伊吹「奏に恋愛映画見せたらガチ泣きされた」 (117)

モバマスSSになるよ

速水奏「失敗だらけのリップスティック」の蛇足すぎる後日談

速水奏(17) キス魔
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[伊吹の部屋]

奏「……ふぅ」

伊吹「はぁ……相当久しぶりに観たけど、やっぱりいいねえ」

奏「本当に。不朽の名作ね」

伊吹「ちなみにコレ観るの何回目?」

奏「さあ……かなりの回数になるはずだけど」

伊吹「アタシは高校くらいのときに一度観たっきりかなあ」

奏「前置きが長いから何度も見ない人が多いみたいね」

伊吹「あー、わかる。最初のあたり飛ばしそう」

奏「前置きがあってこそのカタルシスなのに。勿体ない」

伊吹「前から思ってたけど、奏ってこういうの好きだよね」

奏「こういうのって?」

伊吹「こうさ、いっぱい苦しいこと辛いことがあって」

伊吹「でも最後は愛が勝つ!ハッピーエンドです!みたいなの」

奏「…確かに、そうかも。いい気分で見終われるのは好きね」

伊吹「だよね!ならきっと、アタシの選んだコレも気に入るはず!」

伊吹「ささ、次いこ次?♪」

奏「……ちょっと待って。そのパッケージ、アレでしょ」

伊吹「んー?」

奏「恋愛映画」

伊吹「うん、そうだよ?」

奏「……私が苦手なの、知ってるわよね?」

伊吹「大丈夫大丈夫、奏ならきっと気に入るから!」

奏「……」 


伊吹「だよね!ならきっと、アタシの選んだコレも気に入るはず!」

伊吹「ささ、次いこ次~♪」

奏「……ちょっと待って。そのパッケージ、アレでしょ」

伊吹「んー?」

奏「恋愛映画」

伊吹「うん、そうだよ?」

奏「……私が苦手なの、知ってるわよね?」

伊吹「大丈夫大丈夫、奏ならきっと気に入るから!」

奏「……」 

伊吹「ほら、コレ話題作だったし、話のタネにもなるじゃん?」

奏「はぁ…」

伊吹「やーもー、そんな怖い顔しないで、さ!」

奏「途中でギブアップしてもいい?」

伊吹「えー、ダメダメ!次回は2本とも奏が選んでいいから!」

伊吹「だから今日はアタシに付き合うと思って、ねっ?」

奏「……面白くなかったら、ひどいわよ」

伊吹「おっ、そうこなくっちゃ!」

奏「休憩は挟ませてよね。胸焼けしたりするから」

伊吹「よっしゃ!やー、一人で恋愛映画鑑賞って結構寂しくてさ」

奏「……いつも一人で観てたの?」

伊吹「うん。一時期は沙紀捕まえてたんだけど、逃げられちゃって」

奏「……沙紀に同情するわ」

伊吹「えー、奏もそれ言う?」

奏「私が犠牲者二号ね。きっと短命よ」

伊吹「まあまあ、そう言わずに。さっ、観よ観よ~♪」

・・・
・・


伊吹「はー……どうだった?」

伊吹「実は奏がこれ観てどう思うか、前から一度聞いてみたくて……さ…」

奏「……」

伊吹「……」

伊吹(……え?)

奏「……」

伊吹(え?ええぇ?)

伊吹(か、奏が)



奏「…ヒグッ……………グスッ……」

伊吹(ひ、膝抱えて泣いてる……)


伊吹「か、奏?大丈夫?」

奏「……ん…………グスッ…」

奏「…ごめん、えっと……何?」

伊吹「あー、えーっと、感想とか聞いてみたいなーと思ったんだけど……」

奏「うん、感想………グスッ、感想、ね……グスン」

伊吹「あ、落ち着いてからでいいよ?」

伊吹「……あー、ちょっとタオル蒸かして持ってくるから。うん、うん」

奏「っ、グスッ…………ごめん、ありがと……」

伊吹(え、何、何、ヤバっ!あれかなりマジ泣きだよね!?)

伊吹(うわ、うわー…確かに感動作だけど、まさかぼろぼろ泣くとは……)

伊吹(『演出はよかったんじゃない?演出は』みたいな感じだと思ってたのに)

伊吹(……これは恋バナが弾むね、うん、間違いない!)

伊吹(へへへ、楽しみ楽しみ♪)

伊吹(電子レンジ早くしろーい♪)



