剣士「廃屋のようだが灯りが……何にせよこの雨の中助かるな」(298)

剣士「……」ドンドン

「何者だ」

剣士「すまない、旅の者だがこの雨で難儀している。一晩宿を頼めないだろうか?」

「……どうぞ」

剣士「恩に着る」ガラ

エルフa「と言ってもこちらもこの雨でここに避難しているだけなのだがな」

エルフb「今暖かい飲み物を淹れますね」

剣士「すまんな。それにしても中はしっかりしているな」

エルフa「雨漏りの心配はないようだよ。身勝手な話だが寛いでくれ」

剣士「今の時世に旅とは……二人、しかもエルフだけとはな」

エルフa「わたし達の里は色々とあってな……わたし達二人だけが生き残りなんだ」

剣士「だが何故旅を……? 今時ならば、人里で生きるのもそこまで難しくないだろう」

エルフb「確かに難しくはないのですが、やはりエルフの女二人で生活と言うのも色々と問題がありまして……」

エルフa「どんなに人の良い所の地であっても、長く住めばそういう輩は寄ってくるからな」

剣士「それで転々とか」

エルフa「エルフだけの国があると聞く。広大の土地で、国と呼ぶに相応しい規模なんだそうだ」

エルフb「私達はそこを捜して旅をしているのですよ」

剣士「エルフの国……聞いたことがないな」

エルフa「全くだ。お陰で中々見つからないがそれはそれで楽しいぞ」

エルフa「で、お前は一体何故旅をしているのだ?」

剣士「俺は……自分探しだな」

エルフa「ふっ……なんだそれは。失恋でもしたか?」

剣士「俺は記憶が無いんだ」

剣士「気づいたら森の中にいて……言葉や最低限の事以外全くだ」

エルフb「何か手がかりはあるのですか?」

剣士「この黒い魔石以外、名前さえも分からないときたもんだ」

エルフa「なんだそれは……初めて見るな」

エルフb「なに……この魔力。普通じゃないわ……」

剣士「ああ、しかも俺以外には触れられないんだ」

エルフa「? どれ……」バチッ

エルフb「え?!」

エルフa「電撃か? 一体どうなっているんだ」ヒリヒリ

剣士「それが分かれば苦労はしないんだがな」

剣士「それにしても、エルフの知識でもってしても分からないか」

エルフa「すまないな、力になれなくて」

剣士「まあ四年近く一歩も進んでいないんだ。気長にやるさ」

エルフb「四年も……?」

剣士「他にやる事が無いからな」

エルフa「四年かぁ……相当な範囲を回ったのだろう?」

剣士「いやそうでもないな。そもそもこれの情報が一切ないからな」

剣士「本当に魔石なのか? 他にあるのか? あるのなら何処か? そもそもそういう情報が見つからないのは」

剣士「他に存在しないか、していても前人未到の最果てや辺境にあるのか……」

エルフb「世界の隅から隅まで旅をしているのかしら?」

剣士「そんなところだ。が、先も言ったようにこちらもエルフの国についてはな」

エルフa「はは、お互い似たものだな」

エルフa「なあ?」

エルフb「……そうね。私はいいわよ」

剣士「?」

エルフa「もしもそちらがよければ、同行させてもらってもいいだろうか?」

剣士「俺の旅にか? しかし何故……」

エルフb「私達は今まで情報だけを求めて旅をしていましたが」

エルフb「こうも見つからないとなると、どのような場所でも足を運んでみるべきなのでしょう」

エルフa「となると、人里離れた奥地まで旅をしているお前の経験は魅力的だからな」

エルフa「何より今、一から虱潰しに当たるよりもずっと効率が良い」

剣士「なるほどな……」

エルフa「確かにお前にとってはあまりメリットが無いかもしれないがどうだろうか?」

剣士「……」

剣士「いや……エルフの知識や魔法の知識は有り難い。何より俺の持つ知識は最低限度だ」

剣士「他国の情勢も世界地理の記憶は残っていないし、魔法はさっぱりだからな」

剣士「願ったり叶ったり……あ」

エルフb「どうかなさいましたか?」

剣士「いや、そういえばお互い自己紹介するタイミングを逃したな」

エルフa「あー……」

剣士「俺は魔法が一切使えない剣士だ。剣ならある程度自信がある」

エルフa「わたしは槍使いのエルフaだ。魔法は……得意じゃないんだ」

剣士「魔法が? 珍しいな」

エルフb「この子、昔から元気でして体を動かす方が性にあっているみたいなんですよ」

エルフa「悪いな。変なエルフで」

剣士「まあ、今の世のでそう戦う事もないだろうし、いざという時はむしろ前衛の数のが助かるだろう」

エルフa「でこっちが姉の」

エルフb「私はエルフbです。私は魔法だけ、ですね」

エルフa「典型的な魔法使いタイプなんだ」

剣士「姉? あまり似ていないな」

エルフa「二人だけの生き残りだからな。義理の姉妹としているんだ」

エルフb「そちらの方が何かと都合がいいのですよ。最もただの幼馴染なのですけどね」

剣士「しかし意外だったな。話の限りじゃ、人間あるいは男性不信があるんじゃないかと思ったが」

エルフa「それならそもそもお前を入れたりしないさ」

エルフb「これでもそういう人を見分けるのは得意なので」

剣士「なるほどな」

エルフa「で、だ。今までの旅先の確認をしたいのだが」

剣士「俺は現地で得た知識と地図だけだ」ガササ

エルフb「おおよその世界地図を描いておきますか」ガザ

エルフa「おいおい……ここって完全な山じゃないか。登ったのか?」

剣士「ただの山だったさ。そこだけで探索に一ヶ月近くかかった」

エルフb「それって……距離としてはあまり旅をされていないのでしょうか?」

エルフb「探索はこことこことここ……あとこの辺り」

エルフa「狭っ!」

剣士「まあ気長にやるつもりだったからな」

エルフb「四年かけて一つの国からも出ていないだなんて……」

剣士「にしても世界は広いな。三回生まれ変わっても、全てを踏破するなど難しいな」

エルフa「ある程度絞ったほうがいいと思うぞ?」

剣士「探索する魔法みたいなのはないのか? 周囲の地形を把握する魔法とか」

エルフa「魔法をなんだと……いや待て」

エルフb「探査魔法というものがありますので、もしかすれば今までよりもずっと楽になるかと思いますよ」

剣士「おおっ流石は魔法だな」

エルフa「当面は大まかな僻地を回りつつ、強大な魔石を目当てに探査魔法をかけ隅々までは回らない」

エルフa「それでいいか?」

剣士「そちらの都合もあるからもうちょいざっくりで構わんぞ」

エルフb「貴方にとっても大切な事なのですから、そんな自分本位な事はできませんよ」

剣士「いや……俺は一切の情報が無いから虱潰しにしていただけだ。他に目的が出来ればそれのついで程度だ」

剣士「とは言え今時旅をしている者も滅多にいないからな。こんな形になるとは夢にも思わんかったよ」

エルフa「お互い様だな」

エルフb「まさかこんな所で誰かに会うだなんてとても思いませんでしたしね」

剣士「話は逸れたがそんな訳だから、二人のエルフの国探しのついでで構わんさ」

……
剣士「やっと雨が上がったか……」

エルフa「そろそろ出るとするか」

エルフb「数日振りの晴天ですね」

エルフa「そういや、お前はどうやって路銀を稼いでいるんだ?」

剣士「用心棒や傭兵の仕事をたまに。後は獲れた獲物や薬草になる野草を売り捌いたりな」

エルフb「そういった知識はお持ちなのですか?」

剣士「いや、気づいた時には森にいてな。そこで狩人の家で世話になった時教わったんだ」

エルフa「本当にお前自身正体不明なんだな」

剣士「困った事にな」

剣士「そちらはどうなんだ?」

エルフa「わたし達は町々で出されている依頼を引き受けているんだ」

剣士「なんだそれは?」

エルフb「……酒場でよく依頼書と言うものが貼られているのですが、ご存知でないのですか?」

剣士「……酒なんぞに割く余裕が無いからな」

エルフa「なるほど、と言いたいが情報収集の定番では……そうか、そういう知識も」

エルフb「苦労されているのですね……」

剣士「そこまで哀れまれると情けなくなるのだが……」

エルフa「そろそろ見えてくるな」

剣士「でかい町だな」

エルフb「ここから三ヶ国ほどの都市へ通じる街道があります。それなので結構な賑わいのある町なんですよ」

剣士「となれば」

エルフa「まあ、それで情報が得られたら苦労はしないけどな」

剣士「だろうが行動しなければ絶対に得られんしな」

エルフb「全くですね」

剣士「おー……」ガヤガヤ

エルフa「そういえばこれくらいの規模の町は初めてだったか」

剣士「ああ。居る所には居るもんなんだな。人ってのは」

エルフb「これくらいの町でしたら情報屋がいそうですね」

剣士「凄いな。そんな職種の者がいるのか」

エルフa「ふふ……過去八人に当たってきたが空振りだったよ……」

剣士「そうか……」

情報屋「なんだいお前さんら。重婚申請は受け付けていないぞ」

エルフa「んなっ!」

剣士「そんな薔薇色人生だったら困っとらんよ」

エルフa「お、お前も何言ってんだ!」

エルフb「え? それって……」

剣士「なんだ? 二人はかなり美人だろう。よほど個性的な趣味をした者でなければ男ならそう思うだろう」

エルフa「え、う……」

エルフb「ふふ、ありがとうございます」

剣士「……それだけ綺麗なのにaこういう事には免疫が無いのか」

情報「おーい、冷やかしなら帰ってくれねーか?」

……
情報「ほー随分とこれはまた……」

剣士「何か知らないか?」

情報「残念ながらな。そもそも黒い魔石なんぞ見た事が無いしな」

情報「なあ、お前以外に触れないっての、試してもいいか?」

剣士「指先だけにしておけよ」

情報「おおうっ!」バチィ

情報「こいつはまた……」ヒリヒリ

エルフa「お前も難儀なものだな」

エルフb「現物があるのに全く進展しないというのも……」

情報「確かな事は言えんが他に存在しないんじゃねーのかね」

情報「あまりにも存在が特異過ぎる。これほどの膨大な魔力を秘めていて、ここまで近づかなきゃ魔力を感じられん」

情報「何より、お前だけにしか触れないなんて設定、高度過ぎて現代で行える奴はいないんじゃないか?」

情報「それを作るにしても相当な魔力も必要だろうし……古代文明の産物かねー」

エルフa「しかしそれでは現代の剣士にしか触れない、というのは矛盾があるのでは?」

情報「記憶が無いしなぁ。古代人が未来にワープしてきたり、実は神の使いだったり……」

エルフb「最早、妄想の領域ですね……」

情報「それだけその魔石は得体が知れないのさ。そうだな……もし他に存在しているのだとしたら」

情報「近づいただけで魔石が反応するくらいの設定はされているんじゃないか?」

剣士「地道にやるしか他ないか」

情報「で、他に何かあるか? というか金になる情報を求めちゃいないのかね?」

エルフa「エルフの国を探しているのだが何かないか?」

情報「お前ら……揃いも揃って夢物語を追いやがって」

情報「不毛だね。人里なりエルフの里なり、過去を忘れて根を下ろしゃあいいものを」

剣士「そういう年になったから考えるさ」

エルフb「私達の里は……滅ぼされてしまいましたので」

情報「要らん要らん。身の上話なんて一銭の価値にもならん」

エルフa「はぁー……まあ、期待してはいないがここも空振りか」

情報「50,000g」

剣士「……は?」

エルフb「あの……魔石については情報と言うよりも相談の形だったと思うのですが」

情報「当たり前だ、んなもんで金はとらねーよ。むしろその魔石の存在を知ったこちらの支払いが相談だ」

エルフa「……? ……え?! まさか!!」

情報「つっても大した情報じゃあないが、雲を掴むような存在についての情報だからどうしても高額になるんだよ」

剣士「……どうするんだ? 結構高いぞ……」

エルフa「……これで少しでも前に進めるなら安いものだ」

エルフb「そうね……その情報、買わせて頂きます」

剣士「待て」

エルフa「え?」

剣士「商談といこうか」ニヤ

剣士「未知なる魔石の情報の支払いが相談? そりゃあないだろう」

情報「……」

剣士「それとこの二人が里を滅ぼされた、つまり生き残りだという情報」

剣士「もしも里を滅ぼされたエルフの生存者を探している、という者がいたら十分な情報になるよな」

エルフa「……あ!」

剣士「中々商売上手じゃないか?」

情報「……20,000g」

エルフb「……中々いじらしい方ですね。その様、色々と触れて周りましょうか」

情報「……いくらだ」

エルフa「5,000g」

剣士「何気に優しさが感じられる額だな……」

情報「はー……商談成立だ。あんたらに限らず、その国を探している者は多くいる」

情報「国家だったり夢見がちな山賊、はたまた一攫千金を望む商人」

情報「が、それだけの規模でも未だに見つかっていないそうだ」

エルフa「……え? それだけ?」

情報「ここからが本題だ」

情報「じゃあなんで見つからないのに、それが存在するという話があるのか」

情報「今考えられているのは二択、そもそも存在しないそれを誰かが吹聴した」

情報「初めはあまりにも現実味のある話でそれが拡散した」

情報「もう一つは……エルフにしか見つけられないんじゃないか、ってな」

剣士「その探索隊にエルフは?」

情報「居ても国が出した探索隊だろう。それを考えたらまだ可能性があるだろう」

情報「現にエルフの里自体、人間には認識し辛くなる結界があるのだろう?」

情報「エルフの国ともなればなぁ」

エルフa「しかし……それでは結局のところわたしらにはな」

エルフb「ある意味価値は大きいかと思うわよ」

剣士「そうだな……もしもエルフのいない団体さんの近くでこちらの素性を知ったら」

剣士「拉致しても問題にならない、何かあっても揉み消せると大胆になるだろうな」

エルフa「……あー」

情報「元々買い手の居ないような情報だからな。おまけしてやろう」

情報「そういう連中は大概、木々の多い所を手当たり次第探索したそうだ」

情報「流石に全くの結界対策がされていないという訳でもあるまいし、怪しい箇所すら発見できなかったとなると」

エルフa「山間や何処かの孤島……」

情報「あるいは周囲が登る事もできない岩山に、盆地状の土地なんてあったら誰も気づけないだろうさ」

エルフb「けれどもそれで的を絞るというのも……」

エルフa「そこまで楽観しちゃいないが、参考までにしておくよ。ありがとう」

剣士「良かったな。案外すんなりといって」

エルフa「まだまだだ。方角すら分からん」

剣士「だが存在するかもしれないあたりが付けやすくなっただろうに」

エルフb「それはそうですが、それでも世界は広大ですからね」

エルフa「今日のところは宿をとって、世界地図と睨めっこ……と行きたいが詳細な地図までは無いからなぁ」

エルフb「ですが一先ずは休むとしましょう」


エルフa「中々良い部屋だな」

エルフb「景色も良いしこれであの値だなんて信じられないわね」

剣士「おい、おかしくないか?」

エルフa「何がだ?」

剣士「何故俺も同じ部屋なんだ」

エルフb「値切ったとは言え流石にあの金額は痛いですからね……節約できる所はしませんと」

剣士「だとしても俺は男だぞ? 相部屋とか正気か?」

エルフa「何を言っているんだ。あの廃屋でだってそうだったろう」

剣士「今は状況が違うだろう」

エルフa「何も変わらないだろう。むしろより近しい存在になったのだ」

エルフb「あそこで何かされても私達を殺めてしまえばいくらでも逃げられる状況だったのです」

エルフb「その状況下で何もせず、何故この場で信頼できないというのでしょうか」

剣士「……二人には貞操観念というものがないのか?」

エルフa「馬鹿を言え。あるに決まっているだろう」

エルフb「流石に恥ずかしく思う場面もあるでしょうが、貴方を信頼しての事です」

剣士「……俺は男だぞ。魔が差しても知らんからな」

エルフa「その時はその時だ。こちらも応戦するさ」

剣士(というかあの免疫力で何故こういうのは平気なのだろうか……)

エルフa「ふぁ……おはよう」

エルフb「久々のベッドはよく眠れますね」

剣士「俺は理性との戦いでそうでもなかったがな」

エルフa「……」

剣士「俺は男だと言ったはずだ。嫌悪するくらいなら初めから部屋を分けてくれ」

エルフb「あ、いえそういう訳では」

エルフa「会って間もないのに……大事にしてくれるな、と嬉しいのだよ」

剣士「普通の男はこんなもんだと思うぞ」シレッ

エルフb(普通、こういう場合こういう返され方をするものかしら?)ヒソヒソ

エルフa(いやー……なんか剣士って良く分からない奴だよな)ヒソ

剣士「で、今日はどうするんだ?」

エルフa「少し稼がないとだからな」

エルフb「酒場にいって仕事を貰いましょう」

剣士(依頼か……初めて受けるが俺にできる事なんてそう多くは無いのだが)


