提督「甘えん坊」 (577)



艦これ物。
地の文有り。
基本1レス完結。
キャラ崩壊はなるべくしないようにします。

よろしければどうぞ。



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     加賀さんの場合




提督「…………よし、この書類はこれでオーケー、と……。えーと次は……」

加賀「…………………………」

提督「昨日の……ええと…………それぞれの戦果が……こうだったか? いや……確か……」

加賀「………………提督」


 テーブルを挟んだ向こう側。
 俺と向き合うようにしてソファに腰掛けていた加賀が俺の名を呼んで急に立ち上がり、スタスタと移動して今度は俺の隣へとその腰を下ろした。


加賀「────失礼します」

提督「ん……」


 そっけない返事で済ませ、書類に向き合う。
 だがしかし、内心ではひどく動揺していた。

 肩が触れ合いそうな距離、ではなく事実肩が密着している。それどころか体重をこちらに預けてきている節が見られるのは勘違いなどではないだろう。
 そして鼻腔をくすぐる甘い香りが、動揺を加速させていた。
 それでもなお目の前の仕事を優先出来たのは、ひとえに期日が今日までという焦りによるものだ。この焦りが無かったなら、果たしてどういうことになっていただろうか?

 加賀がこのようなことをするということ自体が珍しいのだ。経験の無い状況には誰だって戸惑いを隠せない。おそらくあたふたと戸惑う醜態を晒していたであろう。幸いなのは加賀がそれ以上のアクションを起こそうとしていないということだった。


提督「…………加賀」

加賀「何でしょうか?」

提督「……どうかしたのか?」

加賀「いえ、何も?」

提督「……ならいいんだ」

加賀「ふふっ、おかしな提督ですね……」


 そう言ってまた沈黙が生まれる。
 カリカリカリカリとペンが紙の上を走る音と、カチコチカチコチと秒針が時を刻む音だけが、部屋に残っていた。

 それから俺達はずっとそうしていた。特に進展する事もなく────強いて言うなら加賀がこちらに頭を預けてきたくらいだ────仕事を無事終え、その後加賀が用事で出かけるのを見送った。


 ソファから移動し、提督用の椅子へと座る。
 そうして一人になって初めて、先ほどの加賀はもしかして甘えてきたのだろうか、と思考を巡らせ────


提督「────それは無いか。ははっ」


 一人呟き、静かに笑うのだった。




     夕立の場合




夕立「提督さん、夕立頑張ったっぽい!」

夕立「ほめてほめてー♪」

提督「よくやったな夕立。夜戦だったとはいえ戦艦二隻も沈めるとは思わなかったぞ」

夕立「んふふー♪」


 出撃から帰ってきて早々、執務室へと駆け込んできた夕立が、報告もそぞろに俺の膝を占領する。
 女の子特有の柔らかい感触を味わいながらその頭を撫でると、表情が見えなくとも喜んでくれているということが感じ取れた。


提督「今回はどうだった?」

夕立「えーとね────」


 絹のように柔らかくスベスベとした髪に指を通しながら、今回の出撃に関する詳細な報告を聞く。
 パタパタとせわしなく足を揺らすせいで伝わる微振動が、ちょっと人には言えない刺激をもたらしたけれども、大人の理性で封殺する。

 そうして報告を終えて数分。
 夕立の鼻歌をBGMに俺は黙々とその頭を撫で、当の夕立は鼻歌に滲ませた機嫌の良さを増しながらその行いを享受した。


夕立「────ん、満足したっぽい!」

提督「そうか」


 ぴょん、と飛び跳ね、夕立が俺から離れる。
 それから俺の方に向き直り満面の笑顔を見せると、それ以上言葉を交わすことなく足取り軽やかに扉へと向かう。

 ガチャリとノブを回して扉を開ける。
 そして出て行く直前に、夕立は再度俺の方へと視線を向けた。





夕立「提督さん、またほめてね!」

提督「……ああ、もちろんだ」





 扉越しに聞こえる鼻歌が、何とも耳心地が良かった。




     明石の場合




明石「────提督、お疲れ様です!」

提督「明石さんこそお疲れ様です。いつもの資材でお願いします」


 工作艦、明石。
 俺がこの鎮守府に着任した当初から、資材・資源の面でサポートしてくれている最古参の艦娘の一人である。
 その主な内容は資材・資源の発注で、本部から支給されるものや遠征などで調達出来るもので足りなくなってしまった際に、俺自身が身銭を切る必要もあるが民間から取り寄せてくれるのだ。

 これまでに何度もお世話になっている俺の、頭が上がらない艦娘の一人でもある。
 最近は本部の研究の成果もあり、出撃出来るだけの戦闘能力を手に入れた。今は発注方面との二足のわらじを履いてもらっている。その忙しさはいかばかりか。ますます頭が上がらない。


提督「……明石さん?」

明石「………………」


 差し出された紙幣を、受け取ってくれない。
 はて、どうかしたのだろうか? と、俺が考えたその矢先、明石がその口を開いた。


明石「そ、その……今は二人きりですよ……?」


 もじもじと恥ずかしそうに指を突っつき合わせ、ちらちらとこちらの顔色を伺いながらそう言葉にする。
 やれやれ、と満更でもないため息を心の中だけで吐きながら、俺は明石が望んでいるであろう事を実行に移す。


提督「お願いします……『明石』」

明石「……は、はいっ!」


 近所のお姉さんというイメージが強かったせいで『さん』付けで呼んでいたのだが、出撃出来るようになって正式に俺の指揮の下で活動することになった。
 そんな中で明石は立場の問題があるので他の艦娘と同等に扱って欲しいと言い、俺は他の艦娘も事情は把握しているから問題ないと答えたのだ。もちろん多大な恩があるので呼び捨てなんてとんでもない、という気持ちもあった。

 そして妥協点として二人きりの時は呼び捨てにする、ということに決まったのである。
 立場の問題とか最初の話はどこにいった、と思わなくもないが、これはこれで良かったと俺は思っている。

 なぜなら。


明石「提督、よろしければお茶でもいかがですか?」

提督「んー、お願いするよ。明石」

明石「はい! ちょっとお待ち下さいね!」


 明石が笑顔の花を咲かせる。

 この笑顔が見られるのだから、多少のことは気にもならないのだ。



一旦投下終了。

地の文の練習として書いていますので、上手な方、アドバイス等いただけると嬉しいです。
雑談も大いにどうぞ。艦娘の名前を書いていただければその子で書くかもしれません。

それではまた。



     那珂の場合




那珂「────、──、──────♪」


 会議室。
 窓や室内機の類が無く、ただただ盗聴を防止するための厚い壁だけが特徴のこの部屋は、現在一人の女の子によって本来の用途とは異なった使われ方をしている。

 ロの字形に配置されたテーブルと椅子、その中央で部屋に入ってきた俺に気づくことなく一心不乱に歌い続ける那珂。
 那珂にとってこの部屋は、格好の練習場所となっていた。


提督「お疲れ、那珂」

那珂「────わっ!?」

那珂「……って、提督? もー、来たなら声くらいかけてよね!」

提督「すまん。あまりにも気持ちよさそうに歌っていたものだからな。声をかけるのをためらったんだ」

那珂「そう? それなら仕方ないかな!」


 そう言ってまた歌い直す。

 時刻は既に九時を過ぎている。
 駆逐艦娘はもう寝る時間だし、他の艦娘だってよほどのことがない限り自室に戻っている時間帯だ。

 そんな時間に、この那珂は歌の練習をするのだ。


那珂『アイドルは皆の憧れだからね! 泥臭い努力シーンはカットカット!』


 とは那珂の弁だ。
 こうは言っているが、完璧でない歌を聞かれるのが嫌なだけらしい。そしてこうやって睡眠時間を削って練習していながら、翌日の表情には疲れを一切見せず、出撃などをしっかりこなすのだから大したものである。精神に限って言えば、すでにちゃんとした『アイドル』と言っても過言ではない。


那珂「ねぇ提督。ちょうどいいから新曲聞いてくれる?」

提督「もちろん」


 そしてたまにこうやって付き合わされる。
 が、しかし面倒くさいといった感情を持ったことはない。

 はっきり言って自分には、歌やダンスをああだこうだ言う知識もセンスも無い。那珂の歌をただただ聞いて、少ない語彙でほめることしか出来ないのだ。それについても那珂に一度だけ聞いたことがある。その答えを聞いて、俺は黙るしかなかった。



那珂『んーとね、那珂ちゃんも上手く言えないんだけどね……』

那珂『アイドルとしての那珂ちゃんとは別に、一個人の那珂ちゃんとして見てくれる人も欲しいんだよね』

那珂『……練習してるところを見せてあげるのは提督だけだよ?』

那珂『そういう理由じゃ駄目……?』










 一人の観客の前で那珂は歌う。
 のびのびと楽しそうに歌うその姿を独り占め出来るこの権利は、これからも手放す気はない。



那珂「それじゃあ新曲、いっきまーす!」



 そうして今日も、彼女の歌が響き渡るのだった。




     那珂の場合



間違えました。



     日向の場合




日向「────ん、君か……」

提督「おはよう日向、朝からトレーニングか? 精が出るな」

提督「隣、良いか?」

日向「……………………」


 早朝午前五時。鎮守府に隣接している港の一画。
 我が鎮守府の朝礼が九時からだということを加味すればかなり早い時間帯に、日向は普段の服装とは違うジャージとランニングシューズに身を包んでいた。

 ベンチに座って靴ひもを直しているところから察するに、これからランニングにでも行くのだろう。邪魔をする気は無かったのだが、かといってこのまま立ち去るのも味気ないと思った俺は、無言を肯定と捉えてその隣に座る。

 あまり慣れていないのだろう。
 少しその身を緊張に強張らせたのが見て取れた。


提督「あはは、これだけ長い付き合いなのに緊張するのか?」

日向「……隣、というのは記憶に無い」

提督「ふむ……?」


 言われて記憶を探ってみると、確かに無かった。
 まず秘書艦でもなければ俺と接する機会は少ないし、日向は秘書として動くことよりも出撃する方が好きであったためその経験は無い。
 そして夕方頃、仕事後の自主トレーニングの時には会ったりすることもあったのだが、大体の艦娘達が汗をかいているということを理由に近付くことを嫌っていた。もちろん日向も例外ではない。
 そういった理由によって、何と今が一番日向の近くにいる日となったわけなのである。

 だからだろうか? 普段なら絶対に言わないような一言を、つい漏らしてしまっていたのは。


提督「言われてみると確かにそうだな」

提督「良い機会だ。もう少し近付いてみるか?」

日向「……君がいいのなら」

提督「────へ?」


 言うやいなや、ずい、と体を寄せてきた日向の肩が俺の肩と軽くぶつかった。
 そして何故か俺のふとももにその手を乗せていた。


日向「……嫌か?」

提督「そ、そんなことはない!」

日向「ふふっ……そうか……」


 頬を少し染めながら、日向が正面を向く。
 その横顔は相も変わらずの仏頂面だったが、今だけは年相応の女の子のように見えた。


提督(あ、あれ…………? えっと、何だ? 日向ってこんなかわいいやつだったけ……?)

日向(い、勢いに任せて私は何を……! し、しかしこのまま引くのは惜しい……!)





 お互いの気持ちなんて露知らず。

 二人がその日一日を、悶々とした気持ちで過ごしたという事は言うまでもない。


ちょっと休憩。

リクは随時どうぞ。
多すぎると書き切れませんが予めご了承下さい。


思った以上に一杯来てびっくりしてます。
ヤンデレ艦隊までの繋ぎのつもりだったのに……。

ちょっと本腰入れますね。

扶桑さんと雷電書いてきます。



     扶桑の場合




扶桑「…………すぅ……すぅ……」

提督「……………………」

扶桑「………………んんっ」

扶桑「てい、とく……」

提督(……どんな夢を見ているのか)


 執務室、時刻は午後四時。
 午後三時に休憩と称してお菓子とお茶を持ってきてくれた扶桑はソファに座る俺の隣で、こちらにしなだれかかるようにして寝息をたてている。
 先日の海域攻略では大いに活躍し、つい最近までは後処理の関係で休む暇も無かった。そのツケが今回ってきたのだろう。いつもなら起こすところなのだが、今回ばかりはどうもそういう気になれなかった。

 自由に動かせる方の腕を動かし、その艶やかな黒髪を優しく梳く。
 日々戦いに身を投じる者であるとはいえ、扶桑も立派な女の子である。しっかりと手入れをされており、手触りは極上のものだった。


提督「……綺麗だな」

扶桑「………………ん」

提督「ずっと触れていたくなる」


 呟きながらも手を動かすのは止めない。
 仕事をしようにも動けないのだから仕方がない。このまま触っていても文句は言われないだろう。
 穏やかな昼下がり────というには少し遅過ぎるかもしれないが、たまにはこういう日も良い。

 何とも言えない心地よさを感じながら、港と海を一望できる窓に目を向ける。
 目のハイライトが消えた山城が見えた気がしたが、忘れることにした。

 ……俺は何も見ていない。




















 それからさらに数十分後。
 何がどうしてこうなったか分からないが、扶桑を山城共々抱きしめることになるのは別の話である。


二人リクでも1レスに収めます。
お気をつけ下さい。

雷電書いてきます。



     電・雷の場合




電「し、司令官さん! あ、あーんなのです!」

雷「ほら、私のも食べなさい! あーん!」


 昼、執務室。
 我が鎮守府には間宮さんが切り盛りする食堂があるが、艦娘の中には料理の心得を持っている者もおり、自炊している者も少なくない。
 そしてそういった子達が、作った料理を俺のところに持ってくるということも、最近では珍しくはないことになっていた。
 自慢ではないが俺は料理が出来ないため、これ自体はとても嬉しい限りだ。…………電や雷のような幼い子達に持ってこられると威厳やら何やらが悲鳴を挙げるという点を除けば、だが。


提督「うん、美味いぞ」

電「ほ、本当ですかっ?」

雷「あったりまえじゃない!」


 艦娘達が作ってくる料理は、何故かカレーが多い。しかし十人十色というように、その一つ一つが個性に溢れているため飽きることはない。その証拠に電と雷が協力して作ってきた今回のカレーも、また趣が異なったものだった。


提督「ベースはキーマカレーか?」

電「なのです!」

雷「普通のカレーじゃ飽きちゃうでしょ!」


 細かく切った食材を炒め、それから肉を加える。この際肉は挽き肉を用いる。十分に火が通ったら水を入れて沸騰させ、カレールーを入れて溶かせば出来上がり、というのが本来の作り方だ。
 全体的に赤みがかっていたのが気になったが、口に入れてみて確信した。どうやらホールトマトを水の代わりに使用したらしい。ほどよい酸味がさらに旨味を引き立てていた。

 美味い。
 月並みな言葉だが紛れもない本音だった。


 談笑しながら食事を続け、楽しかった食事の時間が終わる。
 そこからは様々だが、この二人の場合はもうお決まりになっていた。俺の分の食器を片付け、自室へと持って行き洗う。俺がやるといっても二人は頑として聞き入れようとしなかった。


電「私達が好きでやっていることなので、司令官さんは気にしなくても大丈夫なのです!」

雷「電の言う通りよ! これくらいへっちゃらだし、もっと頼ってくれても良いのよ?」


 無邪気な二人の言葉を無碍にすることは、俺には出来なかった。

 ……俺がダメ男になる日は近い。


本日の投下終了。

リクはどうぞどうぞ。
適当なところで切りますので。

別に一回書いた奴でも構いません。

誰かアドバイスしてくれる人はいないのか(切実)


それではまた。


朝起きて見るとそこは、リクの嵐でした。
流石にここで一旦締め切ります。

三十弱ですか……頑張ります。

それではまた。


こつこつやってくしかない。

投下します。



     朝潮の場合



朝潮「────司令官! 朝潮、帰投しました!」

提督「遠征お疲れ様。今回の遠征は長期に渡るものだったからな……流石の朝潮も疲れているだろう。部屋に戻ってゆっくり休んでくれ」

朝潮「了解です!」


 黒い長髪は普段の輝きを些かくすぶらせ、服の裾は離れていても分かるほどによれており、そのつぶらな瞳の下にはうっすらと隈が見える。
 よほど疲れているのだろう。
 だというのに、言葉とともに行われた敬礼には一点の曇りすら見られなかった。

 良く言えば実直。
 悪く言えば頑固。

 簡潔に言えば朝潮はそんな子だった。


朝潮「────それで、その……司令官……?」

提督「分かっている。早速いいか?」

朝潮「は、はい!」


 …………故に朝潮のこんな姿を見れば、他の艦娘達は大いに驚き目をこすることになるだろう。
 近付き、その頭を優しく撫でる。上目遣いをするかのように顎を少し上げたまま目を閉じた朝潮の、キュッと結ばれた小さく可愛らしい唇から「んっ……!」という駆逐艦とは思えないような艶やかな声が漏れた。





朝潮「……ふふっ♪」


 そうして十数秒ほどが経ち、朝潮から笑みが零れる。普段の鋭い目つきとハキハキとした物言いからは想像出来ないその姿は、驚きこそあれど至極当然のこととも言える。どれだけ背伸びしても、朝潮はまだまだ幼い女の子なのだ。むしろこの姿の方が正しいだろう。

 何かしてほしいことは無いか?

 そう聞いた俺に対して恥ずかしそうに「それでは……その、撫でていただいてもよろしいでしょうか……?」と遠慮がちに言ってきた最初が今では懐かしい。



朝潮「も、もう少しだけ……」

提督「ああ、いいぞ」



 小さな声で、そう願われる。
 どうやら朝潮の頬の緩みは、まだまだ治まる様子がなさそうだった。


鳳翔さんも投下する所存。

それでは10時くらいにまた。

ヤンデレ艦隊……って事は、トリップ変わってるけど貴方?


>>59
このトリップにピンと来たら多分そうです。


鳳翔さん投下ー。



     鳳翔さんの場合





鳳翔「────してほしいこと……ですか?」

提督「はい、鳳翔さんには日頃お世話になってますし、たまにはこちらから何かしてあげたいと思いまして……」


 執務室。
 ソファを挟んで反対側に座った鳳翔さんが、俺の返事に先ほどまでその体に張りつめさせていた緊張を解く。
 何せ館内放送を使って呼び出したのだ。加えて普段呼ばれることのない人が呼び出されたとなれば、周りの人はもちろん当の本人はそれ以上に戸惑うことは想像に難くない。何を言われるのか、何か取り返しの付かないことをしてしまったのだろうか、そういった面持ちで鳳翔さんが部屋に入ってきたときは、流石に罪悪感が湧いた。

 今は状況を飲み込んだのかクスクスと口元を手で隠しながら笑っている。そして「私用でこういうことをしては駄目ですよ?」と前置きをしたうえで、鳳翔さんは俺の問いに答える。


鳳翔「してほしいことは特にありません」

鳳翔「…………と言っても、提督にはおそらく納得していただけないのでしょうね」

提督「……よく分かってらっしゃる」

鳳翔「そうですね、長い付き合いですから……」


 そう言って鳳翔さんが目を伏せる。俺と出会って間もない頃のことを思い出しているのだろうか?
 窓から差す光によって作り出された明暗と、風に揺らされて靡くカーテンの動きが相まって、その最中にいる鳳翔さんがまるで名画に映っている人であるかのように見える。


鳳翔「……提督?」

提督「────は、はいっ?」

鳳翔「ふふっ、そんなに慌てて……どうかされましたか?」

提督「い、いえ、何も……」


 見とれてました、とは恥ずかしくて言えなかった。
 ただ俺の反応を見て楽しそうに微笑んでいる鳳翔さんを見ると、俺の内心を理解した上で言っているのではないかという錯覚に陥った。…………それはそれでまた魅力的だと思ってしまう辺り、ずいぶんと俺の頭の中は羞恥でゆだってしまっているのだろう。とにもかくにも恥ずかしかった。



鳳翔「──────提督、思い付きました」



 そしてそんな俺をよそに、鳳翔さんはポン、とその手を叩いたのだった。


終戦後の人だー

あれの続編を無いと言われても待ち続けるよ私は































提督「……こんなことでいいんですか?」

鳳翔「ふふっ、良いものですね……」

鳳翔「駆逐艦の子達がねだるのも今ならよく分かります」

鳳翔「んっ……ふふっ……♪」

提督「────────っ!?」


 楽しそうな声音にドキリと心臓が跳ねるが、撫でる手は緩めない。感触を楽しんでいる余裕はない。手汗をかいてしまっていないか、それだけが心配だった。


鳳翔「この後はそうですね…………、おんぶ……は恥ずかしいのでそれに近い『あすなろ抱き』をしてみてもいいでしょうか?」

提督「ど、どうぞご自由に!」


 早く終わってくれないと身が持たない。
 早く終わってしまうのはもったいない。

 相反する感情に顔をますます赤く染めながら、俺の心は嬉しい悲鳴をあげるのだった。















鳳翔(……は、はしたないでしょうか……?)

