もしもあの時綾波レイの怪我が本編より少しだけ軽かったら (313)

エヴァSS
いまさらの本編再構成
大きな流れはTV~旧劇場版準拠
漫画とか新劇とか既存SSの要素とか都合よく挟まります
長いので序、破と被る部分は適宜そっちの流れでいきます
本編との差分のみ投下するので、残りは適当に補ってください
冒頭部初出は某総合スレ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1402415123

===== ネルフ本部 初号機ケージ =====

   ギュッと目を瞑るシンジ

シンジ(逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ、逃げちゃだめだ――)

   カッと目を見開くシンジ

シンジ(逃げちゃ、だめだ!!)

   何事かを言おうと息を吸い込むシンジ

   「放して」

シンジ「――えっ?」

   思わず腕の中の少女の顔を見やるシンジ
   目を閉じて痛みをこらえているレイ

レイ「あれに……乗らなきゃ……うっ――」

シンジ「な……何言ってるんだよ!!」

レイ「命令……だから……」ハッ……ハッ……

シンジ「命令って……無理に決まってるじゃないか!!」

   上体をミサトたちのほうに向けるシンジ

シンジ「やります!! 僕が乗ります!!」

レイ「……」ハッ……ハッ……

   わずかに目を開けて不審げにシンジを見上げるレイ

   戻ってくる医師たち

医師「大丈夫か、君――」

   シンジが支えていたレイを引き取る医師

シンジ「お願いします」

レイ「……」ハッ……ハッ……

看護師「さあ、綾波さん――」

シンジ(「綾波」?……)ハッ!



==== シンジ回想 ====

ミサト『――綾波レイでさえ、エヴァとシンクロするのに7ヶ月もかかったんでしょ!?』

―――――
―――


シンジ「――君が……綾波……レイ?」

   レイに点滴を付け直していく看護師

シンジ(こんな子だったなんて……)

レイ「……あなた……だれ?」ハッ……ハッ……

シンジ「僕は……碇シンジ」

レイ「いか……り? ……あなたは――」

シンジ「うん――あれには、僕が乗るから」

   無理に笑って見せるシンジ

レイ「!」



==== レイ回想 ====

ゲンドウ『レイ! 大丈夫かレイ!! レイ!!』

レイ『……』コクリ

ゲンドウ『そうか……』ニコ…

―――――
―――




医師「行こう」

カラカラカラ……

レイ(碇……碇司令の……)

   運ばれていくストレッチャーをしばらく見て背を向けるシンジ

レイ(碇……シンジ……)

カラカラカラ……

レイ(碇……くん……)

   微かに目を開けてリツコに連れられていくシンジを見ているレイ

   :
   :

シンジ「……」ハッ!!


==== ネルフ本部 病室 ====

シンジ「……知らない天井だ……」


==== 廊下 ====

   窓外を見ているシンジ 検査着姿

カラカラカラ……

   運ばれてくるストレッチャー

シンジ「あ……綾波?」

レイ「碇……くん?」

   シンジのところを少し行き過ぎて止まるストレッチャー
   歩み寄り、レイの様子を覗き込むように少し身をかがめるシンジ

シンジ「……大丈夫?」

レイ「……ええ」

   何かに気づき、シンジの顔に左手を伸ばすレイ
   少し驚きわずかに身を引くシンジ

レイ「怪我を……したの?」

シンジ「えっ?」

   自分の額の絆創膏に気づくシンジ

シンジ「いやあの……あれに乗ってるときに、転んで……」

レイ「……そう」

シンジ「で、でも! 綾波の怪我に比べたら――」

看護師「さあ、立ち話はそのくらいにして」

シンジ「――えっ?」

   微笑んでいる中年の看護師

看護師「続きは部屋に行ってからにしたら? すぐそこだから」

シンジ「あ……はい」

   動き出すストレッチャー
   並んで歩きだすシンジ
   :
   : 

==== ネルフ本部 病室 ====

   レイのベッド際の丸椅子に腰かけているシンジ

シンジ「そういえば、あの……『使徒』はどうなったの?」

レイ「あなたが、倒したんじゃないの?」

シンジ「えっ……でも……」

レイ「そうでなければ、今ここにこうしているはずがないから」

シンジ「そ、そうなの?」

レイ「……覚えていないの?」

シンジ「うん……あれに乗っていて、転んで……腕……そうだ、腕を捕まれて――」

   怯えたように右目を押さえるシンジ

シンジ「それから、何もわからなくなって……」

レイ「そう……」

   しばし流れる沈黙
   やがてポツリと聞くシンジ

シンジ「綾波は、どうしてあれに乗るの?」

レイ「絆だから」

シンジ「絆?」

レイ「みんなとの」

シンジ「……強いんだな、綾波は」

レイ「私には……他に何もないもの」

シンジ「!」ハッ…

   天井を見つめているレイ

プシュー…

   入ってくるミサト

ミサト「お邪魔するわよ、レイ」

   振り向くシンジとレイ

ミサト「……あらー? ホントにお邪魔だったかしらー?」

シンジ「な、何言ってるんですか!」

ミサト「あー、シンジくん。そんなに赤くならなくたって――」

シンジ「ミサトさん!!」

ミサト「フフ……ゴミンゴミン」

   舌を出して手を合わせるミサト

ミサト「――で、具合はどう? レイ」

レイ「問題、ありません」

ミサト「そう、よかった。……シンジくんが乗ってくれたおかげね」

シンジ「で、でも……」

ミサト「正直、次に使徒がいつ現れるかわからないけど、まずはきちんと治しなさい」

レイ「はい」

ミサト「シンジくん、レイと盛り上がってるとこ悪いんだけど――」

シンジ「いえ、だから――」

ミサト「聞きたいこととか、手続きとかあるから、ちょーっち、つきあってくれる?」

シンジ「――あ、はい」

ミサト「じゃあね、レイ。シンジくん、借りるわよ」

シンジ「いや、あの――」

ミサト「さあ、行きましょ」

シンジ「あ、はい。じゃ、じゃあ、綾波――」

レイ「さよなら」

シンジ「――またね」

   小さく手を振って病室の出口に向かうシンジ
   少し驚いた顔をするレイ

プシュー…

   開くドア、ゲンドウが立っている
   威圧的に見下ろすゲンドウ
   目をそらし俯くシンジ
   すり抜けて入室するゲンドウ

ミサト「シンジくん」

シンジ「……はい」

   出ていくミサト 続くシンジ
   ふとレイのベッドを振り返るシンジ
   先ほどまでシンジが座っていた丸椅子に腰かけるゲンドウ
   レイに何か話しかけながら微笑んでいる
   何か答えながら微笑み返しているレイ

シンジ(父さん……綾波にはあんな顔するんだ……)

シンジ(……綾波も……)

   暗い顔で退室するシンジ

  :
  :



==== 数分後 レイの病室 ====

   立ち上がるゲンドウ

ゲンドウ「――では、私はそろそろ戻る」

レイ「はい」

   退室するゲンドウ
   取り残されるレイ
   入口の扉を見ているレイ



==== レイ回想 ====

レイ『さよなら』

シンジ『またね』

――――――
―――




レイ(『さよなら』……別れの言葉)

レイ(『またね』……再会を約束する言葉)

レイ(またね……)

レイ「また……ね……」

  :
  :

==== 第壱中学校、教室 ====

教師「――では、碇君、あちらの席に――」

シンジ「はい」

ガタガタン…

   学習用具を出すシンジ

教師「あー、綾波。綾波はまた休みか。……まあいい――」

シンジ「えっ?」

   思わす顔をあげるシンジ
   シンジに集まる生徒たちの視線
   少しバツが悪そうに周囲を見回すシンジ

  :
  :


==== 同日 ネルフ本部、レイの病室 ====

   窓外を視ているレイ

コンコン…

   部屋の入口を見るレイ

プシュー…

シンジ「綾波、起きてる?」ヒソ…

   シンジの顔がひょいとのぞく

レイ「!」

シンジ「いま、大丈夫?」

レイ「……構わないわ」

シンジ「よかった……あの、もう一人いるんだけど……」

レイ「え?」

シンジ「洞木さん。クラス委員長の――」

レイ「……知ってるわ」

ヒカリ「お邪魔します」ニコ

レイ「……」

   丸椅子に腰かけるシンジとヒカリ

シンジ「びっくりしちゃったよ、綾波と同じクラスだったなんて」

レイ「……そう」

シンジ「僕が綾波と知り合いだってわかったらさ、綾波が休んでる間のプリント、届けてくれって」

   カバンから紙の束を取り出すシンジ

シンジ「綾波が怪我してるって言ったら、お見舞いに行きたいって、委員長が――」

ヒカリ「ごめんね、綾波さん。こんな大ケガしてるなんて知らなかった。体、大丈夫?」

レイ「問題ないわ」

ヒカリ「学校のことで困ってることがあったら、なんでも言ってね」

   腹蔵の無い笑みを浮かべるヒカリ

レイ「あ…ありがとう……」

  :
  :



==== 夜 レイの病室 ====

   明りの消えた室内 目覚めているレイ

レイ(『ありがとう』……感謝の言葉……)

   天井を見つめているレイ

レイ(あの人にも言ったこと、ないのに……)

  :
  :



==== 第壱中学校 渡り廊下 ====

ガシッ……ドサッ……

   倒れているシンジ
   苦々しげにシンジを見下ろして踵を返すトウジ 続くケンスケ

シンジ(知らなかった……そんなことになってたなんて……)

   雲が流れる空を見上げている

シンジ(どうしたらいいんだ……僕は――)

   聞こえてくるトウジたちの声

トウジ「な、なんや!」

ケンスケ「あ、綾波!?」

   はっとして上体を起こすシンジ
   校舎に戻ろうとしていたトウジとケンスケの前に立っているレイ
   右腕を吊っている

レイ「なぜ、殴るの」

トウジ「な、なんでて――」

レイ「あの日、碇くんは突然、この街に呼ばれて、あれに乗った」

トウジ・ケンスケ「えっ?」

レイ「碇くんがあれに乗ったのは、私が乗れなかったから」

トウジ「なっ……」

ケンスケ「って……もしかして、綾波も?」

レイ「私の代わりに乗って……怪我をして帰ってきた」

トウジ・ケンスケ「……」

   二人を冷たく見つめるレイ

レイ「碇くんが乗らなければ、私たちは皆、死んでいたわ」

トウジ・ケンスケ「……」

レイ「殴るなら、私を殴ればいい」

トウジ「な、何やと!」

ケンスケ「おい、トウジ――」

シンジ「綾波!!」

レイ「……」

シンジ「ありがとう。もう、いいから」

トウジ・ケンスケ「……」

シンジ「行こう」

レイ「……」

   立ち去りかけて、半ば振り返るシンジ

シンジ「ごめん……もっと練習してうまくなるから……」

トウジ・ケンスケ「……」

シンジ「あんなこと、二度と無いようにするから」

   トウジとケンスケを残して立ち去るシンジ 続くレイ

   :
   :

==== ネルフ本部 エヴァシミュレーター管制室 ====

マヤ「――しかし、よく乗る気になってくれましたね、シンジくん」

リツコ「人の言うことにはおとなしく従う、それがあの子の処世術じゃないの?」

   窓の外、目まぐるしく視線を巡らせている訓練機

リツコ「――そう言えばシンジくん、クラスメートに殴られたそうじゃない。パイロットのセキュリティ、大丈夫なの?」

ミサト「諜報部の監視システムに問題はないわ。大した怪我じゃないし。それに――鈴原くん、だっけ? シンジくんを殴った子を、レイがたしなめたみたいだし」

リツコ「レイが?」

ミサト「シンジくんが残ってくれたのも、案外レイのお陰かもね」

リツコ「……あの子が人のために何かをするなんて、考えられない行為ね。何が原因かしら?」

   いたずらっぽく笑うミサト

ミサト「愛、じゃないの?」

リツコ「まさか、ありえないわ」

ミサト「でも、シンジくん、ほとんど毎日レイのお見舞いに来てたみたいだし」

リツコ「それを言うなら、クラスの子も何人か来てたでしょ。それから――」

プシュー

リツコ「――あら、レイ」

ミサト「噂をすれば、ね」

レイ「噂?」

ミサト「こっちのこと。ちょうどいいわ。あなたも訓練の様子を見ていきなさい。新しい装備もあるから」

レイ「……はい」

   シミュレーション映像をしばらく視ているレイ

レイ「煙……」

リツコ「えっ?」

レイ「煙は、出ないんですか」

リツコ「ああ、着弾の煙のことね」

ミサト「……」

リツコ「実際には少しは出るけど、超低煙火薬を使った弾丸だから、ほとんど見えないわよ」

レイ「そうですか」

リツコ「大丈夫よ。――どうしたの?ミサト」

ミサト「うん、ちょっちね……」ピッピツ…

ミサト「――ああ、日向くん? ちょーっち確認したいことがあるんだけど――」



==== 訓練機プラグ内 ====

シンジ(目標をセンターに入れてスイッチ……)ズバババババ…

シンジ(目標を――)

マヤ『シンジくん、お疲れ様。今日はもう上がっていいわよ』

シンジ「え? あ、はい……」

   :
   :



==== 管制室 ====

ミサト「――ふう……」ガチャ

   受話器をおくミサト

ミサト「この前の被害で逼迫してる例の火薬は、二週間以内に埋め合わせる目処がたったわ」

リツコ「その間に次の使徒が来ないのを祈るばかりね」

ミサト「そうも言ってられないわよ。当面は爆煙を考慮したシミュレーションを――」

リツコ「今夜中になんとかするわ。――マヤ」

マヤ「大丈夫です」

リツコ「すまないわね」

   傍らで聞いていたレイの肩を軽く叩き微笑むミサト

ミサト「お手柄ね、レイ」

レイ「……いいえ」

   :
   :

==== 新第三東京市郊外 山の斜面 ====

   使徒の触手を両手でつかんだまま動けない初号機



==== 初号機プラグ内 ====

シンジ「くっ!……うううぅ」

   インダクションレバーを握り締め、モニタを凝視しながら必死に耐えるシンジ
   その様子をインテリアシートの背もたれの後ろで見守るトウジとケンスケ


ミサト『今よ、撤退して! 回収ルートは34番。山の東側に後退して!』

   モニタに別ウインドウで現れるマップ

トウジ「転校生、逃げろ言うとるで! 転校生!?」

シンジ「りょ…了解……ぐうううっ!」



==== 山の斜面 ====

   使徒を空中へ押し返す初号機
   兵装ビルからのケーブルの束が使徒を巻き取る
   山沿いに走り出す初号機

シンジ「くっ……機体が重い!」

   捕獲用ケーブルを触手で切断する使徒
   山肌の斜面がスライドして開いた進入口に飛び込む初号機

ガコオオオォン……

   インクラインに乗り込む初号機
   閉じていく外扉



==== 発令所 ====

マヤ「再接続完了、エヴァ初号機、外部電源に切り替わりました」

マコト「使徒、外扉に接近!!」

カチッ

ミサト「聞こえる? シンジくん」



==== 初号機プラグ内 ====

ミサト『使徒が入ってきたら、こちらで足止めする。その隙に、ナイフでコアを破壊して』

シンジ「は、はい!」

ジャキイイイイィン

マコト『初号機、プログレッシヴナイフを装備!』

==== 34番斜坑内 ====

   ナイフを構える初号機
   触手に切り裂かれ崩壊する外部扉

使徒「……」ズズズズ…

   巨体に似合わない俊敏さで坑内に泳ぎ入る使徒
   初号機に迫る使徒

ガシュッ!!

   側壁から射出される捕獲ケーブル
   使徒の動きが止まる



==== 初号機プラグ内 ====

ミサト『今よ!』

シンジ「うっ……うわああああああぁ!!」



==== 34番斜坑内 ====

   斜路を駆け上がる初号機
   捕獲ケーブルを振り切って初号機に延びる使徒の触手

ミサト「シンジくん!!」

ドカッ!!

シンジ「うっ!!」

   初号機の腹部を貫く触手

シンジ「うあああああああぁっ!!」

   突進する初号機
   使徒のコアに突き立てられるナイフの刃

シンジ「くううううううぅ…」

   コアに刺さった刃先から激しく散る火花
   プラグ内壁モニタを満たす白光

バカッ!!

  突如として割れるコア
  あふれ出すLCL

==== 発令所 ====

シゲル「目標は、完全に形象崩壊しました」

ミサト「ふう……間一髪だったわね」ドサッ

   主モニターの映像
   ナイフを突き立てた姿勢でこわばっている初号機
   初号機の機体を伝って斜路内を流下する大量のLCL

レイ「葛城二佐」

   右腕にまだ包帯を巻いているレイ

ミサト「なに?レイ」

レイ「神経接続を……」

   はっとしてモニタを見るミサト
   腹部を手でおおって顔を伏せているシンジ

ミサト「神経接続を切って! 早く!」

マヤ「は、はい!」カタカタカタ…



==== 初号機プラグ内 ====

ブヒュウウウン…

シンジ「――かはっ!」

   シートにもたれ脱力するシンジ

シンジ「助かった……」ハァ…ハァ…

   トウジとケンスケを振り替えって少し苦しげに微笑むシンジ

シンジ「二人とも、怪我はない?」

トウジ「えっ…」

ケンスケ「碇……おまえ…」

==== 発令所 ====

マヤ「神経接続、切断しました」

   不安げにミサトを振り返るマヤ

ミサト「いいわ。予備の搬器を向かわせて。初号機とパイロットを収容します」

マコト「了解」

   レイを振り返るミサト

ミサト「ありがとう、レイ。この間から助けられっぱなしね」

レイ「いいえ」

ミサト「――どうしたの? もっと喜べばいいのに」

   ミサトの顔を不思議そうに見上げるレイ
   俯いて

レイ「ごめんなさい……こんなとき、どんな顔をしたらいいか、わからないの」

   少し驚いた顔のミサト
   すぐに微笑んで

ミサト「嬉しいときは、普通は笑うのよ」

レイ「……」

   ミサトの顔を見上げるレイ

ミサト「まあいいわ。さあ、シンジくんを迎えに行きましょう」

レイ「はい」

   :
   :

==== パイロット控室 ====

   Tシャツにジャージ姿、首からタオルを下げてベンチに座っているシンジ

ミサト「――まだ痛む?」

シンジ「ちょっと……ですけど……」

   少し顔をしかめるシンジ

シンジ「でも、すぐ神経接続が切れたから――」

   目を細めるミサト

ミサト「あれは、レイのおかげよ」

シンジ「えっ?」

レイ「……」

ミサト「レイが気がついて、教えてくれたの。やっぱり、パイロット同士じゃないとわかんないコトがあるのねー」

シンジ「そっか……あの、ありがとう、綾波」

レイ「……いいえ」

ミサト「ホントは、あたしが気付かなきゃいけなかったんだけど――まだまだね」

   自分に軽く拳骨をくれてみるミサト

シンジ「いや、そんな……」

ミサト「――さて、と。私は鈴原くん達の話を聞いてくるわ」

シンジ「あの、ミサトさん――」

ミサト「わかってる。手荒なことはしないように言ってあるから。――まあ、少しはお灸をすえてやらないとね」

   困った笑みを浮かべるミサト

シンジ「すみません」

ミサト「いいのよ。シンジくんは、ちゃんと休みなさい」

シンジ「はい」

プシュー……

   レイを見上げるシンジ

シンジ「僕たちも行こうか」

レイ「ええ」

シンジ「……っ!……」

   立ち上がろうとして身をかがめ、小さくうめくシンジ
   と、シンジの目の前に差し出される左手

シンジ「え?」


   シンジに、いい方の手を差し伸べて真顔で見ているレイ

シンジ「あ、綾波だって、まだ腕、治ってないのに……」

レイ「構わないわ」

シンジ「ごめん。……っと」

   レイの左手にすがって何とか立ち上がるシンジ
   ふと、レイの顔を見やり、小さく息を呑むシンジ

レイ「……なに?」

シンジ「いっ、いや! あの……」

   慌ててレイの手を離すシンジ

レイ「どうしたの?」

シンジ「あっ……綾波も、そう言う顔、するんだなって……」

レイ「顔?」

シンジ「うん、あの、いいと思うよ! い、いや、何言ってるんだろ、あはは」

レイ「……」

   驚いたようにシンジを見るレイ

シンジ「い、行こう!」

レイ「……ええ」

   また微笑むレイ
   少し腹部を庇って、ぎこちなく歩き出すシンジ
   気遣うように寄り添って続くレイ

プシュー…

   :
   :
   

本日はここまで

これは期待

みんな幸せになれば其れでよし。

>>20 - >>25 ありがとう
>>18から続きます 次から

==== 零号機ケージ 管制室 ====

ゲンドウ「……」

   窓際に立つゲンドウ
   窓外の零号機を見ている

男性オペ『パイロット、零号機と接続開始』

女性オペ『回線、開きます』

プシュー……

   入ってくるシンジ
   リツコと並んで立っていたミサトが気付いて振り返る

ミサト「ああ、シンジくん。お疲れ様」

シンジ「あ、はい――」

   ミサトたちのところに歩み寄りながら、ふと眉をひそめるシンジ
   ゲンドウが後ろに組んだ掌に視線が吸い寄せられる

ミサト「どしたの?」

シンジ「あの……父さん、手に火傷してるみたいなんだけど……どうしたのかな、って思って」

ミサト「火傷?」

リツコ「あなたがここにくる前、起動実験中に零号機が暴走したの、聞いてるでしょ?」

シンジ「はい」

   語り始めるリツコ

   :
   :

リツコ「――手のひらの火傷は、その時のものよ」

シンジ「……」

マヤ「絶対境界線まで、あと2.5、1.7――」

   モニタ上、次々に点灯する接続表示

マヤ「――0.2、0.1、突破! ボーダーライン、クリア」

   リツコを振り返るマヤ

マヤ「零号機、起動しました」

リツコ「了解。引き続き、連動実験に入ります」

   同意を求めるようにゲンドウを見るリツコ
   半ば振り返り頷くゲンドウ

シンジ「……」

   プラグ内カメラ画像 シートにもたれ、気泡をひとつ吐き出すレイ

  :
  :

==== 朝、ミサトのマンション ====

ミサト「――ああ、それとシンちゃん」

シンジ「はい?」

   靴を履いているシンジ

ミサト「ゆうべ、リツコから頼まれて――」

   レイの更新カードを取り出すミサト

ミサト「――夕方、本部に行く前に、レイの家に寄って、これ、届けてくれない?」

シンジ「あっ、でも、今日は行く前にトウジたちと約束が――」

ミサト「そうなの? ざーんねん。せっかくレイの家に行く口実ができたのにねー」ニマー

シンジ「なっ何言ってるんですか!」

ミサト「ま、しょうがないか。急な話だもんね。あたしが行きがけに届けていくから」

シンジ「そ、そうですか……」

   :
   :


==== 通学路 ====

シンジ(なんだよ、リツコさん……)

   歩いているシンジ
   少し不満そうな表情

シンジ(もっと早く言ってくれれば、よかったのに……)

   :
   :


==== 夕方 ミサトの自家用車 車内 ====

ミサト「♪ふんふんふんふーん……」

   流れていく街並み

ミサト「?」

   眉をひそめるミサト

ミサト(ちょっと……この先って……)

   スピードを緩めながら進む青いルノー

ミサト(ここで……合ってるわよね……)

   リツコのメモとナビ画面、廃墟のようなマンション群を見比べるミサト

   :
   :

==== マンションの一棟 通路 ====

ミサト「……」

   表札を呆然と見上げるミサト

ミサト(ううん……絶対、何かの間違いだわ!)

   郵便受けにささったままの配達物の束

ミサト(で、でも一応……確かめないと……)

   バッグから小型拳銃を取り出すミサト

カチッ…カチッ…

   呼鈴を押してみるミサト

ミサト「……」

カチャン……

   ドアノブを回転させるミサト

ギー…

   部屋をのぞきこむミサト
   誰もいない

ミサト(……帰ろ……)

   ふと、視界の端に何かをとらえて顔を戻すミサト
   ベッドの上に無造作にかけられた壱中の女子制服に目を見張る

ミサト(ちょっと……)

ミサト「レイ?」

   銃の安全装置をはずすミサト

ミサト「いるの?」

シャッ……

   銃を向けるミサト
   カーテンが開き、バスタオルを肩からかけただけの裸身で出てくるレイ

レイ「……葛城一佐?」

ミサト「あ、ああ、レイ! こ、こんにちは」

   銃を後ろ手に隠しなから困ったように笑いかけるミサト
   怪訝そうにミサトを見るレイ

   :
   :

==== 夜 ケージ管制室 ====

リツコ「――で、司令に直談判したわけ? 命知らずね」

ミサト「だーってえ……放っとけなかったんだもん……」

   回転椅子に前後逆さまにまたがってぶらぶらと回しているミサト

リツコ「でも、よくオーケーが出たわね」

ミサト「うん……言っちゃってからさ、こりゃ絶対大目玉だと思ったんだけど――」

リツコ「気づくのが遅いわよ」

ミサト「でも、構わん、好きにしろって、二つ返事で……」

リツコ「そう……まあ、パイロットの管理はあなたの管轄ですからね。しっかりおやりなさい、作戦部長殿?」

   ミサトにコーヒーを手渡すリツコ

ミサト「わかってるわよ……」ズズ…

マヤ「センパイ、零号機、正常に起動しました」

リツコ「了解」

カチッ……

リツコ「どう? シンジくん。 零号機のエントリープラグは」

   瞑目していたモニタ上のシンジ わずかに目をひらいて

シンジ『なんだか、変な気分です』

マヤ「違和感があるのかしら」

シンジ『いえ、ただ……綾波の匂いがする……』

ミサト「……」ブッ

   コーヒーにむせるミサト

ミサト「……」ゲホッゲホッ…

   マイクを取るミサト

ミサト「ちょっと、シンジくぅん?」

シンジ『えっ?』

   我に返るシンジ

ミサト「もうそういうトコまで言ってるわけ?」ニマー

マヤ「不潔……」ボソッ

シンジ『ちちちちち違いますよ! あの、なんかその、そんな感じがしただけで――』

リツコ「エヴァとのシンクロは、心の深い部分での接続を要求する。零号機はレイの機体だから、シンクロ中のシンジくんには、何か感じるものがあったのかもしれない。おそらく、それを『匂い』という言葉で表現したんだわ」

ミサト「わかってるわよ……冗談の通じないヤツね」

リツコ「余計なお世話よ――どう? レイ。久しぶりに乗った初号機は」

   瞑目していたモニタ上のレイ わずかに目をひらいて

レイ『碇くんの臭いがする……』

   苦笑するミサト

リツコ「シンクロ率は、ほぼ零号機のときと変わらないわね」

マヤ「誤差、プラスマイナス0.03。ハーモニクスは正常です」

リツコ「テスト終了。二人とも、あがっていいわよ」

シンジ・レイ『はい』

ミサト「シンジ君と零号機、レイと初号機の互換性に問題点は検出されず、と。――これで、あの計画、遂行できるわね」

リツコ「……そうね。エヴァどうし、予備としてカバーしあえれば、限られた戦力を最大限、活用できるわね」

マヤ「……」

   不満そうにリツコを見るマヤ
   目で制するリツコ

   :
   :

本日はここまで

>>31から続きます

==== 同日夜 コンビニエンスストア ====

シンジ「――こんなに買い込んでどうするんですか」

ミサト「いーのいーの、お夕飯、遅くなっちゃったし、たまにはシンちゃんに楽させてあげないと」

シンジ「たまには、ですか……」

ミサト「何か言った?」

シンジ「いえ……じゃあ、味噌汁くらいつくりますよ。あ、どうせなら、綾波も食べて行ったら――」

ミサト「そうしてもらうつもりよん」ニマー

レイ「……」



==== ミサトのマンション 通路 ====

   買い物袋を抱えて歩いてくるシンジ

シンジ「――でもミサトさん、きょうはビール飲んじゃだめですよ。綾波を送ってあげないと――」

ミサト「だーいじょうぶ」

シンジ「ミサトさん――」

ミサト「レイも今日からここに住むのよ」ニコ…

シンジ「え?」

レイ「……」

シンジ「えーーーっ!? な、なんで?」

ミサト「んー、まあ、いろいろとねー……嬉しいでしょ? シンちゃん」

シンジ「ミ、ミサトさん!!」

   ドアの前にたどりつく三人

レイ「お邪魔します……」

ミサト「レイ? ここはあなたの家なのよ?」

レイ「……ただいま」

ミサト「ハイ、お帰りなさい」ニコ

シンジ「……」

   :
   :

==== ネルフ本部 司令執務室 ====

   窓外を見ている冬月

冬月「いいのか、碇」

ゲンドウ「もともと、接近させる予定だった。むしろ好都合だ」

冬月「しかし、急ぎ過ぎてもうまくは行かんぞ」

ゲンドウ「問題ない」

   :
   :


==== 食卓 ====

ミサト「いっただっきまーす」

シンジ「いただきます」

ミサト「くううう!! やっぱ人生、この時のために生きてるようなもんよねー!!」

   食卓に並んでいる焼き鳥、唐揚げ、ポテトサラダなど
   箸をつけようとしないレイ

シンジ「あの、綾波……やっぱりお惣菜は苦手かな……」

レイ「ううん、肉、食べないだけ」

   眉を吊り上げて見せるミサト

ミサト「だめよー、レイ。生き物は、生き物たべて生きてるんだから。せっかくの命は、全部もれなく食べつくさなきゃあ」

レイ「……」

シンジ「じゃ、じゃあ、味噌汁はどうかな」カパッ…

   テーブルの上の鍋から味噌汁をよそって手渡すシンジ

シンジ「あったまるよ」

   おそるおそる口をつけるレイ
   目を丸くする

レイ「おいしい……」

   :
   :

==== 夕食後 ====

シャッ…

   脱衣所の戸口に立つレイ

レイ「葛城一佐、浴室に何か生き物がいます」

   食器を片づけているシンジ

シンジ「ペンギンていう鳥だよ、名前はペンペン……あっ……」

   振り返り、みるみる真っ赤になるシンジ

シンジ「ああああああああ綾波!!」

レイ「?」

ミサト「だめよー、レイ。そんなカッコで。シンちゃんだって、おっとこのこなんだから」

シンジ「ミサトさん!!」

ミサト「ああ、それとレイ? いいかげん、ミサトでいいわよ」

レイ「ミサト……さん……」

   にっこり笑うミサト



==== 夜 レイの部屋 ====

   ミサトから借りたパジャマの裾を折って着ているレイ
   ダンボール箱から私物を出している
   眼鏡ケースをとじ、カラーボックスの上に置くレイ
   :
   :


