世にも奇妙なまどか☆マギカ 転落の物語 (79)

SS批評スレで
まどか「私ね、いま幸せだよ」ほむら「そう、よかったワ」
まどか「私ね、いま幸せだよ」ほむら「そう。よかったワ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1403441938/)
について具体的な改善点の指摘がほしいということだったのですが
指摘してみようと思ったら

な ぜ か こ う な っ た

注意事項
・若干地の文あり。心理描写はなし。
・時系列としては叛逆以降のパラレル。なぎさ登場せず。
 話の進行上、設定に必ずしも忠実ではない。
・結末は上記スレから察しろ。このタイトルで何を求めているのかね?

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1405229233

世にも奇妙なまどか☆マギカ 転落の物語


早乙女「あなたは幸せですか?」

早乙女「これから紹介する少女は幸せな人生を送っています。
    しかし彼女はまだ知りません。
    幸せのすぐそばに、暗く深い、奇妙な世界への落とし穴が広がっていることに」

早乙女「ええッ!そうです!破局は、突然、何の前触れもなく訪れるのです!
    理不尽なことに、きっかけなんてそれはそれはささやかなものなのです!
    目玉焼きの黄身が半熟か固焼きかなんて、それがどれほど重要なことだというのでしょう?
    そんな細かいことにグチグチ言うのは殿方ではありません、子供です!」ベキッ