チーン

伊吹「ほーい、お待たせー。熱いから気を付けてね」

奏「ありがとう……ん、いい香り」

伊吹「でしょ?蒸しタオル用の芳香剤があってさ」

奏「凝ってるわね。いい気分転換になりそう」

伊吹「アタシの数少ないスキンケアの一つだからね!」

奏「ふふ。アイドルにあるまじき発言」

伊吹「肌に合わないことはしない!無理しても続かない!」

奏「伊吹ちゃんらしいわね。その通りだけど」

伊吹「で、で!!映画、どうよ!」

奏「……良かったわ。最初のあたりはベタベタな恋愛で、苦手だったけど」

伊吹「けど?」

奏「素敵じゃない。ああいうの」

伊吹「おー!」

奏「時間も距離も立場も乗り越えて、初恋の相手に戻るなんて…ね」

奏「結局やってることは浮気だから、褒められたものじゃないけど」

伊吹「確かに。美談に見えて、婚約者はポイだもんね」

奏「……でも、悪くない、って思えちゃうのよね」

伊吹「そうそう!観てる最中はそんなことほとんど考えないもん」

伊吹「忘れられない初恋!ふとしたことから燃え上がる想い!!……憧れるよねぇ」

奏「……ね。立場も家もかなぐり捨てて恋に走って」

奏「相手も腕を広げて受け入れて愛してくれて、最後は幸せに添い遂げる」

奏「…それこそ夢物語みたいな都合のよさだけど。少し憧れるわ」

伊吹「おー……まさかここまでノってくれるとは……」

奏「……何よ」

伊吹「や、この映画さ、奏に合うと思ってのチョイスなんだ。当たりでしょ?」

奏「そうね。よかったわ」

伊吹「でもさ、クライマックスのキスシーンの演出とか?」

伊吹「いろいろあったけど最後は奇跡的に添い遂げるストーリーとか?」

伊吹「その辺は奏の趣味だし、恋愛云々が苦手でも楽しめる、って考えでさ」

伊吹「でも、いやー、恋愛の部分もちゃーんと観て、楽しんでるじゃん!」

伊吹「奏ってああいう純愛路線が好みなんだねー。うん、うん」

奏「……」

伊吹「じゃあさ、次はベッタベタに甘いのとか」

奏「伊吹ちゃん」

伊吹「ん?」

奏「こういうの、苦手なのよ。これは本当」

伊吹「ふーん、へぇー」

奏「いつもは耐えられないの。大体途中で観るのやめちゃうくらい」

伊吹「いつもって?」

奏「え?」

伊吹「恋愛映画観るの、いつ振りくらい?」

奏「……相当、ね。一、ニ年くらいずっと避けてた気がする」

伊吹「ほーん?ふぅーん?」

奏「…何よ」

伊吹「んー、その一年の間に何があったのかなーってねー?」

奏「……」

伊吹「ああいうベタな展開にそこまで感情移入してたってことは…」

伊吹「奏ー?最近、素敵な恋愛したでしょー?んふふ」

奏「……失敗した」

伊吹「んんー?」

奏「やっぱり恋愛映画なんて、観るものじゃないわね…」

伊吹「いやいや、いいよいいよ、恋愛について饒舌な奏ちゃん面白かったよ?」

伊吹「ほーれほれ、お姉さんに話してみ?恋バナしようぜ恋バナ♪」

奏「はぁ…」

伊吹「ほらほら、相手は誰?学校?業界の人?」

伊吹「あ、もしかしてー…Pだったり?あははっ」

奏「…っ」

伊吹「……え?マジ?」

奏「…………ああ、もう…」

伊吹「ちょ、聞かせて聞かせて!」

奏「……誰にも、絶っ対に話さないで」

伊吹「うん、うん!話さない、話さない!」

奏「……事務所に入ってしばらくの頃。結構思い切ったことをしたのよ」

伊吹「おー、おー、なになに、アタシと会う前?」

奏「そうね。……端的に言うと、告白したの。Pさんに」

伊吹「えっ」

奏「それで、振られたわ」

伊吹「え、ちょっと待って、端折り過ぎ!もっと詳しく!」

奏「ライブ後の帰りの車でね。初めて会った時から好きでした、って」

伊吹「そうだったの!?」

奏「告白するときに嘘ついてどうするのよ」

伊吹「あ、うん、そうだけど……」

伊吹「で、Pにフラれた?マジ?」

奏「そう。嬉しいけど応えられません、って」

伊吹「えぇ……直球勝負?」

奏「バカみたいに直球。ちょっと昔話して、告白しただけ」

伊吹「その時は勝算があったとか?」

奏「無し」

伊吹「えーっ、嘘だ、嘘、嘘!」

