P「まゆ」まゆ「!・・・・・・Pさん♪」9月7日の2人 (141)

アイドルマスター シンデレラガールズ 佐久間まゆ のSSです

☆ 公式設定準拠ですが,都合よく独自設定や推測が入り乱れております
☆ キャラクターの違和感などあるかもしれません
☆ 長いです

よろしければおつきあいください

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1410073586


 雲ひとつない夜だった。

 しかし、周りのビルの灯りが煌くこの屋上から見上げる限り、星々の灯りは心もとない。


 雲も星も何も見えない夜の黒を背景に、少女の後姿。

 あまり背は高くない。ふわりとしたそのシルエット。真っ黒な夜空にひときわ映える深紅のリボン。

 後姿だけでもわかる。・・・・・・あぁ、彼女は美しい。


 そして、・・・・・・危うい。

 振り返りかけたその横顔は、その瞳は、とても穏やかで、とても不安定で、とても愛しかった。


――― Pの自宅マンション

P「ん・・・・・・」ゴソゴソ

P(朝か・・・・・・)

P(なんだろう? 久しぶりに夢を見た気がする。なんだか懐かしいな)

P(・・・・・・まぁ、起きないと。今日も仕事が山積みだし)

P「9月、7日・・・・・・あぁ、今日は」

P「まゆと出会って、もうこんなに経つのか・・・・・・早いもんだ」


――― 事務所

ガチャ

ちひろ「あっ、おはようございます。プロデューサーさん」イツモノスマイル

P「おはようございます、ちひろさん。まゆはもう現場に行きましたか?」

ちひろ「はい。偉いですね、まゆちゃん。私と同じぐらいに来て、事務所のお掃除手伝ってくれたんですよ。その後、現場に向かいました」

P「そうでしたか。さすが、まゆです」

ちひろ「ええ。そうそう、そこのお花、まゆちゃんが持ってきて、活けてくれたんです。オレンジの花だそうですよ」

P「へぇ。白くて可愛らしいですね。どことなく気品もある」

ちひろ「はい。まゆちゃんにピッタリです。そういえば今日は・・・・・・」

ちひろ「早いものですね。まゆちゃんがウチの事務所に来てから、もうこんなに経つんですね」

P「ええ。ホントあっという間だった気がします」

ちひろ「思い出してみると、まゆちゃんが最初に来たときは・・・・・・」




――

――― 回想

まゆ「今日からお世話になります。佐久間まゆ、です」

ちひろ「みんな、よろしくね」

一同パチパチ → 解散

ちひろ「じゃあ、あと紹介してないのは・・・・・・まだ帰ってきてないPさんだけね」

ガチャ

P「ただいま戻りました~」

まゆ「あっ」

ちひろ「ちょうどいいところに! Pさん、紹介します。今日からウチの事務所に所属になった」

P「えっ!? 佐久間・・・・・・まゆちゃん? どうしてここに」キョトン

まゆ「覚えていてくれたんですね! うふ・・・まゆ、とっても嬉しいです!」


ちひろ「知ってましたか。まぁ、仙台で有名な読者モデルをやってましたからね」

P「え、あ、いや・・・・・・実は初対面じゃないんですよ。以前、みちるの撮影の仕事で仙台に行ったとき、同じ現場で。そのときに少し」

P(少し、ってレベルじゃあないけど・・・・・・)

まゆ「はい。そのときにお会いしたんです。Pさんとまゆが出会ったのは運命だったんですよ」

P「そ、そうだね。まさか、こうして僕達の事務所に入ってきてくれるなんて。偶然、かなぁ?」

まゆ「Pさんにプロデュースしてもらうために来たんですよ。うふ・・・・・・ステキですよね」

P・ちひろ「えっ」

まゆ「Pさんの為に事務所も読モもやめたんです、うふふ」

ちひろ(あっ・・・)

P「フーン」

P「と、とにかく、これからよろしく頼むな」

まゆ「はい! ・・・・・・あの、プロデューサーさん・・・・・・まゆを置いてかないで下さいね」

P「」ドキッ

P「ああ、もちろん。一緒にがんばっていこうな」

――― 回想終了

――


ちひろ「あの時のまゆちゃんの破壊力はすごかったですね」

P「ええ、いろんな意味で」

ちひろ「あの後、すぐに入ったお仕事で、リボンをモチーフにした衣装を用意しましたけど、あれはどうしてリボンだったんですか?」

P「初めてまゆに会った時に、彼女、赤いリボンをつけてて、それが妙に印象的だったんですよね」

P「あと、なんというか・・・・・・よく似合っていたというか、リボンでなければ駄目だった。そんな気がしたんです」

ちひろ「たしかに、とっても可愛かったです。それからは彼女のトレードマークみたいなものになりましたね」

P「はい。765プロのA1ランクの彼女と同じトレードマークを使うのは少し怖くもありましたけど、今ではまゆも立派なアイドルです」

ちひろ「ふふっ。この前、B1ランクに上がったんですよね。まゆちゃん、とっても喜んでいました」


ちひろ「そうそう、最初の頃のまゆちゃんで印象的だったのは、大人しい外見の割に意外とプロデューサーさんを独占したがるところが強かったですよね」

ちひろ(今もだけど)

P「そうですね。最初の頃はホント、僕にべったりだったかもしれません」

P「今でこそ笑い話ですけど、まゆに一度『まゆをPさん色に染めて』みたいなこと言われたんですよ」ハハッ

ちひろ(今でも笑えねぇ)

ちひろ「で、どうしたんですか」

P「まゆ は まゆ のままでいいんだよ、って答えました」

P「ぶっちゃっけ、その時から、むしろ僕の方がまゆ色に染まちゃったフシがありますけどね」

ちひろ「よく恥ずかしげもなく言えますねぇ・・・・・・」

P「ええ、誇りに思ってますから」ドヤァ

ちひろ「・・・・・・まぁ、いいです。さぁ、そろそろプロデューサーさんも出ないと。打ち合わせに遅れちゃいますよ」

P「あ、そうですね。それでは」ササッ

P「いってきます」

ガチャ バタン


ちひろ「リボンじゃなきゃ駄目、か・・・・・・」

ちひろ(そうだったのかもしれないですね。あの頃のまゆちゃんにとっては)

ちひろ(きっと彼女は、いろんなものを繋ぎとめたかったんでしょうね。それをリボンに託して・・・・・・)


――― とあるTV局の一室

光「打ち合わせ、終わったーーー!」

麗奈「クックックッ・・・・・・ハロウィンのイタズラ企画・・・・・・まさにこのレイナサマにピッタリね」

P「そうだな。元気な2人にピッタリの企画だ」

光「アタシがイタズラっていうのもなぁー。どうしてアタシたちの担当Pはこの仕事を・・・・・・」

P「きっとPaPさんにも考えがあるんだよ」

P「今日はPaPさんがどうしても抜けられない用事があったから、代理で僕が打ち合わせに出たけど、今日のことはちゃんと伝えておくから、後で3人でよく話しておくように。いいね?」

光「うん!よろしくね」


麗奈「そういえば、まゆは元気? しばらく一緒に仕事してないし」

P「ああ、元気だよ。麗奈が人の心配してくれるっていうのも、ありがたいな」

光「あははっ! 麗奈は優しいんだよ、Pさん!」

P「うん、知ってる」ニヤニヤ

麗奈「ちょっ! 光ッ、余計なこと言わない!///」ペシッ

P(仲良いなぁ)ホッコリ

麗奈「Pもホッコリしてんじゃないわよ! もう・・・・・・まぁ、まゆが元気で良かったわ」

P「あらためて、ありがとう。そうか、2人は以前、ドリームLIVEフェスティバルで一緒に仕事をした以来、一緒に仕事はしてないのか」

光「そうだなぁ・・・・・・。それに、LIVEフェスティバルのときもラウンドが違ったから、あんまり一緒にはできなかったかも」


P「あの時の光と麗奈の共演は良かったなぁ」

P「ヒーローものの主人公とライバルが手を組んだって感じで、かっこよかったし熱かった!」

麗奈「フンッ! あんなのお呼びじゃなかった  光「そう言ってくれると嬉しいな! アタシたちは今でもライバルだし、大事なパートナーだ!」

麗奈「・・・・・・そうね///」ボソッ

P(仲良いなぁ)ホッコリ

麗奈「まぁ、そんなことはどうでもいいわ」

麗奈「まゆのラウンド、見学させてもらったこと、覚えてる? 光は?」

光「あっ・・・・・・うん、覚えてる。あの時のまゆさん・・・・・・」




――

――― 回想

光「あっ。いたいた。まゆさんとPさん」

麗奈「今からステージみたいね」

まゆ「Pさん、新しいまゆの姿、いかがですか・・・・・・?」

P「おっ。着替え終わったんだね。・・・・・・うん、すごく可愛いし、綺麗だよ!」

まゆ「魔女の衣装ですけど・・・・・・貴方のためだったら、魔女だってなんだってなって見せますから・・・・・・うふ・・・・・・魔法だって使っちゃうかも♪」

P「はは。その魔法はぜひファンのみんなにかけてくれ」

P「さっきのLIVEバトルは引き分けだったけど、まゆの魔法があればファンは喜んでくれるさ」

まゆ「はい。次は勝ちます・・・・・・絶対に・・・・・・絶対に勝ちます・・・・・・」

P「・・・・・・まゆ、そんなに勝負は気にしないでいいんだぞ」

まゆ「あっ・・・・・・はい。それじゃあ、行ってきますね、Pさん」

P「あぁ、行って来い!」

光「まゆさん、綺麗だなぁ」

麗奈「悔しいけど、さすがね。ただ、ちょっと・・・・・・」

麗奈(なにかはよくわからないけど・・・・・・少し怖い)

