雪乃「LINE?」結衣「そう!みんなでやろうよ!」 (959)

過去作

小町「は、八幡!」

相模「それでは文化祭の定例ミーティングを始めます」

八幡「よう雪乃」雪乃「こんにちは、八幡」結衣「えっ」

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1407071918

今回の話は前回みたいに軽い話じゃなく、地の文ありの真面目な話にする予定です。

今までのと違って書き溜めが途中までしかないせいで更新遅くなりそう。

多分僕の最後の作品になりそうだから完結までゆっくりとお付き合いよろしく。

あ、忘れてた。

たまに短編集も投下していきたいんだけど、がっつり本編に絡んできたり本編に関係ない上に時系列無視してたり色々とありますー

リクエストあったらそれも書きたいと思う。

じゃあ少しだけ投下。

人との繋がりとは空虚なものである。

本音を隠して言葉を交わし、表情を隠してLINEを使う。

本当の気持ちだけを言い続ければ人との関係などすぐに壊れてしまうだろう。だが、それを乗り越えてこその友情ではないのだろうか。

俺の周りの会話は一切の本音が感じられないものばかりだ。本音を語っているものなどほんの一握りすらいない。

それでも人は繋がりを求める。たとえ空虚なものだとしても、人と繋がることで自分が世界に参加しているのだと、必要とされているのだと思いこんで自分の存在を認めるために。

だから自宅で、駅のホームで、そして学校でLINEの通知が来るのを今か今かと待ちわびるのだ。

ならば、LINEなどせず学校でもおしゃべりなんてしないぼっこそが、自らの力だけで自己を確立できる強者ではないだろうか。

結論を言おう。

学校でくらいLINEの通知切りやがれ。うるせえんだよ。

いつもの通り暇な奉仕部。

ただでさえやることのない部活動にも関わらず、依頼者の来るわけもない冬休みにまで真面目に活動をしているのだから恐れ入る。

それにちゃんと出席する俺も大概だがな。

俺はこの暇な時間を有効活用して、冬休みの国語の課題である作文を書いている。

俺の作文の題名は『最近の携帯電話の利用状況について』だ。

ホントなんなの、あのLINEの通知。授業の度に一々切るなら最初から切っとけばいいのに。ピコンピコン鳴らしてウルトラマンかよ。

と、そんな風にLINEについて思考を巡らせていたまさにその時に、由比ヶ浜がLINEの話題を持ち出してきた。

俺は驚きのあまり、視線を雪ノ下と由比ヶ浜に向けてしまう。

由比ヶ浜は俺が視線を向けたのを会話に興味を持ったとでも勘違いしたのか、声をさきほどよりも大きくしながら俺たちに話しかけてきた。

結衣「ヒッキーもゆきのんもやろうよ!メールよりも手軽だし、楽しいよ!」

八幡「……けどLINEってあれだろ?個人情報だったり電話帳に登録してる番号立だったりが流出するんだろ?」

結衣「そ、それは前の話だし!ちゃんと何かをオフにすれば大丈夫ってネットで見たもん!」

雪乃「あなたは流出して困るほど電話番号を登録していないでしょう。なにせ登録させてくれる相手がいないのだから」

由比ヶ浜の安心できない説明のフォローかは分からないが、雪ノ下がさも俺の携帯電話が誰の電話番号も入っていないかのような口調で毒舌を浴びせてくる。

ばっかお前、この中にはあの小町と戸塚の電話番号が入ってるんだぞ!それだけでもう国宝級だろうが!

そんな思いを視線に込めてぶつけてみるが、雪ノ下はもはやこちらを見てすらいなかった。

由比ヶ浜の話を吟味しているのか白く細い指を顎に当て何かを考えている。

すげえな、こんなよくあるポーズでさえ雪ノ下がすると絵画みたいになるのか……。

雪乃「比企谷君、その気持ちの悪い視線を私に向けるのはやめてくれないかしら。セクハラよ」

八幡「見てるだけでセクハラとか自意識過剰すぎんだろ」

結衣「見てたことは否定しないんだ……」

由比ヶ浜が俺の言葉の揚げ足を取りに来る。なんだよお前、そんな頭の良いことできるのか。びっくりだよ。

雪乃「……その男の処遇についてはこの後話し合うとして」

八幡「ねえ、なんで見てただけで刑に処されなきゃならないの?この部室じゃお前が法律なの?」

雪乃「LINEを始めるというのはいいかもしれないわね」

八幡「俺の言葉は無視か……って、は?お前今LINEやるって言った?」

雪乃「正確には始めるのはいいかもしれない、よ。やるとは一言も言っていないわ。あなたは国語が唯一の取り柄なのだから、ちゃんとセリフから正しい意味を読み取りなさい」

八幡「国語だけが取り柄とか悲しすぎんだろ」

俺にだって他にもいいとこあるよ?例えばプリキュア全員言えるとか。あれ、これいいとこなの?

結衣「どうせならやろうよ!ゆきのん!」

雪ノ下がLINEを始めることに対して前向きな態度を見せたことで、由比ヶ浜がこれでもかというほど雪ノ下に迫っている。

物理的にも精神的にも圧され始めた雪ノ下を見かねて、俺は軽く助け船を出すことにした。

八幡「お前がLINEをやってみたがるなんて意外だな。なんか理由でもあるのか?」

雪乃「別に大した理由ではないわ。業務連絡をするのが簡単になるからというだけよ」

ああ……こいつなら考えそうなことだ。

俺は雪ノ下の電話番号とメアドを知らない。同じように雪ノ下も俺の電話番号とメアドを知らない。

必然的に俺が部活を私用で休んだり、逆に部活が中止になった時なんかは由比ヶ浜との連絡が命綱だ。だからここが上手くいかないと面倒なことになる。

休むことを伝えるタイミングを逃し雪ノ下にボロクソに言われたり、中止になったことを知らず部活があると思い込んで部室前で待ちぼうけをくらったりしてしまうのだ。

待ちぼうけは辛かった……。辛すぎて帰りに平塚先生をラーメンに誘っちゃったレベル。

誘われて喜んでる平塚先生可愛かったけどね。

今日はここまで

おやすみなさいー

やっはろー!1です

投下していくよー

八幡「なるほどな……確かに業務連絡としてならいいかもしれん」

俺の言葉を聞いていよいよ由比ヶ浜のテンションがMAXを迎える。

ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ由比ヶ浜。そんな彼女のとある部位に目が吸い込まれてしまい気付いたら俺の心もぴょんぴょんしている。

雪乃「…………」

あ、やばい。ゴミを見るような目で見られてる。

俺は咳払いをしてから、ケータイを取り出して早速アプリをインストールする。

どうやら俺の心がぴょんぴょんしていたことを由比ヶ浜は気付いていなかったらしい。LINEを始めようとしている俺を見て純粋に喜んでいた。

なんだろうこの罪悪感……。

八幡「インストール終わったぞ。これからなにすんの?アンインストール?」

結衣「早いよ!えっと……あ、あたしガラケーだからよく分かんない……」

えー、なにこのグダグダ感。出だしから躓くとかもう不安しかないんだけど。アンインストールしちゃだめなの?

八幡「ま、聞かなくても大体分かるけどな」

結衣「ならなんで聞いたし!ヒッキーキモい!」

八幡「キモくはないだろ……」

キモくないよね?あんまりキモいキモい言われると本気で不安になってくるだが……俺はイケメンなはず。よし。

心のバランスを取りながら適当に登録を終わらせていく。登録が終わって『ホーム画面』とやらにくると熊みたいな生き物が一人で座り込んでいた。

友だちがまだいないことを表すためにこのイラストを使用してるのは分かるが、まるで将来の自分を見ているようで複雑な気持ちになる。

結衣「ゆきのんはどんな感じ?」

由比ヶ浜が視線を向けると、雪ノ下はすでにケータイをしまうところだった。

雪乃「終わったわ」

結衣「早っ!」

なんで登録ですらそんな高速でできるんだよ。お前だけ常時精神と時の部屋状態なの?クロックアップしてるの?

俺も少し急いで、『知り合いかも?』の欄から由比ヶ浜のアカウントを探す。

探すまでもなく、星やら丸やらで名前を装飾している由比ヶ浜のアカウントを見つけた。一瞬の躊躇ののち、俺は友だちに追加する。

ふう、任務終了だ。これで業務連絡も楽になる。

八幡「友だち申請しといたぞ。あとはお前のケータイでやるんだろ?」

結衣「うん!ゆきのんもあたしに申請してくれた?」

雪乃「してあるわよ」

結衣「やったー!じゃあ早速……?」

あれ、ケータイの画面を見た途端フリーズしちゃったけど大丈夫なのこの人。

彼女が何を考え込んでいるのかさっぱり分からないため、雪ノ下に視線を送る。が、こちらを一度見ただけで何のリアクションも起こさずまた由比ヶ浜へと視線を戻した。

あいつが何も言わないってことは、心当たりがないか俺と目を合わせたくないかのどちらかだな。ちなみに確率としては後者の方が圧倒的に高い。

結衣「あのさ……この『HH』と『YY』っていうのがヒッキーとゆきのん?」

八幡「ああ」

雪乃「そうよ」

結衣「なんでイニシャルなの!?名前入れようよ!」

八幡「ネットに本名入れるとかあり得ないだろ」

今やどこから個人情報が漏れるか分からない時代なのだ。ならばどこにも個人情報など入れないのがもっとも手っ取り早い対策だろう。

雪ノ下も似たような理由でイニシャルにしたのだろうが、俺と同じことをしてしまったのがよほど悔しかったのか、先ほどからこちらをチラチラと睨みつけている。

まあ女の子にチラチラ見られて恐怖するのは慣れている。見られる度に俺のことを笑っているんじゃないかとよく恐怖したものだ。今でもするけど。

結衣「本名じゃなくていいからさ、せめて友達が見てすぐ分かるような名前にしようよ!」

八幡「俺友達いないから無理だわ」

雪乃「わ、私は……いないことはないけれど、その、と……友達は私のことだと分かってくれているから問題ないわ」

結衣「ゆきのん……」

はい、始まりました。奉仕部恒例ガチユリ。こうなるともう俺は背景に徹するしかない。

おい誰だ、お前はいつでも背景だろって言ったのは。あんまり本当のこと言うなよ。

結衣「って、そうじゃない!」

俺が背景と心を一つにしようとした瞬間、ガチユリからギリギリのところで逃げ出した由比ヶ浜が再び抗議の声を上げた。

結衣「ゆきのんが可愛くて忘れそうになったけど、そうじゃないよ!名前もっとまともなのにしようよ!」

雪乃「そう言われても……」

結衣「あ、じゃあ『ヒッキー』と『ゆきのん』で登録しよう!」

八幡「仕方ない、本名で入れるか……」

雪乃「そうするしかないわね」

結衣「あ、あれ?」

困惑する由比ヶ浜を放置して、設定画面に移る。名前の変え方を教わったわけではないが、適当にポチポチしていくだけでなんとか変えることができた。

『HH』結構気に入ってたんだけどな……。ジャンプで長期間休載してそうな名前じゃん?

八幡「ほら。これでもういいだろ」

由比ヶ浜はケータイを見ながら満足げに頷き、幸せそうな笑顔を浮かべていた。

どうしてこいつはこんな小さなことでここまで笑顔になれるのだろうか。

彼女の純粋さをこうやって近くで見ると、自分が何者よりも汚れているのではないかという焦りに襲われる。

ケータイを乱暴にカバンに突っ込むことで気持ちを紛らわせる。どうやら二人とも俺の異変には気づいていないようだ。なんせいつも変だからな。

八幡「よし、これで部活も休みやすくなったな。帰るか」

結衣「まだ帰らないし!LINEって面白いゲームとかあったりするし、もっといろいろ教えたいの!」

八幡「……お前ガラケーだろうが」

結衣「うっ……」

痛いところを突かれてなにも言葉が出なくなっている由比ヶ浜を見てため息をつきながら、雪ノ下がゆっくりと口を開く。

雪乃「比企谷君の思い通りになってしまうのはとても癪ではあるけれど、もういい時間になっているし、今日はここで終わりにしましょうか」

外を見れば朱色の光が空を彩っている。日没の早い時期とはいえ冬休みの活動ということを鑑みればちょうどいいはずだ。

八幡「なんでそんなことで癪に思っちゃうんだよ……まあ終わりなら先行くわ」

結衣「バイバーイ!帰ったらLINE見てね!」

雪乃「また明日」

二人からの別れの挨拶を背中で受けながらゆっくりとドアを閉めた。

廊下を歩き校舎を出る。季節は完全に冬。鮮やかな色に染め上げられた空を見ながら、白い息を吐き出してみる。

今まで誰とも関わらなかった俺が、奉仕部に入ってから随分と変わったと思う。今日LINEなんてものを始めたのがいい例だ。

昔の俺ならたとえ業務連絡のためだろうとこんなものを使うことを認めなかっただろう。理由なんてない、生理的に無理だと感じたはずだ。

けれど俺は今回それを許容した。これはいい変化なんだろうか。

きっとそれが分かるのはもっと色んなものを失って、色んなものを手に入れてからだと思う。

それならば、答えの出ない問題に頭を悩ますのはやめよう。

せめて今だけはこの時を。

?こうして彼と彼女らは繋がっていく 終


次からようやくLINEが始まります。
LINEの会話は【】で示します。

今日はとりあえず短編(少し本編に関係する)を投下して終わり。

ちなみに短編の方は地の文ないです。

文字化けしてた。

1こうして彼と彼女らは繋がっていく

です

「へたれ」

八幡(あれから悩みを抱えながら俺は家まで帰宅した)

八幡(え?俺の変化について?ああ、そんなの別にどうでもいい。もっと重要なことがある)

八幡(『知り合いかも』の欄に戸塚と小町がいるんだがどうしよう……)

八幡(いやね?さっき奉仕部で見たときにそりゃ見つけてましたよ。すぐさま友だち登録しようと思いましたよ?)

八幡(しかし、申請して迷惑に思われたらと思うと……)

八幡(そんなことあるはずがないとは分かってる。だが俺の人間関係に対するトラウマがその不安を拭い去ることを許してくれない)

八幡(そんなこんなでもう数時間悩み続けている)

八幡「……腹減った」

八幡(もうそろそろ晩ご飯……悩むのは食べ終わってからでいいか。じやあそろそろ一階に……)

ピコン

八幡(……ああ、俺のケータイから鳴ったのか。初めてだから一瞬気づかなかったわ)

八幡(まあどうせ由比ヶ浜だろ。由比ヶ浜しか登録してないんだから……!?)

八幡(と、戸塚……だと……!?)

to:戸塚彩加

戸塚【やっはろー!】

戸塚【八幡もLINE始めたんだね!】

戸塚【嬉しくて友だちに追加しちゃったけど迷惑じゃなかったかな?】

八幡(……これが天使か)

八幡【そんなわけないだろ】

戸塚【良かった(´▽`)】

戸塚【LINEでもよろしくね!】 

八幡【ああ、末永くよろしく】

今日はここまで。

おやすみー

翌朝。

凍てつくような寒さが俺とあいつとの絆を強くする。

オフにし忘れた目覚まし時計が俺からあいつを引きはがそうとするが、俺の強靭な意志の前では鳴り響く騒音ですらひれ伏すしかない。

俺とお前はずっと一緒だ……。

絶対に離さないぜ……布団。

小町「お兄ちゃん目覚まし時計早く止めて!うるさい!」

八幡「……はい」

相思相愛な俺と布団の絆は妹によっていともたやすく引き裂かれてしまった。

まあ俺は布団より小町を愛してるから特に問題はないんだが。

八幡「さみぃ……」

部活は午後からだから別に寝ててもいいのだが、俺は布団を少し押しのけなんとなくケータイへと手を伸ばした。

俺の初LINE、つまり戸塚とのLINEは戸塚が早く寝るタイプだったため十時前には終わってしまった。

一瞬、寝たふりされてメールを返してもらえなかったトラウマが脳裏をよぎったりもしたが、戸塚が早く寝るのはテニスの練習のためらしい。あまり遅くまで起きていると翌日の練習が辛いんだとか。

戸塚とのLINEが終わったのをきっかけに寝てしまったので、今日は睡眠時間がかなり長い。毎日悩まされている眠気も今日は影を見せない。

いつもより冴えた頭で戸塚がテニスをしている妄想をしようと思ったが、その前にケータイの画面に視線を写す。ロック画面にはLINEの通知が来ていた。

そこに表記されているのは由比ヶ浜のアカウント名。

おおー、これアイコンをスライドさせると直接アプリに行くのか。便利だな。

to:由比ヶ浜

由比ヶ浜【やっはろー!】

由比ヶ浜【LINEどう?楽しい?(≧∇≦)b】

由比ヶ浜【あれ?もしかして寝ちゃってる?(゜ロ゜;ノ)ノ】

由比ヶ浜【ヒッキー?】

由比ヶ浜【ホントは起きてるんでしょ?】

由比ヶ浜【ねえ】

由比ヶ浜【返してよ】

八幡「おおう……」

こえぇよ。あと怖い。

あいつ、なんでLINEだとこんなにヤンデレっぽくなってるの?

送られてきた時刻は大体10時半頃。こんなのリアルタイムで見てたら寝れなくなるわ!

まあこんなにヤンデレっぽくなったのは、あいつが絵文字を使ってないからだろう。

メールの時に俺が絵文字について文句ばっかり言ってたから、LINEじゃ自重したんだと思われる。

……それが原因だよね?素とかじゃないよね?

とりあえず【悪い、寝てた】とだけ返しておき、ケータイをベッドに置いた。

そのまま重い体を無理矢理動かして一階へと進んでゆく。ヤンデレヶ浜のせいで二度寝する気にもなれない。

長い一日になりそうだ……。

今日はここまでです。

fromとtoを間違えた気がしますがそこは目を瞑っておいてください。恥ずかしいから。
気になるようなら次から変えます。

あと短編の地の文が無い理由は、短編は軽い雰囲気でやりたいからです。
軽いのは台本形式の方が個人的にやりやすい。

本編と短編一緒に書くとごちゃごちゃするかもだけどそこはご愛嬌ってことで!

それじゃ、おやすみなさい!

結衣「…………おはよ」

八幡「おう……」

学校に着くやいなや、下駄箱で急にローテンションな挨拶をされた。誰かと思い振り向けば、そこにいたのはヤンデレヶ浜こと由比ヶ浜結衣だった。

どんだけテンション低いんだよ。俺かよ。

ここで『どうした?』とでも聞けば由比ヶ浜が俺に不満をぶつけるのは確実だ。ならば平和的に済ませる方法は一つ。話をずらすことだけ。

八幡「そういえば──」

結衣「昨日!なんで返してくれなかったのさ!」

俺の華麗なる争い回避術はいともたやすく破られてしまう。

そうやって避けられる争いにぶつかっていくから戦争はなくならないんだよ。ちゃんと逃げようぜ、争いからも現実からも。

八幡「だから寝てたって返しただろ」

結衣「あのヒッキーがあんなに早く寝るはずないし!」

八幡「俺は意外と早寝するタイプなんだぞ」

俺のカミングアウトにポカンとした表情をする由比ヶ浜。そこまで驚くほどでもないだろ。

結衣「早く寝てるのにそんなに目が腐ってるの……?」

八幡「お前本当は俺のこと嫌いだろ……」

確かにこの腐った目は寝不足だと説明するのが一番しっくりくるとは思うが、だからってそこまで驚くなよ。傷ついちゃうだろうが。

結衣「べ、別に嫌いじゃないし……うー」

八幡「なに唸ってんだよ。でもまあ、昨日は確かにいつもよりは寝る時間が早かったな」

結衣「じゃ、じゃあ今日は……してくれる?」

……一瞬脳内がピンク色になりました。

こいつなんなの?上目遣いしながら男にそんなこと言うとかビッチなの?うっかり好きになっちゃったらどうするんだよ。

八幡「ね、寝てなかったらな」

なんとか動揺を隠して答える。目が泳いでしまっているが、割といつものことなので不審がられたりはしないだろう。

結衣「ちゃんと起きててね!……でもなんで昨日は早く寝ちゃったの?」

八幡「LINEしてたら向こうが寝たから俺も寝たんだよ。やっぱ慣れないことすると疲れるな」

昨日戸塚とずっとしてたおかげでだいぶ慣れることはできた。多分今日由比ヶ浜からLINEが来ても疲れることなくできるだろう。

え?相手が戸塚なのに疲れるなんて俺らしくない?

ばっかお前、文字だけで意志疎通しようとすると誤解されたり嫌な気持ちにさせることが多いんだ。ソースは俺。

だからこそ戸塚みたいな天使とLINEをするときは、『本当にこの言葉を使っていいのか』とか『変な誤解されて嫌われないか』って不安を抱えながらやるからかなり疲れるんだよ!

相手が戸塚だからこそ疲れる……それがLINEの運命。

ガラケー版は既読とかわからんらしい
>>1がそれわかっててこうなったかは疑問だがww

……あれ、俺今けっこう長い間考え事してたぞ?なのになんで由比ヶ浜に声をかけられたりしないんだ?

疑問に思い意識を思考から現実へと引き戻す。

目の前にいる由比ヶ浜は、戸惑いとショックの入り混じったような目で俺のことを見ていた。

八幡「ど、どうした?」

思わず心配してしまった。それほどまでに由比ヶ浜の表情はいつもと違うものへとなっていたのだ。

俺の言葉を聞くやいなや、由比ヶ浜は俺から視線を逸らした。

結衣「あー、その……あ、あはは。ちょっと意外だったから」

八幡「? 何がだ?」

結衣「二人がそんなすぐにLINEし始めるなんて……」

八幡「別にそこまでじゃないと思うが」

戸塚と俺がLINEするのはそんなに変だろうか?しっくりくるとまではいかないが、さっきみたいな目をするほど意外とは思えない。

ん?俺こいつにLINEの相手が戸塚だって言ったっけ?

八幡「由比ヶ浜、お前もしかして──」

結衣「べ、別に気にしたりしてないから!二人が仲良くしてくれるのはあたしも嬉しいし?」

なんで疑問系なんだよ。つーか目を見て話せ。

なにか勘違いをされている気がしてならなったが、俺から逃げるように由比ヶ浜が部室へ行ってしまったためそれを確認することはできなかった。

また面倒なことになってる気が……。

>>55一通り調べたから既読がつかないのは知ってますよ(ドヤァ

ちょっと書き溜めなくなってきたから今日はここまでにしとこうと思う。

寝るまでに調子よくポンポンと書けたら投下するかもしれないけど、あんまり期待はしないでね。

おやすみなさいー(多分)

短編一個だけ投下しますー

今日はもう更新しないかも

「ヘタレ2」

八幡(戸塚と友だちか……なんかもうそれだけで飯三杯くらいいけそうだ)

八幡(じゃあ残るは小町だけか)

八幡(……他にも何人か表示されてるのいるんだけど気にしない方がいいのか、これ)

八幡(これが電話番号の使い回しによる全く知らない人間だったならまだいいが)

八幡(なんで電話番号教えてない知り合いがいるんだよ……ストーカーかよ……)

八幡(……こいつらのことは一旦置いておこう)

八幡(小町どうするかな……)

八幡(別に申請したところで何もないだろ)

八幡(……いや待て)

八幡(小町くらいの年代の女子は普通なら反抗期真っ盛りだよな……?)

八幡(もし心の中で気持ち悪がられてたら……)

八幡(そそそそんなことないよな!小町的にポイント高いんだから大丈夫だよな!)

八幡(いや……でも……もしかしたら……きっと……)

ブツブツブツブツブツブツブツブツ……

ドアガチャッ

小町「お兄ちゃん、さっきLINEの友だち申請したから見といてねー」

八幡「こ゛ま゛ち゛いいいいいい!!!」

小町「え!?なに!なんで泣きながら迫ってくるの!?気持ち悪い!!お兄ちゃんが気持ち悪いよぉぉぉおおお!!」

やっはろー!1です

本編の書き溜めが少なくて投下できないので、お詫びに短編一個投下しますー。

短編はこれからも書いていきたいのでリクエスト書いてもらえると嬉しいです。

「画面の向こう」

平塚【久しぶりですね。冬休みなので会う機会がありませんでしたがお元気でしたか?常々不安だったので、あなたがこのように安否を確認できるツールを使い始めてくれてとても安心しています(笑)】

八幡【先生】

八幡【長いです】

平塚【そうですね(笑)】

平塚【メールのように一度に全てを送らなくていいんですから、長くする必要はないですよね(笑)】

平塚【それにしても、比企谷くんがLINEを始めるとは思いませんでした】

八幡【由比ヶ浜に誘われたんですよ】

平塚【なるほど】

平塚【比企谷くんは彼女に弱いですね(笑)】

八幡【そんなんじゃないです】

八幡【俺としては先生がLINEやってる方が意外でしたよ】

平塚【そうですか?】

八幡【だって先生がLINEやっても友だちになってくれる人いなさそうですから(笑)】

平塚【私の目の前にいなくて良かったですね】

八幡【そうですね、目の前にいたら確実にファーストブリット打ち込まれてるはずですし】

平塚【そうではなくて】

平塚【アラサーの泣き顔なんて見るはめにならず良かったですねという意味ですよ(笑)】

八幡【ごめんなさい!!】

八幡(それだけ打ち込んでから、俺は平塚先生をそっと友だちに追加しておいた)

八幡(早く!早く誰か貰ってあげて!じゃないと俺が友だちから夫にランクアップしちゃいそうだから!)

鼻腔をくすぐる紅茶の香りを楽しみながら、いつも通り各々がやりたいことをやっていた。

俺と雪ノ下は読書。由比ヶ浜はケータイをポチポチとしながら俺や雪ノ下をチラチラ見てくる。

だから人のことをチラチラ見るなよ。過去のトラウマが蘇っちゃうだろ。

八幡「はあ……どうした由比ヶ浜」

視線が気になって話しかけたのであって、別に不安そうにしてる由比ヶ浜が気になっちゃったからとかじゃないから。本当だから。

結衣「べ、別になんでもないし……」

八幡「…………」

問い詰めるべきか引くべきか。

俺と由比ヶ浜の距離感を掴めていないため、どちらを選択するべきか分からない。

適当に納得したようなことを言って引いてしまおうと決意したその矢先、雪ノ下が口を開いた。

雪乃「なにか言いたいことがあるのなら言いなさい。でないとその男はセクハラをやめないわよ」

八幡「なんで俺がセクハラしてるの前提なんだよ」

雪乃「いつも由比ヶ浜さんのことをジロジロ見ているじゃない」

結衣「ヒッキーマジきもい!」

なんで由比ヶ浜に質問しただけでここまで言われなきゃならないんだ。口開いただけで罵倒されるとかもはや人権侵害だろ。

八幡「俺の話は置いておくとして、今は由比ヶ浜の視線がうざったいって話だろ」

雪乃「うざったいとまでは言っていないけれど……」

雪ノ下の遠慮がちなフォローは逆効果だったのだろう。由比ヶ浜は髪をわしゃわしゃとさせて悩んでいた。

言うの忘れた
本編投下しますー

しばらくそのままで放置しておくと、覚悟を決めたように大きく深呼吸をしてから小さい声で言った。

結衣「だってさ……あたしとのLINEには二人とも全然返してくれないのに……二人は仲良くLINEしてるんだもん。それがなんか……」

八幡「気に入らないのか?」

結衣「気に入らないっていうか……寂しい?みたいな」

つまり仲間外れにしないで、ってことか。気持ちは分かる。数年前までは俺もよく同じことを考えていた。

一人ぼっちは寂しいもんな……。

事態が飲み込めず困惑してる雪ノ下に代わり、俺が由比ヶ浜にフォローを入れる。

いやフォローっつうか、この早とちりさんの勘違いを解くだけなんだが。

八幡「由比ヶ浜、言っとくが俺は雪ノ下とLINEなんてしてないぞ」

結衣「……へ?」

八幡「俺がLINEしてたの戸塚だ。そもそも雪ノ下は友だちの中にすらいねえよ」

結衣「え……えぇ!?」

突然の大声に俺と雪ノ下の肩がびくりと震える。俺にその場面を見られたのが恥ずかしいのか、咳払いをしてから雪ノ下が由比ヶ浜に向けて話し始める。

雪乃「なぜ私がこの男とLINEなんてしなければならないのよ。どうしたらそんな勘違いをするのかしら」

結衣「だ、だってヒッキーの友だちってあたしとゆきのんだけだと思ってたから……それよりまだ友だちじゃないってどういうこと!?昨日申請したんじゃないの!?」

無事誤解は解けたが由比ヶ浜はまた違うところに食いついてきた。

少し顔が赤いところを見ると、もしかしたら自分が変な妄想をしてしまっていたことを誤魔化すために話題をすり替えたのかもしれない。

俺が言葉足らずだったのがこの状況を作り上げた一因であるっぽいし……俺もその話題に乗ってやるか。

八幡「よく考えろ由比ヶ浜。LINEで友だちの欄に表示されるのはどんなやつだ?」

結衣「えーっと……電話番号を知ってる人?」

八幡「そうだ。ならお互いの電話番号を知らない俺達が友だちになってるわけないだろ」

俺達が電話番号を交換していないというのは全員が知っていることだと思っていたが、どうやら由比ヶ浜にとってこの常識は常識ではなかったらしい。呆然とした表情をしてからまた大声を出した。

結衣「ちょ、ちょっと!それLINE始めた意味ないじゃん!」

雪乃「それはそうなのだけれど……」

珍しく雪ノ下の歯切れが悪い。いつもは必要以上にスパッと言い切ってしまうというのに。むしろ俺に関しては言い斬られてるまである。

結衣「電話番号交換とまでは言わないけど……せめてLINEくらいはちゃんとしようよー」

ただでさえ劣勢っぽかった雪ノ下に追い討ちをかけるかのように由比ヶ浜が抱きつき攻撃を開始する。

もうこうなれば雪ノ下に勝ち目はない。

雪乃「分かったわ。分かったから抱きつかないでちょうだい」

結衣「やったー!」

喜びを体全体で表現する由比ヶ浜に対し、雪ノ下は背筋の凍るような視線を俺に向けていた。

八幡「な、なんだよ……」

雪乃「……なんでもないわ。ほら、早くケータイを出しなさい」

命令口調で指示を出されるとやる気なくなるよね。だからもうケータイ出さなくていいんじゃね。

と思ったりもしたが、雪ノ下の放つ冬の北海道以上の冷気がそれを許さない。北海道行ったことないけど。

八幡「はあ……分かったよ」

カバンからケータイを取り出す。アプリを起動してなんかそれっぽいことを適当にやっているとQRコードを取る画面まで来た。

そこからまた適当に操作していくこと数分。慣れないことをしたせいで予想よりも時間をくったが、無事俺は雪ノ下と友だちになった。

雪ノ下と友だち……か。変な感じだな。

雪乃「これでいいかしら?」

結衣「うん!これで三人とも友だちだね!」

八幡「そうだな」

俺の友だちは雪ノ下、由比ヶ浜、戸塚、小町……あ、あと平塚先生の五人だ。多分現実の友達より多い気がする。

由比ヶ浜は俺とは比べものにならないほど多いのだろう。

そして雪ノ下はおそらく俺と由比ヶ浜の二人だけ。

だがしかし友だちの数が一体なんだというのだろう。

LINEでの繋がりなどただの偽りだ。そんなものの数で何が分かる。例えLINEでの友だちが100人を超えていたとしても、それが本物だとは──

おっと、これ以上考えるのはよそう。俺の黒歴史を掘り返してしまいそうだ。

今の俺にとって『本物』というのはNGワードだ。その単語を聞く度にあのシーンを思い出してしまい、無性に叫びたくなってしまう。

俺の思考が黒歴史の渦に飲み込まれるその直前、由比ヶ浜の元気すぎる声が響いた。

結衣「これでみんなでおしゃべりできるね!」

八幡「業務連絡で使うんだろ」

結衣「す、少しくらいならいいじゃん!」

八幡「……まあ、少しだけならな」

こうして俺たちは三人ともにLINEの友だちになった。

正直、どうせすぐ飽きてアプリを開くことすらしなくなるのだろうと思っていた。

けれどケータイの画面を見る雪ノ下の表情は、あまりにも儚げで。

それだけが俺の心に漠然とした予感を残していた。

2今日も由比ヶ浜結衣はアホっている 終

正直少し寝てた。
今日は眠気がやばいからもう少し投下したら寝る……。

先に言っておく、おやすみなさい。

八幡「んー……」

翌日の夜。俺は真っ暗なケータイの画面を見ながら一人でうなっていた。

俺は明日、部活を休まなければならない。

一応言っておくがサボタージュではなくちゃんとした用事である。具体的には冬期講習に行くためだ。

さて、たかだか冬休みの部活を休むだけでなぜこんなに悩んでいるのかといえば……それはずばり誰に業務連絡をすればいいか分からないからだ。

普通なら由比ヶ浜にすればいいのだが、俺の中に微かに眠っていた好奇心という名の悪魔がひそひそと囁きかけてくる。

もう一人の方にしろ、と。

どちらにしたところで結果は大して変わりはしない。結果が変わらないのならどちらでもいいが……うーむ。

こんな時奉仕部のグループでもあれば楽なんだろうが、雪ノ下も由比ヶ浜も忘れているようだし俺から言うのはなんとなく嫌だ。

八幡「……よし」

悩んでも答えが出ないなら運に任せればいい。

部屋の片隅に投げ捨てられていた通学用のカバンから財布を見つけ、その中にあるピカピカの十円玉を取り出す。

ポケモンで言っていた。迷ったときにはコイントスだと。

表が出たら雪ノ下、裏なら由比ヶ浜。

ちなみに知ってるやつも多いと思うが、十円玉の表は平等院鳳凰堂がある方だ。10の字がある方ではない。

八幡「よっと」

某超電磁砲を意識しながら親指で十円玉を弾く。くるくると回転しながら落ちてくる十円玉に向かって右手を出した。

ガッ。

八幡「痛っ」

タイミングが少し早かったせいで人差し指の付け根の骨にぶつかってから十円玉はあっけなく床に落下してしまった。

痛いよう……地味に痛い……あとダサい……。

憎しみを込めて十円玉を睨みつける。床に落ちている十円玉が出した結果は……。

八幡「表……」

つまり雪ノ下だ。

もう一回やり直そうかとも思ったが、それをするといよいよ答えを出せなくなる気がする。

俺はもはや半ばヤケになりながらアプリを呼び出し、雪ノ下とのトーク画面に移動した。

つい先日友だち登録したばかりのあいつとは、もちろん一度もLINEを使った会話などしていない。今もトーク画面には空の背景しか映し出されていない。

空って言っても敗北の二文字が存在しない方じゃなくてスカイの方な。

今からその空の背景に会話を打ち込んでいかなきゃならんわけだが……。

なんて打てばいい?

あえてフレンドリーに『よう雪乃』とでも打つか?いやそんなことしたら別の物語が始まってしまいそうだ。

なら『やっはろー』か?いやそれもない。それを使ったら負けだ。何と勝負してるのかは知らん。

……普通にいくか。

やっはろー1です。

ごめん寝た。

今からキリのいいとこまで投下しちゃいます。

to:雪ノ下

八幡【よう】 既読10:40

雪乃【なにかしら】 10:41

思ってたより返信早いな……。どうせ由比ヶ浜とLINEしてたからケータイが手元にあっただけなんだろうが。

それでもこいつのことだし、既読スルーとか普通にしてくると思ってたわ。

なんにせよ、早く反応してくれる分には文句はない。俺はできるだけ簡潔に明日部活を休む旨を書き込んだ。

雪乃【そう】

雪乃【分かったわ】

八幡【やけにあっさり了承してくれるんだな】

八幡【少し意外だ】

雪乃【引き留めてもらいたかったのかしら、ナル谷君】

八幡【お前のことだから文句の一つでも言うんじゃないかと思っただけだ】

八幡【あとナル谷はやめろ】

八幡【トラウマが蘇る】

返事を打ち込んでから気づく。あれ、話ずれてきてないか?

俺としては休むことを伝えたら即寝る予定だったため、普通に会話している自分に少し驚いてしまう。

上手く会話を終わらせる方法を模索しようとするが、ちょうどそのタイミングで雪ノ下から返答が来てしまった。

雪乃【安心なさい】

雪乃【文句なら明後日言うわ】

雪乃【それとあなたの数え切れないトラウマなんて一々気にして会話なんてしていたら】

雪乃【何も言えなくなってしまうわよ】

八幡【なんで明後日言っちゃうんだよ】

八幡【そのまま忘れて言わないままでいいだろ】

八幡【あと俺のトラウマは会話を禁止しなきゃいけないほど大量には無い】

八幡【無いよな?】

……あー、やばい。これやばいフラグだ。

由比ヶ浜とメールをしている時にたまにある現象が今も起きている。

それは会話の分裂だ。

一つの話題が二つに、二つの話題が三つへと増えていく。その結果、どれか一つの会話を終わらせても他の会話が残っているせいで、会話そのものを終わらせることができなくなってしまう。

最悪、残った会話がまた分裂し始めるしな。

終わりの見えない会話は『ちょっと親に呼ばれたわー』とか『もう寝るー』とか適当な理由をつけて強制終了してしまうのが得策だ。

しかしそれは逆に言えば、理由を見つけなければ終わらせられないということになる。

俺の場合はメールを無視して返信しないという、リア充どもには真似できない方法で終わらしているわけだが。

次の日由比ヶ浜が凄く不機嫌になるからあんまり乱用はできないけどな。

雪乃【あなたに言いたいことなんて忘れてもまた出てきてしまうのよ】

雪乃【そんなものを我慢していたら体に悪影響を及ぼしてしまうわ】

雪乃【あなたのトラウマの数なんて知らないわ】

……この会話終わらせられるのか……?

不安で目が覚めてしまった俺は、そのままもう少しだけ雪ノ下との会話を続けることにした。

もう少し、あとちょっとだけ、キリのいいところまで。

やめようと思えばいつでもやめられたと思う。だが俺は様々な理由を見つけて誤魔化し、気づけば時間を忘れてLINEに没頭してしまっていた。

八幡「ふああ……今何時だ……」

誰に話しかけているわけでもないのに、つい思考がそのまま口から出てしまう。この癖そろそろどうにかしなければなるまい。

俺は時間を確認するために雪ノ下からの返答に目を向ける。

雪乃【そうね、あなたと同等に扱うなんてマントヒヒに失礼だったわ】3:56

……我ながらなんの話をしてるんだとは思う。だがそれ以上に気にしなければならないことを発見した。

3時?いやあと少ししたら4時じゃねえか。通りで眠いわけだ。

八幡【おい雪ノ下】

八幡【時間見てみろ】

今までポンポンとリズム良く来ていた返答が少しの間来なくなる。

いつもより数テンポ遅れて来た返答はとてもシンプルでかつ分かりやすいものだった。

雪乃【おやすみなさい】

それを合図に雪ノ下とのLINE、別名未知との遭遇は終わりを告げた。

計約五時間。お互いにその間一度も時間を見ずに没頭してしまっていた。

すごいな、まるでラブラブのカップルみたいだ。

八幡「……はっ」

自分の考えをつい鼻で笑ってしまう。こんなことを考えてしまうあたり、よっぽど眠いんだろうな俺。

寝るか。

電気を消してベッドの上に横になる。途端にすさまじい眠気に襲われるが、その前に一つやるべきことを忘れていた。

八幡【おやすみ】

既読がつかないことを確認してから、俺は睡魔に従って深い眠りに落ちていった。

3このように雪ノ下雪乃は変わりつつある 終

キリがいいのでここで終わりー

お盆に免許取りに行かなきゃならないから、その勉強のために更新できなくなるかもしれないです。

本編は更新一切できないかもしれないんで、頑張って短編は書くつもりです。

やっはろー!1です

みんなのおかげで免許取れましたー!
ってことで記念のSS作ってるからこっちの更新はもうちょっと待ってください。

そんなに時間はかからないから安心してね。

やっはろー!1です

免許取得記念からだいぶ時間空いちゃいました。ごめんなさい。

一応書き溜めが出来たんで投下します。それほど多いわけじゃないけどよろしくお願いします!

小町「あ、お兄ちゃんおはよー。昼食はテーブルに置いてあるよー」

目が覚めたときにはすでに正午を過ぎていた。小町の用意してくれた昼食を少し急いで胃に入れていく。ゆっくり食べてると予備校に遅刻してしまいそうだ。

受験生である小町に料理させて俺は昼まで寝てるとか、そろそろ救いようがない気もする。

今日の夜ご飯は俺が作らないとな。

八幡「ふああ……」

小町「お兄ちゃん、冬休みだからって夜更かしするのは健康によくないよ。目も腐るし」

八幡「それ長期休暇の度に言われるんだが……」

今年の夏休みにも全く同じことを何度も言われた記憶がある。そして必ず目のことを言及される。

だから睡眠不足と目の腐敗は関係ないんだよ。多分。

小町「それだけお兄ちゃんの生活リズムがボロボロなの。そんな生活して体調壊してほしくないんだよ。あ、今の小町的にポイント高いっ!」

八幡「はいはい」

最後のだけなかったら本当に可愛いんだが……。まああっても可愛いがな!

小町「それで昨日はなにして夜更かししてたの?読書?ゲーム?本棚の後ろにある壁の中に上手く隠されたDVDの鑑賞?」

八幡「……おい、ちょっと待て」

小町「ん?」

怖いよこの子!なんで当たり前みたいに俺のプライバシー知り尽くしてるの?ストーカーなの?

八幡「な、なんでもない。それのどれでもねえよ。っていうかDVDとか知らねえし」

小町「ふーん……まあいいけど。どれでもないなら……あ!LINEとか!」

八幡「…………」

いきなり図星を言い当てられて思わず黙ってしまう。その反応から何かを察したのか、小町の目がキュピーン!と光った。

小町「ほうほう……お兄ちゃんがLINEで夜更かし……」

八幡「何を勘ぐってんだか知らないが、相手は戸塚だからな」

最もあり得る答えを提示してこの話題を終わらせようとしたのだが、なぜか小町の瞳に宿る光がさらに強くなったように見えた。

小町「……本当に戸塚さん?」

八幡「ああ、他に誰がいるんだよ」

小町「ふーん、へえー、ほおー」

八幡「うぜえ……」

小町はニヤニヤとした表情をしながら、しかし何かを言うでもなくずっと俺のことを生暖かい目で見ている。

だがそのことについて聞く時間は俺にはなさそうだ。時計を見れば意外と時間が過ぎている。急いで予備校に行く準備をしなければならない。

皿に乗っていた食べ物を大急ぎで口の中にかきこみ、そのままコーヒーで押し流す。ごちそうさまと小町に言ってから部屋に戻り、俺は支度をものの一分程度で終わらせた。

このまま自転車で飛ばせば間に合うな。

……寒い。家から出たくないな……はあ……。

八幡「じゃあ行ってくる……」

部屋から玄関までの短い距離を、足を引きずりながら歩き靴を履く。

ドアに手をかけようとしたその時、いつもはリビングから手を振るくらいしかしない小町がわざわざ玄関まで見送りに来てくれた。

なんだ、デレ期か?

不思議に思わなくもなかったが、別に悪い気はしないしむしろ嬉しい。

少し上機嫌で扉を開ける俺に、さらに上機嫌な小町の声が届いた。

小町「戸塚さんは部活がある日もない日も早寝するタイプだから、夜遅くまでLINEなんてしないんだよー。それじゃあ行ってらっしゃい!」

俺の心臓が一際大きく脈打つのと、扉の閉まる音が聞こえたのはほぼ同時だった。

八幡「お、俺の妹がこんなに怖いわけがない……」

意識したわけでもなく口からそんな言葉がでてきてしまう。すれ違った主婦に気持ち悪そうに見られたが、もはやそんなことはどうでもいい。

きっと今頃小町は俺のLINEの相手を楽しそうに探しているのだろう。あいつのことだし、相手が雪ノ下だなんてすぐに分かってしまうはずだ。

そして帰ってから質問責めにあい、明日は奉仕部で雪ノ下に散々に言われる、と。

こんな嫌な未来を正確に予知できる能力なんていらねえ……。どうせなら宝くじの当選番号予知してくれよ。

そんな気持ちを振り切るために俺は自転車を漕ぎ始めた。

風に立ち向かいながら自転車を漕ぐこと十数分。なんとか時間までに予備校に着くことができた。

こういう建物に入るとき、つい学校の癖で下駄箱探しちゃうんだよな……。

周りを見渡せば俺と同じような行動を取っているような人間がもう一人いた。

ポニーテールを揺らしながら周囲を見回し、何かに気づいたように動きを止める。

まさに俺と同じ動きだ。案外あいつとは気が合うのかもな。いやないか。

俺と気が合うということは、逆に言えば世界と合わないということだ。そんな奴は間違いなくぼっちである。

……そういえば、あの後ろ姿どっかで見たことあるな……。

誰だっけ……か、川……川越……?

八幡「あ、川崎か」

川崎「ふぇっ!?」

目の前で俺と同じ動きをしていた女子がこちらを勢いよく振り向いた。

誰かと思ったら川崎本人じゃねえか。

……え?じゃあ今の『ふぇっ!?』ってこいつが言ったの?なにそれ可愛い。

川崎「な、なんであんたがここに……!」

八幡「こんなとこに勉強以外でなんの用があるんだよ」

俺の冷静な返しを受けて川崎もいつもの調子に戻る。若干の気まずさを残したままつかず離れずの微妙な距離感を保って、同じ部屋に向かって歩いていった。

八幡「……そういや、生徒会選挙の時ありがとな」

言いそびれていた礼を言っておいた。ただそれだけだというのに、川崎は頬を赤く染めて視線を逸らしてしまう。

そういう反応やめてくれない?勘違いしそうになるだろ。

川崎「別にあんたのためにやったわけじゃないし……」

典型的なツンデレセリフもこいつが言うと、すんなりと本心だと思えてしまう。

ならなんで手伝ってくれたのかとは思うが、そこまでぐいぐい聞くのは失礼だよな。

だから失礼じゃない礼をしよう。

八幡「それでも本当に助かった。この礼は今度何かで返す」

川崎「何かって?」

八幡「……決めてない」

女子への礼をそんなにすぐ思いつけるほど俺の男子力は高くないんだよ。

いや男子力ってなんだ。

川崎「……その礼って、あたしが決めてもいいの?」

八幡「ああ、むしろそっちの方が俺としてはありがたい……あ、痛みを伴うのはやめてくれよ?」

川崎「あんたはあたしをどう見てるのさ……」

不良もどきですけど?とは口が裂けても言えない。その瞬間俺の体まで裂けてしまいそうだ。

だとすると不良もどき以外でのこいつへの印象……。

八幡「ブラコンだな」

川崎「あ?」

八幡「あ、いえなんでもないです」

何今の声!どこから声出したらそうなるの!?

