをダウンロードして…

後はアカウント登録をしながら、インストール待機。


次々と移り変わるゲームガイド画面を他所に、俺は少し目を閉じた。

俺は何をしているんだろうか…何をしたいんだろう…

考えても仕方の無い事ばかりが俺の心を掻き乱していると…インストール完了の音が鳴り響いて、俺を現実に引き戻した。


呼ばれるように目を開き、ディスプレイに視線を戻す俺。

タイトル画面からログイン画面に進み、チュートリアル開始…キャラクターメイキングに入る。


俺「性別は…女の方が最初はPLして貰い易いけど後々がウザいし、男で良いか。種族は…フォールリング、これにしとこう」

最初はそれほど入れ込んで居た訳でも無いのに、いざ起動してみればゲームを始める前から効率の事を考える始末…

身に染み込んだ効率厨っぷりに、思わず苦笑が毀れた。


俺「名前は………あぁ、あれにしよう。昔見たアニメで、俺と同じ名前だったヤツ」

●ソラカラオチテ

ヴァルハラオンライン…通称WO。登録ID数が200万人(但しその半数がBOTユーザーによる不正アカウント)を突破した、大手MMORPG。

タイトルにも在る『ヴァルハラ』と言う世界で、プレイヤーは『エインヘリアル』と言う戦士になり…

神々の黄昏…ラグナロクの訪れるその日まで、潰える事の無い命で戦い続ける…という設定のゲームだ。


俺は先月このゲームを始め、ゲームのシステムもそこそこ把握して来た所だった…が、しかし………

1stキャラの育成に失敗して居た事に気付き、2ndキャラのチュートリアルをしている真っ最中だった。


チュートリアルの内容は、採掘。ツルハシを装備して、敵の攻撃をやり過ごしながら規定数の鉱石を集める……と言う物なのだが…

これまたひたすらに運ゲーで、出ない時はとことん出ない。たまに入場ゲートから現れる新規プレイヤーが、サッサと採掘を終える中

…俺はかれこれ一時間近くもこの作業を続けている。


トンテンカン…トンテンカン…と鳴り響くツルハシの音。

一人…そしてまた一人…採掘を終えてプレイヤーが退場ゲートに向かった辺りで、この場所では聞き慣れない音を耳にした。

エンヘリアルがバルハラの大地に降り立つ音……つまりは、ログイン音だ。


ログインしてきた、そいつの名前は『hasewo』多分だが、版権キャラの名前を付けている事から……いわゆる『なりきり系』だと察する事ができた。

ここでログインしたって事は、ここでログアウトしたと言う事。

こんなスルー前提の場所でログアウトするなんて、珍しいヤツも居た物だ…と一瞬過ぎるも、今の自分を見てそれが人事では無い事を思い出す。

が…どうも俺とは事情が違うらしい。


見ている限りだが…そのhasewoはチュートリアルの肝である筈の採掘を一切行わず、延々とお邪魔モンスターを殴り続けている。

お邪魔モンスターには経験値もドロップアイテムも無く、文字通り倒すだけ時間の無駄。にも関わらず、それを相手にしていると言う事は…


俺「そいつは鉱石を落とさないぞ?」

hasewo「え?マジか?」

案の定…採掘クエストその物を勘違いして居たようだ。


俺「ってか、ちゃんとチュートリアルの説明を読んでれば判るだろ…」

hasewo「連打で読み飛ばしてた」

俺「インストール画面でもウザいくらい説明出無かったか?」

hasewo「そもそもその画面をマトモに見てない」

あ、ダメだこいつ。

●タニンノソラニ

俺「………とりあえず、アイテムストレージ開いてツルハシを装備してみろ」


hasewo「アイテムストレージって…」

俺「Alt+Eだ」


hasewo「お、マジで出来た」

俺「んで…画面右上に表示されてる個数が揃ったら、退場ゲートに行けばここは終了。次の部屋で首都機能の説明だけ受けたら、外に出られるぞ」