奏「本当。……Pさんとの関係を一度清算したかったのよ。だから、ね」

伊吹「清算って?」

奏「Pさんが私の扱いに困ってたの。最初はよかったんだけど、耐えられなくて」

伊吹「…何したん」

奏「やたらめったらキスしてたのよ。今じゃ黒歴史」

伊吹「や、やたらめったらって」

奏「それこそ隙と機会があれば、くらいの勢いで」

奏「……こうして口にしてみるとホント、バカね」

伊吹「うへぇー…」

奏「そうやって好意を伝えようとしてたんだけど、完全に一方通行」

奏「伝わるどころか、Pさんにはただのキス魔だと思われてたのよ」

伊吹「あー……確かに、奏のキャラだとからかわれてると思うかも」

奏「だから本当に『告白』。全部話して、わかってもらいたかったの」

伊吹「へぇ……で、ダメ、かぁ……えぇー……」

奏「……なんで伊吹ちゃんががっかりするのよ」

伊吹「えーっ、だってさ、そういう告白ってすっごく勇気いるじゃん」

奏「……そんなこと」

伊吹「いやいや、あるっしょ!純に直球って、普段のキャラじゃないじゃん!」

伊吹「一代一世の大決心でしょ、絶対!」

奏「……もう決着ついたことだから」

伊吹「かもしれないけどさぁ……何、もうすっぱり諦めついた感じなの?」

伊吹「普段一緒にいる時間長いのに、諦めるとか難しいというか無理じゃない?」

奏「……そう、ね」

伊吹「えーっ、やだやだ、何、なんかないの?」

奏「やだ、って言われても…」

伊吹「Pも奏レベルの子にキスされまくって、落ちないはずが…」

伊吹「そうそう、なんかそういう話ないの!?」

奏「そういう話?」

伊吹「Pからいい反応があったとか……あ、仕返しに逆にキスされた、とか!」

奏「…………なくはない、けど」

伊吹「えっ、マジ、あんの!?」

奏「…二回だけ」

伊吹「二回?キス?」

奏「……キスよ」

伊吹「おおー……キスし合った仲なんだ……」

奏「……Pさんからされたのは、振られた後なの」

伊吹「……えっ、なにそれ?奏の好意を弄んで更なるドロドロが!的な展開?」

奏「あの人はそんなことしない」

伊吹「あ、うん。えっと、ご、ごめん?」

奏「そもそも童貞だし」

伊吹「ぶふっ、え、あ、そうなんだ」

奏「だから無神経に優しくするし、デリカシーが足りないのよ。もう」

伊吹「そ、そうなん?へ、へぇー」

伊吹「えっと、つまりどゆこと?」

奏「……複雑なのよ。いろいろと」

伊吹「じゃあ順追って話して、ほらほら!」

奏「…はぁ。本当、恋愛映画なんて観るものじゃないわね……」

伊吹「いいじゃんいいじゃん、アタシがキューピッドになるかもよ?」

奏「別にいらないわよ…」

伊吹「いいから、ほら!どういうこと、フラれた後にキスされたって」

奏「……そう、ね。一回目は…」



・・
・・・

[ライブ中 控室]
ワーワー

奏「……すごい歓声」

奏(今の時間帯は……珠美ちゃんね。私は、あと15分くらい……)

奏(衣装、髪、メイク……うん。いつでもいける)

奏(歌は……大丈夫。いつもレッスンでやってる通り)

奏(体が全部覚えてるから、私は魂を込めるだけ)

奏(いつも通り、いつも通り……)



ブルッ

奏「っ、ああっ、もう……!」

奏(あの夜から、こんなことばっかり)


『応えられなくて、ごめんな』


奏(大丈夫、失敗しない、上手くできる、できるはず…)

奏(………っ、あ、い、息……)

奏(深呼吸、深呼吸……落ち着いて、切り替えて)

奏(ステージに集中、集中、深呼吸、深呼吸……)

奏(……うん、大丈夫。意識を変な方向に傾けなければ…)

P『奏ー、入るぞー』

ガチャッ

奏(……最悪。今は一番会いたくないのに)

P「奏、あと10分でスタンバイ……大丈夫か?」

奏「…大丈夫よ。ちょっと瞑想してるだけ」

P「そっか。じゃ、静かにしてるな」

奏「…」

奏(大丈夫、学校と同じ。仮面を被れば、やりすごせる)

奏(私たちは舞台俳優、人間の真逆)

奏(頭を空にして舞台装置になる)

奏(切り替えて、切り替えて……)

奏(……よし)

