女「今日はどんな事件があったの?」(696)

カランカラン

男「いらっしゃい」

男「って、なんだ、客じゃねえのか」

女「お客ですよー」

男「暇つぶしに来ただけだろ」

女「実はそうですよー」

男「帰れよ、忙しいんだよ」

女「お客さん、いないじゃん、超暇そうじゃん」

男「くっ……」

女「今日はどんな事件があったの?」

男「今日は大した事件はなかったよ」

女「昨日は?」

男「迷子の犬を探してたよ」

女「一昨日は?」

男「……浮気調査をしてたよ」

女「……暇そうだね」

男「うるさいな」

女「なんか面白い事件の話、してよ」

男「お前な、事件を面白がるなよ」

女「いいじゃん、退屈なんだもん」

男「帰って勉強してろよ」

女「今日がってより、もう、人生が退屈なの」

男「うら若き乙女の台詞としては年季入ってんな」

女「ほら、私が楽しめる話、ないの?」

男「しゃあねえなあ……ちょっと前の事件だが……」

女「やった!」

ウミガメのスープのSS形式バージョンです。
一応出題編と解答編に分けて投下します。
適当に楽しんでください。
知ってる人はニヤニヤ(゜∀゜)しててください。

【出題編:A刑事の失言】

男「とある有名なマジシャンが殺された事件、知ってるだろ」

女「ああ、そういえば新聞で見たわね」

男「死ぬ直前、あの男に近寄った女がいたんだ」

女「ほうほう」

男「それがちょうどショーの日でな、出口で待ち伏せてたらしい」

女「その女が犯人?」

男「まあ待て。それでな、マジシャンに近寄ってこう言うんだ」

男「『素晴らしいマジックでしたね、感動しました!』と」

男「そして、『あなた、A刑事を知ってますよね?』とな」

女「変な人だね」

男「しかしマジシャンはそんな刑事のことは知らない」

男「『知らない』と主張するが、その女は『いや、知ってるはずだ』と引かない」

女「やっぱり変な人だね」

男「その様子を見てた目撃者がいるんだが、マジシャンは本当に知らないようだったらしい」

女「その女の言いがかりってことだね」

女「でもなんでそんな変なこと聞くんだろう?」

男「そこがミソだな」

男「結局そのマジシャンは、女を振り切って家へ帰ろうとするんだが、帰宅途中公園で殺されるんだ」

女「災難だねえ」

男「人通りも少ない道でな、道具やなんやらはショーホールに置いて、ほぼ手ぶらで帰宅してたらしい」

女「付き人もなしに?」

男「そういう身軽な男だったそうだ」

女「それで、どういうことだったの?」

男「それは、お前が考えてみな」

女「ええ!?」

男「おれが話すだけじゃつまらないだろ、ちょっと考えてみろよ」

女「うーん、ヒント!」

男「早すぎるな、欲しがるのが」

男「ま、質問には答えてやるよ」

女「んー、やっぱり殺したのはその女の人なの?」

男「ああ、それは正解」

女「個人的な恨みがあったの?」

男「……ないな、マジシャンはとばっちりで殺された」

女「ひどいわね」

男「世の中、そんな事件だらけさ」

女「A刑事は実在するの?」

男「ああ」

女「女の人と知り合いなの?」

男「ああ」

女「マジシャンとは?」

男「マジシャンとA刑事は面識がなかった」

女「……女の人は、どうやってA刑事と知り合ったの?」

男「……予想してみな」

女「……女の人はもともと何かの事件の犯人だった?」

男「違う」

女「被害者だった?」

男「……少し違う」

女「隣人」

男「違う」

女「事件で知り合った?」

男「ああ、そういうことだな」

女「事件に巻き込まれた?」

男「少し違う」

女「近くで事件があった」

男「ちょっと近い」

女「事情聴取されたことがある?」

男「そうそう」

女「隣人が死んだ!」

男「少し違う」

女「隣人が誘拐犯だった!」

男「違う」

女「隣人が詐欺師だった!」

男「隣人から離れようか」

女「隣人じゃない近くって、どこよ」

男「隣人よりもっと近くの人間を探してみろよ」

女「え? 家族?」

男「正解」

女「家族がなにかの事件に巻き込まれたの?」

男「巻き込まれた、というほど大げさな事件ではないな」

女「誰か死んだ?」

男「そう、近づいてきた」

女「……息子が……」

男「違う」

女「女は何歳くらいなの?」

男「30代」

女「旦那は?」

男「いるよ」

女「じゃあ、旦那が死んだ?」

男「正解」

女「その時にA刑事と知り合った?」

男「正解」

女「え、女は旦那も殺してた?」

男「NO」

女「旦那は誰かに殺された?」

男「NO」

女「何死?」

男「さあ、それが重要だ」

女「事故死?」

男「違う」

女「自殺?」

男「お、正解」

女「えーっと、まとめると、女の旦那が自殺して?」

女「その時にA刑事に事情聴取されて?」

女「マジシャンに『A刑事を知ってるか』と問い詰めて殺した?」

男「そう」

女「なんのこっちゃ」

男「まだ、大事なところが抜けてるな」

女「どこ?」

男「つまり、マジシャンを殺した動機」

女「マジシャンであることが重要?」

男「そう、ただし、『女にとっては』だがな」

女「マジシャンはとばっちりで殺されたって言ってたよね?」

男「ああ」

女「マジシャンという職業だったから殺された?」

男「そうだ」

女「旦那は、売れないマジシャンだった」

女「だから仕事を苦に自殺して、女は売れているマジシャンを憎んだ」

男「それは違う」

男「自殺した男はただのサラリーマンで、マジックやマジシャンを恨んで自殺したわけじゃなかった」

女「ちょっと違う切り口が必要かしらね……」

男「……」

女「旦那はマジシャンを恨んではいなかった、でも女はマジシャンを恨んでた」

男「ああ」

女「……女は旦那を愛してた? それとも夫婦仲は冷めていた?」

男「愛してたよ、盲目的に」

女「それなのに旦那さんは自殺をしたの?」

男「……そうだ」

女「自殺であることには疑いがないの?」

女「例えば、自殺に見せかけて殺された、という可能性」

男「警察も、もちろんその可能性を追求したさ」

男「しかし最終的には自殺と断定されている」

女「妻が殺したということはあり得ない?」

男「今回の件に関して、それはあり得ないな」

女「どうやって死んでいたか、それは重要?」

男「ああ、重要だ」

女「首つり?」

男「いや、違う」

女「服毒?」

男「いや」

男「これに関しては、言ってもいいかな。拳銃自殺だった」

女「拳銃かあ」

男「頭に当てて、引き金を引いていた」

女「硝煙反応は?」

男「難しい言葉を知ってるな」

男「しっかり被害者の右手から検出されている」

女「でも、それだけじゃあ自殺に見せかけていたのかもしれないよね?」

男「まだ、決定的な状況証拠があるんだ」

女「?」

男「ヒント、『死体』ではなく『部屋』の状況」

女「あ、密室だったの?」

男「その通り」

女「鍵がかかってた?」

男「そう、その部屋は男の書斎で、中から鍵がかかってた」

男「合鍵は部屋の中にあった」

女「小説でよくあるやつだ」

女「その密室は崩せないのね?」

男「ああ、誰もその部屋に侵入することはできない状況だった」

女「じゃあ、やっぱり自殺なのね」

男「そう、警察は『自殺』と断定して、捜査は終わっている」

女「じゃあ……」

女「……ん? 警察『は』って言った?」

男「ああ」

女「じゃあ誰か、納得していない人がいるということ?」

男「そういうことだ」

女「それはつまり……『女』ね」

男「正解」

女「愛している旦那が自殺したなんて、確かに信じたくない話よね」

男「ああ」

女「事故、あるいは誰かに殺されたんだと考えたくなる」

男「そういうことだ」

男「しかし今回の場合、事故の可能性はほとんどあり得ない」

女「……わかっちゃったかも、女がマジシャンを殺した理由」

男「……そうか」

女「最後にもう一つだけ、質問してもいい?」

男「ああ」

女「その殺されたマジシャンって、瞬間移動のマジックが得意だった?」

男「……鋭いな、正解だ」

解答編は明日に
もちろん予想を書き込んでもらっても結構です

みなさん素晴らしい
解答編行きます

旦那がA刑事の妻と不倫 
A刑事が射殺 死体を偽装
警察の銃で殺したのが分かると困るから全体で隠蔽
A刑事が取り調べ中「瞬間移動でも使わない限り無理」とか言った
瞬間移動が得意なマジシャンとばっちり
旦那が不倫してたのがA刑事の妻だったことを調べて知った女
A刑事に頼まれたと思い込み殺害

【解答編:A刑事の失言】

女「女の人は考えちゃったわけよね、旦那が自殺するわけがないって」

女「きっと旦那を殺した犯人がいるはずだって」

男「ああ」

女「だけど刑事は取り合ってくれなかった」

男「ああ」

女「これは間違いなく自殺ですよ、と」

女「誰も書斎に入り込めた人はいなかったんだと」

男「……」

女「あの部屋に入れる人間がいるとしたら、それは瞬間移動ができるマジシャンくらいのもんですよ、と」

女「それを聞いた女は、真犯人はマジシャンだと考えてしまった」

女「そして、A刑事が接触していないであろうマジシャンを探し、復讐のつもりで殺してしまった、と」

男「素晴らしい、その通りだ」

女「もしかしたら、そのマジシャンの他にもたくさんターゲットを決めていたかもしれないわね」

男「まるで見てきたかのようだな」

女「悲しい事件ね」

男「ああ」

女「そのマジシャンが万一A刑事を知っていたら、死なずに済んだかな」

男「さあな」

女「A刑事にすでに事情聴取を受けているなら、見逃された容疑者ということ」

女「A刑事を知らないということは、まだ警察にマークされていない人物」

女「もしかして、旦那の死んだ場所とマジシャンの死んだ場所って……」

男「かなり、離れていたようだな」

女「マジシャンの瞬間移動なんてものを、本当に信じてしまっていたのね」

男「彼女にとってそれほど、旦那の自殺は耐え難く、正常でいられないほどの衝撃だったのだろうな」

ふぅ 穴があったら入りたいぜw
面白い もっと聞きたいなー(チラッ)

男「やるじゃないか、あれだけの情報から真実を推測するとは」

女「ヒントが上手だったのよ」

男「お前、やっぱり高校卒業したら、ここで働かないか?」

女「……」

男「ああ、いや、うそうそ」

男「しっかり大学行って、堅実にいい企業目指した方が……」

女「言われなくても、最初からそのつもりだし」

男「え?」

女「こんなさびれた探偵事務所、私が助手やったげないとすぐ潰れちゃうよ」

男「……」

女「有名探偵社にしてあげるから、待っててよね」

男「……しかし……確かにありがたいが……」

女「もう、ごちゃごちゃ言わないの」

女「また時間ができたら寄るからさ、事件の話、教えてね」

男「あ、ああ」

女「じゃ! また来るから!」

男「……ん、またな」

こんな感じで
ウミガメのスープスレ、ウミガメサイト、友人の出してくれた問題、推理小説などから出していきます
書き溜めを進めつつ、また明日に投下します

乙  拳銃はどこで仕入れたの?