==== 朝 通学路 ====

ケンスケ「おーい、碇ぃー」

   振り返るシンジとレイ
   追いついてくるトウジとケンスケ

トウジ「何でお前ら一緒におるんや。方向がちゃうやろ」

シンジ「えっ? いや、あの……」

ケンスケ「まさか、朝帰り――」

シンジ「ケ、ケンスケ!」

ケンスケ「はは、冗談――」

レイ「ゆうべから、一緒に住んでるから」

   固まる三人

シンジ「あっ綾波!」

トウジ・ケンスケ「裏切り者ー!!」

シンジ「ちっ違うよ! そうじゃなくて――」

   シンジの様子を怪訝そうに見るレイ

   :
   :

==== 昼休み 屋上 ====

   昼食をとるシンジやヒカリなど男子女子数名
   シンジの隣で弁当を食べながら、トウジとヒカリの言い合いに、時折、笑みを浮かべるレイ

   :
   :

==== 数日後 ネルフ本部 病室 ====

シンジ「!」ハッ!……

   目を開けるシンジ
   病室のベッドの上 検査着姿で寝かせられているシンジ
   ふと、傍らに人の気配を感じる

レイ「……碇くん?」

   覗き込むレイ

シンジ「綾波……」

   上体を起こすシンジ

シンジ「使徒……そうだ、使徒は!?」

レイ「侵攻中よ」

シンジ「侵攻中って……」

プシュー……

   入ってくるミサトたち
   シンジの診察を始める医師

ミサト「具合はどう? シンジくん」

シンジ「具合って……そんなこと言ってる場合じゃないんでしょ!?」

医師「――よし。いいよ、りっちゃん。完璧とは言えないけどな」

リツコ「ありがとう」

シンジ「ミサトさん?」

ミサト「やっと目が覚めたところで悪いわね、シンジくん。でも、時間がないの」

シンジ・レイ「……」

ミサト「いいかしら? じゃあ、『ヤシマ作戦』の概要を説明するわ」

  :
  :


ミサト「――以上よ。質問は?」

シンジ「あの……もし外れて、敵が撃ちかえして来たら?」

リツコ「今は余計なことは考えないで。一撃で撃破する事だけを考えなさい」

シンジ「――でないと、大ピンチってことですか」

レイ「私は、碇くんを守ればいいのね」

リツコ「そうよ」

レイ「わかりました」

ミサト「じゃあ二人とも。30分後に集合」

シンジ・レイ「はい」
   :
   :


==== プラグ内 ====

ズオオオオオォ……

   正面から浴びせられる熱戦
   初号機前面で使徒の攻撃を防いでいる零号機

ピピピピ……

   必死で照準を合わせようとするシンジ

シンジ「くっ!……」

   砕け散る零号機のシールド
   自らを盾にして初号機を護る零号機

ビーッ ビーッ ビーッ…

マヤ『――零号機装甲温度、限界値を突破!』

ピーーーーーーーー…

   停止する映像

シンジ「くそっ!」

   レバーを叩くシンジ


==== シミュレーター管制室 ====

マヤ「惜しかったわね、シンジくん。でも、精度もスピードも格段に上がってきてるわ」

シンジ『もう一度……もう一度お願いします!』

マヤ「いいわ。時間が許す限りやりましょう」

レイ「……」

   :
   :


==== パイロット控室 ====

   ベンチに座ってチューブ飲料を飲んでいるシンジ

マヤ「お疲れ様、シンジくん。あとは時間まできちんと休んで、本番に備えてちょうだい」

シンジ「はい」

   向かいに座っているレイ

シンジ「ごめん、綾波。本番では、絶対あんな目に遭わせないから」

レイ「へいき」

   ポツリと呟くレイ

レイ「私が死んでも、代わりはいるもの」

シンジ「えっ? なに?」

レイ「……何でもない」

   立ち上がり、控え室をとぼとぼと出ていくレイ

シンジ「……綾波?」

  :
  :

==== ターミナルドグマ ====

   無数のレイが浮き沈みする水槽
   その前に佇んでいるレイの後姿
   近づいてくる足音

リツコ「何をしているの、レイ。集合時間はとっくに過ぎているのよ」

   振り返り、また水槽に向き直るレイ

リツコ「……レイ?」

レイ「赤木博士」

   向こうを向いたまま問うレイ

レイ「私が死んだら、私は――新しい体になるのですか」

リツコ「違うわ」

レイ「……」

リツコ「ここにいる誰か――いいえ、どれかに、あなたの魂は引き継がれる。でもそれは、ここにいる個体のひとつが、綾波レイとして生き始めるということよ」

レイ「……」

リツコ「今のあなたでいられるかどうかは、わからないわ。――あなたも十分わかっているはずよ」

レイ「……」

リツコ「レイ?」

   レイの正面に回るリツコ
   俯いているレイ

リツコ「どうしたの?」

   レイの両肩を手で包むリツコ
   小刻みにふるえているレイ

レイ「赤木博士」

リツコ「何? レイ」

レイ「私が、新しい私になっても――」

リツコ「……」

レイ「碇くんには、言わないで下さい」

リツコ「えっ?」

レイ「お願いします」

リツコ「……あなた……」

レイ「……」

リツコ「……わかったわ。約束する」

   リツコの肩に頭を預けるレイ

リツコ「レイ……」

   レイを抱きしめ、眼を伏せるリツコ

リツコ(私には……あなたに縋られる価値なんて、ないのに……)

   しばらくその姿勢でいるリツコとレイ

レイ「ありがとう……」

リツコ「いいのよ」

   立ち上がるリツコとレイ

リツコ「先に行きなさい。私は、ここを閉めていくから」

レイ「はい」

   歩み去るレイ
   後姿を見ているリツコ
   隔壁の向こうへ消えるレイ

リツコ「……どうなさるおつもりですか?」

ゲンドウ『問題ない』

   イヤフォンから聞こえる声

ゲンドウ『零号機パイロットは現状維持だ。計画に変更はない』

リツコ「……わかりました」

   エレベーターに向かって歩き出すリツコ

   ;
   :

==== 二子山要塞 仮設発令所前 ====

   シンジに小型レコーダーを手渡すミサト

ミサト「――本部広報部あてに届いていた伝言よ」

   受け取ってメッセージを聞き始めるシンジ

ミサト「……っと、こっちはレイね」

   別のレコーダーをレイに手渡すミサト

レイ「……」

ピーーーッ

ヒカリ『洞木です。――綾波さん、頑張ってね』

   目を見開くレイ

ピーーーッ

女子『ほらヒデコ! 早く早く――』

レイ「……」

女子数名『せーの……レーイ!! 頑張れよー!!』キャー…

   ミサトを見るレイ
   微笑み返すミサト

   :
   :

==== 仮設ケージ ====

   谷合を延びる光の列
   黒々とした山並み
   満天の星
   膝を抱えて座っているプラグスーツ姿のシンジとレイ

レイ「碇くんは……なぜ、これに乗るの」

   少し考え、自嘲気味に微笑むシンジ

シンジ「よくわかんないや」

レイ「……」

シンジ「でも――」

   シンジを見るレイ

シンジ「トウジや、ケンスケや、学校のみんなや、ミサトさんたちや――」

レイ「……」

シンジ「僕がこれに乗ってれば、ちょっとは助けられるのかなって」

レイ「……そう」

   視線を戻すレイ

シンジ「で、でも、それもやっぱり、綾波のおかげかなって」

レイ「……え?」

   またシンジを見るレイ
   慌てたようにレイを見て付け加えるシンジ

シンジ「だ、だってそうだろ? あんな大ケガしてたのに、乗らなきゃって言うから……そしたら、何ともないのに、僕が乗らないわけにいかないって思ったから」

レイ「……」

   視線を戻すシンジ

シンジ「ここへ連れてこられた時――僕は自分のことで精一杯だった」

レイ「……」

シンジ「あの時、綾波と知り合ってなかったらさ、僕はこれに乗るたびにへこんだり、逃げ出したり、……父さんのせいにしたりしてたと思う」

   視線をもどし、ぽつりと言うレイ

レイ「ありがとう」

シンジ「い、いや! お礼を言わなきゃいけないのは――」

レイ「それでも……ありがとう」

   しばらくレイを見ているシンジ

シンジ「これが終わったらさ――」

レイ「え?」

   顔を上げるレイ

シンジ「お好み焼き、食べに行かない?」

レイ「……」

シンジ「この前さ、トウジたちと行ったんだ。ほら、学校に行く途中の、よく野球部が使ってる――」

レイ「……」

シンジ「あれだったらさ、肉無しのもできるし――」

レイ「……行きたい」

シンジ「――えっ」

レイ「私も、行きたい」

シンジ「そ、そう、よかった! じゃあさ……そうだ、委員長たちにも声かけて――」

ピピッ

シンジ「あ――」

レイ「……時間ね。行きましょう」

シンジ「うん」

   立ち上がるレイとシンジ

シンジ「じゃあ綾波、またあとで」

レイ「……」

シンジ「……綾波?」

レイ「ええ、また――」

   各々のエントリープラグに向かうシンジとレイ

   零号機の搭乗口
   レイに何か説明している作業員
   シートに体を滑り込ませながら頷いているレイ

   初号機の搭乗口で待っている作業員
   シンジと何事か言葉を交わし、肩を叩いて送り出す

   :
   :

==== 零号機プラグ内 ====

   意識を取り戻すレイ
   非常灯の微かな明かり

レイ(まだ……生きてる……)

ゴオオオオォン……

   開く非常用ハッチ
   息せき切ってプラグ内に踏み込む人影

シンジ「綾波!!」

レイ「!」

   目が合うシンジとレイ

シンジ「あ……綾波……よかった……」

   へなへなとプラグの床に座り込むシンジ

レイ「碇くん……」

   シンジを見下ろすレイ

シンジ「もうダメかと思った……無事でよかった……」

   レイの顔を見て笑うシンジ

レイ「……」

ポタッ…

シンジ「!……あ……綾波!?」

   自分の頬を指でなぞるレイ

レイ「涙?……泣いているのは……私?」

シンジ「だ……大丈夫!?」

レイ「嬉しいのに……」

シンジ「えっ?」

   滴る涙を掌で受けるレイ

レイ「嬉しいときにも……涙は出るのね」   

シンジ「……」

レイ「よかった……また、碇くんの顔が見られて」

   涙の跡を残したまま微笑むレイ
   しばし見とれるシンジ

シンジ「僕も……また綾波に会えてよかった」

   微笑み返すシンジ

シンジ「――立てる?」

   手を差し伸べるシンジ
   手をのばすレイ
   繋がれる手と手
   その手を見つめているレイ

レイ(よかった……まだ、今の私でいられて……)

   プラグから地面に降り立つシンジとレイ
   降下してくるVTOL 機体側面に救急のマーキング
   乗降口から身を乗り出し、下方と機内に向かって交互に何か叫んでいるミサト
   手を振るシンジとレイ
   横たわる2体のエヴァ
   それらを静かに照らしている月の光

   :
   :

TV第6話、新劇場版「序」相当分まで 了

本日はここまで

すげーいい方向に進んでるな。
逆に怖いくらいだ……。

乙 三人目になったらシンジ君崩壊しそうだ

>>51 >>52 >>53 ありがとう
>>49から続きます

==== 共同墓地 ====

キイイイイイイィン…

   降下してくるVTOL

ゲンドウ「時間だ。先に帰るぞ」

   VTOLに向かって歩き始めるゲンドウ

   窓際の席に座っているレイ
   シンジに気付き、小さく手を振る
   少し微笑んで手を振りかえすシンジ

   歩み去っていくゲンドウ
   後姿を見ているシンジ

シンジ「父さん!」

   振り返るゲンドウ

ゲンドウ「……」

シンジ「あの……今日は、うれしかった。父さんと話せて」

ゲンドウ「……そうか」

   ユイの墓標の根元で風に揺れている白いユリの花束
   上昇するVTOL
   踵を返して歩み去るシンジ
   墓地の外 青いルノーにもたれて待っているミサト

   :
   :


==== 相模湾沿岸 第9番停車場 ====

女性オペ『現在、エヴァ弐号機は、相模第一路線を移動中――』

   初号機から降りてくるプラグスーツ姿のレイ

トウジ「おう、綾波、お疲れさん」

シンジ「復帰早々、大変だったね」

レイ「ううん、へいき」

   最後の一段を飛び降りるレイに手を貸してやるシンジ

ケンスケ「零号機、まだダメなのか?」

シンジ「全身ヤケドみたいなもんだからね……」

   リニアで運ばれてくる弐号機

トウジ「ひゃー、赤いんか、弐号機って」


   「違うのはカラーリングだけじゃないわ!」

一同「へっ?」

   機体の上に仁王立ちして一同を見下ろしている赤いプラグスーツの少女

   :
   :


アスカ「あんたが依怙贔屓で選ばれた零号機パイロット――」

レイ「……」

   レイを品定めするように見るアスカ
   眉をひそめるレイ

アスカ「で? どれが七光りで選ばれた初号機パイロット?」

   居並ぶトウジ達を順に睨みつけるアスカ

シンジ「あ、あの!……」

アスカ「ふーん……」

   指を突きつけるアスカ

アスカ「アンタ、バカァ!? 肝心な時にいないなんて、なんて無自覚! おまけに――」

シンジ「うわっ!!」ドサッ

   シンジに足払いをかけるアスカ
   小さく息を呑むレイ

アスカ「――無警戒! エヴァで戦えなかったことを恥とも思わないなんて、所詮――」

   アスカの前に立ちはだかるレイ

アスカ「――なっ…何よ」

レイ「どうしてそういうこと、するの」

アスカ「何よあんた!」

レイ「碇くんは、あなたに何もしていないわ」

アスカ「……」ムカッ

   シンジに手を貸すトウジ

トウジ「おいシンジ、いけるか」

シンジ「う、うん……」

   まだアスカを睨んでいるレイ

アスカ「……ふーん、そういうこと」

シンジ「えっ?」

アスカ「ふん! コネで乗ってるもんどうし、お似合いね!」

レイ「碇くんは、コネで乗ってるわけじゃない」

アスカ「あー、はいはい。仲のおよろしいことで――」

ミサト「やめなさいアスカ! レイも!」

レイ「ミサトさん――」

ミサト「三人とも、これから協力し合わなきゃいけないんだから、仲良くしなさい」

   そっぽを向くレイ

レイ「命令なら、そうします」

アスカ「ふん!」

   ため息をつくミサト

   :
   :

==== 駅構内 ====

   エスカレーターで上がってくるトウジ、ケンスケ、シンジ、レイ

トウジ「――ったく、何様や! あのオンナ。何抜かしとんのや!」
ケンスケ「それにしても、同い歳にしてすでに大尉なんて、すごい! すごすぎる! 飛び級で大卒ってことでしょ?――」
   「失礼」

   呼び止められ振り返る四人
   大きなトランクを持った男が立っている

   :
   :



==== ネルフ本部 ブリーフィングルーム ====

マヤ「――午前11時3分をもって、ネルフは作戦の遂行を断念、国連第二方面軍に指揮権を譲渡」

シンジ・アスカ「……」

マヤ「同05分、N2爆雷により目標を攻撃、構成物質の28パーセントを焼却に成功――」

アスカ「やったの?」

冬月「足止めに過ぎん。再度侵攻は時間の問題だ」

一同「……」

   :
   :


==== ネルフ本部 トレーニング室 ====

   体育着で床に座り込み、息を切らしているシンジとアスカ

ミサト「シンジくん、音楽よく聞いて! まだ照れが残ってるわよ!」

シンジ「は、はい……すみません……」ハァ…ハァ…

ミサト「それとアスカ!」

アスカ「何よ」ハァ…ハァ…

ミサト「何度言ったらわかるの! 自分だけとばすんじゃなくて、もっとシンジくんと合わせなさいよ
!」

アスカ「ナナヒカリに合わせてレベルを下げるなんて、うまく行くワケないわ! どだい無理な話なの
よ!」ハァ…ハァ…

ミサト「仕方ないわね……」

   壁際を振り返るミサト

ミサト「レイ、ちょっとやってみて」

レイ「……はい」

シンジ「えっ?」

   :
   :

   終わりまで規定動作をやり切るシンジとレイ

シンジ・レイ「……」ハァ…ハァ…

   息を切らせながら視線をかわして微笑む

アスカ「なっ……何よ!」グッ…

ミサト「ふーん、うまいもんね……」

   考え込んでいるミサト

ミサト「レイ、今度はアスカとやってみて」

レイ「嫌です」

アスカ「それはこっちの台詞よ! 誰がアンタなんかと――」

ミサト「これは命令よ」

   青筋を立ててアスカに微笑みかけるミサト

アスカ「や……やればいいんでしょ! やれば!」

ミサト「わかったわね? レイ」

レイ「……はい」

   :
   :

   音楽に合わせて踊るアスカとレイ

加持「ほおー、これは意外に……」
   
シンジ「すごい……」

ミサト「思ったとおり……アスカの動きのキレと、レイのトレースの正確さと――」

アスカ・レイ「……」ハァ…ハァ…

ミサト「決まりね」

   思わず顔を見合わせ、すぐそっぽを向くアスカとレイ

   :
   :


==== 夜 合宿所 ====

レイ「……」スー…スー…

アスカ「アタシは特別。あいつらとはちがーう……だから――」

   人形を手に小声で一人語りしているアスカ

アスカ「一人でやるしかないのよ」

   横で寝ているレイを睨むアスカ

アスカ(なのに、なんでこんなヤツと……)


  寝返りを打つアスカ

アスカ(おまけに、なんでタタミに布団でごろ寝なのよっ!!)

   :
   :


==== 翌日 夕方 ラウンジ ====

ミサト「はぁ……うまくいかないわね……」

リツコ「まるで連携がとれていない。昨日の方が、まだよかったわね」

ミサト「思い切って、レイとシンジくんで行こうかしら。リスクは大きいけど……」

リツコ「その場合、シンジくんとレイ、どっちを弐号機に乗せるかが問題ね。シンクロテスト、至急やってみる?」

加持「いや…その決断は早すぎるよ」

ミサト・リツコ「……」

加持「まだ三日あるんだ。もう少し二人の様子を見よう」

   :
   :


==== 夜 ====

レイ「……」スー…スー…

モゾモゾ……ボフッ

レイ「!」

アスカ「……」スー…スー…

レイ(……なに?)

   レイにしがみつく様に乗りかかるアスカ

レイ(重い……)

アスカ「……ママ……」

レイ(……寝言?)

アスカ「……どうして死んじゃったの……」

レイ「!」

   涙を流しているアスカ

レイ「……」

   :
   :


==== 翌日 トレーニングルーム ====

ミサト「――ストーップ!」

アスカ「なんで止めるのよ! せっかくうまく行ってたのに!」

ミサト「あなただけうまく行っても意味ないでしょ!? レイを引き離してどうするのよ!?」

アスカ「何よ、アタシは――」

レイ「ミサトさん」ハァ…ハァ…

ミサト「えっ?」

レイ「もう少し……このままやらせて」

アスカ「!」

ミサト「……いいわ。続けましょう」

   立ち上がるレイ

アスカ(な……なによ、コイツ……)

   ;
   :

==== 自販機コーナー ====

シンジ「はい、これ」

レイ「……ありがとう」

シンジ「どう? うまく行きそう?」プシュッ……

レイ「……」

シンジ「どうしたの?」

   手の中の缶を見つめているレイ

レイ「あの人……」

シンジ「えっ?」

レイ「性格が激しくて、自信過剰な感じがするけれど――」

シンジ「……」

レイ「本当は、ごく普通の女の子なのかも知れない」

シンジ「……」

   :
   :



==== 夜 合宿所 ====

アスカ「ママ……」

レイ(また――)

アスカ「……」ハッ

   目を開けるアスカ
   レイの顔が間近にあることに気付く

アスカ「……」カアアアアアァ

アスカ「なっ何でアタシがアンタのとこで寝てなきゃならないのよっ!!」

レイ「入ってきたのは、あなたの方」

アスカ「うるさい!」

   背中を向けるアスカ

レイ「……亡くなったの?」

アスカ「アンタには関係ないでしょ!」

レイ「……」

アスカ「……そうよ」

レイ「……お父さんは?」

アスカ「いないわ」

レイ「……」

アスカ「精子バンクって知ってるでしょ。……アタシは試験管の中で生まれたのよ」

レイ「そう……」

   寝返りを打ってレイを睨むアスカ

アスカ「そういうアンタはどうなのよ」

レイ「……いない」

   ギクリとするアスカ

アスカ「あ……アンタのママも……亡くなったの?」

レイ「いないの……最初から」

アスカ「最初からって……パパは?」

   首を振るレイ

アスカ「そ、そう」

   天井を見つめているレイ

アスカ(コイツも案外、複雑な身の上なのね……)

アスカ「わ……悪かったわね」ボソッ

レイ「……え?」

アスカ「『え?』じゃないわよ! ちゃんと聞いてなさいよ」

レイ「……2号機パイロット――」

アスカ「その呼び方やめなさい。まどろっこしいったらありゃしない」

レイ「……」

アスカ「特別にアスカでいいわよ。アタシもアンタのこと、レイって呼ぶから」

レイ「……アスカは、何故エヴァに乗るの」

アスカ「愚問ね……自分のためよ、エヴァに乗るのは」

レイ「……」

アスカ「大勢の中から選ばれて……エヴァに乗って使徒を倒して……それでみんなに認めてもらえたら 、最高に幸せなのよ」

レイ「……そう」

アスカ「アンタはどうなのよ」

レイ「よく、わからない」

アスカ「……アンタ、バカぁ? そうやって責任逃れしてるだけなんでしょ?」

レイ「絆……だと思っていた」

アスカ「絆?」

レイ「私には、ほかに何もないと思っていたから」

アスカ「……」

レイ「でも――碇くんや、ミサトさんや、学校のみんなや――」

アスカ「……」

レイ「私がエヴァに乗れば、少しは助けられるんじゃないかって、思うようになった」

アスカ「……フン」

   寝返りを打つアスカ

アスカ「あんたって……見かけによらずお人好しね」

   :
   :

==== 翌日 トレーニング室 ====

ミサト(あら?……)

   黙々と動作を繰り返すアスカとレイ      

ミサト(どうしちゃったのかしらね…)フフ…

ミサト「――いいわ、二人とも」

アスカ・レイ「……」ハァ…ハァ…

ミサト「時間がない。シミュレーションに移るわよ」

アスカ・レイ「はい」

   :
   :


==== シミュレーター室 ====

   モニタに現れる、仮想の新第三東京市
   音楽に合わせて訓練を続ける初号機と弐号機

レイ『――もう一度、お願いします』ハァ…ハァ…

ミサト「もう遅いから寝なさい! 寝不足で本番動けなかったら、洒落にならないわよ!」

アスカ『わかったから! お願い、もう一回だけ――』

   :
   :

==== 翌日 市街地 ====

   幹線道路を駆け抜ける初号機と弐号機

アスカ「レイ!」

レイ「了解!」

   跳躍する2機のエヴァ

カッ……

   同時に使徒のコアを蹴り砕く初号機と弐号機

ドドドオオオオオオォォ……

   降り注ぐ大量のLCL
   十字の輝き
   空にかかる虹

   :
   :

==== 発令所 ====

シゲル「目標は、完全に形象崩壊しました」

ミサト「エヴァは……アスカとレイは!?」

マコト「エヴァ両機、確認!」

ミサト「よかった……あら?」

   主モニター上、折り重なって倒れている2機のエヴァ

   :
   :

==== 市街地 爆心地付近 ====

アスカ『最後、着地のタイミング、外したわね』

レイ『私は、あなたに合わせただけ』

アスカ『何よ! 最後くらい、自分でタイミング測りなさいよ!』

レイ『ばらばらに動いたら、かえって危険だわ』

   モニタ越し、レイをにらむアスカ
   ふっと表情を和らげるアスカ

アスカ『――特別に許す。使徒には勝てたんだしね」

レイ『……』

アスカ『まあ、コネで乗ってる割には、よく頑張ったわね』

レイ『あなたに褒められるとは、思わなかった』


   表情を和らげるレイ

   :
   :

==== 発令所 ====

マヤ「レイ? ……アスカ?」

リツコ「二人とも、中で寝てしまったみたいね」

ミサト「どうなってんのよ、もう……」ハァ……

シンジ「……」

ワハハハ……

   :
   :

本日はここまで


TVシリーズと新劇と漫画が混ざってるけど意外に読みやすい 続きも期待してるよ


3人に不和が無いというのは大きなアドバンテージだな
最早シンジがアスカに焼きもちしちゃう位だ

3作品混ぜるとか新鮮

アスカさんは式波さんなんです?

>>1です

>>68 >>70
意図的に混ぜてるわけじゃないけど
なるべく既存の台詞を拾って構成したいのでこうなってる

>>69
かなりREALIZE AGAIN入ってるかも

>>70

Qには進まない予定なので惣流でいいと思うけど
中身はこれまでのところかなり式波かな
苗字で呼ぶ場面が出てきたら考えます

>>66から続きます

==== 休日 昼前 ミサトのマンション ====

ミサト「おはよー、シンちゃん……」

   だらしない恰好で起きだしてくるミサト

シンジ「あっ、おはようございます」

   リビングを掃除機掛けしているシンジ

   ソファに顔から倒れこむミサト

ミサト「お腹すいたー……」

シンジ「いま、朝ご飯、あっためますから。あ、布団、干しちゃっていいですか?」

ミサト「ん……お願い……」

   キッチンで何かセットしてからミサトの部屋に入っていくシンジ

   ベランダで衣擦れの音

   しばらくして戻ってくるシンジ

シンジ「はい、どうぞ」コトッ

ミサト「ありがと……いただきまーす……」

   まだ眠そうにぼそぼそと朝食をとるミサト

ミサト「あら?……レイは?」

シンジ「アスカのところですよ」カチャカチャ…

ミサト「本部の?」

シンジ「そのあと、委員長……洞木さんも一緒に、買い物に行くって」

ミサト「ふーん……どうしちゃったのかしらね、あの二人。すっかり仲良くなっちゃって」モグモグ…

シンジ「ハハハ……」

ミサト「シンちゃん、寂しーい? レイに構ってもらえなくて」ニマー

シンジ「べっ……別に……」

ミサト「ふふん。――ねえ、シンちゃん、コーヒーおかわりー」

シンジ「あ、はい……」ガタン…

   :
   :


==== ネルフ本部 第6ブロック 単身寮 ====

レイ「……」

   ドアの前に立っているレイ 私服姿

   少し考えて、ドアノブを回す

ガチャッ…

レイ「おはよう、アス――」

   ドアの間近まで詰め込まれた荷物の山

レイ「……」

アスカ「そっちは荷物部屋よ」

   となりのドアの前に腕を組んで立っている私服姿のアスカ

   :
   :



==== 市内 とあるショッピングセンター ====

   フードコートの一角

   パフェを攻略しているアスカ、レイ、ヒカリ

   足元に置かれた専門店の買い物袋

アスカ「――で、アンタ、あのバカのことどう思ってんの?」

レイ「バカ?」

アスカ「バカって言ったらバカシンジでしょ?」

ヒカリ「ちょっと、アスカ……」

レイ「……碇君は、バカじゃない」

アスカ「あーはいはい、ごちそう様。で、どうなの?」

   スプーンが止まるレイ

レイ「よく、わからない」

アスカ「これだから日本人は……はっきりしなさいよ」チッ

レイ「わからない…ただ――」

   パフェを見つめているレイ

レイ「碇くんといると、ポカポカする」

ヒカリ「えっ?」

   少し紅潮しているレイ

レイ「私も碇くんに、ポカポカしてほしい。碇司令と仲良くなって、ポカポカして欲しいと、思う……」

アスカ「はぁ……あんたって、ほんっと、つくづくウルトラバカね」

   アイスに刺さっていたチョコスティックを一口かじってからレイを指すアスカ

アスカ「それって、『好き』ってことじゃん」

レイ「好き?」

アスカ「そ」ポリポリ……

ヒカリ「あ、綾波さん、ポカポカって……」

アスカ「そうよ、小学生じゃないんだから。ね、ヒカリ」

ヒカリ「う、うん。でも――」

アスカ「何よ」

ヒカリ「なんか、いいかなって」アハハ…

アスカ「――あんたもバカジャージにそう言ってみる?」

ヒカリ「えっ!?」

アスカ「ま、あの鈍感バカが気付くとは思えないけど」

ヒカリ「あっ! あたしは別に……」カアアアァァ

アスカ「――でもレイ、『司令と仲良くなって』って、どういうこと?」

レイ「……え?」

   顔を上げるレイ

アスカ「アイツ、パパと仲悪いの?」

レイ「……」

   :
   :

==== 朝 海洋生態系保存研究機構 ====

ケンスケ「すごい! すごすぎるっ!!」

   海岸に広がる広大な施設の俯瞰

   夢中でカメラを回すケンスケ

   施設の入り口に立つシンジたち

ケンスケ「セカンドインパクトで死の世界になった南極圏の生物の永久保存と、赤く染まった南氷洋を元の姿に戻すという、まさに神のごとき大実験計画を担う禁断の聖地! その表層の一部だけでも見学できるとは! まさに持つべきものは、友達って感じ!」

ヒカリ「あ、あたしまでいいのかな……」

   おどおどと見回しているヒカリ

アスカ「お礼なら加持さんに言ってよね!」

加持『よう、来たな』

   施設入口の上、ガラスの向こうから手を振っている加持

アスカ「あっ、加持さぁん!!」

   手を振るアスカ

シンジ「あっ、あの人、確か駅で会った――」

加持『――もっとも、こっからが、ちょいと面倒だけどな』

一同「え?」

   :
   :


==== 施設内 ====

   加持の腕をつかんで引っ張りまわしているアスカ

   円筒状の水槽を眺めているトウジ、ケンスケ、ヒカリ

トウジ「しっかし、こっちは狭苦しいのぅ」

ヒカリ「そうね……もっと広いところで泳げばいいのに」

ケンスケ「無理だよ。こいつらは、この中でしか生きられないんだから」

   :
   :

ペンペン「クエーーー… クエッ!!」

   ペンギンのケージの前で何やら演説している風のペンペン

   喝采するペンギンたち

   :
   :

   回遊水槽の前

   手すりにもたれて眺めているシンジとレイ

シンジ「――よかった、綾波も来られて。『実験』、重ならなくてよかったね」

レイ「ええ。今週は、ノルマ終わったから」

シンジ「そう……」

   少し目を伏せるシンジ
   
シンジ「……ねえ」

レイ「なに?」

シンジ「うん……最近多いね。この前も徹夜だったし……」

レイ「……」

シンジ「『実験』って……何してるの?」

レイ「極秘事項だから」

シンジ「え? そ、そう……」

レイ「……ごめんなさい」

シンジ「あっ……綾波が謝ることじゃないよ!」

レイ「でも、きっと、いいこと」

シンジ「え?」

   シンジの顔を見るレイ

レイ「碇くんや、アスカにとっても、きっといいことだと思うから」

シンジ「……そっか」

   表情を和らげるシンジ

シンジ「でもさ、すごいね、ここ。ミサトさんも、来ればいいのに」

レイ「ミサトさんは、来ないって。――思い出すから」

シンジ「思い出すって……何を?」


レイ「セカンドインパクト――」

シンジ「……」

レイ「このあいだ、話してくれた。ミサトさんのお父さんは――」

   語り始めるレイ

   :
   :

