穂乃果「何これかわいい!」チナ「ベアッガイⅢだよ」 (131)

ガンダムBFとラブライブのクロスSSでござい

書き溜めてるからガシガシ投下していくよ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1403178903

――11月某日 夕刻

ことり「よかった、必要な生地があって」

海未「少し遠出した甲斐がありましたね」

穂乃果「なんてったって次は最終予選だからね! 衣装に不備があったら……あれ?」

ことり「どしたの穂乃果ちゃん?」

穂乃果「なんだろうあの人だかり」

海未「ずいぶんにぎわってますが」

ことり「何かのイベントかな?」

穂乃果「ねぇ、ちょっと見に行ってみようよ」

海未「はぁ」

セイ「そこだ委員長! 懐に飛び込んで!」

チナ「ごめんなさいっ!」

 ベアッガイⅢの屈強な腕が相対したギャンバルカンを殴打する。

サザキ「流石にパワーでは敵わないか……なら、こうだ!」

 よろめいたギャンバルカンは体勢を立て直しつつ、背部と上半身の増加ユニットを分離した自律稼働型支援メカ「ヴァリュアブルポッド」をベアッガイⅢに向かわせる。

サザキ「勝たせてもらうよ、コウサカさん!」

 バーニアを全開にして突撃したヴァリュアブルポッドはベアッガイⅢに衝突しつつもガトリングガンを至近距離で乱射。黄色い装甲に無数の火花を散らせる。

チナ「投げ飛ばして、ベアッガイⅢ!」

セイ「委員長、右だ!」

チナ「――!?」

 ポッドを両手でがっしと掴んだベアッガイⅢの横合いから、ビームサーベルを両手に携えたギャンが躍りかかる。

サザキ「デコイに気を取られて!」

 ギャンの一閃はすんでのところで掲げられた腕部のサーベルに阻まれるが、すぐさまもう片方の得物でそれを切り飛ばす。
 体勢を崩したベアッガイⅢはポッドの体当たりを受けて弾き飛ばされた。
 相手が地面を転がる隙にギャンはポッドとドッキングし、武装をシールドに持ち替える。

サザキ「それがきみの敗因だと思い知ることだ!」

 2基のシールドから大量のミサイルが飛び出し、倒れ伏したベアッガイⅢに殺到する。
 直撃、直撃、直撃。
 爆発に次ぐ爆発で黒煙がフィールドを満たし、視界が晴れぬまま勝負は幕引きを告げられた。

『Battle ended』

ことり「ガンプラバトルの大会だったんだね」

海未「そういえばニュースで見ました。夏の大会でガンプラを動かす粒子が枯渇して、それでやっと今日再稼働が始まる、と」

ことり「へぇ……ってあれ? 穂乃果ちゃんは?」



チナ「ああ、負けちゃった」

サザキ「もっと視野を広く持つことだね。不意打ちに対処できれば地区予選だっていい線行くと思うよ」

セイ「このブランクがあった割には、サザキもだいぶ強くなったんじゃない?」

サザキ「もちろんさ、僕の目標はきみのガンプラを倒すことなのだから!」

セイ「はは、執念深いなぁ……」

チナ「でもよかった、大きな破損が無くて」

サザキ「修理の苦労はビルダー同士よく知ってるからね。過剰な破壊はスマートさに欠ける、と最近思うようになってきたのさ」

セイ「トドメのミサイルも見た目は派手だけどプラフスキーエフェクトだしね」

穂乃果「――おーい、チナちゃんチナちゃん!」

チナ「穂乃果……ちゃん?」

セイ「委員長、あの人知り合い?」

チナ「うん、私のいとこ」

穂乃果「というわけで紹介するね。こちら、私のいとこの高坂千奈ちゃん! うちのお父さんの弟の子なんだ」

チナ「は、はじめまして」

ことり「はじめまして、南ことりです」

海未「園田海未と申します」

チナ「じゃあこっちも、友達の伊織誠くんと佐崎進くんです」

セイ「ど、どうも」

サザキ「ああ……」

セイ「サザキ?」

サザキ「……感激だ! μ’sのメンバーに会えるなんて!」

セイ「μ’s?」

サザキ「知らないのかい!? スクールアイドルだよ!」

海未「おや、ご存知とは」

サザキ「当然です! この前のハロウィンイベント、最高でした!」

セイ「えーと……」

チナ「穂乃果ちゃんたちはスクールアイドルをやってるの。聞いたことくらいはあるでしょ?」

セイ「ああ、少しは……」

チナ「けっこう有名なんだよ、穂乃果ちゃんたち」

サザキ「そうだよ、まったく失礼な男だなきみは!」

サザキ「いいかい!? 彼女たちμ’sはラブライブの東京地区最終予選に残った実力者なんだよ!」

サザキ「なのに、なんだその呆然とした態度は! 失礼じゃないか!」

セイ(し、知らなかった……)

チナ(サザキくんがアイドルオタクだったなんて……)

ことり「まぁまぁ、そのくらいにして」

サザキ「はっ! 僕としたことが!」

サザキ「すみません、お見苦しいところを!」

セイ「僕もすいません、不勉強で……」

穂乃果「いいよいいよ。それより、知らなかったよ、チナちゃんがガンプラバトルをやってたなんて」

チナ「女の子でもけっこうやってる子いるんだよ」

チナ「ほら、こういうのもあるし」

穂乃果「わ! 何これ!?」

ことり「かわいい!」

チナ「へへ、これは私のベアッガイⅢだよ」

海未「でもガンダムって戦争のアニメだったはずですが……こういったものまで出てくるんですか?」

チナ「それは……」

セイ「ベアッガイはガンプラを題材にした派生作品が初出なんですよ」

セイ「元々ガンダムシリーズではマスコット的扱いだった水陸両用MS群の中でも特にかわいいと評判だったMSM-04アッガイをベースにテディベアを模した改造を施して……」

穂乃果「うわ、いきなり語り出した!」

サザキ「やめろセイくん、みんなドン引きしてる!」

セイ「――はっ! 僕は何を!?」

海未「トランス状態にまで陥っていたとは……恐ろしい子!」

セイ「と、とにかく、ガンプラはガンダムと関係あって関係ない、って感じですね」

セイ「自由な発想で作ってもいいんです」

海未「なんとなくは分かりました」

チナ「そうだ穂乃果ちゃん、よかったらうちで晩ごはん食べてかない?」

穂乃果「あ、そうだね! チナちゃんちはカフェレストランやってるんだ! いいよね?」

海未「そうですね、特に予定もありませんし」

ことり「うん、じゃあお言葉に甘えて」

サザキ「コウサカさん、我々もご一緒してよろしいのかな?」

サザキ「というか、お願いします! ご一緒させてください!」

チナ「う、うん、いいよ……」

――カフェレストラン コウサカ

チナ「ただいま! お父さん、穂乃果ちゃんたちを連れてきたよ!」

穂乃果「おじさん、久しぶり!」

チナ父「おお、久しぶりだな! 活躍は聞いているぞ。すごいじゃないか、ラブライブ最終予選なんて」

穂乃果「えへへ」

ことり「あ、ガンプラが置いてあるよ」

チナ「それは京都の友達が代金がわりにくれたものなんです」

セイ「エクストリームガンダム。ゲームのボスを務めたGacktの専用ガンダムですよ」

ことり「えっ、GacktってあのGackt?」

セイ「はい。彼は重度のガンダムオタクですからね。好きが高じて映画の主題歌歌ったりもしてます」

ことり「へぇ~、だからギターみたいな銃持ってるんだ」

ラル「ほう、随分と熱心な鞭撻ではないか」

セイ「ラルさん!」

ラル「よもや君たちがμ’sのメンバーを率いてやって来るとは、夢にも思わなんだな」

海未「あなたは?」

ラル「しがないゲリラ屋風情ですよ、園田海未嬢」

海未「はぁ」

セイ「すいません、ウチのプラモ屋の常連、ラルさんです。こう見えてガンプラ界隈じゃあ有名な人なんですよ」

ラル「こう見えては余計だぞ」

ラル「しかし驚いたよ。まさかチナくんと穂乃果嬢がいとこ同士だったとは」

ラル「失礼だが、サインをいただけるかな?」

サザキ「大尉、抜け駆けはズルいですよ!」

チナ父(店で騒がないでほしいなぁ……)