鳳翔(ああ、でも……心地良いですね……)



投下終了ー。

何で鳳翔さんだけ2レス?
→軽空母では鳳翔さんが一番好きだから。


それではまた。





>>63
続編の構想はすでにあります。
書けるかどうかは別として。


皆さんこんばんは。
叢雲だけですが投下します。




     叢雲の場合




提督「────それで、今日一日どうだった? 楽しめたか?」

叢雲「………まぁ、ね」



 淡く頬を染めた叢雲がそっぽを向く。
 それでいて頼んだケーキに落ち着き無くフォークを抜き差しする様子が実に微笑ましい。
 鎮守府から車で一時間ほど移動した商店街。そこで存分に羽を伸ばし終えた俺達は、今日一日の締めとして一画にあるカフェに入り、今日のことについて楽しく語り合っていた。


提督「それにしてもお土産を買う辺り実に叢雲らしいな」

叢雲「ふん、そんなの当然じゃない。常識よ常識」


 そう言ってケーキを口に運ぶ。
 いつも上から目線でものを言う叢雲だが、決して礼儀知らずという訳ではない。むしろ駆逐艦とは思えないほどしっかりしており、面倒見も良いというおまけ付きだ。尊大な態度もそれらが関係するのだろう。俺はもちろん仲間からの評価も高い。

 ……ただ一つ、仲間も知らない叢雲の一面を俺だけが知っている分、その評価は一味違うのだが。



叢雲「……ねぇ司令官?」

提督「ん、どうした?」

叢雲「さっき私に楽しかったかどうか聞いたじゃない? それなんだけど……」

提督「?」

叢雲「その……司令官はどうなのよ?」

叢雲「私と一緒で…………楽しかった?」



 恐る恐る、といった風に口を開く叢雲。普段のそれは見る影もない。

 言葉は自身を守る盾、とはよく言ったものだ。
 叢雲が尊大な態度を取るのは、自身の弱さを悟らせないためというのもあったのだろう。このような叢雲を見れるのは、見せてくれるのは、知る限り俺だけである。もちろんこの姿を見せてくれるようになるまで相当な時間を要したのだが、その結果として得たものは何者にも代え難いものだった。

 強気な少女の弱音。
 何ともいえない庇護欲がそそられた。


提督「もちろん楽しかったぞ。また来よう」


 そんな叢雲の不安を払うかのようにその頭を優しく撫で、柔らかく微笑む。
 一瞬呆けた叢雲が、すぐさま不適な笑みを取り戻した。


叢雲「──────ふんっ」


 その表情を確認した俺は、可愛らしい叢雲も悪くないがやはりいつもの叢雲の方が好ましいと思うのだった。





叢雲「仕方ないわね! また一緒に来てあげるわ!」






投下終了。

それではまた。

皆の消化してまだ書ける余裕があったらぜひ熊野をお願いします


>>74
了解。
期待はしないことをオススメします。

霞のデレ難し過ぎぃ!

もうこれでいいや。




     霞の場合




「────あいつまた作戦への参加断ったんだってな」
「はあ? 日頃戦果を挙げてるからって調子に乗ってるのか? これで何回目だよ」
「足りない部分穴埋めする俺達のことなんて考えてないんだろうな…………ちっ」
「……いくら上に気に入られてるからって、これ以上は流石に我慢出来ねえぞ」
「『先輩』としてちゃんと礼儀ってもんを叩き込んでやらねぇとなぁ?」
「……おい、来たぞ」
「はっ、生意気な面してやがる」
「秘書艦も同じ面してるな。似たもの同士ってか?」





霞「…………………………」





────────────────
────────────
────────



霞「何よあれ! あったま来るわね!」



 司令部への報告を終えた帰り道。
 車を運転する俺の横、助手席に座る霞が、顔を憤怒の色に染めながら声を荒げて罵詈雑言を並べ立てる。矛先は先ほどまで居た司令部に俺と同じく報告をしに来た同業者、つまり提督達に向けられている。
 自分で言うのもなんだが、俺はかなり早いペースで出世を果たしている。周りのキャリアが同じ奴らからすれば、妬みの対象になるのは仕方ないとも言えるだろう。どうにかなる話でもないという理由で俺は気にしていないのだが、霞はそうでなかったらしい。
 あらゆる罵倒の言葉を並べ立てる霞の語彙力に、俺はただただ舌を巻くしかなかった。



霞「──────それにあんたもあんたよ! 男でしょ! 言い返しなさいよ!」

提督「波風は立てないに限る。俺が悪く言われるのを我慢するだけでいいんだからな」

霞「あんたがそうでもあたしが気にするのよ!」

霞「無理な作戦だと分かってるから断ってるのよ!」

霞「日頃戦果を挙げてるのはあんたたちなんかよりこいつの方が優秀だからよ!」

霞「礼儀知ってる奴がコソコソ陰口言うかっての! 言うなら堂々と言いなさいよ! そんな覚悟もないくせに!」

霞「…………似た者同士ってのは悪くないわね。悪口なのがマイナスだけど、あたしが認めてるこいつと似てるってのは悪くない気分だわ」

提督「その理論はおかしい」



 俺が鎮守府に着任してかなりの時間が経った。
 時間とともに艦娘の皆との信頼をコツコツと地道に築き上げた結果、最初は冷たい対応をしていた艦娘達も次第に心を開いてくれるようになり、トゲトゲしかった言動も丸いものへと変貌を遂げている。
 だがしかし、どんなことにも例外というものがある。それがこの霞の例だ。

 艦娘の中でもトップクラスの罵倒を浴びせてきた霞は、自分のプライドなのか俺のことを認めてはくれても、その態度を変えることはしなかった。もしかすると今更変えるのが恥ずかしいという理由があったのかもしれないが、確かめる術はない。

 ともかく俺としては不意打ちのようにこの態度を見せる霞に、何とも言えない表情を向けるしかない。



霞「なに変な顔してんのよ! このクズ!」



 案の定、聞き慣れたフレーズが耳に飛び込む。
 そしてふと横に目を向けると、その顔が少し赤く見えたが、霞のプライドのために見間違いということにしておこう、と決め、俺は軽く微笑むのだった。



霞「────っ!? 何なのよ、もうっ!」




投下終了。

だんだん文章が長くなる……。
まだまだリクエストあるし、削らないと(使命感)

それではまた。


乙乙

さぁ摩耶さまを書くのだー(ゲス顔)


>>81
恥ずかしそうにしながら甘えてくる摩耶様じゃなくて、いろいろ吹っ切れて爽やかにさも当然であるかのように甘えてくる摩耶さんと逆に慌てる提督、というのを思い付いてしまった。
どうしよう(困惑)
それを見た鳥海さんがムスッとしながらも提督にさりげなく甘えてくるというシチュエーションも同時に思い付いてしまった。
本当どうしよう(混乱)






書きたいのは山々……!
が……リクエストが先……!
更に言えば睡眠時間は大事……!

今はまだ構想を練る……!
リクエスト優先……!


今度こそそれではまた……!



皆さんこんばんは。
リクエストは現在熊野のところまでで停止しております。お手数ですがまたリクエストを再開したときに書いて下さい。

とりあえずリクエスト消費に専念します。
リクエストが10を切ったらいろいろと考えることにしました。


リクエスト無視して好きなように書いたりリビドー吐き出したりすると、鈴谷がしおらしくなったりあきつ丸の肌に赤みが差したり鳳翔さんがそこはかとなく艶やかになったり時雨と夕立が甘噛みしたりするから気をつけないといけませんね。

曙投下しますー。



     曙の場合




曙「──────で、何でここにいるのよクソ提督」

提督「すまない、至急片付けたい仕事があってな。急なことで悪いが借りてるぞ」

曙「女の部屋に無断で…………はぁ、もういいわ。好きにすれば?」

提督「感謝する」



 扉を開けた状態で立ち止まっていた曙が、盛大なため息を吐きながら乱暴に扉を閉め、自身のベッドへと向かいその腰を降ろす。
 そして座布団に胡座をかいて書類とにらめっこしている俺を一瞥し、枕の横に置いてあった本をその手に取った。

 挟んでいたしおりを外した曙が、その続きに視線を動かしながらその口を開く。



曙「それにしても毎度毎度よく来るわね」

提督「執務室にいるとちょっかいをかけてくる奴が多いからな。賑やかなのは歓迎するが、仕事が滞るのは看過出来ない。まして重要書類ともなれば尚更だ」

提督「……最近じゃ曙の部屋に居る方がむしろ仕事が捗る気さえするよ」

曙「ふーん……」

曙「……そういうのって普通は機密扱いよね? 私が居ても平気なわけ?」

提督「何だ、誰かに告げ口するか?」

曙「馬鹿にしてるの? そんな面倒くさいことするわけないでしょ」

提督「ははっ、そうだな。疑って悪かった」



 そういった理由も相まって、俺は一週間に最低でも一回はこの部屋に来ている。
 最初は罵倒の嵐を浴びせてきた曙も、今ではすっかり大人しい。時折思い出したように不平不満、愚痴や弱音をぶつけてくる時もあるが、曙自身によって相当鍛えられた俺からすればじゃれているに等しい。恐らく本人も同じ気持ちだろう。言葉に棘がないのが明らかなのだから。

 めくられた紙と紙が擦れ合い、乾いた音が俺と曙二人の空間を支配する。会話も何もないが、心地良い時間が流れているのを感じた。

 ふと横を見れば、読書に集中している曙が視界に入る。心なしか曙の表情も柔らかい。
 そしてそんな俺の視線に気付いたのか、曙は手に持った本で口元を隠し、その上部から覗く目つきを鋭いものへと変えた。



曙「……何見てんのよクソ提督」

提督「たまたまだ。他意はない」

曙「…………どうだか」



 本によって遮られているため表情は分からないが、何かを思いついたのだろう。おもむろにベッドから立ち上がった曙が、部屋の隅に積まれている座布団を一つ手に取り俺の後ろへと移動する。

 バサッ、という座布団を床に敷く音に続いて、ドン、と俺の背中に衝撃が走った。……どうやら俺を背もたれ代わりにする心算らしい。
 そうして背中合わせになった状態で、また紙と紙が擦れる音が生まれ始める。



提督「…………曙」

曙「何よ? これなら見たくても見れないでしょ?」

提督「…………そうだな」



 それだけ言って、俺も書類に目を戻す。じんわりと熱を感じられる背中に、思わず笑みがこぼれるのが抑えられない。

 そしてその日も俺は、無事に仕事を終えることが出来たのだった。




甘えるレパートリーが少なくなってきました。

デレと甘え、区別が難しいです。

それではまたー。





皆さんこんばんは。

潮と北上投下しますー。



     潮の場合




潮「────し、失礼します……」

提督「……来ると思ったよ。この天気だからな」

潮「す、すいませんっ……」

提督「謝る必要はない。だが俺にも仕事が残っている。今日のところは左腕で勘弁してくれるか?」

潮「は、はいっ」



 コンコン、と控え目なノック音を響かせた潮が、恐る恐るといった具合に執務室へと入ってくる。その体は震えており、いつものか弱い雰囲気を増長させていた。
 そんな姿に庇護欲が急速に高まるのを感じさせられながら手招くと、俺が座るソファの隣に、潮はその小さく幼い体躯を降ろす。

 そしてそろそろと伸ばした手で俺の左腕の袖を、弱々しく掴んだ。



潮「──────ひうっ!?」



 突如として鳴り響いた雷鳴に、潮はその身を跳ねさせ短い悲鳴をあげた。
 袖を掴んでいた手は離され、代わりにその身をもって俺の左腕に抱きついている。あまりに強い抱擁に、柔らかさその他諸々を感じている余裕がないのが悔やまれた。

 ぷるぷると震える潮の頭を、右手で撫でる。



提督「……大丈夫か?」

潮「……す、少し」



 潮は雷が苦手らしい。初めてそのことを知ったのは二ヶ月くらい前のことで、その時潮は俺の目の前で恥ずかしい姿を晒してしまったのだが、潮の尊厳を守るため割愛する。
 とにかくそれからというもの空がゴロゴロと唸りをあげると、決まって潮は俺を訪ねるようになっていた。



潮「ひううっ……!」

提督「ほら、大丈夫だ。俺がそばにいる」

潮「て、提督……」

提督「どうした?」

潮「そ、その……手を握ってもらっても良いでしょうか……? こ、怖くて……!」

提督「……やれやれ」

潮「………………♪」


 恐怖のあまり冷たくなった潮の手を握る。
 時折鳴り響く雷鳴に合わせてキュッと握られるその感触を味わいながら、俺はその後も潮を励まし続けるのだった。





     北上さまの場合




北上「提督ー、お疲れー」

提督「ぐっ……!」

提督「……北上、いきなりのしかかるのはよせ。それにこっちは食事中だ」

北上「はいはい、分かりましたよー」

提督「だから離れ…………もういい。好きにしろ」

北上「りょーかい♪」



 間宮食堂にて食事をしていた俺の背中に急に衝撃が走り、次いで重みがのしかかる。不意の出来事に驚いたが、俺の首を囲むように回された腕を見て誰なのかが分かった。
 袖をぐるりと一周する深い緑色の二本線に、薄いクリーム色の生地。そしてこんなことをしてくるような奴とくれば、それはもう北上しかいなかった。


北上「提督ってば最近私のこと働かせすぎ。流石に休ませてよねー」

提督「……悪いが今は無理だ」

北上「ふーん……。ま、仕方ないよね。最近新しい深海悽艦も出てきちゃったし?」

北上「ところでデザートもらってもいい?」



 そんな話をされた後で無碍にするわけにもいかない。俺は無言でデザートのミカンを手に取り、肩口から俺の昼食を覗く北上の目の前まで持ち上げた。



北上「ありがとね♪」



 そう言って北上が離れていく。
 静かな昼食の時間を取り戻した俺は、深くため息を吐いた。


 北上は猫みたいな奴だ。
 気まぐれで掴みどころがなく、自由奔放に動き回っては様々な足跡を残す。ふざけているかと思えば急に真面目になったりととにかくせわしない。それでいて憎めない性格をしてるからタチが悪かった。

 たまにはガツンと言ってやることも必要かもしれないとは思う。…………ただ、そういうときに限って北上は妙にタイミングが良いのだ。



北上「────これ、おすそ分けー」

北上「またね♪」



 気付かぬ間に戻ってきた北上が、俺のお盆の上にミカンを置いていく。そして何事も無かったかのように、この場を後にする。ご丁寧にもその皮は剥かれ、白い筋は綺麗に取り除かれていた。



提督「……まったく」



 こんなことをしてる余裕があるのか、と呆れつつも、俺は頬が自然と緩んでしまうのを止めることは出来なかった。




     あきつ丸の場合





あきつ丸「て、提督殿……これ以上はもう……」

提督「駄目だ。まだ半分も食べていないじゃないか」

提督「ちゃんと食べないからそんなに青白くなるんだ。俺の鎮守府で栄養不足になることは許さん」

あきつ丸「これは元々で……」

提督「食え」

あきつ丸「…………横暴であります」



 朝、間宮食堂。
 偶然いつもより早く食堂に着いた俺は、普段食堂であまり見ない艦娘をそこに見つけた。
 それがこのあきつ丸である。
 我が鎮守府に配属されてから早数ヶ月、多少なりとも交流はあったが、食堂で一緒のテーブルに着くのはこれが初めてのことだった。

 他愛ない世間話で談笑し、しばらくして先にあきつ丸が頼んでいた料理が届く。俺はその量に驚愕した。



提督『……何でそんなに少ないんだ』

あきつ丸『全て四分の一で頼んだであります。普段から満腹まで食べていてしまっては、いざという時に飢餓に耐えられなくなってしまいますので、これくらいで十分であります』

提督『…………いつもこの量で?』

あきつ丸『……何か問題が?』

提督『没収』

提督『間宮さん、大盛に変えて下さい』

あきつ丸『っ!?』



 そうして、今に至る。




提督「忍耐力を鍛えるのは構わんが食事を十分に取らないのは無視できない」

提督「そもそも腹が減っては戦は出来ぬと言うだろう」

あきつ丸「それは確かにそうでありますが……」



 あきつ丸の目の前にある皿の数々は、どれもまだ半分程度しか減っていない。大盛を頼んだことを加味しても、通常分にすら至っていないだろう。
 食を細めたことが胃袋を縮小させてしまっているということが、どう見ても明らかだった。

 そしてすでにあきつ丸の手は止まっていた。



あきつ丸「限界、で……あります」

提督「…………」



 ついにあきつ丸が音をあげる。
 口元を手で抑えているあたり、演技などではないだろう。これ以上の無理強いは意味がないと判断した俺は、あきつ丸が残した料理を乗せたお盆を、自分の元へと引き寄せた。

 せっかくの間宮さんの料理を残すなんて……もったいない。



提督「まったく……間宮さんの美味しい料理を残すなんて贅沢な奴だな……」

あきつ丸「限度というものがあるであります」

提督「だが限界は越えるものだ。──────そうだ、もう一口くらいならいけるんじゃないか?」

あきつ丸「吐くでありますよ?」

提督「大丈夫だ。いけるだろう」

あきつ丸「提督殿、自分はもう──────」



提督「ほら、あーん」



あきつ丸「……………………」

あきつ丸「…………あむっ」





提督「ほら、食べれたじゃないか」

あきつ丸「いえ今のは体が勝手に動いたというか何と言いましょうか……」


 ツバを下げ帽子を深く被ることで目元を隠したあきつ丸が、口早にまくしたてる。
 一方俺は、さらに食べさせようと料理に箸を伸ばした。



提督「このシュウマイはどうだ? まだアツアツだぞ」

あきつ丸「これ以上は本当に────」

提督「ああ、そうか。熱すぎるのは駄目か。仕方ないから俺が冷まそう」

あきつ丸「──────…………!」

提督「────ほら、あーんしろ。あーん」

あきつ丸「………………んむっ」

あきつ丸「あ、熱いであります……」



 顔を伏せたあきつ丸が、か細い声を発する。どうやら熱過ぎて顔も上げられないらしい。十分に冷ましたつもりだったのだが…………あきつ丸は猫舌なのかもしれない。これからは気を付けよう。

 それからも雛に餌を与える親鳥のごとく、せっせと食事をあきつ丸の口に運ぶ。

 そしてそれから更に十数分後、見事あきつ丸は食べきることに成功するのだった。































提督「よく頑張ったな、あきつ丸」

提督「明日からも一緒に食べるぞ」

あきつ丸「……はい」

あきつ丸(正直かなり苦しいでありますが…………)





提督『ほら、あーん』





あきつ丸(…………少しだけ、楽しみであります)




投下終了。

うわー手がすべったー。
手がすべったから仕方ないですねー。

それではまたー。

>>116
潮に対しても世話やきお姉さん的な雷
そしてそれを引け目に感じて苦手と言い表す潮

アリですね


>>121
それでも徐々に打ち解けていって、最終的には潮が雷のことを間違えてお母さんって呼んでしまって、潮は顔を真っ赤にしながら慌てて雷は少し照れながらも嬉しそうにはにかむんですね。分かります。

誰か書いて下さい(懇願)


とりあえず榛名投下します。



     榛名の場合



榛名「──────わ、私がですか?」

提督「ああ、榛名が今月の戦果トップだ」

提督「尽力、大変感謝する」

榛名「い、いえ! 榛名は当然のことをしていたまでです! 特別なことは何も!」

提督「ははっ、当たり前のことを当たり前にやることこそが一番難しいんだ。そう謙遜するな」

提督「────さて、そういうことで榛名には何か報奨を与えなければならない。叶えられる範囲なら何でもいいから口にしてみてくれ」

提督「先に言っておくがこれは我が鎮守府の規則でもある。何も要らないというのは無しだぞ?」

榛名「え、ええと………………」

榛名「……それではその──────」


────────────────
────────────
────────


提督「…………こんなことで良かったのか?」

榛名「はい! 榛名は満足です!」


 胸元から榛名の嬉しそうな声が届く。

 榛名のお願いは『添い寝をしてほしい』というものだった。それを聞いた俺は、早速執務室に仮眠用として置かれていた布団を引き出す。
 上着を脱ぎ、下はベルトだけを外す。一方の榛名は普段の格好のままだ。薄い布地が主であるため添い寝をする分に支障は無いのだろう。
 そして二人で並んで寝転がり、布団をかける。榛名が俺の胸元に顔をうずめる形で密着してきたのは、布団に入ってすぐのことだった。
 時折感じられる吐息の熱さがこそばゆい。眼下に広がる艶やかな長髪を撫でてやると、榛名の可愛い声が漏れた。


榛名「んっ……!」

提督「嫌か?」

榛名「…………いえ」

榛名「もっと、お願いします……」


 隠れて表情は見えないが、その顔は朱に染まっていることだろう。胸元に感じる熱さが僅かながらに増し、俺の腰へと回されている腕の力が強くなったのだから。


提督「さて、時間を決めていなかったがどうする?」

榛名「て、提督の好きなようにどうぞっ」

提督「そう言われてもなぁ……」

提督「それじゃあ寝て起きるまででいいか?」

提督「正直心地良すぎて、起きることが出来ないかもしれないがな」

榛名「…………か、構いません!」

榛名「は、榛名はその…………それまでずっとこうしてますから!」


 そう言って回された腕に更に力がこもる。
 それに合わせて俺も回した腕の力を強める。
 そうしている内に俺の意識は徐々にまどろみに落ちていき、しばらくして他の艦娘に叩き起こされることになるのだった。


 ……それから数日の間、榛名の戦意がやけに高揚し多大な戦果をあげることになるのだが……これは完璧な余談である。



榛名「て、提督……、その……もし今月も榛名の戦果がトップでしたら……」

榛名「────や、やっぱり何でもありませんっ!」

榛名「榛名はご褒美がなくても大丈夫ですっ!」


それではまた後で。



比叡投下ー。




     比叡の場合




提督「──────ん?」


 ペンを走らせていた手をふと止める。

 先ほどから何かが足りないと感じていたのだが、視線を上げることでその原因にようやく気付くことが出来た。


比叡「……すぅ…………すぅ……」


 ソファに横になった比叡が、すやすやと寝息を立てていた。仕事を放って寝るとは呆れた奴だと思いながらも、椅子から立ち上がった俺はそのそばへと移動し、風邪をひいてしまわないよう自身の上着をかける。
 テーブルの上に目をやると、船を漕いだ筆跡があった。書き直しか……、と額に手をやるが、比叡を怒る気にはなれなかった。


比叡「……おねえさまぁー…………」

提督「…………夢でも金剛を追いかけてるのか」


 一体どんな状況なのだろうか?
 無意識に伸ばされた比叡の手がふらふらと宙をさまよい、空を掴む。すると比叡の顔がにへら、と綻んだ。現実では掴めなかったものの夢の中では金剛に手を届かせることが出来たらしい。
 そしてもう一方の手も、宙へと伸ばされる。


比叡「しれーも…………」

提督「今度は俺か」


 呼ばれたからな。

 そう思いふらふらと揺れる手を握る。途端に比叡の顔がついさっきと同じように綻ぶ。
 俺の存在を確かめるようににぎにぎと力を入れたり抜いたりするのが、どうにもくすぐったい。

 ぐいっ、と俺の手が比叡の胸元へ引き寄せられる。


比叡「えへへ……♪」

提督「……やれやれ」


 これはこれで悪くない気分だがこれでは仕事に戻ることが出来ない。さて、どうしようか?