剣士「どぶ攫いから野獣退治まで色々とあるんだな」

「よぉ姉ちゃんらー! 良い仕事斡旋してやるぜぇ!」

「けっ男咥えているのかよ!」

「ちょーっとお酌をしてくれりゃあお小遣いを弾むぜぇっへっへ」

剣士「真昼間からこれで、どうして治安がいいのか謎だ……」

エルフa「場所が場所だから兵士も多いんだよ」

エルフb「ただでさえ大きい町ですからね」

剣士「こんな所か」シャーチンッ

エルフa「戦うところを初めて見たが、随分な腕前じゃないか」

剣士「一人で僻地まで歩き回っているからな。これくらいできなくてどうする」

エルフb「でもこれだけの敵を倒すとは思いませんでした……」

エルフa「そうだなぁ……依頼にあった数の倍だ。報酬も上乗せしてもらえそうだな」

剣士「そういうものなのか?」

エルフb「より良い結果にはより多くの報酬が支払われるものなのです」

エルフa「ま、大した額じゃない守銭奴な奴もいたりするがな」

エルフa「討伐依頼と護衛依頼、とある作業の手伝いを三日で計八つ……」

剣士「随分と依頼があるものなんだな」

エルフb「かなりの稼ぎになりましたね……剣士さんがいなかったら五つこなすのは無理でしたし」

エルフa「追加報酬もでかいしな、て事で」

剣士「乾杯」

エルフa「乾杯」チャン

エルフb「乾杯」チン

エルフa「っぷはーー! まさか高額の情報を買った後にこんな贅沢ができるなんて」

エルフb「剣士さん様様ね」

剣士「で、これからどうするんだ?」

エルフa「そうだな……わざわざ情報を買ったからな。有効活用をしたいし大国に行くか?」

剣士「どんな繋がりがあるんだ?」

エルフb「地形までは細かく分からないですからね。大きな国でしたらそれも調べられる事でしょう」

剣士「……それってつまり、あまり足を使って探していなかった、て事か?」

エルフa「闇雲に探して見つかるならとっくに誰かが見つけているだろ」

エルフb「でも情報収集だけでは、とは何度も言っているのですがねぇ……」

剣士「……」

エルフa「b! け、剣士もそういう目で見るな! 面倒臭がった訳じゃないぞ!」

……
エルフa「ルートはここからこう……大国まで最短二ヶ月。どっかで行商の馬車に便乗できれば一ヶ月未満ってところだ」

剣士「こっちから大国に向かう行商って多いのか?」

エルフb「いるにはいますが、そこまで頻繁にという訳ではないので運頼みですね」

エルフa「まあ、正直な話大国行きは期待していないけどさ……」

エルフb「売りに行くのが多いからですからね……」

剣士「あーなるほどな」

エルフa「……街道突っ切れば結構早くに着けそうだな」

剣士「草もそんな高くないし、そこまで歩くのが大変って事もないだろうな」

エルフb「……街道ってどのくらいの頻度で歩かれますか?」

剣士「滅多に歩かないさ。ほら、ああいう山があったらそっち向かうから」

剣士「というかお前達としてはいいのか? 一応山だぞ」

エルフa「あそこには普通に人間の町があるよ」

エルフb「魔法による偽装でもありませんね。この国の木炭産出の要でもありますので」

剣士「……そういう知識、本当に助かるよ」

エルフa「いやまあ……お前の場合は近くまで行かないといけないわけだしなぁ」

剣士「うん……? この草原、ところどころ沼地になっているな」

エルフa「なんで分かるんだ……」

剣士「感覚的にというか何と言うか……俺が先頭に立つぞ」

エルフb「宜しくお願いします」

剣士「まあ、こういう所は歩きなれているからな。あまり俺の進む道から外れて歩かないようにな」

エルフa「すごい頼もしいな……」

エルフb「狩人だ、と言われても信じてしまうわね」

剣士「……?」ザッザッ

エルフa「どうした?」ザッザッ

剣士「いや、やたらと虫が多いが……こいつらなんだったかなぁ」ザッザッ

エルフa「そんなのどうでもいいから早く進んでくれー」ザッザッ

エルフb「うう、虫に纏わりつかれて気持ち悪い……」ザッザッ

剣士「……うーん、教わった気がするんだがなぁ」

剣士(沼地に涌く羽虫がどうのって……なんだったか)ザッザッ

エルフa「はぁ……はぁ……」ザッザッ

エルフb「どうしたの? このくらいで疲れるなんて珍しいじゃない」ザッザッ

エルフa「いや……なんだか……」ザッザッ

剣士「……」ザッ

剣士「あぁっ! b!! 火炎魔法で周囲の虫を焼き払ってくれ!!」

エルフb「え? 急にどうしたので……」

剣士「くそ……思い出したんだ。 a、悪いが抱えるぞ!」

エルフa「……? あ、ああ……」

エルフa「はぁ……! はぁ……!」

エルフb「街道に出れましたけれども、一体何を慌てて……」

剣士「あれは強力な毒を持つ虫なんだ……くそ、まずいな」

エルフb「a、大丈……なに、これ。すごい熱じゃない!」

剣士「……毒や病気に対して効く魔法は使えるか?」

エルフb「え? ええ、大丈夫です。今すぐ唱えますね」

剣士「いや、それでは治せないんだ」

エルフb「え……?」

剣士「専用の薬が必要になる。魔法では症状とその進行を緩和させるだけしか効果が無いんだ」

剣士「そこまで珍しい薬草じゃないが山に生えるものなんだ。俺はこれからあの山に向かって採ってくる」

剣士「その間aの事を頼む」

エルフb「も、もし……その、間に合わなかったら?」

剣士「……必ず間に合わせる。三日で戻ってくるから、初めから全力で魔法を使いすぎないようにな」

エルフb「け、剣士さん……」

剣士「大丈夫だ。この状況からなら絶対に助けられる」

エルフb「……はい。薬草の方はよろしくお願いします」

剣士「くそ……なんでこんなに生えていないんだ!」

剣士(流石にもう時間はあまり……)

剣士「! 見つけ、なんだってあんな高所に生えて……この様子じゃ他を見つけるのも難しいか」

剣士「よっ、よっと……」

剣士「んーーーーっと、よし、採れるな……」

剣士「……ん?」ビキッ

剣士「この崖、もうキてんじゃ……」バキン

剣士「もうちょい……もうちょい耐えてくれ」ビシン

剣士「うおおぁぁ!!」ガラガラガラガラ

エルフb(……もう三日の夕暮れ)

エルフa「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」

エルフb「剣士さん……なんで……まさか何か……」

エルフa「はぁっ! はぁっんぐ! はぁっ!」

エルフb「……a、もうちょっとだからね! すぐに剣士さんが来て薬を……」

エルフb「薬を……」ザッ

エルフb「!」クルッ

剣士「すまん、遅くなったな」ボロ

エルフb「剣士さん!? い、今治癒魔法を……」

剣士「致命傷じゃない……aに魔力を使ってやれ……それより俺の荷物を」ザッ ザッ

エルフb「は、はい……どうぞ!」ガササ

剣士「……」ゴリゴリゴリ

剣士「……よし、こんなもんか」ゴリゴリゴリ

剣士「こいつを飲ませてやれ……」

エルフb「わ、分かりました!」

剣士「残りの薬を一日三回、一日二日で全快するだろ……」ボタタ

エルフb「a、薬だよ……これを飲んで」

エルフa「うぐ、ん……く」

エルフa「はぁっ! はぁっ! はぁっ……」

エルフa「はぁっ……はぁっ……はぁ……」

エルフa「はぁ……はぁ……」

エルフb「あ……よかった、よかったよ……あ、剣士さん!」

剣士「ん……? ああ、薬が効いたか……こっちは、自前の薬を使うから気にするな……」

剣士「疲れたから……少し寝る」

エルフb「は、はい。ありがとうございます……本当にありがとうございます」

……
エルフa「……んん」

エルフb「……すぅ……すぅ」

エルフa「あ、れ……b?」

エルフb「……ん? あ、a!? 気が付いたのね! 大丈夫? どっか苦しいところは無い?!」

エルフa「少し、頭がぼーっとするけど一体……」

エルフb「沼地の虫の毒に中てられていたのよ……それで剣士さんが薬草を採ってきてくれて助けてくれたの」

エルフa「剣士……?」

剣士「……」

エルフb「……え?」

エルフa「座ったままの格好だぞ……」

エルフb「う、ううん、昨日あのまま眠るって……」

エルフa「ひ、一晩中あの姿勢だったって……?」

エルフb「……う、嘘ですよね? 剣士さん?」

エルフa「おい……剣士!」フラッドザッ

エルフa「くそ……」ズルズル

エルフb「剣士さん! しっかり……あれ?」

エルフa「……え?」ズル

エルフb「え、ええと、体温はちゃんとあるわ……」

エルフa「……えぇ?」

剣士「……? ああ、目覚めたか」モゾ

エルフa「ああ、助かったよ……だが、お前は大丈夫なのか?」

剣士「薬……副作用で催眠……白い包み、野草」

エルフb「え? ああ、これですね」

剣士「薬草……スープ……食べ……すぅ……すぅ」

エルフa「……人騒がせな」

エルフb「でも……よかった、本当に……」

エルフa「……ごめんね、心配かけて」

剣士「まだ本調子じゃないがそうは出血しないし大丈夫かね」グッグッ

エルフa「見た時は肝を冷やしたぞ……」

エルフb「ええ……」

剣士「そいつは悪かったな」

エルフa「いや……そのなんだ。本当にありがとう。お前が命を賭けてくれなければわたしは死んでいたんだ」

エルフa「だが、何故そこまでしてくれたんだ? 出会って一週間も経っていないわたしに命を賭けてまで」

剣士「……お前達は素性も分からない俺と共に旅をしたいと言ってくれた」

剣士「俺の事を信用してくれた。こんな俺を……であればこそ、俺にできる事でお前達の力になれるなら」

剣士「肉を斬られようと骨を断たれようと尽力するまでだ」

エルフa「剣士……」

エルフb「剣士さん……」

剣士「とは言ったものの今回の件に関しては……全面的に俺の責任だ」

剣士「俺があの時判断を誤らなければ、aが苦しむ事はなかったんだ」

エルフa「そうか……そういう事にしておく、が」

剣士「?」

エルフb「絶対に無理だけはしないで下さい。私達とて、同じ気持ちです」

剣士「あー……分かった。気をつけよう」

剣士「飽くまで街道を通り、安全な道を行くという事でいいか?」

エルフa「ああ、それで構わないよ」

エルフb「にしてもこの街道の作りは毒虫ゆえに沼地を埋められなかったからなのですね」

剣士「迂闊だった……全く、これさえなければもっと楽に進めるものを」

エルフa「まあ急がば回れと言うしな。それに昔と違って変な所に足を踏み入れるか、悪い者に近づかれなければそう危険もないしな」

剣士「昔? なにかあったのか?」

エルフb「剣士さんは……知らないですよね」

エルフb「遥か昔、魔王と言う者がいて魔物を率いて人間やエルフと争いを起こしたそうです」

エルフa「数百年、あるいは千年前の話と言われている。実際、人間側では風化しかかった歴史だ」

剣士「へえ……で魔王は討たれて全て世は事もなし、か?」

エルフa「……実際のところは分からないんだ」

剣士「まだ何処かに潜伏でもしているのか? その魔王というのは」

エルフb「魔王は死んでしまうと、しばらく後の世にまた新たに生まれては魔物を生み出すそうです」

エルフb「そうして神の加護を受けた者、勇者たる者もまた生まれ魔王を討つ……その繰り返しなのです」

剣士「じゃあ何れまた魔王が生まれるわけか」

エルフa「何故か生まれないんだ。そもそも最後に現れた魔王が死んだ、という記録もないらしい」

エルフa「噂じゃ何処かに封印されているから生まれもしない、って話だが」

剣士「どこまで信憑性があるのやら、か」

エルフb「歴史の闇に葬られてしまった事柄ですからね」

エルフa「案外、その謎の魔石がそのキーアイテムだったりしてな」

剣士「冗談でも止めてくれ。これで魔王を復活させてしまった日には、悔いても悔やみきれんぞ」

エルフb「まあ……そんな訳ですので昔は野営も簡単にはいかなかったそうですし、魔王軍に滅ぼされた町なども珍しくなかったそうです」

剣士「俺は逆に生まれてくる時代を間違えた感があるな」

エルフa「あー……それならわたしもじゃないか」

剣士「お互い、過去へ渡る手段でも探すか」

エルフa「そりゃあいいがエルフの国や、お前の魔石を探すことより難しそうだな」

エルフb「私は過去よりも未来の方が見てみたいですね」

剣士「……そうか。そうすれば魔石もエルフの国も簡単に見つけられる」

エルフa「逆に言えば遂に見つけられなかった、という結果を見せられる事になる可能性も多大に……」

……
剣士「途中で行商に出会えたのは有り難いな……お、あれか」ガタゴトガタ

エルフa「流石に大きいな。ここからでも姿が見えるとは」

エルフb「いくつかの都市を回ってきましたが、私達でもこれほどの所は初めてですね」

剣士「……というかでかすぎじゃないか。これからどうするんだ?」

エルフa「……どうしようか」

エルフb「地図だけでしたらそう時間はかからないでしょうけども、折角来たのですしねえ……」

エルフa「一月ほど何処か部屋を借りて過ごすか」

剣士「依頼をこなしながら、か?」

エルフa「bの魔法はすっごいけども……これだけ大きいところだとそれなりに集まっているからなぁ」

エルフb「ところ変われば重宝されるのですけどね」

剣士「部屋を借りるって初めてなんだが、結構良いもんだな」

エルフa「一時とは言えホームがあるというのは気も落ち着くからな」

剣士「とりあえず二、三日は観光がてら周るのか?」

エルフa「依頼を見つつ、かな」

エルフb「実際のところ書物などを扱っている場所すら分かっていませんし」

エルフb「後はやはりしばらく暮らすにあたって、何処に何の店があるのか、何処が安いのかを把握しないといけないのですよ」

剣士「なるほどな……それじゃあ探索がてらに食事処でも探して昼食にするか」

……
エルフa「ここに来て数日経つ訳だが」

エルフb「現在の所持金七十万g……」

剣士「……」

エルフa「何をしたんだ? いや何をしでかしたんだと聞くべきか?」

剣士「いやまさか、悪事には手を出していないぞ」

エルフb「ではこのお金はどこから沸いて出てきたのです?」

剣士「……いや、さ。ここってでかい闘技場があるんだ」

エルフa「……剣術大会がどうのというのを聞いたな」

エルフb「私は知りませんがまさかそれで?」

剣士「個人戦七位、団体戦四位、バトルロワイヤル勝者……」

エルフa「団体戦とバトルロワイヤルってなんだ」

剣士「団体戦は三人一組で一対一で戦うんだ。そこらの一人でいる連中に声をかけて出た」

剣士「バトルロワイヤルは八人が指定範囲内で戦闘。勝者が次のステージにって寸法で三回戦勝ち抜いたら優勝した」

エルフb「乱戦のが得意という事ですか?」

剣士「結果的にはそうなんだろうな」

エルフa「というか脅威の体力だな……普通は三つでる奴なんていないだろ」

剣士「受付にも言われたな、それ」

エルフa「しっかし……こんな大金、わたしは初めて見たぞ」

エルフb「私もよ……これ後何ヶ月遊び呆けてていいのかしら」

エルフa「ああ……これがただの旅行だったらと切に思うよ」

エルフa「資金に余裕があるわけだし、ここらで本目的に集中しようか」

剣士「ここの建物は?」

エルフb「図書館というものです。書物が収められており読む事が出来ます。著書によっては借りる事も出来ますよ」

剣士「……でかいな」

エルフa「でかいよ」

剣士「……ここから世界地図を探すのか」

エルフb「久々の気合をいれてかからないといけないわね」

エルフa「またどっちが多くの棚を調べられるか比べるか?」

エルフb「望むところよ」フフフ

剣士(だる過ぎるとは口が裂けても言ってはならんのだろうな……)

……
剣士「」

エルフa「なんだ、剣士はもうダウンか」

エルフb「剣士さんは見たとおりに肉体派なのですね……」

エルフa「なるほど……剣士は資金、調べ物はわたし達か。確かにバランスは取れるな」

剣士「……因みに二人は今どのくらい?」

エルフa「八棚」

エルフb「九棚と半分」

エルフa「ぐぬぬ……ちゃんと調べているんだろうな」

エルフb「ふふ、当然よ」

剣士「次元が違う……三分の一……」

エルフa「だいたいこんなところか……」

剣士「世界地図を写したのか……流石と言うべきか、エルフ手先が器用だな」

剣士「しかし……大国の精巧な地図と言えど、穴だらけだな」

エルフb「つまりここが前人未到の地……他の場所よりもエルフの国がある可能性が高い場所となります」

剣士「なるほどな……ここらの何処かに俺の探しているものもあるといいんだけどな」

エルフa「……なあ一つ聞いてもいいだろうか?」

剣士「俺に分かる事ならな」

エルフa「お前はその魔石について何も知らないと言ったが」

エルフa「お前の言葉には少なくとももう一つはその魔石が何処かに存在する。そんな意思を感じる」

エルフa「隠し事をしているようにもみえないのだが、何故そうもある事を前提に話すのだ?」

エルフb「……私もずっと疑問に思っていました。もしよろしければお聞かせ願えないでしょうか?」

剣士「分からん」

エルフa「……はぁ? いやいや、そんな訳はないだろう」

剣士「……自分にも分からないんだ」

エルフb「それはどういう……?」

剣士「過去を忘れて根を下ろせ……確かに俺も考えた事がある。こんなわけの分からん物捨ててしまえ、と」

剣士「だができないんだ。自分の手から離した途端、どうしようもなく不安が押し寄せてくる」

剣士「手先の感覚が薄れ、世界が遠ざかるように意識がぼやけていく……まるでその魔石が本体であるかのようにだ」

剣士「そしてこいつを手繰り寄せると、今度はいてもたってもいられなくなる。この魔石だけじゃ足りない……」

剣士「何かが足りなくて胸に穴が開いたような感覚が……体の底から乾いていくような感覚が付き纏う」

エルフa「だからこそそれを埋める魔石があるのだろう、と」

エルフb「……もしかしたら、魔石は剣士さんの一部なのかもしれませんね」

剣士「一部?」

エルフb「魔力や記憶……元々貴方の中にあったもの」

エルフb「だから今お持ちの魔石を手放すと不安が募るのでしょう」

エルフb「貴方の魂と肉体が求めている物だからです」

エルフa「なるほどな……お前の意思に関わらず、お前の存在が探しているのか。自分の一部を」

剣士「……初めて、この感覚を納得できる理由が見えた気がする」

剣士「やはりエルフというのは頭の出来が違うんだな。俺に到底思いつかんよ」

エルフb(けれども……だとしたら剣士さんの一部を何故封じられて?)

