美希「世界の中心で愛を叫ぶの!」 (356)

~夜、765プロ事務所~

ガタッ ゴトッ…

律子「ふぅ~……春香ー、ちょっとこっち手伝ってくれる?」

春香「はぁーい」

律子「このロッカーを、こっちに寄せたいの」

春香「分かりました。それじゃあこっちを持って……せぇーのっ」

ゴトゴト…


律子「やれやれ、こういう時に限って社長はどこか行ってるし、小鳥さんもいないし……」

春香「仕方ありませんよ、社長だってもうおトシですもん。小鳥さんも育児休暇だし」


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律子「それは分かってるけれど……あいたた、腰いったぁ」トントン

春香「あ、後は私やっておきますからいいですよ。
   律子さん、まだ終わってない仕事あるんでしょう?」

律子「でも、あなたまだ足が痛いんじゃ…」

春香「足ならとっくに治ってますよ。
   残っている棚はみんな小さいヤツですし、私一人でも平気です」

律子「そう? 無理はしないでちょうだいね」

春香「いえいえ。それじゃあ、律子さんは事務室に戻っててください」

律子「悪いわね、お願いするわ」

春香「はいっ」

ガチャッ バタン


春香「さ、て、と……ここにこの棚を置いて、空いた所にコレを置く、か……」

春香「アイドルの子達のためにも、更衣室は便利なレイアウトにしたいですよねー」

春香「春香さん、頑張っちゃいますよー!」フンス!

春香「よっこいしょういち!」

ガタッ…!

ガタガタ…

春香「これで、ラストぉ~~……ふんぬっ!!」ガッ!

ゴトッ バサッ…

春香「ん?」


春香「何か落ちたような………」


春香「………! これ……!」

スッ…


春香「…………」パラパラ…

春香「これ、美希の…………」



春香「……………………」

カタカタ…

律子「んー……明日の企画書はこんな感じで良いかな。それで次は……」カタカタ…


ガチャッ!

律子「きゃっ!? 春香、ビックリさせないでよ。終わったの?」

春香「律子さん! 美希は!?」

律子「美希? 今日は、仕事先から直帰する予定だけど」

春香「…………そう、ですか……」


律子「どうかしたの?」

春香「いえ、何でも……」

春香「更衣室の整理、大体終わったので……今日は、先に帰っていいですか?」

律子「何言ってるのよ、いつもお互い断り無く帰っているでしょう?」

春香「そ、それもそうですよね! そうだそうだ、アハハ……」

春香「それじゃあ……すみません、お仕事の邪魔して」

律子「ううん、平気よ。洗い物は私がやっておくから」

春香「はい、ありがとうございます」


春香「じゃあ、お先に失礼しますね。律子さんも、あまり無理せず」

律子「えぇ、ありがとう。明日もよろしくね」

春香「はい。お疲れ様でしたー」

律子「お疲れ様」

バタン…



律子「……どうしたのかしら、あの子」

~春香の家~

春香「…………」スッ

ペラッ

春香「…………」

春香「………………」

ペラッ

春香「! …………ッ」



春香「プロデューサーさん……」ポロポロ…

1月7日

 ちゃんとレッスンには行ってるか?
 確かそろそろ本番だったよな。いつもどおり落ち着いて、しっかりやれよ。
 だが、たぶん、俺はオーディション結果の報告を聞けそうにない。
 お前の喜ぶ姿を見れる日が待ち遠しいのに、明日が来るのが怖い。


………………

………………………

………………………

………………


ガチャッ

雪歩「あ、美希ちゃん。おはよう」

美希「あふぅ……何だか目がシパシパするの……」

響「もう10時だぞ、美希。まったく、相変わらず寝ぼすけだなー美希は」


美希「んぅ~~……」ボスン

春香「それで、ソファーでまた眠るんだよね」

あずさ「寝る子は育つって言うものね~、私にも身に覚えがあるわ~」

千早「なるほど……なるほど……」

真美「ち、千早お姉ちゃん、何で二回言ったのさ」


カタカタ…

美希「……ん?」モゾ…



小鳥「……そうです、それで『次へ』を押して、メールアドレスの設定ですね」

P「は、はい……」カタカタ…

美希(誰だろう、あの人……)


小鳥「@マークの前は、自分の好きなアドレスで大丈夫です。
   後ろは、なむこぷろ……“765pro”、ドット、co……」

P「ふむふむ……ちなみに、音無さんのアドレスってどういうのですか?」

小鳥「わ、私ですか? えぇとですね、そう自慢できるようなアドレスでは決して……」

律子「これです、プロデューサー」サッ

小鳥「あ、あぁっ!」

P「うわ……こういう、何というか、コミカルなアドレスでも良いんですか?」

律子「ダメな訳じゃないですけど、この先ずっと使う仕事用のアドレスですしねぇ」

小鳥「うぅ、恥ずかしいアドレスを設定すると恥ずかしい……」シュン…


美希(……まぁいいや、眠いの)ゴロン


高木「おっ? 音無君達からパソコンの手ほどきかね?」

P「あ、社長おはようございます。まだ慣れない事ばかりで……」ペコリ

高木「美希君も来たことだし、一区切りついたのなら改めて皆に紹介しよう。
   あーキミ達、ちょっと聞いてくれるか?」

真「美希、起きて。新しく来た人が挨拶するみたいだよ」トントン

美希「ふぇっ?」パチッ

高木「オホン……今日は、キミ達に素晴らしいニュースがある」

高木「ついに、我が765プロに待望のプロデューサーが誕生する」

高木「必ずや、765プロの救世主になってくれることだろう」

一同「うわあぁぁぁぁ!」


美希(プロデューサー? ……律子とは別の?)


P「えぇと……あの……」

P「プロデューサーとしてまだ日は浅いけど……とにかく一生懸命頑張ります!」

P「夢は皆まとめてトップアイドル! どうかよろしくお願いします!」

一同「おぉ~!」パチパチパチパチ



美希(なんか、面白くなさそうな人……)

律子「それで、このホワイトボードを使って、皆の予定を管理するんです」

P「そうなんですか。あの、真っ白ですが……」

律子「うっ……お、オホン!
   それを埋めるのが私達プロデューサーの仕事です!」

P「は、はいっ! すみません」

律子「それに、私の方が年下ですし、敬語は使わなくていいですよ。
   呼び方も、“律子”って呼び捨てで結構です」

P「えっ、そ、そう?」

律子「オドオドしないっ!」

P「うわっ! す、すみま……じゃなかった。ごめん、り……律子」

律子「よろしい」


小鳥「ふふっ、私のことは“小鳥さん”でも“小鳥姉さん”でも、
   “小鳥ちゃん”でも、好きなように呼んでくださいね」

P「あ、はい。よろしくお願いします、音無さん」

小鳥「あ、やっぱり“音無さん”ですか……」



律子「今日の予定は、真と美希のダンスレッスン、か……
   せっかくだから一緒に行きましょうか?」

P「あっ、はい。ぜひ」

ブロロロロロ…

律子「次の信号を右です」

P「あぁ、はい……うわぁ、対向車の運転荒いなぁ」



美希(……ねぇねぇ真クン、何であの人が運転してるの?)ヒソヒソ…

真(この辺りの土地勘に慣れるためだってさ。
  これからは、プロデューサーが一人で皆を車に乗せて色々な所に行くわけだしね)

美希(ふぅーん……)


P「すまないな、俺の運転教習に付き合わせて」

美希「えっ!? う、ううん別に……」

真「聞いてたんですか、今の話?」

P「入りたての新人っていうのは、周りがどんな話をしてるのか気になるもんなんだよ」

律子「あ、それ私もそうでした」

P「やっぱそうだよな、ははは。
  まぁ、俺を育てるためだと思って、どうかお手柔らかに頼むよ」

真「いえいえそんな、あはは、は……」

美希(……意外と油断ならないの)

~レッスンスタジオ~

律子「はい、1、2、3、4、1、2、3、4……」パンッ パンッ

真「1、2、3、4……!」タンッ タンッ…

美希「~~~♪」タンッ タタン…



P「おぉ~……すごいな」

美希「ふふーん、こんなのヘッチャラなの」

真「本気を出せば、もっとバリバリに踊れますよ!」

律子「こら、調子に乗らないの!
   プロデューサーも、あまり甘やかさないでください」

P「す、すまん……」

P「事務所の中で、ダンスが一番上手いのは誰なんだ?」

美希「一番は、真クンと響かな? その次が、たぶんミキって思うな」

律子「まぁ、そんなところでしょうね。
   他の子達だって、ダンス以外にも光る所がありますから、上手く引き出していかないと」

P「あぁ、そうだな。真は、ダンスが好きなのか?」

真「もっちろんですよ! ダンスだけは響にも、誰にも負けたくありません」

P「お前はどうなんだ、美希?」

美希「うーん……別に。楽しいってワケでもないかなーってカンジなの」

P「えっ?」


美希「だって、練習したって、ミキ、すぐ覚えちゃうんだもん。
   簡単すぎてつまんない」

P「それはすごいな。でも、お前が一番上手い訳ではないんだろう?」

美希「真クンや響に勝てなくたって、ミキにはボーカルがあるもん」

P「そうか、美希はボーカルなら一番上手いのか」

美希「ううん、千早さんとかには負けるけど」

P「!?」

真「まぁ、美希はルックスも良いし、アイドルとして一番バランスが取れてると思います」

律子「ビジュアルは好みの問題もありますから、一概に一番とも言えませんけどね」

美希「そうそう、だから別に何でもかんでも一番を目指さなくたって、
   ミキ的にはのんびりアイドルやれればいいかなーって…」


P「何でそんな事を言うんだ」

美希「えっ?」

P「確かにお前の言う通り、何もかも一番になる必要は無いのかも知れない」

P「でも、今のお前には一生懸命になれるものが……
  真のダンスのように、これだけは誰にも譲れないっていうものが無いんだろう?」

P「どうしてそういうものを作ろうとしないんだ?」


美希「えっ……だ、だって、別にそんなのが無くたって困らな…」

P「じゃあ何が目的なんだ」

美希「な……」

P「俺が言った事を、“そんなの”の一言で片づけるからには、
  もっとお前にとって大事な何かがあるはずだ」

美希「だ、大事なもの、って……そう、言われても……」


P「つまり、お前はアイドルを一生懸命やりたい訳ではない、って事か?」

律子「ぷ、プロデューサー、あの……」

P「だったら俺もお前に対して一生懸命にはならない……それでいいな?」

美希「えっ……う、うん……えっと…」

真(ちょ、ちょっと美希。何か言っといた方が…)オロオロ…


P「律子、個別レッスンをしないか?
  俺が真を見るから、律子は美希を見てもらえないだろうか」

律子「えっ? でも…」

P「心配はいらない。この事務所に入る前に、基礎知識は頭に叩き込んだ」


P「真、こっちに来て、今のところをもう一度通しでやってみせてくれ」

真「あ、は、はいっ!」タタタ…



律子「はぁ……まぁいいわ。美希、私達も練習しましょうか」

美希「はぁーい」


美希(何なのあの人……すっごいヤな感じなの!)ムカムカ…!

律子「……よし、こんな所ね」

美希「疲れたのー」グデー


P「今の所、忘れないうちに自分でも暇な時に練習しておくといいぞ。
  あぁ、あとコレ。ストレッチ終わったらこれで脚を冷やしておけ」

真「はいっ! ありがとうございます!」

P「いいって。気にするな」


律子「お疲れ様。どうでした、真は?」

P「すごい運動神経だな、真は。
  俺なんかが頼りにされるためには、もっとできる事を見つけていかないと…」

真「何を言ってるんですか! すごかったですよ、プロデューサーの指導!」

律子「えっ、本当?」


真「指摘の仕方が新鮮で、何というかすっごく専門的だし、上達するっていうのが分かるんです!
  いやぁ、良い人が来てくれたんだなぁ」

P「知識だけは何とかしたつもりだったが、役に立てて何よりだよ」

真「これからもよろしくお願いします、プロデューサー!」


美希「………………」イライラ…

真「駅まで送ってくれて、ありがとうございます」

P「真は高いレベルまで行けると思うぞ。これからも頑張ろうな」

真「はいっ!」

律子「それじゃあ、私達はこれで」

美希「バイバーイ」フリフリ

バタン  ブロロロロロ…



テクテク…

美希「ミキ、あの人のことすっごくキライなの」

真「えっ、そう? 良い人だと思うけどな」

美希「だって、いきなりミキにどうでも良い事をエラそうに説教して……」


美希「ミキ的には、今のままでも十分楽しいし、幸せなの。
   頑張らなきゃいけないものだとか、どうしてそんなの押しつけられなきゃいけないの?」

美希「会って2、3時間しか経ってない人にミキの何が分かるの、ってカンジなの。
   ミキ的には、自分の価値観を人に押しつけるのって、すっごく良くない事だって思うな」

真「うーん……まぁ、アレは確かにボクもどうかと思ったけど……」

真「でも、ボクにはすっごく親身に接してくれたよ」

美希「一生懸命な人が好きって言ってたもんねー」

真「ううん、そういうことじゃなくてさ」


真「何も経験が無かったはずなのに、あそこまでボクのダンスに的確な意見が出せて……
  基礎知識を頭に叩き込んだって言ってたけど、すごく努力したんだよ、きっと」

美希「元々ダンスやってたんじゃないの?」

真「だとしたら、どうしてそれを隠すのさ?」

美希「分かんないけど……でも、あんなにヤな態度の人が良い人なワケないの」

真「まぁまぁそう言わずにさ、もう少しお互い分かり合って……あっ!」

プルルルルルル…!


真「やばい、もう電車が来てる!
  それじゃあごめん美希、ボクこっちの電車だから! また明日ね!」タタタ…

美希「あ、うん! 真クン、バイバーイ」フリフリ



美希「……何か、つまんない…………」


………………

………………………

………………………

………………


タンッ タンッ タンッ…!

女P「はい、1、2、3、4、1、2、3……」パンッ パンッ!

女P「ほらほら、また遅れてるー!」パンパンッ!


アイドルA「ひえぇぇ……」グッタリ…

女P「エリ子は出だしから遅れてる! アサ美も、ちゃんと頭の中で拍数を数えて!」

アイドルB「は、はい……すみません……」

女P「コウ美、アキ子、マナ美は走りすぎ! 他の皆に合わせて踊りなさい!」

アイドルC~E「えぇー?」

女P「返事っ!」

アイドルC~E「はいっ!」


真「ぷ、プロデューサー、もうその辺で…」オロオロ…

女P「ほら、菊地コーチも次からはビシバシ行くから覚悟しときなさい!」

真「わ、私もですかー!?」

女P「よろしくお願いしますね」ギロッ

面白い、支援なの!

アイドル達「へあぁぁぁぁ……」グデー…

女P「まったく、だらしないわね」

アイドルA「そんな事言ったって、明日本番なのにキツすぎですよ、キツすぎ」

女P「文句があるなら、やる事やってから言いなさい」

女P「……?」


アイドルA「どうかしました?」

女P「エリ子、これあなたのカーディガンよね?」スッ

アイドルA「えっ? あ、はい、そうですけど……あっ、穴開いてるー!」ガーン!

アイドルC「どれどれ……あちゃー、これはひどいね」


アイドルA「うぅ、どうしよう、お気に入りなのに……」

女P「しょうがないわね。ホラ、貸しなさい」

アイドルA「へっ?」

女P「簡単に補修するくらいで良いなら、私が今日やって来てあげるわ」

アイドルA「えっ、すごい! プロデューサーさん、お裁縫できるんですか!?」

女P「そんな自慢できるほどのものじゃないわよ。
   あぁ、あと代わりに私のアウター。これで良ければ使いなさい」スッ

アイドルA「えっ、貸してくれるんですか? そんな……ありがとうございます!」

女P「各自、課題をしっかり復習しておくこと。
   あとストレッチとアイシングも忘れないようにね」スッ

真「あ、プロデューサー! もう出かけちゃうんですか?」

女P「明日の戦略について、最終確認をしないと……それでは、お疲れ様でした」スタスタ…

ガチャッ バタン



アイドルA「プロデューサーさん、意外と優しい所もあるんだなぁ」

アイドルC「かと言って、明日フェス本番なのにこんなハードなレッスンしてもなぁ……」

アイドルB「最近、律子さんより練習厳しいわね、プロデューサー」

アイドルE「今日も怖かったぞ」

真「ふふっ、実はまだドアの後ろにいたりして」

アイドルD「や、やめてよコーチ!」



アイドルA「ねぇ、コーチ!」

真「ん、何?」

アイドルA「コーチが昔、プロデューサーさんと同じアイドルだったって本当ですか?」

アイドルD「えっ? コーチって、765プロのアイドルだったの!?」

真「昔、ね……もう10年くらい前かなぁ」

アイドルC「知らなかったの? だから765プロの練習を見てくれてるんだよ」

アイドルE「どんなアイドルだったんだ!? コーチとプロデューサーって」

真「うーんと……私はまぁ、ダンスをメインに運動系のお仕事を良くやるアイドル、かな」

アイドルA「あー、分かる分かる」


真「それで彼女は……ん、ちょっと待って、プロデューサーって自分の事何か喋ってないの?」

アイドルB「聞いても教えてくれないんです。あなた達には関係無い、って」

真「そう……それなら、私からも話すことはできないね」

アイドルA「えー、良いじゃないですか、教えてくださいよー!」

アイドル達「そうだそうだー!」

真「彼女自身が話したくないのなら、無闇に過去をほじくり返すもんじゃないよ」


アイドルE「確かに、プロデューサーの口から昔の話を聞いた覚えが無いぞ」

アイドルD「それにプロデューサーって、名前で呼ぼうとするとなぜか怒るよね」

アイドルB「律子さんは普通に“律子さん”なのに」

アイドルC「ウムム、気になる……」

アイドルD「でもさ、自分で言いたがらないって事は、大した事なかったんじゃない?」

真「…………!」

アイドルA「あー、そうかも!」

アイドルE「威張れるような実績持ってたら、隠したがらないもんな!」

アイドルB「現役の時に自分が成し得なかった夢を私達に押しつける、か……」

アイドルC「私達にあれだけキツく当たってんのも、現役時代の憂さ晴らしなのかもねー」

アイドル達「あははははは…!」


真「彼女の事を馬鹿にするなっ!!」

アイドル達「!?」ビクッ!



真「……ごめんなさい、声を荒げてしまって」

アイドルA「あぁ、いえ! す、すみません……」ペコリ…

アイドル達「…………」ペコリ…


真「実績は、調べてみれば分かるよ……どちらかと言えば、早熟系って言うのかな」

真「でも……その経歴以上に、彼女はとても素晴らしいアイドルだった。
  それだけは信じてほしいんだ」

アイドル達「…………」

真「……少し、しんみりさせちゃったね」


真「とにかく、彼女も私と同じ偉大な先輩の一人なので、敬意を持ってついて行くこと!
  いいね!」

アイドル達「はーい!」

アイドルC(自分で“偉大な”とか言っちゃったよ)ヒソヒソ…

アイドルE(うぷぷ、恥ずかしいね)ヒソヒソ…

真「そこ、聞こえてるよっ!」



アイドルA「それじゃあ、失礼しまーす!」

アイドル達「ありがとうございましたー!!」

真「はい、お疲れ様ー。また今度ねー」フリフリ

ガチャッ バタン



真「…………プロデューサー、か……」


真「あまり、自分を追い詰めてなければ良いけど……」

~街中の喫茶店~


プルルルルル…♪



プルルルルル…♪



ガチャッ

『はいさーい! なんくる荘でーす!』



『あ、あれ? もしもーし、なんくる荘ですけどー? もしもーし!』



春香「…………響ちゃん?」

『うえっ!? その声、雪歩、じゃないな……ひょっとして春香か!?』


『うわー、久しぶりだなー! 元気!? 自分はもちろん元気ガツガツだぞっ!!』

春香「う、うん……あはは、何かテンションすごいね」

『当ったり前さー! 春香が電話してくれるなんて、すっごく嬉しい!』

『それで、どうしたの? ウチに泊まりに来てくれるの?』

春香「うん。ちょっと、久しぶりに皆で集まろうって、声を掛けようかなって思って…」

『うそっ!? うおーすごいなそれ、大歓迎!!』

『それで、いつ? 明日!?』

春香「いや、明日っていうのはちょっと…」

『あ、ごめん、ちょっと待ってね』


『ちょっとねぇー、おとうー!? いぬ美子達の散歩に行ってきてよー!』

『えーじゃなくてー! おとうだって最近運動不足なんだから早く行かなきゃダメ!』

『はーいー、行ってらっしゃい……あ、ちょっとねぇー!? おとうコレー!!』

『トイレ使ったらちゃんと蓋閉めてって言ってるでしょ、もうー! 何してるんさー!!』

春香「………………」


『まったくもう……あぁごめんね、それでいつだっけ? 今日?』

春香「い、いやあの……実はまだ、千早ちゃんにだけしか話をしてなくて……」

『えっ? なんだー、じゃあ自分が二番目ってこと?』

春香「う、うん。えへへ」

『あははは! 相変わらず春香は自分大好きなんだなー!』

『でも、ありがとう春香。自分、今から皆に会えるのがすっごく楽しみだぞ』

春香「うん。皆と相談して、候補日が決まったらまた連絡するね」

『候補日なんていいよ。春香達が決めてくれた日程で自分は宿を押さえる!』

春香「えっ!? で、でも他のお客さんもいるんじゃ…」

『大丈夫だってば! 他のお客さんがいても適当に言い訳して断っとくから!』

春香「そ、そんなんでいいのかなぁ……」

『何てったって、名前が『なんくる荘』だからな! どんな日程だってなんくるないさー!』


春香「は、はぁ……えへへ、ありがとう、響ちゃん」

『うんうん、何でも自分に任せてよ。それじゃあまた連絡してね! バイバーイ!』

春香「うん! またね」

ピッ!



春香「…………ふぅ」


春香「…………美希に言わなくちゃ……」

ガタッ…

カツ カツ…

律子「ふぅ……事務所に戻る前に、どこかでお茶でもしていこうかしら」

律子「………あら?」



春香「…………」

テクテク…



律子「あ、春香…………行っちゃった」

律子「どうしたのかしら、あの子……この時間は事務所にいるはずじゃ……」

律子「…………」ポパピプペ…

プルルルルル…♪


ガチャッ

『はい、765プロです』

律子「あ、もしもし、秋月です」

『あぁ、律子さん。どうかしたんですか?』

律子「いえ、あの、小鳥さん……春香って、今何していますか?」

『えっ、春香ちゃんですか?
 お茶の買い出しに行ってきます、って言って、1時間くらい前に出ましたけど』

律子「……そうですか」

『どうかしたんですか?』

律子「いえ、何でもないんです。すみません小鳥さん、一人で留守番させてしまって」

『いえいえ、これくらい何でもありませんよ。
 昔だって皆が地方へお仕事しに行っている間、一人で留守番してた事もありましたし』

律子「あ、あぁ……そうでしたね、すみません」

『うふふ。それじゃあ、律子さんが戻ってくるの、待ってますね』

律子「えぇ、分かりました。それじゃあ、失礼します」

ピッ!


律子「買い出し、ねぇ……こんな駅前まで? ……まぁいいか」



律子「ふふっ、地方営業か……そんな事もあったわね」

律子「あの人が取ってきた、初めての仕事だったっけ……」


………………

………………………

………………………

………………


ブロロロロロ…

やよい「えへへ。皆で出かけるのって、何だか遠足みたいだよねー」

真美「うんうん、旅館にはきっと豪華料理とかありそうだよね→」

伊織「当ったり前じゃない。何たって、この伊織ちゃんを呼ぶくらいなんだから」

亜美「それもそっかー。あはははは!」

美希「ムニャムニャ……」Zzzz…



モォー…


美希「ねぇ、ここどこ?」

春香「何というか、すっごく大自然なところですね……」

亜美「豪華料理が無い……」

P「う、うむ……とにかく、お祭りの準備の手伝いを頼まれてるから、各自分担しよう!」

伊織「えー!? 何で私達までそんな事やらなきゃいけないのよ!」

P「しょ、しょうがないだろ。村の人達だけでは手が回らないそうなんだ」

律子「つべこべ言わないの。
   ほら、屋台のお料理の仕込みと、会場の椅子出し、機材の設置をする係に分かれて」

一同「はーい」


雪歩「み、美希ちゃん、一緒に椅子出しを手伝いに行こう……?」

美希「ミキ、そんなのをやりにここに来たんじゃないの、あふぅ」ゴロン

春香「ちょ、ちょっと美希っ!」

P「あー、えーと、いいからお前達だけでもとりあえず行ってきてもらえないか?」

真「はいっ! 雪歩、春香、行こう」

タタタ…

美希「うーん、ちょっとこの椅子固いの……んしょ……」ゴロゴロ…

P「美希……期待していた仕事と違ったか? すまなかったな」

美希「ん、別にいいの。
   エラそうに説教する人が実際にエラかった試しなんて無いの、ミキ知ってたし」

P「……この間言った事が偉そうに聞こえてしまっていたのなら、謝る」


P「だが、どんなに立派な人だろうと、最初から立派だったはずはない」

P「今日の仕事は、お前のイメージしていたものと違うかも知れないが、
  いつか立派なステージに立つために必要な経験だと俺は思う」

美希「会場の椅子を並べるのが?」

P「何もせずに、最初からチヤホヤされるのを期待しているのか?」

美希「また説教なの、もうウンザリ」

P「……すまない」


美希「今日のミキのお仕事は、子供やおじさん、
   おじいちゃんおばあちゃんの前でのフリートークでしょ?」

美希「そういうお客さんを楽しませる事くらい、テキトーにやったってラクショーなの」

P「最後は雪歩、春香、真が一曲歌ってシメだ。会場温めてくれよな」

美希「“お仕事”はちゃんとするの。分かったらもうほっといて」ゴロン

P「………………」

ガヤガヤ…

美希「それでねー? すっごく早く起きたから、ミキもう眠くて眠くて……」

美希「あふぅ……」

美希「もうミキ、寝ちゃってもいいよね?」

ワハハハハハハハ…!


美希(ほら、こんなテキトーなミキでも、喜んでくれるお客さんいるもん)

美希(ねぇ、プロデューサー。ちゃんと見てるの?)チラッ


美希「……?」

美希(舞台袖にいないの……あれ、真クンと春香?)


春香・真「……! …………!」バタバタ…!


美希(あのジェスチャー、引き延ばせ、ってことかな? ……雪歩がいないみたいなの)

美希(まぁいいや。もう少しお話してればいいんだよね、きっと)

美希「それでねー、さっきまで会場のその辺の椅子で、ミキ寝てたの」

美希「ほら、そこのお兄さんの席辺り。ミキのヨダレが付いてたらごめんね?」

ウオオォォ!  ワハハハハハ…!

美希「ふわぁぁ……もうお話するのも疲れちゃった」

美希「っていけないいけない、うっかり本音が漏れちゃったの」

ワハハハハハハ…

美希(春香達の様子は……)チラッ

美希(雪歩が帰って来たみたい……どこに行ってたのかな?)

美希(でも、これでミキのお仕事は終わりなの)


美希「それじゃあ帰って寝てくるねー。おやすみなさいなのー」フリフリ

ワアァァァァァァァ…! パチパチパチ…



雪歩「ごめんなさい、美希ちゃん! 私、皆にすごく迷惑かけて……!」ペコペコ…!

美希「ううん、別にいいよ? ミキ、疲れたから寝てくるね」テクテク…

真「あっ、ボク達のステージ見てくれないの?」


春香「行っちゃった……」

真「とにかく! プロデューサーがアレの面倒を見ている今のうちに!」

雪歩「う、うん!」

ダッ! タタタ…

テクテク…

美希「ふわぁぁぁ……あふぅ……車、開いてるかなぁ」

美希「…………あれ?」ピタッ



ワンッ! ワンッ!

P「うおっ、この……頼むよ、良い子だからあまり暴れないでくれ」

犬「ワンッ! ワンワンッ!!」バタバタ!

