剣術士「これからどうすっかなぁ」(615)

立ったら書く

スレ立ても書き込みも初めてです。何かありましたら言って下さい。始めます

~回想~


☆中央街・宿屋


巫女「…………」すぅすぅ
僧侶「……ふう、ようやく落ち着いてきました。……これももう温い。新しいのにかえないと……」パタパタ

僧侶「と、そう言えば二人はどちらへ行かれたのでしょう?」


☆宿屋・食堂


剣術士「俺は、ここに残るわ」
勇者「……なるほど、それが話か」

剣術士「ああ。この先、お前達についていける気がしないんだ」
勇者「まず、訳を聞こう」

剣術士「……俺、役立たずだろ。今回で、ようやく分かったよ」
勇者「そうか。……同情をして判断を鈍らせたくないから、否定はしない」
剣術士「あんたらしい言葉をどうも」

剣術士「そういうわけだから、ここらでお別れだ。巫女の面倒は俺が見ておくから、二人は先へ行ってくれ」
勇者「分かった」

ガチャリ

僧侶「こちらにいらしたのですね、勇者様と、剣術士様」
勇者「僧侶、これから二人になる。雇用所へ行って、新しい人間を雇おう」

僧侶「はい?」ぽかん
勇者「剣術士はパーティから抜ける。それに、あんな状態の巫女を連れ回すわけにもいかないから、人を増やさないと」

僧侶「え、ちょっと待って下さい! 剣術士様が抜けるって……」
剣術士「俺はここいらが潮時なんだ。……悪いな、僧侶」
僧侶「理由を、理由を話して下さい!」

剣術士「これから先、俺の剣が通用する相手じゃなくなるだろう、ってことさ。俺は、これ以上皆の足手まといになりたくないんだ」
僧侶「足手まといだなんて、そんな! 貴方が足手まといなら、私なんて」
剣術士「君は十分戦力になってるよ。その年齢で君程の精霊術の使い手は、俺の知る限り居ない」

ガチャリ

僧侶「こちらにいらしたのですね、勇者様と、剣術士様」
勇者「僧侶、これから二人になる。雇用所へ行って、新しい人間を雇おう」

僧侶「はい?」ぽかん
勇者「剣術士はパーティから抜ける。それに、あんな状態の巫女を連れ回すわけにもいかないから、人を増やさないと」

僧侶「え、ちょっと待って下さい! 剣術士様が抜けるって……」
剣術士「俺はここいらが潮時なんだ。……悪いな、僧侶」
僧侶「理由を、理由を話して下さい!」

剣術士「これから先、俺の剣が通用する相手じゃなくなるだろう、ってことさ。俺は、これ以上皆の足手まといになりたくないんだ」
僧侶「足手まといだなんて、そんな! 貴方が足手まといなら、私なんて」
剣術士「君は十分戦力になってるよ。その年齢で君程の精霊術の使い手は、俺の知る限り居ない」

僧侶「そんな……だって貴方は、いつも私を守ってくれていたじゃないですか! なんで……」
剣術士「……それは違う。君を守っていたのは、勇者と巫女だよ。俺は……俺は自分の身を守るだけで精一杯だった」
僧侶「そんなことありません!!」

剣術士「そして、君はただ守られているだけじゃなかった。パーティの皆だけじゃない。魔物に傷つけられた人達に、親身になって治療し、見返りを求めない」

剣術士「力だけじゃない。君が居ると、勇者も巫女も柔らかい顔になるんだ」

剣術士「そういう徳こそが、これから先勇者の側には必要だと、俺は思う」

剣術士「この中で、俺が、俺だけが……何も出来ない能無しだった」
僧侶「そんな風に言わないで下さい! 貴方は!」勇者「やめるんだ」

僧侶「勇者様……」
勇者「下手な言葉は彼を傷つけるだけだ。僕は彼の見識は正しいと思う。引き際を見定めた彼の眼こそを讃えたい」

僧侶「そんな……勇者様は、勇者様は剣術士様が本気で何の役にも立たなかったと仰っているのですか!」
勇者「ある一面で言えば、そうだ」

僧侶「ひどい……それは、あんまりです……」
剣術士「……もういいよ、僧侶。ありがとう」

剣術士「あいつの具合はどう?」
僧侶「……あとは、体を休めて療養すれば、1、2週程度で、元の調子に戻ると思います」
剣術士「それは助かった。悪くなっても俺じゃさっぱりわからないからな」

僧侶「……考え直すことは、できないのですか」
剣術士「もう決めたんだ。悪い」

僧侶「……っ」タタ パタン

剣術士「……ふぅ」
勇者「何か、頼むか」

剣術士「いや、いい」
勇者「そうか。最後になるからせめて酒でも、と思ったのだが」

剣術士「よく言うぜ。エールも飲めない下戸のくせに」
勇者「違いない」

勇者「世話になったな」
剣術士「よせよ。あまりそうは思ってないくせに」

勇者「それは、卑下しすぎだろう」
剣術士「……どうだかな。明日には出るんだろう?」

勇者「巫女の具合を待ってもいいが、またこうなられても困るからな」
剣術士「……本人に聞いてみないと何とも言えんか」

勇者「そうだな」
剣術士「明日、出発しろよ。俺が聞いてみて、もしこれっきりだったなら知らせるよ。次は確か、街道を経由して西の港街、だったよな」

勇者「ああ」
剣術士「なら、港街に術師便で手紙を出しておくよ。馬車だと3週はかかるだろうから、十分間に合う」

剣術士「あいつが合流する気があるなら、その辺を書いておくから、あとはそっちでなんとかしてくれ」

勇者「すまない。港についたらすぐ、術屋に寄るよ」
剣術士「これくらいは、な」

剣術士「俺だけじゃなく、巫女も抜けるんだ。僧侶のこと、見ていてやってくれ。知らんが、落ち込んでるみたいだったしな」
勇者「それは当たり前だろう」

剣術士「あの子は優しいからな」
勇者「……それだけじゃあ、ないがな。君が僧侶を助けたのが、パーティに加わるきっかけだったろう」

剣術士「……その時は、僧侶が水術を使えるとは知らなかったからな。……助けなんていらなかったはずだ」
勇者「それでも、彼はそのときから、君に憧れていたんだと思う」

剣術士「麻疹みたいなもんだ。子どもなら、年上を過剰に凄いと思うことなんてしょっちゅうさ」

剣術士「さて、と」
勇者「出るのか」

剣術士「上へ戻って支度をしてから一旦宿を出て明日、また戻るよ。多分、見送りは出来ないと思う」
勇者「雇用所か」

剣術士「ああ。まだ路銀に余裕はあるが、稼いでおかんとな」
勇者「そう、か」

剣術士「なんだ、らしくない顔だな」
勇者「そうか、普段通りのつもりだが」

剣術士「俺の気のせいか」はは
勇者「…………」

剣術士「……でも君のそういうところ、嫌いじゃないぜ」
勇者「あまり人に好かれる性格じゃないことは自覚している。気を使わなくてもいい」

剣術士「いらないものをばっさり斬り捨てる感じは、結構騎士団でもあったからさ」

剣術士「そういうヒトの理知的な面が俺は嫌いじゃないってことさ」
勇者「……君はやはり、変わっているな」

剣術士「そうか? やたら感情的でやかましいよりよっぽどいいだろ」
勇者「……そういう見方もあるのか」

剣術士「多分もう、会うことも無いだろう」
勇者「……そうだな」

剣術士「君からは色々学んだよ。きっと忘れないと思う」
勇者「僕も、君を絶対忘れない」

剣術士「じゃあな。武運を祈ってる」
勇者「ああ。君も」

ガチャ バタン

☆中央街・共同墓地


パチパチ……

神父「お亡くなりになった方達は、土の精霊様の御元に帰られます。皆でご冥福をお祈りしましょう」

墓守「そっと土を被せて下さい。そう、……優しく」

子ども「お父さん……」
母親「うっ……うっ……」

老人「勇者様が居なかったらどうなっていたか……」
農夫「んだな……この程度で済んで良かったというしかないさな」

剣術士「…………」

娘「貴方は……勇者様とご一緒に居られた方では」
剣術士「えっ?」

剣術士「あ、いや……俺は」

鍛冶屋「英雄様だ……」
剣術士「!!」

老婆「おお……何と勇ましい姿……英雄様じゃ」

男「本当だ! 英雄様だ!」

娘「わざわざ足を運んで下さって……お優しいのですね」
剣術士「……」

少年「皆を守ってくれて、有り難う! 英雄様!」
剣術士「やめてくれ!!」

剣術士「俺は……俺は!」ダッ







剣術士「なにが英雄だ……なにが英雄だ!!」

剣術士「お前にそう呼ばれる資格が何処にある!!」



剣術士「……ちくしょう」

剣術士「……やっぱり俺は、役立たずの能無しだ……!」

~~




☆中央街・宿屋


剣術士「これからどうすっかなぁ」

剣術士(雇用所も、この前の魔物の襲撃で混乱しててとても登録を申請できる状況じゃなかったし……かといって、王都に引き返すのもな……)

剣術士「せっかくここまできたんだから、足伸ばして、職人都市の武具通りにでも行ってみるか。かっちょいい剣とか見てみたいし」

巫女「それも面白いの」

剣術士「!!」ガタンッ!

剣術士「巫女、目、覚めたのか」
巫女「ちょうど、今しがたの」

剣術士「脅かすなよ……」
巫女「そんな気はなかったんだがの。御主が惚けておるからじゃないのかえ」

剣術士「……まいいや。体の方はどうだ?」
巫女「なんだ、気になるのか? しょうのない男だ」ぬぎぬぎ

剣術士「茶化すなよ」
巫女「余裕のない男はもてぬぞ。……そうさの、七、八割といったところか」

剣術士「本当か」
巫女「疑り深いの」

剣術士「当たり前だ。……あのときのあんたは何と言うか、尋常じゃなかった」
巫女「…………」

剣術士「勇者達は、先に行ったよ」
巫女「そのようだの」

剣術士「怒ってないのか」
巫女「我に気を使ったんだろう。何を怒ることがある?」

剣術士「勇者の場合は単に合理的に判断しただけっぽいけどな」
巫女「そんなことはなかろう。あの子は優しい子だよ。面に出ぬだけだ」

巫女「……それで御主は? 何故ここに居る」
剣術士「……」

巫女「我の身を案じて、という訳ではなかろう。それほど仲良うこともなかった」
剣術士「まぁ、な。あんたには悪いが、言い訳というか逃げ口上というか、……ついでだ」

巫女「そこは嘘でも”君が心配だったんだ!”とか言うべきじゃないのかえ?」くくっ
剣術士「やめろよ、柄じゃないよ」

巫女「正直な男だな。あまり得をする性格ではないの」
剣術士「ほっといてくれ」ぷいっ

巫女「それで?」
剣術士「?」

巫女「まだ聞いておらんではないか」
剣術士「……分かるだろ」

巫女「なんのことかの」
剣術士「あんたのそういうところは、嫌いだ」

巫女「くくく」
剣術士「足手まといはあいつらの負担になるだけだ」

巫女「それでおめおめ逃げたのか」
剣術士「……っ」

剣術士「……ああ、そうだよ。逃げた」
巫女「そうか」

剣術士「……」
巫女「……」

剣術士「何も、ないのか」
巫女「何か言うて欲しいのか?」

剣術士「そういうわけじゃないけど……」
巫女「怒られることはなにもなかろう。むしろ良い引き際だと、勇者あたりは褒めそうだ」

剣術士「……小狡いだけさ」
巫女「我が御主を問い責める義理も権利もありはせぬよ。好きに生きるがよい」

剣術士「……」
巫女「いじめるのはこのくらいにしておこうかの」
剣術士「いじめるって……まあいいや。それで、”あれ”はまた起こるのか」

巫女「……そうだの。起こらん保証はない」
剣術士「そうか……。万全になったら、勇者達と合流するか?」
巫女「……いや。療養しに故郷へ戻ろうと思っとる」

剣術士「あんたの調子について俺が判断できることはあまりない。いつ頃発つんだ?」
巫女「一週様子を見て、問題なさそうだったら向かおうと考えておる」

剣術士「そうか、わかった。それまでは、俺も居るよ」
巫女「苦労をかけるの」
剣術士「気にするな」

巫女「御主はどうするつもりだ?」
剣術士「聞いてたろ。……何も考えてないよ。職人都市へ行くか、それともどこかの雇用所へ登録しに行くか。全然決まってない」

巫女「ふむ」
剣術士「金も稼ぎたいしな」

巫女「我とこぬか」
剣術士「……何?」

巫女「道中一人旅というのも悪くはないが、道連れが欲しいというのも本音だ。我は、寂しがりやさんだからな」ふふん
剣術士「……ちなみに、故郷ってのはどのあたりなんだ?」

巫女「ほんに面白くない男だの。……東方だよ。小さな島だ」
剣術士「東か。勇者達とは逆方向になるな」
巫女「そうだの」

剣術士「どうするか……」
巫女「無理にとは言わんが、道すがらの日銭くらいは出しても良い」

剣術士「金、もってるのか?」
巫女「我の着物は自分で言うのもなんだが、東方の染め物で、相当いい質のものだ。売ればかなりの銭になる」

剣術士「そうなのか……」
巫女「群れから去るなら、審美眼も必要になるぞ」

剣術士「そう言うことも、俺は知らないのか……」
巫女「これこれ、落ち込んでどうする」

剣術士「それなら、もっと腕のいいやつを雇った方がいいんじゃないのか」
巫女「己を下げるのもここまでくると鬱陶しいの。我の腕や知識も知っておろうに。つわものが欲しい訳ではないわ」

剣術士「……ごめん」
巫女「……はぁ。それで? どうする」

剣術士「……他にやることもないし、付き合うよ。俺でよけでば」
巫女「決まりだな」

剣術士「それじゃ、これで」ガタ
巫女「? どこへ行くのだ?」

剣術士「入り用なものを買いに行こうかと思ってるんだけど」
巫女「ちょうど良い。我もゆくぞ」

剣術士「え、でもあんた、体調は?」
巫女「七・八割と言っておろ。……しかし、体が気持ち悪い。湯浴みをするから待っておれ」

剣術士「……分かった。準備ができたら、部屋まで呼びにきてくれ」
巫女「承知した」

☆中央街・武具屋


武具屋店員「有り難うございました」

巫女「ふむ、まぁこんな物かの」ジャラジャラ

シャラリ

剣術士(今使ってるのも、そろそろ限界だな……いいなぁ、ミスリル製。だけど、先立つ物もない)はぁ
巫女「おい、何をしておる?」

剣術士「いや、少しね」
巫女「ほう」ひょこ

巫女「魔法鉄の剣か」
剣術士「ん、ああ、まぁね。……でも、金もないしね」はは

巫女「銭が足りてもこれは買わぬ方がよいぞ」
剣術士「そうかな? 意匠も控えめだし、拵えもしっかりしてる。実践向きで使いやすいと思うけど」

巫女「そうだの。そこそこ上等な剣ではあるの」
剣術士「じゃあ、なんで?」

巫女「……分からぬなら、よい。我が口を出すことでもないしの」ふい
剣術士(なんだよ、それ)

巫女(剣を見る目はあるようだが……)ちら
剣術士「こいつもカッコいいな」スラリ

剣術士「そういや、巫女は買わないのか?」
巫女「武器のことか? ふん、我には必要ないからの」

剣術士「手甲くらい使っても良いと思うけどな」
巫女「いらぬな。我の拳はいかな名刀にも勝る」ぐっ

剣術士「あながち嘘に聞こえないから困る。……しかし、不思議だよな。そんなに細いのに」
巫女「偏に、信仰の力だ」

巫女「御主にもいずれ備わるさ」
剣術士「あいにく、神なんて信じてないんだ」ふん

巫女「…………」

巫女「分からぬ、か」

剣術士「…………」イラっ

剣術士「ああ。分からないね」
巫女「眉を寄せるなよ。別に馬鹿にしておる訳ではないし、偉ぶっておるつもりもない。そう感じたのなら、謝罪もする」

剣術士「いや……」
巫女「さて、そろそろ暇するか」
剣術士「ん、ああ」

☆中央街・中央目抜き通り


わいわいがやがや

巫女「しかし、驚いたの。もう活気を取り戻しておる。……つい先日、魔物の大群が押し寄せてきた街とは思えんな」
剣術士「勇者のおかげだろ。……それに、あんたも」

巫女「我のことは置いておくとしても、前者の否定はせぬよ。あの娘は皆の希望だからな」
剣術士「……間近で感じたよ。あいつの凄みを。人々が勇者ともてはやすのもわかる」

巫女「この街は精霊の力で満ちておる。勇者もそれを理解して、力を引き出したのだろうな」
剣術士(精霊、ね)

剣術士「精霊うんぬんはどうでもいいが、歴史はあるだろうな。地理的に、魔物がやってくるのは珍しくないはずだ」
巫女「ほう?」

剣術士「知っての通り、中央街はすぐ北の山脈を除いた周囲は平野だ。……だが、地下、とりわけ地表の浅い所に穴を掘って生活してる魔物もいる。背後の山脈にも、うじゃうじゃいるらしいしな」
巫女「詳しいの」

剣術士「そこそこ一人旅だったからかな。魔物の居る場所にはあまり行きたくないし……」

剣術士「まぁ、そう言う訳で、魔物の襲来には土地がら慣れているはずだ。中央街を経由しないと各地方や王都へは行けないこともあって、屈強な兵も多い」
巫女「ふむ」

巫女「精霊ではなく、人の力、と言いたいのか」
剣術士「……そう考えた方が、この街の人達に敬意をはらえるだろ」

巫女「物は言いようだの」
剣術士「……」

巫女「まぁ、否定はせぬよ。御主の言う通り、この街の住人の気概は良い」
剣術士「……そうだな。飯がうまい街にはずれはない」

巫女「それも一人旅の経験かえ?」
剣術士「まぁね」

剣術士「……飯と言えば、少し腹が減ったな」
巫女「ふむ。昼は少し過ぎたが、朝は抜いておるしの……何か食うかえ?」

剣術士「腹に何か入れながら、今後のことを話そう。……宿で食うのも味気ないし、どこか入るか」
巫女「御主にしては建設的な案だな。良かろう」
剣術士「……ホント、一言多いのな」

☆中央街・居酒屋


給仕「こちらが暴れ野牛のステーキ、こちらが人面鳥とメロメロキノコのパスタ・真冬仕立てになります」

剣術士「きたきた」
巫女「良い香りだ」

剣術士「いただきます」
巫女「遍く精霊達に、感謝を」

剣術士「うん、うまい」もぐもぐ
巫女「なかなかだの」もぐもぐ

剣術士「それで、具体的にはどういう経路で行くんだ?」もぐもぐ
巫女「当面の目的地は北の山脈に沿って東へ迂回し、精霊都市だな。都市へ着いたら入り用なものを買い、更に東。果ての小さな漁村から、小舟が出ておる」もぐもぐ

剣術士「あんたの故郷が東の島とは聞いていたが、中央大陸に結構近いんだな」かちゃかちゃ
巫女「貿易や文化などの交流が盛んになったのは近年だがの」こくん

剣術士「へぇ……」もぐもぐ
巫女「故郷と言うたが、まだ聞いておらんかったな。御主はどこの出なのだ?」かた

剣術士「……王都よりも南にある街だ」かちゃり
巫女「ほう?」

剣術士「たいした取り柄もない所だよ」
巫女「しかし御主、髪も肌も南部の色ではなかろう。どちらかといえば東の民族––––我らに近い。両親のどちらかが東の者だったりせぬか?」

剣術士「さぁ…………物心ついた頃には孤児院に居たからな」
巫女「……いらぬことを聞いた。すまぬ」

剣術士「謝るなよ。昔の話だ」
巫女「そうか、では、孤児院を出てからどうしておったのだ?」

剣術士「……切り替えが早いというか、物怖じしないというか……」
巫女「昔の話だろ?」

剣術士「……食い扶持稼ぎに騎士団に仮入団したのが、12の頃だったかな」
巫女「騎士団におったのか。それで?」

剣術士「なんだよ、さっきからやけに食いつくじゃないか」
巫女「これから共に旅する間柄の者だろ。素性を知りたくなったとしても不思議はないだろう?」

剣術士「これまではそうじゃなかったじゃないか」
巫女「いちいち細かいことを気にするでない。もてぬぞ」

剣術士「さっきからそればっかりだな……まいいや」

剣術士「……三年経たないうちに辞めたよ。剣術は自分でもそこそこイケた……と思ってた。けど、精霊術の才能が絶望的に無かったからね」

剣術士「正式な騎士団員になるには、剣術だけじゃなくて座学、精霊術も普通以上にこなせなきゃならなかったからさ」
巫女「南部の騎士団は皆勇猛果敢で、精霊術にも秀でておると聞くからの」

剣術士「そそ。俺の指導担当だった騎士長も凄腕のエンチャンターだったよ。剣に術を宿らせて遠くの物も焼き尽くす」

剣術士「炎が青く煌めいて、凄絶と言うか……かっこよかったのが凄く印象に残ってる」

巫女「長が教授する例はあまり聞かんの? ……御主、目をかけられておったのではないかえ?」
剣術士「さぁ……騎士長も孤児院の出だったからじゃないかな」

巫女「ふむ……」
剣術士「んでその後、騎士団で貰った給料の半分を孤児院にやって、残りの半分で今みたいな生活を始めたんだ」

剣術士「こんなところでいいだろう?」はぁ
巫女「人に歴史ありというが、真だの。孤児院に寄付するようには見えなんだが、偉いぞ」

剣術士「なんだそれ……まぁ、自分が育った所だからね。修道女達には世話になったし、感謝もしてたからさ」
巫女「重畳だ。では、特別に我について訊ねることを許そう」

剣術士「いや、いいよ」
巫女「何故だ!」

剣術士「あんま興味ないし」
巫女「むっ!」

剣術士「食い終わったんなら出ようぜ」
巫女「むぅー」

~二週後~


☆中央東街道


狼魔物「ぐるるるる」
剣術士「ふっ」ダッ

狼魔物「ぐるあああ!!」
剣術士「おせぇよ!」ヒュッ

ズバァ!