光「?」


P「おっ、2人とも。今日はよく来たね。事前見学しに来るなんて、えらいぞ」

光「ありがとう! Pさん」

麗奈「それにしても、よく似合ってる衣装ね」

P「この前、事務所でやったハロウィンパーティにインスピレーションを受けてデザインしたんだってさ」

麗奈「魔女姿のまゆ、似合ってるじゃない。ただユニットとしては、誰かさんのせいでおかしなことになってる気がするけど」

光「あのパーティのときのまゆさんは、サキュバスみたいでとっても可愛かったよね!」

P「たしかに。ちなみに光、サキュバスって何だか知ってるか?」

光「えっ? 吸血鬼でしょ?」

P「うん、そうだな。吸血鬼であってる(ということにしておこう)」

P「これからは、吸血鬼,もしくはヴァンパイアと言うように」

光「変なこと聞くんだな。了解!」

麗奈「///」

P(まぁ,たしかにあのときのまゆの可愛さは反則だったなぁ・・・・・・。あぁ、吸われたい・・・・・・)

P「・・・・・・っと、ちょっとイベントの流れの打ち合わせしてくるよ。まゆが終わったら、お出迎えを頼むな」

光・麗奈「らじゃー」


―― ステージ上:パフォーマンス中

まゆ(Pさん、ちゃんと見てくれてますよね?ねぇ?ねぇ?)


―― パフォーマンス終わり

司会「結果の発表でーす」

司会「今回の勝者は・・・・・・ピンキーキュート!」

まゆ(・・・・・・っ!負けちゃった・・・・・・)

司会「ハロウィンパーティも素晴らしいパフォーマンス、ありがとうございました!」

パチパチ


―― 舞台裏:ハロウィンパーティ散会後

まゆ「・・・・・・」ションボリ

光「まゆさん、おつかれさま!すごい綺麗だったよ!・・・・・・??」

まゆ「負けちゃった・・・・・・。負けたら・・・・・・褒めてもらえない・・・・・・負けたら・・・・・・」

光・麗奈「!?」

麗奈「まゆ、元気だしなさいよ。ステージの上のアンタ、すごく可愛くて綺麗だったし、ファンも大喜びしてたわよ」

まゆ「あ、麗奈ちゃん、光ちゃん・・・・・・。ごめんね」

光「謝ることなんてないぞ!麗奈の言う通り、すごく良かった!今回はたまたまさ」

光「それに、Pさんだって、勝負は気にするなって」

まゆ「ありがとう。でも、さっきも勝てなかったから・・・・・・このままじゃPさんに置いて行かれちゃうかも・・・・・・」

光「まゆさん・・・・・・」

麗奈「ちょっと、光。まゆを頼むわ。アタシ、Pのところに行ってくるから」ヒソヒソ

光「うん。頼むよ、麗奈」


――

P「おっ、麗奈。まゆの様子はどうだった?」

P「結果は残念だったけど、パフォーマンスはすごく良かっ  麗奈「そうね、その通りだと思うわ。ところで、アンタ!」

麗奈「そういうこと、ちゃんとまゆに伝えてる!?」

P「どうした、そんな剣幕で? ちゃんとまゆには言ってるよ『勝負は気にせず、次、上手くいくようにしよう』って」

麗奈「はああぁぁ~~・・・・・・」

麗奈「そうじゃないでしょ。励ますのもいいけど、勝ちとか負けとか関係なく、まゆの良かったところ、ちゃんと伝えているか?って聞いてんのよ」

P「う~ん・・・・・・そういえば、こういうときは『次がんばろう』ばっかりだったかも」

麗奈「それじゃあ、勝負にこだわってるのはむしろアンタじゃない・・・・・・もう!

麗奈「まゆはね、口ではああ言ってるけど、勝負以上に大切にしてることがあんのよ?わかる?」

P「えっと・・・・・・?」タジタジ


麗奈「アンタに『可愛い』って言われるかどうかよ!」

麗奈「いい? まゆにとっては、勝ち負け以上に、Pにどうやって見られてるかが大切なの」

麗奈「だから、ちゃんと良かったところ伝えてあげなさい。ちゃんと褒めること! それが女の子の力になるんだから」

P「そ、そうなのか・・・・・・?」

麗奈「そうなの!!」イラッ

P「ハイッ!」ビシッ

麗奈「それじゃあ、練習!さっきのまゆの良かったところは?」

P「魔女姿と独特の艶やかな声が合わさって、可愛いのに妖艶でドキドキが止まりませんでした!」

麗奈「ちゃんと見てるじゃない!ハイッ、その調子でもっと良いところ出す!!」

P「サーイエッサー!」


――

光「まゆさんは・・・・・・Pに置いて行かれるかもしれないって怖いのか?」

まゆ「・・・・・・そうかもしれないです」

光「そっか。まゆも・・・・・・不安なんだな」

まゆ「光ちゃんも・・・・・・?」

光「ん・・・・・・あぁ・・・・・・アタシもさ、デビューしてからしばらく大きなお仕事がなくてさ」

光「アタシのプロデューサーも必死にがんばってくれてたのは知ってたんだけど、やっぱり不安で」

光「今はこうやっていろんなお仕事ができるようになったけど、今でも心配なんだ」

光「自分がいつかは忘れられて、誰の役にも立てなくなるんじゃないかって」

まゆ「・・・・・・」

光「ヒーローがこんなことじゃいけないって思うんだけど、まだアタシは弱いからさ」

光「でもね。プロデューサーのことは信じてる!」

光「アタシの夢を一番最初に拾い上げてくれた人だし、なにより今でもずっとアタシの夢を一番に応援してくれるんだ!」

まゆ「光ちゃん・・・・・・ふふっ」


光「まゆさんのプロデューサーもそうじゃないのかなぁ?」

光「2人の出会いはよく知らないけど、少なくとも今だってまゆさんの活躍を一番に応援してるのはPさんだと思う」

光「だって、まゆさんのことを見てるPさんも、まゆさんのことを話してるPさんも、すっごく楽しそうで、嬉しそうだもの」

まゆ「そ、そうなんですかぁ・・・・・・///」

光「そんなプロデューサーさんが、まゆさんのことを置いていくと思う?」

まゆ「光ちゃん・・・・・・そうですよね。まゆがプロデューサーさんのこと、ちゃんと信じないといけませんよね」

光「うんっ!不安はすぐにはなくならないかもしれないけど、でも・・・・・・」

光「プロデューサーだけじゃなく、自分たちには支えてくれる仲間がいるからさ。ほら」

タッタッタ

麗奈「まゆ、大丈夫?」

P「まゆ、よくがんばったね。さっきのステージ、すごく可愛かったよ!」

麗奈「なぁによ、結局それ?」

P「し、仕方ないだろ。可愛いは最高の褒め言葉だよ!」

まゆ「うふ・・・・・・/// そうですね。光ちゃん、麗奈ちゃん、本当にありがとう」

まゆ「あと、Pさん、これからもずっとまゆの活躍を見ていてくださいね。まゆの一番近くで、一生見守っていてください・・・・・・♪」

――― 回想終了

――


光「キレイだったけど、それ以上に迫力があったなぁ。うん、すごかった」

麗奈「見学させてもらったけど、アタシたちが行ってから最初の1戦負けただけで、あとは勝ってたものね」

P「あの後、ドイツでも同じ衣装でイベントをやったんだ」

P「今、思うと、フェスティバルの時に2人が来てから、まゆのパフォーマンスが上がったんだよなぁ」

P「なんとなく、肩の力が抜けたというか。まぁ、それでも、ドイツの時なんかはまだまだ負けないように気を張ってたけど」

P「良い変化は2人のおかげかもな」

麗奈「フンッ。どうでしょうね」ニヤニヤ

光「まゆさんとPさんのがんばりのおかげさ!」ピカッー

P「おっと、そろそろ次の仕事に行かないと。2人は?」

光「麗奈と一緒に事務所に戻るよ。途中でお昼ご飯食べていく、麗奈?」

麗奈「そうね。久しぶりに一緒に食べましょうか」

麗奈「じゃあ、P、せいぜい事務所のために馬車馬のように働きなさい」

P「わかった。気をつけて帰るんだよ」


――― とある撮影スタジオ

P(次はみちるの撮影だけど、その前についでだし、こっちにも顔出しておくかな)