>>41
ミスリードのつもりではなく、実はこの事件の舞台は日本ではありません
この事務所も海外ということに……と思いましたが、その辺はまあ、どちらでも

>>42 すっかり日本だと思い込んでたよ サンクス 
日本でも海外でも好物だからへーきへーき

【出題編:砂漠の死者】

カランカラン

女「や、久しぶり」

男「おう、いらっしゃい」

女「試験終わった~」

男「あそう」

男「お疲れさん」

女「息抜きに、事件の話を教えて!」

男「試験終わったら事件か。殺伐とした生活だな」

女「兄ちゃんに言われたくないね」

男「はは、兄ちゃんなんて久しぶりに言われたな」

女「でもそれが、一番呼びやすいっていうか」

男「助手になるつもりが本当にあるなら、『先生』あるいは『所長』と呼ぶこと」

女「ええ~」

男「なあなあの助手を雇うわけにはいかないからな、バイトじゃねえんだから」

女「むぅ……わかったよ、所長」

男「よろしい」

女「今日はどんな話?」

男「海外の話だが、ちょっと奇妙な死人の話だ」

女「ほうほう」

男「場所はある広い砂漠」

男「男が死んでいたのを、現地の人間が見つけたそうだ」

女「水不足かしら」

男「手にマッチを一本握っていたそうだ」

女「マッチねえ」

男「男から数百m離れたところに、大きなカバンが落ちていたそうだ」

女「ふうむ」

男「さて、この男が死んだ状況は一体どんなものだったか」

女「それをまた考えたらいいのね?」

男「ああ」

女「餓死じゃなくって、えっと、渇いて死ぬことを何て言うんだろう」

男「水がなくて死んだわけじゃない」

女「えーと、じゃあ、他殺? 自殺? それとも事故死?」

男「限りなく他殺に近いかな」

女「奥歯に物が挟まったような言い方ね」

男「微妙なんだ、状況が」

女「絞殺」

男「違う」

女「刺殺?」

男「違う」

女「えっと、血は出てた?」

男「いや、出ていない」

女「餓死でもないのよね?」

男「ああ、違う」

女「んー、わかんないなあ」

女「手に持っていたマッチは、なにかに火をつけるために使った?」

男「いや」

女「夜中に、明かりのために使った?」

男「いや」

女「まだ新品だった?」

男「そう、まだ本来の用途では使われていない」

女「本来の用途?」

男「そう」

女「本来の用途以外には使ったということ?」

男「……その通り」

女「んー、なんかぼんやりとしてるなあ」

男「砂漠で死ぬ、という事件は色々と例があるだろうが、この死に方は珍しいだろうな」

女「ほぼ他殺、なんだよね?」

男「ああ」

女「殺人者は砂漠にいたの?」

男「いや、男が発見された時はもういなかった」

女「男の周りに足跡は?」

男「いい質問だな」

男「男の周りに足跡はなかった」

男「さらに言えば、動物の足跡も、ジープの車輪の後も」

女「じゃあ犯人はどうやって逃げたの?」

男「厳密には、犯人は、『逃げた』わけではない」

女「でもいなかったのよね?」

男「ああ」

女「足跡もつけずにいなくなるということは……」

男「ということは?」

女「砂の中へ!」

男「違う」

女「時空の狭間へ!」

男「違う! ファンタジーじゃないから!」

女「あれ? その男の足跡は?」

男「……なかった」

女「!?」

男「もちろん、砂嵐がかき消したわけではなかった」

女「!?」

男「じゃあ、一体男はどこからやってきて死んだのか」

女「……」

女「空?」

男「正解」

女「落ちてきたのね? ということは、死因は墜落死ということ?」

男「ああ、正解だ」

男「男は高いところから落ち、その衝撃で死んでいた」

女「……近くに開かなかったパラシュートがあった?」

男「いや、なかった」

女「落ちていたカバンがパラシュートだった?」

男「それも違う」

女「……」

女「男はパイロットだった」

男「NO」

女「飛行機から脱出した乗客? あるいはハイジャックを失敗して逃げたテロリスト?」

男「どちらも違う」

女「えっと、落ちたのは飛行機から?」

男「それも違う」

女「え、じゃあ空からって……他にどうやって……」

男「空を飛んでいるのは、飛行機だけじゃないだろ?」

女「大鷲に掴まれて飛んでた!」

男「んなわけねえだろ」

男「お前は鋭いときもあるけど、ダメなときは想像力が広がらないな」

女「むむむ、悔しいな」

男「まあ確かに、突飛な発想も大事だけどな」

女「んー、宇宙からってことはないよね?」

男「ああ、大気圏内からだ」

女「じゃあ……パラグライダー、飛行船、熱気球……」

男「それだ、気球正解」

女「やた!」

女「気球から突き落とされて死んだ!」

男「うむ、正解」

女「あれ? それって普通に間違いなく他殺なんじゃ?」

男「ああ、それだけだと、間違いなく他殺だな」

男「しかしまだ謎が残っている」

女「?」

男「握りしめたマッチ」

女「ああ、そうか」

女「明かりの為でなく、火をつけるわけでもなく……」

男「そうそう」

女「しかも未使用」

男「うむ」

女「このマッチと落ちていたカバンは関係ある?」

男「んんー難しい質問だな」

女「じゃあ、カバンも気球から落とされたということでOK?」

男「ああ」

女「マッチも気球にあったものということでOK?」

男「ああ」

女「気球には男と、犯人しか乗っていなかった?」

男「いや、全部で4人の旅だったそうだ」

女「その男が死ぬことは、旅の前から決まっていた?」

男「いや、計画殺人ではない」

女「予定外の殺人?」

男「ああ」

女「残りの3人ともが犯人?」

男「んーまあ、そう言えるだろうな」

女「カバンと男、落ちたのはどちらが先?」

男「カバンだ」

女「そのカバンにとても大事なものが入っていて、男はそれを取ろうとして落ちた?」

男「いや、違う」

女「カバンを落としたのは、3人のうちの誰か?」

男「……」

女「?」

男「4人全員の、総意だった」

女「!?」

女「みんなでそのカバンを落としたの?」

男「ああ」

女「なんらかの取引があって、そのために沙漠に落とした?」

女「その取引がうまくいかず、男が殺された?」

男「いや、取引なんかなかった」

男「その4人は純粋に、気球での旅を楽しんでいただけだ」

女「ううむ……」

女「カバンの中に、大事なものは入っていなかったの?」

男「大事なものって?」

女「例えば、お金、食料、水」

男「入っていたよ」

女「なのに、砂漠の真ん中でそれを捨てたの?」

男「ああ」

男「乗っていた4人にとって、それらよりも大事なものがあったんだ」

女「それらよりも大事なもの……か」

女「そのマッチは、死の宣告、ということだったのかしら?」

男「そうだな」

男「ほんの少しのことで、死ぬのは別の男になっていたかもしれない」

女「無念だったでしょうね」

男「ああ」

女「こういう事件、なんて言うんだったか思い出したわ」

男「ん?」

女「カルネアデスの板」

男「ああ、そういう言い方があったな」

という感じで
明日、解答編です

みなさん素晴らしい推理
解答編貼っていきます

【解答編:砂漠の死者】

女「砂漠の真ん中で気球にエンジントラブルが起こってしまったんじゃない?」

男「そうだ、その通り」

女「このままだと、気球は墜落してしまう」

女「砂漠の真ん中に落ちてしまったら、もう助からないだろう」

男「砂漠を越えられるような装備は用意していなかっただろうからな」

女「だから、少しでも重量を減らそうとして、大事なカバンを落としたのね」

男「そうだ、軽くすれば飛べるかもしれない、と考えてのことだったろう」

女「でも、それでも高度は下がり続けた」

男「ああ」

女「このままだと、4人とも死ぬ」

男「ああ」

女「苦渋の決断の末、4人はくじ引きをすることにした」

女「カバンの次は人間を落とすことにした」

女「死のルーレットね」

男「ああ、極限状態だったろう」

女「気球が落ちたら死ぬ」

女「くじを引いても死ぬ」

男「怖い話だぜ」

女「そして、アタリの『頭の残っているマッチ』を引いてしまった不運な男は、突き落とされてしまった」

男「他の3人の命を救うために、な」

女「だから微妙な他殺だと言ったのね」

男「そういうことさ」

女「確かに、くじに参加しているのだから、生き延びた可能性もあるものね」

女「誰もが被害者にも加害者にもなりえた事件なのね」

男「すべては運だったのだろうな」

女「気球の男たちは見つかっているの?」

男「ああ、刑がどうなるかまだ分からんとさ」

女「緊急避難が適用されるといいけれど」

男「しかしな、この話だって推測+生き残りの証言している話だ」

男「真実がどうだったのかは闇の中」

女「どういうこと?」

男「くじに不正があった可能性、それから……」

男「くじなんか、本当は行われなかった可能性もあるぞ」

女「怖っ」

解答編短っ
それでは、また明日

【出題編:図書館司書の憂鬱】

男「コーヒー淹れてくれい」

女「ちょっと所長、私まだ正規の助手ではないんですけど」

男「旨いコーヒーを淹れるのも仕事のうちだぜ? 今のうちから慣れておかにゃあ」

女「はいはい……私、勉強しに来たんだけどなあ」

男「じゃあ自宅でやれよ」

女「集中できないのよ、うるさくて」コポコポ

女「貧乏探偵事務所にしては、いい豆置いてますね」

男「依頼人も金持ちばかりとは限らないからな」

女「え、これ報酬ですか?」

男「いいだろ?」

女「ほんとによくやってけますね、ここ」

男「優秀な助手が入ったから、仕事が二倍受け入れられるな」

女「ちょっと、まだ見習いですけど」

男「それにしては敬語が様になってきたじゃないか」

女「う」

男「さて、最近の軽い事件の話でもしようか?」

女「聞きたい! です!」

男「まあ、被害は大したものじゃない」

男「警察も関与してない程度の事件だけどな」

女「ほうほう」

男「ある図書館の事件だ」

女「図書館?」

男「お前も、勉強するなら図書館を使えばいいのにな」

女「まあ、こちらの方がメリットも大きいので」

男「コーヒーがあるし?」

女「事件の話も息抜きに聞けるし」

男「そこの司書さんから依頼されたんだ」

男「図書館の本に悪戯をするやつがいるから助けてほしいってな」

女「ほほう」

女「ちなみに美人ですかね?」

男「まあ、眼鏡の似合う知的な美人だ」

女「そっかー」

男「そこは事件には特に関係ないが」

女「むぅ」

男「本のな、最初の方のページが破り取られていたんだと」

女「へえ」

男「まあ簡単に言えば器物損壊罪なんだが、片っ端から、というわけでもないらしい」

女「何冊くらいやられたの?」

男「調べた範囲では10冊前後だったかな」

女「ひどいね、そんなことするやつがいるんだ」

男「しかし他のページは無傷だし、表紙にも特に問題はない」

女「最初の数ページだけ破り取られていたのね?」

男「ああ、それ以外にはなにもされていない」

女「それらの本に共通点はなかったの?」

男「それを言っちまうと、もう答えにすぐ辿り着きそうだな」

女「じゃあそこに重要なヒントがあるのね?」

男「ああ」

女「その本は、もとにきちんと戻されていたの?」

男「ああ、本棚にきちんと仕舞われていた」

女「借りた人間がイコール犯人、というわけではなさそうね?」

男「ああ、借りた人間ではなかったよ」

男「ページを破った人間は、な」

女「他にもキーになる人間がいるの?」

男「ああ」

女「……ページを破った人間は、悪意を持ってそれをやった?」

男「いいや、本を愛する人間の仕業だ」

女「本を傷つける意図ではなかったのね?」

男「そうだ」

女「本を破ったのに、それは本を愛するが故の行為だった、のね」

男「ああ、そういうことも、あるんだよ」

女「破る、破る、破る……」

男「……」

女「例えばそれは、一目見てすぐに破られたと分かるような状態だった?」

女「それとも、注意深く見ないと分からないような?」

男「後者だ」

男「現に、司書のもとに『破れてますよ』と言ってきた利用者は少なかった」

女「なるほど……」

男「数冊は、丁寧に破ってあった」

男「力任せにビリッとやったのではなく、ゆっくり破り取ったという感じだな」

女「他のは?」

男「定規でも当てたようにきれいに切ってあった」

男「おそらくカッターナイフだろう」

女「カッターでページを切り取る……か」

女「そのページ自体に価値があったんじゃない?」

女「例えば作家の直筆サインがしてあって、どうしても欲しくなってそのページだけ持って行った、とか」

男「ふむ」

女「はじめは破ってたけど、なんかもったいなくなって、ちゃんと切り取ることにしたとか」

男「なるほどな」

女「違う?」

男「そういうこともあるだろうけど、この場合は違ったな」

男「それに、図書館にそんな有名なサイン入りの本があるとは思えない」

女「そっか」

男「最初は破っていた、途中からきちんとカッターで切った」

男「その流れは間違いない」

女「最初は一冊だけのつもりで、衝動的にやってしまった」

男「まあ、そんな感じだな」

女「でもそれが二冊三冊と続けてやることになったので、きちんと切り取ることにした」

男「ああ」

女「それってやっぱり、本のことを考えての行為って感じはするわねえ」

女「そのページを破ることで、誰かが得をすることはあったの?」

男「……得と言うと……ないかなあ」

女「じゃあ、そのページが破られないことで、誰かが損をする?」

男「お、正解」

女「ページを破ったのは、その誰かが損をすることを避けるためだった?」

男「うんうん、いいね近づいてきた」

女「そういう構図なら、本を愛する誰かの仕業っていうのは納得できるわね」

男「ああ、誰かが損をしないために、苦肉の策でやったことなんだ」

女「本の最初の方のページというと……」

女「タイトル、作者名、目次、それから……」

男「それから?」

女「地図とか引用した詩なんかも入ってるわね」

女「あと挿絵なんかも」

男「そうだな、しかしもっとも重要なのはそれらではなく……」

女「登場人物一覧、か」

男「ご名答」

もしかしたら序盤でもうわかっちゃった人がいるかもしれませんね
解答編、また明日です

みなさんさすがですね
解答編、貼っていきます

【解答編:図書館司書の憂鬱】

女「ページが破り去られていた本、それはつまり、推理小説だった」

女「借りたうちの誰かはわからないけど、読み終わったあと悪質な悪戯をしたのね」

男「そう、推理小説ファンとしては最も避けたいことだ」

女「つまり、ネタバレ」

女「登場人物一覧に、落書きをしてあったわけだ」

女「『こいつが犯人!』なんてね」

男「読む前からそんなものを見てしまったら、どんな名作も駄作と化すよ」

女「それは私もわかる」

女「それを見つけてしまった犯人は、次の読者が悲しまないようにそのページを破り去った」

男「そうだ」

女「その悪戯書きはマジックだったのかもね」

女「他のページも破ったりしてるわけだし。裏写りしてたのかしら」

男「まあな。それにカッターで切ろうと思ったら、つい次のページまで切ってしまうこともあるだろう」

女「犯人は誰だったの?」

男「図書館バイトの青年さ」

男「推理小説を好む文学青年だそうだ」

女「警察沙汰には?」

男「もちろんならなかった」

男「司書さんも、真相がわかってホッとしてたようだよ」

女「落書きをした方の犯人は……」

男「残念ながら、見つかっていない」

女「そちらの方が、よっぽど悪人ね」

男「軽い悪戯のつもりだったのかもしれないが……やはり気分はよくないな」

女「所長がその謎を解いたの?」

男「解いたというほど偉そうなことはしていないな」

男「ただ周りの状況を聞いていくうちに、悪意ある犯行とは思えなくてね」

女「で?」

男「青年に話を聞いて、ちょっとカマをかけたら素直に吐いてくれたよ」

男「ひどいことをする人がいるもんです、とか」

男「次の利用者や司書さんの悲しむ顔を見たくなかったけど、ついカッとなって、とか」

女「まあ、本好きなら、まして推理小説好きなら、許せない悪戯だもんね」

女「そういえば所長も、推理小説好きだもんね」

男「人並みにな」

女「でも最近、本棚にハードボイルド探偵ものが増えてません?」

男「んん」ゲフンゲフン

女「昔からそうやって、いろんな話を聞き出すの、上手だったもんね」

男「そうか?」

女「私も昔、いっぱい話、聞いてもらってたし」

男「そうだったかな」

女「で、無事事件解決して、その司書さんとはなにかロマンスが?」

男「んなもんねえよ、相手は既婚者だ」

女「うふふ、そっか、それはいかん」

男「なんで嬉しそうなんだよ」

という話でした
次の話は……たぶん明日に……

【出題編:トランプと二つの死体】

女「最近、暑いですねえ」

男「ああ」

女「冷凍庫とかにアイスない?」

男「ないな」

女「新しいクーラーを購入する予定は?」

男「ないな」

女「うー」

男「修理屋が都合つかなくてな、来週まで我慢してくれだとさ」

女「なにか面白いことはないですか?」

男「トランプならあるぞ」

女「トランプ!? なんて子ども騙しなっ!」

男「いやいや、これで馬鹿にできないもんだぞ?」

男「お、そうだ、ちょっと古いがトランプにまつわる事件を思い出した」

女「お、いいですねえ、そういうのを待ってたんですよ」

男「ある男が、窓を覗き込んだ」

女「ふむ?」

男「窓の中には、散乱したトランプ、そして二人の死体があった」

男「便宜的に片方をA、もう片方をBとしようか」

女「ふむふむ」

男「Aは手に拳銃を持って死んでいた」

男「Bは苦悶の表情で死んでいた」

女「おおう」

男「さて、どういう状況で二人は死んだのだろうか」

女「んーなんだか複雑そうな事件」

女「とりあえずAが拳銃持ってて、Bが苦しそうに死んでたのなら、Bは撃たれて死んだってことよね?」

男「NO」

女「え!? 違うの?」

男「残念ながら」

女「じゃあ……毒で死んでた?」

男「それも違う」

女「……」

男「だいぶ細部をぼかしているから、状況整理した方がいいと思うぜ」

女「なんでそんなぼかすんですかー」

男「その方がお前、面白いだろ?」

女「まあそりゃ、そうですけど……」

女「じゃあ、えっと、男は窓を覗く前から、二人が死んでいることを知っていた?」

男「NO」

女「予測はできた?」

男「まあ、予測はできたな」

女「それって家の窓ですよね?」

男「NO」

女「ん? 家じゃない?」

男「場所が重要だな」

女「他に窓っていうと……車?」

男「違う」

女「学校?」

男「違う」

女「ビル?」

男「違う」

女「それは建物についている窓?」

男「違う」

女「じゃあ……乗り物?」

男「そうだ」

女「乗り物の窓から覗いたら死人が二人、しかもそれは予測できたこと……」

女「……電車」

男「違う」

女「タクシー?」

男「違う」

女「ヘリコプター?」

男「違う」

女「……」

男「窓のある乗り物、他に?」

女「……あ、船!」

男「正解」

女「船で死んでたのね?」

男「とても重要な点だな」

女「それからトランプ……拳銃……」

男「死因がわかれば、トランプの意味も見えてくるかもな」

女「死因が大事なのかあ」

男「Bは拳銃で死んだのでもなく、毒で死んだのでもない」

女「しかし苦悶の表情で、と」

男「うむ」

女「あれ? Bが拳銃で死んだのでないとしたら……?」

男「ん?」

女「Aは拳銃で死んだ?」

男「お、正解」

女「じゃあ、つまり、自分で引き金を引いて死んだってこと?」

男「ああ」

女「Aは自殺……か」

女「Bは自殺?」

男「違う」

女「Aに殺された?」

男「それも違う」

女「事故死? 他殺? 自殺? あ、それとも病死?」

男「その中で言うと……事故死だろうな」

女「船の中で事故死……かあ」

男「そして、苦悶の表情となると……」

女「水死? 溺死ね?」

男「ああ、そうだ」

女「Aは拳銃自殺、Bは溺死」

女「部屋の中にはトランプが散乱……」

女「あ、そうか、その船って沈んでたのね?」

男「そうだな」

女「じゃあそれを見つけた人ってのはダイバーかなにか?」

男「ああ」

女「だからそれを予測できたかもって言ったのね」

男「さて、あとはトランプの意味だ」

女「それよねえ」

女「そのトランプを使って、二人はなにか勝負をしていた?」

男「ああ」

女「なにかを賭けていた?」

男「ああ」

男「その賭けに勝ったのは、どちらか」

女「勝ったのは……Aね」

男「その通り」

女「もしかして、トランプばっかりしていたから悲劇が起きたのかしら?」

男「そうかもしれないな」

女「死を目の前にすると、人って恐ろしいことを考えるものね」

男「合理的で人間らしいともいえるんじゃないかな」

女「最後に一つだけ、聞かせて」

男「ああ」

女「拳銃には、もう弾は一発も残っていなかったのよね?」

男「ああ」

という感じです
解答編は明後日です、すみません

ちょっとヒント出しすぎたんでしょうか
解答のハードルが上がる上がる
皆さん大正解です

【解答編:トランプと二つの死体】

女「ギャンブルが好きで好きでたまらない男が二人、船に乗っていた」

女「カジノのあるような、豪華客船だったのかしら?」

男「ああ、そうだ」

男「二人は揃ってカジノですっからかんになり、部屋で寂しく飲んでいたんだ」

女「そこでトランプを始めた?」

男「そう、金のなくなった二人は、あらゆるものを賭けて憂さを晴らしていた」

女「例えば?」

男「故郷の恋人、臓器、家族、将来買う土地の何%を譲る、とかなんとか」

女「愚かねえ」

女「でも、どうしてそんなことがわかるの?」

男「部屋の中に誓約書みたいなものがあったんだ」

男「まあ、酔っ払いが作ったものだから、法的価値はなかったが」

女「ふふ、変な話ね」

女「そうこうしているうちに事故が起こり、船が転覆」

女「逃げ出せない状況になってしまった」

男「その部屋を下にしてゆっくり転覆したんだ」

男「少し傾いた時点で気づいて、早く脱出すれば助かるかもしれなかったものを……」

女「不幸ね」

男「でも、自己責任とも言えるかな」

女「部屋に浸水してきて、このままでは二人とも溺死してしまうだろう」

女「万一船から逃れられても、サメのエサになるのがオチ」

男「溺死もサメのエサも、勘弁したいところだな」

女「苦しんで死ぬのは嫌だ、それなら拳銃で頭を一発の方がマシだ、と考えた」

女「どうせ死ぬなら、苦しみは一瞬の方がいいもんね」

男「追い込まれた末の人間の思考だな」

女「だけど船にあった拳銃には、弾は一発のみ」

女「だから最期に賭けたのね、拳銃で死ぬ権利を」

男「そういうことだ」

女「賭けトランプに勝ったAは、拳銃で自殺」

女「賭けに負けたBは、苦しんで溺死、か」

男「どのみち死ぬのなら、やはりBの方が不幸だったのだろうな」

女「その考え方は、理解できるわ」

女「Aは賭けに負け続けた人生の最期に、一発逆転勝利、ってとこかしらね」

男「どちらも地獄だが、針の山よりは血の池の方がマシ、ってなくらいのもんだろう」

男「逆転ってほどのものでもないな」

女「あーあ、そんな話を聞いちゃったら、トランプで遊びにくくなっちゃう」

男「まあ、稀なケースだろうけどな」

女「命を賭けてる人がいるんだもんなあ」

男「案外、賭博の世界で珍しくないかもしれないぜ?」

女「私も命の駆け引きの機会があれば、そんな思考に辿り着くこともあるのかしら」

男「そんな機会は一生来なくていいだろ」

女「あ、じゃあ所長、ちょっと私たちも賭けトランプをやりましょうか」

男「お? この流れでか?」

女「大したものは賭けませんって」

女「トランプに負けた方は……」

男「負けた方は?」

女「アイスを買いに行く!」

男「よし、その勝負乗った!」

明日の事件はちょっと長いです
もうちょっと謎を残せるように調整してみます

今日の問題はちょっと長いので、ぱっぱと投下しちゃいます

【出題編:今日は特別な日】

女「所長がお薦めする本、なにか読んでいいですか?」

男「ああ、その棚に並んでいるの、どれでも好きなの持って行っていいよ」

女「やっぱり推理小説が好きですか?」

男「ああ、そうだな」

女「仕事に役立つから?」

男「それもあるが、まあ、小説に出てくるようなトリックやらは現実的ではないな」

女「そうなんですか?」

男「5W1Hってわかるか?」

女「英語の文法でやったやつ、かな?」

男「ああ、それが推理小説にも出てくるんだ」

女「へえ」

男「まずHは、Howだな」

男「つまり、どうやって」

