人間不信男「俺の高校生活」(38)

10月になってしまったので

目覚まし「ジリリリリリリ!」

目が覚める。いつも通りの部屋。

男「ん」

起き上がって、フラフラと洗面所へ。

軽く用を済ませた後、食卓に行く。


母「おはよう。朝食できてるよ。手洗ってね」

男「おはよ」

いつものように、挨拶をして食卓につく。


男「いただきます」

我が家の血筋なのだろうか。みんな朝から胃が元気らしく、朝食はプレートに山盛りに並ぶ

それをモソモソと口に運ぶ。いつもどおり。

母「昨日は台風で雨風がひどかったわね。雨は降ってないけど、風が強いし大丈夫?」

男「大丈夫じゃない?」

母「心配ね。男ちゃん、風に飛ばされない?」

男「ははっ、ないない」

そんな冗談を言いながら、食事をする。

男「ごちそうさま」

母「お粗末様。もうそろそろ、時間だから父さん起こしてくれない?」

男「あいあいさ」

食器を流し場に持っていき、そのまま父の部屋へ行く。

ドアを開けると、だらしない腹をさらけ出した中年が眠っていた

男「父さん、起きて。朝だよ」

父「……」

起きない。しかし、私は父の口元がピクリと動いたのを見逃さなかった。

この野郎。寝たフリをしていやがる。

ちょっと腹が立ったので、意地悪をする。

男「ごめん、起こすの遅れちゃったんだ。遅刻するよ」

父「!?」ガバッ

だらけきった体とは裏腹に、機敏な動きで飛び起きる。そして時計を見る

父「……?」

時計を見て、しかし時間がいつも通りの起床時間だということに気づいた。

まだ状況がのみ込めていないのか、ぼっと時計を見ている

男「起きたね。ご飯だってさ」

そんな父に用件を伝えて、そのまま部屋を後にする

父「????」

部屋には状況を飲み込めていない父だけが取り残された


自分の部屋で学校へ行く準備を済ませた私は、食卓を抜けて玄関へ向かった。

父は、朝食をとっていた。もっそもっそと食事を口に運んでいる

死にそうなほど眠たい顔をしているのに、山盛りの朝食を次々とたいらげる様はいつみても圧巻だ。

先ほどのイタズラを咎められるかと思ったが、父は眠気に負けているらしく何もいってこない。

たぶん、イタズラされている記憶も吹き飛んでいるのではないか

そんな父と、それををニコニコとみている母に声をかける

男「いってきます」

母「いってらっしゃい」

父は無言だったが、いってらっしゃいと手を振って見送った。

自転車に乗り、学校へ行く。

10月になって寒くなってきたせいで、顔に当たる風が冷たい。

それが寒がりの私にとっては、非常に忌々しかった。

ちくしょう、寒いな。ちくしょうめ。そんなことを考えながら黙々と自転車をこぐ。

学校近くになると人が増えた。ほとんどがうちの学校の生徒である。

通勤のサラリーマンなどいない。私のいるところは田舎なのだ。

和気あいあいとお喋りしながら登校しているクラスメイトの横を追い越して、私は学校の敷地に踏み入れた。

教室に入る。そして、黙って席に着く。

男「……。」

無言で、筆記道具、教科書類を机の中に入れる。

そして、キャイキャイと愉快そうにふざけ合っている生徒を横目に、机の上に問題集を出した。

それを無言で解く。

いつも通りの日常である



……お察しの通り、私には友達がいない。

ドン!

