モバP「花と旅行とそばかすと」 (218)

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アイドルマスターシンデレラガールズのSSです。

プロデューサーが複数おります

アイドルのプロダクション加入時期はモバマスに忠実ではないです(先輩、後輩関係)

肌に合わないと思われたらそっと画面を閉じてください……

書き溜めてありますのでガンガン投下していきます。

ちなみに200レス以上、40000字overと、SSにしては長い? ごめんなさい。

では、しばしの間、お付き合いいただければ幸いです。

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SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1413296228

モバP「ここがシンデレラガールズプロダクション……俺の職場になるんだな。よーし、これから頑張るぞ!」



モバP(アイドルプロダクションに、プロデューサーとして採用され、そう誓ったのが二ヶ月前)

CoP「おいモバP、フェスの資料は!?」

モバP「は、はいすぐに!」

モバP(……現実は、中々甘くない)

モバP(一ヶ月間、下積みとして先輩であるCoPについて勉強する)

モバP(それが、採用の時に説明されたプロダクションの方針だ)

モバP(勉強することはいくらでもあるし、新卒の俺にいきなりアイドルのプロデュースをしてみろと言われても困る。当然なのだが)

モバP(問題は、その研修期間が延々伸び続けていること。これまで、ただの一人もプロデュースしていないのだ)

モバP(別に、不条理に研修期間が伸ばされているわけではない。その原因は……ある意味、俺自身にあるのだけれど)

CuP「あら、モバPじゃない。どう、ティンと来る子は見つかった?」

モバP「CuPさん、あー、それが……」

CuP「そっかー、まだなの。とはいえ、いつまでも下積みさせるのもねぇ……」

モバP「す、すみません」

CuP「いいのよ、気にしないで。もともと社長の方針が無茶なのよねぇ」



シンデレラガールズプロダクション社長(以下社長)『プロデューサーになるんだ、最初の一人はティンと来たアイドルと決まっているだろう!』

社長『よし、モバP君! 研修が終わるまでに、ティンと来た娘をスカウトして来たまえ!』

社長『その子が、君の最初のアイドルだ!』ドヤッ



モバP(そんなわけでこの二ヶ月あまり、一人街を歩いてみたり、オーディションに積極的に参加したり、出来る限りの機会は参加してみたのだけれど)

モバP「ティンと来る、って、なんなんですかねぇ……」

モバP(未だに俺は、『ティン』と来る子を見つけられないでいるのだ)

CuP「そればっかりは、なんとも説明できないのよねぇ。私は私で光るものがあると思う子をそうかなって思うけど、社長、ほんとに感覚派だから……多分、ティンと来たっていうのも、私と社長じゃ違うと思うのよ。その辺は、前に社長にも聞いたんだけど」

CuP「だから、私がこれだと思った子でも、モバPがティンと来た子でないとOK出さないでしょうしねぇ」

モバP「……ですか……」

???「CuPさん、いつまでこの可愛いボクを待たせる気ですか! 現場まで付き添ってくれるんでしょう!?」

CuP「あ、幸子ちゃん、ごめんね、今行くから! ま、私からも、次の段階に進められるように、社長に掛け合っておくわよ。ただでさえアイドルが多くて人手が足らないんだから」

モバP「あ、ありがとうございます! 俺も、ティンと来る子を早く見つけられるようにがんばります!」

CuP「そうそう、いい男はそうでなくちゃ。でも、慌てないようにね。じゃ、幸子ちゃんが待ってるから」

幸子「もう、いつまで待たせる気ですか!」

CuP「ごめんごめん。ほら、幸子ちゃんは可愛いからつい担当アイドルの自慢話をね?」

幸子「ふ、ふふーん、そういうことなら仕方ないですね! ボクは可愛いから、プロデューサーさんも特別に許してあげます!」

CuP「寛大で可愛い幸子ちゃんに感謝ね。さ、いきましょうか」

幸子「はい!」




モバP(CuPさんもお気に入りの、今ではお茶の間の大人気アイドル、輿水幸子さん)

モバP(……ティンときた子って、ああいう風に波長の合う人をいうのかな……)

モバP「悩んでいても仕方ないか。資料片付けたら、街に出てみよう」

後日、社長室


CuP「ですから、社長、今でもプロデュースする人間は足りてないじゃないですか」

社長「ふむ、それは確かにそうだね」

CoP「モバPも、しっかり研修はさせましたし、後はアイドルとのコミュニケーションをどうとって行くかの段階です。新しく入った子を担当させても問題はありません」

PaP「どうじゃ、社長。教育係のCoPもこう言っとることじゃし。社長の方針もわからないではないが、ここは一つ……」

社長「……ふむ、なるほど。確かにそのとおりだ」

CoP「じゃあ……」


社長「安心したまえ! たった今、もっといい策を考え付いた!」イイエガオー


CuP・CuP・PaP(あ、やな予感)

社長「それはだね……!」

翌朝

モバP「おはようございます……」

モバP(昨日も日が暮れるまでスカウトに勤しんでみたのだが、成果はゼロ。可愛いな、綺麗だな、と思う子はいるのだけれど……どうも違う気がしてしまう)

モバP(ティンと来るって、難しく考えすぎなのかなぁ……)

CoP「来たか、モバP」

モバP「あ、CoPさん、おはよう……ございます……?」

モバP(何だろう、何か顔が怖い……いつもこんな顔する人じゃないのに)

CoP「社長から話がある。朝から悪いが、社長室に来てもらえるか」

モバP「は、はい……」

モバP(この間CuPさんと話したことかな……それにしては、CoPさんの顔が怖い理由がわからないけど……)

CoP「社長、連れてきました」コンコン

社長『おお、CoP君、モバP君も入ってきたまえ!』

モバP「は、はい、失礼します!」ガチャ

渋谷凛「あ、プロデューサー。それにモバPさんも」

モバP「渋谷さん。おはようございます。渋谷さんも呼ばれたんですか?」



モバP(先に社長室で待っていた、目の前の15歳の少女こそ、3代目シンデレラガール、渋谷凛)

モバP(創設時以来、CoPさんと共にCGプロを支えてきた、CGプロの顔とも言うべきアイドルだ)

モバP(CoPさんの下で下積みをしていたから、当然互いに認識はあるのだけれど)



凛「モバPさん、なにがあるか知ってる?」

モバP「いえ、私も何も聞かされていなくて」

凛「そうなんだ……ねえ、プロデューサー、いい加減何の話か聞かせてよ。とりあえず朝一番で事務所に来いなんて、横暴じゃない?」

CoP「……すぐに社長から話がある」

社長「うむ、三人とも朝早くからすまないね。実は、モバP君のことなのだよ」

モバP「私、ですか?」

社長「ああ、まだ、ティンと来る子を見つけられていないのだろう?」

モバP「は、はい、すみません……」

社長「ああ、なに、そういったものは急かされて見つかるものではないからね。ゆっくり探せばいいさ」

モバP・CoP(思いっきりプレッシャーかけてたくせに……)

モバP「はぁ……えっと、それで……」

社長「うむ、わが社としても、いつまでも君を下積みだけやらせておくわけにはいかない。ということで、ティンと来たアイドルでなくても、プロデュースを始めてもらおうと思ってね」

モバP「え? あ、ありがとうございます!」

凛「へえ、よかったじゃない、モバPさん」

モバP「ええ! えっと、それで、私が担当することになるアイドルっていうのは……」

社長「うむ! 渋谷凛君だ!」ドヤァ




モバP「……」?

凛「……」??

社長「……」ニコニコ

モバP「…………、…………」??!?

凛「………………は、」



モバP・凛「はぁっ!?!?」

モバP「どっ、どういうことですか、だって渋谷さんはCoPさんの!」

社長「ああ、だからこそ見知った仲だろう? そのほうが最初はやりやすいさ」

凛「そういう問題じゃ……っていうか、私、そんなこと何も聞いてない!」

社長「はっはっは、昨日決まったばかりだからね! サプライズというやつだよ!」

凛「サプッ……!?」

社長「うむ、我ながらいいアイデアだ! じゃ、詳しい話はCoP君から聞いてくれたまえ」

CoP「……そういうことだ。いくぞ、二人とも」ガシッ

モバP「いやちょっと待ってくださいよこんなの納得が」

凛「プロデューサーこれどういう」

CoP「失礼します!」バタン!

CGプロ 会議室


CoP「て、ことで、とりあえずこれからの方針を説明――」

モバP「CoPさん!」バン!

凛「プロデューサー!」バン!

CoP「……なんだ、二人とも」

モバP「一体全体どういうことですか! 説明を求めます!」

凛「そうだよ、納得できない!」

CoP「社長の言ったとおりだ。モバPにもアイドルプロデュースを本格的に始めてもらう、それ以上なにが?」

モバP「だから、なんでこんな明後日な方向に結論が着地するんです!」

CoP「……わかった、順を追って説明してやる」フー

CoP「前提として、今CGプロダクションは空前絶後の人手不足だとは認識しているな?」

モバP「ええ、俺が採用された理由でもありますから」

CoP「そうだ。だからお前には早く独り立ちしてもらわないと困る。が、まだティンと来るアイドルを見つけられていない」

モバP「そ、それはそうですけど……でもだからって担当するアイドルが渋谷さんでなくても、」

CoP「人手不足だといっただろ。お前にはすぐにでも第一線で働いてもらわないとならん。これまで俺の下にいたんだ、プロデュース方針も理解しているし、比較的引継ぎが早いだろ」

凛「じゃ、じゃあ何で私なの? プロデューサーが担当していたアイドルはほかにもいるじゃない!」

CoP「ああ、いるとも。モバPだって関わってる子もいる」

凛「じゃあ、」

CoP「その中で、一番アイドルとして経験豊富なのは誰だ?」

凛「それは……私だけど……」

CoP「そうだ、CGプロ全体で見ても最古参だ、お前は。だからこそ、まだペーペーのモバPの指導役にもなれるだろ」

凛「私はそんなこと……」

CoP「社長も凛のこと買っているんだと。自分であるべき姿をきちんとイメージして進んでいけるアイドルだと。凛なら、モバPがおかしい方向にプロデュースしようとしても自分で指摘して止められるだろうってな」

凛「それはっ、」



CoP「ああ、そりゃそうさ。ずっとやってきたんだ、お前がそれくらいできることは俺だって知ってる。ずっとそばで見てきたんだ」



凛「……っ、そう、かもしれないけど……」

モバP「……じゃあ、CoPさんは一切文句ないんですか?」

CoP「何?」ギロ

モバP「だってそうでしょう! ここまでCGプロを大きくしたのはCoPさんの、そして渋谷さんの貢献が大きかったからで……二人とも、大事な相棒だって誰から見ても明らかでしょう!」

凛「そ、そうだよ! 私がトップになるまで、一緒にがんばろうって言ったじゃない!」

CoP「……で、シンデレラガールまで上り詰めた」

凛「それはっ!」

CoP「お前も俺も、次のステップに進まなきゃならないんだ。社会ってのはそういうもんなんだよ。子供みたいな駄々こねるな」

モバP「だから、CoPさんはいいのかって……!」



バンッ!



モバP・凛「っ!」


CoP「もう決まったことだ。いいな? とっとと引継ぎを始めるぞ」

同時刻、別室


CuP「……そりゃ、荒れるわよねぇ……」

PaP「まあのう……」

CuP「やっぱりもう一度社長に掛け合ってみる?」

PaP「社長も一度言い出したら人の話を聞かんからな……昨日、あれだけ諌めて駄目だったんじゃ、望み薄じゃろ」

CuP「そうよね……はあ、余計なこと言い出しちゃったわねぇ……」

PaP「仕方あるまい、とりあえずわし等でもサポートできるところはしようや」

CuP「それしかない、か」

CGプロ 会議室


CoP「……当面の引継ぎ事項は以上だ。何か聞くことは?」

モバP「……ありません」

モバP(そりゃそうだ、二ヶ月近くこの人の下で働いてたんだ、あらかたの情報は頭に入ってる)

モバP(腑に落ちないし、納得できない。納得なんてできないけど――)

凛「……」

CoP「凛、お前もいいな?」

凛「……」

CoP「凛」

凛「……わかったよ」

モバP(つらいのはきっと、渋谷さんのほうだ)

CoP「トレーナーさんたちには俺のほうで話を通しておく。とりあえず当面は、レッスンは今までどおりのペースでな」

CoP「3代目シンデレラガールのお披露目公演まで1ヶ月だ。みっちり用意しておけよ」

モバP「はい」

凛「……わかったよ」

モバP(俺より、渋谷さんがつらい、つらいけど……進まないと、か)フゥ

モバP「じゃあ、渋谷さん、改めてよろしく」

凛「……うん」

CoP「俺は次の打ち合わせに行く。後は二人で、がんばって進んでいってくれ」

モバP・凛「……」

CoP「ああ、それとな、モバP」

モバP「え?」

CoP「もうお前らは相棒だ、渋谷さんだなんて、他人行儀に呼んでやらないでくれ」ギィー、バタン

モバP「あー……それじゃ、えっと……」

凛「……凛、でいいよ」

モバP「いや、でも」

凛「言ってたでしょ。知らない仲じゃないんだし」

モバP「……わかった。じゃあ、改めてよろしく、凛さん」

凛「……さんづけもいらない」

モバP「あ、あはは、まあそれはおいおいで……とりあえず、今日はもう帰って休んで。レッスン予定も入ってないし、一度気持ちを落ち着けないと、ね」

凛「……ん」スタスタ



凛「」ピタ



モバP「ん? なに?」

 






凛「……あんたが私のプロデューサー、か」











モバP「あ……」

凛「ごめん、なんでもない。じゃ、また明日ね」

モバP「ああ、うん」

ギィ、バタン

モバP「……、はぁ……」

モバP(なんで、こうなっちゃうかなぁ……)


二日後 トレーニングルーム


トレーナー(以下トレ)「はい、ワン、ツー、ワン、ツー、そこでステップ!」

凛「っ、ふっ、はっ、はっ、」


モバP(あれから二日、渋谷さんはレッスンを続けている)


トレ「そう、そこバランス崩さないで!」

凛「っと、ふっ!」


モバP(とりあえず、ダンスの切れやボーカルレッスンでは変わった様子はない。今までどおり、あるいはそれ以上に真剣に取り組んでいる)

モバP(それはいいのだけれど)


トレ「……はい、そこまで。いい動きね、渋谷さん」

凛「ありがとう、ございます……」


モバP(やっぱり、まだ無理しているのは見え見えだ……それは、俺も同じなんだけど)