女「誰かが殺されたとして、その方法がわからない場合ね?」

男「そうだ」

男「不可解な死に方をした場合に多い分類かな」

男「次に、Who」

女「誰が、つまり犯人捜しね?」

男「ああ、これは結構多い分類だな」

女「誰にでも犯行は可能だった、とか?」

男「そうだ」

女「現実の事件はほとんどこれになるのでは?」

男「はは、そうかもしれないな」

男「それから、Where」

女「どこで?」

男「犯行が行われた場所が不明、という場合だな」

男「死体が発見された場所は犯行現場ではないと明確な場合だ」

女「はあ、なるほど」

男「例は少ないが」

女「でしょうねえ、面白みには欠けそうですもんね」

男「そしてWhen」

女「いつ?」

男「アリバイものがメインかな」

男「死体発見が遅れ、死亡推定時刻に幅がある」

男「それを絞ろうと情報を集めていく」

男「目撃証言でそれが狭まるが、もっとも怪しい容疑者にアリバイがある、みたいな感じだな」

女「本当に死んだのはいつか? って謎ね」

男「で、What」

女「?」

男「なにが」

男「つまりなにが起こったか皆目わからない事件だな」

女「意味不明、ってこと?」

男「事件の痕跡はあるが、死体はない」

男「なにやら不思議な現象があるが、それがなんなのかわからない」

女「日常系の謎も含まれそうですね」

女「最後はWhy?」

男「そう、なぜ、だ」

女「つまり動機ね?」

男「これも現実の世界に多そうなものだな」

女「犯行はほぼその人にしかできない、でもなぜそんなことをしたのかわからない」

男「そうだ」

女「同じ人間とはいえ、その動機には理解できないものも、たまにありますよね」

男「『誰でもよかった』なんていう、動機がない事件もあるしな」

男「動機に鍵がある事件、聞きたいか?」

女「聞きたい! です!」

男「これはおれも少し噛んだんだが、そのままずばり、『なぜ?』と問いたくなるような事件だった」

女「うずうず」

男「とある刑務所に、死刑執行を待つ身の男がいた」

男「男は最期の日、要望したステーキとワイン、それにケーキを胃に入れ、刑場へ赴いた」

男「死刑執行は絞首刑だ」

男「首に縄をかけ目隠しをされ、刑務官がボタンを押すと床が開いて落ちる」

女「刑務官?」

男「死刑執行をする3人だ」

男「特定の一人が死刑を行う、ということにならないよう、3人が同時にボタンを押すんだ」

女「へえ」

男「3つのボタンのうち、床が開くボタンはひとつだけ」

男「つまり、3人のうち誰が死刑執行のボタンを押したかわからなくするためだな」

女「どうしてそんなことを?」

男「自分の手が、死刑囚であれ人を殺すんだ」

男「3人のうち誰かが、ということにすれば、精神的な負担も薄れるだろう」

女「ううむ、なるほど」

男「しかし、だ」

男「その処刑が行われる直前、つまり首に縄をかけ死を待つという瞬間」

男「突然その男が苦しみだし、泡を吹いて死んでしまう」

女「は!?」

男「職員が駆け寄るが、すでに手遅れ」

男「男は死刑になる寸前に、毒物で殺されてしまったんだ」

女「なんで!?」

男「まさにそれが、謎だった」

女「だって、ほっておいても死刑で死ぬんでしょう?」

女「犯人が誰か知らないけど、わざわざ危険を冒して、死ぬ予定の人間を殺すなんて」

男「不可解な事件だったよ」

女「……意味が分からないわ」

男「しかし曲がりなりにも、理由がつけられるのさ」

女「それは推測の理由づけ?」

男「いや、もう犯人も動機もわかっているんだ」

女「……いるんだ」

男「どういう意味だ?」

女「いや、自殺かなあとも思ったからさ」

女「絞首刑より、毒で死ぬ方が楽って考えたのかもしれないじゃない」

男「ああ、しかし結果的に苦しい死に方をしているしなあ」

女「犯人は、よっぽどその死刑囚が憎かったのかしら」

男「いや、違う」

男「犯人は死刑囚に特別の思いを抱いてはいなかった」

女「じゃあ、快楽殺人?」

女「殺せるのなら、誰でもよかった」

女「だけど、どうせ死ぬんだからと、死刑囚を選んだ」

男「それも違う」

男「犯人の殺人の欲求の為に選ばれたわけでもなかった」

女「ううむ、わからん」

男「犯行が可能だったのは、刑場に勤めていた職員たちだけだ」

男「公開されてはいなかったから、一般人や犯人が起こした事件の被害者も入り込めない」

女「じゃあ、その職員の中に犯人がいるのね?」

男「まあ……そうだな」

男「しかし、そうだな……『なぜ』以外の部分は言ってしまってもいいんだが」

女「んんー、じゃあ、ヒント多めでお願いします」

男「へいへい」

女「その毒は、誰かが死刑囚には知られないように盛ったのよね?」

男「そうだ」

女「となると、もっとも怪しいのは刑の直前に食べたというステーキやらワインやら、ね」

男「その通り」

女「その中に、毒物か、もしくはカプセルなんかを入れた」

男「ああ、死刑囚の胃の中から、わずかながら毒物とカプセルの溶け残りが発見されている」

女「毒って飲んじゃったらすぐ死ぬんじゃないの?」

女「刑場へ行く途中に倒れることもあったかも」

男「ああ、タイミングを計ったのか偶然かはわからんが……」

男「使われていたのは、遅効性の毒だ」

男「トリカブトにフグの毒を調合して作ったらしい」

女「それって普通の人でも手に入れられるもの?」

男「まあ、専門家でないと難しい、というほどのものでもないかな」

女「遅効性だと、どういうことになるわけ?」

男「幅はあるが、それは大体30分から1時間半くらいで効いてくる」

女「ああ、そんなに遅いんだ」

男「犯人に、それほど確固たる狙いはなかった」

男「とにかく、死刑が行われる前に死なせたかったんだ」

女「最期の食事をしてから、刑が執行されるまでは少し時間があるんだ?」

男「ああ」

女「その間に毒が効かなかったら、意味がなくなっちゃった?」

男「そうだ」

女「じゃあ犯人は、ハラハラしていたかもね?」

女「刑が執行されそうになっているのに、まだ死なないものだから」

男「ああ、焦っていただろうな」

女「刑務官が3人いて、あとはどんな人が刑場にいたの?」

男「神父、所長、執行の合図を送る者、検察官などだ」

女「そのうちに犯人がいるのね?」

男「いや、この中にはいなかった」

女「え!?」

男「このうちの誰もが疑われたが、犯行は可能であっても、動機を持つものが見つからなかった」

女「ううむ」

女「料理に毒が盛れるのは、さっきの人たち以外にもいたってこと?」

男「ああ、もっとよく考えてみると、それらの人物が浮かんでくる」

女「えっと……」

女「あ、シェフね?」

女「最期の料理を作ってあげた人がいるはずだから、その人なら毒が盛れるわ!」

男「そうだ」

男「しかし、この男もまた無実だった」

女「あら」

男「食事をとったのは刑場ではなく拘置所」

男「そちらにキッチンもあったし、最期の食事をとる部屋もあった」

女「そちらで毒を盛ったのね?」

男「ああ」

女「じゃあ、他の死刑囚とか?」

女「死刑に恐れるヒマを与えず、毒でコロッと殺してあげようと思ったとか」

男「いや、それも違う」

男「そもそも、他の死刑囚が毒を盛れるなんて、いくらなんでもセキュリティが甘いだろう」

女「そりゃそうか」

男「しかし死刑囚でなければ、誰でも割と簡単に入り込むことができた」

男「ここを刑務所と考えず、もっと考えてみな」

男「この探偵事務所のあるビルだって、おれとお前以外も案外出入りしているもんだろ?」

女「えっと、えっと、ゴミ業者とか?」

男「はいはい、それから?」

女「なんかの勧誘とか、ビラ配りの人とか、宅配便とか……」

男「いるね、そういう人も」

男「ただそういう人間は、あまり中までは入ってこれないだろ?」

女「えっと、それから……」

男「ほら、この事務所がいつもきれいなのはなぜだ?」

男「片付け掃除のできないおれの事務所が、いつもゴミだらけにならない理由は?」

女「あ! 清掃員の人ね!?」

男「そう、清掃員の女が、今回の犯人だった」

女「え? え? 一番動機なんて見つからなさそうだけど……」

男「犯人に特別な思い入れもない、誰でもいいから殺したかったわけでもない」

女「なのに……」

男「しかし、この日、この死刑囚を死刑執行の前に殺すことに意味があったんだ」

女「うええ、ほんとに『なぜ!?』って感じ」

女「その毒殺は、女にとって意味のあるものだったのよね?」

男「ああ」

女「じゃあ、他の誰かにとっても、意味のあることだった?」

男「ああ、その通りだ」

女「女は、その誰かのことを思って、毒殺を決行した」

男「ああ」

男「しかし悲しいことに、その『誰か』はその意味を知らなかった」

女「はい?」

男「そして女も、そのことに気づいていた」

女「誰かのためを思ってやったのに、それが伝わらなかったことをわかっていたってこと?」

女「あああ、言ってて意味わかんなくなってきた」

男「女にとって、過去の罪滅ぼしでもあったんだろうな」

女「むう」

男「他に質問は?」

女「じゃあ、『女』とその『誰か』は面識があったの?」

男「まあ、清掃員だからな」

男「顔は毎日合わせていただろう」

女「その『誰か』は『女』にとって特別な存在?」

男「ああ」

女「じゃあ、『誰か』にとって『女』は……」

男「特別な存在ではなかった」

女「ううむ、そんな片思いのような……」

女「あ、その清掃員の女の人は何歳くらいなの?」

男「60と少しかな」

女「ありゃ、当てが外れたな」

男「恋心ではない、な」

女「その『誰か』というのは、死刑執行の刑務官のうちの一人ということであってる?」

男「ああ、その通りだ」

女「なんとなく、薄ぼんやりとだけど輪郭は見えたの」

女「だけどな、動機として弱いのよね」

男「この死刑が行われる予定だった日、刑務官の男にとっては特別な日だったんだ」

女「……うん」

男「ただ、その事実を男は知らず、清掃員の女だけが知っていた」

女「……そっか」

女「……そういうことか」

ちょっと謎残し目です
解答編、明後日になります
のんびり考えてみてください

元ネタが推理小説なので、知ってる人も多いかなと心配したんですが、
ニヤニヤが意外と少なくて良かったです
解答編投下します

【解答編:今日は特別な日】

女「刑務官の精神的負担を減らすため、3人同時にボタンを押すって話があったでしょう?」

男「ああ」

女「だけど、3人いても、やっぱり精神的には辛いものがあるわよね?」

男「そうだな」

男「実際に話を聞いてみても、誠実で繊細な印象を受けたよ」

男「『極悪人を地獄へ落としてやるつもりでボタンを押してます』なんてやつは一人もいなかった」

女「だから、その負担を軽くしてやろうと女は思ったと思うの」

女「だから、その刑務官の恋人かなあと思ったわけ」

女「でも60代でしょう? 刑務官が何歳くらいなのかはわからないけど、母親の年齢よねえ」

男「ああ」

女「でも母親にしては、『特別な存在ではない』ってのが引っ掛かってね」

男「……」

女「つまり、こういうことよね」

女「清掃員の女は、刑務官の母親だけれど、刑務官はその事実を知らない」

男「ご名答」

男「刑務官の一人、仮にAとしておくが、Aは孤児だったんだ」

男「児童養護施設に置き去りにされた赤ん坊だった」

女「……」

男「そのまま施設で育ち、刑務官となった」

男「本当の母親のことは知らず、母親も接触しようとしなかった」

女「同じところで働いていたのは偶然だったの?」

男「いや、女の方が、追いかけてきたようだな」

女「捨てた息子の姿を見守るために?」

男「罪悪感でいっぱいだったろうが、捨てたあともずっと気にはしていたらしい」

男「刑務所で働くようになったことを知った母親は、清掃員として近づいたんだ」

女「だから『誰か』は『女』にとって特別な存在で、『誰か』にとって『女』は特別ではないって言ったのね」

男「刑務官は最後までわかっていなかったよ」

男「女が母親として自分の為に殺人を犯したことを」

女「でもね、いくら息子の精神的負担を減らすためとはいえ、ちょっとリスクが大きすぎると思ったのよ」

男「そうだな」

女「刑務官は職務としてやっているのに、自分が肩代わりしたら、犯罪になるんだもんね」

男「そう、本来なら天秤にかけられるべき問題じゃないんだ」

男「しかし、この日は刑務官にとって特別な日だった」

女「でも、この日が特別な日ってこと、刑務官は知らなかったのよね」

男「そうだ」

男「男の誕生日は、児童養護施設に拾われた日が登録されていた」

男「男自身、その日を誕生日だと思っていたんだ」

女「でも本当は違ったのね」

女「清掃員の女だけが、男の本当の誕生日を知っていた」

男「そう、そしてそれが、死刑執行の日だったんだ」

女「自分が不幸にさせてしまった息子が、祝われるべき本当の誕生日に死刑を行おうとしている」

女「それはとてつもない不幸だと、女は嘆いたのね」

男「だからせめてもの罪滅ぼしに、生まれた日くらいは、穏やかに過ごしてほしい」

男「そう思って犯行を行ったんだそうだ」

女「刑務官の男にとっては、寝耳に水の事件だったでしょうね」

男「女の自己満足のエゴが、少し顔を出してしまったとも思えるな」

女「なにもしなければ平和だったかも?」

男「そう、罪滅ぼしというのはたいてい自己満足に行われるものだろ?」

女「まあ、そうかも」

女「刑務官の父親は出てこないの?」

男「父親はいないんだ、の一点張りだ」

男「当然刑務官自身も父親についてはなにも知らない」

女「いないって……そんなわけないでしょうに」

男「これは想像だがな。父親について誰にも絶対に知られたくないんだと思う」

女「どうして?」

男「これは、本当に、おれの勝手な想像なんだが……」

女「言ってください」

男「この日死んだ死刑囚の男の罪状の一つにな、婦女暴行があるんだ」

女「……っ」

男「女は自分の息子に、『父親殺し』をさせたくないと考えたんじゃないか、と思ってな」

女「……」

女「なぜ、世界はこんなにも不平等なんでしょうね」

男「一度均等にならしてくれる神が現れてくれないだろうか」

女「あら、所長は神を信じるんですか?」

男「いいや、信じてないね」

女「どうして?」

男「神がいれば、人間が人間を殺すような世の中を良しとはしないと思うからだ」

女「なるほど」

女「私の考えとは違いますね」

男「どういうことだ?」

女「世界は不平等、だから起こる悲劇もあるけど、すべてが均等でもつまらないと思います」

男「そうか?」

女「みな同じ考え、同じ服、同じ程度の裕福さに、同じ程度の知能」

男「ううむ」

女「人はそれぞれ違うから、面白いんですよ」

男「まあ、それも一理あるかな」

女「自分とは違う人だから、好きになるんですよ」

男「ほう、お前も人並みに恋するんだな」

女「なに言ってるんですか、相手は所長ですよ?」

男「は? おれ?」

女「まったく鈍いんだから」

男「……え?」

女「ハードボイルドな探偵を目指すなら、こんなことで狼狽えてちゃだめですよ」

男「……え? なんで? なんで?」

女「ま、そんなところも好きなんですけど、ね」

男「……なんで?」

という事件でした
次はいつになるか……ちょっとお待ちください
女から探偵への出題です

今日は軽めの喫茶店ミステリです
どうぞ

【出題編:砂糖パーティー】

カランカラン

女「こんちわー」

男「おう」

女「今日はなにか事件がありましたか?」

男「特にねえなあ」

女「うふふ、じゃあ、私が今日遭遇した事件の話、してもいいですか?」

男「お、おう」

女「たまにはそういうのも、いいでしょ?」

男「そうだな、目新しくて」

女「今日、学校帰りに友だちと喫茶店に寄ったんです」

女「ちょっと落ち着いた感じの、普通の喫茶店」

男「ほお」

女「そこで友だちとお喋りしてたんですけど、奥の席の客のことが気になったんです」

男「どんな客だ?」

女「女の子4人で、なんかみんな、うつむいてるの」

男「へえ、誰かが失恋でもしたのかね」

女「でもね、あんまり誰も口を開かないの」

男「でもそれくらい、たいして珍しくもないだろ?」

女「でもね、誰も口を開かないけど、時々動きがあるの」

女「4人ともが、すっと砂糖壺から砂糖をコーヒーに入れるの」

女「それを、何回も何回も繰り返しているだけの客」

男「……甘党なのか?」

女「ね、変な客でしょう?」

男「ううん、なんだろう、なんか気になる客ではあるな」

女「でしょでしょ!」

男「で、その謎は自分で解けたのか?」

女「自分なりの解答は得ましたよ?」

男「それはちゃんと納得できるような解答だろうな?」

女「ええ、それは任せてください」

男「ふん、じゃあちょっと考えてみようか」

女「どんとこい!」

男「他に客は?」

女「いましたよ? でも今回、他の客は関係ありませんね」

男「ふむ」

男「4人ともがコーヒーを注文していたのか?」

女「あ、えっと、私たちより先に来ていたので具体的な内容は不明です」

女「でも4人とも、コーヒーか紅茶を頼んでいたと思いますよ」

男「で、砂糖をたびたび入れる、と」

女「ええ」

男「飲んでいたのか?」

女「たまに、ちょっとずつ飲んでいたようですね」

男「スプーンは?」

女「はい?」

男「つまり、混ぜていたか?」

女「いえ、混ぜていません」

男「ほう……」

女「いい質問でしたね」

女「砂糖をたびたびカップに入れるくせに、スプーンで混ぜていない」

男「つまり、甘党ではない」

男「砂糖を摂取することが目的ではない、と」

女「ええ、そうです」

男「それ以外に目的がある、と」

女「ええ」

男「その4人は高校生?」

女「私と近い学年だと思います」

男「制服だったのか?」

女「あら所長、女子高生の制服に興味があるんですか?」

男「おいおい、茶化すなよ」

女「えっと、私服でした」

男「4人とも?」

女「4人とも」

男「学校帰りではない?」

女「ええ、おそらく」

女「一旦家に帰ったのか、それとも私服の学校なのかもしれませんが」

男「ああ、私服の学校なんていうのもあるのか」

女「しかし制服よりは、私服であるほうがこの場合都合がいいと思いました」

男「都合? それは誰にとっての?」

女「この4人にとっての都合です」

男「ふうむ」

男「砂糖壺はどのテーブルにも設置されているのか?」

男「それとも注文に合わせて持ってくるタイプか?」

女「前者です」

女「どのテーブルにも砂糖壺が常設されていました」

男「中身は粉砂糖か? 角砂糖か?」

女「粉です」

女「これ重要です」

男「む?」

女「角砂糖では、きっと今回のようなことは起こらなかったでしょうね」

男「へえ」

男「その4人組の客は、砂糖壺から砂糖を出してはカップに入れ、混ぜずに飲んでいる」

女「ええ」

男「定期的にってことは、結構な量の砂糖が減っているはずだ」

女「ええ、おそらく」

男「しかし、砂糖壺から砂糖を『減らす』ことが目的ではないんだろうな?」

女「ええ、それは違います」

男「その砂糖というのは、いつも壺にたくさん入っているのか?」

女「ええ、マスターはずいぶん几帳面な人のようで、いつ行っても砂糖壺は満タンになっています」

男「なるほどな……」

女「なにかピンときました?」

男「ん、おぼろげながら、だがな」

男「ちなみにその喫茶店は、バイトは雇っているのか?」

女「バイトですか? ええ、一人二人、雇っているようですよ」

男「マスターは割と厳しい感じの人?」

女「ええ、今日も新人っぽいバイトの子を叱り飛ばしていましたよ」

男「その4人の客のうち、様子がおかしい子はいなかったか」

男「例えば挙動不審だとか、ずっと無理に顔を伏せている、とか」

男「あるいは無理な化粧をしていたり、フードをかぶっていたり、ウイッグをかぶっているとか」

女「……ええ、そういう子が、一人いました」

男「となると、発案者はその子だろうな」

男「他の3人は、それに付き合わされた感じだ」

女「ええ、そうだと思います」

男「その砂糖パーティーは、まあ一種の嫌がらせだろうな」

女「……ええ、正解です」

男「マスターに忠告は?」

女「……しておきました」

男「まあ妥当に考えて、塩だとは思うんだが、万が一『他の粉』だとちょっと危険だしな」

女「……すごいです、ほとんどご自分で結論を出してしまって」

男「ま、本業だしな」

解答編は、また明日に ノシ

【解答編:砂糖パーティー】

女「どこでわかりました?」

男「まあ、一番怪しいのはカップを混ぜてないってことだ」

男「砂糖を摂取するんではなく砂糖壺から減らすということが必要だったんだ」

男「砂糖壺はいつもいっぱい入っていたというから、仕方がなかったんだろうな」

女「ええ」

男「その客のうちの一人は、おそらくその喫茶店を恨んでいる」

男「それは言い過ぎとしても、まあ少なくとも嫌がらせをしたいと考える程度には嫌っている」

女「はい」

男「となれば、その子の正体は、『以前バイトをしていてクビになった子』だろうな」

女「はい、私もそう考えました」

男「実家が近くで喫茶店をやっているとかいう線もあったが、まあマスターが厳しい感じならこちらが有力だろう」

女「ええ」

男「だから不必要に会話をすることもなく、変装も必要だったわけだ」

男「で、喫茶店に嫌がらせをするにしても、砂糖をたくさん減らすくらいでは、たいしてダメージがない」

女「ええ」

男「だから、砂糖を減らして、代わりの物を入れていたんだろう」

男「例えば、塩とか」

女「……はい」

男「次の客が塩をコーヒーに入れてトラブルになることを狙ったんだろうな」

男「その喫茶店の評判を落としてやるつもりで」

女「ええ」

男「これが怪しい黒ずくめの男たちなら、麻薬取引を考えたんだが」

男「女子高生に怪しい粉を手に入れる術はあまりなさそうだしな」

女「わかりませんよ? イマドキ」

女「女子高生でも、可能性はゼロではないでしょう」

男「まあな」

男「厳しく当たられてバイトを辞めたその少女は、せめてもの腹いせに、砂糖パーティーを開いた、と」

女「巻き込まれた3人の友人も気の毒ですね」

男「最近の若い者は根性が足りねえな」

女「警察で上下関係のしがらみから逃げ出した所長が言いますかね」

男「おま、そんな言い方するなよ」

女「でも確かに、やり方が陰湿ですよね」

男「自分さえよければいい、スカッとすればいい、という考え方なんだろうな」

女「残念ですよね」

男「お前がそういうタイプじゃなくてよかったと思うよ」

女「見くびってもらっちゃ困ります」

男「でもイマドキの若者であることは確かだろう?」

女「そんなに歳は離れてないじゃないですか」

男「そうかな」

女「十分恋愛対象圏内でしょう?」

男「……返答に困るようなことを言うんじゃないよ」

女「うふふ」

女「さて、コーヒーでも淹れましょうか」

男「あ、ああ、頼む」

女「お砂糖は?」

男「なしで」

女「ミルクも?」

男「それはありで」

女「ハードボイルドならブラックじゃないんですか?」

男「おいおい」

男「ハードボイルドが格好いいと思うことは確かだが、おれにそれが似合うとは思ってないぞ」

女「はあ」

男「そもそもハードボイルドの語源は『かたゆで卵』だが、おれは半熟が好きだし」

女「……は、はあ」

男「昼行燈だがいざとなると鋭い、みたいなタイプがいいな、おれとしては」

女「なるほど」コト

男「ありがとう」グビッ

男「あっち!」ビシャア

女「うーむ、格好悪い……」

女「確かにハードボイルドには程遠いですね」

という感じでした
北村薫氏や米澤穂信氏のような日常系ミステリは大好きです


いいスレだ
男はハーフボイルドなのか

>>218
それいいですね
ハーフボイルド探偵

【出題編:息子を紹介する男】

男「そういえば、おれの知りあいに変な奴がいるんだ」

女「はあ」

男「いつも初対面の人間と会った時には自己紹介をするんだが、決まって息子のことも紹介するんだ」

女「ふむ?」

男「これにはある意図があるらしいんだが、わかるか?」

女「え、ちょっと情報が少ないんじゃ……」

男「そこをうまく埋めていけるかは、お前の腕次第だ」

女「むむう」

女「その息子さんは、本当に血がつながった実の息子?」

男「ああ、それは間違いない」

女「息子の方が有名人? なんか、子役とか、そういうので」

男「いいや、普通のどこにでもいる子だ」

女「その子は何歳くらいなの?」

男「ええと、もうすぐ4歳になるんじゃなかったのかな」

女「え、意外と小さいんですね」

男「そうか」

女「んーと、じゃあ、所長もその息子さんを紹介されたんですか?」