 そうやって頭を悩ませながらソファの端で床に片膝を立てる。眠る比叡の頬を空いている方の手の人差し指でつつきながら、俺は比叡の寝顔を見つめるのだった。


投下終了。

リクエストは残り20ですね。

それではまた後で。

明石さんと大淀さんと大鳳さん
駆逐艦と潜水艦と軽巡と重巡と航重と軽空母と正規空母と戦艦と高速戦艦と航空戦艦の全員をお願いします。


>>139
あきつ丸と雷巡と間宮さんが抜けてる。絶許。


金剛投下ー。



そういえば潜母と水母も抜けてる。やっぱり絶許。




     金剛の場合




金剛「────紅茶はやっぱり最高デース!」

金剛「提督も遠慮せずにおかわりして下さいネー?」

提督「…………ああ、そうだな」

提督「……なぁ、金剛?」

提督「この状態……すごく飲みにくいんだが……」

金剛「ンー?」



 ソファに腰掛ける俺の太ももの間に、その腰を降ろしている金剛。俺の胸を背もたれ代わりに上機嫌でティーカップを傾けているが、俺はといえば不便であるとしか言いようがない。
 金剛はそれなりに背丈があるため、俺は体をずらして紅茶を飲まなければいけないからだ。
 その上金剛は体をスリスリと擦りつけてくるため、揺れて飲みにくいときたから困ったものだ。



金剛「スキンシップは大事デース! 提督ぅー、私とのスキンシップは嫌デスカー?」

提督「あのな、少しは抑えてくれるとだな……」

提督「ほら、別に俺の隣でもいいだろう?」

金剛「隣じゃ触れ合いが少なすぎマース」

金剛「……このまま反転しても良いんデスヨ?」

提督「……このままで頼む」


 それは不味い。何がと言われれば絵面的に不味い。仮に誰かに見られでもしたら……。
 想像し、大人しく観念する。金剛は少しだけ残念そうな声をあげた。


金剛「提督ぅー、撫でても良いですヨー?」

提督「撫でてほしいならそう言え」

金剛「ギュッと抱きしめられたりされたいネー」

提督「こうか?」

金剛「……フフフーン♪」


 金剛の要望に応えながら時間が過ぎていく。
 思えば金剛とこうやってスキンシップを取ったのはいつ以来になるだろうか? 新しく配属された艦娘達の育成や海域攻略作戦への参加、その他諸々のことが重なって忙しい時期が続いていた。正確な期間は分からないがかなりの間放っておいてしまっていたのは間違いない。
 それでいてこれだけの好意を向けてくれているという事実。俺が想像しているよりも金剛は健気な性格をしているらしい。
 ……罪悪感が、湧いた。



金剛「んっ……」

金剛「急に抱きしめる力が強くなったネー」

提督「……駄目か?」

金剛「No! 嬉しいデース! もっとお願いしマース!」



 これだけのことで埋め合わせが出来るとは思っていない。
 ……ただ今日くらいは、金剛の自由にさせてやるのも悪くないはずだ。

 そう思い、また撫でる。
 そしてまた金剛の嬉しそうな声が響くのだった。






金剛「燃料に弾薬! それと提督分も補給した今の私は何にだって負けまセーン!」



本日の投下終了。

それではまた。



は、はめられた……!
勘弁してくれませんかねぇ……?(震え)

100以上とか何ヶ月かかるか分からんですし。
他に書いてみたいスレもありますし……。

ですがおかげさまで一つ学びました。
次のリクでは一人一つまでにします。(にっこり)


本日の投下は夕方頃に。
それではまた。



許して(懇願)



よし、気を取り直して投下。

皆さんは本当は優しいから無茶ぶりはしないって信じてます。

信じてます。



     疑いようも無く天使な時雨の場合





時雨「──────おはよう、提督」

提督「……ん、……おは、よう…………?」


 朝目が覚めると目の前に笑顔の時雨がいた。
 寝ぼけ眼をこすり、再確認する。その様子がおかしかったのか、時雨はくすりと笑った。間違いない、時雨だ。
 でも、どうしてここに?
 寝起きで冴えない頭を回転させ、口を開く。


提督「ここはお前の部屋だったか……?」

時雨「いや、ここは提督の部屋でこれは提督のお布団だよ」

提督「……そうか」


 時雨は相変わらずニコニコしている。
 どうやら俺が部屋を間違えたということではないらしい。考えてみれば昨日は別に酔っていたというわけでもないのだ。むしろ間違えようがなかった。

 ……と、するならば。
 これはもう時雨が忍び込んだと考えるしかない。

 とりあえず布団から出てくれ。
 そう言うことは容易だが、時雨の嬉しそうな笑顔が曇る気がした。というか絶対にそうなると俺の勘が告げている。よって却下。

 まずは理由から聞こう、そう思い────



時雨「────提督……」

時雨「ごめんね、嫌だったかい?」



 時雨が不安そうな声を発した。
 俺の表情から困惑を悟ったのだろう。
 先ほどの笑顔は引っ込み、申し訳無さそうに目を伏せている。仮に時雨に犬耳が付いていたならば、それもぺたりと伏せられていたに違いない。


提督「そ、そんなことはない」

時雨「……ほんと?」

提督「ああ、本当だ」

時雨「…………そっか」

時雨「えへへ……♪」


 慌ててフォローに入る俺と、笑顔の花を咲かせる時雨。
 俺の頭の中で細かいことは気にするな、という声が囁かれ、心の中で同意する。

 そうして布団の中で向き合ったまま、俺と時雨はしばしの時を共に過ごすのだった。



 …………もちろん途中から、時雨が喜んでるしもう理由なんてどうでもいいや、と思ったのは言うまでもない。









時雨「僕だって寂しくなる時くらいあるさ」

時雨「だから……ね?」

時雨「もう少しここに居ても良いかい?」



投下終了。

今日は所用がありますので一つだけです。

それではまた。


皆さんこんばんは。
所用(飲み会)のため本日の投下はありません。
何も月曜日に飲まなくてもいいでしょうに……。
断れないですけどね。仕方ない。


それと割とガチで伊勢さんの甘えるor甘えられるシチュエーションが思い付きません。日向と一緒に出すと書きやすいんですけどね……。どなたかヘルプミー。このままだと『甘い』ではなく『エロい』になりそうです。タイトル詐欺、駄目絶対。


それではまた。


きもちわるい……。
お酒が美味しいという人の感覚が分からぬ。

でもヒントは得ました。
伊勢さんには酔ってもらおう。(にっこり)

先に言っておきます。寸止めです。

一応全員同じ提督ということで書いてますので
、そういうことしちゃうとこれから書きにくくなっちゃいますので。

黒インナーをどう有効活用するか。それだけが問題。


それではまた。


こっそり投下ー。



     伊勢の場合





伊勢「ねえ、提督…………暑くない?」

提督「暑くない」

伊勢「じゃあ寒い? 暖めてあげよっか?」

提督「寒くもない。それよりも近い。離れろ」

伊勢「そんなこと言わずにさぁ……」

提督「頼むから離れてくれ……!」

伊勢「もー、仕方ないわねー……」


 ケラケラと楽しそうに笑いながら、しなだれかかってきていた伊勢が俺から離れる。上着は既に本人の手によって隣の椅子に置かれており、黒インナーによって浮き彫りにされた伊勢の肢体が、嫌でも目に入った。

 居酒屋「鳳翔」。
 とうに営業時間は過ぎており、店主である鳳翔さんすらこの場にはいない。ここに今居るのは俺と伊勢だけである。
 俺だって普段ならもう帰っている時間なのだが、今夜は不幸なことに、伊勢の深酒に付き合わされてしまっていた。


提督「伊勢……いつまで飲む気だ?」

提督「これ以上は明日に響くぞ」

伊勢「いいじゃない。あたしだって飲みたくなるときくらいあるんだから」

伊勢「明日はお休みもらおうかな? ……なーんて」

提督「はぁ……」


 伊勢とは反対の方を向きながらため息をつく。
 伊勢に限らずこの鎮守府で酒を飲む奴にろくな酔い方をするやつはいない。泣き上戸や笑い上戸はもちろん、絡み酒から怒り酒まで様々なやつがいる。
 そして大抵ろくな結果にならないのが常だった。

 経験からそれらの怖さを知っている俺は、アルコールが徐々に体に溜まっていくのを感じつつも気を抜きはしない。

 ムニュリ、と背中でそんな音がした気がした。


提督「………………伊勢」

伊勢「んふふー♪」

提督「…………っ!」

伊勢「どうしたの提督? 大人しいじゃん」

伊勢「ほらほらー」


 背中から伊勢に抱きつかれる。
 首に回された両腕は酔ってるとは思えないほどに強く、ほろ酔い気分に浸りかかっている俺の膂力ではふりほどけそうにない。

 密着したまま小刻みに体を揺らす伊勢によって、背中の感触がより鮮明に感じられる。口を開けば余計なことを口走ってしまいそうな気がして、俺はただただ黙るしかなかった。




伊勢「…………暑くない?」

提督「……暑くない」

伊勢「……あたしは熱いけどね」

提督(…………や、やばいぞこれは……!)


 俺の耳元にまでその唇を近付けた伊勢の声が耳朶を揺らす。吐息の熱のくすぐったさに身を捩ると、伊勢はまた楽しそうに笑った。

 体が熱い。
 まるで急にアルコールが回ってしまったかのようだった。

 理性と本能の狭間に揺れながら、伊勢の手を握る。とにかくどうにかしなければと思っての苦し紛れの行動だったが、それがいけなかった。


伊勢「ふーん……」

伊勢「提督も満更じゃないってこと?」


 気を良くした伊勢が、抱きしめる力を強める。
 それと同時に首元に感じる柔らかい感触。続くザラザラとしたものが肌の上を滑る感覚に、びくりと体が震えた。
 首に感じる熱が、更にその温度を増す。
 ぐるぐると制御の利かない思考が、ぷつりと切れた気がした。


伊勢「────んぅ……ちゅっ…………はぁ……」

伊勢「…………提督?」







伊勢「──────ひゃっ!?」







 背もたれの無い椅子であることが幸いした。
 伊勢の両腕に包まれたまま体を回転させた俺は、正面から伊勢を抱き留める。
 緩められた拘束を抜け、両頬に手の平を添える。目と目が合い、見つめ合った。

 驚きに開かれた瞳が視界に移る。
 淡い桃に染まる唇が光を反射する。

 そうしてそれら全てが次第に近付き────── 
































   ___
  ヽ


しゅーりょー!

上の余白は心が清らかな人が見ると文章が見えます。

寸止めっていいましたし。

それではまたー。




こんばんは。
むっちゃん投下ー。



     陸奥の場合




提督「…………………………」


 昼下がりの執務室。
 カーテンの隙間から零れた光の暖かさと、流れてくる緩やかな風の爽やかさがとても心地いい。
 連日徹夜続きの体にはとても染み渡る。

 うつらうつらと船を漕いでいた頭は既に両腕の中に収まり、俺の体は仮眠を取る体勢へと移行していた。
 数十分、長くても一時間。
 そう自身に言い聞かせ、ぼやけていく意識に身を委ねる。そしてそれは、本日何度目かの失敗に終わるのだった。


陸奥「…………ふふっ」

提督「…………陸奥」

陸奥「あらあら? 起きちゃったの?」

提督「つつくな。頼むから少し眠らせてくれ」

陸奥「んー…………」

陸奥「駄目♪」

陸奥「せっかく提督と二人きりなのに、それじゃつまらないじゃない」


 顔をうずめたまま、陸奥へと問いかける。
 先ほどからずっと、後少しというタイミングで陸奥からこのように邪魔をされている。何故絶妙なタイミングで邪魔が出来るのか気になったのだが、それを聞くと「提督のことなら大抵分かるわよ」と笑顔で返されてしまった。不意を突かれてドキリとしたのは内緒だ。おそらく女の勘というやつなのだろう。……げに恐ろしい。


提督「……今度お前が居眠りしそうになったときに仕返しするぞ? いいのか?」

陸奥「あら、いいわよ?」

陸奥「そうねー……ちゅーくらいならしてもいいわ」

提督「……あのな」

陸奥「……提督だけだからね?」


 何も言わず、更に顔を腕の中に沈める。
 陸奥の表情はもちろん見えないが、その頬は淡く朱に染まっていることだろう。軽い口調でこんな台詞をのたまうくせに、こいつはひどく純情な乙女なのだ。恥ずかしがるくらいならそもそも言わなければいいのにわざわざ言うのは、「口にするとドキドキして胸のあたりがぽかぽかするから」だそうだ。乙女か。

 ……まぁ、おそらくそんな陸奥よりも顔を赤に染めている俺が言うのもなんなのだが。

 これではますます起きるわけにはいかない。俺は再び襲ってくるであろう睡魔を今か今かと待ち構える。


陸奥「…………あら、あらあら♪」

陸奥「提督? 耳が赤いわよ?」


 これでもか、というほどに腕の中に沈む。
 どうやらまだまだ眠ることは出来そうになかった。







陸奥「ふぅん……」

陸奥「…………ふんふんふふーん♪」

提督「…………つつくな」

陸奥「ふふっ♪」



投下終了。
それではまた。



 鳳翔さんの服が乱れ、陶磁器のように滑らかで美しい肌がその身を覗かせた。

 首を伝う汗の雫が、なだらかな曲線を描いて滑り落ちていく。





この文章で正面────鎖骨辺りを思い浮かべる人と、背中────うなじ辺りを思い浮かべる人。

どっちが多いんでしょうね。


ということで投下ー。



     妙高の場合




妙高「提督、今日は十時から────」

提督「地元の漁師組合の人が来るんだったな」

妙高「お昼は────」

提督「駆逐艦の奴らとの交流もかねて一緒に作るのだろう? 午前の仕事は早めに切り上げなければいけないな」

妙高「ええと、夕方には────」

提督「取材、か……。ああいうのは苦手なのだが……」

妙高「……………………」

提督「そして夜の予定は無し……。久し振りに早く休むのもいいな。…………妙高?」

妙高「……何でもありません」


 静けさに違和感を覚え、視線を隣に向ける。
 不機嫌そうに眉間に皺を刻んだ妙高がそこにいた。声音も少し低い。何でもないと言ってはいるが、どう見ても何かあるのは間違いなかった。

 じっ、と妙高を見つめる。
 妙高は耐えかねたのかその目を伏せ、小さくため息を吐いてポツポツと語り始めた。


妙高「……昔は、もっと尽くしがいがありました」

妙高「それが今ではお一人でお仕事をこなしてしまう始末…………」

妙高「覚えてますか? 昔は何をするにしても逐一私に確認してたんですよ?」

提督「それは確かにそうだが……」

提督「成長は良いことなのでは?」

妙高「そんなの寂しいです。もっと頼って下さい」

提督「……それが本音か」


 きっ、とこちらを見つめてそんなことをのたまう妙高。
 妙高は四姉妹の長女でもある。世話を焼くのが好きな性分なのだろう。……これは少しばかり行き過ぎている気もするが。

 とはいえ妙高の言う通り昔はかなりの頻度で頼っていたことも事実。つまり多大な恩がある。そんな妙高の願いを無碍にするほど、俺は恩知らずではなかった。

 意を決し、口を開く。


提督「……久し振りに妙高が作った料理が食べたいな」

提督「頼めるだろうか?」

妙高「────っ!?」


 途端に花が開いたかのような笑顔を浮かべる妙高。心なしか瞳もキラキラしているように思えた。
 いい年しておねだりをするのは多少気が引けたが、この笑顔が見られたのならば安いものである。明らかに機嫌が良くなった妙高の姿が微笑ましい。


妙高「腕によりをかけてお作りいたしますね!」


 「それは楽しみだ」と短く返し、視線を前に戻す。視界から外れた妙高は、誰に言うでもなく料理のプランを口に出しては自身で否定するということを繰り返していた。

 そして妙高がいつもの平静を取り戻すのに、それからしばらくの時間を要するのだった。




投下終了。
それではまた。


皆さんこんばんは。

羽黒が更に可愛くなりましたがやっぱり那智さんが一番だというのは揺るがないですね。

本日の投下はありません。
明日投下後にリクエスト取ります。
奮ってご参加下さいませ。

それではまた。



皆さんこんばんは。

第一次投下作戦開始します。

二回目の投下後にリクエスト取ります。
10人までです。早い者勝ちです。

それでは投下ー。




     初風の場合




提督「…………………………」

初風「…………………………」

提督「…………………………」

初風「…………………………」

提督「………………なぁ、初風?」

初風「なに?」

提督「その、何だ……? 俺に用でもあるのか?」

初風「用……? 別に無いけど?」

初風「私はただ見てるだけよ。いけないの?」

提督「そ、そうか。それなら別にいいんだが……」

初風「……変な提督」


 止めていた手を再び動かし、提督はまた書類作業に戻る。カリカリとペンの走る音が響くが、どことなくぎこちない。

 おそらく私の視線を気にしているのだろう。
 時々手を止めてはため息を吐き、また作業を再開するという行為が続いていた。

 だからといって私は見るのをやめるというようなことはしない。何か邪魔をするというわけではなく、本当にただ見ているだけ。特にやめる必要は無いだろう。作業効率が落ちているのは明らかだけど、それの落ち度は提督にある。
 初風に落ち度でも? なーんてね。


初風「……ふふっ」

提督「っ?!」


 あまりの似合わなさについつい吹き出す。
 急に笑ったことに驚いたのか、提督の体がビクンと跳ねた。いつも冷静な提督のこういう姿は珍しい。ちょっと可愛いと思ってしまった。


初風(……でも、可愛いって柄じゃ無いわよね)


 音で表すと『キリッ』とか『ピシッ』とかが似合うのがうちの提督だ。
 目鼻立ちもスラッとしていて贔屓目に見てもカッコいい部類に入るだろう。

 そんなことを思いながら、提督の顔をまじまじと見つめる。勢い余って少し身を乗り出すのと同じくして、提督も少し身を引いた。
 ……無意識のことなのだろうが、その反応は地味に傷付く。


初風(…………んー?)


 引こうが引くまいが私のすることに支障は無いはず。それならば何故傷付くのか?
 胸中に疑問が渦巻いたが、考えてみても分からなかったので結局気にしないことにした。

 そうしてまた改めて、私は提督の方へと視線を向けるのだった。


初風「………………」

初風「……ちょっと、顔背けないでよ」

初風「提督の顔、よく見えないでしょ?」




     飛龍の場合




 艦娘、と彼女達は一括りにして呼ばれるが、その中身はまさしく十人十色と言われるようなものだ。
 容姿・態度・得手不得手・好き嫌い。
 その他諸々を含めた全てがそれぞれ微妙に違っていて、とにかく皆個性が強い。

 そんな中でも例外はいる。
 特徴が無いというわけではないが、他の娘達と比べると比較的大人しく普通な娘がいるのだ。

 元気な娘達の相手をするのも悪くはない。
 …………ただ、俺だってたまには安らぎが欲しいと思うのは、至極当然のことであり許される我が儘であるというのは間違いないだろう。










飛龍「────はい、取れました」

飛龍「それじゃ今度はこちらに来て下さいね!」


 声に従い体の場所を反対側へと入れ替える。
 そしてまた頭を降ろすと、再び俺の頭は柔らかい感触に包まれた。


飛龍「こっちの耳もそんなに溜まってませんね」


 そう、何を隠そうこの俺は、飛龍に耳かきをしてもらっていた。

 なされるがままに飛龍の柔らかな腿の感触を味わう。短い袴からはみ出した健康的な肌色が目に優しい。
 日々の疲れが癒されていくのを肌身に感じた。


飛龍「……痛くないですか?」

提督「ああ、全く」

飛龍「そうですか……安心しました」

飛龍「初めてやったので、上手く出来ているか心配だったんです」


 ちなみにこれは俺から申し出た事ではないことを一応言っておく。あくまで飛龍自身が申し出たことであり、その感情には飛龍も俺も疚しいところは一切ない。疚しいところは一切ない。

 ただ、普段の俺なら断固として受け入れていなかったであろうことから、疲弊によって俺の判断基準が弛んでいたということは否定するつもりはない。

 まぁ、これきりだろう。
 たまにはこういうことがあっても罰は当たるまい。それだけの行いはしてきているつもりなのだから。


飛龍「────よしっ、終わりました!」

提督「ありがとう飛龍。おかげでスッキリした」

飛龍「いえいえ、お礼には及びません!」

飛龍「提督には何度も助けられていますから!」

飛龍「ですから……その────」



飛龍「────またいつでも頼って下さいねっ!」



 ………………もう一回くらい、いいよな?