モバP「凛さん、おつかれさま」ドリンクポイー

凛「ありがと、モバPさん」パシ

トレ「あー……じゃあ、モバPさん、渋谷さんのことですけど」

モバP「あ、はい」

トレ「動きも問題ないですし、順調にきてますね。後は無理せず、公演までは怪我に一番気をつけてくださいね」

モバP「はい、わかりました」




凛「……ほんとに、それでいいのかな」




トレ・モバP「!」

凛「あ……ううん、レッスンに文句があるわけじゃないの。その……」

凛「ごめん、着替えてくる」バタン

モバP「す、すいません、ちょっと今、凛さんもナーバスになっていて……」

トレ「……いえ、私たちも状況は聞いてますから。気にしないでください」

モバP「重ね重ね、すいません……」

トレ「だから大丈夫ですよ。それよりプロデューサーでしょう? 渋谷さんのフォロー、しっかりしないと駄目ですからね」

モバP「……心得ます。凛さんは、もううちのアイドルってだけじゃなくて、私の担当アイドルですから」

トレ「なら、お任せします。それと……」

モバP「?」

トレ「凛『さん』は、やめたほうがいいと思いますよ?」クス

モバP「は、はあ、善処します……では、これで」

モバP(渋谷さんにも、言われてはいるのだけれど……やっぱり、CoPさんのように、呼び捨てにするのはちょっと違う気がする)

モバP(たぶん、そういうところから、渋谷さんとの関係を作っていかないといけないんだよなぁ……)

モバP「まあ、おいおい考えようか」

凛「何を?」

モバP「うわっ! しぶ……凛さん、いつの間に」

凛「汗流すだけだもの、家でみたいに長風呂なんてしないよ。それより、何の話?」

モバP「いや、その……」

凛「後ろめたいこと?」ギロリ

モバP「……はい、そうです。凛さんを何て呼ぼうか考えてました」

凛「だから、呼び捨てでいいって言ってるのに……」ハァ

モバP「それはおれ……私……ええと」

凛「?」

モバP「……それより、もう今日は上がりでしょう? 駅まででも送っていきますよ」

凛「ん」

原宿 路上

凛「で、さっきの続きは?」テクテク

モバP「……その話は流したつもりだったのに」テクテク

凛「あたしの担当するんだったら覚えておいてね、私意外と頑固できかん坊だから」テクテク

モバP「よく知ってます、そりゃ毎日CoPさんとのやり取り見てれば……あ」ピタ

凛「……」ピタ

モバP(あーもー、またやっちまった)「さ、さっきの話ね。呼び方の話」スタスタ

凛「……そう、それ。モバPさん、一人称だって使い分けてるよね?」スタスタ

モバP「そりゃ、社会人として、公的なところで使う言葉と私的なところで使う言葉くらい使い分ける……ますよ」トコトコ

凛「私に対する口調や一人称が安定しないのは?」トコトコ

モバP「うー……まあ、なんていうか」シンゴウアカー

モバP「その、呼び方もそうだけど、まだ凛さんとの距離、測りきれてないんだよね」

モバP「アイドルとプロデューサーって、お仕事の上での関係でもあるけど、先輩たちを見てると、それだけじゃないなって思ってさ。どうやってアイドルと接するかって、まずそこからだと思うんだ」

凛「ほんと変な風にまじめだね。だから社長からの無理難題に悩みすぎるんじゃない?」シンゴウアオー

モバP「まあ、ねえ……これはもう性分だから、俺にプロデュースされる以上、覚えておいてもらえると嬉しいな」トコトコ

凛「ふふ、わかったよ」トコトコ


モバP(ん、今、ちょっとよかったかな。距離をつめられたような)

凛「だから、私のことは呼び捨てで」クル

モバP「結局それか……最終的にそうなるかもしれないけど、安易に決めるのは俺の主義に反するんです」

凛「ほんと、変に真面目」クス スタスタ

モバP「……まいったね、どうも」スタスタ

モバP(一見とっつきづらいけど、しっかり気配りできる子なんだよなぁ)

モバP(渋谷さんだって、まだ整理できてないところもあるだろうに、俺に気を使って……ほんとに社長も何を……ん?)

 


“そうつーよく そうつーよく♪”


 その一小節だけでわかる。
 Never Say Never
 渋谷さんのデビュー曲であり、代表曲。当然、知らないわけがない。
 一瞬、渋谷さんが歌っているのかと思った。けれど、それはすぐに違うとわかる。
 声も違うし、浮かれていたとしても、歩きながら口ずさむようなタイプじゃないのは知っている。


“あのばーしょへー♪”


 何よりその歌声は――


“はーしーりーだーそうー♪”


 俺の心を弾ませるように、誰よりも、楽しそうに響き渡る。
 惹きつけられるように振り向いた、俺の視線の先にいたのは――


 

その日、私は浮かれていた。
お気に入りの帽子屋で見つけた、赤いリボンがアクセントの可愛い帽子。
その場でタグを切ってもらって、早速かぶって街を歩く。
帽子が違うだけなのに、見える世界が新しく輝く。
思わず口ずさむのは、最近お気に入りのアイドルの曲。

「振り返らず前を向いてー♪」

聞いていて、まっすぐ前を向こうって、元気をもらえる曲。

「どこまでも走ってゆこうー♪」

軽くスキップしながら口ずさみ、原宿の町を歩く。
その私の肩に、突然置かれる手。

「ちょっと、君!」

「そうつーよく……って、えっ?」

驚いて振り返った私の顔の前には――


「君、アイドルにならないか!?」


満面の笑顔で、男の人が目を輝かせていた。


凛「で、モバPさん、明日の予定だけど……モバPさん?」


モバP「君! アイドルにならないか!?」

女「えっ?」


凛「……え?」


凛(なんだろうこれ)

凛(私の後ろを歩いていたはずのモバPさんが、何故か逆方向に走り出し、すれ違ったばかりの女の人の肩に手を置いて顔を覗き込んでいる)

凛(……うん、訳がわからない)


モバP「君ならきっとできる! だから、やろう! アイドル!」

女「えっと……アイドル?」


凛(あの人、ポカーンとしてるよ。うん、そりゃそうだよね。私も最初にスカウトされたとき、状況把握できなかったもの)

凛(ん? スカウト? モバPさん、あの人をスカウトしてる?)

凛(……モバPさんも、ああなるんだなぁ……これだからプロデューサーって生き物は……)トオイメー

凛(ほんとに周囲の状況を考えない……あれ?)



通行人A「え? なに、キャッチセールス?」

通行人B「やだ、変質者……」

通行人C「今時ナンパかよ……引くわ」

通行人D「ケーサツ、ケーサツ呼んどこ!」



凛(ああもう! 案の定!)ダッシュ!



モバP「あ、俺は決して怪しいものじゃなくて、CGプロダクションの……」

凛「プロデューサー!」ガシ

女「あれ?」

凛「こんな街中でいきなり大声でスカウト始めないで! 周りに人の目があるんだから!」

モバP「あ、ああ、すまない。つい興奮してしまって……」

凛「もう、プロデューサーって何でみんなこうなのかな……」ブツブツ

女「……」ジー

 


女「もしかして……渋谷凛ちゃん?」



モバP・凛「ギク!」


通行人A「え? 渋谷凛?」
通行人B「そういえば、さっきアイドルとか」


凛(やば……)

凛「ち、ちがいま……」

女「わぁーっ! 本物の凛ちゃんだー!」ダキツキ!



凛「えっ!? いやちょ」

凛(この反応は想定外!?)

女「すっごーい、こんなとこで会えるなんて!」アクシュブンブン

モバP「あ、その、ちょっと……」

女「あれ? じゃ、本当にプロデューサーさん?」

モバP「あ、うん、そうなんだけど、ていうか……」


通行人C「やっぱりしぶりんだ!」

通行人D「そういえば、CGプロダクションてこの近くだったっけ?」

通行人E「サインもらおうっちゃ! 色紙持ってない!?」

通行人F「カレイならあるのれす~」

通行人E「なんで!?」

通行人F「色紙もカレイさんもひらたいのれす~」

通行人E「そういう問題っちゃ!?」




モバP「まず……」

モバP(平日昼間の原宿で騒ぎなんか起こしたら、警察になんていわれるか……プロダクションの信用にも関わるし……)

女「あれ? どうかし……あぁ」サッシ

女「えっ……と」キョロキョロ

女「!」ハッケン!


通行人A「写メ、写メ! 携帯どこだ!?」
通行人B「原宿でしぶりん発見なう、っと」ツイートスル?


モバP「ど、どうしたもんだこれ?」アセアセ

凛「か、囲まれてるしどうしようも……」アセアセ

女「すーっ……」オオキクイキヲスイー



女「あーーっ!! あんなところで、お茶の間アイドルの可愛い可愛いさっちゃんが、路上ロケやってるー!」



モバP・凛「えっ?」

通行人達『えっ!?』




幸子「ふふーん、この可愛いボクに紹介されるなんて、運のいい店ですね! 明日から行列間違いなしです!」フフーン

モバP・凛(ほんとにいる!?)

通行人達「え、幸子ちゃん?」
「あのスカイダイビングで舞い降りた天使の?」
「遊園地で水びたしになった、キュートな可愛い?」
「お魚嫌いなアイドルなのれす~……?」ハイライトオフー
「それはみくにゃんっちゃ!」



幸子「ん? 何か、人が集まっていますね……」

幸子「仕方ありませんね! ボクの可愛いオーラは到底隠しきれるものではありませんから!」フフーン


通行人達「おー! さっちゃんだ! さっちゃんだ!」「さっちゃんのドヤ顔可愛い!」「可愛い!」「可愛い!」「ひゃっはぁ!」「フフーン可愛い!」ダダダダダ!


幸子「おっと……」

幸子「ファンの皆さん、そこでストップです!」


通行人達『』ピタ

幸子「可愛いボクのオーラに引き寄せられて、この可愛い姿を間近で眺めたいのはわかりますが、今は撮影中ですから! 節度を持った対応をお願いしますね!」

通行人達『はーい!』カワイイサチコチャンノタノミナラー!

幸子「それから、これからお伺いする食堂は隠れた名店です! 取り囲んで迷惑をかけないように! いいですね!」

通行人達『はーい!』カワイイサチコチャンノタメナラー!

幸子「さて、では行きましょうか! 大勢のファンを惹きつけてしまうボク……罪なくらいに可愛いですね!」フフーン

キャー、サッチャーン!
コッチムイテー!

 

ザワザワ……


モバP・凛「……」ポカーン

女「ふたりとも、こっちこっち!」マネキネコー

モバP「……え?」

女「騒ぎになるといけないんでしょ? 早く逃げよ!」

凛「え、あ……」

モバP「よし、逃げるよ、凛…さん!」ダッシュ!

凛「う、うん!」ダッシュ!

女「うん、こっちこっち!」タタタタッ!



通行人A「あれ、そういえば凛ちゃんは?」

通行人B「そういえばさっきいたよね? しぶりん」

通行人C「あれ、どこいった……?」

原宿 とある喫茶店


女「あはは、ごめんなさい、騒いじゃって……まさか、本物の凛ちゃんに会えるなんて思ってなかったから、つい……」イラッシャイマセー

モバP「あー、いや、いきなりスカウトしたこちらの落ち度でもあるので……」ナンメイサマデスカー

凛「ほんとだよ、もう……あ、ここのコーヒーおいしい」ゴチュウモンオウカガイシマース

女「そうでしょ、そうでしょ! 最近見つけたんだ、新しい世界発見って!」

モバP「へえ……ああ、ほんとにおいしい」




モバP・凛・女「……」リラックスー




凛「……じゃなくて」

モバP「……そうだった」タタズマイタダシー

女「あ、私をアイドルに……ってお話ですか?」

モバP「はい、私、CGプロダクションのモバPと申します」メイシサシダシー

女「あ、これはご丁寧にどうも」

モバP「それで、ぜひあなたにアイドルになってもらいたく……」ズイー

凛「ちょっと、モバPさん、がっつきすぎ!」カタツカミー

モバP「え、でも」

凛「名刺出したってだけで信用してもらえるほど、最近平和な世の中じゃないでしょ」ハァ

モバP「あ……そりゃそうか。あの、お返事は今すぐとはいいません。プロダクションのホームページに電話番号もありますし、そちらから一度モバPあてにお電話を……」




女「はい! アイドル、やらせてください!」




モバP「あれぇ!?」

女「? どうかした?」

モバP「い、いやその、そう簡単に信用されるのかなって……」

凛「あの、本当にいいんです? いきなり街中でスカウトするような人ですよ?」

女「うーん、でも、本物の凛ちゃんと一緒にいるし」

凛「あ、いや、まあ……そういえばそうですけど……」

女「それに、旅先で面白そうな裏道があったら入りたくなるよね? それと同じ同じ!」

モバP「……あの、一人旅でそれは危ないと思いますけど……」

凛「同じく」

女「そうかな?」キョトン

モバP(結構天然かこの人!?)

凛(未央と同じ雰囲気を感じる……)

女「それに、アイドルに興味もあったし!」

モバP「え? 今日、声をかける前から……ってことですか?」

女「はい!」

女「私、旅行が趣味で、国内でも国外でもあちこち行くんだけど」

女「旅先で、よく地方営業しているアイドルとか見かけるの」

モバP「ああ、まあ昨今、アイドルブームですしね……」

凛「地方のイベント、少し前までよく行ってたよ」

女「そうだよねっ! もう、そういうところで見ると、地元の人がみーんな笑顔なの!」

モバP「それは……」

凛「こっちも嬉しい、ね」

女「それだけじゃないよ、旅館のカウンターでアイドルのライブや番組がやってると、必ずといっていいほど宿泊客や旅館の人が集まって来るんだ! みんなでニュージェネレーションがかっこいいとか、あんきら最高とかすごい盛り上がるの!」

モバP「そう、なんですか」

女「うん! そういうときのみんなって、旅先でガイドブックにも載ってないような、隠れた名店を見つけたときみたいに輝いた顔してるの!」

凛「……」

女「私も自然とファンになっちゃって、近くでライブがあるときには見に行ってるんだ。あ、凛ちゃんのライブにも行ったんだよ!」

凛「え、あ、ありがとう……」ハニカミー

女「もう、すっごいよかった! あれ以来、Never Say Never毎日のように聴いてるもん!」

モバP「ああ、それで口ずさんでたんですか」

女「え? あ、聴かれてた? うーん、恥ずかしいなー」エヘヘ

凛(可愛い)

モバP「ええ。あの歌が耳に届かなかったら、あなたに会えなかったかもしれません」

女「そっかー、じゃ、凛ちゃんのおかげでアイドルやれるんだ! ありがとう!」アクシュアクシュ

凛「え、えっと、どういたしまして……」ニギニギ

モバP(凛ちゃん、めずらしく照れてるな……)

モバP「で、ちょっと話がずれましたけど、それがきっかけでアイドルに興味を?」

女「あ、はい! アイドルになったら、私も新しい世界を見られるかなって。それと、ファンのみんなに新しい世界を見せてあげられるのも、すっごく素敵だなって!」

凛(何だろう、凄く、目がきらきらしてる……)



凛(……)

女「それで、私どうしたらいいですか?」

モバP「ああ、はい。今の話で確信しました。あなたなら、きっとみんなを笑顔にするアイドルになれるって。ぜひ、CGプロに来てください!」

女「はいっ! ええと、それで……」

凛「モバPさん、今のはどういう手続き踏んだらいいですかってことだよ」ハァー

モバP「あ……えーと、こりゃ失礼……」

女「クスッ」

凛「フフッ」

モバP「あ、あはは……」


モバP「じゃ、じゃあ、もし時間の都合さえつけば、今からでもCGプロの本社で詳しい説明と手続きをしたいんですが、お時間ありますか?」

女「はい! 善は急げ、だよね!」ガタン!