男「ああ、一応な」

男「そのおかげで、おれはあいつに頭が上がらないんだ」

女「へえ?」

男「頭が上がらないというか、いや、悪いことができないというか……」

女「なんだか歯切れが悪いですね」

男「まあ、そんな感じだ」

女「それは息子さんだから意味のあることですか?」

男「いいや、意図としては、奥さんでもペットでも構わないはずだ」

女「それはずっと続けているんですか?」

男「ああ、息子さんが生まれてからずっと続けているらしい」

女「じゃあやっぱり、息子さんだから意味があるのでは?」

男「いや、息子が生まれたから、いい機会だから始めてみよう、みたいな感じだ」

女「始める?」

男「その『紹介』をさ」

女「じゃあ……何かの売り込み?」

男「いや」

女「息子を有名人にしたいとかじゃないんですか?」

男「そういう意図ではないんだ」

女「え、ちょっと待ってください。生まれてからってことは、ずっと赤ちゃんを連れて回ってるんですか?」

男「お、いい質問だ」

男「そいつは、息子を実際に連れて紹介していたわけではない」

女「ほほう、じゃあ息子の情報だけ?」

男「でもない」

女「となると……写真かなにかで見せる?」

男「そう、正解だ」

女「写真を見せて紹介するわけですね」

女「『これ、うちの息子なんですよ、可愛いでしょう』みたいに」

男「ああ、そういうことだ」

女「そこにどんな意図が……」

女「その『紹介』は、男にとって利益のあることだった?」

女「それともなんらかのデメリットを打ち消すための物だった?」

男「どちらかというと、前者かな」

男「しかしもっと正確に言うと、これは『転ばぬ先の杖』とも言えるんだ」

女「むむ」

男「もう少しヒントが欲しい?」

女「んん、お願いします」

男「男の職業が重要、かな」

女「職業ですか」

男「男がこの職業に就いているからこそ、メリットがある、というか」

女「芸能関係?」

男「NO」

女「プロダクション社長とかを想像したんですが」

男「違うんだなあ」

女「政治関係?」

男「NO」

女「マジシャン?」

男「NO」

女「教育関係!」

男「違う」

女「猟師? 漁師?」

男「違うなあ」

女「ううん、あ、医療関係!」

男「それも違う」

女「えーっと、えーっと、消防士!」

男「NO」

女「ギャンブラー!」

男「NO」

女「普通のサラリーマン……ってことは」

男「ないな」

女「探偵!」

男「違う、しかし一番近いかもな」

女「あ、じゃあ警察!」

男「ほい、正解」

女「あ! わかった!」

女「写真の息子っていうのは行方不明の男の子とか?」

男「うーん、違う」

女「事件に関わっている子?」

男「でもない」

女「えーっと、その写真の子は事件に巻き込まれては?」

男「いない、普通に家で安全に暮らしているよ」

女「むむう」

男「奥さんやペットでもいいって言っただろ」

女「あ、そっか」

男「じゃあちょっと実演してみようか」

女「はあ」

男「この名刺を写真だと仮定すると、だな」

男「あ、これ私の息子なんですよ~」スッ

女「はあ」

男「ほらほら、可愛いでしょう?」ヒラヒラ

女「……はあ」

男「今のは、自己紹介に意味がなかった例ね」

女「へ?」

男「ほい次」

男「これ私の息子なんですよ~可愛いでしょう?」スッ

男「ほれ、受け取って」

女「え?」ヒョイ

男「どうです? 可愛いでしょう? 自慢の息子なんですよう」

女「はあ」シゲシゲ

男「はっはっは、いやあ親馬鹿でねえ、失礼しました」ヒョイ

女「?」

男「今のは、自己紹介に意味があった例だ」

女「……」

男「さ、わかったか?」

女「えっと、初対面の人にやるんですよね?」

男「ああ」

女「二度目の人には写真を見せる意味は、ない、ですよね?」

男「ああ」

女「で、所長も、これをやられたわけですよね?」

男「……ああ」

女「確かに、悪いことできなくなりますねえ」ニヤニヤ

男「……くっ」

ぶっちゃけ解答は一言で事足ります
解答編、明日の夜に

【解答編:息子を紹介する男】

女「その男の人は警察関係」

女「もっと予想すると、鑑識関係の人?」

男「うん、その通り」

女「写真を相手に持たせて、それから返してもらう」

女「見せるだけなら携帯電話でも可能なのに、わざわざ写真にしたのは指紋を採るため、ですね」

男「ああ、正解だ」

女「初対面の人の指紋をこっそり採っておいて、もし事件が起これば照合する、と」

男「ああ」

女「サンプルが多ければ多いほど、特定しやすくなりますもんね」

男「……ああ」

女「所長も指紋のサンプル、採られてるんですねえ」

男「はは、抜け目のないやつだったよ」

女「でもそれって、違法な捜査とかにはならないんですか?」

男「わからん」

男「まあ、こっそりやっていたから正式な捜査方法ではないだろうな」

女「私も知らないうちに指紋を採られたりして……」

男「初対面で写真を見せてくる人間には注意した方がいいぞ」

女「肝に銘じておきます」

【おまけ:庭師の秘密】

男「今のとは関係ない話なんだが、指紋で思い出した話がある」

女「はい? なんですか?」

男「ある豪邸に仕えていた庭師が、主人を縛って金庫の開け方を聞き出し、中身を奪って逃走した事件があったんだ」

女「はあ」

男「しかもその際に一家全員を殺害している」

女「うげ」

男「金庫のある部屋の前には監視カメラがあったんだが、中に入ったのはその庭師だけだったんだ」

男「なのに、金庫内には庭師の指紋とは別に、他の指紋も発見されたんだ」

女「家族の誰のでもないんですか?」

男「ああ」

女「もっと昔に付いた金庫業者の指紋とか?」

男「家族を殺した際に手に付いた血の痕が金庫内にもあったんだが、そのさらに上に指紋が付いていたんだ」

男「つまり、この時に付いた指紋だとしか考えられない」

女「むむ」

男「誰も他に金庫に入っていないのに、指紋が二人分あるんだ」

女「具体的には、どんな指の指紋ですか?」

男「血の付いた両手の指紋は、全部の指が揃っていた」

男「もう一人分の指紋は、不確定だが、指三本分だ」

女「両手プラス指三本か……」

男「確かに、手の指だそうだ」

女「なるほど」

男「わかったか?」ニヤニヤ

女「あり得ないことを除いていけば、最後に残ったものが真実、ですね」

男「ああ」

女「つまり、この指の指紋も、正真正銘庭師の物だった」

男「はは、正解」

女「極々稀にそういう人もいるそうですね」

男「便利か不便かは不明だがなあ」

女「隠して生きていたんでしょうか」

男「それを考えると不便そうだな」

女「私は二本で十分事足りていますけどね」

男「携帯を見ながら本を開き、コーヒーが飲めるぞ」

女「あ、それは便利かも」

というお話でした
次はたぶん明日に ノシ

【出題編:背筋に冷たい水を】

カランカラン

男「お、来たな」

女「お邪魔しまーす」

男「お前、彼氏はいないのか」

ゲシッ

女「デリカシーに欠ける物言いですね、訴えますよ」

男「じゃあ今までに……」

ゲシッ

女「過去の男について詮索する所長は嫌いですね、訴えますよ」

男「そ、そこまでか」

女「なんなんですか、一体」

男「怒って……」

女「怒ってません!!」

男「いや、その、最近の事件の動機がさ、恋愛のもつれというかねじれみたいなモンだったから」

女「参考になるかと思って、ですか?」

男「ああ」

女「私にはうまく答えられないかもしれませんけど、面白い事件の話なら、聞きたいです」

男「ある男が浴室で殺されていた」

男「死因は絞殺、のどにロープ状のもので絞められた跡が残っていた」

男「そして、裸で冷水のシャワーを浴びせられていた」

女「ふむ」

男「約束の時間になっても彼氏が来ないものだから、その男の彼女が様子を見に来て、死体を発見した、と」

女「ふむふむ」

男「このシャワーの謎が、おれにはよくわからないものだから、お前に聞きたいな、と思ってな」

女「ふむ?」

女「事件の話は以上ですか?」

男「もっと言おうか?」

女「いえ、じゃあ、自分で解き明かします」

女「男の服はどこに?」

男「部屋に置いてあったようだ」

女「自分で脱いだのでしょうか?」

男「いいや、脱がされたものだ」

女「持ち去られた服やアクセサリーなんかは?」

男「ないな、財布はなくなっていたようだが」

男「ちなみに脱いであった衣服は、パジャマだった」

女「パジャマ……」

女「その事件、季節はいつなんですか?」

男「真冬だ」

女「死亡推定時刻は?」

男「12時から15時頃だ」

男「ちなみに、女が死体を発見したのは16時ごろだったかな」

女「パジャマでそんな時間まで過ごしていたんですか?」

男「グータラだったのかな」

男「コタツの電源が入っていたようだ」

女「でも彼女との約束があったんですよね?」

男「ああ」

女「その約束の時刻っていうのは?」

男「13時だ」

女「彼女の方は、3時間も根気強く待ったんですか?」

男「いや、もともと彼氏を待つ間、女友達と遊んでいる予定だったんだ」

女「じゃあ、おかしいなとは思いつつもその人たちと遊んでたんだ」

男「ああ」

女「で、やっぱりおかしいと思って家に行ってみると、死んでた、と」

男「そうだ」

女「連絡は取っていなかったんですか?」

男「いくら電話をかけても出ないから、おかしいなとは思っていた、と女は言ってる」

女「それ、犯人はまだ捕まってないんですか?」

男「いや、捕まってはいるんだが、その、動機がどうも微妙でなあ」

女「ふうむ」

男「犯人、知りたいか?」

女「え、ええ」

男「どちらを?」

女「はい?」

男「この事件、被害者に関わっている『犯人』と呼べる人物が二人いるんだ」

女「……共犯ですか?」

男「いや、まったくの別々の人間だ」

女「そんなのが、二人同時にいるんですか?」

女「あ、もしかして彼女以外に二股をかけていて、どちらからも殺された、とか?」

男「いや、他に女の影はなかったようだ」

女「実は彼女が殺していたけど、それを知らずにアリバイ証明を手伝わされた女友達、とか?」

男「いや、この女友達は関係なかった」

女「ということは彼女が殺したのは合っているんですか?」

男「いや、彼女の方が関わっているのは事実だが、殺したのは別の人間だ」

女「んん?」

男「彼女が部屋に言った時点で、すでに被害者は死んでいた。それは事実のようだ」

女「だけど、この彼女も、事件に関わっている、と?」

男「ああ」

男「男を殺したのは、押し込み強盗だ」

女「昼間っからですか!?」

男「目立たない場所にある小さなアパートだったからな」

男「そこに侵入したやつが、起きだしてきた男と揉み合いになって殺してしまったんだ」

女「はあ、ついてない人ですね」

男「それで慌てて飛び出したわけだ、財布だけは取っていったようだが」

女「押し込み強盗という割に、やり方がずさんですね」

男「パニックになったんだろうな」

女「で、シャワーを浴びせて、自分の痕跡でも消そうとしたんですかね」

男「いや、違う」

女「犯人の体毛とか汗とかがついたのでは?」

男「違う、そもそもシャワーを浴びせたのは、強盗じゃないんだ」

女「は?」

女「じゃ、彼女が冷たいシャワーを浴びせたんですか?」

男「そうだ」

女「死体を発見した後で!?」

男「そうだ」

女「痕跡を消すとかではなく?」

男「ああ、別の意図があったんだ」

女「えええ、なにそれ、わかんない」

男「男は実際には15時に死んでいる」

男「これは強盗の証言からも明らかだ」

女「はあ」

男「しかし、最初女は『そんなはずはない』と主張していた」

男「いったいなにが都合悪いのか、よくわからないのだが……」

女「その彼女の方はすべて自供しているんですか?」

男「ああ、一応な」

女「で、死体にシャワーを浴びせるっていうのは、なにか痕跡を消すためではない、でしたよね?」

男「ああ」

女「じゃあ、死亡推定時刻をずらしたかった?」

男「……ああ、わかるのか?」

女「少し、わかりました」

女「もしかして、強盗が勢い余って殺してしまった被害者は、その時コタツでパジャマで寝ていた?」

男「ああ、そう供述している」

女「15時の段階で」

男「ああ」

女「体調が悪かったか、ただずっと寝ていたのかは……」

男「わからんが、一部証言によると、前日は夜遅くまで友人と飲んでいたらしい」

女「……なるほど」

男「わかったのか?」

女「理解したくはありませんけど、少し、その女の人の気持ちはわかりますね」

男「……おれには……わからんな……」

女「男の人は、そうかもしれませんね」

また明日、解答編です ノシ

【解答編:背筋に冷たい水を】

女「女の人は、彼氏を待つ間、女友達と遊んでいたと言いましたよね?」

男「ああ」

女「そこには、多少なりともの優越感があったと思うんです」

女「『彼氏が迎えに来たら失礼するから♪』なんて具合に」

男「……ああ」

女「なのに彼氏はいつまでたっても迎えに来ない、連絡しても応答しない」

女「そうなると、女友達は、彼女のことをどんな目で見るでしょうか」

男「……彼氏にすっぽかされた可愛そうな女、か」

女「ええ、それは彼女にとってとてもつらいことだと思います」

女「そして心配と怒りの感情を持ったまま、彼氏の家に行ってみる」

女「するとまだ温かい彼氏の死体」

女「コタツで、パジャマで」

男「……ああ」

女「こいつは私との約束にちゃんと来るつもりなんてなかったんだ」

女「電話も無視して、コタツでグータラ寝てたんだ」

女「私が友達に憐みの目を向けられている間にも、お気楽に」

男「……ふうむ」

女「いいや、そんなことはないはずだ」

女「こいつは私との約束に間に合うように出かけるはずだったのに、強盗に殺されたから来れなかったんだ」

女「そういう思いで、服を脱がせて、シャワーを浴びさせた」

男「……そんな知識があったのだろうか」

女「少なくとも、彼女との約束に出る前にシャワーを浴びているところを殺されたように見せたかったんでしょうね」

女「それが幸運にも、死亡推定時刻を約束前にまで広げる結果となった、と」

男「不幸中の幸いか」

女「素直に約束に間に合うように起きていれば、殺されることはなかったのに」

男「どのみち不幸ではあるな」

女「男女が逆なら、こんな事件は起こらなかったでしょうね」

男「……男には理解しがたい動機さ」

女「……私だって、100%理解できる動機ではありませんよ」

男「しかし君の推理は、女の自供とほぼ同じだったぞ」

女「ふふん、私の推理力をなめてもらっちゃ困ります」

男「優秀な助手になれそうだな」

女「すでに半分助手のつもりですけどね」

女「所長も女に恨まれて冷水を浴びせられるような真似はしないでくださいね」

男「おい! おれはそんなだらしないことはしないぞ!」

女「どうですかね、平気で約束をすっぽかしたりしそうですけど」

男「馬鹿、そんなことねえってば」

女「じゃあ所長、今度の連休、どこか連れてってください」

男「は?」

女「映画なんていいですねえ、おしゃれなカフェとかも行ってみたいですねえ」

男「……え?」

女「はい、約束ですからね!? すっぽかしちゃだめですからね?」

男「……そんな風に言わなくたって、ちゃんと付き合ってやるって」

女「ふふふ♪」

次の事件は、週末あたりかと
ではまた ノシ

【出題編:寝る前に電気を消して】

カランカラン

男「……おう」

女「……」

男「どした? こんな時間に」

女「……」

男「とりあえず、そこ座んな」

女「……」トスッ

男「新しいタオルどこだったっけなあ」ゴソゴソ

女「……」ゴシゴシ

男「傘忘れたんか」

女「……うん」ゴシゴシ

男「……親と喧嘩でもしたか」

女「……うん」ゴシゴシ

女「ごめんなさい、こんな遅い時間に」

男「いいけど、ちょっと心配だな」

女「ごめんなさい」

男「親御さんに連絡入れてもいいか?」

女「……うん」シュン

女「ここに一晩泊まりたいんですけど」

男「……いいけど、ベッドはねえぞ」

女「ソファで十分ですから」

男「……飯は?」

女「食べました」

男「じゃあ、毛布持ってきてやるよ」

女「……はい」

女「所長、こんな遅くまで仕事してるんですね」

男「今追いかけてる事件が難航してるせいでな」

女「私も、お手伝いできることがあれば……」

男「ヤクザ絡みだ、お前には危険すぎる」

女「……所長、そんな事件に首突っ込んで、死んじゃダメですからね」

男「当たり前だろ、危険と思ったらおれはすぐにシッポ巻いて逃げるぞ」

女「……ふふふ」

男「ほれ、毛布」バサッ

男「おれも寝るから、電気消してくれ」

女「え? あれ? 所長もいてくれるんですか?」

男「お前一人にすると危ないだろ」

女「所長と一緒だと危ない、とも言えますね」

男「馬鹿」

女「襲ってくれてもいいんですよ?」

男「馬鹿」

女「……消しますね」カチッ

男「ん」

女「普通こういうとき、電気消すのは男の人の方ですよね」

男「なんの話をしているんだ」

女「私は『恥ずかしいから電気消してね』って言う方ですよね」

男「だからなんの話をしているんだ」

女「……冗談です」

男「……電気にまつわる昔話を思い出した」

男「寝るまでのヒマつぶしにどうだ?」

女「……いつも通りの所長で、ちょっと嬉しいです」

男「昔々、一人で暮らしている男がいた」

男「その日の仕事を終え、疲れていた男は机でうとうとしてしまった」

女「ほう」

男「はっと目が覚め、ベッドで寝ようと起き上がる」

男「トイレに行って用を足し、電気を消して、今度はベッドできちんと眠りについた」

女「ふむふむ」

男「朝目が覚めて、窓の外を見た男はその光景に愕然とした」

男「自分のしでかしたことの重大さに怖くなり、そこを逃げ出してしまった」

女「?」

男「さて、どういう状況だろうか」

女「それって昔の話なんですか?」

男「まあ、現代では起こらないような事件だろうな」

女「その事件の犯人は別にいますか?」

男「この男の他に、という意味なら、いないな」

男「そもそも事件とは言ったが、厳密には事故、かな」

女「事故……ですか」

女「では、その男が起こしてしまった事故であって、故意ではないんですね?」

男「ああ、そうだ」

女「その男は仕事で重大なミスをした」

男「ああ」

女「しかしそれには気づいていなかった」

男「ああ」

男「しかし、朝窓の外を見た時点で、自分のミスに気付いたんだ」

女「仕事の内容が重要ですね?」

男「そうだな」

女「それから、窓の外がどんな状態だったかも?」

男「重要だな」

女「そのミスっていうのは、『仕事のし忘れ』ですか?」

女「それとも『余計なことをしてしまった』のですか?」

男「ううん、難しい質問だな」

女「どちらとも言える?」

男「あえて言うなら、『余計なことをしたために普段の仕事をしていない』状況になった、かな」

女「ううん」

男「ちなみに、おれはこの仕事をしている奴には会ったことがない」

女「珍しい仕事ですか?」

男「そうだな、割と珍しい仕事だろうな」

女「窓の外っていうのは、景色ですか? それとも目と鼻の先?」

男「ベランダほど近くはないが、遠い遠い景色というほどでもない」

女「誰かが死んでいた?」

男「ああ、死者もいた」

女「も?」

男「けが人もいた、ということだ」

女「ああ、なるほど」

女「たくさんの被害があった?」

男「ああ」

女「その仕事を放り出して逃げ出すほどの?」

男「逃げ出すほどの大惨事だ」

女「その人たちは、男のせいで死んだりけがしたりしたわけですね?」

男「ああ」

女「男がうたた寝をしてしまったことも影響している?」

男「だろうな」

男「普通にしていれば、あんなミスは起こさなかっただろう」

女「……うたた寝の後に、男は致命的なミスをしたわけですね?」

男「そうだ」

女「……」

男「わかったのか?」

女「あと一つだけ」

女「その男の仕事場というのは、海辺にありましたか?」

男「正解だ」

女「ふふふ、クイズみたいな事件でしたね」

男「今なら、起こりえないような事件だろ?」

女「そうですね、きっと」

さてさて、男の仕事はなんでしょうか
というわけでまた明日です ノシ

【解答編:寝る前に電気を消して】

女「男が窓の外を見ると、衝突して打ち揚げられている船があったんですね」

男「ああ、それも大量に」

女「トイレの後に消してしまった電気というのは、トイレのではなかった」

男「そう、寝ぼけてか間違えてか、『仕事』の電気も消してしまったんだな」

女「そのせいで船が目印を見失い、岸にぶつかってしまった、と」

男「音で起きなかったのかね」

女「男の仕事は、つまり、『灯台守』ですね?」

男「そういうことだ」

女「今もいるんですかね?」

男「多くは機械が自動で仕事をしてるだろうよ」

女「確かに、私もそんな職業の人とは会ったことありませんね」

男「ゼロってことはないだろうけどな」

女「悲しい事故ですね」

男「間抜けな事故とも言えるぞ」

女「船の人からしたら冗談じゃありませんけどね」

男「灯台は船乗りの大事な道しるべだからなあ」

女「ふう、すっきりしたので、安心して寝れそうです」

男「だからちょっと簡単な事件にしたんだ」

女「所長、いびきかかないで下さいよ?」

男「おれは大丈夫だよ」

女「おれ『は』ってどういうことですか?」

男「いびきかく女はちょっとね……」

女「むむう、可愛い寝息しかたてませんからっ!」

男「それはそれで困る」

女「うふふ」

男「……」

女「……」

男「ケンカの原因はなんだったんだ?」

女「……」

男「言いたくないなら、いいんだが」

女「進路のことで、ちょっと」

男「……そうか」

女「はい」

男「じゃあなおさら、ここに来ていることは良くないんじゃないか?」

女「……へへ」

男「大学にちゃんと通って、世間を知って、それから助手をするのも悪くないと思うぞ?」

女「……ええ」

男「大学に通いながら、今と同じように遊びに来てもいいし」

女「……ええ」

男「大学には若くて元気な男もたくさんいるし」

女「また、そういうこと言う」

男「冗談だよ」

女「悲しいからそういう冗談はなしで」

男「へいへい」

女「短大にします」

男「……いいのか?」

女「4年も学費払ってもらうのは悪いし」

女「2年のうちにたくさん資格とか取って、探偵に役立つ技術を……」

男「例えば?」

女「栄養士の資格とか」

男「探偵に必要あるか?」

女「この探偵事務所に必要かと」

男「……なるほど」

女「ちゃんと食べてないでしょう?」

男「助かるよ」

女「うふふ」

女「ちょっと話したらすっきりしました」

男「そりゃあよかった」

女「明日、それ言って、仲直りします」

男「そうしな」

女「面白い事件のこと、また教えてくださいね」

男「受験勉強に差しさわりのない範囲で、な」

女「……もちろん」

男「なんだ、その間は」

女「なんでもありません」

男「……ほれ、もう寝るぞ」

女「……はあい」

女「おやすみなさい」

男「……ん」

気づけば次が10編目ですね
どこまでいけることやら ノシ

【出題編:壁に穴あり】

女「所長、この部屋って殺風景ですよね」

男「探偵事務所がきらびやかだったら気持ち悪いだろう?」

女「いや、きらびやかにする必要はありませんけどね、なんか飾りましょうよ」

男「絵とか? 壺とか?」

女「壺って……」

男「花とか?」

女「んー、なんか、探偵っぽいもので」

男「探偵っぽいものなんてあるか?」

女「聖書の中に銃を隠すとか」

男「テレビの見すぎだ」

女「壁に絵とか、いいかもしれませんね」

男「小さめで地味なやつなら、まあ」

女「なにか探してきましょうか?」

男「……知りあいに美術鑑定士がいるから、そいつに頼んでみようかな」

女「センスのいいやつ、頼みますよ」

男「金がかかるなあ」

女「安物でいいですから、ちょっと飾りましょうよ」

男「絵か……美術館の事件があったな、そういえば」

女「お、ということは、怪盗ですね?」

男「近いような違うような」

女「どんな事件ですか?」

男「知り合いの刑事が、いてな」

女「はあ」

男「××って国出身の刑事なんだが、その国の名前、知ってるか?」

女「初めて聞きました」

男「まあ、小国だしな」

男「昔一緒に働いていた同僚で、日本語も得意だったんだが、その国に帰ることになったんだよ」

女「はあ」

男「そのタイミングで、研修をしてほしいと頼まれてな」

男「一か月ほどその国に行ってたんだ」

男「他には日本語をしゃべれるやつがいないから、ほとんどその刑事から通訳してもらってたんだが」