     曙の場合 2




曙「────お帰り。見ての通りお邪魔してるわ」

提督「ああ、何もないがゆっくりしていけ」

曙「…………驚かないのね」

提督「驚いた方が良かったか?」

曙「別に」


 それだけ言って俺から視線を外し、手に持っている本へと向き直る曙。

 仕事を終えて自分の部屋に戻ってきたら先に曙がいた。一瞬驚きはしたのだが、そもそも逆の立場で同じ事をしているということに気付いてしまい、すぐに思考は落ち着いた。

 ベッドに腰掛ける曙を余所に俺は上着をクローゼットに入れ、座布団をひいてドカリと座り込む。
 テレビを点けるとニュース番組が流れていた。


提督「あんまり遅くまでいるなよ」

曙「それくらい分かってるわ」

曙「明日の出撃に疲れは残さない。当然でしょ。…………馬鹿にしてるの? クソ提督」

提督「分かってるならいいんだ」


 俺と曙。同じ部屋にいるというにも関わらず、それぞれが自身の時間を満喫する。
 かといってお互いを無視しているというわけではない。お互いの存在を認めた上で、ある種『居て当然のもの』として扱っているのだ。信頼、と言ってもいいかもしれない。

 …………とにかく、良い時間を過ごしているということだけは間違いないだろう。





提督(………………こういう時間も良いものだな)

曙(……悪くないわ。また来ても良いわね)





 お互い同じことを考えているということなど露知らず、二人はしばらくの間をそうやって過ごすのだった。




















提督「────お茶とカルピス、どっちが良い?」

曙「カルピス」

曙「もちろん濃い目ね。分かった?」

提督「はいよ、っと」



一旦休憩。

続きは10時から11時の間に。



     五月雨の場合




五月雨「────すみません、提督……」

提督「気にするな。割といつものことだろう」

五月雨「あはは……、それはそれでちょっとショックですね……」


 鎮守府、医務室。

 ベッドに腰かけた五月雨にかしずくかのようにして膝を折り、五月雨の足首の状態を確認する。

 事は少し前に遡るのだが、要約すると五月雨は、俺の秘書艦としての行動中に階段でバランスを崩してしまったのだ。
 とっさに腕を掴むことでその細い体が床に叩きつけられるという事態は避けることができたが、その際に踏み出した足を捻ってしまったらしい。
 おそらく捻挫だろう。そう当たりを付けた俺は処置を施すために医務室に来た訳なのである。


五月雨「提督は医学の心得もあるんですか?」

提督「まさか。こういった簡単なことだけだ」

提督「それに君達には普通の治療じゃ足りないだろう」

提督「入渠用のドックが空いていればすぐにでも入れてあげられたのだが…………すまないな」

五月雨「い、いえ、謝るのはむしろ私の方です!」

五月雨「──────痛っ……」

提督「ほら、無茶をするな」

五月雨「だ、大丈夫ですっ……!」


 勇み立とうとした五月雨が、痛みによって再び座ることを余儀なくされる。
 涙目になりながらも健気に振る舞うその姿に、不謹慎ながら可愛いと思ってしまった。


五月雨「──────あっ…………えへへ♪」


 立ち上がり、眼下にいる五月雨の頭を撫でる。
 さて、これからどうしたものか。
 業務に戻ろうにも五月雨を無理に連れて行くわけにはいかない。かといって五月雨をここに一人にしておくというのも良心がはばかられた。

 不意に、五月雨と目が合った。


五月雨「────提督……」


 不安げな声。
 潤んだ瞳と寂しそうなその声に、俺の心は決断してしまっていた。













五月雨(お、お姫様抱っこ……!)

五月雨(ええと、私重くないですよね? 今日はあんまり動いてないから汗の匂いもしないはずですよね?)

五月雨(ううぅ……!)

提督「五月雨、大丈夫か?」

五月雨「だ、大丈夫、ですっ! はいっ!」

五月雨(は、恥ずかしいです…………!)




     天津風の場合




天津風「あ、あなた……」

天津風「いい風きてる……?」

提督「風邪ひいてるくせに余裕あるな天津風」

提督「帰っても大丈夫か?」


 天津風の部屋。
 どうやら風邪をひいてしまったらしく、いつにも増してその頬は赤みを帯びていた。
 そして俺はそんな天津風のお見舞い・看病をしに来た訳なのだが……、この台詞を聞く限り予想以上に余裕がありそうだった。

 幸いもう少しでお昼になる。同室の島風や同じ駆逐艦娘の奴らもこの部屋に来ることになるだろう。寂しくはないはずだ。

 そう思い、立ち上がろうとする俺。
 その俺の手を何かが掴んだ。


天津風「……………………」

提督「……天津風?」

天津風「………………行かないで」

天津風「お願いだから……!」


 きゅう、と握る力が強まる。
 俺は何も言わずにその場にしゃがみ直した。

 天津風の不安そうだった顔が、それを機に嬉しそうなものに変わる。人は身体が弱ると精神的にも弱るとよく言うが、天津風もその例外に漏れなかったらしい。
 普段の態度が見る影もなかった。


提督「…………ははっ」

天津風「……何笑ってるのよ」

提督「ん? 天津風も可愛い奴だなぁと思ってな」

天津風「なっ……!?」

提督「落ち着け落ち着け。体に障るぞ」

天津風「くぅっ……!」

天津風「お、覚えてなさいよ……!」


 そう言って怒りを露わにする天津風。

 しかしその手が未だに離されていないという事実に、俺はただただ笑うしかなかった。



投下終了。
残りリクエストは10人。

よって追加取ります。
このレスから艦娘10人分です。
お1人様1名とは言いません。
良識の範囲の人数でどうぞ。

それではよろしくお願いします。




間宮さんまででストップ。
リクエスト了解しました。


それではまた。

曙の飲むカルピス(もちろん濃いめ)で変な想像をした自分は間違いなく糞提督

今更だけど>>206
「贔屓目に見ても~」じゃなくて「贔屓目に見なくても~」だよね?

曙はお茶よりカルピス→カルピスが好き→白い液体が好き
俺「……!! 曙、この大口径からカルピスさんがでるぜ」ボロン


テスト


良かった……! ちゃんと書き込めてる……!

えーと、昨日は何のお知らせもなく投下しないでしまって大変申し訳ありませんでした。

見に覚えは無いのですがBBQ規制というものに引っかかってました。何故じゃ。

何はともあれ続けることが出来そうなので本当に良かったです。


それではまた今日の夜に。



皆さんこんばんは。
1人だけですが投下します。

>>234
初風が無意識に好意的に見てしまっている&それに気付いていない。という表現のつもりでした。分かりにくくてすいません。ご指摘感謝です。



     足柄の場合




足柄「──────意外ね……」


 深夜、執務室。
 トレーニングに熱を入れてしまったせいでいつもより大分遅くなってしまった私は、この時間帯だというのに未だに灯りが漏れている執務室に気付き、その扉に手をかけた。
 そして目に飛び込んできたのは珍しい光景だった。

 提督がテーブルに書きかけの書類を散らし、ソファの背もたれにその背中を預けながら小さく寝息を立てている。
 状況から察するに仕事途中で睡魔に負け、まどろみに落ちたと見て間違いないだろう。


 起こさないようにそっと近付き、提督の隣へと腰かける。
 目を閉じ無防備な姿を晒す提督に、私の笑みがこぼれた。


足柄「……疲れてないわけがないわよね」


 うちの鎮守府で抱えている艦娘の数は他の鎮守府と比べて圧倒的に多い。その分提督の仕事量が多くなるのは必然で、今ではまだまだ規模が小さかった頃の数倍はくだらないだろう。
 それでもこなしているのだから、この提督は凄い。

 労いの意を込めてその頭をそっと撫でる。
 硬くて引っかかる髪の毛の手触り。
 ハリやツヤの無さに、それらの激務の代償が現れていた。


足柄「……いつもありがとう」


 感謝の言葉を面と向かって伝えるのは恥ずかしい。かと言って寝ている間に囁くのもいささか卑怯ではあるのだが、ズルい女は許されるのが世の常というものだ。このくらいは許してもらおう。


足柄「これからもよろしく頼むわよ」


 体を寄せ、その肩に自身の頭を軽く乗せる。
 そうして目を閉じれば、じんわりと暖かさに包まれていくのを感じることが出来るのだった。









提督「──────ん……?」

提督(……途中で寝てしまったのか。弛んでるな)

提督(……? 違和感が────)


 目を覚まし、違和感の方向へと顔を向ける。
 すぅすぅと安らかな寝息を立てる足柄がそこにいた。

 何故ここにいるのか?
 何故ここで寝ているのか?

 疑問は尽きないが……。


足柄「むにゃ…………」

足柄「提督ぅ……ありがとぉ…………」

足柄「………………ふふっ♪」


 苦笑し、頭をかく。
 楽しい夢でも見ているのだろう。その顔は少々だらしなかった。


提督「……仕方ないか」


 仕事に戻ることは出来ず、更に言えば動くことすら出来ず、俺は仕方なく再び目を閉じる。
 俺が再びまどろみに落ちるのに、そうそう時間はかからなかった。


投下終了。

それではまた。



テスト

待ってました!


ぐぬぬ……!
規制かかったりかからなかったり一体何なんですかー。

このままだと毎日更新が無理そうなので、土日大量更新にシフトします。
楽しみにしていた方、すみません。

何もかもBBQ規制が悪いのです。こんちくしょー。


それではまたー。


>>256
もう本当にすみません。


来い!


よっし! 書き込めた!

いつまた規制くらうか分からないので早々に投下します!

3人だけですいません!



     比叡の場合 2




比叡「…………すぅ……すぅ……」

提督(………………)


 鎮守府、執務室。

 普段は俺専用の机と椅子を奥にして、手前にはテーブルを挟んでソファを二つ置いているのだが、今この部屋にはそれらのものは一切見当たらない。
 床一面に畳が敷かれ、それらの家具の代わりに座布団や卓袱台、桐箪笥などが鎮座している。
 いわゆる模様替えというやつだ。担当したのが鳳翔さんらしいのだが、この部屋を見たときはそのことにひどく納得したものだ。

 環境が変わっても俺がやることは変わらない。
 ……ただ、この状態はいささか窮屈だった。


比叡「しれぇー…………むにゃ……」


 座布団に胡座をかく俺の背中に、覆い被さるようにして密着している比叡。その顎は俺の肩に置かれ、時折呟かれる寝言と漏れる吐息が、俺の鼓動を加速させる…………というわけではない。

 そもそも、寝言ですらないのだから。


提督「……比叡、何故寝たふりをする?」

比叡「…………ね、ねてますよー……むにゃむにゃ」

提督「……寝てる奴はそんなこと言わないぞ」

比叡「じゃ、じゃあ寝てませんよっ……すぅすぅ」

提督(そういう意味じゃない)


 比叡が寝たふりをしているという事は寝息があまりにも規則正しかったのですぐに気付いた。問題は何故そんなことをするのかという点だったが、考えてみても皆目見当が付かない。
 ……まぁ比叡のやることはいつだって突拍子のないことばかりだ。今回も深い理由は無いに違いない。

 ……それにしても仕事がしにくい。
 せめて座布団を枕にして畳に寝てほしいものだ。


提督「眠たいのなら横になっていいぞ。勤務中ではあるが許可する」

比叡「…………………………」

提督「……どうして黙る」

比叡「…………す、すぅすぅ……」

提督「……おい」


 何度諭しても一向に離れない比叡。
 そうしてついに諦めた俺は、そのまま仕事を続けることにするのだった。










比叡(………………)

比叡(司令の背中、あったかいです……)

比叡(………………えへへ♪)




     瑞鳳の場合




瑞鳳「提督ぅ……仕事しようよぉ……」

提督「とは言われてもな……」


 ちゃぶ台に頬杖をついてため息を吐く。
 それに呼応するかのように同じくため息を吐いた瑞鳳が、目を伏せ畳に寝転がる。ゴロゴロと転がりながらうなり声をあげるその姿は、なかなかに面白い。


瑞鳳「うぅー……うぅー……」

瑞鳳「………………暇っ」

提督「仕事が無いのは良いことだろう?」

瑞鳳「提督は早く片付け過ぎなのよっ。私が来る前に全部終わらせちゃうなんてひどいじゃないっ」

提督「えぇー……」

提督(そもそも遅れてきたのはお前だろうに……)


 あえて口には出さず、心の中で呟くだけに留めておく。仕事をしないのは困りものだが、仕事をしたがりすぎるのもこれはこれで困るものなのだと初めて知った。
 俺の膝元まで転がってきた瑞鳳が上目遣いでこちらを見つめる。明らかに非難の色を宿しているが、八つ当たりもいいところだった。


瑞鳳「──────うにゅー……」

提督「…………おぉ」

瑞鳳「むきゅぅー……」

提督「……ふむふむ」

瑞鳳「えぅー……」

瑞鳳「へぇいふぉふー……」


 その頬をつまみ、左右に引っ張る。
 何となくで起こしてみた行動だったのだが、これが案外はまった。もちもちとした感触と瑞鳳の面白い顔に心が癒される。

 ついつい何度も弄ってしまったが、抗議の声が挙がらないところを考えると、瑞鳳もそこまで嫌では無いのかもしれない。

 しばらく堪能してから手を離すと、その頬は朱に染まっていた。弄っていないところまで赤くなっているのは一体どういうことだろうか?

 疑問を浮かべる俺に対し、瑞鳳が先んじて口を開く。


瑞鳳「…………終わり?」

提督「…………ほぅ」

瑞鳳「きゃー♪」


 再び手を伸ばす俺と、黄色い悲鳴をあげつつ微笑む瑞鳳。

 後になってこのことを振り返ったお互いが、この時のテンションのあまりの高さに羞恥を味わうハメになるのだが、この時の俺達はそんなことなど知る由もなかったのである。

 ……まぁ楽しかったので良しとしよう。



     北上の場合 2



北上「────北上、帰投しましたよー」

北上「ってことで、どーん」

提督「おふっ!?」

提督「……き、北上……! お前な……!」

北上「んー……、提督ってなんか安心するよねー♪」


 部屋に入ってきて早々に俺に飛びついてきた北上。
 座布団に胡座をかいて油断していた俺は、為す術もなく畳へと押し倒される。これは不味いと思ってすぐさま引き離そうとしたのだが、北上は俺の体に巻き付くようにしてしがみついており、力を入れてみても微動だにしなかった。
 仕方なく観念してされるがままになる。
 北上は猫のように俺の胸元に額を擦り付けていた。


提督「……楽しいかそれ?」

北上「んー、楽しくは無いかも。…………でもほら、マーキング的な?」

提督「余計分からん」

北上「分からなくてもいーよ。ふふーん♪」

提督「はぁ……」

提督「そのままでかまわない。報告しろ」

北上「りょうかーい」


 無線で大体の内容は知っているのだが、それでもやはり実際に見た者の証言とは大事だ。
 あれこれと質問をしつつ、報告を聞いていく。
 こういった小さな事の積み重ねによってこの鎮守府は支えられてると言ってもいい。流石の北上も報告中はふざけようとはしなかった。
 報告をし終えた北上がニヤリと笑う。


北上「──────で、どうでしょー?」

提督「……今回もお疲れだったな」

北上「それで?」

提督「…………次も期待しているぞ」

北上「それでそれで?」

提督「……………………」

提督「MVPのご褒美は何が良い?」

北上「んー、待ってましたっ」


 ────言わせるつもり満々だったくせに。
 心の中でそう呟き、ため息を吐く。
 しかしまぁMVPというのは実際ご褒美を出していいくらいの働きぶりだ。多少の融通くらいはしてやらないとむしろ罰が当たる。


提督「で、どうする?」

北上「しばらくこのままでよろしくー」


 そして他の艦娘達よりも安く済むのもありがたい。
 見られるとあらぬ誤解をされるという点だけがネックだが、その点を差し引いても十分にお釣りが来る。
 …………ちなみに俺自身そんなに悪くない気持ちだというのは北上には内緒のことである。


提督「……撫でるか?」

北上「良きに計らってー」

北上「────────ふふふーん♪」


 上機嫌になり鼻歌の音も大きくなる。
 そうしてしばらくの間、俺と北上は共に抱き合いながらの時間を過ごすのだった。


投下終了。

土日に投下しますといいましたが、規制で投下出来ませんでした。すいません。

規制かかったりかからなかったりよくわからないので、これからは書き込めた時に逐次投下します。よろしくお願いします。

それではまた。


鈴谷投下ー。



  鈴谷の場合




鈴谷「──────提督ー!」

鈴谷「間宮さんからアイス貰ってきたよー!」


 ドタドタと慌ただしい足音に続いて、扉が勢いよく開け放たれる。立っていたのは満面の笑みと共に両手にアイスを携えた鈴谷。
 仕事に集中していて気付かなかったが、ふと壁にかけられた時計に目をやってみると、時計の針は何時の間にか三時を指していた。

 休憩を入れるのには丁度いい。


提督「そうか、なら休憩にするか」

鈴谷「疲れたときには甘いものだよねー♪」


 ちゃぶ台の上に散らばっている書類をまとめて端に寄せる俺と、部屋の隅に積まれた座布団を引き出して俺の対面へと腰を降ろす鈴谷。
 そして俺が片付けを済ませた頃には、すでに鈴谷はスプーンを用いてアイスをその口に運んでいた。


鈴谷「んー、美味しー♪」

提督「鈴谷のはバニラか?」

鈴谷「うん! ……提督、こっちの方が良かった?」

提督「……いや、このチョコで構わない」


 鈴谷がスプーンをくわえたまま、こてん、と首を傾げる。俺は別に問題ない、と返したつもりだったのだが、鈴谷の目つきが険しくなった。
 そうして無言でアイスを俺に差し出してくる。


提督「……どうした?」

鈴谷「提督、バニラの方が良いんでしょ? 見れば分かるよ。てゆーかバレバレ?」

提督「…………顔に出したつもりは無かったんだがな」

鈴谷「提督のことなら手に取るように分かるに決まってるじゃーん♪」

提督「……そうか?」


 そう言って、「食べかけでごめんねー」と鈴谷がケラケラ笑う。鈴谷が良いのなら、と思った俺は交換に応じることにした。
 まだ一切口を付けていないチョコアイスを鈴谷へと差し出す。


鈴谷「──────んあー……」

提督「……何のまねだ?」


 差し出したアイスには目もくれず、鈴谷がその小さく可愛らしい口を開けながらこちらを見る。
 ……いや、何を求めているのかは分かるのだが。


提督(…………まぁ交換してもらった身だしな)

提督(多少の我が儘は許してやるか)


 スプーンでアイスを掬い、鈴谷の目の前へと差し出す。
 差し出された鈴谷が、目を丸くした。


提督「ほら、あーん」

鈴谷「──────ふぇ?」




鈴谷「────な、ななななっ!?」

鈴谷「えっ、ちょっ、なんでっ!? なんでそーなるの!?」


 瞬く間にその顔を朱に染めた鈴谷が、素早くその身体を退かせた。
 その予想外の反応に、俺はスプーンを差し出した状態のままで固まる。

 目線があっちこっちに泳いでいる、明らかに混乱の最中にいるであろう鈴谷と、俺の目が合った。


提督「……違ったか?」

鈴谷「い、いや、間違ってないけど! 間違ってはないけどぉ…………!」

鈴谷「…………いつもの提督ならそんなことしないじゃーん……」

鈴谷「なんでなんで……! こ、心の準備とか……! …………うぅ……!」


 頭を抱えながらうんうんと唸り始める鈴谷。
 見ている分にはかなり愉快なのだが、腕を上げた状態でこのままなのは正直辛い。
 意を決し、口を開く。


提督「……で、食べないのか?」

鈴谷「──────────っ」


 ピタリ、と動きが止まる。
 そのまま数秒停止した後、鈴谷は目を伏せて恥ずかしそうにしながら、俺の方を向いた。


鈴谷「…………食べ、る……うん……」

提督「そうか。なら早くしろ」

提督「すでに溶け始めてきてるからな」

鈴谷「わ、分かってるってば!」

鈴谷「…………あぅ……えっと、その……」

提督「…………はぁ」

提督「…………ほら、あーん」

鈴谷「あ、あーん…………」

鈴谷「────あむっ」

鈴谷「────────」

提督「…………どうだ?」

鈴谷「…………………………」

鈴谷「…………なんかよく分かんない」


 再度目を伏せ、鈴谷はボソボソと呟いた。






鈴谷「だからその……もう一回……いい?」





 ────その日俺は、結局アイスを口にすることが出来ず終いになるのだった。



それではまた。



繝?せ繝医?


よし、3人投下します。

他ので手を抜いてる訳じゃないんですけど、やっぱり力を入れちゃうんですよね。

具体的には鳳翔さん、鈴谷、夕立、時雨、あきつ丸に。




     大和の場合



提督「──────んっ……」

提督(頭が痛い……。飲み過ぎたか?)