早乙女「それでは、少女の物語をご覧ください」

【病院・1Fエレベーター前】

まどか「ほむらちゃん、心臓の病気だったんだね。全然知らなかった」

さやか「まあ、体育の時間とか見てたら想像もつかないよね」

マミ「そうなの?体育と給食は美樹さんの得意分野だと思ってたけど」

さやか「小学生ですかあたしは!」

杏子「考えてみりゃ体だってきゃしゃだし、運動神経ほどにはスタミナないのかもな」

まどか「私なんてどっちもないよ」

マミ「じゃあ鹿目さんは特別に、階段で病室まで行ってみる?」

まどか「えーっ?8階ですよ?」

さやか「そりゃいいや。あたしたちと競争しよう!もちろんこっちはエレベーター使うよ?」

まどか「そんなあ」

杏子「ほらほら、開いたぞ」ドンッ

まどか「きゃっ!……すみません」

作業服の男「……」

【病院・803号室】

ほむら「ただの検査入院なのに見舞いに来るなんて、いいわね暇そうで」

杏子「強がるなって。あたしたちが来た瞬間、メチャクチャ嬉しそうな顔したじゃねーか。
   カメラで撮っときゃよかったなー」

ほむら「そ、そんなこと絶対に許さないわ」

マミ「個室だもの、誰かお見舞いに来ないとずっと一人ぼっちじゃない。
   嬉しくなるのも当然よ」

まどか「どのぐらい入院するの?」

ほむら「明日には退院できるわ。手術をしたのは半年も前だし、本当にたいしたことじゃないの」

さやか「ていうか半年しか経ってないのにあれだけ運動できるわけ?どんなブラックジャックなのその先生?
    それともその体はあれか?サイボーグなのか?」

ほむら「何よその手つき」

さやか「きっと服の下は銀色のメタリックボディなのだー!」

マミ「はいはい、そのぐらいにしておきなさい」

さやか「このドーナツ、おいしいね」

杏子「パン屋のドーナツもけっこうイケるだろ?値段も安いしな」

マミ「紅茶を持ってくればよかったわ」

ほむら「……あなたたち、自分たちがドーナツ食べるのを見せびらかしに来たの?」

まどか「そ、そんなことないよ。でも血圧とか悪くなっちゃうかもしれないし」

杏子「まどか、唇の端にチョコついてるぞ」ペロッ

まどか「ひゃっ!」

ほむら「な……舐めた!」ピキピキ

さやか「普通、直接舐めて取る?」

マミ「なんだか暁美さんの血圧が今すごく高くなったような……」

【病院・8Fエレベーター前】

マミ「暁美さんも元気そうだったことだし、みんなこれから私の家に来る?」

さやか「やったあ!マミさんの紅茶いただき!」

まどか「じゃあ私も」

杏子「もちろんケーキもあるよな?」

マミ「フフッ。準備は万端よ」

さやか「あんた食べることしかないの?」

杏子「うっせ。さやかも『紅茶いただき』って言ってたじゃねーか」

マミ「そうと決まれば善は急げ、ね。病院って、どこも悪くなくても不安になるのよね」

杏子「そうだよな。注射とかされそうだし」

さやか「あれれー?杏子、注射怖いんだ?」

杏子「そんなわけねーだろ。全っ然平気さ」

まどか「タツヤも注射苦手だよ?」

さやか「やーいやーい、タッ君と同レベルー!」

杏子「何だとー!」

まどか「さっきのお返しー!」ドンッ

杏子「あっ!……すみません」

作業服の男「……」

【翌朝/まどかの部屋】

まどか「うーん、もう朝……?」

まどか「あれ……?昨日、お見舞いに行ってそれからどうしたっけ……?」

【詢子の部屋】

まどか「ママ。ママ」ユサユサ

詢子「うう……今日は昼出勤なんだ。寝かしといてくれ……」

まどか「ねえ、ママ。昨日私がいつ帰ってきたか覚えてる?」

詢子「うん?アタシは昨日他人の尻拭いで午前三時帰りだったんだ。わかるわけないだろ……。あのハゲ、今度こそむしる」

まどか「そう……。ごめんね起こしちゃって」

【キッチン】

まどか「パパ。昨日私がいつ帰ってきたか覚えてる?」

知久「え?そうだな、買い物から帰ってきたらもう靴があったよ」

まどか「それって何時頃?」

知久「ええと、6時半過ぎかな。結局、何も食べていないんだろ?」

まどか「えっ?」

知久「晩ご飯置いておいたのに手をつけてなかったし。まさかとは思うけどお酒を飲んだなんて
   ことはないよね?」

まどか「う、ううん。そんなことないよ、多分」

知久「朝ご飯多目にしたから早く着替えておいで」

まどか「はーい」

【学校】

まどか「ねえ、さやかちゃん。昨日のこと覚えてる?」

さやか「嘘……まどかも?」

まどか「じゃあ、杏子ちゃんやマミさんも?」

さやか「ううん、杏子はそんなことなかった。
    あたしは家に帰ったらすぐに寝てそのままずっと起きなかったらしいんだけど、
    家に帰ってきたこと自体覚えてないんだよね」