剣術士「っと……」スタッ

巫女(自分でも言っておった通り、動きはなかなかのもの……だがやはり、不自然だ)ちら

剣術士「……ふぅ」ヒュヒュ チャキン

剣術士「そっちは終わったか」
巫女「造作も無い」ふぁさ

剣術士(返り血さえ浴びてない、か)

剣術士「……ホント、凄いよ。あんたは。俺の三倍も倒しちまって」
巫女「……つまらんことを言うておらんで、ゆくぞ」

剣術士「そうだな。少しずつ北に近づいてる。雪に降られても困るからな」
巫女「うむ」

すたすた

剣術士「あとどれくらいだ?」
巫女「中央街を発って一週だから、まだまだだろう。徒歩なら二月はかかる」

剣術士「むぅ……」
巫女「けちるのも限界だの」

剣術士「うん……やっぱり途中で馬車を拾った方がいいな……確かこの先に小さくない街があったろ」
巫女「そうだの。寄らん訳にはゆかぬだろう」

剣術士「これまでは旅小屋があったから良かったが……」ちらり

剣術士「そろそろ日暮れだ。今日は野営になるな」
巫女「うむ。……あぁ、湯浴みしたい」ううっ
剣術士「我慢しろよ」

剣術士「取り敢えず、川辺まで歩こう。山から流れてくる川もこの辺りだったろ」
巫女「だの」

~~

☆中央東街道・東 川辺

剣術士「すこししょっぱいな」かじかじ
巫女「……干し肉にも飽いたわ」もくもく

剣術士「ま、確かにな。だが、腹に入れとかないと明日もたん」かじかじ
巫女「うむ……」

剣術士「あ、そうだ」
巫女「どうした?」

剣術士「使えよ」どさり
巫女「? 我の分があろう」

剣術士「悪い、俺のミスだ。勇者がお前の分の寝袋、持って行っちまったらしい」
巫女「……道理で荷が軽いと思ったわ」

剣術士「俺は平気だからさ。慣れてる」
巫女「御主のものだ。御主が使えよ」

剣術士「女子どもより自分を優先させる気はないんでね。それに、交代で番をするなら、結局余る」
巫女「……ならば、ありがたく使わせてもらおう」

剣術士「見張りは俺がやるから、先に寝ろよ」
巫女「交代であろ?」

剣術士「眠くなったら起こすよ。それまでは頼む」
巫女「承知した」

巫女「では、先に休むぞ」ふあぁー
剣術士「ああ」

巫女「zzz」すやすや
剣術士「…………」

剣術士「こうして見ると、ホントにただの女の子だな……」
巫女「zzz」

剣術士(俺はこんな細腕にも劣るのか)

剣術士(……夜は嫌いだ。考えたくないことを考えてしまう)

がさがさ

剣術士(!)

剣術士「…………」ちゃき

剣術士(……気のせいか)

もくもく

剣術士(? 遠くの方で野営でもしてるのか?)

剣術士「……取り敢えず、様子を見ておくか」

~~

巫女「うゅ……」
剣術士「起きたか」

巫女「ふあーぁ……」
剣術士「川で顔洗ってこいよ。ついでに体も少し拭いてくると良い」ぽい

巫女「うむ……」はしっ
剣術士「ほれ、いったいった」

てくてく

剣術士「……」

どたどたっ

巫女「剣術士っ!」
剣術士「なんだよ、はやいな」

巫女「もう夜明けではないか!」
剣術士「そうみたいだな」しれっ

巫女「見張りは交代のはずだろ!」
剣術士「寝付けなかったんだ」

巫女「眠らんと体が持たんではないか!」
剣術士「三日までなら平気さ。いつも通り動ける」

巫女「…………」じろ
剣術士「本当だって」

巫女「我が使うたのが気に食わんのか」
剣術士「は?」

巫女「確かに、少し匂うかもしれん」くんくん
剣術士「何の話かと思ったら……馬鹿なこと言うなよ。あんたより一万倍むさ苦しい男とぎゅうぎゅうになって寝たことだってある。気にし過ぎだ」

巫女「……」

巫女「……途中で倒れたら、放ってゆくからな」
剣術士「分かってる。迷惑はかけないさ」

剣術士「ふくれるなよ。ほら、髪。いつもは左右で括ってるだろ?」
巫女「……ふん」しゅるっ

剣術士「支度が済んだら行こう。まだ顔洗ってないだろ?」

剣術士「片付けは俺がやっとくから、行ってこい」
巫女「……分かった」

てくてく

剣術士(今日で三日目ってことは言わない方が良いな)

剣術士(言ったら、凄く怒られそうだ)ふぅ

ずきり

剣術士「っ……」

剣術士「流石に、頭が痛い……でもまだ、大丈夫のはずだ」

剣術士(夢をみるよりは、いい)

~~


☆中央東街道・東 山間の街付近


剣術士「街まであと少しってとこか?」
巫女「うむ。日が落ちる前には着くだろうて」

剣術士「街に着いたらうまいもんが食いたいなぁ」
巫女「我は、とにかく湯浴みがしたい。髪もぱっさぱさだ」はぁ

ぱからっ ぱからっ

巫女「蹄鉄の音だの?」
剣術士「!」

剣術士「巫女、こっちだ」

巫女「なんだ?」
剣術士「伏せろ」

ざっ

剣術士「あの隊旗……南部騎士団か!」
巫女「何故身を隠す?」

剣術士「あいつらの目的がなんなのかは分からないが、盗賊と間違えられても面倒だからな」
巫女「それはないだろう」

剣術士「そうとも言い切れない。俺たちは身分を保証する物ももってないし、勇者みたいな証人もいない。実際、誤認で処刑された例だってあるんだぜ」
巫女「まさか、嘘であろ?」

剣術士「市井の人間が思っている程騎士団は清廉潔白じゃない。部隊によっては、相当いい加減な所もあるんだ」
巫女「ふむ……」

剣術士「街の外でああいった連中に出くわしたら、用心したほうがいい。あんた、女だしな」
巫女「おなごだと何かあるのか?」

剣術士「……言ったろ、清廉潔白じゃないって。はけ口にされんとも限らん」
巫女「誰に言うておる?」むっ

剣術士「それでも、だ。確かに俺はあんたよりも遥かに腕が劣るけど、これまで誰に対してだって油断はしてこなかった」

剣術士「あんた程の達人が油断しなかったなら、勝ちは盤石のはずさ」
巫女「……肝に銘じておこう」

剣術士(しかし南部騎士団が何故こんなところまで……? 管轄から大きく外れてるぞ)

巫女「妙だの」
剣術士「ん?」

巫女「統率がとれておらぬ」
剣術士「そう言われれば……先頭の馬の速度も落ちはじめてる」

ぴき……ぴきぴき……

剣術士(? 何の音だ……)

ぱきぱき……

剣術士(ん? 何だ? 影……?)

剣術士(ありえない!! 今日は雲一つない快晴だった……! それに今の太陽の角度だと、山陰はこちら側じゃない!!)ばっ

ギラリ

剣術士「!」

剣術士「南部騎士団!! 上だ!! 避けろぉーー!!」

団員a「どこからの声だ?」
団員b「あいつだ! 貴様、何者だ!!」

??「!!」

??「皆、散れ、散れぇーー!!」

ひひぃーーん! 

何だ? ぎゃああああぁぁ!!

ばごおおぉぉぉん!!



巫女「これはっ……火術か!!」

剣術士「いったい、どこから!?」

巫女「分からん! だが上空にあれだけの氷塊を生成してのけるとは……!! かなりの使い手だっ!!」

剣術士(くっ……! 砂塵で何も見えない!)

??「各自散開ののち、後退しろっ!!」

団員c「ぐっ……」

副長「ちっ……誰だ……」

剣術士(なんだ……? 騎士団が分裂して向かい合ってる……何が起こってるんだ)
巫女「あの男だ」

副長「…………」

剣術士「あいつが……?」
巫女「魔力の残滓を感じるぞ」

団員a「騎士長っ!」
??「死亡者は!?」

団員b「こう視界が遮られては……」
騎士長「うむ……」

剣術士「巫女っ」
巫女「承知」

ひぃぃぃぃん……

巫女「風の精霊よ……疾く駆け抜ける息吹を顕現し、我に誇りを示し給う!」

ぶああぁぁぁぁっ

団員a「風術かっ」
騎士長「いや、攻撃の意図は感じられん! それより……」

副長「…………」

騎士長「どういうつもりだ、副長ッ!!」

副長「どうもこうもありません……貴方には死んで頂きたかったのですが……」ちら

副長「邪魔が入ってしまいましたね」

騎士長「どういう、事だ」

副長「言葉の通りですよ。貴方は騎士団に要らない人間となった。ただそれだけのことです」

騎士長「…………」

副長「やりなさい」

副長団員a「はっ」

騎士長「っ……私に剣を向けるのかっ!」

騎士長「お前達はどうなのだっ!」
団員a「し、知りません、私たちはなにも……」

騎士長(……分からんが、どうやらこちらを向いているのが敵、ということで良さそうだな)

騎士長「聞け、皆の者! 奴らは反逆者だッ!! こちらを攻撃してくる! 各自散開し、二対一になるように迎撃だ! 1人も死ぬなよ!!」
団員abcdef『ははっ』

副長「団長を最優先で叩きなさい!! 大義はこちらにあります!!」
副長団員cdef「御心のままに!!」

ぎぃん!! がぎぃん! ざしゅっ!!

「ぐわあぁぁ!!」 「こいつら、なんでっ!」 「副長の命令だ!! 死ねぇぇ!!」

がぎぃん! ばごぉぉん!! ぐしゃああ!

巫女「……何やら、きなくさくなってきおったの」
剣術士「謀反、みたいだな」

巫女「どうする?」
剣術士「巻き込まれるのは御免被りたいが……」

副長「それから、あの二人を捕らえなさい。抵抗する場合、殺してしまって構いません」

副長団員b「あいつらだ! かかれっ!」

巫女「……かように言うておるが」
剣術士「捕まったらただじゃ済まない。殺されるのもごめんだな」
巫女「異論はないの」くくっ

副長団員a「食らえ!」

巫女「あくびが出るほど遅いの」

ずばぁ! 

副長団員a「ぐはっ」びちゃびちゃ

巫女「……ふん」ひゅっ
副長団員b「ぐあぁ!」

副長団員c「こいつ、強いぞ!!」

副長団員d「はあぁ!」
剣術士「!」

剣術士(太刀筋に覚えがある! これならっ!)

剣術士「っらぁ!!」がぎぃん!
副長団員d「何!」

剣術士「はっ!」ざしゅっ!
副長団員d「ぎゃああああ!」

きぃぃぃぃん

剣術士(精霊共鳴音!? まずいっ!)
巫女「相殺っ!」ばっ

どがあああん!!

剣術士「悪い、助かった!」
巫女「世話が焼けるの」ふふん

副長「……」
副長団員e「どうします?」

副長「始末はできませんでしたが、まぁいいでしょう。彼の居場所はもうない」

副長「退却だ!!」
副長団員cef『ははっ』


ぱからっぱからっ

剣術士「兵が退いていく……」
巫女「終わったようだの」

~~


騎士長「……何人生き残った」
女騎士「はっ! 私を含め、8人であります!」

騎士長「…………12人も死んだのか。内訳は」
女騎士「……二人が重傷、三人が軽傷です。それと……」ちら

副長団員b「うぅ……」

騎士長「傷ついた部下を捨て置くとは……!」
女騎士「……騎士の風上にもおけないっ」

騎士長「女騎士、残った兵を集めろ。その後、この場全員の人間を手当てしてやれ。君なら水術の心得があろう」
女騎士「全員、ですか?」

騎士長「二度は言わんぞ」
女騎士「は、ははっ!」たったったっ

騎士長「……」ざっざっ

騎士長「君たちには、助けられたな」

巫女「巻き込まれただけだ。まったく良い迷惑だの」ふん
剣術士「……」

剣術士「お久しぶりです。……騎士長」
騎士長「お前は……剣術士か!」

剣術士「ご無沙汰してます。こっちは連れの巫女です」ぺこり
巫女「何、知己だったのかえ?」

剣術士「あぁ。騎士団で俺の面倒を見てくれた方だ。中央街の居酒屋で話したろ」
巫女「あのときのか」ぽん

巫女「巫女だ。宜しゅう頼むぞ、騎士長とやら」
騎士長「ああ。騎士長だ。南部騎士団の長を勤めている。先程は、本当に助かった」
剣術士(巫女、偉そうだな……)はぁ

騎士長「こんなときでなければ、再開を祝して一杯やりたい所だったが……」
剣術士「……一体何が?」

騎士長「私にも分からん。ただ……」
剣術士「……”彼の居場所は、もうない”」

騎士長「うむ……その言葉が、私も気にかかる」
剣術士(どういうことだ? 騎士長は騎士団のなかでも最上位の力量を持っているのに……何故、その騎士長が)

女騎士「治療が完了しましたっ」たたっ
騎士長「うむ」

女騎士「! お前は!」
剣術士「……あんたも、久し振りだな」

女騎士「”腰抜け”! ……こんな所で会うとは、私も不運だわ」ふん
騎士長「やめろ、女騎士」

巫女「なんだ、この下卑た女は」
女騎士「なにっ!」

巫女「助けてもろうておいてその言い草はなかろう。騎士とは名ばかりで、実態はかように躾のなっておらん犬だったか」
女騎士「貴様っ! 侮辱する気か!」ちゃきっ

巫女「ほう? ……抜いてみやれ」
女騎士「愚弄するな!」

巫女「たわけが」ざっ

巫女「誰に口を聞いておる……分を弁えよ!!」ギロリ
女騎士「っ!」ビクッ

騎士長「やめないか女騎士! ……すまない、このとおりだ」
巫女「謝る相手が違うとろう」ふん

騎士長「私が代わりに謝る。無礼を許せ、剣術士」
剣術士「いえ、そんな! 頭を上げて下さい!」

騎士長「……女騎士!」
女騎士「……」ぺこ
騎士長「……やれやれ」

騎士長「剣術士、お前達は何処へ行くつもりだったのだ?」
剣術士「ええと、山間の街です。そのあと精霊都市を経由して、東の島へ」

騎士長「ふむ……」

騎士長「……これでは、任務を果たせそうにない、か」
剣術士「任務?」

騎士長「あぁ。この先の山間の街で巣を作った魔物が暴れているらしい」
剣術士「魔物討伐? めずらしいですね、騎士長が」

騎士長「それがどうやら……竜属らしい」
剣術士「ドラゴンだって!?」

女騎士「騎士長! 部外者に任務の内容を言う必要はないでしょう!」
騎士長「部外者かどうかは、私が決めることだ。君は私がその程度の判断も出来ないと言っているのか」

女騎士「い、いえ! 滅相もありません! ……出過ぎたまねをいたしました」

騎士長「女騎士、済まないが、隊員達を先に行かせてやってくれ。隊列は円盾の陣。無理をせずに、山間の街まで」

騎士長「これを見せれば街の人々へ話が通じるだろう。隊員aに渡してやってくれ」
女騎士「はっ……しかし、騎士長は?」

騎士長「私はこの者達と少し遅れてゆくよ。色々、話も聞きたい。それから君も私に着いてきて欲しい」
女騎士「……御心のままに」たたっ

騎士長「……さて」
剣術士「話、とは?」

騎士長「お前は今まで何をしていたんだ?」
剣術士「それは……」

騎士長「責め立てるつもりは毛頭ない。お前のことは純粋に気にかかっていたんだ」
剣術士「……」

剣術士「騎士団を辞めてから、暫くは街を転々としながら雇用所に登録して隊商の護衛をやったり、魔物退治をしたりしてました」

剣術士「それから暫くして、勇者達と旅を」
騎士長「勇者殿と!?」

剣術士「は、はい」
騎士長「すごいじゃないか」

剣術士「いえ、俺は……もう、別れましたから」ふい
騎士長「そうか……まぁ、そういう巡り合わせだったのだろうな」

剣術士「……」
騎士長「なら、旅の経験は長かったという訳か。……そのお前に聞きたいことがある。これが本題だ」

剣術士「なんでしょう」
騎士長「南部騎士団に、なにか不穏な噂等はなかったか」

剣術士「いや、特には……っと、待てよ」

剣術士「先日––––2週程前、中央街で魔物が襲撃してきた件は、ご存知で?」
騎士長「あぁ、それは知っている」

剣術士「ドラゴンが出たという噂を聞きつけたのは?」
騎士長「一月ほど前だな」

剣術士「––––やはり、おかしいですよ。そうならば、中央街の魔物襲撃に南部騎士団は駆けつけるべきだった。ドラゴン退治にはどのみち中央街を通らなければならないんだから」
騎士長「……確かに」

ざっ

騎士長「戻ったか」

女騎士「なにがおかしいのよ」
剣術士「……」

女騎士「私たちは魔物討伐の要請なんて請けていないもの。何もおかしくないじゃない」
剣術士「だからだ」

女騎士「? ……どういう」
剣術士「––––山間の街は、中央街よりも南部から離れているじゃないか。だったらなぜ、よりにもよってドラゴン退治を南部騎士団へ?」

巫女「剣術士の言う通りだの。この場合なら、龍退治も王都の軍が引き受けるべきであろ」

巫女「山間の街の管轄は?」
騎士長「確か、王都だったはず。精霊都市より東からは、精霊都市のマジックナイト達の縄張りだ」

巫女「なおさら面妖だの。王都に恩を売るなら、魔物退治のほうが効果が大きい」
女騎士「……正論なのは認めるわ」むすっ

騎士団長「どうにも、胸騒ぎがする。早く山間の街へ向かおう。剣術士、それと巫女。着いてきてくれるか」

剣術士「俺たちも向かう所です。ご一緒します。いいよな、巫女?」
巫女「我は構わぬよ」

女騎士「なんで、こんなやつと……」ぶつぶつ
巫女「さっきからうっとうしいの。羽虫ではあるまいに」

女騎士「なんですって!」
騎士長「やめないか!」

剣術士「巫女も!」
巫女「……ふん」

剣術士・騎士長『はぁ……』

てくてく

剣術士「そうだ、巫女」
巫女「なんだ?」

剣術士「さっきは、ありがとう」
巫女「何の話だ?」

剣術士「さっき、庇ってくれたんだろ。凄く、嬉しかった」
巫女「……今朝はいささか寝過ぎたからの。その詫びだ」

剣術士「それでも、俺は嬉しかったよ」
巫女「……やめろ。むず痒くなるわ」ぷい

騎士長「二人とも、楽しそうじゃないか」
巫女「ふん、他愛も無い話だ」

巫女「それより剣術士、驚いたぞ」
剣術士「何がだ?」

巫女「御主、以外と物を考えておるのだな。先程といい、戦の際の術を察知した時といい」
剣術士「……たまたまだよ。まぐれだ」

騎士長「こいつは、座学の成績は主席だったんだ」
巫女「初耳だの」ほう
剣術士「……昔のことじゃないですか」

騎士長「逆に女騎士は座学がてんで駄目だったな」
女騎士「騎士長っ!」

巫女「こいつらは同期だったのか」
騎士長「あぁ。二人とも手を焼いたよ」

女騎士「私が、こんなやつと同レベルな訳がありません!! 撤回して下さい!」
巫女「娘、さきからいやに噛み付くの。そんなに目くじら立てんでもよいではないか」はぁ

女騎士「……立てたくもなるわよ。こいつはっ!」

どごおおおぉぉん!!