P「ぐわあぁ! ヨダレがスーツに付いたあぁぁっ!!」



美希「プロデューサー、何してるの?」

P「あっ、美希! すまん、コイツをどうにかしてくれ!!」

美希「昼間の子供達が連れてきたワンちゃんだよね。ワンちゃん好きなの?」

P「そう見えるか!?」

犬「ハッ、ハッ!」ベタベタ

P「うおおぉっ! つっ、コイツめ、股間を擦りつけてくんなってば!!」

美希「よしよし、良いコだね」ナデナデ

犬「クゥーン……」フリフリ

P「何で俺の時はそう大人しくしてくれなかったんだ……」

美希「プロデューサーが、ワンちゃんの気持ちになってあげないからなの。
   自分の事しか考えない人は、ワンちゃんもミキも嫌いなの。ねー?」

犬「ワンッ」

P「あのなぁ……」



ワアァァァァァァァァァ…!!

美希「!? えっ……」

P「おっ、盛り上がってるな」

美希「い、今のひょっとして、雪歩達のステージ!?」

P「他にステージなんて無いだろ?」


美希「ちょ、ちょっと見てくるの!」ダッ!

P「あ、お、おいっ! 犬の面倒……!」


P「……しょうがない、ここを離れる訳にもいかないし。またお前とお留守番か」

犬「ワンワンッ!」バタバタ!

ワアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!

「ALL LIGHT! えがーおーのー ひーかーりでぇー!」

「ALL LIGHT! ゆめーにーたーいーよーうをー! あげーよーうー!」

「いーまーすぐー! どーこーまーでーだぁってー」

「さあ! しゅっぱーつー オーラァーーイ!!」


ウオワアアアアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!! パチパチパチパチ…!!



美希「す、すごい……!」

美希(さっきのミキのトークなんて、比べ物にならない、すごい盛り上がりなの……)

美希(雪歩も……春香も真クンも、皆キラキラに輝いてるの……!)

三人「ありがとうございましたぁー!!」フリフリ

ワアアアアアァァァァァァァァァァァァ…!! パチパチパチパチ…!!



春香「あ、美希っ! お疲れ様ー!」フリフリ

美希「お、お疲れ様……すごかったの。練習してたの?」

真「へへーん、まぁね。上手くいって良かったぁ」

雪歩「プロデューサーのおかげだよ」


美希「プロデューサー? なんか、あっちでワンちゃんに襲われてたけど」

三人「ええぇぇぇぇぇっ!?」

タタタ…

春香「プロデューサーさん!」

P「う……うっ………」ピクピク…

犬「ワフワフッ!」ベロベロベロ

真「あーっ、やっぱり犬苦手だったんだ!」

雪歩「ひぃぃぃ、怖くて近づけないよぅ!」


美希「犬が苦手なのに、何でプロデューサー、ワンちゃんの面倒見てたの?」

雪歩「それは……わ、私が、犬が苦手で……」

美希「?」

雪歩「でも、ステージのそばに犬がいて……とても怖くて、逃げちゃったの」

雪歩「それを、プロデューサーが引き留めて、犬をステージから遠ざけてくれて……
   だから、さっきのステージは、プロデューサーのおかげかなぁって」

美希「へぇ……?」キョトン

真「まったく、犬が苦手なら響とか呼べば良かったのに」

P「響は牛と仲良くしててそれどころじゃなかっただろ。
  あの場で動けるのは俺しか…」

犬「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」ベタベタ

P「おぶ、おうふっ」

春香「わぁ、何だかムツゴロワさんみたいですよ、プロデューサーさん!」

P「し、死ぬ……助けて……!」

雪歩「えへへ」ニコニコ



美希(……ステージをキラキラにするために、出来る事は何でもするの?)

美希(何で……ミキ達がキラキラしたって、プロデューサーはキラキラしないのに……)

美希(そんなの絶対、面白くないのに、何で……?)


………………

………………………

………………………

………………


アイドルF「うぅ……ありがとうございます、雪歩さん。私、何も喋れなくて……」

雪歩「ううん、そんな事ないよ。アズ美ちゃん、しっかりお客さんを楽しませてたよ」

アイドルF「雪歩さん……」


雪歩「私が新人だった時はね、犬が前にいるだけで何も出来なかったの」

雪歩「アズ美ちゃんは、あんなに大勢のお客さんがいる前でも、堂々と歌えて……
   とてもすごかった」

アイドルF「それは、雪歩さんがフォローしてくれたから…」

雪歩「ううん、そこで持ち直せるアズ美ちゃんがすごいんだよ。私にはできない」


雪歩「だから、もっと自分に自信を持とう、ねっ?」ニコッ

アイドルF「あ、ありがとうございます……えへへ」テレテレ…

雪歩「よし、それじゃあ事務所に帰る前に、少しお茶していこっか」

アイドルF「えっ? で、でも今日は仕事終わったらすぐに戻るようにって……」

雪歩「心配しないで、私が律子さんに適当に言っておくから」



ヴィー…!

雪歩「うわっ、と、携帯……」ゴソゴソ…

雪歩「……事務所から?」ピッ!

雪歩「もしもし、萩原です」

『雪歩さん、あなた今どこにいるんですか?』

雪歩「ぷ、プロデューサー!? ど、どこって……今お仕事が終わったところで…」

『じゃあすぐに戻ってきてくれますか? 明日のフェスで頼みたい事があるので』

雪歩「う、うん……あ、じゃなくて、分かりました。あと1時間くらいかかるかも…」

『了解しました。それでは事務所で…』ピッ!


雪歩「……プロデューサーが、すぐに戻れって」

アイドルF「プロデューサーに言われたら、何か、断りづらいですね……」


雪歩「…………うん……」

~765プロ事務所~

ガチャン

女P「ふぅ……さてと……」カタカタ…

律子「別に雪歩達は今日帰しても良かったんじゃない?」

女P「参考意見は一つでも多い方が良いんです」カチカチ

女P「責任逃れをする訳ではないのですが、私だけがプランニングしては、
   どうしても演出がワンパターンになってしまいますから」カタカタ…

律子「それはそうかも知れないけど……」


女P「………………ブツブツ……」カタカタ…


小鳥(……律子さん)ヒソヒソ…

律子(今はあの子にコーヒー出さない方が良いですよ。
   集中してるし、何より気が立ってるから逆に怒られるかも……)ヒソヒソ…

小鳥(ひぃぃ……)



ガチャッ

春香「お疲れ様でーす、ただいま帰りましたー」

律子「あら、春香……お疲れ様。お茶はあった?」

春香「はいっ。すみません、欲しいのを探してたら遅くなっちゃって」

小鳥「ううん、いいのよ。あっ、じゃあ春香ちゃんにこのコーヒーあげる」コトッ

春香「うわぁ、ありがとうございます!
   すごい、何でこんな良いタイミングでコーヒー…」

春香「あっ……」


女P「……………………」カタカタ…


春香「プロデューサー……」

律子「まぁ、見ての通りね」

小鳥「余ったのでごめんね、春香ちゃん」


春香「…………」スタスタ…


律子「あ、ちょっと春香……」

スタスタ… ピタッ


女P「……?」カタ…

春香「…………プロデューサー」


女P「私に何か用ですか?」

春香「う、うん……」

女P「仕事に関する事?」

春香「えっ? い、いや、仕事じゃないけど……」

女P「じゃあ後にしてください。見れば分かるでしょうけど、今忙しいんです」カタカタ…

春香「そ、そう……そっか……」


女P「それと、仕事中は言葉遣いに気をつけてください」カタカタ…

女P「今はアイドルの子達が誰もいないからいいけど、
   いた時にその話し方じゃ示しが付かないから」カタカタ…

春香「あ、そ、そうだね、アハハ……」

春香「じゃなかった、アハ、ハ……気をつけます」

女P「すみませんね」カタカタ…

春香「………………」

女P「………………」カタカタ…

女P「ふぅ…………あっ」クィッ

女P「………」ガタッ スタスタ…


小鳥「あ、ぷ、プロデューサーさん! コーヒーなら私が…!」

女P「良いんです、小鳥さん。自分の事は自分でやりますから」カチャカチャ…

小鳥(あうぅ、何だか余計にヘコむ……)


律子「やれやれね……」

春香「………………」


春香「…………ッ」スタスタ…

律子「あら? ねぇちょっと春香、どこ行くの?」

ガチャッ バタン



律子「……何か、あの子も最近様子がおかしいわねぇ」

小鳥「思春期ですかね?」

律子「あの子達を何歳だと思ってるんですか」

小鳥「ですよねぇ」

~公園~

テクテク…

亜美「んっふっふ~、ペンペン、ペンギン♪
   池の中では ジェットでギュイ~~ン!!」

亜美「おっ、いたいた。ペンギン先生、はろはろー」フリフリ


クェッ!

亜美「まぁ待ってってば……えぇと、はい、おやつ」ゴソゴソ…

亜美「えへへ、すごいガッついてる……いやしんぼだなぁ、先生は」ニコニコ



亜美「はぁ…………お仕事上手くいかないよぅ……」シュン…

亜美「真美は偉いなぁ……
   亜美みたいにこうしてお休みも取らないで、愚痴も言わずにさぁ……」

亜美「ねぇ、先生……社会ってのは、どうしてこう息苦しいのかねぇ……?」


亜美「亜美、やっぱこのお仕事に向いてないのかなぁ……」シュン…



テクテク…

あずさ「…………あら~?」

亜美「はぁ…………」



サッ

亜美「わわっ!? な、なっ、いきなり夜に!?」ドキッ!

あずさ「うふふ、だーれだ?」


亜美「こ、この質量は、まさかっ!!」


あずさ「はい、正解は私でした~」サッ

亜美「あずさお姉ちゃ……って正解言ってるし!!」ガビーン!

亜美「あずさお姉ちゃん! すっごい久しぶりだね!」

あずさ「えぇ。亜美ちゃん、すごく美人になったわね~」

亜美「えっ、い、いやいやそんな事ないよ。
   あずさお姉ちゃんこそ、何だかますます円熟味のあるなんというかアレが……」

あずさ「そうねぇ。もう結婚してしばらく経つものねぇ」


あずさ「さっき、そこで春香ちゃんに会ったのよ」

亜美「えっ、あずさお姉ちゃんも?
   亜美もはるるんに会ったよ。ひびきんの所に泊まりに行こうって!」

あずさ「あら、そうだったの。また皆で集まれるのが楽しみねぇ~」

亜美「うんうん! はるるんも元気そうだったね、足の具合も良さそうだし」

あずさ「大きな事故だったものねぇ。あれから良く回復したわ~」

亜美「お子さんは元気?」

あずさ「えぇ、今は小学校よ。一番手がかかる時期は過ぎたかしら」

亜美「パパの病院であずさお姉ちゃんの出産に立ち会ったの、覚えてるよ。
   亜美達も、それを見て看護師になろうって思ったんだ」

亜美「今は、パパの顔が利く病院のお世話になっているんだけど……」


あずさ「亜美ちゃんは、今日はお仕事がお休みなの?」

亜美「うん、まぁね……真美はお仕事だけど、ちょっと亜美は今日気分が優れなくて……」

あずさ「まぁ、大変ねぇ。無理をしてはいけないわ」



亜美「……ううん、本当は具合が悪いとかじゃないの」

亜美「お仕事が、イヤになって……」

あずさ「…………」

亜美「患者さんをお風呂に入らせたり、ご飯食べさせたり、お薬飲ませたり、
   パンツ変えたりなんだり、あと医師とミーティング、手術の補助、点滴……」

亜美「それをたくさん、10人くらい診なきゃいけない……毎日夜遅くまで残業でさ」

亜美「しかも、亜美は日勤だからまだマシだけど、真美は夜勤なんだよ」

亜美「真美は、昼間よりやる事少ないから平気だよーとか言うけど、ウソなんだ、それ。
   一回やった事あるけど、ずっとナースコールが鳴りっぱなしでさ」


亜美「人の命を守るっていう、すごくやりがいのあるお仕事なのに……
   全然、意欲的になれなくて……」

亜美「こうして無理矢理休んで、ペンギン先生に愚痴を聞いてもらってるってワケ。あはは」ニカッ



あずさ「……不思議ね」

亜美「えっ?」

あずさ「うふふ、ごめんね。
    今の亜美ちゃんのお話を聞いて、何だかすごく懐かしい気持ちになっちゃって」

亜美「えっ? な、何で、看護師やったこと無いっしょ?」

あずさ「えぇ、もちろんよ。でもね……」


あずさ「この公園には昔、ペンギンじゃなくてカモが住んでいたのよ」

亜美「カモ……カモ先生? ミキミキの?」

あずさ「うふふ、そうね」


あずさ「今、ペンギンさんを眺めながら亜美ちゃんのお話を聞いていたら……
    プロデューサーさんの事を思い出したの」

あずさ「話でしか聞いていないのだけれど、プロデューサーさんもいつだったか、
    こうしてこの公園で、カモを眺めながら、美希ちゃんのお話を聞いていたのね」

あずさ「将来への不安を抱える美希ちゃんのお話を」

亜美「あっ……」

クェッ! ボチャン…


あずさ「私には、何も気の利いた事は言えないけれど……」

あずさ「あの人なら、きっとこういう時でも、亜美ちゃんを励ますんじゃないかしら」

あずさ「お前ならできる、って」



亜美「…………勝手な事、言わないでよ」

あずさ「えっ……?」


亜美「ミキミキが抱えていた不安なんて、結局ミキミキの勝手なわがままじゃん」

亜美「亜美達は、生活していく上でやっていかなきゃいけない事があって、
   その中で自分じゃどうしようもできない矛盾を抱えているんだよ」


亜美「ミキミキのと亜美達の不安を一緒くたにして、兄ちゃんの言葉まで借りて……」

亜美「安っぽい励ましなんかいらないよ!!」


あずさ「そうね……確かに、当時の美希ちゃんと今の亜美ちゃん達は一緒ではないわ」


あずさ「でも、やっていかなきゃいけない事があるのに、
    自分ではどうしようもできないものを抱えていた……」

あずさ「私達が知らなかっただけで……あの時のあの人も、そうだった」

亜美「……!」

あずさ「苦しみを抱えながら、人の苦しみを受け止めるのって、どれだけ大変なのかしらね……」


亜美「…………ごめん、あずさお姉ちゃん。亜美、何て自分勝手な事…」

あずさ「うふふ、いいのよ」

あずさ「亜美ちゃん達はまさに今、そういうお仕事をしているんだもの」

あずさ「専業主婦やっている私なんかより、ずっとずぅっと立派よ?」ニコッ


亜美「……兄ちゃんと同じくらい?」

あずさ「えぇ、もちろん」

亜美「そ、そうかなぁ……えへ、えへへ」テレテレ…


あずさ「おやつ、私もペンギンさんにあげてみて良いかしら?」

亜美「うん、いいよ。はい」スッ

あずさ「うふふ。えぇと……こう?」ポイッ

亜美「ノンノン、もっとこう、先生の向いてる方に……」


………………

………………………

………………………

………………


クェッ! プカプカ…

P「ははは、俺があげた方にガッついてるぞ」

美希「ムムッ! カモ先生、ミキがあげたおやつの方がおいしいの!」ポイポイッ!

P「あぁ、こ、こらっ! フライドポテトはやめろって、魚が滅びるぞ!」


P「アイドル、辞めるのか?」

美希「マジメじゃないミキが辞める方が、プロデューサーも良いんでしょ?」

P「そんな事ないよ」

美希「それに……何か、このまま続けたって、面白くないし」

P「何でそう思うんだ?」


美希「トップアイドルになれるかどうか分からないのに、頑張る意味ってあるの?」

美希「プロデューサーは、頑張る事に意味がある、って言うけど……
   これ以上やいのやいの言われたって、モチベーション上がんないよ」

美希「ミキ的には、あぁしてプカプカーって浮いてる先生みたいに、
   ラクして生きていられればそれでいいの」

P「……なるほどな。それでそういう態度だったのか」


P「でもさ、知ってるか?
  カモは水面の上は優雅に泳いでいるように見えるけど……」

美希「水面の下では必死に足をバタバタさせてる、って言うんでしょ?」

美希「でも、ミキ的には、それってウソだって思うな」

P「な、何っ!?」


美希「だって、人だって動物だって、黙っていれば水に浮くでしょ?」

美希「そんなにバタバタさせなくたって、ちょっと足を動かせば前に進むし」

P「そういう簡単なもんじゃないだろ」

美希「簡単だよ? ミキ、水泳だって体育で負けた事ないもん」

P「あのな、美希……凡人のひと掻きと、美希のひと掻きは違うんだ」

P「お前は、プカプカ浮きながらちょっと足を動かすだけで前に進めるのかも知れないが、
  大多数の人間は、そう簡単に社会の荒波を超えられないものなんだよ」

P「だから、カモは水面下で云々、っていう小話が説教で良く使われるんだぞ」

美希「あっ、やっぱりミキに説教しようとしてたんだ」

P「あっ、いや! そういう訳じゃないぞ!」ブンブン!


P「だが……確かに、お前に対してうるさく言って、追い詰めたのは俺だよな。すまない」

美希「やりたくない事を無理矢理やらされたら、ヤになるのは当たり前なの」

美希「ミキ的には、もっとラクしながらアイドルやりたかったのに」


美希「辞める前に聞くけど……
   何でプロデューサーは、そこまでミキにあーだこーだ言うの?」

美希「何で、ミキに一生懸命にさせたいの?」

P「……自分が一生懸命になれなかったからな」

美希「十分一生懸命じゃん。今」

P「違う、そうじゃなくて……」


P「一生懸命に何かに打ち込んで、何か、結果を残せなかったから、だな」

P「だから、えぇと……出来なかった悔しさを、他の人達に味わって欲しくないんだ」

美希「これから頑張れば良いでしょ?
   それに、今まで頑張んなかったのはプロデューサーの自己責任なの」

美希「その悔しさを人に押しつけるのって、やっぱり自分勝手って思うな」


P「……そうだなぁ。言われてみれば確かに、
  俺がこんなに頑張ってるんだからお前らも頑張れ、っていう思いはあるかもな」

美希「ほら、ねっ? やっぱり自己中なの」

P「少しでも自分の人生を彩り良くしたいもんなんだよ」

P「でも、そう考えるのって、悪い事じゃないと俺は思う。
  自分の人生をより良くしたいと思うのはワガママか?」

美希「とうとう開き直ったの。ワガママで人を困らせるのは良くないよ」

P「それを言うなら、こうしてレッスンサボって皆を困らせてるお前も十分ワガママだぞ」

美希「あ、うっ……そ、それは別に良いの! だってミキ、もう辞めるもん」

美希「他に話す事が無いなら、ミキもう帰る!」スタスタ…


P「もうこれで最後かなぁ」

P「売れっ子アイドルになりそこなった、ただのかわいい女の子」

美希「…………!?」ピタッ

P「俺の視界に残る美希の最後の姿は、そう記憶に残ってしまうのかなぁ」

P「そういうその他大勢の記憶の中に、美希は埋もれてしまうんだろうなぁ……」



クルッ

美希「……ミキが、“ただの”かわいい女のコ?」

P「このままお別れしたら、そうならざるを得ないだろ」

美希「かわいいだけのコなんて、いくらでもいるの」

P「あぁ、まさにお前のようなヤツな」

美希「聞き捨てならないの」

美希「プロデューサーにどう思われようが知ったこっちゃない、って言いたいけど……」

美希「この先ずっとそう思われる、って考えたら、いくらなんでも寝心地が悪すぎるの!」


P「思いとどまってくれたか?」

美希「アイドルを辞めるのはやめるの」

美希「辞めるのは、プロデューサーをアッと言わせてからにするの!」

P「そうか、それは良かった。それじゃあ……」ゴソゴソ…


P「これをお前にやろう」スッ

美希「? ……何これ、日記帳?」


P「お前は物ぐさだからな。これに、その日何をしたかを毎日書くと良い」

P「ボイトレをしたとか、ラジオのお仕事をしたとか、プライベートで遊びに行ったとか」

美希「えー、何で?」

うむ、女Pは心に傷を負ったミキかな?

とりあえずすごい面白い
期待してる

P「自分を見つめ直す良いきっかけになればと思ってさ」

P「例えば、レッスンじゃなくて遊びの事ばかりの内容になったら、
  もっとレッスンしなきゃって焦るだろ?」

美希「ううん、別に?」

P「うぐ……よし、分かった。じゃあ書いたら俺に見せろ、毎日」

美希「えーっ!? ヤなの! そんなのセクハラさんなの!」

P「俺に見せても恥ずかしくない日々を過ごせば良いだろ、ん?」

P「あぁ、あとダンスレッスンの時は、一緒に行った子達にビデオ撮ってもらえよ。
  オーディションの時は俺が撮ってやるから」

美希「強制されるのはヤなの!!」

P「じゃあアイドル辞めるんだな」

美希「えぇーっ!? ヤ、そんなので簡単に辞めなくないの!!
   ギャフンって言わせるまで辞めないの!!」

P「日記書かなきゃアイドル続けさせないぞ」

美希「ぐぬぬ……!」ギリギリ…!

7月11日

 今日は、やよいと雪歩とダンスレッスンをしたの。

 ミキは1回でフリをおぼえたんだけど、二人とも大変そうだったの。

 大変なら、あんまりがんばらなくても良いって思うな。

 あと、終わったら雪歩が水とうで、冷たいお茶を出してくれたの。

 レッスン室って暑くて、ノドがカラカラだったし、すごくおいしかったの。

 そのあと、コンビニでアイス買って食べたの。

 おしまい。

~765プロ事務所~

美希「…………」カキカキ…


伊織「……美希。あんた一体何してるの?」

美希「あっ、デコちゃん。日記書いてるの」

伊織「デコちゃん言うな。日記?」


律子「へぇ……内容はともかく、あんたにしてはマメに書いてるわね」パラパラ…

美希「プロデューサーに見せなきゃ、あの人うるさいんだもん。
   ダンスとかの時は、動画もビデオに撮って見せろって言うんだよ?」

春香「すごーい! ねぇねぇ、私にもみ-せて」ヒョイッ

美希「あっ!」


真「あっ、美希。この日は響じゃなくてボクが水泳勝ったんだから、訂正してよ」

あずさ「あら~。私の水着、そんなに派手だったかしら~」

貴音「はて、らぁめんを食べる私の姿は、そんなにも面妖だったのでしょうか?」

雪歩「あっ、私の事も書いてくれてる。嬉しいなぁ」

響「ねぇねぇ、見てやよい! この間行った激安もやし料理屋さんの事も書いてあるぞ!」

やよい「わーっ、本当ですー! お店の名前忘れてたから、すっごく助かったかもー!」

P「おーい、何を盛り上がってるんだ?」

真美「あっ、兄ちゃん! これ、これっ!」

律子「美希の日記の件です」


千早「日々のレッスンメニューをこうして振り返るのは、良い事かも知れませんね」

P「だろ? ほら美希、賛同者がいたぞ」

美希「んむぅ~……でも、ミキだけ書くのって、何かヘンじゃない?」

あずさ「不公平ってこと?」

美希「うん」

響「確かに、自分が美希の立場なら同じ事を言うかもなー。
  何で他の皆にはやらせないんだ、ってさ」

伊織「響、そういう事言うと私達まで日記書かされるわよ」

P「ほう?」

響「わわっ、ち、違うぞ! 今のナシ、ナシ!」ブンブン!

美希「ひーびーきー! 響も書くのー!」ガバッ!

響「うぎゃあー、自分は日記書かなくても完璧さー! 美希だけで書いてよー!」ジタバタ!

美希「裏切るなー! こっちを向くのー!!」


真「でも、美希だけが書くってのは不公平感があるのも事実だしなぁ……うーん」

亜美「あっ、じゃあさじゃあさ! はいっ!」ビシッ!

春香「えっ、どうしたの亜美?」


亜美「兄ちゃんが日記書けばいいんだよ!」

P「…………えっ!?」ドキッ!

真美「おぉっ! さっすが亜美、チョ→ナイスアイデアマンだね!」


貴音「ふむ……お互いに研鑽の軌跡を確かめ合い、精進していく。
   真、素晴らしい事であると思います」

P「お、俺も見せるってことか!? 美希に!?」

美希「当たり前なの!!」

春香「交換日記ですよ、交換日記!」


律子「当事者間で事態を収拾。理想的な解決方法ですね」

響「美希も、プロデューサーが書けば文句言わないよね? ねっ?」

美希「うん!」


美希「というワケで、今度はプロデューサーが今日のことを書いてきてね、はいっ」サッ

P「う、ウーム……仕方ない、やってみよう」

交換日記じゃないですかヤダー

7月12日
 今日は、午前中はあずささんのグルメレポートの仕事、午後からは千早のボイトレに付
き合った。
 以前少し高級な店へ行き自腹でリハーサルをしたのが良かったのか、あずささんは終始
リラックスしていた。ちゃんと自分の言葉でコメントを残し、現場でのふとしたハプニン
グにも落ち着いて対応するなど、特訓の成果が出ていたと思う。良かった。
 あと、千早のトレーニングに付いていて思うのが、俺なんかがいなくてもこの子は大丈
夫なのではないかということだ。自分に足りないものを逐次洗い出し、埋めていく。それ
をほとんど自分で、とてもストイックに行えてしまう。むしろ、彼女から俺は学ばなくて
はならないのかも知れない。
 事務所に戻ってからは、律子と今日の活動内容について報告し合ったあと、溜まってい
たメールの処理と来週に控える貴音達の仕事の調整、明日のローカル局との打合せで使う
資料の作成。11時帰宅。

~765プロ事務所~

美希「………………」

P「どうした?」

美希「プロデューサーってさぁ……」


美希「字、汚いね」

P「!? な、何だよ、別にいいだろ!!」

美希「全然、大人の字に見えないの。ウチのクラスの男子みたい」


美希「あとさー、何でこーんなに小さい字でギュウギュウに書くの? 見づらいよ?」

P「そ、それは、紙がもったいないから……」

美希「でも、全然この下、ほら、すっごく余ってるの。一行空ければいいのに」

P「いや、ほら! 美希が次の日の分をこの余白に書けばいいかなって」

美希「えー!? ヤ、そんなの! ミキはミキで新しいページに書くもん!」

律子「それより、私は日記の内容が気になるんですけど……
   何ですか、あずささんに自腹で高級なお店でリハーサルをさせた?」

P「ちょ、違うってば! 俺が一緒に行って払ったんだよ!
  いきなり本番で高級なお店に行ったら緊張しちゃうかなーって」

あずさ「プロデューサーさん、あのお食事、とっても楽しかったですね~」

P「うへへ、また行きましょう」

律子「プロデューサー! まさかと思いましたが、やっぱりあずささんと何か…!」

P「ちがーう! 違う、俺は純粋にあずささんの仕事のためを思って……!」

あずさ「うふふ」ニコニコ


美希「…………」

あずさ「あら、美希ちゃんどうしたの?」

美希「べっつにぃー、何でもないの」

あずさ「うふふ、今度は美希ちゃんもプロデューサーさんとお食事行けるといいわね」

美希「そんな、いいもん! 何でプロデューサーとごはん食べなきゃいけないの!」プイッ!

あずさ「あらあら」

7月19日

 今日から夏休みなの!

 事務所のエアコンもこわれてるし、春香たちとみんなで海行こうってさそったら、

 小鳥と社長以外みんな来るって。ヒマじんさんだね。

 出発はあさって。どの水着持っていこうかなー。

 今日は午前中だけちょっとお仕事して、午後は事務所であずさの誕生会したの!

 春香が手作りのケーキ作ってきて、おいしかったなぁ。

 プレゼントは、小鳥の提案で、5本指ソックス!