まどか「私も。お見舞いをしてきたところまでは覚えてるのに、その先が全然思い出せなくて」

杏子「んー?二人してうまいものでも食べに行く相談か?」

まどか「杏子ちゃんは、昨日何したか覚えてる?」

杏子「ああ?さやかも同じこと聞いてきたな、それ。流行ってんの?」

まどか「そうじゃないけど、私とさやかちゃんは昨日何があったか覚えてないの」

杏子「ほむらの見舞いに行ったろ?」

まどか「うん、それは覚えてるんだけど、それからみんなどうしたの?」

杏子「どうしたも何も、解散してうちに帰っただけさ。さやかのやつはいきなり寝ちまった」

さやか「……」

【昼休み/屋上】

マミ「昨日、お見舞いに行った後……?」

さやか「マミさんは何をしたのか覚えてますか?」

マミ「私?帰って、宿題片付けて、晩ご飯を作って、お風呂に入って。それぐらいだけど」

まどか「記憶がないのは私とさやかちゃんだけなんだね」

マミ「それ、どういうことなの?」

さやか「私たち、病院に行ってからの記憶がないんです」

マミ「鹿目さんも?」

まどか「はい」

マミ「不思議な現象ね。魔獣のしわざかしら。
   でも心配はいらないわ。魔獣だったら私が退治するから」

杏子「んー?みんなでうまいものでも食べに行く相談か?」

さやか「!……話は終わったよ。まどか、行こう?」

まどか「え?う、うん」

【階段踊り場】

まどか「どうしたのさやかちゃん、急に」

さやか「変だと思わない?」

まどか「変って、何が?」

さやか「昨日、あたしたちはお見舞いのあと、マミさんのうちへ行くはずだった。
    覚えてる?」

まどか「あ……。そんな話、したような気がする」

さやか「言い出しっぺはマミさんだし、杏子だって乗り気だった。
    それなのにどうして、あたしたちマミさんのうちに行ってないの?」

まどか「本当だ」

さやか「もしかしたら、あたしたちはマミさんのうちに行ったのかもしれない。
    それをマミさんと杏子は隠してるのかも」

さやか「それに二人がグルだとしたら勘定が合うよ。あたしたちの記憶を奪った後、
    マミさんがまどかを、杏子があたしをうちまで送る」

まどか「でも……。記憶を消すことがマミさんたちにできたとして、そこまでして
    隠したいことなんてあるのかな?」

さやか「問題はそこなんだよね。たとえばさ、あの豊満な胸が実はパッドで盛りに盛っただけで
    絶壁でしたー、なんてことがあってもさ、別に記憶まで消す必要ないよね」

まどか「たとえがおかしいけど」

さやか「じゃあさ、ベッドの下からエッチな本が山のように見つかったとか」

まどか「どんどんおかしくなってるよ、さやかちゃん……。
    マミさんに何か秘密があったとしたら杏子ちゃんだって記憶消されてるはずだよ」

さやか「そっか。じゃあ共犯の線もなしか」

まどか「ねえ、ほむらちゃんにも話を聞いてみるのはどうかな?」

さやか「へ?どうしてさ。入院中だよ?マミさんのうちに行ってるはずないじゃない」

まどか「ほむらちゃんが昨日の記憶があるか確かめておくだけでも、意味はあると思うんだけど」

さやか「もしほむらも記憶をなくしていたら、マミさんのうちで何かあったってのは完全になくなるもんね。
    じゃあ放課後、もう一度お見舞いに行こう」

 階段を下りる二人。
 その少し後で、屋上のドアが音を立てて閉じる。

【病院前】

 パトカーが二台、正面入り口のそばに停まっている。

【病院・1Fエレベーター前】

 『点検中』の札がエレベーター二基の一方に立っている。
 さやかがボタンを押すと、すぐにエレベーターのドアが開く。
 夕日に赤く染まった空がエレベーター内に光を差し込む。

【病院・803号室】

ほむら「あなたたち、今日も来たの」

まどか「検査はどうだった?」

ほむら「普通だと思うけど、結果が出るのは遅れそうね」

さやか「どうして?」

ほむら「この病院で事件があったからよ。
    魔獣がらみの可能性が高いわ」

まどか「こっちも事件……?」

ほむら「あなたたちも、魔獣関連の調査に来たの?」

さやか「いや、あたしたちのは魔獣って感じじゃないんだけど……。
    ねえ、昨日の記憶がなくなってる、なんてことはない?」

ほむら「私が痴呆の検査に来たとでも言うつもり?」

まどか「じゃあ、やっぱり私たちだけなんだね」

 ……

ほむら「ここを出たあとの記憶がない。確かに魔獣でもなければ考えられないケースだけど、
    その意味ではこの病院の事件とは関係ないわね」

さやか「こっちの事件って?」

ほむら「エレベーター溝で女の子の死体が見つかったの。
    死体には身元を特定するものはおろか、下着一枚さえ身につけていなかったから
    変質者のしわざという話よ」

まどか「殺人事件が、この病院で?」

ほむら「病院のエレベーターは定期点検される。つまり見つかるのは時間の問題だった。
    魔獣のせいで正気を失った人でなければ死体の始末にこんな場所は選ばないでしょうね」