騎士長「!?」
剣術士「なんだ!」

巫女「あっちだ!」

女騎士「街が……燃えている」

ごおおおおおおおおお

取り敢えずここまで

少し進んだので再開します。


☆山間の街


ぱちぱち……

焼死体「––––––––」

剣術士「これは……瓦礫の山じゃないか……」
巫女「……惨いことをする」

騎士長「っ!」
女騎士「騎士長!」

騎士長「誰か!誰か居らぬか!」

ぱちぱち……

団員a「騎士長!」

騎士長「おお、お前達!」

騎士長「街の者は!」

団員a「…………」
騎士長「1人も、1人も居ないのか……!」

団員b「火の手が早すぎて、街の中央までたどり着けないのです……今、団員cが水術で消火作業に当たっているのですが、とても彼1人では……」
女騎士「私も手伝うわ。何処?」

団員b「こちらです」
女騎士「分かった」

ダダっ

巫女「……のう」
剣術士「……あぁ。おそらく市街地に向けた、少なく見積もっても15人以上の多重詠唱だろう」

剣術士「石片が街の外まで飛んできている。……おそらく、中心部は……」
巫女「全滅、だろうな」

騎士長「ばかなっ……」

剣術士「こうしてても仕方が無い……女騎士達のところまで、行こう」

女騎士「くっ……」きぃぃぃん
団員c「くそぉぉぉ」きぃぃん

ばしゃああ!! ……ごおおおおお

団員d「駄目だ……」

騎士長「…………」
団員e「騎士長……」

剣術士「……無理だ、規模が違いすぎる」
女騎士「なんですって……!」きぃぃ……ん

女騎士「貴様は諦めろって、そう言うの!?」

剣術士「魔力も無限じゃない。……宿もないんだ」
女騎士「ふざけるなっ!」

ガツッ

剣術士「っつ……」
女騎士「私を貴様のような腰抜けと一緒にするな!!」

女騎士「私は諦めない!! 私は!」剣術士「見ろよっ!!」

ばっ

剣術士「よしんば火を消せたとして、それは何日後だ!? その間の食料は!? 水術で治療しきれなかったヤツだっているんだろ!!」

剣術士「馬も疲れきってる……隣の騎士をみろ! 彼だって治療と消火のし通しだ! ここにいるのは、あんただけじゃない!」
女騎士「……はっ。そうやってまた自分に言い訳して逃げるつもりでしょう? 貴様はいつもそうだった……最初から諦めて、自分には出来ないから仕方ないと、物事を簡単に投げ捨てるっ!」

剣術士「っ……」びくっ
女騎士「は! 何? 悔しかったら何か言ってみなさいよ……精霊術で火を消してご覧なさいよ! ……どうせ出来ないんでしょう? そうよね……貴様は”能無し”だものね!!」

騎士長「やめないか!!」

騎士長「……剣術士の言っていることは正論だ。……女騎士、君は少し冷静になれ」
女騎士「……」

騎士長「精霊都市に、協力を仰ぐ」
巫女「なるほど……」

騎士長「私の隊の馬なら早ければ二日で行ける。物資や人手も調達できよう」
女騎士「私は、ここに残ります……そいつの顔を見ていると、虫酸が走る」

騎士長「……無理強いはしない。私が行こう。剣術士、巫女、君たちは私の護衛として着いてきてくれ」
剣術士「…………」
女騎士「その女はともかくとして、そいつに護衛が務まるとも思えませんが」

騎士長「女騎士!! いい加減にしないか!!」
女騎士「……」

騎士長「時間が惜しい。着いてきてくれるか、二人とも」
巫女「我は、構わぬが……」ちら
剣術士「…………」

騎士長「剣術士」
剣術士「……はい。分かりました」

騎士長「では、あとを頼む。食料などは、袋の中のものを節制して使ってくれ」
団員b「はっ」

騎士長「行くぞ!」

ぱからっぱからっ

☆精霊都市街道・西


ぱからっぱからっ

巫女「精霊騎士団は、応じるかの?」
騎士長「分からんが……彼らの良心に期待するしか無い」

ぱからっぱからっ

巫女「ふむ……」
騎士長「書簡も無ければ、外交文官も居らん……」

巫女「物資の調達が出来れば御の字、くらいに思うておる方が懸命かも知れんの」
騎士長「うむ……」

剣術士「…………」
騎士長「……あまり、気に病むな」

騎士長「お前が悪い訳ではない。前も、今も」
剣術士「……そうでしょうか」

騎士長「そうだ。……誰しも、自分だけで全てこなせる程、ヒトは全能に創られておらん」
剣術士(嘘だ……ならあいつは?)

騎士長「お前は、良くやっている。誰より努力していたことを、私は知っている」
剣術士(努力? そんなもの、クソ以下だ。結果が伴わなければ、何の役にも立たないじゃないか)

騎士長「得手不得手があるのは、仕方の無いことなんだ。……女騎士は、まだ若い」
剣術士(だったら勇者は。勇者はどうなんだ!)

剣術士(あいつは何でも1人で出来た。それだけじゃない。目の前のもの全てを守れたっ!)ぎりっ

剣術士「俺は………俺はっ!」

ぐらり

剣術士「あ……れ……?」

どしゃあっ

巫女「剣術士!!」ぴしっ

ひひぃぃん!!
だだっ

騎士長「剣術士!? おい、しっかりするんだ!」

剣術士(お…………れ……は)

~~

えーーん……えーーん……

剣術士「あれ、ここは?」

えーーん……えーーん……

剣術士「巫女と、騎士長は?」

ざっざっ

えーーん……えーーん……

剣術士「泣き声……?」

??「えーーん、えーーん」

剣術士「女の、子?」

??「えーーん、えーーん」

剣術士「どうか、したのかい?」
女の子「みんな、死んじゃったの」ひっくひっく

剣術士「!!」

剣術士「どうして……おとうさんと、おかあさんは?」
女の子「まものに、たべられちゃった」ひっくひっく

剣術士「かわいそうに……」
女の子「…………どうして?」

女の子「…………」ぴた

剣術士「えっ?」
女の子「くすくす」

剣術士「なんで、わらうんだ」

女の子「くすくす、おかしいな」
剣術士「なに、が」

女の子「だって、おにいちゃんだって、いないじゃない」

剣術士「何を……言ってるんだ」

女の子「どうして守ってくれなかったの」
剣術士「なんだよ……」

女の子「ねぇ、どうして?」
剣術士「やめろよ……」

ばっ

女の子「オニイチャンが、マモッテクレナカッタから」

剣術士「やめろ……」びくっ

ぺた……ぺた……

剣術士「くるな……」

女の子「ホラ、ネ」がしっ

剣術士「あ……あぁ……」

女の子「ワタシモ、シンジャッタ」ニタァ

どろ……どろ……

剣術士「やめてくれええええええええええええええええ!!」



がばっ

誤字脱字も多いしあまりすすんでないしでワロデイン
今日は多分あと1、2回になると思います。

話作ってて面白い④

>>2
何かあったら言って、とあるので言ってみるが「立ったら書く」とか初めて宣言とかは無くて良い

>>99
ありがとう。これから気をつけます。

再開します

剣術士「はぁっ……はぁっ……」
巫女「……随分うなされておったな」

剣術士「ここ……は?」
巫女「落馬したのは、覚えておるか」

剣術士「そうか……」
巫女「そのすぐ近くだ。騎士長は今水源を探しながら、付近を警備しておる」

巫女「欲しい物はあるか」
剣術士「喉が、からからだ」

巫女「ほれ」すっ
剣術士「すまない」

ごくっごくっ

剣術士「……ふぅ」

剣術士「助かった」すっ
巫女「打ち身は?」

剣術士「……いや、何処も痛くない」
巫女「愚か者が……」

剣術士「…………」
巫女「眠らんから、こうなる」

剣術士「……っはは、いつもはこうじゃないのに……迷惑かけたな」
巫女「黙りゃ」きっ

剣術士「!!」
巫女「昨日のみではなかったのであろう?」

剣術士「……」
巫女「いつからだ」

剣術士「いつからって」
巫女「気付いておらんと思うてか。……夢を見るようになったのはいつからか、と聞いておる」

剣術士「……中央街を、発った後から」
巫女「ほんっに! 御主は不器用だの!」

ごちん

剣術士「いって……」
巫女「我を誑った罰だ。反省せい」

剣術士「……済まない」
巫女「少し吐き出してみい」

剣術士「……」
巫女「楽になろうて」

剣術士「……巫女」
巫女「うん」

剣術士「俺、力が欲しいよ」

剣術士「誰にも負けない、力が欲しい。あんたのような、騎士長のような、……勇者のような!」

剣術士「もう嫌なんだ……誰かを頼って、惨めになるのが。頼らなければ、誰も守れないのが!!」

剣術士「能無しなのは嫌だ。腰抜けなのも嫌だ。役立たずなのも、もう沢山なんだっ!!」

剣術士「全部なんて言わない。俺の手の届く範囲でいい! それすら守ることが出来ないなら……俺は何の為に生きてるんだっ!!」

剣術士「……」

剣術士「でも俺は……そんなことを願ってても俺は結局能無しで、腰抜けで、役立たずで……!」

剣術士「嫌いだ。俺より強いやつも、弱いやつも……嫌いだ! ……そしてそう思う自分が……醜くて醜くて……大嫌いだ……!」
巫女「……」

巫女「……そう生き急ぐな、剣術士」

巫女「御主は、まだ若い。自分で道を狭めることを強要せんでも、よいのだ」
剣術士「…………っ」

巫女「肩の力を抜け。もっと周りや、遠くを見ろ。…………そして、強くなれ」
剣術士「…………」

剣術士「ここで強くなるよって、言えればいいんだけどな……」はは

剣術士「巫女……ありがとう。少しだけ、楽になった気がするよ」
巫女「……少し休むと良い。夢を見るようなら、そのときは、我が叩き起こしてやる」

剣術士「……うん。そう、するよ。今日は疲れた」

剣術士「…………」

がさがさ

騎士長「戻ったぞ……剣術士の具合は、どうだ」
巫女「少し前に目が覚めたが、ついさっき、眠ったよ」

騎士長「そうか……」どさ
巫女「……」

剣術士「……」すーすー

騎士長「こいつはな……努力家なんだ」
巫女「……我は一寸の間しか見ておらぬが、そうなのであろうな」

巫女「……でなければ、こんな顔はせぬよ」
騎士長「色々、溜まっていたのだろう。直情的だが、本音をなかなか言わない」

巫女「皮肉だな……こやつが精霊術を使えぬというのは」
騎士長「……あぁ」

騎士長「剣術士は私が知っているだけで、地水火風の陰陽と光、それぞれ50詩以上の詠唱をそらで言える位、熱心に勉強していたんだ」

巫女「!!」
騎士長「精霊術の適正が無いと判断された日からずっと……毎日術本に目を通していた。野外訓練の際にも暇をみつけては読んでいた程だ」

騎士長「何度も何度も違う属性の適性試験を受け、落ちて、その度に新しい詠唱詩を覚えて、また試験を受けに行っていたよ」

巫女「……」
騎士長「悔しかったんだろうな。必死で努力して、それでも報われず……しだいに、得意だった剣も、精霊術との複合技を使う後輩に負けていって」

騎士長「座学だけはずっと主席で。周りからは頭でっかちと馬鹿にされ、”捨て子”と誹りを受けて」

騎士長「私には、こいつの気持ちがわかるなんて事は言えない。私には、結局何も出来なかった」
巫女「……長が落ち込んでは、指揮に関わるぞ」

騎士長「だから、巫女。こいつを、見ていてやってくれないか」
巫女「……」

騎士長「私の代わりに」
巫女「……こやつは、東の島まで道連れ、という契約があるからの。それまでは、やぶさかでもないわ」

騎士長「頼む」
巫女「……心得たよ」

騎士長「……」
巫女「長も休め。辛くないとは言わせぬ」

騎士長「私は体力には自身があるつもりだが」
巫女「師弟ともなると、強がりが似るの。……部下が逝っておるのだ。平気な顔は許さぬぞ」

騎士長「……心遣い、感謝する」
巫女「ふん。我を誰と心得ておる」

騎士長「貴女を見ていると、まるで自分が子どもになったような錯覚を覚えるよ。いったい幾つなんだい?」
巫女「女人に歳を聞くなど、男を下げる以外の何物でもないと我は思うが、違うかえ?」くくくっ

騎士長「これは失敬。レディ」
巫女「うむ」

騎士長「少し、席を外すよ」
巫女「何処へ行くんだ?」

騎士長「部下を、弔ってくる」
巫女「……少し待て」ごそごそ

巫女「ほれ……我の秘蔵の上物だ。……部下とやってこい」すっ
騎士長「重ね重ね、感謝する」


~~

今日はここまで。

再開します

☆精霊都市・正門


厩管理者「では、預からせて頂きます」
騎士長「あぁ。……お前達、よく頑張ってくれたな」なでなで

ひひぃん……

騎士長「では、行こう」

巫女「流石は、精霊都市と呼ばれるだけのことはあるの」ほほぅ
騎士長「あぁ。精霊の気配がこうもはっきり分かるとはな」

巫女「かような環境で育つ兵はさぞ強健なのであろうな」
騎士長「あぁ。精霊騎士の練度は国内でも指折りだ。北西の武具街が近いこともあって、武器や鎧にも事欠かない。戦闘力は並じゃないよ」

騎士長「片手半剣の剣さばきも文句の付けようが無い。彼らを敵に回したくはないな」
巫女「なんだ、まるでやりあったような口ぶりだの」

騎士長「三年に一度、合同で演習があるのさ。勝ち抜き戦などもあって、うちの騎士団は彼らの気迫にたじたじだったよ」
剣術士「よく覚えてます。確か俺が居た時の決勝は、騎士長と精霊騎士長でしたよね」

騎士長「ああ。……彼の剣は素晴らしかったよ。私も、剣を交えながらだったが、思わず見蕩れてしまった程さ」ふふふ
巫女「どちらが勝ったのだ?」

騎士長「それはまた、次の機会にな」

くるり

騎士長「お前達は、街の中に先に入っていてくれ。正門から一番近い宿で、落ち合おう」
剣術士「騎士長は、どちらへ?」

騎士長「私は会合用の門へ行く。精霊騎士長と話をしてくるよ」
剣術士「分かりました」

騎士長「遅くとも、夜には戻る」
剣術士「はい」

ざっざっ

剣術士「まずは宿をとって、その後に食料や包帯とか、必要な物を買いに行こう」
巫女「うむ」

巫女「……どうだ、体は」
剣術士「ああ、うん。大分楽になった」
巫女「それは重畳」

剣術士「近い宿は……あの看板かな」

巫女「そこそこ上等な宿だの。……湯浴み! 剣術士! 我は湯浴みがしたい!!」
剣術士「……いいぜ、先に風呂に入ってて。買い物は、俺がしておく」

巫女「頼むぞ!」だだだっ

剣術士(また、嘘をついた)

剣術士(あのあともやっぱり夢をみて、あまり寝付けなかった)

剣術士(頭も、針をゆっくり沈められているように痛む)

剣術士(でも、昨日より気分は良い。これは本当。……巫女のおかげだ)

剣術士「まだ俺は大丈夫だ……うん、大丈夫」

~~

☆精霊都市・宿屋


剣術士「……ふぅ」
巫女「久方ぶりの風呂は格別であろ?」

剣術士「あぁ。悪くない。垢擦りで擦ったら真っ黒になったよ」
巫女「……我はあれをみるたび、おなごとしての尊厳を失っていく気がするよ」はぁ

巫女「ふむ」
剣術士「……なんだよ」

巫女「いやなに、いつも軽鎧を上に着けておったから分からんかったが」

巫女「あのようにばかでかい剣を扱うにしては、御主は細っこいと思っての」
剣術士「……ほっといてくれよ」

剣術士「いくら鍛えても、筋肉はつかなかったよ」はぁ

巫女「くくく、そう言われれば、御主はあまり外へ出ぬような容姿だの」
剣術士「……本ばっか読んでそうな見た目で悪かったな」

剣術士「あんたらみたいな誰が見ても眉目秀麗な奴らとは違うんだよ」ぷい
巫女「そんなことはなかろう。御主、誰かが見たら整った顔立ちに見えるのではないのかえ」

剣術士「誰かが、ね」ふん

巫女「大人しゅう大人しゅうしておる女子らにもてたのではないかえ?」くくっ
剣術士「柄じゃない話題はやめろよな」

巫女「いつの世も、女人の楽しみは恋の話と相場が決まっておる。古典にも載っておったであろ?」

剣術士「知るか」

巫女「そう照れるでない、若人」

剣術士「……はぁ」

剣術士「しかし、騎士長、遅いな」
巫女「……うむ。もう日が落ちてから随分経つぞ」

剣術士「……ちょっと、様子を見てくるよ」
巫女「……我も行こう」

剣術士「待っててもいいぜ?」
巫女「固まっておった方がよかろう」

巫女「そう時間がかかる訳でもない。入れ違いにもならんだろうて」
剣術士「……念のため、宿の人に言付けておくか」

巫女「慎重な男だの」やれやれ

☆精霊都市・中央

剣術士「うーむ」
巫女「どうした?」

剣術士「よくよく考えたら、もうこの時間にもなると、使館も閉まってるだろう?」
巫女「ふむ」

剣術士「そうなると、騎士長はどこへ行ったのかと思ってさ」
巫女「前向きに考えるのであれば、街のお偉方から食事にでも誘われたか、どこか店にでも寄っておるのか」

剣術士「真面目な騎士長の性格だ。食事に誘われたならその旨を俺たちに伝えるだろうし、寄り道することもないだろう」
巫女「…………」

巫女「! 剣術士、前!」

ドン

剣術士「っと」
新聞記者「ごめんよ、にいちゃん」

剣術士「いえ、不注意は俺もでしたから」

新聞記者「悪いね……っと、忙しくなるぞ……」
剣術士「凄い勢いで走ってましたけど、何かあったんですか?」

ぴた

新聞記者「いや、ここだけの話なんだがな」

新聞記者「捕まったらしいのよ、例の事件の犯人」
剣術士「事件?」きょとん

新聞記者「あ、そうか。昨日だもんな……昨日の夕暮れ時に、山間の街で焼き討ちがあったんだよ」
剣術士「!!」

剣術士「その話、詳しく聞かせて頂けませんか」

新聞記者「うーん、明日の朝刊の記事に載せるつもりだから、極秘ってことになってんだけど……」

剣術士(…………)

剣術士「山間の街には、家族が居るんです!!」がばっ
巫女(ほんに嘘がうまいの)

新聞記者「……分かったよ、にいちゃん」

新聞記者「精霊術による仕業らしい。ここまで魔力が伝わってきたんだと」

新聞記者「これからマジックナイト達が大勢で救助にあたるらしいんだが……その犯人、なんと今日捕まったのさ」

剣術士「本当ですか!」

新聞記者「ああ。……確か結構偉い人だったな……そうだ。南部騎士団の団長さんらしい」

剣術士「!?」

新聞記者「しっかしこれが間抜けな話でさ、使館で捕まったらしいんだよ。……笑っちまうよな。逃げろっつうのに」ハハハ

剣術士「なん、だって」
新聞記者「あれ、どうした?」

巫女「……時間をとらせてすまぬな」
新聞記者「っとそうだ、怒られる!」

新聞記者「このことは他言無用でよろしくな! ……なんだったら、うちの新聞買ってくれよ! ”ワイズマン”っつって、街じゃ結構有名なんだぜ!」

新聞記者「ではではっ!」

だだだっ

剣術士「騎士長が……捕まった?」
巫女「……宿に戻るぞ。話はそれからだ」


☆精霊都市・宿屋

巫女「さて、どうしたものか……」
剣術士「…………」

巫女「剣術士」
剣術士「……何だ」

巫女「これから、我らがとるべき選択肢がいくつかある」

巫女「一つ目は、取り敢えず様子を見て、物資を先に山間の街へ運ぶ」

巫女「二つ目は、しばらく街に留まり、情報を探る」

巫女「さきの男の話が真実だとすれば、精霊騎士が山間の街へ向かう手筈になっておるらしいから、残っておる兵もおそらく問題なかろうて」

巫女「…………」

巫女「……三つ目は、当初の予定のとおり、このまま東の漁村へ向かう」
剣術士「!!」

ガタ

剣術士「…………俺に、騎士長を見捨てろと言うのか」
巫女「これこれ、早合点するでない。我はまだ三つ目にするとは一言も言うておらんだろう」

カタリ

剣術士「……すまない、少し落ち着いた方がいいな、俺は」
巫女「構わぬよ」

剣術士「……動くのに情報が足りないのは痛いな」
巫女「そうだの。あの男が信用できるとも限らぬしな」

剣術士「……そうだ」
巫女「なんだ」

剣術士「明日の朝刊って言ってたな、確か。……ワイズマンだったっけ」
巫女「ふむ。ひとまず、朝まで待ってみるのもよいの」

剣術士「……もう夜だ。どのみち、夜明けにならなきゃ始まらないしな」
巫女「決まりだの」

剣術士「よしっ」がたっ

くぅ~

巫女「腹の虫が泣いとるの」くくっ

剣術士「そういや、ろくに飯も食ってなかったな」はははっ
巫女「うむ、何か入れるかえ?」

剣術士「あぁ。食える時に食っておかないと、いざという時動けないもんな」
巫女「ならば、少し遅いが夕餉にするとしよう」


~~

こんこん

剣術士「巫女っ!」

がちゃり

巫女「起きておるよ」

剣術士「新聞を買いに行こう」
巫女「宿屋にも置いてあるだろうて」

剣術士「俺、取りにいってくるっ」

だだだっ

…………

だだだっ

剣術士「とってきた!」
巫女「朝っぱらから騒がしいやつだのう」

巫女「朝餉をとりつつ中を見よう」
剣術士「え、だって」

巫女「食える時に食わんでどうする?」
剣術士「……そうだな、そうするか」

☆精霊都市宿屋・食堂


剣術士「開くぞ!」

がさがさ ぺら

剣術士「なになに……」

山間の街、焼き討ちにあう。犯人は南部騎士団団長。

精霊騎士団は犯人の身柄を南部騎士団に引き渡すことを決定。

南部の法廷で裁かれた後、王都へ連行。

剣術士「おそらく、死罪は免れないであろう……!」
巫女「…………」

巫女(うすうすそうなるであろうことは予想できたが……)

がたっ!