――翌日 音ノ木坂学院

穂乃果「――ということがあったんだよ」

凛「凛、アニメなら少し見てたよ!」

絵里「ロシアにもファンは大勢いたわね」

にこ「今じゃガンプラアイドルなんてものまで出てきてる盛り上がりっぷりだし」

花陽「私のお兄ちゃんも少し持ってたかな。バトルまではやってないけど」

希「そういえば、聖鳳高等部の先代会長が確か世界レベルのガンプラ名人だって聞いたことあるなぁ」

絵里「結城達也? 生徒会連絡会でそんな噂が回ってたわね。」

真姫「それって確か、塗料メーカーの息子でしょ?」

凛「知ってるの?」

真姫「社長の主治医がパパなのよ」

にこ「で、アンタ何? ひょっとしてガンプラバトルやりたいとか言い出すんじゃないでしょうね」

穂乃果「いやいや、だって最終予選まであと1ヶ月しか無いんだよ?」

穂乃果「いくら私でも、そこまで余裕かませるほどパッパラパーじゃないよ」

海未「ですが、チナさんがガンプラを利用したいい方法を提案してくれました」

絵里「いい方法?」

ことり「チナちゃんの彼氏が実は、今年のガンプラバトル世界大会の優勝者なんだって」

花陽「世界チャンプ……!」

凛「すごいにゃ!」

海未「その彼にμ’sの宣伝用ガンプラを作ってもらい、2週間後に行われる大会に出てもらうというのです」

希「なるほど、世界チャンプとなれば注目度もダンチやろね」

絵里「確かに宣伝効果は望めそうね」

真姫「でもいいの? 他校の生徒と結託するなんてルール違反じゃない?」

穂乃果「聖鳳にはスクールアイドルがいないから問題ないと思うよ」

海未「実は勝手ながら、既に話は進めてあります」

ことり「私たちのファンの子も友達にいたから、製作の方もスムーズに行くと思うけど……」

海未「今日は練習の後で視察に行くつもりですが、みんなもどうですか?」

穂乃果「結局みんなついてきた」

絵里「こういうのはきちんと挨拶しておくのが礼儀でしょ」

海未「イオリ模型……このあたりのはずですが」

凛「あ、あそこじゃないかにゃ?」

にこ「こんな場末によく店を開いたわね」

真姫「けど閑古鳥ってわけじゃなさそうね。人の出入りがある」

希「余計な詮索せんと、ほら行くよ」

穂乃果「こんばんはー」

リン子「いらっしゃいませー」

チナ「あ、穂乃果ちゃん!」

穂乃果「チナちゃん、来たよー」

チナ「リン子さん、さっき話した穂乃果ちゃんとμ’sのみなさんです」

穂乃果「はじめまして、高坂穂乃果です。すいません、突然大勢で押しかけて」

リン子「いいのよ。大人は誰でも夢みる子供たちの味方なんだから」

絵里「お心遣い、感謝します」

『Battle ended』

凛「あ、バトルしてたみたいだにゃ」

ガチャ

タケシ「ランバ! お前よくもメインスラスターを潰してから蹴り倒したな! 旧キットの可動範囲じゃ起き上がれないのをいいことに!」

ラル「何を言う! お前とてこちらの左手を破壊してから、一方的にライフルを浴びせたではないか!」

にこ「お、おっさんが大人気なく口喧嘩しながら出てきた……」

リン子「ちょっとタケちゃんラルさん! 女の子の前で恥ずかしいことしないで!」

タケシ「女の子――」

ラル「――とな!?」

μ's「…………」

ラル「なんと!」

ラル「いやはや、失敬失敬。しかしまさかフルメンバーでご来店とは、うむ、壮観だな」

タケシ「ねぇリンちゃん、あの子たちがさっき言ってた?」

リン子「そうよ」

タケシ「ははは、ようこそ我がイオリ模型へ。ご注文の品なら製作室だ」

チナ「こっちです」ガチャ

セイ「あ、どうも。すいませんわざわざこんなとこまで」

海未「いえ、厚意に甘えるだけではこちらの気が済みませんので」

絵里「あなたがセイくんね。ホント、悪いわね、こんなこと引き受けてもらっちゃって」

セイ「委員長が言い出したことですし、僕の方もスキルアップになりますから」

穂乃果「それで調子はどう?」

セイ「サザキとラルさんとの提案で、改造素体はこのGNZ-007ガッデスを使うことにしました」

セイ「ミューズは音楽の女神とのことなので、女神の名を持つこの機体こそが相応しい、と。綴りは違いますけどね」

セイ「あと、ソレスタルビーイングの系列機は神話などから機体名が付けられているのも理由ですね」

ラル「しかしカラーリングや武装構成が難問でな」

ラル「きみたちμ'sは各個のイメージカラーこそ決まっているものの、グループ全体を象徴する色は無い」

ラル「そこでだ。少し知恵を貸してはくれんかね」

穂乃果「うーん、私たちを象徴する色かぁ」

真姫「そういえば何も無かったわね」

海未「ならばことり、あなたが決めてください。μ'sのデザイナーはあなたなんですから」

ことり「うーん、急に言われても……」

花陽「ガンプラってこんなに種類があるんだねぇ……」

凛「あ、凛これ知ってるにゃ!」

花陽「わ、何この太いガンダム」

凛「これね、脱いで痩せるんだよ」

タケシ「そう、GN-005ガンダムヴァーチェにはこの機体、GN-004ガンダムナドレが秘匿されている」

凛「あ、そうこれ、髪が生えてるの」

タケシ「残念ながらそのハイグレードではサイズ上、装甲の着脱ギミックは省略されているが、こちらの1/100は再現可能だ」

タケシ「ナドレ用の武装が無いという欠点もあるがね」

にこ「――うわっ!」

タケシ「おっと、また知識を求める子の声が!」

にこ「何よこれ、3万!? ふざけてんの?」

希「しかも天使みたいな羽まで生やしてドえらいスピリチュアルな見た目やな」

タケシ「その値段も無理からぬことだよお嬢さん」

タケシ「パーフェクトグレード、ウイングガンダムゼロEWパールミラーコーティングVer.」

タケシ「1/60という大型サイズに緻密なギミックをこれでもかと仕込んだガンプラの最高峰、PG」

タケシ「ただでさえ高額なその商品に特殊加工を施しパールの高貴な質感を付与したのだから、必然的に値段は跳ね上がる」

タケシ「その圧倒的なデザインとも相まって、まさに芸術品とも言えるガンプラだよ」

にこ「……そんなにアピールしても買わないわよ」

タケシ「はっは、それは残念」

ことり「じゃあ、色の統一感がある衣装から割り当ててみるね」

ことり「まず、僕らのLIVE君とのLIFE。紅白メインでアクセントに黒」

ことり「次にNo brand girls。黒白でアクセントにパーソナルカラー」

ことり「そしてユメノトビラは白と青」

穂乃果「この3つから選ぶとしたらやっぱり……」

海未「LIVELIFEでしょうか」

真姫「μ's制式結成の曲だものね」

ラル「ふむ、紅白メインなら正規のガ系に無いカラーリングで目新しさもあるな」

セイ「あとは装備をどうするかですが……」

絵里「そっちの方は助言できそうにないわね」

ラル「ならばこちらで悩むしかあるまい」

セイ「とりあえずはこんなところですね」

セイ「衣装からデザインを起こしてみますから、できたら委員長を通してそちらに送ります」

穂乃果「お願いね。楽しみにしてるよ!」

――2日後

穂乃果「デザインが来たよー!」

海未「どれどれ……ふむ、これは……」

ことり「ちゃんと衣装のイメージを合わせてあるね」

絵里「それで、もう1枚は何?」ピラッ

穂乃果「ブースターユニット、って言ってたよ」

真姫「悩んでたところも解決したみたいね」

凛「完成が待ち遠しいにゃ!」

――イオリ模型 製作室

アラン「失礼するよ、セイくん」

セイ「PPSEのアランさん!? いったいどうしてここに」

アラン「ラル大尉からきみがμ'sの宣伝用ガンプラを作っていると聞いてね」

セイ「ええ、それが何か?」

アラン「ちょっとした情報提供なんだが、2週間後の東京オータムカップにA-RISEの綺羅ツバサが出る」

セイ「えっと……どなたですか?」

アラン「おっと、きみはスクールアイドルについては素人だったな」

アラン「A-RISEは前回のラブライブ覇者、全国の頂点に君臨するUTX学院のスクールアイドル」

アラン「そしてそのリーダーが綺羅ツバサ。小柄ながらも抜群の歌唱力とダンススキルで観客を魅了し圧倒する恐るべき少女だ」

セイ「それで、なんでそんなすごい人がガンプラバトルを?」

ラル「どうやら最終予選に向けて人気のブーストをかけるようだな」

アラン「大尉!」

ラル「いくらスクールアイドルが流行っていると言えども、その市場は日本国内だけ」

ラル「対してガンプラバトルは世界規模の人気を持つ、まさにワールドホビーだ」

ラル「ワシやサザキくんのように両方に精通した者もある程度はいるが、その2つを繋ぎとめるファクターは非常に少ない」

アラン「まさか被っていないファン層を狙い撃ちにして取り込むというのですか?」

ラル「ありうる話だ。だとすればこんな土壇場で乗り出すはずが無い」

ラル「時間に余裕があれば模倣するライバルが出現してくる可能性があるからな」

アラン「なり振り構わずとは……それであんな依頼を……」

セイ「依頼?」

アラン「我が新生PPSEのワークスチームに、ツバサの専用機を作ってくれと頼まれたんだよ」

セイ「それで情報を手に入れたんですか」

アラン「もちろん断ったがね。僕は静岡のハローハロー推しだから」

アラン「まさか1次予選でももちゃみっくすに抜かれるとは思わなかった……!」

セイ「でもこんな土壇場でアピールしても意味ないんじゃないですか?」

セイ「ガノタに限らずオタクはにわかを非常に嫌う。付け焼き刃なんて売名と叩かれるだけですよ!」

ラル「あのA-RISEがそんな詰めの甘いことをするとは思わんがな」

アラン「ええ、おそらくキララのように知識を叩き込んだか、元からガノタだったが隠していたか……」

ラル「向こうの真意は知らんが、とにかくμ’sにこのことを知らせた方がいい」

セイ「はい!」

――音ノ木坂学院 アイドル研究部部室

海未「まさか本人が直々に出てくるなんて……」

花陽「けどツバサがガンプラ好きなんて聞いたことも無かったのに……」

にこ「今までのファン層を意識してひた隠しにしてたかもしれないわね」

希「で、彼女の実力はどのくらいなん?」

穂乃果「今まで一度も戦歴が無いからまったくわかんないんだって」

絵里「すべては大会当日になってから、ということね」

ことり「でもガンプラバトルの運営会社に直接依頼してくるようだから、相当気合いは入れてるよね」

凛「強敵間違いなしにゃ」

――UTX学院

英玲奈「しかしよく上も許可したものだな」

あんじゅ「こうでもしないと最終予選は勝ち抜けない、って判断したのね」

ツバサ「辛かった……ガンダムを代償に手に入れたスクールアイドルとしての栄光……」

ツバサ「そして、今ここでようやく好きなものを好きだと言える」

あんじゅ「上もホント、徹底してるわよね。手が荒れるからガンプラ製作は禁止、だなんて」

英玲奈「ガノタであることも一般人が引くから公言するな、との命もな」

ツバサ「勝手よね。今度はそのガノタを利用しようというんだから」

英玲奈「そう」