ドスの利いた声を出した川崎だったが、なぜかその直後に視線を泳がせてしまう。

その行動の意味が分からず首を傾げていると、川崎はいつもより小さめな声で言った。

川崎「あたしへの礼はいいからさ……大志の勉強見てやって欲しいんだ」

明後日の方向を向きながら言われた言葉は実にブラコンチックなお願いだった。

……そら目を逸らすわな。ブラコンって言われたすぐ後に弟のこと話し出すんだから。

重症すぎるだろ、俺ですらそこまでじゃ……ないはず。

八幡「そんくらいなら別に構わんが、それじゃあお前への礼は……」

川崎「あたしはいいよ。スカラシップの時のでおあいこでしょ」

八幡「ま、まあそうだが……」

川崎「……あんたって意外と律儀だよね」

やっと視線を戻した川崎は優しい笑顔を浮かべている。

その表情は、俺の視線を釘付けにするには充分すぎるほど魅力的だった。

川崎「……なに?」

八幡「……へ?あ、ああ、なんでもない。そうだぞ、俺はこう見えて律儀なんだ。借りはだいたい返すし貸しは絶対返してもらう」

川崎「それ律儀って言わないから」

その表情からはすでにさきほどの笑顔消えており、代わりに呆れた表情をされていた。

まさかさっきの笑顔をもう一度見せてくれなどと言えるはずもなく、少し残念に思いながらも俺は会話を続ける。

八幡「俺が教えるのはいいんだが……言っとくが国語以外は人に教えられるほどできないぞ?数学なんてむしろ教えてほしいレベル」

川崎「そういうのは期待してないよ。ただほら、この前みたいにモチベーションを上げてほしいっていうか……」

八幡「ああ……いやそれでも俺でいいのか?俺よりそういうのが得意なやつなんていくらでも……」

そこまで言って気づく。そうだ、この子も俺と同じぼっちだった。

俺に頼りたいのではなく、俺くらいしか頼れるやつがいない。

俺を選んだのではなく、俺しか選択肢が与えられていないのだ。

ぼっちは人間関係が狭い。むしろ人間関係なんてものが存在してないことすらある。だからこそ、選べる選択肢は限られている。

俺のように。

そう俺は予測し、こいつからの要望を飲もうとしたのだが、俺の考えは少し違っていたようだ。

川崎「あたしは他のやつよりあんたがいいと思ったから頼んでるだけ。大志はあんたのこと凄く気に入ってるし、あたしも……あんたになら大志のこと任せられると思ってる。……少し不安だけど」

八幡「任せられても困るんだが……まあその、そこまで言ってもらって断ることはできないな」

川崎「じゃあ頼める?」

八幡「ああ、引き受けた」

そこでちょうど俺たちの行くべき教室が見えてきた。一人で行くのに比べ随分と時間がかかったのは、それだけ会話に集中してしまっていたからだろう。

川崎「あ、そうだ。これLINEのID」

八幡「は?」

そう言って彼女が差し出したのは、英数字の書かれたメモ紙だった。

川崎「あんたも始めたんでしょ?ならこれの方が簡単に連絡できるし」

八幡「え、お、おう……」

女の子からLINEのIDもらった!八幡はリア充度が2上がった!

おっと、いかん。あまりの驚きで脳内がポケットなモンスターのようになってしまった。

ニヤニヤしそうになる顔を全力で引き締め、メモに手を伸ばす。だがその手はプルプルと震えていて我ながら無様だった。

川崎「あっ……」

受け取った時、俺と川崎の手が触れてしまった。俺が紙を掴んだと見るやいなや、ものすごい勢いで手を引いてしまう。

女の子から気持ち悪がられた!八幡はリア充度が5下がった!

八幡「わ、悪い」

何が悪いのかよく分からないまま謝ってしまう。だって川崎の顔真っ赤なんだもの、すごく申し訳ないんだもの。

川崎「いやっ、べ、別に……」

川崎は裏返った声でそういうと、スタスタと教室の中に進んでしまった。

残された俺は少しだけメモ帳を見つめてから、ゆっくりと教室の中へと入っていった。

今日はここまでですー。

おやすみなさい!

やっはろー!

キリのいいとこまで書き終わったから投下していきます。

この話の中じゃ、未成年のID検索できないとかそういう細かいことは気にしないでね。

やっはろー!

キリのいいとこまで書き終わったから投下していきます。

この話の中じゃ、未成年のID検索できないとかそういう細かいことは気にしないでね。

連投ごめん

八幡「たでーまー」

小町「おっかえりー!」

予備校から帰ってきた俺を、リビングから聞こえる小町の声と暖気が迎えてくれた。

寒かった……こんな時期に家から進んで出ようとするとか理解できない……。

小町「お兄ちゃーん、朝のことゆっくりお話しよー」

八幡「うわあ……」

家から進んで出ようとするやつの気持ち理解できちゃった。

家に居場所がないのか……。

八幡「はあ……」

小町に聞こえるようわざと大きいため息を吐いてから、リビングへのドアを開ける。

ソファーにぐてーとしながらも満面の笑みでこちらを見る小町の姿は、なんかこう……将来が不安だ。

小町「ふっふっふ……お兄ちゃん、謎は全て解けたよ!」

八幡「その謎解いたとこでどうすんだよ」

小町「えー、そりゃ……ふふふ」

俺の質問を怪しい笑い方で誤魔化す。その笑いにはどんな意味が含まれているのか聞きたいような聞きたくないような……。

小町「しかし雪乃さんと夜遅くまでLINEとはねえ……小町嬉しいよ」

八幡「なんで嬉しいんだよ……つうかLINEしてたとは言うが、正確には二人ともがLINEに不慣れなせいで、やめ方が分からなかっただけだ。最後の方マントヒヒの話してたからな」

小町「マントヒヒ……」

さすがにそれには引いたようで、小町は額に手を当てる。

小町「あと少しでお姉ちゃんが出来ると思うんだけどな……なにが足りないんだろ」

八幡「俺のやる気だろ」

小町「もう!お兄ちゃんは彼女欲しいとか思わないの?」

彼女……ねえ。

ぶっちゃければ欲しい。喉から手が出るほど欲しい。だが俺の性格から考えて一人の女性と長期間……あるいは一生を共にするというのは難しい。 

一応専業主夫を目指している身としてはこんなとこで諦めるわけにはいかないが、それは大学で頑張るから。

大学行ったら本気出すから。

八幡「今は欲しいとは思わねえな。それに俺には小町がいてくれるし」

なんだかんだといって俺の世話を焼いてくれる可愛い妹がいてくれるだけでも、俺はかなり幸せだ。

そう思い、なんとなく小町の頭によって手を乗せ優しく撫でる。

小町「うぅ、これだからごみいちゃんは……ずるい」

八幡「ずるいって……頭を撫でるって反則行為だったりすんの?俺退場でもさせられんの?」

小町「ある意味超反則行為だね」

八幡「そうだったのか……」

小町の頭からパッと手を離す。俺の手を小町が名残惜しそうに見ていたのはきっと勘違いだろう。

八幡「じゃあ俺部屋行くから」

小町「んー」

勉強頑張れよ、とでも言ってやりたいがそれが逆効果なのはよく知っている。

ならせめて、こんな時くらいは兄らしく見守ってやろうじゃないか。

八幡「あ、そうだ」

本当なら小町にLINEのことを尋問される前にとっとと立ち去って誤魔化したかったのだが、一つ聞き忘れたことがあった。

八幡「なあ小町、俺がLINE始めたこと誰かに言ったか?」

俺がLINE始めたこと。それを川崎が知っていた理由があるとすればこいつが誰かに言ったから以外には考えられない。

一応小町は常識を備えている……と信じているが、念のために誰に言ったのか確認しておいても損ではないはずだ。

小町「言ったよー。たった二人だけどね。お兄ちゃんの知り合いで小町の知ってる人そんなに多くないし、そもそもお兄ちゃんの知り合い多くないし」

八幡「最後の一文いらないよね?改めて現実突きつけるのやめてくれない?」

小町「はいはい。それで教えたのは大志君と……」

大志……なるほど、川崎は大志経由で知ったのか。それなら納得……?

え?なんであいつら姉弟間で俺の話してんの?怖いんだけど。

川崎家の会話に俺の中で警鐘が鳴り始めている。だがそんなものは次の小町の発言で消し飛んでしまった。

小町「あと陽乃さん」

八幡「え?」

小町「だから陽乃さんだって。雪乃さんのお姉さんの」

今なんかとんでもない魔王の名前が聞こえた気がするんですけど……嘘だよね?嘘だって言ってよ!

小町「さっきコンビニに行ったら偶然会ったから言っちゃった。そういえば陽乃さんってなんでこっち居たんだろ?」

言っちゃったじゃねえよ!この子常識全くなかった!あと陽乃さんと会ったの多分偶然じゃなくて必然だ!

八幡「まじか……陽乃さんに言っちゃったか……」

小町「うん!頑張ってね!」

頑張っている人間に頑張れと言ってはいけない。

それは受験生にも魔王に目を付けられた哀れな村人Aにも同じことが言える。

陽乃さんのことを何も知らないのか知った上でなのかは分からないが、小町は妙な笑顔を浮かべている。

それに見送られながら、村人Aは静かに自室へ引きこもりに行った。

投下予定のところに行く前に寝落ちしてました。ごめんなさい。

なので予定のところまで投下します!

八幡「あー……晩飯作らねえと……」

引きこもるとは言ったものの、俺は自分と小町の晩飯を作るために部屋から出なければならない。

やっぱり働くとか俺の肌に合わないな。養ってもらおう。

パパっと着替えてから冷蔵庫にある食材で作れる料理を作り、小町と一緒に食べる。

すっかり慣れてしまった二人だけの食事風景。いつもならマイラブリーシスター小町とのきゃっきゃうふふなディナータイムなのだが……。

小町「それでそれで?雪乃さんと結衣さんとのLINEは楽しい?」

ふぇぇ……妹がうざいよぉ……。

八幡「そんなに会話してるわけじゃねえよ。由比ヶ浜とは適当なとこで会話終わらせるし、雪ノ下とは昨日の一回だけだ。もしかするとあれが最初で最後かもな」

小町「いやいやそんなこと言ってー……あ、でもお兄ちゃんならあり得る……」

八幡「だろ?現実ですらそこまで話すわけでもないのに、画面越しとか余計話さねえよ」

実際あいつとは業務連絡以外でLINEすることはないだろうし、その業務連絡だって由比ヶ浜としたところで問題はない。

だから本当にあれが最後かもしれない。まあマントヒヒの話しかしないLINEなんて別にしなくてもいい気がするが。

マントヒヒ愛好家のみんな、ごめんね。

小町「もったいないなー。今がお兄ちゃんのピークなのに」

八幡「これから俺の人生下がるだけかよ」

小町「……本当にそうかもよ?」

笑っているはずの小町はしかし全く笑ってなどいなかった。急な雰囲気の変化で戸惑う俺を小町の視線は逃さない。

小町「決めるのはお兄ちゃんだけど、捻くれすぎて女の子泣かしたりしたらダメだからね」

八幡「分かってるよ」

本当は分かってなどいない。けれど今の小町にそれを言えるはずもない。

だからせめて、お返しに俺らしく皮肉と嫌みで返してやる。

八幡「人の心配してる暇があったら自分の心配しとけよ受験生」

小町「あー!小町に言っちゃいけない言葉ランキングトップ10の言葉言った!」

八幡「意外と低いんだな」

てっきりトップ3くらいには入ってると思ってた。これでトップ10なら一位はなんなのか気になる。

小町「ふん!明日の朝ご飯お兄ちゃんの嫌いなトマトだけで料理作っちゃうもん!」

八幡「おいおい俺を殺す気かよ。冬休みなのに朝ご飯の時間に起こすとか酷すぎるだろ」

小町「そっちなんだ……」

小町が俺を残念な子でも見るような目で見てくる。辛いです。

八幡「まあそういうわけだから、お姉ちゃんとか期待すんのはやめろ」

小町「うん……お姉ちゃんが無理ならいっそお兄ちゃんができることに賭けるよ」

八幡「もっとやめろ」

最近海老名さんの視線が妙に気になるのだ。俺と葉山の一挙手一投足を見逃さないようにしているそれは、まさに野獣の目。超怖い。

晩飯の最後の一口を、鼻血を出して倒れる海老名さんのことを思い出しながら食べる。なぜか食事を汚された気分になったが、お茶を一気飲みして気を紛らわせた。

八幡「じゃ、今度こそ引きこもるかから。……なんか分からないとこあったら聞きに来い。ただし」

小町「数学以外でしょ?頼りにしてるからね、お兄ちゃん」

八幡「ん」

理由の分からない気恥ずかしさを感じながら自室へ向かう。

今は無性にベッドが恋しかった。

八幡「むむっ……」

ベッドに寝転んで、某楽天カードマンの真似をしてみる。だがそんなことをしたところでID検索をする勇気は出てこない。

何で俺、検索するだけでこんなに緊張してるんだ……?

あ、そうか。さっきから検索したら友だち申請しなきゃいけない、とか思っていたから検索できなかったんだ。

検索したって嫌なら申請しなけりゃいい。それだけの話じゃないか。

よし、オーケーオーケー。それなら大丈夫。

さあ、検索を始めよう。

八幡「えーと……K……A」

ローマ字のみの入力は、パソコンでもiPhoneでも慣れない。しかもこいつの妙に長ったらしいから余計面倒だ。

イライラしながらもなんとか入力を終える。そして震える指で検索ボタンを押した。

友だち申請をするかどうかは別にするとして、考えてみたら俺が自分から友だち探しをしに行くって初めてじゃないか?

うわ、そう思ったら緊張してきた。そうか、俺の初めては川崎か……。

ともかく長かった苦悩もこれでようやく終わりに──

【川崎大志】

八幡「お前かよっ!!!」

俺の苦悩なんだったんだよ!確かにこれなら連絡簡単だけれども!!

八幡「ふぅ……ふぅ……!」

溢れ出る怒りの矛先が見つからずムシャクシャする。大志に八つ当たりしようにもこいつ悪くねえしな……。

つうか悪いの早とちりした俺だし……。自分が加害者であり被害者ってのが辛い。誰を責めればいいのか分からなくなる。

後が怖いので大志を友だちに登録しておいたが、だからといって気が晴れるわけでもない。

こういう時は本でも読んで落ち着こう。

そう思い、手近なところにあった本に手を伸ばそうとした瞬間だった。

ピコン、とケータイから音が鳴る。この音はLINEの通知音だ。一体誰から?

自動で明るくなったケータイ画面を見る。もちろん表示されている通知はLINEのものだ。しっかりとアカウント名もある。

その名前は、もう二度とLINEをすることはないだろうと考えていた彼女の名前だった。

4思っていたより川崎沙希は合理的である 終



「二人で一人の」

to:川崎大志

大志【お久しぶりっす!お兄さん!】

八幡【誰】

大志【川崎大志っす!フルネームで書いてあるっすよね!?】

八幡【テンション高すぎ。夜なんだからテンション下げろ。で、誰?】

大志【比企谷さんの同級生の川崎大志っす】

八幡【よし、それくらいのテンションならちょうどいい。それで誰だっけ?】

大志【川崎大志っす!!!あ、話変わるんすけど姉ちゃんのIDいります?】

八幡【いらん、めんどい】

大志【あたしと話すの嫌なの?】

八幡【お前らなんでメールもLINEも二人で一つなんだよ】

大志【すいませんっす!姉ちゃんがこのLINE見た瞬間急にケータイ奪い取ったんす】

大志【別に奪い取ったわけじゃないから。ちょっと気になっただけ。そんなに気にしてるわけじゃない】

大志【こうは言ってるんすけど、いつもよりテンション低いんで友だち申請してあげてもらえないっすか】

八幡【するから、申請するから。だから二人で一つのLINE使うな】

大志【ありがとうございますっす!姉ちゃんの機嫌もよくなりました!】

八幡【そういうこと一々言わんでいい】

八幡【じゃあな】

大志【はい!おやすみなさいっすお兄さん!】

八幡【お兄さんって言うな殺すぞ】

八幡【おやすみ】

大志【おやすみ】

八幡【お、おう】

八幡(だから二人で使うなよ!この姉弟めんどくせえよ!)

今日はここまでっす!もう書きためがないっす!

本編は溜まり次第投下する予定です。
ネタを出していただいた短編については、もうちょっと話が進んでから使わせて頂きたいと思っています。

それじゃ!おやすみなさいっす!

やっはろー!

だいぶ放置しちゃったから少しだけ投下します。

次の更新はまただいぶ先になるかも……

【雪ノ下雪乃】

そう表示された画面を何度も見てしまう。

あいつから俺に何の用だ……?今日の部活で何かあったのだろうか。

そんな自信のない予想をしてからLINEのアプリを開く。

八幡「ああ……」

そこにあったのは俺に対する不満。主に小町にLINEのことを言ってしまったことについてだ。

確かにこれならあいつからLINEを送ってきたことも納得できる。

小町ェ……。

八幡「ふむ……返さなくてもいいか?いやそれは怖いな……」

独り言は頭を整理するのにぴったりだ。話しているわけではないから気を使う必要もない。会話するよりずっと楽である。

独り言ホント万能。文科省は会話の大切さより独り言の利便さをもっと広めていくべきだ。

そして、そんな独り言が出した結論は。

八幡「適当なとこで切り上げて寝よう」

しっかりと昨日の反省を生かす。ちゃんと時間を見ながらやれば問題はないはずだ。

じゃあ既読もつけちまったし、とっとと返すか。

>>>177
これ酉間違えました、ちゃんと自分です

to:雪ノ下雪乃

八幡【悪いな】

八幡【小町ってこういうことには異常に敏感だから】

雪乃【あなたが鈍感なだけでしょう】

八幡【何を言う、俺は肌が荒れるレベルで敏感だ】

雪乃【あなたの肌なんてどうでもいわよ】

雪乃【それより、今後は小町さんに気づかれないようにしなさい】

八幡【俺の肌どうでもよくないから】

八幡【男だって少しは気にしてるんだぞ】

八幡【なんで小町に隠すんだ?】

雪乃【あなたの肌を見てくれる人なんていないでしょう?】

雪乃【男だって、とは言うけれど女の私は大して気にしたことはないのだけれど?】

雪乃【小町さんに隠すのは今日みたいな事がないようにするためよ】

八幡【いるから、戸塚とか超見てくれてるはずだから】

八幡【そうなの?女子って全員肌のことばっかり考えてると思ってたんだけど】

八幡【小町そんなにしつこく聞いてきたのか?】

と、ここまで打って気付く。

話題がすでに三つに分かれてる……!

前回の反省どこに活きてるんだよ。むしろ悪化してるじゃねえか。これ終わるの?俺はちゃんと寝れるの?

そんなことを考えている間にも雪ノ下からのLINEは来てしまう。

雪乃【本当に手遅れね。そろそろ戸塚君にも愛想を尽かされるんじゃないかしら】

雪乃【何も考えていないわけではないけれど、あなたが思うほど真剣に考えたことはあまりないわ】

雪乃【私の場合、特になにもしなくても問題ないもの】

雪乃【小町さんの質問はそれほどしつこくなかったのだけれど……】

雪乃【明日部活に来れば分かるわ】

八幡【戸塚に愛想尽かされるとかもう生きてる理由ないんだけど】

八幡【お前、それ由比ヶ浜に言ったら多分キレられるぞ】

八幡【部活で思い出したけど、年末年始も部活やんの?】

俺たちはクリスマスパーティーの翌日から毎日部活をしている。

そのせいで『明日も部活があって当たり前』という考えが生まれ始めていた。

俺は年末年始だろうといつだろうと、暇を持て余すという予定しか入っていないから問題はない。本を家で読むか学校で読むかの違いだ。

だが、家族でいろいろとしてそうな雪ノ下や友達と遊んでそうな由比ヶ浜は年末年始まで部活に出ているわけにはいかないだろう。

雪乃【明後日から五日まで部活は休みよ】

俺の疑問に雪ノ下は妥当な答えを出してくる。どうやら明日が今年最後の奉仕部らしい。

できればもうちょっと早く教えて欲しかったなーとか思わなくもないが、そんなことは言葉にしないし文字にもしない。

八幡【思ってたより休みあるんだな】

八幡【お前のことだし毎日やるとか言い出すかと思ってた】

雪乃【そんなわけないでしょう】

雪乃【そんなことより】

八幡【なんだ?】

雪乃【由比ヶ浜さんがキレるという件についてだけれど】

雪乃【もしかして私は知らないうちに酷いことをしてしまったのかしら?】

……由比ヶ浜のこと好きすぎるだろ。こんな不安げに他人の好感度気にするとか、いつものお前のキャラどこ行ったんだよ。

>>179>>180>>181
てへ、全部間違えちゃった

そして時は経ち。

【別にホラー映画は苦手ではないわ、好かないだけよ】5:37

……あれれー、おかしいなー?これ時計壊れてるんじゃないの?

いやいやそうじゃない。現実逃避してる場合じゃねえよ。

どうしてこうなった……。まあ原因は、また時間を忘れて没頭してしまったからなのだが。

いやうん、正直さっきからまぶたが重いとは感じてたよ?けどほら、会話を一つに出来たこととか、マントヒヒみたいな訳の分からん会話をしなかったことで油断してしまった……!

一回でも時間を見ていればこんな事態には陥らなかったというのに、なぜこうも会話に集中してしまったのか。自分を小一時間ほど問いつめたい衝動に駆られるが、それよりもまずしなければならないことがある。

八幡【おい雪ノ下】

八幡【時間見てみろ】

前回と同じように雪ノ下にそれとなく終わりを促す。これでまた雪ノ下が会話をぶったぎってくれれば何の問題もない。

だが、雪ノ下の反応は予想と違っていた。

雪乃【あなたと話していると時間が早く過ぎてしまうわ】

雪乃【どうしてかしら】

八幡【俺に聞かれても困る】

八幡【俺も同じ事で悩んでるからな】

雪乃【どういう意味かしら?】

もやのかかった頭でそれに答えを返そうとして……すんでのところで思いとどまった。

眠気とはかくも恐ろしいものだ。いつもの俺なら絶対に言わないことを簡単に言おうとしてしまう。

顔を合わせず文字だけでやりとりするせいで、言おうと思ってなかったことまで言ってしまいそうになるLINEとは最高の相性だ。

俺の目線から見れば最悪の組み合わせだがな。

この組み合わせは隠している本心をあっさりと見せようとしてしまう。本心などたとえ相手が小町であっても絶対に見せるわけにはいかないというのに。

八幡【なんでもねえよ】

八幡【さすがに寝るぞ】

八幡【おやすみ】

雪ノ下が会話を切ってくれないのなら俺が切るだけのこと。

電池がだいぶ減ったケータイの電源を切ってベッドの上の方に置いておく。

ピコン、と一度だけ音がする。その音になぜか苦笑しながら、俺はベッドに倒れ込んだ。

これっぽっちだけど書きためはここで終わりですー

これから先の話、普通に爽やかな感じで終わらせようとしてたんだけどなんかどんどんドロドロになってきてます。

それでも大丈夫?

やっはろー!1です

ドロドロにしようとしたら全然プロット作れない……爽やかに路線戻すかも。
ドロドロでも爽やかでも、完結はさせるから安心してください。

あと、あんまり更新しないと申し訳ないんで短編一個投下します。LINE関係ない短編ですけどよろしく。

「カンスト」

小町「……zzz」

八幡「小町、寝てるのか?」

小町「zzz」

八幡(この季節にリビングで寝るなよ……風邪引いたらどうすんだ)

八幡(勉強で疲れてるのは分かるが、それで体調崩したら元も子もないだろ……ったく)

八幡「おーい小町、寝るなら自分の部屋で寝ろー」

小町「……んぅ……」

八幡「小町ー」

小町「んー……ふぁぁ……」

八幡「やっと起きたか……ほら風邪引くから──」

小町「八幡抱っこしてー」

八幡「……は?」

小町「ぎゅーしてよ八幡……」

八幡「こ、小町……?」

小町「んん……んぅ?お兄ちゃん…………!?」

八幡「こ、今度こそ起きたか?」

小町「え、あ、あ……///」カァァ

八幡「えっと……今のは……」

小町「いっ、今のは、わわわざとだよ!ここここみゃっ!小町的にポ、ポイントっ、たか、た、たかっ、高いよね!!!」

八幡「お、おう……可愛すぎてポイントカンストしそうだったぞ。でも何で俺のこと名前で……」

小町「き、気にしちゃダメ!もう寝る!!」

八幡「あぁ……ちゃんと部屋で寝ろよ」

小町「お、おやしゅみ!」

八幡「おやすみ」

八幡(小町天使すぎんだろ。俺もうこのまま小町ルートでいいんじゃないかな)

こんな妹が欲しかった……!

というわけで今日はこれだけです。
本編は来週中には更新できると思います。

やっはろー

本編が進まないお詫びにハイキュー見てたら思いついた短編投下しますー

「SS」

TV<オレニトスモッテコーイ!

八幡(今やってるハイキューってアニメのタイトル、似たようなのどっかで見たことあると思ったらあれだ)

八幡(ロウきゅーぶだ)

八幡(……いやよく見たら全然似てねえ)

八幡(けどタイトルの付け方的なものが似てるような気がする)

八幡(あれ、籠球部だからロウきゅーぶだって気づいたの最終話あたりだったな……)

八幡(そういや二期の『SS』って何かの略だったはず。確か──)

ピコン

to:由比ヶ浜結衣

結衣【ねえヒッキー!】

結衣【姫菜がたまに言ってる『SS』ってなんのことか知ってる(´・ω・`)?】

八幡【小学生は最高だぜ】

八幡【あ、間違えた】

八幡【今のは違うんだ】

結衣【そうだね、留美ちゃん可愛いもんね】

八幡【なんでそこであいつが出てくるんだ】

八幡【今のはちょっと間違えたんだよ】

八幡【おい】

八幡【既読スルーするなよ】

八幡【おい!】

本編は週末に投下します
おやすみなさい!

翌日の部活。俺が部室に入って最初に目にしたものはムッスーとした由比ヶ浜の顔だった。

結衣「むー!」

俺の顔を見るなり唸り声を出された。なんだ、サブレの物まねか?似てるじゃねえか。

八幡「よう」

そんな由比ヶ浜はひとまずスルーし、普通に挨拶をしてから席につく。そしてカバンから読みかけだったラノベを取り出した。

さて、読むか。

結衣「ちょっとヒッキー!ここまでアピールして無視!?」

本を開こうとしたとたん由比ヶ浜がサブレの物まねをやめて何かを叫んできた。

八幡「急になんだよ、サブレの物まねスルーされたのがそんなにいやだったか?ちゃんと似てたぞ」

結衣「サブレの真似なんかしてないし!っていうか似てるって言われても嬉しくないから!」

八幡「じゃあなんの物まねしてたんだ?」

結衣「物まねじゃないし!本当は分かってるでしょ!」

由比ヶ浜は俺が何も知らないフリをしていると思い込み憤慨している。だが先ほどの由比ヶ浜の奇行の理由に心当たりなどない。

結衣「……え?本当に分からないの?」

八幡「ああ」

俺の困惑から由比ヶ浜も俺が何も分かっていないことを察したらしい。落ち着いた声でこう言ってきた。

結衣「……LINE」

八幡「?」

結衣「一昨日、ゆきのんと夜遅くまでLINEしたんでしょ?あたしの勘違いとかじゃなくて」

八幡「……確かにしたな」

夜遅くまでつっーか若干朝みたいなもんだったが。あれ夏だったら太陽見えてたかもしれないぞ。

結衣「……それに昨日も寝る前までしてたってゆきのん言ってた」

八幡「まあそうだが……それでどうしたんだ?また寂しいのか?」

こいつが前回挙動不審だった理由は寂しいというのがあったからだ。なら今度もそうなのではと思うが……俺の第六感はどうやら絶不調らしい。予想はまたも外れてしまった。

結衣「あたしも昨日LINE送ったのに……」

いやまさかそんな、と思いながらポケットに突っ込んであったケータイを取り出し確認する。

そこには確かに、由比ヶ浜からのLINEが。

八幡「お前……30回も送って来たのかよ……」

結衣「だってヒッキーが返してくれないんだもん……でもちょっと送りすぎかなとは思った」

八幡「自覚してるならいいけどよ……」

前々から思ってたが、こいつってもしかしてヤンデレ化するんじゃないの?今のうちに距離取っておこうかな。

八幡「まあ気付かなかったのは俺だからな、悪かったよ。今日またLINEするっていうなら面倒だけどちゃんと返すから」

結衣「面倒とか言わないの!でも、うん……分かった」

そう言った由比ヶ浜は、しかし唇をとがらせて、プイッと視線を逸らしてしまう。

おいなんだよその仕草、明らかに納得してない上にちょっとキュンとしちゃっただろ。どう責任取ってくれる。

八幡「はあ……まだ何かあんのかよ」

結衣「も、もうないし!」

八幡「そう言うならもうちょっと表情なんとかしろよ」

結衣「え……顔に出てた?」

八幡「隠せてると思ってたのかよ……」

どれだけアホの子なんだこいつは。アホの神にでも愛されてるんじゃねえの?

結衣「と、とにかく!あたしのことはいいから昨日送ったのちゃんと読んでね!」

八幡「昨日?今日送るやつじゃなくて? 」

結衣「それもだけど昨日のも読んで!」

意味が分からず首を傾げてしまう。なんで昨日のに限定するんだ?

まあここで聞いたらまた話がこんがらがりそうだし、一応納得してるフリをしておくか。

八幡「分かったよ。昨日の読んで、ちゃんと返せばいいんだろ?」

結衣「うん!」

由比ヶ浜からはさっきまでの不満げな表情は消え、いつものように無駄に明るい笑顔が戻ってきた。

やっぱこいつには笑顔が似合う。

そういえば今年はこれで二人の顔も見納めだな。

二人の顔を見るため、バレないように視線を巡らす。

俺たちの会話に一切入らず真剣な表情で本を読んでいた雪ノ下。

俺の顔を不思議そうな表情で見つめ返す由比ヶ浜。

二人を見ていると色々なことを思い出してしまう。

今年はいろいろなことがあった。ありすぎた。奉仕部に入ってからが大変すぎてその前のことなんか忘れてきてるレベル。

だが俺が困ったとき、この二人はいつもそばにいた。

……困った原因って意味も含まれてるんだけどね?むしろこいつらいなけりゃ何も困らなかったかもしれない。

それでもいなければ良かったとは思えないあたり、俺はこのたった三人しかいない奉仕部という空間を意外と大切に思っているのかもしれないな。

雪乃「……私たちの顔を見ながら気持ち悪い笑顔を浮かべないでもらえるかしら」

結衣「あたしたちのこと見てにやけてたの!?ヒッキーマジキモい!」

……前言撤回。

やっぱり俺は一人でいる方が好きだ。

やっはろー!1です

いきなり始めた上に少なくてごめんなさい。
続きは明日か明後日かには書きます(予定)

短編に少し慣れてきたので、以前出していただいたアイデアなどを短編にしていく回数を増やしていこうと思います。
本編と短編で微妙に時系列的矛盾等が出るかもしれないですが、そこには目を瞑ってください!

それでは明日も仕事あるので寝ます。

おやすみなさい!

やっはろー!
本編投下していくよー!

『冬の怪談スペシャル、〈リング〉今夜9時放送!』

夜、ソファーに寝転がってだらだらといじっていたケータイから視線を外し、季節はずれのCMに注目する。

ほう、この冬真っ只中にリングか。世界に逆らうその感じ、嫌いじゃないわ!

八幡「つってもなあ……」

リングは確かに面白いし、なにより怖かった。初めて見たときは俺も小町も完全にビビって、数日間一緒に寝ていたほどだ。

今にして思えば親父に殺されたかもしれないのによくそんなことが出来たと思う。貞子よりそっちの方がよっぽど恐怖だろ。

そんなリングはホラー映画の中ではかなりメジャーなこともあって、もう何回も放送されている。

そのせいで最初に感じたあの恐怖感、ドキドキ感を味わうことはなくなってしまった。それに貞子はネタにされてる感じがして恐怖の対象でなくなってしまっているように思える。

だから今日のリングは──

ピコン。

to:戸塚彩加

戸塚【今日リングやるね!(*´∀`*)】

戸塚【八幡はリング好き?】

八幡【大好きだ】

八幡【もちろん今日のも見る】

戸塚【やったー!】

戸塚【見終わったらリングの感想話し合おうね!】

八幡【ああ】

だから今日のリングは──見る。見る以外に選択肢などない。

戸塚が見るなら俺も見なければいけない。これ自然の摂理なり。

それにほら……何時間話しても飽きない奴がいるように、何回見たって飽きないお気に入りの映画っていうのもあるからな。

ちなみに何時間話しても飽きないのが誰か、なんてのは言うまでもないだろうが戸塚だ。

会話とLINEを同じにしてはいけない。だからあいつは含まれないはず。

そのはず、なんだ。

ピコンと再び通知音が鳴る。戸塚かと思い光速でケータイ画面を見るが、LINEは由比ヶ浜からだった。

LINE……由比ヶ浜……。

あっ、昨日のLINE見てねえ。

若干の焦りを感じながらLINEを開く。今来たLINEは、昨日のを見たかどうかの確認だった。

画面をスクロールさせ、急いで昨日のLINEを確認する。

to:由比ヶ浜結衣

結衣【ヒッキー】

結衣【明後日って空いてる?】

結衣【二人で買い物に行きたいんだけど……】

結衣【だめかな?】

結衣【前に言ってたゆきのんの誕生日プレゼントとか、色々買いたいの】

結衣【ヒッキー?】

結衣【見てる?】

結衣【またゆきのんとLINEしてるの?】

結衣【(`Д´)】

……と、こんな感じだった。

多分これ、かなり勇気出して打ったのだろう。そりゃ機嫌悪くなるわな……。

いっそのこと逃げてしまいたいような気になるが、そうすればさらに厄介なことになるのは目に見えている。

仕方ないか……。

八幡【明日なら空いてるぞ】

結衣【じゃあ明日行ってくれるの!?】

八幡【ああ】

結衣【やったー!】

結衣【でもヒッキーがこんなにあっさり行ってくれるなんて意外かも】

俺もまさか女子からの誘いをこんな簡単に受ける日が来るとは思っていなかった。

一応、ちゃんとした理由はあるけどな。

八幡【プレゼント買いに行くって約束したからな】

結衣【(*´▽`*)】

八幡【おやすみ】

結衣【このタイミングで寝ちゃうの!?】

由比ヶ浜からのブーイングにしかたなく返事をしてやる。

まったく、人が話を切ろうとしてるのにどんどん会話を続けていくとか中学時代の俺かよ。

八幡【いや寝ないけど】

八幡【戸塚と語るためにリング見なきゃいけないから】

結衣【彩ちゃん好きすぎるでしょ!】

結衣【ホントにここで終わり?】

八幡【明日会うだろ】

結衣【そうだけど……】

…………はあ。

八幡【リング始まるまでな】

結衣【うん!】

雪ノ下との長すぎるLINEは、時間を気にするという癖を俺につけてくれたらしい。

時計を見ればリングの始まる時間まであと5分を切っていた。

八幡【リング始まるからそろそろ切るぞ】

結衣【うー】

八幡【また明日な】

結衣【あ】

八幡【あ?】

結衣【明日の待ち合わせとか何も決めてなかった!!!】

……そういやそうだ。待ち合わせどころかどこ行くのかすら決めてねえじゃん。

八幡【場所とか時間とか好きに決めて良いから、あとでまとめてメールくれ】

結衣【メール!】

八幡【どうした】

結衣【LINE使い始めてからメール全然使ってなかったからさ】

結衣【なんだか懐かしくて(*^^*)】

八幡【そうだな】

LINEを使うとメールを使う意味はほとんどなくなる。

別に意志疎通をするだけならメールでもLINEでも構わない。ただメールにしかない緊張感というものもある。

俺の場合は緊張感より恐怖心の方が強かったし、中学卒業のあたりにはもう諦めに変わっていたが。

八幡【じゃあメールでよろしく】

結衣【うん!(・∀・)】

八幡【今度こそおやすみ】

結衣【おやすみ!】

結衣【またあとで!】

矛盾のある挨拶をしてからLINEを閉じる。ちょうどケータイを閉じたところで小町がリビングに入ってきた。

どうでもいいことだけど、ガラケー使ってた時の名残でケータイの画面を消灯することを『ケータイを閉じる』って言っちゃうんだが、スマホだとなんていうのが正解なんだろうか。

小町「お兄ちゃんがこの時間にリビングにいるなんて珍しいね。リング見るの?」

八幡「ああ、久々に見たくなってな。お前も?」

小町「うん、勉強の息抜きにね。もう何時間も勉強してたから」

八幡「ご苦労さん。コーヒーでも飲むか?」

小町「もちろん!お兄ちゃんの入れてくれるコーヒーは美味しいからね!あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「はいはい」

適当に受け流しながら来たる受験に向け努力している愛すべき妹のため、労いのコーヒーを入れる。ついでに自分のも入れておく。

テレビではすでにリングが始まっていた。まあ最初の数分を見逃したところで問題はないし、俺もコーヒー飲みながら見たい。

小町のには少し、俺のにはたっぷりと砂糖を入れてコーヒーは完成した。本当は千葉ッシュしたいがさすがにそこまでこだわっている時間はなさそうだ。

小町「もう始まっちゃってるよー」

八幡「今行く」

コーヒーを机の上に置き小町の横に座る。

久々に見るせいで少しだけ新鮮さを感じられるリングと、その中で活躍する貞子に期待しながら俺はようやく視聴を始める事ができたのだった。

今日はここまで。

ドロドロ難しいっす。話が思いつかないっす!
投下ペース遅れるけど許してほしいっす。

おやすみなさい!

鎧武終わっちゃいましたね……。

ということで鎧武見たときに思いついたネタ投下します。

前回と似てるとか言わないでね。

これから投下しますー

八幡「ひさびさだと怖えな……」

小町「う、うん……」

リングを見終わって最初に発した言葉はこれだった。

テレビでは来週の映画のCMが流れているが、俺たちは来週の映画より今やっていた映画についてしか頭が回らない。

リングなめてた、超怖い。

最初こそ俺も小町も談笑混じりに見ていたが、徐々にその余裕はなくなっていった。最後にはお互いの手を思いっきり握っていた。

というか今も握ってる。小町の手は汗ばんで湿っぽい。おそらく俺の手はもっとひどいことになっているだろう。

八幡「……お前これ見た後に、一人で勉強とかできんの?」

小町「今日はもう寝るつもりだったからいいけど……」

八幡「明日になれば恐怖は和らいでるだろ、きっと」

正直今の精神状態のまま一人になれとか言われたらそれこそ寝るしかできない。

小さな物音でも反応しちゃうし、視界の端にあるものが人に見えてびくついてしまう。

笑い声が聞こえると自分のことを笑われているように思うし、自分への視線が気になってしまう……あ、途中からぼっちの習性になってる。

小町「もし明日もまだ怖がってたら一緒にいてね!あ、今の小町的にポイント高い!」

八幡「すまん、明日は無理だ」

小町「え?」

八幡「実は由比ヶ浜と──」

小町「デート!?」

俺の言葉を遮って勝手に結論を出されてしまった。

違うからね?断じてデートではないからね?

小町「まだかまだかと思ってたけど……ようやくこの日が来たんだね……」

八幡「喜んでるとこ悪いが違うぞ」

小町「やっぱり?」

『知ってましたけど?』みたいな顔を小町がしていてイラッとする。でもそんな顔も可愛いなちくしょう。

小町「雪乃さんの誕生日プレゼント買いに行くんでしょ。さっき結衣さんからLINEで教えてもらったよ」

八幡「知ってんなら先に言ってくれ……まあいいや、その方が話早いし」

小町「?」

きょとんとしながら首を傾げる小町。一色あたりが同じ動作をしたらあざといだけなのだろうが、小町がやると可愛い。さすが俺の妹。

八幡「雪ノ下の誕生日プレゼントなんて何買えばいいか分からないし、明日の買い物に小町もついてきてくれないか?」

小町「はぁぁぁぁぁぁ…………」

小町わざわざ息を思いっきり吸い込んでから、肺の中の空気を全て吐き出す勢いでため息をついた。

なんでため息にそこまで全力だしちゃうんだよ。ちょっと疲れてるじゃんお前。

小町「お兄ちゃん」

八幡「なんだ?」

小町「……小町の言いたいこと、分かるよね?」

トーンが明らかに下がっている。超不機嫌。

たとえその声を聞いていなかったとしても小町から発せられるオーラを見ただけでその不機嫌度合いは分かってしまう。

どんだけオーラ出してんだよ。なに、そのままゴンさんにでもなっちゃうの?髪の毛超伸びちゃうの?

小町「今関係ないこと考えてるよね」

八幡「ソンナコトナイヨ」

なんで俺がゴンさんについて真剣に考えようとしたことがバレたんだ……!

小町「……で、どうなの」

八幡「……まあお前の言いたいことは分かる」

小町「分かってるならいいけど。それじゃあ小町の答えも分かるよね?」

ニコッと笑顔を向けてくる小町。その笑顔は天使のようにも見えるが実際は悪魔の微笑みだ。

悪魔は悪魔でも小悪魔だけどな。

八幡「でも来てくれよ。女子と二人で買い物とかアレだし」

小町「なんでこういう時だけヘタレちゃうかな……」

それは自分でも思う。それだけ今までのトラウマが心に深く刻まれているということなのだろう。なんせ俺が一番共感できるキャラってドロロ君だからね。

小町「こういう時に緊張しちゃうのってさ、何かを期待してるからじゃない?」

八幡「期待?はっ、このフられ選手権優勝者の俺が女子にそんなことを期待するわけないだろ」

小町「今すごく悲しいこと言われた気がするけど……」

これは悲しいことなんかじゃない。ただの事実だ。まあ高校に入ってからはそもそも告白もしなくなったから選手権引退……いや修学旅行でフられてたな俺。なんだよまだまだ現役じゃねえか。まったく嬉しくない。

小町「とにかく小町は行けないよ。結衣さんの邪魔したくないし、勉強もしなきゃいけないし」

八幡「それ言われたら何も言えねえな……」

忘れていたが小町は受験生だった。その小町に勉強のためと言われてしまえばもう何も頼めない。むしろ頼みごとされまくるまである。プリン買ってきてねみたいな感じで。

八幡「はあ……分かった、一人で行ってくる」

小町「なんでそんなにテンション低いかなぁ。心の底から嫌なわけでもないでしょ?」

八幡「いやまあ……嫌ってわけじゃねえよ」

小町「なら楽しんできちゃいなよ。お兄ちゃんが女の子と遊ぶことを素直に楽しめるようになれば小町は嬉しいんだから。あ、今の小町的にポイント高い!」

その言葉をきっかけにしたように小町は立ち上がった。会話はもう終わりということだろう。

小町「じゃあもう寝るね。明日遅れたりしたらだめだよ!遅れたら一週間口きいてあげないからね!」

八幡「分かった、神に誓って遅刻しない」

小町「よろしい!おやすみー」

八幡「ああ、おやすみ」

俺も寝よう。このままここにいても怖いだけだ。

通る道の電気を片っ端からつけて部屋へと帰還する。無駄に研ぎ澄まされた五感のせいで視界の端の物やちょっとした音に異常に反応してしまう。

懐かしいな、この感覚。もう二度と味わいたくねえ……。

八幡「やっと着いた……」

リビングからここまで、急いで歩けば十秒とかからない。だが今日はその十秒がとても長く感じる。

部屋の扉を開けようとした時、ポケットに入れていたケータイから変な歌が流れてくる。何事かと思ったがなんのことはない、ただメールが届いただけだった。

差出人など見なくても分かる。このタイミングで送ってきたということはあいつもリングを見ていたのかもしれない。

送り返す文面は「了解」の二文字でいいだろうか。

どんな返信なら久しぶりのメールで緊張していることを隠せるかを真剣に検討しながらドアノブを捻る。

ピコンと音がしたのは、ちょうどその時だった。

八幡「……まさか」

扉を開けて即座に電気をつける。そのままベッドに腰掛け、ケータイの画面を見る。

【雪ノ下雪乃】

頭の中が疑問で覆われる。イメージとしては俺の頭の上にいくつも?マークが出ている感じだ。

今日はなんだ?小町か?小町が理由なのか?

由比ヶ浜からのメール確認だけ先に済ましてからLINEを開く。返信は結局『了解』だけで終わらせた。

to:雪ノ下雪乃

雪乃【比企谷君】

雪乃【起きているかしら?】

八幡【ああ】

八幡【まだギリギリ起きてる】

八幡【どうかしたか?】

雪乃【特に何かあったわけではないわ】

何かあったわけでもないのに雪ノ下が俺にLINE?なにそれ超怖い。

簡単に訳せば「あなたの声が聞きたくて電話したの」的なやつだろ。そんなもの雪ノ下がやっても違和感と恐怖心しか生まれない。

戸塚にやってもらえれば……いや、それも充分怖いな。俺が戸塚のご両親にご挨拶をしに行ってしまいそうで怖い。

八幡【用もないのにLINEしてくるとか俺のこと好きなの?】

雪乃【気持ち悪い】

八幡【一言で終わらせるな】

八幡【冗談に決まってるだろ】

あらゆる言葉を使い尽くして表現した言葉よりも、気持ちを込めたありきたりな一言の方が相手によく伝わることがある。

まさに今みたいにな。だいぶ心削られたわ。

八幡【じゃあなんでLINEしてきたんだよ】

雪乃【あなたがきちんとした生活を送っているか心配してLINEしてあげたのよ】

……不気味だ。雪ノ下らしくない。

確かに以前、周りの人間に幻想を押し付けるのはやめようと決めた。ただそれにだって流石に限度はある。

例えるなら仮面ライダーがプリキュアに変身するような感覚。違和感がすごすぎて不気味に感じる。でもBlu-ray買っちゃいそう。

ふと、俺の中で一つの仮説が出来上がる。雪ノ下と以前話したことと今の謎のLINEを照らし合わせれば、自ずと導き出される答えだ。可能性は低くない。

八幡【なあ】

雪乃【なにかしら】

八幡【もしかしてリングが怖くて寝れないのか?】

一分二分と間を空け、雪ノ下からの返答がきた。

雪乃【根拠のない妄言はやめてくれないかしら確かにリングは有名なだけあってそこそこのスリル感は得られたけれどそれによってなぜ私が寝られなくなるほど怖がったという結論に至るのかしらあまり適当なことを言っていると名誉毀損とセクハラで檻の中に入れられるわよ】

八幡【分かったから句読点くらい付けろ】

絶対怖かったんだな……。仕方ない、今回はあえて言及せず、少しくらいなら会話にも付き合ってやろう。

……べ、別に今のまま寝たら悪夢見そうで怖いとかじゃねえし。お、怯えてなんかねえし!

。゚。∧_∧゚。 ゚。゚
゚ 。(・ω・)。 ゚。 ゜マダー?
。゚ミミミミミミミミ゚ 。 。
。 ゚( : )。゚。 。
⌒~⌒~ ~⌒~⌒

。゚。∧_∧゚。 ゚。゚
゚ 。(・ω・)。 ゚。 ゜マダー?
。゚ミミミミミミミミ゚ 。 。
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゚ 。(・ω・)。 ゚。 ゜マダー?
。゚ミミミミミミミミ゚ 。 。
。 ゚( : )。゚。 。
⌒~⌒~ ~⌒~⌒

『へいジョニー、今何時だい?』

『おいおいマイケル、そこに時計があるじゃないか。どうしてわざわざ僕に聞くんだい?』

『本当の時間を知りたくないからに決まってるじゃないか』

『なるほどな』

『ハッハッハ!!』


……俺の頭の中で第四の人格マイケルと第五の人格ジョニーが現実から目を背けるためにアメリカンジョークもどきを繰り広げている。二人ともセンスねえな。

え?第二、第三の人格?あいつらなら中学校卒業と一緒に心の檻に閉じ込めた。

八幡「今は……四時か」

今、『え、まだ四時?』って思った自分がいるのが怖い。

今までと比べればそんなに突出して遅いわけでもないが、実は今日が一番やばかったりする。

俺の場合、明日由比ヶ浜と約束があるからという意味でやばいのもある。だがもっとやばいのは眠気だ。

俺も雪ノ下もここ最近ずっと夜遅く……というかほぼ朝まで起きている。そんな生活が数日続けば眠気はひどくなっていく一方だ。そのせいで俺も雪ノ下も誤字が多くなってきているし。

仕方ない。人との繋がりを切ることにおいては他の追随を許さない俺が、いつもの通りスパッとLINEを終わらせてやろう。超眠いし。

八幡【雪ノ下、時間見てみろ】

華麗な話術で会話をぶった斬る。トイザらスの話を終えてしまうのは惜しいが、どうせこいつとトイザらスのことで盛り上がるとは思えない。

もうここで終わると思うと途端に今まで以上に眠気が襲ってくる。

まぶたが重い……気を抜いたら寝そう……。

雪乃【前にも言ったけれど】

雪乃【あなたと話していると本当に時間が早く過ぎるわね】

八幡【確かに前にも言ってたな】

雪乃【なぜなのかしら】

八幡【知らん】

雪ノ下への返事も若干適当になってきている。それほどまでに眠い。

雪乃【推測だけれど】

なんか……また返事来てる……。眠いけど返すか……。

雪乃【あなたが今まで話してきた男子とは違って自然体で話してくれるからでしょうね】

既読スルー……してもいいよな……いや……一応返しとくか……。

雪乃【私に話しかけてくる男の人は、私のことを好きだったり特別視していたから】

雪乃【普通に接してくれるあなたとの会話は新鮮で楽しく感じるのよ】

雪乃【眠気で変なことを言ってしまったわ】

雪乃【今のは忘れてもらえるかしら】

雪乃【おやすみなさい】

雪ノ下からの連続投稿に対して、俺はスルーをして寝てしまえば良かったと思う。

だが眠気が限界を越えると体どころか頭まで思った通りに動いてくれなくなるらしい。

俺は返さなくてもいいLINEにほぼ無意識のまま返事をしてしまった。

残念なことにどんな文面を送ったかは……覚えていない。

今日はここまでです。

モンハンはまだ上位だしそろそろポケモンも発売される上、これから仕事も忙しくなりそうなので年内の完結は難しいと思います……。

それでもストーリーはちゃんと完結させます。

おやすみなさい!