巫女「これ、何処へ行く。食事中に席を立つでないぞ」
剣術士「騎士長を、助けに行く」

巫女「…………」

剣術士「……巫女は関係ない。着いてこなくていい。俺一人で行く」

巫女「関係ないとは、ずいぶんな言い草ではないか」
剣術士「巻き込めないよ……これは、俺の問題だ」

巫女「……御主独りで、何が出来る」
剣術士「…………」

巫女「長も言うておっただろう。……つわものぞろいの精霊騎士相手に、御主に一体何が出来るのだ。言うてみい」

剣術士「そんなの、あんたに言われなくたって分かってるさっ!!」

剣術士「俺は能無しだ!! そんなことは分かってるっ!! でも!!」
巫女「…………ふぅ」

巫女「そこな女。水を一杯頼む」
給仕「は、はぁ」

こと

巫女「済まぬの」

剣術士「俺には見捨てられないよ……恩人なんだ!! あの人は!!」

ひゅっ 

剣術士「……っ!」ばしゃあっ

巫女「……少しは、頭が冷えたか」
剣術士「…………」

とさり

巫女「今すぐに助けるのは無理だよ。……御主に限らない。我にだって不可能だ」
剣術士「じゃあ、どうしろっていうんだ……このまま、なにも、できないまま……」

巫女「こっちを向け、剣術士」
剣術士「……?」

巫女「強敵に、無策で挑むのは勇敢でもなんでもない。ただの愚か者だ」
剣術士「……」

巫女「御主の武器はなんだ」
剣術士「俺の、武器」

巫女「剣でも、術でもなかろう」
剣術士「…………」

巫女「落ち着いて、頭を使え」
剣術士「…………」

剣術士「……これから、精霊都市から南部に通達が行ってから、南部騎士団が身柄を引き取る……って書いてあったよな」
巫女「そう書いてあったのは覚えておるよ」

剣術士「なら、南部騎士団に騎士長が引き渡された後なら……」
巫女「そうだな。手勢がいくらかは分からぬが、兵の強さも人数も減るだろう」

剣術士「そう多人数ではこないはずだ。下手に大規模な出兵をしたら、精霊騎士団を刺激することにもなる」
巫女「道理だの」

剣術士「南部騎士団の疲労が溜まった道中で奇襲をかければ、あるいは」
巫女「…………」

巫女「ちゃんと考えられるではないか」
剣術士「……」

巫女「周りを見て、遠くを見ろ。剣術士」
剣術士「……あぁ」

剣術士「それじゃあ、まずは山間の街へ物資を運ぶか」
巫女「うむ」

剣術士「……?」
巫女「どうした?」

剣術士「巫女、着いてきて、くれるのか?」
巫女「むっ」

ぽかり

剣術士「いてっ」
巫女「……約束したであろう? 東の島まで我と共に行くと」

剣術士「そう、だけど」
巫女「なら、これ以上は何も言うな」

剣術士「…………」
巫女「ほれ、行くぞ」

剣術士「……ありがとう」

巫女「っと、ほれ」ぽい
剣術士「?」はしっ

巫女「ずぶぬれではないか……誰かの、かように酷い事をする輩は」
剣術士「……くっくく」

巫女「”誰かが見たら男前”が台無しだの」くくくっ

剣術士「……それやめろよなっ」くくっ

ふきふき

剣術士「じゃあ、行こう」
巫女「うむ!」


~~

一旦切ります。再開は多分夜になるとおもうぜよ

☆山間の街


ひひぃん!

剣術士「馬が回収されてなくて助かったな」
巫女「うむ……」

ごおおおおお

剣術士「まだ、燃えているな……」
巫女「四日五日で消える規模ではないからの……」

ざっざっ

剣術士「あれ……」

剣術士「誰も、居ない?」
巫女「……ふむ」

剣術士「入り口に戻ってみよう」

ざっざっ

剣術士「逆へ行った蹄のあとだ。……分かり難いけど」
巫女「昨日今日、といったところかの」

剣術士「あぁ。どこへいったんだろう……」

……が……に

剣術士「!!」

剣術士「巫女」ぽそり
巫女「応」

さっ

??「首尾は順調のようですね」
副長「はい。……あとは時間の問題でしょう」




剣術士(あれは……副長だ)ちら
巫女「何故ここへ、というのはもう愚問だの」

剣術士「あぁ。……もう片方は誰だ?」
巫女「外套が邪魔でよう見えんの」

巫女「だが……」
剣術士「うん?」

ぴぃぃん


巫女「!!」

巫女「剣術士、逃げるぞ」ざっ
剣術士「どうした?」

巫女「訳は後で話す。今は気付かれぬよう走れ」
剣術士「……わかった」

たたたっ



??「ふふふっ」
副長「? 何か?」

??「いえ、小さな栗鼠を見かけた物ですから」
副長「珍しいですね、こんな場所で」

??「ええ、本当に」

??「くすくす」



たたっ

巫女「はぁ、はぁ」
剣術士「いったい、どうしたっていうんだ」はぁはぁ

巫女「あの外套、凄まじい魔力だった」
剣術士「!!」

巫女「恐ろしくはやい魔力の流れでこちらを察知しようとしてきおったのだ」
剣術士「……そうか、優秀な術士同士は互いの魔力を感知し合える……」

巫女「おそらく、気取られた」


ちらり

巫女「だが、追ってはこぬようだ。……負ける訳が無いとふんぞりかえっておるのか、それとも、泳がされておるのか……」
剣術士「……急いでこの街を離れた方が良さそうだな」

巫女「うむ」
剣術士「……ここは目立つ。街道まで馬を走らせよう」

巫女「承知した」

ぱからっぱからっ


☆精霊都市街道・西

巫女「これから、どうする」なでなで

ひひぃん

剣術士「南部騎士団が精霊都市に到着するまで、多分まだ一月以上あるとおもう」

剣術士「精霊都市に滞在するのも、避けた方が良さそうだな……」
巫女「……騎士長が捕らえられておるからの、我らの事が伝わっておるやもしれん」


剣術士「一旦、中央都市まで引き返すか……」

巫女「……案が無ければ、我に少し付き合わんか」
剣術士「? どこか、アテでもあるのか?」

巫女「職人都市だ」
剣術士「職人都市か! 確かに、ここからそう遠くはない」

剣術士「中央都市へ戻るよりも精霊都市の様子が窺いやすいし、良いかも知れないな!」


巫女「……それに、少しばかり試したい事もあるしの」
剣術士「試したい事?」

巫女「それは、ついてからのお楽しみだよ」くく

剣術士「? ……まあいいや、じゃあ、職人都市へ向かおう」
巫女「ここから北西だの。少し精霊都市の方へ向かえば、分かれ道がある」

剣術士「ああ。……半日ってところかな?」
巫女「馬も平気そうだ。今日中に着きそうだの」


剣術士「じゃあ、早い所行こう。……外套も気になるしな」
巫女「その通りだ」

ばっ

ぱからっぱからっ

~~

今日はここまで。

伏線ばかりだからなんとも言えん

☆職人都市・正門

剣術士「でっっっっっけぇなぁ!!」
巫女「これは驚いたわ……まるで、巨人の街のようだの!」

剣術士「話には聞いていたんだけどな」
巫女「ほう?」

剣術士「知っての通り、この街は国内の職人が目指す目標なんだ」

剣術士「一流と呼ばれる職人の殆どは、この街で修行を積んでいる、って聞く」

剣術士「農耕牧畜、鍛冶、建築芸術……ほとんど全ての分野の職人がこの街で切磋琢磨し合ってるんだ」
巫女「ふむ」

剣術士「建築技術が優れているからこんな風に街を縦に伸ばしても倒壊しないし、彫刻家達が競って美しいものを求めたから、景観もすばらしい」
巫女「英知の結晶だの!」

剣術士「使われている技術も、相当高いらしい」

剣術士「利便さで言えば練金都市に一歩劣るけど、単純な練度や精度でいうとこの国どころか、世界でも指折りなんだ」

剣術士「一度、見てみたかったんだよ」わくわく
巫女「確かに、これは必見といってよいの」ほぅ

剣術士「食べ物もうまいんだって。特に最高の技術で育成された農産物は絶品で、採れたてのミルクなんてそれはもう……」じゅるり

剣術士「って、ここで立ち話する事も無いか。入ってみよう」
巫女「だの」くく


ざっ

厩務員「兄ちゃん達、良い馬を持ってるな」

剣術士「っと、ああ、借りているだけなのですが」
厩務員「気性も大人しいし、けづやもいい。よかったら、あんたらが街に居る間、うちで面倒見るぜ」

剣術士「本当ですか、助かります!」
巫女「いくらだ?」

厩務員「二頭だから……これくらいだな」ぱちぱち

巫女「こんなに安う済むのか!?」
厩務員「良い種馬が欲しくてな。この馬みたいな良い雄は珍しい」

巫女「どうする?」
剣術士「馬自体を差し上げる訳にはいかないのですが……」

厩務員「分かってるさ。返すまで、俺んとこの馬とヨロシクさせるだけでいいんだ」

巫女「どうする?」
剣術士「……悪い人には見えないし、騎士長も許してくれると思う。こいつも長旅だったから、羽伸ばさせてあげたい所だったしな」

剣術士「こいつ、よく働いてくれていたんです。可愛がってくれるなら……」
厩務員「……最高のもてなしを約束するぜっ!」にやっ


ひひぃぃん

剣術士「はは。こいつも喜んでる。それじゃあ、少しの間宜しくお願いします」
厩務員「任せろ! ……連絡は、ここまで頼む。なんなら、遊びにきてくれて構わないぜ」さらさら

剣術士「有り難うございます」

厩務員「よっしゃ決まりだな! ……よしよし、いいこだ。ついてきな」


ひひぃん

剣術士「よし、それじゃ中に入ろう」
巫女「うむ!」

てくてく

☆職人都市・南商店街

巫女「流石に人通りもすごいの」
剣術士「ああ。はぐれないように気をつけよう」

旅人「……」

店員a「にいちゃん、みてってよ! うちの商品は格別だぜ!!」
旅人「え!?」

店員b「そっちの商品なんか俺んとこに比べたらクソだぜ!!」
旅人「はぁ……」


店員a「何おう!!」
店員b「やるか!?」

店員ab『決着付けようじゃねぇか!!』

店員c「どうですか、うちの商品」
旅人「じゃあ、そっちを貰おうかな」

店員c「お買い上げありがとうございやっす!!」

店員ab『あ……』


わいわいがやがや

巫女「凄い熱気だの! 商店街のようだなぁ」
剣術士「この街は旅人に凄く親切なんだ。自分の店の商品を他の街に伝えたり、宣伝したりする役割を旅人が担ってくれるって考えてて」

剣術士「だから、土産物とかを買ってもらう為に、街の出入り口には必ずと言っていい程こういう商店街があるみたいだぜ」
巫女「……御主、案内人に向いておるのではないか?」

剣術士「……まぁ、孤児院にいたころは本を読むくらいしかする事が無かったからさ」
巫女「なんにせよ、博識なのは良い事だ」


てくてく

剣術士「そういや、巫女の用事ってなんだ?」
巫女「……そうだの。先に済ませてしまおうか」

剣術士「どこへ行くんだ?」
巫女「武具通り、だよ」

☆職人都市・武具通り

剣術士「うわぁ……」キラキラ
巫女「はしゃぐでないぞ」

剣術士「でもほらこれ、リーベ工房のエストック!」
巫女「そんなもの見てどうするのだ……明らかに御主とは流派が違うておるだろ」

剣術士「優美だけど、この重量感……たまらねぇよな! キヨンの装飾も絶妙だ……精巧だけど、実用的。使用者のニーズにこれでもかって位答えてる……やっぱリーベ工房は良い仕事するよなぁ」

剣術士「こっちはレイピアだ……フルーレもある!! いいなぁ、買おうかなぁ……いや、待てよレイピア買うんだったらダガーが必要だな……」

剣術士「せっかくフルーレがあるんだから、取り敢えずフルーレだけ買って練習するのもアリだな」
巫女「無しだろ」

剣術士「ミスリル製のツヴァイハンダーだ!! さすがにたっけぇなぁ……こんなの背負ってたら子ども達の憧れの的だぜおい……」
巫女「聞いておらぬな……」はぁ

剣術士「かっけぇ!! ハルバード!! 見ろよこれ!! ベルテのグラデーションが奇麗だ……」

剣術士「ランタンシールドだ! 珍しいなぁ……これはどこだろ……ユーベルト館製か! これあったら夜道も便利だよなぁ」

剣術士「うわぁ……やっぱり職人都市の武具通りはすげぇや……」

剣術士「おおー!! フランベルジェじゃん!! この波波がイカすよなぁ!! 知ってるか、これで斬られると治りが遅いんだぜ!!」ドヤァ
巫女「やかましい!」

巫女「……ほれ、油売っとらんで行くぞ!」ガシッ
剣術士「あぁ!! ちょっと待って!! 後ちょっと!!」

ずるずる

剣術士「あぁ……俺の愛しい武器達がぁ~~……」
巫女「御主のではなかろう!」

ずるずる

今日は仕事しながらばれないようにやって行きます。

>>155 あんまり深く考えずに剣術士くんを応援してくれるとうれしいです

巫女「さて、と」
剣術士「うぅ……」

巫女「……こっちだな」
剣術士「えっと、巫女は武具通り、きたことないんだよな?」

巫女「あぁ、初めてだの」
剣術士「それにしては、土地勘があるようにみえるぞ」

巫女「武具通りには東方工房区があるのよ」
剣術士「へぇ、それは初めて聞くな」

巫女「……昔、親しいものがここで店を構えておったのだ」
剣術士「へぇ……男か?」

巫女「残念ながら、おなごだよ」
剣術士「女の鍛冶屋は珍しいな」

巫女「そうだの。……だが、ここでは男女の違いは無い。見られるのは腕だけ、とあやつも息巻いておった」
剣術士「ここの人達は善くも悪くも職人気質らしいからなぁ」

巫女「っと、ここを曲がるはずだ」
剣術士「おおう」


☆職人都市・武具通り東方工房区

剣術士「雰囲気ががらっとかわったなぁ」
巫女「うむ……故郷とは違うが、懐かしいの」

剣術士「何だあの置物……竜?」
巫女「だの。東方の島は風龍を神として祀っておるから、守り神としてああいう風に屋根や門に像を造り、厄除けとするのだ」

剣術士「ふぅん。……いい匂いがするな」
巫女「香だ。東方の香は悪霊などの不死の者を退ける」


剣術士「なんでだろう……この匂い……知っているような気がする。すごく、むかしに嗅いだような……」
巫女「……ふむ」

巫女「ま、今は我に付き合え。こっちだ」
剣術士「武具街っていうからてっきり武器を買うのかと思ってたんだが、違ったみたいだな」

巫女「? 武器を買うのだよ」
剣術士「武器? でも前に要らないって」

巫女「ふふふ……」
剣術士「何笑ってるんだよ」


てくてく

巫女「っと、ここでよいか」
剣術士「超絶硬質鋭刃武具屋……うっさんくっせぇなぁおい」

巫女「くく、でもそこの陳列窓を見てみい」
剣士「おぉ……確かに良い武器が並んでる……でも、こんな形状のものは見た事無いぜ」

巫女「当然だろう。東方伝来のものばかりだからの」
剣士「……なんかわくわくしてきた」

☆東方工房区・超絶硬質鋭刃武具屋

ちりん

巫女「邪魔するぞ」

店主「いらっしゃい。もう店じまいだから早めにね」
巫女「うむ」

剣術士「へぇ……」きょろきょろ
巫女「見とっても良いぞ」


剣術士「あぁ、わかった」

巫女「ふむ……」

巫女「主、これはいくらだ?」
店主「金貨10枚だね」
巫女「なるほど、済まぬな」

剣術士「店の品物、安いな……」

剣術士「巫女、何見てるんだ?」
巫女「こいつだ」


しゃらり

剣術士「剣……か? サーベルに似てるけど、こんなに細身じゃないな」
巫女「美しいであろ?」

剣術士「うん……こんな奇麗な刀身の剣は見た事無いぜ。……いくらなんだ?」
巫女「あれが10だから……12、3だろうの」

剣術士「そんなに安いのか!? 結構な業物に見えるけど……」
巫女「……おそらく、扱える人間が居らぬのだろうな。つまり、売れんから安い」


剣術士「そうなのかぁ」
巫女「さて、こいつがこの店で一番の名刀だろうな」

すらり

剣術士「おぉ……」

ぴかぴか


巫女「主、これを貰おう」
店主「金貨25枚になるよ」

巫女「ほれ」
じゃらり
店主「毎度」

巫女「よし出るぞ、……って御主、何をしておる」
剣術士「いやぁ……安いから買っちゃおうかな、と」

巫女「……これと、これはいらぬな。こいつも邪魔になるだけだ」ぽいぽい
剣術士「えぇ、それも!? あぁ……」シュン


剣術士「うぅ……会計頼む」
店主「銀貨4と銅貨12」
剣術士「はい……」じゃら

店主「毎度」

巫女「ほれ、出るぞ」
剣術士「はぁい……」とぼとぼ


店主「さて、店じまいかね」

ちりん

ばたん

☆職人都市・武具通り東方工房区

剣術士「その剣、どうするんだ? 巫女が使うのか?」
巫女「言った筈であろ? 我に武具など必要ないと」

剣術士「じゃあ、なんで買ったんだよ」
巫女「ほれ」すっ

剣術士「?」
巫女「御主の新しい武器だ」

剣術士「え、ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺にはこいつがあるよ」
巫女「さっきはふるーれだのれいぴあだのとはしゃいでおったではないか」


剣術士「あれは柄にも無くはじけたというか……ノリだよ! 勿論本気じゃなかったさ」ぽりぽり
巫女「良いから、これを使うてみれ」

剣術士「でも、俺は……」

巫女「守破離、という言葉があるのを知っておるか」
剣術士「しゅはり?」

巫女「物事の上達には、師の教えを守り、次に破り、最後に離れることが何よりも肝要、という意味での」

巫女「御主が長を敬愛しておるのは我とて知っておるが、そろそろ次の段階へ進む頃ではないか?」
剣術士「似たような言葉を俺も剣を学ぶ時に教わったよ。……でも、俺はまだ騎士長の教えを破るくらい剣が冴えたとは到底……」

巫女「……御主は強いよ」
剣術士「!!」ぐっ


剣術士「やめてくれ……」

剣術士「……同情が一番、堪えるんだ……あんたに同情されたら、たまらない」

巫女「……言葉が悪かったな、許せ」

巫女「強い、というのは言葉の綾だよ。……高い山を眺めてばかりでは、首も疲れようて」

巫女「御主は同年代の人間の中では、剣の腕だけを見ても、腕の立つ方だよ。我が保証する」

巫女「……確かに、精霊術は強力だ。だが、工夫次第でなんとでもなろう」
剣術士「……」


巫女「どうだ。我を信じてみぬか。……気に入らぬと思うたなら、今背負っている道へ戻っても、我は咎めぬ」
剣術士「……」

剣術士「今より強く、なれるのか」
巫女「我の見立てが正しければ」

剣術士「…………」ぎゅっ

剣術士「…………分かった。あんたを信じてみるよ、巫女」
巫女「……重畳だ」

巫女「では、受け取れ」すっ
剣術士「ちょ、ちょっと待ってくれ。金!」


剣術士「恥ずかしい話だけど、それの代金を払っちゃったら今後困ると思うんだ、だからこいつは返品して、もうちょっと安いのを……」
巫女「愚か者!」

剣術士「え、っと……」ぱちくり
巫女「つべこべ言うておる場合か御主は。……今より強くなれるのだぞ。そんな瑣末事、斬って捨ててしまわぬでどうするっ!」

剣術士「じゃ、じゃあ……金貨25枚、払うよ」ごそごそ
巫女「いらぬわ。そんなはした金」

剣術士「じゃあ、どうしろって言うんだよ……あんたに借りを作りっぱなしじゃないか。……俺の気が済まないよ」
巫女「……ふむ。男に恥をかかせるのはおなごのする事ではない、というのも確かだな」

剣術士「……逆じゃないか?」
巫女「東方では、おなごは男を立てるもの、と言われておるのだ」

剣術士「う~ん……あ、そうだ!」


ごそごそ

巫女「うん?」

剣術士「これ。……髪留め、もう痛んでたろ」すっ
巫女「……よう見ておるの」

剣術士「これと交換ってわけじゃないんだが、お金が返せるまで、こいつが質代わり……ってのはどうだろう」

剣術士「って、金額釣り合ってないか」はは
巫女「……」


巫女「……預かろう」そっ
剣術士「いいのか?」

巫女「我は、構わぬよ」
剣術士「ホントは、あんたにあげようと思ってたんだけどな。……似合いそうだったから」

巫女「じゃあ、刀を受け取れ」
剣術士「カタナ? この剣、カタナっていうのか」

巫女「うむ、無銘だが良く鍛えられておる」すっ
剣術士「じゃあ、有り難く」ぱしっ

剣術士「思ったより長いんだな。……左手には何を持つんだ?」
巫女「両手で扱うものなのだ」


剣術士「ほう。なら分類は片手半剣ってところか。こんなに軽いのにな……」すいっ
巫女「言い忘れておった。そいつは、腰に差すものだよ」

剣術士「そうなのか? ……だったら、剣帯がいるな」
巫女「ちょっと待っとれ……」

ごそごそ

巫女「こいつは、御主に貸しておく」すっ

剣術士「いいのか?」

巫女「……強くなったら、返してもらうぞ」
剣術士「あぁ。有り難う」


剣術士「それじゃあ、剣を外して……」

ぱちん

剣術士「こんな感じか」

ぱちん、ぱちん、ちゃきっ

巫女「……よう似合うとるよ。服に目をつむれば、いっぱしのもののふだ」

剣術士「もののふ? ……よくわからないけど、褒められてるんだよな?」
巫女「勿論だ。東方のおなごなら、ともすれば一目惚れてしまうかもの」くくっ

剣術士「そいつが嘘だって事はわかってきたよ」はぁ
巫女「くくく」


巫女「……折角だからな」

すっすっ

きゅっきゅっ

巫女「どうだ?」くるり
剣術士「うん。あんたも、凄く似合ってるよ。奇麗だ」

巫女「ふふっ」にこっ

剣術士「そうだ。この剣は、どうしようか」
巫女「取り敢えず、我に貸せ」

剣術士「いいけど……」

きぃぃぃぃん

しゅぅっ

剣術士「あれ、消えた!」
巫女「少しの間だが、別の場所へやったのだ。移動術詩の応用だの」

剣術士「すごいな……」
巫女「後でどこかへ預けぬとな」


剣術士「へぇ……どんなデメリットがあるんだ?」
巫女「魔力も使うし、何よりあまり遠くへは行けぬのだ」

剣術士「なるほど。上空で固定させたのか」
巫女「流石に察しがいいの。丁度我の真上、遥か天に吹く風に剣を一体化させ、閉じ込めたのだ。だから距離を離すと魔力の供給が途切れ……」

剣術士「空から剣が降ってくるなんてぞっとしないもんな」はは
巫女「だの」くく

剣術士「……でも魔力を使うなら、俺が運んでもよかったぞ?」
巫女「美しゅうないであろう?」


剣術士「……まぁ。両手剣と片手半剣の二剣持ちなんて聞いた事無いしな」
巫女「何事も、優雅にな」

剣術士「……あんたらしいよ」

剣術士「じゃあ、牧場へ行ってみようか。馬と一緒に預かってくれるかも知れないし、挨拶もしておきたいしな」
巫女「それは名案だの」


~~

ちょっと休憩します

昨日の朝から何も食べてないから腹減った



☆職人都市・宿屋


剣術士「流石に、くたくただな」はぁ
巫女「今日に限らんが、歩き通しだったからのー」

巫女「それにしても御主、牧場では飲み過ぎだったの?」くく
剣術士「好きなんだよ、ミルク。悪いか」

巫女「悪いとは一言も言うておらんだろう?」
剣術士「……あんたのその口調は、からかってるように聞こえるんだよ」むっ

巫女「それはすまんの」くく
剣術士「……まいいや。騎士長が南部騎士団に引き渡されるまでこの街に滞在するとして、その間はどうするか」


巫女「……どうだ? しつらえた刀の具合は」
剣術士「まだ実践で使ってないから何とも言えないな。腰に差してるだけだし」

巫女「そう。実践だ」
剣術士「実践?」

巫女「後一月。一月でそいつに慣れてもらう」
剣術士「確かに、あんたの言う通りだな。……なんとしても、騎士長を助け出すまでにこいつを俺の剣にしないと。ただ、師がいないのは痛いな」はぁ

巫女「我が教えよう」
剣術士「巫女が!? ……いやでも、あんたはそもそも得物が違うだろう?」

巫女「己では使わん、というだけだ。知識もあるし、そいつを使った腕のいい輩も見ておる。御主が体現するだけだ」
剣術士「簡単に言ってくれるぜ……」


巫女「異論は?」
剣術士「取り敢えず、そうするしかないだろう。ぱっと見の特徴しかわからない俺より、あんたのほうがこいつに詳しいんだろ?」ちゃき

巫女「二言はないな?」
剣術士「あ、ああ。……なんだってんだよ」

巫女「くくく、俄然楽しみになってきたわ」
剣術士(嫌な予感しかしない)

剣術士「……具体的な指導は任せるよ。やっぱ、魔物相手にしたほうが、効率はいいとおもうんだが」
巫女「うむ。そうだの」


剣術士「なら、雇用所へ行って、緊急の魔物討伐を仕事を受けて、小銭稼ぎながらやるのがいいか」
巫女「銭が増えるにこした事はないからの」

剣術士「じゃあ、明日に備えて休もう」
巫女「うむ」


☆宿屋・一室

剣術士「……ふぅ」

すとん

剣術士「新しい武器、か」

ちゃき

剣術士(……広さは十分、か?)