エルフb(それに今持っている魔石の魔力は剣士さん自身という事に……これほど強大な魔力を一つの生命体が?)

エルフb(だからこそ……封印された?)ウーン

エルフa「……」

エルフa「うん? この本は?」

剣士「ああ、なんか魔王についてが書かれているっぽいから持ってきただけだ」

エルフb「珍しいですね……内容は一体」ペラララ

エルフa「****・f・******の最終考察……なんだこりゃ」

剣士「いや、俺もまだあまり読んでいないからな」

エルフb「これは……凄いですね」

エルフa「……ああ、これ最後に現れた魔王の後のだ。多分それ以前の情報を統括したものかもしれない」

剣士(秘書扱いじゃないのか……パチもんじゃ)

……
エルフa「以上の観点より、魔王という存在はその配下とは異なる在り方をしている」

エルフa「死後数日で蘇る彼らは何時の代でも恒常的に存在し、魔王はその都度変わっている」

エルフa「であれば魔王という存在の魂はその都度生まれ変わっているのではなく、他者の魂……」

エルフa「蘇る時に何者かの魂が選ばれる可能性が高まる。魔王とは魂に付属した因子」

エルフa「あるいは寄生的な物なのかも知れない。であれば、その因子をどうにかすれば」

エルフa「魔王の存在を滅ぼせるかもしれない」

剣士「ちょっと外国の言葉は……」

エルフb「えっとですね魔王の生まれ変わりが魔王でなく、例えばある時に人間等の魂が魔王に選ばれ、魔王が生まれる」

エルフb「その抽選をどうにかできれば魔王を永久に滅ぼせるのでは、という事です」

剣士「嫌過ぎる抽選だな」

エルフa「ま、知ったところでどうしようもないけどもね」

エルフa「この本によれば、魔王は百年くらいの周期で蘇るらしい。今あれからどれだけ経っていると思う」

剣士「しかしこれは確証あっての事ではなくて、考察によるものだろ?」

エルフb「寧ろ、それを人知れずに行えたから、と考える方が辻褄が合いますね」

エルフa「面白い読み物だったが……そうか。だから普通に棚に入っていたのか」

剣士「じゃあー俺は本片してくるな」

エルフa「すまないな」

剣士「探すのは戦力外だしこの程度はな」

エルフb「よろしくお願いします」

エルフa「……なあb、魔石の話の時に一体何を考えていたんだ?」

エルフb「魔石と剣士さんの関係性よ……あれほどの魔力が剣士さんのものだとしたら」

エルフb「彼は一体何者なのかしら? その力の所為で封印されたのかしら?」

エルフb「であれば……他の魔石は見つかるべきではないんじゃないかしら?」

エルフa「……あいつにとっては、意思とは関係無しに求めてしまう、というのは酷だが……まさかさっきの魔王の本」

エルフb「そこまでは分からないけども……私達、どうすればいいと思う?」

エルフa「わたしに聞かないでよ……そういうのはbの役目でしょ」

剣士「ふっはっ! せいっ!」フォンフォン ヴォン

エルフb「ふふ、精が出ますね」

剣士「ふう……まあ、他にやる事もないしな」

エルフb「昼食が出来ましたので呼びに来たのですがどうします?」

剣士「切り上げるよ。しかし……出来たというと」

エルフb「剣士さんの口に合うかは分かりませんが……」

剣士「いやいや、楽しみだよ」

剣士「もぐ、もぐ、はふ、むぐ」ガツガツ

エルフa「口に合うか不安だったが杞憂のようで良かったよ」

剣士「ふー……なんだってこんな美味いんだ。もう二人とも店でも構えてしまえよ」

剣士「この肉野菜炒めも絶品だな。シャキシャキの野菜に肉の脂がたっぷり染み込んでいる……堪らないな」

エルフb「ふふ、ありがとうございます」

剣士「こんだけ美味いモノは中々食えないというのに、二人の手料理ときたもんだからな。俺は幸せ者だ」

エルフa「そこまで言われると流石に恥ずかしくなってくるな」

エルフb「それにしても後三週間も貸家の契約が残っているというのも……」

剣士「資金はあるんだし、もう少しゆっくりしたら引き払っちまってもいいんじゃないか?」

エルフa「そうだな……無闇にのんびりする必要もないだろうし」

エルフa「なんだかんだで二週間か……短かったな。大国の都市暮らしは」

エルフb「……そう言うとなんだか勿体無くなってくるわね」

剣士「俺はなんとも」

エルフa「普段、山で生活しているのでは仕方が無いだろうな」

剣士「や、山一択?」

エルフb「違うのですか……?」

剣士「……いやまあ確かにそうなんだが」

エルフa「自身で否定する要素がないのか……」

エルフa「今日はここら辺で休むか」

エルフb「この先は森になるものね……」

剣士「んじゃあ野営の支度をするか」


剣士「大漁だぞ」ピチチ

エルフa「川魚……この短時間に」

エルフb「流石ですね……」

剣士「そういえば次の目的地を聞いていなかったが何処に向かっているんだ?」

エルフa「……あれ? 話していなかったか?」

エルフb「次は南西にある大きな港町に向かっているます。複製した地図ですとこの辺りでしょうか」

剣士「しかし何故港町に?」

エルフa「この辺りの島は手付かずで残っている、というよりも潮の流れの関係で上陸したという話が無いらしい」

剣士「それを俺らでどうにか? いくらなんでも無理があるだろ」

エルフa「現地の漁師に話を聞いてみてだが、全く上陸できないという事も信じられないからな」

エルフb「国の調査団が上陸できなかっただけで、地元ではそれなりに行ける島なのかもしれませんし」

エルフb「もしかしたら私達なら、という事もありえると思いましたので」

剣士「なるほどな」

剣士「……海か」ゴロン

エルフa「どうかしたか?」

剣士「この大陸だけでもこんなちっぽけな物を探すのに隅々まで調べるのに一生を費やしても……」

剣士「これがもし、大海原の誰も知らない孤島にあるとしたら……」

エルフb「剣士さん……」

剣士「何れにしてもよほど運が良くない限り、あるいは俺がこいつを感知できる距離がよほど広くない限り」

剣士「とてもじゃないが追いつけるものではないな……」

エルフa「だがそれでもお前は探すのだな」

剣士「そうだな……探さない、というのは体が渇く……何をしても満たされない」

剣士「ふあ……しょうもない愚痴だったな。忘れてくれ」

……
エルフa「お……潮の香りだ」

剣士「へぇ……海についての記録しか記憶に無いからな。これが海の匂いか」

エルフb「ここを抜ければ港町まですぐですね」

剣士「……おお!」

エルフa「話には聞いていたが凄い景色だな」

剣士「海と町が一望できるとは。中々なもんだな」

エルフb「当然ながら海産物が多く出回っているので、今晩は腕によりをかけますよー」ニコ

剣士「……早く行くぞ」ジュルリ

エルフa「行くのはいいが……夕食は急いではくれんぞ?」

「島? ああ、あそこはちっせぇ山があるだけだぞ」
「果実の木は大量に自生しているからな。結構収穫しにいったりしているな」
「なんか昔、国の調査団が来たが接舷できなくて諦めてったな」
「季節や潮の満ち引きで近づけない時はあるが、ありゃあ運が悪かったとしかいえねえな」

剣士「……」

エルフa「……」

エルフb「あの……その事をお教えにはならなかったのでしょうか?」

「あいつら上から目線でうざったらしかったからなぁ」
「だぁれも協力的になってやらんかったさ」

エルフa「……ぇー」

エルフa「くそ……完全に無駄足かよ……」ズゥゥン

剣士「まあなんだ、少し休んでまた出発しようか」

エルフb「まあまあ、a。美味しい物でも食べてさっぱり忘れましょ」

剣士「え……食べに行くのか……」ズゥゥン

エルフb「えぇ?! ふ、二人に増え……そもそもそんなにショックですか?!」

剣士「そりゃあ二人の料理は美味いし、二人の手料理だからこそ食べた……」

剣士「いや、二人には負担になるのか……手前勝手に言うわけにも……」ブツブツ

エルフa「……」

エルフa「ま、まあ……お前がそこまで言うのなら、その程度やぶさかではないさ」

エルフb「ふふ、そうね。そこまで求められているのなら、作り甲斐があるものね」

……
エルフa「港町も満喫したしそろそろ中央のほうに戻るか」

剣士「あの磯の香りのする吸い物ともお別れか……」グッ

エルフb「まあまあ……また海の近くに来れば良い事ですし」

エルフa「次はここやこのあたりを調べてみるか」

剣士「近場だとその辺りが無難か」

エルフb「最も、洞窟でもない限り面積的に望みはありませんけどもねぇ」

エルフa「ところで五万gほど増えているのだが何があった」

剣士「昨日、浅瀬の洞窟に住み着く盗賊を蹴散らしてきた」

エルフb「暇になると凄い金策に走り出しますね……」

剣士「暇を持て余しているからな」

剣士「……」ザッザッ

エルフa「……」ザッザッ

エルフb「……ふぅ……ふぅ」ザッザッ

剣士「ふぅ、少し休むか」

エルフa「そうね、そろそろ野営する場所も考えないとだし、この辺りまで二した方がいいかもね」

エルフb「う……ごめんなさい」

剣士「そう急ぐわけでもないし、無理せず進めばいいさ」

パチパチ
剣士「しかし今日は冷えるな……」

エルフa「大きくないが川が多いからな。その所為でこの辺りは気温が低くなりやすいそうだ」

エルフb「……けれどもこれじゃあ」ズリズリ

エルフa「ああ……そうだな」ズリズリ

剣士「……何故、二人は俺のすぐ真横に?」

エルフa「冷えるのだから当然だろう?」

エルフb「このままでは風邪をひいてしまうかもしれませんからね」

剣士「……時々、二人の考えている事が分からなくなるな」

エルフa「……おかしかっただろうか?」

エルフb「ふふ、そうでしょうか?」

剣士「この山を登るのか……」

エルフa「迂回するより早く着ける。まあこの先に大きい町があるし、数日休む事を考えてだな」

エルフb「どの道次の町で補給は必要ですからね」

剣士「俺はいいがbは大丈夫なのか?」

エルフb「大変ではありますが、これでもそれなりに何時もの事なので」

剣士「辛かったら何時でも言ってくれよ」

エルフa「……なんかbだけに優しいわね」

剣士「対等に接しているつもりだが、aは体力あって俺の心配が要らないからなぁ」

エルフa(自分の体が恨めしい……)

……
剣士「なんだ……異臭がするぞ?」

エルフa「ああ、そうだ。ここは温泉があるんだよ」

剣士「温泉?」

エルフb「火山のマグマで熱せられ、お湯が沸いている所です。様々な成分が溶け込んでいて体にいいんですよ」

剣士「へえ……少し寒い日が続いたし寄っていかないか?」

エルフa「ここら辺に入浴できる施設なんてあっただろうか?」

エルフb「この道の途中にあるって話よ。だいぶ昔の話だけども……」

剣士「ああ゛ぁぁぁ……」

男a「兄ちゃん見ない顔だな。旅人か?」

剣士「そんなところだ」

男b「さっきチラッと二人のエルフの女性を見たが、両手に花ってか? 羨ましいねぇ~」

男a「おいおい、マジかよ……よ! この色男」

剣士「別にたぶらかしている訳でもないし、共に旅をする仲間だ」

男a「エルフ二人を侍らせて置いてそれかぁー!」

男b「リア充の余裕、ここに見たり」

剣士「だからそういう関係は築けていないと……なんだ? そこの白いのは」

男a「お? 兄ちゃんは温泉は初めてか」

男b「どれ、そろそろ良い頃合いだろう」

剣士「卵? 温泉でゆで卵を作っているのか……いや待て、普通は沸騰した中にいれるし、これだと上手く作れないのでは?」

男a「へっへっへっ、そう思うだろう」パキャ

男b「ま、一つ食ってみろよ」

剣士「半熟とはまた違った感じだが……どれ」チュルン

剣士「!!」

剣士「な、なんだこれはっ! こんな卵、今までに食べた事がない!」

男a「どうだ、美味いだろう?」

剣士「あ、ああ……あの卵がこんな食感に……も、もう一つ貰えないだろうか?」

男b「おうよ! だが卵だからな。食い過ぎには気をつけろよなぁ」

剣士「う、美味い! どうやったらこうなるんだ?」

男b「多分だが沸騰しきっていない湯に入れておけばできるんじゃないか?」

剣士「ふむ……すまないがもう二つ譲ってもらえないか? 金なら払う」

男a「連れにか? ははは! 律儀な兄ちゃんだな! ここで会ったのも何かの縁だ、貰っとけ貰っとけ」


女の子「うわぁエルフ~お耳長~い」キャッキャッ

女「こらっ止めなさい! 本当に申し訳ありません」

エルフb「いえ、お気になさらないで下さい」ニコリ

エルフa「……あ~、疲れが取れ」ナンダコレハー

エルフa「あいつ、何やってんだ?」

エルフb「そんな驚く物なんて無いように思うのだけども……」

エルフa「ああ、温泉卵か」パク

エルフb「先ほどのはこれでしたか」パク

剣士「知っていたのか……」

エルフa「ああ。だが……あそこまで驚く事か?」

剣士「俺は驚いた。あの卵がこんな食感になるなんて。食べた今でも信じられん」

エルフb「ふふ、剣士さんらしいですね」

……
剣士「やっと着いたか」

エルフa「二、三日くらい宿をとって休んでから出発するか」

エルフb「そうねぇ……これからのルートを考えなくちゃならないし」


剣士「……んん~」

エルフa「荷物を置いたしどうするか?」

剣士「今日はもうゆっくり休むんでいいんじゃないか?」

エルフb「なんだかんだで山道は体にきますからね」

剣士「……二人と出会って長い事旅をしている気分だが、まだこれから一歩を踏み出すところなんだな……」

エルフa「ある程度各地隈なく、というと次からだからな」

剣士「そういえば二人はどれくらい旅をしているんだ?」

エルフb「……里が壊滅したのが確か」ブツブツ

エルフa「で、旅に出ようって行ったのが確かわたしが」ブツブツ

エルフb「五年ほどですね」

剣士「結構長いんだな」

エルフa「初めは少し遠くに行っては少し借家で暮らして、なんてしていたからな」

エルフb「ふふ、あの頃はエルフの国を探す、というよりも旅行だったわね」

エルフa「それじゃあおやすみ」

エルフb「おやすみなさい」

剣士「ああ、おやすみ」


剣士「……」ムク

剣士「……」カチャン

剣士「……おー良い風だ」ザァァ

剣士「……」

剣士「……?」カチャン

エルフb「剣士さん? どうかしましたか?」

剣士「ちょいと寝付けなくて夜風に当たっていただけだ」

エルフb「何かありましたか?」

剣士「……いや、二人は自分達が暮らす場所を目指して旅していて」

剣士「俺なんて自分の事を知るとかよく分からん目的で……何と言えばいいか。なんかいい加減な気持ちだな、と思ってな」

エルフb「前にも言いましたが、自身の意思でなく存在そのものが追い求めてしまっている可能性があるんですよ?」

エルフb「それに例え目的があやふやであっても無くても、それを追い求める心に差は無いはずです」

剣士「だといいんだがねぇ」

エルフb「……」

エルフb「私達は豊かで安全なエルフの国で生活したい、という思いで旅に出ました」

エルフb「けれどもそれは結局のところ、住む場所の選択肢の最優良候補というだけなのです」

エルフb「そういった意味では私達はもう、今の私達が本当に望むものは得ているようなものなのです」

剣士「……」

剣士「いや、すまん。何が言いたいのかさっぱりだ」

エルフb「……きっとエルフの国では人間は暮らせないのでしょう」

エルフb「であれば……エルフの国はもう私達にとって最優良候補と言えません」

剣士「……俺、か?」

エルフb「……」ニコリ

エルフb「私は剣士さ」

剣士「待て」

エルフb「あ……」シュン

剣士「……」

剣士「俺は最低な男だ。二股になる事も辞さない屑だ」

剣士「そんな俺でもよければ……共に居てくれ。b、お前の事を愛している」

エルフb「あ……」カァ

エルフb「ず、ずるいです……さっきので凄い落としておいてこんな持ち上げをするなんて……」

剣士「いや、落とすつもりじゃ……すまん」

剣士「しかし……出会ってすぐに信頼してくれ、更には好意まで寄せてもらえていたとは」

剣士「俺は幸せ者だな」

エルフb「私達もですよ。あの日、里が焼かれたあの日から、男性運というものは滅法なものでしたのに」

エルフb「剣士さんのような方とこうして共に過ごせるなんて……夢のようです」

エルフb「……」

エルフb「剣士さん……その」スゥ

剣士「? あ、ああ……ん」

エルフb「んん……」

……
エルフa「ご馳走様……今日はこれからどうする?」

エルフb「私は買出しに行って来るわね」

エルフa「じゃあわたしも付き合うよ」

エルフb「だぁめ! aはここに居て頂戴」

エルフa「はあ? えー……? どういう事よ?」

エルフb「今に分かるわ」チラッ

剣士(昨晩は勢いで言ったが、こうして改まると言い出し辛いな)ボリボリ

エルフa「……? 剣士がわたしに用があるって事か?」

剣士「ああ……そのなんだ」

エルフa「なんだ?」

剣士「……」

エルフa「……? 何かあったのか?」ズィ

剣士「う……」

エルフa「……さっきからなんだ! 一体何がしたいんだ?」

剣士「……a」

エルフa「……」

剣士「お前の事が好きだ!」

エルフa「そうか」

剣士「……」パチクリ

エルフa「何を不思議そうにしている? お前は好意を感じない相手と旅ができるのか?」

剣士「あー……いやそうだな。お前はそういう奴だったな」

エルフa「はあ……? なんだそれ、バカにしているのか?」

剣士「いや……aらしいよ」

剣士「a……俺は君の事を愛している。一人の女性として」

剣士「だが俺はbの事も同じように愛している……そんな俺でも良ければ、共になってはくれないか?」

エルフa「……」

エルフa「~~~!」カァァァ

エルフa「!!」バッガチャダダダタタ..