hasewo「ほほぅ、サンキュ!…って言ってたら揃ったみたいだ。ちょっと先に行ってるぜ」

俺「マジか……」


…と言う訳で、hasewoが先に目標数を達成して退場した後

俺は更にそこから20分程粘る事で、やっとの事で鉱石を集め終え…晴れてチュートリアル終了。

首都の中央通りに転送される事となったのだが………


転送先で、極々最近見たような名前を目にする事になった。


hasewo「お、やっと来たか。随分と時間かかったじゃねぇか」

再会早々、オープンチャットで話しかけて来るhasewo。

俺はリアルで溜息を吐きながら、ウィスパーチャットの先をhasewoに指定する。


俺「(オープンだと周りに迷惑だから、話すならこっちで話そうぜ。ってか、MMOは初めてか?)」

hasewo「(てすてす)」

hasewo「(お、出来たっぽいな。いやぁ、FPSならやってたんだが…Wisのやり方とか色んな勝手が判らなくてな)」


俺「(いや、そこはマニュアル読んどけよ!)」

hasewo「(マニュアルは困ってから読むタイプだからな!)」

俺「(威張るな!ってか、困っても読んでないだろ!)」


hasewo「(細かい事は気にすんなって。とりあえず初心者同士、クラン組んで狩り行かねぇか?)」

俺「(WOではクランじゃなくてギルドな。あと、狩りに行く規模なら組むのはパーティーだ)」

hasewo「(お前、良く調べてんな…)」


俺「(いや、この場合はお前の方が調べて無さ過ぎなんだよ!とりあえずPT要請出すから、それ承認しろ)」

hasewo「(OK…って打ってたらキャンセルしちまったから、もう一回よろ)」


とまぁ、こんな感じで空…もといhasewoとの腐れ縁が始まった。

●アカツキノソラ

このゲーム…ヴァルハラオンラインにはモンスターのサイズ補正と言う物が存在する。

まず同じモンスターであっても、個体毎にサイズが設定されていて…そのサイズに応じでステータスが変化する…と言うシステムだ。

具体的には、種族の最低保障値+増減パーセンテージの三乗という計算なのだが…これがまた、単純に見えて中々に奥深い。


多くのMMORPGにおいて最も効率的な戦闘スタイルは、一連の手順で確実にモンスターを倒す戦法…俗に言う確殺スタイルなのだが…

サイズが大きく、体力や攻撃力が高い相手の場合…確殺に必要とされる攻撃力と、モンスターの攻撃に耐えるだけの防御力がより多く必要とされ

サイズが小さく、回避力が高い相手の場合…逆に必要な攻撃力は下がるが、攻撃を当てるための命中力が必要になる…


と言ったランダム要素により、確殺狩りをするにしても相手に応じたスキルの使い分けや装備の変更など…より戦略的な立ち回りが要求されるのである。

またこれにより、複数のモンスターをかき集めて連れ回してから一網打尽にする…トレインと呼ばれる行為も制限されている。

別のMMOで悪意あるトレインに苦渋を味わわせられた身としては、何とも有難い話だ。


また例外として…廃人と呼ばれるヘビーユーザーになってくると、サイズ補正による変動値を全て補える程の攻撃力や命中力を持った装備で身を包んだりするのだが

まぁ…ライトユーザーである俺達には関係の無いお話だ。


さて、話を戻そう。


先は確殺狩りがメジャーだと話したが…メジャーだからと言って、必ずしも皆が皆その戦法で戦っている訳では無い。

例えば俺の場合。聖騎士の特性である、HPと防御力…加えて回復スキルと防御スキルに物を言わせたガチ殴りが主な戦闘方法で…

攻撃モーション値…攻撃速度が高いが、攻撃力が低い小型のモンスターをメインに、ダメージを1に抑えながら戦うのが基本的な立ち回り。