奏「……大丈夫よ。何?」

P「あ、そのまま。後ろ髪ちょっと跳ねてる」

奏「…ん。ありがと」

奏「でもPさん、髪は女の命なんだから。そんなに気安く触っちゃダメよ?」

P「まあ、ステージ直前なんだから許してくれ。衣装は…OKだな」

奏「メイクもばっちりよ。唇はどう?」

P「はは、調子はいつも通り……うん?」

P「……奏?」

奏「何?」

P「……大丈夫か?」

奏「ふふ、チェックしたばっかりでしょ?あ、それとももっと近くで…」

P「奏」

奏「何?」

P「…いや、なんでも……うん。しっかり頼むぞ」

奏「もちろん。完璧にこなしてみせるわ」

P「おう、楽しみにしてる。何かあるなら今のうちにな」

奏「…何よ」

P「いや、ちょっと翳がある気がしてさ」

奏「……さっきから言ってる通り。大丈夫」

P「ならいいんだけど。……俺が気にし過ぎなだけ、だよな」

奏「……っ」

P「まあ、できることがあればなんでもするから。気兼ねなく言ってくれると…」

奏「だからっ…!」バンッ

P「うおっ!?」

奏「大丈夫だってば!いいから、出て行って!!」

P「え、ちょ、どうしたんだ急に、」

奏「私は…っ」

奏「……っ……」

奏「…なんでもないわ。ごめんなさい。気が立ってるのよ」

P「……」

奏「こんな大きなステージで失敗したくないもの。わかるでしょ?」

奏「大丈夫。緊張はするけど、本番はしっかりできるから」

P「そう、だな。そこは信頼してるよ」

奏「秘訣があるのよ」

P「さっきの瞑想?」

奏「そう。ポジティブなセルフイメージ。失敗しない、最高の自分を描くのよ」

P「…………」

奏「……だから、お願い。ステージに集中させて」

P「そっか。俺にできること、何かあるか?」

奏「一人にさせて」

P「……わかった。奏、あのさ」

奏「何」

P「失敗するのも、悪いことばかりじゃないぞ。次の一歩を踏み出したら、案外…」

奏「わかってるから、やめて」

奏「……まだ、あの車の中から一歩を踏み出すのは難しいの」

P「……」

奏「だから、今は忘れたフリをして進むしかないのよ」

P「…ごめん」

奏「っ、やめてってば。謝ったからって、何も変わらないでしょ」

奏「少し時間と距離が必要なのよ。本調子じゃないのは私が一番わかってるから」

P「……」

奏「最近ね、たまに思うの。アイドルにならなかったらどうなってたのか、って」

奏「Pさんと出会って、その時点で自分の気持ちに気付いて」

奏「……それでも、失敗してたかもしれないけど。もっとマシな結果だったかもしれない」

P「…アイドルの道を選んだこと、後悔してるのか?」

奏「…貴重な経験ができてる、とは思ってるわ。でも、それとこれは別」

P「……そっか」

奏「お願い。今は構わないでいてくれるのが、一番ありがたいの」

奏「お察しの通り、心に影が落ちてる。でも、やれるから」

奏「……だから、切り替えてステージに挑ませて」

P「わかった。その前に、襟」

奏「……これで大丈夫?」

P「直せてない直せてない。こっち向いて」

奏「はぁ……はい。ホント、こういうところが…」

・・・
・・


奏「で、近づいてきて、そのまま」

伊吹「へ?」

奏「ちょっと鬱陶しく感じてたから、目瞑ってたのよ。その隙に」

伊吹「え、その流れでキスされたの!?キザっ!!」

奏「……『襟直すから』は私が前に仕掛けたやり方なの。仕返しされた形ね」

伊吹「う、うわぁ……」

伊吹「で、で?感想は?」

奏「覚えてない。混乱の方が大きかったから」

伊吹「えー……混乱って、どんな?あたふた?」

奏「……大荒れ。泣いたし、喚いたし、怒鳴ったし、引っ叩いたし、ひっかいたわ」

伊吹「おおぅ」

奏「あんなに感情的になったのは、自分でも驚いたけど。悪いのはPさん」

奏「だって意味がわからないじゃない。割とバサッと振られたのよ?」

奏「それを諦めよう、忘れようってときに突然、だもの。本当、あの人は…」

伊吹「その時ってまだまだPのこと、好きだったんだ?」

奏「……そうよ」

伊吹「……奏って結構引きずるタイプ?」

奏「そういう認識はなかったけど。そうみたい」

伊吹「さっきの話だと過呼吸気味だったんでしょ?」

奏「振られてからは、しばらくずっと」

伊吹「だーいぶきてたね、そりゃ…」

奏「あの時も、そのままステージに上がってたらダメになってたかもね」

伊吹「ちなみにそのステージって、どれ?」

奏「珠美ちゃんがMCで泣きそうになったときの。事務所に録画あるでしょ」

伊吹「あー、観た観た!……あれ?」

伊吹「でもあのときの奏のステージ、めっちゃよかったじゃん」

伊吹「歌も怖いくらい入り込んでて感じで、絶好調にしか見えなかったけど」

奏「……」

伊吹「お?おおー?」

伊吹「つ、ま、り!これは!」

伊吹「Pに当たり散らしはしたけど、実は嬉しかった!これでしょ!」

奏「……そうよ。人間の頭って都合よくできてるんだ、って実感したわ」

伊吹「おー!いいねいいね!乙女だね!」

奏「……あの時のステージは、本当に夢心地だったの」

伊吹「うん、うん」

奏「練習も散々して、喉もばっちり整えて。完璧に歌えるはずだったのに」

奏「直前でPさん相手に喚いてたせいで、喉はボロボロ、メイクも半崩れ」

伊吹「そうなるよねぇ。メイクさんつかまらないっしょ、そのタイミング」

奏「そうね。だから二人で必死で直したわ」

奏「直してる間、Pさんはたじたじで、私は若干ヒステリック」

奏「滅茶苦茶じゃないどうしてくれるの、唐変木、無神経、とか喚いてて」

伊吹(奏の癇癪……事務所だとP以外見たことなさそう)