あんじゅ「まさに」

ツバサ「 俗 物 」

ツバサ「けど自分でガンプラが作れなかったのは心残りね」

あんじゅ「仕方ないわよ、まだ手を傷つけていいってわけじゃないから」

英玲奈「それで最終予選に勝てねば元も子も無いしな」

ツバサ「でも、あの方が作ったガンプラを操縦できるのは素直に喜ぶべきかもね」

英玲奈「まさかPPSEに断られるとは思わなかったが」

あんじゅ「そこで名乗りを上げたのがあの方……」

ツバサ「ふふ、完成が楽しみね……」

――東京オータムカップ 当日

凛「広い会場にゃ! 人もすごいにゃ!」

海未「こうして見るとガンプラバトルの人気を思い知りますね」

絵里「それで、セイくんは?」

穂乃果「出場選手はもう会場入りしてるって」

ラル「おや、お揃いのようだな」

穂乃果「ラルさん!」

ラル「ご要望の機体は予想以上の仕上がりだ。テストマニューバにワシも付き合ったが、太鼓判を押せる強さだ」

希「しかしラルさんも神出鬼没で大概スピリチュアルやな」

ラル「偶然は重なるものだよ、希嬢」

ラル「だがやはり綺羅ツバサの存在が気になるな」

ラル「PPSEに製作依頼を出したところから判断するに、彼女は今ガンプラを作れない状態にあると見える」

にこ「事情があるってこと?」

ラル「うむ、それに製作依頼をどこが受諾したかも気になる」

ラル「このあたりにいる有名どころには一通り確認を取ったが、誰一人として依頼は来ていないそうだ」

海未「それは大会が始まればはっきりすることです。さあ、行きましょう」

司会『紳士淑女の諸君、ごきげんよう! さぁ、ガンプラバトル東京オータムカップの開幕だ!』

司会『夏の世界大会でプラフスキー粒子が枯渇した時はどうなるかと思ったが、アーリージーニアスのおかげで無事、本大会も開催することができたぞ!』

司会『さて、今回も例年通り、予選のバトルロイヤルを勝ち残った8名が決勝トーナメントに進めるルールだ!』

司会『それでは、出場する47名と使用機体をざらっと紹介していくぞ!』

ラル「いよいよ始まるか」

チナ「すいません、遅れました!」

穂乃果「どしたの?」

チナ「サザキくんが途中で犬に噛まれて、それで病院まで……」

ラル「せっかくμ’s全員に会える機会を……惜しいことだ」

海未「とりあえずお大事に、と伝えておいてください」

ことり「お見舞いに9人分のサインも持って行ってあげて。あとで書くから」

チナ「ありがとうございます、喜ぶと思います」

司会『……次、エントリーNo.18 イオリ・セイ! 本年度の世界大会優勝ビルダーのお出ましだ!』

穂乃果「あ、来た!」

司会『使用機体はガンダムミューズ! スクールアイドルμ’sの応援のために製作したガンプラだ!』

ガンダムミューズ GUNDAM MUSE
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org5136543.jpg

型式番号:GNZ-009μ
頭頂高:23.7m 本体重量:58.7t
武装:GNバルカン×2/GNビームサーベル×2/GNカッター×2

 音ノ木坂学院スクールアイドル「μ’s」を宣伝するべく製作されたプロモーションモデル。
 メインデザインと塗装はチナ、武装アイデアはラルとサザキが担当。
 改造素体はGNZ-007ガッデス。頭部はガルムともラファエルとも異なるガンダムタイブの造形を施し、機体全体は「僕らのLIVE君とのLIFE」の衣装をイメージして造形された。
 ビルドストライクの技術も流用されており、オプション無しでも高い基本性能を誇る。
 背部には脱出ポッドの代わりにμ’s内のユニットをイメージした3種類のバックパックを選択して装備する。

プランタンブースター
2基の水陸両用ジェットパック(穂乃果)、Gバード(ことり)、米俵型ジェネレーター(花陽)を装備した重砲撃用装備。

ビビブースター
グラビトンハンマー(絵里)、ニーズヘグ(にこ)、ジンハイマニューバのスラスター(真姫)を装備した近接戦闘用装備。

リリーホワイトブースター
ビームボウ(海未)、アルミューレリュミエール兼フレキシブルスラスター(希、凛)を装備した高機動突撃戦用装備。

???「ほう、あれがイオリくんの新作か……随分と面白いものを作らせたではないか」

ラル「――ん、ああ、きみも来たか」

絵里「ユウキくん!」

タツヤ「久しぶりだな、絢瀬くん、東條くん」

希「参加せんかったとは意外やね」

タツヤ「あいにく、バトルシステムの再稼働試験に追われてエントリーが間に合わなかった」

絵里「そんなに忙しかったの?」

タツヤ「今はPPSEの代表ファイターだからな。仕事はせねばならん」

希「ひょっとして学校やめたん?」

タツヤ「やむを得ぬ理由があってな。おかげで恥ずかしいことに最終学歴は中卒だよ」

絵里「あ、紹介するわ、現生徒会の3人よ」

穂乃果「ふぇ?」ランチパックモグモグ

穂乃果「あっ! どうも、会長の高坂穂乃果です!」

海未「まったく……副会長の園田海未と申します」

ことり「書記の南ことりです」

タツヤ「聖鳳高等部先代生徒会長、ユウキ・タツヤだ。連絡会では聖鳳の生徒と会うこともあるだろうから、仲良くしてやってくれ」

司会『続いて、エントリーNo.39 綺羅ツバサ! スクールアイドルの頂点に立つ少女が驚きの参戦だ!』

にこ「――ツバサが来たわよ!」

司会『使用機体はフリーダムライザー! 漆黒の機体に煌めく黄金の翼を備えた、ファイターの名を体現した禍々しくも神々しい神秘のガンダム!』

フリーダムライザー FREEDOM RISER
http://www.dotup.org/uploda/www.dotup.org5136566.jpg

型式番号:ZGMF-X20A-RISE
頭頂高:18.88m 重量:76.8t
武装:バルカン×2/ユーディキウムビームライフル/ビームクロー/カリドゥス複相ビーム砲/ビームシールド×2

 綺羅ツバサが用意した機体。改造素体はストライクフリーダム。
 自身の名と共通する部分があるキラ・ヤマトとフリーダムであるが、ツバサ自身は彼を悪と認識しており、その嫌悪感を普遍化するために禍々しくカラーリングを変えた。
 本体はストライクフリ-ダムを黒と紫に塗り、腰のレールガンはオミットしてガイアのロングサイドアーマーに付け替えている。
 翼はフリーダムのものからバラエーナをオミットして装着。黄金のメタリック塗装を施して自らの名を体現した。
 全身には細かなパネルラインが彫られており、赤でスミ入れすることで際立たせている。
 携行武装にはプロヴィデンスの大型ライフルと2本のサーベルを並列発振するオリジナルのビームクローを選択。

花陽「あれがツバサのガンプラ……」

にこ「時折見せる悪魔的一面を全面に押し出したかのようなデザインね……」

タツヤ「あの機体は……!」

チナ「会長? どうかしました?」

タツヤ「3年前、ガンプラ塾から帰国してすぐのことだ」

タツヤ「街中のバトルステージで戦った黒いフリーダム、それとよく似ている……」

タツヤ「そしてそのファイターであった少女と、彼女も……!」

タツヤ「いや、間違いない。あの血管が浮き上がったような真紅のスミ入れは特徴的すぎる!」

絵里「彼女との交戦経験があるというの!?」

タツヤ「記憶が正しければ、そうなる」

希「それで、結果はどうやったん?」

タツヤ「予備機とはいえ、私のドラドヴレイブは半身を失った。ガンプラ塾でも十分に通用する腕だったよ」

ことり「ということは……」

凛「世界レベルの実力にゃ!」

ラル「ふむ、これは予想以上のダークホースだな……」

チナ「それで、ツバサさんのガンプラはいったい誰が……」

???「お呼びかい? お嬢さん方」

ラル「――! お前は……!」

タツヤ「リカルド・フェリーニ!」

フェリーニ「まったく、大尉も名人も、そんなに大勢の女の子をはべらしちゃって、羨ましいじゃないの」

チナ「帰国したんじゃなかったんですか!?」

フェリーニ「ガンプラバトル再稼働を真っ先に楽しみたくてな、2週間前からこっちに来てる」

ラル「それで何故お前がツバサ嬢の機体を?」

フェリーニ「なぁに、PPSEに顔を出そうと思ったら困り顔の女性がいたんだよ」

フェリーニ「誰にガンプラ製作を頼めばいいのか……ってため息をついていた女性がな」

フェリーニ「そんな台詞を耳にして黙っているイタリアの伊達男じゃなかった、というわけさ」

海未「なんですかこの人、ずいぶんキザですね」

チナ「イタリアのガンプラチャンプ、リカルド・フェリーニさんです」

ラル「しかし盲点だったな。てっきりこの近辺のビルダーに依頼したと踏んでいたら、まさかのフェリーニとは」

チナ「来てるんだったら連絡くらいしてくれればよかったのに」

フェリーニ「今回くらいは静かに楽しみたかったんだよ。ガキ共と関わるとロクなことにならねぇからな」

絵里「でも、これではっきりしたわね」

にこ「ツバサの技術は世界レベルでガチガチのガンダムオタク」

希「更に今回のガンプラはイタリアチャンプ謹製」

凛「とんでもなく高いハードルにゃ!」

司会『それでは、予選バトルロイヤルを開始するぞ! 各自、準備はいいか?』

『Please set your GP-BASE』

セイ(黒いフリーダム……警戒しないと)

ツバサ(まさかμ’sも同じようなことを画策していたなんて)

ツバサ(ますます楽しくなってきたわ)

『Beginning Plavsky-Particle dispersal』

『Field extra “earth”』

穂乃果「がんばれ、私たちのガンダム……!」

『Battle start』

セイ「イオリ・セイ、ガンダムミューズ、行きます!」

ツバサ「フリーダムライザー、綺羅ツバサ、出るわ!」

花陽「は、始まったね」

凛「うん」

ラル「まず使用するのはリリホワブースターか。混戦必至の状況から見て妥当な判断だな」

凛「ねぇラルさん」

ラル「何かね?」

凛「あのランドセルの弓は海未ちゃん、でっかい2つのおさげは希ちゃんをイメージしてるのはわかるんだけど」

凛「凛の要素はいったいどこにあるにゃ?」

ラル「希嬢の髪を模したあのユニットはフレキシブルスラスターも兼ねていてな」

ラル「アレのおかげで機体は高速度と高運動性を両立できる」

ラル「きみの高い運動能力を再現した結果なのだろうよ」

凛「じゃあ凛は希ちゃんと一心同体ってわけにゃ」

希「よろしくなー凛ちゃん」

凛「よろしくにゃ!」

 荒野の空に出撃したミューズにまず襲い掛かったのは、まさに洗礼とも言える全方位からの射撃であった。

セイ「出る杭は打たれるってわけだ!」

 世界王者たるセイを真っ先に潰しにかかるというのは妥当な判断であり、それは容易に想像できていた。

セイ「アルミューレ・リュミエール!」

 ブースターに装備された巨大な黒紫のユニットが展開すると、機体をビームシールドが覆い尽くした。
 あらゆる攻撃がこれに遮断され、ビームも実体弾もただのプラフスキー粒子へと戻される。

