紬「心霊探偵つむぎとのどか」(110)

     


――――――――――――――――――――――――――
    第1話:白ヤギさんたら読まずに食べた    
――――――――――――――――――――――――――


     

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1361808531

_朝

和「ねぇ澪。あれは誰かしら」

澪「あれって・・・ムギじゃないか」

和「そうじゃなくて、その後ろにいる人よ」

澪「後ろ? あぁ、しずかだろ。去年のクラスメイトじゃないか」

和「そうじゃなくて、ムギのすぐ後ろにいる人」

澪「・・・?」

和「男の人がいるでしょ」

澪「いないよ。そんな人」

和「・・・ごめんなさい、見間違いだったみたい」

澪「ほんとうか? もしかしてユーレイでも見えたんじゃ・・・」

和「実はそうなのよ。もう授業が始まるわ。教室にいきましょう」

澪「お、おい・・・」

私とムギの関係は友人と呼べるほどのものではない。
元クラスメイト、友人の友人、顔見知り・・・そんなところかしら。

もし彼女が突然死んでしまったら、悲しいというより後味が悪い。
それくらいの、少し遠い関係。

そんなムギの背後に何かが見えたのは、今日の朝のことだ。
初老の男の人だと思う。
澪に見えなかったのだから、間違いなく幽霊だろう。

そう。
私には霊感がある。
幽霊を見えてしまうのだ。
オカルトマニアであれば喉から手がほしいほど貴重な能力。

私はこの能力に感謝したことなどない。
幽霊にとりつかれた人は例外なく、数日後に死ぬのだから。

_放課後

和「あら・・・ムギ」

紬「あっ、和ちゃん。生徒会の仕事はもう終わったの?」

和「ええ。部活のほうは?」

紬「もうおわったわ」

和「そう。なら早く帰ったほうがいいんじゃない」

紬「今日はティーセットを整理整頓する日なの。だからみんなが帰った後に一仕事しないと」

和「そうなんだ・・・」

紬「ねぇ、和ちゃん。時間があるなら、これから軽音部に来ない?」

和「用事でもあるの?」

紬「お茶をご馳走しようと思って」

和「・・・」

紬「どうかしら?」

和「・・・そうね。いいわよ」

紬「じゃあ部室に行きましょう♪」

_軽音部

紬「はい、お茶をどうぞ」

和「ありがとう」

紬「私は整理を始めるけど和ちゃんはゆっくりしてて」

和「ええ」

―――

―――

―――

和「随分手際がいいのね」

紬「慣れてるから」

和「そう」

ムギは皿やカップをあらかた整理した後、スプーンやフォークの手入れに移った。
何か布のようなもので磨いている。
きっと専用の布か何かなのだろう。

・・さっきからずっと、ムギの後ろには男性がついている。
彼は何をするわけでもなく、ムギの背後にぴったりくっついている。
その輪郭はしっかりしていて、生きている人間と区別がつかない。

だけども私は知っている。
彼らには実体がない。
そして、彼らにとりつかれた人間はすぐに死んでしまう。

お茶をひとすすりして、思う。
惜しい人を亡くすことになってしまう、と。

数日後には二度とムギの紅茶を飲むことができなくなる。
それは仕方のないことなのだ。

昔は坑がおうとした。
たくさんの本を読み、あらゆるお祓いや魔術の類を試した。
神社やお寺に連れて行ったこともいる。
霊能力者に頼んだこともある。

しかし、そのどれも効果がなかった。
幽霊にとりつかれた人は、一人の例外もなく死んでしまった。
ムギも、仕方がないのだ。
紅茶に映った私の顔は、メガネのせいで表情がはっきりしなかった。
ふとムギのほうを見ると











彼がこっちを見ていた。

今日はここまで

パロディSSではありません
紛らわしくて申し訳ない

彼と目が合った。
彼は私の目を見つめたまま、私の方へ近づいてくる。
一歩。また一歩。

全神経が私に警告する。
早くここから逃げろ。
あれに近づかれてはいけない。

だけど私は動けない。
金縛りにあったように、悪寒に囚われて一歩も動くことができない。

やがて彼は私の目の前に立った。
彼は私の首筋に手を伸ばし――。

和「いやあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

幽霊「うおわっっ!!」

和「・・・えっ」

その幽霊は素っ頓狂な声をあげた。
幽霊が驚いてるっていうの?
そしてムギは笑っていた。

紬「ごめんなさい」

和「むぎ?」

紬「驚かせてしまってごめんなさい。やっぱり和ちゃんこれが見えるんだ」

和「これって・・・」

紬「執事の斎藤さんって言うの。幽体離脱してついてきてもらっちゃった」

斎藤「お初にお目にかかります。執事の斎藤と申します」

和「・・・」

紬「和ちゃん?」

和「・・・」

唐突すぎて頭がまわらない。
幽霊だと思ったのは幽体離脱したムギの執事?
ということは幽霊じゃないの?
でも、幽体離脱だからやっぱり幽霊?