突然、背中に衝撃を感じた。

反射的に後ろを見る。私の背中にのしかかる男子生徒の顔が間近にあった。

男「!?」

男子生徒「あっ、ごめん。大丈夫!?」

そう言って、男子生徒が離れる。

男「…ん。余裕。そっちも怪我ないか?」

男子生徒「こっちは平気だよー。本当ごめんね」

そう言った男子生徒は仲間のところに戻っていった。

どうやら、ふざけ合っている時に私の方まで飛ばされてぶつかったらしい。

男(それにしても、さっき背中に感じたあの感触は……)

そう考えたところで、邪念を吹き払おうとする

男(何を馬鹿なことを考えているんだ)

しかし、振り払おうとすれば振り払おうとするほど、邪念は頭をよぎる

男(忘れろ忘れろ忘れろ)

そんな念仏を唱えてみても、頭から吹き飛ぶことはない。

背中に感じた感触。あれは紛れもなく……。


筋肉であった。

男(いくら鍛えても筋肉がつかなかったのに……畜生)

男は独り、涙をのんだ。

そんな馬鹿なこと、本当に馬鹿野郎なことを考えている間にチャイムが鳴る。

一時限目の科目の先生が入ってきた。

先生「そんじゃあ、授業を始めるぞ。よろしくお願いします」

そして、早速なにやら黒板に書き始めた。

嫌いな科目の授業なせいもあってか、授業に身が入らない。

それだけではない。この先生には授業の才能がないのだ。

その子守唄のような低く落ち着く声は、真面目な学年首席でさえ眠気に誘う。

……まあ、学年首席は私なんだが。眠くて眠くて仕方がない。

だから、眠るよりはマシかと他のことを考えることにした。


頭に浮かんだのは、先ほどの男子生徒であった。

さきほどの、背中にぶつかった後のこと。

仲間のもとに戻った男子生徒は、自分を突き飛ばした仲間のことを咎めているようであった。

「ごめん、本当にごめんって」

突き飛ばしたらしい生徒は必死に謝っている

そんな様子の仲間の生徒に、はあっと息を吐いた後に

「ふざけるのは楽しいけど、ほどほどにな」

と落ち着いた声で言って許したのだった

そんな普通の仲直りに、私は昔のことを思い出してしまった

友達がいなくなった時のことだ。

    『謝んなよ! こっちに来るな! 気持ち悪い!』

男(……嫌なことを思い出してしまった)

心がズキズキと痛んだので、私はこれ以上考えないようにすることにした。

苦手なはずの授業に必死にかじりつく。勉強に没頭して忘れようと試みた。


いつしか、私の中の嫌な考えは頭から飛んでしまった。

勉強は私のとってちょうどいい現実逃避だったのだ。

そんな現実逃避にどっぷりと浸かって私は学校生活を終える。

つかの間の安息の休み時間も。

クラスメイトが親交を深めている昼休みも。

体育の時間でさえ、頭の中で方程式を書いて解き方を模索した。

そうやって、孤独や寂しさから逃げた。

何かを考え続けることで、何も考えないようにしたのだ。

そして、私は放課後でさえも図書室にこもって勉強した。

……あまりに早くに帰ると、母に心配をかけるからである。

誰もいない図書室で、ポツリと一人勉強している。

誰も話していない。誰も笑っていない。

そんな一人の空間がとても心地よかった。

劣等感や孤独感を刺激する人がいない空間と言うのは、それだけで幸福である。

男「~~♪」

気分がよくなったのか、思わず鼻歌を口ずさんでしまう

男「~~♪ ~~♪」

ノってきた。声に出し始める

男「ラララー♪」

歌はうまくない。むしろ下手な方だ。しかし、歌うのは嫌いではない

男「ランランラー↑」

いいね! ノリノリだぜい! 

全力で歌うぜ! 勉強道具を床にほっぽり出して立ち上がる。

男「愛に! 気づいてくだっさぁい! 僕がぁ↑ だきしめてあ・げ・るぅ↑」

ガラッ

背後で、ドアが開く音がする。

心臓が凍りつく。ゆっくりと首だけで振り向く。驚いた顔の女生徒。

やっちまった

女生徒と目が合う。

そのまま、数秒見つめ合う。

男「~~~~~!」

私は、声にならないうめきを発した。

だんだんと、顔が熱を持つのを感じる。

私を見つめる背の小さな女の子の顔も赤くなる。

耐え切れなくなった私は、そのまま素早く首を前に戻した。つまりは目をそらした。

そして、床に放り投げた筆記用具と教科書をいそいそと拾い上げた。

そのまま席に座る。座ってしまう。

男(あああああああああ! なんで座ってんだ俺! 気まずいだろ!? このまま帰ればよかったのにいい)