 この間テレビで見たら、すごく健康に良いんだって。

 小鳥が個人的にほしいだけなんじゃないの? でも、あずさが喜んでくれて良かったの。

 あれ、今日のお仕事って何だったっけ? すぐに終わったから忘れちゃった。

 おしまい。

7月20日

 諸々の調整を終え、ようやく来月末、765プロ主催のライブを行うことが決まった。これ
からアイドルのそれぞれにソロを1曲ずつ、全員で歌う曲も2つ用意しなくてはならない。
 既に手配はしており、サンプルは今月末頃になる予定。曲が出来上がるまで練習のしよ
うがない一方で、曲が出来てから本番までの期間が決して長くないのがもどかしい。
 ただ、大変なのは実際にレッスンを行いライブに臨むアイドル達であり、裏方である俺
や律子が余計な弱音を吐く事も無い。とにかく、皆には明日の旅行でしっかりと羽根を伸
ばしてもらう事にする。
 関係者には、俺も律子も明後日まで不在のため、その間何かあればメールで連絡をくれ
るよう言っておいた。さすがに二人とも席を空けるのもどうかという気もするが、音無さ
んと社長は快諾してくれた。
 あずささんのガイドも心配だし、旅行先でのトラブルを回避するためにも保護者は必要
だ。そういう事にしよう。

 美希へ
 仕事の内容はちゃんと覚えておきなさい。ちなみに昨日は雑誌のグラビアだった。

~夜、旅館の大部屋~

春香「へぇ~~……結構続いてるねー」ペラペラ…

美希「プロデューサー、字汚くない?」

千早「お世辞にも綺麗とは言えないわね」


真「でもほら、昨日の日記見て。ボク達のこと、気遣ってくれてるよ」

伊織「私達の目に触れる事を見越して、取り繕ってんじゃないの?」

美希「えー、何それずるい! ミキはすっごくマジメに書いてるのに!」

伊織「あんたは正直すぎよ。
   仕事の内容忘れたなんて言ったら、ツッコまれるは当たり前じゃない」


雪歩「でも、プロデューサー、私達のためにライブを用意してくれたんだから、
   頑張らないと……」

響「そうだぞー……ムニャムニャ……」

真「ね、寝ながら返事してる……」


美希「ふわあぁぁぁ……響の寝顔見たら急に眠くなったの、あふぅ……」

伊織「やよい達も寝てるし、私達も寝ましょう」

春香「うん、そうだね」

一同「おやすみー」

パチン…





モゾモゾ…

春香「……ねぇねぇ、美希……美希?」ユサユサ

美希「んぅ~~?」モゾ…


春香「私も、日記書いてプロデューサーさんに見せたら、返事してくれるかな」

美希「あふぅ……書いてみたら?」


春香「少し、気になってるんだ……
   何でプロデューサーさん、美希にそういう事をさせたのかなって」

美希「ミキがだらしないから、って言ってたよ?」


春香「ううん、あのね……たぶん、上手く言えないけど、本当はそうじゃないと思う」

美希「?」

春香「プロデューサーさんは、美希にすっごく期待してるんだと思う」

春香「何かと美希に一生懸命にさせたがるのも、日記を書いて自分を見つめ直させるのも、
   それだけ美希に成長してほしいってことなんじゃないかな」

美希「うーん……たぶんあの人は、期待してないヤツなんていない、
   って言うと思うけど」

春香「その中でも、美希はやっぱり特別なんだよ」

春香「だって今、私……良く分からないけど、何でか……」

春香「羨ましい、のかな……」

美希「…………」


春香「えへへ……だからさ。次のライブ、すっごく練習して、絶対成功させようね」

春香「今は美希も、私も、プロデューサーさんの考えが良く分からないかもだけど……」

春香「あの人の言ってるとおりに頑張って、結果を出せれば、
   もっとお互いに信頼し合えると思うんだ」


美希「……頑張ったら、ミキもキラキラになれる?」

美希「この間の、村祭りの時の春香達みたいに……ミキも」

春香「もっちろん。今度の方が会場大きいし、もっとすごい事になるよ」

美希「そうかぁ……キラキラ、かぁ……」

美希「ミキも、ホントは、あの時の春香達が羨ましかったの。ほんの少し」

美希「でも、それは春香達が頑張って練習したから、なんだよね?」

春香「うん……そうだね」


美希「分かったの。ミキ、ちょっとだけマジメに頑張ってみる」

春香「ちょっとだけ? うふ、あはは」

美希「えへへへ」


春香「ごめんね、起こして。じゃあ、おやすみなさい」

美希「うん、おやすみなの」

春香「あぁ、それと……」

春香「やっぱ私、日記書くの、やめるね」

美希「……あ、そう」


春香「おやすみ」

美希「おやすみ……」


………………

………………………

………………………

………………


ワァァァ―ッ!!  キャアァァァァァァァァァァァァ…!!

「みんな、今日はありがとうーーーっ!!!」

ワアアァァァァァァァァァァァァァァ…!!



アイドルA「ま、負けちゃった……あんなに、練習したのに……」

アイドルB「そんな……!」

アイドルC「961プロが、こんなに強かったなんて……」ガク…



女P「……………………」

~フェス会場 控室前~

律子「今日はどうも、ありがとうございました」ペコリ

961P「今回のフェスは、我々もすごく勉強になりました」

961P「765の子達は落ち込んでいたようでしたが、素晴らしいステージだったとお伝えください」


961P「あぁ、あとこれ……
    私共の天ヶ瀬から、いつもお世話になっている、と……」スッ

律子「あ、あらまぁ……こんな高級そうなお菓子、別に良いのに」

961P「俺達のライバルとして、せいぜい良いモン食って精進しやがれ、だそうです」

律子(何か、黒井社長に似てきたわね、アイツ……)


961P「では、これで。失礼致します」ペコリ

律子「あ、はい。冬馬君にもよろしくお伝えください」ペコリ

スタスタ…



律子「ふぅ、やれやれ……さてと」

ガチャッ

バタン

アイドル達「………………」ズゥーン…


律子「……ぷっ、あはは。何よこの空気、お葬式みたいじゃない」

アイドルD「ちょ……落ち込んでるのに、そんな言い方はひどいよ!」

アイドルE「そうだぞ! あんなに練習してまで負けたら、そりゃヘコむさー!」

律子「おっと、思ったより元気そうで何より」ウンウン

律子「落ち込んだって何も出ないんだから、ほら! さっさと帰り支度しなさい」


アイドルB「で、でもまだプロデューサーが戻っていないんです」

律子「あぁ、彼女ならスタッフさん達へ挨拶しに行っているわ。
   そろそろ戻ってくると思うけど」

アイドルA「うっ、ううぅ……」カタカタ…

律子「? どうかした?」


アイドルC「どちらかと言うと、フェスに負けた事より、プロデューサーの説教が……」

アイドルA「絶対、私達の事をすっごく怒るに決まってますよぉ……!」カタカタ…

律子「……あー、そういう事ね」

ガチャッ

アイドル達「!!」ビクゥッ!



女P「………………」

バタン…


律子「お疲れ様」

女P「…………」カツカツ…

律子「おーい、ちょっと」


カツカツ… ピタッ


女P「………………」

アイドルA「ぷ、プロデューサーさん、あの……その………」モジモジ…


アイドルA「ごめんなさ…!」

女P「皆、今日はお疲れ様」

アイドルA「えうえぇぇっ!?」ズコーッ!

女P「さっき、961プロの方と話をしたのだけれど、あなた達の事をすごく褒めていたわ」

女P「皆、素晴らしい才能を秘めた、今後の活躍が期待できる子達だ、って」

アイドルC「ぷ、プロデューサー……」


女P「今日、フェスに負けたのは、そんなあなた達を正しく導くことができなかった私のせい」

女P「私がもっと立派なプロデューサーだったなら、結果は変わっていたでしょう」

女P「責任は全て、私にあります。
   あなた達は何も考えず、ゆっくり休んで今日までの疲れを取りなさい。いいわね」

アイドル達「…………」

女P「どうしたの。聞こえたのなら返事をしなさい」

アイドル達「はいっ!」


アイドルA(ホッ……良かったぁ……!)グッ!

アイドルD(プロデューサーの事だから、説教2時間くらいは覚悟してたけど……)

アイドルE(ちょっと見直したぞ。プロデューサー、結構良い人じゃん)



コツッ…

アイドルB「……不愉快です」

女P「?」

アイドルA「えっ……ちょ、アサ美ちゃん……?」


アイドルB「負けたのは全てプロデューサーのせい」

アイドルB「私達は何も考えるな……そんな言い方って、無いと思います」

アイドルB「今日のフェスのセットリストも演出も、プロデューサーがほとんど組んでくれたけれど……」

女P「……どうかしたの?」


アイドルB「実際にフェスに臨んでいるのは私達なんです」

アイドルB「なのに、全ての責任を背負い込んで、私達の声には耳を貸さないで……」

アイドルB「そんなの……プロデューサーが私達に、何も期待していないって言ってるのと同じです!」

女P「!!」

アイドルB「プロデューサーは、いつも自分だけを見ています」

アイドルB「自分がこうしなければ、もっと頑張らなければ……」

アイドルB「さっきだって、自分がもっと立派なプロデューサーだったら、って……!」


アイドルB「自分が、自分が、ってだけじゃなくて、もっと私達の事も見てください!」

アイドルB「私達に、もっと期待してください!」

アイドルB「まるで置き物のように扱われてるみたいで、不愉快なんです!!」

女P「…………ッ!」


アイドルB「……皆で、反省会してきます」スッ

スタスタ… ガチャッ

アイドルC「ちょ、ちょっとアサ美、待って!」ダッ!

タタタ…



女P「………………」

アイドルA「……あ、あの、プロデューサーさん。私のカーディガン……」

アイドルA「直してくれて、ありがとうございました……お裁縫、お上手なんですね」

女P「………………」

アイドルがプロデューサーをわかろうとしてないのが悪いと思うんだけどね

アイドルA「えへへ……じゃ、じゃああの……私も、失礼しますね」タッ

タタタ…



女P「……………………」

スッ スタスタ…


律子「待ちなさい。どこへ行くの?」


女P「……事務所へ戻ります」

女P「今日撮ったビデオを見直して、何がいけなかったのか、足りない点を分析しないと…」

律子「まぁーだそんな事を言ってるの!? このっ!」ギュッ!

女P「うぇっ!?」


律子「そんな減らず口を言うのはこの口か!? えいっ、この口かーっ!!」ギュゥーッ!

女P「い、いひゃひゃっ!! いひゃいいひゃい、いひゃっ!!」ジタバタ!

バシッ!

女P「な、何をするんですかっ!!」

どっちもどっちだな、女Pも壁作って近寄りがたくしてるし

律子「まったく……どうしてこんなカタブツになっちゃったんだか」

律子「今のは、あの子達が言ってる事の方が正しいわ」

女P「! で、でも私はプロデューサーとしてやるべき事を……!」


律子「何でもかんでも背負い込んで言う事を聞かせるんじゃなくて、
   ある程度自由にやらせてあげた方が、あの子達も成長できるんじゃないかしら?」

律子「たまにはあの子達に甘えてあげるのも、悪くないと思うわ」


律子「アイドル達は、私達プロデューサーが考えている以上にしっかりしているものよ」

律子「それを、私は昔、あなた達に教えてもらったもの」

女P「……!」

律子「お礼に、今のあなたに大切なものを教えてあげるわ。ずばり、メリハリよ」

女P「り、律子さん……」


律子「ねぇ、美希。今から飲みに行くわよ」

女P「えっ?」

律子「あの人とも、最初のライブが終わった後、小鳥さんと飲みに付き合ったの」


………………

………………………

やっぱミキか

………………………

………………

ワアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ…!!!


美希「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

美希(す、すごい熱気……!!)

美希(歓声で、自分の声さえ聞き取りにくいくらい……!!)

美希(サイリウムが、眩しいのっ!!)


美希「みんなぁーー!!! まだまだ行けるよねーーっ!!?」

美希「それじゃあもう一曲、行くのーーっ!!!」

美希「『relations』ッ!!!」

ウオオワアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!


………………

………………


あずさ「美希ちゃん……美希ちゃん、起きて?」

美希「ふぇっ?」パチッ

伊織「いつまで寝てんのよ、皆もう外で待ってるわよ」


美希「……夢を見てたの」

美希「ミキが、キラキラのステージに立って、たくさんの人の前で踊って、歌う夢……」

伊織「はぁ? ついさっき、現実でやったばかりじゃない」

美希「うん……夢みたいな出来事だったの」


美希「ハニーは?」

あずさ「ハニー?」

伊織「プロデューサー達なら、先に帰ったわよ。社長が、キミ達もゆっくり休めって」

美希「そう……そうなんだ」

伊織「何よ、ハニーって」


美希「ミキに、ドキドキ夢中になれるものを、教えてくれた人」

美希「アイドルが、こんなに楽しい事だったなんて、知らなかったの! アハッ!」

~とある居酒屋~

ウィー! イラッシャイマセ-!! ガヤガヤ…! クロキリシマ ロック オマタセシマシタ-!!

小鳥「あー、それすっごい良く分かります!」

P「でしょー! ほらぁ音無さんそれ絶っ対プロデューサーなった方が良いですよ」

小鳥「やっだぁもう、“音無しさん”じゃなくって、“小鳥”って呼んで♪」キャピッ

P「いや、それはちょっと……」

小鳥「何でですかもうー!!」


律子「二人とも、もうその辺にしてください。帰れなくなっても知りませんよ」

小鳥「なぁによぉ~、律子さんがタクシー乗っけてくれたら問題無いですってぇ」グデー

P「あ、俺は大丈夫だぞ。小鳥さんはダメだけど俺は電車で…」

小鳥「あーっ、今“小鳥さん”って!! ふんがふんが!!」ガバッ!

P「うわぁぁ何なのこの人もー!!」


律子「とにかく、お酒は今飲んでるもので終わりですよ、いいですね?
   すみませーん、お冷三つください」

店員「うぃー、お冷三つかしこまりましたー」

P「グビグビ……ふぅ……」ゴトッ…

律子「プロデューサー、本当に大丈夫ですか? 私、二人も面倒見きれないですからね?」

P「あぁ、大丈夫大丈夫。お冷もらえるか?」

律子「さっき頼みました」

P「あぁすまん」

小鳥「グースカピヨー……」Zzzz…


律子「まぁ、これまで私達も頑張りましたし、今日くらいはハメを外して良いでしょうけどね」

P「いやぁ、頑張ったのはあの子達だよ。俺達は場所を用意しただけだ」

律子「それが大変なんです、プロデューサーって。でも、皆輝いていましたね」

P「ああ」


律子「特に、後半の美希……」

P「俺のミスで出番が連続してしまったが、立派に仕事をしてくれたな」

律子「正直、あの子があんなにやれる子だとは思いませんでした」

P「達成感に満ち溢れた顔をして帰ってきた……
  アイツにも、頑張る事の大切さ、楽しさを理解してもらえたようで何よりだよ」

律子「それなんですけどねぇ……」

律子「あの子、たぶんプロデューサーに気があると思うんです」

P「えぇっ?」

律子「ハニーって呼んでましたよ、ステージ終わった後」

P「俺の事をだろ? あんなんただのジョークだろ」

律子「いいえ、今日ハッキリと確信しました。
   あの子、ああ見えて好きになったものにはとことん一途になる子なんです」

律子「それは、おにぎりに対してだけでは決してありません」


P「アイドルという、好きになれるものが出来てくれたのなら、俺は何も…」

律子「確かに今日、美希はアイドルという、自分にとって夢中になれるものを見つけました。
   たぶん、初めてと言って良いんじゃないかしら」

律子「でも、それと同じかそれ以上に、夢中になれるものを自分に与えてくれた
   プロデューサーに好意を寄せているはずです」

P「お、おいおい……何を言ってるんだ」


律子「自分のためなのか、“ハニー”のためなのか……
   どちらにせよ、あの子がアイドルを頑張ってくれるに越した事はありませんが……」

律子「邪な関係にならないようにだけは、注意してくださいね?」ギロッ

P「……あのなぁ律子、確かに俺は美希の事が好きだよ」

P「でも、10歳近く年が離れてるし、アイツはまだ中学生だ。
  恋愛対象としてはとても見れない」

律子「それなら良いですけどね」

P「いや、仮に年が近かったとしても……もう無理だよ」

律子「えっ?」

P「…………」グイッ!

トンッ


律子「えっ、あの……無理って、どういう事ですか?」

P「もう俺なんかが好かれる筋合いなんて無いってことだよ」

P「良いんだ。俺はアイドルと仲良くなりたくてプロデューサーになった訳じゃない」

P「ただ、今はみ゛……ゲェフ……」

P「……美希達が、立派に成長していくのが見たいだけなんだ」

P「それさえ見れれば、もう俺は良いんだよ……」


P「もう、欲張りできるアレでもないしさぁ……なんかこう……」

P「分かるだろ、えぇ……夢を見させてあげたいだけなんだよ……」

P「それの何が、いけないんだよぉ……美希、もっとキラキラしてほしいなぁ………」

律子「……ちょっと、プロデューサー?」

P「ぜったい、俺の人生で一番、キレイな思い出になるって……おもうけどなぁ…………」

P「あぁ、たのしみだなぁ…………」


律子「…………」

P「グー…………グー…………」


………………

………………………

………………………

………………


イラッシャイマセ-!! ガヤガヤ…!  ウィー! フライドポテト フタツ-!!

女P「そんな事を言っていたんですか、あの人?」

律子「そうよー? プロデューサー、あの時相当酔っぱらってたからねぇ。
   まぁ、それだけ緊張の糸が切れたんでしょ、ようやく」

律子「とにかく、あなたもたまにはこうしてハメを外した方がいいわよ。
   なんなら付き合うから」


女P「……あの人は、私にアイドルを続けて欲しかったのでしょうか」

律子「知らないわよ、そんなの」

女P「そんな……!」

律子「あなたに分からないんじゃ、誰にも分からないわ」ピッ!

ピンポーン! ハーイ!

女P「………………」

店員「はいお待たせしましたー」

律子「すみません、ジンジャーハイボール一つと……あなたは?」

女P「………………」

律子「まったく、何辛気臭い顔してんのよ。
   すみません、やっぱり二つください。あとエイヒレ」

店員「ジンジャーハイボールをお二つとエイヒレ。かしこまりましたー」

スタスタ…


律子「思い出すなぁ……あの時のあなた、プロデューサーに猛アピールしてたわよね。
   良く覚えているわ」ニヤニヤ

女P「ちょ、ちょっと、やめてください」

律子「事あるごとに抱き着いたり、頑張ったご褒美になでなでしてもらったり……
   あー、そういえば一度自分の胸を…」

女P「やめてくださいってば!」

律子「ふふふ、ごめんごめん」


律子「でも、そんな不純な動機でも、頑張るあなたを誰よりも応援していたのはあの人よ」

律子「自分に余裕が無いにも関わらず、あなたを自由にさせ、それを受け入れていたわ」

女P「……私には、心の余裕が足りないと?」

律子「あとメリハリがね」

女P「……あの子達に、私が自分の事しか見ていないって言われた時、ショックでした」

女P「自分がやれる事を精一杯やることが、あの子達のためなんだと思っていたのに……」

女P「結局は全て、自分よがりの行いでしかなかったことを、
   あの子達に言われるまで気づかなかったなんて……プロデューサー失格です」

律子「まぁ、そんなもんよ。余裕が無いから自分しか見えないのは当然だわ」


律子「焦れば焦るほど、自分の思うように事を進めたがるものよ。
   でも、それが100%正しければ良いけど、大抵そういうのって上手く行かないわ」

律子「社会ってのは、主体が自分だけじゃないのだから、他の人達と協力し合わなきゃいけないの。
   ほら、春香も良く言ってたでしょう? 団結ですよ、って」

律子「という訳で、あなたは一度頭を冷やすべきね」


律子「美希、あなた明日プロデューサーのお墓参りに行ってきなさい。お休み取ってね」

女P「…………えっ!?」

律子「お葬式の日から、あなた一度も行ってないでしょう?」

女P「は、春香達と一緒に、たまには…」

律子「“自分から進んで”、行ってないでしょう?」

女P「…………」

律子「たまには顔見せに行ってあげなさいよ。あの人も寂しがってると思うわ」


女P「でも、明日先方に送らなきゃいけない資料が…」

律子「あぁ、エリ子の仕事のヤツでしょう? 私がやっておくからいいわよ。
   共有フォルダにファイル、入ってるんでしょ?」

女P「いえ、共有にはまだ入れてなくて、私の端末のデスクトップに…」

律子「あぁそう。ならいいわ、勝手にあなたのパソコン起動してよしなにやるから」

女P「ちょっと律子!」


律子「…………」クスッ

女P「っ…………さん」


律子「ふふ……ようやくあなたらしくなってきたわね」

女P「……からかわないでください」

店員「すみませんお待たせしましたー、ジンジャーハイボールと、エイヒレです」

律子「あ、はーい。この辺に置いてください」

コトッ コトッ


律子「ほら、もっと飲みなさいって」

女P「………………」グイッ!

トンッ ガタッ!

律子「あれっ? おーい」


女P「帰って、今日のうちにまとめたいデータがあるから……もう、帰ります」

律子「ちょっとー? もう少しゆっくりしていきなさいよ。注文来たばかりじゃない」

女P「いえ、もう十分ですから」


律子「明日は休んで、お墓参り。ねっ?」

女P「……それは命令ですか?」

律子「あはは、なぁにをそんなしゃらくさい事を……」


律子「命令よ。私に任せて、明日はゆっくり休みなさい」


女P「…………失礼します」スッ

律子「あっ、ちょっと、こんなにお金いらないわよ。ねぇーっ?」

スタスタ…

律子「まったく、先輩を何だと思ってるのかしら……」


イラッシャイマセ-!!

律子「ん、来たかな?」



テクテク…

真美「あっ、いたいた! りっちゃーん!」フリフリ

やよい「こんばんはー!」ペコリ

律子「おー来た来た。まぁまぁ座りなさいよ、バッグこっちに置くわ」

やよい「あっ、はい! すみません」

ガタッ ガタッ…

律子「さっき美希がちょうど帰っていったところなんだけど、入口辺りで会わなかった?」

真美「えっ? いやぁ、たぶん会ってないと思うけど」


やよい「あれ……ひょっとして、さっきの灰色っぽいコート来たキレイな人?」

律子「あー、それだわ」

真美「ええぇーっ!? うっそだぁ、もっとミキミキはハデハデで…」

店員「ご注文、よろしかったらお伺いしますけども」

真美「あっ、ちょっと待ってください。全然見てなかった」


律子「何でも好きなもの頼みなさい。私はもうお腹いっぱいだから」

真美「だってさ。やよいっちもごーせーなモン食べれる機会無いっしょ?
   行っちゃいなよ!」

やよい「あ、ひどーい真美! 私だってもうちゃんと働いてるし、あまり貧乏じゃないよ!」

店員「ご注文、大丈夫っすかー?」

やよい「あ、じゃあじゃあえっと……この、なすの一本漬け」

律子「そんなみみっちいモン頼まなくたっていいわよ、シメでもないし。
   すみません、刺身の5点盛りを一つ」

やよい「はわっ!?」

何年たっても真美はかわいいなぁ

真美「……へぇ~、そんな話をしてたんだ」

律子「あの人が亡くなってから、ずっとあの子、生き急いでいるみたい。
   見ていられないわ」

やよい「美希さん、何だかかわいそうです」


律子「あんた達はどう? 最近、上手くやれてる?」

真美「んー、まぁね。お仕事は大変だけど、仕事だし」

律子「夜勤だって聞いたけど、今日は大丈夫だったの?」

真美「今日は休み。久々にね」


やよい「私は、周りの人達が皆良くしてくれるから、すっごく助かってます!」

律子「やよいはね、まぁどんな職場でも邪険に扱われることは無いでしょう。
   デパートの売り子さんだっけ?」

やよい「はいっ! 駅ビルの地下食品売り場にいるから、皆にも来てほしいかなーって」

真美「あーそりゃ絶対行くわ。やよいっち、そりゃファンは皆殺到するよ」


律子「亜美はどうなのよ? 真美」

真美「ん? んー……ちょっと、しんどいみたいだね」

律子「しんどい?」

真美「亜美、あぁ見えてマジメだし……
   職場の人と、別に仲悪いって訳じゃないんだけど、あまり相談できる人いないみたい」

真美「真美よりも、アイドルってお仕事に寄りかかってた部分が大きかったんだと思う。
   これまでとのギャップに悩んでるっぽい」

律子「へぇー、あんたも何だかそれらしい事を言うようになったじゃない」

真美「んっふっふー、そうっしょ?」


真美「でも、聞いたカンジだと、自分を追い詰めてるのはミキミキも亜美も一緒っぽいね」

律子「そうね。仕事だけにかまけていたら、心の余裕を無くしていつか自分を潰すわ」

やよい「たまにはこう、ぱぁーっ! ってすることも必要ですよね?」

律子「えぇ、それか誰か親しい人に話を聞いてもらうか」


真美「あっ、それなら亜美、ついこの間あずさお姉ちゃんに会ったって!」

やよい「えっ、本当?」

真美「そうだ思い出した。だから亜美、最近は少し元気になったんだ」

律子「仕事の悩みでも聞いてもらったの?」

真美「うん、一緒にペンギン先生に餌をあげたって」

律子「はぁ? ……まぁいいか、元気を取り戻せたのならそれで」

真美「あ、あとはるるんにも会ったって言ってたなぁ。あずさお姉ちゃんも」

やよい「亜美もあずささんも、春香さんに会ったの? 私も会ったよ!」

律子「春香に?」

真美「うんうん。ひびきんちに泊まりに行こう、って真美にもよろしくだって」

やよい「私も同じ事言われて、絶対行きますって言いました!」

律子「あぁ、その話か。前に聞いたわ、私も」


やよい「律子さんも行きますよね?」

律子「うーん……今の765プロの現状を踏まえると、私はちょっと参加できないかなぁ」

真美「えー、何でさ! 仕事にかまけちゃダメって言ったばっかっしょー!」

やよい「そうですよー! 昔だって、皆で海に行ったじゃないですか!」

律子「メリハリを大事にすることと、仕事を疎かにすることは違うの。
   それに、当時と今とじゃ、私も立場が違うわよ」

真美「うむぅ……相変わらず言う事が厳しいねぇ、りっちゃんは」

律子「とにかく、そういう事なら皆で楽しんでらっしゃい。響にはよろしくね」

やよい「寂しいですー……」シュン…

律子「ほぉら、そうやってメソメソしない!
   なんなら、今度は私から暇を見つけて企画するわ」

真美「本当!? 絶対だかんね、りっちゃん!」

律子「はいはい。じゃあ、沖縄旅行は美希も連れて行ってあげてね」

やよい「分かりました!」


真美「で、そういうミキミキと……はるるんはどったの? 今日」

律子「ん? 美希はさっき帰ったし、春香は事務所で仕事しているわ。
   もう帰っていると思うけど」

やよい「明日もお仕事ですか?」

律子「私はね。二人はどっちも休みよ」

真美「はるるんも?」


律子「プロデューサーのお墓参りに行く、って言ってたわ」

~女Pの家~

女P「………………」カタカタ…

女P「………………」カタカタカタ…


女P「…………」カタ…



女P「………………」チラッ


スッ…

つ 毛糸の帽子


女P「…………余裕が無い、か……」

女P「それもそうね……余裕をかましていられなかったもの……」



女P「…………もう、寝よう……」

~翌日、お寺~

ブロロロロロ… キキィッ


ガチャッ



女P「………………」

バタン

コツコツ…

女P(最後にここに来たのは、いつだったかしら)



女P(確か、この辺だったと思うんだけど……)


女P「あっ……」ピタッ



女P「……………………」



女P「…………ハニー……久しぶり」

パシャッ ゴシゴシ…

女P「………………」ゴシゴシ…

女P(思ったより、ちゃんと手入れされているみたい……)

女P(お花も新しいし、誰かもう、お見舞いに来たのかな?)