剣士(エスケープ?!)

エルフb「ただいま戻りました~あら?」

剣士「……」

エルフb「aは……?」

剣士「顔を真赤にしながら飛び出してから帰ってこない……」

エルフb「……まあ、夜まで待ちましょう」


夕暮れ
エルフa「……」ギィ

剣士「お、おかえり……」

エルフb「顔を半分だけ覗かせていないで入ってきなさい」

エルフa「……」

剣士「まさか……aがここまで奇行に走るとは」

エルフa「うっお前の所為だ! お前があんな事を言い出さなければっ!」

剣士「そんなに俺の事が嫌か……」

エルフa「う、あ……!」カァァ

エルフb「……」ニマニマ

エルフa「わたし、も……お前の事……好き」ボソボソ

剣士(これは割りとマジで聞こえない……)

エルフb(かつてない小声ね……)

エルフa「あーくそ! 好きさ! 好きだよ、お前の事が!」カァァァ

エルフa「何だよ二人してぇ! そんな目で見るなぁ!」ウルウル

剣士「……」キュン

エルフb「a……凄い涙目よ。あざといわ」

エルフa「うるさい! うるさいぃ!」

剣士「……」ギュ

エルフa「えぁっ?!」

剣士「ありがとう」ギュゥ

エルフa「……」ギュ

エルフb「コホン」

剣a「!」ビクッ

エルフb「とにかく夕食の支度をしましょ」

エルフa「あ、ああ、分かった」


エルフa「bは一体何時?」

エルフb「昨晩よ」

エルフa「何処で?」

エルフb「テラスで」

エルフa「なんでbだけそんな良いムードなんだ!」

剣士「あー……」

エルフb「……あの後すぐに? ダメですよ剣士さん……こういうの大事なのですから」

剣士「悪い……a」

エルフa「……」

エルフa「ならばこれからはやりたかった事をするからな! 甘えまくるからな!」

剣士「甘えるaの姿が微塵も想像できない……」

エルフb「意識しなければ恋人がする様な事を平気でしてましたからね……」

剣士「例えば?」

エルフa「う、腕に抱きついたり」カァァ

剣士「この間、寒い時に一晩中それだったよな」

エルフa「ウィンドウショッピングしたり」テレテレ

剣士「貸家借りてる時、割とそれが普通だったような」

エルフa「料理を作ってあげたり何処かに出かけたり」ワクワク

剣士「え、待て、全部現状と変わらな……」

エルフb「こういう子なんです……意識しているかしていないかの差しかない、というのが多いんです」

エルフa「な、なら一つ屋根の下で寝食を共にする!」カァァ

剣士「もうツッコミ待ちにしか聞こえない」

エルフb「じゃあこれからの進路の相談会を始めましょうか」

剣士(遂にスルーになった)

エルフa「え? えぇぇ? ……ええと、地図は」ガササ

剣士「いいのかそれで……まあいいか。どんな感じで進むんだ?」

エルフb「この辺りの山岳地帯を探索し、次にこの樹海ですね」

剣士「山の方は精巧な地図があったんじゃなかったのか?」

エルフa「これだけ広い山だからな……もしかしたら内部に巨大な洞窟もあるかもしれない」

剣士「洞窟にエルフが?」

エルフb「エルフの国には門外不出の魔法もある事でしょう。もしかしたら洞窟内でも外界と同じように暮らせる魔法も……」

エルフa「何せ数百年、その存在が噂されて尚も誰一人見つけられていないからな。それぐらい大掛かりな方が逆に納得できるだろう?」

剣士「なるほど……で樹海は地図すら無い迷宮と」

エルフa「ここは少しずつ進むしかないな」

エルフb「探査魔法が封じられてさえいなければ、多少迷っても外に出る事は問題ありませんので」

剣士「しかしその魔法で得られる結果が捻じ曲げられていたら?」

エルフa「諦めよう」

エルフb「剣士さん、頼りにしています」

剣士「樹海は俺も初めてなんだがなぁ」

エルフb「この辺りの探索が終わりましたら東に抜けて、ここの国でしばらく休みましょう」

エルフa「て言っても、この山と樹海の周りには小さな村しかないからな。かなりの長丁場だ」

剣士「そうか」

エルフa「……そういえばそこら辺に一番強いのはお前だったな」

エルフb「むしろ剣士さんには温く感じるかもしれませんね」

剣士「この山岳地帯を隅から隅までって事なら今まで一番きついだろうがな」

エルフa「それはわたしらが死ぬな」

エルフb「流石に無理です」

山岳地帯
エルフb「ふぅっ……ふぅっ……」

エルフa「結構きたな……」

剣士「ここら辺はかなりな勾配だな。迂回するか?」

エルフa「この先はあまり詳しい地図がなかったからな。できれば進みたいな」

エルフb「そうね……ふぅ、せめてこの上から周囲の確認をしたいわね」

剣士「二人がそう言うのなら構わないが……途中で倒れるなよ? そのまま滑落していくぞ」

エルフa「ああ、分かっているよ」

エルフb「恐ろしい地形……剣士さんはこんな所も歩き回っていたのですか?」

剣士「まあ、割かしは」

エルフa「えー……」

剣士「すっげ……」ビュォォォォ

エルフa「抉り取られたかのような崖だな……」ォォォ

エルフb「む、向こう岸との間が奈落の底だなんて……」フルフル

エルフa「駄目だ駄目だ、戻ろう……うあっ」

エルフb「どうしたの?」

エルフa「わ、わたし達、こんな斜面を登って……?」ビュオォォォ

エルフb「……え? なに、これ……」

剣士「縄でも打たない限りは滑落コースだろうな」ガササ

剣士「近くに緩い斜面もなさそうだな」

エルフa「というかお前……この事態は想定できたんじゃないのか?」ガタガタ

剣士「いや、俺も登りきってからしまったと思ってな」

エルフa「どうするんだこれ……なあおい、あたし達もうここから降りられないのか?」

剣士「別のルートを行くしかないだろうな」

エルフb「そんな……私は勿論、aにだってこの崖を飛び越えるのは無理ですよ?!」

剣士「こっちの荷物貰うぞ……よっ」タタタンッ

剣士「と」ドッ

エルフab「」

剣士「さて……もう一丁」ドサドサ タタタンッ

剣士「よっと。後は残りの荷物、それに二人で二往復半で向こう岸への移動は終わりだな」

エルフab「」

エルフa「お前は獣か何かか?」

剣士「凄い酷い言い様だな……さて、こっちの荷物も持っていくぞ」

エルフb「凄いわね……」

エルフa「ああ……何よりこの崖を臆せず飛んでいくなんて」

エルフb「……あら? もしかして剣士さんこれ以上の崖も……?」

エルフa「そうなるな……何をしてきたのだろうな、あいつ」

剣士「とうっ。さて、どっちから先行くか?」

エルフb「……あ」

エルフa「……」ゴクリ

エルフa「だだだ大丈夫なんだろうな! 荷物とは違うのだぞ?! 途中で落ちたりしないだろうな!」

剣士「心配ならあまり動かないでくれよ?」

エルフa「ぐぐ……こんな形でこんな格好を体験するなんて」

エルフb「最恐のお姫様だっこね……」

剣士「背負う方が良かったか?」

エルフa「い、いや。お前の顔が見えているだけまだマシだ」

剣士「じゃあ行くぞ」ダダダタンッ

エルフa「うわああああああ!!」

エルフb「……」ガタガタ

エルフb「」ブルブル

エルフa「」ビクビク

剣士「おーい……崖も越えたんだしそろそろ行かないか?」

エルフa「腰……腰が抜け……」

剣士「一休み入れるか……」

エルフb「け、剣士さんはここよりも酷い所を?」

剣士「この倍の距離があって今にも落ちそうな吊り橋を渡ったりもしたな」

エルフa「どうなった……」

剣士「落ちる橋に捕まって壁に叩きつけられつつ渡りきったさ」

エルフa「あー……」

エルフb「洞窟が見つかったのは良かったわね」

エルフa「とりあえず今日はもうゆっくり休もう……色々と疲れた」

剣士「俺は薪でも集めてくるよ」

エルフa「にしても未探索区域でも何も無しか……」

エルフb「そもそもまともな洞窟も無いわね……」

エルフa「後は北西の方面くらいか……」

エルフb「あまり期待はできないわねぇ」

エルフa「ま、ここまで来たんだ。行くしかないでしょう」

……
エルフa「……」ムシムシ

剣士「随分と湿度の高い樹海だな」

エルフb「探索はできますが……あまり長居はしたくないですね」

エルフa「山岳地帯が辛かったし、こっちはもうちょっと楽でもいいと思うのだがなぁ」

剣士「それは完全にこっちの都合じゃないか」

エルフb「早く終わらせる為にも進まないとですね」


エルフa「あーもー! 暑い! 脱ぎたいけど虫が多い!」

剣士「致死とまではいかないが毒虫も多いからな……必要以上に肌を見せられないな」

エルフb「何処か池でも無いのかしら……」


エルフa「おおー!」ダダダ

剣士「凄いな……これは」

エルフa「とと……まずは水質を調べてみないだな」カチャチャ

エルフb「でもこれだけ綺麗な水だと問題なさそうね」チャプ

エルフa「……んー入る分には問題無さそうだな」

剣士「飲料水にするには濾過と煮沸処理は必要だろうがな」

エルフa「そりゃあ山の湧き水じゃないのだから仕方がないだろう」

剣士「俺は向こうで釣りでもしているから二人は水浴びでもしていたらどうだ?」

エルフb「ではお言葉に甘えてそうさせて頂きますわ」

エルフa(剣士になら見られても……いい気が)ドキドキ

エルフb「……あら? でも釣竿なんて持って」

剣士「……」ベキベキベキィ

剣士「……」ブチッ キリキリギュッギュッ

エルフb「す、凄い勢いで自然物から釣竿が……」

エルフa「何処の野生児だ……」

剣士「中々美味い魚だな」パチパチ

エルフa「大量だな……」

剣士「入れ食いで困ったぐらいだ」

エルフb「ここの探索は後何週間かかるやら……」

エルフa「遠くに山が見えるしここも掛かるだろうな」

剣士「結局のところ、なんでここの探索は行われていなかったんだ?」

エルフa「いや、方位磁石はかなり狂っているよ」

エルフb「探査魔法も慎重に、それも数回行わないと正しい結果が得られませんよ」

剣士「樹海やばいな」

エルフa「密林とは言わないが、何とも酷いところだな……」ザッザッ

エルフb「来る日も来る日も木々ばかりね……」

剣士「後は山が残るだけだ。ここを終わらしてとっとと町に出よう」

エルフa「一体何処にあるのやら……」フゥ

エルフb「そうねぇ……いっその事、もう諦めちゃいましょうか」チラ

エルフa「……」チラ

剣士「……」

エルフa「……特にしたい仕事も無いし、剣士の件だってあるんだ。まだまだ探すぞ」

剣士「俺としてはその方が有り難いから何とも言えないな」

……
エルフa「あーくそ……結局蒸されただけで終わったか」

剣士「ま、しばらくは休む事に専念しようか」

エルフb「流石に疲れましたものね」

エルフa「……一人の時だったらこの後の旅程ってどうなっていたんだ?」

剣士「んー……」

剣士「二日休んで出発ぐらいか?」

エルフa「短っ!」

エルフb「凄いヘビーですね……」

剣士「まあ体調を加味してだがな」

エルフa「だとしてもあの二箇所回ってそれは……」

エルフb「バイタリティが……」

剣士「ずっとそうしてきたからな……」

エルフa「それでもこれだけの探索を終えた今のお前は二日の休暇でいい、と……」

エルフb「そ、そう考えると凄い話ですね」

エルフa「まあいいさ……今日のところはどっかで食べようか」

剣士「……だな」

エルフb(凄い残念そう……)