奏「私が落ち着かないから、Pさんがね。こう、頬に手を添えてきて」

伊吹「おーっ」

奏「『完璧じゃなくていい、失敗していい。転んでも躓いても、一緒にいるから』、って」

伊吹「うっわー…」

奏「散々かき乱しておいて何言ってるんだって、半分くらい思ったけど」

奏「…残り半分は、その言葉と、Pさんの手の温もりと、その前のキスとで」

奏「……信じられないくらい、浮かれてたわ」

伊吹「どのあたりがストライクだったの?」

奏「……口にすると陳腐だけど」

伊吹「うん?」

奏「欠陥も失敗も全て受け入れて、愛してくれる。私を真摯に見てくれる、って」

奏「…そう感じさせてくれたのよ」

伊吹「ただのステージ前の送り出し文句とは思わなかったん?」

奏「直前にキスしてきた相手から、慈愛顔で言われたのよ?」

伊吹「あー……フラれたこと考えたら、それもまた複雑そうだけど」

奏「そうね。だけど、なんとなく確信できたのよ」

奏「……さっきの映画風に言えば、『まだ終わってない』って、ね」

奏「だから、その言葉が決定打」

伊吹「何の決定打~?」

奏「…事務所的に言えば、『魔法にかかる』決定打、かしら」

伊吹「嘘やーん♪奏を落とす決定打、でしょ!」

奏「……」

伊吹「んんー?」

奏「そう、ね」

伊吹「おお!?認めちゃう!?」

奏「認めるわよ。この時から、完全にベタ惚れ。Pさんのこと考えない夜はないくらい」

伊吹「あ、う、うん?えっと、そこまでは」

奏「Pさんってね、指がいいのよ」

伊吹「ゆ、指!?いいって、え、それ、どういう」

奏「聞きたい?いつもPさんの指を思い出しながら」

伊吹「あーストップストップ!わかった、ごめんごめん!」

奏「そう?」

伊吹「そう!そ、そんな進んでんの!?」

奏「全然?そんな甲斐性ないわよ」

伊吹「……じゃあ指って何」

奏「何って、物の受け渡しするときとか、車運転してるときとか。見るでしょ」

伊吹「……」

奏「で、なんだったかしら。ああ、『魔法にかかる』、ね」

伊吹「…うん」

奏「あの時以前は、仮面を被ってばっかりだったから。がらっと変わったのよ」

奏「失敗も何も怖くないと思わせるような、魔法の一言だったの」

伊吹「へー…あのステージ、声枯れかけてたのはそういうことだったんだ」

奏「いつもはあれくらい余裕なんだけど、ね」

伊吹「あれはあれでよかったよ?これがありったけ!って感じで」

奏「Pさんも似たようなこと言ってたわ」

伊吹「うん、だろうねぇ」

奏「…と、まあそんな感じ」

伊吹「ステージ終わった後は何かなかったの?」

奏「……別に」



伊吹(嘘だ)

奏(嘘だけど)


・・
・・・
[楽屋 奏の出番後]

奏「っ、はぁ、はぁ…………」

奏(……歌で、こんなに、息、上がる、なんて、初めて)

奏(…………清々しい、気分)

奏(魂ごと、吐ききって、空っぽ…なんて、ね)

奏(……ふふ。恋に悩んで、恋に浮かれて。滑稽、ね。でも)

奏「…っ、ふふ、ふふっ」

奏「あはは……っ、苦し、ふふ……」

P『奏、入るぞー!』ガチャッ

奏「ふふふ………っ、はぁ…」

P「お、おう?どうしたんだ?」

奏「なんでも、ないわ。ちょっと、息、追い付いてないから。待って」

P「待つ、待つぞ。いくらでも待つ」

奏「本当?」

P「本当、本当」

奏「…ふふっ。じゃあ、それで」

奏「ふぅ……ん。なぁに?」

P「何って、奏、すごかったじゃないか!」

奏「あなたがああしろって言ったんでしょ」

P「いや、言ったけどさ!」

奏「ご満足いただけた?」

P「した、した!いや、ははは、うわぁ、奏、すごい、すごいなぁ!」

奏「ふふっ。語彙がかわいそうなことになってるわよ」

P「いや、うん、どう言い表せばいいかわからん!」

奏「はしゃぎすぎ」

P「悪い悪い……でもなぁ、いやぁ、よかった、よかった」

奏「『よかった』?」

P「うん、よかったよかった」

奏「ステージが?それとも、私の調子が上がったから?」

P「うん?……えっと、両方、かな?」

奏「自分がキスしたのが効いた、と思ってるでしょ」

P「え、ええ!?え、いや、そのだな、」

奏「思ってるでしょ?」

P「……多少は?」

パァン!!