やっはろー

ほんのちょっぴり投下します

小町「お兄ちゃん起きて」

小町が俺を呼ぶ声がする。俺の意識がまだ夢の中にあるせいかその声はとても遠く感じる。

小町「お兄ちゃん!起きて!」

小町の声が大きくなった。いつもならこの段階で渋々起きるところだが、今日はまだ布団から出たくない。もう少しこの微睡みの天国を……。

小町「起きなさいお兄ちゃん!!」

八幡「がはっ!?」

腹部に突然の衝撃!いてぇ!

八幡「げほっ……こ、小町……?」

どうやら今の衝撃は小町の拳が俺の腹にジャストミートしたのが原因のようだ。鳩尾に入らなくてよかった。

しかし珍しい。小町はどんなにキレても直接暴力に訴えかけたりはしないのに……そこまでして俺を起こさなきゃいけなかったのか?

小町「……お兄ちゃん、小町昨日言ったよね?遅れたらダメだよって」

小町からまた不機嫌オーラが見える。だがそれはもう昨日の比ではなく、小町ポイントがどんどん下がっていくのが手に取るように分かってしまう。

……いや待て。小町のことも大切だが今は……というか今日はそれよりも大切な事があったはずだ。

八幡「……今何時だ?」

小町は顎をくいっとして、ベッド脇に置いてある時計を俺自身で見るよう促した。

時計を見ると時間は遅刻するかしないかの瀬戸際。まだ遅刻と決まったわけではないが……それでもかなり危うい。

八幡「小町、謝罪とか土下座は帰ってきてからお前の気の済むまでするから、とりあえず今は俺の着替えを用意してくれ」

小町が服の用意、その間に俺が歯を磨いたり顔を洗ったりする。そうすれば俺が一人でやるよりは数分か時間を短縮できるだろう。

小町もそれは分かったらしく、俺の服を引っ張り出しながら組み合わせを色々と考えてくれ始めた。

返事すらなく、終始無言でだがな。

……口すら聞きたくないってことか、マジでキレてるな。生徒会選挙の時よりもかなりひどいキレ方な気がする。

だが、言い方は悪くなるが『由比ヶ浜との待ち合わせに寝坊した』程度でキレるか?

もちろんこの件に関しては怒って当然なのは分かる。俺が全面的に悪いのだから、さっき殴られたことだってどうこう言うつもりはない。

それでも小町がここまでキレるには理由が少し小さい気もする。

つまり、今回の由比ヶ浜との買い物には何か他にあるのか……?

いや今はそんなことを考えている場合じゃなかった。とっとと身なりを整えないと。

小町の助けもあり、驚くべき速さで身支度を終えた俺は当然朝飯など食べさせてもらえる訳もなくせっせと靴を履いていた。

小町「ねえお兄ちゃん」

小町がやっと口を開いてくれた。嬉しさのあまり靴を放り投げそうになったが、声からして機嫌が良くなったわけでもなさそうなので自重しておく。

小町「昨日、雪乃さんに何かした?」

八幡「雪ノ下に?別に何も……あっ」

一つだけ心当たりがあった。昨日……まあほとんど今日みたいなもんだが、その時にしたLINEで俺は最後何かを返したはずだ。

さっきケータイを確認したが、画面を付けっぱなしで寝落ちしたため電池は0になっていて内容を確認することは出来なかった。

八幡「昨日LINEで寝ぼけて訳の分からない返信をした可能性がなくもない」

小町「訳の分からない……?まあ酷いこと言ったとかじゃないなら別にどうでもいいけど」

言葉の節々からトゲを感じる……。やっぱりまだまだ機嫌は良くなりそうにない。

八幡「酷いこととかねぇ……寝ぼけて思ったままのことを返したと思うし、もしかしたら……」

小町「…………」

八幡「い、いや冗談だ。どうしても気になるなら雪ノ下に聞いといてくれ」

小町「うん」

小町のぶっきらぼうな返事は、俺のHPゲージをどんどん削っていくぜ……。こりゃ、絶対に由比ヶ浜との約束に遅れるわけにはいかないな。

八幡「行ってきます」

小町「……行ってらっしゃい。間に合わなかったら本当に口利かないからね」

八幡「安心しろ。死んでも間に合わせる」

かっこよく決めながら扉を開ける。顔に吹き付ける風がかなり辛いが今はそんなこと言っていられない。

マフラーを口元まで引き上げ足を一歩踏み出す。

そのまま駅に向かって全力で走る。いつもより体が軽く感じるのは、由比ヶ浜との買い物を楽しみにしている自分がいるからかもしれない。

──たまにはこういうラブコメみたいなことがあってもいいかもしれない。

そんな想いが心のどこかで生まれていた。

俺にラブコメなど似合わないというのに。

俺の青春ラブコメが間違っていないなど……有り得ないというのに。

今日はここまでです。

このあと本当どういう展開にしようかしら……。

それはさておきおやすみなさい。

>>362
良い曲だよね~

やっはろー!不覚にも>>363に笑ってしまった1です

生存報告ついでに短編投下します!

「小町、オンステージ!」

小町(お兄ちゃんが最近モテるようになって小町としては嬉しいんだけど……)

小町(うーん……なんだろう、胸がモヤモヤするなぁ……)

小町(寂しい……のかな。休日に遊びに行くことも増えたし、家にいても誰かとLINEして構ってくれないし……)

小町(もしお兄ちゃんが誰かと結婚して家から出て行ったりしたらもっと……)

小町(結婚かぁ……)

小町(お兄ちゃんは専業主夫希望だし、将来は誰かと結婚するんだよね)

小町(お姉ちゃん候補はいっぱいいるけど……お兄ちゃん捻くれすぎてるし)

小町(も、もし。もしお兄ちゃんが捻くれすぎて誰とも結婚できなかったら……)

小町(その時は小町が……///)

小町「んんっ……こほん」

小町「おかえりなさい八幡。ご飯にする?お風呂にする?それとも……」

八幡「…………」

小町「こ・ま……」

八幡「…………」

小町「ち……違うの!こ、これは……そう!シュミレーションだよ!未来のシュミレー……この言い訳じゃ逆効果だ!?」

八幡「ナニモ、ミテナイ、カラ」

小町「お兄ちゃん!?宇宙人みたいな話し方になってるよ!……ってどこ行くのお兄ちゃん!お兄ちゃーん!!」

翌日、小町の送った【お兄ちゃんに恥ずかしいとこ見られちゃいました///】というLINEのせいで、第1回奉仕部会議(会議するとは言ってない)が行われたことは言うまでもない。

「相模・オブ・フューチャー」

八幡(放課後の教室)

八幡(由比ヶ浜と葉山達男子勢が部活に行き、今教室にいるトップカースト集団は三浦と海老名さんしかいない)

八幡(え?俺がいる理由?授業中にアレなこと考えてたから前屈みで時間を潰さなきゃいけないんだよ言わせんな恥ずかしい)

八幡(俺のことはともかく。てっきりトップカースト二人で話すのかと思いきや、そこに意外な人物が入ってきていた)

相模「ウチもそう思うかなー。三浦さんはどう?」

八幡(体育祭後に何があったのか知らないが、なんと相模がトップカーストに混じって会話していた)

八幡(だが意見を同調させてる上に三浦にも意見を求めるあたり、まだ馴染んでるとは言えなさそうだ……)

三浦「…………」チラッチラッ

八幡(……?)

八幡(三浦が俺をチラチラ見てる?俺についての会話でもしてるのか?)

八幡(それはないか。相模がいる前で俺の話をするわけがないし、そもそも俺について話すことなんて──)

海老名「やっぱり私ははち×はやだと思うの!優美子はどう!?」

相模「三浦さんははや×はちだよね!」

三浦(ヒキオ助けろぉぉおおお!!)ギロッ!!

八幡(なんつー話してんの!?つーか相模と海老名さんいつの間にか腐女子仲間になってんだ!)

相模「まあどっちにしても二人は未来で結ばれるよね!」

海老名「ぐ腐腐……。見えた!はち×はやの終着駅!」

八幡「……ぶ、部活行カナキャー」

三浦「この二人をあーしに任せるなし!ちょ、待っ、ヒキオぉぉおおお!!」

ちなみに翌日、三浦は謎の体調不良で学校を休んだ。

全員、三浦に合掌。

今日はここまでです

みなさんに質問なんですがエロいことを書くときの文章力って、どこで養ったらいいですかね?
前回の陽乃メインのやつとか続き書きたいとたまに思うんですけど、未経験なんで表現出来る気がしないんです……

というわけでおやすみなさい!

やっはろー!1です

みなさんのおかげでG級行けました!次はポケモンにはまる予定です!

なので更新は遅くなる予定ですが、放置するとすごいことになるのでせめて週一で短編くらいは投下できるようにしていきたいです。多分出来ないです。

というわけで短編投下します。

「いないいないばあ」

八幡(とある休日、外で偶然にも由比ヶ浜と出会った俺は少しだけ買い物に付き合わされていた)

結衣「見て見て!前の人が抱っこしてる赤ちゃん超可愛いくない?」

八幡「あ?ああそうだな。つーか赤ちゃんお前のことガン見してるぞ」

結衣「ホントだ……や、やっはろー」

赤ちゃん「キャッキャッ」

結衣「可愛い……!いないいないばあ!」

赤ちゃん「キャッキャッ」

結衣「ばあ!べろべろー!ばあー!」

赤ちゃん「キャッキャッ」

結衣「いいなー、赤ちゃん可愛いなー……」

八幡「由比ヶ浜、友達と遊んでるときに今の顔しない方がいいぞ」

結衣「へ?なんで?」

八幡「いや……あの変顔、本気出し過ぎてその……かなり凄いことになってたから」

結衣「……っ!!!い、今の顔忘れて!全部!!」

八幡「ど、努力する」

結衣「うぅ……ヒッキーにあんな顔見られるなんて……」ショボン

八幡「えーと、まああれだ。別に今みたいな変顔で多少マイナスがあったとしても、いつもはプラスなんだから気にすることないんじゃねえの?」

結衣「それって……遠回しにいつもは可愛いって言ってくれてる?」

八幡「……解釈の方法は任せる」

結衣「……///」

八幡「……///」

赤ちゃん「……ペッ」

働きたくない……。
おやすみなさい……。

やっはろー!1です

生存報告と予告です。
思ったより書けてないけど流石にそろそろ本編を進めたいので今週末にちょびっと本編を投下します。

あと全然話進められてないお詫びに短編投下します。

「残酷な現実」

八幡(なんで俺はせっかくの休日に奉仕部メンバーで服買いに来てるんだ……)

結衣「見て見てゆきのん!このカーディガン可愛くない?」

雪乃「そうね」

八幡(店の外で待ってるが……あいつら入口近くで話してるから、騒がしい声が聞こえて退屈はしないで済むか)

八幡(ってあれ?あの二人の近くにあるのってもしかして……)

結衣「あ!これ見てゆきのん!Twitterで人気のタートルネック!」

雪乃「……なぜ胸元に隙間があるのかしら」

結衣「そういえばそうだね。こんなとこに穴があっても胸が見えちゃうだけなのに……」

八幡(由比ヶ浜、お願いだから気づいてあげて。お前と自分の胸元を交互に見てる雪ノ下に気づいてあげて)

結衣「そうだ、折角だし試着してみようよ!」

雪乃「……え?」

結衣「ほらあそこの試着室開いたし着てみようよ!」

八幡(由比ヶ浜ァ!お前には優しさがないのかよォ!)

雪乃「……いいわ、行きましょう。そして……あなたはその目で、しっかりと見届けなさい。この間違った世界の現実を」

結衣「へ?」

八幡「雪ノ下」

雪乃「なにかしら比企谷君。わざわざここまで来るなんて」

八幡「俺にできることは何もないが……それでも頑張ってくれ」

雪乃「ええ……そのつもりよ」

結衣「な、なんで急にいい雰囲気になってるの?それに服を着てみるだけなのに空気が重いっていうか……」

雪乃「気にしないでいいわ。……行きましょうか、由比ヶ浜さん」

八幡「行ってこい由比ヶ浜。雪ノ下の犠牲を……無駄にしないようにな」

結衣「だから空気が重いって!あ、待ってよゆきのん!なんでそんなに怖い顔して試着室向かうの!?」

八幡「…………」

八幡(俺はきっと忘れない。残酷な現実と戦った、雪ノ下雪乃という勇敢な戦士の姿を)

八幡(そして……)

八幡(俺はきっと忘れられない。あのタートルネックを着た、由比ヶ浜結衣という一種の兵器の姿を)

おやすみなさい

やっはろー!1です。

これから久々に本編投下します。
あ、ちなみに>>331までで

5こうして彼らは知らない内に踏み外す 終

となります。

家から待ち合わせしている駅への持久走を始めてから何分ほど経っただろうか。

遠い視界の先。待ち合わせをしている場所で暖かそうなコートに身を包んだ由比ヶ浜らしき人物が、不安げに腕時計を見ているのを発見できた。

俺も時間を確認しようと思ったが今はその時間すら惜しい。っていうかそんな暇ない。なんせ待ち合わせ時間ギリギリで全力疾走してるんだから!

輪郭のぼやけていた姿がハッキリと見えてくる。人ごみの中を走っている俺がよほど目立っていたからなのか、由比ヶ浜もこちらを見つけ出した。

結衣「やっは……」

俺を見つけたその一瞬だけは笑顔になった由比ヶ浜も、あまりに必死な俺の顔を見て言葉に詰まる。動きは固まって手は中途半端に上げた状態のまま停止していた。

そんな由比ヶ浜の下へラストスパートを駆けようやく……到着!

八幡「ぜえ……はあ……よ、よお由比ヶ浜……待たせたな……けほっけほっ」

結衣「ヒッキー!?」

色々とひどいことになっている俺を見て、由比ヶ浜が悲鳴に似た声をあげる。周囲の人々は何事かと視線をこちらに向けていた。

だが俺にとってそんなことはどうでもういい。腕時計で確認したら今は待ち合わせのちょうど一分前だったことが、俺にとっては一番大事だ。

結衣「ちょ、ヒ、ヒッキー大丈夫?っていうかどうしたの?」

八幡「別に……なんでも……ねえよ……ちょっと全力少年してただけだ」

結衣「意味が分からないんだけど……」

俺もよく分からない。脳に酸素が行っていないのだろうか。

自分の言っていることがイミワカンナイ!

八幡「よし、じゃあ行くか」

結衣「説明なし!?」

八幡「……寝坊、ダッシュ。これで察してくれ」

結衣「あ、うん」

説明を聞くと、由比ヶ浜は俺から視線を逸らした。その顔はなんとなく赤い。

怒ったのだろうか?小町もかなりキレてたし充分に有り得るが……。

結衣「走ってきてくれたんだ……」

ボソッと呟かれたその一言が、俺の体温を上げる。きっと俺の顔は走ったこともあるし、真っ赤になっていることだろう。

今が冬で良かった。夏だったら熱中症で倒れていたかもしれない。

凍てつく風に体を冷やしてもらいながら今日の買い物場所を目指す。

八幡「すう……はあ……。で?目的地はどこだ?ららぽ?サイゼ?家?」

深呼吸をして息を整える。口から入った大量の冷気のおかげで体温もちょうどよくなった。嘘です寒いです。

結衣「ららぽじゃないよ。サイゼはもちろん違うし……その、家はまた今度ね?」

八幡「そういう意味での家って選択肢じゃないんだけど……」

っていうか家ってどっちの家だよ。由比ヶ浜の家に行くとか絶対嫌だぞ。どんな黒歴史作るか分かったもんじゃない。

結衣「今日行くのはイオンモールだよ。新都心の」

八幡「あそこか」

幕張新都心のイオンモールはいい。広くて大体のものは揃ってるしフードコートもある。その上、東映ヒーローワールドまであるのだから文句のつけようもない。

あれだけのものを作れるのだからやっぱり我が千葉の科学は世界一ィィィ!!この調子なら千葉のガンダム略してチバンダムが開発されるのも遠い話じゃない。

あそこ建てた会社、確か千葉じゃねぇけど。

八幡「……寒いし早く行くか」

結衣「うん!」

駅へ向けて歩き出すと、てててっと由比ヶ浜が俺の横に駆け寄ってくる。俺の顔を覗き込みながら笑顔を見せてくる彼女から視線を外し、頬をかく。

全力疾走の疲れはやっと落ち着いたというのに、心臓の鼓動は今もまだ早鐘を打ち続けている。

心拍数が落ち着くにはまだまだ時間がかかりそうだった。

八幡「人多い……」

電車に揺られて数分、イオンモールに到着した俺の第一声は絶望に満ちていた。

年末年始の連休だ。もちろんある程度の混雑は予想していた。そして結論から言えばその予想を越えているわけではない。

だが、予想の範疇だからといって絶望しないわけではない。

八幡「こりゃ東映ヒーローワールドは諦めるしかないか……」

結衣「もとから行く気ないし!」

八幡「ま、冗談はともかくとして。俺はあっちで探すけどお前はどこ見るんだ?」

結衣「一緒に探さないの!?」

愕然とした表情の由比ヶ浜。どうして一緒に回ること前提なのだろうか。一緒に探すとか恥ずかしいじゃん。

八幡「二人で来たんだから二手に分かれた方が効率的だろ」

結衣「ゆきのんとは二人で探してたのに……」

由比ヶ浜が言っているのは6月の事だろう。俺と雪ノ下が由比ヶ浜の誕生日プレゼントを選んでいる時に由比ヶ浜と出会ってしまったあの事件。

そういや陽乃さんとのファーストコンタクトもあの時だったな……。思い出したくないことまで思い出しちまったぜ。

八幡「あの時は元々小町もいたんだよ。だから三人でそれぞれ買い物しよとしたんだが……小町がな」

結衣「ああ……」

八幡「まあそういうわけだから」

出来るだけいい顔でサムズアップし、そこらへんの店に入ろうとする。だが、それは由比ヶ浜が俺の腕に抱きついてきたことにより阻止される。

近い近い柔らかい近い柔らかい柔近い!

結衣「いいじゃん一緒に探そうよー!」

八幡「子供かよ……。あーもー分かった!分かったから一旦離れろ!」

結衣「やったー!」

嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる由比ヶ浜のある一部分が、俺の心をぴょんぴょんさせ……前にもやったなこの流れ。どれだけ単純なんだよ俺の思考。

まあ男の子だし仕方ないよね!

八幡「で、どこ探すんだ?ここ滅多に来ないからよく分からないんだが」

結衣「……え、あたしもなんだけど……」

八幡「なんでここ選んだんだよ……」

俺は小町との買い物は基本ららぽだ。あっちの方が行き慣れてるから、他の所には行こうと思わないんだよな。

結衣「そっか……千葉のことでもヒッキーが知らないことあるんだ……」

八幡「その言い方はイラッとするな」

結衣「だって知らないんでしょ」

由比ヶ浜の言い方はなぜか偉そうだ。俺に知らないことがあったところでお前が賢くなった訳じゃないからな。

だが実際俺はここのことをほとんど知らない。俺の知識を頼りに来たのであろう由比ヶ浜に案内を任せるのも不安だ。

仕方ない、ここはぼっちの嗅覚を活かしてぶらぶら歩くか。

結衣「フードコートじゃん!ここフードコートじゃん!!」

八幡「二回言わなくても伝わってるから」

エリートぼっちである俺が嗅覚を最大限活用して辿り着いた場所は腹の虫を活発にさせる香り漂うフードコートだった。

ホントのところは腹減ってただけだがな。

八幡「腹が減っては戦も出来ないって言うし、とりあえず腹ごしらえしとこうぜ、な?」

結衣「お腹減ってるだけでしょ!先にゆきのんの──」

グゥ────……。

謎の音が発生したことで由比ヶ浜のセリフが途切れた。なんだ今の音。

今の音はそう……まるでお腹がすいた時になる音だ。

八幡「今のなんだろうな。結構大きい音だったけど」

結衣「……うぅ」

八幡「ところでさっきからお腹抑えてどうしたんだ?顔も真っ赤だが体調悪いのか?」

結衣「うぅ!」

恥ずかしがる由比ヶ浜が可愛……面白くていじってしまったがそろそろ可哀想なのでやめてやろう。周りの視線が痛い気がするし。

客観的に見れば腐った目をした男が女の子辱めてるようにしか見えないよな。なにそれ薄い本待ったなしじゃねえか。

一旦終わります。
十時くらいに再開します。

再開っ!

八幡「んで、食べるのか?後回しにしたいっていうなら任せるが」

結衣「た、食べる……」

八幡「じゃ、席取りに行くか」

結衣「……ヒッキーのドS」

失礼な。人を傷つけないために誰とも関わりを持とうとしない俺のどこがSなんだ。

むしろ優しすぎてMまである……いやない。間違えた、俺はMじゃない。

八幡「それで何食べんの?スイーツ(笑)でも食べるか?」

結衣「なんか言い方がむかつくんだけど。でも甘いものよりハンバーガーとか食べたい気分」

八幡「へー、意外とがっつり行くんだな」

確かにスイーツ(笑)は馬鹿にしたのもあったが、こいつのことだし本当に甘いもの系に行くと思ってたんだがな。パンとパフェみたいな組み合わせで。

結衣「んー、前から思ってたけどヒッキーってさ、まだ女子に理想みたいの持ってるよね。なんていうんだっけ……色目使ってる?」

八幡「色眼鏡な。俺が女子に色目なんか使ったらお巡りさんの仕事が増えちゃうだろ」

自分で言ってて悲しくなる。だがむしろ女子に色目を使って許される男子なんているのだろうか。

あ、葉山がいたな。あいつならむしろ喜ばれそう。

結衣「色目を使うって皆言ってるけど、具体的にはどうやるんだろうね?」

八幡「上目遣いとかじゃないのか?」

結衣「それヒッキーの趣味でしょ」

八幡「ちちちげーし!」

いかん!思いっきり正解を言われたせいで否定の仕方が中学生みたいになってる!

現役中学生の時ですらここまで慌てた事はないのに……。まあなにせいじってくる奴いなかったからな。

結衣「あ、そうだヒッキー!あたしに色目使ってみてよ!」

八幡「……はあ?」

思わず腹式呼吸を使って腹から声を出してしまった。なんだよ俺の腹、やれば出来るじゃねえか。

八幡「なんで俺が色目使わなきゃならないんだよ。しかも上目遣い」

結衣「えー、じゃあやってくれたら……」

八幡「たら?」

結衣「ゆきのんとのLINEに夢中になりすぎて遅刻しかけたこと、なかったことにしてあげる」

……由比ヶ浜さん、目が笑ってないんですけど。

確かに口角は上がっている。しかしいつもより少しだけ大きく開かれた目には光が無く、その瞳は反論を許さない威圧感を出していた。

っていうか誰だ、俺がLINEのせいで遅刻しかけたこと言ったの。いやまあ小町なんだろうけど。

そういや小町はどうして雪ノ下の様子がおかしいなんて知ってたんだ?俺が寝てる間にLINEやってたのか?

だとしたら由比ヶ浜とも同時進行でLINEしてて、その時に伝えた可能性が高いな。小町ったら本当に俺の情報なんでも流しちゃうんだから☆

帰ったらお仕置きだな。

八幡「はあ……分かったよ、やればいいんだろやれば。その代わり文句とか言うなよ」

結衣「もちろん」

遅刻してないのだから罪悪感を感じる必要は無い。分かってはいるがしかしそう簡単に割り切れるほど俺の心は素直ではなかった。

快活に答えた由比ヶ浜の返答を信じ、俺は出来る限りの色目を使ってみた。色目ってこんなに疲弊しながら使うもんじゃないだろ。

八幡「……こんなもんか」

膝や腰を曲げて顔の位置を下げてから由比ヶ浜の顔を見上げる。こいつの顔を下から見ることなんてそうそう無いからちょっと新鮮な視界だ。

結衣「なんていうか……因縁つけてるヤンキーみたい」

八幡「感想が辛辣すぎんだろ」

まさかこんなところで黒歴史を増やすことになるとは思いもしなかった。

今まで色目を使うやつはただのビッチばかりだと思っていたが……あいつらはこの技術を手に入れるためにきっと数え切れない失敗と努力を積み重ねてきたのだろう。ビッチすげえ。

結衣「色目がどんなのかはよく分からないけど、ヒッキーの言う上目遣いって……」

由比ヶ浜が俺との距離を少し縮めてきた。思わず半歩下がる俺の胸に由比ヶ浜がそっと手をあてる。

結衣「こういう感じ?」

俺と由比ヶ浜の体の距離はほぼ0だ。そのタイミングで顔を下から覗き込まれ、俺の中で雄としての本能がざわつき始める。

そんなことを僅かにも気づいていないであろう由比ヶ浜は顔を赤くする俺に優しい微笑みを向けていた。

八幡「……そ、う、だな。こんな感じ……だと思う」

自分の耳に届く声はひどく小さく、聞くだけで恥ずかしい。

俺は自分が何をすればいいのかも分からず、由比ヶ浜の瞳を見つめ続けることしかできなかった。

あれ俺今呼吸してるっけ?今息吸った?吐いた?あ、間違えて二酸化炭素吸っちまった!

いやいや落ち着け俺。クールに行こう。具体的には東京あたり。ってそれグールやないかーい。

結衣「ヒッキー?」

八幡「……なんだ?」

今度は半歩ではなくしっかり一歩下がる。由比ヶ浜は若干距離を詰めてくるが、さっきより少しは二人の間が広くなった。

ドキドキで壊れそう1000%ラブだったゼロ距離という空間から解放されたおかげで思考はやっとクールダウンを始めた。

八幡「そ、そろそろ離れた方がいいんじゃないのか。周り見てみろよ」

結衣「周り?」

ぐるっと辺りを見渡した由比ヶ浜は、周りの視線がだいぶ痛いものになっていることに気づいた。

顔を真っ赤にした由比ヶ浜俺からようやく離れてくれる。

別に残念とか思ってないから。柔らかいとか考えてないから。

今日はここまで。

もうちょっとキリのいいとこまで書いたらまた更新します!

おやすみなさい。

あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

そしてゆきのんhappybirthday!!

ということで年明けも誕生日も全く関係ない短編投下します。

「広告」

結衣「ヒッキーがケータイ弄ってるって珍しいね。LINE?」

八幡「本忘れたから暇つぶしに使ってるだけだ。LINEはしてねえよ」

雪乃「あなたから文系を取ったらほぼ何も残らないのだから本の確認くらいしておきなさい」

八幡「俺の中で文系ってどれだけ重要なんだよ。他にもたくさんあるだろ」

雪乃「例えば?」

八幡「例えば…………ほら…………あの…………」

結衣「こ、この話終わり!ヒ、ヒッキーはケータイでなにしてんの?」

八幡「この前LINEで説明したSSってあるだろ。それ見てる」

結衣「SS……確か、小学生は──」

八幡「そっちじゃねえよ」

結衣「ま、いいや。あたしも読んでみたい!」

八幡「ほれ……あ、お前小説読めたっけ?」

結衣「読めるし!小説くらい普通に……っ!?」

雪乃「由比ヶ浜さん?顔が赤いけれど大丈夫かしら?」

結衣「ゆゆ、ゆ、ゆきのん!ヒッキーがエッチなサイト見てる!」

八幡「はあ?」

結衣「だってほら!なんか服着てない女の子の広告とか出てるし!」

八幡「いやそれは──」

雪乃「比企谷君」ギロ

八幡「い、いや、だからな」

結衣「…………」ジー

八幡「こ、広告がそうなだけで中身は……」

雪乃結衣「………………」ジー

八幡「……そうだよ!それはアダルトサイトだよ!」

八幡(広告がアレなだけで普通のサイトなのに……でもこう言うまで許さないって目をしてたんだもん)

八幡(ま、まあこれで俺は無事に……)

雪乃「……ゴミ谷君」ゴゴゴ

結衣「ヒッキーの変態……」ゴゴゴ

八幡(無事に……帰れたらいいなぁ……)

この後、俺は下校チャイムがなるまで顔を赤くした二人に罵倒され続けた。

……もう二度と学校でSS速報VIPは開かない。

結衣「……席取ろっか」

さすがはコミュニケーション力の高い由比ヶ浜といったところか。自然に会話の種を見つけて話題を逸らしてくれる。

当然俺は拒否する気などなく、二人で席を確保しに行く。

俺はこういう場所では端っこの席が落ち着くのだが、由比ヶ浜は真ん中の方が楽しくていいらしい。ただの席取りに時間を喰うのも嫌だったので今回は由比ヶ浜の意見を尊重した。

実際は今朝の遅刻未遂とさっきの色々があったせいで強く出られないからだったが、ここは譲ったと言った方が格好良いはずだ。

情けないとか言うな。

八幡「…………」

結衣「…………」

さて、どうするか。

まあフードコートで席についたら先に女子に食べ物を選びに行かせてやるのが紳士だろう。レディーファーストは大事なことだ。

八幡「お前先に──」
結衣「ヒッキー、一緒に──」

重なる言葉。重ならない意見。

数秒の沈黙の末に折れたのは結局俺だった。

八幡「はあ……。貴重品は持っとけよ」

結衣「ふふ……なんだか先生みたい」

八幡「お前みたいな問題児相手じゃだれでもこうなるんだよ」

結衣「ひどっ!」

そうそう、この感じ。今日は朝から調子が狂っていたが、ギアが噛み合ってきた。

俺の脳細胞がニュートラルだぜ!……ただの凡人だな。

結衣「ヒッキーは何食べるの?」

由比ヶ浜はしきりに周りを見回している。無理もない、このフードコートはかなり大きく店の種類も豊富だ。

ラーメン、カレー、ハンバーガー、刺身etc……といった具合に悩むには充分すぎる品揃えとなっている。

八幡「俺はラーメンだな。お前は?ハンバーガーならそこにあるぞ」

くいっと顎で店の方を示す。だが由比ヶ浜は腕を組んで未だ悩み中だ。

結衣「どうせここまで来たんだし、もっと見てから決めようよ」

八幡「まあ見るだけなら」

席の位置を忘れないようにしっかりと覚えてから、由比ヶ浜の隣に立つ。ここかなり広いから、多分由比ヶ浜の記憶力じゃ席に戻ってこれないだろうし……。

なんか俺、先生っつうか保護者みたいになってんだけど。アホの子を持つと親は苦労するんだな。ぼっちの子を持った親はもっと苦労するんだろうが。

子供を持つことになったら、由比ヶ浜みたいなそこそこ明るい子に育てよう。

頭の良さ的には俺くらいがいい。さすがに雪ノ下レベルを求めるのは高望みしすぎってもんだ。

すいません昼寝してました

再開

席を離れて一軒一軒店を見て回る。珍しいメニューを見つける度に由比ヶ浜は子供のようにはしゃいでいた。

俺はそれに対し完璧な相槌をうつ。

結衣「ヒッキー!凄いよお刺身だよ!」

八幡「おう、そうだな」

結衣「あ、ハンバーガーすごい豪華!うーんやっぱりハンバーガーにしようかな……」

八幡「おう、そうだな」

結衣「でもお肉か……最近ちょっと食べ過ぎたかも……」

八幡「おう、そうだ──」

結衣「ヒッキー適当すぎ!!!」

約束通り食べ物を見て回り返事までしているというのに、由比ヶ浜はひどく不機嫌だった。なぜだ、ここまで完璧な返答をしているというのに。

結衣「さっきから『おう、そうだな』しか言ってないじゃん!返事が適当にも程があるよ!」

八幡「いやいや、『おう、そうだな』もちゃんと抑揚変えたりしてバリエーション豊かにしてただろ。俺が関係ないこと考えてるのバレないように」

結衣「違うこと考えてるんじゃん!」

あっ、口が滑った。

ぼっちはリア充よりも一人での思考に費やせる時間が多い。そのせいで何かを考え始めると人との会話よりも考えることに夢中になってしまい、結果さらにぼっちを加速させる。

こんなところでもぼっちの癖が出てしまうのだから自分のぼっちの才能が怖い。……ホント怖い、色んな意味で。

八幡「安心しろ。別にお前の話がつまらないわけでもないし、語彙が貧困すぎて伝えたいことが伝わってこないわけでもない。ましてや早くラーメンが食べたい訳でもないから」

結衣「絶対退屈してたよね!?」

八幡「退屈していたわけじゃない、ただラーメンが食べたいだけだ」

理想的なジト目で俺を見てくる由比ヶ浜から思わず視線を逸らしてしまう。

八幡「……ぼっちの習性なんだよ。人と話してる時に違うこと考えて会話に集中できなくなるのは。今も真面目に将来のこととか考えてたし」

結衣「ふーん……例えば?」

俺の言葉を訝しむ由比ヶ浜が具体例を聞いてくる。一応本当に将来のことは考えていたんだけどな。

同じくらい戸塚のことも考えてたが。

八幡「例えば……そうだな、子供は俺とお前の良いところを持った感じに育てていきたいとか」

結衣「………………ふぇ?」

目を点にして、さらに口をだらしなく空けたまま首を傾げられた。つうか『ふぇ?』とかあざとすぎんだろ、一色の真似かよ。

八幡「なに、どうした?お前に一色の真似は似合わないぞ」

結衣「う、うんそうだね……」

なにか一つくらい反論かツッコミかをしてくると思ったが……なにもしてこない。

え?本当に一色の真似だったの?

結衣「そ、その……ヒッキーはさ、専業主夫って夢が叶ったらこ、こづ……子作り、したいとか思うの……?」

八幡「……………………ふぇ?」

驚きのあまり変な声出た。一色の真似をしたみたいで恥ずかしい。そしてこいつは何言ってんだ。

八幡「どうした由比ヶ浜、熱でもあんのか?お前今とんでもないこと言ってんぞ」

結衣「言いだしたのはヒッキーじゃん……」

八幡「は?俺が?」

そんな記憶はない。だが由比ヶ浜には心当たりがありまくるらしく、視線を逸らし唇を少し尖らせながら呟いた。

結衣「あ、あたしとの子供が……みたいな」

一瞬脳内が真っ白になる。が、やはり俺にそんな記憶はない。この黒歴史マスターたる俺が女子と子供を産んだ時の話なんぞする訳もないだろうに。

……子供を産んだ時?あれ、なんか直接ではないにしろそんな感じのことは確かに言った。子供は俺と由比ヶ浜の良いところを持った子にしたいとかそんなのを……!?

八幡「ばっ!……おま、ちげえよ!そ、そういうい、意味で言ったんじゃなくて……ただ普通に子供にはそんな風に育ってほしいってだけで……」

結衣「……じゃあお嫁さんは誰でもいいの?」

八幡「そういうわけじゃないが……ああもう!この話はやめだ、やめ!」

話の流れを無理矢理変えるために他の店へと歩き出す。後ろからは由比ヶ浜の足音と……微かな溜め息が聞こえてきたような気がした。

八幡「ハンバーガーはやめたんだな」

気まずい空気を嫌というほど味わい、俺たちはようやく昼飯にありつけた。

俺は当初の予定と変わらずラーメンだったが、由比ヶ浜はハンバーガーからカレーへと予定変更したようだ。

結衣「すっごくいい匂いだったんだもん」

八幡「まあな」

その気持ちはよく分かる。俺も心が揺らいだし。

由比ヶ浜は熱いカレーにふーふーと息を吹きかけながら美味しそうに食べている。

結衣「えっと……欲しいの?」

八幡「え、あ、いや……」

カレーへの視線に気づいたらしい由比ヶ浜が気を使って聞いてきた。もちろん丁重にお断りはするが本当は食べたい。

誰だよラーメン食おうとか言ったやつ。まあラーメンはラーメンで美味しいけども。

八幡「別に大丈──」

断りの言葉を言おうとする俺の前にカレーの乗ったスプーンが差し出された。それを持っている由比ヶ浜とスプーンを思わず交互に見てしまう。

え、なにこれ?こいつは俺に何をさせようとしてるの?

結衣「はい、あーん」

八幡「……いやいやいや」

驚きのあまり変なリアクションをとってしまった。この言葉だけで今の感情が伝えられるとも思わなかったのでついでにアイコンタクトもしておこう。

「こいつなにしてんの?」みたいな目をされたが、数秒もすると自分が何をしでかしたか理解できたらしい。彼女は顔を赤くしてあたふたとした結果、だらしなく開けていた俺の口にスプーンを突っ込んできた。

……いやいやいや!!

八幡「あっふ!あっふ!」

結衣「わわわっ!ごめん!」

由比ヶ浜は大慌てでコップを俺に提供してくれる。水を一息で飲み干してから、荒い息のまま未だ顔の赤い彼女を睨みつけた。

八幡「お、お前……俺に何か恨みでもあんのか……」

結衣「な、ないない!ちょっと気がどう……ど、どーてい?してただけ!」

八幡「とんでもない言い間違えすんな。正しくは動転な」

大きくため息をついてから、とりあえずラーメンをすする。口の中に広がる麺とスープの旨味が少しだけ落ち着きを取り戻させてくれた。

由比ヶ浜は再びカレーを食べている。彼女も少しは落ち着いたようだ。

あれ、そのスプーン……いや、言わないでおこう。それ俺の口の中に突っ込んだスプーンじゃね?とか言ったところで誰も救われないんだし。

結衣「ふー、辛いー」

顔をパタパタしながら由比ヶ浜は自分のコップに口を付ける。しかしどれだけコップを傾けたところで口へ水が流れることはない。

当然だ。なぜならそのコップの中身は、先ほど由比ヶ浜が俺に飲ませたのだから。

それに気づいたからだろうか、由比ヶ浜の肩がびくっと動いた。コップのふち、さっき使ったスプーン、そして俺の顔をゆっくり見る。そして顔を真っ赤にして俯いてしまった。

八幡「自爆しすぎだろ……」

自分だけでなく周りの人も巻き込むから自爆は本当にやっかいだ。

頼むから大爆発は覚えないでくれよ。

夜再開します

夜だね!

ゆっくり再開

ラーメンを食べ終えラブコメっぽい空気を飲み下し、さあいざプレゼントを買いにゆかんとしたところで俺は早くも躓いていた。

何を買えばいいか全く分からない。

女子に誕生日のプレゼントを贈るなんて経験、小町以外にしたことがない。あ、由比ヶ浜にも送ったか。

……まあ中学時代にも贈ったことはあるが、あれはカウントしたくない。物を受け取った女子の第一声が『え……なんで誕生日知ってるの……?』だもん。

違うよストーカーじゃないよ。クラスで話してるのを盗み聞きしただけだよ。

こんな感じで女子への贈り物の経験が俺にはない。あるのはストーカーの才能くらいだ。

こんなことなら雪ノ下のことをもっとストーキングしとけばよかった。いやいやそうじゃない。

八幡「お前は何買うか決めてあるのか?」

由比ヶ浜からなんとか候補だけでも聞き出そうとする。だが……。

結衣「う、うん……まあ一応……多分?」

彼女は俺から視線を逸らして返答を誤魔化すだけだった。いや誤魔化せてねえよ。絶対決めてないだろ。

八幡「色々見て回るしかないか……」

結衣「そ、そだね」

どうもさっきの昼食から由比ヶ浜の様子がおかしい。顔は赤いし挙動不審。おかしいというか変だ。

理由は……分かっているつもりではある。だがそれを明確にする気はない。それに明確にしたところでラブコメ経験値0の俺には解決策など微塵も分からない。

ならやることは一つ。

さっきの出来事を、言葉の中に混ぜ空気に溶かし過去の中へと散らしていく。そうやって無かったことにする。これが得策だろう。

幸いにも『雪ノ下のプレゼント探し』という名目があるのだから、そちらに意識を向けてしまえばなんの問題もない。

……二人そろってプレゼント候補すら決まっていないからピンチなのではあるが。

とりあえずは行動を起こそうということで適当に近くの店に入る。

ぼっちというのは意外と行動力に溢れていたりする。リア充どもがあっち行こうこっち行こうとダラダラ話している間も、俺たちぼっちはパパッと移動を開始しているのだ。

だから店主が強面そうなラーメン屋にもお洒落なカフェにも俺は踏み込む事ができる。踏み込めないのは人間関係くらいだ。いや他にもいっぱいあるけど。

結衣「あ、ヒッキー!このヘアピン可愛い!」

八幡「お、おう……」

なんで女子ってこのくらいのことでテンション上げられるの?お兄ちゃんちょっと怖いよ。

まあ色んな雑貨を手に取っては「わー」だの「きゃー」だの「あれ?優美子?」だの言っているということはさっきのゴタゴタは無事になかったことになったのだろう。単純で良かった。

……待て、優美子?

確かその名は炎の女王ミウラの真名……材木座みたいだな、やめよう。

とにかく三浦いんの?最悪じゃん。まああいつなら以前の花火大会での相模みたいな反応はしないと思うが……。

そう思いながら由比ヶ浜の見ている方向へ視線を移す。そこには金髪ドリルの女王と……爽やかオーラをまき散らしてる葉山の姿があった。

八幡「……お前も居たのか」

葉山「やあ、奇遇だね」

奇遇だホント奇遇。奇遇すぎて神様呪うレベル。

俺が心の中で神様へ罵詈雑言を浴びせているとも知らず、楽しそうに由比ヶ浜と会話を始める葉山と三浦。

超居づらいんですけど……。

こうやってトップカースト同士が話していると、俺と由比ヶ浜が一緒に買い物をしているということが滑稽にすら思えてくる。

住む世界が違うというなら、やはり住み分けは完璧にしていなければならない。平和に過ごすためにはそれが最良のはずだ。

三浦「こんなとこで何してたん?……あ、デート?」

三浦はニヤニヤとした笑顔を浮かべて由比ヶ浜に近づいていく。それは、例えるなら獲物を見つけたヘビのようだった。

こんな獰猛な笑みを見ればかつての相模が見せた冷笑など可愛く思える。さがみん超かわいー。

結衣「デートとかそんなんじゃ!……そ、そんなんじゃなくて、二人でゆきのんの誕生日プレゼントを……ね?」

八幡「あ、え、おう」

急に俺を会話に混ぜるなよ。驚いてかなりどもっちゃったじゃねえか。

由比ヶ浜の口から雪ノ下の名前が出たからか、はたまた俺が会話に参加したからかは分からないが三浦と葉山の動きが少し止まる。

八幡「じゃあ、俺はあっち見てるから」

会話にできた僅かな隙を狙って俺は口を開く。俺の言葉は狙い通りすんなりと通り、その場を離れることに成功した。

完璧だ。パーフェクトだ。

出来るだけ自然に、かつ迅速に。俺と由比ヶ浜との距離を開けていく。まさかあそこで葉山と三浦の二人から由比ヶ浜を離すわけにもいかない。

あいつが一緒にいるべきなのは、俺じゃないはずだ。

3人の話し声が少しずつ遠くなっていく。あと数歩離れればもう声が聞こえなくなるというところで、最後に俺の元へ届いた声は。

結衣「あたしもそろそろ行くねー。また今度あそぼー」

八幡「……は?」

思わず振り返ってしまった。そうすれば当然こちらに向かう由比ヶ浜と目が合ってしまう。すると何故か由比ヶ浜は嬉しそうに小走りで駆け寄ってきた。

結衣「よし、じゃあ行こー!」

八幡「おう……ま、待て待て。お前こっちに来て良かったのか?」

完璧なタイミングを狙って自然に抜け出た俺に対し、由比ヶ浜は会話をぶった切ってこちらへ来たような気がする。

あの三浦に対してそんなことをして大丈夫か、と不安に思う俺を由比ヶ浜は不思議そうに見つめていた。

結衣「大丈夫って、何が?」

八幡「せっかくトップカースト連中と会ったってのに、俺の方に来て大丈夫なのかってことだ。三浦とかお前と一緒に買い物したそうだったと思うんだが」

結衣「優美子は隼人君と二人きりの方が嬉しいと思うけど」

そう言われれば確かにそうだ。三浦は葉山の事が好きなんだから、二人きりを邪魔されたくはないか。

さすがは由比ヶ浜。場の空気を読み切ってるぜ。

結衣「それにあたしはヒッキーとの方がいいし」

八幡「……そうですか」

それわざわざ言う必要あったんですかね……。これから数分はお前の方に顔向けられなくなっちゃったんですけど。

気を取り直しプレゼント選び再開。

八幡「きっと漠然と物を選ぼうとするから何も決まらないんだ。あいつが欲しいと思いそうなものをまず選ぼう」

結衣「ヒ、ヒッキーがプレゼント選び慣れてるみたいに見える……」

八幡「……慣れてねえよ」

そう、俺が中学時代に一人でウキウキしながら渡したあれもそれもプレゼントじゃない。あんなのは誰も喜ばない自己満足でしかないのだ。だから俺はプレゼントを選ぶことは、慣れてない。

そんな事情があったせいで由比ヶ浜へプレゼントを渡す時、実は心臓バックバクだった。本人には絶対言わないけどな。

結衣「んー、ゆきのんが欲しいと思いそうなもの……本とか?」

八幡「んなの自分で買うだろ」

結衣「そうだね……でもそうしたら、他のも全部そうなっちゃうんじゃない?ゆきのんって本当に欲しいと思ったものは絶対手に入れるって性格だし」

八幡「まあ、そうだな」

いともたやすく前途多難。全然候補が見つからない。

結衣「あ、あたしの時はさ……どうやって選んだの?」

俺から若干視線を外しながら由比ヶ浜が聞いてくる。半年近く前のことなので記憶が曖昧になっている箇所も多々あるが、なんとか思い出すことができた。

八幡「俺は最初から大体こんなの買おうって決めてたな。雪ノ下は……弱点をつこうとしてた」

結衣「弱点つかれてたんだ……」

半年越しに知った事実に由比ヶ浜は軽くショックを受けていた。

いや別にそんな悪い意味での弱点って意味じゃないと思うがな……。

八幡「今回もそれで探してみるか。ヒントくらいは見つかるかもしれない」

結衣「ゆきのんの弱点……あ!ゆきのんってね、背中をつーってされるの弱いんだよ!」

八幡「それ俺に言ってどうすんだよ」

やれっていうの?無理無理死ぬ死ぬ。あらゆる意味で殺される。

結衣「う、うーん、あとは……眠気に少し弱い……かも?」

八幡「眠気、ねえ……」

だとしたらコーヒーだろうか。いや紅茶の方がカフェイン豊富と聞くし……。

ここはやっぱり、無難にMAXコーヒーか?

結衣「そうだ!」

八幡「おわっ、なんだよ急に大声出すなよ……」

結衣「ふふん、発想の逆転だよヒッキー。眠気に弱いなら……寝る!」

八幡「…………」

結衣「その目やめろし!」

俺の視線を体いっぱいに浴びた由比ヶ浜は、わたわたと慌てた様子で説明を付け足してきた。

結衣「睡眠は質と量って言うでしょ?だから眠気に弱いなら眠気が来ないように……例えば今よりもっとぐっすり寝れるように出来れば良いなーって」

八幡「お前にしちゃ良い考えだな」

由比ヶ浜はどうやら今の閃きをとても気に入ったらしく、いつもなら怒るような俺のセリフもドヤ顔で流していた。

八幡「……じゃあ睡眠グッズ系統でも買うのか?」

結衣「うん、プレゼントは枕にする」

ようやく物が決まった由比ヶ浜は、まるで憑き物が落ちたように笑ってさっそく地図を見に行っていた。

ここに枕が売ってるかは知らんが、まあプレゼントさえ決まったのなら後はどうとでもなるだろう。

結衣「ヒッキー、上の階行くよー」

エスカレーターの前で俺に手を振っている彼女の元へ、少し足早に歩いていく。

……で。俺は何を買えばいいの?

