モバP「装いの仕切り」 (37)

モバマスSSです。

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事務所

奈緒「なぁ、Pさん」

P「どうした?」

奈緒「あいさんってカッコいいよな」

P「そうだな」

奈緒「あ、Pさんでもそう思うんだ?」

P「まぁ、なんというかシャンとしてるよな」

奈緒「表現がよく分からないけど、言いたいことは分かる気がする」

P「それは良かった」

奈緒「あたしもああいう風になってみたいなー」

P「奈緒がか?」

奈緒「うん。まぁ、キャラじゃないけどさ、クールで有能なデキる女。みたいのにも憧れるじゃん?」

P「奈緒がやってると微笑ましいな」

奈緒「うるせっ。自分でも途中で笑いそうになる気がするし」

P「まぁ、今度そういう役柄があったら推しておくから」

奈緒「…ちょっとだけ期待しておくな」

P「ちょっとだけしておいてくれ」

あい「…キミたちは本人を目の前にそういう話をするのかい?」

奈緒「んー、別に聞かれて困る話じゃないしね」

P「何か気に障りましたらすみません…」

あい「いや、いいんだ。気分を害した訳じゃない。ただ…な」

P「ただ?」

あい「自分のことを目の前で話されると正直、気恥ずかしい面があるなと思ってね」

奈緒「確かに恥ずかしいかもなぁ…」

あい「尤も、褒められて悪い気はしないがね」

P「それじゃ行きますか」

あい「別に私一人でも行けるのだが」

P「まぁ、こっちもこっちで打ち合わせとかがあるので…」

あい「そうだったか。すまない。野暮な発言だったな」

P「いえいえ。大方、もっと年齢の低いアイドルの付き添いでもして欲しいと気を遣ったんですよね」

あい「それもなくはないが…いや、そうだな。うん。そうだ」

P「まぁ、そういうことは俺が考えますから」

あい「そうだな。私は今の仕事をキミに恥じることないようなレベルで行うことが先決だな」

P「あいさんならきっと出来ますよ」

あい「キミは随分と私を高く評価しているね」

P「俺としてはそんな気持ちはないんですけどね」

あい「それでは、その評価に恥じないように頑張りたいと思うよ」

テレビ局

P「すみません、撮影中に少し抜けますね」

あい「構わないよ。どこで合流しようか」

P「そうですね…それでは、ロビーでどうでしょうか」

あい「分かった。撮影が終わっても帰ってこなければそちらに向かうとするよ」

P「よろしくお願いします」

あい(思ったより早く終わってしまった…)

あい「しょうがないからコーヒーでも飲んで待っているとするか」

あい「しかし…」キョロキョロ

あい「私がこんな場所にいるなんて昔の私に話しても俄かには信じて貰えないだろうな」

あい「夢の見過ぎだ。とでも言うかもしれないな」

P「あ、すみません。遅れまして…」

あい「構わないさ。昔の自分と語る機会を貰えたことだしね」

P「よく分かりませんが、それじゃ行きますか」

あい「あぁ、そうだね。少し待ってくれ」

P「あ、そんなに一気に飲まなくても…。折角なんで、ちょっとコーヒーでも飲みますか」

あい「それは、飲み干そうとする前に言って欲しかったな」

P「そこは…はい、すみません」

あい「まぁ、私のせいなのだけれど」

P「しかし…」チラ

あい「どうかしたかい?」

P「コーヒー飲んでる姿が様になりますね」

あい「アイドルを褒めるセリフではないな」

P「すみません」

あい「ふふ。ちょっとした意地悪だ。こちらこそごめん」

P「いえ…。でも、なんか出来る人という感じですね」

あい「先程、そんな話をしていたな」

P「えぇ、奈緒としてました」

あい「カッコいいとか、そういうことをよく言われるが…果たしてどうかな」

P「と言いますと?」

あい「皆、外見の雰囲気とイメージでそう言っているんじゃないかと思ってね」

P「誰も本当のあいさんを見ていないと?」

あい「流石にそこまでは言わないさ」

あい「ただ…ふと思っただけだ。忘れてくれても構わない」

P「……」

あい「失言だったかな?」

P「そういう訳じゃないんですけどね」

あい「では、どういうことだい?」

P「さぁ、なんでしょうか」

あい「時々変わった回答をするね。Pくんは」

P「お互い様でしょう」

車内

あい「さて、先程はすまなかったね。事務所に戻るとするか」

P「……」ピポパ

あい「ん?電話するなら外に――」

P「あ、もしもし。あ、ちひろさんですか?」

あい(事務所に電話…?)

