雪歩「私と貴女のFirst Stage」 (47)


始まりは突然

終わりも突然

それはよく耳にすることだけど

観測している立場の人からしてみれば

それは突然でもなんでもない

そうなるように定められたモノ

言い換えれば必然あるいは運命のようなモノである……と

私は思う

「…………………………」

カチッ……カチッ……カチッと

時計の針が私を挑発しながら時間の流れを指し示す

今日もまた

どこかで唐突に何かが始まり、唐突に何かが終わるだろう

私のこの目にそれは映っていない

私のこの耳にそれは聞こえてこない

でも、どこかで何かが起こったことは確実

だって世界には何もない日なんてない

私達が観測していないだけで、世界は常に変化しているのだから

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1400939004


翌朝……ううん

朝にしてはあまりにも早すぎる時間に

アイドルである私と同じ事務所に所属する千早ちゃんから電話がかかってきた

内容は――

『萩原さん……貴女の家に春香はいるのよね?』

確認だった

いるのかという問いではなく

いるはずだという断定の言葉

「ううん、私の家にはいないよ? どうかしたの?」

「そんなはず、ないわ。そんなはず……っ」

寝起きの朦朧とする意識の中で

現状を理解できないままに答えた私

それに対して千早ちゃんは

かなり深刻そうに呟いた


>>2訂正


翌朝……ううん

朝にしてはあまりにも早すぎる時間に

アイドルである私と同じ事務所に所属する千早ちゃんから電話がかかってきた

内容は――

『萩原さん……貴女の家に春香はいるのよね?』

確認だった

いるのかという問いではなく

いるはずだという断定の言葉

「ううん、私の家にはいないよ? どうかしたの?」

『そんなはず、ないわ。そんなはず……っ』

寝起きの朦朧とする意識の中で

現状を理解できないままに答えた私

それに対して千早ちゃんは

かなり深刻そうに呟いた


「どうかしたの?」

段々と起きてきた頭で考えながら

千早ちゃんを刺激しないように細心の注意を払って問う

『春香が……』

「春香ちゃんが?」

『春香が……どこにもいないらしいの』

世界が――変わった

ある視点では突然的に

ある視点では必然的に

「……嘘、だよね?」

『こんなことで嘘つくわけないわ!』

千早ちゃんが怒鳴る

普段の姿からは想像もできない声

不安と恐怖と絶望に包まれたそれは悲鳴のようにも感じる


『ごめんなさい……貴女に怒鳴る意味なんてないのに……ッ』

「千早ちゃん……」

その辛そうな声に私の心が酷く痛む

まるで直接捻られているかのように

痛くて痛くて……一瞬呼吸を忘れてしまうほどだった

「み、みんな……には?」

『連絡したわ……でも、みんな知らないって……』

千早ちゃんの顔は見えない

でも、声からその状況は鮮明に伝わってきて

冷や汗が浮かんできた

「警察には?」

『プロデューサーがしてくれるって……でも、でもっでもッ!!』

千早ちゃんが恐怖を曝け出す

目の前にいたなら鬼気迫る。または狂気に満ちた……と、言うのが正しいかもしれない


最近はすぐには動いてくれないという話をニュースで良く耳にする

だから千早ちゃんは不安なんだね

大切な弟を失ってしまった

その辛すぎる過去から立ち直らせてくれた大切な人を

失うことになるかもしれないということが

「……落ち着いて」

『落ち着けるわけ無いでしょう!?』

「それでも……落ち着こう」

『萩原さん……?』

いつもより声を落とし

氷のように冷たく感じる声で告げる

「焦っていても何も変わらない。だからまずは落ち着いて、それから考えよう」

『っ……そう……ね……』

私の氷は千早ちゃんの頭を冷やすことができたのだろうか

目の前にいない以上定かではないけれど

電話の奥での深呼吸に少しだけ……私も安堵の息を漏らした


「落ち着いた?」

『ええ、ごめんなさい……』

「ううん。それよりも春香ちゃんについてみんなからは?」

『………………』

千早ちゃんの答えは沈黙

勿体振るような内容でもないし

そのままが答えなんだろう……連絡は無し

あるいは、春香ちゃんについての情報の進展もなし

「……そっか」

『萩原さん、私――』

「ダメだよ」

『でも』

「ダメ。こんな真夜中に出歩くなんて絶対にダメ……ましてや春香ちゃんが行方不明ならなおさらね」


私の言っていることは正論だったと思う

でもそれは私達関係者からしてみれば

圧倒的に間違いな言葉

『貴女……冷静ね』

「…………………」

『ドッキリならそう言って……今なら笑って許せるから』

千早ちゃんは最後の希望であるかのように

殆ど力無くそう呟く

でも……非情ながら

「千早ちゃんに対してこんな酷いドッキリなんて出来るわけないよ」

『………………ドッキリって言って』

「千早ちゃん」

『お願い……実はドッキリだったって……お願い……』

「千早ちゃん……ドッキリなんかじゃないよ」

私は冷徹に千早ちゃんへと言葉をぶつける

冷酷で、冷徹で、非情で、残酷なことであろうと

これはドッキリなんかじゃない……だから、なんの足しにもならない嘘をつくことはできなかった


千早ちゃんの嘆きの声を電話越しに受けて

その声が憔悴しきった寝息に変わる頃

私は静かに電話を終わらせた

「……千早ちゃん」

千早ちゃんが春香ちゃんのことを好きだということは

私だけでなくみんなも知っている

というより、千早ちゃん【だけ】が好きなわけじゃないからね

そんな春香ちゃんの誘拐事件によって

世界は大きく変化するはず

「……春香ちゃん」

不安と恐れは私にもある。ないわけがない

だけど……だからと言って行動しないわけには行かない

「でも……まずは休まないと……」

起きる予定の時間まで2、3時間しかない

それでも少しでも万全の状態で動くために

私はゆっくりと目を瞑った


そして私と千早ちゃんを含めて

765プロダクションのアイドル全員が事務所に集まった

……ううん、正確には春香ちゃん以外の全員が集まった

「もう聞いてるだろうけど……春香が行方不明になったわ」

伊織ちゃんの悲しげな切り出し

それ以前からみんな俯いていたけど

より深く俯く者、何かを叩く者

拳を握り締める者、色んな反応をする人がいて

「はるるん……」

「春香が家出なんてありえないぞ!」

「春香……一体何が……」

「春香ちゃんも迷子……とは流石に言えないわよね~……」

それぞれが春香ちゃんを思って嘆き

どんよりとした重い空気が事務所を埋め尽くそうとする中

あまりにも突然すぎて

今の状況を受け入れたくない

そんな気持ちがみんなの中から見え隠れしていた

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