女「実際にその国で起こった事件ですか?」

男「ああ、おれの目の前で起こった事件だ」

女「ほうほう」

男「ある郊外の美術館に、侵入者があったらしい」

男「夜中に不審な車が出てくるのを目撃した警備員が通報し、中を確認したんだ」

女「警報とかは鳴らないんですか?」

男「セキュリティについては、少々甘い美術館だった」

男「まあ、それほど最先端技術は使われていない国だからな」

女「ははあ」

男「それで警察が中を調べてみると、一つの部屋の壁に『穴』が見つかった」

女「穴?」

男「直径が約10センチ、深さは約60センチ」

女「なるほど、『壁に穴あり』ですね」

男「は?」

女「障子に目はありましたか?」

男「障子なんてものがある国じゃないよ」

女「冗談です」

女「直径ってことは、円形ですか?」

男「ああ、円柱型の穴だ」

男「その穴の付近には水が流れており、壁際を濡らしていた」

女「その穴は美術館の外まで貫いていましたか?」

男「いや、壁の途中までしか開いていない」

男「さて、侵入者がこの穴を開けたのはなぜだろうか」

女「……」

女「その穴は、部屋の内側に開いていたんですよね?」

男「ああ」

女「侵入の為の穴ではない、ということですよね?」

男「そうだ」

男「別の経路から侵入したのち、この部屋に入り、穴を開けている」

女「美術品をその中に隠すため?」

男「違う」

女「あ、爆弾でも仕掛けようと思ったんじゃないですか?」

女「でも時間が足りなくて、穴を開けただけで逃げてしまった」

男「違う」

男「爆弾を仕掛けるなら柱の近くにするだろうが、この穴は壁の真ん中あたりにあった」

女「ううむ」

女「その部屋の美術品に、盗まれているものは?」

男「なかった。美術館の唯一の被害が、この穴だったんだ」

女「その『水』ってのは重要ですか?」

男「うーん、重要ではないかな」

女「穴から出てきた水ですか?」

男「いや、違う」

女「穴を開けたのはドリルかなにかの機械ですか?」

男「そうだ」

女「あ、じゃあ、ドリルの刃を冷やす冷却水かなにかですか?」

男「そう、その通り」

男「トイレからホースで水を引いてきて、その水がこぼれていたんだ」

女「じゃあ結構大がかりですね?」

男「犯人は複数犯だった」

女「証拠品は残ってない?」

男「ああ、きれいに片づけて帰っている」

女「えーと、犯人たちの目的は達成されていないんですか?」

男「いや、達成されているんだ」

女「でも、穴は途中までしか開いてないんですよね?」

男「ああ」

女「穴の外側の方の壁に異常は?」

男「特になかった」

女「壁自体、厚さはどれくらいですか?」

男「1メートルといったところかな」

女「そのうち60センチくらい掘って、目的は達成された?」

男「ああ」

女「その穴を開けること自体が目的だったんですか?」

男「……少し違う」

女「その場所であることが重要?」

男「この建物、という意味なら正解だ」

男「この壁でなくても良かった。例えば隣の壁でも」

女「侵入でもない、脱出でもない」

男「ああ」

女「あ、がれきはどこに?」

男「犯人が持ち去っている」

女「ひとかけらも残さず?」

男「ああ、現場にはコンクリート片はほとんど残されていない」

女「あの、ドリルって詳しくないんですけど、大きな音が出ますよね」

女「飛び散ったがれきと機械を片付けて出るのも、急がないと大変ですよね」

女「やっぱり作業中に中断して逃げてったって印象を受けるんですけど……」

男「一つ、この作業には、君が想像するような大きな音は出ていない」

女「え?」

男「二つ、機械はともかく、がれきを片付けるのにそれほど時間は取られない」

女「え?」

男「コンクリートを粉々にするタイプのドリルだと、大きな音がする」

男「がれきの撤去も大変だ」

女「はあ」

男「しかし、ここで使われたタイプのドリルはそうではない」

男「つまり、粉々にするのではなく、そのまま取り出せるタイプの物だった」

女「はい?」

男「つまり、円柱形のコンクリートが作れるんだ」

女「……それを抱えて逃げればいいだけ、と」

男「ああ」

女「え? でも貫通してなかったんですよね?」

女「奥でつながっているのでは?」

男「くさびを入れて叩けば、案外簡単にぽきっと折れるそうだ」

女「はあ」

男「このタイプの物は、音も小さめだそうだ」

女「はあ、じゃあ、一気にさっきの疑問は解決ですね」

男「ああ」

女「作業途中で逃げだしたのではなく、目的を果たして逃げた、と」

男「そう言っているじゃないか」

女「いえ、ちょっと納得できた、ということです」

女「穴を開けるのが目的ではない」

女「ということは、このコンクリートの円柱を持ち出すことが重要だった?」

男「そうだ」

女「そのコンクリートの中に、高価な宝石でも埋まっていたのですか?」

男「いや、違う」

女「ただのコンクリート?」

男「ああ」

女「そのコンクリートに価値がある?」

男「む」

男「価値とはなんだ?」

女「えっと、金銭的な価値」

男「それはない」

女「芸術的な価値?」

男「それもない」

女「でもなんらかの価値はあるわけですか?」

男「わざわざ侵入して持ち帰っているくらいだからな」

男「犯人たちにとって必要だったんだ」

女「そのコンクリートを持って帰ることで、誰かが金を得る?」

男「いいや」

女「誰かが出世する?」

男「いいや」

女「それ自体を欲しがっている人がいる?」

男「それも難しい質問だな」

男「コンクリート自体ではなく、このコンクリートの中の情報が重要なんだ」

女「情報……ですか……」

男「それを欲しがっているやつがいたんだ」

女「もしかしてその美術館というのは、最近できたものですか?」

男「ちょっと違う」

女「少し前までは、違う施設だったのを、作り変えた?」

男「そう、正解だ」

女「それは国の施設だった?」

男「ああ、どんどん近づいているな」

女「ある事実を隠そうとして、大急ぎで美術館に作り変えたものだった?」

男「ああ、そうだ」

女「犯人は隣国のスパイ? あるいは国家転覆を企むものですね?」

男「そう、おそらく後者が正解だろう」

女「犯人を知らないのですか?」

男「すぐにその国にいられなくなったからな」

女「どうして?」

男「クーデターが起こったからさ」

女「……同じ事件が日本でも起こったら、大問題になりますね」

男「ああ、この国で起こったとしたら、確かにそうだろうな」

さてさて、コンクリートを持ち去った理由はなんでしょか
また明日です ノシ

【解答編:壁に穴あり】

女「その美術館は、もともと軍の施設だったんですね」

女「それも、極秘の核実験施設」

男「ああ」

女「それをどこからか嗅ぎ付けたグループが、核保有の証拠を掴もうとして侵入した」

男「そうだ、あんな小国がこっそり核開発をしていたと知られたら、問題になる」

女「だから隠そうとして、美術館にしてしまった」

女「でも作り変えても意味はなく、犯人グループは美術館に侵入」

女「そして、証拠としてコンクリートの塊を持ち去った」

女「放射線の反応は、コンクリートに残りますもんね」

男「ああ、それを持ち去って調べれば、証拠が出ると考えたんだろう」

女「事実、その証拠が出たんですね」

男「ああ、それでクーデターが起こった」

女「怪盗かと思えば、とんでもない国家的事件じゃないですか」

男「ああ、その場に居合わせたのは運がいいのか悪いのか」

女「悪いに決まってますよ」

男「やっぱり、核兵器など持たない国がいいな」

女「そうですね」

男「こんな話を知っているか?」

女「なんですか?」

男「宇宙人が地球にやってきてこう言うんだ」

男「この星は兵器を多く持ちすぎている」

男「それを使って宇宙を侵略しようと企んでいるんだろう」

男「危険なので、その前に滅ぼすことにした、と」

女「はあ」

男「地球人は答える」

男「この兵器は国同士争い、牽制しあうために持っているのであって、宇宙侵略なんて考えていません」

男「宇宙人は一言、そんな話が信じられるか」

男「そして滅ぼされる地球、でしたとさ」

女「ブラックな話ですねえ」

男「客観的に見れば、確かにそうかもな、と」

女「明らかに量が多いですもんね」

男「さて、平和な絵でも飾ることにしようか」

女「例えばどんな絵ですか?」

男「白鳥、あるいはハトが羽ばたいている」

女「ありがちですね」

男「地球に羽が生えている、とか」

女「学生の課題レベルですよ、それ」

男「夕日が沈む海辺……」

女「あ、それはロマンチックでいいかもですね」

男「じゃ、それで」

女「都合よくそんな絵が見つかるんですか?」

男「また今度来た時をお楽しみに」

みなさんさすがです
眉唾ですが、コンクリートは1000年経っても放射線を発し続けるとか言いますもんね

ではまた ノシ

【出題編:テロリストの私刑執行】

カランカラン

女「こんにちはー」

男「おう、いらっしゃい」

女「お、来てますね、絵」

女「あれ?」

男「……」

女「こっちの海辺の絵はいいとして、こっちの絵は拳銃じゃないですか」

女「平和には程遠い絵じゃないですか」

男「よく見てみな、弾丸が入っていない」

女「だからって……」

男「撃鉄も起きていない」

男「銃口にはコルクが詰められている」

女「……」

男「こんなものでは武器にはならない、世界は救えない、という風刺の絵だよ」

女「ううむ、なるほど」

男「探偵社には向いているだろう?」

女「わかりました、納得しました」

女「今日はなにか、事件がありましたか?」

男「特にないなあ」

女「じゃあ、海辺とか拳銃にまつわる事件は?」

男「拳銃が出てくる事件なら、あったなあ」

女「あ、じゃあそれ、教えてください!」

男「お前、短大に進むんだろ? 勉強はいいのか?」

女「話が終わってからします!」

男「やれやれ」

男「事件があった場所は小さな廃ビルの地下室だ」

男「事件に関わっていた人間は5人」

男「いずれも、とあるテロ集団の一員だ」

女「テ、テロですか!? 穏やかじゃないですね」

男「まずA、こいつはテロ集団の親玉で、かなり頭が切れる」

男「しかしドンと座って指示を出すカリスマというよりは、前線で暴れたいタイプだな」

女「はあ、頭の切れる暴れん坊とは厄介ですね」

男「次にB、こいつは参謀」

男「割と冷酷で、Aのそばについて離れない存在だったようだ」

女「ふむふむ」

男「続いてC、こいつは新入りで、人生にあまり執着しないタイプだ」

男「場合によっては鉄砲玉的な使い方をされたかもしれんな」

女「はあ、極道みたいですねえ」

男「それからD、こいつも新入りで女子大学生だ」

女「そんな人もテロ集団に!?」

男「人生に楽しみを見いだせられなかったタイプだな」

女「はあ、そんなもんですか」

男「最後にE、こいつが被害者だ」

男「もともとこのテロ集団の思想についていけないところがあって、新聞社に情報を売っていたのがバレたんだ」

女「あらら」

男「地下室にはこの5人がいた」

男「椅子に縛り付けられているE、拳銃を持っているA」

女「ひい」

男「それを取り囲むB、C、D」

男「裏切り者のEを処刑する、という場だったんだ」

女「部下にやらせる、とかではなかったんですね」

男「ああ、この時拳銃を握っていたのはボスであるAだった」

男「最後にワインが飲みたい、とEが言い出した」

男「Aは『それくらい叶えてやろう』と言い、新入りであるCとDにワインを取りに行かせた」

男「Cがワインを、Dがグラスを持ってきて、Eの目の前で注ぎ、飲ませてやった」

女「飲ませてあげたのは誰ですか?」

男「Bだったらしい」

女「Bは女性?」

男「ああそうだ、言い忘れていたかな」

男「するとEは突然むせて苦しみ出し、のたうち回り、血を吐いて死んだ」

女「……ひどい」

男「その場にいた全員が驚いたそうだ」

男「Aは取り乱し、『誰だこんなことをしたのは!?』と叫んだ」

男「Bは『ワインかグラスに毒が入っていたんだわ!』とCとDを睨んだ」

男「Cは苦しそうな表情で『そんな馬鹿な! 畜生!』と叫んだ」

男「Dは肩を抱いて震えていたそうだ」

男「さて、誰がEを殺したのか」

男「そして、この男を殺した理由はなんだろうか」

女「ううん、死刑囚の事件と似ていますね」

女「どのみち死ぬはずだったEをわざわざ毒で殺した、というのがそもそも変です」

男「ちなみに付け加えておくと、Aは実はEを殺すつもりではなかったんだ」

女「はい? だって処刑の場だったんですよね?」

男「Eが死んだのち、CとDに銃の中を見せたそうだ」

男「弾は入っていなかった」

男「『見ろ! おれは殺すつもりはなかったんだ! お前たちの忠誠心と精神力を見るための茶番だったんだ!』と」

男「つまり、その処刑のプレッシャーを感じさせ、テロ集団の一員として働けるかの力量を見るつもりだったんだな」

女「CとDは新入りだった、と言ってましたもんね」

男「そのことはBももちろん知っていた」

男「だからAとBは殺す動機がない、と主張していたそうだ」

女「誰がですか?」

男「本人たちさ」

男「AとBは『犯人はCかDだ』と決めつけ、二人を閉じ込めて先に逃げたんだ」

女「つまり、CとDだけが捕まったんですか?」

男「捕まったというか、事情聴取だな」

女「つまり、その二人の主張を信じるのならば、CかDのどちらかがワインに毒を盛り、Eを殺したということになりますよね」

男「ああ」

女「でもBは? Bなら毒を盛るチャンスはあったんじゃないですか?」

男「そうだな、不可能ではなかった」

女「例えばEが死なないことを知っていて、E個人に恨みがあって……」

女「ううん、でもBは逃亡しているんですよねえ」

男「ああ、もうネタを割ってしまうが、犯人はCかDのどちらかだ」

男「ヒント多めにしてやろうか?」

女「ちょっと悔しいですけど、そうですね、情報が少なくて難しいですね」

男「ワインは残り少なかったから、もう瓶の中に残っていなかったんだ」

男「そのせいで、ワインの瓶かグラスか、どちらに毒を入れたのか解明できなかった」

女「つまり、毒の混入経路からは犯人を断定できないと」

男「ああ」

女「毒はそもそもなんだったんですか?」

男「青酸カリだ」

女「よくあるやつですね」

男「いやいや……」

女「小説によく出てくるやつですね」

女「毒の購入経路は?」

男「テロ集団の使っていたPCから、ネット取引が使われた痕跡は見つかっている」

女「PCが見つかっているんですか?」

男「というか、そもそもこの廃ビルを根城にしていて、PCが残されていたんだ」

女「持って逃げなかったんですねえ」

男「AとBも鬼畜ではなかったんだ」

男「すぐに警察と救急車を呼べば蘇生の可能性もゼロじゃないと判断し、すぐに逃げて、すぐに通報しているんだ」

女「はあ、鬼の目にも涙、みたいな」

男「まあ、その通報もむなしく、Eは死亡してしまったわけだが」

女「とりあえず犯人は、Eを殺すために毒を入れた、それは間違いないんですか?」

男「ああ」

女「間違いだったとかではなく?」

男「ああ、明確に『Eを殺す』ために毒を入れた」

女「Eを殺す動機があった?」

男「いや、なかった」

女「……え?」

男「Eに対する殺意はなかったんだ」

女「あれ?」

女「じゃあどういうことになります?」

女「Eはとばっちりで殺されたんですか?」

男「そうとも言える」

男「しかしこの場でEの飲むワインに毒を入れているんだ」

男「殺す動機はないが、実際に殺しているわけだ」

女「うーむ、難しいです」

男「もう少しヒントをあげようか」

女「ええ」

男「犯人は青酸カリを購入したつもりはなかったんだ」

女「……ただ漠然と毒物を購入したってことですか?」

男「それも違う」

女「販売した側は、なにかを売ると偽って青酸カリを売っていた?」

男「そう、それだ」

女「犯人は別の物のつもりで青酸カリを購入してしまい、使ってしまった」

男「ああ」

女「Eが死んだことは、犯人にとって予想外のことだった?」

男「いや、死ぬこと自体は予想の範囲内だった」

女「あれえ?」

男「Eを殺すために毒を入れたって言っただろ」

男「整理するぞ」

男「一つ、犯人は毒を入れることでEが死ぬことを予想していた」

男「二つ、犯人は毒物を『青酸カリ』だと理解して購入したわけではなかった」

男「それから三つ目の情報、犯人は毒物を『本来は別の目的のために購入していた』」

女「え?」

男「つまり、Eを殺すために購入したのではない」

男「違う目的のために購入し、しかしこの場面で突発的にEに使用したんだ」

女「……」

女「これは、予行練習のようなものだったんでしょうか」

男「……そうだ」

女「処刑が茶番だと知っていれば、こんなことは起こらなかったんでしょうね」

男「……そうだな」

女「もしかして、片方はこれが茶番劇だって知っていたんじゃないですか?」

男「鋭いな」

男「実はDは、AとBが話しているのを盗み聞きしてしまっていたんだ」

女「なるほど」

男「どうしてそれがわかった?」

女「それがあれば、犯人の断定がしやすいですから」

男「……なるほどね」

前の死刑囚毒殺の事件と似ていますが、今回は果たして……?
また明日です ノシ

あれ、予行演習? 予行練習?
間違えたかもしれません

【解答編:テロリストの私刑執行】

女「Dは処刑が茶番だと知っていた」

女「となれば、犯人は必然的にCですね」

男「そうだ」

女「Cは人生にあまり執着しないタイプって言ってましたよね?」

男「ああ」

男「お前は直前に聞いた話を忘れるかと思えば、細かいところをよく覚えていたりするな」

女「う、うるさいですね」

女「とにかく、Cは死を恐れていなかった、と」

女「しかし、どうせなら楽に死にたいですよね」

女「のたうち回って血を吐いて死ぬなんてまっぴらですよね」

男「そりゃそうだな」

女「だから、ネットで『自分で使うために』『安楽死の薬』を買ったんですね」

女「正確には、買ったつもりだった」

男「ああ、そうだ」

女「これを使えばいつでも楽に死ねる」

女「だけど本当に安楽死だろうか、一回試せばそれで最後だ」

女「お、ちょうど処刑されるやつがいるぞ」

女「どうせ死ぬんだろうから、こいつで試してみよう」

男「ははは、見てきたようだな」

女「そんな気軽なつもりで、Eのワインに毒を混入したんですね」

男「むしろ、銃で撃たれて死ぬよりも楽に死なせてやろう、とEの為を思って毒を入れたかもしれないな」

女「結果、本当は処刑なんか行われなかった、ということ」

女「安楽死どころか、とても苦しんで死ぬEの様子」

男「それを見たら言いたくもなるよな」

女「『そんな馬鹿な! 畜生!』でしたっけ」

男「言葉に如実に表れていたな」

女「なんにせよ、Eは災難でしたね」

男「テロ集団なんかに関わったばかりに、だから自業自得とも言えるが」

女「怖いですね、テロには参加しないことにします」

男「当たり前のことを改めて言われると、ちょっと怖いな」

女「人の命を簡単にどうこうしようだなんておこがましいと思うんですよね」

女「『どうせ処刑されるんだから』と、その命の終わりを自分が好きにするなんて、身勝手にも程がありますよ」

男「そうだな」

女「自分で好きにしていいとしたら、自分の命だけです」

男「なんだ? 自殺賛成論か?」

女「そこまでは言いませんが」

男「牛や豚の命は?」

女「食べるための殺生はいいと思いますよ?」

女「問題は『殺す』ことが目的の場合ですよ」

男「なるほどね」

男「若いなりにいろいろ考えてるんだ?」

女「なんか一言多い気がしますけど」

男「悪意ある事件や不条理な事件に、仕事柄多く出会う」

男「だけど多くは自分の近くで起きたものじゃないんだ」

女「はあ」

男「それは不幸中の幸いと言えるかな」

女「身近で起こらなければいい、という考えですか?」

男「いいや、事件が散らばっているということは、ずっと悲しい思いをしている人間は少ないと思えるからさ」

女「ハードボイルド探偵は、いつもいつも事件に巻き込まれていますけど?」

男「現実にはそんな疫病神がいなくていいじゃないか」

女「まあ、そうですけど」

男「お前を雇っても、いつも危ない事件が起こっていたら心配になるだろ?」

女「あら、心配してくれるんですか」

男「事件なんてものは、起こらない方がいいに決まっているんだ」

女「ここ、つぶれちゃいますよ?」

男「迷子犬を探し続けるだけの探偵社でも、いいだろ」

女「あはは、そうですね」

という感じでした
安楽死を望む人は多いと思いますが、現実はそう甘くないわけで

また週末に ノシ

【出題編:悪魔からの手紙】

カランカラン

男「いらっしゃい」

女「所長、メール見てくれなかったんですか?」

男「メール?」

女「ほら、もう、携帯置きっぱなしだし」

男「ああ、すまんすまん、なんか急ぎの用だった?」

女「別にー」

女「アイス買って行きますけどバニラとチョコどっちがいいですかーっていうメールです」

男「え!? バニラ! 断然バニラ!」

女「いまさら言っても遅いですよ」

男「え、チョコでも嬉しいけど、うん、別に、うん」

女「返事なかったんで、私の分しか買ってきませんでした」

男「……え?」

女「さあて、美味しい美味しいアイス食べましょ、一人で、うふふ♪」

男「……」

女「うそです、はい、所長の分のバニラ」

男「!」

男「い、いやあ、悪いねえ」ニコニコ

女「所長、やっぱりハードボイルドには程遠い探偵ですよね」

男「んー、美味しいなあバニラ」ニコニコ

女「まあそういうところが可愛いんですけども」

女「でも、メールはちゃんと見ないとだめですよ?」

男「死にゃあしないよ」

女「損しますよ?」

男「うん、それはちょっと、反省した」

女「まったく……ずっと携帯見てる大人も気持ち悪いですけど、全く見ないのもちょっとね」

男「そうだ、メールを読んで死ぬ人間はいないが、手紙を読んで死ぬ人間はいると思うか?」

女「はい? 読まなくて、じゃなくて?」

男「そう、手紙を読んで死んだ人間の話だ」

女「それ、興味あります」

男「じゃあ話そうか」

男「ある男の家に手紙が届いた」

男「男はそれを開封し、読んだ」

男「その手紙を最後まで読んだ後、男は死んでしまった」

男「さて、なぜ、男は死んだのだろうか」

女「え、それだけですか?」

男「それだけだ」

女「手紙を読んだ後、寿命で死んだとかいうオチじゃありませんよね?」

男「違うよ」

女「手紙を出した人間は、イコール男を殺した犯人ということですか?」

男「そうだ」

女「事故や過失ではなく、その男を殺す目的で手紙を出した?」

男「そういうことだ」

女「えー、手紙で死ぬってどういうことなんでしょう……」

女「あ、男はなにか心臓の病気を抱えていたとか?」

男「いや」

女「じゃあ肺とか脳とか?」

男「死につながる病気を抱えていたという事実はなかった」

女「んんー、なんか驚愕の手紙を読んで心臓発作を起こしたとかを想像したんですが」

男「違うな」

女「どんな死に様ですか?」

男「それは推理してみなさい」

女「その場に犯人はいましたか?」

男「いや」

女「被害者の男だけがその場にいたんですか?」

男「ああ」

女「自宅に手紙が届いたんですか?」

男「そうだ」

女「それは、もし自宅でなければ死ななかった?」

男「いや、そんなことはないかもな」

男「ただ、もし人がたくさんいる中でこの手紙を開いていたら、助かっていたかもしれないな」

男「ただ残念ながら彼は一人暮らしだったし、お手伝いの女性もいたが週に一回しか通っていなかったんだ」

女「それは、他の人が近くにいれば、助けてくれていたかも、という意味ですか?」

男「そうかな」

女「一人だったから死んだ可能性はある?」

男「少し、ある」

女「ふうむ」

女「毒の粉末かなにかを仕込んでおいて、開けたら飛散して吸い込んで中毒死、というのはどうです?」

男「うむ、違うけど近いな」

女「近いんですか」

男「手紙を読み終わったあと、死んだんだ」

男「そこが重要」

女「呪いの言葉でも書いてあったんですかね?」

男「まあ、近いかな」

女「お前を殺すぞ! みたいな言葉ですか?」

男「ああ、そういうことが書いてあった」

女「例えばその手紙は、他の人物に送っても同じように死にますか?」

男「死なないだろうな」

男「いい発想だ」

女「お、なるほどなるほど」

女「この人だったからこそ、効く手紙だった、と」

男「そうだ」

女「それは心理面で? それとも物理面で?」