八幡「良かったな、すぐにいいのが見つかって」

結衣「うん!」

丁寧に梱包され、袋へ入れられた枕を由比ヶ浜は大事そうに抱きかかえている。

雪ノ下が『私いつも使ってる枕じゃないと寝れないのー』とか言い出すタイプの輩だったらどうしようという不安はあった。

だが修学旅行でそんな話が出なかったあたり、そこらへんは大丈夫なんだろう。多分。

結衣「ヒッキーは買うもの決まった?選ぶの手伝ってもらったし、あたしもプレゼント選び手伝うよ?」

八幡「一応買う物は決めた。ただ自分のセンスに自信がないから、そこらへんは……頼む」

結衣「まっかせて!」

由比ヶ浜の言葉を信じ、俺は本屋へと足を向ける。目当てはブックカバーだ。

枕に比べると安さが目立つが、まあ何種類か買う予定だから大丈夫だろ。

由比ヶ浜のアドバイスのおかげでブックカバー選びは意外と早く終わらせることができた。

しかしまさか、パンさんのブックカバーに出会えるとは……驚きのあまり二人して大声を出してしまったぜ。店員さんごめんなさい。

結衣「よーし、ヒッキーも買えたね。これで目的達成!」

八幡「んじゃ、帰るか」

結衣「えー、遊ぼうよー」

俺の言葉を予想していたかのように、由比ヶ浜は被せ気味に不満を口に出した。

だが甘い。俺もその不満を言われることをすでに読んでいた。由比ヶ浜が言葉を言い始めるころにはもうすっげえ嫌そうな顔をしてある。

結衣「よ、夜まで!外がもっと暗くなるまで遊ぼ!」

その顔を真正面から見たというのに由比ヶ浜はなかなか引き下がろうとはしない。自分で言うのもなんだが結構気持ち悪い顔だと思うんだがな。

てか、夜になんかあるのかよ。

まあいい。もう心のシャッターは下ろしてある。例え由比ヶ浜が雪ノ下のような理論武装をしてきたとしても、俺はそれを否定して家に帰る。家が俺を呼んでるんだ。

それにほら、女子とあんまり長い時間一緒にいるってアレじゃないですか。だから帰る。

こんな俺に対し、由比ヶ浜の起こしたアクションはひどくシンプルだった。

結衣「ヒッキー……」

艶めかしい声で俺を呼び。

俺の服の裾を掴み。

潤んだ瞳で上目遣いに見つめながら。

ただ小さくぼそっと呟いた。

結衣「…………だめ?」

八幡「す、少しだけ……なら」

どうやら俺の心のシャッターは、発泡スチロール並みに脆いようだ。

もう少しは頑張れよ、俺。

イオンモール幕張新都心には4つのモールがある。それぞれが家族向けだったり、犬や猫などのペットを飼っている人向けだったりしている。

もちろんそれ以外の人が楽しめないわけではなく、4つのモール全てが誰でも楽しめるようになっていて……まあつまり俺なんかでも時間を忘れて遊んでしまうわけだ。

結衣「いやー、遊んだね!」

イオンモール前のバス停。駅へ向かうバスを待ちながら、真っ暗な空を背景に由比ヶ浜は俺へ笑顔を向けてきた。その顔は一日中遊んで興奮したからなのか、心なしか赤く見える。

八幡「そうだな、さすが千葉だ」

結衣「誉めるとこそこなんだ……」

当たり前だ。千葉の素晴らしさはもっと口に出していかないと伝わらない。

いつか俺の努力が功を成して千葉が日本の首都になることを今も夢見てる。

結衣「……えーと、あー、その」

八幡「なんだよ。まだ買ってないものでもあるのか?」

イオンの出口あたりから由比ヶ浜の動きに落ち着きがなくなっている。そわそわと周りを見たり、何かを言いかけてやめたりとまさしく挙動不審だ。

結衣「あのさっ!……あ、えと……アレ……見たいな、って」

由比ヶ浜が小さく指差した先にあったのは光の集まり。いわゆるイルミネーションだ。

八幡「イルミネーションか……」

そう答えた俺はさぞや渋い顔をしていたことだろう。

だってほら、イルミネーション見てわーきゃー騒いでるやつら見ると電球ぶつけたくなるじゃん?それがカップルだとなおさら憎悪は濃くなる。

結衣「い、嫌ならいいんだけど」

八幡「別に嫌ってわけじゃないが……珍しいな、お前が最初からこんなに弱腰で俺を誘うなんて」

結衣「め、珍しい?」

八幡「いつもならまず、行こう行こう騒いで俺のこと誘うだろ?それで俺が嫌だって断っても粘りに粘って、その最後の最後に今のセリフが出てくると思ったんだが」

結衣「あたしそんなに押し強くないよ!?」

八幡「いやかなり強いぞ。押しの強さだけなら横綱にも引けを取らない」

本当に強い。強すぎてあの雪ノ下が調教されるくらいだ。引けを取らないよりもむしろどん引くレベル。

結衣「と、とにかくっ!嫌じゃないんだよね?」

八幡「あ、ああ」

結衣「じゃあ行こっ!」

八幡「え、ちょっ」

さっきまで弱腰だったと思いきや急に俺の手を引っ張って歩き出す由比ヶ浜。やっぱり押し強すぎるんですけど。

先ほどのイルミネーションは光の迷路、と言うらしい。

六角形の迷路になっており、外側の入り口から入って真ん中にあるツリーがゴールだ。逆に帰りはツリーがスタート地点で外側の入り口がゴールに変わる。

八幡「迷路って言う割にはすぐ抜けられたな……」

結衣「そうだね……」

迷路自体は簡単なものだ。だからこの迷路の実際の魅力はやはりイルミネーションにあるのだろう。

壁にくくりつけられたいくつもの豆電球が作りだす『光の迷路』も当然綺麗だが、俺が一番心を奪われたのは……。

結衣「すごい!このツリーすごいよヒッキー!」

出口に設置された5メートルを超える巨大なツリー。それに心を奪われたのは俺だけではなく由比ヶ浜もだった。

ツリー近くに置かれたボタンを押すと、数種類用意された光り方がランダムで選ばれツリーを眩く彩る。それが楽しくて二人して何度もボタンを押していた。

運良く周りに人がいないのでこの景色を独り占めできている。あ、由比ヶ浜もいるから二人占めか。

八幡「人気ありそうな場所なのに俺たちしかいないな」

結衣「ほ、ほんとだ……あ、あ、あた、あたし達だけだねっ!」

八幡「大丈夫かお前、寒すぎて滑舌かなり酷くなってるぞ」

結衣「だ、だいじょびゅ」

八幡「全然大丈夫にみえないんだが……」

さっきも様子がおかしかったが、ここに来てさらにおかしくなったよう
に思う。今かなり寒いし、無理してるのだろうか。

幡「そろそろ帰るか?寒いだろ」

結衣「えっと……」

八幡「なんだ写真でも撮りたいのか?」

結衣「そ、そうじゃなくてさ……あの……」

由比ヶ浜は手を目一杯握り締めて言葉を紡ごうとしている。言い出すまで待とうと思い俺は口を閉じた。

だが、なんだろうこの既視感は。かつてこんな風にしている人間を見たことがある。

いや、挙動に見覚えがあるんじゃない。この動きか醸し出す独特な雰囲気、それを感じたことがあるんだ。

そう、それは二人きりの教室で勇気を出して死地へ飛び込んで行った、昔の俺のようで──

結衣「ヒッキーと会ってから……もう結構経つよね」

八幡「おう、そうだな」

気付いてしまう。闇が広がる夜に、光に包まれたこんな場所へ顔を赤くしながら連れてきた理由を。

由比ヶ浜の言葉を止めなければ……そんな選択肢が出てくるが、俺はそれを選べない。止めるということは、由比ヶ浜が俺へどんな想いを抱いているのか、気づいたことになってしまう。

結衣「ヒッキーのおかげで、あたし変われたんだ。あ、もちろんゆきのんのおかげでもあるけど」

八幡「おう、そうだな」

結衣「だから……伝えたいって思った、あたしの気持ち。じゃないと、ずっと逃げちゃいそうだったんだ」

由比ヶ浜の気持ちを聞いた上で否定する事はできる。立場やこれからの人生を考えた上で最も傷の少ない回答を答えることだって簡単だ。

だが……それで本物は手に入るのか?いや、俺や彼女たちが欲した本物はそんな逃げ腰で掴めるものではないだろう。

八幡「……伝えたくなっちゃったか」

結衣「うん。なっちゃった」

軽口を叩く彼女の体は震えている。手はスカートを強く掴んでおり、顔は耳まで真っ赤だ。

そんな彼女の瞳が俺を捉えた。その瞳にはもう迷いはない。

結衣「好きです。あたしと……付き合って下さい!」

俺は鈍感系主人公じゃない。敏感を超えて過敏ですらある。

だから由比ヶ浜の気持ちには気づいてた。これが嘘ではないことも知っている。

ああ……やばい、泣きそうだ。人から好意を伝えられるのがこれほどまでに幸せなことだとは思わなかった。

……彼女に対して俺はどう返せばいいのだろうか。

カーストの差を考えれば断らなくてはならない。それにこいつが俺に好意を持ってくれたのは、きっと入学式の日のアレが原因だろう。

なら、そんな勘違いで幸せを手放してはいけない。たとえ彼女が今傷つくことになっても、俺はその先の未来のために正しい返事をするべきだ。

だというのに……彼女の瞳はそれを許してはくれなかった。

八幡「……由比ヶ浜」

慎重に言葉を選ぶ。

でもそれじゃダメなんだ。心に任せて気持ちを伝えるべきだ。そうしなければ……俺は由比ヶ浜の前に立つ資格をなくしてしまう。

きっと怖かっただろう。辛かっただろう。それを乗り越えて彼女は伝えてくれた。

今にも逃げ出したいはずなのに俺の答えを聞くため俺から視線を外さない。

なら……せめて伝えよう。俺の気持ちをそのままに。

八幡「俺は……」

言うことなんてまとまらない。何を言いたいのかすら分からない。ただ思うままに伝える。

カーストとか未来とかそんなものは後回しだ。由比ヶ浜の勇気に応えるために、俺は大きく息を吸う。

そして……短い言葉に乗せて、気持ちを吐き出した。

八幡「悪い、お前とは……付き合えない」

今日はここまで。

次の投下がいつになるか分からないけど、気長に待ってね。今年中には終わらせる予定なので。

おやすみなさい。

やっはろー!1です

投下しますー

あれから家にどう帰ったのかよく覚えていない。ただうっすらと、小町が優しい顔をしていたこと……そして由比ヶ浜の泣き顔だけは覚えている。

きっと小町は今日何があるか知っていたのだろう。だから朝俺に対してあそこまで怒り、そしてそんな俺に優しく接してくれた。

本当に誇りたくなるような妹だ。

それに引き換え俺は……。

八幡「あー……はあ」

もう寝よう。寝ればこの沈んでいく思考も少しはマシになるだろ。

そう思い布団にくるまろうとした時、さっき充電を始めたスマホが目に入った。

……そういえば、雪ノ下とのLINEになんて返したか確認してなかった。布団から出るのは億劫だがそれだけ確認して寝ておこう。というかなんでもいいから他のことに頭を使いたい。

かなり俊敏な動きでケータイを充電器から取り外し、また布団に潜り込む。

電源が入ったことを確認してそのままLINEを開いた。

雪乃【私に話しかけてくる男の人は、私のことを好きだったり特別視していたから】

雪乃【普通に接してくれるあなたとの会話は新鮮で楽しく感じるのよ】

雪乃【眠気で変なことを言ってしまったわ】

雪乃【今のは忘れてもらえるかしら】

雪乃【おやすみなさい】

そうそう、こんな会話をしてる時にちょうど俺の眠気が来たんだった。

さて俺はなんと返したのだろう。

八幡【俺だってお前のこと好きだけど】

八幡【おやさめ】

八幡「…………」

ははははは、おやさめってなんだよおやさめって。眠すぎてかなりひどい誤字してるんじゃねえかよはっはっは。もう全く俺ってやつはほんと……。

八幡「おやさめえええええ!!」

ケータイをなんの加減もせずに布団に叩きつける!なにしてんだ!なにしてんだよ俺!

俺が文字通り頭を抱えていると、遠慮がちにドアが開かれる。そこからひょこっと小町が顔を出していた。

小町「お兄ちゃん大丈夫?コ、コーヒー入れようか……?」

八幡「大丈夫だ……大丈夫大丈夫……大丈夫だから」

小町「大丈夫そうに見えないんだけど」

珍しく小町が不安そうな顔をしている。今日の由比ヶ浜のことで頭をおかしくしたとでも思っているのだろうか。半分正解だ。

八幡「……なあ小町、由比ヶ浜と雪ノ下の今の様子分かるか」

小町「え……二人は朝から連絡とれてないから分からないけど……」

八幡「連絡とれてないって、由比ヶ浜はまあ……ともかく雪ノ下も?」

小町「うん、朝のお兄ちゃんとの会話を伝えたら返事返ってこなくなった」

いつもなら俺が返した雪ノ下へのLINEについて尋問が始まるところだが、さすがの小町も今ばかりは自粛してくれた。

つーか朝?小町と何話したかな……。

八幡「……ちなみに聞くが、なんて送った?」

小町「だから、朝に話してたことそのまんまだって。『お兄ちゃんは寝ぼけて思った通りのことを送ったらしいです』って」

八幡「そうか……それで返事が返ってこなっちゃったか……」

小町「うん。……っていうかお兄ちゃん、この状況で結衣さんより雪乃さんを気にかけるって小町的にポイントかなり低いよ?」

八幡「雪ノ下のことを気にしてるわけじゃねえよ。ただちょっとそこの窓から飛び降りたいだけだ」

俺の言葉に小町を少しだけ顔をひきつらせた。俺があまり言わない冗談を言ったもんだから反応に困っているんだろう。

まあ全部冗談ってわけでもないけどな。

八幡「とりあえず俺はもう寝る。お前もあんま俺のことばっか心配してないで勉強に集中した方がいいぞ」

小町「え?別にお兄ちゃんのことなんて心配してないよ?」

可愛く首を傾げる小町を見て本当に窓から飛び降りてやろうかとも思うが、さすがに本当にやるわけにもいかない。痛そうだし。

痛いのは心だけで充分だ。

小町「明日はなにもないんだから、ゆっくり寝てね」

八幡「ん、おやすみ」

小町「おやすみー」

小町がドアをきちんと閉めたのを見て、ベッドに再び横になる。

今日は疲れた。これ以上起きていると自分のことを嫌いになりそうで怖い。

どうか夢くらいは幸せでありますように。

夢を見た。

とても大切な人達が俺のせいで離れ離れになっていく。

そして最後はひとりぼっち。

俺の周りには誰もいない。見渡しても何も見つからない。声を出しても返事は来ない。手を伸ばしても何も触れない。

俺だけがいるひとりぼっち。俺だけしかいないひとりぼっち。

今までと同じはずなのに全く違う。

本当のひとりぼっち。

あれから数日。夜寝る時も昼寝をする時も二度寝でさえ悪夢ばかりだ。

俺が悪いのだから文句を言うつもりはないが、今日くらいは良い夢を見させて欲しい。

なんたって今日は。

小町「あけましておめでとー!うぇーい!」

八幡「……今年もよろしく」

ついに新年。テンションの高すぎる小町にテキトーな挨拶を返しながら窓の外を見やる。

カタカタと窓を揺らす風は明らかに冷たそうで、とても家から出たくない。ってかコタツから出たくない。

小町「それじゃあ初詣にレッツゴー!」

八幡「狙ってんのかお前は……」

こんなドンピシャのタイミングで出発発言されると凄い悪意を感じるんですけど。

いや行きますけどね、小町の合格祈願もしたいし。

気持ちは乗らないが家を出る。自転車でぱーっと行きたかったが、元日で人の賑わう道を小町を乗せて進める気もしないで渋々徒歩になった。

人、人、人!

小町「お、お兄ちゃん?なんか顔色悪いよ?」

八幡「……人に酔ってるだけだ。気にすんな」

小町「人に……?」

俺の言ってることが分からず小町は首を傾げていた。その仕草が可愛くてちょっとだけ元気になる。

小町のおかげで俺はなんとか毎日を生きていけてるようなものだ。二年生になってから戸塚にも元気を分けてもらってはいるが、やはり家で長時間をともにするというアドバンテージは大きい。

小町ちゃんマジ天使。小町に近づくやつは俺と親父が許さない。むしろ親父が俺を許してないまである。

八幡「なあ小町、どこ行くんだ?確か逆方面に勉学に御利益があるとかクラスのやつが言ってた神社があったはずだが」

小町「ああ、だってそっち知り合いに会いそうなんだもん。みんな受験だからそっち行ってるだろうし」

八幡「……俺が一緒にいるとこ見られるのが嫌なら、一旦分かれて後で合流でいいんじゃないか?」

小町「元日にまでクラスメイトと一緒なんて嫌なだけだから気にしないでいいよ。まあ確かにお兄ちゃんと一緒のとこ見られるのも嫌だけど」

八幡「さいですか」

最後の一文省いても良かったと思うよ。むしろ省くべき。

それにしても、似てない似てないと言われるがこうしてみるとやはり俺の妹だと感じる。一人でいるのが好きというのはよく分かる。

それでも人と上手くやっていけるのだから流石は次世代型ハイブリッドぼっち。お兄ちゃんの代わりに人の輪の中でたくましく生きて下さい。

ようやく目的の神社だか寺だかに到着したが、やはりここもここで人が多かった。

八幡「こっちに来ても誰かしらに会いそうだな」

小町「そだね、意外とこっちも人気だったんだ」

ステルスヒッキーを全開にしながら人混みを歩く。小町は普通に俺に着いてきていた。比企谷家の人間は全員ステルスヒッキー使えんのかな……。

それはさておき、どうやらこの大勢の人の大半は賽銭ではなく屋台巡りが目的のようで、俺たちの賽銭は割と早く終わった。

賽銭の列から抜けさえすれば人混みは一気に減る。

人がだいぶ減った解放感から少し浮かれ気味に歩く。小町も人ごみにはげんなりしていたようで俺と一緒に少し楽しそうに歩いている。

賽銭箱から離れる度に人は減っていく。そうなれば当然周りの人間一人一人の判別もしやすくなる。

……まあこんな風には言っても、例えさっき以上の人ごみだったとしても俺はあいつを見つけていたかもしれない。

流れるような黒髪と無駄のないスリムな体型が、シンプルなデザインの和服によってより美しく彩られる。

見た者に視線を外させることすら許さない鮮烈な美は、俺の歩みを止めるには充分すぎた。

本来なら見つけた瞬間に逃げるべきだった。だがそんな思考さえ完全に停止している。

だからこそ、向こうも俺に気付いてしまった。

雪乃「……比企谷君?」

そこにいたのは。

つい先日俺が爆弾を投下してしまって以来、画面越しですら会話をしていなかった……和服姿の雪ノ下雪乃だった。

ザ・ワールド!

と、叫んだところで周りの時は止まらない。突然の事態に動きの止まった俺たちを置いて、世界の時は進む。

例えば、俺の後ろにいるラブリーシスターのように。

小町「あ!明けましておめでとうございます雪乃さん!やー、和服姿も超似合ってますね、ね?お兄ちゃん!……お兄ちゃん?」

小町のフリに何も返事をせず口をパクパクさせるだけの俺を不思議に思ったのか、小町が俺の顔を覗き込む。

小町の顔を見たおかげか、俺の脳がようやっと活動を再開し始めた。

八幡「あ、ああ。そうだな。お前の和服姿、俺は好きだぞ」

あ、やばい。あのトラウマのことばかり考えていたせいで、また似たようなことを口走ってしまった。

再び俺と雪ノ下の時間が止まる。なんなら今回は小町も止まっていた。

ここで止まってはダメだ、なにか言わねば……と思っていても上手く酸素を脳へ供給できずにいる。

くそっ、重加速がこんなところで……頑張れ俺!スタート・ユア・エンジン!

雪乃「あ、ありがとう……」

いち早く復活したのは雪ノ下だった。さすが雪ノ下さん!そこに痺れる憧れる! 

俺もこんな冗談を言えるくらいには落ち着きを取り戻せていた。

八幡「き、奇遇だな。こんなところで……一人か?」

顔を真っ赤に染めた雪ノ下を視界に入れてしまわぬよう、明後日の方向を見ながら聞く。わー、鳥居も真っ赤。

雪乃「ええ。由比ヶ浜さんも来たがっていたけれど、初詣は毎年家族と来ているそうだから」

小町「確かに結衣さんらしいですね!」

三度目の思考停止を陥りかけた俺を気遣ってなのか、小町はやけにハイテンションで雪ノ下に応えた。今の俺にとって、由比ヶ浜の名前は聞くだけでも辛いものがある。

当然、由比ヶ浜本人にとっては辛いなんてものではないはずだが。

八幡「あー、そうだ」

この前のLINE、さっきの失言、そして由比ヶ浜とのことを全て胸中に押しとどめながらなんとか声を出す。

雪乃「なにかしら?」

八幡「あ、明後日空いてるか?」

一月一日の明後日はもちろん一月三日だ。つまり雪ノ下の誕生日。

雪ノ下自身もその日に俺たちが何をしようとしているか予想はできるだろう。サプライズ精神がなくてごめんね!

雪乃「そうね……午後は家の予定が入っているけれど、午前中だけなら大丈夫よ」

八幡「そうか、じゃあその、なんだ……ゆ、由比ヶ浜やら戸塚やら……戸塚も呼んで、やるか」

雪乃「戸塚君のこと、好きすぎでしょう……けれど、そうね。ありがとう」

主語を含まずの会話だったが、伝えたいことは伝えられたようだ。

当日、由比ヶ浜と会って普通を演じきれるかは分からない。だがそれでも、あれは俺と由比ヶ浜の問題であってこいつには関係のないことだ。

なら、雪ノ下にはしっかりと楽しんでもらわねばならない。

八幡「場所とか時間とかはまた後で連絡する」

雪乃「……ええ、分かったわ」

八幡「それじゃ、また明後日な」

返事を聞き、俺は手を軽く振りながらその場を離れた。いつもなら一緒に行動させようとする小町も、さすがに気を使ってくれたのか大人しくついてきた。

八幡「……はあ」

小町「雪乃さんとも何かあったでしょ?」

八幡「まあな……。けど今の感じじゃ気にする必要はなさそうだ」

あとは俺がふとした瞬間にくる恥ずかしさやもどかしさに慣れてしまえば雪ノ下とのことは流せるだろう。

多分後五回くらい布団の中で叫べば余裕。いやこれ全然余裕じゃねえな。

八幡「……疲れたしまっすぐ帰ろうぜ」

小町「仕方ないなー、まあ今日だけはお兄ちゃんのために特別だよ。あ、今の小町的にポイント高い」

八幡「はいはい」

ほんとそれさえなきゃポイント高いんだがな……。

こんな感じに小町といつもの会話をしながら、足早に家を目指す。

進む速度が早いのは、もちろん家に早く着くようにだ。

けれどなぜだろう。

まるで、少しでも早く雪ノ下から逃げるために思えてしまうのは。

今日はここまでです!

先が思いつかないよ!ダレカタスケテー!

おやすみなさい

やっはろー!1です

前の投下までが

6だから繋がりは誰にも掴めない

になります。
それじゃー久々に投下いくよー!眠いから多分変なとこで終わるよー!

時は巡り一月三日。

結衣「ハッピーバースデーゆきのん!」

八幡「おめっとさん」

平塚先生に許可をもらって俺たちは奉仕部の部室に来ていた。

それにしても「時は巡り」と「めぐめぐめぐりん」の語感の似てる感じは異常。暇なときはずっとめぐめぐめぐりんって脳内リピートしてるせいで、めぐり先輩がよくゲシュタルト崩壊してる。

俺意外とめぐり先輩好きすぎだろ。小町と戸塚に追いつくレベルだぞ。

雪乃「あ、ありがとう……」

今日のことを予想できていたであろうに、それでもこうして祝われると嬉しいのか頬を少し赤く染めながら雪ノ下は俺たちに礼を言ってきた。

結衣「はいこれ!」

由比ヶ浜は可愛らしくラッピングされた大きめの袋を雪ノ下に差し出した。雪ノ下はそれがなんなのか分からず少し首を捻っていたが、自分へのプレゼントだと理解すると少し緊張しながらそれを受け取った。

俺はといえば、由比ヶ浜のように明るく渡すことなどできるはずもないのでちょっとぶっきらぼうに渡してしまった。

かっこつけてるとか思われてたらどうしよう……。

八幡「さて、プレゼント交換も終わったし……帰るか」

結衣「帰らないし!」

いつものように由比ヶ浜が俺にツッコミを入れる。その時に由比ヶ浜と目が合うが、視線が交錯するのは一瞬だけ。どちらともなく違うところに視線を移動させていた。

八幡「まあ帰るのは冗談として……なにすんの?午前だけだからつってもまだ結構時間残ってるぞ」

雪乃「そうね……自分の誕生日パーティーだなんて社交的なものしかしたことがないから……。由比ヶ浜さん、こういうときは何をするのかしら」

さらっと社交的とか出てきたんだけど……そういやこの子の家金持ちでしたね、忘れてました。

結衣「え、何って言われても……食べて飲んで騒ぐ感じ?」

八幡「全然分からねえ……」

今度は由比ヶ浜の方を向かないよう、視線は下に固定したままで声を出す。

下を向いているせいか、声はいつもより少し低い。

結衣「まあとにかく、こう……ぱんぱかぱーん!って感じで楽しく話すの!いい!?」

八幡「お、おう……いや聞くべき相手は俺じゃなくて今日の主役だろ」

結衣「あ、うん……ゆきのんはそんな感じでも大丈夫?それか……あっカラオ──」

雪乃「いえここにいましょうそれがいいわ比企谷君もそう思うわよね」

八幡「だから俺に聞くなって」

雪ノ下にとっちゃ体力を使わされるカラオケよりこっちのがいいだろう。今ノータイムで拒否してたからな。

雪ノ下の意見もあり、俺たちは結局いつもように奉仕部でだらだらとしていた。

さすがに誕生日パーティーってことで俺も雪ノ下も本を読むようなことはせず、会話に意識を向けるようにした。

そのおかげでようやく俺は気づけた。あの時感じた違和感に。

なぜ雪ノ下から逃げようと思ったのか。あれはそもそも雪ノ下から逃げたわけじゃなかった。

偶然にも由比ヶ浜が来て奉仕部が揃うという……確率的にはとても低く、けれど0%ではない可能性から逃げていたのだ。

だがこうして考えると逃げる必要などなかった。いや正確に言えば逃げても意味がなかった。奉仕部が揃う状況なんていくらでもあるのだから。

結衣「……ヒッキー、どうかした?」

由比ヶ浜が不安そうに俺を見る。俺はまるでそれから逃れるように時計へ視線を移した。

八幡「いや……なあ、そろそろ時間やばいんじゃないか?」

雪乃「え?……そうね、いい時間かもしれないわ」

結衣「あ、そっか。午後は予定があるんだもんね」

雪乃「そんなに落ち込まなくたってもう少ししたらまた奉仕部の活動は再開するのだから」

由比ヶ浜の肩がピクッと動いた。その挙動を悟られないようにいつもよりも明るい声で由比ヶ浜は答える。

結衣「そ、そだね!また再開したらたくさんお喋りしよ!」

一瞬だけ、雪ノ下が不思議そうな顔をしていた……気がする。気のせいだったかもしれないがそれが妙に嫌な予感をさせる。

雪乃「……ええ、それでは私は鍵を返してくるから」

八幡「今日くらい俺がやる。ほれ」

鍵を渡せ、という意味で雪ノ下へ手のひらを向ける。これまた不思議そうな顔をした雪ノ下だったが、今回はすぐに意味が分かったらしく少しだけ微笑んでから鍵を渡してきた。

雪乃「それでは、今日は任せてもいいかしら」

八幡「おう。そんじゃまた」

雪乃「ええ、また6日に」

結衣「またねー」

振り返らず後ろ手に扉を閉めた。その瞬間に思わずため息をついてしまう。

あの日俺が逃げた理由。

今日由比ヶ浜が怯えていたもの。

その二つはきっと同じものだ。

紅茶の香りのしなくなったあの部室での、嘘と欺瞞に満ち溢れた会話。

俺と由比ヶ浜は……告白されたのを、あるいしてしまったのを気にして、またあの日のような関係に戻ってしまうのではないかと危惧していたのだ。

結果はご覧の通り。

俺たちはまた間違えたようだ。

平塚「君が鍵を返しに来るとは……随分と気が利くじゃないか」

八幡「そういうのじゃないですよ」

職員室で天丼を食べている平塚先生に鍵を渡しに来たところ、第一声がこれだった。

油がつかないようになのか髪をポニーテールにしており、印象が全然違っていたせいで声をかける時に少し躊躇ってしまったのはここだけの秘密だ。この人たまにギャップでドキッとさせてくるから怖いんだよ……。

平塚「私はてっきり今日の主役を気遣っての行動だと思ったが」

八幡「違いますって。アレですよアレ……ひさしぶりに先生に会いたくなって」

すぐにバレるとは思いつつ、なんとなく適当な嘘をついてしまう。一体どんな風に呆れられるのだろうか。

平塚「そ、そうか……ありがとう」

八幡「え、いや……どういたしまして……」

え、なにこの雰囲気。なんで顔赤らめてるんですか先生。近くの先生が居づらそうにしてるじゃないですか、っていうか俺が一番居づらいんですけど!

嘘でしたと言うタイミングを完全に逃してしまい、どうしようかと視線を巡らす。このまま帰ってもいいが、それだと平塚先生ルートの可能性が高まる気がして怖い。

平塚「ま、まあそれはともかくだ。どうだ最近は。クリスマスパーティーをしたあとから随分と雰囲気は良くなったように思うが」

八幡「……まあ、そうっすね」

平塚「……ふむ、君はあれだな。適当な嘘は上手いのに、本当に大事な嘘は全然つけないタイプだな」

たったこれだけの会話で嘘を見抜かれただと……!俺はその動揺からかつい視線を逸らしてしまう。

八幡「そんなことないと思いますけど」

平塚「そうだな、適当な嘘も上手くない」

八幡「いやさっき先生に会いたかったっていう嘘に思いっきり騙されてたじゃないですか」

平塚「う、嘘だったのか……」

売り言葉に買い言葉、という感じでついネタばらしをしてしまった。そんな本気で落ち込まなくても……早く誰かもらってあげて!じゃないと本当に俺がもらっちゃうよ!

八幡「とりあえず先生が心配するようなことは何もないですよ」

平塚「……そうか。まあ私も話す気のない者から無理矢理悩みを聞き出そうとは思わんよ」

八幡「……どうも」

軽く頭を下げて、バッグを背負い直す。

ちょうどよく会話も途切れたしこのまま帰るか。

平塚「比企谷」

180度くらいターンしてしまってところで声を掛けられる。失礼だとは思いながらもまた体の向きを変える気になれず、肩越しに平塚先生を見た。

平塚「私でなくてもいい。ただ、君の悩みを誰かに話してみたまえ。きっと相談されたものは喜ぶだろう」

八幡「家族ならともかく、それ以外の誰かをすぐ頼りにするのは嫌なんですよ」

平塚「だが、一人ではいずれ進めなくなるさ」

半身だけ先生に体を向ける。目はいつもよりも腐っている気がした。

平塚「君が今まで誰を頼るでもなくいられたのは、君が一人だったからだ。だが、今の君はもう一人ではないだろう?」

その言葉が俺の心に重い鉛を打ち込んだ。

確かに最近の俺はぼっちとは言い難い生活を送っていたように思う。

学校で話す相手がいる。部活に参加してそこそこ楽しい時間を過ごしている。そしてなにより戸塚がいる。

八幡「……そうですね。戸塚がいますし」

平塚「あ、ああ……まあその解釈で構わない」

構わないって言ってる割に笑顔が引きつってるのはなんでですかね。俺にどん引きしてるからですか。

平塚「戸塚や雪ノ下や由比ヶ浜。君の周りには君と繋がりを持った人間がたくさん……とは言えないが少なからず増えた。君のことだ、またその慣れない人間関係で悩んでいるだろう」

八幡「戸塚と繋がってるとか照れるんでやめてもらっていいですか」

平塚「真面目に聞く気ないだろう」

深く深くため息をつかれてしまった。そんなため息ついたら幸せ逃げますよ。婚期も遠のきますよ。

だがまあ真面目に聞いていなかったのも事実だ。だから俺は真面目に返すことにする。

八幡「一人じゃなくなったせいで一人で解決できない悩みが出来たっていうなら、俺みたいな人間はずっと一人でいるべきじゃないですかね」

平塚「それもまた一つの選択肢だろうな。君が一人でいても構わないなら」

八幡「俺が実は寂しがりやみたいな設定つけようとしないでください」

平塚「確かに、それを決めるのは君だからな。……まあだが」

一呼吸の間。俺が続きを待っていると、先生はにやりと笑って言った。

平塚「君の周りにいる人間は、そう簡単に君を離さないぞ?」

眠気がやばいんで今日はここまで。
もうちょっと投下するのあるんでちゃんと明日もします。

おやさめー

>平塚「君の周りにいる人間は、そう簡単に君を離さないぞ?」

静ちゃんが、八幡が卒業して教え子でなくなり
寝技に持ち込んでも違法じゃなくなる瞬間を
虎視眈々と待っているから逃がさんぞ(哀願)
という意味ですねわかりま(ry

やっはろー!1です

ガハマさんのフィギュアが高くてつらいです

それじゃ昨日の残り投下していきます。

八幡「はあ……」

平塚先生に鍵も返し終わり、俺は自転車に乗りながらいつもよりのんびりと家に向かっていた。

体を動かしても平塚先生の最後の言葉が頭の中で何度も再生されてしまう。このせいで何度ため息をついたことか。

ずっと胸の中で渦巻いてる疑心。誰へ向けたものでもない俺への問いかけ。

平塚先生との会話で、俺が一人になれば……ぼっちへ戻れば周りが傷つくことはないと分かった。

だが先生は言っていた。周りはそう簡単に俺を離さないと。

昔の俺なら……具体的に言えば奉仕部に入る前の俺ならそれすら振り切って一人に戻っただろう。あるいは奉仕部に入ってから少し経った俺ならば、多生の迷いはあっても問題はないはず。

一人ぼっちも孤独も嬉々として受け入れ、俺は孤高を選んだだろう。

だが、今の俺にはそれができない。一人の時間は今も好きだし人間関係は築かないようにしているが、それでも……誰かと生きることを楽しいと素直に認められるようになってしまった。

だから平塚先生にあの言葉を言われた時……正直かなり嬉しかった。

周りのやつらはこれを成長と呼ぶんだろう。誰かと生きることは楽しいことだと、ようやく気づけたと喜ぶやつだっているかもしれない。

ふざけるな。

一人が楽しいと思うことは悪いことなんかじゃない。孤独でいることは欠点なんかじゃない。

それは俺にとっての強さだ。俺が俺を貫くために必要な強さなんだ。

けれど。

その強さは俺の中にはもうない。

八幡「……どうしよ」

頭で処理しきれずつい口から気持ちが漏れてしまう。

平塚先生に言われたとおり一人でどうにかできる気もしない。かといって誰かに相談するのも……あ、いる。

そうだ、家族なら……小町なら。

受験に響かないよう、少しだけ相談して少しだけアドバイスか何か貰おう。それだけなら勉強にも差し支えないはずだし、少しとはいえアドバイスが貰えればきっと何かを変えられる。

俺は小町へ相談する内容をまとめながら、自転車を漕ぐ速度を上げた。

小町「え、そんなこと?」

家に着き、かなり勇気を振り絞って悩みを打ち明けたところ……ラブマイシスターからはこんな無情とも言える返事が返ってきた。

あ、あれー。お兄ちゃんめちゃくちゃ悩んでたんだけどなー。

八幡「小町さん?だいぶ軽く言ってくれるけど……俺だいぶ終わってたよ?正直チェックメイトだよ?」

小町「はぁぁぁぁ……」

かなり深くため息をつかれる。辛い、辛すぎる。

小町「いやー、なんていうのかな。お兄ちゃんがこうして素直に相談してくれるようになったのは嬉しいよ?けどねえ……」

ついに小町が頬杖をつき始めた。食事中なのに……そんな行儀悪い子に育てた覚えはありません!

小町「はあ……」

八幡「小町、さすがに目の前で二回もそんなため息つかれたら泣くぞ」

小町「そりゃため息くらいつきたくなるよ。まったくお兄ちゃんは……全然成長してない……ってわけでもないんだけど、変な成長しちゃってむしろ退化した感じ」

八幡「まじか、退化しちゃってるのか俺」

小町「うん。レベル上げたのにリザードンじゃなくてヒトカゲに戻っちゃった感じ」

八幡「確かに成長しながら退化してるな……」

俺そんな複雑なことになってんのか……。何、バグなの?俺はこの世界のバグか何かなの?

小町「ま、それでも早い段階で素直に相談してくれたし、今回はそのお悩み解決のお手伝いしてあげる」

八幡「お、おう……なんか奉仕部の部員みたいだな」

小町「数ヶ月後にはそうだよ?」

八幡「……んじゃ、奉仕部活動の予行演習ってとこだな」

俺がそう言うと、小町はゆっくり首を振った。

小町「んーん、お手伝いはするけど奉仕部の活動とはちょっと違うよ。奉仕部は飢えた人に魚の釣り方を教える部活だけど、今回小町がするのはその一歩手前まで。例えるなら飢えた人に釣り竿をプレゼントするとこまでなのです」

八幡「だいぶ心許ないんですが小町さんや」

小町「大丈夫大丈夫……大丈夫大丈夫」

八幡「根拠のない大丈夫やめろ」

小町「……こう言ってないと小町も受験に負けそうで……」

八幡「だ、大丈夫大丈夫」

お互いになんの根拠もないまま励ましあう。これ精神的に負担大きいと思うんだけど大丈夫なんですかね……いや大丈夫大丈夫。

八幡「そんで具体的には何をしてくれるんだ?あと俺は何すればいい?」

小町「それは明日までの秘密でーす。あ、別にどこどこに行ってきてとかじゃないから安心して。お兄ちゃんは家でだらーとしてていいから」

八幡「小町がそんな許可出すとか珍しいな。まあ言われなくてもあと数十年はこの家を出る気ないけど」

小町「そういう意味じゃ今すぐにでも出て行ってほしいんだけどね……」

小町がどこか遠い目をしながら呟いた。無意識での言葉みたいで普通に言われるよりもダメージがでかいんですが。

小町「ま、そんなわけだから家でどんと構えてて。小町は友達とお勉強会してくるから」

八幡「じゃあ明日は家にいるの俺一人か」

我らが両親は明日からもう出勤だ。本当に頭が上がらない。なので俺は出来るだけ頭の位置を上げないようにずっと寝てようと思います。

小町「それじゃ、小町の『獅子は我が子を崖から叩き落とす大作戦!』に期待して待っててね!」

八幡「何も期待できねえ……」

小町の目に宿る怪しい光に恐怖を感じながら、俺は夜ご飯を食べ終えた。

自室に移動するとタイミング良くスマホからLINEの通知音がした。

戸塚か?戸塚だよな?と思いながら画面を見る。いやだって今年に入ってから戸塚と平塚先生くらいからしかLINE来なかったし。

剣豪将軍?知らない人ですね……。

【雪ノ下雪乃】

俺へLINEを送ってきたのは天使でも教師でもましてや剣豪将軍などではなく、本日の主役様だった。

to:雪ノ下

雪乃【比企谷君】

八幡【なんだ?】

数日ぶりの雪ノ下とのLINEに少し緊張してしまう。

っていうかトーク画面の上の方だけ消せねえかな。黒歴史がリアルタイムでチラチラ目に入るんだけど。恥ずかしい。死にたい。

雪乃【由比ヶ浜さんと何かあったのかしら】

遠回りせずストレートに聞かれたくないことを聞かれた。だが、裏を返せばそれだけ今日の俺たちは違和感があったということか。

八幡【まあな】

八幡【悪いが聞かれても何があったかまでは言えないぞ】

雪乃【構わないわ】

雪乃【むしろ何かあったとここまで素直に打ち明けてくれた事に驚きと疑惑を隠せないわ】

八幡【疑惑は隠せよ】

そこで一旦会話は途切れる。これで終わりか……あるいはものすごい長文で俺を罵倒しに来るんじゃないかと身構えたものの、次に来たのは意外とあっさりとした文だった。

雪乃【大丈夫なの?】

とても心配されてしまっていた。まあ当然か。問題を抱えてんのに、その内容は話せませんだなんて不安にならない訳がない。

とはいえこれは俺と由比ヶ浜の問題だ。さすがに雪ノ下まで巻き込むわけにはいかないだろう。

八幡【大丈夫だろ、多分】

八幡【小町が大丈夫って言ってたし】

雪乃【そう、小町さんが言っているのなら安心ね】

名前を出しただけで雪ノ下を安心させるとか俺の妹の影響力が強すぎる。まあ小町も雪ノ下に影響を受けてるところあるから似たようなもんか。

雪乃【ところで】

雪乃【小町さんに聞いたのだけれど】

雪乃【明日は比企谷君のご両親は外出されるのよね?】

八幡【ああ、まあな】

雪乃【カマクラさんはいるのかしら?】

八幡【そりゃいるけど……】

八幡【え、なに?うち来るの?】

雪乃【だめかしら?】

こいつ、とんでもないこと言い出しおったぞ……。

八幡【カマクラと遊ぶってんなら俺は部屋で寝てるし構わないけど】

雪乃【そう】

雪乃【なら明日のお昼過ぎに行かせてもらうわ】

雪乃【問題ないかしら】

八幡【特にない】

八幡【多分寝てるからインターホン連打しておいてくれ】

雪乃【起きて待つ選択肢はないのね……】

文面からもひしひしと伝わる呆れ具合。そのあとに何も送られてこないのがさらにそれを強調させていた。

八幡【いや待て呆れるのはまだ早い】

八幡【これにはちゃんと理由がある】

雪乃【聞くだけ聞いてあげるわ】

八幡【数ヶ月もすればもうすぐ春だ】

八幡【脳内が年中春のやつもいるが、気候的な春は『春眠暁を覚えず』って言うとおりかなり眠い】

八幡【だからこそ今から寝る時間を増やすことで春への耐性を高めていくんだ】

完璧な俺の理論武装。結局春も寝てしまうことを抜けば穴は何一つ無い。ほんと完璧な武装すぎてそろそろ武装錬金しちゃうレベル。

一体雪ノ下はこの理論をいかにして打ち破りに来るのか。心して待つ俺に対して、全く予想していなかった系統の返事が送られてくる。

雪乃【そう、凄いわね】

雪乃【偉い偉い】

八幡【お前やめろよ……そういうのかなり傷つくんだからやめろよ……】

雪乃【知った上でだけれど】

八幡【なおさら悪質じゃねえか】

雪乃【こういうのは構ってほしがる人にしか効果がないと思っていたけれど】

雪乃【あなたにも意外と効くのね】

雪乃【それともあなたも構ってもらいたがっているのかしら】

八幡【俺がかまってちゃんとか有り得ないにも程があるだろ】

八幡【むしろ構ってほしくないまである】

ほんと俺はあんまり構われるの嫌いだし別に雪ノ下に言ったことを流されたって落ち込んでないし雪ノ下に構ってもらえなくたって寂しくないっていうかあれ俺かまってちゃんじゃね。

割とインパクトの強い新事実に俺が打ちひしがれている中、雪ノ下は特にどうでもいいという風に全く違う話題を切り出してきた。

それは例えば学校の話であったり。

他にも小町の勉強についてや三が日の過ごし方、はたまた俺の目のことにまで会話は広がった。

つーか雪ノ下相当眠いんだろうな今。眠すぎてテンションが振り切れてるのか小一時間くらい猫語りされたんだけど。もうお前猫物語でも書いてろよ。

雪乃【明日が楽しみね】

雪乃【猫カフェに行っても人の目がおるし、人が誰もいない家でカマクラさんとにゃんにゃん出来ると思うと胸が弾むわ】

八幡【その場にいないってだけで俺も家にはいるんだけど】

雪乃【あら、ごめんなさい。うっかり人としてカウントし忘れていたわ】

八幡【謝られてる気が全然しねえ……】

っていうかにゃんにゃんって……いくらLINEとはいえそんなこと言うなんて、どんだけ眠いんだよ。

まあ多分明日雪ノ下が目を覚ましたら自らの黒歴史に悶えることだろう。くはは、まさかあの雪ノ下がこちら側の人間になるとは!

八幡【にゃんにゃんは置いといて】

八幡【なんか用意するもんあれば今のうちに言っといてくれ】

雪乃【そこまでしてもらわなくても大丈夫よ】

雪乃【にゃんにゃんを堪能するだけで充分だもの】

雪乃【それ以上望むのは申し訳ないわ】

八幡【堪能って……カマクラに何する気だよ……】

明日はカマクラにとってさぞ災難な日になることだろう。だが俺がカマクラできるのは精々祈ることくらいだ。

アーメン。

カマクラへの軽い祈りも終わったところで俺は今の時間に目を向けた。

三時……時間が経つの早すぎだろ……。

さてそろそろ寝るかと画面に目を向けるとまた雪ノ下からまたメッセージが送られてきていた。

……………………。

……ハッ!今無意識で返信してた!この前それで痛い目見たのに!イタい目で見られたのに!

当然それにまた返信は来るわけで、俺もまたそれに返していく。

ま、まあ今冬休みだし、多少遅くまで知り合いとLINEしたって問題ないよね……ないよね?

とりあえずあと一時間くらいしたら寝よう。そう目安を決めて俺はまたLINEをし始める

……結局俺が寝たのは空がだいぶ明るくなってきた頃だった。

今日はここまでー

ゆきのんのフィギュアも出るそうなので頑張ってお金稼がなきゃ……(白目)

それじゃまた数ヶ月後!

明日投下する量を減らしたいのでやっぱり今日のうちに少し投下しますー

ちょっとだけですがよろしく

深い眠りの中にいる俺を目覚めさせたのは、インターホンの連打される音だった。

うるせえ……。自分で言っといてなんだが本当にここまで連打すんなよ。っていうか雪ノ下がインターホン連打する姿とか想像できないんだが。

八幡「ふあああ……ああああ……」

欠伸ともうめき声とも取れる声をあげながら階段を下りる。本当は顔を洗いたかったが……こんなにうるさいとのんきに顔すら洗えない。昨日あんなこと言うんじゃなかった。

八幡「はいはい今出ますよっと」

ドアノブを掴み寝起きには重い扉を開けていく。そこには黒髪ロングの美少女が……いなかった。

結衣「や、やっは……え!?ヒッキー!?」

八幡「…………は?」

八幡「昨日急に小町に呼ばれて」

結衣「うん」

八幡「俺も両親も居ないからちょっとだけ遊ぼうという話に」

結衣「うん」

八幡「実際に来てみたら居ないはずの俺が居て……っていうか俺しか居なかった、と」

結衣「……うん」

由比ヶ浜にとりあえずリビングへ来てもらい、事情聴取をした結果以上の結果が得られた。

こんな事実を知って俺ができる反応などただ一つしかない。

八幡「はあああああ……」

ため息。圧倒的ため息。もうこれしか出来ない。俺の深いため息を見て由比ヶ浜も苦笑いを浮かべていた。

結衣「あ、あたし帰った方がいいよね」

八幡「あ、いや……」

そそくさと立ち去ろうとする由比ヶ浜を思わず止めてしまった。その先を何も考えていないので当然続く言葉は出てこない。

そうすれば止められた由比ヶ浜もどうすればいいか分からないわけで……ああもう!なんで自分の家なのにこんなに息苦しいんだよ!