すっく


剣術士(ちょっと振って間合いを把握しておこう)ちゃき

すらり

剣術士「ふっ」

ひゅばっ!

がしゃあああん!!

剣術士(やべぇやっちまった)

まったりやってくぜー。


剣術士(いやでも、凄い切れ味だ)

すっぱり

剣術士(うーむ)しげしげ

ドタドタ! バタン!

巫女「どうした、何があった!」
剣術士「いやぁ……」

巫女「……! ……御主……」
剣術士「えへへ」

巫女「子どもか御主はぁぁぁ!!!」

剣術士「め、面目ない……」

剣術士「いやちょっとまて、まってくれ! ほら、普段と違う武器だから、目測を誤っただけなんだ!」
巫女「室内で振るう馬鹿が何処に居る!!」があ!

剣術士「……仰る通りです」

剣術士「ま、まぁ凄い剣だってことは分かったよ。軽く振るっただけなのに切り口がこんなに鮮やかとは」
巫女「……刀は粘り強い刀身と薄氷のように鋭い刃先を持つ。達人が振るえば、岩も両断するのだ」

巫女(しかし、やはり我の目に狂いは無かったようだの。刃こぼれもしておらんし、見事な断面だ)

巫女「……」
剣術士「巫女、そんなに怒ってる?」

巫女「いや、別の事を考えておったのだ……それより」

巫女「弁償だの」
剣術士「うぅ……金がぁ」

巫女「自業自得だこのうつけ!」

~~



☆職人都市・北街道

剣術士「さて、と」
巫女「ぼちぼち始めるとするかの」

剣術士「ああ」
巫女「ふむ。少し振ってみい」

剣術士「ん、ああ」

すらり

剣術士「ふっ」

ヒュッ


剣術士「こんな感じだ」
巫女「握りの右は鍔元に寄せ、左は柄頭ぎりぎりまで詰めろ」

剣術士「こう、か」
巫女「うむ。……なかなか様になっておるではないか」

巫女「右の力を抜け。舵取りは右、力込めるは左だ」

剣術士「ふむ……」

ひゅっ


巫女「宜しい。……意識するは、丹田だ」
剣術士「丹田?」

巫女「臍の下あたりだの。武に必須な”気”は丹田にあり、とよう言われておる」

剣術士「精神論みたいなもんか」
巫女「ま、そんなところだの」

巫女「ふむ」

巫女「……それ、きたぞ」


どどどどどどど

暴れ野牛「ぐおおおおお!!」
剣術士「おいおいおい……冗談きついぜ」

巫女「我は手を出さぬ。仕留めてみせい」

剣術士「マジかよ……」

暴れ野牛「ぐおおおおお!」
剣術士「っと!」ひょい

剣術士「いいぜ……かかってこいよ!!」

暴れ野牛「ぶおおおおおお!!」


どどど

剣術士(動きは直線的だ。この剣の切れ味ならっ!)

剣術士「はぁ!!」

ザン!! ぶしゅううう

暴れ野牛「––––」

剣術士「余裕」

巫女「うむ、軽いものだの」

巫女「それと、斬った後は血振るいを忘れるなよ。錆びさせると刀が泣くぞ」

ひゅひゅっ

剣術士「っと、これでいいのか?」
巫女「手入れは教えた通りに、欠かさずするのだぞ」

剣術士「ああ。騎士たるもの、武具の点検は怠るなと耳にタコができる位言われてるからな」

巫女「さあ次だ……こいつは少々手こずるかもな」

たたたたたっ

毒角狼「ぐるるる……」
剣術士「かかってこいよ!」


毒角狼「があああああ!」ばっ

剣術士「ふっ」

すたっ

剣術士「食らえっ」ひゅばっ

ひょいっ すたっ

毒角狼「ぐるるるる」
剣術士(こいつ、すばしっこいな……! 中央街のやつより強いっ)


剣術士「っ!」

しゅっ

剣術士「っぶねぇな!」

剣術士(毒液はまずいな……前の武器なら防げたが、こいつじゃ、ガードエリアが狭すぎる。……かわしつつ、間合いを詰めるしか無い!)

毒角狼「ぐぅぅぅぅ」

剣術士「このっ!」
毒角狼「があああああ!!」


巫女(……苦戦しておるようだの)くくく

巫女「見極めさせてもらうぞ」すっ

ぶん!

剣術士「っ!?」

ぎぃぃん!!

剣術士「巫女、何するんだ!!」
巫女「一対一とは限らんだろ? 石も避けねば食われるぞ」

毒角狼「がおあああ!!」ぐあっ

ばっ

剣術士「くっ……こいつ……」

剣術士(刃は……欠けてないな。出来れば鎬で受け流したいが……たぶん、真正面で受け斬るしかない。下手に当てたら痛んじまう!)

ぶん!

剣術士「っ!」ばばっ
巫女「ほれほれ、次がくるぞ?」ぱしっ


毒角狼「ぐるるるる」しゅぱっ

剣術士「しつこいぞっ」すっ

すたっ

毒角狼「があああああ」ぐあっ
剣術士「くっそっ……!」すっ

ざっ

剣術士「はぁ、はぁ……」


ぶん!

剣術士「くっ……」

ぎぃん!!

毒角狼「ぐるるっ」ひゅっ

剣術士「あつっ……!」じゅうっ

巫女「ふっ」ぶんっ

剣術士「がっ……」どかっ!

ざっ


剣術士「ちっくしょ……」

毒角狼「がああああ!!」だだだだっ
剣術士「!?」

ざりっ

剣術士「てめぇ……このおっ!!」ぶんっ

すっ

毒角狼「ぐるるる……」すたっ


剣術士「これじゃ、キリがない……」
巫女「逃げてばかりでは、日が暮れるぞ」

剣術士「!!」

剣術士(逃げる……? そうか、俺は逃げていたのか)

毒角狼「ぐぅぅぅぅ……」

剣術士「……」きっ


剣術士(そうだ。こいつは、斬撃武器にしては細すぎるくらいに細い。もともと、防御を考慮されていないんだ)

剣術士(ならば、回避よりも攻撃だ。そもそもこいつが軽すぎるから、体重移動が楽になりすぎて俺は必要以上に距離をとりすぎていた)

剣術士(間合いを詰めるにはどうすればいい……足だ。軸を左足に置いて、飛ぶように走る。こいつの軽さなら、逆に瞬発力だけで大きく踏み込める)

剣術士(姿勢をカットラインを低くするんだ。あいつは頭もそこそこ良いっぽいな、巫女の投擲に合わせて攻撃してくる。石を受けた後の瞬間が勝負だ……!)


×剣術士(姿勢をカットラインを低くするんだ。あいつは頭もそこそこ良いっぽいな、巫女の投擲に合わせて攻撃してくる。石を受けた後の瞬間が勝負だ……!)

○剣術士(カットラインを低くするんだ。あいつは頭もそこそこ良いっぽいな、巫女の投擲に合わせて攻撃してくる。石を受けた後の瞬間が勝負だ……!)

巫女「ふっ」

ヒュン!

剣術士「……!」

ぎぃん!!

毒角狼「ぐあああああ!!」ダダっ

剣術士「ここだっ!!」くるんっ

じゃきぃぃん!!!

毒角狼「ぐううう……」

剣術士「…………」すたっ


ぶしゅううううう!!

毒角狼「––––」

剣術士「はぁ……はぁっ……」

ひゅひゅっ

巫女「お見事」

巫女「今の呼吸を忘るるでないぞ」
剣術士「……ふぅ」

きん

巫女「御主の先の動きは出技と言うての。後の先を取ったのだ」
剣術士「後の先?」

巫女「相手が動いてから、自らが動き、しかし先制する」
剣術士「カウンターか」

巫女「うむ。後の先に肝要なるは、刹那の見切りだ」
剣術士「なんとなく、わかったよ」

剣術士「それにしたって……酷いと思うぜ」はぁ
巫女「事前に言うておくと御主は要らぬ事を考えるだろ」

巫女「それに、いけると思うたからこそ、やったまでだ」くく
剣術士「……ホントかよ」


巫女「……さて」にたぁ
剣術士「……まさか」

巫女「次は大柄な魔物を探すぞ」
剣術士「今日は終わりでよくないかぁ……?」

巫女「何を言うておる? 一月で習熟するのだろ? ……なら、今日中に一通りの動きを覚えい」
剣術士「マジかよ……」

巫女「一の見切りは上々。二は体捌きだ」
剣術士「悪魔め……」

巫女「くくくっ」
剣術士「いつもよりあんたが輝いて見えるよ……」はぁ


~~



~一週後~

☆職人都市・北街道

剣術士「遅いっ」

ざんっ

毒角狼「––––」

巫女(ふむ。狼ではもう相手にはならぬの)

剣術士「こいつで五匹か……」


巫女(……荒削り、というのは言うに易いか。ひとまず目覚ましい進歩といってよいか)

剣術士(だけど……前の剣ならもっと簡単に倒せた)

剣術士「なあ、巫女」
巫女「なんだ?」

剣術士「……もし、もしもあと三週で前の剣より上達しなかったら……」
巫女「待て待て。誰が刀を大剣より達者にする、と言った?」

剣術市「え? 違うのか?」
巫女「剣術士」

巫女「御主はこれまでの努力を一朝一夕で否定するつもりだったのか」


剣術士「……たいした努力はしてない。実際、俺が大剣を使いはじめてから一週間じゃ、こいつどころか中央の狼すら倒せてなかったよ」
巫女「御主は自分の事になると鈍うなるの」

巫女「御主が刀を使ってここまでの上達をみせたのは、自らの貯金を上手に使うておるからだ」

巫女「基礎体力。空間把握力。見切り。知識、知恵……それら全て。御主が要所要所で己自身が考え、上達しようと心を構えておるからの結果なのだ」

巫女「簡単に過去を否定することは愚者以外の者ではないぞ」
剣術士「……そう、か。俺、頑張ってたんだな」

巫女「……然りだ。御主はもう少し、自分を褒めてやらんといかんぞ」
剣術士「自分を褒める、か」

剣術士「でも巫女の見通しだと、今刀の訓練をする必要って、あるのか?」
巫女「ふむ」


巫女「時に御主、左利きとやり合うた事はあるかえ?」
剣術士「左利き……? いや、ないな。剣を学ぶ時には、左のやつも右に矯正させられるし」

巫女「……逆利きの相手は手強いぞ。なにせ、染み付いた動きに、合わせ鏡のように応じてきよる」
剣術士「あ! ……そういうことか!」

巫女「ふふ、察したようだの。東方工房区の刀がかように安いということは、つまり、東方の剣術を使う人間が殆どおらぬ、に等しい」
剣術士「……俺が多少未熟でも、相手は対応の仕方が分からない」

巫女「その通り。長の口ぶりからすれば、南の軍に武に長けた兵はあまりおらぬようだからの」

iphoneからですいません。1です。今日は寝る。また明日。

くっそわろた

寝る前は顔が真っ赤でした。今日もゆっくりやっていきます

巫女「逆に御主は相手方の剣術を熟知しておる。これほど有利な戦いは無いの」

巫女「それに躯の作りを鑑みると、御主は力よりも技や素早さで手数を多くする方が向いておる」

巫女「前々から疑問だったのだが、何故大剣を使いはじめたのだ?」
剣術士「……昔、助けてくれた人が居てさ。ばかでかい剣を背負って、俺に向かってくる魔物をなぎ倒していたんだ」

剣術士「小さい頃から俺はこんな性格で、人と上手に付き合う事も出来なくて……そんな時に現れたその人に、憧れて」

剣術士「……結局、その人みたいに格好よく人を守る事は、俺には出来なかったけど」
巫女「そうか……。だがまだ御主は剣の道を志す人間の中では、若い。ひよこも良い所だ」

剣術士「……ああ。強くなりたい。もっと」
巫女「うむ」


巫女「……御主の不得手な精霊術師も、刀の機動力があれば、先制して喉をつぶすことも叶おうて」

巫女「強力な精霊術は詠唱が不可欠だからな」
剣術士「それには、動きの精度をあげなくちゃな」はは

巫女「懐に飛び込む勇気と、判断力を磨け。御主には、それが大きな助けとなろう」

剣術士「……よし!」

剣術士「……なんか、急にやる気がわいてきたぜ!」
巫女「ふふ、励めよ」

剣術士「あぁ!」ぐっ


巫女「さて」ざっ

剣術士「? 何処か、行くのか?」
巫女「うむ。少し野暮用がある。……ここの魔物なら、我が居らずとも御主は遅れをとるまい?」

剣術士「ああ。無理はしないよ」
巫女「……基礎は全て教えた。日暮れまでには宿に戻れよ」

剣術士「分かった」こくり

巫女「では、の」

すたすた

~~


☆職人都市・雇用所

巫女(……とま、少しばかり予定が外れたが、堪忍して欲しい)

巫女(……今更だ。我も、感謝している)

巫女(くく、ではまた後での)

巫女「……さて」

てくてく

巫女「少し良いか?」

受付「どうされました?」
巫女「……仕事を探しておる」


受付「どのような?」
巫女「とびきり難度の高いものを」

受付「えっと……金額の方は」
巫女「金は優先度を一番低く。……腕の立つ人間を欲している仕事はないかえ?」

受付「せ、戦闘ですか? 失礼ですが、貴女はとても戦うようには……」
巫女「……あちらの男に頼まれての」すっ

がやがや

ならず者a「がはは、てめぇのぶら下げてるもんは腸詰めかなんかかよ!」むきっ
ならず者b「おきやがれ! ……立たなかったもんはしょうがねぇだろ」

がやがや


受付「あぁ……あちらの方でしたか」

受付「……でしたら、これと……これになりますかね」
巫女(我も嘘がうまくなったやも知れん)

巫女「どれどれ……なに? この仕事は本当にあったのか!」
受付「えぇ……二月ほど前からですかね? 誰も手をつけようとしないのです」とほほ

巫女「ふふふ、ならばこの仕事、引き受けよう」
受付「名前はどうします?」

巫女「剣術士、と」
受付「分かりました。……見ての通り、大変難しい仕事ですから、無理と判断されたならお手数ですがまたこちらまで」


巫女「承知した」さらさら

巫女(ふむ……南の軍はずいぶん手の込んだことをしているな)

巫女(まぁ、好都合だ)くく

受付「仲介人として、貴女のお名前と、手形を頂きますが宜しいですか?」
巫女「うむ」

どしどし

ならず者a「おいねぇちゃん、この仕事はちとあんたに重すぎるんじゃないか?」
巫女(……面倒だの)はぁ

受付「え、え? お知り合いでは?」


ならず者a「なんだねえちゃん、俺とナカヨクしたいってか?」がはは
巫女(ほんに……男という生き物は解せんの)

ならず者a「おい、なんとかいえよ」ばっ
巫女「!!」

ぴしっ

巫女「痴れ者が……誰が触れるを許したか!」

ならず者a「いっつ……おい、この状況分かってんのか?」
受付「困ります、こんな所で!!」


ならず者a「うるせぇな!!」どん
受付「う、うわっ」

巫女「畜生にも劣るわ……」
ならず者a「……ちっとばかし痛い目見ないとわからねぇみてぇだなぁ!!」

ぶん!!


巫女「話にならんな」すっ

ならず者a「!?」

巫女「未熟者が……出直してきやれや!!」

ばっ

どごお!! がっしゃあーーん!!

『なんだなんだ?』『あのちまいねぇちゃんがデカ物をのしちまったんだ!!』

『いいぞぉ! もっとやれー!』

ならず者a「––––––––」ぴよぴよ


巫女「ふん。剣術士のほーがよっぽどつわものだの」ぱんぱん

ならず者b「おい! ……てめぇこのアマ!!」
巫女「……ほう? わざわざ火傷する火に触れる事もあるまいに」

巫女「……相手をしてやろう」くいくい
ならず者b「なめやがってぇぇ!!」

ひゅっ! ばきぃぃ!!

ならず者b「ぶへぇぇ!?」

巫女「釣りだ。受け取れ?」くるんっ

ばがああああん!!

ならず者b「––––––」きゅぅ


巫女「他愛も無いの。技量の差も見抜けん阿呆どもが」ふぁさっ

『ひゅーひゅー!!』 『かっけぇぞねぇちゃん!!』

ちゃりんちゃりん

巫女「見せ物ではないのだがの」はぁ

巫女「すまぬな、迷惑をかけた。手間賃だ」じゃらり
受付「い、いえいえ」


受付「……ところで、仕事のほうは……」
巫女「我では不服かの?」

受付「め、滅相もありません!」
巫女「では、書面通りに宜しく頼むぞ」

受付「この、剣術士という方は?」
巫女「ここには居らぬ。我の連れだ」

受付「かしこまりましたっ」
巫女「では、騒がせたな」

てくてく

きぃ、ばたん

~~


☆職人都市・宿屋

巫女「戻ったか」
剣術士「あぁ。……へとへとだよ」はは

剣術士「すげぇ眠い……ちょっと休むわ」のろのろ
巫女「少し待て、予定を話す」

剣術士「ん、ああ、分かった」ぴたり
巫女「明日は遠出するぞ」

剣術士「え?」

巫女「今日は仕事を引き受けに行っておっての」
剣術士「仕事?」ぱちくり

巫女「ああ。ま、一悶着あったがそれは置いておこう」
剣術士「……明日って急だな。俺も着いていくってことは、何かの訓練だろ?」


巫女「うむ。御主の上達の、中間確認だ」

巫女「……最終になるかもしれんが」ぽそり

剣術士「何をするんだ?」
巫女「山へ入る」

剣術士「山? 南北に横切る、あの山か?」
巫女「左様だ」

剣術士「あの山、相当広いだろ。どのあたりだ?」
巫女「ちょうど、山間の街あたりになるかの」

剣術士「……」
巫女「あの街からはではなく、この都市側から山入りだがな」


剣術士「明日、か」
巫女「うむ。英気を養えよ」

巫女「明日はおそらく、御主が今まで戦ってきたどの魔物よりも強力な相手と相見えるのだから」
剣術士「……ちなみに、相手は」

巫女「まぁ、隠す必要もなかろう」

巫女「どうせ、対処法など知らぬのだから」っくく
剣術士「……へぇ、断言するじゃないか」むっ


剣術士「これでも俺は、結構魔物に関しては調べているんだぜ?」
巫女「くくく」

巫女「賭けてもいい。御主は知らぬよ」
剣術士「じゃあ、言ってみろよ」

巫女「明日の仕事は、龍退治だ」

剣術士「…………え?」

~~


☆職人都市・南街道

剣術士「な、なぁ! ……マジで行くの?」
巫女「まじだ」

剣術士「無理だって! 相手はドラゴンだぞ!?」
巫女「何を臆しておるのだ。龍は不死でも無敵でもない。れっきとした生物だぞ?」

剣術士「いやいやいやいや」

剣術士「確かにここらの魔物には苦戦しなくなったけどさ! いきなりランクをあげすぎだろ!!」

剣術士「見習い騎士が騎士長に決闘を申し込むようなもんだぞ!?」

剣術士「俺だって出来るものなら倒したいさ! だけど、あの騎士長だって、副長の隊と合わせて50人は居たじゃないか……」
巫女「何も御主ひとりで戦えとは我も言わぬよ」

巫女「我も当然戦には参加しよう」
剣術士「そうなのか!」

剣術士(なら、なんとかなるのか?)