 頭を襲う鈍痛に引っ張られ、意識が徐々に戻ってくる。ガンガンと鳴り響くような痛みに目も開けられないが、それのおかげで思考の方は落ち着きを取り戻しつつあった。
 目を閉じ、暗闇に視界を預けたまま、途切れ途切れになっている記憶を繋げていく。


提督(俺の部屋、のはず……えーと)

提督(……昨日は良いお酒が手に入ったということで飲める奴らで集まって飲んだんだったな)

提督(それで途中で歯止めが利かなくなって、俺も相当やばかったから巻き込まれないように早めに退散して……)

提督(いや待て)

提督(俺だけじゃない。俺ともう一人居た。そいつと一緒にあの場を抜け出して……)



大和「んんっ……」



提督「……お前だったか」


 誰かが身をよじったかのような振動が、俺にかけられている布団を通して伝わり、さらに正面から聞こえてきたその声に、俺はようやく目を開けた。

 飛び込んでくる凛々しさのある端正な顔立ち。
 キリッとしていてなおかつ優しさをも含んでいるその瞳は、今はまぶたによって閉ざされており、薄い桃色に彩られたその艶やかな唇からは、小さく寝息がこぼれている。

 戦艦大和。
 うちの鎮守府のエースが、そこにいた。


大和「──────んぅ……」

大和「……てい、とく?」


 文字通り俺の目の前にいる大和がうっすらとまぶたを上げ、疑問の声をあげる。
 慌てた俺は何を言えばよいかまったく分からず、そのまま固まってしまう。

 そんな俺をよそに、大和が口を開いた。


大和「提督……♪」

提督「なっ……!?」

大和「ふふっ、提督は温かいですね……」


 背後に腕を回され、強く抱きしめられる。
 大和との間に感じる柔らかい感触が、さらに俺の思考の混乱を加速させた。


提督「は、離せっ」

大和「……嫌です」


 ムスッとした表情で答える大和。
 これが寝起きだからなのか、それとも昨日の酔いがまだ残っているからなのか。その真偽のほどは分からない。
 とにかく抜け出そうと力を入れてみるが、ビクともしなかった。


大和「ふふっ♪」

提督(……もう好きにしてくれ)


 それどころか俺が身をよじることが楽しいのか、笑みを深め力を強める大和。ふんわりと漂ってくる甘い匂いに頭がクラクラしそうになる。


 結局、しばらくして俺は抵抗を止めた。
 そしてそのさらに数十分後、大和が顔を真っ赤にしながら慌てて謝り倒すその時まで、俺は様々な誘惑に耐えることとなるのだった。



     瑞鳳の場合 2




瑞鳳「────どう?」

提督「……中々」

瑞鳳「えへへ、でしょー?」


 日が高く上がった真っ昼間。
 食事を終え執務室に戻ってきた俺と瑞鳳は、まだ仕事をする時間には早いということもあり、お遊びに興じていた。

 お遊び、といっても何ということはない。
 ただ俺が瑞鳳の体を引っ張ったり撫でたり揉んだりするだけである。言葉だけで捉えると相当アレだが、疚しさは一切無い。
 先日俺に頬を引っ張られた際にその感覚が癖になった瑞鳳の欲求を満たし、俺はその柔らかい肌触りに癒やされるという、まさにwin-winの関係なのである。

 重ねて言うが疚しさは無い。全くもって健全だ。


提督「……そろそろいいか?」

瑞鳳「うん」

瑞鳳「やっぱり耳たぶじゃ物足りないわねぇ……」

提督「やっぱりこれが一番か」

瑞鳳「ひょうひょう、ほれほれー♪」


 頬を引っ張られながらも、蕩けた表情を見せる瑞鳳。手の平や二の腕、ふくらはぎや太ももなども試してみたが、やはりこれが一番らしい。
 左右に引っ張り、手の平で押し、円を描くようにこねる。そのたびに瑞鳳の口の端から息が漏れた。

 しばらくしてから手を離す。
 とろん、とした目つきに変わった瑞鳳が、こちらを見つめていた。


提督「もうそろそろ仕事の時間だな……」

瑞鳳「そ、そうね……」

瑞鳳「それじゃあ次で最後にしよ?」

提督「頬か?」

瑞鳳「えっと、その…………ここで」


 そう言って恥ずかしそうに服の裾を捲る瑞鳳。健康的な肌色をしたお腹が、俺の視界に姿を見せる。
 ちらりと見えたおへそに、何故か唾を飲んでしまった。
 
 確認の意を込めて、瑞鳳へと視線を向ける。




提督「……あー…………瑞鳳?」

瑞鳳「…………だめ?」




 ────その後どうしたのか。
 それは俺と瑞鳳二人だけの秘密である。




     鳥海の場合




 ストレスの対処法は人それぞれだ。

 好きな物を食べるというやつもいれば、ひたすらに体を動かすというやつもいるし、酒を浴びるほどに飲むというやつもいれば、とにかく寝るというやつもいる。
 …………さて、それを踏まえた上で俺はどうやってストレスを解消するのか。

 答えは簡単。『可愛いものを見る』である。

 かといってぬいぐるみなどの少女チックなものが好きだというわけではない。俺が好きなのはカルガモの親子とかの見ていて微笑ましいと思うものだ。

 しかしこの鎮守府では、それらのものを見るのには一切縁がない。

 ではどうやってこの鎮守府でそういったものを見て、ストレスを解消するのか。

 それもまた、単純な答えである。








 …………ギャップって、可愛いよね。




鳥海「し、司令官さん……あの、その……」

提督「どうした鳥海? 具合でも悪いのか?」

鳥海「い、いえっ。体調はむしろ良いくらいですっ」

提督「なら問題ないな」

鳥海「うぅっ…………!」


 座布団の上に胡座をかき、その俺の胡座の上に鳥海を座らせる。左手は抱きしめるようにお腹へと回し、右手は撫でるためにその頭に置かれているため、鳥海は動きようがなく俺のなすがままにされている。

 俺の視界からでは肩の辺りがほんのりと赤くなっているということしか分からない。だがしかし、その顔は朱に染まっていると見て間違いないだろう。じっとしているのが恥ずかしいのか、体がせわしなく揺れているのがその証拠だ。可愛い奴め。


鳥海「わ、私の計算では……こんなこと……!」

提督「止めるか?」

鳥海「………………」

鳥海「そ、その……データが多いに越したことはありませんよね……?」

提督「そうだな。悪いがもう少し付き合ってくれ」

鳥海「は、はいっ」


 俺だって毎回こうなるというわけではない。こうなるのは積もりに積もったストレスが爆発したときだけで、ここの鎮守府の奴らは何回かそれを見たことがあるという事もあり、比較的大人しく従ってくれる。何ともありがたいことだ。初めて爆発させた時は提督が偽物とすり替わっていると言われたくらいだから、めざましい進歩といえるだろう。


 そして毎回自分の行動を思い出して後悔することになるというのが分かりきったパターンと化しているのだが、今の俺は気にすることもなくただただ鳥海の反応を楽しむことに精を出すのだった。








鳥海(う、噂には聞いていましたけど……)

鳥海(いつもの司令官さんと違ってこれはこれで……)

鳥海「……良いものですね」

提督「何か言ったか?」

鳥海「な、何も言ってませんっ! はいっ!」


投下終了。

今更ながらタイトルに後悔。
こんなタイトルじゃなかったらR-18展開に片足突っ込めたのに……。

それではまた。



皆さんこんばんは。
書いてもいいとか言うので書いてみたら羽黒が指を舐め始めたんですけど、続けて書いた方がいいでしょうかねぇ?

そんなの見たくない! というのであれば削除して書き直しますが。



まだ3レス。
もうちょい待ってー。


結果4レス。
エロくないよ! 
R-18に『片足』突っ込んでるだけですから!

期待はしないで下さいね!




     羽黒の場合




羽黒「……………………♪」

提督「…………羽黒」

羽黒「────えっ、あ、す、すみませんっ」

提督「邪魔な訳ではないが……仕事が滞るから、な?」

羽黒「は、はいっ………」


 しゅん、として顔を伏せる羽黒。
 その姿に罪悪感を覚えたが、今は優先順位というものがある。心を鬼にしてちゃぶ台の上に広がる書類へと向かった。

 …………それから少し時間が経って。


提督(……またか)

羽黒「…………♪」


 肘辺りに生じた、服を引っ張られている感覚。
 横目で確認してみると、先ほどと同じようにキュッと服を掴んでいる羽黒が居た。
 その意図は分からない。
 しかし俺の反応を気にするかのように時たまこちらを見上げては嬉しそうに淡く微笑む姿を見てしまうと、これ以上咎める気にもなれなかった。

 幸い、羽黒が掴んでいるのは利き腕の方ではない。違和感さえ我慢すれば仕事を終わらせるのに支障はないだろう。
 腕一つで丸く収まるのならば安いものだ。

 そんな軽い気持ちで行動に移す。

 思えばこの行動こそが俺の最大の過ちだったと言っても過言ではない。


羽黒「──────っ!?」

羽黒「し、司令官さん……?」


 ちゃぶ台の上から腕を下げる。
 急に動いたことに驚いた羽黒がその手を離し、俺の腕はだらんと伸びる。そうして手が床に着いた。

 羽黒が疑問の声をあげたが、返答はしない。
 何度か俺の腕と顔を交互に見て、恐る恐るといった風に手を伸ばす姿が何ともいじらしい。


羽黒「……………………っ」

羽黒「し、失礼します……!」

提督(──────むっ……)


 断りを入れた羽黒が俺の手を掴み自身の顔の前へと引き寄せる。
 精々掴むくらいだと高をくくっていた俺は予想外の行動に内心で驚くが、驚きはそこでは終わらなかった。

 羽黒が俺の白手袋を外す。
 そして何故か気合いを入れるかのごとくゴクリと唾を飲み込むと、剥き出しになった俺の手に頬擦りを始めたのだった。

 驚きが度を越し、俺の身が固まった。


羽黒「司令官、さん……」


 続けて熱を含んだ声が耳朶を叩く。
 行為そのものもそうだが、普段大人しい羽黒がこういうことをするというギャップが、俺の鼓動を加速させる。
 抵抗を試みるがそのたびに悲しそうな表情を見せるため、振りほどく事が出来なかった。



 頭の中で警鐘が鳴り響いた。


提督「……羽黒」

羽黒「……すみません」


 混乱を何とか抑え、声を絞り出す。
 しかし羽黒の行動は言葉とは真逆を取る。

 俺の手を離すことなく両手で包み込むようにして、今度は自身の頬へと添える。
 そして頬からはみ出した俺の親指に、その可憐な唇を寄せた。


羽黒「…………いいですよ?」


 果たして何がいいのか?
 予期していなかった事態に混乱する思考と、早鐘のように鳴り響く鼓動が邪魔をして正常な判断が出来ない。
 急速に渇いた口内に、声を出すことも出来なかった。

 ────湿り気を帯びた感触が、親指に走る。


羽黒「はむっ……んちゅ……」

羽黒「んんっ……! はぁ……!」

提督(────────っ!?)


 待ちに待った餌をようやく与えられた雛鳥のように、一心不乱に貪る羽黒。
 ザラザラとした舌が指に絡められ、舌先が爪を撫でる。押し付けられた頬の肉は経験したことのない感触をもたらす。
 ちゅうちゅうと吸い付かれると、指の先から力が抜けていくかのような感覚に陥った。


羽黒「────ぷはっ……」


 たっぷりと時間をかけ、解放の時が来る。
 銀の糸が細く伸び、やがてぷつりと途切れて床へと落ちる。唇の端から僅かに溢れた唾液が顎を伝って喉を通り、服の隙間を縫って胸元へと吸い込まれていった。

 羽黒と目が合う。
 潤んだ瞳と上気した顔色が、ひどく艶めかしい。

 すでに羽黒の両手は離されていたが、俺の手はその頬から離されてはいなかった。

 俺か、それとも羽黒か。

 唾を飲み込む音がした。




提督「羽黒……」

羽黒「────んっ……!」


 頬に手を添えたまま、親指の腹でその唇をなぞる。
 湿り気を未だ残している指が、なぞる箇所に潤いを与えていく。往復する毎に目を固く瞑った羽黒が甘い声を漏らした。

 強く押し込み、内側へと潜り込む。


羽黒「────、──っ、──────!?」


 歯茎を優しくなぞり、硬い歯の一本一本に触れる。
 上顎の皮一枚ギリギリをなぞってみると、くすぐったかったのか身じろぎを始めた。

 口内をたっぷりと蹂躙し、ゆっくりと指を引き抜く。
 しかし羽黒の目は物足りなさを露わにしていた。


提督「舌を出せ」

羽黒「は、はひ……」


 おずおずと口を広げ、小さな舌が姿を見せる。
 頬から手を離した俺は、その舌を軽くつまむ。

 ぐにぐにとした感触を親指と人差し指を使って存分に味わう。伝わる唾液が袖を汚したが、気にもならなかった。


羽黒「んっ、あっ…………!」

羽黒「んんっ!」


 されるがままに舌をなぶられる羽黒。
 口を開いたままにしているため口内で生産された唾液がそのそばから外へと溢れ出していく。
 襟のシミがどんどん広がっていく。漂う甘い匂いが、強くなった気がした。



羽黒「……はぁ……はぁ」

羽黒「…………もっと」

羽黒「お願い、します……」



>>313
> 俺の腕はだらんと伸びる。そうして手が床に着いた。

……手、長くないっすか提督……





































提督「…………すまなかった」

羽黒「い、いえ……悪いのは私です……!」



 互いに向かい合ったまま正座し、頭を下げあう俺と羽黒。
 あれから更に筆舌に尽くしがたいことが多々あったのだが、その後に急速に頭を冷やした俺達二人は、行為の数々を思い出してこのような状況になってしまっていた。


提督(……どうしたというのか)


 普段の俺ならば有り得ない言動と行動の数々。
 日頃甘えてくる艦娘達の相手をしていたせいで、そういったネジが緩んでしまっていたのだろう。

 気を引き締めねば、と心に誓う。


 そしてそんな俺の内心を知らない羽黒が、恥ずかしさに顔を染めたまま口を開いた。


羽黒「…………私、安心しました」

提督「……安心?」

羽黒「えっと、その……司令官さんもちゃんと…………あ、ああいったことに興味があったということに、です……」

提督「……俺も男だ。そういうことに興味くらいある」

羽黒「でも私達にはそういうことしませんでしたよね?」

提督「……………………」


 全くなかった、と言えば実は嘘になる。
 だがしかしそれらはどれもみな軽いものばかりで、スキンシップの範疇に収まってしまうものばかりだった。
 そう考えると先ほどのアレはその輪には間違いなく収まらないだろう。

 …………娘のように思って接してきたつもりだったが、今はよく分からない。

 俺の表情からそれらの思考を悟ったのか、羽黒が嬉しそうに微笑んだ。


羽黒「ちゃんと私達を『一人の女性』として見てくれている……ということでいいんですよね?」


 返す言葉がなかった。
 微笑む羽黒と眉間にシワを寄せる俺。

 だけれども不思議と悪い気はしなかった。


途中で満足した。

ということで投下終了。
鳳翔さんのために取っておいたシチュがこれで消えました。残念だなー。


>>316
少し前から提督の部屋は和室テイストです。
ちゃぶ台に向かっている→つまり座ってます。
座ってますから手が床に着くのもおかしくないはず。



残り11人。

リクエストは取るか不明です。

それではまた。


気を取り直してくまのん投下ー。

基本1レスとか言ってましたけど忘れて下さい。

書きたいように書きます!



     熊野の場合




熊野「──────んーっ♪」

熊野「間宮さんのお作りになるアイスも中々ですが、やはりここのケーキは格別ですわ♪」

熊野「そう思いませんか、提督?」

提督「……違いがよくわからん」

提督「美味いことには美味いが、な」

熊野「……つまらない答えですこと」


 機嫌を少々損ねてしまったのか、熊野がふんっ、と鼻を鳴らす。しかし目の前のケーキを口に運ぶと、直前の不満そうだった表情は吹き飛び、年相応の嬉しそうな笑顔を覗かせた。

 海軍司令部の存在する都市、その一画で賑わう歓楽街。その中でも一際オシャレに飾られた、俺みたいな人間には到底似合わないカフェに、俺と熊野は足を運んでいた。

 もちろん最初から遊びに来たわけではない。司令部への用事が終わった後、熊野にせがまれて仕方なく寄ることにしたのだ。
 何でもお気に入りの店だったらしく、司令部の方で教育を受けている間は事ある毎に足繁く通っていたらしい。
 いつもの、という注文で店員が理解する辺り、嘘ではないのだろう。

 くるくるとフォークで宙に円を描きながら、熊野が語る。


熊野「そこは『こんなに美味しいケーキを食べたのは初めてだ!』とか」

熊野「『今まで食べていたケーキはケーキじゃなかった。これこそが本物のケーキだ!』とか」

熊野「そう言って賛美するべきではなくて?」

提督「美味いと言っているんだが……」

熊野「提督の『美味しい』はどれも均一なのでしょう?」

提督「……均一?」

熊野「提督は間宮さんの料理も鳳翔さんの料理も艦娘の皆さんの料理もそしてこのケーキも『美味しい』と感じ、そこに上下の差が出ないのでしょうという意味ですわ」

提督「……いや、それが普通だろう?」

熊野「……流石は好物を聞かれて『何でも』と答えるお方ですわね。提督のせいで料理を作る皆さんが何を作ればよいのか頭を捻っているということをご存知?」

提督「そうなのか? 凝ったものを作る必要はないんだが……」

熊野「そういう意味じゃありませんわ……」


 大きなため息を吐く熊野。
 「幸せが逃げるぞ」と言ってやると、ギロリと眼光鋭く睨みを効かせられた。
 俺が何をしたというのか。理不尽極まりない。




熊野「…………提督」

提督「ん?」

熊野「あーん、ですわ」

提督「……え?」

熊野「早くしてくださる?」

提督「あ、ああ……」


 差し出されたフォークの先、一口サイズにされたケーキへと食いつく。くどくない甘さが実に美味い。ふと熊野の方に目をやってみると、楽しそうな微笑みを見せていた。

 熊野が口を開く。


熊野「次は提督の番ですわね♪」


 何故そうなる。
 一瞬そう思ったが、口を小さく開いてこちらのケーキを待っている熊野の期待を裏切るというのも忍びない。
 フォークを使ってケーキを小さなものに切り分ける。そうして出来た一口サイズのケーキを熊野の眼前へと差し出すと、嬉しそうにふふんと鼻を鳴らした。


熊野「あーん」

提督「……ん?」

熊野「あーん」

提督「……食べないのか?」

熊野「あーん、ですわ。何度も言わせないでくださいまし!」

提督「……あーん」

熊野「────あー、んっ……♪」


 意味の分からない問答を繰り返した後、ケーキは熊野の口の中へと収まる。

 熊野がにっこりと笑った。


熊野「こんなことをしていたら恋人同士と間違われてしまうかもしれませんわね」

提督「……父と娘だろう」

熊野「ふふっ」

熊野「まぁそれでも構いませんわ♪」


 そう言ってまたフォークをくるくると回す熊野。

 決して人が少ないとは言えない店内。
 周りのひそひそ話の声が、どうしてなのかとても恥ずかしく思えたのだった。







熊野「さて、次はわたくしの番ですわね!」

提督「勘弁してくれ……」






投下終了。

それではまた。


皆さんこんばんはー。

すっかり暑くなってしまって、今年の夏祭りが楽しみになる今日この頃。

ということでドン。

番外編

1 鈴谷と夏祭り
2 時雨と夏祭り
3 夕立と夏祭り
4 鈴谷と時雨と夕立と夏祭り(全部乗せ)

下1ー4で多数決。


こんなに早く埋まるとは……。

多数決より1と4の同率。
全員(鈴谷成分多め)で書きます。

それではまた。



投下ー。




     赤青緑と夏祭りの場合 上




 ガヤガヤと賑わう人々が、視界一杯に広がる。

 鎮守府からさほど離れていない場所に昔からあり、普段はと言えば参拝客すらほとんど訪れないというこの神社が、今日だけは活気に満ち溢れている。

 本日は一年に一度の夏祭り。
 人伝に話は聞いていたが、想像以上の人だかりの凄さに少々面をくらった。


鈴谷「────提督ー! こっちこっちー!」


 声の方向に目を向けると、緑色を基調とした鮮やかな浴衣に身を包んだ鈴谷が、手を大きく振ってぴょんぴょんと飛び跳ねているのが見えた。
 声に振り向く周囲の人々の視線が恥ずかしい。
 人垣をかき分けて鈴谷のもとへと急ぐと、彼女はにっこりと笑った。


鈴谷「じゃーん♪ どお? どお?」


 肘を畳んで腕を少し上げ、くるりとその場で回転する鈴谷。
 その言葉の意味が分からないほど、俺は鈍い人間ではなかった。


提督「ああ、似合ってるぞ」

鈴谷「でしょでしょ! 綺麗っしょ?」

提督「綺麗というより可愛いな」

鈴谷「あぅ……!」


 鈴谷が顔を赤く染めて俯く。
 ブツブツと小声で何か喋っているようだったが、「不意打ち禁止ぃ…………えへへ♪」という言葉しか聞き取れなかった。……一体何のことだろうか?




時雨「────はいはい、ごちそーさま」

夕立「提督さん、夕立もほめてほめてー♪」


 そんな鈴谷の背後から時雨と夕立が現れる。
 青を基調にした浴衣に身を包んだ時雨と、赤を基調にした浴衣に身を包んだ夕立。
 それぞれ花と金魚の模様だが、どちらも似合っていて可愛らしかった。

 そわそわして俺の言葉を待つ夕立の頭を優しく撫でる。


提督「……夕立は可愛いな」

夕立「えへへー♪ ぽいー♪」


 満面の笑みを見せる夕立。
 横目に時雨を見てみると、その表情は心なしか不満の様相を呈していた。
 ……まったく、可愛い奴らだ。

 もう一方の手で時雨の頭も撫でる。


提督「もちろん時雨もだ」

時雨「……そ、そうかい?」


 少し恥ずかしそうに頬を染めながら、はにかむ時雨。
 両手に花というのはこのことなのかもしれない、と何となくそう思った。


鈴谷「ふ、二人共ずるい!」


 押しのけるようにして鈴谷が割り込む。
 そして割り込んだ鈴谷が今度は押しのけられ、また割り込み返し、押しのけられ────という繰り返しが続く。

 周囲から向けられる微笑ましいものを見る温かい視線が、実に居心地悪かった。



 ────チョコバナナ。



提督「黄緑に水色にピンク……? こんな色もあるのか……」

鈴谷「味は変わらないけどねー」


 そう言って黄緑色のチョコバナナを頬張る鈴谷。水色は時雨、ピンクは夕立と実に個性に沿っている。
 もちろん俺はノーマルな黒を選んだ。


提督「久し振りに口にしたが、中々に美味いな」

時雨「屋台で買うと特別に美味しい気がするよ」

夕立「もう一本食べるっぽい!」

鈴谷「いいの夕立? わたあめとか林檎飴とか食べれなくなっても知らないからね?」

夕立「止めるっぽい! 提督さん、次いこ次!」

時雨「ちょっと待ってよ夕立。僕はまだ食べ終わってないからさ」

夕立「ぽいぃ……」

時雨「もう…………あむっ」

鈴谷「次は何にしよっかなぁー?」

提督「……おい鈴谷」

鈴谷「──────ふぇ?」

提督「ふむ、確かに味は変わらないな」


 次なるターゲットを定めるべく辺りを見回す鈴谷。
 その鈴谷の口の端がチョコで汚れているということに気付いた俺は、鈴谷をこちらに振り向かせてからそれを指で拭き取り、舐める。
 鈴谷の言うとおり、俺が食べていた黒のチョコバナナと同じ味だった。

 口をぽかんと開けていた鈴谷の顔が瞬間で赤に変わる。


鈴谷「──────な、なななななっ!?」

鈴谷「ちょ、えっ、……マジ? …………うぅっ」

鈴谷「もぉー…………」

夕立「…………むぅー」

夕立「時雨、ちょっとちょーだい♪」

時雨「………………あむっ」

夕立「あっ!」

時雨「…………ふぅ。提督、僕も食べ終わったよ」

提督「そうか。…………付いてるぞ」

時雨「えっ? どこにだい?」

提督「ああ待て。浴衣の袖に付いたら困る。俺が拭いてやるから動くな」

時雨「そ、それじゃ仕方ないねっ」

夕立「ぽいぃ……!」


 それからしばらくの間夕立が何故かうなり声を上げていたが、撫でてやると治まった。
 一体何だったのか。
 首を捻ったが理由は終ぞ分からないままだった。


投下終了!