==== シンジ回想 ====

ミサト『苦手なのね、お父さんが――私と同じね』

―――――――
――――
――

シンジ(僕と…同じだ……)

レイ「でも、最後は、そのお父さんに助けられた」

シンジ「……」

   シンジを真顔で見るレイ

レイ「お父さんのことでつらいのは、碇くんだけじゃない」

シンジ「……うん……」

   やってくるアスカ

アスカ「ほらぁ、何でまだこんなとこにいるのよ!」

   レイの腕をつかむアスカ

アスカ「行こ、レイ。あっちに、でっかいウミガメがいるわよ。――ほらバカシンジも来なさい!」

シンジ「う、うん!」

   レイを引っ張って施設の奥へ駆けて行くアスカ

   慌てて追いかけるシンジ

   :
   :

ちょっと半端だけどとりあえずここまで

しまった、南極海にウミガメはいなかった……
>>79はまるまる↓に差し替え

レイ「セカンドインパクト――」

シンジ「……」

レイ「このあいだ、話してくれた。ミサトさんのお父さんは――」

   :
   :

==== シンジ回想 ====

ミサト『苦手なのね、お父さんが――私と同じね』

―――――――
――――
――

シンジ(僕と…同じだ……)

レイ「でも、最後は、そのお父さんに助けられた」

シンジ「……」

   シンジを真顔で見るレイ

レイ「お父さんのことでつらいのは、碇くんだけじゃない」

シンジ「……うん……」

   やってくるアスカ

アスカ「ほらぁ、何でまだこんなとこにいるのよ!」

   レイの腕をつかむアスカ

アスカ「行こ、レイ。あっちに、でっかいオットセイがいるわよ」

ケンスケ「アザラシだろ」

   円柱水槽から振り返るケンスケ

アスカ「うっさいわね!――ほらバカシンジも来なさい!」

シンジ「う、うん!」

   レイを引っ張って施設の奥へ駆けて行くアスカ

   慌てて追いかけるシンジ

   つづくトウジ、ケンスケ、ヒカリ

   :
   :

ミス多発

>>77 Continuous errorにつき↓削除

シンジ「あっ、あの人、確か駅で会った――」

つづき

>>77の修正版再掲から

==== 朝 海洋生態系保存研究機構 ====

ケンスケ「すごい! すごすぎるっ!!」

   海岸に広がる広大な施設の俯瞰

   夢中でカメラを回すケンスケ

   施設の入り口に立つシンジたち

ケンスケ「セカンドインパクトで死の世界になった南極圏の生物の永久保存と、赤く染まった南氷洋を元の姿に戻すという、まさに神のごとき大実験計画を担う禁断の聖地! その表層の一部だけでも見学できるとは! まさに持つべきものは、友達って感じ!」

ヒカリ「あ、あたしまでいいのかな……」

   おどおどと見回しているヒカリ

アスカ「お礼なら加持さんに言って」

加持『よう、来たな』

   施設入口の上、ガラスの向こうから手を振っている加持

アスカ「あっ、加持さぁん!!」

   手を振るアスカ

加持『もっとも、こっからが、ちょいと面倒だけどな』

一同「え?」

   :
   :


==== 施設内 ====

   加持の腕をつかんで引っ張りまわしているアスカ

   円筒状の水槽を眺めているトウジ、ケンスケ、ヒカリ

トウジ「しっかし、こっちは狭苦しいのぅ」

ヒカリ「そうね……もっと広いところで泳げばいいのに」

ケンスケ「無理だよ。こいつらは、この中でしか生きられないんだから」

   :
   :

ペンペン「クエーーー… クエッ!!」

   ペンギンのケージの前で何やら演説している風のペンペン

   喝采するペンギンたち

   :
   :

   回遊水槽の前

   手すりにもたれて眺めているシンジとレイ

シンジ「――よかった、綾波も来られて。『実験』、重ならなくてよかったね」

レイ「ええ。今週は、ノルマ終わったから」

シンジ「そう……」

   少し目を伏せるシンジ
   
シンジ「……ねえ」

レイ「なに?」

シンジ「うん……最近多いね。この前も徹夜だったし……」

レイ「……」

シンジ「『実験』って……何してるの?」

レイ「極秘事項だから」

シンジ「え? そ、そう……」

レイ「……ごめんなさい」

シンジ「あっ……綾波が謝ることじゃないよ!」

レイ「でも、きっと、いいこと」

シンジ「え?」

   シンジの顔を見るレイ

レイ「碇くんや、アスカにとっても、きっといいことだと思うから」

シンジ「……そっか」

   表情を和らげるシンジ

シンジ「でもさ、すごいね、ここ。ミサトさんも、来ればいいのに」

レイ「ミサトさんは、来ないって。――思い出すから」

シンジ「思い出すって……何を?」

レイ「セカンドインパクト――」

シンジ「……」

レイ「このあいだ、話してくれた。ミサトさんのお父さんは――」

   :
   :

==== シンジ回想 ====

ミサト『苦手なのね、お父さんが――私と同じね』

―――――――
――――
――

シンジ(僕と…同じだ……)

レイ「でも、最後は、そのお父さんに助けられた」

シンジ「……」

   シンジを真顔で見るレイ

レイ「お父さんのことでつらいのは、碇くんだけじゃない」

シンジ「……うん……」

   やってくるアスカ

アスカ「ほらぁ、何でまだこんなとこにいるのよ!」

   レイの腕をつかむアスカ

アスカ「行こ、レイ。あっちに、でっかいオットセイがいるわよ」

ケンスケ「アザラシだろ」

   円柱水槽から振り返るケンスケ

アスカ「うっさいわね!――ほらバカシンジも来なさい!」

シンジ「う、うん!」

   レイを引っ張って施設の奥へ駆けて行くアスカ

   慌てて追いかけるシンジ

   つづくトウジ、ケンスケ、ヒカリ

   :
   :

==== ネルフ本部 エヴァ用操車場 ====

グオングオングオン……

   リフト兼ターンテーブルで上昇してくる弐号機
   作業通路でミサトからブリーフィングを受けているアスカ、シンジ、レイ

レイ「――この配置の根拠は?」

ミサト「女の勘よ」ニコ

アスカ「何たるアバウト!」

シンジ「あの、勝算は?」

ミサト「神のみぞ知る、ってところね」

シンジ「そんな――」

ミサト「ま、これが終わってまだ命があったら、晩ごはん、1回おごってあげるから」

シンジ「ホントですか!?」

ミサト「もっちろん! どうせなら、ぱぁーっとステーキでも――」

アスカ「これだからセカンドインパクト前の世代は……それに、ステーキなんて、レイが食べられないじゃない」

ミサト「あ、そうね」

レイ「……」

ミサト「じゃあ、何か別なの、考えといて」ニコ

   :
   :

==== 初号機プラグ内 ====

   青い非常灯に照らされたプラグ内

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   シート横に開く音声通信のウィンドウ

ゲンドウ『話は聞いた。――よくやったな、シンジ』

シンジ「え……あ、はい……」

ゲンドウ『では葛城一佐、後の処理は任せる』

ミサト『はい。――エヴァ3機の回収、急いで――』

   目をしばたたくシンジ  

   :
   :

==== 夜 市内 とあるラーメン屋台 ====

店員「――はい、フカヒレチャーシュー大盛りとニンニク、チャーシュー抜き」ゴトッ

アスカ「はーい」

レイ「はい」チラ…

ミサト「いいわよ、二人とも。のびないうちに食べ始めちゃって」

アスカ「じゃ、遠慮なく。いっただっきまーす」

レイ「いただきます」

   割り箸を割るアスカとレイ

ミサト「みんな、ホントに良くやってくれたわ。お疲れ様」

アスカ「とうぜ~ん! アタシたちにかかれば、ま、ざっとこんなものよ」ズズ…

ミサト「――どう? シンジくん。今までいろいろあったのかもしれないけど、碇司令、ちゃんと見ててくれたじゃない」

シンジ「……」

ミサト「どしたの? 嬉しくないの?」

シンジ「ううん……ミサトさんの言うとおりかも知れないって。初めて褒めてくれたんです……初めて、褒められるのが嬉しいと思った」

ミサト「……」

シンジ「父さん……僕のこと、認めてくれたのかな……」

   包帯を巻いた手を試すように握ってみるシンジ

   微笑んでいるミサト

店員「はい、お待ち――」ゴトッ

ミサト「来た来た。ほらシンちゃん、食べましょ」

シンジ「はい」

   割り箸を割るミサトとシンジ

   レイに耳打ちするアスカ

アスカ「ほら、バカシンジのやつ、今日はだいぶポカポカしてるみたいじゃない」ヒソヒソ

   一瞬、不思議そうな顔するが、微笑んでまた食事に戻るレイ

シンジ「……えっ、何?」

アスカ「何でもなーい」ズズ…

   目をしばたたくシンジ

アスカ「しっかしアンタ、肉食べられないくせに、そう言うのは平気なのね」

ミサト「そういえばそうね」フフ…

レイ「……」モグモグ……

ミサト「……!」ニマー

ミサト「――でも、あんまりニンニクくさいとシンちゃんにチュウしてもらえないわよん」

シンジ「……」ングッ…ゲホッゲホッ

   不思議そうに顔を上げるレイ

ミサト「冗談よ、じょーだん。心配しなくても大丈夫よ、レイ」

シンジ「……ミサトさん!!」

   芝居がかって挙手するアスカ

アスカ「はーい、アタシはそういうの食べてないから」

シンジ「えっ?」

アスカ「なんならアタシと――」

シンジ「ア、アスカ!!」

   真っ赤になるシンジ

   はっと顔をあげるレイ

レイ「……」

アスカ「な、なによレイ。いちいち本気にするんじゃないわよ! 冗談だってば!」

   :
   :

==== 夜、ミサトの部屋 ====

ミサト「……」グアー

   あられもない格好で布団に転がって鼾をかいているミサト

   ミサトのTシャツに顔を突っ込んだまま眠りこけているペンペン

==== 洗面所 ====

レイ「……」カチャカチャ…

シンジ「……」ガラガラガラ…

   歯ブラシを片付けているレイ

   口をゆすいでいるシンジ

シンジ「……」バシャバシャ

レイ「……」スーハー

   コップをゆすぐシンジ

   口許に掌をかざし、息を吐いては吸っているレイ

シンジ「……なにやってんの? 綾波」ジャー……キュッ

レイ「におい……」スーハー

シンジ「えっ?」

レイ「ニンニクのにおい、する? 自分では、よく、わからない」クンクン

シンジ「うーん……」クンクン……

レイ「……」クンクン

   レイの周囲の臭いを確かめようとするシンジ

   自分でもまた嗅いでみるレイ

シンジ「僕たちの場合、LCLの匂いも――」ハッ…

レイ「……!」ハッ…

   いつの間にか互いの息がかかる距離にいたことに気づくシンジとレイ

   目を見開いて見つめ合ったまま

   :
   :

==== リビング ====

シャ-ッ…

   洗面所との境のカーテンが開く

レイ「おやすみなさい……」

   後ずさるように出てくるレイ

シンジ「おっ……おやすみ」

   真っ赤になってレイを見送るシンジ

   :
   :

==== シンジの部屋 ====

シンジ「……」

頭までかぶっていた布団から顔を出すシンジ

目を開いている

   :
   :

==== レイの部屋 ====

   闇の中、横向きに寝ているレイ

   目を開く

レイ「……」

   ふと、指で唇に触れてみるレイ

   :
   :

==== 夜 衛星軌道からの眺め ====

ゴゴゴゴ…

   視野中央に伸び上がる十字の炎

   周囲に広がっていく二次爆発の光

==== ミサトのマンション 浴室 ====

ザバッ

   携帯電話を片手に湯船から立ち上がるミサト

ミサト「消滅!? エヴァ4号機と第二支部が消滅したの!?」

   :
   :

==== 数日後 第壱中学校 2年A組教室 ====

トウジ「――誰もオマエのこと言うてないやんか!!」

ヒカリ「しっかりこっち指さして言ってたじゃないのっ!!」

ギャーギャー

シンジ(なんか……一生やってなさいって感じ?)

ガラッ…

教師「鈴原! 鈴原トウジはいるか?」

トウジ「――えっ?」

   眼鏡をなおす担任教師

教師「至急、校長室まで来なさい」

トウジ「あ、はい……」

   去っていく担任教師

ヒカリ「あんた、何かやったの?」

トウジ「アホ。心当たりないわ」

   :
   :

==== 放課後 帰り道 ====

ミーン ミーン ミーン…

シンジ「――トウジのやつ、どうしたのかな。結局、あのまま校長室から戻って来なかったし……」

ケンスケ「う~ん、まさか、よっぽど悪いことしたとか……」

   :
   :

==== ネルフ本部 廊下 ====

   俯きながら歩くシンジ

シンジ(ホントにどうしたんだろ、トウジのやつ――)

   「おう、シンジ。ごくろうさん」

シンジ「――えっ?」

   顔を上げるシンジ

   検査着で立っているトウジ

シンジ「トウジ! なんでここにいるの!?」

トウジ「ああ、きょう校長室に行ったらリツコさんが来とってな……」

シンジ「……リツコさんが?」

トウジ「それでな……エヴァのパイロットになれ、言われて」

シンジ「パイロット? トウジが?」

   照れたように笑うトウジ

シンジ「そんな、どうして――」

リツコ「厳正なる審査の結果よ」

   やってくるリツコ

   資料らしきバインダを小脇に抱えている

リツコ「身体検査と適性検査が終わったところ。これからプラグスーツの採寸をするから」

シンジ「適性って――」

リツコ「さあ、行きましょう」

トウジ「はい。……ほなシンジ、以後よろしゅうな」

シンジ「う、うん……」

   :
   :

==== 数日後 実験場 管制室 ====

   ガラス窓の向こう

   LCLに半ば浸かっているテストプラグ

   管制卓のモニタ上 瞑目しているプラグスーツ姿のトウジ

男性オペ「絶対境界線まであと0.2、0.1……突破。ボーダーライン、クリア」

マヤ「ハーモニクス正常――」ピッピッ…

リツコ「ひとまずは成功ね」

   安堵に包まれる管制室

   モニタの中 ゆっくりと目を開け、不安そうに見回すトウジ

   :
   :


==== 昼休み 第壱中学校 屋上 ====

   弁当を食べているアスカ、レイ、ヒカリ

アスカ「――それで?」

レイ「近いうちに、正式に3号機パイロットとして登録になるって、ミサトさんが」

ヒカリ「そ、そう」

   箸が止まったままのヒカリ

アスカ「ヒ・カ・リ」ポン

ヒカリ「な、なに?」

アスカ「ダメじゃん。今のままじゃ、な~~んの進展もないわよ」

ヒカリ「べ、別に……私は、今のままで――」

アスカ「あんた、今の時代、明日は何が起こるかわかんないのよ」

ヒカリ「……」

アスカ「レイ、あんたも考えるのよ。どうしたらあの熱血バカとヒカリがラブラブになれるか」

レイ「……お弁当……」

ヒカリ「え?」

レイ「鈴原くん、お昼ご飯、いつも購買のパンと牛乳みたいだから」

アスカ「それ採用! さっすがレイ!」

ヒカリ「そんな――」

アスカ「それにしても、なんでアイツなのかしらねー」モグモグ

ヒカリ「……福利厚生の関係だって」

アスカ「フクリコウセイ?」

ヒカリ「鈴原、お父さんもお爺さんもネルフの関係でしょ。それでアイツがパイロットになると、サクラちゃんを本部の医学部に優先的に診てもらえるようになるって。リツコさんが気が付いて、推薦してくれたんだって……」

アスカ「ふーん。リツコ、たまにはやるじゃん」

ヒカリ「……ねえ、綾波さん」

   俯くヒカリ

レイ「なに」

ヒカリ「初めてエヴァンゲリオンに乗った時、どうだった? 恐かった?」

レイ「洞木さん……」

ヒカリ「今まで、考えたことなかった。アスカや綾波さんや、碇くんは特別だと思ってたから」

   顔を上げるヒカリ

ヒカリ「まさか鈴原が選ばれるなんて……」

アスカ「だ……大丈夫よ! この繊細なアタシが乗ってるくらいなんだから。アイツならなんともないわよ!」

ヒカリ「アスカ……」

レイ「エヴァの中は意外に安全なの。スタッフが全力でバックアップしてくれるし」

   また顔を伏せるヒカリ 

ヒカリ「ごめんなさい……あなたたちの気持ちも知らないで、気安く『頑張って』なんて言って……」

アスカ「な、なによ。泣くんじゃないわよ。ほら――」

   首を振るヒカリ

ヒカリ「頑張らなくていい……ただ、無事に帰ってきてくれさえすれば……」

レイ「……」

   ヒカリの肩に手を置くアスカ

   :
   :

きょうはここまで

>>98のつづきから

==== 夜 ミサトのマンション ====

   水仕事をしているシンジ

   洗濯物を畳んでいるレイ

シンジ「――きょう委員長から、トウジの訓練の様子、いろいろ聞かれたんだ」ジャー……

レイ「そう」

シンジ「委員長、なんでそんなにトウジのこと聞きたがるのかな……いつもケンカばっかりしてるのに」カチャカチャ……

レイ「洞木さんは、鈴原くんのことが好きだから」

シンジ「ふーん……」カチャカチャ……

レイ「……」

シンジ「……えっ!? そっそうなの!?」カチャン

レイ「ええ」

シンジ「綾波は知ってたの?」

レイ「気付いたのはアスカの方が早かったけれど」

シンジ「知らなかった……心配なんだな、きっと」カチャカチャ……

レイ「そうね」

シンジ「……あれ? 綾波、きょうは『実験』じゃなかった?」

レイ「もういいの。先週で、ぜんぶ終わったから」

シンジ「もう行かなくていいってこと?」

レイ「ええ」

シンジ「そうなんだ……よかった」ホッ

レイ「どうしたの」

シンジ「うん……綾波、いつも実験のあとはクタクタみたいだったから」

レイ「ごめんなさい。心配かけて」

シンジ「い、いや、綾波が悪いわけじゃないだろ」

レイ「……そうじゃない」

シンジ「なに?」

レイ「碇くんに心配してもらって、嬉しいと思ってしまったから」

シンジ「そっか」ニコ

   立ち上がりシンジのところへやってくるレイ

   目を瞑って待っている

シンジ「……」クスッ

   表情を和らげるシンジ

   :
   :
      
レイ「おやすみなさい」

シンジ「おやすみ」

   小走りに自室に向かうレイ

   見送ってから残りの水仕事に取り掛かるシンジ

   :
   :


==== 新第三東京市内 居酒屋 ====

   泥酔したミサト、テーブルを叩いて

ミサト「――あの新型のダミーシステムってやつ、なんっか、いけ好かないんだけどぉ~!」

加持「技術部でもごく一部しか知らなかったって言うからなあ。――りっちゃんが開発の責任者だったそうじゃないか。何か聞いてないのか?」

ミサト「ぜんっぜん、聞いてないわよ! そんな得体の知れないもんにエヴァを預けろだなんて……気が知れないわ!」

   :
   :


==== 放課後 学校からの帰路 ====

   棒アイスをかじりながら歩くシンジ、トウジ、ケンスケ

シンジ「――めずらしいな、トウジがおごりなんて」

トウジ「ワイも、まじめなシンジが付き合うてくれると思わなかった」

ケンスケ「素直に言えよ、サクラちゃん、退院できたって」

シンジ「え?」

トウジ「う、うるさいわい!」

ケンスケ「……ホントによかったな、碇」

シンジ「う、うん!!」



==== 運動場の一角 ====

   座っているシンジとケンスケ

   バスケットボールをゴールに放っては拾っているトウジ

ケンスケ「しっかし、トウジがパイロットとはなあ……。くっそー、なんで俺じゃないんだよー!」

トウジ「なんや、ワイらのクラス、みんなパイロット候補やて、リツコさんが言うとったで」

ケンスケ「ほ、ほんとか!?」

トウジ「ああ、待っとれば、そのうち乗れるんとちゃうんか」

ケンスケ「そうかあ!……でも、待ってるうちに、使徒がいなくなっちゃうんじゃないかなあ……」

シンジ「ハハ……僕はその方がいいけど」

   :
   :


==== 翌日 朝 ネルフ本部 地上施設エントランス ====

   ミサトの車の助手席に乗り込もうとしているトウジ

トウジ「――じゃあな、シンジ」

シンジ「うん。頑張って」

レイ「気を付けてね」

アスカ「バカジャージ、エヴァは心を開かなきゃ動かない。忘れるんじゃないわよ」

トウジ「わかっとるわ」

ヒカリ「すっ鈴原……」

トウジ「なんでイインチョも来とんのや。学校はどないしたんや」

ヒカリ「余計なお世話よ! 私はクラスの代表として――」

トウジ「そんなことわかっとるわ」

ヒカリ「なんですってえ!?」

アスカ「あー、ヒカリ……」コホン

ヒカリ「そ、そうね……鈴原!! これっ!」

   真っ赤になって弁当の包みを突きだすヒカリ

トウジ「何や?」

ヒカリ「コダマお姉ちゃんが忘れてったから、もったいないから――」

トウジ「これ、ワイにくれるんか?」

ヒカリ「どうせまたパンと牛乳で済ませるつもりだったんでしょ!」

トウジ「……?」

ヒカリ「あ、ありがたく思いなさい!」

アスカ「ヒカリ?」

トウジ「な、何や! 何で泣いとんのや!」

ヒカリ「何でもないわよっ!」

トウジ「……」

   トウジ、しばらく弁当の包みを見て、

トウジ「なあ、イインチョ」

ヒカリ「なによ」

トウジ「ワイら、喧嘩してばっかりやったけど……これが終わったらもう少し仲ようしようや」

ヒカリ「え……」

   驚くヒカリ

   少し困ったような笑みを浮かべているトウジ

ヒカリ「うん……」

   微笑んで眺めていたミサト、運転席から

ミサト「鈴原くん、そろそろ――」

トウジ「はい、ミサトさん」

   弁当の包みを持って助手席に乗り込むトウジ

ミサト「じゃあね、みんな」

一同「いってらっしゃい」

   動き出す青いルノー

   手を振るトウジ

   手を振って見送るシンジ、レイ

   ヒカリの肩を抱いてやっているアスカ

   :
   :

今回はここまで


原作よりは良い状況のはずなのに、不安しか感じねぇ…

乙 これまでがいい感じな分不安がすごい

>>106の続き

==== 夕刻 長野県 東御付近 ====

   山肌に押さえつけられ3号機に首を絞められている初号機

   プラグ内、シンジの首元に浮かび上がる指の跡

シンジ「くっ!……うぐっ……」



==== ネルフ本部 発令所 ====

マヤ「生命維持に支障発生、これ以上はパイロットが危険です!」

冬月「神経接続を28パーセントにカットだ!」

マヤ「はい!」カタカタカタ…



==== 東御付近 ====

シンジ「!……よし!」

   首を締める感触が弱まるのを感じるシンジ

   シートから身を起こす

マコト『シンジくん! 神経接続をギリギリまで落とした。感覚に頼らず、目視と計器で対応するんだ!』

シンジ「了解!」

   インダクションレバーを握り直すシンジ

シンジ「くそっ……トウジを――」グイッ

   3号機の腕を引き離す初号機

シンジ「――トウジを、返せっ!!」ドカッ

   3号機を足で蹴り出す初号機

   後ろに倒れる3号機

冬月『よし、神経接続を戻せ! 初号機は後退、捕獲地点まで3号機を誘導――』

3号機「……」グアッ

   倒れたままの3号機からゴムのように伸びる両腕

   初号機の首につかみかかる

シンジ「ぐあっ!?」

   身体を引き寄せ、一瞬で初号機に肉薄する3号機

   再び振りほどこうとするシンジ

   3号機の肩口からさらに一対の腕が伸び初号機の首を締め上げる

シンジ「ぐううううううう……」



==== 発令所 ====

男性オペ「装甲部頸椎付近に侵食発生、第6200層までの汚染を確認!」

マヤ「初号機、A.T.フィールド不安定!」

冬月「いかん、もう一度、神経接続を――」

ゲンドウ「待て」

冬月「碇?」

ゲンドウ「パイロットと初号機のシンクロを全面カットだ」

マヤ「カットですか!?」

ゲンドウ「そうだ。制御をダミーシステムに切り替えろ」

マヤ「しかし! ダミーシステムはまだテストが済んでおらず、赤木博士の指示もなく――」

ゲンドウ「これ以上は機体もパイロットもたん。選択肢はない」

マヤ「はい……」カタカタカタ



==== 初号機プラグ内 =====

ブヒュウウウウウウゥン…

シンジ「ぐはっ……」ハァ…ハァ…

グウウウウウウウゥン…

シンジ「な、なんだ?」



==== 東御付近 ====

   3号機の腕をつかむ初号機

   一気に腕を振りほどき3号機の首につかみかかる


==== 零号機プラグ内 ====

   左肩口を押さえて顔を歪めていたレイ

   薄目を明け戦闘の様子を見る

レイ(ちゃんと……起動したのね……)ハァ…ハァ…

レイ(よかった……)



==== 初号機プラグ内 ====

   あっけにとられているシンジ

シンジ「これが……ダミーシステムの力……」



==== 東御付近 ====

ミシミシミシ……ゴキッ

   3号機の首をへし折る初号機

   だらりと垂れ下がる3号機の腕

   手を離す初号機

   地面に転がる3号機

==== 発令所 ====

ゲンドウ「――いいだろう。制御をパイロットに戻せ」

マヤ「はい」カタカタカタ…

ゲンドウ「初号機パイロットは3号機を完全に停止させろ。不用意にエントリープラグに触れるな」

シンジ『は、はい』

ゲンドウ「3号機パイロットの状況は」

シゲル「だめです。依然、モニタできません」

ゲンドウ「回収班はどうした」

マコト「弐号機パイロットの収容完了、現地へ移動中」

ゲンドウ「急がせろ。3号機パイロットの救出準備。精神汚染の恐れがある。隔離できるようにしておけ」

マコト「了解!」



==== 初号機プラグ内 ====

シンジ(くそっ!こんなことになるなんて……待ってろよ、トウジ!)



==== 東御付近 ====

   跪く初号機

   力なく抵抗しようとする3号機

   その肩をつかむ初号機

   :
   :

とりあえずここまで

正誤表
>>112
×ゲンドウ「これ以上は機体もパイロットもたん。選択肢はない」
○ゲンドウ「これ以上は機体もパイロットももたん。選択肢はない」


何だかこのSSはゲンドウも本編より人間味があるように感じる

>>108 >>109 >>117 ありがとう
>>114の続きから

==== ネルフ本部 発令所 ====

   各々、担当作業に忙殺されているオペレーターたち

シンジ『――ちょっと!』

   切迫した声に思わず主モニターを見上げるオペレーターたち

   3号機を高々とつかみあげている初号機

   どよめく発令所内

   ただ一人、キーを叩き続けているマヤ

シンジ『変だよこれ! 早くコントロールをもどしてよ!!』

冬月「伊吹二尉!」

   マヤ、目まぐるしくキーを叩きながら

マヤ「だめです! 信号が届きません!――」

   主モニターの中、手足を力なく揺らす3号機

マヤ「――初号機、制御不能!」

   咆哮する初号機



==== 東御付近 ====

グアッシャアアアアアアアアァァン…

   3号機を地面に叩きつける初号機

シンジ「うわっ!」

   飛び散る瓦礫  思わず顔をかばうシンジ

グシャッ

   横たわる3号機の頭部を踏み潰す初号機

   飛び散るLCL

==== 発令所 ====

冬月「いかん!」

ゲンドウ「初号機を強制シャットダウン。内部電源を急速放電後、直ちにアンビリカルケーブルを切断」

マヤ「はい!」カタカタカタ…

==== 東御付近 ====

バリバリバリ…

   3号機の胸部装甲を引き剥がす初号機

ガシュッ!