男「物理の方だな」

女「ほうほう」

女「毒で死んだ、というのは間違っていますか?」

男「いや、それだけだと合っている」

女「粉末が飛んだのは、違う」

男「違う」

女「男は実は黒ヤギさんで、手紙を食べて毒が回って死んだ」

男「違う」

女「冗談です」

女「あ、嫌がらせの手紙ってありますよね?」

女「例えば剃刀が入っていたりするやつ」

男「受け取ったことはないけどね」

女「あれみたいに、なにか刃とか針とかを仕込んでいたというのはどうでしょう?」

男「そう、正解だ」

男「手紙に小さな針がついていて、そこに毒が塗ってあった」

女「じゃあ、それで毒が体に入り、死んでしまったということですか?」

男「そうだ」

女「あれ? じゃあ他になにか謎が?」

男「あと一つ、足りないな」

さてあと一つ、この事件に隠された真実はなんでしょうか

【解答編:悪魔からの手紙】

男「なぜその男が死んだか、だ」

男「他の人間に送っても死なないと言っただろう」

女「あ、そうか、その人だから死んだっていうことは……」

男「普通手紙に針がついていたら、『見て』すぐにバレてしまうだろう」

男「見えないほど小さなものでは効果が薄いだろうし、そこをちゃんと触るかどうかもわからない」

女「……その男は、盲目だったんですね?」

男「そうだ」

女「その手紙は、点字で作られていたんですね?」

男「そうだ」

女「手紙を読み終わったら死んだって言っていましたよね」

女「つまり、点字の最後の部分に針を仕込んでいた?」

男「そうだ」

女「遠隔殺人ってやつですか」

男「犯人は男が盲目で、一人で手紙を読むことを予測できていたんだ」

女「犯人は捕まっているんですか?」

男「いや、まだ捜査中だったはずだ」

女「手紙に証拠が残っていなければ、犯人を断定するのは難しいでしょうね」

男「恐ろしい仕掛けがあったもんだ」

女「これはメールでは不可能な方法ですね」

男「ああ」

女「現代人はメールにばかり頼るけれど、私は手紙の手作り感は好きでした」

男「年賀状なんかも年々減る一方だからなあ」

女「あれ、所長、年賀状なんて出すタイプなんですか」

男「探偵社の宣伝も兼ねているからな」

女「なるほど」

女「うかつに手紙を開けるのは怖いかもしれませんね」

女「探偵社なんてやっていたら、どこかで恨まれているかもしれませんよ?」

女「いつか捕まえた犯人から、とか」

男「そんな心配はないかなあ」

女「どうしてですか?」

男「舞い込んでくる仕事は基本的には他愛ないものが多いし」

女「はあ」ガッカリ

男「おれが暴いた重大事件の犯人は、5年や10年では出てこないよ」

女「……」キュン

男「その効果音はおかしくないか?」

というお話でした
何人か真相に辿り着いた天才がいますね ノシ

【出題編:森林の溺死者】

女「暑いですねえ」

男「ああ」

女「クーラーあんまり効いてませんねえ」

男「ああ」

女「プールとか、行きたいですねえ」

男「泳ぐのは好きなのか?」

女「ええ、わりと」

女「所長は泳げますか?」

男「まあ、泳げても泳げなくても人生に差異はない」

女「泳げないんですか?」

男「そうは言ってない」

男「溺死というのは、数ある死に方の中でもかなり苦しい方だろうな」

女「息ができないというのは怖いですよねえ」

男「そんなところにわざわざ行くこともない」

男「おれは優雅に暮らして老衰でひっそりと死にたい」

女「所長らしいですね」

男「そうかな」

女「やっぱり泳げないんですね?」

男「そうは言ってない」

男「森林で死んでいた男がいたんだ」

女「あれ、話を逸らしましたね?」

男「まあ聞け」

男「その男は森林のど真ん中にいたんだが、溺死していたんだ」

女「ほほう」

男「その付近に池や川はなかったし、もちろん海からも遠く離れている」

男「さて、その男はなぜ溺死したのだろうか?」

女「変なシチュエーションですねえ」

女「えっと、その男は登山客でしょうか?」

男「うーん、少し違う」

女「持ち物に水筒などはありましたか?」

男「いや、付近には特に持ち物はなかった」

男「もともとは持っていたかもしれないがな」

女「それは、持ち去られたということですか?」

男「いや、違う」

女「ん?」

女「溺死ということは肺に水が溜まっていたということですよね?」

男「ああ」

女「それは海水でしたか?」

男「いいや、海水ではなかった」

女「ただの水?」

男「ああ」

女「体は水に濡れていましたか?」

男「そうだな、びしょ濡れだった」

女「服装は?」

女「普通の服ですか?」

男「そうだな、まあ普通の服と言っていいかな」

女「男が死んだ場所は、その発見された場所と同じですか?」

男「いや、違う」

女「犯人によって、その場所に運ばれたのですか?」

男「……違うな」

女「え?」

男「先に言っておくが、これは殺人事件ではない」

女「事故ですか? 自殺ですか?」

男「事故だな」

女「事故死であっても、死んだのが違う場所なら、移動してきた手段が必要ですよね」

男「そうだな」

女「誰かが好意で男を運んだのですか?」

男「いや、違う」

女「なにかを隠すため、運ばれた?」

男「それも違う」

男「男を運んだのは、意図的ではなく、偶然が重なった結果だったんだ」

女「偶然が重なった事故……」

男「そう、不運が重なった結果、わけのわからない状況になってしまったんだ」

女「森林ってことは、基本的には山ですか?」

男「そうだな、そんなに大きな規模ではないが」

女「池や川はなかったんですよね?」

男「ああ」

女「でも、ダムはあった?」

男「ああ、ダムがあった」

女「男はもともとそこで死んだ?」

男「ああ、正解だ」

女「釣りにでも来ていたんですかね?」

男「おそらくな」

女「そこで足を滑らせて、ダムに落ちて、溺死してしまった」

女「それなら確かに事故です」

男「そうだ、しかしどうして森の中へ来たのか」

女「所長はもう、その謎を解いたんですよね?」

男「ああ、100%の確信はなかったがな」

女「その死体が発見される前、その山で、火事が起きましたね?」

男「おお、よくわかったな」

女「これって、かなり確率の低い偶然が重なっていますよね?」

男「はは、そうだな、確かに、宇宙的確率だ」

女「天文学的と言いたかったんでしょうか?」

男「そう、それそれ」

さて、男を運んだ偶然とは?
また明日です ノシ

【解答編:森林の溺死者】

女「ダムへ釣りに来た男は、ダムに転落して死んでしまった」

女「それだけなら、男はダムに浮かんでいるはずです」

女「でもそうならなかった」

男「そう、偶然が重なった」

女「溺死のあとどのくらい経ってからか、すぐかはわからないけれど、山火事が起きた」

女「そこは消防車が簡単には入っていけない場所ですね?」

男「ああ、山の奥だったからな」

女「だから出動したのは、消防ヘリ、そうですね?」

男「正解」

女「あれって、やり方は色々あるけどダムから給水したりするんですよね?」

男「ああ」

女「ホースだと入らないだろうから、大きなバケツ型ですかね?」

女「不運なことに、男の死体がその時給水されてしまったんですね」

男「ああ、おそらくな」

女「そのまま火事現場にヘリは飛び、水とともに森の中へ落とされてしまった」

女「その結果、森の中に溺死死体があるという状況になってしまったと」

男「消防隊員は気付かなかったのか、という謎が残るがなあ」

女「それだけ緊急の対応が必要な規模の火事だったんでしょうか」

男「山火事の中心地で溺死体を発見した人はびっくりしただろうな」

女「何事かと思ったでしょうね」

男「ま、泳げても泳げなくても、死ぬときは死ぬんだよ」

女「なんかそれ、無理やりこじつけてませんか」

男「おれは釣りもしないし、船にも乗らない」

女「飛行機にも乗らない?」

男「……それは……」

女「あーあ、所長とプール行きたかったなあ」

男「む」

女「海にも連れてってもらいたかったなあ」

男「……来年なら」

女「え! 来年なら連れてってくれるんですか!?」

男「今年はほら、勉強に集中しないといけないだろ」

女「やった! やった!」

女「……とびきりセクシーな水着、用意しときますねっ♪」

男「……」

女「あら、そんなに照れてる所長は珍しいですね」

男「……暑いな……」

女「当然ビキニですよねー、んで、こうちょっとスカートついてる可愛いやつでー」

男「……」

女「ふりふりーな、ひらひらーなやつでー」

男「……」

女「あ、色はどんなのが好きですか?」

男「泳ぐ練習しないとな」ボソッ

女「え? 何色ですか?」

男「なんでもねえよ」

そろそろ話を畳むことも想定しつつ……
また次の事件で ノシ

【出題編:いつものお客さん】

女「なんか今日、機嫌悪いですね?」

男「ん? ああ、ちょっとな」

女「なにかあったんですか?」

男「大したことじゃねえよ」

女「気になりますよ……」

男「大したことじゃねえって言ってんだろ」

女「気になりますよ……」

男「なんで二回言ったお前」

女「所長もじゃないですかあ」

男「ん、実はな、おれがよく行く店があるんだが」

女「いやらしいお店ですか?」

男「違うよ馬鹿」

男「まあ店員も、おれのことをよく知ってるわけだよ」

女「はあ」

男「んで今日、その店員が気を利かせたわけだ」

女「はあ」

男「それにおれは腹が立ってんの」

女「はい、なるほど、わかりません」

男「だからそっとしといて」

女「いやいやいや、これだけの情報で『はいそうですか』とは言えませんし」

男「察して」

女「察せませんよ、いくらなんでも」

女「え、なんですか、この辺のお店ですか?」

男「ああ」

女「いつもよく行くお店なんですよね?」

男「ああ」

女「昼間に?」

男「夜にも行くよ」

女「ん、なにかサービスを受ける店ですか?」

女「それとも、なにかを買う店ですか?」

男「買う店だな」

女「服屋とか?」

男「違う」

女「食べ物屋?」

男「違う」

女「雑貨屋?」

男「違うけど、近いかもしれん」

女「本屋?」

男「いや」

女「そこで買ったものは、今この部屋に残ってますか?」

男「……あんまり残ってねえなあ」

女「じゃあ消耗品ですね?」

男「まあ、そうかな」

女「んー、所長がよく行くお店……か」

男「『店』というのも、少し微妙な感じではあるが」

女「スーパーとか?」

男「違う」

女「あ、コンビニ?」

男「そ、正解」

女「所長コンビニよく行きますもんねえ」

男「ああ、便利だからな」

女「高くないですか? お金もったいなくないですか?」

男「便利だからな」

女「お菓子とかお酒とかよく買ってますよね」

男「ああ」

女「で、そこで、店員さんに覚えられてるんですか?」

男「ああ、もう顔なじみだな」

女「女性ですか?」

男「……いや」

女「今の間はなんですか?」

男「……別に」

女「……」

女「知ってます? コンビニの店員って、客にあだ名つけたりするんですよ」

男「え」

女「いつも何時に来るとか、いつもこれ買うとか、そういう情報で」

女「『丑三つ時のからあげ野郎』とか『早朝のハゲ』とか『中年ジャンプ』とか」

男「怖い」

女「所長はなんて呼ばれてるでしょうかねえ」

男「……」

女「で、そのコンビニで、店員さんが気を利かせてくれたのにそれが腹立たしい、と」

男「ああ」

女「いいあだ名をつけてくれたのに、気に入らなかったとか?」

男「勝手につけてるあだ名を客にバラしたら駄目だろう」

女「そっか」

男「ま、他の客にはやらないかもしれんな」

女「相手が所長だったから、気を利かせたんですか?」

男「ああ」

女「所長がいつも自分でやっていることなのに、店員さんが代わりにやってくれた?」

男「そういうことだ」

女「レシートを勝手に捨てておいてくれた?」

男「いや、違う」

女「それは割とみんなやってることか」

男「そうだろうなあ」

女「ていうか所長、財布にレシート溜まるタイプですよね」

男「そうかな」

女「お札よりもレシートが多いタイプですよね」

男「……否定できんな」

女「袋一つでいいんでしたよねー、とか言ってアイスとホットコーヒーを同じ袋に入れた」

男「もっとキレるわ」

女「袋いらないんでしたよねー、とか言ってエロ本にシール貼った?」

男「その場で暴れるわ」

男「いやちょっと待て、エロ本なんか買ってないから」

女「これどうせすぐ食べますよね? とか言って賞味期限ぎりぎりの物と交換された」

男「そんな店員がいたらそんなコンビニは二度と行かねえよ」

女「うーん、難しいですね」

女「所長、もしコンビニ店員にあだ名をつけられているとしたら、なんですか?」

男「それがわかれば、おれの怒っている理由がわかるかもしれないな」

女「え、そうなんですか?」

男「たぶんつけるとしたら……『偽善君』……かな」

女「あー」

男「……」

女「あー、それは、怒りますね」

男「だろう?」

というお話です
さて、所長はコンビニで何を経験したのでしょうか
まあ、事件というほどのものではありませんが……

【解答編:いつものお客さん】

女「所長、そんなにお金に余裕あるんですか」

男「端数だけだよ」

女「あんまり仕事来ないのに」

女「切り詰めないと生活大変なんじゃ?」

男「そんな心配はいらん」

女「でも、募金って、財布に余裕がないとしちゃだめですよう」

男「いいんだよ、気持ちだよ気持ち、こういうのは」

女「いっつも募金してるんですか?」

男「おつりが端数のときは、まあ、だいたいは」

女「自分でも偽善だと思ってるんですか?」

男「そうだな、自己満足の偽善だろうな」

女「それを店員さんが勝手に募金箱に入れちゃったんですね?」

男「ああ、ついやっちゃった、みたいな微妙な顔してたけどな」

女「気まずいですねえ」

男「まあおれもその場では、平然としてたんだが」

女「やせ我慢ですね」

男「あとで思い返すとやっぱり腹が立ってな」

女「いつもぴったり払えるようにしておけばそんなトラブルは回避できるのでは?」

男「いつもぴったり?」

女「500円玉、100円玉4枚、50円玉、10円玉4枚、5円玉、1円玉4枚」

女「それで999円を常に小銭入れに入れておけば、どんな額でも払えますよ」

男「面倒くさい」

女「ま、いつも財布がレシートでいっぱいの所長には無理ですよね」

男「なんか腹立つな、それ」

男「なに、お前はいつもそんな細かい小銭を財布に入れてるの?」

女「いえ、私はそんな面倒くさいことしてません」

男「……あそう」

女「いいじゃないですか、やらない善よりやる偽善、とも言いますし」

男「間でピンハネしてる守銭奴もいるらしいが」

女「そ、そんな団体には募金しちゃだめですよ」

男「ちゃんと相手は選んでるよ」

女「人を思いやれるのが所長のいいところ、です」

男「悪人には付け込まれやすいけどな」

女「それは、私が守ります」

男「守る? どうやって?」

女「知りませんでした? 私、人の嘘を見抜くのが得意なんです」

男「へえ」

女「本当かよ、って顔ですね?」

男「む」

女「私、詐欺とかそういうのにかかったことありませんし、いい友達にも恵まれてますし」

男「ふうん」

男「あ、そういえば、おれ、結婚することになったんだが」

女「ええええ!? うそ!? え!? 誰と!?」

女「私というものがありながらなんという裏切り! 許すまじ!」

女「子宝に恵まれなくなる呪いを三重か四重にかけて―――」

男「嘘だよ」

女「あ……」

男「で、なにが得意なんだっけ?」

女「あ、えっと、所長相手には通用しないみたいで」

男「あそう」

男「ていうか、女子高生が『許すまじ』とか言うの、初めて聞いたわ」

女「えへへ」

ではまた次の事件で ノシ

【出題編:可愛い坊ちゃんね】

女「あー、子どもが欲しいですねえ」

男「ぶふぉっ」ビチャビチャ

女「あらあら、なにやってるんですか汚い」フキフキ

女「そういう意味じゃありませんから、ご心配なく」

男「そ、そうか」

女「いやもちろんそういう意味でも言いたいですけどね?」

男「そ、そうか」

女「小さい子を連れているお母さんを公園で見まして」

男「欲しくなったの?」

女「はい、子ども欲しくなりました」

男「子どもねえ」

女「所長は子どもが巻き込まれた犯罪とかも見てきたんでしょうか?」

男「まあ、それなりにな」

女「私が聞いても問題ない範囲の事件を教えてほしいです」

男「んん、ちょっとややこしい事件なんだが、じゃあ、一つ」

女「はい」

男「ある若い母親が、子どもを連れて近所を歩いていたんだ」

女「ほう」

男「引っ越しの挨拶なんかもしながら」

女「はあ、引っ越してきたばかりだったんですか」

男「近所の人は『あら、可愛いお子さんですね』と言う」

男「母親は嬉しそうに頷いている」

男「ところがある人が声をかけると、母親は子どもを連れて慌てて逃げ帰ってしまったんだ」

女「なんと言われたんですか?」

男「『可愛い坊ちゃんね』と」

女「それがなにか問題が?」

男「その母親は、なぜそれを聞いて逃げ帰ってしまったんだろうか」

女「ふうむ」

女「その母親っていうのは、本当の母親ですか?」

男「ああ、それについては間違いない」

女「母親は、なにか後ろめたいことがあったから逃げたんですか?」

男「いや、少し違うかな」

女「『可愛い坊ちゃんね』と言ったのは、女性?」

男「ああ」

女「若い女性?」

男「いや、この母親よりは上だ」

男「30代か40代だろう、という証言だ」

女「その子どもっていうのは、小さい子ですか?」

男「ああ、幼稚園入る前くらいだったかな」

女「その子の反応は?」

男「その子自体は、まだ自分の事態を把握できていなかっただろうな」

女「母親が逃げ帰る理由も?」

男「ああ」

女「母親はなにかを恐れていましたか?」

男「ああ」

女「それは、その女性に?」

男「……そうだ」

女「その女性は、なにか奇抜な格好をしていましたか?」

男「いや、見た目ごく普通の女性だったそうだ」

女「……所長は、その母親からの相談を受けた立場でしょうか?」

男「ああ、随分前の事件だが」

女「解決は見たのですか?」

男「いや、単純な事件じゃなかったからね」

男「というかそもそも、この部分は事件として立証できない」

女「まあ……確かに」

男「なぜこの母親が恐怖を感じたかという点がポイントだ」

女「この声をかけてきた女性は、なにかの事件に関わっていますか?」

男「……その立証はできない」

男「ただ、母親はそう感じたんだ」

女「あ、なるほど」

女「真実はさておいて、母親がこの女性に危険を感じたわけですね?」

男「ああ」

女「それは、格好ではなくて、なにに感じたのかが重要ですか?」

男「そうだな」

女「格好でないとしたら、じゃあ、言葉ですよね」

女「えっと、『可愛い坊ちゃんね』でしたっけ」

男「ああ」

女「えっと、その子は確かに男の子でしたか?」

男「……そうだ」

女「じゃあ、なにも問題はないわけで……」

男「他の人が見た時、そうは声をかけなかった」

男「例えば、『可愛いお子さんですね』」

男「例えば……『可愛いお嬢さんですね』」

女「え!?」

女「え、えっと、その子は女の子の格好をしていたんですか?」

男「ああ」

女「本当は男の子なのに?」

男「ああ」

女「時代を先取りしていますね」

男「いや、ちょっと」

女「その女性は、その子が本当は男の子だということを見抜いたんですね?」

男「ああ、そうだろうな」

女「てことは、母親は、何らかの理由で子どもに女の子の格好をさせていた」

男「ああ」

女「そしてそれを隠して暮らそうとしていた?」

男「そうそう、近づいてきているぞ」

女「だけど、初見でそれを見抜いた女性がいたから、恐れた」

男「そうだ」

女「……ちょっと不思議な性質の家族ってことですか?」

男「それだけじゃない」

男「この家族は引っ越してきたばかり、と言ったな」

女「あ、はい」

男「引っ越す前は、そんな女装なんてさせていなかった」

女「……」

女「前の家で、なにかがあったんですね?」

男「そうだ」

女「そのせいで引っ越して家を変えて、女の子として育てようとした……」

女「なのにそれがバレたから恐ろしくなった……」

男「前の事件で巻き込まれた事件のせいだ」

男「それがなければ、静かに平和に暮らせたはずなんだ」

女「前の家で起こった事件というのは、その子が男の子だから起こった事件だったんですか?」

男「普通なら、いや普通という言い方は違うかもしれないが、男でも女でも関係なかっただろう」

男「ただ今回の件に関しては、男の子であったことが不運だったかもしれないな」

女「なるほど」

女「子どもであることは関係ありましたか?」

男「ああ、関係大アリだった」

女「その事件の犯人は、捕まっているんですか?」

男「ああ、犯人は、一応な」

女「じゃあ心配ないんじゃないですか?」

男「実行犯は逮捕されたんだが……」

女「……」

女「犯人は逮捕されているけど……って」

女「じゃあまだ、どこかに残っているかもしれないんですね?」

女「え、じゃあ、母親はその声をかけてきた女性が、もしかして『それ』だと思ったんですか?」

男「そうだ」

女「それは確かに……怖くもなりますよね……」

>>453
なんか変な文章が……すみません訂正でorz
「前の事件で巻き込まれた事件のせいだ」 → 「前の街で(家で)巻き込まれた事件のせいだ」


はてさて、女装少年の過去に何があったのでしょうか
また明日です ノシ

【解答編:可愛い坊ちゃんね】

女「その子は過去に誘拐されたことがあるんですね?」

男「ああ」

女「しかも、身代金目的ではない誘拐」

女「つまり、人身売買のような」

男「そうだ、危うくその被害に遭うところだったんだ」

女「でもその犯人は捕まった」

女「売られることはなかった、ということですね」

男「そうだ、しかし……」

女「しかし、無差別に売ろうとしていたのではなく、すでに顧客がいた」

女「その子自体をターゲットにしている顧客が」

男「そうだ」

男「逮捕した誘拐の犯人から、すべての客を辿ることはできなかったんだ」

女「怖いですね」

男「ああ、つまり人を買おうとしている人間が、まだどこかをうろついているということだからな」

女「他にも誘拐していたんですか?」

男「何人かのうちの一人だったようだ」

女「じゃあ、組織は今も……?」

男「一部、残っているようだ」

女「……」

女「それで、『小さい男の子』だったために狙われたことが分かった母親は、女の子として生活させた」

男「まあ、偽装だな」

男「ちょっと行き過ぎた対応だとも思ったが」

女「いえいえ、また誘拐されるかも、と思えばこれくらいしますよ、きっと」

男「で、町を離れて安心したと思ったら……」

女「『可愛い坊ちゃんね』と」

女「そりゃあ恐怖でしょうね」

男「せっかく逃げたつもりが、また狙われると思っただろうな」

女「本当にその女性が顧客だったんですか?」

男「いいや、その証拠は何一つないんだ」

女「勘違いの可能性もあると?」

男「そうだな」

女「それでも、母親は平常心ではいられないでしょうね」

男「ああ、かなり取り乱していたよ」

女「それで、どうなったんですか?」

男「おれの知っているある街で生活させてある」

女「ある街?」

男「経歴もなにもかも、一切捨ててリスタートできる街だ」

女「そんなところがあるんですか?」

男「ああ、ちょっとツテでな」

女「その顧客っていうのは……」

男「ん?」

女「本当の顧客は、子どもができずに悩んでいた人でしょうか」

男「金持ちの道楽かもしれんがな」

女「子ども欲しさに、依頼してしまったんでしょうね」

男「今は顔を合わせずに簡単に依頼ができる」

男「犯罪が闇に隠れて、横行している」

女「怖いですね」

男「それを解消していくのが、おれたちの仕事だ」

女「はい」

男「で、なんだっけ」

女「?」

男「公園で子どもを見て、子どもが欲しくなったんだっけ?」

女「あ……」

男「口には少々気をつけるように」

男「それを聞いて、恐怖を感じる人間がいるってこと、忘れるなよ」

女「……はい、気をつけます」

というお話でした
ショタコンとロリコンには気をつけましょう

おまけの庭師の回答が未だにわからない......ぐぬぬ

>>470
庭師には、3本目の腕があった、という話です
極々稀に腕が3本、4本、または足が3本、4本で生まれてくる人がいるそうです
発達に差があれば、多くは手術で切除するそうですが