本編の合間に気分で挟んでいきます。全3部予定。

番外編なので本編よりも気を遣える設定です。
ご容赦を。
それでも肝心なとこは気付かないのはテンプレということでよろしくお願いします。

それではまた。






知ってても知らなくても特に影響は無い設定。

・提督は30代後半。見た目は40代前半
・艦娘達は基本2人部屋。駆逐艦は4人部屋
・同じ艦娘に安価3回でオマケ
・艦娘のお仕事
 →遠征・出撃・演習、催しへの参加(PR)
・提督のお仕事
 →日程管理、帳簿記入、報告書作成、艦娘達とのスキンシップ
・提督ラブ勢の数<提督ライク勢の数
・鈴谷・時雨・夕立可愛い
・初期に深海悽艦がリクエストされたら書くつもりだった(今はスルーします)
・秘書艦は半日交代
・提督からの好感度が一番高いのは曙


もちろん後付けもあります。



龍田さん投下ー。

ちょっといつもと違います。




     龍田の場合




龍田『……初めまして、龍田です。これからどうぞよろしくお願い致しますね?』

提督『ああ、こちらこそよろしくお願いする』



 初めて提督と出会った時のことは今でも鮮明に覚えている。
 椅子に腰掛け机の上で手を組み眼光鋭くこちらを捉えるその様相は、『三十代の新人提督』と前もって伝えられていた情報からは想像出来ないものだった。

 予想外の出来事に調子を外され、威圧感から来る恐怖と必死に戦いながら何とか声を絞り出すと、提督はその雰囲気よりかは若干柔らかい声で応対してくれた。
 そのことに、緊張が少しほぐれる。


 怖いと言えば怖いが、根は悪くない人なのだろう。
 それに天龍ちゃんにも下手なちょっかいを出しそうにないし、そういった心配はしなくても良さそうだ。


 ────そんなことを考えながら、私は知らずくすりと微笑んでいた。





提督『龍田、次の出撃の旗艦はお前だ』

龍田『はい、がんばりますね♪』



 教えられた知識とは違う、何とも不思議な提督だった。
 大抵の提督は一番強い艦、もしくはお気に入りの艦を旗艦及び秘書艦として運用するらしいのだが、この提督はコロコロとその役割に従事するものを変えていた。

 後になって知ったことだが、『スキンシップの手段』としてそれらの役割を捉えていたらしい。
 旗艦は出撃中の通信を一手に引き受けるため提督と必然的に会話を交わすことが多くなるし、秘書艦は提督の仕事の補佐をするためにその傍に付きっきりとなる。

 なるほど。確かにそういった考え方もあるだろう。

 だがしかし、旗艦として固定すれば出撃が多くなるため練度がより高い艦娘になるというメリットや、秘書艦を固定すれば作業慣れすることによって仕事をスムーズに片付けることが出来るようになるという点を鑑みると、提督の試みは非効率なものだったといえる。


 ──────だとしても。

 文句を言う娘なんて誰一人として居なかったし、私もその考え方が嫌いではなかった。




提督『龍田と居ると、落ち着くな』

龍田『──────えっ?』



 木枯らしが吹く季節を迎えたそんな折、提督は突如としてそう呟いた。

 『どういう意味ですか?』と聞き返すと『そのままの意味だ』と返される。とりあえず『そうですか』と返すと、私はその意味を考えた。

 落ち着く、というのは安定しているという意味だったはず。何度か秘書艦を務めたことがあるが、目立った失敗はしたことがない。正に安定していると言って良い。それにこの鎮守府にいる娘達は皆個性が強い。それは秘書艦を務める時にも存分に発揮されるため、騒がしい娘が秘書艦となればやはり落ち着かないだろう。私も他の娘を言えた義理ではないが、比べて大人しく仕事をこなしている自信はある。この点も落ち着くと評されていいポイントのはずだ。

 言われてみれば当然のことだった。
 何ら気にする必要もない。

 ────そう結論付けて仕事へと戻る。


 その日私はお茶を二回こぼし、三度転びかけ、数え切れないほど提督の視線から目を反らすことになったのだが、その理由に気付くことはなかった。





 ────思えばこの頃からなのだろう。





 朝、挨拶を交わすために提督を探すようになった。

 昼、食堂で提督の隣に座ろうとするようになった。

 夜、おやすみを言わないと眠れないようになった。


 名前を呼ばれると心臓がドクンと跳ねる。

 撫でられるとドキドキが止まらなくなる。

 目と目が合うと恥ずかしいのに嬉しくる。


 提督が他の娘と仲良くしているのを見ると何だか悲しくなるのに声をかけられるだけでそんな感情は溶けて消えた。

 傷付いた体は痛いはずなのに心配そうな表情を浮かべてギュッと抱き締められるだけで痛みなんか忘れてしまった。

 一人で布団に寝転んで天井を見上げて何となくだらだらと過ごしているときに私はついにそれに気付いてしまった。




 ────ああ、私……

 ────提督のことが好きなのね……




























 ────蝉が鳴く、そんな季節。

 足取り軽やかに廊下を歩く。
 何時の間にか鼻歌を奏でてしまうほどに、私の心は浮かれていた。

 扉を開け、中へと入る。
 視界に映るいつもと変わらないその姿に、私はにっこりと微笑んだ。





龍田「今日の秘書艦は私、龍田です」

龍田「────よろしくお願い致しますね♪」




投下終了。

頑張りましたけどそんなに糖度が高くなりませんでした。龍田さん難しいです。

それではまた。


大和投下。



     大和の場合 2




大和「────おはようございます提督。こちらは日頃の感謝の気持ちです。どうぞお受け取り下さい」

提督「むっ……」


 そう言って花束を差し出してくる大和。

 執務室の扉を開けた状態のまま、俺はしばし固まった。
 大和が秘書艦を勤めるのは久方ぶりのことだ。よほどこの時を心待ちにしていたのだろう。その表情には普段の笑顔とはまた違った色が含まれていた。

 そんな大和の表情とは裏腹に、俺の表情は少し陰りを帯びる。
 花を贈られたということ自体は大変喜ばしいことだったのだが、その花の種類が問題だった。


提督「……菊、か」


 紅、黄、白の三色で彩られた花束。
 しかしその花は全てが菊なのである。

 菊といえば縁起の悪いイメージしかない。
 はて、これは一体どのような意図があるのだろうか? と、眉をしかめると、その俺の表情から察したのか、大和が慌てたように口を開いた。


大和「提督、菊は確かにお供えなどに使われるため縁起の悪いイメージが強い花ですが、本来はそうではないのですよ?」

提督「……そうなのか?」

大和「はい。着物などにもよく描かれますが、縁起の悪い花ならば描かれると思いますか?」

提督「確かに……」

大和「言わずと知れた菊家紋も、縁起が悪い花ならば使われませんよね?」

提督「……ふむ」

大和「菊はめでたいことの時にも使われる花なんです。ですのでその……受け取っていただけますでしょうか?」


 言われてみれば確かにそうだった。
 言い訳をするようだが花が似合わない男であったため、そういったことを俺が知らなかったことも無理はないと言えるだろう。
 だがしかし一瞬とはいえ大和の想いを無碍にしてしまっていたという事実は消えない。

 花を受け取りながら、謝罪と感謝を述べる。


提督「すまない……。そしてありがとう、大和」

大和「……菊の花言葉には『私を信じて下さい』というものがあります」

大和「──────戦艦大和の名にかけて、提督に勝利を約束しましょう」

提督「────ああ、期待している」


 にっこりと笑みを見せる大和と微笑む俺。

 早朝の執務室。
 扉を開けたまま相対して立ち合う二人。
 吹き込んだ風に乗った菊の香りが、妙に印象に残っていた。


























提督「────そう言えば大和の船首に付いているのも菊を形取ったものだったな」

大和「はい、確かにそうですが……」

提督「ならば一輪贈ろう。見目麗しい大和にはとても似合うだろうしな」

大和「か、からかわないで下さいっ」

大和「──────っ!?」

提督「ん? 紅色は嫌か? 白か黄が良いのならそちらを贈るが……」

大和「い、いえっ! こちらで構────これがいいんです!」

提督「そ、そうか? ならいいのだが……」

大和(…………………………)

大和(提督から、紅色の菊……)

大和(………………ふふっ♪)



投下終了。

紅色の菊→『愛情』

それではまた。


浜風投下。



     浜風の場合




提督「浜風、ちょっと来てくれ」

浜風「はい、何でしょうか?」


 棚の資料を漁る俺と、座布団に座って書類への書き込みを行っている浜風。
 せわしなく手を動かしながら仕事を片付けていくその表情は真剣そのものだ。
 そんな浜風を見ていてふととあることを思った俺は、その場で浜風を呼び出した。

 手を止め立ち上がった浜風が俺の目の前に移動する。


提督「……なぁ浜風」

提督「右目、見えにくくないか?」

浜風「……はい?」


 眉根を寄せ、疑問の声を上げる浜風。
 しかし俺の言わんとしていることが分かったのか、納得したかのような表情へと変わる。

 そして右目を覆い隠すかのように伸びた前髪を指で弄りながら、浜風は口を開いた。


浜風「確かに見えにくいといえば見えにくいかもしれません。ですが隙間から見えないわけではありませんし、業務及び出撃においても支障をきたしたことはありません」

浜風「……切りましょうか?」

提督「……いや、問題無いのならば切る必要はない」

提督「それもまた尊重すべき個性だからな。しょうもないことで呼び寄せてすまなかった」

浜風「いえ、提督の意見もごもっともですので」

浜風「こちらこそ配慮いただき感謝します」


 ペコリ、と頭を下げる浜風。
 頭部が元の位置へと戻る際、前髪がだらりとぶら下がる。それを指でさっと直す浜風を見て、思わず俺の手が伸びた。


浜風「────て、提督っ!?」


 撫でるように左手を動かし、覆う髪を端へと寄せる。普段は滅多に見ることのない左目と同様に蒼く透き通った右目が、その姿を覗かせた。

 物珍しさにじっと見つめる。
 浜風は顔を朱に染めながら固まっていた。


提督「……綺麗だな。吸い込まれてしまいそうだ」

浜風「────────っ!?」

提督「これを見せないというのはもったいないことだとは思うが……、こればかりは浜風の決めることだ。好きにすると良い」

提督「…………しかし俺だけが知っているというのもそれはそれで楽しいものだな」

提督「………………浜風、どうした?」

浜風「────は、はいっ! 問題ありませんっ!」

提督「そうか? それならいいが……」


 手を離すと重力に従って浜風の前髪が垂れ下がる。
 その前髪をまた指で弄りながら、浜風はしばらくの間ぶつぶつと何事かを呟いていた。







浜風(き、綺麗って言われるなんて……)

浜風(それに提督の顔があんなに近くまで……!)

浜風(…………今思い出しても顔から火が出そう)


提督『…………しかし俺だけが知っているというのもそれはそれで楽しいものだな』


浜風(…………………………)

浜風(……替えのヘアピン、使いましょうか)




投下終了。

それではまた。


由良さん投下。



     由良の場合




提督「────おめでとう、由良」

由良「────えっ?」


 空が橙色に染まる夕暮れ時。
 執務室に入ってきた由良の表情は何か問題を起こしてしまったのかと心配する戦々恐々としたものだったのだが、それが今はポカンと口を開けたまま固まるという何とも間抜けなものに変わっている。

 反応から察するに、本当に気付いていないらしい。


提督「気付いていなかったのか? 今月の撃沈数のトップは由良だぞ?」

由良「…………わ、私っ?!」

由良「えっ、嘘っ! どうして……?」

提督「どうして、と言われてもな……。由良が頑張ったということだろう」

提督「強いて言うなら今月は潜水艦を相手取る戦闘が多かったということくらいだ」

提督「信じられないなら撃沈数に関する書類も見せるが……」

提督「………………由良?」

由良「………………提督さん」

由良「由良が、由良が一番なの……?」

由良「ほんとに……?」

提督「ああ、本当だ」

由良「そう、そうなのね…………」

由良「……………………」

由良「やったぁ……!」


 ぎゅっと拳を握り、歓喜の声を漏らす由良。
 その瞳は若干潤んでおり、そのあまりの喜びようにこちらまで嬉しくなる。俺は無意識に微笑んでいた。

 基本的に戦艦や雷巡、空母組の奴らが毎月のトップに立つことばかりのため、由良のような軽巡洋艦がトップを取ることは極めて珍しい。
 俺も他の鎮守府ではそういうこともあると聞いたことがあったが、この鎮守府でそうなるとは夢にも思わなかった。


由良「ふふっ♪ ふふふっ♪」


 とにかく、大変喜ばしいことには違いない。




 しばしの時間を置いて、落ち着きを取り戻してきた由良へと問いかける。


提督「さて、由良も知っているとは思うが……何か欲しいものはあるか?」

由良「そうね……」


 頬に手を当てて考え始める由良。
 うちの鎮守府では月間のトップを取った者は無理の無い範囲で『お願い』を聞いてもらえる権利を与えられる。
 そして当然由良にもその権利が与えられるのだが…………、まさか自分がトップを取るとは考えていなかったのだろう。
 腕を組んだり頭を捻ったりしながらうんうんと唸って、一向に口を開く気配がなかった。


提督「……別に今すぐ決めなければいけないわけではないぞ」

由良「うーん……確かにそうよね……」

由良「……今度にしても良い?」

提督「もちろんだ」


 伺うようにこちらを見る由良にそう返し、近付いてその頭を撫でる。

 由良は一瞬驚きに身をこわばらせたが、すぐに目を細めてにっこりと微笑んだ。


由良「……ねぇ、提督さん?」

提督「どうした?」

由良「私、これからも精一杯頑張るからね、ねっ」

提督「……ああ、よろしく頼むよ」


 そうしてぎゅっと抱きついてくる由良。
 やれやれ、と思いながら抱きしめ返してやると、由良は楽しそうに満面の笑みを見せるのだった。






由良(あ……提督さんにぎゅってされてる……)

由良(……あったかいなぁ)

由良(もうこれがお願いでもいいかも……)

由良(……なーんて、ね♪)





投下終了。

由良さんはうちの大切な対潜要員。
軽巡洋艦で一番レベルが高いのも彼女です。


それではまた。



あと6人+夏祭り番外編。

残り3人になったらリクエスト取ります。
多分3人分くらいしか取りませんし、それでラストになると思われます。ご了承を。


それではまた。



はぐろん投下ー。

何度も言うが妙高型で一番なのは那智さん。




     羽黒の場合 2




提督「──────なぁ、羽黒」

羽黒「はい。司令官さん、どうかいたしましたか?」

提督「これを見ていて思ったのだが……その名前はどれがモチーフなんだ?」


 そう言って、持っていた本のタイトルを羽黒に見えるように向ける。
 本のタイトルを見た羽黒は、すぐに納得のいったような表情をした。

 座布団に座っている俺の横へと移動し、ちょこんと正座をしてから柔らかく微笑む。


羽黒「同じ名前が四つありますが、私の名前の由来は山形県の羽黒山です。出羽三山とも呼ばれていてそれなりに有名なんですよ?」

提督「ふむ、この山か……」


 指を差し、教えてくれる羽黒。
 俺は持っている本────『日本の山全集』を捲り、羽黒のモチーフとなった山に関するページを探す。

 ……因みに何故このような本が執務室にあるのかというと、艦娘達と共通の話題を作れるからである。
 山に限らず艦娘達には自然現象や河川の名称を名前として与えられている者が多い。艦娘としての名とはいえ、それは紛れもなく自分の名だ。呼ばれ続けていると愛着が沸いてくるらしい。
 そのため自身の名前に興味を持ち、自ら調べているという者が多数居るのだ。

 つまりコミュニケーションを取るにはうってつけなのである。学んでおかない手はない。


提督「なるほどなるほど……」

羽黒「神社だけでなく石碑もあるんですよ?」


 どこか楽しそうに羽黒が口を開く。
 羽黒も例に漏れず、自身の由来をしっかりと調べていたのだろう。
 そしてその文章にあった石碑に関する記述、その中にとある人物の名前を見つけた俺は、古い記憶を思い出しながらその人物に関する有名な言葉を呟いていた。


提督「『春風や 闘志抱きて 丘に立つ』……」

羽黒「……高浜虚子さん、ですか?」

提督「ああ、よく知っているな」

提督「夢や目標ではなく『闘志』という言葉を用いているのが好きでな……。学生時代に授業で習ったものだが未だに覚えている」

提督「……旧を守る高浜虚子の『闘志』は、少なくとも他者と矛を交えるためのものではなく、何かを『守る』ためのものだったんじゃないかと、俺は考えているよ」

提督「……俺の『闘志』もそうありたいものだ」

羽黒「司令官さん……」


 俺の手の上に重ねられる羽黒の手。
 ちらりと羽黒の方を見ると、その目と俺の目が合った。
 しっかりと俺の目を見据える羽黒。
 逸らさせない、そんな想いの籠もった力強さが感じられた。







羽黒「……私も、守ります」





 その一言で、十分だった。
 抑えきれなくなった笑みがこぼれ落ちる。


提督「ふっふっふ……そうかそうか……」

提督「……ところで羽黒。羽黒は女性に守られる男性をどう思う? 頼りない奴だと思うか?」

羽黒「そ、そんなことありません!」

羽黒「私達が頑張れるのは司令官さんが居てくれるからです!」

羽黒「頼りないだなんて思ったことなんか一度も……!」

提督「……羽黒」

提督「俺のことだとは一言も言ってないんだが?」

羽黒「────えっ、あっ……そ、そのぉ……」

提督「ふっ、くくっ……!」

提督「羽黒は可愛い奴だなぁ……」

羽黒「うっ、あうぅ……!」

羽黒「し、司令官さんのいじわる……」


 恥ずかしくなってきたのか、徐々にその頬を染め始める羽黒。
 その反応を見て俺は更に笑みを深くし、羽黒もまた熟れたトマトのように真っ赤になる。

 それでもなお、重ねた手をどけようとする気配は微塵も無かった。



投下終了。

羽黒は何だかいじめたくなる。


それではまた。



瑞鶴投下ー。




     瑞鶴の場合




瑞鶴「────私の名前って何が由来とかそういうのが無いのよねー」

提督「……確かに『瑞鶴』という言葉は聞いたことがないな」

瑞鶴「でしょ?」

瑞鶴「調べてみたんだけど『瑞』の字は『めでたい』っていう意味で、『鶴』もこれまた『めでたい鳥』らしいのよ」

瑞鶴「つまり同じ意味を掛け合わせて作られた造語ってわけね。何かあるかと思ったけどそんなことなかったわ」

提督「ふむ……」

提督「それじゃあ『瑞亀』とか『瑞兎』とかになる可能性もあったわけだな」

瑞鶴「ズイキ? ズイト? あははっ、中々面白いこと言うじゃない!」

瑞鶴「ちなみに『めでたい動物』を『瑞獣』って呼ぶこともあるらしいわよ? 古代中国の話だけどね」

提督「古代中国というと……四神か」

瑞鶴「そうそう、それそれ」

提督「……『瑞龍』」

瑞龍「何だか私より強そうよね」

提督「……『瑞亀』」

瑞鶴「ふふっ、それはさっき言ったじゃない」

提督「……『瑞麟』」

瑞鶴「……『麟』ってメスのきりんって意味なんだけど、知ってた?」

提督「初めて聞いたな」

瑞鶴「ちなみに『麒』はオスのきりんって意味よ」

提督「へぇ……」

瑞鶴「……さて、それじゃもう分かってるけど、最後のやついっちゃおっか?」

提督「…………『瑞鳳』」

瑞鶴「それはもう居るわよっ!」

瑞鶴「────ふふふっ♪」

提督「…………………………」

提督「…………なぁ、瑞鶴」

瑞鶴「何?」

提督「そろそろ俺の膝からどいてくれないか?」




瑞鶴「嫌よ。座り心地良いんだもん」


 願いも虚しく一蹴される。
 ……あまりこういうことは言いたくないのだが、はっきり言って……重い。駆逐艦や軽巡洋艦、潜水艦の奴らならまだしも、空母組の奴らとかとなるとこれが割とシャレにならないのだ。

 すでに瑞鶴が居座り続けること数十分。
 俺の足はもう悲鳴を上げ始めているのだが、動かすと文句を言われるため、どうすることも出来なくなっていた。


瑞鶴「胡座って丁度良いわよねー♪ こう、ぽっかりと私が座るためのスペースが出来るし!」

提督「お前のためじゃないんだがな……」

瑞鶴「そういうことは言わないでよね。嘘でもそういうことにしといた方が私の気分が良いんだから」


 ぽふっ、と俺の胸へと背中を預けてくる瑞鶴。
 その長く艶やかな髪からふんわりと漂う甘い香りが鼻腔をくすぐり、俺は深々とため息を吐いた。

 ……いつまでも瑞鶴のペースに付き合っている訳にもいかないだろう。

 意を決し、ちゃぶ台の上にある書類に手を付けるべく、体を前へと倒す。

 「きゃっ!?」という可愛らしい声があがったが、無視することにした。


瑞鶴「……提督さんってば大胆」

提督「……座っててもいいから仕事の邪魔はするな」

瑞鶴「……はーい」

提督「……………………」

提督(……絶対邪魔するなこいつ)