まどか「魔獣に影響されたからって、こんなのひどい」

ほむら「推測が正しければ、犯人は今もこの病院内にいるかもしれない。
    たちの悪いことに犯人自身にはその自覚さえないのかも。
    おかげで退院しても当分病院通いが必要そうね」

さやか「ああ、あれ?『犯人は、この中にいる!』ってやつ?」

 さやかが指をビシッとほむらに突きつける。

ほむら「私の標的は犯人じゃなくて魔獣。
    もし変質者のしわざならそれは警察の問題だし、
    魔獣によって引き起こされた殺人なら犯人を捕まえてもまた別の人間が犠牲になる」

 髪をかき上げたほむらが面倒そうに説明する。

ほむら「もっとも、魔獣を見つけるにはまず挙動のおかしい人間に目をつけることになるから、
    やる事にたいした違いはないのだけど」

まどか「……ほむらちゃんも気をつけてね」

【病院・8Fエレベーター前】

さやか「魔獣のしわざか。結局、わからないことが増えた感じだね」

まどか「確かなのは、ほむらちゃんも記憶はあった、ってことだよね」

さやか「うー。あたしたち、マミさんのうちに行ったのか行かなかったのか、どっちなの?」

 到着したエレベーターに二人が乗り込む。
 それを見計らって女子トイレから何者かが出てくる。
 ほかに誰もいない廊下に響く靴音。
 着ている制服は見滝原中学校のもの。
 803号室のドアがノックされる。

【翌日/通学路】

さやか「退院おめでとう、ほむら」

まどか「おめでとう、ほむらちゃん」

ほむら「ただの検査入院よ。たいしたことじゃないわ」

杏子「んー?みんなでうまいものでも食べに行く相談か?」

まどか「そうだ。マミさんのうちで退院祝いのお茶会なんてどうかな?」

さやか「え?……記憶のこと、気にならないの?」

まどか「だってマミさんのせいっていうわけじゃないし」

ほむら「遠慮しておくわ。休んだ分、勉強が遅れないようにしないといけないし。
    先に行くわね」

 ほむらが一人早足でみんなを置いていく。

さやか「真面目だねえ。そんなに授業受けたいの?」

 急にカラスがまどかたちの目の前を横切ろうとする。
 杏子が槍を出して素早く打ち伏せる。

まどか「え?ちょっと、杏子ちゃん」

杏子「……」

 何事もなかったかのように杏子が歩き出す。

【放課後/マミのマンション】

マミ「暁美さんも来ればよかったのに」

まどか「そうですよね」

さやか「うー、このケーキの味。一昨日も食べたような……?」

マミ「記憶がなくなったこと、まだ気にしてるの?
   みんなうちには来てないわよ」

まどか「でも、確かマミさんのおうちにお邪魔することになっていたと思うんですけど
    どうしてそうならなかったんでしょう?」

 不意に杏子が立ち上がる。

さやか「どうしたの杏子?」

杏子「ゲーセン」

 振り返りもしないで杏子が玄関から出て行く。
 杏子のケーキと紅茶にはまったく手がつけられていない。

マミ「どうしたのかしらね?」

 出て行ったあとの玄関を見ているさやか。

【マミのマンション前】

さやか「ねえ、杏子の様子、変だよね」

まどか「うん……。今朝のカラスを叩いたのもおかしかったし」

さやか「じゃあ、あたしたちがマミさんのうちに行かなかったのは杏子が反対したからってこと?
    マミさんがいなくなってから何かの理由であたしたちの記憶を消した?」

まどか「杏子ちゃんが……どうして?」

さやか「――もしかしたら」

さやか「昨日ほむらが言ってたよね。エレベーター溝から女の子の死体が出たって。
    あれ、杏子のしわざかも」

まどか「さやかちゃん、それはいくらなんでも言いすぎだよ!」

さやか「ううん。魔獣に正気を奪われているとしたら、魔法少女の戦闘能力でなら人なんて
    簡単に……簡単に……」

 さやかが口ごもる。

まどか「杏子ちゃんを探そう」

さやか「だね。じゃあマミさんにも話を――」

 まどかがさやかの手をつかむ。

まどか「まだ杏子ちゃんが魔獣の影響を受けていると決まったわけじゃないよ。
    それにマミさん、仲間どうしで疑ったり傷つけ合うのに耐えられなさそう。
    先に本当のこと確かめようよ」