奈緒「あれっ? まゆのプロデューサーさんじゃん。どうしたの?」

P「久しぶり、奈緒ちゃん。CoPさんとは仲良くやってる?」

奈緒「はぁ!?/// なんだよ、いきなり!///」プンスカ

P「ごめんごめん。いや、今日、このスタジオでみちるも撮影だからさ。ついでに顔を出しただけ。邪魔したね」

奈緒「もう・・・・・・。そっか、そっか。別に邪魔じゃないよ。顔出してくれてありがと。ちょうど休憩時間だし」

P「なら、よかった」

奈緒「・・・・・・まったく、Pさんだって見に来てくれるのに、あたしのPさんは・・・・・・」

奈緒「今日は仕方ないけど、もっと普段から~~」ゴニョゴニョ

P「」ニヤニヤ

奈緒「だから、なんだよ、もう!///」


奈緒「まぁ、いいや・・・・・・。それで、今日はまゆにも、Pさんにとっても、大切な日だと思うけど」

奈緒「いろいろ準備はしたの?」

P「もちろん。後は、午後の空いた時間で花束を買う予定。渋谷さんところにお願いしたよ」

奈緒「あ、凛の? それならきっといい花束を用意してくれるよ」ドヤァ

P(なんで奈緒ちゃんがドヤ顔なんだろう)

奈緒「凛に会うようなら、よろしく言っておいてくれ。きっと、まゆも喜んでくれるよ」

P「そうだと嬉しいな。やっぱり女の子は期待してるもんだよね」

奈緒「そりゃそうだよ。乙女はみんな、そういうことに期待してるもんなの」

P「うんうん。奈緒ちゃん見てればわかるよ」

奈緒「んふっ!?!?」


奈緒「だーーかーーーらーーーー、もうっ!」

奈緒「うちのプロデューサーはそんなことには疎いし・・・・・・」

奈緒「あんまり期待して、後でがっかりするのも・・・・・・」ダンダンコゴエー

P「大丈夫だって。CoPは知っての通り奈緒ちゃんのこと大切にしてるから」

P「ちょっとバカ正直でたまに気が利かないだけだからさ」

奈緒「フォローになってんのかなぁ、それ・・・・・・」

奈緒「ていうか、私は別に期待してないからな!プロデューサーに祝われても、そんなに嬉しくねぇし!プロデューサーは仕事仲間だし!」

P「と、おっしゃっておりますが、実際はCoPのためにクリスマスプレゼントやバレンタインデーのチョコを一生懸命に悩みながらも用意している神谷さんなのでした」

奈緒「なっ!?///」

奈緒「その話、誰から・・・・・・って、まゆしかいないか、はぁ」

P「うん。まゆから聞いたよ。奈緒ちゃんが一生懸命がんばってたって。内緒なことでもないでしょ」

奈緒「そうだな。内緒なんて言ってないからな///」カァァ


奈緒「そうだよ!まゆにはいろいろ手伝ってもらったんだ」

奈緒「やっぱ、ほら、まゆってすごく女の子らしいというか、可愛くて、気が利いて、プレゼント選びとか得意そうじゃん」

奈緒「でも、あたしはそういうの苦手だからさ・・・・・・」

P「まゆは奈緒ちゃんのこと、すごく褒めてたよ」

P「『あれだけ真剣に大切な人のことを想って悩める人はそうそういない』って」

奈緒「まゆが? そっか。へへっ・・・・・・なんか嬉しいな」テレテレ

P(む?ここはスルーだと!?)

奈緒「でも、まゆって本当にすごいよなぁ」

奈緒「ほら、バレンタインのとき、Pさんにマフラーをプレゼントしたじゃん。あれ、手作りとは思えないほど、上手でさ」

P「たしかに、あれには驚いたなぁ。すごく丁寧に作られてた。素直に嬉しかったよ。今でも大切に使ってる」

奈緒「うんうん。よかった、Pさんが大切にしてくれて」


奈緒「・・・・・・実はさ、ちょっと心配だったんだ」

P「心配?」

奈緒「まゆのこと」

奈緒「クリスマスのときも、バレンタインのときも、一緒にプレゼントを用意したんだけどね、そのときのまゆの様子がさ」

P「・・・・・・うん」

奈緒「クリスマスのときは、まゆ、『Pさんが見つめてくれるなら、他には何もいらないんです』って言っててさ」

奈緒「そのときは、ロマンチックなこと言うなぁって思ったんだけど」

奈緒「バレンタインでチョコを一緒に作ってたときに、そのチョコは本命以上だって言ってて」

奈緒「言葉だけ聞けば、それだけ強い思いなんだなってぐらいだろうけど、そのときのまゆの雰囲気がさ・・・・・・」

奈緒「すごく真に迫ってて、強く決意してるんだけど、どこか哀しそうというか、不安そうで・・・・・・」

奈緒「あぁ、本当にこの子は、Pさんがいれば、他の何も・・・・・・大げさだけど自分の命すらいらないのかなぁって思って」

P「・・・・・・そうか」


奈緒「そう思うと、マフラーを編んでるまゆの姿も、Pさんと絶対に離れないようにっていう必死の想いを、1本1本、編み込んでいるように見えて」

奈緒「・・・・・・心配になった」

奈緒「・・・・・・まぁ、それだけ、まゆにとってPさんは大切な人ってことだよ」

奈緒「だから、ちゃんとお祝いしてあげてくれよ!」

P「そうだね。ありがとう、話してくれて」ホホエミー

奈緒「あ、今日話したことは内緒だからな! まゆにも、あと、あたしのプロデューサーにもな!///」

P「わかったよ。・・・・・・そうだ。この際、もうひとつだけ聞きたいんだけど」

奈緒「なに?」

P「今でもまゆのことが心配になるときはあるかい?」


奈緒「う~ん・・・・・・」

奈緒「今でもちょっと心配になるときはあるよ。でも、前に比べたら、だいぶ少なくなったかな」

奈緒「なにより、すごく綺麗な笑顔を見せてくれることが増えたと思う」

奈緒「だから、安心してる」

P「そっか。ホントに奈緒ちゃんは、まゆのことをよく見てくれてるね」

奈緒「そりゃあね。大事な友達だからさ」

P「ありがとう。それじゃあ、僕はそろそろ、みちるのところに行ってくるよ。またね」

奈緒「おう!またな~」


奈緒(うん。まゆは大事な友達)

奈緒(だからさ・・・・・・『他には何もいらないんです』って言われたとき、ちょっと寂しかったんだよ)

奈緒(あたしは、ずっと友達だからな、まゆ)

奈緒「まぁ、口には出さないけどね~」テレテレ


――― 同撮影スタジオ:お昼休み

P「みちる・・・・・・そんなに一度に口に入れないでもいいんじゃないか?」

みちる「フゴフゴゴ」

P「『口いっぱいにイースト菌の香りが広がる快感がわからないかな』って? わからんな」

みちる「ムゴ、フガフゴ?」ゴックン

P「お気づかい、ありがとう。『今日はまゆちゃんについてなくていいんですか?』って、そこまで気を利かせないでも大丈夫さ」

みちる ヒョイ、パク「フゴフゴフーゴ、ハムハム」

P「たしかに、まゆと初めてあったときも、ファッション誌の撮影の仕事だったね」

P「『まゆちゃんとの初めて会ったのは、あたしとPでしたね』とは、よく覚えてたな」


みちる「フゴフゴ、モキュモキュ?」

P「『あたしが来る前に屋上で何の話をしてたんですか?』って」

P「たしかに、みちるは後から合流したっけ。あの時は、そうだな、たわいもない世間話だよ」

P(・・・・・・きっとあの時の時間がなければ、今のまゆはいなかったんだろうな)

P「というか、ちゃんとパンを飲み込んでから、話すように」

P「あと、わざわざ、パンを口に運んでから話し始めるのもNGな、みちる」

みちる「ゴックン!」

P「『OK!』か」




――

――― 回想


 あの日はたしか晴れていた。風が少し強かったことが印象的だ。


 仙台での仕事を終え、これから車でみちるを連れて帰らないといけないのに、時間はすでに19時を回り、外はすっかり暗かった。

 僕は、休憩をかねて外の空気を吸いたいなと思って、ビルの屋上に出た。別にタバコを吸うとか、そういう習慣はないのだけれど、ただ高いところで風を感じるのが好きだったから。


 屋上の扉を開けたら、そこには先客が1人いた。どちらかというと小柄な、ふんわりとした服装で、肩より少し長い髪を風になびかせている。赤いリボンがひときわ映えていた。


P(あれは・・・・・・佐久間さんかな?)