提督「…………はぁ……」

瑞鶴「────うふふっ♪」


 声音から何となく分かる瑞鶴の思惑。
 それに気付き大きなため息を吐くと、瑞鶴は嬉しそうに笑い声をあげるのだった。






瑞鶴「そういえばこれ、端から見たら提督さんに抱きしめられてるみたいよね?」

瑞鶴「…………ふふっ、手が止まったわよ?」

瑞鶴「提督さんも可愛いとこあるじゃない♪」






投下終了。

一枚上手な女性って良いと思います。


それではまた。


ご指摘感謝です。

それでは番外編投下。



     赤青緑と夏祭りの場合 中



──────くじ引き



提督「くじ引き、か……」

鈴谷「一等はえーと……ゲーム機だね」

夕立「夕立はいらないっぽい?」

時雨「僕もいらないなぁ……」


 見つけたのはくじ引きの屋台。
 箱の中にくじが入っていて、それを取り出して書かれている番号の賞品を受け取るタイプのものらしい。
 立ち止まっておいてなんだが、これっぽっちもやる気はしない。荷物がかさばると動きにくくなるからだ


鈴谷「ふーん……」


 陳列されている賞品をまじまじと見つめる鈴谷。
 一通り見定めを終えると、その口を開いた。


鈴谷「やってみる!」


 自信満々にお金を出し、箱の中へと手を突っ込む鈴谷。しばらくガサガサとくじを探る音が聞こえた後、鈴谷は勢いよく手を引き抜いた。

 そのまま期待に目をキラキラとさせながら、三角に折られているくじを開く。

 覗きこむ俺の視界に入った数字は『132』。
 賞品に目を向けてみると百番台はどう見ても値段に釣り合わないガラクタばかりだった。

 それでも鈴谷は笑う。


鈴谷「よしっ、熊野へのお土産ゲット♪」

夕立「それは流石にひどいっぽい!」

鈴谷「なーんて、じょーだんじょーだん♪」

鈴谷「単なる思い出作りだってば。あわよくば、って気持ちは確かにあったけどね♪」


 ケラケラと楽しそうに笑う鈴谷。
 最初から何が当たろうとも関係なかったらしい。
 満足したのか歩を進める鈴谷と、それに着いていく夕立。

 その背中を見ながら、俺は先ほどから静かにしている時雨へと声をかけた。


提督「どうした、時雨?」

時雨「────あっ、うん。何でもないよ」

時雨「ただちょっと、珍しいなぁって思ってたんだ」

提督「珍しい?」

時雨「うん。このくじ引き、ちゃんと一等が入ってるみたいだからさ」


 そう言って屋台の主人にお金を渡し、鈴谷と同じように箱の中へと手を入れる時雨。
 サッと引き抜きくじを開く。

 書かれている数字は『1』。

 俺はその結果に目を見開くが、屋台の主人は他の客の対応をしているため、まだ気付いていない。
 時雨はにっこりと笑うと、そのくじを箱へと素早く戻した。そしてくじは『77』と書かれたものへとすり替わる。


時雨「ほらね♪」


 幸運艦って凄い。
 俺は改めてそう思った。




──────林檎飴・苺飴



時雨「いい飴だね」

提督「言いたかっただけだろう」

夕立「ぽひぃ……」

鈴谷「夕立、欲張っちゃダメじゃーん♪」


 チロチロと舌を出して林檎飴を舐める時雨と、二つの苺飴を同時に頬張る夕立。
 そして鈴谷はその手に持った林檎飴に手を着けず、夕立の膨らんだ頬を見て笑っていた。

 それを横目に俺はイカ焼きを食べる。
 飴? ここまでチョコバナナ・かき氷・クレープ・わたあめと続いていたのだ。そろそろ塩っ気を求めてもいいだろう。


夕立「提督さんは食べないっぽい?」

提督「ああ、これで十分だ」


 こてん、と首を傾げて言う夕立に、持っているイカ焼きをくるくると回して見せる。
 じー、っと回るイカ焼きを見ていた夕立が、不意に声をあげた。


夕立「一口ちょーだい♪」

提督「ん、いいぞ」

夕立「いただきまーす♪」


 言うや否や、差し出したイカ焼きにかぷりと食いつく夕立。

 ……おい待て、こいつ一口で半分持っていったぞ。


 顔をひくつかせる俺をよそに、夕立はイカ焼きを食べ終える。


夕立「……飴の後に食べるものじゃないっぽい」

提督「……だろうな」


 今頃夕立の口内は飴の甘さとイカのしょっぱさに蹂躙されているに違いない。
 夕立は唸りながら不満の声をあげていた。


夕立「提督さんも試してみるっぽい!」

提督「ちょっ──────もがっ」

鈴谷「────なっ!?」

時雨「へぇ……」


 避ける間もなく俺の口の中へと侵入を果たす夕立の苺飴。
 鈴谷と時雨が驚きの声をあげたのが聞こえた。




 ……しょっぱさと甘さが悪い感じに混ざり合って非常に美味しくない。げんなりとした表情を表に出すと、夕立は楽しそうに笑った。

 その横で鈴谷が、慌てた様子を見せる。


鈴谷「か、かかかか、関節き────っ!?」

時雨「うーん……状況が状況だけに、結構ディープだよね……」

時雨「ねぇ提督? それさっき夕立が頬張ってたやつだよね? 何か思うところとかあるかな?」

提督「…………別に?」

鈴谷「き、キスだよっ!? 何言ってんの提督っ!? 関節とはいえキスなんだよっ!?」

鈴谷「……す、鈴谷的にはノーカンだけど!」

提督「……あのな、鈴谷。俺と夕立の年齢差を考えてみろ。これがマウストゥーマウスならまだしも、これぐらいなら犬に噛まれたものだろう?」

夕立「わんわんっ♪」

提督「ははっ、夕立は可愛いな」

夕立「ぽいー♪」

鈴谷「────ぐぬぬっ……!」


 髪をわしゃわしゃと掻きながら悔しがる鈴谷と、顎に手を当てて何かを思案する時雨。

 「────よし」と、何かを決心したのか、時雨が俺の方へと近付いてきた。

 そこに鈴谷が割り込む。


鈴谷「い、行かせないからっ」

時雨「……鈴谷も僕も同じ林檎飴。チャンスは一人だけだよ? 勝負するかい?」

鈴谷「えーと、えーと……!」

鈴谷「そう! ここはお互い退くってことで!」

時雨「却下」

鈴谷「ちょっと待って! 考えるから!」


 何やら俺の預かり知らないところで、口論が始まっていた。


提督「……ん?」


 そこで俺は気付く。
 鈴谷の持つ林檎飴が、祭りの熱気のせいなのか、溶け始めていた。

 串を伝って飴が垂れていく。
 このままではせっかくの浴衣が汚れてしまうだろう。


提督「鈴谷、飴を食べなくていいのか?」

鈴谷「──────ふぇっ!?」


 バッとこちらを振り向く鈴谷。
 その顔は林檎飴のように赤い。


鈴谷「えっ、あぅ……でも……!」

提督「……鈴谷?」

鈴谷「──────あうううううっ」







鈴谷「わ、私のはダメなんだからー!」







 そう言って人混みの中へと逃げ去っていく鈴谷。

 取り残された俺達は顔を見合わせる。


時雨「やれやれ……」

夕立「ぽいー……」

提督「……俺のせいか」


 呆れた視線を向ける二人。
 その視線を受けた俺は二人に一言告げて、鈴谷の後を追うのだった。




投下終了。

それではまた。



久しぶりの艦これ。
大型二回→長門×2

違う。そうじゃない。


長門投下ー。



     長門の場合




長門「────ふむ、ふむ……」

提督「……………………」

長門「悪くないな、皆がねだるというのも頷ける」

提督「……………………」

長門「こう、何だ? 胸の奥が暖かくなるというか、満たされていくというか…………」

長門「とにかくこれは良い。私は今まで何故これをしてもらわなかったのか分からんな」

提督「……そうか」

提督「なら、もういいか?」

長門「いや、足りん。もうしばらく撫でてくれ」

提督「……了解」

 夕暮れに染まる鎮守府、その執務室。
 座布団に胡座をかく俺の胸に顔をうずめ、幸せそうな表情で頭を撫でられている長門。
 背中側に腕を回されているため離れることも出来ず、かれこれ三十分はこの状態が続いていた。

 時折こちらの様子を伺うように顔を上げる長門。
 それに合わせて撫でてやると、その表情が綻ぶ。

長門「もしかすると提督の手の平からは私達艦娘を魅了する成分が溢れているのかもしれんな」

提督「……そんなわけあるか」

長門「いや、分からないぞ? 提督は私達艦娘を統べる存在なんだ。そういう力があってもおかしくはない」

提督「だとしたらいらない能力だな」

長門「だが私達には必要だ。体験するとよく分かる」

 そう言ってスリスリと額をこすりつけてくる長門。回された腕に力が込められたため、少し息苦しい。

長門「────ふふっ」

 楽しそうな笑い声があがる。
 普段何も望まない長門が珍しく頼みごとをしてきたものだから快く了承したが、まさかこういうことになるとは露にも思わなかった。

 『私の頭を撫でてくれ』だなんて、言われた時の俺の顔は、さぞ愉快なものだったことに違いない。

長門「どうした、手が止まっているぞ」

 考え、つい手が止まる。
 催促を受け、ため息を吐いた。

提督(……これ、いつ解放されるんだ?)

 そんなことを考える俺をよそに、長門はこちらに向けて不敵な笑みを浮かべるのだった。





長門「────よし、今日はこれくらいでいいだろう」

長門「これからはMVPを取る度によろしく頼む」

長門「……狙い目は駆逐艦かな?」

提督「お願いだから戦艦を狙ってくれ」

長門「ふふっ、善処しよう」

長門「────期待しているぞ?」






投下終了。

リクエストは夜に取ります。

それではまた。



リクエスト飛ばしておきます。

八時に近いレスから三人分です。
一人一名です。
ぞろ目の場合枠が一つ増えます。

よろしくお願いします。


鳥海
大井
武蔵
了解しました。

それではまた。


夕張ん投下ー。



     夕張の場合




提督「────よく来たな。さぁメロンを食べようか」

夕張「………………えぇー?」

夕張「もしかして提督、そのためだけに私を呼んだの?」


 文句を言いつつも用意されていた座布団へと腰を降ろすと、対面に座っている提督から私の目の前にスプーンが差し出される。
 受け取り視線を下に降ろせば、既に半分にカットされて種も取り終えられた美味しそうなメロンが視界に入った。

 ゴクリ、と唾を飲む。


夕張「一人半分って贅沢じゃない?」

提督「知り合いからのお土産なんだがあいにく一つしかなくてな……。無理に分ければ喧嘩が起きかねん」

提督「だから、な?」

夕張「……私を選んだ理由は?」

提督「名前」

夕張「……今日だけはこの名前に感謝するわ」


 互いに「いただきます」と言い、スプーンをその身に潜らせる。抵抗も無しにさっくりと掬われた果肉を口いっぱいに頬張ると、何とも言えない幸福感が私を包み込んだ。

 ……美味しい。それしか言えない。

 提督の方を見てみると、私と同じ気持ちを抱いたのか、その頬は類を見ないほどに緩んでいた。


提督「……美味いなこれは」

夕張「私も予想以上かも……」

夕張「でもこれだけ美味しいのなら、独り占めした方が良かったとか思ってるんじゃない?」

提督「ははっ、まさか」

提督「むしろ夕張と一緒に食べているから、こんなにも美味しいと感じるのかもしれないぞ?」

夕張「…………ばか」


 軽口を言うほど機嫌が良いのだろう。
 楽しそうに提督は笑っていた。

 対する私は恥ずかしさを隠すように続けてメロンを口に入れる。
 普段からこのくらいフランクなら…………いや駄目だ。私達の身が保たないのが目に見えている。
 というよりそんな提督だったなら刺される数は両の手ですら到底数え切れないほどになっていたに違いない。

 ……そう考えると、やっぱりこの提督が一番『らしい』感じがした。


提督「夕張もいつもよりご機嫌だな? そんなに美味かったか?」

夕張「……うん、そうね」

夕張「とっても美味しいわね♪」

提督「そうかそうか。やっぱり美味いよなぁ、これ……」


 そう言って自分のことのように喜ぶ提督。
 そんな提督を見て、私の頬も自然と緩むのだった。





提督「なぁ、夕張?」

夕張「んー?」

提督「メロンは中心が甘いと思われがちだが、本当は花痕部────つるが付いているところの裏側の部分が、一番甘いということを知ってるか?」

夕張「ええ、知ってるわよ」

提督「俺も今思い出したんだが……切るときに気付けばよかったな。おかげで俺の方にしか無い」

夕張「気にしなくていいし、全部食べていいから」

提督「……いいのか?」

夕張「ええ」





夕張「────十分甘いしね♪」






投下終了。

武蔵がイクの台詞……?
笑う未来しか見えない。


少なからず皆さんが摩耶さまをリクエストしてくれるのではないかと期待していましたが残念です。

摩耶「……当ててんだよ。悪いか?」

摩耶「い、一回も二回も変わらねーだろうがっ……!」

摩耶「その……ありがとな」

摩耶「……ばーか」

という台詞で四つのシチュエーションを用意していたのに。



それではまた。


>>460
> 互いに「いただきます」と言い、スプーンをその身に潜らせる。

カニバリズム(適当)

電「……(艦首を)当ててるのです。悪いですか?」

電「一回も二回も(衝突事故)変わらないのです……!」

電「その……ありがとなのです(沈んでくれて)」

電「……(深雪なんて)ばーかなのです」
口下手な電ちゃん。これでいこう


艦娘との一年 改
に回そうと思ってたりします。

メインは
夕立・時雨・摩耶・木曽・鈴谷・長門・加賀・榛名・北上・大井・球磨・比叡
の中から三名の予定です。

ヤンデレ艦隊のプロットを分解すればすぐにでも取りかかれますね。もちろんこのスレが終わってからですが。

ヤンデレ艦隊お蔵入りなんですか……(戦慄)


>>472
お蔵入りはしませんのでご安心を。
ただ試験が近いので開始は遅くなると思われます。

構想ではグッチャグチャでドッロドロのお話になってたのに、いざプロットを作るとイッチャイチャでアッマアマになる不思議。

何もかも夕立が天使なのが悪い


後で吹雪投下します。



     吹雪の場合




吹雪「────司令官、前々からお聞きしたいことがあったんですけど……」

提督「別に構わん。だが、答えるかどうかは内容によるぞ?」


 カリカリとペンの走る音が執務室に響く。
 山のように高く積まれた書類の処理作業を開始してから、かれこれ三十分は経った頃だろうか? お互いが保ってきていた沈黙は、本日の秘書艦である吹雪によって破られた。

 言葉を返しつつ、返されつつも、俺と吹雪はその手を止めはしない。「それで構いませんから」と前置きをした吹雪が、言葉を続けた。


吹雪「司令官はここに来る前、何をされていたのですか?」

提督「ここに来る前、か……」


 ペンを持つ手の動きが止まる。
 それに合わせて、向かいから発せられていた音も鳴り止んだ。


提督「ふむ…………」


 顎に手を当て、記憶を掘り返す。
 期待に目を輝かせ、こちらを食い入るように見つめる吹雪が実に可愛らしい。

 ……だがしかし、その期待に応えられるかというと、そういうわけではなかった。


提督「着任時の挨拶では実家の手伝いとしか言わなかったしな……」

吹雪「ご実家では何のお仕事を?」

提督「なに、大したことはない。ただの農家だ。主に米を作っている」

吹雪「へぇー! そうだったんですかー!」


 驚きの声をあげる吹雪。
 そんなに驚くようなことでもないだろうとは思ったが、吹雪の反応の微笑ましさに、思わず笑みがこぼれてしまう。

 そのためか、ついつい言葉が続いてしまった。


提督「今でも収穫時期になると手伝いに行くぞ。本当なら田植えの方も手伝いたいが……深海悽艦は悠長に待ってはくれないからな」

吹雪「……あっ、だからお休みだったりしたんですね」


 何かを思い出したのか、吹雪がポンと手を打つ。
 完全な私用であるため、休む理由を今まで誰かに伝えたことはなかったのだが、つい口が滑ってしまったようだ。

 後悔したが、もう遅い。


吹雪「……あの、今年も手伝いに行ったりします?」




 その言葉で、吹雪の意図は読めたのだが、俺は会話を続けることにした。

 何も知らない風を装い、吹雪を見る。


提督「深海悽艦が大人しければ、だがな」

提督「……親父もお袋もいい年だし、二人に任せるのは心配だ」

吹雪「そ、そうなんですか……へぇー……」


 しきりにうんうんと頷く吹雪。
 俺はというと、その微笑ましさに笑いを堪えるしかない。


吹雪「だ、誰か手伝いに来てくれる人とかいないんですか?」

提督「……忙しくなければ手伝いに来てくれる人はいるだろうな。だが、収穫の時期はどの農家もそう変わらん。よそを手伝う暇など無いだろう」

吹雪「…………そう言えば私、有給余ってますね」

提督「……どうした藪から棒に?」

提督「休息も大事だからな。大切に使うんだぞ?」

吹雪「むぅ……」


 吹雪が悔しそうに頬を膨らませる。
 その表情が妙に面白かった。


提督「……来たいのか?」

吹雪「い、いいんですかっ!?」


 俺の一言に身を乗り出し、食いついてくる。
 最初からそのつもりだったろうに、という言葉は飲み込んであげておいた。


吹雪「ご両親にもお会いすることになるんですよね……! ふ、服とかどうしよう……!」


 俺の返答を待たず、既に行く気でいる吹雪。
 ここでその気分を落としてやるほど、俺はひどい人間ではない。

 わたわたとせわしなく手を動かしては、あーだこーだと一人で問答を繰り返す吹雪に、一応の忠告を投げかける。


提督「他の奴には言うなよ?」

吹雪「もちろんですっ!」

吹雪「絶対誰にも言ったりしませんから!」

提督「そ、そうか……」

提督(……嫌な予感しかしないな)

吹雪「ふふっ♪ 楽しみですね、司令官!」


 そんな俺の思いも露知らず、吹雪は楽しそうに笑う。
 対する俺はといえば、予想が外れてくれることを密かに願うばかりだった。












 そして後日、願い虚しく俺のもとには大勢の艦娘達が訪ねてくることになり、俺はその状況に大きなため息を吐くことになるのだった。




投下終了。

それではまた。




伊勢「お米って結構重いのね……んしょっ、と」

日向「…………ふぅ、ここに置けばいいのか?」

赤城「採れたての野菜は美味しいですね♪」

加賀「流石に気分が高揚します」

蒼龍「お肉の下処理バッチリです!」

飛龍「どーよっ! 美味しいでしょ!」

鳳翔「おかわり、よそいましょうか?」

大井「き、北上さん、離れないで下さいね……?」

北上「大井っちー、お化けなんて出ないってば」

最上「うわっ!? って三隈か……。脅かさないでよ」

三隈「ふふっ、モガミンったら驚きすぎですわ♪」

伊401「川も良いね。潜っちゃおっか?」

吹雪「皆ー、熱中症には気を付けてねー」

白雪「す、スイカ、切れましたよー……?」

初雪「暑い……死ぬ……」

深雪「おおっ!? あれってカブトムシか!?」

磯波「扇風機……涼しいです……」

綾波「明かりが無いから星が綺麗ですねー……」

敷波「わ、ワンピース着たっていいだろ別に……」



提督「里帰り」



乞うご期待!


あっ、嘘です。


嘘だってば(迫真)

どこかの誰かが言ってましたがキャラの同時回しは8人が限界らしいです。つまりしばふ艦×田舎ネタは無理。


気を取り直して間宮さん投下します。



     間宮さんの場合




提督「────失礼するぞ」

間宮「すいません、まだ仕込み中で────提督? こんな時間にいらっしゃるなんて、どうかされましたか?」


 早起きな艦娘達が、そろそろ起き始めるような時間帯。扉を開け『間宮食堂』と書かれたのれんをくぐると、間宮さんが出迎えてくれた。

 仄かに漂う美味しそうな香り。
 今日の朝食が楽しみである。


提督「仕事中にすまない。だがどうしても渡したい物があってな……」

間宮「渡したいもの……? 私にですか?」

提督「ああ、知り合いから送られてきたものなんだが生憎俺には無用の長物だ。でも間宮さんなら使い道があるだろう」


 こてん、と首を傾げる間宮さんに、持ってきていた紙袋を渡す。

 中に入っているのは長方形の箱。
 その中身は調理道具────包丁だ。

 送ってきた知り合い曰わく『銘に〔海〕って文字が入っているからお前に丁度いいだろう』とのこと。
 善意はありがたいが使わない物を持っていても仕方がない。それならば使ってくれる人の手に渡る方がこの包丁にとっても本望だろう。

 そう考えて間宮さんに渡してみたのだが、当の間宮さんは袋を覗き込んだまま固まってしまっていた。

 そして突如として顔を上げ、興奮冷めやらぬ様子でまくし立てる。


間宮「あ、あのっ、これっ! ほ、本当に頂いてもよろしいのでしょうかっ?!」

提督「もちろんだ。存分に使ってくれ」

間宮「──────ふ、ふふっ♪」

間宮「提督はご存知ないかもしれませんが、この包丁はそれはもう有名で素晴らしい包丁なんですよ?」

間宮「それを手にする日が来るなんて……!」

間宮「────提督、ありがとうございます!」

提督「────うおっ!?」


 感極まったのか、抱きついてきた間宮さんを慌てて受け止める。

 どこがとは言わないが間宮さんもそれはもう立派なものをお持ちの方であるため、何がとは言わないが俺もいろいろとヤバかった。普段このようなことをしない人であるため尚更だ。


提督(……今度は鍋でも買ってきてあげるか)


 そんなことを考える。
 疚しい気持ちが一切無い、とは胸を張って言えそうになかった。





間宮「────提督、本日の朝食はいかがでしょうか?」

間宮「ふふっ、それは良かったです」

間宮「…………これ、どうぞ。新作のデザートなんです」

間宮「────提督に、だけですからね?」




投下終了。

それではまた。



龍驤「ほっほー……ここが提督の実家? 結構大きいんやね、想像以上やったわ」

千歳「まずはご両親にご挨拶ですね。えっ、今日はいらっしゃらないんですか?」

千代田「千歳お姉ぇー……、蚊が、蚊がいっぱいいるぅー……。助けてぇ……」

隼鷹「町内会? お酒出んの? ────えっ、マジ!? 行く行くっ!!」

飛鷹「ちょっと隼鷹!? アンタは全然関係無いでしょ! いいからとにかく待ちなさい!」

長良「司令官、今日の晩御飯は私達にお任せ下さい! ────久々に腕が鳴るわ!」

五十鈴「ふふっ、いい感じね♪ 提督、もう少しで出来るから大人しく待ってなさい」

名取「て、提督さん、お風呂が沸きました……。わ、私がお背中流しましょうか……?」

あきつ丸「線香花火は落ち着くであります……。提督殿、もう少し近付いてもよいでしょうか?」

まるゆ「ネズミ花火……ヘビ花火……。隊長、もぐら花火もあるんですか?」



提督「帰郷」



あきつ丸・まるゆを抜くのは許されざるよ。

乞うご期待!