巫女「当たり前だ。我は御主を買っているが、過大評価する気はない」

巫女「出来る出来ないの見切りはつけておるつもりだ」
剣術士(いやでも騎士長だって50人も連れてた訳だろ? 巫女と騎士長、どっちが強いんだろう)

剣術士(もし騎士長のほうが強かったら……やばくね?)

剣術士「……なんか、すげぇ不安になってきた!」
巫女「何を百面相しておる」じろ


巫女「四の五の言わずに行くぞほれ」
剣術士「うえ……」

巫女「……ふむ」

巫女「相見えるまでは当然行くが、勝てぬと判断したなら逃げても良い」

巫女「これでどうだ?」
剣術士「……分かったよ。俺だって、あんたを信じるって決めたからさ」

剣術士「しかし、山間の街付近に本当にドラゴンが居たとはな」

巫女「それは仕事の一覧を見た時に我も感じたよ」

剣術士「……南部では一体何が起きているんだろう……」
巫女「ま、それを考えるのは後だの」


剣術士「そうだ。ドラゴンの棲家って見当はついてるのか?」
巫女「あぁ。今は使われていない大鉱山があるのだが、そこがどうも怪しいらしいの」

剣術士「ふむ……」
巫女「鉱石を食べにやってきたのか、産卵が目的なのかは分からん」

剣術士「大きさとか、属性の情報は?」
巫女「目撃も曖昧でな、家ほどだとか、森より高いとか……ま、信憑性に薄いものしかないらしいのだ」

巫女「だが、付近の木々に焼け跡が見つかったらしくての。火龍ではないかと噂されておる」
剣術士「焼け跡ってことは属性は火の陽か……」


巫女「だの」

巫女「ともあれ、実際に見てみぬことには判別のしようがない」
剣術士「あぁ、そうだな」ぎゅっ

巫女「徒歩だと、鉱山までは4日はかかるだろうな」
剣術士「そうだな……途中の魔物は俺に任せてくれ」

巫女「うむ。無駄には出来ぬからの」

てくてく

~~

そうだ。嫌われているっぽいので反応しないようにしていますが、コメントめちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます。


~三日後~


☆山間の街付近・大鉱山跡入り口

剣術士「思ったより早く着いたな」
巫女「うむ。山道が存外歩きやすかった事が大きい」

剣術士「じゃあ、入るか。……武器よし、食料は……足りてる。薬もある」
巫女「では、行こう」

ざっ

☆大鉱山・通路

ぱちぱち

剣術士「流石に暗いな。松明を持ってきておいて正解だったな」
巫女「だが、崩落しておらんで助かったの。造りも丈夫そうだ」

剣術士「こう暗いと魔物が出たら手こずりそうだな……」
巫女「我に明かりを貸せ。御主は戦に集中すれば良い」

剣術士「分かった」すっ
巫女「うむ」はしっ

がさがさっ

剣術士「……光におびき寄せられたか」
巫女「くるぞ」


ぱさぱさ

吸血蝙蝠「チチチチチ」

剣術士(火から遠ざかるのは愚策……カウンターだ)ちゃきり

すらっ

吸血蝙蝠「キャアアアアア」くあっ

剣術士「はっ」

ざしゅっ

吸血蝙蝠「––––」

とさっ

剣術士「次!」

岩鼠「チュチュチュチュ」とととと

剣術士(体を沈めるっ)

剣術士「ふっ」

ばしゅっ

岩鼠「––––––––」ぶしゅっ

剣術士「………」くるり

剣術士「こいつはすこし厄介か」ちゃきっ

息吹トカゲ「しゅー……」


巫女(上手に料理するようになったの)ぬる

巫女「……む?」

ぬるぬる

巫女「なんだ……?」ちらっ

てらてら

巫女「––––––––––」ぴきっ

巫女「うゅやああああああああああああああああ!?」ばっ

からんっ しゅっ


剣術士「え!? 何だ! 明かりが……巫女!?」
巫女「やだああああああああああああああああ!!」ぶんぶん

息吹トカゲ「があああああ」

ごおおおおっ

剣術士「くっ!?」だっ

剣術士「火炎を吹くのか!? ……いや、姿が見えるっ。これなら!」たっ

息吹トカゲ「があああ!!」


ぶあっ

剣術士「死角はここだっ」ざざっ

剣術士「散れっ!!」

ざくんっ

息吹トカゲ「––––––––」


剣術士「巫女っ」たたっ
巫女「やだぁぁぁあ!」ぶんぶん

ぱしっ

剣術士「どうした? ……って」ぬる
巫女「うぅぅぅぅ……」

剣術士「ちょっと動くなよ」
巫女「ぬるぬる……ひえぇ」

ふにっ


剣術士「何だ、ヒルか」ぺりっ
巫女「やだぁ……気持ち悪い……」

ぽいっ

剣術士「ほら、取れたぞ」
巫女「ぬるぬるは、駄目なのだ……ぬるぬる嫌いだ……」うぅっ

剣術士「っと、血が出てる。薬を塗るからまだ動くなよ」ごそごそ
巫女「うぅ……」ぐすっ


ぱかっ

剣術士「なんで半べそかいてるんだ……」ぬりぬり
巫女「駄目だあれはよくない。だってぬるぬるしてて柔らかくて、あいつら、意味が分からんだろう……!」

巫女「む昔から……嫌いなんだぁ……」うぅ

剣術士「……なんでこんなところにヒルなんかいるんだろう。近くに水源でもあるのか……?」


巫女「もう帰るぅ……」ぐすっ
剣術士「あんたな……」はぁ

剣術士「松明松明……これだ」

ちっ ちっ ぼあっ

ぱちぱち

剣術士「足下にはいないし……」すっ

てらっ


剣術士「……ん?」さっ

剣術士「––––––っ」ぞわっ

てらてらてら

ヒルの群れ「––––」ごそごそ


巫女「––––––––っきゃあああああああああああああああああああああ!!」
剣術士「……天井かよおおおおおおおおおおお!!」

巫女「––––––––」ふらっ
剣術士「おい巫女!? くそっ」がしっ

剣術士「冗談じゃねぇぞおおおおおおおおおお!!」

だだだだだだだだだだだだだだだだだっ!!



だだだだだだっ!!

剣術士「はぁっ……はぁっ……」

剣術士「き、騎士時代の時の三倍全力疾走した……」

剣術士「……しかも、松明持ちながら、重りまで担いで」はぁ

すっ とさり

剣術士「巫女……おい巫女!」
巫女「うう……」


巫女「うん……?」ぱち

剣術士「……気がついたか」
巫女「…………ぬるぬる」ひっ

剣術士「ひとまず、このあたりには居ないみたいだ」
巫女「…………」ほっ

剣術士「あのあたりに川か何かが隣接してるんだろうな」

剣術士「多分、廃棄された理由はそれだろう。地盤が緩んで崩れるかもしれんし、付近の水質汚染も懸念されたんだろうな」

剣術士「岩鼠が居たから、資源はまだあるみたいだ。見ろよ」すっ


剣術士「掘った跡がある。そんなに古くないものだ」
巫女「……」

剣術士「巫女? どうした?」
巫女「……忘れろ」

剣術士「ぬるぬる?」
巫女「忘れろっ!!」

剣術士「ちょっと待てよ、まだ話の途中だ」
巫女「…………」むすっ

剣術士「この辺り、暑くないか」
巫女「そう言われれば……」


剣術士「この時期に普通ヒルは活発に活動しないんだ。だけど、このあたりが暖かいからよってきたんだろうな」
巫女「……迷惑な話だ」

剣術士「多分、火竜で間違いないと思う。遠くない距離に居るだろう」
巫女「ふむ……」

剣術士「後一つ。……帰り道あそこを通る事になるんだ。今忘れる訳にはいかないかな」はは
巫女「……!」ひくっ

巫女「……もう嫌だ」うぅ
剣術士「帰りもおぶってやるから、先に進もうぜ」

巫女「……はぁ」

すみません、ちょっと仕事に集中してます。二十二時頃になるかも


剣術士「しかし、あんたにも苦手なものってあったんだな」
巫女「……我をなんだと思っておったのだ」

剣術士「悪い悪い。何でも知ってて強いからさ」
巫女「我とて人の子だ。……無論、勇者にも不得手はあろうよ」

剣術士「そう、だな」
巫女「……」

てくてく

剣術士「空気が乾いてきたな」
巫女「うむ」


剣術士「弱い竜だといいけど……」
巫女「弱気だな」

剣術士「当然だろっ! そりゃ、腹は括ったけどさ……童話だと、騎士が最後に戦うのはドラゴン、って相場が決まってるだろ。……それくらい、実感がないんだよ」
巫女「確かに生息数は他の魔物に比べて圧倒的に少ないからの」

巫女「希少性にかけては、竜族がいの一番にあがるだろうて」
剣術士「生命力とそれに神秘性もな。だから信仰の対象にもなってる」

巫女「……そうだの」

てくてく


剣術士「巫女はドラゴンとやりあった経験があるのか?」
巫女「!!」

剣術士「巫女?」
巫女「……あると言えばある。無いと言えば無い」

剣術士「なんだそれ」
巫女「我はどうだってよかろう」

剣術士「一緒に戦うんだから、どうでもいいって事は無いだろう」


巫女「放っておけ!」

剣術士(……?)

剣術士「……怒ってるのか?」
巫女「……」


剣術士「さっきからかったのは、謝るよ」
巫女「そうではない。……御主が想いを抱えているように、我にも思う所があるのだ」

剣術士「分かった。……詮索はやめるよ。ごめんな、嫌な記憶を思い出させて」
巫女「……いや、我の方こそ声を荒げて済まなかった」

剣術士「……いいよ。気持ちがわかるって言い方はあまり好きじゃないけど、それでも伝わったから」

剣術士「二度としないと誓うよ。……俺だって、変に探りを入れられるのは嫌だから」
巫女「……」


巫女「……御主と共に行くと決めて、良かった」

剣術士「…………ま、ぬるぬるは1人じゃどうしようもないからな!」
巫女「違うわ!!」があっ

剣術士「悪い悪い」はは
巫女「むー」

てくてく

剣術士「さて、そろそろ最奥に着く頃か?」
巫女「そう、だの。大分歩いたからな」


剣術士「ん?」
巫女「……あちらだな」

剣術士「松明は、もう要らないな」
巫女「ここまで光が届くとは。……流石は龍族、と言った所か」

剣術士「あぁ」じゅぅっ
巫女「近いな」

ぱあぁぁ……

剣術士「向こうだ……」
巫女「準備は、良いか」

剣術士「…………あぁ。覚悟は出来た」
巫女「ならば、行こう」


☆大鉱山跡・最奥部

ぴり……ぴり……

剣術士(っ!)
巫女「蓄積された魔力が体から漏れ出ておる……なかなか心地よいの」

剣術士「魔力はぴんとこないが、それでも……圧倒的な気配を感じるっ!」

ごごごごごご

紅炎竜「グルルルルル……」

剣術士(鱗が……綺麗だ。まるで血みたいな色)
巫女「見蕩れておる場合ではないぞ?」

剣術士(これが、ドラゴン。古より最強の生物と謳われた、伝説の存在……!)

紅炎竜「ガオアアアアアアアアア!!」

巫女「くるぞっ!!」
剣術士「!!」


紅炎竜「グオオ!!」

ぶんっ!!

剣術士「!!」ばっ

どがああああん!!

剣術士(尻尾の一薙ぎでこの威力っ! まともにもらったら、ひとたまりも無い……!)


巫女『訪れるは静寂、過たずひと時の庇護を我に与えん!!』きぃぃん……

紅炎竜「ガアアア!!」すぅっ

ごおおおおおおおおお!!

ぱあああああん!!

巫女「剣術士っ!! 御主は絶対に炎の直撃を受けてはならんぞ!!」

剣術士「わかってるッ!!」

剣術士(巫女はブレスを断熱術詩で防げるが……俺は精霊術も使えなければ、魔力耐性もない。浴びれば一瞬で灰になる!)


紅炎竜「ガオオオオオオオオオぉぉ!!」

剣術士「っ……!」びりりっ
巫女(完全に威圧されておるな。……堪えろよ、剣術士っ)ちらっ

剣術士「こんのおおおおおおお!!」だだだだだっ

紅炎竜「ギャオアアアアアア!!」ぐるんっ

剣術士「……!」ばっ

ばしいいいいん!!


剣術士「ここだぁ!!」

ぴぃん……ぎゃりいいいいん!!

剣術士「嘘だろっ……!?」

紅炎竜「グルルル!!」

しゃっ!!

剣術士「っ!?」さっ
 
ちりっ


剣術士「……!」ごろごろ

ずざぁ!

剣術士(間一髪……!)

剣術士「でも……弾かれるなんてっ」
巫女(接近に悪手は無かったが、龍鱗は裂けぬようだの。……さてどう攻める?)

展開は読めちゃうと思うけど、読めても言わないでね。


剣術士(命中して刀が通らなかったのは初めてだっ)

剣術士(刃は……大丈夫。流石巫女の見立てた剣だ)ちら

剣術士(しかしどうする……?)

紅炎竜「グルルルル……」
剣術士「……余裕かましやがって……!」ぐっ

紅炎竜「グゥゥゥゥゥ」すぅっ

剣術士(ブレスっ)


紅炎竜「ガアアアアアッ!!」

ごうぅぅぅぅっ!!

ずざああああっ!!

剣術士「あぶねぇっ」

紅炎竜「グゥゥゥ……」すおおおぉぉぉぉっ

紅炎竜「グギャオアアア!!」


ぼぼぼぼぼっ!!

剣術士「追撃!?」はっ
巫女『打ち砕くは意思、呼ぶは障壁、仇為すものに刹那の沈黙をっ!』きぃ……ん

ぴしっ
ドガガガガガ!

剣術士「連弾だと……っ!!」
巫女「集中だ、剣術士っ」

剣術士(炎球の射程が広すぎるっ……)

巫女(距離を取れば炎球、近づけば炎波と尾の連撃。刃は通じぬ。打つ手無しに見えるが……違う。まだ側面しか知らぬのだ)

剣術士(距離をとったらやられるっ)だだだっ

紅炎竜「ガオアアアア!!」ぶんっ

ばちぃぃぃん!!

剣術士「っと……」

剣術士(考えろ、どうすればやつにダメージを与えられる……)

紅炎竜「グルルルゥゥ……」


剣術士(こっちの様子を良く窺ってる。……まてよ、そうか! 鱗に覆われていない部分が一カ所だけある!)

剣術士「ふっ」だっ

紅炎竜「ルルルゥ……」すうぅぅっ

紅炎竜「グアアアアア!!」

ごうぅ!!

剣術士(左に避けるっ! 次っ!)だんっ


ばちぃぃぃん!!

剣術士(後ろを取った!! いけるっ!)

紅炎竜「ギャオオオオオ!!」ぐるんっ

剣術士「っここだ!!」だだっ!!

剣術士「喰らえぇぇぇ!!」ギラッ

ザグンっ!!

巫女(!? まずいっ!!)


紅炎竜「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!?」

ずががが!! どがああああん!!

紅炎竜「ギャオオオオオオオオオオオオン!!」

ぶんぶんぶんぶんっ!

剣術士「な、何故だ!? ……っああ!?」ぐるんぐるんっ

剣術士(目を串刺しにしたんだぞ!? なんで動けるんだっ!!)

ぶんっ!!


剣術士「!?」ちき……ちきちき……

剣術士(刀が抜けそうだ……振り落とされるっ……!)

紅炎竜「グワアアアアアアアア!!」

ぶわああああっ

しゃりぃぃぃぃん……

剣術士「やべっ……」


剣術士「––––––––」ふわっ

紅炎竜「グオオオオオオオオ……!」すうううっ

紅炎竜「ガアアアアアアアアアア!!」

ごおおおおおおおおおおお!!

巫女「剣術士ぃぃ!! 避けろぉぉぉ!!」

ごおおおおおお……

剣術士「––-––––死ぬ」

今日はここまで。



剣術士(––––––––じかんがおそくかんじる)

剣術士(しぬしゅんかんはそうまとうがよぎるっていうけど、あんがいほんとうなのかもな)

ごおおおぉぉぉ……

剣術士(ここまでか……)

剣術士(––––––––しにたくない)

剣術士(まだおれはなにもっ……!! ……しにたくない……っ)

剣術士(だれか…………けてくれ……!)


ぴぃぃぃぃぃん……

??『––––––––』

??『––––よう––––く––––つな––––っ––––た』

剣術士(だれのこえだろう……みこ?)

ごおおおおおおお……

剣術士(……のみこまれる)

ぴぃ……ぃん……

ごおおおおおぅ!!

巫女「剣術士ぃぃぃぃぃ!!」


ごおおおおおおおお……

巫女(!?)

どさっ

剣術士「…………?」

剣術士「あれ……あつくない」むくり

剣術士「おれ、いきてる、のか?」きょとん


剣術士「!!」ばっ

紅炎竜「ギャオオアアアアアア!!」ずず……ずずっ

ズアアアぁぁぁぁ……

剣術士「立ち、あがった!」

紅炎竜「グゥゥゥゥゥウウウウウ……!!」どくっどくっ

剣術士「ようやく本気って訳か……なんだか分からんが命拾いしたぜっ!」


巫女(あれは、やはり––––)

巫女(––––目覚めたか)

剣術士(どんな化け物だよ……目ん玉貫かれて血が出るだけってのは、反則じゃないか!?)

ちゃきっ

剣術士「いいぜ……もう片方もはやにえにしてやるっ!」きっ

紅炎竜「ガアアアアアア!!」


ぐるんっ

ぶん!

剣術士(なんだ? 体が軽い––––でも、これならっ)ふっ

ガギィ––––ギャリイイン!!

巫女(受け流しおった……!)

剣術士(自分の体じゃないみたいだ……!)ざざっ


剣術士「でも、鱗は斬れないかっ」だだだっ

紅炎竜「ギャオアアア!!」

しゃっ

剣術士「当たるかよ!!」だっ

紅炎竜「グルルゥ!!」ぐるんっ

剣術士「っと!」ばっ


ばちぃん!!

ざざっ

剣術士(顔が遠いな……。目を狙いたいが、無理か……?)

紅炎竜「ゥゥゥゥゥウウ……」ギロ

剣術士(……?)

剣術士(……さっきからブレスを吐かないな。いい距離だったのに)

剣術士「っ!」たんっ


ぶん!! ばちいいん!

紅炎竜「ガオアアア!!」

しゃっしゃっ!

剣術士「いつっ、かすったか……!」ちりっ


紅炎竜「ガオオオオン!!」ぐるっ

剣術士「ここっ」

ギャリィィン!!

紅炎竜「………ゥゥ」

剣術士「……?」

剣術士(振り返らない……顔を気にしてるのか?)

剣術士(いや、違う。……そういえば、妙だ。肉弾戦ばかりだし。さっきも爪のあとに無理な体勢から尻尾で攻撃してきた)


剣術士「……腹を庇ってるのか? ……そうか!」

剣術士「ならさっ!」だだっ

紅炎竜「グウウウウウ!」ずざっ

剣術士(左は死角っ)ざざっ

紅炎竜「ガアアアアア!!」ぐるりっ

剣術士「遅いっ!!」ばっ

剣術士「はああぁ!!」ひゅっ


じゃりぃぃんっ!!

ぶしゅっ

紅炎竜「ギャオアアアアアア!!」ばばっ

ぶんぶんっ!!

ばちい!! どごお!!


剣術士「っぶねぇ……!」ひやっ

剣術士(––––やはり)

剣術士「逆鱗……!!」


巫女「くくくっ」

巫女「良く気付いたな。そう、逆鱗は他より柔い」
剣術士「知ってたなら教えてくれよっ」

巫女「己で気付かねば意味がなかろう」
剣術士「さっき死にかけたんだがっ!」

剣術士「!!」ばっ

ばちいいん!!

紅炎竜「ギャオオオオオン!!」

ぶんぶん!

剣術士「暴れてやがる……!」


ばごおおん!! がしゃあああ!!

剣術士「ちっ……」

剣術士(捨て身覚悟で接近するしか無いなっ)だだだっ

紅炎竜「グギャオァアアアアアア!!」グアッ

しゃしゃっ!! ぶん!!

剣術士(見切りだけじゃ足りない……体重移動を捉えろっ! 次はどこからくるのか……刹那の、その先を読めっ!)すぅっ

ばばっ がぎぃぃぃん!!

ざざっ


剣術士「––––!」きっ

紅炎竜「グルルルルっ……」ふしゅううぅ……

ずあああああ……

剣術士「正々堂々か。いいぜ……嫌いじゃねぇなっ」

巫女(逆鱗を傷つけられてなお、静謐を取り戻したか。……好敵手と看做されたな)くくっ

剣術士「…………」
紅炎竜「クルルルル………」

ォォォォォォ……

巫女(これは……名勝負といってよいの。感情––––気を先走らせた方が負ける)


…………

剣術士「––––」すっ

紅炎竜「!!」

巫女(剣先を下げたっ!?)

紅炎竜「ギャオアアアアアアア!!」ダンっ!!

グアアアアア……!!


剣術士「…………」すすっ

紅炎竜「がオオオオオオオオオン!!」ぶわあああああ!!

ぶんっ!!!

剣術士「ふっ」

がきぃぃいん!!


紅炎竜「グルアアアアアアアアア!!」ぐああああっ……

ぴりぴり……

ザン!!

剣術士「––––!」ギラッ

剣術士「––––––––」ぴぃん!!

ばごおおおおおおおおおん!!

だんっ!!

ずざああああああ……


剣術士「……ありがとう」

ぴしっ

ずばあああああああああああ!!