   初号機の背面、切り離されるアンビリカルケーブル

マヤ『放電完了! 初号機、予備電源に切り替わります! 完全停止まで35秒』

   初号機プラグ内、急速に減っていく残時間表示

バシャッ

   建物に叩きつけられる3号機の腕

シンジ「止まれ、止まれ、止まれ! ――」

   プラグ内の手動スイッチを片端から落としていくシンジ

マヤ『18、17、16――』

   住宅街の上を飛び越えていく臓物のような赤い物体

   騒然としている発令所

   慌ただしく連絡を取り合っているオペレーターたち

マヤ『9、8、7――』

シンジ「!」ハッ

   血まみれのエントリープラグを掴んでいる初号機の手

   零号機プラグ内 蒼白になって目を見開いているレイ

シンジ「やめろ……」

マヤ『5、4、3――』

ググググ……

   プラグが軋む音

シンジ「やめろおおおあおおおぉ!!――」

   :
   :



==== 零号機プラグ内 ====

プシュー…

   スライドして開くハッチ

   覗きこむアスカ 額に包帯、頬に絆創膏で当てたガーゼ

   プラグの外から聞こえてくる慌ただしい物音、人の声

アスカ「……レイ?」

   インテリアシートの上

   膝を抱えて顔を埋めているレイ

アスカ「あんた、ケガはない?」

レイ「――ったのに……」

アスカ「えっ――」

レイ「私……頑張ったのに……」

   すすり泣いているレイ

アスカ「……」

レイ「碇くんや、アスカや、鈴原くんが、もう、エヴァに乗らなくてもいいようにする……だから!」

アスカ「……」

レイ「それなのに……こんな……」

アスカ「レイ……」

   :
   :

==== ネルフ本部 廊下 ====

   俯いて歩くレイ、アスカ、回収班の大人たち

   向こうから押されてくるストレッチャー

   「鈴原トウジ」の名札がかけられているのに気付くアスカ

アスカ「バカジャージ!――」

   はっと顔をあげるレイ

   ストレッチャーに駆け寄るアスカ

   しかし行き着かないうちに足を止める

   レイたちのところまで来るストレッチャー

   顔までかけられた白い布

   呆然と見送る一同

   :
   :

==== ネルフ本部 処置室前 ====

   マコトに肩を支えられ泣いているシンジ

   隣に立つシゲル

   シンジの向かい 口許を覆い涙を流しているマヤ

   しゃくり上げながら切れ切れに言うシンジ

シンジ「何も……何もできなかった……トウジ……」

シゲル「君のせいじゃない……君はよくやったよ」

   シンジの肩を掴んで言うシゲル

   首をふるシンジ

シンジ「もっと……もっとうまく乗れていたら……」

   また涙が混み上げてくるシンジ

シンジ「できなかった……ダミーには出来たのに!……」

   少し離れた場所

   言葉を失うレイ


==== ネルフ本部 ヘリポート ====

キイイイイイイイィン…

   着地しているVTOL

   降りてくるリツコ  頭に包帯を巻いている

   加持に付き添われて運び出される、ミサトを乗せたストレッチャー

   :
   :


==== ネルフ本部 パイロット更衣室前 ====

   出てくるシンジ

   廊下で待っていたレイ

レイ「――ごめんなさい……」

シンジ「……え?」

レイ「ごめんなさい。こんなことに、なるなんて――」

シンジ「ハハ……何言ってるんだよ……綾波が謝る必要なんてないだろ」

   力なく笑うシンジ

シンジ「綾波だって精一杯やったんだ……仕方ないよ――」

レイ「……そうじゃない」

   顔を上げるレイ

シンジ「えっ?」

   何かを決意したように歩み寄るレイ

   シンジの手首をつかんで

レイ「ついてきて」

シンジ「ちょっ、ちょっと――」

   :
   :

==== セントラルドグマ ダミープラント ====

   円形の部屋の中央に据え付けられた、人ひとり入れるくらいのガラスの円柱

   上部には、天井に続く、ヒトの脳を思わせる複雑な配管

シンジ「――これが……これがダミープラグの元なの?」

   向こうを向いて立っているレイ

レイ「真実を見せてあげる」

   何か操作するレイ

   周囲の壁をおおっていたシャッターがせりあがり、隠されていた水槽が露わになる

シンジ「!!」

   部屋を取り囲む、オレンジ色の光に満たされた水槽

   浮き沈みしている無数のレイ

シンジ「まさか……ダミープラグは!!」

レイ「そう、ダミープラグのコアとなるもの……ここは、その生産工場」

シンジ「これが!?」

レイ「ここにあるのはダミー。そして、私のための、ただのパーツに過ぎない」

シンジ「……」

レイ「私は、人形と同じ――」

シンジ「えっ?」

レイ「使徒が来る限り、何度でも目覚めさせられて、エヴァに乗って戦う――そのための、ヒトの模造品」

シンジ「模造品って、そんな――」

   振り返るレイ 背後からオレンジ色の光を浴びている

レイ「鈴原くんを殺したのは、ここにあるのと同じ……私になっていたかもしれない、人形のひとつ」

シンジ「綾波……」

   能面のような無表情

   憑かれたようにしゃべり続けるレイ

レイ「いいえ――もし、歯車がひとつ違っていたら、あの中に入っていたのは、私だったかも――」

シンジ「綾波!!」

レイ「……」

シンジ「――もういい」


レイ「……碇くん?」

シンジ「もう……いいよ……」

   ふらりと踵を返し、歩み去っていくシンジ

   先ほどまでと同じ姿勢で立っているレイ

ゴオオオオオォン……

   閉じる隔壁

   その場に座り込むレイ
      
   :
   :


==== ネルフ本部 リツコの研究室 ====

リツコ「……」

   イヤフォンをはずすリツコ

   息を吐き出し、椅子の背もたれに体を預ける


リツコ(エヴァに乗って戦うため――か……)

リツコ(それだけではないのよ、あなたは――)

   :
   :


==== 深夜 ミサトのマンション リビング ====、

   ソファの上 目を開けるシンジ

   そのままぼんやりと室内を眺めている

シンジ(いつのまにか、寝ちゃったのか……)



==== レイの部屋 ====

   開く襖

   闇に浮かび上がるシンジのシルエット

   レイが帰っていないことを知るシンジ



==== シンジの部屋 ====

   布団に突っ伏しているシンジ

   しばらくして、むくりと起き上がる

   :
   :


==== レイのマンション 跡地 ====

   降りしきる雨

   工事用仮囲いの前、膝を抱えて雨に打たれているレイ

ジャリッ……

   小石を踏みしめる足音

   レイの上に差し出される雨傘

   レイ、顔を膝にうずめたまま

レイ「なぜ……ここを知っているの」

シンジ「……更新カード、僕が届けるはずだったから」

レイ「……」

シンジ「もう、ここしか思い付かなかったから」

   はっとして目をのぞかせるレイ

   シンジの膝から下がぐっしょり濡れ、泥だらけなのに気付くレイ

レイ「どうして――」

シンジ「……」

レイ「私には、こんなことをしてもらう価値なんて、ない」

シンジ「……自分がどうやって生まれるかなんて、誰も選べない」

   ビクリとするレイ

   降りしきる雨

シンジ「父さんも、綾波も、リツコさんも……できることをやっただけだよ。……トウジも」

レイ「……」

シンジ「頑張ったってうまくいかないことだってある……誰にも、どうにもできないことだってあるんだ」

レイ「でも!」

   顔を上げるレイ

   前髪を伝わって顔を流れ落ちる雨

シンジ「……」

レイ「でも……私は……」

   また俯くレイ

シンジ「綾波……」

レイ「……」

シンジ「君は……何人目なの?」

レイ「……え?」

   のろのろと顔をあげるレイ

シンジ「君は――」

レイ「二人目……」

   一瞬、言葉に詰まるシンジ

シンジ「……僕と知り合ってから?」

レイ「違う……会ってからは、一度も変わっていない」

シンジ「そっか……よかった……」

   不審げにシンジを見上げるレイ

   ゆっくりとしゃがむシンジ

   しばらくして右手をレイの膝の上の左手に重ねる

   体をこわばらせるレイ   


シンジ「綾波の代わりが何人いたって関係ない」

   シンジの顔を見つめているレイ

   重ねた手を見つめているシンジ

シンジ「ここにいる綾波が本物なら……僕は、それでいいよ」

レイ「……うっ」

   身を縮めるレイ

   自分の手に重ねたシンジの手の甲に額を寄せ嗚咽する

レイ「ううっ……ごめんなさい……」      

シンジ「――もういいよ」

レイ「ううっ……」グスッ

シンジ「帰ろう」

   顔を伏せたままコクコクと頷くレイ

   肩を支えられて立ち上がるレイ

   ズボンのポケットからハンカチを取り出すシンジ

シンジ「ごめん、わかってたら、タオルと着替え、持って来たんだけど――」

   レイの顔、続いて髪ををぬぐってやるシンジ

   大人しく拭いてもらっているレイ   

   歩き出すシンジとレイ

   傘をさしているシンジ 背を丸めて歩くレイ

   しぶきに煙る夜道を遠ざかる二人の後姿――

   :
   :


==== 長野県 東御付近 3号機解体現場 ====

  集落の家々を押しつぶして横たわる3号機の残骸

ガコーン… ガコーン…

ミサト「――結局、鈴原くんは使徒に侵されていたのね」

   頭に包帯を巻かれ、腕を吊っているミサト

リツコ「……」

ミサト「せめて……苦しまずに済んだのならよかったんだけど」

リツコ「……脱出装置は、射出ポジションに切り替わっていたわ」

ミサト「えっ?」

リツコ「……」

ミサト「……それは――」

リツコ「機体の外部制御への切り替え、内部電源の強制遮断器、緊急用通信機の起動ボタン、そして高機動の衝撃に備えるLCL圧縮濃度の調整弁……全て、緊急時にはそうあるべき状態に操作されていた。……彼は、あの状況で的確に対応していたのよ。最後まで、ね」

ミサト「そんな……」

リツコ「――それと、これ」

   1枚の紙を取り出すリツコ

ミサト「なに?――チェックシート?」

リツコ「その1ページ。通常はインテリアシートの下部に収納されている」

ミサト「……」

リツコ「発見されたときは、プラグの床に転がっていた。プラグが握りつぶされた衝撃で飛び出したんだと思っていたんだけど、今朝、作業員の一人が、何か書いてあるのに気づいてもって来たの」

   紙片をミサトに渡すリツコ

ミサト「――読めない……」

リツコ「あれだけ揺さぶられて、何か書けただけでもたいしたものだわ」

ミサト「M?……これはS……かしら……計器か、ステータス表示の読み?」

リツコ「何か、あの使徒の手掛かりになるようなことならいいけど――」

   紙片を回転させてみるミサト

ミサト「C……違うわね……」ハッ…


   紙片を取り落とし、口許を抑えるミサト

   あわてて紙片を空中で受け止めるリツコ

リツコ「ミサト!? どうしたの――」

ミサト「……そうさん」

   嗚咽するミサト

リツコ「え?……なに?」

ミサト「『ごちそうさん』!! 遺言よ、それは!!」

リツコ「……なんですって……」   

   呆然と紙片を広げ、読み解こうとするリツコ

   :
   :


==== 新第三東京市内 トウジの告別式 会場 ====

   花に囲まれた棺の上 屈託のない笑みを浮かべるトウジの遺影

   参列している2年A組の担任教師、生徒たち

   とくに女子たちの席から聞こえてくるすすり泣き

   叔母らしき女性に支えられ、泣きながら兄への手紙を読むサクラ

   焼香に立つシンジ、レイ、アスカ 傍目にも憔悴しきった様子

   参列者に頭を下げているトウジの祖父、父

   そっと場を離れるヒカリ

   それに気付き追うアスカ

   通路の陰、声を殺して嗚咽しているヒカリ

   はっとして振り替える

   立っているアスカ ヒカリに歩み寄り、そっと抱き締める

   声をあげて泣くヒカリ その手に握られている何かの紙片

   ヒカリの髪を撫でているアスカ

   少し離れた場所、肩を落としてその様子を見ているレイ

   :
   :

   出棺

   バス型霊柩車に乗り込もうとしている参列者の一団

   ――と、鳴り響くサイレン

   同時に鳴り出すシンジたちの携帯電話

レイ「使徒……まだ来るの!?」

アスカ「行くわよ!」

シンジ「うん!」

   走り出す三人

   少し離れた場所で待っている黒塗りの車

   :
   :

本日はここまで


やっぱりトウジは救われない運命なのか…
重傷でもいいから生き延びて欲しかった…

正誤表

>>120

×シンジ「やめろおおおあおおおぉ!!――」

○シンジ「やめろおおおおおおおぉ!!――」

乙 死んじゃったか…
そう言えば漫画版のトウジってお葬式したのかな?ヒカリの事を思うと辛いな

>>133 >>135
ありがとう
まあSSの場合トウジが生き残る方がむしろ定番だよね

>>131一部修正・再掲から続き投下

==== 新第三東京市内 とある葬祭場 トウジの告別式 ====

   花に囲まれた棺の上 屈託のない笑みを浮かべるトウジの遺影

   参列している2年A組の担任教師、生徒たち

   とくに女子たちの席から聞こえてくるすすり泣き

   叔母らしき女性に支えられ、泣きながら兄への手紙を読むサクラの小さな背中

   焼香に立つシンジ、レイ、アスカ 傍目にも憔悴しきった様子

   参列者に頭を下げているトウジの祖父、父

   そっと葬列から離れるヒカリ

   それに気付き追うアスカ

   通路の陰、声を殺して嗚咽しているヒカリ

   はっとして振り返る

   立っているアスカ ヒカリに歩みよりそっと抱き締める

   声をあげて泣くヒカリ その手に握られている何かの紙片

   ヒカリの髪を撫でているアスカ

   少し離れた場所、肩を落としてその様子を見ているレイ

   :
   :

   出棺

   バス型霊柩車に乗り込もうとしている一同

   ――と、鳴り響くサイレン

   同時に鳴り出すシンジたちの携帯電話

レイ「使徒……まだ来るの!?」

アスカ「行くわよ!」

シンジ「うん!」

   走り出す三人

   少し離れた場所で待っている黒塗りの車

   :
   :

==== 1か月後 ネルフ本部 初号機ケージ ====

   初号機頸部に固定されているエントリープラグ

女性オペ『全探査針、打ち込み終了』

男性オペ『電磁波形、ゼロマイナス3で固定されています』



==== 同 外周通路 ====

アスカ「――大丈夫よ、絶対うまく行くから」

レイ「……」



==== 同 管制室 ====

ピーッ ピーッ ピーッ…

マヤ「自我境界パルス、接続完了」

リツコ「了解。――サルベージ、スタート!」

マコト「了解、第1信号を送ります」

ガシャン グウウウウゥン…

シゲル「エヴァ、信号を受信。拒絶反応無し」

   オペレータ席の後ろで腕を組んで見守っているミサト

マヤ「続けて、第2、第3信号送信開始。」

男性オペ『対象カテクシス異常無し』

女性オペ『デストルドー、認められません』

ピピピピピ……

リツコ「了解、対象をステージ2へ移行。」

ミサト(……シンジ君!)



==== 外周通路 ====

ブーッ ブーッ ブーッ…

女性オペ『――79、97、160……予定数値オーバー、危険域に入ります……』

アスカ「な、なんか様子がおかしいわよ……」

レイ「……」




==== 管制室 ====

シゲル「LCLの自己フォーメーションが……分解していきます!」

マコト「プラグ内、圧力上昇!」

リツコ「全作業中止、電源落として!」

マヤ「だめです、プラグがイジェクトされます!」



==== ケージ ====

  空中に固定されていたエントリープラグ

ガコン……ザバアアアアアァァ

  突如開くハッチ あふれ出すLCL

アスカ「えっ!?」

  アンビリカルブリッジにあふれるLCL

  流されていくシンジのプラグスーツ

レイ「!」



==== 管制室 ====

ミサト「シンジくん!!」

   管制室を飛び出すミサト



==== ケージ ====

   外周通路からアンビリカルブリッジへ駆け下りるレイ

   慌てて続くアスカ

アスカ「ちょっと! レイ!」



==== アンビリカルブリッジ ====

レイ「……」ハァ…ハァ…

   通路上の一段下がった場所、LCLの浅い水たまりに浮かんでいるシンジのプラグスーツ

アスカ「バカシンジ……」

   レイとアスカの後ろ  駆け寄ってくるミサト、リツコたち

   リツコを振り返るレイ 決然として

レイ「――もう一度お願いします」

リツコ「えっ?」

   背後の水たまりを指すレイ

レイ「ここに碇くんが溶けてるんでしょう!? もう一度プラグに戻して最初から――」

リツコ「……」

アスカ「そ、そうよ、レイの言うとおりだわ! レイ、あんた天才じゃん!」

   居並ぶ整備士たちをぴしりと指差すアスカ

アスカ「ほら、ぼさっとしてないで、なんか容れ物! バケツかなんか――」

   顔を見合わせる整備士たち

   リツコの白衣を掴んで懇願するレイ

レイ「お願いします! 私もやりますから――」

マヤ「レイ!」

レイ「――マヤさん……」

   うなだれるリツコ

リツコ「もう、手の施しようがないのよ」

レイ「……」

   ふらふらとリツコの元を離れ、プラグスーツの浮かぶ水たまりに座り込むレイ

   装甲を外され、むき出しになった初号機コアの前

   スーツを手繰り寄せる

レイ「返して……」

   エヴァを見上げて言うレイ

レイ「碇くんを、連れて行かないで」

一同「……」   

レイ「お願い……」

   プラグスーツを抱きしめて背を丸めるレイ

レイ「碇くんを……私に返して……」  


   うずくまって泣いているレイ

   見ているしかない一同

   :
   :


==== LCLの海 ====

シンジ(ここは……)

   漂っているシンジ

シンジ(優しい…あったかい…)

シンジ(なんだろう……この感じ……とても懐かしい気がする……)

シンジ(?)

   「……」

シンジ(誰か……泣いてる……)

   「……」

シンジ(だれ?)

   「……」

シンジ(綾波?)

   闇の中に浮かび上がる人影  うずくまって一人で泣いているレイ

   歩み寄るシンジ

シンジ(どうしたの、綾波――)

   肩に触れようとするがすり抜けてしまう

シンジ(あれ?……)

   続いて浮かび上がる人影

   レイを囲むように立っているアスカ、ミサト、リツコ、マヤたち

   レイに歩み寄るアスカ

   アスカにすがって声を上げて泣き始めるレイ

シンジ(みんなどうしちゃったんだろ……)

   シンジの耳元で誰かが呟く

   『――帰りなさい』

シンジ(えっ?……)

   見回すシンジ

シンジ(……だれ?)

   『ここはあなたが来ていい場所じゃない』

シンジ(ここって?)

   『今は、まだ……』

シンジ(だれ?……かあさん?)

   『帰りなさい――』

   白い光があふれる

   思わず目を瞑るシンジ

   :
   :

==== ケージ ====

バシャン…

   泣きじゃくるレイの背後で起こる水音

レイ「……?」

   頬に涙を貼り付けたまま、ゆっくりと振り返るレイ

   初号機コアの傍らに、LCLに濡れてうつ伏せに倒れているシンジ

アスカ「バッ……バカシンジ!?」

レイ「!」

   はっとして立ち上がりシンジに駆け寄るレイ

レイ「碇くん……碇くん!」

   動かないシンジ

レイ「リツコさん!」

リツコ「えっ?」

   唖然として成り行きを見ていたリツコ、我に返って

リツコ「え、ええ。――救護班!」

救護員「は、はい!」

   担架を抱えて走ってくる男たち

   付き添っている医師

   シンジを毛布でくるんで担架に乗せる

救護員「よし、そっとだ――」

   運ばれていくシンジ

マヤ「成功です、センパイ!」

   涙を浮かべて笑いかけるマヤ

   難しい表情で見送っているリツコ

リツコ「私の力じゃないわ……たぶんね……」

   エヴァを見上げるリツコ

レイ「……」ユラ…

アスカ「?」

   レイの様子に気付くアスカ

   ぐらりと傾くレイの体

アスカ「わああっ! ととと……」

   寸でで抱き止めるアスカ

アスカ「あんた……意外に重い……」

   振り返る大人たち

   あわててアスカに駆け寄り二人を支える

   :
   :


==== ネルフ本部 病室 ====

シンジ「……」ハッ…

   目覚めるシンジ

   傍らに人の気配

   丸椅子に腰かけて腕を組んでいるアスカ

アスカ「やっとお目覚めね」

シンジ「アスカ……」

アスカ「まったく……あんたのおかげで、きょうは散々だったわ」

シンジ「……」

アスカ「あんまりコイツに心配かけるんじゃないわよ」

   視線で指すアスカ

   頭を動かして、寝ている自分の脚の方を覗き込むシンジ

   視界に入る蒼い髪

   ベッドに突っ伏して眠っているレイ

   薄い毛布がかけられている

シンジ「綾波……」

アスカ「やっと寝たところだから、起こすんじゃないわよ」

   立ち上がるアスカ

アスカ「ミサトたちには、アタシが言っとく。……ま、バイタルくらいモニタしてるでしょうけどね」

シンジ「あの、アスカ……」

   振り返るアスカ

シンジ「――ありがとう」

   ため息をひとつ吐くアスカ

アスカ「いいから、早くよくなってよね」

   厳しい表情になるアスカ

アスカ「このひと月、使徒が来なかったのはラッキーだったけど、いつまでもそうはいかないと思うから 」

シンジ「うん……」

   出ていくアスカ

   レイに視線を戻すシンジ

   寝息をたてているレイ

   そっと髪に触れるシンジ

   やがて、姿勢を戻してベッドに横たわり、目を閉じる

   :
   :

TV第弐拾話、新劇場版「破」相当分まで 了

本日はここまで

>>146 >>147 ありがとう

>>144から続きます

==== 数日後 新第三東京市内 ヒカリの家の前 ====

   親の車の助手席に乗っているヒカリ

   後部座席に乗っているヒカリの姉妹

   見送りに来ているアスカとレイ

ヒカリ「――じゃあね、みんな。気を付けて」

アスカ「あんたこそ、体に気を付けてね」

シンジ「ペンペンをよろしく」

レイ「またね、ペンペン。いい子にしてるのよ」

ペンペン「クワアア」

   :
   :

   走り去る車



==== 昼休み 第壱中学校 屋上 ====

   弁当を食べているアスカとレイ

アスカ「――で? あいつの具合はどうなの、家では」

レイ「ごはんは、ちゃんと食べてる。少し元気がないけど」

アスカ「ごはん、あんたが作ってんの?」

   頷くレイ

レイ「しばらく、私とミサトさんだけだったから」

アスカ「そういえばそうね」モグモグ…

レイ「……」モグモグ…

アスカ「ま、心配しても仕方ないわよね。シンジだけじゃない。アタシたちだってそう」

レイ「……」

アスカ「あんた、言いたいこととか、やりたいこととかあったら、後回しになんか、しない方がいいわよ」

レイ「え?」

   遠くを見て厳しい顔になるアスカ

アスカ「使徒はどんとん強くなってる気がする。さすかのアタシも今度ばかりはダメかもしれないって思った」

レイ「アスカ……」

アスカ「あたしたち、いつどうなるか、わからないんだから。――バカジャージみたいに」

   弁当に視線を落とし、頷くレイ

   :
   :


==== 夜 ミサトのマンション 食卓 ====

   箸が止まっているレイ

シンジ「……どうしたの?」

   顔を上げるレイ

レイ「……なんでもない」

   食事を再開するレイ

   怪訝な様子のシンジ



==== 洗面所 ====

   口づけを交わすシンジとレイ

   少し頬を染めて微笑むシンジ

シンジ「――おやすみ」

レイ「……」

シンジ「どうしたの?」

レイ「なんでもない」

シンジ「……何か……あったの?」

レイ「ううん、大丈夫」

シンジ「そう……ならいいけど」

レイ「おやすみなさい」

シンジ「うん。おやすみ」

  自室に入っていくシンジを見ているレイ



==== 深夜 レイの部屋 ====

レイ「……?」

   起き上がるレイ



==== 廊下 ====

   部屋を出てくるレイ

   リビングから漏れてくる明かり

ギシ……

レイ「?」

レイ(ミサトさん?)

   リビングから聞こえてくる物音

カチッ…ピーーー

  『葛城、俺だ。多分この話を聞いている時は、君に多大な迷惑をかけた後だと思う。……すまない。りっちゃんにも、すまないと謝っておいてくれ』

レイ(加持さんから?)

加持『――葛城、真実は君とともにある。迷わず進んでくれ。もし、もう一度会える事があったら、8年前に言えなかった言葉を言うよ。じゃ――』

自動音声『午後、0時、2分、です』

ミサト「バカ……」

   嗚咽するミサト

レイ「!」

ミサト「あんた、ほんとにバカよ……」

レイ(ミサトさん……)

   :
   :


==== 数日後 新第三東京市 市街地 ====

   陽電子砲を構えている零号機

   その前面、シールドを構えた弐号機 光線にされされている

アスカ「嫌ああああああああぁ!!」

   蒼白になって弐号機モニタを見ているレイ

レイ「アスカ!!」

アスカ「私の……私の中に入ってこないで!!」


==== 発令所 ====

マヤ「心理グラフ限界!」

リツコ「精神回路がズタズタにされている……これ以上の過負荷は危険過ぎるわ!」

ミサト「アスカ、戻って!」

アスカ『ダメよ!!』

ミサト「命令よ! アスカ、撤退しなさい!」

アスカ『だめ! アタシがいなくなったら、誰が砲手を守るのよ!!』

ミサト「くっ……レイ!!」

レイ『はい!』



==== 市街地 ====

   狙いを定める零号機

男性オペ「――加速器、同調スタート」

女性オペ「電圧上昇中、加圧域へ」

男性オペ「強制収束機、作動」

女性オペ「地球自転および重力誤差、修正0.03」

男性オペ「超伝導誘導システム、作動中」

男性オペ「薬室内、圧力最大」

マコト「最終安全装置、解除」

女性オペ「解除、確認」

マコト「全て、発射位置」

レイ「くっ!」カチン

バシュッ!

   陽電子砲を放つ初号機 雲に吸い込まれてくビーム

   雲海を突き抜け青空を上昇していく

   主モニター上 使徒のわずか手前で四散する

マコト「命中!」

シゲル「……だめです、目立った効果がありませんね。この遠距離でA.T.フィールドを貫くには、まるでエネルギーが足りません」

マヤ「弐号機、心理グラフシグナル微弱!」

リツコ「LCLの精神防壁は?」

マヤ「だめです、触媒の効果もありません!」

リツコ「生命維持を最優先、エヴァからの逆流を防いで!」

シンジ『僕が初号機で出ます!』

   モニタ上、プラグスーツでシートに座るシンジ

冬月「いかん! 目標はパイロットの精神を侵蝕するタイプだ!」

ゲンドウ「今、初号機を侵蝕される事態は、避けねばならん」

シンジ「だったら、やられなきゃいいんでしょう!?」

ゲンドウ「その保証はない」

レイ『でも、このままでは、アスカが!』

ゲンドウ「……」

レイ『司令!』

   顔を上げるゲンドウ

ゲンドウ「レイ、ドグマに降りて『槍』を使え」

レイ『えっ?』

一同「……」

冬月「ロンギヌスの槍をか! 碇、それは……」

ゲンドウ「A.T.フィールドの届かぬ衛星軌道の目標を倒すには、それしかない。急げ!」

レイ『はい!』

   :
   :

冬月「碇、まだ早いのではないか?」

ゲンドウ「委員会はエヴァシリーズの量産に着手した。チャンスだ、冬月」

冬月「しかし、だが……」

ゲンドウ「時計の針は元には戻らない。だが、自らの手で進める事はできる」

冬月「老人たちが黙っていないぞ!」


   ターミナルドグマ、リリスから槍を引き抜く零号機

   :
   :

   主モニターの中、シールドを構えたままの姿勢で固まっている弐号機

マコト『弐号機パイロットの脳波、0.06に低下!』

マヤ『生命維持、限界点です!』

シゲル『零号機、二番を通過、地上に出ます!』

   地中からリフトでせりあがってくる零号機

   :
   :


==== 地上 零号機プラグ内 ====

シゲル『零号機、投擲体制!』

   槍を構える零号機

マコト『目標確認、誤差修正よし!』

マヤ『カウントダウン入ります。10秒前、8、7、6、5――

レイ(アスカ!)

   モニタを睨んでインダクションレバーに力を込めるレイ

マヤ『――4、3、2、1、ゼロ!」

   助走をつけて槍を放つ零号機

   :
   :



==== 衛星軌道高度 ====

   宇宙空間 A.T.フィールドを突き破り使徒を貫く槍



==== 発令所 ==== 

シゲル「目標、消滅!」

冬月「ロンギヌスの槍は!?」

マコト「第一宇宙速度を突破、現在、月軌道に移行しています」

冬月「回収は不可能に近いな……」


マコト「はい。あの質量を持ち帰る手段は、今のところ、ありません……」

マヤ「エヴァ弐号機、解放されます……」

レイ『アスカ!……アスカ!!』

   モニタ上、ぐったりとシートにもたれて苦しげに目を閉じているアスカ

ミサト「レイ! 弐号機の回収を! 早く!」

レイ『はい!』

   弐号機を抱きかかえるようにしてリフトに運ぶ零号機

女性オペ「第67番ルートを使用してください」

   弐号機を乗せ地下へ降下していくリフト

シゲル「機体回収は、第7ケージへ!」

ミサト「ケージへ行くわ。後、よろしく!」

マコト「はい!」

   駆け出すミサト



==== 発令所 ====

   モニタ上に現れる何種類ものグラフ

マコト「脳波乱れています。心音微弱!」

リツコ「生命維持システム最大、心臓マッサージを!」

マコト「はい!」



==== 弐号機プラグ内 ====

キュイイイイィン……ドカッ

   びくりと跳ねるアスカの体



==== 発令所 ====

マコト「パルス確認!」

リツコ「プラグの強制排除、急いで!」



==== ケージ ====

   回転しながら引き出されるされるエントリープラグ

   LCLが排水され、インテリアシートが吊り降ろされる

ミサト「アスカ!!」

   待機していたストレッチャーに乗せ換えられるアスカ

   隣接ケージから走ってくるシンジとレイ

レイ「ミサトさん! アスカは――」

ミサト「もう大丈夫よ」

   ストレッチャーと並んで走り出す三人

   :
   :



==== ネルフ本部 処置室前 ====

   ドアの上、点灯している「処置中」のランプ

   廊下の長椅子に沈痛な面持ちで座っているミサト、シンジ、レイ

   組んだ手を額にあてて顔を伏せ祈っているようなシンジ

カチッ……

レイ「!」

   消灯する「処置中」ランプ

   開け放たれる扉

   一斉に立ち上がり扉に駆け寄る三人

ミサト「アスカ!」

   部屋の奥、処置台の中央に、足をこちらにして寝かされているアスカ

   傍らに置かれた計器 消灯している表示部

   眉をひそめるミサト

ミサト「……アスカ?」

   呼吸器らしき装置を取り外している看護師

   手袋を外しながら壁の時計を見て時刻を読み上げている医師

   それを書き留めている別の看護師

   三人に気付いてマスクをずり下げる医師  姿勢を正して

医師「……残念です、葛城一佐」

ミサト「えっ?」

医師「よく頑張りましたよ、彼女は……」

   目を見開き言葉を失う三人

   呆然と処置台を見下ろす

レイ「……そんな……」

   ぎこちなく処置台に歩み寄るレイ

   レイの視野に入ってくる、眠っているようなアスカの顔

   :
   :


==== 数日後 ネルフ本部 エントランス ====
   
   軍用車両に棺を積み込むユーロ空軍の兵士

   深々と頭を下げる喪服姿のアスカの義理の母

   お辞儀を返しているミサト

   その隣で同様に頭を下げるシンジとレイ

   走り去る軍用車両

   見送る三人の後姿

   :
   :

==== ネルフ本部 第6ブロック 単身寮 ====

   荷物が運び出され、がらんとしたアスカの部屋

   戸口に立っているレイ

   室内を見るともなく見渡しているレイ 目の下に隈

   ふと、備え付けのデスクの陰に落ちている紙片に気付く

   拾い上げ、広げてみるレイ

レイ「……」カサカサ……

   いつかヒカリと三人で行った甘味処のレシート

   他愛もないおしゃべり、アスカのはつらつとした声が耳に蘇える


   レイの目からあふれ出す涙

   ベッドに突っ伏し、肩を震わせて嗚咽するレイ

   :
   :

==== 夜 ====

   人の気配を感じて身を起こすレイ

   デスクの椅子に腰かけているミサト

   ミサトを見上げるレイ 頬に涙の跡

レイ「ミサト……さん……?」
   
ミサト「大丈夫? レイ……」

レイ「……」

ミサト「もう遅いから、帰って寝なさい」

   疲れた笑みを浮かべるミサト

ミサト「辛いのはわかるけど、あなたにまで倒れられたら、私がアスカに怒られるわ」

レイ「……碇くんは?」

ミサト「だいぶ待ってたんだけど……先に休みなさいと言って、帰ってもらったの。シンちゃんも相当疲れてるみたいだったから」

レイ「そうですか……」

ミサト「今のあなたたちに酷なお願いなのは知ってる。でも、使徒はいつまた現れるかわからない。私達は、あなたたちに頼るほかないから……」

レイ「……はい」

   立ち上がるミサト

ミサト「エントランスで待ってて。車を回すわ」

   :
   :