「ビームシールドならコイツで!」

 そこに躍り出たのはクロスボーンX3。ムラマサブラスターで斬りかかる。

セイ「やはりそう来るだろ!」

 更に、参加機体の多さから対ビームシールド用装備を持った敵が来ることも想定済み。
 そのための兼用スラスターだ。
 ミューズは全方位シールドを解除し、そのままスラスターバインダーの運動性でX3の背後を取る。

セイ「ランサーモード!」

 広い可動範囲を持つバインダーは第3、第4の腕とも言える。それが先端にビームの槍を光らせて刺突を繰り出す。
 X3は背中に大穴を開けられ、爆散。
 すぐさまミューズは高推力を発揮し包囲網から脱出する。

 追撃の一番手はジルスベイン。しかし手に持つのはレギルスライフルとクロノスガンだ。
 高出力のビームの間断を補うように低出力のビームがバラ撒かれる。
 ミューズはそれを縫うように錐揉みして回避しつつ、ブースターにマウントされていたビームボウを手に取る。

セイ「ビルドストライクじゃなくても、これが僕のガンプラだって分からせてやる!」

 キュリオスのシールドクローを改造したそれは、中央部にプラフスキーアブソーバーも備えていたのだ。
 展開したシールドがレギルスライフルの高出力プラフスキービームを吸引する。

セイ「ディスチャージ!」

 弓を引いてプラフスキー粒子を圧縮し、射出。
 ディスチャージライフルモードと同じく高出力の散弾となって追撃隊に降り注ぐ。
 撃墜数、6。
 生き残っていたのは、GNフィールドを張っていたレグナント2号機だ。

「そいつへの対抗策なら知ってる! ファング!」

 MSに変形したレグナントが両手から爪を射出する。クローなのにファングとはこれいかに。
 普通なら射撃もこなすその遠隔操作端末だが、アブソーブシステムを警戒してGNサーベルでの刺突攻撃を繰り出そうとしている。
 ならば接近する分、攻撃到達時間は伸びるということだ。

セイ「やられはしない!」

 手首のGNバルカンで弾幕を形成し、迫りくるGNファングを撃ち落とす。
 しかし破壊できたのは10基のうち6基。
 残り4基が吶喊してくる。
 果たしてそれは、展開されたビームシールドに阻まれた。が、ゆっくりではあるが侵入してきている。クリアーコートで対ビーム能力を付与しているのだ。
 しかし侵入速度が遅すぎる。ミューズは余裕を持ってGNバルカンでファングを破壊した。

「このォッ!」

 レグナントが胸部からGNメガビームを放つ。

セイ「前面集中!」

 全方位に張っていたシールドを前面のみに狭め、その分出力を上げる。
 数秒間、光芒が視界を包んだ。
 そしてビームが照射を終えた時そこにいたのは、シールド発生器から申し訳程度のスパークを散らすガンダムミューズであった。

「無傷だと!?」

セイ「作り込みに抜かりは無い!」

 アルミューレ・リュミエールの発生装置には緻密なモールドが彫り込まれていた。それがシールドの出力を底上げしているのだ。

セイ「いただく!」

 ミューズはレグナントに接近しつつ、ビームボウの先端を回転させて元のシールドクローへと変形させる。

「やられるかよ!」

腕部より射出されるGNマイクロミサイル。
しかし運動性の高さが売りのリリーホワイトブースターを装備したミューズだ。追尾など容易に振り切ってみせる。
 そして肉薄。シールドクローがレグナントの腹をがっしりと掴み、密着させた状態でビームアローを射る。
 蒼い光の矢は巨体を貫通し、沈黙させるに十分なダメージを与えた。

セイ「これで周辺の敵は片付いた……」

 一方でツバサが駆るフリーダムライザーは市街地で混戦状態にあった。
 対地爆撃に勤しんでいたキュリオスがベルティゴのビットで撃墜され、建物に潜んでいたVガンダムヘキサが隠れ蓑ごとZZのハイメガキャノンで焼き尽くされる、そんな戦場。
 そんな中でFライザーはビル群の隙間を高速で駆け抜けながら、視認した機体を無差別に撃ち抜く通り魔の如き戦法で戦果を挙げていた。
 アデルレイザー、グフイグナイテッド、ジムⅢ、アシュタロンHC。
 すでに撃破数は10機近い。
 そんな中、現れた障害。――ガブルだ。
 超高出力のフィールドジェネレーターを持つが故に、これまでの通り魔戦法はまったくの意味を成さなかった。

ツバサ「へぇ、物好きもいたものね」

 その機体チョイスに好感を持ったツバサはライフルを腰にマウントして、その機体の前に降り立った。

「へへ、嬢ちゃんテレビでみたことあるぜ。アイドルなんだってなぁ」

 下衆さが伝わってくる中年男の声。
 同じガノタだからこそ分かる。柔軟さに欠けた思考の持ち主だと。

「けどなぁ、遊び半分で首突っ込まれちゃあ気に入らんのよ! どうせ俺らへの売名目的なんだろォ?」

 狭い路地では巨体がより一層大きく感じられた。その剛腕が唸りを上げて振り下ろされる。

ツバサ「あら、心外ね」

 軽いステップで回避するFライザー。そしてふわりとジャンプしてガブルの肩に乗る。

「き、貴様ァッ!」

ツバサ「私は純粋にガンダムとガンプラが大好きなだけなのに」

 Fライザーの拳がガブルのフィールドジェネレーターに突き刺さった。

 よろめくガブルから飛び降りたFライザーは、腹部のビーム砲にプラフスキー粒子を充填させる。

「バカな、この重装甲がただのパンチに!」

ツバサ「関節の作り込みが違うのよ」

 ビームへの防御手段を失ったガブルに、Fライザーはカリドゥス複相ビーム砲を見舞った。巨体に大穴が空き、盛大に爆発する。

ツバサ「まぁ、学校側からしたら売名も目的ではあるんだけど」

 背後から隙を窺っていたイフリートナハトを振り向きざまの射撃で片付けたFライザーは、一気に高空へと飛び上がって次の戦場へと向かった。

ラル「フェリーニ、あの機体、関節に何か仕込んだな」

フェリーニ「おや、流石にお見通しか」

タツヤ「あのガブル、ジェネレーターをパテで一回り大型化していた。それを打ち砕くような打撃を見て疑問に思わないほど私たちは素人ではありません」

フェリーニ「関節は全てプラフスキー粒子高反応プラ板で新造し、更にリモーション成分配合のツヤ消しクリアを吹いた」

フェリーニ「ポリキャップもPPSE製の強化タイプPC-001を使ってる」

ラル「三重の強化策か。しかしそれでは消耗も激しすぎるぞ。RGシステムを常時使用しているようなものだ」

フェリーニ「一応、予備は3セット渡してあるがね、使い切っちまうかな」

タツヤ「しかし、彼女もそれは分かっているようです。あれは関節への負荷を考慮した動きだ」

にこ「うわ、すっげえ濃い会話」

凛「何言ってるのかさっぱりだにゃ」

海未「ガンプラバトルものめり込むと深いようですね」

ことり「残り22機。もう半分以下になっちゃってるよ」

司会『おおっと、ここでマラサイキャノンがレッドフレームMJを撃破! 更にFAユニコーンが3機のガンプラを同時撃破!』

司会『どんどん数が減って残存数は18、いや、17だ! フリーダムライザーがストライクIWSPを切り裂いた!』

希「どうやら綺羅ツバサはセイくんを避けて戦ってるようやね」

絵里「確かに、意図的に離れていってるみたい。戦うのは決勝トーナメントで、ってことかしら」

セイ「――! 砲撃来る!」

 発せられたアラートに従い機体を降下させると、頭上を極太のビームが通り抜けた。
 ミューズは眼下に広がる森林地帯に着地し、空を見上げる。すると今のビームを撃ったらしいウイングゼロEWが下を見回しつつ飛び去っていった。
 すると再度アラートが鳴り、横合いからの攻撃を知らせた。

セイ「近い!?」

 警戒方向にカメラを向けると、木々を薙ぎ倒してガンダムAGE-1タイタスがビームラリアットをブチかましてきた。
 とっさにビームシールドを張るが、そのパワーは簡単にミューズの機体を弾き飛ばした。

セイ「なんて駆動出力だ!」

 おそらく関節に粒子高反応素材を使っているのだろう。ただでさえパーツの大きいタイタスならその恩恵は計り知れない。
 追撃防止にGNバルカンを打つミューズだが、よく見るとタイタスは可能な部分にグランサアーマーを付けているではないか。
 その強固な鎧はバルカン程度ならまったく動じない。

 タイタスが走る。その右肩のビームスパイク発振装置が展開する。

セイ「けど、タイタスは飛べない!」

 ミューズはバインダーの推力で空へと離脱した。
 しかし次の瞬間、セイは目を疑った。
 タイタスが空を飛んで追いかけてくるのだ。

セイ「特殊カスタムか!」

 ガンプラバトルでは原作設定が脳内に貼り付いたガノタを欺くためにありえない改造をするビルダーも数多く存在する。
 あのタイタスもその一例というわけだ。
 しかし飛行にはそれに適したデバイスを装着する必要がある。アレにはそれが見当たらない。

セイ「どんなタネを仕掛けているんだ」

 すると地上から一筋の粒子ビームが放たれ、タイタスをかすめた。

 発射点を拡大すると、迷彩塗装のケルディムがそそくさと森に紛れていくところだった。

セイ「あ、あれは……!」

 傾いだタイタスから、ひらりと何かが揺れ落ちる。あれは透明フィルムを利用した不可視化マントだ。世界大会でも指揮官用ゲイツが使っていた。
 そしてマントに隠されていたのは、グラストロランチャーから砲身を取り除いた斥力推進ウイングだった。

セイ「そういうことか!」

 タイタスは今の狙撃で右のウイングを半分ほど失い、ふらふらと不安定な飛行をしていた。付け入るならここだ。
 ビームボウを構えたミューズはしっかりと対象に狙いを定め、高圧縮の粒子矢で射抜くことに成功した。