ぶしゅうううううう!!

紅炎竜「グゥ––––––––」ふらり


ズズウウゥゥゥゥゥン…………

ぱらぱら……

剣術士「––––––––」

ずざっ

ちゃり、ざくんっ


剣術士「はぁ、はぁ、……はぁ、はぁっ」

巫女「––––まこと、申し分無い不動の精神だった」

巫女「見事だ」すっ
剣術士「はぁ……はぁ……」ぱしっ


巫女「ほれっ」ぐいっ
剣術士「はぁっ……はぁ……」ぐっ

しゃきん

剣術士「…………」すっく

くるり


剣術士「私はこれまで生まれてから幾度も戦ってきたが……貴殿が一番の強敵だった」

紅炎竜「––––」

剣術士「貴殿は竜族に相応しい力だった。勇ましく、美しく––––そして誇り高かった。––––感謝する」

剣術士「そして私も、貴殿と打ち合い、そして勝てた事は、どんな玉にも勝る、何よりの誉れと思う」

剣術士「貴殿との一戦、生涯忘れぬとここに誓おう」
紅炎竜「––––ルルゥ」にやり

紅炎竜「––––––––」

剣術士「––––」すっ

巫女「…………」

○剣術士「私も貴殿と打ち合い、勝てた事は、どんな玉にも勝る、何よりの誉れと思う」

×剣術士「そして私も、貴殿と打ち合い、そして勝てた事は、どんな玉にも勝る、何よりの誉れと思う」

>>1
見直ししろや何回目だカスこら

気持ちはわかるけど
相当致命的なミスでないかぎり脳内で補完できるから
違和感があるってくらいのミスなら神経質にならなくても大丈夫だぞ

早く続き読みたいし


巫女「上達の程、しかと見せてもらったぞ」たた
剣術士「いや……俺は一度死んだからな」

剣術士「助かったよ。術、かけてくれてたんだな」
巫女「……まぁ、の」

剣術士「?」
巫女(あれは、我の術ではないが……そう思わせておいた方が都合が良かろうな……)

剣術士「…………ホントに強かった」
巫女「うむ」


剣術士「へとへとだ……」はぁ
巫女「逆鱗を剥いでおかなければの。これとない証になる」

剣術士「……本音を言えば、あまり彼の躯をいじりたくはないんだが、仕方ないな」
巫女「……御主は十分礼を払ったよ」

巫女「龍とは実に気高き存在だ。最後の斬り結びは龍が御主を認めねば、行われなかった」
剣術士「そう、なのか」

巫女「龍は賢い。……片目を潰されてなお引かなかったのは、龍が御主と戦いたかったからだ」
剣術士「…………」


巫女「自らが是した強者と真に戦い、破れたのだ。悔いはなかろうて」
剣術士「……それが真実なら、こんなに嬉しい事は無いな」

巫女「誇るがいい。今はそれが許されよう」ふふっ
剣術士「……あぁ!」

剣術士「……っと」ふらっ
巫女「疲れたろう?」


剣術士「……あぁ。流石に、一休みしたい」
巫女「だろうの」

剣術士「……帰りはあんたをおぶってかなきゃならないしな」
巫女「…………」たらっ

巫女「……半刻は休もう!」
剣術士「そんなにいらねぇ」

巫女「……うぅ」

~~

ドラゴン退治終わり。

>>355
 見苦しい所をみせてすみません。ありがとう、今後からそうします。

やっと追いついた
早く続きがよみたい
あと剣士と巫女の年齢などを教えてもらえ
ると有難い

~五日後~

☆職人都市・雇用所

剣術士「それじゃ、これを」すっ
受付「……!」

受付「……少々お待ちください」

たたっ

傭兵達『…………』

じろじろ


剣術士「……なんか俺たち、見られてないか?」
巫女「先日より人も多い。仕事を請けたのが知られておるようだの」

巫女(我が二人叩きのめした所為という事は言うまい)ふふ
剣術士「……?」

たたっ

受付「…………」
鑑定士「……これは本物ですね」


鑑定士「フレアドレイク––––大きさは中級。竜の逆鱗です。間違いありません」
受付「……」

受付「確認いたしました」
剣術士「あ、あの?」

受付「こちらが、報酬になります」どさっ
剣術士「!!」たらっ

剣術士「こんなに貰っちゃっていいのか……?」
巫女「龍退治は受ける人間が居らんからな。それ故、一攫千金を夢見て龍に挑む兵士が多いと聞く」


巫女「無論、逆に喰われてしまう、というのが殆どだがの」
剣術士「それは俺も知っているけど、でもこれ、二年くらいは何もしなくても暮らせる金額だぜ?」

巫女「当然だろう。龍が人里に降りれば大きな害となる」

傭兵達『…………すっげぇぇー!!』

わあああぁっ

剣術士「!?」


傭兵a「おい兄ちゃんすげぇじゃねぇか!!」
傭兵b「まさか本当にドラゴンをのしちまうとはなっ!!」

剣術士「え、え?」

ばしばしっ

傭兵c「その若さで大したモンだぜっ」
傭兵d「爪のあかを煎じて飲ませて欲しいくらいだ!」
傭兵b「お前はマジで飲ませてもらえ!!」

傭兵d「なに? この?」がははっ


わぁわぁ!

剣術士「…………」
巫女「龍殺しは雇われ武者の羨望だ。……御主も知っておろう?」

剣術士「あぁ、分かってるんだけど、いまいち実感がわかなくて……」
巫女「荒くれ者達も認める程の技量なのだ、御主は。ほれ、しゃんとせい」ばしっ

剣術士「いってぇ」よろっ

傭兵c「なんだ? もう尻に敷かれてやがるのか!!」
傭兵d「なっさけねぇなぁ! ドラゴンよりカノジョのほうが怖いってか!!」ははははっ!

剣術士(正しかったりして)


巫女「……これ? 妙な顔をするの?」
剣術士「なんでもない、なんでもない」ぶんぶん

傭兵a「今日は気分がいいぜ! おら野郎ども、飲み行くぞぉぉ!!」

傭兵達『よっしゃああーーー!!』

傭兵b「ほれ、お前さんが主役だ!!」がしっ
剣術士「……俺も!?」

傭兵c「あったりめぇだろぉが!!」
傭兵d「いろいろ聞かせろぃ!」


剣術士「……巫女?」
巫女「我は宿で待っておるよ。たまにはそういう付き合いも悪くなかろうて」くくく

剣術士「おもしろがってるだろー!」

きぃっ

ひらひら

巫女「じゃあのー」くくくっ

~~

>>367
外見年齢は剣術士が20台前半、巫女が10代後半くらいで想像してもらえると
いい感じじゃないでしょうか。見た目は会話で書いてあります。
足りなかったら聞いて下さい。


☆職人都市・宿屋

がちゃり

剣術士「…………ふぅ」

巫女「戻ったか」
剣術士「あぁ」

巫女「少し顔が赤いの?」
剣術士「酒を飲むのは久し振りだったからな。ちょっと酔った」

巫女「どうであった?」
剣術士「……?」

巫女「少しは自分が山のどの辺りに居るのか分かったのではないか?」
剣術士「うん、それでもあの人達も強いと思う。俺は」

剣術士「皆、必死で毎日を生きてるんだ。自分の命のだけじゃない、仲間を守って、金を稼いで……家族を持ってる人だっていた」


剣術士「そういう風に俺は生きてこられなかったから。……俺より強いんじゃないかな」
巫女「ま、言わんとするのは分かるが、我が今聞いておるのはそうではない」

巫女「……なかなか心地よかったであろ? 力を褒められ、憧れられるのは」
剣術士「まあ、な」ぽりぽり

巫女「たまには良かろう。だが、ゆめゆめ研鑽を怠るでないぞ」
剣術士「ああ。勿論だ」

剣術士「……それはそうとして、気になる事を聞いたよ」
巫女「ほう?」


剣術士「中央より西で、魔物がまた大群で押し寄せてきたらしい」
巫女「……」

剣術士「西の港、だそうだ」
巫女「……ちょうど、勇者達が居った場所だの」

剣術士「あぁ。……巫女は魔法を知ってるか」
巫女「話くらいはな。詠唱無しで精霊を統べる術だったか」


剣術士「あぁ」
巫女「……我は、あの力を好いてはおらぬ。精霊の意思を無視し、力を横からかっさらう。……あれは摂理を曲げる」

剣術士「魔法を使う人間が、勇者達と協力して魔物を撃退したそうだ」
巫女「……」

剣術士「”賢者”の再来と、旅人のあいだでは持ち切りらしい」
巫女「”賢者”か」

剣術士「まぁ、勇者ひとりでも問題なかったろうけどさ!」
巫女「……御主は随分と勇者を買っておるの」


剣術士「……それだけ、あいつが鮮烈に映ったんだ」

剣術士「初めて勇者と一緒に戦った時、あいつの使う技の全てがこの世のものとは思えなかった」

剣術士「……憧れてるんだろうな。あいつの意思と力に」

剣術士「どれも俺には無いものだから」
巫女「…………」

剣術士「あ、勿論巫女の事も凄いと思ってるよ。尊敬もしてる」
巫女「……別に、そういうつもりで聞いた訳ではないわ」ぷいっ

剣術士「ははは」
巫女「ふん」


剣術士「そろそろ、だな」
巫女「うむ」

剣術士「俺に、出来るだろうか」
巫女「やらねばならぬだろう?」

剣術士「……俺はまだ、あの人に死んで欲しくない」
巫女「……恩を感じているなら、御主が救ってやれ」

巫女「我もついておる」
剣術士「あぁ。心強いよ……とても」

巫女「ふふ」

巫女「間抜けをさらしたら頬を張るぞ?」
剣術士「肝に銘じるよ」はは

~~

今日はここまで。サボリ癖がでてしまうので、
忙しい日でもなるべく投下するようにします。では。

1です。すみません、まだ仕事が……




終わったよ!! イフャッッハーーーー!!



☆職人都市・牧場

剣術士「お世話になりました」ぺこり
厩務員「こっちも助かったぜ!」

ひひぃん

剣術士「毛並みが綺麗になってる……よかったな、お前達」

ひひぃん!

厩務員「あと、こいつもだな」

ちゃきっ

剣術士「有り難うございました」ぱし
巫女「馬に括っておくのがよかろうな」


剣術士「あぁ」ごそごそ

巫女「しかし、旅は身軽な方がええぞ?」
剣術士「……まぁ、考えがあるんだ」

巫女「ほう?」
剣術士「もし、騎士長が本当に捕らえられているなら……」

巫女「……ふむ。ショーギでは取った相手の駒を使えるが」
剣術士「まぁ、敵じゃないんだけど、似たようなもんだな。それに、やっぱりこの剣は手放せない」

厩務員「じゃあ、兄ちゃん達、またな!」
剣術士「また職人都市に来ることがあったら、是非伺わせて頂きます」

厩務員「おう!」にやりっ


☆職人都市・南街道

ぱからっぱからっ

巫女「さて、これからどうする?」
剣術士「精霊都市で、様子を伺おう。南部騎士団が入都したら、先回りして待ち伏せするんだ」

巫女「ふむ。互いに情報を集め、宿で合流、というほうがよいの」
剣術士「そうだな。俺たちが二人居ると、格好や武器が目立つからな」

巫女「東方の意匠は繊細かつ美麗だからの」ふん
剣術士「マジックナイト達の情報も、少しは欲しい所だな……」

巫女「ほう?」
剣術士「南部のまつりごとがどうなっているのか、どうにも気がかりなんだよ」


剣術士「騎士長が失脚し、次の騎士団長は誰になるのかってこととか、南部自体の統制は誰が取っているのか、とか」
巫女「……この国はいささか面倒ごとが多いようだの」

剣術士「地方貴族が権力を持ちすぎて、今の形に分裂したってのは、知っているみたいだな」
巫女「馬鹿にするでないわ」むっ

剣術士「一つの国であることは間違いないんだけど、街ごとに政治が細かく違うっていうんだから、確かに面倒な話だ。隣町が他国のようなものだからな」
巫女「というが、王都の扱いをどのようにしているのかは、我は知らんな」

剣術士「権力とかは、都市の領主とさほど変わらないよ。民草の敬意は流石に国王に向いているけどな」
巫女「ふむ」

剣術士「ことがことだから、戦争になるかもしれない」
巫女「……」


巫女「王都は街を一つ焼かれているから、か」
剣術士「……事実はそうじゃないにしても、南部が王都を攻めたってことになっている筈だ。説明を要求されて、南部がそれにどう答えているのかも知りたい」

剣術士「精霊都市も間接的に関わっているから、何か掴めたら良いなと思うんだが……」
巫女「何にせよ、行ってみるしかなさそうだの」

剣術士「あぁ。こいつらに頑張ってもらうか」

ひひぃん!

ぱからっぱからっ

~~



☆精霊都市・宿屋


剣術士「……ふぅ」
巫女「どうだった」

剣術士「……流石に、噂になっていたな」
巫女「それは我も感じた」

がさり

剣術士「”ワイズマン”にも載ってる。……当たって欲しくはなかったんだけどな」

剣術士「だが、妙なんだ」
巫女「うむ」

ぺらり

剣術士「山間の街を攻めた理由への返答が未だ無しってのが、違和感を覚える」


剣術士「騎士長が副長らと戦闘になったとき、あいてがたの統率はきちんととれていたようだった」

剣術士「ということは騎士長が邪魔な連中……反騎士長派とでも定義しておこうか。反騎士長派はおおよそ纏まって動いていると見ていい」

剣術士「騎士長が騎士団に居ることが何らかの不利益をもたらすから、追放する。それだけだったなら、こんな大掛かりな仕掛けはいらない」
巫女「かようなことをせんでも良いし、せねばならなかったのならば、事前に周辺へ説明する為の理由付けなど済ませておかねば話が進まぬ」

剣術士「その通りだ。そもそも、何故山間の街を落としたんだろう」
巫女「……やはり、情報が少な過ぎるな」

剣術士「……騎士長がもしかしたら何かを知っているかもしれない。山間の街の近くで南部軍が揉めた時の、捕虜って言い方は変か? まあいいや。そいつから何か聞き出しているかも」

剣術士「いやでも、あのときは時間がなかったか……」ううむ
巫女「なんにせよ、長を助けねば話は進まぬようだの」


剣術士「あぁ。あとは、マジックナイト達だ」

剣術士「彼らはやはり、この件に関してどうも乗り気じゃないらしいな」

剣術士「王都と南部両方から要請があったから、事務的に騎士長を捕らえただけらしい」
巫女「長とここの団長は知己らしいの」

剣術士「個人的な感情は持ってこないと思うが……魔法騎士団長は辛いだろうな。合同の勝ち抜き戦では、決着がついたあと互いを褒めあってたし、それから親しくしていたみたいだから」
巫女「ふむ……」

剣術士「ただ、魔法騎士団の腰が重いのは助かった」
巫女「精霊都市からの増援は無いと見てよいだろうな」

剣術士「あぁ。……五日後に南部軍が精霊都市に入都する、って話は聞いたか?」
巫女「いや、我は知らぬ。何処の情報だ」

剣術士「酒場に居た兵が愚痴ってたよ。仕事が増えたって」
巫女「ふむ……どう見る?」


剣術士「情報が正しいのなら先行して動くべきだろうな。俺は信用に足る情報だと思う」
巫女「ううむ」

剣術士「酒場の兵士は店主と親しそうだった。ってことは酒場の常連だ」

剣術士「あの酒場は結構清潔にしてあったし、来客の衣服がぴしっとしてた。つまり、一定以上の身分の人間が集まる場所だ。酒場の兵が偽物ってことはなさそうだったよ」
巫女「そこまで裏が取れておるのなら十分だろう」

剣術士「なら、五日待って、入都したら、動こう」
巫女「うむ。どこで伏せる」

剣術士「山間の街と中央街の間にある旅小屋が良いと思う」
巫女「ふむ……」

剣術士「おそらく南部軍も利用するだろう。夜なら最高だけど、どうなるかは分からないな」
巫女「よし。我に異存はない」

剣術士「なら、決定だな」
巫女「うむ」

剣術士「伏せている間、馬が邪魔だな……。乗り捨て馬車を使おう」
巫女「馬はここに置いて行くのか?」

剣術士「あぁ。出がけに長くなることを説明して、騎士長を助けた後、職人都市へ逃げる。分かれ道で俺が馬を回収して、職人都市で合流しよう」
巫女「分かった」こくり


剣術士「じゃあ、明日に備えて今日はもう寝ようぜ」
巫女「うむ。邪魔したの」

剣術士「おやすみ、巫女」
巫女「あぁ」

~~


りん……りん……

剣術士(……?)

ざっ

剣術士「…………」

がさっ

剣術士「誰だっ!」

??「よう」


剣術士「貴方は……!」

??「久し振りだなぁ」

剣術士「嘘だ、貴方がここに居る筈はない!」

??「つめてぇコト言うなよ」

??「世話ぁしてやったろ?」
剣術士「……」

??「おめぇにゃぁ無理だ」
剣術士「なにが……」

??「だってあの時、おめぇはオレを見捨てたじゃねぇか」
剣術士「やめろ!!」

??「あの時もそうだろ? ……かわいそうになぁ。痛かったろうなぁ」
剣術士「違う……! あれは……!」

??「おめぇにゃ誰一人救えねぇ。助けられねぇ」

??「おめぇが最後にすることは、逃げることだ。違うか?」
剣術士「違う!!」


??「ちがわねぇよ」くくっ

??「まぁいいさ。せいぜい、あがいてみろ」

??「オレは、いつでもお前のことを見ている」

??「いつでも、だ」

??「くくく」

??「じゃあなぁ」
剣術士「待てよ!? あんたは!!」

すぅっ


剣術士「…………」

ばっ

剣術士「はぁ、はぁ」

剣術士「宿屋……夢、か」ふぅ

剣術士「オレは……俺は……」


~~



十二日後

☆中央東街道・旅小屋

旅馬車「こちらで宜しいのですか? もう少しで中央街ですが……」
剣術士「魔物の討伐依頼で、ここに用があるんです」

旅馬車「なるほど。では、ここで」
剣術士「有り難うございました」じゃら

旅馬車「またのご利用を!」

とさとさっ

剣術士「ふぅ……」
巫女「さて……予定なら奴らはもう精霊都市だの」

剣術士「早ければ明日、遅くても明々後日にはここを通るだろう」
巫女「うむ」


剣術士「巫女には、騎士長を助ける役目をして欲しい」
巫女「ほう?」

剣術士「俺が囮になって敵の目を引きつける」
巫女「ふむ。何やら買い込んでおったの」

剣術士「あぁ。巫女は騎士長を助けることに集中してくれれば良い」
巫女「御主のみで止められるか?」

剣術士「全力を尽くす。助け出して騎士長が動けるようなら、これを」じゃき
巫女「うむ。心得たよ」

剣術士「じゃあ、俺は準備をするよ」
巫女「手伝おう。幾つ作れば良い?」

剣術士「助かる。じゃあまずは……」


~一日後・深夜~

☆中央東街道・旅小屋付近

ぱからっぱからっ

ぱからっぱからっ

南部兵長「今日はここで野営とする!」

南部兵達『ははっ』

ひひぃん

剣術士「きた……!」
巫女「そのようだの」


剣術士「暫く様子を見よう。野営を張って、気が緩んだ瞬間が勝負だ」
巫女「うむ」

南部兵長「私は小屋で今後の予定を練る。貴様らは天幕を張れ! 何かあれば小屋まで来い! 分かったな!」
南部兵達『ははっ』

南部兵a「天幕を立てろ! 食事の準備もだ!」

南部兵b「分かりました!」

がちゃがちゃ

がやがや

~~


剣術士「そろそろだな……」

剣術士「手筈通りに頼む」
巫女「承知。御主も遅れを取るなよ」たたっ

剣術士「あぁ!」

ざっ

南部兵c「何者だ!」

剣術士「…………」ざりっ

南部兵c「旅の者か」

剣術士「…………」

南部兵c「怪しいやつめ……出合え!」


剣術士「ふっ」ぶんっ

ぱちゃっ

南部兵c「なんだっ」ねばねば

南部兵c「う、うごけん……とりもちかっ」ねばっ

南部兵d「何事だっ!」

剣術士「おらよっ!」ばばっ

南部兵d「うわっ」

南部兵e「くっ……この!」しゃきんっ


ざんっ

ばちゃちゃっ

南部兵e「こいつっ……剣にっ」ねちゃぁ

剣術士「おら、無能ども! こっちだ!」だだっ

南部兵達「あいつめ……術士を呼べ!」

丁度仕事終わった後ウイルス性胃腸炎にかかりまして、下の口がゆるゆるでした。
今度こそ今日からぼちぼちやっていきます。ごめんね。


剣術士(術士はまずいなっ)

南部兵f「追え、追えー!」

しゃりんっ

ぴたっ

南部兵f「なにっ」

剣術士「ふっ」ひゅんっ

ずばっ

南部兵f「ぐああっ」


だだだっ

きぃぃぃん

南部術士a「放てぇぇ!!」

剣術士「っ!」ばっ

どがぁぁん!!

南部術士b「やったかっ」

ばばっ

剣術士「はぁぁっ!!」

どかっ!


南部術士a「ぐっ……」どさっ

南部術士b「貴様ぁっ!」
剣術士「遅いっ」ぐっ

ばきぃっ!

南部術士b「かはっ……」どさり

剣術士「はぁっ…」

南部兵a「あいつだっ!! 者ども、かかれーっ!」
南部兵bgh「うおおーーー!!」

だだだっ

剣術士(出来れば、殺したくはないが……そろそろ難しいな)

ざっ


南部兵長「下がれっ」

南部兵達「兵長っ」ばばっ

南部兵長「ここまでだ、若造」すらり
剣術士「……っ」ちゃきり

南部兵長「ぬんっ」だっ
剣術士「……っ!」

がきぃぃぃん!!