P「っ!?」

奏「普通は振った女にキスなんてしたら、こういう平手が返ってくるの」

P「え、あれ、うん、そう、だな」

奏「私でよかったわね?」

グイッ

P「え?」

ちゅうっ

P「んっ!?」

奏「……んっ。ふぅ……」

奏「Pさん、前に言ったわよね。キスは気持ちを込めたメッセージだって」

P「……そう、だな」

奏「さっきの、『担当アイドルへの応援メッセージでした』じゃ済ませないから」

P「……」

奏「『応えられない』っていうのは、『好きだけど、ダメ』。ということでいいのよね?」

P「……えっと」

奏「ここで白黒つけないと、また他の子の前でするわよ」

P「いや、うん……その通り、です」

奏「……そう。なら、いいかな」

ズイッ

奏「Pさん」

P「お、おう?」

奏「厄介な女に、目をつけられたわね」

P「え?っ、んむっ!?」

・・・
・・

奏「で……二回目のとき、ね」

伊吹「おー、自分から来る」

奏「早く言えって顔してるんだもの」

伊吹「うん、聞きたい聞きたい。あ、でも」

奏「何?」

伊吹「それさ、奏とPって結局どういう関係?」

奏「……好き合ってるけど、立場があるから我慢してる。そういう関係」

伊吹「んふふ、ホントに我慢してるー?」

奏「してるわよ」

伊吹「こっそり人目のないところでいちゃいちゃしてたり」

奏「ないから」

伊吹「いやいや、隠さなくていいよ!やることやってるならほら、吐いた吐いた!」

奏「本当にないの。……Pさんを失いたくないのよ。絶対に」

伊吹「……わお」

奏「悲恋なんて、絶対に嫌。離れたくないし、離したくない」

伊吹「おおー……おぉ」

奏「もどかしいけど。破滅的な恋愛によりはマシだもの」

伊吹「あっ、アレだ、アンナ・カレーニナみたいな」

奏「そうね。……映画は観る気ないわよ」

伊吹「え?いやいや、今のは次はそれ観るか!ってなる流れでしょ」

奏「嫌」

伊吹「えー……」

伊吹「でも、奏の印象変わるなぁ」

奏「そう?」

伊吹「うん。もっとこう、相手を追いかけさせる恋愛するもんだと思ってた」

奏「……そうね。私もそのつもりだったわ」

伊吹「だっよねー。思ってたよりもずっと……んー、情が深い、っていうのかな」

奏「……重い、とも言うわね」

伊吹「言わない!ちゃんと思慮があって、愛があって。いいんだよ、それで」

奏「……そうなのかしら」

伊吹「多分」

奏「多分、って……」

伊吹「ま、とりあえず続きカモーン!二回目!二回目!」

奏「……ウェディングドレスの撮影のときよ」

伊吹「うっわー、出た!」

伊吹「えっ、なになに、ウェディングドレス姿見て、つい!みたいな?」

奏「そんな感じ。じゃあ終わりね」

伊吹「ダメダメ、詳しく、詳しく!」

奏「そんなに面白い話じゃないわよ」

伊吹「いいから、ほら!」

奏「……あの時、居残り撮影したの」

伊吹「居残り?そもそも夜遅くに撮影してなかった?」

奏「更にその後。スタジオの人が撤収してから」

伊吹「ボツ食らったの?」

奏「ううん。Pさんのわがまま」

伊吹「なにそれ」

奏「ちひろさんが衣装回収に来るまで、手持ち無沙汰だったのよ」

奏「まだチャペルも使えるし、事務所のカメラもあるし、何枚か撮りたいって」

伊吹「へー…」

奏「それで…」


・・
・・・
[チャペル 夜]