セイ「ふぅ、すこし危なかったかな」

海未「……ラブアローシュート」ボソ

穂乃果「え、海未ちゃん今なんて?」ニヤニヤ

海未「え、い、いや、何も言ってません!」

ことり「ラブアローシュート!」

海未「こ、ことり!」

ことり「いいんだよ海未ちゃん、だってあの弓は海未ちゃんの具現なんだもん」

穂乃果「そうだよ、今のは紛れもなくラブアローシュートだよ!」

海未「うぅ……もういいです……///」

ツバサ「ん、あれはゼロカス。しかもツインバスター2丁持ち」

 サバンナを低空飛行していたFライザーは先程ミューズとニアミスしたウイングゼロを視認した。

ツバサ「単純な火力強化だけど、武器が武器だけに恐ろしいわね」

 向こうもこちらを視認したと見るや、先制にツインバスターライフルを斉射してきた。
 Fライザーはハイマットモードに移行し、その射線上から一目散に離脱する。
 通り過ぎたビームは草原を一瞬のうちに飲み込んで焦土へと変貌させた。

ツバサ「やっぱり桁違いの火力。でも対MS戦でそれは過剰でしょう!」

 Fライザーがビームクローを展開してウイングゼロに迫る。
 ウイングゼロもライフルを背部の増設マウントラッチに懸架し、両手にサーベルを抜く。
 激突。
 振るわれたビームクローは、クロスさせたサーベルで受け止められる。

「光栄だな、まさかツバサとガンプラバトルができるなんて!」

ツバサ「あら、A-RISEのファンかしら?」

「ああ、とても嬉しい! こうして話もできるなんて夢のようだ!」

ツバサ(この機体のパワーを受け止められるだけの駆動出力、相当やるわね)

 一旦機体を引かせ、警戒に入ったと見せかけて蹴りを入れる。腹部直撃。
 破片を散らしながら後ずさるウイングゼロだが、すぐさま翼を羽ばたかせて姿勢を立て直す。

ツバサ(復帰も早い。柔も剛も高レベルで両立してる)

 復帰前を狙った腹部ビーム砲も楽々躱された。
 小細工は効かないか……ならば、正面突破あるのみ。

ツバサ「いい戦いができそうね」

『Battle ended』

ツバサ「あら?」

司会『おおっと、ここで予選終了だ! 最後にレッドウインダムが核ミサイルをブッ放して6機のガンプラを一掃したァ!』

司会『これで決勝トーナメントに進出する8人のファイターが確定!』

ツバサ「なんだ、いいところだったのに」

ツバサ「でも、彼も本選で戦うに相応しい相手ね」


セイ「ふう、勝ち残れた……」

セイ「よく考えれば、公式戦で勝てたのってこれが初めてだ」

穂乃果「やった、決勝トーナメント進出だよ!」

ラル「なかなかの強豪揃いだったな」

フェリーニ「あのゼロカス、相当な強化工作してやがるぜ」

タツヤ「ふむ、知らぬファイターだな。このあたりの者ではない……?」

花陽「あ、この人うちの近所に住んでる人です。北海道の大学に行ってて、最近帰ってきたみたいで」

タツヤ「なるほど、道理で」

ラル「使用機体はウイングガンダムダブルゼロ。2丁のツインバスターライフルを表した名か」

チナ「セイくんお疲れさま、はい飲み物」

セイ「ありがと委員長」

ラル「やはりリリホワブースターを選択して正解だったな。他の装備ならばやられていた局面がいくつかあった」

セイ「世界大会のロワイヤルで経験してますからね。こういうとき重視されるのはサバイバビリティだって」

タツヤ「トーナメントは午後からか。それで、組み合わせは?」

セイ「1回戦の相手は迷彩ケルディム使いの人です。さっきタイタス戦でアシストしてくれた」

ラル「ほう、ガッデスベースの機体と当たるとは因縁だな」

にこ「ツバサと当たるとしたら決勝ね」

セイ「しかし彼女のガンプラ、まさかフェリーニさんが作ってたなんて」

希「けど2回戦でさっきツバサと戦ってたのと当たるかもしれんよ」

にこ「あの3万のヤツね」

ラル「ウイングダブルゼロ。確かに彼も要注意の対象だな」

穂乃果「勝てそう?」

セイ「たぶん。あの駆動出力の理由もなんとなく想像つきましたから」

タツヤ「やはり気付いたか」

セイ「あのウイングゼロ、PC-002規格の関節ですからね。特に肘のパワーを出すにはアレしか無いでしょう」

フェリーニ「どうだい、俺の作った機体の調子は」

ツバサ「まさに驚嘆ですね。特殊ギミックを積まずにここまでのパワーを発揮できるなんて」

フェリーニ「プラフスキー粒子対応工作も一般化してきたからな。これからインフレしてくるぜ」

ツバサ「それはそれで楽しみです。よりレベルの高いガンプラバトルができるなら」

フェリーニ「流石に胆は据わってるな」

ツバサ「ふふ、そでもなければやってられませんよ」

フェリーニ「それで、トーナメントの組み合わせだが」

ツバサ「1回戦はウインダム。2回戦はZZかベルティゴ」

フェリーニ「そして、セイと当たるのなら決勝しかない」

ツバサ「できればあのゼロカスとの決着をつけたかったけど、仕方ないですね」

フェリーニ「セイはあいつを破ってくるだろうよ」

フェリーニ「きみももう気付いてるだろ? あのパワーの秘密に」

ツバサ「ええ、おそらく彼のRGシステムを参考に仕込んだギミックでしょう」

フェリーニ「なら対応してくるのは当然ってわけだ」

ツバサ「どうであれ、私は彼に負けるわけにはいきません。彼がμ'sに協力しているのなら、尚更」

フェリーニ「それはスクールアイドルとしてかい? ガンプラファイターとしてかい?」

ツバサ「両方です。この大会もラブライブも、譲れない」

フェリーニ「豪胆だねぇ。その心意気、嫌いじゃないぜ」

司会『よぉし、それでは決勝トーナメントを始めるぞ!』

 1回戦 第1試合

『Battle start』

ツバサ「相手のウインダムはパックをシラヌイに変えたのね」

 暗礁宙域へと射出されたFライザーは赤と黒に塗られたウインダムの装備を確認し、大型デブリの陰へと隠れた。
 まずは出方を窺う。
 対戦相手は予選の土壇場で核を使った慎重派だ。血気盛んに先制を取るようなマネはしないだろう。
 ならばこちらから動かなければどうなるか。

ツバサ「さぁ、来てみなさい」

 すると周囲のデブリが順番に爆散していく。
 隠れているのを察知して虱潰しにしているのだ。

ツバサ「そう来るなら利用させてもらうわ」

 デブリに着弾する緑のビームの出力から見て通常装備のライフルを使っていると見ていい。
 進入角の変化から推測される射出点はそう離れているわけではなさそうだ。
 Fライザーはゆっくりとデブリから離れ、それが攻撃されるのを待つ。

ツバサ(3……2……1……)

 隣3つのデブリが爆砕され、次いで目標物が餌食になる。

ツバサ「ここッ!」

 Fライザーはハイマットモードで爆煙の中に突っ込んだ。

 そしてその向こう側には、狼狽するウインダム。
 一気に距離を詰め、ビームクローを一閃する。

「コ、コイツ!」

 しかしすんでのところでサーベルを抜刀。なんとか受け止める。
 その数瞬のせめぎ合いの後、パワーに押し負けて振り飛ばされたのはウインダム。

「ドラグーン!」

 シラヌイパックから7基の誘導端末が射出される。
 それらはFライザーを狙って包囲射撃をしてくるが、ハイマットモードの高機動の前にことごとくが回避される。

ツバサ「ダンスレッスンかしら?」

「ガキのアイドル風情が、舐めるなァ!」

 どうやら冷静さを保っていられれば慎重に攻めるタイプだが、いささか頭に血が昇りやすいようだ。
 ドラグーンがあるのにライフルとシールドを捨てて突撃してきたウインダム。
 Fライザーはそのバレバレな予備動作から剣の軌道を見切り、最低限の動きで避ける。

ツバサ「短気は損気、ってね」

 Fライザーはビームクローを軽く振り、ウインダムを両断せしめた。

『Battle ended』

タツヤ「やはり強いな。見事な機体捌きだ」

ラル「反応強化で過敏になってるだろうに、よくもまぁ正確に操ってくれる」

絵里「きっとその動作の繊細さと緩急の見極めが、ダンススキルにも反映されているのね」

海未「ダイナミックな全体の動きと多彩な表情を見せる指先の動き。まさかこんなところで鍛えられていたとは」

穂乃果「練習に取り入れてみる?」

にこ「またバカなこと言って」

穂乃果「にこちゃんにはバカって言われたくないよぉ!」

 1回戦 第3試合

『Battle start』

セイ「相手はケルディム。接近戦に持ち込んでも警戒しないと」

 戦闘フィールドは運悪く迷彩をフルに活かせる森であった。
 折り重なる深い緑のヴェールの中では、紅白のミューズは非常に目立つ。
 そうこう考えているうちに、アラートが注意を促す。

