梅木音葉「雨の日」 (11)

音葉誕生日おめでとう
祝いたいから立てた後悔はしていない
書きため無し
地の文

OK?

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仕事帰り

日がまだ高い
天気がいいからとプロデューサーに電車ではなく歩いてかえろうと言った
プロデューサーは笑顔で「いいよ」と言ってくれた

でも、ほどなくして雨が降ってきた

私達は足早に近くの喫茶店に入る

昼でも夜でもない中途半端な時間のためか店内には一人の店員しかいなかった


店員にタオルを渡され、席に促される
窓際の席で、中々いい眺めだ

「コーヒーを二杯」

短くプロデューサーがいい、店員がお時儀をする


タオルで身体を拭きながらコーヒーを待つ

「運が無いな。誕生日なのに」

プロデューサーが言います

「いえ、私はこんなゆったりとした時間を過ごせるだけで満足です……」

「そうか……」

それ以上なにも言わずプロデューサーは窓の外を見ます
その視線を追って私も外をみます
雨は少し勢いをましたようでした

しばらく二人で外を眺めていると二杯のコーヒーが運ばれてきました

口に含み、言葉も交わさず再び二人で外を見ます
雨はまだ降っています

「……音葉は、雨って好きか?」
外を見たままプロデューサーが言います

「……」
すぐには答えず少し考える

雨の音は好き
まるで1つの交響曲を奏でているように聞こえてくるから
そういえば雨音はショパンの調べという歌もありましたね

「好きですよ。でも……」

「でも?」

プロデューサーは私の目を見ます
私の言葉をしっかりと聞きもらさないように



「あなたとすごすから、こういった雨の日……いえ、晴れや曇りでも楽しくすごせるのでしょうね……」

「……そうか、それは嬉しいな」

プロデューサーとすごす何気ない時間
それが私を満たしてくれる

「あなたは?」

「俺か?俺は……」

プロデューサーは腕を組み、少し考えます

「……音葉に限らずみんなとすごす時間は楽しいよ」

「ふふっ」
私は思った通りの答えだったので思わず笑ってしまった
プロデューサーはそんな私を見て微笑んでくれた

プロデューサーは誰にだって優しく、心配りの出来る人だ
そんな彼だからみんなを笑顔にできるのだろうと思う

「雨も上がったし、帰るか」

「ええ……」

いつの間にか雨は止んで、再び日がさしてきていました


会計を済まし、外にでると湿った風が私の頬を撫でました

「ちひろさんが事務所でパーティーの準備してくれてるぞ」

「ふふ、ちひろさんは好きですものね」

みんなが待っているであろう事務所に向け歩く

事務所にはプロデューサーに吹く風とは違う風が吹いているのでしょう
でもそれも悪くない。それもまた私を満たしてくれる心地よい旋律ですから

「音葉、俺からみんなより先に誕生日プレゼントだ。手、出して」

言われた通り、手をプロデューサーに差し出します
そこにプロデューサーの手が重ねられ、何か置かれました

「誕生日おめでとう。音葉」

プロデューサーからもらったものは音符の付いたネックレスでした

「ありがとうございます……とても嬉しいです」

照れくさいのでうつむきながら答える

「そっか、喜んでくれて嬉しいよ」

そんな私のことを思ってかプロデューサーが素っ気なく答える

事務所に向かって二人で歩きだす

あなたが歩いて

私がその隣を歩いて

あなたが私の歩く速度に合わせてくれて

そんな心地よい旋律がいつまでも続くよう
優しい風が吹くよう

私は歌い続けます


おわり

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