八幡「と、とりあえずアレだ、せっかく来たんだしMAXコーヒーでも飲んでけよ」

結衣「え、あ、うん……?」

かなりテンパってはいるがなんとか由比ヶ浜を留まらせることはできた。あとは何の話をするかだ。

……いや話すこととかないだろ。MAXコーヒーを冷蔵庫から二本取り出して俺はそう結論付けた。

結衣「あ、ありがと」

MAXコーヒーを渡して座る。よく考えると客人にMAXコーヒーって失礼なんじゃないか……?客人とか滅多に来ないし、来ても小町が対応してたから全然分からねえ。

八幡「……」

結衣「……」

二人ともMAXコーヒーに口を付けながらも無言だった。なんとか沈黙を破ろうと珍しく俺から切り出す。

八幡「あー、あれだな……小町にも困ったもんだよな」

結衣「あはは……そだね」

表面だけの会話すら続くことはない。普段なら会話力の高い由比ヶ浜が話を振ってきてくれるが、今の由比ヶ浜は俺をチラチラ見て何かを言いたそうにするだけだ。

何分待てば由比ヶ浜はその何かを言葉にしてくれるのか。そんな考えが頭をよぎるが、それは重荷を彼女に押しつけているだけだ。

……そうだな、小町から釣り竿をもらったのは俺だもんな。

これで何がどうなるかなんて分からない。そもそも何をどうすりゃいいかも分からない。

けどまあ……小町が大丈夫と言ったなら大丈夫なんだろう。

根拠のない大丈夫だったとしても、信じてやれなきゃお兄ちゃん失格だ。

続きは明日

おやすみなさい

やっはろー!とうかー!

八幡「……なあ由比ヶ浜」

結衣「ん?」

心臓の鼓動が痛い。これから言う言葉が彼女を絶対に傷つけると分かっているからだ。

それでも進まなければならない時がある。

八幡「あの日……」

そう言っただけで由比ヶ浜は俯いてしまった。だが、それを気にしないようにして俺は続けた。

八幡「あの日、なんで俺に告白したんだ?」

なんで、という言葉は様々な意味を含んでいる。

なんであのタイミングで告白したのか。なんで俺に告白しようと思ったのか。なんで……なんで俺なんかを好きになったのか。

俺が言い終えた時、由比ヶ浜の肩は小さく震えていた。

八幡「あ、わ、悪い……別に責めてるとか嫌だったとかそういうんじゃないんだ……」

そこで会話はとぎれてしまう。そのせいで空気はどんどん重くなっていく。

これではまずいと持ち前のスキルで察したのか、由比ヶ浜はぽつりぽつりと話し始めた。

結衣「ホントはさ……自分から言うつもりなかったんだ」

八幡「……え?」

結衣「だって、ヒッキーに告白したって絶対フられるなーってなんとなく分かってたから。待たずにこっちから行くなんて言ったけど……そんな勇気、あたしにはなかったんだよね……あはは」

視線を逸らしながら笑う由比ヶ浜を直視できず、俺も違う方を向いてしまう。

明後日の方向を向きながら、俺はなんとか会話を続けようと努力する。

八幡「フられるって分かってんならなんで……」

結衣「だって……分かってても、言わなきゃダメだって思ったから……言わなきゃ手に入らないって思ったから」

静かな部屋に、深呼吸する音が小さく響く。

由比ヶ浜へ視線を戻した俺を、彼女の瞳は強く見つめていた。

少し涙を浮かべながらも今までのようなか弱さはもうそこにはなく、まるであの日のような強さを秘め……そしてこう言った。

結衣「あたしも欲しいから……本物が」

握っていたマッ缶から嫌な音がする。見れば知らないうちによほど手に力を入れていたのか缶が少し歪んでいた。

由比ヶ浜はそれを見て驚いてる。当然だ、俺だって驚いてる。ほとんど飲んでたから零れてこそないが、自分が気づかない間に缶をへこませるくらい力込めちゃうとか相当アレだな。

八幡「ははっ……そっか、俺のせいか」

思わず自嘲的にそう呟いていた。

俺がずっと欲しかったもの。それを言葉にしたせいで、こうして数少ない関係性すら壊してしまう。

もしかしたら、俺なんかが欲するべきものではなかったのかもしれない。

太陽に憧れたイカロスのことをかつて蛮勇だと笑ったが、俺はあいつと同じ──

結衣「違うよ!ヒッキーのせいなんかじゃない!!」

俺の沈んでいく思考すら吹き飛ばすような由比ヶ浜の声が俺の家に響いた。

口を開けたまま何も言えないでいる俺の代わりに、由比ヶ浜は涙を流しながらさらに言葉を続ける。

結衣「確かにきっかけはヒッキーの言葉だけど……でも、ヒッキーが悪いとかじゃないの……」

自分の気持ちを整理できないまま伝える姿はまるで子供のようだ。けれど、それはどんなに理路整然とした言葉よりも強く心を揺さぶった。

結衣「あたしはヒッキーのおかげで想いを伝えられたの!そのせいでヒッキーにもゆきのんにも迷惑かけちゃってるけど……それでもあたしはあの告白を悪いことみたいに言って欲しくない!結果が間違ってるからって行動まで否定して欲しくない!」

真っ直ぐに思いの丈を叫ぶ由比ヶ浜を見て、俺はようやく気づくことができた。

今のこいつはあの時の俺と同じなのだ。

何が正しいのかも分からないまま、本物が欲しいと心のままを伝えることで現状を変えたかった俺と同じなんだ。

あの時、俺は一度諦めた。けれど……繋いでくれた女の子がいる。今目の前で涙を流している彼女に……俺は救われたんだ。

だから……次は俺の番だ。

八幡「……由比ヶ浜。俺はやっぱりお前とは付き合えない」

あの日言った拒絶の言葉をもう一度伝える。けれど、あの日は伝えられなかった続きを今ここで伝えたい。

八幡「だからって終わりにしたいわけじゃないんだ。すごい自分勝手な希望だが……俺はお前の気持ちに応えられないまま、俺とお前と雪ノ下で今までの奉仕部を続けたい。お前が自分の告白と俺の願いを間違ってないっていうなら、これからもそれを探したいんだ……一緒に」

次は俺が由比ヶ浜の瞳を見つめる。涙を拭うことすら忘れている彼女から言われる言葉が出てくるのを待つ。

どれだけの時間が過ぎたかは分からない。とても長く感じた時間に終わりを告げたのは……由比ヶ浜の笑い声だった。

結衣「あはは……。最低なこと言うね」

八幡「自覚はしてる」

結衣「でもあたしも割とひどいこと言ってたから……さっきのとか超自分勝手だし」

八幡「いや……まあ、うん」

否定しきれず思わず認めてしまった。由比ヶ浜は「だよねー」と言いながらちょっと落ち込んでいた。

だがそれも数秒のこと。開き直ったようにいつもの笑顔に戻っていた。

結衣「あたしもヒッキーとゆきのんと一緒に奉仕部続けたい。だから、えっと」

どう言えばいいのか迷ったらしい由比ヶ浜は手をあわあわさせながら考えた挙げ句……俺に手を差し伸べながらこう言った。

結衣「お、お友達からお願いします!」

八幡「……いやそれは違うだろ」

一応訂正はしておきながら握手に応じる。

俺が手を握った瞬間、彼女はまた俺に笑顔を見せてくれた。

俺には眩しすぎるけれど……いつか相応しいと思われるようになりたいと、柄にもなくそんなことを考えてしまった。

結衣「……伝えられて良かった」

八幡「何をだ?」

にぎにぎとされている手の感覚を無視するように会話へ意識を向ける。

伝えられたことが今回多すぎて、彼女が一体何に対して良かったと思っているのかよく分からなかった。

結衣「全部……かな。今日言ったことも告白したことも合わせてぜーんぶ」

八幡「ま、あんだけ言えばすっきりしたろ」

結衣「それもあるけど……ヒッキーにこうして近づけたから」

そういって由比ヶ浜はいまだに握手をしたままの手に視線を落とす。

いやちょっと急にそういうこと言うのやめてくれませんかね。意識しすぎて手汗が心配なんですけど。

結衣「言わなくても分かり合えるって、いいなーって思うけど……。伝わると伝えるじゃ全然違うと思うから……そういうの含めて良かったなって」

八幡「……そうだな」

由比ヶ浜の行為に気づいた時と、実際に気持ちを伝えられた時とでは全く違っていた。

言葉にしなくても分かるのが本物だとしても、それでもやはり伝えるべきものはある……という事かもしれない。

結衣「あ、あのさ……もう一個だけ聞いていい?」

八幡「別にもうこの際だし、一個と言わずなんでも聞いていいぞ」

俺としてはかなり質問のハードルが下がるように配慮したつもりだったが、それでも彼女は少し言いづらそうに視線を泳がせていた。

結衣「こ、こういうのって……その、迷惑かな?」

由比ヶ浜が握手している手に空いていた左手も添えてきた。優しく俺の手を撫でる手は少しくすぐったくて……あとめちゃくちゃ恥ずかしい。

八幡「こういうのって……え、何?」

結衣「だ、だからその……近くに行ったり、手触ったり……あとはその……だ、抱きしめたり?フった人からそんなことされるの嫌かなーっていうかそもそもあたしからされるの嫌じゃないかな……って」

八幡「大丈夫じゃねえの?そもそもお前みたいな可愛い女子に迫られて嫌とか迷惑とか思う奴そうそういないだろ」

結衣「か、可愛い……って」

八幡「あ、ああ……すまん」

さっきまで、相手の為に気持ちを隠さないことを意識してたせいでつい変なことを口走ってしまう。

何これ口説いてんの俺。フった女子を二人きりの家で口説くとかゲスの極みすぎんだろ。確かに私以外私じゃないけども。

結衣「そっか……迷惑じゃないんだ」

八幡「それ確認してどうすんだよ……」

結衣「ど、どうするって……まだあんまり決めてないけど、とりあえずあんまり人が居ない所じゃガンガン行こうかなって」

八幡「なんだよその大雑把な作戦。ドラクエでももう少しはっきりしてるぞ。つーかあんま人が居ない所ってお前、今ここ人少ないどころか二人っきりじゃねえか」

結衣「へ?」

変な声を出しながらポケーっとあたりを見回す由比ヶ浜。両親も小町も外出しているのだから当然ここには俺と由比ヶ浜しかいない。

……そんな当たり前のことを由比ヶ浜は俺の言葉でようやくはっきり認識したらしく、顔を真っ赤にしていた。

結衣「え、や、あっ……さ、流石にまだ早いっていうか心の準備がまだっていうか……」

八幡「落ち着け。別に二人っきりだからって何かするわけでもないんだから」

少なくとも俺からは、と心の中で付け加える。

動揺を誤魔化すように彼女はMAXコーヒーを一気に飲み干す。

結衣「甘っ!」

八幡「さっきは普通に飲んでたじゃねえか……」

俺もMAXコーヒーの残りを一気に煽る。ちょっと缶がへこんではいるが中身に違いなどない……はずなのに。

俺もこの一口は甘ったるく感じた。

結衣「ご、ごめんね。なんか最近ずっと焦っちゃってて」

八幡「焦る?なんか焦るようなことあったか?」

結衣「焦ることって……今まさに話してることだよ!このままじゃあたし絶対負けちゃうし……」

八幡「負けるつったって、誰と戦ってんだよ……」

結衣「誰ってそれは……」

首を傾げている俺を見て、由比ヶ浜もまた首を傾げていた。

え、なに、その苦笑い。俺何もしてないだろ……してないよな?

結衣「あれ、も、もしかしてヒッキー……気付いてないの?」

八幡「気付くも何も意味が分からないんだけど……」

そう言うと由比ヶ浜は口元をひくつかせていた。明らかに引いてんだけど……俺は一体何をしでかしてるっていうんだよ。

彼女は髪の毛を弄りながらチラチラとこちらをみて言い始めた。

結衣「ヒッキーさ、あたしのことフった時『お前とは付き合えない』って言ったじゃん?」

八幡「お、おう……」

結衣「お前とは、ってことは……ヒッキーの中で『この人となら付き合いたい』って人がいるってこと……だよね」

自分ですら気づかなかったことを、由比ヶ浜は、俺の言い回しだけで推測してみせた。

あの由比ヶ浜がこんな頭の良いことをしたことに驚いている……!

口にしたら怒られるから言わないが。

ただ、推測は推測だ。事実とは全く違うものである。

八幡「それはただの言葉のあやだろ。さすがにそれだけで俺にその……す、好きな人がいるとか推測されてもな」

結衣「それだけじゃないよ」

強く言い切った割に、彼女は悲しげな表情を浮かべて視線を下に落とした。

結衣「なんとなく分かっちゃうんだよ、好きな人が自分を見てないってこと……あと誰を見てるのかってこと」

由比ヶ浜だから分かること。俺を好きになったから分かってしまうこと。きっと色々あるのだろう。

ただ彼女の言葉はすんなりと心に入ってきて、自分のことを他人が語っているのにも関わらずなんとなく信じてみようと思えた。

八幡「まあその……そういうのがいるとして、俺が聞くのも変な話だけどそれは誰なんだよ」

結衣「さ、さすがにそれをあたしが言うのはちょっと……」

八幡「……それもそうか」

そんな風に言われてしまえば俺に追求などできない。

でも誰かを言わないならそもそもこの話しないで欲しかったなー。これ絶対今夜寝れないんですけど。

結衣「あー……あ、あたしそろそろ帰るね!」

八幡「このタイミングで話切るのかよ……」

結衣「うぐっ。だ、だってこのまま話してたらぽろっと言っちゃいそうなんだもん……」

八幡「確かにお前からならかなり簡単に聞き出せそうだ……ってかお前、荷物でかくね」

彼女のもってきた荷物は遊びに行くというにはいささか大きく感じる。

来たときは由比ヶ浜が来たこと自体に驚いていたので荷物になど意識が行かなかったが、気付いてしまうと妙に気になって聞いてしまった。

どこぞの右京さん並みに悪い癖だな、治さないと。

結衣「小町ちゃんとお泊まり会する予定だったから……」

八幡「ほう……受験生と……」

結衣「べ、勉強会もする予定だったから!」

由比ヶ浜は視線を逸らしながら口笛を吹いている。誤魔化し方が雑すぎんだろ……。

そして突然「そ、そういえば……」と話をずらしてきた。

結衣「もとからヒッキーと二人きりにさせるのが目的だったなら、なんでお泊まり会しようなんて言ってきてんだろうね」

八幡「あわよくば俺と二人きりで泊まらせて……まあそういうことだろ」

結衣「そういうこと?…………!?」

由比ヶ浜はまた顔を赤くする。さっきから何回も赤面してて体に悪そうだ。

結衣「だ、ダメ!そういうのはまだダメだよ!」

八幡「だから何もしねえよ……」

今日の由比ヶ浜は暴走気味でちょっと疲れる。もう一本MAXコーヒー持ってこようかな……。

八幡「とりあえず小町からは俺から言っとくから、今日のところはお帰り願います。疲れるので」

結衣「う、うん。帰るけどその言い方ちょっとムカつく……」

唇を尖らせて不満そうにしてはいるが、どうやら本当にもう帰るようだ。

さすがにここで勝手に帰れなどと言うわけにもいかず、最低限の礼儀として玄関まで送っていく。

ドアノブに手をかけようとしたところで由比ヶ浜は一旦止まってこちらへ振り向いた。

結衣「ありがとね」

八幡「礼言われるようなことなんてしてねえよ」

結衣「そんなことないよ」

その優しい笑顔を見るのが辛くて、そして由比ヶ浜にだけ本音を言わせているのが申し訳なく感じて、気付いたら口から言葉が漏れていた。

八幡「こっちこそ、ありがとな。……好きになってくれて」

結衣「……うん」

今度はこっちの顔が赤くなってしまう。うわー恥ずかしい俺。なんていうか……軽く死にたい。

結衣「それじゃあ……また、部活でね」

八幡「ん、またな」

由比ヶ浜がドアノブに手をかけ扉を開く。お互いに顔は赤いままだが、こういうのもたまには悪くない。

由比ヶ浜の後ろ姿を見送りながら俺は久々にすっきりとした気持ちで自分の部屋に──

雪乃「……え?」

結衣「え?」

──戻ることは、難しそうだった。

7ふたたび彼のラブコメは動き出す 終

今日はここまで
ケータイが壊れないように皆も祈っててね!

おやすみ!

やっはろー!

投下するよー

オーケー、現状を整理しよう。

まずは由比ヶ浜だ。

『罠にハメられてあたしのことをフった男子と二人きりにさせられて色々話して帰ろうとしたら同じ部活の女の子がその男の子の家に遊びに来てたよ!これからどうなっちゃうのー☆』

うん、ヤバいな。相当ヤバい。何がヤバいって由比ヶ浜の視点から見た俺がクズすぎる。

あと由比ヶ浜の物真似が致命的に下手なのもヤバい。由比ヶ浜厨にぶっ殺されるレベル。由比ヶ浜厨なんているのか知らんが。

次は雪ノ下だ。

『猫を見せてもらおうと男の子の家に遊びに行ったら顔が赤い上に涙目の同じ部活の女の子がお泊まり出来るくらいの荷物を持って出てきたのだけれど。これからどうなるのかしら』

うん、ヤバいな。相当ヤバい。何がヤバいって雪ノ下の視点から見た俺がクズすぎる。

あと雪ノ下の物真似が致命的に上手なのもヤバい。雪ノ下厨に褒め称えられるレベル。雪ノ下厨なんているのか知らんが。

オーケーオーケー。何もオーケーじゃないことは分かった。

こ、こういうときは論理的な思考でロジカルシンキングに行こう。うん。

八幡「ち、違うんだ二人とも。こ、これはその、あれだ……違うんだ!」

なにも悪いことなんてしていないのになぜか俺はかなり焦っており、言いたいことをまとめられないまま口にしてしまう。

これ二股かけた男の言い訳じゃねえーか。なんで一股すらかけたことのない俺がこんなことになってんの。

結衣「ひ、ヒッキー……?」

由比ヶ浜が怯えた声で俺に質問をしてくる。だがインターホンの前にいる雪ノ下は意外と落ち着いていた。

八幡「だ、だから違うんだ由比ヶ浜。雪ノ下はカマクラを見にきただけでお前が考えてるようなことは何もない」

結衣「あ、そうなの?」

雪乃「ええ。あと、小町さんさえよかったら勉強を教えようと思って」

小町のことも考えててくれたのか。運悪く今日小町は外出してしまっているが、そういう優しさは小町にとって勉強を頑張るいい理由になりそうだ。

まあ小町の勉強を見てもらうのはまた今度お願いしよう。こいつが見てくれるなら百人力だ。

小町のことばかり考えていたからか、由比ヶ浜がポカンとしていることに気付くのが少し遅れた。

結衣「え、今日小町ちゃんいないよ?」

雪乃「え?」

由比ヶ浜に続き雪ノ下までポカンとした顔になる。

由比ヶ浜がこちらにギギギと首を動かす。ハイライトが少ないように思われる瞳との相乗効果でわりと怖い。

結衣「小町ちゃんがいないこと隠してゆきのん呼んだの……?」

八幡「いや隠してはねえよ」

結衣「で、でもゆきのん連れ込む気だったんでしょ!?」

八幡「その言い方やめろ」

さっきまで割とシリアスだったのに、なんでこの子はここまで発想が飛躍しちゃうのかね……ああ、さっきまでシリアスだったから反動で飛躍しちゃってるのか。

どっちにしろめんどくさい。

ふと雪ノ下を見てみると、なぜかあの雪ノ下が先ほどの由比ヶ浜のような怯えた瞳で俺と由比ヶ浜を交互に見ていた。

雪乃「きょ、今日……小町さんはいないのよね?」

八幡「ああ、友達と勉強会だそうだ」

雪乃「ちなみに由比ヶ浜さん。その荷物の中は……」

結衣「あ、これ?お泊まりグッズだよ」

雪乃「……邪魔したわね」

スタスタと歩き去っていく雪ノ下。おっとー、これは面倒だ。

結衣「ゆきのん急にどうしたんだろ?」

八幡「……数秒遅れてようやく勘違いしたんだろ」

由比ヶ浜に比べ雪ノ下が冷静だったのは、おそらく小町がいると思いこんでいたからだ。

しかしその勘違いが解けた今、彼女は彼女なりに推測し、結果また勘違いしてしまったのだ。

あいつもだいぶ発想が飛躍しちゃってる。

八幡「由比ヶ浜、帰るついでにあいつ追っかけて勘違い解いてこい」

結衣「勘違い?」

八幡「あいつに聞けばお前も察するはずだ。とりあえず……GO!!」

結衣「命令するなしっ!」

そう言いながら由比ヶ浜はとてとてっと雪ノ下の去っていった方向へ走っていく。

慌ただしい……俺の静かな冬休みはいずこ。

まあ……たまには悪くないかもしれないが。

雪ノ下と由比ヶ浜が一体何を話してどんな経緯を経てどう結果を出したのかは俺には分からないことだが、とりあえず雪ノ下の勘違いは解けたらしい。

なぜそんなことが分かるかと言われれば、勘違いの当事者である雪ノ下が今俺の目の前でカマクラを愛でているからなのであった。

八幡「あの後なのによく平然としてられるよな……」

俺の呟きに回答は返ってこない。無視されたのかと思ったがどうやらそうでもないらしい。

雪乃「あっ、ごめんなさい何か言ったかしら」

猫が可愛すぎて声が届かないんですね。流石ですわ雪乃様。

八幡「いやなんでもない。じゃあ俺部屋で寝てるから。なんかあったら部屋の前で小町か戸塚のこと叫んでくれ」

雪乃「それで起こす方の身にもなってほしいのだけれど……」

八幡「俺の部屋入って体揺さぶって起こしてくれ、なんて言ってもお前嫌がるだろ」

雪乃「当然よ。何をされるか分からないもの……はあ、分かったわ」

しぶしぶ了承してくれたのを聞いて「じゃな」と呟いて階段へ向かう。その途中で雪ノ下に呼び止められた。

雪乃「ひ、比企谷君」

八幡「あん?」

雪乃「その……由比ヶ浜さんとは……」

八幡「だから何もねえよ。んな心配すんなって」

雪乃「別に心配などしていないわ。あなたが誰と何をしようと私には関係ないことだもの」

八幡「由比ヶ浜の心配、って意味だったんだけど……」

雪乃「…………」

そう訂正すると雪ノ下はカマクラと向き合ってしまい、そのままずっと何も話さなくなってしまった。

余計なこと言うべきじゃなかったかしら。

これ以上リアクションを期待しても意味がないと悟り、再び歩き始める。

リビングのドアを開け、廊下に出る直前で雪ノ下の小さな声が聞こえてきた。

雪乃「……おやすみなさい」

八幡「……ああ、おやすみ」

結局、俺は雪ノ下の声でもなく何か他の物音などでもなく、自然に目が覚めるというかたちで起きた。

時刻は四時頃。雪ノ下が来たのが昼過ぎだから、だいたい三時間くらいか。

……三時間経ったのにあいつまだ戯れてんの?

どんだけカマクラ好きなんだよ……流石にカマクラが辛くなってるだろ救助に行くか……。

部屋を出るときも階段を降りる時も物音一つしない。それを疑問に思いながらリビングに出ると、簡単に謎は解けた。

そこにあったのは……ソファに寝転がった雪ノ下の姿だった。

八幡「まじか……」

あの雪ノ下が他人の家で寝ている。しかも男一人の家でだ。

こいつ、俺のこと男だと思ってないんじゃねえの。

カマクラ「ふんすっ」

随分と不機嫌な鳴き声が聞こえる。声はコタツの中からしていた。

まあ雪ノ下に少なからず一時間くらいは弄ばれたんだろうし、今くらいは構わないでやろう。

さて……、雪ノ下どうするかなぁ……。

風邪ひくから起こさなきゃいけないってのは決定事項なんだが……変に起こすとボロクソに言われそうだし、かといって普通に起こしてもボロクソに言われそうだしなにこれチェックメイトじゃん。

どちらでもダメなのであればむしろ逆に吹っ切れる。適当に起こしてやろうとソファに近づき……俺の動きはそこでピタッと止まってしまう。

今日の雪ノ下はスカートだ。ここまで言えば察しのいいやつなら気づくと思うが……その、スカートがめくれて……パンツが……ねえ?

不幸中の幸いといえば、雪ノ下が厚めのパンストを履いていたことだ。そのおかげでうっすらとネコ柄があしらわれている紫のパンツだということしか分からない。いや近くにいるせいでほとんど見えてるじゃねえか。

……どうしようどうしよう、起こしたら殺される気しかしない。これはあれだ、一旦この場から離れて何かで大きな音をたてよう。それで勝手に起きてもらうのが一番平和だ。誰も傷つかない。

雪乃「……寒気を感じたのは、冬だからというだけではないようね」

離れようとした瞬間、殺気を感じる。

声の主の顔を見るのが怖くて体を動かせない。そのせいでパンツを凝視しているみたいになってるんだけど……。

八幡「……起きてらしたんですね、雪ノ下さん」

雪乃「ちょうど今起きたのよ。近年まれに見る最悪の目覚めをありがとう、ゲス谷君」

鋭く氷のように冷たい声音。まるで氷の槍で貫かれたような気分だ。

かといってこのままの姿勢でいるわけにもいかない。そろそろパンツから視線を逸らさないと通報されかねない。

恐る恐る、なんて表現では足りないほど恐怖心を抱えながら、視線を雪ノ下の顔へと移す。

……顔真っ赤じゃん。

八幡「ええと……なんていうかその、申し訳ない」

思わず謝ってしまう。事故とはいえパンツ見ちゃったし……あとそんなになるまで恥ずかしい思いさせちゃったし。

由比ヶ浜のときもそうだったが、事故やアクシデントで女子の下着を見るとすっごく罪悪感があるな。罪悪感強すぎて性欲とかわいてこないレベル。……ごめん言い過ぎた、ちゃんとわいてる。

雪乃「そんな苦笑いされながら謝られても、まるで誠意を感じられないのだけれど」

罪悪感をこめまくった俺の謝罪は、残念ながら雪ノ下の心には響かなかったらしい。

ほらー、だから言葉にしたら伝わるだなんて幻想だって言ったじゃないですかー。……はあ。

いかにして俺が心の底から申し訳ないと思っているかを伝えようと頭をフル回転させている間に、雪ノ下はソファから降りて俺から離れる。

手早くスカートを直したと思いきや、なぜか俺に言い訳でもするかのように早口でまくしたて始めた。

雪乃「いつもは違うのよ」

八幡「は?」

雪乃「今日は猫の絵柄が入っている少し子供っぽく見えてしまわないこともない下着だけれどいつもは違うの。あなたに私の身につけている下着の柄を詳しく説明する気はないけれどいつもはもう少し女子高生然というか女性然とした私くらいの年齢の女子ならば持っていてもおかしくはない普通のもの身につけているわ。今日は猫と戯れる予定があったから少しでも猫に警戒心を抱かせないようにするために偶然たまたま何の因果か持っていた猫柄のこの下着を履いていただけで普段はレースの──」

八幡「待て待て待て待て」

雪ノ下の謎の弁明がついにパンツの柄説明に入りかけたところで俺は制止をかける。

八幡「お前……最初に詳しく言うつもりはないとか言ってなかった?」

雪乃「……そうね」

首肯する雪ノ下の顔は相変わらず赤く、近くの椅子に座り直してからもずっとスカートの裾を押さえていた。

……気まずい。沈黙は苦でないが、こういうのは辛い。

なんとか空気を持ち直そうと会話を試みるものの、雪ノ下からは空返事ばかりだ。おまけに俺ももともと会話スキルがあるわけでもないのですぐに会話は終わってしまう。くそっ、スキルポイントをもっと会話に振り分けるべきだった。

仕方ない……こうなったら由比ヶ浜に一肌脱いでもらうしかないな。

八幡「ま、まああれだ。男の俺が言うのもなんだが、下着を見られるアクシデントなんてよくあること……だと思うぞ。由比ヶ浜もこの前ちょっとした過ちで俺に下着見せてきたからな。しかも上下」

雪乃「!?」

雪ノ下がようやくリアクションらしいリアクションをとった。この調子なら何とかなるかもしれない。

由比ヶ浜には心の底から悪いと思ったが、雪ノ下のためにももう少しこの話題を続けることにした。

八幡「お互いあんなことになるなんて夢にも思ってなかったから驚いたわ。色々あって眠れない夜を過ごしたし」

あのときの事を思い出す。罪悪感でその夜丸々眠れなくて本当に辛かった……。そしてその時のことをこうやって人に話してるあたり俺のクズ加減がいよいよ手の付けようがなくなってきてて死にたい。

思い出と自殺願望に俺が戦って負けそうになってる間、雪ノ下は俺に何かを言いかけてわやめ、言いかけてわやめを繰り返していた。

不思議に思いながらもその言いかけた言葉がはっせられるのを待つ。しばらくして、ようやく雪ノ下は声を出した。

雪乃「あなた、由比ヶ浜さんと……ど、どこまでしたの……?」

今日はここまでー。

更新頻度が遅すぎてホントごめんなさい。

来月ケータイ変えるので、そしたらもう少しペース上けたいと思います。(予定)

それではまた来月あたりに!おやすみなさい!

ひゃっはー!1だぜ!

来月と言ったな、あれは嘘だ。
忙しいし煮詰まってるし童貞卒業出来ないしで筆が進まねえよチクショウ!

ただこんな中途半端な、しかもここから特に盛り上がるわけでもないとこで放置もあれなんでキリのいいとこまで投下します。

八幡「どこまでって……なにが?」

雪乃「いえ、別にその……言いたくないのなら無理に言わなくていいわ」

八幡「だから何がだよ」

雪乃「誤魔化さなくてもいいと思うのだけれど。……下着を見て、そのあと眠れない夜を過ごしたのでしょう?つ、つまり……その……。女性にこんなことを言わせるなんて最低ね」

いまいち雪ノ下の言ってることが理解できないのだが、とりあえず何かを勘違いされてることと理不尽なことを言われているのは理解できた。

しかし……雪ノ下はなんで顔を真っ赤にしてるんだ。……あ、キレてんの?まあこんなこと聞いてもキレてないっすよとしか返ってこないよな、返ってこないな。

八幡「っつーかお前、俺と由比ヶ浜の関係勘違いしてない?あいつとはなんもないからな」

雪乃「されたのでしょう?……告白」

八幡「……なんで知ってんだよ」

意味ありげな倒置法に、俺の声音は無意識に攻撃的になっていた。

落ち着いてきた雪ノ下が窓の外を眺めながらゆっくりと話始める。

雪乃「さっき、由比ヶ浜さんが誤解を解きに戻って来たとき言っていたのよ。……そのあと、悪いことをしたわけでもないのに謝ってきたわ」

八幡「あいつにとっちゃ悪いことだったんだろ。もしかしたら今の奉仕部を壊してたかもしれないんだから」

雪乃「それでもよ。それが悪いこととは思えないの。自分の気持ちに向き合って……そして気持ちに素直に行動する。それはもちろん悪いことになることだってあるけれど、今回のは違うわ。もっと……凄いことだと、私は思う」

八幡「あいつにとって、それは凄いことでもなんでもないってことだろ。……俺やお前とは違って」

雪ノ下は少しだけ言葉に詰まっていたが、 「そうね」 とだけ返すとそれから何も話さなくなった。

俺から話しかけるようなこともなく、静かに時間が流れていく。普通なら居心地の悪い時間だが、こいつとだとそうでもない。

八幡「……っていうか俺たち何の話してたんだっけ」

雪乃「あなたがゲスという話でしょう?」

俺と雪ノ下の勘違いは約30分以上話し合い、俺はゲスではなくクズだという結論で落ち着いた。ハチマン、ナイテナイヨ。

八幡「で、この後どうすんの?」

雪乃「帰るに決まっているでしょう。まさかあなたしかいないこの家に泊まっていけと?」

八幡「言わねえよ。言わねえからカマクラ離せ」

雪ノ下にがっちりホールドされているカマクラは手足をばたつかせながら脱出を試みていた。……過去形なのは、今はすでに脱出を諦めているからである。

諦めるなよ!お前そのままだと雪ノ下の家に誘拐されかねないぞ!

雪乃「……離さなきゃダメ?」

少し甘えた声で聞いてくる雪ノ下のギャップが大きすぎて危うく許可しそうになる。カマクラの生殺与奪をそんな理由で雪ノ下に渡すわけにも行くまい。

八幡「ダメだ。つーかそんなに遊びたいならまた来ればいいだろ」

雪乃「驚いたわ。あなたの口からそんな言葉が出るなんて……熱でもあるの?」

八幡「いや普通だろ。小町がいるときに来てもらえれば俺は部屋でこもってるだけでいいんだから」

雪乃「だから、なぜあなたには自分でもてなすという発想がないのかしら」

八幡「そりゃお前、俺にもてなされて喜ぶやつなんて材木座くらいしかいないからだ」

反論の余地がない俺の発言に、雪ノ下は少しだけカマクラに視線を落とす。何かを迷っていたようだが、少ししてゆっくりと口を開いた。

雪乃「あなたは自分を過小評価しているわ。自分の価値にもっと気づくべきよ」

そう呟く雪ノ下の声音は優しく、本当に雪ノ下が言ったのかすら怪しんだほどだ。だが、当然雪ノ下以外にこの場で声を発する者などいない。

それを意識したとたん、無性に恥ずかしくなって雪ノ下の顔を見れなくなってしまった。

雪乃「……何か言ってくれないかしら」

八幡「あ、ああ……その、サンキュ?」

雪乃「何故疑問系なのかしら……」

雪ノ下は少し不満げだったが、こんなことを言われてスラスラと返事を返せるようなイケメン力を求めないでほしい。

八幡「まああれだ。なら次も俺がもてなすよ。……次があればな」

雪乃「あなたは本当に一言余計ね。あまり期待はしないでおくわ」

雪ノ下がカマクラを名残惜しそうに離す。解放されたカマクラは解放感を味わうように全力で伸びをしたあと、これまた全力で雪ノ下から逃げ出した。

雪乃「それじゃ、私はそろそろ帰るわ」

八幡「あいよ。玄関まで送る」

そういって雪ノ下の後をついていく。もちろん、この後外に出たらまた……みたいな展開はなく、雪ノ下は普通に帰っていった。

良かった……これでまた扉の外に誰か居たら軽く泣くとこだった……。

なにはともあれ。

これで今家の中には一人だけ。女子二人とあんなやりとりをしたあとに一人きりの家でやることなど決まっている。

自室に戻り布団を頭まで被る。

そして。

八幡「ああああああ!!恥ずかしい!死ぬ!死なせてくれええええ!!!」

ラブコメの主人公のような一日を振り返り、恥ずかしさに身悶える。

小町が帰って来て「え、うわあ……」と本気で引くまでこれはずっと続いたのだった。

8 ゆえに彼は躓きながら進んでゆく 終

長い間待たせたのにごめんね!次回もこれくらい待ってくれると嬉しいな!

投下間隔を短くできるようには頑張ります。
おやすみなさい!

やっはろー!

いっくよー!

比企谷八幡ラブコメ事件から二日後、久しぶりの奉仕部の活動日。

天気予報では俺たちの下校時刻は大雨とのことだったが、ノーテンピーカンと空は晴れている。おかげですいすいと自転車で登校することができた。

だが、部室の雰囲気は外の晴れすら陰らせるほど曇り模様だ。

八幡「……」

雪乃「……」

結衣「……」

俺が静かなのはいつものことだから問題ない。しかし雪ノ下、そして由比ヶ浜がなにも喋らないというのは異常事態だ。

何か話せよ……空気が重いんだけど……。

静かな部室。重い雰囲気。ここ最近こんな感じになることがやけに多い気がする。いや今までのに比べたらだいぶマシではあるだろうがそれでも……つらい。

部活開始から2、30分ほど経ったころ。小さなノックによってようやく静寂が打ち壊された。

雪乃「……どうぞ」

予想していなかったノックに驚いているのか、やや控えめな声で雪ノ下が返す。

俺と由比ヶ浜が扉に視線を集中させていると、扉は勢いよく開かれた。

いろは「お久しぶりでーす。あ、せんぱーい、冬休みですけどちょっと手伝ってもらえませんか?」

挨拶もほどほどに、拒否を許さない笑顔で俺に声を掛けてきたのは……生徒会長、一色いろはであった。

八幡「なんでお前学校いんの?」

俺の記憶が正しければあと少しだけ冬休みのはず。こいつ一人だけでがっこうぐらししてんの?

いろは「それが聞いてくださいよー。生徒会だからって冬休みも登校して業務やらされてるんですよー」

八幡「へー」

いろは「へー、じゃないですよ!可愛い後輩が遠回しに困ってるって言ったら普通助けてくれませんか?」

八幡「自分のこと可愛い後輩とか言っちゃうやつ助けようとは思わん」

いろは「じゃあどんな人なら助けてくれるんですか」

八幡「小町と戸塚」

いろは「限定的すぎますー!」

俺にブーイングする一色を見かねたのか、額に手を添えたまま雪ノ下が会話に入ってきた。

雪乃「それで、手伝いというのは?」

いろは「今日だけ生徒会のメンバー都合がつかなくて、私一人なんですよー。それだと暇……人手が足りなくてー」

八幡「暇って言ったよね今」

最近の一色は俺たちの前だとあざとくするのを忘れることが多い気がする。建前だけでもちゃんと言えよ……。

いつもならここでもう少し嫌がって粘るのだが……今日はなんというかその……居心地が悪い。昨日の今日だから俺だけでなく三人ともがどんな感じでいればいいか決めあぐねているのだ。

ならば少しばかりクールタイムを取ってもよかろう。

ヘタレじゃない。戦略的撤退だ。

八幡「まあ、俺もやることがあるわけけじゃないし……一日くらいなら手伝ってやらんこともない」

いろは「……? あ、はい。ありがとうございますー」

八幡「なんか今、間がなかったか?」

いろは「ああ、いえ。ただいつもならもっと嫌そうにしてるなーと思いまして……あ、もしかして私に会えなくて寂しかったとかですかごめんなさい気持ちはよく分かりますけどそういうのはもっと人がいないときに言ってください」

八幡「……うん、もうそれでいいわ」

一色がよく分からない理由で俺をフるのにはもう慣れた。まさか告白してもないのにフラれることに慣れるとは思わなかった……。

雪ノ下も由比ヶ浜も苦笑しながら俺を見送る。俺がいない間に二人がどんな話をするか少し気になったが、一色に急かされすぐに部室を出ることになった。

冷気の充満した廊下。いつもは中庭から部活動の掛け声が合唱のように聞こえ来るのだが、どうやら今日はどこもお休みのようだ。羨ましい。

俺と一色以外の物音が何も聞こえてこないこの空間が寒さをより一層際立たせた。

いろは「そういえばー、先輩LINEやってるって本当ですか?」

八幡「……それ聞いてどうすんだよ」

いろは「普通に教えてもらおうかと。っていうかそう聞くってことはやってるってことでオーケーですか?」

急に口を開いたかと思えば、想像もしてなかった話題を出される。っていうかそれ誰から聞いたんだよ。

いろは「結衣先輩から簡単に聞き出せました」

八幡「由比ヶ浜からか……あれ?今お前俺の心読んだ?」

いろは「というわけでLINE私にも教えて下さい」

八幡「構わんが……やっぱ俺の心読んだよね?読心術使ったよね?」

いろは「しつこい男は嫌われますよー」

八幡「えー……」

文句を垂れながら、ケータイを取り出す。

友だち登録については絶対こいつの方が詳しいだろう。なら下手に俺がいじるよりこのまま渡してしまった方が楽だった。

八幡「じゃあ操作頼ん……」

ケータイを受け取ろうと一色が手を出したところで、俺の動きが少し止まる。

今まではケータイに見られて困るものはなかった。履歴もちゃんと消してたし。

だが今もそうか?答えは否だ。こいつに俺のLINEを見られようものなら泣きながら部室に戻る自信がある。むしろその部室からすら追い出されるレベル。

いろは「先輩、どうかしました?」

八幡「い、いやなんでもない。ちょっと待っててくれ今やるから」

いろは「貸してもらえればやりますけど」

八幡「まあまあ」

いろは「……はっはーん。さては先輩、女の子に見せられないようなもの入れてるんじゃないですかー?」

不審に思った一色にさすがに気づかれてしまう。なんとか誤魔化そうとは思ったがさすがに俺の演技力では欺ききれないだろう。

八幡ピンチ!

八幡「えーと、だな……」

いろは「ふふっ、別に見せろだなんて言いませんよ。まあ先輩の性癖には少し興味ありますけど」

八幡「そういう見せられないじゃないから」

いろは「じゃあどういう見せられないないんですかー?」

八幡「ちょっとだけこっぱずかしいLINEが……あっ」

いろは「へー……LINEですか」

一色がいやらしく口角をあげる。

これじゃあ由比ヶ浜のこと笑えねえ……っていうか誘導尋問上手すぎでしょこいつ。そのスキルどこで手に入れたんだよ。怖い、いろはす怖い。

いろは「まあそういうわけなのでLINE交換しましょうか」

八幡「……はい」

別段LINEを教えるのが嫌だったわけではないが、今はなんというか……怖い。この子どこに向かってるの?第二の陽乃さん?

八幡「お前、LINEの名前『ワンカラー』なのか……」

いろは「なにか文句でも?」

八幡「そうじゃねえよ、思ったよりシンプルで驚いただけだ」

こいつのことだからもっと訳が分からない名前にするか、由比ヶ浜みたいに出会い系メールの名前みたいな訳が分からない名前にするかと思ってたんだが……。

まさかここまでシンプルな名前にするとは一周回ってまったく訳が分からないよ。今ならキュゥべえの気持ちがよく分かる。まあワンサマーよりはいいか。

八幡「『ワンカラー』……。確かに俺もゲームで『エイトマン』ってつけることあるし、人のことは言えないか」

いろは「はあ、そうなんですか……はっ!もしかして名前に数字が入ってる共通点使って好感度上げようとしてますかごめんなさい少ししか嬉しくないので苗字同じにするくらいの共通点でもう一回出直してください」

八幡「はいはい……つか俺とお前の数字じゃ、なんか一か八かみたいな感じでそんないいもんじゃないだろ」

いろは「でも私たちにはぴったりだと思いません?」

八幡「俺はともかくお前は違うだろ。お前は計算し尽くして安全な道しか歩かないってタイプに思えんだけど」

いろは「そんなことないですよー。ついさっき一か八か賭けに出たところですから」

八幡「ほーん、お前も大変だな」

いろは「……ええ、ほんと大変です」

げんなりとした表情を見せ、一色は一人で先へと進んでしまう。あいつがあんなに苦労するってことは大方葉山関係だな。ほんと罪な男だよあいつは。

そんな思考を巡らせながら一色の後をついていく。

廊下の温度がさらに低くなったように感じたのは、きっとただの気のせいだろう。

いろは「……ふう」

生徒会のお手伝いは一時間ほどかけてなんとか終了した。

簡単に書類の整理とだけ言われていたのでファイリングでもするのかと思いきや、書類の詰め込まれたダンボールを整理するというかなりの肉体労働だった。

それならそうと先に言えよ……もうちょっと覚悟とか決められたのに……。

なぜか生徒会室の冷蔵庫に置かれていたMAXコーヒーをちびちび飲みながら放心していると、独り言のように一色が小さく呟いた。

いろは「動いたせいでちょっと暑くなっちゃいましたね」

そういって一色がゆっくりとブレザーを脱いでいく。下にどれだけ服を着ていても女子が何かを脱ぐという行為にはどうしても視線が引き寄せられる。

そこで終わりかと思いきや次はカーディガンのボタンに手をかけた。

ピンクのカーディガンのボタンが一つ、また一つと外されていく。凝視なんてしたらあとでどれだけ罵倒されるかなんて分かっているのに、どうしても視線を外せない。

全てのボタンを外し終え、やけにゆっくりとカーディガンを脱いでいく。その姿がやけに扇情的で食い入るように見つめてしまう。

そしてカーディガンを椅子にかけると次はワイシャツに……!?

いろは「……脱ぐわけじゃないですよ?」

軽蔑の眼差しを送ってくる一色は、ボタンを一つだけ外してパタパタとワイシャツで扇ぎ始める。

み、見てたのおもいっきりバレてた……!

いろは「あそこまで露骨に私の事凝視できるだなんて逆に尊敬できますよ」

声音がかなり冷たい。今こいつに雪ノ下が憑いてるって言われれば信じてしまいそうだ。

っていうか俺の視線感じてたならせめて途中で何かしらアクション起こしてくれませんかね。それに今もワイシャツのボタン開けてパタパタしてるせいでブ、ブラがちらちら見えてるんですけど!

いろは「先輩ってまあ女慣れしてるとは思いませんでしたけど、あんな綺麗なお二人とずっと一緒にいるしもっとスマートな対応できると思ってたんですけどねぇ……」

八幡「別に二人とはそんなんじゃないって言ってるだろ。それにお前が思ってるより男ってのは単純なんだよ」

いろは「知ってますけど」

八幡「ですよねー」

知ってるからこそ俺のことをここまで手玉に取れるのだろう。分かってて乗ってあげる八幡君優しい!……あれ、これ俺が単純なだけじゃねえの。

一色がワイシャツだけでなくスカートまでパタパタさせ始めたのでさすがに今度は頑張って視線を外す。

まあ俺と一色は机挟んで座ってるからパンツは絶対見えないんだが。

いろは「そういえばー、先輩ってあのお二人とまた何かあったんですかー?」

いきなりの質問に視線がまた一色へ向いてしまう。その質問とチラッと見えた下着が俺から冷静さを奪ってしまった。

八幡「べっ、別に何もないですよ、ええ」

……もっと誤魔化し方あるだろ俺!と、自分に突っ込む暇すらなく一色が追撃を仕掛けてくる。

いろは「あ、そういえばさっきLINEがどうとか……もしかして……」

八幡「な、何もないってホント何も……きゃあっ!」

じ、自分ですら吐き気がするような悲鳴をあげてしまった……。なんなのこの無駄な女子力。俺は主夫力が欲しいんだけど。

いろは「……先輩どうしたんですか?気持ち悪いですよ?」

八幡「真顔で言うな分かってるから。今LINEの通知でケータイが震えてな」

LINEの話で追い込まれてるときにLINE来るとか不吉すぎるからやめてほしい。ほら、一色が妖しく目を光らせてるじゃないですかー。

いろは「結衣先輩ですか?雪ノ下先輩ですか?」

八幡「なんで二人に限定するんだよ。えーと……?」

画面に表示された名前を確認する。確認する。確認する……。

いろは「せ、先輩?なんでそんな泣きそうな顔を……」

八幡「なんでもない、なんでもないんだ……」

画面に表示された、たったの四文字。そのアカウント名は俺の心拍数を上げるのに充分すぎた。

は。

る。

の。

ん。

そういや、小町が前に不吉なことを言ってたな……。あれから何もなかったからてっきり冗談で言ったものだと思ってたのに、これ八幡的にポイント低すぎるんだけど。

to:雪ノ下陽乃

陽乃【ひゃっはろー♪】

陽乃【元気してる?】

ただの挨拶すらなんらかの牽制に思えてしまうような陽乃さんからのLINE。

どう返したものか、というか返さなきゃだめなのか既読スルーしちゃおうかなとか考えているうちにさらにLINEが送られてきた。

陽乃【ところで雪乃ちゃんいる?】

八幡【俺今生徒会室いるんで】

陽乃【ほう、いろはちゃんのお手伝いかな?】

八幡【ええ、そうですよ】

意外にも普通な問いかけしかしてこない陽乃さんのLINEに安堵する。チラッと一色を見ると不安げに首を傾げていた。

八幡「なあ、お前雪ノ下陽乃って人知ってる?」

いろは「知ってますよ。雪ノ下先輩のお姉さんですよね?城廻先輩に紹介されてこの前会いました」

八幡「会ったのか……」

めぐり先輩を通じてお互いのことを知ってんだろうな、とは思っていたが既に出会っていたようだ。

ろくなことになる気がしないんだけど。あ、もしかして一色を怖く感じるようになったのってその邂逅が原因じゃねえの?