==== ネルフ本部 自販機コーナー ====

   ぼそぼそと話し合っているマコトとシゲル

   通りかかるレイ 気づいて手前の暗がりで立ち止まる

マコト「これでまたパイロット二人に逆戻りか……」

シゲル「厳しいな。使徒は、だんだん手ごわくなってきてる感じなのに……」

マコト「副司令は、上層部――ゼーレに予備の弐号機パイロットの派遣を要請してるみたいだけどな」


シゲル「でも、それじゃまるで消耗品みたいじゃないか――」

   聞いていたレイ 踵を返して走り去る

   :
   :


==== ミサトのマンションの前 ====

   車を降りるレイ

   車を転回させ、運転席から顔を出すミサト

ミサト「じゃあね、レイ」

レイ「……ありがとうございました」

ミサト「私はもしかすると2、3日帰れないかも知れないけど、ちゃんと食事は取るのよ」

レイ「はい」

ミサト「まあ、シンちゃんなら作ってくれるから心配ないか」

レイ「ごめんなさい……心配かけて」

ミサト「いいのよ。じゃあね」

   走り去るルノー

   とぼとぼとエレベーターに向かうレイ



==== 玄関 ====

   ドアを開けるレイ

レイ「ただいま……」

   静まり返った室内 迎えるもののない家



==== ダイニング ====

   テーブルに新聞紙がかけられた皿に盛られた料理と、伏せられたレイの茶碗

   温めて食べてください、とシンジの書き置き



==== シンジの部屋 ====

   襖を開け、中を覗くレイ

   眠っているシンジ



==== ダイニング ====

   料理をしばらくながめ、ラップをかけて冷蔵庫にいれるレイ



==== 浴室 ====

   シャワーを浴びているレイ



==== レイの部屋 ====

   ベッドの上 横たわり目を開いているレイ

   常夜灯の明かりの下、室内を見回すレイ

   アスカと買いにいった品々  アスカたちと撮った記念写真

   布団をかぶり直すレイ

   ゆっくりと頭を出す

==== シンジの部屋 ====

   襖のこすれる音

   シンジの顔に射す、廊下の常夜灯の微かな明かり

   少し顔をしかめて目を開けるシンジ

   部屋の入口を振り返る

   戸口に立つレイのシルエット

シンジ「おかえり……いま何時?」

   目をこすりながら上体を起こすシンジ

シンジ「晩ごはんはテーブルに――」

  レイに見つめられていることに気付いて口を閉じるシンジ

  いぶかしげにレイを見つめるシンジ

  後ろ手に襖を閉じるレイ

   :
   :


==== 深夜 ====

   雲が切れ室内に影を落とす月光

   床に無造作に散らばっている衣類

   互いの体に腕を回して毛布にくるまって横たわっているシンジとレイ

   寝息をたてているシンジ

   その顔を間近で見つめているレイ

   :
   :

==== 朝 ベランダ ====

   洗濯物を干しているレイ 制服姿

   物干し竿にシーツを広げていく

   ふとシーツの表面に顔を近づけ目を凝らすレイ

   その部分を指でさわってみる

   小走りに室内に戻るレイ



==== キッチン ====

   朝食の片付けをしている制服姿のシンジ

   テーブルには二人分の弁当

   戸口に立つレイ

レイ「終わった」

シンジ「ごめん、こっちもすぐ終わる」カチャカチャ……

レイ「うん」

   後ろ姿を見ているレイ

   シンジに歩み寄り、そっと後ろから抱き締める

シンジ「あっ、綾波?」

   シンジのうなじに顔をうずめたまま、ぽつりとつぶやく

レイ「……ありがとう」

シンジ「えっ?」

レイ「碇くんのおかげ」

   水を止め手をぬぐうシンジ

レイ「碇くんと知り合わなかったら、私はずっと人形のままだったかもしれない」

シンジ「何言って――」

レイ「……」

シンジ「……僕なんかより、ミサトさんや、アス――」

   ふいに涙がこみあげてきて言葉に詰まるシンジ

   喉を鳴らして言い直すシンジ


シンジ「アスカや、委員長や、みんなのおかげじゃ――」

   首を振るレイ

レイ「あのとき、碇くんが笑ってくれたから」

シンジ「えっ?」

レイ「自分が乗るからと言って、笑ってくれた」

シンジ「そ、そうだっけ?」

   顔を上げるレイ

レイ「……忘れちゃったの?」

シンジ「い、いや……あのときは夢中だったから――」

   またシンジのうなじに顔をうずめるレイ

レイ「覚えていて。大切なことだから」

シンジ「……うん」

   腹部に回されたレイの腕に手を重ねるシンジ

   悲しげに遠くを見るように

シンジ「……もう、大丈夫?」

   顔を埋めたまま頷くレイ

シンジ「そう……」

   蛇口に手を伸ばそうとするシンジ

レイ「……」

   何か思いついたように目を開けるレイ

レイ「ううん……やっぱり、大丈夫じゃない」

シンジ「えっ?」

   半歩下がるレイ

   驚いて振り返るシンジ

   手を後ろで組んで立っているレイ いたずらっぽい笑みを浮かべている

レイ「……少し、痛い」

シンジ「えっ……」

   見る見る紅くなるシンジ

シンジ「ご、ごめん!――」

   言い終わる前に正面から抱き締められるシンジ

   シンジの肩で呟くレイ

レイ「でも、嫌じゃない」

   固まっていたシンジ  ゆっくりと抱き締め返す

   目を閉じてシンジの肩でつぶやくレイ

レイ「このまま、どこかへ行ってしまえたらいいのに……」

   目を開けるレイ

レイ「……使徒もエヴァもないところ」

シンジ「綾波……」

レイ「使徒やエヴァのせいで、みんなが悲しまなくてもいい世界。アスカや、鈴原くんや――」

シンジ「そうだね……」

   レイの髪に鼻先をうずめるシンジ

シンジ「海……」

レイ「え?」

シンジ「海、行こうか」

   体を離してシンジの目を見るレイ

レイ「……でも、学校は?」

   微笑んでいるシンジ

   :
   :

==== ミサトのマンションの前 ====

   停車している黒塗りの車

   乗っている黒服の男たち

   ふと顔をあげる

   手を繋いでマンションから飛び出し、そのまま駆けて行く私服の少年少女

   シンジとレイであることに気付き、慌てて体を起こす

   顔を見合わせる黒服の男たち

   苦笑してシートベルトを締める

   モーター駆動で音もなく滑り出す黒塗りの車

   :
   :

《挿入歌 「翼をください」》

   国道を走るバスの車内 座っているシンジとレイ

   山並みが切れ、窓外に蒼い海が広がる

   :
   :

   旧世紀の建物の残骸がところどころに突き出している砂浜

   シートを広げるシンジ

   波にあわせて素足で砂浜を行ったり来たりするシンジとレイ

   水を手ですくってレイにかけるシンジ

   手で顔をかばいながら、声を上げて笑うレイ

   :
   :

   波打ち際で何か拾っているシンジ

   シートの上、日傘をさして座って眺めているレイの後姿

   走ってくるシンジ

   差し出される掌  その上に載っている、まだ海水で濡れた数個の桜色の貝殻

   :
   :

   浜茶屋らしき店先で買い物をしているシンジとレイ

   :
   :

   少し離れた木陰に停まっている黒塗りの車

   幹のそば、立っている黒服の一人 双眼鏡を覗いている

   双眼鏡の視野の中、駆けてくるレイ

   あっけにとられて双眼鏡を降ろす黒服の男

   男の前で息を切らしているレイ

   男たちに差し出されるビニール袋

   :
   :


   木陰

   きらきらと輝く海面を見ながらアイスクリームを食べている四人の後姿

   :
   :

   黒服の男たちに手を振って駆け戻っていくシンジとレイ

   手を振り返している男たち

   :
   :

   傾く日差し

   砂浜に座るシンジとレイ

シンジ「ねえ、綾波」

レイ「なに?」

   水平線を見ているシンジ

シンジ「いま、僕たちにはエヴァに乗ること以外、何もないかもしれないけど……でも――」

   シンジの横顔を見ているレイ

シンジ「――生きてさえいれば、いつか必ず……生きててよかったって思う時が、きっとあるよ。……それは、ずっと先のことかもしれないけど」

レイ「……」

シンジ「でも、それまでは生きて行こう――」

   傍らのレイの手に自分の手を重ねるシンジ

シンジ「二人で行けば、何か見つかるかもしれない……こんな、悲しいことばっかりの世界でも」

   レイの目を見るシンジ

レイ「――うん」

   はにかんだ微笑みを浮かべて頷くレイ

   :
   :

   夕暮れ

   砂浜からバス停に続く坂道を登るシンジとレイ

   シンジの背中を押して歩くレイ 少しおどけて押されているシンジ

   学校帰りの地元の中学生らしき一団とすれ違う

   ふと立ち止まって振り返るレイ

   はしゃぎながら遠くなる彼らの背中を見送っている

   少し先で待っているシンジ

   :
   :

   バスの車内

   並んで腰掛けたまま寝息をたてているシンジとレイ  

   :
   :

   ミサトのマンション

   灯りのともった共用廊下を手をつないで歩いてくるシンジとレイ

   郵便受けに挟まっている学校からの配布物

   目を伏せるシンジ

シンジ(ごめん、ケンスケ……)

   灯りが灯るミサトのマンション

   リビング

   テレビを見ながら洗濯物を畳んでいるレイ

   夕食の支度をしているシンジ

   :
   :

   レイの部屋

   机に向かい、ノートに何か書きつけているレイ  パジャマ姿

   ふと顔をあげて写真立てを見る

   学校行事の一コマ

   ヒカリとレイの間、二人の頭の後ろから二本ずつ指を立てて笑っているアスカ

   日記帳を閉じ、引き出しにしまうレイ

   写真立ての前に数個の貝殻を並べる

   明かりを消し、部屋を出ていくレイ

   :
   :



==== 翌日 第三新東京市 ====

   街並みに鳴り響くサイレン

   黒塗りの車の後部座席に並んで座っているシンジとレイ

   緊張した面持ち 固く握り合った手と手

   気遣わしそうに振り返る助手席の黒服



==== 大涌谷付近 ====

   谷あいの青空

   定点回転している二重螺旋形の光のリング

   :
   :

本日はここまで


遂に来てしまったか、例の使徒…
アスカの死がどう影響してくるか


緊張する

出来ればアスカ殺さないでほしかった

>アスカ「――で? あいつの具合はどうなの、家では」
>アスカ「ごはん、あんたが作ってんの?」

アスカさんはこの間、どこに行ってたの?

>>170 >>171 ありがとう

>>172
すまん
そうでないのも別に書いてるので勘弁

>>173
もうちょいkwsk
>>74 >>75 >>157参照……ってことじゃなく?

>>168から続きます


==== 朝 ミサトのマンション キッチン ====

   ふらふらと自室から起きだしてくるシンジ

   目の下に深い隈  よれよれの壱中の制服

   立ち止まって少し驚いたように

シンジ「……ミサトさん?」

   キッチンで炊事をしているミサト 振り返って

ミサト「おはよう、シンちゃん。朝ご飯、できてるわよ」

シンジ「えっ……ミサトさんが作ったんですか?」

   フライパンから皿に料理を移しているミサト

ミサト「そうよー、こう見えても学生時代は、『いちおう』自炊だったんだから」

   自嘲気味に笑うミサト

ミサト「――とはいっても、何年ぶりかしらね」

   テーブルに並ぶ品々

   少し水気が多くべったりした米飯

   不定形の豆腐が浮かんでいる味噌汁

   表面がでこぼこの茹で卵と黒焦げの部分の方が多い野菜炒め

ミサト「ま、シンちゃんみたいには、いかないけどね」

   ため息をついて見せるミサト

シンジ「そんなこと、ないです」

   弱々しく笑みを浮かべるシンジ

シンジ「ありがとう、ミサトさん」

ミサト「どういたしまして。さ、食べましょ」

シンジ「はい――」

   :
   :

==== 洗面所 ====

   壁にもたれて歯を磨いているシンジ

   鏡の前 コップにささったままのレイの歯ブラシを、見るともなく見ている

ジャー…カチャカチャ…

   キッチンから、ミサトが洗い物をしているらしき物音

トゥルルルル……

   と、聞こえてくる携帯電話の着信音

ジャー…キュッ…

ピッ

ミサト「はい、葛城……ええ……えっ……何ですって!?」

シンジ(ミサトさん?)

   緊張するシンジ

ミサト「シンちゃん!!」

   とっさにリビングへのカーテンを開けるシンジ

ミサト「レイが……レイが見つかったの!!」

シンジ「えっ!?」

   :
   :


==== ネルフ本部 病院 廊下 ====

ミサト「――ちょっと……レイはどうしちゃったのよ!?」

   ミサトの視線の先

   ミサト、シンジ達にまるで頓着した様子もなく窓外を見ているレイ  検査着姿

   何の表情も浮かんでいない横顔

   その様子をレイの数歩手前で見ているシンジの後姿

   ミサトの隣 目を合わせずにポツリと言うリツコ

リツコ「記憶がないの」

   振り返るシンジ  怯えたような顔

ミサト「ないって……だって、何ともないじゃない!」

リツコ「ええ、『奇跡的に』外傷は無い」

   リツコの傍ら 何か言いたそうにしているマヤ

   目で制するリツコ

リツコ「でも、記憶はないのよ。まるで――」

   リツコを見るシンジ

   シンジを見据えるリツコ

リツコ「――生まれ変わったみたいに」

   目を見開き息を飲むシンジ

ミサト「そんな……どうして……」

リツコ「わからない。――さしあたって、私たち、関係のある人間のこととか、生活上必要な事項は言い聞かせてあるわ」

ミサト「そ……そういう問題じゃないでしょ!?」

   レイに向き直るシンジ

シンジ「綾波……」

   振り向くレイ

シンジ「僕が……わかる?」

レイ「ええ、知ってる」

   言葉につまるシンジ

   辛うじて笑みを浮かべる

シンジ「そっか……また、よろしくね」

レイ「かまわないわ」

ミサト「シンジくん…」

リツコ「……」

   :
   :


==== ミサトのマンション ====

   レイの部屋 レイを招き入れるシンジ

シンジ「――ここが、君の部屋だよ」

レイ「そう……」

シンジ「何かわからないこととか、困ったことがあったら、遠慮なく言ってね」

レイ「わかった」

   とぼとぼと戸口に向かうシンジ

シンジ「じゃあね」

   後ろ手に襖を閉じかけるシンジ

レイ「ええ……さよなら」

シンジ「!」

   思わず振り返るシンジ

   無表情に窓のほうを見ているレイの横顔

   逃げるように部屋をあとにするシンジ

==== レイの部屋 ====

   しばらく立ち尽くしていたレイ

   リツコの指示を思い出す

リツコ『――部屋に着いて一人になったら、机の引き出しを開けなさい』

   引き出しを開けるレイ

リツコ『そこに日記が入っているはずよ。それを読みなさい』

   ノートを手に取るレイ

リツコ『それが、前のあなたからの伝言……いえ……遺言だから――』

レイ「……」ペラッ…

   椅子に腰をおろし、日記を読み始めるレイ

   :
   :


==== リビング ====

   ソファーでむせび泣いているシンジ

   隣に腰を下ろし背中を撫でてやっているミサト



==== レイの部屋 ====

   ページをめくるレイ

   紙面にポタリと落ちる滴

レイ(これが……涙?)

   レイの頬を伝う涙

レイ(初めて見たはずなのに……初めてじゃないような気がする……)

   壁際の姿見に映る自身の姿に目をやるレイ

レイ(私……泣いているの? なぜ、泣いているの?)

   :
   :


TV第弐拾参話相当分まで 了

本日はここまで


あの事件は原作通りに発生したみたいだな…
でも三代目綾波にも変化が…

がんばれ

>>181 >>182 >>183 ありがとう

>>179から続きます

==== 朝 第壱中学校 ====

  一部が損壊して工事用のシートがかけられている校舎


==== 二年生 教室 ====

シンジ「――ここが君の席だよ」

レイ「わかった」ガタン…

   レイを振り返りながら自席に来るシンジ

シンジ(はぁ……)

ケンスケ「おい碇」

シンジ「ああ、ケンスケ。おはよう」

   レイの方を目で指すケンスケ

ケンスケ「あんな状態で来ていいのか? 綾波は」

シンジ「うん……ネルフのお医者さんは大丈夫だって。記憶が抜けてる以外は」

ケンスケ「ふーん……そんなもんなのかな」

   心の中でケンスケに詫びるシンジ

シンジ(ごめん、ケンスケ……それだけじゃ、ないんだけど……)

ケンスケ「お前は大丈夫なのか?」

シンジ「うん……」

ケンスケ「しかし――」

   教室を見渡すケンスケ

   空席の方が多く見える

ケンスケ「――さすがに減ったな。これで、二年生全部だもんな」

シンジ「そうだね……」

ケンスケ「あの爆発だもんな……残ってるのはネルフ関係者の中でも、ここを離れられない人間だけか」

シンジ「……」

   入ってくる担任教師

男子「起立」

ガタガタガタ……

   教師に続いて入ってくる制服の少年

シンジ「!」

   風貌に目を奪われるシンジ

   銀色の髪、赤い瞳

   :
   :


==== 休み時間 ====

ケンスケ「なあ渚、お前、エヴァのパイロットなんだろ?」

カヲル「そうだよ」

シンジ「えっ?」

ケンスケ「だよな……疎開できる奴はどんどん疎開してるってのに、今頃転校してくるなんて、そのくらいしか考えられないもんな」

シンジ「じゃ、じゃあ君が、ミサトさんが言ってた弐号機の――」

カヲル「まあね。……でも、このクラス、みんなパイロットかパイロット候補だって聞いたけど」

ケンスケ「統合になる前の話な。それに、ここ何回かの戦いを見て、それでも乗りたいって奴がいるとも思えないけど……っと……悪い、碇」

シンジ「ううん……その方がいいよ……」

カヲル「で、君が零号機パイロット?」

レイ「……」

シンジ「いや……零号機はもう無いから……綾波は初号機の予備パイロット扱いなんだ」

カヲル「ふーん、そうなんだ」

レイ「……」

カヲル「綾波レイ……君は僕と同じだね」

シンジ「!」ハッ

   少し警戒した表情になるレイ

レイ「あなた、なに?」

ケンスケ「そういえばそうだな……髪といい目といい――」

シンジ(綾波と……同じ?)

   :
   :


==== 昼休み ====

   レイの席に歩み寄るシンジ 弁当を渡しながら

シンジ「どう? 授業、大丈夫だった?」

レイ「……問題ないわ」

シンジ「文房具とか、足りないものない? あれば途中で買って行こうと思うんだけど――」

   パンをかじりながらシンジ達の様子を見るともなしに見ているカヲル

   カヲルの席の近く ひそひそと話している女子数名

女子A「――やっぱ碇くん、世話焼きだね」

女子B「なかなか、あそこまでできないよねー」

女子A「なんかさ、奥さん介護してる定年後のお父さんって感じ?」

女子C「えー? その喩え、ちょっと微妙かもー」

カヲル「……」モグモグ……

   :
   :


==== 闇の中 ====

   輪をなして闇に浮かび上がるモノリス群

   その下に佇むカヲル

モノリス01「冴えない顔をしているな、タブリス。何があった」

カヲル「別に……僕の顔なんかどうでもいいだろ」

モノリス01「……」

カヲル「それよりさ、話が違うんだけど」

モノリス01「何の話をしている」

カヲル「サードのことだよ。全然、僕が入り込む余地なんか、ないじゃないか」

モノリス02「それをやり遂げるのがお前の使命だ、タブリス」

モノリス03「左様。事は重大だ。急がねばならん」

カヲル「……」

   :
   :


==== ネルフ本部 発令所 ====

ビーッ ビーッ ビーッ…

マコト「――エヴァ弐号機、起動!」

ミサト「弐号機? 渚くん!?」

マヤ「いえ、無人です。弐号機にエントリープラグは挿入されていません!」

ミサト「そんなバカな! 渚くんが乗ってるんじゃないの?」

マコト「セントラルドグマに、A.T.フィールドの発生を確認!」

ミサト「弐号機?」

マコト「いえ、パターン青! 間違いありません! 使徒です!」

   :
   :


==== メインシャフト 初号機プラグ内 ====

   降下する初号機

シゲル『初号機、第9層に到達。目標と接触します!』

シンジ(いた!)

   下方に見える弐号機

   その前方に浮かんでいるカヲル

   振り返って初号機を見上げる

カヲル「待っていたよ、シンジ君」

シンジ「なんでなんだ!!」

   カヲルに手をのばす初号機

シンジ「使徒のくせに! 敵のくせに! どうして僕になれなれしく近づいたりしたんだ!!」

ガシイイイイイイィン!

   初号機の手を受け止める弐号機

   :
   :

==== リリスの間 ====

   力なく佇む初号機

   LCLに浸っている弐号機の残骸

   骨格がむき出しになり臓物を晒している胴体

   少し離れた場所 眼球が飛び出し、脳のような組織がはみ出している頭部

   :
   :


==== 初号機ケージ ====

ザアアアアアアァ…

   高圧洗浄水を浴びている初号機の右手

   その様子を無表情に見ているプラグスーツ姿のシンジと雨合羽を来たレイ

   :
   :

本日はここまで

キャヲルきゅんの出番終わったー(棒)

>>191

カヲル編、さらっと流して先に進むつもりだったんだけど
思うところあって修正中
もろもろあって進まないけどそのうち

というわけで、改変したカヲル編投下

ふたたび>>179から続き

==== 朝 第壱中学校 ====

  一部が損壊して工事用のシートがかけられている校舎


==== 2年A組 教室 ====

シンジ「――ここが君の席だよ」

レイ「わかった」ガタン…

   レイを振り返りながら自席に来るシンジ

シンジ(はぁ……)

ケンスケ「おい碇」

シンジ「ああ、ケンスケ。おはよう」

   レイの方を目で指すケンスケ

ケンスケ「あんな状態で来ていいのか? 綾波は」

シンジ「うん……ネルフのお医者さんは大丈夫だって。記憶が抜けてる以外は」

ケンスケ「ふーん……そんなもんなのかな」

   心の中でケンスケに詫びるシンジ

シンジ(ごめん、ケンスケ……それだけじゃ、ないんだけど……)

ケンスケ「お前は大丈夫なのか?」

シンジ「うん……」

ケンスケ「しかし――」

   教室を見渡すケンスケ

   空席の方が多く見える

ケンスケ「――さすがに減ったな。これで、二年生全部だもんな」

シンジ「そうだね……」

ケンスケ「残ってるのは親がネルフ関係者の中でも、離れられない人間だけか。あの爆発だもんな……綾波もよく無事で済んだよ」

シンジ「……」

   入ってくる担任教師

男子「起立」

ガタガタガタ……

   教師に続いて入ってくる制服の少年

シンジ「!」

   風貌に目を奪われるシンジ

   銀色の髪、赤い瞳

   :
   :


==== 休み時間 ====

ケンスケ「なあ渚、お前、エヴァのパイロットなんだろ?」

カヲル「そうだよ」

シンジ「えっ?」

ケンスケ「だよな……疎開できる奴はどんどん疎開してるってのに、今頃転校してくるなんて、そのくらいしか考えられないもんな」

シンジ「じゃ、じゃあ君が、ミサトさんが言ってた――」

カヲル「まあね。でも、このクラス、みんなパイロットかパイロット候補だって聞いたけど」

ケンスケ「統合になる前の話な。それに、ここ何回かの戦いを見て、それでも乗りたいって奴がいるとも思えないけどな……っと、悪い、碇」

シンジ「ううん……その方がいいよ……」

カヲル「で、君が零号機パイロット?」

レイ「……」

シンジ「いや……零号機はもう無いから……綾波は初号機の予備パイロット扱いなんだ」

カヲル「ふーん、そうなんだ」

レイ「……」

カヲル「綾波レイ……君は僕と同じだね」

   物憂げに呟くカヲル

シンジ「!」ハッ

   少し警戒した表情になるレイ

レイ「あなた、なに?」

ケンスケ「そういえばそうだな……髪といい目といい――」


シンジ(綾波と……同じ?)

   :
   :


==== 昼休み ====

   レイの席に歩み寄るシンジ 弁当を渡しながら

シンジ「どう? 授業、大丈夫だった?」

レイ「問題ないわ」

シンジ「文房具とか、足りないものない? あればコマツで買って行こうと思うんだけど――」

   パンをかじりながらシンジ達の様子を見るともなしに見ているカヲル

   カヲルの席の近く ひそひそと話している女子数名

女子A「やっぱ碇くん、世話焼きだね」

女子B「なかなかあそこまでできないよねー」

女子A「……なんかさ、奥さん介護してる定年後のお父さんって感じ?」

女子C「えー? その喩え、ちょっと微妙かもー」

カヲル「……」モグモグ……

   :
   :


==== 放課後 廊下 ====

シンジ(渚くん、どこ行っちゃたんだろ……本部へ行かなきゃいけないのに)

   ふと流れてくる音色に興味をひかれるシンジ

シンジ(……ピアノ?)

   音楽室に近づくシンジ

   開いた扉から演奏者の顔が見える位置まで来る

シンジ(……渚くん?)

   ピアノに向かって演奏に没頭しているカヲル

シンジ「あ、綾波――」

   教室で待っていたはずのレイがいつの間にかシンジの傍らに来ている

   「ほう、うまいもんだな」

シンジ「先生……」

   シンジとレイの後ろに立っている教師

   シンジたちに気付き、演奏をやめるカヲル

シンジ「すごいね、渚くん」

カヲル「……今の、なんて曲?」

シンジ「えっ?」

カヲル「きょう、学校に来る途中で聞こえたんだけど」

シンジ「……第九……だと思うけど」

カヲル「ふーん」

    あまり興味がなさそうな様子で相槌をうつカヲル

教師「知らないであれだけ弾けるのか。二度びっくりだな」

カヲル「……すみません、勝手にいじって――」

   立ち上がるカヲル

教師「なに、気にするな。……それより、渚……」

カヲル「はい?」

   少し言いよどんでから

教師「いまの、その腕を見込んでなんだが……伴奏を引き受けてくれんか」

カヲル「……伴奏?」

教師「ああ、明日、正式に通知されるから、きょうのうちは黙っておいて欲しいんだが……この学校な、来週いっぱいで休校することになった」

シンジ「えっ?」

教師「街があの有様だし、生徒の通学の安全を考えると、ここらが限界かもな。ネルフ本部に対しても、子どもがいる職員は、なるべく周辺地区への転属に配慮するよう、教育委員会からも要請しているそうだ」

一同「……」

教師「最後の日に、全校集会で校歌を歌うんだが、その伴奏、頼むつもりだった3年生が、きのう一足先に転校してしまってな――」

カヲル「……」

   :
   :


==== ネルフ本部 試験室 管制室 ====

   モニタに移るテストプラグ内の映像

   瞑目しているレイ、シンジ、カヲル

リツコ「――それで、渚くんは引き受けたの? 大役じゃない」

ミサト「まあ、芸は身を助く、って言うしね」

リツコ「それ、意味が違うでしょ、この場合」

ミサト「そうだっけ?」

リツコ「それにしても、シンジくんたちのところも、とうとう休校か……」

ミサト「再開の目途はたたず……事実上の廃校でしょ。この状況ではね」

リツコ「生徒たちはどうするの?」

ミサト「親の仕事場にもよるけど、近隣の中学校に編入することになるそうよ。シンジくんたちは、旧小田原に本部で送り迎えすることになるわ」

リツコ「……ますます出席日数が危うくなりそうね」

ミサト「特別分校の扱いで先生に来てもらう交渉もしてるけど、当面はね」

   モニタの中の子供たちを見るミサト

ミサト「で、渚くんのシンクロテストの方は?」

リツコ「さすが、と言っていいわね。コアの方は、まだ荒っぽい調整しかしていないんだけど」

ミサト「ゼーレが直々に送り込んでくるだけのことはあるってことか……」

ミサト(それにしても――)

   モニタ上のカヲルを見るミサト

ミサト(あの風貌、「過去の経歴は抹消済み」……)

   レイに目を移すミサト

ミサト(レイとの共通点が多いのは、なぜ?)