複数の敵に囲まれて、自動回復速度が追い付かなくなった場合は、範囲スキルの連発で削り切る…と言うのが主なスタイルだ。


続いてhasewoの場合…

回避力に物を言わせてモンスターの攻撃を回避し続け、敵のサイズや種族及び属性に合わせて武器やスキルを変えて戦う…

攻撃方法だけ見れば確殺狩りと同じように聞こえるが、実際には攻撃力が足りないので別物の…堅実かつ典型的なヒットアンドアウェイ

…と、口で言うのは簡単だが…実際は結構な技術が必要とされる戦い方だ。


まず武器の種類を揃えなければいけない分、重量の関係で回復アイテムの積載量が限られ…

モンスターに囲まれた状態では、優先順位の高い相手から仕留めていかなければ、回復が追い付かずに削り殺されてしまう。

そんな状態で敵の属性や種族とサイズを見分け、的確に攻撃と回避を行い続けなければけない。


正直、俺だったら途中で集中力が途切れて畳み込まれてしまうのが目に見えている。

●ヨアケノソラ

と言う訳で、俺とhasewoの戦闘スタイルを説明させて貰った訳だが…以上はあくまで、ソロでの戦闘スタイルのお話。

ペアで狩りをする時は、また少々勝手が違って来る。


俺「上から来るぞ!」

hasewo「そっちは任せとけ!プロテクション頼む!」


四体のモンスターからの攻撃を俺が受け持ち…新たに沸いたモンスターに向けて切り掛かるhasewo。

そして其方が片付いてからは、hasewoが武器を持ち換え…スキルのチャージに入るのだが…

チャージ完了まで動けなくなったhasewoに対して、新たに出現したモンスターが襲いかかる。


hasewo「こいつ、モーション値が高くてやべぇ!そっちでヘイト取れねぇか!?」

俺「やってるが無理だ!ヒーリングかけるから、そのまま耐えてくれ!」


チャージ中の無防備な状態でダメージを受けるhasewo…俺はそれに対して回復スキルを連発し、戦闘不能状態になる事を防ぐ

が…その状態では、当然ならが自分の回復が疎かになってしまう。数の暴力により削られて行くHP…更に追加で出現する新たなモンスター。

俺は秘蔵のポーションを取り出し…それを一気に飲み干す。


俺「まだか?!そろそろこっちも……」

hasewo「待たせたな………行くぜぇぇぇぇ!!!」


俺のHPが8割近く減り、回復が追い付かなくなってきたその瞬間…チャージを終えて、遂に発動するhasewoのスキル

『ジェノサイド』…使用者を中心にした円形範囲に大ダメージを与える、大技だ。

これにより、回避力が高くHPの低い小型モンスターは一掃され……


俺「これで終いだ!!!」

残ったモンスター…HPが高く回避力と攻撃モーション値が低い大型モンスターに対して、俺が範囲スキルを連発して止めを刺す。

ギリギリの所で、何とかしてモンスターを片付ける事が出来た。


………と言った感じで、お互いの短所を補いつつ役割分担を決めて

一人では倒し切れないような湧きの狩場で戦闘を行うのが、俺達のペア狩りのスタイルだ。


またこれとは別に、もっと大人数で戦う場合のスタイルもあるのだが…それはまた別の機会にしよう。

●ソラガウマレタヒ

ある日…いつものようにペア狩りを終えて首都に戻った時の事。

そう、いつものようにと言えばいつものような…日常と化した光景なのだが…


俺「どうした?大分調子悪そうだな」

狩りの最中…hasewoの様子で少し気になった事があったので、俺はそれを問い質して居た。


hasewo「今週は重すぎて死にそうだ………ってか、傍から見ても判る程酷いか?」

俺「あぁ、思いっきりな。それで…ネット回線は何使ってんだ?」


hasewo「回線?回線は…確か光だな」

俺「マジか!?俺よか良い回線使ってんじゃ無いかよ!あ、スパイウェアのチェックとかちゃんとしてるか?」