パシャ パシャッ


女P「…………ふぅ」コトッ…

女P「………………」


スッ…


女P「…………………………………………」





ザッ…

老婆「…………あら、まぁ」

老婆「今日は随分と賑やかだこと、ほっほ」


女P「…………?」ペコリ

老婆「おや? あんた、えぇと確か……」

女P「……お母様、ですか?」


老婆「あぁ、思い出した美希ちゃん! 星井美希ちゃん!」

老婆「この子のお見舞いも、お葬式のお手伝いも良くしてくれたものねぇ。ありがとねぇ」

女P「いえ、そんな……」ペコリ


老婆「この子も結局、親以外に身寄りがいないのさ。
   だから、田舎にお墓を引っ越そうかともいつも考えるんだけんども……」

老婆「この子のお父さんが、勘当も同然にしてたまんまだったからねぇ。
   一緒のお墓に入れてあげちゃうと、お父さんに怒られそうで。おほほほ」

女P「は、はぁ……」


老婆「でもねぇ、こうして田舎のお父さんのお墓と、こっちにある息子のお墓、
   両方とも面倒見るのも、このトシだともうしんどいのさ」

老婆「ただ、お父さん、もう東京には来だぐねぇ! って言うだろうねぇ。
   かと言って、息子のお墓には、こうしてお参りに来てくださる人がいるし」


老婆「今日だけでこんな美人さんが二人も来てくれるなんて、隅に置けないねぇこの子も」

女P「!? ……えっ、ふ、二人、ですか?」

老婆「えぇ、そうですよ。
   だから、この子のお墓もここに置いたままの方が良いのかなぁって…」


女P「そ、その人ってどんな人でしたか!?」

老婆「へっ?」

女P「いや、ですから、私の他にお見舞いに来たっていう、もう一人の人です」


老婆「あぁ、その人なら、この子の骨を少し持って行きましたよ」

女P「!?」


老婆「最初は何に使うのかって思いましたけれど、ついこの前、
   この子の遺言書っちゅうか、最期の日記のようなものを見せてくれましてねぇ」

老婆「あぁ、そういう事ならって今日、一応私も立ち会いましてねぇ」


老婆「かわいらしい子でしたよ~? 頭にこう、リボンをこうアレしてねぇ。ほほほ」


女P「!! し、失礼します!」スッ

老婆「あら?」

カツカツ…!

ガチャッ バタン!

女P(春香がここに来ていた……それに、あの人の骨を持って行った!?)

女P「…………ッ」ポパピプペ…

プルルルルル…♪


プルルルルル…♪


ガチャッ

『……お掛けになった電話は、現在使われていないか、電波の届かない場所に…』

女P「くっ……!」ピッ!


女P「一体、何を考えているのよ、春香……!」カチャッ

ブキキキキキ ブオンッ!

ブロロロロロ…!

~とある地下喫茶店~

真「へぇー、響の民宿に泊まりに行くのか。いいね!」

春香「えへへ、でしょう? 雪歩も行くよね?」

雪歩「うん! いいなぁ、皆でまた集まれるんだ」

春香「ああ、うん……律子さんは、ちょっと仕事があるから無理だって」

雪歩「あぁー、そっかぁ……残念だけど、しょうがないよね。全員は難しいかぁ」


真「それだと、プロデュー……いや、私達の間ならいっか。美希は来ないの?」

雪歩「そ、そうだよ! 美希ちゃんには来てほしいなぁ。ずっと大変そうだし」

春香「……うん、もちろん行くよ!」ニコッ!

真「やーりぃ! 私も心配してたんだ。少しは仕事のこと、忘れさせてあげようよ!」

雪歩「うん、そうだね!」


春香「仮にダメだって言っても……美希には、絶対来てもらわなきゃいけないの」

真「ん?」

春香「すごく……すっごく、大事なことだから……」

雪歩「う、うん……そうだね?」キョトン

店員「ありがとうございましたー」

ガチャッ カランカラン…


真「それじゃあ、私は仕事場に戻るね」

雪歩「私も、後輩の子の、舞台のお稽古を見に行く約束をしてるから、これで」

春香「うん、分かった! それじゃあ、また今度ね!」

真「うん! 今日は誘ってくれてありがとう、春香!」

雪歩「私からも、ありがとう! すっごく楽しみにしてるよ」

春香「いえいえ、こちらこそ。それじゃあ私こっちだから、またねー」フリフリ

真・雪歩「バイバーイ」フリフリ

テクテク…

春香「えぇと、千早ちゃんには電話で伝えてあるし……」

春香「あと残っているのは伊織と貴音さん……と、美希、か………」


春香「……美希、今日もお仕事かなぁ…………」

春香「…………」スチャッ

ポパピプペ…



プルルルルル…♪


春香「…………」


プルルルルル…♪


プルルルルル…♪

プルルルルル…♪


プルルルルル…♪



春香「………………」


プルルルルル…♪


プルルルルル…♪



ガチャッ

春香「! ……あっ、もしもし、プロデューサー?」



女P「一体、何を企んでいるんですか、春香さん」

春香「!!?」ビクッ!

クルッ



女P「…………」ピッ!

コツコツ…



春香「プロデューサー……」

女P「……お墓参りに、行っていたそうですね?」

春香「………………」

女P「それに、あの人の骨も……」


春香「プロデューサー、あの……!」

春香「今度、響ちゃんの民宿に泊まりに……皆で、沖縄へ行くんですよ!」

女P「!」

春香「だ、だからその……ぷ、プロデューサーも一緒に行こう! ねっ!?」



女P「……悪いけど、遠慮します」

春香「!?」

女P「今、アイドルの子達にとって大事な時期なんです」

女P「やらなければならない事がたくさんあって、旅行に行っている暇なんてありません」

春香「で、でも律子さん、プロデューサーにはぜひ参加させなさいって…!」

女P「律子さんだって、私が抱えている仕事の全てを把握している訳じゃない。
   どこで手を抜くべきかは、私にしか分からないことなの」

女P「私の仕事について、誰かにとやかく言われる筋合いは無いわ」


春香「もう、やめてよ……」

女P「えっ……」


春香「私が、あの人の骨を持って行った意味……美希にはもう分かってるでしょう?」

女P「! …………」

女P「な、何を言って…」


春香「美希はプロデューサーさんじゃないっ!!」

女P「ッ!!」

春香「もう、あの人になりきるのはやめて! 追い求めるのも……!!」

春香「プロデューサーさんの死を、受け止めてあげてよっ!!」

貴音はなにしてるさー?

女P「…………」

春香「うっ、う…………」グスッ…



女P「わ、私は…………」


女P「私……仕事に戻らなきゃ」クルッ

春香「! 美希っ!! ま、待って、美希っ!!」ダッ!


ズキッ!

春香「ッ!! あぐ、う……!」ガクッ

女P「! 春香っ!! だ、大丈夫!?」タッ



春香「ふ、くっ……ぐ……!!」ブルブル…

女P「あなた……やっぱり、まだ足が……」

春香「だ、大丈夫……平気だから……」スッ

ガシッ!

女P「!?」


春香「一緒に、沖縄に行こう……!」ギュウ…!

女P「くっ、やめて……!」バシッ!

春香「ッ、はぁ……はぁ……!」


女P「私はプロデューサーなのっ!!」

春香「違うよっ!! 美希はプロデューサーさんになろうとしてるだけ!」

女P「そうでなけりゃ、誰があの人の想いを受け継いであげられるのよっ!!」

春香「受け継いでる……本当に受け継いでるって言えるの!?」

女P「そうよ、あの人が見れなかった夢を私が代わりに見るの! それがあの人の…!」


春香「そうやってプロデューサーさんの死から、逃げてるだけじゃないっ!!!」

女P「なっ……!!」


春香「もう、やめて……!」ポロポロ…

春香「昔の美希に戻って……美希まで、失いたくないよぅ……うっ、えぐ……!」

女P「…………春香……」

春香「えう、ひぐっ……ぐっ、う、うぅ……」ボロボロ…


女P「………………」



女P「お、沖縄は……皆で、楽しんできて……」

女P「響にも…………よろしく」スッ

カツカツ…



春香「うぅぅ……美希ぃ………!」ボロボロ…

~765プロ事務所~

律子「………………」トン トン トン…

小鳥「落ち着かないですね……コーヒー、置いておきますね」コトッ

律子「ありがとうございます」


律子「春香から連絡が来ないところを見ると……
   美希を誘うのは、上手くいっていないみたいですね」

小鳥「そうですか……」



律子「春香がプロデューサーのお墓へ、骨をもらいに行くって言ったから、
   何事か聞いて、やっと私も主旨を理解したんです」

律子「そういう事ならって、美希にお休みを取らせて、
   二人が出会いやすいようにお墓参りに行かせたんですが……」

小鳥「予想以上に、美希ちゃんの意志は固いみたいですね」


律子「あの子は、人一倍に一途な子です。一途すぎるくらい」

律子「だから、大好きだったプロデューサーの無念を晴らすことが、
   今彼のために自分ができる精一杯のことだと、思い込んでいるんです」

小鳥「美希ちゃん、プロデューサーさんが全て、みたいなところ、ありましたもの。
   思春期真っ只中の年頃では、やはりショックだったんでしょう」

律子「そもそも、あの人に無念があったのかどうかさえ、分からないのに……」

小鳥「きっと、結果的にトップアイドルを輩出するプロデューサーになれなかった事が、
   あの人の無念だったんだって、あの子は考えているんでしょうね……」


律子「とはいえ、これ以上美希を燻らせておく訳には行かないわ」ガチャッ

ポパピプペ…


プルルルルル…♪



ガチャッ

律子「あぁ、もしもし伊織?」

律子「……さすがに察しが良いわね。そう、急でお願いしたい事があるの」


律子「12人は乗れるプライベートジェット機を、早急にチャーターできないかしら?」


………………

………………………

………………………

………………


響「えーっ!? 伊織、プライベートジェットなんて持ってるのかー!」

伊織「にひひっ♪ 当たり前じゃない。水瀬財閥を甘く見てもらっては困るわ」

やよい「すごーい! 伊織ちゃん、何だかテレビでよく見る人みたいかもー!」

律子「やよい。あんたももう十分、“テレビでよく見る人”よ」


春香「じゃあさっ! 夏みたいに、今度はそのジェット機で皆で旅行しようよ!」

美希「賛成なのーっ! ハニーも行くよね、ねっ?」ムギュッ!

P「うーん、行きたいのは山々なんだが仕事が…」

美希「ムーッ! そういうツレないこと言っちゃ、ヤ!」


貴音「美希、あまりプロデューサーを困らせてはいけませんよ」

真「ここ最近、プロデューサーにベッタリだなぁ美希は」

美希「えへへー」ニコニコ

千早「でも、仮にジェット機で出かけるとしたら、行き先は海外になるのかしら」

亜美「おぉー、いいね千早お姉ちゃん! ボヘミアァ~ンな所とか行こうYO!」

真美「トレビアァ~ンな所とかさ!」

あずさ「あら~、ブルジョアァ~ンな方達にもお会いできるかしら~」


伊織「好き勝手な事言ってくれるわね、まったく」

伊織「そう簡単に手配できるものではないし、そもそも皆の予定を合わせるのだって大変じゃない」

亜美・真美「へっ?」


やよい「うぅ……そういえば、最近はお仕事がすっごく増えてきたし……」

雪歩「皆がちょうど、連続で空いている日を探すのも、大変なのかも……」

春香「あっ、そ、そうか……あはは、えっと、どうしよう?」ポリポリ…

律子「随分と思いつきで話していたのね、やれやれ」

美希「えぇー……」シュン…


響「じゃあさっ、自分に良い考えがあるぞ!」ビシッ!

真美「おっ、ひびきん!!」

亜美「あんまし期待できないけど頑張れ→!」

響「う、うるさいなもう!」

律子「で、どうかしたの?」


響「沖縄なら、皆で日帰りで行けるさー!」

響「普通の飛行機だとだいぶ強行スケジュールになるけど、
  プライベートジェットなら時間的に融通きくんでしょ?」

伊織「えっ? えぇ、まぁ多少はね」

響「だからさ! 自分が皆を、とっておきの穴場スポットに案内してあげるぞ!」

春香「とっておきの?」

美希「穴場スポットぉ?」


響「自分だけしか知らない、すっごくキレイなビーチがあるんだ!」

響「一年中砂浜が真っ白で、水面も真っ青! 海の底も、全然岩がゴツゴツしてないし」

響「おまけに空がこーんなに大きく見えて、水平線もブワァーッ! ってなっててさ!」

響「まるで、自分が世界の中心に来たんじゃないかって思えるくらい、
  すっごく視界がキレイなんだぞ!」

真「世界の中心って、またまた大げさだなぁ響は」

響「本当なんだってば! ウソだと思うなら来てみれば良いでしょ!」

千早「でも、もうだいぶ寒くなってきてるし、海に入ると冷たいんじゃないかしら」

響「大丈夫、沖縄は年中夏だからな! 今海に入ったってなんくるない!」

貴音「なんと。それは真、興をそそられるお話ですね」


美希「ミキ的には、ハニーと一緒ならどこだっていいの」

P「いい加減に俺の腕から離れてくれないか」

美希「ハニーと一緒にいる所が、ミキにとって世界の中心だもーん♪」

春香「あんまい!! 美希、そういうの甘すぎるって!」

亜美「天海だけに?」

千早「ブフォッ!wwwwwあ、あまみ、くっ、ぷぷwww」

春香「笑いの沸点低すぎだよ千早ちゃんっ!! 亜美もいちいち拾わないで!」


P「とにかく、沖縄は皆で楽しんできてくれ。俺は行けないから」

美希「もー、何でなのっ!!」プンスカ!

律子「しょうがないじゃない、この前とは違うのよ?」

美希「ハニーが行かなきゃ、ミキが行く意味無いの。ねぇー」グイグイ

P「良いからさっさとレッスン行ってこい。
  遊ぶなとまでは言わないけど、あまり仕事を疎かにするなよ」

美希「もう今度の曲の振り付けは覚えたよ?
   ラジオもグラビアも、この間の音楽番組の収録だって、スタッフさん達褒めてくれたもん」

やよい「最近の美希さん、レッスンもお仕事もバリバリで、すごいんですよー」

美希「エッヘン!」ドヤッ!


美希「だから、ミキのこと褒めてくれる?」

P「もちろんだ、偉いぞ美希」

美希「偉いと思うなら、ミキと一緒に旅行行ってくれるよね?」

P「いや、その理屈はおかしい」

美希「やーだぁっ!! ミキ、ハニーと一緒がいいのっ!!」ジタンダ!


P「あのなぁ美希……人にお願いする時は、それなりの態度というもんがあるんだぞ?」

P「せめて『お願いします』の一言くらい、言えるようになったらどうだ」

美希「お願いします、って言ったら来てくれる?」

P「それとこれとは話が別だ」

美希「言ってる事がめちゃくちゃなの! ねぇー、行こうよーっ!!」

P「ほら、そこだそこ。そこで言わなきゃ」

美希「あっ! お、お願いします! お願いだから一緒に行こっ!!」


美希「ほらっ、言えたよ?」

P「ダメだ、仕事がある」

美希「んなーっ!!」


高木「んー? 何やら賑やかだねぇ」ヒョコッ

律子「あっ、社長」

あずさ「皆で、日帰りで旅行に行きましょうって、話をしてるんですよ~」

高木「おぉ、それは大いに結構なことじゃないか。行ってきなさい」

小鳥「でも、美希ちゃんがどうしてもプロデューサーさんと一緒じゃないとヤダ、って……」

高木「うん?」

高木「フ~ム……気持ちは分かるが、彼も今や我が事務所のキーマンだからねぇ」

高木「あぁいや! もちろん、他の皆も765プロの大切な一員であることに変わりはないのだが……」

高木「彼が不在の間、彼の代わりになれる者もいないしねぇ」


律子「社長が代わりにプロデューサーをやるというのはいかがですか?」

高木「わ、私かねっ!? ちょ、それはいかん!」

美希「えーっ、社長なんだから何でもできるんじゃないの?」

高木「美希君、世の中には適材適所という言葉があるのだ。
   社長に向いている人間もいれば、プロデューサーに向いた人間もいるのだよ」

小鳥「実は昔、社長自らプロデューサーを兼務していた時期もあったんですけど、
   ご挨拶に行った相手方にお茶をこぼしたり、つい失礼な事を言ったり……」

高木「こらっ、音無君やめたまえ!」


高木「ウォッホン! とにかく、旅行にはアイドル諸君らだけで行ってきなさい」

春香「ちぇー、皆で行きたかったなぁ」

美希「ムー……何か良い方法無いの、ハニー?」

P「お、俺に聞くなよ。社長がああ言ったんだし、諦めてくれ」



小鳥「………………!」ティン!

11月22日

 ねぇ、ハニー? 明日はミキの誕生日なの。

 ということで、ミキと旅行に行くんだったら、どこがいい?

 海かなー、山かなー。

 すっごく人里離れたところで、キャンプとかも楽しそう。

 ハニーの車で、いっぱい荷物つんで、音楽はミキが持ってきてあげるの。

 あっ、でもミキはテントとか作れないから、ハニーがやってね?

 火も起こせないから、ミキは食べる専門でがんばるの。

 それで、夜は星を見ながら、二人の将来について話し合ったり……

 とってもロマンチックでしょ?

 社長はああ言ってるけど、ミキがもっとお仕事して、たくさんホメてもらえれば、

 きっとミキのワガママもゆるしてもらえると思うの。

 エラくなったミキが、ほら、「お願いします」って言えば、ねっ?

 だから、いつか絶対行こうね。

 響の言ってた、沖縄でもいいな。

 世界の中心、って言ってたビーチの、場所だけ教えてもらおうかな。

~朝、765プロ事務所~

美希「ふんふふーん……♪」カキカキ…

美希「出来たの! アハッ、早くハニー来ないかなぁ」ワクワク



ヤイノヤイノ…

美希「ん?」

美希(更衣室から声がするの……小鳥かな?)

テクテク…



美希(…………)ソォー…



小鳥「いや、律子さんも持ってた方が良いですって。
   例えば私みたいに、財布の中とかに忍ばせておくとか……」

律子「何を言ってるんですか! そ、そんなふしだらなものを……!」

小鳥「ふしだらとかじゃないですって! 何かあってからでは遅いんですよ」

小鳥「ウチだって、いつプロデューサーさんが野獣と化すか分からないんですから」



美希(……何の話?)

おいクソ鳥おまえ…

律子「そ、そんな……確かにあの人は、ちょっと変態かもって思う時もあるけど、
   いきなりそんな、そこまで変な事…!」

小鳥「男はオオカミなのよ、気をつけなさい!」

律子「えぇっ!?」

小鳥「この人だけは、大丈夫だなんて、うっかり信じたらダメ! ダメダメよ!」


律子「こ、小鳥さんは、男の人からオオカミみたいに、襲われた事あるんですか!?」

小鳥「いいえ、一度も」キリッ

小鳥「うわぁーーん!! 何で皆私を食べようとしないのよぉーーっ!!」ブワワッ!

律子「た、食べられたいのーっ!?」


律子「と、とにかく! アイドルの子達には絶っ対に見せないでくださいね、ソレ!」

律子「あの子達がそういういかがわしい事に興味を持って、
   もしもの事が起きたら大問題ですよ!?」

小鳥「そ、それは分かってます!
   ただ、彼と接する機会の多い律子さんは、真面目な話持ってた方が良いと思…」

律子「結構です!! 私とプロデューサーはそういう関係にはなりませんから絶対っ!!」

小鳥「ひぃっ! す、すみません……」

律子「まったくもう……」ガチャッ

美希「キャッ……!」ヨロッ

ドテッ

律子「!? み、美希! あんた何でこんな朝早くに!?」

美希「あいたたた……いきなりドア開けるなんてひどいの」


律子「ひょっとして、今の話聞いてた訳じゃないわよね!?」

美希「えっ!? い、いやあの、ミキ何の話だかサッパリ……」

美希「あっ……」


小鳥「? …………あっ!」ササッ!

美希「! そ、ソレ、ひょっとして……!」

美希「お、男の人とあ、アレする時の……ご、ご、ゴ……!?」ワナワナ…!

律子「な、なぁんでもないのよ!? いいから事務室に戻りなさい、さぁ!!」

ガチャッ

P「おはようございまーす」

一同「やいのやいの!!」

P「う、うおぉっ!? 何だ、朝から何を騒いでいるんだ!?」


律子「あっ、プロデューサー!! またタイミングの悪い時に……!」

P「おはよう律子。一体どうしたんだ?」

律子「いいからプロデューサーはあっちに行っててください! 何でもないですから!」グイィ~

小鳥「ここは女子更衣室なんですから、中に入っちゃダメですー!」グイィ~

P「わ、分かりました。分かったからそんな押さないでくれって」

ドタドタ…



美希「………………」ボーゼン…



美希「……? あ、小鳥財布落としてる……」スッ

美希「へぇ……小鳥くらいのトシでも、あまりお金持たないんだね」



美希「…………!?」ピクッ



―――例えば私みたいに、財布の中とかに忍ばせておくとか……



美希「こ、コレが……」ゴクリ…



美希「………………」キョロキョロ



美希「……………………」

小鳥「はいっ、コーヒー!」ガチャッ!

律子「はいっ、今日の仕事の資料!」バサッ!

P「ど、どうも……」

美希「小鳥、財布落としてたよ?」スッ

小鳥「あら、ありがとう美希ちゃん。悪いわね」


律子「それにしても、美希も良くこんな朝早くに起きられたわね」

美希「今日は朝イチでロケ地へ行くからね。一番乗りして、ハニーへの日記を書いてたの」

小鳥「あら、そうなの。まだ続けてるなんて、偉いわね」

P「最近は俺の方が急かされてて、大変ですよ」


小鳥「今日は美希ちゃん、プロデューサーさんと二人で行動するの?」

美希「うん、そうだよ?」

小鳥「ふぅん…………あら?」カタカタ…

美希「……どうかしたの?」


小鳥「今調べてみたんですけれど、今日のロケ地、随分人里離れた遠い所なんですね」

P「そうなんですよ、片道3時間近くかかるかもなぁ」

律子「何でも、担当のディレクターさんが社長の古いご友人らしいですね」

律子「社長が長期出張中だから、詳しいお話は聞けなかったんですけれど」

P「いや、別に疑うつもりも無いが……しかしまた急な依頼だよなぁ」

P「おっと、もうそろそろ出ないと。えぇと、書類はオーケー、忘れ物は無しっと」


P「美希、もう出れるか?」

美希「えっ!? うっ、うん……」サッ

P「? 何だ、今日は少し大人しいな」

美希「そ、そんな事ないよ! ねっ、早く行こう?」クイッ

P「あぁ、分かった」


P「それじゃあ音無さん、行ってきます。律子もよろしくな」

律子「はーい、お願いしますね」

美希「じゃーねー」フリフリ

小鳥「行ってらっしゃーい」

ガチャッ バタン

これは……


パンツ消えた

律子「さて、私も雑務を片付けなきゃ。
   まったく、誰かさんのせいで今日まだ何も出来ていないわ」カタカタ…

小鳥「す、すみません……」シュン…



小鳥「………………」

小鳥(…………ふ、ふふ……ふふふふ)


小鳥(計画通り……!)ニヤァ…!


小鳥(社長の古い友人である、某テレビ局担当Dからの急なオファー)

小鳥(しかし、それは私、音無小鳥の巧妙な罠だった)

小鳥(あらかじめ車のガソリンも抜き取って、メーターも弄っておいたし、
   そのうえ今日のルート沿いにはガソリンスタンドもロクに無いときてる)

小鳥(つまり……人里離れた奥地で今日、美希ちゃんとプロデューサーさんは二人ぼっち!)


小鳥(美希ちゃん……私の考え得る限りでの、最高の誕生日プレゼントを用意したわ)

小鳥(都会の喧騒を離れ、星空の下、二人だけで過ごすロマンチックな夜……
   想像するだけで鼻血が止まらないんですけどっ!!)


小鳥「……あぁーっ!! カメラ付けとくの忘れたぁっ!!」ガビーン!

律子「うるさいなぁもう!!」ガタンッ!

~車の中~

ブロロロロロ…

P「おいおい、本当にこの道で合ってるのかな……」

美希「…………」


―――男はオオカミなのよ、気をつけなさい!


P「美希以外にも、今日はたくさん有名芸能人が来るみたいだし……」

P「今日のディレクターさんは、相当ヤリ手のようだな」

美希「えっ、や、ヤリたい!?」ビクッ!

P「ちょっ、何言ってんだよ! ヤリ手、ヤ・リ・手!」

美希「あ、あぁ……ごめんなの……」

P「……うわぁ、だいぶ山深くなってきたな」



美希(ハニーも……女のコと、いやらしい事したい、って思うのかな……?)

美希(ミキは…………)


美希(ミキ……ハニーと、いやらしい事、したいのかな……)

P「おい、聞いてるのか?」

美希「へっ!?」ドキッ!

P「左を見てみろよ、すごい紅葉だぞ」

美希「えっ、あ……キレイ……」

P「まだ紅葉残ってるんだなぁ」


P「どうしたんだ? 何か今日、様子が変だぞ?」

美希「ううん、別に……」

P「体調、あまり良くないのか? 少し熱があるんじゃないか?」

美希「な、何でもないっ!!」

P「!?」


美希「……ごめん、本当に何でもないから…………」

P「……そうか、ならいい」

P「一応、グルメレポートもあるみたいだから、食欲が無いとかわいそうだと思ってな」

美希「ありがとう……」


ブロロロロロ…

ブロロロロロ… キキィッ

P「この辺りのはずなんだが……」

美希「何か……人がいる気配しないね」

P「廃墟、のようなものしか無いが、本当にここでグルメレポートをやるのか?」



P「……時間になったのに、誰も来ない」

美希「集合場所、間違えたんじゃないの?」

P「いや、それは無い。送られたルート通り来たし、位置検索したらここになるもの」サッ

美希「あっ、ホントだ」


P「…………」ポパピプペ…


P「…………」

P「…………」


P「……先方の担当者にかけても、一向に出ないな」

P「ちょっと、事務所に電話してみるか。先方の方でも確認してもらおう」ポパピプペ…

美希「うん」

~765プロ事務所~

春香「へぇー。今日は美希とプロデューサーさん、遠くの現場まで行ってるんだぁ」

雪歩「グルメレポートだって言ってたよ」

貴音「何と! それは真ですか、萩原雪歩!」クワッ!

響「わわっ! 貴音、グルメって単語に敏感すぎだぞ」


小鳥「ふふふ……」


プルルルルル…♪

小鳥(おっ、来たかな)

ガチャッ

小鳥「はい、765プロですー」

小鳥「あぁ、プロデューサーさん、お疲れ様です。どうかしたんですか?」


小鳥「えぇっ、誰もロケ地にいない!?(迫真)」

小鳥「ちょ、ちょっと待ってくださいね、先方さんに確認します!
   電話番号は……あ、あった!」

小鳥「じゃあ、一度電話を切りますね! また折り返します!」

ガチャン

~とある山奥~

P「…………」

美希「何だって?」

P「先方に確認して、折り返すって」

美希「あ、そう」プラプラ…



プルルルルル…♪

P「お、早いな」ピッ!

P「もしもし……あぁ、音無さん。どうでしたか?」


P「何ですって!? 嘘の依頼だったぁ!?」

美希「!?」ビクッ!


P「ちょ、ちょっと待って……なっ、く、961プロのっ!?」

P「くっ……まんまと連中にしてやられた、という事ですか、くっそ……」

P「とにかく、状況は分かりました! とりあえず、今日はこれで帰ります」

P「いえいえ、それでは失礼します。お疲れ様でした」ピッ!


P「どうやら961プロの罠だったらしい。ロケの依頼は嘘だったそうだ」

美希「えぇっ!?」


P「以前にも、響のロケの時、ひどい事をされたからな……また汚い手を…!」ギリッ…!

美希「しょ、しょうがないよ! とにかく、今日はもう帰ろう?」

P「あぁ、そうだな……」

ガチャッ バタン

P「やれやれ、とんだ災難だ……」

美希「帰ったら、961プロに怒らないとね」

P「そうだな。しかしあの社長のことだ、何か狡猾な手を使ってこちらの抗議を…」カチャッ

ブキキキキキ キュルキュルキュル…


P「…………?」

ブキキキキキ キュルキュルキュル…



P「あ、あれ……?」


キュルキュルキュル… プスンプスン…



美希「どうしたの?」

P「エンジンがかからない……」

美希「えっ」

~765プロ事務所~

小鳥「ガス欠になったですってぇ!?(迫真)」ガタッ!

小鳥「そ、それで今はどこに……あ、あの嘘だったロケ地の場所ですね!?」

小鳥「分かりました! とにかく、すぐに救援をお願いしておきますから!
   それまで美希ちゃんをよろしくお願いします!」

ガチャン


小鳥「…………えぇとえぇと……」パラパラ…

春香「小鳥さん、どうかしたんですか?」

小鳥「プロデューサーさんが、ロケ先でガス欠になっちゃったらしいのよ」

雪歩「えぇ、本当ですかっ!?」

小鳥「律子さんは今日一日出かけてるし……
   保険会社のコールセンターに連絡して、来てもらうように手配しなきゃ」パラパラ…

響「自分もなった事あるぞ。山奥で待たされるの、すっごく不安になるんだ」

貴音「心配ですね……」


小鳥(まっ、電話すればそうかからない内にロードサービスが来るでしょう)

小鳥(車にはそれなりにサバイバルできる道具もこっそり積んであるし……
   夜明け頃を狙って着くように手配しとけばいいかな、ウシシ♪)

~とある山奥~

P「……保険会社に連絡したけど、ロードサービスがいつ来れるのかは分からないそうだ」

美希「そうなんだ……」


P「………………」

美希「………………」



ピー ヒョロロロロロロ… サラサラ…



P「……何か、ジッとしててもアレだし、どっかその辺歩いてみるか?」

美希「うん、そうだね。せっかくだし」

ザアァァァァァァ…!