ご期待に沿えない小ネタかもしれませんが、「常識では考えられないことが世の中にはある」ということで一つorz

【出題編:雨上がりのブラジャー】

女「所長のおじいさんも、探偵さんだったんでしたよね?」

男「ああ、そうだよ」

女「お父さんは普通のサラリーマン?」

男「ああ」

男「じいちゃんの仕事見てて、憧れたってのはあるな」

女「だから、この仕事を?」

男「ああ」

女「おじいさんも、まだ探偵を?」

男「まだイタリアで探偵事務所をやってたと思う」

女「格好いい!」

女「やっぱり三代目って、優秀な人が多い印象があります」

男「三代目?」

女「探偵とか、泥棒とか、徳川将軍とか」

男「あー」

女「じっちゃんの名にかけて! とか言ってたんですか?」

男「いや、うちのじいちゃん、別に有名な探偵でもないし……」

女「三代目って、どうして優秀な人が多いんでしょう?」

男「おれは別に普通だが……」

男「単純に、数が増えるからじゃないか?」

女「数ですか?」

男「子どもが複数いて、さらにその子どもが複数いれば、自然と数は増えるだろう?」

男「優秀な人材が生まれる確率が増える、ということ」

女「あ、なるほど」

男「隔世遺伝、とも言うしね」

女「それって科学的に正しいんですか?」

男「知らないけど」

女「……」

男「そういえば、じいちゃんから聞いた事件の話があるんだけど」

女「お、興味あります」

男「戦後の話なんだけど」

女「古っ!」

男「まあ事件と言っても他愛もない、変な出来事なんだけどな」

女「はい、聞かせてください」

男「雨上がりの街路樹に、ブラジャーを吊るす男の話だ」

女「はい?」

男「雨上がりに、決まって街路樹にブラジャーを吊るす男がいたんだ」

男「こいつは変態でもなく、大真面目に、ある目的を持ってそれをやっていた」

女「変態じゃないんだ……」

男「この男の目的はなんでしょうか」

女「おじいさんは、その謎を解いたんですか?」

男「ああ、その時の話を苦笑しながらしてくれたよ」

女「じゃあ、私も頑張って解かないとな」

女「戦後っていうのは大事ですか?」

女「今では起こらないような事件?」

男「そうだな、今どきこんなことをするやつはいないだろう」

女「まあすぐに捕まりますよね……」

男「しかし罪状が不明だ」

女「あ、そ、そうですね……」

男「盗品とは限らないしな」

女「あ、そう、なんらかの罪に問われる出来事でしたか?」

男「いや、じいちゃんも別に、謎が解けたからって警察に売った訳ではないらしい」

女「それはブラジャーでないといけないのですか?」

女「パンツじゃダメなんですか?」

男「いや、パンツでもいいんじゃないかな」

女「所長だったらどっちがいいですか?」

男「は?」

女「ブラジャーとパンツだったらどっちを吊るしますか?」

男「おれは吊るさないよ」

女「いやそんな模範解答はいりませんので」

男「おれが吊るすメリットはない、ってこと」

女「おじいさんも?」

男「じいちゃんも吊るすメリットはないね」

女「その男の人だからこそ意味があったんですか?」

男「そう」

女「女の人では?」

男「女の人でも意味があったかもね」

女「性別は問題じゃない?」

男「問題じゃない」

女「年齢は?」

男「年齢にも、特に関係がないな」

女「それは、吊るしっぱなしですか? あとで回収するんですか?」

男「あとで回収していたらしい」

女「えええ……やっぱりただの変態なんじゃあ……」

男「変態じゃなかった」

女「いや仮にですよ、仮にちゃんとした目的があったとしても、変態ですよね」

男「……まあ……手段がちょっとな」

女「所長も、もし理由があったとしても、そんな変態行為をしないでくださいね」

男「……気をつけよう」

女「誰か特定の人に対するメッセージでしょうか」

女「お前のブラは預かった、返してほしくば……みたいな」

男「いや、違うな」

女「暗号? 赤色のブラだったら『今日の取引は中止』みたいな」

男「いや、それも違う」

女「ていうか目立ちますよね、それ」

男「ああ」

女「目立つことが重要でしたか?」

女「つまり少数でなく、多数の人間に見てもらう意図があった?」

男「そう、そうだ、それが重要」

女「例えば、ブラジャーを地面に捨てておくのではいけないんですか?」

男「んん、それじゃあ意味がなかったな」

男「どこかの誰かに拾われてしまうかもしれないし」

女「そっか」

男「まあ街路樹でなくとも、高いところに吊るしていたことに意味があるんだ」

女「頭に乗せておくのは?」

男「ううん、なしの方向で」

女「なしの方向ですか……」

女「それは、晴れのときでは意味がないんですか?」

男「まあ晴れのときにはしなくていいんじゃないかな」

女「雨が降っているときは?」

男「降っているときでもいい」

男「しかしやはり、雨上がりにやることが一番メリットが大きいと言える」

女「雪のときは?」

男「雪のときは、男も家にいるんじゃないかな」

女「外でなにか仕事をしているんですか?」

男「そうだな」

女「雪のときにはお休み?」

男「ああ、雨のときも、たぶん休みだっただろうな」

女「カメハメハ大王のようですね」

男「まあ、さして忙しい仕事をしていたわけではない」

女「その仕事に関わるんですよね? そのブラジャーって」

男「ああ」

女「雨上がり……雨上がり……」

男「戦後すぐっていうのも、ある意味重要かな」

女「あ、もしかして当時道路ってあんまり舗装されてませんでした?」

男「ああ、いいところに気が付いたな」

女「ん! ぴぴーんときましたよ!」

男「さすが」

さて、ぴぴーんときましたでしょうか
また明日(たぶん)です ノシ

【解答編:雨上がりのブラジャー】

女「雨上がりってことは、まだ地面は濡れてますよね」

女「しかも戦後で、道路がアスファルトとかで舗装されてないとしたら……」

男「としたら?」

女「水たまりがたくさんあるはず!」

男「そう、その通り」

女「男の狙いは、ブラジャーを高いところに吊るし、道行く人の目線を上げることにあったのです!」

男「ほほう」

女「そうすると、足元がおろそかになった人がバシャンと水たまりに足を突っ込んでしまう!」

女「そこですかさず男は言うのです」

女「『靴、磨きましょうか旦那』と!」

男「ご名答」

女「靴磨きの仕事をしている人だったんですね」

女「戦後、そういう人が多かったと聞きます」

女「戦争孤児の子なんかも、よくやっていたようですね」

男「だから、地面では意味がなかった」

女「それに、ブラジャーだと男の人がきっと目を奪われますもんね」

男「ああ」

女「革靴を履いているのは、だいたい男の人でしょうから」

男「そうだな」

女「しかし生きるためとはいえ、ちょっと卑怯な客引きですね」

男「ああ、客も苦笑いだろうな」

女「おじいさんも、引っかかったんですか?」

男「ああ、見事にやられたそうだ」

女「まあ、木の上にそんなものがあったら見ちゃいますよね」

男「男だと特に、な」

女「所長もやっぱり見ちゃいますか?」

男「不思議なものがあると、やっぱり気になるからな」

女「エッチ!」

男「いや、仕方ないだろ」

女「所長も革靴ですよね」

男「ああ」

女「ん、ちょっと汚れてませんか」

男「そうか?」

女「ちゃんと身だしなみは整えないと」

女「おしゃれは足元から、ですよ?」

男「ちょっとくらい汚れていた方が、舐めて綺麗にさせるとき、いいだろ」

女「……」

男「引きすぎだよ、冗談だよ」

所長ドS説
もっとなんか「すっきり!」ってのを目指したいですね

【出題編:見立て殺人の夜】

女「あれ、どうしたんですか、包帯なんて巻いちゃって」

男「ちょっとね」

女「すっ転んだんですか? いい年して」

男「表現が辛辣」

女「本当は?」

男「犬に噛まれた」

女「探し犬ですか?」

男「いや、ただ散歩中の犬に触ろうとしたら」

女「所長って犬に嫌われるタイプなんですか?」

男「おれは動物好きなんだけどねえ」

女「ちゃんと消毒しましたか?」

女「気をつけてくださいよ、本当に」

男「ああ」

女「あ、そうだ、犬で思い出したんですけど、ちょっと前に読んだ漫画のことで」

男「漫画?」

女「犬に噛み殺されたような装飾をして、だけど本当は人間が殺していたっていう」

男「へえ」

女「あと別の本では、えっと、獣を飼っている屋敷があって、人を襲ってしまって」

女「逆にその形跡を人間が隠そうとして、無理がある状況になってしまったり」

男「ふうん?」

女「そういうのって、あの、『見立て』って言うんでしょうか?」

男「どうかな、定義が難しいからね」

女「現実にはありますか?」

男「現実にはほとんどないんじゃないかな」

女「どうしてですか?」

男「労力に見あうメリットがないからだろうね」

女「有名な見立て殺人って、ほとんどが小説ですか?」

男「まあ、そうだろうね」

男「童謡になぞらえて、っていうのは、海外では有名な一つのジャンルとして確立されているらしいし」

女「日本じゃあまりないですね」

男「マザー・グースみたいなものがないからかもしれない」

男「それから、まあ一部が有名すぎて、後追いが少ないのかもしれないな」

女「見立てって、現実にはほとんどないとして、フィクションで行われるのにはちゃんとした理由があるんですか?」

男「そうだな、その辺はちゃんと説明されていることが多いかな」

女「例えば、見立てにはどんなものがありますか?」

男「7つの大罪になぞらえたもの、童謡になぞらえたもの、村に伝わる手毬唄になぞらえたもの……」

女「ほうほう」

男「タロットカード、星座占い、アルファベット、数字、そんなものもあるかな」

女「連続殺人であることが多いのですか?」

男「そうだな、まあ、推理小説なんていうのは大体が連続殺人だね」

女「フィクションの世界では、見立てに見あったメリットがあるのでしょうか」

男「そうだね、例えば殺人の順を誤認させる、とか」

女「順ですか?」

男「ABCDの人物が順に殺され、それぞれに1234とナンバーが振られているとしよう」

男「そうすると1234の順に殺されたと考えてしまう」

男「しかし実際には1324の順だった、と」

女「それによって誤認させて、なにかメリットがありますか?」

男「被疑者Eには、その順で殺すことはできないアリバイがあった、なんていう風にね」

女「はあ、なるほど?」

男「あるいは単独犯に見せて、ACをBが殺していた、それをEが殺した」

男「しかし死んだ順はABCDだと思われているから、BにCは殺せないはずだ、とか」

女「むむう、難しくなってきました」

男「あるいは殺した人間と装飾した人間が別の場合もある」

女「複数犯ですか?」

男「いや、一人はただ単に自分の殺人の目的を達成しただけ」

男「それを知ったもう一人が、弱みを握った証しに装飾を施す、と」

女「それは怖いですね」

男「あるいは協力するつもりで、かばうつもりでやる場合もあるかな」

女「……やっていることは一緒でも、理由は180度反対なんですね」

男「それから……一人目は偶然、そうなってしまった」

男「二人目からもなんらかの見立てをすれば、証拠を隠せる、というのもあるかな」

女「偶然を隠す、ということですね」

男「どうして急にそんな話が出てきたの?」

女「あの、私が今読んでいる漫画に見立て殺人が出てきてましてね」

男「はあ」

女「探偵の謎解きよりも早く謎が解きたくて」

男「……」

女「ああ、ちょっと、呆れた顔しないでください!」

男「……やれやれ」

女「アメリカ人っぽいリアクションしないでください!」

男「どんな事件?」

女「えっと、鮎釣りで有名な川があってですね」

女「そこで男が殺されるんですが、首にロープが絡まっていて、口には鮎が詰め込まれていて」

女「まるで鵜飼いのような見立てなんですよ」

男「ああ、鵜飼いね」

女「その見立てには理由があるみたいなんですけど、わかります?」

男「結末を知らないのか?」

女「来週までお預けなんです」

男「それを解け、とね」

女「えへへ」

男「死因は絞殺?」

女「ええ、でも……」

男「でも?」

女「あ、えっと、所長が解き明かしてください」

女「読んだところまでは質問に答えられますので」

男「んん、絞殺は正解なんだな」

女「ええ」

男「じゃあ凶器はロープ?」

女「いいえ」

男「なるほどね」

男「つまりロープは手近にあったもので、見立ての為に使われたということか」

女「ええ」

男「手で絞めたのかな?」

女「おそらく」

男「特徴的な手の痕だったから隠したかったとか?」

女「いえ、手の痕があるにはあったんですが、それで犯人を特定できるわけではないようでした」

男「鮎は? その辺にあったの?」

女「近くのビクに入っていたのを拝借したようです」

男「被害者は漁師?」

女「いいえ、近くにキャンプに来ていた人です」

男「鵜飼いの見立てで川の近くで死んでいた、かあ」

男「被害者は服が濡れていた?」

女「いいえ」

男「殺されたのは、その人一人だけ?」

女「ええ、そうなんです」

男「じゃあさっき話していたような、死んだ順とかアリバイとかには関係がなさそうだな」

女「ええ……」

男「鵜飼い、鵜飼い……」

男「この道は『迂回』しろという犯人からのメッセージでは?」

女「それだったらガッカリですよう」

男「アルファベットで『U-KAI』、つまり『誘拐』がまだ起きるぞという宣戦布告?」

女「もう探偵役が犯人を指差すところまで、いっちゃってるんですよう」

男「まあ、冗談は置いておいて」

女「はあ」

男「その被害者は、首以外になにか傷はあった?」

女「いえ、争った跡はありましたけど、他に傷は特に」

男「じゃあ、詰め込まれていた鮎は死んでいたの?」

女「あ、はい」

男「無理矢理詰め込まれていた?」

女「はい、何匹も無理矢理ぎゅうって」

男「なるほどねえ」

男「ロープはおまけだろうね」

男「犯人は見立てに見せかけて、本当は鮎を口に突っ込みたかったんだ」

女「わ、わかるんですか!?」

男「容疑者の中に、おれみたいなやつはいなかったか?」

女「えっと、冴えない中年はいなかったですけど」

男「誰が冴えない中年か!」

男「そうじゃなくて、ほら、おれを見て、気付かないか?」

女「……?」

男「鈍いな、まだまだ」

このネタは知っている人が多いかもしれませんね
また明日(か明後日)です ノシ

【解答編:見立て殺人の夜】

男「手で首を絞めると言っても簡単じゃない」

男「多くは頭を殴ってから絞めるが、しかし他に傷もないという」

女「ええ」

男「なら、ある程度の抵抗はしたはずだよな、被害者は」

女「……はい」

男「その結果、被害者は犯人の証拠を持って死んでしまったんだろう」

男「そしてそれを隠すために、犯人は鵜飼いの見立てなんていうものを施したんじゃないか」

女「証拠って一体……」

男「つまり、犯人の『血』さ」

男「揉みあいになって、必死に抵抗した被害者は、犯人の体のどこかを強く噛んだんだ」

女「!」

男「それにより、被害者の口の中に犯人の血が残った」

男「口の中では拭き取ることはできない」

男「焦った犯人は、手近なところにあった鮎を突っ込み、その魚の血でごまかそうとしたんだろうね」

女「ふぉおお! すっきりしました!」

男「と言っても、まあおれの仮定だからさ、来週の真実とは違っているかもよ?」

女「いえ、もうそれで満足です」

男「それはちょっとどうなの……」

女「なるほど、証拠を隠すための見立て、というものもあるんですねえ」

男「言わなかったっけ?」

女「言ってたかもしれません」

男「ったく」

女「あれ?」

男「ん、どうした」

女「所長のそのケガ、本当に犬ですか?」

女「まさか被害者に噛まれたとかじゃ……」

男「……」ニヤリ

女「怖い怖い怖い! そんな! 嘘ですよね!?」

男「おれはなにも言ってねえよ」ニヤニヤ

【おまけ:銃声は一発、弾は二発】

男「ちょっと冗談みたいな話をするぞ」

女「?」

男「あんまり真面目に考えて泥沼にはまらないように」

女「前置きが意味深ですね」

男「とある邸宅で銃声が鳴り響いた」

男「それを聞いた家政婦が部屋を見に行くと、主人が死んでいた」

男「犯人はすでに逃走していたが、被害者を調べてみると銃弾が二発見つかった」

男「しかし家政婦によると、銃声は確かに一発しか聞こえなかったという」

男「なぜこんなことが起こりえたのだろうか」

女「すっごい急いで二発撃ったから聞こえなかったとかでは……」

男「ないな」

女「散弾銃だった?」

男「違う」

女「犯人が二人いて、同時に撃った」

男「それも違う」

女「二丁拳銃で撃って、片方はサイレンサー付きだった!」

男「面白いが、違うな」

女「銃弾は同じものでしたか?」

男「いや、違う弾だった」

女「じゃあやっぱり、銃は二丁あったってことですよね?」

男「まあ、そうだな」

女「犯人は二人?」

男「いや、この時に邸宅に忍び込んでいた犯人は、確かに一人だった」

女「サイレンサー装備の銃で二発撃ってから、なんかクラッカーとかで音だけ鳴らして、犯行時間を誤認させようとした?」

男「それだと銃弾が違っていた説明がつかないんじゃないか」

女「あ、そっか」

男「真面目に考えたらダメだ、冗談だと考えるんだ」

女「そんな真面目な顔で冗談って言われても……」

女「あ、屋敷の中に、血痕がたくさんあったとか?」

男「いや、主人の部屋だけだった」

女「なんだ……」

男「なんだと思ったんだ?」

女「外で撃たれて帰ってきて、部屋でまた一発食らって、かと思いまして」

男「よっぽど人の恨みを買う人間だな、それじゃ」

女「違いますよね」

男「違う、が、一番近い」

女「え?」

男「おれはあえて必要な情報を言ってないだけで、現場の人間からしたら謎でもなんでもなかったんだよ」

女「一番近い……なんだろ……」

男「屋敷にはその部屋以外血痕は残っていなかった」

男「銃声も一発だけ」

男「しかし違う種類の弾丸が二発、体内に残っていた」

女「あ! え?」

男「わかった?」

女「いや、でも、え?」

男「言ってみろ」

女「その殺された主人って、かなりご高齢でしたか?」

男「ああ」

女「もしかして、軍人でしたか?」

男「そう、正解」

女「うわああああ! 騙された! もおおおおお!」

男「だから言ったろ、冗談みたいな話だって」

というお話でした
ではまた ノシ

【出題編:これは自殺ではない】

女「所長の推理力って、やっぱりすごいんでしょうか?」

男「ん?」

女「いつも話してくれる事件のお話を聞いていても、やっぱりすごいなって思うんですけど」

男「そうかな、おれより鋭い刑事なんて、たくさんいたが」

女「刑事時代の同僚さんですか?」

男「ああ」

女「例えばどんな鋭い人がいましたか?」

男「そうだな……」

男「転落死の通報があってな、おれとそいつで現場に駆けつけたことがあったんだ」

男「当然救急車も呼ばれていたが、一目見て死んでいることは明らかだった」

男「何人かの警官が人垣を遠ざけていた」

男「そして現場を見て、そいつは言ったんだ」

男「『おい、こいつぁ自殺じゃねえぞ』ってな」

女「へえ」

男「事実、それは自殺ではなかったんだが、なぜそいつはそれを見破れたのか」

女「ははあ、なるほど」

女「死んでいたのは男性ですか? 女性ですか?」

男「男性だった」

女「死んでいた場所はビルの下とかですか?」

男「ビルではないな」

女「マンション?」

男「そう」

女「その男が住んでいたマンションでしたか?」

男「ああ、その通りだ」

女「靴は履いていませんでしたか?」

男「ああ、履いていなかった」

女「屋上に靴は?」

男「残っていなかった」

女「遺書も?」

男「ない」

女「えっと、靴はどこに?」

男「どこにもなかった」

女「どこにも……?」

女「ふうむ、その辺が重要そうですねえ」

女「死体は血に塗れていましたか?」

男「そうだな、血はそこらじゅうに散っていたよ」

女「落ちる前に死んだってことは?」

男「つまり、毒とか?」

女「あ、ええ」

男「毒を飲んでいた形跡もなかったし、別の殺された方をしていたわけでもない」

男「しかしまあ、その辺のことは検査で分かったことであって、その場ではちょっと判断がつかないな」

女「そっか」

女「頭に斧が刺さってたとかでも?」

男「ねえよ、怖いな」

女「首にロープが巻きついていた?」

男「いいや」

女「裸にされていた?」

男「いや」

女「服はちゃんと着ていたんですか?」

男「ああ」

女「ボタンが飛んでた、とか」

男「いや、きっちり締まっていた」

女「逆に無理矢理着せられているように見えたとか?」

男「死体に無理に服を着せたような形跡もないし、争って乱れた衣服でもなかった」

女「むむぅ」

女「所長はやっぱり、私の考えはお見通しって感じですね」

男「思考が割と判りやすい気がするな」

女「そんな単純そうですか?」

男「素直ということだ」

女「なるほど、褒め言葉として受け取りましょう」

女「あ、そういえば血がいっぱい出てたって言ってましたよね?」

男「ああ」

女「わかっちゃったかもしれないんですけど」

男「そうか、きっとそれは間違いだ」

女「ええ!?」

女「聞かずにわかるんですか?」

男「死んだ奴は、即死じゃないと思ってるだろ?」

女「……!?」

男「落ちてからもまだ意識があったと思ってるだろ?」

女「……違うんですか!?」

男「違う、即死だった」

女「ど、どうしてわかるんですか?」

男「明らかに頭から落ちてたからだよ」

女「そうじゃなくて、私が言いたかったことが」

男「顔に書いてあるからだよ、メッセージが」

女「!?」ペタペタ

男「比喩だよ」

男「ヒント、自殺ではないことを断定しただけであって、『殺人』であることを見抜いたわけじゃないぞ」

女「あれ?」

男「自殺でなければ、なんだ?」

女「えっと、殺人、それから、事故? あ、寿命?」

男「寿命で転落死ってことはないだろうけども」

女「じゃあ事故かもしれないわけですね?」

男「そう」

女「事故か殺人か、そのどちらかだろうっていう推測だったんですね?」

男「そういうことだな」

女「遺書とかがないから自殺じゃないって言っただけですか?」

男「いいや、違う」

女「めっちゃ可愛い奥さんが傍らで泣いてたから、こんな幸せな男が自殺するはずない、とか?」

男「それも違う」

女「洗濯物を握りしめてたから、干している最中に落ちた事故だ、とか?」

男「おお、それも面白いな」

女「違うんですか」

男「違うんだよなあ、でもそれもありそうだなあ」

女「楽しんでません?」

男「お前の成長を嬉しく思ってるだけだよ」

女「えっと、靴は履いてなかったんですよね」

男「ああ」

女「ということは靴下は?」

男「それも履いていなかった」

女「ベランダから落ちたのでしょうか?」

男「ああ、そうだった」

女「スリッパとかサンダルは?」

男「それも履いていない」

女「近くにスリッパやサンダルは?」

男「落ちてもいなかった」

女「それってちょっと、おかしいですよね」

女「普通ベランダに出るには、なにか履きますよね」

男「普通はそうだな」

女「しかも靴はないって」

女「その『ない』っていうのは、証拠になるから処分されたってことですか?」

男「いや」

女「家のどこにも靴がなかったんですか?」

男「そうだ、この被害者の靴は、家の中には一足もなかった」

女「……」

女「現場付近に車いすが落ちていた!」

男「NO」

女「あれえ!?」

女「ヤバいです、ギブアップです」

男「車いす生活の男がいたとして、腕の筋肉は一定あるだろうから、自殺が不可能とは思えないな」

女「ううむ、いい線だと思ったんですけど」

男「だらしないなあ、さして鋭くないおれでも自殺ではないことはわかったのに」

女「あれ? 鋭い同僚の話だったのでは?」

男「お前が見ても、一般人が見ても、現場を見たら同じことを察するだろうさ」

男「ただそれをわざわざ声に出して言うかどうかは別だが」

女「え? あれ? もしかして、それってすごくしょうもない分析ですか?」

男「ある意味ジョークの切れ味は鋭い男だったよ」

女「……笑えないジョークだなあ」

はてさて、真実は
また明日か明後日に ノシ

解答編です
この事件は、書きながら「こんな落ちもアリだなあ」と色々浮気しそうになりました

【解答編:これは自殺ではない】

男「ちょうどそのころ、飛び降り自殺が増えていてな」

男「だから転落死だって通報があった時から、また飛び降り自殺ではないかと考えていたんだ」

女「ははあ」

男「しかし現場を見て、『ああこれは関連してないだろうな』と思い、つい口に出たんだろう」

女「靴がないってことは、履く必要がないということ」

女「足が不自由なわけでもなく……」

男「まあ、足が不自由だとしても、足があるなら靴は履くんじゃないかな」

女「確かに」

女「でも足のない転落死体というわけでもない」

男「腕の力でベランダを越えることも想像できないわけではないからな」

女「見てすぐに『自殺ではない』なんてブラックなジョークを飛ばすということは……」

女「転落して死んでいたのは、まだ小さな赤ちゃんだったんですね?」

男「ああ、そういうことだ」

男「おれは一度も大人だったとは言ってないしな」

女「靴下も靴も、まだ履く必要のない赤ちゃんなら、まあ自殺はしないでしょうね」

男「ベランダに出ていることを察知できなかった両親にも問題はあるが……」

男「事故か、あるいは育児疲れで親が突き落としたか、どちらかだろうなとは思ったよ」

女「可哀想ですね」

男「不幸な事故だ」

女「殺人ではなかったんですか?」

男「その証拠は一切なかった」

男「それに、あの両親が育児に疲れて故意に落とすなんて言うストーリーは思い描けなかった」

女「マンションが実は二階建てだったってのも考えたんですが」

男「はは、二階から自殺ってのは、確かに考えにくいな」

女「でもそれだと靴の謎が解けませんしねえ」

男「死んでないかもしれないしな」

女「足折るくらいで済んでいたかも」

女「あとは、マンションの壁にベランダも窓もなかったとか」

男「そんな壁、ありうるか?」

女「建築法的にほぼ不可能でしょうね」

男「それに、窓がなくとも屋上が現場という可能性が残るぞ」

女「そっか、自殺っぽさが残りますね」

男「だろ」

女「自ら『落ちて死ぬ』ことを選択する人がいますが、どう思いますか?」

男「怖くねえのかなって、思う」

女「高いところがですか?」

男「それもあるけど、意識を保ったまま地面に激突するってのが、さ」

女「落ちている最中に気絶したりするのでは?」

男「そんなの誰も、わかんねえよ」

男「激突の瞬間まで、意識がはっきりしているかもしれないだろ」

女「それは、確かに怖いですね」

男「おれならそんな選択はしない」

女「ちょっと、自殺なんてだめですからね」

男「しないよ」

女「世の中に絶望したら、私に相談してくださいね」

男「……そうしよう」

女「私も、そうしますから」

男「……ときに」

女「はい?」

男「残暑が厳しいね」

女「あ、ええ、そうですね」

男「おれはこの蒸し暑さに絶望しているんだけど、なにか自殺せずに済む妙案はないかな」

女「絶望の度合いが低いですね」

女「じゃあ、その絶望を希望に変えるのはいかがですか?」

男「ほう、どうやって」

女「冷凍庫にアイスがあります」

男「め、女神!」

女「安い女神ですねえ」

男「生きる希望が湧いてきた」

女「それはよかった」

ネタが残り少なくなってきました……
ではまた ノシ

【出題編:おじいちゃんはサッカー上手】

女「そういえば所長、この事務所にテレビは置かないんですか?」

男「んー」

女「ニュースとか見ないと時代の流れについていけないんじゃないですか?」

男「んー」

女「ちょっと、聞いてます?」

男「誰か依頼人が使わなくなったテレビを置いてってくれないかなー」

女「修理業者じゃないんだから……」

女「お金の問題ってことですか?」

男「まあ、ね」

男「どうして? なにか見たいテレビでもあるの?」

女「いや、ほら、オリンピックとか、ワールドカップとか、盛り上がる大会を見たいじゃないですか」

男「甲子園とか?」

女「そうそう、甲子園とか」

男「大相撲とか?」

女「それは……ちょっと違います」

男「あそう」

女「所長もスポーツとか見たらいいのに」

男「スポーツねえ」

男「そういえば、サッカーは好きなの?」

女「あ、ええ、人並みに」

男「サッカーが上手なおじいさんの話をしようか」

女「はあ、昔話かなんかですか?」

男「ちょっと変な話だよ」

男「ある公園で、サッカーをしているおじいさんと若い母親がいた」

男「たぶん親子、あるいは義理の親子だろうと推測される」

女「はあ」

男「その二人は休日になると、公園に出向いてきてはボールを蹴りあっている」

男「今までそんなに見かけなかったのに、急に頻度が増えたというんだ」

女「はあ」

男「しかも実は、その『おじいさん』は変装で、本当は若い母親の旦那だったんだ」

女「はあ?」

男「つまり、夫婦で『老人と若い母親』を演じ、サッカーをしていたというんだな」

女「なんか変な話ですね」

男「さて、その二人は一体何の目的があってそんなことをしていたのだろうか」

女「んーよく状況が呑み込めませんね」

女「おじいさんの変装をしていることに、なにか意味があるんですか?」

男「ああ、もちろん」

女「それは誰かからバレないためですか?」

男「バレない、とはなにが?」

女「本人であることを」

男「YESともNOとも言い難いな」

男「おじいさんの変装をしていることが重要なのであって、誰かから身を隠しているわけではない」

女「なるほど」

女「その男の人の職業と関係していますか?」

男「いいや、別に」

男「ごく普通のサラリーマンだ」

女「借金取りから逃げているカモフラージュとかでは」

男「それもないな、特に問題のある家庭ではない」

女「母親の方の職業とかには……」

男「それも関係がない」

女「母親の方は、旦那が変装をしていることを当然知っていたんですよね?」

男「ああ」

女「二人して、なんらかの理由でそんなことをやっていたんですよね?」

男「ああ」

女「二人に子どもは?」

男「いないようだ」

女「その二人が住んでいる家には、祖父母が同居していますか?」

男「いい質問だな」

男「この二人がサッカーをし始める前までは、祖父が同居していた」

女「ということは、同居しなくなったことがこの件と関係あるんですね?」

男「そうだな」

女「もしかして亡くなってしまったんですか?」

男「いいや」

女「おばあさんの方は、もう亡くなっていました?」

男「ああ、もともと同居していたのは、この夫婦と祖父だけだ」

女「そもそも、この夫婦が暮らしていたのは、そのおじいさんの実家でしたか?」

男「そうだ」

女「死んだのでもなく、でも家からおじいさんがいなくなった……」

女「地下室に監禁されていて、でもその事実を知られないために元気なふりをしている?」

男「違う」

女「おじいさんのサッカー選手になるという夢を叶えるため、息子が代わりに頑張ってアピールしている?」

男「バレるだろ、そんなアピール」

女「ですよねー」

男「おじいさんのメイキャップをしてプロバスケ選手がストリートバスケで無双するCMがあったな、そういえば」

女「そうそう、そんな感じで」

男「しかし男の方のサッカーの才能は、別にプロになれるようなレベルではなかったようだ」

女「むむう」

女「プロサッカーは別に関係ないんですね?」

男「ああ」

女「あ、そもそもその男の人の変装は、おじいさんそっくりでしたか?」

男「ああ」

女「じゃあやっぱり、いなくなったおじいさんのふりをしているんですよね?」

男「そうだ、それは確かだな」

女「つまり、いなくなったことを隠したかったんですよね?」

男「まあ、そうだ」

女「誰に対して?」

男「さあ、それが重要だ」

男「ちなみに言っておくが、犯罪めいたことは特にないからな」

女「あら、事件ではないんですね」

男「ちょっと不思議な話、というだけさ」

女「警察に隠したかった訳ではないんですよね?」

男「ああ」

女「ご近所に?」

男「うん、まあ、それで正解かな」

男「もっと具体的に掘れればいいんだけど」

女「ううむ」

女「あと、『いなくなった』のが、ちょっと消化不良ですね」

女「事件性がないのに、同居しなくなったというのは……」

女「一人暮らしを始めた……とか」

男「じゃないな」

女「じゃないですよねーおじいさんの一人暮らしってあんまり聞かないですよねー」

男「高齢というのをイメージするといいかもな」

女「高齢……高齢……」

女「徘徊老人!?」

男「んー違う」

女「あ、入院!?」

男「惜しい」

女「入院が惜しい?」

男「まあ似たようなものといえるかもしれないがな」

女「あ、老人ホームに入った、とか?」

男「そう、正解だ」

女「老人ホームに入ったことを隠したかった?」

女「でも、わざわざ変装してまですることかなあ……」

男「それを隠したかった、というのももちろんあるんだが、重要なのは『おじいさんは元気だ』とアピールすることだったんだ」

女「ほほう」

女「おじいさんはもともと、その公園によく来ていたのですか?」

男「頻繁に、という訳ではなかったようだが、散歩には時々訪れていたようだ」

女「それが老人ホームに入ることでぱったりとなくなると、まずいと思ったのでしょうか」

男「それは誰が?」

女「その夫婦が」

女「あるいは、おじいさん自身が?」

男「どちらも正解だ」

女「その変装サッカーは、後ろめたさから来るものでしたか?」

男「いや」

女「では、誰かを喜ばせるため」

男「少し違う」

女「誰かを悲しませないため」

男「そう、近づいているぞ」

女「誰かを悲しませないために、元気でいることをアピールした?」

女「あ、それって、サッカーも関係していますか?」

男「そう、サッカーも、ある意味ではアピールなんだ」

女「おじいさんが老人ホームに入ったのは、なんらかの事故が関係していますか?」

男「いや、関係していない」

男「ただ……」

女「ただ?」

男「夫婦がアピールしたかった相手には、もしかしたら違う伝わり方をするかもしれない」

女「夫婦はそれを恐れたんですね?」

男「ああ」

女「だから、『気にしなくていいんだよ』とアピールしたんですね?」

男「そうだ」

女「ふふふ、微笑ましい話じゃないですか」

だいぶ開いてしまいましたが落ちてなくて安心しました
明日解答編予定です ノシ

【解答編:おじいちゃんはサッカー上手】

女「もともとは散歩でおじいさんは公園に訪れていたんでしょう」

女「そこでおそらく、サッカーをしている子どもがいたのでしょう」

男「そうだ、ご明察」

女「わざとではないけれど、その子が蹴ったボールがおじいさんに当たってしまった」

女「あるいは、転がってきたボールを返そうとして転んでしまった」

男「後者が正解だ」

男「蹴ろうとして足を滑らせて、すってころりん、と」

女「あらあら」

女「おじいさんがけがをしてしまったことを心配する子ども」

女「『大丈夫、大丈夫』と元気に見せるおじいさん」

男「しかし、その件とは関係がなくおじいさんは老人ホームに入ることになっていた」

女「タイミングが悪いですよね」

男「もともと決まっていたことだそうだ」

女「もしぱったりとおじいさんが姿を見せなくなったら、その子は気にするでしょうね」

男「『老人ホームに入った』と言うと、さらに気になるだろうからな」

女「『あなたのせいじゃないんだよ』って言っても、やっぱり小さい子には心の傷になるかもしれない」

女「だからそれを聞いた夫婦は、その子の為に一芝居打つことにしたのね」

女「『おじいさんは元気でいるよ』と」

男「その子がその姿を見て安心したら、頃合いを見て施設に入ったことにしたらいい」

男「そんなその場しのぎの演出だったのさ」

女「その子には変装がばれていなかったんでしょうか」

男「さあ、どうかな」ニヤニヤ

女「あれ、なんですかその笑いは」

男「いや、別に」

女「あれ、そういえばその事件は誰が解いてくれと依頼してきたんですか?」

男「依頼人に関する情報は言えない決まりでね」

女「私にもですか」

男「優秀な助手であるお前にもだ」ニヤニヤ

みなさんさすがです
おまけもう一本投下します

【おまけ:謎のボランティア団体】

男「もし自分が犯罪を犯し裁判にかけられたとしたら、できるだけ軽い刑にしてほしいと願うか?」

女「なんかヤな質問ですね」

女「でもまあ、できることなら短い方がいいとは思いますけど」

男「例えば過失ではあったとしても、大切な人を死なせてしまったとしたら?」

女「っ、それは……」

男「どうかな」

女「自分のせいだとしたら、死刑でいいと考えます」

女「軽い刑で出てきたら、その人に申し訳ないと思っちゃうかもしれません」

男「あるところに恋人を死なせてしまった男がいたんだ」

男「別れ話のもつれで揉みあいになり、弾みで頭を打って、な」

女「別れ話はどちらから?」

男「彼女の方からだそうだ」

女「それに怒って、という感じですか」

男「そうだ」

男「しかし男は殺意や動機などについてほとんど詳しい話をしていない」

男「『僕がやりました』と、ただそれだけだった」

男「だがしかし男は黙っているのに、陰で男の無実を証明しようとする団体が現れた」

男「女の方の不実や、男のアリバイ、様々な証拠が後から見つかったんだ」

男「しかし男の方には、身に覚えのない話ばかり」

女「弁護士が頑張っていたのでは?」

男「それも違う、弁護士の方にある団体から連絡が来たんだ」

男「ボランティアでやっている者だが、私たちの存在は明かさないでくれ、と」

女「ははあ、妙な話ですね」

男「無罪を勝ち取った暁にはお目にかかりたい、と言って一切裏で男のサポートをしていたんだ」

女「男のためを思って、でしょうか」

女「男はそれで喜んだんですか?」

男「いいや、男にも喜ばしい話ではない」

男「女が死んでしまった以上、死刑でもいいという考えだった」

女「じゃあどうして?」

男「さあ、どうしてだろうか?」

女「その団体はいつもそんなことをしているんですか?」

男「いや、過去にその団体が暗躍した例はなかったようだ」

女「結局無罪にはなったんですか?」

男「ああ、一応はね」

女「なにか怪しい宗教は絡んでいる?」

男「いいや」

女「大きな金が動いている?」

男「それも違う」

女「あ、そもそも男は客観的に見て、死刑判決が出そうな状況だったの?」

男「長くて20年、といったところだっただろうな」

女「……」

女「もしかして、男が死刑判決だったとしたら、そのボランティア団体は出てこなかった?」

男「出てこなかっただろうな」

女「……わかりました」

女「その団体は、『待っていられない人たち』では?」

男「……正解だ」

女「うああ、怖いなあ」

ではまた ノシ

おつ
おまけは解答編なしだっけ? わからん
団体は女のほうの親族で、自分らの手で復讐するために暗躍したとか?