モバP「じゃあ早速案内しますから……」ガタン!!

凛「……ねえ、モバPさん?」タメイキー

モバP「どうした? ああ、そうだ、先に凛ちゃん送っていかないと……」

凛「そうじゃない……え? 今なんて?」

モバP「うん?」

凛(無意識……? ま、まあそれは置いておいて、)

凛「せめてさ、名前くらいここで聞いておかない?」

モバP「え? 何いってるのさ、名前くらい……あれ? 聞いてない?」

凛「もう……しっかりしてよ」ハァ

女「あはは、そういえば、ばたばたしてて自己紹介してないもんね、そういえば」エヘヘ




女「それじゃ、改めて」コホン

 








「並木芽衣子、和歌山出身の22才だよ! よろしく、プロデューサーさん♪」










 

CGプロ 事務所


モバP「いやー、まさか、22歳とは……」

芽衣子「もーっ、プロデューサーさん、それってどういう意味!?」

凛「うん、仕方ないんじゃないかな……?」

凛(絶対、高校卒業前後だと思ってた)

モバP(俺もだ)

芽衣子「むー、凛ちゃんまで……私、そんなに大人っぽくない?」

モバP「ああいや、そういうわけじゃなくて……まあ、自分の魅力を見つけていくのはこれからだから。俺も協力するし」

芽衣子「うーん……よし、じゃ、そういうことにして、頑張ろう! おーっ!」

凛「あはは、そうだね」



ガチャ

CoP「あれ、なんだ、モバP。凛を送って行ったんじゃないのか?」

モバP「あ、CoPさん! それが、送っていく途中で、ついに出会ったんですよ、ティンとくる人に!」

CoP「……は?」ピキ

芽衣子(え? あれ?)

モバP「こちらの並木芽衣子さんです。もう書類手続きと今後の説明は終わっていて……」



CoP「おい、モバP」




モバP「え……え?」

 



CoP「おまえなぁ……その子のプロデュース、誰がやるんだ?」



モバP「そりゃもちろん自分が……あっ!」

芽衣子「え、えっと……」

芽衣子(ど、どうしよう、なんか険悪な雰囲気に……)


CoP「……よりにもよって、凛の担当になって2日だぞ。たった2日だ! なんでそのタイミングでティンとくる子を見つけてくるんだ!」


芽衣子「???」

凛「……」

モバP「そ、それは、その……」

CoP「っくそ……」

芽衣子「ええと……その、私、なにかまずかったですか……?」

CoP「……いや、すまない。こちらの話だ。なにはともあれ、歓迎するよ、並木さん」

並木「は、はい……」(目が怖いけど……)

モバP「そ、その、CoPさん、俺もこうして自分でスカウトできたわけですし、社長の采配をなかったことには……」

CoP「できると思うのか?」

モバP「い、いえ……そう、ですよね……」

CoP「あと3日……いや、あの朝までに結果が出てりゃ、土壇場でひっくり返せただろう。が、もう決まったことだ。それに、俺も新たにチーフプロデューサーとしての職についた。凛の担当を外れたからな」

芽衣子(じゃあ……凛ちゃん、ついこの間までこの人がプロデューサーだったんだ)

CoP「全体の統括として、Coだけじゃなく、Cuグループ、Paグループの様子も見ることになる。今更無理だ」

 



凛「ふーん、だったら、そうやってみみっちく過ぎた事を言うのやめたら?」




モバP「え?」

CoP「凛?」

凛「決まったことなんでしょ? 言ってたよね、そういう社会なんだって」

芽衣子「り、凛ちゃん、ちょっと……」アセアセ

凛「芽衣子、どいて」

芽衣子「は、はい……」

CoP「凛、お前な、俺がどんな気持ちで、」

凛「それ、私もモバPさんも聞いたよね、この前。それを言わなかったのはプロデューサーだよ」

CoP「……」

凛「私、間違ってる? ねえ、CoPさん」



CoP「……、いいや、正しいよ」


凛「……わかってくれてよかった。じゃあ、私もう帰るから」

CoP「ああ」

モバP「あ、ちょっ、凛ちゃん!」

芽衣子「凛ちゃん!」

凛「……明日、学校終わって、15時からレッスンだよね、プロデューサー」

モバP「……え? あ、ああ、うん、そうだ、けど……」

凛「ん」

芽衣子「あ、その、凛ちゃん、一緒に帰ろう、ね?」

凛「大丈夫。電車だし、一人で帰れる」

芽衣子「でも……」

凛「……今日だけでいいから、一人で帰らせて」

CoP「そうしてやれ」

モバP「いや、でも……」

凛「ありがと、CoPさん。それじゃ」バタン タッタッタ…

モバP「あ、あの。CoPさん」

CoP「今後はチーフと呼べといったろ」

モバP「いや、今はそんなこと……ああもう。チーフ、いいんですか、一人で帰らせて」

CoP「大丈夫だ。……あいつは、自分で正しく判断できる。俺が、隣で見守ってきたんだ。そう、この間も言っただろ?」

モバP「……」

CoP「今日はもういい、お前も帰れ。並木さんも……初日から、変な光景につき合わせて悪かったね。また明日から、よろしく頼むよ」

芽衣子「えっと……はい」

事務所 出口


モバP(と、言うわけで、これから帰るわけだけど)

芽衣子「」ムー

モバP(そりゃ、むくれるか……とりあえず、芽衣子には、事情を教えとくべきだろうなぁ)

モバP「なあ、芽衣子、このあと……」

芽衣子「プロデューサーさん、このあと時間あります!?」

モバP「お、おう? あるけど……?」

芽衣子「じゃ、少し付き合ってください!」ムンズ

モバP「ちょ、おい、芽衣子!? どこ行くんだ!? おい!?」


CGプロ周辺 某ファミレス


モバP「……っていうのが、まあ、こと今回にいたるまでの経緯でな」

モバP(いきなり引っ張られてどこに連れて行かれるかと思ったが、要は芽衣子も事情を知りたかったらしい。話さないとと思っていたことだし、食事をかねてこのファミレスで説明を終えたのだが)


芽衣子「」モグモグ ガツガツ


モバP「なあ、聞いてたか?」

芽衣子「もちろん!」ゴックン

モバP「……話の間中食べてたハンバーグの皿、空にした後に言われてもなー」

芽衣子「プロデューサーさん、旅先で食事は大事なんだよ! いつ食べられるかわからないんだから!」フキフキ

モバP「なあ、お前普段そんなハングリーな旅行してるの?」

芽衣子「それはそれとして、凛ちゃんとCoPさん、そんなごたごたのせいで喧嘩だなんて、可哀相だね」

モバP「喧嘩か、あれ? まあ、二人とも正論言いだすと引っ込めないタイプ……かもしれないけど」

芽衣子「仕事の話じゃなくて。だってそっちは、もう決まっちゃってるんでしょ? それじゃ仕方ないじゃない、凛ちゃんの言ってたとおりで。それが理由で喧嘩するなんて不毛だよ」

モバP「……まあ、そうだけど。というか、芽衣子はその辺納得できるのか?」

芽衣子「旅先で目当ての美術館が休館日だったとしても、怒ってもどうしようもないし。それと同じだよ」

モバP「その、なんでも旅行で例えるのはどうだろう……でもまあ、的を得ているのか……?」

芽衣子「だからそれより、旅先で喧嘩しちゃった相手と仲直りできるかのほうが大事だって! モバPさんも気がついたでしょ?」

モバP「ああ、俺とCoPさんへの、凛の呼びかけだろ?」

モバP(多分、ここ数日、凛にとってのプロデューサーはCoPで、まだ俺はモバPという人間にすぎなかった)

モバP(それ自体は問題じゃない。時間はかかっても、信頼を築いていけば、いつかは俺もプロデューサーと認められるようになる……というか、そうしていけばいい。けれど)

モバP「今日の帰り、俺をプロデューサーと呼んで、CoPさんを名前で呼んだのは、明らかに当て付けだよなぁ」

芽衣子「私もそう思う! ね、それって絶対よくないよ!」

モバP「解ってるから落ち着いて、ね?」ドウドウ

モバP「きっかけは仕事のことだとしても、それを理由に感情を隠すから話がこじれてるんだよな、多分」

芽衣子「どうしようもないってわかってても、つい怒っちゃって気まずくなることあるもんね。凛ちゃん、そういうの謝るの苦手そうだし」

モバP「CoPさんもそこは同じだよ。似た者同士というか……」

芽衣子「ねえ、どうにか二人、仲直りさせられないかな?」

モバP「そりゃ、それが一番凛ちゃんの精神状態にもいいし、ライブもいい状態で迎えられるだろうからそうしたいけど……うん?」

芽衣子「どしたの?」

モバP「……いや、普通に話してたけど、どうして俺、芽衣子にこんな相談してるんだろうなって」

芽衣子「いいと思うよ? 私から話してるんだし」

モバP「いやいや、こういうアイドルのケアは俺の仕事だし、芽衣子だってそれこそ、今日知り合ったばかりのアイドル候補生だっていうのに、こんな立ち入った話を、な?」

芽衣子「そんなこと言ったって、凛ちゃんが苦しんでるのに放っておけるわけないじゃない!」

芽衣子「それにほら、アイドルとプロデューサーって、相棒でしょ? 相棒に仕事の悩みを相談するくらい普通だって!」

モバP「相棒……そういうもんか?」



芽衣子「そうそう! だって、」








芽衣子「一人より二人、だよねっ!」







モバP「……まったく、そこでその笑顔が出るか……」クツクツ

芽衣子「え? 何か変?」

モバP「いや、つくづく芽衣子をスカウトしてよかったなって思ってさ」

芽衣子「???」



モバP「さて、そうと決まれば、明日からでもどうにか二人を仲直りさせられないか窺って見るか!」

芽衣子「私、何すればいい?」

モバP「芽衣子はレッスンに励むこと。初めてのレッスンなんだから、ついていくので精いっぱいだろ、多分」

芽衣子「えー、これでも体力には自信あるよ?」

モバP「トレさん姉妹のトレーニングを知らないからそう言えるんだよ……とにかく、芽衣子だってアイドルとしてステージに立つんだから、まずはそっち優先」

芽衣子「はーい」

モバP「……ま、相棒なんだから、困ったら一人で考えずに相談するよ」

芽衣子「オッケー! それじゃ、また明日! おやすみなさい、プロデューサー!」

モバP「おう、明日、遅れるなよー!」

翌日 トレーニングルーム




芽衣子「ふきゅぅ~~~~」



凛「芽衣子、大丈夫?」

モバP「だから言わんこっちゃない……ほら、スポドリ」

芽衣子「あ、ありがと……」ゴクゴク

トレ「まあ、初日にしてはよく付いてきてましたよ?」

モバP「芽衣子、言っとくけど、これで一番楽なメニューだからな?」

芽衣子「ひえ~~~」

凛「そうかな、ルーキートレーナーさんのレッスンの方が幾分楽じゃない?」

モバP「……メニュー的にはね。ただ、ルキトレちゃん、言っちゃあ悪いけど、加減を知らないから……」

凛「……、まあ、そういう一面もあるけど」

トレ「あはは……まあ、あの子もまだこれからですから!」

モバP「あ、す、すいません! 妹さんのことを……」

トレ「あーいえ、気にしないで下さい。本人も自覚ありますから」

芽衣子「でも、流石に凛ちゃんは余裕だね~」

凛「慣れているだけだよ」

モバP「さらりといっちゃうあたりが、凛ちゃんだよな……」

トレ「へっ!?」

凛「……ねえ、プロデューサー」

モバP「ん、何?」

凛「確かに、さんづけは止めてって言ったけどさ……」

凛「ちゃ、ちゃんづけもどうかと思う……」カーッ

トレ(渋谷さんが赤くなってる)

芽衣子(可愛い)