セイ「もう捕捉された!?」

 とっさに横跳びすると、粒子ビームが今いた場所を貫いた。

セイ「射出点予測……23時、仰角19、距離2300!」

 割り出した相手の居場所は、ひときわ大きな樹木の中。

セイ「あの巨大樹か!」

ラル「今回はビビブースターを選択したか。ケルディムに不向きな格闘戦で圧倒するつもりなのだろう」

真姫「あの装備のどこに私たちの要素があるって言うのよ」

にこ「羽と鎌と鉄球よ? イミワカンナイ!」

真姫「ちょっとにこちゃん、何マネしてんのよ!」

絵里「で、どういうことなんですか?」

タツヤ「確かにこのチョイスは一般人には分かるまい」

ラル「まず真姫嬢を表すあのスラスターだが、きみは確か病院長の娘だったな」

真姫「それが何だって言うのよ」

ラル「あのスラスターはジン・ハイマニューバという機体のものでな」

ラル「そのパイロットが『ドクター』の異名を持つミハイル・コーストという男なのだよ」

真姫「医者繋がりってこと?」

ラル「うむ。次に、にこ嬢を表す重刎首鎌ニーズヘグ。これはフォビドゥンガンダムという機体の武装だ」

希「北欧神話の蛇の名前やね。ユグドラシルの根をかじるっていう」

にこ「何よ! 全然関係ないじゃない!」

ラル「関連しているのはそこではない。型式番号だよ」

タツヤ「フォビドゥンの型番はGAT-X252……」

にこ「252……252……にこにー!?」

タツヤ「そういうことだ」

にこ「まるっきりこじつけじゃない!」

絵里「それで、私は鉄球……?」

花陽「イメージ全然合わないよぉ」

ラル「これは至って単純明快。あのグラビトンハンマーはネオロシア代表、ボルトガンダムの装備だ」

絵里「ただロシアってだけですか」

ラル「左様。他にもロシアの荒熊セルゲイ・スミルノフにちなんだ武装も考えたが、彼はこれといった専用機を持っていなんだのでな」

絵里「…………」

ラル「ん? どうしたね絵里嬢」

凛「これはあんまりにゃ」

 しかし絵里の落ち込みとは裏腹に、この装備が勝機を切り開く起点となる。

セイ「木を隠すのが森の中なら、森を無くせば隠れようもない!」

 グラビトンハンマーのグリップを握り、ブンブンと振り回すミューズ。
 その回転はだんだんと速度を増し、やがて竜巻のようにプラフスキー粒子が螺旋を形成する。

セイ「行っけええええええええええええ!!」

 そして回転が最高速に達してから、ミューズはハンマーを放り投げた。
 超速度で進むそれは巻き上げたプラフスキー粒子を追従させながら、衝撃波で周囲の木々を根こそぎ吹き飛ばしていく。
 そしてケルディムが隠れているであろう巨大樹の幹の半ばに突き刺さり、粉砕して、折れた上半分を衝撃波でバラバラに分解した。
 その破片の中には吹き煽られるケルディムが。

セイ「一気に詰める!」

ブ-スターのハイマニューバスラスターが火を噴く。
 リリーホワイトブースターのALバインダーほどの可動域こそ持たないが、こちらも推力は同等。
 爆発的加速を機体に与え、敵機へと猛進させる。
 隠れ蓑を失ったケルディム。木々を吹き飛ばされ土の露出した大地の上では、その迷彩も意味を成さない。

セイ「GNサーベル!」

 サイドアーマーからビームサーベルを取り出し、両手に握らせる。
 それを目標へと叩き付けるように、振るう。
 ケルディムはなんとかGNピストルを抜いて、ハンドアックスモードでそれを受け止めた。

「やられてたまるかよ! TRANS-AM!!」

 深緑のケルディムが紅蓮に染まる。その直後、ミューズ渾身の一撃は見事に押し返された。

セイ「やはりGNドライヴ搭載型! 持っていたか!」

 ハンドアックスによる猛烈な連続攻撃。その怒涛の勢いにミューズは防戦に追いやられる。
 そして2振りを同時に叩き付けた強烈な一撃に押しやられ、片膝をつく。

「決めてやる! シールドビット、フルアサルト!」

 ケルディムからGNシールドビットが分離し、9基が円陣を組んでその輪の中心に粒子を圧縮する。

セイ「だとしても!」

「オラァ!」

 放たれる極太の粒子ビーム。その出力はディスチャージライフルモードにも劣らない。
 ミューズはその奔流に飲み込まれた……かと思った。

「なんだ? 粒子が拡散している?」

 やがてビームの照射が終わる。
 そしてケルディムの前には、ニーズヘグを構えたミューズの姿が。

「まさかこれは、アーリージーニアスの……!」

セイ「そう、粒子変容塗料だ!」

 戦国アストレイが使用していた日本刀と同じ処理をニーズヘグに施し、ビ-ムを切り裂いたのだ。
 そして、ケルディムのトランザムが切れる。

「なっ、今ので粒子を使い切っちまった!」

セイ「チャンス!」

 すかさずミューズは距離を詰め、動きの鈍ったケルディムを両断した。

『Battle ended』

絵里「な、なんだ、あの鉄球、なかなかハラショーな装備じゃない」

にこ「トドメを刺したのはにこの鎌よ!」

真姫「アンタたち、そこまで自分の武器の手柄にしたいの?」

海未「すこしは純粋に勝利を喜んだらどうですか」

凛「見苦しいにゃ」

タツヤ「次はあのウイングゼロか……」

ラル「対戦相手はフルアーマーユニコーン。見物だな」

 ――――――

『Battle ended』

チナ「な、なんて強さ……」

タツヤ「ツインバスターの掃射でシールドファンネルを破壊し、パンチ1発で追加装備を吹き飛ばすとは」

ラル「仕舞いには頭部を握撃で粉砕。手刀で胴体を真っ二つときた」

にこ「天使みたいな見た目して、やってることは悪魔じゃない」

凛「次あんなのと戦うなんて……」

タツヤ「心配はいらん。イオリくんは既にあのパワーの秘密に気付いている」

海未「あとはどう対処するか、ですか」

チナ「セイくんなら勝ちますよ、きっと……いや、絶対!」

 ――――――

『Battle ended』

ラル「ツバサ嬢も順当にベルティゴを下したな」

穂乃果「そしていよいよあの強敵……!」

タツヤ「ガンダムミューズVSウイングガンダムダブルゼロ、か」

タツヤ「イオリくん、きみがどのような手段でこの壁を乗り越えるか、名人として括目させてもらうぞ!」


『Battle start』

セイ「イオリ・セイ、ガンダムミューズ、行きます!」

 再度リリーホワイトブースターを装備したガンダムミューズがヤキン・ドゥーエ周辺宙域へと射出された。
 すると開始早々、猛然と突っ込んでくる純白の流星。ウイングダブルゼロだ。

セイ「いきなり正面衝突なんて、度胸のある!」

 この思い切りの良さはセイには無い。故に、マトモに応じる理由も無い。
 ミューズはスラスターに点火し、迫ってくるウイングダブルゼロから逃走を開始する。

「それが世界一のビルダーのすることか!」

 揶揄する相手ファイターの言葉など耳にも入れず、追いすがってくる敵機の機銃掃射をビームシールドで防ぐ。
 このようなドッグファイトは追う方が格段に有利という常識がある。
 つまり、今の相手には無意識の余裕があるということだ。
 それを覆し、狼狽させることによって戦闘プランを瓦解させるのが、最初の目的。

「豆鉄砲が効かないというなら!」

 ウイングダブルゼロがその名の所以たる2丁のツインバスターライフルを手に取る。
 アレは出力集中したアルミューレ・リュミエールでも防げるか怪しい。
 向こうも破れると思っての選択だろう。
 ならば……

「殻ごと消え去ってしまえ!」

 4つのマズルから莫大な量の光が溢れ、暗闇の宇宙をこれでもかと照らした。
 その光柱にミューズが飲み込まれる……と思ったその時。

セイ「アブソーブ!」

 ブースター下部にマウントされていたビームボウの中央部が展開し、押し寄せるプラフスキー粒子の塊を丸ごと飲み干してしまった。

「防御姿勢を取らずとも使えるのか!?」

 シールドとは本来、きちんと身構えて防御に使用するものだ。でなければ着弾の衝撃を緩和し切れずにダメージを負ってしまう。
 しかしセイが作ったアブソーブシールドは射撃用ビームに設定されたプラフスキー粒子を無効化して取り込むシステム。対ショック姿勢やシールドの角度などは気にする必要が無い。

セイ「ここから!」

 機体を反転させ、敵機に向き直る。

「だとしても、こっちにはこのパワーがある!」

 ビームサーベルに持ち替えるウイングダブルゼロ。
 ミューズもGNサーベルを抜刀する。
 ぶつかり合い、鍔迫り合う2機。
 その軍配は、なんとミューズに上がった。

 弾き飛ばされるウイングダブルゼロ。そのまま制動すらかけられず、要塞表面に背中から突っ込む。

「なんだと!? アリスタ内蔵で上げたパワーが負けた!?」

 やはりウイングダブルゼロの駆動出力の秘密は、関節周辺に埋め込んだアリスタによるものだった。
 PPSEを接収したヤジマ商事はガンプラバトル再稼働と同時に、人工生成したプラフスキー粒子を凝縮した培養アリスタの販売も開始した。
 アリスタを内部に搭載することによって機体の内側からも流動操作が可能になる。それはまさしく、セイが考案したRGシステムの模倣品。
 しかしスタービルドストライクのような専用フレームを持たない通常のガンプラではアリスタによる浸食破損の危険性も激増し、数回の動作だけで自壊する実験結果が出されている。
 それをウイングダブルゼロは、パーツの内側にリモーションコートをすることによって負荷を軽減した。
 プラフスキー粒子に対して斥力を増大させるリモーション効果でクッション層を作り、なおかつ駆動出力を更に向上させるという画期的手段である。

 では、セイはどうやってそれを上回るパワーを得たか。

「フ、フレームが光っている……!?」

 先程まで無機質なグレーだった関節部が、黄色い燐光を放っているではないか。
 セイの強化策は、元々内蔵していたRGフレームにウイングダブルゼロの改造を更にバージョンアップさせたもの。
 パーツの中空に反応強化パテを充填し、アブソーブシステムで吸引したプラフスキー粒子をフレームの表面に凝固させアリスタの層を作ることで、桁違いの出力を生み出す。
 そしてその超強力なパワーは部分的に金属パーツを使用した強化バージョンのフレームで耐える。
 これぞ「アリスタ・コート・エクステンダー」。

セイ「これが僕とμ’sを勝利に導く、ACXシステムだ!」

 発動にはアブソーバーの貯蔵率が200パーセントを超えることが条件となるが、それはツインバスターライフルの有り余る出力がクリアしてくれた。

「そんなものッ!」

 サーベルを捨てて迫るウイングダブルゼロ。繰り出すは殴打。
 それにミューズも殴打で応える。
 激突する拳と拳。数瞬の拮抗。砕け散る天使の右腕。

「――! こォんのォッ!!」

 次いで出ずるは水平手刀。
 ミューズはそれを掌で易々と受け止め、もう片方の手に持つGNサーベルで左腕も切り飛ばす。

「うおおおおおおおおおおッ!!」

 バルカンとマシンキャノンが乱射されるが、ミューズは一瞬で背後に回り込む。
 即座に振り向きざまの回し蹴りが来る。
それが手に接触してサーベルを取りこぼすが、セイは気にも留めず貫手でウイングダブルゼロの鎖骨部を穿った。
 マシンキャノンが誘爆する。