 後姿だけですぐにわかった。彼女は仙台で有名な読者モデルで、業界では知る人ぞ知るダイヤの原石といったところであった。僕は今日の撮影で初めて彼女を見たのだが、たしかに綺麗で可愛くて、正直に言えば「スカウトしたい」という衝動を抑えるのがたいへんだった。


P(うん、やっぱり美しい・・・・・・)


 頭の中で彼女の美しさを再確認しつつ、同時にちょっとした不安がよぎった。

 ここの屋上の欄干はいささか背が低く、風の強い今日のような日は、あまり欄干に近づきたくないと思うのが普通であろう。

 しかし、彼女は欄干にぴったり身を寄せるように佇んでいた。少し下を見つめて。


P「佐久間・・・さん、ですよね?」

 どうしても声をかけずにはいられなかった。


まゆ「はい・・・・・・」

 振り向きつつある彼女の横顔はとても穏やかな表情で、とても可愛らしかった。しかし・・・・・・振り向いた彼女の瞳はどこか虚ろで、儚げで、いまにも崩れ落ちそうだった。


まゆ「あの・・・・・・あなたは?」

P「あ、急に声をかけてごめんね。僕、こういうものです」

 すかさず名刺を差しだし、彼女のそばに近よる。


まゆ「シンデレラ・プロダクション・・・・・・Cute支部・・・・・・プロデューサー、さんですか」

P「そう。この会社でアイドルのプロデューサーをやってます」ニッコリ

 よし、彼女の隣に自然な形で移動できた。彼女の左側。手をのばそうと思えば、しっかり利き手でつかめる位置は確保した。


まゆ「アイドルのプロデューサーさんがどうして私に?」

P「いやぁ、僕もちょっと外の空気を吸いたいと思ってね。屋上に上がってきたら、たまたま佐久間さんがいたのさ」

まゆ「そうでしたか」

P「今日の撮影はおつかれさま」

まゆ「はい。ありがとうございます」

P「・・・・・・佐久間さん、今日の撮影は楽しかったかい?」

まゆ「・・・・・・楽しかった?」

P「うん」

まゆ「えっと・・・・・・すみません。そういう聞かれ方をしたのは初めてで・・・・・・」

まゆ「楽しかったといえば、そうですね・・・・・・撮影は好きです」


P「そっか。僕も今日は、僕のプロダクションのアイドルを連れての撮影だったんだ」

P「佐久間さんの撮影も見たよ。とっても綺麗だった」

まゆ「ありがとうございます・・・・・・」

P「佐久間さんは読者モデルなんだよね? どこか専属で事務所に入る気はないのかな?」

まゆ「読者モデル、ということで撮影には出てます。でも、実は芸能関係の事務所にも入ってるんです」

P「えっ、それは知らなかったな・・・・・・これは失礼しました」

P「気づかないまま他の事務所から引き抜きそうになった・・・・・・」

まゆ「えっと、それって・・・・・・スカウトするつもりだったんですか?」

P「あっ・・・・・・はい・・・・・・。そのつもりでした」メソラシー

まゆ「・・・・・・」ジッー


P「うむむ・・・・・・」

まゆ「・・・・・・」ジッー

P「いや、だって、仕方ないじゃん!可愛いんだもの!しかも、話してみたら声も綺麗で!」

P「立ち姿のふんわり感だけで愛らしさが伝わるし」

P「着飾る必要のないような清楚な雰囲気があるかと思ったら」

P「声のおかげかな? 可愛らしさと色っぽさが同居したような美しさと色っぽさもあって」

P「きっと踊って歌ったら、どの魅力ももっと跳ね上がるだろうなと期待させる、そんな可能性を感じる!」

まゆ「・・・・・・」


P「こんなん、アイドルとして売れないわけないじゃん!」

P「絶対、ウチのプロに欲しいって思うじゃん!」

P「そりゃあ、他事務所から引き抜くなんていけないことだよ」

P「でも、ここで会ったのも運命だ!って思いたくなるよ」ヒラキナオリー

まゆ「・・・・・・」

P「・・・・・・佐久間さん?」


まゆ「///」顔マッカー

P「あ・・・・・・あぁ・・・・・・えっと、なんか、ゴメンね」

まゆ「いえ、その・・・・・・謝らないでください。うふ」ニッコリ

P「あ、やっと笑った」

まゆ「えっ?」

P「うん。やっぱり、まゆちゃん、アイドル向いてるよ。その笑顔、最高に魅力的だもの」

まゆ「えっ・・・・・・その・・・・・・あの、あぅ・・・・・・///」顔マッカー


P「とはいえ、もう他の事務所の子なんだよなぁ・・・・・・残念だなぁ・・・・・・」

まゆ「あの、その、私、今、所属してる事務所では、実は全然活動してないんです」

P「あら? そうなのか、もったいない」

まゆ「私、事務所では活動させてもらってないというか、ちょっと方針が違うんだと思うんですけど・・・・・・」

まゆ「私にはちょっと言いにくいような仕事をするように言われるんです」

まゆ「そもそも、自分で入ったわけじゃないのもあって・・・・・・」

P「あぁ、そういう・・・・・・」

まゆ「私も断るんですけど、そうすると、その事務所にはいろんな女の子がいるので」

まゆ「『佐久間なんて使わないでも代わりはいくらでもいる』って言われて・・・・・・」

P「ひどいな」


まゆ「わがまま言ってる私もいけないんだと思います」

P「そんなことはないよ」

P「嫌な仕事、特に女の子として守ってもらえないような仕事はするべきじゃあない」

まゆ「うふふ・・・・・・優しいんですね。プロデューサーさんは」

まゆ「でも、このままじゃあ、私、どこでもいらない子になっちゃうのかなぁって・・・・・・」

P(『どこでも』・・・・・・か)

P「・・・・・・もし、そうなったら僕たちのプロダクションに」


みちる「Pさぁーーん!」

みちる「あ、やっぱり屋上でしたか! あ、そちらの方は」

P「お、みちる。こちらは佐久間まゆさん。知ってるだろ」

みちる「えっ、あの、まゆちゃんですか! すごい本物!!」

P「いや、撮影で一緒だったろ・・・・・・」

みちる「いや、つい、雑誌でよく見る憧れのモデルさんだったもので」

みちる「あっ、撮影でご一緒しました、大原みちるです!」

まゆ「大原さんですね。私、佐久間まゆです。よろしくお願いしますね」

みちる「はい! あ、そうだ、お近づきのしるしにこれ、どうぞ!!」クロワッサン

まゆ「え、あ、ありがとうございます」


みちる「お腹が空いたら元気も出ませんからね!」

みちる「なんだか、まゆちゃん、ちょっとお疲れそうな感じです」

みちる「パンは美味しいですよ! 元気が出ますよ! これもどうですか~」バターロール

みちる「あ、こっちは私がいただきますね」フランスパン、モグー

P「おい、みちる・・・・・・まゆちゃん、ドン引きだぞ」

まゆ「・・・・・・うふ、うふふ」クスクス

P「お」

まゆ「ふふふ。プロデューサーさん、すごく楽しい方ですね、みちるちゃんは」

みちる「フゴ?」

まゆ「うふふ・・・・・・。事務所でもいつもこんな感じなんですか?」クスクス

P「そうだなぁ・・・・・・。うん、こんな感じ。うちの事務所にはこんな面白い子ばかりだよ」

まゆ「・・・・・・いいなぁ」

P(よかった・・・・・・かな)


P「さて、それじゃあ、そろそろ屋内に戻りますか」

P「まゆちゃん、何か飲み物をおごるよ」

まゆ「いいんですかぁ?」

P「もちろん」

みちる「フゴッ!フゴゴー」

P「はいはい。みちるの分も買ってあげるから」

 それからちょっとの間、僕たちは3人でたわいもない話をした。それぞれの好きなもの、休日の過ごし方、仕事の楽しいところ、いろいろだ。そして、別れ際・・・・・・


まゆ「プロデューサーさん、今日は本当にありがとうございました」

P「こちらこそ。まゆちゃんとお話できてよかった」

まゆ「私・・・・・・ううん、まゆ、あんなに褒めてもらったの初めてで・・・・・・

まゆ「とっても嬉しかったです。それに、『まゆちゃん』って呼んでくれたことも・・・・・・」

まゆ「プロデューサーさん、ちょっと耳貸してください」

P「うん?」

スッ ミミウチー

まゆ「いつか必ず、Pさんのところに飛んでいきますから」

まゆ「そのときは、受け止めて、ぎゅっと肩を抱いてくださいね」

まゆ「落ちてしまわないように」

――― 回想終了

――


――― とある空港、目立たないエントランス

ヘレン「ご苦労様、P」

P「はい。ヘレンさんもお疲れ様です。CoPもおつかれ。ヘレンさんのためにハリウッドまで出張ってのも大変だね」

CoP「迎えに来てもらうなんて、わざわざすまないね、P」

P「空いている人手が僕だけだったからね。まぁ、お互い様だよ」

P「それにしても、この事務所からハリウッド映画に出演するアイドルが生まれるなんて」

ヘレン「いまや世界中が私を求めているの。当然ね」

P「しかも、世界的に有名な映画シリーズの準主役級ですからね」

CoP「首輪物語の第5部、そこに出てくるある種族の女王役だからな。主人公を補佐することになる大事な役だ」


ヘレン「まったく・・・・・・主人公でないのが理解に苦しむけど」

ヘレン「まぁ、小手調べにはちょうどよかったと思うわ」

CoP「そうだな」

CoP「ドラゴンが襲撃する戦火の中、激しいサンバのリズムで踊り狂えるドワーフの女王だなんて」

CoP「完全に他の準主役級を喰ってたよ。ヘレンの小手調べは本当に凄い」

P(割と本気で言ってるからなぁ、この2人・・・・・・)