モバP「え? あーでも、何かそれで定着しちゃったからなー。な、芽衣子」

芽衣子「うん、良いと思うよ!」

凛「芽衣子のせいだからね……、もう、わかったよ」タメイキ

トレ(微笑ましいというか、なんていうか……)クスクス

凛「さて、と。プロデューサー、このあとトレーニングルーム使える? ライブまでにもっと完成度をあげておきたいんだ」

モバP「ん? ああ、えっと……この後に確か」



がちゃり



PaP「おう、邪魔するで」

茜「おはようございます! 今日も宜しくお願いします!」

智香「おはようございますっ☆」

巴「よろしく頼む。ん? なんじゃ、まだレッスン中だったんかい」

トレ「あ、PaPさん。いえ、時間どおりですよ」

モバP「茜たちのレッスンだよな、この後は」

凛「そっか、じゃあ仕方ないね」

PaP「なんじゃ、どうしたんじゃ?」

モバP「いえ、凛ちゃんが自主トレしたいらしくて」

茜「自主トレですか! いいですね、熱血です!」

智香「凛ちゃん、記念ライブ近いもんねっ! 応援するよ!」

凛「ありがと。でも、この後三人ともレッスンでしょ? ここじゃ邪魔になるから、どこか別のところで……」

巴「そげんこと気にしいなや。こげにだだっ広いレッスン場じゃけん、三人で使いきるもんでもないけんのう」

凛「そう? じゃあ、よければ私もレッスンに参加してもいいかな?」

茜「合同レッスンですか! 燃えますね!」

トレ「渋谷さん、悪いけど、渋谷さん用にはメニューは加えないわよ?」

凛「最初からそのつもりだよ。自分のプログラムだけじゃ、視野が狭くなるから、ちょうどいい刺激になる」

PaP「……しっかりしとるのう。それなら止めはせんが、茜と同じメニューじゃき、ちっと体力がきつかなかか?」

凛「無理はしないよ」

モバP「んー……まあ、それならいいか。ただし、無理しすぎないように俺も見てるからな」

凛「わかったって。大丈夫」

芽衣子「あっ、じゃあ私も!」

モバP「芽衣子は駄目だ。っていうか、さっきまでばててたのは誰だよ」

芽衣子「大丈夫、いけるって!」

モバP「お前の大丈夫は凛ちゃんと違ってあてにならない」

芽衣子「むーっ!」

PaP「……ところで、そっちのお嬢ちゃんは初めて見るのう」

芽衣子「あ、はじめまして! 今度、CGプロに入りました、並木芽衣子です!」

茜「私は日野茜です!」

智香「若林智香です! 特技はチアリーディングです!」

巴「村上巴じゃ、親父に無理矢理アイドルを始めさせられたところじゃ。よろしく頼む」

PaP「親父さんに押し付けなや。最近は己かて楽しんどるじゃろ」

巴「うっさいわ、大きなお世話じゃ」

芽衣子「みんな可愛いー! あ、こちらこそよろしくおねがいします!」


キャッキャ、キャッキャ

智香「また仲間が増えて嬉しいねっ、茜ちゃん!」

茜「はい! お祝いですね! さっそく一緒にレッスンしましょう!」

凛「いや茜、芽衣子さっきのレッスンでばてばてだから……」

茜「気合があれば何でもできます!」

巴「いや、限度っちゅうもんが」

芽衣子「うん、いい言葉だね! 気合いだー!」

茜「そうです! 気合です! パッションです!」

智香「フレ、フレ、芽・衣・子☆ ファイト、ファイト、芽・衣・子☆」

巴「……まあ、好きにしい……」フゥ

凛「また倒れても知らないよ……」ハァ

モバP「まったくあいつは……」ハァ

PaP「元気な娘っ子じゃのう。うちのグループとはウマが合いそうじゃ」カカカ

モバP「あはは……いや、芽衣子は俺がプロデュースしますからね?」

PaP「安心せい、とりゃせんよ」

トレ「……まあ、頑張るっていうならいいですけど、並木さんは無理だと思ったら止めさせますからね?」

芽衣子「はい!」


トレ「では、始めましょうか。まずはいつも通りウォーミングアップ、事務所周りのランニング30週から」


茜・智香「はい!」


芽衣子・凛「は……え?」


巴「……まあ、これがウチ流じゃけぇ、頑張りや」

茜「行きますよー! ボンバー!」ダダダダダッ!

凛「ちょ、ちょっとまっ……」

智香「ほら、二人とも行きましょう!」ガシッ

芽衣子「ひ、ひえええええ……」バタバタバタ……




モバP「……ウォーミングアップ、ですよね……?」

PaP「そうじゃが……どうかしたか?」

モバP「いえ、なんでもないです……」





芽衣子「……」ちーん



凛「だから言ったのに……」ゼエハア

茜「お疲れ様でした! 大丈夫ですか!? よければ一緒にクールダウンのランニングに!」

凛「また走るの!?」

PaP「茜、それは流石に一人にしときい」

茜「わかりました! では、いってきます!」バビューン

芽衣子「あ、あかねちゃんのろくじかんたいきゅうらいぶ、すごいっておもってたけど、これがひみつだったんだね……」

モバP「無理するな、芽衣子、寝てろ」

芽衣子「きゅう」バタン

トレ「ま、まあ、よく最後まで根を上げずに頑張りましたよ」ハハハ

巴「体が動かんでも、何とかついてこようとしとったけえのお、大した根性じゃ」

智香「ナイスファイトでした、芽衣子さん!」

凛「……確かに、ね。それに、私達のレッスンの時からそうだったけど、ずっと笑顔だったのは凄いよ」

PaP「そうじゃのう、ほんに、良い原石見つけよったで、モバP」

モバP「……はい、それはもう」

凛「それはそれとして、ここで寝かせておくわけにはいかないよね。智香、仮眠室へ運ぶから手伝ってくれない?」

智香「お安いご用ですっ☆」

巴「荷物はこれか? もっていくわ」

凛「巴もありがと。じゃあ、芽衣子を連れてったら今日は上がるね」

モバP「今日はかなりオーバーワークだったからな、しっかりクールダウンしとけよ」

凛「わかってる。じゃ、お疲れ様、プロデューサー」

モバP「おう」

PaP「お前らも、今日はもう上がっとき。テンションが高かったせいで、知らぬ間にいつも以上のレッスンをこなしてたからの」

智香「わかりましたっ!」

巴「おう、お疲れさん」

バタン

PaP「さて、わしらも事務仕事に戻るか……トレさん、お疲れさん」

トレ「いえ、お二人とも、お疲れ様でした」

モバP「はい、それでは」





PaP「しかし、凛は思ったより立ち直り早かったのう」テクテク

モバP「あー……まあ、そうですね」テクテク

PaP「なんじゃ、まだ不安か? お前さんはよくやっとるよ」テクテク

モバP「いや、それは多分、芽衣子のおかげですよ」テクテク

PaP「ほう、あの子の」テクテク

モバP「あいつ、今日のレッスンもそうですけど、本当にアイドルになれて楽しそうなんですよ。昨日知り合ったばかりですけど……俺も、あらためてアイドルって良いものだなって思いだしました」

PaP「ふむ。凛もそれは同じ、っちゅうわけか」

モバP「ええ。なんていうか、あいつ、元気をくれるんですよね……芽衣子が前から凛ちゃんのファンだった事もあってか、いい具合に心を開いてくれてるようですし」

PaP「巡り合わせじゃのう。しかし、それであとは何が問題なんじゃ?」

モバP「あー、それは……」



ガチャ





凛「……」ジリ



CoP「……」ジリ





モバP(……事務室に入ったら、凛ちゃんとCoPさんが無言で睨み合ってました……)

モバP(これなんだよなぁ……問題)


PaP「……あー、そうじゃ、レッスン場に忘れ物しとった。とってくるわ」

モバP(PaPさん!?)

PaP(すまん、ありゃ無理じゃ。まあ頑張れ)イソイソ

凛「……プロデューサー。何そんなところに突っ立ってるの?」

モバP「お、おう……」

CoP「ぼけぼけしてるな、事務仕事もやることは多々あるだろう」カタカタ

モバP「は、はい……」


凛「……」

CoP「……」カタカタ



モバP(だから! 空気が重いよ!)

モバP(何とかしないととは思っちゃいるよ! いるけど!)



モバP「あ、り、凛ちゃん、今日のレッスンきつかっただろ、早く帰って休んだらどうだ?」

凛「そう? 柔な鍛え方してないし、少しライブのビデオでも見返して研究してるよ」


モバP(さっきといってること違うぞおい!)


CoP「体調管理はアイドルの大切な仕事だぞ」

凛「わかってる。信用してくれないの?」

CoP「そういうことじゃないだろ。自分のプロデューサーに心配されているんだ、傍から見てたら危険な兆候だ。チーフとして注意して何が悪い」


モバP(CoPさんも! こっち巻き込むなよ! つか会話するならパソコンとビデオ見たままでなくて向きあえって!)


モバP「え、ええと……」

凛「CoPさんがずっと見てきた、自分で自分の管理をきちんとできるアイドルって誰だったっけ?」

CoP「さて、誰だったかな」


モバP(あて馬にするだけしといて無視かい!)


モバP「あ、あの、二人とも……」


カチャ


芽衣子「ふあ……お、お疲れ様です……」



モバP「あれ、芽衣子……」

凛・CoP「……」ピタ

モバP「大丈夫か? もう少し休んでた方が……」

芽衣子「あはは、足ガクガクだよ……とりあえず歩けるし、家でゆっくり休むね」

モバP「そうか、じゃあ……」

芽衣子「あ、凛ちゃん、ごめん、荷物持ってくの手伝ってくれないかな……?」

凛「え?」

芽衣子「ほんとごめんね。荷物っていっても着替えくらいなんだけど、それすら持てそうになくて……」

凛「そういうことならプロデューサーは……ああ、書類が溜まってるんだっけ」

モバP「あ、ああ、凛ちゃん、もしよければ頼めるかい?」

凛「……わかった。私もそのまま帰る。アドバイスに甘えて、ゆっくり休むよ」

モバP「恩に着るよ。ああ、それと、無茶はともかく、その向上心の高さは凛ちゃんの大きな武器だから……言わなくてもわかってそうだけど」

凛「……ん。じゃ、芽衣子、行こうか」スタスタ

芽衣子「あ、ちょっと待ってって、私、足がふらふらで……」



バタン



モバP・CoP「……はぁ……」


モバP・CoP「……?」


モバP「CoPさん……じゃない。チーフ、今のため息なんです?」

CoP「別に。お前こそ何のため息だ」

モバP「……わかってて言ってません?」

CoP「……仕事に支障をきたしているわけじゃないだろ」プイ、カタカタ

モバP「子供ですか! PaPさんが明らかに気まずい顔して逃げたのを見てなかったとは言わせませんよ!」

CoP「うるさい、黙れ」

モバP「はぁ……頼みますから、凛ちゃんと仲直りしてくださいよ……」

CoP「……元凶が何を賢しげに……」

モバP「それを引き合いに出します? 俺が何も言えなくなるの知っていて……ていうか、CoPさんと凛ちゃんの喧嘩は、きっかけではあっても原因じゃないじゃないですか」

CoP「いいからさっさと仕事しろ!」バン!

モバP「……わかりましたよ」

CGプロ事務所傍 路上



凛「……別に、私は悪くない」スタスタ

芽衣子「え、えっ? な、何の話かナー」クチブエー

凛「芽衣子、誤魔化すの下手だね」ギロ

芽衣子「うっ……だ、だって、いたたまれなかったし……」ショボン

凛「……」スタスタ

芽衣子「もー、凛ちゃーん、子供の喧嘩じゃないんだからさー」パタパタ

凛「子供だよ、私は。だから子供みたいな喧嘩もする」

芽衣子「……いつもあれだけ大人っぽいのにー。っていうか、その論法がそもそも汚い大人の言い分じゃない?」

凛「芽衣子が子供っぽ過ぎるだけだよ」

芽衣子「それはそれで酷い言い草だよ!?」

凛「……」クス

芽衣子「凛ちゃん?」

凛「……ごめん、ちょっとからかった」

芽衣子「もー! 凛ちゃん!」

凛「ごめんごめん。でも、子供っぽいのって、芽衣子の強みだよ」

芽衣子「……それって褒めてる?」

凛「褒めてる。アイドルやっていても、私はどうしても意固地なところあるから」

芽衣子「……」

凛「ありのままの自分でいられるのは、芽衣子の強みになるよ、絶対」

芽衣子「凛ちゃんに褒められて、嬉しいような、嬉しくないような……」





凛「……意固地になってね、やめられないんだ」






芽衣子「……」



凛「でも、それが私の生き方だから、ね」スタスタ

芽衣子「……凛ちゃん、ほんとに15歳?」テクテク

凛「可愛げがないのは自覚してるけど?」

芽衣子「もー、仕方ないなー。わかったよ、気のすむまで喧嘩しよう! でも、今日みたいに他の人を気まずくさせるのはなしだからね!」

凛「……わかった、そこは反省しておく。じゃ、これ」

芽衣子「え?」

凛「だから、荷物持てないのも演技でしょ? 私、家に帰るなら電車だから。また明日ね」



芽衣子「……えっと……」


芽衣子「……荷物も持てないのって、嘘じゃないんだけど……」ヒザガクガク


CGプロ 社用車内


芽衣子「……って感じだったよ。プロデューサーの方は?」ブーン

モバP「CoPさんも完全に意固地になってるな。この調子じゃ、仲直りは簡単にはいかないか……」

芽衣子「だよね……まあ、私達が口出ししないほうがいいのかもしれないけど」

モバP「冗談だろ……いつ解消されるのかもわからんのに、あの空気にさらされ続けるとか拷問だぞ」

芽衣子「あはは……」パッパー!

モバP「あ、そうだ、ありがとな、芽衣子、凛ちゃん連れ出してくれて。ぶっちゃけ、トイレにでも逃げ込みたいくらいだった」

芽衣子「どういたしまして。大人の機転ってやつだよね♪」

モバP「まあ、いい大人だったら、限度もわきまえずレッスンして、帰りに歩けなくなったからってヘルプを電話で入れたりしないけどな」

芽衣子「もー、そういうこというなら今度あの空気になっても助けてあげないよ!」

モバP「すいません言葉が過ぎました」

芽衣子「わかればいいよっ♪ ……私も、自分の限界には気をつけるようにするね」

モバP「……おう。ん、家、ここでいいよな?」

芽衣子「うん、ありがと、プロデューサー。また明日ね」

ちょっと休憩

めーこちゃんの誕生日のうちにあげたかった……スマヌ……
一応めーこちゃん主役のつもりなんだ! なんだよ!

今夜中には全部あげちゃうつもりでいますー、読んでくれてる人いたら反応くれると嬉しい

>92

サンクス!

さて、再開します

一週間後 トレーニングルーム


モバP(なんだかんだ、あれから凛ちゃんは精力的にレッスンを続けている)

モバP(気持ちの切り替えがついてきているのか、芽衣子と一緒のレッスンだから、先輩としてしっかりしないとという心構えの為か、それはわからないけど)

モバP(まあ、やる気が出ているわけだし、悪い傾向には、見えないのだけれど)


トレ「はい、ワン、ツー、ワン、ツー」

凛「はっ、ふっ、」ステップ、ステップ、ターン

芽衣子「ひいっ、とっ、うわっ、」ステップ、ステッ、ドテン!