いろは「先輩もはるさん先輩とお知り合いなんですよね?はるさん先輩が楽しそうに話してましたよ?」

八幡「楽しそうに?……ああ、なるほどな」

それは面白い人として語っているのではなく面白い玩具として楽しく語っているのだろう。

あの人が何を目的としているのかは分からない。分からないからあの人の掌から抜け出せない。

いつかあの人をあっと言わせる日が来るのだろうか。

いつ来るかも分からない未来の想像を早々に切り上げ、もう一度LINEへと意識を戻す。

八幡【雪ノ下に用があるならそっちにLINEすればいいじゃないですか】

陽乃【えー、つまんなーいー】

八幡【そう言われても】

陽乃【それに今ブロックされてるから】

八幡【なにしたんですか】

陽乃【なんにもしてないよー(*^^*)】

この人の絵文字なんて見ても可愛いとは思えない。ただ恐怖を感じるだけだ。

……いやホントだからね?別に陽乃さんが絵文字打ってるとこ想像して若干口元が綻んでなんかないから。それを見た一色がドン引いてるとかもないから。

陽乃【まあ、それに】

陽乃【比企谷くんに私からLINEが来たら】

陽乃【雪乃ちゃんはどう思うかな?って思って】

綻んでいた口元がすぐにひきつってしまう。いい性格してんなこの人。

八幡【そんなこと言ってるからブロックされたんじゃないですか】

陽乃【これくらいどこの姉妹にもある普通のことだよ】

八幡【あなたの言う普通は信じられないですね】

陽乃【誰の言う普通なら信じられるのかな?】

陽乃さんの挑発的な問が、ケータイを操作する手を止める。

この人はどうして人が考えたくないことを掘り下げてくるのか。

いや、考えなければならないことか。

俺は誰の言う普通なら信じられるのか。
俺は誰の言うことなら信じられるのか。

俺は。

俺は誰かを本当に信じたことがあるのだろうか。

陽乃【既読スルーはひどいなー】

陽乃【なにか考え事かな?】

八幡【なんでもないです】

八幡【結局なんの用だったんですか】

陽乃【んー?】

陽乃【あ、やっぱりなんでもないってことで】

八幡【分かりました】

陽乃【そうやって深く聞いてこないとこ、好きだよ】

八幡【俺も大好きですよ】

こうやって人と関わらず孤高を貫いてるところとか超大好き。自分が好きすぎて自分で自分を養いたいまである。いややっぱりなしで。

ここで一度LINEが止まる。別にLINEの返事が遅い程度気にしない……というかむしろ休めるタイミングができて嬉しいくらいだ。鬼の居ぬ間になんとやら。俺の場合はMAXコーヒーな。

MAXコーヒーも飲み終わり、ここでLINE終わりにしていいのかと判断に迷っていたところで、ようやく返事がきた。

陽乃【比企谷くん比企谷くん】

八幡【なんですか】

陽乃【今のLINE、私への告白みたいな感じで加工していろんな人に送ったんだけど】

陽乃【その後どう?】

八幡【どう?じゃないんですけど】

八幡【何してくれてんですか】

陽乃【許してにゃん♪】

八幡【くっ、可愛い】

陽乃【あ、今のも送っといたよ】

八幡【その仕事の速さは他のところで活かしてくれませんかねぇ!!】

また何か返事が返ってきていたが既読だけつけて一旦ケータイを消す。

誰だ、あの人誰に今のLINE送ったんだ……。

いろは「せ、先輩」

八幡「あん?」

俺の挙動不審さを見かねてか、一色が声をかけてくる。正直まともに相手できるほどの余裕はないんだが……。

いろは「先輩って……はるさん先輩と付き合ってるんですか……?」

目の前にいたっ!LINE送られた人目の前にいたよっ!

八幡「あー、付き合ってるわけじゃないんだが……あれだ。その、ハメられてな」

いろは「ハ、ハメ……!?」

俺の言葉を聞いた瞬間、一色は顔を真っ赤にしていた。なんだ、インフルエンザにでもかかったのか。

八幡「あの人は本当に手慣れてるっていうか……言葉巧みによくあそこまで俺をハメられるよな。っていうか俺がハメられやすいだけなのか」

いろは「手慣れて……それ私に言われても困るんですけど!」

八幡「それもそうか……。あ、お前あの人に近いものを感じるけど、だからって俺のことハメようとするなよ」

いろは「私をなんだと思ってるんですか!? 」

八幡「第2の雪ノ下陽乃候補」

いろは「心外です!」

八幡「そうか?お前もたまに俺のこと罠にハメようとしてるだろ」

いろは「せ、先輩をハメるだなんてまだ早……え、罠?」

八幡「おう、まあ正確に言えば今回は俺の自爆だけどな。でもあの人、今回以外にもしょっちゅう罠にハメようとしてくるし……っておい、机に顔伏せてどうした。インフルか?」

いろは「……心配しなくても大丈夫です。ただの不治の病なので」

八幡「そ、そうか……」

先程まで俺に無駄に元気に突っかかってきた面影はどこにもなく、消え入りそうな声で俺に返事をする一色の姿がそこにはあった。

いろは「あ……今日のお礼にMAXコーヒー何本か持ってっていいですよー……」

八幡「ん。ありがたくもらっとくわ」

立ち上がり、一色が勝手に持ち込んだ冷蔵庫のMAXコーヒーを取り出す。数量指定されなかったけどたくさん持って帰っちゃっていいのかな。……3本くらいにしとこう、後が怖い。

いろは「せんぱーい」

不治の病と戦っていた一色から、いつものようにあざとい声が聞こえてくる。

あの短時間で不治の病に勝ったの?それどこらへんが不治?

いろは「……先輩ってホントに彼女とかいないんですか?」

八幡「いるように見えるか?」

いろは「見えるから聞いてるんじゃないですか。……あのお二人とか」

八幡「どんな目してんだよ……違うに決まってんだろ。彼女だっていないどころかいたことすらない。むしろこれから作れるか不安ですらある」

そう答えても一色はまだ俺へ疑惑の眼差しを向けている。おいおいこんなやつのどこに彼女いそうな要素あるっていうんだよ。

自分で言って泣きたくなってくる。

いろは「そうですか。……それならいいんですけど」

八幡「……? まあ何がいいのかはよく分からんが、そろそろ戻ってもいいか?」

いろは「あ、はい。ありがとうございました。またよろしくです」

八幡「あいよ。嫌だけど」

いろは「素直じゃないですね」

八幡「いやいや限りなく素直だろ。自分の気持ちに」

いろは「先輩ほど自分の気持ちに嘘ついてる人もそうそういないと思いますよ?」

八幡「……お前は俺をどう見てるんだよ」

いろは「ひ・み・つです」

意地悪げに答える一色の笑顔を見ると、もう何も聞けなくなってしまう。あざとい、いろはすあざとすぎる。

八幡「ま、特に知りたいわけでもないからいいけど。んじゃ、また休み明けな」

いろは「ええ。……その前にまた依頼しにいくかもしれませんが」

八幡「休み明けまで会わないことを祈っとくわ」

それだけ言って生徒会室を出る。再びひんやりとした空気に襲われるが、体を動かしたあとなので心地いい。

さて、それじゃあ行きますか。

ほぼ100%陽乃さんからさっきのが送られているであろう二人が待つ部室へ。

……超帰りたいんですけど。

今日はここまで!

せめて月1で投下できるよう頑張ります……

おやすみなさい!

やっはろー

モンハン発売されましたね、ってことで察して下さい。

今年中に完結は無理でも、もう一回くらい更新したいとは考えてます。

とりあえず短編一個投下
今日はこれだけです。
おやすみなさい!

「中の人」

~おーねがい、シーンデレラ~♪

小町「お兄ちゃんまた新しい音ゲー?この前までラブラなんちゃらってのやってなかったっけ」

八幡「ラブライブな。そこまで言ったなら全部言えよ」

小町「このセンター?っていうポジションにいる人がお兄ちゃんの好きな人?」

八幡「ああ」

小町「高垣楓……雪乃さんに声が似てるような……」

八幡「偶然だろ」

小町「そういえばラブライブがアニメでやってたときのお兄ちゃんの推しキャラ、高坂雪なんとかさんって人……」

八幡「高坂雪穂な、お前わざとだろ」

小町「あの人の声、結衣さんに似てなかった?」

八幡「……ぐ、偶然だろ」

小町「ふーん、ところでお兄ちゃん。深く考えずに答えてほしいんだけど」

八幡「なんだ?」

小町「高垣楓さんと高坂雪穂さん、どっちが好き?」

八幡「……え」

小町「大丈夫大丈夫、別にどっちの方が好きだからって何かあるわけじゃないから。結衣さんと雪乃さんに報告とかしないから……ウェヒヒ」

八幡「えっと、……高……や、やっぱあれだ、両方とも好きってことで」

小町「ふーん……まあ今回はそれでいいよ」

小町(ほうほう、高……ね。っていうことはつまり……ふふ)

小町「お兄ちゃん、頑張ってね!」

八幡「うるせ」

今日の夜年内最後(多分)の投下します
完結してないから緩い感じで待っててね!

やっはろー!1です

投下します!
ただ今日睡眠時間足りなくてやばいので多分今日と明日の2回に分けます。

雪乃「お帰りなさい。仕事は楽しかったかしら?」

部室の扉を開けると雪ノ下に優しく迎え入れられた。

その声音はとても優しく、笑顔も優しいものだった。隣にいる由比ヶ浜の笑顔も相まって部室全体に優しい空気が流れているようだった。

そんな空気の中だからこそ、目が笑っていないという事実が余計恐怖を与えてくる。

結衣「ヒッキーどうしたの?なんでこんな寒いのに汗かいてるの?」

由比ヶ浜の目が「なにしてきた?言うてみ?」と問いかけてくる。別段悪いことなどしていないし、むしろ学校のために粉骨砕身頑張ってきたところなのになぜこんな修羅場を経験しなければならないのか。

八幡「いや、ちょっとな。生徒会の仕事が肉体労働だったから……あとあれだ、もしかして陽乃さんからなんか来たか?」

やましくないのなら自分から言うのが得策。つか、この二人あの人の性格知ってんだから俺が罠にハメられたってことくらい分かってくれよ、どんだけ冷静さ失ってんだよ。

雪乃「ええ、由比ヶ浜さんの方に来ていたわ。随分と仲がいいのね」

相変わらず雪ノ下の目は笑っていない。

くっ、どうやったらこいつに笑顔を取り戻せるんだ……!あ、今の主人公っぽい。全部保身のためだけど。

結衣「よく見れば陽乃さんが画面少し弄ってるのは分かるけどさ……でもヒッキーがこんな感じでLINE送ったのは本当なんでしょ?」

雪乃「姉さんのことを可愛いと言ったり……だ、大好き……と言ったりのも」

もにょもにょと「大好き」と言う雪ノ下に数秒目を奪われる。

ああもう顔を赤らめるなチラチラ見るな意味ありげに咳き込むななんかちょっと緊張しちゃうだろうが。

八幡「た、確かに可愛いとは言ったがあれはふざけ半分……いやふざけ全部だし……大好きってのについては、陽乃さんじゃなくて俺のことが大好きって意味だからな」

雪結「は?」

二人がタイミングをぴったり合わせて口を開く。呆れ半分……いや呆れ全部といった感じの二人の視線は俺のことを見下しきっている。

八幡「いやだから陽乃さんが俺のことを好きって言ったから、俺も俺のことが大好きですって意味でそう返してだな……」

二人の視線がどんどん冷たくなっていく。ただでさえ寒いのにさらに追い討ちかけるとかなにこれ修行?俺にお坊さんにでもなってほしいの?タケル殿ォォォ!!って叫ぶくらいしかできないぞ。

雪乃「……こんなときなんと言えばいいのかしら……言葉が見つからないわ」

結衣「まあ……ヒッキーだからね……」

八幡「いやその理論はおかしくない?つか俺が俺を好きとか前から知ってただろ?……話聞けよ」

俺のことを無視して会話を始めた二人にため息をつきながらいつもの位置に座る。空は少し曇ってきたが、部室は朝より晴れもように思える。

無言で差し出された紅茶を味わいながら、俺はいつものように本を読み始めた。

とりあえず。

可愛いと言った件について言及されなくて本当に良かった……。

俺が戻ってきてからも特になにがあるでもなく、ゆっくりと時間が過ぎていくだけだった。

このまま今日は終わるかと思っていたところで、急に扉が開かれた。

ノックなしで無遠慮に扉を開ける人間など一人しか知らないので見なくても誰なのか分かってしまう。確信を持ちながら視線を本から入り口へ移せば、そこにはやはり想像通りの人物が呆れた表情で立っていた。

いや呆れたいのはこっちなんですけど。そろそろノック覚えましょうよ。

平塚「まだ残っていたのかね君たちは」

雪乃「ええ、まだ下校時刻には余裕があるので……それがどうかしましたか?」

平塚「どうかもなにも……カーテンを閉めているのか。開けて外を見てみたまえ」

外を見ると、大雨になっていた。さっきまで青が垣間見えていた空は、今や一面に雲に覆われてしまっている。雲もかなり暗い色をしていてますますひどい天気になることを予想させる。

結衣「うわあ……全然気づかなかった……」

雪乃「午後から天気が崩れるとは言っていたけれど、ここまでとは……」

平塚「これから雷雨になるそうだ。私も仕事が一段落着き次第帰る。君たちも急いで帰る準備をしたまえ」

そういうと、平塚先生は頭をかきながら静かに扉を閉めた。

ああ……あの表情からするとまだまだ仕事が残ってるんだろうな……。雨が酷くなる前に帰れるように祈っとこう。南無三。

雪乃「帰れなくなっても困るから、先生の言うとおりに今日は終わりにしましょうか」

結衣「だねー」

お、良かった終わるのか。このまま泊まっていきましょうとか言われたらどうしようかと思った……。

合宿でもないのに泊まってまで部活していくとか完全に社畜育成のためのサナトリウムだよな。ちなみに専業主夫のためのサナトリウムはないのでしょうか。

結衣「……明日は晴れるかな」

八幡「んなもん明日にならないと分からないだろ」

結衣「そうだけど……」

八幡「……予報じゃ朝までには止むっつってたし、まあ大丈夫じゃねえの」

結衣「うん……うん。そうだね、晴れるよね!」

急に笑顔になった由比ヶ浜にどう声をかければいいのか分からず、つい雪ノ下の方を向いてしまう。雪ノ下は由比ヶ浜に何をいうでもなく、優しく微笑んでいた。だが俺の視線に気付くと、小さく咳払いをしてから鞄を持って立ち上がった。

雪乃「それでは私は鍵を返しに行くから……」

結衣「じゃあいつもの場所で待ってるね!」

雪乃「……いえ、こんな天気なのだから今日は帰れるうちに帰りましょう」

結衣「えー……」

遠回しに「先に帰っていて」と言っている雪ノ下に由比ヶ浜は不満げに口を尖らせたが、外を見てその意見に納得したらしい。

致し方なし、といった感じで立ち上がった。いや、由比ヶ浜に致し方なしはどうあっても似合わねえな。

雪乃「それじゃ、行きましょうか」

結衣「うん……」

八幡「うぃー……」

元気のない返事とやる気のない返事が重なる。とぼとぼと廊下へ向かう由比ヶ浜に雪ノ下は小さく言った。

雪乃「……明日は晴れるのだから、ね?」

結衣「! うん!」

まるで仲のいい姉妹みたいだなと心の中で呟いて俺も廊下に出る。

部室の鍵をしめ、てくてくと廊下を歩いていく。せめて途中まではとたくさん話しかける由比ヶ浜とそれに静かに答える雪ノ下。そして存在を忘れられている俺。

俺の存在感がいつもより薄い気がするが、それを除けばまあいつもどおりに戻ったと言っていいだろう。もしかしたら存在感もいつもこんな感じだったかもしれない。

結衣「じゃあまた明日ね!」

雪乃「ええ、また明日」

八幡「ん、また明日」

昇降口と出口の別れ道。由比ヶ浜はもっとこの場に留まろうとするかと思ったが、思っていたよりあっさりと解散した。まあこの雨だしな。

雪ノ下と別れたことで今は由比ヶ浜と二人きり。

……気まずい。誰だよいつもどおりに戻ったとか言ったやつ。女子と二人きりだとどぎまぎして話せなくなるとか中学時代の俺かよ。そこまで戻る必要ないから。

結衣「あ、えっと……ヒッキーはこのあとどうするの?」

八幡「え、そりゃ帰るに決まってるけど」

結衣「そ、そうじゃなくて!どうやって帰るの?」

八幡「まあちょっと危ないが自転車だな。この天気のなか学校に置き去りにしていくのもアレだし」

結衣「そ、そっか」

くしくしと、頭のお団子をいじりながら由比ヶ浜は下を向く。いやまあ正直言えば何が言いたいかは分かりますよ?でもほら、ね?

昇降口で靴を履き替える。由比ヶ浜は傘を持って先に行っているが、片手をあげて逃げるように歩きはじめる。

八幡「ま、そういうわけだから……」

結衣「あ、明日!」

八幡「は?明日?」

結衣「そう!明日は晴れるから!だ、だから……その、三人で……」

八幡「……ま、晴れたらな」

結衣「約束だからね!」

八幡「はいはい。ほら、早く行かないと風邪引くぞ」

結衣「うん!じゃまた明日ねー!」

ぶんぶんと手を振りながら、由比ヶ浜は少し早足で帰っていった。俺もそれを見送りながら駐輪場へ向かう。

屋根の下に置かれた自転車があまり濡れていないのを確認してから、俺は今来た道を戻っていく。

当たり前だがすでに由比ヶ浜の姿はない。それだけを確認してから、ぼそっと、ちょっとだけ気合いをいれるために呟く。

八幡「はあ……じゃあ行くか」

走るために軽く準備運動をするも、それでも心の中の後悔は消えない。

傘持ってくるんだった……。

今朝、快晴だからという理由だけで天気予報を無視した報いがこんなところでくるとは思わなかった。

由比ヶ浜には自転車で帰るといったが、今日は走って帰る。自転車で帰ってまたぞろ事故にでも遭ったらたまったもんじゃない。

……はあ。

雪乃「いくら両生類に憧れているとはいえ、わざわざ濡れにいくのは少し違うんじゃないかしら?」

八幡「……ヒキガエルに憧れなんて抱いてねえよ。今も昔も人間希望だ」

気合いを入れていよいよ走りだそうと右足に力を込めた瞬間、後ろから雨よりも冷たい声が飛んできた。振り向けば、雪ノ下が傘を片手に立っていた。

人のスタートダッシュ邪魔するなよ。悲しみに閉ざされて泣くだけの俺になっちゃうだろ。

八幡「……ずいぶんと早かったな」

雪乃「鍵を返すだけなのだから、そんなに時間は取らないわ。それにいつも由比ヶ浜さんを待たせてしまっているから……」

八幡「クセで早く終わらせるようになったのか」

ほんとこいつ由比ヶ浜のこと好きだな。見てて微笑ましい。

八幡「由比ヶ浜ならさっきちゃんと帰ったから安心しとけ。んじゃな」

とりあえず由比ヶ浜のことだけ伝えてもう一度自転車を取りに行くフリをする。

怪しまれないよう軽ーい感じでその場を離れようとしたつもりだったが、雪ノ下には通用しなかったようだ。

雪乃「さっき雨の中へ走り出そうとしたのは誰だったかしら」

八幡「いや、あー、あれは」

雪乃「……よくそれで由比ヶ浜さんを誤魔化せたわね」

八幡「あいつが場の流れに流されてくれたっていったほうが正解だな」

由比ヶ浜のときは雰囲気で突破できたのだ。『そういう流れ』ができていなければ、あの由比ヶ浜とはいえ俺が傘を忘れたことくらい簡単に見抜いただろう。

雪乃「……一応聞くけれど、傘は?」

八幡「家でスタンバってる」

雪乃「素直に忘れたと言いなさい……はあ」

ため息一つを間に挟み、雪ノ下が俺に傘を差し出してきた。え、やだなにこのイケメン。嫌いじゃないわ!

八幡「……それは違うだろ。お前が持ってきたんだからお前が使うべきだ」

雪乃「そうしたいのは山々だけれど、かといってあなたを見捨てるわけにもいかないでしょう」

八幡「見捨ててもらって構わないんだけど……」

雪ノ下の所有物なのだからもちろん雪ノ下が使うべきだと俺は考えるが、雪ノ下には雪ノ下なりの意地があるらしく無言で俺に傘を突きだしている。その勢いで突かれそうで怖い。

こんな調子で数分押し問答が続く。その間にも雨はどんどん勢いを増していた。

雪乃「なら、間をとって二人で使いましょう」

八幡「……」

雪乃「不満そうな顔ね、あなたのその顔……嫌いだわ」

いつかの日のような口調で俺の顔面を否定した雪ノ下は、しかしその不満すら無視して傘を開く。

雪乃「せめて、持つのは任せてもいいかしら?」

傘を持ちながら歩くこと数十分。長い帰り道の終点。雨風を防いでくれる家に感謝しながら冷えた体をシャワーで温めてから浴槽に浸かる。

見慣れない天井、見慣れない浴槽。

雪乃「比企谷君。着替え、ここに置いていくわよ」

八幡「はい」

そして、雪ノ下の声。

何を隠そう、俺が今いるのは雪ノ下の家なのである。

……どうしてこうなった。

遡ること少し前。

結局雪ノ下の言うとおり傘を二人で使い……まあその、一般的に相合い傘というのをしながら俺たちは帰った。

さすがに俺の家まで送ってもらうのは気が引けたので、雪ノ下を家まで送って俺が傘を借りるということになったのだが。

雪乃「……ありがとう」

八幡「礼を言うのはこっちだろ。これから傘借りるんだし……でも本当にこの傘使っていいのか?」

雪乃「使わない傘をもらえれば、ということだったけれど、家には使わない傘なんてそもそも置いていないもの。だからそんな心配をする前にあなたのような眼をした人間が女性物の傘を使って職務質問されないかを心配しなさい」

八幡「そっちもマジで心配しなきゃな……」

そう言いながら手元の傘を見る。俺や小町が使ってるのに比べて明らかに高そうで、すでに握り心地からして違っている。

途中で傘しまおう。こんな高い傘さして強風の中を帰るとか心臓に悪い。

そう考えるとここまでの道のりでそれを意識せずにすんだのはラッキーだった。いやその分いつもより近い位置にいる雪ノ下に緊張しっぱなしだったのだが。

八幡「じゃ、傘ありがたく使わせてもらうわ。明日も部活あるよな?」

雪乃「ええ。ちなみに明後日が冬休み最後の部活よ」

八幡「あいよ。傘は明日返すわ」

雪乃「……一応送ってもらったのだし、お茶でも出すわよ?」

八幡「あんまり遅くなると小町にいろいろ聞かれそうだから、今日はもう帰っとく」

それだけいって、雨の降る空の下へ傘をさしながら一歩踏み出そうとしたときだった。

ゴウッ!!と目の前をなにかが凄い勢いで通りすぎていった。その方向を見れば、どこかのボロ看板が風に飛ばされいろんなものにぶつかっている。

……一瞬、「死」という言葉が脳をよぎる。

こ、これ雪ノ下が俺に一声かけてなかったらマジで逝っちゃってたんじゃないですかね。アウト判定ですよね。

後ろを向くと、雪ノ下がポカンとした表情で看板の飛んでいった先を見ていた。

震える体に鞭を打ち、雪ノ下に向けて普段の俺なら考えられないような台詞を口にする。

八幡「……雨宿りさせて下さい」

そして今に至る。

八幡「なにしてんだ俺……」

家にあげてもらい、風邪をひかないよう風呂にまで入れてもらえた。ちなみに雪ノ下は服を着替えて暖房の効いた部屋にいるらしい。「だから気にせずゆっくり温まってきなさい」と言われ、その通りに温めさせてもらっている。

さっきまでは体の震えていたが、体の芯まで温めたおかげかそれもだいぶ収まってきた。震えの理由が寒さだけとは思えないが、収まったというなら何も問題はない。

気にするなとは言われたが、雪ノ下も体を冷やしていることに違いはない。ならば少しでも早く風呂からあがろう。

というか早くあがりたい。毎日ここで雪ノ下が裸でいるのだと思うとあらぬ想像をしてしまいそうだ。……ぶっちゃけすでに少ししてしまったのだが。

浴槽から出て、脱衣所に出る。風呂に入る前に「着替えを置く以外、こっちには絶対来ない」という話をしていたし、ラブコメ的ハプニングは心配しなくていいだろう。

そんな風に油断していたのが仇となった。

バスタオルを取ろうと手を伸ばした瞬間、廊下に続く扉がバーンッ!と勢いよく開けられる。

陽乃「ひゃっはろー雪乃ちゃん、遊びに……」

フリーズしてしまった体は大事な部分を隠すことする忘れ、手を伸ばした体勢のまま動くことができない。

二秒、三秒と経ったあたりで、雪ノ下の家に悲鳴が響き渡る!

陽乃「きゃぁぁぁあああああ!?」

八幡「きゃぁぁぁあああああ!?」

今日はここまで
残りは明日投下します

おやすみー

雪ノ下家リビング。ひんやりとした床の冷たさをひしひしと感じながら眼前で仁王立ちしている雪ノ下を見る。

雪乃「あなたたちは人の家で一体何をしているのかしら」

声音は冷たく、聞いただけで凍死しそうだ。そんな雪ノ下のお言葉を俺と陽乃さんは正座しながら聞いている。

陽乃「いやー、たまたま近くを通りかかったから遊びに来ただけなんだけどねー」

八幡「俺にいたっては被害者なんだけど。っていうかその前になんで着替えがバスローブなんだよ」

雪乃「私の家に男物の服があるわけないでしょう。そのバスローブは姉さんからのプレゼントよ。いらないからあげるわ」

八幡「俺もいらねえよ」

無駄にいい生地を使ったバスローブは悔しいことに着心地は最高だ。が、ここで俺がもらうとなんというか……変態みたいじゃないですかね。

依然俺たちを見下ろしていた雪ノ下だったが、疲れたのか額に手を当ててため息をついた。

そのタイミングで正座していた陽乃さんが悪びれた様子もなく立ち上がる。

陽乃「ま、ホントに特に用事があったわけじゃないから。そろそろ帰るね」

雪乃「そうしてちょうだい。……外、雨は弱まったのかしら?」

陽乃「まだまだ降ってるよ。なに、心配してくれたの?雪乃ちゃんやっさしー。でも大丈夫だよ、今日は車で来たから」

雪乃「そんなわけないでしょう。この男が雨が止むまでうちにいたいと言っていたから……」

陽乃「おお?じゃあ今日はお泊まりコースだね。明け方まで弱まりすらしないらしいよ」

え……まじかー。さっきの看板が割とトラウマになってるから風弱まるまで外出たくないんだけどな。

窓から見える雨模様の空を見つめながらこの後の計画をたてる。ふむ、どんな計画をたてても諦めるという終着点に到着してしまう。まずい。

ふと気づくと陽乃さんが俺のことを見ていた。疑問に思い首をかしげると、まあ今までの経験通りろくでもないことを言い始める。

陽乃「お姉さんとドライブデートでもする?」

一瞬、仮面ライダーの映画を一緒に見に行こうという意味かと思ったが、この人がバイクに乗らない仮面ライダーのことを知っているとも思えないしおおかた車で送ってくれる的な意味合いだろう。

いつもなら即断る。この人と二人で車……まあ運転手さんがいるとしても並んで座って車に乗るだなんてごめんだ。それに『あの車』だろうし。

八幡「……いいですよ、しましょう。家まで送ってくれるんなら」

雪乃「なっ……」

二人とも俺の返事に驚いたようだったが、普通に考えれば当たり前だろう。

確かに陽乃さんとドライブデートはしたくないが、それ以上に雪ノ下の家でバスローブ姿でいたくない。

つか、さっきからバスローブ姿で正座している俺が惨めすぎるんだけど。惨めオブザイヤーとかあれば受賞できそうだ。

陽乃「ほほう、比企谷君もようやくお姉さんに心を開いてきたのかな?」

八幡「そんなわけないじゃないですか。ただ単にバスローブを脱ぎたいだけです」

陽乃「比企谷君も大胆なこと言うねー。美少女二人を前にして全裸になりたいだなんて」

八幡「言ってないです。そんなことしてまた悲鳴なんてあげられたら……」

陽乃「比企谷君?比企谷君は悲鳴なんて聞いてないよね?今までもこれからも悲鳴なんて聞いたことないよね?」

八幡「あっ、はい」

威嚇しているようにしか見えない笑顔から思わず目をそらしてしまう。怖い怖い怖い。

それにもまして、怖いのが雪ノ下だ。俺でも陽乃さんでもなく、何もないところを睨みつけている。何か見えてんの?

雪乃「あなたがいいのなら、それで構わないけれど……」

八幡「けれど?」

雪乃「なんでもないわ。制服、乾いてないけれどいいのかしら?」

八幡「さすがにこんなにすぐには乾かないか……」

ちらっと陽乃さんを見る。俺の視線に気づき一度不思議そうな顔をしたものの、すぐにその意図を理解して笑顔で口を開いた。

陽乃「別に多少濡れてても大丈夫だよ。濡れてるとはいっても水浸しってレベルじゃないんでしょ?」

八幡「ええ、まあ……」

陽乃「なら問題ないね。ほらほら比企谷君、パパッと着替えてきちゃいなさい」

家主でもない陽乃さんに急かされながら脱衣所に置いたままの制服に着替える。よくよく考えたら雪ノ下にパンツ見られたんだよな……。なんだか恥ずかしい。

八幡「き、着替え終わりました……」

濡れた服が肌に張り付いて予想以上に気持ち悪い上に、ガリガリと体温を奪っていく。くそっ、バスローブにちょっと戻りたいと思ってしまってる自分が情けない。

陽乃「よーし、じゃあ行こっか」

陽乃さんがさらっと腕を組んでくる。柔らかい物体が俺の冷えた左腕に押し付けられ悪い意味で体温が上がっていく。あ、ちょっと前屈みにならないと。

雪乃「……姉さん?」

陽乃「そんなに睨まないでよ雪乃ちゃん。比企谷君が寒そうだから暖めてるだけだよ。あ、そういえば右腕が空いてるねー」

雪乃「なぜそこでチラチラと私を見るのかしら」

陽乃「特に深い意味はないよー。……でもこのままじゃ比企谷君風邪ひいちゃうかも?」

雪乃「なら私の家で……」

雪ノ下が何かを言おうとする前に陽乃さんが俺に顔を近づけた。俺の耳元に唇を寄せ、蠱惑的な声で呟く。

陽乃「じゃあ、お姉さんが暖めてあ・げ・る♪」

その声で俺の中の何かが壊れそうになる。性欲か、あるいは恐怖なのかは分からないが、心の中で渦巻く感情が何かを壊そうとしてくる。

雪乃「姉さんっ!!」

雪ノ下がヒステリック気味に叫ぶ。あまりにらしくない行動に、俺は驚きのあまり口を開けたまま動くことができない。

陽乃「……どうかしたの?」

低く重く、心を押さえつけるような声は雪ノ下の次の言葉を詰まらせるのには充分だった。

視線をそらし、手を握りしめる雪ノ下。ようやく陽乃さんと視線を合わせた彼女は、いつも通りの調子で話す。

雪乃「悪ふざけがすぎるから注意しただけよ。比企谷君も困っているのだから、早く離しなさい」

陽乃「本当の理由を隠すのだって、れっきとした嘘だよ?雪乃ちゃんはそんな欺瞞を許せるの?」

雪ノ下は押し黙る。いや、押し黙らされたといった方がきっと正確だ。陽乃さんの言葉は疑問系でありながら返答を許さない程絶対的なのだから。

陽乃「ま、いいや。じゃあ比企谷君は貰ってくねー」

陽乃さんは何事もなかったように俺を部屋から連れ出す。途中、何度か雪ノ下が口を開いたが、何かを話すことはなかった。

見送りも待たないまま雪ノ下の家を出た俺はなすがままにエレベーターに乗せられる。

八幡「あの」

エレベーターの中で俺はようやく口を開いた。

陽乃「ん?」

八幡「何がしたかったんですか?雪ノ下のこと、煽るだけ煽ってそのまま帰るって……」

陽乃「私が煽ったのは雪乃ちゃんだけじゃないよ?」

俺を見る陽乃さんの表情からは、何も読み取ることは出来ない。それがただただ怖い。

陽乃「これからバレンタインがあってホワイトデーがあって、その後はすぐに三年生。三年生にもなれば大学のこと、もっと真面目に考えなきゃいけなくなるよね」

八幡「それがどうかしたんですか」

陽乃「絶好の逃げ道だよね」

その一言は雪ノ下ではなく俺に向けた言葉だった。

どこに逃げるのか。何から逃げるのか。そこにまた向き合わされる。

陽乃「そんな怖い顔しないでよ。誰も比企谷君のことだなんて言ってないよ?」

八幡「言ってるようなもんじゃないですか……」

これだからこの人は嫌なんだ。

今更ながら、この人との帰宅を選んだことを後悔している。バスローブ着てた方がましだったかもしれない。

気づけばエレベーターはすでに一階に到着していた。エントランスを抜けてマンション前に停めてある車に乗り込んだ。濡れた服に冷風はきついな……。

陽乃「家に戻る前に、比企谷君の家まで」

都築「かしこまりました」

かしこまるなよ!なんで俺の家知ってんだよ!と問いただしたかったが、答えられたら答えられたで怖そうなので黙っておく。ま、まあ家まで送ってもらえるならいいよね。

陽乃「比企谷君って好きな人とかいるの?」

八幡「前にも言いましたけど、親に好き嫌い言うなって育てられたんで」

陽乃「でも優劣を付けるなとは言われてないよね」

陽乃さんが少しだけ距離を詰めてくる。ほんの少しではあったが、俺の心拍数を上げるには充分すぎた。

陽乃「もしかして、誰も選ばなきゃ誰も不幸にならないとかそういうこと考えるタイプ?」

八幡「……そうですね。選ばれない辛さはよく知ってるんで」

知ってる、思い知っている。選ばれないまま生きてきた結果が今の俺だ。

まあ結果が俺だとするならそれはそれで辛くはあっても悪いものではないのかもしれない。

陽乃「誰も不幸にはならないかもしれないけど、誰も幸せになれないよ。それでいいなら何も言わないけど」

八幡「…………」

返事をしない。できないのだ、俺は。何も覚悟しないままでいたから。

こんな自分だから、選ばれる側になることはあっても選ぶ側になんてならないだろう。そんな風に考えていた。なのに俺は……。

俺の家に着くまでそれから会話はなかった。雨音だけが聞こえる車内は居心地が悪いことこの上ない。

雨のカーテンの向こうにようやく我が家が見えてくる。安堵から小さく息を漏らす。

ほどなくして車は止まり、俺の席側のドアが開く。

陽乃「傘使う?玄関まで濡れちゃうでしょ?」

八幡「大丈夫です。……ありがとうごさいます」

陽乃「あっはっは。気にしない気にしない。またドライブデートしたくなったらいつでも言ってね」

八幡「ええ、来ないと思いますけど」

陽乃「一言多いなぁ、君は」

楽しそうに笑う陽乃さんに軽く頭を下げてから車を降りる。陽乃さんは明るい声で「またね」と言ってきた。

扉が閉まり車が発進する。やはり改めて見るととても高そうだ。シートとか濡らしちゃったけど大丈夫なんだろうか。うわ、今更だけど超不安。

八幡「くしゅん!……家入ろ」

何はともあれ体を暖めねば。マジ風邪ひく。

小走りで家に駆け込む。また冷えてしまった体を暖めるべく着替えを適当に集めて風呂へ向かう。

この後、小町の着替えに遭遇してしまったりもしたが……まあ語るほどのことでもないだろう。

今日はここまでです。多分これが今年最後です。

なーに、来年までには終わりますって、ガハハ!

それではよいお年とメリークリスマス!

やっはろー!1です

投下してくよー

晩御飯。今日も今日とて仕事な両親に感謝しながらただ飯を食らう。いやー働かずに食べるご飯は最高だー。

諸事情あって若干怒り気味な小町と仲良くテーブルにつく。……ちゃんと仲いいよ?小町と俺だもの。ほんと若干少しだけ小町キレてるけど。

八幡「あー、そういや今日風で飛んだ看板が目の前を通りすぎてな」

小町「ふーん」

八幡「あれは死ぬかと思ったわ。っていうか雪ノ下が呼び止めてくれてなかったら冗談抜きで当たってたかもしれない」

小町「ふーん」

八幡「ほんと今日は雪ノ下に助けられっぱなしだったよ。傘借りたし風呂も借りたし、その上あいつの姉の魔の手から俺のこと救ってくれたし。魔の手つっても抱きつかれただけだけど」

小町「待って」

小町の機嫌を治そうと久々に饒舌に喋ってみたが、よく分からないところで話を切られた。

割りとテンポよく話を進めてたつもりなんだが……何がご不満なんだろうか?あ、オチまでが長い?

小町「お風呂借りたってなに?お兄ちゃん今日なにしてきたの?」

八幡「え、部活して生徒会長の仕事の手伝いして陽乃さんに家まで送ってもらったくらいだな」

小町「それも充分凄いけど、さっきの雪乃さんの風呂借りたってなに!?」

八幡「はっはっは、失言失言。忘れてくれ」

小町「無理だよ!」

しまった、俺としたことが小町の気を引きたいがために今日のことをぽろっと話してしまった。俺どんだけ小町のこと好きなんだよ。大好きだよ!!

八幡「ちょっとな、雨が酷かったのと強風に一生もんのトラウマができたから雨宿りさせてもらったんだよ」

小町「一生もののトラウマを軽い感じで流したのにびっくりだけど、もっと凄いことしでかしてるお兄ちゃんに不安が隠せないよ」

八幡「しでかしてるって言うなよ。なんもしてないぞ」

全裸見られたけど。陽乃さんに。

小町「うんまあお兄ちゃんヘタレだし特になにもしないとは思ってるけどさ…………雪乃さんは…………」

何かをぼそぼそと言い始めた小町。とりあえず機嫌は治ったようだ。これで安心して飯が食える。

小町「ま、一から全部説明してもらえばいっか」

八幡「よくないぞ」

小町の笑みはまさに獲物を見つけたときのそれで、ほんとこの子陽乃さんに似てきてる気がする。

晩御飯を食べながら今日あったことを話す。なんとか帰り道のことは省略しようとするも小町の前ではそんな小細工はきかない。根掘り葉掘り聞き出されてしまった。

これ小町がすごいんじゃなくて俺がちょろいだけなんじゃないか……?

小町「ふむふむ、つまり結衣さんほっぽりだして雪乃さんとイチャラブしてから陽乃さんと帰ってきたと」

八幡「その言い方やめろ」

小町「いやいや、要約しちゃえばこういうことでしょ?さすがごみいちゃん、小町的に超ポイント低い」

八幡「そうなんのか……」

額に手を当てながら考える。確かにいくらか言い訳はしたいが、それでも行き着くところは同じだろう。

八幡「俺クズみたいだ……」

小町「みたいじゃなくてそのものだよ」

容赦ない小町の言葉がグサグサ刺さる。まあ自業自得だよな……。

小町「……結局さ、お兄ちゃんが決めてるのか決めてないのか。そこが大切なんだよ」

八幡「陽乃さんみたいなこと言うなよ」

小町「言うよ。見てらんないもん」

真剣に言われてしまい、返す言葉がなくなる。

だが、そもそも小町も陽乃さんも勘違いしているのだ。

俺はすでに選んでいる。あの日、由比ヶ浜を選ばないということを選んでいるのだ。

なら、それが答えだろう。

八幡「……少なくとも、お前が考えてるようにはならねえよ」

小町「ほんと?」

八幡「ああ、俺が働かない確率と同じくらいに絶対だ」

小町「それだいぶ低いと思うんだけど……」

なにを言う。俺は専業主夫になると心に決めているのだ。あくまで目標だが。

小町「一応お兄ちゃんのこと信じてるから、いつもは若干甘い採点してるけどさ。これだけは辛口だからね」

八幡「あいよ、赤点にはならないよう気を付ける」

小町「せめて平均点くらいは目指しなさい」

八幡「……はい」

可愛い妹に怒られると強く反論できない。千葉のお兄ちゃんの悪い癖だ。

なんとなくこの場に居づらくなったので、そそくさとご飯を食べる。温かい目で見てくる小町から逃げるように自分の部屋に引きこもる。もちろんMAXコーヒーを持っていくのは忘れていない。

MAXコーヒーをちびちび飲む。冬に飲む冷たいMAXコーヒーも乙なものだな。温め忘れただけだが。

いつものくせでスマホを取り出す。画面を見ると由比ヶ浜からLINEの通知が来ていた。

to:由比ヶ浜結衣

結衣【ヒッキーあのあと大丈夫だった?(´・ω・`)?】

八幡【ああ】

八幡【ギリギリな】

結衣【ギリギリ!?】

八幡【いや忘れてくれ】

八幡【お前は?】

結衣【帰れたよー(^-^)/】

結衣【傘さしたのに全身びしょ濡れになっちゃったよ】

ほう……ずぶ濡れ……っ。

っていやいや駄目だろ俺。なに新年早々煩悩にまみれてんだ。

除夜の鐘全然煩悩消し去ってくれてないんですけど。鐘もっと仕事してくれ。

結衣【ゆきのん大丈夫かな】

八幡【大丈夫だろ、多分】

結衣【でもLINEの返信ないんだよね……】

八幡【寝てんじゃねえの】

結衣【かなー】

八幡【何かあったらあの恐いお姉さんが黙ってないだろ】

八幡【何もないってことは平和ってことだ】

八幡【一応、俺も連絡してみるから】

結衣【うん】

結衣【ありがと!(。・ω・。)ゞ】

八幡【礼言われるほどのことじゃねえよ】

八幡【それじゃ】

由比ヶ浜とのLINEを終わらせて一息つく。雪ノ下が家に着くのをこの目で確認しているのだから大丈夫なのは知っているが、それを言わずに安心させるのは苦労する。あのまま続けてたらボロを出してたかもしれない。

俺と同じようにケータイも疲れているのか動きが遅い。最近使いすぎて疲れたのだろうか。まあ今まで目覚まし機能付き暇つぶし道具としか使っていなかったのだから無理もないか。

酷使して申し訳ないが、由比ヶ浜にああ言った手前雪ノ下にLINEしないわけにはいかない。

to:雪ノ下雪乃

八幡【今日は助かった、ありがとう】

八幡【由比ヶ浜が返信が来ないって心配してたぞ】

八幡【あとで返信しといた方がいいと思う】

簡単にLINEを送って終わりにする。由比ヶ浜に返信しなかったということは実際に寝てる可能性も高いし、こっちに返信がくることはないだろう。

よし、スクフェスやろう。

個人的な意見だが、初見でハードが出来るのが普通。一発でエキスパートができるのはプロフェッショナルだと思う。あれ一発で出来るとかおかしいだろ。

戸部風に言えばまじっべーわーだ。自分の語彙力の少なさにびっくり。

おっ、新曲が追加されている。よし、今日は……エキスパートでいこう。

シャンシャン……シャシャシャン。

エキスパートの中では簡単な方だったその曲をなんとか進める。通常のミスやケータイのラグのせいでコンボは繋がらないが、これならギリギリ……。

シャンシャンシャピコン!

八幡「っだぁぁ!!雪ノ下ぁ!」

唐突に画面に割り込んできたLINEの送り主に届かない声を叫ぶ。体力0になった!ライブ失敗した!

ふう……落ち着け俺……。あの譜面なら再チャレンジすればクリアできる。

メンタルリセットをしてケータイに向き直る。

to:雪ノ下雪乃

八幡【なんですか】

雪乃【あなたからLINEが来ていたから返しただけなのだけれど】

雪乃【なぜ敬語なのかしら?】

八幡【気にしないでくれ】

八幡【由比ヶ浜には返信したのか?】

雪乃【ええ】

雪乃【さすがにあなたや姉さんが来たことは伝えなかったけれど】

八幡【ま、それが妥当だろ】

八幡【余計なこと言っても意味ないしな】

雪乃【ところで】

雪乃【あのあと、姉さんと何かあったのかしら?】

八幡【別に】

八幡【普通に家まで送ってもらっただけだ】

雪乃【そう】

雪乃【ならいいわ】

雪ノ下はこれで納得してくれたようだ。

俺としてはまだあの人が俺の家の住所を知っていた理由について納得のいく仮説が思い浮かんでいないのだが、この恐怖はどうすればいいんだろうか。

八幡【お前は大丈夫なのか?】

八幡【なんか様子おかしかったけど】

雪乃【大丈夫よ】

雪乃【なんでもないわ】

雪乃【気にしないで】

こうも強調されてしまうと逆に気になってしまう。が、俺なんかが気にするようなことでもないのだろう。

八幡【まあ大丈夫なら良かった】

八幡【今日はほんと助かった】

雪乃【気にしないでいいわ】

雪乃【好きだもの】

八幡【え】

雪乃【今のは打ち間違えただけよ好きでやったことだからという胸を伝えようしたら言葉足らずになってしまっただけだから決して他の意味はないわだから勘違いしないでちょうだい別にあなたのことなんて好きでもなんでもないのだから】

八幡【おう】

あまりの長さに簡単な返事しか思いつかない。っていうか最後の文章まんまツンデレなんだけど。

『勘違いしないでよね!あんたのことなんて好きじゃないんだから!』ってこと?なにそれ可愛い。

八幡【分かった分かった】

八幡【ただの入力ミスだろ】

雪乃【ええ】

八幡【そんな焦んなくても分かる】

八幡【あと胸も間違えてるぞ】

雪乃【LINEだからと堂々とセクハラをしてくるとはさすがねセク谷君】

八幡【セク谷君ってなんだよ】

八幡【あと今のは誤字の話だ、セクハラじゃない】

雪乃【確かに間違えていたわ】

雪乃【ごめんなさい、いつものあなたの生活態度から勝手に思い込んでしまったわ】

雪乃【いくら比企谷君とはいえいつでもセクハラをしているわけではないわよね。早計だったわ】

八幡【謝る気ないだろ】

雪乃【そんなことないわよ?】

いつものように軽口を叩きあえることに少し安心する。俺と陽乃さんが雪ノ下の家から帰るときの様子はやはりおかしかった。が、今の様子を見ると何も問題はなさそうだ。

いつもの調子でまた終わりの見えないLINEを続ける。だが、今回は意外と早く会話が終わる。

というのも俺のケータイの調子がやはりよろしくないからだ。電源をきって一晩寝かせれば治るだろう。確証何もないけど。

八幡【悪い雪ノ下】2:14

八幡【ケータイの調子が悪いからちょっと休ませるわ】2:14

会話の途中にさりげなくなんて真似ができるほど器用でもないので、会話をぶった切る。

早く会話が終わるって言ったがもう2時だったのか……時間の感覚おかしくなってきてるな。

雪乃【そう】

八幡【ほんとにやばいからそろそろ切る】

八幡【おやすみ】

雪乃【おやすみなさい】

雪乃【また明日】

雪ノ下からの返信を確認して電源ごと落とす。その際も画面がラグっていたが……朝には治ってるだろう。相変わらず確証は何もないが。

今日はここまでです
明日か明後日に修正加えた続きを投下予定なんでしばしお待ちを

おやすみなさい


もう速報で読んでるのこのスレだけになったなあ

>>862
わかる

やっはろー!1です

>>862 >>863ありがとう超嬉しい頑張る

というわけで若干投下していくよ!