「僕は勝つんだ! 勝って決勝でツバサと……!」

 ウイングダブルゼロの背部追加マウントラッチが変形し腕となって、4門のバスターライフルをこちらに向ける。

セイ「僕だって、背負った期待を裏切りたくない!」

 砲口から光が溢れるより早く、その一撃は敵機のど真ん中に突き刺さった。
 コーティングしたアリスタを還元し、GNバルカンから撃ち出したビームの弾丸が。

「そんな……ツバサ……」

 胴を貫通したビームはバックパックをも吹き飛ばし、爆発と共に散った羽が紙吹雪のようにミューズへと降り注いだ。

『Battle ended』

穂乃果「すごい! あの怪力天使を真っ向から打ちのめしちゃったよ!」

花陽「でもちょっとえげつなかったような……」

ラル「厄介なのは砲撃能力も同じだったからな。遠距離攻撃でチマチマやっていたら先にこちらが消し炭だ」

ラル「故に、接近戦で圧倒するのがベストな戦法だったのだよ」

タツヤ「常に最大の効果を発揮できるように考え、勝利への道を紡いでいく。それが戦いというものだ」

凛「ガンプラバトルって頭使うんだね」

海未「どんなことでも同じです。勉強だってスポーツだって」

海未「私たちに当てはめるなら、選曲、衣装、振り付け、フォーメーション、演出。どうすれば最大の魅力を発揮できるかを考えて、ステージを作っていく」

凛「そうか、海未ちゃんや絵里ちゃんがそうやって考えて指示してくれるから、凛たちはちゃんと動けるんだ」

にこ「それに、私たちだって全国のスクールアイドルと戦ってるのよ」

花陽「あ、ランキング」

にこ「そう、相手が見えなくても、私たちは確かに広大な戦場へと身を投じているの!」

にこ「ラブライブという名の戦場にッ!」

真姫「にこちゃん、今いいこと言った、って思ってるでしょ」

にこ「何よ! 水差すんじゃないわよ!」

ラル「それはさておき決勝だ」

希「こっちは代理とはいえ、事実上のμ’sとA-RISEとの直接対決。最終予選の前哨戦ってわけや」

絵里「配信サイトを見て。情報を聞きつけたスクールアイドルファンのコメントが増えてきてる」

タツヤ「ガノタ勢もスクールアイドルの側に興味を示している者がいるな」

ラル「ふむ、これは相乗効果というやつか」

ことり「宣伝効果にはなると思ってたけど、まさかこんなに注目されるなんて」

タツヤ「ああ、しかし悲しいかな。さっそくコメントでガノタの派閥争いが始まってしまった」

チナ「殺伐としてるんですね、ガンダムのファンって……」

ラル「趣味の領域であるからこそ、人には譲れぬものがあるということだ」

――選手控室

英玲奈「すまないな、遅れた」

ツバサ「あら、間に合ったわね」

あんじゅ「まったく、ギリギリまでレッスンを入れるなんて」

英玲奈「決勝だけでも見れるんだ。良しとしよう」

あんじゅ「決勝の相手は?」

ツバサ「GBWC-7th優勝ビルダー、イオリ・セイよ」

英玲奈「やはり出てきたか……」

ツバサ「そして、これが彼のガンプラよ」

あんじゅ「こ、これは……!」

英玲奈「μ’sの衣装ではないか! どういうことだ!?」

ツバサ「どうやら向こうも私たちと同じことを考えていたようね。μ’sが彼に依頼したのか、彼が自発的にやったのかは分からないけど」

英玲奈「で、どうなんだ、実力の程は」

ツバサ「工作精度と発想は流石ね。ビルドストライクの技術も流用されている。操縦の方も、専属ファイターのレイジには劣るけどかなりのものよ」

フェリーニ「おや、お揃いじゃないか」

あんじゅ「フェリーニ様!」

フェリーニ「機体の最終調整が終わった。これでRGとも渡り合えるだろうよ」

英玲奈「関節軸に真鍮線を通してリベットでディテールアップ……強度と見栄えを兼ね備えた見事な補強策です」

フェリーニ「俺もセイとレイジとは世界大会で引き分けたままだからな。代理とはいえ、きみには勝ってほしいところだが」

ツバサ「もちろんです。でなければ今日ここに来た意味が無い」


司会『さぁ、待たせたな諸君! 東京オータムカップ、決勝戦の始まりだァ!』

司会『決勝は特別ルールとして、2分置きにフィールドが変化する厄介な仕様となっている』

司会『変幻自在の地形にどう対応するかが勝利の鍵となるぞ!』

司会『それでは決勝に勝ち進んだファイターの入場だ!』

司会『まずはスクールアイドルA-RISEリーダー、綺羅ツバサ!』

司会『これまで公式記録が無かったものの、その実力は本物! 愛機フリーダムライザーで勝負に臨む!』

司会『そして、第7回ガンプラバトル選手権世界大会優勝ビルダー、イオリ・セイ!』

司会『専属ファイターのレイジとのタッグではなく、単身での挑戦だ! 今回は愛用のビルドストライクではなく、スクールアイドルμ’sの応援用特別機、ガンダムミューズを使用!』

ツバサ「はじめまして、イオリ・セイ。まさかあなたがμ’sのプロモーションモデルで参戦するとは思ってもみなかったわ」

セイ「僕の友達が高坂穂乃果さんの親戚で、それで」

ツバサ「6月の女子限定大会準優勝のコウサカ・チナさんね。彼女の提案、ということかしら」

セイ「そういうことです」

ツバサ「ラブライブ最終予選を控えたスクールアイドルがこんなところで前哨戦とは、世の中わからないわね」

セイ「僕はスクールアイドルのことはよくわかりません。でも、期待には応えたい。僕を頼りにしてくれるなら、その人たちを応援したい。ただ、それだけです」

ツバサ「お互い、全力でぶつかり合いましょう。μ’sのために、A-RISEのために」

ツバサ「そして……自分自身のために」

『Please set your GP-BASE』

OPERATOR
 BUILDER:μ’s SUPPORT TEAM
 FIGHTER:SEI IORI
GUNPLA
 SCALE:1/144
 CLASS:HG+SCRATCH
 MODEL No:GNZ-009μ
 NAME:GUNDAM MUSE


OPERATOR
 BUILDER:RICARDO FELLINI
 FIGHTER:TSUBASA KIRA
GUNPLA
 SCALE:1/144
 CLASS:HG+SCRATCH
 MODEL No:ZGMF-X20A-RISE
 NAME:FREEDOM RISER


『Beginning Plavsky-Particle dispersal』

『Field seven “ruins”』

『Please set your GUNPLA』

ことり(これで決まる)

花陽(この勝負で)

絵里(最終予選への足掛かりが)

凛(ただ結果がどうなっても)

にこ(最後に頑張るのは私たち)

真姫(彼が全力で戦うなら)

希(ウチらも全力で歌うのみ)

海未(ここが天王山)

穂乃果(……ファイトだよ!)

『Battle start』

ツバサ「フリーダムライザー、綺羅ツバサ、出るわ!」

セイ「イオリ・セイ、ガンダムミューズ、行きます!」

 廃墟と化した市街地へと射出された2機。
 このステージはケンプファーアメイジングとジムスナイパーK9が戦った時と同じパターンか。

セイ「プランタンブースターでよかった。これなら狙撃戦ができる」

 ミューズはビルの陰に隠れ、プランタンブースターに内蔵されている高感度プラフスキーセンサーでフィールドをサーチ。粒子の動きを感知して敵機の居場所を探る。
 砲撃戦重視のこのパックには必要不可欠な機能だ。

セイ「反応……2時方向、距離4600。ドームの中か!」

 ケンプファーがジオン兵の爆破工作を受けたあの場所に敵機がいる。
 その反応がしばらくとどまっているのを確認したセイは、ミューズに背部の大型ライフル「Gバード」を構えさせた。

セイ「いつまでも待っていたらフィールドチェンジで作戦の練り直しになる。ここは先制を取るが吉だ!」

穂乃果「ことりちゃん花陽ちゃん、ようやく私たちのランドセルの出番だね」

ことぱな「うん」

ラル「今回の装備、何が誰を表しているのか分かるかな?」

凛「左のアレはかよちんにゃ」

穂乃果「すぐに分かったね」

ラル「そう、あれは白米が好物の花陽嬢をイメージして作られた米俵型追加ジェネレーターだ」

花陽「えへへ」

穂乃果「んで、水中モーターみたいなのが色的に私?」

ラル「うむ。水泳が得意とのことだから、ハイドロジェットパックとして採用させてもらった」

ことり「消去法であの長い銃が私ってことになるね」

花陽「でもなんで?」

ラル「あの長砲の名は、ジェネレイティブ・ビーム・ライフル・デバイス。略してGバードというのだ」

穂乃果「あっ、バード! 鳥!」

ことり「そういうことかぁ」

ラル「そしてGバードはジェネレーターからのエネルギー供給ですさまじい威力を発揮する。さあ、見ておれ。放たれるぞ」

セイ「発射!」

 地面にがっしりと踏ん張ったミューズがGバードのトリガーを引き絞った。
 砲身内で高濃度圧縮されたプラフスキー粒子がマズルから放出され、突き進む。
 その光条は目標への間に存在する遮蔽物を次々と貫通し、吹き飛ばしながら、威力をほとんど削がれることなく目標建造物へと到達。大爆発を巻き起こした。

セイ「わかっていますよ、このくらいでやられるわけないって!」

 ビームが作り出したドームへの一本道。爆煙が薄く残るそこを、Fライザーが驀進してくる。その腕部ビームシールド発生器にはスパークが散っていた。
 普通ならばビームシールドすらも貫通する威力を持つGバードを防ぐとは、流石はフェリーニの作ったガンプラ。

ツバサ「見事な威力ね。腕が吹き飛ぶかと思ったわ」

セイ「褒めたところで、勝ちは譲りませんよ!」

 ミューズの腰背部ジェットパックが加速を与える。
 ハイドロジェットと銘打ってはいるが、フィールド内のプラフスキー粒子を吸引して放出する方式のこの推進装置はどこでも使用可能だ。