美希「わーっ! ハニー見て見て、すっごいキレイな川!」

P「苔で滑りやすいから気をつけろよ」

美希「ほら、あそこ! お魚がいーっぱいいるの!」

P「どれどれ。おお、本当だすごいな」


美希「どうにかして取れないかなー」

P「食いたいのか?」

美希「食べたいっていうより、捕まえてみたいだけ。アハッ!」

P「うーん……俺はどっちかと言うと、森林浴を楽しみたいんだけどなぁ。
  川遊びはもう寒いだろうし」

美希「えー、ハニー、釣り竿とか持ってきてないの?」

P「持ってきてる訳ないだろ。そもそも持ってない」

美希「ちぇっ。まぁいいや」スッ


パチャパチャ…

美希「ひゃー、冷たいの!」

P「おいおい、そんなに屈んでると危ないぞ」

美希「平気平気、それよりほら、お魚が集まってきたよ?」パチャパチャ…

P「おぉ~……」


美希「えへへ、かわいいの」

美希「カモ先生も、ここに連れてきたら喜ぶかなぁ?」

P「結構、流れが急だから、さすがにカモ先生はあまり泳げないんじゃないか?
  そもそも連れてきちゃダメだろうけど」

美希「えーっ、そういう言い方つま…」

ズルッ

美希「!? キャ……」

P「!!」

ドボーン…!


P「み、美希っ!!」

バシャアッ!

美希「~~~!! ぷはっ!」

美希「がっ、ぷぁ…! た、助けて……!!」バタバタ!

P「美希、しっかりしろ!! 今行くぞ!!」バッ!


美希「あ、足が着いたの」

P「!?」

どぼーん…



ザバーッ…

P「…………あのな、お前そういうのはもう少し早く言えよ」

美希「ぷふ、アハハハハハ!! ハニーびしょ濡れなの、おっかしい!」

P「うるさいっ!! そういうお前こそ、びしょぬ……」

美希「?」


美希「…………きゃ、エッチ!! ヘンタイさんなのっ!!」ポカッ!

P「いたっ!! みっ、見てない! 俺は何も見ていないぞ!」

パンツ吹っ飛んだ

美希「………くしゅんっ!」ズズ…



ゴソゴソ…

P「なぜか車の中に、ライターと毛布があった」


P「この辺りで、火を起こすか。枯れ木、こんな感じかな……」ガサガサ…

カチッ カチッ

美希(うわぁ……何だかキャンプみたいなの)



メラメラ…

P「よし……大丈夫かな、もう消えないみたいだな」


P「…………」ヌギヌギ…

美希「…………えっ!?」ドキッ!

P「服を乾かさなきゃ。お前も、確かトレーニングウェア持ってきてただろ?」

美希「う、うん、一応……」

P「車の中で着替えてこい。で、脱いだらこっちで乾かそう」

美希「はいなの……」

メラメラ… パチッ…!

P「ふぇっくしょい! ……あぁ~、毛布だけだと寒いなぁ」ズズ…

P「…………」カチカチ…

P「携帯も壊れたか……まいったな、本当に」


ザッ…

P「ん? おっ、着替えたか」

美希「ハニー……」

P「どうした?」


美希「上着とかはいいけど……下着は、その……」

P「! あ、あぁ……いいよ、見られるのが嫌なら、無理に乾かさなくても」

美希「ううん、えっと……」

P「……?」


美希「やっぱ、いい……」

P「へっ……いいって?」

美希「乾かす」

パチッ! パチッ… メラメラ…

美希「………………」

P「………………」


美希(子供っぽい、って、思われちゃってるかな……)

美希(もっと、大人っぽいの、着てくれば良かった……)


P「日が暮れてきたな……」

美希「うん……」



グゥ~~…

美希「あっ」


P「…………」

美希「…………ッ」プイッ!



P「……あ、そうだ、昼飯用のおにぎりがあったんだ。食うか?」

美希「えっ?」

P「はい」スッ

美希「……ありがとう」


美希「…………」モグモグ…

美希「……おいしいの!」パァッ!


P「美希は本当におにぎり好きなんだなぁ」

美希「うん! 人類の偉大な発明って思うな」

P「はははは」


P「あっ、もう一個あるぞ。ほら」スッ

美希「やったー! ……ハニーのは?」

P「俺はあまりお腹空いてないからいいよ」

美希「…………」


美希「半分こしよ?」

P「えっ?」

美希「はぁ、おいしかったの~」ホッコリ

P「あぁ」


メラメラ…


美希「星、キレイだね……」

P「あぁ」


美希「皆、心配してるかなぁ?」

P「そうだな……律子なんか、たぶんテンパってるだろうなぁ。
  予想外の事態には結構弱いから、あいつ」

美希「そうなの? 律子、さんって、あの二人何してるんだーって、怒ってそうだけど」

P「意外と気弱な面もあるんだよ」

美希「ふ~ん……」



美希「ねぇ、ハニー……?」

P「ん?」


美希「寒いから……もっと、近くにいってもいい?」

P「えっ? あ、あぁ……」

美希「…………」

ズリズリ…


ファサッ

P「!? お、あれ、俺の毛布の中……」

美希「……えへへ、これでお互い寒くないでしょ?」モゾモゾ…

P「…………うん」


メラメラ… メラメラ…



P「美希は、どうしてアイドルをやりたいと思ったんだ?」

美希「んー……最初は、友達に勧められたの。
   ミキ、胸もおっきいし、顔もかわいいから絶対いけるよ、って」

美希「それに、テレビとかで楽しくお喋りしたり、歌うたったりしてお金もらえるなら、
   ラクでいいなーって」

P「ふーん……」

美希「でも、今は違うよ?」

美希「ミキは、ハニーの喜ぶ顔が見たいから、お仕事頑張るの」

美希「ミキに、一生懸命に何かをやる事の楽しさを……
   一生懸命になれるものを教えてくれた、ハニーへの恩返しがしたいから」

美希「ハニーが喜んでくれるなら、ミキ、どんなお仕事でもしたいの」

美希「あっ、エッチなお仕事はナシでね?」

P「…………そうか」


美希「ハニーは、何でプロデューサーになろうって思ったの?」


P「うーん……口で言うのは難しいんだけど……」

P「誰かの夢を、叶える仕事がしたかった、んだなきっと」

美希「誰かの夢を?」

美希「何で、自分の夢じゃないの?」


P「個人的な夢も、無かった訳じゃない」

P「具体的なものはあまり無いけど、たとえばひと山当てて億万長者になりたいとか、
  マイカー、マイホームを買って幸せな家庭をーとか……」

P「えーとあと何だ、いつか世界一周もしたいなーとか。まぁよくある夢だよ」

P「でも、ある時にそれが無理だと分かったんだ」

美希「そんな簡単に諦めちゃったの?」

P「俺には無理だった、って分かる時期があるんだよ、男には」

美希「えぇー……もったいないの」


P「とにかく、自分の夢が無理なら、出来る限り誰かの夢を応援する仕事がしたいと思った」

P「そこで目についたのが、アイドルのプロデューサーという仕事だったんだ」

P「目をキラキラさせて、いかにも私夢があります! ていう子達がいっぱいいるからな」


P「ただ、俺が入った事務所に、全然目が輝いていない子が一人いてな」

美希「それ、ミキでしょ?」

P「俺のやりたい事を……夢を応援したいという思いを、馬鹿にされてる気がして……
  つい、ムキになってな」


P「お前の言っていたとおり、価値観をお前に押しつけるような事をしてしまった」

美希「ううん、全然! ミキ、何も悪く思ってないよ?」

美希「ミキこそ、ハニーの気も知らないで、勝手にウザがっててごめんなさいなの」

P「いや、俺の方こそ……」

P「本当は、少し不安に思う時もあるんだ」

美希「えっ?」


P「美希には、色々な才能がある」

P「アイドルという、限られた可能性だけを見せて、それに没頭させてしまって、
  果たして本当に良かったのか、って」

P「これを一生懸命やれっ! って、結果的に強要させた事が、
  本当にこの子にとって幸せなことだったのかな、ってさ」

美希「そんな事ないっ!!」


美希「ミキは、アイドルが本当に楽しいからやってるの!」

美希「好きじゃなきゃ、こんなに一生懸命やってないの!」

P「俺のために、ってさっき言ってただろ?」

P「俺がいなくなっても、アイドル続けたいと思うのか?」

美希「えっ!?」


P「……思うのか?」

美希「お、思うの! ハニーが教えてくれたものだもん、続けるに決まってるの!!」

P「……そっか」ニコッ

美希「!」パァッ…!


P「どうやら、俺が自意識過剰だったみたいだな」

美希「えっ?」

P「ちゃんと、俺が関係無くなってもアイドル続ける意志があるって聞けて、安心したよ」スクッ

スタスタ…


美希「ちょ、ちょっと待って、そうじゃないの! 勘違いしないでよ!」スクッ

美希「ミキ、ハニーが好きなの! 大好きなの!!」

P「好きにならなくていいよ」

美希「!?」


美希「な、何でそんな事言うの!?」

P「俺が好きじゃないから」

美希「!!」

P「いや、もちろん好きは好きだけど、年齢が違い過ぎて、ラブの方にはならない」

美希「み、ミキが子供っぽいから……?」


美希「ミキは子供じゃないの!!」

美希「今日は、たまたまダサい下着だったけど……
   もっと、もっとすごい下着、持ってるんだよ!?」

美希「胸だって、知ってるでしょ!? 大きいの、こんなに!!」

美希「そ、それに……それにっ!」


美希「な、何されてもいいように……こ、こういうのだって……」スッ…

P「?」

美希「ちゃ、ちゃんと……持ってるんだから……!」プルプル…


P「…………お前……!」



美希「もう…………子供じゃ、ないの……」プルプル…

美希「………………」プルプル…



P「…………」スタスタ…

美希「ひっ……は、ハニー……」


P「………………」



バチンッ!

美希「!?」


P「……二度と男に軽々しくそんなものを見せるな」



P「風邪ひくぞ、車の中に入れ」スッ

スタスタ…



美希「ひっぐ……ひっぐ……う、うっ!」ガクッ

美希「うああぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁ……!!」ボロボロ…

リーン… リーン…


P「………………」



美希「………………」



P「ごめんな」

美希「えっ?」

P「痛かっただろ?」


美希「…………うん」



P「お前には、邪な気持ちで、アイドルを続けてほしくないんだ」

P「俺の事なんてどうだっていいから、自分の気持ちを大切にしてくれ」

美希「………………」


P「おやすみ」ゴロン



美希「…………自分の気持ちだもん……」ボソッ…

~翌朝~

チュン… チュンチュン…

美希「…………う~ん……」



コンコン…

美希「……?」モゾ…


スタッフA「おはようございます、765プロさんのお車でよろしいですか?」

美希「ふぇっ? ……あ、は、はい」

スタッフB「ロードサービスでまいりました」

美希「ロードサービス……あっ!」ガバッ!


美希「ハニー! 車の人が来てくれたよ!」ユサユサ…



美希「ねぇ、ハニー、起きてってば! 車屋さんが…」ユサ…

ゴロン…

美希「き、て……」



美希「!? ひっ……」

P「……………」ツー…



スタッフA「どうされましたかー?」

ガチャッ

スタッフA「!? なっ……だ、大丈夫ですか!?」


スタッフB「た、大変だ! 鼻から血が……口の中からも!?」

スタッフA「すみませーん、分かりますかー!? 分かりますかー!!」ペチペチ!

スタッフB「ひどい高熱だ! と、とにかく救急車を!!」

スタッフA「こんな山奥では、いつ来るのか分からない! 俺達で病院へ運ぼう!!」


美希「あっ、あ…………あっ……!」ガタガタ…

ガチャッ ドサッ

スタッフA「あなたも、ついてきてもらえますか!?」

美希「えっ、あっ? は、ハニー……連れてかないで……!」

スタッフB「えぇ、一緒に行きましょう。早く車の中へ!」


美希「ハニー……ハニー……!!」ボロボロ…

~765プロ事務所~

真美「わぁーい! いおりんロケット、ギュイ~~ン!!」ドタドタ…

亜美「いおりん大宇宙~!!」ドタドタ…

伊織「だから、ロケットじゃなくてプライベートジェットって言ってるでしょ!
   こら、待ちなさーい!!」ドタドタ…


律子「あーもう、うるっさいわね朝っぱらから!」

律子「プロデューサー達とは、まだ連絡が取れないんですか?」イライラ…

小鳥「あ、はい、あの……ロードサービスが迎えに行っていますから、
   間もなく来るのかなーって」


律子「私は何であの二人が連絡をよこさないのか聞いてるんですっ!!」

小鳥「ひっ!?」ビクッ!

プルルルルル…♪

律子「あっ!」

小鳥「わ、私が出ます!!」バッ!

ガチャッ!

小鳥「はい、765プロです!」


小鳥「? は、はい、そうですけど……」

小鳥「…………えっ」



小鳥「…………はい……分かりました」


ガチャン


律子「あの二人からですか? どうしたんですか?」


小鳥「ぷ、プロデューサーさんが……」

小鳥「倒れた、って……病院から…………」


………………

………………………

………………………

………………


ゴォォォォォォ…



ポォーーン…

『Ladies and gentlemen.
 The seat belt sign has just been turned off.』

『For your own safety , please keep your seat belt fastened at all times
 as a precaution against any sudden turbulence.』

『Those passengers who wish to use their blankets are asked to fasten
 thier seat belts over the blanket.』



千早「………………」

ノシ ノシ ノシ…

男「…………」ノシノシ…


ドンッ

男「Oh, sorry.」

千早「Sure.」


男「…………」ドカッ

千早「………………」


男「……Hmmm? Hey. Hey you.」

千早「……?」

男「You are Chihaya Kisaragi, right?」


千早「No, I'm not Chihaya.」

男「Really? But you look like her very much.」

千早「Her face is so ordinally, the same as mine.」

男「I don't think so. You are very beautiful.」

千早「Thanks. You too.」

男「HAHAHA. You are kidding me.」


千早「Excuse me, can I have a blanket?」

CA「Sure, please wait a minute.」


千早「Sorry, I'm a little tired.」ゴロン

男「Okay. Bless you.」

千早「Thank you. You too.」


CA「Here you are.」スッ

千早「Thanks.」



千早「………………」モゾモゾ…

男「………………」



スッ…

???「………………」



男「……?」

男「What's wrong, lady?」


男「Huh? Do you want to change your sheet and mine?」


男「Oooh, you are her friend? Uh-huh, I've got it.」


男「Okay, wait a minute…」ゴソゴソ…



男「Yes. Here you are.」

???「ありがとうございます」ペコリ

男「You're welcome.」

ギシッ…



千早「…………?」モゾ…



貴音「お久し振りですね、如月千早」ニコッ

千早「し、四条さんっ!?」ガバッ!


千早「な、何で? さっきまで、違う男の人が座っていたはずなのに……」

貴音「あの殿方に、席を代わっていただいたのです」スッ

千早「へっ?」


男「GOOD LUCK! HAHAHAHA.」グッ!


貴音「ふふっ……」フリフリ

千早(四条さん、英語喋れたんだ……)

千早「四条さんも、ロスにいたんですか……今は、何を?」

貴音「それは、トップシークレットです」

千早(まぁ、そう来ると思っていたけれど……)

千早(でも、それにしても……)


千早「全然、変わらないですね。四条さん」

貴音「貴女は、以前よりもますます綺麗になりました」

千早「か、からかわないでください」

貴音「からかってなどいません。素直な気持ちを申したまでのこと」


貴音「異国の地での貴女の活躍は、把握しております」

貴音「貴女のような人が私の友にいることは、私にとって真、誇りです」

千早「そんな……私なんて、まだまだ未熟です」

千早「もっと色々な、耳の肥えた世界中の人達の心も動かせるようにならなくては」


貴音「そのために、ろさんぜるすを離れて、日本へ帰るのですか?」

千早「いえ、春香に呼ばれたんです」

貴音「なんと」

千早「実は……本当は今、ロスを離れたくは無かったんです」

千早「新しい曲のレコーディングを近々控えていて……
   なるべく、ボイストレーニング以外に余計な時間は割きたくなかったのですが……」

千早「春香からの電話を受けた時……すごく、強い意志を感じました」

千早「あの子があれだけ本気でお願いをするのは、余程の事だと思うから……」


貴音「春香は、私達の誰よりも、765プロの絆を大切にしていました」

貴音「彼女がかつての仲間達に、真剣な気持ちで声を掛けて回っているのなら……」

貴音「おそらく、その絆を確かめ合う場を、彼女が求めているのではないでしょうか」

貴音「あるいは、絆が壊れる危機にあるかのどちら、か」

千早「…………!」

貴音「案ずる事はありません、千早。私は、後者の可能性は無いと思います」

貴音「あれだけ数々の苦難を乗り越えてきた私達の絆が壊れることなど、
   そうありはしないでしょう?」

千早「では、何が?」


貴音「今はいなくとも、私達の皆にとって大切な人……」

千早「!」

貴音「そう……私にも、彼のために為すべき事が残されている気がしてなりません」

貴音「そう感じたからこそ、私も日本へ戻るのです」


千早「……プロデューサー、か…………」

千早「美希は、元気でいるでしょうか?」

貴音「そう遠くないうちに分かるでしょう。しかし……」

貴音「たとえ元気でなくとも、元気づけてあげるのが仲間というものです」ニコッ


千早「……ずるいです、四条さん。そう言われたら、何も言い返せないじゃないですか」

貴音「ふふっ……」

~街中~

ブロロロロロ…!

女P「………………」



―――俺の事なんてどうだっていいから、自分の気持ちを大切にしてくれ。


女P「そうよ、自分の気持ちよ……それでいいでしょう?」



―――そうやってプロデューサーさんの死から、逃げてるだけじゃないっ!!!


女P「違う!! これが私のやりたい事なのっ!」

女P「勝手な事言わないでっ!!」


ググッ…!


ブオォォォォォォォ…!!

キキィッ!

女P「くっ……はぁ………はぁ……!」



女P「…………?」

女P「ここは…………」



女P(あの人が入院していた、病院の前……)


女P(何で、こんな所に来たんだろう……)


女P「………………」



ブロロロロロ…

~病院~

コツコツ…

女P「………………」キョロキョロ…



コツコツ… ピタッ


女P「…………この部屋だったっけ」


女P「………………」スッ



女P(私、何をしているの?)

女P(こんな所に来て……何を期待しているの?)


女P(誰かを、探しているとでも……?)



ガラララ…

女P「…………」



少年「………………」ボーッ…



女P「………………」


コンコン…

少年「……?」

女P「…………こんにちは」


少年「……おばさん、誰?」

女P「おば……! ……お姉さん、って言ってくれる?」


少年「そこから先は、家族しかこの中に入れないからね? ガラス越しなら良いけど」

女P「えぇ、分かっているわ」

女P「無菌室には、それなりに馴染みがあるから」

少年「……やっぱり、知らない人だね」


女P「ごめんなさい。少し、この病室に縁があって、懐かしかったからつい……」

少年「そうなんだ……いきなりだったから、ビックリしちゃった」


女P「病気、辛いの?」

少年「白血病なんだ」

女P「…………」

少年「僕のは慢性だから、今のうちに薬で叩いておけば治るんだって」

女P「…………そう」

少年「でも、そのおかげでほら、僕、坊主になっちゃって……」

少年「それに、誰も面会に来ないから、毎日つまんないんだ」


女P「お父さんやお母さんは、ここに来ないの?」

少年「来るよ、たまに」

少年「でも、毎日朝から夜遅くまで、一生懸命働いているから、あまり来れないんだ。
   僕の治療代を稼がなきゃいけないから」

女P「………………」


少年「お姉さんが来てくれて、嬉しい。僕の話し相手になってくれる?」

女P「……えぇ、いいわよ」

~765プロ事務所~

律子「えぇ、そう……そうなのよ」

律子「……ありがとう、恩に着るわ」

律子「そうね、お願い……ありがとう、それじゃあ」

ガチャン


律子「961プロの冬馬君達も、春香と美希を探しに行ってくれるって」

小鳥「そうですか……二人とも、どこに行ったんでしょう?」

律子「一応、前にアイドルだった子達にも、一通り声掛けはしてみたけれど……」


律子「はぁ~……まったく世話が焼けるわ」ギシッ…

アイドルA「律子さん……」

律子「ん?」

アイドルB「プロデューサーと春香さん、どこかに行ってしまったんですか?」

律子「……どっちもただのお休み中だし、あなた達は何も心配しなくて大丈夫よ」ニコッ


アイドル一同「………………」



律子「……もう、隠しててもしょうがないか」


律子「ごめんなさい。やっぱり、あなた達にも話しておくわ」

アイドルC「えっ?」

律子「あの子の過去……それと、この事務所にいたもう一人のプロデューサーの事をね」


………………

………………………

夕食と風呂のため、2時間ほど席を外します。
残りは5分の2くらい。3時くらいまでに終われば良いかなと思います。長くてすみません。

いってらっしゃい
続きも期待しております!

あと80弱か、ガンバレ

続きが気になるww

支援!

名作確定

静かに待ってます

応援してる

期待してます、頑張ってください!

小鳥の精神が危なそうだな

年齢…

………………………

………………


医者「一口に白血病と言っても、大きく分けて二つの種類があります」

医者「すなわち、急性か慢性か、です」


医者「造血、つまり血を作る場というのは骨髄になるわけですが……」

医者「この骨髄で、造血機能を持たない悪性の未熟な細胞が増殖し、
   正常な造血幹細胞の働きを阻害することで、血液が作れなくなってしまうのが急性白血病」

医者「一方で、造血幹細胞が機能を保ったまま無秩序に増えすぎてしまい、
   ある時にそれらが急に悪性へ転化するのが、慢性白血病です」


医者「白血病が、血液のガンと呼ばれる所以ですね」

医者「まぁ、今のはどちらも骨髄性のものに関する説明でして、
   リンパ性だとまた少し違うのですが……」


医者「今回、患者さんが発症されているのは慢性骨髄性白血病になります」


高木「ち、治療は? 治る見込みは、あるのでしょうか……?」

医者「白血病の治療には、大きく薬物投与と造血幹細胞移植があります」

医者「薬物とは、いわゆる抗がん剤と呼ばれるものを投与して、悪性の細胞を壊します」

医者「この時、正常な造血細胞も巻き添えを食ってしまうのですが、
   正常な細胞の方が悪性のものよりも回復が早いのですね」

医者「そのため、一度細胞が失われた後、回復すると、正常な細胞の方が多くなります」

医者「これを一定のスパンで繰り返し行うことで、悪性細胞を根絶するわけです」

医者「ただ、抗がん剤による副作用もありますし、細胞が失われている間は
   感染症対策として無菌状態での管理が不可欠となります」


医者「というのが、急性の場合なのですが……」

律子「で、ですが……?」


医者「慢性の場合、悪性の細胞を壊すための抗がん剤治療というものが、
   急性転化後になるとあまり有効に働かないケースがほとんどなのです」

医者「そのため、増えすぎた造血幹細胞が急性転化する前、
   つまり慢性期に治療しておくことが非常に重要になってきます、が……」


医者「患者さんの場合……残念ながら、既に急性転化を迎えております」

高木・律子「……!!」

医者「そうなると、骨髄等の移植も視野に入れる必要がありますが……
   限られた時間の中で、ドナーが見つかるかどうかは不確定です」


医者「そもそも、骨髄移植という治療自体が患者さんにかなりの負担をかけるものです」

医者「何せ、免疫系の再構築を数年かけて行うことになりますから、
   そう簡単に行えるものではありません」

医者「成功率も、急性転化後である場合、決して高くはないのです」

律子「あっ……そ、そんな………」

高木「うむぅ…………!」


医者「当面は、抗がん剤を投与して経過を観察し、ドナーが見つかり次第、
   患者さんのご意向を伺います」

医者「いずれにせよ、急性転化後の長期生存例は少ないという事を、予めご承知おきください」



小鳥「私が……私が、あんなことをしたせいで……!」ポロポロ…

小鳥「私……何てことをっ!!」ボロボロ…

高木「よしなさい、音無君。彼は既にそういう状態だったんだ、キミのせいではない」

小鳥「ううっ、えぅぅ、ううぅぅ……!!」ボロボロ…

~病室~

P「おぉ、花持ってきてくれたのか、ありがとう」

春香「…………」

P「ははは、何て顔してるんだ。心配するな」


P「あ、そうだ。美希にこれ、渡してくれないか」スッ

P「しばらく預かっていたままだったからな。あいつも続きの日記、書きたいだろうし」


春香「……プロデューサーさん」ジワァ…

P「泣くなよ、美希にもよろしくな」


春香「…………」ペコリ

ガラララ…



P「………………」

P「日記も、やめた方が良かったかな……」

小鳥さん・・

12月19日

 美希、元気か?最近顔を見ていないから、心配だ。
 仕事やレッスンには、ちゃんと行っているか?いつも俺が付いていたが、たとえ律子の
手が回らない時でも、ちゃんとトレーナーや現場のスタッフさん達に失礼が無いようにす
るんだぞ。
 皆も俺の見舞いに来てくれるのは嬉しいが、そんな暇があったら、もっと仕事を頑張っ
てほしいのが本音だ。俺なんかのために、余計な時間を割いてほしくない。冷たい言い方
で申し訳ない。
 俺はあくまで皆のプロデューサーだ。仕事上の付き合いなんだ。だから、必要以上に付
き合ってもらわなくて良い。
 俺が皆にとって、大きな存在になりすぎていない事を祈る。

~とあるラジオ局~

美希「………………」ペラッ…

春香「美希……」


パタン…

美希「本番、始まるの……もう行くね?」

春香「う、うん……」


美希「ハニー、知ってたんだね」

春香「えっ?」

美希「自分が、もう長くないって事……
   だから、俺の事なんてどうだっていいとか、そういう事、言ってたんだ」

春香「………………」


コンコン

スタッフ「星井さーん、そろそろご準備の方お願いしまーす」

美希「はいなの!」

デッデレ デンデレ デレ―ン!! ♪

『星井美希の、ロイヤルハニーフラッシュー!!』アッフゥーン!