リツコ「……」

   考え込むミサトの様子を窺っているリツコ

   :
   :

==== 放課後 音楽室 ====

   校歌のピアノ伴奏を練習しているカヲル

   聞こえてくる足音

   「あー、やってるやってる」

カヲル「……?」

女子B「ほんとだ。――すごいねー、渚くん」

   手を休め、顔をあげるカヲル

カヲル「そんなことないよ」

女子A「ううん、そんなことあるって!」

女子C「ねえ、渚くん、また弾いてみてよ」

カヲル「……いいよ」

   前奏を弾き始めるカヲル

   歌い始める女子たち

   やってきたシンジとレイが加わる

   生徒手帳を開いてレイに歌詞を見せてやるシンジ

   無表情ながら正確な音程で皆に加わるレイ

カヲル「……」

   弾きながら、歌っているクラスメートたちの顔を不思議そうに順に眺めるカヲル

   いつの間にか人数が増えているピアノの周囲

   :
   :



==== 本部宿舎 ====

   共同浴場の前

シンジ「渚くん!」

    振り返るカヲル

カヲル「あれ? 帰ったんじゃなかったの?」

シンジ「きょうからこっちの世帯寮に引っ越したんだ、三人で」

カヲル「……風呂、ついてないの?」

シンジ「一応あるけど……ミサトさんが、たまには大きいとこで命の洗濯でもしてこいって。ミサトさんと綾波も、そのうち女湯の方に来るんじゃないかな」

カヲル「ふうん……」

   :
   :

   湯船につかるシンジとカヲル
   
シンジ「渚くん――」

カヲル「ああ、カヲルでいいよ」

シンジ「そ、そう。じゃあ、僕もシンジでいいよ」

カヲル「で?」

シンジ「……ごめん」

カヲル「なんで謝るの」

シンジ「新しいパイロットがくるって聞いて、正直、辛かったんだ」

カヲル「……」

シンジ「アスカの代わりっていうのが、なんか嫌だった。部品を取り換えるみたいで」

カヲル「……」

シンジ「新しく来るのは、きっとすごく嫌な奴なんだって、勝手に思ってた」

カヲル「……」

シンジ「でも、逆だった。カヲルくんみたいな人でよかった。だから……ごめん」

カヲル「なんだ……いいよ、そんなこと」

シンジ「もうすぐだね、本番」

カヲル「……」

シンジ「カヲルくん?」

カヲル「……そうだね」

シンジ「頑張ってね……いや、カヲルくんの腕前じゃあ、頑張るほどのことじゃないか」

カヲル「そんなことないよ」

   俯いて黙り込むカヲル

シンジ「……どうしたの?」

カヲル「別に……想像してたのと違うんだなって……僕の方も、いろいろとね」

シンジ「何が?」


カヲル「いろいろ、さ」

シンジ「……」

カヲル「……いいんだ。気にするなよ」

シンジ「うん……?」

   :
   :


==== ターミナルドグマ ダミープラント ====

ミサト「――これが……ダミーシステムのもとだというの!?」

   オレンジ色の水槽を見回すミサト

   その前、ミサトに背を向けて立っているリツコ

   水槽の中、浮き沈みしている数多くのレイ

リツコ「いいえ……ダミーシステムは結局うまくいかなかった。今は、ただレイのためのスペアというだけ」   

ミサト「じゃあ、零号機の爆発の時、レイは――」

リツコ「……」

ミサト「シンジくんは……シンジくんは知ってるの? このこと」

リツコ「私からは言っていない……レイと約束したから」

ミサト「えっ?」

リツコ「自分が死んで、新しい綾波レイが目覚めても、シンジくんには言わないでほしいって」

ミサト「レイが?」

リツコ「もっとも、ダミープラグの一件のあと、シンジくんにだけは、レイが自分で打ち明けたようだけど」

ミサト「そう……それで……」

   暗い顔で頷くミサト

ミサト「シンジくんの様子……おかしいと思った。いくら記憶をなくしたと言ったって、レイは生きてるのに」

   水槽を見上げるリツコ

リツコ「レイが打ち明けた後まで、そうする必要があったかどうか分からないけれど……あなた自身もこうしてここにたどりついたことだし」

   ミサトを半ば振り返るリツコ

リツコ「リョウちゃんの仕業ね」

   黙って水槽を見ているミサト


ミサト「渚くん――」

リツコ「えっ?」

ミサト「レイと似ている。マルドゥックの報告書も非公開……彼もレイと同じような存在なのかしら」

リツコ「当然、考えられることね」

ミサト「うちで預かる以上、きちんと経歴を押さえないと――」

リツコ「マヤがもうやってるわ。マギを使って」

ミサト「……にもかかわらず、今のところ正体不明、か。何者なのかしら、渚くん」

   浮き沈みするレイを眺めるミサト

ミサト「シンちゃん……レイ……こんな重いものを背負ってたなんて……」

リツコ「……ミサト?」

   自嘲するように笑うミサト

ミサト「保護者失格ね、私」

リツコ「……」

   :
   :


==== ネルフ本部 ミサトの世帯寮 レイの部屋 ====

   デスクの椅子に腰かけ、生徒手帳の校歌のページを開いているレイ

   (レイ回想)

カヲル『君は僕と同じだね――』

――――――
―――


レイ(そう……あの人、私と同じ感じがする。どうして?)

レイ(あの人は、なに? 私は……なに?)

   顔を上げるレイ

レイ(私、なぜここにいるの? なぜまた生きているの?)

   窓の外を見るレイ

レイ(何のために? 誰のために?)

   :
   :


==== 闇の中 ====

   輪をなして闇に浮かび上がるモノリス群

   その下に佇むカヲル

モノリス01「冴えない顔をしているな、タブリス。何があった」

カヲル「別に……僕の顔なんかどうでもいいだろ」

モノリス02「左様。事は重大だ。急がねばならん」

カヲル「……」

モノリス01「ネルフ……そもそも我らゼーレの実行機関として結成され、我らのシナリオを実践するために用意されたもの。それが今は一個人の占有機関と成り果てている」

モノリス05「神と等しき力を手に入れようとしている男がいる」

モノリス03「パンドラの箱を我々より先に開け、そこにある希望が現れる前に閉じ込めようとしている男がいる」

   物憂げに顔を上げるカヲル

カヲル「希望? あれがリリンすべての希望だっていうの? あんたたちのじゃなくて?」」

モノリス01「左様――」

   語りだすモノリス01

   :
   :

モノリス01「――機は熟した。行くがよい、タブリス」

カヲル「……」

モノリス01「……どうした、タブリス」

カヲル「別に……」

   俯くカヲル

カヲル「自分の役目はわかってるよ。最初からそのために僕はいるんだから……」

   :
   :


==== 午後 第壱中学校 体育館 ====

   整列している生徒たち

   最後の講話をする校長

   校歌の斉唱を告げる教務主任

   前方のアップライトピアノに進み出るカヲル

   指揮に立つ教師と目をあわせ、前奏を弾き始めるカヲル

   歌いだす生徒たちと大人たち

   ――聳ゆる富士の 頂に――

   歌っているシンジ、ケンスケ

   前を見つめているシンジ

   ふと、転校してきてからの様々な出来事がよみがえる

   ――水は清き 芦ノ湖の――

ケンスケ(……碇?)

   歌うのをやめ、声を殺して泣いているシンジ

   気が付くと、あちこちから聞こえるすすり泣き

   ――ああ 第壱中学校 我らが母校 ――

   歌い終わる一同

   事務連絡をして解散を告げる教務主任

   喋りあいながら三々五々、出口に向かう生徒たちの一団

   譜面をととのえ、ピアノを片づけているカヲル

教師「ありがとう、渚。大役ごくろうさん」

カヲル「……いえ」

教師「謙遜するな。お前のおかげで、皆、最後にいい思い出ができたよ」

   カヲルの肩を叩く教師

教師「正直、パイロットなんかにしておくのはもったいないよ。――まあ、俺たちにはどうしてやることもできないけどな」

カヲル「……」

   やってくるシンジ 目を泣き腫らしている

   付き従っているレイ

シンジ「お疲れ様、カヲルくん」

カヲル「どうしたの? その目」

シンジ「え?……ああ、なんか、いろいろ思い出しちゃって……」

   悲しげに笑うシンジ

シンジ「ごめん、最後まで歌えなかった」

カヲル「……別に謝るようなことじゃないだろ」

教師「さあ、お前たちも早く行け。まだホームルームが残ってるぞ」

シンジ「あ、はい。――行こう、カヲルくん」

カヲル「うん」

   :
   :

==== 終業後 生徒玄関 ====

   出てくるシンジたち

シンジ「じゃあね、ケンスケ」

ケンスケ「ああ。お前たちもな……」

   口ごもるケンスケ

シンジ「……ケンスケ?」

ケンスケ「いや、こんなこと言ってもいいもんかと思ったんだけど、やっぱり言っとかないとな」

シンジ「……」

   真剣な顔でシンジを見るケンスケ

ケンスケ「死ぬなよ、碇。綾波に、渚も」

一同「……」

ケンスケ「そのうち、笑い話になっちまうことを祈ってるよ。――じゃあな」

シンジ「うん……ケンスケも元気で」

   立ち去るケンスケ

シンジ「じゃあ、僕たちも――」

   「渚センパイ!」

   振り返るシンジたち

   走ってくる女子の一団

カヲル「……」

   息を切らして立ち止まる女子たち

   横にいるシンジたちを少し見る女子たち

   気づいてカヲルから一歩下がるシンジ それに倣うレイ

一年女子A「あの、渚センパイたちは、旧小田原ですよね」

カヲル「そうだよ」

一年女子B「渚センパイのピアノ聞いて、すごいと思ったんですけど」

一年女子A「でも、私達、松代だから、もう会えないと思って」

カヲル「……」

一年女子C「それで、みんなで相談したんですけど、あの――」

   ためらいがちに小さな包みをカヲルに差出す一年女子

カヲル「これ――」

   受け取るカヲル

一年女子A「私たちからセンパイに、お別れに、と思って……」

   手の中の小箱を見つめるカヲル

カヲル「……開けてもいいかな」

一年女子A「えっ?……はっ、はい!」

   包みをほどくカヲル

   覗き込んでいるシンジ

シンジ「あっ――」

   グランドピアノの形をした小さなオルゴール

カヲル「これ、どうやるの」

   一年女子の顔を見るカヲル

一年女子A「あ、えっと――」

   ねじを回して屋根を開ける一年女子

   流れ出すメロディ

   ショパン 練習曲 作品10第3番ホ長調『別れの曲』

   不安げにカヲルの顔を窺う一年女子たち

   手の中でメロディを奏でるオルゴールを見つめるカヲル

   やがて、

カヲル「――ガラスのように繊細なんだね、君たちリリンの心は……好意に値するよ」

一年女子A「えっ?」

   顔を上げて一年女子たちの顔を見つめ、寂しげに微笑むカヲル


カヲル「好きってことさ」

   真っ赤になる一年女子たち

カヲル「ありがとう。大事にするよ」

一年女子A「はっはい!! それじゃあ――」

一年女子B「センパイも、お元気で!」

   一斉に頭を下げて走り去っていく一年女子たち

   ねえ、リリンってなに? あー、あたしもわかんなかった、女の子って意味かな? などと話し合う声が遠ざかる

   見送っているシンジたち

シンジ「よかったね、カヲルくん」

カヲル「うん……」

   :
   :

==== ネルフ本部 リツコの研究室 ====

ミサト「――どういうこと?」

リツコ「彼は、エヴァとのシンクロ率を自由に設定できる。自分の意志でね」

ミサト「まさか! だって、訓練の時は――」

リツコ「そう。明らかに異常、とまでは言えなかった。だから、試してみたのよ」

   モニタ上に新しい図表を呼び出すリツコ

リツコ「コアの設定をどのように変更しても、彼は同じようにシンクロできた。理論上、ありえないことだわ」

ミサト「……そろそろ、はっきりさせないといけないわね」

   モニタを見ながら爪を噛むミサト

ミサト「――彼の正体を」



==== 夜 ネルフ本部 ====

   照明が落とされ人気の無くなったエントランスホールの一角

   虚ろに反響するピアノの調べ

   据え付けられたグランドピアノを静かに弾いているカヲル

カヲル「……」

   ピアノの上に置かれているオルゴール

   最後の和音を押さえながら、余韻を惜しむように目を閉じているカヲル

   鍵盤から指を離し、膝の上に置く

   真顔で目を開くカヲル

カヲル「時が来たね……」

   鍵盤にキーカバーをかけ、蓋を閉じるカヲル

   その手の甲にいくつか落ちる水滴

カヲル(……なんだ? これは……)

   水滴を掌で受けるカヲル

   両目からあふれ出した涙が頬を伝って滴り落ちている

   :
   :   


==== 弐号機ケージ ====

   アンビリカルブリッジに立つカヲル

   真顔で弐号機を見上げて

カヲル「さあ、行こうか。アダムの分身――そして、リリンのしもべ……」

   ブリッジの端から空中に歩み出すカヲル

   :
   :

==== ネルフ本部 発令所 ====

ビーッ ビーッ ビーッ…

マコト「――エヴァ弐号機、起動!」

ミサト「どういうこと!? 渚くんが?」

マヤ「いえ、無人です。弐号機にエントリープラグは挿入されていません!」

ミサト「そんなバカな! 渚くんが乗ってるんじゃないの?」

シゲル「映像で捉えました。主モニターに回します!!」

ヴン…

   空中に浮かんでメインシャフトに進入していく弐号機

   そのわずか前方、浮かんでいる人影

   学生服姿、銀色の髪


マヤ「これは……」

ミサト「渚くん!」

マコト「セントラルドグマに、A.T.フィールドの発生を確認!」

ミサト「弐号機?」

マコト「いえ、パターン青! 間違いありません! 使徒です!」

ミサト「……そんな!」

   :
   :

   (BGM ショパン「別れの曲」)


==== メインシャフト 初号機プラグ内 ====

   降下する初号機

シゲル『初号機、第9層に到達、目標と接触します!』

シンジ(いた!)

   下方に見える弐号機

   その前方に浮かんでいるカヲル

   振り返って初号機を見上げる

カヲル「シンジくん……やっぱり君か……」

シンジ「カヲルくん! どうして――」

   カヲルに手をのばす初号機

シンジ「使徒のくせに! 敵のくせに! どうして僕たちに近づいたりしたんだよ!!」

ガキイイイイイイィィン!!

   初号機の手を受け止める弐号機

シンジ「なっ!……カヲルくん! 君がやってるの!?」

カヲル「エヴァは僕と同じ体でできている。魂さえなければ同化できるのさ。この弐号機の魂は、いま自ら閉じこもっているから」

シンジ「じゃあ、やめてよ! 僕は君と戦いたくなんかないんだ!」

カヲル「僕もさ。許されることならね……」

   :
   :

==== 発令所 ====

ズズズズン…

ミサト「状況は!?」

マコト「A.T.フィールドです!」

シゲル「ターミナルドグマの結界周辺に、先と同等のA.T.フィールドが発生!」

ミサト「まさか……新たな使徒!?」

マヤ「結界の中へ侵入していきます!」

ピピピピ……

シゲル「いえ……消失しました……」

ミサト「消えた!? 使徒が?」

ミサト(何が起こっているの? いえ……何が起ころうとしているの!?)



==== メインシャフト外壁 ====

レイ「……」

   外周通路にたたずみ下方を見下ろしているレイ

半端だけど本日はここまで

乙!

>>212 >>213 ありがとう

>>210の続きから
とりあえず区切りまで

==== リリスの間 ====

   磔にされたリリスの前に浮かび、仮面をかぶせられたリリスの顔を見上げるカヲル

カヲル「――黒き月……リリス」

   つぶやくカヲル

カヲル「最初からここにいたんだね……そして、ずっと待っていた。継承者がここまで来るのを」

ズズン……

カヲル「!」

   振り返るカヲル

バガアアアアァァン

   隔壁を破って侵入してくるエヴァ初号機

   足元には弐号機の残骸  胴部の骨格が露わになり、眼球が飛び出している

シンジ『カヲルくん! そこから離れて!!』

   プログレッシヴナイフを構えて進み出る初号機

カヲル「……」

シンジ『今なら戦わなくて済む! 引き返すんだ!』

   俯き、首を振るカヲル

カヲル「シンジくん……それはできない。僕は、このために……このためだけに、生まれてきたんだから」

シンジ『そんな!』

   顔を上げるカヲル

カヲル「でも、今ならまだ、僕にも選ぶことができる。サードインパクトを起こして君たちリリンを滅ぼすのか……あるいは――」

   ふと言いよどむカヲル

カヲル『――僕自身が滅びるかを……ね』

シンジ『えっ……』

カヲル「僕は……知りすぎてしまった。君たちのことを」

   ポケットから右手を出すカヲル

   握られているオルゴール

シンジ『それは……』   



カヲル「だから、今ここで、僕を消してほしい」

シンジ『なっ……』

カヲル「使徒である僕を消すことができるのは、使徒と同じ力をもつエヴァだけ……そして――」

   真顔で初号機を見るカヲル

カヲル「いまエヴァを操ることができるのは……シンジくん、君しかいないんだよ」

シンジ『だからって……だからって、そんなこと、できるわけないじゃないか!!』

カヲル「君には選択の余地はないはずだろ?」

シンジ『でも!』

カヲル「もうすぐ、僕は自分の中の使徒を抑えられなくなる。そうなる前に、僕を消してほしい。僕が、僕であるうちに」

シンジ『……』

カヲル「僕が……ヒトでいられるうちに」

   寂しげに微笑むカヲル

シンジ『カヲル……くん……』

   プラグの中 うなだれるシンジ

   浮かんでいるカヲル

   :
   :

   動き出す初号機の手

   空中のカヲルをそっと両手に包む

カヲル(ありがとう、シンジくん……)

   反発するA.T.フィールドごとカヲルを握り締めていく初号機

   と、初号機の手の中で発する閃光

   崩壊するA.T.フィールド  指の間から滴り落ちるLCL

   LCLの奔流とともに流れ落ちるカヲルの衣類

   握り締めた初号機の両手を包むようにかかる小さな虹

シンジ(ごめん、カヲルくん……ごめん)

   プラグの中、インダクションレバーを握り締め、肩を震わせて泣いているシンジ

   (ショパン「別れの曲」 終わり) 

   :
   :

とりあえずここまで

おつ

すごい良作です、乙です。

>>218 >>219 >>220 ありがとう
>>216の一部修正から続きます

カヲル「だから、今ここで、僕を消してほしい」

シンジ『なっ……』

カヲル「使徒である僕を消すことができるのは、使徒と同じ力をもつエヴァだけ……そして――」

   真顔で初号機を見るカヲル

カヲル「いまエヴァを操ることができるのは……シンジくん、君しかいないんだよ」

シンジ『だからって……だからって、そんなこと、できるわけないじゃないか!!』

カヲル「君には選択の余地はないはずだろ?」

シンジ『でも!』

カヲル「もうすぐ、僕は自分の中の使徒を抑えられなくなる。そうなる前に、僕を消してほしい。僕が、僕であるうちに」

シンジ『……』

カヲル「僕が……ヒトでいられるうちに」

   寂しげに微笑むカヲル

シンジ『カヲル……くん……』

   プラグの中 うなだれるシンジ

   浮かんでいるカヲル

   (ショパン「別れの曲」 終わり) 

   :
   :

   (オルゴールの音色でふたたび「別れの曲」)

   動き出す初号機の手

   空中のカヲルをそっと両手に包む

カヲル(ありがとう、シンジくん……)

   反発するA.T.フィールドごとカヲルを握り締めていく初号機

カヲル(君たちに逢えて、嬉しかったよ……)

   と、初号機の手の中で発する閃光

   崩壊するA.T.フィールド

   初号機の指の間から滴り落ちるLCL

   LCLの奔流とともに流れ落ちるカヲルの衣類

   握り締めた初号機の両手を包むようにかかる小さな虹

シンジ(ごめん、カヲルくん……ごめん)

   プラグの中、インダクションレバーを握り締め、肩を震わせて泣いているシンジ

   (しだいに間延びし、やがて停止するオルゴールの音) 

   :
   :

TV版第弐拾四話相当まで了

シンジ「……」ハッ…

==== 砂浜 ====

ザザーン… ザザーン…   

   あの日レイと訪れた海岸

   陽光をきらきらと反射している青い海原

   その手前、シンジに背を向け、海に向かって佇んでいるレイ 私服姿

   寄せては返す波にくるぶしまでつかっている

   歩み寄り並ぶシンジ

   海を見たままつぶやくレイ

レイ「何故、殺したの」

シンジ「えっ……」

   振り向き、無表情にシンジを見つめて問うレイ

レイ「何故、殺したの」

   怯むシンジ

シンジ「あ……綾波!?」

レイ「何故、殺したの」

シンジ「だって……だって、仕方なかったんじゃないか!」

レイ「何故、殺したの」

シンジ「だって、カヲル君は、彼は、使徒だったんだ!」

レイ「同じ、人間なのに?」

シンジ「違う、使徒だ、僕らの敵だったんだ!」

レイ「同じ、人間だったのに?」

シンジ「違う、違う、違うんだ!」

レイ「だから殺したの?」

シンジ「そうさ……ああしなければ僕らが死んじゃう、みんなが殺されちゃうんだ」

   頭を振るシンジ

シンジ「カヲル君だってわかってた……わかってて、僕に頼んだんだ!」

レイ「だから殺したの?」


   うずくまり頭を抱えるシンジ

シンジ「好きでやったんじゃない! でも仕方なかったんだ!」

レイ「だから殺したの?」

シンジ「やめて……」

レイ「だから殺したの?」

シンジ「やめて……」

レイ「だから殺したの?」

シンジ「やめてよ!」

レイ「私と同じ人だったのに?」

シンジ「えっ?」

   顔を上げるシンジ

   冷やかに見下ろしているレイ

シンジ「……同じ?」

レイ「私も……殺すの?」

シンジ「な……何言ってるんだよ! そんなわけないだろ!?」

ガシャン

   突然闇に包まれるシンジ

シンジ「!」

ガシャン

   周囲に浮かび上がるオレンジ色の水槽

   オレンジ色の光を背後から受けているレイ

   水槽内部に浮かぶ無数のレイ 皆シンジを見て一斉に

レイたち「私も殺すの?」

シンジ「違う!」

レイたち「私も殺すの?」

シンジ「違う! 違うってば!」

レイたち「私も殺すの?」

シンジ「助けて……」

レイたち「私も殺すの?」


シンジ「誰か、助けて――」

レイたち「私も、殺すの?」

シンジ「お願いだから、誰か、助けてよ!!――」

   :
   :

シンジ「……」ハッ!


==== ネルフ本部 ミサトの世帯寮 シンジの部屋 ====

   ベッドの上で目を見開いているシンジ

シンジ「……」ハァ… ハァ…

   不安げに周囲を目だけで見まわす

シンジ「……?」

   ベッド際に立ち無表情に見下ろしているレイ

シンジ「綾波……」

レイ「すごく、うなされているようだったから」

シンジ「えっ?」

   額に手を当て、目を閉じるシンジ

シンジ「ごめん……ちょっと怖い夢、見てたみたいで――」

レイ「夢?」

シンジ「もう、大丈夫だから」

レイ「そう……」

シンジ「……」ハァ……

   深く息を吐くシンジ

レイ「……」スッ……

シンジ「……綾波?」

   目を開けるシンジ

   目を伏せ、自分のパジャマのボタンを外し始めるレイ

シンジ「な、何してるの!?」

   滑り落ちる上衣 露わになる白い肩

   下着の肩ひもに手をのばすレイ


シンジ「ちょっ、ちょっと待ってよ!!」

   慌てて上体を起こし、レイの手首をつかんで制止するシンジ

レイ「なぜ?」

   顔をあげ、無表情に見つめ返すレイ

レイ「あの日、こうしたんでしょう? 私たち」

シンジ「なっ!……」

レイ「違うの?」

シンジ「ち、違うよ!……いや、違わないけど……でも!」

   レイの手首を放し、上衣を治してやるシンジ

シンジ「駄目だよ、綾波……こんなのは……嫌だ……」

レイ「嫌?」

   うなだれるシンジ

シンジ「お願いだから……わかってよ……」

レイ「そう……」

   パジャマの前をかきあわせ、立ち上がるレイ

   部屋を出ていく

パタン……

シンジ「うう……」ドサッ

   ベッドに横たわって身を折り嗚咽するシンジ

シンジ「ううっ……綾波……」グスッ

   すすり泣く声

シンジ「……」

   泣き声とは違う息遣いが混じる

シンジ「……」

   次第に速くなる息遣い

シンジ「……っ!……」

   静まり返る室内

シンジ(……最低だ……俺って……)

   :
   :

==== ネルフ本部 発令所 ====

   人気のない発令所

   飲み物のカップを手に何か話し合っているマヤ、マコト、シゲル

マヤ「――本部施設の出入りが全面禁止!?」

マコト「第一種警戒態勢のままか?」

マヤ「なぜ? 最後の使徒だったんでしょ? あの少年が……」

シゲル「ああ……全ての使徒は消えたはずだ」

マコト「今や平和になったってことじゃないのか?」

マヤ「じゃぁここは!? エヴァはどうなるの?」

シゲル「ネルフはおそらく組織解体されると思う。俺達がどうなるのかは……見当も付かないな」

   俯くマコト カップを口に運びながら

マコト(自分たちで粘るしかないのか……「補完計画」の発動まで……)

   :
   :


==== 暗闇の空間 ====

   輪を成して浮かんでいるモノリス群

モノリス01「――もはやアダムや使徒の力は借りぬ。補完は我々自身の手でおこなえということだ」

モノリス01「神も人も、すべての生命がひとつとなるために」

モノリス09「滅びの宿命は再生の喜びでもある。今度こそ、その時が来た」

モノリス02「だが、その前に、ひとつ忘れてはならぬことがあるぞ」

モノリス02「碇ゲンドウ……我らに背き滅びを拒み、自らの補完を目論む者」

モノリス01「彼には死をもって償ってもらおう」

   :
   :

==== ネルフ本部 ミサトの世帯寮 ====

カチャン……

シンジ「……」パタパタ……

   部屋から出てくるシンジ

   リビングに向かいかける

   ふと、レイの部屋のドアを振り返る

シンジ「……?」

   ドアがわずかに開いている

   首を振ってまたリビングに向かいかけるが、再び何かを感じレイの部屋を振り返るシンジ

シンジ「……」パタパタ……

   レイの部屋の前に立つ

シンジ「……綾波?」

   恐る恐るドアノブに手をのばすシンジ

   ゆっくりとドアを開け、覗き込むシンジ

シンジ「……」

   誰もいない

   パジャマが脱ぎ捨ててあり、壁のハンガーから制服がなくなっている

   :
   :

==== ネルフ本部 コンピュータールーム ====

ミサト「……」カチャカチャ……

   配線スペースの中、不正に接続した端末を操作しているミサト

ミサト(そう……これが、サードインパクト……そして「人類補完計画」の真意なのね……)

ピピピピピ……

ミサト「!」

   突如、「DELETED」の文字で埋め尽くされていく端末の画面

ミサト(気付かれた!?)

   とっさに傍らの拳銃を掴んで立ち上がるミサト

ミサト(いや……違うか……)

   銃を掴んで立ち尽くすミサト

ミサト(始まるわね……)

   :
   :

本日はここまで

本日はここまで


上層部がダメージを受けていない以上、この展開は必然か…

待ってるよ

>>233 >>234 ありがとう

>>230から続きます

==== 発令所 ====

リツコ「――ゼーレは総力を挙げてるわね。彼我兵力差は1対5……分が悪いわ」

シゲル「第4防壁、突破されました!」

マコト「ダメです! 侵攻をカットできません!」

マヤ「さらに外郭部侵入! 予備回路も阻止不能です!」

冬月「まずいな……マギの占拠は本部のそれと同義だからな。――赤木くん」

リツコ「分かってます」

   自前のノートパソコンを取り出しながら冬月を振り返るリツコ

リツコ「マギの自律防御ですね」  

   :
   :



==== ネルフ本部 居住区 ====

シンジ「……」ハッ…ハッ…ハッ…

   息を切らせて走ってくるシンジ

   休養室を覗き込む

シンジ「綾波?」

シンジ(……ここにもいない……)

   踵を返してまた駆け出すシンジ

シンジ(どこいっちゃったんだよ、綾波……まだ警戒態勢のままだって言うのに!)   

   :
   :

==== 発令所 ====

ピピピピ……

   ディスプレイ上、マギの状態表示が正常に戻っていく

マヤ「マギへのハッキング、停止しました! Bダナン型防壁を展開、以後62時間は外部侵攻不可能です!」

   マヤ達の席の下方、マギ=カスパー内部から這い出すリツコ

ミサト「安心してる場合じゃないわよ。マギへの進入だけですむような、生易しい連中ではないわ」

冬月「マギは前哨戦にすぎん。彼らの目的は本部施設および残るエヴァ初号機の直接占拠だな」

   :
   :



==== 暗闇 ====

   輪を成して浮かぶモノリス群

モノリス01「碇はマギに対し第666プロテクトをかけた。この突破は容易ではない」

モノリス09「できるだけ穏便に進めたかったのだが、いたしかたあるまい――」

   :
   :



==== 地上 零号機クレーター湖畔 ====

   草むらにうごめく人影

   受話器を置く兵士

兵士「始めよう。予定通りだ」

   :
   :

==== 発令所 ====

ビーッ ビーッ

   響き渡る警報

   主モニター上、各方面の監視映像が次々に途絶えていく

男性オペ『特科大隊、強羅防衛線より侵攻してきます!』

女性オペ『御殿場方面からも、2個大隊が接近中』

冬月「やはり最後の敵は、同じ人間だったな……」

ゲンドウ「総員、第一種戦闘配置」

マヤ「……戦闘配置?」

   俯くマヤ

マヤ「相手は使徒じゃないのに……同じ人間なのに」

マコト「向こうは、そう思っちゃくれないさ」

   :
   :



==== ネルフ本部 居住区通路 ====

ビーッ ビーッ…

女性オペ『総員、第一種戦闘配置』

シンジ「!」ハッ…

女性オペ『――繰り返す。総員、第一種戦闘配置』

シンジ(行かなきゃ!)

   駆けだそうとして、ためらうように周囲をもう一度、見回すシンジ

シンジ(でも、綾波は!?)

   :
   :

==== 通路 ====

ダダダダ……

   姿勢を低くして駆け抜ける兵士たち

   携帯電話を耳に当て支持を聞いている

士官『エヴァパイロットは発見次第射殺。非戦闘員への無条件発砲も許可する』

兵士「了解!」

   :
   :


==== 発令所 ====

男性オペ『地下第3隔壁損壊! 第2層に侵入されました!』

ミサト「シンジくんとレイは!?」

シゲル「位置を確認できません! どちらも所在不明です」

ミサト「捕捉、急いで! 殺されるわよ」

   :
   :


==== 本部内 通路 ====

  無抵抗のネルフ職員に容赦なく銃弾を浴びせる兵士たち

   :
   :


==== 発令所 ====

ミサト「シンジくんは、まだ見つからないの!? 急いで初号機に――」

シゲル「初号機パイロット、所在位置を捕捉しました」

   モニタに映し出される監視カメラ画像

   学生服姿のシンジが視野を駆け抜けていく

   それを追うように次のカメラに切り替わる映像

ミサト「なぜまだこんなところに!?」

==== その後方、司令席 ====

冬月「戦自、約一個師団を投入か……占拠は時間の問題だな」

ゲンドウ「……」

   立ち上がるゲンドウ   

   気づいて振り返るリツコ

   目で合図をするゲンドウ

   頷くリツコ

ゲンドウ「冬月先生――」

冬月「……」

ゲンドウ「後を頼みます」

   目を伏せる冬月

冬月「14年前からのシナリオ、運命を仕組まれた子供たち、か。……過酷すぎるな」

ゲンドウ「……我々の計画まで、あと少しです」

冬月「分かっている。ユイくんに、よろしくな」

  一礼して歩み去るゲンドウ

   :
   :



==== 本部内 通路 ====

女性職員「うう……ひっく……」

   射殺された男性職員の遺体を引きずって後退する女性職員

   通路の向こうを行き過ぎる兵士の一団

   一人が気付いて女性職員に銃弾を浴びせる

   :
   :



==== 発令所 ====

女性オペ『第3層に侵入者! 防御できません!』

シゲル「Fブロックからもです。メインバイパスを挟撃されました!」

ミサト「第3層までを破棄、戦闘員は下がって! 803区間までの全通路とパイプにベークライト注入!」

シゲル「はい!」



==== 本部内 通路 ====

   通路を満たしていく赤く、やや粘性のある液体の本流

   ネルフ職員の死体も沈んでいく

   :
   :


==== 発令所 ====

ミサト「これで少しはもつでしょう」

マコト「葛城一佐! ルート47が寸断され、グループ3が足止めを食ってます。このままではシンジくんが――」

ミサト「非戦闘員の白兵戦闘は極力避けて。向こうはプロよ。ドグマまで後退不可なら、投降した方がいいわ」

カシャン……

   銃の弾倉を確かめるミサト

ミサト「ごめん、あと、よろしく」

マコト「はい」

   :
   :

きょうはここまで

>>241から続きます

==== 地上 市街を見下ろす高台 ====

士官「意外と手間取るな……」
兵士「我々に楽な仕事はありませんよ」

  :
  :

==== 発令所 ====

   武器の準備をしているシゲルとマコト

シゲル「―― 今考えれば、侵入者要撃の予算縮小って、これを見越してのことだったのかな」

マコト「どうかな……ありうる話――」

ドオオオオオォン!!