P「はい。はい…ちょっとですね。打ち合わせが長引きそうでして…はい。ちょっとだけ帰るのが遅れます。はい。それじゃあ」ピッ

あい「どうしたんだい?」

P「なにがですか?」

あい「とぼけるなんてPくんらしくないな」

あい「今から私達は事務所に帰るはずだろ?」

あい「それとも何か。どこかに連れて行ってくれるのかい?」

P「えぇ」

あい「…へ?」

P「どうかしましたか?」

あい「どこか行くのかい?」

P「まぁ、そんなに遠出はしませんよ。折角だから散歩でもしますか」

あい「真面目一辺倒なタイプだと思っていたけど、意外にこういう面もあるんだね」

P「見た目のイメージだけで判断してましたか?」

あい「そうかもしれないな…ふふ」

P「それじゃ、行きましょうか」

あい「あぁ」

公園

P「気持ちいいですねぇ」

あい「大丈夫なのかい?」

P「何がです?」

あい「私は特に問題ないが…その、Pくんには仕事があるだろう?」

P「あぁ、そういうことですか。ありますね」

P「でも、こうやってあいさんと話すのもこれからあいさんと良好な関係を築く上で重要なことですから」

あい「なるほど。つまりこれは仕事だと?」

P「そういうわけじゃないですけどね」

あい「分かってるさ」

あい「こうしているとさ」

P「はい」

あい「学校をさぼって遊んでいる学生の気分になるね」

P「学生の時はそういう風だったんですか?」

あい「いや、そんなことはなかったさ。真面目に授業を受けてたよ。授業を抜け出す度胸もなかったしね」

P「ちょっとは罪悪感もあるでしょうしね」

あい「その通りだと思うよ」

あい「そういうPくんはどうだったんだい?」

P「真面目な学生でしたよ。今と変わらず」

あい「こうやって公園で休憩している様からは想像出来ないな」

P「たまの息抜きは必要ですよ」アハハ

あい「そうかもしれないな」

「あのすみません…」

あい「ん?私かい?」

「あ、はい…。その東郷あいさんですよね?」

あい「そうだよ」

「あ、あの、私…そのファンなんです。握手して貰ってもいいですか?」

あい「私の握手一つで喜んでくれるなら安いものだね」

「い、いえ!握手一つでなんて…ありがとうございます!頑張って下さい!」ペコリ

P「女の子にモテますねぇ…」

あい「まぁ、傾向としては女子からの人気の方が高いかもしれないな」

P「男装の麗人みたいなイメージなんでしょうか?」

あい「そうかもしれないが…少なくとも今の私の恰好に対してそんなこと言うのは些か礼に欠けるな」

P「そうですね」

あい「折角スカートも履いているのだしね」

P「あいさんはどっちも似合いますよね」

あい「Pくんも試してみるか?スカート」

P「…遠慮しておきます」

あい「ちなみに…どう思う?」

P「なにがです?」

あい「私のスカート姿だ。衣装ではなく私服だからな」

P「似合うと思いますけど…」

あい「さっき聞いたな。済まない」

P「いえ。満足するまで何度でも言いますよ」

あい「有り難い申し出だが、何度も言われるとどうも嘘くさく感じてしまってね」

P「確かにそうですね」

あい「だから、二回くらいで丁度いいんだよ」

あい「こういう機会だから聞きたいことを聞いておこうと思うんだが」

P「なんです?」

あい「君はいつ休んでるんだ?」

P「休日はいつか?ってことですか?」

あい「あぁ、最近色々な所に飛び回っていた気がするが」

P「まぁ、適当に取ってますよ。事務所で見ない日があったら休んでると思って下さい」

あい「随分と適当だな」

P「自分の体のことは自分がよく分かってるんで」

あい「どうだかね。傍目八目とはよく言ったものだろう」

P「そうですけど…」

あい「そうだろう?」

あい「だからな…」

P「はい?」

あい「疲れが溜まっているなと思ったら私とこうして公園で喋るといい」

P「どういう意味です?」

あい「口にすれば陳腐になりそうだから言葉にするのは止めておくよ。君の思った通りの解釈でいい」

P「そうですか。それじゃ、そういう時はお願いします」

あい「あぁ、任せてくれ。いや、違うな。お互い様とでも言えばいいのか」

P「どういうことです?」

あい「私も疲れていると感じたら君をこうして呼ぶかもしれない。ということだ」

P「あぁ、なるほど」

あい「アイドルという職業柄見られていることには慣れているが、たまにはそういう目を気にせず気を緩めたい時があるものさ」

P「そうですね」

あい「手を取りあってなんて進もうなんて臭いセリフを言うつもりはないけれど、たまに肩を並べて休むくらい罰は当たらないだろう」

P「そりゃそうですね」

あい「当たり前のことを再確認するのも時には重要なことだよ」

あい「君が私を必要とするならば、私の隣はいつも空けておくことにするよ」



P「さ、帰りますか」

あい「そうだな。そろそろ帰らないと先生に怒られてしまう」

P「もし、怒られるなら一緒に怒られてあげますから」

あい「そのセリフは本来なら私のもののはずだが…まぁいいか」

数日後

事務所

奈緒「あー、んー…」

P「神妙な顔してどうした奈緒」

奈緒「ちょっとクールなキメ顔の練習をしてたんだよ」

P「スカウトしようとして話しかけた時が一番クールな顔してたぞ」

奈緒「あれは、思いっきり警戒してたからな…」

P「まぁ、そうだよな。奈緒はそのままで行こう。な?」

奈緒「暗にクールっぽさはないって言われた感じだな」

P「そこまでは考え過ぎだよ」

奈緒「そっか。ならいいけど…」

P「そう言えば奈緒ってさ」

奈緒「ん?」

P「普段は頼りない感じだけど、いざとなったら凄い頼りがいあるよな」

奈緒「…い、いきなりなんだよ」ポリポリ

P「ちょっとこの間の仕事の資料を整理しててふとな」

奈緒「ま、まぁあたしだってやる時はやるさ!」ドヤ

P「そうだよな」

奈緒「そ、そんなに頻繁に期待されても困るんだけどな」

P「それじゃたまに期待するな」

奈緒「それも…なんか癪なんだけど」ブツブツ

P「そんな感じでさ、誰でもギャップは持ってるんだろな」

奈緒「ギャップ?」

P「あぁ、普段の自分と相対するような自分ってこと」

奈緒「かもなぁ。アタシの場合は吹っ切れただけだけど」

P「俺も今はこんな風に仕事してるけど、休みになったらダラダラしてるしな」

奈緒「ちょっと意外だ」

P「だろ?」

奈緒「うん。今はピシッとしてるのに」

P「そんなもんなんだろうな」

奈緒「かもなぁー。本当の私は誰なの?みたいな」

P「そこまで行くとゲームみたいだな」

奈緒「テレビ見たら映るかな?」

P「今度試してくれ」

奈緒「なんかあった時助けてくれるなら」

P「考えとくよ」

ガチャ

あい「お疲れ様」

P「あ、お疲れ様です」

奈緒「お疲れー」

あい「他の子は出払ってるのかい」キョロキョロ

P「えぇ、穂乃香たちはレッスンに行ってます」

奈緒「アタシは仕事までの時間潰しをしてる」

あい「なるほど…そうだったのか」

奈緒「Pさんさ、アタシの仕事の場所覚えてる?」

P「ここから歩いて十分の所だな。車で20分くらい掛かるかも」

奈緒「うえ。そんな道あるんだ」

P「あそこらへんは、一歩通行やら、侵入禁止やら、時間帯で変わったりしてややこしいんだよ」

奈緒「そっか。それじゃ歩いていくことにする」

P「付き添いなくて大丈夫か?」

奈緒「子供じゃないから大丈夫だって」

P「俺からしたら子供だって」

奈緒「ま。とにかく平気だよ。ありがとな。それじゃそろそろ行ってくる」

あい「……」

あい「ちひろさん、ちょっといいかな」

ちひろ「はい?なんでしょうか?」

あい「ちょっと、プロデューサーを借りてもいいかい?」

P「え?」

ちひろ「借りる?どこかに行くんですか?」

あい「あぁ、ちょっとだけな」

P「あ、それだったら、次の番組の打ち合わせもしますか」

あい「そうだね」

ちひろ「まぁ、構いませんけど遅くならないで下さいね」

P「帰りに奈緒でも迎えにいってきますね」

ちひろ「分かりました」

事務所外

P「どうかしたんです?」

あい「どうもしてないと言ったら嘘になるな」

P「なにかあったんですか?」

あい「いや、別に嫌なことがあったわけじゃないさ。ただ、君の隣にいたくなった」

あい「理由としては不適当かい?」

P「プロデューサー冥利に尽きます」

あい「そこは、男冥利と言って欲しいね」ハァ

あい「それと、今日は珍しく車で来てね」

P「あ、そうなんですか」

あい「私の隣に君を招待しようと思ったんだ」

P「俺を」

あい「あぁ、隣に乗りたまえ。運転してもいいが、どうする?」

P「あいさんが好きな方で」

あい「それじゃ、運転させて貰うとするよ」

P「それじゃ、早速次の番組の打ち合わせなんですけど…」

あい「そうだね…」

P「以前出たのと似たタイプの番組なんです」

あい「セットも似てるね」

P「ですね。それで、出演する方が――」

あい「――なるほど。大方の流れは把握した。おかげで恥をかかずに済みそうだよ」

あい「さて、それじゃ出発するか」

P「どこに行くんですか?」

あい「どこだろうな」

P「え?」

あい「迎えに行くのだから往復で一時間程度の場所までしか行けないな」

P「確かにそうですね」

あい「ただ、この車にはナビなんて付いてないんだ」

P「まぁ、左ハンドルのお洒落な感じの車ですからね」

あい「そうなんだよ。見た目の問題でね」

あい「だから、君が知ってる場所に連れていってくれ」

P「え?」

あい「出来ればテレビ局とか仕事の場所以外の所に」

あい「こっちに来て車を走らせる機会なんて余りなかったからね」

P「そうですか」

あい「…ダメだな」

P「え?」

あい「どうも、その…回りくどくて伝わり辛い言い方をしてる自分がいるな」

あい「まぁ、今のは口実だよ」

あい「何というかだね、この空間を共有したかったんだ。他でもないPくんと」

あい「同じ鼓動を感じ、同じ道を行きたかったんだ」

P「中々気障なセリフですね」

あい「自分でも分かってるさ」

P「それじゃ、次を右で」

あい「あぁ」

P「そこを真っ直ぐ行って下さい」

あい「あぁ」



P「ここです」

あい「公園が好きなのかい?」

P「まぁ、嫌いじゃないです」

あい「まぁ、私も嫌いではないな」

P「気が合いますね」

あい「そうだね」」

P「同じ空間を共有したからでしょうか」

あい「…さぁね」フッ



P「こういう大きな自然公園に来るとですね」

あい「あぁ」

P「なんか頑張ろうって気になるんですよ」

P「分かりますか?」

あい「気持ちが晴れ晴れとするね」

P「納得して貰えてうれしいです」

あい「ちょっとコーヒーでも買ってくるよ」

P「あ、だったら俺が」

あい「誘ったのは私なんだ。ここは払わせてくれ」

P「それじゃ…」

あい「あぁ、ブラックでいいかい?」

P「えぇ」

あい「分かった。待っててくれ」

あい「お待たせ」

P「すみません」

あい「気にしないでくれ」

P「いただきます」

あい「あぁ」

P「美味しいですね」

あい「静かで落ち着くな」

P「都会の喧騒が嘘のようです」

あい「また、少し走ったらその喧騒に飛び込むことになるけれどね」

P「そうですね」

あい「無粋な意見だったかな」

P「いえいえ」

P「先程ですね」

あい「ん?」

P「人は普段の自分と相反する自分がいるって話を奈緒としてたんですよね」

あい「哲学的な話かい?」

P「いえ、そんな難しい話じゃなくて」

あい「ふむ。まぁ、分からなくない」

P「そうですか」

あい「あぁ」

P「素の自分なんて分かりませんけれども、きっとどっちも素の自分なんでしょうね」

あい「さぁね。それこそその人にしか分からないだろう」

P「そうですね」

あい「私は、アイドルの活動としてはスーツやタキシードが多いね」

P「そうですねぇ。人気も高いですし」

あい「だろうね。私もああいう恰好は好きだ。何故なら仕切りが生まれるからね」

P「仕切り?」

あい「あぁ、自分じゃない何かを装うからね。私じゃない私になっている気分かもしれない」

P「演者みたいな感じですか」

あい「いや、そうは言ったが、どんな顔でも私は私だよ。そして尚且つ、優雅でありたいと思ってる」

P「なるほど」

あい「そういうものを全て脱ぎ去った状態で君の前に立ったら、どんな風になるか私には想像がつかないね」

P「変わるんですか?」

あい「さぁね?案外恥も外聞もなく甘えるかもしれないぞ?」

P「想像しづらいですね」

あい「無理に想像しなくてもいいよ」

あい「君は私が強い人だと思うかな?」

P「どうでしょうね」

あい「まぁ、本当のところは私も分からない。だけど、私は強い人なんていないと思うんだ」

P「誰も?」

あい「そうだね。ただ言い方が足りなかったかな。カラダ一つだけじゃ誰しも弱いんだよ。

使い古された言葉だが、人はお互いに支え合っているだろう?」

P「そうですね」

あい「人が強くいられるのは誰かが隣にいるからなんだよ」

P「なるほどね」

あい「…ここまで言ったら言いたいことは分かるかい?」

P「なんとなく分かりました」

あい「そうかい」

P「ただ、あいさんの口から聞きたいなって」

あい「…君も意地悪な所があるんだな」

あい「そうだな…私一人じゃ、私は強くあれない。ただ、Pくん。君がいれば私はいくらでも強がることが出来るだろう」

あい「これで満足かい?」

P「あいさん…」

あい「気障だったかい?」フッ

P「顔が赤いですよ」

あい「…っ!」

あい「Pくん…」

あい「そういうことは気づいても言わないものだ」カァァ

終わりです。
読んで下さった方ありがとうございます。

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