剣術士(……?)

南部兵長「はぁぁっ!!」

ぎゃりぃぃん!

剣術士「……」ぎゃりっ


南部兵長「ふぅぅ……」がぎっ

ぎちぎち

剣術士(なんだ……?)

剣術士「はぁっ!!」ばっ

がぎぃっ!!

南部兵長「なにっ」がいぃぃんっ

ばばっ

剣術士「ふっ」ひゅばっ


がああんっ!

南部兵長「若造が……こしゃくなっ」ぐぐっ

剣術士(まさか、この程度なのか……?)

剣術士「これならぁっ!!」だだっ

がぎぃぃん!! ぎゃりぃんっ!!

南部兵長「ぐぅぅっ」

南部兵長「調子に……乗るなぁぁっ!!」ぐあっ

剣術士「はああぁっ!!」

がっぎぃぃぃんっ!!


南部兵長「はぁっ……はぁっ……」


南部兵g「兵長が、押されているっ」

南部兵b「援護だっ! 残りの術士をっ!」

南部兵h「ははっ……しかし、術士はあと1人しかっ」

南部兵b「構わんっ! 呼べっ」
南部兵h「ははっ」だだっ


南部兵長「ぬう……」ぐぐっ

剣術士(くそ、この状況でっ)ちらっ

剣術士「巫女は、まだか……!」

~~


巫女(あの荷馬車か)たたっ

巫女「……」だっ

南部兵i「きさまなにっ」

ばきぃっ!!

南部兵i「もの、だ……」どさり

巫女「大人しゅうしとーて貰おうかっ」たたたっ

巫女「よし」ばっ


ひょいっ

すたっ

騎士長「巫女!?」
巫女「久しいの」

騎士長「何故、ここに」
巫女「話は後だ。剣術士が表で時間を稼いでおる。無駄には出来ん」ごそごそ

ぱらぱらっ

巫女「よし、解けた

巫女「ふぅ。重いの……」どさっ

巫女「こいつを使え。折角我が運んだのだ」じゃきっ
騎士長「しかし、私は……」


巫女「死にたくはなかろう?」
騎士長「……分かった」がしっ

騎士長「これは、剣術士の……?」
巫女「うむ。急ぐぞ」

騎士長「承知」ぐっ

ばっ

だだだっ

~~


どがががっ!!

剣術士「くそっ……」
南部兵長「ぬぅん!」ぶんっ

がぎぃぃんっ

剣術士「んなろっ!」ひゅばっ

きぃんっ

南部兵長「むっ」


南部術士c「…………」

ひぃぃん……

剣術士(早いなっ……そこそこ腕のある術士っ)

ばばっ

剣術士「くっ……」

ぴぃんっ!!

剣術士「!? 巫女かっ」

巫女「良く堪えたな、剣術士っ」


騎士長「はあぁぁっ」

ぶんっ!!

ずばばっ

南部兵達『ぐああぁっ』

どささっ

騎士長「……済まない」


巫女「逃げるぞっ」
剣術士「騎士長っ」

騎士長「あぁ!」

だだっ

南部兵長「追え、逃がすなっ」
南部兵b「兵長っ」


南部兵b「……この戦に義はあるのでしょうか。何故騎士長殿が……」

南部兵長「言うなっ!!」
南部兵b「兵長……」

南部兵長「……上官の命は絶対だ。……たとえ騎士長殿が相手でもだ! それが我らの努め! ……例外は無いっ」
南部兵b「!!」

南部兵長「追跡隊は4人小隊を組み、直ちに足取りを追えっ! ……負傷者は馬車で手当、本隊はこれより罪人を追いつつ、職人都市を目指すっ」
南部兵b「ははっ!」

だだっ

南部兵長「…………」

南部兵長「私は……」ぐっ

~~



☆中央山脈・中央東街道側


剣術士「はぁ、はぁっ」
巫女「どうやら、追手はまだのようだの」
騎士長「はっ……はっ……」

剣術士「騎士長、大丈夫ですか。水です」すっ
騎士長「……済まないっ」ぐっ

騎士長「……流石に、堪えるよ。しばらく獄中だったからな」
剣術士「……」

とさっ


巫女「少し休むとするかの」
剣術士「あぁ。……こう暗いと、足下も見えない」

巫女「火は焚けんか……」
剣術士「日が昇るまでもう少しだ。朝までの辛抱だな」ふぅ

騎士長「……」
剣術士「……」

剣術士「何があったのか、聞かせて頂けませんか」
騎士長「うむ……」

騎士長「……とは言ったものの、概ねお前達が持っている情報と大差ない」

騎士長「お前達と別れた後私が精霊都市の長達と話している間、伝令がやってきた」


騎士長「私を罪人として捕らえる、と」

騎士長「その後は暫く牢にいれられたままだった。だが、看守や兵から聞いた話がいくつかある」
剣術士「それは?」

騎士長「……南部は今、現領主と元老院の折り合いが悪い」
剣術士「……それは、初耳です」

騎士長「ここ一年の話だ。知らなかったのも無理はない。……領主様は変わられてしまった」

騎士長「……南部は王都と事を構える腹づもりらしい」
剣術士「……! 馬鹿なっ!」

騎士長「そうだ。お前の察している通り……元来、良くも悪くも穏健派の元老院がそのような強行を許す筈も無い」


騎士長「私が牢につながれてから、幾人かの元老院の幹部が捕縛されたと聞いた」

騎士長「おそらく私と同様……それが強引なものだったのは察するに容易い」

騎士長「それと何やら、素性の知れない人間が軍の周りをうろついているとも聞いた」

騎士長「何でも、強大な魔力を誇るとか……。伝聞ゆえ、どこまで真実なのかは分からん」
剣術士「その者の外見などは?」

騎士長「すまない、そこまでは」
剣術士「そう、ですか」

騎士長「正直、私には領主様のお考えが……見えないのだ」
剣術士「……」


騎士長「王都と戦争をすることが、本当に南部の民の為になるのか……」
剣術士「……本当に、戦争になるのでしょうか。……俺には急すぎて……」
騎士長「分からん。……だが領主様のお考えが変わらぬ限りは、南部は火種を抱えて行くことになるのだろう、な」

剣術士「…………」
騎士長「……ともあれ、助かった。剣術士、巫女」

剣術士「いえ……俺は騎士長に本当に良くして貰っていましたから……」
巫女「我を気にすることはない。……だが長よ、これからどうする?」

騎士長「私は……」ぐっ

剣術士「…………」


剣術士「とりあえず、何処へ行くにも足が必要です。馬を手に入れてから考えましょう」

剣術士「精霊都市に騎士長の馬を預けてあります。騎士長が行くのは危険だろうから……俺が」

剣術士「巫女は騎士長と職人都市の、前に泊まった宿に向かってくれ。これからの予定は、そこで」
巫女「うむ」
騎士長「……済まない」

剣術士「いえ、いいんです」

巫女「……もうすぐ夜明けだの」
剣術士「あぁ。大分明るくなってきた。そろそろ移動しよう」
騎士長「そうだな」



~一週後~


☆職人都市・宿屋

だだだっ

ばんっ

剣術士「巫女、騎士長、居るか!!」
巫女「戻ったか。首尾はどうだ」

剣術士「馬は問題ない。ただ、ヤバいことになった」
騎士長「……追手か」


剣術士「はい。もうじき、職人都市にかなりの規模の南部軍が……」
騎士長「人数は分かるか」

剣術士「遠目だったので、詳しくは分かりませんが、少なく見積もっても一個中隊程度はあるかと」
騎士長「……」

騎士長「分かった」

騎士長「……私はここを発ち、南部を目指す」
巫女「ふむ」
剣術士「危険ですっ! おそらくもう、主要街道には検問が!」

騎士長「承知の上だ。……街道を迂回して、中央西の湿原を抜ける」
剣術士「湿原だって……!?」

剣術士「あそこは魔物が!」
騎士長「それも、十分理解しているつもりだ。だが、他に方法がない」
巫女「湿原の魔物は、危ないのか?」


剣術士「……何度か南部軍は王都と合同で湿原の魔物討伐を試みてるんだ。でも、足場が悪い上、かなりの量の魔物が住み着いている。それに……」

騎士長「……水術以外の精霊術はまともに機能しない」
巫女「ふむ。水の精霊の縄張り、というわけか」

騎士長「ああ。厄介な所だ。しかし、越えねばならぬ」
剣術士「……お一人で行かれるつもりですか」

騎士長「……お前達に迷惑はこれ以上かけられん。私ひとりで行くさ」
剣術士「……」

剣術士(独りで湿原を抜ける? ……無理だ。出来る筈がない。精霊術も使えないんだぞ)


剣術士「単独でなんて、無理です!」
騎士長「……そう気にするな。私とて、無駄死にするつもりはないさ」

剣術士「どうして、そこまで」
騎士長「私は南部軍を束ねる長。……南部の行く末を見届ける義務がある。彼らが過ちを犯すようならば、止める」

剣術士「……」

剣術士(なんでだよ。……なんで俺の周りの人間はみんな、こうなんだよっ!)


剣術士「…………」ぐっ

剣術士「……湿原を抜けるのであれば、中央街を南に大きく迂回し、湿原の北東から侵入するのが一番でしょう」

剣術士「着いてから順調に進めたとしても、一週はかかります。……毒虫や毒蛇も住み着いている。血清と、水、食料」

剣術士「それから、この時期だ。湿原の表面が凍り付いている可能性もある。アイゼンの購入も。……幸い職人都市です。売っている筈」

剣術士「今表を作ります……少し、お待ちを」がたっ

さらさら


騎士長「お、おい、剣術士」
巫女「くくく。諦めい、騎士長」

巫女「介添え致すと、部下が忠義を尽くそうとしておるのだ。将はどっしり構えておればそれでよい」
騎士長「しかし、お前達にこれ以上……」

巫女「我も、人に追い回されるのは好かんでの。……長が南部に戻って説明してくりゃれ」
騎士長「しかし……」

巫女「まだ言うか」むっ
騎士長「お前達をこれ以上……」


巫女「ええい、しかしもかかしもありゃせぬわ!!」がぁっ!
騎士長「っ!」

巫女「この期に及んで四の五のと……! それでも男か!?」

巫女「黙って着いてこいぐらい言うたらどうだ!? 人の一人や二人を気にしておる立場かえ!」

巫女「人を束ねる長とはそういうものであろう!! 違ごうておるか!?」
騎士長「……」

巫女「長の立場が苦しいのは我とて承知しておる。だが、民を守る立場のおのこが使えるものも使わないのであれば、下につく人間に示しがつかんであろう」
騎士長「……」


騎士長「巫女の、言う通りだ。私の目が曇っていたようだ」

騎士長「二人とも、力を貸してくれ」

ぴたり

かたっ

剣術士「……要りものの一覧表です。即席ですが、これだけあれば、後は運次第かと」
騎士長「いいのか、剣術士」


剣術士「放っては、おけませんから」
巫女「……ほんに、御主達はよう似ておる。ちいさいことでぐちぐちぐちぐち……」はぁ

巫女「乗りかかった船だ。仕方あるまい」

騎士長「……感謝する」


剣術士「さて……買い物が終わったら、牧場に行きましょう」
巫女「湿原までは馬か」

剣術士「あぁ。流石に湿原入りしたら馬は使えない。可哀想だが、野に放つほかないだろう」

剣術士「預けた二頭と、もう一頭。貸してくれればいいんだけど」

剣術士「家畜を大切にしている人だから、駄目元になるが」
巫女「そうであれば、御主の後ろに我が乗ろう」

剣術士「だな。……行きましょう、騎士長」
騎士長「……ああ!」

~~


☆職人都市・牧場

厩務員「……それは俺に、馬を見殺しにしろってことか」ギロリ
剣術士「……そう、なります」

厩務員「…………訳ありってか」
剣術士「……これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいかないことは十分、分かっているつもりです。それでも俺たちは……」

厩務員「……」
剣術士「どうか、お願いします」


厩務員「……ふん、高ぇぞ」
剣術士「宜しいのですか!」

厩務員「……乗り捨てるってことは、もうその馬達は必要ねぇんだよな?」
剣術士「……そうです」

厩務員「だったら、俺が貰っちまっても文句ねぇな?」
剣術士「え? ……いや、馬は乗り捨ててしまうので」

厩務員「俺も行くっつってんだ。んで、あんたらの馬は俺が頂く。それが報酬だ」
剣術士「着いてくるんですか!」

厩務員「ったりめぇよ。こんな良い馬、滅多にいねぇ! そいつを捨てたとなりゃあ、4代続くうちの牧場の名が廃るぜ」


ひひぃん

騎士長「……協力、感謝する」ぺこり

厩務員「こいつ、あんたの馬だろ」
騎士長「はい。見習いの頃の馬が仔を生み、さらにその子どもです。私が一から面倒を見ていました」

厩務員「……よく懐いてやがるぜ」なで


ひひぃん……

厩務員「馬ぁ大事にするやつに悪い人間はいねぇってな。……追われてんだろ。急いで支度をしてくる。待ってな」たたっ
剣術士「助かります」



~一週後~


☆中央西湿原・北東部

厩務員「さて、この辺でいいだろ」

ひひぃん!

すたたっ

剣術士「ありがとうございました!」
巫女「助かったぞ」


騎士長「……その子を、宜しく頼みます」
厩務員「……あぁ。しっかり面倒みてやるから、安心しな」

騎士長「何か南部軍に聞かれたら、脅されたとでも言って下さい」
厩務員「……」

厩務員「んじゃ、達者でな」ばっ

ひひぃん!

ぱからっぱからっ


剣術士「追手はまだのようですね」
騎士長「出来れば、捕まる前に湿原を抜けたいな」
剣術士「はい」

剣術士「よし、行こう」
巫女「うむ」

ざっ

こんこん


巫女「ふむ……」
剣術士「凍っていますね。アイゼンに履き替えましょう」
騎士長「そうだな」

さっ

ごそごそ

巫女「お、お? 剣術士!」
剣術士「どうしたんだ?」

巫女「これは、どうするのだ?」
剣術士「あぁ。……ここは、こうして」

きゅっ

剣術士「ほら、できた」
巫女「すまぬの」とんとん


騎士長「……」ちら

剣術士「騎士長? どうかしました?」
騎士長「いや、お前達、暫く見ない間にずいぶん仲が良くなったな」

剣術士「そう、でしょうか」
巫女「ふむ」

ざっざっ

剣術士「まぁ、ドラゴン倒したり、いろいろありましたから」

ぴたり


騎士長「……何?」
剣術士「ああっと……南部軍に申請があったドラゴンです。あれ、嘘じゃなかったみたいで」

騎士長「…………」
剣術士「もちろん、俺一人だったら丸こげでしたけど……巫女の援護で、なんとか」

騎士長「そう、か」ぽかん
巫女「くくく」にやにや

騎士長「……私も、負けては居れんな、これは」ぐっ
剣術士「いや、俺なんて、まだまだですって!」

騎士長「そう謙遜することはないだろう。ドラゴン退治といえば、戦士の誉れだ」


騎士長「出来れば、私が倒したかったが……」
剣術士「え、お、おひとりで?」

騎士長「無論だ。山間の街に入ったら、私が斥候をするつもりだったからな。あわよくば、とも考えていた」

騎士長「丸焦げ、というからには火の陽だったのだろう?」
剣術士「え、はい」

騎士長「私の火術とドラゴンのブレス……どちらが勝るか、是非手合わせしてみたかった……」

剣術士(……強い人って皆こうなのか)はぁ


騎士長「ともあれ、見違えたな、剣術士」
剣術士「そ、そうでしょうか」

騎士長「ああ。立派な騎士の顔つきになった」

騎士長「少しは自信がついたとみえるな」ふむ
剣術士「……自分では、分かりません」

巫女「くく」

騎士長「腰のものは、飾りではないのだろう?」
巫女「当然だ。我が教えたのだからの」


剣術士「巫女っ」
巫女「ふふ、楽しみにしておれ、長よ」

騎士長「うむ。活躍を期待しているぞ、剣術士」ぽん
剣術士「巫女……」はぁ

剣術士「そうだ。武器の話ですけど、俺の剣なんかでよかったのですか?」
騎士長「ん? ああ」

騎士長「私の愛剣は押収されてしまったからな……。あれ以外は皆同じだ」
剣術士「でも、長さや重さが違えば、それだけ」

騎士長「ふふふ、腐っても元団長だ。お前達に遅れは取らないよ」


騎士長「それに、ああはいったがこの剣もよく手入れされてある。……良い剣だ」
剣術士「騎士長の、教えでしたから」

騎士長「うむ。己の魂ともいえる武具をぞんざいに扱う人間に、強さなど宿らないよ」
巫女「同感だ」

剣術士「巫女は武器を使わないじゃないか」
巫女「我は使わずとも、我の周りは使うておったよ。長の言う通り、得物を宝のように扱う人間は強うなるのが早かった」

剣術士「二人の話を聞いていると、何処の国も、考え方が似ているって思うよ」
巫女「徳の高い人間はどの国にも居る。到達点とは類似しておるものよ。……そのぶん、外道も共通しておるがの」

剣術士「ふむ……」


…………

騎士長「……!」
剣術士「っ」すらり

巫女「ゆったり行ければよいのだがの」はぁ

さっ

騎士長「くるぞっ」


氷樹鳥ab『けけけっ』

水獅子「ぐるるる……」

鱗人「カカカっ」

騎士長「私は獅子をやるっ! 剣術士はリザードマンを! 巫女は済まないが鳥を二匹頼む!」
剣術士「はっ」
巫女「承知っ」たたたっ


剣術士「おら、こいよっ」だだっ
鱗人「かかっ」ひゅんっ

がぎぃっ

ぎゃりぃんっ

剣術士「魔物のくせに……上等だっ」

ぎゃりぎゃりっ


鱗人「かかっ……」

きぃぃんっ!

剣術士「はぁっ!!」ばっ

鱗人「かかっ!」さっ
剣術士「そいつを待ってたっ」すっ

鱗人「!?」

ずばあっ


鱗人「きかっ」ぶしゅっ
剣術士「盾は顔を覆うもんじゃないぜっ」

剣術士(真っ二つには出来ないか……だがっ)

ひゅばっ

鱗人「くかきききっ」ばっ
剣術士「遅いっ」ひゅんっ

がきぃぃんっ


剣術士「こんのぉぉ!!」

ひゅばっ

鱗人「かかっ!?」ぽろっ

っきぃぃぃぃん……

剣術士「っらえ!!」ぶんっ


ざしゅぅっ!!

鱗人「––––」

ごろ……どさっ

ぴくんぴくん……

剣術士「よし、次っ」


巫女「ふっ」

すぱっ

氷樹鳥a「––––」

巫女「遅いわっ」

剣術士(巫女は大丈夫そうだ。騎士長をっ)


騎士長「はああっ」ぶんっ
水獅子「るぅっ」ばっ

剣術士(呼吸を読むっ)

騎士長「ふんっ」ばっ
水獅子「ぐぅっ」たんっ

騎士長「甘いっ」かかっ

だんっ!!

水獅子「!?」びくっ

剣術士(巧い、フェイントっ)


騎士長「ふぅっ」ぶあっ

ずばぁっ!!

水獅子「があっ!?」ぶしゅっ

水獅子「ぐるる……ううぅぅぅ!!」だんっ

剣術士(ここだっ)

剣術士「はあぁぁっ!」


ぴぃんっ!!

ざんっ!!

水獅子「––––––––」ばしゃっ

ずずぅん……

騎士長「ほう……!」


たたっ

巫女「そちらも終わったようだの」たんっ
剣術士「あぁ」ひゅんひゅんっ

ちゃきんっ

騎士長「皆、怪我は無いか」
剣術士「はいっ」
巫女「問題ない」ふぁさっ


騎士長「……腕を上げたな、剣術士」
剣術士「ほ、ほんとうですかっ」

騎士長「あぁ。見事な立ち回りだった。安心して背中を預けられる」
剣術士「有り難うございますっ」ばっ

騎士長「ふふ、もう騎士ではないのだから、敬礼はいらぬよ」
剣術士「は、はい」ぱっ

巫女「我の言った通りであろう?」ふふっ
騎士長「うむ。巫女に任せて良かったよ」


騎士長「鮮やかな切り口だ」ふぅむ

騎士長「これは、東方の?」
巫女「然り。刀と言うての。東方が誇る美と実用性を兼ね備えたつるぎだ」

騎士長「剣術士」
剣術士「はい?」

騎士長「……全て終わったら、手合わせ願うぞ」
剣術士「!!」

剣術士「……俺なんかでよければ、是非!」
騎士長「うむ。楽しみにしている」

巫女「ふふっ」

騎士長「さて、進もう」
剣術士「はいっ」

ざっざっ


~三日後~

☆中央西湿原・中央部

ざっ

剣術士「結構歩いたな……」
巫女「長、あとどのくらいだ?」

騎士長「もう折り返しだな。あと三日四日で抜けるだろう」

巫女「ふむ」
剣術士「ぱぱっと抜けてしまおう」

騎士長「その意気だ」ふっ


ざっざっ

騎士長「……む?」

ざざざっざざざっ

ざざっざざっ

剣術士「あれは……!」
巫女「南部軍かっ」


ざざざっざざざっ

騎士長「構えろ、皆」
剣術士「いいのですかっ」

騎士長「……私たちは、ここでやられる訳にはいかないっ」じゃきっ
剣術士「くっ」すらりっ

巫女「あのおなご……!」すっ

ざざっ

ぴたっ

女騎士「……そこまでです、騎士長」

剣術士「女騎士っ……!!」

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年01月08日 (木) 18:11:20   ID: 2cynzVkn

こんな昔の作者が失踪した作品をなぜ今更上位に持ってくるんだ?

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