和「とりあえず・・・」

紬「うん?」

和「ムギが死ぬことはないのね」

紬「あっ、心配してくれてたんだ」

和「ええ、まあ、元クラスメイトだし」

紬「そうね。元クラスメイトだし」

和「どうしてこんなことをしたのかしら?」

紬「幽霊が見える人を探していたの」

和「私の他にもやっているの?」

紬「ええ。霊感があるんじゃないかって人にあたりをつけて。和ちゃんで13人目」

和「他に幽霊が見えた人は?」

紬「一人もいないわ」

和「そう……私がはじめてなんだ」

紬「うん。和ちゃんがはじめてなんだ」

和「それで……どうして私にこんなことをしたのかしら」

私はムギを睨みつけた。
ムギは臆することなく語り始めた。

紬「最近幽霊が増えてるの」

和「えっ」

紬「和ちゃんは気づかない? この学校を中心に、増えてるって」

和「・・・そうなの?」

紬「ええ。今日も猫の幽霊さん2匹に出会ったし、一昨日は人間の幽霊さんと出会ったし」

和「・・・」

紬「和ちゃんは幽霊が見えるんだよね?」

和「え・・・えぇ。見えるけど、生きてる人と見分けがつかないの」

紬「ふぅん。流石ね」

和「流石って・・・」

紬「私はね、和ちゃんにお願いがしたくてこんなイタズラをしたの」

和「お願い?」

紬「そう。お願い。幽霊が増えてるのには何か原因があるはずだから」

和「原因?」

紬「えぇ、簡単に言うと、学校のどこかに悪霊が巣食ってるんだと思う」

和「悪霊・・・」

紬「そう。探さなくてもいいから、偶然見つけたら私に教えて欲しいの」

和「そう・・・まあそれくらいならいいわよ」

紬「協力してくれるんだ」

和「ええ」

紬「なら、お願いします♪」

和「ところでムギは一体何者なの?」

紬「う~ん。霊能力者とか心霊術師とか呼ばれてるけど」

和「除霊とかもできるのかしら?」

紬「うん。あっ、幽霊に憑かれてる人がいたら連れてきて」

和「・・・除霊できるんだ」

紬「えぇ、できるわ」

和「もっと早くムギに出会っていれば・・・」

紬「それは仕方のないことよ。私たちのような存在のほうがイレギュラーなんだから」

ムギにはわかっているのだろう。
私が、誰も救えなかったことを。
救うのを諦めてきたことを。

和「ふぅ・・・」

なんだか気疲れしてしまった。
幽霊の斎藤さんはにこやかな表情で私達を見ている。
執事さんって・・・ムギは本当にお嬢様だったのね。
一息つこうとカップを見ると空っぽだった。
私の視線に気づいたムギがおかわりをいれてくれた。

和「おいしい・・・」

紬「ありがとう」

和「・・・」

紬「和ちゃん。かなしいことでもあったの?」

和「いいえ、嬉しいことがあったのよ」

紬「そう・・・ありがとう」

これからも彼女紅茶を飲めるという事実に、私は少しだけ涙した。
ムギは私のメガネを外し、ハンカチでそれを拭ってくれた。
彼女のハンカチは、知らない花の薫りがした。

_廊下

紅茶を飲み終えた後、ティーセットの整理を続けているムギを残して帰ることにした。
途中、特徴的なツインテールを見かけた。
あれは確か中野さんだ。最近唯がご執心の。

和「中野さん?」

梓「あっ、生徒会長ですか」

和「そろそろ暗くなるから帰りなさい」

梓「ムギ先輩はまだ学校に残っていますか?」

和「部室にいるけど」

梓「明日までの宿題でちょっと聞きたいことがあるんです」

和「・・・私が見てあげてもいいけど」

梓「それはいいです。では」

中野さんはそのまま走っていってしまった。

_翌日-生徒会室

生徒会には学校中の厄介事が持ち込まれる。
先生方の生徒に対する要望から、生徒たちの些細な悩みまで。
週に2~3件くらい必ず何かあるのだ。
このような厄介事は生徒会で保管している『厄介事ノート』に記載される。