マコト「うわっ!」

   響き渡る爆発音

マコト「何だ!?……あっ……」

   下方のフロア、乱入してくる兵士たち

   :
   :

==== ターミナルドグマ ダミープラント ====

レイ「……」

   部屋の外周をとりまく水槽を無表情に眺めているレイ

   LCLに満たされた水槽 浮き沈みしている無数のレイのスペア

   「レイ」

   ゆっくりと振り返るレイ

ゲンドウ「やはり、ここにいたか」

   足早に歩み寄るゲンドウとリツコ

   二人とも片手に拳銃

   リツコはトランクのようなものを提げ、あたりを警戒するように見回している

   レイの正面に立つゲンドウ

   無表情に見つめ返すレイ

   :
   :

==== 本部内 通路(ルート47) ====

カンカンカン……

   通路を急ぐシンジ

シンジ「……」ハッ…ハッ…ハッ…

ズドドドド……

   そう遠くないと思われる銃声、爆発音

シンジ(何が……起きてるんだ?……いったいどうなっちゃってるんだよ!?)ハッ…ハッ…ハッ…

ドカドカドカ……

   前方の物陰から響く複数の足音

シンジ「?」

   歩度をゆるめるシンジ

   通路の向こうに現れる数名の兵士

シンジ「……」

   シンジの方を見ながら二言三言、言葉を交わし合っている

シンジ「あ……あの……」

   シンジの方を見たまま通信機に話し始める兵士の一人

兵士A「サード発見。これより排除する」

シンジ「え?」

ジャキン

   銃の安全装置を外す兵士

   シンジの方に向かって銃を構える

   思わず背後を振り返るシンジ 誰もいない

兵士A「悪く思うな、坊主」

シンジ「……えっ!?」

パンッ パンッ

シンジ「!」

   思わず身を縮めるシンジ

ドサッ…

   シンジの目の前に倒れる兵士の一人

兵士B「なにっ……」

   振り返る兵士たち その視線を追うシンジ

シンジ(ミサトさん!?)

ミサト「ふせてっ!!」

   発砲するミサト

   不意を突かれ倒れる兵士たち

   通路の向こうから一気に距離を詰めるミサト

ドカッ!

   残る1人を壁に押し付け、銃を奪うミサト

ミサト「悪く思わないでね――」

パンッ!

   血を流して倒れる最後のひとり

ミサト「……」ハァ…ハァ…ハァ…

シンジ「……」ワナワナ…

   ミサトが人を殺したことに衝撃を隠せないシンジ

   ミサト、死体を見つめたまま、

ミサト「さあ……行くわよ」

シンジ「えっ?」

   ようやく死体から視線をもぎはなしミサトを見るシンジ

シンジ「い……行くって……どこへですか?」

ミサト「決まってるでしょ」

   座り込んでいるシンジを見るミサト

ミサト「初号機のところよ。あなたも、そこへ向かっていたんじゃないの?」

シンジ「そ、そうですけど……でも、どうして!? どうして戦闘配置なんですか!? 使徒は、もういないんでしょう!?」

ミサト「まだ終わりじゃない」

   兵士の死体から小銃を奪うミサト

ミサト「いいえ……むしろこれからが本当の戦いの始まりなのよ」

シンジ「……どういうことですか?……」


ジャコン!

   残弾を確かめるミサト

ミサト「行きましょう」

   立ち上がるミサト

シンジ「ミサトさん……」

   シンジを振り返るミサト

ミサト「私が知り得たことの全てをあなたに話すわ。道々ね」

   :
   :


==== 発令所 ====

タタタタ…… パンッ パンッ

   戦場と化した発令所

   姿勢を低くして物陰から物陰へ走る戦略自衛隊の兵士

   床に横たわるネルフ職員の遺体

   インターフォンに向かって指示を飛ばしている冬月

   頭を抱えて自席の下にうずくまるマヤ

   オペレータ席から下方のフロアに向かって時折、反撃を試みるシゲルとマコト

マコト「あちこち爆破されてるのに、やっぱりここには手を出さないか……」

シゲル「一気にカタをつけたいところだろうが――」

   マコトを振り返るシゲル

シゲル「下にはマギのオリジナルがあるからな。できるだけ無傷で手に入れたいんだろう」

マコト「ああ。でも、対BC兵器装備は少ない。使用されたらやばいよ。それと――」

   メガネをずりあげるマコト

マコト「N2兵器もな……」



==== 市街地上空 ====

   投下される何かの物体

   落下点付近で突如起こる大爆発

ドバアアアアアァァァ

   岩盤を破ってジオフロント内に荒れ狂う爆発の炎



==== ネルフ本部 発令所 ====

ドドドドド……

マヤ「きゃあああああ!!」

マコト「ああ! 言わんこっちゃない!」

シゲル「奴ら、加減ってものを知らないのかよ!?」

冬月「くっ……無茶をしおる……」



==== ジオフロント ====

   N2爆雷にくり抜かれた天井を通して覗く青空

   穴の縁から流下する湖水

   と、穴から一斉に降り注ぐミサイル群

   爆発――



==== 発令所 ====

ズドドドドド……

マヤ「イヤっ!!」

   頭を庇って泣き叫ぶマヤ

マヤ「ねえっ!! どうしてそんなにエヴァが欲しいのっ!?」



==== エレベーター内 ====

シンジ「――そんな!!」

ミサト「事実よ。これがサードインパクト……そして『人類補完計画』の真相」

シンジ「……」ワナワナ…

ミサト「碇司令は最初から知っていた」

シンジ「父さんが!?」

ミサト「知っていて……それを防ぐために戦っていたのよ」

シンジ「……えっ……」

チン……ガラガラガラ……

   停止するエレベーター 開く扉

   通路の先に見える初号機ケージ

   :
   :


==== ターミナルドグマ ダミープラント ====

   半円形の部屋の外周を占めるオレンジ色の水槽

   その前に立つレイ、ゲンドウ、リツコ

ピッ……

   リモコンのような装置を操作するリツコ

ゴボゴボゴボ……

   砕けていくレイのスペアたちの体

一同「……」

リツコ「司令は、知っていらしたんですね? こうなることを」

ゲンドウ「……私ではない」

リツコ「え?」

   俯き、メガネを直すゲンドウ

ゲンドウ「ユイは、ゼーレの真の目的を正確に見抜いていた」

リツコ「……」

ゲンドウ「『計画』はすでに動き出していた。だからユイは、最後の――この時に賭けた。そして、自ら初号機のコアに消えた」

   レイのスペアの残骸が漂う水槽を眺めるゲンドウ

ゲンドウ「私は、ユイが用意したシナリオをなぞったに過ぎん」

リツコ「……」

   :
   :

==== 初号機ケージ ====

ミサト「よかった、まだここは無事だわ」

   初号機を見上げるミサト

ミサト「シンジくん、たのんだわよ」

シンジ「でも!」

   アンビリカルブリッジに用意されているインテリアシート

   その周囲の装置のスイッチを次々にオンにしていくミサト

ミサト「『委員会』はサードインパクトを起こそうとしている。使徒ではなく、エヴァシリーズを使って」

シンジ「……」

ミサト「あなたが動かなければ、人類は、ただ滅びるしかないのよ」

シンジ「そんな……」

   シンジを見るミサト

ミサト「いい? シンジくん。エヴァシリーズを全て消滅させるの。生き残る手段は、それしかないわ」

   :
   :


==== ターミナルドグマ ダミープラント ====

   LCLの水槽を漂うレイのスペアの残骸

   リツコを振り返るゲンドウ

ゲンドウ「赤木博士」

リツコ「……」ハッ……

ゲンドウ「君の力がなければ……私一人の力では、とてもやり遂げることはできなかっただろう」

リツコ「司令……」

   リツコに軽く頭を下げるゲンドウ

ゲンドウ「ありがとう」

リツコ「やめてください、そんな――」

   苦笑するリツコ

リツコ「私は与えられた役割を果たしただけです。それに、これからが本当の――」

ゲンドウ「……?」

ゴン……

   隔壁の方から微かに聞こえる、何かがぶつかる音

グワアアアアアアァァン!!

   突如として吹き飛ぶ隔壁 押し寄せる爆炎

ゲンドウ、リツコ「!!」

レイ「……」

タタタタタ……

   黒煙が立ち込める中、降り注ぎ始める銃弾の雨

   :
   :


==== ケージ管制室 ====

   操作卓の表示を次々に切り替えていくミサト

   窓の外、初号機の体内に吸い込まれていくエントリープラグ

カチッ…

ミサト「マヤちゃん、聞こえる? こちら7番ケージ管制室」

ザザ…

マコト『葛城さん!? 無事だったんですか!?』

ミサト「シンジくんは搭乗したわ。日向くん、初号機の発進を――!」

   スピーカーの向こうから断続的に聞こえてくる銃声

ミサト「大丈夫!? 日向くん――」

マヤ『伊吹です』

   半泣きの声

マヤ『先ほどから発令所にも兵隊が入ってきて……チュイン!…きゃっ!!』

ミサト「マヤちゃん!!」

マヤ『いま、ケージの機械類の状態表示が読めなくなってるんです。情報伝達のどこかに不具合が――』

ミサト「わかった。――シンジくん!!」

シンジ『はい』

ミサト「こちらからはロック解除できない。いいから、エヴァで壊して出なさい」

シンジ『了解』

メリメリメリ……

   拘束具を引き裂いて歩き出す初号機

   ラックからガトリング砲をつかみ出す

ミサト「急いで! エヴァシリーズが来るのは時間の問題よ」

シンジ『はい!』

ガシャン!

   固定ロックを破壊して、壁の射出スイッチを自らオンにする初号機

バシュッ!

   火花のきらめきを残して打ち出されていく初号機

   :
   :



==== 上空 ====

ゴオオオオオオオォォ……

   編隊を組んで飛行する大型輸送機

   進路の地平線上、雲間からのぞく富士の山容

   :
   :

本日はここまで

おつ

>>255 >>256 ありがとう
>>253から続きます

==== ターミナルドグマ ダミープラント ====

タタタタ…

   響き渡る銃声、反跳音

ゲンドウ「伏せろ、二人とも!!」

   隔壁の残骸の陰から射撃する戦略自衛隊の兵士たち

ガシャン!!…ザバアアアァ…

   砕け散るガラス

   LCLの奔流とともに流れ出し床に広がる手足、臓物

ゲンドウ「レイ!」

   頭を庇って伏せているゲンドウ

キン…キン……キン…

   ゲンドウの前、昂然と立ち兵士たちの方を見ているレイ

   その前面に小さな多角形状の光が断続的に花開いては消える

兵士A「A.T.フィールド!?」

兵士B「だめだ、ロケットランチャーを持ってこい!!」

ドサッ…

レイ「?」

   レイの足元に仰向けに倒れるリツコ

   目を見開いたまま絶命している

   容赦なく遺体に降り注ぐ銃弾

   時折、反射的に跳ね上がるリツコの体

レイ「……」

   リツコの顔を見るレイ

   急速に目の焦点が合う

レイ「……っ」

ゲンドウ「……レイ?」

   怯えた表情になるレイ

レイ「きゃあああああああああああああっ!!」

   閃光――


==== 発令所 ====

ピーッ

マヤ「!」

   操作卓の陰、警報音を発するマヤのノート型端末

マヤ「ターミナルドグマでパターン青!」

マコト「何だって!?」

   覗き込むマコトとシゲル

マヤ「あっ……消失しました……」

シゲル「何が起こってるんだ? いったい――」

パン!……ドサッ

一同「!」

   振り返るマヤ、シゲル、マコト

   血を流して倒れている冬月

   その向こう、いつの間にか立っている数人の兵士たち

シゲル「くっ!」

マコト「いつの間に……」

マヤ「……」

   おずおずと両手を上げながら立ち上がる三人

マコト(すみません、葛城さん……)

   銃声

   :
   :


==== ジオフロント ====

ガシャアン…

   破壊された地上施設から這い出す初号機

   上空を見上げる

シンジ「あれは!!」

   通過する大型機の編隊

   去った後に残される複数の小さな機影

ミサト『来るわよ! 撃ち落として!』

シンジ「りょ…了解!」

   :
   :


==== ターミナルドグマ ダミープラント ====

レイ「――リツコさん! リツコさん!」

   跪き、リツコの遺体を揺り動かし泣き叫ぶレイ

   「うう……」ガラッ…

レイ「!」

   ハッとして振り返るレイ

   片腕を押さえて立ち上がるゲンドウ

   全身ほこりにまみれ メガネの片方のレンズが脱落している

レイ「司令!」

ゲンドウ「レイ……」

   体を引きずるようにレイとリツコに歩み寄るゲンドウ

ゲンドウ「見るがいい――」

レイ「えっ……」

   周囲を見回すレイ

   レイの周囲 充満する煙と埃 一面に散らばる瓦礫

   なにか巨大な力でえぐり取られたような床材

   部屋の一角 ひときわ大きな瓦礫の山からいくつか覗いている軍服の手足


レイ「あ……」

ゲンドウ「これが……お前の本当の力だ」

   目を見開くレイ

   リツコの遺体のもとに跪くゲンドウ

ゲンドウ(赤木くん……)

   目を見開いたままのリツコの遺体

ゲンドウ(すまない……)

   目を伏せるゲンドウ

ゲンドウ(お母さんに、よろしく言ってくれ……)

   リツコの瞼を閉じてやるゲンドウ

レイ「……」

   リツコの左手に握られていたトランクを掴み、大儀そうに立ち上がるゲンドウ

レイ「司令!……腕が……」

   ゲンドウに歩み寄り支えようとするレイ

ゲンドウ「大丈夫だ。……行こう」

   歩き出すゲンドウ

レイ「行くって……どこへ?」

   傍らのレイを見下ろし、微笑むゲンドウ

ゲンドウ「お前が……還るべきところだ」

レイ「……かえ……る?」

   ゲンドウの顔を見つめ返すレイ

   埃にまみれた頬に涙の跡

   :
   :


==== 発令所 ====

   操作卓に着き慌ただしく作業している工兵たち

   その足元に転がっているマヤたちの死体

工兵「――マギ、再起動しました。しかし――」

士官「どうした」

工兵「オペレーターの生体認証を要求しています」


士官「生体認証?」

工兵「網膜と掌紋です」

   傍らの認証装置らしき部分を指す工兵

士官「おい」

兵士「はい」

   マヤの死体を引きずり起こす兵士

   指で瞼を開き、認証装置に押し当てる

   :
   :

==== ジオフロント ====

シンジ「当たれ!……当たれ!……」

   上空に向かって発砲する初号機

   回避運動をしながら降下してくるエヴァシリーズ

   :
   :

==== 発令所 ====

工兵「認証成功、通信系統、復旧します」

士官「よし――」

ピーッ

士官「――どうした」

工兵「は、はい……これは……」ピッ

ザザ…

ミサト『……よかった! 日向くん、そっちの状況は!?』

兵士たち「……」

ミサト『……日向くん?』ハッ…

ブツッ

   モニタに現れる発信元表示

   目線で指示する士官

   頷いて出ていく兵士たち

   :
   :   

==== ジオフロント ====

シンジ「……」ハァ…ハァ…ハァ…

   初号機の前方に降り立つエヴァシリーズ

   翼を収納して背を伸ばす

   その背後に、墜落してねじくれた数機の残骸

ミサト『シンジくん! B17番に予備の武器ラックを射出――』ガアアアアン!!

   ミサトの音声の背後で響く爆発音

シンジ「……ミサトさん?」


==== 管制室 ====

シンジ『ミサトさん! 何ですか、今の!?』

   煙が立ち込める室内

   ひしゃげ、外れかかっている外扉

   戸口の外、黒焦げになっている内壁

   折り重なる壁材と鉄骨、兵士の死体

ミサト「……これで……少しは時間が稼げるわね……」

シンジ『ミサトさん!?』

   操作卓に縋ってなんとか上体を起こすミサト

ミサト「大丈夫……たいしたこと……ないわ」

ピッピッピッ……

   武器管制システムのキーを叩くミサト


==== ジオフロント ====


ミサト『いい? ここから先はもうあなた一人よ。やれるわね?』

シンジ「そんな! 無理ですよ! たった一人でこんな――」

ミサト『大丈夫……あなたならやれるわ。――大切な人たちを失っても、歯を食いしばって戦ってきた、あなたなら』

シンジ「違うよ、僕はただ――」

ミサト『エヴァシリーズを倒しなさい。倒して……レイを助けなさい』

   息を呑むシンジ


シンジ「……綾波……を?」


==== ケージ 管制室 ====

ガンッ… ガンッ…

兵士A『開いたかっ!?』

兵士B『いや……この鉄骨が邪魔して――』

兵士A『RPGを使え!』

   操作卓にもたれているミサト

ミサト「そうよ……レイを、見捨ててなんて、おけないでしょ?」

シンジ『……で、でも、どうすれば――』

ミサト「私には、そこまでしかわからない。でも、それが、あなたに今できること……ううん、しなくちゃならないことよ」

   腹部を押さえた手を少し放して出血を確かめるミサト

ミサト「私の……最後の命令よ」

シンジ『……はい……』

   大儀そうに姿勢を変えるミサト

ミサト「いい子ね……それが終わったら、その先は……あなた自身が決めなさい」

ピッ……

   実行キーを押すミサト

==== ジオフロント ====

ガラガラガラ……ガシャアアアァン

   地下から初号機の足元にせりあがる武器ラック

ミサト『これが終わったら……また……シンちゃんのお料理が食べたいな……』

シンジ「ミサトさん!?」



==== ケージ 管制室 ====

ミサト「フフ……楽しみに……してるわ……」

   ずるずると床にくずおれるミサト

シンジ『ミサトさん!? ミサトさん!!』

ドカドカドカ……

   踏み込んでくる兵士たち

兵士「!!」

ミサト「……」ニコ……

   発火ピンを抜いた擲弾を見せ、不敵に微笑むミサト

==== ジオフロント ====

シンジ「ミサトさん!! ミサ――」

ガシャン!!……ザ―――

   衝撃音のあと沈黙するスピーカー

シンジ「ミサトさあーーーーん!!」

==== ケージ 管制室 ====

   閃光に包まれるミサト

ミサト(加持くん……これで……よかったわよね……)

==== ジオフロント ====

シンジ「ううっ……」グスッ…

シンジ(ミサト……さん……)

ピピピピ…

シンジ「!」ハッ……

   初号機の前方、半ば円を描く様に立ちはだかるエヴァシリーズ

シンジ「くそっ!!」

   涙をかみしめながらモニタを睨むシンジ

ガシャッ…

   弾が切れた火器を投げ捨て、ラックから新しいライフルをつかみ出す初号機

シンジ(やってやる!! 見ててよ、ミサトさん!!)

ザザ……

シンジ「……?」

   『シンジくん……』ザザ…

シンジ「えっ……」ギクッ

   正面のエヴァの一機 その傍らに現れる通信ウィンドウ

シンジ「!」

   ウィンドウの中からシンジを見つめ返している人物

シンジ「カ……カヲル……くん?」

別カヲル「……」ニコ…

ヴン……

   その隣のエヴァの傍らに現れる別のウィンドウ

別カヲル2「また逢えて嬉しいよ」

シンジ「!」

ヴン……

   さらに現れるウィンドウ

別カヲル3「今度こそ――」

シンジ「!!」

ヴン……

別カヲル4「君だけは――」

ヴン……

別カヲルたち「幸せにしてみせるよ」

シンジ「……うっ……」ワナワナ…

   インダクションレバーを握り締め顔を伏せるシンジ

   初号機に向かってにじり寄るエヴァシリーズ

シンジ「くそおおおぉっ!!」

   雄たけびをあげるシンジ

   エヴァシリーズに向かってライフルを乱射する初号機

   倒れる先頭のエヴァ

   踏み越えて初号機に迫るエヴァシリーズ

   :
   :

==== 発令所 ====

兵士A「――本部施設はほぼ制圧しました。残るはターミナルドグマのみです」

士官「わかった」

カチッ

士官「そちらの状況は?」

兵士B『現在、瓦礫を撤去中。碇ゲンドウとファーストチルドレンはロスト中……ですが、奥に進むしかないはずです』

士官「わかった。引き続き作業に当たれ」

兵士B『了解……おい、急げ!!』

   :
   :

==== ジオフロント ====

   初号機に向かって大剣を振り下ろす量産型エヴァ

シンジ「くっ!!」ガガガガ…

   身をかわし至近弾を撃ち込む初号機

   腕と体側の装甲を吹き飛ばされ倒れる量産機

ガシッ

   弾の切れたライフルを投げ捨て、倒した量産機の剣を拾い上げる初号機

ガキイイイイイィン

   振り向きざま、新手のエヴァの剣を受け止め、弾き飛ばす初号機

   :
   :

==== ターミナルドグマ リリスの間 ====

ゲンドウ「……」ハァ…ハァ…

   レイに支えられLCL溜まりの縁まで歩いてくるゲンドウ

プシュー…

   トランクを床におろし蓋を開ける

   中から何かを取り出し、レイに差し出すゲンドウ

ゲンドウ「『アダム』だ、レイ」

   ゲンドウの手の中 石化した胎児のような物体

ゲンドウ「ユイのシナリオを完成させるには、これしかない。アダムとリリスの、禁じられた融合だけだ」

レイ「……融合……?」

   :
   :

==== ジオフロント ====

シンジ「……」ハァ… ハァ… ハァ…

   立ち尽くす初号機

   周囲に散らばっているエヴァシリーズの残骸

シンジ「ミサトさん……」

ザー…

   ノイズしか聞こえてこないスピーカ

シンジ「やったよ……ミサトさん……」

ザー……

シンジ「うっ……うぐっ……」


==== 発令所 ====

工兵「初号機が、エヴァシリーズを殲滅しました」

士官「9機も揃えておいて、この体たらくか……ここから初号機を停止できるか?」

工兵「だめです。電源も独立しており、外部からの遠隔操作も遮断されています」

士官「しかたない。N2誘導弾の第2波を――」

工兵「待ってください!」

士官「――どうした?」

   :
   :


==== ジオフロント ====

ピピッ…

シンジ「?」

   顔を上げるシンジ

   モニタの中、身を起こす量産型のひとつ

シンジ「えっ?……」

   次々に立ち上がるエヴァシリーズ

   最初に撃ち落としたエヴァも動き出す

量産機「……」グググ…

   変化を始める量産機の頭部

別カヲル『シンジくん……』

   カヲルの顔になり、静かに初号機に向かって微笑んでいる量産機

シンジ「!!」

別カヲル2『とうとう、僕たちの願いが始まるんだね……』

   初号機に頭蓋を割られたエヴァ

別カヲル3『さあ、儀式を始めようか』

   脳組織らしきものと眼球が飛び出したままカヲルの顔になっていく

シンジ「うわああああああああああ!!」

   頭を抱えて絶叫するシンジ

   :
   :

(第25話「Air」相当分まで 了)

本日はここまで

>>137>>138の間

マヤちゃん達死んじゃったか…
ゲンドウがなんかまともに見えるな

>>274
 ありがとう
 
>>270から続きます

==== リリスの間 ====

レイ「!」ハッ……

ゲンドウ「……レイ?」

   天井のあたりを不安げに見上げるレイ

   手には、ゲンドウから託された「アダム」

レイ「碇くんが……呼んでる……」

ゲンドウ「そうか……」

ガン……ガン……

ゲンドウ「!」

   隔壁の向こうから聞こえる、くぐもった衝撃音

ゲンドウ「時間がない……始めるぞ、レイ」

レイ「始めるって、何を……きゃっ!」

   レイを抱え上げるゲンドウ

レイ「司令! 腕は――」

   歯を食いしばるゲンドウ

ゲンドウ「何者でもなく、空っぽだったお前が、今はシンジに教えられたもので満たされている」

レイ「えっ……」

   レイの顔を見て少し微笑むゲンドウ

ゲンドウ「違うか、レイ」

   レイの体をLCL溜まりの上に差し出し、腕を離してしまうゲンドウ

レイ「司令!……あっ……」

   そのままふわりと空中にとどまっているレイ

   目を見開いて自分の周囲を見回すレイ

   :
   :

==== 発令所 ====

工兵「大気圏外より、高速接近中の物体あり!!」

士官「何だと!?」

   主モニター上、輝きながら飛来する物体

士官「あれが……ロンギヌスの槍か……」



==== リリスの間 ====

   空中に浮かんでいるレイ

ゲンドウ「さらばだ、レイ」

   微笑むゲンドウ

レイ「そんな……司令!」

   リリスに向かって空中をゆっくりと滑り始めるレイ

ゴッ!!……グワアアアァン

   爆発とともに手前に転がる隔壁

   銃を構えるゲンドウ

ゲンドウ「行け、レイ。シンジが待っている」

レイ「司令!!」

タタタタ…

   始まる銃撃

   反撃を試みるゲンドウ

レイ「司令!!」

   レイの周囲、次々に花開くA.T.フィールドの小さな波紋

   LCL溜まりの上を昇っていくレイ

レイ「司令!!」

   身をよじり、手をのばすレイ

   床にくずおれるゲンドウ 周囲に赤い染みが広がっていく

レイ「司令――」

   背後から延びてきた、柔らかな白い物体に突如包み込まれるレイ

   ゲンドウに向かって伸ばした手だけが取り残され、やがてそれも飲み込まれる

   辺りを包む白い光

   レイの脳裏に響く声

   『オカエリナサイ……』

   :
   :

==== 発令所 ====

士官「これは……サードインパクトの前兆なのか!?」

   主モニターの中、初号機を上空に拘引していくエヴァシリーズ遠望

カッ!!

   ホワイトアウトする主モニター

ズズズズズズ……

工兵A「直撃です!」

工兵B「本隊との通信途絶!!」

工兵C「第2波が本部周縁を掘削中!」

士官「アブソーバーを最大にすれば耐えられるはずだ! 急げ!」

ドドドドド……

士官(『補完計画』の――)

  蒼白になってネルフ職員たちの死体を見下ろす士官

士官(ネルフでは……なかったのか!?)


==== 地上 ====

   えぐられた地面から浮かび上がる、都市ほどもある巨大な黒い球体

==== 発令所 ====

ビーッ

工兵A「ターミナルドグマより、正体不明の高エネルギー体が急速上昇中!!」

工兵B「A.T.フィールド確認! 分析パターン、青」

士官「まさか! 使徒か!?」

工兵A「いや、違う! ヒト……人間です!!」

   フロアから伸び上がる巨大な白い人型の物体

士官(これが……リリス!?)

工兵A「ひっ……」

   操作卓につく工兵のひとりの体を、白い巨人の手がすり抜けていく

   背を伸ばし、辺りをみわたす巨人

   その顔はレイ

   『……』

   白い巨人の目に映るフロアの惨状

   オペ席の傍らに折り重なるように倒れているマコトたちオペレータの死体

   恐怖に目を見開いて見上げる兵士たち

   悲しげに見下ろす白い巨人

   :
   :

==== 上空 ===

   雲上に伸び上がる白い巨人

   その視線の先、カヲルの顔をしたエヴァシリーズに拘引されていく初号機

   下半身がなく断面から神経や筋肉、臓物のようなものがぶら下がって風に揺れている

   頭部が半壊し眼球が飛び出している

   その様子を見て息を呑む白い巨人

   『碇くん!!』

   :
   :

==== 初号機プラグ内 ====

   気を失っているシンジ

   頭皮のどこかが破れて流れ出した血が片頬をべったりと覆って固まりかけている

   漏出し、シンジの腰のあたりまでしかないLCL

   間欠的に瞬断するプラグ内壁モニタ

   LCLの液面から露出した部分はLCLの補色=青みがかった色合い

   『碇くん!!』

   シンジの頭にこだまするレイの声

   うっすらと目を開けるシンジ

シンジ「綾……波……」

   『碇くん!! 大丈夫!? 碇くん!!』


   モニタの向こう、レイの姿をした白い巨人が泣きながら両手を差し伸べる

シンジ「ここにいたの……綾波……」

   安堵の笑みを浮かべるシンジ

シンジ「よかった……」

   微笑んだまま、また目を閉じるシンジ

   目を見開く白い巨人

   『碇くん!!』

   :
   :

==== 発令所 ====

   主モニター上、樹皮に覆われていく初号機

工兵「リリスよりのアンチA.T.フィールド、さらに拡大!! 物質化されます!!」

==== 衛星軌道高度 ====

   大気圏に浮かぶ黒い球体を両手で包み込むような姿勢で大気圏外に身を起こす白い巨人

==== 発令所 ====

工兵A「アンチA.T.フィールド、臨界点を突破!!」

工兵B「駄目です……このままでは個体生命の形が維持できません!」

==== 衛星軌道高度 ====

   伸び上がる白い巨人 背中から6対の巨大な翼を広げる

==== 発令所 ====

   ノイズに満たされる主モニター

   士官の目の前で次々にLCLと化していく部下の兵士たち

士官「作戦は……失敗だったな……」

   肩を落とす士官

   「ぱぱ」

士官「……?」

   振り返る士官

   見上げている幼女

士官「……ミキ?」

   にっと笑って士官に両手をのばす幼女


士官「ミキ!」

   少し震えながら幼女を抱き上げる士官

士官「ああ……ミキ……」

   白いものが混じる頬髯を濡らす涙

幼女「ぱぱ……おひげ……」

士官「ああ、ごめんよ」

   幼女を抱きしめたまま顔を少し放す士官

   その視線の先 静かに微笑みながらたたずむ若い女性

士官「ユミコ……」

女性「おかえりなさい、あなた」

   幼女を抱えたまま、女性を見つめる士官

士官「すまなかった……あの時は……」

   頭を振る士官 また涙が頬を伝う

士官「俺が、いてやりさえすれば……お前たちは……」

女性「いいのよ、もう」

   歩み寄る女性 その肩を抱き寄せる士官

士官「二度とお前たちを置いて行ったりしないから――」

   若き日の妻と娘の髪に顔をうずめる士官

パシャン……

   :
   :


==== 暗闇の中 ====

   次々と消えていくモノリス群

   :
   :



==== 宇宙空間 ====

   恍惚とした表情で自らのコアに槍を指していくエヴァシリーズ

   地上を埋め尽くす光の十字架の群れ

   白い巨人の額 亀裂に取り込まれていく、樹となった初号機

   :
   :

========

   水音――

シンジ「……」

   ゆっくりと目を開けるシンジ

シンジ(……ここは?)