もちろん嘘です、はい。



里帰り・帰郷

他に地元へ戻る言葉が思い付かないので他の艦隊は書きませんぜ。

……他に無いよね?


それではまた。


甘かった。反省。

調べてみましたが、それぞれ意味が微妙に違うんですね。

字面が良さそうな『凱旋』『帰省』で書きましょうか。


どんな分類が良いですか?
(絵師問わず。声優でも好きな艦娘でも可)
8人以上になるようお願いします。

それぞれ下1・下3


了解しました。


『凱旋』
戦争に勝って帰ってくること。成功を収めて帰ってくること。

Q.そんな我が子が結婚適齢期そうな女性(美人揃い)を連れてきたときの親の反応は?

A.応援しなきゃ(使命感)


意味が分かってて取られたリクとしか思えない。
それではまた。



赤城・加賀・妙高・足柄・雷・鳳翔・大和・武蔵

の八名で良いですよね?
結婚適齢期というよりは良妻に近いですが。


長門「私が戦艦長門だ。提督にはいつも世話になっている。短い間だがよろしく頼むぞ」

提督「長門、喋り方……」

提督母「別に気にしないから良いわよ。それにしても凛々しい娘ねぇ……♪」



陸奥「私は陸奥よ。提督の昔のこととか、いろいろ教えてもらってもいいかしら?」

提督母「あら、あらあら♪ アルバム出さないと♪」

提督「やめて!」



島風「島風です! 好きなのはかけっこです! 速さなら誰にも負けません!」

提督父「それじゃオジサンとかけっこでもしようか」

提督「それ以上島風に近付くなよ変態親父」



雪風「雪風です! 提督のご両親にお会いできるなんて幸運の女神のキスを感じちゃいます!」

提督母「……この格好は何?」

提督「お、俺が強制してるわけじゃないから……」



天津風「私は天津風よ。ここら辺はいい風来てるわね。とても気に入ったわ」

提督父「顔が赤いが風邪でもひいてるのかい?」

提督「違うからその手をさっさと引っ込めろ!」



武蔵「武蔵だ。私の力は伊達では無いぜ? 力仕事でも何でも、手伝えることがあったら言ってくれ」

提督父「全部乗せ……だと……!」

提督母「女の子なんだから下着姿は駄目よ? 下着もサラシじゃなくてちゃんとしたブラを……」

武蔵「あ、いや、これはそのっ」

提督「ごめん庇えない」



大和「大和と申します。お父様、お母様、不束者ですがどうぞよろしくお願い致します」

提督父「優勝」

提督母「この子が正妻ね。分かったわ」

大和「ち、違いますっ! まだ違いますからっ!」

提督「落ち着け大和。お袋の笑みが深くなるから」



提督父「────で、本命は?」

提督「そういうのじゃないから」

提督母「島風ちゃん達ならあと五年は待ちなさいよ?」

提督「話聞けよ!」






提督「帰省」


この面子だと大和が一人勝ちすると思われ。

また後で。



提督父「────まさかお前がこんなに有名なやつになるなんてなぁ……父親として鼻が高い」

提督「よしてくれ、全部彼女達のおかげなんだ」

提督「俺はただ口を出してるだけだよ」

提督父「なぁに、彼女達の様子を見れば分かるさ。……ちゃんとやっていけてるみたいで安心した」

提督「……心配すんなって。大丈夫だから」

提督父「そうだな。あとは孫の顔だけだな」

提督「──────な、何でそうなるんだよっ!?」

提督父「ん? あの子達の内の誰かが本命じゃないのか?」

提督「違うっ!」

提督父「……複数とはたまげたな」

提督「────それも違ぁーうっ!!」




加賀「手伝います。私に何か出来ることは?」

提督母「あら、ありがとうね。それならお味噌汁の方を頼もうかしら?」

加賀「お任せ下さい」

提督母「あの子は昔から豆腐入りが好きでねぇ……」

加賀「……存じています」

提督母「────あら、野暮だったわね♪」

加賀「……い、いえ」



提督母「皿洗い、手伝ってくれてありがとうね?」

赤城「いえ、お気になさらないで下さい」

赤城「美味しい食事を頂いたせめてものお礼です」

提督母「赤城ちゃんはたくさん食べてたわねぇ」

赤城「す、すみません……」

提督母「別にいいのよ。でもあれならいつ子供が出来ても大丈夫そうね?」

赤城「────────なっ!?」



妙高「さぁどうぞ♪」

提督父「おっ、とと……」

提督父「いやぁ、こんな美人さんにお酌してもらえるなんて、人生長生きしてみるものだな!」

妙高「ふふっ、ありがとうございます」

提督父「────それにあんたも随分といけるクチじゃないか、んっ?」

足柄「あら、悪い?」

提督父「むしろ大歓迎だ! うちは女房も息子もとんと飲まない奴ばかりだからな……」

足柄「私は朝まで付き合えるわ。今日は飲み明かしちゃいましょ。……負けないわよ?」

提督父「いいね、そうしよう!」

提督父「俺に勝てたら息子の秘密を教えてやる!」

足柄「────本気出すわ」

妙高「足柄、勝ちなさい」




提督母「雷ちゃんは何でもできるのね」

雷「それほどでもないわ!」

提督母「うふふ、頼もしいわね……」

提督母「ついつい頼っちゃいそうだわ」

雷「司令官のおかーさんも、もーっと私に頼っていいのよ?」

提督母「あら、そう? それじゃあ…………息子のこと、よろしく頼むわね?」

雷「ま、任せてよねっ!」



大和「────王手」

提督父「…………強いなぁ」

提督父「これでもかなり強い自信があったんだがなぁ……」

大和「お父さまも十分にお強かったですよ。私が指した人の中では間違いなく一番です」

提督父「そう言ってもらえると嬉しい」

提督父「…………それで、武蔵ちゃんはどうする?」

武蔵「────ご、ご主人、しばし待ってくれ……!」

提督父「もちろんだ。存分に悩んでくれ」

武蔵「ここに銀を……いやしかしそれでは桂馬が刺さる……」

武蔵「ぐぬぬ……! どうすれば……!」

提督父「さて、それじゃあもう一局指そうか?」

大和「喜んで!」



鳳翔「あ、あの……どうかなされましたか?」

提督母「……うちの息子にはもったいないくらいの逸材ね」

提督父「俺もあと二十年若ければなぁ……」

提督母「ねぇ、鳳翔さん? 息子のこと……支えてやってくれるかい?」

鳳翔「ええと、その……」

鳳翔「……み、皆さんと一緒に精一杯努めさせていただきますっ」

提督父「優しい人だ……」

提督母「私の若い頃にそっくりねぇ」

提督父「……えっ」

提督母「あなた、ちょっとこっち来い」

提督父「ひっ──────!?」

鳳翔「い、行ってしまいました……」





提督母「正妻はちゃんと一人にしなさいよ」

提督父「野球チームが出来たら俺が監督やるから」

提督「外堀が埋められてるっ!?」






提督「凱旋」



これやるとしたらR-18回避不可ですね。
両親のお膳立て&艦娘側の据え膳のコンボ。
→提督堕つ


次から本編戻ります。
それではまた。


皆さんこんにちは。

本編戻る前に夏祭りの方終わらせます。
そしてその前に久し振りに書いた台詞のみのやつを投下します。

それでは投下。




     時雨としりとり



時雨「理解し合えるのは提督だけなんだ」

提督「だからってお前と俺とじゃ立場が違う」

時雨「生まれなんて関係ないさ」

提督「最後にはどうなるか、時雨なら分かるだろ?」

時雨「ろくなことにはならなくても、提督がそばにいるだけでいいよ」

提督「よく考えろ、お前はそれでいいのか?」

時雨「考えても考えても、脳裏に浮かぶのは提督のことだけだから」

提督「……楽な道じゃない」

時雨「今までだってそうだった」

提督「楽しいだけじゃなく、辛いことだってある」

時雨「類がないことだって、提督と乗り越えてきたじゃないか!」

提督「……勝手にしろ、俺は行く」

時雨「……苦しくても辛くても、提督のそばに居られるならどこまでもついて行くさ」

提督「…………さっきから何なんだこれは?」

時雨「……歯止めが効かなくなったんだ。僕だってやりたくてやってるわけじゃない」

提督「いやいや、最初に言ったのは時雨のはずだ!」

時雨「だとしてもそれに乗ったのは提督じゃないか!」

提督「そ、それはその……!」

時雨「────っ!? よしっ! 僕の勝ちだね!」

提督「まだ続いてたのかよっ!?」



地の文が無いと違和感を感じるようになりました。
でも台詞のみだと半分くらいの時間で書けるんですよね……。

それでは続けて夏祭りどうぞ。



     赤青緑と夏祭りの場合 下







提督「────探したぞ、鈴谷」

鈴谷「提督……」


 聞き覚えのある声に顔をあげてみると、そこには見慣れた顔があった。

 夏祭りが行われている神社から少々外れた空き地。提督から逃げるように去った私はここに辿り着き、そこそこ大きな石に腰を降ろして落ち込んでいた。

 どうやって私を見つけたのか。
 そう尋ねようとした矢先、提督が口を開いた。


提督「鈴谷のことなら何でも分かるさ」

鈴谷「……まだ何にも言ってないんですけど」

提督「そうだな。でも分かる」


 ぽんぽん、と私の頭にその手を跳ねさせ、許可を取ることもなく私の隣に立つ提督。

 嘘つき。
 本当に分かるなら私はこんなにやきもきしない。

 見上げるとにっこりと微笑みを返され、顔が熱くなってしまったので慌てて背ける羽目になった。


提督「時雨も夕立も待ってる。戻らないか?」

鈴谷「……やだ」

提督「参ったなぁ……」


 困ったように頭を掻く提督。
 結果的にとはいえせっかく二人っきりになれたのだ。それを不意にする馬鹿はいない。


提督「……何だか楽しそうだな、鈴谷」

鈴谷「……そう?」


 ────提督がそばにいるからね。


鈴谷(うーん……無理かな)


 そんなことは口が裂けても言えないけど、心の中で唱えてみれば、それだけでまた顔が熱くなるのだった。












時雨「────探したよ、二人とも」

夕立「でも何だかお邪魔っぽい?」

提督「おお、連れ戻す手間が省けたな」

鈴谷「……もうちょっとサービスしてくれても良かったじゃん」

時雨「ちゃんと待ってあげたじゃないか」

夕立「鈴谷ばっかり美味しい思いはずるいっぽい!」


 結局、二人と合流することになった。
 実を言うと二人が近くにいるのは、乙女の勘とかそんな感じの何かのおかげで何となく分かっていた。
 言動から察するに、気を遣って待っててくれていたらしい。どうせならもう少し提督との時間を楽しませて欲しかったが、それは流石に贅沢というものだろう。

 手頃な石を持ってきて、四人並んで座る。
 提督の隣に私と時雨、端に座る夕立がこちらに抗議の目を向けていた。


提督「両手に花、か」

夕立「夕立も混ぜるっぽい!」

鈴谷(ひ、膝の上! その手があったか!)

時雨「あはは、両手じゃ足りないみたいだね」


 そうやってしょうもない話を楽しみながら、時間はどんどんと過ぎていく。


夕立「来年はもっとたくさんで来るっぽい!」

時雨「そうだね、そのためにも頑張らないと」

鈴谷「提督ー? 期待してるからよろしくね♪」

提督「ああ、来年も来れるよう努力するさ」

提督「──────おっ」

夕立「わぁっ……!」

時雨「へぇっ……!」

鈴谷「おおっ……!」


 夜空に咲く大輪の花。

 喧しくも賑やかで心躍る夏祭りの音色が、遠くからずっと響き続けていた。





















提督「夕立をおんぶすることになるのは分かっていたが……」

鈴谷「時雨も疲れて寝ちゃうとは思わなかったなー」

提督「大丈夫か、鈴谷?」

鈴谷「へーきへーき。時雨ってば軽すぎるくらい」

提督「……無理はするなよ」

鈴谷「りょーかい!」

鈴谷「……でもさ、こうやって並んで歩いてると誤解されたりしないかな?」

提督「俺とお前なら精々親子ってとこだろう」

鈴谷「私が長女、時雨が次女、夕立が三女?」

提督「……随分と手のかかる娘達だな」

鈴谷「あははっ、頑張れおとーさん♪」



投下終了。

これで心置きなく本編に戻れます。


それではまた。



鳥海さん投下ー。



     鳥海の場合 2




鳥海「────食欲の秋、スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋……」

鳥海「ひとえに秋といっても様々な秋がありますが、司令官さんは今年はどんな秋を過ごすおつもりですか?」

提督「……出撃の秋?」

鳥海「ふふっ、それではいつもと変わらないじゃないですか♪」


 どこか楽しそうに笑う鳥海。
 その笑顔を直視出来ず執務室の窓の方へと目を向ければ、はらはらと風に吹かれて落ちていく落ち葉がちらほらと見えた。

 季節は秋。
 しかし俺のやることは変わらない。

 ことり、と俺の前に湯呑みが置かれた。


提督「頂こうか」

鳥海「はい、どうぞ」


 茶を啜りながら鳥海を見る。
 彼女は先ほどの俺のように窓の外へと目を向けて、何かを考えているような表情をしていた。


提督「ところで鳥海はどんな秋にしたいんだ?」

鳥海「私ですか?」


 唇に指を当て、目を細めて考えに耽る鳥海。
 何かを思いついたのかハッと目を見開くと、その口角を上げて俺の方へと近付いてくる。


鳥海「私は──────」

鳥海「────司令官さんの秋、です♪」


 そして背後に回った鳥海は、おもむろに俺の背中へと抱き付いた。
 柔らかい感触と甘い香りが俺を襲う。


提督「……何だその秋は」

鳥海「司令官さんと食事を共にしたり、一緒にトレーニングしたり、お話したり、ただ見つめ合ったりする……そんな秋です♪」


 「ふふっ」という微笑みと共に漏れた吐息が首にかかってくすぐったい。
 それに身を捩れば、鳥海はまた楽しそうに笑う。

 抜け出せないループが出来上がっていた。


鳥海「司令官さんもどうですか?」

提督「……何がだ?」

鳥海「鳥海の秋、ですよ♪」


 そう言ってギュッと抱き付く力を強める鳥海。
 対する俺は顔を赤く染めることしかできないのだった。



投下終了。

あと二人ですね。


それではまた。



最後の投下、行きます!



     大井の場合




大井「────提督、こちらの数字は間違いでは?」

提督「ん? …………本当だな。よく気付いてくれた、感謝するぞ大井」

大井「いえ、感謝されるほどのことではありません」


 そう言い、卓袱台の上の書類へと向き直る大井。

 指摘された箇所を直すが、よくよく見てみれば有り得ないようなミスによるものだった。
 近頃こういったミスが多発している。今のところ全てが途中で発覚して助かっているが、重大な失敗へと繋がる可能性は十分にあると言えるだろう。

 気持ちを切り替える意を込め、ふっ、と短く息を吐いた。


大井「……お疲れですか?」

提督「多少、な」

提督「だが心配には及ばないさ」

大井「そうですか…………」

大井「……………………」

大井「……提督」

提督「どうした?」


 自身の膝をぽんぽん、と叩く大井。
 その顔は笑みに満ちている。


大井「ちょっとだけなら……いいですよ?」

提督「………………」


 どう反応したものか。
 突然の出来事に固まり、声も出ない。

 互いに動かないまま、時計の針の音だけが執務室に響く。
 その音が重なる度、大井の笑顔は凄みを増していた。


提督「……お言葉に甘えさせてもらおうか」

大井「はい♪ どうぞこちらへ♪」


 恐怖に負けたわけじゃない。……多分。




大井「────どうですか?」

提督「どう、と言われてもな……」

提督「……柔らかい?」

大井「あら? ……ふふっ♪」


 予想に反して、というべきか。
 大井は特にアクションを起こそうとしなかった。
 俺の頭を時折撫でては楽しそうな声を漏らし、話題を口にしてはクスクスと上品に笑う。

 付き合いの長い俺でも見たことがないくらい上機嫌な大井が、そこにいた。


提督「変わったな、お前」

大井「その台詞はそのままお返ししますね?」


 言われ、思い出してみる。記憶を掘り返せば、なるほど、と納得がいった。
 一番変わったのは間違いなく俺だろう。

 艦娘達を一個人として見ず、あらゆるものを無視して深海悽艦との戦いに明け暮れていたあの日々が懐かしい。
 あの頃よりも頭を悩ませたりすることは多くなってしまったが、それが今では心地いいものとなっている。

 そんな昔を思い出し、いつの間にか微笑んでしまっているのが、鏡を見ずとも分かった。


提督「……大井」

大井「はい?」

提督「ついでだ。耳掻きを頼んでもいいか?」

大井「…………はいっ、喜んでっ♪」


 涼しい風が吹き込む秋の昼下がり。
 このまま眠気に体を任せてしまっても良いかもしれないと思いながら、俺は大井と二人きりの時間を過ごすのだった。



     武蔵の場合 & エンディング




武蔵「────そういえば提督? 昔はかなり冷たい奴だったそうだが……それは本当の話かい?」

提督「……誰から聞いたんだそんなこと」

武蔵「心当たりが有るだろう?」


 窓枠に腰をかけたまま、武蔵がニヤリと笑う。
 そんなことしていないで仕事を手伝えと言いたいところなのだが、如何せん武蔵が書類仕事をすれば三割は読めない物になってしまうため、そう言うことは出来ない。決して字が下手というわけではないのだが、達筆過ぎるのも困りものなのだ。


提督「有り過ぎるくらいだが……青葉が本命、次点で比叡・北上、大穴で鳳翔さん辺りか?」

武蔵「酔った足柄だ」

提督「……………………」

武蔵「まぁ私が無理やり聞いたようなものだ。足柄を責めないでやってくれ」


 絶対仕返ししてやる。そう心に誓いながらも、大きくため息を吐いた。


提督「……で、それが本当ならどうしたと言うんだ?」

武蔵「私は今の提督しか知らない。皆が話す提督の昔との差異が激しくてな。それは気にもなるさ」

武蔵「差し支えなければ話して欲しいんだが……」

提督「……面白い話じゃないぞ?」

武蔵「構わないよ」


 窓枠から離れ、俺の隣へと腰を降ろす武蔵。
 胡座を崩して片膝を抱えるその姿は、妙に様になっていた。


提督「……あれは丁度──────」


 ここまで来てしまうと退くことも出来ない。
 そう思った俺は、渋々ながらもぽつりぽつりとあの頃の話を口にし始めるのだった。





──────────────────

──────────────────





提督「────それで今に至る訳だ」

提督「……よくあるつまらない話だっただろう?」

武蔵「…………意外だな」

武蔵「話を聞いた今でも、提督がそんなことをしていたなんて信じられんよ」

提督「俺とて人間だ。汚い部分だってある」

提督「……幻滅したか?」


 俺の言葉に武蔵がニヤリと笑う。
 馬鹿にするな、といった笑みだった。


武蔵「困ったことにそれでもなお私は提督のことを嫌いになれないようだ」

武蔵「……いや、むしろもっと好きになったかもしれん」

提督「……酔狂な奴だな。今の話のどこに好かれる要素があった?」


 武蔵がおもむろに手を伸ばす。
 伸ばされた先にあったのは俺の頬で、その手はふわりと添えられた。

 武蔵が微笑む。
 思わずドキリとする、そんな笑みだった。


武蔵「知れば知るほど好きになる。それが良い面でも悪い面でも関係ない。……惚れた弱みというやつかな?」


 そう言ってじっと見つめてくるからたまったもんじゃない。
 慌ててかぶりを振ってその手と目から逃れれば、遅れて顔が熱くなるのが感じられた。

 流石は大和型と言ったところか。
 肝が座っているというか何というか……とにかく武蔵には到底勝てそうにないということだけは分かった。


武蔵「ふふっ、どうした? 随分と可愛い反応をするじゃないか?」

提督「……そういう武蔵こそ少し顔が赤いぞ? 恥ずかしかったのか?」

武蔵「提督のそばにいるから緊張してるのさ。…………言わせないでおくれよ、恥ずかしいんだから」


 そう言って目を伏せる武蔵。
 ますます顔が赤くなる俺。

 下手に反撃しようとしなければ良かったと思ったが、それはもう後の祭りのことだった。






武蔵「────提督が提督らしくしている限り、私達は皆提督のことを嫌いになんてならないさ」

武蔵「……だから、その、何だ?」

武蔵「……これからも私達をよろしく頼む」

提督「────ああ」

提督「俺からも、よろしく頼む」







これにて全投下終了です。
後ほど、依頼を出しておきます。

読んでくださった方々、誠にありがとうございました。


このSSまとめへのコメント

1 :  このスレの作者です。   2014年05月26日 (月) 00:26:30   ID: I4ErUlmX

本来こういった使い方は間違っているとは思いますが、どうすればよいのか分からなかったので、ここに書かせていただきます。
私はこのスレの作者です。
しかし5月25日からBBQ規制というものに引っかかり更新出来なくなってしまいました。

2 :  このスレの作者です。   2014年05月26日 (月) 00:28:04   ID: I4ErUlmX

どうして規制されたのか、見に覚えもなく理由が全く分かりません。
親切な方が居ましたら、どうか本スレの方にこの旨を伝えて頂けると幸いです。
よろしくお願いします。

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