私は『厄介事ノート』を読み返していた。
あるページで手がとまる。
演劇部の準備室。つまり大道具や衣装が保管されている部屋。
その部屋で、まるで人の鳴き声のような不気味な音がするという報告。

この報告は放置されたままになっていた。
使用時間が限定される準備室であるため、緊急を要する問題ではないこと。
下にボイラー室があるため、おそらくそれが原因だと思われること。

2つの理由により、特に調査が行われることもなく、そのままになっていたのだ。

気になる。
彼女が言っていた悪霊とはこのことかもしれない。
私は生徒会室を出て、演劇部の準備室へ向かった。
ムギに連絡することも考えたが、やめておいた。

あの報告以降、演劇部から追加の苦情はきていない。
だから、それほど危険があるとは思えない。
それに何かあれば、すぐに逃げればいいのだ。

「あれ、和さん?」

和「・・・!?」

憂「やっぱり和ちゃんだ!」

和「憂・・・驚かさないでよ」

憂「びっくりさせてごめんね和ちゃん」

和「え、ええ」

憂「和ちゃん今日はもうお仕事終わり? それなら・・・」

和「ごめんなさい。まだ仕事は残ってるの」

憂「生徒会のお仕事?」

和「ええ、そんなとこ。ちょっと演劇部の準備室まで」

憂「じゃあ帰り道だね。部屋の前まで一緒に行こっ♪」

和「そうね・・・」

憂と出会うのは想定外だったけど・・・。
準備室に入る前に帰ってもらえば問題ないはず。

和「あっ、そうそう」

憂「なぁに、和ちゃん?」

和「最近なにか変わったことはない?」

憂「何もないよ。どうしてそんなこと聞くの?」

和「えっ・・・ええ。私は生徒会長だから」

憂「・・・和ちゃん何か隠してる?」

和「えっと・・・」

憂「ううん。無理に言わなくていいよ」

和「ごめんなさい」

憂「あっ、そうだ。変わったことと言えば・・・」

和「何かあるの?」

憂「うん。最近梓ちゃんがちょっと元気ないんだ」

昨日の中野さんを思い出す。
ちょっと言葉遣いが乱雑だった気がするけど、元気がなかったからなのかしら。

和「ごめんなさい。力になれそうにないわ」

憂「そっか」

_演劇部-準備室前

和「ついたわ」

憂「・・・」

和「憂?」

憂「・・・和ちゃん」

和「なぁに」

憂「ここに入るの?」

和「ええ、憂は帰ってちょうだい」

憂「どうしても必要な用事?」

和「・・・」

憂「違うなら行かないで」

和「どうしてそんなこと言うの?」

憂「・・・どうしても」

和「そう・・・」

憂「・・・」

和「・・・」

憂「・・・」

和「わかった。やめておくことにするわ。ちょっと気になったことがあるだけだから」

憂「うん。それがいいよ」

和「・・・ええ」

憂「それじゃあ、さよなら、和ちゃん!」

和「ええ、さよなら、憂」

私は憂と別れた後、準備室の扉を眺めた。
憂がどうしてあんなことを言ったのか、正確な理由はわからない。
ただ、予想はできた。
憂もムギと同じ霊能力者だとしたら。
あの部屋に悪霊が巣食っていると気づいたとしたら。