hasewo「ぁー…そう言やぁ最近やってねぇなぁ。後でやっとく」


俺「っと、そうそう……話しは変わるんだが、お前に渡しとく物があったんだ。お前、こう言う武器好きだだろ?」

hasewo「どれどれ?…って、デスサイズ!?サイズ補正無視、固有鎌モーションのレア武器じゃねぇか!マジか!?」

俺「俺は装備出来るキャラ居ないからな。知り合いの中でも、職と種族で条件満たしてるのお前くらいだし…」


hasewo「ってかこれ、高い武器だろ?………でもお高いんでしょう?」

俺「わざわざ言い直すな!」

hasewo「フヒヒ、サーセン」


俺「昨日野良PTで行った時に拾ったんだよ」

hasewo「ってかこれ売れば、前から欲しがってた鎧買えるんじゃ…」

俺「んー…防御力ちょっと上げるよか、火力を底上げした方が効率上がるしなぁ。それに…」


hasewo「それに?」

俺「ちょっと早めの誕生日プレゼントって事で良いだろ。受け取っとけ」

hasewo「………」


俺「何だ?」

hasewo「お前って…意外とそう言うのマメだな」

俺「素直に気が利くって言え」

●ソラモヨウ

hasewo「そう言えばこのゲーム、結婚機能なんてのもあるんだな」

俺「あぁ、倉庫が共有になったり専用スキルが使えるようになったり色々便利になるみたいだぞ」

hasewo「よし…じゃぁお前、女キャラ作れ!」

俺「残念ながら、俺のキャラスロは12thまで既に埋まっている!」


hasewo「んじゃぁ、俺が女キャラを作るか。種族は…よし、オークにしとこう」

俺「種族まで相手に合わせる必要は無いからな!?嫌だよオークの夫婦とか!そこは大人しく、人間かハイランダーの騎士で良いんじゃないか!?」

hasewo「それだと、くっ殺過ぎて意外性が無ぇじゃん」

俺「効率のための政略結婚のじゃありませんでしたか!?なぁ!?」

hasewo「まーた細かい事を……っと、そう言やぁ話は変わるんだが、お前ってギルド入ってるんだっけ?」


俺「また唐突に…まぁ良いか。あぁ入ってるぜ、ジオセントリックってギルドな」

hasewo「そっちの方に顔出さなくて良いのか?」

俺「心配しなくても、お前が居ない時はそっちに行ってるから心配すんなw…ってか、お前も入るか?」


hasewo「ギルドかー…んでも、初対面の奴が沢山居るんだよなぁ…」

俺「んな事言ったら、誰だって最初は初対面だろ。リアルで顔合わせるより、よっぽど簡単だぞ?」

hasewo「リアル…か。そうだな…お前がそう言うなら、とりあえず顔だけ合わせてみるか」


この後…hasewoはギルメンとも打ち解け、俺の所属するギルド『ジオセントリック』に所属する事になった。


俺「あ、そう言えば俺…明日の日直だ。そろそろ落ちないと」

hasewo「お前学生だったのか?!そっか、学校かー…懐かしいな」

俺「遠い目すんなwってか正直、学校とかだるいだけだしなぁ」


hasewo「そうやって無為に過ごしてると、後々後悔する事になるぞ。これ先駆者の知恵な」

俺「そう言う物か?」

hasewo「そう言う物だ」


俺「後悔と言えば…kuraudoはサラリーマンなんだっけか?社会人になってからそう言うの後悔してるのか?」

kuraudo「後悔と言うか…あの頃に戻りたいと思う事は多々あるね」

Ginrei「右に同じく…と行っても、学生時代に戻る事が出来たとしても、ほんの僅かの差しか無いけどね」


俺「皆、色々な事情を抱えてるんだなぁ……とか言ってたらもうこんな時間じゃないか!一足お先に寝る!乙!」

hasewo「あ、来週のクリスマスイベント忘れんなよ。今年こそは限定レア狙うんだからな!」


そしてこの一週間後の…クリスマス当日。俺は、あの事件に巻き込まれた。

●ソラノアジ