ツバサ「譲られた勝利なんて、いらない!」

 互いに抜刀。そして剣戟。ビームの刃が幾度となくぶつかり合う。
 交錯する度に火花と閃光が弾け飛ぶ。
 その打ち合いの中で、次第にミューズが押され始める。

セイ「やはりデフォルトの出力は向こうが上か……!」

ツバサ「こんな序盤でRGシステムを使うわけにはいかないでしょう!」

 踏ん張った足がじりじりと後退して地面を削る。

セイ「それはどうでしょうね!」

 ミューズのフレームが青く発光し、劣勢だった状況を押し返した。
 勢いをそのままにFライザーを振り払う。

ツバサ「瞬間発動!?」

 次の瞬間には、ミューズのフレームから光が失われていた。

セイ「こうすれば負荷も軽減される!」

 ミューズがすかさずGバードを構える。

ツバサ「アレを喰らうわけには!」

 その照準から逃れんと、Fライザーは飛翔する。
 ビームは再び廃墟群を吹き飛ばした。
 そこで。

『Field change』

 戦場が再構成される。
 次なるステージはヴェイガンの宇宙要塞ラ・グラミス。
 無数の球体とシャフトが分子模型のように組み合わさった不思議な機動要塞である。

ツバサ「これは好機!」

 Fライザーは回避行動からそのまま撹乱に移る。
 この入り組んだ空間では、機動力と運動性が物を言う。それをツバサは瞬時に理解したのだ。

 しかし、この事態を見越していないセイではない。
 邪魔があるならば薙ぎ払うまで。

セイ「いぶり出す!」

 高感度センサーでFライザーの動きはなんとか察知できる。
 要塞ユニットの物陰から出現と隠遁を繰り返しつつ撃たれるビームを確実に回避し、Gバードにエネルギーを充填。機会を待つ。

ツバサ「お見通しよ!」

 背後から来るFライザー。その左手にはビームクローが。

セイ「だったら!」

 ミューズはRGシステムを作動させ、構えたGバードを振り回しながら振り返った。
 その長砲身は鈍器となり、飛びかかってきたFライザーの脇腹を強く叩く。

ツバサ「このッ!」

 打撃を受けたFライザーに向けて、ミューズはすかさずチャージの完了したGバードでビームを照射した。

ツバサ「――ッ、上がれええええええええッ!!」

 Fライザーはなんとか直撃コースから脱する、が、

セイ「だあああああああああッ!!」

 ミューズは砲身を持ち上げ、ビームを猛追させる。
 薙ぎ払われたビームは射線上の構造物を破壊し尽くし、数個の球体ブロックと連結シャフトを粉砕したところでFライザーに到達。左脚の膝から下を蒸発させた。

ツバサ「これ以上は――」

 照射終了後の隙を突き、Fライザーは一気に攻撃へと転じる。
 接近してくる敵機に対し、ミューズはGNバルカンで弾幕を張る。
 しかしFライザーはハイマットモードの高機動でその驟雨をすり抜けて、なおも怯むことなく迫る。

ツバサ「――傷つけさせない!」

セイ「そうもいかない!」

 振るわれたビームクローを、ミューズはGNカッターで受け止める。
 しかしその出力は単にクリアコートをしただけの対ビーム処理では防ぎ切れず、左腕ごと切り裂かれた。

セイ「くそッ、なんて切れ味だ!」

『Field change』

 そこで2度目のフィールド変更が行われる。
 今度の戦場は、海中。抵抗の強い低反発性の高濃度プラフスキー粒子が充満するステージであった。

セイ「よし、これなら!」

 水中での機動力はハイドロジェットパックが確保してくれる。
 対してFライザーは水中適性が低く、実体兵装もバルカンのみ。
 このステージが続く間は攻勢を保たなければ。

ツバサ「くっ、この状況で水中戦なんて……!」

 Fライザーの挙動は明らかに鈍くなっていた。
 CE世界のMS用スラスターは水中で問題なく稼働するが、フリーダムの大仰な翼は完全な枷と化している。

セイ「一気に攻め立てる!」

 ハイドロジェットを猛烈に回し、Fライザーへと迫るミューズ。
 GNカッターによる斬撃が右肩の装甲を大きく傷つけた。
 一閃、もう一閃。
 ライフルを破壊し、胸に裂傷を刻み込む。

ツバサ「いい気にならないで!」

 反撃のボディーブロー。ミューズの脇腹が大きく凹んだ。
 続いて頭部バルカンの乱射。回避するが、左肩に数発の弾痕が穿たれる。

セイ「慢心なんてするわけ!」

 右腕のみRGを起動。貫手で胴体を貫こうとする。

 だがそれはすんでのところで彼女の右手に掴まれた。握力で手首の装甲がひしゃげる。

ツバサ「やらせないわ!」

 Fライザーは左手のビームクロー発生器でミューズの右腕を潰そうとした。先端が鋭利な実体装備はそれだけで武器になる。

セイ「こっちだって!」

 左脚にRGの輝きを纏わせ、前蹴りを繰り出す。尖った足先はFライザーの脇腹から腰を大きくえぐり取り、突き飛ばした。

セイ「ビルドナックル!!」

 RGの軌道範囲を右腕に移行し、青き光の拳が敵機を捉える。

セイ「でやあああああああッ!!」

ツバサ「やらせないと言っているでしょう!」

 その一撃を阻んだのは左腕のビームシールド。
 しかし水中で出力が低下しているせいか、数秒耐えたが押し切られ、肘から下が丸ごと吹き飛ぶ。

『Field change』

 突き飛ばされたFライザーが岩肌に衝突した。衝撃で翼が欠落する。
 今度のフィールドは岩山。起伏の多い苛酷な戦場だ。
 よろよろと立ち上がったFライザーは、そのまま腹部ビーム砲を放つ。
 まったく予備動作の無かったそれにセイは反応が遅れ、左脚への直撃を許してしまう。

セイ「よくも!」

 GNバルカンの乱射。しかし照準のズレたそれは狙いの胴体ではなく右脚に集中着弾し、膝関節を破壊した。

ツバサ「くっ……!」

 飛行能力も足も失い、互いに擱座した2機。ここからマトモに動くことは不可能だ。
 ならば取れるべき手段はひとつ。

セイ「Gバード!」

ツバサ「カリドゥス!」

 それぞれが持つ高出力砲のマズルに光が収束する。
 回避などできぬこの状況、この渾身の一射で勝負が決まる。

セイ「行っけええええええええええええッ!!」

ツバサ「はあああああああああああああッ!!」

 迸る粒子の奔流。それは双方の意地と情熱を乗せ、正面衝突した。
 干渉したエネルギーの塊は大きく膨張し、恒星の如き光球となって広がる。
 その爆発に飲み込まれる2機。

 やがて、光が消え失せたそこに残っていたのは……





『Battle ended』

セイ「ごめんなさい。あと一歩のところだったのに……」

穂乃果「気にしないでよ。私、感動しちゃったんだから!」

海未「そうです。これでラブライブの勝敗が決まったわけではありませんから」

ことり「うんうん、勝負はまだまだこれから!」

ラル「だが、セイくんの成長ぶりにも驚いたよ」

タツヤ「世界大会の決戦の時よりも格段に上手くなっていた。私も再び手合せ願いたいものだな」

セイ「約束、ですから」

チナ「セイくん……」

セイ「もっともっと強くなって、レイジと最高のバトルをする。あいつの期待にも、応えてあげなきゃ」

ツバサ「イオリ・セイ」

セイ「ツバサさん」

ツバサ「久しぶりにいいバトルができて嬉しかったわ。ありがとう」

セイ「僕の方こそ、まだ未熟だと思い知りました」

ツバサ「また戦えることを願ってるわ。来年の選手権には出場するから、その時かしら?」

セイ「ええ、リベンジ果たしてみせます」

ツバサ「ふふ、楽しみね……そしてμ’sの皆さん」

穂乃果「はい!」

ツバサ「次に戦うのはあなたたちね。お互い、最高のライブができるように高め合いましょう」

真姫「ふん、てっぺんから引きずり下ろしてやるから、覚悟しておきなさい」

にこ「真姫!」

海未「すみません、失礼なことを」

ツバサ「いいのよ。むしろそのくらいの気持ちでいてくれないと、こちらも張り合いが無いわ」

希「それはライバルとして見てくれてる、って解釈でええの?」

ツバサ「そうね。最高にして最大の強敵として見ているわ」

穂乃果「ツバサさん……」

ツバサ「それじゃあ失礼するわね。最終予選、楽しみにしてる」

穂乃果「はい! こちらこそ、いいライブをしましょう!」

ツバサ「……フフ」

フェリーニ「きみもなかなか偏屈な人間だな。ホントは納得してないくせに」

ツバサ「あの決着、完全に運が良かっただけです」

ツバサ「爆発の衝撃で崖が崩れて、フリーダムライザーの前に防護壁を作るなんて」

フェリーニ「運も実力のうち、って言うじゃねえか」

ツバサ「そんな言い訳じみた迷信で気が休まるほど、楽天家じゃありませんので」

フェリーニ「フッ、強がるねぇ。きみ、いい女になるぜ」

ツバサ「あら、口説いてるんですか?」

フェリーニ「バカ言うな。未成年に手ぇ出すほど、このイタリアの伊達男、落ちぶれちゃいねえさ」

フェリーニ「それに今は――」

ツバサ「?」

フェリーニ「――アイツがいるからな」

――数日後

海未「さぁ、今日も練習始めますよ」

凛「よーし、がんばるにゃ!」

花陽「最終予選まで日が無いもんね」

絵里「まだ寒くならないうちに基礎を固めておかないと」

希「なんてったってA-RISEに勝たないかんもんなぁ」

にこ「誰かさんが大口叩いたおかげで尚更ね」

真姫「何よ、弱気になるよりマシでしょ!」

ことり「もう、ふたりとも仲いいなぁ」

穂乃果「みんな、最終予選に向けて、ファイトだよ!」


 誰もいなくなった部室には今週から、彼女らのために尽力した「10柱目の女神」が飾られていた。



『Battle ended』

おしまい

チナの漢字表記が高坂で穂乃果と同じだったので思いついた
プラフスキー粒子復活が早すぎるとは思ったが11月あたりにせんと話がねじ込めなかったので勘弁な

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