女の子は図書室に入って、何やら本を探している。

だが、時々チラッチラッとこちらを見ている

男(ああ……。あの子も気まずいんだ。この恥ずかしい男が気になって仕方ないんだ……)

いたたまれなくなった私は目を伏せる。目の前には解きかけの問題。

……この問題だけ解いて帰ろう。そうこっそり決意した。

男(時計を見て、はっとした感じになって、急いで荷物をしまって帰る)

これで完璧だ。自然にこの空間から脱出できるはずなんだ。

男(うーむ)カキカキ

私がいま取りかかっている問題は意外に難問で、さっさと解き終わることで手こずっていた。

男(……ああ!)

うまくいきそうな解法をひらめく。そして、その方法を試してみると、はたしてうまく行った。

シャープペンを机に置き、しばらく喜びの余韻に浸る。

男(おっといけない。早く帰らないと)

気をひきしめなおし、筆箱にしまうためにシャープペンを拾う。

ふと前を見る。斜め前の席にさっきのちっちゃい女の子が座るところだった。

男(そんな!)

私は愕然とした。どうしよう。今帰れば、女の子を避けて帰ったみたいになってしまう。

そんなことは私にできない!


仕方なく、シャープペンを書くためのにぎりに持ち替え、次の問題を解きにかかった。

結局、最終下校時間ギリギリまで図書館で勉強し続けてしまった。

何度も帰ろうと思ったが、しかし斜め前にいる子が気になって帰れなかった。

男(ヘタレすぎるでしょう?)

自分のあまりの情けの無さに、しょぼくれた。

もうすぐ下校時刻です、という放送が入って、ようやく帰る決心がついた。

いそいそと帰る準備をする。小さい子も帰る準備をしているらしい。

私の方が先に帰る準備が整ったので、立ち上がってドアに向かった。


帰り際、ふと女の子の方を見てみた。

すると、女の子の方も私の方を見ていたらしく目があった。

女の子は、首だけでペコリと礼をした。

私もぺこっと礼をして、図書室を後にした。

学校の玄関の靴箱で靴を変えているときに、はたと気づいた。

あの子図書委員だ。

うちの学校の図書室の利用者なんてほとんどいないし、だから図書委員の仕事をほっぽり出す人が多い(だからこそ、私が一人で利用できてていたのだが)。

でも、あの子はサボらなかった。

もしかしたら、私のために待ってくれていたのかもしれない。

男(こんな時間まで図書室に縛り付けてしまったのか。申し訳ないことをしたな)

今度会うことがあれば謝っておかないと。……お礼にした方がいいかな?

自転車置き場まで行って、自転車に荷物を載せる。

男「ハンドル冷たっ!」

これからどんどん寒くなっていくのか。ああ、気が滅入る。

校舎内では自転車に乗るのは禁止なので押して校門まで歩く。

やはり時間が遅いせいか、校門に向かっている人はまばらで少ない。

しかし、校門を一歩出ると連れ立って帰ろうと待っている部活生であふれかえる。

男(寒いのにご苦労なことで)

その集団の中に、今朝ぶつかってきた男子生徒の顔を見つける。

同じクラスの仲良しグループでつるんでいるようだ。

朝は少し揉めていたというのに、今はそんなことを感じさせないぐらいに仲がいい

ふと、男子生徒の声が聞こえる

男子生徒「今から公園に行って缶けりしようぜ!」

もう日が落ちそうだっていうのに、何を言ってるんだこいつは。

男(でも、ああいうの羨ましいな)クスッ


突然、冷たい風が吹く。

男(やっぱり寒い! 早く帰ろう)

男(それに、あの人らと違って俺には門限があるんだし)