それなら私を止めたことも納得が行く。
そして、あの部屋の中は危険ということになる。

その疑問を憂にぶつけなかったのは理由がある。
憂を巻き込みたくなかったのだ。

私は生徒会室に戻った後、ムギにメールを入れた。
仕事が終わった後、軽音部へ向かった。

_軽音部-部室

部室にはムギと中野さんがいた。
ノートと数学の参考書を開いている。
どうやらムギが中野さんに数学を教えているようだ。

中野さんの前で幽霊の話はできない。
私が来たことに気づくとムギは紅茶をいれてくれた。
中野さんは私に軽く挨拶をした。

和「そういえば中野さん」

梓「なんですか?」

和「最近何か変わったことあった?」

梓「どうしてそんなことを聞くんですか?」

和「ちょっと憂が・・・」

梓「・・・?」

和「中野さんの元気がないって言ってたから」

梓「・・・?」

和「どうしたの?」

梓「誰が言ったと言いましたか?」

和「だから、憂が」

梓「憂・・・ですか?」

和「ええ、憂。中野さんは憂の友達でしょ?」

梓「知りません。そんな人」

和「えっ」

梓「・・・」

和「ム、ムギっ!」

紬「落ち着いて和ちゃん」

和「ムギは知ってるわよね?」

紬「・・・」

和「冗談はやめて。唯の妹の憂よ。平沢憂。ムギも会ったことがあるでしょ」

紬「ごめんなさい、和ちゃん」

紬「唯ちゃんに妹なんていないし」

紬「梓ちゃんの友達は純ちゃんしか知らないわ」

和「そんなっ!」

紬「そうね・・・」

紬「平沢憂について詳しく話してもらえるかしら?」

今日はここまで

そう簡単に予想できる展開にはしませんので、ご安心を
一応探偵モノなので、展開予想も歓迎します

面白そうなのになんで皆投げ出しちゃうんだろな

スローペースですまん

>>45
この世界に記憶操作できる悪霊はいるけど、心霊術師の記憶を操作するのは無理です

肌から熱が奪われていくのを感じる。
悪寒が全身を支配する。
ムギと中野さんが、
憂のことを、
知らない。

憂を、

憂が、

憂の、

憂は、

コノヨニイナイ?

紬「違う!」

和「な、なにっ」

紬「和ちゃんが考えてることは違うから!」

和「な、私が何を・・・」

紬「だから違うの!」

和「ムギ、私にはあなたが何を言ってるのかさっぱりわからない!」

紬「和ちゃん、落ち着いて。私が憂ちゃんのことを知らないだけ!」

和「わからない。なんでムギが知らないのよ!?」

わめきちらす私とムギ。
ぼーっと見ている中野さん。
これは何?
なんでこんなことに?

憂は、

憂は、

憂は、

憂?

憂「和さん?」

和「憂!?」

顔をあげると憂がいた。
憂はあたりを見回してから私に尋ねた。

憂「和ちゃん、どうしたの?」

和「どうしたのって・・・なんで、ここに憂が」

憂「どういうこと?」

和「ここは・・・軽音部の部室よね」

あたりを見回す。場所は変わっていない。
だけど・・・。

和「中野さんがいない・・・それにムギも」

憂「梓ちゃんならもう帰ったよ」

和「そう。でも・・・」

どういうこと?
私はムギと話してる途中に眠ったのかしら?