小町「おはようお兄ちゃん。今日もこのまま奉仕部?」

八幡「ああ、明日で冬休み中は最後だと」

小町「そっか、残念だね」

八幡「そんなことないだろ。家で一日中ごろごろも出来るし本だって読み放題だ。引きこもりになるつもりはないが、こんな時期くらいコタツムリくらいにはならせてくれ」

小町「うわーほんと残念……」

小町の呆れた視線を受けながらさっそくこたつにこもる。あ、やばいもう出れないかもしれない。

小町「ほらお兄ちゃん、部活あるんでしょ。起きた起きた!」

八幡「部活午後からだから大丈夫だろ……それに遅刻したって大丈夫大丈夫」

小町「あんまりダラダラしてるとお兄ちゃんのケータイから平塚先生と陽乃さんに『愛してます』ってLINEしちゃうよ」

八幡「おいばかやめろ冗談じゃなくなる特に平塚先生はやばいお前明日からあの人お義姉ちゃんって呼ぶことになるぞ」

小町「し、深刻に考えすぎじゃ……あ、いや、でも……」

自分の言ったことの恐ろしさに気づいたのか小町は顔をひきつらせている。ほんとにやばいんだからな。ダメ、絶対。

八幡「一応寝てたら起こしてくれ……」

小町「うん。でもほんとにダラダラしすぎてたら陽乃さんに送るからね」

八幡「やめろ」

雪乃「こんにちは。今日はずいぶんと早いのね」

部室に来ると、まだ由比ヶ浜の姿はなく雪ノ下一人だった。

軽く挨拶をしてから定位置に座る。冷えきった椅子の冷たさが少しつらい。

八幡「小町に恐ろしい脅迫をされてな。遅くならないようにいつもより早めに家を出たんだよ」

雪乃「いい心がけね。ぜひその脅迫方法を教えてもらいたいわ」

八幡「やめろ、まじでやめてくれ。恐ろしすぎて脅迫した小町でさえ引いてたからな」

雪乃「余計気になるのだけれど……」

そう言いながら雪ノ下はティーポットに手を伸ばす。俺の湯呑みに紅茶を注ぎ、一瞬動きを止めてから由比ヶ浜のマグカップにも紅茶を注ぐ。

数秒して、外から足音。

結衣「やっはろー!」

雪乃「こんにちは、由比ヶ浜さん」

マジでエスパーなんじゃねえのお前。

結衣「ヒッキーもやっはろー」

八幡「こんにちは、由比ヶ浜さん」

結衣「なんでゆきのんと同じ挨拶!?」

驚く由比ヶ浜をよそに、雪ノ下はマグカップと湯呑みを置き最後に俺のことを睨み付けて席に戻った。

え、めちゃくちゃ怖かったんですけど今の。

結衣「今日は晴れたね!昨日のどしゃ降りが嘘みたい!」

雪乃「そうね。昨日は雨風がひどくて帰るだけでも一苦労だったわ」

結衣「ヒッキーは自転車大丈夫だった?」

八幡「自転車?……あ、なんとか大丈夫だったぞ」

一瞬何を言われたのか分からなかったが、由比ヶ浜には自転車で帰ると言ったのを忘れていた。

つか偶然とはいえ今日由比ヶ浜より先に来て正解だったな。こいつがわざわざ自転車置き場まで行くとは思えないが、万が一にも見られてたら少し厄介なことになってたかもしれん。

由比ヶ浜は俺の返事に相づちをうち、そのまま雪ノ下との話に移った。深追いされなくて助かった……。

っていうか、明日で冬休み中の部活終わりなのに何もやることなさそうなんだけど……大丈夫なのそれ?そろそろ学校の偉い人たちに怒られるんじゃない?

俺の心配をよそに、結局何が起きるわけでもなく今日も部活は平和に終わった。怒られるのも時間の問題かもしれない。

途中、千葉県横断お悩み相談メールに『ワンカラー』とかいうやつから先輩に弄ばれたとかいう相談が来たりしたが……なにはともあれ平和に終わったのだ。終わったんです終わったと言ってください。

雪乃「鍵を返してくるから……由比ヶ浜さん」

結衣「うん、いつものとこで待ってるね……ヒッキーも」

八幡「え、いや俺は」

結衣「昨日三人一緒に帰るって約束したでしょ?」

八幡「ぐ……でも雪ノ下がいいって言わないだろ」

雪乃「私は構わないけれど」

な、なぜこんな時に限って罵倒の一つもなしに許可するんだよ。さっきのお悩み相談メールのときはあんなに俺を……いや思い出さないでおこう。

八幡「……まあ二人がいいんなら」

結衣「うん!」

楽しそうに笑う由比ヶ浜を先頭に三人で廊下を歩く。昇降口に行く途中途中で雪ノ下は職員室へ行くために一旦分かれる。

昨日と同じように由比ヶ浜と二人きりだ。

由比ヶ浜は俺の様子を伺うようにチラチラとこちらを見ながら話を切り出した。

結衣「ゆきのんにはもう言ったんだけど、明日優美子たちと遊ぶから来れないかも……」

八幡「そうか、分かった」

業務連絡を速やかに終わらせる。こういうのは無駄に時間かけるもんでもないしな。

由比ヶ浜の方を見ると、さっと目を逸らされた。そのまま由比ヶ浜が俺に質問をしてくる。その声はなんとなく寂しげに聞こえた。

結衣「ヒッキーはさ、例えばゆきのんが奉仕部以外の人たちと遊ぶようになったら……どう思う?」

八幡「……とりあえずまず驚く。あいつが俺たち以外……ってよりは由比ヶ浜以外と遊ぶ姿が想像できないからな」

結衣「だよね。驚くし……あたしは寂しい、かな」

八幡「…………」

俺は何も言わない。その間を埋めるように由比ヶ浜が言葉を続ける。

結衣「最近気づいたんだけどね、あたしってすごい欲張りなんだ。奉仕部での時間も優美子たちと遊ぶ時間も全部欲しい。……何も捨てたくないし、何も諦めたくないの」

昇降口に着き、俺たちの足は止まる。けれど由比ヶ浜の言葉は止まらない。

結衣「でも届かないって分かっちゃったら、諦めなきゃいけないものってあるからさ……」

彼女は視線を俺へ向ける。俺は目を逸らすことができなかった。

諦めなければならないもの。それが『物』なのか『者』なのか。何について言っているのか。

……確証はないし確定もしていないが、おそらく俺はそれを知っている。

あの日から、知っている。

結衣「ゆきのんのこと、お願いね」

八幡「……っ」

手に入らないのなら、せめて諦められるくらいに遠くへ。

そういうことなのだろうか。だが、ここで聞いたところできっと彼女は答えを教えてはくれない。

だから、自分に問うしかない。

遠くから足音が聞こえてくる。まもなく、雪ノ下の姿が見えた。

雪乃「待たせたわね」

結衣「そんな待ってないよー。よし、じゃあレッツゴー!」

さっきまでの空気を吹き飛ばすように、由比ヶ浜は元気に歩き出す。思えば三人で帰るのはかなり珍しいかもしれない。

校門まで来たあたりでなんとなく振り返って校舎を見る。夕陽に染まる校舎は哀愁を漂わせていて、いつか来る終わりを連想させる。

俺たちがここの生徒でいられるのだって、そう長くはない。そのあと、俺たちは今のままではいられないだろう。

雪乃「比企谷君?」

結衣「ヒッキー?」

八幡「……ああ、悪い。今行く」

先を行っていた二人に早足で追いつく。

三人でいるこの風景を、俺はあと何回見ることができるのだろうか。

ケータイが壊れた。

帰宅後、部屋でケータイを使いだした瞬間『ブチッ』という音がして電源が入らなくなったのだ。

充電しても叩いても直らない。温めてみても冷やしてみても、少し放置してもうんともすんともいわない。

完全に壊れた……。

あのどしゃ降りの雨で水が入ったのだろうか?それともおやさめ事件のとき叩きつけたから?あるいは使いすぎ?

理由はいろいろ思い付くが、それを特定したところで意味はない。問題はLINEが使えないことと……あれ、それくらいだな。

最近LINEとネットと目覚まし以外の機能を使った記憶がない。ネットだって暇つぶしに使ってただけだし目覚ましなんてどうとでもなる。LINEだって使えなくても……。

いや待て。

もしも、このタイミングで戸塚からLINEが来たら……?

返信どころか気づくことすら出来ない!戸塚を無視したと思われる!そ、それはなんとかしなくては……。

まあそれに、雪ノ下や由比ヶ浜も……アレだし。

小町経由でケータイのこと伝えてもらうか。あいつ戸塚のLINEは知ってるかなー。

八幡「こまちー」

リビングに行くと、タイミングよく小町が休憩をとりに来ていた。

小町「どったのお兄ちゃん?」

八幡「ケータイが壊れた」

小町「えっ、それやばくない?」

八幡「まあそんな焦ることでもねえよ。どうせ連絡なんてこないし。それより戸塚と雪ノ下と由比ヶ浜に壊れたって伝えてくれるか?」

小町「いいよー。しかしお兄ちゃんもそんな気遣いが出来るようになったんだね……小町嬉しいよ」

八幡「お前は俺の母ちゃんか」

小町「お母さんはもっと雑な反応だよ」

八幡「確かに」

悲しいかなこれが現実。ちなみに親父はもっと雑だ。

小町「その三人だけで大丈夫?平塚先生とかも連絡しとく?」

八幡「あー……頼むわ」

一色や材木座にも連絡した方がいいかとも思ったが、あの二人のLINEを小町が知ってるとも思えない。

というより知ってたら許さない。材木座を。

なので、まあ今の四人だけでいいだろ。急ぎの用件があれば小町に連絡してくるはずだ。

小町「壊れたのはどうするの?修理?」

八幡「どうせだし買い替えるわ」

小町「変えちゃっていいの?確かそれやるとLINEのトーク履歴消えちゃうんじゃなかったっけ」

八幡「……なんとかしたいけど無理だろ。修理したってバックアップ取らずに初期化しちまえば意味ないんだから」

小町「ほほーう?あのお兄ちゃんにも消したくないようなトークがあるということですな?」

八幡「う、うぜえ……」

だが反論できないのが悔しい。そうだよ残したいもんだってあるよ。

だがケータイが壊れてしまえば逆に決心もつく。いつかの由比ヶ浜の下着写真だって消してしまえばそんなに後悔はしなかっ……しなかった!後悔なんてしてないんだ!

小町「……そんなに消したくないならショップで聞いてみれば?」

八幡「別にそこまで残しておきたいわけじゃ……」

小町「嘘、顔に書いてあるよ」

両手で顔を隠すが『気持ち悪い』と一蹴されてしまう。もうちょっと優しい反応が欲しかった。

しかしそうか……ショップか……。

小町「ショップ、付き合ってあげよっか?」

八幡「いい、一人で……あっ」

小町「へー、やっぱり行くんだー」

八幡「お前な……」

小町「わーお兄ちゃんが怒ったー」

あいつ今日テンション高いな……おおかた受験勉強のせいでハイになってるだけだろうが。

八幡「……明日行くか」

どうせやることもないのだ。なら部活帰りにでも行ってしまおう。

近くにアップルのショップがあるか確認するためにケータイで検索をしようとする。あれ、電源が……あっ。

小町「お、お兄ちゃん……?」

八幡「やめろそんな目で見るな自分だってびっくりだよ」

癖であんなことをしてしまうあたり意外とケータイを使っていたのかもしれない。兄としての威厳を保つためにも早く直しに行こう。

小町「まあ最悪、データ消えちゃったとしても雪乃さんも結衣さんもデータ持ってるんだし大丈夫じゃない?」

八幡「……残したいのはお前と戸塚のデータだよ」

小町「ちっ、かからなかったか……」

舌打ちしたよこの子。お兄ちゃんお前の将来が少し心配。

受験ハイになっている小町を残し部屋に戻る。ケータイをベッドに放り投げる。

ケータイがなくとも本やゲームのあるこの部屋ならいくらだって時間を潰せる。暇と穀を潰させたら俺の右に出るやつはいないだろう。

ちらっと、無意識にケータイを見てしまう。使えないケータイに俺は何を期待しているのだろう。

……これはだめなやつだ。経験で分かる。

こういうときは寝るに限る。いつもならまだまだ寝る時間ではないが、たまには健康的な生活も悪くない。

寝る準備を始めるが、その途中で何度もケータイを見てしまう。

どれだけ見たところで、もうそのケータイではLINEはできない。深夜遅くまで無駄な話をし続けることはもうできない。

悩むくらいなら寝よう。明日になれば会えるのだから。……いやいや、なんだよ恋する乙女かよ俺は。

空回りし始めた脳内を落ち着かせるために心の中で誰にというわけでもなく呟く。

おやすみ、と。

素直に尊敬する作者を……このSSを読むたびに自分がどれだけクズなのか自覚させられるよ

9しかし彼らの絆は繋がっている 終

>>872お、おう、ありがとう

というわけで今日はここまで。
次回かその次くらいで終わると思います。

おやすみなさい!

やっはろー

早速行くよー

雪乃「ペットは飼い主に似るというけれど、まさかケータイまで持ち主に似るとは思わなかったわ」

八幡「似てないから。あんな壊れやすくねえよ」

翌日の部活。つまり冬休み最後の部活。

今日は由比ヶ浜がいないし何も話さず終わるかとすら思っていたが、意外にも部室内には話し声が響いている。

というのも。

雪乃「壊れやすいというより、貴方の場合すでにところどころ壊れているじゃない」

八幡「また否定しづらいこと言ってくるなお前は」

雪ノ下がいつもよりも話しかけてくるのだ。

まさか、由比ヶ浜がいないから気を遣って話してるとか……? いやないな。あいつなら気を遣っても遣わなくても話しかけてこない。

ならケータイが壊れた俺をバカにしてるとか?あり得ない話じゃないが、しっくりこないな。

LINEが使えないから話せなくて寂しいなんてのは一番ないよな。こんなのを思い付いてしまうあたりまだまだ中学の頃から変われてない。

雪乃「比企谷君?やましいことを考えている顔をしているけれど、何を考えているのかしら」

八幡「聞く前から決めてかかるなよ。やましいこととか考えてないから」

雪乃「それで、ケータイはどうするの?」

八幡「部活が終わったらそのままショップに行くつもりだ。……そういや、LINEのトーク履歴とか全部消えるかもって小町が言ってたんだが、実際はどうなんだろうな」

雪乃「……比企谷君は履歴が消えても問題ないのかしら」

八幡「いや……できるなら消えてほしくないな」

そう答えると、雪ノ下はなぜか安心したように少し微笑んだ。

見間違いかと思って雪ノ下の顔をよく見てみるが、彼女はなぜか俺から顔を逸らしてしまう。

雪乃「意外ね。あなたのことだから黒歴……トーク履歴は全て消えても構わないと考えているものだとばかり」

八幡「人のLINE勝手に黒歴史扱いするのやめてね?つかお前もたいがいだろ」

雪乃「私? 特に変なことを言った記憶は無いけれど」

八幡「……にゃんにゃん」

顔を真っ赤にした雪ノ下がものすごい勢いでこちらを見る。鬼気迫るその様子に思わず肩がビクッとなってしまった。

雪乃「比企谷君」

八幡「はい」

雪乃「分かるわね?」

八幡「……はい」

命が惜しくば黙れ。言外の意味をくみとり、脅迫文句通りに黙る。

あのときはお前もノリノリだっただろ……。深夜テンションってすごい。改めてそう思いました。

八幡「お前のそれはともかく、俺だってそんなに黒歴史があるわけじゃないぞ。少なくともLINEでは」

雪乃「……おやさめ」

思わず体がガタッと揺れた。こいつ、人がようやく忘れてきたことを……!

抗議するために雪ノ下を見る。だが……抗議も文句もなにも言えなかった。なにせ……。

八幡「お前も真っ赤になるくらいなら言うなよ……」

雪乃「そ、そうね……ごめんなさい……」

自分の言葉でその時の事を思い出したのか、雪ノ下は俺と同じか俺以上に顔を赤くしてしまっていた。

由比ヶ浜といいお前といい、自爆技流行ってるの? 俺ばっかり巻き込まれてる気がするんですけど。そろそろ俺も恥ずかしさで爆発するぞ。

八幡「ま、まあそういうわけで、黒歴史は……ないとは言わないがそんなに多いわけじゃない。だから残せるなら残しときたいんだよ」

雪乃「黒歴史はおいておくとしても、それでも意外だわ」

八幡「なんとなく言いたいことは分かるがな」

言っている俺自身がもしかしたら一番意外に思っているかもしれない。小町や戸塚との履歴を消したくないとは言っても、それでも前までの俺なら消えてもいいとは思っていただろう。

だが、今は違う。できれば消したくないし、消さないためなら多少の苦労も厭わない。

人間って変わるもんだな……。

雪乃「なんにせよ、できるだけ早く直してもらえるかしら。業務連絡ができないと困るのだけれど」

八幡「俺もできれば学校始まるまでには直って欲しいが……さすがに難しいだろうな」

雪乃「そうね。直らないと学校が始まるまで話せないもの」

八幡「……業務連絡で、話せないな」

雪乃「……ええ」

誤解のないよう言葉を補足する。勘違いしないように言葉にして戒める。こうしなければ、きっとまた間違えるから。

それからも雪ノ下は俺のケータイについて文句を言ってきた。あいつの罵倒語ディクショナリーは豊富だしさらに話が脱線しまくった結果、信じられないことに俺たちは部活が終わるまでずっと話していた。それどころか途中まで二人で帰った。

さすがに家まで送ることはせず途中で別れて俺も家に帰ったが、ぶっ通しで話続けるなんて奉仕部に入ってから考えてもこれが初めてだ。

しかし、よく考えればここ最近LINEで話し込むことが多かった。今LINEが使えない分をここで話したと考えれば……いやいや。

それじゃまるで、俺と雪ノ下がもっと会話をしたがっているみたいじゃないか。

LINEで雪ノ下と話すようになってから、また昔のように勘違いをし始めている。ついさっき戒めたことをものの数分で忘れしまうのだから手のつけようもない。

なら。

手のつけようもないのなら、いっそ手をつけなければいいのだろうか。

勘違いして傷付いて、周りを巻き込んで壊してしまえばいいのだろうか。

……ふう。こういうのは考えてもきりがない。もっと時間があるときに考えるようにしよう。

とりあえず今やるべきことは。

小町「お兄ちゃん。大志くんからお兄ちゃん宛にLINE来てるよ」

八幡「……ほう」

あのマセガキが小町とLINEをしている件についての対応を考えなければ。

to:川崎大志

大志【お久しぶりっすお兄さん!】

大志【川崎大志っす!】

小町のケータイにやつの名前でLINEが来ている。今回の宛先は俺だが、画面の上に見えるトーク履歴には小町と仲良く話しているのが見えた。

小町「お兄ちゃん、顔すごいことになってるよ」

八幡「大丈夫だ。その原因は明日には消えてるから」

小町「何も大丈夫じゃないんだけど……」

心配する小町をよそに、とりあえず画面をスクロールしようと指を伸ばす。

その瞬間、背後から殺気が!

小町「お兄ちゃん、なに勝手に人のLINE見ようとしてるのかな?」

八幡「い、いやこれはですね」

小町「2度目はないから」

八幡「はい」

そういって小町はコーヒーを入れに俺から離れた。だというのに圧迫感が消えることはない。お前何者だよ。

小町の闇の部分を刺激しないように細心の注意を払ってケータイを操作する。今までこんなに恐怖に怯えながらLINEをしたことがあっただろうか。いや、ない。

八幡【なに小町と仲良くLINEしてるんだよ、ってかお前誰?】

大志【仲良くとかそんなそんな、ありがとうございます!川崎大志っす!】

八幡【仲いいって褒めたわけじゃねえよ】

八幡【わざわざ小町のケータイ使ってまで俺に何の用だ?】

大志【急で申し訳ないんですが、明日勉強見てもらうことってできますか?】

八幡【暇だしいいけど】

八幡【ずいぶん急だな】

大志【冬休みの最後の詰め込みってことで姉ちゃんと一緒に勉強してるんですけど】

大志【思ってたより成果が……】

八幡【やばいのか】

大志【そうっす!なんでできれば冬休み中に見てもらいたくて!】

八幡【分かった分かった】

八幡【じゃあ明日の10時にお前の姉ちゃんとスカラシップの話したとこで】

大志【了解っす!】

大志【明日は宜しくお願いします!】

八幡【おう】

俺たちの会話はそこで終わる。さて、小町と仲良くしたことをどう後悔させてやるか……。

小町「お兄ちゃんまたすごい顔になってるよ」

八幡「くっくっく。小町、やつをどう処理してほしい」

小町「どっちかっていうとお兄ちゃんを処理してほしいんだけど……」

コーヒーを入れ終わった小町にケータイを返す。小町は画面をサーッとスクロールして会話の内容を把握したらしい。

小町「なんだかんだ言ってちゃんと勉強見てあげるんだね。小町的にポイント高いよ」

八幡「……違うから。ケータイ修理に出してるから暇なんだよ。それにそいつの姉とも勉強見てやるって約束してたし」

小町「はいはい分かってるよー」

絶対分かってないだろ。暖かい微笑みやめろ溶ける。

八幡「……じゃあ俺もう寝るから。寝坊してたら起こしてくれ」

小町「自分で起きなよ……何時までに起こせばいいの?」

文句を言いつつもしっかり起こす時間を確認してくる小町。

こういうところがほんと好き。引かれるから言わないけど。

八幡「9時までに起きてなかったら起こしてくれ。おやすみ」

小町「おやすみなさーい」

小町の声を背に受けながら部屋に戻る。

なんとなく見た机には教科書が散乱していた。

……まあ、昔習ったことを繰り返し学習するのも大切だしな。高校入試のことを復習するのも悪くないかもしれない。

それに、教えるなんて言っておいて分かりませんじゃかっこわるいしな。

まるで言い訳のようにあーだこーだと色々なことを頭の中で繰り返し呟きながら、俺は懐かしい教科書を開いた。

眠るのは少し先になりそうだ。

大志「お兄さんって教えるのすごい上手いっすね」

八幡「褒めてもなにも出ないぞ、そしてお兄さんって呼ぶな」

以前、川崎姉弟と話をしたマックでドリンクを飲みながらちんまりと勉強会を開いていた。マックはハンバーガーやシェイクばかりが有名だがソフトクリームがうまいこともぜひ広めてほしい。

結果が出ないと嘆いていたが、思ったほど酷いものではない。だがあと一手、なにかが欲しいといったところだ。

確か、以前勉強会をしたときにモチベーションを上げるとかなんとかで志望理由の話をしたような記憶がある。

具体的な理由は聞かないままだったし……残りの一手をそれに託してみてもいいかもしれない。

八幡「……前に勉強会したときは結局聞けなかったんだが、お前の志望理由ってなに?」

大志「き、貴校の……」

八幡「そういうやつじゃなくて、本音の方だ」

そう聞くと、大志は気まずそうに視線を逸らす。なんかやましい理由なのだろうか。

八幡「話したくなきゃ別にいいが」

大志「そ、そうっすか」

八幡「小町がいるからとかじゃなけりゃな」

大志「……ばれてるっすね」

頬をポリポリとかきながら、大志は苦笑する。なんとなく言っただけだがどうやら大当りだったようだ。

八幡「なるほど、小町がいるから総武を目指すと……いい度胸じゃないかねキミ」

指を組み、どこぞのゲンドウさんのように渋い顔でにらみつける。声もできるだけ低くして迫力満点。相手が女子だったら通報されてるレベル。

大志「さ、最初は姉ちゃんがいるからだったんすよ!でも小町さんも行くって聞いてそれで!」

八幡「お前が総武目指そうが他のところ目指そうが邪魔する気はないが、小町に手を出すなら……分かってるな?」

大志「ほ、ほんとにシスコンっすね……」

脅迫のつもりがどん引かれている。こ、こんなはずじゃなかったのに……。

大志は外を見ながら少し悩んでいたが、覚悟を決めたように俺に向き直った。

大志「それでも諦めないっす」

まっすぐに、逃げ出す余地もないほどまっすぐに言われてしまい言葉に詰まる。ドリンクで喉を潤すが、何を言えばいいのか言葉が見つからない

大志「ど、どうしたんすか?」

八幡「……いやなんでもない。お前すげえな、俺にそんな宣戦布告するなんて」

大志「せ、宣戦布告じゃないっす!マニュフェストっす!」

八幡「守られねえじゃねえか」

わざわざ難しい言葉を使ったのに意味が伝わらないとかそんなのあいつだけで充分だ。頼むからろくろを回し始めるなよ。

大志「マニュフェストってのは言葉間違えたかもしれないっすけど……まあ相当難しいことっすけどね……」

さっきの気迫は消え、下を向く大志の表情は暗い。

当然だ。こいつが小町と付き合える確率なんて低すぎる。俺が認めないという前に小町が認めなさそうだし、万が一……億が一に俺と小町が認めたとしても次は俺の両親が待ち構えているのだ。なにこの三重トラップ。挑む前から諦めたい。

それを大志も分かっているだろう。なのになぜ手を伸ばそうと思えるのだろうか。

八幡「……よく諦めないなお前」

大志「え?なんで諦めるんすか?」

俺の問いに大志が純粋な目をして問い返してくる。やめろその目気持ち悪い。

八幡「なんでもなにも、小町がお前に振り向くか分からんし、振り向いても俺と親が認めないだろ」

大志「……小町さんって、お兄さんにだけじゃなく家族全員に愛されてるんすね」

八幡「愛されてるっていうか溺愛してる感じだな」

大志「え、えー……」

再度どん引く大志。きっと今こいつの中で小町以外の比企谷家の株がどんどん下がってるだろう。

大志「ま、まあそれは確かにかなり大変そうっすけど……別に諦める理由にはならないっすよ」

さも当然のように言ってのけられる。こいつとはどこか根本的なところが違うのか……?

大志「それにこういうのは多分諦めるか諦めないかじゃなくて……諦められない、っていうもんだと思うっす」

八幡「……なるほどな。納得いった」

違ってなんかいなかった。

同じだ。ビックリするくらい同じなのだ。

諦めようと思って諦めるもんじゃない。この気持ちはそんな綺麗にまとめられるもんじゃなく、もがき苦しみあがいて悩み……それでもどうしようもないものなのだ。

諦めないではなく諦められない。だから……手を伸ばすしかない。

大志「えっと、今の質問も勉強になんか関係あるんすかね?」

八幡「モチベーションを上げるための志望理由の確認的なことだ。……別に後付けの理由とかじゃないぞ?」

大志「えー……」

大志の不満げな声を聞きながら、ドリンクを飲む。容器はだいぶ軽くなり、ストローはズズッという音をたてている。

ちびちびと飲んできたがなくなってしまったようだ。ちょうどいい、ちょっと真面目に勉強会の再開としよう。

八幡「ほら、次のページだ」

まあ可愛い……かどうかはおいといて、未来の後輩のためだ。

たまには先輩らしく、かっこいいところを見せてやろう。

八幡「はああああ…………」

肺の空気をすべて出しきる勢いでため息をつく。朝の清々しい空気を大きく吸って体内に取り込むが、それもまたため息に変換されてしまった。

小町「もう、そんなにため息つかないの。幸せ逃げてるよ」

八幡「現在進行形なのか……」

朝食を一緒に食べていた小町から冷たい言葉が飛んでくる。

だが小町の言葉もあながち間違いではないかもしれない。なにせ今日は始業式。

残り少なかった冬休みも何事もなく平和に終わってしまい、今日から学校だ。

八幡「はあああああ…………」

小町「うわあ、鬱陶しい……」

さらに遠慮のない言葉がぶつけられる。少しは優しくしようとか思わないのかよ。

小町「でも毎日遅刻ギリギリのお兄ちゃんがこんな早い時間に起きてるなんて珍しいね。風邪?」

八幡「風邪ならどれだけ良かったことか……。ケータイ修理に出してから時間が余るようになってな。その分いつもより早く寝るようにしたら起きるのも早くなってよ……」

小町「すごい健康的なはずなのに不健康に聞こえる……。言ってる人が悪いのかな」

小町ちゃんそれ本人の前で言うことじゃないよ。

なんて文句を言ったところでおそらく聞き入れてはもらえないだろう。もっとコミュニケーションとっていこうよ我が妹。

小町「早く学校行っちゃえば?友達とおしゃべりするの楽し……あっごめん」

八幡「よく途中で気付けたな。そのこと自体言わないでもらえるともっと嬉しかったが」

小町「まあ知ってて言ったからね」

八幡「だろうな」

小町のブラックジョークを身に受けながら、今の提案を再考してみる。

確かに普段の俺は遅刻ギリギリの時間に登校している。だがそれは朝起きるのが辛いからというわけでは……いや、あるのだが。それ以外にも朝の時間に俺が教室にいることで場を悪くしてしまわないよう気をふんだんに使っているからでもあるのだ。

だから今日も家でゆっくりしてから学校にはいつもの時間に行こうと思っていたが……。

最近戸塚に会ってないんだよなぁ。

我ながらこんな理由で学校に行くのはどうかと思うが、それでも会いたくて会いたくて家の中で震えるよりはマシだろう。

八幡「早く行くかな……戸塚のために」

小町「……はあ」

あんだけため息のことを言っておきながら、自分がするとはどういうことだ。

まあ元凶が目の前にいるからなんですけどね。てへっ。

防寒具の上から肌を攻撃してくる寒さを乗りきりなんとか登校できた。

終業式ぶりの再会ということで周りのやつらからはまるで威嚇のような歓声が聞こえてくる。

なぜ早く来てしまったんだ俺は。こういう日こそギリギリに来るべきだろ。

これで戸塚がいなかったら踏んだり蹴ったりだ。そのときは先生が来るまで寝たフリでもしておこう。

奇声をあげる生徒を無視し下駄箱へ進む。ええい人が多い邪魔だ。

自分のクラスの下駄箱まであと少し、というところで誰かが俺の前で足を止めた。そこから進むでも戻るでもなく動かないせいで俺が進めなくなってしまう。

不満を隠すことなく表情に出しながらそいつの顔を確認する。

そこには……幽霊でも見ているかのような目をした、雪ノ下の姿があった。

雪乃「ゾンビというのは総じて朝が苦手なものだと思っていたけれど、特異体質もいるようね」

八幡「朝っぱらから人をゾンビ扱いするな。目以外はちゃんと人間だ」

雪乃「目がゾンビなのは否定しないのね……」

八幡「俺の目は明るいものには弱いからな。明るいやつとか明るい未来とか」

雪乃「現実は明るくないのによく目を逸らしているわね」

八幡「そこに触れるなよ」

朝でも昼でも関係ない鋭さを持つ雪ノ下の言葉はガリガリ俺のHPを削っていく。というかそこにいられると靴取れないんですけど……。

八幡「とりあえずそこどいてくれ。靴が取れん」

雪乃「……そうね」

なぜか声のトーンを落とす雪ノ下。そのリアクションを不思議に思いはしたがわざわざ掘り下げるほどのことではないだろう。

靴を履き替えクラスへ向けて歩き出す。雪ノ下が横にいるせいか周りから視線を感じる。

八幡「お前ってほんと有名人なのな。さっきから妬み嫉みみたいなのがバシバシ来るんだけど」

雪乃「あなたもそういう事を気にするのね。他人の視線なんて関係ないものだとばかり」

八幡「まあ基本はな。だがこういうのは後々めんどくさそうだろ。お前との関係とか聞かれて『たただの部長と部員です』なんて答えたところで信じるやつなんていなさそうだし」

信じてもらえないどころか部活入ってることに驚かれそうだ。実際平塚先生に無理矢理入部させられてなきゃ卒業まで帰宅部のエースだったからな。

雪乃「……確かに、聞かれても答えには困るわね」

雪ノ下は少し頬を染めながら答えた。そんな答え方をされるとなんて返したのか気になっちゃうんですけど……。

八幡「……そういや、小町だか大志だかに聞かれたとき『遺憾だけれど知り合い』みたいなこと言ってた気がすんだけど、今もあんな感じの回答なのか?」

雪乃「あの時は回答は、その、まだあなたのことをそこまで……い、いえ、今も意識しているなんてことはないのだけれど」

八幡「そ、そうか……」

何かを言ったわけでもないのに、そうも慌てて訂正されるとどうにもむず痒い。上目遣いでチラチラこっち見んな気にしちゃうだろうが。

話している内にクラスのある階に到着した。あとはここで俺のクラスと雪ノ下のクラスへ別れるだけだ。

確か、文化祭前に会ったときは俺の方から別れたはずだ。だからというわけでもないが今回も俺がきっかけを作るか?

別に今日も部活はおそらくあるのだから、とまるで自分に言い聞かせるように繰り返しながら雪ノ下の方を向く。

『じゃあまたな』と言葉を発するはずだった。実際に『じ』くらいは口に出していた。

けれど、下を向きながら俺の言葉を待っている雪ノ下の姿を見た俺は。

八幡「じ……自販機行かないか?」

全く違うことを口にしていた。

学校の自販機で買ったMAXコーヒーを雪ノ下と飲む日が来るなんて一体誰が想像できただろうか。

想像できないどころか俺はいまだに信じることができていない。夢じゃねえのこれ……。

雪乃「少し意外だったわ。あなたから何かに誘うなんて滅多にないもの」

八幡「自分でも意外に思ってる」

誘わないというより正確に言えば誘えないだけだ。その点リア充の人を誘う能力については尊敬している。きっとリア充と非リア充の大きな違いはそこにあるのだろう。

誘うというのは実に勇気がいる。相手に迷惑がられないかとか断られないかとか不安要素なんていくらでも出てくる。

だからこそ、こんな朝にあの雪ノ下を誘った自分が信じられない。

八幡「何が起こるかなんて分からないもんだな……」

雪乃「それは私のセリフなのだけれど」

八幡「それもそうだな……。ま、あれだ。ケータイ壊れてLINEできないし、これくらいはいいんじゃねえの?」

言ってから気づく。これじゃあ俺が雪ノ下とのLINEを楽しみにしてるみたいじゃねえか……。いやまあ違うとは言わないが。

察するな!と願ってみたものの、さすがに俺より国語の点数が高い雪ノ下がそこに気づかないわけもない。

雪乃「……本当に意外ね」

マッカンを手のひらに当てながら楽しそうに彼女は呟いた。恥ずかしさを紛らわすためにMAXコーヒーを口に含む。

雪乃「……私も同じ事を考えていたわ」

八幡「え……?」

雪乃「だから、その……あなたとLINEができなくなってしまったから……」

八幡「そ、それならまあ……同じだな」

雪乃「ええ……同じね」

お互いにもう何を言っているんだか分からなくなってきている。雪ノ下の顔は赤くなっているしなにこれMAXコーヒーに酔ったの?

雪乃「ケータイはどれくらいで直るのかしら?」

八幡「あと一週間くらいはかかりそうな感じだったな。延びるかもしれないけど」

雪乃「そう……」

八幡「ああ」

それきり、二人とも黙ってしまった。言いたいことはまだあったが、どうやら今日の勇気は先程使いきってしまったらしい。

MAXコーヒーを飲み終わる頃にはいい時間になっていた。早く来たおかげでだいぶゆっくり出来たがそれで遅刻してしまっては意味がない。

八幡「そろそろ行くか」

雪乃「ええ」

空き缶をゴミ箱に入れて再度クラスへと向かう。始業間近のため人は少なく、さっき感じたような視線はもう感じない。

雪乃「……いつもこのくらいの時間なの?」

八幡「いや、今日は戸塚に会おうと思ってな」

雪乃「そう……悪いことをしてしまったわね」

八幡「別に悪くはないだろ。誘ったのは俺なんだし……むしろお前は大丈夫だったのか」

雪乃「いつも本を読んでいるだけだから問題はないわ」

八幡「ならよかった」

話をしているうちにあっという間に別れ道についてしまった。この階まで来てしまえばさすがに周りは騒がしい。

八幡「今日部活あんのか」

前にも同じようなことを聞いた気がする。けれど、そのときとは含んだ意味が全く違う。

雪乃「……ええ、今日からいつも通りよ」

八幡「そうか。じゃあ、またあとでな」

雪乃「……比企谷君」

クラスへ足を向けていた俺を雪ノ下が呼び止める。なにか伝え忘れたのだろうかと振り返るが、彼女はなかなか続きを言わない。

何秒か経ち、なぜか俺の方が焦り始めたタイミングでようやく口を開いた。

雪乃「また……明日も」

雪ノ下は胸の前で小さく手を振りながら俺にギリギリ届くような声で呟いた。

俺の返事も待たず彼女は去ってしまう。残された俺は身動きが取れずに立ち尽くしていた。

具体的な主語を何も残していかなかったのに言いたいことは伝わった。ただ……なんというか、俺にはいささか破壊力が強すぎる。

その後、俺が遅刻をしたことは言うまでもない。

今日はここまでー

ら、来月中にはまた投下できるよう頑張ります……

おやすみなさい!

やっはろー!1です
書き溜め最後まで出来た!
あんまり量はないので多少書き直しすることを考えてもGW中には終わらせられます!

今日か明日に投下しようと思うのでそれではまたー

今年最初のホームルームや始業式も無事終わり、休み明け最初の部活も当然のように何もなく終わった。

……お悩み相談メールに剣豪将軍なんて文字があった気もするがきっと気のせいだろう。

そして次の日。

今日から授業も始まる。昨日も学校に行くのが嫌だったが、授業開始の今日の方が気分的には落ち込んでいる。

なんで初っぱなから理数系なんだよ……文系でいいだろ。

八幡「はあ……行きたくねえ……」

小町「そういうわりには早くない?」

朝御飯を食べていた小町に冷静に突っ込まれる。なんだかんだいって小町も休み明けの学校が嫌なのかテンションが低い。

八幡「高校生にはいろいろあるんだよ」

小町「へー……」

適当な誤魔化しだったが、小町はそこについて興味があったわけでもないらしくムシャムシャと朝御飯を食べ始めた。

つ、冷たすぎない……?それ学校が嫌だからだよね?お兄ちゃんに対する興味が急に消えたとかじゃないよね?

小町「そういえばさー」

八幡「ん?」

小町「結衣さんに聞いたけど、昨日遅刻したの?」

八幡「……ああ、まあな。ってかなんであいつ俺のことお前に報告してんの」

小町「『お兄ちゃん今日何かしでかしました?』って聞いたら教えてくれた」

どうもこいつの中では『俺がなにかする=しでかす』という方程式が出来上がっているらしい。そろそろその認識変えようね?たまにしかしでかしてないから。

八幡「……いろいろあったんだよ」

小町「そう」

それだけ言って小町はコーヒーをすすった。

おかしい。いつもならここでさらに問い詰めて俺の口から全て説明させるのに……。

本気で興味をなくされたのか?なにそれ死ねる。

八幡「あーうん、ほんといろいろあったんだよ。風冷たいし空気冷たいし……寒いし」

あ、ダメだこれ実質同じことしか言ってねえ。もう小町こっち向いてすらいない。

八幡「あ、あとはあれだ……教室行く前に偶然雪ノ下に会ってな。話し込んでたら遅刻しちまったよ」

小町の動きがピタッと止まる。先程までの冷えきった視線は影を潜め、いつもの小町らしい小悪魔的な瞳に戻っていた。

小町はニヤリと微笑む。

小町「家出るまでまだ時間あるし、今の詳しく教えてもらっちゃおっかなー」

楽しそうな声音に、俺は自分の失態に気付かされる。

は、ハメられた!俺の誘導尋問に新しいパターンを作ってきやがった!

俺の小町への愛を利用してくるなんて……困った、こんなのパターンが分かったところで避けられない!

八幡「く、詳しくつってもあれだぞ、ほんとに偶然会って少し話してたくらいだ。MAXコーヒー飲みながら」

小町「ほうほう、あんなに早く出たのに遅刻するほど話し込んだわけですな」

八幡「話し込んだつーか……切り上げるタイミング分かんなくてほとんど黙り込んでた」

小町「うわーお兄ちゃんらしい……」

爛々と輝いていた視線は途端にジト目に変わる。表情の切り替えが早い。隠し事とかかなり上手そうだ。

小町「今日も?」

八幡「さあな。ちゃんと約束したわけじゃないが、これでもし向こうだけ来てたら俺が無事に家に帰ることが出来なくなる」

小町「お兄ちゃんは雪乃さんはどんな人だと思ってるの……」

八幡「気にするな。……そろそろ行ってくる」

小町「いってらっしゃーい」

八幡「おう」

パパッと準備を終わらせ外に出る。冷たい風は体温を奪い予想される退屈な授業はやる気を奪う。

けれどいつもより足取りが軽いのは、きっと気のせいではないだろう。

下駄箱へ到着したが、そこに雪ノ下の姿はなかった。

……当たり前か。昨日は小町に言ったように偶然だったんだから。それなのに俺は何を期待して……。

放っておけば際限なく沈みそうな思考を適当なところで切り上げ教室へ向かう。昨日もこうやって階段を上がってそこから……。

階段の一段目を登ったところで動きを止める。横から俺を迷惑そうな目で睨みながら生徒が通りすぎていった。

あの時、確かにあいつは『明日も』と言った。

それを『明日も下駄箱で会いましょう』などと勘違いしてしまったが、俺たちは昨日偶然下駄箱で会っただけで話したのは自販機の前だ。

なら、『明日も』の後に続くのは……?

きっとそれも勘違いだ。勝手に勘違いして理想を押し付けて、そして失望をするなんて昔の俺と変わらない。

なのに俺の足は自販機へ向けて動いていた。

……俺が思っていた以上に、大志に教わったことは的を射た真実だったようだ。

結論から言えば、雪ノ下は自販機の所にいた。……知らない男子生徒達と一緒に。

雪ノ下は自販機の前でMAXコーヒーを持ちながら、恐らく彼女の謙虚な態度から三年生と思われる男子生徒二人と会話をしていた。

……会話?いやちょっと待て、会話なのかあれ。

男子生徒二人はあの雪ノ下雪乃と話せるのがよほど嬉しいのか口を休ませることなく動かしている。距離が遠いので会話までは聞こえないが、あの表情を見る限り勉強や業務連絡のような真面目な話ではないだろう。

対する雪ノ下は彼らの会話の合間にほんの少し口を開くだけだ。もしかして『ええ』とか『そうですね』くらいしか声出してないんじゃないのか……?

さて、俺はこういう時どうすればいいのだろう。

まあ普通に声かけるべきだよな。ところで普通ってなに?

哲学的なことを考え始めたところで雪ノ下と目が合った。その一瞬だけ、彼女の無表情が笑顔に変わる。

その笑顔が傲慢な独占欲を胸の内に沸かせる。必死にそれを抑えながら雪ノ下の方へ歩いていく。

八幡「よう」

雪乃「おはよう比企谷君。まさか昨日よりも早く来るなんて思っていなかったわ」

八幡「あ、ああ。って待て待て。そこの人達無視するなよ。お前が急に会話ぶったぎって俺のとこ来たもんだからポカンとしてるぞ」

雪乃「?」

雪ノ下は首をひねりながら今まで話していたおそらく三年生の人達へ視線を向ける。

え、なにその反応。お前さっきまで話してたよねその人達と。なんでそんな『どちらさま?』みたいな顔してるの?

雪乃「えっと……ごめんなさい。彼が来ないかとずっと待っていたので他の人が来たことに気づいていなくて……。何か大切な話をしていましたか?」

こいつがちゃんと腰を低くして話すところって珍しい。誰だろうと関係なくいつもの毒舌全開だと思っていたが、さすがに先輩……しかも話を全て聞き流してしまっていたなんて状況だとこうもなるか。

っていうかさらっと凄いこと言ってない?先輩らしき人達苦笑いしながら立ち去っていったぞ。

雪乃「……変な人たちね」

八幡「お前が言うな」

とりあえず俺もMAXコーヒーを買う。温かな甘みにほっと一息をついた。

八幡「昨日より早く出たのにまさかお前の方が先にいるとは思わなかった」

雪乃「……たまたまよ」

それだけ言うと雪ノ下はMAXコーヒーに口をつけた。チラッと俺を見ると顔を赤く染め視線を逸らされる。

いやだからそういうの心臓に悪いからやめてって言うてるやないですか……。

雪乃「昨日、あのあと遅刻したそうね」

八幡「由比ヶ浜から聞いたのか? まあな、ちょっとなんやかんやあって」

雪乃「あそこで別れたのに遅刻する理由がまるで分からないのだけれど」

遠回しに具体的な理由説明を求められているが、まさかご本人様に理由を伝えるわけにもいかない。

そんなことしたら恥ずか死ぬ。俺もこいつも。

雪乃「あの時間でも遅刻してしまうのなら、もう少し早く切り上げた方がいいのかしら」

八幡「……普通にすれば間に合うんだから別にしなくていいだろ」

雪乃「ふふ、そうね」

まるで素直になれない子供でも見ているように優しく笑う雪ノ下。

その後も俺たちは他愛ない会話を時間ギリギリまで続けた。お互い言葉にはしないが、話したいという気持ちをほぼ隠さなくっている。

隠さず表に出して想いを共有する。だが、俺たちがその想いを言葉にしないのは伝わっているからなんて綺麗な理由じゃない。

そんな理由に逃げてはいけない。

雪乃「そろそろ行きましょうか。連続で遅刻するわけにもいかないでしょう」

雪ノ下の言葉を合図に俺たちは歩き始める。階段を登り、教室への別れ道にすぐにたどり着いてしまった。

雪乃「それじゃあ、また──」

八幡「明日もお前と話したい」

雪ノ下の言葉を遮って想いを伝える。彼女は右手をあげたまま固まっていた。

雪乃「えっ、えっと……」

八幡「……ダメか?」

雪乃「そ、そうではないけれど……どうしたの比企谷君?」

俺を不審げに、そして不安げに見てくる彼女に返す言葉が思い付かない。だって自分でもなんで今わざわざ口に出したのか分かってないんだから。

かといってこのまま黙りこくっているわけにもいかない。なにか言わなければ。

八幡「……お前だって昨日言っただろ」

雪乃「そうだけれど……」

八幡「同じことだ」

雪乃「……そう……なのかしら?」

納得いかないといった感じの雪ノ下だったが、俺が話す気がないことを悟ると早々にこの会話を切り上げた。

雪乃「分かったわ。なら明日もあの場所で」

八幡「……誰かが話しかけてきたらちゃんと答えてやれよ」

雪乃「気を付けるわ。けれど、できれば私が話しかけられる前に来てもらえると助かるのだけれど」

八幡「はいはい分かりました……んじゃまた部活でな」

雪乃「ええ、また」

いつもより上機嫌に見える雪ノ下は笑顔で手を振りながらJ組へと向かっていった。

さて、じゃあ俺も行きますかね。遅刻して平塚先生に殴られないために。

次の日も、また次の日も俺たちは朝の時間を自販機の前で過ごした。

雪ノ下より早く来ようと努力したものの、前の日よりどれだけ早く来てもこいつは先にいて俺を待っている。何時に来てるんだこいつ……。

朝の時間は教室でワイワイ話すやつが多いのか雪ノ下に声を掛けたあの先輩達以外に人をほぼ見ない。そのおかげで最初に少しだけ危惧していた変な噂が流れるのでは、という心配は無事解消された。

まあ噂にはならなくても小町にはすっごく話聞かれるけど。むしろ小町が噂の発生源になりそうレベル。あいつがまだここに入学してなくてよかった。

雪乃「比企谷君?」

八幡「……ああ、悪い。小町のこと考えてた」

雪乃「そんなシスコン発言をされても困るのだけれど……」

そう引き気味に言う雪ノ下。いいんだよ千葉のお兄ちゃんは皆こんな感じなんだから。俺の妹がこんなに可愛いわけはあるんだから。

雪乃「そういえば気になっていたのだけれど、あなたの目の腐り……少しなくなってきていないかしら?」

八幡「そうか?自分じゃよく分からんが」

雪乃「ええ、入部したときよりだいぶ良くなったように見えるわ。……睡眠時間でも増やしたの?」

八幡「どうして俺の周りのやつは目の腐りを睡眠不足のせいにするんだよ……」

雪乃「目がそんな風になることに他の理由なんて……あっ、あなたの目は性根の影響を強く受けやすいのかもしれないわね」

八幡「さらっと人格否定するなよ」

いつものような掛け合い。そしてふと訪れる沈黙。次の会話のためにMAXコーヒーで喉を潤そうと缶を口元に近づける……が、途中で雪ノ下が俺を凝視していることに気付き動きを止めた。

八幡「なんだよ?顔に何かついてるか?」

雪乃「…………」

俺の問いに対する回答は無言だった。首を傾げることしかできない俺に彼女はそのあとも何も言わず、ただ静かに……俺の顔に手を伸ばしてきた。

八幡「へ?ちょっ……」

白くて細い指が俺の目の下辺りに触れる。目に沿って動かされる指の動きは遅く、ゾクゾクとした感覚を俺に与える。

そのまま彼女は手のひらを俺の頬に添える。

八幡「お、おい雪ノ下」

雪乃「……!!」

先程までのゆっくりとした動きとは対称的に素早い動きで手を引っ込めた。

雪乃「い、今のはっ……その……」

八幡「だ、大丈夫だ。気にするな」

弁解の言葉が思いつかない雪ノ下に代わって俺が言う。

何が大丈夫なのか。何を気にしないのか。この言葉を選んでいる時点で大丈夫じゃないし気にしてしまっているのがバレバレだが、こうでも言わないと目の前で顔を真っ赤にしている女の子が爆発してしまいそうなのだ。

エクスプロージョン!!あ、これ爆発じゃなくて爆裂だった。

会話がなくなって、場が静寂に包まれる。ここ数日学校がある日は毎朝話していたが、たまにこうやって静かになってしまうのだ。

静かな時間も嫌いではないが、このままではむずがゆいというかなんというか……。

というわけで仕方なく助け船を出す。まあ話すり替えるだけだけど。

八幡「そ、そういえば俺のケータイ直ったらしいぞ。今日取りに行く予定だ」

雪乃「そう……今日だなんてずいぶん急ね」

八幡「何日か前に聞いてたけど言い出すタイミングが分からなくてな」

雪乃「……なら、その、今日からまた送ってもいいのかしら?」

そう聞いてくる雪ノ下は、恥ずかしそうに手をもじもじとさせながらこちらに視線を合わせようとしない。

その質問への答えなど決まっている。というか同じ質問をまさにしようとしていたところだ。

八幡「ああ……待ってる」

それを聞いた雪ノ下は嬉しそうに微笑む。

もしもここに小町がいたならば、待ってるじゃなくて自分から送りなさいとでも怒られたかもしれないが……俺としては頑張った方なのだ。これくらいで許してほしい。

雪乃「久々だからといって、寝オチなんてしないわよね?」

八幡「ちょっと自信ないな。最近早寝早起きでやってたし」

雪乃「そこはしないと答えて欲しかったのだけれど……」

八幡「お前こそするなよ?寝オチするとろくなことないからな……」

雪乃「……知っているわよ、そんなこと」

そういう雪ノ下の顔は赤くなっている。俺もまた不用意な発言からまたあのことを思い出してしまい顔が熱くなる。おやさめ……。

二人ともまた無言になってしまう。初詣の時には大丈夫そうだったのに……。こういう反応をされると俺まで恥ずかしい。

話を無理矢理にでも変えようかと考えたが、そういえばそろそろ始業の時間だ。

雪ノ下もそのことを思い出したらしく、空き缶をゴミ箱へ入れていた。俺も空き缶を捨ててクラスへ向かう。

急ぎ足でいつもの分かれ道にはすぐにたどり着いた。

八幡「じゃ、また後でな」

いつものように別れの挨拶を告げると、彼女はなにやら通学カバンをごそごそし始めた。

すぐに見つかったらしいそれを手に収めたまま、彼女は胸の前……いや、もう少し下、お腹の前辺りで小さく手を振る。俺以外の誰にも見られないようにしながら、悪戯げに微笑んで。

雪乃「また後で」

それだけ言って、彼女は教室の方へ歩き始めた。手の中の──ケータイをカバンへとしまいながら。

もしかしたら、今の俺はとても気持ち悪い笑顔を浮かべているかもしれない。

今の雪ノ下の行動を見ることができたのが俺しかいないということ……そして、例え誰かがその行動を見ていたとしても、その意味を俺しか理解できないということ。

それが嬉しくて恥ずかしくてもどかしくて堪らない。心の中に初めての感情が渦巻いていく。

部活には由比ヶ浜もいるから、誰もいないこのタイミングで今の挨拶をしてきたのだろう。でも、朝にそんなことをしないで欲しかった。

そのせいで、今日一日授業になんて集中できなくなっただろうが。

10けれど比企谷八幡は欲してしまう

今日はここまでです
もしかしたら明日にでも投稿し終わるかもしれない。というか多分終わる。

それではおやすみなさいー

やっはろー!1です

多分これが最後の投下になります
これで完結させるつもりなのでよろしくです!