翌朝
剣士「ふあ……おはよう」カチャカチャ

エルフa「ああ、お早う」

エルフb「お早うございます」

エルフa「朝から出かけるのか?」

剣士「砥石やらなんやら、整備するものがちょっとな」

エルフa「……そういやお前、腰に差してるナイフ大事そうにしているが使っているところを見た事が無いな」

エルフb「普段使われているナイフも別のですよね」

剣士「え? ああ、貰い物でお守りらしいからな」

エルフa「お守りのナイフってなん……あーあるにはあるか」

エルフb「それにしても貰い物とは?」

剣士「以前、結果的に人を助けた事があってな。その時のお礼に貰ったんだ」

エルフa「へえ、何をしたんだ?」

剣士「あれは二年半だが三年半だか前かな」

剣士「山で野宿していたら結構大規模な山賊の集団に襲撃されてな」

エルフa「なんで生きてんだよ」

エルフb「出だしから……」

剣士「その時、見えるところに置いておいた魔石に興味をもたれてしまったらしくてな」

剣士「二十人近い徒党に対して八人くらい切り伏せたところで逃げ出したんだ」

エルフa「一人相手に八人も殺されていれば逃げもするな……」

剣士「ただ何と言うか、そいつらを束ねている奴がもう典型的な悪そうな山賊で」

剣士「どうせまた奇襲するんだろうと思って急いで後を追って奇襲をかけたんだ」

エルフb「まさか相手もまだ十人近い人数相手に、単身で切り込んでくるとは思っていなかったでしょうね……」

剣士「お陰で連中を根絶やしにしたよ」

エルフa「壮絶な……」

剣士「で、その時に囚われていた子から貰ったのがこいつだ」スラァン

エルフa「へー……ん? ちょっと見せてくれ」

エルフb「何と言うか、全く下心がないのですね」

剣士「……奇襲をかけ、向かい来る山賊全てを切り伏せて初めて気づいたからなぁ」

剣士「声をかけられて俺が驚いたぐらいだ」

エルフa「……なあ、これ。何て言って渡されたんだ?」

エルフb「? え? これ……って」

剣士「古くから伝わるお守りだそうだ。元々その人も貰ったものらしいがな」

剣士「ああ、人と言っても彼女はエルフだったが……」

エルフa「!」

エルフb「そ、その山賊達を束ねる者の左目に大きな傷は無かったですか?!」

剣士「……んー、あった、かな?」

剣士「……あ? もしかして」

エルフa「……これを持っていたエルフは?」

剣士「近くの村で別れたよ。まあそこは狩人に世話になっていた時から知っている村だ」

剣士「悪いところではないから今でも達者でやっていると思う」

エルフa「そうか……良かった」ボロボロ

エルフb「これは私達の里に居た子が持っていたものなんです」

エルフb「あの子、無事だったのね」グズ

剣士「エルフの魔法の知識は役に立つ、て事でその子はずっと山賊達に引っ張りまわされていたそうだ」

剣士「一人でいるところを攫われたのかと思っていたが……そういう事だったのか」

剣士「悪いな……お前達の仇、俺が全部殺してしまったよ」

エルフa「いや……もう二度と会う事もないだろうし、報復など叶いもしないと思っていたからな」

エルフb「それに知り合いが一人、生きていたという事が知れただけでも……」

エルフa「なんでかな……お前との出会いは偶然には思えないよ」

エルフa「これが神様の思し召しってやつなのかな」ギュ

剣士「……さあ、どうだろうな」

エルフb「剣士さん……ありがとうございます」

エルフa「……」

エルフb「……」

剣士「ふあ……そろそろ寝るか。明日は町を散策とかか?」

エルフa「なあ……何ていえばいいかな」

エルフb「私達の方がもう我慢できません」

剣士「一応聞いておくとだな……何がだ?」

エルフa「お前が良すぎるのがいけないのであって、わたし達がふしだらな訳じゃないぞ?」

エルフb「この様に接しておきながら……私達の怨恨を晴らすどころか、健在を諦めていた者を救って下さったり」

エルフa「という訳でだ」ズイ

エルフb「今日を以て、私達の全てを貴方に捧げます」

剣士「……」ダラダラダラ

チュンチュン
エルフa「ふふ……これが幸せというものなのだろうな」ギュ

エルフb「ええ、きっとそうね」ギュ

剣士「お前らな……」

エルフa「しかし……きっとわたし達は運命の赤い糸というもので結ばれているのだろうな」

エルフb「ふふ、そんな話一生縁が無いだろうと思っていたのにね」

剣士「……運命か」

剣士「二人とも持っている得物を出してくれ」

エルフb「え……」

エルフa「いきなり恐い事を言うなよ」

剣士「いいから」

エルフa「わたしは槍しかないんだが」

エルフb「私は護身用のナイフなのですが……」

剣士「それでいい。少し構えてくれ」

エルフa「こうか?」

エルフb「こう、でしょうか?」

剣士「例え死に別れようとも、来世でもまた会おう」

エルフb「え?」

エルフa「……ああ、そうだな。必ず会おう」

エルフb「そうですね……今もこれからもまた共に」

剣士「……」キィンキィィン

エルフa「え?」ィィン

エルフb「剣士さん?」

剣士「金打と言って、約束を違えぬと誓う時に金属同士を打ち鳴らすらしい」

エルフa「へえ……だけど死に別れてもって不吉な事を言うなよ」

剣士「何時死ぬかなんて分からないからな」

エルフb「……そうですね」

剣士「……俺も二人とは来世であっても共になりたい」

剣士「後で後悔するぐらいなら、と思ってな」

エルフa「ま、これでずっと一緒ってわけか」

剣士「会おう、だから来世ですぐにというわけでもないんだけどな……」

エルフb「あ、そういえばそうですね」

剣士「ま、なんか凄い契約ってもんでもないからな」

エルフa「いや、それでもやらないよりかはいいからな」

エルフb「そうですね……明確に縛られるもので無いにしろ、違わぬと誓う事に意味があるのでしょうし」

剣士「まあそうなんだが……なんだが妙な話になってしまったな」

エルフa「お前が始めた事だろ……」

エルフb「気分転換に町を散策でもしませんか?」

剣士「そうだな。なんだかんだであんまり見て回っていないからな」

エルフa「それじゃあ急いで支度しようか?」

剣士「朝食はどっか店がやっていればいいんだが……」

エルフb「流石に今の時間では……昨日の残り物で簡単に済ませましょう」

……

…………三年後

エルフa「この大陸内だと残る候補は三つだな」

エルフb「遠い順から海沿いに聳える山。海に面した箇所は切り立った崖になっており」

エルフb「付近の海域は常に荒れている為、崖である事以外の詳細がありません」

エルフa「次が大陸唯一の砂漠地帯。だが過酷さは他大陸の巨大砂漠と遜色無いと言われている」

エルフa「昔から地下遺跡や財宝の話が実しやかにされているが、何一つ証拠が見つかった事は無い」

剣士「何処も過酷な場所ばかりだな」

エルフa「いや……ここから最寄の場所が難関なんだ」

エルフb「この大陸において最大面積を誇る地域の樹海です」

剣士「また樹海か……」

エルフa「あんな湿度の高いところじゃないんだがとにかく広大なんだ」

エルフa「その面積、この大陸の五分の一に値すると言われている」

剣士「五……?!」

エルフb「そしてその中央は巨大な山が聳えていると言われているのですが」

エルフb「樹海地域では方位磁石はおろか、探査魔法もまともに機能しないそうです」

剣士「樹海の詳細な探索どころか山へは到達すらできていないとかか?」

エルフa「残念ながらその通りで情報が全く無いのだよ」

剣士「大陸の五分の一って……山を含めてか?」

エルフa「調査できていないからな。ただまあこの総面積はだいたい合っているそうだ」

剣士「……だがそれだけ期待できる訳か」

エルフb「ええ、これだけの面積であれば……」

剣士「二人はどう考えているんだ?」

エルフa「辛いだろうが是非とも行ってみたいな」

エルフb「もしかしたら私達エルフなら山への到達も可能かもしれませんしね」

剣士「それじゃあ装備ももうちょっと考えないとな」

エルフa「装備?」

剣士「食料ももっと多く持っていかないとまずいだろうし、弓も持って行った方がいいだろう」

エルフb「そうですね……どれほど時間がかかるか分かりませんからね」

……
剣士「緑の壁が見えてきた」

エルフa「あれが樹海だ……」

エルフb「噂どおり凄い景色ね……」

エルフa「全くだな……行きたくなくなってきてしまうよ」

剣士「……というか山って?」

エルフa「はい、双眼鏡」

剣士「……あ、薄らと見える。あれが? 遠いな……」

エルフb「辿り着いたという記録がありませんからね」

剣士「……ちょっとした森だな」ザッザッ

エルフa「環境だけならな」

エルフb「これが何処までも続くというのですから困ったものですよ」

剣士「探査魔法は?」

エルフb「全く当てになりませんね」

剣士「おいおい……それって遭難するんじゃないか?」

エルフa「……転移魔法くらいは大丈夫だったはず」

エルフb「標は前の町につけておきましたので、緊急時は町まで戻る事ができますね」

剣士「じゃあいいか……方角は大丈夫か?」

エルフb「既に怪しいです……」

エルフa「まだ樹海に入って一時間も経っていないのに?」

剣士「……」

エルフa「戻れるにしてもこれじゃあ……」

剣士「ちょっと荷物を見ててくれ」ドササ

エルフb「何をされるのですか?」

エルフa「おい、はぐれたら危険だぞ」

剣士「いや上に離れるだけだ」ガッシ

剣士「よっ、よっと」ノジノジ

エルフa「すげぇ……あんな木を登って」

エルフb「剣士さん……」

剣士「あっちの方角だー」ビッ

エルフa「こっちか」

剣士「降りる時どうしても向きが変わるから覚えておいてくれー」

エルフb「ええ、分かりましたわ!」

エルフa「しっかし……一々こうしなくちゃいけないのか?」

エルフb「こうでもしないと、とてもじゃないけど山に近くづく事もできなさそうね」

剣士「よっと」ズルルッドン

剣士「よし、進むか」

エルフa「何時も思うがお前の基礎体力はどうなっているんだ?」

エルフb「私達二人が相手でも平気そうですものね」

エルフa「あー……早く町に帰りたくなってきたなぁ」モジモジ

剣士「何を言っているんだお前ら」

リリリリリ
剣士「……今日はここらで休むか?」ホーホー

エルフa「正直、何処で休んでも大して変わらないよな」

エルフb「何処まで行っても同じような地形が続くばかりですね」

剣士「まさか十日経っても大して変わらないとはな」

エルフa「途中で川とかあったりしたけどもさ……なんかとんでもない所だな」

エルフb「迷宮ね」

剣士「ま、蛇やら鳥やら食料にはある程度困らないが」

エルフa「……蛇とか初めて食べたよ」

エルフb「……そうね」

剣士「俺は二人に会うまでそんな生活だったけどな」

エルフa「狩人の下に一年居た経験者は違うな」

……
剣士「あの木々の先ぐらいだ……」

エルフa「……なあ、凄い壁に見えるのだが」

剣士「ああ、良い忘れていたな。あれは岩山だったぞ」

エルフb「巨大な岩山……むしろエルフの国の魔法の結晶という可能性も」

エルフa「周囲に岩山のようなものを形成しているとか?」

剣士「どうであれ調べてみないとな」


エルフa「壁……岩の壁だ……」

剣士「どうすんだこれ?」

エルフb「このまま周囲を周ってみましょうか」

エルフa「壁が続くばかりだ……」

剣士「いや……本当にどうするんだこれ」

エルフb「登りようも無いですし……そもそも登れそうな所があればいいのですが」

剣士「そろそろ夜だな」

エルフa「流石にこの傍じゃあな」

剣士「少し離れたとこ……」

エルフb「どうかされましたか?」

剣士「あそこに洞窟があるな」

エルフa「洞窟……この岩山内部に続くのか?」

剣士「いくらなんでも洞窟内で夜を過ごすのはどうだろうか」

エルフa「何か問題でもあるのか?」

剣士「調査の済んでいない洞窟は何かと危険だ」

戦士「どんな毒ガスが漏れているかも分からないし、時間によっては鉄砲水のように水が出てくる事もあるらしい」

エルフa「だが、寝て覚めれば山への方角が思い出せなかっただろう?」

エルフb「恐らく記憶障害を引き起こす魔法が周囲に施されていると思われます」

エルフa「下手をしたらこの洞窟さえも忘れて、気づく事無く先を進んでしまうかもしれない」

エルフa「だが洞窟の中で寝て起きれば忘れても問題ないだろう」

剣士「まあそうなんだが……」

エルフb「私は安全だと思います」

エルフb「ここは山の内部に続く道だと思います」

エルフb「記憶障害を引き起こす魔法なんて……とてつもなく高度な魔法です」

エルフa「本当にエルフの国があるのかもしれない、か」

剣士「……二人がそう言うのならいいが」

エルフa「そういうわけで野営の準備しようか」

……
エルフa「良く寝た……」

エルフb「草や葉を敷けばこの洞窟は快適に眠れましたね」

剣士「……そうだな」

エルフa「さて……早く支度をして先に進もうか」

剣士(何の為にここで眠ったんだ?)

エルフb「疲れも取れましたし、今日も更に探索を進めないとなりませんからね」

剣士(雨が降った訳でもないのに、未調査の洞窟で眠るなんて危険な判断を俺がしたのか?)

剣士(ここの樹海は眠ると記憶が曖昧になるとは言え……一体何の為に)

エルフa「どうした? 神妙な顔をして」

剣士「いや……何故この洞窟で寝たのだろうかと」

エルフb「不思議な事なのですか?」

剣士「……ちょっと待て、aは何処に向かうつもりだったんだ」

エルフa「どこってこの山の登れそうな所を探すって話だっただろう」

エルフb「……あ! あ、危ない……ここまで認識がおかしくなるなんて」

エルフa「え?」

エルフb「この洞窟が山の内部に通じているかも、という話をしたでしょ!」

剣士「危うくここを離れるところだったな」

エルフa「そんな話……ええと、したっけ?」

剣士「……」カァンカァン

エルフa「ここ……天然の洞窟かと思ったが」

エルフb「ええ、整備されているどころじゃないわ」

剣士「彫った上に天然の洞窟のようにしてある。だがここまで歩きやすいとなるとな」

エルフb「どういった目的かは分かりませんが、外に出る為の通路のようですし足場まで天然に見せかけるのは無理のようですね」

エルフa「お……光が」

剣士「外か……意外と短かったな」

エルフb「この先は一体どうなっているのでしょうね」

剣士「……」

エルフa「すっご……」

エルフb「何て広い……それにあれは田畑でしょうか?」

剣士「間違いなくここで多くの者が暮らしている。そして誰にも知られずに」

エルフa「辿り着いたのか……わたし達は遂に……エルフの国に」フルフル

エルフb「ここがエルフの……」ヨタ ヨタ

剣士「……止まれ」

エルフa「え?」

エルフb「剣士さん?」

剣士「二人とも、手を上げろ」

エルフa「……何を言って」

剣士「こちらに戦意は無い。攻撃は仕掛けてこないでもらいたい」

エルフb「え? あ!」

見張りエルフ「……」

魔道士エルフ「……ど、どうするの?」

見張りエルフ「影縛りを撃て。拘束して陛下の前に引きずり出す」

剣士「必要なら自分の足で向かうが?」

見張りエルフ「余計な口を動かすな、侵入者が」

エルフa(凄い嫌な雰囲気なのだが……)チラ

エルフb(こればっかりは仕方が無い事でしょ)フゥ

エルフ王「して、そなたらは?」

剣士「俺は人間の剣士だ。ある物を探して旅をしている」

エルフa「わたしはエルフaだ。こちらが姉の」

エルフb「エルフbと申します。私達二人はここエルフの国を探し求め、旅をしておりました」

エルフ王「ほう……それは何故?」

エルフa「わたし達の里は人間の山賊達の襲撃に合い滅びました」

エルフ王「なんと!?」

エルフb「その後、人間の町で暮らしたりもしましたが……長く暮らしておりますと、悪意を持った者達が寄って来てしまいまして」

エルフb「やはり私達が暮らすにはエルフの、それも多少の襲撃さえも物ともしない場所……エルフの国しかないと思いました」

エルフ王「ふむ……」

エルフ王「それで、何故そのような人間と共に」

エルフb「彼は……私達が信頼できると思えた方です」

エルフb「何より彼の存在は特異な上に、私達同様世界各地を周る事を必要としていたのです」

エルフ王「利害の一致、という事か……過酷な目に合いつつも信頼しているのであれば」

エルフ王「それ相応の人物であるのだな」ギッ

剣士(凄いハードル上げてくれたな)

エルフb(だって他に言い訳をするよりもありのままに伝えた方がいいじゃないですか)

エルフa(頑張れ剣士)

エルフ王「特異と言うのは如何なる事か?」

剣士(俺が言うべきか?)

エルフa(できれば人間に口を挟まれたくないだろうな)

エルフb「彼はある日以前の記憶をなくしており、手がかりと言えば未知なる魔石だけどなります」

エルフ王「ほう……未知ときたか。どれ、見せてみなさい。外界において未知であってもここであれば別でもあろう」

騎士エルフ「魔石を出せ」

剣士「ああ……だが」

騎士エルフ「うあ!?」バチッ

エルフ王「どうした?」

騎士エルフ「貴様ぁ!!」スラァ

剣ab(えー!?)

剣士「こ、これは他人が触れられないものなんだ!」

騎士エルフ「なに?」ピタ

剣士「触れれば電気が走るように弾かれる。棒等で触れれば触れた先が弾かれる」

エルフ王「ふむ」スタスタ

騎士エルフ「へ、陛下! 近づかれては危険です!!」

エルフ王「その為にお前がおるのだ……む」バチ

エルフ王「何とも面妖な……それにこの夥しい魔力、尋常ではないな」

エルフ王「黒い魔石か……聞いた覚えが無いな」

エルフ王「剣士だったか。触れた際に何も無いのか?」

剣士「はい。ただ、それを手放すと無性に恐ろしくなります。とても大切な物を手放すような」

エルフb「彼自身も私達も彼の事はよく分かりません。ですので予想でしかないのですが」

エルフb「その魔石は元々彼の魔力であり、他にも記憶等を封じた物があるはずと結論付けています」

エルフb「彼自身、他の何かを捜し求めなくては、気持ちが落ち着かないという事です」

エルフ王「ふむ……」

騎士エルフ「陛下! まさかこの様な与太話を……」

エルフ王「ほう……玉座の宝玉があって尚、お前はその発言をするか?」

騎士エルフ「う、ぐぐ! しかし……私目には到底信じられませぬ」

剣士(どういう事だ?)

エルフa(さあ?)

エルフ王「あの宝玉、青い色をしているだろう?」

エルフb「え、ええ……美しい群青色をしていますね」

エルフ王「これは周囲で発言する者の心の疚しさに反応するもの」

エルフ王「要は嘘発見器といったところだな」

エルフ王「一時、微かに赤みが陰ったが些細な事だったのだろうな」

剣士(bに嘘をついて欲しいと思った時か?)