そこで、心臓が凍りついた。

頭を駆け巡る嫌な思い出。

 『マザコン』   『気持ち悪い』

今朝、忘れようとした嫌な思い出が頭を駆け巡る。

    『僕たちとは違うんだ』     『何もわかってないくせに』

考えないようとするけれど、頭の中を駆け巡る嫌な言葉、嫌な顔。

『謝んなよ!』  『気持ち悪いんだよ』   『帰れよ』

とにかく、人のいる場所から離れようと自転車をこぐ。

『ママがいるんだろ? 早く帰れ! 帰れ! 帰れ!』

漕ぐ。漕ぐ。ペダルをこぐ。

『男ちゃんが一番大事なの。わかってくれるよね?』

―――――

―――

◇とりあえず、今回の投稿はここまで。

おっつ

5年前、男が小学生の時。

そのころの男には友達がいた。

放課後になると、公園に遊びに出てはサッカーしたものだった。

事件が起こる前日も男はサッカーをしていた。

友「スリケン! シュート!」

友のこうげき! スリケンシュート!

男「止める! アバーッ!」

ボールは顔面にあたった! 男はたおれた!


友「アイエエエ!? 男=サン、ダイジョーブ?」

友は心配そうに駆け寄り、そして男の頭を抱きかかえる。

男「アイエエエエ……」

しかし男の声には力がなく、今にも力尽きそうであった。

満身創痍ながらも、男はかすかに声を出す。

男「ボール……ボールは」

友「あそこに」

友はそういって指をさす。示した先にはコロコロと転がるボール。

男「よかった……ゴールは守れたんだ」

安心したように男は笑う。そして、彼が詠んだのはハイク。

男「ムッジョは ショッギョムッジョの ムッジョな」

そして彼は目を閉じて、友の腕の中で崩れ落ちた。

友「死ぬな! ハイクなんて詠むな。生きるんだよ、男! 男ォ!」

懸命に男を揺すって起こそうとするが、男は動かない。


友「男ォオオオオオオ!」

閑静な住宅街に友の虚しい叫び声だけが響いた

友「男ォオオオオオオ!」

おお。なんとマッポーめいた世の中か。友の卓越したカラテが無邪気なサッカー少年の命を奪ってしまったのだ。

友がひとしきり叫んだあと、遠くから声が聞こえる

「男ー! もうすぐ5時だよ! 帰らないとまずいんじゃね?」

男「アッハイ」

むくりと起き上がる。そして背中に付いた土を払う。

友「もうこんな時間か。早いな」

男「うん。もっと遊びたいんだけど」

友「ま、仕方ないか。じゃーね」

男「ばいばーい。あ、オタッシャデー!」

「「「オタッシャデー!」」」

友「よし、サッカーの続きやるか!」

「「「ユウジョウ!」」」


そして、ひとしきり遊んだあと、疲れたのか少し休む。

公園のベンチの上で、ポツリと友がつぶやいた。

友「男のやつ、本当に帰るの早いよな」

それに周りの子が答える。

「それは仕方ないんじゃない? あそこ親が厳しいらしいし」

友「そうだっけ? 男って金持ち?」

「いや、普通っぽいけど」「でもちょっと変わってるよね」「うんうん。いつも5時までに帰らされるんだもんな」「確かこの前なんて顔にあざつくってたよね」

友「でも、もうちょっと門限遅くしてもらってもいいのになー」

「うんうん」「そうだよね」「(*´・д)(д・`*)ネー」

男「ただいまー」

母「あ、男ちゃん。おかえりー。もうすぐごはんできるから、手を洗ってね」

男「はーい」トテトテ

母「あ! 男ちゃん、服がドロドロじゃないの! 洗濯しておくから、風呂場で着替えておいで」

男「あいあいさー」

母「今日はレバニラだよ」

男「大好物だ! やった!」

母「おいしい?」

男「うん!」

母「そう? よかった」

男「……ねえねえ、お母さん。ちょっと聞いていい?」

母「なにかしら?」

男「門限、もっと遅くできない?」

母「ハァ……またその話? ダメなものはダメ」

男「えー」

母「えーじゃないの」

男「……わかった」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年07月01日 (水) 23:06:09   ID: r2Vf7Pe5

マサルさんwww

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