 さやかがまどかの手を解く。

さやか「――わかった。
    でも最悪の場合杏子を力ずくで制圧することになるんだからね。
    覚悟しといてよ?」

まどか「うん」

【ゲームセンター】

 ダンスゲームに興じている杏子のもとへ、まどかとさやかが来る。
 絶不調でゲージ残量がどんどん少なくなりブーイングの効果音が鳴り出す。
 画面に浮かぶ『GAME OVER』の文字。

さやか「杏子」

杏子「んー?二人でうまいものでも食べに行く相談か?」

まどか「どうして?杏子ちゃん、顔を合わせるとそれしか言えないの?」

さやか「ねえ。一昨日、何をしたの?あたしたちの記憶を返してよ」

杏子「一昨日?ほむらの見舞いに行ったろ?」

さやか「それは聞いたよ」

杏子「うちに帰っただけさ。さやかのやつはいきなり寝ちまった」

さやか「それも聞いた!だったらあんたはそれからどうしたのさ?
    もう一度病院に行ったんじゃないの?」

杏子「それから?それから、それから、それから……」

 杏子の顔が風船のようにふくらむ。
 驚いている二人の前で、赤い霧になって消えてしまう杏子。
 あとには着ていた制服だけが残る。

まどか「こ、これ……どういうこと?」

さやか「わかんない。わかんないよ……」

 耳障りな高音が鳴り、ビクッとして我に返る二人。
 振り返ると男女の二人連れがUFOキャッチャーをはじめていた。
 クレーンはぬいぐるみを途中で取り落とす。

男「あー、失敗」

女「もう一回やってよ。これ欲しい」

男「はいはい。……ん?髪にゴミついてるぞ」

 さやかの見ている前で、UFOキャッチャーごしに二人が重なる。

【回想・病院・803号室】

杏子「まどか、唇の端にチョコついてるぞ」ペロッ

まどか「ひゃっ!」

ほむら「な……舐めた!」ピキピキ

さやか「普通、直接舐めて取る?」

【ゲームセンター】

さやか「あ……。だったら――すべてつながる!」

まどか「どういうこと?」

さやか「ほむらだ!ほむらが、杏子を殺して偽者にすり替えたんだ!」

 一人駆け出すさやか。

まどか「ま、待ってさやかちゃん!」

 まどかも追うがすぐに客の一人にぶつかってしまい、引き離されてしまう。

まどかの口元に着いたチョコをなめとったばかりに嫉妬で殺された杏子ちゃんが不憫

まどか「どうしよう……。そうだ。マミさん!」

 まどかがスマホを取り出しマミにかける。

マミ「もしもし、鹿目さん?」

まどか「マミさん!大変なんです!」

 ……

マミ「わかったわ。あとは私に任せて」

まどか「でも」

マミ「こんな時間よ。両親が心配するでしょう?
   私は、―― 一人暮らしだから」

まどか「!さやかちゃんのこと、お願いします」

【夜中/まどかの部屋】

 制服姿のまま、机の上にあるスマホを見つめ続けているまどか。
 着信音が鳴るが、公衆電話から。

まどか「?……もしもし?」

マミ「鹿目さん……」

まどか「マミさん!スマホじゃないんですか?」

マミ「聞いて……。今、病院にいるの。
   エレベーターで見つかった死体、佐倉さんだった……。
   暁美さんには、気を、つけて……。
   美樹さんも殺された……」