それならムギが憂を知らなかったのは・・・。
それになんで憂が部室に・・・。

一つ、思いつく。
あれは夢で、二人が憂のことを知らなかったのも夢で。

そうだ。

全部夢だ。

憂がいないなんて、悪い夢に違いない。

ほら、だって憂は私の目の前に。

憂の目を見る。
憂はいつものように柔らかい表情を浮かべ、口をひらいた。

憂「ムギさんって和ちゃんの友達?」

和「・・・・・・」

まだだ。
まだ、私は悪夢の中にいる。

今日はここまで

和「ムギ。琴吹紬。軽音部のキーボード」

憂「えっと・・・軽音部のOGの人かな?」

和「やっぱり、そうなんだ」

憂「和ちゃん?」

和「ごめん、私、もう行くから」

駈け出した。
奇妙な確信があったから。
この悪夢の抜け方を、ムギだけは知っている気がした。

ムギの話をろくに聞かなかった負い目かもしれない。
とにかく、私はムギに会って話をしたかった。
何を言おうとしていたのか知りたかった。

学校中を走り回った。

各学年の教室。
生徒会室。
職員室。
実習教室。

そのどこにもムギはいなかった。
当然だ。
あえて私は避けてきたのだから。

最後に私は軽音部の部室の前に立った。

この先にムギがいるのか。
それとも憂がいるのか。
考えたくなかった。

ただ、ムギの話を聞きたかった。

だから、この先にいるのはきっとムギだ。
そして、私に大丈夫だと言ってくれるはずだ。
憂は幽霊なんかじゃないって。

私は震える手で、扉をひらいた。

中野さんと、ムギが待っていた。

紬「おかえりなさい、和ちゃん」

和「・・・私はどうなったの?」

紬「私たちの目の前から突然消えた。そうよね?」

梓「はい」

和「それにしては随分落ち着いてるのね」

紬「ええ、想定の範囲内だから」

和「全部、話してもらってもいいかしら」

紬「私の知っていることなら、なんでも」

和「まず、憂は生きた人間でいいのよね?」

紬「ごめんなさい。憂という子には会ったことがないから断言はできないわ」

和「・・・」

紬「でもそうね。憂という子は地面から浮いたり、他の誰かから見えなかったりするの?」

和「そんなことは一度もなかったわ」

紬「じゃあ、生きている人間なんでしょうね」

和「・・・なんでムギは憂を知らないの? 中野さんも」

梓「・・・」

和「ううん。憂は中野さんを知ってた。それなのに中野さんはなんで」

紬「ここにいる梓ちゃんと、憂という子の知ってる梓ちゃんが別人だからよ」

和「どういうこと?」

紬「和ちゃん、幽霊ってなんだと思う?」

和「死んだ人間でしょ?」

紬「なんで普通の人には触れないんだと思う?」

和「それは霊的なものだから・・・」

紬「じゃあ霊的ってどういうことだと思う?」

和「それは・・・」

紬「幽霊はね。私達と違う時空にいるんだ」

和「じ、時空?」

紬「そう、時空」

和「そんな突拍子もないこと・・・」

紬「幽霊の時点で十分突拍子がないと思うけど」

和「そうだけど・・・」

紬「A世界とB世界があるとすると、その世界の狭間時空に幽霊はいるの」

和「A世界とB世界?」

紬「ええ、憂ちゃんのいないA世界と、私のいないB世界」

和「パラレルワールドってこと?」

紬「そして和ちゃん。あなたは特別なの」

和「・・・」

紬「あなたは渡り人。A世界とB世界を自由に渡り歩ける」

和「どうして私が」

紬「理由はあるのかもしれないし、ないのかもしれない」

紬「とにかく、憂ちゃんのことを私達が知らない理由は納得してくれたかしら」

和「まだ納得できない・・・でも」

紬「うん」

和「納得するしかないんでしょ?」

紬「そうだね」

和「・・・憂が片方の世界にしかいないのはどうして?」

紬「稀にあるのよ。世界によって、ある人がいたりいなかったりってのは」

紬「憂ちゃんと私はそのケースなんだろうね」

和「・・・」

紬「納得してくれた」

和「ええ、だいたい。でも腑に落ちないことがあるわ」

紬「なぁに?」

和「ムギは私に何をさせたいの?」

紬「幽霊はA世界とB世界の狭間から両方の世界に干渉するわ」

紬「でも、幽霊が狭間に留まり続ける原因は必ず、A世界かB世界のどちらかにあるの」

紬「A世界に原因がある心霊現象なら私が解決できる」

紬「でもB世界に起因する心霊現象だと私は手を出せない」

紬「だから和ちゃんには二つの世界を渡り歩いて、あらゆる心霊現象を解決して欲しいの」

今日はここまで
スローペースですまん

ここから更に人を選ぶ展開になっていく予定
先を読むのが苦痛になったら、一言文句をつけてからログ削除するのがおすすめ
では再開

_夜-和の家

ムギと別れた私は、生徒会に寄らずに家に帰った。
学習用の机の前に座って、思案する。

ムギの言っていることはわかる。
世界が2つあって、私はその両方を渡り歩いている。
片方の世界には憂がいて、もう片方には憂がいない。
憂がいる世界にはムギがいなくて、憂のいない世界にはムギがいる。
私はそのことに気づきもせず生きてきた。