P(でも、実際、ヘレンさんはすごいんだよな)

P(アイドルランクだってこの事務所で2人しかいないAランク)

P(その中でも数字は一番上。名実共にこの事務所のNo.1なんだから)


ヘレン「そういえば、この車は・・・・・・」

CoP「ん? どうかした? ヘレン」

ヘレン「いえ。この車に乗って、あの子のことを思い出したの」

P「・・・・・・まゆのことですか?」

ヘレン「その通りよ」

CoP「車・・・・・・GPS・・・・・・うっ、頭が・・・・・・」

ヘレン「ちょうど今日は9月7日、あの子のことを語るにはおあつらえむきの日ね」


P「そういえば、ヘレンさんはまゆと一緒にドラマの仕事したことがありましたね」

CoP「そうだな。ヘレンが主演のシリーズ化してるドラマ」

ヘレン「World Wide Detective Helen」

P「今度シーズン4が決まったんですよね」

ヘレン「ええ。くれぐれも内密にね」

ヘレン「そのシーズン2 、タイトル『恋愛シンドローム』に犯人役で出てもらったわ」

ヘレン「それにしても、あの役をよくあなたがやらせたと思うわ」

ヘレン「世界レベルの私でも一瞬ちゅうちょした」


P「あぁ・・・・・・あの役は、あの頃のまゆになら、そろそろ大丈夫なんじゃないか」

P「むしろ、まゆの今後のためにもやっておくべきなんじゃないか。そう思ったんです」

CoP「たしかに、そういう考えがあったのもわかるが」

ヘレン「かなりの賭けであったことも確かね。そして、あなたたちはその賭けに勝った」

CoP「まさか、愛する男をストーキングした果てに」

CoP「用意した特別な部屋で監禁、調教しようとする殺人犯の役をやらせるなんてね・・・・・・」

ヘレン「正確には未遂ね。私の華麗なる活躍で、彼女は愛する男も誰も殺さずにすんだわ」

P「ええ。おそらく、彼女を身近に知る人は少なからずあのキャスティングに不安を覚えたはずです」

ヘレン「そうでしょうね」


CoP「どうして、あれが必要だと思ったんだ?」

P「そうだなぁ・・・・・・」

P「端的に言えば、あの役はまゆの負の一面を凝縮して表現した役だと思ったから、かな」

ヘレン「なるほどね。理解したわ」

P「えっ!? これだけで!?」

ヘレン「当然よ。なぜなら」

CoP「世界レベルは」

ヘレン「こういうこと」

P(やりにくい・・・・・・)


ヘレン「あなたは前々から、まゆの見せる時として異常な攻撃性に懸念を抱いていたわね」

P「はい」

CoP「たしかに、まゆちゃん、いつもはすごくいい子なんだけど」

CoP「LIVEのときとかは他の子たちに対して敵意に近い感情を露わにしてたな」

P「彼女は相手に聞こえるでもなく、『邪魔はさせないんだから』とか『あなたたち・・・・・・邪魔』とこぼしていました」

P「半ば本人も無意識のうちにだったと思います」

ヘレン「そうね。そして、攻撃性とは何かを脅威から守るための手段」

ヘレン「だとしたら、当時のまゆは必死に何かを守っていたんだと考えられるわね」

CoP「だとしたら、何を守っていたんだろうな? 単純にやっぱりアイドルとしての地位とか」

ヘレン「乙女の心境から言えば、プロデューサーからの関心でしょうね」


P「それも多分にあると思います。でも、一番は・・・・・・彼女自身なんじゃないでしょうか」

ヘレン「・・・・・・そうね」

CoP「プロデューサーなんて職業やっていたら、否応なしにいろんな情報が入ってくるからな」

CoP「彼女の家族関係についても・・・・・・」

P「そうだね」

P「彼女の家族関係はこの事務所に入ってしばらくして彼女の口から聞いたけど、やっぱり心配にならざるをえなかったよ」

ヘレン「・・・・・・せっかくの日に家族の後ろ暗い話をするのは野暮よ」

ヘレン「そういう関係であったと、私たちが認識してる範囲で話しましょう」

P「そうですね。ありがとうございます、ヘレンさん」


ヘレン「あの子が時々見せる、あなたへの独占欲もきっと元をたどれば同じところよ」

P「その通りなんでしょうね。彼女は僕の関心を、事務所の子の中でも取り分け強く求めてくる」

ヘレン「本人はそれを演技の中で『恋の病』と称していたけど、あれはただの演技とみていいレベルではなかったわ」

ヘレン「静かだったけれど、心の深み、魂の奥から溢れ出るような力を伴っていた」

CoP「『恋の病』か・・・・・・」

CoP「きっと、ずっと前から、それこそPと出会うよりもずっとずっと前から彼女が抱えてきた“病”だったんだろう」


P「『全部をもらってほしい』」

P「それはつきつめれば、まゆの全て,良いところだけではなく悪いところも含めて全てを認めて引き受けてほしいということと同じです」

P「まるで、親が子にそそぐべき、無条件の愛情のようなものです」

CoP「それほどまでに、求めていたってことか・・・・・・」

ヘレン「自分をただただ愛してくれる存在を・・・・・・そうでもしないと、彼女は」

P「もたなかったのかもしれません」


ヘレン「だからこそ、必死であなたとのつながりを求め、守ろうとしていたのでしょうね」

CoP「それが、Pに関わる独占欲と、それから生まれる敵意につながっていたのか」

P「ええ。でも、まゆは基本的に純粋でとてもいい子です」

CoP「その点は」

ヘレン「意義はないわね」

P「だからこそ、そういう苛烈でドロドロした部分がある自分をまゆは認められなかった」


ヘレン「だけど、弱さを認められないものは、弱さに立ち向かい、乗り越えることはできないわ」

P「僕もそう思います。ただ、それにはある程度の強さが必要です」

P「だから、まゆには少しでも強くなってもらう必要があった」

CoP「なるほど。じゃあ、あのタイミングでストーカー犯役をやらせたのは・・・・・・?」

ヘレン「あの子は事務所の活動を通じて、だいぶ力が湧いていたみたいだったものね」

P「はい。その分、僕への積極的なアプローチが度を越してきて困ってたというのも本音なんですけどね」

P「ただ、それは彼女のエネルギーが出てきたということかなと思って」


ヘレン「くわえて、事務所の同年代の子たちの支えもあった」

ヘレン「光や麗奈はよく懐いていたし、みちるや奈緒、それに智絵里も彼女に良い影響を与えていたんじゃないかしら」

P「ええ。智絵里はまたちょっと違った影響だとは思いますけど」

P「光も麗奈も、みちるや奈緒も本当によくまゆを支えてくれました」

P「みんなには感謝してもしきれませんよ」


CoP「それにしてもストーカー犯役とは、あまりにもあからさますぎたんじゃないか?」

P「そこは僕も不安だったよ。でも、だからこそという思いもあった」

ヘレン「自分の負の面を、演技する“役”として自分の外に置くことで、かえって距離が取れるということもあるわ」

ヘレン「その上で、ゆっくりと、自分の中に取り込んでいかなければならないのが演じるということ」

ヘレン「あなたが狙ったのは、その演ずるという過程を取ることで、まゆが自分自身の負の面を少しでも受け入れることだったのでしょう」


ヘレン「それをするには、十分な力が本人にでも出てきたし、周囲のサポートも信頼できると、あなたは判断した」

P「本当にヘレンさんは何でもお見通しですね」

CoP「当然だ」

ヘレン「これが」

ヘレン・CoP「世界レベル」

P(・・・・・)