奏「で、時間はどれくらいあるの?」

P「一時間くらい。渋滞してるんだとさ」

奏「そう。……さっき撮った写真、ダメだった?」

P「いや、そういうわけじゃないんだ。撮影スタジオの人たちも満点評価してた」

奏「……じゃあなんで撮り直すのよ」

P「うん、なんというか……間違いなく綺麗な画だったんだぞ?」

P「イメージ通りだし、各方面からOKは間違いなく出ると思うんだ。けど」

奏「けど?」

P「こう、奏ならもっと幅がある、というか」

奏「はっきり言って」

P「……花嫁らしい幸せさが詰まった画も撮れるんじゃないか、と」

奏「……はぁ。撮影の企画はPさんがしたんじゃないの?」

P「そうなんだけどな。見てたら物足りなさがあって」

奏「何それ。自分の方が上手く速水奏の撮影ができる、ってこと?」

P「えーっと、その…」

奏「自分に惚れてる女だから、もっと幸せそうな顔を向けさせられる、って?」

P「いや、そこまでは」

奏「Pさん」

P「う、うん?」

奏「なら、私からも一つ付き合ってもらうわ」

P「……あんまり難題じゃなければ」

奏「スーツの上着、取ってきて。ネクタイも締めて」

P「えっ?」

奏「誰も見ていない夜のチャペルに、男一人と女一人」

奏「することは、一つじゃない」

P「……え、ちょ、いや、」

奏「…そういうのじゃなくて」

P「……」

奏「幸せそうな花嫁姿を撮りたいなら、花嫁の気分にさせてくれなきゃ」

P「うん…?」

奏「折角のウェディングドレス、折角の二人っきり。証人は月だけ」



奏「……後ろめたい二人の結婚式の予行練習には、丁度いいんじゃない?」

・ ・ ・

奏「ほら、Pさんから歩いてくれないと。ベールで見づらいんだから」

P「ああ、うん。そう、だな」

奏「一歩ずつ、ね。そう、そう」

P「……よくこんな作法知ってるなあ」

奏「別に。エスコートはいないんだから、二人で歩くしかないじゃない」

P「そうだけど、さ」

奏「歩き方は、まあ、ね。嗜み」

P「……俺が17の頃はそんな嗜み考えたこともなかったぞ」

奏「女は一歩も二歩も先を行こうとするものよ」

P「だよなぁ……はぁ」

奏「ふふっ。こんな花嫁じゃ、不満?」

P「……そんなこと言ってないだろ。ほら」

奏「あっ、ちょっと、引っ張らないで。裾踏んじゃう」

P「奥の演壇まで行くならちゃっちゃと歩かないと、結構かかるぞ」

奏「はぁ……そんなだからモテないのよ」

P「えぇ…」

奏「演壇じゃなくて講壇。学校じゃないんだから」

P「…はい」

奏「あそこまでたどり着いたら、第二の人生が始まるのよ」

P「まあ、実際の結婚式だとそうなんだろうけど」

奏「だからこそ、一歩一歩噛みしめるの」

奏「過去と、今と、将来の幸せに思いを馳せて、ね」

P「…でも今日結婚するわけじゃないんだからさ」

奏「あら。来年ならしてくれるのかしら」

P「……っ、あ、あのな…」

奏「…ふふ。そういうわかりやすいところ、好きよ」

P「……奏には勝てる気しないなぁ」

奏「こんな関係だからよ。実際に伴侶になるような関係なら、きっと私の方がベタベタ」

P「…本当かぁ?」

奏「本当よ。勿論Pさんにもベタベタになってもらうけど」

P「あー…なんとなく、見える」

奏「……ね、Pさん」

P「うん?」

奏「いろいろ、あったわね」

P「……なんだ急に」

奏「だ、か、ら。この廊下は、思いに耽りながら歩くの」

P「…はい」

奏「折角なんだから、一緒に思い出話でもしようと思ったのよ。もう」

P「じゃあ、えっと……何の話にするか…」

奏「はぁ……仕事のときの機転はどこに行ったのかしら」

P「すまん…」

奏「……」

P「……」

奏「……実のことを言うとね」

P「うん?」

奏「私も同じ。状況に浮かれて、何の話をすればいいかわからないの」

奏「だからさっきから口に喋らせてるだけ。頭は真っ白」

P「……ははは」

奏「なぁに?」

P「いや、奏がそういうこと言うなんてさ。変わったなぁと思って」

奏「そう?」

P「うん。前はからかわれてばっかりだったからな」

奏「……あなただけ、よ」

P「え、あ、うん?」

奏「受け入れてくれるって、信じてるから」

奏「……私がこんなこと言うのは、あなただけ」

P「……」

奏「ほら、黙らないで。何か上手く切り返してよ」

P「えっと……ドレス、すごく似合ってるよ」

奏「……」

P「……ダメ?」

奏「全然気も利いてないし、切り返しでもないじゃない」

P「……すまん」

奏「……でも、ありがとう。嬉しい」

奏「このドレス、私も気に入ってるの」

P「…よかった」

奏「フィッティングしてるとき、衣装さんがおおはしゃぎだったのよ」

P「あの年配の?」

奏「ええ。Pさん、変な注文いっぱい付けたらしいじゃない」

P「あー……ははは」

奏「だから変なドレスになったと思ったのに、着せてみたらぴったりだって」

奏「Pさんの目にはいつも見誤りがないのね。……ね、私はどう?」

P「へ?」

奏「私のことを見初めたPさんの目に、誤りはなかった?」

P「見初めたって、それは」

奏「それは?」

P「……その、な?」

奏「…わかりやすいんだから。ふふ」

奏「ね、Pさん。ありがとう」

P「……ん?」

奏「好きでいさせてくれて。好きでいてくれて」

P「……」

奏「……」

P「……あ、あー、ほら、もうそろそろ講壇だぞ」

奏「…そうね。神父さんはいないんだし、二人でしましょうか」

P「へ?」

奏「ほら、こっち向いて」

奏「手。……そうじゃなくて、下から。そう」

奏「……ふぅ。それじゃあ、復唱して」

P「……え?これって……え、暗記してるの?」

奏「昔、何度も見た映画でこういうワンシーンがあったのよ。覚えちゃったの」

奏「これで最後だから。付き合って。ね?」

P「……まぁ、練習、か」

奏「そう。練習、ね」

『この結婚を神の導きによるものだと受け取り』

『神の教えに従い、互いの分を果たし』

『常に互いを愛し、敬い、慰め』

『助けて変わることなく』

『その健やかなるときも、病めるときも、富めるときも、貧しきときも』

『死が二人を分かつまで、命の日の続く限り』

『互いに対して、堅く節操を守ることを』

奏「…約束、します」

P「約束します」

奏「……ふふ。約束しちゃっていいの?」

P「奏こそ」

奏「私は…」

P「…」

奏「……ほどほどにしないと、なんでも言っちゃいそうね」

奏「付き合ってくれてありがとう。それじゃ、ちひろさんが来る前に写真…」

グイッ

奏「……え?」

・・・
・・


伊吹「お、おぉ……結婚式ごっこして、キス……」

奏「……私はそんなつもりなかったのよ」

伊吹「え、何言ってんの、絶対そうなるでしょ!!」

奏「だってそこはとっておきじゃない」

伊吹「いや、うん、そうだけど、さ?」

奏「でも、ぐっと引き寄せられて。気が付いたら目と鼻の先」