エルフa(今までの中で疚しさと言ったらそれくらいだな)

エルフ王「この者達に居住権を」

騎士エルフ「陛下!」

エルフ王「私が全ての責任の下、権利を渡すと言っているのだ」

騎士エルフ「……了解、しました。早急に手配させます」

エルフ王「さて……三人にはこれから仕事をしてもらうのだが、三日ほど猶予を与える。その間に望む職を見つけるのだ」

剣士「俺も?」

エルフ王「なんだ、お主は彼女らに食い扶持を稼いでもらうつもりか?」

剣士「いや……いえ、人間である自分を受け入れてくれる場所があるのだろうかと思いまして」

エルフ王「私が何とかしよう。気にせずに考えたまえ」

エルフa(それって超圧力……)

エルフb(でも私達には必要なことですものね)

剣士「一時はどうなるかと思った」

エルフa「全くだ……」

エルフb「というよりもa。貴女殆ど喋ってないでしょ」

エルフa「うわ、ばれた。いやーわたしにはああいうの無理だって」

騎士エルフ「何をいちゃついている! とっとと来ないか」

騎士エルフ「お前達には共同宿場の一室を貸してやる事となった! 陛下の温情に涙すると良い!」

剣士「おお……まさか宿生活と同じ水準だなんて」

エルフa「流れ者のわたしらにだもんな……」

エルフb「感謝してもしきれないですわ……」

騎士エルフ「うん? あれ……?」

剣士「どうかしたか?」

騎士エルフ「いや、何と言うか調子が狂うな。お前達三人で一部屋だからな?」

騎士エルフ「一部屋にキッチンとベッドがあるだけの一部屋だ。風呂トイレは宿場の共同のものだぞ」

エルフa「いやいや、待遇良いって」

エルフb「あ……一月いくらでしょう?」

剣士「そもそも外の貨幣は使えないだろう」

エルフb「それもそうね……」

騎士エルフ「最低賃金の者が一人で負担するなら給料の四割程度だ。あまり自炊しないのであれば食費は更に四割」

剣士「三人で部屋代を賄い、自炊もするとなると相当安く上がりそうだな」

エルフa「至れり尽くせりだな」

騎士エルフ「……外界の生活水準はそんなに乱れているのか?」

エルフa「一先ずの生活資金として二月分として借用か……」

剣士「ま、聞く限りじゃすぐに返済できるだろ」

エルフb「あら、結構広いのですね」

エルフa「なんかいきなり安定した生活得られそうだな」

剣士「とにかく荷物を置いて散策しよう。何の職業があるかもよく分からないしな」


剣士「普通に国だった」

エルフa「ああ、ある意味で人間の国と同じだな」

エルフb「うーん……職に就くなんて今まで考えた事がなかったから困りますね」

剣士「俺とaは肉体労働だろうしなぁ」

エルフa「兵士にでも志願するか」

エルフb「私は魔法……? いっそ、二人で料理屋にでも勤めないかしら?」

エルフa「あ、それもいいな。兵士駄目だったらそうするか」

剣士「問題はここだと素材から調味料まで違う事じゃないか?」

エルフb「あ……それは少々厄介ですね」

エルフa「皿洗いからかー」

剣士「というか本当に俺、やっていけるのかなぁ」

エルフa「ママー、あの人お耳がへんー」

エルフb「み、見ちゃ駄目よ!」

剣士「あれは結構へこんだな……やはり蛮族のように見られているのだろうか?」

エルフa「こればっかりはどうしようも、なあ?」

エルフb「剣士さんならそう時間をかけずに打ち解けていけると思いますわ」

剣士「だといいが」

騎士エルフ「ふん、外界の体術と槍術? 面白い、我々が培ってきたもののと比べてやろう」


兵士エルフ「始め!」

兵士長エルフ「騎士様お戯れを……まあよい、全力でかかってくるがいい」

エルフa「ああ、そうさせてもらう」バッ

兵士長エルフ「む? 早!」ガッ

エルフa「ふぅ……」スゥ

エルフa「……」ガガガッブァフォンブォ

兵士長エルフ「ぐぬぅ!?」ガガガ

兵士長エルフ「ぐあっ!」ドガッ

兵士エルフ「しょ、勝負有り!」

エルフb「えー……aそんなに強くは」

剣士「そういやaが戦うの初めて見るが、あれは人間の兵士でも勝てないぞ……強かったんだな」

騎士エルフ「……認めたくは無いがその技量、確かなものだな」

エルフa「え? いや、そう改まられると……」

エルフa「そ、それにわたしなんかより、あの剣士の方が数倍強いって。まあ、剣と弓だけなんだけどもさ」

騎士エルフ「我々は魔法が使える関係上、リーチを重視しているゆえ、剣を使う者……というか剣がないのだ」

騎士エルフ「だがまあ……弓が達者と言うなら」


剣士「……」ビュッ ッド

騎士エルフ「……」

騎士エルフ「いや、すまないがその程度の腕では兵士としてはとても」

エルフa「あれ……剣士どうしよう?」

エルフb「剣士さん、本格的な就職難?」

エルフb「ええと、ここがこういう理論でこれが……」

研究員エルフ「な……そんな考え方……な、なるほど」

剣士「……どういう事だあれ」

エルフa「エルフの魔法を学びつつ人間の魔法も上手く混ぜたものとかあるんだとさ」

エルフa「まー普通、両種族の魔法を学ぶ奴なんていないし、珍しいのだろうけども」

学士エルフ「これは……凄い! 是非ともうちで研究に参加してくれ!」

剣士「凄い大事になってきたな」

エルフa「現場で即決か……」

エルフb「物好きで講じた事がこうなるとは、言われた私が驚きですわ……」

騎士エルフ「ここにいたか。軍法会議の結果を伝えるぞ」

エルフa「あ、ああ……」ドキドキ

騎士エルフ「お前には兵士長の職位を授けると共に、訓練の指導者になってもらう」

エルフa「うえぇ?! 基礎こそ他者から教わったが、基本は自己流だぞ!」

騎士エルフ「その自己流が我々の流儀の隙を突いてみせたのだ。なに、ここでの基礎はしっかりと教える」

騎士エルフ「その上でお前なりに吸収し、今までの経験と合わせたものを伝えていってもらう」

剣士「凄いな……いきなり役職じゃないか」

エルフb「人に教える立場になるなんて……」

エルフa「夢にも思っていなかったさ……」

……二週間後
剣士「……」ザックザック

剣士「……ふう」ザック

エルフ「おおーい今日はもう上がりでいいぞー!」

娘エルフ「剣士さんが来てから凄い仕事が捗るね」

剣士「そう言ってもらえると助かるよ」

エルフ「やっぱり体の頑丈さは人間の方が良いみたいだなぁ」ウンウン

エルフ「おっと、忘れていた。畑で取れたものだ、持っていってくれ」

剣士「ありがとう、助かるよ」

娘エルフ「明日もよろしくね」

剣士「ああ」

コンコン
剣士「どうぞ」

エルフa「お勤めご苦労さん」ガチャ

剣士「お前の方がよっぽど大変だろうに」

エルフa「まあな。戸惑う事ばかりだ」

エルフa「だがお陰でこんな立派な所に住めるのだ。文句は言えまい」

剣士「リビングと一人ずつの個室、バストイレ付き。貸家の上をいったな」

エルフa「はは、全くだ」

剣士「ま、兵士長に学士お気に入りの魔法研究員だもんな」

剣士「流石に彼らにとって最低ランクの共同宿場に居させる訳にもいかないだろうからなぁ」コンコン

エルフb「剣士さん、おかえりなさい」ガチャ

剣士「ああ、ただいま」

剣士「あ、そうだ。お裾分けを頂いてな」

エルフa「お、野菜!」

エルフb「今晩はこれで作りましょうか?」

剣士「ああ、頼むよ。採れたてだからな」

エルフa「よーし、腕によりをかけるぞ」

剣士「そういえば二人はどんな調子なんだ?」

エルフa「わたしはまだまだここの槍術を習っている身だからな」カチャカチャ

エルフb「私は実験や研究の日々ですね……」トントントン

剣士「どんな研究なんだ?」

エルフb「私の使っている探査魔法なんですが……両種族の魔法から成り立っているのですが」

エルフb「それの更なる改良の為、試行錯誤の毎日ですよ」

エルフa「ここから出る気も無いのに一体何に探査魔法を使うって?」

エルフb「ここからでも世界の状態が分かるようになる、が目標らしいです」

剣士「スケールがでかいな」

エルフa「鎖国状態の癖に……」

エルフa「お前の方はどうなんだよ?」

剣士「順当に剣士から農夫にジョブチェンジ……」ノター

エルフa「凄い凋落だな」

剣士「エルフの剣士とか作れないかぁ……」

エルフb「魔法を使う為にもリーチのある槍を使っているのですよね?」

剣士「実戦経験とかはなさそうだけどな」

エルフb「まあそうでしょうけども……それですとやはり剣の普及は難しそうですね」

エルフb「そういえばエルフの国ですら、魔法が一切使えないエルフはいないらしいわよ」チラ

エルフa「……」ビクッ

剣士「やっぱ珍しいのか」

エルフb「それはもう……文献にすら存在しないくらいです」

エルフa「に、苦手ってだけで出来ない訳でも……ないというか」ゴニョゴニョ

エルフb「成功した魔法は?」

エルフa「……」

剣士「……な、無いのか?」

エルフa「う、うるさい! わたしは槍で上り詰めるのだからいいんだ!」

剣士「そりゃまあ凄い飛び級で登ってはいるだろうけどもさ」

エルフb「まあaはその分、普通のエルフより体が丈夫ですしねぇ……」グツグツグツ

エルフa「くそ、言いたい放題言ってくれて……」

エルフb「ごめんごめん。ああそうだ、剣士さんにもお伝えする事が」

エルフb「魔石の件なのですが、一部の研究員達が調べ始めました」

剣士「成果でるのか……それ」

エルフb「正直、望みは薄いかと思います……」

エルフa「ま、それでもエルフの国で調べるんだ。もしかしたら類似品や対になるもの形状、個数とか分かるんじゃないか?」

剣士「いや、それなら場所の特定の方が有り難いんだが……」

……四ヵ月後
兵士エルフ「「やぁっ! たぁっ!」」

エルフa「そこ、そうじゃない! 打ち出す時には……!」


エルフb「次はこの水撃魔法のこの理論を利用した……」

学士エルフ「なるほど……空気中の水分であればこちらも……」

研究員エルフ「それで上手くいかなかったら次は……」


剣士「……」ゴッシゴッシ

牛「モォォォ」

剣士「長閑だなぁ……」

娘エルフ「お疲れ様。はい、麦茶」

剣士「ああ、ありがとう」

娘エルフ「早いものね……貴方が来てもう四ヶ月も経つのね」

剣士「そうだな……」

娘エルフ「……」

剣士「……」

娘エルフ「そ、そのさ、剣士さえ良ければずtt」

エルフ「おーい二人ともー手が空いているなら、ちょっと手伝ってくれーー」

娘エルフ「……っだあ! もう、お父さんは!」

剣士「……」

剣士「四ヶ月か……」ガチャ

剣士「……ただいま」シーン

剣士「……」


エルフa「ただいまぁ……」

エルフb「ただいまです……」

剣士「おかえり、夕食は作ってあるがどうする?」

エルフa「あー……軽く頂くよ」

エルフb「私もそうします」

エルフa「ご馳走様」スック

剣士「明日も早いのか?」

エルフa「その上に書類……というか稽古についての報告みたいなのを求められた……」ハァ

エルフb「私も今一度理論の見直しがあるので、書類に纏めないとですね」

剣士「朝食はどうする? 何か作っておくか?」

エルフa「ああ……お願いするよ」

エルフb「すみません……全てを任せっきりにしてしまって」

剣士「なに構わんさ」

エルフa「ううん? これ意味伝わるかぁ……?」コンコン

エルフa「? どうぞ?」

剣士「茶でも淹れるか?」ガチャ

エルフa「え? ああ、すまない。貰うよ」


エルフa「ふう……」

剣士「大変そうだな」

エルフa「全くだ。こういうのは苦手そうなの位分かるだろうに」

剣士「ま、組織である以上仕方の無い事なんだろうな」

エルフa「だがこれはなぁ」ズズ

剣士「それでもやりがいはあるんだろ?」

エルフa「……そうだな」

エルフa「だがもうちょっとゆとりは欲しいとは思うがな、はは」

剣士「まあなんだ、体を壊さない内に休みを貰え」

剣士「いくらなんでも無茶を続ければ支払う代償も生じるだろう。そこまで急く必要も無い」

エルフa「そうだなぁ……ま、この書類と共に嘆願してみるよ」

剣士「それがいい。じゃ、残りの仕事もあるんだろうからあれだが、あまり無理せず休めよ」

エルフa「ああ。お茶、ありがとう。おやすみ剣士」

エルフb「……」ガリガリガリ

エルフb「……んー」コンコン

エルフb「どうぞー」

剣士「茶でもと思ったがどうだろうか?」ガチャ

エルフb「ありがとうございます、頂きますわ」


剣士「aは苦戦していたよ」

エルフb「あの子はまあ……見ての通りですからね」

剣士「aにも言ったが体は大事にしろよ?」

エルフb「ええ、そのくらいは考えていますわ」

エルフb「というよりも……心配する事も無いと思いますがね」

剣士「?」

エルフb「aも私も、昔働きすぎで倒れた事がありましたので」

エルフb「それ以降は私達も考えるようになったわ」

剣士「……里を失ってすぐの事か?」

エルフb「ええ……あの頃はまだ幼かったのもありますが、とにかく必死だったので」

剣士「そうか……」

エルフb「旅立つ時には気持ちの整理はついていましたので、そう顔を暗くされないで下さい」

剣士「それならいいんだがな」

剣士「あまり話しこんでもあれだし、俺はそろそろ退室するよ」

エルフb「そうですか? 私はもう少し話をしていてもいいのですけども」

剣士「明日が早いんだろ? 話がしたいなら休みを申請してくれ」

剣士「でないと俺もおちおち長話ができない」

エルフb「お気遣いありがとうございます」

エルフb「ただ……今の研究が私自身凄い楽しいので、休暇を貰うのも中々悩みどころなのですよ」

剣士「……まあ、無理をしないんだったらいいが、あまり心配させないでくれ」

エルフb「ふふ、覚えておきます」

剣士「それじゃお休み」

エルフb「はい、剣士さんもお休みなさい」

剣士「……」パタン

剣士「……」

剣士「……四ヶ月、結局何一つと無しか」

剣士「……」

剣士「……」カリカリカリカリ

剣士「……」カリカリカリカリ

剣士「……あまり長くなってもな」カラッパタム

剣士「……」

見張りエルフ「うん? よお」ホー ホー

剣士「よう、お勤めご苦労さん。一人なのか?」

見張りエルフ「見ての通りだ。お前は?」

剣士「月が綺麗でね。一人で散歩だ」

見張りエルフ「……散歩の割には随分な荷物だな」

剣士「……」

見張りエルフ「ここを出て行くのか?」

剣士「……」

見張りエルフ「……お前は何かを探しているって話だったな。もう諦めてここで根を下ろしたらどうだ?」

見張りエルフ「今じゃお前を差別する奴もいないだろうに」

剣士「限界なんだ……」

剣士「今なら確信して言える。俺の探している物は、やはり俺の一部なんだと」

剣士「体の芯から渇く……探さずにいるのは耐えられない」

剣士「旅をしている間はほんの少しだが満たされるんだ」

見張りエルフ「……あの二人はいいのか?」

剣士「怒られるだろうな。だが、二人はやっと住む場所を得られた」

剣士「おまけに居場所まで……俺が旅に戻る事を告げれば喜んでついて来てくれるだろう」

剣士「二人にとって……俺の傲慢でも何でもなく、きっと俺についてくる方が幸せだと言ってくれると思う」

見張りエルフ「お前らのいちゃつき具合は、時々後ろから刺したくなるよ」

剣士「はは、そうか。……まあ、それでも二人は置いていく事に決めた」

剣士「二人はもう約十年旅をしてここを捜し求めた」

剣士「そして辿り着き安住を得られた今、それを俺が壊す事になるなんて到底できやしない」

見張りエルフ「独りよがりのエゴだな」

剣士「……だろうな。だが別に今生の別れにするつもりは無い」

剣士「必ず探し物を見つけて帰ってくるさ」

見張りエルフ「陛下はお前達を大層気に入っている。あの方の代でここに辿り着いたのはお前達だけだからな」

見張りエルフ「だが、出て行くのはお前が初めてだ。この意味、分かるか?」

剣士「結界を更に、か……」

剣士「暗号化してメモ書きして、この樹海に来る時にはそのままの形で記し直せば何とか来れるだろう」

剣士「あ……俺が山まで辿り着けたのは二人がいたからか……俺一人だと感覚が狂いすぎて来れないか」ブツブツ

見張りエルフ「はあ……こいつをやるよ」

剣士「これは?」

見張りエルフ「魔法を封じたただのお守りだ」

見張りエルフ「但し、この結界や記憶障害魔法の影響を激減してくれる」

剣士「……いいのか?」

見張りエルフ「お前が悪人じゃないってのは知っているし、今聞いた決意に嘘は感じられないからな」

剣士「そうか……ありがとう。俺からもこいつを」ゴソゴソ

見張りエルフ「……白い粉?」

剣士「強烈な睡眠薬だ」

見張りエルフ「……」

剣士「すぐに俺が出て行った事を報告されては敵わんからな」

見張りエルフ「これで俺がすぐに報告しなかったのは、できなかったのであって罰は無い、と」

剣士「迷惑をかける訳にいかないからな」

見張りエルフ「んじゃあお前が吹っかけてくれ」

剣士「恩に着るよ……帰って来た時に礼と詫びはしよう」

見張りエルフ「期待してっからな」

剣士「土産でもこさえて来るさ」

翌日
エルフa「次の者! かかってこい!」

騎士エルフ「訓練中すまないが少しばかしいいだろうか?」

エルフa「え? ああ、はい。各自、小休止!」


エルフa「どうかされましたか?」

騎士エルフ「どうにも剣士がいないらしいのだが、何か聞いてはいないだろうか?」

エルフa「農場の方にもですか?」

騎士エルフ「むしろその農場から彼が来ないという報せを受けたのだ」

騎士エルフ「君達の家にもいなかったのでな……まあなに、エルフbにあたってみよう」

エルフb「い、いえ……特には何も」

騎士エルフ「ふむ……何処に出かけたのやら」

兵士エルフ「き、騎士様!」