トレ「っと……ストップ!」

凛「芽衣子、大丈夫?」

芽衣子「ううー、ごめーん、次こそは……」ゼエハア

トレ「んー、まだまだ基礎固めの段階ですし、並木さんは少し別のメニューに切り替えましょうか」

芽衣子「はーい……凛ちゃんの邪魔しちゃいけないもんね」

凛「まあ、とりあえずは基礎レッスンくらい軽くこなせるようにならないとね」

芽衣子「うん、頑張る!」


モバP(……先輩後輩か、はたまた姉妹か……)

トレ(微笑ましいですね)クス

凛「というか、転ぶにしても、せめてステンくらいにはならないとね」

モバP「うん、ドテンはない」

芽衣子「も、もーっ!」カオマッカ

トレ「くす」

芽衣子「トレさんまで~」

トレ「じゃあ……並木さんは少し休憩。渋谷さんは……」

モバP「記念ライブの音、一度通しでやってみるのはどうですか? 芽衣子にあわせてたわけじゃないけど、基礎とパート練習が主でしたし」

トレ「そうですね。並木さんも、一度間近で『本物』を見るのもいいレッスンでしょうから」

凛「ん」

芽衣子「えっ、凛ちゃんのライブリハ!? 見る見る! もう食いついて見る!」

モバP「……ちゃ・ん・と、見て学べな?」

芽衣子「はーい!」ルンルーン

モバP「わかってるのか、ほんとに……」ハァ

トレ「じゃあ、始めましょうか。音源は、と……」

モバP「凛ちゃん、今のパフォーマンスの完成度を確認するいいタイミングだと思う。練習だけど、全力で行こう!」

凛「わかった」



スゥ



芽衣子(おー、呼吸一つで空気がかわった……)

トレ「では、通していきますよ」スイッチオン


音が、始まる。



それは、なめらかに、鮮やかに。

清く澄んだ、清流のように。

熱唱しているとは言わないだろう。けれど、淡々としているのでもなく。

全ての空気を支配するような、力強さがあるとかでもない。

けれど、それこそ“凛”とした彼女の歌声は、

聞く者を、彼女の世界へと引きずりこむ。



手足が、舞う。


彼女の一番の武器は、その歌声。

だからといって、彼女がダンスに手を抜くことは無い。

生真面目な彼女らしい、正確なダンス。悪く見る人なら、機械的で面白味が無いというだろう。

彼女のライブを見たことがある人間なら、何を馬鹿なと鼻で笑うけれど。

真面目で、意固地で、だからこそ。

彼女のダンスは、振り付けは、不器用な彼女そのものなのだから。


~~♪

ピタ




凛「……」


フゥ





芽衣子「……」

モバP「……」



パチパチパチ……

パチパチ、パチパチパチ!



芽衣子「凛ちゃん、すごーい!」

モバP「まったくだ……ここまで完成度を上げてるなんて」

トレ「予想以上です」

凛「ん、ありがと」

芽衣子「うー、もう記念ライブがすっごく楽しみになってきちゃった!」

モバP「? 芽衣子、チケット買ってたのか?」

芽衣子「え? 関係者席でみられるんじゃないの?」

モバP「うちのプロダクションに何人関係者がいると思ってるんだ。新人アイドルが入る場所なんてないに決まってるだろ」

芽衣子「ええ~~、あ、じゃあ凛ちゃん、同じプロデューサーのよしみで、私に観覧席とってよー」

モバP「おまえな~~」




凛「……うん」

モバP・芽衣子「え!?」

芽衣子「え、ほんとにいいの、凛ちゃん!」

モバP「凛ちゃん、芽衣子に気を使わなくてもいいんだよ?」

凛「うん? 何の話?」

芽衣子「え???」

凛「それより、プロデューサー。相談があるんだけど」

モバP「え? あ、うん、そりゃいくらでも聞くけど……どうしたの」




凛「プログラム、変更したいんだ」



モバP「……え?」

凛「曲目とか全体のプログラムを変えるつもりはないよ。えっと……ちょっと言葉が足りなかったかな」

芽衣子「ど、どゆこと?」

凛「曲の中の振り付けを変えたいんだ」

トレ「い、今からですか!? もうライブまで一月切ってるんですよ!?」

凛「全部を変えるなんて言わないよ。何箇所か、ポイントで新しい振りに変えるだけ」

芽衣子「なんでそんな急に……」

凛「前々から考えてたんだよ。いつまでも、これまでの私のままでいいのかなって」

モバP「……」

凛「確かに、私はシンデレラガールにまで昇り詰められた。でも、それで終わりじゃないよね?」

凛「シンデレラになったからって、私のアイドル活動は終わったわけじゃない。これからも進化していかなきゃいけないんだ。だから……」

トレ「それにしても、急すぎます! 今の時点であれだけ完成されているのに……」

凛「だからこそ、だよ。これまで出来てたことを出来ないようなら、新しい一歩を踏み出すなんてできない。でも、見てもらったんだから、わかるでしょ?」

トレ「ま、まあ、僅かな変更にとどめるっていうのであれば、間に合うかもしれませんけど……」

凛「どうかな、プロデューサー」

モバP「……」

モバP「凛ちゃん、一つだけ聞かせて」

凛「何?」

モバP「今回変えたい曲の振り付けって、どの曲のどこ?」

凛「……それは、」




芽衣子「Never Say Neverの、出だしの部分?」



凛「っ!?」

トレ「え?」

凛「な、なんで芽衣子がそれ……」

モバP「……やっぱりか」ハァ

凛「プロデューサー?」

芽衣子「凛ちゃん」オイデオイデ

凛「え? う、うん。で、でもなんで……」スタスタ




芽衣子「ていっ!」ペチッ!




凛「いたっ!? な、なんではたくの!?」

モバP「そりゃ、はたかれるようなことしたからだろ」

凛「ええ?」


芽衣子「凛ちゃん、この間言ったよね? 喧嘩するのは仕方ないけど、周りに迷惑かけるのはやめって」

凛「それ、今は関係ない……」



芽衣子「大ありだよ! Never Say Neverのイントロのところを変えるなんて、CoPさんへの当て付け以外の何物でもないじゃん!」



凛「っ!」

モバP「……そういうこと」

モバP「研修期間中、CoPさんに聞いたことがある。凛ちゃんが、ダンスや振りつけに華が無い事を悩んでいた時のこと」


凛「……」


モバP「アイドルなんだから、優雅に、華麗に、可愛らしく。でも、それが出来ない。そう、凛ちゃんは悩んでたんだってね」

モバP「CoPさんはそれを聞いて、一緒に悩んで考えた。二人で色々、試行錯誤したって聞いてる」

モバP「可愛らしさを出すんじゃない。凛ちゃんらしさを出せればいい。歌にかまけておろそかにするんじゃなく、凛ちゃんの世界を表現できる振り付けをつくればいい」

モバP「だから、固いといわれても、きっちり形を作り上げたんだろ? デビュー曲の、Never Say Neverなんて特に」


凛「……」

モバP「そうやって、アイドルとプロデューサーは、二人三脚でアイドル像を作っていくものだって、嬉しそうに、自慢げに、CoPさんは言ってたよ」

凛「……」



芽衣子「……凛ちゃん、自分で気づいてる?」

凛「え?」

芽衣子「私、ずっと凛ちゃんのライブや歌番組見てたから知ってるよ。凛ちゃん、Never Say Neverのイントロのところだけは、絶対に振り付け崩さないの」

凛「……」

芽衣子「歓声に答えて手を振ったり、ステップを間違えて修正したり、他のところではあるけれど、Never Say Neverのイントロだけは、ずーっと間違えなかったし、アドリブも入れてなかったよ? レッスンのときも」

芽衣子「だから、ここは凛ちゃんにとって、一番大事なところなんだなって思ってたんだ。CoPさんと一緒に作り上げた、大切なものだって」

凛「……」

トレ「……そういうことですか。だったらなおのこと、振付の変更は駄目ですね」

芽衣子「え? どういうこと?」

トレ「恥ずかしながら、私は気付いてませんでしたから、偉そうには言えませんけど……」

トレ「Never Say Neverの出だしは、渋谷さんにとって、ルーティーンになってるんです」

芽衣子「ルーティーン?」

トレ「ほら、プロ野球の選手なんかが、バッターボックスに入る前に必ず2回しか素振りしないとか、ピッチャーが投球前に必ず帽子のつばを触るとか。そういう、一連の動作の前にいれている仕草です。癖のようなものですが、それをすることで、集中力が強まる側面があるんですよ」

トレ「それを崩すとなると、そのあとのダンスにも影響が間違いなく出ます。Never Say Neverは一曲目の予定ですし、そこが崩れるのなら、全体を立て直すのと同じ事です。到底、一月では間に合いません」

芽衣子「そ、そうなんだ……そこまで全然考えてなかった」アハハ

モバP「凛ちゃん」

凛「……」

モバP「今、喧嘩してるからって、CoPさんと二人で積み上げてきたものを壊すなんて、俺は認められない」

モバP「確かに今のプロデューサーは俺だけど、今の凛ちゃんを作り上げてきたのは、凛ちゃんとCoPさんじゃないか」

モバP「だから、凛ちゃんが何と言おうと、俺はそれを止めるよ」





凛「……わかった。そうだね、モバPさんたちの言うとおりだ」




芽衣子「凛ちゃん」ホッ

凛「ごめん、子供みたいな我が侭言ってた」

モバP「わかってくれればいいよ。さ、今日はもう上がろうか」

凛「……うん」

芽衣子「じゃあ、お疲れ様でした!」

トレ「ええ、明日も頑張りましょうね」


バタン


凛「……ふう」

モバP「……大丈夫、凛ちゃん?」

凛「……ん」

芽衣子(あ……これ、あまりよくないかも)

凛「……それにしても、モバPさんも、少しはプロデューサーらしくなってきたね」

モバP「ん?」

凛「正直、見透かされるとも、諭されるとも思ってなかったよ……私の指導がよかったのかな?」ハハハ

モバP「あ、んー……そうかも、ね」

凛「……じゃ、シャワー浴びて帰るね。お疲れ様」

モバP「おう……お疲れ」

芽衣子「また明日ね!」

凛「ん」スタスタ

CGプロ近く 某ファミレス


モバP「……さて、どう思う、芽衣子」モグモグ

芽衣子「凛ちゃん、旅先で、パンフレットに載ってた人気のレストランが、一か月前に閉店しちゃってた感じの顔してたね」モグモグ

モバP「……だから何故全て旅行で例えるの……言いたいことは分かるけど」タメイキ

モバP「うん、まあ、目標を見失っちゃったパターンだな、あれ」

芽衣子「きっと、CoPさんを見返してやるって、意地で持って練習してたんだね」モグモグ

モバP「だろうなぁ。本人が自覚してたのか、無意識にしてたのかは別にして……道理で妙にモチベーションが高かった訳だ」ゴチソウサマー

芽衣子「帰る前に言ってた台詞も、空元気って感じだったしねー」ゴチソウサマー

モバP「なんにせよ、あのまま記念ライブには入れないな……」ウーン

芽衣子「そうだねー……」ウーン

モバP「……芽衣子、お前だったらこういうとき、どうする?」

芽衣子「え? 目的の観光地に行けない事情があったとき? そりゃ、どこか別の目的地を探すよ! せっかくの旅行なんだし!」

モバP「……あのなぁ……ん?」



モバP(そういや前に聞いた、芽衣子がアイドルに憧れてた理由……)


芽衣子「どうしたの? プロデューサー」

モバP「そうか……旅行か!」ピコーン!

芽衣子「え?」

モバP「閃いた、ちょっと事務所戻ってくる!」ガタッ!

芽衣子「プロデューサー、閃いたって何!?」


モバP「芽衣子、お前にも手伝ってもらうから! 二、三日泊りで旅行に行けるくらいの準備しといてくれ!」バタバタバタ


芽衣子「えっ、旅行!? 行く行く! ……って、どこへ?」

三日後 早朝 CGプロ事務所


凛「おはよう、モバPさん」

モバP「おはよう、凛ちゃん!」

芽衣子「おっはよー!」

凛「……おはよう。ええと……二人ともどうしたの? 随分早く呼び出されたけど……とびっきりの笑顔な上に、芽衣子にいたってはそのトランク……」

芽衣子「凛ちゃん、旅行に行こう!」

凛「……は?」

モバP「というか行ってきてくれ!」

凛「……うん?」

凛「…………あのさ、モバPさん」ムッ

モバP「なに?」

凛「冗談はいい加減にしてほしいんだけど。私が旅行に行く余裕なんてないこと知ってるでしょ」

モバP「別に遊びに行けって話じゃないぞ?」

凛「は?」



芽衣子「ライブだよ、ライブ! ライブ オン 山野村!」



凛「…………訳が分からない…………」

モバP「知らないかな、青森と秋田の県境の辺りにある村なんだけど」

凛「聞いたことない」

芽衣子「静か~な農村なんだけど、村おこしが盛んでね! この時期だと、なんと……!」

凛「どうでもいい」

モバP「そこで今度、イベントライブをやるんだ。ちょうどCGプロに依頼が来ていて、これ幸いと引き受けたわけさ!」

凛「……」ハァ

凛「そうだね。芽衣子の初ライブ、応援するよ。でもこの時期に私も一緒に行くとか無理に決まってるでしょ?」

芽衣子「え?」

凛「……え? 芽衣子が行くんでしょ?」

モバP「いや、凛ちゃん、これ、凛ちゃんの仕事」

凛「……」

モバP「芽衣子も一緒に行ってもらうけど、まだ流石にステージは早いよ。凛ちゃんのステージ姿をしっかり目に焼き付けて勉強してもらおうというだけ」

凛「……」

モバP「というわけでよろしくね。これ、ステージの進行表と往復切符。進行表は新幹線の中で確認しておいて。あ、僻地だし乗り継ぎシビアだから気をつけてね」

凛「……」

モバP「ほんとは俺も一緒に行きたいんだけど、まだちょっと先方と詰めないといけない事があってね、今日の昼には出発するから」

凛「ちょっと待って。要するに……地方営業?」

モバP「そうとも言う」

凛「……んで、今知らせて、今出発?」

芽衣子「うん!」

凛「あの、私、着替えも何も用意してないんだけど。っていうか、学校と家に連絡……」

モバP「してあるよ? 荷物もお母さんが用意してくれてるし」

凛「手回しが良すぎない!?」

凛「というか、記念ライブまでは他の仕事入れずに集中するって言ってたじゃない!」

モバP「うん、方針変更した」

凛「そんな簡単に!」

芽衣子「さー、行こう凛ちゃん! 新幹線遅れちゃうよー!」ルンルーン

凛「ちょっと、芽衣子!」ヒキズラレー



モバP「……よし、あとはこっちの仕上げだな」

特急車内 ボックス席


芽衣子『皆さんこんにちは、並木芽衣子です! 今日は山野村へ向かって列車に乗ってます!』

芽衣子『そして今日の旅の同行者はなんと! 今をときめくシンデレラガール、渋谷凛ちゃんでーす!』

凛『……』ムスッ

芽衣子『ほらほら、凛ちゃん、一言どうぞ!』

凛『……とりあえず、ビデオカメラ下ろそうか、芽衣子?』

芽衣子「えー、凛ちゃん、乗り悪いよー」ロクガシテイルゼ

凛「はぁ……あのさ、芽衣子。朝早くに事務所に呼び出されたと思ったら、いきなり地方巡業と言われて特急列車に乗せられた身にもなってみて?」

芽衣子「ハプニングとトラブルは旅につきもの、後はそれをどう楽しめるかだよ!」フンス

凛「……」アタマイタイ……

芽衣子「ほらほら、せっかくの列車の旅なんだし、楽しく行こうよ!」

凛「……はぁ……」


凛(これは、モバPさんに嵌められたかな……)