まどか「そんな!」

マミ「ドジッちゃった、な……。
   なんとか屋上までおびき出すから、あとは、お」

まどか「マミさん!」

マミ「お願い」

 通話が切れる。
 立ち上がり、部屋を飛び出すまどか。

【病院・階段踊り場】

 屋上への階段の途中に制服姿の少女がうつ伏せで倒れている。
 首から上がなく、あたり一面に血が飛び散っている。
 制服はもちろん、靴下にまで血しぶきのあと。

まどか「マミさんまで……」

 拳をギュッと握り締めるまどか。

まどか「ほむらちゃん、どうして?」

 階段を上がり、まどかが屋上のドアを開ける。

【病院・屋上】

 心地よい夜風が吹き抜ける。
 屋上に一人たたずむほむらの髪が風にたなびいている。

まどか「――ほむらちゃん」

 ほむらが振り向く。
 まどかに気づき足を踏み出そうとするが、首を振って思い直す。
 魔法少女に変身するほむら。
 黒い弓を構える。

まどか「ねえ?どうして?友達に武器を向けるなんておかしいよ?」

ほむら「……あなたに矢を使うなんて、絶対したくなかった」

 ほむらの矢がまどかの足元を射抜く。
 コンクリートの床に深々と突き刺さった矢。

ほむら「もう手遅れだけど」

まどか「ほむらちゃん、元に戻ってよ。
    きっと悪い夢なんだよ」

ほむら「まどか。せめて苦しまないように――」

 ほむらの矢が今度こそまどか目がけて飛んでいく。
 見かけによらない瞬発力を発揮してかわすまどか。
 魔法少女に変身している。

まどか「夢からさめてよ、ねえ」

ほむら「あなたの企みはわかっているわ!」

 ほむらの連射を、まどかも矢を放って相殺する。
 ほむらが矢を増やしてもまどかも同じだけ矢で射落としていく。
 矢の応酬は十秒余り続き――

 ほむらのソウルジェムに、まどかの矢が突き立った。
 のけぞった姿勢から倒れるほむら。

まどか「ほむらちゃん!」

 駆け寄りほむらの手を取るが、一切の力を感じない。

まどか「こんなの、あんまりだよ……」

 まどかがうずくまって泣き出す。

 靴音。
 続いて拍手。

???「やっぱりね。鹿目さんならやってくれると思ったわ」

 まどかが振り返る。
 暗闇に溶け込みそうな学生靴。ストッキング。見滝原中学校の制服。

まどか「……マミさん?」

 微笑んでいるマミ。

まどか「マミさん……、階段のところで倒れていたはずじゃ」

マミ「あれは美樹さん。落ち着いて考えれば靴下でわかったはずなのに」

まどか「あ……!まさか、さやかちゃんを殺したのは」

マミ「わ・た・し」

 フフッ、とマミが笑う。

まどか「マミさんが、魔獣に操られていた……?」

マミ「いいえ。魔獣なんて最初から全然関係ない。魔獣のしわざ、と勘違いしたまま
   いつかこのこと自体も忘れて欲しかったんだけどな。
   詮索しなければ、佐倉さんのダミーも見破られなかったのに」

まどか「じゃあ、杏子ちゃんを殺したのも……?」

マミ「鹿目さん。記憶をなくしていたこと、気にしてたわね。
   本当は何があったのか、教えてあげる」

【回想・病院・8Fエレベーター前】

さやか「あれれー?杏子、注射怖いんだ?」

杏子「そんなわけねーだろ。全っ然平気さ」

まどか「タツヤも注射苦手だな」

さやか「やーいやーい、タッ君と同レベルー!」

杏子「何だとー!」

まどか「さっきのお返しー!」ドンッ

杏子「あっ」

さやか「えっ?」

マミ「……キャーッ!」

 開いたドアの向こうにはエレベーターが『来ていなかった』。
 むきだしのコンクリートの壁、そこには床がない。

まどか「嘘……。杏子ちゃん?」

さやか「杏子!」

【病院・屋上】

マミ「そう。あれは不幸な事故。
   故障でエレベーターの位置を誤認識したドアが開いたのはあなたのせいじゃない。
   けれど、あなたの押した手が、『佐倉さんの命を奪った』」