更にそこから、俺が組織に所属する事になって…色々あった後、オフ会で初めて空が女だと知って…キングダムに勧誘されて、戦いになって……

と、簡潔にまとめてみた訳だが…以上が、空との出会いから襲撃オフまでの簡単な経緯だ。

因みに、空は今どうしているかと言うと……


俺「なぁ…一つ聞いて良いか?」

空「ん?どした?」

俺「…何だ?その格好は」


空「裸エプロン。こう言うの好きだろ?」

俺「それは否定しない…だが、問題はそこじゃぁ無い。お前がエプロン着といて、何で俺が飯作ってるのかって話だ!!」

空「作ってるっつっても、ただの麻婆豆腐じゃねぇか」

俺「難易度とか手間の問題じゃ無ぇ!ただ座ってるだけの裸エプロンなんか俺は認めねぇ!料理をしてこその裸エプロンだと何故判らない!?」


空「ったく…硬い事言うなよ。どーせなら、折角だからこっちを硬く……」

四つんばいのまま俺に近付き、獲物を狙い済ます肉食獣のような視線で俺を見上げる空。

俺はそんな空の仕草に、思わず生唾を飲み込むが…


俺「だからなぁ…お前はもうちょっと恥じらいって物を持て。そんなにガッついてたら、雰囲気も何も無いだろ」

辛うじて持ち直し、空の頭に軽くチョップを一発お見舞いする。


空「んな事言ってもよぉ…我慢出来ねぇ物は仕方無ぇだろ?第一、こんな身体にしたのは誰だと思ってんだ?」

俺「ぐっ………」

しかし、空にはあまり効果が無かった。


俺の身体に手を回し、上目遣いで見上げる空。

先程は持ち堪える事が出来た理性が、ガラガラと音を立てて崩れ去るのが分かる。


あぁ、そうそう…そう言えば一つ言い忘れた事があった。

襲撃オフのあの日…あの後から、空は俺の部屋に居候しているのだが…

家賃代わりと言って迫る空に押し切られ…その…何だ


一線を超えてしまいました。

●ミソラーメン

空「ちょっとゆるゆりの3巻取ってくれねぇか?」

俺「ほらよ」


空「リモコンどこだ?」

俺「お前の座ってる座布団の下だ」


空「お前のイチオシのオカズってどれだ?」

俺「雑多って名前のフォルダの……って、誰が言うか!!」

空「…ちっ」


空「ところでよぉ…」

俺「何だ?」

空「俺のソーサー跳ね返したアレ、ワッツのパトリオットだろ?」

俺「まぁ…そうみたいだな」


空「あれ…どうやってるんだ?迎撃対象の感知もだけどよぉ…どうやったらサイコキネシスであんな瞬発力出せるんだ?」

俺「感知の方はクレアボヤントで…サイコキネシスの方は、こう…両掌を合わせて、力一杯押し付け合う感じかな。んで、片方を離す」

空「ぁー…成る程な。ゼロから加速させるんじゃ無くて、力を溜めて開放してんのか」


俺「ま、そんな所だな。お前のソーサー=ソーサはどうなんだ?あれって、サイコキネシスで軸を作って独楽みたいに回転させてんのか?」

空「軸ってーか…輪だな、ドーナッツ状の。それを縦に伸ばして筒状にしたりもするぞ」

俺「力の向きはどうなんだ?」


空「俺が得意なのは輪を横方向に回す動きかねぇ。サイコキネシスをそのまんま金属盤に乗せれっし」

俺「輪の内側に向けて回したり、外側に向けて回したりは?」

空「出来っけど…あんまし威力は出無ぇなぁ。ってか、例えに使ったせいでドーナッツ食いたくなってきた」


俺「買出し行くからついでに買って来ても良いが…あんまし食うと太るぞ?お前、ただでさえも運動して無ぇんだから」

空「俺は太らねぇ体質だから良いんだよ。それに…運動不足は、解消する方法があるしな」

俺「何だよその方法って…」

嫌な予感がするが、とりあえず聞いておく。


空「言わせんなよ、スケベ」

俺「スケベなのはどっちだ!!」

空「どっちも…じゃ無ぇか?」

あれ?何で俺が被害者から共犯者になってるんだ?