美希「どうもー、ラジオの前の皆さんこんばんはなのー! ミキだよー!」

美希「今日も元気いっぱい! 楽しんで皆のお便り読んでいくからよろしくねー!
   夜食用のおにぎりの準備はいいかなー?」


美希「はい。それじゃあ最初のお便りは、ペンネーム『アラブのラー油王』さんから!」

美希「星井美希さん、こんばんは。はい、こんばんはなの!」

美希「実は、私は先日恋人とケンカをしてしまいました……ふむふむ」


美希「大好きな竜宮小町が音楽番組に登場したのですが、その時間私は仕事だったため、
   恋人に録画を頼んだのです。うわぁ、ありがとう!」

美希「ところが、恋人が録画したのは竜宮小町ではなく、新幹少女が登場する別の番組。
   家に帰ってからそれを確認し、私は大激怒。あらあらなの……」

美希「ですが、恋人からは、そんなのどっちだって一緒でしょう、と居直られ、
   話は平行線のままです」

美希「一切口を聞いてくれる気配の無い恋人を見ると、私も歩み寄るスキがありません」

美希「美希さん、こういう時あなたならどうするのでしょうか? ムー……」

美希「ミキ的には、竜宮小町と新幹少女を一緒だって言い切っちゃう恋人さんも、
   正直うーんって思うけど……」

美希「あっ、新幹少女もすっごく良いユニットだよ? ミキもニューアルバム持ってるの」

美希「で、それは置いといて……
   たぶん、最初の投稿者さんのお願いの仕方も、見直してみたらいいんじゃないかな」


美希「ミキもね、大切な人から教わったの。
   人にお願いする時は、それなりの態度っていうものがあるんだって」

美希「お願いの仕方がテキトーだったら、お願いされた方も、
   テキトーにしていいんだ、って思っちゃうと思うの」

美希「よっぽど大事なお願いなら、これからはちゃんとお願いしておくの!
   ってことでどう? もうちゃんとしてたらごめんね?」

美希「あっ、あと竜宮小町をそれだけ大事に思ってくれてありがとうなの!」

美希「というワケで、ペンネーム『アラブのラー油王』さんからのお便りでしたー」


美希「さてさて続いては……はいこちら! ペンネームは、えー『First Step細胞』さん」

美希「……このペンネーム、雪歩怒るんじゃないかなー、大丈夫かなぁ。まぁいいや」

美希「星井美希ちゃん、こんばんは。こんばんはなのー」

美希「実は私、近々大きな手術を受ける事になりました」


美希「………………」

美希「……胃についた、悪性のしゅよう? を取り除く手術で、時間もかなりかかるそうです」

美希「生きるか死ぬかの瀬戸際らしいですが、その前に美希ちゃんの声が聴きたくて、
   お便りを出しました」

美希「美希ちゃん、どうかこんな私に元気をもらえる言葉を一つよろしくお願いします」


美希「………………」

美希「ミキにもね……実は、そういう人が身近にいるの」

美希「いや……前はそうだったの。その人は、白血病っていう病気だったんだけど……」

美希「ミキが一生懸命お仕事して、勇気づけたら絶対治る、って約束して……」

美希「その人もミキも、すっごく辛かったけど頑張って、頑張って……」


美希「なんとなんと! 無事に治ったのー!!」

美希「今ではその人も、元気に皆のためにお仕事してて、夜もあまり寝ないで頑張って……」

美希「今のミキがあるのは、その人のおかげかなーなんて、アハッ!」

美希「でね? ミキが言いたいのは、諦めずに一生懸命やるのって、すごく大事ってことなの」

美希「結果を先に求めるんじゃなくて、たとえ辛くても、
   頑張る事に意義がある、って……最近になって、ミキも分かったの」

美希「だから……だから……!」


美希「投稿者さんも、うぅ……どう頑張ったらいいのか分かんないけど!」

美希「絶対に治るって、成功するって信じるの! お医者さんを信じるの!!」

美希「だって、何も悪い事、してないのに……死ぬのって、おかしいでしょ?」ポロポロ…


美希「えっぐ、ひっぐ……大丈夫なの、絶対治るの……」

美希「元気になったら……また、お便りちょうだいね?」


美希「うっ、う…………」

美希「ごめんなさい……感極まって泣いちゃったの」グスッ…


美希「はい! 以上、ペンネーム『俺の72がふるふるフューチャー』さんからの……」

美希「あ、あれ? 間違えた、違う人だったよね? まぁいいや、この人の読むねー!」

美希「ていうか何このペンネーム! 72って何なのなの、もー!!」

美希「ミキにも千早さんにも失礼って思うな! まったく、次からはやめてね?
   えーと、星井美希さん、こんばんは……」

~翌日、病院~

タタタ…

看護師「あっ、病院内では走らないでくださいねー」

美希「ごめんなさいなの!」



タタタ…

ガララッ!

美希「ハニー! 昨日のラジオ聞いてくれた!?」


美希「は、ハニー……?」



P「…………おう、美希」



美希「ハニー…………髪の毛……」


P「ラジオ、良かったぞ。泣いちゃった時はどうしようかと思ったけどな」

P「ははは……ケホ、ウェホッ……」

美希「………………」トボトボ…



美希「…………?」



P父「だぁから俺ぁアイツに言ってやったべ!?
   あの時大人しく治療さ受けてりゃこんな事になるはずねぇべした!!」

P母「お父さん、病院の中で大声出すのやめなさいってば。迷惑でしょう?」


美希「お……お父さん、とお母さん?」

P父「ん? あぁ、アイドル事務所のアイドルさん」

美希「星井美希、って言います……ハニ、プロデューサーには、お世話に…」ペコリ

P父「いーいっ! アイツのためにそんな事言わねぇでけろ」

美希「えっ?」


P父「慢性期の時にちゃんと治療さ受けてりゃ、今頃とっぐに治ってんだ白血病なんて」

P父「そう言ったっけあの馬鹿、俺の人生なんだから好きにさせろー!
   とか抜かしやがって……」

P母「それも何度も言ってるでしょう?
   貧乏な私達に、高額な治療費を一方的に負担させたくなかったんですよ、あの子は」

P父「なぁにが貧乏だべ!!
   てめぇの方がよっぽど貧しいくせに、生意気言う筋合いあんのかや!!」

P父「ん、おぉ悪い悪い」

P父「とにがぐ、あんな分からず屋なせがれの事はもう忘れて、あんたももうお見舞いは…」

美希「そんな言い方って、無いの……」

P父「あっ? 何すや?」


美希「あの人は……ハニーは、自分の最期の人生を、ミキ達に捧げようって……
   そう思って、765プロに来てくれたんだよ?」

美希「ミキ達の事、すっごく大事に思ってくれて……」

美希「お父さんが、自分の子供のことを、応援してあげないなんて、かわいそうなの!」

美希「お父さんなのに、ミキが大切に思っている人を、馬鹿にしてほしくないのっ!!」


P父「ちっ……あんの野郎、こんないたいけな子までたぶらかしやがったのか!!」ダッ!

美希「ち、違うのっ!! 勘違いしないで!」

P父「うるせぇー!! アイツの病室はどこだー!!」

P母「あなた、やめなさい! 落ち着いて!」

12月21日

 今日は、ハニーのお父さんとお母さんに会ったの。

 お母さんは普通に良い人だったけど、お父さん、キャラすごいね。

 なんか、なまりもすごくて、実はあまり言ってる事、良く聞き取れなかったの。

 でも、ハニーの事を悪く言ってる気がしたから、ちゃんと怒っておいたよ?

 でもでも、本当はちゃんとあいさつしたかったなぁ。

 実はね? ミキ、いつかハニーの両親に会った時のあいさつ、考えてたんだよ?

 どうか、ミキがちゃんとお仕事いっぱいしますから、ハニーをください! って。

 確か、こういう風に言うって、何かで見たの。

 でも、たぶんミキ、お父さんにきらわれちゃったよね。あーあ……

 ハニーの病気が治ったら、もう一度、ちゃんとあいさつに行くの。

 だから、がんばって治して。約束だよ?

~病室~

P「はっはっは。そうか、親父とお袋に会ったのか」

P「ビックリしただろ? 偏屈な親父なんだよ、気にするな」


美希「……ハニー」

P「ん? あぁ、この帽子か?」

P「良いだろこれ。響が編んで持ってきてくれたんだ」

P「ハゲて頭が寒かったからなぁ。いやぁ、これ被ってると暖かいんだ」

美希「あ、あの……」

P「……?」


美希「実は、ミキも……編んできたの」スッ

P「えっ?」


美希「初めて編んだから、響のより全然、カッコ悪いけど……」

P「あ、えと……」

美希「………………」


P「ありがとう、美希。見るとすごく暖かそうだ」

美希「ううん、いいよ。やっぱミキの、いい……」

P「そんな事ないよ、良くできて…」


ガラララッ!

響「はいさーい! お見舞いに来たぞー!」


P・美希「!?」

響「プロデューサー、自分が編んだ帽子はどう? 暖かいでしょ!」

響「あっ、美希! 美希もプロデューサーのお見舞いにき……」

響「あ…………」


P「…………」つ 響の編んだ帽子

美希「…………」つ 美希の編んだ帽子


響「あっ、う…………」

あちゃー、響はやさしいなぁ

響「……………………」

ポク ポク ポク ポク ポク ポク……


響「…………!」ティン!


響「あーっ! プロデューサー、何で自分の帽子持ってるんさー!?」

P「えっ?」


響「どっかで落としたかと思ったら、ここにあったのか!」

響「それを勝手に被ってるなんて、プロデューサー、ヘンタイも甚だしいぞ!!」バシッ!

P「へ、ヘンタイって……これ、そもそもお前がプレゼ…」

響「うるさいぞ!! これは自分が自分のために編んだものなの!」スポッ!

美希(大きさ合ってないの……)


響「プロデューサーは、そっちの美希が持ってきた方でも被ってればいいでしょ!」

響「ふんだっ! もうヘンタイプロデューサーの事なんて知らないからな!!」プイッ!

ガララッ ピシャッ!

タタタ…

響「はぁ、はぁ……!」


響「ふぃ~、我ながら迫真の演技だったぞ」

響「いやぁ危なかったぁ……それにしてもあれ、美希が自分で編んできたのかなぁ」

響「自分にも相談してくれれば良かったのに……」



美希「……響」

響「う、うわああぁぁっ!?」ビクッ!


響「な、何っ!? どうしたんだ美希! この帽子は自分のだからね!?」アタフタ…

美希「ううん、違うでしょ?」

響「うっ!」ギクッ!


美希「ハニー、すごく自慢してたの……響が自分のために編んでくれたんだって」

美希「それ被ってると、暖かいんだ、って」

響「う、うぐぐ……」

響優しいかわいい

響「ご、ごめん美希!」ガバッ!

響「自分、美希のジャマをするつもりなんて全然無かったんだ! 本当だぞ!」

美希「何で謝るの?」

響「えっ? いや、だから、美希がプロデューサーの事好きなのに、それをジャマして…」

美希「ううん、そうじゃないの」


美希「響、お願い……その帽子、ハニーにあげて」

響「えっ!? じ、自分が編んだヤツをか? でも、美希の帽子は……」


美希「ハニーには、ちゃんとしたのを被らせてあげたいの」

美希「ミキのは、全然ダメダメだったから……」

美希「でも、いつかちゃんとしたのを編んで、ハニーにプレゼントしたいの。だから……」


美希「ミキに、編み物を教えて」

美希「お願い……お願いします、響」ペコリ

響「!? うわ、な、何で頭を下げるんだよぉっ! やめてよ、美希ぃ!」アタフタ…


響「いよし! そういう事なら自分にドンと任せて!
  完璧な自分が、美希に完璧な編み物とお裁縫を教えてあげるさー!」

美希「うん!」

響は完璧だなぁ!

12月28日

 昨日は、あずささんと伊織が面会に来てくれた。病室の都合で、一度に一人ずつしか面
会できないし、白衣やマスクとかも付けてもらわなきゃならない。面倒をかけている。
 話を聞くと、すごく頑張っているそうじゃないか。アイドル・クラシック・トーナメン
トっていう大きいオーディションに、765プロを代表してエントリーしていたそうだな。
 最近は、テレビをボーッと見るしかやることが無いから、皆と話をするのは楽しい。こ
の間は、面会に来なくていい、って言ったばかりなのにな。本当に情けない。
 そうそう、一昨日は響達が来た。以前言っていた、沖縄のすごくキレイなビーチの写真
を見せてくれたんだ。いつか絶対に連れて行くから、って響は言ってくれた。何度も。
 先の話をされると、何でか少し辛い気持ちになる。そういえば、もう年末か。こんなに
めでたい気持ちになれない年越しは初めてだ。
 美希は、年末年始はどうするんだ?年越しも、そばじゃなくておにぎりなのか?仕事な
のかも知れないが、体は大事にしろよ。

~病院~

美希「………………」

P父「せがれは、あんたの日記を、すごく楽しみにしている」

高木「……状態は、良くならないのですか?」


P父「ドナーは見つかったのですが……せがれは、骨髄移植による治療を断りました」

P父「医者から提示された成功率が、決して高くなかったのもありますが、
   おそらく、せがれはもう自分の着地点を見定めているのだと思います」

P父「もう、長くはないでしょう……」

高木「……そうですか」

美希「………………」


P父「私には、もうどうすることもできない」

P父「もう……こうなった以上、せめて最期まで、アイツの望む事をさせてやりたいのです」


P父「せがれは、あんたの事をいつも気にかけていた」

P父「どうか……そばに、いでやっでぐんねぇか」


美希「………………」

ガララ…

美希「………………」



P「………………」ボーッ…


テレビ『……さぁ、正解が出揃ったようです! それでは、運命の瞬間!
    ドゥルルルルルルルル… デデン!』

テレビ『あーっと! 正解はC「シマウマ」! 生っすかチーム以外全員正解!
    天海春香率いる生っすかチーム、大きくブレーキです!』

テレビ『どうするんだよ春香! だからボクはずっとシマウマだって言ってただろ!
    だって、真以外は皆ライオンって言ったから……!』


P「はははは……」



コンコン…

P「…………?」


美希「ハニー……こんにちはなの」

美希「これ、春香達が出てるバラエティ?」

P「なかなか面白いんだ」


美希「病気……辛い?」

P「………………」

P「わはは……やっぱり春香はこういう番組だと光るなぁ」

美希「……うん。春香は、皆を笑顔にさせてくれるもんね」

P「あぁ、そうだな」


P「お、CMか……」



テレビ『青い空、白い砂浜、そして見渡す限りのエメラルドグリーンの海!』

テレビ『沖縄へ旅行の際は、ぜひ沖縄プラザホテルへ!』

テレビ『最高級のおもてなしを、あなたに』チャララーン♪



P「沖縄かぁ……」

P「この間、響が写真を持ってきてくれてなぁ」

美希「すっごくキレイなビーチってヤツのでしょ?」

P「そう……いやぁ、確かにキレイだったよ」

P「実際に見ると、もっとキレイなんだろうなぁ」

P「一度、行ってみたかったけどなぁ……」


美希「何で過去形になるの?」


美希「行こうよ」

P「えっ?」

美希「そこ、行こう?」

P「…………」


美希「もう、お仕事してないんでしょ? ヒマなんでしょ?」

美希「世界の中心、行こう」



P「…………あぁ、行くか」ニコッ

~夜、765プロ事務所~

伊織「それで、私にプライベートジェットを手配しろって言ってるのね」

美希「お願い、デコちゃん。デコちゃんにしか頼めない事なの」

伊織「だったらデコちゃん言うな!」

真「まぁまぁ伊織、非常時だからそこは穏便に、ねっ?」


伊織「まったくもう……でも残念だけど、プライベートジェットは無理よ」

伊織「今、お父様が北欧、お兄様が南米に行くのに使っているから、
   そうすぐには呼び戻せないわ」

美希「! そ、そんな……そんな事言ったって、ハニーにも時間が…!」

伊織「話を最後まで聞きなさい」


伊織「プライベートジェットが無理でも、水瀬家が株を持ってる旅行会社はたくさんあるのよ」

伊織「クラスを選びさえしなければ、株主優待と水瀬財閥のコネクションをフルに使って、
   たとえ年末年始でも、沖縄に行く便の座席を確保するのはそう難しい事ではないわ」

美希「!! で、デコちゃん……!」パァッ!


千早「問題は、どうやってプロデューサーを病院から連れ出すかだけれど……」

真美「あっ、それならね! パパから聞いたんだけど!」

真美「病院にもやっぱり新年のお休みってあるから、
   看護師さん達もお休みを取ってる、って言ってたような……」

亜美「もちろん、緊急の患者さんの窓口はお休みできないけどね!」

春香「いつもよりかは勤務するお医者さん達の人数が少ない、ってことかぁ」

貴音「それだけ手薄になる、ということですね」


律子「なーにを企んでるの、あんた達」ズイッ

雪歩「ひっ!? り、律子さん、小鳥さん……社長まで」

高木「私達にも、聞かせてもらえるかね?」


やよい「な、何でもないです! 何も悪いことしてないですよ!?」アタフタ…!

響「そうだぞ! ただプロデューサーを連れ出すのに最適な日を……モガモガ!」

真「と、とにかく! 律子達が心配するような事じゃないから気にしないでよ!」


あずさ「プロデューサーさんを、新年の日に病院から連れ出そうっていう計画を立てているんですよ~」

伊織「あ、あずさっ! せっかく隠していたのに何でバラすのよっ!」

あずさ「あら~、律子さん達だけ仲間外れにするわけにもいかないでしょう?」

小鳥「信用無いみたいですね、私達」

律子「はぁ~あ、まったく……私達が怒ると思って黙ってたんでしょう?」

美希「お、怒らないの?」

律子「怒るに決まってるでしょう?」


律子「でもまぁ、事情が事情だし……はいっ」バサッ

響「うおっ!?」

春香「……これは?」


律子「簡単だけど、病院の見取り図を作ったわ」

律子「プロデューサーの病室がココ……で、病院の出口がココ」

律子「プロデューサーの体力を考えると、なるべくエレベーターを使いつつ、
   最短ルートで出口へ行きたいところだけれど……」

律子「その場合、どうしてもこのナースステーションの前を通らなくてはならないわ」トントン


美希「あまり大人数でぞろぞろ歩いてたら、それだけで目立っちゃうの」

千早「少数精鋭で行った方が良さそうね」

伊織「でも、ここで待機している看護師の気を引くための、オトリ要因も必要よ」


「あーだこーだ……」

律子「それで……行く人間は、運転要員の私と、飛行機の手配要因の伊織」

律子「あと、途中看護師の気を引くオトリ要因の春香と響……で、美希ね」

春香「頑張ろうね、響ちゃん!」ガッツ!

響「ふふん、自分の演技は完璧だからな! なんくるないさー!」ガッツ!


律子「それと、最後にもう一度だけ確認するわ」

律子「私も少し勉強しただけだけど……今、プロデューサーにとって、
   免疫が著しく低下している状態で外出するというのは、自殺行為に等しいの」

律子「今回の沖縄行きが、そのまま致命的な病気を発症することに繋がって……
   最悪の場合、命を落とすことだって十分あり得るわ」

やよい「うぅ……」


律子「本当は、私の立場なら、あなた達を止めなくてはならないのかも知れない」

律子「でも……あの人が望むのなら、そうしてあげたいとも思うの」

律子「だから、美希……あなたが決めなさい。責任は私や社長が持つわ」

高木「うむ」

美希「………………」コクン



美希「……お願い、皆の力を貸して」

12月30日

 ハニー、元気?

 ハニーが事務所に来て、もう8ヶ月くらい経つのかな。

 いっぱい色々な事を教えてもらったし、すごく、ミキ的には成長できたって思う。

 本当に、たくさんの思い出をありがとう。

 それで、とつぜんだけど、元旦の日、ハニーを沖縄に連れて行くことにしたの。

 初日の出がのぼる前に、むかえに行くね。

~元旦の明け方、病室~

ガラララ…

律子「おはようございまーす……」

美希「……ハニー」


P「……美希」

P「お前の日記のおかげで、晴れやかな気分で年を越せたよ」

P「明けまして、おめでとう」

美希「……明けましておめでとうなの」

美希「今年も、よろしくね?」ニコッ

P「あぁ」


伊織「ぐずぐずしている時間は無いわ。早く出る準備をしなさい」

春香「うぅ……緊張で、心臓飛び出しそう……」ドキドキ…

響「うわぁ、すごい……外、いっぱい雪降ってるぞ」

ガララ…

律子「大丈夫ですか、プロデューサー。歩けますか?」

P「あぁ……大丈夫だ」ヨロッ…

美希「ミキに掴まって」



テクテク…

律子「ここを左に行った先が、ナースステーションね……」

春香「わ、私、ちょっと様子を見てきます」タタタ…

律子「あ、こら! もっと慎重に……!」



ササッ ソォーッ…

春香(えーと……今は、一人だけしかいないみたい)

春香(よぉし、ここで私と響ちゃんが上手く看護師さんの気を引かなきゃ)

春香(と、とにかく、一度戻って律子さん達に報告……)クルッ

ガッ!

春香「えっ? あ、きゃああああぁぁぁっ!!」

どんがらがっしゃーん!!

看護師「うわっ!?」ビクッ!


律子(は、春香っ!)

伊織(あんの馬鹿っ!! どうしてこんな大事な時にコケるのよ!!)


響「は、春香っ!! くっ……!」ダッ!

美希「あっ、響っ!」


春香「あいたたた……」

看護師「ど、どうかされましたか?」

春香「えっ? あ、あっ、いえ! あの、その……」ドギマギ…

春香「うっ、あいたたたたたっ! 今転んだから足が、足が捻挫を~~!!」

看護師「え、えぇぇっ!?」


ダダーッ!

響「大丈夫かっ、春香っ!!」バッ!

看護師「えっ、ど、どちら様ですか!? 面会の方ですか!?」

春香「あいたたたたたたっ!!」

響「春香、ちょっと自分に見せて……こ、これはっ!?」

響「た、大変だっ!! 心臓が複雑骨折しているぞ!!」

春香・看護師「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


響「大丈夫か!? しっかりしろ、春香ぁ!!」ユサユサ…

看護師「お、落ち着いてください! 心臓は骨折しませんよ!」アタフタ…

春香「あ、あいたたたた!! やっぱり心臓も何か痛いような気がしないでもないっ!!」

看護師「転んだだけなのにっ!?」


響「す、すぐに心臓マッサージをしなきゃ! 春香、仰向けに寝転がって!」ゴロン

春香「う~ん、う~ん……」

響「行くぞっ! えいやぁっ!!」ぼぐっ!

春香「おぼふっ!?」

響「春香ぁ、頑張れ!! 死ぬなぁ!!」ポロポロ… どむっ! ぼふっ!

春香「おうふっ! ぐふっ!!」

看護師「と、とにかく先生をお呼びしなくては……あぁ……!」オロオロ…

春香「く、くるひい……! 響ちゃん、もう少し手加減、ごふっ!! くるし…!」


タタタタ…

タタタ…

律子「早くエレベーターの中へ……!」

ウィーーン…


律子「ふぅ……とりあえず、大きな関門は越えたわね」

伊織「あの二人が馬鹿やってくれたおかげで助かったわ、本当に」


美希「もうちょっとだからね、ハニー。頑張って」

P「あぁ……うっ……」

美希「ハニー、大丈夫!?」

P「大丈夫だ……」

伊織「………………」



チーン!

ウィーーン…


律子「こっちよ」

タタタ…

響は完璧だなぁ~

律子「この通路を抜けて、扉を出れば……」タタタ…

ウィーーン…

律子「!?」ピタッ

伊織「ちょ、ちょっと! 急に立ち止まらな……!」



医者「ハハハ…」

警備員「ワハハ…」


伊織「何てこと……よりにもよって、ウチの車の近くで医者達が談笑してるだなんて!」

美希「そ、そんな……!」

P「…………どうする?」



律子「………………」チラッ

律子「……美希、あそこにタクシー乗り場があるわ」

美希「えっ?」

律子「あなたは、プロデューサーと一緒にタクシーに乗って空港へ向かいなさい。
   ここは私と伊織が引き留めておくわ」

伊織「わ、私もっ!?」

律子「他に有効な方法が無いのよ」

伊織「ひ、引き留めるって言ったって……!」


伊織「きぃーっ!! あーもう、こうなったら野となれ山となれよっ!」ダッ!

美希「あっ、デコちゃん! 走ったら危ないの、雪がっ!」


ザクザク…!

伊織「いま~~……!!」ザクザクザク…!

伊織「ダーイビィーングッ!!」バッ!

どしゃああぁぁっ!


医者・警備員「!?」ビクッ!


伊織「………………」ビチャビチャ…

医者「あ、あの……お嬢さん、大丈夫で…」

ガバッ!

伊織「大丈夫な訳ないでしょっ!? 何でこんな雪が積もってるのよ!!」

医者「うわぁ!?」ビクッ!

伊織「おかげで盛大に転んじゃったわよ!! どう落とし前つける気!?」

警備員「ちょ、ちょっとお客さん、落ち着いて…」


ザッ…

律子「遠目ではありましたが、今の一部始終を見ていました」キュピーン

医者「えっ、誰!?」

律子「私有地の中で除雪を怠ったことで、彼女のように損害を被る者がいた」

律子「これは、管理責任を問われても仕方が無いことですよね?」ギロッ

医者「うっ!? ちょ、ちょっと警備員さん、何か言ってやってよ」

警備員「わ、私はただ駐車場内の誘導だけを任されている身でして、
    除雪まではちょっと……道具も無いですし」オロオロ…


伊織「あなた達では話にならないわ。責任者を呼びなさい!」

医者「せ、責任者!?」

律子「院長の連絡先を教えてください。後は、私達がその人へ直接問い詰めますから」

医者「い、院長は年末年始でお休みを…」

伊織「お休みですって!? 急患が来たらどうすんのよ、何かあったら責任取れるの!?」

医者「いえっ、あの! ちゃんと緊急時の連絡体制は当然整っておりますので…!」

律子「今が緊急時なんじゃないんですかっ!」

タタタ…

美希「ハニー、こっちこっち!」

P「ちょっと……はぁ、はぁ、待ってくれ……」

美希「ごめんなさい……!」


ガチャッ バタン

美希「羽田空港まで、お願いしますなの!」

運転手「はいー、了解しました」

ブロロロロロ…



美希「……病院、抜け出せたね」

P「…………あぁ」

運転手「いやぁ、新年早々お出かけですか?」

美希「は、はい」


運転手「それも男女でねぇ。駆け落ちですか? わははははは!」

運転手「あっしも何度か経験がありますけどねぇ」

運転手「トシ取るとできないから、若いうちにいっぱいやった方が良いですよ。
    なぁんて! わははははははは!」

P「そうですね、ははは……」

美希「………………」


ブロロロロロ…



美希「ハニー……」

P「ん……?」


美希「ハニーのお父さんが、昔にちゃんと治療を受けてれば治ってた、って……」

P「………………」

美希「それを断ったのって、お金がいっぱいかかるからなの?」

美希「お父さんやお母さんに、迷惑をかけたくなかったからなの?」


P「それも、無いわけじゃないけど……」

P「薬で生かされる俺の人生って……何なんだろうと思ってな」


P「美希は知らないと思うが……昔の漫画で、こういう台詞があってさ」

P「たとえ火花のように一瞬だったとしても、閃光のように輝いてみせる。
  ……だったっけな、少し違ったかも知れない」

P「まさしく、そんなフレーズが頭をよぎったんだ」


P「俺の命は、人より短くなるとしても……」

P「大事なのは、その燃やし方なんだと思った……薬で生き長らえるよりも、きっと」



美希「………………」

ブロロロロロ… キキィッ

運転手「着きましたよ」

運転手「あぁ、お代はいいです。何やらお客さん達、ご事情があるようだし……」

美希「あ、あの……ありがとうございます」ペコリ

P「そう言わずに、受け取ってください。釣りはいらないから」スッ

運転手「あらら、いいってば……まぁいいや、毎度」

バタン ブロロロロロ…



美希「デコちゃんのメールを見ると……あっちかな」

テクテク…

まさかのポップ

~空港~

ガヤガヤ… ガヤガヤ…



テクテク…

P「はぁ……はぁ………」

美希「辛い、ハニー?」

P「はぁ…………はぁ………」


美希「……ここで、座って待っててね。今、手続きしてくるの」タッ

タタタ…

P「はぁ……はぁ…………」



美希「あのっ! 765プロの、星井美希です! チケットください!」

スタッフ「星井様ですね。水瀬伊織様よりお伺いしております」

スタッフ「大きなお荷物はございませんか?」

美希「ううん、無いです」

スタッフ「かしこまりました。では、こちら、チケットになります」スッ

もうすぐクライマックスだな・・

スタッフ「ご搭乗の15分前までに、こちらのBゲートで手荷物検査を受けてください」

スタッフ「そして、ご搭乗の10分前までに、57番の搭乗口までお越し願います」

美希「はいなのっ!」



タタタ…

美希「ハニー!」

P「…………あぁ」

美希「まだもう少し時間あるから、ここで座って待ってようね?」

P「………………あぁ」



美希「………………」

P「………………」



ガヤガヤ… ザワザワ…

美希「すごい人だね。元旦だからかな?」

P「………………」

ザワザワ… ザワザワ…


ザワザワ… エェー… ザワザワ…


美希「…………?」スクッ



『当空港ロビーでお待ちのお客様に申し上げます』

『ただいま大雪の影響により、当空港の滑走路の除雪が難航しております』

『気象庁の発表によりますと、大型の南岸低気圧が関東を直撃しており、
 本日いっぱい天候は変わらない見込みであります』

『そのため、誠に申し訳ございませんが、本日フライトを予定していた全線を
 欠航とさせていただきます』

『なお、チケットの払い戻しにつきましては……』


美希「……けっこう?」


美希「えっ…………」



【JAL 900  沖 縄  07:35  欠航  大雪のため】

美希「…………!!」ダッ!