ムギは私に手伝って欲しいと言う。
その要請を受け入れるのはやぶさかではない。
彼女は除霊もしてくれるそうだし・・・。

ただ、腑に落ちないこともある。

なぜ憂なのか。

なぜ私なのか。

ピピピピピ♪

携帯の音。
液晶には「唯」と書かれていた。

和「もしもし、唯」

唯「あっ、和ちゃん!」

和「どうしたの、こんな夜遅くに」

唯「う~んとね、今度英語の小テストがあるでしょ」

考えてしまう。
この唯はどちらの唯なんだろうって。
憂という妹のいる唯なのか。
それとも一人っ子の唯なのか。

唯「和ちゃん?」

和「・・・ごめんなさい。なんだったかしら?」

唯「だから小テストの勉強を」

あぁ、テスト勉強を一緒にしようというお誘いなんだ。
唯にしては珍しい。
そういえば先生が言ってたっけ。
小テストで悪い点数を取ると補習があるって。

和「ええ、いいわよ」

唯「じゃあ明日は和ちゃん、私の家にお泊りだね!」

和「はぁ、仕方ないわね」

唯「ありがとう、和ちゃん」

そう言って切られた電話。
明日・・・か。
明日行く唯の家に憂はいるんだろうか・・・。

_昼-軽音部部室

次の日。
昼食の時間、ムギに呼び出された。

紬「和ちゃんのお弁当って手作り?」

和「ええ、そうだけど・・・」

紬「そのハンバーグもらってもいい?」

和「昨日の残りよ?」

紬「もらっていいの?」

和「・・・ええ」

紬「うんっ、おいしい♪」

和「そう。それで、今日は?」

紬「昨日の返事をちゃんと聞いておきたかったから」

和「・・・」

紬「別に断ってもいいよ」

和「え」

紬「断られたら困るけど、危険がないとも言い切れないから・・・」

危険・・・と聞いてもピンとこなかった。
幽霊に取り憑かれて死んでいくのはいつも私ではなかったから。
私はいつも見ている側だったから。

和「ひとつ聞かせてもらってもいい?」

紬「なぁに?」

和「私が手伝ったら、傷つく人は減るのかしら」

紬「うん。それは約束するわ」

和「それなら・・・手伝ってもいいわ」

紬「和ちゃん、ありがとう!」

ムギは箸を置いて、私の手を握った。
私はびっくりして箸を落としてしまった。
申し訳無さそうな顔をしてムギがこっちを見ている。
・・・こういうところ、少し唯に似ているかもしれない。