   オレンジ色の海の中のような光景

   空には月

   横たわっているシンジ

シンジ「……?」

   微かに耳に届くすすり泣き

   身を起こすシンジ

シンジ「……」

   少し離れた場所 顔を膝にうずめて座っている少女

   水色の髪

シンジ「……綾波?」

   立ち上がり歩み寄るシンジ

   レイ、膝に顔をうずめたまま

レイ「みんな、死んでしまった」

   レイの傍らにしゃがみ込むシンジ

レイ「みんな、溶けてしまった……混ざり合ってしまった……」

シンジ「……」

レイ「みんな、私のせい」

シンジ「綾波……」

レイ「こんな力なら、いらなかった。普通のヒトに生まれたかった……碇くんと同じ、普通のヒトに……」

   しゃくりあげ、しゃべり続けるレイ

レイ「こんな……力なら――」

シンジ「違うよ、綾波」

レイ「……」

シンジ「ここからが……君の本当の役目なんだろ?」

レイ「……え?」

   顔を上げるレイ  頬に涙の跡

シンジ「君が力を持っているのは、それが必要だったから……父さんは、最初からわかってたんだ、こうなるって」

レイ「……」

シンジ「最初から、全部仕組まれていたんだ。綾波が生まれたことも、僕がこの街に呼ばれたことも――」

レイ「!」

シンジ「――僕たちが……出逢ったことも」

レイ「嫌……」

   シンジの顔を見て、怯えたように首を振るレイ   

   レイの目を見るシンジ

シンジ「でも……きっかけは何だっていい」

   シンジの目を見るレイ

シンジ「僕は、また綾波に逢えてよかった」

   はにかんだように微笑むシンジ

   しばし、その目を見つめるレイ   

レイ「私も……碇くんに、また逢えてよかった」

   新しい涙が頬を伝う

   立ち上がるシンジ

シンジ「はじめよう、綾波」

   レイに手を差し伸べるシンジ

レイ「でも……何をしたらいいか、わからない」

シンジ「僕にもわからない。でも、君は知っているはずだよ」

   泣くのをやめ、ふと視線を宙空にさまよわすレイ


   初号機のケージでシンジと出逢ってからのことがありありと蘇えってくる

レイ「私は……」

   呟くレイを見つめているシンジ

   差出されたままのシンジの手を握り、立ち上がるレイ

   手をほどき、姿勢を正してシンジに向き合う

シンジ「……」

   軽く咳払いするレイ シンジの目を正面から見て

レイ「碇くんは……何を願うの?」

   レイの目を見据えて、息を吸い込むシンジ

シンジ「使徒もエヴァもない世界――」

レイ「……」ハッ…

シンジ「――覚えてる?」

レイ「……ええ」

シンジ「使徒やエヴァで、みんなが悲しまなくていい世界。アスカや、トウジや、ミサトさんや……父さんや……すべての人たちが」

   互いの脳裏によみがえる、海岸でのひととき

シンジ「これで……いいんだよね?」

   頷くレイ

   シンジに右手を差し出すレイ

   その手を握るシンジの右手

   輝きだすレイの体

   :
   :


==== ターミナルドグマ リリスの間 ====

   一面に散らばる瓦礫

   数多くの軍服 その周囲にはLCL溜まり

   一人、横たわっているゲンドウ

ゲンドウ「……」

   むくりと身を起こすゲンドウ


   立ち上がり、周囲を見渡す

ゲンドウ「……」

   足元を見下ろすゲンドウ

   床に横たわっている自らの亡骸

   顔を上げるゲンドウ

   少し離れたところに立っている女性に気付く

ゲンドウ「この時を……ただひたすら待ち続けていた……ようやく会えたな、ユイ」

   微笑むユイ

   どこか天井のあたりを見上げるゲンドウ

ゲンドウ「はじまったようだな」

   同様に見上げるユイ

ゲンドウ「ちゃんとやれたのか……俺は……」

ユイ「ええ」

ゲンドウ「そうか……」

ユイ「ごめんなさい。あなたにばかり、辛い役目を押し付けてしまった」

   歩み寄り、ゲンドウの腕に手を添えるユイ

ゲンドウ「俺は、君のシナリオをなぞったに過ぎない」

   自嘲気味に微笑み首を振るゲンドウ

ゲンドウ「シンジには……気の毒なことをしてしまった」

ユイ「そうね」

   俯くユイ

ユイ「でも……それも、もう終わり」

ゲンドウ「うまくやれるんだろうか?」

ユイ「大丈夫……」

   ゲンドウの顔を覗き込み微笑むユイ

ユイ「あなたと私の子供が、私達の分まで、未来を紡いでくれる」

ゲンドウ「……」

ユイ「あなたと私は、あの子をこの世に送り出すために出会ったのよ」

ゲンドウ「そうかもしれんな……」

   リリスがいなくなった巨大な赤い十字架を見上げるゲンドウ

   その視線を追うユイ

ユイ「それと……レイも……」

ゲンドウ「ああ」

   自らの腕に添えられたユイの手に、自らの手を重ねるゲンドウ

   :
   :

==== LCLの海 ====

   輝きを増すレイの体

レイ「ありがとう、碇くん」

   シンジと結んだ手を見つめるレイ

レイ「これで……お別れ」

シンジ「えっ?」

   レイの顔を見るシンジ

レイ「私は……使徒から作られた存在」

   まだ手を見つめているレイ

レイ「だから……使徒もエヴァもない世界に存在することはできない」

シンジ「……そんな!」

   ハッとするシンジ

シンジ「……君は……最初からわかってて……」

   ふいに遠ざかるレイ

   ほどける手と手

シンジ「ちょっと……待って!!」

   手をのばすシンジ そのわずか先を離れていくレイの手

レイ「仕組まれていたことだっていい」

   離れていくレイ

レイ「私、よかった。碇くんと出逢えたこと」

   悲しげに、しかしどこか晴れ晴れとした様子で微笑むレイ

シンジ「綾波!」

   追いすがるシンジ レイに向かって手をのばす

レイ「さよなら――」

   輝きに飲み込まれるレイの最後の微笑み

   砕け散るレイ

シンジ「!」

   光に包まれるシンジ

   :
   :

==== 宇宙空間 ====

   のけぞり、背中から地表に倒れこんでいく白い巨人

   突如、上体が砕け散り、やがて全身が崩壊し衛星軌道上に飛び散っていく

   地表に降り注いでいく、白い巨人の体だったものの破片

   :
   :

   地表に落下していくエヴァシリーズ   

   入れ替わりに宇宙空間に飛び去っていく十字架の群れ

   :
   :

  『碇くん……私は

   砕けて散ってすべてのものに降り注ぎ
 
   待っている……あなたが

   還ってくるのを――』

   :
   :

旧劇場版第26話「まごころを、君に」、漫画版STAGE94「掌」相当分まで 了

「起きなさいよ、バカシンジ!」

シンジ「えっ?」

==== シンジの部屋 ====

シンジ「……」

   どこか見覚えのある部屋で目覚めるシンジ

アスカ「ようやくお目覚めね」

シンジ「え?」

   傍らに腕組みをして立っているアスカ

アスカ「『え?』じゃないわよ、こうして毎朝、遅刻しないように起こしに来てやってるのに!」

   不機嫌そうな声

アスカ「それが幼馴染に捧げる感謝の――」

シンジ「あっ……アスカ!!」

アスカ「――な、何よ!……え?」

   涙を浮かべているシンジ

アスカ「あ……アタシ、そんなキツイこと言った?」

   手の甲で涙をぬぐうシンジ

シンジ「だって……アスカが生きてる――」グスッ

アスカ「はぁ!?」

バチーン!!

アスカ「なに縁起でもないこと言ってんのよっ!!」

シンジ「……」

アスカ「どんな夢見たか知らないけど、いつまでも寝ぼけてんじゃないわよ!!」

シンジ「う、うん……ごめん……」

アスカ「さっさと起きなさいよ! ホントに置いてくわよ!」

ドスドス……バタン

   立ち去るアスカを呆然と見送るシンジ

シンジ(……そっか……うまくいったんだ……)

   :
   :

==== ダイニング ====

   食卓からトーストを一枚とって玄関に向かうシンジ

   制服姿

   戸口から顔をのぞかせているアスカ

アスカ「じゃあ、おば様、行ってきまーす」

ユイ「はい、行ってらっしゃい」

   洗い物をしながら答えるユイ

シンジ「……」

ユイ「……? どうしたの、シンジ」

シンジ「ううん……行ってきます」

   出ていくシンジの背後から聞こえてくる会話

ユイ「――あなたも、新聞ばかり読んでないで、さっさと支度してください!」

ゲンドウ「ああ、分かってるよ、ユイ」

シンジ「……」

   :
   :

   マンションから走り出すシンジとアスカ

   ふと振り返るシンジ

   ミサトたちと住んだマンションであることに気付く

シンジ(そっか……ここで暮らしてることになってるのか……)

アスカ「ほらぁ! 早くしなさいよ!!」

シンジ「う、うん」

   :
   :

==== 通学路 ====

   歩道橋を駆けて行くシンジとアスカ

シンジ(街並みは……まるっきりおんなじなんだな……)

   歩道橋の階段の下り口、ランドセルを背負った女の子二人と、中学生らしい男女

アスカ「おっはよ、ヒカリ、鈴原」

   振り返る制服の少女とジャージ姿の少年

シンジ(!!)

ヒカリ「あ、おはよう、アスカ」

トウジ「おう、おはようさん……ん?」

   階段を下り切る数段上、立ち止まり、トウジの顔を見て涙ぐんでいるシンジ

トウジ「ど……どないしたんや、シンジ!?」

アスカ「あー……さっきからこの調子なのよ。また、夜中まで変なゲームしてたんからじゃない?」

ヒカリ「ちょっと、アスカ!」

シンジ「いいんだ、委員長」グスッ

   歩きながら交差点に差し掛かる一同

ヒカリ「ほら、ノゾミ」

ノゾミ「うん、じゃあね、お姉ちゃん。いこ、サクラちゃん」

サクラ「うん! ほな、行ってくるわ」

トウジ「おう、気いつけてな」

   サクラの手をひいてかけて行くノゾミ

   後ろ姿をぼんやりと見送るシンジ

   :
   :


==== 第壱中学校 2年A組 教室 ====

ガラッ……

男子「おはよう、碇」

シンジ(この子も……)

女子「あ、おはよう。碇くん」

シンジ(この子も……)

   「おっす、碇」

シンジ(ケンスケ……)

   「やあ、おはよう、シンジ君」

シンジ(カヲルくん!!)

   「おっはよ、わんこ君」

シンジ(おはよう、真希波……って、あれ? こんな子いたかな……)

男子「おお~っ!!」ドヨドヨ……

シンジ(?)

   窓際に駆け寄っていく男子生徒たち

   行ってみるシンジ

   ビデオを構えているケンスケ

   スキール音を響かせ、職員駐車場に滑り込む青いルノー

   颯爽と降り立つスーツ姿の女性

シンジ(ミサトさんだ……)

トウジ「おおーっ! 加持先生や!」

シンジ(えっ?)

トウジ「やっぱええなぁ、加持先生は」

アスカ、ヒカリ「何よ、バッカみたい!」

   窓から見下ろすシンジ達に手を振ってウインクするミサト

シンジ(そっか……よかったね、ミサトさん)

   :
   :

ヒカリ「きりーつ……れーい…ちゃくせーき」

ガタガタン……

ミサト「えー、それじゃあ、先日のテストを返すわよん――」

生徒たち「ええ~~~っ!?」

シンジ(……)

   窓際の席を見るシンジ

   レイではない、クラスメートの一人が座っている

シンジ(……)

   :
   :

==== 夕暮れ ====

    明かりの灯ったマンションの外観

    聞こえてくる会話   

ユイ「ただいまー」

シンジ「あ、お帰り、母さん」

ユイ「あー、疲れたー。シンジ、お夕飯、なに?」

シンジ「スパゲティ」

ユイ「ありがとー! 母さん、もうお腹ペコペコ!」

シンジ「わっ!やめてよ母さん、恥ずかしいよ!」

   :
   :

==== それから ====

避難訓練

運動会

教育実習

…過ぎていく日々

   :
   :

==== ある夜 ====

   自室の机に向かっていたシンジ

   ふと鉛筆が止まる

シンジ「……」

   窓外に視線を彷徨わせるシンジ

   夜の街を淡く照らし出す月明かり

==== リビング ====

   前髪にカーラーを巻いて雑誌を読んでいるユイ

   戸口を行き過ぎるシンジ

ユイ「あら? シンジ、どこへ行くの?」

   靴を履きながら   

シンジ「ううん……ちょっと外の空気、吸ってくる」

ユイ「……シンジ?」

ギィ……ガチャン……

   :
   :

==== とある川岸の護岸 ====

   走ってくるシンジ

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   手を膝について息を切らしている

   地面に滴るしずく

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   上体を起こし、階段護岸に向かって降りるシンジ

シンジ「……」ハァ…ハァ…

   夜空を見上げる

   街の明かりにかき消されがちな星々

シンジ(この世界が造り直されたこと……)

   頬を零れ落ちる涙

シンジ(覚えているのは……結局、僕一人なのか……)


シンジ「うっ……ううっ……」

   声を殺して泣くシンジ

   :
   :

シンジ「……」ヒュッ……ポチャン…

   護岸に座り込んでいるシンジの後姿

   時折水面に向かって石を投げる

ヒュッ…

シンジ「?」

   近くを飛び過ぎる石

パシッ…パシッ…パシッ……ポチャン…

   何度か水を切って勢いを失って沈む

ザッ…

   シンジの傍らに立つ人影

   見上げるシンジ

シンジ「父さん……」

   足元の石を物色しているゲンドウ

ゲンドウ「昔はこのくらいの幅なら向こう岸まで届いたんだがな……」

   モーションをつけてまた石を放る

   また水を切ってから沈む石

   背を伸ばしポケットに手を入れるゲンドウ

ゲンドウ「ふうん……似ているな」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「母さんと知り合った頃の、鴨川の川辺にな」

シンジ「……」

ゲンドウ「もっとも、わざと似せて造られたんだろうが」

シンジ「……」

ゲンドウ「何があったのかは聞かん」

シンジ「えっ?」

ゲンドウ「だが、自分の願望は、あらゆる犠牲を払い、自分の力で実現させるものだ。 他人から与えられるものではない」

シンジ「……」

   ふっと表情を和らげるゲンドウ

ゲンドウ「そのうち、お前にもわかる。大人になればな」

シンジ「父さん……」

ゲンドウ「帰るぞ。母さんが心配している」

シンジ「うん……」

   立ち上がるシンジ

   歩き出すゲンドウ

   続くシンジ

シンジ(そうか……)

   数歩歩いて、先を行くゲンドウの背中を見るシンジ

シンジ(父さんは……やり遂げたんだ……自分自身の生きた証しさえ犠牲にして)

   振り返って夜空を見上げる

シンジ(綾波……)

   《シンジ回想》

   ――私は砕けて散ってすべてのものに降りそそぎ

     待っている

     あなたが還って来るのを――

――――――
――――
――

ゲンドウ「どうした」

   少し先で立ち止まり振り返っているゲンドウ

シンジ「ううん……」

   歩き始めるシンジ

シンジ(綾波は、わかってた。わかっていて、最後に僕を送り出してくれた)

   流れていく風景を見回すシンジ

シンジ(綾波はいないんじゃない。この世界が綾波なんだ)

シンジ(僕を……待ってくれている……そうだよね?)

シンジ(うまくできるか、わからないけど……僕も精いっぱいやってみるから……綾波が残してくれた、この世界で)

シンジ(待っていて……君に、還っていくのを)

   夜の街を遠ざかるゲンドウとシンジの後姿

   障害灯を明滅させるビル群のシルエット

   遠い唸りを轟かせながら行き過ぎるジェット機の灯火

   :
   :

TV版最終話、漫画版LAST STAGE相当分まで 了

==== 朝 ====

   生徒たちの人波が途絶えた道を走っているシンジとアスカ

アスカ「――まったく! ちゃんと時間に起きなさいよ!」ハァ…ハァ…

シンジ「ご、ごめん!」ハァ…ハァ…

アスカ「これじゃ、アタシまで遅刻――」

シンジ(?)

   曲がり角の向こうから響く慌ただしい靴音

シンジ「!!」

   横から飛び出してくる人影

ドンッ!!

バサバサバサ……

   驚いて飛び去っていく電線のスズメたち

シンジ「うう……」

   頭を押さえて尻もちをついているシンジ

シンジ(ん?)

   顔を上げるシンジ

   その正面、やはり尻もちをついて頭を押さえている少女 蒼い髪

   呆然とその顔を見るシンジ

少女「あ痛たたたた――――ん?……あっ……」

   シンジの顔を不審げに睨み、慌ててスカートの裾を押さえる少女

シンジ(あ……綾波!?)

   さっと立ち上がり、駆けて行く少女

少女「ごめんね、マジ、急いでたんだ!」

シンジ「あ……」

少女「ほんと、ごめんねー!」

   去っていく後姿

シンジ(綾波?……だよな……どう見ても……)

アスカ「な……なによ、アイツ……」

少女『初日から遅刻じゃ、かなりヤバいって感じだよねー……』


シンジ(でも……だいぶ感じが違うんだな……)

アスカ「シンジ!」

シンジ「えっ?」

アスカ「ほら、なにボサっとしてんの! ホントに遅刻するわよ!!」

シンジ「う、うん!」

   再び走り出すシンジとアスカ

   :
   :

==== 教室 ===

ケンスケ「――で、見たのか? その女のパンツ」

シンジ「えっ?」

トウジ「そのシチュエーションで見とらんはずないやろ!!」

シンジ「し、知らないよ! とにかく一瞬のことだったんだから――」

トウジ「かあぁ~っ!! 朝っぱらから運のええやっちゃなあ!」

シンジ「いや、だから――」

トウジ「――いっ痛ててて! いきなり何すんのや!」

ヒカリ「あんたこそ、朝っぱらから何バカなこと言ってるのよ! ほら! さっさと席に――」

ガラッ……

   入ってくるミサト

ヒカリ「――あ……きりーつ!」

ガタガタン……

ヒカリ「れーい」

一同「おはようございまーす」

ヒカリ「……ちゃくせーき」

ミサト「さてと……喜べ男子ぃ! 今日は転校生を紹介するぅっ!」

   ミサトの傍らに立つ青い髪の少女 にっこり笑って

少女「綾波レイでーす! よろしくー!」

シンジ「あっ……」

レイ「?……あああーっ!!」


   シンジを指さすレイ

   一斉にシンジを見るクラスメート

レイ「あんた、今朝のパンツのぞき魔っ!!」

シンジ「えっ?」

ガタン!

アスカ「ちょっと、言いがかりはやめてよ! あんたがシンジに勝手に見せたんじゃない!!」

シンジ「いや、あの――」

   アスカを睨んで反撃するレイ

レイ「あんたこそ何? すーぐこの子かばっちゃってさ。何? できてるわけ? ふたり?」

   怯むアスカ

アスカ「たっ……ただの幼なじみよ! うっさいわね!」

バン!

ヒカリ「ちょっと! 授業中よ! 静かにしてください!!」

ミサト「まあ楽しそうじゃなーい? あたしも興味あるわぁ。続けてちょーだい」

ワハハハハ……ギャーギャー…

シンジ(そっか……やっぱり綾波なのか……)

   暗い顔でやりとりを聞いているシンジ

シンジ(この世界の……)

   :
   :

==== 昼休み 屋上 ====

シンジ「……」

   寝転んでS-DATの音楽を聴いているシンジ

   と、頭の方にさす影

レイ「おーい、パンツ覗き魔ぁ。何やってんの? ここんなとこで」

シンジ「……なんだ、君か……」

   むすっとして

シンジ「そんなとこに立ってると、またパンツ見えるよ?」

レイ「『また』って……あー! やっぱり見たなぁ!?」


シンジ「どっちでもいいよ……」

   イヤフォンを外して上体を起こすシンジ

レイ「……なーに? 反応うすいなー……よっと」

   シンジのとなりに座るレイ

レイ「そうやって自分の世界に閉じこもってちゃだめだよ?」

シンジ「自分の世界……か……」

   苦笑するシンジ

シンジ(そうかもしれないな……僕は……)

レイ「ねえ……どう? ここの住み心地」

シンジ「……まあ……」

   街並みを見やるシンジ

シンジ「悪くないと思うよ。一応、来年は首都になる予定だから、いろいろ便利だし」

レイ「んーと、この街のことじゃなくて……」

シンジ「……?」

   レイを振り返るシンジ

   真顔で街並みを見ているレイ

レイ「この……世界のこと」

   はっとするシンジ

レイ「……使徒もエヴァもない世界」

シンジ「!」

   目を見開くシンジ

シンジ「き……君は!!」

   不安げにシンジを見るレイ

シンジ「綾波!?……綾波なの!?」

   安心したように笑みを浮かべるレイ

レイ「よかったー! 碇くんで」

シンジ「……何だよ……」

   顔をゆがめるシンジ

レイ「えっ?」

シンジ「ずっと探していて……見つからなくて……やっとあきらめたとこだったのに……」

レイ「い……碇くん?」

   膝に顔をうずめるシンジ いつしか涙声で

シンジ「やっと……綾波がいない世界でも頑張っていこうって決めたところだったのに……」

レイ「あの……えーと……」

シンジ「どうして……どうしてもっと早く教えてくれなかったんだよ!?」

レイ「ご、ごめん……あたしも、よくわからないっていうか……」

シンジ「えっ……」

レイ「許されないと思っていた……この世界には、相容れない存在だから」

シンジ「……」

レイ「碇くんが許してくれたから、だったらいいなって、思ってた」

   困った笑みを浮かべるレイ

シンジ「綾波……」

   立ち上がるレイ 少しわざらしく快活に

レイ「今度はさ、ちゃんとお父さんとお母さんもいるんだよ? 使徒がどうのこうのじゃなくて」

シンジ「え?」

レイ「二人ともすごく優しくって……あたしがこんなナリだから、小さいころからだいぶ苦労かけちゃったみたいだけど」

   前髪を引っ張ってみるレイ

シンジ「そっか……」

   床に目を落とすシンジ

シンジ「あの……ごめん」

レイ「何が?」

シンジ「綾波が悪いわけじゃないのに、勝手なこと言って」

レイ「ううん、いいよ。……あたしもよかった、碇くんが碇くんで。違ったら、どうしようかと思っちゃった」

シンジ「え……」

レイ「この学校があるのは、調べて知ってた。そのうち、自分の目で確かめに来ようと思ってたんだ。ちゃんと碇くんがいるか……あたしの知ってる碇くんかどうか」

シンジ「……」


レイ「そしたら、急に引っ越すことになって、ちょうどよかったかなあって」

   照れ笑いするレイ

   真顔になるシンジ

シンジ「ねえ……僕たちの他にも……いるの?」

   首を振るレイ

レイ「いるのかも知れないけど、会ったこと、ない」

シンジ「そっか……」

レイ「……碇くん?」

シンジ「苦しかった……あの世界のこと……知ってるのは自分しかいないと思って……」

レイ「……」

シンジ「加持先生……ううん、ミサトさんのお腹、見たろ? 来月から産休だって」

   俯くシンジ

シンジ「あの世界では、ミサトさん、僕を助けるために、人殺しまでしたんだよ? それに比べたら、どんなことがあったって、これ以上ないくらい幸せなんだろうと思う。でも――」

レイ「……」

シンジ「あの戦いのことを知らなかったら、どれだけ幸せなことなのか、わからないんじゃないかな……」

レイ「……」

シンジ「アスカやトウジやケンスケや委員長だって……そう思ったら、居ても立ってもいられなくなって――」

レイ「あたしも同じ」

   俯き、ぽつりとつぶやくレイ

シンジ「――えっ?」

レイ「どうしてなんだろうって、考えたら、たまらなくなっちゃって……」

シンジ「……」

   顔を上げるレイ

レイ「でも、やっと遭えた。知ってる人」

シンジ「えっ?」

レイ「よかった、知ってる人が、碇君で。知ってることの辛さを知ってる人が、碇くんで」

シンジ「綾波……」

   さばさばとした感じで

レイ「これで知ってる辛さがなくなるわけじゃないけどさ、半分こだよ? これからは」

   少し寂しげに微笑むシンジ

シンジ「うん……そうだね」

   
   眼下の校庭、ボール遊びなどしている生徒たち

シンジ「――でも、どうして?」

レイ「何が?」

シンジ「アスカやミサトさんやトウジたちは、前の世界とほとんど同じ感じなのに、綾波はなんで――」

   俯くレイ

レイ「羨ましかった……のかな」

シンジ「えっ?」

   手を後ろに組んで足元のコンクリートの欠片を上履きの先で弄ぶレイ

レイ「アスカや、ミサトさんが。思ってることを何でも言葉にできて、いつも元気だから」

   シンジを振り返り快活に笑うレイ

レイ「あたしは、思ってることの半分も言えなかったし、やっぱ、それじゃだめだよね、って――」

   真顔になるシンジ

シンジ「僕は……綾波が無口で嫌だと思ったことなんて、一度もないよ」

レイ「えっ……」

   声を失うレイ

シンジ「君自身は、そう思ってなかったのかもしれないけど……あのままの君で、僕は構わなかった」

レイ「……」

シンジ「……」

レイ「そっか、そうだよね……馬鹿みたい、あたし」

   困ったように笑うレイ

レイ「あの……もう行くね! 用事が――!」

   立ち去ろうとするレイの手首をつかむシンジ

レイ「あ……」

シンジ「――でも、綾波がそうしたかったのなら、これでいい」


レイ「え……」

シンジ「無口でもおしゃべりでも、綾波が選んだのならそれでいい」

   レイの顔を見るシンジ

シンジ「ここにいる綾波が本物なら、僕の知ってる綾波がいてくれるなら、僕はそれでいいよ」

   そっとレイを引き寄せるシンジ

レイ「碇……くん……」

   シンジの肩に額を預けるレイ

   :
   :

ガヤガヤ……

シンジ・レイ「!」

   人の気配に慌てて離れるシンジとレイ

ガチャッ……

ケンスケ「あー、いたいた」

アスカ「ちょっとアンタ達、なにやってんのよ、こんなとこで!」

   目を泣き腫らしているレイを見て、

トウジ「……おおっ!? シンジが転校生泣かしとる!!」

シンジ「えっ? そ、そんなんじゃ――」

   トウジたちを振り返るシンジ

ヒカリ「!……い、碇くん?」

トウジ「な、なんでお前まで泣いとんのや!」

シンジ「えっ? べ、べつに……」

   手の甲で涙をぬぐうシンジ

   レイに向き直るシンジ

シンジ「ごめん、みっともなくて……」グスッ

   微笑むレイ 頬に涙の跡

レイ「ううん、みっともなく、ない」

   微笑むシンジ

シンジ「……お帰り」

  頷くレイ 

レイ「ただいま」

   しばし見つめ合うシンジとレイ

アスカ「な……何よあんたたち! いい加減離れなさいよ!」ダッ…

   さっとシンジをはさんでアスカの反対側に回り、シンジの腕にすがりつくレイ

レイ「イ・ヤ!」

   あっかんべーをするレイ

シンジ「ちょ、ちょっと綾波!」

   驚くトウジ、ケンスケ

ケンスケ「いやーんな感じ……」

トウジ「な、なんやお前ら、知り合いだったんか?」

レイ「そうだよ」

アスカ「そうだよって……知らないわよ、そんな話!……いつからよ、いったい!!」

   顔を見合わせるシンジとレイ

シンジ「……ずっと前だよ」

ヒカリ「ずっと前?」

レイ「そ! ずーっと前」


==== 校舎俯瞰 ====

シンジ(うん、ずっと前)

レイ(そう、ずうっと前)

シンジ(アスカ、トウジ……君たちもみんな、そうなんだよ?)

レイ(そう、早く思い出してよね――)


==== 新第三東京市俯瞰 ====

レイ(――みんな知り合いなんだから。ずうっと前からの)

シンジ(この世界が、はじまる前からの――)

   :
   :

おしまい

MEMO

■元ネタまたは参考とした既存SSなど

「2nd RING」第十四話

「世界の果てまで」第拾弐話

「やっぱ綾波でしょ 逆行」第拾弐話、 第弐拾参話

「本編の綾波がリナレイだったら」第弐拾話

「あなたの望んだ世界で」(短編)

■投下済みスレ

もしも「破」で3号機の起動実験がうまく行っていたら
レイ「・・・碇くんの頬っぺた、プニプニしてみたい・・・///」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1376493346/)

もしも「破」であの時碇シンジがそのフロアにいたら
アスカ「乗るなら早くしなさい!」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1398870354/)

もしも「Q」で綾波レイも回収されていたら
レイ「ここは……どこ?……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1379514608/)

もしも「Q」のアヤナミレイ(仮)がリナレイだったら
アヤナミレイ(仮)「いっかーりくーん、どこー?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1378826143/)

新劇場版の結末を妄想してみる
その1シンジ「何ですか? これ」ミサト「教科書よ」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1380811845/)
その2シンジ「エヴァ最終号機?」(Bルート) - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1390831079/)


本編でもみんな救われてほしいなぁ


面白かった

乙面白かった

よし、カノンだカノンを流せ!


良いSSだった、本当に

MEMO2

■その他の投下済みSS

もしもあの時綾波レイのつぶやきが皆に聞こえていたら
ttp://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-551

漫画版LATS STAGEの続きを妄想してみる
(1)ttp://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec72-687
(2)ttp://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-3

新劇場版の結末を妄想してみる
パターン2 ttp://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-357
パターン2’ttp://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-368
パターン3 ttp://seesaawiki.jp/lrs/d/%c1%ed%b9%e7%a5%b9%a5%ec73-693

■挿入曲
ショパン「別れの曲」
ex. ttp://youtu.be/0gM4dWVc0fM






>>307 >>308 >>309 >>311
ありがとう

>>310
いいね
どのへんから流すのがいいかな

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2014年07月06日 (日) 01:19:02   ID: EI-bGbzj

TVもこんな感じで進んで欲しかった 続きが楽しみです

2 :  SS好きの774さん   2014年09月23日 (火) 12:38:25   ID: to-TyIpA

やっぱり読みにくいことこの上ないな

3 :  SS好きの774さん   2015年12月30日 (水) 17:43:22   ID: 6Q53_P34

この淡々とした文体好き。

4 :  SS好きの774さん   2017年09月07日 (木) 00:47:12   ID: qzJAp2n7

これがもう完結編でいいよ

5 :  SS好きの774さん   2018年08月02日 (木) 21:49:18   ID: qJ5c7zdo

感動

6 :  SS好きの774さん   2021年04月21日 (水) 07:30:38   ID: S:8Xlqql

感動

7 :  SS好きの774さん   2021年05月18日 (火) 23:47:10   ID: S:I3gurc

4回くらい見てるけどいつも涙する
それくらいええ話や

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