(・-・)蔦のようです(14)

だらだら投下していきます
投下速度はかなり遅めの予定です

カタカタカタカタ……………
板の上の文字列をひたすら叩き続ける
もう3時間以上はこうしているだろうか。なんてことはない、これが俺の仕事なのだ

(・-・ )「………………」

入社して1年、ひと通りの仕事は覚えたはずだ。覚えた結果がこれである
子供の時は、仕事っていうのはもっとこう…崇高というか、そんな感じのものであった気がしたのだが
少なくてもこのようなルーチンワークではなかった…と思う
だが、苦に思ったことはない。これが俺の才能を活かせる仕事なのだと、今では確信している

( ´曲`)「おんや、まだやってんのか…精が出るねぇ。うちの部署のもんもこれぐらい働いてくれたらいいんだが」

年齢の割に老け顔の男に後ろから声を掛けられる
坂田手名、俺の上司に当たる男だ。こんなナリだが仕事はかなり出来る男で、入社五年目で係長に就任、出世コースを突き進んで居る

(・-・ )「褒められたものではないです。貴方みたいに優秀じゃないですから、時間かけてじっくりこなすしかないんですよ」カタカタ…

( ´曲`)「ふーん、そんなもんかねぇ……おっと、もう8時かよ。そろそろ俺帰るわ。」

もうそんな時間になっていたのか。俺もそろそろ帰らないとな
もう少し残ってもいいのだが、この時間を過ぎると宴会帰りの酔っぱらい達が電車を占拠してやたら混むのだ。
そんな帰宅は疲れてしかたがないので、それだけは避けたい

( ´曲`)「最後守衛に声かけてくれよ?」

(・-・ )「毎度の事でしょう。分かってますよ」カタカタ…

( ´曲`)「ハハハ、違いねぇ。それじゃあな」

手名が部屋を出ると、キーボードを叩く音だけが部屋に響き渡る
俺の他にはこの部屋には誰も居ない。ここ数ヶ月はいつも会社から最後に出るのは俺だ

(・-・ )「…これで最後か」カタカタ…ッターン!

完成した会計書類をひと通り確認した後、印刷する
キーボードの音の代わりにゴウンゴウン…という印刷機の音が部屋に響き渡る
ふと、俺はあと何年この仕事を続けるのだろうな、ふと思う

(・-・ )「……3年続けばいい方ってところか」

そんなひとりごとをつぶやいているうちに、印刷が終わったようだ
パッチで穴を開け、ファイルに保管する。

(・-・ )「よし、帰るか」

手早く身支度を済ませ部屋を出る
エレベータを使い、一階まで降りた後、守衛室に向かう

コンコン

(・-・ )「失礼します」

いつ見ても汚い部屋だ、と思う
そこら中にカップ麺の空き容器や、ジュースの空き缶が散乱している。居心地が悪くないのだろうか?

(・∀ ・)「おう、真司さんだな。4階だろ?ちょっくら行ってくるから先かえっていいぞ」

年は…30過ぎと言った所だろうか。ボサボサの髪に、無精髭が目立つ。警備員には身だしなみの決まりがないのだろうか?

なんだかんだ言って悪い人ではなさそうだが…やはり馬が合わないなと感じる
まあ、俺と馬が合う人間なんて社会不適合者しか居なさそうではあるのだが

(・-・ )「分かりました。どうもありがとうございます」

守衛とすれ違うようにしてビルを出る
そろそろ夏も終わろうとしていたが、まだまだ蒸し暑い時期だ
ちらりと背後を見やると、緑に覆われた建造物がそこにあった。蔦がビルの表面を覆い尽くすように生い茂っている
所謂グリーンカーテンという奴だ。クールビズの一環として5年ほど前から始めたと誰かが言っていた。なるほど確かに、このビルの中は普通のビルに比べて涼しい気はする
しかし、俺はいつもこのビルをみるたびに、言いようのない不快感に襲われるのだった

(・-・ )「なんだろう。こう巻き付くってイメージが嫌なのかな。俺は」

駅まではまだまだかかりそうだった

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カツカツカツカツ……
トタンの階段の乾いた音が響く。
電車を乗り継いで一時間、都心部郊外アパートの3階の一室、それが俺の家だ
鍵は……開いていた

( ・-・)「ただいま」

ノリ, ^ー^)i「あ、おかえりなさい!今日もお仕事お疲れ様。ご飯できてるから一緒に食べよう!」

とたとたとた…とまるで飼い犬のように妻が駆け寄ってくる
パジャマ姿だ。もうお風呂には入ったらしい

( ・-・)「別に待つ必要ないのに」

ノリ, ^ー^)i「夫を労わるのも妻の役目ですから。さあさあ、ちゃちゃっと上着抜いじゃって!」

いわれるままにするすると上着を脱ぐ。むわりと熱気が体から沸き上がるのが感じられた

ノリ, ^ー^)i「さあ、今日は冷しゃぶにしてみましたー!今日は暑かったからね、これで元気出して!」

テーブルには色鮮やかな料理が並べられている。毎日これを食べられる俺は幸せ者だな、と思った。
手名さんの嫁なんかは塩麹が緑色だったらしい。どうやったらそんな料理になるんだ……?
ともあれ、早く食べなければ失礼というものだろう

( ・-・)「いただきます」

ノリ, ^ー^)i「いただきます!」

俺は早速冷しゃぶに手をつけることにする……うん、おいしい

ノリ, ^ー^)i「どう、おいしい?」

( ・-・)「…うん」

ノリ, ^ー^)i「よかった!私、真司さんにおいしいって言ってもらえるのが一番嬉しいよ」

結婚して3年、俺達は毎日こんな感じである

ノリ, ^ー^)i「うん、おいしい!タイムセールまで粘って正解だったなぁー」

美味しい美味しい言いながらご飯をバクバク食べている
情けないことに、この家では俺のほうが小食だったりする。まあ、こいつが食べ過ぎなだけじゃないかと思うのだが
しかし、体型はぽっちゃりしていない。むしろスリムな方であるといえるだろう。脂肪がつきにくい体質なのだろうか?
まあ、胸もスリムだからなぁ…

ノリ, ^ー^)i「…?どーしたの、じっと見て」

( ・-・)「いや、なんでも」

残りのおかずをががっと口の中にかきこみ、味噌汁で流し込む。

( ・-・)「ごちそうさま。お風呂に行ってくる」

ノリ, ^ー^)i「はーい、お粗末さまでした」

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チャポン…

( ・-・)「ふぅ…」
かけ湯をしてから風呂に入る。やっと一息つけたというところか
妻は自分の食事が終わると、ニコニコしながらこちらを見つめてくる。それが辛くて仕方がない。結婚してもう3年にもなるが、今だに苦手だ
大体、俺は他人に見られるのが嫌いなのだ。できることならばすべてのしがらみを捨てて一人で生きていたい。それが俺の理想である

なぜなら、俺は自由を得るために過去を捨てた男なのだから

第一話 了

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