和「ふふっ」

紬「和ちゃん、怒ってないの?」

和「ええ、予備の箸はあるから」

紬「用意周到なんだ」

和「ええ」

紬「ところで和ちゃん、本題なんだけど」

和「うん?」

紬「和ちゃん、演劇部の準備室に最近行ったことある?」

心あたりは・・・あった。
『厄介事ノート』を読んで私が行った場所。
中に入ろうとして、憂に呼び止められた場所。
憂・・・。

和「ムギ、生徒会には厄介事ノートというのがあるの」

紬「厄介事ノート?」

和「ええ、通称だけど、生徒会に持ち込まれた厄介な相談事を載せておくノートのことよ」

紬「うんうん」

和「それに演劇部の準備室で変な物音が聞こえるというのがあってね、私、行ってみたのよ」

紬「それで・・・どうだった?」

和「入ろうとしたんだけど、憂に止められたからやめたの」

紬「平沢憂に?」

和「ええ、憂に」

紬「うん・・・その平沢憂って」

和「もしかしたらムギと同じ心霊術師じゃないかしら」

紬「そうなのかな?」

和「ムギにも分からないの?」

紬「うん。会ったことないから・・・でも、そうだね」

紬「普通に聞いてみればいいんじゃないかしら。『あなたは心霊術師ですか?』って」

和「そうね・・・」

紬「それで和ちゃん、今から一緒に演劇部の準備室に行ってみない」

和「えっ」

紬「大丈夫、私が一緒だから」

和「・・・」

ためらいがなかったかと言えば嘘になる。
でも、協力を約束したからには、これくらいはやらないといけない。

和「ええ、いいわ」

紬「ありがとう和ちゃん。あ、あと・・・」

和「まだ何かあるの?」

紬「その玉子焼き、私の沢庵と交換してくださいっ!」

和「・・・いいわよ」

ムギの沢庵は、とても美味しかった。

_昼休み-演劇部準備室前

和「ここね」

紬「鍵、開けてもらっていい?」

和「ええ」

紬「・・・」

和「ムギ?」

紬「和ちゃんは、何も感じない?」

和「・・・どうかしら? 何か違和感があるような、ないような」

紬「和ちゃんなら気づくかと思ったんだけど・・・じゃあ、私の手を握ってくれる」

私はムギが差し出した左手を握った。


和「え?」

 
紬「見えた、みたいだね」

和「な、なんなのこれ」

紬「和ちゃんにも見えるんだね

和「え、ええ、なに、この黒い霧・・・」

紬「悪霊の一部・・・ってところかな」

和「こんなの見たことないわ」

紬「これでもほんの一部。原因はあっちの世界にあるはずだから」

和「・・・」

紬「和ちゃんには、これを解決して欲しいの」

和「どうやって?」

紬「あっちの世界に行って、原因のところに御札を貼ればいいんだけど・・・」

和「私に、できるのかしら」

紬「無理かもしれない」

和「えぇぇっッ!!」

紬「和ちゃん?」

和「だってムギの口ぶりだと、私ならなんとかできるように思っちゃうじゃない」

紬「無理なら無理でいいの。準備室の前に御札を貼るだけでも効果はあるから」

和「そうなの?」

紬「本当は立入禁止にして欲しいんだけど・・・難しいよね?」

和「・・・」

紬「和ちゃん?」

和「これのせいで、死人が出ることってあるのかしら?」

紬「・・・うん」

和「それなら難しくてもやってみるわ。それに、憂が手伝ってくれるかもしれないし」

紬「平沢憂・・・」

和「ムギ?」

紬「うん。あの唯ちゃんの妹ってどんな感じなのかなって。やっぱり唯ちゃんそっくり?」

和「ふふ」

紬「和ちゃん?」

和「それは秘密にしておくわ」

準備室を出た後、ムギは準備室の前にある掲示板にポスターを貼り始めた。
内容は美化強化月間についてのとりとめないもので、裏側に御札が貼ってある。

紬「これでこっちの世界での影響は多少抑えられるかな?」

和「疑問形なんだ」

紬「ええ、原因そのものを取り除かないと解決とはいかないわ」

和「そう・・・」

紬「和ちゃんに御札を渡しておくね。あっちの世界の掲示板に貼っておいて」

和「直接原因に貼らなくていいの?」

紬「それはたぶん危険だから・・・その憂って子と相談してから決めて欲しい」

和「ねぇ、ムギ、聞いてもいい?」

紬「ええ、私に答えられることなら」

和「その・・・あの黒い霧に私が近づいたらどうなるの?」

紬「霊感の強い人ほど幽霊の影響を受けやすいって聞いたことある?」

和「ええ」

紬「和ちゃんの霊感が強いなら、あれに近づいただけで死んじゃうかも」

和「・・・」

紬「逆に弱いなら、なんともないかも」

和「私の霊感って強いんじゃないの?」

紬「和ちゃんは幽霊がはっきり見えるんだよね」

和「ええ」

紬「たぶんね、それは霊感が強いからじゃなくて、渡り人だからだと思うんだ」

和「どういうこと?」

紬「幽霊というのはね、A世界とB世界の狭間世界に留まってるって前に説明したよね」

和「ええ」

紬「2つの世界を渡り歩く和ちゃんにとって、狭間世界にいる幽霊はくっきり見えるはず」

紬「霊は狭間世界から霊障を出して現世に悪さをするんだけど・・・和ちゃんは私が手伝わないと黒い霧が見えなかった」

紬「あの黒い霧みたいな霊障が見える人が『霊感の強い人』だから・・・和ちゃんの霊感自体は強くないと思う」

和「そうなんだ?」

紬「うん。だから黒い霧の原因に近づいても平気かもしれない・・・」

紬「でもね、あの黒い霧の出てる原因となってるあっちの世界では、どれくらいの霊障が出てるかわからない」

紬「ひょっとしたら、ほとんど霊感のない人でも死んでしまうぐらい強い霊障かもしれない・・・」

和「・・・そう」

紬「だから、絶対に一人で準備室の中に入らないで」

紬「行くなら行くで、お守りとか、清められた服とか色々用意できるから」

_夕方-唯の家

生徒会での仕事を済ませた後、私は着替えと勉強道具を持って唯の家に泊まりに来た。
チャイムを鳴らすと、唯が迎えてくれた。
それから憂が・・・。

憂「あっ、和ちゃん。いらっしゃい」

和「ええ、今日はおじゃまするわ」

唯「えへへー。今日はお泊りだね」

和「さて、唯、さっそく勉強よ!」

唯「えー」

そこにはいつもと同じ平沢家があった。
ふと思う。
私の思い出の中にある平沢家。
そのなかに憂のいない平沢家があるんだろうか。

古い記憶を辿っても、思い出せない。
ただ、私が平沢家にきて料理を作った記憶ならあった。
もしかしたら、その記憶の平沢家では、憂がいなかったのかもしれない。
考えながら憂をじっと見ていると、不審に思われてしまったようだ。

憂「和ちゃん?」

和「え、あ・・・」

憂「大丈夫?」

和「え、ええ。ちょっと考え事をしてただけ」

唯「何を考えてたの?」

和「どういう手順で幼馴染に小テストをクリアさせるか考えてたのよ」

唯「えーーっ」

和「はぁ・・・頼んだのは唯でしょ」

私は唯に勉強を教えはじめた。
唯は一度集中すると、物凄い集中力を発揮する。
ただ、集中させるのが難しいのだ。

憂の料理に気をとられたり、教科書に載っている絵に注目したり・・・。
そんな唯をなんとか集中させてやるのが私の役目だ。

夜ご飯を挟んで3時間ほど。
私は唯に勉強を教え続けた。
それなりに勉強ははかどった。
これなら平均点ぐらいは余裕だろう。
唯も随分疲れた顔をしているし、そろそろ・・・唯?
いつの間にか、唯は眠っていた。