騎士エルフ「どうした?」

兵士エルフ「それが洞窟の見張りをしていた者が眠らされているのを発見しまして」

兵士エルフ「睡眠薬によるものと思われるとの事です!」

エルフb「睡眠薬……」

騎士エルフ「心当たりがあるのか?」

エルフb「彼が……二週間ほど前に寝つきが悪いと言っていたので、ここで調合をしているものを分けたのですが……」

騎士エルフ「……どういう事だ」

騎士エルフ「……あ。彼の部屋には何が置いてあったか覚えているか?」

エルフb「旅で使っていた道具やそれらを入れるリュック等があったかと……」

騎士エルフ「やけに私物が少ないとは思ったがまさか国外に?」

エルフb「え……」

騎士エルフ「もう一度君達の家に向かう。ついて来てくれ」

エルフb「は、はい! ああ、aにも……」


エルフa「……無い」

エルフb「剣士さんの荷物が……」

騎士エルフ「すぐに陛下にお伝えしろ! 見張りの者はまだ目を覚まさないのか!」

兵士エルフ「覚醒魔法が効かないようでして、自然に目覚めるのを待つ他無いとの……」

騎士エルフ「……」

エルフa「なんで……そんな」

エルフb「剣士さん……」

騎士エルフ「二人はもう休め……洞窟の警備を増員させろ! それから第三……」バッ

エルフa「どうしてだよ……黙って出て……」

エルフb「……探すわよ。剣士さんが何も残していないとは思えないわ」

エルフa「え、あ、ああ、そうだな!」

エルフb「必ず何かを……」ガササ

エルフa「……ん?」ガラッ

エルフa「メモ……いや手紙か?」

……
エルフa「なんだよ……これ」

……だからまた旅に出ようと思う。

エルフa「一言言ってくれれば……わたし達は」

……やっと得られた安住の地で暮らしていて欲しい。

エルフb「だからって……こんな事」

……必ず帰る。それまでそこを守っていて欲しい。

エルフa「……だからって」

エルフb「そうね……夫の居ぬ間を守るのも良き妻の裁量よ」

エルフa「……」

エルフb「剣士さんが必ず帰る、と言ったのよ。私達にできるのは彼を信じるだけよ」

エルフa「……まだ今なら間に合うかも」バッ

エルフb「どっちに向かったかも分からない」

エルフb「砂漠に行くのか、山に行くのか……それとも別の大陸に渡るのか」

エルフa「た、探査魔法を使えば……」

エルフb「樹海は元よりそこを出た後、よほど近くにいない限り見つけられないわ」

エルフa「……そう、か」

……

…………半年後

エルフa「ただいま」

エルフb「お帰りなさい、a」

エルフa「そっちが早いのは珍しいな」

エルフb「方針の見直しって事で今日は早めに切り上げる事になったのよ」

エルフa「そっか……」

エルフa「……」ギュ

エルフb「……」

エルフa「剣士に……会いたいな」

エルフb「ええ、本当に。今頃何処にいるのやら……」

……
剣士「……」ザッザッ

山賊「……旦那ぁ、そろそろ腹減りませんかねぇ?」

剣士「もう少し我慢しろ」

少女「……剣士、お腹空いた」

剣士「そうか。今日はこの辺りで休むとするか」

山賊「扱い酷くないですかねぇ」

剣士「年上の、それも男に優しくするとかないだろ」

山賊「いやまあ、そりゃあそうなんですがね」

山賊「魚焼けましたぜ」パチパチ

少女「……美味しい」

剣士「……」

山賊「まだ何も感じられないとかですかい?」

剣士「いや……逆なんだ」

剣士「なんかこう……ワクワクするっていうか」

剣士「こんな事初めてだ。近いのかもしれない」

山賊「これで記憶が戻るといいんですねぇ」

剣士「俺の記憶が戻ったらお前はどうする?」

山賊「しがない山賊に戻りますさ」

剣士「全く、山賊に勢力争いがあるとは思ってもみなかったぞ」

山賊「あいつらぁ汚いんですよ。大勢でそれも無差別に襲いやがる」

剣士「そして片やお前は単独義賊……良かったな。俺が近くにいて」

山賊「へっへへ、俺ぁ初めて武人たるものってのを見やしたぜ」

山賊「ま、その礼としてこうしてお供していますが、旦那が許可してくれんならこれからもお供しやすぜ」

剣士「お断りだ。探し物が見つかれば俺は帰る」

少女「……」ウツラウツラ

剣士「おっと……おやすみ」ナデナデ

少女「……うん、おやすみ剣士、山賊」

山賊「……」

山賊「この子はどうすんです?」

剣士「この子の言う事を信じれば孤児だしなぁ」

剣士「いっそお前が引き取ってくれ」

山賊「無茶言わんで下せぇ。だいたい、旦那と離れ離れになったら三日三晩、泣くんじゃないですかねぇ」

剣士「……だよなぁ」ハァ

剣士「まあ……最悪連れて帰るよ」

山賊「養子、的な?」

剣士「この年でこの年の子を養子にするのは流石にあれだな……」

剣士「……まあ多分、養子にせずとも何とかなるとは思うがな」

山賊「そういや、旦那の故郷はどこなんです? 寄る機会があったら挨拶くらいしていきてぇですし」

剣士「お前じゃ辿り着けんよ」

山賊「なんですか、それ……」

剣士「エルフの里だから」

山賊「そりゃまた辺鄙なところに……しかも俺じゃあ連中の結界に弾かれるし」

山賊「というかよく里で暮らす事ができやしたね」

剣士「色々とあってな……あそこには待ってくれている人がいるんだ」

山賊「ってことはお相手はエルフですかぁ。こりゃまた珍しい」

剣士「……そろそろ俺達も休むか?」

山賊「なんです? 思い出したら恋しくなっちまいましたか?」ニタニタ

剣士「もう半年だ……とっとと見つけて帰る為にも休むんだよ」

山賊「もうちょいツッコミとかないんですかねぇ……相変わらず旦那はつれねぇなぁ」

剣士「……」ザッザッザッ

少女「け、剣士……」

山賊「旦那ぁ! ちょいとペースが速すぎはしやせんかぁ?」

剣士「あ、ああ……悪い」

少女「どうしたの?」

剣士「近いんだ……恐らくもう目の前にあるぐらいに」ソワソワ

剣士「ああ、駄目だ……堪らない……今すぐにでも走って向かいたいぐらいだ」

山賊「んじゃあー少女負ぶってってくださいよ」

剣士「よし」バッ

剣士「……」タッタッタッ

少女「剣士、凄い嬉しそう」

剣士「ああ……そりゃあな。もう八年も探してきたんだ」

山賊「八年も旅するってのは想像できやせんね」

剣士「それが俺の人生だったよ。俺の記憶の殆どが旅だ」

少女「ずーっと?」

剣士「時々、町で暮らしたりもしたが基本的には旅をし続けたな」

山賊「嫁さんも旅人なんすかね? 旅人のエルフってのも珍しい」

剣士「まあな。当時の俺もそう思ったさ」

剣士「……」

山賊「すっげ……浮いていやがる」

少女「きれい……」

剣士「反応しているんだ。俺と俺の魔石に……同じ黒い魔石」

剣士「ああ……俺はこれを求めて」

山賊「なんかどんどん輝いてきてんですけど、本当に大丈夫なんでしょうね?!」

剣士「ああ……これは危害そのものを加えるためのものじゃないからな」ピシ

少女「ひび……」ビシビシ

山賊「ちょ、割れ……」ビキッ

剣士「心配する事は何も無い」カッ

……
戦士「なんて威圧感だ……」

僧侶「それに凄い魔力……人と変わらない姿なのに」

魔法使い「あの様な年端もいっていない少年が……」

勇者「お前が……お前がそうなのか」

「この時をどれだけ待ったか……長く苦しい時だった」


「それも終わりだ……察しの通り、僕が魔王だ。さあ勇者達よ、僕を殺しておくれ」

……

…………
剣士「……」

剣士「そうか……」

剣士「俺が……魔王だったのか」

山賊「あ……んだ。今の……俺は?」

剣士「山賊?」

山賊「王国一の剣の使い手……いや俺は山賊……」

少女「ぅ……あ……」ブルブル

少女「恐いよ……あたし、剣士……」

剣士「まさかお前達……」

剣士「大丈夫だよ、少女。少女は少女だ……何も恐がることはないよ」ギュ

少女「……」スースー

山賊「……」

剣士「落ち着いたか?」

山賊「あ、ああ……しかしこれは……」

剣士「俺の魔力に中てられて前世の記憶を呼び起こしてしまった、といったところだろうか」

剣士「少女は幼さ故、膨大な記憶に錯乱したようだが……」

剣士「お前はあの時の戦士なのか」

山賊「あー……そーですよ。今じゃ何処の馬とも知れない山賊ですよぉ」

山賊「旦那こそあん時とは見違えるくらい精悍な……あのなよなよした魔王が旦那たぁ」

剣士「お前達のような転生ではないからな。俺はあの時の自分の魂と肉体を再構築している……つまりはあの時の自分ののz」

山賊「あんま難しい話はしないでくだせぇ……」

山賊「で、この子は僧侶か魔法使いか勇者ですかねぇ」

剣士「僧侶だな」

山賊「なんで分かるんです?」

剣士「勇者と魔法使いに心当たりがある」

山賊「……エルフの里の待ち人ですかい。え? 二股?!」

剣士「聞く限りじゃ重婚が許されるところだしな」

山賊「まっじすか……にしてもまさかなぁ……アレですか」

剣士「……そうだな、恐らくはあれが引き合わせる運命となったのだろうな」

剣士「情報を整理しよう」

山賊「整理というか今後の対策じゃあないんですかね」

剣士「……実は封印される時に気づいたんだが、俺を封印するというのは根本的な解決に至らないんだ」

山賊「どういう事です?」

剣士「元々、この封印はどういう意味だったか知っているか?」

山賊「……旦那の部下、魔王の手下である魔族魔物は、その力の上限が魔王の力の何割かになっている」

山賊「旦那はその割合が大きすぎて、直属部隊が強いし旦那はなよなよしててなめられてて……」

山賊「ただ、旦那が全力で捻じ伏せればどうとでもなるが、それをしたくなかった、てぇ話でしたよねぇ」

剣士「魔王は死ねば魔族魔物は消滅。時を経て新たな魔王が発生し、彼らも蘇る」

剣士「変わるのは時代と魔王だけで彼らの立ち位置は変わらない」

剣士「が、魔王の心臓を喰らえば魔王となる事ができる」

山賊「手下が手を出せないのは魔王の持つ、対魔の障壁が強固であったから」

山賊「だからこうして勇者の封印術で長い月日をかけて、大気の魔力を吸収し」

山賊「連中に破られない障壁でもって、黙らすんじゃなかったんですかぁ?」

剣士「……まあ、そのつもりだったんだがな」

剣士「彼らに完全な死はない。如何なる者も死後72時間を経て蘇る」

剣士「今現在、周囲に魔物がいない事を見ると、封印による彼らの連鎖消滅からの復活も今から72時間後」

剣士「魔族魔物が一斉に蘇るとみていいのだろう」

山賊「えーと何が言いたいんです?」

剣士「死んでこそいないが、状況は限りなく魔王死亡から新魔王誕生と酷似している」

剣士「じゃあ蘇る彼らの力は?」

山賊「……。え? 今の旦那の力から差っ引いた能力なんですかぁ?」

剣士「恐らくは……そして何より恐ろしい事に対魔の障壁の強度は限界がある」

剣士「彼らにとって千載一遇の好機というわけだ」

山賊「……ヤバくはありゃしやせんか?」

剣士「非常に危険だよ」

山賊「ど、どうするんですかぁ?!」

剣士「……」

剣士「俺の復活に際して、間近にいたお前達は強制的に俺の眷属になってしまっている」

剣士「……巻き込んでしまってすまない」

山賊「いやいやそれはいいから事態に対する具体策をですねぇ」

剣士「この力があれば……この世界全てにまで力が行き渡るだろう」

山賊「魔物魔族の殲滅ですかぁ? しかしそれじゃあ三日後には……」

剣士「彼らも俺も……全て時の牢獄に封じる」

剣士「そこで俺が死ねば魔王は誕生する事はできない」

剣士「先代から新魔王誕生には少なくとも数十年の月日がかかっている」

剣士「時の牢獄は世界は愚かありとあらゆる事象や時間から隔離された世界。経るべき時間が無いのだ」

剣士「あの時文献が考察に役立つとはな……」

剣士「確かな事は何一つ言えないが、魔王という存在は他の魂に魔王たる何かがくっつく事で生まれるものなのだろう」

剣士「それは最早魂に寄生する存在だ……そしてその魂の存在を魔王にし、現世で生きると共に成長し」

剣士「魔王が死ぬ間際に現世に卵を残すのだろう。それが長い年月をかけて孵化し、また魂に寄生する……」

山賊「突拍子も無い話じゃあ……」

剣士「飽くまで仮説だ。もしもこれが侵略、殺した者の魂に産み付けていたら最悪だが……まあそれはなさそうだ」

山賊「なんでです?」

剣士「俺が封印されてから何百年経っていると思っている。やはり次の魔王誕生は、俺の死が第一条件となるようだ」

山賊「その第一条件でもって、死した魂に産み付けられていた卵の孵化って可能性は?」

剣士「どうだろうな。それらの魂は全て天国なり地獄なりで洗われて転生しているんじゃないか?」

剣士「だとしたらそうしたものも排除されていると考えられる……というかこれでダメなら絶望的過ぎる」

山賊「まあ確かに……それなら永久に封印していた方が良さそうですね」

剣士「全くだ」

山賊「で、さっき言っていたところで死ねば、卵の孵化に必要な時間が得られないと」

山賊「にしてもそんな世界の存在なんで知っているんです?」

剣士「……魔王として生まれた者には、いくつか魔王としての知識が与えられているようだ」

剣士「そのうちの一つが時の牢獄だ。生まれた時は何故こんな知識があるのか分からなかったが……」

剣士「今でも分からない事だらけだが、魔王とは何者かが生み出したのかもしれない」

剣士「時の牢獄はどう見ても、魔王と言う存在を滅ぼす為の知識だ」

剣士「恐らく俺もお前達も完全に捕らえられはしないだろうが、それは魂での話になってしまうだろう」

山賊「死ねばその時の牢獄ってのから開放されるって事ですかい」

剣士「魔王たる存在は元より、その部下達は命の在り方が違うからな」

山賊「まー……こればっかりはどうしようもないですかねぇ」

山賊「むしろ可哀想なのその子でしょうに」

少女「……」スゥスゥ

剣士「ああ……そうだな」

……
少女「……分かった」

山賊「分かったって……そんな」

少女「だって仕方ないよ。でも、あたしは嫌じゃないよ」

少女「剣士がいるんだもん。山賊だっている」

少女「できれば……今の勇者様や魔法使いさんとも会いたかったけども」

剣士「すまないな……そこまでの猶予はないんだ」

山賊「……魔王城、もう残っていないって話ですぜぇ」

剣士「場所に意味があるんだ。あそこには魔王たるものの魔力を高める作用があるんだ。だから魔王は城から動くことは無い」

剣士「あそこから世界全ての魔物魔族を一匹残らず牢獄へと引きずり込んでやる」

山賊「しっかし、こっからだと三日じゃ到底着けませんぜ」

剣士「今の俺なら魔法が使える……と言っても俺が今まで辿った道だけだからな」

剣士「そこからなら何とか間に合いそうだ」

少女「あたしも頑張る」

山賊「つっても、旦那と違って俺達は記憶だけですからねぇ、やれる事は変わりませんぜ」

剣士「もしも間に合わなければ全力で踏破していくしかないだろうな……」

山賊「魔法を誤爆させないでくだせぇよ……」

……
騎士エルフ「新たなる探査魔法により、先の強大な魔力の波動は新魔王誕生のものと思われる結果が得られた」

騎士エルフ「これまで我々は沈黙を続けてきたがこれは憂慮すべき事態である」

騎士エルフ「我がエルフの国の惹いては世界の安寧を守るべく」

騎士エルフ「ここに魔王討伐部隊を結成し、撃破する事を宣言する!」


エルフb「魔王……どうしてこの様な時に」

エルフa「さあね。ただわたし達のやるべき事は一つだ」

エルフb「ええ、魔王が現れたとあってはここも今までのような安全ではなくなるでしょうからね」

エルフa「倒して、また剣士の帰り待つだけだ」

エルフa「と言いたいが……まさかそんな事はないよな」

エルフb「剣士さん……どうかご無事で」

剣士「くそ……上手くいかないな」

山賊「旦那ぁ……転移魔法下手過ぎやしやせんかぁ」

剣士「本来これは標を立てて行うんだ。それ無しにやっている俺の身にもなれ」

少女「剣士、頑張れー」

山賊「それにこの全身ローブ姿もどうにかなりませんかねぇ」

剣士「俺が力を取り戻した時に発した魔力を感知し、周囲が攻撃を行わないとも限らない」

剣士「これでも物理・魔法耐性を持っている。奇襲で死にたくなければ黙って被ってろ」

剣士「ここらは大気の魔力が不安定だ……少し移動してから転移魔法を使うぞ」ザッザッザッ

山賊「魔王が難儀なもんですねぇ」ザッザッザッ

少女「山賊、ごめんね」

山賊「流石にこのペースじゃあ負ぶってなきゃ仕方がなぁ」


斥候エルフ「強大な魔力の源を確認、徒歩で移動中!」

騎士エルフ「当たりを引いたか。他箇所に展開している部隊を呼び寄せろ」

エルフa「しかし徒歩と言うのは怪しいですね」

騎士エルフ「魔王城跡を目指していると見せかけて、周囲の奇襲を迎撃する罠と見るべきか」

エルフb「……やはり複数個所で感知されている魔力は転移魔法にて移動しているからのようですね」

エルフa「なら何故、今は徒歩なのだろう……?」

エルフb「転移魔法は多箇所で魔力を感知させて霍乱させる為では?」

魔術士エルフ「この辺りは魔力が不安定ですからね……もしかして目覚めたばかりで魔法が上手くつかえないとか?」

騎士エルフ「不安定域から脱したらまた転移魔法で、か?」

エルフb「もしもそうなら、更に後手となりますね」

エルフa(まだあれが何者かは分からないが……)ザッ

エルフa「一番槍をいれてやろう。その間に魔法攻撃部隊を」

魔術士エルフ「了解」

騎士エルフ「先制の切り込み、私も加わろう」

剣士「……」ピク

剣士「山賊、離れろ!」

山賊「頼んますよぉ!」バッ

少女「……剣士」

剣士「大丈夫だ……心配するな」ザッ

剣士(とは言え……この闘気、只者じゃないだろうが)ゾクッ

剣士(これでは奇襲の意味が無い……実践経験はそうでもないのか?)