いけない…このままではまた空にペースを握られてしまう。


俺「っ………と、とにかく買い出し行って来る!!」

俺は逃げるように部屋を後にした

●エソラゴト

空「あ゛ー………腹一杯になったら眠ぃ……」

俺「寝るならちゃんと布団敷いてから寝ろ。ってーか、寝る前にはちゃんと風呂入れよ?」

空「…めんどい。両方やっといてくれよ」

俺「布団はともかく、風呂は出来ねぇよ!」


夕飯を終え、ダラダラと食後の一時を過ごす俺と空。

傍から見ても末期と判る程に眠たそうな空が、俺の背中に倒れ込んで肩に顎を乗せる。


空「んじゃぁ便所」

俺「もっと出来無ぇよ!!」


空「んー?俺一人の体重くらい支えられんだろ?んで、両足持って…」

俺「何俺にアブノーマルなプレイさせようとしてんだよ!?ってか。人の下半身に手を伸ばすな!」

俺の下半身に伸びる空の手…それを振り解き、今度は俺が空の臀部に手を伸ばし…


空「お?何だよぉ…お前もその気………おわっ!?」

そのまま立ち上がって、空を背負う。

そして風呂場に直行して……


俺「横着してないで、まずはちゃんと風呂に入れ」

空「んじゃぁ妥協してやっから、手伝ってくれよ」


俺「またお前は……」

空「良いのかー?風呂ん中で眠っちまって、そのまま…なんて事になっちまってもよぉ?この薄情者ー」

俺「あぁ………ああ言えばこう言う!やってやるよ!やってやりゃぁ良いんだろ!!?」


半ば強引にでも風呂に入れさせようとしたが、失敗…と言うよりも、逆手に取られてしまった。

まぁ、その後の事は………お察し下さい。

●ウワノソラ

ジョージ『それで、次回の定期報告の日時は?』

俺「三日後だ。今日の報告に休暇を捻じ込んだ以上、流石にこれ以上は引き伸ばして誤魔化せそうに無い」

アパートからすぐ近くにある公園。俺はそこのベンチに座り、携帯を片手に通話をしている。


ジョージ『だったら当初の予定通り、報告前に空くんに関する記憶を改竄して…報告後に元に戻すって事で良いかな?』

俺「他に方法が無いとは言え…本当に信用して良いのか?元に戻すって保障はあるのか?」

ジョージ『保障は無いけれど…されると判っている事なら、いくらでも保険はかけれるんじゃ無いかな?』

俺「………良いだろう、なら次だ。俺達を助ける代わりに、お前が求める見返りは何だ?」


数日前…襲撃オフのあの日。空の放った金属盤を俺がパトリオットで跳ね返し、空が瀕死になった時の事なんだが……

あの時、俺と瀕死の空の前に……ジョージ…いや、俺の知って居るジョージとは異なる姿の、ジョージと名乗る人物が現れた。

俺が殺した筈の…ジョージと言う存在が生きていた事にも驚いたが、それ以上に驚いたのは…そのジョージが協力を申し出て来た事だった。


後々俺がジョージに協力すると言う条件で、瀕死の空を治療する事になり…

一体どんな方法を使ったのか判らないが、瀕死の重傷だった筈の空は、傷痕すら残す事無く完治。

後は、その条件を追って知らされる事になったのだが……


ジョージ『あぁ、そうだったね。うん…僕としては君の立場で出来る色んな事をお願いしたい所だけど…』

俺「………」

ジョージ『仲間のためとは言え、仲間を売るような人間じゃないよね?判ってる。だから…だた手を引いて欲しいんだ』

俺「手を引くって…何からだ?」

ジョージ『この先、組織内で起こる事から…かな』


俺「漠然とし過ぎててんな…」

ジョージ『まぁ、時期が来ればきっと判るさ。それに…手を出さない方が君のためでもあるからね』

俺「…どう言う事だよ」

ジョージ『どんな風に君のためになるのか…それも、時期がくれば判る事さ』

俺「結局それかよ………」


やっぱりと言えばやっぱりだが………ジョージの言葉を信用し切る事は出来ない。

最低限の打ち合わせだけ終わらせた俺は通話を切り、煮え切らない気持ちのまま帰路へと着いたのだが…

この日の出来事は、ここで終わらなかった。


ジョージとの通話を終えて自室に戻った俺。バスルームから響く水音からして………空はまだシャワーを浴びて