スタッフ「えー、払い戻しの方はこちら一列にお並びくださ…」

美希「ちょ、ちょっと待って!!」ガバッ!

スタッフ「うわっ!?」


美希「何で!! 何で飛ばないの!?」

スタッフ「そ、それは先ほどもアナウンスで申し上げたとおり、大雪で…」

美希「ダメなの!! 何でもいいから飛んでよっ!!」ガシッ!


美希「今日じゃなきゃ、今日じゃなきゃダメなの!!」

美希「どうしても今日行かなきゃいけないのっ!! お願い、ねぇっ!!」ユサユサ…!


男「おい、うるせぇぞ! ちゃんと後ろに並べ!」ドンッ

美希「キャッ!」ドサッ!

美希「うっ、う……くっ……」グッ…


「あれ……おい、あれ星井美希じゃねぇ?」
「本当だ……」
「うわー、かわいい……」

ザワザワ…


美希「うぅ……は、ハニー…………」





P「………………美希……?」


P「どうした…………」フラッ


バタッ…



美希「!!! ハニーッ!!」

ダッ!

美希「ハニーッ!! し、しっかり!!」ガバッ!


P「飛行機………」

P「…………飛ばないのか?」


美希「……心配しないで」

美希「今、ミキが、交渉するから……!」

美希「待っててね。絶対……絶対、行けるようにするから……!」ジワァ…


P「そうか…………」

P「雪、すごかったもんな…………」

P「やっぱ……ダメか…………」

美希「………………ッ」グスッ…!


P「それじゃあ…………」

P「また……こんどだな…………」

P「……………………」


P「……………………」

美希「…………また今度じゃ、ダメなの」


美希「今日じゃなきゃ……この次なんて、無いんだってばぁ!」ポロポロ…

美希「ハニィ……やだぁ、ハニーッ!! うっ、うあぁぁぁ……!!」ギュウ…!



美希「………………」

美希「何で…………何で、みんな、見てるの……?」

美希「助けてよ……」

美希「お願いします……お願いだから、誰か……」

美希「助けてください……」


美希「助けてください……!」


美希「助けてくださいっ!!!」

美希「助けてっ!! 誰かっ!!!」ボロボロ…!


美希「助けてくださいっ!!!」


………………

………………………

………………………

………………


女P「そう……サッカー部のレギュラーだったのね」

少年「うん。なのに、病気のせいでロクに学校にも行けなくなってさ」

女P「病気が治って、またサッカーができるようになるといいわね」

少年「うーん……実は、そうでもないっていうか」

女P「えっ?」


少年「こんな生活を続けてるせいで、体力もすごく落ちちゃってるの、分かるんだ」

少年「どうせ戻れたとしても、レギュラーを取れるなんて思えないし、それに……」

少年「皆、この頭を見て馬鹿にするに決まってるよ……」

少年「だから、父さんや母さんには悪いけど……本当はもう、どっちでもいいんだ、治療」

少年「続けても、続けなくても……すごく、迷惑かけてると思うから……」

女P「………………」


少年「僕の話ばっかじゃなくて、お姉さんの話も聞かせてよ」

少年「お姉さん、社会人? どんなお仕事しているの?」

女P「……プロデューサーよ」

少年「プロデューサー?」

女P「アイドルを育てて、芸能界に売り込むの」

少年「へぇー、芸能界!? すごい!」

少年「それじゃあさ! 色々なテレビの人とか、有名な芸能人とも知り合いなの!?」

女P「多少はね。サインも何枚か持ってるわ」

少年「うわぁー、すっげぇ!! いいなぁ!!」


少年「そういう、芸能人の人達と知り合えるから、プロデューサーっていうのになったの?」

女P「いいえ、そうじゃないわ」

少年「えっ、違うの? じゃあ何で?」

女P「私が、やらなきゃいけなかったから」

少年「? ……嫌々、ってこと? 本当はやりたくなかったの?」

女P「ううん、そんな事ないっ!」

女P「私にとってすごく大切な人がいて……その人の夢を、かなえなきゃいけないから」

少年「どうして、そうしなきゃいけなかったの?」

女P「えっ……」


少年「その人と、約束したの?」

女P「……いいえ、していないわ」

少年「じゃあ、その人からそうしてほしいって、お願いされたの?」

女P「………………」


女P「…………ッ……」


少年「あっ……ご、ごめん」

女P「ううん、いいのよ」グスッ…


女P「そうね……君の言う通りよ」

女P「あの人が自分にどうしてほしいのか、知ろうともしないで……」

女P「勝手に、あの人のためにこうしなきゃいけないとか、思い込むなんて……
   本当、おかしいわよね……」

女P「挙句、その思いを自分の本当の気持ちとすり替えて、自分を見失うなんて……」

女P「………………」


女P「もうこんな時間……それじゃあ私、行くね?」スクッ

少年「あっ、うん……」


少年「お姉さんっ」

女P「?」

少年「今日は、来てくれてありがとう!」

少年「また、話をしに来てくれる?」

女P「えぇ、もちろんよ」ニコッ

少年「えへへ……待ってるね!」


女P「お大事に。それじゃあ」


ガラララ…



女P「…………ハニー……」

~お寺~

コツ コツ…

高木「えぇと……どこだったかな、彼のお墓は……」キョロキョロ

高木「おぉ、あったあった」



高木「フム……これは、ひょっとして黒井か?」

高木「墓に黒いバラなどと……気遣いなのか嫌がらせなのか分からんな」

高木「まぁいいか」



高木「キミがいなくなって、もう何年になるかな……」

高木「当時アイドルだった子達は、それぞれが皆自分の進むべき道を見つけ、
   もがきながらも頑張って走っているようだ」

高木「気づけば、ほとんどがもうアイドルではなくなった。
   寂しくないと言えば嘘になるが、我々は彼女達の巣立ちを応援すべきなのだろう」


高木「ただ……自分の道を見失っている子が一人、いるようなのだ」

高木「今日、ここに来なかったかね?」

コツッ…

高木「ん?」

高木「噂をすれば影、か……」



女P「……高木社長」

高木「律子君から話を聞いてね。そろそろ来るのではと思っていたところだよ」


女P「高木社長、私は……」

女P「私は、ひどい女なんです」


女P「彼のためなどと、自分を騙して納得させて、彼の死を受け入れたつもりでいました」

女P「でも、春香の言うとおり……私は、受け入れてなどいなかった。
   ずっと逃げていました」

女P「だから……逃げたいのに、気づけば彼を探している」


女P「追いかけているのに、届かなくて……」

女P「目を塞いでいるのに、求めていて、見つからなくて……そんなの分かってるのに!」

女P「忘れられないんです……もうどうしたら良いのか、分からないんです……!」

高木「キミは、彼が天国に行ったと思うかい?」

女P「えっ?」

高木「…………」

女P「……分かりません」


高木「天国というのは、生き残された人が作るものだ」

高木「そこにあの人がいる、きっと幸せに暮らしている……そう願うのだ」

高木「それだけ、人が死ぬというのは、大変な事なのだね」


高木「彼は、自分の死を見定め、生きた証を、爪跡を残そうともがいた」

高木「残された者にできるのは、後片付けだけだ」

女P「後片付け……?」


高木「全てはキミの勇気次第だよ」

高木「彼が天国にいないと思うなら……彼の最期の言葉に、耳を傾ける勇気があるかどうか」

高木「残された事があるのだとしたら、それはきっとキミにしか片づけることはできない」


高木「忘れる必要などないさ、それだけ彼はキミにとって大きい存在だった。それでいい」

女P「…………はい」


高木「さて、そろそろ時間だな」スクッ

女P「どちらへ?」


高木「黒井に、バーへ誘われているのだよ」

高木「また嫌味ったらしい自慢話を聞かされるのだろう。やれやれ……」

高木「貴様が私に敵わないことを思い知るまで簡単にくたばるなよ、などとね……
   この間は、そんな事を言われてしまったよ」

高木「こっちの台詞だと、言い返してやったがね。ははは」

女P「ふふっ……社長達らしいですね」


高木「それでは、ここで」スッ

女P「ありがとうございました。くれぐれも、お体を大事に」ペコリ

高木「ありがとう」

コツ コツ…



女P「後片付け……か」

コツコツ…

女P「…………?」



ザッ…

春香「はぁ……はぁ……い、いた」フラフラ…


女P「は、春香っ!?」ダッ!

女P「春香、大丈夫!? まさか、歩いてきたの!?」

春香「まさか……タクシーを拾いながら、来たんだけどね」

春香「色々ちょっと、美希を探し回ってたおかげで、足、痛くって……えへへ」ニコッ

女P「無茶なことを……ごめんなさい」


春香「美希……お願い、どうか……」

女P「えぇ、分かっているわ」

春香「えっ……?」


女P「でも、その前に、少しやりたい事があるの。車に乗って」

女P「一度、私の家へ寄って……その後、病院まで付き合ってくれる?」

~病院~

少年「………………」ジーッ…


テレビ『しろいーゆきぃーのよぉーうにー ひかるぅゆきぃーのよぉーうにー♪』

テレビ『このぉ こーこーろをー しーろーくー そぉ~~めーてぇー♪』


少年「やっぱすごいなぁ、如月千早は……」

少年「プロデューサーって、こういうすごい歌手とも知り合いになれるのかなぁ?」


ガララ…

少年「?」



女P「……どうも。元気?」


少年「! お、お姉さん!」


少年「すごい、こんなに早くまた会いに来てくれるなんて!」

女P「嫌われていないみたいで、安心したわ」ニコッ

少年「まさか! お姉さん美人だもん!」

女P「最初、おばさんって言ってたクセに」

女P「……如月千早が好きなの?」

少年「あ、あぁこの番組? 大ファンなんだ。歌上手いし、キレイだし」

女P「そうね……ふふっ」


少年「ところで、また来てくれて、どうかしたの?」

女P「えぇ、実は……」ゴソゴソ…


女P「君に、これを渡したくて来たのよ」スッ

少年「それは……帽子? お姉さんが編んだの?」


女P「本当は、別の人に渡す予定だったのだけれど……結局、渡しそびれちゃって。
   だから、君にあげるわ」

女P「ここに置いておくから、看護師さんが来たら事情を説明して、消毒してもらってね。
   病院の規定で使えないようなら、捨てても構わないわ」スッ

少年「ううん、捨てるなんてとんでもないよ! ありがとう、大切にするよ」


女P「あのね……実は、私も昔、アイドルだったの」

少年「えっ……」

女P「その時に、私の大切な人……当時のプロデューサーを、白血病で亡くしたの」

女P「それも、慢性の骨髄性。おそらく、君と一緒ね」

女P「その人は、急性転化前の薬物治療をやめて、残された人生を精一杯生きたわ」

女P「君が行う、これからの人生の選択に、私から言う事は本来何も無いのだけれど……」


女P「あなたの人生は、あなただけのものだと考えているのなら、それは違う」

女P「ご両親のように、あなたを大切に思う人がいるということを、よく理解して」

女P「その上で、自分がやりたい事はこうだと思える道を探すのなら……」

女P「その道が見つかるまでの間、さっきの帽子をお供に使ってくれると嬉しいわ」


少年「……僕に、治療を続けろってこと?」

少年「お父さんやお母さんが休み無く働いてでも、学校の皆から馬鹿にされようとも……」


女P「大切な人の事を思うと、どうしても私、そういう視点でしか話せないみたい」

女P「勝手な事を言って、ごめんなさい」

少年「ありがとう、お姉さん」

少年「本当は僕、寂しいだけだったんだ、きっと」

少年「お父さんやお母さんの気持ちを無視して、自分の事しか考えてなかったと思う」

女P「私もついこの間、自分ばかり見てるって怒られたの。似た者同士ね、私達」ニコッ

少年「えへへ、おんなじか」ニコニコ



女P「それじゃあ私、用事があるから、これで」スクッ

少年「あっ、待って!」


少年「お姉さんの名前、教えてよ!」

少年「アイドル時代のお姉さんの動画、探して見てみたい!」


女P「星井美希、っていうの」

女P「ちなみに、千早さんとは昔、同じ事務所の同期だったのよ?」

少年「えっ」


女P「じゃあね」

ガラララ…

コツコツ…

ガチャッ バタン

女P「悪いわね、車の中で待たせてて」

春香「ううん、いいの」


春香「帽子、その白血病の子にあげたの?」

春香「プロデューサーさんのために、編んでた帽子……」

女P「その方が良いと思ったの」カチャッ

春香「……そっか」

ブキキキキキ ブオンッ!

ドッドッドッドッドッ…


女P「空港に向かうわ」

春香「うん」

ブロロロロロ…!

ブロロロロロ…!

女P「……あっ、そうだ春香」

春香「ん、何?」

女P「事務所に電話して。それで、律子さんにつないでもらえるかしら」

春香「あっ、うん。分かった」ポパピプペ…

プルルルルル…♪

女P「律子さんにつながったら、私の耳元に携帯を当てて。
   悪いわね、運転中で手が離せないから」

春香「ううん、いいよ」



ガチャッ

『はい、765プロです』

春香「あ、小鳥さん。あの…」

『あぁぁぁ、春香ちゃんっ!? 良かった、今どこにいるの!?』

春香「ちょっと、車で美希と移動してて……あっ、律子さんに代わってもらえますか?」

『えぇ、律子さんね、ちょっと待ってね。律子さぁーん、春香ちゃん……』

『……もしもし春香?』

春香「律子さん、すみませんご心配をお掛けして……」

『説教は帰った時にでもたっぷりしてあげるわ。それで、どうかしたの?』

春香「えぇ、あの……美希に、代わります」

春香「美希……」スッ


女P「……星井です」

『随分と充実した休日を送ってたみたいじゃない?』

女P「えぇ、おかげさまで」

女P「ですが……すみません、あともう一日、お休みをください。私と、春香も」

春香「…………」コクン


『沖縄に行くんでしょ? もう空港で皆待ってるわよ』

女P「えっ?」

『伊織なんか今頃カンカンよ~?
 プライベートジェットまで手配したのにまだ来ないのかー、って。ふふふ』


女P「ど、どうして……何も話、してないのに……」

『何年あんた達と一緒にやってきたと思ってんのよ。気をつけて行ってらっしゃい』


女P「…………はい。ありがとうございます、律子さん」

『律子でいいわよ』

女P「えぇ……ありがとう、律子」


『休み、延びるようなら連絡しなさいよ。それじゃあね』

ピッ!

女P「……もう皆、待ってるって。急がなくちゃ」

春香「うん!」



春香「……ねぇ、美希」

女P「何?」


春香「ごめんね……私があの日、この、プロデューサーさんの最期の日記を、
   ちゃんと美希に届けてさえいれば……」

春香「きっと美希も、今まで、こんなに苦しむ必要なかったのに……ごめんね」グスッ…


女P「いいえ、それは違うわ春香」

春香「えっ?」


女P「最期の日記が私に届かなかったというのは、それは違うの」


………………

………………………

………………………

………………


医者「これまで、意識はしっかりしていますし、痛みもコントロールできています」

医者「息子さんは、良い経過をたどっていると言えると思います」


医者「ですが……いつ、もしもの事があってもおかしくはありません」

医者「仮にもったとしても、数日でしょう」



P父「……そうですか」

P母「あ、あなた……あぁっ……!」

~病室~

P「………………」カキカキ…


P「………………はぁ」コトッ


P「はるか……」

春香「はい…………」


P「これを、みきに……」スッ

春香「…………はい」



P「はるか………………」

春香「………………」


P「ごめんな、って…………みんなに……」


春香「! …………ッ」

ガラララ…



P「……………………」

ストン…

春香「…………」

千早「春香…………」


真美「はるるん……兄ちゃん、元気になってたんだよね?」

亜美「全部ドッキリで、ネタ晴らしする準備してたんだよね……そうだよね!?」ジワァ…


春香「……私、美希に日記を……」

春香「日記を、届けに行かなくちゃ……」タッ

伊織「ま、待ちなさいよ春香っ!」ガシッ!

春香「放して……!」バシッ!

雪歩「プロデューサーの具合、どうだったの……教えて、お願い……!」グスッ…


春香「………………ッ」フルフル…!

一同「!!」

タタタ…


響「うわああぁぁんっ!! いやだ、プロデューサー、プロデューサぁぁぁ……!!」ボロボロ…

あずさ「うっ、うぅぅ…………」ツーッ…

~オーディション会場~

ザワザワ… ガヤガヤ…

真「美希、集合時間になっても来ない……どうしたんだよ……!」ソワソワ…

やよい「早くしないと、もう受付時間過ぎちゃいますー!」ソワソワ…

貴音「…………美希」

律子「………………」スチャッ

ポパピプペ…

プルルルルル…♪


ガチャッ

『はい、765プロ…』

律子「小鳥さん、春香達から何か連絡はありましたか?」

『あっ、律子さん! まだ、連絡来てなかったんですね……』


『プロデューサーさん、もう…………昏睡状態に……』

律子「ッ……そうですか…………」


『美希ちゃん、会場に来ていないんですか……?』

律子「はい……病院にも、行っていないみたいですね……」

~765プロ事務所~

ガチャン

小鳥「美希ちゃん、アイドル・クラシック・トーナメントの会場にいないみたいです……」

高木「うむぅ…………そうか……」


小鳥「あの日……美希ちゃんが空港のロビーで、プロデューサーさんを抱きかかえて
   泣き叫んだのを、多くのメディアが取り上げて……」

小鳥「中には、二人の関係について悪意を持って邪推するような週刊誌まで……!」


小鳥「ネットでは、美希ちゃんを応援するコメントが多かったのですが……」

高木「どちらにしても、好奇の目にさらされた事に変わりはあるまい……
   彼女にとっては、大いにショックだった事だろう」

小鳥「はい……とても、15歳の女の子に耐え切れるようなものでは……」


ドンドンドンッ!

「765プロさぁーん! 元旦の星井美希さんの件でお聞きしたいんですけどぉ!」

「やっぱりあの男性と何か関係を持たれていたんでしょうかぁ!?」

「星井さん、まだ中学生ですよねぇ!? 何でもいいから一言お願いしますっ!」


高木「くっ……またか、いい加減にしてほしいものだな……!」

~街中~

タタタタ…

春香「はぁ、はぁ、はぁ……!」タタタ…

春香「美希……美希ぃ!」タタタ…


ツルッ

春香「うわっ!? きゃあああぁぁぁぁっ!!」

どんがらがっしゃーん!!


春香「あいたたた……まだ雪が溶けきって……」

春香「!? あ、あれ…………あれっ!?」バタ バタッ


春香「に、日記が……日記、どこかに落としたの……!?」

春香「そんなっ!! ウソッ、ウソだよね!?」ガサガサ…!



春香「どうして見つからないの!?」ガサガサ!

ガサガサ…!

春香「お願い、やめてよ……美希に、届けなきゃいけないのにっ!!」ボロボロ…

春香「どこ……どこかに、飛んで……!?」ガサガサ…

春香「……あっ!!」

春香「あった! あそこに落ちて……!」タッ

タタタ…


ブオオオォォォォォォッ!!

春香「えっ」

キキイィィィィィィィィッ!!!



ドンッ

トボトボ…


美希「………………」トボトボ…


「おい、見ろよあれ……」
「本物?」
「まさか、あんな何も変装しないで歩くかよ普通……」

ヒソヒソ…  ザワザワ…


美希「………………」



―――俺がいなくなっても、アイドル続けたいと思うのか?



美希「褒めてよ……」ジワァ…


美希「うっ、ひっく…………ひっく……」グスッ…



ザワザワ… ガヤガヤ…

美希「…………?」

美希「何だろう、あの人だかり…………」

あ・・・

テクテク…

美希「………………」ソォーッ…



救急隊員A「えー池上通り堤方橋交差点付近にて人身事故!」

救急隊員A「女性、17歳、右下腿骨折、意識有り! 受け入れお願いします!」

救急隊員B「頑張ってください! もう少しで病院へ搬送しますからっ!」

春香「ぐっ、ぐうぅぅぅ!! うああぁぁ……!!」


美希「は、春香っ!?」ダッ!


美希「春香!? 大丈夫、ねぇっ!!」ガバッ!

救急隊員B「えっ! お知り合いの方ですか!?」


春香「み、美希っ……ぐ、はあっ……うっ!」

春香「に、日記……! 日記が、どこかに、落ちてっ……!!」

美希「日記っ!?」


春香「お、お願い……プロデューサー、さんのぉ……最期、が……!」

春香「う、うあぁぁっ……いっ……!!」

美希「日記が、この辺のどこかに落ちてるの!?」

春香「…………ッ!!」コクコク!

美希「分かったの!」ダッ!


ガサガサ…!

美希「くっ……!」ガサガサ…!

観衆A「お、この子ひょっとして…」

美希「ジャマ! お願い、どいてっ!!」ドンッ

観衆B「うわっ!?」


ガサガサ…!

美希「…………!!」ガサッ…



美希「……………………」


スッ…

救急隊員A「受け入れ先、見つかりました!!」

救急隊員B「すぐに病院へっ! さぁ、行きますよっ!!」ガシャン

春香「ま、待ってください! 待って……!!」


春香「み、美希っ!!」

美希「春香…………」


美希「日記が、見つからないの……」

春香「!!? そ、そんな……あうっ……!」

救急隊員B「すぐに搬送します! あなたも、同行していただけますか!?」

美希「ううん……ごめんなさい」

救急隊員B「!?」


美希「春香、ごめん…………ミキ、行かなきゃいけない所があるの」

春香「え、えへへ……もう、間に合わない、じゃない……?」

美希「うん、でも……」


美希「歌いに行かなくちゃ……約束だもん」

美希「ビデオに撮って、ハニーに見てもらわなくちゃ……!!」

春香「がん、ばって……!!」

美希「うん!」

救急隊員A「車、出します!!」

バタン!

ブオオオォォォン…!  ピーポー ピーポー…





美希「………………」



つ 日記

~オーディション会場~

ワアアアァァァァァァァァッ!!! パチパチパチパチ…!!


やよい「……オーディション、終わっちゃいました」

真「くそぉ……あんなレベル、美希ならきっと楽勝なのにっ!」ダンッ!

貴音「………………」ギリッ…!


ザッ!

黒井「ハァーッハッハッハ! 今日は何しに来たんだね三流事務所ォ!」

冬馬「俺達の引き立て役にすらなれなかったとはな」

翔太「本当、肩透かし食らっちゃったよ」

冬馬「あのエンジェルちゃんは、最大のライバルになると思ったんですけどね。
   会えなかったのは残念ですよ」

律子「えぇ……私達もね」

黒井「まっ、どぉせ出てきた所で我がジュピターの勝利が揺らぐことなど…!」


バァンッ!



美希「はぁ、はぁ、はぁ……!!」

真「み、美希っ!!」

やよい「美希さん!!」

律子「……美希!」



美希「遅れて、ごめんなさいなの」

黒井「なぁにが遅れてごめんなさいだ! とっくにオーディションは終わったぞ!」

黒井「やはり、三流プロデューサーにホイホイ釣られる女は、
   時間にも下半身もルーズのようだな! ハァーッハッハッハッハッ!!」

真「!!! こんのぉっ!!」ガッ!

律子「や、やめなさい! 貴音も、真を押さえて…!」

貴音「止めないでください、律子嬢。恥を知るのは貴方です、この痴れ者っ!!」

黒井「おぉおぉ、殴るかね! 図星を指されて悔しいのならどうぞ殴るがいいっ!」

真「お前、お前なんかっ!! 美希が、どれだけ苦しい思いをっ!!!」


美希「いいの、真クン、貴音」

真「えっ……?」


美希「選考対象として、評価してもらえなくてもいいです」

美希「お願いです、エキシビジョンとして……ミキに1曲、歌わせてください」ペコリ

司会「えーっ、それでは!
   本日遅ればせながらこのステージに舞い降りた、765プロの……!」


スタッフ幹部「良かったんですか、黒井さん? 連中にやらせて」

黒井「構わんよ。どうせ練習もロクにできているはずがない」

渋澤「へっへっへ、“どこぞの週刊誌”がある事無い事大げさに書いてやりましたからねぇ」

黒井「精神的に追い詰められた女が、子供のお遊戯のようなステージを晒したとあれば、
   それはまたネタとして美味しいのだろう?」

渋澤「違ぇねぇや、うひひひ」



貴音「美希……」

真「あんな連中、見返してやりなよ!」

やよい「美希さんっ! ファイトです!」

律子「ビデオはしっかり撮ってあげるわ。あんたもしっかりね」

美希「うん」コクリ


スタスタ…

美希「………………」


美希「…………………………」スッ…

https://www.youtube.com/watch?v=PBL3xo9NhP8

黒井・幹部・渋澤「」

冬馬達「」


真「す、すご……」

やよい「うっうー! 美希さぁーんっ!!」ピョンッ!

貴音「真、見事です……美希」

律子「…………プロデューサー……!」ポロポロ…



美希「~~~♪ ~~~~♪♪ッ!」タンッ タタン…!


  もらっていた声 与えた夢も

  覚えている… こんなに覚えているのに

  落ちる砂 戻したいのは

  いつだって 僕のほうだったみたいだ


ウオワアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!! パチパチパチパチパチパチ…!!!


………………

………………………

黒井・幹部・渋澤「」

冬馬達「」


真「す、すご……」

やよい「うっうー! 美希さぁーんっ!!」ピョンッ!

貴音「真、見事です……美希」

律子「…………プロデューサー……!」ポロポロ…



美希「~~~♪ ~~~~♪♪ッ!」タンッ タタン…!


  貰っていた声 与えた愛も

  覚えてる… こんなに覚えているのに

  落ちる砂 戻したいのは

  いつだって 僕のほうだったみたいだ


ウオワアアアアアアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!! パチパチパチパチパチパチ…!!!


………………

………………………

>>293は間違い。>>294が正です。すみません。

………………………

………………


春香「……美希だったんだね」

春香「事務所の更衣室の奥に、日記を隠していたの……」

春香「あの時、日記が見つからないって言ってたけど……ちゃんと、拾ってたんだね」


女P「あの人の最期の日記は、今日までとても、読む勇気が起きなかった」

女P「読んでしまうと、もう終わってしまうと思ったから……あの人との繋がりが」

女P「いっそ、捨てようとさえも思ったわ」

女P「でも、それも無理だった。それこそ、あの人がいなくなってしまうものね」

女P「だから、家にも置いておけずに……
   事務所の、誰も目に付かないような場所に、ずっと置いておこうと思ったの」

女P「誰も、存在を忘れてしまうまで……その方が、楽になれると思ったから」


女P「ふふっ、おかしいでしょう? 笑ってくれていいのよ」

春香「…………ううん」フリフリ

春香「今日まで、一人で頑張ってきた美希を笑うことなんて、とてもできないよ」


春香「だから、私も……あの日記を更衣室で見つけた時、決心したの」

春香「美希がこれまで抱えてきた苦しみを、分かち合いたい……もう終わらせなきゃ、って」

春香「二人で、受け止めれば……苦しいのも、怖いのも、半分で済むでしょう?」


女P「………………」

女P「ありがとう、春香……私、春香の優しさにさえ、全然気づけていなかった」

春香「えへへ」ニコッ



ブロロロロロ… キキィッ


女P「……着いたわ」

春香「行こっか」

女P「えぇ」

ガチャッ

~空港~

テクテク…

女P「皆が待ってる、って行ってたけれど……」

春香「どこかなぁ?」



伊織「遅いっ!!」

女P・春香「!?」ビクッ!


伊織「いくらなんでも遅すぎよあんた達!!
   どれだけこのスーパープロデューサー伊織様を待たせる気っ!?」プンスカ!