伊吹「で、そのまま?」

奏「うん」

伊吹「うひゃー……いいなぁ…」

奏「……そう?」

伊吹「そうだよ!ホント恋愛映画のワンシーンじゃん!」

伊吹「立場に遮られた男女!深夜のチャペルに、とびっきりのドレス!」

伊吹「神父も呼べない二人っきりの結婚式!」

伊吹「決心のつかない花嫁を強引に引き寄せて、月が見守る中で誓いのキス!」

伊吹「うわー、いいねいいね!奏いいなぁ……」

奏「……言葉にすると薄ら寒くなるわね」

伊吹「ふっふー、残念ながらヒロインは奏ちゃんだからね!ひゅーっ!」

奏「……」

伊吹「へー、へぇー……ロマンチックだなぁ……いいなぁ…」

伊吹「しかもさっきの話しっぷりだと、回廊歩いてるときとかラブラブじゃん!」

奏「……そう、かもね」

伊吹「認めちゃう!!いいね、いいねぇ……」

伊吹「で、で?一応写真は撮ったの?」

奏「撮らなかったわ。そんな雰囲気じゃなくなっちゃって」

伊吹「お?どんな雰囲気ー?」

奏「したことがアレだったから。恥ずかしかったのよ」

伊吹「いやいや、もっとさ!こう、満足感というか、充実感、あったでしょ!」

伊吹「こう、言葉は交わせないけど、隣から離れたくない!みたいな、さ!」

奏「……あった、かも」

伊吹「かもぉ?」

奏「ああ、もう…あったわよ」

伊吹「やっぱり!」

奏「ちひろさんが来るまで、ずっと両手繋いでベタベタしてました。はい、いい?」

伊吹「いいよいいよ、両手繋いで……んふふ」

伊吹「ねね、やっぱりそういういちゃいちゃするの、日頃から」

奏「してないってば。特別だったのよ、あの夜は」

伊吹「えー……まあ非日常的なアレだろうけどさぁ」

奏「そう。だから本当に、特別」

伊吹「で?それだけ?」

奏「……それだけ。一言二言交わしながら、ちひろさん待ってただけよ」

伊吹「そっか」

伊吹(嘘だ」

奏「……」

伊吹「……あれ?あ、いや、口に出すつもりはなかったんだけど」

奏「……嘘、だけど」

伊吹「聞いてもいい感じ?」


・・
・・・

奏「……不意打ちばっかり」

P「……すまん」

奏「『誓いのキスを』って導入があって、初めてするものなのよ」

P「あ、うん、確かに」

奏「それに、そこは本番まで取っておくのが……何よその顔」

P「いや、面白い表情してるなぁ、と」

奏「……ふふ、いい度胸ね。なら、Pさんにも……」

グイッ

奏「……」

奏「…………やめた」

P「え?」

奏「……ねぇ、Pさん」

P「……うん?」

奏「もう一回」

P「え?」

奏「もう一回、キスしましょう。さっきの、やり直したいの」

奏「今の……ううん、今までの強引なのも嫌いじゃないけど」

奏「…キスはやっぱり、二人でしないと。ね?」

奏「……肩張りすぎじゃない?」

P「奏こそ強張ってる」

奏「……ふふっ」

P「……はは」

奏「ねぇ。よく考えたら『二人で』キスするのは初めてね」

P「……確かに、そうかも」

奏「いつもお互いに好き勝手してただけ」

P「……不器用って損だな」

奏「そうね。でも、直せば取り返せるんだから。直さないと」

奏「……じゃあ、もう一回。手」

P「うん」

奏「今回は、『約束』の前借り」

P「約束?……あ」

奏「いつかその時が来て、気持ちが続いてたら……」

奏「なんて言う前に、お互いに独り善がりを治すところから、ね」

奏「……いつか、もう少し上手く…格好良く、寄り添えるようになりましょう」

P「……そう、だな」

奏「私は……本当に約束できる時が来たらいいと、思ってるわ」

P「……」

奏「ふふっ。やっぱりわかりやすい」

P「…ごめん、そこまで考えてなくて」

奏「いいのよ。むしろそれが普通だもの」

P「こういう時、ズバッと言えたらいいんだけど」

奏「Pさん」

P「ん?」

奏「いいの。焦がれて焦がした恋だもの」

奏「でも、あなたが許してくれるなら。私は、焦がれ続けるから」

P「うん」

奏「だから……」



ぎゅっ

奏「……ふふ。こういうところは乙女心がわかってるじゃない。素敵」



奏「それでは……なんて、ね」

・・・
・・


伊吹「……」

奏「……不思議。話したら、なんだか心が軽くなった気がするわ」

伊吹「……」

奏「ふふ、ありがとう。話せる年上のお姉さんがいて助かったわ」

奏「なんなら次もまた、恋愛映画付き合っても…」

伊吹「…………」

奏「……大丈夫?」

伊吹「……っ、グスッ」

奏「えっ」

伊吹「ん゛……ううう……ヒグッ」

奏「ちょ、ちょっと、なんで泣いてるのよ」

伊吹「うう……だって、だっで…グスッ、ヒグッ」

伊吹「グスッ……奏、っ、グスン」

奏「……なぁに?」

伊吹「……グスッ、なんでも、手伝うから」

伊吹「ヒグッ、頑張って、頑張れ、奏ぇ……」

奏「………ありがとう。伊吹ちゃんに話してよかった」

伊吹「グスッ、ううぅ……グスッ」

奏「ああ、もう……ほら、擦ったら腫れるから」

伊吹「う゛ぅ゛……」

奏「……ねぇ。早速一つ、お願いしてもいい?」」

伊吹「……んっ、何?」

奏「今度、Pさんと恋愛映画、挑戦してみたいの」

奏「失敗するかもしれないけど。意識していてもらいたいから」



奏「だから、とろけるくらい、とびっきり甘いのを一つ。見繕ってもらってもいい?」






    ̄ ̄ ̄二二ニ=-
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           -=ニニニニ=-


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                     (.゙ー'''", ;,; ' ; ;;  ':  ,'

                   _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'  ┼ヽ  -|r‐、. レ |
                _,,-','", ;: ' ; :, ': ,:    :'     d⌒) ./| _ノ  __ノ

起きてスレ残ってたら後日談書く!中身考えてあるし!
と思って寝たらスレが落ちてたのが2年近く前になりますが後日談れす

しばらくしたらHTML化依頼出しときます

HTML依頼出す前に誤字と抜けがあったのでこっそり

>>24
×一代一世
○一世一代

>>44
×伊吹「歌も怖いくらい入り込んでて感じで.
○伊吹「歌も怖いくらい入る込んでる感じで

コピペミスってなんかつながりがおかしいところも若干あるけど勘弁な!

次に書くものは何も考えてないので、リクエストとかあればぶつける分にはタダよ!
HTML化されるまでチラチラ見てます

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