凛(最近モチベーション下がってたのは自覚してるし、動きもよくなかった。気分転換しろって言うところなんだろうけど、私の性格からして自発的に休むはずもなし)

凛(それで、同伴者に芽衣子をつけて、地方巡業で気分を変えて来いってとこかな)



凛(……モバPさん、随分芽衣子を信頼してるんだね)

凛(……ちょっと……羨ましいかな)ムネニチクリ



芽衣子「ほらほら、だんまりしてないで! あ、トランプでもする?」ルンルーン

凛「……」

凛(……芽衣子が旅行と聞いて無理矢理ついてきただけの可能性もあるか……)ハァ

芽衣子「こういうローカル線の旅って、ボックス席で景色を眺めながら、一緒にいろんなお話しながら時間過ごすのが最高だよね♪」

凛「……ほんと、芽衣子は楽しそうでいいね」

芽衣子「凛ちゃんも楽しもうよ! せっかくの旅行なんだし、新しい世界を発見しちゃおう♪」



凛(まったく……でも、ま……それも悪くない、かな)



凛「わかったよ。でも、とりあえずはやる事あるでしょ」

芽衣子「え?」

凛「イベントの進行表。確認しとかないと。仕事なんだから、手を抜くような真似できないしね」

芽衣子「えー、ちょっとくらい……」

凛「確か、モバPさんにはプロとしての姿勢を学べって言われてなかったっけ?」

芽衣子「あ、あははー……」

凛(そんなに大きなイベントじゃないか。特設ステージでのライブと、トークショー。これが明日の午前と午後に一回ずつ)ペラペラ

凛(まあでも、地方都市……というか町おこし、村おこしレベルのイベントなら、普通このくらいのものだよね)

芽衣子「凛ちゃん、こういう仕事は久しぶり?」

凛「うん? ああ、そうだね……最近、大きなライブや都内でのイベントが多かったから」

芽衣子「前は結構行くこともあったって言ってたよね」

凛「うん、まだ駆け出しのころにね。電車じゃなくて車だったりしたけど。卯月や未央とニュージェネレーションで営業にも行ったし、ソロのステージのこともあったな。ちょっと、懐かしいかも」

芽衣子「いいなー、楽しいんだろうなー! いつか私もアイドルツアーで全国を……!」

凛「ふふっ、それもいいかもね……ねえ、芽衣子。私からも聞いていい?」

芽衣子「ん? 何々? なんでも答えちゃうよー」



凛「私、ちゃんとアイドル出来てるかな?」


芽衣子「えっと……どういうこと?」

凛「……一応、今は私がシンデレラガールだけど、ちゃんとアイドルやれてるのかなって」

芽衣子「もっちろん! 凛ちゃんがアイドルじゃないなんて言う人いないよ!」

凛「ん……そうかな」

芽衣子「ここのところ調子悪いから不安になっちゃった?」

凛「……かもね」

芽衣子「そっか。でも、大丈夫!」

凛「……」

芽衣子「もー、私の保証じゃ不満?」

凛「うーん……」メソラシ

芽衣子「ちょ、それ酷いよ!? せめて何か言って!?」

凛「ふふ、ごめん、芽衣子はついからかっちゃうんだよね」クス

芽衣子「もーっ、なんだかんだ凛ちゃん私の扱い酷いよね!?」

芽衣子「もう……まあいいや、それに、そんな悩みはすぐに解決するよ!」

凛「え? どういう……」

“次はー、小川河内ー、小川河内ー、山野へ乗り換えのお客様は、忘れ物の無いようご注意願います。次はー、小川河内ー”

芽衣子「あっ、乗換だ! 凛ちゃん、降りるよー!」

凛「あ、ちょっと……」



凛「……すぐに解決するって……どういうこと?」

山野駅


芽衣子「着いたー! うーん、良い空気!」ノビー

凛「ほんとに何もないところだね……無人駅なんて初めて」

芽衣子「そう? そんなに珍しくもないよ、都内にもあるんだし」

凛「そうなの?」

男「いやー、ようこそいらっしゃいました! 渋谷凛さんと、並木芽衣子さんですね!」

芽衣子「あ、はい! はじめまして、並木芽衣子です!」

凛「はじめまして、渋谷凛です」

男「これはご丁寧にどうも。私、山野村の村長をやっております、山乃と申します」

芽衣子「えっ、村長さん!?」

凛「若……」

村長「はっはっは、いやぁ、よく驚かれます」

モバP「二人とも、失礼だぞ」

凛「あれ? モバPさん……なんで先に着いてるの?」

モバP「機材とか衣装とか運ばないといけないから、凛ちゃん達とは別ルートで、高速から車を使ってここまで来たんだよ」

モバP「小さなステージだから、大型トラック使うほどじゃなかったんだけど、普通車じゃ狭いくらいには荷物が多くてさ。そのうえで三人は乗れないし、長距離すぎて車移動だと二人の負担が大きいかと思って。芽衣子に案内人になってもらって、二人には電車で移動してもらったんだ」

凛「それでも結構な時間だったけどね……」


村長「ははははは、まあここはそういう村ですから。なかなか余所から人はこないんですよ。まあ、それで今回のイベントを企画したんですがね……おっと、あまり時間もないか。お二人とも、お食事はまだですか?」

芽衣子「はい! 途中の駅で美味しそうな駅弁もあったんですけど、せっかくだしこっちで食べようかなって」

村長「それはちょうどいい。少しお昼には遅いですが、イベント会場の道の駅で物産展をやっているんですよ。よろしければ、そちらでお食事でも……ああ、ただ、ライブは明日ですが、イベント自体は今日からですので、既にお客も入ってはいるんですが」

凛「あ……でも、そうすると……」

モバP「ありがとうございます、では、お言葉に甘えて」

凛「えっ、ちょっと、モバPさん!?」ヒソヒソ

モバP「どうしたの、凛ちゃん」

凛「あの、自分で言うのもなんだけど、私それなりにネームバリューあるから……一般に混じって食事とかだと、多分大騒ぎに……」

モバP「大丈夫、大丈夫。そういうのは気にしなくていいから」

村長「本番は明日ですから、今日はそれほど人出もありませんよ」

凛「でも……」

芽衣子「いいからいいから、凛ちゃんいくよ! 旅先での地元の味は何よりの楽しみなんだから!」

凛「芽衣子、完全に観光気分になってない!?」

モバP「ほら、いいから車に乗った乗った!」

山野村 道の駅


ワイワイ、ガヤガヤ


芽衣子「んーっ、このおやき美味しい! 焼きたてほかほか!」

お婆さん「嬢ちゃんみたか若ぇ娘っ子に、そげんこついわれっと、こっちゃもうれしかのう。どれ、ぎょーさんあるき、もっと焼いたろかね」ニコニコ

芽衣子「わーっ、ありがと! 凛ちゃーん、プロデューサー、こっちこっち!」ブンブン



モバP「気に入られるの早いなー、芽衣子……」

凛「……ねえ、芽衣子、完全に旅行気分じゃない? いいの?」

モバP「なに、今日のところはそれでいいよ。明日は切り替えさせるけど。それより、いってみようか」

凛「う、うん……」

芽衣子「早く早く、二人ともこっちこっち! ほら、このおやき、もっちもちで味噌麹の味が効いててとても美味しいよ!」

お婆さん「おんや、嬢ちゃんさお連れさんかね。こんなに若ぇのが来るなんぞ、一体いつぶりかいのう。ほら、これさお食べ」ニコニコ

凛「あ、ありがとうございます……」

モバP「これはどうも。どれ……へえ、ほんとに美味しいな」モグモグ

芽衣子「でしょでしょ! このあたり、空気も水もいいし、お米が美味しくなるんだよ! ほら、凛ちゃんも食べて食べて」

凛「う、うん……」モグモグ

芽衣子「どう? どう?」

凛「う、うん、なんていうか……おまんじゅうみたいな、お菓子とは違うんだね」

お婆さん「こんあたりじゃ、米粒さ粉にしておやきさして食うだよ。飯代わりじゃけ、味噌やら醤油で食うとね。甘いんがよかなら、あんころさ包んでやろかい?」

凛「い、いえ、美味しいです。ほんとに、お世辞じゃなくて……」

芽衣子「だよね、だよね!」ニパー!

お婆さん「そっだらよかったさね。おらが村さ馳走なぞないけぇ、こげんきゃ作れんけんど、うみゃあさ言ってくんりゃあ嬉しかでよお」ニコニコ



凛(……私のこと、シンデレラガールの渋谷凛だって、気付いてないのかな……)

お婆さん「しっかし、嬢ちゃんらぁ別嬪さんじゃのう。テレビに出てる人さそっくしさね」

凛「え? えーっと……」

芽衣子「えへへへへ、そんなこといわれるとてれちゃうなぁ」テレテレ

お婆さん「ほんとさね、わしの若ぇころとよう似た、えらい別嬪さんよ」

芽衣子「もーっ、そんなに褒めても何も出ないよー?」アハハハハ

凛「おばあさん、そんなに綺麗だったの?」クス

お婆さん「そりゃ、三国一の花嫁じゃったきいよ。じっちゃんもいい嫁さ貰ったと村中に囃されたで」フンス

モバP「ははは、三国一の花嫁に並ぶとは、大したもんじゃないか、凛ちゃん」

凛「ふふ……そうだね」

そばかすの女の子「ばあちゃーん、豚汁もらったで、持って来たでよー」

お婆さん「おお、沙織、えーとこにきたの、ほれ、こっち来さね」

そばかすの女の子「あれ、お客さん来て……た……ん?」ポカーン

凛「……? えと、どうも……」

芽衣子「あ、こんにちわっ!」

そばかすの女の子「あ……あれ、あの……」パクパク

お婆さん「こん子さうちの孫娘でよ、わしの若い頃にそっくしさね。ほれ、嬢ちゃんたちにも負けんと別嬪やろ」ニコニコ

そばかすの女の子「!? ば、ばあちゃ、なに言いだしとおよ!?」

芽衣子「わぁ、ほんとだ! ね、プロデューサー!」

モバP「え、俺に振るのか?」

そばかすの女の子「ぷ、ぷろでゅーさー? じゃ、じゃあやっぱし……!」

凛「??」

そばかすの女の子「あの……もすかして、アイドルの、渋谷凛ちゃん……です、か……?」

凛「えと……はい、そうです、けど……」

そばかすの女の子「……」パクパク

凛「ええと、あの……」

お婆さん「沙織、どうしたけ? 沙織」



そばかすの女の子「うう~ん……」バタリ



一同「「「「!?」」」」

イベント本部 テント内


沙織「すいません、ほんとすいません、ばあちゃんがあんな失礼な事さ……!」

凛「いや、えーと。そんな謝らなくても」

沙織「だって、シンデレラガールさ捕まえて、わだすなんかに似とるとか……」ナミダメ

モバP(この子は奥山沙織さん。さっきのおやきのお婆さんのお孫さんだ)

モバP(目の前にテレビで見た凛ちゃんがいるのと、それが自分と同じと比べられたのがショックで気を失ってしまったらしい)

モバP(救護室のある本部テントに連れて来て、すぐに目が覚めたのはいいのだけれど)

沙織「すいません、ほんとすいません……!」

モバP(すっかりこの調子である……まあ、もともとあまり自分に自信を持ってないタイプみたいな上に、比べられた相手があの渋谷凛とくれば、仕方ないかもしれないけど)

芽衣子「ほら、沙織さん、凛ちゃんも気にしてないし、もう謝るのはやめにしよう、ね?」

沙織「うう、ぐす、わだす、ほんと御迷惑さかけて……」

凛「いや、あの、ほんと大丈夫だから、ね?」


モバP「うーん……でも、奥山さん、そんな卑下しなくてもいいんじゃないかなぁ」


沙織「!?!?!」

凛・芽衣子「「プロデューサー!?」」

モバP「いやだって実際……いたたたたた! ちょ、二人とも耳を引っ張るなって!」


凛(なにやってるの! 本人がコンプレックスに感じてるところをつついたりして!)

モバP(だ、だって実際可愛いほうじゃないか、素朴な可愛さがにじみ出てるというか、)

芽衣子(その点は同意はするけど、いきなりそんなこと言われたら馬鹿にされてるとしか思えないでしょ!? 女の子は繊細なの!)


沙織「……、……」カオマッカ


モバP(す、すまん……)

凛(……と、とにかく、この空気なんとかしてよ)

モバP(俺がか!?)

芽衣子(空気を変にしたのはプロデューサーだよ!)

モバP(お、おう……)

沙織「……」カオマッカッカ


モバP「あー、ええと、奥山さん、申し訳ない、いきなり変なこと言って」

沙織「……え? あ、いや、その、だども……」ゴニョゴニョ

モバP「……ええと、あー……そうだ! 私達、これからライブ会場の下見に行くんですけど、よければ一緒に……へぶらっ!?」パチコーン!