真「まぁまぁ伊織、あまり怒ると健康に良くないよ」

雪歩「美希ちゃん、春香ちゃん。来てくれて良かった」

やよい「うっうー! 旧765プロアイドル、勢ぞろいですねーっ!!」

亜美「やっぱ、無理矢理お休みもらってきて良かったね、真美!」

真美「その分、戻ったら普段の倍以上チョ→激務だけどね、亜美!」

あずさ「うふふ、こうして旦那や子供とも離れて旅行するのって、ウキウキするわね~」

貴音「さぁ、沖縄で響が待っています」

千早「準備ができ次第、出発しましょう。美希、春香」

女P「皆……!」

春香「えへへ……皆、お待たせ!」


雪歩「あっ、そうだ!」

雪歩「空港で皆が集まったら、このタブレットで連絡しなさいって律子さんが……」ゴソゴソ…

伊織「あら? まだ何か用がある訳?」


ピッ!  ピッ!…

ヴィン…!


雪歩「律子さん、今、美希ちゃんと春香ちゃんも来ました」

律子『おぉ~、やっと揃ったのね。ちょっと美希を呼んでもらえる?』

雪歩「はい。美希ちゃん、律子さんだよ」


女P「律子、何か用なの?」

律子『私じゃなくて、この子達があなたに言いたい事、あるそうよ』

女P「えっ?」

律子『ほら、あんた達。しっかし本当、こういう回線も速くなったわよね~……』

アイドル達『……プロデューサー!』

女P「あ、あなた達!?」


アイドルB『律子さんに教えてもらいました』

アイドルB『記録には残らなくとも、人々の記憶に残った伝説のオーディションの事を』

アイドルC『私達、すっごい人に指導してもらってたんだって、やっと分かったんです!』

アイドルD『ビデオ見たの! 今まで、正直ウザいなって思っててごめんなさい!』

アイドルE『皆であの後反省して、自分達なりに活動スケジュールを考えてきたんだ!』

アイドルF『これを見てください!!』バッ!


女P「! 一人一人の仕事量管理と、日毎のレッスンメニュー……まさか、全部あなた達で?」

アイドルA『プロデューサーのやり方を見て、私達も育ってきたんですよ!』

女P「……!!」

アイドルA『だから、プロデューサーも安心して、お休みしてきてください!』

アイドルC『こっちは心配いりませんから!』

アイドルE『沖縄土産、期待して待ってるからね!』


女P「……皆…………」

律子『はいはい、代わって代わって』ズイッ

アイドル達『えーっ』


律子『とにかく、怪我しないように気をつけて行ってくるのよ』

律子『それと、あなたが帰ってきた時のために、うんと仕事残しといてやりますからね』

律子『覚悟してなさい?』


女P「律子…………ふふっ」

女P「はいっ!」


律子『用件はそれだけよ、通信切るわね。じゃあ』

雪歩「あっ、はい。お疲れ様でした」

ヴィン…



春香「…………美希」


女P「……ハニーはあの日、この空港までしか来れなかった」

女P「絶対行くって、約束したもの……後片付けをしなくちゃ」

春香「うん……!」コクリ

~夜、沖縄 響の民宿~

響「そっかぁ……そういう大変な事があったんだなぁ」

響「律子が来れないのは残念だけど、明日に備えて今日はゆっくり休むといいさー」


女P「今日は、私達の貸切なの?」

響「もっちろんだぞ! いくらでも好きにくつろいでいってよ!」

伊織「急に押しかけてきたのに貸切って……普段からガラガラなんじゃないの?」

響「ちょ、ちょっと伊織、失礼だぞ!
  自分、皆に気づかれないところで、すっごいアレを、調整をだな!」


貴音「何にせよ、響の手料理も久しぶりで真、美味です」モシャモシャ…

響「ふふん、そうでしょ!?
  チャンプルーもラフテーもいくらでもあるぞ! お酒は冷蔵庫から適当に出してね!」


あずさ「千早ちゃん、楽しんでるかしら~?」トローン

千早「あ、あずささん、もう酔ってらっしゃるんですか?」

真美「うりゃー、いおりんも飲め飲め→!」

亜美「亜美達の酒が飲めねぇのか→!」グイィ

伊織「あんた達じゃなくて響のお酒じゃない! や、やめな……グビグビ」

雪歩「あっはっはっはっ! すっごく楽しい、ねぇ真ちゃん?」

真「ゆ、雪歩はそろそろお酒控えた方がいいよ。ほらっ、この焼きそばでも……」


春香「皆ー、響ちゃんの新しいお料理持ってき、ってきゃああああっ!!」

どんがらがっしゃーん!!

響「うぎゃあーっ!! 何してるんさ春香ぁー、大丈夫かー!?」

真「だ、大丈夫だよ響! 料理は私と貴音が何とかキャッチしたから!」

貴音「そして既にいただいております」モシャモシャ…

亜美「うあうあー! お姫ちん独り占めしないでよー!!」

女P「あははははっ!」


伊織「なぁにを澄ました顔してんのよっ! 美希、あんたも飲みなさーい!!」グイィ~

女P「う、うわっ、ちょっと……グビグビ」

真美「うあうあー! あずさお姉ちゃんとゆきぴょんが脱ぎだしたぁー!!」

千早「み、皆! 二人を止めて!!」

やよい「うっうー! 何だかメラメラ―ってしてきたかもーっ!!」

「やいのやいの!!」

雪歩「すぅ……すぅ…………」

真「ほら、雪歩起きて。ちゃんと布団で寝ないと……」トントン

雪歩「ううぅん…………真ちゃん……」ギュッ…

真「やれやれ……ちょっと、雪歩もお布団の部屋に運んでくるね」

春香「はーい」


響「まったく……おとうに見られたら大変だったぞ」ガチャガチャ…

春香「旦那さんは、今はいないの?」フキフキ…

響「友達が来るからって言って、お金渡して外で過ごしてくるようにお願いしといた」

女P「そうなんだ……」カチャカチャ…



真「よしっ、と……酔い潰れた人の片付けは終了! 後は皆寝たし……」

真「何かやる事ある?」

響「ううん、平気だぞ!」

真「よぉし、じゃあ私もちょっと失礼して……」ガチャッ

春香「まだ飲むの?」

真「さっきは皆の世話をしてて、全然飲めなかったからね」プシュッ!

女P「私も、もう少しもらおうかな」

真「あ、まだあるよ。はいっ!」サッ

女P「ありがとう」

響「あっ、ちょっと! 自分のことも待ってよぉ!」



プシュッ!

一同「かんぱーい!」カチンッ!

響「グビグビ……ぷはぁ、働いた後の一杯はカクベツさー」

春香「あはは、何だか響ちゃん、おじさんみたい」

響「な、何だよ! 皆だって飲んでるじゃんか!」

真「ははは、そう怒らないでよ。海ぶどうもらっていい?」ヒョイッ

響「おいしいでしょ? 今日取って来たばかりなんだぞ!」



女P「皆、変わらないね」

真「逆に美希が変わりすぎなんだよ」

響「そうだぞ、最初誰だか分からなかったもん」

女P「ふふっ、そうかもね」

女P「変わらなきゃ、って思ってたから。私の場合」

女P「何でもかんでも、一人でできるように……立派な人に、なれるようにって」

春香「…………」


女P「でも、それももう今日でおしまい」

女P「昔のように、皆に迷惑かけてばっかりな星井美希に、戻ろうかなってね!」

真「め、迷惑かけるのは少し自重しようよ」

女P「あらっ? いいじゃない、昔だってそれでお互い上手くやってきたでしょう?」


貴音「そう、何事も貴女らしく……ですね、美希?」スッ

女P「貴音……うんっ」

響「貴音、さっきまでどこに行っていたんだ?」

貴音「月を見に…………私にも、一献いただけますか?」

春香「はい」

トクトク…


貴音「ここに集う仲間……そして故人との良き思い出に、今宵は酔いしれましょう」

アハハハハハハハ…!!

春香「そうだ思い出したぁ!
   響ちゃんも、一時期プロデューサーさんに日記書かされそうになって…」

真「そうそう、美希にやいのやいの言われてたよね! 響も書けば良かったのに」

響「他人事のように言うなー!
  大体、自分が書いたってプロデューサーが振り向いてくれるワケないでしょ!」

春香「あの時は、たぶん皆ほとんど横一線だったんじゃない?」

真「うん、そこまで美希だけを肩入れしては……ていうか響もやっぱ気があったんだ~」

響「うぎゃーうるさい、この話はやめるさ!! ハイサイ、やめやめっ!!」


春香「実は私も書こうとしてた時期あったんだー、日記」

貴音「ほう、それは真ですか?」

春香「うん、でもやっぱ美希とプロデューサーさんの仲を邪魔したら悪いかなって」

響「そうだったのか、自分もだぞ」

真「ふーん、そんなもんかなぁ。知ってた、美希?」

春香「いや、私そもそも美希とそういう話……あっ」



女P「…………スゥ……スゥ……」

響「寝てる……」

真「やれやれ……またお布団部屋に連れて行かなきゃ」

春香「ゆっくり休ませてあげて」

春香「本当に……今まで、無理をしてきたから。辛かっただろうから」

真「うん、分かってるよ」


春香「それにしても……久しぶりだなぁ、美希の寝顔見るの」

貴音「気持ち良さそうな、安らかな寝顔です」

貴音「良い夢を見ていると良いですね……」ニコッ



女P「スゥ…………スゥ…………」



女P「…………ハニィ……」


………………

………………………

………………………

………………


ナムアミダブ ナムアミダブ…

「葬儀会場は、ここね……」

「えっぐ、ひっぐ……うぅ……」

テクテク…


「あっ……」



「こちらに、ご記帳をお願いします……ありがとうございます」ペコリ

「星井さん、ちょっと」

「あっ、はいっ」タタタ…



「ミキミキ、髪切って……茶髪になってる」

「受付の、お手伝いしてる……」


………………

………………………

………………………

………………


「プロデューサーになりたいですってぇ!?」


「あのねぇ、美希……とても大変な仕事よ? そう簡単にできるものじゃないの」

「第一、高卒の私でさえ、業界関係者からの風当たりは厳しいものだったわ」

「あなた、まだ中学を卒業しようというトシでしょう? せめてもう数年…」


「ダメなの。今やりたいの」

「ハニーが何を目指してたのか……あの人が記憶から消えちゃう前に、知りたいの」

「美希……」


「……分かったわ。でも、せめてご両親の承諾を得てから…」

「うん、たぶんそろそろ来る頃だと思うよ?」

「えっ」

「ちょっと!! ウチの美希に何を吹き込んだんですか、765プロさんっ!!」バァン!


………………

………………………

………………………

………………


「……そうそう、それで『次へ』を押して、メールアドレスの設定をするのよ」

「う、うん……」カタカタ…


「ふふふ、思い出すわね」

「えっ?」

「プロデューサーさんが初めて事務所に来た時も、こうしてメールの設定をしたのよ」


「ハニーが……今、ミキ、ハニーと同じ道を通ってるの?」

「えぇ、そうね」


「そうかぁ……そうなんだぁ。えへへへ」ニコニコ


………………

………………………

………………………

………………


「向こうの人、全然、ミキの方を見て話してくれなかった……」

「当たり前よ。あなたみたいな若輩者に、誰も期待なんてしていないわ」

「そ、そんな……!」


「今日の打ち合わせは、余計な事を言わなかっただけ合格よ」

「あなたが先方の信頼を勝ち取るのは、まだまだ先」

「実力をつけて、実績を積み重ねていかなくてはね」

「実力と、実績……」


「ミキ、律子さんのお仕事、もっと見たいの!」

「言われなくともそのつもりよ。ほら、次行くわよ」

「はいっ!」


………………

………………………

………………………

………………


「うぅぅ……デコちゃん……」グスッ…

「美希……」


「ミキが面倒見てあげた子……全然、勝てなかった……」

「所詮、中卒のプロデューサーが育てるアイドルなんてたかが知れてる、って……」

「…………」


「悔しいよ……」

「ハニーに育てられたミキなのに……もうあんな事、言われたくない……!」ポロポロ…


「私もプロデューサーになるわ」

「えっ……」

「あんただけじゃ頼りないから、この伊織ちゃんも一緒に勉強してあげるわよ」

「それで、一緒に見返してやりましょう? にひひっ♪」


………………

………………………

………………………

………………


「やったぁー! 律子さん、オーディション合格しましたよ!」

「えぇ、良く頑張ったわね」

「美希さん。私、美希さんの指導のおかげで初めて…!」


「慢心しないで」

「えっ?」

「この程度じゃダメなの。もっと、もっと上を目指さなくちゃ」

「トップに立って、あの時私達を笑った人達を見返してやらなきゃ」

「み、美希さん……」

「美希さんって呼ぶのもやめて。私はプロデューサーよ」


「これからは、甘えは許しません。仕事中の言葉遣いにも気をつけて」

「春香……いいえ、春香さん、雪歩さん。あなた達もですから、お願いしますね」


………………

………………………

………………………

………………


「何をしているの! こんな事もできないでどうするの!?」


「違う、あなた達の事を言ってるんじゃない! 私の事を言ってるの!」


「こんな事で……あの人の思いを受け継いでいけると思っているの!?」



「もっと立派にならなくては……業界の人達からナメられないように!」


「たくさんお仕事をもらって、オーディションに合格させて、フェスに勝って!!」


「この子達を、トップに立たせて……!!」



「そのために、私は……もっと、他に出来る事は!?」


「もっと……!!」


………………

………………………

………………………

………………


「……新人のプロデューサー?」

「そっ。あなたにも、ようやく後輩ができるってことね」

「必要ありません」

「そう言わないで。後輩の指導をすることで、あなたも何かと勉強になると思うわ」

「そうでしょうか」

「そうよ。じゃあ、お世話お願いね、“先輩プロデューサー”さん」ポンッ!



「よろしくお願いします、星井美希さん」ペコリ

「よ、よろしくお願いします」



「……それで、このホワイトボードを使って、皆の予定を管理するんです」

「そうなんですか。うわぁ……真っ黒ですね」

「そうでなくては困ります。真っ黒にするのが私達の仕事なんです」

「な、なるほど」

「それじゃあ、まずはダンスレッスンが入っている子達を連れて行きましょうか」

タン タタン…

(こ、この人……)


「コウ美、いい感じだ。だがもう少し、3の後の引き足を速くすることを意識した方が良い」

「エリ子は、そう焦らなくていい。リズムは合ってきてるから、上半身をもっと大きく」

「マナ美は移動をもう少し早くして、アキ子達が元気良く踊れるスペースを確保してあげてくれ」

「はいっ!」

(本当に、新人なの? こんなに的確な指示を……)


「各自、今言った事に気をつけて練習を続けてくれ」

「星井さん、次は営業でしたね。そろそろ出ましょうか?」

「えっ、あっ、はいっ! 行きましょう!」

「ははは、そうですかあの765プロの」

「えぇ、御社の番組では、過去にウチの天海達がお世話になりました」

「いやいや、それほどでも。ほっほっほ」

(まさか、過去のアイドルの情報まで頭に入れてきてるの!?)

「そういう事でしたら、ぜひウチの番組でおたくの子達を使わせていただきましょう」

「ありがとうございます。皆、期待に応える良いアイドルばかりですので」ペコリ

「よ、よろしくお願いします」ペコリ



「私は、グラビアの撮影スタジオに行っている子達を迎えに行ってきますから、
 星井さんは先に事務所へ戻っていただいてもよろしいでしょうか?」

「えっ? で、でもそれなら私も……」

「おそらく、先方からの電話がそろそろ事務所にかかってくるはずです。
 これまで面識のある星井さんがご対応された方が、話も通りやすいでしょう」

「は、はい……」

「では、よろしくお願いします。また事務所で」

スタスタ…

「…………」ポツン

「……それじゃ、私先帰りまーす」

「あ、はいっ! 律子さん、お疲れ様でした!」

「お、お疲れ様でしたー」

ガチャッ バタン



カタカタカタ…

「えぇと、今日の実績はこんなところか……で、明日の資料は……」カタカタ…

「…………」

「星井さん、明日の打ち合わせは何人でしたっけ?」カタカタ

「えっ? あの、私達を入れて6人です」

「分かりました。じゃあ7部刷っておくか、人数増えるかも知れないし」カチカチ…


「……初日からすごい働きぶりですね。ずっとプロデューサーを志望されていたんですか?」

「えぇ、自分で選んだ道ですしね」

「だから、入ったら即戦力になれるよう、事前に詰め込める知識は一通り習得したつもりです」

「……そうですか」

「星井さんは、プロデューサーをやられて何年になりますか?」

「大体、10年くらいです」

「10年……随分お若い頃から、されていたんですね」

「そうですね……今にして思えば、無茶なことだったのかも知れません」


「そう……あの頃の私は、ただプロデューサーをやりたいという気持ちだけしかなかった」

「実際に、何をどうしたら良いのか、どんなスキルが問われるのか……
 まったく、考えもしていなかった」

「だから……今のあなたの話を聞いていると、自分が恥ずかしくて……」


「かつて、私を引っ張ってくれていた人がいて……その人みたいになりたかった」

「仕事が上手く行かずに、先方から陰口を言われた時だって……」

「その人が、馬鹿にされているように思えてしまって……なおさら、悔しかった」

「今にして思えば、ただ私個人が馬鹿にされているだけに過ぎなかったのに……」

「何もかも、その人を拠り所にしなくては、自分を保つことができなかったんです」

「なのに、自分では成長できた気になっていて……本当に、情けないなって……」



「そんな事ないよ、美希」

「…………えっ?」

「お前はこれまで、こんなにも立派にプロデューサーをやってこれたじゃないか」

「何でもできる子だとは思っていたが、アイドルのプロデュースまでできるとはな……
 正直、俺も驚いたよ」


「……えへへ、当たり前じゃない、ハニー」

「だって私、もうハニーより年上になっちゃったんだよ?」


「えっ!? う、そっ……本当ですか?」

「あははは、何でまた急に敬語になるの? いいよ、今まで通りで」

「そ、そうか……しかし、どうりで綺麗になったと思うわけだ」

「そうかな? 胸は、あまり成長しなかったけどね」

「元々でかかっただろ」

「ハニー。その発言、セクハラだよ?」

「うるさいっ!」


「ねぇ、ハニー……ハニーは、死んじゃう前に、悔いは無かったの?」

「やり残した事とか……私、ずっとハニーの無念を晴らしたいと思っていた」

「何か、私にできる事は無いの? 私、何かハニーが喜ぶ事をしてあげられるのかな……?」

「ううん、無いよ」

「!」

「俺は全て納得した上で死んだし、死んでからの美希達の成長ぶりにも満足している」

「それに、仮に悔いがあったとしても、美希にはそれを背負って生きて欲しくない」

「…………?」


「他の皆も、それぞれ納得した上で自分の道を歩んでいる」

「お前も、お前の今を生きてくれ」

「それが、お前に散々ワガママを押しつけてきた俺の、最期のワガママだ」



「……うん、分かったの」

「もう私、ハニーを目指すのは……追いかけるのは、やめるね?」


「だから、きっともう、こうして夢に見ることも無いのかもしれない」

「でも、これだけは許してほしいの」

「私は、ハニーの事を絶対に忘れないよ」


「あぁ」

「それじゃあ、そろそろお別れだな」

「ハニーは、まだ行かないの?」

「俺はまだやる事があるんだよ。メールもあと一本送る必要があるし、
 明日の打ち合わせの件で先方からの電話も待たなきゃならない」

「天国でも、同じお仕事してるの?」

「お前がそう思うのならな」

「アハッ……そっか、これ私の夢だもんね」



「そうだ! お前、まだ俺の最期の日記見てないだろ」

「えっ、うん」

「ちゃんと読んでおけよ。最期だけは俺、すっごく丁寧に書いたからな」

「えー、ホントにー?」

「本当だって! 綺麗な字にビックリするぞ。
 まぁ、沖縄に連れてきてもらえればそれでいいんだけどさ」

「分かった。朝起きたら読んでおくね?」

「あぁ、頼むぞ」


プルルルルル…♪

「おっと、ようやく電話来たか。
 じゃあ、俺もあと少ししたらここを出るから。達者でな、美希」ガチャッ

「うん」

「はい、765プロです……あぁ~どうもどうもお世話になっております、えぇ、明日の…」ペコペコ…



「…………えへへ」

「バイバイ、ハニー……」

ガチャッ…


………………

………………………

………………………

………………


美希「………………」パチッ

美希「……………………」



ムクッ…

美希「……………………」ポリポリ…



美希「ふわぁぁ…………あふぅ」

トン トン トン…


ガララッ

亜美「あっ、起きてきた!」

雪歩「美希ちゃん、おはよう」

響「もう10時だぞ、美希。まったく、相変わらず寝ぼすけだなー美希は」



美希「…………春香、あの……」

春香「うん、分かってる」

春香「日記、テーブルの上に置いてあるよ」


美希「………………」スッ



伊織「……さぁさぁ! 時間も時間なんだし、さっさと準備して行くわよー!」

真美「おぉ→っ!」ドタドタ…

伊織「美希、あんたもさっさとご飯食べて顔洗って来なさいよ!
   仮にもプロデューサーなんだから、朝の準備は早いでしょ?」

あずさ「先にお外で待ってるわね~」

響「おとうー、車借りるぞー!」チャリッ

やよい「わぁー! 響さん、車運転できるんですかー!?」

真「私達も行こう、千早!」

千早「えぇ。それじゃあ美希、準備ができたらお願いね」

貴音「世界の中心……真、楽しみですね」


春香「…………美希」

美希「…………………」ペラッ…


春香「………………」クスッ

タタタ…



美希「…………………」ペラッ…


美希「……あはは、何これ。やればできるじゃん、ハニー」


美希「キレイな字……!」ポロポロ…

ブキキキキキ ブオンッ! ブオンッ!

ドッドッドッドッドッ…


千早「マイクロバス……大きな車ね」

響「なんくる荘の、送迎用バスだからな!」

伊織「あんた、これ運転できるの?」

響「もっちろん! 大船に乗ったつもりで任せてよ!」ドンッ!



タタタ…

やよい「あっ、美希さーん!」フリフリ


美希「皆、お待たせ!」

春香「美希っ! 後ろの方、席空いてるよ!」ポン ポンッ

バタンッ!


響「いよーし! それじゃあ世界の中心まで、いざ出発進行さー!」カチッ

バッタン バッタン

伊織「何でワイパーが動くのよ」

ブロロロロロ…! ガタゴト ガタゴト…

真美「ほ、本当に運転大丈夫、ひびきん!?」

響「平気さー。この道だって何度も通ったことあるんだぞ!」

千早「何だか、すごく道幅が狭いのだけれど……」


響「ここで左折さー!」グイィッ!

雪歩「あわわっ! 響ちゃん、ウィンカー!」

響「あっ、そっか」カチッ

亜美「左側がチョーギリだよギリぃー!!」


貴音「おや? 響、あそこに果物がなっています。ほら、あそこあそこ」チョイチョイ

響「えっ? あぁ、あれはサボジラって言って、黒砂糖みたいな味でシャリっとした…」

伊織「前見なさいよ前ぇーっ!!」

響「えっ? う、うぎゃあああぁっ!!」

あずさ「あら~? 一瞬、車が飛んだ気がするわ~」

真「響……運転代わろうか?」


美希「……ふふっ」ニコニコ

美希「ねぇ、春香」

春香「ん?」


美希「皆とここに来て、何だか分かった気がする」

美希「世界の中心が、どこにあるのか……どういう所にあるのか」

春香「……そう」



美希「良い天気だね」

春香「そうだねー」



ブロロロロロ…! ガタゴト ガタゴト…


美希「………………」

1月7日

 ちゃんとレッスンには行ってるか?
 確かそろそろ本番だったよな。いつもどおり落ち着いて、しっかりやれよ。
 だが、たぶん、俺はオーディション結果の報告を聞けそうにない。
 お前の喜ぶ姿を見れる日が待ち遠しいのに、明日が来るのが怖い。

 やはり、俺達はそう遠くないうちに、ここでお別れになるようだ。
 今日は、美希がこの先大人になって、未来を生き続けることを想像しながら眠る。

 目を閉じると、お前の顔が次々に目の前に飛び出してくる。
 おにぎりをほおばる大きな口。
 くしゃくしゃに崩した、くったくのない笑顔。
 ワガママを注意されて、ムキになってふくれたほほ。
 車の助手席で、一人でしゃべり疲れた時の寝顔。
 そして、辛いとき、いつも俺をはげましてくれたやさしい美希。
 いつでもそばにあって、触れていたい。
 無遠慮にお前が抱き着いてきたとき、腕に伝わるぬくもりが、一番愛おしかった。

 たくさんの思い出が、俺の人生を彩ってくれた。
 本当に、そばにいてくれてありがとう。
 一年に満たない、お前と過ごした時間が、俺の生涯の宝物だ。

 最後に、お願いがある。
 俺の灰を、いつか響達と話していた、世界の中心でまいてほしい。
 そして、お前はお前の今を生きてくれ。

 お前に会えて良かった。元気でな。

泣いた

~ビーチ~

ザザァァァァ…

真美「うっわぁー!! すっごくキレイー!!」タタタ…

響「そうだろー!? 沖縄の海はどこもキレイだけど、ここは本当に特別なんだぞ!」

あずさ「海風も、すごく気持ちがいいわね~」

千早「えぇ」

亜美「とりゃー! やよいっち相撲取ろう、相撲!」ガッ!

やよい「あっ! な、何を~! えいっ、えいっ!!」



美希「キレイね……」

春香「本当っ! こりゃ世界の中心って豪語するのもうなずけるよ」


春香「それじゃあ……はい、美希」スッ

美希「…………これが……」

春香「プロデューサーさんだよ……美希が、まいてあげて」

美希「……うん」

なにこれ超泣ける

美希「…………」スッ

キュポッ


ビュオオオォォォォォォォォッ!

美希「きゃあっ……!」


ビュオォォォォォ…!



雪歩「……飛んでいっちゃった……あっという間に」

貴音「真、落ち着きのない事ですね」

真「お墓の下が、よっぽど居心地悪かったのかなぁ」


春香「天国へ、新しい子をプロデュースしに行ったのかもね」



美希「…………アハッ」


美希「なんともハニーらしいの!」


~おしまい~

感動した
ガチな超大作だったよ乙!

次回作にも来たい!

乙!!
Pになった美希はこんな感じなのかなーって
http://nullpo.vip2ch.com/ga2926.jpg

乙!とても感動したよ

いいお話を読ませてもらった
お礼に宏美はヒロミだって教えてあげる

元ネタは、片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』です。
プロットは、映画版を基にしたつもりですが、元ネタ成分が薄くなった気がします。

美希に最後の台詞を言わせたかっただけなのに、前振りが長くなってしまいました。

英語や白血病治療のくだりは、可能な限り調べたり知人に聞いたりして書いたものの、
実際と異なる描写もあることと思います。申し訳ございません。

ちなみに、映画版セカチューは今月で公開10周年だそうです。
まだご覧になった事の無い方は、この機会にぜひご覧いただければと思います。

駄文長文に最後までお付き合い頂いた上、暖かいご支援、ありがとうございました。
それでは、失礼致します。

乙!

乙!!

素晴らしいSSだった・・・掛け値なしに。

>>337
ありがとうございます!

>>339
猛省。書くのやめます。

乙!追憶のサンドグラスで泣いた

>>1の他の作品知りたい。
こういう長編SSって結構書いてるの?

ふわああああああ!!
おつなの!

>>345
主に、他作品とのクロスやパロをテーマにアイマスSSを書くことが多いです。
今回のような映画パロという括りだと、下記のようなものを書いています。
 ・亜美「ホ→ム!」真美「アロ→ン!」
 ・貴音「あいるびぃばっく」
 ・黒井「765のプロデューサーは静かに笑う」 

また、長編かつ美希メインだと、美希・雪歩「レディー!」というみきゆきSSを書いています。

これで最初に戻るとまた泣けるな…乙です

乙乙
オチはわかってたんで空港のくだりは読んでて辛かった

あとDay of the futureがEDにぴったりだな

おお、そうだったのか。
全部読んだことあるよ、今回も良かった。

言うの遅くなったけど、真、乙です。

おつ
しかしせカチューが10年前とか信じられんな…

>>347
お、お前か!

静かに笑うやつすごい好きだったー
次の作品ガチで待ってる

乙乙

本当に良かった!

「ハム蔵に花束を」も書いた人かな?

瞳を閉じてのピッチを上げて千早の声風にして聞いてた俺にはタイムリーなSSだった!乙!

乙 凄くよかった!泣いた

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年11月22日 (日) 21:13:43   ID: zovjGrmw

これは傑作

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