剣士「!」ギィィン

エルフa「こいつ……」グググ

騎士エルフ「ほう……だが、その体勢では」バッ

剣士「……」グォ

エルフa「ぐぁ!」

騎士エルフ(振り払っ……)ガギィィン

エルフa「こいつ……強い」

剣士(こうなってしまったか……退避の時間を稼いで、一気に引き離してから離脱するしか!)キィィンギィィィン

騎士エルフ「ぐ……! くっ!」

エルフa「そこだ!」シャッ

剣士「くっ……」ビリィッ

騎士エルフ「その顔、見させてもらうぞ」

剣士「……」バサァ

エルフa「……え?」

騎士エルフ「君は……まさか」

エルフa「嘘だ……なんでお前が……なんでお前なんだ」

剣士「……」

エルフb「離れて!」キィィィィン

剣士(何時の間に空に炎の弾が……)

騎士エルフ「あ……ま、待て」

エルフa「撃つな!」

エルフb「総員、撃ち方始め!!」

エルフa「ここにいるのは剣士だぁ!!」

エルフb「……え?」ギュオン

ドドゥン ドドドドン ドドドドドド

エルフa「うああ……あああ! うああああ!!」

騎士エルフ「止めろ! こうなっては……!」グググ

エルフa「放せ! 放してくれ!」

エルフa「剣士! 嫌だ、こんな……」


剣士「……」コォォ バッ

剣士「ふぅー……対魔法障壁に慣れておいて助かった……」タタタ

山賊「旦那ぁ! 爆発があった時は駄目かと思いやしたぜぇ」

少女「剣士ー」

剣士「すまん、遅くなったな」

少女「あれが……勇者様と魔法使い?」

剣士「先制を放ったエルフと、後方の魔法型のエルフを従えていたエルフだ」

山賊「へえあれが……随分とお偉い立ち位置のようで」

少女「片や山賊……」

山賊「お前はただの子供じゃあねーの」

剣士「さっきの魔法のお陰で魔力の不安定域が吹き飛んだな」

山賊「と言われても俺らには何とも……」

剣士「ま、そういう訳だから転移魔法を使うぞ」

山賊「うい」

ゴォォォォ
エルフa「……」

騎士エルフ「ここの箇所だけ攻撃の跡が無いな……」

エルフa「魔法による障壁か何かを……」

エルフb「a……どういう事なの?」

エルフa「あのローブの男は……剣士だったんだ」

エルフb「……」

騎士エルフ「私も見た。間違いなく彼だったよ」

エルフb「一体何が起こっているの……やはりあれは」

エルフa「ああ、もしかしたらあの魔石は……」

騎士エルフ「……移動するぞ。彼が何を考えているかは分からないが、このまま放置するわけにはいかない」

魔術士エルフ「しかしこれでは後手に回り続けるだけですね」

エルフa「……そうだ、反撃をしてこなかった! あいつにはまだあいつの心があるはずなんだ!」

エルフa「どうか考えてはもらえないだろうか?」

騎士エルフ「仮にあれが彼自身であっても、彼が魔王であるならば魔物達もまた現れる事になる」

騎士エルフ「その時まで待つと言う訳にもいかないだろう」

騎士エルフ「とは言え、問題の進路予想だが……」

エルフb「我々も魔王城を目指しましょう。反撃が無いのであれば、こちらと戦う事以外の目的があるはずです」

騎士エルフ「やはり濃厚な所はそこか……」

エルフa「……剣士」

剣士「魔王城跡周辺は忌み地として村どころか、何処の国も領地である主張さえしていない」

剣士「つまり……高度な転移魔法でもってしても、周囲に飛ぶ為の目印がない」

山賊「先回りにしても、お互い大した優位性がないって事ですかい」

剣士「いや、俺達よりも近くに着く事はできるから一概には言えないな」

少女「先回りされる?」

剣士「可能性としてはな。むしろ先のエルフ達よりも、人間軍の方が厄介だな」

山賊「なんでです?」

剣士「歩兵で移動させても道中でぶち当てる事ができるからだ」

山賊「ただの兵士だったら旦那の魔法で無力化できるんじゃあないですかねぇ」

剣士「だができれば何かをするという状況は避けたい。魔物が現れた時、無力化されたままだったら犠牲が出る」

山賊「板ばさみですなぁ」

剣士「今日はここらで休むか……」

山賊「そういやぁ、旦那の魔力を感知してエルフ達が転移魔法で、って事はないんですかねぇ」

剣士「魔力をだだ漏れにしていれば可能だろうな。今は限界まで抑えているからな」

剣士「大きく見積もっても2,3kmくらいまで近づかなきゃ気づかれないだろう」

山賊「寧ろキロ単位で気づかれんですか」

少女「それだけ魔力がおっきい」

剣士「そういう事だ」ナデナデ

少女「えへへー」

山賊「それにしてもこのペースで三日ルールで着けるんですかねぇ」

剣士「三秒ルールみたく言うなよ……」

剣士「ま、お前の心配は大当たり。間に合わんだろうな」

山賊「えー……?」

剣士「だから今の内から周囲を取り囲む守護障壁を強化させておく」

山賊「正面突破って事ですかい」

剣士「連中がこちらの思惑に気づくかどうかだ」

剣士「飽くまで魔王城跡で俺だけの優位性を獲得しようとしている、と思っているのなら好都合だ」

山賊「へ? それだって連中には困る事でしょうに。魔王城に向かってるってだけで全力で阻止するんじゃあないですかね?」

剣士「それならその場から引き摺り下ろすだけで事が済むからな」

剣士「連中には俺の障壁を破れる立ち位置にいるのは分かっているのだし……どうした?」モゾモゾ

少女「お話難しい……おやすみ剣士、山賊」

剣士「……一応、前世の記憶と知識があるんじゃ」

山賊「年齢の補正はあるんでしょうが……元々がそういう事でさぁ」

山賊「えーと、話を戻しますと……あいつバカみてーに魔王城向かっているぜーどうとでもできんのになぁ」

山賊「って思っているところを出し抜くんですかい?」

剣士「そうなるだろうな……他勢力の介入さえなければ、割といける予想なんだがなぁ」

山賊「人間軍とかですか」

剣士「後はさっきのエルフ軍だな……可能な限り両者と争いたくないが」

剣士「その点も踏まえ、もう少し先まで行くぞ」

山賊「うえぇ? 野営準備したのにぃ?!」

剣士「簡易的にさせただろう。お前も俺の眷属になって肉体的には相当強化されているはずだ」

剣士「夜通し進むとは言わないが、少しでも前に進んでおかないとだからな。少女は俺が負ぶって行く」

剣士「!」ビタッ

山賊「どうしやした……?」ヒソ

剣士「灯り……大きな野営だ」

山賊「まっさか人間軍……?」

剣士「集中しろよ」

山賊「へ?」

剣士「気を抜けば睡眠魔法に巻き込まれる」

山賊「ちょ……それは……」

山賊「うああ……あぁぁ」グワングワン

剣士「考えてみれば覚醒魔法を後からかけてやればよかったのか」カッ

山賊「なんだろう……この生殺し感」シャキッ

剣士「彼らに毛布をかけてやれ。俺は焚き火を消して、離れた所に火を起こしてくる」

山賊「うっす」

剣士「これが終わり次第すぐに行くぞ」

山賊「うおー……重労働……」

……
「あれが……!」
「こ、子供がいるぞ……」
「構うな! 撃破しろー!!」

少女「剣士……」ギュ

剣士「山賊の後ろに隠れていろ」コォォォ

山賊「うへえぇ、またっすか」

剣士「今回は血も見そうだがな……昏睡魔法!」カッ

山賊「あ……睡眠魔法より強」ガク

「く、しっかりしろ!」
「魔法耐性の低い者は全滅か!」

剣士(やはり駄目か……背に腹は変えられないな)

剣士「許せとは言わん。雷撃魔法!」ビシャアァ

「ぐあああああ!!」
「ぎゃあああああああ!!」
「ぐぅ! 反撃しろ! 反撃ぃ!!」

剣士「これでもか……強いな」キィィンキィンキィィン

剣士「別の障壁を貼っているとは言え、俺自身の障壁を傷つけられる訳にはいかないし……」

剣士「風刃魔法」ジュバッ

山賊「……う、あ? ああ、旦那……」

剣士「少女を背負ってくれ。急いで抜けるぞ」

山賊「うぇ? もう終わったんで……う、こりゃまた」

剣士「……何人かは殺してしまった。止むを得ないとは言え死者をだしたくなかったな」

山賊「そりゃまあ……その分この世界まるごと救って」

山賊「それで帳尻合わせてもらいましょうや」

剣士「別にお前の慰めなんていらないんだが」

山賊「ひでぇ」

エルフa「くそ! まるで追いつけない!」

騎士エルフ「しかし先ほどの負傷していた人間の軍は……」

エルフb「考えたくはありませんが……」

エルフa「絶対にとっ捕まえて何をするか吐かせてやる!」

エルフa「いや、その前に殴る! 殴って殴って殴りまくる!!」グッ

騎士エルフ「吹っ切れたようで安心だよ」

エルフb「うじうじしていても何一つ解決に向かいませんからね」

エルフa「バカ剣士ぃ! 待っていろおおぉぉ!!」ドドド

魔術士エルフ「え、あ……ちょ、お一人でそんな急がれても!」

騎士エルフ「……不安なのだが」

エルフb「め、メンタル面ではご安心下さい」

騎士エルフ「だから違う部分がだな」

剣士「……不味い、意外と時間がかかったな」

山賊「後一時間で魔物とかが現れやすぜ!」

少女「……どうしよう」

剣士「山賊、少女を頼む。俺が先陣を切って魔王軍を薙ぎ」ゾク

山賊「この魔力……まさか」

少女「勇者様……」

剣士「前門の虎に後門の狼か……なあに、やる事は変わらんさ」

剣士「強行突破だ」

エルフa「見えた!」

エルフb「でももう俊足魔法の効果が終わるわ」

騎士エルフ「反動の兼ね合いもあってこれ以上はかけられないのだろう?」

魔術士エルフ「はい、ここからは完全に自分の足で行くしか……」

エルフa「構うものか! わたしは生ぬるい鍛え方をしてきたつもりはないぞ!」ドッ

騎士エルフ「……一人で生かすわけにも行くまい、お前とお前もついて来い。急ぐぞ」

兵士エルフab「了解!」

剣士「はっはっ」タタタ

山賊「ひぃひぃ、うぃぃ!」ゾクゾク

剣士「来るぞ……」グネグネグネ

「ぃぃぁぁっハアァーー!!」グニニ
「ひっさびさのシャバだぜぇーー」
「んあーー? あそこにいるのはクズ魔王どぉ?」

山賊「いきなりでかい魔物ばっか……」ガタガタ

少女「魔王城周辺にいた魔物……」

剣士「雑魚が道を……」キィィィン

剣士「塞ぐな!!」カッ

エルフa「な……これは……」

「エルフの女みぃつけたぁ」
「うんまそー。うんまそーなお肉だぁ」ノソ

騎士エルフ「貴様らに構っている暇は無い!」

「おっどごのえるぶば、いらねーど!」ドズン

騎士エルフ「要らないのはお前達の存在全てだ!」ドッ

「あ、あで? おでのがらだにあなが……」ズズゥン

エルフa「総員、敵戦力を排除しろ! 時代に捨て置かれた愚物叩き潰せ!!」

「「了解!!」」

四天王a「おやおやこれはこれは……随分と様変わりしましたね」

剣士「……く」

四天王a「なあに、今は私一人です。ここで攻撃しても分が悪い。なので」ドッ

四天王a「ごふっ……な」

剣士「悪いが距離を取らせてもらうぞ。衝撃魔法!」ドッ

四天王a「ぐああ!!」ズザア

山賊「どうしやすこの状況……悪化する一方じゃ!」

剣士「いやここにはまだ他の四天王はいないようだ。一気に行くぞ!」

山賊「うおっとと……足場が」ガララ

少女「山賊、気をつけて……」

剣士「この辺りだな」

「いたぞぉ! チビクズだぁぁ!」
「四天王がいない今がチャンスだぜぇ!」
「今の俺らなら勝機はあるぁーー!」

剣士「爆撃魔法!」ドドドド

「ひぎゃあ!」
「ぐじょぉ!」

山賊(魔物相手にゃ一切の容赦がねぇ)

山賊「っていいんですかい。殺しちまったらそいつら、こっち側に取り残されんじゃあ……」

剣士「多少の数は止むを得ないだろう……まあ彼女らでも倒せるレベルだ。数匹程度、後の世に問題はあるまい」

少女「剣士……」

山賊「旦那……」

剣士「すまないな……こんな所で」

山賊「いいって事ですぜ」

少女「あたし、剣士に会えて良かった」

剣士「少女はこれを持って、お前も得物を出せ」

山賊「なんで……あ、これ」

剣士「来世でまた会おう」

山賊「うっす」

少女「うん、絶対」カァァァン

エルフb「落雷魔法!」ビシャァ

エルフa「ん? おい、あれ……」

エルフb「剣士さん……一体何を?」ゾク

騎士エルフ「なんだこの魔力は……今まで抑えていたのか?!」ゴォォォ

魔術士エルフ「総員、障壁魔法! 最大出力だ!」

騎士エルフ「これが攻撃なら……これさえも意味などないだろうな」

エルフa「違う……剣士はそんな事をしない。まさかあいつ」

エルフb「駄目です、止めて下さい!」

エルフa「止めろ! 剣士ぃぃ!!」

四天王a「ば、馬鹿な……奴を止めろ!」

四天王b「お、いたいた。あのクズがどうした」

四天王a「や、奴は……やるつもりだ! 自ら全てを封じるつもりで」

四天王b「あいつにその度胸はないさ。虫の一匹殺せない……だから俺らにも嬲り殺されるだけ」ニタァ

四天王b「ただの脅しだろう」

四天王a「お前は黙っていろ! 貴様らぁ! 奴にかかれぇ!」

「い?!」
「で、でもこれ突っ込んだら流石に……」

四天王a「口答えをするなぁぁ!!」ゴアァ

四天王a(せめてもう一人揃わなければ奴への攻撃は危険! 少しでも時間を稼がなくては!)

山賊「ちぃ! 旦那の邪魔ぁさせねぇぜ!」バッ

少女「山賊! け、剣士」

剣士「……」コォォ

剣士(そうだな……以前の俺ならそうだろう)

剣士「だが俺は魔王であるが魔王じゃない」

剣士「人間の剣士だ……」

剣士「俺にはお前達を、己を滅ぼしてでも守りたいものがある」

剣士「お前達は……人間ではないお前達獣には分かるまい!」コァァァ

四天王a「間に合わん! くそ! 四天王b! やるぞ!」

四天王b「おいおいお前まで……ま、暇潰しに甚振るのも悪くはないか!」バッ

剣士「閃光魔法!」ビュ

四天王a「ごはっ!」ジュ

四天王b「な?! お、おい! しっかりしろ!」

四天王a「構うなぁ! 奴を……」

剣士「いや……もう十分だ」カッ

エルフa「剣士……頼む、止めてくれ」

エルフb「剣士さん……お願いです」


四天王b「こいつ……まさか! 人格が違うのか!」

四天王c「おいおーい、面白そうな事になってんじゃなーいの。クズ魔王シメようぜー」

四天王b「ここからでは……間に合わん」


山賊「へっへへ、俺らの勝ちだぜ」

少女「剣士、頑張って」

 士「ああ……大丈夫だ」

    クズがぁおのれぇぇ!」

      こんな馬鹿な事が!」

        どういう状況だぁ」

          が起こっているんだ?!」
           ーって! まじやべーって!」
            クズ魔王がやってんのか」
             く逃げねーと!」
              」
               合わねぇ!」

ゴオォォォォ
エルフa「な……」

騎士エルフ「魔物が全て消えた……どうなっている」

エルフb「消滅した? まさか自決して……?」

魔術士エルフ「駄目です……魔力を一切感知できません」

エルフa「そんな……剣士、これがお前の選択なのか?」

騎士エルフ「すぐさま野営の準備を。数日はここで監視を行う」

騎士エルフ「兵士は周囲の索敵を」

エルフa「……他に方法は無かったのか?」

エルフb「a……私達も手伝いましょう」

エルフa「……」

……

…………
エルフa「あれからもう十年か」

エルフb「……ええ」

エルフa「魔王について、あいつがやった事について何か分かったか?」

エルフb「全くよ……何一つ手かがりは無いわ」

エルフa「また……会えるよな」

エルフb「……」

以降、魔王が蘇る事は無かったという。
エルフの二人は消えた仲間との再会を夢見て、彼を連れ戻す手段を探し続けた。
……が、二人の下に彼が現れる事は無かったという。

……

…………

「……」ガシャガシャ

「うおっと!」ガララガンガチャカァァァン

「……」カランカラン

「おーい? 何の音だ?」

「これは……派手に落としましたね」

「……」

「落としたのに何をぼーっとしているんだ?」

「いや……なんだろう。さっきのカーンっていう金属音が凄く懐かしくて」

「なんかあったのか?」

「特には無いはずなんだが……何なんだろうな」

「それより早く運んじゃいましょう。もう二人が待っていますよ」

『おーい、おっせーぞー!』

『そんなに声を張り上げないで下さい! あたしは真横にいるんですよ!』

『あ、わり。ちょ、叩くな!』

「……相変わらずの仲だな」ガチャガチャ

「ならわたし達もべったりしながらいくか?」

「二人とも、早く行かないとあの二人が喧嘩に発展するわよ」

「ああ、悪い悪い」ガッシャガッシャ


「さあて、今日も五人で何をするんだろうな」


   剣士「廃屋のようだが灯りが……何にせよこの雨の中助かるな」   完

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