ヘレン「その目論見は成功したかしら」

ヘレン「少なくとも私は、あれから、まゆは徐々に安定してきているように感じるわ」

P「そういってくださると、僕も安心できます。さぁ、そろそろ事務所に着きますよ」


――

ヘレン「ご苦労様」

CoP「ありがとう、P」

P「うん。あ、そうだ、CoP、お前しっかり奈緒ちゃんの」

CoP「おっと、みなまで言わないでも大丈夫だ。わかってるさ」

P「ならいいんだが」

ヘレン「私からもPに良いかしら」

P「はい、なんでしょう?」


スッ

ヘレン 「まゆが安定したこと、『恋愛シンドローム』を演じきったからだけとは思えないわ」

ヘレン「あの前後、あなたとまゆ、何かあったのかしら?」ヒソヒソ

P「へっ!?」

ヘレン「フフッ。まぁ、いいわ。ちゃんとまゆのお祝いをしなさいね」

ヘレン「あなたたちは不思議な縁で引き合ってる。そうね・・・・・・グラヴィティとでも呼べる力で」

ヘレン「それを大切にしなさい」


――― 渋谷生花店

凛「いらっしゃい。Pさん」

P「あ、渋谷さん。今日のお仕事は?」

凛「仕事? 今日は休みだよ」

P「そっか。あ、奈緒ちゃんがよろしく言っておいてくれって」

凛「うん、後でメールしておく」

P「また、近いうちに事務所の垣根を越えた夢のユニット」

P「トライアドプリムスの仕事がまたあると思うから、そのときは奈緒ちゃんをよろしくね」

凛「いえいえ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」フカブカー


凛「事務所が違うのに、一緒のユニット組むってのも面白いよね」

P「まぁ、ウチの事務所と渋谷さんのところと、北条さんのところは仲がいいからね」

凛「うん。・・・・・・それじゃあ頼まれてた花束だけど」

P「お願いします」

凛「はい。紫のチューリップに、エキナセア、ツキミソウね」

凛「あんまり地味になりすぎないように活け方を工夫したから、崩れないように持っていってね」

P「渋谷さんが活けてくれたのかい?」

凛「まぁ、まゆのためだしね」

P「ありがとう」ニッコリ


凛「今日はまゆについて行ってあげないでいいの?」

P「うん、大丈夫だよ。ははっ、今日会った子たち、みんなそこを気にしてくれるんだ」

P「嬉しいんだか、目が離せないんだか」ホホエミ

P「でもね、最近のまゆは1人で仕事現場に行くことも増えてるんだ」

凛「へぇ。意外。いい変化、なのかな」

P「ああ。まゆと渋谷さんとは温泉での撮影会以来だっけ?」

凛「その後すぐに、スペースワールドのお仕事でも一緒にやったよ」

P「そうだったね」

P(そういえば、あの時の温泉撮影会でも、まゆは・・・・・・)




――

――― 回想

P「・・・・・・まゆ? 大丈夫か?」

まゆ「・・・・・・プロデューサーさん? まゆは・・・・・・」

P「温泉でのぼせ上ってたんだよ。それで僕の部屋まで運んで看病した。気がついてよかったよ」

まゆ「あっ、この格好は・・・・・・?」

P「渋谷さんに手伝ってもらって、着替えさせてもらった」

P「さすがに僕が着替えさせるわけにはいかないから」


まゆ「Pさんならいいんですよぉ」

P「まゆ。そういうことを言うんじゃない。ただでさえ、良からぬ場所でのぼせてたんだから」

P「もうこういう心配はかけないでほしいな」

まゆ「あ、その・・・・・・ごめんなさい」ショボーン

P「うん。反省するなら、よし」

まゆ「はい・・・・・・」ションボリ


P「・・・・・・まゆ、何か飲みたいものとかあるかい?」

まゆ「あ、えっと・・・・・・」

P「もう怒ってないよ」ナデナデ

まゆ「うふ♪ ・・・・・・それじゃあ、冷たい麦茶を」

P「よし、じゃあ、買ってくるから、横になって休んでて」

まゆ「はい」

まゆ(計画・・・・・・失敗しちゃった・・・・・・)テレテレ


――

P「はい、麦茶」ピトッ

まゆ「ひゃん」

P(かわいい)

まゆ「ありがとうございます」

P「・・・・・・まゆ、まだ心配かい? 僕がまゆから離れてしまうことが」

まゆ「・・・・・・正直に言うと、まだ少し」


まゆ「ほんとはまゆって弱い子なんです・・・・・・Pさんだけの・・・・・・」

まゆ「でも、Pさんはとっても優しいから、そんなことないってしっかりわかってます」

まゆ「・・・・・・約束もしてくれましたし」

P「うん」

まゆ「それに、まゆはもう決めたんです。Pさんが望むなら何だってしてあげるって」

まゆ「トッププロデューサーにだってしてあげる・・・・・・♪」

まゆ「だから、信じています、Pさんのこと」


まゆ「今日だって、ちゃんとかけつけてくれました♪ やっぱり、Pさんは私の一番大事な」

P「プロデューサーだからな」

まゆ「・・・・・・はい」

P「だから、まゆと僕はトップアイドルになるまでずっと一緒だ」

まゆ「その後は?」

P「それはこの前、話した通り」

まゆ「うふふ・・・・・・なら、ずっと一緒ですね」


まゆ「・・・・・・まゆの物語はPさんと出会って始まったの・・・・・・だから運命の赤いリボンは貴方に繋がってるって信じてるんです」

まゆ「このリボンが絡みついて・・・・・・貴方と私を強く結びつけてくれるって・・・・・・」

P「なら、僕はまゆの物語をずっと見守っていくよ。それは、ここであらためて約束する」

P「これからのまゆの物語も、これまでのまゆの物語も」

P「そしてできれば、僕と出会う前のまゆの物語も」

まゆ「・・・・・・うふふ。やっぱりプロデューサーさんは、優しいですね」


P「それじゃあ、まゆ、自分の部屋に戻りなさい」

まゆ「はい、Pさん」スッ

まゆ「それじゃあ、おやすみなさい」

P「ああ。おやすみ」

スッー パタン

まゆ(約束・・・・・・また、してくれた。きっと今日は運命の夜・・・・・・)



――― 回想終了

――


凛「Pさん?」

P「・・・・・・あっ、ごめんごめん。少し考え事してた」

凛「まゆのことかな」

P「・・・・・・」メソラシー

凛「ふふっ・・・・・・愛されてるね、まゆは」

凛「やっぱりまゆはPさんに出会ってからだいぶ変わったと思う」

P「ほう」


凛「私が見る限りだけど、だいぶ柔らかくなったような気がするよ」

凛「まぁ、最初からとげとげしくはなかったけど、それでも棘が取れてきたというか」

凛「でも、まだ見守ってあげてね」

凛「やっぱり、まゆはプロデューサーさんがいなくなりそうになると・・・・・・」

凛「それを自分のせいだと思いこんじゃうところがあるからさ」

凛「自分に引き寄せる力がなかったって・・・・・・」

P「渋谷さん・・・・・・ありがとう。ちゃんと覚えておくよ」

凛「ん」


――― とある映画撮影現場

P(智絵里は・・・・・・まだ、撮影中か。予定だと18時には終わると思うんだが)


―――その後、19時。Pの車

智絵里「Pさん、ごめんなさい。撮影が押しちゃって・・・・・・」

P「いいんだ、智絵里。智絵里のせいじゃないからね。そんなことより、智絵里の演技、また上手になってたな」

智絵里「えへへ・・・・・・Pさんにそう言ってもらうと・・・・・・すごく嬉しいです」

智絵里「あ、でも、Pさん、今日は・・・・・・まゆちゃんの・・・・・・」

P「そうだね。今日はまゆの」

智絵里「そうでしたよね・・・・・・こんなに遅くなっちゃって大丈夫ですか?」


智絵里「急ぐようなら、駅に降ろしてくれれば、そこから帰りますよ」

P「まぁ、まゆも仕事が遅くなるかもって連絡があったからね」

P「それに事務所で少し会うだけさ。だから、家まで送っていくよ」

智絵里「ありがとう・・・・・・ございます・・・・・・」

智絵里(後ろの花束・・・・・・)

智絵里「プレゼントは・・・・・・何にしたんですか?」

P「ちょっと月並みになっちゃったかもしれないけど、リボンにしたよ」


P「赤いリボン。そろそろ新しいのが欲しいって言ってたからさ」

智絵里「いいですね・・・・・・まゆちゃんにピッタリだと思います」

智絵里「・・・・・・Pさん、わたしにも、クローバーの刺しゅう入りの可愛いクッションくれました・・・・・・あれ、とっても嬉しかったです///」

P「そう言ってもらえると、贈ったかいがあったよ」


智絵里「はぁ・・・・・・」

P「どした?」

智絵里「あ、ごめんなさい・・・・・・溜息なんて」

智絵里「・・・・・・まゆちゃんが羨ましいなぁって思って」

P「羨ましい?」

智絵里「はい。・・・・・・まゆちゃん、大好きな人に大好きだっていう気持ちをすごく真っ直ぐにぶつけられて」

智絵里「・・・・・・わたしは勇気がないから、そういうの、あんまりできなくて」


智絵里「・・・・・・一生懸命やってるつもり・・・・・・なんですけど」

P「そうか。智絵里はまゆのそんなところが羨ましいんだね」

智絵里「アイドルだから・・・・・・恋愛しちゃいけないのかな、って思ったりするんですけど」

智絵里「・・・・・・好きな気持ちって、止められないというか・・・・・・やっぱり好きなんだなってあるから」

智絵里「・・・・・・難しいですよね」

P「そうだね。アイドルだから、たしかに恋愛が表沙汰になるのは良くない」

P「だから、恋愛している様子をファンに見せるのは避けた方がいいとは思う」

智絵里「・・・・・・はい」


P「でも、好きだっていう気持ちは否定しないでいいよ、智絵里」

智絵里「えっ?」

P「誰かを好きになること、それは止められないし、止めなくていい」

P「ただ、アイドルだから行動は我慢しなくちゃいけないけど・・・・・・まぁ、これはタイミングとか、そういう問題でもあるんだよ」

P「だから絶対に駄目かというと、そうじゃない場合も出てくるし」

P「それに、真摯に誰かを好きになって、その人のために輝けるよう努力するなら、ファンも許してくれることだってあるさ」

智絵里「そう・・・・・・なんですね」

P「とっても難しいけどね」


P「ちょっと話が逸れちゃったね。まゆの行動力が羨ましいって」

智絵里「はい。まゆちゃんは、とっても正直にその人に想いを伝えるじゃないですか・・・・・・」

智絵里「その、えっと・・・・・・Pさんに、向けて」

P「うん、まぁ、そうだよねぇ」ニガワライー

智絵里「ソロでCDデビューしたのも一緒でした」

P「そうだね。智絵里の歌、智絵里の雰囲気にぴったりですごく良かったよ」

智絵里「あ、ありがとうございます・・・・・・!」


智絵里「それで・・・・・・まゆちゃんの歌も、すごく彼女らしいというか」

智絵里「・・・・・・まゆちゃんが歌っている姿はとっても純粋で・・・・・・少し怖いぐらいでした」

P「うん。たしかに」

智絵里「それだけ、自分の想いを歌にのせてるんだなぁって・・・・・・」




――

――― 回想

まゆ「Pさん♪」

P「まゆ! おつかれさま。どうだった、初めてのソロ曲は?」

まゆ「ステージも楽しいですね♪ 今、すごく幸せです♪」

まゆ「本当にありがとうございます、Pさん。こんな素敵な曲をまゆにくれて」

P「まゆが歌うからこそ、素敵な曲になるんだ。よく歌い上げたね。すごく魅力的だったよ」

まゆ「うふ♪」


P「他のみんなのステージもすごく良かったし」

まゆ「あ・・・・・・やっぱり他の子の曲も聞いてますよねぇ? まぁ、当然ですよね・・・・・・」

まゆ「でも、まゆのことを一番に見ていてほしいなぁ・・・・・・」ゴニョゴニョ

P「まゆ、僕はどの子たちも一番になるように、みんなを全力で見守っているつもりだよ」

まゆ「うふ・・・・・・そうですね。Pさんは、そういう人です。はい」

まゆ「・・・・・・今は、それがとっても嬉しいですよ♪」

まゆ(でも、いつかは・・・・・・私だけを)


まゆ「・・・・・・Pさん、大好き・・・・・・」ボソッ

P「?? なにか言ったかい?」

まゆ「やだ、何でもないです♪」

まゆ「Pさんに出会えてなかったら・・・・・・ううん、何でも♪」

P「そっか・・・・・・」


まゆ「あ、そうだ」イタズラナ笑顔

まゆ「このリボン、Pさんにも結んであげますね」

まゆ「一生ほどいちゃダメですよ? Pさん♪」

P「あ、ありがとう・・・・・・。でも、一生ほどかないのは、ちょっと仕事に影響が・・・・・・」アセアセ

まゆ「うふふ♪ ごめんなさい、冗談です!」

まゆ「じゃあ、ほどいてもいい代わりにまゆのお願いきいてくれませんか?」

P「叶えられるかはわからないけど・・・・・・きかせてごらん」


まゆ「いつか・・・・・・いつか、でいいです・・・・・・」

まゆ「Pさん・・・・・・あなたの口で言って、聞かせてくれませんか?

まゆ「『大好きだよ』って・・・・・・うふ、うふふふ♪」



――― 回想終了

――



智絵里「まゆちゃんみたいに・・・・・・わたしも強くなれるでしょうか?」

P「強い、か・・・・・・。智絵里、君はずいぶん強くなったと思うよ」

智絵里「??」

P「最初は自信がなくて、他のアイドルや僕の後ろを2歩も3歩もあけてついてきていた子が」

P「今や立派なA3ランクのアイドルだ」


智絵里「そ、そんな・・・・・・それはPさんが、がんばってくれたから///」

P「智絵里ががんばらないと、成し遂げられなかったことさ」

P「今日だって、夕方まで1人で映画の撮影をしてたし、共演者さんたちとも仲良くやってたじゃないか」

P「うん、すごく成長したってことだよ」

智絵里「あ、ありがとう・・・・・・ございます///」


P「自分の気持ちだって、しっかり表現できるようになってるしね」

P「今日だって、智絵里がまゆのことを羨ましいって思ってること、正直に話せたしさ」

智絵里「えへへ///」

P「智絵里、これはまゆには内緒にしてほしいんだけど、まゆは智絵里のことが羨ましいって言ってたんだぞ」

智絵里「へっ!?」

P「智絵里はとっても強い子だって」


P「自分のできる範囲とできない範囲をわかったうえで、少しづつできる範囲を広げるために、怖くても新しいことにちゃんと挑戦できる」

P「そういう強さがとっても羨ましいって」

智絵里「・・・・・・///」

P「外に広がって、いつかは大きく羽ばたいていける、そんな強さが智絵里にはあると、僕も思う」

P「もしかしたら、この事務所に来て、一番成長したのは智絵里なんじゃないかな」

智絵里「そ、そんな・・・・・・うぅ・・・・・・とっても恥ずかしいです///」

智絵里「で、でも・・・・・・そうやって思っててくれたなんて。すごく嬉しいです!」

P「うん。僕もなんだか嬉しくなってきたよ」アハハ


――

P「さ、そろそろ着くよ」

智絵里「Pさん、今日は本当にありがとうございました」

智絵里「あの・・・・・・まゆちゃんが羨ましいっていうのは、さっき話したことだけじゃないんです」

智絵里「好きな人のために、あれだけがんばれる姿が羨ましいなぁって・・・・・・」

智絵里「わたしにも・・・・・・その・・・・・・好きな人がいて」

智絵里「だけど、その人のことを好きな人は他にもいて・・・・・・とってもかなわないようなライバルなんです・・・・・・」

P「・・・・・・うん。そうなんだね」


智絵里「でも、わたしは諦めません」

智絵里「・・・・・・少しでもその人のためになるように、がんばろうって思います」

智絵里「もし、それでもダメだったら・・・・・・えへへ」

智絵里「もっと、もっといい人を見つけて、悔しがらせちゃいます!」

智絵里「・・・・・・そのぐらい、がんばれたらなって」

P「・・・・・・そっか。智絵里なら、絶対にがんばれるよ。僕も応援する」

智絵里「はい♪ だから、Pさん・・・・・・わたし、がんばりますねっ!」


――― 事務所に戻る車内


P(だいぶ時間が押しちゃったな。まゆ、事務所で待ってるだろうなぁ・・・・・・)

 そんなことを考えながら車を走らせていた。大切な日だ。なにかあってはいけないから、できるだけ安全運転を考えて。待っててもらうことには実は何の不安もないし。


 智絵里は、まゆのことを「強い」と言った。智絵里にとって、まゆのどこに強さを感じるのか、それは本人の感性だから完璧には僕にはわからない。

 でも、少なくとも、僕にはまゆが「強い」とは言い切れないかった。たしかに、「強い子」であるようには見えるかもしれない。でも、そこには「強さ」と同時に「脆さ」が、もっと言ってしまえば「危うさ」があると、僕は感じている。

 ダイヤモンドは世界で一番固い鉱物であるといわれるが、同時に脆い鉱物でもあるといわれている。一瞬の大きな衝撃には耐えられない。なぜなら、柔らかさが全くないからだ。柔らかさ・・・・・・余裕と言ってもいいだろう。


 まゆも・・・・・・。言ってしまえば、彼女の強さは,ダイヤモンドのような強さだったと思う。



 智絵里は、最初は自分に“自信”がなかったが、それを受け止めて前に進む余裕がまだあった。


 まゆはどうだった? まゆは智絵里のことが羨ましいと言っていた。それは、自分の弱さを受け止め、その上で外の世界に開かれていける、そういう智絵里の強さに対する憧れだろう。


 でも、まゆは・・・・・・自分に“価値”がないと思い込んでいたから、弱さを受け入れる余裕なんて全くなかったんだ。



 それでも、なまじ能力が優れているから、弱さを受け入れてはじめて先に進める壁に当たることが、ほとんどなかったんじゃないかな。

 やってこれてしまった。

 これは、まゆにとって幸か不幸かはわからないけど・・・・・・。



 『恋愛シンドローム』の仕事の帰り。後部座席に座ったまゆは疲れ切っていた。


まゆ「やっと・・・・・・やっとふたりきりになれましたね・・・・・・うふふ♪」

P「まゆ・・・・・・疲れてるだろ? いいよ、寝ていても」

まゆ「そんなことありませんよぉ。まだまだ、大丈夫です」

P「そうかな。表情はそう言ってないように見えるけど」

まゆ「そうですかぁ・・・・・・。でも、まゆ、今とっても幸せです」


まゆ「Pさんと・・・・・・このまま・・・・・・時が止まればいいのに・・・・・・」

P「う~ん・・・・・・それは難しいお願いだなぁ。どうしたって、時間は過ぎていくからなぁ」

まゆ「もう・・・・・・わかってますよ、Pさん」プンプン

まゆ「・・・・・・でも、本当に久しぶり。Pさんとふたりきりになるの・・・・・・うふふ」

P「そうだね。僕もまゆも別々に仕事しないといけない時が増えた」

P「他の子もがんばってくれてるからかな」

まゆ「はい。そうですよね」ニッコリ


まゆ「でも、まゆは寂しいです」

まゆ「Pさんが、まゆのこと、あんまり見てくれなくなるんじゃないかって」

P「寂しい、か・・・・・・」

まゆ「まゆにはもう・・・・・・Pさんしか見えていないの・・・・・・」

P「それは、嬉しいけど、プロデューサーとしてはファンもちゃんと見てほしいなぁ」

まゆ「・・・・・・」


P「・・・・・・まゆ?」

まゆ「まゆの心と身体は全部Pさんだけのものですよ♪」スーッ

P(えっ?・・・・・・涙?)

P「まゆ・・・・・・泣いているのかい?」

まゆ「えっ!? あれ? そんな・・・・・・どうして・・・・・・」ポロポロ

P(・・・・・・車、停めるか)


――

P「まゆ」

まゆ「・・・・・・Pさん。ぐすっ・・・・・・ひっく・・・・・・ごめんなさい」

まゆ「・・・・・・うぅ・・・・・・なんでだろう・・・・・・涙が止まらなくて・・・・・・えっぐ」

P「まゆ、隣にいっていいかい」

まゆ「はい・・・・・・ぐすっ・・・・・・お願いします」ポロポロ



 そのとき、本当に情けないことなのだけど、僕は初めて彼女の左腕を見た。いつも隠すように長袖やリボンで隠されていたその左腕の素肌を。


P「まゆ」ナデナデ

P「よくがんばったな。今日の仕事だけじゃない。今まで、ずっとだ」

まゆ「は゛い゛・・・・・・ひっく・・・・・・うぅ、ぐっ・・・・・・は゛い゛」

P「きっと僕も気づかないところで、本当にがんばってたんだよな」

P「ごめんな。そこまでちゃんと見てあげられなくて」

まゆ「そんなぁ・・・・・・Pさんが・・・・・・謝るような、ことじゃ・・・・・・」ポロポロ

P「いや、言わせてほしい」


P「プロデューサーとしてだけじゃなく、1人の人間として、まゆのそういうところもちゃんと気づけるように、見守れるようにするよ」

まゆ「・・・・・・」コクコク

P「だからさ、まゆのそのがんばりを、少しでもいいから僕にも背負わせてほしいんだ」

P「そうすればきっと・・・・・・まゆ、君がちょっとでもがんばらなくてすむようになるんじゃないかなって」

まゆ「Pさん・・・・・・えっぐ、ひっく」ポロポロ


まゆ「まゆ・・・・・・ずっと不安だったんです。ぐすっ」

まゆ「事務所にはとっても可愛くて、とっても良い子たちがたくさんいて・・・・・・」

まゆ「私もみんなが大好きになって。でも、まゆはホントはぐちゃぐちゃで」ポロポロ

まゆ「でも、Pさんはまゆに優しくて、みんなにも優しくて」グスッ

まゆ「それでプロデューサーさんで、私はアイドルで・・・・・・うぅ・・・・・・ひっぐ・・・・・・」


まゆ「いつかは・・・・・・その・・・・・・Pさんが、まゆから離れて行っちゃうんじゃないかって・・・・・・」

まゆ「すごくすごく・・・・・・怖くて・・・・・・うぅ、うわぁぁぁん」ボロボロ



 まゆは堰を切ったように大粒の涙を流した。僕に初めて見せた涙だった。

 いや、きっとこの子は、今まで他の誰にもこんな涙を見せたことがないのかもしれない。



 僕にはもう、彼女の震える肩を黙って抱き寄せることしかできなかった。

 ぎゅっと。

 落ちてしまわないように。


――

P「まゆ、落ち着いたかい?」ナデナデ

まゆ「はい・・・・・・Pさん、ありがとうございます。ずっと抱きしめてくれて・・・・・・///」

まゆ「あの・・・・・・まゆ,Pさんに一番大事なこと、はっきり伝えてなかったと思うんです」

P「??」



まゆ「まゆはPさんのことを・・・・・・」





まゆ「誰よりも愛していますから、ずっと、ずっーと!うふ♪」


P「ふっ・・・・・・あははっ。そっか。うん、ありがとう、まゆ。でもな・・・・・・」

P「知ってたよ」ニッコリ

まゆ「えっ? ふっ・・・・・・うふふふ・・・・・・あはははっ♪」

まゆ「嬉しい! 伝わってて、よかったぁ♪」

まゆ「じゃあ、Pさん、1人の人間として、お返事ください♪ まゆからのお願いです」

P「そうだね。それじゃあ・・・・・・」

P「まゆ、約束するよ。僕は―――」



――― 回想終了

――




 結局、その時の約束で、僕の本当の気持ちをはっきり伝えることはしなかった。ちょっと(かなり?)都合の良いような言葉になってしまったけど、それでもまゆは僕の気持ちを汲んでくれたようだった。

 だって、プロデューサーがアイドルに「大好き」って明言するのも、今はまずいでしょう?

 だから、これは“いつか”まで大切に取っておこうと思う。



 まゆは、きっといろんな辛さから必死に自分を守ってきたんだ。

 そうやって無理をしながら、元々の能力の高さでたいていのことは表面的には上手く乗り越えてくることができた。決定的に足りない何かをそのままにして。


 でも、欠けたものの積み重ねに対しては、どこかで必ずツケを払わなければならない。ダイヤモンドのように固まった彼女の「強がり」はもたないときが近づいていたのかもしれない。



 おそらく、僕はそのギリギリを掴まえることができたんじゃないかな・・・・・・。それはおごりかもしれないけど・・・・・・。


 そうだな、感謝するなら、きっと、事務所のみんなに感謝するべきだろう。



 まゆはもう大丈夫。だって、あんなに綺麗な花嫁姿を見せてくれた。



 意識もアイドルとしていい方向に向いて来たんだと思う。

 僕を幸せにするためと本人は行ってるけど、アイドルとしてみんなから愛される自分を認められるようになってきたんだと、僕は考えている。



 それに、まゆの口から初めてまゆ自身の故郷の話を聞いた。

 仙台は、彼女の生まれた土地の海は、いいところだと。

 自分の昔の話をほとんどすることのなかったまゆが・・・・・・。



 チャペルでの撮影のときもこっそり僕に耳打ちをしてきた。「いつか・・・・・・いっしょに幸せになれますように」と。

 今じゃなくていい、未来のどこかにある“いつか”を、まゆが待てるようになったこと。

 まゆといっしょにその“いつか”に向いて歩いて行けること。


 それが、なによりも嬉しい。



 まだ、その左腕にリボンを巻く必要はあるけれど、それも徐々に消えていっている。

 そのリボンも“いつか”は,まゆの腕を縛ることから解放されるのだろう。


――― 夜の事務所

ガチャ

P「ただいま戻りましたー」

ちひろ「あっ、おかえりなさい。Pさん」

P「おつかれさまです、ちひろさん。まゆ、まだいますか?」

ちひろ「はい。ずっと待ってましたよ~」

ちひろ「さっき、風にあたりに行ってくるって言って、屋上に上がりました」

P「そうですか。それじゃあ、僕、まゆと少し話してきますね」

ちひろ「ええ。ちゃんとお祝いしてきてくださいね。色男さん」

P「からかわんでください」


――― 事務所の屋上


 雲ひとつない夜だった。

 ビル街の中にあるにもかかわらず、事務所の屋上から見上げる夜空には星の灯りがまばゆい。


 雲のない星灯り煌く夜の海を背景に、少女の後姿。

 数年経っても背は小柄な方だ。ふわりとしたシルエットの可愛らしさは初めて会ったときと変わらない。星の海にひときわ映える赤いリボンはたしかに少しくたびれているかも。

 後姿だけでわかる。・・・・・・あぁ、彼女は美しい。





 そして、・・・・・・愛しい。





P「まゆ」


まゆ「!・・・・・・Pさん♪」



 振り返りかけたその横顔は、その瞳は、とても穏やかで、とても澄んでいて、とても眩しかった。




P「まゆ・・・・・・誕生日、おめでとう」




                 ――おわり――

長さの分,愛を込めたつもりです。今日中に終われて本当によかった。
おつきあいいただいた方,ありがとうございました。

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