まどか「……そんな」

【回想・病院・8Fエレベーター前】

マミ「とりあえず看護師さんに伝えたからすぐに来てくれるわ。
   それまで、これでも飲んで落ち着いて」

さやか「紅茶……。本当だったらマミさんのうちで飲むはずだった」

まどか「杏子ちゃん……杏子ちゃん……無事でいて」

【病院・屋上】

マミ「私が勧めた紅茶を飲んで美樹さんともども深い眠りについた。
   その間に、身元を特定できないように佐倉さんの亡骸から身につけていたものを
   すべて剥ぎ取った。血がたくさん飛び散っていたから、隠すのは諦めたわ。
   ほんの数分だったけど、このうえなくスリリングな体験だった。
   それから二人の記憶を消して自宅に送ったわけ」

まどか「どうして、そんなことを」

マミ「決まってるじゃない。あのときの鹿目さん、ショックで壊れてしまいそうだった。
   これから一生、人殺しの罪を背負っていけるようにはとても思えなかったわ。
   守ってあげたい――私がはっきりと意識したのはこのとき」

マミ「だから記憶を消して、なかったことにしてあげたのに。
   わざわざ何があったのか調べようとするなんてやめてほしかったな。
   佐倉さんのダミーもバレちゃったし、結局こうするしかなかったけど」

まどか「そんなの、さやかちゃんを殺す理由にならないよ」

マミ「美樹さんを殺したのは詮索が面倒だったこともあるけど、別の理由よ。
   友達を殺してしまった鹿目さんの苦しみ。
   それを私も分かち合いたいと思ったから。
   罪悪感に喪失感。それでいて私は幸福だった。これで鹿目さんと同じ。
   ――震えがくるほど嬉しかった」

マミ「だけど、肝心の鹿目さんは記憶がない。それじゃあ分かち合っていることに
   ならないでしょう?
   だから暁美さんと鹿目さんをここに誘い出した」

まどか「じゃあ、ほむらちゃんがここにいたのも」

マミ「そう。万一の場合に備えて、昨日仕込みをしておいてよかったわ」

【回想・病院・803号室】

マミ「この病院で殺人事件があったみたいね」

ほむら「ええ。病院内はその話でもちきりよ」

マミ「暁美さんは、魔獣のしわざだと思う?」

ほむら「――あなたもそう思うの?」

マミ「私の考えは、きっと暁美さんとは違うわ。ある意味、ね」

ほむら「どういうことかしら」

マミ「私は、鹿目さんが殺したと思っているの」

ほむら「なんですって?」

マミ「もちろん、彼女に誰かを殺すことなんてできないわ。
   でも、魔獣によっておかしくなっていたのだとしたら」

ほむら「そんなことありえない!」

マミ「でもね。……彼女、昨日この病院に来たときを最後にそこから先の記憶が
   欠落しているのよ」

ほむら「それは、美樹さや……美樹さんだって同じはず」

マミ「二人から聞いてるのね。でも美樹さんと鹿目さんでは一つ決定的な違いがあるわ。
   美樹さんは佐倉さんと一緒に帰ってる。
   記憶をなくしてない佐倉さんが一緒なのに、犯行は不可能」

ほむら「それは……それは……、だからって……」

マミ「一つ、お願いがあるの。
   退院しても二人にはなるべく接触しないで。
   今のあなた、とてもじゃないけど疑いを隠せるとは思えない。
   真相は私が探る」

ほむら「ええ。あなたの言うことが正しいのなら……
    私には平静でいられる自信がないわ」

【病院・屋上】

マミ「あとは鹿目さんにしたような電話を暁美さんにもしただけ」

【回想・病院・1F】

 公衆電話からほむらに電話するマミ。

マミ「暁美さん……」

マミ「聞いて……。今、病院にいるの。
   思ったとおり、鹿目さんだった……。
   エレベーターの死体は佐倉さん。
   それに美樹さんも殺された……」

マミ「私も、もうダメみたい……。
   鹿目さん……。魔獣のせいとはいえ、二人も殺してしまったことを知ったら
   とても傷つくでしょうね……。
   いっそのこと、と思ったけど、私にはできなかった……。
   隙を突かれてこのありさまよ。
   暁美さんは失敗しないで。
   屋上におびき出すから、あとはお願い」