凛「馬鹿! 比べられることにコンプレックスがあるのに一緒に行こうとかおかしいでしょ!?」

芽衣子「そ、そうだよ! ……ところで凛ちゃん、その笑美ちゃん印のハリセンどこから出したの?」


沙織「……」

沙織「……あ、あの、それなら、よがったらご案内しますけんど……」オズオズ

モバP「え? あ、ああ、それは助かります……」

沙織「じゃ、じゃあ、さっそく行きましょう! そうしましょう!」スクッ、スタスタスタ

凛「えっ、ちょっ、あれ? いいの?」

芽衣子「と、とにかく行こうか?」

あぜ道


沙織「こっちです……あ、足元気をつけてくだせえ、ところどころぬかるんどるから……」

モバP(微妙に気まずい……)

凛「ねえ、えっと……沙織さん」

沙織「いっ!? な、なんしょうか、渋谷さん」ギョッ

凛「あー、いや、ええと……とりあえず、そんなにかしこまらなくてもいいよ?」

沙織「そ、そげんこと言っても……」

芽衣子「まあまあ、ほら、肩の力抜いて」カタモミモミ

沙織「うひゃあ!」

凛「ふふ……ねえ、沙織さん、沙織さんは私がアイドルの渋谷凛だって、すぐ気がついたの?」

沙織「へ? ああ、そりゃあ……その、村のじっちゃんばっちゃん等は、普段演歌しか聞かねえで……気付かなくて、ほんと申し訳なくて、」

凛「あ、いや、いいってば、そんなの気にしてないから!」

芽衣子「沙織ちゃんは、アイドル好きなの?」

沙織「わだし……ですか? その……はい、好きです」


沙織「わだしみたいな地味な娘っ子がこういうこと言うのも変ですけんど、やっぱり、きらきらして輝いてる、アイドルって憧れて……」

沙織「ラジオとか、テレビとか、よく聞いてます。だから明日、CGプロのアイドルのライブがあるさ聞いて、楽しみにしてたんです」エヘヘ


芽衣子(おおー、笑顔はまた一段と可愛い……)

沙織「でもまさか、シンデレラガールの渋谷凛さんが、こんなところまで来てくれるとは思ってなかったんだども」

凛「あー、まあ、それは、プロデューサーのせいかな……?」

モバP「いや、せめておかげかなって言ってくれ」

芽衣子「でも実際、凛ちゃんのライブって言ったら、広いイベント会場で、しかもチケット完売が大抵だもんね。このあたりで聞けるなんて、滅多にないよ」

沙織「えへへ、はい。だから、凛ちゃんのライブ、ほんと楽しみで……あ、あっ、すんません! わだしなんかが馴れ馴れしく……」

凛「……いいってば、沙織」

沙織「へ、へ? い、いやその……え?」

芽衣子(きょとん?とぎょっ!の中間の顔してる)

凛「ねえ、モバPさん」

モバP「おう、一等席な、二人分抑えておくよ」

沙織「へ? はい?」


凛「ありがと。さ、行こうか。そろそろ日が暮れそうだし」

沙織「は、はい、こっちです……」

ライブ会場


沙織「まだ、設営の途中で、お客さんの席とかこれからなんだども……あすこがステージで、そこはもう出来てるみたいで」



凛「……ここって……」

芽衣子「すごーい……写真では見たけど、本物は違うなぁ……」キラキラ

モバP「凛ちゃん、気にいった?」

凛「……」コクリ

モバP「しかし、すごいな……辺り一面花畑だ」

沙織「山野村にゃ、最近……休耕田っつて、わがります? 爺ちゃん婆ちゃんらが、歳とって耕せなくなった田畑が増えてるんです」

沙織「最近まで、そういうとこはほっぽりぱなしだったんだども、山乃村長さ“あいであ”で、花畑にして観光客呼ぼうって」

沙織「まあ、いきなり花育てるっつっても、色々大変だったみたいですけんど……気候に合わない花植えて、枯らしてしまったりとか」

沙織「わだしも少しだけ手伝ってるんだども、去年あたりから、ようやく綺麗に咲くようにさなってくれて、皆よろこんどったなぁ」



凛「……苦労、してるんだね」

沙織「はい、でも、見に来てくれた人が喜んでくれたら、そんなのなんでもないです」ニコニコ

凛「……そっか」



沙織「そうだ、みなさん、あっちの展望台に来て下せえ」

展望台


芽衣子「うわーっ、なにこれ、凄い!」

モバP「上から見るとこうなってるのか……まるでパッチワークだな」

沙織「はい、一つの畑ごとに違う花さ植えて、いっこずつ楽しんでもらった後、上から見ると、大きな花に見えるように、みんなで考えて植えたんです」

凛「うん、これすごいね……あの、花の真ん中で、ライブをするんだ……」

芽衣子「ねえねえ、これ、何の花を植えてるの? あの黄色いのって……」

沙織「ああ、あんりゃあ……」



凛「アブラナだよね。菜の花」



沙織「え? あ、はい、そうです」

凛「あっちの畑のはゼラニウムだし、そこのピンクのはサクラソウ。そっちの白いのはスズランに……手前に植えてるのは、もしかして、苺の花?」

沙織「そ、そうです……びっくりした、詳しいんですね……」

凛「ふふ、これでも、花屋の娘だから。昇ってくる途中で見てたし、ある程度は、ね」

凛「……ありがとう、沙織」

沙織「へ? いや、なんが……」

凛「こんな素敵な会場でライブできるの、久しぶりだよ。ここまでの舞台を作り上げてもらって、ほんとにありがとう」

沙織「そ、そりゃ、じっちゃんやばあちゃんにいってやってくだせえ、わだしはなにも……」

凛「ううん、沙織のおかげでもあるから」

沙織「ええ? えーと、そりゃ、その……?」

凛「ふふ。ねえ、モバPさん」

モバP「なに、凛ちゃん」



凛「ごめん。うっかり忘れてたよ。大切なこと」


凛「努力して、苦労して、ようやく咲かせた花は、ちゃんとみんなに見て、喜んでもらわなきゃね」


凛「明日、最高のライブにする。約束するよ」



モバP「……おう」

芽衣子「そうこなくっちゃ!」

沙織「……?」


モバP「さ、そろそろ戻ろうか。明日に向けて、しっかり休んでおこう」

凛「うん」

芽衣子「わーい、旅館、旅館♪ ねえねえ、温泉あるの!?」

モバP「残念ながら無い」

芽衣子「ええー……」

沙織「えーとその……すんません」

凛「ふふ、謝る事じゃないと思うけど」

モバP「さ、そろそろ戻ろうか。明日に向けて、しっかり休んでおこう」

凛「うん」

芽衣子「わーい、旅館、旅館♪ ねえねえ、温泉あるの!?」

モバP「残念ながら無い」

芽衣子「ええー……」

沙織「えーとその……すんません」

凛「ふふ、謝る事じゃないと思うけど」

翌日 CGプロ 事務所内


CoP「……」カタカタ、カタカタ

CuP(今日も機嫌悪いわねぇ……最近事務室の居心地が悪いわ)ヒソヒソ

PaP(ほうじゃのう……全く、あいつももう少し大人じゃと思っとったが)ヒソヒソ

CoP「……よし」ガタン

PaP「ん? どうしたんじゃ?」

CoP「書類はひと段落ついたし、モバPと凛のところに行ってくる。凛のシンデレラガール記念ライブは、CGプロあげてのイベントだ。総括として、一度進展具合を見ておかないと……」

PaP「……ん?」

CuP「……え? 今から?」

CoP「? それがどうかしたか?」

CuP「流石に間に合わないと思うけど」

CoP「レッスンルームだぞ? 間に合うも何も……」

PaP「……おい、モバPぃ……」サッシ

CuP「思い切ったことするわねぇ……」ゲンナリ

CoP「おい? 何かあったのか? 何を知ってる?」

CuP「凛ちゃんなら、今日は山野村でライブよ。村おこしのイベントですって」

CoP「……、なに?」

PaP「芽衣子が同行して、昨日出発しとる。モバPは衣装を積んで車で行ったが」

CoP「……」

CuP「じゃあ、私、幸子ちゃんのグラビア撮影の付き添いがあるから」ソソクサ

PaP「テレビ局に巴を迎えにいかんとのう」ソソクサ

CoP「…………」



CoP「あ・ん・の・ヤローーーーッ!!」

同時刻 山野村 ライブ会場


お婆さん「沙織、ここで何さやんのけ? ぎょうさん人がおるけんど」キョロキョロ

沙織「もーっ、ばあちゃん、昨日も言ったっけ、凛ちゃんのライブよ、ライブ!」ソワソワ

お婆さん「らいぶ? なんぞそれ」

沙織「だから、凛ちゃんが歌さ歌って踊るんよ!」

お婆さん「なんや、歌謡曲の大会け? したら、村のみんなに久々にばっちゃの美声さ聞かせたろうかいのう」

沙織「ばっちゃは歌う方やのうて、聞く方やて! ああもう……あ、ほら、始まるけ、静かに座って!」

ブーッ!

ガヤガヤ、ガヤガヤ……



芽衣子『みなさーん、こんにちわー!』



お婆さん「なんや、あの子、おやきのお嬢ちゃんやないの。あんなめかし込んで、なにやっとるかね」

沙織「婆ちゃん、静かにしい!」ヒソヒソ



芽衣子『本日は、山野村花博、特設ステージへようこそいらっしゃいました!』

芽衣子『今日の案内役を務めさせていただきます、並木芽衣子です! よろしくお願いしますね♪』


芽衣子『さあ、まずは、このステージの本日の主役を御紹介しましょう。皆さんご存知、三代目シンデレラガールの、渋谷凛ちゃんです!』

ワァァァァ!!

凛『みなさん、こんにちは。渋谷凛です』



お婆さん「おんや、別嬪さんもおんのう。また綺麗な衣装着込んで」

沙織「……きれー……」ポケー



凛『今日はここでライブする事が出来て、とても嬉しく思っています。一面の花畑の中でライブなんて、初めてで』

凛『菜の花も、サクラソウも、スズランも、今を盛りと咲き誇っています。山野村の皆さんが、心をこめて育てた花たちを、どうぞ、みなさんも見て楽しんでください』

凛『こんな素敵な会場を作り上げてくれた皆さんに感謝をこめて、この曲からスタートです』


芽衣子『さあ、一曲目! Never Say Never!』

ステージ裏


ワァァァァァ!!



芽衣子「凛ちゃん、お疲れ様! さいっこーの盛り上がりだね!」ハイタッチ!

凛「芽衣子もね。司会なんて初めてだったんじゃないの?」ハイタッチ!

芽衣子「えへへー、まあね!」

モバP「二人とも、お疲れ様! 凛ちゃん、いい出来だったよ!」

凛「いったでしょ、最高のステージにするって」

芽衣子「フリートークも冴えてたしね! 沙織ちゃんのおばあちゃん、おやきの話を振られて大喜びで手を振ってたっけ」

モバP「花の話も良かったよ。村長さんからもお礼の言葉をもらってる。この調子で午後のステージも頼んだよ」

凛「任せておいて」

スタッフ「モバPさん、お客さんが来てますけど」

モバP「お客? ああ」


沙織「ど、どうも……」ペコリ


凛「沙織」

芽衣子「沙織ちゃん!」

モバP「どうでした、今日のステージ」

沙織「その……すっごく、すっごく良かったです! わ、わだし、なんて言ったらいいか……!」

凛「無理に言葉にしなくていいと思うよ。その顔見れば、気持ちは伝わるから」クス

芽衣子「うんうん! 野暮ってものだよね!」

沙織「あ、そ、それで、ばあちゃんがこれ持ってけって。みなさんで食べてください」

芽衣子「あ、おやき! いいの?」

凛「お昼にちょうどいいね。ありがとう」

モバP「わざわざありがとうね。お婆さんにも、御礼を伝えてもらえますか?」

沙織「はい! あ、あと……」

モバP「どうしたの?」

沙織「あの、あだし……いや、その……」ゴニョゴニョ

凛・芽衣子「?」



沙織「そ、その、凛さん! わだし、今日のことずっと忘れねえですから! 本当に、ありがとうございました! それじゃあ、みなさん、お元気で!」



タッタッタッ……

モバP「……どうかしたのかな?」

凛「さあ……」

芽衣子「……」



芽衣子(あの熱気に当てられちゃったら――憧れも、夢に変わるよね、うん)

芽衣子(私も同じだもん。その気持ち、よっくわかるよ。頑張って!)



芽衣子「さ、おやき食べて、午後も頑張ろう! おー!」

凛「……?」

翌々日 朝 CGプロ社屋前


芽衣子(そんなこんなで、山野村の村おこしイベントは大成功! 大盛況のうちに閉幕となりました♪)

芽衣子(プロデューサーは仕事の都合でその日のうちに帰ったけど、凛ちゃんと私は休養日としてもう一泊して、昨日ゆっくり帰ってきたところです)



芽衣子「あー、こんなお仕事なら毎日でもいいなぁ♪ あ!」

芽衣子「凛ちゃーん!」ブンブン

凛「芽衣子。おはよう。昨日は眠れた?」

芽衣子「そりゃもうぐっすり! 楽しかったねー、また一緒に旅行行きたいね!」

凛「完全にお遊び気分だね。旅行じゃなくて営業でしょ?」マッタク

芽衣子「いいの! アイドルになって、いろんなところに行けるかもって思ってたら、いきなり素敵なとこだったもん、まだまだ新世界を切り開いちゃうよっ!」クルックルッ

凛「……芽衣子、その調子だと、春名やCuPさんとこの法子よろしく、旅行キチなんて呼ばれる日も遠くないよ?」

芽衣子「……褒められた?」エヘ?

凛「褒めてない」ハァ

芽衣子「わーっ、ちょっとしたジョーク、メイコジョーク! だからそんな痛々しい視線向けないで!」

凛「ま、いいけど。さ、今日も一日頑張ろ――」





『このっ、ド阿呆がっ!!!!!』





凛・芽衣子「!?」

芽衣子「えっ、何今の!?」

凛「事務所、ってことは……っていうか、あの声は」

CGプロ 事務室内


モバP「申し訳ありません……」

CoP「謝ってすむ問題か!? なんで俺に何の断りもなく、凛を地方営業なんぞに連れてった!」

モバP「それは、」

CoP「凛は今やシンデレラガールだ、この事務所の顔だぞ! 易々と地方営業なんて連れて行くなんてどういうつもりだ!」

CuP「ちょっと、CoP」

PaP「なあ、冷静になれや」

CoP「お前たちは黙っててくれ! そもそも凛はシンデレラガール記念公演へ向けての強化レッスン期間中だ! それをなんで! 大事な大事なお披露目公演だぞ!? 万が一にでも何かあったらどうするつもりだったんだ!」

モバP「……だからこそです」

CoP「何!?」

モバP「凛ちゃんは、レッスンこそきちんとできていましたけれど、精神的に参っていました」

CoP「まさかそれは、俺のせいだとでも言うつもりか!?」

モバP「原因は関係ありません! ともかく、あの状態で記念公演なんて大事なイベントを任せることはできません! だからこそ、心機一転する必要があると判断しました!」

CoP「俺のやり方が間違ってるとでも言うつもりか!」

モバP「!」





CoP「俺が一体どれだけ凛の事を見てきたと思ってる! 俺はな、お前なんかよりきちんとあいつのことを理解しているんだ!」





PaP「……なんぞ、『僕が一番凛の事を上手くプロデュースできるんだ!』とでも言いだしそうな台詞じゃのう」

CuP「」ブッ


CoP「それをお前はなぁッ……!」ギッ!

モバP「ぐっ、」


PaP「! おい、CoP!」










???「はい、そこまで!」パンパン!







全員「!?」

モバP「……え?」

モバP(だ、誰だ?)




???「まったくもう、私がいない間に一体何やってるんですか、みなさん」




モバP(綺麗な女の人だけど……アイドル? 緑色のジャケットっていうのも珍しいけど……)

CoP「ち、」

CuP「ち、」

PaP「ち、ち、」

モバP(???? なんで、皆顔を青く……?)






CoP・CuP・PaP「「「ちひろさん!?」」」




モバP「え……え?」



CuP「ちひろさん、海外出張じゃなかったの!?」

PaP「販路拡大がどうのと言っとったじゃろ!」

CoP「半年は帰らないって……」

ちひろ「ああ、ご心配なく。そちらはもう終わりましたから♪ つい先ほど戻ってきたんですよ」

モバP「あの……すいません、話が見えないんですけど……」

PaP「なんじゃ? ああ、そうか、ちひろがおらんようになってからか、モバPがうちに来たんは」

モバP「は、はあ……」

ちひろ「あら、新しいプロデューサーさんですか、はじめまして♪」



ちひろ「私、プロデューサーさん達のアシスタントの、千川ちひろです。よろしくおねがいしますね、モバPさん♪」



モバP「は、はい……」

モバP「で、その……」

ちひろ「さて、プロデューサーさん?」

全員「」ビクゥ!

ちひろ「私がたった三ヶ月、社用で出張している間に、一体何があったんでしょうね?」ニッコリ

モバP(な、なんだこのプレッシャー!)

CoP(いいか、モバP、彼女には逆らうな! 何があってもだ!)

モバP(ええ!?)

凛「ちひろさん!」ガチャン!

CoP・モバP「凛!」「凛ちゃん!?」

芽衣子「えっ? あの、あれっ? どうなってるの?」

モバP「芽衣子も!」

ちひろ「あら、凛ちゃん、久しぶりですね!」

凛「ごめんなさい、ちひろさん! 今回の騒ぎ、もとはと言えば私が原因で……」

ちひろ「あら、そうなんですか? じゃあ、詳しい事を聞かせてもらいましょうか?」ニッコリ

凛「!?」ゾクッ!

CoP「ば、馬鹿、凛!」

芽衣子「凛ちゃん!」ゾオッ!






ちひろ「なーんちゃって♪」テヘ






全員「……は?」


ちひろ「あはは、脅かしすぎちゃいましたかね? 大丈夫ですよ、事態は把握してますから」

CoP「え? だって、事態は把握してるって、」

CuP「さっき戻ってきたばかりだって言ってなかった?」

ちひろ「はい、戻ってきてすぐ、CoPさんのチーフ昇任の件と凛ちゃんの担当プロデューサーの話を」



ちひろ「社長から聞きましたから♪」



CuP・CoP・PaP「あっ……」サッシ

モバP「えっ、あの、えっ?」

ちひろ「さて、そのうえで、今回の件ですが」


全員「」ビクッ

ちひろ「……みなさんが何に震えあがっているのか気になるところですが、まあいいです」


ちひろ「とりあえず。CoPさん。何があろうと、暴力沙汰はNGです」

CoP「は、はい、すみません!」

モバP・芽衣子(CoPさんが土下座した!?)

ちひろ「とはいえ、慣れない役職で色々とストレスがたまっていたのも事実ですし、これについては、今回は目をつむりましょう。モバPさんも、それでいいですね?」

モバP「は、はい、もちろん」

ちひろ「よろしい♪」

ちひろ「で、モバPさん」

モバP「は、はい!」

ちひろ「貴方のやったことですが……そうですね、ちょっと外野の意見も聞いてみましょうか?」

モバP「え?」

ちひろ「凛ちゃん、さっきの話、外で聞こえてましたよね?」

凛「う、うん」

ちひろ「凛ちゃんは今回の件、どちらに非があると思いますか?」


凛「……」




凛「……モバPさん、かな」



CoP「!」

凛「私はてっきり、CoPさんの承認を受けての営業だと思ったんだけど……違ったみたいだしね?」ギロ

モバP「あ、いや、それはそのー……」

芽衣子「で、でも凛ちゃん、ライブ自体は……」

凛「うん、良いライブだった。私も連れ出してもらって感謝してる」

凛「でも、それとこれとは別だよね?」

ちひろ「そういうことです♪」

ちひろ「CGプロも決して規則が厳しいわけではありませんが、チーフがいるにも関わらず、相談もなしに看板商品を採算度外視で持ちだすなんて、社会人として非常識極まりありませんからね」ハァ

モバP「……おっしゃるとおりです。申し訳ありません」

ちひろ「まあ、CoPさんも叱責の際に、感情論を持ち出すのはどうかと思いますが」ギロ

CoP「」ギク

ちひろ「さて、それらを勘案したうえで、今後の事ですが」

CoP・モバP「」ゴク



ちひろ「CoPさんにはチーフを降りてもらいます」



モバP「えっ!?」

ちひろ「部下が問題を起こした際に、あんな怒り方をするようでは管理職としての適性がありません」



ちひろ「ということで、今後は以前と同じく、Coグループの担当に戻ってもらいます♪」



CoP「……!」

凛「え? あの、それって……」

ちひろ「ということで、凛ちゃんの担当も、CoPさんに逆戻りですね♪」ウインク



モバP(え? ……もしかして、この人……)

芽衣子(私達が何しようとしてたか、知ってるの?)

CuP「ええと、でも、ちひろさん、一応社長の采配だったんだけど、今回の人事異動……」

ちひろ「今回の件で、私が社長に口を出させると思いますか?」ニッコリ

PaP「……ないじゃろうの……」ニガワライ





芽衣子(……この人、もしかして、社長より偉い……?)

モバP(いや、それはないだろ、さすがに……いやいやいや)





CoP「……」

CoP「ちひろさん、でも、俺は……」


凛「……CoPさん、じゃないや、プロデューサー」


CoP「! な、なんだ、凛」

凛「……ごめん。私、頭に血が上ってた。今までプロデューサーとやってきて、いきなりあんなことになって……捨てられたと思ったんだ」

CoP「凛……」

凛「プロデューサーは、ずっと私の事、気にかけてくれてたのにね。私が勝手に……」

CoP「ちょ、ちょっと待った! それ以上は言わないでくれ!」

凛「?」



CoP「……お前だけに謝られると、俺の立つ瀬がない……」



CoP「すまん、今回の件は、俺も自棄になってたんだ。仕事だから仕方ないと、割り切っているつもりで全然できていなかった。本当に、今回は自分の器の小ささを思い知らされたよ」

凛「……」

CoP「つまらん意地で喧嘩していた。その点は本当にすまないと思う。……そのうえで、まだ俺に、凛の事をプロデュースさせてもらえないか?」

凛「プロデューサー」

CoP「多分、また同じような事をしてしまうかもしれないが……それでも、俺は俺が見初めた、渋谷凛のプロデュースがしたい。駄目か?」




凛「……」








凛「ふーん、あんたが私のプロデューサー、か」フッ




CoP「!」



凛「ま……悪くないかな」ニコ



CoP「ったく……相変わらず口が悪いぞ、この野郎!」ワシャワシャ

凛「わっ、ちょっ、もうっ!」クス


芽衣子(うん、うん! あれ、なんか目に水が……)ウルウル

モバP(何という大岡裁き……!)

ちひろ「で、あとはモバPさんですが」

モバP「はい!」










ちひろ「お前、クビ」









モバP・芽衣子「!?」


芽衣子「えっ、ちょ、ちょっと待って! だってモバPさんは二人の為に……!」

ちひろ「理由はなんであれ、ホウ・レン・ソウのホの字も知らない人は雇いません♪」

CuP「いやでも」

ちひろ「却下です♪」

PaP「話くらいは、」

ちひろ「聞きません♪」


モバP「……あー……そう、ですか……」

芽衣子「プロデューサー!?」

モバP「そうですね、仕方ないです。今回は、ひどく迷惑かけましたし」タハハ

芽衣子「そんな、プロデューサーは悪くないって!」

ちひろ「聞きわけのいい人は好きですよ♪」

芽衣子「そんなぁ……」

モバP「仕方ないさ。芽衣子、これからもアイドル活動、頑張ってな」

芽衣子「……」シュン



CuP(ねえ、どうにか……)

PaP(なると思うか?)

CoP(……すまん、モバP……)

凛(……)




ちひろ「あーあー、しかし参りましたねぇ。ただでさえ人出が足りないのに、また欠員が出てしまうなんて」ヤレヤレ



全員「?」



ちひろ「どこかに優秀なチーフプロデューサーはいませんかねぇ。二ヶ月以上の実務経験があって、自分の柔軟な判断で動けて、アイドルの心を何より大事に考えて、旅行好きの将来有望なアイドルをスカウトできるようなプロデューサーは……」チラリ



全員「!?」

芽衣子「……!」

芽衣子「はい! ハイ! はーい!! ちひろさん! 私、そんなプロデューサーに心当たりがあります!!」

ちひろ「あら、それは行幸ですね、どちらの方です?」ニコ


芽衣子「こちらの、モバPさんです!」ズイッ!


モバP「へ、えっ!?」


ちひろ「なるほど、採用しましょう♪」




Pズ「「「「それでいいの!?」」」」


ちひろ「今回の一連の騒動に関して、裁量権は私が社長から奪……もとい、預かっていますから♪」

CuP・CoP・PaP(奪ったんかい!)

凛「……えっと、それじゃあ……」



芽衣子「ちひろさん! さっそくだけど、私モバPさんのもとでプロデュースを受ける事を希望します!」

ちひろ「そうですね、前のプロデューサーさんは首になっちゃいましたし、それが良いでしょう」



CoP(いやさっきあんたが首にしたんじゃ)

ちひろ(あんた?)

CoP(女神! 天使! ちひろ!)



芽衣子「やったー! というわけで、改めてよろしくね、プロデューサー!」

モバP「……はぁ……なんか、よくわからないけど……うん、よろしく、芽衣子」ハハ








ちひろ「さて、これで一件落着ですね。やれやれ、ほんとに社長にも困ったものです」

CoP「……いいんですか、ほんとにこれで」

ちひろ「あら、意外と適性あると思いますよ、私は。モバPさん、お金の計算も出来そうですし」

CoP「……?」

CuP「そういえば……村おこし程度のレベルのイベントの収入で凛ちゃんを動かしていたら赤字になるって、真っ先に怒りそうなの、ちひろさんよね?」

PaP「なんか仕掛けでもあるんか?」

ちひろ「それはですね……芽衣子さん、旅行中のムービー、今持ってます?」

芽衣子「あ、はーい、プロデューサーに撮っておいてって言われたやつだよね? 旅行中もイベント中も、キチンと回しておいたよ」ハイコレ

CoP「? ホームビデオ……これが一体……あっ!? そ、そうか!?」

ちひろ「ふふふふふ……」




ちひろ「そう! 急遽シンデレラガールが参加することになった山野村花博! 地方ということもあり参加できなかったファンも多い! ぜひ見たいというファンの要望に答え! きちんとライブDVDも用意して、そこに追加する映像特典は、あの渋谷凛の旅行中のプライベートシーン!」




凛「……」



凛「……はいっ!?」



ちひろ「あのシンデレラガールの、日常での無防備な笑顔……これは売れる! 特典映像&メイキングつきライブDVD&BRでそれぞれイチキュッパ!」

凛「ちょっと待って! モバPさん、そんなの聞いてない!」

モバP「いや、スケジュール的に色々無理したし、それこそ凛ちゃんの価値を落とすわけにもいかないから、仕方なくて」

凛「仕方なくてじゃなくて! どうして先に言ってくれないの!」

モバP「だって、言ったら表情硬くなるの分かりきってたし……」

芽衣子「あ、あはは……大丈夫だよ、まずいシーンはプロデューサーが削ってくれるって!」

凛「そういう問題じゃないでしょ!? それ盗撮!」

ちひろ「こういうのは身持ちの固い凛ちゃんだからプレミアがつくのよウヘヘヘヘ(ミュージシャンのライブDVDとかでもあるでしょ、こういうの。大丈夫大丈夫、プロデューサーにチェックしてもらうから)」

凛「本音と建前が逆になってるよちひろさん!」

PaP「ほう、凛ちゃんもこんな表情するんじゃのう」

CoP「ぐっ……俺ですら撮影できなかった表情を収めるとは……そうか、アイドル同士で撮らせれば良かったか……!」

凛「ちょ、見ないで! 見ないでー!」


ワーワー、ギャーギャー!


モバP「というか、ちひろさん……何も話してないのに、よくビデオの考え分かりましたね」

ちひろ「これでも優秀なアシスタントですから♪」



CuP(というより守銭奴……)

ちひろ(CuPさん?)

CuP(女神! 天使! ちひろ!)

ワイワイ、ギャアギャア!



モバP「……とりあえず、めでたしめでたしでいいの、かな?」

芽衣子「あはは、まあ、凛ちゃんのあれはちょっとあれだけど」

モバP「うん、まあ……それは勘弁してくれ」

芽衣子「ま、今回は仕方ないか! よーし! プロデューサー、さっそく仕事行こう! 今度はどこに行く!?」

モバP「いやいやいや、とりあえずはレッスン! 仕事で地方巡りもなにも、基礎を身につけないと話にならないから! 今回は特別! 旅行を基準に仕事しない!」

芽衣子「えへへ、わかってるって、冗談冗談!」

モバP「芽衣子が言うと、冗談に聞こえないんだよ……」ハァ


芽衣子「ね、プロデューサー」


モバP「ん?」


芽衣子「これからも、アイドルとして……私を、どんどん新しい世界に連れていってね♪」

終わり。


長々とお付き合い頂きありがとうございました!

芽衣子ちゃんのSSのはずがこれ主役凛ちゃんじゃねという疑惑ががががが

あと、奥山さんは後々CGプロに応募してきてCuPが見初めたり。その辺の話も書けたら嬉しいけど、


私は芽衣子と聖來と美世のユニットを結成させたいんだ!!!(超個人的願望)


初SSで拙いところも多かったと思いますが、
楽しんでいただけたのでしたら幸いです



最後に



めーこちゃん、お誕生日おめでとう!



(これ言いたいがためのSSでした……投稿してるうちに日をまたいだけど……クッ)

明日にでもHTML化依頼出してきますー

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