学校も終わり、俺は家のリビングで久々のケータイを手にして座っていた。割と長い間俺の手から離れていたため、戻ってくると感慨深いものがある。

小町「お兄ちゃん、顔が気持ち悪いよ?あ、間違えた、気持ち悪い顔になってるよ?」

八幡「変な言い間違いするなよ。俺のHPはそんなに高いわけじゃないんだからな」

小町「知ってる知ってる。防御力が高いんでしょ」

八幡「分かってるならいい」

というかどうせ注意したところで改善される事もないだろうからな。

悲しい現実にうちひしがれながら、MAXコーヒー片手に自分の部屋へ移動する。小町の前でLINEなぞしてしまえば、それはもう小町のあまり多くはない語彙力の限りを尽くして罵倒される顔をしてしまうだろう。

ベッドに座り込みながらMAXコーヒーのプルタブを開け一気に喉へ流し込んだ。あとはただ雪ノ下からのLINEを待つだけである。

…………。

……………………。

……………………………………来ねえ。

ケータイの設定を確認するが、機内モードになっているなんてオチはない。もちろんケータイやLINEアプリの調子だって悪くない。というかLINEが正常に動くかどうか確認するためにわざわざリビングで小町と色々していたのだ。

お、俺から送るべきなのか……?

さすがにそれはハードルが高すぎる。朝にあんな会話したのに自分から送るとかどんだけLINE楽しみにしてるんだよって思われる。

っていうかもうあいつがLINE送ってくれるって前提なのが自意識過剰なんじゃないか?

思考が同じところを何度もぐるぐると巡る。今までの自分ならきっともう寝てしまっていたのに、今の俺は真っ暗なケータイの画像を見つめて一体何をしているんだろうか。何を期待しているんだろうか。

巡りめぐった意識が微睡みの中に落ちそうになったころ。

ピコン、と。

俺の意識を現実へと呼び戻す音がした。

小町「あ、お兄ちゃんおは……よ……う……」

八幡「……ん」

翌朝、リビングに行った途端に小町がゾンビでも出たような顔をしてきた。頭が働かなすぎてその顔へのリアクションすら取れないままふらふらと椅子に座る。

小町「お兄ちゃん、どうせ昨日も雪乃さんとLINEしてたんでしょ」

八幡「ん……」

小町「……何時に寝たの?」

八幡「……寝るという言葉の定義にもよるな」

小町「うん、もういい」

俺の返事から何かを悟った小町が呆れたように言った。いや待てもしかしたら答えは違うかもしれないだろ。多分合ってるけど。

小町「えー、まあ寝るの遅いんだろうなーとは思ってたけど……えー」

八幡「なんだよ……」

小町「だってさ……つまりは雪乃さんも寝てないってことだよね」

八幡「さあな。寝ながら打つことだってできなくはないだろ」

小町「できないよ。頭大丈夫?」

冷静な声音で心配されてしまった。確かに言われてみればできないな。大丈夫じゃないかもしれん。

用意されていた朝ごはんをのろのろとした動きで口に詰め込む。その間も小町は腕を組みながら唸っていた。

八幡「さっきから……なんだ……よ……」

小町「ちょ、寝ないでお兄ちゃん!今日もどうせ朝からいちゃつくんでしょ!」

八幡「いちゃつ君?……誰だよ……」

小町「聞き間違い酷すぎだよ!?ほら起きて!」

小町に肩を揺すられて無理やり意識を引き戻される。っていうか何発が頬をはたかれたんだけど。小町ェ……。

その後も小町に揺すられはたかれ殴られなじられながら朝ごはんを済ませ、家を出る準備をする。……乱暴な妹に言いたいことはいっぱいあるが、こうでもしないと本気で寝てしまっていたかもしれないし何も言わないでおこう。

八幡「くぁ……あくびが止まらん……眠い……」

小町「それで自転車乗るの?」

八幡「昨日より家出る時間遅くなってるからな……さすがにこれ以上遅れるわけにはいかないだろ」

小町「気を付けてね」

八幡「ん」

出来るだけ早く身支度を終わらせ、外に出る。困った子でも見るような小町に手を振って、相変わらずな寒空の下を自転車で進んでいく。

肌を裂くような寒さはいまだぼんやりしていた俺の意識を徐々にはっきりとさせていく。しかし集中力や判断力はそうはいかない。意識とは違ってそのあたりは寝不足の影響が濃く出てしまう。

これはもう授業中寝るしかないな。俺は悪くない社会が悪い。あるいは二十四時間しかない一日が悪い。あと五時間くらい増えねえかな。

駐輪場に自転車を置いて急いでいつもの場所へ向かう。

いつもより少し時間が遅いせいか人が多いな。この前みたいに誰かが雪ノ下に話しかけてるなんてことがあるかもしれない。早く行かなければ、犠牲者を増やす前に。

自販機前にようやくたどり着く。だが、驚くことに雪ノ下の姿はなかった。……いや驚くほどのことでもないか。偶然あいつの登校が遅かったってだけだろう。

MAXコーヒーを買って冷えた体に流し込む。体に栄養が行き渡るのをなんとなく感じながらケータイを弄って時間を潰す。

まだかなー、面白そうなSS大体読み終わっちゃったぞ。

時間を見るともうチャイムが鳴るまであまり時間はない。もう少ししたら教室へ向かわなければならないような時間だ。

昔の思い出がよみがえりちくりと胸が痛む。だがそれも一瞬のこと。俺は思考を悲観的から現実的へとシフトさせる。

もちろん俺が一人で舞い上がって、してもいない約束をした気になっていた可能性は充分ありえる。だが、もっと可能性が高いものがある。

ケータイを取り出して雪ノ下とのLINEの画面を開く。相変わらず中盤からお互い変なテンションになってしまっているが、それは見ないフリだ。

深呼吸を二回。少しばかりの緊張を携え、俺は一度も使ったことのない「通話」を初めてタップした。

独特なコール音が鳴ること数回。電話の向こう側の人物が声を出す。

雪乃『……もしもし』

八幡「おはよう雪ノ下」

雪乃『……比企谷君?……ふふ、まさか起きてすぐに貴方の声を聞ける日が来るなんてね』

声音から明らかに寝ぼけていることが分かる。俺の予想はどうやら当たってしまったようだ。やはり俺とのLINEが終わったあと寝てしまっていたらしい。

……それと、後半のは聞かなかったことにしよう。でないと部活に出れる気がしない。あいつとまともに会える気がしない。

八幡「あー……寝ぼけてるとこ悪いんだが、時間見てくれ」

ガタァ!!と、とんでもない勢いで起きたのであろう音がケータイから聞こえてくる。それだけでも雪ノ下が相当焦っていることがよく分かった。

八幡「お、落ち着け雪ノ下。とりあえず起きたなら学校来る準備しとけ。先生には俺から言っとくから」

雪乃『そ、そうね、お願いするわ。……ところで貴方はもう学校にいるのかしら?』

八幡「ああ……っと、やばい。そろそろチャイムが鳴るからもう切るぞ」

雪乃『あ、ちょっと』

何かを言いかけていたようだが、無視して電話を切る。ケータイを乱暴にポケットへ突っ込みながら教室へ向かう。

頭の中で今日の時間割を確認する。よし、昼までなら寝て問題なさそうだ。

教室に辿り着いた俺が席に着くのとチャイムがなるのは同時だった。

HRが終わり、先生に雪ノ下が遅れることを伝えて俺の任務は終わった。あとは寝るだけだ。

朝は多少ごたついてしまったが、この後はきっと何事もなく過ぎていくだろう。そんな風に信じながら、俺はゆっくり目を閉じた。

誰だよ何も起こらないだろうなんてフラグ建てたやつ。

昼休みの教室で俺は誰に向けるでもなくそんなことを思っていた。

というのも、なぜかF組に来ていた雪ノ下が、寝ていた俺の頬をぷにぷにしていたからだ。

俺は寝ていたから何も知らないというのに、目が覚めた瞬間クラスの注目の的だ。ぷにぷにされていたというのも雪ノ下の言動と周りのひそひそ話から推測したものにすぎない。ってか俺にひそひそ話が聞こえちゃダメだろ。もっとひそれよ。

雪乃「……起きてたの?」

八幡「今起きたんだよ」

雪乃「そ、そう……」

八幡「……ああ、悪い。寝てたからゴミ付いてたの気付かなかったわ。取ってくれたのか、サンキュな」

今の台詞だけクラスの全員に聞こえるよう少しだけ大きめに言った。

俺の改心の誤魔化しは意外と効いたらしく、大半の生徒は納得したように自分達の会話に戻っていく。……だが、雪ノ下はいるだけで視線を集めるようだ。まだチラチラとこっちを見ているやつもいる。

八幡「そうだ雪ノ下。今日のディスカッションについてちょうど意見をヒーリングしたかったんだ。やっぱりカスタマーサイドに立つにはお客様目線にならないと……」

頭の中にぽんぽん浮かんでくる単語を適当に口に出す。真面目な話をしていると分かったらしい周りのやつらは俺たちを視線から外し始める。

おそらく玉縄に感謝するのは人生でこれが最初で最後だろう。俺はそのタイミングを見逃さずに、雪ノ下の手をつかんで教室を出た。

とりあえず落ち着けるところに行きたい。だがさすがに昼休みの自販機前は人が多いだろう。となると……。

雪乃「ひ、比企谷君……どこに向かっているのかしら?」

八幡「俺のベストプレイスだ。人が全然来ないから落ち着いて話すにはちょうどいいんだよ」

雪乃「そう……えっと、比企谷君」

八幡「今度はなんだ?」

雪乃「そろそろ……手を……」

八幡「……悪い」

なんだこれは。最近俺からラブコメ臭がしまくっているんだが。

雪ノ下の方を見ないようにして歩き、ようやくいつものベストプレイスにたどり着く。

八幡「んで、なんの用だ?」

雪乃「今朝、自販機のところに行けなかったことを謝ろうと……」

八幡「別にお前が謝る必要はないだろ。むしろ俺が徹夜させちまったこと謝らなきゃならん」

雪乃「それこそあなたが謝ることではないでしょう。私が私の意思で起きていたのだからあなたには謝らせないわ」

八幡「謝らせないって……」

どんだけ強情なんだこいつは。謝罪すら許さないって俺もう何もできなくなるんだけど。

八幡「あー、じゃあ俺は謝らない。その代わりお前も謝らない。オーケー?」

雪乃「……ダメと言ってもあなたは譲らないでしょう?」

八幡「まあな。……ところで」

雪乃「なにかしら?」

八幡「俺の頬を触ってたのはなんでなんだ?」

俺が疑問を口にした途端、雪ノ下の表情が固まる。回答を待ってじっと雪ノ下を見つめるが、彼女は何を言うでもなく視線を泳がせていた。

雪乃「あ、あれは……」

視線がクロールレベルで泳いでいる。なんだ、そんな言うのが辛いことなのか。なら別にそこまで聞きたいわけでもないからいいんだけど……。

八幡「ゆきのし──」

雪乃「さ、触りたかったからっ」

俺が口を開くよりも早く、意を決したように雪ノ下が口を開いた。

雪乃「あ、あなたの眠っている顔を見ていたら、その……急に頬を触りたくなってしまって……」

八幡「わ、分かった。もうそれ以上は言わなくていい。というか頼むから言わないでくれ」

なんだろう、こいつはもう少し取り繕うとか誤魔化すとかできないんだろうか。あ、そういえばこの子虚言は吐かないんでしたね。

ぜひとも彼女には『優しい嘘』というスキルを覚えて頂きたい。

八幡「……お互い、徹夜のせいでおかしなことになってんな。LINEはそこそこで切り上げて、朝はそれぞれ前みたいにってことにするか」

雪乃「そうね……」

雪ノ下は疲れた様子で答える。体調崩して学校を休むことはあってもただの寝坊なんていうのは経験なさそうだもんな。先生からもなにか言われたかもしれない。

八幡「じゃあそういうことだから、由比ヶ浜待ってるだろうしクラス行くか」

雪乃「……? なぜここで由比ヶ浜さんが出てくるのかしら?」

八幡「いつも由比ヶ浜と昼飯食ってるんじゃないのか?……お前もしかして昼飯忘れたんじゃ」

雪乃「では購買に行ってからF組へ行きましょうか比企谷君どうしたのかしらそんなところで棒立ちになって早く動きなさい」

八幡「はいはい」

雪乃「はいは一回よ」

八幡「へーい」

いつもよりテンションが少しだけ高めな雪ノ下の後を歩く。ほぼ間違いなく徹夜が響いてるのだろう。こいつのことだし授業中に寝るなんてこともしてないんだろうな……。昼休み中に少しでも寝てほしいものだ。

みんな!徹夜はしないようにね!八幡お兄さんとの約束だよ!

気まずい。

午後の授業はなんとか起きて過ごし、さて奉仕部だと部室に来たはいいものの、昼にあんなことがあったのだからそりゃあもちろん気まずい。

予想できただろこんなの……今日は適当な理由つけて帰ればよかったじゃねえか……。

ちらっと横を見れば俺の様子を伺っていた由比ヶ浜と目が合ってしまう。慌てて視線を逸らし雪ノ下の方を見る。

あいつ起きてるのか?寝てね?

このまま静かにいるのもなんというかそわそわして落ち着かない。俺は『今更隠す必要もないだろう』と考え、居心地が悪そうにしている由比ヶ浜に今の本心をぶっちゃけた。

八幡「なあ由比ヶ浜」

結衣「な、なに?」

八幡「……気まずいから帰りたいんだけど」

結衣「ちょ、ヒッキーがそれ言う!?絶対あたしの方が気まずいし!」

八幡「いやいや、俺の方が気まずいだろ。全国気まずい選手権があれば優勝できるレベルだぞ」

結衣「あたしがチャンピオンだよ!……うー、本当にあたし帰った方がいいんじゃないの……?」

おそらく昼のあれを見ていたからであろうそのセリフに一瞬言葉が詰まる。それを肯定と捉えてしまったのか由比ヶ浜は少し表情を暗くして帰る準備を──

雪乃「待ちなさいチャンピオン。私とそこのゾンビマンが狭い部屋に二人きりなんて危機的状況を作り出そうとしないでちょうだいチャンピオン」

結衣「ゆきのんのノリおかしくない!?」

寝起きのせいか、はたまた徹夜が響いているのかは分からないが、雪ノ下のノリがおかしい。LINEの時もこんな感じだったし、もしかしたら雪ノ下は眠気に弱いのかもしれない。

しかもそんな変なことを言っているのに、テンションがいつも通り低いのが端から見ているととても面白い。

よし、もう少しこのまま見ておこう。

雪乃「いつもと同じよチャンピオン。おかしいところなんてないわよチャンピオン」

結衣「いやおかしいよ!ゆきのんいつもはチャンピオンなんて連呼しないもん!っていうかチャンピオンが語尾みたいになってるし!!」

雪乃「気のせいよチャンピオン」

結衣「絶対おかしいって!あとあたしのことチャンピオンって言うのそろそろやめて!」

雪乃「ところでチャンヶ浜さん」

結衣「チャンヶ浜!?」

雪乃「先程から気まずいと言っていたけれど、なにかあったのかしら?」

結衣「なにかもなにもゆきのんとヒッキーが理由なんだけど……」

雪乃「……勉強についていけなくなったのかしら?」

結衣「ひどい!なんか心にグサッと来るんだけど!」

雪乃「ふふっ、なら良かったわ」

結衣「いや心に響いたとかそういう意味のグサッとじゃないから!あたしが気まずい理由、ゆきのんが昼休みに──」

八幡「おっとそこまでだ由比ヶ浜。それ以上いくと俺がダメージを受ける。精神的に」

めったに見ることのできないような掛け合いを第三者として眺めていたが、これ以上は俺も巻き込まれかねん。

八幡「はあ……もう今日は部活終わりにしたらどうだ。さっきも言った通りすげえ気まずいし。なによりお前、もう起きてるの限界だろ」

雪乃「そんなこと…………な、ないわよ」

八幡「今少し寝たろ」

俺と由比ヶ浜のジト目から逃れるように雪ノ下は顔を俯かせる。やがてその瞼はゆっくり閉ざされていき……。

結衣「ゆきのん起きて!言ったそばから寝ちゃわないで!」

由比ヶ浜に体を揺すられ雪ノ下は無理矢理起こされる。

……俺たちは同じようなことをあと三回ほど繰り返してから、ようやく部活を終了させた。

部活を終え無事帰宅した俺は、早速部屋にこもってLINEをしていた。

さすがに徹夜で寝坊させてしまったにも関わらず、俺からLINEを送るようなことはしない。LINEは雪ノ下からだ。

まあ本当は断ってとっとと寝かせるべきなんだろうが……。少しくらいなら大丈夫だろう、うん。今日は早めに切り上げる予定だし。予定というか夜遅くまで続けようと思っても俺の体力がもたない。

そんなわけでとりあえず夕飯までということでLINEを続けていたのだが。今まで直接会って話していただけになんか物足りないというか……。

会いたいな……。

そこまで考えてぶんぶん頭を振る。何を考えてるんだ俺は。思春期の男子高校生かよ……男子高校生だよ!

セルフでツッコミをしながらもLINEは送られてくる。内容は……ほとんど今日の不満なんですけど。あれ、昼休みに謝りに来たのどこの誰だっけ。

小町「お兄ちゃーん。ごはんだよー」

もう夕飯か。キリもいいし、今日はここまでにしてお互い早く寝るようにしよう。

八幡【小町に呼ばれたから夕飯行ってくる】

八幡【今日はもうここまでにしとこうぜ】

八幡【明日もまた今日みたいなことが起こったら嫌だし】

雪乃【まだこんな時間よ?】

雪乃【もう少しならいいのではないかしら】

それもそうだな、と打ち込もうとしたところで慌てて手を止める。これはフラグだ、徹夜フラグだ。

俺は鋼の精神をなんとか保ち、甘言に惑わされることなく『今日はここまで』、ということでなんとか話を終えた。

……俺だってもっと話していたい。さっきなんて会いたいとすら思っていたのだから当然だ。

進んでもいいのだろうか。もっと先を求めていいのだろうか。

悶々とした気持ちを抱えながらベッドに寝転がる。目をつぶると色んなことを考えてしまう。

……あれ、なんか忘れてるような。

小町「お兄ちゃん!おかず全部食べるよ!」

八幡「ちょっ、今行くから!」

考えすぎはよくないな、うん。もう少し気楽に行こう。……今日みたいにおかずの唐揚げを小町に食べられたくなければ。

朝会って話すのをやめてから、なんだか変だ。

授業中、休み時間、登下校。さらには家にいるときまで雪ノ下のことばかり考えている。

今まではこんなことはなかったというのに、なまじ朝にあれだけ直接会って話し込んでしまったせいか、部活中とLINEでしかやり取りがなくなって物足りなくなってしまったのかもしれない。

そして変なのは雪ノ下もだった。登校前も下校後も、LINEはほぼ毎回あちらから送られてくる。それに部活中はチラチラこちらを見てくる。

あとこれはただの偶然だと思うが、教室の前であいつに会う回数がとても増えた。移動教室でこちらをよく使うのだろうか?

八幡「はあ……」

結衣「ヒッキー大丈夫?なんか最近調子悪そう……っていうか変だけど」

部室で本を読んでいるだけだというのに、俺は無意識にため息をついていたらしい。

その様子を見ていた由比ヶ浜に顔を覗きこまれながら心配されてしまった。

八幡「そんなに変に見えるか?」

結衣「うん。今日の世界史だって先生に当てられたとき『雪……雪ヶ谷』とか言ってたじゃん。今やってるとこイギリスなのに」

八幡「その話はやめてくれ……」

由比ヶ浜に勉強のことで突っ込まれるとは情けない。というかその話出すのは本当にやめてほしい。雪ノ下がそわそわしてるだろ。

八幡「ケータイ直ったから少し寝不足気味かもな」

結衣「……ほんとにそれだけ?」

八幡「……ああ」

まさかこの場で話すわけにもいかないだろう。雪ノ下ともっと一緒にをいたくて集中できてないだなんて。

そんな思考をしている間も雪ノ下と何度も目が合う。その度に慌てて目を逸らしている。

もっと話したい。もっと近づきたい。どれだけ自分を戒めても、そんな感情を抑えきることができない。

多分、雪ノ下も同じだと思う。さすがにここでとぼけるほど俺は鈍感系主人公じゃない。

だからあとは勇気だけだ。そして、それが一番の問題である。

結衣「…………」

由比ヶ浜が俺たちのことを悲しげに見ていることに気づいた。

……そうだ、こいつは勇気を出してくれた。俺なんかのために、傷つくことを分かっていながら勇気を持って踏み込んでくれたんだ。

その勇気を受け取っておきながら何も行動しないのは違うだろ。何が正解かなんて分からないがそれが間違ってることだけは確信できる。

なら、せめて自分にとっての正解を。

思考を遮るようにチャイムが響いた。外を見れば太陽もほとんど沈んで今日最後の輝きを見せている。

雪ノ下が読んでいた本を閉じる。部活終わりの合図だ。俺と由比ヶ浜も読んでいた本や弄っていたケータイをしまう。

雪乃「……比企谷君?」

八幡「あ、いや、なんでもない」

おそらく難しい顔でもしてしまっていたのだろう、雪ノ下に心配させてしまった。

だがそんな顔をしてしまうのだって無理もないだろう。雪ノ下に近づきたい……いやもっとそれ以上を望んで、しかもそれを実現させようとしているんだから。

雪乃「それでは行きましょうか」

八幡「ああ……なあ雪──」

雪乃「由比ヶ浜さん、今日も下駄箱で……あ、ごめんなさい比企谷君。なにかしら?」

八幡「い、いやなんでもない」

俺の覚悟を込めた一声はいとも簡単にかき消されてしまった。やばいだいぶメンタルダメージ負ったんですけど。一週間くらい学校休みたい。

と、由比ヶ浜がなぜか俺のことを見ていたことに気づいた。首を傾げながらもとりあえず帰るために教室から出ようとしたところで。

結衣「あ、そ、そうだ!あたしこのあと急ぎの用事があって!だからヒッキーがゆきのんのこと送ってあげて!」

八幡「え、待っ……」

俺の返事も待たずに、由比ヶ浜は部室を走って出ていってしまった。俺と雪ノ下の二人だけが部室に残される。

何とも言えない空気が俺たちの間に漂う。

八幡「えっと……とりあえず出るか」

雪乃「……そうね」

どちらにしろチャイムは鳴ってしまっているのだ。あまり長居していたら平塚先生辺りが来てしまう。

二人で歩く廊下。下校時刻を過ぎた校舎には音はなく、足音だけが廊下に響いている。

雪乃「さっき由比ヶ浜さんが言っていたことだけれど……」

八幡「お前が良いなら送るけど」

雪乃「……え?」

八幡「だから……お前さえ良ければ、駅まで送るけど」

雪乃「そ、そう。……ありがとう」

お互いに一度も顔を見ないままま会話をする。LINEで話すのと実際に会って話すのでは違うのだと、改めて思い知らされる。

八幡「別に。……元から誘おうと思ってたんだよ」

雪乃「何かあったの?」

八幡「なんもないけど……強いて言うならあれだ、朝会わなくなっただろ。だからだ」

雪乃「……随分と積極的になったのね」

八幡「変な風に変わって悪かったな」

雪乃「変なのは元からでしょう?それに……」

そこで言葉は途切れた。雪ノ下の方を向くと、彼女は優しい笑顔を浮かべて俺を見ている。

雪乃「私は嬉しいから」

それだけ言ってまた彼女は前を向いてしまう。俺も何も答えることができないまま、前を向いた。

雪乃「……なにか言ってほしいのだけれど」

八幡「コメントを求めるなよ……」

二人で鍵を返しに行き、帰路につく。押している自転車の重みを腕で感じながら、俺は雪ノ下に話しかけた。

八幡「……変な感じだな。朝一緒にいることはあっても、こうやってお前と一緒に帰るっての珍しいし」

雪乃「そうね。けれど、それを言ったら最近は珍しいことだらけではないかしら」

八幡「さっきも話しただろ。変わったんだよ、俺たち。……それにこれからも変わってく。多分このままじゃいられない」

俺は本当に変わったと思う。入部したての頃は人との接触を全力で避けるようにしていたというのに、今では雪ノ下の隣を歩けることを嬉しく感じている。

彼女はどう変わったのだろうか。そして、どう変わっていくのだろうか。

雪乃「……比企谷君。私は……」

雪ノ下は急に立ち止まり、俺の名前を呟いた。俺もそれに合わせて足を止めて雪ノ下へと向き直る。

なにかを話そうとする彼女は、けれどその言葉を口にすることができず苦しんでいるようだった。

雪乃「私はっ……!」

八幡「雪ノ下」

緊張のせいで俺の声がいつもと違ったからだろうか。雪ノ下の表情が少し怯えたものへと変わる。俺はいつもの声を意識しながらさらに続けて言った。

八幡「俺も……話をしたいと思ってたんだ。そこの公園で少し休まないか?」

なにも言わない代わりに彼女は首を縦に振った。

俯いた彼女は声を震わせながらそう言った。やがて小さな声で話始める。

雪乃「この気持ちを伝えようと思って何度も挑戦したけれど……いつも怖くなってなにもできないままだったわ。けれど、由比ヶ浜さんがくれたこの機会を無駄にしてはいけないと思って……それでも、言うことが出来なかった」

雪ノ下の手は震えている。声も先程より震えているが、彼女はその独白を続ける。

雪乃「それでも……どうしても私から伝えたい。今まで雪ノ下家の娘として生きて、姉さんの後を追って……誰かの真似をして誰かに頼りきりになってきた私が、自分の意志で伝えたいと思った気持ちなの。あなたから言われてしまったら、きっともう、これからずっとあなたに甘えてしまう。……そんな偽物はいらないわ」

言い終わった彼女はゆっくりと俺の方へ顔を向けた。俺を見る瞳から逃げないように、俺もまっすぐ雪ノ下を見る。

雪乃「比企谷君。私は……私はあなたのことが……」

夜空に浮かぶ月が雪ノ下のことを照らしだすおかげで、彼女の姿がよく見える。

震える手も。赤く染まった頬も。

俺に向けられた優しい笑顔も。

雪乃「好きです。私と付き合ってください」

かっこいい返事なんてできないし、気の利いた返しもできない。

だからせめて、心のままに伝えよう。

八幡「俺も雪ノ下のことが好きだ、大好きだ。俺とずっと一緒にいてくれ」

雪ノ下は俺の直球な言葉に驚いたのか、固まっていたが……少ししてから涙を流し始めた。

八幡「ゆ、雪ノ下……?」

雪乃「……嬉しくて……涙を止められないの……」

八幡「……そうか」

そう言って、雪ノ下は涙を流し続けた。俺はなにを言うでもなく、ただ静かにそれを見守る。

ひとしきり泣いて落ち着いた雪ノ下が、再度俺を見つめてくる。俺もまた見つめ返した。

どれだけの時間そうしていただろうか。まっすぐ見つめあっていた俺たちは、どちらからともなく顔を近づかせ始めた。

ゆっくりと、ゆっくりと近づいていく。言葉通り目と鼻の先のところに雪ノ下の顔が来る。彼女の瞳に写る俺の姿が見えるほど近い、そんなことに今更ながらに心拍数が上がっていく。

雪ノ下が俺に全てを委ねるように瞳を閉じた。

心臓の音を聞きながら、彼女へ近づいていく。

そして俺は雪ノ下と──唇を重ねた。

MAXコーヒーの味がした俺たちのファーストキスは、けれどMAXコーヒーよりも甘いものだった。

11ようやく彼と彼女の想いは繋がる 終

エピローグ

結衣「やっはろー……」

元気のない挨拶と一緒に由比ヶ浜が部室に来た。遠慮がちな挨拶と同じくらい由比ヶ浜はオドオドしており、中々部室内に入ってこようとしない。

八幡「なにやってんだよ……」

結衣「い、いやその……あはは」

あの次の日の部活で、俺たちはすぐに由比ヶ浜に付き合い始めたことを伝えた。

その時は笑顔で喜んでくれたが……もちろん嬉しいだけじゃないだろう。それくらいは俺にも分かる。

だが、かといってなにが出来るわけでもない。精々今まで通り振る舞うことくらいだ。

雪乃「由比ヶ浜さん、何度も言っているけれどあなたは特に遠慮する必要はないのよ?」

結衣「う、うん……」

おずおずと部室に入ってきた由比ヶ浜はいつもの席へ座る。それからは借りてきた猫のように大人しくしていた。

調子が狂う……だが、由比ヶ浜がこうなってしまうのも仕方ないだろう。

三人グループで二人が急に仲良くなったとき、残りの一人の居心地の悪さと言ったら言葉にできない。俺クラスになれば例え四人だろうと五人だろうと必ず余り物の一人になれてしまう。

由比ヶ浜の場合、自分の友達と自分の好きな人が付き合いだしたのだからその居心地の悪さたるや計り知れないだろう。

……好きな人とか付き合いだしたとか、なんか自分で言ってて恥ずかしいな。変な顔してなければいいけど。

雪乃「由比ヶ浜さん。……その、やはりここに居るのは辛いかしら?」

淀んだ空気を壊すように、雪ノ下がかなり突っ込んだことを問い始めた。由比ヶ浜は肩をピクリと震わせる。

結衣「う、うん……まあ、ね」

雪乃「……それは、楽しくなくて苦痛だから?それとも、私たちに遠慮しているから?」

結衣「た、楽しくないわけないよ!……ただ、遠慮はしちゃってると思う」

雪乃「そう……なら大丈夫よ」

結衣「え?」

雪ノ下の『大丈夫』の意味が分からず、俺も雪ノ下へ視線を向けて言葉の続きを待つ。彼女は一度俺を見たあと、再度由比ヶ浜に向き直って言った。

雪乃「奉仕部には……いえ、私たちにはあなたが必要なの」

雪ノ下のその言葉は反論を許さないほど強く言いきられていた。だが由比ヶ浜は小さく「でも……」と呟いている。

そっと、静かに雪ノ下が立ち上がった。そのまま由比ヶ浜へ近づいていき、何をするのかと思いきや……まるでいつもの由比ヶ浜にされているように、由比ヶ浜へ抱きついていた。

結衣「ゆ、ゆきのん!?」

雪乃「あら、いつもはあなたから抱きついているのに、抱きつかれるのはダメなのかしら?」

結衣「そ、そうじゃないけど……」

雪乃「……私は比企谷君のことが好きよ。けれど
、それとはまた違う意味であなたのことも好きなの。それこそ、比企谷君への好きに負けないくらい」

囁きかけるような優しい声音で雪ノ下は由比ヶ浜へと話しかけていた。

雪乃「だから……これからも、私たちと一緒に奉仕部を続けてもらえないかしら?」

雪ノ下からの問いかけに由比ヶ浜は何も答えず、雪ノ下の肩へ頭を預けていた。

結衣「ふふっ……」

雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん?」

結衣「前に、どこかの誰かさんが同じことを聞いてきたなーと思って」

雪ノ下が俺を見る。思わず視線を逸らしてしまった。

そういや由比ヶ浜が俺の家に来たとき、似たようなこと聞いたな……。

結衣「ゆきのん、ごめんね。心配かけちゃって。……あの日、もう決めたはずなのに」

預けていた頭を離し、由比ヶ浜は正面から雪ノ下を見据えた。雪ノ下もその視線を受け止め見返している。

結衣「あたしがいると二人きりになる時間が減っちゃうよ?」

雪乃「あなたといられる時間が減る方が辛いわ」

結衣「休みの日とかもガンガン誘っちゃうよ?」

雪乃「体力のことさえ気にしてもらえれば大丈夫よ」

結衣「本当にいいの?」

雪乃「もちろんよ」

雪ノ下の迷いのない返事を受けて、由比ヶ浜は雪ノ下を抱き締め返した。

肩が震えているのは泣いているのだろうか。もちろん本人にそんなことは聞けない。やがて、肩の震えが治まると、由比ヶ浜は雪ノ下から離れた。

結衣「ゆきのん、ヒッキー」

そう言ってから俺と雪ノ下をゆっくり交互に見る。その表情は先程までの沈んだものとは違い、いつもの太陽のような笑顔だ。

完全にいつもの由比ヶ浜に戻った彼女は今日一番の元気でこう言った。

結衣「これからもよろしくね!」

雪乃「ええ」

八幡「おう」

ようやく奉仕部の部室にいつもの雰囲気が戻ってきた。

今思えばLINEを始めたのがきっかけだった気もするし、あれがなくてもこんな風になっていた気もする。

ここまでくるのに随分と遠回りをしたものだ。

もしかしたら俺たちが選んだ道は間違いだらけで、そのせいでこんなに遠回りをしてしまったのかもしれない。

だが、遠回りしなければ気づかなかったこともある。正解だけを選んでいたら手に入らなかったものもある。

きっとこれからもそうやって遠回りをしていく。

俺と雪ノ下と由比ヶ浜。今日のように上手くいく日ばかりなはずもなく、それぞれがそれぞれを想ってもがき苦しみ、あがいて悩む日の連続になっていくだろう。

それでも俺たちは知っている。それがいつか本物へと繋がる道だと。

だから、本物を手に入れる未来へ希望を込めて。

俺たちの物語はこの言葉で締めくくろう。

やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。終

以上で【雪乃「LINE?」結衣「そう!みんなでやろうよ!」】は完結です。

長い間読んでくれた皆!ありがとう大好きだ!

HTML化の依頼は後でしておきます!

それでは、本当にありがとうございました!またいつかのどこかで!

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年08月14日 (木) 12:41:21   ID: 0UR6hP-W

おう、あくしろよ

2 :  SS好きの774さん   2014年08月15日 (金) 07:42:07   ID: oPOfHf-4

早めにお願いしまーす

3 :  SS好きの774さん   2014年08月15日 (金) 19:18:30   ID: Mm-x4zFx

相模のタイムスリップ話この人だったのか!
この話も面白いな

4 :  SS好きの774さん   2014年08月27日 (水) 23:34:05   ID: 4zXAxJr3

はよはよwktk

5 :  SS好きの774さん   2014年08月30日 (土) 22:11:38   ID: 7m4Lkm6s

まだか

6 :  SS好きの774さん   2014年08月31日 (日) 23:22:41   ID: 7ywLa85U

はよ

7 :  SS好きの774さん   2014年09月08日 (月) 15:53:35   ID: rvC7GmaT

相模のss面白かったです!今作も期待しています!

8 :  SS好きの774さん   2014年09月09日 (火) 03:36:25   ID: Nt_ey5Pj

なにこれ面白い・・期待!!

9 :  SS好きの774さん   2014年09月21日 (日) 20:56:37   ID: HSyeMYBu

面白いので早め希望

10 :  SS好きの774さん   2014年09月27日 (土) 02:32:18   ID: P7FJvO3q

ええ感じや。

11 :  SS好きの774さん   2014年09月27日 (土) 08:25:09   ID: LLqeV_0m

続き期待してます!

12 :  SS好きの774さん   2014年09月27日 (土) 19:24:14   ID: VA5K_-JO

さがみんとかめぐりんとかいろはすとか海老名さんをだしてもええんやで?
むしろ出して

13 :  SS好きの774さん   2014年10月03日 (金) 02:52:13   ID: NzTeZy7x

もう相模はいらんよ。前のでお腹一杯だー。
今回は材木座とか雪ノ下辺りに俺は期待する。

14 :  SS好きの774さん   2014年10月09日 (木) 03:32:08   ID: kEkhTevm

続き期待してます!

15 :  SS好きの774さん   2014年10月12日 (日) 22:25:22   ID: PoND4wC1

はよはよ!

16 :  SS好きの774さん   2014年10月16日 (木) 10:15:19   ID: rQuhZbyd

おもしろい!

17 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 18:33:54   ID: 3PYYY6VO

さがみんといろはす成分が不足しています!

18 :  SS好きの774さん   2014年11月17日 (月) 21:57:04   ID: b6GJrPKM

はりあっーぷ

19 :  SS好きの774さん   2014年12月03日 (水) 09:24:25   ID: 2hycFJh3

なにこれ?

超いい

20 :  SS好きの774さん   2014年12月18日 (木) 01:25:18   ID: 9vklWKSl

本編更新嬉しいっす!!

21 :  SS好きの774さん   2014年12月18日 (木) 20:12:05   ID: TgmB12qY

がハマさん可愛すぎあくしろよ

22 :  SS好きの774さん   2015年01月03日 (土) 20:54:24   ID: 1GMTWXe5

ガハマさん可愛すぎて胸が痛くなるまである

23 :  SS好きの774さん   2015年01月09日 (金) 22:11:24   ID: 42dk88e7

更新期待

24 :  SS好きの774さん   2015年01月16日 (金) 22:17:09   ID: -NFh5xSz

雪ノ下に打ったLINE気になるw

25 :  SS好きの774さん   2015年02月21日 (土) 12:36:43   ID: WCH7xbJC

結衣が振られる系のssはホント辛い・・・

26 :  SS好きの774さん   2015年02月23日 (月) 00:12:16   ID: sWqtaluo

面白かったです。続き待ってます。

27 :  SS好きの774さん   2015年02月24日 (火) 01:43:49   ID: 6WHZSXOY

更新はよ

28 :  SS好きの774さん   2015年02月25日 (水) 20:01:59   ID: 0m0loS-H

更新してくれー

29 :  SS好きの774さん   2015年03月02日 (月) 14:37:41   ID: zAY-OtDC

なんとかここから八結エンドにしてくれ!!

30 :  SS好きの774さん   2015年03月03日 (火) 06:44:29   ID: vYQONm_u

物凄い気になるところで終わってるじゃねーか!

31 :  SS好きの774さん   2015年03月14日 (土) 17:53:46   ID: 5ODW-cWy

がんばれ1!!!!!!!!

32 :  Sしく   2015年03月22日 (日) 14:22:25   ID: 3CeNodmk

がんばーーーー

33 :  SS好きの774さん   2015年04月08日 (水) 22:56:41   ID: J0x5tL0A

センスがいたって普通な地の文なんていらねーよ。見てて飛ばしたくなるだけ。普通に「」だけで進めよ

34 :  SS好きの774さん   2015年04月09日 (木) 21:39:54   ID: jxbmyzpj

>33
いたって普通......?
見てて飛ばし→見ていて読み飛ばし?
進めよ→進めろよ?

あっ(察し)
そりゃ飛ばしたくもなるよね^^;

35 :  SS好きの774さん   2015年04月12日 (日) 04:51:24   ID: XfhnQwuu

更新サンキューです
>4の覚悟にトコトン付き合うよ

36 :  SS好きの774さん   2015年04月12日 (日) 21:10:14   ID: p9x-c02H

みんな、おやさめ

37 :  SS好きの774さん   2015年04月12日 (日) 23:45:47   ID: RimRe28i

>34
いちいち捕捉しないと言葉が理解できないほど馬鹿みたいだね。

38 :  SS好きの774さん   2015年04月13日 (月) 14:43:12   ID: 7zpD0yg9

>34
何が察しだよw
お前の方がみてて痛いわ

39 :  SS好きの774さん   2015年04月22日 (水) 14:03:07   ID: VN0vuwTX

>34
細かっw
何コイツ、マジメ君?w

あっ(察し)
そりゃマジメ君だからちゃんと読まない奴はムカつくよね!

40 :  十桜   2015年04月23日 (木) 18:37:30   ID: 23l9VH1t

おやさめ

41 :  SS好きの774さん   2015年05月15日 (金) 08:42:09   ID: vM7YShMr

書き手さんGJ!

それとコメ欄で喧嘩してる奴ガチでキモいから消えてくれ

42 :  SS好きの774さん   2015年05月15日 (金) 14:09:31   ID: TmT0j_di

ガハマ信者イライラでワロタwwwww
正直そこらの書き手より全然センスあると思うわ!がんばれ♪

43 :  SS好きの774さん   2015年05月20日 (水) 23:15:16   ID: _ZVokDUM

きたきたーー

44 :  SS好きの774さん   2015年05月21日 (木) 01:01:00   ID: mR5AqPnJ

>それとコメ欄で喧嘩してる奴ガチでキモいから消えてくれ

あんたもほとんど同じやんw

45 :  SS好きの774さん   2015年05月21日 (木) 01:02:43   ID: mR5AqPnJ

むしろ一番喧嘩腰なまである

46 :  SS好きの774さん   2015年05月21日 (木) 10:54:10   ID: ftBF8C1v

>>34
きもすぎワロタw

47 :  SS好きの774さん   2015年05月26日 (火) 17:08:48   ID: w1c4jgH5

このSSの八幡クズすぎやろ
見ててイライラするわ

48 :  SS好きの774さん   2015年05月26日 (火) 18:18:04   ID: BDdX9dZv

是非完結させてくれ

49 :  SS好きの774さん   2015年06月11日 (木) 16:06:34   ID: ESKD0oxq

なんか他は誰も悪くなくてただ単に八幡がksって感じのssだな

50 :  SS好きの774さん   2015年06月21日 (日) 08:10:24   ID: mTkv27EC

コレ書いたやつLINEしたことないだろ…
ツッコミどころが多過ぎ

51 :  SS好きの774さん   2015年07月02日 (木) 12:39:57   ID: u-04erpn

気持ち悪いオリキャラ出したりするSSや原作改変したりしてるピクシブのSSより面白い

52 :  SS好きの774さん   2015年07月02日 (木) 15:25:12   ID: u-04erpn

八幡クズすぎ

イライラするわ

53 :  SS好きの774さん   2015年07月25日 (土) 13:45:46   ID: 1LG4IFKn

続きはよ

54 :  SS好きの774さん   2015年08月03日 (月) 09:14:11   ID: mtLFmp-v

楽しみに待ってます^_^

55 :  SS好きの774さん   2015年08月26日 (水) 11:48:53   ID: P4_hlFmw

続き、待ってました〜!
次も楽しみにしてます。

56 :  SS好きの774さん   2015年08月30日 (日) 23:12:47   ID: 8mu0pfS9

朝鮮アプリ使ってる奴にろくな奴がいない

57 :  SS好きの774さん   2015年08月31日 (月) 01:44:12   ID: AFIrwo0R

面白い、お陰で夏休みの課題が手につかない

58 :  SS好きの774さん   2015年09月19日 (土) 12:16:25   ID: T9tLOXZp

おお、いつの間にか更新されてた!やっぱ面白い!

59 :  SS好きの774さん   2015年10月17日 (土) 16:32:45   ID: MgCxknu-

もう1年もやってのかよ

60 :  SS好きの774さん   2015年10月19日 (月) 19:37:17   ID: fgYCn07l

すごい面白いです!続き楽しみです!

61 :  SS好きの774さん   2015年10月20日 (火) 02:06:59   ID: eGJ9mwnM

続きが気になってしまう病

62 :  SS好きの774さん   2015年10月30日 (金) 03:15:02   ID: SBnQMf9k

序盤から見続けてきたが、もう1年以上経つのか…
フラグだけ立ててた川崎やら陽乃やらはどうなってんだよ

63 :  SS好きの774さん   2015年11月29日 (日) 20:25:22   ID: 2Bsey-DV

きょぇー?次を早くしてくれないと死んでまいます~

64 :  SS好きの774さん   2015年11月30日 (月) 01:30:15   ID: vN3ryanE

面白いですね、今後の展開に期待します

65 :  SS好きの774さん   2015年12月05日 (土) 20:27:47   ID: hgRdo5hB

ガンバッテクダサイ

66 :  SS好きの774さん   2015年12月26日 (土) 12:47:14   ID: qRWKjxgU

面白いんで頑張ってください

67 :  SS好きの774さん   2015年12月26日 (土) 16:23:05   ID: 9cK724B3

早く!早く!

68 :  SS好きの774さん   2016年01月31日 (日) 09:50:31   ID: 9gc58nqt

面白すぎる

69 :  SS好きの774さん   2016年02月04日 (木) 01:29:01   ID: cungwEzu

久しぶりに来たらちゃんと更新されててうれしい、本当に面白いからこれからも頑張って続けてください

70 :  SS好きの774さん   2016年04月07日 (木) 22:00:01   ID: wBBOmFu-

ちまちまだけど更新されてるじゃん
逃走だけはやめろよな
面白いんだから

71 :  SS好きの774さん   2016年05月03日 (火) 02:32:46   ID: 5TypC-kd

うん、名作だった。
作者に感謝です。

72 :  SS好きの774さん   2016年05月06日 (金) 12:16:27   ID: bUuMvgOA

完結して良かった
凄い面白かったです
本当に凄い良かったです

73 :  SS好きの774さん   2016年05月15日 (日) 09:28:14   ID: GQPNtkPo

久しぶりにいろはす以外のガイルss読んだわ。大層乙であった。

74 :  SS好きの774さん   2016年05月30日 (月) 08:44:42   ID: xQv-hWxk

ずっと追いかけてきた!
本当にお疲れさまです!

作者はホントにガイル大好きってわかります。
また再燃したら綴ってください!

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