【病院・屋上】

マミ「そうやって暁美さんが鹿目さんを攻撃せざるをえない状況を作った。
   おかげで今の鹿目さんは前みたいに自分のしたことに押し潰されていない。
   暁美さん、詰めが甘いところがあるからきっと勝てないだろうと思っていたけど、
   ここまで見事に役割を果たしてくれたのはさすがね」

まどか「こんな……こんなことって……。
    さやかちゃんも、ほむらちゃんも、こんなつまらない理由で死ななきゃならないの?」

マミ「つまらない?
   私たちには、とても罪深い共通の秘密ができたのよ?
   そのへんの公園なんかでデートしているカップルなんかよりよっぽど強い結びつきじゃない。
   つまらなくなんてないわ」

 魔法少女姿に変身して近づいたマミがまどかのあごを持ち上げ、唇を重ねようとする。

 パシッ!
 マミの頬をはたくまどか。
 マミが驚いている間に自分の間合いまで離れる。

まどか「勝手なこと言わないでよ。
    マミさんが本当のことを話してくれていればさやかちゃんもほむらちゃんも
    死なずにすんだ。
    あの世に行ったら、二人に謝って!」

 まどかが弓を構え、放った矢でマミのソウルジェムを破壊する。

マミ「残念。これもダミーでした」

 ペロッと舌を出すマミ。
 イヤリングを手にすると、ソウルジェムと似て非なる宝石に変形する。
 悪魔に変身するマミ。
 まどかは驚きのあまり動けない。
 マミの手にマスケット銃が現れても。
 そこから弾丸が発射されても。

 ……

 マミが横たわるまどかの亡骸を見下ろす。

マミ「暁美さんが魔女になったのを助けたとき、円環の理を見てその力に触れたいと思った――
   拘束したのも束の間、あなたという尻尾だけ残して本体には逃げられてしまって残念だったわ。
   そのときは手に入れた力に満足し、鹿目さんは普通にかわいい後輩とだけ思っていたけど――
   これからは違う。
   あなたのすべてを手に入れたい。
   そのためには、ソウルジェムが限界近い魔法少女を探してこないとね――」

 トレードマークのリボン、悪魔の姿と同じ黒のそれがマミを覆う。
 どんどん収束し、野球のボールよりも小さくなったところでぼん、と煙に包まれ、あとには何も残らない。
 わかるのは、夜が明ければこの病院は前以上の騒動になるだろうということだけだった。

【エレベーター内】

早乙女「高層建築の増えた現在、エレベーターは欠かすことのできない乗り物です。
    階段であれば何十段、何百段を上り下りする苦労を、エレベーターのおかげで
    気軽に移動することができます」

早乙女「こうして待っている間に、エレベーターは私たちの望む行き先へ運んでくれている
    わけですが、ときには奇妙な世界へ運ばれてしまうこともあるかもしれません。
    扉が開いて一歩踏み出す前に、果たしてそこがあなたの目的地であるか十分に確認したほうが
    よいのではないでしょうか」

早乙女「……あら?30階を通り過ぎてるわ」

 ヒラヒラと一枚の紙が早乙女の頭上に舞い下りる。

早乙女「なになに。『このエレベーターはあなたが結婚できる年齢まで停まりません』?
    え?ちょっと、もう40階過ぎてる!」ドンドン

早乙女「誰かー!停めてー!それに私をもらってー!」

以上、投下終わり。

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>>36
真相は……。
作者としてはミスリードにひっかかってもらえて嬉しい限りです。

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年04月17日 (金) 19:35:15   ID: m5l1hYku

マミさんの悪魔姿はほむほむとはまた違った刺激がありそうだな

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