憂「和ちゃん・・・あ、お姉ちゃん寝ちゃったんだ」

和「ええ・・・」

憂「疲れたんだねお姉ちゃん」

和「しばらく眠かせてあげましょう」

憂「和ちゃんは優しいね」

和「・・・そうでもないわ」

憂「そうかな?」

和「ちょっと横の部屋に行きましょうか」

憂「なにかお話?」

和「ええ・・・」

和「あの・・・憂」

憂「なぁに?」

和「あなた・・・心霊術師?」

憂「どうしてそんなこと聞くの?」

和「え」

憂「和ちゃんって、そういうオカルト信じてたっけ」

和「違うの?」

憂「・・・違わないけど」

和「なら・・・」

憂「うん。私ね、心霊術師だよ」

和「・・・」

憂「でも、どうしてそんなこと聞いたの、和ちゃん?」

和「あのね、これから話すこと聞いてくれる?」

憂「何かあったんだ」

和「うん」

私は憂に説明した。

ムギに教えてもらったことの全てを。

自分が渡り人であること。

2つの世界があって、片方にはムギが、もう片方には憂がいないこと。

演劇部の準備室に、何か悪いものがいること。

憂「そのムギさんって人が言ってること本当かなぁ」

和「・・・何か怪しいことでもあるの?」

憂「そのA世界とB世界? 私は聞いたことなかったから」

和「・・・でも、この世界にムギはいないんでしょ?」

憂「うん。私は知らない。そのムギって人が悪霊の可能性は・・・」

和「私には、そうは思えなかったけど」

憂「そうだね。悪霊にしては手が込みすぎてるし」

和「・・・」

憂「あの演劇準備室に悪いものがいるのは前からわかってたんだ」

和「そうなんだ?」

憂「うん。それで御札も貼ってあるんだけど・・・」

和「もう貼ってあったんだ。これをムギからもらってたんだけど」

憂「これ・・・ちょっと凄いかも」

和「そうなの?」

憂「うん。西洋術式と神道の術式が喧嘩しないように高度に組み込まれてる」

和「わけがわからないわ」

憂「和ちゃんは知らなくていいよ。でも、こんな御札が実際にあるってことは」

和「うん?」

憂「そのムギって人の言ってることは本当なのかも」

和「そうなんだ」

憂「明日、一緒に演劇準備室に行ってみる?」

和「いいの?」

憂「うん。以前貼った御札がどうなってるか気になるし」

和「それより憂。あの部屋を立入禁止にしたいのだけど、何かいい案はある?」

憂「えっと・・・」

和「小火騒ぎとか色々考えたのだけど、いい案が思い浮かばなくて」

憂「そうだね。それも明日考えよっか」

和「・・・」

憂「和ちゃん?」

和「ううん。なんでもないわ」

憂もムギも確かにいるんだと、やっと確信できた夜。
唯が起きてから3人でお風呂に入って、それから3人でベッドに潜りこんだ。

いつものように川の字になって。

左が唯。

右が憂。

そして真ん中が私。

久しぶりに2人の体温を感じ、私の頬は温かいもので濡れていた。
そんなことに気づきもせず、すーすーとかわいい寝息を立てる2人。

私のいるべき場所はわからないけど。
私の一番居たい場所はここなんだと思う。
そう思える、夜だった。

_夕方-演劇準備室前

翌日、生徒会の仕事があらかた終わった後、私と憂は演劇準備室にきた。
私の仕事が終わってからにしたのは、演劇部の部員と会ったとき説明が面倒だからだ。
ドアを開くと、冷たいものが体全体に走った。

憂「前よりもひどくなってる」

和「私には何も見えないけど、なにかあるのはわかるわ」

憂「・・・手を繋いでくれる?」

和「ええ」

黒い霧・・・いや、闇というべきものが、私の周囲を覆っていた。
憂の顔がやっと見える程度の濃い闇。
そして闇の中心には、女子生徒とヤギのぬいぐるみ?

え、

女子生徒と、

ヤギのぬいぐるみ?

憂「あぶないっ!」

女子生徒はゆっくりとヤギに近づいていって、
そのままヤギの後ろの窓から落ちていった。

憂「和ちゃん、救急車!」

私は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

憂は私の手を引っ張って、
部屋の外に引きずりだし、
携帯で電話をかけた。

あぁ、なんでこんな、
こんなことになってしまったんだろう。


2時間後、私は警察の事情徴収を受けていた。

女子生徒はゆっくりとヤギに近づいていって、
そのままヤギの後ろの窓から落ちていった。

憂「和ちゃん、救急車!」

私は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。

憂は私の手を引っ張って、
部屋の外に引きずりだし、
携帯で電話をかけた。

あぁ、なんでこんな、
こんなことになってしまったんだろう。


2時間後、私は警察の事情徴収を受けていた。

>>104-105で同じレスを連投してしまったので片方脳内削除して欲しい
今日はここまで

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom