側近「私、文官なんですけど」(18)

「貴様が魔王か!?」

魔王「そうだ。ようこそ我が城へ、勇者ご一行…いや、神の犬の諸君」

勇者「神の犬で結構!魔王!貴様を討ち、平和を取り戻せるならな!!」

「神の加護を受けてるだけで犬呼ばわりたぁな」

「人間界に仇なし、主をも貶めるなんて、許せません!」

勇者「覚悟しろ!」

魔王「降りかかる火の粉は払わねばならんな。側近、危ないから下がっておれ」

側近「はい、陛下もご武運を」

勇者「くらえ!勇者スラッシュ!」

魔王「なんの!ルシファーズストラッシュ!」

魔王「くっ!互角か、やるな…ではこれでどう…」

「戦士大斬刀!」

魔王「うおっ!?」

「僧侶ボーガン!」

魔王「くっ!ちょ、ちょい待ち!」

戦士「何だぁ?ここに来て命乞いでもするつもりか?」

魔王「いや、何でお前らまで攻撃してんの!?普通、勇者が一人で戦うんでないの!?」

僧侶「私たちの使命は魔王を討ち、魔物から人間を救うこと!」

戦士「一騎打ちを期待してたんなら残念だったな」

勇者「皆!今度は一斉攻撃だ!!」

魔王「ひょえええ!!」

勇者「これで終わりだ!」

魔王「っとと、あわわ、そ、側近!助けて!マジ死ぬ!!」

側近「ええ!?すみません、無理です!」

魔王「いやいや、俺がやられそうなのに何で放置すんの!?君、俺の部下だよね!?」

側近「確かにそうですけど、でも!」

側近「私、文官なんですけど!?」

魔王「文官がデスクワーク専門とでも!?」

魔王「ていうか君の手に負えないと思うんならせめて誰か呼んできてよ!」

側近「それもそうですね!ええと、今日の勤怠表ではどなたがいますかね…」

勇者「いい加減くたばれ!」

魔王「おわあ!ゆっくり眺めてないで、早く!動きながらで!」

側近「は、はい!だ、誰か!すぐ来てくださぁい!」

「叫ばなくても聞こえてますよ」

僧侶「ドラゴン!?いつの間に!」

戦士「何だてめえ」

魔王「ああ!ナイスタイミング親衛隊長!!」

親衛隊長「これ以上陛下に手出しするな。無傷で帰せなくなる」

戦士「そいつぁ聞けねえな」

勇者「魔王討伐は俺たちの使命!邪魔をするなら…お前から倒す!!」

僧侶「僧侶旋風!」

親衛隊長「俺の羽ばたきにも劣るな」

僧侶「きゃあああ!」

戦士「てめえ!鍛鉄剣!」

親衛隊長「蠅が止まる」

戦士「うお!俺の剣が!?」

勇者「くそ!勇者スラッシュ!!」

親衛隊長「揃いも揃ってふざけてるのか?」

勇者「な!?造作もなく弾き返しただと!!?」

側近「さすが親衛隊長!仕事が速いですね」

魔王「ふ…我が配下に敗れるとは、勇者とやらもたいしたことはないな」

親衛隊長「……」

魔王「すいません調子こいてました二度と言いません!!」

側近「そういうことは仕事をきちんとしてから、ご自身で勇者を倒してから仰ってください」

親衛隊長「仕事をしてないのはお前もだ、女狐」

側近「え?私も!?どういうことですか!?」

親衛隊長「それは…と、後でな」

僧侶「まだ、負けてません…!」

戦士「ああ…俺らが諦める訳にゃいかねえ…!」

勇者「もう一度…同時攻撃だ…!勇者スラッシュ!!」

戦士「戦士…大斬刀!!」

僧侶「僧侶サイクロン!!」

親衛隊長「所詮この程度か…」

勇者・戦士「「うおお!!」」

親衛隊長「ここまで来た土産だ、手本を見せてやろう。ふん!」

僧侶「全身から発火して飛び上がった!?」

魔王「まさか…」

親衛隊長「せあああ!!」

勇者・戦士・僧侶「「うわあああ!!!」」

側近「弱った相手にメテオドライブですか、容赦ないですね」

親衛隊長「天井が低いせいで、本来の1割の威力も出なかったがな」

魔王「1割の威力も出なかったがなキリッ、じゃないだろ!屋内で大技とか城壊す気!?」

親衛隊長「陛下が負けていなければ、私がでしゃばる必要はなかったんですけどね」

魔王「そ、それは…」

親衛隊長「数的不利での戦闘訓練を真面目に受けないからですよ、絨毯や玉座はその授業料です」

魔王「ごめんなさい…」

側近「終わったことは気にしないで、今日からまた頑張りましょう」

親衛隊長「おい女狐、お前にも話がある」

側近「え?な、何ですか?」

親衛隊長「お前、俺が来るまで陛下放置してたろ、あれ職務怠慢だぞ」

側近「で、でも私、文官として採用されたので、戦闘は仕事にはないはずですが…」

親衛隊長「お前…就業規則も読んでないのか…ほら、見開き1ページ目の、ここだ」

側近「王宮勤めの全員に向けた方の規則ですか…ええと…」

第2条 業務の範囲



1節 共通業務

 王室に雇用されている者は有事の際、魔王を守護する義務を負う。
この業務に関しては、文官と武官、戦闘訓練の経験の有無に関係なく、従業員全員が負うものとする。



魔王「こんな項目あったんだ、知らなかった」

側近「私も知りませんでした」

親衛隊長「最初のページの内容だぞ?文官としても問題あるだろお前」

側近「返す言葉もありません…」

魔王「まあまあ、誰にでも失敗くらいあるんだから、今度から改善できるように頑張っていけばいいんじゃない、かなぁ…」

親衛隊長「そうですね、では今度から改善できるよう、お二人には暫く我々武官の訓練に参加して頂きます」

側近「そ、それは…」

親衛隊長「女狐には幻術、陛下には大人数相手の立ち回りを、それぞれ習得してもらいます」

親衛隊長「みっちり指導するのでそのつもりで」

魔王・側近「「いやああああ!!」」

1週間後

兵舎

側近「狐火を習得しました!有事の際はこれで時間を稼ぎ、陛下を逃がします!」

魔王「多対一の戦闘になれてきました!近衛兵5人までなら同時に相手取れるようになりました!」

親衛隊長「短期間で成果が出ているようで宜しい、今後も精進を怠らないように」

魔王・側近「「は!承知しました、隊長!!」」

親衛隊長「…誰が担当のときに仕込まれたんだ、この口調…」

側近「して、隊長!」

親衛隊長「どうした、女狐」

側近「その書類は何でしょうか!」

親衛隊長「ああ、お前に見せに来たんだった。神からの通達だ」

魔王「隊長!質問であります!」

親衛隊長「陛下は普通に話してください。国主が部下に異様に謙っていると色々問題視されるので」

魔王「では…何で神の言いなりになってるんですか?あなたの方が強いと思いますが」

親衛隊長「わざとですか?まあそれくらいなら問題にはならなそうですが」

親衛隊長「確かに正面から戦えば私が負けることはないでしょう」

親衛隊長「しかし、神には天候を操る能力があります」

親衛隊長「干ばつや洪水を繰り返して飢饉を起こせるんです」

側近「今回勇者が来ることになったのも、そうして起きた飢饉で魔族が人間界へ略奪に向かったのが原因でした」

魔王「魔界全体を人質に取られてるってことか…」

親衛隊長「殺しても蘇えりますし、一時のために逆らうわけにもいかないんですよ」

魔王「なるほど…ところで何で今回飢饉に追い込まれたんすか?」

側近「2ヶ月前に、陛下が外出されたためであります!」

魔王「積荷に紛れて密航したあれか…え?何であんなんで!?」

側近「有事でない限り、魔王は城から出るなという、以前の通達に違反した!」

側近「と!先方は主張しているであります!」

魔王「そんなご無体な!!」

親衛隊長「まあ無茶苦茶ですよね、自分への信仰を強めるためなら何でもする奴ですから」

魔王「ちょ、それって一生引きこもってろってことっすか!?」

親衛隊長「お気の毒ですが、はい」

魔王「noooooooooooo!!!」

魔界に対して、神から通達があった。曰く、

 ・今後は魔王より強い者を魔王城に配備しないこと
 ・魔王より強い者の赴任地は人間界との国境から魔王城までの区域を除外すること
 ・魔王城に攻め入った者が勇者である場合、魔王より強い者は赴任地からの移動を禁ずること

上記3点を滞りなく実施するように、とのこと。

側近たちはこれを承諾した。

以来、魔王を上回る実力者に勇者が蹂躙されることはなくなった。

また、指導者の質が落ちた分、魔王は平均的に弱体化することとなった。

そうして今日もまた魔王を越える猛者は座して待ち、粛清される魔王を傍観している。

めでたしめでたし

長編の合間の息抜き

そんな意図で書いていたはずだが、長編がことごとく序盤で挫折する

いつから長く書けなくなったのか…

我ながら情けない

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