前回のおまけは>>590が正解です
どうせ死刑じゃないなら早く出て来させて自分らで殺す、という考えだったんでしょうね

【出題編:死のプレゼント】

男「それはなにを読んでいるんだ?」

女「恋愛小説ですよ」

男「ミステリ物以外も読むのか」

女「そうですよう、乙女ですから」

男「一言多いんだよ」

女「多くないですよっ」

男「ですよですよ、うるさいんだよ」

女「所長こそ一言多いんですよっ」

パタン

女「はあ、いいなあ、こんな恋がしたいなあ」

男「……」

女「あ、所長になにか無理を言おうとしてるわけじゃないですからね、あしからず」

男「まだなにも言ってねえよ」

女「現実は小説ほど奇抜ではなく、平平凡凡な毎日だということもわかってますし」

女「私は別に物語のヒロインでもなく、ただの普通の美少女女子高生ってことも……」

男「自己評価が高いな、最近の若者にしては珍しく」

女「うふふ」

男「どんな恋なんだ?」

女「はい?」

男「その本の」

女「あ、ああ、これですか」

女「内気な男の子がですね、同じく内気な女の子に恋をしてしまって」

女「ちょっとずつアピールしようとするんですけど、うまくいかなくて」

女「こっそり後をつけたり、手紙を書いては破って捨てたり、授業中にちらちら見たり」

男「危ないやつだな」

女「不良に絡まれているところを助けに入ってボコボコにされちゃうんですけど、それでちょっと仲良くなって」

男「ありがちだな」

女「最終的にはちょっとラブラブになって終わるっていう……」

男「なるほど、そんなのが好きなのか」

女「ええ、まあ、割と気に入りました」

男「よし、じゃあ内気な男性の悲しい恋物語を聞かせてやろう」

女「え、所長の思い出話ですか!? 聞きたい!」

男「誰が内気か」

男「実際にあった事件のことだよ」

女「なあんだ、所長の恋バナも聞きたいのになあ」

男「そんなことは絶対話さねえぞ」

女「んもう」

男「なにが『んもう』だよ」

男「とある郵便屋が、一人の女性に恋をしたんだ」

男「いつも配達に行く家の人で、いつも郵便屋を待っていた」

男「目を伏せてぼそぼそ喋る女性だったが、その内気さも気に入ったんだそうだ」

男「配達されてきた手紙をいつも楽しみにしている様子だったが、その内容を読む前に、いつも寂しそうな顔をしていたらしい」

女「誰かからの手紙を待っていたんでしょうか」

男「そうだ、そしてそれがなかなか届かないのを悲しんでいたんだろうな」

男「あるとき男は決心して、自分の気持ちを書いた手紙と、プレゼントを入れた封筒を配達物に紛れ込ませた」

男「男は、彼女が手紙の差出人が自分であることに気づいた後、どうするかドキドキしながら待った」

女「うぶですねえ」

男「しかし女性が手紙を家に持って入った後、なかなか出てこなかったので振られたもんだと思ってその家を後にした」

男「しかし運命とは残酷なもので、その女性はその日のうちに首を吊って死んだそうだ」

女「へ?」

男「この女性を自殺に駆り立てた原因はなんだったのだろうか」

女「ス、ストーカーっぽくて怖かった、とか?」

男「違う、それじゃ安易なストーカー事件だろ」

女「郵便屋の男の手紙のせいだったんですか?」

男「そうだ」

女「郵便屋はそれを知っているの?」

男「いや、知らないまま、別の街に転勤していったそうだ」

女「もちろん男はそんなことを想定して手紙を渡したわけではなかったんですよね?」

男「ああ、想定外だっただろうな」

女「その女性は、プレゼント入りの手紙が彼からのものだと気付いたんですか?」

男「いや、気付かなかった」

女「でも自殺の原因は、その手紙?」

男「ああ」

女「じゃあなにか別の意味があると勘違いしてしまった?」

男「そう、そうだ」

女「そのプレゼントっていうのは重要ですか?」

男「ああ、重要だ」

女「それは一般的なものですか?」

男「片想いの最初のプレゼントとしてどうかは知らんが、まあプレゼントとして奇抜なものではなかったと思うな」

女「封筒に入るサイズのものだったんですよね?」

男「そうだ」

女「その封筒っていうのはこんな大きさの?」

男「いや、これくらいの、ハガキより少し大きい程度のかな」

女「案外小さいですねえ」

男「この中に入るサイズだ」

女「指輪?」

男「違う」

女「それはちょっと重いか」

女「ヘアピン?」

男「違う」

女「鏡?」

男「違う」

女「日常的に使うものですか? アクセサリーとかですか?」

男「後者だな」

女「あ、ネックレス?」

男「お、正解」

女「片想いで渡すにはちょっと重いかもですねえ」

男「そうだな」

男「その選択が、彼女を死に追いやってしまったんだ」

女「え、そのプレゼントがネックレスじゃなかったら、自殺なんてしなかったかもしれないんですか?」

男「そうだ」

女「それは……不運ですね」

男「まったくだ」

女「例えば指輪だったら?」

男「こんな悲劇は起こらなかっただろう」

女「ううむ」

女「その女性は、手紙の内容を読まなかったんですか?」

男「……少しだけ、違う」

女「ん?」

男「『読まなかった』のではなく……」

女「『読めなかった』?」

男「そうだ」

女「言葉が違った?」

女「自分の使う言語と違う言葉だったから、意味を勘違いしてしまった、みたいな」

男「近いが違う」

女「えっと、二人は同じ国の人間ですか?」

男「そうだ」

女「だけど使う言語が違った?」

男「ああ、そうだ」

女「それを男は知らなかった?」

男「そうだ」

女「あれ、でも、ぼそぼそと喋る女性だって言ってましたよね」

女「会話は成り立ってたんじゃ……」

男「そう、会話は、一応成り立っていた」

女「あ、読めなかったってそういうことですか!?」

女「その女性は目が不自由だったのね?」

男「そう、正解」

女「でも郵便屋の男は、それに気付いてなかったのね?」

男「そうだ」

女「郵便屋の男は普通の手紙を入れてしまったけれど、それは彼女には読めないものだった」

女「じゃあやっぱり、重要なのはプレゼントの方だったんですね」

男「そうだ」

女「男の手紙の内容は関係がない?」

男「ああ、普通のラブレターだったようだが、内容は特に関係がない」

女「女性は一体なにと間違えてしまったんでしょうか」

男「それもまた、一般的ではないだろうな」

男「特にこの国では」

女「海外の話ですか?」

男「そうだ、一応な」

女「その女性には家族か恋人がいますか?」

男「家には一人暮らし、遠く離れて暮らしている恋人がいた」

女「両親やきょうだいは?」

男「両親はすでに他界、きょうだいはおらず一人っ子」

女「ふうむ」

女「それ以外に重要な人物は出てきませんか?」

男「ああ」

女「遠く離れている恋人というのが気になりますね」

女「いつも家の前で待っていたのは、その恋人からの手紙が届くのを待っていたからでは?」

男「お、正解」

女「じゃあどの道、郵便屋さんの恋心は叶わなかったということですね」

男「残念ながらな」

女「プレゼント入りの手紙が、恋人からのものだと勘違いしたんですか?」

男「ううん、少し違うかな」

女「あ、そか、恋人なら目が見えないことも知ってますよね」

男「ああ、当然だろうな」

女「点字の手紙って打てるんですか?」

男「専用の機械を使えば、割と簡単に作れるそうだが」

女「恋人の手紙を待っていたのに、なかなか届かないから悲しくなった?」

女「といっても自殺するには理由が希薄ですよねえ」

男「近いところまで来ているんだけどなあ」

女「恋人とは遠距離なんですよね?」

男「ああ」

女「それは、とってもとっても遠くですか?」

男「……そうだな」

女「もしかして、『恋人はもう自分の元に帰ってきてくれない』と勘違いしたのでは?」

男「……正解だ」

女「本当はそんなことはなかった?」

男「そう、すべては彼女の勘違いがそうさせたんだ」

男「しかし二人が置かれている状況を考えれば、そう勘違いしてしまうのも無理はないのかもしれない」

女「もし恋人がもっと早くに手紙を送っていれば……」

男「あるいはこのタイミングで、送れていたら……」

女「うまくいかないんですね、いつも」

男「現実はシビアだな」

女「所長はそんな状況に巻き込まれないようにしてくださいね」

男「この国にいる限り、そんな心配は……」

女「100%ないとは言い切れないでしょう?」

男「まあ、な」

という感じでした
恋人はどこにいるのか、ネックレスをなにと勘違いしたのか

解答編は明後日に ノシ

みなさん素晴らしい推理でした
解答編行きます

【解答編:死のプレゼント】

女「その女性はずっと恋人からの手紙を待っていたはずなんです」

女「『無事』を知らせてくれる手紙を」

男「ああ」

女「その恋人は、彼女が目が見えないことを知っていたので、点字の手紙を送ってきてくれるはずだった」

女「でも、いつまで経っても、点字の手紙は送られてこない」

男「日に日に精神は削られていたんだろうな」

女「その恋人というのは、戦地に兵士として赴いていた人なんですね」

男「ああ、そうだ」

女「そんな折、ネックレス入りの手紙が届く」

女「それを彼女は、戦地から送られてきた彼の識別票だと勘違いしてしまったんですね」

男「そうだ、悲しいことにな」

女「ドッグタグとも言うんでしたっけ」

男「ああ、戦場の兵士が死後も識別できるように配付されるタグだな」

男「その女性はその知識があった」

男「だからこそ、早とちりしてしまったんだ」

女「そんなことを知らなければ、勘違いすることもなかったのかもしれませんね」

男「しかし目の見えない彼女に、帰らない自分を待たせるわけにはいかないと思って、自ら教えていたのかもしれないぞ」

女「ああ……その気持ちは……少しわかります」

男「せめてプレート型でないネックレスや、別のものであったなら、なあ」

女「悲しい偶然ということですね」

男「男はプレゼントを贈る際には気をつけないといけない、という教訓だな」

女「ええ」

男「ところで、もうすぐ18歳だったな」

女「あ、ええ」

男「プレゼントだ、受け取れ」

女「え、このタイミングで!?」

女「ちょ、ちょっとちょっと、今の流れはさすがにおかしくないですか?」

男「安心しろ、ドッグタグと間違えるようなネックレスじゃないから」

女「そんな心配はしてませんけどね!?」

女「むしろネックレスだった方がなんか清々しくて笑えますけどね!?」

男「あんまり高価なものは用意できなかったんで、少し悪いと思ったんだが」

女「あ、えっと、もらえること自体は嬉しいですけどね」

女「超嬉しいですけどね」

女「わ、可愛い髪留めですね」

女「ありがとうございます!」

男「髪が伸びてきたからなあ」

女「伸ばしてるんですっ」

男「ま、気に入ったら使ってくれ」

女「はい、気に入りましたので毎日使います」

男「あ、そう」

女「♪」

男「ちなみにおれの誕生日は……」

女「知ってますので言わなくて大丈夫ですよう」

男「……あそう」

女「♪」

あと一つ+おまけ一つくらいで終了だと思います
長い間ありがとうございました

【おまけ:猟師の油断】

女「所長って、もともと刑事だったんですよね?」

男「ああ」

女「その時に、銃を撃った経験はありますか?」

男「ん? 銃?」

男「訓練では山ほど撃ったさ」

男「でもまあ、犯人や容疑者相手に発砲したことはないよ」

女「なあんだ」

男「そもそも、銃なんか撃たない方がいいだろ」

女「まあ、そうですけど」

男「なに、銃に興味があるのか?」

女「いや、ちょっと銃って格好いいなあと思ったものですから」

男「猟銃なら一般人でも持とうと思えば持てるんじゃないか?」

女「あー、猟銃かあ」

男「でもやっぱりピストルの方がいい、と」

女「あは、ばれてますね」

男「スパイみたいな小型銃が欲しい、と」

女「え」

男「顔に書いてある」

女「ええ~」

男「銃は怖いぞ、という話をしてやろう」

女「はあ」

男「山小屋に住んでいる男がいたんだ」

男「普段から猟をして暮らしている男だ」

女「ふむふむ」

男「ある日、猟銃を担いで山を登っているとクマを見つけたんだ」

男「チャンスだと思って銃を撃ったんだが、男が『しまった』と思ったがすでに遅く、男は死んでしまった」

男「この不幸な男の身になにが起こったのだろう」

女「男は『しまった』と思ったんですか?」

男「そうだ」

女「なにか致命的なミスをしていたんですか?」

男「そうだ」

女「むう、なんか簡単そうな気がします」

男「はは」

女「なんかこう、銃口に詰め物をしていたのを忘れていて、暴発しちゃったんじゃ?」

男「ううん、違うな」

女「あれ、自信あったのに」

女「それは普通の猟銃でしたか?」

男「ああ、ごく普通の」

女「仕掛けもない」

男「なかったな」

女「銃口を間違えて手前に向けたまま引き金を引いた?」

男「んな馬鹿な」

女「あれ? 弾が出ないなあ? チラッチラッ、みたいな」

男「んな馬鹿な」

女「『しまった!』と思ったのは撃つ直前ですか? 撃った後ですか?」

男「後かな」

女「撃たなければ死ななかった?」

男「そうだな」

女「クマは死んだんですか?」

男「ああ、眉間を打ち抜いていたそうだ」

女「それに怒った親熊か子熊が、襲ってきた!?」

男「いや、違う」

女「銃声は響いたんですか?」

男「ああ、よく響いたようだ」

女「それに驚いた山の動物たちが驚いて飛び出してきた、とか」

男「普通逃げるだろう」

女「そっか、そりゃそうか」

男「よく響いた、というのは、ちょっと重要だな」

女「あ、わかった」

男「お」

女「その猟師さん、もしかして手袋をしていたのでは?」

男「正解」

女「それはなんというか……ご愁傷様ですね」

女「猟銃には消音機みたいなのはないんですかね?」

男「さあ、どうだろうね」

上手く匂わせられたでしょうか

次がラストかなと思います
早めに投下できるよう頑張ります

女「分厚い上着も着ていたのでは?」

男「うん、それも正解」

雪崩が正解でした
最後の事件です
お楽しみください

【出題編:結婚詐欺師の幸福】

女「所長、結婚はいつにいたしましょうか?」

男「は?」

女「結婚」

男「血痕? 物騒な話だな」

男「血まみれの男の事件があったな、その話をしようか」

女「違います! メルヘンな方の結婚です!」

男「結婚がメルヘンだという認識がおれにはないんだけど……」

女「あれ? 私、期待していいんですよね?」

女「私、所長の特別な人ですよね?」

男「まだ早いよ」

女「まだ……」

男「『まだ』だよ、あんまり言うな、野暮になるから」

女「……♪」

男「……」

女「……♪」

男「機嫌がよさそうでなにより」

男「結婚はメルヘンじゃないって事件があるんだけど」

女「え、夢壊さないでくださいよ」

男「探偵事務所に勤めるつもりで『夢壊すな』とは無茶を言う」

女「んー」

男「まあ、お子様には早いかな」

女「そういう言い方はなしですよっ」

女「ああもう、聞きます聞きます!」

男「そうこなきゃあね」

男「あるところに結婚詐欺師の男がおりました」

女「あー、最初っから夢のない話ですねえ……」

男「その男には高嶺の花の女性がいて、結婚を申し込み続けたがずっと断られていたんだ」

男「顔も頭もそれほど悪くはない」

男「しかしその女性には振り向いてもらえなかったんだ」

男「なんとか振り向いてもらおうと、大金を稼ごうと思って」

男「それで結婚詐欺という手段に走ってしまったという訳だ」

女「はあ、愚かな男ですね」

男「さて、この男は最終的に幸せを掴むわけだが、一体どんな人生を送ったのだろうか」

女「え、幸せになるんですか?」

男「そう、最終的には」

女「ということは、途中に不幸もあったんですか?」

男「ああ、不幸も経験している」

女「最終的な幸せって、じゃあ、その女性と結婚したということ?」

男「いや、それは違う」

女「あれ?」

女「その高嶺の花とは結婚できなかった?」

男「ああ」

女「だけど幸せ?」

男「まあ、そうだな」

女「詐欺罪で立件されたことはあったんですか?」

男「いや、それはなかったんだ」

女「じゃあ不幸っていうのは逮捕とかではないんですね?」

男「ああ」

女「ていうか、犯罪者なのに捕まって不幸とか言うのは違うか」

男「そりゃそうだ」

女「捕まらなかっただけでも幸運じゃないですか?」

男「それはそうかもしれないな」

女「だけど他にも幸運があった訳ですか?」

男「ああ」

女「それは、詐欺を働いていたから舞い込んできたもの?」

男「そうだ」

女「堅実に生きていたら、それはなかった?」

男「ああ」

女「結婚はできなかったけど、お金持ちになれたから、幸せ、とか」

男「両方違う」

女「ん? 両方?」

男「『結婚できなかった』訳でもないし、『お金持ちになれた』訳でもない」

女「あれ? 詐欺師ですよね? お金は稼げなかったんですか?」

男「『稼げなかった』というのも、違う」

女「稼げたけど、なんらかの理由でそのお金は使ってしまった」

女「あるいは失ってしまった?」

男「失ったのが正解」

女「ああ、なるほど」

女「せっかく結婚詐欺で稼いだお金を、失ってしまったのが不幸だったわけですね」

女「となると……そのお金を失った原因と、幸せになった理由に、直接的な繋がりはありますか?」

男「ああ、ある」

女「お金を失ったのが先ですよね?」

男「ああ」

女「失くした、盗られた、使った……」

女「あ、使ったんじゃないんだっけ」

男「その中だと、盗られた、が正解かな」

女「ほほう、泥棒ですかね」

男「んーちょっと違うかなあ」

女「んーと」

女「男はお金を稼ぐために結婚詐欺を働いて、お金を貯めていて」

女「だけど誰かに盗られてしまって、不幸になったけど、最終的には幸せになった、と」

男「ああ」

女「働いた詐欺は一件ですか?」

男「いや、複数回」

女「めっちゃ格好いい、とかじゃないんですよね」

男「ああ、それなりだ」

女「そんな男に何回も詐欺ができるんですかねえ」

男「あれ、男を見た目で判断するタイプ?」

女「い、いや、そういう訳じゃないんですけど」

男「探偵の心得、その一」

男「人を見た目で判断しないこと」

女「ははあ」

男「それともう一つ、この男は最初からある程度の金を持っていた」

女「む?」

男「金ならあるよ、という安心感が、相手を信用させる材料になるんだ」

女「……なるほど」

女「一つ、思いついたことがあります」

男「ん?」

女「そのお金を盗ったのは、男が詐欺を働こうとした相手だったのでは?」

男「お、すごいな、正解」

女「詐欺師が詐欺にあう、という訳ですか?」

男「んん、それに近いな」

男「ただ、相手の女は詐欺師だったわけじゃない」

女「違うんですか?」

男「その相手は……なんのために金を盗ったのか」

女「そりゃ……金があったら欲しいでしょうよ」

男「違う、そんな目的じゃない」

女「自分の為に盗ったんじゃない!?」

男「ああ、違う」

女「世界の為に!?」

男「そんな大それたもんでもない」

女「あ、男のことを思って、詐欺の証拠を消し去ってあげようと思った?」

男「それも違う」

女「むう、なかなかいい線かと思ったんですけど」

男「ただ、『男の為を思って』というのはいい線だな」

女「え、そこが!?」

女「ねえ、もしかして男は自分が得た幸せのからくりを知らないのでは?」

男「ああ、知らない」

男「その方が幸せだろう?」

女「そうかも、しれませんね」

女「その『結婚詐欺師の男』って、この事務所に来た依頼人ですよね」

男「ああ、大分昔だが」

女「所長はもしかして、探偵の依頼が来ても『謎を解かない』ことが多いのでは?」

男「ああ、よくわかったな」

女「……事務所が貧乏な理由がわかりました」

男「ははは」

女「ま、なんにせよその依頼人の男は、『結婚できて幸せ』ってとこですかね」

男「そういうこと」

というお話でした
解答編、明日に ノシ

正解者に拍手!
最後ちょっと絞りすぎました
推理の楽しさが減っているような……すみません

【解答編:結婚詐欺師の幸福】

女「男が結婚詐欺をしようとしていた相手が、お金を持ち逃げしてしまった」

男「ああ」

女「ただそれは、自分の為でも世界の為でもなく、『男の為』だった」

男「ああ」

女「となれば、その女はお金を持ち逃げしてなにに使ったか」

女「これは予想なんですけど、結婚詐欺の相手に選ばれた女の人たちっていうのは……」

女「あまり美人なタイプではありませんでしたね?」

男「ああ、まあ言っちゃ悪いが、器量は良くても美人ではないタイプの人たちだったようだ」

女「だからその女の人は、『自分を磨く為』にお金を持って行った」

男「そう、その通り」

女「整形手術とかもしたんでしょうかね」

男「思いっきり、という訳ではないようだが、まあいろいろと手を加えたようだ」

男「まあ、元がそこまで悪いわけじゃなかったから、少し手を加えれば見事な美人になっていたよ」

女「エステとかも」

男「ああ、多分な」

女「そして、再び男のもとに戻った訳ですね」

女「結婚してくれって」

男「男は降って湧いた話に戸惑いつつも、大金を失い落ち込んでいた所だったから、よくわからないままに結婚したそうだ」

男「まあ美人が結婚を迫ってくるわけだし、悪い気はしないだろうな」

女「男の詐欺の為の口車とはいえ、その女の人には『結婚の話』がとても嬉しいことだったんでしょうね」

男「まあ、褒められておだてられて結婚しようと言われれば、嬉しいもんだろうな」

女「それも、まあもともとモテるタイプの人ではないのだから」

男「言われ慣れていなかったんだろうな」

女「しかし詐欺で得た金であること、その男が結婚詐欺師だということに気づいてしまったのでしょうか」

男「そこははっきりとは言ってくれなかったな」

男「ただ、この人に振り向かないそんな『ただの美人』よりも、私の方が幸せにできるだろうって、そう言っていた」

女「詐欺って言っても、そんなパッと知り合ってパッと結婚するわけじゃないでしょう?」

男「ああ」

女「少しずつお互いを知る中で、男に対する本当の愛情が生まれて」

女「それが詐欺だって知ったとしても、それでも好きだってこと、あると思うんです」

男「……そうなんだろうな」

女「復讐するのではなく、寄り添う」

男「まあ、結果的には良かったんだろうね」

女「また詐欺を働くことがなければ、ね」

男「……過去の詐欺については、見逃してしまったんだけどな」

女「……それまでに騙された人たちには……よくない結果でしょうけどね」

男「な、結婚なんて、みんながみんなハッピーとは限らないのさ」

女「でも所長は、その男の人に真実を伝えなかったんでしょう?」

男「まあな」

女「そういうとこ、ロマンチストですよね」

男「……んなことねえよ」

女「照れてますね」

男「照れてません」

女「結婚かあ」

男「まだ早いよ」

女「あっという間ですよ、時間なんて」

女「特に女性は、時間を大切にしたいんです」

男「どういうこと?」

女「若くいられるのは今だけ」

女「自分が一番魅力的な時間を、大切な人のために使いたいんですよ」

男「……そうか」

女「……淡白なリアクションですね」

女「……所長らしいですけど」

男「大学に入ったら、知識を広げること、交友関係を広げること」

女「?」

男「ただし男と二人で出かけないこと、遅くなるときは連絡すること」

女「……」

男「迎えが欲しいときは迷わず言うこと、合コンには参加しないこと」

女「うふふ」

男「後は……」

女「わかりました、わかりました」

男「……淡白なおれの、関白宣言」

女「あー、その一言、マジでいらなかったなあ」

以上です
ありがとうございました
おまけの(蛇足の)エピローグも良かったらどうぞ

【エピローグ】

カランカラン

男「おう、おはよう」

女「……おはようございます」

男「……どうした、浮かない顔して」

女「所長、この際だから言わせていただきますけどね」

男「ん?」

女「私より先に事務所に来れる余裕があるんだったら、ちゃんと朝ご飯食べてくださいよ」

男「た、食べたよ?」

女「うそです」

女「人参のソテー、また食べなかったでしょう」

男「た、食べた食べた、一個」

女「減ってなかったですよ?」

男「う」

女「私ちゃんと数えたんですから」

男「……」

女「もう、子どもみたい」

男「嫌いなんだよ、人参」

女「ええ、ええ、知ってますけどね」

男「まあ人参のことは置いといて」

女「もう」

男「事件の話を聞いてくれ」

女「え、事件ですか?」

男「いいか、被害者は男」

男「ビルの屋上から墜落して死亡」

男「多数の目撃者がいる」

女「はあ、屋上に遺書は?」

男「まあ最後まで聞け」

男「ビルの下は血だまり」

男「随分高いビルのようで、体が一部破損」

女「破損?」

男「つまり、離れている」

女「うえ」

男「離れた右手には、トランシーバーほどの小さな機械」

男「そして問題なのが、ビルの屋上にも多数の出血の跡があるってことだ」

女「え、じゃあ自殺に見せかけた殺しじゃあ」

女「男は靴を履いていましたか?」

男「わからん」

女「屋上の出血ってどのくらいですか?」

男「わからん」

女「男の年代は?」

男「サラリーマンぽいってだけだ、未成年ではないようだな」

女「あいまいですね、そもそもそれは事故なんですか? 殺人なんですか?」

男「わからん、それをお前が今から調べるんだよ」

女「え?」

男「今からこの場所に行ってきてくれ」ヒラッ

男「おれの名前を出したら、内緒で現場にも入らせてもらえるから」

女「え、え、え」

女「今起こってる事件なんですか?」

男「当たり前だろ、なんだと思ったんだよ」

女「あ……いえ……」

男「ほれ、早く行け、事件は待ってくれないからな」

女「はあ」

男「気をつけてな」

女「はあい、では」

カランカラン

男「……」

男「大丈夫かな……」ソワソワ

男「初めてだし、やっぱ一緒に行った方が良かったか……」ソワソワ

カランカラン

女「なにか言いました?」

男「言ってない! 早く行け!」

女「えへへ、行ってきます」



★おしまい★

楽しかったです
元ネタが色々とありますが、それを言うとひどいネタバレにもなりますので、
ミステリが好きな人は自分で探してみてください
よくわからん箇所があればお答えします


    ∧__∧
    ( ・ω・)   ありがとうございました
    ハ∨/^ヽ   またどこかで
   ノ::[三ノ :.、   http://hamham278.blog76.fc2.com/

   i)、_;|*く;  ノ
     |!: ::.".T~
     ハ、___|
"""~""""""~"""~"""~"


このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年12月17日 (水) 23:02:53   ID: Ul2xorwg

良かったです!

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom